学校教育とデジタルデバイスの使用UseDigitalDevicesDuringEducation吉田朋世*はじめに2019年末,文部科学省(文科省)は小・中・高等教育における情報活用能力のさらなる育成に向けて,「GIGA(globalandinnovationgatewayforall)スクール構想」を発足させた.さらに,2020年春より急速に拡大した新型コロナウイルス感染症に後押しをされ,2021年4月までに全国の小中学校で1人1台のデジタル機器が配布され,日常的に使用できる環境となった.本稿では,学校教育における情報教育の過去と現在,デジタル教科書の利点について解説し,それによって起こりうる子どもたちへの眼科的な弊害,またデジタル機器を使用するうえで指導すべき点について解説する.I学校教育における情報活用能力の育成わが国における情報教育の歴史は,1970年代前半に高等教育の専門教育において情報処理教育が行われたことに始まり,1989年の学習指導要領に「情報活用能力」を学校教育で育成することの重要性が示され,中学校の技術・家庭科において「情報基礎」科目や,各教科で情報に関する内容が取り入れられることとなった.1998年には小・中・高等学校段階を通じて,各教科でコンピューターや情報通信ネットワークの積極的な活用を行い,中・高等学校で情報に関する教科・内容を必修とし,情報教育の充実化を図った.2006年にはコンピューター教室1人1台の整備,教育用コンピューター1台あたり児童生徒3.6人の割合を達成,すべての教室をインターネットに接続など,2010年までにICT(informa-tionandcommunicationtechnology)環境を整備し活用するために達成すべき目標が明示されたが,結局これらの環境整備の遅れは解消されず,2018年の調査において,教育用コンピューター1台あたりの児童生徒数5.4人/台,普通教室の無線LAN(localareanetwork)整備率41.0%となっており1),学校におけるICT活用率が経済協力開発機構(OrganizationforEconomicCoopera-tionandDevelopment:OECD)の国のなかで最下位である2)という結果につながった.このことから,2019年12月,文科省は各学校に標準的に1人1台端末および高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するとともに,ICTを活用した学習活動を充実させるためGIGAスクール構想を立ち上げた3).小児に対する情報活用能力の育成のため,ICTの基本的な操作・情報の収集や発信,プログラミング授業の必修化,情報モラルの教育などを盛り込んだのである.実際の活用法としては,2011年に文科省が行った「学びのイノベーション事業」の調査に基づき,教員による教材の拡大提示や,音声・動画などの活用,また個別学習では一人ひとりの習熟の程度に応じた学習や,インターネットを用いた情報収集,情報端末の持ち帰りによる家庭学習などを主体に行われている4)(図1)5).*TomoyoYoshida:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕吉田朋世:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(63)495図1学校におけるICT機器を活用した学習場面(文献C5より引用)使用が急性後天内斜視につながる可能性もある.筆者らが過去に斜視患者に対しデジタルデバイスの使用状況について行ったアンケート調査によると,より低年齢の患者においてC1日平均使用時間が長くなくても斜視悪化を自覚した例が多く,低学年のデジタルデバイスの使用にはより注意を払うべきであると考えられる12).そのほか,ドライアイ,眼精疲労などのコンピューター視覚症候群も増加すると考えられる.Seresikrika-chornらがバンコクで行ったアンケート調査によると,15歳以下の子どもで,1日C6時間以上のデジタルデバイスの使用や,オンライン授業をC1日C5時間以上受けること,複数のデジタルデバイスを使用することなどが,コンピューター視覚症候群のハイリスクになると述べている13).CIIIデジタルデバイスを教育に用いる場合の留意点眼の健康を損なわないようにするためには,どのような使い方を指導すべきか.文科省は,2014年に策定した「児童生徒の健康に留意してCICTを活用するためのガイドブック」14),2018年に公開した「学習用デジタル教科書の効果的な活用の在り方などに関するガイドライン」15)のなかで,健康に関する留意点について記載している(図2)14).また,教育現場における急速なデジタルデバイスの配置を受けて,2021年C4月には日本眼科医会が眼の健康啓発漫画「ギガっこデジたん!」のポスターやリーフレットを作成し,教育現場に啓発を行っている16).以下に,記載されている改善策について説明する.C1.教室の明るさ暗いところ,あるいは極端に明るいところでデジタルデバイスを見ると眼精疲労が生じるため,教室内の明るさを一定に保つように工夫する必要がある.たとえば,教室の窓から入る光によって電子黒板に映り込みが生じ見えにくくなるため,遮閉カーテンを設置したり,晴天時にはカーテンを閉めたりするなどの工夫が必要である.また,教室の照明が電子黒板やタブレットパソコンに映り込むこともあり,反射防止用の専用フィルターを画面に取りつけることも対策となる.C2.電子黒板電子黒板自体も,窓に背を向けるように角度をつけ,位置を調整して反射せず見やすいように机・椅子なども移動する.教室の最後部に座る生徒にも見やすいよう拡大機能を利用するなどし,また最前列に座る生徒が見やすいよう机の距離をある程度離して設置する.C3.タブレットPCの使用児童生徒の姿勢が悪かったり,机と椅子が生徒の体格に合っていなかったりすると,画面が見えにくくなるため,適切な机と椅子を使い生徒が正しい姿勢で視聴できるように指導する.お尻を後ろにして深く腰掛け,背中を伸ばし,画面の角度を傾けて目線が画面に直行する角度に近づける,眼とコンピューターの距離はC30Ccm以上離して視聴するなどの指導が必要である(図3)16).一方で長時間同じ姿勢を続けると疲れてしまうので,授業の中で少し身体を動かして,眼や身体の疲労を軽減させることも重要である.C4.スクリーンタイム「児童生徒の健康に留意してCICTを活用するためのガイドブック」では,大人を対象とした「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」15)を引き合いに出し,連続作業時間がC1時間を超えないようにし,超える場合には休止時間を設けるという目安が示されていることを説明したうえで,授業中にデジタルデバイスを用いる場合,機器を用いない活動時間が含まれるため,実際には長時間の視聴は行われていないとしている.「ギガっこデジたん!」では,30分にC1回はC20秒以上遠く(少なくともC2Cm以上,可能であればC6Cm以上)を見て眼を休めること,眼が乾かないように瞬きをすること,就寝C1時間前からは画面を見ないように指導する内容となっている(図4)16).C5.屋外活動長時間同じ姿勢をとりやすいタブレットCPCの使用による起こる眼精疲労や頭痛,肩こりなどの軽減のほか,(65)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C497図2学習環境の充実を図るための留意点(文献C14より引用)図3タブレットPCを使うときのポイント(文献C14より引用)図4「ギガっこデジたん!」の啓発ポスター(文献C16より引用)表1デジタル教科書のおもな活用方法教科書の紙面を拡大して表示する教科書の紙面にペンやマーカーで書き込むことを簡単に繰り返す教科書の紙面に書き込んだ内容を保存・表示する教科書の紙面を機械音声で読み上げる教科書の紙面の背景色・文字色を変更・反転する教科書の感じにルビを振る音声を教科書の本文に同期させつつ使用する教科書の文章や図表を抜き出して活用するツールを使用する教科書の紙面に関連づけて動画・アニメーションなどを使用する教科書の紙面に関連づけてドリル・ワークシートなどを使用する大型提示装置や教師のコンピューターに児童生徒の教科書の画面を表示するネットワーク環境を利用して,児童生徒が行った書き込みの内容や関連して検索した情報などを教師や児童生徒間,さらには学校・家庭間で共有する(文献C15より改変引用)-