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コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 9.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その2)

2022年2月28日 月曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院9.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その2)■はじめに前回のセミナーでは遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multi-focalsoftcontactlens:MFSCL)のデザイン,同時視の理論,同時視に慣れるまでの注意点,低加入度数SCLの処方例について解説した.今回のセミナーからは本格的な老視への遠近両用SCL処方法を解説する.■利き目と非利き目(優位眼と非優位眼)MFSCLを処方するにあたって,利き目と非利き目をあらかじめ知っておくことは大切である.なぜならシンプルな処方でユーザーが遠近両方の視力に満足してくれるとは限らず,その場合は利き目を遠見優先に合わせて非利き目を近見優先に合わせるモディファイ・モノビジョン法を採用する必要が生じるからである.■シンプルなMFSCLの処方例<処方例1>51歳,男性.事務職.球面1日使い捨てSCLの度数を落として対応していたが,遠くも近くも見にくくなってきた.・完全矯正屈折値RV=(1.2×sph-6.25D(cyl-0.50DAx170°)利き目LV=(1.2×sph-7.25D(cyl-0.25DAx165°)・使用SCLRV=(0.7×880/-5.00/14.2)LV=(0.6×880/-5.75/14.2)BV(両眼遠見視力)=(0.7×SCL)NBV(両眼近見視力)=(0.5×SCL)この症例に低加入度数(LOW/+0.75D)のシード1dayPureマルチステージ(図1)を処方した.RV=(0.9×880/-5.50/14.2/+0.75)LV=(0.9×880/-6.50/14.2/+0.75)BV=(1.0×MFSCLSCL)NBV=(0.6×MFSCL)このように完全屈折矯正値から少し度数を落として低加入度数MFSCLを処方することで,遠近ともに満足する視力が得られる場合は,処方がとても簡単である.<処方例2>55歳,女性.事務職.シード2weekPureマルチステージ(図2)(低加入度数+0.75D)をとくに問題なく使用していたが,かすみが強くなり白内障手術を希望し眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入した.・術前使用MFSCLRV=(0.8×860/-5.75/14.2/+0.75)LV=(0.6×860/-4.25/14.2/+0.75)BV=(0.8×MFSCL)BNV=(0.6×MFSCL)・術後視力RV=(0.8×IOL)(1.2×IOL(sph-0.50D(cyl-0.50DAx95°)図1シード1dayPureマルチステージ中心遠用二重焦点MFSCLで移行部を有している1日使い捨てタイプのレンズである.図2シード2weekPureマルチステージ中心遠用二重焦点MFSCLで移行部を有している2週間頻回交換タイプのレンズである.(63)あたらしい眼科Vol.39,No.2,20221950910-1810/22/\100/頁/JCOPYNRV=(0.2×IOL)LV=(0.8×IOL)(1.2×IOL(sph-0.75D)NLV=(0.2×IOL)白内障手術後に高加入度数のシード2weekPureマルチステージを処方した.RV=(1.0×IOL×860/-0.50/14.2/+1.50)NRV=(0.6×IOL×MFSCL)LV=(0.8×IOL×860/-0.25/14.2/+1.50)NLB=(0.8×IOL×MFSCL)BV=(1.0×IOL×MFSCL)BNV=(0.8×IOL×MFSCL)このように白内障術後のIOL挿入眼においては,高加入度数(HIGH/+1.5D)のMFSCLを選択する.■モディファイド・モノビジョン法を使用した処方例上記症例のように低加入度数や高加入度数のMFSCLにて遠近視力の満足が得られる場合は簡単であるが,そうでない場合は利き目を遠方優先,非利き目を近方優先で合わさねばならない.加入度数が低加入度数と高加入度数の2種類しかない場合の度数変更方法は6ステップからなる(表1).ちなみに低加入度数,中加入度数,高加入度数の3種類がある場合では,10のステップがあることになる.<処方例3>53歳,女性.看護士.球面SCLを使用中.近くが見にくくなってきた.・完全屈折矯正値RV=(1.2×sph-4.50D)利き目LV=(1.2×sph-3.25D)表1モディファイド・モノビジョン法による度数調整ステップ利き目非利き目1+0.75+0.752モディファイド・モノビジョン法による度数調整3+0.75+1.504モディファイド・モノビジョン法による度数調整5+1.50+1.506モディファイド・モノビジョン法による度数調整・使用SCLRV=(0.9×860/-4.00/14.2)LV=(0.8×860/-2.50/14.2)NBV=(0.5×SCL)・初回処方MFSCL(シード2weekPureマルチステージ)R:860/-4.00/14.2/+0.75L:860/-2.75/14.2/+0.75BV=(1.0×MFSCL)NBV=(0.6×MFSCL)遠くも近くも見やすくなったが,もう少し遠くが見えるようになりたい.・2回目処方MFSCL(初回と同じ製品)R:860/-4.25/14.2/+0.75L:860/-2.75/14.2/+0.75BV=(1.2×MFSCL)BNV=(0.5×MFSCL)遠くは見やすくなったが,もう少し近くが見えるようになりたい.・3回目処方MFSCL(初回と同じ製品)R:860/-4.25/14.2/+0.75L:860/-2.25/14.2/+0.75BV=(1.0×MFSCL)BNV=(0.6×MFSCL)遠くも近くも見やすくなった.このようにシンプルな処方ではなかなか満足が得られない場合は,利き目を遠方優先に,非利き目を近方優先に合わせるモディファイド・モノビジョン法を採用するとうまくいく.■おわりにMFSCL処方のコツは,加入度数の低い方から合わせてみること,片眼ずつの視力よりも両眼視力での満足度を確認すること,視力表に頼るのではなく,遠くの景色,カレンダー,時計などが見えるかどうか,そして近くの新聞,雑誌,スマートフォンなどが見えるかどうかで見え方を確認すること,モディファイド・モノビジョン法をうまく採用することなどである.

写真:角膜上皮の接着障害が眼圧下降により改善した症例

2022年2月28日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦453.角膜上皮の接着障害が正伝みのり横井則彦京都府立医科大学眼科学教室眼圧下降により改善した症例図2図1のシェーマ①虚脱したCbleb②角膜上皮浮腫③上皮接着不良部位図1初診時の細隙灯顕微鏡所見(フルオレセイン染色後,イエローフィルターでの観察像)角膜下方に虚脱したbleb,角膜上皮浮腫,および多数の上皮接着不良部位を認める.図3PTK後の細隙灯顕微鏡所見(フルオレセイン染色像)中央部のCblebは消失し,周辺部のCblebのみ残存している.図4チューブシャント手術後の細隙灯顕微鏡所見(フルオレセイン染色像)周辺部のCblebが消失している.(61)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C1930910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は44歳,女性.眼科既往に右眼の緑内障,サルコイドーシスがあった.当院受診2週間前に眼瞼炎のためブリモニジン酒石酸塩の点眼を中止したところ,右眼の疼痛が出現し,角膜上皮下に水疱(bleb)を認めたため,当院を紹介されて受診した.初診時,右眼の疼痛は持続しており,眼圧は測定不能であった.細隙灯顕微鏡による観察で角膜下方に虚脱したCblebを認め,フルオレセイン染色による観察で,虚脱したCbleb,角膜上皮浮腫,および多数の上皮接着不良部位を認めた(図1,2).また,右眼のみ角膜内皮細胞密度が低下していた(679個/mmC2).Blebによる疼痛への治療として,接着不良上皮を除去し,リン酸ベタメタゾンC1CmgをC4日間内服,0.1%フルオロメトロンおよびガチフロキサシンの点眼を右眼に1日C4回行った.治療後,blebは消失したが,接着不良は残存し,周辺部には上皮浮腫を認めた.右眼眼圧は20CmmHgとやや高く,炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始したが,30CmmHg前後の高眼圧が持続し,blebの再発を認めた.上皮の接着不良に対し,エキシマレーザー治療的表層角膜切除術(phototherapeuticCkeratecto-my:PTK)を施行し,中央部のCblebは消失したが,周辺部のCblebは残存した(図3).その後の精査で,全周性の周辺虹彩前癒着,虹彩萎縮,ぶどう膜外反所見から,虹彩角膜内皮(iridocornealendothelial:ICE)症候群による続発緑内障と診断され,チューブシャント術が行われ,眼圧はC10CmmHg台に下降し,周辺部のCblebも消失し,再発なく経過している(図4).健常な角膜上皮は,上皮の最下層を構成する基底細胞のヘミデスモソームがラミナルシダ,アンカリングフィラメント,ラミナデンサなどからなる基底膜と結合し,ラミナデンサがアンカリングフィブリルを介してBowman膜と結合することで,その接着が維持されている.上皮接着障害の原因には,外傷,水疱性角膜症,糖尿病,角膜ジストロフィなどがあり,外傷では,基底膜の障害により治癒過程で異常な接着複合体が形成される1).水疱性角膜症では,実質浮腫の増加により上皮細胞間隙に水分が貯留するとともに,上皮下に水疱が形成される.糖尿病では,基底膜の肥厚によるアンカリングフィブリルの基底膜内への埋没,ヘミデスモソーム・アンカリングフィラメントの密度の低下,ラミニンのCadvancedglycationendproducts(AGE)化などの要因が2),角膜ジストロフィでは接着複合体の一部に欠損や変性がみられるとされる.Blebによる疼痛に対する保存的治療には,5%生理食塩水点眼,ステロイド点眼,眼軟膏点入,治療用コンタクトレンズ装着などがある.外科的治療には,角膜移植,クロスリンキング,羊膜移植,anteriorCstromalpuncture(ASP),PTKなどがある3).クロスリンキングは,コラーゲン線維間の架橋結合を促すことで,角膜実質内の水分が貯留するスペースを減少させることがその奏効機序と考えられるが,長期的な効果は期待できない4).ASPはC27ゲージ針で上皮を角膜実質に埋め込むように穿刺する治療で,フィブロネクチン,ラミニンなどの発現が増加するため,接着力が高まる.PTKでは,角膜上皮の直下に存在する知覚神経が切除されることで疼痛が緩和され,ラミニン,ヘミデスモソームなどが増加し接着が促進される5).本症例では,角膜内皮機能不全のため,実質に水分が流入しようとするのに対して,高眼圧のため実質が膨潤できず,実質に保持できない水分が角膜上皮細胞間隙に過剰に流入したために,角膜上皮下に水疱が形成されたと考えられた.さらに,持続する水疱形成が角膜上皮の接着障害を促したと考えられる.Blebによる眼痛に対する治療の選択肢は多岐にわたるため,その病態生理を考察することで,より適切な治療が選択可能となる.文献1)RamamurthiS,RahmanMQ,DuttonGNetal:Pathogene-sis,clinicalfeaturesandmanagementofrecurrentcornealerosions.Eye(Lond)C20:635-644,C20062)LjubimovAV:DiabeticCcomplicationsCinCtheCcornea.CVisionResC139:138-152,C20173)PricopieS,IstrateS,VoineaLetal:Pseudophakicbullouskeratopathy,RomJOphthalmolC61:90-94,C2017

分子標的型抗癌剤と後眼部副作用

2022年2月28日 月曜日

分子標的型抗癌剤と後眼部副作用Molecular-TargetedAnticancerDrugsandSideE.ectsinthePosteriorSegmentoftheEye篠田啓*菅野順二*はじめに眼科は比較的癌治療には縁が少ないが,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法や抗腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)療法など癌治療とも関連した薬剤を日常診療で使うことや,抗癌剤による眼科的副作用の増加に伴い,抗癌剤についての知識も無意識のうちに増えると同時に必要になっている.とくに後者については,処方医と合併症の監視管理をする医師が異なっており,眼科医は薬の情報を知らされず,あるいは気づかずに診療が進む可能性があることや,新しい抗癌剤の開発に際し治験の機会も増えており,定期的な知識のアップデートと整理が有用である.表1に分子標的型抗癌剤を中心として網膜ぶどう膜への副作用が報告されている抗癌剤を示し,以下に解説する.CI分子標的型抗癌剤これまでの癌治療でおもに使用される化学療法薬は,癌細胞だけでなく正常な細胞にも作用してしまうため,副作用が問題であった.しかし近年,癌細胞だけがもつ増殖,浸潤・転移などの特徴を分子レベルでとらえ,その働きを抑え込む治療として分子標的治療(targetedtherapy)が開発されている.もちろん正常細胞へのダメージは少ないものの皆無ではなく,他の組織,他の臓器,そして眼の副作用もわかってきている.標的となる分子には,癌遺伝子産物,細胞周期関連蛋白質,血管新生関連分子,増殖因子とその受容体,転写因子,シグナル伝達分子,ホルモン受容体,アポトーシス関連分子などさまざまであるが,これらは,細胞外では液性因子で細胞膜上にある受容体に特異的に結合するリガンド分子または可溶型分子,細胞膜上にあるリガンドが特異的に結合する受容体(細胞外側)や,細胞膜上にある膜結合型分子や分化抗原など,細胞内では,受容体の細胞内に位置するチロシンキナーゼ活性部位,種々のシグナル伝達分子やプロテアソームなどに分けられる1).分子量の違いによる分類では,分子量が大きな蛋白分子であるモノクローナル抗体型(monoclonalCantibod-ies,抗体薬)と低分子量で構造式が明確な小分子化学物質型(smallmolecules,小分子薬)とに分けることができ,前者は細胞外分子標的薬としての高分子阻害薬であり,後者は細胞内分子標的薬としての低分子阻害薬ということになる1~3).以下に細胞表面抗原および増殖因子・受容体・シグナル伝達系にかかわる分子標的薬について網膜ぶどう膜への合併症を有する薬剤を紹介する.CII細胞外分子標的薬(抗体薬)表面抗原を標的とした分子標的薬は抗体薬であることが多く,その作用機序は,1)標的蛋白の機能障害と,2)免疫機構が介在する標的細胞傷害効果,すなわち抗体依存性細胞介在細胞傷害反応(antibodyCdependentCcellCmediatedcytotoxicity:ADCC)と補体依存性細胞傷害*KeiShinoda&JunjiKanno:埼玉医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕篠田啓:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷C38埼玉医科大学医学部眼科学教室C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(55)C187表1網膜ぶどう膜障害を生じうる分子標的型抗癌剤薬剤の分類薬剤の種類薬剤機序対象疾患,効能,効果症状,所見分子標的薬抗体薬HER2蛋白阻害薬トラスツズマブ(ハーセプチン)ペルツズマブ(パージェタ)HER2蛋白阻害乳癌,胃癌原田病,黄斑浮腫分子標的薬小分子薬BCR-ABL阻害薬BRAF阻害薬MEK阻害薬マルチキナーゼ標的薬イマチニブ(グリベック)エンコラフェニブ(ビラフトビ)ダブラフェニブ(タフィンラー)ベムラフェニブ(ゼルボラフ)ビニメチニブ(メクトビ)トラメチニブ(メキニスト)ソラフェニブ(ネクサバール)BCR-ABLチロシンキナーゼBRAF阻害MEK阻害増殖シグナル抑制作用および血管新生抑制作用慢性骨髄性白血病,消化管間質腫瘍(GIST)悪性黒色腫,非小細胞肺癌腎癌,肝細胞癌網膜新生血管,網膜出血,硝子体出血,黄斑浮腫,両眼乳頭浮腫,両眼視神経炎黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症,網膜色素上皮.離を伴う漿液性網膜症(serousretinopathy),ぶどう膜炎網膜中心静脈閉塞症非分子標的薬*化学療法薬(チューブリン阻害薬)タキサン系抗がん剤化学療法薬(代謝拮抗薬)免疫抑制阻害療法(免疫チェックポイント阻害薬)内分泌療法(ホルモン療法)副腎皮質ステロイド**パクリタキセル(タキソール)ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル(アブラキサン)ドセタキセル(タキソテール)ゲムシタビン(ジェムザール)フルダラビン(フルダラ)ニボルマブ(オプジーボ)ペムブロリズマブ(キイトルーダ)イピリムマブ(ヤーボイ)アテゾリズマブ(テセントリク)アベルマブ(バベンチオ)デリュバルマブ(イミフィンジ)タモキシフェンプレドニゾロン微小管に作用し細胞分裂を阻害ピリミジン拮抗薬プリン拮抗薬抗CPD-1(programmedcelldeath-1)抗体抗CCTLA-4(cytotoxicT-lymphocyte-associatedantigen4)抗体抗CPD-L1(programmedcelldeath-ligand)抗体抗エストロゲン薬抗炎症,免疫抑制乳癌,非小細胞肺癌,卵巣癌,子宮体癌,胃癌,食道癌など非小細胞肺癌,膵臓癌,胆道癌,尿路上皮癌,手術不能または再発乳癌血液腫瘍悪性黒色腫,非小細胞肺癌,腎細胞癌,胃癌,頭頸部癌など乳癌抗炎症剤.胞様黄斑浮腫網膜血管閉塞視神経症,乳頭炎,網膜血管炎前部ぶどう膜炎,原田病様の汎ぶどう膜炎クリスタリン状物質沈着,網膜出血,黄斑浮腫,網膜変性,黄斑円孔中心性漿液性網脈絡膜症,多発性後極部網膜色素上皮症*:非分子標的薬であるが重要なのでここにあげた,**:眼科でも用いられるが,重要なのでここにあげた.初診時視力(1.2)/(1.0)投薬中止後視力(1.2)/(1.2)図1BRAF阻害薬とMEK阻害薬併用療法による漿液性網膜.離73歳,女性.悪性黒色腫に対してエンコラフェニブ(ビラフトビ)およびビニメチニブ(メクトビ)使用時に生じた両眼性の多発性漿液性網膜膜.離(上段).薬剤中止後に自然軽快した(下段).初診時視力(0.5)/(0.8)投与中止後視力(1.0)/(1.2)図2タキサン系薬抗癌剤による黄斑浮腫53歳,女性.乳癌に対してパクリタキセル(タキソール)使用時に生じた両眼性の黄斑浮腫(上段).薬剤中止後に自然軽快した(下段).初診時視力(0.6)/(0.8)3週間後(ステロイドパルス治療後)視力(1.0)/(1.2)図3タキサン系薬抗癌剤による黄斑浮腫68歳,男性.腎細胞癌に対してニボルマブ(オプジーボ)使用時に生じた両眼性の原田病様多発性漿液性網膜.離(上段).原田病治療に準じてステロイドパルス療法を行ったところ軽快した(下段).’C

チェックポイント阻害薬と眼副作用─抗 PD1抗体,抗 PD-L1抗体,抗 CTLA-4抗体治療に伴う眼副作用

2022年2月28日 月曜日

チェックポイント阻害薬と眼副作用─抗PD1抗体,抗PD-L1抗体,抗CTLA-4抗体治療に伴う眼副作用ImmuneCheckpointInhibitor-RelatedAdverseEvents岩田大樹*はじめに免疫チェックポイント阻害薬(immunecheckpointinhibitor:ICI)は,免疫チェックポイント分子へのシグナル伝達を阻害して免疫応答を増強する免疫療法において,癌に対する治療薬として有望な選択肢となっている.しかしながら,自己免疫疾患様の免疫関連有害事象(immune-relatedadverseevents:irAEs)といったこれまでの抗癌剤とは異なる副作用がみられることがある.本稿ではチェックポイント阻害薬とそのirAEsとしての眼副作用について実例とともに紹介する.I癌細胞とT細胞の免疫応答多細胞生物の免疫システムでは,侵入してくる感染性微生物に対しては,自然免疫として貪食細胞である好中球やマクロファージなどが重要な役割を担っている.一方,細胞内に感染して増殖するウイルス,癌などの異常細胞には獲得免疫を用いて対応している.獲得免疫では,樹状細胞から提示された抗原を認識したCD8+T細胞がリンパ節で活性化され(primingphase),末梢血循環を通り局所へ遊走,浸潤する.局所で再び抗原提示細胞からシグナルを受けると,細胞障害性T細胞へと最終分化し,標的となる細胞を障害する(e.ectorphase).また,CD8+T細胞の活性(細胞障害性T細胞へのプライミング,増殖,遊走・浸潤,殺細胞機能,代謝・生存)においてCD4+T細胞の働きも重要と考えられている1).このような炎症反応や癌細胞に対する抗腫瘍効果は,一方で過度で持続的なリンパ球性炎症により宿主の生存自体を脅かす可能性もある.そのために,免疫を抑制する共抑制分子が存在し,自己に不適切な免疫応答や過剰な炎症を抑制する“免疫チェックポイント”として機能し,そのバランスを保っている.免疫チェックポイント分子として,T細胞上に発現している抑制性受容体であるB7ファミリーに属する抑制性補助シグナル分子のcytotoxicT-lymphocyteanti-gen-4(CTLA-4)やprogrammedcelldeath-1(PD-1),そして抗原提示細胞上に発現しているprogrammedcelldeathligand1(PD-L1)などがあげられる2).PD-1と抗原提示細胞や癌細胞表面にあるPD-1リガンド(PD-L1)が結合することでT細胞の増殖抑制,サイトカイン産生の低下,アポトーシス誘導などが起こり,免疫反応を抑制する.癌細胞は遺伝子変異由来産物を提示しているため免疫システムの監視網にかかるが,癌細胞はこの抑制性受容体に対するリガンドを産生して,癌免疫応答を抑制して免疫系から逃避する.一般に癌細胞と免疫応答との関係では,癌免疫編集理論として三つの相(排除相,平衡相,逃避相)が提唱されている3).排除相は樹状細胞などの抗原提示細胞に認識され癌細胞を完全に駆逐できる段階,平衡相は癌細胞を完全に駆逐できてはいないものの増殖を抑制し排除されなかった癌細胞と免疫細胞の抗腫瘍効果が均衡を保っ*DaikiIwata:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕岩田大樹:〒060-8638北海道札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(47)179ている段階,そして逃避相は癌細胞が免疫機構から逃れ増殖する段階である.PD-1,PD-L1,またはCTLA-4などの抑制性補助シグナルを介したT細胞の免疫制御機構は図らずも排除相と平衡相の抗腫瘍免疫を弱体化させ,逃避相に加担してしまうのである.II免疫チェックポイント阻害薬(ICI)細胞障害性の抗癌剤や,癌細胞の異常な生存増殖シグナルを標的とした分子標的治療薬は,癌細胞そのものを治療標的としている.従来から使用されているこれらの治療薬では癌細胞の減少は期待できるが,腫瘍内の多様性(intratumorheterogeneity:ITH),つまり腫瘍内に異なる遺伝学的背景をもった複数のサブクローンによる治療抵抗性の獲得を凌駕することは困難であり,効果にも限界があった.ICIでは,T細胞免疫を介して遺伝子変異量が多く非自己と認識しやすい癌細胞を駆逐することができる.実際に抗PD-1抗体で治療したメラノーマの経時的な解析から,治療が奏効した症例では腫瘍遺伝子変異量が減少することが報告されている4).これは腫瘍縮小とともにITHを減少させ,長期生存をめざすために欠かせない特性といえる.悪性黒色腫や肺癌に有効性が報告された後,さまざまな癌で有効性が示され急速に使用頻度が増えている.現在国内で承認されているICIを下記に示す.また,各薬剤の適応疾患については表1に示す.PD-1阻害薬:ニボルマブ(オプジーボ),ペムブロリズマブ(キイトルーダ)PD-L1阻害薬:アベルマブ(バベンチオ),アテゾリズマブ(テセントリク),デュルバルマブ(イミフィンジ)CTLA-4阻害薬:イピリマブ(ヤーボイ)III免疫関連有害事象(irAEs)ICIによる新たな治療選択肢の可能性が得られた一方で,治療を契機に免疫を正常に調整できなくなり自己免疫疾患・炎症性疾患様の副作用を生じる事象が報告されている.irAEsと称され,自己抗原を誤認識したT細胞受容体をもつCD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞)による自己組織・細胞への傷害がおもな機序と考えられている.全身のさまざまな器官でirAEsをきたし,間質性肺炎,大腸炎や重度の下痢,皮膚障害,甲状腺機能障害,副腎皮質機能異常,糖尿病,肝機能異常・肝炎,筋炎・横紋筋融解症,Guillain-Barre症候群などの神経症状をはじめ,多岐にわたる5).眼障害についてはぶどう膜炎,末梢性潰瘍性角膜炎(peripheralulcerativekeratitis:PUK),強膜炎,上強膜炎,眼瞼炎,ドライアイなどあげられるが,発症頻度は1%未満ほどと考えられている.irAEsとしてのぶどう膜炎については海外からニボルマブやペムブロリズマブによる報告がされ6,7),その後わが国でも報告が散見される8.13).PD-1阻害薬はこの制御機構を破綻させ,眼炎症を惹起すると考えられている.Sunらは,PD-1阻害薬もしくはCTLA-4阻害薬による治療により発症したぶどう膜炎15例において,両眼性がほとんどで,前部ぶどう膜炎と汎ぶどう膜炎が半数ずつ,発症までの期間は91.7%の症例でICI投与開始から6カ月以内(中央値:63日)で,副腎皮質ステロイドの全身投与に対する反応は良好と報告している14).irAEsの治療指針についてはAmericanSocietyofClinicalOncologyClinicalPracticeGuideline15)や日本臨床腫瘍学会のガイドラインが参考となる.その一部を抜粋・改変したものを表2に示す.軽症例では点眼による対症療法となるが,炎症が強くなると原因となったICIの中止とステロイドの全身投与または免疫抑制療法を行う.以下に代表症例を示す.患者は74歳,女性.4カ月前に外陰部悪性黒色腫と診断され,リンパ節・骨転移がみられ,ペムブロリズマブ(キイトルーダ)を200mgの点滴投与で開始された.3週間後の2クール投与後から両眼の霧視,飛蚊症を自覚し,精査目的で北海道大学病院眼科に紹介となった.初診時の矯正視力は右眼(0.7),左眼(0.5),眼圧は両眼ともに8mmHgであった.両眼ともに角膜の中央から下方にかけて豚脂様角膜後面沈着物がみられ,2+.are,3+cellsの前房炎症がみられた(図1).眼底検査では視神経乳頭は発赤し,周辺部は全周に漿液性網膜.離と一部に脈絡膜.離がみられた(図2a).光干渉断層180あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(48)表1わが国で使用可能なICIとその適応疾患一般名(商品名)適応疾患PD-1阻害薬ニボルマブ(オプジーボ)悪性黒色腫非小細胞肺癌腎細胞癌古典的Chodgkinリンパ腫頭頸部癌胃癌食道癌悪性胸膜中皮腫結腸・直腸癌切除不能な進行・再発例根治切除不能または転移例再発または難治例再発または遠隔転移例癌化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発例癌化学療法後に増悪した根治切除不能な進行・再発例癌化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発例癌化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する例ペムブロリズマブ(キイトルーダ)悪性黒色腫非小細胞肺癌腎細胞癌古典的Chodgkinリンパ腫頭頸部癌尿路上皮癌固形癌切除不能な進行・再発例根治切除不能または転移例再発または難治例再発または遠隔転移例癌化学療法後に増悪した根治切除不能な進行・再発例癌化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(CMSI-High)を有する例(標準的な治療が困難な場合に限る)PD-L1阻害薬アベルマブ(バベンチオ)アテゾリズマブ(テセントリク)デュルバルマブ(イミフィンジ)Merkel細胞癌腎細胞癌非小細胞肺癌進展型小細胞肺癌再発乳癌非小細胞肺癌根治切除不能例根治切除不能または転移例切除不能な進行・再発例PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつCHER2陰性の手術不能または再発例切除不能な局所進行例で根治的化学放射線療法後の維持療法CTLA-4阻害薬イピリマブ(ヤーボイ)悪性黒色腫腎細胞癌根治切除不能例根治切除不能または転移例表2irAEsによる眼障害に対する治療指針CTCAEGrade症状,所見投与の可否対処方法CGrade1無症状継続眼科専門医と協議,人工涙液の点眼CGrade2前部ぶどう膜炎または視力>(0C.5)休止ステロイド点眼,散瞳薬全身性ステロイド投与の検討Grade1に改善したら投与再開CGrade3後部ぶどう膜炎または視力<(0C.5)中止メチルプレドニゾロンC0.8.C1.6Cmg/kgまたはプレドニゾロンC1.C2Cmg/kgの全身投与CGrade4視力<(0C.1)中止メチルプレドニゾロンC0.8.C1.6Cmg/kgまたはプレドニゾロンC1.C2Cmg/kgの全身投与副腎皮質ステロイド(ステロイド)の全身投与にもかかわらず改善が認められない場合,または悪化した場合には,追加の免疫抑制治療として,抗CTNF-a抗体薬などを考慮する.CTCAE:CommonTerminologyCriteriaforAdverseEvents.図1irAEsに伴うぶどう膜炎の前眼部所見両眼ともに角膜の中央から下方にかけて豚脂様角膜後面沈着物,前房炎症がみられた.Cab図2同一症例の眼底写真とOCT像a:両眼ともに視神経乳頭の発赤と,周辺部に漿液性網膜.離と脈絡膜.離がみられた.Cb:両眼ともに脈絡膜の著明な肥厚,脈絡膜皺襞がみられた.図3同一症例のフルオレセイン蛍光眼底造影両眼ともに視神経乳頭からの蛍光漏出と,周辺部で全周性に蛍光漏出と組織染がみられた.図4同一症例のインドシアニングリーン蛍光眼底造影像両眼ともに中大血管が不鮮明となり,周辺部に広く散在性の斑状充盈欠損がみられた.ab図5同一症例の消炎治療後の眼底写真とOCT像a:両眼ともに網膜の周辺部は全周性に萎縮した.b:両眼ともに脈絡膜の肥厚,脈絡膜皺襞は改善した.図6同一症例の消炎治療後のフルオレセイン蛍光眼底造影像両眼ともに萎縮による組織染が残存した.図7同一症例の消炎治療後のインドシアニングリーン蛍光眼底造影両眼ともに周辺部にみられていた斑状の充盈欠損は改善した.図8同一症例の消炎治療後の皮膚所見治療開始からC4カ月後頃から前腕,下肢に皮膚の白斑がみられるようになった.—

膠原病分子標的治療薬と眼

2022年2月28日 月曜日

膠原病分子標的治療薬と眼E.cacyofMolecularTargetDrugsonRheumaticDiseasesAssociatedOcularDisorders近藤裕也*松本功*はじめに膠原病類縁疾患は,多彩な臨床症状を呈する慢性炎症性疾患であり,ときに眼合併症を伴う場合がある.その病態には免疫異常が深く関連しており,治療には免疫異常を制御することを目的とした免疫抑制作用を有する薬剤が使用される場合が多い.近年,各膠原病類縁疾患の病態の解明とともに,免疫異常の原因となる免疫細胞,そこから産生された炎症性サイトカイン,その下流シグナルを標的とした生物学的製剤などの分子標的治療薬が臨床応用され,高い有効性が示されるに至った.これらの薬剤は,眼合併症に対しても有効であることが報告され,診療のガイドラインが作成されている場合がある.一方で,薬剤の性質上,免疫抑制作用による感染性合併症を生じる場合があり,まれに眼科的感染症も生じうる.本稿では,各膠原病類縁疾患における眼合併症の詳細と,それらに対する各種分子標的治療薬の有効性,また治療の際に注意すべき眼科的感染症について概説する.I各膠原病類縁疾患に使用される分子標的治療薬膠原病類縁疾患に使用される分子標的治療薬の代表が遺伝子組換え技術や細胞培養技術を用いて作製された,生物が産生する蛋白質を医薬品として使用する生物学的製剤とよばれる薬剤である.膠原病類縁疾患に対して用いられる生物学的製剤は,病態に関連する特定の分子と結合する抗体,または受容体をその成分として含み,その分子の機能を阻害したり,分子を発現した細胞を除去することにより治療効果を発揮する.生物学的製剤は高分子の蛋白質であり,点滴あるいは皮下注射での投与を要する.これに対して経口投与が可能な低分子化合物に該当する分子標的治療薬が開発され,臨床応用が進みつつある.現時点で,各種膠原病類縁疾患に対してさまざまな分子標的治療薬が保険収載されている(表1).疾患ごとに病態に関与する免疫物質,および免疫細胞が異なるため,治療対象となる疾患によって用いられる薬剤はさまざまである.これらの薬剤の特徴は従来治療に対する高い有効性に総括され,その臨床応用によって膠原病類縁疾患の診療は劇的な変化を遂げているということができる.代表的な疾患に対して,わが国で保険収載されている分子標的治療薬の概要は,以下のとおりである.1.関節リウマチ関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は多関節炎を主症状とする慢性炎症性疾患である.自己免疫的機序により活性化したT細胞が起点となり,単球,好中球などの自然免疫系や関節炎局所で増殖した滑膜線維芽細胞から産生された腫瘍壊死因子(tumornecrosisfac-tor:TNF)やインターロイキン(interleukin;IL)-6といった炎症性サイトカインにより病態が形成される疾患である.したがって,抗原提示細胞上に発現する共刺激*YuyaKondo&IsaoMatsumoto:筑波大学医学医療系膠原病リウマチアレルギー内科学〔別刷請求先〕近藤裕也:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系膠原病リウマチアレルギー内科学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(37)169表1膠原病類縁疾患に対する生物学的製剤,低分子の適応治療標的製剤名関節リウマチ全身性エリテマトーデス強皮症顕微鏡的多発血管炎多発血管炎性肉芽腫症好酸球性多発血管炎性肉芽腫症高安動脈炎巨細胞性動脈炎強直性脊椎炎X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎乾癬性関節炎成人Still病若年性特発性関節炎Behcet病非感染性の中間部,後部または汎ぶどう膜炎生物学的製剤TNFインフリキシマブ〇〇〇〇*1インフリキシマブBS〇〇〇〇*2エタネルセプト〇〇*4エタネルセプトBS〇〇*4アダリムマブ〇〇〇〇*4〇*3〇アダリムマブBS〇〇〇〇*4〇*3ゴリムマブ〇セルトリズマブ・ペゴル〇〇IL-6受容体トシリズマブ〇〇〇〇〇*4*5サリルマブ〇CD80/86アバタセプト〇〇*4BAFFベリムマブ〇CD20リツキシマブ〇〇〇IFNa受容体アニフロルマブ〇IL-1bカナキヌマブ〇*5IL-4メポリズマブ〇IL-17Aセクキヌマブ〇〇〇イキセキズマブ〇〇〇IL-17受容体Aブロダルマブ〇〇〇IL-12/23ウステキヌマブ〇IL-23グセルクマブ〇リサンキズマブ〇トファシチニブ〇低分子化合物JAKバリシチニブ〇ペフィシチニブ〇ウパダシチニブ〇〇フィルゴチニブ〇C5受容体アバコパン〇〇BAFF:Bcellactivatingfactorbelongingtothetumornecrosisfactorfamily,IL:interleukin,IFN:interferon,JAK:Januskinase,TNF:tumornecrosisfactor.*1:「Behcet病による難治性ぶどう膜炎」および「腸管型・神経型・血管型Behcet病」に適応.*2:「Behcet病による難治性ぶどう膜炎」に適応.*3:「腸管型Behcet病」に適応.*4:「多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎」に適応.*5:「全身型若年性特発性関節炎」に適応.分子であるCD80/86に結合することでT細胞の活性化を防ぐアバタセプトや,炎症性サイトカインを直接阻害する各薬剤が高い臨床効果を発揮する.近年,サイトカインなどの受容体の下流シグナルの起点となるJanuskinase(JAK)を特異的に阻害するJAK阻害薬が臨床応用され,生物学的製剤と同等の効果が確認されている.2.全身性エリテマトーデス全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythema-tosus:SLE)は多彩な全身症状,臓器障害を呈する全身性炎症性疾患である.自己抗体の産生が病態形成に重要な役割を果たしている疾患であり,抗体産生細胞であるB細胞の活性化をつかさどるB細胞増殖因子(Bcellactivatingfactorbelongingtothetumornecrosisfac-torfamily:BAFF)を標的としたベリムマブが開発された.当初はSLEの重症病態に対する治療効果のエビデンスが乏しく,病態の安定化,ステロイドの減量効果を期待して使用されていたが,重症ループス腎炎に対して標準治療であるステロイドおよび免疫抑制薬への追加による治療効果が報告された.また,SLEの病態においては,形質芽細胞様樹状細胞などから産生されたI型インターフェロン(interferon:IFN)が病態形成に関与していることが知られており,新たにIFN受容体に対する生物学的製剤が認可され,今後の臨床応用が期待されている.3.抗好中球細胞質抗体関連血管炎抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎は,小型血管炎を特徴とする疾患であり,顕微鏡的多発血管炎(microscopicpolyangiitis:MPA),多発血管炎性肉芽腫症(granulo-matosiswithpolyangiitis:GPA),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilicgranulomatosiswithpolyangi-itis:EGPA)が該当する.前二者については,自己抗体であるANCAが病態に深く関与しており,B細胞に発現するCD20を標的とし,これらを除去するリツキシマブの有効性が示されている.また,新たに補体C5の受容体活性を阻害する低分子化合物であるアバコパンが認可され,今後の臨床応用が期待されている.EGPAは,気管支喘息などのアレルギー性炎症が先行することが知られており,アレルギーに関与する主要な免疫細胞である好酸球の活性化に関与するIL-4を阻害するメポリズマブが臨床応用されている.4.大型血管炎大型血管炎は大動脈,およびその主要分枝に該当する大型血管を病変の主座とする疾患であり,若年者に好発する高安動脈炎,高齢者が中心となる巨細胞性動脈炎に大別される.いずれもが炎症性サイトカインであるIL-6が病態に関与することが明らかにされており,この受容体への結合を阻害する抗IL-6受容体抗体製剤であるトシリズマブの有効性が示されている.5.強直性脊椎炎,乾癬性関節炎強直性脊椎炎,乾癬性関節炎は,脊椎および末梢関節炎が認められるが,関節滑膜炎が病態の中心であるRAとは異なり,腱付着部炎が病態の中心であると考えられている.その病態にTNFが関与し,これを阻害する抗体製剤が有効である点はRAと同様であるが,CD4+T細胞から産生されるIFNgやIL-17の病態への関与が知られており,IL-17シグナルを直接的に阻害する薬剤や,抗原刺激を受けていない未感作のCD4+T細胞がサイトカインを産生できる活性化したT細胞に分化する際に重要なIL-12およびIL-23を阻害する薬剤の有効性が示されている.6.成人発症Still病成人発症Still病は発熱,皮疹,多発リンパ節腫脹,全身性関節炎などを主症状とし,後述する若年性特発性関節炎のうち,かつてStill病と呼称された全身型の成人例として報告された疾患である.病態には種々の炎症サイトカインが関与するとされており,IL-6受容体抗体製剤であるトシリズマブの有効性が示され,その使用が認可されている.7.特発性若年性関節炎特発性若年性関節炎(juvenileidiopathicarthritis:JIA)は16歳未満で発症し,6週間以上持続する原因不(39)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022171表2膠原病疾患における眼合併症関節リウマチ全身性エリテマトーデスSjogren症候群強皮症多発血管炎性肉芽腫症好酸球性多発血管炎性肉芽腫症高安動脈炎巨細胞性動脈炎強直性脊椎炎若年性特発性関節炎Behcet病ドライアイ〇〇〇〇角膜炎〇辺縁部角膜潰瘍〇上強膜炎〇強膜炎〇〇前部ぶどう膜炎〇〇〇網膜血管炎〇〇〇〇〇網脈絡膜虚血〇〇眼窩内偽腫瘍〇視神経病変〇〇〇虚血性視神経症〇(文献1より)ステロイドパルス療法ステロイド経口反応不良or再発orステロイド依存DMARDsMTX投与不適合MTX不適症例の場合アザチオプリンサラゾスルファピリジンシクロスポリンDMARDs(MTX)すでに抗TNF療法中or治療不適合or反応不良or治療不耐図1RAに合併した上強膜炎,強膜炎の治療アルゴリズム(文献C5より引用改変)強膜全層に炎症を起こす強膜炎のCRAにおける合併頻度はC0.2.6.3%と報告されている.強膜炎は,病変が鋸状縁より前方か後方かのいずれかによって前部強膜炎と後部強膜炎に分類され,さらに前部強膜炎はびまん性,結節性と壊死性,非壊死性に細分類される.とくに壊死性前部強膜炎はまれながら,視力予後,および全身性リウマチ性血管炎合併により皮膚潰瘍や多発単神経炎を合併しうるため,機能予後,生命予後という意味では最重症の病型にあたる.強膜炎の治療方針は,病型やその他の合併症の有無,発症時の治療内容といった患者背景を考慮して決定されることとなる(図1)5).壊死性強膜炎以外の病型に対しては,経口非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatoryCdrugs:NSAIDs)にてコントロールが不良であった場合は,プレドニゾロン換算C1Cmg/kgの全身性ステロイド治療を行い,これらでのコントロールが不良であるか,再発を認める患者に対しては,ミコフェノール酸モフェチル,メトトレキサート,アザチオプリンといった免疫抑制薬を併用する.壊死性強膜炎など視力予後が懸念される患者では,上記の治療にメチルプレドニゾロンパルス療法を先行する.以上の治療によってもコントロールが不良である場合は,シクロホスファミド,または生物学的製剤の使用を考慮する.治療抵抗例に対する抗CTNF製剤であるインフリキシマブ,アダリムマブの有効性が報告されており,2014年に公表された米国眼科学会(AmericanCAcademyofOphthalmology)のCrecommendationsにおいては,治療抵抗性の強膜炎症例に対してインフリキシマブまたはアダリムマブの使用を考慮することが記載されている6).その他の生物学的製剤としては,リツキシマブ(わが国ではCRAに対する保険適用はない),トシリズマブの有効性が報告されており,またCJAK阻害薬であるトファシチニブの有効例が報告され,現在強膜炎,ぶどう膜炎を対象とした臨床試験が進行中である.辺縁部角膜潰瘍は,傍角膜縁の菲薄化と潰瘍形成を特徴とし,強膜炎に併発する場合としない場合がある.RAのC3%程度に合併するとされるが,近年CRAの活動性が改善していることにより減少傾向にある.乱視や角膜混濁による視力低下をきたす患者が存在する.辺縁部角膜潰瘍の治療に関する確立したエビデンスは存在せず,角膜障害の程度や患者背景を考慮して,プレドニゾロン換算C1Cmg/kgの全身性ステロイド治療,シクロホスファミドといった免疫抑制薬による治療が試みられる5).また,治療抵抗例に対するインフリキシマブの有効性が報告されている.C2.SLE眼合併症は多彩で患者ごとに異なり,疾患活動性に関連する.RA同様にドライアイによる角結膜炎がもっとも高頻度であるが,一方で網脈絡膜障害はもっとも視力低下に関連する.網脈絡膜の炎症は,中枢神経系を中心とするその他の臓器の血管炎を反映しているとされる7).まれではあるが,視力に影響するような網膜,視神経などの後眼部病変が全身症状に先行する場合があり,早期診断が良好な予後を得るために重要である.SLEの病態は不均一であり,多様な臓器障害を呈することにより,治療が困難となる場合がある.治療には全身性ステロイド治療,ヒドロキシクロロキン,免疫抑制薬,そして近年では生物学的製剤も用いられるようになり,ステロイド中心であった治療戦略が見直されつつある状況にある.ただし,眼合併症に対する生物学的製剤の有効性に関するエビデンスは限定的であり,治療抵抗性の網膜血管炎に対するリツキシマブの有効例に関する症例報告程度にとどまる.C3.JIAぶどう膜炎の合併がC11.6.30%と高頻度に認められる.急性,および慢性の前部ぶどう膜炎に大別される.急性の場合は疼痛を伴った眼球充血を認めるが,慢性の場合には無症状で経過することも多く,適切な治療がなされないことにより白内障,緑内障,.胞状黄斑浮腫をきたして視力予後に影響するため,定期的な眼科スクリーニングが必須である8).活動性のぶどう膜炎が確認された場合に,ステロイド点眼に加え,視力に影響するような合併症が出現しているなどの予後不良因子を有したり,局所療法に抵抗性の患者では,全身性ステロイド療法やメトトレキサートなどの免疫抑制薬の投与が試みられる8).これらによっても病状がコントロールできず,視力への影響が懸念され174あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(42)るような患者に対しては,ランダム化比較試験において有効性が確認されているCTNF阻害薬であるアダリムマブの使用が推奨されている8,9).C4.Behcet病前眼部ぶどう膜炎と網膜血管炎に代表される後眼部ぶどう膜炎に大別される.症状は,再発性,発作性に生じ,とくに後眼部病変が繰り返されることによって視力低下,視野障害を生じうる.前眼部ぶどう膜炎は,ステロイドによる局所治療が治療の主体になる.後眼部,発作急性期にはステロイドの眼内注射やプレドニゾロン換算C30.40Cmg程度の全身性ステロイド療法が行われる.眼発作の予防を目的としてコルヒチンを投与するが,眼発作を繰り返し,視機能低下リスクが高いと判断される患者や,シクロスポリンの追加によってもコントロールが得られない症例に対しては,TNF阻害薬であるインフリキシマブ,アダリムマブの導入を検討する(図2)10,11).これらC2剤に関するランダム化比較試験は存在しないが,わが国でインフリキシマブを投与されたぶどう膜炎を有するCBehcet病患者を対象とした市販後調査においては,インフリキシマブ投与前C6カ月と比較して,投与開始後C6カ月間の眼発作の回数が有意に減少したことが報告されている12).また,Behcet病に対してCTNF阻害薬の効果を検証した文献報告のメタ解析においても,既存治療に対して非常に高い有効性が確認されている13).C5.その他血管炎症候群においても疾患ごとにさまざまな眼合併症が認められる.ANCA関連血管炎では強膜炎や炎症性眼科内偽腫瘍を認める場合があるが,これらの治療抵抗例においてリツキシマブが有効であった症例が報告されている.また,巨細胞性動脈炎に起因する網脈絡膜虚血の視力障害に対するトシリズマブの有効例が報告されている.脊椎関節炎に該当する各疾患においてぶどう膜炎を合併する症例が散見されるが,標準治療の抵抗例に対してはインフリキシマブを中心とする抗CTNF製剤の使用を考慮すべきとされている.III分子標的治療薬使用下で問題となる眼科的感染症ここまで説明した分子標的治療薬は,いずれも免疫抑制作用を有するために,日和見感染症を中心とした感染症の合併が問題となる.使用にあたっては,潜在的な感染症としてCB型肝炎,C型肝炎,結核,およびとくにすでに免疫抑制薬を使用されている場合にはCb-Dグルカンといった真菌抗原の評価が必須である.また,治療経過中に炎症性眼合併症を認めた場合には,感染症の可能性を十分に除外する必要がある.近年,RAを中心に使用が拡大しているCJAK阻害薬については,ウイルス感染防御に重要なCI型インターフェロンのシグナルが阻害されることに起因すると考えられるヘルペスウイルスの再活性化による感染症の増加が問題となる14).とくに帯状疱疹の罹患頻度が高い日本を中心とする東アジア圏においてとくに高い14).播種性帯状疱疹などの重篤例も報告されている.JAK阻害薬の一つであるトファシチニブの市販後調査においては,眼部帯状疱疹が報告されており,使用時の合併症として留意する必要がある15).おわりに分子標的治療の高い有効性は,膠原病疾患の治療方針に大きな変化をもたらしており,疾患に関連した眼合併症についても同様といえる.ただし,その使用にあたっては,対象疾患以外の並存疾患の評価や事前の感染症スクリーニングが必須であり,適切な症例選択のもとに治療を開始すべきであるし,治療開始後についても定期的なモニタリングによって安全性を担保する必要がある.膠原病疾患を対象として日常的に分子標的治療薬を使用しているリウマチ医,膠原病内科医はこれらの対応に精通しているが,眼科医が単独にこれらの治療を導入する場合には,とくに治療合併症が生じた場合のリスク管理の点で問題があるかもしれない.一方で,膠原病疾患の眼合併症に対して分子標的治療薬を含めて加療を行う場合には,リウマチ医,膠原病内科医には病状の正確な評価は困難であり,眼科による正確な評価が必須である.また,とくに近年使用が拡大しているCJAK阻害薬にお(43)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C175A.眼発作時の治療後眼部を含む発作前眼部発作のみ・ステロイド点眼・散瞳薬点眼±・ステロイドTenon.下注射・ステロイド内服・ステロイド点眼・散瞳薬点眼±・ステロイド結膜下注射B.眼発作抑制の治療経過観察治療不要*1治療必要±低用量ステロイド(PSL)内服YesNo低い高い*3治療の継続±コルヒチン±PSLTNF阻害薬(インフリキシマブまたはアダリムマブ)±治療の継続CyA内服±コルヒチン±PSLNoYesYes治療の継続No図2Behcet病の眼病変に対する治療アルゴリズム*1視機能に影響しない軽い眼炎症発作であると判断される場合.*2臨床的寛解は発作がC6カ月以上みられない状態とし,達成できなくても低疾患活動性をめざす.*3眼発作を頻発する症例,後極部に眼発作を生じる症例,視機能障害が著しく失明の危機にある症例では早期のCTNF阻害薬導入を検討する.*4保険外治療については各施設における倫理委員会の承認が必要.(文献C11より引用改変)’C’C’C’C’-

多発性硬化症に対する分子標的治療と眼

2022年2月28日 月曜日

多発性硬化症に対する分子標的治療と眼Molecular-TargetedTherapeuticAdvancementsforMultipleSclerosisandEyes佐藤和貴郎*山村隆*はじめに多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)は中枢神経および視神経を首座とする炎症性脱髄性疾患である.自己免疫機序の解明によって,21世紀はさまざまな再発予防治療が登場し患者の予後が改善している.視神経炎は代表的な症状の一つで初発症状であることも多いが,視神経脊髄炎や抗MOG抗体関連疾患においても頻発する症状であり,抗アクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)抗体や抗MOG抗体を測定し鑑別診断を行い,適切な治療選択につなげる必要がある.課題として,勤労世代に発症し長期治療を要するが安全性と高い効果をあわせもつ薬剤がまだないこと,神経障害の蓄積により歩行障害や認知機能障害が進む進行型MSの診断法や治療法が不十分なことなどがあげられる.本稿では,MSの病態とそれに対する分子標的治療に関する知見や治療薬に起因する注意すべき副作用である黄斑浮腫について解説する.I多発性硬化症の疫学・発症機序・免疫病態MSは,中枢神経系および視神経を首座とする慢性炎症性の脱髄性疾患である.女性優位に若年世代に発症し,神経障害(視機能障害・身体障害・高次脳機能障害など)をきたしうる神経難病である.疫学的には明確な人種差・地域差が認められ,日本人の有病率は欧米諸国と比較し少ない.しかし,特定疾患受給者数の推移から,過去40年間に患者数が顕著に増加しており,現在のわが国の推定患者数は約2万人である.環境因子,なかでも食生活の欧米化が発症を後押ししていると考えられている1).MSの診断は神経症状の時間的・空間的多発性を証明することによって行われるという原則は従来から変わらないが,抗AQP4抗体陽性を特徴とする視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitisopticaspectrumdis-order:NMOSD)や抗MOG抗体陽性疾患の存在が明らかとなり,現在ではこれらの抗体の陰性を確認して診断することが,治療的観点から重要である.しかし,治療の遅延が予後不良因子になるため,早期診断・早期治療が求められる.そのため,たとえ症状は単発(再発なし)でも,MRIや髄液所見などの検査所見によってMSと診断し,治療を開始することが推奨されるようになった.発症の遺伝的リスクとして,特定のHLA-DRおよびヘルパーT細胞機能に関与する遺伝子の一塩基多型が関連していること(一部は関節リウマチなど他の自己免疫疾患と共通していること)が明らかとなっている.再発時のステロイドパルス療法や血液浄化治療の恋効果,リンパ球に作用する薬剤による再発予防効果2),さらに活動性の高いMSに対する自己末梢血造血幹細胞移植治療の有効性が海外で示されている.MS患者の大多数を占める再発寛解型については,年間再発率を下げる「疾患修飾薬」とよばれる再発予防薬の開発が進んでいる.再発は,24時間以上続く新たな神経脱落症状(視機能*WakiroSato&TakashiYamamura:国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部多発性硬化症センター〔別刷請求先〕佐藤和貴郎:〒197-8502東京都小平市小川東町4-1-1国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部多発性硬化症センター0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(29)161表1疾患修飾薬の一覧分類一般名(商品名)日本での承認時期効能・効果用量(1回量)投与間隔投与経路おもな作用機序おもな副作用INF製剤IFNb-1b(ベタフェロン)2000年9月再発予防および進行抑制800万国際単位隔日皮下注射多彩な免疫調整作用による抗炎症・自己免疫抑制注射部位反応,発熱,肝障害,うつINF製剤IFNb-1a(アボネックス)2006年7月再発予防30μg週1回筋肉内注射多彩な免疫調整作用による抗炎症・自己免疫抑制注射部位反応,発熱,肝障害,うつ合成アナロググラチラマー酢酸塩(コパキソン)2015年9月再発予防20mg1日1回皮下注射合成ポリペプチド.抗自己免疫・抗炎症作用注射部位反応小分子化合物フマル酸ジメチル(テクフィデラ)2016年12月再発予防および身体的障害の進行抑制初期7日120mg,その後240mg1日2回経口Nrf2経路の活性化を介した抗炎症作用潮紅,消化器症状,肝障害S1P1,2,4,5に対小分子化合物フィンゴリモド塩酸塩(ジレニア,イムセラ)2011年9月再発予防および身体的障害の進行抑制0.5mg1日1回経口する機能的アンタゴニスト.S1P1に作用しリンパ球のリンパ節からの徐脈,肝障害,黄斑浮腫,感染症移出を阻害する抗体製剤ナタリズマブ(タイサブリ)2014年3月再発予防および身体的障害の進行抑制300mg4週に1回静脈注射抗VLA4抗体.リンパ球の中枢神経組織への移入を阻害進行性多巣性白質脳(PML)小分子化合物シポニモド(メーゼント)2020年9月二次性進行型MSの再発予防および身体的障害の進行抑制1mgまたは2mg(CYP2C9遺伝子型による)1日1回経口S1P1に作用しリンパ球のリンパ節からの移出阻害,S1P5に作用し神経保護作用徐脈,肝障害,黄斑浮腫,感染症下記患者における再発予防および身体的障害の抗体製剤オファツムマブ(ケシンプタ)2021年3月進行抑制再発寛解型多発性硬化症と疾患活動性を有する20mg4週に1回皮下注射CD20陽性B細胞の除去注射部位反応,感染症二次性進行型多発性硬化症2021年11月現在のわが国における承認薬を示す.神経障害度(EDSS)新しい病巣の出現脳容積の減少(ないこともある)(神経細胞の消失)再発寛解型(RR)二次進行型(SP)※再発があったり,進行が停止する時期があってもよい※PIRA再発がないのに進行する(ProgressionIndependentofRelapse)時間(発症からの年数)病変容積・脳萎縮脳予備能・代償機構図1MSの一般的な自然経過と病態多発性硬化症の代表的な経過を示す.疾患修飾薬(再発予防薬)が登場し,早期治療が実践されるようになり,最近は,患者の予後は改善してきている.生活指導(禁煙・肥満の解消・運動・食生活の改善など)再発期(急性期)ステロイドパルス療法メチルプレドニゾロンベタメタゾン(経口)血液浄化療法血漿吸着(IAPP)二重膜濾過(DFPP)血漿交換(PE)免疫グロブリン大量療法図2多発性硬化症の治療の概要多発性硬化症の治療の概要を示す.再発期の抗炎症治療に加え,長期予後に影響する再発予防治療の使用が重要である.最近神経障害の進行を抑制する薬剤が登場した.その他さまざまな対症療法や,禁煙や食生活の改善などの生活指導も重要である.たからである.さまざまな治療薬が登場し,現在のCMSにおける治療目標はCnoCevidenceCofCdiseaseCactivity(NEDA)とよばれる治療目標CNEDA-3(再発なし・新規/拡大CMRI病変なし・身体障害進行なし)およびNEDA-4(脳萎縮も認められないもの)の達成である.症状がなくてもCMRIで新規病巣がみられる場合もあるため,定期的なCMRI検査が必要である.また,再発症状はかなり改善・消失することも多い.患者には長期にわたる治療の必要性について十分説明し,再発予防治療を適切に導入し,副作用に留意しつつ継続することが大事である.再発予防が不十分である場合や副作用でQOLが低下する場合は,治療薬の変更(switching)を検討する必要がある.CIII疾患修飾薬初期に開発されたインターフェロンCbやコパキソンは,真に有効な患者はC30.40%といわれ,また注射製剤であるため,注射部位反応や他の副作用の面から,治療の継続が困難な場合も多かった.2011年に登場した初めての経口薬がフィンゴリモド(.ngolimod)で,スフィンゴシンC1-リン酸(sphingosine1-phosphate:S1P)受容体の機能的阻害薬である.おもな作用機序はS1P1に作用しリンパ球のリンパ節外への移出を阻害することで,末梢血中のリンパ球を減少させ,病原性のリンパ球が脳内に浸潤するのを防ぐ.その再発予防効果は上述の注射剤より高い.しかし,免疫抑制作用により感染症のリスクが増加するほか,さまざまな細胞がCS1P受容体を発現しているため,徐脈や肝機能障害,黄斑浮腫などの副作用が生じうる点が問題である.また,催奇形性があり挙児希望のある患者には使用できないほか,半減期が長く中止後も月単位で作用が残存するため注意が必要である.フィンゴリモド同様,高い再発抑制効果をもつ薬剤がナタリツマブである.これは月C1回静脈投与を行う抗体製剤で,リンパ球が脳内に侵入する際の接着分子であるCa4b1インテグリン(VLA4)を阻害し脳内への遊走をブロックし効果を発揮する.初期に欧米で導入された際に,JCウイルス(JohnCCunninghamvirus:JCV)による進行性多巣性白質脳症(progressivemultifocalleukoencephalopathy:PML)による死亡例が報告されいったん市場から撤退したが,抗CJCV抗体測定や頻回のCMRI検査などを含むリスク管理を行うことで再登場し,わが国ではC2014年に上市されている.最近の進歩として投与間隔を延長するCextendedCinter-valdosing(EID)法がCPMLのリスクを顕著に減少させることがわかり,抗CJCV抗体陽性でCPMLの発生リスクが懸念される患者にも投与するケースが増えている.なお,フィンゴリモドもCPMLの発生がわが国を含め報告されており注意が必要である.テクフィデラは乾癬に対する治療薬としてドイツで開発された抗炎症作用をもつ薬剤で,2016年に発売された.効果はやや弱いものの重篤な副作用がない経口薬という特徴がある.しかし,顔面紅潮や消化器症状のため継続できない患者もいる.シポニモドは,S1P受容体のC5つのサブタイプのうち,S1P1とCS1P5を選択的に標的とする機能的アンタゴニストである(フィンゴリモドはCS1P1,S1P3,S1P4,S1P5を標的としている).シポニモドはCS1P1阻害に加え,S1P5阻害機能を介して神経炎症や神経変性に対抗する作用(神経保護作用)をもち,二次進行型CMSに対し進行抑制を証明した初めての薬剤となり,2020年C8月わが国で承認され使用が始まっている.フィンゴリモドと異なり半減期が短いため,服用中止後は効果が急速に減弱し,リバウンドによる再発のリスクがある.なお,どの薬剤も治療中止後は疾患活動性の増加が懸念され注意が必要であるが,フィンゴリモド,シポニモド,ナタリツマブは病原性リンパ球が脳内に侵入しないように「閉じ込める」薬剤であるため,中止後は悪化のリスクが高い.Washoutの期間を置かずCdirectな薬剤変更や,ステロイドパルス療法により疾患活動性を抑制する方策が必要である.最近CB細胞を標的とした治療薬が登場した.B細胞は抗体産生を担う免疫細胞であるが,MSは疾患特異的な自己抗体が見いだされない疾患である.しかし,脳脊髄液中のオリゴクローナルバンドは中枢神経系内で産生される免疫グロブリンの存在を示すCMSの診断マーカーである.さらに近年,抗体産生以外の作用であるCT細胞への抗原提示,炎症性サイトカイン産生,中枢神経系コンパートメントでのリンパ濾胞形成などの重要性が示されてきた12).また,抗CCD20抗体COcrelizumabは,一(33)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C165次進行型CMSに有効であることを示した初めての薬剤となった(わが国では未発売).完全ヒト型抗体で月C1回の皮下注射製剤である抗CCD20抗体オファツムマブは,治験で顕著な再発抑制効果が認められ,2021年C3月に薬事承認され使用が始まっている.CIVバイオマーカー「進行」の徴候を捉えるためには前述の症状評価に加え,客観的な評価法ーバイオマーカーの開発が重要である.神経線維の脱落の指標であるニューロフィラメント軽鎖は治験で活用され始められるなど注目されるが10),再発により増加するほか,他の中枢/末梢神経障害をきたす疾患でも増加するなど特異性に欠く.筆者らは,進行型CMSの動物モデルで見いだした転写因子CEomesを発現するヘルパーCT細胞が,進行期(神経障害度のスケールであるCexpandedCdisabilityCstatusscale:EDSSが過去C1年間に増加した症例)の二次進行型CMS患者の末梢血中で増加していること見いだした11).Eomesは元来CCD8陽性の細胞障害性CT細胞に発現する転写因子であり,実際同細胞はCgranzymeBを発現するので直接神経障害を起こす可能性があり,今後の展開が注目される.CV分子標的治療に伴う注意すべき合併症黄斑部の浮腫により視力低下や変視症,霧視が起こる黄斑浮腫は,ぶどう膜炎や糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などで起こることが知られているが,フィンゴリモドやシポニモドといったCS1P1受容体に働く薬剤によっても起こることがわかっており,注意すべき合併症となっている.その機序については不明な点も多いが,S1P1受容体阻害作用が血液網膜関門の血管透過性を増加させる機序が考えられている.フィンゴリモドの第CIII相臨床治験のデータでは,臨床的に用いられる用量である0.5Cmg群においてC0.5%に出現した12).投与開始後C3.4カ月後に多いが,長期投与後にみられた例もあった.わが国の副作用収集データによると,2021年C9月時点で33例の報告がある.シポニモドについては,第CIII相試験の結果,約C2%(1,088例中C18例)で黄斑浮腫がみられたと報告されている13).わが国ではC2020年C9月の発売よりC10月C13日までにC2例の副作用報告がある.黄斑浮腫は初期には自覚症状がないことが多いため,フィンゴリモドやオファツムマブ投与の約C3カ月後などに,原則として眼科医による診察を受けることが重要である.早期に発見されれば,フィンゴリモド中止により数カ月で回復すると報告されている.なお,糖尿病やぶどう膜炎など黄斑浮腫のリスクのある患者では発症リスクがより高くなるため,薬剤の選択についてより慎重な対応が必要であろう.なお,S1P1受容体作動薬を中止すると,リバウンドによるCMSの再発リスクが高くなるため,他の再発予防治療への迅速なCswitchingやステロイド治療によるカバーが必要である.CVINMOSDとの鑑別の重要性本特集の他稿に詳述されているが,MSとCNMOSDの鑑別についてポイントをあげておく.まず発症年齢であるが,MSが若年成人を中心に発症するのに対し,NMOSDはC60歳以上の高齢発症も比較的多いため,その点に注意する必要がある.筆者は虚血性視神経症と診断されたが,実際はCNMOSDによる視神経炎であった患者を経験したことがある.つぎに念頭におくべきことは,NMOSDの視神経炎は(脊髄炎も),MSのそれより一般に重症で予後も悪く,緊急的な対応を必要とするということである.NMOでは治療の遅れが予後悪化因子となることが示されている14).ステロイドパルス療法1クールで改善が乏しい場合は,躊躇せず血液浄化療法や大量Cgグロブリン療法を選択するべきである.最後に,NMOではCMSの疾患修飾薬の多く(インターフェロンCb,フィンゴリモド,ナタリツマブ,メーゼント)が無効であることがわかっており,視神経炎が悪化した場合など,診断を見直してみることが必要である.おわりにMSについて,最近注目されている病態機序や新しい分子標的薬に関する話題を中心に解説した.再発抑制に関しては有効な薬剤が登場したが,既存の「進行」抑制薬の効果は不十分であり,より効果的な治療薬の開発が望まれる.視神経炎を初発症状とするCMSも多く,また視力障害は患者のCQOLに直結するため,眼科医と神経166あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(34)—

視神経脊髄炎に対する分子標的治療

2022年2月28日 月曜日

視神経脊髄炎に対する分子標的治療Molecular-TargetedTherapeuticAgentsforNeuromyelitisOpticaSpectrumDisorder毛塚剛司*はじめに視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitisopticaspectrumdisorder:NMOSD)は,視神経炎,脊髄炎などを引き起こす中枢性自己免疫性疾患である.NMOSDは,19世紀末にDevic病と名付けられてから1世紀近くにわたり原因不明の難病とされてきた.しかし,2004年にMayo医科大学のLennonらと東北大学脳神経内科のグループらにより,NMO-IgG,いわゆる抗アクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)抗体が同定され,この疾患の解明および治療に対するパラダイムシフトが起きた1).NMOSDの病態メカニズムには,T細胞,B細胞,抗AQP4抗体,補体,インターロイキン(inter-leukin:IL)-6が関与して難治性視神経炎を形作っている.具体的には,ナイーブT細胞からヘルパーT細胞(Th17細胞)や制御性T細胞が分化するが,Th17細胞からIL-6が産生され,B細胞がプラズマ細胞へと分化して抗体(抗AQP4抗体)を産生している2).NMOSDでは,抗AQP4抗体,補体,IL-6が共同で作用して神経グリア細胞であるアストロサイトを攻撃して障害を引き起こす(図1).近年,これらのキーとなる分子標的に対する抗体治療が実用化されるに至った3).本稿では,NMOSDの病態を簡単に解説するとともに,それに対する分子標的薬の投与法とその効果,副作用について述べる.INMOSDと眼疾患NMOSDは抗AQP4抗体を介して種々の神経病変を引き起こし,眼科医にとっては視神経病変による視力障害,脳幹病変による複視が問題となる(図2).最近,抗AQP4抗体や抗myelinoligodendrocyteglycoprotein(MOG)抗体などの特異抗体陽性視神経炎がわが国においてどれくらいの頻度なのか,日本神経眼科学会が中心となって特発性視神経炎の全国調査が行われた4).対象となった特発性視神経炎531例中12%が抗AQP4抗体陽性,10%が抗MOG抗体陽性,77%が両方の抗体に対して陰性,1例が両方の抗体に対して陽性であった.このように,NMOSDに関連する抗AQP4抗体陽性視神経炎は,国内において一般的な視神経炎の1割強だと判明し,この稀少な疾患が分子標的薬の治療ターゲットとなった.IINMOSDの急性期治療抗AQP4抗体関連視神経炎を含めたNMOSDは,ステロイドに抵抗性もしくは依存性のことが多く,治療に難渋することが多い.多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017によると,抗AQP4抗体関連視神経炎を含めたNMOSD治療において,第一選択はステロイドパルス療法である5).診療ガイドラインでは,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg点滴静注)を3~5日間行い,治療効果が乏しければ血漿*TakeshiKezuka:毛塚眼科医院,東京医科大学臨床医学系眼科学分野〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒131-0033東京都墨田区向島1-5-7毛塚眼科医院0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(23)155IL-6(補体活性化に関与)アクアポリン4(AQP4)相互作用分化分化ヘルパーT細胞(Th17細胞)形質細胞B細胞(プラズマ細胞)抑制AQP4抗体ナイーブT細胞分化補体(C5)アストロサイト障害補体依存性アストロサイト障害制御性(CDC)T細胞図1NMOSDの病態メカニズムナイーブCT細胞からヘルパーCT細胞(Th17細胞)や制御性CT細胞が分化するが,Th17細胞,B細胞,抗アクアポリンC4(AQP4)抗体,補体,インターロイキン(IL)-6が関与して難治性視神経炎を形作っている.一般的にCTh17細胞からCIL-6が産生され,B細胞がプラズマ細胞へと分化して抗体(抗CAQP4抗体)を産生する.NMOSDでは,抗CAQP4抗体,補体,IL-6が共同で作用してグリア細胞であるアストロサイトを攻撃して障害を引き起こす.視神経病変脊髄病変視力障害複視脳病変脳幹病変図2NMOSDの臨床所見NMOSDとしては視神経炎および脊髄炎が多いが,時に脳障害や脳幹障害を引き起こす.眼科的には視力障害もしくは複視が生じる.ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg点滴静注3~5日間)後療法(プレドニゾロン・免疫抑制薬内服)図3NMOSD視神経炎の急性期治療第一選択としてステロイドパルス療法を行う.その後,ステロイド抵抗性視神経炎のときは,眼症状に合わせて血液浄化療法もしくは大量免疫グロブリン療法を選択する.経過をみて後療法に移行する.=表1NMOSDに対する分子標的薬抗CAQP4抗体陽性CNMOSDに対して保険収載すみ補体CC5に対する抗体900Cmg/日(開始月は週C1回,以後C2週間に1度点滴静注)抗CAQP4抗体陽性CNMOSDに対して保険収載すみIL-6レセプターに対する抗体120Cmg/日(開始月はC2週間ごと,以後はC4週ごとに皮下注射)抗CAQP4抗体陽性CNMOSDに対して保険収載すみCD19(B細胞の標識)に対する抗体300Cmg/日(開始月はC2週間ごと,以後はC6カ月ごとに点滴静注)NMOSDに対して保険未収載CD20(B細胞の標識)に対する抗体C375Cmg/m2/日(開始月は週C1回,以後C6カ月ごとに点滴静注)べてのエクリズマブ治療患者でC0.025(95%CCI,0.013~0.048)であったのに対し,対照群ではC0.350(95%CI,0.199~0.616)であり,髄膜炎菌感染などの重篤な副作用はみられなかった11).この試験(PREVENTStudy)のサブグループであるアジア人に絞って検討してみても,同様にCNMOSDに対してエクリズマブは有意にCNMOSD再発が抑制されている12).一方,アジアのサブグループにおけるエクリズマブのもっとも一般的な有害事象は,上気道感染症,頭痛,および鼻咽頭炎であり,重篤化したケースはみられなかった.これらの結果から,エクリズマブはわが国においてCNMOSDの治療薬として有望とみなされている.CVNMOSDのサトラリズマブ治療サトラリズマブ(satralizumab)はおもにわが国からの報告であり,抗CAQP4抗体関連視神経炎を含むNMOSD患者におけるIL-6receptor抗体治療である13).サトラリズマブは抗体のリサイクル効果により治療効果の持続時間が従来のCIL-6R抗体であるトシリズマブよりC4週間に延長した皮下投与の製剤である.Yamamuraらの報告では,NMOSDの再発は,今までのステロイドや免疫抑制薬を併用した群C18人(43%)に対してサトラリズマブ投与群はC8人の患者(20%)となり,有意に生物製剤治療群で再発抑制されていた(ハザード比:0.38,95%信頼区間,0.16~0.88)13).重篤な有害事象と感染症の発生率は群間で差がなかった.とくに抗CAQP4抗体陽性のCNMOSDの患者では,免疫抑制薬治療にサトラリズマブを追加すると,対照群よりも再発のリスクが低くなり,痛みや倦怠感への影響は対照群と変わっていなかった13).さらに,サトラリズマブ単剤療法においても,対照群と比較してCNMOSD,とくに抗CAQP4抗体陽性例で疾患再発率を低下させ,安全性は良好であった14).これらのデータを踏まえ,現在,サトラリズマブはわが国において抗CAQP4抗体陽性NMOSDの治療薬として有望視されている.CVINMOSDのイネリビズマブ治療イネリビズマブ(inebilizumab)はCB細胞上のCCD19を標的とした生物製剤であり,6カ月にC1度の点滴静注でよいという利点がある.NMOSDに対する治療効果が検討では15),対照薬を投与されたC56人のCNMOSD患者のうちC22人(39%)が再発したのに対して,イネリビズマブではC174人のCNMOSD患者のうちC21人(12%)の再発に留まり,有意にCNMOSD再発が抑制されていた(ハザード比:0.272,95%信頼区間:0.15~0.496,p<0.0001).有害事象は,イネリビズマブを投与された174人の参加者のうちC125人(72%),および対照薬を投与されたC56人の参加者のうちC41人(73%)で発生した.とくに重篤な有害事象は,イネリビズマブを投与されたC174人のCNMOSD患者のうちC8人(5%),および対照薬を投与されたC56人の参加者のうちC5人(9%)で発生した.対照群と比較した結果より,イネリビズマブはCNMOSD再発のリスクを低減しているといえるが,視神経炎についての解析は報告にあまり記載されていないのが残念である.イネリビズマブはわが国においても2021年C6月に抗CAQP4抗体関連視神経炎を含むNMOSDの治療薬として保険収載された.CVIINMOSDのリツキシマブ治療リツキシマブ(rituximab)はCB細胞に関連するCCD20を標的とする生物製剤であり,6カ月にC1度の点滴静注のみでよい利点がある.最近,わが国において脳神経内科医師主導でCNMOSDに対するリツキシマブ投与の二重盲検ランダム化試験が行われた16).結果はリツキシマブ点滴静注投与により,AQP4抗体陽性のCNMOSD患者の再発をC72週間予防した.この研究は,各群C19人とサンプルサイズが小さく,軽度の疾患活動性をもつ参加者が含まれている.しかしこれらの結果は,他の生物製剤より安価であるリツキシマブがCAQP4抗体陽性のNMOSD患者にとって有用な維持療法である可能性を示しているが,わが国では未承認である.CVIII視神経脊髄炎における分子標的薬の使い分けエクリズマブ,サトラリズマブ,イネリビズマブ,リツキシマブと紹介してきたが,どの薬剤も非常に効果的であり,有害事象も感染症のリスクがあるものの,ステロイド長期投与に比べて比較的安全かと思われる.最近158あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(26)表2視神経炎における新規生物学的製剤導入の基準(筆者私案)・抗CAQP4抗体関連視神経炎・ステロイド抵抗性・ステロイドパルス療法後,血漿交換/IVIg療法を行い,いったんは寛解している.・最低年にC1回,維持療法中にもかかわらず,視力低下もしくは視野障害を伴う視神経炎を再発している.・「視神経脊髄炎」で難病指定を受けている.・脳神経内科医との連携がとれている.視野検査で耳側半盲,MRI造影で視神経に水平半盲は要注意!沿って造影効果あり=抗体陽性視神経炎の可能性あり9割以上サトラリズマブ,エクリズマブなどの生物再発時ステロイド,アザチオプリン内服製剤療法(抗AQP4抗体陽性例のみ)(後療法)図4難治性視神経炎における治療プロトコール最近,筆者らが行っているステロイド抵抗性視神経炎に対する血液浄化療法,大量免疫グロブリン点滴静注療法,分子標的薬による治療に至る道筋を示す.—

ぶどう膜炎分子標的治療のこれからの展開

2022年2月28日 月曜日

ぶどう膜炎分子標的治療のこれからの展開TheFutureProspectofMolecularTargetedTherapyofUveitis柳井亮二*はじめに2007年にBehcet病ぶどう膜炎にインフリキシマブ(in.iximab:IFX),2016年に非感染性ぶどう膜炎にアダリムマブ(adalimumab:ADA)が導入され,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)-aをターゲットとした分子標的治療は,ぶどう膜炎治療に大きく貢献してきた1,2).一方,関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)や乾癬など,他の自己免疫性疾患では炎症カスケードのさまざまな分子を標的とした薬剤が次々に開発され,TNF以外の分子標的治療も臨床応用されている.ぶどう膜炎の患者数が他疾患の患者数より少ないため,ぶどう膜炎を対象とした薬剤開発はないものの,既存の分子標的薬がぶどう膜炎領域にも適応拡大される可能性がある.本稿では,現在の抗TNF療法の課題と今後の展開,これからぶどう膜炎領域に導入される可能性のある分子標的治療について概説する.I分子標的治療分子標的治療は,ある特定の標的分子の機能を制御することによる治療法で,狭義には,癌の増殖や転移に必要な分子を特異的に抑える癌治療のことである.ぶどう膜炎における分子標的薬は,炎症にかかわる分子を特異的に抑えることを目的とした薬剤で,細胞間シグナル伝達,あるいは細胞内シグナル伝達を阻害することにより,炎症サイクルを停止させ眼炎症を抑制する.RAや癌に対する分子標的治療では,細胞間シグナル伝達の標的分子としてTNF-aやインターロイキン(interleu-kin:IL)-6,細胞内シグナル伝達の標的分子としてヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)やmTOR(mecha-nistictargetofrapamycin)などが実用化されている.TNF阻害薬やIL阻害薬は生物学的製剤に分類され,一般薬剤や抗癌剤などの低分子性分子標的薬とは性状が異なっている(表1).生物学的製剤は,遺伝子工学の技術を用いて大腸菌などの微生物に産生させる高分子化合物である.遺伝子変異させた融合蛋白質も産生可能で,作用選択性が高い.代謝経路は,細網内皮系による分解によるため,一般薬剤に比べると肝障害や腎障害は起こりにくく安全性が高い.しかしながら,一般薬剤と比べると生物学的製剤は生産コストが高く,薬価も高額となることが医療経済的に問題となる.IIぶどう膜炎診療に関連する分子標的治療1.わが国における抗TNF療法わが国ではインフリキシマブおよびアダリムマブの2種類のTNF抗体製剤がぶどう膜炎の治療に保険適用されており,それぞれBehcet病ぶどう膜炎および非感染性ぶどう膜炎に対して優れた臨床的有効性を示している.一方,感染や投与時反応などの副作用のリスクもあるため,日本眼炎症学会より提唱された医師基準および施設基準を遵守することが求められる3).a.インフリキシマブによるBehcet病ぶどう膜炎治療インフリキシマブはキメラ型抗TNF-a抗体で,網膜*RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕柳井亮二:〒755-8505山口県宇部市南小串1-1-1山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(15)147表1非感染性ぶどう膜炎に関連する生物学的製剤(TNF阻害薬)一般名インフリキシマブアダリムマブゴリムマブセルトリズマブエタネルセプト製品名レミケードヒュミラシンポニーシムジアエンブレル標的分子CTNF-aTNF-aTNF-aTNF-aTNF-a,bおもな適応症Behcet病,RA,ほか,1C1疾患非感染性ぶどう膜炎,RA他,1C0疾患RA,潰瘍性大腸炎RA,尋常性乾癬,関節症性乾癬,膿疱性乾癬,乾癬性紅皮症CRA投与方法点滴皮下注皮下注皮下注皮下注RA:関節リウマチ,TNF:腫瘍壊死因子.T細胞T細胞炎症性ケモカインサイトカインサイトカイン活性化・増殖T細胞の眼内浸潤炎症惹起B細胞ぶどう膜原生Th1病原性T細胞・コルチコステロイド・代謝拮抗薬(アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル,メトトレキサート)・T細胞阻害薬(シクロスポリン)図1非感染性ぶどう膜炎の病態メカニズムと分子標的治療の候補分子未分化CT細胞はウイルスや環境因子で刺激された抗原提示細胞から抗原提示され,活性化CT細胞へ分化・増殖する.活性化CT細胞から産生されたサイトカインやケモカイン,さらに遺伝因子も関与してぶどう膜(網膜)原生病原性CT細胞が分化・増殖し,眼内へ侵入してぶどう膜炎を発症する.この一連のカスケードを制御することで眼内炎症を抑制することを目的とした分子標的薬が開発されている.抗原提示細胞活性型Th17表2非感染性ぶどう膜炎に関連する生物学的製剤(TNF阻害薬以外)インターロイキン(IL)阻害薬T細胞活性化阻害薬B細胞活性化阻害薬一般名CAnakinraCDaclizumabトシリズマブサリルマブセクキヌマブウステキヌマブアバタセプトリツキシマブ製品名CKineretCZinbrytaアクテムラケブザラコセンティクスステラーラオレンシアリツキサン標的分子IL-1受容体IL-2受容体IL-6受容体IL-6受容体CIL-17ACIL-12/23p40CCTLA-4CCD-80/86CCD20主な適応症CRAわが国では未認可多発性硬化症わが国では未認可現在は販売中止RA,JIAほか,C3疾患CRA乾癬,強直性脊椎炎乾癬,クローン病,潰瘍性大腸炎CRAB細胞性非Hodgkinリンパ腫,CGPA,MPA投与方法皮下注皮下注点滴,皮下注皮下注皮下注皮下注点滴,皮下注点滴CTLA-4:cytotoxicT-lymphocyte-associatedprotein4別名:CD152)免疫チェックポイント・蛋白質,GPA:多発血管炎性肉芽腫症,JIA:若年性特発性関節炎,MPA:顕微鏡的多発血管炎,RA:関節リウマチ,TNF:腫瘍壊死因子.表3生物学的製剤と一般薬剤・低分子性分子標的薬との違い生物学的製剤(TNF阻害薬,インターロイキン阻害薬)一般薬剤・低分子性分子標的薬(抗癌剤,JAK阻害薬)生成構造作用部位(場)作用選択性代謝遺伝子工学的に培養細胞(大腸菌)が産生(融合蛋白質)高分子化合物(モノクローナル抗体,受容体抗体)・細胞表面・血液中・細胞外高い細網内皮系(マクロファージ)に貪食され分解化学的に合成低分子化合物・細胞表面・細胞内(細胞質,核)低い肝臓(チトクロームCP450)で代謝腎臓で排泄JAK:JanusKinase,TNF:腫瘍壊死因子.表4JAKによるサイトカインシグナルを介した免疫調整JAK1CJAK2CJAK3CTYK2サイトカインCIL-6CIFNa/b/gGM-CSFCEPOCIL-2CIL-4CIL-151型CIFNCIL-10CIL-12/IL-23免疫細胞の調節Th1細胞分化Th2細胞応答Treg分化NK細胞分化Th1細胞分化樹状細胞発達マクロファージ活性化赤血球生成T細胞発達・増殖・分化B細胞発達NK細胞発達Th1細胞分化Th17細胞調節CCD+T細胞の免疫応答NK細胞応答マクロファージ活性化免疫機能炎症増悪炎症増悪造血,血栓形成リンパ球および好中球による感染,腫瘍の防御先天的,獲得免疫の成立自己免疫因子の調節EPO:erythropoietin,GM-CSF:granuloctyemacrophagecolony-stimulatingfactor,IFN:interferon,IL:interleukin,JAK:Januskinase,NK:naturalkiller,TYK:tyrosinekinase.成長ホルモンIFN-gIFN-a/bサイトカインG蛋白リガンド成長因子図2Januskinase(JAK)の分類と標的分子免疫細胞の細胞膜には成長ホルモン,サイトカイン,成長因子などの受容体が存在する.サイトカインや増殖因子は免疫細胞表面の受容体に結合して,JAKを介して細胞内ドメインのリン酸化し,STAT分子が核内へ移行することで炎症性サイトカインの産生を促進する.サイトカインや成長ホルモンなどの受容体によって活性化されるCJAKは異なるため,標的分子に合わせて阻害するCJAKのサブタイプが決定される.表5JAK阻害薬一般名トファシチニブバリシチニブペフィシチニブウバタシチニブフィルゴチニブ製品名ゼルヤンツオルミエントスマイラフリンヴォックジセレカ標的JAK1,(2),C3CJAK1,2JAK(1C,2),C3,TYK2JAK1,(2)CJAK1,2国内販売開始C2013.7C2017.9C2019.7C2020.4C2020.11おもな適応RA,潰瘍性大腸炎RA,アトピー性皮膚炎CRARA,関節症性乾癬,アトピー性皮膚炎CRAC’C’C-’C-’C

網膜疾患における抗 VEGF療法のこれからの展開

2022年2月28日 月曜日

網膜疾患における抗VEGF療法のこれからの展開FutureDevelopmentofAnti-VEGFTherapiesfortheManagementofRetinalDiseases楠原仙太郎*はじめに血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)に関する多くの基礎実験データはVEGFが生理的・病的血管新生および血管透過性において主要な役割を果たしていることを如実に示している.眼科分野では,2004年に抗VEGF薬であるペガプタニブが滲出型加齢黄斑変性(neovascularage-relatedmaculardegeneration:nAMD)の治療薬として米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)の認可を得て以降,複数の抗VEGF薬が上市され,nAMD,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME),網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,近視性脈絡膜新生血管の標準治療として確固たる地位を築くに至った.抗VEGF療法が網膜疾患を有する患者の視機能予後を飛躍的に向上させたという事実については疑いがない.一方で,実臨床においてこれらの網膜疾患を長期に管理するなかで,いくつかの重要なアンメットニーズが浮き彫りになってきたこともまた事実である.すなわち,治療抵抗例の存在,頻回治療に伴う負担,通院中断に伴う視機能低下である.近年のバイオテクノロジーの進歩は著しく,多くの製薬企業がそれらを用いた新薬開発を積極的に進めている.たとえば,2020年3月に中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性の治療薬としてわが国での製造販売が承認されたブロルシズマブでは,単鎖可変領域フラグメントによる製剤設計が採用されている.この単鎖可変領域フラグメントの作製技術を用いる理由は,薬剤の網膜組織への透過性向上,薬剤の全身クリアランスの短縮,より高モル濃度での薬剤眼内投与であり,これらによって眼における「抗VEGF作用の増強」と「全身安全性の両立」というコンセプトをめざすことが可能となっている1).最新のテクノロジーを用いて開発された新薬はいずれも従来の薬剤を上回る薬剤特性を有していることから,これらの薬剤は網膜疾患のアンメットニーズに応えるものと期待される.本稿では,現在治験段階にある薬剤の情報とそれらが上市された際に日常診療に及ぼすインパクトを中心に,筆者の考える「網膜疾患における抗VEGF療法のこれからの展開」についてわかりやすく説明する.Iこれからの抗VEGF薬に求められるもの新薬が治験を経て製造販売承認に至るためには,その新薬が従来の治療薬との比較でなんらかの点で優れていることが必要となる.一例をあげれば,nAMDを対象とした第III相臨床試験であるHAWK&HARRIER試験(NCT03481660&NCT03481634)では,ブロルシズマブは先行薬であるアフリベルセプトとの比較で,視力改善効果については非劣性であるが,投与間隔が延長できる点で優れていることが証明された1).製薬企業がブロルシズマブでめざした「投与間隔の延長」は先に紹介した「頻回治療に伴う負担」の軽減につながることから,このようなコンセプトに基づいて開発された新薬は*SentaroKusuhara:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕楠原仙太郎:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)135高濃度製剤ポートデリバリーシステムVEGF受容体1/2-Fc高濃度アフリベルセプトラニビズマブPDSConberceptブロルシズマブ遺伝子治療バイスペシフィック抗体DARPin製剤ADVM-022ファリシマブアビシパルペゴルRGX-314チロシンキナーゼ阻害薬生体高分子複合体GB-102KSI-301図1抗VEGF治療薬開発のコンセプトVEGF:血管内皮増殖因子,PDS:portdeliverysystem(ポートデリバリーシステム).アビシパルペゴル(MolecularPartners/Allergan)(HussainRM,etal:ExpertOpinBiolTher2020より)GB-102(スニチニブリンゴ酸塩)(GrayBugVision社)(https://www.graybug.vision/our-technologies-and-pipeline/より)図2アビシパルペゴルとGB.102・アビシパルペゴルはヒトVEGF-Aに結合するアンキリンリピート構造を有するDARPinであり,PEG化によって高分子となっている.・DARPinは遺伝子操作された抗体模倣蛋白質であり,その優れた特性から製薬における利点が多い.・アビシパルペゴルについては,細胞実験ではラニビズマブの100倍程度の強さでラットVEGF-A164に結合することがわかっている.・nAMDを対象とした第III相臨床試験では眼内炎症の頻度が高くFDAの認可が得られなかった.・スニチニブリンゴ酸塩はすべてのVEGF受容体を阻害する強力な抗VEGF薬である.・GB-102はナノ粒子カプセル化スニチニブリンゴ酸塩であり,硝子体内注射後に緩徐に生体内で分解される.・第IIb相臨床試験ではGB-102群の48%で6カ月以内の補助治療が必要でなかったが,視力変化については平均9文字の低下と芳しくなかった.DARPin:designedankyrinrepeatingprotein,PEG:ポリエチレングリコール,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,FDA:米国食品医薬品局.与を採用した増殖糖尿病網膜症を対象としたCONDOR試験(NCT04278417)は継続中である〕.ブロルシズマブ硝子体内注射後の眼内炎症と網膜血管閉塞については世界的に注目されているが,その詳細な機序は未だに不明である.導入期6週間隔投与を採用したKITE&KESTREL試験ではそれらの発現率が問題にならなかったことから,非常に強力なVEGF阻害が眼内炎症と網膜血管閉塞の発症に関係している可能性があると筆者は推測している.3.アビシパルペゴル(MolecularPartners社.Allergan社)アビシパルペゴルはヒトVEGF-Aに結合するアンキリンリピート構造を有するdesignedankyrinrepeatingprotein(DARPin)である.DARPinは遺伝子操作された抗体模倣蛋白質であり,非常に特異的で高親和性の標的蛋白質結合を示すことから,さまざまな研究,診断,および治療アプリケーションの調査ツールとして使用されている.製薬の観点からも,DARPinライブラリーからの親和性による選択,リンカーを用いた多機能DARPinの作製,半減期や免疫原性の容易な調整などDARPinを使用する利点は非常に多い.アビシパルペゴルについては,細胞実験ではラニビズマブの100倍程度の強さでラットVEGF-A164に結合することがわかっている.DARPin自体は低分子量の蛋白であるが,アビシパルペゴルではポリエチレングリコール(polyethyl-eneglycol:PEG)化によって分子量を大きくすることで眼内での薬物半減期を延長することに成功している.このように,強力なVEGF阻害による薬効が非常に期待できるアビシパルペゴルであるが,nAMDを対象とした第III相臨床試験では安全性の問題で苦しむこととなった.CEDAR(NCT02462928)試験とSEQUOIA(NCT02462486)試験では,アビシパルペゴル2mg投与群は対照であるラニビズマブ0.5mg投与群に対して主要評価項目である52週時点における視力安定患者の割合に関して非劣性が達成された.しかしながら,アビシパルペゴル2mg投与群における治療開始後1年での眼内炎症発生率が8週間隔投与群で15.4%,12週間隔投与群で15.1%と非常に高いことが明らかとなった.この結果を受けてMolecularPartners社とAllergan社は変更した製造工程によって作製されたアビシパルペゴルについて安全性評価のための前向きシングルアーム試験〔MAPLE試験(NCT03539549)〕を行っている.結果は28週間での眼内炎症発生率が8.9%とやや低下していたがそれでも十分に高い発生率と思われる.実際に,nAMD治療におけるアビシパルペゴルについては,危険度が有効性を上回ることから,認可しないという判断をFDAが2020年6月に下している.4.GB.102(スニチニブリンゴ酸塩)(GrayBugVision社)スニチニブリンゴ酸塩はチロシンリン酸化阻害薬であり,すべてのVEGF受容体の細胞内シグナルを阻害することから,非常に強力な抗VEGF作用を発揮する.GB-102はナノ粒子カプセル化スニチニブリンゴ酸塩であり,硝子体内注射後に緩徐に生体内で分解されスニチニブリンゴ酸塩が長期にわたり徐放されることになる.nAMDを対象とした第IIb相臨床試験〔ALTISSIMO試験(NCT03953079)〕では,GB-102(1mg)投与群における補助治療までの期間の中央値は5カ月であり,48%が6カ月以内の補助治療が必要でなかったという結果となった.しかしながら,視力変化についてはGB-102(1mg)投与群で平均9文字の低下と芳しくなかった.III長期間作用型VEGF阻害網膜疾患に対する現行の抗VEGF療法の最大の問題点は頻回治療が必要となることである.頻回治療は頻回通院や高い治療費につながることから,間違いなく患者側の負担を大きくしている.また,医療提供者側においても頻回治療に対応する外来システムを構築・維持するという点で大きな負担になっている.この問題を解決するためには,現行薬をはるかに上回る長期間作用型の抗VEGF薬が必要であり,いくつかの製薬企業が異なるアプローチで取り組んでいる(図3,4).138あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(6)PDS:portdeliverysystem(ポートデリバリーシステム),VEGF:血管内皮増殖因子,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,FDA:米国食品医薬品局,AAV:アデノ随伴ウイルス.ラニビズマブPortDeliverySystem(PDS)(Roche社/Genentech社)abcdefADVM-022(AdvermBiothechnologies社)(HolekampNM,etal:Ophthalmologyinpressより)(https://www.retinalphysician.com/issues/2020/special-edition-2020/gene-therapy-for-neovascular-amdより)図3ラニビズマブPDSとADVM.022・ラニビズマブPDSでは,ラニビズマブを眼内に徐放するためのデバイス(薬剤の再注入が可能)を強膜に埋め込むことによってラニビズマブのもつ抗VEGF作用をより長期に発揮させるというコンセプトを採用している.・nAMDを対象とした第III相臨床試験では,ラニビズマブPDS(24週間隔再注入)群ではラニビズマブ0.5mg(4週間隔投与)群との比較で,36.40週時点の最高矯正視力のベースラインからの平均変化量で非劣性であることが証明されている.・FDAは2021年10月にラニビズマブPDSをnAMDの治療法として認可した.・ADVM-022はアフリベルセプト類似の蛋白をコードした遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV.7m8)ベクターである.・このAAVベクターを硝子体注射すると,ウイルスに感染した網膜細胞が継続的にアフリベルセプト類似蛋白を産生することから長期的なVEGF阻害が期待できる.・難治性のnAMD患者を対象とした第I相臨床試験では,60%の患者で1年以上にわたり抗VEGF薬硝子体内注射の必要がなく,1年間の注射回数も85%減少と良好な結果であった.図4RGX.314とKSI.301AAV:アデノ随伴ウイルス,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,DME:糖尿病黄斑浮腫.RGX-314(Regenxbio社)(https://www.retinalphysician.com/issues/2020/special-edition-2020/gene-therapy-for-neovascular-amdより)KSI-301(KodiakSciences社)(https://kodiak.com/our-science/より)・RGX-314はラニブズマブ類似の蛋白をコードした遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV8)ベクターである.・nAMDを対象とした第I/IIa相臨床試験では,硝子体手術を行いRGX-314を網膜下に注入するという投与方法を採用した.・同試験では重大な安全性の懸念なく1年間に必要な抗VEGF薬硝子体内注射の回数を減少させたと中間報告されている.・RGX-314脈絡膜腔投与の効果と安全性評価のための第II相臨床試験がnAMDとDMEを対象に進行中である.・KSI-301ではantigenbiopoly-merconjugate(ABC)platformという独自の技術を用いて薬物の硝子体内での半減期を著しく延長させることに成功している.・KSI-301はABCplatformを用いて作製された抗VEGF生体高分子複合体であり,臨床投与量ではモル比でラニビズマブの7倍,半減期でラニビズマブの4倍という特徴をもつ.・nAMDを対象とした第Ib相臨床試験では,維持期(10カ月間)における平均投与回数が2.0回,1年後の平均視力改善が5.7文字と良好な結果であった.硝子体疾患の手術加療に長けた眼科医が多いという特徴もあるため,ラニビズマブCPDSが日本で認可されれば現在のCnAMD診療のあり方が一変する可能性もあると筆者は考えている.ラニビズマブCPDSについては糖尿病網膜症およびCDMEへの適応拡大をめざした第CIII相臨床試験〔PAVILION試験(NCT04503551)とCPagoda試験(NCT04108156)〕が進行中である.C2.ADVM.022(AdvermBiothechnologies社)以前は網膜疾患に対する遺伝子治療というと対象が遺伝性網膜疾患に限定されるイメージであったが,必要な薬剤をコードする遺伝子を導入する目的での遺伝子治療が近年試みられてきた.ADVM-022はアフリベルセプト類似の蛋白をコードした遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV.7m8)ベクターである.このCAAVベクターを硝子体内注射すると,ウイルスに感染した網膜細胞が継続的にアフリベルセプト類似蛋白を産生することから長期的なCVEGF阻害が期待できる.第CI相臨床試験であるCOPTIC試験(NCT03748784)では,難治性のnAMD患者を対象にCADVM-022の安全性と忍容性の評価を行っている.その結果,60%の患者でC1年以上にわたり抗CVEGF薬硝子体内注射の必要がなく,1年間の注射回数もC85%減少しており,今後の第CII相臨床試験の結果が期待される.C3.RGX.314(Regenxbio社)RGX-314も薬剤遺伝子を導入する遺伝子治療薬に分類される.薬剤としてCRGX-314がCADVM-022と異なる点は,AAV8ベクターを使用していること,ラニビズマブ類似の蛋白をコードした遺伝子を搭載していることの二点となる.ただし,臨床試験ではCADVM-022が硝子体内注射を採用しているのに対し,RGX-314ではnAMDを対象とした第CI/IICa相臨床試験(NCT03066258)において硝子体手術を施行し,AAV8ベクターを網膜下に投与するという方法を採択している.中間報告では,重大な安全性の懸念なく年間に必要な抗CVEGF薬硝子体内注射の回数を減少させていることから,今後有望な治療法であると思われる.現在は,nAMDを対象としてCRGX-314網膜下投与の効果と安全性をラニビズマブ硝子体内注射と比較する第IIb/III相臨床試験〔ATMOSPHERE試験(NCT04704921)〕,およびRGX-314脈絡膜腔投与の効果と安全性評価のための第II相臨床試験〔nAMDを対象としたCAAVIATE試験(NCT04514653)と糖尿病網膜症を対象としたCALTI-TUDE試験(NCT04567550)〕で患者をリクルートしているという状況である.C4.KSI.301(KodiakSciences社)KodiakSciences社はCantigenCbiopolymerCconjugate(ABC)platformという独自の技術を用いて,薬物の硝子体内での半減期を著しく延長させることに成功した.この技術を用いて作製された抗CVEGF生体高分子複合体であるCKSI-301は,分子量がC950CkDaであり,臨床投与量ではモル比でラニビズマブのC7倍,半減期でラニビズマブのC4倍という特徴をもつ.nAMDを対象とした第CIb相臨床試験(NCT03066258)では,維持期(10カ月間)における平均投与回数がC2.0回,1年後の平均視力改善がC5.7文字と良好な結果であった.現在,nAMDを対象としたCDAZZLE試験(NCT04049266)とCDAYLIGHT試験(NCT04964089),DMEを対象としたCGLIMMER試験(NCT04603937)とCGLEAM試験(NCT04611152),網膜静脈閉塞症を対象としたBEACON試験(NCT04592419),非増殖糖尿病網膜症を対象としたCGLOW試験(NCT05066230)の第CIII相臨床試験(DAZZLE試験のみ第CII/III相臨床試験)が進行中である.CIVVEGF阻害+a抗CVEGF治療に抵抗する症例では,VEGFとは異なるシグナル伝達物質が病態に関与している可能性が否定できない.このコンセプトを基に開発されたのが,VEGF-A,VEGF-Bに加えて胎盤増殖因子(placentalCgrowthfactor:PlGF)とCGalectin-1を阻害できるアフリベルセプトである.したがって,高濃度アフリベルセプトについては,見方を変えればより強力なCVEGF阻害+a作用をめざした薬剤であるともいえる.また,先に紹介したCGB-102については,VEGF受容体1,2,3を阻害することから,それらのリガンドであるCVEGF-(9)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C141Conbercept(ChengduKanghongBiotech社)(https://www.retinalphysician.com/issues/2019/april-2019/the-phase-3-clinical-trial-of-conbercept-for-exudaより)ファリシマブ(Roche社/Genentech社)(https://www.retinalphysician.com/issues/2019/march-2019/the-mechanism-of-the-bispeci.c-antibody-faricimabより)図5Conberceptとファリシマブ・ConberceptはCVEGF受容体C-1の第C2ドメインと,VEGF受容体-2の第C3,4ドメインを取り出し,ヒトCIgG1のCFcドメインを融合させて作られた遺伝子組換え融合糖蛋白質であり,VEGF-A,VEGF-B,PlGFに結合し,それらのリガンドからのシグナル伝達を阻害することによって薬効を発揮する.・Conberceptは中国ではCnAMDを含む網膜疾患の治療薬として認可されている.・国外での適応取得をめざした第III相臨床試験はCCOVID-19のパンデミックの影響で中止となった.・ファリシマブはCVEGF-AとAngiopoietin-2(Ang-2)の両方に結合できるバイスペシフィック抗体であり,Fc部分の構造も薬剤の抗原性を低減するように修正が加えられている.・nAMDとCDMEを対象とした四つのCIII相国際共同臨床試験では,アフリベルセプト群に対する視力アウトカムでの非劣性が証明され,ファリシマブ群の多くで投与間隔の延長が達成できていた.・nAMDおよびCDMEに対する治療薬としての審査がCFDAとEMAで進行中である.VEGF:血管内皮増殖因子,PlGF:胎盤増殖因子,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,COVID-19:2019年に発生した新型コロナウイルス感染症,Angiopoietin:アンギオポエチン,DME:糖尿病黄斑浮腫,FDA:米国食品医薬品局,EMA:欧州医薬品庁.1.Conbercept(ChengduKanghongBiotech社)ConberceptはCVEGF受容体C1の第C2ドメインと,VEGF受容体C2の第C3,4ドメインを取り出し,ヒトIgG1のCFcドメインを融合させて作られた遺伝子組換え融合糖蛋白質である.その構造がアフリベルセプトに類似していることから想像されるとおり,ConberceptはCVEGF-A,VEGF-B,VEGF-C,PlGFに結合し,それらのリガンドからのシグナル伝達を阻害することによって薬効を発揮する.Conbercept硝子体内注射はnAMDに対する抗CVEGF薬としてC2013年に中国で認可され,その後に近視性脈絡膜新生血管とCDMEに対する適応が追加となっている.ChengduKanghongBio-tech社は国外での適応を取得するためのCnAMDを対象とした第CIII相国際共同臨床試験〔PANDA-1(NCT03577899)とCPANDA-2(NCT03630952)〕を開始したが,不幸なことにCCOVID-19のパンデミックの影響で大部分の患者が治療中止または経過観察および評価が不能という状態となり,これらの治験は中止となっている.C2.ファリシマブ(Roche社.Genentech社)通常抗体が同一の抗原にしか結合できないのに対し,バイスペシフィック抗体では左右の抗原結合部位が異なる抗原と結合できるようにデザインされている.バイスペシフィック抗体は生産上の課題が多かったが,Roche社の開発したCCrossMAbテクノロジーによって効率のよい抗体精製が可能となった.ファリシマブはCVEGF-AとCAngiopoietin-2(Ang-2)の両方に結合できるバイスペシフィック抗体であり,Fc部分の構造も薬剤の抗原性を低減するように修正が加えられている.Ang-2はおもに血管内皮細胞に発現する膜蛋白であるCTie2受容体のリガンドである.Tie2受容体の他のリガンドにはCAngiopoietin-1(Ang-1)があり,Ang-1/Tie2の結合により細胞シグナルを常に活性化することが血管構造の安定化に重要である.Tie2受容体シグナルの点ではAng-1はアゴニスト,Ang-2はアンタゴニストとして作用することが知られており,VEGF存在下でCAng-2が優位な状態となると,血管構造の不安定化を介してVGEFの有する血管新生作用と血管透過性亢進作用が増強されることになる.Roche社はC2021年C2月C12日にファリシマブを用いた四つの第CIII相国際共同臨床試験の結果を発表している.DMEを対象とした同一デザインのCYOSEMITE試験(NCT03622580)とCRHINE試験(NCT03622593)では,ファリシマブC6Cmg導入期投与後C2カ月間隔投与群,ファリシマブC6mg導入期投与後最長C4カ月間隔Cper-sonalizedCtreatmentintervals(PTI)投与群,アフリベルセプトC2Cmgを導入後C2カ月間隔投与群のC3群にランダムに割付し治療が行われた.主要評価項目であるC1年時点におけるベースラインからの最高矯正視力スコアの平均変化量については,いずれのファリシマブ群においてもアフリベルセプト群に対する非劣性が証明され,ファリシマブCPTI投与群のうちのC70%以上がC1年時点において投与間隔C3カ月以上を達成できていた.また,nAMDを対象とした同一デザインのCTENAYA試験(NCT03823287)とCLUCERNE試験(NCT03823300)では,主要評価項目であるC48週までのベースラインからの最高矯正視力スコアの平均変化量について,ファリシマブ群が一貫してアフリベルセプト群に対する非劣性を示し,ファリシマブ群の約C45%がC1年時点でC4カ月の治療間隔を達成できていた.ファリシマブが有するAng-2阻害作用が治療間隔の延長に貢献していることは容易に想像できるが,nAMDを対象とした第CII相臨床試験〔ONYX試験(NCT02713204)〕において抗Ang-2抗体であるCNesvacumabとアフリベルセプト2Cmgの併用療法がアフリベルセプトC2Cmgに対して優れた効果を示さなかったという試験結果を考えると,筆者はファリシマブC6Cmgのやや強い抗CVEGF作用も試験結果に貢献しているのではないかと考えている.第CIII相臨床試験における良好な結果を受けてCGenentech社はファリシマブのCnAMDおよびCDMEに対する治療薬としての申請をCFDAに提出した.FDAはC2021年C6月28日にこれを優先審査案件として受理しており,その結果が待たれる.また,同様の申請は欧州医薬品庁(EuropeanCMedicinesAgency:EMA)に対しても提出されていることから,近い将来に世界的にファリシマブが臨床で使用される可能性は高い.ファリシマブについては現在,nAMDおよびCDMEに対するCextensionstudyに加えて網膜静脈閉塞症を対象とした第CIII相臨床(11)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C143表1網膜疾患を対象とした抗VEGF薬の開発状況コンセプト薬剤作用機序構造治験CPhase対象疾患投与方法より強力なVEGF阻害高濃度アフリベルセプトCVEGF-A/PlGF/VEGF-B/Galectin-1阻害VEGF受容体1/2-Fc融合蛋白CPhase3CPhase3CnAMDCDME硝子体内注射より強力なVEGF阻害ブロルシズマブVEGF-A阻害CscFvCPhase3CPhase3CDMECPDR硝子体内注射より強力なVEGF阻害アビシパルペゴルVEGF-A阻害CDARPinCPhase3CPhase2CnAMDCDME硝子体内注射より強力なVEGF阻害CGB102(スニチニブリンゴ酸塩)VEGF受容体阻害(TKI)生体分解ナノ粒子カプセルCPhase2bCPhase2CnAMDCDME/RVO硝子体内注射長期間作用型VEGF阻害ラニビズマブPDSVEGF-A阻害CPDSCPhase3CPhase3CPhase3CnAMDCDRCDME硝子体内留置長期間作用型VEGF阻害CADVM-022CVEGF-A/PlGF/VEGF-B阻害CAAV.7m8CPhase1CPhase2CnAMDCnAMD硝子体内注射長期間作用型VEGF阻害CRGX-314VEGF-A阻害CAAV8CPhase2CPhase2CnAMDCDR網膜下注射/脈絡膜腔注射脈絡膜腔注射Phase3CnAMDC長期間作用型VEGF阻害CKSI-301VEGF-A阻害生体高分子複合体CPhase3CPhase3CDMECNPDRC硝子体内注射Phase3CRVOPhase3CnAMDCVEGF阻害+aConberceptCVEGF-A/VEGF-B/VEGF-C/PlGF阻害VEGF受容体1/2-Fc融合蛋白CPhase3CPhase3CPhase3CDMECRVOCmCNVC硝子体内注射Phase2CiCNVVEGF阻害+aファリシマブVEGF-A/Ang-2阻害バイスペシフィック抗体CPhase3CPhase3CPhase3CnAMDCDMECRVO硝子体内注射VEGF:血管内皮増殖因子,PlGF:胎盤由来成長因子,DARPin:designedCankyrinCrepeatingCprotein,scFV:単鎖可変領域フラグメント,TKI:チロシンキナーゼ阻害薬,PDS:ポートデリバリーシステム,AAV:adeno-associatedvirus,Ang-2:アンギオポエチン-2,nAMD:滲出型加齢黄斑変性,DME:糖尿病黄斑浮腫,RVO:網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,DR:糖尿病網膜症,PDR:増殖糖尿病網膜症,NPDR:非増殖糖尿病網膜症,mCNV:近視性脈絡膜新生血管,iCNV:特発性脈絡膜新生血管.–

序説:分子標的治療と眼

2022年2月28日 月曜日

分子標的治療と眼Molecular-TargetedTherapiesforOcularDisorders園田康平*生物製剤・低分子化合物といった特定の分子を標的とした治療は,これまでアプローチがむずかしかった多くの難病の治療を可能にした.眼科分野では抗VEGF療法や抗TNF療法を皮切りに,今後ますます広がってくると思われる.抗VEGF療法は最初の加齢黄斑変性から,硝子体内注射の一般化とともに各種後眼部疾患へと適応が拡大した.今後の抗VEGF療法には,長期に安定した作用を発揮し,投与回数と副作用が少ない製剤が求められる.そこで今回の特集では,抗VEGF療法について「網膜疾患における抗VEGF療法のこれからの展開」というタイトルで楠原仙太郎先生に執筆をお願いした.難治性ぶどう膜炎に対して抗TNF療法が始まり,以前は失明が多かったBehcet病眼症の治療が一変した.Behcet病以外の非感染性ぶどう膜炎においても,アダリムマブを併用することで,重症例でのステロイド投与量を軽減できるようになった.今後は副作用の軽減,二次無効対策,ターゲット因子の拡大という方向で発展していくだろう.柳井亮二先生に「ぶどう膜炎分子標的治療のこれからの展開」ということで執筆をお願いした.他診療科で行われる分子標的治療によって,原疾患に伴う重症の強膜炎・視神経炎といった眼合併症が同時に治療されるのは喜ばしいことである.抗アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎関連疾患は長く治療がむずかしい疾患とされてきたが,ステロイド全身投与・血漿交換療法・大量免疫グロブリン療法といった急性期治療の後療法として各種分子標的薬が保険収載されている.この分野の知識を整理するため,毛塚剛司先生に「視神経脊髄炎に対する分子標的治療」について執筆をお願いした.また,多発性硬化症や各種膠原病に伴う眼合併症については,それぞれの疾患が分子標的治療の対象であり,近年治療法が進歩している.眼科医にとって重要な情報であるため,佐藤和貴郎先生と山村隆先生に「多発性硬化症に対する分子標的治療と眼」,近藤裕也先生と松本功先生に「膠原病分子標的治療薬と眼」というタイトルで執筆をお願いした.眼は繊細な臓器であるために,各科で行われる分子標的治療の副作用が出やすく,治験での協力を求められることも多い.とくに近年,癌治療にチェックポイント阻害薬や分子標的型低分子製剤が用いられ,脚光を浴びている.今回の特集ではこうした癌領域で行われている分子標的治療の効能と眼科副作用をまとめておくことも重要だと考えた.岩田大樹先生に「チェックポイント阻害薬と眼副作用」,篠田啓先生と菅野順二先生に「分子標的型抗癌剤と後眼部副作用」というタイトルで執筆をお願いした.*Koh-HeiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(1)133