・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院9.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その2)■はじめに前回のセミナーでは遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multi-focalsoftcontactlens:MFSCL)のデザイン,同時視の理論,同時視に慣れるまでの注意点,低加入度数SCLの処方例について解説した.今回のセミナーからは本格的な老視への遠近両用SCL処方法を解説する.■利き目と非利き目(優位眼と非優位眼)MFSCLを処方するにあたって,利き目と非利き目をあらかじめ知っておくことは大切である.なぜならシンプルな処方でユーザーが遠近両方の視力に満足してくれるとは限らず,その場合は利き目を遠見優先に合わせて非利き目を近見優先に合わせるモディファイ・モノビジョン法を採用する必要が生じるからである.■シンプルなMFSCLの処方例<処方例1>51歳,男性.事務職.球面1日使い捨てSCLの度数を落として対応していたが,遠くも近くも見にくくなってきた.・完全矯正屈折値RV=(1.2×sph-6.25D(cyl-0.50DAx170°)利き目LV=(1.2×sph-7.25D(cyl-0.25DAx165°)・使用SCLRV=(0.7×880/-5.00/14.2)LV=(0.6×880/-5.75/14.2)BV(両眼遠見視力)=(0.7×SCL)NBV(両眼近見視力)=(0.5×SCL)この症例に低加入度数(LOW/+0.75D)のシード1dayPureマルチステージ(図1)を処方した.RV=(0.9×880/-5.50/14.2/+0.75)LV=(0.9×880/-6.50/14.2/+0.75)BV=(1.0×MFSCLSCL)NBV=(0.6×MFSCL)このように完全屈折矯正値から少し度数を落として低加入度数MFSCLを処方することで,遠近ともに満足する視力が得られる場合は,処方がとても簡単である.<処方例2>55歳,女性.事務職.シード2weekPureマルチステージ(図2)(低加入度数+0.75D)をとくに問題なく使用していたが,かすみが強くなり白内障手術を希望し眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入した.・術前使用MFSCLRV=(0.8×860/-5.75/14.2/+0.75)LV=(0.6×860/-4.25/14.2/+0.75)BV=(0.8×MFSCL)BNV=(0.6×MFSCL)・術後視力RV=(0.8×IOL)(1.2×IOL(sph-0.50D(cyl-0.50DAx95°)図1シード1dayPureマルチステージ中心遠用二重焦点MFSCLで移行部を有している1日使い捨てタイプのレンズである.図2シード2weekPureマルチステージ中心遠用二重焦点MFSCLで移行部を有している2週間頻回交換タイプのレンズである.(63)あたらしい眼科Vol.39,No.2,20221950910-1810/22/\100/頁/JCOPYNRV=(0.2×IOL)LV=(0.8×IOL)(1.2×IOL(sph-0.75D)NLV=(0.2×IOL)白内障手術後に高加入度数のシード2weekPureマルチステージを処方した.RV=(1.0×IOL×860/-0.50/14.2/+1.50)NRV=(0.6×IOL×MFSCL)LV=(0.8×IOL×860/-0.25/14.2/+1.50)NLB=(0.8×IOL×MFSCL)BV=(1.0×IOL×MFSCL)BNV=(0.8×IOL×MFSCL)このように白内障術後のIOL挿入眼においては,高加入度数(HIGH/+1.5D)のMFSCLを選択する.■モディファイド・モノビジョン法を使用した処方例上記症例のように低加入度数や高加入度数のMFSCLにて遠近視力の満足が得られる場合は簡単であるが,そうでない場合は利き目を遠方優先,非利き目を近方優先で合わさねばならない.加入度数が低加入度数と高加入度数の2種類しかない場合の度数変更方法は6ステップからなる(表1).ちなみに低加入度数,中加入度数,高加入度数の3種類がある場合では,10のステップがあることになる.<処方例3>53歳,女性.看護士.球面SCLを使用中.近くが見にくくなってきた.・完全屈折矯正値RV=(1.2×sph-4.50D)利き目LV=(1.2×sph-3.25D)表1モディファイド・モノビジョン法による度数調整ステップ利き目非利き目1+0.75+0.752モディファイド・モノビジョン法による度数調整3+0.75+1.504モディファイド・モノビジョン法による度数調整5+1.50+1.506モディファイド・モノビジョン法による度数調整・使用SCLRV=(0.9×860/-4.00/14.2)LV=(0.8×860/-2.50/14.2)NBV=(0.5×SCL)・初回処方MFSCL(シード2weekPureマルチステージ)R:860/-4.00/14.2/+0.75L:860/-2.75/14.2/+0.75BV=(1.0×MFSCL)NBV=(0.6×MFSCL)遠くも近くも見やすくなったが,もう少し遠くが見えるようになりたい.・2回目処方MFSCL(初回と同じ製品)R:860/-4.25/14.2/+0.75L:860/-2.75/14.2/+0.75BV=(1.2×MFSCL)BNV=(0.5×MFSCL)遠くは見やすくなったが,もう少し近くが見えるようになりたい.・3回目処方MFSCL(初回と同じ製品)R:860/-4.25/14.2/+0.75L:860/-2.25/14.2/+0.75BV=(1.0×MFSCL)BNV=(0.6×MFSCL)遠くも近くも見やすくなった.このようにシンプルな処方ではなかなか満足が得られない場合は,利き目を遠方優先に,非利き目を近方優先に合わせるモディファイド・モノビジョン法を採用するとうまくいく.■おわりにMFSCL処方のコツは,加入度数の低い方から合わせてみること,片眼ずつの視力よりも両眼視力での満足度を確認すること,視力表に頼るのではなく,遠くの景色,カレンダー,時計などが見えるかどうか,そして近くの新聞,雑誌,スマートフォンなどが見えるかどうかで見え方を確認すること,モディファイド・モノビジョン法をうまく採用することなどである.