‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

緑内障診療ガイドライン第 5版のダイジェスト─クリニカルクエスチョンを中心に

2022年4月30日 土曜日

緑内障診療ガイドライン第5版のダイジェスト─クリニカルクエスチョンを中心にDigestontheGuidelinesforGlaucoma5thEdition木内良明*はじめに診療ガイドラインはその時々の診療にかかわる最新の情報をまとめたものであり,診療の「よすが」となる.医療は時とともに進歩するため,ガイドラインも日々改訂改定する必要がある.緑内障診療ガイドラインも2018年1月までに4版を重ねたが1),さらなる改定が必要と考えられて第5版を発表することになった2).第5版のおもな改定点は以下の二つである.1.緑内障診療の進歩に伴い第4版以降に導入された検査,薬物,手術術式(レーザーや観血的手術)に関する記述を追加した.2.緑内障治療に関する重要課題をあげた.課題を疑問文の形にして,その疑問に答えるために論文を集めて,システマティックに評価した.本稿では推奨,推奨の強さ,エビデンスの強さの記載方法は『緑内障診療ガイドライン』(第5版)に準じた2).I作成過程医学の進歩は著しい.診療内容はもちろん,医学研究に要求される事項,診療内容に対する評価方法も進歩している.一方,ガイドラインの作成方法も日々進歩している.ガイドラインの作成方法を示す「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」も定期的に改定されている.現在は「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020ver3.0」が公表されている3)が,緑内障診療ガイドラインの改定には2017年版を利用した.『緑内障診療ガイドライン』(第4版)はその当時の最新情報に「推奨の強さ」と「根拠の強さ」を加えて2018年1月に『日本眼科学会雑誌』に掲載された.『緑内障診療ガイドライン』(第5版)は『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』に従うべく,システマティックレビュー(systematicreview:SR)の結果を取り上げること,SRは治療法にフォーカスを当てることをめざした.今回のガイドラインの改定のために,ノバルティスファーマ株式会社からの研究支援金を使わせていただくことができた.逆にそのために印刷代,送料,謝金などの経費に対する支払い期限があり,当初の予定よりもガイドライン改定の期間が1年以上短縮された.コロナ禍のために関係者が集まって会議を開くこともできず,すべてをWeb会議で決定せざるを得なかった.不慣れな作業であることも相まって,すべての作成過程を『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』に沿うことができなかった(組織立て,外部評価,パブリックコメントなど).クリニカルクエスチョン(CQ)の文章もこなれていない.次回の改定ではさらによい緑内障診療ガイドラインに成長させてもらいたい.IIクリニカルクエスチョンと推奨臨床上重要と思われる課題をクリニカルクエスチョン(CQ)という.CQを設定するために緑内障学会評議員から9名のガイドライン作成グループメンバーが地域*YoshiakiKiuchi:広島大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕木内良明:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学医学部眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(69)461表1重要臨床課題のリスト1高眼圧症の治療を始める基準は?2正常眼圧の前視野緑内障(preperimetricglaucoma:PPG)の治療を推奨するか?3点眼薬で眼圧が10mmHg台前半になっていても視野障害が進行する症例に緑内障手術を推奨するか?4チューブシャント手術を線維柱帯切除術の代わりに推奨するか?5原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)に対する線維柱帯切除術後の副腎皮質ステロイド点眼は推奨されるか?6線維柱帯切除術後の抗菌薬の点眼・軟膏治療はいつまで必要なのか?7POAGに対して線維柱帯切除術を施行する際に白内障手術の併施を推奨するか?8原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)およびその前駆病変としての原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)に対する治療の第一選択は水晶体再建術か,レーザー治療か?9原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspects:PACS)に治療介入は必要か?1妊娠,出産,授乳時のPOAGの薬物治療はどうするか?2線維柱帯切除術の術後管理1第一選択薬で効果が不十分なときは薬剤の追加が必要か?2POAG(広義)の多剤併用において,観血的治療も選択肢として考慮されるタイミングは?3眼圧下降以外に有用な治療(神経保護,血流改善など)は存在するか?ガイドライン統括委員会ガイドライン作成グループシステマティックレビューチーム体制の決定重要臨床課題からクリニカルクエスチョンの設定草案の評価エビデンス収集エビデンス評価・統合推奨作成公開ガイドライン草案作成図1緑内障診療ガイドライン改定委員会ガイドライン統括委員会が体制を決定し,ガイドライン作成グループとともにクリニカルクエスチョンを設定した.ガイドライン作成グループとシステマティックレビューチームがエビデンスの収集,評価・統合を行ったのちに推奨文草案を作成した.その草案をガイドライン統括委員会が評価改善して公開に至った.表2薬物治療にかかわる重要課題BQ1妊娠,出産,授乳時のCPOAGの薬物治療はどうするか?CFQ1第一選択薬で効果が不十分なときは薬剤の追加が必要かC?CFQ2POAG(広義)の多剤併用において,観血的治療も選択肢として考慮されるタイミングは?CFQ3眼圧下降以外に有用な治療(神経保護,血流改善など)は存在するか?CCQ1高眼圧症の治療を始める基準は?CCQ2正常眼圧のCPPGの治療を推奨するか?眼圧下降薬(配合点眼薬を含む)をC3剤併用しても明らかに眼圧のコントロールが不良,あるいは目標眼圧を達成できない時点が,観血的治療も選択肢に含め治療法が検討されているタイミングと考えられた.CFQ3眼圧下降以外に有用な治療(神経保護,血流改善など)は存在するか?交感神経Ca2受容体作動薬(Ca2作動薬),メマンチンなどのCNMDA受容体拮抗薬,カルシウム拮抗薬,シチコリン,カシスアントシアニンなどを扱った研究結果がまとめられている.いくつかの薬剤で神経保護効果を有することが示唆されているが,エビデンスレベルの高い論文は少ない.現時点で眼圧下降以外に臨床的に推奨できるレベルの治療方法はない.CCQ1高眼圧症の治療を始める基準は?①推奨提示高眼圧症患者の治療を開始する基準として,危険因子を有する症例では治療を開始することが推奨される.②推奨の強さ「危険因子を有する症例では治療すること」を強く推奨する.③CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)高眼圧症からCPOAGを発症する危険因子として,年齢が高い,垂直CC/D比が大きい,眼圧が高い,patternstandarddeviation(PSD)が大きい,中心角膜厚(cenC-tralCcornealthickness:CCT)が薄い,視神経乳頭出血の出現があげられる.残念ながら眼圧がどのくらいなら治療開始したほうがよいのかわからない.かかわる因子が多いためと思われる.https://ohts.wustl.edu/risk/に危険因子とされる項目を入力すると症例ごとに危険率が計算できることが紹介されている.CCQ2正常眼圧の前視野緑内障(preperimetricglaucoma:PPG)の治療を推奨するか?①推奨提示正常眼圧のCPPGに対して慎重な経過観察を行ったうえで,危険因子を勘案しながら治療開始を随時検討することを提案する.②推奨の強さ「治療すること」を弱く推奨する③CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)PPGの治療効果を前向きに評価した無作為化比較試験(randomizedCcontrolledtrial:RCT)は一篇もない.正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に関するCRCTで得られた知見はおおむねCPPGにも当てはまると考え,NTGの論文を参考にした.そのため推奨の強さは「弱く」,エビデンスレベルも「弱い」と判定された.PPGは自覚症状や生活の質(qualityoflife:QOL)低下がまだ乏しい病期であることを考えると,治療によるCQOL低下も考慮に入れる必要がある.しかし,PPG症例を対象にして治療によるCQOLの変化をみた論文はなかった.CIV手術治療にかかわる重要課題(表3)C1.手術適応に関する重要課題CQ3点眼薬で眼圧が10mmHg台前半になっていても視野障害が進行する症例に緑内障手術を推奨するか?①推奨提示点眼治療下で眼圧がC10CmmHg台前半にもかかわらず視野障害が進行する症例に対して,線維柱帯切除術を行うことを弱く推奨する.手術自体あるいは術後低眼圧による合併症の可能性があるが,それらに伴うCQOL低下を評価した報告はない.手術に伴うリスクを考慮し,十分な説明を行ったうえで,手術を検討する.②推奨の強さ「実施すること」を弱く推奨する.③CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)点眼薬を使って診察時の眼圧が日本人の平均眼圧と同程度,あるいはそれ以下にコントロールされていても視機能障害が進行する症例があることは広く認識されている.緑内障に対する唯一有効な治療は眼圧下降だけである.線維柱帯切除術を行うと眼圧は平均C11.12CmmHg464あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022(72)表3手術治療にかかわる重要課題CQ3点眼薬で眼圧がC10CmmHg台前半になっていても視野障害が進行する症例に緑内障手術を推奨するか?CCQ4チューブシャント手術を線維柱帯切除術の代わりに推奨するか?CCQ7POAGに対して線維柱帯切除術を施行する際に白内障手術の併施を推奨するか?BQ2線維柱帯切除術の術後管理CCQ5POAGに対する線維柱帯切除術後の副腎皮質ステロイド点眼は推奨されるか?CCQ6線維柱帯切除術後の抗菌薬の点眼・軟膏治療はいつまで必要なのか?CQ8PACGおよびその前駆病変としてのCPACに対する治療の第一選択は水晶体再建術か,レーザー治療か?CCQ9PACSに治療介入は必要か?いという報告がある.白内障手術と緑内障手術の両者が必要な患者に対する考え方を整理する目的でCCQを立てた.眼圧調整成績(術後眼圧,点眼スコア,生存率),合併症の頻度,視力改善についてCSRを行った.エビデンスレベルの高いCRCTやメタアナリシスは存在しないうえに,個々の報告での症例数も少なく,バイアスリスクも深刻と判断し,エビデンスレベルはCDとした.C2.周術期の重要課題CQ5POAGに対する線維柱帯切除術後の副腎皮質ステロイド点眼は推奨されるか?①推奨の強さ「投与すること」を強く推奨する.②CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)POAGに対する線維柱帯切除術後には,ステロイド点眼などの局所消炎治療を行うことが眼圧コントロールに有利であり推奨された.ステロイド点眼と非ステロイド系消炎鎮痛薬点眼に差がないという研究もあるが,一般的に行われるステロイド投与を非ステロイド系消炎鎮痛薬に置き換えるに十分な量,質の研究が行われているとはいえない.施設によって処方期間に差がある.いつまで続けるのかという結論は得られなかった.CCQ6線維柱帯切除術後の抗菌薬の点眼・軟膏治療はいつまで必要なのか?①推奨の強さ「実施すること」を強く推奨する.②CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)抗菌薬の長期投与は耐性菌出現を促す.適正な抗菌薬の使用が求められている現在,必要最低限の使用期間にとどめたいという思いからこのCCQが立てられた.線維柱帯切除術は濾過胞を作製するため,他の眼科手術と異なり,術後早期だけではなく,術後長期にも濾過胞感染を生じる危険性がある.この背景があるために術後しばらくは抗菌薬の点眼・軟膏を継続して使用することが推奨された.期間に関しては濾過胞感染リスクに応じて抗菌薬の点眼・軟膏を適宜使用する.という推奨になった.ステロイドと同様に使用期間に関する答えは得られなかった.C3.原発閉塞隅角緑内障の治療に関する重要課題CQ8原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)およびその前駆病変としての原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)に対する治療の第一選択は水晶体再建術か,レーザー治療か?①推奨提示原発閉塞隅角緑内障CPACGと原発閉塞隅角症CPACに対する第一選択治療は水晶体再建術を強く推奨する.症候性白内障の有無にかからず水晶体再建術を第一選択として選択可能であるが,絶対的な第一選択ではなく個々の患者の状況に応じてレーザー治療を選択する.また,眼圧が正常なCPACについては治療適応を慎重に検討すべきことに留意する.②推奨の強さ「水晶体再建術を施行すること」を強く推奨する.③CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)このCCQに対しては明確な答えが得られている.緊急的にレーザー虹彩切開術(laserperipheralCiridotomy:LPI)またはレーザー隅角形成術(またはアルゴンレーザー周辺虹彩形成術)を施行してから水晶体再建術を行う場合などを想定したCRCTは実施されておらず,この推奨が水晶体再建術をすべての急性CPAC(acutePAC:APAC),PACG,高眼圧のCPACに対する絶対適応の第一選択とすることを意味しない.CEuropeanCGlaucomaCSociety,CAmericanCAcademyCofOphthalmology,AsianPaci.cGlaucomaSocietyのガイドラインはCLPIを含めたレーザー治療を初期治療として選択していることも紹介されている.466あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022(74)

QOLを意識した緑内障診療

2022年4月30日 土曜日

QOLを意識した緑内障診療Let’sTreatGlaucomafromtheAspectofImprovingthePatient’sQOL結城賢弥*はじめにQOLはqualityoflifeの略で,日本語では生活の質などと訳される.ある人がどれだけ人間らしい生活を送り,人生に幸福を見いだしているかともとることができる.また,生きがい,心身の健康,良好な人間関係を得ているかなど,幅広い概念から捉えることも可能である.癌などの治療でいえば,抗癌剤の治療により余命が1年伸びたとしても,生存期間のQOLが著しく障害されてしまう場合は治療しない選択をするなど,生存期間を単に伸ばすだけではなく,人間らしい生活を維持しつつ良好な医学的な結果をもたらすために必要な概念である.I緑内障と運転忌避や交通事故視覚が運転において重要なのは自明の理である.視野狭窄を有する患者が運転してよいか,眼科医であれば何度か質問されたことがあると思う.「運転はやめたほうがいいですよ」というのは簡単な回答である.しかし,運転の制限はQOLの悪化と強く関係しており,運転をやめることは,うつ,介護施設の入所,全体的な健康感の悪化,死亡とつながっているとされている.われわれ眼科医は視機能が悪いと思われる患者に,運転をやめたほうがいいですよというのは過剰なQOLの低下を招く可能性があり,慎重になるべきである.では緑内障患者の交通事故リスクは上昇しているのであろうか?Kwonらは70歳以上の2,000名の運転を行う高齢者の自己責任の交通事故既往を後ろ向きに検討した.その結果,緑内障を有する運転者(n=206)は,非緑内障の運転者(n=1,794)の約1.7倍,交通事故既往が多く,とくに視野障害重篤群では約2.0倍であったと報告している.筆者らは原発開放隅角緑内障患者の過去の交通事故既往を検討し,悪いほうの眼の平均偏差(meandevia-tion:MD)値が-10dB以下の緑内障患者の交通事故経験が25%で,対照群や,初期緑内障群と比較し有意に多かったと報告した1).また,Onoらは運転距離あたりの交通事故件数を検討し,対照群が運転1万kmあたり0.1件であるのに対し,悪いほうの眼が後期緑内障の患者群は2.0件で,有意に運転距離あたりの交通事故件数が多いと報告した(図1)2).ただし,両眼とも後期緑内障の患者群の事故件数は運転1万kmあたり0.1件で対照群と同等であった.われわれは両眼とも後期緑内障患者がもっとも交通事故リスクが高いと考えがちであるが,結果は必ずしもそうではなかった.筆者らはこれを両眼とも後期緑内障の患者はより運転を控えるか,あるいは安全運転を行うためではないかと考えた2).Taka-hashiらは緑内障患者における免許の返納と緑内障の関係を横断的ならびに縦断的に解析検討した.横断研究において過去に免許を返納していた人の割合は対照群において7%(11/148名)であったのに対し,後期緑内障群では31%(5/16名)と有意に多かった(p<0.001).また,3年間,免許の返納を追跡した前向き研究でも対照群の免許返納率は1%(1/80名)であったのに対し,中*KenyaYuki:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕結城賢弥:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(63)455運転1万kmあたりの事故件数0.50対照群初期中期後期253.53.02.52.020運転免許返納率(%)151.51.0105(n=187)緑内障緑内障緑内障MD<-6dB-6dB>MD>-12dBMD<-12dB(n=187)(n=60)(n=47)視野障害の重症度は悪いほうの目で分類図1緑内障重症度と交通事故既往の関係横軸が緑内障重症度,縦軸が運転C1万Ckmあたりの事故件数である.事故件数は,視野が正常な対照群が運転C1万Ckmあたり0.1件であるのに対し,悪いほうの眼が後期緑内障患者はC2.0件と後期緑内障患者で有意に運転距離あたりの交通事故件数が多かった.(文献C2より引用)図3緑内障重症度と交通事故リスクの関係緑内障患者では片眼の緑内障が悪化するだけで交通事故リスクが上昇する可能性がある.両眼とも緑内障が悪化すると運転免許を返納し,夜間や雨天の運転を忌避することで,交通事故リスクを抑制している可能性がある.=0対照群初期中期後期n=80緑内障群緑内障群緑内障群n=152n=22n=11図2緑内障重症度と免許返納の既往との関係横軸が緑内障重症度,縦軸が免許を返納した人の割合である.対照群はC80名中経過観察期間のC3年間にC1名(1%=1/80)が免許を返納したのに対し,良いほうの眼が中期ないし後期緑内障患者群ではC5名(15%=5/33)が免許を返納していた.(文献C3より引用)転倒恐怖感のオッズ比543210対照群初期緑内障中期緑内障後期緑内障(n=293)(MD>-6dB(-6dB>MD>-12dB(MD<-12dBn=313)n=48)n=26)図5緑内障重症度と転倒恐怖感の関係横軸が緑内障重症度,縦軸が転倒恐怖感に対するオッズ比である.良いほうの眼の緑内障が悪化するにつれて,転倒恐怖感をもつ割合が増すことがわかる.図6Vectorvision社製のCSV.1000本製品はコントラスト感度を測定する機器である.一番上の列がC3Ccycles/degree(cpd),2番目の列がC6Ccpd,その下がC12Ccpd,18Ccpdとなっている.コントラストが低くなっていくなかで,どの正弦波まで判別可能かでコントラスト感度を判定する.8.8.7.7.6.8.6.5.7.5.4.6.4.3.20/405.3.2.20/504.2.1.20/703.1.2..20/1001.-ODc.-OSAges20-55Ages56-75SpatialFrequency(CyclesperDegree)8.7.6.5.4.3.2.1..361218図7視力良好な緑内障患者のコントラスト感度と視野本症例は両眼とも矯正視力はC1.2であるが,右眼のコントラスト感度が著明に低下している.患者は右眼では読書や歩行などの日常生活を営むことが困難であると強く感じている.右眼が優位眼のためにCQOLを大きく損ねていると自覚している.図8タイポスコープこのような黒の枠の中に文字を入れることで,白地の眩しさを軽減し,行ずれを防ぐことで読書能力を改善することができるとされている.本製品はC100円ショップで購入した定規の裏側である.■用語解説■コントラスト:コントラストとは,明るい部分と暗い部分との明暗の差とされ,最大輝度-最小輝度/最大輝度+最小輝度で通常は%で示される.基本的には規則的な正弦波状の縞の明暗比をコントラストとしている.たとえば白地の輝度をC500Ccd/mmC2(数字が大きいということは明るい),黒字の輝度をC1Ccd/mmC2(数字が小さいということは暗い)のコントラストはC500-1/500+1×100でC99.6%のコントラストということになる.転倒恐怖感:身体能力が残されているにもかかわらず移動や位置の変化を求める活動を避けようとする永続した恐れと定義されている.以前はCpostfallsyndromeといわれ,転倒により生じるとされていたが,転倒を経験しなくとも転倒恐怖感が生じるとされている.高齢者のCQOLの低下に密接にかかわっている.転倒関連自己効力感:ある状況において必要な行動を転倒することなく,自分がどの程度効果的に遂行できるかという自信.CInformedchoice:説明と選択と訳される.患者が医師から十分な説明を受け,それに基づいた選択肢を提示され,その中から患者が医療における治療などを選択するという考えである.-

緑内障と角膜内皮障害

2022年4月30日 土曜日

緑内障と角膜内皮障害Glaucoma-AssociatedCornealEndothelialDisorders上野盛夫*I角膜内皮と角膜内皮障害角膜内皮は水輸送に関するポンプ機能とバリア機能を有することによって角膜実質の含水率を一定に保ち,角膜の透明性を維持している.健常人の角膜内皮細胞は六角形を主とする多角形細胞で,2,000~3,000個/mm2の密度を保っている.ヒトの角膜内皮細胞の生体内での増殖能は乏しく,Fuchs角膜内皮ジストロフィなどの原発性疾患に加え,炎症や手術などの外的要因により続発性に角膜内皮が障害されると,角膜内皮細胞密度(endo-thelialCcelldensity:ECD)が低下する.わが国では日本角膜学会のワーキンググループがCECDをもとにして角膜内皮障害の重症度分類を定めている1)(表1).本稿では緑内障の病態や治療とかかわる角膜内皮障害(cor-nealCendothelialdamage:CED)のうち,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)角膜内皮炎,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)後CCED,濾過手術に続発したCCEDについて解説する.CIIサイトメガロウイルス角膜内皮炎における眼圧上昇と角膜内皮障害CMV角膜内皮炎はC2006年にわが国から初めて報告された疾患で2),2012年に特発性角膜内皮炎研究班によってCCMV角膜内皮炎診断基準が作成されている3)(表2).CMVは角膜内皮炎のみならず虹彩毛様体炎やCPos-ner-Schlossman症候群などの眼圧上昇を伴う前眼部炎症性疾患を惹起する4).実際,CMV角膜内皮炎患者において続発緑内障を合併し治療に難渋することがある.CMV角膜内皮炎は円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変など特徴的な臨床所見を呈するが,確定診断には前房水ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査によるCCMV-DNA陽性所見が必須である(表2).前房水中ウイルス量と眼圧上昇やECD減少の程度が相関することが報告されており5,6),定量的CPCRによるウイルス量の定量は診断のみならず治療効果の判定にも不可欠である.検査にあたっては専用デバイスを用いた前房水の採取7)と,近年実用化されたマルチプレックスCPCRキットを用いた定量的CPCR検査8)が有用である.CMV角膜内皮炎の薬物治療としてはガンシクロビル(ganciclovir:GCV)による抗CCMV治療が有用で,続発緑内障を合併した際には抗緑内障薬と併用する.しかし,GCVの点滴静注・内服とも適用外であり,またわが国で承認されたCGCV点眼液はなく,施設内倫理委員会の承認のもとC0.5%CGCV点眼液を自家調整して用いている施設が多い.欧米でヘルペス治療薬として承認されているC0.15%CGCVゲル化剤がわが国でも認可されることが期待されている7).薬物治療が奏効しない場合は線維柱帯切開術や線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)を施行する.TLEにおいては後述のようにCCEDの進行が危惧されるが,術後のCECD減少を認めないとする報告もある9,10).これはCTLEによるCCMVの眼外へ*MorioUeno:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕上野盛夫:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(57)C449表1角膜内皮障害の重症度分類正常:角膜内皮細胞密度C2,000Ccells/mmC2以上.正常の角膜の機能を維持するうえで支障のない細胞密度が維持されている.角膜内皮障害(Grade1:軽度):角膜内皮細胞密度C1,000Ccells/mmC2以上C2,000Ccells/Cmm2未満.正常の角膜における生理機能を逸脱しつつある状態.米国アイバンクでは角膜内皮細胞密度がC2,000Ccells/mmC2未満のドナーは角膜移植に不適とされている.また,細胞密度がC2,000cells/mmC2未満になると,その機能を維持するためポンプ機能が亢進されてくるとの報告がある.1,500Ccells/mmC2未満の場合は,コンタクトレンズの装用は控えるか,定期的な観察が必要とされている.角膜内皮障害(Grade2:中等度):角膜内皮細胞密度C500Ccells/mmC2以上C1,000Ccells/Cmm2未満.角膜の透明性を維持するうえで危険な状態.内因性あるいは外因性によるわずかな侵襲が引き金となって水疱性角膜症に至る可能性がある.白内障手術後に水疱性角膜症に至るリスクが増大するため,内眼手術における十分な配慮と術後の経時的な経過観察が必要となる.角膜内皮障害(Grade3:高度):角膜内皮細胞密度C500Ccells/mmC2未満で角膜浮腫を伴っていない状態.水疱性角膜症を生じる前段階である.角膜内皮障害(Grade4:水疱性角膜症):角膜内皮細胞密度が測定不能であり,角膜が浮腫とともに混濁した状態.角膜内皮移植などが必要となる.(文献C1より引用)表2サイトメガロウイルス角膜内皮炎診断基準I.前房水CPCR検査所見①CcytomegalovirusDNAが陽性②CherpessimplexvirusDNAおよびCvaricella-zostervirusDNAが陰性II.臨床所見①小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(コインリージョン)あるいは拒絶反応線様の角膜後面沈着物を認めるもの.②角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,かつ下記のうちC2項目に該当するもの.・角膜内皮細胞密度の減少・再発性・慢性虹彩毛様体炎・眼圧上昇もしくはその既往<診断基準>典型例:Iおよび,II-①に該当するもの.非典型例:Iおよび,II-②に該当するもの.(文献C3より引用)表3レーザー虹彩切開術の3段階照射法StretchBurn半導体レーザー(グリーン)時間パワーCサイズC回数0.2秒200CmW200Cμm5~6発C時間0.01秒半導体パワーC1,000CmWPerforationBurnレーザー(グリーン)サイズC回数50Cμm急性緑内障発作の場合はC100発予防的処置の場合はC30発CYAGパワー5~6CmJレーザー回数1~3発角膜内皮移植術前角膜内皮移植術後図1線維柱帯切除術後の水疱性角膜症に対して角膜内皮移植を施行した一例—

低侵襲緑内障手術の適正使用法

2022年4月30日 土曜日

低侵襲緑内障手術の適正使用法ProperApplicationofMIGS谷戸正樹*I低侵襲緑内障手術とはトラベクロトミーに代表される流出路再建術,トラベクレクトミーに代表される濾過手術,眼球赤道部への房水濾過を図るチューブシャント手術が,現在わが国において施行頻度が高い緑内障手術である.これらの術式にはそれぞれ一長一短があるが,総じていえば,流出路再建術は安全性を重視した術式であり,濾過手術・チューブシャント手術は眼圧下降効果を重視した術式である.従来,初期治療として行われる薬物治療や選択的レーザートラベクロプラスティと,高い眼圧下降を期待して行われるトラベクレクトミーの間には,効果と安全性のバランスに大きなギャップがあるため,観血手術の選択が遅れ気味になるという問題点があった.低侵襲緑内障手術(MIGS)は,低侵襲(minimally-invasiveCglaucomasurgery),小切開(micro-incisionalCglaucomasurgery)を特徴とする一連の術式で,侵襲の低い治療と効果の高い治療の間を埋める適応(middle-indicationCglaucomasurgery)を有する眼圧下降治療として登場した一連の緑内障術式と捉えることができる(図1,表1).CII術式の分類わが国では,房水流出抵抗の場である線維柱帯組織を除去・切除・切開あるいはチューブによりバイパスする,トラベクロトミーの類縁手術がCMIGSとして行われている.結膜や強膜を切開して隅角組織にアプローチする手技(眼外法,abinterno法)ではなく,角膜サイドポートから手術部位にアプローチすること(眼内法,Cabinterno法)により,眼表面への侵襲が少ない,視力回復が早い,重篤な晩期合併症が少ないなどの特徴を共有する.また,隅角プリズムにより隅角の直接観察下に行われるため,眼外法トラベクロトミーよりCSchlemm管同定が容易である.わが国で行われるCMIGSに用いられるデバイスを図2に,特徴を表2に示す.C1.iStentiStent(正式名称:iStentトラベキュラーマイクロバイパスステントシステム,グラウコスジャパン)は,長径C1.mm,内腔C120.μmのチタン製のチューブをCSch-lemm管内に挿入することで線維柱帯の抵抗をバイパスする(図2a).専用のインサーターにセットされており,右向き・左向きの二つのモデルがある.二つのモデルは,術者の利き手,左右眼,挿入部位によって挿入しやすいほうをケースごとに選択する.C2.iStentinjectWiStentCinjectW(正式名称:iStentinjectトラベキュラーマイクロバイパスシステム,グラウコスジャパン)は,高さC0.36.mm,内腔C80.μmのチタン製デバイスのヘッドをCSchlemm管内に留置することで線維柱帯の抵抗をバイパスする(図2b).2個をC1セットとして用いる.2個のステントが専用のインジェクターにセットされて*MasakiTanito:島根大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(49)C441安全性重視効果重視図1低侵襲緑内障手術の位置づけ表1低侵襲緑内障手術の3要素(谷戸私案)・低侵襲(Minimally-Invasive)・小切開(Micro-Incisional)主として眼内法により行われる切開・縫合操作が少ない・中間適応(Middle-Indication)初期治療とトラベクレクトミーの間を埋めるトラベクレクトミーと比較して安全性が高いトラベクレクトミーと比較して眼圧下降効果が低い表2わが国で行われているMIGSと特徴・iStent内腔C120.μmの管腔ステント術後視力回復早い(前房出血少ない)白内障同時手術のみ適応・iStentCinjectCW内腔C80.μmの管腔ステントC2個術後視力回復早い(iStentよりは前房出血多い?)白内障同時手術のみ適応・トラベクトーム線維柱帯除去手術コスト高い(機器本体+単回使用ハンドピース)・カフークデュアルブレード線維柱帯切除先端が大きい手術コストやや高い(単回使用)・トラベックスプラス線維柱帯切除手術コストやや高い(白内障手術機器+単回使用ハンドピース)・マイクロフックトラベクロトミー線維柱帯切開手術コスト低い・360°CSutureトラベクロトミー線維柱帯切開切開範囲もっとも広い手術コスト低いadf図2MIGSに使用される各種デバイスa:iStent(グラウコスジャパン提供).b:iStentCinjectCW(グラウコスジャパン提供).c:トラベクトームの本体とハンドピース(興和ホームページChttp://www.kowa.co.jpから転載).d:カフークデュアルブレード(JFCセールスプラン社ホームページChttp://www.jfcsp.co.jpから転載).e:CTrabEx+のハンドピース(ホワイトメディカルホームページhttp://www.whitemedical.co.jp/から転載).f:谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック(イナミ社ホームページChttp://inami.co.jpから転載).g:スーチャートラベクロトミー糸(はだやホームページChttp://www.handaya.co.jpから転載).表3眼外法トラベクロトミーと各種MIGSの比較術式眼外法トラベクロトミーCiStentCiStentCinjectCWCTorabectomeCTrabEX+KDBCTMHCS-LOT(GATT)線維柱帯切開範囲1/4周程度ステント内腔C120Cμmステント内腔C80.μm×2個1/4周程度1/4周程度1/4周程度半周.C2/3周.C1周眼表面侵襲大小小小小小小小手技の難度難易.やや難易.やや難易易やや難易.やや難難特徴Schlemm管の同定がむずかしい術中デバイスの偏位C/脱落に対する慣れが必要術中デバイスの偏位C/脱落に対する慣れが必要帯状の切開がCKDBより容易先端が大きい意図した通りの帯状切除はむずかしい耳鼻両側の切開を行う場合は非利き手での操作が必要全周通糸がむずかしい手術材料・機器のコスト低高高高やや高いやや高低低表4MIGSの一般的な適応・よい適応初期の原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,ステロイド緑内障角膜混濁のない発達緑内障白内障による視力低下を伴う緑内障(白内障同時手術)原発閉塞隅角緑内障(白内障同時手術)高齢者の緑内障(術後通院の困難さ,余命)・適応外炎症眼血管新生緑内障前房内硝子体脱出,無水晶体眼目標眼圧が一桁の緑内障表5iStent,iStentinjectWの適応・施設基準および実施医基準C①眼科を標榜している保険医療機関であることC②眼科の経験をC5年以上有し,水晶体再建術をC100例以上および観血的緑内障手術をC10例以上経験している常勤の医師が1名以上配置されていることC③関係学会から示されている指針に基づき,当該手術が適切に実施されていること上記①②について所定の様式に記入し,所在地の地方厚生局事務所に提出【対象患者】・緑内障点眼薬で治療を行っている白内障を合併した初期中期の開放隅角緑内障でC20歳以上の成人【選択基準】・初期中期の原発開放隅角緑内障(広義),落屑緑内障で白内障を併発・レーザー治療を除く内眼手術の既往歴がない・開放隅角(Sha.er分類CIII度以上)・点眼C1成分以上・緑内障点眼薬を併用して眼圧がC25.mmHg未満【除外基準】・水晶体振盪またはCZinn小帯断裂を合併している症例・水晶体再建術で後.が破損する可能性が高い症例・認知症などにより術後の隅角検査が困難な症例・小児・角膜内皮細胞数がC1,500個/mmC2未満の症例hemi-GATTも行われている.CIII術式の比較(表3)いずれのCMIGS術式も眼外法トラベクロトミーと比較して眼表面への侵襲が低く,Schlemm管同定の困難さがないため手技的な難度が低い傾向にある.デバイスの移植,単回使用のデバイスが必要な術式や機器本体への接続が必要な術式では手術コストが高い.眼外法トラベクロトミーの線維柱帯切開範囲がおおよそC90°であるのに対し,TOM・KDB・TrabEX+は同程度,TMHとsLOTは切開範囲が広い.死体眼における灌流実験では,線維柱帯の切開範囲がC1時間(30°),4時間(120°),12時間(360°)の場合,灌流圧7mmHgの条件下で流出抵抗のC30%,44%,51%が,灌流圧C25.mmHgの条件下で流出抵抗のC30%,56%,72%が解除されるとのデータがある1).そのため,切開範囲の違いが手術成績に影響する可能性がある.一方で,Schlemm管後方(集合管.上強膜静脈)の抵抗,切開を行う部位(耳側か鼻側か),線維柱帯を除去するかどうかも手術成績に影響するため,切開範囲のみで臨床的に意味のある手術成績の差異があるかどうかは不明である.CIV成績2021年C9月までに報告された英文論文のうち,原発開放隅角緑内障を含む症例に対してCMIGSを行い,術後C12カ月の眼圧成績が記載されているC109論文C171データを解析した.報告された眼圧下降率の中央値は,CiStent16.3%,iStentCinject(injectWの報告なし)23.6%,TOM28.4%,KDB26.8%,TMH36.5%,sLOT39.6%で,iStent・iStentinjectは,TMH・sLOTよりも眼圧下降率が低い傾向がある(図3).同一患者の左右眼にCiStentとCTMHを行った症例の検討でも,同様の傾向が報告している(図4)2).流出路再建術の眼圧下降幅は術前眼圧の影響を強く受け,術前眼圧が高ければ眼圧下降幅は大きく,術前眼圧が低ければ眼圧下降幅は小さくなる3).MIGS術式ごとに単独手術と白内障同時手術の眼圧下降率を比較してみると,iStent,CiStentCinjectCW,TOMでやや同時手術のほうが眼圧下降効果が大きい傾向がある(図5).一方で,筆者らはCTMHのC560眼の後ろ向き解析では,単独手術と同時手術では術後眼圧に有為な差がなかった4).少なくともCMIGS術式では,白内障同時手術により眼圧下降効果が阻害されることはない.この点は,濾過手術にはないCMIGS術式の利点と考えられる.若年者と比較して高齢者では,白内障手術そのものによる眼圧下降効果が大きい傾向にあるため(図6)5),白内障を有する患者ではCMIGSと白内障同時手術は積極的に考慮されてよい.CV適応いずれの術式も眼圧上昇の首座が線維柱帯.傍CSch-lemm管結合織に存在する病型のみが適応となる(表4).流出路再建術の眼圧下降効果は濾過手術よりも弱く,術後眼圧は通常C10台半ばあるいは術前からC20.30%程度の眼圧下降となる(図7)6).そのため,初期から中期の開放隅角緑内障(原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,ステロイド緑内障など)が適応となる.少なくともCMIGS術式では,白内障同時手術により眼圧下降効果が阻害されることはない.この点は,濾過手術にはないCMIGS術式の利点と考えられる.白内障による視力低下を伴った緑内障はよい適応である.原発閉塞隅角緑内障も白内障同時手術を行うことで適応となりえる.隅角発達異常に関連した小児緑内障では第一選択となるが,角膜混濁を伴う場合など眼内法が困難であれば眼外法を選択する.血管新生緑内障や活動性のぶどう膜炎では眼圧下降が期待できないため禁忌である.目標眼圧が一桁の場合,なんらかの理由で薬物と中止する必要がある場合,術後の一過性眼圧上昇による視力低下が危惧される末期の症例では濾過手術を選択したほうがよい.また,iStent・iStentCinjectWは,白内障同時手術のみが保険適用となっていること,術前眼圧のレベルや年齢,実施医/施設の基準などの要件が呈示されていることに注意が必要である(表5).CVI緑内障手術適応と選択術式に関する筆者の私見薬剤,レーザー,観血手術の選択肢が増えているため,それぞれの治療を選択するタイミングや選択について迷うことが多くなっている.増えた選択肢を有効に生(53)あたらしい眼科Vol.C39,No.4,2022C44560最大値46.27最大値39.92最大値57.68最大値39.01最大値48.13最大値53.00Q319.78Q328.96Q336.62Q331.75Q347.37Q344.85中央値16.32中央値23.58中央値28.37中央値26.83中央値36.52中央値39.60Q110.86Q117.07Q124.13Q116.20Q132.78Q132.34最小値2.74最小値8.02最小値11.52最小値11.49最小値31.38最小値25.67504030Estimatedsurvivalprobability(%)20100iStentinjectTOMKDBTMHsLOT術式図3各種MIGSで報告された術後1年の眼圧下降幅(単独手術・白内障同時手術を含む)2021年C9月までに報告された英文論文のうち,原発開放隅角緑内障を含む症例に対してCMIGSを行い,術後12カ月の眼圧成績が記載されているC109論文C171データの解析.CbEstimatedsurvivalprobability(%)眼圧下降率(%)a100100Survivalrateat12MiStent:18.8%80TMH:40.6%p=0.02776040Survivalrateat12M20iStentiStent:37.5%20iStentTMHTMH:53.1%TMHp=0.1780036912369Survivaltime(months)Survivaltime(months)図4同一患者の左右眼に行ったiStentとTMHの眼圧下降成功率の比較a:眼圧<15.mmHgかつ眼圧下降率>20%.Cb:眼圧<12.mmHgかつ眼圧下降率>20%.p値はClogCrankテストで計算.(文献C2から作図)眼圧下降率(%)50最大値38.59最大値46.27最大値37.06最大値39.92最大値36.19最大値42.61最大値39.01最大値30.88最大値47.37最大値35.71最大値45.21最大値47.45Q319.47Q336.77Q327.18Q339.54Q327.32Q341.02Q335.48Q330.77Q343.95Q335.71Q344.06Q346.09中央値14.04中央値27.27中央値23.15中央値33.67中央値24.24中央値34.34中央値27.47中央値27.39中央値33.33中央値35.71中央値40.53中央値42.57Q110.67Q112.29Q117.07Q115.25Q116.81Q126.42Q115.65Q123.79Q132.39Q135.71Q134.58Q137.80最小値2.74最小値5.24最小値8.02最小値10.68最小値11.52最小値21.74最小値11.49最小値23.61最小値32.20最小値35.71最小値34.01最小値36.92403020100同時単独同時単独同時単独同時単独同時単独同時単独iStentinjectTOMKDBTMHsLOT術式図5各種MIGSで報告された術後1年の眼圧下降幅(単独手術・白内障同時手術別)2021年C9月までに報告された英文論文のうち,原発開放隅角緑内障を含む症例に対してCMIGSを行い,術後12カ月の眼圧成績が記載されているC109論文C171データの解析.ab眼圧下降幅(mmHg)1210眼圧下降幅(mmHg)161412108642001カ月3カ月6カ月1年1年6カ月1カ月3カ月6カ月1年1年6カ月図6年齢による眼圧下降幅の違いa:白内障単独手術術後.b:眼外法トラベクロトミー術後.(文献C5から作図)ab305254眼圧(mmHg)薬剤スコア203152101500術前2週1カ月3カ月6カ月術前2週1カ月3カ月6カ月図7TMH単独手術とトラベクレクトミー単独手術後の眼圧(a)と薬剤スコア(b)(文献C6から作図)表6長期経過を見据えた緑内障手術考慮のタイミング(筆者の私見)・1-2-3の法則・点眼治療中の眼圧が常にC12mmHgを超えている.中期*以降の緑内障・点眼治療中の眼圧がC20mmHgを超えた時点・点眼C3ボトル必要になった時点・内服が必要になった時点*MD<C.6.dB,固視点近傍の感度低下・白内障による視力低下:白内障手術のタイミングで手術・原発閉塞隅角症/緑内障:可及的に手術表82回目以降の緑内障術式選択(偽水晶体眼含む)(筆者の私見)・トラベクレクトミー:目標眼圧が一桁または点眼中止の必要性・アーメド:初回手術無効例または偽水晶体眼前房挿入:若年者の有水晶体眼毛様構挿入:若年者の偽水晶体眼扁平部挿入:中年以降の緑内障・バルベルト:若年者でC2個目のチューブシャント表7初回の緑内障術式選択(筆者の私見)・隅角癒着解離術+白内障手術:原発閉塞隅角症/緑内障の初回手術・iStent+白内障手術:白内障治療がおもな目的・iStent以外のMIGS:若年の有水晶体眼緑内障・iStent以外のCMIGS+白内障手術:中年以降の有水晶体眼緑内障・トラベクレクトミー:目標眼圧が一桁または点眼中止の必要性

緑内障におけるレーザー治療(SLT & MPCPC)の活用法

2022年4月30日 土曜日

緑内障におけるレーザー治療(SLT&MPCPC)の活用法HowtoUseLaserTherapy(SLT&MPCPC)fortheTreatmentofGlaucoma新田耕治*はじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertra-beculoplasty:SLT)は1990年代に登場したが,説明に時間がかかる,レーザー治療に対する抵抗感が強く患者を説得しきれない,期待したほど眼圧が下降しないなどの理由により,なかなか普及していないのが現状である.しかし,2019年.2020年にLiGHTstudyの結果が発表され1.3),原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)や高眼圧症(ocularhyperten-sion:OH)にSLTが第一選択治療(用語解説参照)として有用であることが発表され,日本でも緑内障の第一選択治療としてのSLT(つまり点眼治療で開始せずいきなりSLTを施行)や1剤の緑内障点眼で治療しても目標眼圧に到達しないあるいは緑内障が進行する症例に第二選択治療(用語解説参照)としてのSLT(つまり現在使用している1剤の点眼は継続したままSLTを施行)が注目されている.また,2017年からわが国でも施行可能になったマイクロパルス毛様体ダイオードレーザー(micropulsecyclodiodelaser)によるマイクロパルス毛様体光凝固術(micropulselasercyclophotocoagula-tion:MPCPC)は従来の連続波経強膜的毛様体光凝固(continuouswavetransscleralcyclophotocoagulation:CW-CPC)と比較して重篤な術後合併症が少なく,多くの病期・病型の緑内障に適応がある.これらのレーザー治療の活用方法について詳説する.I選択的レーザー線維柱帯形成術の活用法1.SLTを施行するタイミング『緑内障診療ガイドライン』(第5版)4)にも,「眼圧コントロールに多剤の薬剤を要するときは,レーザー治療や観血的手術などの他の治療法も選択肢として考慮する必要がある」とあり,緑内障治療におけるSLTの位置づけは最大耐用点眼でも眼圧がコントロールできないときや手術に同意が得られないときに試す治療としている.最大耐用薬剤使用(用語解説参照)中のPOAGにSLTを施行した結果,施行前眼圧20.9±3.4mmHgが施行後18.7±4.6.mmHgと下降したが,下降率は10.0%でKaplan-Meier法による12カ月後の眼圧累積生存率は23.2%と不良であった5).Mikiら6)は,最大耐用薬剤使用中(平均3.4剤)の緑内障患者〔POAG39眼,落屑緑内障23眼,続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:SOAG)13眼)にSLTを施行し1年以上経過を観察し,眼圧がSLT施行前と同じかそれ以上上昇した場合を脱落基準1,SLT施行前より眼圧下降率が20%未満になった場合を脱落基準2とした場合,脱落基準1での成功率は45.3%,脱落基準2での成功率は14.2%であったと報告した.多変量解析の結果,SLT施行前の眼圧が高いほど,また病型ではSOAGが,SLT成功率が有意に悪かった.実際には,観血的緑内障手術が必要な患者で,手術に同意が得られない場合に手術を回避あるいは先延ばしする目的でSLTを施行す*KojiNitta:福井県済生会病院眼科〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(39)431======図1第一選択治療としてのSLT長期管理NTG例(SLTの効果が持続しない例)2008年8月初診のNTG症例.ベースライン眼圧は16.3.mmHgでベースライン検査の後,SLTを希望されたので第一選択治療として施行した.その後1年2カ月でSLTの効果は減衰し,2010年にSLT再照射を施行した.しかし,再照射の効果も長期間持続しなかったために点眼を1種から開始した.5成分の点眼でも緑内障は徐々に進行したため手術を提案したが家庭の事情で同意が得られず,2018年にSLT再々照射を施行したが奏効しなかった.図2第一選択治療としてのSLT長期管理NTG例(SLTの効果が持続する例)2009年2月初診の左眼NTG症例.ベースライン眼圧は両眼16.0.mmHgでベースライン検査の後,SLTを希望されたので第一選択治療として施行した.その後11年2カ月間の眼圧推移はSLTを施行していない右眼(赤折れ線)よりも左眼(青折れ線)が常に低値であり,SLTが奏効している.加(0.13,p=0.007,およびC0.20,Cp=0.005)を認めた.生存分析では,SLT後C6,12,24カ月生存率はそれぞれC70%,45%,27%であった.高いベースライン眼圧はCSLT治療の成功と強く関連していた(ハザード比0.67,眼圧>21.mmHgvs≦21.mmHg,p<0.001).この結果では,SLT1年後の生存率は半数以下であり,SLTの長期的な効果に疑問を抱く読者もおられるかと思う.この論文での患者背景として,SLTを施行されたタイミングでの薬剤数がC2成分以上の症例も半数程度おり,それらの症例が生存率を下げている可能性があると考えられる.よって,SLTはなるべく薬剤数が少ない段階で施行することが望ましいと筆者は考えている.C4.第一選択治療としてのSLTをどのように呈示するか初めて緑内障と診断され,緑内障の病状や特徴などを一通り説明したあとに,いよいよ治療方針について説明をする場合に,どのように第一選択治療としてのCSLTを呈示したらよいであろうか.筆者の場合は,第一選択治療としてのCSLTの有効性はC80%であり,2割は害もないが効果もない.また,まれにCSLTにより逆に眼圧が上昇することがある.効果の持続時間は平均C3年,5年以上持続する場合もあれば数カ月で効果が減衰する場合もある.有害事象としては,一過性眼圧上昇以外には,SLT施行後数日間は霧視,結膜充血,違和感が出現する場合があるが,これらはC1週間以内に改善することなどを説明している.まれに一過性眼圧上昇(SLT施行後にC5.mmHg以上の眼圧上昇)をきたすことを十分に説明している.また,SLT施行当日は帰宅可能で,帰宅後は通常の生活を送ることができ,当日から入浴も可能であることなど生活での注意すべきことはないと伝えるようにして帰宅してもらっている.また,点眼治療とCSLT治療の利点と欠点についても説明するようにしている.点眼治療の利点は,1)気軽に始めることができる,2)1回の診察代金が低額.点眼の欠点は,1)毎日点眼をしなければならない,2)点眼による副作用が懸念される.SLT治療の利点は,1)点眼のようなわずらわしさがない,2)1回のCSLTで平均3年間治療効果が持続する.SLT治療の欠点は,1)1回の処置代金が高額(1割負担でC9,660円,3割負担で28,980円),2)奏効するかは施行してみないと予測困難,3)レーザー治療は医師も患者も怖いイメージがある,などがあげられる.これらを十分に説明したうえで今後の治療方針については患者自身で決めてもらうようにしている.SLTを選択した患者では施行後に定期的な受診が中断する恐れがあるので,第一選択治療としてのCSLTは歴史が浅い治療方法であり,有害事象が出現しないかをしっかり経過観察する必要があることを患者に釘を刺すようにしているので,当院での点眼群とCSLT群での継続受診率に差はないように思われる.第二選択以降の治療としてのCSLTも上記と同様に説明し,治療方法に対する理解を深めてもらい,同意を得てCSLTを施行するようにしている.C5.SLT照射方法と注意点照射C1時間前にアプラクロニジンとピロカルピンを点眼する.施設によってはアプラクロニジンのみ点眼している施設もある.照射の際に使用する隅角鏡は,ラティナC1面鏡が隅角を拡大して観察できるのでお勧めである.最近,筆者は,レンズがカチカチと回るCindexingレンズでしかも白色のツバが目印としてC1面鏡の反対側についているCOcularCHwang-LatinaC5.C0CIndexingCSLTw/Flangeを愛用している.このレンズはC45°分が白色のツバで表示されているので,このツバを目印にC45°に10.12発を照射する.その部分の照射が終われば外套をカチッと次の引っ掛かりまで回しC10.12発照射する.このことをC8回繰り返す.SLTは凝固斑が出現しないので,どこまで照射してどこから再開したらよいかがわかりにくかったが,このレンズを使用するようになって施行しやすくなった(図3).照射径はC400Cμmで固定されているので,術者はレーザーの強さのみ調節可能である.照射部位に気泡が生じる最小のパワーとするのが一般的である.しかし,色素沈着が生じている部位はより小さいエネルギーでも気泡が生じ,色素沈着のない部位ではより大きいエネルギーでも気泡が生じないことが多く,その場合はC2.3発に1度程度で気泡が生じるエネルギーを照射する.全周434あたらしい眼科Vol.C39,No.4,2022(42)図3SLTの際に使用する隅角鏡OcularCHwang-LatinaC5.0CIndexingCSLTCw/Flange隅角鏡はレンズが回るCindexingレンズ,白色のツバが目印としてC1面鏡の反対側についている.図4実際にSLTを施行している静止画気泡が生じる最小のパワーで照射する.スポットサイズは直径C400Cμmなので,スポットの一部に毛様体帯が含まれないように注意して照射する.===再照射が初回CSLTと同等の効果を持続することが報告された.C7.第一選択治療としてのSLTの将来SLTで治療した場合に,眼圧の日内変動が小さくなる可能性について報告した論文がある.SENSIMEDTrigger.shコンタクトレンズセンサー(用語解説参照)を使用して,NTG患者の眼圧変動に対するCSLT治療の効果を調べた.眼圧の変動は,日中と夜間に分けられ,SLTの前後で比較した結果,SLT前の平均眼圧はC13.5C±2.5CmmHgであった.SLT後C1,2,およびC3カ月の平均眼圧は,10.1C±2.3CmmHg(p=0.002),11.2C±2.7CmmHg(p=0.0059),およびC11.3C±2.4CmmHg(p=0.018)と有意に下降した.日中の眼圧変動の範囲は,SLT治療の前後で有意に変化しなかったが(p=0.92),夜間の眼圧変動は,SLT前のC290C±86CmVEqからCSLT治療後のC199C±31.mVEqに有意に減少した(p=0.014).SLT治療はCNTG患者の夜間の眼圧を大幅に低下させ,眼圧の変動を減少させる可能性があることが示された12).SLTで治療されたCPOAGまたはCOHの若年(40歳以下)患者56例56眼を18歳未満群(n=18)とC18.40歳群(n=38)に分けて検討した結果,SLT治療は若い症例でも有意な眼圧下降が得られた(p<0.05).SLT1時間後の平均眼圧は,18.40歳群よりもC18歳未満群のほうが低かった(p<0.01)が,他の時点では差はなかった(p>0.05).さらにC56例のうちC20例でC24時間眼圧測定を施行し解析した結果,眼圧値は治療前よりもすべての時点で有意に低く(p<0.05),24時間平均眼圧,ピーク眼圧,トラフ眼圧,および眼圧変動も有意に低かった(p<0.05).SLTが若年症例の眼圧日内変動を制御するのにも効果的である可能性が示唆された13).これらのことから,NTGで日中眼圧がコントロール良好でもなお緑内障が進行する患者に,夜間の眼圧下降も期待してSLTを積極的に施行することも念頭に置く必要性があろう.SLTは患者側のアドヒアランスに依存しない治療であるから,SLTの効果を実感した眼科医が増加するにつれて,とくに第一選択治療としてのCSLTは徐々に普及すると思われる.そのためにも多くの日本人での第一選択治療としてのCSLTのエビデンスを積み上げていくことが肝要である.筆者も,日本緑内障学会プロジェクト支援事業の一つとして,NTGに対する第一選択治療および第二選択治療としてのCSLTの有効性および安全性に関する前向き介入研究をC2020年C1月から開始したので,現在のその解析を進めているところである.CIIマイクロパルスレーザー毛様体光凝固術の活用法1.MPCPCの作用機序と効果MPCPCは,2017年からわが国でも施行可能になった新しい緑内障レーザー治療方法である.CycloCG6(P3CGlaucomaDevice,IRIDEX社)(図5a)を用いて,810Cnm波長の赤外線ダイオードレーザーの短時間照射(on)と休止(o.)を周期的に繰り返すことによって周囲組織の温度上昇を抑えながら経強膜的に毛様体に光凝固を行う.MPCPCは施術の容易さ,術後合併症の少なさに加えて,角膜や前眼部混濁のある症例においても施術可能であること,結膜を温存でき将来の濾過手術に影響しない,術後管理が簡単であるといった利点がある.本術式の眼圧下降効果は,①毛様体色素上皮および毛様体無色素上皮に閾値以下の細胞損傷を与えて房水産生を直接抑える14),②毛様体扁平部近傍の細胞外マトリックスのリモデリングによるぶどう膜強膜流出の増加15),③毛様体筋収縮に伴うピロカルピン様効果による線維柱帯流出路の排出促進16)といった複数の作用機序によって眼圧下降がもたらされると考えられているが正確な機序は不明である.MPCPCは短時間の照射の合間に休止時間を設けることで熱拡散を促し,熱上昇を制御するとともに,レーザーの照射時間を短縮することで過熱や周辺組織へのダメージが緩和できるので,従来の連続波経強膜的毛様体光凝固(continuousCwaveCtransscleralCcyclophotoCcoagu-lation:CWCPC)と比較して重篤な術後合併症が少ない14,17).MPCPCとCCWCPCに関する各C24眼の無作為化比較試験で,眼圧下降効果に有意差はなかったが,前房炎症をCMPCPCでC1眼,CWCPCでC9眼認めた.また,眼球癆がCCWCPCでC1眼発生したなど,合併症や436あたらしい眼科Vol.C39,No.4,2022(44)ab図5MPCPCの際に使用する機器とプローブa:CycloCG6(P3CGlaucomaDevice,IRIDEX社)はCCWCPCもCMPCPCも施行できる機器である.Cb:MPCPCの際に使用するCMP3プローブで先端に突起がある.また切れ込みのある部分を角膜輪部側に押し当てて照射する.■用語解説■第一選択治療と第二選択治療:第一選択治療は,緑内障として初めて治療を開始する際に選ばれる治療方法をさす.通常は点眼治療で開始されるが,筆者は点眼とSLTを呈示し,それぞれの利点欠点を説明し,患者に治療方法を選択してもらうようにしている.第二選択治療は,緑内障として第一選択治療にて加療されるも,緑内障の病状が安定しないために二番目に追加して選ばれる治療方法をさす.最大耐用薬剤使用:現在の点眼薬での併用使用の候補薬剤は,作用点と眼圧下降効果を考慮して,プロスタノイド受容体関連薬,Cb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,Ca2作動薬,ROCK阻害薬などがある.病状によってこれらの点眼薬を組み合わせて併用し,アドヒアランスの面でも患者が任用可能な限度の点眼を使用している状態をさす.通常はC4成分からC5成分の点眼を使用している状態をさす.CSENSIMEDTrigger.shコンタクトレンズセンサー:眼圧の変化によって誘発される角膜曲率の変動を捉えるマイクロセンサーが埋め込まれたシリコーン素材のコンタクトレンズ型のトリガーフィッシュセンサーを被検者の眼に装用し,最長C24時間にわたってC5分ごとにC30秒間自動的に角膜曲率の変動測定し続けることで眼圧変動におけるパターンを検出する.最大で288ポイントの測定値をグラフ化して表すことができ,縦軸の単位はCmVeqである.しかし,得られた角膜曲率(mVeq)を眼圧の値(mmHg)に変換する計算式が存在しないため,厳密な意味で眼圧を評価することは今のところ不可能である.マイクロパルス波:マイクロパルス波は,従来の連続波によるレーザー発振をCONとCOFFに極短時間に制御しレーザー発振を行う技術であり,dutycycle(実際のレーザー照射時間)はC31.3%で,0.5Cmsの持続時間とC1.1Cms間隔でレーザー発振を行うため組織への侵襲が少ない.—

最近の薬物治療戦略

2022年4月30日 土曜日

最近の薬物治療戦略CurrentMedicalStrategiesfortheTreatmentofGlaucoma本庄恵*はじめに現在,緑内障治療において視野障害進行抑制のエビデンスがあるのは眼圧下降治療のみで,病型や病期を問わず有効性が示されている.眼圧下降治療と一言でいっても,眼圧値そのものを下げる必要があるほか,眼圧変動が緑内障進行の危険因子の一つと報告されており,薬物治療においても変動抑制に留意が必要である.また,眼圧変動以外にも,眼圧測定値には角膜性状の影響が大きく,先天的な角膜厚の個人差に加えて,他の疾患や屈折矯正手術などの影響により測定される眼圧が高く,もしくは低く出ることがあることに注意が必要である.本稿では新しく改訂された『緑内障診療ガイドライン』(第5版)を引用しつつ,最近の緑内障治療戦略について概説する.ガイドライン第5版では緑内障治療における重要度の高い医療行為を選定し,CQ(クリニカルクエスチョン),BQ(バックグランドクエスチョン),FQ(フューチャーリサーチクエスチョン)としてシステマティックレビュー(systematicreview:SR)を行い,複数の論文の結果を統合した推奨がなされている.これらを適宜参照し,最新の緑内障薬物治療の考え方をおさらいする.I眼圧下降が基本眼圧下降治療には薬物治療,レーザー治療,手術治療の選択肢がある.それぞれの治療方法の効果と副作用,利点と欠点を考慮し,治療方法を選択する.眼圧上昇の原因が治療可能な場合には眼圧下降治療とともに原因治療を行うが,基本的には原則として単剤からの薬物治療が眼圧下降治療の第一選択となる(図1)1).緑内障進行の程度やスピードは患者ごとに異なるため,症例ごとに目標とすべき眼圧レベル(目標眼圧)を設定する.視神経障害の進行速度,それを抑制しうる眼圧をあらかじめ判定することはできないため,治療開始時の目標眼圧は患者ごとの緑内障病期・病型,無治療時眼圧,余命や年齢,視野障害の進行,家族歴,他眼の状況などの危険因子に応じて設定する(図2).緑内障の発症,進行にかかわる危険因子として,家族歴や年齢,乳頭出血,角膜厚,眼灌流圧などが指摘されている(表1).一般的に緑内障の後期進行症例では,さらに進行した場合に患者の生活の質(qualityoflife:QOL)に影響が大きいため,目標眼圧はより低く設定する.さらに近年,平均余命の延長に伴い,治療期間の長期化が見込まれている.また近年,若年から緑内障の診断を受け,治療開始する患者が増えている.若年患者では余命が長く,治療期間が長いと想定される.視機能維持をめざす治療期間が長くなる患者に対しては,目標眼圧を低めに設定し,長期間の安定した進行抑制が推奨されるようになった.すなわち,近年,目標眼圧を低めに設定しなければならないケースが増加傾向にあると考えられる.近年,新規薬物の開発,配合点眼薬の増加,後発品の増加などで緑内障の薬物治療の選択肢が広がっている.*MegumiHonjo:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕本庄恵:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(31)423(+)(-)薬剤変更図1原発開放隅角緑内障(広義)の薬物治療方針(文献1より引用)Ⅲ.眼圧下降治療:目標眼圧設定初期高値高い遅い(-)後期低値低い速い(+)*副作用やアドヒアランスも配慮する図2目標眼圧の設定(文献1より引用)表1緑内障の発症,進行にかかわる危険因子・高眼圧:ベースライン眼圧が高い,経過中の平均眼圧が高い,眼圧変動が大きい・高齢・家族歴・C/D比が大きい,視神経リム面積が小さい・乳頭出血・乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)Cb域が大きい・角膜厚が薄い・角膜ヒステレシスが低い・眼灌流圧が低い・拡張期・収縮期血圧が低い・2型糖尿病・落屑症候群・薬物アドヒアランスが不良(文献C1より引用)表2アドヒアランス改善のポイント①疾患,治療の目的,方法および副作用について十分に説明する.②最小限でより負担と副作用の少ない治療方法を選択する.③患者個々のライフスタイルに合わせた治療を行う.④正しい点眼指導を行う.⑤患者からアドヒアランスの状況について情報を収集する.表3国内で使用可能なおもな緑内障治療薬(局所投与薬,単剤)と導入時期年代Ca(b)遮断薬プロスタノイド受容体関連薬Cb遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬Ca2作動薬ROCK阻害薬その他1980年代チモロールカルテオロールジピベフリン1990年代ニプラジロールレボブノロールラタノプロスト(FP作動薬)ベタキソロールドルゾラミドアプラクロニジンウノプロストントラボプロスト2000年代ブナゾシンタフルプロストビマトプロストブリンゾラミド(FP作動薬)2010年代ブリモニジンリパスジル2020年代オミデネパグ(EPC2作動薬)表4メタアナリシスによる平均眼圧下降の比較3カ月目の平均CIOP下降値(95%信頼区間)(mmHg)ビマトプロスト5.61(C4.94.C6.29)4.85(C4.24.C5.46)4.83(C4.12.C5.54)4.51(C3.85.C5.24)4.37(C2.94.C5.83)3.70(C3.16.C4.24)3.59(C2.89:C4.29)3.44(C2.42.C4.46)2.56(C1.52.C3.62)2.52(C0.94.C4.11)2.49(C1.85.C3.13)2.42(C1.62.C3.23)2.24(C1.59.C2.88)1.91(C1.15.C2.67)ラタノプロストトラボプロストレボブノロールタフルプロストチモロールブリモニジンカルテオロールレボベタキソロールアプラクロニジンドルゾラミドブリンゾラミドベタキソロールウノプロストン(文献C2より改変引用)periorbitopathy:PAP)が問題視されており,正確な眼圧測定が困難になることや,濾過手術予後への影響が報告されている.第一選択薬で薬剤の効果がない場合,効果が不十分な場合,あるいは薬剤耐性が生じた場合は,まず薬剤の変更を考慮し,単剤(単薬)での治療をめざすのが基本推奨となっている.最新のガイドラインではCFQ1として第一選択薬で眼圧下降効果が不十分なときに,薬剤を変更すべきか,薬剤を追加すべきかのCSRが行われたが,第一選択薬がCFP作動薬の場合,他の薬剤への変更ではさらなる眼圧下降効果は期待できない.一方で,FP作動薬から他のCFP作動薬への変更では,ビマトプロストへの変更は検討する余地があることが報告されている.ビマトプロストは他のCFP作動薬よりノンレスポンダーの割合が少なく,やや眼圧下降効果に優るとする報告がみられる.ただし,とくにわが国ではCPAP,なかでもDUESの頻度が高いことが報告されており,留意が必要である.C2.EP2作動薬FP作動薬は緑内障治療の第一選択薬として広く使用されてきたが,ノンレスポンダーの存在,PAPなどが近年問題視されるなか,EP2作動薬であるオミデネパグイソプロピル点眼液(エイベリス点眼液C0.002%,参天製薬)がC2018年C11月末より使用可能となった.オミデネパグの作用点であるCEP2受容体は毛様体筋と線維柱帯に発現が確認されており,ぶどう膜強膜路および主経路両方の流出促進作用により眼圧下降効果を示すとされる.眼圧下降効果についてはまだまだ報告が待たれるところだが,既存CPG関連薬無効例でもC.2.99CmmHgの眼圧下降効果がみられたと報告されている4).また,既存薬と異なり,オミデネパグはCEP2受容体に対する親和性は高いが,その他のプロスタノイド受容体に対する親和性がほとんどないため,FP作動薬に特徴的なPAPなどの副作用はないと考えられている.実際,オミデネパグへの変更により既存CFP作動薬によるCPAPが改善したことが報告されている5).一方,他のCPG関連薬でも観察される充血のほか,角膜肥厚,黄斑浮腫などのCEP2受容体作動薬に特徴的な副作用を有することが報告されており,後者は承認時試験において眼内レンズ挿入眼で多く認められた副作用であったことから,眼内レンズ挿入眼,無水晶体眼は投与禁忌となっているので注意が必要である.黄斑浮腫の副作用リスクに対してはCOCT検査など併用し注意深く観察すること,生じた場合は適切に対応することが重要である.また,米国における第CI/II相試験において,現行より高濃度のオミデネパグイソプロピルとタフルプロスト点眼薬を同時投与したことによって羞明感,眼痛,炎症惹起例が発生したため,タフルプロスト点眼薬との点眼は併用禁忌となっている.適正使用を行えば,FP受容体作動薬とは異なり眼周囲の副作用がなく,整容面を気にしている患者や,片眼使用患者などに十分適応がある第一選択薬になる薬剤である.今後の臨床経験の蓄積から,明確な有効性や安全性のデータの評価が待たれる.C3.b遮断薬眼圧下降効果と認容性の面でCb遮断薬およびCEP2作動薬も第一選択になりえる.そもそも,1990年代にCFP刺激薬が使用可能となるまではCb遮断薬が第一選択薬であった.Cb遮断薬への薬剤追加ではメタアナリシスの結果,FP作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬,副交感神経作動薬などでいずれの薬剤でも眼圧下降効果は認められているが,FP作動薬の追加以外は単剤でC1.2CmmHg程度の追加眼圧下降にとどまることが報告されている6).ガイドラインCFQ1でも,第一選択薬がCb遮断薬で眼圧下降効果が不十分なとき,FP作動薬の追加でもCFP作動薬の変更でも,さらなる眼圧下降効果が期待できるとされている.C4.新しく加わった配合剤現在の緑内障薬物療法は効果を確認しつつ,不十分な場合は多剤併用療法が基本となっているが,点眼ボトル数や点眼回数が増えるとアドヒアランスが低下するおそれがある.配合剤の利点としては,①点眼ボトル数と点眼回数を増やすことなく,複数の点眼薬を使用できる,②点眼回数が増えないため防腐剤曝露を抑え,眼表面副(35)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C427表5現在わが国で使用可能な配合剤成分の組み合わせ製品名FP作動薬Cb遮断薬点眼炭酸脱水酵素阻害薬CA2作動薬点眼回数アイラミドブリンゾラミドブリモニジン1日2回アイベータチモロールブリモニジン1日2回ミケルナラタノプロストカルテオロール1日1回ザラカムラタノプロストチモロール1日1回デュオトラバトラボプロストチモロール1日1回タプコムタフルプロストチモロール1日1回コソプト/コソプトミニチモロールドルゾラミド1日2回アゾルガチモロールブリンゾラミド1日2回-

光干渉断層計,光干渉断層血管撮影の活用法の新常識

2022年4月30日 土曜日

光干渉断層計,光干渉断層血管撮影の活用法の新常識NewPracticalMethodsonHowtoUseOCTandOCTAfortheTreatmentofGlaucoma沼尚吾*赤木忠道**はじめに緑内障の日常診療において,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が広く活用されている.網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)と網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)の2層の菲薄化を評価することが多く,さまざまな解析モードが存在する.主要な解析モードとしては,視神経乳頭周囲で網膜神経線維を解析対象とした乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnerve.berlayer:cpRN-FL)解析,黄斑部においてGCLと内網状層(innerplexiformlayer:IPL)を合わせたマップ解析,さらにRNFLも含めた網膜神経節複合体(ganglioncellcom-plex:GCC=RNFL+GCL+IPL)のマップ解析などが用いられている.GCLは現在広く活用されているスペクトラルドメインOCT(spectral-domainOCT:SD-OCT)では単独の層として正確に自動で分層化(=セグメンテーション,segmentation)することはむずかしいため,こうした上下の複数の層を併せた解析の形で工夫されている(図1).本稿では,1)前視野緑内障(preperimetricglauco-ma:PPG)の進行判定,2)中期以降の緑内障での進行判定における注意点,3)とくに近視眼でみられるいくつかの特徴的な所見(intrachoroidalcavitation,para-vascularinnerretinaldefect,focallaminacribrosadefect),4)緑内障におけるOCTangiography(OCTA)についての四つのテーマでOCT活用法の「新常識」を紹介する.I前視野緑内障の進行判定『緑内障診療ガイドライン』をみると,「眼底検査や網膜光干渉断層計において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態を前視野緑内障と称する」「原則的には無治療で慎重に経過観察する.しかしながら,高眼圧や,強度近視,緑内障家族歴など緑内障発症の危険因子を有している場合,特殊あるいはより精密な視野検査や眼底三次元画像解析装置により異常が検出される場合には,必要最小限の治療を開始することを考慮する」と記載があり,この表現はガイドラインの第4版(2018年1月発行)でも最新の第5版(2022年2月発行)でも変化はない1).第5版においては,正常眼圧のPPG130症例を後ろ向きに検討(平均追跡期間14.7年)したところ,5年で21.5%,10年で40%,20年で70.5%の症例において視野障害が出現したとする報告2)や,PPGであっても眼圧下降により視野異常を伴う緑内障への進行を予防できる可能性について言及し,「眼底,視野,画像解析所見やそのほかのリスクファクターを慎重に勘案しながら,経過観察を行い,随時治療開始を検討すべき」という記載が追加されている1).では,PPGにおいて視野障害の生じるリスクの高い患者をOCTを用いて同定するにはどのような手法が有*ShogoNuma:京都大学大学院医学研究科眼科学**TadamichiAkagi:新潟大学大学院医学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕沼尚吾:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54第2臨床研究棟8階眼科学教室京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(19)411図1日常診療で広く利用されている緑内障解析モードa,b:眼底写真(bはaの視神経乳頭拡大画像).耳上側,耳下側に網膜神経線維層欠損が確認される.c:Humphrey静的視野24-2(SITAstandard).下方に弓状暗点,上方に水平半盲を認める.d:SpectralisOCT(Heidelberg社)を用いたcpRNFL解析:耳上側(.)と耳下側(.)に網膜神経線維の菲薄化を認める.とくに下方では菲薄化領域が広いことがわかる.e:RS3000(ニデック)を用いた黄斑マップ解析(ILM.IPL).厚みマップ,正常眼データベースとの比較マップ,デビエーションマップいずれをみても,とくに下方領域に菲薄化が強いことがわかる.用であろうか?OCTには正常データベースが内蔵されており,そのデータベースと比較した際の異常の程度を判定する機能が備わっているものの,正常眼においても厚みの分布は非常に広く,正常と異常のオーバーラップは必ず生じる.つまり,1回のOCT解析結果のみでは「見過ごし」や「過剰評価」が起こりうるため,OCT解析結果異常をみて即時治療を開始するのではなく,必ず経過観察して菲薄化の進行具合を確認することが肝要である.Mikiらは緑内障疑い(=glaucomasus-pect)の454眼に対して,OCTとHumphrey静的視野計(HumphreyFieldAnalyzer:HFA)を用いて中央値2.2年の前向き経過観察を行い,8.8%にあたる40眼に視野異常が生じ(=緑内障発症と診断),視野異常が生じた群(VFD群)と生じなかった群(non-VFD群)とでは,VFD群.2.02μm/年に対し,non-VFD群.0.82μm/年と,cpRNFL厚変化に有意な差があり,cpRNFL厚の減少率が1μm/年早くなるごとに視野異常を生じる確率が2倍になると報告した3).InuzukaらもPPG患者を対象として同様の研究を行い,とくに下方.耳下側においてRNFL厚の変化が生じやすいと報告している4)(図2).ガイドラインに拠った適切な診療を行うためには,ただ医師が患者をPPGと認識して黙々と経過観察するのではなく,こうした情報を元に十分な説明をすることで患者によく理解してもらい,ドロップアウトさせずに経過観察し,必要があれば慎重に治療を開始することが求められる.II中期以降の緑内障での進行判定における注意点冒頭で触れたさまざまな緑内障解析モードにおいて,緑内障初期においては変化が検出されやすいが,中期以降(目安としてHFA30-2や24-2において平均偏差(meandeviation:MD)値.10dB以下)では変化が頭打ちになり,OCTでは変化を捉えづらくなる限界が存在する.変化が横ばいになり,「底」に到達したという意味でフロアエフェクト(.oore.ect)とよばれている.OCTで解析対象である組織部位には神経成分以外にもグリア細胞や血管などが含まれており,こうした組織は神経線維・神経節細胞と比べて緑内障の影響を受けづらいからと考えられている.フロアエフェクトは,乳頭周囲のcpRNFLで解析を行っても5),黄斑部のGCL+IPLやGCCで解析を行っても6,7)確認される(図3,4).ただし,中期以降の緑内障症例(79症例,経過観察期間は平均5年)において視野進行例と非進行例を比較した際に,cpRNFLでは有意差はなかったものの,黄斑部のGCL+IPLでは有意差を認めた(進行例:.0.66μm/年,非進行例:.0.31μm/年)とする報告8)や,MD値が.21dB以下の後期緑内障症例(35症例,経過観察期間は平均3.5年)において31%の症例で黄斑部のGCL+IPLでは有意な進行を認めたとする報告9)も近年みられる.後期緑内障症例は高齢であることが多く,そのため視野検査実施自体が困難であったり,実施できたとしても信頼性が低く結果の解釈に難渋したりすることがしばしばある.さらなる報告や新たな解析手法により,中期以降の緑内障症例におけるOCTの新しい活用法が見いだされることを期待したい.なお乳頭周囲のcpRNFL解析では差が認められず黄斑部解析では有意な差が認められる理由については,黄斑部解析では緑内障性障害を受けづらい乳頭黄斑線維束(papillomacularbundle)を解析対象に含むため,後期緑内障症例においてもOCTで構造変化を検出できると考察されている.IIIとくに近視眼でみられるいくつかの特徴的な所見近年,緑内障と関連した,あるいは緑内障とまぎらわしい,いくつかの特徴的な眼底所見が報告されている.今回はそのなかでも三つ,intrachoroidalcavitation(ICC),paravascularinnerretinaldefect(PIRD),局所篩状板欠損(focallaminacribrosadefect:fLCD)を紹介する.いずれも,あくまでOCTを用いることで観察される所見であって,疾患名ではないことに注意していただきたい.1.Intrachoroidalcavitation(ICC)(図5)2003年にFreundらが近視眼に確認される視神経乳頭周囲の橙色病変をperipapillarydetachmentinpatho-(21)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022413dard).いずれも明らかな緑内障性視野障害を認めない.d:視神経乳頭耳側1乳頭径における垂直断.耳下側と耳上側にRNFLの菲薄化(.)を認める.e:cpRNFL解析では,耳上側・耳側では正常範囲内であり,耳下側で軽度低下を認めるが,全体としてborderlineと判定されている.f,g(fの赤破線を拡大表示):SpectralisOCT(Heidelberg社)では,cpRNFL解析を計5回以上行っていると,回帰分析によりRNFL厚の減少速度(SlopeofRNFLT)を計算してくれる.この患者では.abcd図2前視野緑内障(PPG)症例(60歳代の男性)a:耳上側,耳下側に網膜神経線維層欠損が確認される.耳下側のほうが欠損領域は広い.b,c:X年時点と,6年後(X+6年)のHumphrey静的視野24-2(SITAstan-e1.8μm/年であると表示されfている.この患者は,視野異常を認めないものの,減少速度がやや早く,点眼治療を開始した.gRNFL厚(μm)180160140120100806040200網膜感度(dB)図3フロアエフェクト(.oore.ect)について==-30-20-100=図4Floore.ectの例(70歳代の男性)a:乳頭陥凹は大きく,全d体にリムの菲薄化が強い.b,c:X年時点と,5年後abc(X+5年)のHumphrey静的視野24-2(SITAstan-dard).上下視野とも障害が非常に強いが,5年の経過で傍中心における進行がわずかに確認できる.d:cpRNFL解析では,全周に強いRNFLの菲薄化を認める.全周の平均(G)は42μmと表記されている.e:70歳当時から計3回のcpRNFL解析が実施されているが,その結果は横ばいである.なお,この患者では図2の症例と異なり,まだ5回未満であるので,SlopeofRNFLTはen/aと減少速度は解析できていない.OCTでは.oore.ectのため異常が確認されず,視野検査でのみ確認される一例である.図5Intrachoroidalcavitation(ICC)の例(70歳代の女性,眼軸長28.2mm)a:眼底写真.強度近視眼であり,典型的な豹紋状眼底である.そのため網膜神経線維層欠損は確認しづらい.b:aの拡大写真.赤破線囲いで示した領域.視神経乳頭下方に,網膜下病変を認めるような橙色の色調変化を認める.aにて引き目で確認したほうが認識しやすいかもしれない.この病変が網膜色素上皮より深部,脈絡膜内の空洞病変である.下に示すCOCT画像で確認いただきたい.Cc:Goldmann動的視野計にて鼻側(とくに上方)の視野狭窄を認める.Cd:Humphrey静的視野C24-2(SITAstandard).上方視野障害は弓状暗点であり,下方視野障害は鼻側階段の形状を呈している.Ce:cpRNFL解析では,耳上側・耳下側で強いCRNFLの菲薄化を認める.Cf,g,h:bのC3カ所における垂直断画像(耳側から順にCf,Cg,h).網膜色素上皮下に大きな空洞を認め,fの箇所で硝子体腔と連続する孔(黄色破線)が存在し,その孔の箇所では網膜神経線維は断絶していることがわかる.eのCcpRNFL解析の画像をよくみると,黄色破線囲い部分に空洞が捉えられている.図6Paravascularinnerretinaldefect(PIRD)の例(60歳代の女性,眼軸長acd25.8mm)a,b(aの拡大画像):上方アーケード血管の第一分岐Cef()以遠の血管周囲がやや暗色を呈している.拡大しないと確認しづらい病変Cbである.c,d:無赤色(レッドフリー)画像を用いると,病変の範囲がわかりやすい.視神経乳頭までは連続していないことがわかる.e,f:Humphrey静的Cg視野C30C-2(SITACstan-dard).eの実測閾値グレーススケール表示では明確な感度低下は確認されないが,fのパターン偏差表示では病変部位に一致した異常が検出されている.Cg,h:SpectralisCOCT(Heidelberg社)を用いて,上方アーケード血管に沿っChた断面で撮像すると,内境界膜はCgでは不連続に確認されChではほとんど確認できない.g,hいずれも血管()を除くと網膜内層はほとんど存在せず欠損している様子が確認できる.abcdef図7局所篩状板欠損(fLCD)の例(53歳の女性,眼軸長23.3mm)a:耳上側,耳下側にそれぞれ明瞭な網膜神経線維層欠損(NFLD)が確認できる.Cb:SS-OCT(DRI-OCTAtrantis,トプコン)を用いた篩状板部のCenface画像.部位に,fLCDが存在する.同部位をaの眼底写真上で見ると色調がやや濃いことがわかる.Cc:Humphrey静的視野C24-2(SITACstan-dard).傍中心暗点が存在する.上方のCNFLDに対応する感度低下はまだ検出されていない.Cd:RS3000(ニデック)を用いた黄斑マップ解析(ILM.IPL).厚みマップ,正常眼データベースとの比較マップ,デビエーションマップいずれをみても,NFLDに一致した菲薄化が明瞭に確認できる.Ce,f:aの黄矢印線に一致した,fLCD部位(*)を通るCOCTBスキャン画像.eはCSD-OCT(spectralisOCT,Heidelberg社)であり,fはCSS-OCT(DRI-OCTAtrantis,トプコン)である.脈絡膜の深部,強膜,篩状板および篩状板後部といった,深部組織の描出はCSS-OCTのほうが優れている.abcd図8緑内障におけるOCTA画像a:正常眼における視神経乳頭周囲のOCTA画像.明瞭な放射状乳頭周囲毛細血管(網/叢)〔RPC(P)〕が確認できる.Cb:正常眼における黄斑部の網膜表層COCTA画像.表層(毛細)血管網/叢(SVP)が確認できる.SVPと比較すると,RPCPは視神経乳頭近傍において網膜神経線維を栄養することに特化しており,そのため視神経乳頭近傍に密に存在し,直線的で互いに吻合が少ないという特徴を有する.Cc,d,f:70歳代女性の開放隅角緑内障症Cef例.耳下側に網膜神経線維層欠損,菲薄化を認め,同象限に一致して乳頭縁に乳頭出血(黄色破線囲み)を認める.Ce:Humphrey静的野C24-2(SITAstandard).対応する視野異常を認める.g,h:同患者の視神経乳頭周囲と黄斑部網膜浅層のCOCTA画像.網膜神経線維菲薄化象限に一致して,それぞれCRPCP(g)とCSVP(h)の密度が低下しているのがわかる.前述の通り,RPCPのほうが密に存在するので,血流低下が捉えやすい.Cghる.ただし,近視眼のなかで緑内障進行が緩やかな症例が存在することに注目し,乳頭が耳下側へ傾斜していて耳下側の乳頭縁に楕円形(oval-shaped)のCfLCDを認める症例では,視野障害進行が緩やかであるとCSawadaらが報告している23).近視症例において適切に予後予測し,治療要否を適切に判断するうえで重要な所見である可能性があり,まだまだ知見の蓄積が必要といえる.CIV緑内障におけるOCTA昨今,緑内障領域に限らずCOCTAを用いた報告が増加傾向にある.各社のCOCTにおいてCOCTA機能が実装されてきており,研究レベルではなく実臨床でも広く普及することが期待されるモダリティである.実臨床で広く用いられるためにこれから取り組むべきいくつかの問題点が存在し,すなわち,1)OCTA本体の(数値)解析機能がまだ発展途上,2)OCTでのCcpRNFL厚やGCC厚に相当するような解析項目が定まっていない,3)正常眼/年齢別のデータベースがない,というC3点である.本稿では,緑内障病態において重要な,網膜神経節細胞と網膜神経線維を栄養する血管(血流)として,放射状乳頭周囲毛細血管(網/叢)〔radialperipapillarycapillary(plexus):RPC(P)〕と表層(毛細)血管網/叢(super.cialCvascularplexus:SVP)について正常症例と緑内障症例とを紹介するに留める(図8).おわりに以上,OCTとCOCTAについて四つのテーマで「新常識」を紹介した.緑内障分野においてCOCTの論文が急増したのは2000年代であり,そこからのC10年で広く普及するようになった.OCTAの論文はC2015年あたり(OptoVue社のAngioVueの発売の時期)を境に増加しはじめている.OCTの登場ほどインパクトはないかもしれないが,過去を振り返ることで点を結び未来を予測するのであれば,今後COCTと同じように活用されるのか,とくにこれからのC5年の動向には要注目である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)SawadaCA,CManabeCY,CYamamotoCTCetal:Long-termCclinicalCcourseCofCnormotensiveCpreperimetricCglaucoma.CBrJOphthalmolC101:1649-1653,C20173)MikiA,MedeirosFA,WeinrebRNetal:Ratesofretinalnerve.berlayerthinninginglaucomasuspecteyes.Oph-thalmologyC121:1350-1358,C20144)InuzukaCH,CKawaseCK,CSawadaCACetal:DevelopmentCofCglaucomatousCvisualC.eldCdefectsCinCpreperimetricCglauco-mapatientswithin3yearsofdiagnosis.JGlaucomaC25:Ce591-e595,C20165)HoodDC,KardonRH:Aframeworkforcomparingstruc-turalCandCfunctionalCmeasuresCofCglaucomatousCdamage.CProgRetinEyeResC26:688-710,C20076)HoodCDC,CRazaCAS,CdeCMoraesCCGCetal:GlaucomatousCdamageCofCtheCmacula.CProgCRetinCEyeCResC32:1-21,C20137)UedaK,KanamoriA,AkashiAetal:Di.erenceincorre-spondenceCbetweenCvisualC.eldCdefectCandCinnerCmacularClayerCthicknessCmeasuredCusingCthreeCtypesCofCspectral-domainCOCTCinstruments.CJpnCJCOphthalmolC59:55-64,C20158)ShinCJW,CSungCKR,CLeeCGCCetal:GanglionCcell-innerCplexiformClayerCchangeCdetectedCbyCopticalCcoherenceCtomographyCindicatesCprogressionCinCadvancedCglaucoma.COphthalmologyC124:1466-1474,C20179)BelghithCA,CMedeirosCFA,CBowdCCCetal:StructuralCchangeCcanCbeCdetectedCinCadvanced-glaucomaCeyes.CInvestOphthalmolVisSciC57:OCT511-OCT518,C201610)FreundCKB,CCiardellaCAP,CYannuzziCLACetal:Peripapil-laryCdetachmentCinCpathologicCmyopia.CArchCOphthalmolC121:197-204,C200311)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,YoshidaTetal:Characteris-ticsCofCperipapillaryCdetachmentCinCpathologicCmyopia.CArchOphthalmolC124:46-52,C200612)OkumaCS,CMizoueCS,COhashiY:VisualC.eldCdefectsCandCchangesinmacularretinalganglioncellcomplexthicknessCinCeyesCwithCintrachoroidalCcavitationCareCsimilarCtoCthoseCinearlyglaucoma.ClinOphthalmol10:1217-1222,C201613)ChiharaCE,CChiharaK:ApparentCcleavageCofCtheCretinalCnerve.berlayerinasymptomaticeyeswithhighmyopia.GraefesArchClinExpOphthalmolC230:416-420,C199214)MuraokaCY,CTsujikawaCA,CHataCMCetal:ParavascularCinnerretinaldefectassociatedwithhighmyopiaorepireti-nalmembrane.JAMAOphthalmolC133:413-420,C201515)MiyoshiCY,CTsujikawaCA,CManabeCSCetal:Prevalence,Ccharacteristics,CandCpathogenesisCofCparavascularCinnerCretinalCdefectsCassociatedCwithCepiretinalCmembranes.CGraefesArchClinExpOphthalmol254:1941-1949,C201616)KiumehrCS,CParkCSC,CSyrilCDCetal:InCvivoCevaluationCofCfocalClaminaCcribrosaCdefectsCinCGlaucoma.CArchCOphthal-molC130:552-559,C2012(29)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C421

視機能検査の活用法の新常識

2022年4月30日 土曜日

視機能検査の活用法の新常識NovelMethodsonHowtoUtilizeVisualFunctionTests西島義道*野呂隆彦*はじめに緑内障は網膜から視覚中枢に投射する網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)の障害である.現在の緑内障診療において,自動視野計は必須の機器であり,とくにそのなかでもHumphrey静的視野検査がゴールドスタンダードとなっている.わが国に自動視野計が初めて導入されたのは1979年である.しかし,当時は測定ストラテジーも1種類のみであり,片眼の視野検査に20分以上の時間を要するという欠点があり,あくまでもGoldmann視野計の補助としての役割が主であった.1990年代に入ると検査時間の短縮を図ったストラテジーの開発,視野の統計解析による進行判定が可能となった.また,2018年には身体障害者認定基準の改正により,自動視野計での視野障害認定基準が明文化されたこともあり,今後ますます自動視野計の重要性が増加することが予測される.本稿では近年の視野検査の新しいストラテジーや解析法,また最近になり登場したヘッドマウント型の視野計について述べる.IHumphrey静的視野検査における測定プログラム・ストラテジーHumphrey静的視野計は白色背景光に対する白色の視標を示し,各測定点における明度識別閾値を決定する視野計である.可能な検査はスクリーニングテストと閾値テストの2種類が存在する.通常の緑内障診療におい-90-80-70-60-50-40-30-20-100102030405060708090図1両眼開放Estermanテストパターン(120点)ては閾値テストを使用することが多いが,スクリーニングテストの1種類であるEsterman検査は,視覚障害認定の際に使用される(図1).緑内障診療で用いられる閾値テストは,中心30°内を左右対称に6°間隔で測定する30-2と,30-2の測定点から鼻側階段に相当する2点を除き,最周辺部の検査点を除外した24-2の二つがおもに使用されている.閾値決定の測定ストラテジーは以前,全点閾値fullthreshodとsinglestraircasestrategy(FastPac)が考案されていた.しかし,全点閾値においては検査時間が長いこと,またFastPacでは再現性が低いというデメ*EuidoNishijima&TakahikoNoro:東京慈恵会医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕西島義道:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(11)403表1視野検査の種類と測定点24-210-224-2C配置点6°間隔52点2°間隔68点6°間隔52点+中心10点プログラムSITA-StandardSiTA-Fast・SITA-FasterSITA-StandardSITA-FastSITA-Faster(SITA-Standardも今後使用可能)正常眼における測定時間SITA-Standard:片眼4.5分SiTA-Fast:片眼2分半SITA-Faster:片眼1分半.2分弱SITA-Standard:片眼5分程SITA-Fast:片眼3分程片眼:2分.2分半ab図2SITA.StandardとSITA.Fasterの比較a:初診時の左眼COCT画像.視神経乳頭解析および黄斑部網膜内層解析にて網膜神経線維層の菲薄化を認める.Cb:左眼C24-2SITAStandardとSITA-Faster.視野検査の測定時間は,中心C24-2SITAStandardではC7分C16秒,中心C24-2SITAFasterではC2分C56秒と,SITA-Fasterでは半分以下となっている.MD値・PSD値,暗点形状は双方の視野検査にて類似する結果となった.図3SITA.Faster測定中の患者観察の重要性右眼中心C24-2SITAStandardおよびC24-2SITAFaster.24-2SITAFaster測定中に,別の患者に対する検査員の声がけに反応し,数秒間検査台から顔をはずしてしまっていた.24-2SITAFasterにおいて,24-2SITAStandardには認めない感度低下を認める.図424.2Cにおける追加点10点と神経線維走行の関係a:24-2CSITAFasterの測定点.Cb:黄斑部における障害を受けやすい神経線維の走行およびC24-2Cにおける測定点との関係.24-2Cにて追加した中心C10点は,感度低下をきたしやすい点を上下非対称に選択している.(文献C2を参考に作成)ab図5中心24.2Cにおいて中心近傍の感度低下を検出できた症例a:左眼底写真.耳下側に神経線維欠損を認める.Cb:左眼COCT画像.視神経乳頭解析では耳下側の網膜神経線維層の菲薄化を認める.黄斑部網膜内層解析においても耳下側優位に菲薄化を認める.c:左眼中心C24-2SITAStandard,中心C10-2SITAStandardおよびC24-2CSITAFaster.中心C24-2SITAStandardでは鼻上側に感度低下を認めるものの,中心C10°内では感度低下を認めていない.中心C10-2SITAStandardでは上方の感度低下を認めた.中心C24-2CSITAFasterでは10°内に新規追加を行った測定点において感度低下を捉えている.ab図6imoとimovifaa:第一世代Cimo(クリュートメディカルシステムズ).左右に独立したディスプレイがあり,片眼遮蔽なく測定が可能である.ヘッドマウント型として頭部(写真左)に装着もしくは専用のスタンドを使用し,スタンドタイプで測定を行う.Cb:第二世代Cimovifa(クリュートメディカルシステムズ).第一世代のスタンドタイプのCimoが改良され,重量がコンパクトになり.座位でより楽に検査を受けられるようになった.C-

原発開放隅角緑内障の全身的な危険因子

2022年4月30日 土曜日

原発開放隅角緑内障の全身的な危険因子SystemicRiskFactorsforPrimaryOpenAngleGlaucoma(POAG)橋本和軌*中澤徹*はじめにこれまで世界中で集団ベースの前向きコホート研究が進められたことで,緑内障の危険因子にかかわるさまざまなエビデンスが蓄積されてきた.報告された危険因子には眼圧や角膜厚といった眼球自体の機能・構造的な要素だけでなく,高血圧や糖尿病など全身的な変化にかかわる要素も含まれていた.全身的な危険因子は別のコホートにおいては結果が再現されず,すべての緑内障集団において危険因子であると言い切れるのか悩ましいものもみられた.本稿では,広義の開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)を対象として,近年のメタアナリシス研究や保険請求データなどのビッグデータを用いた研究を交えてこれまで報告された全身的な危険因子を整理する(表1).また,POAGのリスク予測にゲノム情報を用いる近年の研究についても述べる.I加齢年齢は単純であるが,あらゆる全身的な加齢性変化を反映する情報である.高血圧や糖尿病などの複雑疾患と同じく,加齢がPOAG発症の危険因子であることが多数の集団ベース研究で示されており,鈴木らは日本人集団(n=2,874)でも同様の傾向が再現されることを報告した(発症に対する年齢の単位オッズ比1.06)1).Leskeらが行ったアフリカ系民族コホート(n=3,222)の9年間の観察研究では,POAG発症の相対リスクは1年あ表1POAGの危険因子眼検査から評価されるものだけでなく,眼球外の変化も危険因子となりうる.たり4%上昇し,40代と比較すると60代以上では発症リスクが2倍以上となっていた2).Kreftらは約25万人の4年間の保険請求データベースを用いた研究で,50代前半と比べたPOAG発症のハザード比が60代で2以上,70~80代で3以上となることを報告した3).加齢は介入不可能な要素であるが,緑内障が疑われる患者に定期的な眼科受診を促すにあたり,これらの疫学的知見は大切である.ある時点の検査で診断に至らなくても,加齢とともにPOAGを発症するリスクは増加し,将来POAGを発症する可能性が残ることは患者に説明するべきだと考える.II血圧・眼灌流圧高血圧とPOAGの関連は多数の集団ベース研究で調査されてきたが,一貫した結果は得られていない.これには,研究によって高血圧の定義が異なっていること,高血圧の罹病期間や治療状況が考慮されていないことが*KazukiHashimoto&ToruNakazawa:東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野〔別刷請求先〕橋本和軌:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)395POAG有病率大大POAG有病率小小<6061~7071~8081~9091~100>100<5051~6061~8081~100>100拡張期血圧(mmHg)平均眼灌流圧(mmHg)図1拡張期血圧・平均眼灌流圧とPOAG有病率の関係血圧および眼灌流圧には,高すぎても低すぎてもCPOAG有病率が上昇するCU字型の関係がみられる.(文献C6で報告された結果をもとに作成)==診断がついたものに限ればC1.23)であり,糖尿病の診断からC1年ごとに緑内障の発症リスクがC5%ずつ増加することを報告した8).糖尿病がCPOAGに対して影響を与える機序としては,長年の高血糖や脂質異常による網膜神経節細胞の障害,血管内皮障害による血流調節異常,結合組織のリモデリングによる篩状板や線維柱帯構造の変化が考えられている9).POAGを発症するリスクの評価という観点からは,単純な疾患の有無情報だけでは不十分かもしれず,糖尿病の病型・重症度・罹患期間・治療状況など考慮することで,異なる集団に対してより再現性の高いリスク評価が行える可能性がある.CIV偏頭痛・血管攣縮偏頭痛の病態は完全に解明されているわけではないが,機能的な血管攣縮がかかわっていると考えられており,同時に眼血流も低下させている可能性があることからCPOAG発症への関与が疑われている10).Dranceらは無作為化臨床試験中に未治療期間があった正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)患者を対象として視野障害進行のリスク因子を調べる研究を行い,偏頭痛のあるCNTG患者は偏頭痛のない患者に比べて視野障害進行のリスクがC2.58倍となることを報告した11).Huangらが台湾のC100万人の国民健康保険データベースを用いて行った集団ベース研究では,合併症のない50歳未満のグループにおいて,偏頭痛のあるCOAG患者は偏頭痛のない患者と比べてCOAGの発症リスクが1.68倍であった12).一方,偏頭痛とCPOAG発症の関連を調べたコホート研究のメタアナリシスでは,両者に有意な関連は認められなかった13).これらの結果を総合すると,偏頭痛・血管攣縮はPOAG患者の大半にはそこまで影響力をもたないが,あるサブタイプ(若年・基礎疾患なし)においてリスクを高めている可能性がある.臨床現場では偏頭痛の症状を問診して評価するしかないが,血管攣縮を起こしやすい体質であるかどうかを簡便に検査する方法が用いられるようになれば,偏頭痛に関連したCPOAGのサブタイプを効率よく同定し,そのグループを対象とした有効な治療を検討することができるかもしれない.V閉塞性睡眠時無呼吸症候群閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructionCsleepCapneasyndrome:OSAS)は睡眠中の断続的な上気道閉塞を特徴とする疾患である.OSASは動脈硬化,糖尿病,心血管イベントなどのリスクとして知られており14),OSASが引き起こす著しい低酸素状態とそれにより生じる血管収縮はCPOAGの発症に対しても影響すると考えられている.Linらが行った台湾の国民健康保険データベースを用いた後ろ向きコホート研究(n=1,012)では,OSAS患者はCOSASをもたないものに対してCPOAG発症のハザード比がC1.67であった15).日中の眠気や高血圧などの症状のあるCOSASに対しては,気道閉塞による低酸素症を改善するために持続陽圧呼吸療法(contin-uousCpositiveCairwaypressure:CPAP)が導入される.OSAS患者にCCPAPを導入することでCPOAGの発症リスクを軽減できるかについて明確なエビデンスは得られていない.しかし,山田らはCOSASを有するCPOAG患者ではCOSASのない患者と比べ有意に視野障害の進行速度が早いことを報告しており16),とくに重症COSASのCPOAG患者は視野障害を急速に悪化させる可能性があるため,筆者らは眼圧下降療法に反応せずCOSASが疑われるCPOAG患者に対しては積極的にCOSASのスクリーニング検査を勧めている.CVI家族歴・ゲノム情報家族歴はCPOAGの危険因子のひとつとみなされており,WolfsらはCRotterdamStudyの解析から親・兄弟がCPOAG患者である場合にCPOAG発症の相対リスクが9.2倍となることを報告した17).POAGの原因となる単一遺伝子変異としてはCMYOC,OPTN,TBK1の変異が知られているが,これらが発症の原因となっているCPOAGは多くなく,ヨーロッパ民族のCPOAG患者のうちC3~5%とされている18).もっとも頻度が高く研究が進んでいる変異はCMYOCのCp.Gln368Terであるが,日本人を含むアジア民族ではこの変異がほとんど観察されないため,日本人集団における既知の単一遺伝子変異の頻度はさらに低くなるかもしれない.英国バイオバンクのデータを用いたCHanらの研究(5)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C397図2一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)SNPとはゲノム中にC1%以上の頻度でみられるC1塩基の違いである.図3ゲノムワイド関連解析(genome.wideassociationstudy:GWAS)GWASとは,あるCSNPに着目したときに疾患群と対照群で塩基の違いに有意な偏りがあるかどうか,数百万のCSNPについて統計的に検討する研究である.図4マンハッタンプロットGWASの結果はマンハッタンプロットとよばれるグラフにまとめられる.一つひとつの点はCSNPを表している.グラフで橙色のラインの上にあるCSNP,つまりCp値がC5.0C×.108を下回るCSNPがゲノムワイド有意とされる.この水準は保守的なものであり,ここまで達していないCSNPも疾患発症に影響している可能性がある.C■疾患■対照小12345678910PRS(10分位)大図5ポリジェニックリスクスコア(polygenicriskscore:PRS)による層別化各個体に対してCPRSを計算し,PRSの大小C10分位でグループを作ると,発症率が少ないグループと高いグループを抽出することができる.PRSはこのようにリスク層別化の手段として期待されている.-■用語解説■バリアント:個体間でのゲノム情報の違いをさす言葉.かつては頻度の高いゲノム上の差異を多型,まれなものを変異とよび分けていたが,現在はどちらもまとめてバリアントとよばれる.SNPはバリアントに含まれ,遺伝病の原因となる遺伝子変異もバリアントのひとつである.—

序説:ここまで変わった緑内障診療の新常識

2022年4月30日 土曜日

ここまで変わった緑内障診療の新常識CurrentCommon-SensePathwaysfortheTreatmentofGlaucoma中野匡*緑内障の有病率が40歳以上の5%と判明して久しい.その後,驚異的な超高齢社会となり,さらにコロナ禍で眼を酷使するテレワークが普及した今日の日本で,新規の視覚障害者数がもっとも多い疾患である緑内障の位置づけは,単に代表的な眼科疾患にとどまらず,生活習慣病にならぶ“commondis-ease”になった感がある.一方で緑内障診療も時代とともに変遷し,各種の構造/機能の検査機器の進歩に伴い,早期診断の精度は向上し,ゲノム解析や人工知能(AI)技術なども急速に診療に導入されようとしている.このような時代背景のなかで,薬剤/手術療法の選択肢も大幅に増え,今後の治療方針に悩む事例も確実に増えた印象を受ける.くしくも緑内障診療ガイドラインが第5版に改訂され,改めて緑内障診療の基本方針を整理すべきよき節目となった.本特集では緑内障診療にまつわる新常識を過不足なく取りあげた.はじめに橋本和軌先生と中澤徹先生に,これまでおもに眼球自体の構造や機能にかかわる評価項目を中心に検討されてきた緑内障の危険因子に関し,メタアナリシス研究やレセプトデータなどのビックデータを用いた最新の報告や,さらにゲノムワイド関連解析から得られた全身的な危険因子に関する最先端の知見について執筆いただいた.次に西島義道先生と野呂隆彦先生には,緑内障の機能評価として必須項目である視野検査に関し,代表的な検査プログラムの活用法や最近登場した新規の検査ストラテジーについて,さらに新たな静的視野検査法として注目される両眼開放視野計について紹介いただいた.また,沼尚吾先生と赤木忠道先生には,今や緑内障の構造評価に不可欠となったOCTと緑内障領域でも今後の活用法が期待されるOCTAについて,さらに近視眼で緑内障との鑑別が問題となる各種の特徴的な所見について解説いただいた.本庄恵先生には近年ますます選択肢が増えた緑内障治療薬について,各種点眼薬の有効性や留意点を,最近の知見を交えて系統立てて説明いただいた.新田耕治先生には,緑内障のレーザー治療について,近年その使い方や効果が改めて注目される選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の活用法について,さらに難治症例のみでなく適応症例の拡大が期待されるマイクロパルス毛様体光凝固術(MPCPC)に関する最新情報をご提供いただいた.谷戸正樹先生には日本でも明らかに手術件数が増えてきた低侵襲緑内障手術(MIGS)の適正使用について,各術式の特徴や有効性について,経験豊富*TadashiNakano:東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(1)393