眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋431.低加入度数分節型眼内レンズの柴田哲平金沢医科大学眼科学講座偏心による近視化低加入度数分節型眼内レンズ「レンティスコンフォート」(以下,LC)は分節型構造による特有の合併症が生じる可能性がある.本稿ではLCの偏心により近視化を生じ,偏心の補正により屈折が正常化した2症例を経験したので提示する.●はじめにレンティスコンフォート(以下,LC.参天製薬)は,単焦点レンズを分節型に組み合わせた構造の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)であり,遠方から中間距離までの広い明視域が得られる保険適用の多焦点IOLである.遠用部の下方に扇状の中間部領域が配置されているため,IOLが偏心すると瞳孔領に占める遠用部と中間部領域の比率が変化し,屈折値の変化をきたすことがある.IOL偏心により著明な近視化を生じた2症例を提示する.●症例1患者は78歳の女性.両眼の白内障に対し-1.0D狙いとして水晶体再建術を行い,両眼にLCを挿入した.術後1週間目の診察において,視力は右眼0.2(1.2×-2.5D),左眼0.9(1.2×-0.75D(cyl-0.5DAx20°)と右眼が目標屈折値より-1.5D近視化していた.上方に位置する遠用部領域側の支持部が.外固定となっており前房深度は右眼3.63mm,左眼3.95mm,偏心は右眼0.80mm,左眼0.09mm,傾斜は右眼8.1°,左眼4.9°であり,右眼の浅前房化,上方への偏心を生じていた(図1a).浅前房化および偏心により中間部領域が瞳孔中心に移動したための近視化と考え,術後8日目に右眼のIOL整復を施行した.右眼術後の前房深度は3.91mm,偏心0.11mm,傾斜5.4°に改善し(図1b),視力も右眼0.6(1.2×-1.0D)と狙いどおりの屈折値となった.●症例2患者は66歳の男性.両眼の白内障に対し正視狙いで水晶体再建術を行い,両眼にLCを挿入した.術後1週(69)0910-1810/22/\100/頁/JCOPYab図1症例1の左眼初回手術後(a)とIOL整復術後(b)の前眼部OCT所見および徹照画像a:左眼IOLは0.80mm上方に偏心し,上方光学部が前方に8.1°傾斜していた.徹照像では上方の支持部がCCC縁の上にあり,上方支持部が.外固定になっていることがわかる.b:左眼IOL整復により,偏心は0.11mm,傾斜は5.4°と改善し,前房も深くなっている.徹照像ではCCC縁が全周で光学部をカバーしており,上方支持部も.内固定になっていることがわかる.間目の視力は右眼0.4(1.0×-1.0D),左眼1.2(1.5×-0.25D(cyl-0.5DAx70°)と右眼に近視ずれを生じていた.前房深度は右眼3.00mm,左眼2.98mm,偏心は右眼0.96mm(遠用部領域方向に偏心),左眼0.12mm,傾斜は右眼2.4°,左眼3.8°であり,右眼にIOLの偏心を認めた(図2a).初回手術から2週間後に偏心の原因検索およびIOL整復目的で再手術を施行した.術中鼻側上方のIOL支持部が赤道部より.外に脱出していることが確認されたため,支持部を.内に戻し,わずかに回旋して整復を終了した.術翌日,右眼のIOL偏心は0.11mmと著明に改善し(図2b),右眼視力は1.2(1.5×-0.5D)と0.5D遠視化し,裸眼視力は改善した.あたらしい眼科Vol.39,No.10,20221361ab図2症例2の右眼初回手術後とIOL整復術後の前眼部OCT所見および徹照画像a:右眼IOLは両側の支持部ともに.内固定であったが,鼻側上方に0.96mm偏心しており,徹照像でも大きく偏心していることがわかる.b:右眼IOLは2時方向で支持部が破.した赤道部水晶体.から脱出していたので,回転し.内に整復した.IOLの偏心は0.11mmと改善し,徹照像で偏心が改善していることがわかる.●LCで偏心が生じた場合の注意点と対処LCは遠用部と中間部領域に1.5Dの屈折力差(角膜面で1.06D)があるため,偏心により中間部領域が瞳孔中心を占めると目標屈折値より-1D前後の近視ズレを生じ,遠用部領域がおもに瞳孔中心を占めると中間部領域が使用されないため単焦点IOLとほぼ同等の明視域となる.偏心の要因としてもっとも多いと考えられるのは,片側の支持部が.外固定の状態で手術を終了した場合である.術中視認性のよい先行支持部(中間部領域側)は.内固定されることが多いが,後方支持部(遠用部側)は.内固定をしっかり確認しないと症例1のように.外固定で手術が終了してしまう可能性がある.多くの場合,図3IOL裏面のOVD抜去時のIOLの偏心(他症例)IOL裏面のOVDを抜去するときにIOLが大きく偏心すると,支持部が赤道部を圧迫し破.することがあり,注意を要する.この症例では.の距離だけ偏心している.IOLは遠用部側に偏心するため,瞳孔中心を中間部領域が占める面積が増えることにより近視化を生じる.さらに片側の支持部が.外固定である分,IOLは前房側に傾斜するため浅前房となり,さらに近視ズレが強くなる.また,LCは対角線方向の長径が11mmの大きなプレート型であるため,IOL裏面の粘弾性物質抜去時やIOL回転時に水晶体.赤道部やZinn小帯に大きなストレスがかかり(図3),症例2のような破.やZinn小帯断裂を生じる可能性がある.ワンピースIOL挿入時より大きめの連続円形切.(continuouscircularcapsulorhexis:CCC)の作製は,LCの安全な.内挿入およびIOL後方の粘弾物質抜去時のIOL偏位が少ないため有用である.自覚的屈折値が-1D前後近視ずれした場合や中間部領域が生かされず明視域が狭くなっている場合はLCの偏心を疑い,極大散瞳下でIOL偏位について検査することが重要である.LCは親水性IOLであるため水晶体.との癒着は疎水性IOLに比べ弱く,IOLの整復は容易である.