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屈折矯正手術:前房型 Phakic IOLの長期成績

2022年6月30日 木曜日

●連載265監修=稗田牧神谷和孝265.前房型PhakicIOLの長期成績福本光樹南青山アイクリニック東京日本国内においてCphakicIOLは後房型CphakicIOLが主流となっているが,これまで多くの前房型CphakicIOLも挿入されており,日常診療で遭遇する機会もまれではない.そのため長期成績,とくに合併症について熟知しておくことは重要であると考える.C●はじめにを認めなかったが,10年時には低下を認めた(p<0.001:one-wayANOVA)(図2).角膜内皮細胞密度有水晶体眼内レンズ(phakicCinterocularlens:減少を認めたため摘出したのはC10眼(8.9%,667~P-IOL)には前房型CP-IOLの虹彩把持型CP-IOLと隅角支持型CP-IOL,後房型CP-IOLがあるが,現在国内におa自覚等価球面屈折度数(D)2.00いては後房型CP-IOLが主流となっている.1986年にWorstらによって初めて挿入された虹彩支持型CP-IOL1)はさらに改良され,Artisan(OPHTEC社)はC1997年にCEUのCCEマークを取得し,2004年には米国食品医薬品局(FDA)に認可されている.日本国内においては未承認ではあるが,これまでに約C8,000眼に対して虹彩0.00-2.00-4.00-6.00-8.00-10.00-12.00-14.00支持型CP-IOLが挿入されている.また,現在も欧州諸-16.00Pre1M6M1Y5Y10Y国ではCP-IOLの約C30%は虹彩支持型CP-IOLが挿入さ-11.30-0.17-0.13-0.06-0.23-0.37れていると推測される.P-IOLなどの屈折矯正手術を100%執刀しない眼科医も,合併症も含め長期成績を熟知してCb180%おくことは必要と考えている.●当院での術後10年の成績裸眼視力60%0.140%これまで世界中から多くのCP-IOLに対する安全性・2.98D(-19.5~-2.25D),cyl-1.28±1.21D(-6.0~0D),SE-11.30±2.90D(-21.0~-2.75D)である.有効性などについての報告がなされている2,3).今回は当院で近視性乱視に対して虹彩支持型CP-IOL挿入術を施行し,術後C10年以上経過観察できた症例について結果を報告する.対象は2001年2月~2011年12月に手術した63例112眼(男30例52眼,女33例60眼),年齢は37.9C±7.9歳(23~53歳),術前自覚屈折度数はCsph-10.66±20%0.01Pre1M6M1Y5Y10Y0%≧±1.00%74.5%83.9%88.4%82.4%60.6%UCVA0.031.081.161.201.160.97有効係数0.920.980.990.940.79100%c180%術前にレーザー虹彩切開術を施行し,虹彩支持型P-IOLであるCOPHTEC社のCArtisan(PMMA製)をC77眼(うちCtoricはC8眼)に,シリコーン製光学部とPMMA製支持部のCArti.exをC35眼(うちCtoricはC13眼)に挿入した.自覚屈折度数,裸眼視力,矯正視力の推移は良好で安定していた(図1).角膜内皮細胞密度はC5年までは低下(91)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1当院における虹彩支持型phakicIOLの長期成績a:術後のCregressionは少なく,長期に自覚等価球面度数は安定していた.Cb:裸眼視力,有効係数は良好であった.Cc:矯正視力,安全係数は良好であった.20%0.01Pre1M6M1Y5Y10Y0%≧±1.094.6%96.9%95.7%98.8%97.3%96.3%BCVA1.261.361.381.441.351.32安全係数1.111.131.151.071.04あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C787角膜内皮細胞密度はC5年以降に大幅に減少した症例を認め,角膜内皮細胞密度(個/mm2)3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000***Pre1M6M1Y5Y10Y2694.52670.72852.82665.92679.32429.1図2角膜内皮細胞密度の推移角膜内皮細胞密度はC5年以降に大幅に減少した症例を認め,10年時に減少していた(*p<0.001:one-wayANOVA).C2,193Ccells/mm2)),術後C3,468.3C±943.0日(2,149~5,230日)で,うちC3眼は摘出のみ,7眼は摘出+水晶体再建術を施行した.また,白内障のため摘出+水晶体再建術を施行したのはC6眼(5.4%),術後C3,687.5C±1,741.9日(252~4,914日)であった.把持の再固定を施行したのはC14眼(12.5%),術後C2,751.9C±1,344.4日(61~4,214日)で,内訳は支持部が脱臼して再固定を施行したのは3眼(図3),把持がゆるくなり再固定を施行したのは11眼であった.治療を要する眼圧上昇や緑内障,眼内炎などの合併症は認めなかった.C●おわりに虹彩把持型CP-IOLは屈折度数などが長期的に安定しており,とくに乱視が強い場合は後房型CP-IOLのように回旋することはなく,屈折矯正手術の選択肢の一つとして習得しておきたい方法である.角膜内皮細胞密度減少,把持のゆるみ,そして脱臼などが起こるため術後経過観察は重要である.通常眼における角膜内皮細胞密度の減少については,-0.25%/年や-0.6%/年などの報告4,5)がある.筆者らの結果ではC5年目以降に約C9%の症例で大幅な減少を認め摘出が必要となった.虹彩把持型CP-IOLが角膜内皮細胞と接触することがおもな原因と考えられ,前房内の炎症やレーザー虹彩切開術による影響も示唆されている.定期検査は必須であり,その際は角膜中心部以外の角膜内皮細胞密度や前房深度を測定することが望まれる.摘出+水晶体再建術の際は,術前散瞳は通常通り施行し,専用の器具を用いて把持をはずし,そのまま継続して水晶体再建術を施行できるが,虹彩断裂や出血などの術中合併症を考慮すると挿入術経験者に依頼することが望まれる.欧州などでは現在も虹彩支持型CP-IOL挿入術がC30%C788あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022図3PhakicIOL再固定を実施した症例術後C2,831日にゴムボールが左眼に当たり,左眼視力低下を自覚し来院した.左眼の鼻側把持部分の脱臼を認めたため(Ca),再固定を施行し,その後の経過は良好である(Cb).程度施行されている.さらに+2.5D加入の屈折型多焦点CP-IOLであるCArti.exPresbyopiaが欧州や韓国では2021年C11月より導入されている.虹彩支持型CP-IOLはまた日本国内においても診察する機会が増加する可能性もある.眼科医としては後房型CP-IOLの長期成績,とくに合併症について熟知しておくことは必要であると考える.文献1)FechnerCPU,CHaubitzCI,CWichmannCWCetal:Worst-Fech-nerCbiconcaveCminusCpowerCphakicCiris-clawClens.CJRefractSurg15:93-105,C19992)TahzibCNG,CNuijtsCRM,CWuCWYCetal:Long-termCstudyCofArtisanphakicintraocularlensimplantationforthecor-rectionCofCmoderateCtohighCmyopia:ten-yearCfollow-upCresults.OphthalmologyC114:1133-1142,C20073)vanRijnGA,GaurisankarZS,IlgenfritzAPetal:Middle-andlong-termresultsafteriris-.xatedphakicintraocularlensCimplantationCinCmyopicCandChyperopicpatients:aCmeta-analysis.JCataractRefractSurg46:125-137,C20204)HigaCA,CSakaiCH,CSawaguchiCSCetal:CornealCendothelialCcellCdensityCandCassociatedCfactorsCinCaCpopulation-basedCstudyCinJapan:theCKumejimaCstudy.CAmJOphthalmolC149:794-799,C20105)BourneCWM,CNelsonCLR,CHodgeDO:CentralCcornealCendothelialCcellCchangesCoverCaCten-yearCperiod.CInvestCOphthalmolVisSci38:779-792,C1997(92)

眼内レンズ:眼瞼下垂症例では低加入度数分節 IOL固定方向が視機能に影響する

2022年6月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋427.眼瞼下垂症例では低加入度数分節IOL澤野宗顕西大宮病院眼科固定方向が視機能に影響する低加入度数分節眼内レンズ(IOL)は遠用ゾーン上方固定が一般的であるが,瞼裂狭小化による遠用ゾーン遮蔽で遠方視力に不満をもった患者を経験した.本IOL挿入眼に眼瞼下垂を合併したシミュレーションを施行したところ,特有の網膜像変化が観察された.瞼裂狭小化症例に本IOLを使用する際には注意を要する.●はじめに低加入度数分節眼内レンズ(intraocularlens:IOL)レンティスコンフォート(参天製薬)は,わが国初の保険適用多焦点IOLとして広く用いられている.光学部面積の60%を遠用ゾーン,40%を中間ゾーンとする分節型2焦点光学設計で,加入度数が+1.5Dと低加入であることからグレア・ハローが少ない1)(図1).本IOLの特徴の広い明視域を利用し,片眼を0D,僚眼を-0.5D程度に合わせたマイクロモノビジョン(micromonovi-sion:MMV)は保険診療で眼鏡なしの生活を提供する有用な手段と考えられている2).しかし,当院ではMMVの0D側に皮膚弛緩症を生じ,遠用ゾーンが遮蔽され,遠方視に不満をもった患者を経験した.そこで本IOL挿入眼に対する上眼瞼の影響を調べるため,LentVerde研究所のシミュレーションソフトを用いて検討した.●実験と結果屈折は正視,瞳孔径3mm,角膜球面収差+0.23μmの条件の下,上眼瞼遮蔽の程度別(図2)に網膜像のシミュレーションを施行した.比較対象として同条件で単焦点IOLについても解析した.以下に実験結果を示す3).図1低加入度数分節IOLの模式図と固定方向保険適用の多焦点眼内レンズ.光学部面積の60%が遠用ゾーン,残りの40%が中間ゾーンの+1.5D低加入2焦点である.実験では遠用ゾーン上方固定,下方固定,横固定の三つの固定方法で比較した.(1)遠用ゾーン上方(図3a):単焦点IOLと比較し本IOLは広い明視域を有していた.中等度では遠用ゾーンが遮蔽され遠方解像度は低下する一方,中間ゾーンのみの露出と当ゾーンへのピンホール効果により中間~近方解像度は上昇した.(2)遠用ゾーン下方(図3b):遮蔽がない条件では遠用ゾーン上方と大きな変化はなかった.中等度では中間ゾーンが遮蔽され中間~近方解像度は低下した一方,遠用ゾーンのみの露出と当ゾーンへのピンホール効果により遠方解像度が上昇した.(3)横固定(図3c):縦固定のような分節型特有の変化はないが,遮蔽によるレンズ開口面積の減少に伴い解像度が低下した.(4)単焦点レンズ(図3d):遠方の解像度が良好.遮蔽の進行に伴い解像度は低下したが影響は少なかった.●考按上方からの遮蔽における本IOLの網膜像は,①遮蔽ゾーン度数の解像度低下,②非遮蔽ゾーンへのピンホール効果による焦点深度拡張,③レンズ開口面積の減少に依存すると考えられた.実験結果から低加入度数分節型IOL特有の現象が生じたことから,本IOL挿入後の不(89)あたらしい眼科Vol.39,No.6,20227850910-1810/22/\100/頁/JCOPYa遠用ゾーン上方の結果b遠用ゾーン下方の結果上方からの遮蔽5m:遠方1m:中間50cm:近方なし(0/4)軽度(1/4)中等度(2/4)重度(3/4)図3網膜像のシミュレーション結果a:眼瞼下垂がなければ本IOLは広い明視域を有している.下垂に伴い遠用ゾーンが遮蔽され,それに伴う網膜像の変化が現れた.b:眼瞼下垂がなければ遠用ゾーン上方固定と大きな違いはみられない.下垂に伴い中間ゾーンがc横固定の結果d単焦点IOLの結果遮蔽され,それに伴う網膜像上方からの遮蔽5m:遠方1m:中間50cm:近方なし(0/4)軽度(1/4)中等度(2/4)重度(3/4)上方からの遮蔽5m:遠方1m:中間50cm:近方なし(0/4)軽度(1/4)中等度(2/4)重度(3/4)上方からの遮蔽5m:遠方1m:中間50cm:近方なし(0/4)軽度(1/4)中等度(2/4)重度(3/4)の変化が現れた.c:眼瞼下垂が進んでも,遠中両ゾーンとも完全には遮蔽されないが,レンズ開口面積の減少に伴い,解像度の低下がみられた.d:遠方解像度は良好で,眼瞼下垂による影響は少ない.(文献3より抜粋して引用)満の原因の一つに眼瞼下垂や皮膚弛緩症などの瞼裂狭小668,20192)野田徹,大沼一彦:低加入度数分節眼内レンズ光学特化の影響を考慮する必要がある.性とモノビジョンの応用.日本の眼科91:12-18,2020文献3)澤野宗顕:LS-313MF15挿入眼に対する上眼瞼の影響.日1)荒井宏幸:レンティスコンフォート.IOL&RS33:660-本白内障学会誌34,2022(印刷中)

写真:円錐角膜眼に対するハイブリッド型コンタクトレンズの応用

2022年6月30日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦457.円錐角膜眼に対するハイブリッド型細谷比左志ホワイティうめだ眼科クリニックコンタクトレンズの応用図2図1のシェーマ①レンズ中央部(HCL,RGP素材)②レンズスカート部(SCL,シリコーンハイドロゲル)③レンズ接合部図1本症例のEyebridlens装着後の前眼部OCT像角膜中央の薄くなり前方へ突出した部位(C..)が,レンズ中央のCHCL部により矯正されている.図3本症例のEyebridlens装着前の前眼部OCT像角膜中央部が菲薄化しており,前方へ突出している(C..).図4本症例の角膜形状検査結果(87)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C7830910-1810/22/\100/頁/JCOPY円錐角膜は,角膜中央部のやや下方が徐々に薄くなり前方に突出してきて不正乱視が強くなり,眼鏡やソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)では十分な視力矯正ができず,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)による視力矯正が行われる.通常はCHCL装用により満足な視力矯正ができるケースが多い.しかし,なかにはCHCLでは異物感が強すぎたり,下方のレンズエッジの浮きが大きくなりすぎて装用できない例もある.最近,レンズ中央部がCHCLで,周辺部がCSCLで構成されたハイブリッド型コンタクトレンズ(contactlens:CL)が開発され円錐角膜眼にも装用されている1).筆者のクリニックでも円錐角膜の患者に処方したところ良好な結果を得た.図1,2はそのようなハイブリッド型CCLを円錐角膜眼に装用した状態の前眼部COCT(カシア)像である.このハイブリッド型CCLは,フランスのCLCS社からCEyebridlensという名前で販売されている.中央のCrigidpartが良好な視力を保証し,周辺のソフトスカート部が良好な装用感と安定性を保証する.中央部の直径はC8.5CmmとC10.0CmmのC2種類があり,レンズ全体の直径は両タイプともC14.9Cmmである.円錐角膜には,おもに中央部の直径がC8.5Cmmのタイプが使用される.中央部の素材はガス透過性(rigidgaspermeable:RGP)で酸素透過係数(Dk値)はC100であり,周辺のソフトスカート部の素材はシリコーンハイドロゲルでCDk値は84である.今回呈示した症例はC39歳の男性で,左眼の視力低下を主訴に受診した.細隙灯顕微鏡検査と角膜形状検査にて両眼の円錐角膜が判明.左眼のほうがその程度は強く,細隙灯顕微鏡検査にて角膜の菲薄化とCFleischerC’sringを認めた.図3は左眼のハイブリッド型CCL装用前の前眼部COCT像であり,角膜の断面像により角膜の菲薄化と前方突出の様子が非常によくわかる.図4は角膜形状検査結果である.角膜中央やや下方に屈折力の非常に強い部分がみられ,かなり進行した円錐角膜であることがわかる.初診時視力は,RV=1.5(n.c.),LV=0.03(0.4C×sph+4.25D(cly-9.0DAx110°)であった.右眼は問題なかったが,左眼は高度の不正乱視により眼鏡やCSCLでの視力矯正は不良で,今までも何度かCHCLによる視力矯正を試みたが,異物感が強く成功に至らなかった.ハイブリッド型CCLの話をすると,強く希望された.レンズ装用により(1.0)と良好な視力を得,本人も満足し,その後問題なく経過している.進行した円錐角膜では,眼鏡やCSCLによる視力矯正はできず,多くの場合CHCLによる視力矯正がなされる.しかし,異物感が強くて装用ができない患者もいる.こうした患者には大きなサイズの強膜CHCL2)や,SCLを装用した上にさらにCHCLを装用するレンズC2枚重ねのピギーバック方式を試みる場合3)もあるが,とくに後者では,患者にとりややレンズの取扱いが煩雑となり,また角膜への酸素供給が低下する懸念もある1).今回使用したハイブリッド型CCLは中央部がCHCLで円錐角膜の不正乱視を矯正でき,かつ周辺部がCSCLであるのでフィッティングは良好でレンズが安定し装用感も良好である.視力も矯正でき患者の評価も高い.専用のフルオレセイン染色液が必要である点などの問題もあるが,進行した円錐角膜に今後選択肢の一つとして試みられてよい矯正方法であると思われる.(本稿の一部は角膜カンファランス2022で発表した4))文献1)KloeckCD,CKoppenCC,CKrepsEO:ClinicalCoutcomeCofChybridCcontactClensesCinCkeratoconus.CEyeCContactCLensC47:283-287,C20212)KoppenC,KrepsEO,AnthonissenLetal:SclerallensesreduceCtheCneedCforCcornealCtransplantsCinCsevereCkerato-conus.AmJOphthalmolC185:43-47,C20183)BarnettCM,CMannisMJ:ContactClensesCinCtheCmanage-mentofkeratoconus.CorneaC30:1510-1516,C20114)細谷比左志:円錐角膜眼に対するハイブリッド型CCLによる視力矯正.角膜カンファランスC2022抄録集,p125,P140,C2022C

腫瘍性病変

2022年6月30日 木曜日

腫瘍性病変IntraocularTumors盛秀嗣*髙橋寛二*はじめに眼底の隆起性病変は網脈絡膜の滲出性変化,出血,炎症,腫瘤などによる器質性病変によって生じ,診断を行う際に必ず後眼部腫瘍を鑑別にあげる必要がある.しかし,日常診療において後眼部腫瘍に遭遇する頻度はまれであり,診療の機会が限られるために眼科腫瘍疾患に対する経験を積むことができず,確実な診断を行うことが困難となることがしばしば生じる.そのため後眼部腫瘍を疑う患者に遭遇した場合,視機能の良し悪しに関係なく,腫瘍専門施設に確定診断および治療を依頼するケースが多い.後眼部腫瘍のうち,悪性腫瘍は視機能低下のみならず患者の生命にかかわる危険性があるため,早期発見・早期治療が原則で,早急に腫瘍専門施設に患者を紹介するべきである.一方で,臨床所見のみで良性腫瘍と診断することができれば,視機能に影響を及ぼさない限り,わざわざ腫瘍専門施設に紹介せずとも自院での経過観察が可能である.後眼部腫瘍の見分け方として,①腫瘍の色調,②腫瘍の存在場所,③腫瘍の形態,④腫瘍随伴所見,の順に所見を追っていけば,おのずと腫瘍の診断を行うことができる.検眼鏡的所見,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyaninegreenangiography:IA),光干渉断層撮影(opticalcoherencetomogra-phy:OCT),光干渉断層血管撮影(OCTangiogra-phy:OCTA),CT,MRI,Bモード超音波断層など検査機器の進歩により,高画質,高画角,高深達,さらに近年は血流までも非侵襲的かつ簡便に把握することが可能となってきた.本稿では,診療現場において後眼部腫瘍を疑った場合に,診断を行ううえでが困らないように診断の流れを提示し,そのうえでそれぞれの後眼部腫瘍の疾患概念,画像所見についてレビューを行った.また,画像所見については,当院で得られた画像を中心に提示し,さらにいくつかの後眼部腫瘍については,近年話題のOCTA所見を加えた.I診断および鑑別方法後眼部腫瘍に対する診断の流れを図1に示す.フローチャートのように,色調→存在場所→形状の順に診断していく.後眼部腫瘍を疑った場合,まず観察するポイントは腫瘍の色調である.腫瘍の色調により,赤色系腫瘍,白色系腫瘍,褐色系腫瘍の三つに分けることができる.赤色系腫瘍の場合,網膜表層にあれば網膜海綿状血管腫,網膜毛細血管腫,網膜血管増殖性腫瘍,網膜蔦状血管腫が鑑別にあがり,脈絡膜にあれば脈絡膜血管腫と診断することができる.網膜表層に存在する網膜赤色系腫瘍のうち,暗赤色かつ形状がぶどうの房状であれば網膜海綿状血管腫,赤色かつ塊状であれば網膜毛細血管腫もしくは網膜血管増殖性腫瘍,赤色かつ後極部にとぐろ状の太い血管を認めれば網膜蔦状血管腫を疑う.*HidetsuguMori&KanjiTakahashi:関西医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕盛秀嗣:〒573-1191大阪府枚方市新町2-5-1関西医科大学眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(69)765ぶどうの房状網膜海綿状血管腫眼内悪性リンパ腫脈絡膜骨腫転移性脈絡膜腫瘍図1後眼部腫瘍の診断フローチャート図2網膜海綿状血管腫の画像所見a:眼底写真.黄斑部上方にぶどうの房状の血管瘤集簇と白色線維組織を認める.b:FA像.早期(左図)では腫瘍内血管への蛍光色素が流入遅延しており,中期.後期では血漿/血球分離像を認める.c:OCT像.腫瘍表層は高輝度の反射を示し,表層付近には大小不同の血管腔構造を認める.d:OCTA像.EnfaceOCTA画像では,ぶどうの房状に血管瘤が集簇し,cross-sectionalOCTA画像では,腫瘍血管内の血流が遅いことが描出されている.(文献2より引用)表1網膜毛細血管腫孤発性続発性全身疾患の合併なしあり血管芽腫(小脳,脊髄)褐色細胞腫,腎細胞癌,膵.胞など家族歴なし常染色体優性遺伝平均発症年齢36歳18歳発生数単発多発好発部位視神経乳頭,周辺部d図3網膜毛細血管腫の画像所見a:眼底写真.眼底周辺部に拡張・蛇行した流入・流出血管を伴う赤色腫瘤を認める.b:FA像.早期には流入・流出血管の拡張・蛇行を呈し,後期には腫瘍から旺盛な蛍光漏出を認める.c:OCT像.腫瘍表層は高反射を示し,腫瘍周囲には滲出性変化と考えられる網膜内浮腫を認める.d:EnfaceOCTA像.新鮮な網膜毛細血管種の場合,高輝度塊として描出(左図)される.一方で,退縮傾向にあるグリア増殖を伴う場合,血流豊富な細血管からなる高灌流病巣(右図)として認める.(文献19より引用)図4網膜血管増殖性腫瘍の画像所見a:眼底写真.眼底周辺部に橙赤色の隆起病変として観察され,腫瘍の流入・流出血管の拡張・蛇行は認められない.また,腫瘍から滲出性変化である網膜.離や硬性白斑,出血を認める.b:FA像.腫瘍の流入・流出血管の拡張・蛇行は認められない.さらに後期には血管腫からの強い蛍光漏出を認める.c:IA像.FA像と比較して,腫瘍血管を鮮明に検出可能である.(文献19より引用)図5網膜血管増殖性腫瘍の画像所見眼底写真(a)とFA像(b)ともに,拡張した動脈と静脈の直接吻合を視神経乳頭近傍に認める.(文献20より引用)abec超早期早期後期f網目状の腫瘍血管びまん性過蛍光multi-lakelikepatternd粗大な腫瘍血管びまん性過蛍光washout脈絡膜毛細血管板層脈絡膜層図6脈絡膜血管腫の画像所見a:眼底写真.左図:孤発性脈絡膜血管腫.視神経乳頭鼻上側に橙赤色の境界明瞭な腫瘤を認める.右図:びまん性脈絡膜血管腫.黄斑部直下にサーモンピンク色の境界不明瞭な腫瘤を認める.b:Bモード超音波断層像.音響透過性が良好な腫瘤として認められる.c:FA像.早期には網目状の腫瘍血管,びまん性過蛍光を認める.後期には血管腫全体に過蛍光と低蛍光が混在するmultilakelikepatternがみられる.d:IA像.FAと同様に早期に粗大な腫瘍血管とびまん性の過蛍光を認める.後期には血管腫全体の過蛍光が減少し,周辺部で過蛍光を呈するwashout現象を認める.e:OCT像.腫瘍表層には大小血管影を認め,深層は低反射となる.腫瘍が大きくなると,腫瘍の眼底前方への圧排により,CC反射の消失,RPEラインの不整,漿液性網膜.離,網膜浮腫,網膜下点状高反射を認める.高い腫瘍厚をもつ症例では,EDIモードでもChoroid-Sclera(C-S)junctionは判別不能である.f:OCTA像.腫瘍血管()を明瞭に検出することは困難である.これは海綿状血管腫の構造上,血流が遅いことが要因と考えられる.(文献19より引用)過性が良好であるが,脈絡膜悪性黒色腫は音響空胞を認める.・FA所見(図6c)19):超早期には網目状の腫瘍血管を認め,すみやかに腫瘍全体がびまん性過蛍光となる.後期にはRPE増生による低蛍光とRPE障害によるwindowdefect,漿液性網膜.離による蛍光貯留,強い漏出による過蛍光が混在するmultilakelikepatternがみられる.・IA所見(図6d)19):FAと同様に早期には網目状腫瘍血管,以降は網目状血管からのびまん性過蛍光を示す.そして,後期にはwashout現象(=血管腫全体の過蛍光が減少し,周辺部で過蛍光を呈する)を認める.・OCT(図6e)19):脈絡膜に生じる病変であるため,深部強調画像(enhanced-depthimaging:EDI)もしくはsweptsourceOCT(SS-OCT)による撮影が望ましい.腫瘍表層には大小の血管影を認め,深層は低反射となる.血管腫が大きくなると,血管腫による眼内への圧排により脈絡膜毛細血管板反射の消失,RPEラインの不明瞭化を認める.さらに,強くRPEが障害されている部位には漿液性網膜.離を認める.また,血管腫の丈が低い場合は強膜-脈絡膜の境界であるC-Sjunctionは判別可能だが,腫瘍高が高くなるとC-Sjunctionは不明瞭化する.・OCTA(図6f)19):海綿状血管腫であるために血流が遅く,腫瘍血管を明瞭に検出することは困難である.III白色系腫瘍1.網膜星状(膠)細胞腫a.疾患概念網膜内に存在するグリア細胞のうち,星状細胞が異常増殖する良性腫瘍である.McLean7)が1937年に報告して以来,国内外でも合わせて数十症例しか報告されていない非常に珍しい,10.20歳代の若年発症の疾患である.星状細胞は視神経乳頭.後局部に多く分布していることから,傍視神経乳頭または黄斑部に生じる.結節性硬化症や神経線維腫症などの母斑症に随伴することが多いが,孤発性に発生することもある.腫瘍が増大すると漿液性網膜.離や血管新生緑内障を引き起こすことがある.b.臨床所見・眼底所見(図7a):視神経乳頭.黄斑部にかけて,桑の実状の黄白色隆起性腫瘤として観察される.古い病変では石灰化を呈することもある.・Bモード超音波断層像:網膜表面に隆起性病変として観察され,増大した腫瘍の場合は周囲に漿液性網膜.離を認める.・FA所見(図7b):超早期では豊富な腫瘍血管を同定することができる.腫瘍の活動性が増すと,早期では腫瘍からの過蛍光,後期では蛍光漏出を認める.・IA所見(図7c):FA検査における蛍光漏出の影響が少ないために腫瘍血管を比較的明瞭に描出することができ,早期から後期まで低蛍光である.・MRI:T1強調画像で等信号,T2強調画像で低信号,ガドリウム造影では増強画像を認める.2.網膜芽細胞腫a.疾患概念13番染色体長腕にあるRB1遺伝子異常により発生する小児網膜悪性腫瘍である.15,000.23,000人の新生児に1人の割合で発症(年間発症数は70.80名)し,1歳までに41%,3歳までに89%,5歳までに95%と,就学前までに大半が診断8)されている.片眼発症が67.3%を占め平均21カ月,両眼発症が32.7%を占め平均8カ月で発見8)されている.片眼発症の15%,両眼発症のすべては遺伝性網膜芽細胞腫である.受診のきっかけの半数は白色瞳孔で,ついで猫目現象(17.1%,暗いところで瞳孔が光って見える),斜視(14.8%)8)である.腫瘍が眼球内に留まっている場合,5年生存率は95%以上で眼球温存率は約50%である.治療開始後も就学前までは再発の有無,片眼症例の場合は僚眼の眼底検査などの定期検査を受ける必要がある.b.臨床所見・細隙灯顕微鏡検査(図8a):水晶体後方に迫る白色腫瘤,つまり白色瞳孔として確認される.・眼底所見(図8b):網膜に石灰化を伴う白色隆起病変として確認され,腫瘍周囲の網膜血管の拡張・蛇行を伴う.さらに,硝子体播種があれば,硝子体腔内およ(75)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022771図7網膜星状(膠)細胞腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭上方に桑の実状の黄白色隆起性腫瘤を認める.b:FA像.超早期に腫瘍血管を認める.c:IA像.腫瘍は低蛍光のため,FA像と比較して腫瘍血管をより鮮明に検出可能である.図8網膜芽細胞腫の画像所見a:前眼部細隙灯顕微鏡写真.水晶体後方に迫る出血を伴う白色腫瘤を認める(白色瞳孔).b:眼底写真.網膜表面と硝子体に腫瘍播種と考えられる綿花状の小腫瘤塊を認める.c:Bモード超音波断層像.半球状の腫瘤内に石灰化()による音響陰影を認める.d:CT像.両眼内に石灰化を伴う充実性腫瘤を認める.e:MRI像.右眼球内に,T1強調画像ではやや高信号,T2強調画像では低信号の充実性腫瘤を認める.(eは文献21より引用)図9網膜細胞腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭鼻側に内部に石灰化を伴う透明感のある白色腫瘤()を認める.周囲にRPE変性()とRPE萎縮()を認める.b:Bモード超音波断層像.網膜表面に石灰化による高信号()および以降の音響陰影を認める.c:FA像.腫瘍血管が乏しく,蛍光漏出を認めない.周囲にはRPE変性による過蛍光()を認める.-図10眼内悪性リンパ腫の画像所見a:眼底写真.左図:黄斑部.耳下側に癒合傾向を伴う多発性のRPE下黄白色隆起病変を認める.右図:眼底にオーロラ状の硝子体混濁を認める.b:FA像.腫瘍自身は早期から後期まで低蛍光で,RPE障害がある部位はwindowdefectによる過蛍光を認める.c:IA像.ブロックによる多発性の低蛍光病変を認める.d:OCT像.RPE下に浸潤病巣を認める.e:MRI像.T2強調画像にて,複数の高輝度の頭蓋内病変()を認める.f図11脈絡膜骨腫の画像所見a:眼底写真.左図:黄斑部.視神経乳頭間に淡い黄白色の扁平病変を認める.右図:後極部内に腫瘍を認める.中心部は色素沈着を伴う脈絡膜新生血管()を認め,周囲に脱灰巣()および石灰病巣()を認める.b:Bモード超音波断層像.網膜表面に高反射領域と以降の音響陰影()を認める.c:FA像.後期になると,腫瘍部位の過蛍光()を認める.d:IA像.早期では豊富な腫瘍血管の同定()が可能となり,後期になるとFA像と同様に過蛍光()を呈する.e:OCT像.局所的な平板状の脈絡膜肥厚()として認められる.f:OCTA像.上図のenfaceOCTA像のように腫瘍内血管が豊富であることがわかる.g:CT像.両眼ともに後極部に高輝度な扁平病変()を認める.(gは文献22より引用)図12転移性脈絡膜腫瘍の画像所見a:眼底写真.左図:原発巣は肺小細胞癌で,色素沈着を伴う黄白色隆起病変()を認める.右図:原発巣は肝細胞癌で,赤色の隆起性病変()を認め,周囲は胞状の網膜.離を伴う.b:FA像.転移性腫瘍に一致した顆粒状過蛍光()を認める.c:OCT像.RPE未満に隆起性病変()を認め,一部に漿液性網膜.離()を認める.図13網膜色素上皮肥大の画像所見a:眼底写真.網膜耳側に扁平かつ境界明瞭な円形の黒褐色病変を認め,内部には脱色素斑()を伴うb:FA像.腫瘤は低蛍光を示し,RPE障害部位はwindowdefectによる過蛍光()を認める.c:IA像.FA像と同様に腫瘤は低蛍光()を示す.d:FAF像.腫瘤は低蛍光を示す.e:OCT像.網膜は菲薄化()する.図14網膜色素上皮過誤腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭近傍に強い色素ムラと色素沈着を伴う網膜の局所的肥厚として観察される.黄斑部下方には網膜皺襞を認める.b:FA像.腫瘤の色素沈着を伴う部位は低蛍光を示し,一方でRPE障害部位はwindowdefectによる過蛍光を認める.c:OCT像.網膜は病的肥厚を認め,網膜の層構造の消失を認める.図15網膜色素上皮腺腫の画像所見a:眼底写真.中心窩耳側に黒褐色の色素性腫瘤と周囲に網膜.離と網膜皺襞を認める.Cb:Bモード超音波断層像.網膜内の高反射腫瘤を認め,脈絡膜とは分離可能である.Cc:FA像.網膜血管から腫瘤への流入血管を認め,腫瘤の中心部は低蛍光を示し,周囲は漏出による過蛍光を認める.Cd:IA像.腫瘤は腫瘤は低蛍光を示す.Ce:FAF像.腫瘤は低蛍光を示す.Cf:OCT像.網膜の急峻な隆起を認め,表層は高反射を呈する.また,網膜牽引および硝子体腔に細胞を認める.(文献C23より引用)図16網膜色素上皮腺癌の画像所見a:眼底写真.ドーム状の黒褐色腫瘤()を認め,周囲に滲出性変化である硬性白斑を認める.Cb:FA像.腫瘍の栄養血管()が網膜である.さらに,腫瘍自身は強い過蛍光を認める.c:Bモード超音波断層像.ドーム状の網膜隆起性病変()を認める(脈絡膜隆起は認めない).d:MRI像.脈絡膜悪性黒色腫と同様の所見で,T1強調画像(左図)で高信号(),T2強調画像(右図)で低信号()を示す.==図17脈絡膜悪性黒色腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭下方に隆起性のある黒褐色腫瘤を認める.Cb:Bモード超音波断層像.マッシュルーム状充実性腫瘤および内部は音響空胞を認める.Cc:FA像.腫瘍自体は低蛍光を呈し,一部CRPE障害のためCwindowdefectによる過蛍光を認める.d:IA像.腫瘍自体は終始低蛍光を呈する.Ce:OCT像.脈絡膜隆起性病変を認め,表層は高反射像()を示す.Cf:MRI像.T1強調画像(上図)で高信号(),T2強調画像(下図)で低信号()を認める.=図18脈絡膜母斑の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭下方に境界がやや不鮮明な色素斑()を認める.b:IA像.終始低蛍光()を認める.c:OCT像.表層は高反射で,深部はshadowingを認める().図19視神経乳頭母斑の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭中央部に漆黒色腫瘤()を認める.腫瘍は乳頭鼻側を越え,隣接する脈絡膜に浸潤している.Cb:Bモード超音波断層像.視神経乳頭上に扁平な隆起性病変()を認める.Cc:FA像.視神経乳頭中央部の黒色色素部位はブロックされ,隣接する脈絡膜への浸潤を認める部位は後期に過蛍光を示した.Cd:OCTA像.網膜表層から脈絡膜毛細血管板に異常血管網として認める.

病的近視

2022年6月30日 木曜日

病的近視PathologicMyopia石田友香*中尾紀子**大野京子**I眼底自発蛍光画像の有用性1.後極病変の観察,評価近視が進行し,眼底にさまざまな病的変化が出現すると,病的近視眼とよばれる.眼軸が長くなり,後部ぶどう腫を合併し,眼底後極にびまん性脈絡網膜萎縮,斑状脈絡網膜萎縮,lacquercrack,近視性脈絡膜新生血管などの病変や,視神経萎縮,硝子体黄斑牽引症候群などがみられ,視力障害を引き起こすことがある.斑状脈絡網膜萎縮は,検眼鏡的にも判定は可能であるが,豹紋状眼底ではわかりにくい場合もある.眼底自発蛍光では,境界鮮明な低自発蛍光部位として観察され,とくにその大きさの評価の有用性が報告されている1).実際の臨床現場においては,萎縮の広がるスピードの把握や視力や視野との関連を判断するうえで,この情報は有用と考えられる(図1a~d).Lacquercrackは,Bruch膜の線状の断裂所見であるが,数,長さが増していく場合もあり,ときとして斑状脈絡網膜萎縮へ移行していくことが知られている.黄色い線状病変としてみられるが,豹紋状眼底ではわかりにくく,従来はフルオレセインやインドシアニングリーンによる造影検査で観察されていた.しかし,近年は眼底自発蛍光で線状低自発蛍光像として観察されることがわかってきており,非侵襲的に観察できる2).また,強度近視眼における黄斑円孔網膜.離は難治性かつ視力予後不良の疾患である.Sayanagiらは,後極に限局した黄斑円孔網膜.離は,中心に高自発蛍光の部位をもつ境界鮮明な低自発蛍光像としてみられるが,その前駆病変である網膜分離症の状態では,ほぼ正常の自発蛍光像で一部粗雑な変化があるのみであることを示した3).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)をみれば診断できることではあるが,自発蛍光像も明らかに差があり,参考にできる所見である.黄斑円孔網膜.離後の視力予後について,Ariasらは長眼軸と自発蛍光所見がリスクファクターとなると示しており,黄斑部の低自発蛍光がある眼はより視力予後が不良であるとしている4).2.後部ぶどう腫の形状評価,後部ぶどう腫周囲の病変把握における有用性病的近視の特徴の一つとして,後部ぶどう腫(posteri-orstaphyloma)がある.後部ぶどう腫の全体像や辺縁は通常の後極眼底カメラでは画角に入りきらないことが多いが,広角カメラであれば把握しやすい.その合成カラー写真でも後部ぶどう腫の観察は可能であるが,後部ぶどう腫の辺縁における網膜色素上皮細胞の異常は,広角眼底自発蛍光像のほうが判定しやすい(図1e,f).とくにwideOCTとの組み合わせにより,その形状や深さを正確に判定できるようになった.強度近視眼における硝子体黄斑牽引症候群など硝子体手術の適応疾患において,手術前に後部ぶどう腫の形状や深さを評価することは,硝子体鑷子の安全で効率のよ*TomokaIshida:杏林大学医学部眼科学教室**NorikoNakao&KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕石田友香:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(59)755図1近視性変化に伴う後極の網脈絡膜萎縮病変,radialtract,血管周囲病変の症例a,b:後極のびまん性網脈絡膜萎縮の症例(右眼).a:広角合成カラー写真でびまん性の黄白色の網脈絡膜萎縮がみられる.乳頭周囲は乳頭周囲萎縮と下方に斑状萎縮を認める.b:広角眼底自発蛍光像でびまん性網脈絡膜萎縮は粗雑な自発蛍光変化を示すが,乳頭周囲と下方の萎縮は境界鮮明な低自発蛍光を示し,合成カラー写真よりも顕著な違いがわかる.c,d:斑状網脈絡膜萎縮の症例(右眼).c:広角合成カラー写真で白色の境界鮮明な斑状網脈絡膜萎縮が多発しているのがみられる.d:眼底自発蛍光像では,斑状網脈絡膜萎縮は境界鮮明な低自発蛍光として示される.e,f:Widestaphylomaとその周囲にみられるradialtractを示す症例(左眼)(東京医科歯科大学強度近視センターの症例(あたらしい眼科Vol.37臨時増刊号2-5-Q8」より引用).e:広角合成カラー写真では,後部ぶどう腫の上のエッジが変色してみられる.灰色のこん棒上の病変が3本,後部ぶどう腫の耳上側のエッジから上方に向かって伸びているのがみられるが,わかりにくい.f:眼底自発蛍光像では,後部ぶどう腫の上方のエッジが境界不鮮明な高自発蛍光と,境界鮮明な低自発蛍光で示される.低自発蛍光のエッジから上方に向かい,内部が低自発蛍光で周囲が高自発蛍光のradialtract,その下方には高自発蛍光のradialtractが2本観察される.合成カラー写真に比較し,明確にその存在がわかる.g,h:血管周囲病変を伴う症例(左眼).g:上方血管の周囲病変は合成カラー写真ではわからない.下アーケード血管の周囲に黄白色の境界鮮明な円形,楕円形にみえる萎縮病変を認める.h:耳上側の血管に沿って,円形の低自発蛍光病変が2カ所みられる.また,下方のアーケード血管に沿って,円形の低自発蛍光病変が連なっているものが観察される.合成カラー写真で楕円形にみえるものは円形病変が連なっている病変と考えられる.い操作手技の予測につながり,術前評価に有用である.従来使われてきたCurtinの分類は,後部ぶどう腫形状を10種類に分類しており,やや煩雑であったが,Ohno-Matsuiらは2014年に新しい分類を提唱し発表した新しい分類では,narrowmacularstaphyloma,widemacularstaphyloma,peripapillarystaphyloma,nasalstaphyloma,inferiorstaphylomaに分けた5).この分類を使用すると後部ぶどう腫を理解しやすい6).後部ぶどう腫の周辺部の変化は,後極写真だけで判定することはむずかしかったが,広角カメラの登場で臨床研究の対象が広がった.筆者らは三つの病変について報告した.一つ目の病変は,後部ぶどう腫の辺縁から重力に逆らって広がる棒状のradialtractと名づけた病変である7)(図1e,f).この病変は,自発蛍光で,高自発蛍光,低自発蛍光などのさまざまな変化を示す.後部ぶどう腫辺縁の網膜色素上皮細胞の変性により網膜下液が貯留することで独特な形状を示すと考えられるが,中心性脈絡網膜症などでみられるようなdescendingtractと異なり,重力に逆らう形状はユニークである.病態や病的意義は不明である.二つ目の病変は,後部ぶどう腫を伴う強度近視眼の1.6%にみられる後部ぶどう腫縁から前方に伸びる皺襞所見である8).このような所見は,傾斜乳頭症候群でもみられることがある.この報告では,それに伴う新生血管などの所見はみられなかったが,網脈絡膜皺襞に新生血管が伴う報告もあり注意が必要である.三つ目の病変は,強度近視眼のおもに静脈周囲に血管周囲に自発蛍光変化を伴う病変である9)(図1g,h).Radialtractと同様に,高自発蛍光,低自発蛍光,顆粒状低自発蛍光と,さまざまな所見としてみられる.円形,楕円形,血管に沿って長い形状など,形状もさまざまである.おもに後部ぶどう腫縁にみられるが,その周辺部にもみられる.病理的な意義は不明であるが,いくつかの病態が含まれていると考えられる.強度近視眼の病態解明の一環として,このような画像研究は重要であり,さらなる知見が求められる.3.眼底周辺の網膜変性,網膜裂孔,裂孔原性網膜.離の記録と評価強度近視眼では後極の異常とともに眼底周辺部変性を合併する頻度が高い.網膜.離の形状や網膜周辺部変性や網膜裂孔の観察には眼底自発蛍光像を使用すると裂孔や変性の把握に役立つことがある.また,若い先生からwhitewithoutpressure(WWP)を「網膜.離ではないか?」と聞かれることがよくあるが,WWPは自発蛍光変化を示さないため,その区別に役立つ.筆者らはOptosを使用しているが,睫毛を十分に持ち上げて,固視標を4方向に動かして,きれいに撮影することが周辺部病変の記録には大切である.散瞳の良好な若年者の場合や強度近視眼では鋸状縁まで撮影可能なことも多い.また,無散瞳下でも無症候性の網膜.離を検出する可能性が高いことは強みであると思われる.急性網膜.離の辺縁では,眼底自発蛍光像で高自発蛍光になることが多く10),網膜.離の形状の全体像が把握しやすい(図2).網膜.離の形状を正確に把握することは裂孔の位置の予測に不可欠であり,術前の丁寧な眼底評価は治療成績を高める.また,初期の.離(図2a,b),ゆっくりと進行する薄い.離,逆に古くなりすぎて網膜の透明性が増している.離の場合(図2d,e),前置レンズを使用した診察では見逃してしまうことがありえる.そのような網膜.離の検出には,眼底自発蛍光像による観察を取り入れることで,その発見の精度は上がる.そのほか,非進行性の網膜.離で,すぐには手術せずに経過観察を行う場合や,手術後の網膜下液残存例の経過観察の場合,正確に網膜下液が減っているのか,増えているのかという情報が必要になる(図2g,h).その際,一度.離した網膜.離のあとは,自発蛍光変化が残ることが多いが,少なくともそれが広がらないということをみていく必要があり,広角眼底自発蛍光像による経時的な比較は有用である.とくに後部ぶどう腫を伴う強度近視の場合やバックルを使用しての加療の場合に,後部ぶどう腫内の下液がなかなか引かず,半年から数年かけて引いていくことをよく経験する.あせらずにみていく必要がある.網膜.離を生じてから時間がたってくると,自発蛍光像は変化してくる.たとえば,一部自然復位していたり(61)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022757図2網膜.離眼における眼底自発蛍光像a~c:偶然にみつかった無症状の裂孔原性網膜.離の症例(右眼).a:広角合成カラー写真.耳上の最周辺側にはwhitewithoutpressureを認めるが,その後方には円形の色調変化を認める.b:合成カラー写真でみられた円形部位は縁が高自発蛍光で示される.前置レンズでよく観察すると,この中には小さい変性と裂孔を認めた.前置レンズで.離と認識できる範囲よりも眼底自発蛍光の変化のほうが広い範囲であった.おそらく肉眼で認識できない薄い.離も自発蛍光変化で示していると思われる.c:OCTでも網膜下液を確認した.d~f:古い.離の症例.d:合成カラー写真では黄斑付近を通るDラインと上方網膜の色素沈着を認める.網膜はごく薄くなっており,圧迫診察を用いると上方の裂孔部位の周辺は網膜.離があり,アーケード付近にもあるが,その中間部分は部分的に復位している状態であった.e:眼底自発蛍光では網膜.離の縁が高自発蛍光に示され,網膜.離の全体把握に非常に有用である.f:OCTでも網膜.離を確認した.g~i:他院にてradialbuckleを施行後,網膜下液が引かないと紹介受診した症例.g:合成カラー写真では,耳上の冷凍凝固とレーザー追加後が,色素変化しており,.離の部位は淡い色調変化としてみられるが,実際に20Dレンズで診察するとほぼ復位しているようにみえる.h:眼底自発蛍光は網膜.離が引いたあとの変化も示しており,下液がない部分の網膜色素上皮変化を示している.i:の広角OCT(16mm)でみると,後部ぶどう腫の深い部分に下液が溜まっている.眼底自発蛍光で病変部位が広がっていけば.離の拡大ととらえるが,現在自発蛍光は変化なく,OCTで網膜下液が徐々にひいていくのを経過観察中である.図3Spaideによる後部ぶどう腫の定義軸性近視(Cb)では正視眼(Ca)に比べ眼軸長が延長しているが,眼球後部の曲率半径は大きく変化していない.しかし後部ぶどう腫を有する眼(Cc)では,周辺の曲率半径より小さい第二の後方への眼球の突出が生じる.(文献C13より引用)図4後部ぶどう腫縁のプロトタイプ超広角OCT画像後部ぶどう腫縁()にて脈絡膜菲薄化および強膜内方突出を認める.また,後部ぶどう腫縁の鼻側に強膜後方変位を認める.(文献C17より引用)表1MTMのTMDU分類(文献C21より改変引用)図5近視性牽引黄斑症のTMDU分類(文献C22より引用)図6強度近視眼の近視性牽引黄斑症における硝子体の周辺部網膜血管付着:硝子体皮質.:硝子体の網膜血管付着.:血管周囲の.胞様領域.:膜様組織が網膜表層より伸展し,肥厚した硝子体皮質に付着している.(文献C23より引用)図7強度近視眼の近視性牽引黄斑症における周辺部網膜血管周囲病変:後部硝子体が網膜表層より分離している.:網膜内層分離.:網膜中間層の分離.:網膜外層分離が後部ぶどう腫縁から黄斑部まで進展している.(文献C24より引用)子体牽引がよくみられた(p<0.031).これらの結果よりCPVDは非対称的に進行し,また強度近視眼では強膜の弯曲と関連し,硝子体牽引が広範囲に及ぶとCMTM発症につながる可能性が示された.また,Takahashiらは上記を踏まえてC2021年に,MRSを有する眼を同超広角CSS-OCTで観察し,血管周囲への硝子体癒着がCMRSの発症に関与するかを検討した24).強度近視眼C150例中C49眼(33%)にCMRSが認められ,網膜血管への硝子体癒着はCMRSのない眼に比べMRSのある眼でより多く認められた(63%Cvs44%,p=0.04).一方,MRSのある眼では,中心窩への癒着はMRSのない眼と有意差は認めなかった(57%vs59%).血管周囲病変である網膜.胞,網膜分離,分層円孔は,MRSのある眼ではCMRSのない眼より多く認めた(図7)24).多変量解析では,血管外硝子体癒着の存在がMRS発症の有意な予測因子であることが示された.血管周囲への硝子体癒着は,網膜.胞や網膜分離を含むさまざまな種類の血管周囲病変の発生に関連し,MRSの発生において中心窩への硝子体癒着よりも重要な役割を担っている可能性があることが示された.以上のように,MTMの領域においても超広角COCTを用いることによって新たに判明した内容により,引き続き診断および治療の一助となることが期待される.文献1)MiereA,CapuanoV,SerraRetal:Evaluationofpatchyatrophysecondarytohighmyopiabysemiautomatedsoft-wareCforCfundusCauto.uorescenceCanalysis.CRetinaC38:C1301-1306,C20182)XuCX,CFangCY,CUramotoCKCetal:ClinicalCfeaturesCofClac-querCcracksCinCeyesCwithCpathologicCmyopia.CRetina39:C1265-1277,C20193)SayanagiCK,CIkunoCY,CTanoY:Di.erentCfundusCauto.uorescenceCpatternsCofCretinoschisisCandCmacularCholeretinaldetachmentinhighmyopia.AmJOphthalmolC144:299-301,C20074)AriasCL,CCaminalCJM,CRubioCMJCetal:Auto.uorescenceCandCaxialClengthCasCprognosticCfactorsCforCoutcomesCofCmacularCholeCretinalCdetachmentCsurgeryCinChighCmyopia.CRetinaC35:423-428,C20155)Ohno-MatsuiK:ProposedCclassi.cationCofCposteriorCstaphylomasCbasedConCanalysesCofCeyeCshapeCbyCthree-dimensionalCmagneticCresonanceCimagingCandCwide-.eldCfundusimaging.OphthalmologyC121:1798-1809,C20146)Ohno-MatsuiK,JonasJB:Posteriorstaphylomainpatho-logicmyopia.ProgRetinEyeRes70:99-109,C20197)IshidaCT,CMoriyamaCM,CTanakaCYCetal:RadialCtractsCemanatingCfromCstaphylomaCedgeCinCeyesCwithCpathologicCmyopia.OphthalmologyC122:215-216,C20158)IshidaT,ShinoharaK,TanakaYetal:Chorioretinalfoldsineyeswithmyopicstaphyloma.AmJOphthalmolC160:C608-613,Ce1,C20159)FangY,IshidaT,DuRetal:NovelparavascularlesionswithCabnormalCauto.uorescenceCinCpathologicCmyopia.COphthalmologyC128:477-480,C202110)NadelmannCJB,CGuptaCMP,CKissCSCetal:Ultra-wide.eldCauto.uorescenceimagingofretinaldetachmentcomparedtoCretinoschisis.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC50:550-556,C201911)中尾紀子,五十嵐多恵,大野京子:病的近視の後部ぶどう腫の診断と治療.医のあゆみ279:146-150,C202112)CurtinBJ:TheCposteriorCstaphylomaCofCpathologicCmyo-pia.TransAmOphthalmolSoc75:67-86,C197713)SpaideRF:Staphyloma:Part1,Pathologicmyopia(SpaideRF,COhno-MatsuiCK,CYannuzziCLA,eds)C,Cp167-176,CSpringer,Berlin,201414)MoriyamaCM,COhno-MatsuiCK,CHayashiCKCetal:Topo-graphicanalysesofshapeofeyeswithpathologicmyopiabyChigh-resolutionCthree-dimensionalCmagneticCresonanceCimaging.OphthalmologyC118:1626-1637,C201115)Ohno-MatsuiCK,CAlkabesCM,CSalinasCCCetal:FeaturesCofCposteriorstaphylomasanalyzedinwide-.eldfundusimag-esinpatientswithunilateralandbilateralpathologicmyo-pia.RetinaC37:477-486,C201716)Ohno-MatsuiCK,CAkibaCM,CModegiCTCetal:AssociationCbetweenCshapeCofCscleraCandCmyopicCretinochoroidalClesionsinpatientswithpathologicmyopia.CInvestOphthal-molVisSciC53:6046-6061,C201217)ShinoharaCK,CShimadaCN,CMoriyamaCMCetal:PosteriorCstaphylomasCinCpathologicCmyopiaCimagedCbyCwide.eldCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:3750-3758,C201718)TanakaCN,CShinoharaCK,CYokoiCTCetal:PosteriorCstaphy-lomasandscleralcurvatureinhighlymyopicchildrenandadolescentsCinvestigatedCbyCultra-wide.eldCopticalCcoher-encetomography.PLoSOneC14:e0218107,C201919)TakanoCM,CKishiS:FovealCretinoschisisCandCretinalCdetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaph-yloma.CAmJOphthalmol128:472-476,C199920)PanozzoCG,CMercantiA:OpticalCcoherenceCtomographyC.ndingsinmyopictractionmaculopathy.CArchCOphthalmolC122:1455-1460,C200421)ShimadaN:TMDUclassi.cationofmyopictractionmac-ulopathybasedonOCTandultrawide-.eldOCT(UWF-OCT)C,In:AtlasCofCpathologicmyopia(Ohno-MatsuiCK,ed),p111-113,Springer,Berlin,2020C(67)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C763

遺伝性網膜疾患(網膜ジストロフィ)

2022年6月30日 木曜日

遺伝性網膜疾患(網膜ジストロフィ)InheritedRetinalDiseases(HereditaryRetinalDystrophy)角田和繁*はじめに近年の分子遺伝学の発展とともにさまざまな遺伝性網膜疾患(網膜ジストロフィ)の病態が解明され,多くの原因遺伝子に対する臨床治験が世界各国で行わるようになった.このため遺伝子検査の重要性は今後も高まることが予想されるが,臨床の現場においてはまず通常の眼科検査によって患者の病態をしっかりと把握することが重要である.遺伝子検査を行わなくても,さまざまな臨床検査を組み合わせることで,遺伝性疾患か否か,視力や視野の予後はどの程度かなどを,ある程度把握することができる.網膜ジストロフィの診断の流れとしては,①詳細な問診,②自覚的検査,③網膜画像検査〔眼底写真,フルオレセイン蛍光造影,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF)など〕,④電気生理学的検査〔網膜電図(electroretinogram:ERG),眼球電図(electro-oculogram:EOG)〕などが行われ,さらに必要に応じて⑤遺伝子検査が考慮される.とくに③の画像検査については,非侵襲的検査であるOCTとFAFの重要性が近年著しく高まっている.本稿では,とくにOCTとFAFについて,網膜ジストロフィの診断にどのように役立てるべきか,そのポイントをまとめる.I光干渉断層計網膜ジストロフィにおけるOCTの有用性としては,①視細胞層の異常を早期に把握できること,②視力・視野への影響を予測できること,③進行の程度,速度を推測できること,などがあげられる.OCTを有効に活用するためには,まずその正常所見をしっかりと理解することが重要である.1.基本構造の把握網膜ジストロフィの多くは視細胞の変性が主体であるため,OCT診断でとくに重要なのは視細胞層の変化を観察することである.視細胞層の病態は,おもに外顆粒層(outernuclearlayer:ONL),ellipsoidzone(EZ),interdigitationzone(IZ),および網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)層を観察して評価する(図1)1).このうちEZは視細胞内節膨大部を,IZは視細胞外節とRPEの接合部をさしている.これらEZ,IZ,RPEの三つの高輝度バンドは,網膜ジストロフィの病態を把握するためにとくに重要である.網膜ジストロフィにおけるOCTの診断では,いくつか注意すべき点がある.まず,撮影の際はボリューム・スキャン(3Dスキャン)のみではなく,各機種の最高解像度が得られるライン・スキャンを用いる.また,疑似カラー表示は使用せず,必ずグレースケール表示を用いる.いずれも初期のEZ,IZの異常を見逃さないため*KazushigeKakuta:東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部〔別刷請求先〕角田和繁:〒153-8902東京都目黒区東が丘2-5-1東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(51)747①②③④⑤⑥⑩*⑨*⑧*⑦⑪図1正常網膜のOCT所見(CirrusHD.OCT,CarlZeissMeditec)①神経線維層,②神経節細胞層,③内網状層,④内顆粒層,⑤外網状層,⑥外顆粒層/Henle層,⑦外境界膜,⑧ellipsoidzone(EZ),⑨interdigitationzone(IZ),⑩網膜色素上皮層/Bruch膜,⑪脈絡膜.ライン・スキャンOCTで観察される網膜各層を示す.網膜ジストロフィの診断には,とくに⑧⑨⑩(*マーク)の観察が重要である.また,中心窩でEZがドーム状に隆起している部位はfovealbulgeとよばれ(),この形状が維持されていることが良好な視力と相関している.-ab図2網膜色素変性の進行に伴うOCT所見の変化a:中等度症例.41歳,男性.矯正視力=1.2.中心窩よりやや広い領域でEZが残存している(矢印間).中心窩付近ではIZも観察される.黄斑部より周辺ではEZの消失に加えてRPEが萎縮しているが(*よりも周辺部),これは眼底写真における網膜変性領域に相当する.b:重症例.16歳,男性.矯正視力=0.7.EZの残存領域はaの症例よりも狭まり,中心窩にわずかに残存するのみである(矢印間).c:末期症例.41歳,男性.矯正視力=光覚弁.全域で視細胞変性が進行し,EZは観察されず,広範囲でRPEの萎縮がみられる.中心窩における網膜厚はきわめて菲薄化している.RPEの萎縮領域では,Bruch膜が細い高輝度バンドとして検出される(**).ab図3検眼鏡的所見の異常に乏しい網膜ジストロフィのOCT所見a:POC1B関連錐体ジストロフィ.34歳,女性.矯正視力=0.1.後極部の全域で,EZの不明瞭化,菲薄化がみられ,IZは観察されない.RPEは全域で正常である.Cb:オカルト黄斑ジストロフィ(三宅病,RP1L1関連黄斑ジストロフィ).35歳,男性.矯正視力=0.4.黄斑部においてのみCEZの不明瞭化がみられ,IZは観察されない(矢印間).黄斑周囲のCEZはほぼ正常に観察される.RPEは全域で正常である.a図4眼底自発蛍光(FAF)の正常所見と異常所見a:正常例.眼底後極部全体にムラの少ない均一な発色がみられるが,青色フィルター(488Cnm)による撮影では中心窩がキサントフィルの吸収によって暗く描出される.Cb:黄斑ジストロフィ.黄斑部における病変部の周囲に輪状の過蛍光が観察される().中心窩付近の変性部は低蛍光となっている(*).c:網膜色素変性.周辺網膜の変性部では斑状の低蛍光.蛍光消失領域が散在している(*).中心窩付近には変性初期の過蛍光がみられる().d:黄斑ジストロフィの自然経過.中心窩下方の萎縮部における蛍光消失領域()の経時的変化を示す.3年間の経過で,蛍光消失領域が拡大し,中心窩を取り囲んで行く様子がわかる.Cbdab図5各網膜ジストフィの特徴的な所見a:網膜色素変性.41歳,男性,矯正視力=1.2.周辺部の網膜変性領域は過蛍光.低蛍光を呈し,萎縮が進むにつれて蛍光が消失する(*).後極部や黄斑周囲には病変部の境界を示す輪状過蛍光がみられることが多い().b:錐体ジストロフィ.51歳,男性,矯正視力=0.7.黄斑部の変性領域を取り囲む輪状過蛍光(),その内側にびまん性に広がる低蛍光,および中心窩付近における萎縮領域の蛍光消失(*)が特徴的である.c:Stargardt病.23歳,男性,矯正視力=0.01.若年期に多くみられる円形の黄斑部低蛍光(*),.eck部に一致した過蛍光()が特徴的であるが,重症例では後極の広範囲で蛍光消失がみられる.また,視神経乳頭周囲の自発蛍光が局所的に温存されるCperipapillarysparingの所見も特徴的である.Cd:CdBest病.47歳,女性,矯正視力=1.2.リポフスチンの蓄積部位に一致して過蛍光がみられる.とくに偽蓄膿期,炒り卵期では,病変部の辺縁に粒状の過蛍光が明瞭に観察される().e:コロイデレミア.43歳,男性,矯正視力=1.2.網脈絡膜萎縮に陥った周辺部では自発蛍光が完全に消失し(*),長期的に機能が温存される黄斑部では星形の蛍光残存領域がみられる().Cede図6マルチモーダルイメージングで診断するクリスタリン網膜症72歳,女性,矯正視力=0.7.眼底後極部に黄色に光る結晶(クリスタリン)様物質が観察される(Ca,).この結晶様物質は,近赤外光による眼底撮影(Cb,c,)で高輝度反射を示す一方で,FAF(Cd,)では蛍光を生じないという特徴がある.また,このように進行した症例ではCFAFで広範囲の蛍光消失領域が観察される(Cd,*).OCTでは,視細胞萎縮,RPE萎縮,脈絡膜毛細血管層の菲薄化が広範囲にみられる.中心窩におけるCEZは不明瞭だが,ごくわずかに残存している(Ce,).また,脈絡膜ジストロフィのCOCT所見に特徴的なCouterretinaltubulation(網膜外層が萎縮に伴って変形した管状構造)が観察される(Ce,*).–’C

AZOOR Complex

2022年6月30日 木曜日

AZOORComplex齋藤理幸*石田晋*はじめに急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)は,1992年にGassが提唱した疾患概念である1).Gassは,患者の臨床像と帯状領域の視野欠損と脈絡膜変性の発生と進行から,主要な病態は網膜外層が関与していると考えAZOORと命名した.AZOORでもっとも特徴的なことは,眼底写真や蛍光眼底造影がほぼ正常な所見を示す網膜症ということであり2),網膜疾患以外の視神経疾患,腫瘍随伴性症候群,自己免疫性網膜症,中毒性変性,感染症などの他の疾患と鑑別することが重要である.わが国では2019年に「急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断ガイドライン」作成ワーキンググループによってAZOORの診断ガイドライン基準(表1)3)が策定された.AZOORの診断基準は五つの主要項目と四つの副次項目からなる.このうちAZOORの確定例は五つの主要項目を満たすものとされ,そのうち初めの二つは1)急性の発症様式と2)AZOORに特徴的な眼底に異常所見がみられないというものであり,最後の一つ5)は除外診断の基準となっている.AZOORの検査初見に関するものは,3)光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて視野欠損に一致して網膜外層の構造異常がみられる,または4)全視野網膜電図(electroretinogram:ERG)における振幅低下,あるいは他局所ERGにおいて視野欠損に一致した振幅低下がみられることである.この診断基準で注目すべきことは,従来AZOORの診断としては他局所ERGにおいて視野欠損に一致した領域で振幅低下がみられることが重要視されてきたが,最新の診断基準では必ずしも必須ではなくOCTまたは全視野ERGで代替できることになった.その理由として,他局所ERGは普及率が低く限られた施設でしか検査できないこと,OCTの画像解像度の向上によって網膜外層の構造異常がよく検出できるようになったこと,またそれに相まってAZOORという疾患の理解が進んできたことがあげられる.また,副次項目であるが眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)によって障害部位と健常部位の境界の同定が盛り込まれたことにも注目されたい.近年AZOORのFAFに関する報告は散見される4~7)ので本稿でも取りあげる.また,AZOORに類似し,鑑別が重要な疾患にGassが以前AZOORcomplexの一部として分類し,かつwhitedotsyndromeの代表的な疾患でもある多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitespotsyn-drome:MEWDS)がある.MEWDSは,その人口統計学的特徴,炎症性,網膜外層の主要病変に関してAZOORと類似性を有している.本稿では,MEWDSのマルチモーダルイメージングも取り上げ,その特徴を解説する.IAZOORAZOORは急性の光視症や帯状視野欠損で発症し,視覚症状発現時の眼底初見や蛍光眼底造影はほぼ正常であ*MichiyukiSaito&SusumuIshida:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕齋藤理幸:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(43)739表1急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断基準以下の主要項目を満たすものをAZOOR確定例(de.nite)とする.ただし,3)と4)については,どちらか1つを満たせばよい.副次項目はすべて参考所見とする.1.主要項目1)急激に発症する視野欠損あるいは視力低下.片眼性が多いが,両眼性もありうる.2)眼底検査およびフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では,視野欠損を説明できる明らかな異常が認められない.ただし,軽度の異常(網脈絡膜の色調異常や軽い乳頭発赤など)はありうる.3)OCTにて,視野欠損部位に一致して網膜外層の構造異常(ellipsoidzoneの欠損あるいは不鮮明化とinterdigitationzoneの消失)がみられる.ただしAZOORの軽症例や回復期では,interdigitationzoneのみ異常になることもある.4)全視野ERGにおいて振幅低下,あるいは多局所ERGにおいて視野欠損部位に一致した振幅低下がみられる.5)先天性/遺伝性網膜疾患,網膜血管性疾患やその他の網膜疾患,癌関連網膜症/自己免疫網膜症,ぶどう膜炎,外傷性網脈絡膜疾患,視神経疾患/中枢性疾患が除外できる.2.副次項目1)発症前に風邪様の症状を伴う.2)発症時あるいは経過中に光視症(光がチカチカ見える)を訴える.3)硝子体に軽度の炎症所(細胞浮遊)がみられる.4)青色光あるいは近赤外光による眼底自発蛍光にて,障害部位と健常部位の境界が分かる.(文献3より引用)図1発症初期の右眼AZOOR(36歳,女性)眼底写真(a)では紋理状眼底がみられる.OCT(b)では視野欠損に一致してinterdigitationzoneが不明瞭化している.FA(c),IA(d)では異常はみられない.多局所網膜電図(e)では,Humphrey視野検査(f)での閾値低下に一致して振幅の低下を認める.図2両眼慢性型急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)(43歳,男性)眼底写真(a,b)では網脈絡膜萎縮がみられる.OCT(c,d)ではinterdigitationzoneは消失,elipsoidzoneも不明瞭化しドルーゼン様物質もみられる.FAF(e,f)では健常部位(zone1)は通常の明るい蛍光,AZOOR領域(zone2)では過蛍光,網脈絡膜萎縮がみられる領域(zone3)では低蛍光所見がみられる.FA(h,g)でも同様のtrizonalpatternがみられる.IA(i,j)では,病変部が低蛍光でありFAFやFAのようなtrizonalpatternは明瞭には認められない.図3図2と同一症例の9年後の所見眼底写真(Ca,b)では網脈絡膜萎縮が施行しているが,右眼では中心窩周囲に正常網膜が残存しており右眼矯正視力はC1.0を維持している.OCT(Cc,d)では,網膜萎縮は外顆粒層にまで及び,網膜色素上障害によるアコースティックシャドーもみられる.FAF(Ce,f)では,網脈絡膜委縮およびCAZOOR病変の周辺側への拡大が認められる.間の経過とともに進行する.この初期段階では網膜色素上皮は臨床的にはまだ無傷と考えられるが,この過蛍光は網膜外層の破壊とそれに続く視細胞の消失に関連している可能性がある.慢性型のCAZOORではCFAF所見でも眼底所見と同様なCtrizonalpatternがみられる(図2e,f,図3e,f).近年,FAF所見で進行中のCAZOORの病変部と正常部の境界が検出できるという報告が多くみられ,これはCAZOOR線とよばれる9).AZOOR病変の外側では正常な自発蛍光が観察され(zone1),AZOOR病変内では斑点状の過自発蛍光が観察される(zone2).経過観察とともに網脈絡膜萎縮が出現してくる患者では,FAFにより脈絡膜萎縮の進展に対応した低自発蛍光が観察される(zone3).斑点状の高自発蛍光は通常亜急性病変でみられ,低自発蛍光は網膜色素上皮および脈絡膜の萎縮に対応するものである.C3.OCT近年のCOCTの解像度の向上によって,AZOORの診断にCOCTはきわめて有用な位置づけとなり,わが国における診断基準の主要項目の一つとなっている10).AZOORでは発症初期から,視野欠損の部位に一致してCellipsoidzone(EZ)の欠損あるいは不明瞭化がみられ(図1b),interdigitationzone(IZ)は消失することが多い.これらのCOCT所見はCAZOORの改善とともに回復することが多く,AZOORの回復期ではCIZのみの異常がみられることがある10).慢性化した患者ではCOCTでも同様のCtrizonalpatternに対応する変化が観察される.AZOOR病変の外側(zone1)は正常であり.AZOOR病変(zone2)では,網膜下ドルーゼン沈着に似た高輝度所見が網膜下腔にみられる(図2c,d).より進行した病変部(zone3)では,視細胞の消失だけでなく外顆粒層の菲薄化や網膜色素上皮の不整,それに加えて網膜色素上皮・脈絡膜の萎縮が認められることもある(図3c,d).一般的にCOCTで外顆粒層が菲薄化してしまった網膜部位の機能回復は困難であると考えられている11).C4.FAフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では,通常初期の発生時には視野の欠損部位に一致した異常所見はみられず正常であるが,視神経乳頭のわずかな過蛍光や周辺網膜血管のわずかな蛍光漏出や組織染がみられることがある.慢性化すると網膜色素上皮の変性によりCwindowdefectが生じる.さらに慢性化すると網膜色素上皮萎縮による過蛍光や網脈絡膜萎縮に対応した低蛍光がみられる(図2h,g).C5.IAインドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)では,初期では局所的な低蛍光あるいは過蛍光領域がみられることはあるものの視野欠損の部位とは必ずしも一致しない12).慢性期のAZOOR病変(図2i,j)は,IAでもCFAFと同様のCtri-zonalpatternを示す.AZOOR病変の外側は正常域(zone1)であり,AZOOR線の内側(zone2)では亜急性期に最小限の後期脈絡膜外漏出がみられる.脈絡膜の萎縮部位(zone3)では対応する脈絡膜へのインドシアニングリーン分子の漏出がないため低蛍光が観察される.C6.ERGAZOORでは,全視野CERGでは異常がなく,多局所ERGで異常が検出されることが多いが,網膜に広範な機能異常があればその面積と重症度に比例して全視野ERGでも振幅が低下する.そこで,全視野CERGにおける振幅低下はCAZOORの診断基準としても含まれている.全視野CERGにおいては,病変が後極部に含まれることが多いためか錐体応答の低下が強いことが知られており,錐体応答やC30Hzフリッカ応答における振幅低下は診断に有用である13).多局所CERGは視野欠損の部位に一致する局所的な網膜機能の低下を証明できるため,とくに診断に有用である14).CIIMEWDSMEWDSは後極から中間周辺部に一過性にみられる多発性の淡い白点によって特徴づけられる脈絡膜の炎症性疾患と考えられている.その名が示すように白点の出現は一過性であり,患者が受診したときには白点が消失(47)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C743図4右眼MEWDS(47歳,女性)眼底写真(Ca)では淡い白点が上方網膜におもにみられる.FAF(Cb)では白点に一致した低蛍光とより広い範囲での過蛍光が認められる.OCT水平断(Cc)と垂直断(Cd)ではCFAFでの過蛍光の領域に一致してCelipsoidzone,interdigitationzoneが消失し,白点に一致して網膜外層に高輝度所見がみられる.図5右眼MEWDS(28歳,女性)眼底写真(Ca)では白点は明らかではなかったが,FA(Cb)では黄斑領域に淡い過蛍光を認め,IA(Cc)では低蛍光,FAF(Cd)は同領域で過蛍光を示し,MEWDSの診断に至った.–’C

Pachychoroid 関連疾患

2022年6月30日 木曜日

Pachychoroid関連疾患PachychoroidSpectrumDisease寺尾信宏*はじめにPachychoroid関連疾患とは,一般的に脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張,脈絡膜血管透過性亢進,脈絡膜紋理の不明瞭化などの共通の病態背景を有する網脈絡膜疾患をさす.現在ではpachychoroidpigmentepitheliopathy(PPE),中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouscho-rioretinopathy:CSC),pachychoroidneovasculopathy(PNV),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),peripapillarypachychoroidsyn-drome,focalchoroidalexcavation(FCE)の6疾患があげられている1).Pachychoroid関連疾患の疾患の間には病態進展があり,不全型CSCと定義されるPPEやCSCから続発した脈絡膜新生血管(choroidalneovascu-larization:CNV)をPNVとし,さらにはPCVへ移行していく流れが提唱されている.本稿では,pachycho-roid関連疾患の特徴的な画像所見,および日常診療で遭遇することが多い疾患について画像所見を中心に解説する.IPachychroid関連疾患に共通する特徴的な画像所見1.脈絡膜肥厚脈絡膜肥厚はpachychoroid関連疾患においてもっとも重要な所見のひとつである.しかし,脈絡膜厚は眼軸長や年齢,性別などに影響されることなどから,おもに研究で使用するpachychoroid関連疾患の診断基準などでは,脈絡膜肥厚については明確なカットオフ値が定められておらず,現状ではpachychoroidに関連する臨床所見を診断基準とするのが一般的である.Hosodaらは,機械学習を利用してpachychoroid関連疾患と滲出型AMDを分類した結果,250μmの中心窩下脈絡膜厚のカットオフ値がもっとも両疾患を分類する指標として有用であったことを報告している2).この研究結果から理解できるように,日常診療においては光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)での脈絡膜肥厚の観察が,pachychoroid関連疾患を診断するためのもっとも簡便でわかりやすい指標である.しかし,脈絡膜厚は正常範囲においても年齢や性別によって大幅に異なってくるため,脈絡膜厚のカットオフ値を診断基準に組み込みことはむずかしいかもしれない.2.脈絡膜血管拡張(図1)脈絡膜は組織学的にはBruch膜と血管層からなり,血管層はさらに脈絡膜毛細血管板,小血管が主であるSattler層,中大血管が主であるHaller層に分けられる.Haller層の拡張した脈絡膜血管はpachyvesselとよばれ,pachychoroid関連疾患の重要な特徴である.Pachyvesselの上部の脈絡膜内層は圧排され菲薄化しており,これら脈絡膜毛細血管板の循環障害が網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)異常やCNV発症に関与すると考えられており,pachyvesselはpachy-choroid関連疾患の発症や病態進行に密接に関連してい*NobuhiroTerao:京都府立医科大学附属北部医療センター眼科〔別刷請求先〕寺尾信宏:〒629-2261京都府与謝野郡与謝野町字男山481京都府立医科大学附属北部医療センター眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(35)731図1脈絡膜血管拡張a:中心性漿液性脈絡網膜症のOCTBスキャン像では拡張した脈絡膜血管(pachyvessel)を複数認める(*).Pachyvesselの上部の脈絡膜内層は圧排され菲薄化している.b:同一症例の脈絡膜enfaceOCT像では脈絡膜血管は著明に拡張し,分水嶺が消失,上下の対称性は崩れている.図2脈絡膜血管透過性亢進a:IA早期では脈絡膜血流の充盈遅延,血管拡張を認める.b:IA後期ではリング状に拡大した過蛍光所見として脈絡膜血管透過性亢進()が複数観察できる.図3Pachychoroidpigmentepitheliopathy(PPE)a:眼底写真では脈絡膜紋理ははっきりせず,ドルーゼンを認めない.b:FAではwindowdefectを認める.c:IAでは脈絡血管透過性亢進所見()を認める.d:眼底自発蛍光では顆粒状の低蛍光を呈し,RPE障害を認める.e:OCT(aの点線部位における)では脈絡膜肥厚および脈絡膜血管拡張(*)を認め,その部位に一致したRPE異常を認める.図4急性中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)a:眼底写真では黄斑部に漿液性網膜.離,その内部に黄白色のプレシピテートを認める.b:FAでは視神経乳頭黄斑間に円形拡大型の蛍光漏出を認める.c:IAでは脈絡膜血管透過性亢進所見()を認める.Cd:眼底自発蛍光ではプレシピテートに一致する過蛍光を認める.Ce:OCT(水平断)では漿液性網膜.離および脈絡膜血管拡張(*)に伴う脈絡膜肥厚がみられる.図5慢性中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)a:眼底写真では黄斑部にプレシピテートを伴う漿液性網膜.離を認める.Cb:FAでは淡い蛍光漏出を認める.c:IAでは複数の脈絡膜血管透過性亢進所見()を認める.Cd:眼底自発蛍光では漿液性網膜.離の範囲は過蛍光を呈し,プレシピテートに一致する点状過蛍光を認める.Ce:OCT(水平断)では脈絡膜血管の拡張(*)を伴う脈絡膜肥厚を認める.漿液性網膜.離内には視細胞外節の伸長所見を認める.致した顆粒状のCRPE異常を認める.C2.中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)(図4,5)CSCは,中高年の男性に好発する黄斑部の漿液性網膜.離を特徴とするCpachychoroid関連疾患の代表疾患である.発症原因はまだ解明されていないが,発症,増悪のリスクファクターとしてストレス,A型気質,ステロイドの使用などがよく知られている.CSCは急性および慢性に大別されマネージメントされることが多い.急性および慢性の分類には厳密な診断基準はなく,自覚症状すなわち漿液性網膜.離の出現後C6カ月以内のものを急性CCSC(図4),6カ月以上遷延しているものを慢性CCSC(図5)と呼ぶことが多い.急性CCSCの多くは,数カ月で漿液性網膜.離が吸収されることが多く,視力予後は比較的良好とされている.しかし,慢性CCSCは急性CCSCに比較して高齢者に多く,再発性の漿液性網膜.離,広範なCRPE萎縮を特徴とし,漿液性網膜.離が遷延して黄斑部に萎縮をきたすと不可逆性の視力が低下することがあるため,その管理には注意が必要である.近年,CentralCSerousCChorioretinopathyCInterna-tionalGroupからマルチモーダルイメージングを用いた新規分類が提唱され10),CSCをCsimple,complex,Catypicalsubtypesに分類している.その診断基準としてCsimpleCsubtypesとCcomplexCsubtypesはおもにCRPE異常の面積(2乳頭面積)が用いられている.CSCの画像所見の特徴として,眼底所見では黄斑部の漿液性網膜.離を認めるが,とくに漏出が強い場合では漏出点周囲に黄白色のフィブリン析出がみられることがある.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangiog-raphy:FA)では,急性CCSCでは早期に点状過蛍光,後期にかけて円形増大型(ink-blottype)や吹き上げ型(smoke-stack)の蛍光漏出が認められるのが一般的である.慢性CCSCでは急性CCSCと同様の蛍光漏出を認めることもあるが,多くはびまん性の比較的弱い蛍光漏出を認める.IAでは早期に脈絡膜充盈遅延,脈絡膜血管拡張,後期には脈絡膜血管透過性亢進所見を認める.OCTでは拡張した脈絡膜血管を伴う脈絡膜肥厚を特徴とする.また,漿液性網膜内の視細胞外節延長,網膜色素上皮.離やCRPE不整所見を認めるが,漿液性網膜.離が長期間遷延しているような慢性CCSCでは,網膜外層障害をきたして網膜菲薄化を認めることが多い.また,慢性CCSCに特徴的な所見であるCdescendingCtractは漏出した網膜下液が長期間貯留した際に,重力に従い下方に移動してCRPE萎縮を生じたものであるが,眼底自発蛍光での確認が非常に有効である.C3.Pachychoroidneovasculopathy(PNV)(図6)PNVはC2015年にCPangらによって名づけられたpachychoroidの特徴を有するCCNVであり11),CNVはRPE下にとどまるCtypeC1CNVが特徴とされる.PNVはドルーゼンなどの従来の滲出型CAMDに特徴的な所見を認めないことから,滲出型CAMDとは区別して考えるべき疾患とされている.とくにアジア人はCpachyC-chooridが多いことがわかっており,日本人におけるPNV頻度は約半数とされ12),滲出型CAMDとの比較した研究では,PNVは滲出型CAMDと発症年齢,遺伝背景が異なることが報告されている13).現状ではCPNVの明確な診断基準は存在しない.しかし,その特徴的な画像所見から総合的に診断されている.眼底所見では脈絡膜紋理の減少,ドルーゼンがない(もしくはあっても少量の硬性ドルーゼンのみ)ことが特徴である.IAでは脈絡膜血管拡張,脈絡膜血管透過性亢進所見,CNVの検出が重要であるが,比較的小さなCCNVの検出にはCIAよりも光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)が適している(図7).IAのみで慢性CCSCと診断されてきた患者のなかには,PNVと診断すべき患者が含まれている可能性がある.C4.ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)(図8)PCVはCIAにより描出される異常血管網とその先端に生じるポリープ状病巣を特徴とする.PCVはわが国の診断基準では滲出型CAMDの特殊型として分類されている.しかし,PCVの多くの患者が脈絡膜肥厚などpachychoroidの特徴を認めているため,pachychoroid関連疾患のひとつに含まれ,PNVにおけるtypeC1CNVの先端にポリープ状病巣が生じることでCPCVに至ると考えられている.眼底所見ではポリープ状病巣は橙赤色隆起病巣として(39)あたらしい眼科Vol.C39,No.6,2022C735図6Pachychoroidneovasculo-pathy(PNV)a:眼底写真では黄斑部に漿液性網膜.離を認める.脈絡膜紋理は減少しており,ドルーゼンは認めない.Cb:FAでは淡い蛍光漏出を認め,occultCCNV所見が示唆される.Cc:IAでは脈絡膜血管透過性亢進所見()を認める.d:OCT(水平断)では肥厚した脈絡膜および脈絡膜血管の拡張(*),漿液性網膜.離内にCRPEの不整隆起()を認める.e:OCTAではCNVの血管構造が明瞭に確認できる.図7右眼中心性漿液性脈絡網膜症(CSC),左眼pachychoroidneovasculopathy(PNV)a:右眼COCT(水平断)では脈絡膜血管拡張を伴う脈絡膜肥厚を認め,漿液性網膜.離内に漿液性網膜色素上皮.離()と不整なCRPE隆起()を認める.Cb:右眼CIAでは複数の脈絡膜血管透過性亢進所見を認める().c:右眼COCTAでは脈絡膜新生血管は同定できず,CSCと診断できる.Cd:左眼COCT(水平断)では脈絡膜血管拡張を伴う脈絡膜肥厚を認め,漿液性網膜.離内にCRPEの不整隆起()を認める.Ce:左眼CIAでは脈絡膜血管透過性亢進所見を認める().f:左眼COCTAは脈絡膜新生血管の構造が明瞭に描出されており,PNVと診断できる.図8ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)a:眼底写真では漿液性網膜.離内に複数の橙赤色隆起病巣を認める.b:IA(早期)では網目状の異常血管網とその末端にポリープ状病巣を認める.Cc:IA(後期)では脈絡膜血管透過性亢進所見()を認める.Cd:OCT(aの点線部位における)ではではポリープ状病巣に一致してRPEの急峻な隆起を認める().ポリープ状病巣の下の脈絡膜は肥厚および脈絡膜血管の拡張を認める.Ce:OCTAでは異常血管網および複数のポリープ状病巣()が描出されている.図9Focalchoroidalexcavationa:眼底写真では中心窩に網膜色素上皮の色調変化を認める.Cb:FAでは蛍光漏出はほとんど認めない.Cc:IAでは著明な脈絡膜血管透過性亢進所見()を認める.Cd:眼底自発蛍光では顆粒状の低蛍光所見()を認め,RPE障害が示唆される.e:OCT(水平断)では中心窩に脈絡膜の陥凹()ならびに脈絡膜血管拡張を伴う脈絡膜肥厚を認める.-

萎縮型加齢黄斑変性

2022年6月30日 木曜日

萎縮型加齢黄斑変性TheClinicalCharacteristicsofDryAge-relatedMacularDegeneration(AMD)佐藤有紀子*高橋綾子*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は滲出型と萎縮型の二つのタイプに分類される.抗VEGF薬の登場により滲出型AMDの治療は大きく前進したが,萎縮型AMDの有効な治療法は現時点では存在しない.わが国においては疾患頻度の低さゆえ近年に至るまで滲出型AMDほどには注目されてこなかった経緯がある.しかし,高齢化が進む現代において患者数は増加することが予想され,わが国も例外ではない.また,一部の萎縮型AMDは滲出型AMDに移行し,その場合は滲出型AMDとして治療を要するため注意が必要である.以上を踏まえ,日常診療において萎縮型AMDの臨床像をより深く理解することが求められている.I疾患概念萎縮型AMDはAMDの進行期の病型の一つであり,視細胞,網膜色素上皮,脈絡膜毛細血管の進行性かつ不可逆的な消失が特徴である.全世界で約600万人が罹患している1)と推定されており,有病率は年齢に比例して上昇する.英国において50歳以上の有病率は1.3%であり,65歳以上では2.6%,80歳以上では6.7%に増加する2).日本を含むアジア全体の有病率は0.16%と欧米より低い3)が,高齢者の割合が急速に増加するアジア圏において本疾患の治療と管理はアンメットニーズである.わが国においては日本眼科学会が2015年に診断基準を作成し,「萎縮型AMDは,高齢者の黄斑部での加齢による網膜色素上皮,視細胞,脈絡膜毛細血管の萎縮性変化,Bruch膜の肥厚・変性に伴い視機能低下をきたす疾患である.滲出型AMDとともにAMDの進行期の病型として分類される.眼底所見として地図状萎縮(geographicatrophy:GA)の存在が必須である」と定義されている.GAは萎縮型AMDにおいて必須の所見であり,網膜色素上皮の喪失による低色素または脱色素のため境界鮮明な円形,卵円形,房状,そして地図状の形態をとる.大きな病変では脈絡膜大中血管が明瞭に透見できる(図1).また,萎縮型AMDでは出血を含む滲出性所見は認めない.つまり,滲出型AMDにおいてしばしばみられる萎縮所見は萎縮型AMDではないということに留意し,明確に区別する必要がある.II臨床像萎縮型AMDは大小さまざまな多数のドルーゼン(図1)を伴うことが多い.典型例ではドルーゼンにおける色素沈着,ドルーゼンの消退,脱色素を経てGAへと進行する4).臨床的には,drusenoidpigmentepithelialdetachment(drusenoidPED)が崩壊しGAになるケースを多く経験する(図2).ドルーゼンは,蛋白質や脂質の凝集体を含む細胞片が*YukikoSato&AyakoTakahashi:京都大学大学院医学研究科眼科学教室〔別刷請求先〕佐藤有紀子:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(29)725図1萎縮型加齢黄斑変性(AMD)のカラー眼底写真色素沈着を伴う境界鮮明な地図状萎縮(GA)を認める().周囲に軟性ドルーゼン(.)を認める.萎縮型CAMDと強い関連があるCcalci.eddrusen()やCreticularCpseudodrusen()を伴う.図2DrusenoidPED(網膜色素上皮.離)から萎縮型AMDへ進行した症例矯正視力はC0.9からC0.09へ低下した.DrusenoidPEDは,経過において滲出型CAMDあるいは萎縮型CAMDに移行する症例が多い.どちらに移行するか予測は困難なため,経過観察が早期の対応において重要である.DrusenoidPEDがCGAとなり脈絡毛細血管,網膜色素上皮,視細胞層の消失や菲薄化,脈絡膜の信号強度の増強(choroidalsignalenhancement,)を認める.図3萎縮型加齢黄斑変性(AMD)における地図状萎縮(GA)の眼底自発蛍光(FAF)a:中心窩を含むCcentralGAである(図C1と同症例).GAの有無や範囲はカラー眼底写真のみでは判定が困難な場合があるが,FAFでは境界明瞭な低自発蛍光領域として評価できる.Cb:GAは経時的に拡大し,長期的な視機能の低下が問題となる(aと同症例,3年後に撮影).図4滲出型加齢黄斑変性(AMD)に伴う萎縮カラー眼底写真(Ca)および眼底自発蛍光(Cb)では萎縮病巣を認め,萎縮型CAMDを疑うが,OCT(Cc)では黄斑部に脈絡膜新生血管が器質化した高反射の病変(.)を認める.Cd:cのC1年前に撮影したCOCT,同部位に滲出性変化を認める.図5萎縮型加齢黄斑変性(AMD)の蛍光眼底造影(図1と同一症例)a:フルオレセイン蛍光眼底造影,GAはCwindowdefectのため過蛍光となる.Cb:インドシアニングリーン蛍光眼底造影,GAは低蛍光となり,網膜色素上皮が欠損しているため脈絡膜血管が明瞭に描出される.図6PachychoroidGAカラー眼底写真ではCGAを認めドルーゼンを認めない.Pachychoroidの特徴である脈絡膜血管の透見性が低下している.眼底自発蛍光では地図状萎縮(GA)を低蛍光領域として認め,OCTにおいて脈絡膜は厚くCGA部分はCRPE欠損のため信号強度が増加している.’C-

特発性黄斑部毛細血管拡張症

2022年6月30日 木曜日

特発性黄斑部毛細血管拡張症IdiopathicMacularTelangiectasia河野泰三*丸子一朗*はじめに黄斑部毛細血管拡張症(maculartelangiectasia:MacTel)1)は,過去に特発性黄斑部毛細血管拡張症(idiopathicmaculartelangiectasia:IMT),あるいは特発性傍中心窩網膜毛細血管拡張症(idiopathicjuxafoveo-larretinaltelangiectasis:IJRT)2,3)とよばれていた.MacTelは,中心窩耳側を主体とした黄斑部に毛細血管拡張,毛細血管瘤を特徴とした疾患である.病態は大きく分けて3病型に分類されている.しかし,ここで注意が必要なのは,どの病型も黄斑部毛細血管拡張や毛細血管瘤を伴っているが,病型ごとに病態生理が異なっており,まったく異なる疾患である点である.それぞれの病型の特徴としてtype1は血管障害による血漿成分の漏出などの滲出性変化,type2は網膜外層の萎縮性変化,type3は特発性の血管閉塞変化である.MacTelの分類において,これまでは網膜血管走行や拡張に加え,網膜循環を評価するためにはフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)が必須であったが,造影剤によるアレルギーなどの侵襲的な問題があった.しかし,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)および光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)の登場により,黄斑部の形態的変化だけでなく血管構造および血流を非侵襲的,かつ網膜の層別に評価ができるようになった.本稿ではMacTelのおもにtype1とtype2について眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)撮影,FA,confo-calbluere.ectance(CBR),OCT,OCTAなどのさまざまな画像の所見について述べる.なお,type3に関しては,先述の通り血管拡張というより血管閉塞が主体であり,頻度が非常にまれであることから,分類自体から除外されることが提案されている1).ただし,日本での筆者らの報告で,MacTelの27名34眼のなかで,type3は2名4眼と頻度は少ないものの一定数存在することがわかっている4).IMacTeltype1疫学的には,30~40歳代の男性に多く,ほとんどが片眼性に生じる.わが国での頻度は高く,欧米では少ないとされており,日常診療において毛細血管拡張症またはMacTelといえば,実際にはこの病型をさすことが多い4).検眼鏡的には,毛細血管拡張,輪状硬性白斑,.胞様黄斑浮腫を伴った毛細血管瘤がみられる.視力低下は緩徐だが,進行性で自然軽快と再発を繰り返す.この病型は,傍中心窩に限局する先天的な毛細血管内皮異常が疾患の本態と考えられており,現在,欧米では周辺網膜にも毛細血管拡張所見がみられるCoats病やLeber粟粒血管腫と同一スペクトラムとみなされ,明確な区別は設けられていない.鑑別として毛細血管拡張と毛細血管瘤が生じる陳旧性網膜静脈分枝閉塞症(brunchretinalveinocclusion:BRVO),糖尿病網膜症,放射線網膜症などがあげられ*TaizoKawano&IchiroMaruko:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕河野泰三:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(19)715ab図1MacTeltype1(左眼)症例1.81歳,男性.OCT水平断(a)で中心窩耳側に.胞状様変化と網膜肥厚がみられる.垂直断(b)では,上下ともに.胞様変化と網膜肥厚がみられる.右眼左眼網膜表層網膜深層図2MacTeltype1(左眼)症例2.50歳,男性.左眼は網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)とは違い,血管異常が耳側縫線をまたいで上下に分布している.しかし,右眼では微小血管異常がほとんどみられない.OCTA網膜表層OCTA網膜深層FA初期FA後期図3MacTeltype1(左眼)症例2.50歳,男性.OCTAでは血流の乏しい毛細血管瘤や毛細血管拡張が描出されない可能性があり,FAでは毛細血管瘤は多数描出されているがCOCTAではあまり描出されておらず,注意する必要がある.:MacTelarea:中心窩図4MacTelarea中心窩を中心として,乳頭耳側辺縁から中心窩からの距離を水平径とし,そのC0.8倍したものを垂直径とした楕円形の領域をCMacTelareaと定義されており,網膜菲薄化などの網膜変化や機能障害は,通常はその範囲を超えないと報告されている11).abc図5MacTeltype2(左眼)症例3.69歳,女性.Ca:眼底写真,b:FAF,c:confocalbluere.ectance(CBR).黄斑色素の減少により,自発蛍光で中心窩耳側が過蛍光になっている(Cb).CBR(redfree)画像でリング状高反射が観察できる(Cc).図6MacTeltype2症例3.69歳,女性.網膜は膨化せず,ellipsoidzoneの不鮮明化と.胞様変化所見がみられる.図7MacTeltype2(左眼)症例4.67歳,男性.耳側の網膜内層が外層に入り込んでおり色素上皮過形成がみられる.Ellipsoidzoneの欠損もみられる.網膜表層網膜深層図8MacTeltype2(左眼)症例C3.69歳,女性.微小血管異常は耳側縫線を越えて分布しており,網膜表層と比較して網膜深層で著明である.網膜表層網膜深層網膜外層図9MacTeltype2(左眼)症例4.67歳,男性.耳側の毛細血管の脱落がみられ,無血管である網膜外層に毛細血管の侵入がみられる.–.-