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ブリモニジン酒石酸塩0.1%点眼液 使用成績調査のまとめ

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1139.1147,2022cブリモニジン酒石酸塩0.1%点眼液使用成績調査のまとめ川口えり子*1坂本祐一郎*1末信敏秀*1新家眞*2*1千寿製薬株式会社*2神奈川歯科大学附属横浜クリニックPost-MarketingStudyof0.1%BrimonidineTartrateOphthalmicSolutionErikoKawaguchi1),YuichiroSakamoto1),ToshihideSuenobu1)andMakotoAraie2)1)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd,2)KanagawaDentalUniversityYokohamaClinicCブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液C0.1%)の安全性および有効性を検討するため,承認後の使用成績調査にて,最長C24カ月にわたりプロスペクティブな観察を行った.副作用発現率はC15.43%(720/4,666例)であり,おもな副作用はアレルギー性結膜炎をはじめとする眼局所の事象であった.眼圧評価対象C2,625例における投与開始時の平均眼圧はC16.5C±4.7CmmHgであった.投与開始C3カ月.24カ月までの平均眼庄下降率はC13.5.15.2%であり,いずれの観察時点においても有意な眼圧下降が認められた(p<0.0001).また,病型,併用薬剤,切替薬剤にかかわらず,投与開始以降有意な眼圧下降を示した.ブリモニジン酒石酸塩点眼液の安全性および有効性に問題は認められず,有用であると考えられた.CPurpose:Toevaluatethesafetyande.cacyofbrimonidinetartrateophthalmicsolution(AIPHAGANCRCOph-thalmicSolution0.1%)forthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethods:Inthisprospective,observational(uptoC24months)post-marketingCstudyCconductedCinCJapan,CaCtotalCofC4,666CglaucomaCpatientsCwereCincluded.CResults:OfCtheC4,666Cpatients,CtheCincidenceCrateCofCadverseCdrugreactions(ADRs)was15.43%(n=720patients),themainADRswereoculartopicaleventssuchasallergicconjunctivitis.Themeanintraocularpressure(IOP)inthe2,625patientswhowereincludedinanalysesofthechangesofIOPwas16.5±4.7CmmHgatbaseline.InCaddition,CAIPHAGANRCOphthalmicCSolution0.1%Csigni.cantlyCreducedCIOPCatCallCobservationalpoints(p<0.0001)C,andtheaveragerateofIOPreductionfrom3-to24-monthspoststartofadministrationrangedfrom13.5%to15.2%.Moreover,thelevelofIOPreductionwasnotin.uencedbyglaucomatype,concomitantdisorder,ordrugusedbeforeswitching.Conclusion:Our.ndingssuggestthatAIPHAGANCROphthalmicSolution0.1%issafeande.ectiveforthetreatmentofglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1139.1147,C2022〕Keywords:ブリモニジン,アイファガン点眼液C0.1%,安全性,有効性,眼圧.brimonidine,AIPHAGANoph-thalmicsolution0.1%,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障は,わが国の失明原因の第C1位1)であり,緑内障診療ガイドライン2)では,「視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と定義されている.治療方法には薬剤治療,レーザー治療,手術治療などがあるが,通常,緑内障治療薬の単剤投与より開始され,さらなる眼圧下降を求めて作用機序の異なる緑内障治療薬との併用や他の治療が実施される.ブリモニジン酒石酸塩はアドレナリンCa2受容体に選択的に作用し,房水産生の抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進により眼圧を下降させると考えられており3),わが国においては,2012年C1月にC0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン点眼液C0.1%)として承認された.本剤は,それまでの緑内障治療薬とは異なる作用機序を有していたため,製造販売後においてはプロスタグランジン関連薬をはじめとする種々の緑内障治療薬と組み合わせて使用されることが想定された.また,緑内障以外の既往症や併用薬などのため,臨床試験では除外対象となっていた患者にも,承認後は広く投与される.このような上市後の使用実態に即〔別刷請求先〕川口えり子:〒541-0048大阪市中央区瓦町C3-1-9千寿製薬株式会社信頼性保証本部医薬情報企画部Reprintrequests:ErikoKawaguchi,MedicalInformationPlanningDepartment,Safety&QualityManagementDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-1-9Kawara-machi,Chuo-ku,Osaka541-0048,JAPANCして本剤の有効性および安全性を検証することを目的として使用成績調査を実施した.CI調査の方法と成績1.調査方法「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(厚生労働省令第C17l号)に則り,中央登録方式によるプロスペクティブな観察研究を実施した(2012年C12月.2017年C12月).本剤の使用成績調査(以降,本調査)にかかる契約を締結した医療機関にて,目標症例数C3,000例として,2012年C12月.2015年C9月に初めて本剤投与を開始した緑内障または高眼圧症患者を登録対象とした.観察期間はC12カ月以上,最長C24カ月であり,調査項目は,患者背景(性別,年齢,合併症,既往歴,眼手術歴,前治療薬),併用薬,併用療法,眼科検査結果(投与開始前およびC3カ月ごとの眼圧,視野検査),有害事象とした.なお,本調査は介入を行わない観察研究であるため,本剤投与以前の緑内障治療内容,併用薬,併用療法,眼科検査機器や測定方法に制限は設けなかった.本調査は,独立行政法人医薬品医療機器総合機構による審査を経て実施した.C2.評価方法安全性については,本剤投与開始以降,少なくともC1回以上の観察が可能であった症例を対象として,副作用発現状況を評価した.また,本剤の特徴的な副作用である「アレルギー性結膜炎」については,「性別」「年齢」「アレルギー性疾患既往の有無」「角膜障害の有無」「結膜疾患の有無」「眼瞼疾患の有無」「他の緑内障治療薬の有無」「b遮断薬併用の有無」「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」および「併用薬剤数」を共変量として,強制投入法によるロジスティクス多変量解析を行い,アレルギー性結膜炎発現のリスクを検討した.有効性については,眼圧評価対象症例の投与前眼圧と投与24カ月までのC3カ月ごとの眼圧値を対応のあるCt検定で評価した(Bon.eroni補正).眼圧推移対象症例は,投与開始からC360日以上,緑内障治療内容を変更することなく,本剤を継続投与した症例とした.評価眼はC1例C1眼とし,両眼投与症例においては投与開始時点の眼圧が高い方の眼(同値である場合は右眼)とした.さらに,本剤投与期間中に同一の測定法(Humphrey視野計,中心C30-2プログラムのSITA-StandardまたはCSITA-Fast)にて,5回以上視野検査を実施した眼を対象として,測定法ごとにC1年当たりのCmeandeviation(MD)値の変化量をCLinearMixedModelで推定した.すべての解析について,有意水準は両側5%とした.C3.結果全国C481の医療機関にてC4,886例が登録され,安全性評価対象症例としてC4,666例,眼圧評価対象症例としてC2,625例を収集した(図1).安全性評価対象症例の患者背景は表1に示したとおりであり,平均年齢はC68.7歳,原発解放隅角緑内障がもっとも多かった.また,最終観察時点である投与24カ月まで投与継続された症例はC3,074例であったことから,本調査における投与継続率はC65.9%であった.一方,最終観察時点までに投与中止に至ったC1,592例の中止理由は,再診なしC678例,副作用C520例,効果不十分C182例,有害事象C82例,その他C130例であった.C4.安全性副作用発現率はC15.43%(720/4,666例)であった.このうち,重篤な副作用はC11例C12件(眼圧上昇C4件,視野障害の進行C2件,糖尿病網膜症の増悪,糖尿病,糖尿病性腎症の悪化,脳血栓症,右大腿骨骨折および左上腕骨骨折各C1件)が認められたが,本剤と明確な関連があると判定された事象はなかった.おもな副作用(発現率C0.1%以上)は表2に示したとおりであり,アレルギー性結膜炎C241例(5.17%)をはじめ,結膜充血C102例(2.19%),眼瞼炎C88例(1.89%),結膜炎C50例(1.07%),点状角膜炎C48例(1.03%)など,眼局所における事象が多く認められた.眼局所以外では,浮動性めまいC21例(0.45%)および傾眠C14例(0.30%)が主たる事象であった.なお,アレルギー性結膜炎,結膜充血,霧視,浮動性めまいなど,自覚的な事象では,副作用による中止率が高い傾向にあった(表2).ロジスティクス多変量解析は,安全性評価対象症例C4,666例のうち,共変量とした背景因子に「不明」を含むC251症例を除いたC4,415例を対象とした.背景因子ごとのアレルギー性結膜炎の発現状況については,「性別」「アレルギー性疾患既往の有無」「結膜疾患の有無」および「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」のC4因子で有意差が認められ,性別では「女性」,アレルギー性疾患既往の有無および結膜疾患の有無では「あり」のオッズ比が高かった.表には示していないが,結膜疾患の内訳としては,86.3%(909/1,053症例)において眼乾燥(Sjogren症候群を含む)あるいはアレルギー性結膜炎(季節性アレルギーおよび眼のアレルギーを含む)が認められ,それぞれの罹患症例におけるアレルギー性結膜炎の発現率は,眼乾燥でC6.77%(p=0.0400),アレルギー性結膜炎でC14.47%(p<0.0001)であり,非罹患症例に比して発現率が有意に高かった(Cc2検定).一方,「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」では,「あり」のオッズ比が,「なし」より低かった(表3).C5.有効性図2に示したとおり,眼圧評価症例C2,625例の投与前眼圧はC16.5mmHg,投与C3.24カ月までの眼圧はC13.5.13.9mmHgであり,観察期間を通して安定した眼圧下降が認められた(p<0.0001).眼圧変化量は.2.9.C.2.6CmmHg,眼図1症例構成全国C481の医療機関にて登録されたC4,886例のうち,本剤投与後C1回以上観察のあったC4,666例を安全性評価対象症例として,副作用発現状況を確認した.また,本剤投与開始後,緑内障治療内容を変更することなく,360日以上継続投与した2,625例を眼圧評価対象症例として,3カ月ごとの眼圧推移を確認した.表1患者背景項目分類症例数(n=4,666)性別男2,118(45.4%)女2,548(54.6%)年齢(歳)平均±標準偏差C68.7±13.0最小値.最大値7.97病型*1原発開放隅角緑内障2,017(43.2%)正常眼圧緑内障1,926(41.3%)原発閉塞隅角緑内障165(3.5%)続発緑内障277(5.9%)高眼圧症185(4.0%)その他95(2.0%)合併症(眼)あり2,502(53.6%)なし2,164(46.4%)合併症(眼部以外)あり1,431(30.7%)なし2,440(52.3%)不明795(17.0%)眼手術歴あり1,671(35.8%)なし2,958(63.4%)不明37(0.8%)併用薬あり4,123(88.4%)なし533(11.4%)不明10(0.2%)併用療法あり178(3.8%)なし4,454(95.5%)不明34(0.7%)*1:本剤投与開始時点で緑内障・高眼圧症に罹患していなかったC1例を除外した.(131)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1141表2おもな副作用および中止状況副作用*1*2発現症例数(発現率%)中止症例数*3(中止率%)眼部665(C14.25)C.アレルギー性結膜炎241(C5.17)209(C86.72)結膜充血102(C2.19)90(C88.24)眼瞼炎88(C1.89)65(C75.58)結膜炎50(C1.07)36(C72.00)点状角膜炎48(C1.03)18(C37.50)霧視26(C0.56)23(C88.46)眼の異常感24(C0.51)19(C79.17)眼圧上昇22(C0.47)5(C22.73)眼乾燥21(C0.45)4(C19.05)眼そう痒症18(C0.39)17(C94.44)眼痛12(C0.26)10(C83.33)アレルギー性眼瞼炎10(C0.21)9(C90.00)眼刺激9(C0.19)6(C66.67)眼の異物感9(C0.19)9(C100.00)結膜濾胞8(C0.17)8(C100.00)視野欠損8(C0.17)1(C12.50)角膜びらん7(C0.15)5(C71.43)眼瞼紅斑6(C0.13)5(C83.33)眼瞼浮腫6(C0.13)5(C83.33)虹彩炎5(C0.11)0(C0.00)(その他)46(C.)C.眼部以外63(C1.35)C.浮動性めまい21(C0.45)19(C90.48)傾眠14(C0.30)10(C71.43)(その他)44(C.)C.*1:副作用名はCICH国際医療用語集CMedDRA/JCVersion20.1のCPT(基本語)を用いて分類した.*2:発現率C0.1%以上の事象を対象とした.*3:中止症例に複数の副作用が発現していた場合,すべての副作用の中止例数として計数した.圧変化率は.15.2.C.13.5%であった.このうち,本剤を新規で単剤投与したC357例の投与前眼圧はC17.2CmmHg,投与3.24カ月の眼圧はC13.8.14.2CmmHg,眼圧変化量はC.3.3..3.1mmHg,眼圧変化率はC.17.2.C.16.1%であった.その他,病型別,併用薬剤別,切替薬剤別で眼圧推移を検討した結果,投与後のすべての時点で有意な眼圧低下が認められた(図3~6).1年当たりのCMD値の変化量について,評価眼はC194例194眼(SITA-Standard群:54眼,SITA-Fast群:140眼)であった.測定法ごとの推定変化量はCSITA-Standard群は0.19CdB(標準誤差C0.14,p=0.1829),SITA-Fast群はC.0.08CdB(標準誤差C0.11,p=0.4507)であり,両群ともに有意な変化は認められなかった.CII考察本調査で認められた副作用の多くは眼局所における非重篤C1142あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022な事象であった.ブリモニジン点眼投与時における代表的な事象である眼局所アレルギー反応の発現率は,既報においてはC9.25.7%である4.6).本調査においても,主たる眼局所事象はアレルギー反応であり,うちアレルギー性結膜炎の発現率はC5.17%であった.多変量解析によるアレルギー性結膜炎のリスク分析においては,結膜疾患あり,アレルギー性疾患既往あり,女性の集団におけるオッズ比が,1.805(p=0.0099),2.112(p=0.0087),1.810(p<0.0001)と有意に高かった.多変量解析対象症例で認められた主たる結膜疾患は,眼乾燥あるいはアレルギー性結膜炎であり,罹患症例における発現率が高かった.Manniら5)は,ブリモニジン点眼(0.2%)による眼局所アレルギー反応は,点眼薬に対するアレルギー既往を有する患者に多く認められ,また,眼局所アレルギー反応を示した患者では涙液量が有意に減少していたことを報告しており,類似した結果であったと考える.なお,女性のオッズ比が高かった要因としては,女性におけるアレルギー性疾患の既往あるいは結膜疾患の合併率が,それぞれ,60.7%あるいはC65.4%であり,男性における合併率(39.4%あるいはC34.6%)に比して高かったことに起因すると推察された.一方,緑内障治療薬以外の併用薬ありのオッズ比はC0.573(p=0.0427)であり,併用薬なしに比して有意に低かったが,おもな併用薬は人工涙液,角膜保護薬,ステロイド薬,抗アレルギー薬であった.このうち,ステロイド薬あるいは抗アレルギー薬の併用がアレルギー性結膜炎の発症あるいは増悪を抑制しうることは想像できるものの,他の併用薬による影響については,さらなる検討が必要と考える.このような併用薬による影響については,Cb遮断薬の点眼併用によるブリモニジン点眼起因の眼局所アレルギー反応の低減について言及されている7.9).そこで,多変量解析の変数としてCb遮断薬の点眼併用有無を組み入れたが,併用例におけるオッズ比はC1.114(p=0.5439)であり,低減傾向は認められなかった.これは,本調査が使用成績調査という性質上,併用薬に制限を設けておらず,本剤投与期間中に併用薬の変更が生じた症例が含まれるなど,既報と条件が異なるためと考えられた.一方,全身的な副作用としては,浮動性めまいC21例(0.45%)および傾眠C14例(0.30%)が代表的であったが,その発現率は,アドレナリンCa2受容体刺激作用を有する血圧降下剤(メチルドパ水和物錠,クロニジン塩酸塩錠,グアナベンズ酢酸塩錠)を上回るものではなかった3).以上のように,本調査においては,新たな安全性リスクを認めなかったが,最長C24カ月の観察期間においてC34.1%(1,592/4,666例)が本剤による治療から離脱しており,このうちC11.1%(520/4,666例)が副作用発現を理由として本剤投与を中止していた.Sherwoodら8)は,ブリモニジン点眼(0.2%)の12カ月観察における有害事象による投与中止率がC30.6%で(132)表3アレルギー性結膜炎の多変量解析結果背景因子オッズ比95%信頼区間p値男1C..性別女C1.810C1.348-2.430<0.0001*40歳未満C1C..年齢40歳以上C65歳未満C65歳以上C75歳未満C5.618C5.885C0.771-40.954C0.807-42.907C0.08860.080375歳以上C3.273C0.447-23.976C0.2432アレルギー性疾患既往*1なしCありC1C1.805C.1.153-2.826C.*0.0099角膜障害*2なしCありC1C1.121C.0.700-1.795C.0.6351結膜疾患*3なしCありC1C2.112C.1.208-3.690C.*0.0087眼瞼疾患*4なしCありC1C2.412C.0.957-6.081C.0.0619他の緑内障治療薬*5なしCありC1C0.599C.0.348-1.031C.0.0644Cb遮断薬の併用*5なしCありC1C1.114C.0.786-1.580C.0.5439緑内障治療薬以外の併用薬*5なしCありC1C0.573C.0.335-0.982C.*0.0427なしC1C..1剤C1.424C0.745-2.722C0.2847併用薬剤数*52剤C3剤C1.352C0.651C0.629-2.907C0.250-1.694C0.43960.37934剤以上C0.896C0.322-2.498C0.8340*1:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している,または既往のある症例.アレルギー性結膜炎,アレルギー性眼瞼炎,アトピー性白内障,季節性アレルギー,アトピー性皮膚炎,アレルギー性皮膚炎,接触皮膚炎,アレルギー性鼻炎,薬疹,喘息.*2:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.角膜炎,角膜障害,眼乾燥,眼球乾燥症,Sjogren症候群,点状角膜炎,角膜びらん,潰瘍性角膜炎,真菌性角膜炎,角膜症,角膜浮腫,角膜白斑,角膜混濁,眼部単純ヘルペス,角膜血管新生,円錐角膜,角膜変性,角膜ジストロフィー,角膜瘢痕,ヘルペス眼感染.*3:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.眼乾燥,Sjogren症候群,眼球乾燥症,アレルギー性結膜炎,季節性アレルギー,眼のアレルギー,結膜炎,結膜充血,細菌性結膜炎,眼充血,結膜弛緩症.*4:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.アレルギー性眼瞼炎,眼瞼炎,眼瞼湿疹,マイボーム腺機能不全,眼瞼内反,眼瞼けいれん,眼瞼皮膚弛緩症,瞼板腺炎,霰粒腫,麦粒腫.*5:アレルギー性結膜炎発現症例では,当該事象発現までに眼部に使用した薬剤(発現時点で投与を中止していた薬剤を含む),未発現症例では,本剤投与期間中に眼部に使用したすべての薬剤を対象とした.あったと報告しており,本調査における投与中止率は既報をた,投与開始C3カ月後までの眼圧下降率は,全症例でC14.6上回るものではなかった.しかし,緑内障治療は永続を前提%,原発開放隅角緑内障でC15.9%,正常眼圧緑内障でC12.0とすることに鑑みると,本剤による治療中止後の治療選択肢%であり,いずれも統計学的に有意であった.緑内障治療のを用意しておくことも肝要であると考えられた.目的は,患者の視覚の維持,それに伴う生活の質の維持であ有効性について,2,625例における投与開始から投与C24り,現在,エビデンスの伴う唯一確実な治療法は眼圧下降でカ月までの眼圧推移の検討においては,病型,併用薬剤,切ある2).すなわち,視野障害に対する眼圧下降効果について替薬剤など,いずれの因子の影響も認められなかった.まは,1CmmHgの眼圧下降によりC10%視野障害の進行が抑制25全体(n=2,625)新規単剤投与(n=357)20(*有意差あり)眼圧(mmHg)15100投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧眼圧変化量t検定変化率眼圧変化量t検定変化率(mmHg)(mmHg)(mmHg)(p)(%)(mmHg)(mmHg)(p)(%)眼圧評価対象症例C16.5±4.7C13.8±3.7C.2.7<C0.0001C.14.6C13.6±3.7C.2.7<C0.0001C.14.5新規単剤投与症例C17.2±5.0C13.8±3.9C.3.1<C0.0001C.17.1C14.0±3.8C.3.2<C0.0001C.17.2C図2眼圧推移(全体・新規)眼圧推移対象症例(全体)およびアイファガンを新規単剤投与した症例(新規)では,投与開始後,安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は全体.14.5%,新規C.17.2%であった.C30POAG(n=1,136)NTG(n=1,182)PACG(n=69)SG(n=114)25眼圧(mmHg)OH(n=121)(*有意差あり)2015100投与前投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)CPOAGCNTGCPACGCSGCOHC18.0±4.6C14.0±2.9C16.6±5.8C20.2±6.7C22.5±3.8C14.9±3.8C12.2±2.7C13.4±3.7C15.3±4.9C18.0±3.5C.3.2.1.8.3.5.5.2.4.4<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.15.9C.12.0C.16.7C.23.4C.18.0C14.6±3.8C12.1±2.6C13.4±3.1C14.9±4.8C18.0±3.3C.3.1.2.0.3.3.5.3.4.6<C0.0001C<C0.0001C=0.0004C<C0.0001C<C0.0001C.15.4C.12.5C.14.8C.21.8C.19.3POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症.図3眼圧推移(病型別)病型にかかわらず安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,POAG15.4%,NTG12.5%,PACG14.8%,SG21.8%,OH19.3%であった.投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧眼圧変化量t検定変化率眼圧変化量t検定変化率(mmHg)(mmHg)(mmHg)(p)(%)(mmHg)(mmHg)(p)(%)PG関連薬C16.0±4.2C13.4±3.1C.2.7<C0.0001C.14.9C13.2±3.2C.2.6<C0.0001C.14.5Cb遮断薬C15.4±4.3C13.3±3.2C.2.3<C0.0001C.12.1C13.1±3.2C.2.3<C0.0001C.12.0CCAIC19.2±3.8C15.7±3.3C.3.3C0.0006C.16.0C15.0±3.0C.3.6C0.0167C.16.7PG関連薬:プロスタグランジン関連薬,Cb遮断薬:交感神経Cb受容体遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.図4眼圧推移(併用薬剤別1)併用薬の種類にかかわらず安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬C14.5%,Cb遮断薬C12.0%,CAI16.7%であった.C25PG関連薬+β遮断薬(n=122)PG関連薬・β遮断薬配合剤(n=289)PG関連薬+CAI(n=99)20眼圧(mmHg)b遮断薬・CAI配合剤(n=73)15(*有意差あり)100投与前投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧変化量(mmHg)(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧変化量(mmHg)(mmHg)t検定(p)変化率(%)PG関連薬+b遮断薬CPG関連薬・Cb遮断薬配合剤CPG関連薬+CAICb遮断薬・CAI配合剤C16.8±5.4C16.1±4.5C17.3±4.7C17.4±5.7C14.0±4.8C13.5±3.7C14.7±3.4C14.2±3.6C.3.0.2.7.2.5.3.2<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.15.8C.15.2C.12.6C.15.2C13.7±4.0C13.0±3.2C14.9±4.5C13.7±3.4C.2.9.3.0.1.8C.3.7<C0.0001C<C0.0001C0.0003C<C0.0001C.15.6.16.9.9.8C.16.9図5眼圧推移(併用薬剤別2)2剤あるいは配合剤を併用した場合も有意な眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬+b遮断薬C15.6%,PG関連薬・Cb遮断薬配合剤C16.9%,PG関連薬+CAI9.8%,Cb遮断薬・CAI配合剤C16.9%であった.(*有意差あり)PG関連薬(n=189)b遮断薬(n=103)CAI(n=113)遮断薬(n=66)投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)PG関連薬Cb遮断薬CCAICa1遮断薬C15.1±4.0C16.9±4.4C15.9±4.7C14.9±3.6C13.5±3.3C14.0±3.1C13.6±4.7C12.9±2.8C.1.5.2.7.2.1.1.9<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.7.8C.14.2C.12.8C.12.1C12.8±3.2C14.0±3.3C13.3±3.6C13.2±3.2C.2.2.2.9.2.5.1.5C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C0.0103C.12.5C.15.8C.13.9C.7.9a1遮断薬:交感神経Ca1受容体遮断薬.図6眼圧推移(切替薬剤別)他剤単剤からアイファガン単剤,他剤併用のうちC1剤またはC1成分をアイファガンへ切り替えた症例を含む.切替薬剤の種類にかかわらず有意な眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬C12.5%,Cb遮断薬C15.8%,CAI13.9%,Ca1遮断薬C7.9%であった.され10),日本人に多くみられる正常眼圧緑内障11)では,30%の眼圧下降により視野障害の進行が抑制される12).本調査における本剤投与の開始は,主として追加あるいは他剤からの切替であり,2.6.2.9mmHgの眼圧低下が認められた.また,正常眼圧緑内障においてもC1.7.2.0CmmHgの眼圧低下が認められたことから,第二選択薬として,目標眼圧の達成に貢献できるものと考えられた.CIII結論本調査の結果,承認時までに得られていない安全性に関する新たなリスクは認められなかった.有効性においては,病型,併用薬,切替薬剤に関係なく,投与C24カ月まで安定した眼圧下降効果が得られることが確認できた.以上より,本剤は使用実態下においても有用な薬剤であると考えられ,緑内障治療において重要な役割を果たすことが期待される.謝辞:本調査にご協力を賜り,貴重なデータをご提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:川口えり子,坂本祐一郎,末信敏秀(カテゴリーE:千寿製薬)文献1)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rst-nation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20192)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版)3)独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ(医療用医薬品情報検索)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/CiyakuSearch/4)SchumanCJS,CHorwitzCB,CChoplinCNTCetal:AC1-yearCstudyCofCbrimonidineCtwiceCdailyCinCglaucomaCandCocularChypertension.ArchOphthalmolC115:847-852,C19975)ManniCG,CCentofantiCM,CSacchettiCMCetal:DemographicCandclinicalfactorsassociatedwithdevelopmentofbrimo-nidineCtartrate0.2%-inducedCocularCallergy.CJCGlaucomaC13:163-167,C20046)BlondeauCP,CRousseauJA:AllergicCreactionsCtoCbrimoni-dineCinCpatientsCtreatedCforCglaucoma.CCanCJCOphthalmolC37:21-26,C20027)MotolkoMA:ComparisonCofCallergyCratesCinCglaucomaCpatientsCreceivingCbrimonidine0.2%CmonotherapyCversusC.xed-combinationCbrimonidine0.2%-timolol0.5%Cthera-py.CurrMedResOpinC24:2663-2667,C20088)SherwoodMB,CravenER,ChouCetal:Twice-daily0.2%CbrimonidineC.0.5%CtimololC.xed-combinationCtherapyCvsCmonotherapyCwithCtimololCorCbrimonidineCinCpatientsCwithCglaucomaCorCocularChypertension.CArchCOphthalmolC124:1230-1238,C20069)新家眞,福地健郎,中村誠ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼剤の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科C37:345-352,C202010)HeijlCA,CLeskeCM,CBengtssonCBCetal:ReductionCofCintra-ocularpressureandglaucomaprogression.ArchOphthal-molC120:1268-1279,C200211)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapan:theCTajimiCstudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C200412)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sures.AmJOphthalmolC126:487-497,C1998***

眼精疲労患者における低加入度数コンタクトレンズの有効性

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1134.1138,2022c眼精疲労患者における低加入度数コンタクトレンズの有効性岩﨑優子*1梶田雅義*1,2宮後宏美*1十河亜梨紗*1冨田誠*3大野京子*1*1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科*2梶田眼科*3横浜市立大学データサイエンス学部CE.ectivenessoftheLow-AdditionContactLensesforAsthenopiaPatientsYukoIwasaki1),MasayoshiKajita1,2),HiromiMiyaushiro1),ArisaSogo1),MakotoTomita3)andKyokoOhno-Matsui1)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,TokyoMedicalandDentalUniversity,2)Kajitaeyeclinic,3)DepartmentofHealthDataScience,GraduateSchoolofDataScience,YokohamaCityUniversityC眼精疲労症状を自覚するC33名の若年者(20.40歳)を対象として,+0.5D加入のソフトコンタクトレンズ(CL)の効果を検討した.単焦点CCLないし+0.5Dの低加入度数CLを使用している際の眼精疲労の3症状:「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」について,VASスコアで評価した.試験を完遂したC30名のうち,低加入度数CCL使用中と単焦点CCL使用中のCVASスコアに有意差はなかった.しかし,試験終了時のアンケートでは低加入度数CCLが眼精疲労症状に有用と感じた被験者がC19名(63%)みられ,低加入CCL度数の有用性が示唆された.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.ectCoflow-addition(+0.5Daddition)softCcontactlenses(CLs)inCyoungCadults(i.e.,C20-40Cyearsold)su.eringCfromCasthenopiaCsymptoms.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC33Csub-jectsC.ttedCwithCmonofocalCCLsCor+0.5D-additionCCLs.CWhileCtheCmonofocalCCLsCor+0.5D-additionCCLsCwereCbeingCworn,CthreeCsymptomsCofCasthenopia,Ci.e.,“tiredCeye,”“discomfortCfeelingCatCtheCsurfaceCofCtheCeye”,CandC“blurryCvision”wereCevaluatedCusingCVisualCAnalogueScale(VAS)scores.CResults:OfCtheC33Csubjects,C30Ccom-pletedthestudyprotocol.Nosigni.cantdi.erenceinVASscoreswasfoundbetweenthoseusingthe+0.5D-addi-tionCCLsCandCthoseCusingCtheCmonofocalCCLs.CHowever,CwhenCtheCsubjectsCwereCaskedCaboutCtheirCimpressionsCofCtheCCLs,19(63%)statedCthat+0.5D-additionCCLsCwereCe.ectiveCforCasthenopiaCsymptoms.CConclusion:Low-additionCLscansometimesbeane.ectivetreatmentforpatientssu.eringfromasthenopiasymptoms.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1134.1138,C2022〕Keywords:眼精疲労,累進屈折力,低加入度数,コンタクトレンズ.asthenopia,progressiveaddition,lowaddi-tion,contactlenses.Cはじめにパソコン,スマートフォン,携帯型ゲーム機などのデジタル機器の利用者に,高率に眼精疲労の症状がみられると報告されている1,2).これらの機器は今後も日常生活で多用され,眼の疲れや近方視が見にくいなどの症状を訴える人が増加していくと予想される.近方視を補助する累進屈折力レンズ眼鏡が眼精疲労に有用であるかについて,多くの論文で検討されているが,いまだ統一した見解はない1,3.7).近年,+0.5Dという軽度の加入を伴うソフトコンタクトレンズ(以下,低加入度数CCL)がシード社より発売された.高らの研究では,20歳からC39歳の若年者を対象として低加入度数CCLを装用した際の調節反応量と視機能を評価したところ,低加入度数CCLは遠見視力を損なうことなく単焦点コンタクトレンズ(contactlens:CL)に比べ近見時の調節反応を軽減した8).この結果からは,近見作業による若年者の眼精疲労に,低加入度数CCLが有用であることが期待できる.今回筆者らは,眼精疲労を自覚しているC20歳からC40歳の若年者を対象として,低加入度数CCLが眼精疲労の軽減に有効であるかを検討した.CI対象および方法Web,ポスターを介した募集に応募した人のうち,図1aに示す選択基準をすべて満たし,除外基準に抵触しない人を対象とした.試験デザインは,オープンラベル,ランダム化〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦C3-6-3協栄ビルC4階梶田眼科Reprintrequests:MasayoshiKajita,M.D.,Ph.D.,Kajitaeyeclinic,Kyoei-biru4F,3-6-3Shibaura,Minato-ku,Tokyo108-0023,CJAPANC1134(124)ab選択基準1.年齢2.性別3.CL装用時間4.常用CCL5.症状6.矯正視力7.その他除外基準1.眼科疾患の併存2.常用CCL3.常用薬4.その他20歳以上C40歳以下男女1日8時間以上,週C5日以上のソフトCL装用が可能単焦点ソフトCCL「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」のうちいずれかに該当する1.0以上本研究への参加にあたり十分な説明を受けたのち,十分な理解のうえ,被験者本人の自由意志による文書同意が得られた者前眼部疾患,角膜屈折矯正手術後,白内障術後単焦点ソフトCCL以外調節機能に影響が想定される内服・点眼・サプリメント全身疾患の併存,妊娠中・授乳中,研究責任者が被験者として不適当と判断した者図1研究の流れを行うC2C×2クロスオーバーの介入試験である(図1b).初回来院時に同意取得および適格性の確認を行い,CLの球面度数を決定した.CLは,球面度数,素材,中心厚が同じ単焦点CCLと低加入度数CCLを用いた(表1).眼精疲労の症状は,「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」のC3症状について視覚的アナログスケール(visualCanalogscale:VAS)スコア(0.100点)とCNEIVFQ25による近見と痛みについての点数で評価した.参加前の矯正状態(過矯正・低矯正)の影響を取り除くため,適正矯正値の単焦点レンズを1週間使用したのちに初回検査を行った.初回検査では,自覚的および他覚的屈折度,遠方および近方の裸眼視力と矯正視力,眼位検査,輻湊検査,チトマス立体試験による両眼視機能検査,調節微動解析(AA-2,ニデック,石原式近点計による自覚的調節力検査,ウェブフロントアナライザー(トプコン)により測定した角膜全高次収差と眼球全高次収差を評価した.調節微動は無限遠視標およびC2Cm先視標を固視しながらC8回測定されたChighCfrequencyCcomponent(HFC)値の中央値とした.高次収差はC3回測定した中央値を評価対象とした.低加入度数CCLと単焦点CCLの装用順は,臨床研究支援システム「HOPEeACReSS」を用いてランダムに割り付けた.被験者にはCCLの種類を説明しないことで先入観の排除に努めた.その後,割り付けられた順でC2週間ずつ単焦点CCLないし低加入度数CCLを使用してもらうことと,眼精疲労C3症状のCVASスコアをC1日C1回自己評価することを被験者に依頼した.中間検査および最終検査では,屈折度などの視機能や眼表面に有害事象が生じていないか確認した.試験終了時に,単焦点CCLないし低加入度数CCLのどちらかを選択してもらいC2カ月分贈呈し,また,その際にCCLの選択理由を聴取した.CLに対する先入観を極力排除するため,「前半C2週間,後半C2週間のCCLのどちらを希望するか」,「希望したCCLと希望しなかったCCLの装用感の違いについて思ったことを教えてください」という表現にて聴取を行った.主要評価項目は単焦点CCLないし低加入度数CCLを使用中の眼精疲労のC3症状(「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」)についてのCVASスコア(0.100点)とした.VASスコアの評価においては,2週間の装用期間のうち後半C1週間におけるスコアの中央値を求め,2種類のCCLの間でCVASスコアに統計的有意差があるかCMann-WhitneyU検定を用いて検討した.副次評価項目は,試験終了時に低加入度数CLを希望した群と単焦点CCLを希望した群の間で,被験者の眼科的な臨床像を比較した.検定はCEZR9)を使用した.EZRはCRおよびCRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトフェアである.量的データはCMann-WhitneyU検定,質的データはCFisherの正確確率検定を用いて比較した.本研究は株式会社シードからの受託研究として行われ,特定臨床研表1レンズのデザイン試験レンズ単焦点レンズ低加入度数レンズレンズ名「ワンデーピュアうるおいプラス」「ワンデーピュアうるおいプラスFlex」2-HEMA,四級アンモニウム基含有メタクリレー2-HEMA,四級アンモニウム基含有メタクリレート系化合物,素材ト系化合物,カルポキシル基含有メタクリレート系カルポキシル基含有メタクリレート系化合物,CMMA,C化合物,MMA,EGDMAEGDMAベースカーブC8.8CmmC8.8Cmm加入度C─+0.50Dデザイン単焦点二重焦点+移行部近用光学部移行部遠用光学部-3.00Dの場合究法に基づき東京医科歯科大学臨床研究審査委員会の審査を受け施行した(jRCTs032190029).世界医師会ヘルシンキ宣言に則り研究は施行され,本人の自由意志による同意を得た.CII結果33名が参加,うちC3名が途中脱落したため,試験を完遂したC30名を解析対象とした.途中脱落の内訳は,従来トーリックレンズを使用しており参加後に見え方に不満を覚えた1名,仕事の調整がつかないC1名,不明がC1名だった.30名の内訳は女性C25名,男性C5名で,平均年齢はC31歳(21歳.40歳)であった.他覚的球面屈折度は平均C.4.95D(.1.75D.C.8D),他覚的円柱度数は平均.0.64D(0D.C.2.25D)だった.単焦点CCL装用中と低加入度数CCL装用中のCVASスコアを図2に示す.「目の疲れ」のCVASスコアは単焦点CCLを使用中は平均C30.6(標準偏差C20.5),低加入度数CCLを使用中は平均C27.3(標準偏差C22.0)だった.「目表面の違和感・不快感」のCVASスコアは単焦点CCLで平均C21.4(標準偏差16.9),低加入度数CCLでC25.9(標準偏差C22.2),「霧視」は単焦点CCLで平均C21.3(標準偏差C18.2),低加入度数CCLで27.3(標準偏差C24.9)であった.標準偏差が大きく,眼精疲労のC3症状いずれにおいても有意な差はみられなかった.試験終了時の贈与においては,20名が低加入度数CCLを希望し,10名が単焦点CCLを希望した.その際に取得したCCLの使用感のアンケート結果の要約を図3に示す.単焦点CCLと比べ低加入度数CCLで改善(主要評価項目の眼精疲労C3症状いずれかの改善,もしくは漠然と眼精疲労症状の改善を訴えたもの)が明確であったものがC14名(47%),軽度の改善を感じたものがC5名(17%)と,低加入度数CCLの眼精疲労改善効果を感じた被験者はC19名(64%)であった.1名(3%)は差を感じなかったので使用を継続したい,という消極的な理由にて低加入度数CCLを希望した.逆に,低加入度数CCL期間中に霧視の増悪を自覚したC6名(20%),目表面の違和感の増悪を自覚したC4名(13%)は単焦点CCLを希望した.低加入度数CCLを選択したC20名と単焦点CCLを選択したC10名の間で,初回検査の検査結果および適格性検査における眼精疲労症状について差があるかを検討した(表2).輻湊が鼻先C4Ccmと不良な例が単焦点CCL選択群にみられた(p値=0.047,Mann-WhitneyU検定)が,その他明らかな臨床像の違いはみられなかった.試験期間中,明らかな有害事象の発生はなく,また中間検査や最終検査において有意な検査所図2単焦点CLおよび低加入度数CL使用中のVASスコア見の変化はみられなかった.改善やや改善同等III考察30名の被験者において調査したCVASスコアからは,低加霧視の増悪入度数CCL使用中の眼精疲労症状の有意な改善は示されなかった.眼精疲労症状は眼所見,眼外所見ともに多彩2)である.評価項目を増やすことは解析の重複により有意差を観察することが困難になりうるという側面もある.このため今回筆者3%らは,既報においてC30分の近見作業で有意に増悪したこと目表面の違和感の増悪が示されている「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」のCVASスコアを評価対象とした10).しかし図2に示すとおり,被験者間のばらつきが大きく,有意差の検出には至らなかった.眼精疲労症状およびその変化に対する感じ方に,個人差が大きい可能性が考えられる.眼精疲労症状の客観的な評価手法の検討が進められており10,11),今後はアンケートによらない評価法を試みることが必要と考えられる.低加入度数CCLで症状の改善(主要評価項目C3症状のいずれかの改善,ないし漠然とした疲れ症状の改善)を自覚した被験者は,30名中C19名と多くみられ,一定の効果が示唆された.CLに対する先入観を最小にするべく,割り当てるCLの種類については試験期間中において説明は行わなかったが,CLの容器に「+0.5D」と記載があることから本研究は盲検試験ではない.一定の先入観が影響した可能性は除外できず,結果の解釈には注意が必要である.単焦点CCLの使用感が良好であったC10名のうち,見づらさを自覚した症例がC6名いたのに対し,低加入度数CCLを選択したC20名では見づらさの訴えはなかった.低加入度数CLの使用感が良好であった症例の特徴を明らかにすべく,単焦点CCLを選択した群と検査所見を比較したが,明らかな有意差はみられなかった(表2).今回評価対象とした検査項目によって,低加入度CCLが有効な症例を選別することは困難と考えられる.眼精疲労症状の評価として行った調節微動,VASスコア,VFQ-25のいずれも低加入度CCLが有効な症例を判別するために有用でなかったことは,今後の同様図3低加入度数CLによる眼精疲労症状の変化の研究において眼精疲労の客観的な評価手法の必要性を支持すると考えられる.なお,低加入度数CCLを選択した群では輻輳が良好であったが(表2),p値からは解析の多重性を考慮すると有意差が示唆される程度と考えられた.輻湊と眼精疲労の関連については,コンピュータ作業やC3D画像の視聴で輻湊が低下するという報告もみられるが,有意差がないとする報告や,1プリズム以下の斜位が疲労に関与するという報告もあり,統一した見解はない2).輻湊と低加入度数CCLの使用感の関係については今度さらに検討が必要と考える.眼精疲労には,瞬目,作業環境,矯正状態など複数の要因が関与する2).今回評価対象外であったこれらの要因が低加入度数CCLの有効性を予測するのに有用であるかについては,今後検討が望ましい.試験中明らかな有害事象はなく,若年者の低加入度数CCL装用に伴う危険性は示唆されなかった.CIV結論低加入度数CCLにより,若年者の眼精疲労患者C30名中C19名で自覚的な改善効果が得られた.有効性を実感した症例の眼検査所見に明らかな特徴はなく,CLを試用する機会の提供が必要と考えられた.VASによる統計的有意な症状の改善は確認できなかった.眼精疲労症状の客観的な評価手法を用いてさらに検討が必要と考えられた.表2単焦点CLを希望した被験者と低加入度数CLを希望した被験者の臨床像の比較中央値[最小値,最大値]評価項目(単位)単焦点CCL選択群低加入CCL選択群p値(n=10)(n=20)性別女性7名女性1C8名C0.3男性3名男性2名年齢(歳)33.5[22.40]30.0[21.40]C0.5371身長(cm)161.5[C150.C180]158.5[C150.C184]C0.29他覚的球面度数(D)C.5.25[C.6.25.C.4.0]C.4.63[C.8.00.C.1.75]C0.2992他覚的円柱度数(D)C.0.5[C.2.25.C.0.25]C.0.5[C.1.75.0]C0.306遠見裸眼視力(logMAR値)1.16[C1.00.C1.40]1.19[C0.22.C1.70]C0.9113遠見矯正視力(logMAR値)C.0.16[C.0.30.C.0.08]C.0.18[C.0.30.C.0.08]C0.4788自覚的球面度数(D)C.4.88[C.5.75.C.3.5]C.4.5[C.8.0.C.1.5]C0.5078自覚的円柱度数(D)C.0.25[C.2.5.0]C.0.5[C.1.75.0]C0.5011近見矯正視力(logMAR値)C.0.08[C.0.08.0]C.0.08[C.0.18.0]C0.891輻湊(cm)0[0.4]0[0.0]C0.04733*両眼視機能(秒)40[40.50]40[40.2C00]C0.3395眼位.遠見,水平(P)0[.16.0]0[.14.2]C0.5709眼位.遠見,上下(P)0[0.0]0[0.0]CNA眼位.近見,水平(P)0[.14.0]0[.25.8]C0.3392眼位.近見,上下(P)0[0.0]0[0.0]CNA眼球全高次収差(Cμm)0.11[C0.07.C0.27]0.12[C0.06.C0.29]C0.8087角膜全高次収差(Cμm)0.12[C0.05.C0.33]0.09[C0.06.C0.24]C0.3115HFC値C.無限遠視標53.0[C46.23.C62.88]52.1[C43.3.C58.7]C0.7132HFC値C.2Cm先の視標49.1[C45.7.C74.6]53.9[C45.6.C59.4]C0.1307調節力(D)9.45[C6.29.C19.23]11.5[C6.41.C20]C0.2435CVFQ-25.痛み137.5[C75.C175]150[75.2C00]C0.3341CVFQ-25.近見75[42.1C00]87.5[8.1C00]C0.4364VASスコアC.目の疲れ(mm)70[10.80]65[30.1C00]C0.9284VASスコアC.目表面の違和感・不快感(mm)55[0.1C00]30[0.70]C0.2673VASスコアC.霧視(mm)60[0.80]37.5[0.92]C0.4231利益相反岩﨑優子はC2018年度からC2020年度に及び,株式会社シード社からの受託研究費で雇用された.また,試験に用いた調節微動解析装置CAA-2はシード社から貸与されたものである.文献1)HeusP,VerbeekJH,ikkaC:Opticalcorrectionofrefrac-tiveCerrorCforCpreventingCandCtreatingCeyeCsymptomsCinCcomputerCusers.CCochraneCDatabaseCSystCRevC4:CCd009877,C20182)Coles-BrennanCC,CSulleyCA,CYoungG:ManagementCofCdigitalCeyeCstrain.CClinCExpCOptomC102:18-29,C12798,C20193)ButzonCSP,CEagelsSR:PrescribingCforCtheCmoderate-to-advancedametropicpresbyopicVDTuser.AcomparisonofCtheCTechnicaCProgressiveCandCDataliteCCRTCtrifocal.CJAmOptomAssocC68:495-502,C19974)ButzonSP,SheedyJE,NilsenE:Thee.cacyofcomput-erCglassesCinCreductionCofCcomputerCworkerCsymptoms.COptometryC73,C221-230,C20025)HorgenCG,CAarasCA,CThoresenM:WillCvisualCdiscomfortCamongCvisualCdisplayunit(VDU)usersCchangeCinCdevel-opmentwhenmovingfromsinglevisionlensestospecial-lyCdesignedCVDUCprogressivelenses?COptomCVisCSciC81:341-349,C20046)塚田貴大:若年者向け累進屈折力レンズの調節微動による眼疲労の評価.日本視能訓練士協会誌45:25-37,C20167)JaschinskiW,KonigM,MekontsoTMetal:Comparisonofprogressiveadditionlensesforgeneralpurposeandforcomputervision:anCo.ceC.eldCstudy.CClinCExpCOptomC98:234-243,C20158)KohCS,CInoueCR,CSatoCSCetal:Quanti.cationCofCaccommo-dativeCresponseCandCvisualCperformanceCinCnon-presby-opesCwearingClow-addCcontactClenses.CContCLensCAnteriorCEyeC43:226-231,C20209)KandaY:InvestigationCofCtheCfreelyCavailableCeasy-to-useCsoftware‘EZR’CforCmedicalCstatistics.CBoneCMarrowCTransplantC48:452-458,C201310)HirotaCM,CMorimotoCT,CKandaCHCetal:ObjectiveCevalua-tionCofCvisualCfatigueCusingCbinocularCfusionCmaintenance.CTranslVisSciTechnolC7:201811)ChenCC,CWangCJ,CLiCKCetal:VisualCfatigueCcausedCbyCwatching3DTV:anCfMRICstudy.CBiomedCEngCOnlineC14Suppl1:S12,2015C***

日本人における3 焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用とその要因

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1130.1133,2022c日本人における3焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用とその要因ビッセン宮島弘子*1太田友香*1林研*2五十嵐千寿佳*2佐々木紀幸*3*1東京歯科大学水道橋病院眼科*2林眼科病院*3日本アルコンCFactorsthatPredictSpectacleUseinJapanesePatientsafterTrifocalIntraocularLensImplantationHirokoBissen-Miyajima1),YukaOta1),KenHayashi2),ChizukaIgarashi2)andNoriyukiSasaki3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2)HayashiEyeHospital,3)AlconJapanC日本人におけるC3焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用例とその要因を検討した.対象は白内障手術時に両眼にC3焦点眼内レンズ(TFNT00:アルコン社)が挿入されたC66例,平均年齢はC66.3±7.4歳であった.術後C6カ月において眼鏡を装用している症例(装用群)とまったく装用していない症例(非装用群)に分け,年齢,性別,眼軸長,術後等価球面度数,術後裸眼・矯正視力(遠方:5m,中間:60Ccm,近方:40Ccm),近方視の見え方に関するアンケート調査結果との関連を検討した.装用例はC15例(22.7%)で,12例が近用,3例が遠近両用眼鏡を使用していた.装用例の多くはアンケート調査で細かい字を見るのが不便と回答していた.装用例のほうが年齢は有意に高かったが,術後等価球面度数や近方裸眼視力は眼鏡装用に著明な要因とはなっていなかった.3焦点眼内レンズは挿入後に眼鏡依存度を軽減するが,細かい字を読むことが多い人,高齢者では近用眼鏡を必要とする可能性が高いと思われた.CPurpose:Toinvestigateandanalyzethefactorsthatpredictspectacleuseanddependenceposttrifocalintra-ocularlens(IOL)implantation.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC66CpatientsCwhoCunderwentCbilateralCtrifocalIOL(TFNT00:Alcon)implantation.Spectacleusewasassessedbypatientquestionnaire,followedbysta-tisticalCcorrelationCanalysisCofCpre-andCpost-operativeCfactorsCsuchCassphericalCequivalent(SE)andCvisualCacuity(VA)at5.0,0.8,0.6,and0.4meters.Results:Ofthe66patients,15patients(22.7%)occasionallyusedspectaclesforreadingpatientsand3patientsforreadinganddistancevision.Themajorityofthepatientswhorequiredspec-taclesCreportedChavingCdi.cultyCinCreadingCsmallCprintCtext.CTheCageCofCtheCpatientsCwhoCrequiredCspectacleCuseCwashigherthanthatofthepatientswhowerenotdependentonspectacleuse(p=0.02,Wilcoxontest).Postopera-tiveCSECandCuncorrectedCnearCVACwereCfoundCtoCnotCbeCsigni.cantCpredictorsCofspectacleCdependence(p=0.21,0.06).CConclusion:InCthisCstudy,CaCsubsetCofCpatientsCrequiredCtheCuseCofCspectaclesCsomeCofCtheCtimeCforCnearCvisionactivities,andagemayplayafactorinspectacleindependence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1130.1133,C2022〕Keywords:3焦点眼内レンズ,眼鏡装用,年齢,近方視力,患者アンケート.trifocalintraocularlens,spectacleusage,age,nearvision,patientquestionnaire.Cはじめに近年,多焦点眼内レンズの導入で,日常生活における眼鏡への依存が軽減している.2焦点眼内レンズの多くは,遠方と近方に焦点が合うため,その間の中間距離を見るときに眼鏡を必要とする場合がある.3焦点眼内レンズにより,遠方,中間,近方の裸眼視力が向上し,眼鏡装用の機会はさらに軽減されている.筆者らは,日本におけるC3焦点眼内レンズの臨床試験成績を報告したが1),同レンズを挿入した欧米の報告に比べ,眼鏡装用頻度がやや高い結果であった2.5).多焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用率についての報告はあるが,どのような症例が眼鏡を必要とするかまでは検討されていない.今回,3焦点眼内レンズの臨床試験症例を,挿入後に眼鏡装用を必要とした症例としない症例に分け,術前および術後の要因をサブグループ解析したので報告する.〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Kanda-Misakicho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANC1130(120)I対象および方法対象は,東京歯科大学水道橋病院眼科および林眼科病院の2施設において,臨床試験(前向き研究)として両眼の白内障手術時にC3焦点眼内レンズ(TFNT00:アルコン社)が挿入されたC68例のうち,66例C132眼である.除外したC2例は,片眼挿入例および後発白内障により両眼遠方矯正視力が0.8に低下していた症例である.術前の角膜乱視は,オートケラトメータによる前面角膜乱視測定で1D未満の症例とした.臨床試験は,各施設の治験審査委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に沿ってC2017年C5.9月に手術が実施された.術後C6カ月時に行われたアンケート調査にて,眼鏡を常時あるいは必要時に装用していると回答した症例を装用群,眼鏡をまったく装用していないと回答した症例を非装用群とし,術前および術後の要素を検討した.術前の要素は,年齢,性別,眼軸長,術後の要素は,術後C6カ月における等価球面度数,5m,60Ccm,40Ccmにおける両眼裸眼および矯正視力とした.また,両群の近方作業に関するアンケート調査結果も比較した.検定は,性別と近方の見え方に関してはCFisherC’sCexacttest,その他の要素に関してはCWilcoxontestを用い,p<0.05を統計学的に有意差ありとした.CII結果アンケート調査において眼鏡を装用している装用群はC15例(22.7%),まったく装用していない非装用群はC51例(77.3%)であった.装用群の内訳は,常時使用がC6.7%,時々使用がC80%であった.また,使用している眼鏡の種類は近用がC80%,遠近両用がC20%で,遠方あるいは中間距離のみに使用している症例はなかった.装用群と非装用群の年齢,性別,眼軸長,術後の等価球面度数,術後C6カ月時の裸眼および矯正視力(遠方C5m,中間C60Ccm,近方C40Ccm)を表1に示す.術前,術後要素において有意差が認められたのは年齢のみであった.また,両群の年齢分布をみると,装用群では70歳以上の割合が多かった(図1).術後の近方の見え方に関するアンケート調査結果を比較すると,腕時計や本のタイトルの見え方に関しては,装用群と非装用群で差がなかったが,細かい字,新聞や本を読む,字表1眼鏡装用群と非装用群の術前および術後要素装用群(n=15)非装用群(n=51)p値年齢(歳)C69.6±8.2C65.2±7.1C0.02男性:女性4:1C115:3C6C1.00眼軸長(cm)C24.03±0.94C23.82±0.84C0.51術後等価球面度数(D)C0.25±0.25C0.13±0.31C0.21術後裸眼視力ClogMARC5CmC.0.10±0.11C.0.11±0.08C0.79C60CcmC.0.04±0.10C.0.09±0.08C0.07C40CcmC.0.02±0.07C.0.06±0.08C0.06術後矯正視力ClogMARC5CmC.0.19±0.07C.0.21±0.07C0.40C60CcmC.0.11±0.09C.0.13±0.08C0.54C40CcmC.0.06±0.09C.0.09±0.08C0.18平均値±標準偏差.logMAR:logarithmicminimumangleofresolution.(%)装用群(n=15)(%)非装用群(n=51)505040403030202010100045505560657075804550556065707580年齢(歳)年齢(歳)図1眼鏡装用群と非装用群の年齢分布困難と感じる困難と感じないその他050100050100Fisher’sexacttest図2眼鏡装用群と非装用群の近方作業に関するアンケート調査結果表2眼鏡装用に関する既報との比較本研究Kohnenら2)Farvardinら3)Kimら4)Modiら5)症例数C66C27C20C40C129平均年齢(歳)C69.6±8.2C63±8.8C62.1±5.45C60±8C65.8±7.3報告施設日本ドイツイラン韓国米国両眼近方視力(logMAR)C.0.02(装用群)C.0.06(非装用群)C0.01C0.23C0.03C0.050眼鏡非装用率(%)C77.3C96C90C84C83.6Cを書くといった作業では,装用群で困難と感じている症例が有意に多かった(図2).CIII考按3焦点眼内レンズは,遠方に加え,中間および近方において良好な裸眼視力が得られるため,眼鏡依存度の軽減が期待されている.本研究と同じCTFNT00が両眼に挿入された既報における眼鏡非装用率の比較を表2に示す.両眼近方視力は,本研究において眼鏡を装用していなかった症例も装用していた症例も,40Ccmにおける小数視力は平均C1.0以上と非常に良好であったが,眼鏡をまったく使用しない症例の割合は,海外の報告に比べてやや低い傾向であった.その理由として,日本人の生活スタイル,体型,文字の大きさが影響している可能性がある.アンケート調査結果で,眼鏡を使用している症例の半数以上が,細かい字を読んだり,新聞や本を読むのが困難と回答している.このことから,これらの作業における裸眼視力が十分でないために眼鏡を用いていると考えられる.海外の日常生活における作業内容と距離を調べた報告で,読書,裁縫はC33Ccm,字を書くのはC45Ccmとしている6).さらに背が高いほど腕が長く,好む距離が異なること7),決まった距離での視力のみでなく腕の長さで検討している報告もある5).これらを加味すると,近方加入度が+3.25Dの本レンズでは,40Ccmにおいて良好な裸眼視力が得られていても,さらに近くで作業する症例においては眼鏡を要することになり,日本人の体型を考慮すると,欧米よりも近方で見ることになり,眼鏡装用の必要性が高くなると考えられる.今回,眼鏡装用例の半数以上がC70歳以上で,非装用例に比べて高齢であったこと,海外の報告よりも年齢が高かったことも,これらの理由を裏づけるものである.もうC1点は,文字の差である.スマートフォンのディスプレイにおけるアルファベットと日本語のフォントの違いが報告されている8).日本語はひらがなと漢字が含まれ,漢字は非常に複雑である.同じ漢字を用いている中国の研究で,もっとも速く読める文字のフォントは,アルファベットより漢字のほうが大きく9),同じ視力を得るための中国語新聞の文字は英字新聞の文字の約C1.5倍の大きさが必要という報告がある10).一方,韓国の報告では,近くの見え方への満足度が高く11),ハングルの文字の形や種類が少なく,アルファベットに近いためなのかもしれない.これらのことより,日本人において,欧米と同様の良好な近方視力が得られても,実際に文字を見る際に眼鏡を必要とする確率が高くなることが推察される.多焦点眼内レンズは,老視矯正眼内レンズとして近方視における眼鏡依存度を軽減することが期待される.3焦点眼内レンズ挿入術後でも,近方視の距離が近い場合や,読む文字の大きさや複雑さによって眼鏡を必要とすることがあり,とくに高齢者においては,その点を十分説明して挿入を検討すべきと考えられた.老視患者に対しては,多焦点眼内レンズの特性に生活を合わせていくような,たとえば読書,スマートフォン,裁縫などは今までより少し距離を離すとよいなど,手術後に助言をすることによって,眼鏡依存度を下げることも可能と思われる.利益相反:日本眼科学会における公表基準ビッセン宮島弘子,太田友香,林研,五十嵐千寿佳[F:アルコン社]佐々木紀幸[E:アルコン社]文献1)Bissen-MiyajimaH,OtaY,HayashiKetal:ResultsofaclinicalCevaluationCofCaCtrifocalCintraocularClensCinCJapan.CJpnJOphthalmolC64:140-149,C20202)KohnenT,HerzogM,HemkepplerEetal:Visualperfor-manceofaquadrifocal(trifocal)intraocularlensfollowingremovalCofCtheCcrystallineClens.CAmCJCOphthalmolC184:C52-62,C20173)FarvardinCM,CJohariCM,CAtarzadeCACetal:ComparisonbetweenCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCintraocularlens(AlconCAcrysofCIQRPanOptix)andCextendedCdepthCofCfocuslens(TecnisCRCSymfonyRCZXR00lens)C.CIntCOph-thalmolC2020.Chttps://doi.org/10.1007/s10792-020-01608-w4)KimCT,CChungCTY,CKimCMJCetal:VisualCoutcomesCandCsafetyCafterCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCpresbyopiaCcorrectingintraocularlensinaKoreanpopulation:apro-spectiveCsingle-armCstudy.CBMCCOphthalmologyC20:288,C20205)ModiCS,CLehmannCR,CMaxwellCACetal:VisualCandCpatient-reportedoutcomesofadi.ractivetrifocalintraoc-ularClensCcomparedCwithCthoseCofCaCmonofocalCintraocularClens.OphthalmologyC128:197-207,C20216)CardonaCG,CLopezS:PupilCdiameter,CworkingCdistanceCandCilluminationCduringChabitualCtasks.CImplicationsCforCsimultaneousCvisionCcontactClensesCforCpresbyopia.CJOptomC9:78-84,C20167)Lapid-GorzakCR,CBhattCU,CSanchezCJGCetal:MulticenterCvisualCoutcomesCcomparisonCofC2CtrifocalCpresbyopia-cor-rectingIOLs:6-monthCpostoperativeCresults.CJCCataractCRefractSurgC46:1534-1542,C20208)HasegawaCS,CFujikakeCK,COmoriCMCetal:ReadabilityCofCcharactersConCmobileCphoneCliquidCcrystalCdisplays.CJOSEC14:293-304,C20089)WangCC-X,CLinCN,CGuoYX:VisualCrequirementCforCChi-nesereadingwithnormalvision.BrainBehavC9:e01216,C201910)ZhangCJ,CLiuCJ,CJastiCSCetal:VisualCdemandCandCacuityCreserveofChineseversusEnglishnewspapers.OptomVisSciC97:865-870,C202011)KimCT,CChungCTY,CKimCMJCetal:VisualCoutcomesCandCsafetyCafterCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCpresbyopiaCcorrectingCintraocularClensCinCKoreanpopulation:aCprospectiveCsingle-armCstudy.CBMCCOphthalC202:288,C2020C***

緑内障患者の配合剤への変更によるアドヒアランスの検討

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1125.1129,2022c緑内障患者の配合剤への変更によるアドヒアランスの検討迫菜央子辻拓也西原由華佐々木研輔春田雅俊吉田茂生久留米大学医学部眼科学講座CExaminationofTreatmentAdherenceAfterChangingtoCombinationEyeDropsinGlaucomaPatientsNaokoSako,TakuyaTsuji,YukaNishihara,KensukeSasaki,MasatoshiHarutaandShigeoYoshidaCDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicineC目的:PG関連薬/Cb遮断薬配合剤(PG/Cb),a2刺激薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤(Ca2/CAI)への変更によるアドヒアランスを検討する.対象および方法:対象はCPG関連薬,Cb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤,Ca2刺激薬を点眼している患者C21例C30眼.病型は原発開放隅角緑内障C13眼,落屑緑内障C7眼,続発緑内障C2眼,正常眼圧緑内障C2眼,血管新生緑内障C2眼,高眼圧症C2眼,原発閉塞隅角緑内障C1眼,小児緑内障C1眼であった.PG/CbおよびCa2/CAIへの変更前後の視力,眼圧などを検討した.変更前後でアンケートを行った.結果:点眼忘れの回数は変更前C0.33C±0.71回から変更C1カ月後C0.10C±0.29回と有意に減少した(p=0.04).副作用は掻痒感C1例,結膜炎C2例,霧視C3例であった.75%の患者は変更後がよいと回答した.変更前,変更後C1,3カ月で視力,眼圧に有意差はなかった.結論:変更後は高い満足度が得られ,アドヒアランス向上が期待できる.CPurpose:ToCinvestigateCtreatmentCadherenceCafterCchangingCtoCtheCcombinationCofCPG/bandCa2/CAICeyeCdropsCinCglaucomaCpatients.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC30CeyesCofC21CglaucomaCpatientsCwhoCwereinstilledwithPGpreparation,b/CAIanda2agonist.Ofthe31eyes,therewere13primaryopen-angleglau-comaeyes,7exfoliationglaucomaeyes,2secondaryglaucomaeyes,2normal-tensionglaucomaeyes,2neovascu-larizationglaucomaeyes,2ocularhypertensioneyes,1primaryangle-closureglaucomaeye,and1childhoodglau-comaCeye.CVisualacuity(VA)andCintraocularpressure(IOP)preCandCpostCswitchingCtoCPG/bandCa2/CAICwereCexamined.CACpatientCquestionnaireCwasCconductedCpreCandCpostCswitch.CResults:TheCmeanCnumberCofCpatientsCwhoCforgotCtoCinstillCwasCreducedCfromC0.33±0.71CatCbeforeCswitchingCtoC0.10±0.29CatC1CmonthCthechange(p=0.04)C.CSideCe.ectsCwereitching(1patient)C,conjunctivitis(2patients)C,CandCblurredvision(3patients)C.COfCtheC21Cpatients,75%saidthattheswitchwasgood,andnodi.erenceinVAandIOPwasobservedpostswitch.Conclu-sion:AfterchangingtoPG/banda2/CAIcombinationeyedrops,highsatisfactionwasobtainedandadherencetotreatmentimproved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1125.1129,C2022〕Keywords:ブリモニジン酒石酸塩/ブリンゾラミド配合点眼液,眼圧,副作用,アドヒアランス.brinzolamide/Cbrimonidine.xedcombination,intraocularpressure,sidee.ects,adherence.Cはじめにエビデンスに基づいた唯一確実な緑内障治療は眼圧下降であり,点眼加療が果たす役割は大きい.しかし,緑内障は多くの場合きわめて慢性的に経過する進行性の疾患で,治療効果を実感しにくいこともあり,長期にわたってアドヒアランスを維持することがむずかしい1).とくに多剤点眼が必要な患者においては,配合点眼液を使用して点眼回数や眼局所の副作用を軽減し,アドヒアランスとCQOLの向上をめざすべきと考える.アイラミド配合懸濁性点眼液(千寿製薬)は交感神経Ca2受容体刺激薬(以下,Ca2刺激薬)であるブリモニジン酒石酸塩と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitor:CAI)であるブリンゾラミドの配合点眼液で,国内では初めてとなる薬剤の組み合わせである.プロスタグランジン関連〔別刷請求先〕辻拓也:〒830-0011福岡県久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakuyaTsujiCM.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume-city,Fukuoka830-0011,JAPANC薬点眼液(以下,PG関連薬),交感神経Cb受容体遮断薬/CAI配合点眼液(以下,Cb遮断薬/CAI配合点眼液),a2刺激薬の多剤点眼を処方されている患者では,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液,Ca2刺激薬/CAI配合点眼液に処方を変更することで,1日の点眼回数をC5回からC3回へ減らすことができる.今回,久留米大学病院眼科でCPG関連薬,Cb遮断薬/CAI配合点眼液,Ca2刺激薬を含む多剤点眼を処方されていた緑内障患者にこの処方変更を試み,視力,眼圧,角結膜,自覚症状,アドヒアランスへの影響を調査したので報告する.CI対象および方法久留米大学病院眼科にてC2020年C8月.2021年C1月に,PG関連薬,Cb遮断薬/CAI配合点眼液,Ca2刺激薬を含む多剤点眼を処方されていた緑内障患者で,十分なインフォームド・コンセントののち,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液,Ca2刺激薬/CAI配合点眼液への処方変更を希望したC21例C30問診表(変更前)問1①最近1か月で点眼を忘れてしまったことはありますか?□はい何回忘れましたか?□1回ぐらい□2回ぐらい□3回ぐらい□4回以上ちなみにどの点眼でしたか?()□いいえ②前の質問で「はい」を選択した方へ。1.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前2.理由は何ですか?□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□さし心地□点眼瓶の操作性(さしにくい)□副作用□忙しい□その他()問2現在の眼の症状は如何ですか?①充血は?(ない012345ある)②刺激は?(ない012345ある)③かゆみは?(ない012345ある)④痛みは?(ない012345ある)⑤かすみは?(ない012345ある)⑥眼のくぼみは?(ない012345ある)⑦まつ毛の伸びは?(ない012345ある)眼を対象とした.なお,PG関連薬からCPG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液への処方変更は,変更前後でCPG関連薬が同一成分となるように処方した.変更前にCROCK阻害薬も処方されていた場合は,変更後も使用を継続した.本研究は久留米大学医に関する倫理委員会の承認を得て行い(研究番号C21023),対象症例の診療録を後ろ向きに調査した.薬剤スコアは緑内障点眼薬C1成分をC1点,アセタゾラミド内服C1錠につきC1点とした.矯正視力は,変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月に測定し,それぞれClogMAR視力に変換して統計処理を行った.眼圧は変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月にCGoldmann圧平眼圧計(GoldmannCapplanationtonometer:GAT)を用いて測定した.診療録を用いて変更後に新たに生じた副作用を調査するとともに,変更前,変更後C1カ月の角膜・結膜スコアをそれぞれC3点満点で評価した.アンケート調査は回答結果を主治医には伝えないことを事前に説明したうえで,変更前,変更後C1カ月に診療に直接関与しない研究補助員が聴取した.アンケートの質問項目を問診表(変更後)問1①点眼を変更して、最近1か月で点眼を忘れてしまったことはありますか?□はい何回忘れましたか?□1回ぐらい□2回ぐらい□3回ぐらい□4回以上□いいえ②前の点眼に比べて点眼忘れは減りましたか?□減った□変わらない□増えた③その理由をお聞かせください。④前の質問で「はい」を選択した方へ。1.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前2.理由は何ですか?□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□さし心地□点眼瓶の操作性(さしにくい)□副作用□忙しい□その他()問2変更する前と比べて、眼の症状に変化はありましたか?①充血は?(ない012345ある)②刺激は?(ない012345ある)③かゆみは?(ない012345ある)④痛みは?(ない012345ある)⑤かすみは?(ない012345ある)⑥眼のくぼみは?(ない012345ある)⑦まつ毛の伸びは?(ない012345ある)問3①変更する前と後ではどちらが良いですか?□変更した後の方が良い□同じ□変更する前の方が良い②その理由をお聞かせ下さい(複数回答可)□1日の点眼回数が少ない□充血しない□しみない□かゆくない□痛くない□かすまない□点眼瓶が使いやすい□薬代が安い□その他図1変更前,変更後1カ月のアンケート図1に示す.変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月の視力,眼圧の比較にはCANOVA,変更前,変更後C1カ月の角膜・結膜スコア,自覚症状の比較には対応のあるCt検定,変更前,変更後C1カ月の点眼忘れの回数の比較にはCWilcoxonCsigned-rankCtestを用いた.統計解析ソフトはCJMP(Ver16.1)を使用し,すべての解析において危険率C5%未満を有意差ありと判断した.CII結果対象はC21例C30眼で,性別は男性C12例C17眼,女性C9例13眼であった.平均年齢はC68.8C±5.0歳であった.平均薬剤スコアはC4.6C±0.2点であった.Humphrey自動視野計中心プログラムC24-2の平均Cmeandeviation値はC.12.7±2.6CdBであった.病型の内訳は,原発開放隅角緑内障C13眼,落屑緑内障C7眼,続発緑内障C2眼,正常眼圧緑内障C2眼,血管新生緑内障C2眼,高眼圧症C2眼,原発閉塞隅角緑内障C1眼,小児緑内障C1眼であった(表1).logMAR視力は変更前C0.16C±0.56,変更後C1カ月C0.17C±0.58,変更後C3カ月C0.19C±0.60,GATによる眼圧は変更前Ca1.91.713.4±2.3CmmHg,変更後C1カ月C13.0C±3.4CmmHg,変更後C3カ月C14.0C±3.3CmmHgであった.視力,眼圧ともに,変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月の間で有意差を認めなかった(図2a,b).PG関連薬とCb遮断薬ごとの内訳では,タフルプロストからタフルプロスト/チモロールへの変更はC12眼表1対象(21例30眼)病型原発開放隅角緑内障落屑緑内障続発緑内障正常眼圧緑内障血管新生緑内障高眼圧症原発閉塞隅角緑内障小児緑内障13眼7眼2眼2眼2眼2眼1眼1眼性別(男/女)12例17眼C/9例13眼年齢C68.8±5.0歳薬剤スコアC4.6±0.2点Humphrey自動視野計中心プログラム24-2CMD値C.12.7±2.6CdBCNS20b1.5NS1510眼圧(mmHg)1.31.10.90.70.50.3logMAR視力50.1-0.1-0.30変更前変更後1カ月変更後3カ月変更前変更後1カ月変更後3カ月NSc20-0.5d20NS15101510眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)5500変更前変更後1カ月変更後3カ月変更前変更後1カ月変更後3カ月図2視力,眼圧の推移a:logMAR視力,Cb:GAT,Cc:タフルプロスト/チモロールへ変更したC12眼のCGAT,Cd:ラタノプロスト/チモロールへ変更したC13眼のCGAT.すべてにおいて変更前,変更後C1カ月,3カ月で有意差はなかった.(117)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1127a充血b刺激c掻痒感5NS5NS5NS4443331.71.721.2±1.7221.01.00.81.20.5±1.70.6±1.0111000-1-1-1変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月d疼痛e霧視fくぼみNS54NS55443331.51.51.3±1.22220.30.70.2±0.7111000-1-1-1変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月g睫毛の伸び5NS4321.01.80.5±1.210-1変更前変更後1カ月Pairedt-test図3自覚症状の変化すべての項目において変更前,変更後C1カ月で有意差はなかった.図4変更前後でどちらがよいかで,GATは変更前C13.0C±2.7CmmHg,変更後C1カ月C12.5C±3.0CmmHg,変更後C3カ月C13.5C±1.5CmmHgといずれも有意差はなかった(図2c).ラタノプロストからラタノプロスト/チモロールへの変更はC13眼で,GATは変更前C13.8C±2.2CmmHg,変更後C1カ月C12.9C±2.3CmmHg,変更後C3カ月C14.3±5.0CmmHgといずれも有意差はなかった(図2d).トラボプロストからトラボプロスト/チモロール,ラタノプロストからラタノプロスト/カルテオロールへの変更はそれぞれC2眼であり,統計解析は行わなかった.点眼変更後に新たに副作用を認めた症例はC6例(28.5%)あった.内訳は掻痒感C1例(4.8%),結膜炎C2例(9.5%),霧視C3例(14.3%)であった.掻痒感を自覚したC1例ではアイラミド配合懸濁性点眼液の中止を余儀なくされた.角膜スコアは,変更前C0.53C±0.92点,変更後C1カ月C0.43C±0.84点で,変更前後で有意差を認めなかった.結膜スコアは,変更前にC1点以上だった症例はC1眼のみで,変更前のC2点から変更後C1カ月でC1点になった.変更前,変更後C1カ月での自覚症状のアンケート結果を図3に示す.充血,刺激,かゆみ,痛み,かすみ,眼のくぼみ,まつげの伸びのすべての項目で,変更前後で有意差を認めなかった.変更後C1カ月のアンケートでは,「変更後が変更前よりもよい」がC75%,「変更前が変更後よりもよい」がC15%,「変更前後で同じ」がC10%であった(図4).患者の自己申告による点眼忘れの回数は,変更前C0.33C±0.71回,変更後C1カ月C0.09C±0.29回で,変更後に有意に点眼忘れの回数が減少した(p=0.043).III考按緑内障診療ガイドライン(第C4版)では,緑内障の多剤点眼は副作用の増加やアドヒアランスの低下につながることがあり,アドヒアランスの向上のために配合点眼液の使用も考慮すべきと提言している1).今回,久留米大学病院眼科で,PG関連薬,Cb遮断薬/CAI配合点眼液,Ca2刺激薬を含む多剤点眼を処方されていた緑内障患者に対し,配合点眼液をCb遮断薬/CAIのC1種類からCPG関連薬/Cb遮断薬とCa2刺激薬/CAIのC2種類に増やすことで,点眼数および点眼回数を減らすことを試みた.本研究では処方変更の前後で,視力,眼圧に有意な変化を認めなかった.ブリモニジン酒石酸塩とブリンゾラミドの薬剤の組み合わせにおいて,配合点眼液と単剤併用の比較で眼圧下降効果は同等であったことが報告されている2).また,PG関連薬とCb遮断薬の薬剤の組み合わせにおいて,トラボプロスト/チモロール,タフルプロスト/チモロールの配合点眼液ではそれぞれの単剤併用と比べて眼圧下降効果は同等であったが3,4),ラタノプロスト/チモロールの配合点眼液では単剤併用と比べて眼圧下降効果が劣っていたと報告されている5).チモロールの単剤がC1日C2回点眼であるのに対し,配合点眼液ではチモロールがC1日C1回点眼となるため眼圧下降効果が減弱する可能性が指摘されている6).今回の処方変更でもCb遮断薬の点眼回数が変更前のC2回から変更後はC1回と減っているが,処方変更後も同等の眼圧下降効果が得られたのは,点眼忘れの回数が有意に減少するなどアドヒアランスが改善したことも一因としてあるのではないかと思われる.配合点眼液による点眼回数の減少は,アドヒアランスの向上だけでなく,点眼液に含まれる防腐剤などによる角結膜上皮障害を軽減する効果も期待される.ただし,本研究での角膜・結膜スコアは変更前後で明らかな有意差を認めなかった.また,アンケート調査でも,充血,刺激,かゆみ,痛み,かすみ,眼のくぼみ,まつげの伸びのすべての項目で,自覚症状は変更前後で明らかな有意差を認めなかった.今回の処方変更に対するアンケート調査で,「変更後のほうがよい」と答えた症例はC75%であり,そのおもな理由は点眼回数の減少であった.一方で,「変更前のほうがよい」と答えた症例もC15%あり,そのおもな理由は霧視であった.緑内障点眼の耐えられない副作用の一つとして霧視をあげている報告もあり7),もともと懸濁液を含まない多剤点眼からアイラミド配合懸濁性点眼液を含む処方に変更する場合は,点眼後に一過性に霧視を自覚する可能性があることについて十分に説明する必要があると思われる.緑内障の点眼加療は,単剤投与から始めて目標眼圧に達しなければ薬剤変更あるいは追加を行うことが基本であるが,実際の臨床では多剤点眼を処方されている緑内障患者も多い.本研究の結果から,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液およびCa2刺激薬/CAI配合点眼液への処方変更による点眼数および点眼回数の減少は,点眼加療の効果とアドヒアランスを維持したうえで,患者の満足度向上にもつながる可能性があると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)Gandol.CSA,CLimCJ,CSanseauCACCetal:RandomizedCtrialCofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbri-monidineforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTherC31:1213-1227,C20143)InoueCK,CSetogawaCA,CHigaCRCetal:OcularChypotensiveCe.ectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%C.xedCcombinationCafterCchangeCofCtreatmentCregimenCfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthal-molC6:607-612,C20124)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科C32:133-143,C20155)QuarantaL,BiagioliE,RivaIetal:ProstaglandinanalogsandCtimolol-.xedCversusCun.xedCcombinationsCorCmono-therapyCforopen-angleCglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CJCOculCPharmacolCTherC29:382-389,C20136)WebersCA,BeckersHJ,ZeegersMPetal:TheintraocuC-larpressure-loweringe.ectofprostaglandinanalogscom-binedCwithCtopicalCbeta-blockertherapy:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.COphthalmologyC117:2067-2074,C20107)ParkCMH,CKangCKD,CMoonCJCetal:NoncomplianceCwithCglaucomaCmedicationCinCKoreanpatients:aCmulticenterCqualitativestudy.JpnJOphthalmolC57:47-56,C2013***

角膜移植・濾過手術既往眼に眼内炎を発症した1 例

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1119.1124,2022c角膜移植・濾過手術既往眼に眼内炎を発症した1例山中碧*1,2赤木忠道*1,3高橋綾子*1須田謙史*1亀田隆範*1池田華子*1三宅正裕*1長谷川智子*1辻川明孝*1*1京都大学大学院医学研究科眼科学教室*2京都桂病院眼科*3新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野CACaseofEndophthalmitisAfterPenetratingKeratoplastyandTrabeculectomyMidoriYamanaka1,2)C,TadamichiAkagi1,3)C,AyakoTakahashi1),KenjiSuda1),TakanoriKameda1),HanakoO.Ikeda1),MasahiroMiyake1),TomokoHasegawa1)andAkitakaTsujikawa1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofMedicine,KyotoUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoKatsuraHospital,3)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversityC目的:角膜移植・濾過手術後の唯一眼に眼内炎を発症した症例を報告する.症例:58歳,男性,両眼角膜変性症に対して全層角膜移植術の既往がありC16年前に両眼続発緑内障に対して濾過手術を施行されていた.X年末より感冒症状があり翌年C1月C2日に右眼霧視の増悪を自覚し京都大学医学部附属病院眼科を受診した.右眼視力は手動弁,左眼は光覚なし,右眼眼圧C10CmmHg.耳上側に無血管性の濾過胞とその周囲に強い結膜充血を認め,著明な角膜混濁のため前房内や眼底は透見不能だった.濾過胞感染と診断し,抗菌薬治療を開始するも超音波検査で硝子体混濁が増悪したためC1月C4日・9日に内視鏡併用硝子体手術を施行した.内視鏡下では虹彩の表面と網膜前面に多量のフィブリンを認めた.術後眼内炎は鎮静を得られ術後C3カ月時には右眼矯正視力はC0.08に改善した.結論:本症例では角膜混濁のために感染の波及範囲を把握することに難渋したが,眼内内視鏡併用硝子体手術により眼内炎の鎮静を得られた.CPurpose:Toreportacaseofendophthalmitisthatoccurredafterpenetratingkeratoplasty(PKP)andtrabec-ulectomy(TLE)C.Case:Thiscaseinvolveda58-year-oldmalewithahistoryofbilateralPKPforcornealdystro-phyandTLEforsecondaryglaucomawhopresentedattheendofayearwiththeprimarycomplaintofblurredvisioninhisrighteye(theonlyeyewithvision)followingcoldsymptomsandfever.Theobservedischemicblebwithconjunctivalhyperemiasuggestedblebinfection.Theposteriorsegmentoftheeyecouldnotbeobservedduetocornealopacity.Despitetreatmentwithanintravitrealantibioticinjection,theechointensityinthevitreouspro-gressed.CEndoscopicCvitrectomyCperformedConCJanuaryC4,CrevealedCmassiveC.brinConCtheCirisCandCretina.CAtC3-monthsCpostoperative,CtheCinfectionCwasCcontrolledCandCvisualCacuityChadCimprovedCtoC0.08.CConclusion:Endo-scopicvitrectomyisausefulmethodforthetreatmentofendophthalmitisreultingfromblebitiswithcornealopaci-ty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1119.1124,C2022〕Keywords:濾過胞感染,角膜混濁,眼内炎,眼内内視鏡.blebinfection,cornealopacity,endophthalmitis,endo-scopicvitrectomy.Cはじめに全層角膜移植術の術後は,周辺虹彩前癒着や移植片に対する拒絶反応防止のためのステロイド使用などにより眼圧が上昇し,続発緑内障を発症するリスクがある1,2).緑内障に対する手術治療ではステロイドの影響が大きい患者などでは線維柱帯切開術などの流出路再建術が奏効することもあるが,実際には濾過手術を要することも少なくない3).濾過手術後の感染は視機能予後に大きく影響する重篤な合併症であるが,線維柱帯切除術後に濾過胞感染を発症する確率はC5年間でC2.2%,あるいはC10年間でC2%と報告されており,まれならず発症しうることに注意が必要である4,5).一方で,角膜混濁の高度な症例で濾過胞感染が疑われた場合,眼内への炎〔別刷請求先〕須田謙史:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町C54京都大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:KenjiSuda,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine,54Kawahara-cho,Shogoin,Sakyo-ku,Kyoto606-8507,JAPANC図1初診時の右眼前眼部および超音波Bモード所見a:初診日の前眼部所見.角膜および前房内は混濁していた.Cb:初診日の眼球結膜所見.耳上側に無血管性の濾過胞を認め,周囲は強い充血を認めた.Cc:初診日の超音波CBモード所見.軽度の硝子体混濁を認めた.Cd:初診C2日後の超音波CBモード所見.後極部に高輝度な膜様構造物を認めた.症波及を正確に診断することがむずかしいことが問題点としてあげられる.今回,角膜移植後の唯一眼に施行された線維柱帯切除術後に眼内炎を発症した患者を経験したので報告する.CI症例患者:58歳,男性.主訴:右眼霧視,右眼視力低下.現病歴:小児期より両眼角膜変性症があり,両眼とも複数回の全層角膜移植術の既往があった.25年前に右眼に白内障手術が施行され右眼無水晶体眼となった.16年前に両眼の続発緑内障に対して線維柱帯切除術が施行されたが,左眼は眼圧コントロール不良でC9年前に光覚なしとなっていた.右眼は無水晶体眼用コンタクトレンズを日常装用しており,近医にて定期的に通院加療中であった.右眼矯正視力はC0.2であった.X年C12月C27日頃より感冒症状,発熱がありCX+1年C1月C2日に右眼霧視の増悪を自覚し急病診療所を受診し即日京都大学医学部附属病院眼科(以下,当科)紹介受診となった.当科初診時現症:右眼視力は手動弁,右眼眼圧はC10mmHgであった.角膜には混濁と著明な結膜血管の侵入を認め,前房内にはフィブリンと思われる混濁を認めた.耳上側に無血管性の濾過胞とその周囲に強い結膜充血を認め(図1a,b),濾過胞からは房水の漏出を認めた.著明な角膜混濁のため眼底は透見不能であり,超音波CBモード検査では軽度の硝子体混濁を認めた(図1c).血液検査では白血球数は8,070/μl(好中球C79%),CRP6.1Cmg/dlと高値を認め,プロカルシトニン弱陽性(0.062Cng/ml)だった.経過:濾過胞感染を疑い眼脂,前房水,血液より検体を採取し培養に提出した後,バンコマイシン塩酸塩(VCM,10図2内視鏡併用硝子体手術中の眼内所見a:初回手術時の前房内所見.内視鏡下では虹彩の表面に多量のフィブリンを認めた(C.).b:初回手術時の眼底所見.網膜前面にも多量のフィブリンを認めた.Cc:再手術時の広角眼底観察システム下での前眼部所見.Cd:再手術時の広角眼底観察システム下での眼底所見.硝子体腔に多量のフィブリンを認めた.前房内のフィブリンを除去することにより,広角眼底観察システムでも後極部は観察可能となった.視神経乳頭の色調は良好であった.e:再手術時の内視鏡下での周辺部網膜所見.一部の網膜血管の白線化を認めた.mg/ml,0.1Cml),セフタジジム水和物(CAZ,20Cmg/ml,0.1Cml)の前房内注射を行いモキシフロキサシン塩酸塩,セフメノキシム塩酸塩のC1時間おきの点眼およびCVCM1g/日,CCAZ1g×2/日の静脈内投与を開始した.しかしC2日後(1月C4日)の超音波CBモード検査で硝子体腔内のエコー輝度の上昇を認めたため(図1d),同日緊急で内視鏡併用硝子体切除術を施行した.内視鏡下では虹彩の表面と網膜前面に多量のフィブリンを認めたためこれらをC25ゲージ硝子体カッターで可及的に切除した(図2a,b).1月2日に採取した前房水培養からインフルエンザ桿菌を同定したためC1月C4日に感受性に合わせて静脈内投与の抗菌薬をセフトリアキソンナトリウム水和物(CTRX)2CgC×2/日に変更した.また,1月C5日からはC36時間おきにCVCM(10mg/ml,0.1Cmg),CAZ(20Cmg/ml,0.1Cmg)を硝子体内注射していたが,再び透見性が悪化し,炎症の増悪が疑われたため,同月C9日に内視鏡併用硝子体手術および濾過胞切除を施行した.内視鏡下で硝子体腔に多量のフィブリンを認め,一部の網膜血管の白線化を認めたが,視神経乳頭の色調は比較的良好だった(図2c,d,e).術中に網膜裂孔形成を認めたため裂孔周囲に網膜光凝固を施行し,シリコーンオイルを留置した.2回目の硝子体手術後,眼内炎は鎮静を得られ,硝子体ならびに眼底の透見性は改善した(図3).1月C15日に抗菌薬静脈内投与を終了した.2月C27日にシリコーンオイル抜去.術後C3カ月時には右眼眼圧はC7mmHg,右眼矯正視力はC0.08に改善した.しかし,術後C1年C3カ月が経過したころより移植片の混濁が進行し,右眼矯正視力がC0.03に低下,右眼眼圧がC17CmmHg程度に上昇した.眼圧下降剤(タフルプロスト,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼)を使用するも右眼眼圧C22CmmHgに上昇し,術後C2年C3カ月時にマイクロパルス毛様体光凝固術を施行した.X+3年3月(最終受診時),右眼矯正視力はC0.03,右眼眼圧はC12CmmHg(タフルプロスト,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼下),角膜混濁に対する角膜移植術を検討している.本症例の治療経過を図4に示す.図3術後の右眼前眼部・後眼部所見a:再手術C12日後の前眼部所見,Cb:再手術C1年後のCGoldmann視野検査,Cc:再手術C12日後の眼底所見,Cd:再手術C23日後の眼底COCT画像.眼底の透見性は改善した.(mmHg)30X+3年3月26日MP-CPC25X+1年1月4日X+1年1月9日X+1年2月27日0.07vitrectomyPPV+濾過胞切除+SOSO抜去x+3年203/27時点0.05眼圧15VCM,CAZ前房内投与VCM,CAZ硝子体内投与右矯正視力0.030.030.01右眼圧1012mmHg指数弁5手動弁光覚便0x+1年1/21/41/91/214/1x+2年x+3年VCM+CAZdivCTRXdiv2/32/22図4本症例の治療経過矯正視力当院初診時からの右眼矯正視力(橙折れ線)および右眼眼圧(青折れ線)の推移,および施行した投薬・手術の内容を示す.CAZ:セフタジジム水和物,CMX:セフメノキシム塩酸塩,CTRX:セフトリアキソンナトリウム水和物,MFLX:モキシフロキサシン塩酸塩,MP-CPC:マイクロパルス毛様体光凝固術,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術,SO:シリコーンオイル,VCM:バンコマイシン塩酸塩.II考按本症例はC16年前に施行された線維柱帯切除術で作製された濾過胞からの感染による眼内炎と診断した.本症例には濾過手術の他に複数回の全層角膜移植術の既往,無水晶体眼であり長期のコンタクトレンズ装用の既往,当院受診数日前からの発熱などの要素が随伴していた.鑑別診断としては濾過胞感染の他に1)角膜移植術後の移植片感染や拒絶反応,2)コンタクトレンズ装用に伴う角膜潰瘍,3)内因性眼内炎などが考えられた.角膜移植術後の移植片感染に関しては,移植後C12カ月経過してから感染したという報告がある6).また,移植片の拒絶反応に関しては緑内障手術後にはそのリスクが上昇することも指摘されており,マイトマイシンCCの使用や前房内サイトカインの上昇,血液前房関門の破綻などがその理由として考えられている2).しかし,移植手術から数十年が経過していること,また,前眼部の所見からも移植片感染や拒絶反応を積極的に疑う状態ではなかった.コンタクトレンズ装用に伴う角膜感染の可能性に関しても,角膜上皮欠損を伴っていなかったために否定的であった.内因性眼内炎に関しては初診時の血液検査にてCCRPに高値を認めたものの白血球数の増加が軽微であることから積極的には疑わなかった.図1aで示したように,耳上側の無血管性濾過胞,その周囲の結膜充血および濾過胞からの房水漏出の所見から,濾過胞感染の可能性がもっとも高いと考えた.濾過胞感染のおもなリスクは房水漏出および年齢が若いことであると報告されている4).本症例も初診時に房水漏出を認め,またC58歳と比較的若年であったため感染のリスクは高かったと考えられる.房水漏出に関連した因子としては,無血管性濾過胞であったこと,コンタクトレンズを装用していたことがあげられる.Kimらの報告では濾過胞感染を発症したC24眼のうちC22眼が無血管性濾過胞を有しており5),無血管性濾過胞と濾過胞感染に密接な関連があることが示唆されている.また,Ex-PRESS挿入後の濾過胞感染の報告ではC5例中C2例がコンタクトレンズ装用眼であった(1例が円錐角膜のためにハードコンタクトレンズを,もうC1例が強度近視のためにソフトコンタクトレンズを装用していた)7).いずれの症例でも濾過胞からの房水漏出を認めており,コンタクトレンズによる機械的刺激が房水漏出や濾過胞感染の引き金になっていると考えられるが,コンタクトレンズ表面に形成されるバイオフィルムが細菌感染に関与している可能性も推察されている8).濾過胞感染症はCStageIからCStageIIIbまでのC4段階に分類される4).StageIは濾過胞炎,StageIIは濾過胞炎に加え前房内波及を認めるもの,StageIIIは硝子体内波及を認めるものと定義され,抗菌薬の硝子体内注射や抗菌薬全身投与が選択される.とくに硝子体内波及が高度なものはCStageIIIbと定義され,硝子体混濁が高度であれば速やかに硝子体手術を行う必要がある.本症例では細隙灯顕微鏡所見からは前房内波及は確実であったが,角膜移植術後の角膜混濁が高度であることも影響し硝子体内波及の程度が不明であった.ただし無水晶体眼であることは感染の前房内波及がすなわち硝子体内波及も意味するため,StageIII以上という判断が妥当と考えられた.StageIIIbであれば速やかな硝子体手術が必要と考えられたが,超音波CBモードで硝子体混濁が軽度と判断したこと(図1c),また,角膜混濁眼であるため硝子体手術中の眼内観察が困難であることが予想され,年末年始の休暇中であり人手や器材の十分な確保ができなかったことから,抗菌薬の眼内注射を行う方針とした.StageIIIaでは硝子体内注射を行うことになっているが,無水晶体眼であること,これまでの病歴や手術内容・手術回数の詳細が不明であり濾過胞の数や範囲が特定できなかったことから,抗菌薬は前房内を通じて硝子体側に向けて注射を行った.角膜混濁を合併している患者に硝子体手術を行う際にはいくつかの選択肢が考えられる.大別すると,1)角膜混濁を除去してから硝子体手術を行う(全層角膜移植術との同時手術9),一時的人工角膜の使用10)),2)眼内視認性を向上させるデバイスを使用する(広角観察系システム,眼内内視鏡など)となるが,当院では角膜移植治療を行っておらず,後者しか選択することができなかった.また,昨今日進月歩の改良が行われている広角観察系システムを使用することで本症例でもある程度の眼内観察を行うことができたが(図2c,d)十分な視認性は得られなかったため,眼内内視鏡を併用することとなった(図2e).DeSmetらの眼内炎に関する症例集積研究では,眼内内視鏡が濾過胞感染に対する手術にも使用されており,最終的には眼球摘出を余儀なくされた症例もあった一方で,視機能改善を得られた症例も報告されている11).また,Daveらは角膜混濁を伴う眼内炎の治療に眼内内視鏡を利用し,82%の症例で不要な角膜移植術を回避できたと報告している12).緑内障診療で三次医療を担う施設においては重度の角膜混濁を伴う濾過手術症例が取り扱われることも多いため,角膜混濁を伴うCStageIIIの濾過胞感染に対する対応を常日頃から準備しておくことが望ましい.今回,角膜移植・濾過手術後の唯一眼に眼内炎を発症した症例を経験した.年末年始の休暇中に初診として来院されたため初期対応に難渋したが,眼内内視鏡を併用した硝子体手術により眼内炎は鎮静を得られ,視機能を残存させることができた.角膜混濁を伴う濾過胞感染はまれであるが緊急的に対応を行う必要があるため,常日頃から眼内炎の対応を準備しておくことが望ましい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BanittCM,CLeeRK:ManagementCofCpatientsCwithCcom-binedCglaucomaCandCcornealCtransplantCsurgery.CEye(Lond)C23:1972-1979,C20092)KornmannH,GeddeS:Glaucomamanagementaftercor-nealCtransplantationCsurgeries.CCurrCOpinCOphthalmolC27:132-139,C20163)IshiokaM,ShimazakiJ,YamagamiJetal:Trabeculecto-mywithmitomycinCforpost-keratoplastyglaucoma.BrJOphthalmolC84:714-717,C20004)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CCollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20145)KimCEA,CLawCSK,CColemanCALCetal:Long-termCbleb-relatedCinfectionsCaftertrabeculectomy:Incidence,CriskCfactors,CandCin.uenceCofCblebCrevision.CAmCJCOphthalmolC159:1082-1091,C20156)ChenCH-C,CLeeCC-Y,CLinCH-YCetal:ShiftingCtrendsCinCmicrobialCkeratitisCfollowingCpenetratingCkeratoplastyCinTaiwan.Medicine(Baltimore)C96:e5864,C20177)YarovoyD,RadhakrishnanS,PickeringT-Detal:Blebi-tisCafterCEX-PRESSCglaucomaC.ltrationCdeviceCimplanta-tion-Acaseseries.JGlaucomaC25:422-425,C20168)ZegansME,BeckerHI,BudzikJetal:Theroleofbacte-rialCbio.lmsCinCocularCinfections.CDNACCellCBiolC21:415-420,C20029)DaveCA,CAcharayaCM,CAgarwalCMCetal:OutcomesCofCcombinedCkeratoplastyCandCparsCplanaCvitrectomyCforCendophthalmitisCwithCcompromisedCcornealCclarity.CClinCExperimentOphthalmolC47:49-56,C201910)KimCSH,CKimCNR,CChinCHSCetal:EckardtCkeratoprosthe-sisCforCcombinedCparsCplanaCvitrectomyCandCtherapeuticCkeratoplastyinapatientwithendophthalmitisandsuppu-rativeCkeratitis.CJCCataractCRefractCSurgC46:474-477,C202011)DeCSmetCMD,CCarlborgEAE:ManagingCsevereCendo-phthalmitiswiththeuseofanendoscope.RetinaC25:976-980,C200512)DaveCV,CPappuruCR,CKhaderCMCetal:EndophthalmitisCwithCopaqueCcorneaCmanagedCwithCprimaryCendoscopicCvitrectomyCandsecondaryCkeratoplasty:PresentationsCandoutcomes.IndianJOphthalmolC68:1587-1592,C2020***

プロスラグランジン関連薬投与有無別Trabeculotomy Ab Interno,白内障同時手術成績

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1114.1118,2022cプロスラグランジン関連薬投与有無別TrabeculotomyAbInterno,白内障同時手術成績市岡伊久子市岡博市岡眼科CComparingtheResultsofTrabeculotomyAbInternoCombinedwithCataractSurgerywithorwithoutPreoperativeProstaglandinGlaucomaMedicationIkukoIchiokaandHiroshiIchiokaCIchiokaeyeclinicC目的:術前プロスタグランジン関連薬(以下,PG)点眼がCtrabeculotomyabinternoの術後成績に影響するか否かを後ろ向きに調査した.対象および方法:Trabeculotomyabinterno+白内障手術を施行しC1年以上経過観察した患者のうち,術前にCPGを使用していないC26人C26眼をCPG(.)群,術前にCPGを使用していたC67人C67眼をCPG(+)群として,点眼前,術前眼圧,Humphrey視野CMD値,術C1年後眼圧,生存率(点眼再開なくC15CmmHg未満を生存とする)につき調査した.結果:眼圧は術前,術後ともCPG(.)群,PG(+)群間に有意差を認めなかったが,術前→C1年後眼圧,下降眼圧(%)はCPG(.)群がC15.4±4.0C→C12.1±2.5,3.7±3.6(24%),PG(+)群がC14.3±2.6C→C12.0±2.6,C2.3±3.1(16%)とCPG(.)群の眼圧下降が大きく,6カ月目まで下降眼圧に有意差を認めた(p<0.05).術後C1年目までの点眼開始例はCPG(.)群はC0眼,PG(+)群C12眼に認めたが,生存率に有意差は認めなかった(p=0.072).結論:PG(.)群のほうがCPG(+)群に比し下降眼圧が大きく,PG(+)群に点眼薬再開例が多く,trabeculotomyCabCinterno+白内障手術は術前CPG点眼をしていない患者のほうが予後がよいと思われた.CPurpose:ToCretrospectivelyCcompareCintraocularpressure(IOP)loweringCe.cacyCinCeyesCthatCunderwenttrabeculotomy(LOT)abinternocombinedwithcataractsurgerywithorwithoutpreoperativeprostaglandin(PG)Cglaucomamedication.SubjectsandMethods:Thisretrospectivestudyinvolved93eyesof93patientsthatunder-wentLOTabinternocombinedwithcataractsurgerywithPGglaucomamedication[PG(+),67eyes]andwith-outCPGCglaucomamedication[PG(.),C26eyes]administeredCpriorCtoCsurgery.CInCallC93Ceyes,CweCreviewedCIOP(mean±SD)atbaselineandat1-yearpostoperative,aswellasthepercentagerateofglaucomamedicationadmin-isteredpostsurgery.Results:Nosigni.cantdi.erenceofpre-andpostoperativeIOPwasfoundbetweenthetwogroups.CAtC1-yearCpostoperative,CmeanCIOPCinCthePG(+)groupChadCdecreasedCfromC14.3±2.6CmmHgCtoC12.0±2.6CmmHg[i.e.,C2.3±3.1CmmHg(16%)],CwhileCthatCinCthePG(.)groupChadCdecreasedCfromC15.4±4.0CmmHgCtoC12.1±2.5mmHg[i.e.,3.7±3.6CmmHg(24%)].Asigni.cantdi.erenceofIOPdecreasewasfoundbetweenthetwogroupsupuntil6-monthspostoperative(p<0.05).InthePG(+)groupandPG(.)group,thepercentagerateofglaucomamedicationadministrationpostsurgerywas7%and0%,respectively(p=0.072).CConclusion:Postsur-gery,Csigni.cantCIOPCdecreaseCandCaClowerCpercentageCrateCofCglaucomaCmedicationsCusedCwasCobservedCinCbothCgroups,yetbetteroutcomeswerefoundinthePG(.)group.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1114.1118,C2022〕Keywords:緑内障手術,線維柱帯切開術眼内法,眼圧,プロスタグランジン関連薬,線維柱帯切開術術後成績.Cglaucomasurgery,trabeculotomyabinterno,intraocularpressure,prostaglandinglaucomamedication,successrateoftrabeculotomy.C〔別刷請求先〕市岡伊久子:〒690-0003島根県松江市朝日町C476-7市岡眼科Reprintrequests:IkukoIchioka,M.D.,Ichiokaeyeclinic,476-7Asahi-machi,Matsue,Shimane690-0003,JAPANC1114(104)はじめに低侵襲眼圧下降手術,minimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery(MIGS)の一つとして線維柱帯切開術眼内法(trabecu-lotomyCabinterno.以下,LOTCabinterno)が白内障手術との同時手術として普及してきている.当院でも緑内障点眼薬投与中の白内障手術時には眼圧コントロール良好例であっても点眼薬を中止,減少させる目的でCLOTabinternoを同時に施行しているが,術前点眼内容により術後効果に差があると思われた.緑内障ガイドライン1)では開放隅角緑内障は目標眼圧を設定し単剤より眼圧下降薬を投与し,多剤投与にて眼圧コントロール不良,または視神経,視野所見の悪化を認めるときに手術を考慮するとされている.また,点眼薬についてはプロスタグランジン関連薬(以下,PG薬)がもっとも優れた眼圧下降効果,点眼回数より第一選択薬として使用されていると記載されている.LOTCabinterno手術時,PG薬使用期間が長い患者では線維柱帯切開術時の血液逆流が少ない印象がある.PG薬はぶどう膜強膜流出路である副流出路の流出を増加させる点眼薬2.3)だが,主経路に対してはむしろ流出低下をきたす可能性も考えられる4).主経路再建術であるCLOTabinternoがCPG薬投与により手術効果が低下するかどうかを調査した報告はない.今回当院でのCLOTCabinterno手術成績をCPG薬投与の有無別に後ろ向きに調査し,1年後までの成績を比較検討した.CI対象および方法対象は当院で2016年2月.2019年12月にLOTCabinternoと白内障手術を同時施行したC93人(男性C30人,女性C63人)で,平均年齢C75.4C±7.8歳である.術前にCPG薬を投与していたCPG(+)群C67眼とCPG薬を投与していないCPG(.)群C26眼に分けた(合計C93眼,右眼C52眼,左眼C41眼).両眼手術例は先に手術を施行した眼のデータのみ使用した.手術はすべて同一術者により施行された.眼内レンズ挿入後に上方切開創よりCShinskyフック(直)を挿入し,SwanJacobゴニオプリズムを用い下方約90°の線維柱帯を切開した.術前,術後C1.3,6,12カ月後の眼圧と眼圧下降薬数,術後合併症,再手術の有無を後ろ向きに調査した.また,点眼薬投与前のベースライン眼圧,初診時と術前のCHum-phrey視野Cmeandeviation(MD)値についても調査した.術前術後の眼圧をCFriedman検定を用い評価,術後C1年間の眼圧下降幅を群別に比較検討(Mann-WhitneyU検定),PG(.)群の術前点眼薬別についても調査,検討した(Kruskal-Wallis検定).術後の投薬は全例いったん眼圧下降薬をすべて中止し,眼圧がC15CmmHgを超えた時点,または光干渉断層計(OCT)や静的視野検査で明らかな進行を認めた時点で点眼薬を再投与,追加しており,術前CPG薬の有無別に術後点眼薬を開始した場合を死亡と定義し,Kapran-Meierの生存曲線およびCLogranktestを用い評価した.調査については島根県医師会倫理審査委員会の承認を得た.CII結果PG(C.)群は緑内障点眼薬投与なしC6眼,イソプロピルウノプロストンC13眼,Cb遮断薬7眼の計26眼でCPG(+)群は全例プロスタグランジンCF2Ca誘導体(PG)薬C1剤使用例67眼である.PG(C.)群とCPG(+)群の年齢,初診時と術前のCHumphrey視野CMD,点眼前眼圧,術前眼圧を表1に示す.年齢,初診時CMD,術前CMD値に両群で有意差はなく,点眼前ベースライン眼圧(mmHg)はCPG(C.)群C17.4C±4.6,PG(+)群C18.0C±3.2とCPG(+)群が高く,術前眼圧(mmHg)はCPG(C.)群C15.4C±4.0,PG(+)群C14.3C±2.6とPG(C.)群のほうが高めだが,点眼前眼圧,術前眼圧ともに2群に有意差は認めなかった(Mann-WhitneyU検定).術後1年の眼圧はPG(C.)群C12.1C±2.5,PG(+)群C12.0C±2.6,計C12.0C±2.6CmmHgで両群とも術後C1カ月からC1年目まで術前とは有意な眼圧低下を認めた(p<0.01,Friedman検定).術後C1.6カ月までCPG(C.)群の平均眼圧がCPG(+)群よりやや低かったが両群の眼圧に有意差はなかった(図1).平均下降眼圧はCPG(+)群に比しCPG(C.)群で大きく,術後C6カ月間は下降眼圧に有意差を認めた(1,2カ月Cp<0.01,3,6カ月p<0.05,Mann-WhitneyU検定)(図2).表1PG(.)群とPG(+)群の背景年齢(歳)初診時CMDHumphrey視野術前CMDHumphrey視野点眼前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)PG(C.)群(2C6眼)C72.7±7.8(49.82)C.3.2±4.9(.14.4.+1.5)C.4.8±5.2(.17.6.+1.2)C17.4±4.6(8.26)C15.4±4.0(9.26)PG(+)群(6C7眼)C76.5±7.6(59.91)C.2.7±3.2(.11.5.+3.5)C.4.9±4.5(.20.4.+0.5)C18.0±3.2(11.24)C14.3±2.6(9.20)CMann-WhitneyU検定Cp=0.98Cp=0.57Cp=0.20Cp=0.95Cp=0.21年齢,初診時,術前CMD,点眼前眼圧,術前眼圧すべてで両群間に有意差を認めなかった.(Mann-WhitneyU検定)(105)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1115p<0.01(Friedman検定)図1PG薬有無別点眼前,術前,術後の眼圧経過両群とも術後C1カ月からC1年目まで術前とは有意な眼圧低下を認めた(p<0.01,Friedman検定).**:p<0.01(Mann-WhitneyU検定)*:p<0.05(Mann-WhitneyU検定)図2PG点眼薬有無別の眼圧経過平均下降眼圧幅はCPG(+)群に比しCPG(C.)群で大きく,術後C6カ月目まで平均下降眼圧に有意差を認めた.(1,2カ月p<0.01,3,6カ月p<0.05,Mann-WhitneyU検定)1年後の平均下降眼圧はCPG(C.)群がC3.7C±3.6,PG(+)群がC2.3C±3.1,計C2.7C±3.3CmmHgとCPG(C.)群はC24%,PG(+)群はC16%,全体でC18%の眼圧下降率であった.なお,PG(C.)群の内訳別C1年後下降眼圧は術前降眼圧薬なし(6眼)4.2C±5.0CmmHg,イソプロピルウノプロストン±7.遮断薬(6眼)3Cb1.9mmHg,C±(11眼)3.65.0mmHgでC術前点眼薬を使用していない例で下降眼圧が大きいが症例数が少なく,内訳別の下降眼圧に有意差は認めなかった(Krus-kal-Wallis検定).点眼薬は術前平均C0.96剤が術C1年後C0.1剤となり,1年後にCPG(C.)群では点眼薬を再投与した例はなく,PG(+)群ではC8眼にC1剤,4眼にC2剤再投与していた.生存率分析では点眼薬投与していない生存率はCPG(C.)群C100%,PG(+)群C93%でありCLogrank検定でCp=0.072で有意差は認めなかった(図3).術後合併症は術後C20CmmHg以上の一過性眼圧上昇をCPG(C.)群ではC26眼中C1眼,PG(+)群ではC67眼中C7眼に認め,術後早期の前房洗浄施行例がCPG(+)群にC1眼あった.両群とも他の合併症や追加緑内障手術が必要になった例はなかった.CIII考按LOTCabinternoはC2017年にCTanitoらが眼内から施行する,MIGSとして報告した方法で,白内障手術との同時手術成績で眼圧がC16.4C→C11.8CmmHg(28%),投薬数C2.4C→C2.1剤と報告した5).近年白内障手術との同時手術として一般的になってきていると思われる.今回の手術成績は術後C1年で2.7CmmHg,18%の眼圧下降,0.96C→C0.1剤への投薬減少と既報5,6)と遜色のない効果を得ていた.今回,後ろ向き調査のため術前CPG薬の有無はランダムに点眼薬を振り分けているわけではないがCPG薬非投与群は初回点眼薬選択の際あえてCPG薬を避けイソプロピルウノプロストン,Cb遮断薬(カルテオロール)を意図的に処方していた例である.また,術前点眼薬を投与していない症例は白内障による視力低下を初診時より認めた緑内障例で,点眼薬を開始せず早期に同時手術を施行した例である.PG(C.)群C26眼,PG(+)群C67眼と症例数に差があるが,初診時眼圧,初診時CHumphrey視野CMD値,術前眼圧,術前CMD値はC2群に有意差は認めなかった.中等度進行例も含まれるがおもにC1剤点眼投与症例で軽度から中等度の緑内障であり,LOTabinternoのよい適応例と思われる.術後は両群とも術前に比し有意な眼圧下降を認めた.1年後下降眼圧はCPG(C.)群がC3.7C±3.6CmmHg(24%),PG(+)群がC2.3±3.1CmmHg(16%)とCPG(C.)群に良好な眼圧下降を認めた.1年間の術後眼圧は両群に有意差を認めず,PG(C.)群の眼圧下降効果はCPG(+)群のPG薬+LOTCabCinterno効果に相当すると思われた.しかし,1年間に眼圧がC15mmHg未満で点眼薬を再開しなかった生存率がCPG(C.)群100%,PG(+)群C93%で,症例数の違いもありCp=0.072と有意差を認めなかったが,PG(C.)群のほうが術後のコントロールが良好だと思われた.術前点眼薬別の術後一過性眼圧上昇,前房出血については線維柱帯切開術の特徴として一定の割合できたす可能性があるが,両群とも追加緑内障手術が必要になった例はなかった.今回降眼圧薬を投与していなかったC6眼は平均C4.2CmmHgともっとも良好な眼圧降下を得た.PG(C.)群中では点眼薬投与なし,Cb遮断薬,イソプロピルウノプロストン順に眼圧下降を認めたが,症例数の違いもあり有意差は認めなかった.イソプロピルウノプロストンはCPG関連薬ではあるが,イオンチャンネル開口薬で緑内障患者の主経路からの房水流出の促進効果があるとされている.Cb遮断薬点眼例も術後下降眼圧が大きく,PG薬以外の点眼薬は眼圧下降効果が少ないため,手術効果が高かった可能性がある.TanitoらもCLOTabinterno効果は術前眼圧が高い群で下降率が高いことを報告6)しており,PG薬投与群のほうが術前眼圧が低いことが効果が劣る一因と思われた.筆者らは以前,術前点眼薬別に術後眼圧を調査しており,点眼薬数が多いほど術後眼圧が高い傾向があり,点眼薬を使1.00.80.60.40.20.0TimeNumberatriskPG(-)25242424232323PG(+)67666161555555p=0.072(Logrank検定)図3PG薬有無別生存率PG(C.)群では点眼薬を再開した例はなく,眼圧C15CmmHgで点眼薬を再開した例を死亡とすると生存率はCPG(C.)群C100%,PG(+)群はC3%であったが,両群に有意差は認めなかった.(p=0.072,Logrank検定)用していなかった例では,点眼薬C1剤,2剤使用例と下降眼圧に有意差を認めることを報告した7).今回の結果では,点眼薬C1剤使用例でもCPG(C.)群は(+)群に比し下降眼圧が有意に大きいだけではなく,術後C1年間の点眼薬開始も抑えられていた.線維柱帯を経由する房水排出は圧依存性でコントロールされていることが知られている8).PG薬は緑内障ガイドラインからも第一選択薬とされており,もっとも良好な眼圧下降効果が得られる薬剤であるが,奏効機序はぶどう膜強膜流出促進である2,3).TrueGabeltBAらはサルの実験でCPG薬使用によりぶどう膜強膜流出が増加し眼圧が下降するが線維柱帯を経由する房水流出量はコントロールに比し1/3程度に減少すると報告している4).緑内障の原因として傍CSchlemm管結合組織での細胞外マトリクス蓄積,線維柱帯細胞の虚脱,Schlemm管の狭小化などが多数報告されており8.10),このような変化は徐々に悪化すると思われる.また,Grieshaberらは線維柱帯以降の流出路の機能の悪化がcanaloplastyの効果に影響すると報告11),Hannらは開放隅角緑内障ではCSchlemm管と集合管に狭小化を認めることを報告12)している.Johnsonらは濾過手術後にCSchlemm管狭窄がみられることを報告し,房水が線維柱帯,Schlemm管を迂回し濾過胞に流出することで傍CSchlemm管結合組織,集合管への細胞外マトリックスの異常沈着が起きることを報告している13).PG薬も主流出路の流出量が減少し,同様の変化をきたしている可能性が考えられる.また,プロスタグランジンCFC2aはCFP受容体に作用し肺線維症の原因となるProbability024681012という報告14)もあり,PG薬投与による主経路に対する長期の組織変化については不明だが,線維柱帯の流出障害の一因となっている可能性も考えられる.2019年,Gazzardらは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClaserCtrabeculo-plasty:SLT)と点眼治療を比較し,治療後C3年でCSLT群74.2%は点眼追加なしで目標眼圧を達成し,SLT群(93%)は点眼薬群(91.3%)より多い症例で目標眼圧を達成,緑内障追加手術が必要であった例はCSLT群C0例に対し点眼薬群11例だったと報告している15).房水流出主経路の治療として早期治療がより良好な結果を得られるという点では今回のLOTabinternoの手術結果と類似している.以前より線維柱帯切開術は外側切開で施行されており,術前眼圧はC20CmmHg以上の例に施行することが多く,術後眼圧はC12.16CmmHgの報告が多いが,線維柱帯,Schlemm管,また集合管.上強膜静脈までの流出路機能障害の程度によって結果が左右されると思われる.PG薬は眼圧下降作用が強く緑内障治療として必要不可欠な薬ではあるが,白内障合併例などでは房水流出主経路の機能低下が悪化する前に早期のCLotCabinternoも選択に入れると良好な効果が得られる可能性があると思われた.今回CPG薬使用有無の両群の症例数に差があり,前向き試験ではないため点眼薬選択基準もランダムではない可能性があった.また,点眼薬投与せずに手術した症例も少なく,経過観察期間がC1年と短いため,PG点眼薬の有無や点眼薬投与なしでの手術効果の検証をするには症例数を増やし調査,検討する必要があると思われた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)CrawfordCK,CKaufmanPL:PilocarpineCantagonizesCpros-taglandinCF2Calpha-inducedCocularChypotensionCinCmon-keys.Evidenceforenhancementofuveoscleralout.owbyprostaglandinCF2Calpha.CArchCOphthalmolC105:1112-1116,C19873)NilssonSFE,SamuelssonM,BillAetal:Increaseduveo-scleralout.owasapossiblemechanismofocularhypoten-sionCcausedCbyCprostaglandinCF2Calpha-1-isopropylesterCinCtheCcynomolgusCmonkey.CExpCEyeCResC48:707-716,C1989C4)TrueCGabeltCBA,CKaufmanPL:ProstaglandinCF2aincreasesCuveoscleralCout.owCinCtheCcynomolgusCmonkey.CExpEyeResC49:389-402,C19895)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaE:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20176)TanitoCM,CSugiharaCK,CTsutsuiCACetal:E.ectsCofCpreop-erativeCintraocularCpressureClevelConCsurgicalCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy.CJCClinCMedC10:C3327,C20217)市岡伊久子,市岡博:TrabeculotomyCAbInterno,白内障同時手術の術後C1年の成績,術前術後の点眼数の変化より.あたらしい眼科38:1085-1089,C20218)StamerWD,AcottTS:Currentunderstandingofconven-tionalCout.owCdysfunctionCinCglaucoma.CCurrCOpinCOph-thalmolC23:135-143,C20129)VecinoE,GaldosM,BayonAetal:Elevatedintraocularpressureinducesultrastructuralchangesinthetrabecularmeshwork.CJCCytolCHistolCS3,doi:10,C4172/2157-7099,C201510)YanX,LiM,ChenZetal:Schlemm’scanalandtrabecuC-larCmeshworkCinCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglauco-ma:ACcomparativeCstudyCusingChigh-frequencyCultra-soundbiomicroscopy.PLoSOneC11:e0145824,C201611)GrieshaberMC,PienaarA,OlivierJetal:Clinicalevalua-tionoftheaqueousout.owsysteminprimaryopen-angleglaucomaforcanaloplasty.InvestOphthalmolVisSciC51:C1498-1504,C201012)HannCCH,CVercnockeCAJ,CBentleyCMDCetal:AnatomicCchangesinSchlemm’scanalandcollectorchannelsinnor-malCandCprimaryCopen-angleCglaucomaCeyesCusingClowCandChighCperfusionCpressures.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:5834-5841,C201413)JohnsonCDH,CMatsumotoY:SchlemmC’sCcanalCbecomesCsmallerCafterCsuccessfulC.ltrationCsurgery.CArchCOphthal-molC118:1251-1256,C200014)OgaCT,CMatsuokaCT,CYaoCCCetal:ProstaglandinCF2areceptorCsignalingCfacilitatesCbleomycin-inducedCpulmo-naryC.brosisCindependentlyCofCtransformingCgrowthCfac-tor-b.NatMedC15:1426-1430,C200915)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticentrerandomisedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C2019***

眼内レンズ挿入眼の落屑緑内障に対する線維柱帯切開術の 長期成績

2022年8月31日 水曜日

眼内レンズ挿入眼の落屑緑内障に対する線維柱帯切開術の長期成績福本敦子柴田真帆豊川紀子松村美代黒田真一郎永田眼科CLong-TermOutcomeAfterTrabeculotomyasInitialSurgeryinPseudophakicEyeswithExfoliationGlaucomaAtsukoFukumoto,MahoShibata,NorikoToyokawa,MiyoMatsumuraandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:眼内レンズ挿入眼(IOL眼)落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)に対する初回観血的緑内障手術としてのサイヌソトミーおよび深層強膜弁切除併用線維柱帯切開術(以下,LOT)の長期成績について報告する.対象および方法:2011年.2016年にCIOL眼CEXGに対して初回緑内障手術としてCLOTを施行し,術後C3年以上経過観察できたC31例C31眼(追跡率C86%,年齢C73.8C±7.0歳,観察期間C64.0C±21.4カ月)を対象とし,術前後の1)眼圧,2)薬剤スコア,3)眼圧C20CmmHgおよびC15CmmHg以下への生存率,4)観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)について後ろ向きに検討した.結果:1)術前後の眼圧(術前/術後C3年)はC26.4C±7.0/18.0±5.8CmmHgで,術後C4年まで全観察期間において術前よりも有意に眼圧下降が得られた.2)薬剤スコアは,術前C3.6C±0.9で術後C2年半まで有意に低下し,術後C3年でC2.9C±1.4と以後は有意差がなくなった.3)生存率は,20CmmHgでC3年生存率C38.7%,15CmmHgではC12.9%と不良であった.4)術後C3年までの再手術例はC15眼(48.4%)あり,うちC13眼で濾過手術が選択された.結論:既報の有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTと比較して,IOL眼CEXGに対する初回CLOTは早期に眼圧コントロール不良となる可能性が高い.CPurpose:ToCevaluateCtheClong-termCoutcomeCaftertrabeculotomy(LOT)asCinitialCsurgeryCinCpseudophakicCeyesCwithCexfoliationglaucoma(IOL-EXG)C.CMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC31CeyesCofC31Cpatients(meanage:73.8C±7.0years)withCIOL-EXGCwhoCunderwentCLOTCasCtheCinitialCsurgeryCforCEXGCbetweenC2011Cand2016andwerefollowedforatleast3-yearspostoperative(meanfollow-upperiod:64.0C±21.4months).Inallpatients,thefollowingfouroutcomeswereevaluated:1)intraocularpressure(IOP)change,2)changeinglaucomamedicationCscore,3)Kaplan-MeierCsurvivalCcurveCatCtheCIOPCofClessCthanC20CorC15CmmHg,Cand4)percentageCofCpatientsrequiringreoperation.Results:MeanIOPsigni.cantlydecreasedfrom26.4C±7.0CmmHgto18.0±5.8CmmHgatC3-yearsCpostoperative,CwithCthatCsigni.cantCmeanCIOPCreductionCmaintainedCuntilC4-yearsCpostoperative.CACsigni.cantreductioninglaucomamedicationscoreswasobserveduntil2.5-yearspostoperative,yetnosigni.cantdi.erencewasfoundbetweenthepreoperativescores(3.6C±0.9)andthoseat3-yearspostoperative(2.9C±1.4)C.At3-yearspostoperative,theKaplan-MeiersurvivalcurveattheIOPoflessthan20CmmHgand15CmmHgwas38.7%and12.9%,respectively,andreoperationwasrequiredin15eyes(48.4%)C,ofwhich13underwent.ltrationsur-gery.CConclusion:ComparedCwithCtheCpreviouslyCreportedC.ndingsCofCLOTCcombinedCwithCcataractCsurgeryCforCphakicEXG,LOTforIOL-EXGismorelikelytoresultinpoorIOPcontrolatanearlystage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1109.1113,C2022〕Keywords:眼内レンズ挿入眼落屑緑内障,サイヌソトミーおよび深層強膜弁切除併用線維柱帯切開術,長期成績.Cpseudophakiceyeswithexfoliationglaucoma(IOL-EXG)C,trabeculotomycombinedwithsinusotomyanddeepscle-rectomy,longterme.ect.C〔別刷請求先〕福本敦子:〒631-0844奈良県奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:AtsukoFukumoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cho,Nara-shi,Nara631-0844,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(99)C1109落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)は,眼組織から産生された線維性細胞外物質(落屑物)が流出路組織に沈着することによって房水通過障害が生じて起こる難治性の続発緑内障であり1),早期に点眼による眼圧コントロールが不良となり,何らかの観血的緑内障手術が必要となる場合も多い.その術式選択について,有水晶体眼のCEXGにおいては線維柱帯切開術(trabeculotomy:以下,LOT)が奏効すること2,3),とくに白内障手術同時CLOTが有効であること4)がすでに報告されている.永田眼科でも有水晶体眼CEXGに対するCLOTの長期成績5,6)を検討し,初回と再手術CLOTいずれの場合でも,白内障手術同時CLOTは長期にわたって有効な術式であることを報告した.しかし,すでに白内障手術が過去に施行され眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼(IOL眼)となっているCEXGについては白内障手術同時LOTの選択肢がなく,初回CLOTの有効性についてまだ報告もない.そこで,今回,IOL眼CEXGに対するCLOTの長期成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法1.対象対象は,2011年.2016年に永田眼科においてCIOL眼EXGに対して初回観血的緑内障手術としてCLOTを選択したC36例C36眼のうち,術後C3年以上経過観察できたC31例C31眼(男性C20眼,女性C11眼)とした(追跡率C86%).白内障手術以外の内眼手術既往のある症例は除外し,両眼CLOT施行例は最初に施行したC1眼のみを対象とした.LOT施行時の平均年齢はC73.8C±7.0歳,LOT術後の平均観察期間はC5年4カ月C±1年C9カ月,白内障手術時の平均年齢はC64.6C±9.9歳で白内障手術後平均C9年C4カ月C±5年C1カ月後に初回観血的緑内障手術としてのCLOTが施行された.なお,今回の対象症例におけるCLOTの標準術式は,全例で下半周より行うサイヌソトミー(sinusotomy:SIN)および深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)併用の線維柱帯切開術(LOT+SIN+DS)であり,Schlemm管内皮網除去も施行した.C2.方法(検討項目)以下のC4項目について後ろ向きに検討した.①術前および術後の眼圧経過②術前および術後の点眼スコア③各群における眼圧C20CmmHg以下およびC15CmmHg以下の生存率④術後C3年までに何らかの緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)眼圧および点眼スコアについては,LOT後何らかの緑内障追加治療(レーザーまたは手術)または内眼手術が施行された場合はその時点で脱落とし,施行前までのデータを用いた.また,点眼スコアは緑内障点眼C1剤C1点(配合剤C2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服C1点で換算し,生存率はC2回連続して基準眼圧(20CmmHg,15CmmHg)を超えた時点または緑内障追加治療(レーザーまたは手術)を施行した時点で死亡とした.本研究は永田眼科倫理委員会で承認を得たうえで行った(倫理委員会承認番号C2020-010).CII結果①眼圧経過眼圧は術前C26.4C±7.0CmmHg(n=31)で,術後C1年C18.9C±4.4CmmHg(n=27),術後C2年C19.1C±5.5CmmHg(n=22),術後C3年C18.0C±5.8CmmHg(n=15),術後C4年C14.1C±6.4CmmHg(n=7),術後C5年C21.3C±3.3CmmHg(n=3)と術後C4年まで術前より有意に眼圧が低下していた(p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest)(図1).②点眼スコア薬剤スコアは術前C3.6C±0.9(n=31)で,術後1年2.1C±1.2(n=27),術後2年2.7C±1.2(n=22)と術前よりも有意に低下した(術後C1年p<0.01,術後C2年p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest)が,術後C2年半以後は有意差を認めず,術後3年2.9C±1.4(n=15),術後4年3.1C±1.6(n=7),術後C5年C2.6C±1.1(n=3)であった(図2).③眼圧C20CmmHg以下およびC15CmmHg以下の生存率眼圧C20CmmHg以下の生存率は,術後C1年C71.0%,術後C2年C45.2%,術後C3年C38.7%,術後C4年C21.5%,術後C5年14.3%であった(図3a).眼圧C15mmHg以下の生存率は,術後C1年C19.4%,術後C2年C16.1%,術後C3年C12.9%,術後C4年C12.9%,術後C5年C0.1%であった(図3b).④観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)の検討初回CLOT後C3年までに何らかの観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)はC15/31眼(48.4%)あった.再手術時の術式は,濾過手術C13眼(線維柱帯切除術C8眼,Ex-pressインプラント手術C5眼),LOT1眼,毛様体凝固C1眼であった(図4).CIII考按今回の研究では,LOT術後C4年まで術前よりも有意に眼圧は下降したが,術後C3年で半数近くが濾過手術を主とした再手術を必要とし,初回観血的緑内障手術としてCLOTを第一選択とすることが疑問視される結果となった.そこで,IOL眼CEXGに対する初回観血的緑内障手術時の術式選択について,筆者ら5)が過去に報告した有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTとの比較を交えて改めて検討する.まず,緑内障全般に対して行われる手術加療は流出路再建眼圧(mmHg)4035302520151050術前1369121824303642485460観察期間(カ月)*(mean±SD)p<0.01;ANOVA+Dunnett’stest図1眼圧経過眼圧は術後C4年までは術前より有意な眼圧下降が得られた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C5薬剤スコア4.543.532.521.510.50生存率(%)術前1369121824303642485460観察期間(カ月)(mean±SD)**p<0.01,*p<0.05;ANOVA+Dunnett’stest図2薬剤スコア薬剤スコアは術後C2年C6カ月まで術前より有意に低下していた(*p<0.01,**p<0.05,CANOVA+Dunnett’stest).Cab100100909080807070生存率(%)606050504040303020201000122436486001224364860観察期間(カ月)観察期間(カ月)図3生存率曲線Kaplan-Meier分析による生存率.Ca:眼圧C20CmmHg以下への生存率,Cb:眼圧C15CmmHg以下への生存率.7%(1眼)※1LECT:線維柱帯切除術※2Ex-press:Ex-pressインプラント手術図4再手術時の術式術後C3年までに再手術を要した症例はC31眼中C15眼(48.4%)あり,そのうちC13眼で濾過手術が選択された.術と濾過手術とに大別されるが,白内障手術を同時に行うか否かも含めるとその術式選択は複数あり,患者背景はもとより術者や施設によって選択基準が異なるのが現状である.さらに,近年は流出路再建術ではレーザーや低侵襲緑内障手術,濾過手術ではインプラント手術など術式の多様化も進んでおり,各術式のCEXGにおける有効性については今後の多数例かつ長期成績を待たねばならない7).当院でCIOL眼CEXGに対する初回観血的緑内障手術としてLOTを選択した背景には,有水晶体眼CEXGにおいては長期にわたってCLOTを初回観血的緑内障手術における第一選択の術式として施行してきた実績と,LOT単独の術式で問題点となった術後一過性高眼圧の予防やさらなる眼圧下降を目的とするCSchlemm管内皮網切除併用線維柱帯切開術(LOT+SIN+DS)をCLOTの標準術式としてC10年以上前から多数例に施行してきた術式そのものの安定性と安全性があげられる.今回の研究との比較として,2013年に筆者ら5)が検討した有水晶体眼CEXGに対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術(LOT+SIN)の術後成績を示すと,白内障手術同時群(以下,同時CLOT群)74眼(平均年齢C74.7C±6.4歳,平均観察期間C6年C8カ月,対象期間C1998年.2005年,術前眼圧C22.2±5.6mmHg)の場合,術後C3年成績は眼圧C14.1C±3.0mmHgと術前より有意な眼圧下降が得られ,生存率は眼圧20CmmHg以下でC97.3%,15CmmHg以下でC71.6%であった.一方,今回の症例群(以下,IOL眼CLOT群)では術後眼圧はおおむねC10台後半で推移し,術後C3年の生存率はC20mmHg以下でC38.7%,15CmmHg以下でC12.9%と同時CLOT群より明らかに劣る結果となった.このように,白内障手術とCLOTを同時に行った場合と白内障手術後にCLOTを別時期で行った場合とでは,最終的に施行されている手術の内容は同じであるにもかかわらず眼圧経過が異なっていたが,その一因として,患者背景の違いが考えられる.白内障手術時の平均年齢は,IOL眼CLOT群C64.6±9.9歳,同時CLOT群C74.7C±6.4歳と両群間に有意差があり(p<0.001,t検定),IOL眼CLOT群は白内障手術後平均C9年C4カ月を経て同時CLOT群とほぼ同じ年齢であるC73.8C±7.0歳でCLOTが施行されていた.一般に,落屑物は加齢とともに増加して隅角のみならず瞳孔縁,水晶体表面に沈着するため,緑内障以外にしばしば白内障進行や散瞳不良,Zinn小帯脆弱化といった落屑症候群(exfoliationsyndrome:EXS)を伴うことで知られるが,近年,EXSに対する白内障単独手術は,原発開放隅角緑内障や正常眼と比較してより大きな眼圧下降が期待できることが示された8).また,Sayedら7)は,EXGに対する長期の手術加療方針として,緑内障性変化のないCEXSでは,白内障手術合併症のリスクが低い早期のうちにまず白内障単独手術を行うことでCEXGの発症を予防し,それでもCEXGが進行した場合は順次何らかの緑内障手術を施行することが望ましいとしている.これらの近年の既報を加味すると,IOL眼CLOT群はCEXSの段階で白内障手術を施行されたことで結果的には眼圧上昇をおさえられていたこと,しかしC10年近い長期経過のなかで眼圧上昇をきたしCEXGへ進行したことが推測される.さらに,手術時の緑内障病期を比較すると,白内障手術同時LOTの場合,症例のなかには白内障が主たる手術目的でLOTは点眼数を減らす目的でのみ同時施行されるケースもありうるが,Humphrey静的視野検査のCLOT術前平均CMD値は,IOL眼CLOT群C.13.8±9.3CdB,同時CLOT群C.11.3±8.1CdBと有意差なく(p=0.24,t検定),両群ともほぼ同じ緑内障病期で初回CLOTが施行されていた.にもかかわらずIOL眼CLOT群が同時群CLOT群より長期成績が劣っていたことから,EXGに至らないCEXSの発症時期あるいは罹患期間がCLOTの眼圧下降効果に影響するのかもしれないが,現時点ではその機序に関しては不明である.以上から,既報の有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTと比較して,IOL眼CEXGに対する初回CLOTは早期に眼圧コントロール不良となる可能性が高い.今後,IOL眼EXGに対しては,初回緑内障手術の術式選択は濾過手術を含めてより慎重に考慮する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)布田龍佑:落屑症候群および落屑緑内障の診断と治療.あたらしい眼科25:961-968,C20082)松村美代,永田誠,池田定嗣ほか:水晶体偽落屑症候群に伴う開放隅角緑内障(PE緑内障)に対するトラベクロトミーの有効性と術後の眼圧値.あたらしい眼科C9:817-820,C19923)黒田真一郎:トラベクロトミーの長期成績(発達緑内障も含めて).眼科手術30:571-576,C20174)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCatal:Phacoemulsi-.cation,CintraocularClensCimplantation,CandCtrabeculotomyCtoCtreatCpseudoexfoliationCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC24:781-786,C19985)福本敦子,松村美代,黒田真一郎:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科30:1155-1159,C20136)福本敦子,後藤恭孝,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するトラベクロトミー後の再手術の検討.眼科手術C22:525-528,C20097)SayedMS,LeeRK:Recentadvancesinthesurgicalman-agementofglaucomainexfoliationsyndrome.JGlaucomaC27(Suppl1):S95-S101,20188)DamjiCKF,CKonstasCAG,CLiebmannCJMCetal:IntraocularCpressurefollowingphacomulsi.cationinpatientswithandwithoutexfoliationsyndrome:a2yearprospectivestudy.BrJOphthalmolC90:1014-1018,C2006***

ヘッドマウント型自動視野計の新しいアルゴリズムによる 検査結果の検討

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1102.1108,2022cヘッドマウント型自動視野計の新しいアルゴリズムによる検査結果の検討北川厚子*1堀口剛*2清水美智子*1廣信麻友美*1*1北川眼科医院*2京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学CComparisonofTwoDistinctScanAlgorithmPatternsinHead-MountedPerimeterAtsukoKitagawa1),GoHoriguchi2),MichikoShimizu1)andMayumiHironobu1)1)KitagawaEyeClinic,2)DepartmentofBiostatistics,GraduateSchoolofMedicalScience,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC対象および方法:ヘッドマウント型自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)の新しいアルゴリズムEXモードが開発された.2019年C1月.2020年C9月にC24plus(1-2)AIZE-RapidとCAIZE-Exの両検査を行った緑内障症例C72人C72眼の比較のため,平均偏差(MD)・パターン標準偏差(PSD)で視野全体の比較を,グレースケール・パターン偏差プロットで各検査点の評価を,また片眼検査時間の比較を行った.結果:MDの中央値はCAIZE-Rapid,AIZE-Exで.3.5[dB],.2.7[dB],PSDはC4.2[dB],4.4[dB]と大きな差はなく,グレースケール・パターン偏差プロットの重み付きカッパ係数はC0.84(95%信頼区間C0.81.0.86),0.79(0.76.0.81)と高い一致度を示し,検査時間は中央値C3.23分,2.99分とCAIZE-Exで有意に短かった.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.ectivenessCofCAIZE-Ex,CaCnewCalgorithmCscan,CinCaChead-mountedCperimeter,C‘IMO’.SubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC72CeyesCofC72CglaucomaCpatientsCinCwhomCIMOCdataCwasCcollectedCbetweenCJanuaryC2019CandCSeptemberC2020CusingCtwoCdistinctCscanalgorithmCpatterns:a)24plus(1-2)AIZE-Rapid,Candb)AIZE-ExCmode.CMeasurementCresultsCwereCcomparedCwithCrespectCtoCglobalCindex,grayscaleimage,thepatterndeviationplotforthetwoscans,andscantime.Results:Withrespecttoglobalindex,nosigni.cantdi.erenceswerefoundbetweenthetwoscanpatterns.Measurementsofthegrayscaleimageandpatterndeviationplotforthetwoscanmodeswereallfoundtobeinaveryhighdegreeofagreement.How-ever,CmeasurementCtimeCwasCsigni.cantlyCshorterCforCtheCAIZE-ExCmode.CConclusion:NoCsigni.cantCdi.erencesCwithrespecttoglobalindexandgrayscaleimagemeasurementswerefoundbetweentheIMO24plus(1-2)AIZE-RapidandAIZE-Exscanmodes,yetmeasurementtimewassigni.cantlyshorterfortheAIZE-Exmode.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1102.1108,C2022〕Keywords:視野,アイモ,AIZE-Ex,AIZE-Rapid,24plus(1-2).visual.eld,imo,AIZE-Ex,AIZE-Rapid,24plus(1-2).Cはじめにヘッドマウント型自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)は,従来の自動視野計とは異なるコンセプトのもとC2015年わが国において開発された1.4).その特徴は両眼開放下に検査を行うこと,自動瞳孔トラッキングシステムにより固視ズレが軽減されていること,アルゴリズムAIZEにより検査時間の短縮が可能となったことなどであり,Humphrey視野計との比較検討がなされている5.9).近年,新しいアルゴリズムCAIZE-Exモードが開発され,検査時間のさらなる短縮が可能となった.筆者らは今回,緑内障の経過観察においてアイモC24plus(1-2)AIZE-RapidとCAIZE-Exの検査結果を比較した.CI対象および方法対象はC2019年C1月.2020年C9月に通常の緑内障経過観察において,24plus(1-2)の検査をCAIZE-Rapidから〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City,Kyoto607-8041,JAPANC1102(92)AIZE-Exに移行した患者のうち,両検査の信頼係数が固視不良C20%以下,偽陽性・偽陰性C10%以下であり,また経過中に臨床上明らかな変動や網脈絡膜病変がないものを対象とした.また,両眼とも対象となった場合では右眼を選択した.この研究は京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認(ERB-C-1782)を得ている.C1.診断機器アイモはCHumphrey自動視野計(HumphreyC.eldCanalyz-er:HFA)と同じ条件下に検査を行うが,両眼開放下検査であり,片眼遮閉による影響を排除できる長所を有する.また,自動瞳孔トラッキングにより固視ズレの解消を図り,5°以内のズレであれば正確な測定が可能となっている.中心視野に障害がある例においても,それが片眼であれば固視ズレが少なく,より正確な検査が可能であるなど,両眼ランダム検査を基本とするが,斜視や大きな不同視のため両眼ランダム検査が不可能な場合は両眼開放下で片眼ずつの検査を行う.松本らは両眼ランダム検査と片眼測定の結果は相関すると報告している1).プログラムはC30-2,24-2,10-2に加え,オリジナルの24plus(1-2),24plus(1)を搭載している.アイモの基本アルゴリズムは,AIZE(ambientCinteractiveZEST(ZippyCestimationCofsequentialCtesting))であり,検査点の結果を周囲の検査点にその結果を反映することにより,閾値決定までの試行を低減させ,測定時間の短縮を図っている.検査時間をさらに短縮するためCAIZE-Rapidは検査点の結果を隣接点により強く反映させ,偽陽性/偽陰性/固視監視に関しては追加の刺激を行わないことで検査スピードを上げている.AIZE,AIZE-Rapidはともに従来どおり正常眼データから閾値を探索するが,新しく開発されたアルゴリズムCExモードは過去データを基に検査点の初期値を決定し,確率密度関数を過去データを基に作製するという手法をとり,検査時間の短縮と精度向上を図っている.なお,検査様式はスタンド型を用いた.C2.評価アイモオリジナルの検査配列を図1に示す.24plus(1-2)では,6°間隔にC54点,2°間隔に24点,計C78点(そのうちC2点は盲点)を配している.24plus(1-2)AIZE-Rapid(以下,AIZE-Rapid)とC24plus(1-2)AIZE-Ex(以下,AIZE-Ex)の検査結果を比較するために,以下の指標について評価を行った.(1)視野全体の指標(グローバルインデックス)としての平均偏差(meandeviation:MD),パターン標準偏差(pat-ternCstandarddeviation:PSD)およびCvisualC.eldCindex(VFI)10).(2)76個の検査点ごとの指標としてのグレースケール,パターン偏差およびトータル偏差.パターン偏差について6°間隔54点2°間隔24点>合計78点図124plus(1.2)の配列は,偏差量の統計学的な有意性をもとにC5カテゴリ(0:p≧5%,1:p<5%,2:p<2%,3:p<1%,4:p<0.5%)に分類した変数(パターン偏差プロット)に関しても評価した.(3)片眼の検査時間.C3.統計解析AIZE-RapidとCAIZE-Exの検査結果を比較するために,以下の解析を行った.連続変数の要約統計量としては中央値(四分位範囲)を示した.MD,PSDおよびCVFIにおけるAIZE-RapidとCAIZE-Exの結果について,差の平均値とそのC95%信頼区間,および級内相関係数とそのC95%信頼区間を推定した.また,MD,PSDおよびCVFIにおけるCAIZE-RapidとCAIZE-Exの関係について,散布図およびCBland-AltmanCplot11)を作製した.グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,AIZE-RapidとCAIZE-Ex間の重み付きカッパ係数を検査点(全C76点)ごとに算出し,それらの重み付きカッパ係数の平均およびC95%信頼区間を推定した.なお,重み付きカッパ係数の重みについては,二次の重みとした12).パターン偏差およびトータル偏差について,AIZE-RapidとCAIZE-Ex間の級内相関係数を検査点(全C76点)ごとに算出し,それらの級内相関係数の平均およびC95%信頼区間を推定した.検査対象が左眼の場合は左右を反転して解析を行った.片眼の検査時間については,検査プログラムごとに中央値と四分位範囲を算出し,箱ひげ図を作製した.また,AIZE-RapidとCAIZE-Exの検査時間についてWilcoxon符号付き順位検定を行った.なお,両眼同時ランダム検査の場合,検査時間は両眼検査の足し合わせとなるため,片眼検査同士として比較するためにC1/2に調整した.検定の有意水準は両側C0.05とした.II結果AIZE-RapidとCAIZE-Exの比較に関する対象の特性は,緑内障症例C72例C72眼(右眼C54眼,左眼C18眼),年齢はC24.87歳(中央値:68歳),男女比C23人:49人,屈折球面度数+4.00D.C.16.00D,乱視C0.50D.3.0D,矯正視力C0.4.1.5であった.また,視野検査の精度(信頼性指標の範囲)は,AIZE-Rapid,AIZE-Exの各検査のすべてにおいて,固視不良はC0.20%,偽陽性はC0.10%,偽陰性はC0.6%であった.2種の検査の間隔はC4カ月.12カ月であり,中央値C7カ月であった.また,72例中C57例はCAIZE-Rapid・AIZE-Exとも両眼ランダム検査であり,15例は両検査とも片眼測定であった.C1.グローバルインデックスAIZE-RapidとCAIZE-ExのグローバルインデックスMD,PSD,VFIを比較した結果,MDについてCAIZE-Rap-idでは中央値C.3.5(C.6.5.C.0.9),AIZE-Exでは中央値C.2.7(C.6.1.C.0.6),PSDについてCAIZE-Rapidでは中央値4.2(2.6.10.3),AIZE-Exでは中央値C4.4(2.2.10.2),VFIについてCAIZE-Rapidでは中央値C94.0(82.0.99.0),AIZE-Exでは中央値C94.5(82.0.99.0)であった.差の平均については,MDでC.0.53(95%CCI:C.0.74.C.0.33),PSDで.0.16(95%CCI:C.0.37.0.04),VFIでC.0.11(95%CI:C.0.69.0.47)であり,大きな差はなかった.級内相関係数は,MDでC0.98(95%CCI:0.97.0.99),PSDでC0.98(95%CCI:0.97.0.99),VFIでC0.99(95%CCI:0.98.0.99)であり,一致度は高かった(図2a).Bland-Altmanplotを作製した結果,MD,PSD,VFIともに大きな偏りはなかった(図2b).C2.検査点ごとの指標グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,AIZE-RapidとCAIZE-Exの重み付きカッパ係数を算出した結果,それぞれC0.84(95%CCI:0.81.0.86),0.79(95%CI:0.76.0.81)であった.パターン偏差およびトータル偏差について,級内相関係数を算出した結果,それぞれC0.85(95%CCI:0.82.0.87),0.86(95%CCI:0.84.0.88)であり,高い一致度を示した.さらに各検査点の一致度について,グレースケールおよびパターン偏差プロットに対しては重み付きカッパ係数(図3a,b),パターン偏差およびトータル偏差に対しては級内相関係数(図3c,d)をそれぞれヒートマップで表した結果,全体として中等度から高度の一致を示した.C3.検査時間片眼の検査時間について中央値および四分位範囲を算出した結果,AIZE-Rapidで中央値C3.23(2.9.3.8)[分],AIZE-Exで中央値C2.99(2.7.3.5)[分]であり,箱ひげ図を図4に示した.また,検査プログラム間での検査時間の違いをWilcoxon符号付き順位検定により検討した結果,AIZE-Exの検査時間が有意に短かった(S=1048.5,p<0.001).CIII考按視野検査は緑内障診療において発見・診断・治療などに欠かせない重要な検査である.中心C30°外の周辺視野は今なおGoldmann視野計に代表される動的視野計が用いられ,中心30°内は自動視野計の開発以来,Humphrey自動視野計に代表されるようにC6°間隔の測定点を検査する方法が一般的である.近年,緑内障早期発見や後期緑内障の経過観察に中心10°内の検査が重要視され13),2°間隔で検査するC10-2プログラムも多く用いられている.アイモのオリジナルプログラムC24plus(1-2)は,24-2の検査点にさらにC10°内にC24点を加え,とくにC5°内はC10-2と同様のC2°間隔に検査点を配置している.24-2の検査点に加え,QOV(qualityofvision)に重要なC10°内の障害を早期に発見し,あるいは進行例における固視点近傍の情報獲得が一度の検査で可能となっている.自動視野計による視野検査は今日,精度や検査時間など,まだまだ問題点があるため,さまざまな改良が加えられている14).アイモは自動瞳孔トラッキングシステムによる固視ズレの解消によって検査精度を高め,またそのアルゴリズム(AIZE)により,検査時間の短縮を図っている.今回筆者らが検討した新しいアルゴリズム(AIZE-Ex)は,過去データを基に検査点の初期値を決定,確率密度関数(PDF)を過去データを基に作製して,さらなる精度向上と検査時間の短縮を目的としている.緑内障の視野経過観察において,AIZE-RapidからAIZE-Exに移行し,その検査結果を比較したところ,MD,PSD,VFIは両者に差の平均に大きな差はなく,級内相関係数は高い一致度を示した.Bland-AltmanplotにおいてMD・PSD・VFIともに大きな偏りはなかった.検査点ごとの一致度はグレースケール・パターン偏差プロットに対する重みつきカッパ係数・パターン偏差およびトータル偏差に対する級内相関係数の解析により,全体として中等度から高度の一致を示した.検査点C51においては比較的一致度が低く,この点について検討を加えた(図5).検査点C51におけるトータル偏差の散布図を図5bに示すが,2例においてCAIZE-RapidとCAIZE-Exの結果が大きく異なっていた.症例CaではCimoViewerから得られた実測閾値の時系列およびCOCT像より,AIZE-RapidからCAIZE-Exの検査までの約C6カ月間に固視点近傍視野における悪化が認められている(図5c,d).なお,症例Caは両眼ランダム検査であった.症例Cbについては図5eに閾値の時系列を示すが,ばらつきが比較的大きい症例であった.視野感度が低下した部位では検査結果の変動が生じやすいが,この症例は両眼ランダa:MD,PSDおよびVFIの散布図b:MD,PSDおよびVFIのBland-AltmanPlot図2AIZE.RapidとAIZE.Exのグローバルインデックスの比較ム検査が不可能なため,両眼開放下・片眼ずつの検査をして時間短縮が可能とされていたが,視野検査は高い精度でかつおり,固視ズレが生じやすく,これも結果を変動させた可能短時間に行われることが理想であり,AIZE-Rapidより精度性がある.が高いと思われたCAIZE-Exに移行した.その結果,両者は片眼検査時間はCAIZE-Rapid中央値C3.11分,AIZE-Exよく相関し,さらに時間短縮も可能であった.今後はさらに2.95分であった.筆者らは従来,患者の負担軽減のため時間短縮が可能なAIZE-Rapid-Exの精度についての検討のAIZE-Rapidで検査を行ってきた.EXモードではさらなる必要があると考える.a:グレースケール(重み付きカッパ係数)b:パターン偏差プロット(重み付きカッパ係数)c:パターン偏差(級内相関係数)d:トータル偏差(級内相関係数)図3各検査点の一致度重み付きカッパ係数および級内相関係数は0.1の範囲で値を取り,1に近いほど一致度が高いことを示す.検査時間[分]4.54.03.53.02.52.024plus(1-2)AIZE-ExはC24plus(1-2)AIZEあるいはAIZE-Rapidの結果を基に検査が可能であることから,まずAIZE,AIZE-Rapidで検査を行う必要がある.また,移行に際しては被検者に検査で提示される光の印象が変わること,つまり前回の測定値を参照して閾値に近い輝度の視標が初めから提示されるため,AIZE-Rapidでは見えていたわかりやすい光が少ないことに被検者が不安を感じることのないように事前に説明する必要がある.今回の結果でCMD・PSDの中央値がCAIZE-Exで軽度改善されているのは,検査時間の短縮による疲労の軽減が一因と考えられる.今回の比較研究によりアイモC24plus(1-2)AIZE-Exは,今後の視野検査AIZE-Exn=72図4各検査プログラムの検査時間(片眼)に有効な手段となることが示唆された.(96)a:検査点の番号(右眼)(左眼は反転)b:検査点51のトータル偏差(TD)の散布図d:症例a(右眼)24plus(1-2)10°内の経過□検査点51AIZE-ExAIZE-Rapide:AIZE-RapidとAIZE-Exの比較症例b(左眼)24plus(1-2)10°内の経過□検査点51図5AIZE.RapidとAIZE.Exで一致度の低かった検査点51の経過文献1)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20162)澤村裕正,相原一:11.ヘッドマウント視野計アイモCR.眼科C58:869-878,C20163)後関利明,井上智,大久保真司ほか:最新機器レポート「ヘッドマウント型視野計アイモCR」.神経眼科C34:73-80,C20174)松本長太:新しい視野検査.日本の眼科C88:452-457,C20175)KimuraCT,CMatsumotoCC,CNomotoH:ComparisonCofChead-mountedperimeter(imoCR)andCHumphreyCFieldCAnalyzer.ClinOphthalmolC13:501-513,C20196)GoukonH,HirasawaK,KasaharaMetal:ComparisonofHumphreyCFieldCAnalyzerCandCimoCvisualC.eldCtestCresultsinpatientswithglaucomaandpseudo-.xationloss.PLoSOneC14:e0224711,C20197)北川厚子,清水美智子,山中麻友美:アイモC24plus(1)の使用経験とCHumphrey視野計との比較.あたらしい眼科C35:1117-1121,C20188)林由紀子,坂本麻里,村井佑輔ほか:緑内障診療におけるアイモ両眼ランダム測定の有用性の検討.日眼会誌C125:530-538,C20219)北川厚子,清水美智子,山中麻友美ほか:ヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果および検査時間の比較.あたらしい眼科C38:1221-1228,C202110)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2nded,p121-190,Mosby,St.Louis,199911)BlandCJM,CAltmanDG:ApplyingCtheCrightstatistics:Canalysesofmeasurementstudies.UltrasoundObstetGyne-colC22:85-93,C200312)FleissCJL,CCohenJ:TheCequivalenceCofCweightedCkappaCandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCasCmeasuresCofCreliability.EducPsycholMeasC33:613-619,C197313)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2visual.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglauco-maCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C201714)田中健司,水野恵,後藤美紗ほか:Humphrey視野計におけるCSITAStandardとCSITAFasterの比較検討.あたらしい眼科C36:937-941,C2019***

強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の 眼圧下降効果

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1097.1101,2022c強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の眼圧下降効果池上裕華*1新田耕治*2松田卓爾*1坂部敦子*1余頃麻里*1河野文香*1楢崎智也*1露木未夕*1杉山和久*3生野恭司*1*1いくの眼科*2福井県済生会病院眼科*3金沢大学付属病院眼科CE.ectofIOPReductioninHighMyopiaGlaucomabySelectiveLaserTrabeculoplastyYukaIkenoue1),KojiNitta2),TakujiMatsuda1),AtsukoSakabe1),MariYogoro1),AyakaKono1),TomoyaNarazaki1),MiyuTsuyuki1),KazuhisaSugiyama3)andYasushiIkuno1)1)IkunoEyeCenter,2)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospitalOphthalmology,3)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospitalOphthalmologyC目的:選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)が強度近視を伴う緑内障にも有効かを後ろ向きに検討した.対象および方法:2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行した患者のうち,6カ月まで経過観察可能であったC96眼(男性C35眼,女性C61眼平均年齢C67.8C±11.6歳)を非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)に分けて検討した.結果:眼圧はCSLT施行後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な下降を認めた.Out.owpressure改善率C20%未満を死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群C87.7%,強度近視群C80.0%,病的近視群C96.6%でC3群間に有意差を認めなかった.合併症は一過性眼圧上昇をC4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)で認めた.うちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.結論:強度近視眼緑内障においてもCSLTは安全で有用な治療法であると考えられる.CPurpose:Toretrospectivelyinvestigatethee.cacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)fortreatingglau-comaCassociatedCwithChighCmyopia.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC96Cglaucomatouseyes(35CmaleCeyes,61femaleeyes;meanpatientage:67.8C±11.6years)thatweretreatedwithSLTandfollowedforatleast6-monthspostoperative.Theeyesweredividedintothefollowing3groupsaccordingtotherefractivestatusandfundus.ndings:1)nonhighmyopiagroup(n=42eyes,meanage:68.0C±13.5years),highmyopicgroup(n=25eyes,Cmeanage:61.0C±7.5years)C,CandCpathologicalCmyopiagroup(n=29Ceyes,Cmeanage:73.2C±8.2years)C.CResults:Comparedwiththepreoperativevalues,meanintraocularpressure(IOP)wassigni.cantlyreducedat1-,3-,and6-monthspostoperative.At6-monthspostoperative,thelifetableanalysis.ndingsinthenonhighmyopia,highCmyopia,CandCpathologicalCmyopiaCgroupsCwere87.5%,83.8%,Cand86.2%,Crespectively,CthusCillustratingCnoCsigni.cantlydi.erence.PostoperativecomplicationsincludedtransientIOPelevationin4eyes,yetIOPwasfoundtoChaveCreducedCtoCnormalCinC3CofCthoseCeyesCatCtheCsubsequentCfollow-upCexamination.CInCtheCpathologicCmyopiaCgroup,1eyeunderwent.lteringsurgeryduetocontinuoushighIOP.Inalleyes,therewasnooccurrenceofante-riorCchamberChemorrhageCorCuveitis.CConclusion:SLTCisCaCsafeCandCe.ectiveCtreatmentCforCglaucomaCassociatedCwithhighmyopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1097.1101,C2022〕Keywords:緑内障手術,選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT),強度近視眼緑内障,眼圧下降.glaucomaCsur-gery,selectivelasertrabeculoplasty,highmyopicglaucoma,IOPreduction.C〔別刷請求先〕池上裕華:〒532-0023大阪市淀川区十三東C2-9-10十三駅前医療ビルC3階医療法人恭青会いくの眼科Reprintrequests:YukaIkenoue,IkunoEyeCenter,3FJuusoekimaeiryobiru,2-9-10Jusohigashi,Yodogawa-ku,Osaka-shi,Osaka532-0023,JAPANCはじめに緑内障は眼圧下降治療が唯一のエビデンスの存在する治療である.一般的第一選択治療である点眼治療は,患者が容易に受け入れることができるが,デメリットとして毎日点眼する必要があり,副作用のアレルギー反応がでる可能性がある.また,患者のアドヒアランスに左右される.緑内障の初期.中期は視力や視野障害の自覚がないという特徴があるため,脱落していく患者も少なくない1).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は,Qスイッチ半波長CYAGレーザーを用いたレーザー手術である.照射によりサイトカインが放出され,活性化されたフリーラジカルが抗炎症細胞貪食能を増大させ2),Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進されることで,房水流出抵抗が減少するとされている3).近年はパターンレーザー線維柱帯形成術(patternedClaserCtrabecu-loplasty:PLT)やマイクロパルスダイオードレーザー線維柱帯形成術(micropulseCdiodeClasertrabeculoplasty:MDLT)も施行されているが,唯一,SLTは周囲の線維柱帯無色素細胞に熱変性が生じない治療である4).これまでCSLTの位置づけは最大耐用薬剤成分数での点眼治療をしても眼圧が下がらなかった患者に行うことが多かったが,点眼を多く使用していると成績は不良であるとの報告5,6)もあり,また期待したほど眼圧が下がらない,説明に時間がかかる,患者がレーザーに対して抵抗感があるなどの理由により普及していなかった.2013年に新田らは,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に対してSLTを第一選択治療として施行した成績を国内で最初に報告し,NTGに対するC.rst-lineSLTの有効性と安全性を示した7).さらにC2019年にはCLiGHTCstudy8)が報告され,原発開放隅角緑内障や高眼圧症に対する第一選択治療としてのSLTの有用性を示した.また,SLT施行群では追加の観血的緑内障手術の必要がなかったことや,点眼群と比較してコストパフォーマンスが高い点も報告され,最近,SLTが世界的に注目されるようになってきた.強度近視眼は近視性変化により緑内障様視神経症をきたすことがある.この病態に緑内障に準じた眼圧下降療法が行われることがある.これまでCSLTに関して多数の報告があるが,強度近視眼緑内障に対する報告はない.今回筆者らは強度近視眼緑内障にもCSLTが有効か後向きに検討した.CI対象および方法いくの眼科(以下,当院)で広義開放隅角緑内障と診断された患者のうち,眼圧コントロール不良・視野障害進行・第一選択治療としてCSLT治療が必要と判断され,緑内障専門の同一術者によってC2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行され,施行後C6カ月まで経過観察可能であったC96眼を対象とした.対象の病型は狭義開放隅角緑内障C40眼,正常眼圧緑内障CNTG56眼であった.本研究は,当院の倫理委員会の承認(第C5回C001番)を得て行った.SLTはCEllex社製CTangoオフサルミックレーザー(波長532Cnm,パルス幅C3Cns)を使用し,indexingSLTレンズを装着した後,0.3.0.8CmJの間でシャンパンバブルが発生するかしないかの強さのエネルギーを用い,隅角全周C360°に施行した.一過性眼圧上昇(5CmmHg以上上昇)を防ぐため,術前C1時間前および術直後にアプラクロニジン点眼(アイオピジン)を行い,術後はステロイド点眼および非ステロイド抗炎症薬点眼は使用しなかった.術前後で緑内障点眼の内容は変更せずに経過観察を行った.経過観察中に眼圧下降効果が不十分な場合は治療を強化し,眼圧の再上昇をきたした場合にはCSLTの再照射も考慮した.眼圧はすべてCGoldmann圧平眼圧計を用い,術前と術後C1カ月,3カ月,6カ月の時点での眼圧値,眼圧下降率,Cout.owpressure改善率(CΔOP)を解析に使用した.眼圧値は,術前は1.3回の平均値,術後はC1回の測定値を行いた.CΔOPは上強膜静脈圧をC10CmmHgとし,CΔCOp=(SLT前眼圧.SLT後眼圧)/(SLT前眼圧C.10)C×100の式で求め,CΔOP(%)を計算した.SLT効果の判定には,CΔCOP20%以上を有効と定義した.眼軸長は光学的眼軸長(OA2000,トーメーコーポレーション)を使用して測定し,26Cmm未満であったものを非強度近視群,26Cmm以上を強度近視群に分類し9),さらに強度近視群に分類したなかから後極部に変性を有するものを病的近視群に分類し,術前後の眼圧値,眼圧下降率を検討した.なお,病的近視眼の判定は,強度近視専門医とCSLT施行医のC2名による判定をもって分類した.また,配合点眼はC2剤,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤として計算した.統計ソフトはCJMP14を用い,SLT施行前後での眼圧下降の有意性には対応のあるCt検定を,3群間の比較にはCKruskal-Wallisの検定を,3群間での眼圧の推移の分散分析には二元配置分散分析を使用した.生命表解析は,CΔCOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義し,Kaplan-Meier法を用いた.各々の検定における有意水準はC0.05未満とした.CII結果対象の内訳は,非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)であった.非強度近視群/強度近視群/病的近視群(以下,同様)の眼軸長はそれぞれC24.21C±1.18Cmm/27.41±1.13Cmm/C31.26±2.01Cmm(p<0.01)であった.SLT照射エネルギー(照射数)は55.5C±10.1CmJ(85.0C±6.6発)/57.8C±11.1CmJ(88.6C±6.1発)/56.2C±12.2CmJ(86.1C±7.3発)(p=0.63)であった.表13群の臨床的背景非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)p値年齢(歳)20.C86(C68.0C±13.5)50.C77(C61.0C±7.5)54.C82(C73.2C±8.2)<C0.01性別(男/女)C14/28C14/11C7/22<C0.05眼軸長(mm)C24.2±1.2C27.4±1.1C31.3±2.0<C0.01SLT前眼圧(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1C0.06薬剤成分数C1.6±1.4成分C2.3±1.6成分C2.6±1.2成分<C0.01薬剤成分数の内訳無治療9眼1成分16眼2成分6眼3成分以上11眼無治療5眼1成分3眼2成分3眼3成分以上14眼無治療0眼1成分7眼2成分3眼3成分以上19眼<C0.01表23群の眼圧値および眼圧下降率非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)術前眼圧値(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1術後C1カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.4±3.2C18.6±14.1C13.0±3.1C15.3±13.2C15.7±7.3C16.3±15.2術後C3カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.1±2.5C19.1±14.0C12.5±2.8C16.7±14.4C13.9±4.3C21.7±19.5術後C6カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C13.8±2.5C19.1±12.0C13.4±3.2C11.6±16.2C14.2±4.7C21.4±20.10.6非強度近視群強度近視群10.8眼圧(mmHg)2015累積生存率0.4病的近視群0.210001234565SLT前眼圧1カ月後3カ月後6カ月後SLT施行後経過時間(カ月)図1SLT前後の眼圧値の推移図2Out.owpressure改善率20%未満を死亡と定義しSLT施行後眼圧は,術後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前眼圧はC18.1C±5.1mmHg/15.4±3.1mmHg/19.0C±7.1CmmHg(p=0.06)であった.SLT施行直前に使用していた薬剤成分数はC1.6成分/2.3成分/2.6成分であった(p<0.01)(表1).SLT施行後眼圧は,術後C1カ月:14.4C±3.2CmmHg/13.0±3.1CmmHg/15.7±7.3mmHg,3カ月:14.1C±2.5/12.5±2.8/13.9±4.3,6カ月:13.8C±2.5/13.4±3.2/14.2C±4.7で,常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認た生命表解析Out.owpressure改善率C20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(logrank検定:p=0.1722).めた(表2,図1).SLT施行後の眼圧下降率は術後C1カ月:C18.6±14.1%/15.3C±13.2%/16.3C±15.2%,3カ月:19.1C±14.0%/16.7C±14.4%/21.7C±19.5%,6カ月:19.1C±12.0%/C11.6±16.2%/21.4C±20.1%であった(表2).ΔOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(p=0.1722)(図2).SLT後の合併症として,術後C1時間の時点または術後C1カ月の時点で一過性眼圧上昇が認められたものは,96眼中4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)であった.このうちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.CIII考按近視は緑内障発症の危険因子とされ,緑内障進行の危険因子である可能性についての報告もある10,11).また,近視眼は加齢とともに眼球形態が変化することによりさまざまな黄斑疾患や周辺部網膜病変が生じることがある.これを病的近視とよび,病的近視の眼底所見には,後部ぶどう腫,Bruch膜のClacquercrack(ひび割れ),黄斑部出血,近視性牽引黄斑症,網膜分離症,近視性網脈絡膜萎縮などがある.これらの近視性変化により緑内障様視神経症をきたすこともある12).この病態は,緑内障による構造変化と強度近視による構造変化が混在している可能性があるがまだ不明なことが多い.強度近視眼緑内障をC10年以上観察した場合には乳頭出血の出現頻度が低く,視野障害の悪化率が低率である可能性が示唆された13).myopicCglaucomatous(MG)型,generalizedenlargement型,focalglaucomatous型のC3群の乳頭形状を有する開放隅角緑内障でC5年間の乳頭出血の頻度を比較した結果,MG型が乳頭出血の出現頻度が低率で,近視緑内障眼は進行も緩徐である可能性がある14)など,近視眼緑内障の病態は非近視眼緑内障と異なる経過をたどる可能性も考えられ,アジアを中心に徐々に報告が増えてきている.近視眼緑内障に視神経へのストレス軽減を目的に眼圧下降治療を試す施設もあり,その是非が注目されている.本研究におけるCSLT後の眼圧はすべての時点でベースライン眼圧より下降し,強度近視眼や病的近視眼であっても眼圧下降効果は発現している.日本人の緑内障はその約C7割がCNTGであり15),本研究でもCNTGは全体のC58.3%だったので,同様の分布であったと思われる.NTGにCSLTを施行したC6カ月後の眼圧下降率は,15.1%7)やC21.2%16)などの報告があり,SLTにより過去の報告と同様の効果が得られたと思われる.当院は強度近視眼の患者が多く高度の視神経障害も合併している患者が多いという特殊性がある.視力C0.1以下の症例も多く,Humphrey視野での評価が困難な患者も多く,SLTによる視機能保持効果の評価については課題が多い.また,最大薬剤成分数の点眼を使用しており,SLTの作用持続期間が短い5,6)とされる患者であっても,一時的にでも視機能を保持したいためにCSLTを施行しているという背景があった.このような条件下でも経過観察期間内の合併症の頻度は少なく,眼圧は下降していることから,病的近視眼緑内障の治療方法としてもCSLTは有用である可能性が示唆された.合併症については一過性眼圧上昇がC0.8%起こる可能性があると報告されている5).本研究では非強度近視でC2.4%,強度近視群でC8.0%,病的近視群でC3.4%に認めた.一過性眼圧上昇を認めても治療内容を変更せずに経過観察したところ,3例で次の診察時にはベースライン以下に眼圧は下降し,視機能に影響するような合併症もなかった.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術が必要となった.SLTはC1回の治療でしばらく経過観察するので,点眼での治療とは異なり,定期的な通院の必要性に対する認識が希薄になってしまう可能性がある.このためCSLTの照射後は眼圧が上昇する可能性があるので術後も定期的な眼圧の確認が必要である,と伝えておくことは非常に重要である.本研究の限界は,後ろ向き研究であることである.強度近視を伴う緑内障では緑内障性構造変化と近視性構造変化が合併した状態なので,SLT施行前の臨床的背景がC3群間で異なっておりCSLT効果を評価することが困難であった.よって本研究では,それぞれの症例群に対して効果があるということを示したものとなる.今後は病期や眼圧の程度を揃えた多施設前向き研究が必要と考える.また,今後の研究では,強度近視や病的近視群の眼軸伸展に伴う構造変化が眼圧上昇に影響する可能性も考慮していくことが重要と考えられる.病的近視群のなかには,網脈絡膜萎縮が広範に存在するために視神経症による視野障害以外の要素も加味すべきであるが,病的近視眼群では視力C0.1以下の症例も多く,Hum-phrey視野での評価が困難であったので,SLTによる眼圧下降が視機能保持に貢献しているかの検討が困難であった.CIV結論強度近視眼緑内障においてもCSLTは非強度近視眼緑内障と同様に眼圧下降が得られる可能性がある.文献1)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20142)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:AnewinsightintoCtheCcellularCregulationCofCaqueousout.ow:howCtra-becularCmeshworkCendothelialCcellsCdriveCaCmechanismCthatCregulatesCtheCpermeabilityCofCSchlemm’sCcanalCendo-thelialcells.BrJOphthalmolC89:1500-1505,C20053)ChenCC,CGolchinCS,CBlomdahlS:ACcomparisonCbetweenC90degreesand180degreesselectivelasertrabeculoplas-ty.JGlaucomaC13:62-65,C20044)LatinaCMA,CParkC:SelectiveCtargetingCofClaserCmesh-workcells:invitroCstudiesofpulseandCWlaserinterac-tion.ExpEyeRes60:359-371,C19955)KhawajaCAP,CCampbellCJH,CKirbyCNCetal:Real-worldCoutcomesCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCinCtheCUnitedCKingdom.OphthalmologyC127:748-757,C20206)MikiA,KawashimaR,UsuiSetal:TreatmentoutcomesandCprognosticCfactorsCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCopen-angleCglaucomaCreceivingCmaximal-tolerableCmedicaltherapy.JGlaucomaC25:785-789,C20167)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日眼会誌117:335-343,C20138)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticenterrandomizedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20199)HuanhuanCheng,LiWang,JackXKaneetal:AccuracyofCarti.cialCintelligenceCformulasCandCaxialClengthCadjust-mentsCforChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC223:C100-107,C202110)PerdicchiCA,CIesterCM,CScuderiCGCetal:VisualC.eldCdam-ageCandCprogressionCinCglaucomatousCmyopicCeyes.CEurJOphthalmolC17:534-537,C200711)ParkHY,HongKE,ParkCK:ImpactofageandmyopiaonCtheCrateCofCvisualC.eldCprogressionCinCglaucomapatients.Medicine(Baltimore)C95:e3500,C201612)Ohno-MatsuiCK,CShimadaCN,CYasuzumiCKCetal:Long-termCdevelopmentCofCsigni.cantCvisualC.eldCdefectsCinChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC152:256-265,C201113)NittaCK,CSugiyamaCK,CWajimaCRCetal:IsChighCmyopiaCaCriskfactorforvisual.eldprogressionordiskhemorrhageinCprimaryCopen-angleCglaucoma?CClinCOphthalmolC11:C599-604,C201714)YamagamiA,TomidokoroA,MatsumotoSetal:Evalua-tionCofCtheCrelationshipCbetweenCglaucomatousCdiscCsub-typesCandCoccurrenceCofCdiscChemorrhageCandCglaucomaCprogressionCinCopenCangleCglaucoma.CSciCRepC10:21059,C202015)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C200416)LeeJWY,ShumJJW,ChanJCHetal:Two-yearclinicalresultsCafterCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCnormaltensionglaucoma.Medicine(Baltimore)C94:e984,C2015***

基礎研究コラム:ウイルス増殖における宿主由来長鎖ノンコーディングRNAの役割

2022年8月31日 水曜日

ウイルス増殖における宿主由来長鎖ノンコーディング白濱新多朗RNAの役割東京大学医学部眼科学教室ノンコーディングRNAとはらびに増殖が著明に抑制されました.この結果は,U90926がマウス視細胞におけるCHSV-1の増殖に必須の分子であるノンコーディングRNAとは,蛋白質をコードしないことを示唆しています2)(図1).RNAの総称です.ノンコーディングCRNAは,全長に基づさらに筆者のグループは,ヒトゲノムのシンテニー領域にいて,200塩基未満の短鎖ノンコーディングCRNAとC200塩U90926遺伝子と高い相同性をもつホモログ遺伝子(ヒト基以上の長鎖ノンコーディングCRNA(longCnon-codingU90926)を同定しました3).また,ヒトCU90926遺伝子由来RNA:lncRNA)に大別されます.lncRNAはさまざまなの転写産物量は,HSV-1が原因ウイルスの急性網膜壊死患RNA結合蛋白質と結合し,RNA結合蛋白質の機能を制御す者の硝子体液中で著明に増加し,硝子体液中のウイルス量なることで,多様な生理機能を発揮します.らびに最終矯正視力と強い相関をもつことを明らかにしまし宿主細胞はウイルス感染に対する自然免疫応答の一環とした3).これらの結果は,ヒトCU90926遺伝子由来のClncRNAて,自身の翻訳反応を抑制することが知られています.が,HSV-1を起因とする急性網膜壊死の有望な治療標的にlncRNAは翻訳されずに機能する分子で,宿主が自然免疫応なりえる可能性があることを示唆しています.答においてClncRNAを利用することは非常に合理的です.しかし,ウイルスは宿主との攻防において,この宿主由来の今後の展望lncRNAを巧みに利用して,自らの増殖を促進していることウイルスは宿主細胞なくしては増殖できないことが意味すがわかってきています1).ウイルス増殖を促進する機能をもるように,宿主側因子を巧みに利用して自らの増殖に役立てつClncRNAは,その阻害によりウイルス増殖が阻害されるています.宿主由来ClncRNAを標的とすることで,これまため,抗ウイルス薬の有望な新規治療標的になりえます.での抗ウイルス薬とまったく異なる治療標的をもつ新薬が誕急性網膜壊死の病態形成における生することが期待されます.長鎖ノンコーディングRNAの役割文献筆者のグループは,次世代シーケンサーを用いたCRNA1)WangP,XuJ,WangYetal:Aninterferon-independentシーケンシング解析により,単純ヘルペスウイルスC1型ClncRNACpromotesCviralCreplicationCbyCmodulatingCcellular(herpesCsimplexCvirusCtype1:HSV-1)の感染後に,マウCmetabolism.ScienceC358:1051-1055,C2017ス視細胞株で発現上昇するClncRNAを網羅的に同定しまし2)ShirahamaCS,COnoguchi-MizutaniCR,CKawataCKCetal:た2)CLongCnoncodingCRNACU90926CisCcrucialCforCherpesCsim-.さらに同定ClncRNAの中から,急性網膜壊死モデルマCplexCvirusCtypeC1CproliferationCinCmurineCretinalCphotore-ウスの網膜で発現上昇を認めたCU90926に着目しました.Cceptorcells.SciRepC10:19406,C2020U90926ノックダウン細胞にCHSV-1を感染させると,ゲ3)ShirahamaCS,CTaniueCK,CMitsutomiCSCetal:HumanCU90926orthologouslongnon-codingRNAasanovelbio-ノムCDNA複製に必要なウイルス遺伝子(ICP-0,ICP-4)のCmarkerforvisualprognosisinherpessimplexvirustype-発現低下がみられ,結果的にCHSV-1のゲノムCDNA複製なC1inducedacuteretinalnecrosis.SciRepC11:12164,C2021図1宿主由来長鎖ノンコーディングRNAを利用した単純ヘルペスウイ1.宿主細胞へのウイルス2.宿主由来IncRNA-U909263.ゲノムDNA複製に必要な4.ウイルス増殖のルス1型の増殖感染の発現上昇ウイルス遺伝子の発現上昇促進ウイルス感染に対する応答として,はじめに宿主細胞よりlncRNA-U90926が発現誘導される.次に,ウイルスはlncRNA-U90926を利用して自らのゲノムCDNA複製に必要なウイルス遺伝子(ICP-0,ICP-4)を発現誘導することにより,宿主細胞における増殖を促進している.(81)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10910910-1810/22/\100/頁/JCOPY