‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

近視性共同性内斜視における角膜高次収差の検討

2024年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(8):1026.1030,2024c近視性共同性内斜視における角膜高次収差の検討三木岳*1稗田牧*2鎌田さや花*2井村泰輔*2中井義典*2中村葉*2外園千恵*2木下茂*3*1京都市立病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室*3京都府立医科大学感覚器未来医療学CCornealHigher-OrderAberrationsinAcquiredComitantEsotropiaAssociatedwithMyopiaTakeruMiki1),OsamuHieda2),SayakaKamata2),TaisukeImura2),YoshinoriNakai2),YoNakamura2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita3)1)DepartmentofOpthalmology,KyotoCityHospital,2)DepartmentofOpthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOpthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:近視に伴う後天共同性内斜視(以下,近視性共同性内斜視)の角膜高次収差を明らかにすること.対象および方法:対象は近視性共同性内斜視群C14例C28眼(男性C7例,女性C7例:年齢C17.49(平均C29.2±標準偏差C8.6)歳)と,斜視のない近視症例である対照群C14例C28眼(男性C5例,女性C9例:年齢C24.55(36.1±10.6)歳).OPD-Scan(ニデック製)を用いて角膜全高次収差,角膜球面様収差,角膜球面収差,角膜コマ様収差を測定した.各高次収差および裸眼視力,最良矯正視力,眼圧について両群間で比較検討を行った.結果:解析径C4Cmmにおける角膜全高次収差および角膜コマ様収差が近視性共同性内斜視群で有意に高値であった(各々Cp=0.015,0.035).また,最良矯正視力は対照群が有意に高値であり,眼圧は近視性共同性内斜視群が有意に高値であった(各々Cp=0.019,0.022).結論:近視性共同性内斜視は角膜高次収差が増大しており,内斜視との関連が示唆された.CPurpose:Toclarifycornealhigher-orderaberrations(HOAs)inacquiredcomitantesotropiaassociatedwithmyopia(myopiccomitantesotropia).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved28eyesof14patients(7malesand7females;meanage:29.2±8.6[mean±standarddeviation]years,range:17-49years)inthemyopiccomi-tantCesotropiaCgroupCandC28CeyesCofC14Ccontrolsubjects(5CmalesCandC9females;meanage:36.1±10.6Cyears,range:24-55years)whoCwereCmyopicCcasesCwithoutstrabismus(controlgroup).CTotalCcornealCHOAs,CcornealCspherical-likeaberration,cornealsphericalaberration,andcornealcoma-likeaberrationweremeasuredusingtheOPD-Scan(Nidek)refractiveCworkstation.CInCadditionCtoCHOAs,CuncorrectedCvisualacuity(VA),Cbest-correctedVA(BCVA),CandCintraocularpressure(IOP)wereCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:TotalCcornealCHOAsandcornealcoma-likeaberrationweresigni.cantlyhigher(p=0.015,Cp=0.035,respectively)inthemyopiccomitantCesotropiaCgroupCatCtheCanalysisCdiameterCofC4Cmm.CBCVACwasCsigni.cantlyChigherCinCtheCcontrolCgroup,CwhileIOPwassigni.cantlyhigherinthemyopiccomitantesotropiagroup(p=0.019,Cp=0.022,respectively).Con-clusion:MyopiccomitantesotropiaisassociatedwithincreasedcornealHOAs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1026.1030,C2024〕Keywords:近視性共同性内斜視,後天共同性内斜視,角膜高次収差,角膜不正乱視,調節性輻湊.myopicCcomi-tantesotropia,acquiredcomitantesotropia,cornealhigher-orderaberrations,cornealastigmatism,accommodativeconvergence.Cはじめにcomitantesotropia:AACE)として報告されている疾患の近年,スマートフォンの普及に伴い,長時間のデジタルデなかにも,発症から受診までの期間が数カ月から数年と長いバイスの使用が関連していると考えられる後天内斜視の報告ものが含まれる.92例中C82例(90.2%)は亜急性発症といが増えている1.3).急性後天共同性内斜視(acuteCacquiredう報告もあり,亜急性や潜行性の発症である場合が多い4).〔別刷請求先〕三木岳:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上る梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakeruMiki,DepartmentofOpthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC1026(154)こうした後天共同性内斜視では近視患者での発症が多いことから4.6),筆者らは,後天共同性内斜視のなかで近視に伴って生じるものを「近視性共同性内斜視」とよび,これまで検討を行ってきた5,7,8).近視が未矯正または低矯正のまま長時間の近見作業を行ったことが一つの契機となって後天性に発症する共同性内斜視は,以前から報告されている9).「近視性共同性内斜視」の発症はC10.30歳代に多く,間欠性内斜視の遠見複視の症状で発症し,徐々に近見でも複視を自覚するようになり,最終的に恒常性の内斜視となる潜行性発症である5,7).一方で,近視を伴う後天内斜視のなかには強度近視性内斜視という疾患もあるが,これは長眼軸長の強度近視眼において,眼球後部が外直筋と上直筋の間の筋円錐から脱臼して生じるもので10),高齢女性に多く,今回検討した「近視性共同性内斜視」とは異なる疾患である.近視性共同性内斜視の発生機序はまだ解明されていないが,近視眼で近い視距離での近見作業を長時間行う生活習慣が関与している可能性がある.近視性共同性内斜視の調節機能は正常である8)ことから,輻湊けいれんにより内斜視になっているのではない.近視であるため近見作業時に調節を行わず輻湊のみが起こり,調節性輻湊が働かず近接性輻湊が増強されることにより内直筋のトーヌスが上昇し,内直筋が優位な状態となり内斜視が生じている可能性が指摘されている9).近年,調節を伴わず輻湊することが角膜および強膜形状に影響することが報告されており11),近接性輻湊の増強が前眼部形状の変化を起こすため,近視性共同性内斜視の病態に関連している可能性が考えられる.近視性共同性内斜視と前眼部形状の一つの指標である角膜高次収差の関係については,筆者らが調べた限りでは報告されていない.そこで今回,近視性共同性内斜視の角膜高次収差を明らかにするために,斜視のない近視眼を対照として角膜高次収差を比較検討した.CI対象および方法2013年C9月.2022年C7月に京都府立医科大学附属病院またはバプテスト眼科クリニックを受診し,近視性共同性内斜視と診断した患者のなかで,角膜形状/屈折力解析装置COPD-Scan(ニデック製)を測定したC14例C28眼を近視性共同性内斜視群とした.近視性共同性内斜視の定義は既報7)と同様であり,近視眼に後天性に発症した共同性内斜視で,中枢性病変を伴う患者や,眼球運動制限のある患者,眼球後部の筋円錐からの脱臼により生じる強度近視性内斜視の患者,また明らかな輻湊けいれんの症例を除外した.斜視のない近視症例を対照群とした.具体的には,バプテスト眼科クリニックにてC2011年C4月.2022年C6月にClaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)もしくはCphotorefractivekeratectomy(PRK)を施行目的で検査を行った患者である.近視性共同性内斜視群の対象と①自覚的球面度数,②自覚的円柱度数,③年齢の順番に症例をマッチングして選出した.球面度数のマッチングは,両眼のうちより近視が強い眼を用いて選出した.以下の項目を斜視手術および屈折矯正手術の前に測定した.①角膜高次収差:OPD-Scanを用いて測定した.解析径4CmmおよびC6Cmmにて角膜全高次収差,角膜球面様収差,角膜球面収差,角膜コマ様収差の値を算出した.質的な比較として,コマ収差については水平コマおよび垂直コマのもっとも大きな方向により判断し,方向の頻度を比較した.②裸眼視力および最良矯正視力:5メートルの標準視力表で測定した.③自覚的屈折度数:最良矯正視力時の球面度数,円柱度数を測定した.④眼軸長:非接触型眼軸長測定装置CIOLマスター(ZEISS社製)を用いて測定した.⑤眼圧:ノンコンタクトトノメータ(非接触型圧平眼圧計ニデック製)を用いて測定した.統計解析は統計ソフトウェアCJMPProを使用し,p<0.05を有意差ありとした.背景因子である性別はC|二乗検定を行った.また年齢,自覚的球面度数,自覚的円柱度数は対応のあるCt検定を行った.各数値は平均値C±標準偏差(stan-darddeviation:SD)で表記した.検討項目である角膜高次収差,裸眼および最良矯正視力,眼軸長,眼圧を目的変数とし,患者番号を変量効果,対象群を固定効果として両眼を用いて混合モデルで解析を行った.各数値は最小二乗平均(95%信頼区間)で表記した.本研究は京都府立医科大学附属病院の倫理審査委員会の承認(ERB-C-1054-4)のもとで行った.CII結果近視性共同性内斜視群C14例C28眼(男性C7例,女性C7例,年齢C17.49歳,平均年齢C29.2C±8.6歳),対照群14例28眼(男性C5例,女性C9例,年齢C24.55歳,平均年齢C36.1C±10.6歳)であった.患者背景を表1にまとめた.両群間で年齢,性別,自覚的球面度数,自覚的円柱度数に有意差を認めなかった.角膜高次収差について両群間の比較を行った.解析径C4mmにおける角膜全高次収差,角膜コマ様収差において近視性共同性内斜視群が対照群に比べて有意に高値であった(各Cp=0.015,0.035).その他の角膜高次収差においては両群間に有意差を認めなかった(表2).解析径C4Cmmでコマ様収差の値に有意差を認めたため,4mm角膜コマ収差を用いてコマ収差の方向を検討した.近視表1患者背景近視性共同性内斜視群対照群p値年齢C29.2±8.6歳C36.1±10.6歳C0.068性別(男:女)7:7人5:9人C0.094自覚的球面度数C.4.79±2.80DC.5.02±2.53DC0.30自覚的円柱度数C.0.79±0.87DC.1.17±1.11DC0.19患者背景はすべての項目で両群間に有意差を認めなかった.表2角膜形状解析による高次収差〔最小二乗平均(95%信頼区間)〕近視性共同性内斜視群対照群p値4Cmm角膜全高次収差0.18(C0.15.C0.22)Cμm0.12(C0.08.C0.16)CμmC0.015*4Cmm角膜コマ様収差0.13(C0.11.C0.16)Cμm0.10(C0.07.C0.12)CμmC0.035*4Cmm角膜球面様収差0.08(C0.07.C0.09)Cμm0.07(C0.06.C0.08)CμmC0.2104Cmm角膜球面収差0.05(C0.04.C0.06)Cμm0.05(C0.03.C0.06)CμmC0.3436Cmm角膜全高次収差0.56(C0.41.C0.72)Cμm0.42(C0.27.C0.58)CμmC0.1936Cmm角膜コマ様収差0.40(C0.28.C0.53)Cμm0.31(C0.18.C0.43)CμmC0.2836Cmm角膜球面様収差0.27(C0.22.C0.31)Cμm0.28(C0.23.C0.32)CμmC0.7596Cmm角膜球面収差C0.29±(C0.25.C0.33)Cμm0.26(C0.22.C0.30)CμmC0.272近視性共同性内斜視群では対照群と比較して,解析径C4Cmmにおける角膜全高次収差および角膜コマ様収差が有意に高値であった(各Cp=0.015,0.035).その他の項目では両群間に有意差を認めなかった.近視性共同性内斜視群対照群水平鼻側水平鼻側垂直上方7.1%垂直上方14.3%14.3%14.3%水平耳側14.3%水平耳側39.2%垂直下方39.2%垂直下方57.1%n=14n=14図1コマ収差の方向両群間に有意差は認めなかった.傾向として,近視性共同性内斜視群では水平鼻側方向が14.3%と,対照群C7.1%の約C2倍頻度が高かった.また,水平耳側方向についてはC14.3%であり,対照群C39.2%と比較すると頻度が少なかった.性共同性内斜視群では水平鼻側方向がC14.3%と,対照群C7.1正視力は両群とも良好であり,眼圧も両群とも範囲内であっ%の約C2倍頻度が高かった.また,水平耳側方向についてはたが,ともに二群間で有意差を認めた(各Cp=0.001,0.022).14.3%であり,対照群C39.2%と比較すると頻度が少なかった眼軸長は有意差を認めなかった(表3).(図1).CIII考察近視性共同性内斜視群の代表症例のCOPD-Scanの結果を提示する.4Cmm角膜における全高次収差はC0.289Cμmであ近視性共同性内斜視群は対照群と比較して,角膜全高次収った(図2).差および角膜コマ様収差が有意に高値であった.つぎに裸眼視力,最良矯正視力,眼圧,眼軸長について比近視性共同性内斜視群における最小二乗平均のC4Cmm角膜較を行った.裸眼視力は両群間で有意差を認めなかった.矯全高次収差はC0.18Cμmであり,4Cmm角膜コマ様収差はC0.13図2近視性共同性内斜視眼のOPD-Scan所見上段左はCOPDmap瞳孔内の屈折度分布.上段中央は角膜屈折力のCmap.上段右は測定時の瞳孔および角膜反射.下段左は高次収差を表し4Cmm角膜全高次収差はC0.289Cμmである.下段中央は各種角膜形状指数.下段右はCMayerRing像.上記図のコマ収差の方向は垂直下方.表3視力眼圧眼軸長の比較〔最小二乗平均(95%信頼区間)〕近視性共同性内斜視群対照群p値裸眼視力(logMAR)1.11(C0.94.C1.29)1.29(C1.13.C1.45)C0.140最良矯正視力(logMAR)C.0.07(C.0.10.C0.03)C.0.16(C.0.20.C0.12)C0.001*眼圧15.1(C13.8.C16.4)CmmHg12.9(C11.7.C14.2)CmmHgC0.022*眼軸長25.82(C24.90.C26.74)Cmm25.69(C24.88.C26.51)CmmC0.832近視性共同性内斜視群では対照群と比較して最良矯正視力が有意に不良であり,眼圧は有意に高値であった(各Cp=0.001,0.022).その他の項目では両群間に有意差を認めなかった.μmであった.既報12)によると日本人のC4Cmm角膜全高次収差はC0.05.0.1Cμm程度といわれており,近視性共同性内斜視群のC0.18Cμmは日本人の平均値よりも高値であった.同様に,日本人におけるC4Cmm角膜コマ様収差はC0.05.0.08Cμm程度との報告があり12),近視性共同性内斜視群におけるC0.13μmは高値であった.角膜高次収差の増大が近見作業によって生じるとの報告13)があり,近見作業を契機として生じると考えられる「近視性共同性内斜視」において高次収差が大きかったこととの関連性が示唆される.また,強膜炎により角膜乱視が増えるという報告があり14),強膜の変化は角膜乱視に影響すると考えられる.近視性共同性内斜視では輻湊が働くことにより,鼻側強膜の変化に伴って耳側強膜が伸展し,角膜の非対称性が増大することに伴ってコマ様収差の増大が生じ,全高次収差が増大する可能性がある7,11).この仮説に則って今回の結果を考察すると,近視性共同性内斜視群では対照群と比較して,コマ収差の方向は水平耳側が減少し,水平鼻側で増加していた.耳側強膜が伸展したことにより耳側角膜が平坦化し,水平耳側のコマ収差が減少した可能性を示唆している.近視性共同性内斜視群と対照群を比較すると,裸眼視力は両群間で有意差を認めなかった.最良矯正視力は両群ともに良好であったが,二群間に有意差を認めた.屈折矯正手術の術前である対照群は通常の診療よりも詳しく視力検査を施行しており,測定値に影響を与えた可能性がある.近視性共同性内斜視群および対照群ともに眼圧は正常範囲内であったが,有意差を認めた.眼圧が高いと近視の程度が強くなるという既報15)があり,輻湊によって眼圧が上がると考えられている.近視性共同性内斜視では輻湊が多く働くため,対照群と比較して眼圧が上昇している可能性がある.ただし,眼圧測定に非接触型圧平眼圧計ノンコンタクトトノメータを使用しており,測定値に誤差が生じた可能性があるため今後検討を要する.近視性共同性内斜視は比較的新しい疾患概念であり,今回の検討では症例数がC14例C28眼と少数であったため,今後さらに症例数を増やし検討を行う必要がある.また,近視性共同性内斜視群はC2施設でデータを測定したのに対し,対照群は単一施設でデータを測定したため,機械の誤差が影響を与えた可能性がある.CIV結論近視性共同性内斜視はC4Cmm角膜コマ様収差が増大しており,調節せずに輻湊することにより前眼部形状が変化している可能性が示された.また,角膜形状の変化で最良矯正視力が影響を受けている可能性が示された.今後は斜視と角膜高次収差の関連についてさらに検討していく予定である.今回,近見作業時間および強膜の変化については検討を行っていないが,今後はこれらの要因も含めて検討していきたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IimoriCH,CNishinaCS,CHiedaCOCetal:ClinicalCpresentationsCofacquiredcomitantesotropiain5-35yearsoldJapaneseandCdigitalCdeviceusage:aCmulticenterCregistryCdataCanalysisstudy.JpnJOphthalmolC67:629-636,C20232)LeeCHS,CParkCSW,CHeoH:AcuteCacquiredCcomitantCeso-tropiaCrelatedCtoCexcessiveCSmartphoneCuse.CBMCCOph-thalmolC16:37,C20163)CaiC,DaiH,ShenY:Clinicalcharacteristicsandsurgicaloutcomesofacuteacquiredcomitantesotropia.BMCOph-thalmolC19:173,C20194)RodaCM,CGeronimoCN,CValsecchiCNCetal:Epidemiology,CclinicalCfeatures,CandCsurgicalCoutcomesCofCacuteCacquiredCconcomitantCesotropiaCassociatedCwithCmyopia.CPLOSCONEC18:1-9,C20235)鎌田さや花,稗田牧,中井義典ほか:近視性後天性内斜視の臨床像と手術成績.眼臨紀11:811-815,C20186)ZhengK,HanT,HanYetal:Acquireddistanceesotro-piaassociatedwithmyopiaintheyoungadult.BMCOph-thalmolC18:51,C20187)稗田牧:近視性共同性内斜視.あたらしい眼科C39:907-912,C20228)吉岡誇,稗田牧,中井義典ほか:近視性後天性内斜視の調節機能および立体視機能.あたらしい眼科C36:1213-1217,C20199)川村真理,田中靖彦,植村恭夫:近視を伴う後天性内斜視のC5例.眼臨81:1257-1260,C198710)YamaguchiCM,CYokoyamaCT,CShirakiK:SurgicalCproce-dureCforCcorrectingCglobeCdislocationCinChighlyCmyopicCstrabismus.AmJOphthalmolC149:341-346,C201011)NiyazmandCH,CReadCSA,CAtchisonDA:E.ectsCofCaccom-modationCandCsimulatedCconvergenceConCanteriorCscleralCshape.OphthalmicPhysiolOptC40:482-490,C202012)不二門尚:眼科検査診断法新しい視機能評価システムの開発.日眼会誌108:809-835,C200413)BuehrenT,CollinsM-J,CarneyL-G:NearworkinducedwavefrontCaberrationsCinCmyopia.CVisionCResC45:1297-1312,C200514)BernauerCW,CPleischCB,CBrunnerM:Five-yearCoutcomeCinimmune-mediatedscleritis.GraefesArchClinExpOph-thalmolC252:1477-1481,C201415)MoriK,KuriharaT,UchinoU:Highmyopiaanditsasso-ciatedCfactorsCinCJPHC-NEXTEyeCStudy:ACCross-Sec-tionalObservationalStudy.JClinMedC8:1788,C2019***

線維柱帯切除術後の過剰濾過に対してソフトコンタクトレンズ連続装用が有効であった1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1022.1025,2024c線維柱帯切除術後の過剰濾過に対してソフトコンタクトレンズ連続装用が有効であった1例小沢優輝中元兼二白鳥宙岡本史樹日本医科大学眼科学教室CUsefulnessofExtended-WearSoftContactLensesforOver-FiltrationafterTrabeculectomyYukiKozawa,KenjiNakamoto,NakaShiratoriandFumikiOkamotoCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolC目的:マイトマイシンCC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)の術後の過剰濾過による浅前房および脈絡膜.離に対して,ソフトコンタクト連続装用が有効であったC1例を経験したので報告する.症例:30代,女性,若年性特発性関節炎による両眼続発緑内障で日本医科大学付属病院を紹介受診した.右眼CTLEを施行したところ,術後,当日から浅前房,巨大濾過胞および脈絡膜.離を認めた.術翌日,眼所見の改善はなく,経結膜強膜弁縫合,圧迫縫合,ステロイド内服を行った.術後C9日目でも右眼の低眼圧が遷延し,脈絡膜.離が増悪した.術後C14日目より,ソフトコンタクトレンズを連続装用したところ,徐々に脈絡膜.離が改善し,術後C18日目に浅前房は改善し,術後C42日目に脈絡膜.離は消失した.結論:TLE術後の過剰濾過に対してソフトコンタクトレンズ連続装用が有用であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCinCwhichCcontinuousCsoftCcontactlens(SCL)wearCwasCe.ectiveCinCmanagingCaCshallowanteriorchamberandchoroidaldetachmentduetoexcessive.ltrationaftertrabeculectomy(TLE).Case:CACwomanCinCherC30sCwithCbilateralCglaucomaCdueCtoCjuvenileCidiopathicCarthritisCwasCreferredCtoCourCclinic.CTLECcombinedwithmitomycinCwasperformedonherrighteye,yetat1-daypostoperative,ashallowanteriorcham-ber,alarge.lteringbleb,andchoroidaldetachmentwasobserved.At9-dayspostoperative,prolongedlowintraoc-ularpressureandworseningchoroidaldetachmentwasobservedinthateyedespiteinterventionssuchasscleral.apsuturing,compressionsutures,andoralsteroids.Startingat14-dayspostoperative,continuousSCLwearwasinitiated,resultingingradualimprovementofchoroidaldetachmentby18-dayspostoperativeandresolutionoftheshallowanteriorchamberby42-dayspostoperative.Conclusion:ContinuousSCLwearwasfoundtobee.ectiveformanagingexcessive.ltrationaftertrabeculectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1022.1025,C2024〕Keywords:線維柱帯切除術,過剰濾過,脈絡膜.離,ソフトコンタクトレンズ.trabeculectomy,over.ltration,choroidaldetachment,softcontactlens.Cはじめに緑内障は日本における中途失明原因の第C1位であり1),科学的証拠に基づいた唯一確実な治療は眼圧下降である.近年,緑内障手術では,低侵襲緑内障手術が広く行われるようになったが,特に続発緑内障ではマイトマイシンCC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)が施行される機会は少なくない.TLEの術後早期合併症の一つに脈絡膜.離があり,その原因として,過剰濾過に伴う低眼圧,短眼軸,眼炎症などが指摘されている2).過剰濾過に対する治療法には,経結膜的もしくは結膜弁を開放しての強膜弁縫合,結膜上からの圧迫縫合,前房内粘弾性物質(または空気)注入,濾過胞内自己血注入,圧迫眼帯などがある3,4).今回,TLE術後の過剰濾過に対して,経結膜強膜弁縫合および圧迫縫合を施行するも改善が得られず,ソフトコンタクト(softCcontactlens:SCL)連続装用で,過剰濾過が改善し浅前房および脈絡膜.離が治癒した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕小沢優輝:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiKozawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANC1022(150)図1TLE術後当日の前眼部所見a,b:術当日から浅前房,巨大濾過胞があった.Cc:前眼部光干渉断層計検査所見.浅前房を認めた.Cd:超音波CBモード所見.高度な脈絡膜.離があった.I症例患者:35歳,女性.既往歴:若年性特発性関節炎.現病歴:小児期から若年性特発性関節炎に伴う両眼ぶどう膜炎を発症し,両眼続発緑内障で他院を受診していた.小児期に両眼白内障に対して水晶体再建術が施行され,無水晶体眼用の連続装用CSCLを使用していた.その後,左眼眼圧がコントロール不良となったため,TLEを施行されたが,緑内障の進行,水疱性角膜症による角膜混濁などで,視力は手動弁となっていた.今回,薬物治療で管理されてきた右眼の眼圧が徐々に高くなってきたため,緑内障手術目的で当院を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C0.1(0.4C×sph+16.50D(cylC.4.00DAx95°),左眼手動弁(矯正不能),眼圧は右眼30mmHg,左眼C12mmHg,眼軸長は右眼C22.97mm,左眼24.53Cmm,中心角膜厚は右眼C522Cμm,左眼C802Cμmであった.角膜は,右眼の鼻側と耳測に軽度の帯状角膜変性症,左眼に水疱性角膜症による角膜混濁があった.両眼とも人工的無水晶体眼で,右眼の瞳孔領にはわずかに硝子体線維の嵌頓があった.左眼は高度な角膜混濁があり,前房隅角および眼底は透見困難であったため,以下,右眼の所見のみ記す.隅角鏡検査では,ぶどう膜炎によると思われる台形状の周辺虹彩前癒着を全象限に認めた.眼底検査では,著明な乳頭陥凹拡大を呈していた.Gold-mann視野検査では,40°以内の視野のみ残存していた.緑内障治療として,両眼にドルゾラミドC1%/チモロールマレイン酸塩C0.5%C1日C2回点眼,ブリモニジンC0.1%C1日C2回点眼,リパスジルC0.4%C1日C2回点眼およびアセタゾラミドC250Cmg1日C1回朝内服が処方されていた.若年性特発性関節炎の治療として,小児科よりプレドニゾロンC2.5Cmg内服を継続処方され,内科的な症状は安定していた.経過:右眼に対してCTLEを施行した.術当日の術後診察時から浅前房,巨大濾過胞および脈絡膜.離があったが,眼圧はC20CmmHgであった(図1).ベタメタゾンC0.1%C1日C4回点眼,レボフロキサシンC1.5%C1日C4回点眼に加えて,悪性緑内障の可能性も考慮してアトロピンC1%C1日C1回点眼で治療を開始した.術翌日,眼所見に改善はなく,眼圧はC28図2TLE術後14日目の前眼部所見a:SCL終日装用C1日目,前房は術当日より深くなった.Cb:SCLは輪部結膜および強膜弁の一部を圧迫できていた.Cc:前眼部光干渉断層計所見.前房は術当日より深くなっていた.mmHgと上昇した.術後炎症および過剰濾過の影響を考え,経結膜強膜弁縫合C2針,圧迫縫合C1針,さらにプレドニゾロンC5.0Cmgを増量しC1日C7.5Cmgの内服を行った.術後C8日まで眼所見は変化しなかったが,術後C9日目に眼圧がC9CmmHgと低眼圧になり,その後,脈絡膜.離が徐々に増悪した.観血的な強膜弁縫合を提案したが,患者の同意が得られなかったため,術後C14日目より,SCLによる結膜弁および強膜弁の圧迫効果を期待して,もともと術前に装用していたCSCL(ブレス・オー,直径C13.5Cmm)を終日装用として再開した図3TLE術後42日目の眼所見a:SCL連続装用後C28日目,前房はより深くなっていた.Cb:前眼部光干渉断層計所見.前房は術後C14日目よりさらに深くなっていた.c:超音波CBモード所見.脈絡膜.離は消失していた.(図2).装用再開翌日,CLの辺縁が覆っている部位の濾過胞の丈は低くなり,前房は深くなった.SCLをはずすと,速やかに前房が浅くなるため,SCLを連続装用として継続した.以後,脈絡膜.離は徐々に改善し,18日目に浅前房は改善し,術後C42日目には視力(0.3),SCL装着中にCSCL上から手持ち眼圧計CiCareproで測定した眼圧はC16CmmHg,SCLをはずしたときのCGoldmann平眼圧計で測定した眼圧はC6CmmHg,前房深度は深く,脈絡膜.離は消失した(図3).現在,手術後C1年以上経過しているが,眼圧6.7CmmHg程度で濾過胞形態も安定しており,濾過胞感染などの合併症はない.CII考按TLEには多くの早期合併症があるが,頻度が高い合併症の一つに過剰濾過がある.過剰濾過は,しばしば巨大濾過胞,浅前房,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離など多彩な合併症の原因となる.過剰濾過に対する治療法には,保存的治療と外科的治療とがある.保存的治療として,炭酸脱水酵素阻害薬点眼・内服やCb遮断薬点眼などで房水産生を抑制する方法があり,奏効すると数日以内に改善することもある.また,過剰濾過による浅前房に対して,前房内粘弾性物質注入(あるいは空気注入)や濾過胞内自己血注入を行うことがある.外科的治療には経結膜強膜弁縫合,結膜弁を開放して直視下での強膜弁縫合,結膜上からの圧迫縫合などがある3,4).本症例では,術当日から過剰濾過による浅前房,脈絡膜.離があったため,術翌日に経結膜強膜弁縫合と圧迫縫合を併施したが,過剰濾過を十分に抑制できなかった.そこで,結膜弁を開放して直視下で強膜弁縫合の追加を検討したが,炎症などによる眼圧の再上昇の懸念や,患者本人が観血的治療に同意しなかったため,SCL装着で経過観察する方針となった.TLE後のCSCL装用で期待できる治療効果として,角膜上皮の保護,切開部の治癒促進,過剰濾過の抑制などがある5.7).Liら8)は,SCL径が濾過胞を覆うのに十分であった場合には,切開部,濾過胞を覆い隠すことができるため,前房深度が改善することを報告している.SCLの直径は一般にC14.0Cmmであり,レンズが濾過胞の一部を覆って圧迫することで過剰濾過を抑制することができると考えられている8).本症例においては,使用したCSCLの直径がC13.5Cmmと一般的なCSCLよりも小さかったが,角膜径もC11Cmmと健常人9)よりやや小さかったため,強膜弁の一部を覆うことができたと考えられる.ただし,本症例でも,ブレス・オーを装着する前に医療用CSCLの装着を試みたが,切開部,濾過胞の一部を覆い隠すことはできていたにもかかわらず,過剰濾過を改善させることはできなかった.ブレス・オーは医療用CSCLより厚みと硬さがあるため,強膜弁を圧迫する効果が高まり,過剰濾過を改善できた可能性がある.よって,過剰濾過に対するCSCLによる治療では,濾過胞の圧迫に十分な素材の厚みや硬さも重要と考えられる.本症例は,術後早期では浅前房に加えて眼圧が高かったため,悪性緑内障の関与が疑われた.本症例は人工的無水晶体眼であるが,術前から瞳孔領に硝子体線維が少量嵌頓していた.TLE術後,瞳孔領に嵌頓した硝子体線維の量が検眼鏡的に増加しており,その結果,瞳孔における後房から前房への房水流出抵抗が増加した可能性がある.さらに,炎症や過剰濾過により,毛様体浮腫や脈絡膜.離が毛様突起を前方回旋させ,TLEの周辺虹彩切除部位を閉塞させたことで,後房の房水が前房に回りにくくなり,一過性の悪性緑内障を引き起こした可能性も考えられる.一方,術当日から巨大濾過胞および脈絡膜.離があったことを考慮すると,実際の眼内圧は一貫して低かった可能性もあり,術後早期の眼圧値が高く測定されたのは,もともと本症例の瞼裂が狭かったことに加えて,手術による眼瞼腫脹があったため,開瞼時の眼球圧迫などの影響も否定できない.今回の症例は,TLE術後の早期合併症の過剰濾過に対して,SCLが有用であったが,TLE術後のCSCL装用で懸念される合併症の一つに濾過胞関連感染症がある10).本症例は人工的無水晶体眼であるため,現在もCSCLを連続装用し,また,若年性関節リウマチでステロイド内服を継続しているため,濾過胞関連感染症にはとくに注意が必要と考えている.これらの要旨は,第C34回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)白神史雄:厚生労働科学研究費補助金.難治性疾患政策研究事業.平成C28年度総括・分担研究報告書:32,20172)PopovicV:EarlyCchoroidalCdetachmentCafterCtrabeculec-tomy.ActaOphthalmolScandC76:361-371,C19983)金本尚志:トラベクレクトミー術後合併症への対応.眼科グラフィックC2020年別冊:191-196,C20204)伊藤訓子,狩野廉,桑山泰明:強膜弁再縫合を必要とした線維柱帯切除術後CUvealE.usion.眼紀C54:211-225,C20035)BlokCMD,CKokCJH,CvanCMilCCCetal:UseCofCtheCMegasoftCBandageLensfortreatmentofcomplicationsaftertrabec-ulectomy.AmJOphthalmolC110:264-268,C19906)WuCZ,CHuangCC,CHuangCYCetal:SoftCbandageCcontactClensesinmanagementofearlyblebleakfollowingtrabec-ulectomy.EyeScienceC30:13-17,C20157)ShohamA,TesslerZ,FinkelmanYetal:Largesoftcon-tactClensesCinCtheCmanagementCofCleakingCblebs.CCLAOCJC26:37-39,C20008)LiB,ZhangM,YangZ:Studyofthee.cacyandsafetyofCcontactClensCusedCinCtrabeculectomy.CJCOphthalmol2019:18397129)Duke-ElderCS,CWyberK:TheCAnatomyCofCtheCVisualSystem:SystemCofCOphthalmologyCVol.2,Cp92-94.CHenryCKimpton,London,196110)BellowsCAR,CMcCulleyJP:EndophthalmitisCinCaphakicCpatientsCwithCunplannedC.lteringCblebsCwearingCcontactClenses.OphthalmologyC88:839-843,C1981***

Sturge-Weber症候群に関連した小児緑内障に対しAhmed緑内障バルブ挿入を実施した1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1017.1021,2024cSturge-Weber症候群に関連した小児緑内障に対しAhmed緑内障バルブ挿入を実施した1例森田英典*1沼尚吾*2亀田隆範*2池田華子*2須田謙史*2三宅正裕*2森雄貴*2辻川明孝*2*1島田市立総合医療センター眼科*2京都大学大学院医学研究科眼科学教室CACaseofChildhoodGlaucomaduetoSturge-WeberSyndromeTreatedbyAhmedGlaucomaValveImplantationHidenoriMorita1),ShogoNuma2),TakanoriKameda2),HanakoIkeda2),KenjiSuda2),MasahiroMiyake2),AkitakaTsujikawa2)1)DepartmentofOphthalmology,ShimadaGeneralMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicineC緒言:Sturge-Weber症候群に関連した小児緑内障症例に対し,緑内障チューブシャント手術を行い,その後の慎重な管理を要した症例について報告する.症例:症例はC11歳,女児.Trabectomeによる線維柱帯切開術施行するも約C2年半で眼圧上昇・視野進行がみられたため,緑内障チューブシャント手術を実施した.術翌日から高度な脈絡膜.離と浅前房とともにチューブ先端への虹彩嵌頓が出現した.直後から急激な眼圧上昇がみられたため,緑内障治療薬の再開を行った.前房深度の回復と脈絡膜.離の軽減を待ち,YAGレーザーによる虹彩嵌頓解除を実施したところ,陥頓解除が得られ,その後は緩やかに眼圧下降した.考察:術後に高度な脈絡膜.離と浅前房が生じ,虹彩嵌頓が生じた背景には,術中術後の急激な眼圧下降と脈絡膜血管腫の存在が関与したと考えられ,時期尚早な虹彩陥頓解除を行えば急な眼圧下降により,脈絡膜.離や浅前房の悪化を招いた恐れもあったと考える.CPurpose:ToreportacaseSturge-Webersyndromeassociatedchildhoodglaucomathatrequiredcarefulpost-operativemanagementafterglaucomatube-shuntsurgery.Casereport:Thisstudyinvolvedan11-year-oldgirlwhoCatCapproximatelyC2.5CyearsCafterCundergoingCtrabeculotomyCusingTrabectome(NeoMedix)whenCsheCwasC8Cyearsoldunderwentglaucomatube-shuntsurgeryforelevatedIOPandvisual.elddisturbance.At1-daypostop-erative,severechoroidaldetachmentandashallowanteriorchamberappeared,aswellasirisincarcerationatthetipCofCtheCtube.CTheCpatientCwasCthenCfollowedCwhileCwaitingCforCtheCanteriorCchamberCdepthCtoCrecoverCandCtheCchoroidaldetachmenttodisappear,andat8-dayspostoperative,YAGlasersurgerywasperformedtoremovetheirisCincarceration.CPostCsurgery,CIOPCgraduallyCdecreasedCandCtheCmedicationsCwereCslowlyCtaperedCo..CConclu-sion:WeCpositCthatCinCthisCcase,CremovalCofCtheCirisCretractionCpossiblyCresultedCinCdeteriorationCofCtheCchoroidalCdetachmentanddevelopmentofashallowanteriorchamber.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):1017.1021,C2024〕Keywords:Sturge-Weber症候群,脈絡膜血管腫,小児緑内障,チューブシャント手術.Sturge-WeberCsyndrome,Cchoroidalhemangioma,childhoodglaucoma,tube-shuntsurgery.Cはじめに斑)や,脳表における脳軟膜血管腫,難治性てんかん,精神Sturge-Weber症候群(Sturge-WeberCsyndrome:SWS)運動発達遅滞,片麻痺の出現などの特徴がある先天性の疾患は神経皮膚症候群の一つであり,顔面の三叉神経分枝領域である.性差や遺伝性はないとされており,年間C5.10万(おもに第C1枝)における毛細血管奇形(通称ポートワイン母人出生にC1人の発症といわれている1).近年,GNAQ遺伝子〔別刷請求先〕森田英典:〒427-8502静岡県島田市野田C1200-5島田市立総合医療センターReprintrequests:HidenoriMorita,ShimadaGeneralMedicalCenter,1200-5Noda,ShimadaCity,ShizuokaPrefecture427-8502,CJAPANCの体細胞モザイク変異が血管腫の発生に関連するとの報告がされたために,何らかの遺伝子異常が原因であると推定されている2).眼科領域では脈絡膜血管腫や結膜血管腫などの血管腫や緑内障を合併することを特徴とする3).緑内障の合併率はC30.70%と報告には幅があり,そのうちC6割は出生時に合併していると報告されている4,5).緑内障の治療に関しては,眼圧下降薬のみでは十分に眼圧が下がらずに手術治療を要することが多いとされているもののCSWSはまれな疾患であるため,これまでの手術成績の報告は多くない.今回,SWSに脈絡膜血管腫と緑内障を合併し,点眼薬治療や流出路再建術が奏効せず,緑内障チューブシャント手術を要したC1症例を経験したので報告する.CI症例患者:1歳C8カ月,女児.主訴:とくになし.既往歴:特記すべき事項なし.家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:患児は出生時に右前頭部から顔面にかけて広範囲に血管腫を認め,SWSが疑われて京都大学医学部附属病院小児科でレーザー治療などを実施されていた.1歳C8カ月の時点で眼科疾患精査のために同院眼科を受診した.眼科初診時には有意所見なしとして,その後外来で約C1年ごとの定期フォローとされた.視力については,2歳C7カ月時点では森実ドットカードで右眼C0.6(0.8C×sph+0.75D),左眼C0.6(1.0C×sph+1.25D)であり,3歳C7カ月時点ではLandolt環にてCVD=0.5,VS=0.8であった.眼圧はこの時初めて測定され,右眼C29.2CmmHg,左眼C16.3CmmHg(IcarePRO)であった.眼底所見については,視神経乳頭の陥凹拡大に大きな左右差は認められなかったが,右眼黄斑部には黄橙色の脈絡膜血管腫が認められた(図1).また,角膜径は左右ともにC12Cmm程度で左右差は明らかではなかった.この時点で緑内障性構造変化は認めていなかったものの,眼圧の左右差は大きく,SWSに伴う続発性の高眼圧と判断してCb遮断薬点眼薬が開始された.経過:点眼開始後も眼圧下降はみられず,5歳C10カ月時点で眼圧降下治療内容としては,緑内障点眼薬C4剤(ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合剤C1日C2回,リパスジル塩酸塩水和物液C1日C2回,ブリモニジン酒石酸塩液1日C2回,タフルプロスト液C1日C1回)+アセタゾラミドC250Cmg2錠分C2内服となっていたが,それでも右眼眼圧は21.29CmmHgと高値が持続していた.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)ではC4歳C6カ月の時点では乳頭周囲神経線維層厚の菲薄化の左右差は大きくなかったが,8歳C6カ月の時点では右眼に明らかな菲薄化を認めていた(図1).薬剤による治療だけでは眼圧降下降不十分で,緑内障の進行が認められると判断してC9歳C1カ月の時点で右眼に対してCTrabectomeによる流出路再建術を行った.術前の右眼眼圧はC25CmmHgであった.手術は合併症なく終了したが,その後,術前と同様の眼圧降下薬を使用しても右眼眼圧はC30CmmHg程度と高値が持続した.10歳C11カ月時点で実施したCGoldmann動的視野計検査(GP)にて術前と比べ明らかな視野進行を認めた(図1).流出路再建術が限定的であったと判断し,術後C31カ月目にAhmed緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)前房内留置術を実施した.手術中には右眼の上強膜静脈の怒張が確認された(図2).手術は明らかな合併症なく終了した.術翌日に右眼眼圧はC20CmmHgまで下がったものの,全周性の高度な脈絡膜.離(choroidaldetachment:CD)と浅前房が確認され,また,AGVのチューブをベベルアップに挿入したにもかかわらず,チューブへの虹彩嵌頓が確認された(図2).術後C2日目には右眼眼圧がC35CmmHgと急激な眼圧上昇がみられたため,同日とその翌日にかけて術後中止していた薬物治療を再開した(ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合剤C1日C2回,リパスジル塩酸塩水和物液C1日C2回,ブリモニジン酒石酸塩液C1日C2回の点眼,アセタゾラミド250mg2錠分2内服).再開により右眼眼圧は25mmHg前後まで下降した.術後C5日目には前房深度の回復が認められた(図2)ため,術後C8日目にCYAGレーザーによる虹彩嵌頓解除を行い虹彩嵌頓解除が得られた(図2).その後の右眼眼圧は次第に下降し,術後C10日目に退院となった.退院後も右眼眼圧は上昇することなくC20CmmHg前後で経過し,徐々に薬剤を中止することができた.術後C5日目に一時消退したCCDは,術後C9日目に再度出現したが,次第に軽快し,退院後C2カ月以後は消失が維持された(図2).現時点で最終受診時(13歳C5カ月時,AGV術後C1年C9カ月)の右眼眼圧はドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合剤C1日C2回点眼下でC14CmmHgと良好な眼圧が維持されており,視力はCVD=(0.8C×sph+2.25D(cyl.0.25DAx120°)であった.CII考按眼科領域におけるCSWSの大きな問題の一つは患者のC30.70%に緑内障を合併することである.Sturge-Weber症候群では眼圧上昇が生じ,そのメカニズムにはおもにC2つが想定されている6).一つ目は隅角形成異常に伴う房水流出抵抗上昇である.これは虹彩高位付着や狭い毛様体帯などが原因とされており,出生直後から眼圧上昇を発症した場合はこちらのメカニズムが考えられ,流出路再建術の効果が期待できるとされる.二つ目は上強膜血管腫への動静脈シャントに伴う上強膜静脈圧の上昇である.出生以降に発症した場合はこちabddf図1当科初診時からAGV術前までの変化a,b:5歳C5カ月時点での左右眼眼底写真.右眼では黄斑部に橙赤色の深部病変がみられる.視神経乳頭の陥凹乳頭径比の大きな左右差は認めない.Cc:4歳C6カ月時点COCTでのCcpRNFL厚.菲薄化の左右差は限定的で大きくない.Cd:8歳6カ月時点COCTでのCcpRNFL厚.右眼の耳上側と耳下側の菲薄化を認める.Ce:7歳C8カ月時点CGP.鼻上側のわずかな視野異常を認める.f:10歳C11カ月時点GP.中心部の明らかな視野障害進行を認める.らのメカニズムが考えられており,流出路再建術の効果が期功率であった半面,2歳以前に発症した群では手術成功率が待しづらいとされる7.9).小児緑内障に対する流出路再建術76.4%であったとされる報告がある10).では,①眼圧がアプラネーションでC21CmmHg未満または麻本症例では出生直後の眼圧測定が実施されていないため断酔下でC16CmmHg未満,②視神経乳頭の陥凹拡大がない,③定はできないが,少なくともC3歳C7カ月時点で右眼の視神経角膜径の拡大がない,の三つすべてを満たすことを成功の定乳頭に緑内障性変化を認めなかったことや,無治療にもかか義とした場合に,2歳以降に発症した群ではC96.3%の手術成わらず角膜径に左右差がみられなかったことなどから,出生abcef直後には緑内障を発症していなかったものと思われる.また,AGV前房内留置術実施時の上強膜静脈の怒張所見から上強膜静脈圧上昇の関与が推察される.そのため流出路再建術の効果に関してはその期待値は不明瞭であったが,実際には,上強膜静脈圧の上昇の関与が疑われる場合でも,患者が小児であることからまず安全性の高い流出路再建術が適応されることも多く11,12),今回はCTrabectomeを初回手術で選択した.SWSに関連した緑内障症例に対して線維柱帯切除術(tra-beculectomy:LET)とCAGVを比較したCSarkerらの研究では,緑内障治療薬なしで眼圧がC21CmmHg以下を成功と定義した場合に,LETとCAGVのC24カ月後の成功率はそれぞれ70%,80%であり,その眼圧降下幅に有意差はないとされている13).本症例ではCAGVを用いて高度なCCDが術後生じ図2AGV術中所見,および術後の右眼の変化a:AGV前房内留置術時の右眼結膜所見.上強膜静脈の怒張を認める.Cb:AGV術後C2日目.チューブシャント先端の虹彩嵌頓を認める.c:AGV術後C2日目.眼底に全周性のCCDを認める.Cd:AGV術後2日目.浅前房を認める.Ce:AGV術後C5日目.チューブシャント先端の虹彩嵌頓解除を認める.f:AGV術後C5日目.眼底のCCDの軽快を認める.Cg:AGV術後C8日目.浅前房消失を認める.Cdgたが,CDを生じさせないためにはCLETと比較するとCAGVが好ましいとする既報もある13,14).また,SWSに関連した緑内障は成人発症のこともあるが,患者が低年齢.若年であることが多く,長期の濾過胞管理を考慮すれば,LETよりもチューブシャント手術のほうが好ましいとも考えらる.AGVは調圧弁により過剰な低眼圧はきたしづらいが,刺入部位からの房水漏出などにより低眼圧をきたしうる.そのため術後早期の浅前房や低眼圧を抑制するために,粘弾性物質の前房内留置や,BGIのようなチューブの結紮の有効性が報告されている15,16).また,AGV術直後にチューブ先端への虹彩陥頓が生じたが,これはCCDの発生と浅前房が一因であったと考えられる.AGVの前房内チューブ留置術後に生じるチューブ先端への虹彩陥頓については,過去にCPirouz-ianらが報告しており,AGV術中の強膜へのチューブ挿入口作製時の急激な眼圧下降が原因と考察されている17).本症例では慢性的高眼圧が継続していたなかで,AGV術中や術後に急激な眼圧下降が出現したこと,および脈絡膜血管腫により脈絡膜外腔出血や浸出液漏出を起こす可能性が高かったことにより,CDが出現しやすい状況があったと考えられる.そしてCCD発生により毛様体突起の前方回旋が起き水晶体の前方移動が起きたことで,浅前房が出現してチューブと虹彩の距離が近くなり,虹彩嵌頓が出現したと考えられる.虹彩嵌頓が出現した時点で前房深度の回復を待たずに虹彩嵌頓解除を行うと急激な眼圧下降でCCDや浅前房の悪化から再嵌頓を起こす可能性も考えられた.そのためCCDの消失,前房の回復を待った.CDの消失や前房深度の回復が得られた後CYAGレーザーによる虹彩嵌頓解除を行ったが,嵌頓解除後はCCDや浅前房の大きな悪化はみられなかった.本症例のようにCSWSでは脈絡膜血管腫を合併している症例が多く,それと関連してCCDや浅前房が術中・術後の眼圧下降に伴って出現する可能性があり,急激な眼圧下降は理想的には避けるべきといえる.本症例のようにCSWSでは術後に高度なCDや長期の浅前房などを合併することがあり,その管理はむずかしいと考えられる.利益相反:辻川明孝(カテゴリーCF:キャノン・ファインデックス・参天製薬),三宅正裕(カテゴリーCF:ノバルティスファーマ)文献1)SudarsanamCA,CArdern-HolmesSL:Sturge-WeberCsyn-drome:fromthepasttothepresent.EurJPaediatrNeu-rolC18:257-266,C20142)ShirleyCMD,CTangCH,CGallioneCCJCetal:Sturge-WeberCsyndromeCandCport-wineCstainsCcausedCbyCsomaticCmuta-tioninGNAQ.NEnglJMedC368:1971-1979,C20133)ComiAM:UpdateConCSturge-Webersyndrome:diagno-sis,Ctreatment,CquantitativeCmeasures,CandCcontroversies.CLymphatResBiolC5:257-264,C20074)SilversteinCM,CSalvinJ:OcularCmanifestationsCofCSturge-WeberCsyndrome.CCurrCOpinCOphthalmolC30:301-305,C20195)SujanskyE,ConradiS:Sturge-Webersyndrome:ageofonsetCofCseizuresCandCglaucomaCandCtheCprognosisCforCa.ectedchildren.JChildNeurolC10:49-58,C19956)MantelliCF,CBruscoliniCA,CLaCCavaCMCetal:OcularCmani-festationsCofSturge-WeberCsyndrome:pathogenesis,Cdiagnosis,CandCmanagement.CClinCOphthalmolC10:871-878,C20167)CibisGW,TripathiRC,TripathiBJ:GlaucomainSturge-Webersyndrome.OphthalmologyC91:1061-1071,C19848)WuCY,CYuCR,CChenCDCetal:EarlyCtrabeculotomyCabCexternoCinCtreatmentCofCSturge-WeberCsyndrome.CAmJOphthalmolC182:141-146,C20179)WuY,PengC,DingXetal:Episcleralhemangiomadis-tributionCpatternsCcouldCbeCanCindicatorCofCtrabeculotomyCprognosisCinCyoungCSWSCpatients.CActaCOphthalmolC98:Ce685-e690,C202010)AkimotoM,TaniharaH,NegiAetal:SurgicalresultsoftrabeculotomyCabCexternoCforCdevelopmentalCglaucoma.CArchOphthalmolC112:1540-1544,C199411)小林由美,阿部春樹,白柏基宏ほか:Sturge-Weber症候群に伴う緑内障の検討.眼紀C48:328-331,C199712)春田雅俊,竹下弘伸,山川良治:スタージ・ウェーバー症候群に伴う緑内障に対する線維柱帯切開術の成績.臨眼C72:109-114,C201813)SarkerBK,MalekMA,MannafSetal:Outcomeoftrab-eculectomyversusAhmedglaucomavalveimplantationintheCsurgicalCmanagementCofCglaucomaCinCpatientsCwithCSturge-WeberCsyndrome.CBrCJCOphthalmolC105:1561-1565,C202114)HamushNG,ColemanAL,WilsonMR:AhmedglaucomavalveCimplantCforCmanagementCofCglaucomaCinCSturge-Webersyndrome.AmJOphthalmolC128:758-760,C199915)岩崎健太郎,稲谷大:チューブシャント手術バルベルトとアーメドの実際.臨眼73:1540.1545,C201916)吉水聡:チューブシャント手術の適応・手術手技.臨眼C76:33-39,C202217)Pirouzian1CA,CDemerJL:ClinicalC.ndingsCfollowingCAhmedCGlaucomaCValve.CimplantationCinCpediatricCglau-coma.ClinOphthalmolC2:123-127,C2008***

ブロルシズマブ硝子体注射後に閉塞性網膜血管炎をきたし血管新生緑内障に至った1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1012.1016,2024cブロルシズマブ硝子体注射後に閉塞性網膜血管炎をきたし血管新生緑内障に至った1例岸愛恵*1根元栄美佳*1河本良輔*1,2大須賀翔*1小林崇俊*1角野晶一*1吉田裕一*1小嶌祥太*1喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2河本眼科クリニックCACaseofNeovascularGlaucomaDuetoOcclusiveRetinalVasculitisafterIntravitrealInjectionofBrolucizumabManaeKishi1),EmikaNemoto1),RyohsukeKohmoto1,2),ShouOosuka1),TakatoshiKobayashi1),AkikazuSumino1),YuichiYoshida1),ShotaKojima1)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)KohmotoEyeClinicC緒言:ブロルシズマブ硝子体内注射後に広範な閉塞性網膜血管炎をきたし血管新生緑内障(NVG)に至った症例を経験したので報告する.症例:78歳,男性,高血圧にて内服加療中.両眼加齢黄斑変性に複数回アフリベルセプト投与後,右眼をブロルシズマブ投与へ切り替えた.投与後C21日目,右眼視力は投与前(0.4)から(0.02)へ低下し,結膜充血と前房内炎症,網膜動脈炎と蛍光眼底造影検査にて広範囲の網膜血管閉塞を認めた.ベタメタゾン点眼,トリアムシノロンCTenon.下注射とプレドニゾロン内服で加療したが約C5カ月後にCNVGを発症した.開放隅角期であったが,ただちに汎網膜光凝固術を施行したがコントロールできず,閉塞隅角となり眼圧C50CmmHgと上昇したため硝子体手術併用CAhmed緑内障バルブ挿入術を施行した.術後視力(0.01),眼圧C7.10CmmHgを推移している.結論:ブロルシズマブによる重篤な網膜血管炎・血管閉塞に血管新生緑内障が続発する可能性があり,慎重な経過観察が必要である.CPurpose:Toreportacaseofneovascularglaucoma(NVG)duetoocclusiveretinalvasculitisafterintravitrealinjectionCofCbrolucizumab.CCase:AC78-year-oldCmaleChadCbeenCundergoingCtreatmentCviaCintravitrealCinjectionCofCa.iberceptCforCbilateralCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration(AMD)forC7Cyears.CHowever,CdueCtoCa.iberceptCbecomingCinsu.cientCforCtheCtreatmentCofCtheCneovascularCAMDCinChisCrightCeye,CitCwasCswitchedCtobrolucizumabinthateye.Twenty-onedayslater,thevisualacuity(VA)inhisrighteyewasfoundtohavedeteri-oratedfrom(0.4)to(0.02).CUponCexamination,CconjunctivalChyperemia,Canterior-chamberCin.ammation,CretinalCarteritis,CandCextensiveCretinalCvascularCocclusionCwereCobservedCinChisCrightCeye.CTreatmentCwithCbetamethasoneCeyedropsandsub-Tenon’sinjectionoftriamcinoloneacetonidewastheninitiated,withoraladministrationofpred-nisoloneCforConeCweekCthereafter.CFiveCmonthsClater,CheCdevelopedCNVG.CPanretinalCphotocoagulationCwasCimmedi-atelyCperformed,CyetCtheCNVGCcouldCnotCbeCcontrolledCandChisCintraocularpressure(IOP)increasedCtoC50CmmHg.CThus,Ahmedglaucomavalveimplantationcombinedwithparsplanavitrectomywasperformed,andVAbecame(0.01)andCIOPCdecreasedCtoC7-10CmmHgCpostCsurgery.CConclusion:AlthoughCrare,CsevereCretinalCvasculitisCandCextensiveCretinalCvascularCocclusionCmayCoccurCandCdevelopCintoCNVGCafterCintravitrealCinjectionCofCbrolucizumab,Csocarefulfollow-upisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1012.1016,C2024〕Keywords:ブロルシズマブ硝子体内注射,閉塞性網膜血管炎,血管新生緑内障,Ahmed緑内障バルブ挿入術.in-travitrealinjectionofbrolucizumab,occlusiveretinalvasculitis,neovascularglaucoma,Ahmedglaucomavalveim-plantation.C〔別刷請求先〕岸愛恵:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:ManaeKishi,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigakumachi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC1012(140)ab図1右眼フルオレセイン蛍光所見a:早期(30秒後).腕網膜循環時間の遅延を認めた.b:後期(10分後).網膜血管の広範囲な閉塞を認めた.はじめに滲出型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)治療において,ブロルシズマブは分子量C26CkDaと小さいため高濃度投与が可能となり,従来の血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)阻害薬より強い治療効果と長い持続性が期待されている.しかし,副作用として網膜血管炎や網膜血管閉塞など重篤なものを含む眼内炎症(intraocularin.ammation:IOI)が報告されている1).今回,ブロルシズマブ硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofbrolucizumab:IVBr)後に広範囲の閉塞性網膜血管炎をきたし,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に至った症例を経験したので報告する.CI症例患者:78歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:高血圧,高尿酸血症.現病歴:当院でCnAMDに対してCX-7年にアフリベルセプト硝子体内注射(IVBr)とのCprorenata(PRN)投与を開始し,右眼計C12回,左眼計C28回の投与後であった.アフリベルセプトの効果が不十分であったため,X年C8月,右眼はブロルシズマブへ切り替えCIVBrを施行した.注射前視力は(0.4),ブロルシズマブの副作用であるCIOIの予防目的に術翌日よりベタメタゾン点眼を開始した.IVBr後C14日目に右眼の結膜充血を認めたため,IVBr1週間後から自己判断で中断していたベタメタゾン点眼の再開を指示した.IVBr後C21日目に右眼視力低下を自覚し受診した.受診時所見:右眼視力C0.02Cp(n.c.)と低下し,右眼眼圧は24CmmHg(IVBr前C12CmmHg)であった.結膜充血,角膜後面沈着物はなく,前房内に炎症細胞を認めた.眼底検査では右眼の広範な網膜血管炎とそれに伴う網膜出血を認め,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,網膜内層の高輝度変化を認めた.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では右眼の腕網膜循環時間はC30秒と遅延しており,網膜血管の広範囲の閉塞を認めた(図1).経過:右眼CIVBr後のCIOIと診断し,ベタメタゾン点眼を継続し,トリアムシノロンCTenon.下注射(sub-Tenon’sCinjectionCofCtriamcinoloneacetonide:STTA)を行った.前眼部所見は改善傾向を示したが網膜血管炎や網膜閉塞の改善は乏しく,IVBr後C28日目よりプレドニゾロン(predniso-lone:PSL)内服をC30Cmg/日から開始した.その後は改善がみられ,PSL内服は約C1カ月ごとにC5Cmg/日ずつ漸減した.IOI発症から約C5カ月後,右眼視力C0.03(n.c.),右眼眼圧C35mmHgと上昇し,虹彩新生血管を認めたが,結膜充血や前房内炎症細胞は認めなかった.隅角鏡検査では右眼の隅角全周に新生血管,鼻側に小範囲の周辺虹彩前癒着を認めた(図2a).眼底検査では右眼のアーケード内に軟性白斑,広範な網膜出血と血管白線化を認めたが,血管炎は改善傾向であった(図2b).右眼閉塞性網膜血管炎からのCNVGと診断し,開放隅角期であり,ただちに汎網膜光凝固術を施行し,緑内障点眼を追加した.しかし眼圧のコントロールは困難で,約1カ月後に全周閉塞隅角となり右眼眼圧はC50CmmHgとさらに上昇した(図3).そこで,X+1年C3月に右眼硝子体手術併用CAhmed緑内障バルブ挿入術を施行した.網膜光凝固を追加し,チューブは毛様体扁平部より挿入した.術後は炎症ab図2眼内炎症発症から約5カ月後の右眼所見a:隅角所見.隅角の全周に新生血管,鼻側に周辺虹彩前癒着(.)を認めた.Cb:眼底所見.軟性白斑や網膜出血,網膜血管炎後で血管白線化を認めた.図3血管新生緑内障発症から約1カ月後の右眼所見a:隅角所見.周辺虹彩前癒着で隅角は全周閉塞していた.b:眼底所見.汎網膜光凝固術後.が強く,チューブ先端部がフィブリンにより閉塞したため,など重篤なものを含むCIOIを引き起こすことが懸念されてお術後C7日目にベタメタゾン結膜下注射を施行した.術後C14り,今回の症例では広範な閉塞性網膜血管炎から,筆者が文日目にフィブリンは溶解しチューブの閉塞は解除され,右眼献を渉猟した範囲では既報告のない血管新生緑内障にまで至眼圧C7CmmHgと下降が得られた.その後は右眼視力(0.01),った.IOI発症率はアフリベルセプトのC1.1%と比較して,右眼眼圧7.10CmmHgで経過している.HAWKおよびCHARRIER試験ではブロルシズマブはC4.6%CII考按であり,網膜血管炎を伴うものはC3.3%,血管閉塞を伴うものはC2.1%,投与から発症までの期間は平均C18日と報告さブロルシズマブは副作用として網膜血管炎や網膜血管閉塞れている1).HAWK試験には日本も参加しており,わが国のみの結果ではCIOI発症率はC12.9%,網膜血管炎を伴うものはC9.9%,網膜血管閉塞を伴うものはC5.0と,日本人はIOI発症率が2.3倍高い2)とされる一方で,わが国で行われたCJARC試験ではCIOI発症率はC9.4%と高いが,網膜血管炎を伴うものはC3.1%,網膜血管閉塞を伴うものはC1.6%とHAWKおよびCHARRIER試験の全体の発症率と同等とも報告されている3).IOI発症の危険因子として女性,高齢,高血圧,抗CVEGF薬硝子体内注射既往,眼底所見として高血圧性網膜血管変化と網膜下高反射病巣が報告されている4.6).本症例では高齢者,高血圧,抗CVEGF薬注射歴が該当する.IOIの発症機序はいまだ解明されていないが,抗CVEGF注射後に生じる抗薬剤抗体との関連が示唆されている.抗薬剤抗体の検出頻度はラニビズマブやアフリベルセプトでは投与前は各0.0.9%,1.3%,投与後はC4.4.6.3%,1.3%である.一方,ブロルシズマブでは投与前からC36.52%に認められ,投与後はC53.67%であり,従来の抗CVEGF薬に比較し有意に抗体検出率が高い7.9).治療中に誘導あるいは増加する抗薬剤抗体が関与している可能性があり,HARRIER試験においてCIOIは抗ブロルシズマブ抗体が誘導・増強された患者ではC6.2%,そうではない患者ではC1.9%であった.ブロルシズマブは一本鎖抗体フラグメントでありCFc領域を欠くため補体活性ができず,抗体依存性細胞障害を起こすことはないため,遅延型免疫反応が考えられている.これはバンコマイシンの眼内投与後に起こる出血性閉塞性網膜血管炎と同様の機序である10,11).治療はステロイドが基本となり,既報のフローチャートによる推奨治療が参考になる12).前眼部の炎症に対してはステロイド点眼,網膜血管炎や網膜血管閉塞がある場合はステロイドのCTenon.下注射や硝子体内注射,内服が推奨される.網膜血管閉塞をきたしている場合は血管新生のマネジメントも重要となる.網膜血管炎やそれに伴う網膜血管閉塞は,動脈でも静脈でも,中枢側でも周辺部でも起こりうる13).Baumalらによると,閉塞性血管炎をきたした症例の網膜画像を解析したところ,血管障害は網膜動脈C91%,網膜静脈79%,脈絡膜血管C48%であった5).また,Hikichiらにより,IOIの改善に伴い網膜血管の白鞘化が改善したとの報告がある14).網膜血管閉塞のメカニズムの一つとして,炎症による血管収縮,血流速度の低下,血小板凝集の亢進が関与しており,ステロイド投与により消炎されることでこれらが改善し,網膜血管の白鞘化と網膜血管血流が改善したと考按されている.とくに黄斑部の網膜血管閉塞は重篤な視力低下をもたらすため,迅速な治療が重篤な視力低下のリスクを軽減するであろう.今回の症例では,IOI発症時から網膜血管炎により広範囲の網膜血管閉塞を生じておりCNVGに至った.ブロルシズマブ投与時にCSTTAを併用するとCIOIが生じなかったと報告15)があり,投与時にCSTTAを併用しておくべきであったとの反省点がある.IVBr後は閉塞性血管炎など重篤なものを含むCIOI発症に留意し,慎重な経過観察とCIOI発症時には適切な治療選択が重要である.またCIBVrの際には,IOI発症の可能性も説明し,視力低下や飛蚊症などの症状出現時には早期に受診するよう患者指導をすることも必要と考える.本症例は,第C34回日本緑内障学会で発表した.文献1)SingerCM,CAlbiniCTA,CSeresCACetal:ClinicalCcharacteris-ticsCandCoutcomesCofCeyesCwithCintraocularCin.ammationCafterbrolucizumab:postChocCanalysisCofCHAWKCandCHARRIER.OphthalmolRetinaC6:97-108,C20222)IidaCT,CTakahashiCK,CKinfemichaelCGCetal:Sub-popula-tionCanalysisCofCJapaneseCpatientsCfromCbrolucizumabCHAWKstudy.Presentedatthe74thAnnualCongressofJapanClinicalOphthalmology.October15-18,20203)MarukoI,OkadaAA,lidaTetal:Brolucizumab-relatedintraocularCin.ammationCinCJapaneseCpatientsCwithCage-relatedCmaculardegeneration:aCshort-termCmulticenterCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC259:2857-2859,C20214)MukaiCR,CMatsumotoCH,CAkiyamaH:RiskCfactorsCforCemergingintraocularin.ammationafterintravitrealbrolu-cizumabCinjectionCforCage-relatedCmacularCdegeneration.CPLoSOneC16:e0259879,C20215)BaumalCCR,CSpaideCRF,CVajzovicCLCetal:RetinalCvasculi-tisandintraocularin.ammationafterintravitrealinjectionofbrolucizumab.OphthalmologyC127:1345-1359,C20206)SotaniCR,CMatsumiyaCW,CKimCKWCetal:ClinicalCfeaturesCandCassociatedCfactorsCofCintraocularCin.ammationCfollow-ingCintravitrealCbrolucizumabCasCswitchingCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:GraefesCArchClinExpOphthalmolC261:2359-2366,C20237)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEnglJMedC355:1419-1431,C20068)HeierCJS,CBrownCDM,CChongCVCetal:Intravitreala.ibercept(VEGFtrap-eye)inCwetCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC119:2537-2548,C20129)BuschM,PfeilJM,DahmckeMetal:Anti-drugantibod-iestobrolucizumabandranibizumabinserumandvitre-ousCofCpatientsCwithCocularCdisease.CActaCOphthalmolC100:903-910,C202210)WitkinCAJ,CShahCAR,CEngstromCRECetal:PostoperativeChemorrhagicCocclusiveCretinalCvasculitis.CExpandingCtheCclinicalCspectrumCandCpossibleCassociationCwithCvancomy-cin.OphthalmologyC122:1438-1451,C201511)WitkinCAJ,CChangCDF,CJumperCJMCetal:Vancomycin-associatedChemorrhagicCocclusiveCretinalvasculitis:clini-calCcharacteristicsCofC36Ceyes.COphthalmologyC124:583-595,C201712)BaumalCR,BodaghiB,SingerMetal:Expertopiniononmanagementofintraocularin.ammation,retinalvasculitis,in.ammationCafterCintravitrealCbrolucizumabCinjectionsCinCandvascularocclusionafterbrolucizumabtreatment.Oph-oneclinic.JpnJOphthalmolC65:208-214,C2021CthalmologyRetinaC5:519-527,C202115)HikichiT:Sub-TenonC’sCcapsuleCtriamcinoloneCacetonide13)WitkinCAJ,CHahnCP,CMurrayCTGCetal:OcclusiveCretinalCinjectionCtoCpreventCbrolucizumab-associatedCintraocularCvasculitisfollowingintravitrealBrolucizumab.JVitreoretinCin.ammation.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC260:CDisC4:269-279,C2020C2529-2535,C202214)HikichiT:ThreeCJapaneseCcasesCofCintraocular***

眼内レンズ強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,線維柱帯切開術が奏効した2例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1008.1011,2024c眼内レンズ強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,線維柱帯切開術が奏効した2例黒川友貴野村英一植木琴美西勝生岡田浩幸黒木翼井口聡一郎石井麻衣水木信久横浜市立大学医学部眼科学教室CTwoCasesofTrabeculotomyforHighIntraocularPressureafterIntrascleralIOLFixationYukiKurokawa,EiichiNomura,KotomiUeki,KatsukiNishi,HiroyukiOkada,TsubasaKuroki,SoichiroInokuchi,MaiIshiiandNobuhisaMizukiCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicineC緒言:眼内レンズ(intraocularlens:IOL)強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,低侵襲緑内障手術(MIGS)が奏効したC2例を経験したので報告する.症例:症例C1はC45歳,男性.2005年に右白内障手術を施行後,2018年に右眼IOL亜脱臼に対し強膜内固定術を施行された.2020年C12月に右眼の視力低下と眼圧上昇を認め横浜市立大学附属病院眼科を紹介受診した.当院受診時は右眼眼圧C40CmmHgであり,逆瞳孔ブロックの所見は認めず,右眼の隅角には強い色素沈着を認めた.眼内法による線維柱帯切開術を施行され,術後眼圧はC10CmmHg台で経過した.症例C2はC48歳,男性.2019年に右白内障手術を施行され,2022年C3月に右眼CIOL落下に対し強膜内固定術を施行された.同年C4月に右眼痛を主訴に当院に救急搬送され,右眼眼圧はC72CmmHgと著しく高値であった.アセタゾラミド内服下でも右眼眼圧はC41CmmHgであり,逆瞳孔ブロックの所見は認めず,隅角には強い色素沈着を認めた.眼内法による線維柱帯切開術を施行され,術後眼圧はC10CmmHg台で経過した.結語:IOL強膜内固定術後の合併症として眼圧上昇に留意する必要があり,眼内法による線維柱帯切開術が有用な治療法と考えられた.CPurpose:Toreporttwocasesinwhichminimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)wassuccessfulfortreat-ingCelevatedCintraocularpressure(IOP)afterCintrascleralCintraocularlens(IOL).xation.CCase1:AC45-year-oldCmalewhohadundergoneintrascleralIOL.xationin2018wassubsequentlyreferredtoourhospitalin2020duetodecreasedvisualacuityandelevatedIOPinhisrighteye.Uponexamination,theright-eyeIOPwas40CmmHgandthickCpigmentationCwasCobservedCinCtheCangle.CTrabeculotomyCwasCperformed,CandCIOPCdecreasedCandChasCremainedat10CmmHgpostsurgery.Case2:A48-year-oldmalewhohadundergoneintrascleralIOL.xationinMarch2022,subsequentlypresentedatourhospital1monthlaterduetopaininhisrighteye.Uponexamination,theCright-eyeCIOPCwasC41CmmHgCandCthickCpigmentationCwasCobservedCinCtheCangle.CTrabeculotomyCwasCper-formed,andIOPdecreasedandhasremainedat10CmmHgpostsurgery.Conclusion:Our.ndingsshowwhenele-vatedIOPoccursasacomplicationafterintrascleralIOL.xation,itcane.ectivelybetreatedbyMIGS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1008.1011,C2024〕Keywords:眼内レンズ強膜内固定術,眼圧上昇,低侵襲緑内障手術,線維柱帯切開術.intrascleralCIOLC.xation,highintraocularpressure,microinvasiveglaucomasurgery(MIGS),trabeculotomy.Cはじめに場し,IOL二次挿入術として選択される機会は増えている白内障手術件数の増加に伴い,Zinn小帯脆弱例や術後のが,その長期経過についてはいまだ不明な点も多い.IOL偏位・脱臼を認める患者へ対応する機会は増えている.今回筆者らはCIOL強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,縫合操作を必要としない術式としてCIOL強膜内固定術が登眼内法による線維柱帯切開術が奏効したC2例を経験したので〔別刷請求先〕黒川友貴:〒236-0004横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YukiKurokawa,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPANC1008(136)図1症例1:右眼の前眼部OCT所見前房深度はC3.4Cmmであり,逆瞳孔ブロックは認めなかった.報告する.CI症例〔症例1〕45歳,男性.2005年に右眼の白内障手術を施行され,2016年より右眼緑内障の診断で近医にて加療を開始された.2018年に右眼IOL亜脱臼に対しフランジ法によるCIOL強膜内固定術が施行され,ラタノプロスト,ブリモニジン酒石酸塩点眼にて右眼眼圧はC10CmmHg台後半で経過していた.2020年C6月の視野検査で視野障害の進行を認めたため,リパスジル塩酸塩水和物点眼が追加となり,眼圧はC15CmmHg程度まで下降した.同年C12月の受診時に右眼眼圧C33CmmHgと高値であり,視力低下も伴っていたため横浜市立大学附属病院眼科(以下,当院)を紹介され受診した.既往歴はアトピー性皮膚炎,気管支喘息であった.初診時の視力は,右眼C0.06(0.3C×sph.3.25D(cyl.2.00DAx85°),左眼C0.04(1.2C×sph.8.75D(cyl.0.25DCAx75°),眼圧は右眼C40CmmHg,左眼C12CmmHgであった.右眼は虹彩C2時方向に周辺虹彩切開が施行されており,IOLはC4時-10時の方向に強膜内固定されていた.前房深度はC3.4Cmmであり,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)では逆瞳孔ブロックは認められなかった(図1).虹彩動揺がみられ,隅角には全周性に強い色素沈着(Scheie分類CgradeIII.IV),下方には周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)がみられた(図2).静的量的視野検査,動的量的視野検査を施行すると,右眼はすでに中心視野障害をきたしていた(図3).線維柱帯への色素沈着が強く,若年であることから眼内法による線維柱帯切開術(谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック使用)を施行された.術後眼圧はC10.17CmmHgで推移し,その後眼圧上昇はみられなかった.〔症例2〕48歳,男性.図2症例1:右眼の隅角所見(下方)全周性に色素沈着がみられ,下方には周辺虹彩前癒着(peripher-alanteriorsynechia:PAS)がみられた.2019年に右眼の白内障手術を施行され,2022年C1月に右眼CIOL落下を認めCIOL摘出およびフランジ法による強膜内固定術を施行された.術後経過は良好であったが,同年C4月に右眼痛と嘔気を認め,近医救急科を受診し精査されたが明らかな異常は指摘されず,眼科疾患を疑われ当院に転院搬送となった.受診時,右眼眼圧はC72CmmHgと著しく高値であり,D-マンニトール点滴を施行し眼圧はC28CmmHgまで下降した.夜間であったため一度帰宅とした.翌日再診時の視力は,右眼C0.15(1.2C×sph.2.25D(cyl.0.50DAx145°),左眼C0.06(1.2C×sph.5.25D(cyl.0.75DAx30°),眼圧は右眼44mmHg,左眼C13CmmHgであった.右眼は虹彩C2時方向に周辺虹彩切開を施行されており,IOLはC4時-10時の方向に強膜内固定されていた.前房深度はC3.5Cmmであり,前房内には色素性の微塵浮遊がみられ,前眼部COCTでは逆瞳孔ブロックの所見は認められなかった(図4).虹彩動揺と隅角には下方優位に全周性に強い色素沈着(Scheie分類CgradeIII.IV)がみられた(図5).線維柱帯への色素沈着が強く,若年であることから眼内法による線維柱帯切開術(谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック使用)を施行した.術後眼圧はC10.15CmmHgで推移し,その後眼圧上昇はみられていない.高眼圧をきたしてから手術までの期間は約C1週間であり,術後施行した視野検査では明らかな視野障害は認められなかった.CII考按無水晶体眼やCIOL偏位・脱臼例に対するCIOL固定法として,従来はCIOL毛様溝縫着術が行われてきたが,2007年のGaborによる報告以降,IOL強膜内固定術が発展してきた1).2014年に山根らが,ダブルニードルテクニックを報告してから国内でも広く施行されるようになり,年々施行件数は増図3症例1:右眼の静的量的視野検査中心30-2プログラムおよび動的量的視野検査すでに中心視野障害をきたしており,MD値はC.12.02CdBであった.図4症例2:右眼の前眼部OCT所見前房深度はC3.5Cmmであり,逆瞳孔ブロックは認めなかった.加している2).従来の縫着術と比較し,IOL偏位や傾斜が少なく,縫合操作が不要であり,より短時間で行えるなどの利点がある一方で,問題点としては支持部の破損や変形,強膜からの露出の可能性,長期経過が不明である点などがあげられる3).図5症例2:右眼の隅角所見(下方)下方優位に全周性に強い色素沈着がみられた.強膜内固定術後の合併症として,瞳孔捕獲,IOL偏位,黄斑浮腫,硝子体出血,前房出血,一過性の低眼圧・高眼圧などが報告されている4,5).近年,強膜内固定術後の逆瞳孔ブロックにより高眼圧をきたした症例が報告されており,硝子体手術後の無硝子体眼に発生しやすく,レーザー虹彩切開術が有効であるとされている6,7).強膜内固定術後に逆瞳孔ブロックを生じる機序については,虹彩裏面とCIOL間の距離の減少との関連が示唆されており,無硝子体眼,虹彩動揺,隅角色素がリスク因子であることが報告されている6).深前房,虹彩の後方弯曲,瞳孔縁のCIOLとの接触が逆瞳孔ブロックの特徴的な所見であるが,今回のC2症例ではすでに周辺虹彩切開が施行されており,前眼部COCTでも逆瞳孔ブロックの所見は認められなかった.今回のC2症例においては共通して隅角に強い色素沈着と虹彩動揺の所見がみられた.虹彩動揺はCIOL脱臼・落下に対しCIOL抜去,強膜内固定術を施行された際の虹彩付近での操作や手術侵襲により生じたものと考えられた.強膜内固定術ではCIOL支持部端をC2.3Cmm強膜内に埋没させるため,光学面は安定する一方で支持部に引き伸ばされる力が加わるとされる2).そのためCIOL支持部は破損しにくい材質が望ましい.ポリメチルメタクリレート(PMMA)製の支持部は先端を把持した際に破損することがあり,剛性ゆえに眼内操作での自由度も低いため,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製が扱いやすいとされる5).また,固定後の安定性はCIOL全長の長いもののほうがよいことから,光学部径C7.0mmでPVDF製支持部を有し支持部間距離C13.2CmmであるエタニティーCX-70S(参天製薬),エタニティーナチュラルCNX-70S(参天製薬)が選択されることが多い.これらのCIOLは支持部角度がC7°に設計されているため,IOL支持部の伸展により虹彩裏面とCIOL光学部間の距離は近くなるものと考えられる.角膜径が大きい場合,支持部にかかる伸展力は強まりさらに近接すると考えられるが,今回のC2症例では角膜水平径はC11.7Cmm,12.3Cmmと正常範囲内であり,虹彩裏面とCIOL光学部の接近量は少なめで逆瞳孔ブロックまでは至らなかった可能性がある.しかし,逆瞳孔ブロックまで至らない場合も,一定量の虹彩裏面とCIOL光学部間の接近により,虹彩の緊張度が乏しい患者では眼球運動に伴い虹彩裏面とCIOLの摩擦は生じやすくなると考えられる.摩擦により散布された色素が線維柱帯に沈着し,色素性緑内障の病態を生じることで眼圧上昇をきたす可能性が示唆された.前立腺肥大症の内服治療患者,外傷や術後で瞳孔偏位や虹彩の緊張低下がみられる患者ではより慎重な経過観察が必要と考えられる.今回のC2症例では谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフックを用いた線維柱帯切開術の施行により眼圧下降が得られた.IOL縫着術後や硝子体手術後の患者においては,より確実な眼圧下降が必要な場合や目標眼圧が低い場合は線維柱帯切除術が選択されることも多い8).しかし,術後合併症として濾過胞感染のリスクがあることに加え,硝子体手術後の患者では結膜状態や術中の眼球虚脱により手術難度が高くなる,駆逐性出血のリスクが高まるなどのデメリットがある.IOL縫着術後や強膜内固定術後の患者における線維柱帯切開術では,前房出血が硝子体腔に回ることが術後合併症の一つであるが,IOLが隔壁となるので回る量は少量であることが多く,今回のC2症例においても術後数週間で自然に消退が得られた.隅角色素が眼圧上昇機序の主因であると考えられる患者においては,線維柱帯切開術が奏効する可能性があり,低侵襲な術式から治療方針を考慮することが望ましいと考えられた.今回筆者らは,IOL強膜内固定術後に逆瞳孔ブロックを伴わない眼圧上昇を認めたC2例を経験した.IOL強膜内固定術後の合併症として眼圧上昇に留意する必要があり,眼内法による線維柱帯切開術が有用な治療法となる可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GaborSGB,PavlidisMM:SuturelessintrascleralposteriorchamberCintraocularClensC.xation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1851-1854,C20072)YamaneCS,CInoueCM,CArakawaCACetal:SuturelessC27-gaugeCneedle-guidedCintrascleralCintraocularClensCimplan-tationCwithClamellarCscleralCdissection.COphthalmologyC121:61-66,C20143)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術:T-.xationtechnique.眼科グラフィック6:45-53,C20174)LiuJ,FanW,LuXetal:Suturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlens.xation:Analysisofclinicalout-comesCandCpostoperativeCcomplications.CJCOphthalmol2021:8857715,C20215)蒔田潤,小堀朗:眼内レンズ強膜内固定法の合併症,あたらしい眼科32:1569-1570,C20156)BangCSP,CJooCCK,CJunJH:ReverseCpupillaryCblockCafterCimplantationofascleral-suturedposteriorchamberintra-ocularlens:aretrospective,openstudy.BMCOphthalmolC17:35,C20177)BharathiCM,CBalakrishnanCD,CSenthilS:C“PseudophakicCReverseCPupillaryCBlock”followingCyamaneCtechniqueCscleral-.xatedCintraocularClens.CJCGlaucomaC29:e68-e70,C20208)庄司信行:硝子体手術後の続発緑内障はこう治す.あたらしい眼科26:331-336,C2009***

水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術(iStent inject W)の術後12カ月成績

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1003.1007,2024c水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術(iStentinjectW)の術後12カ月成績半田壮大塚眼科医院CSurgicalOutcomesat12MonthsafterCombinediStentinjectWSecond-GenerationTrabecularMicro-BypassStentImplantationandPhacoemulsi.cationSoHandaCOtsukaEyeClinicC目的:iStentCinjectW(Glaukos社)を用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の術後C12カ月成績について検討する.対象および方法:大塚眼科医院でC2021年C4月.2022年C4月に同一術者によりCiStentinjectWを挿入し,12カ月以上経過観察が可能であった広義原発開放隅角緑内障患者を対象とした.視力,眼圧,点眼スコア,角膜内皮細胞密度,術後合併症について後ろ向きに検討した.結果:症例はC40例C68眼(72.7C±6.0歳).矯正視力(logMAR)は術前C0.16±0.17,術後C1カ月C.0.07±0.12,術後C12カ月C.0.11±0.07と術前より有意に向上していた(p<0.0001).眼圧は術前C15.8C±3.0CmmHg,術後C12カ月C12.5C±2.5CmmHgと有意に下降し,点眼スコアは術前C1.2C±0.6,術後C12カ月C0.1C±0.4と有意に減少していた(p<0.0001).角膜内皮細胞密度は術前C2,697C±338Ccells/mm2,術後C1カ月でC2,513C±533Ccells/mm2,術後C12カ月C2,501C±402Ccells/mm2と有意な減少(p<0.001)を認めたが,術後C1カ月と術後C12カ月では有意な減少は認めなかった.術後合併症としてニボーを伴う前房出血をC3眼(4.4%),術後C30CmmHg以上の一過性眼圧上昇をC4眼(5.8%),周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)をC5眼(7.3%)に認めた.結論:iStentCinjectWは術後C12カ月では有意な視力の向上,眼圧の下降,点眼スコアの減少を示し,挿入後の角膜内皮細胞への影響や合併症も少なく,安全性の高いデバイスである可能性が示唆された.CPurpose:Toevaluatethesurgicaloutcomesat12-monthsaftercombinediStentinjectW(Glaukos)implanta-tionCandCphacoemulsi.cationCforCtheCtreatmentCofprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG)C.CMethods:InCthisCretro-spectivestudy,wereviewedthemedicalrecordsof68eyesof40POAGpatients(meanage:72.7C±6.0years)whounderwentcombinediStentinjectWimplantationandphacoemulsi.cationbythesamesurgeonfromApril2021toApril2022atOtsukaEyeClinicandwhocouldbefollowedupforatleast12-monthspostoperative.Visualacuity(VA),intraocularpressure(IOP)C,glaucomamedicationscores,cornealendothelialcell(CEC)density,andpostop-erativeCcomplicationsCwereCevaluated.CResults:CorrectedVA(logMAR)atCpriorCtoCsurgeryCandCatC1-andC12-monthsCpostoperative,Crespectively,CwasC0.16±0.17,C0.07±0.12,CandC.0.11±0.07,CthusCshowingCsigni.cantCimprovementCpostsurgery(p<0.0001)C.CBeforeCsurgeryCandCatC12-monthsCpostoperative,Crespectively,CmeanCIOPCwas15.8±3.0CmmHgand12.5±2.5CmmHg,thusshowingsigni.cantreductionpostsurgery,andthemeanglauco-maCmedicationCscoreCwasC1.2±0.6CandC0.1±0.4,CalsoCshowingCsigni.cantCreductionCpostsurgery(p<0.0001)C.CTheCmeanCCECCdensityCwasC2,697±338Ccells/mm2CatCbeforeCsurgery,C2,513±533Ccells/mm2CatC1-monthCpostoperative,CandC2,501±402Ccells/mm2CatC12-monthsCpostoperative,CthusCshowingCaCsigni.cantCdecreaseCatC1-andC12-monthsCpostoperativecomparedtoatbeforesurgery(p<0.001)butnosigni.cantdecreasebetweenat1-and12-monthspostoperative.Postoperativecomplicationsincludedanteriorchamberhemorrhagein3eyes(4.4%)C,transientIOPelevationCaboveC30CmmHgCinC4eyes(5.8%)C,CandCperipheralCanteriorCsynechiaeCinC5eyes(7.3%)C.CConclusions:CiStentinjectWimplantationandphacoemulsi.cationresultedinasigni.cantimprovementinVA,decreaseinIOP,anddecreaseofglaucomamedicationscorewithfewcomplicationsandminimallossofCECdensityat12-monthspostoperative,thisindicatingthatitisasafeande.ectiveprocedure.C〔別刷請求先〕半田壮:〒870-0852大分県大分市田中町C3-12-69大塚眼科医院Reprintrequests:SoHanda,M.D.,OtsukaEyeClinic,3-12-69Tanaka-machi,Oita-shi,Oita870-0852,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(131)C1003〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):1003.1007,C2024〕Keywords:iStent,水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術,低侵襲緑内障手術,眼圧.iStent,combinetediStentinjectWimplantationandphacoemulsi.cation,minimallyinvasiveglaucomasurgery,intraocularpressure.CはじめにiStent(Glaukos社)は近年,急速に普及しつつある低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)で使用するデバイスの一つである.わが国ではC2016年にC1個挿入型の第一世代のCiStentが保険適用になり,2020年にはC2個挿入型のCiStentinjectWが使用可能となった.iStentinjectWはすでに海外で使用されていたCiStentinjectのフランジ部を幅広くし,視認性の向上させ,ステントが線維柱帯に深く埋もれないように改良されたものである.ステントを線維柱帯に垂直に打ち込んで挿入し,線維柱帯からCSch-lemm管までの房水流出抵抗の高い箇所をバイパスし眼圧下降を図る.適応は「白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準」の第C2版1)を遵守する必要がある.大塚眼科(以下,当院)での適応基準は白内障を合併しているCmeandeviation(MD)値がC.6dB以下の初期の広義原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)で,緑内障点眼を1剤以上使用しており,眼圧がC25CmmHg以下の患者としている.武川ら2)はCiStentCinjectWを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術と,水晶体再建術にマイクロフックを用いた線維柱帯切開術を併施した緑内障症例の術後C6カ月の成績と術後合併症を検討しており,両術式とも有意な眼圧下降を認め,重篤な合併症は認めなかったとしているが,現時点で筆者の知る限りCiStentinjectWの術後成績の報告は少ない.そこで筆者はCiStentinjectWを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術を施行した広義CPOAGの術後C12カ月の成績と有害事象について検討した.CI対象および方法2021年C4月.2022年C4月に当院で同一術者によりCiStentCinjectWを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術を施行し,12カ月以上の経過観察が可能であった広義CPOAG40例C68眼を対象とした.対象の半数以上が前医からすでに緑内障点眼を処方されており,無点眼時のベースライン眼圧が不明であったため,本研究では正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)と狭義CPOAGの病型分類はせず,対象はすべて広義CPOAGとして検討した.本研究は診療録から後ろ向きに検討した.緑内障点眼数の評価には単剤をC1点,配合剤をC2点としてその合計を点眼スコアとした.術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月の各時点での眼圧,点眼スコア,有害事象を,術後C1カ月とC12カ月で視力と角膜内皮細胞密度を評価した.生存率はCKaplan-Meier分析による生存解析を行い,エンドポイントはC2回連続で術前より眼圧が高値,または術後に緑内障点眼の再開と定義した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計での測定値を用いた.術前に使用した視野計はCHumphrey自動視野計(CarlCZeissCMeditec社)のCSwedishCInteractiveCThresholdingCAlgorithm-stan-dard(SITA)24-2を用いた.角膜内皮細胞密度の計測にはスペキュラーマイクロスコープCE530(ニデック)を用いた.統計解析にはCpairedt検定を使用し,p<0.05の場合に有意と判定した.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,大塚眼科医院の倫理委員会の承認を得て行った.水晶体再建術は角膜切開で行った.眼内レンズ挿入後に粘弾性物質で前房を確保し,隅角鏡にて線維柱帯を確認後に耳上側の角膜サイドポート部より鼻下側方向の線維柱帯にCiStentCinjectWをC2個留置した.iStentCinjectWが適正な位置で留置されていることを確認し,前房内の洗浄を行った.0.4%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム注射液C2mgを結膜下注射し手術終了とした.術後点眼はC0.5%モキシフロキサシン塩酸塩をC1日C4回,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムをC1日C4回,ブロムフェナクナトリウム水和物液をC1日C2回とし,適宜主治医(執刀医)の判断で中止した.緑内障点眼は術後に全例中止とし,適宜再開とした.CII結果対象となったのは男性がC17例C27眼,女性がC23例C41眼であった(表1).平均年齢はC72.7C±6.0歳,術前の平均矯正視力(logMAR)はC0.16C±0.17,平均CMD値は-3.7C±2.9CdBであり,対象はすべて初期の広義CPOAGであった.すべての患者が内眼手術やレーザー治療などの既往がなく,緑内障点眼をC1剤以上使用していた.術前の平均眼圧はC15.8C±3.0mmHgで術後C1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月の各時点の眼圧はそれぞれC12.8C±2.1CmmHg,11.6C±2.2CmmHg,C12.1±2.1CmmHg,12.3C±2.3CmmHg,12.5C±2.5mmHgであり,術前の眼圧と比較するとすべての時点で有意に眼圧下降を認めた(p<0.0001)(図1).術後C12カ月での眼圧下降率はC20.8%であった.点眼スコアは術前C1.2C±0.6で術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月はそれぞれC0.2C±0.5,C0.3±0.6,0.1C±0.6,0.1C±0.6,0.1C±0.4ですべての時点で有表1症例背景1815.8症例数40例68眼C16年齢C72.7±6.0歳**眼圧(mmHg)14性別(男性/女性)17/23人術前視力(logMAR)C0.16±0.17C術前CMD値(SITA24-2)C.3.7±2.9CdB術前眼圧C15.8±3.0CmmHgC術前点眼スコアC1.2±0.6術前角膜内皮細胞密度C2,697±338Ccells/mm2C12108平均値±標準偏差C6術前1369121.6n=68n=68n=68n=68n=68n=681.41.2観察期間(カ月)1.2図1眼圧経過1.00.8眼圧は各時点で術前より有意な下降を得られた(p<0.0001C0.6*pairedt検定).点眼スコア****0.10800.40.2100術前136912n=68n=68n=68n=68n=68n=68観察期間(カ月)図2点眼スコア点眼スコアは各時点で術前より有意に減少していた(p<0.0001生存率(%)604020pairedt検定).意に点眼スコアの減少を認めた(p<0.0001)(図2).術後12カ月の点眼減少数はC1.1,減少率はC91.6%で,緑内障点眼をC1剤も使用していない症例はC88.2%であった.矯正視力(logMAR)は術前がC0.16C±0.17,術後C1カ月,12カ月でそれぞれC.0.07±0.12,C.0.11±0.07と術前より有意に向上していた(p<0.0001).術前の角膜内皮細胞密度はC2,697±338cells/mm2,術後1カ月で2,513C±533Ccells/Cmm2,術後C12カ月でC2,501C±402Ccells/mm2であり術前と比較するとそれぞれ有意に減少(p<0.001)を認めたが,術後1カ月と術後C12カ月の角膜内皮細胞密度の有意な減少は認めなかった(p=0.79).2回連続で術前眼圧より高値,または術後に緑内障点眼の再開をエンドポイントとした場合の生存率は,術後C12カ月でC88.2%であった(図3).明らかな術中の合併症は認めなかった.術翌日にニボーを形成する前房出血をC3眼(4.4%)で認めたが,すべてC1週間ほどの保存的な経過観察で消退した.30CmmHg以上の一過性高眼圧はC4眼(5.8%)に認めた.このうちC2眼は前房出血の症例で,術後数日で前房出血の消退とともに眼圧も下降した.残りのC2眼は術後のステロイド点眼を中止したところ速やかに眼圧下降を認めた.術後C1カ月の時点で周辺虹彩前癒0観察期間(カ月)図3生存率曲線Kaplan-Meier分析による生存率.エンドポイントはC2回連続で術前より眼圧が高値,または術後に緑内障点眼を再開したものとした.着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)をC5眼(7.3%)に認めた.CIII考按今回の検討において対象はすべて初期の広義CPOAGであった.眼圧は各時点で有意に下降しており,術前C15.8mmHg,術後C12カ月でC12.5CmmHg(下降率C20.8%,p<0.0001)の下降を認めた.点眼スコアも各時点で有意に減少しており,術前C1.2,術後C12カ月でC0.1(減少率C91.6%,p<0.0001)の減少を認め,術後C12カ月で緑内障点眼をC1剤も使用していない症例の割合はC88.2%であった.現時点で筆者の知る限りCiStentinjectWの既報は少なく,CiStentinjectを用いた報告が多い.Shalabyら3)は,POAGにCiStentinjectを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入24681012術の検討で,術前眼圧がC15.6mmHg,術後C12カ月で14.0mmHg(眼圧下降率C10.0%,p=0.02)の下降を認め,点眼スコアは術前C1.9,術後C12カ月でC1.5(減少率C21%,p=0.02)減少したとしている.また,Salimiら4)はCNTGにCiStentinjectを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の検討で,術前眼圧がC15.8mmHg,術後C12カ月でC12.3mmHg(下降率C22%,p<0.001)の下降を認め,点眼スコアは術前C1.5,術後C12カ月でC0.45(減少率C70%,p<0.001)減少したとしており,いずれも本研究と同様に眼圧下降および点眼スコアの減少を認めている.高齢になるにつれ緑内障の罹患率は上昇する.近年の高齢化に伴い緑内障患者の高齢化や認知症の増加が予想される.緑内障患者の点眼不成功の原因は加齢,視機能,身体・認知機能障害などが関連する5,6).また,緑内障点眼の本数が増えるほど点眼アドヒアランスは低下し7),点眼アドヒアランスが低下するほど視野の進行速度は速くなる8).本研究では術後C12カ月の時点で点眼減少数はC1.1であり,88.2%の症例で緑内障点眼を使用せずに経過している.緑内障点眼を一生涯継続することは高齢になるほど困難となる.白内障手術時に併用する本術式で得られる眼圧下降や緑内障点眼の減少は大きな利点と考える.本研究の術前の角膜内皮細胞密度はC2,697C±338Ccells/mm2であり,術後C1カ月と術後C12カ月はそれぞれC2,513C±533Ccells/mm2,2,501C±402Ccells/mm2で術前と比較すると両時点も有意に減少(p<0.001)を認めるも,術後C1カ月と術後12カ月では有意な減少を認めなかった.Ahmedら9)はCiStentinjectを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術群と水晶体再建術単独群との比較で,角膜内皮細胞密度は術後早期に両群とも内眼手術とほぼ同等の減少を認めるも,その後C60カ月にわたり両群の角膜内皮細胞密度の減少に有意差は認めなかったとしている.角膜内皮細胞密度の推移は今後も長期にわたり経過をみる必要がある.本研究の術後合併症としてニボーを形成する前房出血をC3眼(4.4%),30CmmHg以上の一過性高眼圧をC4眼(5.8%)に認めた.iStentinjectの術後合併症として,Angら10)は前房出血C1眼(3.3%),21mmHg以上の一過性眼圧上昇はC2眼(6.7%),Rhoら11)は前房出血C3眼(8.3%),25CmmHg以上の一過性眼圧上昇はC2眼(5.6%)としており,単純比較はできないが本研究とほぼ同様の報告をしている.他のCMIGSであるマイクロフックやCKahookCDualCBradeを使用した線維柱帯切開術とCiStentCinjectW,iStentCinjectとの比較では,いずれも術後の出血性合併症はCiStentinjectW,iStentinjectのほうが少なかった2,12).iStentCinjectCWやCiStentinjectは,線維柱帯を切開するCMIGSと異なり線維柱帯に垂直に挿入する操作なので,線維柱帯への侵襲が少なく術後の出血性合併症が少ないと考える.本研究では術後のCPASをC5眼(7.3%)に認めた.Popovicら13)はCiStentinjectを挿入後のCPASをC7.4%に認めたとしている.術後のCPAS形成には炎症細胞やフィブリンなどが関与している14)と考えられているが,Matsuoら15)はマイクロフックを用いた線維柱帯切開術眼内法後のCPAS形成について,線維柱帯切開に伴う房水流出が増大することで虹彩が線維柱帯に物理的に引き寄せられCPASを形成する可能性があるとしている.本研究の術後にCPASを形成した症例のうちC2眼は前房出血を生じた症例であった.これらの症例は炎症細胞や出血性のフィブリンなどでCPASが形成された可能性はあるが,他のC3眼はステント部の局所的な房水流出の増大による影響で,虹彩が物理的にステントに引き寄せられPASを形成した可能性がある.本研究のCPASを形成した症例のうち,留置したCiStentinjectWの双方にCPASを生じた症例はなく,いずれも術前より眼圧下降を認めているので隅角癒着解離術やレーザー隅角形成術などの追加処置はしていない.これらをふまえると,iStentCinjectW挿入術は白内障を合併している初期の広義CPOAG患者や,緑内障点眼の本数を減らしたい症例などに良い適応があると考えられ,術後の合併症は他のCMIGSより少なく,安全性が高いことが示唆される.ただし,本研究は日本人に多いとされるCNTGを含んだ病型の分類をしておらず,症例数も少なく観察期間が12カ月と短期であるので,今後も症例数を増やし長期的に検討する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)白内障手術併用眼内眼内ドレーン使用要件等基準(第C2版).日眼会誌124:441-443,C20202)武川修治,北原潤也,知久喜明ほか:白内障手術併用眼内ドレーン挿入術(iStentinjectW)とCMicrohook線維柱帯切開術の術後短期成績.臨眼C76:1387-1392,C20223)ShalabyCWS,CLamCSS,CArbabiCACetal:iStentCversusCiStentCinjectCimplantationCcombinedCwithCphacoemulsi-.cationinopenangleglaucoma.CIndianJOphthalmolC69:C2488-2495,C20214)SalimiCA,CClementCC,CShiuCMCetal:Second-generationCtrabecularmicro-bypass(iStentinject)withcataractsur-geryCinCeyesCwithCnormal-tensionglaucoma:OneCyearCoutcomesCofCaCmulti-centreCstudy.COphthalmolCTherC9:C585-596,C20205)TathamAJ,SarodiaU,GatradFetal:Eyedropinstilla-tionCtechniqueCinCpatientsCwithglaucoma.CEye(Lond)C27:1293-1298,C20136)KashiwagiCK,CMatsudaCY,CItoCYCetal:InvestigationCofCvisualCandCphysicalCfactorsCassociatedCwithCinadequateCinstillationCofCeyedropsCamongCpatientsCwithCglaucoma.CPLOSONEC16:1-13,C20217)DjafaniCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20098)Newman-CaseyCPA,CNiziolCLM,CGillespieCBWCetal:TheCAssociationCbetweenCMedicationCAdherenceCandCVisualCFieldCProgressionCinCtheCCollaborativeCInitialCGlaucomaCTreatmentStudy(CIGTS)C.OphthalmologyC127:477-483,C20209)AhmedCIIK,CSheybaniCA,CDeCFrancescoCTCetal:Long-termCendothelialCsafetyCpro.leCwithCiStentCinjectCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOpthalmolC252:17-25,C202310)AngCBCH,CChiewCW,CYipCVCHCetal:ProspectiveC12-monthCoutcomesCofCcombinedCiStentCinjectCimplantationCandCphacoemulsi.cationCinCAsianCeyesCwithCnormalCten-sionglaucoma.EyeVis(Lond)C9:1-11,C202211)RhoS,LimSH:Clinicaloutcomeaftersecond-generationtrabecularCmicrobypassstents(iStentCinjectR)withCphacoemulsi.cationCinCKoreanCpatients.COphthalmolCTherC10:1105-1117,C202112)BarkanderCA,CEconomouCMA,CJohannessonCGCetal:Out-comesCofCiStentCinjectCvsCKahookCdualCbradeCsurgeryCinCglaucomapatientsundergoingcataractsurgery.CJGlauco-maC32:121-128,C202313)PopovicCM,CCampos-MollerCX,CSahebCHCetal:E.cacyCandCadverseCeventCpro.leCofCtheCiStentCandCiStentCinjectCtrabecularCmicro-bypassCforopen-angleCglaucoma:ACmeta-analysis.JCurrGlaucomaPractC12:67-84,C201814)RouhiainenCHJ,CTerasvirtaCME,CTuovinenCEJCetal:CPeripheralCanteriorCsynechiaeCformationCafterCtrabeculo-plasty.ArchOphthalmolC106:189-191,C198815)MatsuoCM,CInomataCY,CKozukiCNCetal:CharacterizationCofperipheralanteriorsynechiaeformationaftermicrohookCab-internotrabeculotomyusinga360-degreegonio-cam-era.ClinOphthalmolC15:1629-1638,C2021***

原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミーおよび深層強膜弁切除術併用360°Suture Trabeculotomy Ab Externoの3年成績

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):997.1002,2024c原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミーおよび深層強膜弁切除術併用360°SutureTrabeculotomyAbExternoの3年成績柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CThree-YearOutcomesof360-SutureTrabeculotomyAbExternowithSinusotomyandDeepSclerectomyforPrimaryOpenAngleGlaucomaMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)に対するC360°CsutureCtrabeculotomyCabexterno(S-LOT)のC3年成績を検討する.対象および方法:永田眼科においてC2016年C1月.2020年C12月にCPOAGに対してCS-LOTを施行した連続症例のうち,緑内障手術既往歴のない白内障同時手術C32眼,単独手術C10眼(有水晶体眼)を対象とした.すべての症例でサイヌソトミーと深層強膜弁切除術を併用した.診療録から後ろ向きに眼圧,緑内障点眼数,眼圧C14・12CmmHg以下C3年生存率,併発症を検討した.結果:白内障同時手術群では術前眼圧C17.5mmHgからC3年後C13.7CmmHgと有意な眼圧下降を認め,14・12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC53.7%,33.6%であった.単独手術群ではC17.5CmmHgからC3年後C12.1CmmHgと有意な眼圧下降を認め,14・12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC60%,30%であった.術後C3Cmmを超える前房出血を白内障同時手術群のC4眼(13%)で認め,1眼は前房洗浄を必要とした.結論:POAGに対するCS-LOTは白内障同時手術・有水晶体眼に対する単独手術とも術後C3年にわたり有意な眼圧下降を認めた.CPurpose:ToCevaluateCtheC3-yearCoutcomesCofC360-degreeCsutureCtrabeculotomyCabexterno(S-LOT)inCpri-maryCopenangleCglaucoma(POAG)patients.CSubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofC42CPOAGCeyesCwithCnoChistoryCofCotherCglaucomaCsurgeryCthatCunderwentCconsecutiveCS-LOTCwithphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(S-LOT+P+I)(n=32eyes)andS-LOTalone(n=10phakiceyes)atCNagataCEyeCClinic,CNara,CJapanCbetweenCJanuaryC2016CandCDecemberC2020.CAllCpatientsCunderwentCS-LOTCcombinedCwithCsinusotomyCandCdeepCsclerectomy.CWeCinvestigatedCintraocularpressure(IOP)C,CglaucomaCmedications,Csurgicalsuccess(de.nedCasCanCIOPCofC≦14CmmHgCandC12CmmHgCwithCorCwithoutCglaucomaCmedica-tions)C,CandCpostoperativeCcomplications.CResults:InCtheCS-LOT+P+ICgroup,CtheCmeanCIOPCwasCsigni.cantlyCreducedfrom17.5CmmHgto13.7CmmHg,andthesurgicalsuccessratesat3-yearspostoperativewere53.7%(IOP≦14CmmHg)and33.6%(IOP≦12CmmHg)C.CInCtheCS-LOTCaloneCgroup,CtheCmeanCIOPCwasCsigni.cantlyCreducedCfromC17.5CmmHgCtoC12.1CmmHg,CandCtheCsurgicalCsuccessCratesCatC3-yearsCpostoperativeCwere60%(IOP≦14mmHg)and30%(IOP≦12CmmHg)C.CLayeredChyphemaCoccurredCinC4eyes(13%)postCS-LOT+P+Iand1eyerequiredahyphemawashout.Conclusion:InPOAGpatients,S-LOT+P+IandS-LOTaloneshowedsigni.cante.cacyinreducingIOPupto3-yearspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):997.1002,C2024〕Keywords:sutureCtrabeculotomyCabexterno,眼圧,3年成績.sutureCtrabeculotomyCabCexterno,CintraocularCpres-sure,Cthree-yearCoutcomes.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(125)C997はじめに線維柱帯切開術(trabeculotomy:LOT)は,房水流出抵抗の首座である傍CSchlemm管内皮網組織を切開し,房水の流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的房水流出路再建術である.流出路再建術の一つであるCsutureCtrabecu-lotomy(S-LOT)は,ナイロン糸をCSchlemm管に通して傍Schlemm管内皮網組織を切開する術式であり,Chinら1)が報告したC360°Csuturetrabeculotomyは眼外法(abexterno)で強膜弁を作製するため,LOTの問題点であった術後一過性高眼圧の減少を目的としたサイヌソトミー(sinusotomy:SIN)や,眼圧下降効果増強を目的とした深層強膜弁切除術(deepsclerectomy:DS)の併用が可能である.しかし,角膜切開で前房側からCSchlemm管に通糸する眼内法(abCinter-no)と比較すると報告が少なく,今回,原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleglaucoma:POAG)に対するC360°Csuturetrabeculotomyabexterno+SIN+DS(S-LOT+SIN+DS)のC3年成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2016年C1月.2020年C12月に,永田眼科においてCPOAGに対し下方象限でCS-LOT+SIN+DSを施行した連続症例64眼のうち,緑内障手術既往のある症例を除いた白内障同時手術C32眼と有水晶体眼に対する単独手術C10眼を対象とした.診療録から後ろ向きに術前と術後C3年までの眼圧,緑内障点眼数,併発症を調査し,眼圧と緑内障点眼数の経過,眼圧下降率,目標眼圧をC14,12CmmHg以下としたC3年生存率についてそれぞれ検討した.CS-LOT+SIN+DS白内障同時手術と単独手術の術式を以下に示す.2%キシロカインによるCTenon.下麻酔下に施行した.円蓋部基底で下方結膜を切開,左右眼ともC8時方向にC4×4Cmmの外層強膜弁,3.5C×3.5Cmmの深層強膜弁を作製しSchlemm管を露出した.その後白内障同時手術の場合は上方角膜切開で白内障手術を施行した.白内障手術終了後,先端を熱加工して丸くしたC5-0ナイロン糸を強膜弁両側からSchlemm管にそれぞれ挿入,上下半周ずつ通糸した両糸の先端を隅角鏡下に角膜サイドポートから挿入した永田氏スーチャートラベクロトミー鑷子で線維柱帯内壁ごしにそれぞれ把持し角膜サイドポートから眼外へ引き出して線維柱帯を全周切開した.Schlemm管露出部の内皮網を除去し,二重強膜弁の深層強膜弁を切除するCdeepsclerectomyを施行した.外層強膜弁を縫合し,ケリー氏デスメ膜パンチでC1カ所sinusotomyを施行,結膜を縫合した.最後に術中の前房出血を洗浄し,終了した.検討項目を以下に示す.手術前の眼圧と緑内障点眼数,術後1,3,6,9,12,18,24,30,36カ月の眼圧と緑内障点眼数,目標眼圧をC14CmmHg,12CmmHgとしたC3年生存率,術後併発症について検討した.緑内障点眼数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤と計算し,合計点数を薬剤スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障点眼薬の有無にかかわらず,術後C3カ月以降C2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,術後眼圧と薬剤スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較による検定を行い,生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し生存率を算出した.有意水準はCp<0.05とした.本研究は臨床研究法を遵守しヘルシンキ宣言に則り行われ,診療録を用いた侵襲を伴わない後ろ向き研究のためインフォームド・コンセントはオプトアウトによって取得され,永田眼科倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号C2022-004).CII結果表1に白内障同時手術症例C32眼の患者背景を示す.平均年齢はC70.4C±9.8歳(平均C±標準偏差),術前平均眼圧はC17.5C±4.9mmHg,術前平均薬剤スコアはC3.2C±1.0,術前平均Cmeandeviation(MD)値はC.12.3±8.4CdBであった.図1に白内障同時手術症例の眼圧と薬剤スコアの経過を示す.眼圧は術前C17.5C±4.9mmHgからC3年後にC13.7C±4.9mmHg,薬剤スコアは術前C3.2C±1.0からC3年後にC1.3C±1.2となり,眼圧,薬剤スコアとも術後すべての観察期間で有意に下降し(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest),術C3年後までの平均眼圧下降率はC20.2%であった.図2にCKaplan-Meier生命表解析を用い,目標眼圧をC14,12CmmHgとした生存曲線を示す.14CmmHg以下C3年生存率はC53.7%,12CmmHg以下C3年生存率はC33.6%であった.表2に有水晶体眼単独手術症例C10眼の患者背景を示す.平均年齢はC60.4C±7.6歳,術前平均眼圧はC17.5C±6.6CmmHg,術前平均薬剤スコアはC3.5C±0.5,術前平均CMD値はC.17.5±6.6CdBであった.図3に有水晶体眼単独手術症例の眼圧と薬剤スコアの経過を示す.眼圧は術前C17.5C±6.6CmmHgからC3年後にC12.1C±2.6mmHg,薬剤スコアは術前C3.2C±0.8からC3年後にC1.4C±1.7となり,眼圧,薬剤スコアとも有意に下降し(p<0.05,CANOVA+Dunnett’stest),術C3年後までの平均眼圧下降率はC18.5%であった.図4にCKaplan-Meier生命表解析を用い,目標眼圧をC14,12CmmHgとした生存曲線を示す.14CmmHg以下C3年生存率はC60.0%,12CmmHg以下C3年生存率はC30.0%であった.表3に併発症の内訳と眼数を示す.白内障同時手術で術後C3Cmmを超える前房出血をC4眼(12%)に認め,うちC1眼は998あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024(126)前房洗浄を必要とした.30CmmHgを超える一過性高眼圧を白内障同時手術でC10眼(31%)に認めた.白内障同時手術で術後硝子体出血をC1眼認めたが,経過観察で自然消退した.術後追加緑内障手術として白内障同時手術,有水晶体眼単独手術とも線維柱帯切除術を必要とした症例をC1眼ずつ認めた.SIN併用による長期濾過胞形成を認めた症例はなかっ表1患者背景(白内障同時手術)眼数32眼年齢C70.4±9.8(39.83)歳男/女C21/11右/左C12/20術前眼圧C17.5±4.9(12.30)mmHg術前薬剤スコアC3.2±1.0(1.5)術前CMD値(23眼)C.12.3±8.4(C.1.23.C.29.1)(dB)MD:meandeviation(mean±SD)(range)C2517.5±4.9mmHg20た.CIII考按POAGに対するCS-LOT+SIN+DSの術後C3年成績を検討した.白内障同時手術で平均眼圧はC17.5C±4.9CmmHgからC3年後にC13.7C±4.9CmmHgへ有意に下降し,単独手術ではC17.5C±6.6CmmHgからC12.1C±2.6CmmHgへ有意に下降した.目標眼圧をC14,12CmmHgとしたC3年生存率は白内障同時手術でそれぞれC53.7%,33.6%,単独手術でC60.0%,30.0%であった.Shinmeiら2)は白内障同時手術でC14CmmHg以下C3年生存率はC63%,単独手術ではC67.4%と報告し,Satoら3)は白内障同時手術でC15カ月生存率がC78.3%と報告していることから,今回の結果は既報とほぼ同等であったと考える.以前に筆者らは,少数例の検討であるがCS-LOT+SIN+DSの14CmmHg以下C3年生存率をC50.5%と報告4)し,今回の結果はこれともほぼ同等と考えられた.一方,12CmmHg以下C3C13.7±4.9mmHg薬剤スコア眼圧(mmHg)**15*************105543210(mean±SD)観察期間(月)眼数323232313128282824図1眼圧・薬剤スコア経過(白内障同時手術)術後すべての観察期間で有意に下降した(**p<0.01,*p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest).10080生存率(%)表2患者背景(有水晶体眼単独手術)眼数10眼C20年齢C60.4±7.6(51.74)C男/女C8/2右/左C5/5生存期間(月)術前眼圧C17.5±6.6(13.34)図2白内障同時手術症例の3年生存率術前薬剤スコアC3.5±0.5(3.4)術前MD値(9眼)C.17.5±6.6(C.1.78.C.30.62)(dB)0051015202530354014,12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC53.7%,33.6%であった.MD:meandeviation(mean±SD)(range)(127)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C999薬剤スコア眼圧(mmHg)252012.1±2.6mmHg15*105543210観察期間(月)眼数1099999987図3眼圧・薬剤スコア経過(有水晶体眼単独手術)眼圧,薬剤スコアとも有意に下降した(**p<0.01,*p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest).80DSとの差はわずかではあるが有意差をもってCS-LOT+SIN+DSが良好である3,7,8)ことから,S-LOT+SIN+DSの手術適応としては以下のように考えられる.従来のCLOT+SINC+DS術C5年後の平均眼圧はC15CmmHgと報告13,14)されてい生存率(%)60るため,術後眼圧としてそれ以下を期待する中期緑内障,高40齢者であれば視力予後を考慮して中期以降の症例にも適応可200図4有水晶体眼単独手術症例の3年生存率14,12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC60.0%,30.0%であった.年生存率は白内障同時手術,単独手術でそれぞれC33.6%,30%であり,これらは日本人におけるCPOAGに対する線維柱帯切除術の中期成績4.6)より劣るものであった.CS-LOTCabexternoはCChinら1)によって初めて報告され,従来の金属プローブによるCLOTよりも眼圧下降効果が良好であると報告された.以降,同様の報告3,7,8)がなされている.これは線維柱帯切開幅の差によるものであり,集合管は不規則に存在する9,10)ため全周切開のほうが集合管への流出が効果的であるためとされる.一方で切開幅は術後眼圧に影響しないとする報告11,12)がある.既報13)におけるCPOAGに対するCLOT+SIN+DSの術後眼圧C14CmmHg以下生存率は今回の研究CS-LOT+SIN+DSの結果とほぼ同等であることから,切開幅と眼圧下降効果は直線的に相関しないことが示唆される.しかし,術後経過眼圧においては,LOT+SIN+1000あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024能と考える.また線維柱帯切除術の術後成績と比較すると眼圧下降効果は劣ることが今回の結果で示されたが,濾過胞形成しないことや術後薬物治療が併用できることから,濾過手術適応だが若年であることや濾過胞管理ができないため,濾過手術が躊躇される症例について,一次的な選択肢として適応があると考える.一方,前房側からCSchlemm管に通糸する眼内法についてGroverら15)はCgonioscopy-assistedtransluminaltrabeculot-omyとして報告し,以降CS-LOTabinternoに関しての報告は少なくない.結膜切開が不要であり,将来的な追加濾過手術に備えて結膜を温存できるという利点があるためと考えられる.それに対しCS-LOTabexternoは結膜・強膜を切開するが,将来的な濾過手術に備えて下方象限で施行することで上方結膜は温存でき,LOTの問題点であった術後一過性高眼圧を減少させる効果のあるCSINと,さらなる眼圧下降効果増強を目的としたCDSの併用が可能であることが利点であると考える.S-LOTabinternoとの術後成績比較において,以前筆者らはCS-LOTCabexternoとCabinternoの術後C3年成績と併発症を比較し,S-LOTabexterno+SIN+DSのほうがCS-LOTabinternoよりも術後眼圧が有意に低く一過性高眼圧が少ないことを報告し,線維柱帯の切開範囲が同じであることから,これはCSIN+DSの効果によるものであるこ(128)0510152025303540生存期間(月)表3併発症白内障同時手術単独手術(有水晶体眼)32眼10眼前房出血>3Cmm4眼(12%)→C1眼前房洗浄0眼一過性高眼圧>3C0CmmHg10眼(31%)0眼併発症1眼硝子体出血→自然消退0眼追加手術1眼LET(1C.5年後)1眼LET(4日後)LET:trabeculectomyとを報告した7).また,Yalinbasら16)はCS-LOTCabCexterno+DSとCabinternoの術後C1年成績比較において,統計的有意差はないが術後眼圧はCS-LOTabexterno+DSのほうが低いことを報告し,これはCDSの眼圧下降効果によるものと報告している.ほかにもCSIN併用CLOTの眼圧下降効果17),DS併用CLOTの眼圧下降効果18)が報告されておりCSIN+DSには眼圧下降効果があると考える.SINとCDSの明確な眼圧下降機序は不明であるが,SINによる濾過胞の形成はないが長期にわたりわずかな濾過効果が続いているのか17),DSにおける強膜弁下Clakeの強膜床からClake内房水が経ぶどう膜強膜路から吸収されるのか19),lake内房水がCSchlemm管に流出されるのか20)などが考えられている.S-LOTabexter-no+SIN+DSは下方象限施行で上方結膜の温存ができ,CSIN+DSの利点を生かした手術であると考える.術後併発症については,白内障同時手術でC3Cmmを超える前房出血をC4眼(12%),術後一過性高眼圧をC10眼(31%)に認めた.頻度については既報とほぼ同等であったが,高頻度であった一過性高眼圧については単独手術でほぼ認めていないことと比較すると,白内障手術の術後炎症の影響や術前縮瞳剤の有無の影響などが考えられるが,これについては症例数を増やして今後も検討を必要とする.本研究にはいくつかの限界がある.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.また,対象が少数例であることから,今後多数例での検討が必要であると考える.今回の検討の結果,POAGに対するCS-LOTabexterno+SIN+DSは,白内障同時手術,単独手術とも中期的に有意な眼圧下降を認めた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucomaC21:401-407,C20122)ShinmeiY,KijimaR,NittaTetal:Modi.ed360-degreesutureCtrabeculotomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cationCandCintraocularClensCimplantationCforCglaucomaCandCcoex-istingCcataract.CJCCataractCRefractCSurgC42:1634-1641,C20163)SatoCT,CHirataCA,CMizoguchiT:OutcomeCofC360CdegreesCsutureCtrabeculotomyCwithCdeepCsclerectomyCcombinedCwithCcataractCsurgeryCforCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCcoexistingCcataract.CClinCOphthalmolC8:1301-1310,C20144)狩野廉,桑山泰明,水谷泰之:強膜トンネル併用円蓋部基底トラベクレクトミーの術後成績.日眼会誌C109:C75-82,C20055)FukuchiCT,CUedaCJ,CYaoedaCKCetal:ComparisonCofCfor-nix-andClimbus-basedCconjunctivalC.apsCinCmitomycinCCCtrabeculectomywithlasersuturelysisinJapaneseglauco-mapatients.JpnJOphthalmolC50:338-344,C20066)SugimotoCY,CMochizukiCH,COhkuboCSCetal:IntraocularCpressureCoutcomesCandCriskCfactorsCforCfailureCinCtheCCol-laborativeBleb-relatedInfectionIncidenceandTreatmentCStudy.Ophthalmology122:2223-2233,C20157)柴田真帆,豊川紀子,黒田真一郎:開放隅角緑内障に対し同一患者に施行したC180°,360°CSutureTrabeculotomyAbInterno,C360°CSutureCTrabeculotomyCAbExternoと僚眼CMetalTrabeculotomyの術後C3年成績の比較あたらしい眼科38:1097-1104,C20218)木嶋理紀,陳進輝,新明康弘ほか:360°CSutureTrabecu-lotomy変法とCTrabeculotomyの術後眼圧下降効果の比較検討.あたらしい眼科C33:1779-1783,C20169)HannCCR,CBentleyCMD,CVercnockeCACetal:ImagingCtheCaqueoushumorout.owpathwayinhumaneyesbythree-dimensionalmicro-computedtomography(3D-micro-CT)C.CExpEyeResC92:104-111,C201110)HannCCR,CFautschMP:PreferentialC.uidC.owCinCtheChumanCtrabecularCmeshworkCnearCcollectorCchannels.CInvestOphthalmolVisSciC50:1692-1697,C200911)ManabeCS,CSawaguchiCS,CHayashiK:TheCe.ectCofCtheCextentoftheincisionintheSchlemmcanalonthesurgi-(129)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C1001calCoutcomesCofCsutureCtrabeculotomyCforCopen-angleCglaucoma.JpnJOphthalmolC61:99-104,C201712)SatoT,KawajiT:12-monthrandomizedtrialof360°Cand180°CSchlemm’sCcanalCincisionsCinCsutureCtrabeculotomyCabCinternoCforCopen-angleCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC105:1094-1098,C202113)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科26:821-824,C200914)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌C100:611-616,C199615)GroverCDS,CGodfreyCDG,CSmithCOCetal:Gonioscopy-assistedCtransluminalCtrabeculotomy,CabCinternoCtrabecu-lotomy:techniqueCreportCandCpreliminaryCresults.COph-thalmologyC121:855-861,C201416)YalinbasCD,CDilekmanCN,CHepsenIF:ComparisonCofCabCexternoandabinterno360-degreesuturetrabeculotomyinCadultCopen-angleCglaucoma.CJCGlaucomaC29:1088-1094,C202017)MizoguchiCT,CNagataCM,CMatsuuraCMCetal:SurgicalCe.ectsCofCcombinedCtrabeculotomyCandCsinusotomyCcom-paredCtoCtrabeculotomyCalone.CActaCOphthalmolCScandC78:191-195,C200018)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨眼C67:1685-1691,C201319)MarchiniG,Marra.aM,BrunelliCetal:Ultrasoundbio-microscopyCandCintraocular-pressure-loweringCmecha-nismsCofCdeepCsclerectomyCwithCreticulatedChyaluronicCacidimplant.JCataractRefractSurgeC27:507-517,C200120)StegmannCR,CPinaarCA,CMillerD:ViscocanalostomyCforCopen-angleglaucomainblackAfricanpatients.JCataractRefractSurgeC25:316-322,C1999***1002あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024(130)

小児緑内障に対する緑内障インプラントチューブが眼内レンズ後方へ亜脱臼した1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):992.996,2024c小児緑内障に対する緑内障インプラントチューブが眼内レンズ後方へ亜脱臼した1例元村恵理*1,2松下賢治*2岡崎智之*2藤野貴啓*2河嶋瑠美*2臼井審一*2西田幸二*2*1大阪鉄道病院眼科*2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)CACaseofChildhoodGlaucomawithSubluxationoftheGlaucomaImplantTubePosteriortotheIntraocularLensEriMotomura1,2),KenjiMatsushita2),TomoyukiOkazaki2),TakahiroFujino2),RumiKawashima2),ShinichiUsui2)CandKohjiNishida2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaGeneralHospitalofWestJapanRailwayCompany,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityHospitalC目的:小児の眼球は年齢とともに成長するため,チューブの位置に関する合併症は成人より多い.今回,小児緑内障眼に挿入したインプラントチューブ先端が眼内レンズ(IOL)後方へ亜脱臼した症例に対して,チューブ整復術を施行したC1例を経験したので報告する.症例:症例はC3歳,男児.両眼の原発先天緑内障に対してCBaerveldt緑内障インプラントを前房に挿入し,眼圧は安定していた.左眼の白内障進行により施行した水晶体再建術の際に,角膜内皮細胞保護目的にチューブ位置を毛様溝に変更した.術後C1カ月で左眼眼圧がC33CmmHgに上昇し,チューブ亜脱臼が疑われチューブ整復の方針となった.全身麻酔下で左眼眼圧はC40CmmHg.広画角デジタル眼撮影装置(RetCam)の観察にてIOL支持部付近にチューブ先端が亜脱臼し接触していた.再発予防にはチューブ挿入長の延長が必要で,迂回挿入していたチューブを同部位に直線挿入した.術後C5カ月現在はC20CmmHg以下で安定.チューブ位置も安定し,術後経過良好である.拷按:本症例は小児緑内障に伴う牛眼発症例であり,インプラントを固定している強角膜が拡張している一方,IOLを固定する水晶体.がほぼ成長しておらず,ギャップが生じたためにチューブ先端の亜脱臼が生じたと考えられる.小児のインプラント手術では,成長を考慮してチューブ長を決定することが重要である.CPurpose:Complicationsarisingfromglaucomaimplanttubemisplacementaremorefrequentinchildrenthaninadultsduetothegrowthoftheeyeballovertime.Wereportacasewhereachildhoodglaucomapatientexperi-enceddisplacementoftheglaucomaimplanttubebehindtheintraocularlens(IOL),whichwassubsequentlyrepo-sitioned.CCase:AC3-year-oldCboyCwithCbilateralCglaucomaChadCstableCintraocularpressure(IOP)inCbothCeyesCfol-lowingtheinsertionofaBaerveldtglaucomaimplantintotheanteriorchamber.WhileperformingcataractsurgeryinCtheCboy’sCleftCeye,CtheCimplantedCtubeCwasCrepositionedCtoCbetterCprotectCcornealCendothelialCcells.CAtC1-monthCpostoperative,CIOPCinCtheCleftCeyeCincreasedCtoC33CmmHg,CthusCindicatingCpossibleCtubeCdislocation.CExaminationCundergeneralanesthesiarevealedanIOPof40CmmHginthelefteye.Usingawide-angledigitalophthalmoscope(RetCamR;NatusMedical),thetipofthetubewasfoundtobedislocatedbehindtheIOL,touchingtheIOLhap-tics.Toavoidfuturedislocations,thesurgeonincreasedthetube’slengthandaligneditstraight,insteadofrerout-ing.For5monthsafterthat,thepatient’sIOPhasremainedstableatbelow20CmmHg,withcorrectpositioningoftheCtubeCaboveCtheCIOLCandCaCfavorableCpostoperativeCcourse.CConclusions:ThisCcaseChighlightsCbuphthalmosCinCchildhoodCglaucoma.CWeChypothesizeCthatCtheCdisparityCinCgrowthCbetweenCtheCimplant-anchoringCscleralCcorneaCandthenon-growingIOL-anchoringlenscapsulecausedthetubedisplacement.It’scrucialtoconsiderfutureocu-largrowthwhendeterminingthelengthoftheimplanttubeinchildhoodglaucomasurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):992.996,C2024〕〔別刷請求先〕松下賢治:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)Reprintrequests:KenjiMatsushita,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-2Yamadaoka,Suita,Osaka565-0871,JAPANC992(120)Keywords:原発先天緑内障,チューブ亜脱臼,チューブ整復,バルベルト緑内障インプラント.primarycongeni-talglaucoma,tubedislocation,tuberepair,Baerveldtglaucomaimplant.Cはじめに原発先天緑内障とは,強度の隅角形成異常による出生時または生後早期からの高眼圧で牛眼など眼球拡大を生じるものをいう1).原発先天緑内障の治療の第一選択は手術治療である.その理由は本症発症の原因が隅角の発育異常であり,多くは手術によって改善可能であること,乳幼児では薬物治療の実施ならびにその効果の確認が困難であることによる2).プレートのあるチューブシャント手術は,代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった患者,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な患者,線維柱帯切除術の成功が見込めない症例,他の濾過手術が技術的に施行困難な患者が適応となる3).原発先天緑内障に対しては,海外では通常の濾過手術が無効な場合に用いられているがわが国では確立した基準がない2).小児の眼球は年齢とともに成長するため,チューブ位置に関する合併症は成人より多いとの報告がある4).表1手術歴X-3年C4月両眼トラベクロトミー施行X-3年C6月両眼トラベクロトミー施行X-3年C9月両眼トラベクロトミー,トラベクレクトミー施行X-2年C2月両眼バルベルトインプラント挿入術施行(前房挿入)X-2年C3月両眼バルベルトインプラント挿入術施行(前房挿入)X年C3月左眼水晶体再建術,チューブ再建術(毛様溝再挿入),強膜移植術施行a合併症としてはチューブの位置異常,移動,後退,露出,眼内炎があげられ,チューブの前方移動によるチューブと角膜の接触は成人よりも小児に多くみられ,両眼性で,しばしば報告されている4).しかし,チューブの亜脱臼の報告はなく,非常に珍しいと考える.今回,小児緑内障患者のCBaerveldt緑内障インプラントチューブ亜脱臼に伴う高眼圧に対してチューブ整復を行い,回復したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:3歳C2カ月,男児.主訴:左眼の眼圧上昇.既往歴:特記事項なし.家族歴:双子の兄が原発先天緑内障.現病歴:生後C10日で発症した原発先天緑内障に対して当院で手術を複数回施行ののち患者のCBaerveldt緑内障インプラントを前房挿入した.約C2年間は眼圧が安定していたものの,左眼の白内障の進行を認めたためCX年C3月に水晶体再建術およびチューブ再建術(前房から毛様溝挿入に変更)を表2角膜径X-3年4月右眼縦10.5mm横11.5mm,左眼縦11.0mm横11.0mmX年5月右眼縦13mm横12.5mm,左眼縦13.5mm横13.5mmbIOLパプティクスチューブ図1全身麻酔下での検査所見(左眼)角膜混濁がありややわかりにくいが,IOLハプティクスの下にチューブが亜脱臼していることが確認できる.aは実際の写真,bは図で位置関係を示す.ab図2手術時の画像a:チューブを露出させた状態.この時点ではチューブが亜脱臼している.Cb:チューブが直線になる位置で輪部からC2Cmmの位置を計測.Cc:対側のサイドポートより池田式鑷子を用いてチューブを毛様溝に挿入.施行した(術式は詳細後述).術後C1週間は2.4CmmHgと低眼圧が続いていたがその後眼圧がC50CmmHgに上昇し,改善しないため眼内レンズ(intraocularlens:IOL)後方へのチューブ亜脱臼を疑い,PEA+IOL術後2週間のX年3月下旬にC1回目のチューブ再建術を施行した.施行後の眼圧は20CmmHg前後で安定していたもののC4月来院時に左眼眼圧33CmmHgと高値で,再度チューブ先端のCIOL後方への亜脱臼が疑われたため,5月にC2回目の左眼チューブ再建術を施行する方針となった.水晶体再建術直後のCIOL.内固定が不十分な期間に,低眼圧による浅前房が生じたことが亜脱臼の原因と考えられた.全身麻酔下検査所見:右眼の平均眼圧はC20CmmHg,左眼の平均眼圧はC38CmmHg,右眼の角膜径は縦C13Cmm,横C12.5mm,左眼の角膜径は縦C13.5mm,横C13.5Cmmであった.左眼は眼圧高値のため角膜混濁を認めた.広画角デジタル眼撮影装置(RetCam)を用いてCIOL支持部(IOLハプティクス)にチューブ先端が接触していることを確認した(図1).手術術式:眼内の観察条件を改善するため,全身麻酔により眼圧が下がり,角膜混濁が軽快するのを待ってから手術を開始した.角膜牽引糸を設置し結膜と強膜パッチを強膜から.離して瘢痕組織を除去しチューブを露出した(図2a).もともと屈曲させて設置していたチューブを直線的に伸ばし(図2b),角膜輪部からC2Cmmの位置に新たに挿入口をC23CG針にて作製し,チューブを前房内に挿入し,180°対側に作製したサイドポートから眼粘弾剤ヒーロンを注入したのち,池田式前.鑷子を挿入し,前房内のC23CG針をガイドとして池田式前.鑷子を毛様溝から眼外へ出し,チューブ先端を把持して毛様溝へ挿入した(図2c).術中,チューブが虹彩とCIOLの間にあることを,つまりチューブの後方偏位がないことを確認し,10-0バイクリル糸で強膜パッチを再移植し,結膜縫合とデキサメタゾン結膜下注射にて終了した.術後経過:眼圧上昇に対して,3歳C1カ月ごろにブリモニジンを追加して,術前はリパスジル,ラタノプロスト,コソプト,ブリモニジンのC4剤を点眼していたが術直後は点眼なしで経過をみた.チューブ再建術直後の眼圧はC10mmHg台後半で安定していたが,その後軽度上昇を認めたためリパスジル,ラタノプロストを順に追加した.その後も眼圧がやや高めの時期が続いたものの可能な限り点眼数を増やさずに経過をみていた.しかし,その後もC20CmmHg台後半の眼圧が続いたためドルゾラミド・チモロールマレイン酸配合液を追加した.最終手術からC5カ月現在の眼圧はC10mmHg台後半.20CmmHg台前半で安定しており経過は良好である(図3).手持ち式細隙灯顕微鏡でもチューブ先端位置を確認できている.CII考按小児緑内障に対するCBaerveldt緑内障インプラント挿入術の合併症として白内障の形成,チューブ閉塞,脱臼,脈絡膜.離があげられる5).また,眼圧上昇のためにチューブ再手術を必要とした小児緑内障の症例の原因としてチューブの後退,チューブの閉塞が報告されている5).本症例は小児緑内障に伴う牛眼発症例であり,インプラントを固定している強角膜が拡張している一方で眼内レンズを固定する水晶体.がほぼ成長しておらず,ギャップが生じたためにチューブ亜脱PEA+IOL後の術後経過60504030201001カ月後3カ月後6カ月後図3左眼の眼圧推移および治療薬PEA+IOL手術日を基準とし,その後C1カ月,3カ月,6カ月の眼圧の推移を示す.同時に,施行した投薬の内容も示す.Aiphagan点眼はC3歳C1カ月から使用.臼を生じたと考えられる.初回のCBaerveldt緑内障インプラCabント挿入時は前房内に挿入していたが,水晶体再建時にチュチューブ虹彩ーブが角膜に接触するリスクを考え角膜内皮保護のために毛様溝にチューブを再挿入した(図4a,b).水晶体.の上にチューブがのっているはずだったが,牛眼の影響で角膜のみ成長し水晶体.は伸びなかったため,そのギャップでチュー虹彩チューブブが亜脱臼したと考えられる(図4c,d).また,初回の前房内挿入時に角膜内皮を傷つけないようにチューブを短めにし水晶体ていたこともチューブ亜脱臼の要因としてあげられる.2歳水晶体.水晶体.IOL児の正常眼球は角膜径が約C10.5Cmm,水晶体径が約C8.0Cmmであるが,成長して大人になると角膜径が約C11.0mm,水晶体径が約C9.0Cmmとなる6.8).しかし,本症例では原発先天緑内障で牛眼となっているため角膜径がC13.5Cmmに伸びているものの水晶体径は元のC8.0Cmmのままであった.隅角構造をC30°C60°90°の直角三角形に見立てて考察する.チューブの長さを輪部から3.5Cmmになるように調整したが,輪部からC1Cmmの位置で前房挿入したので挿入端からのチューブ長はC4.5Cmmあった.今回のチューブ再挿入時にはチューブを毛様溝に挿入し直したので,チューブ挿入端からCIOL=(.3端までの長さは角膜径と水晶体.のギャップの半分と√1.7Cmm)を加えたものになる(図5).つまり,平均的なC2歳児では,(10.5C.8)/2+1.7=2.95Cmm(図5a)で,本症例では,(13.5C.8)/2+1.7=4.45Cmm(図5b),そして成人では,(11C.9)/2+1.7=2.7Cmm(図5c)であるから,チューブ長のあそびがC0.05Cmmしかない本症例では,水晶体再建術後のIOLの.内固定が不十分である時期に浅前房となったことでチューブがCIOL前方から後方に亜脱臼したと考えられる.今回の再挿入では,以前の手術で施したチューブの屈曲分を図4チューブの位置関係のシェーマa:手術前の前房内挿入時,Cb:水晶体再建術施行時の毛様溝挿入,c:浅前房での亜脱臼,d:チューブ先端の後方亜脱臼.直線化してチューブ長をC1Cmm伸ばしたところC5.5Cmmとなり安定した.もともとチューブ位置を変更するあそびを計算して,初回挿入時点でC5.5Cmmとすることもできるが,チューブの眼内距離が長いため,眼内組織への影響を考慮する図5チューブ長の考察隅角構造を30°60°C90°の直角三角形に見立てた図で考察する.Ca:平均的なC2歳時の眼球にチューブを挿入した際のチューブ長の考察.Cb:本症例の眼球にチューブを挿入した際のチューブ長の考察.c:成人の眼球にチューブを挿入した際のチューブ長の考察.と,今回と同様に眼外でチューブの屈曲を残すことであそびを持たせておくことが有用と考えられた.以上から,小児の緑内障インプラント挿入術では,小児眼球の成長を考慮してチューブ長を決定することが重要である.利益相反:元村恵理,利益相反公表基準に該当なし岡崎智之,RII:千寿製薬,興和製薬藤野貴啓,利益相反公表基準に該当なし松下賢治,FI:シード,町田製作所,QDレーザー,FII:アルコン,FIII:AMOJapan,町田製作所,PI:メニコン,CII:マルホ,RII:アルコン,千寿製薬,参天製薬,興和製薬,ヴィアトリス製薬,ノバルティスファーマ,町田製作所,JCR,アルフレッサファーマ河嶋瑠美,FIII:町田製作所,RII:日本アルコン,千寿製薬,大塚製薬,参天製薬,興和製薬,メニコン,ノバルティスファーマ,町田製作所,ジョンソンアンドジョンソン臼井審一,利益相反公表基準に該当なし西田幸二CFIV:HOYA,大塚製薬,参天製薬,メニコン,ロート製薬,レイメイ文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.第C2章緑内障の分類.日眼会誌126:99,C20222)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.第C7章観血的手術.日眼会誌C126:124,C20223)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.第C7章観血的手術.日眼会誌C126:118,C20224)ChenTC,ChenPP,FrancisBAetal:Pediatricglaucomasurgery:ACreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOph-thalmology.OphthalmologyC121:2107-2115,C20145)RolimCdeCMouraCC,CFraser-BellCS,CStoutCACetal:Experi-encewiththeBaerveldtglaucomaimplantinthemanage-mentCofCpediatricCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC139:847-854,C20056)JacobsonCA,CBesirliCCG,CBohnsackCBLCetal:OutcomesCofCBaerveldtCglaucomaCdrainageCdevicesCinCpediatricCeyes.CJGlaucomaC31:468-476,C20227)島袋幹子,前田直之:角膜疾患に対する光学的診断装置.日レ医誌28:20078)馬嶋清如:ヒト水晶体の再生に際して必要な情報─生体眼におけるヒト水晶体の計測値について.日本白内障学会誌C28:36-38,C20169)野村耕治:視器の形態的および機能的発達とその異常あたらしい眼科15:495-1499,C1988***

真性小眼球症の水晶体再建術後に悪性緑内障を繰り返した1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):987.991,2024c真性小眼球症の水晶体再建術後に悪性緑内障を繰り返した1例林有紀*1,2臼井審一*2谷川彰*2,3河本晋平*2岡崎智之*2藤野貴啓*2河嶋瑠美*2崎元晋*2,4丸山和一*2,5松下賢治*2西田幸二*2,5*1市立貝塚病院眼科*2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)*3淀川キリスト教病院眼科*4大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学共同研究講座*5大阪大学先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門CACaseofNanophthalmoswithRecurrentMalignantGlaucomaafterCataractSurgeryYukiHayashi1,2)C,ShinichiUsui2),AkiraTanikawa2,3)C,ShimpeiKomoto2),TomoyukiOkazaki2),TakahiroFujino2),RumiKawashima2),SusumuSakimoto2,4)C,KazuichiMaruyama2,5)C,KenjiMatsushita2)andKohjiNishida2,5)1)DepartmentofOphthalmology,KaizukaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospital,4)DepartmentofOcularImmunologyandRegenerativeMedicine,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicineFacultyofMedicine,5)IntegratedFrontierResearchforMedicalScienceDivision,InstituteforOpenandTransdisciplinaryResearchInitiatives(OTRI)C,OsakaUniversityC目的:真性小眼球症は眼球容積が小さいが水晶体の大きさは正常であることが多く,そのため閉塞隅角症をきたしやすい.今回,眼内レンズ挿入眼で悪性緑内障を繰り返したC1例を経験したので報告する.症例:50歳代,男性.前医で両眼高眼圧に対して前部硝子体切除術併用水晶体再建術を施行後C1年で眼圧コントロール困難となり,大阪大学病院に紹介された.両眼浅前房で隅角は閉塞しており,悪性緑内障が疑われた.両眼に前部硝子体切除・後.切開・周辺虹彩切除・隅角癒着解離術・線維柱帯切開術を同時に行ったところ,左眼は改善したが,右眼は眼内レンズ後方に線維膜が形成され,早期に再発した.そこでCYAGレーザーにより虹彩切除部から線維膜を切開していったんは改善したが後日再発したため,大きく切開して消炎を強化したところ病状は安定した.結論:眼内レンズ挿入眼の真性小眼球症は,前房と硝子体腔に確実な交通路を作製することで悪性緑内障の再発を抑制できる.CPurpose:Toreportacaseofnanophthalmoswithrepeatedmalignantglaucomainanintraocularlens(IOL)CimplantedCeye.CCasereport:ThisCstudyCinvolvedCaC50-year-oldCmaleCdiagnosedCwithCmalignantCglaucomaCdueCtoCrecurrentangleclosureat1yearafteranteriorvitrectomywithIOLimplantationforelevatedintraocularpressure.AfterCsimultaneousCbilateralCanteriorCvitrectomy,CposteriorCcapsulotomy,CperipheralCiridectomy,Cgoniosynechialysis,Candtrabeculotomy,thelefteyeimproved,yeta.broticmembraneformedbehindtheIOLintherighteye,whichrecurredCearly.CTheC.broticCmembraneCwasCremovedCfromCtheCiridectomyCsiteCusingCaCYAGClaser,CyetCafterCimprovementCthereCwasCrecurrenceCofCtheC.broticCmembrane.CTheCconditionCstabilizedCafterCaClargerCincisionCwasCmadeCwithCenhancedCanti-in.ammatoryCtreatment.CConclusion:InCcasesCofCnanophthalmosCinCanCIOL-implantedCeye,CtheCrecurrenceCofCmalignantCglaucomaCcanCbeCreducedCbyCcreatingCaCsuccessfulCtra.cCchannelCbetweenCtheCanteriorchamberandthevitreouscavity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):987.991,C2024〕Keywords:真性小眼球症,悪性緑内障,YAGレーザー,線維膜.nanophthalmos,malignantglaucoma,YAGlaser,.broticmembrane.Cはじめにを真性小眼球症とよぶ1).小眼球症の多くは隅角が閉塞し,小眼球症は,眼軸長が短く通常より眼球容積が小さいが水加齢とともに肥厚した水晶体が虹彩を前方に押すことで瞳孔晶体の大きさは正常で,とくに他の先天異常を伴わないものブロックを誘発するが,その機序は多因子性と考えられてい〔別刷請求先〕臼井審一:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)Reprintrequests:ShinichiUsui,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-2Yamadaoka,Suita,Osaka565-0871,JAPANC右眼左眼efgh図1初診時検査所見超音波生体顕微鏡による前眼部断層像(Ca,d),前眼部光干渉断層計による断層画像(Cb,c),視神経乳頭部の眼底写真(e,h),Humphrey静的量的視野検査中心C30-2のパターン偏差(Cf,g),後眼部光干渉断層計による黄斑部神経節細胞複合体(GCC)厚マップ(Ci,j)を示す.両眼とも眼内レンズは前方に偏位し,前房は浅い.左眼は視神経乳頭陥凹拡大に伴い下方優位に上下のCGCC厚が菲薄化し,上方優位に視野障害が進行していた(中心前房深度:←→).る2).今回,真性小眼球症の水晶体再建術後C1年で悪性緑内障を発症し,硝子体手術および下方の虹彩切除を施行で一時的には改善したが,線維膜の増殖により悪性緑内障を再発し,YAGレーザーによる線維膜切開が奏効したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:50歳代,男性.主訴:両眼の眼圧上昇.家族歴:なし.既往歴:なし.現病歴:両眼真性小眼球症による狭隅角に対してレーザー周辺虹彩切開術の既往があった.その後に両眼高眼圧となり,前医で前部硝子体切除術および水晶体再建術の同時手術が行われ,緑内障点眼加療下で眼圧は下降したが,術後C1年で眼圧コントロール困難となり,手術目的で大阪大学病院へ紹介された.前医での診断は,右眼閉塞隅角症,左眼閉塞隅角緑内障であった.当院初診時の視力は右眼C0.5p(0.8C×sph+2.25D(cyl.0.75DAx80°),左眼C0.4(0.6CpC×sph+2.75D(cyl.1.50DAx65°)であった.治療薬は両眼にカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼薬C1日C1回,ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬C1日C2回,リパスジル塩酸塩水和物点眼薬C1日C2回で,アセタゾラミドC250CmgをC1錠内服中であったが,眼圧図2術後経過右眼術後C8日目(Ca)と左眼術後C5日目(Cb)の前眼部光干渉断層計による断層画像を示す.右眼の前房深度はC2.1Cmmと浅く(Ca),眼内レンズ後方に増殖した線維膜をCYAGレーザーで切開し一旦改善したが(Cc,f),再び線維膜が増殖して浅くなったため(Cd,g),今度は広範囲に線維膜を切開したところ安定した(Ce,h)(f,g,hは前眼部光干渉断層計による断層画像).右眼C3時方向(鼻側)隅角は,1回目のCYAGレーザー切開後に若干開大したが,その後閉塞し,2回目のYAGレーザー後は大きく開大した(Cf,g,hの矢印).左眼は術後から安定して前房は深く隅角も開大しており,経過は良好である(Cb).(中心前房深度:両端矢印,線維膜およびCYAGレーザー切開部:点円,鼻側隅角:矢印).はCGoldmann圧平眼圧計で右眼C30CmmHg,左眼C25CmmHgと高値であった.前医で白内障手術の際に.内固定された眼内レンズは両眼ともに+40.00D(YA-60BBR,HOYA製)でハイパワーであった.眼軸長は右眼C17.37Cmm左眼C16.99mmで,両眼とも短眼軸であった.前眼部所見は両眼浅前房で隅角は狭く,ほぼ全周に虹彩前癒着をきたし,左眼は虹彩後癒着も認めた.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による中心前房深度は右眼C2.1Cmm左眼C1.5Cmmで,超音波生体顕微鏡(ultrasoundCbiomicrosco-py:UBM)では眼内レンズが前方へ偏位し浅前房で,とくに左眼は顕著であった(図1a~d).眼底所見では,左眼の視神経乳頭陥凹が拡大し,後眼部COCTを用いた黄斑部神経節細胞複合体(ganglionCcellcomplex:GCC)厚は下方優位に上下の網膜神経線維層が菲薄化していた(図1e,h,i,j).Humphrey静的量的視野検査(中心C24-2SITA-Standard)を行ったところ,meandeviation(MD)値は右眼がC.1.38CdBで正常範囲であったが,左眼はC.19.77CdBで上方優位に視野障害が進行していた(図1f,g).病態に悪性緑内障の要素が含まれると考えられたため,前房と前部硝子体を交通させる手術を行った.麻酔法は,本症例が小眼球症であることを考慮し,脈絡膜滲出や脈絡膜出血の併発を回避するため全身麻酔下で片眼ずつ別日に右眼から行った.手術はC3ポートを毛様体扁平部に設置し,25ゲージ硝子体カッターを用いて前部硝子体を切除した.後.を大きめに切開し,10時方向のサイドポートから同じくC25ゲージ硝子体カッターを用いて下方の周辺虹彩を切除後,硝子体側からも切除して硝子体腔と前房を交通させた.その後,隅角癒着解離術および眼内法による線維柱帯切開術を追加して手術を終了した.最初に行った右眼の術翌日は前房が深く,眼圧は緑内障点眼なしで10CmmHgに下降した.しかし,術後C8日目に中心前房深度がC2.1Cmmまで浅くなり,隅角は閉塞傾向であった(図2a).このとき左眼高眼圧に対してアセタゾラミド(250Cmg)1錠を再び内服中であったが,右眼の眼圧はC20CmmHgに上昇した.右眼は下方の周辺虹彩を切除していた部位の眼内レンズ表1右眼の術前・術後経過眼圧(mmHg)中心前房深度(mm)等価球面度数(D)緑内障治療薬術前C30C2.1+1.875ミケルナ,アイラミド,グラナテック,ダイアモックス術後8日C20C2.1+1.625ダイアモックス術後C1カ月C18C2.03+1.875キサラタン,アゾルガ,グラナテック,ダイアモックス1回目CYAGレーザー直後C18C2.63C─キサラタン,アゾルガ,グラナテック1回目CYAGレーザーC1週C14C2.24+2.75アゾルガ1回目CYAGレーザーC3週C20C1.93+1.5アゾルガ2回目CYAGレーザーC1週C14C2.77+4.0なしD:diopter(ジオプター).カルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼薬(ミケルナ),ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド),リパスジル塩酸塩水和物点眼薬(グラナテック),アセタゾラミド(ダイアモックス),ラタノプロスト(キサラタン),ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(アゾルガ).後方に線維膜が張っており,悪性緑内障が再発した原因と考えられた.そこでCYAGレーザーを用いて線維膜を一部切開したところ,直後の中心前房深度はC2.63Cmmに改善し,隅角の一部も開大した(図2c,f).しかし,その後に再び線維膜が増殖し,レーザー施行後C3週間目には前房深度がC1.93mmまで浅くなり隅角も再び閉塞したため,再度CYAGレーザーを用いて線維膜を広範囲に切開したところ,前房は深くなり隅角も開大し,1週間後の中心前房深度はC2.77Cmm,眼圧も緑内障点眼薬を使用することなくC14CmmHgまで下降した(図2d,e,g,h).線維膜増殖を抑制する目的でC0.1%ベタメタゾン点眼液C1日C4回を漸減しながら約C2カ月間継続して消炎したところ,その後は再発なく経過した.なお,前房深度が浅くなるたびに,本人は近視化を自覚し,等価球面度数も変化していた(表1).左眼については術翌日から安定して前房は深く隅角も開大し,眼圧は緑内障点眼なしでC15mmHgに下降した(図2b).経過中に眼圧がC20CmmHgまで上昇したが前房深度は維持できており,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液による治療によりC15mmHgに下降し,以後は上昇することなく安定した.術後約半年の矯正視力は右眼(0.7C×sph+4.50D(cyl.1.0DCAx105°),左眼(0.8CpC×sph+5.50D),眼圧は両眼C14CmmHgで,経過は良好である.CII考按今回,両眼の小眼球症で水晶体再建術後に悪性緑内障を繰り返したC1例を経験した.悪性緑内障は毛様体の前方回旋や硝子体腔内への房水異常流入などによって生じる硝子体の前方変位に起因する閉塞隅角と推定されている3).正確な発症機序はいまだ不明であるが,Zinn小帯・水晶体・前部硝子体・毛様体のすべてが病態生理に関与していると考えられている4).通常,有水晶体眼で発症するが,稀に無水晶体眼や偽水晶体眼でも起こりうる5).偽落屑症候群のようにCZinnC990あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024小帯が弱い症例では眼内レンズ挿入眼でも前方偏位により発症する可能性がある.本症例のように小眼球による狭い後房のスペースに+40ジオプターで厚みのある眼内レンズを挿入した場合,わずかなレンズの前方偏位でも房水動態に異常が生じやすいと考えられる.実際に,紹介時の前房深度は極端に浅くはなく,周辺虹彩が眼内レンズで持ち上げられて嵌まり込むような形で隅角閉塞をきたしていた.本症例は,閉塞隅角による高眼圧に対して前部硝子体切除を併用した水晶体再建術により一旦改善したが,術後C1年で悪性緑内障を発症した.これに対して硝子体切除術および下方の虹彩切除術により後房から前房への交通が解除されて一時的に改善したが,術後早期に眼内レンズの後方に線維膜が増殖し,前房と硝子体腔の交通が閉ざされたため悪性緑内障を再発したと考えられる.悪性緑内障に対する治療はアトロピン点眼による毛様体の弛緩や高張浸透圧薬による硝子体容積の減少が有効であるが再発例も多く,有水晶体眼には水晶体摘出術,偽水晶体眼や無水晶体眼にはCYAGレーザー,前部硝子体切除,水晶体.切開を施行することが推奨されている3,6).本症例と同じく硝子体切除術後に悪性緑内障を発症した報告では,眼内レンズの支持部が前房と前部硝子体腔の交通路に重なって生じた症例を除くと,いずれも線維膜の増殖による交通路の閉塞が原因と考えられ,YAGレーザーを用いた線維膜切開により悪性緑内障は解除されている7).本症例も同様の病態と考えられるが,小眼球では前方の眼球容積が著しく小さいため,厚みのある眼内レンズを挿入した場合は交通路を維持することが一層むずかしく,後.付近に生じた線維膜を広範囲に切開することで再発を防止することができた.また,デキサメタゾン点眼をC2カ月間と長めに継続して消炎を行ったことで,線維膜の増殖を抑制できた可能性がある.つぎに,先に行った右眼が術後に悪性緑内障の再発を繰り返したのに対して,左眼は再発しなかったことについて考察する.本症例に対する硝子体手術は左右でそれぞれ別の術者(118)が執刀し,緑内障手術は両眼ともに同一術者が行った.術者はいずれも十分な手術経験のある専門医であった.左眼は術前に虹彩後癒着で前房深度も浅く右眼とは条件が異なっていたこともあり,右眼よりも前房硝子体切除を周辺まで十分に行ったことが再発防止に繋がったと考えられる.一般に,悪性緑内障に対する外科的治療は,今回のように経毛様体扁平部からアプローチする他に前房側から前部硝子体へアプローチする術式が報告があり,いずれも周辺虹彩とCZinn小帯および前部硝子体を切除し前房と硝子体腔を確実に貫通させると再発例は少ないことが報告されているが,本症例のような小眼球症例では,それでも再発しやすい可能性があることを考慮する必要がある8).最後に,緑内障手術を併用したことについて考察する.本症例では,隅角癒着解離術と眼内法による線維柱帯切開術を併用した.両眼とも,術中に周辺虹彩前癒着を認めていたため,隅角癒着解離術は行う必要があると考えられた.また,隅角癒着解離術のみでは眼圧下降が不十分な可能性もあり,線維柱帯切開術を併用したところ安定した眼圧下降が得られた.なお,本症例のように小眼球で悪性緑内障を発症したときは眼内レンズの前方偏位に伴って等価球面度数が近視化するため,自覚的な変化に気付きやすいことをあらかじめ患者に説明しておくことで,治療の遅れを回避できると思われる.CIII結論真性小眼球症は,水晶体再建術に前部硝子体切除と後.切開および周辺虹彩切開を施した後でも線維膜の増殖により悪性緑内障を発症することがあり,前房と硝子体腔を確実に交通させることが重要である.利益相反:崎元晋,FIV:大塚製薬松下賢治,PI:メニコン西田幸二,FIV:HOYA,大塚製薬,参天製薬,メニコン,ロート製薬,レイメイ該当なし(林有紀,臼井審一,谷川彰,河本晋平,岡崎智之,藤野貴啓,河嶋瑠美,丸山和一)文献1)CarricondoCPC,CAndradeCT,CPrasovCLCetal:Nanophthal-mos:ACreviewCofCtheCclinicalCspestrumCandCgenetics.CJOphthalmolC2018:2735465;doi:10.1155/2018/2735465,C20182)YangCN,CJinCS,CMaCLCetal:TheCpathogenesisCandCtreat-mentCofCcomplicationsCinCnanophthalmos.CJCOphthalmolC2020:6578750.Cdoi:10.1155/2020/6578750,C20203)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌126:85-177,C20224)XuCQQ,CWangCWW,CZhuCJCetal:AnCunusualCcaseCofCmalignantCglaucomaCwithCciliaryCdetachment.CIntCJCOph-thalmolC14:1988-1992,C20215)SadeghiCR,CMomeniCA,CFakhraieCGCetal:ManagementCofCmalignantCglaucoma.CJCCurrCOphthalmolC34:389-397,C20236)DebrouwereCV,CStalmansCP,CVanCCalsterCJCetal:Out-comesCofCdi.erentCmanagementCoptionsCforCmalignantglaucoma:aCretrospectiveCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:131-141,C20127)DaveCP,CRaoCA,CSenthilCSCetal:RecurrenceCofCaqueousCmisdirectionCfollowingCparsCplanaCvitrectomyCinCpseudo-phakicCeyes.CBMJCCaseCRepC2015:bcr2014207961.doi:C10.1136/bcr-2014-207961,C20158)PakravanCM,CEsfandiariCH,CAmouhashemiCNCetal:Mini-vitrectomy;aCsimpleCsolutionCtoCaCseriousCcondition.CJOphthalmicVisResC13:231-235,C2018***

基礎研究コラム:87.線維柱帯細胞の貪食能促進を介した眼圧制御機構におけるapoptosis inhibitor of macrophage(AIM)の役割

2024年8月31日 土曜日

線維柱帯細胞の貪食能促進を介した眼圧制御機構における根本穂高apoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)の役割東京大学医学部眼科貪食およびapoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)とは生体内に発生した不要物は,貪食細胞により不要物であると認識されることで貪食,除去されます.死細胞やダメージ関連分子パターンなどの不要物は,表面に不要物であることを示す目印を発現しており,周囲の貪食細胞はこの目印によって不要物であることを認識します.この機構はCeat-mesignalとよばれていますが,近年Ceat-mesignalを介した体内のスカベンジシステムに重要な役割をもつことが注目されている組織マクロファージが産生し,血液中を循環している蛋白質がCAIM(遺伝子名CCD5L)です.AIMの作用として,マクロファージのアポトーシスを阻害する作用が最初に同定されましたが,さらに死細胞や不要物の除去に重要な役割を果たすことで腎障害などさまざまな疾患の抑制に寄与することが近年注目されています(図1)1).AIMはメイン受容体であるCCD36に結合すると貪食細胞内にエンドサイトーシスされることや,死細胞から構成されるCdebris表面に強く結合するという特徴があります.そのため,debrisに結合したCAIMを貪食細胞のCCD36が認識し,AIMに結合したCdebrisも一緒に細胞内に取り込まれることで貪食がうながされると考えられています.眼の領域でのAIMの作用AIMは腎臓,心臓,肝臓,肺,脳,脂肪組織などでさまざまな病態への関与が報告され注目されてきましたが,眼疾患との関連はほとんど報告されていませんでした.そこで筆者らのグループでは緑内障病態において,房水流出機能に重要な役割を果たしていると示唆されている線維柱帯細胞の貪食能について,AIMの貪食促進作用が関与しているかを検討しました2).その結果,AIMは線維柱帯細胞の貪食能を促進することで線維柱帯のクリアランスを維持し,房水流出抵抗を抑えることで眼圧下降に寄与することが明らかになりました(図2)3).今後の展望AIMは現在ヒト・動物の領域で創薬開発が行われており,ネコの腎疾患に対しては臨床治験が行われています.本研究により線維柱帯細胞の貪食能の促進という新しい治療アプローチによる緑内障治療の可能性が今後期待されます.文献1)新井郷子,宮﨑徹:急性腎障害の治癒における血中蛋白質CAIMの役割.医学のあゆみ259:949-950,C20162)NemotoH,HonjoM,AiharaMetal:ApoptosisinhibitorofCmacrophages/CD5LCenhancesCphagocytosisCinCtheCtra-becularCmeshworkCcellsCandCregulatesCocularChyperten-sion.JCellPhysiol238:2451-2467,C2023コントロールAIM添加群1h6h図2AIMのヒト線維柱帯細胞における貪食促進作用ヒト線維柱帯細胞の初代培養に,ヒト虹彩色素上皮細胞の死細胞から作製したCdebris(マゼンタ)を加え,貪食能を検討した.コントロール群に対し,AIM添加群ではヒト線維柱帯細胞によるCdebris貪食が促進された.上段は投与後C1時間,下段投与後C6時間.(文献C2より引用)(107)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C9790910-1810/24/\100/頁/JCOPY