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白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる 増殖糖尿病網膜症の1 例

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):491.495,2022c白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる増殖糖尿病網膜症の1例延藤綾香*1,2小林崇俊*2河本良輔*2大須賀翔*2佐藤孝樹*2喜田照代*2池田恒彦*3*1北摂総合病院眼科*2大阪医科薬科大学眼科学教室*3大阪回生病院眼科CACaseofProliferativeDiabeticRetinopathyinwhichLeukemiaTreatmentPossiblyA.ectedthePrognosisofVitrectomyAyakaNobuto1,2)C,TakatoshiKobayashi2),RyosukeKomoto2),SyoOsuka2),TakakiSato2),TeruyoKida2)andTsunehikoIkeda3)1)DepartmentofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaKaiseiHospitalC目的:白血病を合併した糖尿病網膜症は増悪しやすいことが報告されている.今回,白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)のC1例を経験したので報告する.症例:47歳,男性.左眼視力低下で初診.左眼は虹彩炎と硝子体出血で眼底透見不良.右眼はCPDRによる眼底出血と線維血管性増殖膜,Roth斑を認めた.内科で糖尿病,慢性骨髄性白血病(chronicmyeloidleukemia:CML)と診断された.左眼は牽引性網膜.離を認め,化学療法開始後早期のCCML寛解前に経毛様体扁平部硝子体切除(parsCplanavitrectomy:PPV)を施行した.術中増殖膜と出血の処理に苦慮し,術後に再出血を認めたため再手術を施行したが前眼球癆となった.右眼は汎網膜光凝固術を施行し,CMLの寛解後,硝子体出血と牽引性網膜.離に対しCPPVを施行した.術後経過は良好で矯正視力はC0.7に改善した.結論:CMLを合併したCPDRに対するCPPV施行の際は,CMLに対する内科的治療による全身状態改善のうえで手術を施行したほうが良好な手術成績が期待できる可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCproliferativeCdiabeticretinopathy(PDR)inCwhichCleukemiaCtreatmentCpossiblyCa.ectedtheprognosisofvitrectomy.CaseReport:A47-year-oldmalepresentedwiththeprimarycomplaintofvisuallossinhislefteye.Uponexamination,hislefteyehadiritisinwhichthefunduswasnotvisibleduetovitre-oushemorrhage.Hisrighteyehadretinalhemorrhage,.brovascularmembrane,andRothspots.Hewasdiagnosedwithdiabetesandchronicmyeloidleukemia(CML)C.Parsplanavitrectomy(PPV)wasperformedpreCMLremis-sionCdueCtoCtractionalCretinaldetachment(TRD)inChisCleftCeye.CDueCtoCintraoperativeCdi.cultyCinCtreatingCtheC.brovascularmembraneandhemorrhage,postoperativere-bleedingoccurred,soreoperationwasperformed.How-ever,CphthisisCbulbiCoccurred.CPPVCwasCperformedCinChisCrightCeyeCafterCpanretinalCphotocoagulationCandCCMLCremissionCdueCtoCvitreousChemorrhageCandCTRD,CandCtheCvisualCacuityCultimatelyCrecoveredCtoC0.7CpostCsurgery.CConclusion:InCPDRCcasesCcomplicatedCwithCCML,CitCmayCbeCpossibleCtoCobtainCbetterCsurgicalCoutcomesCifCPPVCsurgeryisperformedpostCMLremission.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):491.495,C2022〕Keywords:慢性骨髄性白血病,増殖糖尿病網膜症,寛解,硝子体手術,硝子体出血.chronicmyeloidleukemia,proliferativediabeticretinopathy,remission,vitrectomy,vitreoushemorrhage.C〔別刷請求先〕延藤綾香:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:AyakaNobuto,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANCはじめに糖尿病と白血病はともに網膜出血や軟性白斑,漿液性網膜.離などの眼病変を生じる疾患であり,それぞれの眼病変に関する報告は多数みられる1).しかし,糖尿病網膜症(dia-beticretinopathy:DR)に白血病を合併した増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に関しての報告は少なく,内科的治療と硝子体手術の関係や,手術後の視力予後についてはあまり明らかになっていない.今回筆者らは,白血病治療の状況が硝子体手術の予後に影響したと考えられるCPDRのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:47歳,男性.初診:2016年C4月.主訴:両眼のかすみ,左眼視力低下.既往歴:2型糖尿病(未加療),慢性骨髄性白血病(chronicmyeloidleukemia:CML),橋本病,高尿酸血症.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2014年の会社検診で高血糖を指摘されていたものの放置していた.2016年C3月下旬に両眼のかすみと左眼視力低下を自覚し,近医を受診したところ,左眼硝子体出血と右眼の散在性の網膜内出血,Roth斑様所見を認めた.典型的なCDRの所見ではなかったため内科受診を指示され,4月上旬に大阪医科薬科大学附属病院(以下,当院)血液内科での採血でCCMLが疑われ,HbA1c11.7%とコントロール不良のC2型糖尿病も認めた.4月中旬の近医眼科再診時に左眼視力が指数弁まで低下しており,左眼眼圧C38CmmHgと高値で血管新生緑内障を認めたため,4月下旬に当院眼科(以下,当科)紹介受診した.初診時採血結果:白血球数C156.4C×103/μl,赤血球数C454C×104/μl,ヘモグロビン量C11.9Cg/dl,血小板数C470C×103/μl,白血球分画は芽球C2.0%,前骨髄球C1.0%,骨髄球C26.5%,後骨髄球C3.5%,桿状核好中球C32.5%,分葉核好中球17.0%,単球C0.5%,好酸球C2.5%,好塩基球C9.5%,リンパ球C5.0%であり,白血球の著明な増多と幼若化,血小板の増加を認めた.また,HbA1c11.7%と高値でクレアチニン0.75Cmg/dl,血中尿素窒素C9Cmg/dl,eGFR91Cml/min/1.73Cm2と腎機能障害は認めなかった.初診時眼所見:視力はCVD=0.06(0.2C×sph.7.00D(cylC.1.00DAx180°),VS=30Ccm/m.m(n.c.)で,眼圧は右眼15CmmHg,左眼C33CmmHgであった.前眼部は右眼に軽度白内障を認め,左眼は軽度白内障に加えて虹彩炎,虹彩新生血管を認めた(図1).眼底はCDRには非典型的なCRoth斑を伴う散在性の眼底出血を認め,左眼は硝子体出血により透見不良であったが,増殖性変化を認めた(図2).また,術前超音波検査CBモードでは,左眼に後部硝子体腔の出血と下方に扁平な牽引性網膜.離を疑う像を認め(図3),術前蛍光造影(fluoresceinangiography:FA)では,左眼は硝子体出血のため撮影できなかったが,右眼は上鼻側・下鼻側を中心に新生血管を認め,網膜全体に無灌流領域も認めた(図4).経過:翌日に血液内科でCCMLの確定診断となり,内科治療が開始された.当科初診時は白血病のコントロールは不良であったため,まず左眼の血管新生緑内障に対して抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬治療施行予定としたが,本人の費用負担困難のため消炎目的にステロイド結膜下注射を施行した.徐々に消炎し眼圧下降も認めたが,左眼硝子体出血は残存していたため,5月に経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanaCvitrectomy:PPV)および白内障手術を施行した.術中は増殖膜の範囲が広く,とくに鼻側は癒着が強固で,双手法での膜処理中に多数の医原性裂孔を生じた.また,術中の出血が易凝血性でその処理にも苦慮した.術中網膜.離が胞状に拡大したため,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展し,人工的後部硝子体.離作製および増殖膜処理を続行したが,赤道部から周辺側は硝子体が残存した.気圧伸展網膜復位術後に裂孔周囲と後極を除く網膜全体に汎網膜光凝固を施行し,最後にシリコーンオイルタンポナーデを行い,手術を終了した.術後は眼圧上昇を認め,計C4回の前房穿刺を施行したが,眼圧コントロール不良であり,大量の前房出血もきたしていたため,6月にC2度目の左眼CPPVを施行した.まず前房洗浄とシリコーンオイル抜去を行い,眼内レンズは下方に脱臼していたため摘出した.眼底は網膜前面に厚い黄色調の凝血塊を広範囲に認めたが,癒着が強固であったため双手法でも完全に除去することは困難であり,周辺部の人工的後部硝子体.離作製も不完全なまま,最後にシリコーンオイルを再注入し手術を終了した.しかし,その後もシリコーンオイル下で出血が持続し,前房出血と角膜染血症のため眼底透見不能となった.3回目の手術も考慮したが,患者がこれ以上の手術治療を希望しなかったため,経過観察とした.その後左眼は前眼球癆の状態となった.右眼は計C3回の網膜光凝固術を施行(合計C1,000発照射)し経過をみていたが,7月に硝子体出血を認めた.内科治療に関してはC7月時点でCCMLは寛解となり,糖尿病もCHbA1c5.7%とコントロール良好となっていた.血液検査結果は白血球数C5.64C×103/μl,赤血球数C474C×104/μl,ヘモグロビン量C12.3Cg/dl,血小板数C191C×103/μl,白血球分画は芽球0%,前骨髄球C0%,骨髄球C0%,後骨髄球C0%,桿状核好中球C0%,分葉核好中球C67.5%,単球C8.0%,好酸球C0.5%,好塩基球C0.5%,リンパ球C23.5%であり,左眼初回手術時よりも改善していた.右眼硝子体出血は改善を認めなかったため,PPVを施行した.左眼同様に線維血管性増殖膜を広範囲に認め,左眼同様鼻側を中心に後部硝子体は未.離かつ癒図1初診時前眼部写真a:右眼.軽度白内障を認める.明らかな炎症初見は認めない.Cb:左眼.軽度白内障,虹彩炎を認める.Cc:左眼虹彩.虹彩新生血管を認める.Cab図2初診時眼底写真a:右眼.糖尿病網膜症には非典型的なCRoth斑を伴う散在性の眼底出血(△)を認める.Cb:左眼.硝子体出血により透見不良であるが,増殖性変化を認める.図3左眼術前超音波検査Bモード硝子体出血,網膜.離を疑う像を認める.図4右眼術前蛍光造影写真上鼻側・下鼻側を中心に新生血管を認め,網膜全体に無灌流領域を認める.b図5右眼術後画像a:眼底写真.汎網膜光凝固術を施行し,再出血は認めなかった.Cb,c:網膜光干渉断層写真.術後経過良好であり,矯正視力はC0.7まで改善した.着が強固であったため,双手法で慎重に膜処理を行った.術中の出血は左眼のように易凝血性ではなく,比較的処理しやすく,術中医原性裂孔も形成しなかった.人工的後部硝子体.離作製は周辺部までほぼ完遂でき,汎網膜光凝固を追加し,タンポナーデなしで手術を終了した.その後の経過も良好で,右眼矯正視力はC0.7に改善した(図5).II考按白血病における眼病変は,白血病細胞の直接浸潤によるもの,貧血,血小板減少,白血球増多などの造血障害によるもの,中枢神経白血病に二次的に生じるもの,に大別される.白血病細胞の直接浸潤による眼病変としては,網膜浸潤による大小さまざまな網膜腫瘤2)や,脈絡膜への浸潤による二次的な網膜色素上皮障害の結果生じた漿液性網膜.離3,4)や,血管周囲への浸潤による静脈周囲の白鞘化5)などがみられることがある.そのほか造血障害により網膜出血,Roth斑,軟性白斑,網膜血管の拡張・蛇行,毛細血管瘤,新生血管,網膜静脈閉塞症,硝子体出血などが2,3,6)生じることがあり,中枢神経白血病により二次的に乳頭浮腫や視神経萎縮などの視神経症が生じることもある5).また,前眼部病変としては,結膜充血や虹彩実質の菲薄化,虹彩異色,虹彩腫脹,偽前房蓄膿など多彩な病変をきたすことがある7).治療は内科的な白血病治療が主体であり,眼病変は全身状態と相関することも多いことから,治療や再発の指標となることが多いとされている8).DRと白血病の合併に関しては,DRに白血病が合併した場合,網膜症が増悪しやすいことが報告されている1,9.11).ChawlaらはCCMLを合併したC6例を報告し,3例は糖尿病発症時にCCMLの診断がついていたが,3例はCPDRの診断後にCCMLが判明したとしている.そして,6例C12眼ともにCPDRに進行し,うちC4眼が血管新生緑内障を併発し予後不良であったとしている1).Figueiredoらは糖尿病とCCMLを合併したC55歳,男性が,良好な血糖コントロールにもかかわらず,中等度の非CPDRから急速に両眼のCPDRおよび血管新生緑内障に進行したと報告している9).Melbergらはインスリン依存性の糖尿病をC9年間患っていたC16歳,女性が,急性リンパ性白血病を併発した後,6カ月という短期間に重度のCPDRへと進行し,失明に至ったと報告している10).網膜症増悪の原因としては,糖尿病,白血病ともに微小血管障害を生じるため,合併した場合に血管閉塞が増悪し,さらに貧血による組織の低酸素状態が関連すると考えられている.したがって,糖尿病の血糖コントロールに見合わないDRの急速な進行を認めた場合には,採血などによる全身精査を行い,白血病を伴う場合には,内科・眼科双方からの迅速かつ積極的な治療介入が視力の維持に重要となる.今回の症例では,コントロール不良の糖尿病に加えてCMLを合併し,明らかな貧血は認めなかったものの,PDR,白血病性網膜症の双方により重症の増殖性変化が生じたと考えられた.左眼は化学療法開始後早期のCCML寛解前に二度のCPPVを施行したが,増殖性変化が強く,術中の医原性裂孔形成や出血の処理に苦慮した結果,複数回の再手術を要し,最終的に前眼球癆となった.一方,右眼は眼底透見可能であったため,PPV前に汎網膜光凝固術を施行することができ,さらにCCMLと糖尿病の内科的コントロールを行った後に硝子体手術を行い,術後矯正視力がC0.7まで改善した.Raynorらはコントロール不良の糖尿病に加えて,CMLを合併したC61歳,男性が,わずかC1年の間に単純網膜症からCPDRへと急激に進行したが,光凝固治療に加えて,白血病に対する化学療法が,全身状態の改善とともに網膜症の進行抑制にも奏効した可能性を報告している11).これらのことより,初診時の網膜症重症度の左右差や,右眼では術前に汎網膜光凝固術を施行できたことも視力予後が良好となった一因と考えられる.CMLを合併したCPDRに対して硝子体手術を施行する際には,内科的治療により血液検査所見および全身状態を改善させたうえで手術を施行したほうが,良好な手術成績が期待できる可能性が示唆された.文献1)ChawlaCR,CKumarCS,CKumawatCDCetal:ChronicCmyeloidCleukaemiaacceleratesproliferativeretinopathyinpatientswithCco-existentdiabetes:ACriskCfactorCnotCtoCbeCignored.EurJOphthalmolC31:226-233,C20192)原雄将,嘉村由美,及川亜希ほか:両眼視力低下を契機に診断された小児慢性骨髄性白血病のC1例.日眼会誌C114:459-463,C20103)渡辺美江,西岡木綿子,川野庸一ほか:漿液性網膜.離を初発症状とした急性骨髄性白血病のC1例.あたらしい眼科C14:1567-1570,C19974)KincaidCMC,CGreenWR:OcularCandCorbitalCinvolvementCinleukemia.SurvOphthalmolC27:211-232,C19835)柳英愛,高橋明宏,加藤和男ほか:慢性骨髄性白血病に伴う網膜症のC1例.眼臨82:735-757,C19886)大越貴志子,草野良明,山口達夫ほか:血液疾患における眼底所見について.臨眼43:239-243,C19907)若山美紀,稲富勉:白血病細胞による虹彩浸潤病巣.あたらしい眼科22:337-338,C20058)木村和博,園田康平:内科医のための眼科の知識.日本臨床内科医会会誌26:242-245,C20119)FigueiredoCLM,CRothwellCRT,CMeiraD:ChronicCmyeloidCleukemiaCdiagnosedCinCaCpatientCwithCuncontrolledCprolif-erativeCdiabeticCretinopathy.CRetinCCasesCBriefCRepC9:C210-213,C201510)MelbergCNS,CGrandCMG,CRupD:TheCimpactCofCacuteClymphocyticCleukemiaConCdiabeticCretinopathy.CJCPediatrCHematolOncolC17:81-84,C199511)RaynorCMK,CCloverCA,CLu.AJ:LeukaemiaCmanifestingCasCuncontrollableCproliferativeCretinopathyCinCaCdiabetic.Eye(Lond)C14:400-401,C2000***

基礎研究コラム59.網膜色素上皮の代謝機能と加齢黄斑変性

2022年4月30日 土曜日

網膜色素上皮の代謝機能と加齢黄斑変性成松俊雄網膜色素上皮と加齢黄斑変性加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は先進国を中心に失明原因の上位を占め,患者数も増加傾向です.抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法の確立により滲出型CAMDの病状の改善が図れるようにはなりましたが,萎縮型を含めその予防や根治が可能な治療法はまだ報告されていません.AMDの病態からは,網膜色素上皮(retinalCpigmentCepi-thelium:RPE)が病態の主座である可能性は高そうです.RPEの加齢性変化は一般に光曝露により発生,進行すると考えられています.すなわち光曝露により視細胞外節がRPEで代謝され,RPE内でリポフスチンが蓄積し,脂質の沈着と過酸化が起こり,酸化ストレスが発生し,RPEが機能・形態学的に障害され,軟性ドルーゼン蓄積などのCAMD前駆病変が生じる,という説です.光曝露とRPEの代謝機能RPEや網膜の光曝露については,これまで数多くの研究成果が報告されています.現在のところ光障害については酸化ストレスの関与は確かなようですが,下流の分子機構については決定打がない状況です.筆者の実験動物を用いた研究では,RPEにおける光障害では酸化ストレスの下流ではCRho/Rho-associatedCcoiled-coilCcontainingCproteinCkinase(Rho/ROCK)シグナル伝達経路が関与していました1).視細胞の光障害についてはアンジオテンシンIIC1型受容体シグナル伝達経路の関与もわかりました.また,生理的強度の光曝露ではCPGC-1Ca/エストロゲン関連受容体C-aシグナル伝達経路が関与するという報告があります2).ただ光曝露された実験動物においてCAMDやその前駆病変に似た組織像を模倣することはむずかしい状況です.このような状況を踏まえると,やはりCRPEのより詳細な機能と病態の解明が重要と考えられます.RPEのおもな機能としては貪食,ロドプシン再生(視覚サイクル),VEGF分泌による脈絡膜毛細血管保持,Bruch膜リモデリングなどがあります(図1).また,ドルーゼンが脂質を多く含むことから,脂質とその代謝機構の研究も盛んです.RPEや視細胞,マクロファージへの遺伝子操作で脂質代謝を阻害するとAMD様変化を生じうるという報告や,RPE内のオートファジー異常による脂質代謝機構への影響3),脂質メディエーターの網膜光障害への関与などが報告されています.臨床応慶應義塾大学医学部眼科学教室,CMassachusettsEyeandEarIn.rmaryC網膜色素上皮(RPE)外節代謝→脂質沈着→過酸化→RPE障害→AMD変化図1加齢黄斑変性への関与が目されるおもな網膜色素上皮(RPE)の機能網膜色素上皮は視細胞貪食能,視細胞との間での視覚サイクルの循環,細胞内での脂質代謝などでの恒常性維持,といった機能をもつ.加齢黄斑変性の原因がこのいずれか単独の障害なのか,複合的なのかは現時点では未知であり,その早期解明が待たれる.用に至る新機構の解明には至っていませんが,今後の発展が期待されます.今後の展望AMDの加療や予防においてCRPEの代謝機構とその異常は有力な研究対象と目されますが,今現在は臨床応用に至る成果は得られていません.今後一層の知見の蓄積と研究の進展によって,この表現型の多彩な疾患について,より有効な治療法や予防法が発見されることが望まれます.文献1)NarimatsuCT,COzawaCY,CMiyakeCSCetal:DisruptionCofCcell-cellCjunctionsCandCinductionCofCpathologicalCcytokinesCinCtheCretinalCpigmentCepitheliumCofClight-exposedCmice.CInvestOphthalmolVisSciC54:4555-4562,C20132)UetaT,InoueT,YudaKetal:IntensephysiologicallightupregulatesCvascularCendothelialCgrowthCfactorCandCenhanceschoroidalneovascularizationviaperoxisomepro-liferator-activatedCreceptorCgcoactivator-1ainCmice.CArteriosclerThrombVascBiol32:1366-1371,C20123)NotomiCS,CIshiharaCK,CEfstathiouCNECetal:GeneticCLAMP2Cde.ciencyCacceleratesCtheCage-associatedCforma-tionCofCbasalClaminarCdepositsCinCtheCretina.CProcCNatlCAcadSciUSA116:23724-23734,C2019(93)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4850910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:227.分層黄斑円孔に対する硝子体手術(初級編)

2022年4月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載227227分層黄斑円孔に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに分層黄斑円孔(lamellarmacularhole:LMH)は従来,硝子体手術の適応外と考えられてきたが,近年,LMHにしばしばみられるClamellarChole-associatedCepiretinalproliferation(LHEP)を.離したあと,円孔内に埋没し,さらに内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)でその上を被覆することで,中心窩の形態が改善し,視力も向上することが報告されている1).C●症例提示75歳,男性.左眼は光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)でCLMHの所見を呈し,円孔縁の網膜表面には感覚網膜とやや輝度の異なる膜状陰影を認めCLHEPと診断した(図1).矯正視力はC0.3であった.白内障手術後に硝子体を切除した.ダイアモンドスクレイパーでCLMH周囲のCLHEPを.離(図2)したあと,中心窩周囲に集めてトレミングした.次にCBBGを塗布してCLMH周囲のCILMを染色し,上方半分のCILMを.離してChemi-inverted.ap法としてCLMH上に被覆した(図3).その後,液空気置換を施行し手術を終了した.術後COCTで中心窩の形態は改善し(図4),矯正視力は0.8に向上した.C●LHEPとはLMHはCLMHの発症機序やその予後を考慮するうえで重要な特徴的所見とされている2).OCTで,網膜表層に感覚網膜とは異なったやや輝度の薄い陰影を認め,通常の黄斑上膜よりもやや厚いのが特徴である.LHEPは中心窩の黄斑色素に由来すると考えられている3).C●LHEPを伴うLMHに対する硝子体手術TakahashiらはCLHEPを伴うCLMHに対して,LHEPを.離後円孔内に埋没し,さらにCILMを反転してその図1術前の左眼OCT所見LMHの所見を呈し,円孔縁の網膜表面には感覚網膜とやや輝度の異なる膜状陰影を認めた.図2術中所見(1)LHEPをダイアモンドスクレイパーで.離し,LMH周囲に集めた.図3術中所見(2)BBGを塗布して内境界膜を染色し,hemi-inverted.ap法としてCLMHの上に被覆した.図4術後の左眼OCT所見中心窩の形態は改善し,視力も向上した.上に被覆する方法で中心窩の形態と視覚機能が改善し,本術式がCLMHに対する有効な治療法となりうることを報告している1).このCLHEPの部位にそのような再生能力をもつ細胞が存在するかは今後の検討課題であるが,この新しい術式で得られる所見は,中心窩の神経新生を考えるうえでも興味深い知見と考えられる.文献1)TakahashiCK,CMorizaneCY,CKimuraCSCetal:ResultsCofClamellarCmacularChole-associatedCepiretinalCproliferationCembeddingCtechniqueCforCtheCtreatmentCofCdegenerativeClamellarCmacularChole.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC257:2147-2154,C20192)ComperaCD,CEntchevCE,CHaritoglouCCCetal:LamellarChole-associatedCepiretinalCproliferationCinCcomparisonCtoCepiretinalmembranesofmacularpseudoholes.AmJOph-thalmolC160:373-384,C20153)ObanaCA,CSasanoCH,COkazakiCSCetal:EvidenceCofCcarot-enoidCinCsurgicallyCremovedClamellarChole-associatedCepiretinalCproliferation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:C5157-5163,C2017C(91)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4830910-1810/22/\100/頁/JCOPY

考える手術:難治性緑内障へのロングチューブ手術

2022年4月30日 土曜日

考える手術④監修松井良諭・奥村直毅難治性緑内障へのロングチューブ手術三浦悠作高知大学医学部眼科学講座わが国ではロングチューブ手術として2012年にバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI),2014年にアーメド緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)が難治性緑内障に対して適応となりました.ロングチューブ手術はチューブを介して眼球後方へと濾過された房水がプレート周囲に形成された被膜に吸収されることで眼圧が下降します.従来のtrabeculectomyでは眼圧下降維持が困難である結膜瘢痕の強い症例や血管新生緑内障に対しても有効です.ロングチューブ手術の手術件数は増加傾向にあ縫合です.結膜切開はBGIでは120°,AGVでは90°の切開が必要です.子午線方向への結膜切開を長くしすぎると,切開した結膜が治癒する過程で直筋と癒着し,術後眼球運動障害を生じる可能性があります.Tenonと強膜を鈍的に.離し,プレート固定部位のスペースを確保します.直筋の上にプレートを固定すると術後眼球運動障害が生じるため,斜視鈎で確実に直筋の位置を確認し,BGIでは2直筋下,AGVでは2直筋間にプレートを挿入します.プレートは角膜輪部から9~10mmの位置でナイロン糸などの非吸収糸で固定します.チューブは前房または毛様溝,硝子体腔に挿入し,非吸収糸で強膜に固定します.術後のチューブ露出を予防するために,自己強膜や保存強膜でチューブを被覆します.自己強膜を使用する場合は強膜トンネルや強膜弁を作製し,保存強膜を使用する場合は適度な大きさにトリミングして使用します.最後に結膜を吸収糸で縫合し,ステロイドの結膜下注射またTenon.下注射を行います.聞き手:BGIとAGVの違いは何でしょうか?また,ります.それを予防するために吸収糸によるチューブ結どのように使い分けるのがよいでしょうか?紮が必須ですが,吸収糸が融解するまでの間は眼圧下降三浦:もっとも大きな違いは調圧弁の有無です.AGVが得られないため,チューブに針で穴を空けて房水を適はプレートとチューブの接合部に2枚のシリコーン膜か度に濾過するためのSherwoodslitを作製する必要があらなる調圧弁があるため,術後低眼圧が生じにくいでり,手術手技はAGVに比べて少し煩雑になります.す.BGIは調圧弁がないため,プレート周囲に結合組織プレートの面積はBGIが350mm2,AGVが184mm2の被膜が形成されるまでの術後1カ月程度は低眼圧になであり,プレートの面積が大きいBGIのほうが長期的(89)あたらしい眼科Vol.39,No.4,20224810910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術な眼圧下降が得られると考えられています.過去のBGIとAGVの比較試験では,BGIはより低い眼圧を得やすく,AGVは低眼圧などの術後合併症が少ないという結果でした.これらの違いを考慮すると,最終的な目標眼圧が低い場合はBGIを選択し,高度な視神経障害のため早急な眼圧下降が必要な場合や唯一眼のため術後合併症を回避したい場合はAGVを選択するとよいと思います.また,無硝子体眼では低眼圧による脈絡膜出血などのリスクも高いため,硝子体手術後や硝子体手術併用の場合でもAGVがよい適応であると考えます.聞き手:チューブの挿入位置にはどのような違いがありますか?三浦:チューブの挿入位置は,前房,毛様溝,硝子体腔の3種類があります.挿入位置による眼圧下降効果の違いははっきりしませんが,チューブと角膜内皮の距離があるほど角膜内皮障害が生じにくいと考えられています.前房挿入では,角膜輪部から約1.5mmの位置で虹彩と平行にチューブを挿入します.チューブ先端が角膜内皮に接触すれば角膜内皮障害が生じ,虹彩に接触すれば虹彩炎やチューブ閉塞が生じるため,慎重に行う必要があります.偽水晶体眼・有硝子体眼では,角膜内皮障保護の点から毛様溝挿入が第一選択となります.角膜輪部から約2mmの位置で,虹彩や眼内レンズと平行にチューブを挿入します.チューブは柔軟なシリコーン製であるため,ときにチューブ先端が硝子体腔に入ってしまうことがあります.それを避けるために,チューブ先端をベベルダウンにトリミングしたり,チューブ内にナイロン糸を通して腰がある状態にしてから挿入する方法などがあります.他の二つの挿入位置に比べると挿入手技の難易度はやや高いです.硝子体手術を併用する場合や硝子体手術の既往がある場合は,角膜内皮障保護また挿入手技の容易さの点から硝子体腔挿入が第一選択となります.トリミングしたチューブを角膜輪部から約4mmの位置で硝子体腔に挿入します.硝子体がチューブ先端に嵌頓すると眼圧下降は得られません.そのため以前に硝子体手術の既往があったとしても,再度,周辺部硝子体が残存していないかを確認するほうがよいと思います.聞き手:プレートの固定位置はどこがよいでしょうか?三浦:耳上側が第一選択となります.上方への固定は,下方に比べて眼瞼とチューブ被覆した強膜との摩擦が少なく,チューブが露出しにくいです.また,保存強膜を482あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022使用する場合,保存強膜の白さが術眼の強膜よりも目立つため,眼瞼に覆われる上方に固定するほうが整容的によいです.また,耳側は手術の際のworkingspaceを広く確保できます.鼻上側にプレートを固定すると上斜筋の運動障害を生じやすいため避けるほうがよいです.AGVのプレートは縦方向に長いため,鼻下側に固定する場合,プレート後端が視神経へ接触する可能性があり,それを避けるために角膜輪部から約8mmの位置で固定するほうが安全です.よって,プレートの固定位置は,耳上側>耳下側>鼻下側>鼻上側の順に推奨されます.聞き手:ロングチューブ手術に特有な合併症であるチューブ露出はどのように予防すればよいでしょうか?三浦:チューブ露出を避けるためには,自己強膜か保存強膜によるチューブの被覆が必須となります.保存強膜はより厚みがあるため自己強膜よりチューブ露出しにくいですが,事前に用意をする必要があります.また,下眼瞼よりも上眼瞼のほうが強膜との摩擦が少なく,チューブが露出しにくいとの報告があります.チューブ被覆したあとの結膜縫合の際は,チューブをTenon組織で被覆するように縫合することが大切です.多くの場合,術中にTenon組織は円蓋部側へと後退してしまうので,開瞼器や制御糸をゆるめた状態でTenon組織を角膜輪部付近まで確実に引っ張り出す必要があります.なお,BGIの硝子体腔挿入用のHo.mannelbowは大きく,厚みがあるため,眼瞼との摩擦によって露出しやすく,使用は避けるほうがよいと考えます.聞き手:ロングチューブ手術を行う際のコツはありますか?三浦:患者の多くは高齢者で,プロスタグランジン関連薬の使用歴があります.加齢やプロスタグランジン関連薬の副作用による眼窩脂肪組織の減少,それに伴う上眼瞼溝深化によってプレートの固定に難渋することがあります.その際は,角膜輪部から9~10mmの位置で先に運針を行い,その運針した非吸収糸をプレート固定用の穴に通してからプレートを挿入すると,簡便にプレートを固定できます.また,毛様溝にチューブを挿入する際のチューブの適切な長さは,非散瞳下ではチューブ先端が見えず,散瞳下ではチューブが見える長さが理想的だと思います.そのため,チューブをトリミングしてから毛様溝に挿入するのではなく,チューブを挿入したあとに眼内でチューブを適切な長さにトリミングするほうが確実に理想的なチューブの長さにすることができます.(90)

抗VEGF治療:安全・迅速な抗VEGF薬硝子体内注射のコツと注意点

2022年4月30日 土曜日

●連載118監修=安川力髙橋寛二98安全・迅速な抗VEGF薬硝子体内注射塩瀬聡美九州大学大学院医学研究院眼科学分野のコツと注意点抗CVEGF薬が最初に認可されてからC13年が経過したが,その適応疾患の拡大とともに,各診療施設での抗VEGF薬硝子体内投与の頻度は年々増加しており,今後も増加していくことが予想される.そのような状況下で,安全かつ迅速に投与を行っていくことは,今後の眼科診療において大変重要であると考えられる.はじめに硝子体内注射(intravitrealinjection:IVI)の手技は,抗菌薬,抗ウイルス薬,ステロイドの投与に用いられていたが,抗CVEGF薬の登場以来,頻度が急増している.理由の一つとして,最初に適応が認められた滲出型加齢黄斑変性だけでなく,近視性脈絡膜新生血管,網膜静脈閉塞や糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫など,適応疾患が広がっていることがあげられる.もう一つの理由は,抗VEGF薬はC1回投与すれば終わりではなく,患者の病態にあわせた複数回の投与が必要となることである.AMDでは加齢に伴う病勢の再発で,数年にわたり投与を続ける患者も少なくない.そうなると,各診療施設でIVIを行う患者は増える一方であり,今後もさらに増加していくと考えられる.多数の患者を診察する施設では,IVIの時間が他の診療時間を逼迫していくことになりかねない.今回は忙しい外来の間に行う,安全,かつ迅速なCIVIのコツと注意点について考えてみたい.実際の手順当初は手術室で施行する施設もあったが,最近は外来の処置室で行う施設も多い.大きな施設ではどこも同様と推察されるが,当院CAMD外来でも午前中にC5.60名の抗CVEGF薬投与を行うため,毎回手術室を使用していては診療が終わらない.処置台と顕微鏡がC1台しかないので,医師の入れ替わりの時間を省略すべく,その日の注射担当医C1名がすべてのCIVIを行い,効率をあげている.診察医と注射担当医が異なることで取り違えがないよう,投与眼,薬剤を診察医が明記したオーダー表をもとに,スタッフ,注射担当医による数回の確認を行うようにしている.実際の手順を記す.1.診察医のオーダー表をもとに薬剤を準備しておく.スタッフ,医師はマスク,滅菌手袋をする(図1).2.患者入室時に氏名,投与眼,薬剤を確認.注射眼側のスタッフ①が顔の横にガーゼをはる.反対側のス(87)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1硝子体内注射施行時の様子1人の医師がその日のすべての硝子体内注射を行う.医師,スタッフはマスク,滅菌手袋をする.タッフ②が医師にポピドンヨード付き綿棒を渡す.医師が眼周囲を消毒.スタッフ②が開瞼器を渡す(図2).3.開瞼器がかかったらスタッフ①がCPAヨード(10%をC6倍希釈)で洗浄,点眼麻酔,洗浄液のかたづけをする.その間スタッフ②が清潔に注射薬を渡し医師が31G針を装着し,投与量を調節する.スタッフ②が綿棒を手渡しながら顕微鏡を入れる.4.注射施行.医師が針と綿棒を廃棄する間に,スタッフ①が抗菌薬の点眼,軟膏挿入を行う(針刺し事故防止のため医師の利き手と反対側のスタッフが行う).5.医師が開瞼器,顕微鏡をはずし,患者退室.この間およそC5分程度.安全性の確保このように迅速に投与を行っていく場合,安全性の確保ということも問題となる.「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」1)に則り,以下の点に注意するよう注射担当医,スタッフに周知している.1.薬剤の取り違え防止のため薬剤ごとに置く場所を変える.2.強膜の損傷,患者の疼痛の軽減のためにC31G(ゲーあたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C479図2硝子体内注射の手順スタッフ①,②は左右から作業を分担しながら,注射が清潔にスムーズに進むよう,医師をサポートする.ジ)注射針を用い,滅菌綿棒で結膜組織を押さえることで急な眼球の動きを抑制している.角膜輪部から3.5.4.0Cmm後方に注射針を刺入するが,位置の確認には綿棒を用いる.綿棒の先端(綿体)の幅がC3.5.4.0mmなので,その一端を輪部にあてこれを目安に針を刺入することで毎回キャリパーを使う手間を省く.3.医原性の網膜裂孔の形成,水晶体の損傷を防ぐため薬液の注入,抜針は緩徐に行う.水晶体損傷は抜針時に多く,0.06%程度と報告されている.4.注射後の眼内炎の頻度はC0.04%程度と報告されており,いったん発症すると急速に視力を低下させるため,もっとも避けなければいけない合併症である.・医師が眼表面の消毒を行う際は,ポピドンヨード付き綿棒で眼瞼縁,睫毛,眼周囲皮膚の順に,鼻側から耳側へとヨードを塗布する.・PAヨード洗浄の際に患者に上下左右に眼を動かしてもらうことで,結膜.内全周にくまなく液が行きわたるようにする.・滅菌のディスポーザブル開瞼器(EzSpec,HOYA)を使用し,睫毛ができるだけ術野からはずれるようにかけ,注射針が刺入時睫毛に接触しないよう注意する.・IVI後の硝子体脱出は眼内炎のリスクとなるため,抜針後結膜を滅菌綿棒にて軽く圧迫する.当院のCAMD外来ではこの方法でラニビズマブが認可されたC2008年からC2021年現在までのC13年間でおよそ38,000本超の投与を行っているが,眼内炎の発生はフルオロキノロン耐性菌によるC1例(0.002%)のみである.この患者は両眼のCAMDに対する毎月投与のため,真面目にフルオロキノロン点眼を注射前後C10年にわたって行っていた.注射前後の抗菌薬点眼はその後の眼内C480あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022炎の発症の頻度を下げないとの報告2)があり,術前後の点眼の必要性については見直す必要がある.2020年からの世界的なCCOVID-19の感染拡大以後,マスクの装用が常識となっている状況下で,呼気の気流がマスクの鼻部分の隙間から頬部に至り,口腔内常在菌が眼のほうに散布されるとの報告がある3).COVID-19流行の前後でCIVI後の眼内炎の発症率に差はない,とは報告されているものの,筆者らは注射時に患者マスクは鼻から口のほうに下げてもらい,気流による術野や針先の汚染を防ぐようにしている.おわりに抗CVEGF薬のCIVIによる眼疾患のコントロールは眼科領域において大変重要であり,今後も次々と新薬が市場に出回ることが期待される.また,近年の高齢者人口の増加,生活習慣病の増加により,抗CVEGF薬投与を受ける患者は今後爆発的に増加していくことが予想される.そのような状況のなか,合併症なく安全に,そして迅速にCIVIを行うシステムを各施設で作っていくことが,今後重要になってくると思われる.文献1)小椋祐一郎,高橋寛二,飯田知弘ほか:日本網膜硝子体学会硝子体注射ガイドライン作成委員会:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,C20162)Benoistd’AzyC,PereiraB,NaughtonGetal:Antibiopro-phylaxisCinCpreventionCofCendophthalmitisCinCintravitrealinjection:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CPlosCOne11:e0156431,C20163)HadayerCA,CZahaviCA,CLivnyCECetal:PatientsCwearingCfacemasksduringintravitrealinjectionsmaybeathigherriskofendophthalmitisRetinaC40:1651-1656,C2020(88)

緑内障:緑内障患者とのコミュニケーション術

2022年4月30日 土曜日

●連載262監修=山本哲也福地健郎262.緑内障患者とのコミュニケーション術溝上志朗愛媛大学医学部眼科学教室緑内障の治療継続率の改善にはアドヒアランスの向上が欠かせない.エンパワーメントはアドヒアランスを改善させるテクニックであり,非指示的カウンセリングを用いて患者の行動変容をうながす効果が期待できる.●はじめに緑内障患者の治療継続率は1年間で60.9%とされ1),約半数が治療を中断してしまうことが問題視されている.治療を中断しがちな患者側の因子としては,女性よりも男性,高齢者よりも若年者という報告が多い.しかし近年,そのような患者に対する,われわれ医療従事者のコミュニケーションの取り方にも問題があることも指摘されている.そこで本稿では,患者の治療継続率を向上させる鍵となるかもしれない「エンパワーメント」という概念について概説する.●エンパワーメントとはエンパワーメントは,米国の糖尿病患者教育を専門とするRobertAnderson博士により提唱された「患者が疾病を管理するために,自分の潜在能力を見つけだし,使用できるように援助すること」を意味する用語である.従来は「医療者が疾病を管理する」,いわゆるコンプライアンスという考え方が支配的だったが,この方法だと医療者,患者の双方に欲求不満をもたらし,結果として治療継続率が低下することが問題視されてきた2).そのような背景で「患者が疾病を管理する」ように仕向ける,つまりは患者のアドヒアランスを高めることこそが最善の方策であるとの考え方が主流になってきた.つまりエンパワーメントは,患者の行動変容をうながし,アドヒアランスを向上させるためのテクニックともいえる.●患者の行動変化は内的に動機づけられるエンパワーメントにおける基本的な考え方は「患者の行動変化は内的に動機づけられる」2)ことで,医療者はそのサポート役に徹することにある.また,その際には「非指示的カウンセリング」が重要とされている.この非指示的カウンセリングとは,従来行われている指示的カウンセリングとは異なり,面接では患者と対等な人間関係を構築し,患者の声を注意深く傾聴しつつ,適切な質問を繰り返すことが基本となる.このようにして患者の抱えている問題点を言語化し,かつ,その問題点に対する感情へとアプローチすることで,患者自らが問題を解決すべく前向きな「落とし所」を設定することが行動図1エンパワーメントの3要素(85)あたらしい眼科Vol.39,No.4,20224770910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2カウンセリング例(1)図3カウンセリング例(2)変容につながるとされている(図1).図2,3に,点眼を指示通りできておらず,視野の進行が抑制できていない男性患者に対する従来の指示的カウンセリングと,エンパワーメントを意識した非指示的カウンセリングの具体例を示した.●おわりにエンパワーメントは医療分野ばかりでなく,教育や企業経営者の間でも関心が高まりつつある.このコミュニケーション術が普及することで緑内障患者の治療継続率の向上につながる可能性がある.文献1)KashiwagiK,FuruyaT:Persistencewithtopicalglauco-matherapyamongnewlydiagnosedJapanesepatients.JpnJOphthalmol58:68-74,20142)石井均:糖尿病医療学入門─こころと行動のガイドブック.医学書院,2011478あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022(86)

屈折矯正手術:レーシック後の顆粒状角膜ジストロフィ増悪への対処

2022年4月30日 土曜日

●連載263263.レーシック後の顆粒状角膜ジストロフィ増悪への対処監修=木下茂大橋裕一坪田一男宍道紘一郎広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)顆粒状角膜ジストロフィの角膜混濁はレーシックによって増悪する.増悪した角膜混濁の除去に対して複数の外科的治療法の有効性が報告されているが,術後高頻度に発症する角膜混濁再発が大きな問題となる.レーシックを計画する際には,顆粒状角膜ジストロフィの見逃しがないように最大限の注意を払わねばならない.●顆粒状角膜ジストロフィの疾患概念とレーシック2008年に報告されたCIC3D分類1)によると,顆粒状角膜ジストロフィ(granularCcornealdystrophy:GCD)とはCTGFBI遺伝子の異常に起因する角膜ジストフィの一病型であり,さらに三つのサブタイプに分類される.わが国で頻度の高いCGCDtype2(従来のCAvellino型ジストロフィ)はCTGFBI遺伝子のC5q31にあるC124番目のアルギニンがヒスチジンに変異することで生じる常染色体優性遺伝疾患である.角膜実質内に沈着した異常蛋白(ヒアリンとアミロイド)によって顆粒状混濁と,ときに格子状混濁を生じる.GCDtype2は常染色体優性遺伝疾患であり,ヘテロ型の多くは臨床的に軽症であるが,レーシックは同疾患を増悪させることが知られており,IC3D分類には禁忌と明記されている.しかし,見過ごされレーシックを施行されてしまった結果,視力低下をきたす重篤な角膜混濁を発症することがある.この角膜混濁はレーシック創面に沿って生じ(図1),早期にはアミロイドよりもヒアリンの蓄積が顕著である.レーシックによってCGCDが悪化する機序は不明な点が多く,TGF-betaが直接関与しているか否かでさえ議論が分かれている2).しかし,レーシックによる侵襲は角膜実質層に限局することを考慮すると,同層が責任病巣である可能性がきわめて高い.C●レーシック後のGCD増悪への外科的対処法レーシック後に増加した角膜混濁の除去には外科的治療が必要である.いくつかの術式〔フラップを挙上し角膜混濁を徒手的に除去する方法(単純除去),治療的表層角膜切除(phototherapeutickeratectomy:PTK),深層層状角膜移植(deepCanteriorClamellarCkeratoplas-(83)図1LASIK後に増悪した顆粒状角膜ジストロフィtype2の臨床像LASIK施行C7年後に視力低下を訴え,当院を受診した際の前眼部写真(Ca)と前眼部光干渉断層計(OCT)画像(Cb).白色小型の角膜混濁が多発・癒合し,瞳孔領を覆っている.前眼部OCT画像では実質浅層に高輝度ラインが描出されており(),LASIK創面と一致する.(文献C5より引用)ty:DALK),全層角膜移植(penetratingCkeratoplas-ty:PKP)〕が施行されているが,術後予後を述べた報告はごく少なく,そのほとんどが症例報告にとどまる.単純除去はもっとも低侵襲な術式といえるが,既報C2例では術後C5カ月およびC16カ月で視力低下を伴う重篤な角膜混濁を生じている3).PTKについては,Junらが76眼のレーシック後に増悪したCGCDCtype2に対する同術式の術後成績を報告している4).同報告ではCLASIKフラップを挙上しCPTKを施行しているが,その後フラップを温存した群と除去した群に分けて経過を追っている.その結果,術後C3年での角膜混濁の再発率(視力に影響のない微細な再発を含む)はフラップ温存群で88.2%,除去群でC53.6%だった.本文中での記載がないため具体的な数値への言及は避けるが,同報内の図表(角膜混濁再発を死亡と定義したCKaplan-Meier曲線)を見ると,術後C4年時点で除去群でもほぼ全例で角膜混濁が再発したようである.一方で,術後C3年での視力低下を伴う重篤な角膜混濁の再発率は,除去群でC14.3%にとどまった.以上をまとめると,フラップ除去CPTKは再発した角膜混濁の重症化は抑制するが,単純除去やあたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4750910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2LASIK後に増悪した顆粒状角膜ジストロフィtype2に対するDALK術後経過図C1と同眼のCDALK施行C8年後の前眼部写真(Ca)と前眼部OCT画像(Cb).角膜混濁は再発しておらず,グラフトは高い透明性を保っている.(文献C5より引用)PTK(フラップ除去を含む)のような低侵襲な術式では角膜混濁の再発は不可避と考えてよいだろう.C●レーシック後のGCDに対する角膜移植術の予後では,レーシック後に悪化したCGCDに対するCDALKやCPKPなどの角膜移植術の予後はどうだろうか.昨年,筆者らはレーシック後に悪化したCGCDtype2に対してDALKを施行したC2例を報告したが,それぞれCDALK術後6,8年の時点で角膜混濁は再発していなかった(図2)5).角膜実質層が責任病巣であると仮定すると,DALKの際に角膜実質を完全に除去できたことが長期にわたり再発を予防できた要因だと考えられる.実際に,過去に同病態に対してCDALKを施行し実質を完全に除去できなかった自験例では,術後C2年で角膜混濁が再発した(図3).なお,レーシック後に悪化したCGCDに対するCPKPの予後を述べた報告は筆者の知るかぎりないが,確実にホスト実質を完全除去できるため角膜混濁の再発は生じにくいと推察される.しかし,正常な角膜内皮まで除去する点でCPKPは高侵襲である感が否めない.したがって,レーシック後のCGCD増悪に対して角膜移植を行う場合,可能であればまずはCDALKを選択すべきであろう.その際,Descemet膜穿孔を恐れるあまり角膜実質を除去しきれないと,再発につながる可能性があるため注意が必要である.C●おわりにわが国で頻度の高いCGCDtype2を中心に,レーシッ図3DALK後再発例DALKでホスト角膜実質を除去しきれなかったCLASIK後CGCD症例の術前(Ca),術後C1カ月(Cb),23カ月(Cc),34カ月(Cd)時点での前眼部写真.DALKによって角膜混濁は消失したが,術後C2年頃より微細な角膜混濁が再発し,徐々に増悪した.ク後のCGCD増悪への対処法を文献的考察と自験例を交えて解説した.PTKや角膜移植は一定の治療効果が期待できるが,大前提としてCGCD患者にレーシックを施行してはならない.レーシック施行前には入念な細隙灯顕微鏡検査に加え,可能であれば遺伝子検査も行い,見落としをなくすよう最善を尽くすべきである.文献1)WeissJS,MollerHU,LischWetal:TheIC3Dclassi.ca-tionofthecornealdystrophies.Cornea27:S1-S8,C20082)AwwadCST,CDiCPascualeCAD,CHoganCRNCetal:AvellinoCcornealCdystrophyCworseningCafterClaserCinCsituCkeratomi-leusis:furtherCclinicopathologicCobservationsCandCpro-posedCpathogenesis.CAmCJCOphthalmolC145:656-661,C20083)JunCRM,CTcharCH,CKimCTCetal:AvellinoCcornealCdystro-phyafterLASIK.Ophthalmology111:463-468,C20044)JunCI,CJungCJW,CChoiCYJCetal:Long-termCclinicalCout-comesCofCphototherapeuticCkeratectomyCinCcorneasCwithCgranularCcornealCdystrophyCtypeC2CexacerbatedCafterCLASIK.JRefractSurg34:132-139,C20185)ShinjiK,ChikamaT,MaruokaSetal:Long-termobser-vationCofCdeepCanteriorClamellarCkeratoplastyCinCpatientsCwithCpost-LASIKCgranularCcornealCdystrophyCtypeC2:CTwocasereports.OphthalmolTherC10:1163-1169,C2021476あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022(84)

眼内レンズ:低加入度数分節型眼内レンズの不快光視現象の特徴

2022年4月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋425.低加入度数分節型眼内レンズの水戸毅金沢医科大学眼科学講座不快光視現象の特徴低加入度数分節型眼内レンズであるレンティスコンフォートは,レンズ光学部の中間用ゾーンの固定方向と同じ向きに広がって見える扇状の光視現象が特徴的であるが,患者がそれら光視現象を自覚することは少なく,単焦点眼内レンズと同等の不快光視現象の少ない眼内レンズであるといえる.●はじめに低加入度数分節型眼内レンズ「レンティスコンフォート」は,遠用ゾーンと+1.5D加入の中間用ゾーンが非対称・扇形に配置されたdualmonofocalデザインとなっており(図1),その移行部が1本のラインのみで滑らかに接合されており,移行部に起因するエネルギーロスがきわめて少ない.そのためハローやグレアといった不快光視現象が多焦点眼内レンズと比較して生じにくく,単焦点眼内レンズと同程度であるとされる1).●不快光視現象の定量測定方法ハロー,グレア,スターバーストといった不快光視現象の評価方法としては,これまでは患者の記憶に頼るアンケート形式のものであったり,定量的・定性的な評価ができないなどの問題があった.当科で新たに開発したPhoticPhenomenaTest(PPtest)2)は,2m先に光源を提示し,その光源の見え方を手元のiPad上のVision遠用ゾーン中間用ゾーン(+1.5D)図1低加入度数分節型眼内レンズ「レンティスコンフォート」の光学部デザイン遠用ゾーンと+1.5D加入の中間用ゾーンが非対称・扇状に配置されている.Simulatorでリアルタイムに再現してもらうことで不快光視現象を種類別に定量的に評価することが可能である(図2).●レンティスコンフォートの不快光視現象の特徴PPtestを用いてレンティスコンフォート挿入患者の不快光視現象を定量的に評価したところ,従来からいわれているようにハロー,グレア,スターバーストのおのおのについて単焦点眼内レンズとほぼ同等であることが示された.一方で患者の8割以上にレンティスコンフォート特有の扇状に広がる光視現象がみられた(図3).この扇状の光視現象が広がる方向は,挿入したレンティスコンフォートの中間用ゾーンの固定方向と高い確率で一致しており(図4),このユニークな光学部形状に由来したコマ収差が影響している可能性がある.また,軽度近視眼においては,この光視現象が増強する可能性も示されている(図5).ここで重要なことは,レンティスコンフォート挿入患者へのアンケート調査では,この特徴的な扇状の光視現象をはじめとした各種の光視現象について「不満がある」と答えたのはわずかに10%未満であり,夜間運転などを含めた日常生活においてはこ図2PhoticPhenomenaTestの実際の様子2m先の光源を見ながらiPad上のVisionSimulatorで光視現象を種類別に再現させ,定量的に評価することができる.(81)あたらしい眼科Vol.39,No.4,20224730910-1810/22/\100/頁/JCOPY図3各種眼内レンズのPPtest結果a:単焦点レンズ,b:PanOptix,c:Symfony,d:レンティスコンフォート.多焦点レンズであるPanOptixあるいはSymfonyは,単焦点レンズと比較してスターバーストや同心円状に広がるハローがめだつ.一方でレンティスコンフォートはハローやスターバーストは単焦点レンズと同程度であるが,扇状に広がる光視現象が特徴的である.上方正視-0.5D-1.0D耳側鼻側図4トーリックモデルの中間用ゾーンの固定方向別の光視現象(右眼の場合)扇状の光視現象はレンティスコンフォートの中間用ゾーンの固定方向と同じ向きに広がって見える.れら光視現象が不快なものとして自覚されることは少ないということである.また,挿入方向によって光視現象の自覚に差がないことも明らかになっている.●おわりに保険診療で扱うことのできる2焦点眼内レンズである下方図5軽度近視眼の光視現象への影響正視と-0.5Dは光視現象は同等であるが,-1.0Dの場合はやや増強する.ただし運転時などは眼鏡を使用するので支障となることは少ない.レンティスコンフォートは遠方から中間距離までの広い明視域を実現でき,近年トーリックモデルも登場し,さらなる適応の拡大により臨床の場において根強い人気を誇っている.扇状の光視現象はみられるものの,患者が普段それを自覚することは少なく,日常生活に支障をきたすような不快光視現象が少ないということもレンティスコンフォートの大きな魅力であると思われる.文献1)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRep9:13117,20192)UkaiY,OkemotoH,SekiYetal:Quantitativeassess-mentofphoticphenomenainthepresbyopia-correctingintraocularlens.PLoSOne,inpress

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 11.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その4)

2022年4月30日 土曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院11.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その4)■はじめに前回のセミナーではやや工夫を要した遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multi-focalsoftcontactlens:MFSCL)の処方を解説した.とくに乱視が-0.75D以上ある患者にはディセンターデザインのMFSCLを用いたり,乱視の弱いほうの眼にはMFSCLを装用させ,乱視の強いほうの眼にはトーリックSCLを装用させるなどの工夫を要した.しかし,MFSCLトーリックが市販されてから,乱視眼に対するMFSCLの処方は限界はあるもののやや容易になった.■比較的簡単にMFSCLトーリックが処方できた例<処方例1>MFSCLトーリック51歳,女性.主婦.乱視用SCLを使用していたが,近くが見にくくなってきた.・完全矯正屈折値RV=(1.2×sph-2.00D(cyl-2.00DAx180°)利き目LV=(1.2×sph-2.25D(cyl-1.50DAx180°)・使用SCL:メダリスト66トーリックRV:850/-1.75/14.5/cyl-1.75DAx180°LV:850/-2.00/14.5/cyl-1.25DAx180°BV(両眼遠見視力)=(1.2×トーリックSCL)NBV(両眼近見視力)=(0.4×トーリックSCL)・初回処方MFSCLトーリック:2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリック(図1,表1)RV:(860/-1.75/14.2/cyl-1.25DAx180°/+1.0)LV:(860/-1.75/14.2/cyl-1.25DAx180°/+1.0)BV=(1.2×MFSCLトーリック)NBV=(0.6×MFSCLトーリック)以上のように遠近ともに満足のいく視力が得られた.表12WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックの製作範囲球面度数0.00D.-6.00D(0.25Dステップ)-6.00D.-10.00D(0.50Dステップ)加入度数+1.00D円柱度数-0.75D,-1.25D軸180°,90°■片眼の白内障手術後で乱視が強い場合このような場合は,MFSCLトーリックを用いてもかなり工夫を要する.<処方例2>手術眼が非利き目で強い乱視の場合57歳,男性.事務職.MFSCL(エアオプティクスHG・MF)を7年間装用していた.・白内障手術前の矯正視力RV=(1.2×860/-3.25/14.2/Med)利き目NRV=(0.6×MFSCL)LV=(0.8×860/-4.75/14.2/Med)NLV=(0.4×MFSCL)BV=(1.2×MFSCL)BNV=(0.6×MFSCL)視力的には問題ないが,羞明と夜間の運転に支障が出て,左眼の白内障手術を希望.・手術後所見RV=(1.2×860/-3.25/14.2/Med)NRV=(0.6×MFSCL)LV=(1.2×IOL(sph-2.50D(cyl-1.75DAx87°)・術後非利き目の強度乱視眼へのSCL処方:2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックLV=(1.0×IOL×860/-2.25/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0D)NLV=(0.4×MFSCLトーリック)図12WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックのデザインレンズの回転を防ぐために上下が薄く(水色の部位),中間部周辺が厚い(オレンジ色の部位)ダブルスラブオフデザインが採用されている.(79)あたらしい眼科Vol.39,No.4,20224710910-1810/22/\100/頁/JCOPYBV=(1.2×MFSCL・MFSCLトーリック)BNV=(0.6×MFSCL・MFSCLトーリック)非利き目の近見視力はやや落ちるものの,両眼では満足のいく視力が得られた.<処方例3>手術眼が利き目で乱視が強い場合53歳,女性.主婦.MFSCL(バイオフィニティ・トーリック)を15年ほど使用していたが,近見優先で処方されていた.・白内障手術前の矯正視力RV=(0.6×870/-5.25/14.5/cyl-1.25DAx90°)利き目LV=(0.6×870/-4.25/14.5/cyl-0.75DAx90°)BV=(0.6×トーリックSCL)BNV=(0.6×トーリックSCL)視力的な限界と羞明のために白内障手術を希望.・手術後所見RV=(1.2×IOL(sph-2.25D(cyl-1.75DAx95°)LV=(0.6×870/-4.25/14.5/cyl-0.75DAx90°)・術後処方SCL:両眼に2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックRV=(1.2×IOL×860/-2.00/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0)NRV=(0.4×MFSCLトーリック)LV=(0.6×860/-4.00/14.2/cyl-0.75DAx90°/+1.0)LNV=(0.6×SCL)BV=(1.0×MFSCLトーリック)BNV=(0.6×MFSCLトーリック)この処方で満足のいく結果が得られた.この処方はモディファイド・モノビジョン法を用いたものである.■両眼の白内障手術後で乱視が強い場合この場合も,MFSCLトーリックを用いてもかなりの工夫を要する.<処方例4>利き目が強い乱視の場合63歳,男性.事務職.バイオフィニティ・マルチフォーカルを5年間装用していた.・白内障手術前の矯正視力RV=(0.8×860/-5.75/14.0/+1.5)NRV=(0.6×MFSCL)利き目LV=(0.8×860/-6.50/14.0/+1.5)NLV=(0.6×MFSCL)羞明と細かい字が見えにくくなってきたとのことで白内障手術を希望.・手術後所見RV=(0.4×IOL)(1.2×IOL(sph-3.25D(cyl-1.75DAx175°)NRV=(0.8×IOL)LV=(0.6×IOL)(1.2×IOL(sph-2.50D(cyl-0.50DAx185°)NLV=(0.6×IOL)BV=(0.6×IOL)NBV=(0.8×IOL)・IOL眼へのMFSCL処方術後は近見視力優先との希望とのことであったが,やはり遠見が不自由とのことでMFSCLを希望.利き目の乱視が強いため,右眼はMFSCLトーリックの処方を試みた.RV=(1.0×IOL×860/-2.75/14.2/cyl-1.25DAx180°/+1.0)NRV=(0.4×MFSCLトーリック)LV=(0.8×IOL×860/-2.25/14.2/+2.0)NLV=(0.8×MFSCL)BV=(1.0×MFSCLトーリック・MFSCL)BNV=(0.8×MFSCLトーリック・MFSCL)利き目を遠見重視,非利き目を近見重視のモディファイド・モノビジョン法で満足のいく結果が得られた.■おわりにMFSCLトーリックが市販されてから,ある程度は乱視眼に対する遠近両用SCLの処方が容易になった.ただし球面度数がマイナス度数しかなく,円柱度数も-0.75Dと-1.25Dのみで,軸も180°と90°のみである.しかも,加入度数は+1.0Dしかない(表1).そのために,白内障手術後を代表とする強度乱視眼に対する処方には工夫を要することが多い.

写真:偶然発見された若年の顆粒状角膜ジストロフィ 1型

2022年4月30日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦455.偶然発見された若年の顆粒状福岡秀記京都府立医科大学眼科学教室角膜ジストロフィ1型図2図1のシェーマ図1前眼部写真角膜やや瞳孔下方を中心とする実質浅層の線状混濁を認めた.非常に微細な変化であり見逃しやすいので注意を要する.図3フルオレセイン染色所見瞳孔領から内側に混濁に一致するCdarkspotを認める.右は瞳孔領内を拡大したもの.図4レトロイルミネーション機能を用いた角膜混濁像瞳孔下方を中心とする実質浅層の線状混濁が明瞭に観察される.(77)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4690910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は10歳の男児.学校検診で視力低下を指摘され,精査のため近医眼科を受診した.両眼裸眼視力1.2と視力低下を認めないものの角膜に若干の線状混濁があるため,精査目的で当院紹介受診となった.初診時,角膜やや瞳孔下方を中心とする実質浅層の線状混濁を認めた(図1).フルオレセイン染色では混濁に一致する粒状のCdarkspotを認めた(図3).角膜のCintraepi-thelialcystを想起させる所見であったことからCMees-mann角膜ジストロフィを疑い遺伝子検査を施行したが,後日,サイトケラチンC3およびC12の遺伝子には変異が認められなかった.再診受診時,結果の説明を聞くために両親が一緒に来院していたため,両親にも同様の所見があるかを細隙灯顕微鏡検査で調べたところ,母親は異常なく,父親の両眼角膜に顆粒状角膜ジストロフィと思われる所見を認めた.追加でCTGFBI(transformingCgrowthCfactorCbetainduced)遺伝子の変異解析を行ったところ,R555Wのヘテロ接合型変異を認め,顆粒状角膜ジストロフィC1型と診断された.Meesmann角膜ジストロフィは,1939年にドイツの眼科医CAloisMeesmannとCWilkeが病理組織学的特徴を初めて記述した疾患である1).常染色体優性遺伝形式をとり,1997年にサイトケラチンC12またはサイトケラチンC3の変異であることが報告された2,3).両眼対称性に角膜上皮内微小.胞4)をきたす疾患であり,微小.胞は上皮基底部に発生し徐々に表層に移動するとされ,若年では無症状であり,中年期以降では,.胞が角膜表層に移動し点状角膜びらんや再発性角膜びらんに至ると異物感や羞明などの症状が出現する.顆粒状角膜ジストロフィは常染色体優性遺伝形式を示す角膜実質変性で,わが国で多く認められる角膜ジストロフィである.角膜瞳孔領部付近(図4)の上皮下から実質浅層にかけて境界鮮明な小穎粒やリング状の灰白色の混濁をきたす疾患である.病理学的には混濁に一致してヒアリン顆粒の沈着を認める.顆粒状角膜ジストロフィはC1型とC2型(Avellino型)に分類される.1型はTGFBI遺伝子のCR555W変異であり,2型(Avellino型)はCR124H変異である.わが国では大部分がC2型であることが知られている5).本症例は偶然に眼科受診時に発見された若年の顆粒状角膜ジストロフィC1型である.顆粒状角膜ジストロフィは幼少期から角膜変化があるとされているが,無症状であるため診察の機会は非常にまれである.今回はCMees-mann角膜ジストロフィと鑑別を要したが,顆粒状角膜ジストロフィC1型は角膜上皮下に点状沈着や混濁を認めることがあり,その影響で涙液層が菲薄化し,フルオレセイン染色にて粒状のCdarkspotとして観察されたと考えられた.文献1)MeesmannA,WilkeF:KlinischeundanatomischeUnter-suchungenCuberCeineCbisherCunbekannte,CdominantCver-erbteCEpitheldystrophieCderCHornhaut.CKlinischeCMonats-blatterfurAugenheilkundeC103:361-391,C19392)IrvineCAD,CCordenCLD,CSwenssonCOCetal:MutationsCinCcornea-speci.ckeratinCK3orK12genesCcauseMeesmann’Cscornealdystrophy..NatGenetC16:184-187,C19973)NishidaK,HonmaY,DotaAetal:Isolationandchromo-somalClocalizationCofCaCcornea-speci.cChumanCkeratinC12CgeneanddetectionoffourmutationsinMeesmanncorne-alepithelialdystrophy..AmCJHumGenet61:1268-1275,C19974)KlintworthGK:Cornealdystrophies.OrphanetJRareDisC4:7,C20095)WeissJS,MollerHU,AldaveAJetal:IC3Dclassi.cationofCcornealCdystrophies–editionC2.CCorneaC34:117-159.2015.[erratum]CorneaC34:e32,C2015