●連載263263.レーシック後の顆粒状角膜ジストロフィ増悪への対処監修=木下茂大橋裕一坪田一男宍道紘一郎広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)顆粒状角膜ジストロフィの角膜混濁はレーシックによって増悪する.増悪した角膜混濁の除去に対して複数の外科的治療法の有効性が報告されているが,術後高頻度に発症する角膜混濁再発が大きな問題となる.レーシックを計画する際には,顆粒状角膜ジストロフィの見逃しがないように最大限の注意を払わねばならない.●顆粒状角膜ジストロフィの疾患概念とレーシック2008年に報告されたCIC3D分類1)によると,顆粒状角膜ジストロフィ(granularCcornealdystrophy:GCD)とはCTGFBI遺伝子の異常に起因する角膜ジストフィの一病型であり,さらに三つのサブタイプに分類される.わが国で頻度の高いCGCDtype2(従来のCAvellino型ジストロフィ)はCTGFBI遺伝子のC5q31にあるC124番目のアルギニンがヒスチジンに変異することで生じる常染色体優性遺伝疾患である.角膜実質内に沈着した異常蛋白(ヒアリンとアミロイド)によって顆粒状混濁と,ときに格子状混濁を生じる.GCDtype2は常染色体優性遺伝疾患であり,ヘテロ型の多くは臨床的に軽症であるが,レーシックは同疾患を増悪させることが知られており,IC3D分類には禁忌と明記されている.しかし,見過ごされレーシックを施行されてしまった結果,視力低下をきたす重篤な角膜混濁を発症することがある.この角膜混濁はレーシック創面に沿って生じ(図1),早期にはアミロイドよりもヒアリンの蓄積が顕著である.レーシックによってCGCDが悪化する機序は不明な点が多く,TGF-betaが直接関与しているか否かでさえ議論が分かれている2).しかし,レーシックによる侵襲は角膜実質層に限局することを考慮すると,同層が責任病巣である可能性がきわめて高い.C●レーシック後のGCD増悪への外科的対処法レーシック後に増加した角膜混濁の除去には外科的治療が必要である.いくつかの術式〔フラップを挙上し角膜混濁を徒手的に除去する方法(単純除去),治療的表層角膜切除(phototherapeutickeratectomy:PTK),深層層状角膜移植(deepCanteriorClamellarCkeratoplas-(83)図1LASIK後に増悪した顆粒状角膜ジストロフィtype2の臨床像LASIK施行C7年後に視力低下を訴え,当院を受診した際の前眼部写真(Ca)と前眼部光干渉断層計(OCT)画像(Cb).白色小型の角膜混濁が多発・癒合し,瞳孔領を覆っている.前眼部OCT画像では実質浅層に高輝度ラインが描出されており(),LASIK創面と一致する.(文献C5より引用)ty:DALK),全層角膜移植(penetratingCkeratoplas-ty:PKP)〕が施行されているが,術後予後を述べた報告はごく少なく,そのほとんどが症例報告にとどまる.単純除去はもっとも低侵襲な術式といえるが,既報C2例では術後C5カ月およびC16カ月で視力低下を伴う重篤な角膜混濁を生じている3).PTKについては,Junらが76眼のレーシック後に増悪したCGCDCtype2に対する同術式の術後成績を報告している4).同報告ではCLASIKフラップを挙上しCPTKを施行しているが,その後フラップを温存した群と除去した群に分けて経過を追っている.その結果,術後C3年での角膜混濁の再発率(視力に影響のない微細な再発を含む)はフラップ温存群で88.2%,除去群でC53.6%だった.本文中での記載がないため具体的な数値への言及は避けるが,同報内の図表(角膜混濁再発を死亡と定義したCKaplan-Meier曲線)を見ると,術後C4年時点で除去群でもほぼ全例で角膜混濁が再発したようである.一方で,術後C3年での視力低下を伴う重篤な角膜混濁の再発率は,除去群でC14.3%にとどまった.以上をまとめると,フラップ除去CPTKは再発した角膜混濁の重症化は抑制するが,単純除去やあたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4750910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2LASIK後に増悪した顆粒状角膜ジストロフィtype2に対するDALK術後経過図C1と同眼のCDALK施行C8年後の前眼部写真(Ca)と前眼部OCT画像(Cb).角膜混濁は再発しておらず,グラフトは高い透明性を保っている.(文献C5より引用)PTK(フラップ除去を含む)のような低侵襲な術式では角膜混濁の再発は不可避と考えてよいだろう.C●レーシック後のGCDに対する角膜移植術の予後では,レーシック後に悪化したCGCDに対するCDALKやCPKPなどの角膜移植術の予後はどうだろうか.昨年,筆者らはレーシック後に悪化したCGCDtype2に対してDALKを施行したC2例を報告したが,それぞれCDALK術後6,8年の時点で角膜混濁は再発していなかった(図2)5).角膜実質層が責任病巣であると仮定すると,DALKの際に角膜実質を完全に除去できたことが長期にわたり再発を予防できた要因だと考えられる.実際に,過去に同病態に対してCDALKを施行し実質を完全に除去できなかった自験例では,術後C2年で角膜混濁が再発した(図3).なお,レーシック後に悪化したCGCDに対するCPKPの予後を述べた報告は筆者の知るかぎりないが,確実にホスト実質を完全除去できるため角膜混濁の再発は生じにくいと推察される.しかし,正常な角膜内皮まで除去する点でCPKPは高侵襲である感が否めない.したがって,レーシック後のCGCD増悪に対して角膜移植を行う場合,可能であればまずはCDALKを選択すべきであろう.その際,Descemet膜穿孔を恐れるあまり角膜実質を除去しきれないと,再発につながる可能性があるため注意が必要である.C●おわりにわが国で頻度の高いCGCDtype2を中心に,レーシッ図3DALK後再発例DALKでホスト角膜実質を除去しきれなかったCLASIK後CGCD症例の術前(Ca),術後C1カ月(Cb),23カ月(Cc),34カ月(Cd)時点での前眼部写真.DALKによって角膜混濁は消失したが,術後C2年頃より微細な角膜混濁が再発し,徐々に増悪した.ク後のCGCD増悪への対処法を文献的考察と自験例を交えて解説した.PTKや角膜移植は一定の治療効果が期待できるが,大前提としてCGCD患者にレーシックを施行してはならない.レーシック施行前には入念な細隙灯顕微鏡検査に加え,可能であれば遺伝子検査も行い,見落としをなくすよう最善を尽くすべきである.文献1)WeissJS,MollerHU,LischWetal:TheIC3Dclassi.ca-tionofthecornealdystrophies.Cornea27:S1-S8,C20082)AwwadCST,CDiCPascualeCAD,CHoganCRNCetal:AvellinoCcornealCdystrophyCworseningCafterClaserCinCsituCkeratomi-leusis:furtherCclinicopathologicCobservationsCandCpro-posedCpathogenesis.CAmCJCOphthalmolC145:656-661,C20083)JunCRM,CTcharCH,CKimCTCetal:AvellinoCcornealCdystro-phyafterLASIK.Ophthalmology111:463-468,C20044)JunCI,CJungCJW,CChoiCYJCetal:Long-termCclinicalCout-comesCofCphototherapeuticCkeratectomyCinCcorneasCwithCgranularCcornealCdystrophyCtypeC2CexacerbatedCafterCLASIK.JRefractSurg34:132-139,C20185)ShinjiK,ChikamaT,MaruokaSetal:Long-termobser-vationCofCdeepCanteriorClamellarCkeratoplastyCinCpatientsCwithCpost-LASIKCgranularCcornealCdystrophyCtypeC2:CTwocasereports.OphthalmolTherC10:1163-1169,C2021476あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022(84)