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屈折矯正手術:レーシックの価値

2022年7月31日 日曜日

●連載266監修=稗田牧神谷和孝266.レーシックの価値岡義隆川勝歩先進会眼科レーシックは高い安全性や有効性が証明された超高精度手術である.だが,過去のさまざまな不祥事や運用面での特殊性に由来する不信感から,国内の眼科医の評価は総じて低い.しかし,もっとも注意すべきは,レーシックという手技を失うことで生じるであろう,眼科全体に与える将来的な影響である.●はじめに:レーシックは絶滅危惧種!?レーシックとはフェムト秒レーザーを用いて角膜フラップを作製し,エキシマレーザーで角膜実質をC1Cμm単位で削ることのできる高精度の手術テクノロジーである.すでに世界でC4,500万例以上行われており,長期予後においても安全性と有用性が非常に高い手術の一つである.このテクノロジーを用いることのできるわれわれ眼科医は誇りに思うべきであろう.しかし実際には,多くの眼科医の評価はその技術の素晴らしさからは程遠いものになっており,まさに日本国内のレーシックは「絶滅危惧」状態である.過去にあった非眼科専門医や美容系眼科の跋扈,銀座眼科事件や患者集団訴訟,そして消費者庁の注意喚起など,あれだけのでき事があれば眼科医が敬遠するのも当然である.このような四面楚歌のなか,本稿では「レーシックの価値」について,いくつかの視点から考察する.C●現状:症例数と患者満足度2020年,2021年にそれぞれ年間C4万例ほどのレーシックが国内で行われたと推計される注1.現在も患者の関心度は比較的高く,「レーシック」でのCGoogle検索数は月間C6万回程ある注2.また,満足度の調査では,平均で患者のC95.4%がレーシックの結果に満足しており,高い満足度を得ることができる手術であるとの結論が報告されている1).自験例でも,顧客ロイヤルティを測る指標「ネットプロモータースコア(NPS)」(BainC&Company社)によるレーシック手術後の推奨度はC9.1と術前の期待度を大きく超えている(図1).これらの結果は,レーシックがCQOLや幸福や健康などを向上させるための医学的手段として,一般的にはすでに確立しているものであるということを示している.●米国との比較:レーシックにかかわる医師数の違い日米の人口C100万人あたりの眼科医数は米国C65.8人,日本C115.9人であるが,同じく人口C100万人あたりのレーシック執刀可能な術者数は米国C12.2人,日本C4.3人であることから,日本ではレーシックに携わっている眼科医が圧倒的に少ないことがわかる注3.C●医学的な価値:高い安全性と有効性Kamiyaらは,術後C3カ月における安全性,有効性,合併症について評価し,術後の平均裸眼視力はC1.41,平均矯正視力はC1.51,目標度数に対しての屈折誤差が来院前の期待度手術後の推奨度n=569図1当院におけるレーシック手術前期待度と手術後推奨度のNPS2021年C5月~2022年C3月に先進会眼科(東京・大阪・福岡)においてレーシックを受けた患者を対象にCNPSアンケートを実施した.(83)あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022C9370910-1810/22/\100/頁/JCOPY±1.0D以内がC96%であり,術後感染症などの重篤な合併症をC1例も認めず,術後の度数調整はC0.23%に行われた.このような結果から,レーシックは安全性や有効性が高く予測性に優れた術式であり,良好な結果を得ることができたと報告した2,3).上記に加えて,医学的な価値として,①C0.01D単位での度数調整が可能,②白内障手術後などのわずかな屈折誤差も高精度で治療可能,③高い精確性と再現性,などがあげられる.C●患者からみた価値:レーシックとICLを選ぶことができるおもな屈折矯正手術として,レーシック以外に後房型有水晶体眼内レンズ(implantableCcollamerlens:ICL)という選択肢がある.それぞれ利点欠点があり,どちらがその患者に適しているかを総合的に判断し選択することで高い患者満足度を得ることができる.実際の適応については矯正量で区分けするとわかりやすい.-3Dまでの近視はレーシック,-6D~10DまではCICLがよいといった具合である4).そのほか職業による制限や,手術費用,術後管理の違いなども患者にとっては重要な選択肢となる.C●問題点:莫大なコストと不信感最大の問題は,莫大な導入・維持コストと前述の問題によるレーシック自体への不信感である.コスト面では,昨今の医療経済状況からかけ離れた導入費用や維持費用がかかることと,ビジネスモデル自体もあたかもバブル期を彷彿とさせるような旧態依然としたものであり,たとえレーシック導入の意思があったとしても,新規参入するのは事実上むずかしい.レーシックの実績や患者ベネフィットは十分にあるにもかかわらず,このような諸事情から,さらに眼科医が臨床や研究としてかかわる機会が減少し,負のスパイラルに陥っている現状からの脱却は困難であろう.C●おわりにグローバルな視点で考えれば,レーシックは眼科にとって必要な医療技術の一つである.レーシックを代表とするレーザー屈折矯正手術の衰退は,グローバル医療機器メーカーからすると日本の優先順位が下がることを意味し,最終的にこの影響は眼科全体,そして患者にも及ぶ可能性がある.これはテクノロジーやトレンドを発端にした議論ではなく,将来の眼科医療全体にかかわる可能性のある問題の一つであるとの認識を,改めて表明したい.屈折矯正手術を専門とする眼科専門医の集まりである「安心レーシックネットワーク」(https://safety-lasik.gr.jp)では,ガイドラインを遵守した屈折矯正手術の選択肢としてのレーシックの中立的な情報発信を行っている.屈折矯正手術の選択肢という視点からも,レーシックが失われることの眼科的・社会的な損失は大きく,一度失った場合は容易には取り返しがつかないであろう.重要な役割を担うべきレーシックであるが,今後レーシックを多くの眼科医に信頼されるエコシステムに育成し,持続的発展が可能な仕組みをグローバルスタンダードに沿って構築しないかぎり,レーシックという手技に再度光が当たることはないだろう.注1:日本白内障屈折矯正手術学会,安心レーシックネットワーク(https://safety-lasik.gr.jp),2020CRefractiveCSurgeryCMar-ketReport(MarketScope社)のデータを元に推計.注2:Googleキーワードプランナー(2022.3.1)より抽出.注3:2020RefractiveSurgeryMarketReport(MarketScope社)より算出.文献1)SolomonCKD,CFernandezCdeCCastroCLE,CSandovalCHPCetal:LASIKCworldCliteraturereview:qualityCofClifeCandCpatientsatisfaction.Ophthalmology116:691-701,C20092)KamiyaCK,CIgarashiCA,CHayashiCKCetal:ACmulticenterCprospectiveCcohortCstudyConCrefractiveCsurgeryCinC15,011Ceyes.AmJOphthalmologyC175:159-168,C20173)KamiyaCK,CIgarashiCA,CHayashiCKCetal:ACmulticenterCretrospectivesurveyofrefractivesurgeryin78,248eyes.JRefractSurgC33:598-602,C20174)日本眼科学会屈折矯正委員会:屈折矯正手術のガイドライン(第C7版).日眼会誌123:167-169,C2019938あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022(84)

眼内レンズ:脱臼した水晶体囊拡張リング-眼内 レンズ複合体の形状

2022年7月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋額田和之428.脱臼した水晶体.拡張リング-眼内福井赤十字病院眼科,額田眼科診療所レンズ複合体の形状小堀朗福井赤十字病院眼科水晶体.拡張リング-眼内レンズ(CTR-IOL)複合体の脱臼症例に遭遇する機会は少ないが,水晶体.拡張リングの使用が増えていることを考えると,今後,摘出する機会は増えてくると思われる.その際にCCTR-IOL複合体の大きさや処理の仕方などを把握しておくことは,安全な手術を行ううえで重要である.●はじめにZinn小帯断裂や脆弱CZinn小帯は白内障手術の難易度を上げるが,水晶体.拡張リング(capsularCtensionring:CTR)を用いることで白内障手術を完遂する確率を上げることができる1,2).しかし,CTRが挿入される眼では,もともとの脆弱性から術後に脱臼する可能性がある.CTRが厚生労働省より正式認可されて以降,その使用数は増え,今後CCTR-眼内レンズ(intraocularlens:IOL)複合体の脱臼例に遭遇する機会は増えるものと思われる.筆者らの施設(以下,当院)での手術症例から検討したので紹介する.C●頻度と患者背景当院ではC2005~2020年のC16年間にCIOL脱臼例は185眼あったが,そのうちCCTR-IOL複合体脱臼はC20眼あった.CTRの使用状況はC372例で,CTR摘出率は3.8%であった.患者背景は,平均年齢C69.35歳,男性16眼,女性C4眼で男性が多かった.脱臼までの期間は平均C45.42カ月(9~114カ月)であった.これらの成績は,既報と大きな差はないと思われた3).C●Zinn小帯に関連する因子初回白内障手術時にCCTRを挿入した原因は,Zinn小帯断裂がC10眼,脆弱CZinn小帯がC5眼,詳細不明がC5眼であった.Zinn小帯脆弱に影響する要因として,硝子体切除C7眼,バックル術後C1眼,水晶体落屑症候群C4眼,外傷C4眼,強度近視(眼軸C27Cmm以上)3眼であった(重複含む).C●CTR.IOL複合体の処理すべての症例において,IOLは.内固定された状態で脱臼もしくは亜脱臼していた.術中の処置は,角膜内皮への安全性を考慮すると,硝子体腔内での処理が適切であると思われる.以前は前房内処理も行っていたが,切(81)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1CTRとIOLの硝子体腔での分離Soemmeringringが高度に石灰化したものはなく,硝子体カッターで処理できる.断して摘出するよりも,CTRとCIOLを分離させたほうが侵襲は少ない.分離する過程でCSoemmeringringの処理が必要であるが,硝子体カッターのみで容易に処理が可能である(図1).CTR挿入による前.,後.の密着が,水晶体上皮細胞(lensCepithelialcell:LEC)の分化増殖を抑制し,高度の石灰化を抑制しているのではないかと考えられる.分離したのち,CTRとCIOLをそれぞれ強角膜の創部から摘出した.C●手術画像からの検討術中CResight(Zeiss社)下で観察し,手術画像から取得できたCCTR-IOL複合体を図2に示す..混濁が著しい症例や前.切開縁の線維性混濁が著明な症例,混濁をほぼ認めない症例など,さまざまである.Pseudoexfoli-ationの症例は.混濁が著しい傾向にあり,3ピースIOLを使用しているものは前.切開縁の線維性混濁が著明になる傾向にあった.また,.混濁がほぼ起きていない症例は,光学部にCrimの構造があるCIOLを使用した症例に多い傾向にあった.CTR非挿入眼の報告では,光学部にCrimがあるCIOLを挿入することで,LECの増殖が抑制されるとしている.Zinn小帯に関連する因子あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022C935図2CTR.IOL複合体の術中画像.はCCTRのアイレットの位置.Ca:落屑症候群症例で.全体の混濁が著しい.Cb,c:光学部にCrimがある症例で,.混濁ほぼ起きていない.d:前.切開縁の線維性混濁が著明である.図3形状の測定方法IOLの光学部を基準に測定する.赤線がCCTR-IOL複合体の長径と短径.大きさはこの平均とした.IOLを黄四角線で囲い,その対角線(黄点線)の交わったところをCIOLの中心とする.CTRの中心も同様(赤線).その四角形の対角線の中心の差を偏心量とした.は多いためはっきりとしたことはいえないが,CTRを使用したとしても,使用したCIOLの影響をある程度受ける傾向にあると思われる.最後に,この画像をもとに画像ソフトウエアCImageJを使用し,CTR-IOL複合体のサイズを測定した.測定方法を図3に示す.結果は,複合体の中心とCIOLの光学部の中心との偏心が平均C0.26C±0.19Cmm,CTR-IOL複合体径は平均C9.81C±0.54Cmm(8.875~10.78Cmm)であった.この偏心量から,.内でCIOLの中心固定が良好なまま,.ごと脱臼していることがわかる.また,CTRの張力を考えると,複合体径の大きさは白内障手術後の水晶体.の大きさに近い値ではないかと考えている(既報での水晶体の大きさは9~10.5mm)4).現在,IOL挿入眼後の水晶体.の大きさは,最新の前眼部COCTを用いても測定することは不可能であるため,参考になるデータであると考えている.C●おわりにCTRの使用数から,今後増加していく可能性がある.そのため,CTR-IOL複合体の形状などを把握しておくことが,安全に手術することにつながると思われる.文献1)GimbelCHV,CSunCR,CHestonJP:ManagemantCofCzonularCdialysisinphacoemulsi.cationandIOLimplantationusingtheCcapsularCtensionCring.COphthalmicCSurgCLasersC28:C273-281,C19972)徳田芳浩:水晶体・眼内レンズの亜脱臼・脱臼に対する手術療法水晶体亜脱臼の手術:(2)CapsularTensionRing(CTR)を用いた方法.IOL&RS23:479-484,C20093)山根貴司,三好輝光,吉田博則ほか:CTR挿入眼の術後長期予後.IOL&RSC29:230-237,C20154)八幡博人:白内障手術に必要な解剖.白内障(大鹿哲郎編),眼手術学5,p2-3,文光堂,2012

写真:角膜穿孔を生じた角膜フリクテンと 考えられた症例

2022年7月31日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦458.角膜穿孔を生じた角膜フリクテンと神前礼奈子京都府立医科大学眼科学教室考えられた症例京都府立医科大学附属北部医療センター横井則彦京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ①角膜が穿孔し,虹彩が嵌頓している.②浅前房③角膜への血管侵入図1前眼部所見救急受診時,左眼に角膜穿孔がみられ,前房は消失していた.左眼矯正視力(0.05).図3前眼部所見(フルオレセイン染色)図1と同日.フルオレセイン染色による観察で,角膜穿孔部から房水が流出し,Seideltestの陽性所見がみられた.図4クラリスロマイシン投与中止4カ月後の前眼部所見角膜穿孔部の閉鎖が得られ,前房は形成されている.左眼矯正視力(0.2).(79)あたらしい眼科Vol.39,No.7,20229330910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は57歳,女性.近医にて初診時より左眼瞼結膜の充血および点状表層角膜症を認め,マイボーム腺炎に伴う角膜上皮障害として抗菌薬点眼およびステロイドの点眼・内服が開始されたが,最近1年間は軽快することなく角膜上皮障害をくり返していた.ステロイド内服を減らすと角膜上皮障害が悪化するため,投与が継続されており,完治を求め当科紹介となった.全身疾患はとくに指摘されていない.当科初診時,マイボーム腺炎を疑う眼瞼縁の発赤,血管拡張,眼瞼結膜充血,閉塞性マイボーム腺機能不全,および角膜上皮障害は認めず,ドライアイを認めるのみであった.ただし,左眼角膜に角膜フリクテンの既往を思わせる瘢痕性変化を認めた.他覚所見に乏しいためドライアイ治療のみで経過観察とし,ステロイドの内服は漸減後中止とした.その後増悪なく経過していたが,視力低下と流涙症状を主訴に救急受診し,左眼の角膜潰瘍と穿孔を認めた(図1~3).再発性の結膜炎症や角膜上皮障害の既往,角膜の瘢痕性変化や穿孔の臨床像から,角膜フリクテンに伴う角膜穿孔と考え,治療用ソフトコンタクトレンズの装着および1.5%レボフロキサシン点眼4回/日,クラリスロマイシン200mg/日内服,ベタメタゾン1mg内服,0.1%フルオロメトロン点眼2回/日で消炎を図り,穿孔部の閉鎖を得た.その後コンタクトレンズ装着とステロイドの投与を中止し,ガチフロキサシン2.3回,クラリスロマイシン200mgを3カ月継続後中止し,その後も3カ月,再発なく経過は良好である(図4).角膜フリクテンはマイボーム腺炎を高率に合併し,再発をくり返す難治性疾患であり,Suzukiらは,マイボーム腺炎関連角結膜炎の表現型の一つとし1.3),マイボーム腺内に起因菌(Cutibacteriumacnes)が存在し,その菌体抗原が遅延型アレルギーに基づく眼表面炎症を引き起こしているのではないかと考察している4).つまり,角膜フリクテンの病態として,Cutibacteriumacnesを起因菌とする感染アレルギーが考えられる1.4).治療は,アレルギーの機序を想定してステロイド投与がよく行われるが,投与を中止すると再発をくり返すことも多く,アレルギー炎症の原因となっている起因菌が治療されていないことが,その理由として考えられる.そのため,根治のためにマイボーム腺炎の起因菌を治療するという考えに立ち,比較的軽症の場合はアジスロマイシンの点眼を,重症例では抗生物質の大量点滴療法5)を考慮する.一方,クラリスロマイシンは抗炎症作用を有し,静菌的に作用するため常在菌への影響が少ないと考えられることから,クラリスロマイシンの少量長期投与も再発防止に有効であることを多くの臨床例で確認している2,3).角膜フリクテンでは角膜穿孔を伴う3)ことが知られているが,本症例は初診時にマイボーム腺炎の他覚的所見に乏しく,非典型的といえる.しかし,クラリスロマイシンの少量長期投与の中止3カ月においても再発なく寛解が得られていることは,注目に値する.角膜フリクテンの病態は感染アレルギーと考えられるが,アレルギーよりも,その上流にある細菌増殖の病態の治療がより根治につながることは,胃炎の根治治療にピロリ菌の除菌が奏効することと類似しており興味深い.文献1)SuzukiT,SanoY,SasakiO:Ocularsurfacein.ammationinducedbyPropionibacteriumacnes.Cornea21:812-817,20022)横井則彦:マイボーム腺炎.眼感染症診療マニュアル(薄井紀夫,後藤浩編),p66-67,医学書院,20143)横井則彦:マイボーム腺炎関連角膜上皮障害.臨眼70:119-124,20164)SuzukiT,TeramukaiS,KinoshitaS:Meibomianglandsandocularsurfacein.ammation.OculSurf13:133-149,20155)鈴木智,横井則彦,木下茂:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科15:1143-1145,1998

屈折矯正

2022年7月31日 日曜日

屈折矯正RefractiveCorrection清水有紀子*はじめに斜視の治療といわれると,まずプリズムや手術が思い浮かぶのではないだろうか.しかし,成書には「斜視診療の基本は適切な屈折矯正である」と書かれている.これは調節性内斜視患者の遠視矯正だけでなく近視にも当てはまるが,あまり意識されていないように思う.本稿では斜視手術を検討する前に確認しておきたい屈折矯正,とくに小児の間欠性外斜視症例に対する屈折矯正について私見を述べる.I屈折矯正と眼位両眼で一つの物体を見るときに,脳は左右それぞれの眼に映った二つの像を同時に受け止め(同時視),少しずれているそれらの像を一つの同じ物として認識し(感覚性融像),その差を利用して凹凸や距離を感じている(立体視).この機能が発揮できる範囲内に,約6cm離れた左右眼からの二つの像を得る必要がある.そのために,中心窩と像の距離を検知して外眼筋にフィードバックし,それぞれの中心窩に像が投影されるように眼球を動かす働きが運動性融像である.眼位ずれが大きくなると,網膜の離れた場所に投影された左右眼の像を一つの物として感じられなくなり,複視を生じたり片眼を無視(抑制)したりするようになる.逆にもともと眼位がよく,像の位置には問題がなくても,左右の像の質が異なるために融像できなくなると斜視になる.外傷などで片眼視力が著しく低下した場合に起こる感覚性斜視(廃用性斜視)がその典型例である.このように,眼位と網膜像は密接な関係があり,両眼の融像には鮮明な網膜像が重要だが,屈折異常によってそれがぼやけると,融像が妨げられて眼位が不安定になる.もう一つの大きな要素は,調節と輻湊の相互関係が眼位に及ぼす影響である.小児の遠視が調節性内斜視に大きく関係しており,屈折矯正によって眼位が改善することはよく知られている.これは遠視のために必要な調節量が大きくなり,同時に起こる輻湊が対象物までの距離対して過剰となって内斜視となる.逆に間欠性外斜視の患者では,眼位を維持するための輻湊に伴って過剰な調節が起こり,近視の状態(斜位近視)になったりする(図1).このように,調節と輻湊は眼位に深くかかわっていることからも,屈折矯正が眼位に与える影響の大きさが理解できる.II間欠性外斜視に対する屈折矯正の必要性日常診療で,斜視の悪化を訴えて受診する間欠性外斜視の小児のなかに,裸眼視力が低いにもかかわらず屈折異常(多くは近視)が未矯正のケースが一定数みられる.眼科クリニックからの手術を目的とした紹介例でも,眼鏡を処方されていなかったり,処方後に近視が進行して眼鏡度数が合っていなかったりして,遠見がはっきりと見えない状態で生活している場合がある.これらのなかには適切な眼鏡を装用させるだけで,間欠性外斜視のコントロール(斜視となる頻度,時間的割合や斜位への戻*YukikoShimizu:ツカザキ病院眼科〔別刷請求先〕清水有紀子:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(71)925abd図1斜位近視を伴う大角度の間欠性外斜視症例APCT:遠見72ΔX(T)&4ΔRH(T),近見95ΔX(T)’&4ΔRH(T)’,BV=0.5(裸眼),RV=1.2(1.5×C.2.75D175°),LV=0.8(1.2×C.1.25D180°).両眼視力が片眼視力より不良である.自覚的にも「両眼で見ようとするとぼやける」症状があったが斜視手術後に改善した.a:遮閉前眼位:融像して斜位に持ち込んでいる.b:融像時のスポットビジョンスクリーナー.輻湊性調節によって近視となっている状態.単眼で計測した屈折値より近視が強いことから斜位近視と診断できる.c:遮閉後眼位:大角度の外斜視.d:斜視の時のスポットビジョンスクリーナー.輻湊していない状態の球面度数は遠視であることがわかる.e:オートレフラクトメータのデータ.片眼ずつ測定するために輻湊性調節が働かず,球面度数は遠視である.表1診察室での間欠性外斜視のコントロール評価30秒間観察評価方法基準スコア1.片眼C10秒遮閉後除去2.僚眼にも施行1秒以内(phoria)0(良)偏位なし3.回復の遅かったほうの眼にC3回目を施行1-5秒C1遮閉除去後に融像が回復するまでの秒数を計測し,3回中最長の秒数からスコアを決定5秒より長いC2<50%C3偏位あり斜視となっている時間の割合でスコアを決定>50%C4恒常性5(不良)固視目標:遠見はC3.mのテレビスクリーン,近見はC33.cmで調節視標を使用する.最初に診察室でC30秒間眼位を観察して,自然に偏位するかで大きく分ける.偏位しない場合は片眼をC10秒遮閉後除去して,眼位が戻るまでにかかる秒数を計測する.僚眼にも同様に施行し,3回目は眼位の戻りが遅いほうの眼で行う.3回の計測値のもっとも長い秒数でスコアを決定する.初めのC30秒間に遮閉なしで斜視となる場合は,斜視となっている時間を計測し,15秒を基準としてスコアを決定する.近見では融像できるが遠見では恒常性の場合がスコアC5でもっとも不良と評価する.(文献C11より引用)表2軽度の近視矯正のみでコントロールと近見眼位が改善した6歳の間欠性外斜視症例(症例1)年齢日常の視力眼位(APCT)屈折矯正の状態自覚症状.遠見コントロールスコア初診6歳0カ月RVC0.4(裸眼)CLV0.4(裸眼)遠見2C5CΔX(T)近見C18CΔX(T)C’近視は未矯正.裸眼で生活眼鏡装用を開始.スコアC36歳11カ月1.0(眼鏡)C1.02C5CΔX(T)C10CΔX(T)C’「斜視が目立たなくなった」「手術は希望しない」.スコアC29歳2カ月0.6(眼鏡)C0.52C5CΔX(T)C40CΔX(T)C’近視が進行し眼鏡視力が低下複視を自覚する.スコアC310歳4カ月1.5(眼鏡)C1.02C0CΔX(T)C12CΔX(T)C’眼鏡度数変更後複視なし.スコアC2CRV=0.5(1.2C×S.1.25D),LV=0.5(1.2C×S.1.25D).TST40秒.近見斜視角は日常視力に伴って変動している.遠見斜視角は変わらないが,日常視力のよいときは複視の自覚が減少し,コントロールスコア(斜視となる頻度)11)も改善している.ab図2中等度遠視の矯正により立体視が改善した6歳の間欠性外斜視症例(症例2)RV=1.2(1.2C×sph+1.5D(C.0.75DCAx180°),LV=0.8(1.2C×sph+2.25D(C.1.25DAx180°).APCT:遠見35CΔX(T),近見C45CΔX(T)’,TST:all(C.),Bagolini線状レンズ試験(StriatedGlasses:SG):左眼抑制,チトマス立体試験(TST):.y(C.)と立体視は不良であった.Ca:第一眼位.恒常性に近い間欠性外斜視.遠見は写真のように眼位がよいときもあるが,50%以上の時間で斜視になり,コントロールスコアはC4.Cb:屈折未矯正時の輻湊位:左眼の輻湊が不良.Cc:眼鏡常用後の輻湊位.弱いながらも輻湊は可能となった.両眼視はCTST:Fly(+)A(3/3),C(6/9),SG:交代抑制まで改善した.斜視手術後にはCTSTはC40秒まで向上し,SGも抑制なく融像可能となった.果のばらつき,評価基準の違い,症例数が少ないなどの理由で「眼鏡装用は両眼視不良の予防としての効果はありそうだが,斜視の予防効果は明言できない」と結論されている4).CVOverminuslenstherapy屈折矯正度数を意図的にずらす治療の一つに,間欠性外斜視の小児に対して,最良視力を得られる屈折矯正度数に凹レンズ(マイナスレンズ)を付加した眼鏡を処方するCoverminusClenstherapyがある.これは調節性輻湊を誘導して眼位を改善する治療で,60年以上前から報告されてきた5.9).これらの研究ではC46.75%の症例に眼位や融像の改善があり,近視の進行の加速はなく7),装用終了後にも効果が維持される6,9)など非常に良好な結果を示し,治療が推奨されている.しかし,いずれも症例数が少なかったり,さまざまなバイアスがあったり,エビデンスとしては不十分であった.このCover-minusClenstherapyについてCPediatricCEyeCDiseaseInvestigatorCGroup(PEDIG)が多施設共同ランダム化比較試験を行っており,2021年に報告10)されたその結果を紹介する.3歳以上C11歳未満の間欠性外斜視で遠見CAPCTC15Δ以上,遠見コントロールスコア(表1)11)がC2以上の症例に,overminuslens(近視の過矯正または遠視の低矯正眼鏡)を装用させて(以下,マイナス付加群とする),調節性輻湊によって間欠性外斜視のコントロールが改善するかを,通常の眼鏡を装用させた対照群と比較検討した研究である.56施設の,屈折が+1D.C.6Dの間欠性外斜視患者386例をC2群に分けて,対照群には研究期間を通して調節麻痺下屈折値を矯正する通常眼鏡を装用させた.マイナス付加群は調節麻痺下屈折値から左右ともにC2.5D減じた眼鏡をC12カ月装用し,その後C1.25D減じた眼鏡に変更してC3カ月装用し,その後に通常眼鏡をC3カ月装用させて対照群と比較している.評価項目は,12カ月後とC18カ月後の診察室での間欠性外斜視のコントロールスコア(0.5で数値が低いほうが良好)および開始C12カ月後の屈折変化の群間比較である.結果は,12カ月後の遠見スコアはマイナス付加群のほうが有意に良好(1.8Cvs2.8)であったが,通常眼鏡に戻したC3カ月後の開始C18カ月後には両群のスコアに差がなかった.これは,マイナス付加眼鏡装用中は外斜視のコントロールが改善されるが,通常眼鏡に戻すとその効果が失われることを示す.近視化についてはC12カ月後にマイナス付加群のほうが大きく(C.0.42DCvsC.0.04D),1D以上の近視化はマイナス付加群C189例中33例C17%に対して,対照群ではC169例中C2例C1%でリスク比はC15倍であった.中間解析でマイナス付加群の強い近視化が判明し,患児の不利益として以後の装用が中止されていることからも,そのインパクトの強さがわかる.眼鏡由来の症状は,眼痛が対照群C22%に対してマイナス付加群C38%と有意に多かった.結論では,外斜視の遠見コントロールスコアはマイナス付加群のほうが改善したが,漸減後には効果が維持されず,有意な近視化を伴うために適応は限定されるとしている.実際の臨床では漸減をゆっくり行うことで,外斜視のコントロールを維持できるのではないかとまとめられている.この研究では,開始時の屈折異常別にもその変化を検討しており,近視例に遠視例よりも大きな近視化が起こったと報告している.鮮明な網膜像を得るために近視の矯正は重要であるが,過矯正になると眼位は改善しても近視化が進行することが示され,結果的に網膜像がぼやける悪循環が起こりうる.近視の間欠性外斜視患者に対しては,過矯正を避けて適切な矯正が重要であると考えらえる.近視例には適さない一方で,近視化が進むのであれば,遠視症例を低矯正にして遠視度数の減少を期待したくなる.しかし,この研究では近視症例に起こる大きな近視化に対して,遠視症例に起こる近視化はわずかであったとされている.中国からも遠視の間欠性外斜視症例を対象としたCoverminusClenstherapyの結果が報告されている12).この研究はプリズムも併用しており,C.2.5D付加かつ組み込みプリズム眼鏡装用群と屈折矯正のみの群に分けて,装用C12カ月後を比較している,遠視症例に限ったこの研究でも,マイナス付加群において外斜視は有意に改善したが,屈折変化は両群で差がなく,期待した遠視の減少はみられなかった.(75)あたらしい眼科Vol.C39,No.7,2022C929abc図3Overminuslensを処方した強度遠視の遠見外斜視かつ裸眼では調節性内斜視症例RV=1.2(1.5C×sph+6.5D(C.0.50DAx170°),LV=1.0(1.5C×sph+7.25D(C.1.00DAx170°).最良視力の矯正度数でのCAPCT:遠見C16CΔXT,近見C6CΔX’.a:非調節麻痺のオートレフラクトメータ.両眼+7Dを超える強い遠視.Cb:スポットビジョンスクリーナーの結果,裸眼では調節性内斜視.裸眼でのCAPCT:遠見C16CΔET,近見C10CΔE(T)C’.C10ΔX(T)’の間で変動する.調節によって球面度数も+3Dと低くなっている.Cc:Overminuslens(C.1.75D付加)装用眼位は外斜位.処方眼鏡でのAPCT:遠見C4CΔX,近見C2CΔX.’

麻痺性斜視

2022年7月31日 日曜日

麻痺性斜視HowtoFollow-UpPatientswithParalysticStrabismus植木智志*I麻痺性斜視とは麻痺性斜視は動眼神経麻痺・滑車神経麻痺・外転神経麻痺などが原因となる眼球運動制限に伴う斜視である.動眼神経・滑車神経・外転神経は眼運動神経と総称される.麻痺性斜視と鑑別すべき斜視としては重症筋無力症や甲状腺眼症などによる特殊型斜視がある.CII麻痺性斜視の診断動眼神経は外眼筋である内直筋・下直筋・下斜筋・上直筋に加えて上眼瞼挙筋を支配し,瞳孔括約筋・毛様体筋に至る神経線維が動眼神経内を通る.滑車神経は上斜筋を支配し,外転神経は外直筋を支配している.眼運動神経麻痺による麻痺性斜視の診断は,視標を用いたむき運動・ひき運動(用語解説参照)における眼球運動制限の評価により麻痺筋を推定し(図1),眼運動神経の支配筋と照らし合わせることで行う.すなわち,動眼神経麻痺では内転制限・外下転制限・内上転制限(内旋)・外上転制限を呈しうる.加えて,動眼神経麻痺では眼瞼下垂・瞳孔散大を呈しうる.これらの所見をすべて呈する状態は動眼神経完全麻痺である.一方,明らかには定義されていないが,動眼神経不全麻痺とよばれる状態も存在する.内転制限・外下転制限・内上転制限(内旋)・外上転制限および眼瞼下垂を呈しているが,瞳孔散大は呈していない動眼神経不全麻痺については後述する.眼瞼下垂と内転制限のみの患者では重症筋無力症が重要な鑑別疾患となる.また,内転制限のみの患者では,核間麻痺(内側縦束症候群)(用語解説参照)を第一に考える.滑車神経麻痺では内下転制限(外旋)を呈し,外旋を代償するための健側への頭部傾斜を伴う.滑車神経麻痺の鑑別疾患は,まれな疾患であるがCoculartiltreaction(用語解説参照)などである.外転神経麻痺では外転制限を呈する.外転神経麻痺の鑑別疾患は,甲状腺眼症,重症筋無力症,Duane症候群,近見反応けいれん,眼窩内壁骨折などである.視標を用いた眼球運動制限の評価に加えて,Hess赤緑試験を行うことで麻痺筋の推定はより容易になる.Hess赤緑試験では眼球運動制限の程度も定量することができる.CIII麻痺性斜視の原因麻痺性斜視の原因には患者の生命にかかわる疾患があり,麻痺性斜視の原因の探索は非常に重要である.C1.動眼神経麻痺動眼神経麻痺の原因には,末梢循環不全(詳細は後述する),外傷,脳動脈瘤,脳血管障害,脳腫瘍などがあるが,患者の生命にかかわる疾患としてもっとも重要なものが脳動脈瘤である.動眼神経麻痺の原因疾患となる脳動脈瘤の好発部位は内頸動脈後交通動脈分岐部で,この部位の脳動脈瘤は動眼神経内の瞳孔に至る線維を圧迫しやすいことが知られている(図2).すなわち,瞳孔散*SatoshiUeki:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕植木智志:〒951-8510新潟市中央区旭町通一番町C757新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(65)C919上直筋下斜筋下斜筋上直筋外直筋内直筋内直筋外直筋下直筋上斜筋上斜筋下直筋右眼左眼図1外眼筋のおもな作用方向眼球運動制限の方向と外眼筋の作用方向を照らし合わせ,麻痺筋を推定する.視交叉腹側内頸動脈動眼神経後交通動脈中脳内頸動脈後交通動脈分岐部滑車神経図2動眼神経と内頸動脈後交通動脈分岐部の解剖学的位置関係背側視交叉および脳幹を斜め下方から見上げると,内頸動脈後交通動脈分岐部が動眼神経の内上方に近接していることが理解でき図3滑車神経の解剖学的位置関係る(動眼神経内の瞳孔に至る線維に近接している).中脳の軸位断面を模式的に示している.滑車神経は中脳背側から起始し交叉して対側の上斜筋に至る.ab図4小児の外転神経麻痺の症例a:正面視で左眼の内斜視がみられ,左方視で左眼の外転制限がみられる.Cb:矢状断頭部CCT画像.橋神経膠腫がみられる.(文献C2より引用)図5麻痺性斜視のフォローアップの要点正面視左右視図6動眼神経麻痺における異常連合運動右動眼神経麻痺で異常連合がみられる患者を模式的に示す.正面視で右上眼瞼の眼瞼下垂と右眼の外斜視がみられる.左方視で右眼内転努力に伴い,右上眼瞼が挙上している.C■用語解説■むき運動:両眼を開放した状態での両眼の眼球運動.ひき運動:片眼を遮蔽した状態での単眼の眼球運動.外転神経麻痺を疑ったら,両眼のむき運動のみならず単眼のひき運動も確認すべきである.核間麻痺(内側縦束症候群):MLF(medialClongitudinalfasciculusの略で,日本語では内側縦束)の障害で起こC-る.MLFの障害側と同側の眼の内転制限がみられる.COculartiltreaction:脳幹部血管障害などが原因となり,頭部傾斜・共同性回旋性眼振・斜偏位を呈する.COculartiltreactionでは共同性回旋性眼振により,上転眼は内旋・下転眼は外旋する.片側の滑車神経麻痺では上転眼のみ外旋する.

外傷性斜視

2022年7月31日 日曜日

外傷性斜視TraumaticStrabismus西村香澄*はじめに交通事故やスポーツ,さらにはヘビに噛まれた,クマに襲われた,木の枝が刺さったなどさまざまな外傷により眼球や外眼筋,眼窩,脳,脳神経が障害されると多様かつ複合的な斜視を生じる.その症状は多岐にわたり,非常に劇的な症状を示すものから軽微なものまで大きく異なり,時には複雑な治療計画が必要になる.障害の部位と重症度の適切な診断,その障害が機械的な運動制限なのか神経麻痺なのかを区別することは,治療のタイミングや最適な外科的治療を選択するうえで非常に重要である.CI外傷性斜視の症状別検査の組み合わせ1.画像診断筋肉の損傷や,眼窩壁骨折,眼窩内異物,脳の損傷が疑われる場合にはコンピューター断層撮影(computedtomography:CT)や磁気共鳴画像法(magneticCreso-nanceimaging:MRI)の撮影を行う.眼窩壁骨折ではCTの冠状断・矢状断・水平断の眼窩C3方向で撮影を行う.また,断裂した筋肉の状態や収縮力を確認するには,同一スライスで眼位を少しずつ動かして撮影した画像をパラパラ漫画の要領で再生するCcinemodeMRIが有用である.C2.眼科一般検査細隙灯顕微鏡検査(前房出血,外傷性白内障,角膜穿孔など),眼底検査(網膜振盪症,網膜.離),視力検査,視野検査(半盲,中心暗点)を行う.外傷前から存在している眼疾患や弱視と斜視の有無についても確認しておく.C3.眼位・眼球運動検査眼位検査は,交代プリズム遮閉試験(alternativeCprismcovertest:APCT)を行う.外傷で生じた前房出血や視野障害の影響で指標を固視しにくいことがあり,通常よりもゆっくりと遮閉を行うことを心がける.全外眼筋麻痺のように完全に眼球が動かない場合にはKrimsky法で定量する.Hess赤緑試験は斜視の程度を視覚的に時系列で確認でき,さらに手術の定量の際に参考になる第一偏位の確認にも役立つ.とくに外傷性両眼滑車神経麻痺では,第一眼位で大きな上下ずれがないにもかかわらず大きな外方回旋が存在し,下方視でさらに増加する特徴があるため,診断にはCdoubleMadoxrodtestや大型弱視鏡の検査が必須である.眼球運動はひき運動とむき運動検査を行い,眼位やCHess赤緑試験の結果と矛盾しないか確認する.C4.牽引試験a.Forcedductiontest眼球運動制限があるとき,その原因が機械的な運動制限なのか神経麻痺なのかを調べる検査である.局所麻酔下では,運動制限がある方向を見てもらい,そこから制*KasumiNishimura:上野眼科,聖隷浜松病院眼科・眼形成眼窩外科〔別刷請求先〕西村香澄:〒433-8108浜松市北区根洗町C579-5上野眼科C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(59)C913限と反対側の角膜輪部を鑷子でつかんで制限側に眼球を回転させる.ただし,眼窩底骨折で筋肉が骨折部位に嵌頓している場合は,全身麻酔下の術中以外で牽引試験を行うことは推奨しない.局所麻酔下で牽引試験を行うと激痛を伴うだけでなく,鋭利な骨折縁で筋肉を損傷する可能性があるためである.Cb.Activeforcegenerationtest外眼筋の収縮力を調べる検査である.運動制限が神経麻痺のためか拮抗筋の拘縮のためか,さらにその麻痺が完全麻痺か不全麻痺かの鑑別を行う.Activeforcegen-erationtestは局所麻酔下で行う場合,最初に運動制限と反対方向を見てもらい,反対側の輪部を鑷子で把持して運動制限側を見るように指示する.そのとき,鑷子の位置は固定した状態で引っ張られるような手ごたえがあるかどうかで筋肉の収縮能力を判断する.CII外傷性斜視の分類外傷性斜視の既報を調べると,その障害部位や発症機序は多岐にわたり,カスタマイズされた治療が行われている.以下に外傷性斜視とその治療を示す.C1.神経障害a.末梢神経障害末梢神経障害の原因が虚血の場合は,動眼神経麻痺や外転神経麻痺が多いが,外傷性の麻痺は滑車神経麻痺が多い.河野らの報告1)では交通外傷による麻痺性斜視89例中,滑車神経麻痺C48例,動眼神経麻痺C13例,外転神経麻痺C7例,複合麻痺C7例で滑車神経麻痺が半数以上を占めている.外傷性麻痺は虚血性麻痺より自然治癒する確率が低いが,自然治癒する可能性のある半年程度経過をみてから斜視が残れば手術を行う.・滑車神経麻痺:後天性の両眼上斜筋麻痺は,下方視時の大きな外方回旋が日常生活するうえで非常に問題になる.しかし,通常の眼位検査では斜視が検出されにくく,しばしば見逃されるため注意が必要である.滑車神経麻痺の術式は,上斜筋強化術(原田-伊藤法など)や下直筋鼻側移動術が第一選択となり,両者を組み合わせることもある.さらにCFaden手術を追加した下直筋鼻側移動2),上下直筋の前後転術,下斜筋減弱術などの報告もみられる.・外転神経麻痺:外転神経麻痺の内斜視は,麻痺の程度により前後転術や上下直筋移動術±内直筋後転術が行われる.・動眼神経麻痺:動眼神経の完全神経麻痺で上直筋,下直筋,内直筋が麻痺していると治療が非常に困難である.最大量の前後転術や上下直筋移動術をしても効果が弱く眼位の矯正が得られない.その場合は上斜筋移動術や筋膜固定術などの特殊な手術が必要になる.・特殊な末梢神経障害:園芸用支柱が左眼の耳側結膜から眼窩深部に到達し,瞳孔散大,眼瞼下垂,左外上斜視を生じた上眼窩裂症候群の報告がある3).このような患者に対しては,眼窩内異物や感染の有無,斜視の原因となりうるあらゆる可能性を検討しなくてはならない.さらに治療のためには関連する解剖学の専門知識と,それに連なるさまざまな外科的技術の経験が必要となる.Cb.神経筋接合部疾患わが国ではマムシ咬症が散見される.原因はマムシ毒中のCbトキシンによる神経筋接合部障害で,眼瞼下垂と斜視の報告がある.眼位が確認できた症例では,内転制限がある場合とない場合があるが全例で外斜視であった.一般的には眼瞼下垂と斜視はマムシ抗毒素投与で改善する.Cc.中枢神経障害中枢神経障害では斜偏位(skewdeviation)や内側縦束症候群(medialClongitudinalCfasciculussyndrome:MLF症候群)が多い.外傷性脳底動脈解離後の脳幹梗塞から外上斜視になった症例4),障害部位は不明であるが頭部打撲後に周期性内斜視になった症例5)や,眼球打撲後に内斜視,輻湊けいれん,近視化,眼振を生じた症例5)もみられる.いずれも症状に合わせてプリズム眼鏡処方や手術治療を行う.C2.筋障害外傷性の外眼筋損傷は下直筋が筋腱接合部で断裂する頻度が高い.これは直筋のほうが斜筋より角膜輪部に近く,受傷の瞬間に瞬目するとCBell現象で眼球が上転するためである.下直筋断裂の場合は,Lockkwood靱帯が下直筋と下斜筋の共通の筋鞘として下直筋をサポート914あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022(60)し中枢端が眼窩深部に落ち込むのを防ぐため,断裂した筋肉の断端を同定しやすい.・下直筋断裂:上記の理由から断裂した下直筋は縫合可能なことが多いため,治療は断裂した筋肉の縫合を試みる.断端が見つからない場合は,水平筋移動術や下斜筋短縮前方移動術,前後転術を行う.・内直筋断裂:受傷時に眼球が外転することもあり,内直筋は下直筋の次に障害されやすい.耳鼻咽喉科の副鼻腔手術時に誤って眼窩内に侵入し,内直筋を切断することもある(医原性眼窩損傷).Plagerらは,内直筋は斜筋と接しておらずClostmuscleとなった場合に眼窩深部に落ち込みやすく,他の外直筋と比較して整復困難と報告7)している.通常の斜視手術のアプローチでは整復が困難でも,眼窩内壁骨折の手術ができる施設では,眼窩深部に落ち込んだ内直筋の整復は可能であり,治療の選択肢の一つとなる.・上斜筋断裂:上斜筋の障害は,医原性眼窩損傷やハンガーフックで引っかけたり,犬に.まれたりして生じる.治療は上斜筋麻痺に準じて行う.滑車部近くの上斜筋が障害されると上斜筋麻痺とCBrownsyndromeの合併になることがあり,caninetoothsyndromeをきたす.その場合の治療は上斜筋腱延長術や滑車形成手術を行う.C3.眼窩壁骨折眼窩骨折の好発部位は下壁がもっとも多く,内下壁,内壁と続く.下壁骨折では下直筋が骨折部位に牽引されて上限制限を生じるため,眼窩骨折整復術が必要になる.内壁骨折では骨折部位が篩骨洞で裏打ちされてクッションの役割を果たすことから,骨折の割には運動制限が出にくい.しかし,骨折範囲が広範囲に及ぶ場合には,炎症の軽減とともに眼球陥凹が生じるため,手術適応となる.若年者の閉鎖型骨折で嘔気・嘔吐,眼痛などの迷走神経反射がある場合は,緊急で手術しないと症状が改善しないだけでなく斜視や眼球運動制限が残ることになる.4.続発性・感覚性斜視眼球打撲で生じた前房出血や外傷性白内障術後の無水晶体眼が原因で,続発性に斜視になることがある.外傷後に生じた遮閉がきっかけで遮閉弱視や融像不全が起こり,潜伏していた斜視が顕性化するためである.治療は屈折矯正や視能訓練を行い,斜視が残れば斜視手術を行う.・薬剤性眼障害酸,アルカリ,界面活性剤,有機溶媒などで角膜や結膜が障害されると偽翼状片や瞼球癒着が生じる.癒着のために運動制限を生じた斜視では羊膜移植などを併用した斜視手術が必要になる.・視野障害(同名半盲と両耳側半盲,図1)視野障害を合併する斜視では,感覚面の異常が存在する.そのため,手術の際には視野欠損と斜視の関係を調べ,異常な網膜対応や抑制の有無の検査を行う.・同名半盲:同名半盲は半盲側の眼が外斜視になる傾向がある8).斜視になることで拡大する視野の見え方をパノラマ視というが,有効なパノラマ視のためにはいくつか条件が必要になる.半盲側と斜視が同側であること,斜視が外斜視であること,中心に抑制暗点があることである.これらの条件を満たした患者に外斜視矯正手術を行うと,パノラマ視の解消により視野狭窄を自覚することが知られている8.10).同名半盲と斜視の関係を図に示す(図2,3).図2のように右同名半盲の場合,右眼が外斜視であると欠損していた中心方向に視野が拡大する.右眼に抑制暗点があれば複視もなく有効な視野拡大となる.右同名半盲で左眼が外斜視の場合,耳側に視野が拡大するものの,眼窩で耳側視野がブロックされるため,あまり視野の拡大は得られない.右の同名半盲で右眼の内斜視の場合には,もともと存在する視野の中に鼻でブロックされたやや狭い視野が移動するだけで,視野の拡大は得られない.左眼が内斜視の場合には,耳側の視野は狭くなるものの,視野が欠けていた中心部分に視野拡大するため,抑制暗点があれば有効な視野となる.視野の拡大と難治性複視のどちらをとるか術前にシミュレーションしてから手術をするかどうか検討する必要がある.(61)あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022C915左眼視野右眼視野左眼視野右眼視野左眼右眼左眼右眼左眼右眼左眼右眼図1同名半盲と両耳側半盲右眼の同名半盲の場合,右眼の鼻側の視野と左眼の耳側の視野が重なって存在する.両耳側半盲では,右眼の鼻側と左眼の鼻側の視野が重なることなく並んで存在する.左眼右眼左眼右眼図3右眼同名半盲内斜視の場合右眼の同名半盲で内斜視の場合,右眼鼻側の視野が鼻で遮られやや視野が狭くなりつつ,元から存在する視野の中を左に移動する.右眼同名半盲で左眼内斜視の場合,左眼の耳側の視野は狭くなるが,中心を超えた有効な視野が拡大する.左眼右眼左眼右眼図2右眼同名半盲外斜視の場合右眼の同名半盲で右眼の外斜視の場合,右眼の視野が中心を超えて,欠損している方向へ拡大する.右眼の同名半盲で左眼の外斜視の場合は,耳側へ視野が移動するが,眼窩で拡大分の視野が遮られるため実質的に視野は拡大しない.左眼右眼図4Chiasmaticpost..xationalblindness両耳側半盲の場合,固視点より後方の像は両眼の半盲が重なるため暗点となり,深径覚異常と立体視障害が生じる.左眼右眼左眼右眼・立体視の成立①眼位異常がない②視力差や屈折異常に伴う不等像視がない③網膜対応が正常④両眼視野の重なり図5Hemi.eldslidephenomenon視交叉病変による両耳側半盲では黄斑が分割され,それぞれの視野に対応点がない.両眼視野が重ならないために立体視は成立せず,2つの視野は隣り合ったままで,融合して存在することが困難である.正常な見え方外斜視の場合内斜視の場合図6両耳側半盲と斜視の見え方外斜視では対応しない視野が重なり合い複視になり,内斜視では視野が分割され垂直性の暗点となり,中心部分が暗点ではなく抜け落ちて見える.

近視性共同性内斜視

2022年7月31日 日曜日

近視性共同性内斜視MyopicComitantEsotropia稗田牧*I近視と内斜視近視は屈折異常,内斜視は眼位異常として,それぞれ独立した疾病として理解されている.時に近視が原因で内斜視が起こることがある.古くから近視性の内斜視は二つに分類されている1).一つは強度近視の中年以降に生じる非共同性の内斜視で,進行すると固定内斜視になる「強度近視性内斜視」である.眼軸延長により眼球が外直筋と上直筋の間から脱臼するために,外転不全からはじまり,徐々に進行し眼球は内下転位で固定する.もう一つは,若年者の近視が未矯正または低矯正のまま,スマートフォン(以下,スマホ)などの近見作業過多で起こる眼球運動制限がない共同性内斜視である2).遠方の複視からはじまり,次第に恒常性の共同性内斜視に進行する.近視の程度は軽度から強度までさまざまである.このような内斜視が「近視性共同性内斜視」である.強度近視性内斜視は病態が解明され,斜視手術(上外直筋結合術)で治療できる3).近視性共同性内斜視(myo-picCcomitantesotropia)という言葉は生まれたばかりで,病態は未確定の部分ばかりである.本稿では近視性共同性内斜視について自説を述べる.CII近視性共同性内斜視とは「近視性共同性内斜視」という名称はC2022年C6月C4日に,後天共同性内斜視の全国調査発表の打ち合わせで生まれた.筆者らの施設では以前からのこの病態を近視性後4天4性4内斜視と称しており,論文発表していた4,5).しかし,それは以前からあった近視性の内斜視と同じか,それとも新しい概念の提唱であるかは曖昧であった.また,近視はほぼ後天性なので同語反復の感もあり,急性後天性共同性内斜視(acuteCacquiredCcomitantesotropia:AACE)との区別も曖昧で,他施設で用いられることはあまりなかった.今回,日本弱視斜視学会,日本小児眼科学会で行っている「若年層の後天性共同性内斜視とデジタルデバイス関連調査」のなかで,近視性共4同4性4内斜視が若年者の近視の後天性内斜視をうまく表現していると判断され,「近視性共同性内斜視」によびかえることになった.近視性後4天4性4内斜視はもともと筆者が英語の教科書にある“esotropiainmyopia”の若年者に発症する斜視1)に相当する日本語がないので用いはじめた言葉である.今後は新しい疾患概念として近視性共4同4性4内斜視という名称を用いたい.また,近視性共同性内斜視はCAACEのCBurienIII型(-5.00D以下:より強い近視,近視の低矯正が関連)を含む疾患概念である(図1).近視性共同性内斜視は-5Dより軽度近視でも発症し,かつ急性とはいえない経過で発症する.近視性共同性内斜視は,①潜行性発症(間欠性の遠見複視で発症しゆっくりと進行),②遠方内斜位斜視・近方内斜位から恒常性内斜視に進行,③若年者,とくに*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(53)C907図2強度近視性内斜視の頭部MRI画像偏位角度が開大している.図1近視性共同性内斜視と急性後天共同性内斜視との関係-5Dより強い近視で急性に起こるCBurianCIII型を含む疾患概念である.図3近視性共同性内斜視の頭部MRI画像偏位角度は正常である.=負荷調節図4近視性共同性内斜視の調節機能検査結果(ARK.1s,二デック製)オートレフの値から雲霧し,調節を負荷したのち軽減し,連続的に屈折度を測定する.山型の調節刺激に合わせて緑の他覚的屈折度が追随する調節反応が視覚的にわかる.左眼右眼耳鼻鼻耳側側側側図5近視性共同性内斜視のHess赤緑試験共同性であるため,左右眼で大きさがほぼ等しい.表1近視性共同性内斜視の鑑別開散不全急性後天性共同性内斜視強度近視性内斜視輻湊けいれん近視性共同性内斜視発症形式急性急性緩徐急性緩徐眼球運動障害C××◎C○C×眼球脱臼角増大C××◎C××調節障害C×××◎C×距離と斜視角度近<遠近>or=遠近=遠近=遠近<遠緩徐な発症=insidiousonset:潜行性発症近接性輻湊-緊張性輻湊図6輻湊の4要素開ループ系として緊張性輻湊,近接性輻湊,調節性輻湊があり,閉ループ系として視差性輻湊がある.正視近視回旋点左眼を耳側から見た図7前眼部耳側強膜拡大による外直筋の作用変化外直筋付着部が後方に移動することで外転作用が減弱し,内斜傾向が強まる.=--=--

調節性内斜視

2022年7月31日 日曜日

調節性内斜視AccommodativeEsotropia西川典子*はじめに調節性内斜視とは,物をはっきり見ようと調節をすると同時に調節性輻湊(用語解説参照)が起こるために眼球が内に寄り引き起こされる内斜視である.おもに中等度から高度の遠視のある場合に発症する.小児期に発症する後天性の共同性内斜視(用語解説参照)の代表的疾患であり,一般外来で診察する機会の多い斜視である.本稿では,まず内斜視の小児が来院したときに,どのように問診,検査,診察を進めるかを概説した後,調節性内斜視の診療について述べる.I内斜視の小児の診察内斜視を主訴として来院した小児の問診では,発症時期と発症経過(突然発症,徐々に発症,きっかけはあるか),常に内斜視か,ときどきか,眼位ずれの程度に変化はあるか,発症前後の発熱や頭痛などの随伴症状の有無,出生体重や出産時の異常を含めた既往歴や家族歴を聞く.次に,年齢に応じた視力検査(できない場合は交替固視の確認),眼位・眼球運動検査などの斜視関連検査に加え,眼科一般検査である対光反応の確認,屈折検査と合わせて散瞳下の細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を行う.斜視が主訴の場合であっても,まず原因となる器質的疾患がないかを確認することが大切である.とくに突然に発症した場合,眼球運動制限を伴う場合,頭痛など随伴症状を伴う場合には,腫瘍などの頭蓋内器質的疾患が原因である可能性を考え,頭部画像検査を施行する.斜視は眼球運動制限の有無で共同性・非共同性(用語解説参照)に分類されるが,小児でみられる外転制限を伴う非共同性内斜視には,外転神経麻痺,Mobius症候群,Duane症候群などの麻痺性あるいは特殊斜視がある.発症時期による分類では,生後6カ月以降に発症する後天内斜視と,生後6カ月未満に発症し他疾患(非共同性内斜視,調節性内斜視,眼振阻止症候群など)を除外した乳児内斜視(以前は先天内斜視とよばれていた)に分けられる.発症時期は,保護者への問診と家庭で撮影した顔写真による確認を合わせて判断する.生後6カ月以降に発症する共同性内斜視は,本稿で取りあげる調節性内斜視のほかに,調節が関与しない非調節性内斜視(基礎型内斜視),斜視の日と斜視ではない日が24~48時間の周期で交互に出現する周期性内斜視,突然発症する急性内斜視などに分類され,図1のように検査を進め分類する.なお,後天内斜視の統一した分類はなく,用語を含め成書によっても多少異なっている.II内斜視の診断と眼鏡装用小児の内斜視の検査では,まず屈折検査が基本となる.調節性内斜視の診断に当然必要であるが,乳児内斜視が疑われる場合でも1.5~2ディオプトリー(D)以上(年齢により基準は異なる)1)の遠視を認めた場合は,まず眼鏡を装用し眼位の変化をみる.これは,まれに生後6カ月以内に発症する調節性内斜視があることや,どの*NorikoNishikawa:旭川医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕西川典子:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1-1-1旭川医科大学眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(45)899・非調節性内斜視(基礎型内斜視)・周期性内斜視・急性内斜視など遠視なし★遠見<近見斜視角近見に+3D加入図1生後6カ月以降に発症する共同性内斜視の診断フローチャート★一般的にこの段階で頭部画像検査を考慮する.※非屈折性調節性内斜視の屈折は遠視の場合が多いが,まれに正視や近視の症例もある.弱視等治療用眼鏡等作成指示書氏名:年齢:歳(男・女)住所:Ⅰ.種類(○で囲む):眼鏡コンタクトレンズ(ハード・ソフト)Ⅱ.度数及び用法1.眼鏡S(球面)C(円柱)A(軸)近用加入度PD(瞳孔距離)用法右mm遠用・近用遠近両用左mm2.コンタクトレンズ右用法遠用・近用・遠近両用左Ⅲ.備考(眼鏡等を必要とする理由)1.疾病名2.治療を必要とする症状及び患者の検査結果右眼視力:左眼視力:年月日医療機関医師氏名印図2弱視等治療用眼鏡等作成指示書日本眼科学会や日本眼科医会のホームページからダウンロード可能である.図3非屈折性調節性内斜視(高AC.A比)に対する二重焦点眼鏡エグゼクティブタイプの二重焦点眼鏡装用例a:裸眼では左眼大角度内斜視である.Cb:眼鏡の上方(遠用部)で遠見正位.Cc:眼鏡の下方(近用部)で近見正位.図4膜プリズムを貼付した眼鏡の装用例部分調節性内斜視術後の残余内斜視に対してCFresnel膜プリズムを貼付した眼鏡を装用し経過観察している.この眼鏡下で眼位は内斜位を保ち,Bagolini線条レンズ試験で融像が確認できる.C-ab内直筋付着部内直筋付着部図5近見斜視角が大きい内斜視に対する術式a:Faden手術.付着部より1~14Cmm後方で筋を強膜と縫着することにより,安静眼位に影響を与えることなく筋の作用方向への筋力を減弱させる術式.図は内直筋後転術にCFaden手術を併用している.Cb:Slantedrecession.内直筋後転術で筋上方より下方を1~2Cmm後方に縫着する.■用語解説■調節性輻湊:調節と輻湊は互いに密接に関連し作動する.検査を行う.羞明や調節障害によるみえにくさはC10日か調節刺激を与えると輻湊運動が生じることを調節性輻湊らC2週間続くこと,全身的副作用(顔面発赤,発熱)が起(accommodativeconvergence)という.また逆に,輻こる可能性があることを説明し,正しい点眼方法を指導湊させる(基底外方のプリズムを眼前におく)と網膜像する(図6).当院では院内で調剤したC0.5%製剤をC6歳のぼやけがなくとも輻湊に伴って調節が起こり,これを未満の初回検査に用い,2回目以降やC6歳以上にはC1%輻湊性調節(convergentaccommodation)という.点眼を用い,点眼の期間はC7日間としている.共同性・非共同性斜視:共同性斜視とは眼球運動制限のなCAC/A比:調節性輻湊(accommodativeconvergence)とい斜視のことで,非共同性斜視とは眼球運動制限を伴う調節(accommodation)の比のことであり,1Dあたり斜視であり麻痺性斜視ともいう.の調節で引き起こされる輻湊量(PD)を表し,正常値は調節麻痺薬:外来受診時に点眼するサイプレジン点眼と自C4±2(PD/D)とされる.測定方法は,大型弱視鏡を用宅で点眼するアトロピン点眼がある.わが国で行われたいる方法,レンズを負荷して眼位を測定するCGradient調節麻痺薬点眼に関する多施設共同研究報告によると,法,瞳孔間距離を用いて計算するCHeterophoria法があ施設により点眼の回数や使用基準は異なる5).るが,詳細は成書を参考にされたい.サイプレジン(シクロペントラート):当院では,10分ごプリズム順応検査(prismadaptationtest:PAT):内斜とにC2回点眼し,初回点眼からC50分後に屈折度を測定視の術前検査法として発展した.斜視角を中和するしている.散瞳作用は弱いため,ミドリンCP(トロピカFresnel膜プリズムを装用し,順応後に再度眼位を測定,ミド+塩酸フェニレフリン)点眼と併用する.小児の検斜視角が増加する場合はプリズム度数を増やし再度順応査では頻繁に用いられるが,顔面紅潮,結膜充血,傾し,安定するまで繰り返す.古典的には数週間プリズム眠,運動失調,錯乱などの副作用が報告されており,注を装用させる方法であるが,外来で数時間の順応のみで意して観察する.行われる方法へと発展し,外斜視術前にも適応されていアトロピンクール:もっとも強い調節麻痺作用をもつアトる.部分調節性内斜視に対するCFresnel膜治療は一般的ロピンを用い,正確な他覚的屈折測定の目的で行う.検に数カ月継続するため,古典的CPATと同様であると考査前のC5~7日間,朝夕に自宅で点眼してから来院し屈折えられる.図6アトロピンクール説明用紙(例)点眼する日付を記入し,保護者に説明している.

間欠性外斜視の診療マネージメント

2022年7月31日 日曜日

間欠性外斜視の診療マネージメントManagementofIntermittentExotropia森本壮*はじめに間欠性外斜視は斜位と斜視が混在している状態であり,運動系の異常(眼位異常,輻湊不全)と感覚系の異常(両眼視機能の異常)を伴う.外斜視の顕在化による整容面の問題と両眼視機能の低下による複視やぼやけ,眼精疲労などが生じた場合1)に治療が必要となる.間欠性外斜視は斜視のなかでもっとも多く,アジアでは斜視の子どもの72%が外斜視で,そのうちの92%が間欠性外斜視である2).間欠性外斜視については,治療介入の適応,治療の最適な時期,効果的な治療法などが数多くの論文で広く議論されているにもかかわらず,依然として大きな論争がある.本稿では,さまざまな角度から間欠性外斜視の診療マネージメントについて述べる.I間欠性外斜視の病態外斜視とは片眼の視線が固視目標に向かわず外方に偏位している状態である.外斜視には間欠性と恒常性がある.間欠性外斜視は通常では正位を保っているが,疲労時や注意散漫時に外斜視が出現する状態で,外斜位と外斜視が混在する状態である(図1).一方,斜位が保てなくなり常に外斜視の状態になった場合が恒常性外斜視である.II間欠性外斜視の症状外斜視では片眼が外方に偏位することによって整容面で問題になることが多い.外方偏位は,注意散漫時,明図1間欠性外斜視正位(a)のときと外斜視(b)のときがある.るい日光の下,ストレス,疲労,病気のときなどに頻繁に起こる.明るい日光の下での一過性の片眼つむりや羞明は患者の50%以上にみられる3).乳幼児では患児からの訴えはなく,片眼の外方偏位や屋外での片眼のつぶりに保護者が気づいて発覚する.学童期になると整容上の問題に自身が気づくようになり,それ以降,整容面での問題の解決が重要となる.両眼視機能については,間欠性外斜視は外斜視のときは両眼視ができないが,正位のときは正常な両眼視機能をもち,網膜対応は正常で,立体視が良好な場合が多*TakeshiMorimoto:大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学〔別刷請求先〕森本壮:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(39)893い.また,乳児外斜視は,両眼視機能の発達の感受性期に正位を保てないので,その時期に眼位を矯正できない場合は両眼視機能が獲得できなくなる.10歳未満の低年齢児では複視を避けるための適応現象で斜視眼が抑制されるため複視はほとんど生じないが,10歳以上の小児では複視がおもな症状になることがある.とくに,長時間の近見作業では複視や眼精疲労が生じやすい.弱視の発生率は,間欠性外斜視の子どもでC4.5%や12.8%と報告されており4,5),小児では弱視の有無の確認が必要である.その他,斜位近視や近見時のぼやけ(調節不全)が生じることがある.C1.斜位近視斜位近視とは青年期や若年成人の間欠性外斜視で,比較的大角度の眼位ずれがあり,両眼視時に著明に近視化する状態である.著明な近視化のため像のぼやけ,強い眼精疲労を訴える.斜位近視は小児ではあまり発症せず,若年成人での発症がほとんどで,斜視角と近視化に正の相関がみられる6).C2.調節不全小角度での間欠性外斜視では,調節性輻湊や融像性輻湊により眼位が保たれることが多いが,眼位を保つために輻湊とそれに伴う輻湊性調節が行われているため,調節力の低下が生じ,近見時のぼやけや眼精疲労を生じる7).CIII間欠性外斜視の検査間欠性外斜視の重症度の評価には,斜視角の大きさ,斜視をコントロールする力,両眼視機能の指標としての立体視力が用いられる.斜視角が大きい,斜視のコントロールが悪い,立体視力が低下している,あるいはこれらの性質をあわせもつ患者は,重症と考えられる.間欠性外斜視は融像性輻湊が強いため,斜視角の定量の際には,融像性輻湊を除去して行う必要があり,交代プリズム遮閉試験(alternateCprismCcovertest:APCT)やパッチテスト(occlusiontest)が用いられる.1.APCT遮閉を交互に繰り返し融像性輻湊を除去し,潜伏性偏位を検出し定量する.間欠性外斜視の検査には有用である.斜視角の測定は遠方と近方でのプリズム遮閉試験を用いて行われる.C2.パッチテスト片眼遮閉によって融像性輻湊を除去した眼位を求める検査.APCTでの検出が不十分な間欠性外斜視では強靱な融像力(tenaciousfusion)によって実際の偏位が隠されていることが多いので,60分間片眼を遮閉して完全に融像を除去し,潜伏している偏位を検出する.その後,APCTで近見・遠見眼位の測定を行う.1時間の片眼遮閉後の遠見斜視角が,手術による矯正不足を大幅に減らすのに有用であることが報告されている8).C3.両眼視機能検査間欠性外斜視は両眼視機能が保たれていることが多い.検査としてよく行われるのが近見立体視検査で,CstereoC.ytest(図2a)などがあり,日常視に近い状態での立体視機能を定量的に評価する.その他,網膜対応検査としてCBagolini線状レンズ試験が用いられる.この検査は日常視に近い状態での網膜対応について,遠見(5Cm)および近見(33Ccm)で評価でき,プリズムとも組み合わせて眼位を矯正した状態での網膜対応を評価することができる(図2b).C4.外斜視の頻度の検査外斜視では整容面が問題となるが,間欠性外斜視では斜視と斜位が混在しているため,受診時での診察結果のみでは,眼位がどの程度制御されているかの評価が十分ではない.このため眼位の制御力を明らかにするため,CTheNewcastleControlScore(NCS)などの指標が開発されている(表1).NCSでは,親の主観的な評価(homecontrol)と客観的な評価(cliniccontrol)を組み合わせて,外斜視の整容面での重症度の評価9)だけでなく,経過観察や術後の評価にも有用である10).894あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022(40)図2両眼視機能検査Stereo.ytest(Ca),Bagolini線状レンズ試験(Cb).表1NewcastleControlScore家族による観察0:外斜視/片眼つむりまったくしない1:外斜視/片眼つむり(遠見)50%未満2:外斜視/片眼つむり(遠見)50%を超える3:斜視/片眼つむり(遠見,近見)50%を超える診察室での観察(近見)0:遮閉で顕性瞬きなしで戻る1:遮閉で顕性瞬きで戻る2:遮閉で顕性戻らない3:自然に顕性診察室での観察(遠見)0:遮閉で顕性瞬きなしで戻る1:遮閉で顕性瞬きで戻る2:遮閉で顕性戻らない3:自然に顕性(著者翻訳)2.非観血的治療a.プリズム眼鏡療法外斜視では,プリズム眼鏡の装用によって輻湊努力の必要がなくなり,眼位が本来の位置に戻るようになる.それによって,近見あるいは遠見において快適な両眼視を得ることで,外斜視に伴う複視,眼精疲労,ぼやけなどを解消する.10CΔ以下の小角度の斜視に対しては組み込みのプリズム眼鏡を処方し,大角度の斜視に対してはCFresnel膜プリズムを処方する.Fresnel膜プリズムは,Fresnelレンズの原理を応用してレンズの厚さを薄くした膜プリズムでC40CΔまであり,大角度の外斜視にも対応でき,レンズに貼って使うため,斜視角の変化によって膜プリズムを取り替えることが容易である.一方,膜プリズムはのこぎり状の断面をもち,それがスジ状になっており,プリズム度数が上がるとより細かいスジとなるため,視力低下や色収差が出て外見上目立つようになる.また,コントラスト感度もプリズム度数の増加に従って低下するため,通常C30CΔ程度が限界となる.Cb.屈折異常に対する眼鏡処方近視,乱視,不同視は外斜視の悪化と関連する要因であり13),それらが原因で遠見でのぼやけが生じ融像性輻湊が起きにくくなると考えられる.そのため,適切な度数の眼鏡処方によって両眼視機能を安定させると斜視が顕在化しにくくなる.また,弱視の場合は,感覚性外斜視への進行を防ぐため,眼鏡処方に加え,弱視治療も行う必要がある.このように屈折異常を矯正することで,斜視になる頻度を減らし,眼位をコントロールすることができると考えられるが注意が必要である.近視の患者に対する完全矯正は,積極的な調節性輻湊を促進するが,遠視では,少量の遠視でも矯正すると調節性輻湊が低下し,外斜位が悪化することがあるので,患者の年齢,遠視の程度などを考慮する必要がある.Cc.マイナスレンズ療法日本ではあまり普及していないが,海外では用いられている.マイナスレンズによる過矯正負荷によって遠視化させ,調節性輻湊を誘発し,斜視角の減少や斜視の顕在化の頻度を低下させ,手術時期を遅らせることができるとされている14).マイナスレンズを用いたC5年間の追跡調査を行った前向き試験では,21人の患者のうちC52%がマイナスレンズのみで成功または良好な結果を得ていることが示されている15).しかし,自然経過と比較したランダム化比較試験はなく,過矯正の眼鏡の長期装用による装用感や調節への影響,眼精疲労などは十分に検討されていない.Cd.成人の間欠性外斜視に対する眼鏡処方成人の間欠性外斜視では,デスクワークでのパソコン作業,勉強やタブレット,スマホ視聴などの近業作業で,複視や眼精疲労,近見時のぼやけなどの症状を訴えることが多い11).また,間欠性外斜視では近見作業時の調節幅が同年齢の正常者に比べ低下しており7),近業作業を続けると疲労やぼやけが生じやすいと考えられる.一方,輻湊不全や老視による近見障害が原因の場合もある.成人の間欠性外斜視に対する眼鏡処方に際しては,屈折検査や眼位検査だけでなく,立体視力や調節力,輻湊検査などを行い,輻湊不全や近見視力障害を考慮し,処方の際に眼位矯正のためのプリズム眼鏡に加えて,中距離や近距離での視力矯正を加えた眼鏡処方が必要である.CV間欠性外斜視の手術1.手術適応間欠性外斜視の手術適応に関しては,さまざまな意見があり,明確に定義された適応条件はまだ確立していない.一般的には,斜視角の増加,斜視の頻度の増加,立体視力の低下などの外斜視の重症度と,複視,眼精疲労,整容面などが考慮される.また,術前の斜視角の定量は,内斜視と同様にプリズム順応検査(prismadapta-tiontest:PAT)を用いるほうがより精度の高い定量を行うことができる16).PATはプリズムを装用し,30分.1時間後に残余斜視角の測定と複視の有無の確認やBagolini線状レンズ試験を組み合わせて網膜対応を評価する.C2.斜視手術術式間欠性外斜視の斜視手術法として,外直筋の減弱術で896あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022(42)後転筋の減弱外直筋後転術短縮筋の強化内直筋前転術図3間欠性外斜視の手術表2間欠性外斜視の診療マネージメント初診時要治療治療方針治療内容無経過観察有非観血的治療観血的治療眼鏡装用斜視手術プリズム眼鏡屈折矯正眼鏡マイナスレンズ眼鏡両眼/片外直筋後転術/片外直筋後転-内直筋前転術両眼/片内直筋前転術とするリスクが高い23)ため,それらの患者では術後の定期的な観察が必要である.おわりに間欠性外斜視の診療マネージメントについて,病態,検査,治療介入の適応,観血的・非観血的治療法に関して述べた.これらについては依然として論争の的となっている24).間欠性外斜視で,整容上問題はなく,立体視力が保たれており,複視や眼精疲労などがない場合は,斜視手術は必要なく,そのような患者では,長期間経過しても斜視角の増大や立体視力の低下などの悪化はほとんどない.一方,斜視手術の成功率にはばらつきがあり,おおむねC70%前後であるため,手術の適応については患者の外斜視の状態を十分評価し,眼鏡装用などの非観血治療も含めて慎重に判断する必要がある(表2).文献1)JungJW,LeeSY:Acomparisonoftheclinicalcharacter-isticsCofCintermittentCexotropiaCinCchildrenCandCadults.CKoreanJOphthalmol24:96-100,C20102)ChiaCA,CRoyCL,CSeenyenL:ComitantChorizontalCstrabis-mus:anCAsianCperspective.CBrCJCOphthalmolC91:1337-1340,C20073)JenkinsR:Demographics:geographicCvariationsCinCtheCprevalenceandmanagementofexotropia.AmOrthopticJC41:82-87,C19924)MohneyCBG,CHu.akerRK:CommonCformsCofCchildhoodCexotropia.Ophthalmology110:2093-2096,C20035)SmithCK,CKabanCTJ,COrtonR:IncidenceCofCamblyopiaCinCintermittentexotropia.AmOrthopticJC45:90-96,C19956)ShimojyoCH,CKitaguchiCY,CAsonumaCSCetal:Age-relatedCchangesCofCphoriaCmyopiaCinCpatientsCwithCintermittentCexotropia.JpnJOphthalmolC53:12-17,C20097)MorimotoT,KandaH,HirotaMetal:Insu.cientaccom-modationCduringCbinocularCnearCviewingCinCeyesCwithCintermittentexotropia.JpnJOphthalmolC64:77-85,C20208)KushnerBJ:TheCdistanceCangleCtoCtargetCinCsurgeryCforCintermittentCexotropia.CArchCOphthalmolC116:189-194,C19989)HaggertyH,RichardsonS,HrisosSetal:TheNewcastlecontrolscore:aCnewCmethodCofCgradingCtheCseverityCofCintermittentCexotropia.CBrCJCOphthalmolC88:233-235,C200410)WattsCP,CTippingsCE,CAl-MadfaiH:IntermittentCexotro-898あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022pia,CovercorrectingCminusClenses,CandCtheCNewcastleCscor-ingsystem.JAAPOSC9:460-464,C200511)PediatricCEyeCDiseaseInvestigatorCGroup;WritingCCom-mittee:Three-yearobservationofchildren3to10yearsofagewithuntreatedintermittentexotropia.Ophthalmol-ogy126:1249-1260,C201912)RomanchukCKG,CDotchinCSA,CZurevinskyJ:TheCnaturalChistoryCofCsurgicallyCuntreatedCintermittentCexotropia-lookingCintoCtheCdistantCfuture.CJCAAPOSC10:225-231,C200613)TangCSM,CChanCRY,CBinCLinCSCetal:RefractiveCerrorsCandCconcomitantstrabismus:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.SciRepC6:35177,C201614)RoweCFJ,CNoonanCCP,CFreemanCGCetal:InterventionCforCintermittentdistanceexotropiawithovercorrectingminuslenses.Eye23:320-325,C200915)RoweCFJ,CNoonanCCP,CFreemanCGCetal:InterventionCforCintermittentdistanceexotropiawithovercorrectingminuslenses.Eye23:320-325,C200916)DadeyaCS,CKamlesh,CNaniwalS:UsefulnessCofCtheCpreop-erativeprismadaptationtestinpatientswithintermittentexotropia.CJPediatrCOphthalmolCStrabismusC40:85-89,C200317)WangL,WuQ,KongXetal:Comparisonofbilaterallat-eralrectusrecessionandunilateralrecessionresectionforbasicCtypeCintermittentCexotropiaCinCchildren.CBrCJCOph-thalmolC97:870-873,C201318)ChoiCJ,CChangCJW,CKimCSCetal:TheClong-termCsurvivalCanalysisCofCbilateralClateralCrectusCrecessionCversusCunilat-eralCrecession-resectionCforCintermittentCexotropia.CAmJOphthalmolC153:343-351,C201219)KimCDH,CYangCHK,CHwangJM:LongCtermCsurgicalCout-comesofunilateralrecession-resectionversusbilaterallat-eralCrectusCrecessionCinCbasic-typeCintermittentCexotropiaCinchildren.SciRepC11:19383,C202120)MaruoT,KubotaN,SakaueTetal:Intermittentexotro-piaCsurgeryCinchildren:longCtermCoutcomeCregardingCchangesinbinocularalignment.astudyof666cases.Bin-oculVisStrabismusQC16:265-270,C200121)ChiaCA,CSeenyenCL,CLongQB:SurgicalCexperiencesCwithCtwo-musclesurgeryforthetreatmentofintermittentexo-tropia.JAAPOSC10:206-211,C200622)JeoungCJW,CLeeCMJ,CHwangJM:BilateralClateralCrectusCrecessionCversusCunilateralCrecess-resectCprocedureCforCexotropiaCwithCaCdominantCeye.CAmCJCOphthalmolC141:C683-688,C200623)PinelesSL,Ela-DalmanN,ZvanskyAGetal:Long-termresultsCofCtheCsurgicalmanagementCofCintermittentCexotro-pia.CJAAPOSC14:298-304,C201024)LavrichJB:Intermittentexotropia:continuedCcontrover-siesCandCcurrentCmanagement.CCurrCOpinCOphthalmolC26:375-381,C2015(44)

乳児内斜視

2022年7月31日 日曜日

乳児内斜視InfantileEsotropia横山吉美*はじめに乳児内斜視は生後C6カ月未満に発症する大角度の内斜視のうち,頭蓋内疾患を伴わないものとされている.その特徴を表1に示す1).生後早期から内斜視が生じるために,両眼視機能の発達が障害されることが大きな問題である.また,交代固視ができず常にどちらかの眼が内斜視になっている状態では視力の発達も障害される可能性がある(斜視弱視).両眼視機能の発達に必要な条件は表2に示すとおりであり,視力に左右差が生じている場合も両眼視機能の発達は障害される2).ではなぜ両眼視機能の発達が重要であるのか.両眼視がなくても視力が良好であれば日常生活は大きな支障なく過ごせるであろう.しかし,両眼視機能があると将来の職業選択の幅が広がる.たとえばパイロット,鉄道運転手,大型自動車運転手など各種運転手の資格取得には両眼視機能が必要である.また,顕微鏡を使用する職業,たとえば眼科医もそうであるが,両眼視機能がないと不利になる職業もある.興味深い文献として,模擬眼での白内障手術手技において,立体視がよいほど手術手技が上手であった表1乳児内斜視の特徴・生後C6カ月未満の発症・大きな斜視角(40プリズム以上)・斜視角の変動が少ない・屈折異常はあっても軽度(+3D以下)・中枢神経系の異常がないという報告がある3).とくに球技などのスポーツは両眼視機能があったほうが有利である.子どものよりよい成長をめざす,これはどの親も願うことであろう.また,その可能性があるのであれば情報提供し,治療の提案をすることも医師の責務であると考える.CIなぜ早期治療が必要かここで注意すべき点は,両眼視機能の発達が生後早い段階で終了するということである.視力の発達はおおむねC8~10歳で終了するのに対し,両眼視機能のうちもっとも高度な能力である立体視は生後C3~4カ月から発達しはじめ,2歳までに正常成人のC80%のレベルに達し,5歳には発達が終了するといわれている4).よって,この間に斜視が生じると,両眼視機能が十分に発達しない可能性がある.では乳児内斜視において,2歳までに眼位を矯正すれば良好な両眼視機能の発達が得られるかというとそうではない.眼位未矯正期間がC4カ月を超えると,その後治療を行っても両眼視機能の発達は不良とされている.乳児内斜視は固視ができるようになる生後表2立体視の発達のための条件・視力の大きな左右差がないこと・不等像視がないこと・顕性の斜視がないこと・正常網膜対応があること・後頭葉視覚中枢に両眼視細胞があること*YoshimiYokoyama:JCHO中京病院眼科〔別刷請求先〕横山吉美:〒457-8510名古屋市南区三条C1-1-10JCHO中京病院眼科C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(33)C887立体視(秒)手術時年齢(月齢)図1手術時期と術後立体視の関係手術時期が早いほど,術後に得られる立体視が良好となる.表3乳児内斜視の鑑別疾患・偽内斜視・早期発症の調節性内斜視・感覚性斜視①片眼性の先天白内障②網膜硝子体疾患(第一次硝子体過形成遺残,家族性滲出性硝子体網膜症など)③視神経疾患(朝顔症候群,視神経低形成,視神経乳頭コロボーマなど)図3乳児内斜視右眼の内斜視.右眼の角膜反射は瞳孔中心より耳側にあり,左右差が明らかである.表4乳児内斜視の治療の流れ・器質的疾患の除外・調節麻痺点眼(原則アトロピン硫酸塩点眼)を用いた屈折検査・1.50D以上の遠視や乱視は完全矯正・固視交代ができない場合は,優位眼の遮閉を開始・眼鏡常用でも眼位の変動がないことを確認・手術までに最低C3回は斜視角を測定する・斜視角測定は原則交代プリズム遮閉試験にて行う・術後も調節麻痺点眼を用いた定期的な屈折検査-