網膜疾患における抗VEGF療法のこれからの展開FutureDevelopmentofAnti-VEGFTherapiesfortheManagementofRetinalDiseases楠原仙太郎*はじめに血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)に関する多くの基礎実験データはVEGFが生理的・病的血管新生および血管透過性において主要な役割を果たしていることを如実に示している.眼科分野では,2004年に抗VEGF薬であるペガプタニブが滲出型加齢黄斑変性(neovascularage-relatedmaculardegeneration:nAMD)の治療薬として米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)の認可を得て以降,複数の抗VEGF薬が上市され,nAMD,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME),網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,近視性脈絡膜新生血管の標準治療として確固たる地位を築くに至った.抗VEGF療法が網膜疾患を有する患者の視機能予後を飛躍的に向上させたという事実については疑いがない.一方で,実臨床においてこれらの網膜疾患を長期に管理するなかで,いくつかの重要なアンメットニーズが浮き彫りになってきたこともまた事実である.すなわち,治療抵抗例の存在,頻回治療に伴う負担,通院中断に伴う視機能低下である.近年のバイオテクノロジーの進歩は著しく,多くの製薬企業がそれらを用いた新薬開発を積極的に進めている.たとえば,2020年3月に中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性の治療薬としてわが国での製造販売が承認されたブロルシズマブでは,単鎖可変領域フラグメントによる製剤設計が採用されている.この単鎖可変領域フラグメントの作製技術を用いる理由は,薬剤の網膜組織への透過性向上,薬剤の全身クリアランスの短縮,より高モル濃度での薬剤眼内投与であり,これらによって眼における「抗VEGF作用の増強」と「全身安全性の両立」というコンセプトをめざすことが可能となっている1).最新のテクノロジーを用いて開発された新薬はいずれも従来の薬剤を上回る薬剤特性を有していることから,これらの薬剤は網膜疾患のアンメットニーズに応えるものと期待される.本稿では,現在治験段階にある薬剤の情報とそれらが上市された際に日常診療に及ぼすインパクトを中心に,筆者の考える「網膜疾患における抗VEGF療法のこれからの展開」についてわかりやすく説明する.Iこれからの抗VEGF薬に求められるもの新薬が治験を経て製造販売承認に至るためには,その新薬が従来の治療薬との比較でなんらかの点で優れていることが必要となる.一例をあげれば,nAMDを対象とした第III相臨床試験であるHAWK&HARRIER試験(NCT03481660&NCT03481634)では,ブロルシズマブは先行薬であるアフリベルセプトとの比較で,視力改善効果については非劣性であるが,投与間隔が延長できる点で優れていることが証明された1).製薬企業がブロルシズマブでめざした「投与間隔の延長」は先に紹介した「頻回治療に伴う負担」の軽減につながることから,このようなコンセプトに基づいて開発された新薬は*SentaroKusuhara:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕楠原仙太郎:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)135高濃度製剤ポートデリバリーシステムVEGF受容体1/2-Fc高濃度アフリベルセプトラニビズマブPDSConberceptブロルシズマブ遺伝子治療バイスペシフィック抗体DARPin製剤ADVM-022ファリシマブアビシパルペゴルRGX-314チロシンキナーゼ阻害薬生体高分子複合体GB-102KSI-301図1抗VEGF治療薬開発のコンセプトVEGF:血管内皮増殖因子,PDS:portdeliverysystem(ポートデリバリーシステム).アビシパルペゴル(MolecularPartners/Allergan)(HussainRM,etal:ExpertOpinBiolTher2020より)GB-102(スニチニブリンゴ酸塩)(GrayBugVision社)(https://www.graybug.vision/our-technologies-and-pipeline/より)図2アビシパルペゴルとGB.102・アビシパルペゴルはヒトVEGF-Aに結合するアンキリンリピート構造を有するDARPinであり,PEG化によって高分子となっている.・DARPinは遺伝子操作された抗体模倣蛋白質であり,その優れた特性から製薬における利点が多い.・アビシパルペゴルについては,細胞実験ではラニビズマブの100倍程度の強さでラットVEGF-A164に結合することがわかっている.・nAMDを対象とした第III相臨床試験では眼内炎症の頻度が高くFDAの認可が得られなかった.・スニチニブリンゴ酸塩はすべてのVEGF受容体を阻害する強力な抗VEGF薬である.・GB-102はナノ粒子カプセル化スニチニブリンゴ酸塩であり,硝子体内注射後に緩徐に生体内で分解される.・第IIb相臨床試験ではGB-102群の48%で6カ月以内の補助治療が必要でなかったが,視力変化については平均9文字の低下と芳しくなかった.DARPin:designedankyrinrepeatingprotein,PEG:ポリエチレングリコール,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,FDA:米国食品医薬品局.与を採用した増殖糖尿病網膜症を対象としたCONDOR試験(NCT04278417)は継続中である〕.ブロルシズマブ硝子体内注射後の眼内炎症と網膜血管閉塞については世界的に注目されているが,その詳細な機序は未だに不明である.導入期6週間隔投与を採用したKITE&KESTREL試験ではそれらの発現率が問題にならなかったことから,非常に強力なVEGF阻害が眼内炎症と網膜血管閉塞の発症に関係している可能性があると筆者は推測している.3.アビシパルペゴル(MolecularPartners社.Allergan社)アビシパルペゴルはヒトVEGF-Aに結合するアンキリンリピート構造を有するdesignedankyrinrepeatingprotein(DARPin)である.DARPinは遺伝子操作された抗体模倣蛋白質であり,非常に特異的で高親和性の標的蛋白質結合を示すことから,さまざまな研究,診断,および治療アプリケーションの調査ツールとして使用されている.製薬の観点からも,DARPinライブラリーからの親和性による選択,リンカーを用いた多機能DARPinの作製,半減期や免疫原性の容易な調整などDARPinを使用する利点は非常に多い.アビシパルペゴルについては,細胞実験ではラニビズマブの100倍程度の強さでラットVEGF-A164に結合することがわかっている.DARPin自体は低分子量の蛋白であるが,アビシパルペゴルではポリエチレングリコール(polyethyl-eneglycol:PEG)化によって分子量を大きくすることで眼内での薬物半減期を延長することに成功している.このように,強力なVEGF阻害による薬効が非常に期待できるアビシパルペゴルであるが,nAMDを対象とした第III相臨床試験では安全性の問題で苦しむこととなった.CEDAR(NCT02462928)試験とSEQUOIA(NCT02462486)試験では,アビシパルペゴル2mg投与群は対照であるラニビズマブ0.5mg投与群に対して主要評価項目である52週時点における視力安定患者の割合に関して非劣性が達成された.しかしながら,アビシパルペゴル2mg投与群における治療開始後1年での眼内炎症発生率が8週間隔投与群で15.4%,12週間隔投与群で15.1%と非常に高いことが明らかとなった.この結果を受けてMolecularPartners社とAllergan社は変更した製造工程によって作製されたアビシパルペゴルについて安全性評価のための前向きシングルアーム試験〔MAPLE試験(NCT03539549)〕を行っている.結果は28週間での眼内炎症発生率が8.9%とやや低下していたがそれでも十分に高い発生率と思われる.実際に,nAMD治療におけるアビシパルペゴルについては,危険度が有効性を上回ることから,認可しないという判断をFDAが2020年6月に下している.4.GB.102(スニチニブリンゴ酸塩)(GrayBugVision社)スニチニブリンゴ酸塩はチロシンリン酸化阻害薬であり,すべてのVEGF受容体の細胞内シグナルを阻害することから,非常に強力な抗VEGF作用を発揮する.GB-102はナノ粒子カプセル化スニチニブリンゴ酸塩であり,硝子体内注射後に緩徐に生体内で分解されスニチニブリンゴ酸塩が長期にわたり徐放されることになる.nAMDを対象とした第IIb相臨床試験〔ALTISSIMO試験(NCT03953079)〕では,GB-102(1mg)投与群における補助治療までの期間の中央値は5カ月であり,48%が6カ月以内の補助治療が必要でなかったという結果となった.しかしながら,視力変化についてはGB-102(1mg)投与群で平均9文字の低下と芳しくなかった.III長期間作用型VEGF阻害網膜疾患に対する現行の抗VEGF療法の最大の問題点は頻回治療が必要となることである.頻回治療は頻回通院や高い治療費につながることから,間違いなく患者側の負担を大きくしている.また,医療提供者側においても頻回治療に対応する外来システムを構築・維持するという点で大きな負担になっている.この問題を解決するためには,現行薬をはるかに上回る長期間作用型の抗VEGF薬が必要であり,いくつかの製薬企業が異なるアプローチで取り組んでいる(図3,4).138あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(6)PDS:portdeliverysystem(ポートデリバリーシステム),VEGF:血管内皮増殖因子,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,FDA:米国食品医薬品局,AAV:アデノ随伴ウイルス.ラニビズマブPortDeliverySystem(PDS)(Roche社/Genentech社)abcdefADVM-022(AdvermBiothechnologies社)(HolekampNM,etal:Ophthalmologyinpressより)(https://www.retinalphysician.com/issues/2020/special-edition-2020/gene-therapy-for-neovascular-amdより)図3ラニビズマブPDSとADVM.022・ラニビズマブPDSでは,ラニビズマブを眼内に徐放するためのデバイス(薬剤の再注入が可能)を強膜に埋め込むことによってラニビズマブのもつ抗VEGF作用をより長期に発揮させるというコンセプトを採用している.・nAMDを対象とした第III相臨床試験では,ラニビズマブPDS(24週間隔再注入)群ではラニビズマブ0.5mg(4週間隔投与)群との比較で,36.40週時点の最高矯正視力のベースラインからの平均変化量で非劣性であることが証明されている.・FDAは2021年10月にラニビズマブPDSをnAMDの治療法として認可した.・ADVM-022はアフリベルセプト類似の蛋白をコードした遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV.7m8)ベクターである.・このAAVベクターを硝子体注射すると,ウイルスに感染した網膜細胞が継続的にアフリベルセプト類似蛋白を産生することから長期的なVEGF阻害が期待できる.・難治性のnAMD患者を対象とした第I相臨床試験では,60%の患者で1年以上にわたり抗VEGF薬硝子体内注射の必要がなく,1年間の注射回数も85%減少と良好な結果であった.図4RGX.314とKSI.301AAV:アデノ随伴ウイルス,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,DME:糖尿病黄斑浮腫.RGX-314(Regenxbio社)(https://www.retinalphysician.com/issues/2020/special-edition-2020/gene-therapy-for-neovascular-amdより)KSI-301(KodiakSciences社)(https://kodiak.com/our-science/より)・RGX-314はラニブズマブ類似の蛋白をコードした遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV8)ベクターである.・nAMDを対象とした第I/IIa相臨床試験では,硝子体手術を行いRGX-314を網膜下に注入するという投与方法を採用した.・同試験では重大な安全性の懸念なく1年間に必要な抗VEGF薬硝子体内注射の回数を減少させたと中間報告されている.・RGX-314脈絡膜腔投与の効果と安全性評価のための第II相臨床試験がnAMDとDMEを対象に進行中である.・KSI-301ではantigenbiopoly-merconjugate(ABC)platformという独自の技術を用いて薬物の硝子体内での半減期を著しく延長させることに成功している.・KSI-301はABCplatformを用いて作製された抗VEGF生体高分子複合体であり,臨床投与量ではモル比でラニビズマブの7倍,半減期でラニビズマブの4倍という特徴をもつ.・nAMDを対象とした第Ib相臨床試験では,維持期(10カ月間)における平均投与回数が2.0回,1年後の平均視力改善が5.7文字と良好な結果であった.硝子体疾患の手術加療に長けた眼科医が多いという特徴もあるため,ラニビズマブCPDSが日本で認可されれば現在のCnAMD診療のあり方が一変する可能性もあると筆者は考えている.ラニビズマブCPDSについては糖尿病網膜症およびCDMEへの適応拡大をめざした第CIII相臨床試験〔PAVILION試験(NCT04503551)とCPagoda試験(NCT04108156)〕が進行中である.C2.ADVM.022(AdvermBiothechnologies社)以前は網膜疾患に対する遺伝子治療というと対象が遺伝性網膜疾患に限定されるイメージであったが,必要な薬剤をコードする遺伝子を導入する目的での遺伝子治療が近年試みられてきた.ADVM-022はアフリベルセプト類似の蛋白をコードした遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV.7m8)ベクターである.このCAAVベクターを硝子体内注射すると,ウイルスに感染した網膜細胞が継続的にアフリベルセプト類似蛋白を産生することから長期的なCVEGF阻害が期待できる.第CI相臨床試験であるCOPTIC試験(NCT03748784)では,難治性のnAMD患者を対象にCADVM-022の安全性と忍容性の評価を行っている.その結果,60%の患者でC1年以上にわたり抗CVEGF薬硝子体内注射の必要がなく,1年間の注射回数もC85%減少しており,今後の第CII相臨床試験の結果が期待される.C3.RGX.314(Regenxbio社)RGX-314も薬剤遺伝子を導入する遺伝子治療薬に分類される.薬剤としてCRGX-314がCADVM-022と異なる点は,AAV8ベクターを使用していること,ラニビズマブ類似の蛋白をコードした遺伝子を搭載していることの二点となる.ただし,臨床試験ではCADVM-022が硝子体内注射を採用しているのに対し,RGX-314ではnAMDを対象とした第CI/IICa相臨床試験(NCT03066258)において硝子体手術を施行し,AAV8ベクターを網膜下に投与するという方法を採択している.中間報告では,重大な安全性の懸念なく年間に必要な抗CVEGF薬硝子体内注射の回数を減少させていることから,今後有望な治療法であると思われる.現在は,nAMDを対象としてCRGX-314網膜下投与の効果と安全性をラニビズマブ硝子体内注射と比較する第IIb/III相臨床試験〔ATMOSPHERE試験(NCT04704921)〕,およびRGX-314脈絡膜腔投与の効果と安全性評価のための第II相臨床試験〔nAMDを対象としたCAAVIATE試験(NCT04514653)と糖尿病網膜症を対象としたCALTI-TUDE試験(NCT04567550)〕で患者をリクルートしているという状況である.C4.KSI.301(KodiakSciences社)KodiakSciences社はCantigenCbiopolymerCconjugate(ABC)platformという独自の技術を用いて,薬物の硝子体内での半減期を著しく延長させることに成功した.この技術を用いて作製された抗CVEGF生体高分子複合体であるCKSI-301は,分子量がC950CkDaであり,臨床投与量ではモル比でラニビズマブのC7倍,半減期でラニビズマブのC4倍という特徴をもつ.nAMDを対象とした第CIb相臨床試験(NCT03066258)では,維持期(10カ月間)における平均投与回数がC2.0回,1年後の平均視力改善がC5.7文字と良好な結果であった.現在,nAMDを対象としたCDAZZLE試験(NCT04049266)とCDAYLIGHT試験(NCT04964089),DMEを対象としたCGLIMMER試験(NCT04603937)とCGLEAM試験(NCT04611152),網膜静脈閉塞症を対象としたBEACON試験(NCT04592419),非増殖糖尿病網膜症を対象としたCGLOW試験(NCT05066230)の第CIII相臨床試験(DAZZLE試験のみ第CII/III相臨床試験)が進行中である.CIVVEGF阻害+a抗CVEGF治療に抵抗する症例では,VEGFとは異なるシグナル伝達物質が病態に関与している可能性が否定できない.このコンセプトを基に開発されたのが,VEGF-A,VEGF-Bに加えて胎盤増殖因子(placentalCgrowthfactor:PlGF)とCGalectin-1を阻害できるアフリベルセプトである.したがって,高濃度アフリベルセプトについては,見方を変えればより強力なCVEGF阻害+a作用をめざした薬剤であるともいえる.また,先に紹介したCGB-102については,VEGF受容体1,2,3を阻害することから,それらのリガンドであるCVEGF-(9)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C141Conbercept(ChengduKanghongBiotech社)(https://www.retinalphysician.com/issues/2019/april-2019/the-phase-3-clinical-trial-of-conbercept-for-exudaより)ファリシマブ(Roche社/Genentech社)(https://www.retinalphysician.com/issues/2019/march-2019/the-mechanism-of-the-bispeci.c-antibody-faricimabより)図5Conberceptとファリシマブ・ConberceptはCVEGF受容体C-1の第C2ドメインと,VEGF受容体-2の第C3,4ドメインを取り出し,ヒトCIgG1のCFcドメインを融合させて作られた遺伝子組換え融合糖蛋白質であり,VEGF-A,VEGF-B,PlGFに結合し,それらのリガンドからのシグナル伝達を阻害することによって薬効を発揮する.・Conberceptは中国ではCnAMDを含む網膜疾患の治療薬として認可されている.・国外での適応取得をめざした第III相臨床試験はCCOVID-19のパンデミックの影響で中止となった.・ファリシマブはCVEGF-AとAngiopoietin-2(Ang-2)の両方に結合できるバイスペシフィック抗体であり,Fc部分の構造も薬剤の抗原性を低減するように修正が加えられている.・nAMDとCDMEを対象とした四つのCIII相国際共同臨床試験では,アフリベルセプト群に対する視力アウトカムでの非劣性が証明され,ファリシマブ群の多くで投与間隔の延長が達成できていた.・nAMDおよびCDMEに対する治療薬としての審査がCFDAとEMAで進行中である.VEGF:血管内皮増殖因子,PlGF:胎盤増殖因子,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,COVID-19:2019年に発生した新型コロナウイルス感染症,Angiopoietin:アンギオポエチン,DME:糖尿病黄斑浮腫,FDA:米国食品医薬品局,EMA:欧州医薬品庁.1.Conbercept(ChengduKanghongBiotech社)ConberceptはCVEGF受容体C1の第C2ドメインと,VEGF受容体C2の第C3,4ドメインを取り出し,ヒトIgG1のCFcドメインを融合させて作られた遺伝子組換え融合糖蛋白質である.その構造がアフリベルセプトに類似していることから想像されるとおり,ConberceptはCVEGF-A,VEGF-B,VEGF-C,PlGFに結合し,それらのリガンドからのシグナル伝達を阻害することによって薬効を発揮する.Conbercept硝子体内注射はnAMDに対する抗CVEGF薬としてC2013年に中国で認可され,その後に近視性脈絡膜新生血管とCDMEに対する適応が追加となっている.ChengduKanghongBio-tech社は国外での適応を取得するためのCnAMDを対象とした第CIII相国際共同臨床試験〔PANDA-1(NCT03577899)とCPANDA-2(NCT03630952)〕を開始したが,不幸なことにCCOVID-19のパンデミックの影響で大部分の患者が治療中止または経過観察および評価が不能という状態となり,これらの治験は中止となっている.C2.ファリシマブ(Roche社.Genentech社)通常抗体が同一の抗原にしか結合できないのに対し,バイスペシフィック抗体では左右の抗原結合部位が異なる抗原と結合できるようにデザインされている.バイスペシフィック抗体は生産上の課題が多かったが,Roche社の開発したCCrossMAbテクノロジーによって効率のよい抗体精製が可能となった.ファリシマブはCVEGF-AとCAngiopoietin-2(Ang-2)の両方に結合できるバイスペシフィック抗体であり,Fc部分の構造も薬剤の抗原性を低減するように修正が加えられている.Ang-2はおもに血管内皮細胞に発現する膜蛋白であるCTie2受容体のリガンドである.Tie2受容体の他のリガンドにはCAngiopoietin-1(Ang-1)があり,Ang-1/Tie2の結合により細胞シグナルを常に活性化することが血管構造の安定化に重要である.Tie2受容体シグナルの点ではAng-1はアゴニスト,Ang-2はアンタゴニストとして作用することが知られており,VEGF存在下でCAng-2が優位な状態となると,血管構造の不安定化を介してVGEFの有する血管新生作用と血管透過性亢進作用が増強されることになる.Roche社はC2021年C2月C12日にファリシマブを用いた四つの第CIII相国際共同臨床試験の結果を発表している.DMEを対象とした同一デザインのCYOSEMITE試験(NCT03622580)とCRHINE試験(NCT03622593)では,ファリシマブC6Cmg導入期投与後C2カ月間隔投与群,ファリシマブC6mg導入期投与後最長C4カ月間隔Cper-sonalizedCtreatmentintervals(PTI)投与群,アフリベルセプトC2Cmgを導入後C2カ月間隔投与群のC3群にランダムに割付し治療が行われた.主要評価項目であるC1年時点におけるベースラインからの最高矯正視力スコアの平均変化量については,いずれのファリシマブ群においてもアフリベルセプト群に対する非劣性が証明され,ファリシマブCPTI投与群のうちのC70%以上がC1年時点において投与間隔C3カ月以上を達成できていた.また,nAMDを対象とした同一デザインのCTENAYA試験(NCT03823287)とCLUCERNE試験(NCT03823300)では,主要評価項目であるC48週までのベースラインからの最高矯正視力スコアの平均変化量について,ファリシマブ群が一貫してアフリベルセプト群に対する非劣性を示し,ファリシマブ群の約C45%がC1年時点でC4カ月の治療間隔を達成できていた.ファリシマブが有するAng-2阻害作用が治療間隔の延長に貢献していることは容易に想像できるが,nAMDを対象とした第CII相臨床試験〔ONYX試験(NCT02713204)〕において抗Ang-2抗体であるCNesvacumabとアフリベルセプト2Cmgの併用療法がアフリベルセプトC2Cmgに対して優れた効果を示さなかったという試験結果を考えると,筆者はファリシマブC6Cmgのやや強い抗CVEGF作用も試験結果に貢献しているのではないかと考えている.第CIII相臨床試験における良好な結果を受けてCGenentech社はファリシマブのCnAMDおよびCDMEに対する治療薬としての申請をCFDAに提出した.FDAはC2021年C6月28日にこれを優先審査案件として受理しており,その結果が待たれる.また,同様の申請は欧州医薬品庁(EuropeanCMedicinesAgency:EMA)に対しても提出されていることから,近い将来に世界的にファリシマブが臨床で使用される可能性は高い.ファリシマブについては現在,nAMDおよびCDMEに対するCextensionstudyに加えて網膜静脈閉塞症を対象とした第CIII相臨床(11)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C143表1網膜疾患を対象とした抗VEGF薬の開発状況コンセプト薬剤作用機序構造治験CPhase対象疾患投与方法より強力なVEGF阻害高濃度アフリベルセプトCVEGF-A/PlGF/VEGF-B/Galectin-1阻害VEGF受容体1/2-Fc融合蛋白CPhase3CPhase3CnAMDCDME硝子体内注射より強力なVEGF阻害ブロルシズマブVEGF-A阻害CscFvCPhase3CPhase3CDMECPDR硝子体内注射より強力なVEGF阻害アビシパルペゴルVEGF-A阻害CDARPinCPhase3CPhase2CnAMDCDME硝子体内注射より強力なVEGF阻害CGB102(スニチニブリンゴ酸塩)VEGF受容体阻害(TKI)生体分解ナノ粒子カプセルCPhase2bCPhase2CnAMDCDME/RVO硝子体内注射長期間作用型VEGF阻害ラニビズマブPDSVEGF-A阻害CPDSCPhase3CPhase3CPhase3CnAMDCDRCDME硝子体内留置長期間作用型VEGF阻害CADVM-022CVEGF-A/PlGF/VEGF-B阻害CAAV.7m8CPhase1CPhase2CnAMDCnAMD硝子体内注射長期間作用型VEGF阻害CRGX-314VEGF-A阻害CAAV8CPhase2CPhase2CnAMDCDR網膜下注射/脈絡膜腔注射脈絡膜腔注射Phase3CnAMDC長期間作用型VEGF阻害CKSI-301VEGF-A阻害生体高分子複合体CPhase3CPhase3CDMECNPDRC硝子体内注射Phase3CRVOPhase3CnAMDCVEGF阻害+aConberceptCVEGF-A/VEGF-B/VEGF-C/PlGF阻害VEGF受容体1/2-Fc融合蛋白CPhase3CPhase3CPhase3CDMECRVOCmCNVC硝子体内注射Phase2CiCNVVEGF阻害+aファリシマブVEGF-A/Ang-2阻害バイスペシフィック抗体CPhase3CPhase3CPhase3CnAMDCDMECRVO硝子体内注射VEGF:血管内皮増殖因子,PlGF:胎盤由来成長因子,DARPin:designedCankyrinCrepeatingCprotein,scFV:単鎖可変領域フラグメント,TKI:チロシンキナーゼ阻害薬,PDS:ポートデリバリーシステム,AAV:adeno-associatedvirus,Ang-2:アンギオポエチン-2,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,DME:糖尿病黄斑浮腫,RVO:網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,DR:糖尿病網膜症,PDR:増殖糖尿病網膜症,NPDR:非増殖糖尿病網膜症,mCNV:近視性脈絡膜新生血管,iCNV:特発性脈絡膜新生血管.–