監修=木下茂●連載261大橋裕一坪田一男261.ICLの長期経過中村友昭名古屋アイクリニックICLは若年者に対する治療のため,長期的な安全性と有効性,およびレンズの安定性が重要である.筆者の施設ではC10年間の長期経過を通じて,安全性,有効性,矯正精度,安定性において良好な結果が示された.また,長期間埋植されたのち眼内から摘出されたCICLを検証し,分光透過特性,電子顕微鏡的検討においてレンズに変化がないことを確認した.C●はじめに水晶体を残したまま眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入し,近視,乱視などの屈折矯正を行う手術を有水晶体眼内レンズ(phakicIOL)挿入術という.そのなかで後房型のレンズであるCICL(implantableCcon-tactlens)は,1997年に現行のタイプが発売され,2005年に米国食品医薬品局が認可した.わが国でも2010年のCICL認可に引き続き,2011年には乱視矯正可能なトーリックCICLも認可された.近視は-18Dまで,乱視はC4.5Dまでと,幅広く矯正できる.ICLはコラーゲンとCHEMAの共重合体であるコラマー(collamer)とよばれる生体適合性に優れた素材でできており,虹彩など眼内組織への刺激がほとんどないのが特長である.毛様溝に固定され,問題があれば元の状態に戻せる,可逆性があることも利点である(図1).近年は清水らにより開発された,レンズの中心にC0.36mmの小さな穴を開けたCKS-AquaPORT,通称CholeICLがC2014年にわが国でも承認され,術前のレーザー虹彩切開が不要となり,さらに安全性が高まったことから,現在では屈折矯正手術の主流となりつつある.ICLは登場からC20年以上経過し,その有効性とともに安全性も数多く報告されている.しかし,若年者の健図1眼内に入ったICLの模式図康な眼に対する治療であるため,もっとも大切なことは長期的な安全性と有効性,そしてレンズの安定性であるが,10年以上の長期にわたる経過の報告はごくわずかである.筆者らはC10年経過時の結果1)と,長期間埋植されたのち,眼内から摘出されたCICLについて検証し報告した2).今回は,その内容を中心に述べる.C●10年経過の検討近視および近視性乱視の矯正のために名古屋アイクリニックでCICL手術を受けたC61人C114眼が対象である.安全性,有効性,予測可能性,安定性,および有害事象を,6カ月(106眼)および1年(94眼),3年(58眼),5年(65眼),8年(89眼),10年(70眼)で評価した.裸眼,矯正視力(logMAR)の平均は,術後C10年で-0.01±0.24(小数視力C1.02)および-0.18±0.07(同C1.51)と良好であったが,10年経過すると,多くの症例は若干の近視化を示し,裸眼視力が低下するものも認めた(図2).安全性と有効性の指標である安全係数,有効係数は,それぞれC0.88C±0.15とC0.66C±0.26で,有効係数は低下した.矯正精度については,術後C10年でC±0.5およびC1.0D以内となったのは,それぞれC71.4%とC87.1%であり,比較的矯正効果は保たれていた.眼圧は術前6カ月1年3年6年8年10年%ofEyes10090807060504030201002.01.21.00.50.2視力図2各期間における裸眼視力の割合(67)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C1990910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1ICLの長期経過の報告ICL眼数観察期間年齢等価球面度数安全係数有効係数予測性(±1.0D)角膜内皮減少率白内障(摘出)Alfonso(2C011)CIgarashi(2C014)CMoya(2C015)CGuber(2C016)CLee(2C016)CNakamura(2C019)CV4V4V3,CV4V4V4V4188眼41眼144眼133眼281眼114眼5年8年12年10年7.3年10年33.5歳37.3歳30.7歳38.8歳30.3歳36.2歳-11.17DC-10.19DC-16.9DC-11.4DC-8.74DC-9.97DC1.27C1.13C1.22C1.25C1.20C0.88C0.89C0.83C0.65C0.76C1.01C0.66C6285.434.365.787.287.17.5%6.2%9.17%変化なし7.8%5.3%1.6%(0C.5%)24.5%(C4.9%)13.88%(C7.63%)54.8%(C18.3%)2.1%(0%)11.4%(C3.51%)100nm波長(nm)図3摘出したICLと未使用のICLとの分光透過率13.1±2.4mmHgが術後C10年でC13.1C±2.9mmHgと不変であった.すべての症例に対し,術前にレーザー虹彩切開を施行したが,平均角膜内皮細胞密度の減少率は術後C10年でC5.3%であり,これは年C0.5%減少するという加齢による減少率と変わらないものであった.合併症として,5~10年の追跡期間中にC114眼のうち12眼(10.5%)が前.下白内障を発症した.そのうちC4眼(3.5%)に水晶体乳化吸引術が施行された.そのほかに観察期間中に視力低下をきたす合併症は発生しなかった.白内障の発生はCholeICLとなってから激減し,清水らのC5年の報告ではC0件に3),筆者らのC3年の経過観察ではC0.7%と軽減した.以上,ICL手術は,10年間の長期経過を通じて,安全性,有効性,矯正精度,および安定性のすべてにおいて良好な結果を示した1).他施設の報告でも同様の結果が示されている(表1).C●摘出レンズの電顕所見と分光透過特性現バージョンであるCV4が登場しC20年経過したが,いまだレンズの混濁を理由とした摘出例などの報告はなく,年数を経て視機能が低下した報告もないが,これまで長期埋植後の摘出CICLについては検討されていなかった.そこで,名古屋アイクリニックにて埋植し,白内障手術の際に摘出したCICL(10例C13眼)に対し,分光C200あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022透過率(%)200300400500600700800未使用10年使用V46年使用V4c図4摘出したICLと未使用のICLの電顕像透過特性と電子顕微鏡による検討を行った.眼内にあった期間はC10.5C±2.7年(4.4~13.7年).摘出時の年齢はC50.5C±8.5歳.分光透過特性はいずれのレンズも未使用のレンズと変わらず(図3),電子顕微鏡的検討においても,なんらレンズに変化を認めず,付着物も認められなかった(図4).この結果から,ICLは眼内にあっても,長期にわたり混濁など変性を認めず,光学的にも安定した状態を維持できることが確認できた2).C●おわりに近年,その安全性の高まりとともに,屈折矯正手術の主流はCICLとなってきた.ただし,若者に対する手術であることを念頭に,適応基準をしっかりと定め,検査や手術は慎重に行うとともに,術後は長期にわたり入念に経過観察をすべきと考える.文献1)NakamuraCT,CKojimaCT,CSugiyamaCYCetal:PosteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCforCtheCcor-rectionCofCmyopiaCandmyopicCastigmatism:aCretrospec-tiveC10-yearCfollow-upCstudy.CAmCJCOphyhalmolC206:C1-10,C20192)NakamuraT,KojimaT,SugiyamaYetal:Long-terminvivoCstabilityCofCposteriorCchamberCphakicCintraocularlens:propertiesCandClightCtransmissionCcharacteristicsCofCexplants.CAmJOphthalmol219:295-302,C20203)ShimizuCK,CKamiyaCK,CIgarashiCACetal:Long-termCcom-parisonofposteriorchamberphakicintraocularlenswithandCwithoutCaCcentralhole(holeCICLCandCconventionalICL)implantationCforCmoderateCtoChighCmyopiaCandCmyo-picastigmatism.Medicine(Baltimore)C95:e3270,C2016(68)