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脳静脈奇形を合併した出血性結膜リンパ管拡張症の症例

2021年12月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(12):1495.1498,2021c脳静脈奇形を合併した出血性結膜リンパ管拡張症の症例福井歩美*1,2横井則彦*1渡辺彰英*1外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2京都府立医科大学附属北部医療センターCACaseofHemorrhagicLymphangiectasiaoftheConjunctivaAssociatedwithCerebralVenousMalformationsAyumiFukui1,2)C,NorihikoYokoi1),AkihideWatanabe1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC出血性結膜リンパ管拡張症は結膜静脈とリンパ管の異常な結合により拡張したリンパ管内に血液が流入する疾患であり,報告例は少ない.出血性結膜リンパ管拡張症に脳静脈奇形を合併した症例を経験した.症例は生来健康なC17歳,女性.近医にて左眼の結膜リンパ.胞と診断され,穿刺や切除が行われたが術中の出血量が多く,手術は完遂困難であり,精査加療目的に当院紹介となった.初診時,びまん性の左結膜浮腫,数珠状に連なる拡張したリンパ管を認め,一部にリンパ管に流入した血液が水平面を形成しており,上眼瞼縁鼻側に脈管異常と思われる.胞性病変を認めた.頭部MRIでは左眼窩から前頭骨に及ぶリンパ管奇形,頭蓋内左小脳脚に静脈奇形を認めた.結膜リンパ管拡張症は点眼治療で症状の改善がない場合は外科治療の対象となる.本症例では精査により,先天性の脈管異常が診断された.出血性結膜リンパ管拡張症では,脈管異常の有無の検討が重要と考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofChemorrhagicClymphangiectasiaCofCtheconjunctiva(HLC)C,CaCdiseaseCinCwhichCbloodC.owsCintoCtheCabnormallyCexpandedClymphaticCvesselCthroughCtheCabnormalCconnectionCofCtheCconjunctivalCveinCandClymphaticCvessel.CCase:AC17-year-oldCfemaleCwithCHLCCinCherCleftCeyeCassociatedCwithCcerebralCveinCmalformationsCwasCreferredCafterCbeingCdiagnosedCasClymphaticCcystCofCtheCconjunctivaCresistantCtoCpunctureCandCresectioninwhichamassivehemorrhageoccurred,thusresultinginanincompleteoperation.Uponinitialexamina-tion,CcysticClesionsCinCtheClowerCconjunctivaCandCaCdilatedClymphaticCvesselCwithCformationCofCbloodCinCtheCupperCconjunctiva,CasCwellCasCvascularCabnormalityCatCtheCnasalCsideCofCtheCupperClidCmargin,CwereCobserved.CMagneticCresonanceimagingrevealedmalformationsoftheleftorbitandfrontalbone,andveinintheleftcerebellarpedun-cle.Conclusion:InHLCcases,itisimportanttoalsotakevascularabnormalitiesintoconsideration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(12):1495.1498,C2021〕Keywords:出血性結膜リンパ管拡張症,結膜リンパ.胞,脳静脈奇形,脈管異常,MRI.HemorrhagicClymphan-giectasiaofconjunctiva,lymphaticcyst,cerebralvenousmalformation,vascularabnormalities,MRI.Cはじめに結膜リンパ管拡張症は結膜のリンパ管が拡張し,結膜上に隆起を示す疾患である1).広範囲にわたるリンパ管拡張を認めるものと,限局性の.腫状病変となるものがあり1),結膜弛緩症との関連も指摘されている2).また,本疾患は日常臨床においてしばしば遭遇する.出血性結膜リンパ管拡張症は,結膜のリンパ管と静脈が異常吻合し,結膜リンパ管に血液が流入する疾患3)であり,1880年にCLeberによって初めて報告された3).好発年齢や性差はないとされ,過去の報告4,5)は特発性,先天性のもの,炎症,手術4),外傷を契機に発症したものなどさまざまであり,その発生機序は明らかではない.また,出血性結膜リン〔別刷請求先〕福井歩美:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:AyumiFukui,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC図1初診時の前眼部所見a,b:左眼下方結膜に広範囲に広がる.胞性病変を認める().c:鼻上側球結膜に出血性リンパ管拡張症を認め,上方球結膜のリンパ管に流入した血液が水平面を形成している().d:鼻側上眼瞼縁にも脈管異常を示唆する病変を認める().パ管拡張症に脈管奇形を合併する症例の報告は,筆者らの知る限りない.今回,出血性リンパ管拡張症の所見からCMRIを施行し,脳静脈奇形を看破できた症例を経験したので報告する.CI症例患者:17歳,女児.既往歴:幼少期に左下眼瞼から.部にかけて血管腫が出現し,自然消失した.また,2年前に左眼に結膜下出血が生じたが経過観察で消失した.現病歴:前医にて左眼の結膜リンパ.胞と診断され,穿刺や切除が行われたが,術中の出血量が多く,手術は完遂困難であった.結膜の.胞性病変は,術後も改善しなかったため,精査加療目的に当院に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.8(1.5C×sph.0.25D),左眼C1.2(1.2C×sph+1.00D),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C13mmHgであった.左眼下方結膜に広範囲にわたる.胞性病変を(図1a,b),上鼻側の球結膜に出血性リンパ管拡張症を認め,上方結膜のリンパ管に流入した血液が水平面を形成していた(図1c).さらに,鼻側上眼瞼縁に脈管異常によると考えられる.胞様病変を認めた(図1d).全身検査所見:幼少期に左顔面に血管腫を認めていたこと,.胞性病変が球結膜だけでなく上眼瞼縁にまで及んでいたことから脈管異常を疑い,頭部CMRIを撮像した.その結果,左眼窩内側にリンパ管拡張,リンパ管の異常を疑う高信号域(図2a),頭蓋内左小脳脚に静脈奇形を疑う所見(図2b),左前頭骨や眼窩周囲の軟部組織にもリンパ管奇形によるCSTIR高信号病変(図2c,d)を認めた.臨床経過:結膜のリンパ管異常の容量減少を目的に手術加療を行うことも考慮はしたが,出血のリスクが高いことから,経過観察を行う方針となった.経過観察期間中に両側鼻前庭部に有茎性の腫瘤を認めたため,耳鼻咽喉科で切除術を施行し,病理検査でリンパ管拡張症と診断された.現在も不定期に結膜下出血は起こしているものの,縮小や増大はなく,経過観察を継続している.CII考按出血性リンパ管拡張症はリンパ管の異常拡張部位に血管からの血液が流入する疾患であり,出血は自然消退することも多く6),まずは経過観察を行うが,出血が消退しない場合や再発を繰り返す場合には,各種の外科的治療が行われる場合がある.過去の報告では,Awdryは出血性結膜リンパ管拡図2頭部MRI(STIR画像)a:左眼窩内側に拡張したリンパ管,およびリンパ管の異常(円内)を認める.Cb:頭蓋内左小脳脚に静脈奇形を疑う所見(C.)を認める.Cc,d:左前頭骨,眼窩周囲にもCSTIR高信号病変を認め(円内および),リンパ管奇形が示唆される.張症と診断したC5例に対し,3例は経過観察で改善し,残りのC2例はジアテルミー凝固により速やかに改善したと報告している5).また,LochheadらはC9人の出血性結膜リンパ管拡張症の患者に対し,6例は自然経過で改善し,3例はアルゴンレーザー照射にて改善したと報告している7).一方,生下時より出血性リンパ管拡張症を認め,経過観察で改善したC2歳,女児の報告があり5),今回の症例においても,幼少期に左下眼瞼から.部にかけての血管腫の自然消退の既往があったことから,先天性に広範囲の脈管異常があった可能性が示唆される.また,今回の症例では,前医で術中の出血量が多く,リンパ.胞と診断された病変部の完全切除が困難であったことや,初診時に出血性リンパ管拡張症が確認され,眼瞼縁にも脈管異常がみられたことから,左眼の周囲組織に広範囲の脈管異常を伴う可能性が考えられ,精査を行うことで,脈管異常が眼窩内と頭蓋内にも証明できた.結膜リンパ管拡張症や結膜リンパ.胞は,日常診療でしばしば遭遇する結膜病変であるが,その病変が結膜にとどまらない可能性も考え,とくに,出血性結膜リンパ管拡張症の患者では,眼表面のみならず,眼瞼を含めた眼付属器をくまなく観察し,異常がみられた場合は,他の脈管異常の有無や範囲を検索したうえで治療を決定することが重要と考えられた.文献1)WelchCJ,CSrinivasanCS,CLyallCDCetal:ConjunctivalClym-phangiectasia:aCreportCofC11CcasesCandCreviewCofClitera-ture.SurvOphthalmolC57:136-148,C20122)WatanabeCA,CYokoiCN,CKinoshitaS:ClinicopathologicCstudyofconjunctivochalasis.CorneaC23:294-298,C20043)LeberT:LymphangiectasiaChaemorrhagicaCconjunctivae.CGraefesArchOphthalmolC26:197-201,C18804)KyprianouCI,CNessimCM,CKumarCVCetal:ACcaseCofClym-phangiectasiaChaemorrhagicaCconjunctivaeCfollowingCphacoemulsi.cation.ActaOphthalmolScandC82:627-628,C20045)AwdryP:Lymphangiectasiahaemorrhagicaconjunctivae.BrJOphthalmolC53:274-278,C19696)HuervaCV,CTravesetCAE,CAscasoCFJCetal:SpontaneousCresolutionofararecaseofcircumferentiallymphangiecta-siahaemorrhagicaconjunctivae.Eye(Lond)28:912-914,C20147)LochheadJ,BenjaminL:Lymphangiectasiahaemorrhagi-caconjunctivae.Eye(Lond)C12(Pt4):627-629,C1998***

基礎研究コラム:55.眼とリンパ管

2021年12月31日 金曜日

眼とリンパ管リンパ管の歴史ヒトのリンパ系は間質液や蛋白質を含む高分子を除去したり,免疫細胞をリンパ節に輸送したりと,体液の恒常性にとって重要な役割を担っています.日本におけるリンパ管研究は杉田玄白の『解体新書』(1774年)に始まりますが,血液と異なり,無色透明なリンパ液は長年研究が進んできませんでした.近年,リンパ管内皮細胞マーカーであるCpodo-planinやClymphaticCvesselCendothelialChyaluronanCrecep-tor-1(Lyve1)の発見によりリンパ管研究は大きく発展しました.リンパ管はほとんどの臓器に存在しますが,中枢神経系,骨髄,軟骨,角膜,表皮などの無血管組織では存在が否定されてきました.しかし,長年存在が否定されてきた中枢神経系である脳において,硬膜静脈洞を覆う機能的リンパ管の存在が明らかとなりました1).眼の領域ではどうでしょうか眼球においては,正常時の結膜や視神経で存在が確認されています.一方,虹彩や線維柱帯,Schlemm管,毛様体,網膜,脈絡膜では,リンパ管構造が確認されたという報告と確認できなかったという矛盾した報告があります.一般にリンパ管形成は血管形成と同様に胎児期に生じ,静脈系の血管から分離することが知られています.また,癌や炎症などの病的状態では,血管新生に続いてリンパ管新生が生じること,二次的なリンパ管新生には血管新生にも重要なCvascularendothelialCgrothfactor(VEGF)-A,-Cが関与していることが知られており2),結膜と角膜では二次的なリンパ管新生が生じることが明らかとなっています.では慢性炎症性疾患である糖尿病網膜症ではどうでしょうか?糖尿病黄斑浮腫における間質液の貯留や,増殖糖尿病網膜症における網膜血管新生の発症にCVEGF-Aが関与していることは周知の事実ですが,網膜における二次的なリンパ管新生については十分に検討されてきませんでした.そこで糖尿病モデルマウスを用いて検討を行い,網膜の遺伝子発現図1糖尿病モデルマウス(12月齢)Lyve-1陽性細胞(赤)がCCD31陽性血管構造(緑)を被覆するように存在している.和田伊織九州大学大学院医学研究院眼科学分野,DohenyEyeInstitute,UCLAを調べたところ,VEGF-A,-Cのみならず,podoplanin,Lyve1,リンパ管内皮細胞の制御遺伝子であるCProx1の有意な発現を認めましたが(p<0.05),明らかなリンパ管様構造は認めませんでした3).しかし,老齢のマウスではCLyve1陽性細胞が血管周囲を被覆するように存在していました(図1).最近の研究では,Lyve-1陽性細胞がリンパ管の代わりに網膜のホメホスタシスを維持している可能性が示唆されています.今後の展望糖尿病網膜症の硝子体組成に関する研究は進んできた一方,病態の背景にある炎症,創傷治癒,血管新生については依然として不明な点が多く存在します.リンパ管新生のメカニズムを理解することは,疾患の新規治療戦略のために重要です.また最近の研究では,増殖糖尿病網膜症患者の線維血管組織をCexvivo培養すると,リンパ管内皮細胞の構造をもつProx1陽性毛細血管を形成することが示されました4).ある一定の条件下では網膜にリンパ管構造が形成されることを示唆しており,今後のさらなる検討が待たれます.文献1)LouveauCA,CSmirnovCI,CKeyesCTJCetal:StructuralCandCfunctionalCfeaturesCofCcentralCnervousCsystemClymphaticCvessels.NatureC523:337-341,C20152)LimCHY,CLimCSY,CTanCCKCetal:HyaluronanCreceptorCLYVE-1-expressingCmacrophagesCmaintainCarterialCtoneCthroughChyaluronan-mediatedCregulationCofCsmoothCmus-clecellcollagen.ImmunityC49:1191,C20183)WadaCI,CNakaoCS,CYamaguchiCMCetal:RetinalCVEGF-ACoverexpressionisnotsufficienttoinducelymphangiogene-sisCregardlessCVEGF-CCupregulationCandCLyve1+Cmacro-phageinfiltration.InvestOphthalmolVisSciC62:17,C20214)GucciardoCE,CLoukovaaraCS,CKorhonenCACetal:TheCmicroenvironmentCofCproliferativeCdiabeticCretinopathyCsupportslymphaticneovascularization.JPatholC245:172-185,C2018C(123)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14870910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:223.硝子体手術における空気液置換時の網膜下空気迷入(初級編)

2021年12月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載223223硝子体手術における空気液置換時の網膜下空気迷入(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに裂孔原性網膜.離の手術に際して,大きな裂孔を有する眼では,網膜下に気体迷入が生じることはよく知られているが,硝子体手術中に気圧伸展網膜復位術を施行し,再度空気液置換を行ったときに,小さなバブルが網膜下に迷入することがある.●症例提示56歳,女性.左眼の裂孔原性硝子体出血で発症.出血を避けて上鼻側やや深部の大きな裂孔,およびそれに続く網膜格子状変性巣周囲に光凝固を施行したが,凝固斑を越えて網膜.離が急速に拡大してきた.手術はまず超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行したのち,コア硝子体を切除した.後部硝子体.離はすでに生じており,網膜格子状変性巣および裂孔周囲の硝子体をできるだけ切除した.その後,気圧伸展網膜復位術を施行したが,網膜下液が後極にシフトしたため,灌流液に戻した.このときに灌流液が勢いよく注入されたため,細かいバブルが多数発生し(図1),一部が網膜下に迷入した.バックフラッシュニードルで裂孔を介して吸引除去した(図2)が,バブルが一部最周辺部の網膜下に残存した(図3).裂孔および網膜格子状変性巣周囲に眼内光凝固を施行し手術を終了したが,術後ガスの減少とともに周辺部から再.離をきたしたため,液空気置換と光凝固を追加し復位を得た.●液置換時の網膜下空気迷入網膜.離を気圧伸展網膜復位術でいったん復位させ,再度空気液置換を施行する際に,水流によってバブルが生じ,それが裂孔を介して網膜下に迷入することがある.とくに本提示例のように裂孔が比較的大きく,やや後極に位置する場合はこのような合併症が生じやすい.バブルが少量であればそのまま自然吸収するが,量が多(121)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1術中所見(1)灌流液が勢いよく注入されたため,多数のバブルが生じた.図2術中所見(2)網膜下に迷入した細かいバブルをバックフラッシュニードルで吸引除去した.図3術中所見(3)強膜圧迫をして眼底周辺部を観察すると,眼底最周辺部に移動したバブルが認められた().術後,網膜を挙上して裂孔閉鎖不全の原因になったものと考えられた.いと術後の網膜復位の妨げとなり,裂孔閉鎖不全の原因となることがある.本合併を回避するためには,灌流液を再注入する際に,バブルが生じにくいようにゆっくりと空気液置換を行うことが必要である.また,いったん気圧伸展網膜復位術で復位させたあとは,不必要に灌流液に戻すことは極力避けるべきと考えられる.あたらしい眼科Vol.38,No.12,20211485

抗VEGF治療:光干渉断層血管撮影の加齢黄斑変性における活用法

2021年12月31日 金曜日

●連載114監修=安川力髙橋寛二94光干渉断層血管撮影の加齢黄斑変性山本学大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学における活用法光干渉断層血管撮影(OCTA)は無侵襲に網脈絡膜の血流を検出できる検査で,滲出型加齢黄斑変性(AMD)でも,数多くの検討がなされ有用性が報告されている.本稿では,AMDの診断や治療におけるCOCTAの活用法について紹介する.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)の治療において重要な点は,AMDの診断と治療後の活動性評価の二つである.これまで,AMDの主要な検査はカラー眼底写真,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)・インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA),光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)によるマルチモーダルな評価が一般的であったが,最近では光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)も加えた見解が確立しつつある.CAMDの診断AMDの診断では,典型CAMDとしての脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)としてのポリープ状病巣や異常血管網,網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousCproliferation:RAP)としての網膜C-網膜血管吻合(retinalCretinalCanastomo-sis:RRA),網膜-脈絡膜血管吻合(retinalCchoroidal図11型脈絡膜新生血管アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法の治療後.治療3カ月後で網膜内・網膜下液は消失し,CNVも縮小している.治療C8カ月後ではCOCTで明らかな変化はみられないが,OCTAではCCNVが発達している.anastomosis:RCA)を検出し,分類する必要がある.CNVの検出率はCFA,IA,OCTAで有意差がなかったとされる1).また,造影検査では蛍光漏出があるのに対しCOCTAでは血管構造のみを深さ情報を含めて抽出できるため,CNVの詳細な状態をもっとも検出しやすい検査であるとも考えられる(図1左).PCVでは,ポリープ状病巣の検出率は報告により違いがあるが,IAが高くCOCTAが低い2).これはポリープ内の血流は他の血管病変に比較し少ないことや,ポリープの存在部位の深さが一定でないことなどが関与していると考えられている.各COCTAの検出機器に備わっている自動層別解析に反映されにくい点も大きく,手動で層別解析を行うことで検出できる場合ある.一方,異常血管網はCNVと同様にCOCTAでも明瞭に描出されることが多く,IAと同等に評価できる(図2上段).RAPでは,RRAやCRCAはCCNVと同じく血管病変であり,血流も豊富であるのでCOCTAで検出しやすい3).ただし,高い網膜色素上皮.離や網膜内浮腫,出血は,しばしばOCTA上ではアーチファクトとしてCRRAやCRCAの検出を妨げたり,病変の深さを誤認したりする要因となるので注意を要する.CNVの特殊な型として,最近提唱(119)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14830910-1810/21/\100/頁/JCOPY治療前治療3カ月後図2ポリープ状脈絡膜血管症アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法の治療後.治療前はCOCTAで異常血管網が検出されているが,ポリープはループ状血管陰影として認める.治療C3カ月後では,ポリープは消失し,ポリープに連なる栄養血管の退縮もみられる.されているCpachychoroidneovasculopathy(PNV)も重要である.中心性漿液性脈絡網膜症との鑑別が必要となるが,OCTAでCCNVの存在を確認できれば,PNVと診断できる.CAMDの治療後評価造影剤を使用するCFA・IAは治療後に頻回に施行するのはむずかしいが,OCTやCOCTAは無侵襲であるため,毎回の診療ごとに評価も可能である.FluidCStudyにみられるように4),最近では活動性評価にCOCTを用いることが多くなったが,あくまで網膜内外に存在する浸出液の有無による間接的な評価である.それでもかなり十分な活動性評価ができるようになっているが,これにCOCTAを組み合わせることで,さらに詳細かつ正確に評価できるようになる.治療後の活動性評価のポイントは,治療後早期(導入期)と慢性期(維持期)で異なる.先にCCNVの検出率について述べたが,定期的にCNVの変化をとらえるにはCOCTAが最適である.OCTで浸出液がみられない場合などでは,造影検査ははばかられるが,OCTAであれば簡便に評価ができる.導入期では,治療前にみられた滲出性病変がしっかりと落ち着いていることを確認する.OCTでは網膜内・網膜下液や網膜色素上皮.離の減少・消失がみられ,OCTAではCCNVの退縮を認める(図1中央).PCVでは,OCTAはポリープ状病巣の検出率が悪いため診断には不適であるが,治療後の評価にはCOCTAも活用できる.導入期治療でポリープの閉塞が得られた場合,ポリープの栄養血管を含む異常血管網の退縮もみられる(図2下段).維持期では,CNVの活動性の再燃をいち早く検出することが肝要である.頻繁な造影は避けるべC1484あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021く,現在,治療評価の主流はCOCTによる滲出液の所見になっているが,活動性消失時のCOCTAをベースラインとすることにより,維持期の悪化をCOCT単独よりつかみやすくなる.臨床的には,FA・IAやCOCTで活動性がみられなくても,OCTAでCCNVの拡大がみられることがあり,病態や活動性に関して新たな解釈を必要とする場合がある(図1右).最近のメタアナリシスでは,病型にかかわらず,OCTAによるCCNVの活動性の評価はCFAと同等かそれ以上であり,高い診断価値があるとされている5).今後このような活用方法が確立されてくれば,さらに病態に即したCAMDの治療が望めるものと思われる.文献1)野崎美穂,園田祥三,丸子一朗ほか:網脈絡膜疾患における光干渉断層血管撮影と蛍光眼底造影との有用性の比較.臨眼71:651-659,C20172)TanakaCK,CMoriCR,CKawamuraCACetal:ComparisonCofCOCTCangiographyCandCindocyanineCgreenCangiographicC.ndingsCwithCsubtypesCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopa-thy.BrCJOphthalmol101:51-55,C20173)TanAC,DansinganiKK,YannuzziLAetal:Type3neo-vascularizationCimagedCwithCcross-sectionalCandCenfaceCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CRetinaC371:C234-246,C20174)GuymerRH,MarkeyCM,McAllisterILetal:Toleratingsubretinal.uidinneovascularage-relatedmaculardegen-erationCtreatedCwithCranibizumabCusingCaCtreat-and-extendregimen:FLUIDCStudyC24-monthCresults.COph-thalmologyC126:722-734,C20195)WangM,GaoS,ZhangYetal:Sensitivityandspeci.cityofopticalcoherencetomographyangiographyinthediag-nosisCofCactiveCchoroidalneovascularization:aCsystematicCreviewCandmeta-analysis:GraefesCArchCClinCExpCOph-thalmol,C2021.Cdoi:10.1007/s00417-021-05239-4(120)

緑内障:緑内障と炎症細胞の関係

2021年12月31日 金曜日

●連載258監修=山本哲也福地健郎258.緑内障と炎症細胞の関係小島祥熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座緑内障はさまざまな要因が絡み合って生じる多因子疾患である.病態生理は未解な部分も多く,治療に難渋することもある.炎症は生体の基本的な防御反応であるが,慢性炎症や過剰な炎症は疾患発症の契機となる.今回は緑内障と炎症細胞について,線維柱帯,網膜神経節細胞,濾過手術の視点からその関係性を探る.●はじめに炎症とは,生体が傷害されたときに生じる防御反応で,その場に集まってくる細胞が炎症細胞とよばれている.急性期では好中球,慢性期においては,リンパ球,マクロファージ,形質細胞などの炎症細胞が優位となるといわれているが,実際の炎症の場では,細胞間相互作用にかかわるサイトカインの影響を受けながら,複雑なネットワークが存在している.緑内障と炎症細胞,一見あまりかかわりのなさそうな組み合わせだが,探ると緑内障の病態生理から治療成績まで,多方面で炎症細胞の存在がみえてくる.C●線維柱帯と炎症細胞眼内組織を栄養し眼圧を規定している房水の組成は特有で,房水内にはさまざまなサイトカインが存在する.房水流出における主経路(線維柱帯→CSchlemm管→集合管→上強膜静脈)は,眼圧コントロールの主座であり,線維柱帯に存在する細胞の相互作用により恒常性が維持されているが,房水内のサイトカインは,線維柱帯やSchlemm管内皮細胞に作用し,流出抵抗に影響を与える.線維柱帯はコラーゲンを中心とするビーム状またはシート状の線維性結合組織と,その表面に存在する線維柱帯細胞からなる組織で,前房側から,線維柱帯ぶどう膜部,角強膜網線維柱帯,傍CSchlemm管結合組織に分けられ,組織間隙は徐々に狭くなり流出抵抗は大きくなる.線維柱帯に主として存在する線維柱帯細胞は,マクロファージ様の機能や神経堤由来細胞の要素など,多彩な機能をもつ細胞で,その性質は部位によっても異なることが指摘されているが,線維柱帯はサイズや構造の複雑さから詳細な検証が困難な組織でもあり,不明な点もまだ多い.緑内障の線維柱帯にマクロファージや形質細胞などの炎症細胞の浸潤を認めたという報告1)は,主経路における房水流出に炎症細胞が関与している可能性を(117)示している.シングルセルCRNA解析は,近年の技術発展により急速に普及した解析方法で,1細胞ごとの遺伝子発現プロファイルを一度で網羅的に取得することができる.このシングルセルCRNA解析法により,これまでの技術では評価困難であった主経路に存在する細胞集団が特定され2,3),線維柱帯においてのマクロファージの存在も明らかとなった.線維柱帯細胞は複数のサイトカインを産生する細胞でもあり,線維柱帯が炎症細胞との相互作用を介して房水流出に影響を与える可能性が示唆される.C●網膜神経節細胞と炎症細胞緑内障性視神経症の本態は網膜神経節細胞死であり,篩状板の構造変化に伴う軸索障害により引き起こされる.軸索障害から網膜神経節細胞死までの過程にはさまざまな要因が関与するといわれているが,緑内障の網膜組織内で複数の炎症性サイトカインが上昇しているという報告があり4),炎症の関与も指摘されている.ラット高眼圧モデルにおける網膜において,組織マクロファージの活性や炎症性サイトカインの上昇と網膜神経節細胞死が確認されている5).さらにこの実験系において,高眼圧になっていない対眼の網膜に網膜神経節細胞死が生じていたことから,炎症細胞やサイトカインが病態を伝達する可能性も示唆されている.また,ミクログリアは中枢神経系を構成する常在性マクロファージであるが,緑内障モデルマウスでミクログリアの活性が確認され,ミクログリアの活性化が網膜神経節細胞死に関与している可能性も示唆されている.C●濾過手術と炎症細胞トラベクレクトミーは眼圧下降効果に優れた緑内障濾過手術の代表であるが,術後の創傷治癒過程で,手術で作製した房水流出路から濾過胞にかけて過剰な線維化が生じると手術成績は不良となる.組織の創傷治癒過程では,線維芽細胞の活性化による筋線維芽細胞化が線維化あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14810910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1実際に撮影したマウス生体眼イメージングの三次元画像(a)とその解析画像(b)三次元で取得した画像に時間軸を合わせて四次元的な解析ができる.炎症細胞がCGFPでラベルされたマウスを用いており,炎症細胞は緑色の球体として可視化される.赤は血管,青は結膜下組織や強膜を表している.解析では緑で表された個々の細胞の軌跡をとらえ(白色の球体),軌跡の長さと撮影時間から細胞の移動速度がわかる.(文献C7より転載)進展を促すことが知られているが,その活性化に炎症細胞を含むさまざまな細胞や伝達物質を介する複雑な細胞間ネットワークが存在することが明らかになってきている.房水中のCMCP-1(monocyteCchemoattractantCpro-tein-1)はトラベクレクトミーの予後不良因子であり,作製した房水流出路の線維化に影響する6).MCP-1は単球やリンパ球の走化因子として知られている炎症性サイトカインのひとつであることから,創傷治癒初期の反応である炎症細胞の浸潤において線維化促進にかかわると推察される.筆者らは,生きたマウスの結膜組織中の炎症細胞を観察する系を確立し,「生きた」炎症細胞の動態を可視化した.炎症が惹起された状態において,炎症細胞は活発に動くことが予想されたが,実際に炎症細胞が速度を上げて創部周辺を動き回る様子がとらえられた(図1)7).この系を用いて創傷負荷や薬物負荷を行うことで,その刺激による炎症細胞の挙動の変化を検証することができる.炎症細胞の動きや機能をリアルタイムで観察することにより得られる情報は貴重で,病態解明に役立つことが期待される.C●おわりに炎症細胞は緑内障のいろいろな場面で関与している.炎症細胞の機能やそれを制御するサイトカインの関連を探索することは面白く,その理解を深めることが,緑内障診療の発展につながることを期待する.C1482あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021文献1)TauroneS,RipandelliG,PacellaEetal:Potentialregula-toryCmoleculesCinCtheChumanCtrabecularCmeshworkCofCpatientswithglaucoma:immunohistochemicalpro.leofanumberCofCin.ammatoryCcytokines.CMolCMedCRepC11:C1384-1390,C20152)PatelCG,CFuryCW,CYangCHCetal:MolecularCtaxonomyCofChumanCocularCout.owCtissuesCde.nedCbyCsingle-cellCtran-scriptomics.ProcNatlAcadSciC117:12856-12867,C20203)vanZylT,YanW,McAdamsAetal:Cellatlasofaque-oushumorout.owpathwaysineyesofhumansandfourmodelCspeciesCprovidesCinsightCintoCglaucomaCpathogene-sis.ProcNatlAcadSciC117:10339-10349,C20204)GramlichOW,BeckS,VonThunUndHohenstein-BlaulNetal:EnhancedCinsightCintoCtheCautoimmuneCcomponentCofglaucoma:IgGCautoantibodyCaccumulationCandCpro-in.ammatoryCconditionsCinChumanCglaucomatousCretina.CPloSCOneC8:e57557,C20135)SapienzaCA,CRaveuCAL,CReboussinCECetal:BilateralCneuroin.ammatoryCprocessesCinCvisualCpathwaysCinducedCbyCunilateralCocularChypertensionCinCtheCrat.CJNeuroin.ammationC13:44,C20166)KojimaCS,CInoueCT,CNakashimaCKCetal:FilteringCblebsCusingC3-dimensionalCanterior-segmentCopticalCcoherencetomography:aCprospectiveCinvestigation.CJAMACOphthal-mol133:148-56,C20157)KojimaS,InoueT,KikutaJetal:Visualizationofintravi-talimmunecelldynamicsafterconjunctivalsurgeryusingmultiphotonCmicroscopy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC57:C1207-1212,C2016(118)

屈折矯正手術:白内障術後屈折誤差の実際

2021年12月31日 金曜日

監修=木下茂●連載259大橋裕一坪田一男259.白内障術後屈折誤差の実際神谷和孝北里大学医療衛生学部視覚生理学国内C12施設間の術前バイオメトリーには地域・施設間差異を多く認め,とくに眼内レンズ度数計算において重要な眼軸長,角膜屈折力,前房深度は顕著であった.BarrettUniversalII式はCSRK/T式と比較して,有意に近視側へ予測し,絶対誤差は少なく,長眼軸眼で良好,短眼軸ではやや不良であったが,一部の施設ではSRK/T式が予測性良好であった.術前バイオメトリーやもっとも精度の高い計算式には一定の地域・施設間差異が存在し,各施設における最適化の重要性が示唆された.●はじめに白内障手術時に挿入する眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数は,術前眼軸長,角膜屈折力,前房深度,角膜厚などの術前生体計測データと,IOL自体の屈折率,推定術後前房深度,A定数のパラメータを基に,IOL度数計算式と施設による補正を加えて決定される.現代における白内障手術は安全性や有効性が高く,患者視機能や満足度を考えるうえで,最適なCIOL度数を選択し,より精度の高い屈折矯正を行うことが重要となっている.屈折矯正手術としての予測性を向上するためには,白内障手術前における正確な生体計測データの取得および最適なCIOL度数計算式を選択する必要がある.これまで白内障手術における生体計測データ(バイオメトリー)やCIOL度数計算式を用いた予測性は単一施設内で検討されることがほとんどであり,全国調査によって地域間・施設間で直接比較した報告はない.今回JSCRSデータ解析委員会として,国内主要施設における白内障手術前後データを調査し,バイオメトリーの地域差がどの程度存在し,IOL度数計算にどのような影響を及ぼしているのか検討したので紹介する1).C●対象2019年6月.2020年8月に国内主要12施設(江口眼科病院,佐藤裕也眼科,獨協医科大学病院,北里大学病院,順天堂大学静岡病院,金沢医科大学病院,中京眼科,ツカザキ病院,岡本眼科,林眼科病院,宮田眼科病院,安里眼科)(図1)において白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術および単焦点CIOL挿入術)を計画し,術前スウェプトソース式前眼部光干渉断層計生体計測装置(115)IOLMaster700(CarlCZeissMeditec社)またはOA-2000(トーメーコーポレーション)で測定可能であった連続症例C2,143例C2,143眼を対象とした.術後矯正視力0.7未満の症例,白内障以外の器質的眼疾患(ドライアイ,眼炎症疾患,眼感染症など)や眼科手術の既往がある症例,術中・術後合併症を生じた症例,縫合を要した症例,.外固定を行った症例は除外した.両眼手術症例は無作為に片眼のみ解析に使用した.本装置を用いて平均角膜屈折力,角膜乱視,角膜厚,眼軸長,前房深度,水晶体厚,核硬化度を測定し,地域・施設間の比較を行った.また術後自覚屈折を測定し国内でもっとも頻用されているCSRK/T式およびCBarrettCUniversalII式を用いて2),予測誤差,絶対誤差,目標屈折度数から±0.25,0.5,1.0D以内の割合を検討した.あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14790910-1810/21/\100/頁/JCOPY表1国内12施設間におけるSRK.T式とBarrettUniversalII式の予測誤差,絶対誤差SRK/T式BarrettUniversalII式予測誤差絶対誤差絶対誤差中央値予測誤差絶対誤差絶対誤差中央値(diopter)(diopter)(diopter)(diopter)(diopter)(diopter)江口眼科(北海道)C.0.05±0.60C0.46C±0.38C0.36C.0.00±0.55C0.42C±0.35C0.34佐藤裕也眼科(宮城)C0.05C±0.39C0.30C±0.25C0.24C.0.13±0.38C0.29C±0.27C0.20獨協医大(栃木)C0.01C±0.59C0.46C±0.37C0.40C.0.06±0.55C0.44C±0.32C0.41北里大(神奈川)C0.15C±0.47C0.34C±0.35C0.25C.0.04±0.36C0.25C±0.26C0.17順天堂大静岡(静岡)C0.41C±0.47C0.44C±0.44C0.32C0.27C±0.39C0.29C±0.37C0.17中京眼科(愛知)C0.02C±0.56C0.39C±0.40C0.31C.0.13±0.5C0.36C±0.37C0.27金沢医大(石川)C.0.03±0.59C0.42C±0.42C0.34C.0.03±0.61C0.43C±0.43C0.36ツカザキ病院(兵庫)C.0.06±0.46C0.34C±0.32C0.26C.0.23±0.42C0.37C±0.31C0.32岡本眼科(愛媛)C.0.06±0.56C0.43C±0.37C0.32C.0.17±0.5C0.38C±0.37C0.29林眼科(福岡)C0.01C±0.61C0.41C±0.46C0.27C.0.18±0.45C0.36C±0.32C0.26宮田眼科(宮崎)C.0.21±0.47C0.40C±0.33C0.31C.0.34±0.46C0.45C±0.35C0.40安里眼科(沖縄)C.0.06±0.43C0.34C±0.27C0.29C.0.19±0.40C0.33C±0.30C0.27C●結果国内C12施設における白内障術前バイオメトリーにおいて眼軸長,前房深度,水晶体厚,中心角膜厚に有意な施設間差異を認めた.とくに東日本より西日本は前房深度が浅い傾向があり,沖縄はかなり浅く,久米島スタディによる前房深度の検討とも一致していた3).このような前房深度の違いは手術自体の安全性を考えるうえで重要であり,白内障手術難易度についても地域差があることが示唆された.さらに沖縄・南九州は他の地域と比較して眼軸長が短い傾向にあり,やはり民族学的背景による差異(琉球民族Cvs.大和民族)があるのかもしれない4).SRK/T式・BarrettUniversalII式の予測誤差や絶対誤差を表1に示す.予測誤差はCSRK/T式がC0.01C±0.54Dであり,BarrettCUniversalII式はC.0.01±0.49Dである.絶対誤差はCSRK/T式がC0.39C±0.37Dであり,Bar-rettCUniversalII式はC0.36C±0.34Dであり,いずれも有意差を認めた.眼軸長別の検討では,SRK/T式の予測誤差はCBarrettUniversalII式と比較して,短眼軸長眼(22Cmm未満)や正常眼軸長(22Cmm以上C26Cmm未満)で有意に遠視側へ予測したが,長眼軸長眼(26Cmm以上)では有意差を認めなかった.SRK/T式の絶対誤差はCBarrettUniversalII式と比較して,短眼軸長眼では有意に小さく,長眼軸長眼では有意に大きかったが,正常眼軸長では有意差を認めなかった.興味深かったのは,SRK/T式がC12施設中C10施設で遠視側に予測していた一方,1施設では近視側に予測していたことや,12施設中C4施設で有意に絶対誤差が大きかったが,2施設では逆に有意に小さかったことであろう.C±0.25,C0.5,1.0D以内の割合はC2式間に有意差を認めなかった.その一方,各施設における検討では,C±0.25,0.5D以内のC1480あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021割合がC1施設ではCSRK/T式が有意に良好,1施設ではBarrettUniversalII式が有意に良好な結果が得られた.C●おわりに国内C12施設間の術前バイオメトリーには,有意な地域・施設間差異を多く認めることが判明し,とくにCIOL度数計算において重要となる眼軸長,角膜屈折力,前房深度は差異が顕著であった.国内全体としてみると,CBarrettCUniversalII式はCSRK/T式と比較して,有意に近視側へ予測し,絶対誤差は有意に少なかった.しかし,一部の施設ではCSRK/T式が良好な施設も存在していた.眼軸長別では,BarrettUniversalII式はCSRK/T式と比較して,長眼軸眼で良好,短眼軸ではやや不良であった.このことから,術前バイオメトリーについては,他施設データは応用困難であり,各施設における最適化の重要性が示唆された.IOL度数計算の流行やトレンドを追いかける必要はなく,自施設における従来のデータ蓄積の重要性を強調しておきたい.文献1)KamiyaCK,CHayashiCK,CTanabeCMCetal;DataCAnalysisCCommitteeCofCtheCJapaneseCSocietyCofCCataractCandCRefractiveSurgery:NationwideCmulticentreCcomparisonCofCpreoperativeCbiometryCandCpredictabilityCofCcataractCsurgeryCinCJapan.CBrCJCOphthalmolC2021.CEpubCaheadCofCprint2)佐藤正樹,神谷和孝,小島隆司ほか:2021JSCRSClinicalSurvey.IOL&RSC35:427-448,C20213)HenzanIM,TomidokoroA,UejoCetal:Ultrasoundbio-microscopicCcon.gurationsCofCtheCanteriorCocularCsegmentCinCaCpopulation-basedCstudyCtheCKumejimaCStudy.COph-thalmologyC117:1720-1728,C20104)KamiyaCK,CFujimuraCF,CIijimaK:RegionalCcomparisonCofCpreoperativeCbiometryCforCcataractCsurgeryCbetweenCtwoCdomesticinstitutions.IntOphthamolC40:2923-2930,C2020(116)

眼内レンズ:ペンシル型バイポーラを用いた落下水晶体除去手術

2021年12月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋421.ペンシル型バイポーラを用いた朝生浩日本大学医学部視覚科学系眼科学分野落下水晶体除去手術小切開硝子体手術が主流となった現在,落下水晶体を除去する方法として,液体パーフルオロカーボンを使用し,水晶体を浮上させる方法が報告されている.この方法はコスト,毒性,バブル化による迷入という問題を抱えるため,これらを解決すべく,ペンシル型バイポーラを用いた新たな手術法を考案した.●はじめに水晶体落下の原因には外傷,アトピー性皮膚炎,落屑症候群,先天性疾患(Marfan症候群など),そして医原性があげられる.最初から水晶体脱臼を生じたケースは臨床の現場ではそう多くないが,術中に核落下が起こる可能性は常に潜んでいる.術前から水晶体の落下が想定される場合は,あらかじめ硝子体手術器械を準備できるが,偶発的に生じた場合には,適切に落下した核を処理しなければ術後に患者のCQOV(qualityofvision)を大きく下げる原因となりうる.20G,23Gの硝子体手術システムの頃はフラグマトームを用いて硝子体中で水晶体を除去することができたが,25G,27Gのシステムではフラグマトームの設定はなく,この方法は行えない.硝子体カッターで水晶体を切除吸引する場合はカットレートをC500rpm程度まで下げると可能であるが,核硬化度が上がると切除吸引に非常に時間がかかる.Emery-Little分類でCGrade4を超えると硝子体カッターでの切除吸引は困難となってくる.その場合,落下水晶体を超音波乳化吸引する方法として,液体パーフルオロカーボン(per.uorocarbonliq-uids:PFCL)を用いて水晶体を浮上させる方法がある1)が,PFCLのある状態で超音波乳化吸引を行うと,カエルの卵のような無数のバブルが生じ,網膜下迷入の恐れや残留による毒性が懸念される.また,PFCLは,コストの問題も抱えるためこれらの問題点を解決すべく,筆者はペンシル型バイポーラを用いた落下水晶体除去手術を考案した.C●方法使用する器械は一般的な硝子体手術器械(25G,27G)とフェイコハンドピース,そしてペンシル型バイポーラである.ペンシル型バイポーラは先端に電流が流れ,眼内の血管の止血やマーキングを行うが,眼科用として販売されているもので問題はない(図1).(113)図1ペンシル型バイポーラを用いた手術の様子眼内用のバイポーラは先端に電流が流れ,熱凝固が可能である.バイポーラの先端と水晶体を熱で接着させ,眼底から持ち上げるようにする.手術では,まず落下水晶体の周囲の硝子体をしっかりと切除する.硝子体の切除が不十分であると,あとで落下水晶体を持ち上げた際に周辺部の網膜に牽引がかかり,医原性の裂孔が生じる恐れがある.水晶体周囲の硝子体切除後,圧迫下で周辺を観察し,網膜.離や残存水晶体の有無をチェックする.その後ペンシル型バイポーラを眼内に挿入し,バイポーラの先端が落下水晶体に軽く触れたら,先端に電流を流し,水晶体の表面と接着する.長時間電流を流すと網膜への影響が懸念されるため,黄斑部を避けて,1秒程度,数回に分けて流すとよい.表面の接着が確認できたら,落下水晶体を硝子体中にゆっくり持ち上げる.この状態では接着が不十分なので,反対側から硝子体中に入れたライトガイドでアシストしながら,改めて電流を流し,バイポーラの先端を水晶体の中央まで押し込むように進める.硝子体中央での作業を意識し,水晶体やバイポーラが網膜に触れないように注意する.流れた電流によって先端が水晶体としっかりと癒着すると,バイポーラと水晶体の動きがシンクロするようになる.バイポーラを回すと水晶体も回転するようになり,しあたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14770910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2実際の手術映像a:落下水晶体の周囲の硝子体を除去後,ペンシル型バイポーラを水晶体に軽く当てて電流を流す.Cb:バイポーラに接着した水晶体を硝子体中に持ち上げる.Cc:まだ接着は不十分なので,反対側から入れたライトガイドでアシストしながら電流を流す.Cd:バイポーラの先端が水晶体の中央まで進むと,バイポーラで水晶体をコントロールできるようになる.Ce:超音波ハンドピースを眼内に挿入し,水晶体の動きをコントロールしながら除去する.Cf:水晶体除去後,眼内レンズの二次固定を行う(強膜内固定).っかりとコントロールできればその状態で水晶体を虹彩面まで持ち上げ,フェイコハンドピースを強角膜切開創から挿入し,超音波乳化吸引を行う.このとき,吸引圧を上げてしまうと,バイポーラと水晶体の癒着が解除されてしまうため,バイポーラを回しながら水晶体を回転させ,低い吸引圧で削ぎ落すように超音波乳化吸引を行うのがコツである.硬い核では超音波パワーも上がり,発振時間も長くなりやすいので,パルスモードや水かけによる創口熱傷の対策をしたほうがよい.筆者らはこの手法を,綿あめを作る姿や,ドネルケバブを切り取る姿に見立てて,「わたあめ法」や「ケバブ法」と名づけた2)(図2).すべての水晶体がC1回の超音波乳化吸引で除去できるわけではなく,一部分は再度眼底に落ちてしまうこともある.落下水晶体のサイズが大きければ再度ペンシル型バイポーラで持ち上げて超音波乳化吸引を行い,サイズが小さければ硝子体カッターで切除・吸引が可能となり,すべての落下水晶体を高価なCPFCLを用いずに除去することができる.筆者の経験上,Grade1.5のすべての核硬化度の落下水晶体で適応可能であった.●おわりに水晶体除去したあとには,通常レンズの固定が待ちうけている.現在,眼内レンズの二次固定は強膜内固定の普及によって,水晶体.のない眼でも短時間のうちにレンズが固定できるようになった.本法はこの素晴らしい技術につなげられるよう,落下水晶体除去も小切開,無縫合で行いたいという思いから開発した.さらに症例を積み重ねて,技術的なブラッシュアップを図りたい.動画視聴はこちら→Chttps://youtu.be/UGZQ0heZq7s文献1)JangCHD,CLeeCSJ,CParkJM:Phacoemulsi.cationCwithCper.uorocarbonliquidusinga23-gaugetransconjunctivalsuturelessCvitrectomyCforCtheCmanagementCofCdislocatedCcrystallineClenses.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:1267-1272,C20132)AsoH,YokotaH,HanazakiHetal:Thekebabtechniqueusesabipolarpenciltoretrieveadroppednucleusofthelensviaasmallincision.SciRepC11:7897,C2021

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 7.ソフトコンタクトレンズによる乱視矯正(その2)

2021年12月31日 金曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院7.ソフトコンタクトレンズによる乱視矯正(その2)■はじめに前回は無意識に働く調節を抑えるためにも乱視矯正が必要なことや,乱視用ソフトコンタクトレンズ(SCL)のデザイン上の工夫や適応と非適応について解説した.今回は乱視用SCLの処方法について解説する.■軸の回転とブレ乱視用SCLを装用させても,瞬目ごとに軸がブレるようではしっかりとした乱視矯正は行えない.乱視用SCLが90°回転した場合,乱視は倍加してしまうことになる.瞬目のたびに軸がブレる乱視用SCLはその眼には合わないと判断し,他のデザインのレンズに変更しなければならない.しかし,瞬目によっても軸の回転が一定の箇所で安定するのであれば,軸補正をすることによって乱視を矯正することができる.軸の回転もブレもない場合(図1)は,自覚屈折値の軸度にもっとも近い軸度を有したトライアルレンズを選択する.■軸補正軸の補正というとむずかしく考えてしまうが,「正加半減の法則」と覚えることで簡単に補正をすることができる.つまり,軸の回転が時計回りであれば回転した角度を加え,半時計回りであれば回転した角度を減じるとよい.もしも実際に装用させたSCLが時計回りに20°回転して安定した場合,もともとの軸が180°であれば,180°+20°=200°=20°となって軸が20°の乱視用SCLを処方する.このとき勘違いしやすいのは,軸が20°の乱視用SCLを装用させたレンズは軸(ガイドマーク)が180°表1乱視用SCLの処方手順1.自覚屈折値より円柱度数と軸度を決定2.自覚屈折値より球面度数を決定3.軸の安定を確認4.必要なら軸を補正5.軸の安定がなければレンズの種類変更6.球面度数を修正になるのではなく,時計回りに20°回転して安定するという事実である(図2).逆に反時計回りに20°で安定した場合,もともとの軸が180°であれば,180°-20°=160°となって軸が160°の乱視用SCLを処方する(図3).■軸度と球面度数と円柱度数の選択法(表1)軸度,球面度数,円柱度数はいずれも自覚屈折値から決定するわけであるが,乱視用SCLといってもすべての軸度が備わっているわけではなく,もっとも近い軸度を選択することになる.球面度数や円柱度数も頂点間補正をしてから決定するが,球面度数も円柱度数も少し軽めに選択したほうがよい.とくに円柱度数は瞬目によってレンズがややブレることがあり,レンズの動きが落ち着くまでは見え方に変動が生じて酔ったような感覚をレンズ装用者が感じる場合がある.■乱視用SCL処方のコツトライアルレンズを装用させてみて軸の回転をチェックする.5~10°くらいの回転なら,軸の補正なしで矯正図1レンズの傾きこのように傾きがない場合は自覚屈折値の軸度にもっとも近いものを選択し,円柱度数は少し弱めのものを選択する.(111)あたらしい眼科Vol.38,No.12,202114750910-1810/21/\100/頁/JCOPY軸度180°のレンズを装着すると20°回転して固定される軸度20°のレンズを選択する回転して180°で固定される図2レンズが時計回りに20°回転して安定この症例では望む軸度は180°である.軸度180°の乱視用SCLを装用させても乱視矯正効果はないので,正加半減の法則で20°の軸度を有したレンズを選択する.そうすると,レンズが時計回りに20°回転して安定したときに180°の軸度が得られて乱視を矯正することができる.軸度180°のレンズを装着すると軸度160°のレンズを選択する回転して180°で固定される20°回転して固定される図3レンズが反時計回りに20°回転して安定この症例も望む軸度は180°である.軸度180°の乱視用SCLを装用させても乱視矯正効果はないので,正加半減の法則で160°の軸度を有したレンズを選択する.そうすると,レンズが反時計回りに20°回転して安定したときに180°の軸度が得られて乱視を矯正することができる.を試みる.レンズの種類によって用意されている軸度と円柱度数はさまざまであり,もっとも適した種類を選択する.ドライアイ,アレルギー性結膜炎などでは,レンズの乾燥や汚れが生じて軸のブレが生じやすいので注意する.必要に応じて適切な点眼液を処方する.ハイドロゲル素材の乱視用SCLで充血や乾燥感を訴える場合は,シリコーンハイドロゲル素材のレンズに切り替える.また,プリズムバラストデザインのレンズで異物感を訴える場合は,ダブルスラブオフデザインのレンズを試してみる.■乱視用SCLを積極的に処方する球面SCLを使用していて疲れやすい,近くが見えにくい,暗くなると見えにくくなるなどの訴えがあった場合は,自覚屈折値を再確認して乱視の有無をチェックすることが大切である.強弱主経線度数を頂点間補正して0.75D以上の乱視があれば,無意識の調節を引き起こす原因を取り除くためにも,積極的に乱視用SCLを処方するべきである.

写真:HHV-7 が原因と考えられた 角膜上皮炎の1 例

2021年12月31日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦451.HHV-7が原因と考えられた依藤彰記細谷友雅兵庫医科大学眼科学教室角膜上皮炎の1例図2図1のシェーマ①多発する白色上皮下浸潤②雪だるま状の浸潤の癒合図1初診時右眼の前眼部所見右眼角膜中央部に白色上皮下浸潤が多発している.一部浸潤が癒合し,雪だるま状のものも認めた.図3図1のフルオレセイン染色所見上皮下浸潤の部位に一致してフルオレセイン染色陽性病変を複数認める.図4フルオロメトロン点眼追加2日後の右眼フルオレセイン染色所見角膜浸潤は瘢痕化し,下方に点状表層角膜症を認めるのみとなった.(109)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14730910-1810/21/\100/頁/JCOPYThygeson点状表層角膜炎様の病変を呈し,涙液ポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreac-tion:PCR)検査でhumanherpesvirus7(HHV-7)が検出された1例を紹介する.26歳,女性.主訴は右眼の疼痛と充血で,近医でオフロキサシン眼軟膏が処方されたがC1週後も改善を認めず,レボフロキサシンC1.5%点眼,アシクロビル眼軟膏が処方された.前医での単純ヘルペスウイルス抗原検出キットは陰性であった.疼痛が改善されず,兵庫医科大学病院眼科を紹介受診した.既往歴に症状出現C1カ月前の感冒症状があり,1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)ユーザーであった.受診時の矯正視力は右眼(1.0),左眼(1.2).眼脂はなく流涙を認めた.右眼は角膜中央部にフルオレセイン染色陽性の白色上皮下浸潤が多発し,一部浸潤が癒合し雪だるま状のものも認めた(図1~3).左眼は角膜下方に淡い上皮下浸潤を数個認めた.中間透光体と眼底に異常はなかった.所見よりヘルペス性角膜炎とは異なると考え,レボフロキサシンC1.5%点眼,セフメノキシム点眼各両眼C6回/日へ変更した.角膜擦過培養検査結果は陰性で,なんらかのウイルス性上皮炎を疑い,右眼涙液の眼科的網羅的感染症CPCR検査を施行したところ,HHV-7のみがC2.11C×104copies/μg検出された.フルオロメトロン0.1%点眼両眼C2回/日を追加したところ,2日後には流涙の改善と白色浸潤の瘢痕化を認め,両眼とも角膜下方に点状表層角膜症を認めるのみとなった(図4).点眼薬は漸減中止し,再発のないこと,涙液CPCRでCHHV-7の陰性化を確認し,初診からC10週後に治療終了とした.HHV-7はわが国では大多数が乳幼児期に抗体を獲得しており,不顕性感染している.突発性発疹や脳炎の原因となるが1),眼科的には角膜内皮炎を呈したC1例報告2)のみである.鑑別疾患としてあげられるCThygeson点状表層角膜炎は,再発性,両眼性の角膜上皮障害を伴う角膜上皮から上皮下に及ぶ点状の細胞浸潤を特徴とする角膜炎で,なんらかの抗原に対する免疫反応の可能性が考えられており,ステロイド点眼が著効する3).水痘帯状疱疹ウイルス(varicellaCzostervirus:VZV)やCSCLケア用品の関与もいわれるが,本症例は涙液CPCR検査でCVZV陰性であった.また,1日使い捨てCSCLユーザーでケア用品の関与は考えにくい.アデノウイルス結膜炎の既往もなく,病変存在時の涙液からCHHV-7が検出されたのが,治癒後には陰性となったことから,HHV-7が原因の角膜上皮炎であったと考える.本症例はCHHV-7に有効とされるガンシクロビルの投与なしにステロイド点眼追加のみで症状,所見の改善を認めたが,今後の再発の可能性や治療法については検討を要する.臨床的にCThygeson点状表層角膜炎と診断された中にCHHV-7が原因である症例が存在する可能性があり,今後,本症例類似患者の涙液CPCR検査を積極的に行うことで,病態の解明が進む可能性がある.文献1)SugaS,YoshikawaT,NagaiTetal:ClinicalfeaturesandvirologicalC.ndingsCinCchildrenCwithCprimaryChumanCher-pesvirus7infection.PediatricsC99:e4,C19972)InoueCT,CKandoriCM,CTakamatsuCFCetal:CornealCendo-theliitisCwithCquantitativeCpolymeraseCchainCreactionCposi-tiveforhumanherpesvirus7.ArchOphthalmol128:502-503,C20103)鈴木崇:Thygeson点状表層角膜炎.あたらしい眼科C26:1653-1654,C2009

白内障手術と屈折矯正手術の歩み

2021年12月31日 金曜日

白内障手術と屈折矯正手術の歩みProgressionCataractandRefractiveSurgeryビッセン宮島弘子*はじめに眼科手術のなかでもっとも件数が多い白内障手術は,水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsi.cationCandCaspi-ration:PEA)と眼内レンズ挿入術の組み合わせが標準である.両技術ともこの半世紀に普及し,大きな進歩を遂げた.屈折矯正手術は,疾患を治療することが目的ではないことから,日本の眼科において受け入れられない時代が続いたが,この半世紀でレーザーや有水晶体眼内レンズ挿入術が認められるようになった.白内障手術も屈折矯正手術も術後の視機能を向上させ,さらには生活の質(qualityCoflife:QOL)を向上させる手術であり,近年では白内障手術は屈折矯正を兼ねるということで白内障屈折矯正手術とよばれるまでに至った.PEAや眼内レンズの普及前から白内障手術を施行し,屈折矯正手術が封印されていた時代を経験している現役の眼科医は数少なくなっている.大学や施設によって,手技の導入や,その後の展開が異なると思うが,ここでは筆者の経験をもとに半世紀の変遷をまとめる.CI白内障手術過去C50年で,水晶体の摘出方法は水晶体.内摘出術(intracapsularCcataractextraction:ICCE)や水晶体.外摘出術(extracapsularCcataractextraction:ECCE)からCPEAに変わり,無水晶体眼への対応としては,眼鏡やコンタクトレンズから眼内レンズが普及するに至った(図1).PEAはC1967年に米国のCKelmanによって1),眼内レンズはC1949年にイギリスのCRidleyによって2)開発されたが,当初はどちらも危険な手術とされ,学会で認められなかった.先駆者と新しい技術を信じて普及に努めた眼科医や関係企業によって,今日の手術手技が確立したといっても過言ではない.C1.ICCE日本において,PEAが白内障手術の主流となったのはC1980年後半からC1990年代前半にかけてで,半世紀前はCICCEが主流であった.筆者が最初に学んだ白内障手術の方法はこのCICCEで,強角膜に大きな切開を作り,冷凍プローブを用いて水晶体ごと眼外に摘出する方法である(図2).麻酔は球後麻酔と瞬目麻酔の両方を用い,切開創は水晶体をそのまま摘出できるC10Cmm以上であった.若年例ではキモトリプシンでCZinn小帯を酵素離断してから水晶体を全摘していた3).球後麻酔で球後出血を起こすと,その程度によっては手術が延期となった.水晶体摘出時の硝子体脱出はそれほどめずらしいことではなく,硝子体は綿棒とスプリングハンドルで創口に残らないように切除していたが,残存硝子体により瞳孔が上方に引かれたままになる例があった.手術は入院で,両眼の手術を終了すると,+10-15Dの仮眼鏡を処方して退院,凸レンズの眼鏡を通して見える患者の眼の大きさは独特なものであった.コンタクトレンズ着用が可能な患者には,夜間もつけっぱなしのコンタクトレンズを処方し,外来受診時に洗浄していた.*HirokoBissen-Miyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(101)C1465ICCEECCEKelmanの開発(1967)最初のIOL挿入(1949)PEACCC(1985)Divide&conquer(1991)PhacochopIOL折り畳み式MultifocalToricOVD凝集型分散型図1白内障手術半世紀の変遷図2ICCE水晶体に冷凍プロープを直接つけて眼外に摘出する.図3虹彩クリップ型眼内レンズ挿入例虹彩でレンズが支持されているので,散瞳するとレンズが落下してしまう.図4楕円型眼内レンズ挿入例切開幅を小さくする目的で,光学部がC5.mmC×6.mmのレンズが開発された.ている.また,コントラスト感度が単焦点レンズと同等で低加入度により眼鏡依存度を減らす焦点深度拡張型も患者にあわせて選択されるようになった.費用面については,日本ではC2008年に多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術が先進医療として承認され,全額自己負担であった.2020年に選定療養として認められ,一部保険適用となり患者負担が軽減し,さらなる普及が期待される.CIII屈折矯正手術屈折矯正手術も,白内障手術同様,このC50年間で大きく進歩した.角膜による屈折矯正手術は,放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)から,レーザーで角膜実質を切除するレーザー屈折矯正角膜切除(photoreC-fractivekeratectomy:PRK),レーザー角膜内切削形成(laserCinCsitukeratomileusis:LASIK)ないしはSMILE(smallCincisionClenticuleextraction)に変化した.レンズによる屈折矯正手術は,固定位置の異なる有水晶体眼内レンズが開発され,最終的には後房型におちついた.これらの変遷を図5に示す.日本において屈折矯正手術が欧米に比べて普及していない理由として,かつてはC1930年代に施行された角膜前後面を切開する佐藤氏手術後の合併症(水疱性角膜症)の苦い経験があげられていたが,現在はCLASIK後の特殊な合併症が影響していると思われる.屈折矯正手術の安全性と有効性が見直され,近視の多い日本で普及するまで,しばらく時間を要しそうである.C1.RK先に述べた佐藤氏手術から合併症を学び,角膜前面のみを切開する方法が始まった.旧ソビエト連合のFyodorovが精力的にこの手術を行い9),1980年代には日本から手術を受けに行くためのツアーまで企画されていた.その後,米国に導入されたことでCRKの知名度があがった.日本ではC30年ぐらい前まで,眼科医以外の医師によって施行されていたため,眼科医が診察することは少なかった.その後,RKを受けた患者が白内障となり,眼科を受診するようになっている.RKで十分な効果を得るには,角膜切開を深くかつ瞳孔中心近くまで施行する必要がある.術後に近視は矯正されるが角膜厚の日内変動による見え方の不安定さ,夜間のグレア,長期経過における遠視化といった問題を残すことになった.これらの問題を改善すべく,切開数が少なく,瞳孔中心から離れた位置までの短い切開によるCminiRKが行われたが,矯正範囲が限られていた.その他,1970年代から白内障手術時の乱視矯正として,RKと同じようにダイヤモンドメスを用いて強主経線に切開を行う乱視矯正角膜切開術(astigmaticCkera-totomy:AK)が始まった.この方法は,屈折矯正手術に対して否定的な日本において,唯一,眼科医が積極的に導入を試みた手技のように思う.その後,1990年代に入ってからは,角膜周辺部に近く,弧状に切開するClimbalCrelaxingincision(LRI)に変わっていった.これらの角膜切開による乱視矯正は,精度の面からトーリック眼内レンズが登場すると症例数は減っていった.C2.PRKエキシマレーザーはC1983年に角膜照射用として開発され10),1988年に米国でCPRKの治験が行われ,1995年に承認を得た.日本においてはC2000年にCPRK目的で承認を得たが,その前から限られた施設で施行されていた.機械的に,あるいはブラシ,レーザーなどを用いて角膜上皮を.離し,その下のCBowman層,実質をレーザーで切除する.手技が簡便だが,角膜上皮.離による術後痛が強く,角膜上皮が再生するまで視力が安定しないこと,角膜混濁(ヘイズ)を生じる例があり,LASIKの導入とともに施行数は激減した.導入当初はレーザーの照射径が小さく,照射中心の設定や眼球の動きに応じた追従システムがなく,照射ずれによる矯正不良,不正乱視,グレア,ハローの問題が多かった.その後,角膜形状解析や波面収差解析結果に基づいた照射方法が可能となり,術後成績は向上した.LASIKやSMILEの導入後も,これらの術式が適応にならない患者に施行されている.PRKは機械的あるいはレーザーで角膜上皮を.離するが,専用ケラトームやトレパンを用いるCEpi-LASIK(epipolisLASIK),レーザー上皮下角膜切除術(laser-assistedCsubCepithelialkeratectomy:LASEK)といっ(105)あたらしい眼科Vol.C38,No.C12,2021C1469RKPRKLASIKSMILE有水晶体眼内レンズ隅角支持型虹彩固定型後房型図5屈折矯正手術半世紀の変遷–