考える手術⑪監修松井良諭・奥村直毅トラベクレクトミー谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座緑内障手術はトラベクロトミーに代表される流出路再建術,トラベクレクトミーに代表される濾過手術,AhmedやBaerveldtなどのロングチューブによる濾過手術に大別される.また,房水産生抑制を狙った術式として内視鏡的毛様体光凝固術などがある.このなかで,狙って一桁の眼圧が達成されるのはトラベクレクトミーのみである.低侵襲緑内障手術が次々と登場するなかで,トラベクレクトミーが未だ主たる緑内障手術であ「眼球壁に穴を開け」「結膜の下に水を漏らす」だけの手術であるが,各「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があるが,われわれ術者は「人事を尽くす」ことを心がける必要がある.術者の数ほどバリエーションがあるといわれるトラベクレクトミーであるが,それぞれの手順は術後管理との関係から設定されていることが多い.本稿ではその一例として筆者の行っている術式を,考え方とともに紹介する.それぞれの術者のそれぞれの手順について,なぜその手順を行うのかを考える際の参考にしていただきたい.聞き手:トラベクレクトミーの適応はどのように考えたす.トラベクレクトミーが不成功となった場合や,結膜らよいですか?瘢痕がある場合,onechambereye(無水晶体眼,眼内谷戸:現在,われわれが行うことができる緑内障手術のレンズ強膜内固定眼,前房内硝子体脱出眼など)はなかで,狙って一桁の眼圧が達成できる手術はトラベクAhmed緑内障バルブがよい適応です.レクトミーのみです.そのため,目標眼圧が一桁の緑内障がトラベクレクトミーのよい適応となります.10台聞き手:手術部位の選択や結膜切開で気をつけること前半の眼圧コントロールを行っているのに視野進行が続は?く原発開放隅角緑内障は,トラベクレクトミーの適応で谷戸:現在では,角膜輪部で結膜切開を行う術式(円蓋す.白内障による視力低下を伴ったケースでは低侵襲緑部基底結膜切開)がおもな術式になっています.後方に内障手術(マイクロフックトラベクロトミーやiStent)広がる奥行きがあって,高度に無血管化しない濾過胞をと角膜切開からの白内障同時手術がよい適応となりま形成することを目標としているためです.もしトラベク(71)あたらしい眼科Vol.39,No.11,202215110910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術レクトミーが不成功となった場合は,将来的に耳上側でチューブシャント手術を行うことになります.そのため,筆者は鼻上側でトラベクレクトミーを行うことにしています.結膜を切開した場所は必ず瘢痕化をきたします.結膜切開の開始部位を,強膜弁を行う場所からなるべく遠くに置いたほうが濾過胞形成の邪魔になりません.右眼の場合は3時,左眼の場合は9時から結膜切開を開始します.聞き手:強膜弁作製と周辺虹彩切除で気をつけることは?谷戸:強膜弁は一重でも二重でも構いません.それぞれの施設のやり方に応じて作製します.ただし,強膜弁の作製の仕方によって,縫合糸の数やマッサージなどの方法,レーザー切糸のタイミングは変わってきます.トラベクレクトミーは単純な手術ですが,経過のバリエーションが多く,そのため経験への依存度が大きくなります.1例1例の経過を大切にして,次の症例に生かす姿勢がとくに大切です.聞き手:結膜の扱い方で注意することは?谷戸:有鈎鑷子では結膜を持たないことが大切です.マイトマイシンC(MMC)を使用する際,結膜を持ってスポンジを挿入すると結膜が裂ける原因となります.MMCを使用する際は,結膜ではなく,Tenon.を持って操作するようにしてください.筆者は,裏返したコリブリ鑷子でTenon.を持つようにしています.動画①(2分50秒あたり)で確認してみてください.聞き手:強膜弁縫合で気をつけることは?谷戸:元にあった場所に強膜を戻す感覚で通糸するとよいと思います.2-1-1で結紮する際も,締めつけるのではなくて,あくまでも強膜面同士を合わせる程度にしておくと,眼圧を上げたときにちょうどよく締まります.10-0ナイロン糸の扱いに慣れておくことが重要です.とくに,順針/逆針がうまく使えるようになっていると格段に強膜弁縫合の精度が向上し,縫合に要する時間が短縮します.これらの運針は,チューブシャント手術,バックル手術,全層角膜移植などの精度にも影響する技術です.これから手術を習得する先生は,普段の白内障手術や豚眼ウェットラボで実際のトラベクレクトミーの場面を想定しながら運針を練習するとよいと思います.上述の通り,何糸縫うかは,フラップの作り方や管理の方針によって変わってきますが,筆者の場合は,3×3mmの表層フラップ,深層フラップは切除,5糸縫合(後端,両角,両脇)して,前房維持のため前房内にシェルガンを留置して手術を終了することにしています.聞き手:結膜縫合で気をつけることは?谷戸:強膜弁と同様,結膜縫合でも元にあった場所に結膜を戻す感覚で通糸するとよいと思います.結膜切開をした場所は必ず瘢痕化しますので,元の位置にさえ戻しておけば創傷治癒過程で癒着します.筆者の場合は輪部ギリギリで結膜切開を行いますので,結膜縫合の際にも結膜と角膜を通糸するようにしています.動画②(10分05秒あたり)で確認してみてください.端々縫合とマットレス縫合を組み合わせて縫合しています.結膜縫合が終わったあとは,ステロイドの結膜注射を兼ねて濾過胞内にリンデロン注を行って濾過胞の漏出がないかどうかを確認しています.聞き手:術後管理で気をつけることは?谷戸:前房内に注入したシェルガンは術後3日目に消失します.それまでは,眼圧にかかわらず,経過をみるだけとする場合がほとんどです.術後3日間以内で,眼圧が高く,眼圧上昇の原因が出血による強膜弁癒着でないと判断される場合には,ちょっと眼球を押して濾過胞の形成を確認します.眼圧が高くても,出血塊を伴っている場合には,眼球の圧迫は再出血の原因となりますので,触らず,血液が融解するまで数日間ダイアモックス内服とします.前房消失は多くはありませんが,その場合も,シェルガンによる角膜内皮保護が期待できますので,少なくとも術後数日はアトロピン点眼で様子をみます.それでも前房深度が変わらない場合は,程度に応じて前房内にシェルガンの追加または空気注入を行いますが,気体の注入はのちの結膜瘢痕化の原因となります.レーザー切糸は,術後5日目以降に,後端,鼻側角,耳側角の順番に3本まで行うようにしています.1512あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022(72)