眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋木澤純也446.創口熱傷岩手医科大学眼科創口熱傷は最新の手術機械ではまれであるが,眼粘弾性物質が超音波チップやハンドピース内に詰まると合併することがある.●はじめに超音波チップ(以下,チップ)は発振すると発熱し,連続発振を続けると高温となったチップの熱により創口部分の蛋白質が熱変性し創口熱傷を合併し,強い角膜不正乱視により,視力が不良となりうる.高頻回パルスモードが使用され,さらにチップの回転や楕円振動の破砕方法では,創口熱傷は硬い核でも非常に少なくなった.しかし,眼粘弾性物質(ophthalmicviscosurgicaldevice:OVD)がチップやハンドピース内で詰まり,創口熱傷を生じることがある.症例報告も含めて創口熱傷について解説する.●創口熱傷とは白内障手術で用いる超音波振動は発熱するため,その熱がチップを経由し創口熱傷を合併することがある.熱による眼組織への影響については,角膜コラーゲンの変性は温度が約39°で生じ,温度が約60°に達すると角膜コラーゲン線維の拘縮を生じて創口熱傷となる.米国とカナダの多施設臨床研究の結果では,創口熱傷の頻度は920,095件の白内障手術の341件(0.037%)であり,縦振動発振よりも楕円振動発振が有意に創口熱傷は少なかったと報告している.また,鈴木は豚眼を用いて,縦振動よりも首振り回転振動や楕円振動では,チップ先端部分の温度上昇が有意に少ないと報告しているので,高頻回パルスモードとこれらの超音波発振を組み合わせることで,現在の白内障手術では創口熱傷は非常に少なくなっている.しかし,超音波発振モードとOVDの違いによるチップの発熱について,吉沢らは凝集型OVD(ヒーロン,AMO社)と,viscoadaptive型OVD(ヒーロンV,AMO社)で豚眼の前房内を全置換し,WHITESTARSIGNATURE(AMO社)を用いて,それぞれのOVDに対して連続発振モードと高速パルスモードで10秒間,超音波発振した際の創口部の温度変化を計測し報告している.ヒーロン群では連続発振で有意に創口部温度上昇(55)を認めたが,創口熱傷を認めなかった.ヒーロンV群では連続発振とパルスモードとも有意な温度上昇を認め,連続発振では5秒で創口温度は約50°,10秒で約60°に温度上昇し創口熱傷が生じたが,パルスモードでは発生しなかったので,パルスモードは熱傷抑制に有効であると報告している.しかし,ヒーロンV群では実験中に前房内灌流が認められず,実験終了後にチップ内に粘弾性物質の閉塞が生じていたので,OVDによる閉塞が創口温度上昇の原因になっていると報告している.筆者らはviscoadaptive型OVDと同様に眼内での滞留性が高いviscousdispersive型OVDを使用した症例において創口熱傷を経験したので,症例報告する.●症例報告症例:78歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:右眼の網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫があり,抗VEGF療法を繰り返したが黄斑部は萎縮した.右眼硝子体出血を生じ,手術加療目的に当科紹介となった.視力は右眼手動弁(n.c.),左眼1.0(n.c.),眼圧は両眼14mmHgであった.眼科所見は右眼に皮質白内障を認め,眼底は透見不能であった.左眼は皮質白内障以外に特記事項なし.既往歴:前立腺肥大症と高血圧症の内服加療中.家族歴:特記事項なし.治療方針:右眼の硝子体出血に対して白内障手術と顕微鏡下硝子体茎離断術を行う方針となった.手術時所見:右眼の散瞳径は約5mm,OVDはディスコビスク(日本アルコン)を適量使用して前.円形連続切開を行い,hydrodissectionを行った.その際に角膜切開から虹彩脱出し,術中虹彩緊張低下症を合併した.陥頓した虹彩を前房内に戻す際に,ディスコビスクを前房内へ過剰に注入した.低設定の連続発振モード設定でチップを挿入し水晶体の溝堀を開始したが,乳化された水晶体は吸引されず,チップ先端付近は乳化した水晶体により白濁していた(図1).乳化した水晶体を吸引あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024550910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1超音波作動直後の手術所見図2超音波作動5秒後の手術チップ先端部に乳化された水晶体所見(…)を認め,前房内の灌流はみら熱変性により切開創の蛋白凝固れない.(…)を生じている.するため超音波連続発振したままで吸引を続けたが,超音波発振から約5秒(図2)で切開創の熱による蛋白凝固が始まり,超音波作動約10秒(図3)で切開創は創口熱傷を合併し創口周囲にも拡大した.超音波作動を約20秒間続け,術者が切開創の異常に気づき,チップを抜いたが切開創の自己閉鎖は得られなかった.創口は10-0ナイロン糸で縫合を行い,創口閉鎖を確認し新たな切開創を作製し(図4),水晶体摘出と眼内レンズ挿入を施行し,硝子体手術を施行した.術翌日は前房内炎症は軽度であり,創口熱傷の切開創からの漏れはなかったが,術後の惹起乱視が11Dとなった.右眼の視力は30cm指数弁(n.c.),眼圧20mmHg,眼底は黄斑部に萎縮を認めた.術後1カ月の右眼視力は30cm指数弁(n.c.),眼圧は17mmHg,角膜乱視は11Dと不変だったが,自覚症状は改善したので,逆紹介となった.●本症例での創口熱傷発症の考察本症例で創口熱傷を生じた理由としては,OVDを前房内に過剰に注入し,灌流液の循環を確認せず,超音波の連続発振を続けたことが原因と考えられる.眼内の滞留性が高いOVDを前房に過剰に注入すると,チップ内にOVDが逆流する.さらに前房内はOVDで充.された状況のままでは,灌流液が前房内を循環しないため,チップ温度は急上昇する.連続発振を続けるほど温度は図3超音波作動10秒後の手術図4切開創縫合後の手術所見所見熱変性による蛋白凝固により切新たな切開創をスリット開創は完全変性し,周囲まで蛋ナイフで作製した.白凝固は拡大している(…).上昇し続け,創口熱傷を合併したと考えられる.●本症例で反省すべきこと眼内滞留性の高いOVDが前房内を過剰に注入している場合は,水晶体上のOVDを少し吸引除去したのち,灌流液が前房内を循環していることを虹彩の動態,水晶体の沈下などにより確認してから超音波作動させることで,創口熱傷は防ぐことができると考える.また,チップ内が閉塞した際は,必ず手術機械が警告音を鳴らす.通常では水晶体の溝堀の際はチップは閉塞させないように操作するので,警告音が鳴らないはずである.しかし,溝堀時に警告音が3秒以上続いた際には,チップ内のOVDや水晶体核による閉塞を疑い,チップを眼外へ出し,吸引口から眼内潅流液をフラッシュし,チップ内部の詰まりを解除するべきと考える.また,破砕吸引モードにおいても,警告音が5秒以上継続し,前房内の灌流動態が悪く,破砕吸引効率が低下している場合はチップ閉塞を疑うべきであると考える.●おわりに眼内滞留性の高いOVDを用いて連続発振で溝堀を行っている場合は,創口熱傷を合併する可能性があるので,灌流動態を確認し,警告音に注意して行う必要があると考える.