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硝子体手術のワンポイントアドバイス:227.分層黄斑円孔に対する硝子体手術(初級編)

2022年4月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載227227分層黄斑円孔に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに分層黄斑円孔(lamellarmacularhole:LMH)は従来,硝子体手術の適応外と考えられてきたが,近年,LMHにしばしばみられるClamellarChole-associatedCepiretinalproliferation(LHEP)を.離したあと,円孔内に埋没し,さらに内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)でその上を被覆することで,中心窩の形態が改善し,視力も向上することが報告されている1).C●症例提示75歳,男性.左眼は光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)でCLMHの所見を呈し,円孔縁の網膜表面には感覚網膜とやや輝度の異なる膜状陰影を認めCLHEPと診断した(図1).矯正視力はC0.3であった.白内障手術後に硝子体を切除した.ダイアモンドスクレイパーでCLMH周囲のCLHEPを.離(図2)したあと,中心窩周囲に集めてトレミングした.次にCBBGを塗布してCLMH周囲のCILMを染色し,上方半分のCILMを.離してChemi-inverted.ap法としてCLMH上に被覆した(図3).その後,液空気置換を施行し手術を終了した.術後COCTで中心窩の形態は改善し(図4),矯正視力は0.8に向上した.C●LHEPとはLMHはCLMHの発症機序やその予後を考慮するうえで重要な特徴的所見とされている2).OCTで,網膜表層に感覚網膜とは異なったやや輝度の薄い陰影を認め,通常の黄斑上膜よりもやや厚いのが特徴である.LHEPは中心窩の黄斑色素に由来すると考えられている3).C●LHEPを伴うLMHに対する硝子体手術TakahashiらはCLHEPを伴うCLMHに対して,LHEPを.離後円孔内に埋没し,さらにCILMを反転してその図1術前の左眼OCT所見LMHの所見を呈し,円孔縁の網膜表面には感覚網膜とやや輝度の異なる膜状陰影を認めた.図2術中所見(1)LHEPをダイアモンドスクレイパーで.離し,LMH周囲に集めた.図3術中所見(2)BBGを塗布して内境界膜を染色し,hemi-inverted.ap法としてCLMHの上に被覆した.図4術後の左眼OCT所見中心窩の形態は改善し,視力も向上した.上に被覆する方法で中心窩の形態と視覚機能が改善し,本術式がCLMHに対する有効な治療法となりうることを報告している1).このCLHEPの部位にそのような再生能力をもつ細胞が存在するかは今後の検討課題であるが,この新しい術式で得られる所見は,中心窩の神経新生を考えるうえでも興味深い知見と考えられる.文献1)TakahashiCK,CMorizaneCY,CKimuraCSCetal:ResultsCofClamellarCmacularChole-associatedCepiretinalCproliferationCembeddingCtechniqueCforCtheCtreatmentCofCdegenerativeClamellarCmacularChole.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC257:2147-2154,C20192)ComperaCD,CEntchevCE,CHaritoglouCCCetal:LamellarChole-associatedCepiretinalCproliferationCinCcomparisonCtoCepiretinalmembranesofmacularpseudoholes.AmJOph-thalmolC160:373-384,C20153)ObanaCA,CSasanoCH,COkazakiCSCetal:EvidenceCofCcarot-enoidCinCsurgicallyCremovedClamellarChole-associatedCepiretinalCproliferation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:C5157-5163,C2017C(91)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4830910-1810/22/\100/頁/JCOPY

考える手術:難治性緑内障へのロングチューブ手術

2022年4月30日 土曜日

考える手術④監修松井良諭・奥村直毅難治性緑内障へのロングチューブ手術三浦悠作高知大学医学部眼科学講座わが国ではロングチューブ手術として2012年にバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI),2014年にアーメド緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)が難治性緑内障に対して適応となりました.ロングチューブ手術はチューブを介して眼球後方へと濾過された房水がプレート周囲に形成された被膜に吸収されることで眼圧が下降します.従来のtrabeculectomyでは眼圧下降維持が困難である結膜瘢痕の強い症例や血管新生緑内障に対しても有効です.ロングチューブ手術の手術件数は増加傾向にあ縫合です.結膜切開はBGIでは120°,AGVでは90°の切開が必要です.子午線方向への結膜切開を長くしすぎると,切開した結膜が治癒する過程で直筋と癒着し,術後眼球運動障害を生じる可能性があります.Tenonと強膜を鈍的に.離し,プレート固定部位のスペースを確保します.直筋の上にプレートを固定すると術後眼球運動障害が生じるため,斜視鈎で確実に直筋の位置を確認し,BGIでは2直筋下,AGVでは2直筋間にプレートを挿入します.プレートは角膜輪部から9~10mmの位置でナイロン糸などの非吸収糸で固定します.チューブは前房または毛様溝,硝子体腔に挿入し,非吸収糸で強膜に固定します.術後のチューブ露出を予防するために,自己強膜や保存強膜でチューブを被覆します.自己強膜を使用する場合は強膜トンネルや強膜弁を作製し,保存強膜を使用する場合は適度な大きさにトリミングして使用します.最後に結膜を吸収糸で縫合し,ステロイドの結膜下注射またTenon.下注射を行います.聞き手:BGIとAGVの違いは何でしょうか?また,ります.それを予防するために吸収糸によるチューブ結どのように使い分けるのがよいでしょうか?紮が必須ですが,吸収糸が融解するまでの間は眼圧下降三浦:もっとも大きな違いは調圧弁の有無です.AGVが得られないため,チューブに針で穴を空けて房水を適はプレートとチューブの接合部に2枚のシリコーン膜か度に濾過するためのSherwoodslitを作製する必要があらなる調圧弁があるため,術後低眼圧が生じにくいでり,手術手技はAGVに比べて少し煩雑になります.す.BGIは調圧弁がないため,プレート周囲に結合組織プレートの面積はBGIが350mm2,AGVが184mm2の被膜が形成されるまでの術後1カ月程度は低眼圧になであり,プレートの面積が大きいBGIのほうが長期的(89)あたらしい眼科Vol.39,No.4,20224810910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術な眼圧下降が得られると考えられています.過去のBGIとAGVの比較試験では,BGIはより低い眼圧を得やすく,AGVは低眼圧などの術後合併症が少ないという結果でした.これらの違いを考慮すると,最終的な目標眼圧が低い場合はBGIを選択し,高度な視神経障害のため早急な眼圧下降が必要な場合や唯一眼のため術後合併症を回避したい場合はAGVを選択するとよいと思います.また,無硝子体眼では低眼圧による脈絡膜出血などのリスクも高いため,硝子体手術後や硝子体手術併用の場合でもAGVがよい適応であると考えます.聞き手:チューブの挿入位置にはどのような違いがありますか?三浦:チューブの挿入位置は,前房,毛様溝,硝子体腔の3種類があります.挿入位置による眼圧下降効果の違いははっきりしませんが,チューブと角膜内皮の距離があるほど角膜内皮障害が生じにくいと考えられています.前房挿入では,角膜輪部から約1.5mmの位置で虹彩と平行にチューブを挿入します.チューブ先端が角膜内皮に接触すれば角膜内皮障害が生じ,虹彩に接触すれば虹彩炎やチューブ閉塞が生じるため,慎重に行う必要があります.偽水晶体眼・有硝子体眼では,角膜内皮障保護の点から毛様溝挿入が第一選択となります.角膜輪部から約2mmの位置で,虹彩や眼内レンズと平行にチューブを挿入します.チューブは柔軟なシリコーン製であるため,ときにチューブ先端が硝子体腔に入ってしまうことがあります.それを避けるために,チューブ先端をベベルダウンにトリミングしたり,チューブ内にナイロン糸を通して腰がある状態にしてから挿入する方法などがあります.他の二つの挿入位置に比べると挿入手技の難易度はやや高いです.硝子体手術を併用する場合や硝子体手術の既往がある場合は,角膜内皮障保護また挿入手技の容易さの点から硝子体腔挿入が第一選択となります.トリミングしたチューブを角膜輪部から約4mmの位置で硝子体腔に挿入します.硝子体がチューブ先端に嵌頓すると眼圧下降は得られません.そのため以前に硝子体手術の既往があったとしても,再度,周辺部硝子体が残存していないかを確認するほうがよいと思います.聞き手:プレートの固定位置はどこがよいでしょうか?三浦:耳上側が第一選択となります.上方への固定は,下方に比べて眼瞼とチューブ被覆した強膜との摩擦が少なく,チューブが露出しにくいです.また,保存強膜を482あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022使用する場合,保存強膜の白さが術眼の強膜よりも目立つため,眼瞼に覆われる上方に固定するほうが整容的によいです.また,耳側は手術の際のworkingspaceを広く確保できます.鼻上側にプレートを固定すると上斜筋の運動障害を生じやすいため避けるほうがよいです.AGVのプレートは縦方向に長いため,鼻下側に固定する場合,プレート後端が視神経へ接触する可能性があり,それを避けるために角膜輪部から約8mmの位置で固定するほうが安全です.よって,プレートの固定位置は,耳上側>耳下側>鼻下側>鼻上側の順に推奨されます.聞き手:ロングチューブ手術に特有な合併症であるチューブ露出はどのように予防すればよいでしょうか?三浦:チューブ露出を避けるためには,自己強膜か保存強膜によるチューブの被覆が必須となります.保存強膜はより厚みがあるため自己強膜よりチューブ露出しにくいですが,事前に用意をする必要があります.また,下眼瞼よりも上眼瞼のほうが強膜との摩擦が少なく,チューブが露出しにくいとの報告があります.チューブ被覆したあとの結膜縫合の際は,チューブをTenon組織で被覆するように縫合することが大切です.多くの場合,術中にTenon組織は円蓋部側へと後退してしまうので,開瞼器や制御糸をゆるめた状態でTenon組織を角膜輪部付近まで確実に引っ張り出す必要があります.なお,BGIの硝子体腔挿入用のHo.mannelbowは大きく,厚みがあるため,眼瞼との摩擦によって露出しやすく,使用は避けるほうがよいと考えます.聞き手:ロングチューブ手術を行う際のコツはありますか?三浦:患者の多くは高齢者で,プロスタグランジン関連薬の使用歴があります.加齢やプロスタグランジン関連薬の副作用による眼窩脂肪組織の減少,それに伴う上眼瞼溝深化によってプレートの固定に難渋することがあります.その際は,角膜輪部から9~10mmの位置で先に運針を行い,その運針した非吸収糸をプレート固定用の穴に通してからプレートを挿入すると,簡便にプレートを固定できます.また,毛様溝にチューブを挿入する際のチューブの適切な長さは,非散瞳下ではチューブ先端が見えず,散瞳下ではチューブが見える長さが理想的だと思います.そのため,チューブをトリミングしてから毛様溝に挿入するのではなく,チューブを挿入したあとに眼内でチューブを適切な長さにトリミングするほうが確実に理想的なチューブの長さにすることができます.(90)

抗VEGF治療:安全・迅速な抗VEGF薬硝子体内注射のコツと注意点

2022年4月30日 土曜日

●連載118監修=安川力髙橋寛二98安全・迅速な抗VEGF薬硝子体内注射塩瀬聡美九州大学大学院医学研究院眼科学分野のコツと注意点抗CVEGF薬が最初に認可されてからC13年が経過したが,その適応疾患の拡大とともに,各診療施設での抗VEGF薬硝子体内投与の頻度は年々増加しており,今後も増加していくことが予想される.そのような状況下で,安全かつ迅速に投与を行っていくことは,今後の眼科診療において大変重要であると考えられる.はじめに硝子体内注射(intravitrealinjection:IVI)の手技は,抗菌薬,抗ウイルス薬,ステロイドの投与に用いられていたが,抗CVEGF薬の登場以来,頻度が急増している.理由の一つとして,最初に適応が認められた滲出型加齢黄斑変性だけでなく,近視性脈絡膜新生血管,網膜静脈閉塞や糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫など,適応疾患が広がっていることがあげられる.もう一つの理由は,抗VEGF薬はC1回投与すれば終わりではなく,患者の病態にあわせた複数回の投与が必要となることである.AMDでは加齢に伴う病勢の再発で,数年にわたり投与を続ける患者も少なくない.そうなると,各診療施設でIVIを行う患者は増える一方であり,今後もさらに増加していくと考えられる.多数の患者を診察する施設では,IVIの時間が他の診療時間を逼迫していくことになりかねない.今回は忙しい外来の間に行う,安全,かつ迅速なCIVIのコツと注意点について考えてみたい.実際の手順当初は手術室で施行する施設もあったが,最近は外来の処置室で行う施設も多い.大きな施設ではどこも同様と推察されるが,当院CAMD外来でも午前中にC5.60名の抗CVEGF薬投与を行うため,毎回手術室を使用していては診療が終わらない.処置台と顕微鏡がC1台しかないので,医師の入れ替わりの時間を省略すべく,その日の注射担当医C1名がすべてのCIVIを行い,効率をあげている.診察医と注射担当医が異なることで取り違えがないよう,投与眼,薬剤を診察医が明記したオーダー表をもとに,スタッフ,注射担当医による数回の確認を行うようにしている.実際の手順を記す.1.診察医のオーダー表をもとに薬剤を準備しておく.スタッフ,医師はマスク,滅菌手袋をする(図1).2.患者入室時に氏名,投与眼,薬剤を確認.注射眼側のスタッフ①が顔の横にガーゼをはる.反対側のス(87)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1硝子体内注射施行時の様子1人の医師がその日のすべての硝子体内注射を行う.医師,スタッフはマスク,滅菌手袋をする.タッフ②が医師にポピドンヨード付き綿棒を渡す.医師が眼周囲を消毒.スタッフ②が開瞼器を渡す(図2).3.開瞼器がかかったらスタッフ①がCPAヨード(10%をC6倍希釈)で洗浄,点眼麻酔,洗浄液のかたづけをする.その間スタッフ②が清潔に注射薬を渡し医師が31G針を装着し,投与量を調節する.スタッフ②が綿棒を手渡しながら顕微鏡を入れる.4.注射施行.医師が針と綿棒を廃棄する間に,スタッフ①が抗菌薬の点眼,軟膏挿入を行う(針刺し事故防止のため医師の利き手と反対側のスタッフが行う).5.医師が開瞼器,顕微鏡をはずし,患者退室.この間およそC5分程度.安全性の確保このように迅速に投与を行っていく場合,安全性の確保ということも問題となる.「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」1)に則り,以下の点に注意するよう注射担当医,スタッフに周知している.1.薬剤の取り違え防止のため薬剤ごとに置く場所を変える.2.強膜の損傷,患者の疼痛の軽減のためにC31G(ゲーあたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C479図2硝子体内注射の手順スタッフ①,②は左右から作業を分担しながら,注射が清潔にスムーズに進むよう,医師をサポートする.ジ)注射針を用い,滅菌綿棒で結膜組織を押さえることで急な眼球の動きを抑制している.角膜輪部から3.5.4.0Cmm後方に注射針を刺入するが,位置の確認には綿棒を用いる.綿棒の先端(綿体)の幅がC3.5.4.0mmなので,その一端を輪部にあてこれを目安に針を刺入することで毎回キャリパーを使う手間を省く.3.医原性の網膜裂孔の形成,水晶体の損傷を防ぐため薬液の注入,抜針は緩徐に行う.水晶体損傷は抜針時に多く,0.06%程度と報告されている.4.注射後の眼内炎の頻度はC0.04%程度と報告されており,いったん発症すると急速に視力を低下させるため,もっとも避けなければいけない合併症である.・医師が眼表面の消毒を行う際は,ポピドンヨード付き綿棒で眼瞼縁,睫毛,眼周囲皮膚の順に,鼻側から耳側へとヨードを塗布する.・PAヨード洗浄の際に患者に上下左右に眼を動かしてもらうことで,結膜.内全周にくまなく液が行きわたるようにする.・滅菌のディスポーザブル開瞼器(EzSpec,HOYA)を使用し,睫毛ができるだけ術野からはずれるようにかけ,注射針が刺入時睫毛に接触しないよう注意する.・IVI後の硝子体脱出は眼内炎のリスクとなるため,抜針後結膜を滅菌綿棒にて軽く圧迫する.当院のCAMD外来ではこの方法でラニビズマブが認可されたC2008年からC2021年現在までのC13年間でおよそ38,000本超の投与を行っているが,眼内炎の発生はフルオロキノロン耐性菌によるC1例(0.002%)のみである.この患者は両眼のCAMDに対する毎月投与のため,真面目にフルオロキノロン点眼を注射前後C10年にわたって行っていた.注射前後の抗菌薬点眼はその後の眼内C480あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022炎の発症の頻度を下げないとの報告2)があり,術前後の点眼の必要性については見直す必要がある.2020年からの世界的なCCOVID-19の感染拡大以後,マスクの装用が常識となっている状況下で,呼気の気流がマスクの鼻部分の隙間から頬部に至り,口腔内常在菌が眼のほうに散布されるとの報告がある3).COVID-19流行の前後でCIVI後の眼内炎の発症率に差はない,とは報告されているものの,筆者らは注射時に患者マスクは鼻から口のほうに下げてもらい,気流による術野や針先の汚染を防ぐようにしている.おわりに抗CVEGF薬のCIVIによる眼疾患のコントロールは眼科領域において大変重要であり,今後も次々と新薬が市場に出回ることが期待される.また,近年の高齢者人口の増加,生活習慣病の増加により,抗CVEGF薬投与を受ける患者は今後爆発的に増加していくことが予想される.そのような状況のなか,合併症なく安全に,そして迅速にCIVIを行うシステムを各施設で作っていくことが,今後重要になってくると思われる.文献1)小椋祐一郎,高橋寛二,飯田知弘ほか:日本網膜硝子体学会硝子体注射ガイドライン作成委員会:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,C20162)Benoistd’AzyC,PereiraB,NaughtonGetal:Antibiopro-phylaxisCinCpreventionCofCendophthalmitisCinCintravitrealinjection:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CPlosCOne11:e0156431,C20163)HadayerCA,CZahaviCA,CLivnyCECetal:PatientsCwearingCfacemasksduringintravitrealinjectionsmaybeathigherriskofendophthalmitisRetinaC40:1651-1656,C2020(88)

緑内障:緑内障患者とのコミュニケーション術

2022年4月30日 土曜日

●連載262監修=山本哲也福地健郎262.緑内障患者とのコミュニケーション術溝上志朗愛媛大学医学部眼科学教室緑内障の治療継続率の改善にはアドヒアランスの向上が欠かせない.エンパワーメントはアドヒアランスを改善させるテクニックであり,非指示的カウンセリングを用いて患者の行動変容をうながす効果が期待できる.●はじめに緑内障患者の治療継続率は1年間で60.9%とされ1),約半数が治療を中断してしまうことが問題視されている.治療を中断しがちな患者側の因子としては,女性よりも男性,高齢者よりも若年者という報告が多い.しかし近年,そのような患者に対する,われわれ医療従事者のコミュニケーションの取り方にも問題があることも指摘されている.そこで本稿では,患者の治療継続率を向上させる鍵となるかもしれない「エンパワーメント」という概念について概説する.●エンパワーメントとはエンパワーメントは,米国の糖尿病患者教育を専門とするRobertAnderson博士により提唱された「患者が疾病を管理するために,自分の潜在能力を見つけだし,使用できるように援助すること」を意味する用語である.従来は「医療者が疾病を管理する」,いわゆるコンプライアンスという考え方が支配的だったが,この方法だと医療者,患者の双方に欲求不満をもたらし,結果として治療継続率が低下することが問題視されてきた2).そのような背景で「患者が疾病を管理する」ように仕向ける,つまりは患者のアドヒアランスを高めることこそが最善の方策であるとの考え方が主流になってきた.つまりエンパワーメントは,患者の行動変容をうながし,アドヒアランスを向上させるためのテクニックともいえる.●患者の行動変化は内的に動機づけられるエンパワーメントにおける基本的な考え方は「患者の行動変化は内的に動機づけられる」2)ことで,医療者はそのサポート役に徹することにある.また,その際には「非指示的カウンセリング」が重要とされている.この非指示的カウンセリングとは,従来行われている指示的カウンセリングとは異なり,面接では患者と対等な人間関係を構築し,患者の声を注意深く傾聴しつつ,適切な質問を繰り返すことが基本となる.このようにして患者の抱えている問題点を言語化し,かつ,その問題点に対する感情へとアプローチすることで,患者自らが問題を解決すべく前向きな「落とし所」を設定することが行動図1エンパワーメントの3要素(85)あたらしい眼科Vol.39,No.4,20224770910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2カウンセリング例(1)図3カウンセリング例(2)変容につながるとされている(図1).図2,3に,点眼を指示通りできておらず,視野の進行が抑制できていない男性患者に対する従来の指示的カウンセリングと,エンパワーメントを意識した非指示的カウンセリングの具体例を示した.●おわりにエンパワーメントは医療分野ばかりでなく,教育や企業経営者の間でも関心が高まりつつある.このコミュニケーション術が普及することで緑内障患者の治療継続率の向上につながる可能性がある.文献1)KashiwagiK,FuruyaT:Persistencewithtopicalglauco-matherapyamongnewlydiagnosedJapanesepatients.JpnJOphthalmol58:68-74,20142)石井均:糖尿病医療学入門─こころと行動のガイドブック.医学書院,2011478あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022(86)

屈折矯正手術:レーシック後の顆粒状角膜ジストロフィ増悪への対処

2022年4月30日 土曜日

●連載263263.レーシック後の顆粒状角膜ジストロフィ増悪への対処監修=木下茂大橋裕一坪田一男宍道紘一郎広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)顆粒状角膜ジストロフィの角膜混濁はレーシックによって増悪する.増悪した角膜混濁の除去に対して複数の外科的治療法の有効性が報告されているが,術後高頻度に発症する角膜混濁再発が大きな問題となる.レーシックを計画する際には,顆粒状角膜ジストロフィの見逃しがないように最大限の注意を払わねばならない.●顆粒状角膜ジストロフィの疾患概念とレーシック2008年に報告されたCIC3D分類1)によると,顆粒状角膜ジストロフィ(granularCcornealdystrophy:GCD)とはCTGFBI遺伝子の異常に起因する角膜ジストフィの一病型であり,さらに三つのサブタイプに分類される.わが国で頻度の高いCGCDtype2(従来のCAvellino型ジストロフィ)はCTGFBI遺伝子のC5q31にあるC124番目のアルギニンがヒスチジンに変異することで生じる常染色体優性遺伝疾患である.角膜実質内に沈着した異常蛋白(ヒアリンとアミロイド)によって顆粒状混濁と,ときに格子状混濁を生じる.GCDtype2は常染色体優性遺伝疾患であり,ヘテロ型の多くは臨床的に軽症であるが,レーシックは同疾患を増悪させることが知られており,IC3D分類には禁忌と明記されている.しかし,見過ごされレーシックを施行されてしまった結果,視力低下をきたす重篤な角膜混濁を発症することがある.この角膜混濁はレーシック創面に沿って生じ(図1),早期にはアミロイドよりもヒアリンの蓄積が顕著である.レーシックによってCGCDが悪化する機序は不明な点が多く,TGF-betaが直接関与しているか否かでさえ議論が分かれている2).しかし,レーシックによる侵襲は角膜実質層に限局することを考慮すると,同層が責任病巣である可能性がきわめて高い.C●レーシック後のGCD増悪への外科的対処法レーシック後に増加した角膜混濁の除去には外科的治療が必要である.いくつかの術式〔フラップを挙上し角膜混濁を徒手的に除去する方法(単純除去),治療的表層角膜切除(phototherapeutickeratectomy:PTK),深層層状角膜移植(deepCanteriorClamellarCkeratoplas-(83)図1LASIK後に増悪した顆粒状角膜ジストロフィtype2の臨床像LASIK施行C7年後に視力低下を訴え,当院を受診した際の前眼部写真(Ca)と前眼部光干渉断層計(OCT)画像(Cb).白色小型の角膜混濁が多発・癒合し,瞳孔領を覆っている.前眼部OCT画像では実質浅層に高輝度ラインが描出されており(),LASIK創面と一致する.(文献C5より引用)ty:DALK),全層角膜移植(penetratingCkeratoplas-ty:PKP)〕が施行されているが,術後予後を述べた報告はごく少なく,そのほとんどが症例報告にとどまる.単純除去はもっとも低侵襲な術式といえるが,既報C2例では術後C5カ月およびC16カ月で視力低下を伴う重篤な角膜混濁を生じている3).PTKについては,Junらが76眼のレーシック後に増悪したCGCDCtype2に対する同術式の術後成績を報告している4).同報告ではCLASIKフラップを挙上しCPTKを施行しているが,その後フラップを温存した群と除去した群に分けて経過を追っている.その結果,術後C3年での角膜混濁の再発率(視力に影響のない微細な再発を含む)はフラップ温存群で88.2%,除去群でC53.6%だった.本文中での記載がないため具体的な数値への言及は避けるが,同報内の図表(角膜混濁再発を死亡と定義したCKaplan-Meier曲線)を見ると,術後C4年時点で除去群でもほぼ全例で角膜混濁が再発したようである.一方で,術後C3年での視力低下を伴う重篤な角膜混濁の再発率は,除去群でC14.3%にとどまった.以上をまとめると,フラップ除去CPTKは再発した角膜混濁の重症化は抑制するが,単純除去やあたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4750910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2LASIK後に増悪した顆粒状角膜ジストロフィtype2に対するDALK術後経過図C1と同眼のCDALK施行C8年後の前眼部写真(Ca)と前眼部OCT画像(Cb).角膜混濁は再発しておらず,グラフトは高い透明性を保っている.(文献C5より引用)PTK(フラップ除去を含む)のような低侵襲な術式では角膜混濁の再発は不可避と考えてよいだろう.C●レーシック後のGCDに対する角膜移植術の予後では,レーシック後に悪化したCGCDに対するCDALKやCPKPなどの角膜移植術の予後はどうだろうか.昨年,筆者らはレーシック後に悪化したCGCDtype2に対してDALKを施行したC2例を報告したが,それぞれCDALK術後6,8年の時点で角膜混濁は再発していなかった(図2)5).角膜実質層が責任病巣であると仮定すると,DALKの際に角膜実質を完全に除去できたことが長期にわたり再発を予防できた要因だと考えられる.実際に,過去に同病態に対してCDALKを施行し実質を完全に除去できなかった自験例では,術後C2年で角膜混濁が再発した(図3).なお,レーシック後に悪化したCGCDに対するCPKPの予後を述べた報告は筆者の知るかぎりないが,確実にホスト実質を完全除去できるため角膜混濁の再発は生じにくいと推察される.しかし,正常な角膜内皮まで除去する点でCPKPは高侵襲である感が否めない.したがって,レーシック後のCGCD増悪に対して角膜移植を行う場合,可能であればまずはCDALKを選択すべきであろう.その際,Descemet膜穿孔を恐れるあまり角膜実質を除去しきれないと,再発につながる可能性があるため注意が必要である.C●おわりにわが国で頻度の高いCGCDtype2を中心に,レーシッ図3DALK後再発例DALKでホスト角膜実質を除去しきれなかったCLASIK後CGCD症例の術前(Ca),術後C1カ月(Cb),23カ月(Cc),34カ月(Cd)時点での前眼部写真.DALKによって角膜混濁は消失したが,術後C2年頃より微細な角膜混濁が再発し,徐々に増悪した.ク後のCGCD増悪への対処法を文献的考察と自験例を交えて解説した.PTKや角膜移植は一定の治療効果が期待できるが,大前提としてCGCD患者にレーシックを施行してはならない.レーシック施行前には入念な細隙灯顕微鏡検査に加え,可能であれば遺伝子検査も行い,見落としをなくすよう最善を尽くすべきである.文献1)WeissJS,MollerHU,LischWetal:TheIC3Dclassi.ca-tionofthecornealdystrophies.Cornea27:S1-S8,C20082)AwwadCST,CDiCPascualeCAD,CHoganCRNCetal:AvellinoCcornealCdystrophyCworseningCafterClaserCinCsituCkeratomi-leusis:furtherCclinicopathologicCobservationsCandCpro-posedCpathogenesis.CAmCJCOphthalmolC145:656-661,C20083)JunCRM,CTcharCH,CKimCTCetal:AvellinoCcornealCdystro-phyafterLASIK.Ophthalmology111:463-468,C20044)JunCI,CJungCJW,CChoiCYJCetal:Long-termCclinicalCout-comesCofCphototherapeuticCkeratectomyCinCcorneasCwithCgranularCcornealCdystrophyCtypeC2CexacerbatedCafterCLASIK.JRefractSurg34:132-139,C20185)ShinjiK,ChikamaT,MaruokaSetal:Long-termobser-vationCofCdeepCanteriorClamellarCkeratoplastyCinCpatientsCwithCpost-LASIKCgranularCcornealCdystrophyCtypeC2:CTwocasereports.OphthalmolTherC10:1163-1169,C2021476あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022(84)

眼内レンズ:低加入度数分節型眼内レンズの不快光視現象の特徴

2022年4月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋425.低加入度数分節型眼内レンズの水戸毅金沢医科大学眼科学講座不快光視現象の特徴低加入度数分節型眼内レンズであるレンティスコンフォートは,レンズ光学部の中間用ゾーンの固定方向と同じ向きに広がって見える扇状の光視現象が特徴的であるが,患者がそれら光視現象を自覚することは少なく,単焦点眼内レンズと同等の不快光視現象の少ない眼内レンズであるといえる.●はじめに低加入度数分節型眼内レンズ「レンティスコンフォート」は,遠用ゾーンと+1.5D加入の中間用ゾーンが非対称・扇形に配置されたdualmonofocalデザインとなっており(図1),その移行部が1本のラインのみで滑らかに接合されており,移行部に起因するエネルギーロスがきわめて少ない.そのためハローやグレアといった不快光視現象が多焦点眼内レンズと比較して生じにくく,単焦点眼内レンズと同程度であるとされる1).●不快光視現象の定量測定方法ハロー,グレア,スターバーストといった不快光視現象の評価方法としては,これまでは患者の記憶に頼るアンケート形式のものであったり,定量的・定性的な評価ができないなどの問題があった.当科で新たに開発したPhoticPhenomenaTest(PPtest)2)は,2m先に光源を提示し,その光源の見え方を手元のiPad上のVision遠用ゾーン中間用ゾーン(+1.5D)図1低加入度数分節型眼内レンズ「レンティスコンフォート」の光学部デザイン遠用ゾーンと+1.5D加入の中間用ゾーンが非対称・扇状に配置されている.Simulatorでリアルタイムに再現してもらうことで不快光視現象を種類別に定量的に評価することが可能である(図2).●レンティスコンフォートの不快光視現象の特徴PPtestを用いてレンティスコンフォート挿入患者の不快光視現象を定量的に評価したところ,従来からいわれているようにハロー,グレア,スターバーストのおのおのについて単焦点眼内レンズとほぼ同等であることが示された.一方で患者の8割以上にレンティスコンフォート特有の扇状に広がる光視現象がみられた(図3).この扇状の光視現象が広がる方向は,挿入したレンティスコンフォートの中間用ゾーンの固定方向と高い確率で一致しており(図4),このユニークな光学部形状に由来したコマ収差が影響している可能性がある.また,軽度近視眼においては,この光視現象が増強する可能性も示されている(図5).ここで重要なことは,レンティスコンフォート挿入患者へのアンケート調査では,この特徴的な扇状の光視現象をはじめとした各種の光視現象について「不満がある」と答えたのはわずかに10%未満であり,夜間運転などを含めた日常生活においてはこ図2PhoticPhenomenaTestの実際の様子2m先の光源を見ながらiPad上のVisionSimulatorで光視現象を種類別に再現させ,定量的に評価することができる.(81)あたらしい眼科Vol.39,No.4,20224730910-1810/22/\100/頁/JCOPY図3各種眼内レンズのPPtest結果a:単焦点レンズ,b:PanOptix,c:Symfony,d:レンティスコンフォート.多焦点レンズであるPanOptixあるいはSymfonyは,単焦点レンズと比較してスターバーストや同心円状に広がるハローがめだつ.一方でレンティスコンフォートはハローやスターバーストは単焦点レンズと同程度であるが,扇状に広がる光視現象が特徴的である.上方正視-0.5D-1.0D耳側鼻側図4トーリックモデルの中間用ゾーンの固定方向別の光視現象(右眼の場合)扇状の光視現象はレンティスコンフォートの中間用ゾーンの固定方向と同じ向きに広がって見える.れら光視現象が不快なものとして自覚されることは少ないということである.また,挿入方向によって光視現象の自覚に差がないことも明らかになっている.●おわりに保険診療で扱うことのできる2焦点眼内レンズである下方図5軽度近視眼の光視現象への影響正視と-0.5Dは光視現象は同等であるが,-1.0Dの場合はやや増強する.ただし運転時などは眼鏡を使用するので支障となることは少ない.レンティスコンフォートは遠方から中間距離までの広い明視域を実現でき,近年トーリックモデルも登場し,さらなる適応の拡大により臨床の場において根強い人気を誇っている.扇状の光視現象はみられるものの,患者が普段それを自覚することは少なく,日常生活に支障をきたすような不快光視現象が少ないということもレンティスコンフォートの大きな魅力であると思われる.文献1)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRep9:13117,20192)UkaiY,OkemotoH,SekiYetal:Quantitativeassess-mentofphoticphenomenainthepresbyopia-correctingintraocularlens.PLoSOne,inpress

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 11.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その4)

2022年4月30日 土曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院11.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その4)■はじめに前回のセミナーではやや工夫を要した遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multi-focalsoftcontactlens:MFSCL)の処方を解説した.とくに乱視が-0.75D以上ある患者にはディセンターデザインのMFSCLを用いたり,乱視の弱いほうの眼にはMFSCLを装用させ,乱視の強いほうの眼にはトーリックSCLを装用させるなどの工夫を要した.しかし,MFSCLトーリックが市販されてから,乱視眼に対するMFSCLの処方は限界はあるもののやや容易になった.■比較的簡単にMFSCLトーリックが処方できた例<処方例1>MFSCLトーリック51歳,女性.主婦.乱視用SCLを使用していたが,近くが見にくくなってきた.・完全矯正屈折値RV=(1.2×sph-2.00D(cyl-2.00DAx180°)利き目LV=(1.2×sph-2.25D(cyl-1.50DAx180°)・使用SCL:メダリスト66トーリックRV:850/-1.75/14.5/cyl-1.75DAx180°LV:850/-2.00/14.5/cyl-1.25DAx180°BV(両眼遠見視力)=(1.2×トーリックSCL)NBV(両眼近見視力)=(0.4×トーリックSCL)・初回処方MFSCLトーリック:2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリック(図1,表1)RV:(860/-1.75/14.2/cyl-1.25DAx180°/+1.0)LV:(860/-1.75/14.2/cyl-1.25DAx180°/+1.0)BV=(1.2×MFSCLトーリック)NBV=(0.6×MFSCLトーリック)以上のように遠近ともに満足のいく視力が得られた.表12WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックの製作範囲球面度数0.00D.-6.00D(0.25Dステップ)-6.00D.-10.00D(0.50Dステップ)加入度数+1.00D円柱度数-0.75D,-1.25D軸180°,90°■片眼の白内障手術後で乱視が強い場合このような場合は,MFSCLトーリックを用いてもかなり工夫を要する.<処方例2>手術眼が非利き目で強い乱視の場合57歳,男性.事務職.MFSCL(エアオプティクスHG・MF)を7年間装用していた.・白内障手術前の矯正視力RV=(1.2×860/-3.25/14.2/Med)利き目NRV=(0.6×MFSCL)LV=(0.8×860/-4.75/14.2/Med)NLV=(0.4×MFSCL)BV=(1.2×MFSCL)BNV=(0.6×MFSCL)視力的には問題ないが,羞明と夜間の運転に支障が出て,左眼の白内障手術を希望.・手術後所見RV=(1.2×860/-3.25/14.2/Med)NRV=(0.6×MFSCL)LV=(1.2×IOL(sph-2.50D(cyl-1.75DAx87°)・術後非利き目の強度乱視眼へのSCL処方:2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックLV=(1.0×IOL×860/-2.25/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0D)NLV=(0.4×MFSCLトーリック)図12WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックのデザインレンズの回転を防ぐために上下が薄く(水色の部位),中間部周辺が厚い(オレンジ色の部位)ダブルスラブオフデザインが採用されている.(79)あたらしい眼科Vol.39,No.4,20224710910-1810/22/\100/頁/JCOPYBV=(1.2×MFSCL・MFSCLトーリック)BNV=(0.6×MFSCL・MFSCLトーリック)非利き目の近見視力はやや落ちるものの,両眼では満足のいく視力が得られた.<処方例3>手術眼が利き目で乱視が強い場合53歳,女性.主婦.MFSCL(バイオフィニティ・トーリック)を15年ほど使用していたが,近見優先で処方されていた.・白内障手術前の矯正視力RV=(0.6×870/-5.25/14.5/cyl-1.25DAx90°)利き目LV=(0.6×870/-4.25/14.5/cyl-0.75DAx90°)BV=(0.6×トーリックSCL)BNV=(0.6×トーリックSCL)視力的な限界と羞明のために白内障手術を希望.・手術後所見RV=(1.2×IOL(sph-2.25D(cyl-1.75DAx95°)LV=(0.6×870/-4.25/14.5/cyl-0.75DAx90°)・術後処方SCL:両眼に2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックRV=(1.2×IOL×860/-2.00/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0)NRV=(0.4×MFSCLトーリック)LV=(0.6×860/-4.00/14.2/cyl-0.75DAx90°/+1.0)LNV=(0.6×SCL)BV=(1.0×MFSCLトーリック)BNV=(0.6×MFSCLトーリック)この処方で満足のいく結果が得られた.この処方はモディファイド・モノビジョン法を用いたものである.■両眼の白内障手術後で乱視が強い場合この場合も,MFSCLトーリックを用いてもかなりの工夫を要する.<処方例4>利き目が強い乱視の場合63歳,男性.事務職.バイオフィニティ・マルチフォーカルを5年間装用していた.・白内障手術前の矯正視力RV=(0.8×860/-5.75/14.0/+1.5)NRV=(0.6×MFSCL)利き目LV=(0.8×860/-6.50/14.0/+1.5)NLV=(0.6×MFSCL)羞明と細かい字が見えにくくなってきたとのことで白内障手術を希望.・手術後所見RV=(0.4×IOL)(1.2×IOL(sph-3.25D(cyl-1.75DAx175°)NRV=(0.8×IOL)LV=(0.6×IOL)(1.2×IOL(sph-2.50D(cyl-0.50DAx185°)NLV=(0.6×IOL)BV=(0.6×IOL)NBV=(0.8×IOL)・IOL眼へのMFSCL処方術後は近見視力優先との希望とのことであったが,やはり遠見が不自由とのことでMFSCLを希望.利き目の乱視が強いため,右眼はMFSCLトーリックの処方を試みた.RV=(1.0×IOL×860/-2.75/14.2/cyl-1.25DAx180°/+1.0)NRV=(0.4×MFSCLトーリック)LV=(0.8×IOL×860/-2.25/14.2/+2.0)NLV=(0.8×MFSCL)BV=(1.0×MFSCLトーリック・MFSCL)BNV=(0.8×MFSCLトーリック・MFSCL)利き目を遠見重視,非利き目を近見重視のモディファイド・モノビジョン法で満足のいく結果が得られた.■おわりにMFSCLトーリックが市販されてから,ある程度は乱視眼に対する遠近両用SCLの処方が容易になった.ただし球面度数がマイナス度数しかなく,円柱度数も-0.75Dと-1.25Dのみで,軸も180°と90°のみである.しかも,加入度数は+1.0Dしかない(表1).そのために,白内障手術後を代表とする強度乱視眼に対する処方には工夫を要することが多い.

写真:偶然発見された若年の顆粒状角膜ジストロフィ 1型

2022年4月30日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦455.偶然発見された若年の顆粒状福岡秀記京都府立医科大学眼科学教室角膜ジストロフィ1型図2図1のシェーマ図1前眼部写真角膜やや瞳孔下方を中心とする実質浅層の線状混濁を認めた.非常に微細な変化であり見逃しやすいので注意を要する.図3フルオレセイン染色所見瞳孔領から内側に混濁に一致するCdarkspotを認める.右は瞳孔領内を拡大したもの.図4レトロイルミネーション機能を用いた角膜混濁像瞳孔下方を中心とする実質浅層の線状混濁が明瞭に観察される.(77)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4690910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は10歳の男児.学校検診で視力低下を指摘され,精査のため近医眼科を受診した.両眼裸眼視力1.2と視力低下を認めないものの角膜に若干の線状混濁があるため,精査目的で当院紹介受診となった.初診時,角膜やや瞳孔下方を中心とする実質浅層の線状混濁を認めた(図1).フルオレセイン染色では混濁に一致する粒状のCdarkspotを認めた(図3).角膜のCintraepi-thelialcystを想起させる所見であったことからCMees-mann角膜ジストロフィを疑い遺伝子検査を施行したが,後日,サイトケラチンC3およびC12の遺伝子には変異が認められなかった.再診受診時,結果の説明を聞くために両親が一緒に来院していたため,両親にも同様の所見があるかを細隙灯顕微鏡検査で調べたところ,母親は異常なく,父親の両眼角膜に顆粒状角膜ジストロフィと思われる所見を認めた.追加でCTGFBI(transformingCgrowthCfactorCbetainduced)遺伝子の変異解析を行ったところ,R555Wのヘテロ接合型変異を認め,顆粒状角膜ジストロフィC1型と診断された.Meesmann角膜ジストロフィは,1939年にドイツの眼科医CAloisMeesmannとCWilkeが病理組織学的特徴を初めて記述した疾患である1).常染色体優性遺伝形式をとり,1997年にサイトケラチンC12またはサイトケラチンC3の変異であることが報告された2,3).両眼対称性に角膜上皮内微小.胞4)をきたす疾患であり,微小.胞は上皮基底部に発生し徐々に表層に移動するとされ,若年では無症状であり,中年期以降では,.胞が角膜表層に移動し点状角膜びらんや再発性角膜びらんに至ると異物感や羞明などの症状が出現する.顆粒状角膜ジストロフィは常染色体優性遺伝形式を示す角膜実質変性で,わが国で多く認められる角膜ジストロフィである.角膜瞳孔領部付近(図4)の上皮下から実質浅層にかけて境界鮮明な小穎粒やリング状の灰白色の混濁をきたす疾患である.病理学的には混濁に一致してヒアリン顆粒の沈着を認める.顆粒状角膜ジストロフィはC1型とC2型(Avellino型)に分類される.1型はTGFBI遺伝子のCR555W変異であり,2型(Avellino型)はCR124H変異である.わが国では大部分がC2型であることが知られている5).本症例は偶然に眼科受診時に発見された若年の顆粒状角膜ジストロフィC1型である.顆粒状角膜ジストロフィは幼少期から角膜変化があるとされているが,無症状であるため診察の機会は非常にまれである.今回はCMees-mann角膜ジストロフィと鑑別を要したが,顆粒状角膜ジストロフィC1型は角膜上皮下に点状沈着や混濁を認めることがあり,その影響で涙液層が菲薄化し,フルオレセイン染色にて粒状のCdarkspotとして観察されたと考えられた.文献1)MeesmannA,WilkeF:KlinischeundanatomischeUnter-suchungenCuberCeineCbisherCunbekannte,CdominantCver-erbteCEpitheldystrophieCderCHornhaut.CKlinischeCMonats-blatterfurAugenheilkundeC103:361-391,C19392)IrvineCAD,CCordenCLD,CSwenssonCOCetal:MutationsCinCcornea-speci.ckeratinCK3orK12genesCcauseMeesmann’Cscornealdystrophy..NatGenetC16:184-187,C19973)NishidaK,HonmaY,DotaAetal:Isolationandchromo-somalClocalizationCofCaCcornea-speci.cChumanCkeratinC12CgeneanddetectionoffourmutationsinMeesmanncorne-alepithelialdystrophy..AmCJHumGenet61:1268-1275,C19974)KlintworthGK:Cornealdystrophies.OrphanetJRareDisC4:7,C20095)WeissJS,MollerHU,AldaveAJetal:IC3Dclassi.cationofCcornealCdystrophies–editionC2.CCorneaC34:117-159.2015.[erratum]CorneaC34:e32,C2015

緑内障診療ガイドライン第 5版のダイジェスト─クリニカルクエスチョンを中心に

2022年4月30日 土曜日

緑内障診療ガイドライン第5版のダイジェスト─クリニカルクエスチョンを中心にDigestontheGuidelinesforGlaucoma5thEdition木内良明*はじめに診療ガイドラインはその時々の診療にかかわる最新の情報をまとめたものであり,診療の「よすが」となる.医療は時とともに進歩するため,ガイドラインも日々改訂改定する必要がある.緑内障診療ガイドラインも2018年1月までに4版を重ねたが1),さらなる改定が必要と考えられて第5版を発表することになった2).第5版のおもな改定点は以下の二つである.1.緑内障診療の進歩に伴い第4版以降に導入された検査,薬物,手術術式(レーザーや観血的手術)に関する記述を追加した.2.緑内障治療に関する重要課題をあげた.課題を疑問文の形にして,その疑問に答えるために論文を集めて,システマティックに評価した.本稿では推奨,推奨の強さ,エビデンスの強さの記載方法は『緑内障診療ガイドライン』(第5版)に準じた2).I作成過程医学の進歩は著しい.診療内容はもちろん,医学研究に要求される事項,診療内容に対する評価方法も進歩している.一方,ガイドラインの作成方法も日々進歩している.ガイドラインの作成方法を示す「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」も定期的に改定されている.現在は「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020ver3.0」が公表されている3)が,緑内障診療ガイドラインの改定には2017年版を利用した.『緑内障診療ガイドライン』(第4版)はその当時の最新情報に「推奨の強さ」と「根拠の強さ」を加えて2018年1月に『日本眼科学会雑誌』に掲載された.『緑内障診療ガイドライン』(第5版)は『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』に従うべく,システマティックレビュー(systematicreview:SR)の結果を取り上げること,SRは治療法にフォーカスを当てることをめざした.今回のガイドラインの改定のために,ノバルティスファーマ株式会社からの研究支援金を使わせていただくことができた.逆にそのために印刷代,送料,謝金などの経費に対する支払い期限があり,当初の予定よりもガイドライン改定の期間が1年以上短縮された.コロナ禍のために関係者が集まって会議を開くこともできず,すべてをWeb会議で決定せざるを得なかった.不慣れな作業であることも相まって,すべての作成過程を『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』に沿うことができなかった(組織立て,外部評価,パブリックコメントなど).クリニカルクエスチョン(CQ)の文章もこなれていない.次回の改定ではさらによい緑内障診療ガイドラインに成長させてもらいたい.IIクリニカルクエスチョンと推奨臨床上重要と思われる課題をクリニカルクエスチョン(CQ)という.CQを設定するために緑内障学会評議員から9名のガイドライン作成グループメンバーが地域*YoshiakiKiuchi:広島大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕木内良明:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学医学部眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(69)461表1重要臨床課題のリスト1高眼圧症の治療を始める基準は?2正常眼圧の前視野緑内障(preperimetricglaucoma:PPG)の治療を推奨するか?3点眼薬で眼圧が10mmHg台前半になっていても視野障害が進行する症例に緑内障手術を推奨するか?4チューブシャント手術を線維柱帯切除術の代わりに推奨するか?5原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)に対する線維柱帯切除術後の副腎皮質ステロイド点眼は推奨されるか?6線維柱帯切除術後の抗菌薬の点眼・軟膏治療はいつまで必要なのか?7POAGに対して線維柱帯切除術を施行する際に白内障手術の併施を推奨するか?8原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)およびその前駆病変としての原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)に対する治療の第一選択は水晶体再建術か,レーザー治療か?9原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspects:PACS)に治療介入は必要か?1妊娠,出産,授乳時のPOAGの薬物治療はどうするか?2線維柱帯切除術の術後管理1第一選択薬で効果が不十分なときは薬剤の追加が必要か?2POAG(広義)の多剤併用において,観血的治療も選択肢として考慮されるタイミングは?3眼圧下降以外に有用な治療(神経保護,血流改善など)は存在するか?ガイドライン統括委員会ガイドライン作成グループシステマティックレビューチーム体制の決定重要臨床課題からクリニカルクエスチョンの設定草案の評価エビデンス収集エビデンス評価・統合推奨作成公開ガイドライン草案作成図1緑内障診療ガイドライン改定委員会ガイドライン統括委員会が体制を決定し,ガイドライン作成グループとともにクリニカルクエスチョンを設定した.ガイドライン作成グループとシステマティックレビューチームがエビデンスの収集,評価・統合を行ったのちに推奨文草案を作成した.その草案をガイドライン統括委員会が評価改善して公開に至った.表2薬物治療にかかわる重要課題BQ1妊娠,出産,授乳時のCPOAGの薬物治療はどうするか?CFQ1第一選択薬で効果が不十分なときは薬剤の追加が必要かC?CFQ2POAG(広義)の多剤併用において,観血的治療も選択肢として考慮されるタイミングは?CFQ3眼圧下降以外に有用な治療(神経保護,血流改善など)は存在するか?CCQ1高眼圧症の治療を始める基準は?CCQ2正常眼圧のCPPGの治療を推奨するか?眼圧下降薬(配合点眼薬を含む)をC3剤併用しても明らかに眼圧のコントロールが不良,あるいは目標眼圧を達成できない時点が,観血的治療も選択肢に含め治療法が検討されているタイミングと考えられた.CFQ3眼圧下降以外に有用な治療(神経保護,血流改善など)は存在するか?交感神経Ca2受容体作動薬(Ca2作動薬),メマンチンなどのCNMDA受容体拮抗薬,カルシウム拮抗薬,シチコリン,カシスアントシアニンなどを扱った研究結果がまとめられている.いくつかの薬剤で神経保護効果を有することが示唆されているが,エビデンスレベルの高い論文は少ない.現時点で眼圧下降以外に臨床的に推奨できるレベルの治療方法はない.CCQ1高眼圧症の治療を始める基準は?①推奨提示高眼圧症患者の治療を開始する基準として,危険因子を有する症例では治療を開始することが推奨される.②推奨の強さ「危険因子を有する症例では治療すること」を強く推奨する.③CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)高眼圧症からCPOAGを発症する危険因子として,年齢が高い,垂直CC/D比が大きい,眼圧が高い,patternstandarddeviation(PSD)が大きい,中心角膜厚(cenC-tralCcornealthickness:CCT)が薄い,視神経乳頭出血の出現があげられる.残念ながら眼圧がどのくらいなら治療開始したほうがよいのかわからない.かかわる因子が多いためと思われる.https://ohts.wustl.edu/risk/に危険因子とされる項目を入力すると症例ごとに危険率が計算できることが紹介されている.CCQ2正常眼圧の前視野緑内障(preperimetricglaucoma:PPG)の治療を推奨するか?①推奨提示正常眼圧のCPPGに対して慎重な経過観察を行ったうえで,危険因子を勘案しながら治療開始を随時検討することを提案する.②推奨の強さ「治療すること」を弱く推奨する③CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)PPGの治療効果を前向きに評価した無作為化比較試験(randomizedCcontrolledtrial:RCT)は一篇もない.正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に関するCRCTで得られた知見はおおむねCPPGにも当てはまると考え,NTGの論文を参考にした.そのため推奨の強さは「弱く」,エビデンスレベルも「弱い」と判定された.PPGは自覚症状や生活の質(qualityoflife:QOL)低下がまだ乏しい病期であることを考えると,治療によるCQOL低下も考慮に入れる必要がある.しかし,PPG症例を対象にして治療によるCQOLの変化をみた論文はなかった.CIV手術治療にかかわる重要課題(表3)C1.手術適応に関する重要課題CQ3点眼薬で眼圧が10mmHg台前半になっていても視野障害が進行する症例に緑内障手術を推奨するか?①推奨提示点眼治療下で眼圧がC10CmmHg台前半にもかかわらず視野障害が進行する症例に対して,線維柱帯切除術を行うことを弱く推奨する.手術自体あるいは術後低眼圧による合併症の可能性があるが,それらに伴うCQOL低下を評価した報告はない.手術に伴うリスクを考慮し,十分な説明を行ったうえで,手術を検討する.②推奨の強さ「実施すること」を弱く推奨する.③CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)点眼薬を使って診察時の眼圧が日本人の平均眼圧と同程度,あるいはそれ以下にコントロールされていても視機能障害が進行する症例があることは広く認識されている.緑内障に対する唯一有効な治療は眼圧下降だけである.線維柱帯切除術を行うと眼圧は平均C11.12CmmHg464あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022(72)表3手術治療にかかわる重要課題CQ3点眼薬で眼圧がC10CmmHg台前半になっていても視野障害が進行する症例に緑内障手術を推奨するか?CCQ4チューブシャント手術を線維柱帯切除術の代わりに推奨するか?CCQ7POAGに対して線維柱帯切除術を施行する際に白内障手術の併施を推奨するか?BQ2線維柱帯切除術の術後管理CCQ5POAGに対する線維柱帯切除術後の副腎皮質ステロイド点眼は推奨されるか?CCQ6線維柱帯切除術後の抗菌薬の点眼・軟膏治療はいつまで必要なのか?CQ8PACGおよびその前駆病変としてのCPACに対する治療の第一選択は水晶体再建術か,レーザー治療か?CCQ9PACSに治療介入は必要か?いという報告がある.白内障手術と緑内障手術の両者が必要な患者に対する考え方を整理する目的でCCQを立てた.眼圧調整成績(術後眼圧,点眼スコア,生存率),合併症の頻度,視力改善についてCSRを行った.エビデンスレベルの高いCRCTやメタアナリシスは存在しないうえに,個々の報告での症例数も少なく,バイアスリスクも深刻と判断し,エビデンスレベルはCDとした.C2.周術期の重要課題CQ5POAGに対する線維柱帯切除術後の副腎皮質ステロイド点眼は推奨されるか?①推奨の強さ「投与すること」を強く推奨する.②CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)POAGに対する線維柱帯切除術後には,ステロイド点眼などの局所消炎治療を行うことが眼圧コントロールに有利であり推奨された.ステロイド点眼と非ステロイド系消炎鎮痛薬点眼に差がないという研究もあるが,一般的に行われるステロイド投与を非ステロイド系消炎鎮痛薬に置き換えるに十分な量,質の研究が行われているとはいえない.施設によって処方期間に差がある.いつまで続けるのかという結論は得られなかった.CCQ6線維柱帯切除術後の抗菌薬の点眼・軟膏治療はいつまで必要なのか?①推奨の強さ「実施すること」を強く推奨する.②CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)抗菌薬の長期投与は耐性菌出現を促す.適正な抗菌薬の使用が求められている現在,必要最低限の使用期間にとどめたいという思いからこのCCQが立てられた.線維柱帯切除術は濾過胞を作製するため,他の眼科手術と異なり,術後早期だけではなく,術後長期にも濾過胞感染を生じる危険性がある.この背景があるために術後しばらくは抗菌薬の点眼・軟膏を継続して使用することが推奨された.期間に関しては濾過胞感染リスクに応じて抗菌薬の点眼・軟膏を適宜使用する.という推奨になった.ステロイドと同様に使用期間に関する答えは得られなかった.C3.原発閉塞隅角緑内障の治療に関する重要課題CQ8原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)およびその前駆病変としての原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)に対する治療の第一選択は水晶体再建術か,レーザー治療か?①推奨提示原発閉塞隅角緑内障CPACGと原発閉塞隅角症CPACに対する第一選択治療は水晶体再建術を強く推奨する.症候性白内障の有無にかからず水晶体再建術を第一選択として選択可能であるが,絶対的な第一選択ではなく個々の患者の状況に応じてレーザー治療を選択する.また,眼圧が正常なCPACについては治療適応を慎重に検討すべきことに留意する.②推奨の強さ「水晶体再建術を施行すること」を強く推奨する.③CCQに対するエビデンスの強さ□A(強)■B(中)□C(弱)□D(非常に弱い)このCCQに対しては明確な答えが得られている.緊急的にレーザー虹彩切開術(laserperipheralCiridotomy:LPI)またはレーザー隅角形成術(またはアルゴンレーザー周辺虹彩形成術)を施行してから水晶体再建術を行う場合などを想定したCRCTは実施されておらず,この推奨が水晶体再建術をすべての急性CPAC(acutePAC:APAC),PACG,高眼圧のCPACに対する絶対適応の第一選択とすることを意味しない.CEuropeanCGlaucomaCSociety,CAmericanCAcademyCofOphthalmology,AsianPaci.cGlaucomaSocietyのガイドラインはCLPIを含めたレーザー治療を初期治療として選択していることも紹介されている.466あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022(74)

QOLを意識した緑内障診療

2022年4月30日 土曜日

QOLを意識した緑内障診療Let’sTreatGlaucomafromtheAspectofImprovingthePatient’sQOL結城賢弥*はじめにQOLはqualityoflifeの略で,日本語では生活の質などと訳される.ある人がどれだけ人間らしい生活を送り,人生に幸福を見いだしているかともとることができる.また,生きがい,心身の健康,良好な人間関係を得ているかなど,幅広い概念から捉えることも可能である.癌などの治療でいえば,抗癌剤の治療により余命が1年伸びたとしても,生存期間のQOLが著しく障害されてしまう場合は治療しない選択をするなど,生存期間を単に伸ばすだけではなく,人間らしい生活を維持しつつ良好な医学的な結果をもたらすために必要な概念である.I緑内障と運転忌避や交通事故視覚が運転において重要なのは自明の理である.視野狭窄を有する患者が運転してよいか,眼科医であれば何度か質問されたことがあると思う.「運転はやめたほうがいいですよ」というのは簡単な回答である.しかし,運転の制限はQOLの悪化と強く関係しており,運転をやめることは,うつ,介護施設の入所,全体的な健康感の悪化,死亡とつながっているとされている.われわれ眼科医は視機能が悪いと思われる患者に,運転をやめたほうがいいですよというのは過剰なQOLの低下を招く可能性があり,慎重になるべきである.では緑内障患者の交通事故リスクは上昇しているのであろうか?Kwonらは70歳以上の2,000名の運転を行う高齢者の自己責任の交通事故既往を後ろ向きに検討した.その結果,緑内障を有する運転者(n=206)は,非緑内障の運転者(n=1,794)の約1.7倍,交通事故既往が多く,とくに視野障害重篤群では約2.0倍であったと報告している.筆者らは原発開放隅角緑内障患者の過去の交通事故既往を検討し,悪いほうの眼の平均偏差(meandevia-tion:MD)値が-10dB以下の緑内障患者の交通事故経験が25%で,対照群や,初期緑内障群と比較し有意に多かったと報告した1).また,Onoらは運転距離あたりの交通事故件数を検討し,対照群が運転1万kmあたり0.1件であるのに対し,悪いほうの眼が後期緑内障の患者群は2.0件で,有意に運転距離あたりの交通事故件数が多いと報告した(図1)2).ただし,両眼とも後期緑内障の患者群の事故件数は運転1万kmあたり0.1件で対照群と同等であった.われわれは両眼とも後期緑内障患者がもっとも交通事故リスクが高いと考えがちであるが,結果は必ずしもそうではなかった.筆者らはこれを両眼とも後期緑内障の患者はより運転を控えるか,あるいは安全運転を行うためではないかと考えた2).Taka-hashiらは緑内障患者における免許の返納と緑内障の関係を横断的ならびに縦断的に解析検討した.横断研究において過去に免許を返納していた人の割合は対照群において7%(11/148名)であったのに対し,後期緑内障群では31%(5/16名)と有意に多かった(p<0.001).また,3年間,免許の返納を追跡した前向き研究でも対照群の免許返納率は1%(1/80名)であったのに対し,中*KenyaYuki:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕結城賢弥:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(63)455運転1万kmあたりの事故件数0.50対照群初期中期後期253.53.02.52.020運転免許返納率(%)151.51.0105(n=187)緑内障緑内障緑内障MD<-6dB-6dB>MD>-12dBMD<-12dB(n=187)(n=60)(n=47)視野障害の重症度は悪いほうの目で分類図1緑内障重症度と交通事故既往の関係横軸が緑内障重症度,縦軸が運転C1万Ckmあたりの事故件数である.事故件数は,視野が正常な対照群が運転C1万Ckmあたり0.1件であるのに対し,悪いほうの眼が後期緑内障患者はC2.0件と後期緑内障患者で有意に運転距離あたりの交通事故件数が多かった.(文献C2より引用)図3緑内障重症度と交通事故リスクの関係緑内障患者では片眼の緑内障が悪化するだけで交通事故リスクが上昇する可能性がある.両眼とも緑内障が悪化すると運転免許を返納し,夜間や雨天の運転を忌避することで,交通事故リスクを抑制している可能性がある.=0対照群初期中期後期n=80緑内障群緑内障群緑内障群n=152n=22n=11図2緑内障重症度と免許返納の既往との関係横軸が緑内障重症度,縦軸が免許を返納した人の割合である.対照群はC80名中経過観察期間のC3年間にC1名(1%=1/80)が免許を返納したのに対し,良いほうの眼が中期ないし後期緑内障患者群ではC5名(15%=5/33)が免許を返納していた.(文献C3より引用)転倒恐怖感のオッズ比543210対照群初期緑内障中期緑内障後期緑内障(n=293)(MD>-6dB(-6dB>MD>-12dB(MD<-12dBn=313)n=48)n=26)図5緑内障重症度と転倒恐怖感の関係横軸が緑内障重症度,縦軸が転倒恐怖感に対するオッズ比である.良いほうの眼の緑内障が悪化するにつれて,転倒恐怖感をもつ割合が増すことがわかる.図6Vectorvision社製のCSV.1000本製品はコントラスト感度を測定する機器である.一番上の列がC3Ccycles/degree(cpd),2番目の列がC6Ccpd,その下がC12Ccpd,18Ccpdとなっている.コントラストが低くなっていくなかで,どの正弦波まで判別可能かでコントラスト感度を判定する.8.8.7.7.6.8.6.5.7.5.4.6.4.3.20/405.3.2.20/504.2.1.20/703.1.2..20/1001.-ODc.-OSAges20-55Ages56-75SpatialFrequency(CyclesperDegree)8.7.6.5.4.3.2.1..361218図7視力良好な緑内障患者のコントラスト感度と視野本症例は両眼とも矯正視力はC1.2であるが,右眼のコントラスト感度が著明に低下している.患者は右眼では読書や歩行などの日常生活を営むことが困難であると強く感じている.右眼が優位眼のためにCQOLを大きく損ねていると自覚している.図8タイポスコープこのような黒の枠の中に文字を入れることで,白地の眩しさを軽減し,行ずれを防ぐことで読書能力を改善することができるとされている.本製品はC100円ショップで購入した定規の裏側である.■用語解説■コントラスト:コントラストとは,明るい部分と暗い部分との明暗の差とされ,最大輝度-最小輝度/最大輝度+最小輝度で通常は%で示される.基本的には規則的な正弦波状の縞の明暗比をコントラストとしている.たとえば白地の輝度をC500Ccd/mmC2(数字が大きいということは明るい),黒字の輝度をC1Ccd/mmC2(数字が小さいということは暗い)のコントラストはC500-1/500+1×100でC99.6%のコントラストということになる.転倒恐怖感:身体能力が残されているにもかかわらず移動や位置の変化を求める活動を避けようとする永続した恐れと定義されている.以前はCpostfallsyndromeといわれ,転倒により生じるとされていたが,転倒を経験しなくとも転倒恐怖感が生じるとされている.高齢者のCQOLの低下に密接にかかわっている.転倒関連自己効力感:ある状況において必要な行動を転倒することなく,自分がどの程度効果的に遂行できるかという自信.CInformedchoice:説明と選択と訳される.患者が医師から十分な説明を受け,それに基づいた選択肢を提示され,その中から患者が医療における治療などを選択するという考えである.-