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わが国における羊膜バンクの活動報告と 移植状況2020 年版

2022年3月31日 木曜日

わが国における羊膜バンクの活動報告と移植状況2020年版武田太郎*1,坂本ゆり*1,原祐子*2,坂根由梨*2,竹澤由起*2,三谷亜里沙*2,井上英紀*2,白石敦*2,安久万寿子*3,石垣理穂*3,岡部素典*4,吉田淑子*4川村真理*5,佐々木千秋*6,夛田まや子*7,長井一浩*8,星陽子*9,横手典子*10,1)愛媛大学医学部附属病院羊膜バンク,2)愛媛大学医学部眼科学教室,3)京都府立医科大学組織バンク,4)富山大学附属病院羊膜バンク,5)けいゆう病院眼科/羊膜バンク,6)東京歯科大学市川総合病院羊膜バンク,7)大阪大学組織バンク(羊膜),8)長崎大学病院羊膜バンク,9)あきた移植医療協会,10)久留米大学病院羊膜バンクはじめに2014年に羊膜移植術が保険収載され,移植医に羊膜を供給する羊膜バンクは日本組織移植学会のガイドラインの遵守,認定資格取得,学会認定組織移植コーディネーターの設置が必要となった.2020年時点で,自施設のみならず他施設にも羊膜を供給できるカテゴリーI羊膜バンクが6施設,自施設内のみに供給を行うカテゴリーII羊膜バンクが3施設あり,連携を取りながら活動している.今回,愛媛大学医学部附属病院羊膜バンクが2019年と2020年のレジストリー集計を行い,その結果を2017年および2018年の羊膜バンク活動実績と比較した.さらに都道府県別の羊膜移植実施状況と,羊膜バンクの斡旋契約施設状況も調査し,全国における羊膜移植の実施・普及状況をまとめたので報告する.I対象および方法全国9施設の羊膜バンクから収集した2019年および2020年における活動実績報告を集計・分析し,2017年および2018年の集計結果と比較した.今回分析した項目は,羊膜移植手術件数,患者の適応疾患,術式とその内訳(単独手術・併施手術),ドナー数,新規保存羊膜数である.また,都道府県別に2019年の羊膜移植実施件数,2020年時点で羊膜バンクと斡旋契約を結んでいる施設の存否についても調査した.II結果羊膜移植手術件数は,2017年は471件,2018年は463件とほぼ横ばいで推移し,2019年は607件と大きく増加したが,2020年は457件と4年間でもっとも件数が少なく,前年よりも25%減少していた(表1).原因疾患については,2017.2019年は翼状片が35.36%ともっとも多く,2位のStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)と3位の腫瘍性疾患が10%前後で,ほぼ同様の傾向を示した.2020年はこれまでの年と同じく,1位は翼状片の32%であったが,2位が腫瘍性疾患17%,3位が熱・化学熱傷13%で,これまで2位であったSJSは4位の5%と減少していた(図1).術式の内訳では,羊膜移植のみの単独手術は30.35%,他の手術を併施した割合は65.70%で,4年間ともほぼ著変なく推移していた.2019年と2020年の併施手術の内訳をみると,翼状片がもっとも多く,ついで角膜移植,腫瘍性疾患,結膜.形成の順で,2年間ともほぼ同じ傾向であった(図2).ドナー数は2017年は27人,2018年は23人,2019年は19人,2020年は21人で4年間の平均ドナー数は22.5±3.4人であるのに比し,新規保存羊膜数は2017年は540枚,2018年は545枚,2019年は706枚,2020年は935枚と年々増加傾向にあり(図3),1ドナーからの保存数が増加した.都道府県別の2019年の羊膜移植件数では,32都道府県で羊膜移植が実施されており,15県では実施がなかった.羊膜バンクのある都府県やその周辺で実施件数が多い傾向にあった(図4).2020年時点の羊膜バンク斡旋契約施設の存否では,39の都道府県に契約施設があり,普及率は83%であった(図5).III考按羊膜移植手術件数は2019年に大きく件数を伸ばしており,われわれコーディネーターは2020年にはさらに羊膜の需要〔別刷請求先〕武田太郎:〒791-0295愛媛県東温市志津川454愛媛大学医学部附属病院羊膜バンク表1原因疾患の内訳2017年2018年2019年2020年翼状片35%翼状片36%翼状片35%翼状片32%SJS12%SJS9%SJS11%腫瘍性疾患17%腫瘍性疾患8%腫瘍性疾患9%腫瘍性疾患11%熱・化学外傷13%熱・化学外傷6%熱・化学外傷8%眼類天疱瘡9%SJS5%眼類天疱瘡4%眼類天疱瘡7%水疱性角膜症5%角膜感染症5%緑内障4%水疱性角膜症5%熱・化学外傷5%水疱性角膜症4%その他29%その他26%その他25%その他24%すべての年度で翼状片がもっとも多かった.2019年までは2位がStevens-Johnson症候群(SJS),3位が腫瘍性疾患であったが,2020年は2位が腫瘍性疾患,3位が熱・化学熱傷と傾向が変化していた.(件)700650607件60025%減少550471件463件457件5004504002017年2018年2019年2020年図1羊膜移植手術件数の推移羊膜移植手術件数は,2017年と2018年はほぼ横ばいで推移し,2019年は大きく増加したが,2020年はコロナ禍の影響か前年よりも25%減少していた.100%65%70%68%65%35%30%32%35%単独・併施手術翼状片手術45%翼状片手術47%角膜移植15%角膜移植15%腫瘍切除9%結膜.形成7%腫瘍切除11%結膜.形成6%その他24%その他21%併施手術の内訳100%80%80%60%60%40%40%20%20%0%0%2017年2018年2019年2020年2019年2020年■単独■併施図2術式の内訳単独手術と併施手術の割合は4年間ともほぼ著変なかった.併施手術の内訳は翼状片手術がもっとも多く,2019年と2020年ともに同じ傾向であった.が増えることを予測していた.しかし,2020年はCOVID-術式の内訳では,羊膜移植単独の手術は約30%のみで,19感染防止策によって,各施設で眼科手術の実施に制限が多くは翼状片手術や角膜移植,腫瘍切除など別の手術と併施かかり,4年間で最少手術件数となった.これは原因疾患のされていた.石垣1)の報告では,羊膜移植の保険診療報酬点1位を占める翼状片が不急の疾患であることなどが影響した数は増点されたものの,併施手術の加点は認められておらと思われる.それを裏付けるかのように,2017年からの3ず,診療報酬の設定や内容の見直しを働きかける必要性につ年間10%前後で原因疾患の2位であったSJSが2020年でいて言及している.羊膜移植の診療報酬は2018年度に8,780は5%に減少し,緊急性の高い腫瘍性疾患と熱・化学外傷の点から10,530点に増点されたが2020年度は据え置かれ,割合が増加していた.いわゆる「コロナ禍」の影響が,羊膜K224:翼状片手術(弁の移植を要するもの)の3,650点と比移植の実施状況にまで及んでいることが示唆される興味深いべた場合,病院経営視点でいうと必ずしも費用対効果が高い結果であった.とはいえない.羊膜移植では約70%もの割合で他の手術が(人)302520151027人ドナー数の推移23人19人21人(枚)1,000800600400540枚新規保存羊膜数の推移706枚545枚935枚520002017年2018年2019年2020年02017年2018年2019年2020年図3ドナー数と新規保存羊膜数の推移ドナー数はやや減少傾向であったが,新規保存羊膜数は年々増加傾向であった.■羊膜バンクのある都府県7■移植のあった都道府県■移植がなかった県712210535241629441148123383932425151844139154図42019年の都道府県別羊膜移植実施件数32の都道府県で羊膜移植が実施されており,羊膜バンクのある都府県やその周辺で実施件数が多い傾向にあった.15の県で移植が行われていなかった.併施されているということも踏まえ,今後さらなる診療報酬の見直しを期待したい.ドナー数と新規保存羊膜については,羊膜バンクとしての機能を十分に果たせていることが示された.また,ドナー数は2017年からやや減少傾向にもかかわらず新規保存羊膜数は年々増加していた.これは,羊膜保存技術の向上が関係していると考えられた.都道府県別の2019年の羊膜移植件数と2020年の羊膜バンク契約施設状況をみると,2019年は32都道府県で羊膜移植が実施されており,2020年の時点で羊膜バンクと斡旋契約を結んでいる施設は39都道府県まで広がっていた.この結果から,羊膜移植医療が全国に普及してきていることは明らかであるが,羊膜バンクのある都府県とその周辺に偏っていることや,8県では羊膜バンク斡旋契約施設がないことなどから,地域格差も少なからずあるという現状が浮き彫りになった.羊膜を必要とする患者にあまねく移植を届けるには,実施施設基準の緩和が必要である.羊膜移植術では事故の報告はなく,安全性が確立されているといえる.現在は病院でなければ移植できないが,これを診療所レベルにまで拡■契約施設のある都道府県■契約施設のない県図52020年時点で羊膜バンクと契約施設のある都道府県39の都道府県に契約施設があり,普及率は83%であった.8の県で契約施設がなかった.大することが求められていると考えられる.併せて羊膜を安全に安定して供給できるよう,バンク間の情報共有と連携を深化し,活動や実際の手続きについて啓発を続けることが重要であると考えられた.今回筆者らは,全国の羊膜バンクから収集した集計用紙を用いて2019年と2020年の活動実績をまとめ,過去のデータと比較して羊膜移植の現状を明らかにした.グラフトは十分確保され,安定供給が可能である.今後も集計・報告を継続し,わが国における羊膜移植の普及に貢献したい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)石垣理穂:本邦における羊膜移植2017年,羊膜バンクの活動実績とその分析(会議録).日本組織移植会誌17:50,20182)原田康平,福岡秀記,稗田牧ほか:羊膜移植21年間の推移.日眼会誌125:895-901,20213)日野智之,外園千恵,稲富勉ほか:羊膜移植の適応と効果.日眼会誌116:374-378,2011

新型コロナ感染症パンデミックにおける 涙道診療の実践(第1 報)

2022年3月31日 木曜日

新型コロナ感染症パンデミックにおけるはじめに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行がパンデミックと宣言されて1年以上が経過した.わが国もパンデミックに巻き込まれ,眼科医療も混乱した.しかし,ワクチン接種率も日ごとに上昇しており,眼科医療の混乱は一段落ついた感がある.2020年4月から7月にかけ,インターネット上では涙道と関係する領域のさまざまな注意喚起や勧告が出された1.10).これらを読み解くと,涙洗を含むほぼすべての涙道検査と治療がエアロゾルを発生させる手技(aerosolgenerat-ingprocedure:AGP)であり,これを行うことで患者から医療従事者にSARS-CoV-2のエアロゾル感染が生じる可能性が危惧される.筆者はこの点を重く受け止め,2020年8月までは涙道検査と手術はすべて中止としていた.その間に文献で勉強しながら感染対策の準備を進め,同年9月から涙道診療の再開を果たした.その結果,パンデミックが始まる前(コロナ前)と後(コロナ後)で,涙道検査・手術・術後管理の流れ(涙道診療の進め方)は変化した.本稿では,医療従事者を守る安全衛生管理の観点から模索したエアロゾル対策や患者管理の方法を記述し,その結果を省みる.ICOVID.19の感染経路とエアロゾルSARS-CoV-2の感染経路は三つある.すなわち接触感染,飛沫感染,エアロゾル感染である.2020年3月の時点ではおもに接触感染と飛沫感染が注目されており,エアロゾル感染は特殊な場合に限られると考えられていた.しかし,その後の事例検討や実験研究などの積み重ねの結果,エアロゾル感染が注目されるようになり,米国疾病予防管理センターの2021年5月7日の更新でも公式にエアロゾル感染が主要感染経路の一つとして記載された11).日本エアロゾル学会によると,エアロゾルとは,空気中に浮遊する液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体と定義されている(https://www.jaast.jp/new/about_aerosol.html).涙道診療の実践(第1報)鈴木亨**鈴木眼科クリニックその粒子の大きさはさまざまであり,粒子の種類や環境や計測方法などによって0.001.100μmまで広範なバリエーションがある.新型コロナウイルス感染で注目されるのは,おもにヒトが発声したときに気管支,喉頭,口腔から出る飛沫が,乾燥してその核が空気中に漂っているものについてであり,1μm前後の大きさに分布ピークをもつ12).すなわち,いわゆるPM2.5よりも小さい.SARS-CoV-2のウイルス粒子の大きさは0.005.0.2μmとされており,このエアロゾルよりもさらに小さい.このためエアロゾルの発生元にウイルスが存在すれば,それは容易にエアロゾル粒子に乗って長い時間空気中を漂い,時間差があってもその空間を共有する人の肺胞まで届く.II医療行為が引き起こすエアロゾル感染の現実的脅威医療現場においては,ヒトパピローマウイルスによるコンジローマに対するレーザー治療を担当していた外科医や手術室看護師が,レーザー操作で発生するサージカルスモーク(エアロゾル)を介して喉頭乳頭腫を発症したという報告をはじめ,医療行為に伴うエアロゾル感染は多数報告がある13.18).これらはみな,レーザー手術に限って研究されたものであるが,そのリスクはAGP一般にも当てはまることである.医療行為でエアロゾルが発生することは,これまで注目されてこなかった.しかし,それによる職場安全への脅威は現実に存在しており,その職場を管理する立場にある者はこの点に意識的に取り組まなければならない.とくに本稿のテーマである涙道診療においては,涙洗や涙道内視鏡手技,ドリリングなどで必ず灌流水を用いる.また,涙道そのものが排水管,つまり水が溜まった臓器であるということから,そこになんらかの操作を加えると飛沫が生じてエアロゾルも出ることは疑いようがない.COVID-19患者の鼻腔にウイルス量が多いとされるのは周知の通りであり,そこと連続する涙道の診療には細心の注意が必要である.〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102北九州市若松区東二島4-7-1鈴木眼科クリニック図1減圧装置エフエスユニ社の施工で手術室前室に取り付けた.一般眼科手術では使用せず,涙道手術でのみ使用する.CIII当院で行ったエアロゾル対策の方法1.作業環境管理a.手術室の改修手術室の気圧調整工事を行った(図1).涙道手術は陰圧手術室で施行するよう推奨されている10).これに対応する仕組みを作った.通常,手術室は埃の侵入を防ぐ目的で陽圧になるよう設計されている.つまり,手術室の空気を常に廊下へ吹き流しながら手術作業をする仕組みである.そこで涙道手術を行うと,発生したエアロゾルは院内どこへでも拡散する可能性がある.手術室を陰圧にすることでこれを防ぐことができる.しかし,手術場そのものを陰圧にすると,埃が増えて術野は別の病原体で汚染される.これを避けるため,手術場は陽圧のままにしておき,準備室を陰圧とすることでエアロゾルの流出を防ぐ仕組みとした.Cb.院内吸引システムの改修セントラルサクションシステムの造設工事を行った(図2).涙道手技では,鼻内で鼻汁や血液など体液を吸引する必要が生じる場合がある.その際に発生するエアロゾルを室内に拡散させない仕組みを作った.コロナ前はポータブルの体液吸引装置を用いていた.この装置は体液と一緒に吸引した空気を直接排気するため,多量のエアロゾルが室内に拡散する.コロナ後はこれをやめ,陰圧を発生する共通配管をクリニックの屋上に取り付け,外来処置ベッド付近と手術室の壁に受動吸引装置を接続する接続口を設けた.液体は受動吸引装置の密封パックに閉じ込められるのでそのまま廃棄できる.エアロゾルを含む気体は吸気配管内に密封されるので,院内に逆流しない.吸引空気量が多くなると配管内圧が上昇し,ポンプが作動して配管内空気が院外の安全な場所に排出拡散される仕組みである.2.涙道手技の作業管理当院では一般的な感染対策として,スタッフ全員にサージカルマスクとフェイスシールドかゴーグルの常時着用を命じている.そのうえで,涙道診療に必要な作業を次のように管理した.Ca.涙洗外来で涙洗を行わない方針とした.涙洗は涙道検査の基本であり,コロナ前は外来で頻繁に行ってきた.しかし,2020年C4月には涙洗で発生するエアロゾルが危険とされ,施行する場合はCN95マスクを含む個人防護装備(personalprotectiveCequipment:PPE)の使用が推奨された4,10).しかし,当時は世界的に感染防護資材が十分でなく,涙洗中止がもっとも安全で現実的な判断であった.Cb.涙道内視鏡検査外来での涙道内視鏡の使用は完全に中止した.涙道内視鏡の使用に際しては,多量の灌流水を使用する.したがってエアロゾル発生リスクは涙洗よりも高いと考えられる.コロナ前は外来で点眼麻酔下の涙道内視鏡検査をルーチン化していたが,コロナ後はこれを中止した.Cc.鼻処置と鼻内視鏡検査鼻内視鏡の使用は最小限とした.コロナ前にルーチン化していた涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)術後のリノストミー経過観察は中止した.しかし,DCR術後のガーゼ抜去にはどうしても鼻内視鏡が必要であり,その際には発生するエアロゾルを吸引除去しながら作業するよう管理した.鼻内ガーゼは体温で温まった状態で濡れており,これを引き出す行為では湯気(エアロゾル)の発生が避けられない.セントラルサクションシステムの吸引流量は低く,いったん空中に漂い始めたエアロゾルの捕獲吸引には向かな図3レーザースモーク吸引装置Sackhouse社製スモーク吸引装置(VersaVac2,輸入元はニデック).強い吸引力と持ち運びに便利なコンパクトさが利点.半年に一度のCHEPAフィルター交換が必要である.図5DCR施行中の風景5名のスタッフで,強化CPPEを装着して手術する.防護服のメーカー正規品は入手できなかった.インターネットで中国製コピー商品を一括大量購入し,EOGガスで滅菌して使用している.顕微鏡は専用のカバーで覆い包んでいる.い.そこで,高流量のレーザー手術用スモーク吸引装置を利用してこれを吸い取るようにした(図3).この装置はコロナ前からCDCRの骨削開時の粉塵吸引用に使用していたものである.これを外来処置室でも積極活用することにした.排気は局所式であるが,HEPAフィルターを通過させる仕組みである.使用の際には吸引ホース先端を鼻孔に近づけ,鼻孔やガーゼから出る湯気を吸い取るイメージで作動させている.また,先述のように涙洗は中止の方針であったが,まれに診断のためどうしても必要な場合はある.その際にも,本装置を利用している.Cd.涙道チューブの抜去涙道チューブ抜去にも注意を払った.文献ではチューブ抜去もCAGPとされる4,10).抜去が必要な場合には,涙点間のチューブを剪刀で切断して断端を涙洗針で押し込むだけで引き抜かず,患者に自宅で鼻をかんで出させるようにした.Ce.コーンビームCTの積極活用当院ではコロナ前からコーンビームCT(coneCbeamC図4コーンビームCTモリタ製作所製のCCBCT(Accuitomo).座位の患者の頭部周辺を装置が回転する仕組み.椅子が前後左右に動いて患者の顔の位置を微調整する.CT:CBCT)を備えており,これを積極的に活用した(図4).CT検査は唯一CAGPでない涙道検査である.造影剤もシリンジングでなく点眼するだけで,涙道の閉塞局在評価などが可能である.スタッフが行う準備にはC5分以上かかるが,医師が行う撮影は短時間(17.5秒)で終わるので,医師が行う作業はコロナ前の涙洗と同様の手軽さである.コロナ後は,涙洗に代わり,この装置を用いたCCBCT涙道造影(dacryocystography:DCG)が涙道のルーチン検査となった.Cf.手術室勤務体制術者含めてCDCRの際にはC5名,涙道内視鏡手術の際には3名で行うこととし,それ以外のスタッフの入室を禁じ,室内でのエアロゾル曝露を前提として強化CPPE(enhancedPPE,防護服と靴カバー,ゴーグル,N95マスク,グローブ)で手術を行うようにした(図5).Aliはラボ検査陽性者の手術の際には,さらに電動ファン付呼吸用保護具(pow-eredCair-purifyingrespirator:PAPR)の装着を勧めている(fullPPE)10).しかし日本では,検査で陽性となった患者は隔離されるか専用病床に入院となるのでその機会はない.また,DCRの助手を務めるスタッフC2名には,手術室勤務終了後にはシャワーで洗体し休憩に入るよう命じた.術者(筆者)は,コロナ前からCDCR後のシャワー洗体をルーチンとしている.eabcd図6バイオハザードルームで働く筆者a:試薬保存用冷凍庫(指定温度C.20℃),Cb:解析制御用パソコン,Cc:島津製作所製の自動遺伝子解析装置(AutoAmp),d:遠心分離機,Ce:安全キャビネット,入院の撤廃で空いた病室を利用してバイオハザードルームとした.検体採取から持ち運びの動線など,保健所と綿密に打ち合わせて運用している.ウイルスは分析行程中不活化されないので,作業でエアロゾル感染の危険性がある.そのため,筆者以外のスタッフの立ち入りを禁じており,筆者が指示した場合のみ清掃スタッフが入室できる.Cg.手術操作先に述べた通り手術室の作業環境管理には万全を尽くしている.この中で発生するエアロゾルは外へ漏れ出ることはない.また,勤務するスタッフの作業管理にも万全を尽くしている.エアロゾル曝露を受けても感染リスクは最小限となる.手術室の中では,大量の飛沫とエアロゾルを発生するDCR時のドリリングだけでなく,外来で厳しく制限してきた涙洗や涙道内視鏡検査も自由に行う方針とした.文献的にはCDCR時のドリリングやバイポーラー止血などは使用を最小限にするよう勧告されている4).しかし,筆者は,管理された手術室ではもはや制限の必要はなく,むしろ涙道治療の完成度を落とさないことに傾注しなければ患者のためにならないと考える.とくにCDCR術中のバイポーラーによる止血操作については,むしろコロナ前よりも頻回に行っている.後で述べるようにCDCRも日帰りで施行することにしたため,手術終了時には完全に止血されている必要があるからである.ただしエアートームはやめ,鼻外法でも電動ドリルを用いるようにした.エアートームは圧搾空気で先端の歯を回転させる仕組みであるが,医療用に滅菌された圧搾空気は大変にコストが高く,滅菌されていない工業用圧搾窒素を用いるのが一般的であった.この際,これを衛生的な電動ドリルに変えた.また,手術顕微鏡は多量のドリリング飛沫とエアロゾルに直接曝露されるので,顕微鏡カバーで完全に覆うようにした(図5).ドリリングとバイーポーラー止血操作の際にはスモーク吸引装置を作動させ,吸引ホース先端を術野に置くよう助手に保持させた.3.健康管理当院スタッフの全員に朝の検温を義務づけ,毎日報告させた.また,発熱のほか上気道炎症状や下痢などの体調不良が発生した場合には速やかに申し出るよう命じた.その場合には,10日間の休業で在宅健康観察を行う方針とした.無症状のスタッフに対するCCOVID-19診断目的の特定のラボ検査は行っていない.CIV患者管理の方法1.生活指導と健康観察記録無症状感染者に手術を行ってしまうリスクを下げるため,手術C2週間前から患者とその同居人に対し,人との接触を減らして感染機会を避けるように求めた.職場や学校へ通うことは制限できないが,その他の活動については制限を求めた.同居していない家族との面会やレクリエーション活動などはもちろんのこと,デイケアやリハビリテーション施設など健康維持活動も含めて手術まで見合わせるよう求めた.また,この間の患者とその同居人の体温や体調を記録する記入用紙を用意し,毎日の記帳を求めた.C2.ラボ検査と肺CT念のため手術のC1.3日前に,おもに唾液検体によるSARS-CoV-2の遺伝子解析検査(real-timeCreverseCtran-scriptionCpolymeraseCchainreaction:リアルタイムRT-PCR法)を施行するようにした.当初は衛生検査所に分析を外注していたが,結果が出るまでの時間が地域流行状況に左右されるため,現在は院内に解析装置を備え筆者自身が作業を行っている(図6).また,術前日にCPCR陰性の結果を添え連携病院へ紹介し肺CCT検査を行うようにした.C3.術後管理入院を廃止し,すべて日帰り手術とした.遠方の患者については翌日の術後診察に備えるためホテル泊を求めた.術後通院も最小限に留めるようにした.コロナ前はCDCRについては,ガーゼ抜去と抜糸の後C1,3,6,12カ月時に加えてC5年を過ぎるまでは年にC1回リノストミーの形態変化を観察していた.ELDRについては,術後なるべく長期に涙洗通院を続けて涙道開存を維持する方針であった(assistedCpaten-cy)19).コロナ後は,DCRについてはガーゼ抜去や抜糸まで,ELDRについてはチューブ切断までで術後診察を終了する方針とした.CV小児涙道診療小児の検査と治療は中止し,相談のみ受け付けるようにした.涙洗では先にで述べた通りのリスクがあり,プロービングでは長時間の号泣が避けられないので飛沫とエアロゾルの抑制は困難である.様子をみて治療が必要と判断した患児は,すべて全麻涙道治療が可能な九州大学病院へ紹介するようにした.CVI結果このようなさまざまなエアロゾル対策と患者管理によって,医療従事者の安全衛生を守ることが可能と判断し,2020年C9月から涙道診療を再開することができた.その結果,2021年C5月末までにC53名C60症例の涙道手術を施行できた.手術の詳細やコロナ前との比較については第C2報で述べる.対象期間中,筆者を含めて発熱など体調変化が記録された院内スタッフは皆無であった.また,術前患者のCPCRと肺CCTの結果で手術延期となった患者は皆無であったが,健康観察記録の様子から手術延期となった患者がC1例あった.これは,患者本人ではなく同居家族の発熱のため手術を延期したものであった.この家族は,患者本人の手術予定日にCCOVID-19とは別疾患で入院となり,患者本人は同日その対応に追われることとなった.外来では,涙洗と涙道内視鏡中止の代わりに初診時のCBCT-DCG撮影をルーチン化した.この方針では術前に確定診断困難なケースもあり,手術直前に行う涙道内視鏡検査で診断が覆ることもあった.想定される術式変更の可能性については術前に説明を行うようにしていたが,搬入後に想定外の診断となり術式変更が困難であった患者がC2例あった.これらは,手術中止として帰宅させた(第C2報参照).CVII考察一定規模以上の企業では,専任の産業医が職場の安全衛生の責務を負っている.一方,眼科クリニックのような小規模の職場では,施設責任者がその職務を代行しなければならない.筆者は当院の開設者であるので,今回のパンデミックでさまざまな努力を積み重ねる必要があった.自らへの涙道手技制限や患者への術前生活指導などは,医師と患者の両方に不便や不利益をもたらしたかもしれない.しかし,それと引き換えに,涙道診療の再開後は流行状況に左右されず,一定のペースを保って涙道診療を続けることができた.またその間,筆者も含めて院内スタッフの誰も発熱しなかった.感染を完全に否定できる方法はないので,スタッフにCCOVID-19の特定検査はしていない.したがって,今回の対策で本当に感染が予防できたかは不明であるが,少なくとも,職場安全衛生に配慮した涙道診療の再開が可能となった.感染リスクに対応した安全管理の結果,筆者の涙道診療の進め方はコロナ前と後で変化した.コロナ前は,おもに涙洗と涙道内視鏡で確定診断を行い,CBCT-DCGの所見を参考にしながら術式を選択したうえで手術予約を行っていた.コロナ後は,涙洗と涙道内視鏡を省略してCCBCT-DCGの所見のみを頼りに手術予約を行うようになった.当初は,術直前の涙道内視鏡検査で診断が変わり,術式も変更せざるを得ないことで混乱も多いかと危惧した.しかし,その混乱はC9カ月の対象期間中でC2例のみと少なかったので,涙洗をしない涙道外来でも手術は続けられることがわかった.今回,もっとも頼りになった診療デバイスはCCBCTであった.これは歯科用に開発され普及した装置である20).眼科の涙道診療への応用はC2009年にすでに報告がある21).検査時間がきわめて短いので忙しい眼科診療所でも利用できる手軽さやC0.5Cmmスライスで自由に切片を構築できる便利さ,画像の美しさなど利点が多い.加えて,座位撮影なので生理的導涙を可視化できる点は特筆に値する.造影剤をシリンジングせず点眼して待つだけで,それが自然瞬目に伴って涙道に吸い込まれ,涙道の開存した部分の影を写し出す.シリンジングしてしまうと涙洗と同様にエアロゾル感染のリスクが発生してしまうが,この方法ならその心配がない.筆者は2015年からこのCCBCTを外来に導入しており,術前は必ずCBCT-DCGを施行していたが,コロナ後は初診時にルーチンで使用する涙道診断の要となった.医療従事者を守るためにCAGPを避け,患者にはCCTで放射線被曝を強いるのは批判の対象になるかもしれない.しかし,CBCTはきわめて放射線照射量が少なく,通常のファンビームCCT(総合病院において多科共同で利用されるマルチスライスCCT)に比較してC1/10しかない20,21).脳内部が見えないため総合病院では利用価値が低いが,歯科・耳鼻咽喉科・眼科のクリニックではこれで十分である.また,筆者の経験では,流涙症の約1%に比較的重症の眼窩・副鼻腔疾患を伴っている患者が存在する(日本鼻科学会会誌CVol.58,C535,2019).筆者はCCT導入前にこれを見逃し,DCRで涙.炎は治癒したが患者は死亡したという経験をもつ.まずこのような患者をCTで除外することは,流涙診療で手を抜いてはならない基本と考えている.もちろん,CBCT-DCGだけで涙道の診断がすべて確定されるわけではなく,執刀直前には涙洗と涙道内視鏡検査が必要であることは,対象期間中にあらためて実感された.術前にCPCR検査と肺CCT検査を行うことについては反省点がある.文献では,術前のラボ検査が推奨されている1,4,10).抗原検査やCPCR検査などが含まれるが,無症候者が前提であるので抗原検査の精度では不安が大きく,少ない遺伝子量でも検出可能とされるCPCRを選択した.しかし,そのCPCRでも検体中の遺伝子濃度が一定量を超えなければ陰性の結果となる(偽陰性).定期的に行っている遺伝子解析装置メンテナンス作業時に,実際にこのことが経験され,検査精度に関する疑念は尽きない.とくに無症候者集団においては,発症C2日前であればCPCR陽性となる可能性は高いが,発症しないまま経過する感染者のウイルス量がCPCRで指摘できる閾値を超えているかどうか,まだ詳しくわかっていない.肺CCT検査については,無症候感染者でもC54%にすりガラス状陰影がみられたとする報告22)に基づくものであるが,その読影も単純ではない.対象期間中,術前日の肺CCTで診察医からは即日にアクティブ所見なしと返信があっても,後日(手術終了後)の放射線医の正式判読ではすりガラス状変化の可能性を指摘したものがC2件あった.それらはすでに涙道手術をすませた後で判明したものであるが,いずれも問題は起こらなかった.したがって,PCRも肺CCTも無症候感染者を除外する根拠としては強いものではなく,術前C2週間の生活指導や健康管理表のほうが安心材料としては心強い印象であった.極論をいえば,検査結果より準備のほうが意義ありと考えられる.患者と同居家族に生活指導を遵守させることで,検査に無駄なコストをかけずに,術前患者が感染している確率を最小限にする目的を達成できるように思われた.小児涙道治療からの撤退は,一見,残念な印象を与えるかもしれない.しかしこれまでの当院の経験では,先天性鼻涙管閉塞で紹介される症例のうち自然治癒せずプロービング治療となったのは少数である.治療せずに,親の相談相手となりながら自然治癒を見送る作業量のほうがはるかに大きい.これはコロナ後も医療従事者の安全衛生と両立できることである.また,昨今の涙道内視鏡手技の発展で,当院にはできないような全身麻酔下での小児涙道疾患の検査と治療は進歩がめざましい23).もはや覚醒下で体を抑えつけながら無理矢理プロービングする行為は,全身麻酔下の涙道診療を行う施設のない地域のみに限られるべきではないかと考えている.おわりに今回,総合病院で使われるセントラルサクションシステムや小規模診療所では前例のない減圧設備など,思い切ったエアロゾル対策を講じた.しかし,自己資金は費やしておらず,すべて政府系の無担保無利子融資や補助金で賄うことが可能であった.また,スタッフには強化CPPEを装着しての手術室勤務を命じたり,患者にも厳しい術前生活指導を行ったりした.その結果,当院スタッフにはC1名の離脱者もなかったが,術前生活指導を嫌って離れていった患者は数名あった.涙道診療再開当初はこれらを過剰かとも考えたが,いざルーチン化してしまうとスタッフ全体で安心感を共有でき,感染リスクが懸念される涙道診療にも前向きに取り組む余裕が生まれた.涙道診療の進め方は一変したが,これは今後,安全衛生に配慮した医療を続けてゆくためのチャンスでもあった.今のところ,他施設でも涙道手術後に医療従事者が発熱した例は明るみに出ていない.涙道診療に伴うCSARS-CoV-2のエアロゾル感染危惧は,証拠のない単なるパラノイアだったかもしれない.過去のパンデミック史を省みて,現在の世界のワクチン事情と感染状況の推移を照合すれば,もうこのパンデミックも出口が見えたようにも思える.筆者の積み上げた対策のいくつかはいずれ必要なくなるであろう.しかし,筆者の経験の記録は無駄ではなく,次のパンデミックのときにこそ,役立つものと考える.文献1)日本耳鼻咽喉科学会:鼻科手術の対応ガイド.2020.http://Cwww.jibika.or.jp/members/information/info_corona_0617_C01.pdf2)寺崎浩子,白根雅子,外園千恵:新型コロナウイルス感染症流行時の眼科手術に対する考え方.日本眼科学会C2020.4.7.Chttps://www.gankaikai.or.jp/info/OphthalmicSurCgery.pdf3)GrantCM,CBuchbinderCD,CAnicetCGSCetal:InternationalCtaskforcerecommendationsonbestpracticesformaxillo-facialCproceduresCduringCCOVID-19Cpandemic.CAOCMF.C2020.4.10.Cdoi.org/10.1177/19433875209488264)HegdeCR,CSundarG:GuidelinesCforCtheCoculoplasticCandCophthalmicCtraumaCsurgeonCduringCtheCCOVID-19CeraC.CanCAPOTSC&CAPSOPRSCdocument.CAPOTS&APSOPRS.C2020.4.175)コロナ時代の新たな歯科システムを.日本歯科医学会連合.C2020.5.29http://www.nsigr.or.jp/pdf/20200529_001.pdf6)ZhuCW,CHuangCX,CJiangCXCetal:ACCOVID-19CpatientCwhoCunderwentCendonasalCendoscopicCpituitaryCadenomaresection:aCcaseCreport.CNeurosurgeryC87:E140-E146,C20207)AliMJ:CoronavirusCdisease2019(COVID-19)pandemicCandClacrimalpractice:diagnosticCandCtherapeuticCnasalCendoscopyanddacryoendoscopy.OphthalmicPlastRecon-strSurg36:417-418,C20208)AliMJ:AsurgicalprotocoltomitigatetheSARS-CoV-2transmissionusingmultifocalpovidone-iodineapplicationsinClacrimalCsurgeriesCduringCcoronavirusCdiseaseC2019(COVID-19)pandemic.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC36:416-417,C20209)AliMJ:TheCSARS-CoV-2,Ctears,CandCocularCsurfacedebate:WhatCweCknowCandCwhatCweCneedCtoCknow.CIJOC68:1245-1246,C202010)AliMJ:COVID-19pandemicandlacrimalpractice:mulC-tiprongedCresumptionCstrategiesCandCgettingCbackConCourCfeet.CIJO68:1292-1299,C202011)Scienti.cBrief:SARS-CoV-2Transmission:https://Cwww.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html?CDC_AA_refVal=Chttps%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fcoronavirus%2F2019-ncov%2Fscience%2Fscience-briefs%2Fscienti.c-brief-sars-cov-2.html12)竹川暢之:エアロゾルと飛沫感染・空気感染.エアロゾル研究36:65-74,C202113)HallmoCP,CNaessO:LaryngealCpappilomatosisCwithChumanCpapillomavirusCDNACcontractedCbyCaClaserCser-geon,EurArchOtorhinolaryngol248:425-427,C199114)CaleroCL,CBrusisT:LaryngealCpapillomatosisC.C.rstCrec-ognitionCinCGermanyCasCanCoccupationalCdiseaseCinCanCoperatingCroomCnurse.CLryngorhinootologeC82:790-793,C200315)KwakHD,KimSH,SongKGetal:DetectinghepatitisBvirusCinCsurgicalCsmokeCemittedCduringClaparoscopicCsur-gery.OccupEnvironMed73:857-863,C201616)OkoshiK,KobayashiK,SakaiYetal:Healthrisksasso-ciatedCwithCexposureCtoCsurgicalCsmokeCforCsurgeonsCandCoperationroompersonal.CSurgTodayC45:957-965,C201517)RioxM,GarlandA,ReardonEetal:HPVpositivetonsil-larCcancerCinCtwoClasersurgeons:caseCreports.CJCOtolar-yngolHeadNeckSurgC42:54,C201318)ZhouQ,HuX,ZhuXetal:HumanpapillomavirusDNAinCsurgicalCsmokeCduringCcervicalCloopCelectrosurgicalCexcisionprocedureanditsimpactonthesurgeon.CancerManagCResC11:643-654,C201919)JavateCRM,CPamintuanCFG,CCruzCRTJr:E.cacyCofCendo-scopicClacrimalCductCrecanalizationCusingCmicroendoscope.COphthalmicPlastReconstrSurgC26:330-333,C201020)MozzoP,ProcacciC,TacconiAetal:AnewvolumetricCTCmachineCforCdentalCimagingCbasedConCtheCcone-beamtechnique:preliminaryresults.EurRadiolC8:1558-1564,C199821)WilhelmCKE,CRudorfCH,CGreschusCSCetal:Cone-beamcomputedCtomography(CBCT)dacryocystographyCforCimagingofthenasolacrimalductsystem.KlinNeuroradialC19:283-289,C200922)InuiS,FujikawaA,UwabeYetal:ChestCT.ndingsincasesCfromCtheCccruiseCship“diamondCprincesCwithCcoro-navirusCdisease2019(COVID-19)C”.CRadiolCCardiothoracCImaging.C2020CMar17;2(2):e200110.doi:10.1148/Cryct.2020200110.eCollection2020Apr23)MatsumuraN,SuzukiT,KadonosonoKetal:Transcana-licularCendoscopicCprimaryCdacryoplastyCforCcongenitalnasolacrimalductobstruction.Eye(Lond)C33:1008-1013,C2019C***

信州大学医学部附属病院における糖尿病患者に対する SGLT2 阻害薬投与の現状と黄斑浮腫との関連の検討

2022年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(3):371.375,2022c信州大学医学部附属病院における糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬投与の現状と黄斑浮腫との関連の検討高橋良彰*1鳥山佑一*1牛山愛里*2平野隆雄*1大岩亜子*3村田敏規*1*1信州大学医学部附属病院眼科*2信州大学医学部附属病院薬剤部*3信州大学医学部附属病院糖尿病・内分泌代謝内科CCurrentStatusofSGLT2InhibitorsandAssociationwithMacularEdemainDiabetesPatientsYoshiakiTakahashi1),YuichiToriyama1),AiriUshiyama2),TakaoHirano1),AkoOiwa3)andToshinoriMurata1)1)DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofPharmacy,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3)DivisionofDiabetes,EndocrinologyandMetabolism,DepartmentofInternalMedicine,ShinshuUniversitySchoolofMedicineC目的:SodiumCglucoseCco-transporter2(SGLT2)阻害薬が処方された糖尿病患者の眼合併症の有無と黄斑浮腫への影響について検討する.方法:対象は信州大学医学部附属病院にてC2014年C10月.2019年C1月にCSGLT2阻害薬を処方され,期間中に眼科を受診したC80例.処方前の糖尿病網膜症の有無と病期,黄斑浮腫の有無,光干渉断層計(OCT)検査が施行されたC16例C27眼については中心窩網膜厚の変化を,診療録から後ろ向きに検討した.結果:80例中C42例に糖尿病網膜症の合併,28例に治療歴を含む黄斑浮腫の合併を認めた.OCT検査例全体で処方前(346.0C±134.6Cμm)より処方後(321.5C±97.6Cμm)に有意な中心窩網膜厚の減少を認めた(p=0.02).うちC2例C4眼で眼科での治療が行われていなかったにもかかわらずC100Cμm以上の網膜厚の減少を認めた.結論:SGLT2阻害薬が黄斑浮腫に影響を与えうる可能性が示唆された.CPurpose:Theaimofthisstudywastoevaluatethee.ectsofsodium-glucosecotransporter2(SGLT2)inhibi-torsConCmacularedema(ME)andCocularCcomplicationsCinCdiabetesCpatients.CMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC80CdiabetesCpatientsCwhoCwereCprescribedCSGLT2CinhibitorsCatCShinshuCUniversityCHospital,CMatsumoto,CJapanbetweenOctober2014andJanuary2019.Weexaminedthepresenceofdiabeticretinopathy(DR)C,ME,andchangesinthefovealthicknessbasedonmedicalrecords.Results:Ofthe80patients,42hadDRand28hadME.InC27CeyesCofC16CpatientsCwhoCunderwentCopticalCcoherenceCtomographyCexamination,CmeanCfovealCthicknessCsigni.cantlyCdecreasedCfromC346.0±134.6CμmCtoC321.5±97.6Cμm(p=0.02)C.CInC4CeyesCofC2Cpatients,CaCdecreaseCinCfovealthicknessof≧100Cμmwasobservedwithin3monthseventhoughnoophthalmictreatmentwasperformed.Conclusion:Our.ndingsindicatethatSGLT2inhibitorpossiblya.ectsME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(3):371.375,C2022〕Keywords:SGLT2阻害薬,糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫.SGLT2inhibitors,diabeticretinopathy,diabeticmacularedema.Cはじめに近年登場したCsodium-glucoseCcotransporter2(SGLT2)阻害薬は,腎臓の近位尿細管に局在しグルコース再吸収の約90%を担っているCSGLT2を阻害することにより,尿中へのグルコース排泄を促進させる経口血糖降下薬である1).インスリン分泌の影響を受けずに高血糖を速やかに是正することができ,心血管イベントや腎機能低下の抑制効果が複数の大規模臨床研究で報告されている2).一方で眼科領域における報告はまだ少なく,黄斑浮腫が改善したという症例報告が複数あるものの3,4),いずれも少数例での報告に留まっている.〔別刷請求先〕高橋良彰:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YoshiakiTakahashi,DepartmentofOpthalmology,ShinshuUniversity,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPANC今回,筆者らは信州大学医学部附属病院(以下,当院)の糖尿病内科において新規にCSGLT2阻害薬が処方された患者のうち,投与開始前後に当院眼科を受診した患者のCHbA1cの推移,糖尿病黄斑浮腫の改善について後ろ向きに調査検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2014年C10月.2019年C1月に当院糖尿病内科でSGLT2阻害薬が新規に処方され,期間内に当院眼科受診歴のあった糖尿病患者C80例(男性C46名,女性C34名,平均年齢C51.8C±14.0歳)を対象とし,以下の項目を診療録より後ろ向きに検討した.C1.糖尿病網膜症の合併の有無と病期SGLT2阻害薬処方前の最終眼科受診時における糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)の有無およびCDRの病期を国際重症度分類にしたがって,網膜症なし(nonCdiabeticretinopathy:NDR),軽症非増殖網膜症(mildnonprolifera-tiveDR:mildNPDR),中等症非増殖網膜症(moderateNPDR),重症非増殖網膜症(severeNPDR),増殖網膜症(proliferativeDR:PDR)の各病期に分類した.左右の眼で病期が異なる場合はより進行している眼を病期として選択した.SGLT2阻害薬処方時点でのCHbA1cを病期群ごとに検討した.C2.HbA1cと腎機能の変化対象C80例のうち,SGLT2阻害薬処方時および処方後C3カ月時点における血液検査結果が得られたC71例において,網膜症合併群と非合併群それぞれにおけるCHbA1c,血清クレアチニン,eGFRの変化を検討した.C3.黄斑浮腫の合併の有無と中心窩網膜厚の変化対象C80例における浮腫に対する治療歴を含む黄斑浮腫合併の有無を調査した.さらに黄斑浮腫合併症例のうち処方前後3カ月以内に光干渉断層計(opticalCcoherenceCto-mography:OCT)検査を施行されていた症例におけるSGLT2阻害薬処方前後の中心窩網膜厚の変化について検討した.C4.眼科診療録へのSGLT2阻害薬に関する記載の有無糖尿病内科からCSGLT2阻害薬が新規に処方されたことを眼科担当医が把握しているかどうかを,眼科診療録への記載の有無から後ろ向きに調査した.CII結果対象症例C80例のうち,SGLT2阻害薬処方前の最終眼科受診の時点でCDRを合併していた症例はC42例,DRを認めない症例はC38例であった.国際重症度分類による病期分類ではCmildNPDRがC7例,moderateNPDRがC12例,severeNPDRがC3例,PDRがC20例であった.SGLT2阻害薬処方時のHbA1cの値はNDRで9.1C±2.1%,mildNPDRでC8.6C±1.1%,moderateNPDRでC8.3C±1.2%,severeNPDRでC7.6±0.4%,PDRでC8.1C±1.3%であり(表1),DRの病期においてHbA1cの値に有意な群間差は認めなかった(OneCwayANOVA,p=0.21).SGLT2阻害薬処方C3カ月後にHbA1cの検査が施行されていたC71例において,HbA1cの値は全体ではC8.5C±1.6%からC7.4C±0.9%と有意な低下を認めた(pairedt-test,p<0.001).DRのないC31例ではC9.1C±2.1%からC7.4C±0.9%,DRのあるC40例ではC8.2C±1.2%からC7.4C±1.0%とどちらの群においてもCHbA1cの有意な改善を認めた(pairedt-test,p<0.001).血清クレアチニンとCeGFRでは全体およびCDR合併群において,処方C3カ月後に有意な腎機能の悪化を認めた(表2).DRを認めたC42例のうちC28例が黄斑浮腫を合併しているか,もしくは治療歴を有していた.42例のうち汎網膜光凝固が施行されていたのはC27例,硝子体手術の既往がある症例はC12例だった.黄斑浮腫を合併,もしくは治療歴を有していたC28例のうち,16例C27眼でCSGLT2阻害薬処方前後C3カ月以内にCOCT検査が施行されており,処方前の中心網膜厚はC348.7C±122.4μm,処方後の中心窩網膜厚はC322.1C±83.1Cμmであった.OCT検査と同日のClogMAR視力は処方前C0.35C±0.44,処方後C0.44C±0.54であり処方前後における視力に有意差は認めなかった(pairedt-test,p=0.32).16例C27眼全体では処方前と処方後の中心窩網膜厚に有意な減少を認めた(pairedt-test,p<0.05)(図1a)が,27眼には期間内に眼科において黄斑浮腫に対する治療が行われた症例も含まれていた.このためCSGLT2阻害薬処方前の中心窩網膜厚がC300Cμm以上であったC11例C14眼を抽出し検討した.表3にC11例C14眼の治療歴を示す.11例C14眼のうちC4例C5眼で処方後の検査でC100Cμm以上の中心窩網膜厚の改善を認めた(図1b).このうちC2例C2眼にはトリアムシノロンTenon.下注射または硝子体手術が期間内に施行されており治療による黄斑浮腫の改善と考えられたが,残るC2例C3眼では期間内に黄斑浮腫に対する治療は行われていなかった.代表症例の経過を図2に示す.56歳,男性,受診時のHbA1cはC8.1%でありCPDRを認めるが観察期間内に眼科における治療歴はなく,SGLT2阻害薬処方前に両眼の黄斑浮腫が存在している.SGLT2阻害薬処方後C2カ月の時点において黄斑浮腫は残存するものの,両眼に明らかな改善を認めた.処方前後の腎機能についても検討したが,血清クレアチニン(0.8Cmg/dlC→C0.82Cmg/dl),eGFR(78Cml/min/1.73CmC2C→C76Cml/min/1.73Cm2)と黄斑浮腫に影響するような大きな変動は認めなかった.本研究で対象となったC80例全例の診療録を後ろ向きに検索したところ,眼科の診療録にCSGLT2阻害薬が新規に処方された旨の記載があったものは,80例中わずかC3例のみで表1糖尿病網膜症の重症度別の平均年齢およびHbA1c糖尿病網膜症なし38例糖尿病網膜症あり(4C2例)CmildNPDR7例CmoderateNPDR12例CsevereNPDR3例CPDR20例性別女性46例/男性34例年齢C58.3±11.2歳C51.8±14.0歳C61.1±15.4歳C56.8±8.9歳C54.3±5.13歳C58.8±11.8歳CHbA1cC9.1±2.1%C8.2±1.2%C8.6±1.1%C8.3±1.2%C7.6±0.4%C8.1±1.3%NDR:nondiabeticretinopathy,NPDR:nonproliferativediabeticretinopathy,PDR:prolifera-tivediabeticretinopathy.表2処方前後におけるHbA1c,血清クレアチニン,eGFRの変化処方前処方後C3カ月p値HbA1c(%)全体(7C1例)C8.5±1.6C7.4±0.9<C0.001糖尿病網膜症あり(3C1例)C8.2±1.2C7.4±1.0<C0.001糖尿病網膜症なし(4C0例)C8.8±2.0C7.5±0.9<C0.001血清クレアチニン(mg/dCl)全体(6C8例)C0.87±0.35C0.92±0.39<C0.001糖尿病網膜症あり(2C9例)C0.95±0.38C1.03±0.43C0.003糖尿病網膜症なし(3C9例)C0.75±0.26C0.79±0.28C0.09CeGFR(mCl/min/1.73CmC2)全体(6C8例)C71.4±22.5C68.6±23.8C0.002糖尿病網膜症あり(2C9例)C62.7±19.6C59.9±21.8C0.01糖尿病網膜症なし(3C9例)C83.0±21.0C79.9±21.7C0.05処方前後の血液検査データが揃っている症例について検討した.あった.CIII考按SGLT2はおもに腎臓の近位尿細管の管腔側に発現し,尿中に排泄されたグルコースの約C90%を体内に再吸収している5).SGLT2阻害薬は尿中の糖排泄を促進するため,インスリン作用を介さずに血糖を低下させることができる.このためインスリンの必要量を減少させることが可能であるが,一方で低血糖や浸透圧利尿による脱水に注意が必要である.SGLT2阻害薬は糖を直接尿中へ排泄するためC1日C300.400Ckcalのエネルギーを体外へ排泄しており,体重減少・肥満改善の効果があり,インスリン抵抗性の改善,肥満組織によるアディポサイトカインの減少による血管内皮障害の改善などを期待することができる1,6).網膜血管においても過剰なグルコースによる糖毒性や酸化ストレスを低減し,高血糖による持続的な内皮機能障害を予防することでCDRの改善につながる可能性が示唆されている7,8).しかし,SGLT2阻害薬のCDRへの影響についての詳細はまだ明らかになっていない.Mienoらは,硝子体術後に遷**ab(μm)800(μm)800*6006004004002002000処方前処方後処方前処方後0図1処方前後の中心網膜厚の変化a:16例C27眼全体での処方前後の中心網膜厚の変化.Cb:処方前の中心網膜厚がC300Cμm以上であったC11例C14眼の中心網膜厚の変化.4例C5眼においてC100Cμm以上中心網膜厚の減少を認めた.表311例14眼の処方前後の中心窩網膜厚の変化と治療歴症例左右重症度処方前CCRT(Cμm)処方後CCRT(Cμm)変化(Cμm)観察期間期間内治療C①56歳,男性右C左CPDRCPDRC583C666C474C469C.109.1972カ月2カ月なしなしC②55歳,女性右C左CmoderateNPDRCmoderateNPDRC480C309C359C297C.121.121カ月1カ月トリアムシノロンなしC③45歳,女性右C左CPDRCPDRC321C432C288C323C.33.1092カ月2カ月なしなしC④59歳,女性右CmoderateNPDRC374C376+21カ月なしC⑤60歳,男性左CsevereNPDRC333C298C.352カ月なしC⑥53歳,男性右CsevereNPDRC465C400C.652カ月アフリベルセプトC⑦53歳,女性右CPDRC509C400C.1094カ月硝子体手術C⑧50歳,男性右CsevereNPDRC420C413C.71カ月汎網膜光凝固C⑨51歳,男性左CPDRC408C420+122カ月汎網膜光凝固C⑩53歳,男性左CPDRC481C472C.92カ月硝子体手術C⑪56歳,男性左CPDRC370C363C.72カ月汎網膜光凝固CRT:centralretinalthickness.図2SGLT2処方後に黄斑浮腫の改善を認めた1例(症例①)左から(Ca)処方前右眼,(b)処方後C2カ月右眼,(c)処方前左眼,(d)処方後C2カ月左眼.両眼ともCSGLT2処方前に比べ黄斑浮腫が明らかに改善している.延する糖尿病黄斑浮腫10眼の後ろ向き研究において,した16例27眼において中心窩網膜厚の有意な減少を認め,SGLT2阻害薬内服開始後C3カ月で視力の有意な改善とC3・観察期間内に眼科的治療が行われていないにもかかわらず黄6・12カ月で黄斑浮腫の有意な減少を認めたと報告してい斑浮腫が改善した症例も存在していた.SGLT2阻害薬の投る3).本研究でもCSGLT2阻害薬処方前後でCOCT検査を比較与が黄斑浮腫の改善に直接効果があるかどうかは現時点ではまだ明らかにはなっていない.しかし,SGLT2阻害薬が優れた血糖是正作用をもつことや,副次的な利尿作用を有していることはすでに明らかとなっている.利尿作用による直接的な浮腫の軽減や,血糖是正による網膜血管における糖毒性や炎症の抑制により,間接的にCDRおよび黄斑浮腫に影響を及ぼす可能性は高いと考えられる.また,Wakisakaらはウシ網膜周皮細胞にはCSGLT2が発現していると報告しており9),SGLT2阻害薬が血糖是正による間接的な効果だけでなく直接網膜になんらかの影響を及ぼしている可能性もある.SGLT2阻害薬がCDR,黄斑浮腫の改善に寄与する可能性がある一方,SGLT2阻害薬投与開始後に脳梗塞を発症した事例が有害事象として報告されている10).SGLT2阻害薬の適正使用に関するCRecommendation11)ではCSGLT2阻害薬投与の初期において体液量の減少による脱水症を引き起こす可能性が指摘されており,それにより脳梗塞など血栓症,塞栓症が発症しうる可能性に関し注意喚起がなされている.とくに自身で飲水を調節できない高齢者や利尿薬の併用,下痢や嘔吐の症状がある場合ではCSGLT2阻害薬により脱水症を起こす危険性が高くなるため,体液量の管理やCSGLT2阻害薬を中止するなどの加療が必要となる.眼科領域においては血管内皮増殖因子阻害薬の投与により脳梗塞,心筋梗塞のリスクが上がることが知られており12),SGLT2阻害薬による脱水症の有無を把握しておく必要がある.SGLT2阻害薬がCDRや黄斑浮腫へ影響している可能性や,血栓症・塞栓症などのリスクが存在するにもかかわらず,本研究では眼科医がCSGLT2阻害薬の処方を把握していた症例がC80例中C3例のみであった.眼科治療に影響を及ぼしうる内科の治療状況の把握と,内科と眼科の診療連携は今後さらに重要になると考えられる.本研究ではCSGLT2阻害薬処方後に黄斑浮腫が明らかに改善する症例を認めたが,後ろ向き研究であり処方時に黄斑浮腫を合併していた症例数も多くはない.今後,多施設共同研究での大規模なデータ収集やCSGLT2の直接的な網膜への影響の研究などの結果が期待される.文献1)古川康彦,綿田裕孝:SGLT2阻害薬の作用機序と動脈硬化進展抑制への期待.分子脳血管病C14:152-156,C20152)広村宗範,平野勉:糖尿病治療の観点からみたCSGLT-2阻害薬.CardiacPracC29:63-69,C20183)MienoCH,CYonadaCK,CYamazakiCMCetal:TheCe.cacyCofCsodium-glucoseCcotransporter2(SGLT2)inhibitorsCforCtheCtreatmentCofCchronicCdiabeticCmacularCoedemaCinCvit-rectomisedeyes:aCretrospectiveCstudy.CBMJCOpenCOph-thalmolC3,C20184)TakatsunaCY,CIshibashiCR,CTatsumiCTCetal:Sodium-glu-coseCcotransporterC2CinhibitorsCimproveCchronicCdiabeticCmacularCedema.CcaseCreports.CCaseCRepCOphthalmolCMedC2020:8867079,C20205)BaysH:SodiumCglucoseCco-transporterCtype2(SGLT2)inhibitors:targetingthekidneytoimproveglycemiccon-trolindiabetesmellitus.DiabetesTherC4:195-220,C20136)遅野井健:CGMデータ評価による経口血糖降下薬の選択3)糖吸収・排泄調節薬.ProgMedC39:275-280,C20197)MayM,FramkeT,JunkerBetal:HowandwhySGLT2inhibitorsCshouldCbeCexploredCasCpotentialCtreatmentCoptionindiabeticretinopathy:clinicalconceptandmeth-odology.TherAdvEndocrinolMetabC10:1-11,C20198)HeratLY,MatthewsVB,RakoczyPEetal:FocusingonsodiumCglucoseCcotoransporter-2CandCtheCsympatheticCnervoussystem:potentialimpactindiabeticretinopathy.IntJEndocrinolC2018:9254126,C20189)WakisakaCN,CTetsuhikoN:SodiumCglucoseCcotransporterC2CinCmesangialCcellsCandCretinalCpericytesCandCitsCimplica-tionsfordiabeticnephropathyandretinopathy.Glycobiol-ogyC27:691-695,C201710)阿部眞理子,伊藤裕之,尾本貴志ほか:SGLT2阻害薬の投与開始後C9日目に脳梗塞を発症した糖尿病のC1例.糖尿病C57:843-847,C201411)SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会:SGLT2阻害薬の適正使用に関するCRecommendation.日本糖尿病協会:2019年8月6日改訂.(https://www.nittokyo.or.jp/uploads/C.les/recommendation_SGLT2_190806.pdf)12)SchlenkerCMB,CThiruchelvamCD,CRedelmeierDA:IntraC-vitrealCantivascularCendothelialCgrowthCfactorCtreatmentCandtheriskofthromboembolism.AmJOphthalmolC160:C569-580,C2015C***

原発開放隅角緑内障(広義)における相対的瞳孔求心路障害 の検討

2022年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(3):367.370,2022c原発開放隅角緑内障(広義)における相対的瞳孔求心路障害の検討八鍬のぞみ加藤祐司蒲池由美子札幌かとう眼科CEstimationofRAPDinPrimaryOpenAngleGlaucomaandNormalTensionGlaucomaNozomiYakuwa,YujiKatoandYumikoKamachiCSapporoKatoEyeClinicC目的:相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)は視神経疾患の診断に有用な検査である.日常診療において左右差のある緑内障でもCRAPDを認めることがある.今回筆者らは緑内障でCRAPD陽性となる症例の特徴を検討したので報告する.対象:札幌かとう眼科通院中の原発開放隅角緑内障患者C75例で,内訳はCRAPD陽性C25例,RAPD陰性C50例である.方法:RAPDは,swingingC.ashlighttestをC2名の検者が独立して行い,一致した症例を陽性とした.同日に施行した視野検査と光干渉断層計検査の信頼できるCMD値(HumphreyFieldAnalyz-er,CSITA-Standard30-2)とCcpRNFL厚(Triton,トプコン)の左右差を計測し,RAPDの有無における群間差について検討した.結果:RAPD陽性群はCMD値とCcpRNFL厚の左右差が有意に大きかった.そのカットオフ値はCMD値で左右差C6.04CdB(AUC0.82),cpRNFL厚で左右差C15.0Cμm(AUC0.74)であった.結論:緑内障眼においても,MD値やCcpRNFL厚に左右差が認められる場合にはCRAPD陽性となることがある.RAPD陽性の際には左右差の大きい緑内障も鑑別疾患として考えて診療に当たるべきと考える.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcharacteristicsCofCrelativeCa.erentCpupillarydefect(RAPD)inCcasesCofCprimaryCopenCangleCglaucoma(POAG)andCnormalCtensionCglaucoma(NTG)C,CasCitCisCaCusefulCtestCforCdiagnosingCopticCnerveCdiseaseCandCmayCbeCobservedCevenCinCglaucomaCcasesCwithClaterality.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC75CPOAGCpatients(25CRAPDCpositives,C50CRAPDnegatives)seenCatCtheCSapporoCKatoCEyeCClinic,CSapporo,CJapan.CRAPDCwasCperformedCindependentlyCbyCtwoCexaminersCwithCtheCswingingC.ashlightCtest,withCtheCmatchingCcasesCdeemedCpositive.CIntereyedi.erencesCinCthereliablevisualC.ledCmeanCdeviation(MD)value(HumphreyCFieldCAna-lyzer,CSITACStandard30-2)andCcircumpapillaryCretinalCnerveC.berClayer(cpRNFL)thickness(TritonCSweptCSourceOCT,CTOPCON)performedConCtheCsameCday.CTheCdi.erencesCbetweenCtheCRAPDCpositiveCgroupCandCRAPDCnegativeCgroup,CasCwellCasCtheCROCcurves[i.e.,CareaCunderCtheCcurve(AUC)]C,CwereCexamined.CResults:IntereyeCdi.erencesCbetweenCMDCvalueCandCcpRNFLCthicknessCwereCsigni.cantlyClargerCinCtheCRAPDCpositiveCgroupCthanCinCtheCRAPDCnegativeCgroup.CTheCcutCo.CvalueCwasCanCMDCvalueCof6.04CdB(AUC0.82)andCaCcpRNFLCthicknessCof15Cμm(AUCCmayCbeCpositive.CWhenCRAPDCisCpositive,CdiagnosisCshouldCbeCcarriedCoutCwithCtheCpossibilityCofCglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(3):367.370,C2022〕Keywords:相対的瞳孔求心路障害,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,平均偏差,乳頭周囲網膜神経線維層厚.relativea.erentpupillarydefect(RAPD)C,primaryopenangleglaucoma(POAG)C,normaltensionglaucoma(NTG),meandeviation(MD)C,cpRNFLthickness.C0.RAPDthickness,cpRNFLorvalueMDindi.erencesintereyearethereifglaucoma,in:EvenCConclusion).47Cはじめに際にみられる感度の左右差を示す所見である.相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillaryRAPDは近年Cpupillographyを用いた定量的評価が可能とdefect:RAPD)は視神経障害など対光反射の求心路異常のなったが,ペンライトC1本でできる簡便な手技(swinging〔別刷請求先〕八鍬のぞみ:〒065-0031北海道札幌市東区北C31条東C16丁目C1-22札幌かとう眼科Reprintrequests:NozomiYakuwa,M.D.,SapporoKatoEyeClinic,N31E16-1-22,Higashi-ku,Sapporo,Hokkaido065-0031,CJAPANC.ashlighttest)を用いることにより検出可能で,感度の高い所見である1).眼底所見の乏しい視神経疾患でCRAPDを検出することは診断的価値が非常に高く,swingingC.ashlighttestは現在でも臨床で広く使われている.視神経疾患はCRAPD,視力低下,限界フリッカ値の低下,視野障害などの所見を呈することが多いが,明らかなRAPDを呈する所見は視神経疾患においてとりわけ特徴的な所見である.瀧澤らはCRAPDx(コーナン・メディカル)によるCRAPDの測定は視神経疾患において高い感度と特異性があることを示し2),Satouらも,RAPDxによる視神経疾患患者の検出率はC75%であり,RAPDが視力,限界フリッカ値の改善に伴って改善することを報告している3,4).日常診療において,左右差のある緑内障患者でもCRAPDを認めることがある.緑内障とCRAPDの関連についてのわが国での報告は少なく,筆者らが調べた限りCTatsumiら5)とCOzekiら6)の報告のみであった.今回筆者らは緑内障眼でCRAPD陽性となる患者の特徴について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2016年C1.6月に札幌かとう眼科に通院していた原発開放隅角緑内障(広義)患者を診療録に基づき後ろ向きに検討した.なお,本研究は札幌市医師会倫理委員会の承認を受けている.CHFA30-2(HumphryCFieldAnalyzer:HFA,SITACStandard30-2)の施行日にCswingingC.ashlighttest,光干渉断層計(OCT)(Triton,トプコン,3DCDiscCReportCw/topography)を施行した白内障手術を含む手術既往のない患者C75例を対象とした.HFA30-2において固視不良C3回以上の信頼係数の低い患者,OCTにおいてCImageQualityがC50%以下の患者,網脈絡萎縮などの眼底疾患のある症例は除外した.CSwinging.ashlighttestは半暗室でペンライトを用いて行い,独立したC2名の検者の結果が一致した患者を陽性とした.CSwingingC.ashlighttestの結果に基づき,対象をCRAPD陽性群と陰性群に分類した.また,HFA30-2のCMD値を同一患者の左右で比較し,高値をCbettereye,低値をCworseCeyeとした.検討項目は矯正視力,平均偏差(meandeviation:MD)値,パターン標準偏差(patternCstandarddeviation:PSD)値,乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)厚,等価球面度数として,bet-tereye,worseeyeそれぞれについて算出した.それぞれの項目について各群のCbettereyeとCworseeye,さらに両群間で比較を行った.また,MD値の左右差,cpRNFL厚の左右差を算出して両群間で比較した.統計学的検討は有意水準をC5%とし,各群のCbettereyeとCworseeyeの比較には対応のあるCt検定を,両群間の比較にはCt検定を用い,さらにCROC解析を行ってCRAPDの有無の判別に対するカットオフ値を求めた.CII結果対象C75例のうち,RAPD陽性C25例(男性C9例,女性C16例)RAPD陰性C50例(男性C21例,女性C29例),年齢はRAPD陽性群C56.6C±10.8歳,RAPD陰性群C56.2C±12.5歳,病型はCRAPD陽性群では原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)7例,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)18例,RAPD陰性群ではCPOAG8例,NTG42例であった.各群におけるCbettereyeとCworseeye間の比較では,両群ともCMD値,PSD値,cpRNFL厚において有意差を認めたが,矯正視力,等価球面度数において有意差はなかった.また,両群間においては,worseeyeの矯正視力,MD値,cpRNFL厚,bettereyeとCworseeyeのCPSD値に有意差を認め,年齢,性別,病型,等価球面度数において有意差はなかった(表1).MD値の左右差はCRAPD陽性群C7.52C±4.64CdB,RAPD陰性群C2.68C±1.99CdBであり,RAPD陽性群において有意に高値を示した(図1).cpRNFL厚の左右差においてもCRAPD陽性群C17.8C±14.0Cμm,RAPD陰性群C8.7C±6.0Cμmであり,RAPD陽性群において有意に高値を示した(図2).また,ROC解析により検討した結果,RAPDの有無を判別するカットオフ値は,MD値左右差C6.04CdB(AUC=0.82),cpRNFL厚左右差C15.0Cμm(AUC=0.74)であった(p<0.0001).NTGのみに関してCROC解析により検討した結果,n=18ではあるが,RAPD有無を判別するカットオフ値はCMD値左右差C6.04dB(AUC=0.84),cpRNFL厚左右差C15.0μm(AUC=0.74)となり,全体での検討結果と同様の結果であった(p<0.0001).CIII考按当院の両眼のCPOAG(広義)患者において,RAPD陽性となる症例の特徴を検討した結果,MD値の左右差はCRAPD陽性群において有意に高値を示し(p<0.0001),cpRNFL厚の左右差もCRAPD陽性群において有意に高値を示した(p<0.0001).RAPDの有無を判別するカットオフ値は,MD値左右差がC6.04CdB(AUC=0.82),cpRNFL厚左右差が15.0Cμm(AUC=0.74)であった.本研究からCNTGを主体とするわが国の緑内障でも,左右差がある場合にCRAPDが陽性になることが示唆された.Chewら7)はCPOAG患者をCRAPD群とCRAPD陰性の対照表1患者背景RAPD陽性群25例RAPD陰性群50例年齢(歳)C56.6±10.8C56.2±12.5性別(男性:女性)9:1C621:2C9病型(POAG:NTG)7:1C88:4C2矯正視力(logMAR値)bettereyeCworseeyeC.0.02±0.06C*0.06±0.14.0.03±0.08C*.0.01±0.11MD値(dB)CbettereyeCworseeyeC.1.94±2.35†C.9.16±5.32*†C.0.56±2.20†C.3.01±3.10*†PSD値(dB)CbettereyeCworseeyeC5.10±4.40*†C10.11±5.16*†C2.72±1.79*†C6.63±3.98*†cpRNFL厚(Cμm)CbettereyeCworseeyeC81.1±12.4†C64.2±13.5*†C87.2±13.0†C80.7±11.2*†cpRNFL厚Cworseeye対Cbettereye(%)C*77±14*91±9等価球面度数(D)CbettereyeCworseeyeC.4.20±2.66C.4.52±3.08C.3.30±3.62C.3.36±3.70*両群間に有意差あり(p<0.05).†bettereyeとCworseeye間に有意差あり(p<0.05).C35MD値左右差(dB)1210RAPD陽性群7.52±4.64dBRAPD陰性群2.68±1.99dB(p<0.001)図1MD値の左右差群(各Cn=25)に分け,網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)厚,黄斑厚,MD値などにつきCswingingC.ashlighttestを用いたCRAPDとの関連を検討している.彼らの報告ではCRNFL厚の左右差はCRAPD群C17.8Cμm,対照群C5.1μmとCRAPD群で有意に厚く,MD値の左右差はRAPD群C8.62CdB,対照群C1.33CdBとCRAPD群で有意に高値であった.また,MD値の左右差がC9.5dB以上(AUC=0.92),RNFL厚の左右差がC14.6Cμm以上(AUC=0.94)になるとCRAPDを生じると報告している.さらに,RAPDはより障害された眼のCRNFL厚が他眼のCRNFL厚のC83%に減少すると生じ,その感度はC72%(95%信頼区間:0.51-0.88)特異度はC100%(95%信頼区間:0.86-1.00)と報告している.その他,Tathamら8)やCSarezkyら9)もCpupillometerを用いRAPD陽性群RAPD陰性群cpRNFL厚左右差(μm)302520151050RAPD陽性群17.8±14.0μmRAPD陰性群8.7±6.0μm(p<0.001)図2cpRNFL厚の左右差てCRAPDとCMD値の相関について報告している.わが国ではCTatsumiら5)が,緑内障患者におけるCswing-ing.ashlighttestによるCRAPD値(logunit)とCcpRNFL厚には有意な負の相関があり,RAPD陽性群C29例(このうち23例がCPOAG症例)の病期が進行している眼のCcpRNFL厚が軽症眼の約C73%になっていたと報告している.本研究でも進行眼のCcpRNFL厚は軽症眼の約C77%となっており,ほぼ同等の結果であった.また,NTG症例が主体の本研究とCPOAG症例が主体のChewら7),Tatsumiら5)の報告を比較すると,RNFL厚についてはほぼ同程度の左右差でCRAPD陽性となるが,MD値については本研究のほうが若干小さい左右差で陽性となっていた.これよりCPOAGよりもCNTGのほうがCMD値の左RAPD陽性群RAPD陰性群右差が小さくてもCRAPD陽性となる可能性が示唆された.対光反射の求心路は視神経から視交叉を経て両側の視索に入り,外側膝状体に至る直前で視路線維から分かれた線維に乗って,視蓋前域から両側のCEdinger-Westphal(EW)核へ達する経路をとる.遠心路はCEW核から動眼神経路を経て,毛様体神経節,短毛様体神経を介して瞳孔括約筋に至ることが知られている.この対光反射の求心路が非対称性に障害されることでCRAPDが生じる.緑内障の病態は網膜から視神経での障害が中心であり,求心路の障害である.対光反射の起源はおもに錐体・桿体の視細胞であるが,近年,縮瞳にかかわる新たな光受容体としてメラノプシン含有網膜神経節細胞(melonopsin-expressingCganglioncell:m-RGC)が発見され,さまざまな報告がされている10).m-RGC系の対光反射の特徴は青色のような短波長刺激でゆっくりと長く反応することであるが,青色刺激を用いることにより緑内障患者の障害が評価できるという報告もある11).CSwinging.ashlighttestは一般クリニックでも簡便にできる有用な検査であるが,主観的な方法である.近年はRAPDxをはじめとするCpupillographyを用いたCRAPDの定量的評価が可能となり,swinging.ashlighttestでは検出できない軽度のCRAPDも検出可能となっている1.4,6,8.12).これにより,視神経疾患の診断だけではなく,視神経疾患の早期発見あるいはその数値から経過を示す指標や疾患の鑑別につながる可能性がある.今回筆者らは日常診療で行える簡便な検査方法であるCswingingC.ashlighttestを用いたCRAPDの有無と緑内障との関連について検討した.今後は一般眼科医にも普及するような簡便な検査方法や診断治療につながるCpupillographyを用いた研究,さらにはCm-RGCの新しい知見を踏まえた研究が進展することを期待している.最後に,RAPDはおもに視神経疾患診断のツールと考えられているが,本研究のように左右差のある緑内障患者にも認められることがある.RAPD陽性の際には視神経炎などの視神経疾患だけでなく,左右差の大きい緑内障も鑑別疾患として考えて診療に当たるべきと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)敷島敬悟:RAPDの見方と計測装置.日本の眼科C86:890-891,C20152)TakizawaCG,CMikiCA,CYaoedaK:AssociationCbetweenCaCrelativeCpupillaryCdefectCusingCpupillographyCandCinnerCretinalCatrophyCinCopticCnerveCdisease.CClinCOphthalmolC9:1895-1903,C20153)SatouCT,CIshikawaCH,CAsakawaCKCetal:EvaluationCofCaCrelativeCpupillaryCdefectCusingCRAPDxCdeviceCinCpatientsCwithCopticCnerveCdisease.CNeuroophthalmologyC40:120-124,C20164)SatouCT,CIshikawaCH,CGosekiT:EvaluationCofCaCrelativeCpupillaryCdefectCusingCRAPDxCdeviceCbeforeCandCafterCtreatmentCinCpatientCwithCopticCnerveCdisease.CNeurooph-thalmologyC42:146-149,C20185)TatsumiY,NakamuraM,FujiokaMetal:Quanti.cationofretinalnerve.berlayerthicknessreductionassociatedwithCaCrelativeCa.erentCpupillaryCdefectCinCasymmetricCglaucoma.BrJOphthalmolC91:633-637,C20066)OzekiN,YukiK,ShibaDetal:PupillographicevaluationofCrelativeCa.erentCpupillaryCdefectCinCglaucomaCpatients.CBrJOphthalmolC97:1538-1542,C20137)ChewCSS,CCunnninghamCWJ,CGambleCGDCetal:RetinalCnerve.berlayerlossinglaucomaticpatientswitharela-tiveCa.erentCpupillaryCdefect.CInvestCOphthalmolCVisCSciC51:5049-5053,C20108)TathamAJ,Meira-FreitasD,WeinrebRNetal:Estima-tionofretinalganglioncelllossinglaucomatouseyeswitharelativea.erentpupillarydefect.InvestOphthalmolVisSciC55:513-522,C20149)SarezkyCD,CKrupinCT,CCohenCACetal:CorrelationCbetweenintereyedi.erenceinvisual.eldmeandeviationvaluesCandCrelativeCa.erentCpupillaryCresponsesCasCmea-suredCbyCanCautomatedCpupilometerCinCsubejectsCwithCglaucoma.JGlaucomaC23:419-423,C201410)石川均:神経眼科の進歩瞳孔とメラノプシンによる光受容.日眼会誌117:246-269,C201311)KelbschC,MaedaF,StrasserTetal:Pupillaryrespons-esCdrivenCbyCipRGCsCandCclassicalCphotoreceptorsCareCimpairedinglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC254:1361-1370,C201612)瀧渕剛,三木淳司:RAPDの臨床価値.神眼C36:386-396,C2019C***

フランジ法を用いた眼内レンズ強膜内固定術における 角膜形状変化

2022年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(3):363.366,2022cフランジ法を用いた眼内レンズ強膜内固定術における角膜形状変化福島正樹*1宮腰晃央*2追分俊彦*2コンソルボ上田朋子*2柳沢秀一郎*2林篤志*2*1高岡市民病院眼科*2富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座CCornealTopographyChangesafterFlangedIntraocularLensIntrascleralFixationSurgeryMasakiFukushima1),AkioMiyakoshi2),ToshihikoOiwake2),TomokoConsolvoUeda2),ShuichiroYanagisawa2)andAtsushiHayashi2)1)DapartmentofOphthalmology,TakaokaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyamaC目的:ダブルニードルテクニックを用いたフランジ法による,眼内レンズ(IOL)強膜内固定術によって生じる角膜乱視の短期影響を検討する.対象:2018年C11月.2019年C12月に,富山大学附属病院にて上記手術を施行しC1カ月以上経過を追えたC22例C22眼を対象とした.方法:切開幅がC2.8Cmm群(14眼)とC7.0Cmm群(8眼)のC2群に分け,惹起乱視(SIA),角膜高次収差,IOL固定部経線方向の角膜屈折値の変化,IOL固定部直行方向の角膜屈折値の変化を調べた.結果:平均CSIAはC2.8Cmm群でC1.01C±0.34ジオプター(D),7.0Cmm群でC1.41C±0.65Dであった.IOL固定部経線方向の角膜屈折値の変化は,それぞれC.0.19±0.63D,C.0.01±0.68Dであり,有意差は認めなかった(p=0.71,Cp=0.98).IOL固定部直行方向の角膜屈折値の変化は,それぞれC.0.21±0.58D,+0.04±0.66Dであり,有意差は認めなかった(p=0.42,p=0.59).結論:フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術では,IOL支持部が角膜形状に与える影響は小さく,惹起乱視の主たる原因は強膜縫合や創口閉鎖に伴う平坦化と考えられる.より長期の観察・検討が必要である.CPurpose:ToCstudyCtheCimpactCofC.angedCintrascleralCintraocularlens(IOL).xationCwithCtheCdouble-needleCtechniqueoncornealastigmatism.Methods:Thisstudyinvolvedtheanalysisof22consecutivepatientswithcor-nealCastigmatismCwhoCunderwentC.angedCintrascleralCintraocularlens(IOL).xationCwithCtheCdouble-needleCtech-niquebetweenNovember2018andDecember2019andwhocouldbefollowedformorethan1-monthpostopera-tive.Thepatientsweredividedinto2groupsbasedonthesizeofthescleralwound(i.e.,the2.8Cmmgroupandthe7.0Cmmgroup)C,CwithCtheCdataCdeterminedCbyCanteriorCsegment-opticalCcoherencetomography(CASIA2;Tomey)Candasurgicallyinducedastigmatism(SIA)calculator(Alcon)C.Results:ThemeanSIAscorewas1.01±0.34diop-ters(D)inCtheC2.8CmmCgroupCandC1.41±0.65DCinCtheC7.0mmCgroup.CBetweenCtheCtwoCgroups,CnoCstatisticallyCsigni.cantCchangesCwereCobservedCinCmeanCcornealCcurvatureCinCtheCmeridianCalongCtheChapticsCofCtheCIOLCandCorthogonaltothehapticsoftheIOL,respectively.Conclusion:Thee.ectoftheIOLhapticsoncornealshapewassmall,CandCtheCmainCcauseCofCSIACwasCthoughtCtoCbeCtheCscleralCsutureCandCtheC.atteningCassociatedCwithCwoundCclosure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(3):363.366,C2022〕Keywords:眼内レンズ強膜内固定術,フランジ法,惹起乱視,前眼部三次元光干渉断層計.intrascleralCintraocu-larlens.xation,.anged.xation,surgicallyinducedastigmatism,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.C〔別刷請求先〕福島正樹:〒933-8550富山県高岡市宝町C4-1高岡市民病院眼科Reprintrequests:MasakiFukushima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TakaokaCityHospital,4-1Takaramachi,Takaoka-shi,Toyama933-8550,JAPANCp=0.71p=0.98a4846444240術前術後術前術後2.8mm群7.0mm群p=0.42p=0.594846444240術前術後術前術後2.8mm群7.0mm群p=0.06p=0.53[μm][D][D]b0.80.60.40.20術前術後術前術後2.8mm群7.0mm群図1術前後の各種測定結果の変化a:眼内レンズ固定部経線方向の角膜屈折値の変化.Cb:眼内レンズ固定部直交方向の角膜屈折値の変化.Cc:角膜高次収差の変化.はじめに水晶体支持組織のない無水晶体眼に対する眼内レンズCintraocularlens:IOL)固定法として,IOLの毛様体溝縫着術や毛様体扁平部縫着術が広く行われてきたが,術後合併症として角膜内皮減少や続発緑内障,縫合糸断裂が問題となっていた1.5).2007年に強膜内固定術が報告され6),その後,より低侵襲で固定が強固なフランジ法が開発された7).フランジ法では,縫合糸がないこと,最小限の強膜創しか作製しないことから,低侵襲な方法であると報告されている.C364あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022一方で,フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術における術前後の角膜形状変化に関する報告が少ないことや,スリーピースのトーリックCIOLが存在しないことから,乱視矯正は考慮されていないのが現状である.本研究の目的は,フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術における術前後の角膜形状変化を明らかにすることである.CI対象および方法1.対象症例2018年C11月.2019年C12月に富山大学附属病院で,ダブルニードルテクニックを用いたフランジ法によるCIOL強膜内固定術を施行し,1カ月以上経過を追えた患者C22例C22眼(男性C17眼,女性C5眼)の診療録を後ろ向きに調査した.創口の切開幅によりC2群に分け,2.8Cmm群がC14眼(男性C9眼,女性C5眼)で平均年齢はC80.3C±6.6歳,7.0Cmm群がC8眼(男性C8眼,女性C0眼)で平均年齢はC65.6C±16.3歳であった.すべての患者に対し術前に手術の術式と利点・欠点について十分な説明を行い,文書で同意を得ている.本研究は富山大学臨床・疫学研究などに関する倫理審査委員会の承認を得て行った.C2.手術手技手術は,2名の網膜・硝子体術者(Y.S.,U.T.)により行われた.全例,Tenon.下麻酔で行った.無水晶体症例では12時方向にC2.8Cmmの創口を作製した.IOL脱臼・亜脱臼・硝子体落下症例では,まずC12時方向にC7.0Cmmの創口を作製し,IOLを眼外に摘出した.その後,有硝子体眼ではEVA(ドルク社)のC25ゲージシステムを用いて経毛様体扁平部硝子体切除術を行った.2.8Cmm群ではインジェクターを用いて,7.0Cmm群ではそのまま全例CNX-70(参天製薬)をC12時方向の創口から前房内に挿入した.既報のとおり2)ダブルニードルテクニックを用いてフランジ法によるCIOL強膜内固定術を行い,IOL支持部は角膜輪部よりC2Cmmの位置に,2時-8時方向で固定した.なお,全例でカニューラ挿入部の強膜創の縫合を行った.C3.検討項目2群それぞれの惹起乱視,IOL固定部経線方向の角膜屈折値の変化,IOL固定部直交方向の角膜屈折値の変化,角膜高次収差の変化を検討した.すべての症例において,術前と術1カ月後に前眼部三次元光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)のCCASIAII(トーメーコーポレーション)で測定を行った.惹起乱視についてはCCASIAIIで得られた角膜屈折値をCSIACcalculator(アルコン)に入力して算出した.IOL固定部経線方向の角膜屈折値およびCIOL固定部直交方向の角膜屈折値はCCASIAIIによるCAxialCpower(Real)の項目をもとに算出した.CASIAIIでは,指定した軸に対しての角膜屈折値を算出する方法がないため,正確なIOL固定軸(2時-8時方向)の角膜屈折値は計算できない.そのため,近似値としてCCASIAIIのCAxialpower(Real)画面の角膜中央の直径C3Cmm点線円形内のそれぞれの軸方向の三つの値の平均値を使用している.IOL固定部経線方向(2時-8時方向)の角膜屈折値はC45.225°方向の値を使用し,IOL固定部直交方向(4時-10時)の角膜屈折値はC135.315°方向の値を使用し算出した.角膜高次収差は角膜中央直径3Cmmにおける角膜CHOA値を用いた.結果の数値は平均値C±標準偏差で示し,比較には対応のあるCt検定を用い,p<0.05を有意と定めた.CII結果惹起乱視は,2.8Cmm群でC1.01C±0.34D,7.0mm群でC1.41C±0.65Dであり,2群間に有意差は認めなかった(p=0.18).IOL固定部経線方向の角膜屈折値の変化は,2.8Cmm群でC.0.19±0.63D(p=0.71),7.0Cmm群でC.0.01±0.68D(p=0.98)の変化であり,両群とも術前後で有意差は認めず(図1a),2群間でも変化量に有意差は認めなかった(p=0.70).IOL固定部直交方向の角膜屈折値の変化は,2.8mm群でC.0.21±0.58D(p=0.42),7.0mm群ではC.0.04±0.66D(p=0.59)であり,両群とも術前後で有意差は認めず(図1b),2群間でも変化量に有意差は認めなかった(p=0.56).角膜中心C3Cmm径の高次収差の変化は,2.8Cmm群でC.0.12C±0.14Cμm(p=0.06),7.0mm群で.0.02±0.05Cμm(p=0.53)であり,両群とも術前後で有意差は認めず(図1c),2群間でも変化量に有意差は認めなかった(p=0.27).CIII考按今回筆者らは,フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術における術前後の角膜形状変化をCCASIAIIで得られたパラメータを用いて検討した.まず,惹起乱視に関してはC2.8Cmm群でC1.01C±0.34D,7.0mm群でC1.41C±0.65Dであった.経強角膜切開によるCIOL.内固定術の惹起乱視に関する過去の報告では,2.4Cmm切開ではC0.40C±0.28D8),5.5mmではC0.77±0.65D9),10.11mm切開ではC1.77C±1.61D9)と切開幅が大きくなると創口方向への平坦化が大きくなる傾向があり,本研究結果と一致した.2群間に有意差は認めなかったが,症例数が少ないためと考えられる.フランジ法を用いたIOL強膜内固定術において,ケラトメータによる角膜乱視がC41DC.1.1.35D,術後12週間でC.1.27D,術後4週間でC.術前に変化したとの報告がある10).本研究のC2.8Cmm群ではやや強い惹起乱視が生じていることがわかる.創口の閉鎖に伴う平坦化に加え,IOL支持部の角膜形状への影響を検討する必要があると考えた.そこでCIOL支持部が角膜形状に与える影響を調べるために,本研究ではCIOL固定部経線方向および直交方向の角膜屈折値の変化も検討した.2.8Cmm群,7.0Cmm群ともに経線方向・直交方向の角膜屈折値はわずかに減少していたが,有意差は認めなかった.強膜フラップ作製を伴うCIOL毛様溝縫着術では,術後C1年で経線方向の角膜屈折値が+1.61D,直交方向の屈折値が.0.60D変化したとの報告がある11).この変化は強膜フラップによる影響と考察されている.強膜フラップを作製していない今回の結果と比較すると,IOL支持部そのものが角膜形状に与える影響は小さいと考えられた.25ゲージシステムによる硝子体切除術後の角膜形状の変化は軽微であることが報告されている12).本研究では全例にて強膜創の縫合を行った.20ゲージシステムではあるが,強膜縫合による角膜曲率への影響も報告されている13).強膜の弾力性の変化や縫合の緩みによる影響は,術後C1.3カ月で消失すると考察されている.本研究のC2.8Cmm群でやや強い惹起乱視が生じていた原因の一つに,強膜創の縫合が影響していた可能性がある.本研究における限界の一つに,術後の角膜形状解析を行った時期が全例術C1カ月後という早期であった点があげられる.小切開白内障手術後でも切開部の創口の瘢痕治癒による角膜形状変化が安定するのにC10週間かかったとの報告がある14).本研究では,切開部の創口閉鎖の途中を観察している可能性も考えられる.本研究では,術前後で角膜高次収差の有意な変化はみられなかった.Gullstrand模型眼にC6.0CmmのスリーピースCIOLを強膜内固定し,術前後の高次収差を比較した過去の報告15)では,中央C5.2Cmm径のコマ収差が増加している.本研究では角膜中央C3Cmmの高次収差を測定しているため,IOL支持部の固定が及ぼす角膜形状への影響は,角膜中央部に及ぶほど大きくないのかもしれない.フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術では,IOL支持部が角膜形状に与える影響は小さく,惹起乱視の主たる原因は強膜縫合と切開部の創口閉鎖に伴う平坦化と考えられる.今後,より長期の観察・検討が必要である.文献1)DrolsumL:Long-termCfollow-upCofCsecondaryC.exible,Copen-loop,anteriorchamberintraocularlenses.JCataractRefractSurgC29:498-503,C20032)BiroZ:ResultsCandCcomplicationsCofCsecondaryCintraocu-larClensCimplantation.CJCCataractCRefractCSurgC19:64-67,C19933)DowningJE:Ten-yearfollowupcomparinganteriorandposteriorCchamberCintraocularClensCimplants.COphthalmicCSurgC23:308-315,C19924)EverekliogluCC,CErCH,CBekirCNACetal:ComparionCofCsec-ondaryCimplantationCofC.exibleCopen-loopCanteriorCcham-berCandCscleral-.xatedCposteriorCchamberCintraocularClenses.JCataractRefractSurgC29:301-308,C20035)加藤睦子,中山正,細川海音:眼内レンズ毛様溝縫着術の手術成績.臨眼67:503-509,C20136)GaborCSG,CPavlidisMM:SuturelessCintrascleralCposteriorCchamberCintraocularClensC.xation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1851-1854,C20077)YamaneCS,CSatoCS,CMaruyama-InoueCMCetal:FlangedCintrascleralCintraocularClensC.xationCwithCdouble-needleCtechnique.OphthalmologyC124:1136-1142,C20178)KawaharaA,KurosakaD,YoshidaA:Comparisonofsur-gicallyCinducedCastigmatismCbetweenCone-handedCandCtwo-handedCcataractCsurgeryCtechniques.CClinicalCOph-thalmolC7:1967-1972,C20139)GeorgeR,RupaulihaP,SripriyaAVetal:ComparisonofendothelialCcellClossCandCsurgicallyCinducedCastigmatismCfollowingCconventionalCextracapsularCcataractCsurgery,CmanualCsmall-incisionCsurgeryCandCphacoemulsi.cation.COphthalmicEpidermolC12:293-297,C200510)IshikawaCH,CFukuyamaCH,CKomukuCYCetal:FlangedCintrascleralClensC.xationCviaC27-gaugeCtrocarsCusingCaCdouble-needleCtechniquesCdecreasesCsurgicalCwoundsCwithoutClosingCitsCtherapeuticCe.ects.CActaCOphthalmolC98:499-503,C202011)MaCLw,CXuanCD,CLiCXYCetal:CornealCastigmatismCcor-rectionwithsclera.apsintrans-scleralsuture-.xedpos-teriorCchamberClensimplantation:aCpreliminaryCclinicalCobservation.IntJOphthalmolC4:502-507,C201112)YanyaliCA,CGelikCE,CHorozogluCFCetal:CornealCtopo-graphicCchangesCaftertransconjunctival(25-gauge)CsuturelessCvitrectomy.CAmCJCOphthalmolC140:939-941,C200513)DovCW,CHeniaCL,CNissimCLCetal:CornealCtopographicCchangesCafterCretinalCandCvitreousCsurgery.CHistoricalCimage.OphthalmologyC106:1521-1524,C199914)LimCR,CBorasioCE,CIlariL:Long-termCstabilityCofCkerato-metricastigmatismafterlimbalrelaxingincisions.JCata-ractRefractSurgC40:1676-1681,C201415)MatsuiN,InoueM,ItohYetal:Changesinhigher-orderaberrationsofintraocularlenseswithintrascleral.xation.BrJOphthalmolC99:1732-1738,C2015***

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の強い影響を 受けたと考えられた7 症例

2022年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(3):358.362,2022c新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の強い影響を受けたと考えられた7症例福岡秀記上野盛夫永田健児渡辺彰英森和彦外園千恵京都府立医科大学眼科学教室CSevenCasesinwhichHealthwasSigni.cantlyImpactedbytheCoronavirusDisease2019(COVID-19)PandemicHidekiFukuoka,MorioUeno,KenjiNagata,AkihideWatanabe,KazuhikoMoriandChieSotozonoCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC緒言:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2020年C4月C16日全都道府県が緊急事態宣言の対象となった.2020年C4.7月末のC4カ月間に,感染を恐れるがゆえの受診控えによる病状の進行,および著しい影響を受けた症例を報告する.症例:表層角膜移植術を必要とした両眼自己免疫性角膜穿孔(83歳,女性,兵庫県),両眼アカントアメーバ角膜炎(32歳,男性,滋賀県),両眼細菌性角膜炎による瘢痕治癒(92歳,女性,奈良県),右眼慢性閉塞隅角緑内障による失明(71歳,男性,京都府),両眼開放隅角緑内障による失明と視野狭窄(69歳,男性,京都府),右眼ぶどう膜炎続発緑内障による失明(82歳,女性,滋賀県),眼窩内容除去に至った左眼瞼脂腺癌(72歳,男性,兵庫県).結論:居住都道府県外への高齢の通院患者においては,COVID-19流行時の診療にとくに注意を要すると考えられた.不調時の眼科受診の啓発,病病連携・病診連携による近医眼科でのチェックが重要であると考えられた.CPurpose:OnApril16,2020,anationwide“StateofEmergency”wasdeclaredinJapaninresponsetoCorona-virusCDisease2019(COVID-19).CHereinCweCreportC7CelderlyCcasesCinCwhichCtheCpatient’sChealthCwasCsigni.cantlyCimpactedbytheCOVID-19pandemic.CaseReports:Thisstudyinvolved7elderlypatients(i.e.,an83-year-oldfemalewithbilateralcornealperforationduetoautoimmunedisease,a32-year-oldmalewithbilateralacanthamoe-bakeratitis,a92-year-oldfemalewithbilateralbacterialcornealinfection,a71-year-oldmalewithchronicangle-closureglaucoma,a69-year-oldmalewithbilateralprimaryopen-angleglaucoma,an82-year-oldfemalewithsec-ondaryCglaucomaCdueCtoCuveitis,CandCaC72-year-oldCmaleCwithCadvancedCeyelidCsebaceouscarcinoma)seenCatCtheCDepartmentCofCOphthalmology,CofCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCoverCtheC4-monthCperiodCfromCAprilCthroughJuly2020.In5ofthe7cases,thepatientpresentedfromanoutsideprefecture.Thehealthinall7caseswasCsigni.cantlyCimpactedCbyCtheCCOVID-19Cpandemic.CConclusion:StrictCattentionCshouldCbeCpaidCtoCelderlyCpatientswithoculardisorders,anditisvitalthatallpatients,especiallythosewhopresentfromanoutsideprefec-ture,CbeCinformedCofCtheCimportanceCofCundergoingCregularCfollow-upCexaminationsCatCtheirClocalChospitalsCorCeyeCclinics.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(3):358.362,C2022〕Keywords:新型コロナウイルス感染症,新型コロナウイルス,緊急事態宣言,受診遅れ,眼の悪化.COVID-19,CSARS-CoV-2,stateofemergency,delayedmedicalcheckup,worseningeyedisease.CはじめにCoV-2)によって引き起こされ,わが国においてはC2020年2019年C12月に中国で発生したとされる新型コロナウイル1月C28日に指定感染症として定められた1).その後世界でス感染症(COVID-19)は,新型コロナウイルス(SARS-COVID-19患者は激増し,世界保健機関(WorldCHealthC〔別刷請求先〕福岡秀記:〒606-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kyoto-city,Kyoto606-8566,JAPANC358(96)Organization:WHO)は,3月C11日パンデミック(世界的な流行)と発表した2).それ以降も日本国内を含む全世界で爆発的に感染拡大し,4月C7日には埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,大阪府,兵庫県および福岡県のC7都道府県に緊急事態宣言が出された.4月C16日全都道府県が緊急事態宣言の対象となり,京都府は特定警戒都道府県に位置づけられた3).その後徐々にCCOVID-19患者は減少し京都においてはC5月C21日に緊急事態宣言が解除された3).京都府立医科大学附属病院(以下,当院)は,京都府内唯一の第一種感染症指定医療機関としてCCOVID-19患者治療に最前線で取り組んでいる施設である.緊急事態宣言が出たあとは,COVID-19患者の対応を最優先とし,急を要さない一般手術の休止や入院患者の制限を行った.また,患者側からは,院内感染への警戒から定期的な受診を控えるなどの「受診控え」といえる状況がC3月よりみられはじめ,緊急事態宣言解除後も継続している.このため,なかには定期的な受診を控えたことによる明らかな眼の病状の悪化や,病状が進行してから初診受診した患者が散見される.今回,2020年C4.7月末までのC4カ月間に当院眼科を受診した患者のなかで,院内感染を恐れるがゆえの受診控えにより症状が悪化した症例および著しい影響を被ったと考えられる症例を報告する.CI症例〔症例1〕83歳,女性.2型糖尿病の治療中である.前医にてC4月初旬より両眼瞳孔領下方の角膜潰瘍に対しステロイド点眼と内服治療を行うも両眼の角膜が穿孔し前房消失した.なんらかの自己免疫疾患が角膜潰瘍の原因と考えられ,内科的な精査と治療強化の必要があった.4月下旬に前医にてCSARS-CoV-2の院内感染が発生し,新規患者の受け入れが停止された.当該施設は角膜移植などが可能で角膜穿孔に対処できる施設であったにもかかわらず精査を断念し,当院紹介となった.4月下旬当院初診時に両眼矯正視力は(0.04)であり,角膜瞳孔領下方の角膜穿孔を認め前房は浅くCSeidel試験は陽性であったため(図1a),治療用ソフトコンタクトレンズ(softCcontactlens:SCL)を装用とした.緊急入院による精査によりANCA(antineutrophilcytoplasmicantibody)関連血管炎症候群がもっとも疑われ,ステロイドC40Cmg/日全身投与に加えリツキシマブ点滴治療も行った.初診時の結膜.培養よりCCandidaalbicansが検出されたため,抗真菌治療を追加した.角膜上皮は徐々に進展しCSeidel試験陰性となった.結膜.培養の陰性化を確認し,5月中旬に全身麻酔下での両眼表層角膜移植術を行った.移植後の経過良好であり,前医でのCSARS-CoV-2の院内感染が収束し受け入れ体制が整ったため,退院し,前医での経過観察となった.7月末の時点で角膜所見は安定しており,右眼矯正視力(0.3),左眼矯正視力(0.2)と良好である.〔症例2〕32歳,男性.C2weekSCLの装用歴がある.3月中旬より両眼の見えにくさと,痛みが出現した.近医にて抗菌薬点眼の処方を受けるも悪化し,3月下旬に地元の総合病院に紹介された.SCL保存液の培養では緑膿菌とセラチアを検出し,細菌性角膜炎の診断のもとにモフロキサシン,セフメノキシム,トブラマイシンの点眼による治療が行われた.いったんは改善したように思われたが再度悪化傾向を認めたとのことで,4月上旬に当院紹介となった.当院初診時矯正視力は両眼とも手動弁と低下しており,前房蓄膿を伴う角膜中央部の細胞浸潤を認めた(図1b).所見と治療経過よりアカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakeratitis:AK)を疑い角膜擦過組織の染色を行った.ファンギフローラ染色にて多数の円形のシストを検出し,PCR検査にてアカントアメーバに特異的なCDNAを検出したためCAKと診断した.クロルヘキシジン点眼,ミコナゾール点眼,ピマリシン眼軟膏による治療を開始した.両眼手動弁という低視力に加え,綿密な治療が必要なため入院治療を勧めた.しかし,その頃CCOVID-19患者に対応するため入院患者数の制限と,新型コロナウイルスの持ち込みを防ぐ観点から家族を含めた面会の禁止が行われていた.AK治療には長期の入院が必要で,患者は,4人の子どもと長期の面会が不可能となることが予想された.そのため,両眼視力低下があるものの片道約C2時間の外来通院にて治療を開始した.徐々に角膜透明性を回復し,1年経過した2021年C4月時点では右眼矯正視力(0.9),左眼矯正視力(0.7)までに回復している.〔症例3〕92歳,女性.両眼レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症に対し左眼CDes-cemet膜角膜内皮移植(DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:DMEK)術後である.2019年末時点で右眼矯正視力(0.4),左眼矯正視力(0.1)であった.両眼の眼脂と視力低下を自覚するも,SARS-CoV-2の感染を恐れ眼科を受診することができなかった.地元眼科受診後,ただちに紹介受診となった.初診時,両眼の角膜上皮欠損と輪部に沿って感染巣と浸潤を認めたため,細菌性角膜感染症と診断した(図1c).両眼矯正視力手動弁であった.角膜擦過物の培養検査では右眼CStreptococcusCpneumoniaeとCCoagulaseCnega-tivestaphylococci,左眼CStaphylococcusaureusを検出し,緊急入院し薬剤感受性を考慮し,1.5%レボフロキサシン点眼両眼C4回,セフメノキシム点眼両眼C2時間ごと,タリビット眼軟膏眠前で治療を開始した.徐々に上皮化を得て瘢痕治癒に至り,入院C3週間で退院,退院時の矯正視力は右眼が光覚弁,左眼が指数弁である.〔症例4〕71歳,男性.4月中旬にC10日前からの視力低下を自覚して近医受診,右眼緑内障発作とのことで当院に紹介受診した.当院初診時,右眼矯正視力光覚弁,右眼眼圧はC55CmmHgであった.著明な角膜浮腫と浅前房,中等度散大固定した瞳孔を認め原発閉塞隅角緑内障と診断し(図1d),D-マンニトール点滴に加えピロカルピンの点眼にて発作の解除を確認した.翌日の診察にて再発作を認め,右眼レーザー虹彩切開術およびレーザー隅角形成術を行い,翌日右眼矯正視力光覚弁を維持し眼圧はC14CmmHgと安定したため,右眼白内障手術と隅角癒着解離術をC5月上旬に予定した.しかし,者は新型コロナウイルスの院内感染を危惧し受診を中断されC7月中旬に受診された.受診時右眼眼圧C30CmmHgと再上昇し慢性閉塞隅角緑内障に進展しており,光覚なしの状態まで悪化が認められた.1週間後,右眼隅角癒着解離術,線維柱帯切開術および水晶体再建術,2週間後には左眼水晶体再建術を行い,最終矯正視力は右眼光覚なし,左眼(0.5),眼圧コントロールは良好である.〔症例5〕69歳,男性.眼科受診歴はない.4月下旬から眼が重たいなど軽い症状があったが,新型コロナウイルスの院内感染を恐れ病院を受診できなかった.6月下旬近医を受診し両眼眼圧C40CmmHg以上とのことで同日当院に紹介受診となった.当院初診時,両眼とも開放隅角,右眼は上方C2カ所の周辺虹彩前癒着があるのみで左眼に癒着はなく,右眼眼圧C70CmmHg,左眼眼圧40CmmHgであった.右眼矯正視力はすでに光覚なし,左眼矯正視力(0.4)であった(図1e).D-マニトール点滴にて眼圧下降した時点で視機能の残存している左眼のCGoldmann視野検査を実施したところ,湖崎分類CVaと残存視野はほとんどない状態であった.最終的な診断は,両眼開放隅角緑内障,右眼絶対緑内障であった.初診時,血圧C270/151mmHg(収縮期/拡張期)と無治療のCIII度高血圧があったため,内科での治療と,高眼圧に対しビマトプロスト点眼,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩点眼,リパスジル点眼に加えアセタゾラミドC500Cmg/日の治療を行い眼圧は両眼C10CmmHgまで低下し,現在経過観察中である.〔症例6〕82歳,女性.右眼ぶどう膜炎,右眼続発緑内障にて当院に通院されていた.他院にてC2017年C7月に右眼硝子体混濁に対し右眼硝子体手術を施行されている.当院においては右眼網膜.離に対しC2018年C1月に右眼硝子体手術を施行されている.2018年末の段階で,Goldmann視野検査は湖崎分類CIV期であった(図1f).近年はベタメタゾン点眼,ブリモニジン点眼,ドルゾラミド塩酸塩,とチモロールマレイン酸塩の合剤点眼にて眼圧も安定し定期フォローとなっていた.新型コロナウイルスの院内感染を恐れC3月初旬の予約をC2回延期され,6月末に来院された.右眼眼圧はC28CmmHgと上昇し,光覚なく,すでに絶対緑内障の状態であった.疼痛も自制内で積極的な加療を希望されず,近医にて経過観察中である.左眼は,黄斑前膜,軽度白内障を認めるのみで矯正視力(1.2)である.〔症例7〕72歳,男性.2018年他院より左眼の原因不明の遷延性角膜上皮欠損で紹介受診された.瞼球癒着もあり眼類天疱瘡が疑われたが,右眼にとくに異常所見を認めず,2018年,2019年と組織生検を施行するも悪性の細胞所見を検出しなかった.その後,徐々に結膜.短縮が進行したためC2019年C5月に左眼の角膜上皮形成術+羊膜移植+水晶体再建術を施行した.術後しばらくは経過良好であったが,徐々に再度結膜.短縮が進行するも上皮欠損はない状態であった.4月の受診を延期されC6月末に来院された.疼痛なく左上眼瞼が急速に腫脹し,増大した腫瘍から脂腺癌が疑われた(図1g).眼形成外来で生検し,脂腺癌の病理所見を得たためC7月に左眼瞼皮膚悪性腫瘍切除および左眼窩内容除去術を施行した.現在左頸部リンパ節転移のためリンパ節郭清および頸部リンパ節郭清を施行し,抗悪性腫瘍剤(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)投与中である.以上のC7症例のうち京都府内在住がC2例(29%),京都府外在住がC5例(71%)であった.影響を受けた疾患の内訳は角膜分野C3例C6眼,緑内障分野3例4眼,眼形成分野C1例C1眼であった(表1).CII考按今回,緊急事態宣言発令前後より眼が不調であるものの,COVID-19の院内感染を恐れるがゆえに大幅に遅れて受診したため悪化した症例と,COVID-19の流行による緊急事態宣言の影響を著しく被った当科の症例について収集した.収集できたのは,4月C7日にC7都道府県,4月C16日に全都道府県に出された緊急事態宣言がC5月C21日に解除されたことで,6月以降,新型コロナウイルスの感染を恐れ受診を控えていた患者が徐々に来院されたことが大きい.最新の社会保険診療報酬支払い基金データからのレセプト件数から推察された眼科の患者数は,緊急事態宣言が出されたC4月においては前年比C65.7%,5月においてはC67.6%と顕著に減少していることがわかる.また,全診療科において特定警戒都道府県ではC73.5%,その他の都道府県ではC83.6%と減少幅が大きいことも判明しており,特定警戒都道府県においてはとくに病院の受診が控えられていたことが推察される4).COVID-19は収束がみえず流行しており,今もなお受診を控えている患者はいるのかもしれない.実際に当院における眼科外来患者数の推移は,2020年C3.7月で前年比平均73.1%,そのなかでもC4月においてはC65%,5月はC57.4%と顕著な減少が確認された.また眼科入院患者数においてもe-3図1症例画像一覧a:症例C1.自己免疫性疾患による両眼角膜穿孔(-1:右眼,-2:左眼).瞳孔領下方の穿孔により前房は両眼ほぼ消失,左眼は一部虹彩が嵌頓脱出している.Cb:症例C2.両眼アカントアメーバ角膜炎(-1:右眼,-2:左眼).円形の浸潤とともに角膜中央部の角膜後面プラークと前房蓄膿を認める.Cc:症例C3.両眼細菌性角膜感染症(-1:右眼,-2:左眼).両眼の多量の眼脂,角膜上皮欠損と輪部に沿って感染巣と浸潤を認めた.右眼水疱性角膜症,左眼CDescemet膜角膜内皮移植術(DMEK)の既往がある.Cd:症例4.右眼慢性閉塞隅角緑内障による失明(-1:右眼原発閉塞隅角緑内障解除直後,-2:右眼慢性閉塞隅角緑内障).初診時,急激な眼圧上昇により充血,浅前房とともに高度な核白内障を認める.予定再診を中断後には慢性閉塞隅角緑内障に移行していた.眼圧C30CmmHgと眼圧上昇しているが充血はほぼなく,絶対緑内障となっていた.Ce:症例C5.両眼解放隅角緑内障による失明(-1:右眼,-2:左眼,-3:左眼CGoldmann視野).両眼解放隅角,中等度核白内障を認める.右眼は中等度散瞳状態で絶対緑内障,左眼は湖﨑分類Vaと末期の緑内障の状態であった.(右眼眼圧70CmmHg,左眼眼圧C40CmmHg).f:症例6.右眼ぶどう膜炎続発緑内障による失明(-1:右眼前眼部写真,-2:右眼広角眼底写真).予定再診中断後の来院時には充血なく,すでに視神経は蒼白の状態であった.眼圧C28CmmHgで光覚なく絶対緑内障となっていた.Cg:症例C7.左眼瞼脂腺癌.後に眼窩内容除去術を行った(-1:左眼).予定再診中断後の来院時には上眼瞼の腫瘤を形成しており,疼痛なく易出血性であった.のちに眼窩内容除去施行し,病理検査ではCsebaceouscarcinomaと判明した.表1各症例のまとめ症例年齢(歳)性別居住地患眼疾患名転帰分野C1C83女性兵庫県両眼角膜穿孔穿孔閉鎖・転院角膜C2C32男性滋賀県両眼アカントアメーバ角膜炎軽快(治療中)角膜C3C92女性奈良県両眼細菌性結膜炎瘢痕治癒角膜C4C71男性京都府右眼慢性閉塞隅角緑内障失明緑内障C5C69男性京都府両眼開放隅角緑内障失明・末期緑内障緑内障C6C82女性滋賀県右眼ぶどう膜炎続発緑内障失明ぶどう膜炎・緑内障C7C72男性兵庫県左眼眼瞼脂腺癌眼窩内容除去眼瞼皮膚悪性腫瘍切除眼形成患者数の前年との比較(%)10090807060504030201003月4月5月6月7月(2020年)外来患者入院患者図2当院における外来患者数,入院患者数の前年比の推移外来患者,入院患者ともC2020年C5月がもっとも減少幅が大きかったことがわかる.2020年C3.7月で前年比平均C57.8%,とくにC5月はC35.3%とほぼC1/3となり外来患者数以上に減少していることがわかる.原因としてCCOVID-19患者の対応を最優先とし,急を要さない一般手術の休止やCCOVID-19患者対応に伴う一般病棟の看護師の減少により入院患者の制限を行ったためと考えられる(図2).今回得られた症例では,居住都道府県外を越えた通院が71%と多かった.緊急事態宣言発令下では,不要不急の居住都道府県外への移動自粛要請があり,公共交通機関を利用した移動による新型コロナウイルス感染を恐れたことなどが,府外からの患者において受診が遅れた,または延期した理由として考えられた.両眼性の角膜疾患(3例C6眼)がもっとも多い疾患であった.両眼性の角膜疾患では,両眼の視力低下により受診などの移動がむずかしくなること,角膜専門の医療施設が数多くないことなどが複合的に関連したと考えられた.緑内障が,2番目に多い眼疾患であった.3眼(75%)は,受診時点ですでに光覚のない絶対緑内障の状態となっていた.原因として新型コロナウイルスの感染を恐れ受診を控えていたのに加え,慢性に眼圧が上昇することで急激な眼の痛みや頭痛などの症状を伴わず亜急性に進行し,受診の機会を失ったのではないか5)と推察した.残りC1例は眼瞼の脂腺癌であり眼形成分野であった.この症例も痛みを伴わず腫瘍の増大が緩除であったことで,再診を延期され受診の機会を失ったと考えられた.一方,網膜.離や加齢黄斑変性などの網膜疾患の症例はなかった.今回の検討では,居住都道府県外から受診する患者については,とくに注意を要すると考えられた.また,慢性に眼圧上昇を生じることによる絶対緑内障により視機能を失った症例も多くみられた.クラスター発生などでやむをえず病院が閉鎖した際には,患者が悪影響を受けないよう他病院との綿密な連携も必要である.今なお収束のみえないCCOVID-19が流行している間,不調時の眼科受診の啓発,病病連携・病診連携による近医眼科でのチェックがとくに重要であると考えられた.文献1)厚生労働省Chttps://www.mhlw.go.jp/content/10900000/C000589747.pdf2)WorldChealthorganizationChomepage:https://www.who.Cint/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/Cevents-as-they-happen3)内閣官房ホームページChttps://corona.go.jp/news/news_C20200421_70.html4)社会保険診療報酬支払基金Chttps://www.ssk.or.jp/tokeijoho/Cgeppo/geppo_r02.html5)KhawCPT,CShahCP,CElkingtonAR:GlaucomaC─C1:Diag-nosis.BMJC328:97-99,C2004***

病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):354.357,2022c病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績上杉康雄徳田直人山田雄介豊田泰大塚本彩香塚原千広佐瀬佳奈北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CLong-TermOutcomesofTrabeculectomyforEtiologicalNeovascularGlaucomaYasuoUesugi,NaotoTokuda,YusukeYamada,YasuhiroToyoda,AyakaTsukamoto,ChihiroTsukahara,KanaSase,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:血管新生緑内障(NVG)に対する線維柱帯切除術の術後長期成績について原因別に検討する.対象および方法:NVGに対して線維柱帯切除術を施行し,術後C36カ月経過観察可能であったC35例C39眼を対象とした.NVGの原因別に手術成績について検討した.結果:NVGの原因は糖尿病網膜症C22例C26眼(DR群),網膜中心静脈閉塞症(CRVO)13例C13眼(CRVO群)であった.眼圧はCDR群では術前C36.6CmmHgが術後C36カ月でC12.4CmmHg,CRVO群ではC36.0mmHgがC13.0CmmHgと両群ともに有意に下降した.Kaplan-Meier法による累積生存率は術後C36カ月でDR群C73.1%,CRVO群C83.9%であった.術後合併症はCDR群で硝子体出血がC5例存在した.結論:NVGに対する線維柱帯切除術は長期的に有効な術式だが,DR症例では眼圧コントロールが良好であっても硝子体出血を生じる患者が存在する.CObjective:Toinvestigatethelong-termpostoperativeoutcomesoftrabeculectomyforetiologicallyneovascu-larglaucoma(NVG).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved39eyesof35patientswhounderwenttrabecu-lectomyforNVGandwhowerefollowedupfor36-monthspostoperative.Results:ThecausesofNVGweredia-beticretinopathy(DR)in26eyesof22cases(DRgroup)andcentralretinalveinocclusion(CRVO)in13eyesof13cases(CRVOgroup).IntheDRandCRVOgroups,themeanintraocularpressure(IOP)signi.cantlydecreasedfrom36.6CmmHgand36.0CmmHg,respectively,preoperative,to12.4CmmHgand13.0CmmHg,respectively,postopera-tive.At3-yearspostoperative,thecumulativesurvivalratesintheDRandCRVOgroupwere73.1%Cand83.9%,respectively.CPostoperativeCcomplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC5CpatientsCDRCgroupCpatients.CConclu-sion:TrabeculectomyCforCNVGCwasCfoundCe.ectiveCoverCtheClong-termCperiodCpostCsurgery,Chowever,CvitreousChemorrhageoccurredinsomeDRpatientsdespitewell-controlledIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(3):354.357,C2022〕Keywords:血管新生緑内障,線維柱帯切除術,糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,続発緑内障.neovascularCglaucoma,trabeculectomy,diabeticretinopathy,centralretinalveinocclusion,secondaryglaucoma.Cはじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)や網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)など網膜虚血性疾患が原因となり発症する続発緑内障である.低酸素誘導され硝子体中に分泌された血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)などの液性血管新生因子により隅角新生血管が形成され,房水流出抵抗が増加し眼圧上昇が生じる.治療法として線維柱帯切除術1),VEGF阻害薬投与2),緑内障チューブシャント手術3)などが行われ,その有効性が報告されている.線維柱帯切除術はCNVGに汎用される術式であるが,NVGの病因により術後経過が影響されるかについての検討は少ない.本研究ではCDRとCCRVOに続発したCNVGの術後経過を比較し,NVGに対する線維柱帯〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:NaotoTokuda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC354(92)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(92)C3540910-1810/22/\100/頁/JCOPY切除術の手術経過が病因により影響されるかについて検討した.CI対象および方法本研究は診療録による後ろ向き研究である.対象はC2011年C3月.2017年C5月のC7年間に当院でCNVGと診断され線維柱帯切除術を施行され,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C35例C39眼である.平均年齢C66.1C±12.3歳であった.NVG群の原因疾患がCDRであったC22例C26眼をCDR群,原因疾患がCCRVOであったC13例C13眼をCCRVO群とし,両群の術前後の眼圧推移と薬剤スコアの推移,術後合併症について比較検討した.薬剤スコアは,抗緑内障点眼薬C1成分1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点とした.また,Kaplan-Meier法による生存分析も行った.死亡の定義は,術後眼圧がC2回連続してC21CmmHg以上またはC5CmmHg未満を記録した時点,緑内障再手術を施行した時点,光覚喪失となった時点とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬の追加となった症例も存在するが,その時点では死亡として扱わず生存とした.NVGに対する濾過手術の選択基準としては,線維柱帯切除術を基本とし,硝子体出血による視力低下を併発している症例のみ硝子体手術を併用した緑内障チューブシャント手術を選択した.線維柱帯切除術は全例円蓋部基底結膜弁で行った.結膜弁作製後,浅層強膜弁を作製しC0.04%マイトマイシンCCを結膜下に塗布し(作用時間は症例によって調整)生理食塩水100Cmlで洗浄,その後深層強膜弁を作製しCSchlemm管を同定し,深層強膜弁を切除,続いて線維柱帯を切除し周辺虹彩切除を行い,浅層強膜弁を縫合(4.7本)し,結膜を縫合し手術終了とした.全例同一術者(N.T.)により施行した.なお,2014年C2月以降に施行した症例については術前にベバシズマブの硝子体内注射(intravitrealbevacizumab:IVB)を施行した.IVBについては適応外使用につき聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C2566号で承認を受け,患者への説明と同意のもと行われた.統計学的な検討は対応のあるCt検定,Mann-WhitneyCUtest,chi-squaretestを使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.CII結果表1に対象の背景について示す.年齢については,DR群はCCRVO群よりも有意に若かった(Mann-WhitneyCUCtestp<0.01).その他,術前眼圧,薬剤スコア,隅角所見(peripheralanteriorsynechia:PASindex),PASindex75%以上をCNVGの閉塞隅角期とした場合の割合,硝子体手術の既往,IVB実施のいずれにおいても両群間に有意差はなかった.図1にCDR群およびCCRVO群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧は両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図2にCDR群およびCCRVO群の術前後の薬剤スコアの推移を示す.薬剤スコアは両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図3にCDR群およびCCRVO群のCKaplan-Meier生存分析による累積生存率を示す.術後C3年の累積生存率は,DR群でC73.1%,CRVO群でC83.9%であり両群間に有意な差は認められなかった(LoglankCtestCp=0.43).なお,術前IVB実施の有無で累積生存率を検討した結果,DR群についてはCIVB無群でC68.8%,IVB有群でC80.0%(Loglanktestp=0.56),CRVO群についてはCIVB無群でC88.9%,IVB有群でC75.0%(LoglankCtestCp=0.62)と有意な差は認められなかった.表2に術後合併症について示す.術後合併症は,硝子体出血がCDR群でC5眼(19.2%),水疱性角膜症がCCRVO群でC1眼(7.7%),眼球癆がCDR群でC1眼(3.8%)に認められた.硝子体出血を生じたCDR群のC5眼うちC3眼は硝子体手術を要した.術後C2段階以上の視力低下が生じた症例は,表1対象の背景DR群CRVO群22例26眼13例13眼p値年齢(歳)C61.2±12.2C76.0±4.0C0.0001*術前矯正視力C0.36±0.5C0.30±0.4C0.27*術前眼圧(mmHg)C37.4±10.9C36.4±5.7C0.84*術前薬剤スコア(点)C4.5±0.6C4.6±0.5C0.46*PASindex(%)C46.2±17.9C43.9±20.2C0.46*閉塞隅角期(PASindex≧75%)(%)C11.5C15.4C0.87**硝子体手術の既往(%)C19.2C23.1C0.89**線維柱帯切除術前CIVB(%)C57.7C69.2C0.73**PAS:peripheralanteriorsynechia,IVB:intravitrealbevacizumab.*:Mann-Whitneytest,**:chi-squaretest.(93)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C355眼圧(mmHg)5040302010術前術後3カ月6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月観察期間54321薬剤スコア(点)観察期間図2血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術後の薬剤スコアの推移各群ともに術前と比較し術後有意な薬剤スコアの減少を示した.抗緑内障点眼薬1剤C1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点.エラーバー:標準偏差.合併症表2術後合併症DR群CRVO群(n=26)(n=13)p値DR群0.673.1%Loglanktestp=0.435眼0眼C0.09**硝子体出血(19.2%)(0%)0眼1眼C0.15**水疱性角膜症(0%)(7.7%)1眼0眼C0.47**C061218243036眼球癆(3.8%)(0%)2段階以上の4眼3眼観察期間(カ月)視力低下(15.4%)(23.1%)C0.56**累積生存率図3Kaplan.Meier生存分析PDR群で硝子体出血を生じたC5眼中C3眼は硝子体手術を要した.死亡定義:眼圧が2回連続して21mmHg以上または**:chi-squaretest.4CmmHg未満を記録した時点,または緑内障再手術となった時点.(94)DR群でC4眼(15.4%),CRVO群でC3眼(23.1%)認められた.CIII考按本研究は経過観察期間C36カ月という比較的長期の経過を検討している.同様に長期経過観察を行っているCTakiharaらの報告1)では,1,2,5年後の手術成功率がそれぞれ62.6%,58.2%,51.7%であった.また,Higashideらの報告2)ではベバシズマブを併用し,平均経過観察期間C45カ月でC1,3,5年後の手術成功率がそれぞれC86.9%,74.0%,51.3%であった.本研究ではC3年後生存率がCDR群C73.1%CRVO群C83.9%でCHigashideらの報告に近い結果となった.これはDR群15眼(57.7%),CRVO群9眼(69.2%)にVEGF阻害薬を併用して隅角新生血管の活動性を低下させてから線維柱帯切除術を行っていることが要因と考えられた.また,当院では,線維柱帯切除術を狩野らの報告4)と同様に強膜二重弁を作製し深層強膜弁を切除する方法で行っているが,NVGについてはCSchlemm管同定後,深層強膜弁をさらに角膜側まで進めてから強角膜片切除を行うようにしている.この方法によりCPASが生じているCNVG症例に対しても術後に前房出血を生じることが少なくできるため,手術成績の向上に貢献した可能性があると考える.DR群とCCRVO群の背景を比較してみると,年齢はCDR群のほうがCCRVO群のよりも有意に若くなっていたが,これはCCRVOが動脈硬化を生じやすい高齢者に多いことが影響したものと考える.眼圧,薬剤スコア,PASindexについては両群で有意差を認めなかったことから,術前のCNVGの活動性に大差はなかったと考えられる.また,ベバシズマブ使用率にも差はなく,術後眼圧推移,術後薬剤スコア推移とも両群で同様の推移を示した.つまり原因疾患が異なっていても筆者らが行ったCNVGに対する線維柱帯切除術は眼圧下降効果,持続性ともに有効であったことが示唆される.一方術後合併症に関しては,DR群で硝子体出血が多くみられ,再手術症例,眼球癆に至った症例もみられた.DR群では房水流出にかかわる前眼部には十分な濾過効果が得られたにもかかわらず,硝子体出血を生じた理由としては,血糖コントロールの悪化が影響したと考える.線維柱帯切除術後に硝子体出血をきたした症例は,術後しばらくしてから血糖コントロールが再度悪化し,その後硝子体出血を発症している.DRに続発したCNVGでは術後も血糖管理が重要であることを再確認する結果となった.また,これはあくまで推測の域を出ないが,CRVOでは発症からCNVGに至る経過は短期間であり,眼底に血管増殖膜や硝子体出血などの重篤な変化が生じる前に緑内障手術となることが多い印象がある.それに対して,DR群ではCNVGに至る時点ですでに線維血管増殖や牽引性.離など眼底に重篤な病変を形成していることも多い.このような症例では緑内障術後,眼圧下降により眼底虚血はある程度改善されたとしても,術前から存在する不可逆性の眼底病変が術後血糖コントロール不良などを引き金に再燃する可能性が残っている.つまり,NVGに至るまでの背景の違いが術後合併症の差につながったとも考えられる.本研究は少数例の後ろ向き研究であり,より多数例での検討が必要である.また,DR群とCCRVO群に年齢に有意差があり,CRVO群のなかに眼虚血症候群の症例が存在していた可能性はあるが,眼底病因にかかわらずCNVGに対して線維柱帯切除術は有効であることが示唆された.近年ではVEGF阻害薬治療をCNVGの初期治療として行うことがVENERA/VEGA試験により有効であることが示され,単独治療でも眼圧コントロールができる症例が報告されている5,6).本研究が行われた時期では,こうした比較的軽度な患者も手術対象となっていたと考えられる.また,DRやCRVOに関しては以前よりもCVEGF阻害薬で黄斑浮腫治療を行う場合が多くなり,NVGに至る病態は以前と異なってきている可能性がある.VEGF阻害治療のみでコントロールできない重篤な患者においても,病因によって術後経過に差異がないかなど今後の検討を要する点である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20092)HigashideCT,COhkuboCS,CSugiyamaK:Long-termCout-comesandprognosticfactorsoftrabeculectomyfollowingintraocularCbevacizumabCinjectionCforCneovascularCglauco-ma.PLoSOneC10:e0135766,C20153)ParkCUC,CParkCKH,CKimCDMCetal:AhmedCglaucomaCvalveCimplantationCforCneovascularCglaucomaCafterCvitrec-tomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CJCGlaucomaC20:433-438,C20114)狩野廉,桑山泰明,水谷泰之:強膜トンネル併用円蓋部基底トラベクレクトミーの術後成績.日眼会誌C109:C75-82,C20055)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:IntravitrealCa.iberceptCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularCglauco-ma:TheVEGArandomizedclinicaltrial.AdvTher38:C1116-1129,C20216)InataniM,HigashideT,MatsushitaKetal:E.cacyandsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCinjectionCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularglaucoma:OutcomesCfromCtheCVENERAstudy.AdvTherC38:1106-1115,C2021(95)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C357

増殖糖尿病網膜症に対する25 ゲージ,27 ゲージ 小切開硝子体手術成績の比較

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):350.353,2022c増殖糖尿病網膜症に対する25ゲージ,27ゲージ小切開硝子体手術成績の比較関根伶生重城達哉佐藤圭司四方田涼佐々木寛季向後二郎高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CComparativeStudyof25-vs27-GaugeVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyReioSekine,TatsuyaJujo,KeijiSato,RyoYomoda,HirokiSasaki,JiroKogoandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に対するC25ゲージ(G)・27CG硝子体手術成績を比較し,27CG硝子体手術の安全性と有効性について検討する.方法:対象はC2012年C12月.2019年C12月に聖マリアンナ医科大学病院にてCPDRに対し単一術者が手術を施行し,6カ月以上経過観察が可能であったC128眼.25CG群とC27CG群に分け,視力,眼圧,手術時間,再手術の有無を後ろ向きに検討した.結果:25G群はC46眼,27G群はC82眼であった.logMAR矯正視力は両群とも術前と比較し,術後C1,3,6カ月で有意に改善が得られたが,各時期において両群間での有意差は認められなかった.手術時間はC25CG群C98.0分,27CG群C80.6分,再手術はC25CG群でC11眼(24%),27G群で8眼(10%)といずれも有意にC27CG群が少なかった(各Cp<0.05).結論:PDRにおいて,27CG硝子体手術の成績はC25CGと同等であったが,再手術が少なく有用である可能性が示唆された.CPurpose:Tocomparativelyexaminethesurgicaloutcomesof25-gauge(G)vs27-Gvitrectomyforprolifera-tivediabeticretinopathy(PDR).Methods:Thisretrospectivestudyinvolved128eyeswithPDRthatunderwentvitrectomybetweenDecember2012andDecember2019.Visualacuity(VA),intraocularpressure,operationtime,andCpostoperativeCcomplicationsCwereCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:ThereCwereC46CeyesCinCtheC25-Ggroupand82eyesinthe27-Ggroup.Bothgroupsshowedsigni.cantimprovementinlogarithmofminimalangleofresolution(logMAR)correcteddistanceVA(CDVA)at1-,3-,and6-monthspostoperative.However,nosigni.cantCdi.erenceCinClogMARCCDVACwasCfoundCbetweenCtheCtwoCgroups.CBetweenCtheC25-andC27-GCgroups,Cthemeanoperationtimewassigni.cantlyshorterinthe27-Ggroup(98.0vs80.6minutes,respectively)andthereoperationratewassigni.cantlylowerinthe27-Ggroup(24%Cvs10%,respectively).Conclusion:Thesurgicaloutcomesof27-GvitrectomyforPDRwereequivalenttothoseof25-Gvitrectomy,yetwithashorteroperationtimeandalowerreoperationrate.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(3):350.353,C2022〕Keywords:25ゲージ硝子体手術,27ゲージ硝子体手術,増殖糖尿病網膜症,矯正視力,手術時間.25-gaugevit-rectomy,27-gaugevitrectomy,proliferativediabeticretinopathy,correcteddistancevisualacuity,operation-time.Cはじめに27ゲージ(G)硝子体手術はC2010年にCOshimaらにより開発された1).27CG硝子体手術は従来のC25CGと比較し術後炎症の軽減,創部の早期治癒,切開創を無縫合で終えることが可能であることから,結膜が温存され眼表面の涙液層の安定や術後逆起乱視の低減化により術後早期の視機能改善が得られると考えられている2,3).また,術後の創口閉鎖不全による低眼圧や眼内炎などの術後合併症発生リスクが少なく,安全な手術方法とされている.Mitsuiらは網膜前膜においてC27CGとC25CGを前向きに比較検討し,同等の治療成績を認め,27CGの安全性と有効性を報告している4).さらに裂孔原性網膜.離においても網膜復位率・術後視力・術後眼圧とも〔別刷請求先〕重城達哉:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:TatsuyaJujo,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC350(88)にC27CGはC25CGと同等の成績であったと報告され5),今後も27CG硝子体手術はその有用性から,複雑な疾患まで適応が拡大していくと考えられる.増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)は新生血管の破綻により硝子体出血をきたし,硝子体手術が必要となることが多々ある.また,線維血管性増殖膜が形成されると硝子体と網膜との間に強固な癒着が生じ,牽引性網膜.離が発生するために術中に多くの処理を要することがある.27CG硝子体カッターはC25CGと比較し開口部が先端にあり,増殖膜と網膜の間隙に滑り込ませるなどして,より繊細な作業を行えるために,PDRにおいてC27CG硝子体手術は有用である可能性が考えられる.そこで今回の目的はCPDRに対し手術を施行したC25G,27G硝子体手術の手術成績を後ろ向きに比較することでPDRにおけるC27CG硝子体手術の安全性と有効性について検討した.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を得たものである.PDRの診断にて手術加療が必要である患者に対し,手術の必要性や合併症の可能性について十分に説明を行い,インフォームド・コンセントを得て,患者と医師が署名した手術同意書を作成したうえで行った.対象はC2012年C12月.2019年C12月に聖マリアンナ医科大学病院にてCPDRに対し硝子体手術を施行され,6カ月以上経過観察が可能であったC128眼.手術は全例同一術者により施行された.術者は眼科歴C20年以上で増殖糖尿病網膜症の手術に豊富な経験をもつ者である.硝子体手術はCConstellationCVisionSystem(AlconCLabo-ratories)を使用した.2012年C12月.2015年C9月の手術は25G硝子体システムを使用し,2015年C10月.2019年C12月の手術はC27CG硝子体システムを使用した.手術は硝子体手術単独または水晶体再建術併用硝子体術を行い,全例で強膜内陥術の併用は行わなかった.手術終了時のタンポナーデは必要に応じ,六フッ化硫黄ガス(SFC6),八フッ化プロパンガス(CC3F8),シリコーンオイル(SO)に置換し手術を終了した.検討項目は術前,術後C1カ月,3カ月,6カ月時の矯正視力と眼圧,再手術の有無,タンポナーデの有無とし,25CG群とC27CG群とに分け,データを収集した.検討方法は小数視力をClogMAR換算し,各群で術前後の視力と眼圧をWelchのCt検定にて比較検討し,各群間での視力と眼圧をMann-WhitneyのCU検定を用いて検討を行った.各群間での再手術の有無とタンポナーデの有無についてはCc2検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果患者背景を表1に示した.25G群はC46眼,27G群はC82眼であった.性別はC25CG群で男性C31眼,女性C15眼であり,27CG群は男性C58眼,女性C24眼であった.平均年齢はC25CG群でC54.6C±14.4,27G群でC56.5C±11.7であった.眼軸長は25G群でC23.6C±1.0Cmm,27CG群でC23.9C±1.3Cmmであった.増殖膜の処理を行った症例数はC25CG群でC33眼,27CG群で47眼であった.術前眼圧はC25G群でC14.3C±2.9CmmHg,27G群でC14.4C±3.5CmmHgであった.術前ClogMAR矯正視力はC25G群でC0.93C±0.60,27CG群でC0.95C±0.68とそれぞれの項目で両群間に有意差は認められなかった(p>0.05).視力の推移を図1に示した.術C1カ月後のClogMAR矯正視力はC25G群でC0.64C±0.48,27G群でC0.65C±0.65,術C3カ月後はC25G群でC0.54C±0.49,27G群でC0.54C±0.50,術C6カ月後ではC25CG群はC0.48C±0.55,27CG群はC0.43C±0.44であり両群ともにベースラインと比較し術C1カ月後から有意な改善を得ることができた(各Cp<0.01).しかし,各時点でのlogMAR矯正視力に両群間で有意差は認められなかった.術後翌日,1,3,6カ月後の眼圧の推移を図2に示した.術後翌日の眼圧はC25G群でC14.9C±7.6CmmHg,27CG群でC15.7±7.4CmmHgであり,いずれの群においても術前眼圧と有意差は認められなかった.術後C1カ月はC25CG群でC13.8C±3.0CmmHg,27CG群でC14.5C±4.2CmmHg,術後C3カ月はC25CG群でC14.3C±3.6mmHg,27G群でC14.6C±3.3mmHg,術後C6カ月は25CG群で13.9C±3.1mmHg,27CG群で15.0C±3.6CmmHgであり,ベースラインと比較して有意差は認められなかった.また,各時点での両群間においても眼圧に有意差は認められなかった.術翌日の低眼圧(<5CmmHg)はC25CG群でC2眼(4.3%),27CG群でC3眼(3.7%)であり,低眼圧発生の割合も有意差は認められなかった(p=0.85).手術方法,タンポナーデ,手術時間,再手術件数について表2に示した.手術方法はC25G群で白内障併用がC27眼,27CG群でC39眼であり,有意差は認めなかった.タンポナーデを行った症例はC25G群でCSFC6がC5眼,CC3F8がC4眼,SOがC6眼であり,27CG群でCSFC6がC9眼,SOがC6眼でタンポナーデを行った割合に有意差は認めなかった.手術時間は25G群でC98.0C±46.1分,27CG群でC80.6C±37.7分と有意に27CG群が短かった.術後C6カ月以内に再手術を要した症例はC25G群でC11眼,27G群でC8眼であり有意にC27G群が少なかった.CIII考按本研究結果においてC25CGとC27CGともに術後矯正視力は術前より有意に改善を得ることができたが,ゲージ間での有意な差は認められなかった.Naruseらは網膜上膜において術表1患者背景25CG群27CG群Cpvalue性別男性(眼)C31C58C0.69女性(眼)C15C24年齢(年)C54.6±14.4C56.5±11.7C0.26眼軸(mm)C23.6±1.0C23.9±1.3C0.10増殖膜処理(眼)C33C47C0.11術前眼圧(mmHg)C14.3±2.9C14.4±3.5C0.43術前ClogMAR矯正視力C0.93±0.60C0.95±0.68C0.42各項目において,両群間に有意差はなかった(p>0.05).C27G25G*27G25G*1.2*16.5****16logMAR矯正視力0.80.60.4眼圧(mmHg)15.51514.51413.5130.212.50pre1day1M3M6Mpre1M3M6M経過期間経過期間図2眼圧の推移図1視力の推移*p>0.05.両群とも術前と比べ術C1,3,6カ月の眼圧に有*p<0.05.両群とも術前と比べて術C1,3,6カ月で有意に意差はなかった.また術前,術後C1日,1カ月,3カ月,6視力は改善していた.また術前,術後1,3,6カ月時点で両カ月において両群間で眼圧の有意差はなかった.群間に視力は有意差を認めなかった.表2術中,術後転帰の比較術式タンポナーデ手術時間(分)再手術C25CGCPEA+IOL+VIT:2C7眼VIT単独:1C9眼CSF6:5眼CC3F8:4眼SO:6眼C98.0±46.18眼C27CGCPEA+IOL+VIT:3C9眼VIT単独:4C3眼CSF6:9眼SO:6眼C80.6±37.711眼p値C0.23C0.07C0.04C0.03各群で術式,タンポナーデの有無に有意差はなかった(p>0.05).手術時間,再手術件数は有意にC27CG群が少なかった(p<0.05).PEA:phacoemulsi.cation,IOL:intraocularClens,VIT:vitrectomy,CSF6:sulfurChexa.uoride,C3F8:per.uoropropane,SO:siliconoil.1カ月後の視力改善はC25CGと比較し,C27CGが早期に得るこであることが示唆された.とができると報告した6).その要因としてはゲージが小さい眼圧は両群間において,各時期で有意差は認められなかっことにより術後炎症が抑えられること,また角膜形態に与えた.また,術翌日の低眼圧の発症率はC25CG群がC4.3%,2C7CGる影響を少なくすることがあげられる.しかし,CNaruseら群がC3.7%であり有意差は認められなかった.CTakashinaらはCPDRにおいてはC25CGとC27CGで視力の改善に有意差はなはC27CGトロカールの斜め穿刺により,C25CGの同様の方法とかったと報告した7).今回の筆者らの結果も同様であり,比較し,術後低眼圧の発症率を低下させたと報告した8).筆PDRにおけるC27CG硝子体手術はC25CGと同等に有用な術式者らの結果では有意差は認められなかったものの,術翌日の眼圧に関してはC27CG群のほうが安定していた.これらより,PDRの硝子体手術においてもC25CGと同様にC27CGにて安定した術後眼圧を得ることができたと考えられた.術中および術後転帰に関しては,両群間でタンポナーデを行った症例数に有意差はなかったが,手術時間,6カ月以内の再手術件数は25CG群と比較しC27CG群が有意に少なかった.硝子体切除効率はC27CGと比較し,ゲージの大きいC25CGのほうが高く,より硝子体処理を短時間で行うことが可能である4,6).本研究は前向き無作為ではないため患者背景の影響は考慮しなくてはならないが,27CGとC25CGで増殖膜の処理を行った症例数に有意差がなかったため,増殖膜の処理の有無による手術時間への影響は少なかったと考えられる.しかし,PDRにおいてC27CG群で有意に手術時間を短縮できた要因としては,27CGカッター,鑷子,剪刀のほうがC25CGと比較し繊細な操作を行うことができるため,増殖膜の処理時間を短縮することができたこと,また術中網膜.離を起こす症例を少なくすることができた可能性があると考えられた.そしてその優位性が再手術の件数を少なくすることができた要因ではないかと考えられた.しかし,各群間での増殖膜の範囲,処理時間の検討を行えていないため今後の検討課題とした.術者のClearningcurveの影響については,手術技術に関して経験豊富な術者が施行したことから,その影響は少ないと考えられる.また,27CG硝子体システム移行後のC3カ月以内の手術成績とそれ以降の手術成績とを比較し,結果の傾向に違いは認められなかったため,その点の影響も少なかったと考えられた.増殖糖尿病網膜症に対するC27CG硝子体手術は従来のC25CGと同等の手術成績を得ることができ,有用な手術方法である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OshimaCY,CWakabayashiCT,CSatoCTCetal:AC27-gaugeCinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessmicro-incisionCvitrectomyCsurgery.COphthalmologyC117:93-102,C20102)GozawaCM,CTakamuraCY,CMiyakeCSCetal:ComparisonCofCsubconjunctivalCscarringCafterCmicroincisionCvitrectomyCsurgeryusing20-,23-,25-and27-gaugesystemsinrab-bits.ActaOphthalmolC95:e602-e609,C20173)TekinK,SonmezK,InancMetal:EvaluationofcornealtopographicCchangesCandCsurgicallyCinducedCastigmatismCaftertransconjunctival27-gaugemicroincisionvitrectomysurgery.IntOphthalmolC38:635-643,C20184)MitsuiCK,CKogoCJ,CTakedaCHCetal:ComparativeCstudyCofC27-gaugeCvsC25-gaugeCvitrectomyCforCepiretinalCmem-brane.Eye(Lond)C30:538-544,C20165)OtsukaCK,CImaiCH,CFujiiCACetal:ComparisonCofC25-andC27-gaugeCparsCplanaCvitrectomyCinCrepairingCprimaryCrhegmatogenousretinaldetachment.JOphthalmol2018:C7643174,C20186)NaruseCS,CShimadaCH,CMoriR:27-gaugeCandC25-gaugeCvitrectomyCdayCsurgeryCforCidiopathicCepiretinalCmem-brane.BMCOphthalmolC17:188,C20177)NaruseCZ,CShimadaCH,CMoriR:SurgicalCoutcomeCofC27-gaugeCandC25-gaugeCvitrectomyCdayCsurgeryCforCpro-liferativeCdiabeticCretinopathy.CIntCOphthalmolC39:1973-1980,C20198)TakashinaCH,CWatanabeCA,CTsuneokaH:PerioperativeCchangesoftheintraocularpressureduringthetreatmentofepiretinalmembranebyusing25-or27-gaugesuture-lessCvitrectomyCwithoutCgasCtamponade.CClinCOphthalmolC11:739-743,C2017***

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が 糖尿病網膜症定期診療へ及ぼす影響

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):345.349,2022c新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が糖尿病網膜症定期診療へ及ぼす影響土屋彩子平野隆雄若林真澄星山健鳥山佑一時光元温村田敏規信州大学医学部眼科学教室E.ectoftheCoronavirusDisease2019(COVID-19)PandemiconPeriodicalPracticeforDiabeticRetinopathyAyakoTsuchiya,TakaoHirano,MasumiWakabayashi,KenHoshiyama,YuichiToriyama,MotoharuTokimitsuandToshinoriMurataCDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicineC目的:糖尿病網膜症(DR)患者の通院中断は病状悪化のリスクとなる.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行がCDR定期診療に与える影響について検討した.対象:2019年,2020年のC2.5月に信州大学医学部附属病院眼科糖尿病外来の予約患者について,診療録をもとに患者背景,受診状況,受診キャンセル理由を後ろ向きに検討した.結果:3カ月間の受診予定患者はC2019年がC559例(男C365例,女C194例,年齢C62.1C±11.7歳),2020年がC537例(男C351例,女C186例,年齢C62.6C±11.4歳)で年齢,性別,DR重症度に有意差は認めなかった(p=0.3672,p=0.9811,Cp=0.4322).2019年の受診キャンセルはC41例,2020年はC2019年には認めなかったCCOVID-19の流行を理由とした26例がもっとも多く計C55例であった.結論:2020年のCDR外来受診予約のキャンセルはCCOVID-19を理由としたものがC47%と約半数を占め,COVID-19の流行がCDRの定期診療に影響を及ぼしていることが示唆された.COVID-19流行の収束が不明な現状では,受診が途絶えているCDR患者には医療者側から受診を促すなど,通院を中断させないことが重要である.CPurpose:Interruptionofclinicvisitsbydiabeticretinopathy(DR)patientsincreasestheriskofdiseasewors-ening.HereinweinvestigatedtheimpactoftheCoronavirusDisease2019(COVID-19)onregularDRcare.Meth-ods:Weretrospectivelyexaminedpatientbackgrounds,consultationstatus,andreasonsforconsultationcancella-tionfromthemedicalrecordsofpatientswithappointmentsattheoutpatientclinicforDRatShinshuUniversityHospitalfromFebruarytoMay2019and2020.Results:Intotal,559and537patientswerescheduledforconsul-tationCinC2019CandC2020,Crespectively,CwithCnoCsigni.cantCdi.erencesCinCage,Csex,CorCDRCseverity.CInC2019,C41Cappointmentswerecancelled,while55werecanceledin2020,ofwhich26werecancelledduetoCOVID-19.Con-clusion:InC2020,47%CofDRoutpatientappointmentswerecanceledduetoCOVID-19,suggestingthatthepan-demica.ectedDRoutpatientclinicvisits.WhiletheCOVID-19pandemicisnotyetundercontrol,itisimportanttoencourageDRpatientstocontinueregularclinicalfollow-upvisits.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(3):345.349,C2022〕Keywords:新型コロナウイルス感染症,糖尿病網膜症.COVID-19,diabeticretinopathy.Cはじめにる1).感染を恐れ病院受診に不安を感じる患者は少なくなく,2019年C12月に中国の武漢に端を発した新型コロナウイルCOVID-19が流行し始めたC2020年初めより信州大学医学部ス感染症(CoronavirusDisease,2019:COVID-19)の世界附属病院(以下,当院)全体での外来受診者数も徐々に減少的な流行は医療を含めさまざまな分野に影響を及ぼしていした.眼科外来の対応としてはC2020年C4月C16日に緊急事〔別刷請求先〕土屋彩子:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyakoTsuchiya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPANC態宣言が出され不要不急の外出の自粛が要請されたことを受け,担当医が患者へ電話連絡をし,眼科的症状の悪化を認めないようなら受診を延期するよう伝えた.この対応はC2020年C5月C25日に緊急事態宣言が解除されるまで続けた.糖尿病網膜症は国や重症度により推奨される通院間隔に異なる点もあるが,定期的なフォローアップと必要に応じての加療が重要な疾患である2,3).COVID-19流行下での米国における眼科機関での不定愁訴を主訴とした受診の状況4)や英国における糖尿病黄斑浮腫を含めた黄斑疾患患者の受診状況についての報告5)はあるが,わが国においてCCOVID-19の流行が糖尿病網膜症診療へどのような影響を与えているのかについての詳細な報告はまだなされていない.今回,筆者らはCOVID-19の流行が糖尿病網膜症定期診療に与える影響について診療録をもとに後ろ向きに検討した.CI対象および方法当院眼科糖尿病外来にC6カ月以上の通院歴がありC2019年,2020年のC2.5月に受診予約をした患者を対象とした.1カ月以内のレーザー治療歴,3カ月以内の内眼手術歴,治療の臨床試験対象例は除外した.主評価項目は年齢,性別,国際重症度分類による糖尿病網膜症重症度,受診キャンセル数,キャンセル理由で,診療録をもとに後ろ向きに検討した.副次評価項目としてキャンセルした症例のその後の経過について検討した.以下,連続変数については平均±標準偏差で記載した.統計学的検討は連続変数について対応のない検定はノンパラメトリックなCMann-WhitneyUtest,対応のある検定はCWilcoxonの符号付き順位検定,カテゴリーデータについてはCc2検定を用い,p=0.05を有意水準とした.視力は小数視力をClogMAR値に換算し統計処理を行った.CII結果2019年,2020年のC2.5月の当院眼科糖尿病外来の受診予約患者はそれぞれC559人,537人であった.2019年と2020年では平均年齢,性別構成,糖尿病網膜症重症度の割合に有意差は認めなかった(p=0.3672,p=0.9811,p=0.4322).大学病院の特性として重症な患者が多いことが理由と考えられるが,平均受診間隔はC2019年がC2.1C±1.3カ月,2020年はC2.0C±1.3カ月と有意差なく短い傾向を認めた(p=0.4983)(表1).2019年C2.5月の糖尿病網膜症外来の受診予約キャンセル数はC41人,2020年2.5月はC55人とキャンセル数は増加傾向であったが,統計学的な有意差は認めなかった(p=0.0887).2020年のキャンセル理由にはC2019年には認められなかったCCOVID-19流行を理由としたものがC26人(46%)と約半数を占め,もっとも多かった(図1).COVID-19流行を理由にキャンセルしたC26人のうちC20人がC2020年C7月31日までに来院した.2020年C8月C1日までに来院を確認できなかったC6人に対しては,医師が電話で状況を確認した.このうちC4人は遠方に住んでいることから受診を控えたとのことであり,症状に変化がないことを確認し近医を受診するよう指示した.残りのC2人は自己判断で通院を中断していたため,近日中の当院受診を指示した.そのうち一人は電話からC1週間後に来院したが,残りの一人は来院を確認できなかった.以上より,21人がCCOVID-19流行を理由に一度キャンセルしたが,後に再受診した.これらC21人についてさらに受診間隔と視力について検討した.COVID-19流行前の平均受診期間がC66.5C±3.5日であったのに対し,COVID-19流行を理由にキャンセルしてから再受診するまでの平均受診期間はC108.5C±17.5日と有意に延長していた(p<0.001).両眼ともにキャンセル前の最終受診時と比較してキャンセル後の初回受診時に有意な視力低下は認められなかった.(右眼logMAR:0.44C±0.45vs.0.44C±0.42,p=0.77;左眼ClogMAR:0.47C±0.46Cvs.C0.43±0.47,Cp=0.68)(図2).しかし,これらの症例のうちC7例C12眼でキャンセル前の最終受診時と比較して,キャンセル後の初回受診時に視力低下を認めた.図3に糖尿病黄斑浮腫に対して抗血管内皮増殖因子(vas-cularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法で治療中,COVID-19を理由に受診予約をキャンセルしキャンセル後の初回受診時にキャンセル前最終受診時より症状が悪化していた症例を呈示する.80歳,女性.導入期としてアフリベルセプト硝子体注射をC3カ月連続で施行し,その後,treatCandextentレジメンとしてC1カ月間隔で投与間隔を延長した.2020年C1月にアフリベルセプト硝子体内注射を施行し,次回はC4カ月後のC5月を予定していたが,COVID-19流行を理由に患者自身で予約をキャンセルした.その後患者自身で受診予約を取り直し,本来の予約から約C3カ月遅れたC7月に受診した.キャンセル前は黄斑浮腫はある程度コントロールされ,最高矯正視力もC0.15まで回復していたが,最終受診時からC6カ月経過したC7月に来院した際は中心窩網膜厚が376Cμmと浮腫の悪化を認めた.CIII考按本研究では当院眼科糖尿病外来において,2020年,COVID-19の流行が糖尿病網膜症定期診療にどのような影響を与えているのかについて,2019年の同時期と受診状況・受診キャンセル理由に関して比較検討を行った.その結果,2019年とC2020年で受診予約していた両群の患者背景に大きな差はなかったが,2020年の受診キャンセル数はC55人と2019年のC41人よりも統計学的に有意差を認めないものの多かった.2020年のキャンセル理由として,実際の感染や感染者との濃厚接触を理由としたものはなかったが,感染する表1患者背景2019年(2.C5月)2020年(2.C5月)p値受診予約患者数(人)C559C537C.平均年齢(歳)C62.1±11.7C62.6±11.4C0.3672††男性C/女性(人)C365/194C351/186C0.9811†糖尿病網膜症重症度(人)糖尿病網膜症なしC13C14非増殖糖尿病網膜症C222C193C0.4322†増殖糖尿病網膜症C324C330平均受診間隔(月)C2.1±1.3C2.0±1.3C0.4983†††:c2検定††:Mann-WhitneyUtest2019年41人2020年55人他院入院中2人4%死亡2人4%死亡2人5%4人10%体調不良2人3%図1キャンセル理由の比較2019年C2.5月の糖尿病網膜症外来の予約キャンセル数はC41人,2020年C2.5月は55人で統計学的な有意差は認められなかった(p=0.0887).2020年のキャンセル理由はCCOVID-19の流行がC26人(47%)ともっとも多かった.右眼左眼2.02.0矯正視力(小数)1.51.00.5矯正視力(小数)1.51.00.50.00.0前々回前回キャンセル後前々回前回キャンセル後(キャンセル前初回受診時(キャンセル前初回受診時最終受診時)最終受診時)図2キャンセル後に受診した21人の視力の推移両眼ともにキャンセル前最終受診時と比較してキャンセル後初回受診時に有意な視力低下は認められなかった.ことが怖いなどのCCOVID-19の流行によるものがC26人ともっとも多かった.英国の眼科医療機関ではロックダウンしてから最初のC4週間で予約患者のうちC68%が受診しなかったという報告がある5).一方,本研究ではCCOVID-19の流行を理由に受診予約をキャンセルする患者は全予約患者のうち5%,全キャンセル患者のC47%にとどまった.この乖離の原因として,英国における社会全体のロックダウンと違い,2020年C4月C16日にわが国で出された緊急事態宣言には法的拘束力がないことや,当院がある松本市では検討期間内のCOVID-19の流行がC10万人当たりC5人を超えないレベルであり,他地方と比べ爆発的ではなかったことが考えられる.糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版)3)で増殖糖尿病網膜症はC1カ月にC1回,非増殖前糖尿病網膜症はC2.6カ月に1回,網膜症がなくてもC1年にC1回の眼科診察が推奨されて図3糖尿病黄斑浮腫に対し抗VEGF療法で加療中の80歳,女性CMT:中心窩網膜厚.いるように,糖尿病網膜症は定期的なフォローアップと必要に応じての加療が重要な疾患である.通院治療中断の既往を有する群で糖尿病網膜症と腎症が高頻度にみられることも,この考えを支持する6).2020年C5月C25日,緊急事態宣言が解除されると,観察期間中に受診予約をキャンセルしたC26人のうちC20人がC7月C31日までに来院したことが確認された.受診が確認できなかったC6人については担当医師が電話で状況を確認し,眼科機関への受診を指示した.受診が長期にわたり途絶えている患者には医療者側から受診を促し,通院中断させないことも重要と考えられた.本研究では受診予約キャンセル後に受診したC21人の視力は,両眼ともにキャンセル前最終受診時と比較してキャンセル後初回受診時に有意な視力低下は認めなかった.しかし,このうち視力低下を認めた例をC7例C12眼認めたように,予約キャンセルによる受診間隔の延長は視力予後に影響する可能性は否定できない.また,近年,糖尿病黄斑浮腫に対して抗CVEGF療法が第一選択として用いられ,定期的な診察を行い必要時に薬剤投与を行うCproCrenataや患者ごとに薬剤への反応性をみながら投与間隔を短縮・延長するCtreatCandextendといったレジメンで治療が行われることが多い7).このようなレジメンで治療を行っている患者では図3で呈示した症例のように,受診のキャンセルは病状悪化に直結することがある.加齢黄斑変性に対して抗CVEGF療法を行っている患者にはアムスラーチャートなどを用いた自宅でのセルフチェックや症状悪化時には担当医に相談するよう明確に指示することも提案されており8),糖尿病網膜症患者,とくに抗CVEGF療法を行っている糖尿病黄斑浮腫患者には同様の指導を行うことも必要と考えられる.また,COVID-19流行下においては緊急を要さない患者におけるスマートフォンなどを用いたオンライン診療の活用が提言されている9).オンライン診療には診断の確度,責任の所在,コストなどが課題として残るが,今後,推進していく必要がある分野と思われる.2月からC5月と短期間の検討ではあるが,2020年の糖尿病外来受診予約のキャンセルはCCOVID-19を理由としたものがC47%と約半数を占め,2019年の同時期と比べ多く,COVID-19の流行が糖尿病網膜症の定期診療に影響を及ぼしていることが示唆された.通院中断により病状が悪化する症例も散見され,受診が途絶えている糖尿病網膜症患者には医療者側から受診を促すなど,通院を中断させないことが重要と考えられた.また,COVID-19流行の収束がはっきりとしない現状(2021年C1月投稿時)では,今後,患者によるセルフチェックやオンライン診療も検討課題と考えられる.(本稿の要旨については第C26回日本糖尿病眼学会総会において発表を行った)文献1)HuangC,WangY,LiXetal:ClinicalfeaturesofpatientsinfectedCwithC2019CnovelCcoronavirusCinCWuhan,CChina.CLancetC395:497-506,C20202)SolomonCSD,CChewCE,CDuhCEJCetal:DiabeticCretinopa-thy:aCpositionCstatementCbyCtheCAmericanCDiabetesCAssociation.DiabetesCareC40:412-418,C20173)日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会:日本糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌C124:955-981,C20204)StarrMR,IsrailevichR,ZhitnitskyMetal:Practicepat-ternsCandCresponsivenessCtoCsimulatedCcommonCocularCcomplaintsCamongCUSCOphthalmologyCCentersCduringCtheCCOVID-19Cpandemic.CJAMACOphthalmolC138:981-988,C20205)StoneCLG,CDevenportCA,CStrattonCIMCetal:MaculaCser-viceCevaluationCandCassessingCprioritiesCforCanti-VEGFCtreatmentCinCtheClightCofCCOVID-19.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC258:2639-2645,C20206)田中麻理,伊藤裕之,根本暁子ほか:2型糖尿病患者における治療中断の既往と血管合併症との関係.糖尿病C58:C100-108,C2015C7)平野隆雄:A.iberceptとCranibizumabの比較,新しい抗C1149-1156,C2020VEGF薬の紹介.眼科C60:879-885,C20189)DamodaranCS,CBabuCN,CArthurCDCetal:Smartphone8)KorobelnikCJF,CLoewensteinCA,CEldemCBCetal:GuidanceCassistedCslitClampCevaluationCduringCtheCCOVID-19Cpan-forCanti-VEGFCintravitrealCinjectionsCduringCtheCCOVID-demic.IndianJOphthalmolC68:1492,C2020C19Cpandemic.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC258:***

基礎研究コラム:シングルセル解析

2022年3月31日 木曜日

シングルセル解析八幡信代九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座“Spectacle”が立ち上がるなどシングルセル解析を用いた研シングルセル解析とは究は急速に進んでおり,シングルセル遺伝子発現解析による生体内には多様な細胞が存在し,互いに作用しながら経時角膜輪部幹細胞の多様性,網膜や房水流出路を構成する多様的に変化しています.また,一つの細胞種のなかにも多様性な細胞構築,網膜オルガノイドの経時的分化,加齢黄斑変性があり,異なる細胞応答を示します.これらの現象は検体を眼の網膜色素上皮細胞解析などの報告があります3).筆者ら一塊として解析を行う従来の解析(bulk解析)ではみえなかはCCYTOFを用いてぶどう膜炎の末梢血や眼内液中炎症細ったのですが,1細胞レベルの遺伝子・蛋白発現解析(シン胞を解析し,病態とかかわりのあるサブセットの同定を行っグルセル解析)により明らかになってきたもので,生体現象ています4)(図1).を理解するうえで大変重要であると考えられています1,2).シングルセル解析には高次元フローサイトメトリーや今後の展望Cytometrybytimeofflight(CYTOF)などのマスサイトメシングルセル解析を使った研究は免疫学,分子生物学分野トリー,シングルセルCRNAシーケンスのほか,エピゲノムなどを中心に急増しており,生体現象を明らかにする基礎研解析やCT・B細胞受容体レパトワ解析などがあります.さら究から,疾患病態の解明などの臨床研究分野でも重要なアプに遺伝子・蛋白発現の同時解析が可能なCCITEseq,組織構ローチとなってきています.近い将来,シングルセル解析の築とともに遺伝子や蛋白発現解析が可能な空間的遺伝子発現コストが下がり,誰もが気軽にシングルセル解析を行う時代解析・イメージングサイトメトリーなど,次々と新たな技術が来ることでしょう.また,シングルセル解析と全ゲノムシーが誕生しています.筆者らが取り組んでいるCCYTOFは,ケンスやプロテオミクス解析情報などを統合したマルチオミ従来の蛍光蛋白の代わりに金属同位体を抗体に標識することクス解析により患者を層別化し,予後予測や個別化医療などでシグナルのオーバーラップを大幅に減らし,一度にC30種に有用なツールとしても益々発展していくと考えられます.類以上の細胞発現蛋白を同時解析することが可能です2)(図文献1).さらにシングルセル解析は特定の細胞種をあらかじめ分離する必要がないため,従来解析が困難であった少数の細胞1)ArmingolCE,CO.cerCA,CHarismendyCOCetal:DecipheringCcell-cellCinteractionsCandCcommunicationCfromCgene集団の解析も可能です.そして,これらの技術で得られた膨Cexpression.NatRevGenet22:71-88,C2021大なデータを解析するバイオインフォマティクスツールの進2)HartmannCFJ,CBendallSC:ImmuneCmonitoringCusingCmassCcytometryCandCrelatedChigh-dimensionalCimaging歩とともに,細胞の多様性,細胞分化,細胞レベルの組織構Capproaches.NatRevRheumatolC16:87-99,C2020築,疾患の病態など,新たな知見を生み出しています.ま3)PengCYR,CShekharCK,CYanCWCetal:MolecularCclassi.ca-tionandcomparativetaxonomicsoffovealandperipheralた,既存の知識に基づいて行う従来の解析法では明らかでなCcellsinprimateretina.CellC176:1222-1237,Ce1222,C2019かった新たな細胞集団の発見を導く可能性も秘めています.4)YamanaS,ShibataK,HasegawaEetal:Mucosal-associ-atedCinvariantCTCcellsChaveCtherapeuticCpotentialCagainst眼科領域においてocularCautoimmunity.CMucosalCImmunol,doi:10.1038/Cs41385-021-00469-5,C2021眼科領域でもシングルセルCRNAシーケンスデータベースNK細胞CD8+T細胞眼内液図1CYTOFマスサイトメトCD8+T細胞リーを用いたぶどう膜炎患CD4+T細胞B細胞者眼内液と末梢血中単核球NK細胞の解析B細胞CD4+T細胞金属同位体を標識したC30種類以単球CD69上の抗体の同時染色とクラスター単球末梢血解析により,微量検体中の炎症細CD45CD8+T細胞胞のサブセットや活性化を高解像度で見ることができる.CD3CD20CD14CD4+T細胞B細胞(フリューダイム株式会社提供)CCD4CD8CD56NK細胞CD45RA単球……(73)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C3350910-1810/22/\100/頁/JCOPY