‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

わが国におけるコンタクトレンズの歴史と 変遷と展望

2021年12月31日 金曜日

わが国におけるコンタクトレンズの歴史と変遷と展望History/TransitionandProspectofContactLensesTherapyinJapan小玉裕司*はじめに筆者は1979年(昭和54年)に京都府立医科大学を卒業して同大学眼科学教室に入局したわけであるが,その当時,大学で処方していたハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)は酸素透過性をもたないポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate:PMMA)製であったし,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)は低含水率非イオン性のヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethylmethacrylate:HEMA)製であった.そして,眼科当直医を一番悩ませたのが,コンタクトレンズ(contactlens:CL)オーバーウェアによる眼痛での夜間救急受診であった.京都という土地柄で修学旅行中の生徒がそのほとんどを占めていた.それから40年以上の歳月が流れたが,その間のCLの進歩と変遷には驚かされる.IHCLの進歩(PMMA製レンズからガス透過性レンズへ)CLの歴史を語るときによく持ち出されるのが1508年のレオナルド・ダ・ビンチの実験(図1)や1636年のデカルトの実験(図2)であるが,実際に初めてCLなるものを考案したのは1888年のドイツの眼科医アドルフ・ガストン・オイゲン・フィック(AdolfGastonEugenFick)であり,自身の近視を矯正する目的で素材にはガラスを用いている.このCLは強角膜レンズ,で彼は“kontactbrille”とよんでおり,これがcontactlensの語源である.その後,1938年にPMMA製のHCLが作製された.わが国では田中恭一が1951年に角膜レンズを試作し1953年に発売した.その後,次第にPMMA製の角膜レンズが普及していった.1979年にはわが国で初めてとなるガス透過性HCL(rigidgasper-meablecontactlens:RGPCL)が,田中が創立したメーカーによって市販された.一方,スペキュラーマイクロスコープの発展によって,角膜内皮細胞の観察・撮影が可能となり,1982年にはSchoesslerがPMMA製HCL長期装用者の角膜内皮細胞に,形態変化がみられることを報告した1).わが国においても稲葉らはPMMA製HCLの長期装用者,とくに10年を越える装用者に異常な細胞密度減少を示すケースが多いことを報告した2).PMMA製HCLの装用による低酸素負荷はアシドーシスをもたらし,角膜内皮細胞の正常な細胞内代謝を阻害する.このことが,結果的には角膜内皮細胞の大小不同や六角形細胞の減少などの原因と考えられると結論づけた.そのような報告もあり,1980年代は角膜にそのような負荷をかけない高Dk値〔酸素透過係数:拡散係数(D)と溶解度係数(k)の積としても表わされる〕を有するRGPCLの開発が進んだ.いわゆるDk戦争である.高Dk値のRGPCLが市販されるようになり,オーバーウェアによる角膜上皮障害は激減したが,RGPCLにも汚れやすい,キズがつきやすい,破損しやすい,変形しやすいなどの欠点が認められるようになった.レンズの*YujiKodama:小玉眼科医院〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(91)1455図1レオナルド・ダ・ビンチの実験図2デカルトの実験コンタクトレンズの最初の着想とされているがダ・ビンチの実験よりはコンタクトレンズの着想実際には異なる.ガラス球と人間の顔を含めたという意味では近いが,屈折光学について論じて全体が人工眼の模式図となっている.いる.(日眼会誌118:559-561,2014より引用)(日眼会誌118:559-561,2014より引用)=図3HCLの圧痕の原因(下方固着)図4角膜変形(圧痕タイプ)レンズが下方に位置して動きが悪い.レンズの下方固着によって生じた角膜変形.レンズの装脱によりすぐに解消する.図5HCLによる角膜中央部変形の原因図6角膜変形(中央部タイプ)レンズはややスティープで動きはタイト気味である.レンズを装脱しても改善しにくく,フィッティングのよいレンズを処方することで解消できる.された.わが国ではわずかそのC1年後のC1972年にC7社のCSCLが承認された.含水性の素材で作製されているSCLはCHCLに比べて細菌,真菌,アメーバなどの微生物の汚染をより受けやすい.SCLではレンズ装脱後に煮沸消毒(100℃,20分)が義務づけられていた.低含水率のCSCLであっても,毎日煮沸消毒をすることにより,レンズの劣化や変形や白濁が生じて,1.2年で装用ができない状態になった.また,煮沸消毒によりレンズに付着した蛋白が変成してCGPCが高頻度にみられるようになった.また,消毒器具の故障によって,100℃まで温度が上がらない,あるいはまったく温度が上がらないなどの理由で感染性角膜疾患も多発した.一方,SCLの酸素透過性を上げるために素材の開発が進み,高含水率のCSCLが市販されるようになってくると,煮沸消毒には耐えられないものも出てきた.そのような理由から,わが国においてもC1991年以降,過酸化水素や塩化ポリドロニウムといった薬剤を使用したコールド消毒が登場してきた.塩化ポリドロニウムや塩酸ポリヘキサニドを主成分とした薬剤はレンズの洗浄,すすぎ,消毒,保存をC1つの液で行えるのでCmulti-purC-posesolution(MPS)とよばれている.また,ポビドンヨードを主成分としたコールド消毒剤も登場し,現在,コールド消毒剤は大きくC3種類ある.MPSよりも過酸化水素やポビドンヨードのほうが消毒効果は高いが,それでも煮沸消毒に比較すると,とくにアカントアメーバに対する効果は圧倒的に低い.そこで推奨されるのがこすり洗いである.こすり洗いはレンズの汚れを落とすだけではなく,病原菌である微生物もかなりの数を洗い流すことができる.また,レンズを保存するレンズケースも長期に使用すれば,バイオフィルムが形成され,病原菌の温床となる.レンズケースを毎日乾燥させること,3カ月にC1回ほど定期的に新しいものと交換させることが大切である.米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)はCSCLを含水率とイオン性の観点からC4グループに分類し,わが国においてもC1999年から導入された.グループC1は低含水率・非イオン性,グループC2は高含水率・非イオン性,グループC3は低含水率・イオン性,グループC4は高含水率・イオン性となる.グループC1のSCLは低含水率のため,汚れにくい,耐久性がよいなどの利点はあるが,酸素透過性の点では長時間装用をさせないなどの注意を要する.問題は後述するが,大型ディスカウントストアやネット通販で購入できるカラーCLのほとんどはこのグループであり,酸素透過性の点だけではなく,着色部位,サイズ,フィッティング,ケア指導などの点からも眼障害につながる危険性が高い.もう一つの問題は,これも後述する酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルレンズもほとんどがこのグループになるので,他のCSCLと紛らわしく,新しい分類法が望まれる.1971年にCSCLが市販されて以降,SCLの開発は大きく進んで,1981年にCFDAは高含水率CSCLのC30日間連続装用を認可したが,その後,連続装用による角膜障害が多発し,1989年には連続装用はC7日間以内に短縮修正された.米国では連続装用使い捨てCSCLがC1987年に認可を受けてC1988年に販売された.わが国では1991年にC1週間の連続装用も可能な使い捨てCSCLが,1994年にはC2週間頻回交換終日装用CSCLが,1995年にはC1日使い捨てCSCLが発売されて,使い捨てCSCLがSCLの主流を占めることになる.使い捨てCSCLの用語は統一されていないが,狭義の使い捨てCSCL(disposC-ableSCL)はC1日使い捨てCSCLとC1週間連続装用CSCLをさし,ケアはせずに使い終わったら破棄するレンズのことである.ケアをしながら使用してC2週間で破棄するレンズをC2週間頻回交換CSCLという.1カ月,3カ月など使用期間が設定されて交換するレンズを定期交換SCLという.ここまでが広義の使い捨てCSCLといえるのではなかろうか.これまでのように使用期間が設定されていないレンズを従来型CSCLという.このようにSCLの酸素透過性が高くなり,使用方法もより安全な広義の使い捨てCSCLという方向に大きく変遷したにもかかわらず,眼障害,角膜感染症は期待されたようには減少しなかった.そこで望まれたのが,より酸素透過性が高いCSCLの開発である.シリコーンは酸素を透過させる素材であるが,疎水性と不透明性というCSCLの素材としては向かない性質を有している.しかし,素材の研究が進み,1999年にシリコーンハイドロゲルレンズが開発され市販された.シ1458あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(94)図8ムチンボールレンズ下にムチンが球状に固まってみられるが眼障害は生図7SEALじない.角膜上方の輪部から少し離れて弓状に生じる角膜上皮障害.図9球結膜の圧痕とステイニング図10CLPCシリコーンハイドロゲルレンズの硬さからくる機械的刺激レンズの機械的刺激とアレルギー反応によって上眼瞼に乳によって生じる.頭性変化が生じる.コーンハイドロゲルレンズを作製した.このシリコーンハイドロゲルレンズはCDk値は下がるものの,含水率が増えて柔らかくなり,それまでのトラブル改善に貢献した.レンズ内部に湿潤剤を含有させたタイプのレンズは第二世代とよばれている.現在,もっとも新しいタイプの第三世代のシリコーンハイドロゲルレンズは材料自体に親水性をもたせるとともに,軟らかさと高酸素透過性をさらに向上させている.CIIIカラーコンタクトレンズ(サークルレンズ)美容目的のためのカラーCCLが出現するまでは,カラーCCLというのは整容目的あるいは羞明防止のためのレンズであった.視力がほとんどない眼で角膜白斑が目立つ人に対して,整容目的で義眼CHCL(虹彩を有しているが瞳孔領は黒く塗りつぶされている,現在は作製されていない)(図11,12)を処方したり,同様な眼をした人でCHCLの装用に耐えられない場合に,義眼CSCL(依頼製作で現在でも入手可)(図13,14)が処方されていた.また,外傷などで虹彩の一部欠損,あるいは全欠損が生じている場合は羞明防止・軽減目的で虹彩付きSCL(虹彩を有しながら瞳孔領は透明である.このレンズも依頼製作で入手可)(図15)が処方されていた.しかし,加入度数C0(度なし)の美容目的のためだけのカラーCCLがわが国にも入ってきて,そのほとんどは大型ディスカウントストアやネット通販などで購入されるようになってきた.2009年に薬事法施行令の一部改正の政令が公布され,度なしカラーCCLも高度管理医療機器として管理されることになった.それに伴い,視力補正用(度あり)カラーCCL(図16)も市場に出回ることになった.眼科医療機関で取り扱うカラーCCLはテストレンズも用意されており,フィッティングを確認してから処方することができる.グループ分類もあらかじめわかっており(ほとんどがグループC2,4の高含水率タイプ,グループC1の中にはシリコーンハイドロゲルカラーCLも存在する),装用スケジュールの指導も可能である.しかし,大半は前述したように大型ディスカウントストアやネット通販などでの購入が可能であり,高度管理医療機器をどのように販売しているのか不明であるが,少なくともフィッティング判定などは行われていないと予想される.美容目的のカラーCCLの問題点として,①素材が低含水性のものが多い,②サイズが大きい,③フィッティング判定が行われていない,④ケア指導や装用指導が行われていない,⑤着色部位によって眼瞼や角膜との機械的刺激が多い,などがある.①.③は角膜への酸素供給の低下を引き起こしやすいし,④⑤は酸素供給不足の他にも結角膜への上皮障害,角結膜感染症を引き起こしやすい.実際にこのようなカラーCCLによる角膜上皮障害や角膜感染症はあとを絶たない.カラーCCLの製品基準を明確にして,すべてのCCLは医師による処方が必要であるということを,厚生労働省と国が一体になって打ち出すことしか解決策はないように思える.現在のような,罰則規定のない厚生労働省医薬食品局長通知のみではカラーCCLの問題は解決しない.CIVオルソケラトロジー(orthokeratology)HCLの普及に伴い,HCLを装用することによって角膜が少しフラット化して近視が軽減することがわかってきた.1962年にCJessenはこれをオルソフォーカス(orthofocus)とよび,これがオルソケラトロジーの始まりとのことである.それ以降C1970代終わり頃までレンズはCPMMA製であり,終日装用で矯正量は-1.2Dであり,角膜浮腫,スペクタクルブラーなどの不具合が認められており,この時代をオルソケラトロジーの第一世代としている.1990年代末頃までの第二世代ではRGPCLが導入されたが,酸素透過性は低く終日装用であった.デザインはリバースジオメトリーの原型となる3カーブデザインで-3D程度の矯正量があった.第三世代では高CDk値のCRGPCLが導入され,デザインはリバースジオメトリーでダブルリバースとなり(図17,18),夜間装用が可能となった.2002年にはCFDAの認可を得た.わが国ではC2009年に最初のオルソケラトロジーレンズが認可を受けた.同年,日本コンタクトレンズ学会は「オルソケラトロジーガイドライン」を,2017年には第2版を発表した.矯正量としては-6D程度可能であるが,ガイドラインでは原則-4Dまでとしている.年齢制限も原則C20歳以上としている.しかし,小児では矯正効果が高いうえに近視抑制効果の可能性も期待されて1460あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(96)図11義眼HCLの適応眼図12義眼HCL血管を伴い,角膜は全面において白濁している.図C11の症例に義眼CHCLを処方した.図13義眼SCLの適応眼図14義眼SCL血管の侵入は少ないが角膜全面は白濁している.HCLで図C13の症例に義眼CSCLを処方した.は異物感が強く,義眼CSCLを処方した.図15虹彩付きSCL図16カラーCL外傷によりC6時からC9時までの虹彩が欠損しており,羞明美容目的の度付きカラーCL.軽減のために虹彩付きCSCLを処方した.図17オルソケラトロジーレンズのデザインリバースジオメトリーで四つのカーブからなっている.(メニコンホームページより転載)図18オルソケラトロジーレンズのフルオレセインパターンスティープかつタイトにならないように気をつけねばならない.(メニコンホームページより転載)

ぶどう膜炎診療における半世紀の歴史と変遷

2021年12月31日 金曜日

ぶどう膜炎診療における半世紀の歴史と変遷TheHistoryandChangesintheClinicalPracticeofUveitisintheLastHalfCentury望月學*はじめに昭和C48年(1973年)に私は大学を卒業して眼科研修医となり,そのC2年後にぶどう膜炎専門外来に所属してぶどう膜炎診療に携わるようになり現在に至っている.いつの間にかC50年近い歳月をぶどう膜炎診療とともに過ごした.期せずして今回の特集テーマ「眼科診療における半世紀の歴史と変遷」を実際に体験したことになる.そこで,当時のぶどう膜炎診療を振り返りながら,このC50年の間に私自身が見聞きし経験したぶどう膜炎診療の歴史と変遷を述べるとする.CIぶどう膜炎診療における半世紀のパラダイムシフト今から約半世紀前のC1973年C4月に私は東京大学眼科で“オーベン”の先生の手ほどきを受けながら眼科医として歩み始めた.その頃の私自身と東京大学眼科のぶどう膜炎診療の結果を思い浮かべてみよう.当時のぶどう膜炎診察機器は,細隙灯顕微鏡,Gold-mann眼圧計,隅角鏡,単眼倒像鏡のほかに眼底カメラ,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA),そしてCBモードエコーくらいだったろうか.治療薬もたとえばCBehcet病に対しては副腎皮質ステロイドとコルヒチン,シクロホスファミドなどのわずかな免疫抑制薬に限られていた.今振り返ると,当時のぶどう膜炎診療の際立った特長は,1)ぶどう膜炎の原因疾患の種類がきわめてわずか,2)Behcet病患者が多く視力予後もきわめて不良,3)感染性ぶどう膜炎,とくにウイルス性疾患の診断と治療はほとんどお手上げ状態,の3点であろう.表1に,1974~1977年の東京大学眼科のぶどう膜炎臨床統計1)とC2016年の全国ぶどう膜炎疫学調査2)を示す.この半世紀の間にぶどう膜炎のリストから消えた疾患(中心性網脈絡膜炎,Reiter病),減少したもの(Behcet病),新たに出現した疾患〔ヘルペス性虹彩炎,急性網膜壊死,サイトメガロウイルス網膜炎,HTLV-1関連ぶどう膜炎などのウイルス性疾患,MEWDS,APMPPEなどの色素上皮関連疾患,悪性疾患(眼内リンパ腫)など〕,あるいは増加した疾患(サルコイドーシス)などさまざまである.1974~1977年のぶどう膜炎臨床統計1)では,中心性網脈絡膜炎を除く本来のぶどう膜炎の原因疾患の第一位はCBehcet病(17.6%),ついでCVogt・小柳・原田病(7.7%),サルコイドーシス(5.6%)で,ぶどう膜炎の原因としてあがっているのはわずかにC15疾患であり,なかでもウイルス性疾患は皆無であった.一方,2016年のぶどう膜炎調査2)で第1位はサルコイドーシス(10.6%),ついでCVogt・小柳・原田病(8.1%),ヘルペス性虹彩炎(6.5%)であり,40以上もの疾患があげられ,ウイルス性と診断された疾患が全体のC10%を超している.さらに重要な変化は治療と視力予後である.50年前にはC50%以上のCBehcet病患者が発病からC5年以内に矯正視力C0.1以下に陥っていた3).一方,生物製剤の登場した現在では失明に至る新規発症のCBehcet病患者はほ*ManabuMochizuki:宮田眼科病院,東京医科歯科大学眼科〔別刷請求先〕望月學:〒180-0005東京都武蔵野市御殿山C2-11-12C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(83)C1447表1ぶどう膜炎疫学における半世紀の変遷(1974~1977年vs.2016年)1974~C1977年*2016年**疾患%疾患%中心性網脈絡膜炎(増田型)Behcet病Vogt・小柳・原田病サルコイドーシスPosner-Schlossman症候群眼トキソプラズマ症眼結核中心性網脈絡膜炎(Rieger型)転移性眼内炎周辺性ぶどう膜炎Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎Reiter病全眼球炎若年性関節リウマチヘルペス性ぶどう膜炎眼ヒストプラズマ症強直性脊椎炎梅毒性ぶどう膜炎糖尿病性虹彩炎分類不能24.1C17.6C7.7C5.6C5.4C3.5C2.5C2.0C0.4C0.4C0.3C0.2C0.2C0.2C0.2C0.1C0.1C0.1C0.1C29.6CサルコイドーシスC10.6Vogt・小柳・原田病C8.1ヘルペス性虹彩炎C6.5急性前部ぶどう膜炎C5.5強膜ぶどう膜炎C4.4Behcet病C4.2悪性疾患C2.6急性網膜壊死C1.7Posner-Schlossman症候群C1.7糖尿病性虹彩炎C1.4サイトメガロウイルス網膜炎C1.2中間部ぶどう膜炎C1.0真菌性眼内炎C0.9HTLV-1関連ぶどう膜炎C0.9細菌性眼内炎C0.9眼結核C0.9眼トキソプラズマ症C0.9多発消失性白点症候群C0.8網膜血管炎C0.8関節リウマチ関連ぶどう膜炎C0.7ぶどう膜炎患者総数(人)C1,066Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎C0.7C炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎C0.7他の色素上皮脈絡膜炎C0.6水晶体起因性ぶどう膜炎C0.6間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU)C0.5JIA以外の若年性虹彩毛様体炎C0.5梅毒性ぶどう膜炎C0.5若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎(JIA)C0.5急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)C0.5多巣性脈絡膜炎C0.4地図状脈絡網膜症C0.3Bartonellahenselaeぶどう膜炎C0.2乾癬性ぶどう膜炎C0.2交感性眼炎C0.1眼トキソカラ症C0.1他のウイルス性ぶどう膜炎C0.1風疹関連ぶどう膜炎C0.1Epstein-Barrウイルス関連ぶどう膜炎C0.1その他C0.7分類不能C36.6Cぶどう膜炎患者総数(人)C5,378C*文献C1の表C2と表C3を合わせ,疾患名は日本眼科学会眼科用語集(第C6版)に準じ患者数に順じ並べ,許可を得て転載した.**文献C2のCTable1を許可を得て転載した.疾患名は日本眼科学会『眼科用語集』(第C6版)に準拠して和訳表示した.Yearsnanoporetargetedsequencing2020OCTAadalimumabcomprehensivePCRwide-viewophthalmoscope2010EDI-OCTin.iximabSD-OCT2000OCTmycophenolatePCRICGAmofetil1990lasercell-.arecyclosporinemeter19801970ImagingtestsImmunosuppressantsMoleculardiagnosis&Biologics図1半世紀のぶどう膜炎パラダイムシフトとぶどう膜炎診療の変遷X軸はぶどう膜炎診療の変遷に大きく貢献したC3つの要素(imagingCtests,CimmunosuppressantsC&biologics,Cmoleculardiagnosis)の主要な項目を示す.Y軸はそれらの項目がぶどう膜炎診療に応用されはじめたおおよその年代(西暦)を示すEDI-OCT:enhanceddepthimagingopticalcoherencetomography,ICGA:indocyaninegreenangiography,OCT:opticalCcoherenceCtomography,OCT-A:opticalCcoherenceCtomographyCangiography,PCR:polymeraseCchainCreaction,SD-OCT:spectralCdomainCopticalCcoherenceCtomographyCと病態の理解が飛躍的に進展した.さらに,1990年代後半に登場した光干渉断層法(optiC-calcoherencetomography:OCT)はぶどう膜炎に限らずあらゆる眼科分野の進展に大きく貢献した.その後,高解像度のCspectralCdomainOCT(SD-OCT)が開発され,患者に侵襲をまったく与えることなく網膜の微細構造をあたかも病理標本でみるがごとくに詳細に描出することが可能になった.これらのCOCTでは網膜より深層にあり多くのぶどう膜炎の主たる病変部位である脈絡膜の描出は不鮮明であった.しかし,Spaideら9)により開発されたCenhancedCdepthCimagingOCT(EDI-OCT)は脈絡膜の描出を可能にし,これにより患者に侵襲を加えることなく多くの眼底疾患の病態診断ができるようになった.しかも,周辺網膜までC1枚の写真で撮影できる広角度(wide-view,super-wideviewophthalmoscope)の眼底撮影機器の開発と相まって,眼底病変を周辺まで見落とすことなく診断できるようになった.FAとCIAは造影剤を静注する必要があり,造影剤に対するアレルギー反応のリスクが常に存在する.光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)は造影剤を投与せずに網膜と脈絡膜の血管,新生血管,血管閉塞などを描出できる画期的な検査である10).ただし,現在のOCTAは血管炎の診断に必要な情報のひとつである血管からの漏出(vascularleakage)は描出できない.CIIIMoleculardiagnosis半世紀前の眼科医にとって眼内の感染症(感染性ぶどう膜炎,感染性眼内炎)は悪夢であった.細菌と真菌については前房水や硝子体液も用いて顕微鏡検査と培養が可能であるが,陽性率が低く診断がつかないことが多く,ウイスルは顕微鏡検査も培養も臨床レベルでは不可能であった.したがって,血清中の特異抗体や皮内反応に基づいて診断していたが,当時の私はこのような状況証拠のような根拠に基づく診断ではなくて,眼内の病変局所検体を用いてウイルス,細菌,真菌の存在を直接的に同定する診断法ができないものかと,強く願望していたことを覚えている.1985年にCSaikiら11)により初めて報告されたポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)法は,短時間のうちに特定の標的CDNAを何百万倍にも増幅する方法で,ごくわずかな検体に含まれるウイスルなどの病原微生物のCDNAを高い感度(sensitivity)と特異度(speci.city)で検出同定できる.入手可能な検体が0.1Cml程度の微量な眼内液で勝負しなければならない感染性ぶどう膜炎の診断にCPCR法はきわめて有用であり,臨床へのインパクトは計り知れないものであった12).実際にC1992年にCNishiらはCPCR法を用いてC3症例の急性網膜壊死患者の前房水から水痘帯状疱疹ウイルスのDNAを検出し,ぶどう膜炎診断への有用性を初めて報告した13).当時のCPCRは単一の病原体の同定に限られていたが,その後,多くの病原体CDNAを同時に測定できるCmultiplexPCRが開発され,さらに,8種類のヒト・ヘルペスウイルス,トキソプラズマのCDNAを定性PCRでスクリーニングし,陽性のCDNAをさらに定量PCRによりウイルス量を測定するCcomprehensiveCPCRCsystem14),最近では検体からCDNAを抽出する過程を省いて直接検体をCPCR測定できるCdirectPCRなど,さまざまな開発・改良が行われた.PCR検査により初めて診断が可能になった疾患は数多くあり,ぶどう膜炎の原因疾患が増加したのはCPCRによるところが大きい.その代表例が単純ヘルペス,水痘帯状ヘルペスウイルス,サイトメガロウイスルなどによるヘルペス性前部ぶどう膜炎で,その診断と臨床像の解析15)はCPCR法なくしては不可能である.感染性ぶどう膜炎を扱う眼科医にとって夢のような検査法と思われるCPCR法にも制約がある.PCR法は,既知の病原微生物のCDNAの特定の領域を標的として増幅するので未知の病原微生物に対応できないこと,またウイルスCDNAの検出には優れているが,種類とバリエーションがきわめて多い細菌や真菌には不向きなことなどである.最近の病原微生物の検出同定はCPCRからCDNAシークエンスの時代へと移行しつつある16).十数年前に開発された第三,第四世代のCDNAシークエンサー(nano-poreCtargetedsequencing:NTS)は電流により直接的にCDNA情報を読み取ることができる.したがって,PCRのように既知の標的CDNA(probe)を用いてCDNA増幅する必要がないため,未知の病原微生物のCDNAを1450あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(86)検出でき,検出したCDNAは日々集積され更新されているCDNAデータバンクの遺伝子情報とコンピューター照合して病原微生物の同定を行う16).Huangら17)は,臨床的に感染性眼内炎と診断されたC18例の前房水または硝子体液を用いて,従来の培養とCNTSとを比較した.培養の陽性率はC47.1%であったのに対して,NTSの陽性率はC18例中C17例(94.4%)であり,培養で陽性であった検体の菌種とCNTSで同定された菌種はほぼ完全に一致していた.このように次世代シークエンサーを用いることで,ごく微量の眼内液検体でウイルス,細菌,真菌の病原微生物が同定できて,感染性ぶどう膜炎の診断,あるいは,その除外が可能な時代が到来しつつある.CIV生物製剤1980年代までのCBehcet病の治療には副腎皮質ステロイドとシクロホスファミド,アザチオプリン,コルヒチンなどの限られた免疫抑制薬しかなく,これらの治療でも約半数の患者が発病からC5年以内に視力C0.1以下の失明状態に陥っていた3).1980年代になり登場したシクロスポリン,タクロリムス,あるいはミコフェノレール酸モフェチル(セルセプト)などの新しい免疫抑制薬によりCBehcet病の視力予後はそれ以前に比べて改善した.しかし,Behcet病をはじめとする難治性非感染性ぶどう膜炎の治療と予後に画期的な変革をもたらしたのは,生物製剤による分子標的治療である.炎症性サイトカインであるCTNF-aに対するキメラ型モノクローナル抗体であるインフリキシマブ(点滴静注)のCBehcet病に伴う難治性ぶどう膜炎への有効性と安全性がわが国での臨床試験で証明され18,19),従来のシクロスポリンや副腎皮質ステロイドでは治療困難であったCBehcet病の眼炎症が抑制され,Behcet病の視力予後が著しく改善した.その後,2010年代にヒト型CTNF-aモノクローナル抗体であるアダリムマブ(ヒュムラ)が非感染性ぶどう膜炎の治療に有効であることが前向き国際多施設共同臨床試験で示され20,21),多くの国で非感染性ぶどう膜炎の治療に用いられている.今日,関節リウマチや炎症性腸疾患など膠原病の分野では,TNF-a阻害薬のほかにも抗CIL-6モノクローナル抗体など非常に多くの種類の生物製剤が用いられ,今後,これらの生物製剤はぶどう膜炎の診療にさらに大きな変化をもたらすであろう.CVぶどう膜炎の診断基準前述の要素のほかにも,この半世紀の間にぶどう膜炎診療を大きく変化させたものが多くある.なかでも疾患の診断基準は診療に大きく影響するので,ぶどう膜炎疾患の診断基準の変遷に少し触れる.Behcet病やサルコイドーシスはわが国の厚生省ベーチェット病研究班や日本サルコイドーシス肉芽腫性疾患学会などが主導していち早く診断の手引きや診断基準が確立されわが国で広く用いられていた.サルコイドーシスについては,本症に特徴的な眼所見(肉芽腫性ぶどう膜炎)と全身検査との組み合わせで眼サルコイドーシス(ocularsarcoidosis:OS)の国際診断基準が提唱され22),2019年に改定された23).急性網膜壊死はその病因がヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルスと水痘帯状疱疹ウイルス)であることが解明されたにもかかわらず,その後も長く臨床所見と臨床経過とだけに基づいた国際基準24)が用いられていた.最近,PCRの時代にふさわしいウイルス診断を取り入れた新しい診断基準が提唱されている25).眼結核(oculartuberculosis)は古くて新しい病気である.PCRと免疫学的検査が普及した過去C15年間にその診断と治療について活発な研究がなされ,多くの成果が国際誌に報告され,大きな注目を集めている.その多数の論文を引用するのは控えるが,代表的なものを一つだけあげる26).これらの診断基準は,ぶどう膜炎の専門家の間でアンケート調査や各人の経験に基づいたデータを持ち寄って討議するコンセンサス・ミーティングで作られるのが常であった.しかし,ごく最近,StandardizationofUveitisNomenclature(SUN)ワーキンググループは従来と異なるアプローチを用いて,25種類のぶどう膜炎疾患(急性網膜壊死27),Behcet病28),サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎29),サルコイドーシス30)など)の“classi.cationcriteria”を提唱した.その手法は,①世界中のぶどう膜炎専門家に依頼してそれぞれのぶどう膜炎疾患に典型(87)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1451的と思われる症例を集め(casecollection),②集まった症例の中から典型的な症例を選別し(caseselection),③最後にその典型的な症例の臨床像をコンピューターに入力して他の疾患と分類できる点を学習(machinelearning)させる方法である31).いろいろな分野で取り入れられている人工知能(arti.cialintelligence:AI)を用いた方法といえよう.今後,提案されたCSUNワーキンググループのぶどう膜炎各疾患のCclassi.cationcrite-riaの有用性が検討されるであろう.おわりに半世紀にわたるぶどう膜炎診療の実体験と現在に至るまでの歴史と変遷を思いつくままに述べてきた.現在は,目を凝らして眼底を観察し隅々まで自らの手でスケッチしながら眼底疾患を学ぶこともなく,手軽に広角眼底写真をC1枚撮るだけで正確に眼底の隅々まで記録できて,それに基づいて容易に診断ができる時代になった.今から半世紀後といわずに近未来において網脈絡膜,視神経の再生が臨床レベルで治療に用いられ,あるいは,医師があたかも網膜や脈絡膜の中に立って病変を観察できる眼内三次元バーチャル画像診断の実現も夢ではないであろう.一方で,さまざまな画像情報,全身検査結果,眼内液の検査結果をコンピューターに入れれば,「x%の確率で診断はCA疾患,もっとも勧められる治療オプションはCBです」,などとプリントアウトさされる時代が来るのであろうか.便利ではあるが,正確でもあろうが,本当にそんな時代の到来を望むだろうかと自問する.先日,テレビで兵器を搭載しコンピューター制御だけで動くドローンのニュースをみた.人智の関与を一切排除しているので,敵と判断すれは躊躇なく攻撃する冷たく不気味な近未来兵器であった.行き過ぎた科学技術が生み出したCSFアニメのような世界が現実のものとなっていることに少なからずショックを受けた.優れた画像診断,分子・遺伝子診断,標的治療,再生医療,AI医療,コンピューター管理などは,われわれにとって便利で享受すべき恩恵であろう.しかし,行き過ぎてあのドローンのようにならないように,便利さに頼り過ぎて基本的な鍛錬を忘れることがないように,コンピューター管理やCAIの脆弱性の被害にあわないように,そして,いつの時代にも人の温かみある診療を忘れないようにしたい.これまでの半世紀はわれわれの夢が実現したしあわせな変遷の歴史であったと思う.これから半世紀後にもそういえるようなぶどう膜炎診療であってほしい.文献1)伊澤保穂,難波克彦,望月學:東京大学眼科のブドウ膜炎統計(1974年~1977年)とベーチェット病患者の視力予後等について.臨眼35:855-860,C19812)SonodaCK-H,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJCOphthalmol32:184-190,C20213)MishimaS,MasudaK,IzawaYetal:Behcet’sdiseaseinJapan:ophthalmologicCaspects.CTransCAmCOphthalmolCSoc77:225-279,C19794)SawaCM,CTsurimakiCY,CTsuruCTCetal:NewCquantitativeCmethodCtoCdetermineCproteinCconcentrationCandCcellCnum-berCinCaqueousCinCvivo.CJpnCJCOphthalmolC32:132-142,C19885)SawaM:Clinicalapplicationoflaser.are-cellmeter.JpnJOphthalmolC34:346-363,C19906)SawaM:LaserC.are-cellphotometer:principleCandCsigni.canceinclinicalandbasicophthalmology.JpnJOph-thalmolC61:21-42,C20177)TheCStandardizationCofCUveitisNomenclature(SUN)WorkingCGroup:StandardizationCofCuveitisCnomenclatureCforreportingclinicaldata.Resultsofthe.rstinternationalworkshop.AmJOphthalmolC140:509.516,C20058)HerbortCCP,CLeHoangCP,CGuex-CrosierY:SchematicCinterpretationofindocyaninegreenangiographyinposte-riorCuveitisCusingCaCstandardCangiographicCprotocol.Oph-thalmologyC105:432-440,C19989)MargolisCR,CSpaideRF:ACpilotCstudyCofCenhancedCdepthCimagingCopticalCcoherenceCtomographyCofCtheCchoroidCinCnormaleyes.AmJOphthalmolC147:811-815,C200910)SpaideRF,FujimotoJG,WaheedNKetal:Opticalcoher-enceCtomographyCangiography.CProgCRetinCEyeCResC64:C1-55,C201811)SaikiCRK,CScharfCS,CFaloonaCFCetal:EnzymaticCampli.cationCofCbeta-globinCgenomicCsequencesCandCrestrictionsiteanalysisfordiagnosisofsicklecellanemia.ScienceC230:1350-1354,C198512)MochizukiM,SugitaS,KamoiKetal:Aneweraofuve-itis:impactofpolymerasechainreactioninin.ammatoryintraoculardiseases.JpnJOphthalmolC61:1-20,C201713)NishiCM,CHanashiroCR,CMoriCSCetal:PolymeraseCchainCreactionCforCtheCdetectionCofCtheCvaricella-zosterCgenomeCinCocularCsamplesCfromCpatientsCwithCacuteCretinalCnecro-1452あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(88)-’-

網膜硝子体手術と私の40 年

2021年12月31日 金曜日

網膜硝子体手術と私の40年FortyYearsofVitreoretinalSurgeryandMe小椋祐一郎*はじめに筆者はC1980年(昭和C55年)に大学を卒業して,母校の眼科学教室に入局した.そして,2021年(令和C3年)3月に大学を定年退職した.幸い,入局当初から網膜硝子体分野の診療にかかわり,41年にわたり,この分野におけるめざましい進歩を直接経験することができた.拙稿では,個人的な経験も含めて,40年間の網膜硝子体手術の変遷について俯瞰してみる.CI1980年当時の網膜硝子体手術筆者が入局した京都大学の眼科学教室は,第三代教授の盛新之助先生が日本で初めて裂孔原性網膜.離の手術治療を行ったこともあり,日本全国から難治性の網膜.離の患者が集まっていた.当時の京都大学での術式は,経強膜ジアテルミーにより網膜裂孔を凝固して,シリコーンスポンジでバックリングを行うもので,手術顕微鏡は使用せずに,肉眼で手術を行っていた.京都大学では冷凍凝固術はあまり行われていなかった.黄斑円孔網膜.離に対しても,外直筋を切除し,眼球を回転させて,直視下で黄斑部に経強膜ジアテルミー凝固を行い,1.5Cmmのシリコーンスポンジを縫着していた.肉眼で強度近視の黄斑部の後部ぶどう腫の非常に薄くなっている強膜にスポンジを縫着する糸をかけるのは神業であった.硝子体手術は,oneportのCfullfunctionprobeを使用して,毛様体扁平部をCGraefeナイフでC3Cmm切開して行っていた(図1).MachemerがC1971年に報告したものと基本的には同じシステムであった1).硝子体混濁を除去することが主目的で,網膜.離に対する硝子体手術は行われていなかった.筆者はその後,天理よろず相談所病院,神戸中央市民病院に赴任したが,そこでも硝子体手術は,oneportのものを使用していた.天理よろず相談所病院では,永田誠先生が先天白内障に対する経毛様体水晶体切除術を行っていたが,その手術もこのCfullfunctionprobeを用いて,乳幼児の毛様体扁平部を3Cmm切開していた2).筆者が神戸にいた頃に,大阪大学の田野保雄先生が留学から帰国されて,日本に多くの新しい手技を紹介された.その一つに液空気置換術がある.それまでは,硝子体手術中に医原性裂孔を作ると,網膜を復位させる方法がなかった.硝子体腔に空気を灌流して,同時に網膜下液を排出して,網膜を復位させるという手技は画期的であった.しかし,その当時は専用の空気灌流装置がなく,金魚の水槽で使用するポンプを灌流針に接続して使用していた(図2).手術室に金魚のポンプを滅菌しておいて,使用していたのを記憶している.CIIThreeportvitrectomysystemの導入と硝子体手術の適応拡大米国のCSteveCharlesが,硝子体カッター,ライト,灌流針をそれぞれの強膜創から刺入するCthreeCportsystemを開発し,20ゲージの創口から手術を行うこと*YuichiroOgura:名古屋市立大学〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8602名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(77)C1441図11980年当時に用いられていたoneportvitrectomyのfullfunctionprobe図2硝子体手術の液空気置換に金魚の水槽用の空気ポンプを使用した時代があった図3Threeportsystem導入期の硝子体手術装置図4特発性黄斑円孔に対するICG染色網膜内境界膜図5トリアムシノロンによる硝子体ゲル可視化.離切除図6脈絡膜新生血管抜去術a:32ゲージの針により網膜下のハイドロダイセクションを行い,脈絡膜新生血管と網膜の癒着を.離する.Cb:網膜下鉗子により,脈絡膜新生血管を把持する.Cc:摘出された脈絡膜新生血管.図7硝子体手術により硬性白斑を除去した糖尿病黄斑浮腫症例の眼底所見a:術前.黄斑下に大量の硬性白斑の沈着を認める.b:手術後C6カ月.硬性白斑は消失して,黄斑浮腫も改善している.-

加齢黄斑変性診療の変遷

2021年12月31日 金曜日

加齢黄斑変性診療の変遷ChangesinAge-RelatedMacularDegenerationMedicalCare大島裕司*石橋達朗**はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は,中高年の中途失明原因の主要疾患であり,わが国においても現在,身体障害者視覚障害の原因疾患の上位を占めている1).その病型には脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が関与し,その滲出により視力障害をきたす滲出型AMDと,CNVが関与せず網膜色素上皮や脈絡膜毛細血管の萎縮を認める萎縮型AMDに大別される.わが国では前者が多く,実臨床におけるAMD患者のほぼ9割を占めている.滲出型AMDはできるだけ滲出を抑えてコントロールしないと早期に視力障害をきたすが,萎縮型AMDは地図状萎縮を認め,進行は緩徐であるが現時点で特効的な治療法はなく,おもに経過観察が中心となっている.AMDの患者数は世界的に増加傾向であり,Wongらは一般住民における有病率のメタアナリシスから2040年には2億8,800万人に増加すると試算し,とくにアジア圏では2040年には1億1,300万人ともっとも増加すると予想している2).福岡県久山町で行われている久山町スタディから,わが国における滲出型AMDの有病率も1998年0.6%,2007年1.2%,2012年1.5%と増加しており,滲出型AMDの特殊型であるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)の有病率も0.4%と報告され,今後ますます増加することが予想されている3).I画像診断の進歩現在は種々の画像データを組み合わせて病状,病型の診断,治療効果の判定を行うマルチモーダルイメージング(multi-modalimaging)が一般的となっているが,基本となるのは,眼底検査および従来からの蛍光眼底造影検査である.滲出型AMDの診断は1980年代まではおもにフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiogra-phy:FA)にて行われていたが,1990年代にインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiogra-phy:IA)が普及すると,網膜色素上皮下のCNVなどの病変,脈絡膜の透過性などの描出に優れ,より詳細に把握することができるようになった.さらに滲出型AMDの特殊型であるPCVにおいてはポリープ状病巣や異常血管網を描出し,もうひとつの特殊型である網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)という病型があることも明らかにされた.そして,AMD診断のみならず眼科診療において大きく関与することとなったのは,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の登場であろう.とくにタイムドメイン方式のOCTからスペクトラルドメイン方式のOCTへ機器が進歩したことで検査時間が格段に短くなり,固視不良が多いAMD患者への有効性も示された.視覚的に断層像が得られることにより,CNVが網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)より神経網膜内に存在するtype2CNVか,RPEより下*YujiOshima:福岡歯科大学総合医学講座眼科**TatsuroIshibashi:九州大学〔別刷請求先〕大島裕司:〒814-0193福岡市早良区田村2-15-1福岡歯科大学総合医学講座眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(67)1431図1滲出型加齢黄斑変性の治療変遷1970年代頃よりレーザー光凝固が始まり,硝子体手術によるCNV抜去術が行われた.2000年代に入ってからはPDT,そして抗VEGF薬が登場した.(■はわが国で認可された年)図2中心窩外PCVに対してレーザー光凝固を施行した症例70歳,男性.a~d:治療前.視力(0.9).ポリープ状病巣(c:),漿液性網膜.離(SRD,d:)を認め,中心窩外PCVに直接凝固施行した.e~h:2週間後.ポリープの凝固(),SRD減少を認めるも異常血管網は残存していた.視力は(0.9)と不変.a~d:治療前,e~h:2週間後,a,e:眼底写真,b,f:FA,c,g:IA,d,h:OCT.複数回の手術を要することが多い.増殖性硝子体網膜症などの合併症も危惧されることより,他の治療法の有効性が確立している現在は,CNV抜去術の適応となる患者が減少しているのが現状である.C3.光線力学療法PDTは,従来悪性腫瘍に対する治療法の一つとして開発され,ポルフィリン化合物が有する腫瘍組織,新生血管への集積性と光の励起により発生する一重項酸素の組織破壊を利用する治療法である.PDTはレーザー光凝固治療による強い組織破壊とは異なり,正常組織にできるだけダメージを与えず,低エネルギーレーザーにて病変部を選択的に治療することができる.作用機序は,ベルテポルフィン(ビスダイン)が静脈内投与によって血中の低比重リポ蛋白(low-densityClipoprotein:LDL)に結合し,CNVの血管内皮細胞に発現しているCLDLレセプターを介してCCNVの内皮細胞に取り込まれ蓄積される.そこにレーザー光が照射されるとCCNV中のベルテポルフィンが光化学反応によって活性化され,発生した一重項酸素によって傷害された内皮細胞に血小板などが付着,血栓形成によってCCNVが閉塞する.PDT施行の実際はベルテポルフィンを静脈内投与し,15分後に眼科用光線力学療法用レーザー(非発熱性ダイオードレーザー)を病変部位にC83秒間照射を行う.治療後C48時間は薬剤血中濃度が高く,患者は光過敏症の状態になっているので遮光が必要となる治療法である.AMDに対するCPDTの大規模臨床試験が欧米において行われ,CTreatmentCofCAge-RelatedCMacularCDegenerationCwithPhotodynamicTherapyStudy(TAPstudy)とよばれている.2001年にそのC2年経過が発表され,PDT治療群で視力低下を抑制する効果が報告されている11).わが国ではC2003年に薬剤およびレーザー機器が承認されているが,それに先立ってCJapaneseCAge-RelatedCMacularCDegenerationCTrialStudy(JATstudy)という臨床試験が行われた.JATstudyではCAMD64例に対してCPDTが行われ,治療前視力C50.8文字から治療後1年でC53.8文字と改善が得られている12).欧米で行われたCTAPstudyで確認されたのは視力低下を抑制する効果であったが,日本人を対象としたCJATstudyでは改善の効果が認められている.この理由としては,日本人の母集団にはCPCV患者が多く含まれていたためであろうと考えられている.これにより典型CAMDに比べてPCVに対しては,PDTがより有効であるのではないかと考えられるようになった.Gomiらは,典型CAMDとPCV患者C93眼に対してCPDTを施行し,1年後視力がPCV群はC6.8文字改善し,典型CAMD群はC6.8文字悪化したとCPDTのCPCVへの有効性を報告している.これにより,PCVに対するCPDTはC1年後に視力低下を抑制させるのみならず改善させる効果が認められた13).しかし,長期結果になると徐々に視力が低下することが報告されている.Kurashigeらは,PCV31眼にCPDTを施行し,施行後C1年は有意に視力改善するもC2年後には有意に視力悪化が認められ,平均治療回数はC1.65回であったと報告し,2年目に追加治療が必要な再燃がC38%に認められたとしている14).2008年にわが国におけるCPDTガイドライン策定のためにC13施設で行われた共同研究では,471眼にCPDTを施行し,12カ月後の成績が報告されている.それによると,視力は施行前後ともにC0.15で維持され,clas-sicCNV,occultCNVなどのどのCFA分類での病態においても視力は維持されていた.また,病変サイズが1,800Cμm以下の小さな病変では視力が改善し,5,400Cμm以上の大きな病変では視力が維持できていたこと,PCVでは有意に視力が改善していたこと,1年間の平均治療回数はC2回であったことなどが報告され,これに基づいてアルゴにズムが発表されている15).このようにPDTは,治療がなかなかむずかしかったCAMD患者の視力低下を短期的には抑制することができ,抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法が登場するまでは治療の主流であった.現在でも,抗CVEGF療法が施行できない患者や抗CVEGF療法抵抗例,PCVに対して,抗CVEGF療法との併用で行われることが多い(図3).C4.抗VEGF療法VEGFは,血管内皮の分裂,増殖,遊走を促すだけでなく,血管透過性亢進に関与しており,AMDをはじめとする多くの眼内血管新生疾患の病態に大きくかかわ1434あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(70)図3中心窩下PCVに対してPDT単独療法を行った症例68歳,男性.Ca~d:治療前.視力(0.5).網膜出血,ポリープ状病巣(),異常血管網,漿液性網膜.離(SRD)を認め,PDTを施行した.Ce~h:施行C1年後.視力(1.0).ポリープ状病巣は退縮,SRDも消失した.Ci~l:施行C2年後.視力(0.7),網膜出血,異常血管網からの再燃,蛍光漏出,SRD()を認めた.再燃までのC2年間でCPDTの施行はC1回のみ.Ca,e,i:眼底写真,b,f,j:FA,c,g,k:IA,d,h,l:OCT.効果が少なく,2019年に販売中止となった.Cb.ラニビズマブラニビズマブはCVEGF-Aモノクローナル抗体のCFab断片であり,ベバシズマブ同様にCVEGFのすべてのアイソフォームを抑制する.分子量は約C50kDaと小さく組織移行性は良好であるといわれている.海外で行われたラニビズマブを用いた大規模臨床試験には,MARINA試験(occultCNVが対象),ANCHOR試験(classicCNVが対象)があり,4週間ごとC2年間投与が行われている.MARINA試験ではC24カ月後にC6.6文字,ANCHOR試験ではC10.7文字の視力改善が得られている18,19).わが国でもCEXTEND-Iという臨床試験が行われ,12カ月後にC10.5文字の改善が認められ,2009年に認可された20).現在でも複数の抗CVEGF薬の中の選択肢のひとつとして使用されている.このようにラニビズマブは,視力悪化を抑制するだけでなく視力改善が得られる認可治療薬として注目された.わが国に多いPCVに対しては,単独治療では滲出性変化の軽減効果があるものの,ポリープ閉塞効果はCPDTに比して低いことが報告されている.HikichiらはC82眼のCPCVに対してラニビズマブ導入期C3回投与後,必要時投与でC1年間の治療成績を報告し,1年後視力はC94%で改善維持が得られ,ポリープ閉塞率はC40%,平均治療回数はC4.2回と報告している21).Cc.アフリベルセプトアフリベルセプトは,VEGFの受容体のうちCVEGFR-1の第C2ドメインとCVEGFR-2の第C3ドメインとCIgGのFcフラグメントを結合させた可溶性融合蛋白である.VEGFのみならず胎盤成長因子(placentalCgrowthCfac-tor:PlGF)に結合し阻害する.アフリベルセプトを用いたCAMDに対する大規模臨床試験にはCVIEW試験がある.日本人も参加した試験である.滲出型CAMDに対してアフリベルセプトを導入期C3回,維持期はC2カ月ごと投与を行った試験で,ラニビズマブを導入期C3回,維持期は毎月投与した群に非劣性であったことが示された22).これにより維持期にC2カ月ごと投与で視力が維持されることが示された.VIEW試験では参加した日本人を対象としたサブ解析が行われ,アフリベルセプトで治療した群はラニビズマブで治療した群と同様に視力維持,形態的改善が得られたと報告し,日本人に対してもアフリベルセプトの治療効果が示された23).わが国では2012年にCAMDに対して認可され臨床使用されている.PCVに対するアフリベルセプト単独治療効果を検討するために,筆者らは多施設共同前向き試験(APOLLO試験)を行った.1年後にC97.6%の症例で視力改善維持が得られ,ポリープ閉塞率はC72.5%とCPCVに対する有効性が示された24).Cd.ブロルシズマブブロルシズマブはC2021年時点で承認されているもっとも新しい抗CVEGF薬で,ヒト化抗CVEGFモノクローナル抗体フラグメントの構造のため,より分子量が小さく,組織移行性が高いことが知られている.その分子量は約C26kDaで投与量比はモル換算でラニビズマブの約22倍である.ブロルシズマブを用いた大規模臨床試験であるCHAWK試験,HARRIER試験では,3回の導入期後,12週ごとの投与で,8週ごと投与のアフリベルセプトに対して非劣性を示し,より長い維持期治療間隔の可能性を示唆している25).PCVに対しての有効性も報告され,76%の症例で維持期にC12週間隔での投与が維持できている26).わが国でもC2020年に承認されたが,合併症として内眼炎が散見され,HAWK&HARRIER試験でも全体で内眼炎の発症率がC4.6%,血管閉塞を伴う内眼炎がC2.1%と他剤より高率に発症することが指摘されている.同試験の日本人を対象とした検討でも内眼炎がC12.9%にみられ,血管閉塞を伴う内眼炎はC4.95%に認められている27,28).Ce.治療レジメンの変遷AMDに対する抗CVEGF療法が始まった当初は,治療は導入期として月にC1度の投与を連続C3回以上施行し,それ以降の維持期には毎月患者をモニタリングして悪化が認められれば投与を行う必要時投与(proCrenata:PRN)が行われていた.しかし,この投与方法であると,悪化をしてからの投与となるため長期的にはいったん改善した視力を維持することが困難であることがわかってきた.ラニビズマブの大規模臨床試験であるMARINA試験,ANCHOR試験後のC7年間の治療成績を検討したCSEVEN-UP試験では,臨床試験での連続投与終了後は多くの症例でCPRN投与が行われ,獲得した1436あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(72)図4典型AMD(classicCNV)に対してアフリベルセプト硝子体内注射をtreatandextend法で治療した症例64歳,女性.Ca~d:治療前.視力(0.2).網膜下出血,フィブリン析出,漿液性網膜.離(SRD)を認め,アフリベルセプト投与を開始した.Ce~h:3回の導入期終了後.視力(0.4).網膜下出血消失とCSRDは消失し,ドライマクラとなった.そのため,維持期は延長間隔C2週間でのCtreatCandextendを施行した.Ci,j:29カ月後.視力(0.7).投与間隔C16週,連続C3回ドライマクラで安定していたため,休薬しモニタリングに移行した.Ck,l:44カ月後.視力(0.6).ドライマクラを維持している.a,e,i,k:眼底写真,b,f:FA,c,g:IA,d,h,j,l:OCT.ざましく進歩した.滲出型CAMDの治療は,視力低下を遅らせるだけでなく,視力維持が可能となった.しかし,視力を維持するためには継続的な加療が必要であることもわかってきた.継続的な加療を続けるには,中高年の患者が多い本疾患では本人の負担のみならずその介助者や家族の協力が必要である.また,医療費の増加を懸念する患者も少なくない.しかし,継続的な加療を行うことは,治療を行わないことによる視力障害に対する社会的コストに比べると総合的には経済的であるということや,介助者の経済活動の損失が少ないと報告されている35,36).何よりも患者自身がいつまでも視力が維持できるように,患者個人の社会的背景や病態を考慮して治療を選択,持続していく必要があると考える.今後,さらに加療間隔が長く,治療負担が少なくなるような新たなる治療戦略が登場することを期待したい.文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌:118:495-501,C20142)WongCWL,CSuCX,CLiCXCetal:GlobalCprevalenceCofCage-relatedCmacularCdegenerationCandCdiseaseCburdenCprojec-tionCforC2020Cand2040:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.LancetGlobHealthC2:e106-e116,C20143)FujiwaraK,YasudaM,HataJetal:PrevalenceandriskfactorsCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCaCgeneralJapaneseCpopulation:TheCHisayamaCStudy.CSeminCOph-thalmolC33:813-819,C20184)WarrowCDJ,CHoangCQV,CFreundKB:PachychoroidCpig-mentepitheliopathy.RetinaC33:1659-1672,C20135)Argonlaserphotocoagulationforsenilemaculardegenera-tion:Resultsofarandomizedclinicaltrial.ArchOphthal-mol100:912-918,C19826)ArgonClaserCphotocoagulationCforCneovascularCmaculopa-thy:Five-yearCresultsCfromCrandomizedCclinicalCtrials.CMacularCPhotocoagulationCStudyCGroup.CArchCOphthalmolC109:1109-1114,C19917)YuzawaCM,CMoriCR,CHaruyamaM:ACstudyCofClaserCpho-tocoagulationCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CJpnCJOphthalmolC47:379-384,C20038)NishijimaCK,CTakahashiCM,CAkitaCJCetal:LaserCphotoco-agulationCofCindocyanineCgreenCangiographicallyCidenti.edCfeedervesselstoidiopathicpolypoidalchoroidalvasculopa-thy.AmJOphthalmolC137:770-773,C20049)JuanCDECJr,CMachemerR:VitreousCsurgeryCforChemor-rhagicCandC.brousCcomplicationsCofCage-relatedCmacularCdegeneration.AmJOphthalmol105:25-29,C198810)SubmacularCSurgeryCTrialsCResearchGroup:SurgeryCforCsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmac-ulardegeneration:ophthalmicC.ndings.COphthalmologyC111:1967-1980,C200411)BresslerNM;TreatmentCofCAge-relatedCMacularCDegen-erationCwithCPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photodynamictherapyofsubfovealchoroidalneo-vascularizationCinCage-relatedCmacularCdegenerationCwithvertepor.n:two-yearresultsof2randomizedclinicaltri-als-tapreport2.ArchOpthalmol119:198-207,C200112)JapaneseCAge-RelatedCMacularCDegenerationTrial(Jat)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearCresultsCofCphotodynamicCtherapyCwithCvertepor.nCinCJapaneseCpatientsCwithCsubfovealCchoroidalCneovascularizationCsecondaryCtoCage-relatedCmacularCdegeneration.AmJOphthalmol136:1049-1061,C200313)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearoutcomesofphotodynamicCtherapyCinCage-relatedCmacularCdegenera-tionCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCJapaneseCpatients.OphthalmologyC115:141-146,C200814)KurashigeCY,COtaniCA,CSasaharaCMCetal:Two-yearCresultsCofCphotodynamicCtherapyCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.AmJOphthalmolC146:513-519,C200815)TanoY;GroupOPS:GuidelinesCforCPDTCinCJapan.COph-thalmologyC115:585-585,C200816)SpaideCRF,CLaudCK,CFineCHFCetal:IntravitrealCbevaci-zumabCtreatmentCofCchoroidalCneovascularizationCsecond-arytoage-relatedmaculardegeneration.RetinaC26:383-390,C200617)VEGFCInhibitionCStudyCinCOcularCNeovascularization(V.I.S.I.O.N.)ClinicalCTrialGroup;ChakravarthyCU,CAda-misAP,CunninghamETJretal:Year2e.cacyresultsof2randomizedcontrolledclinicaltrialsofpegaptanibforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.COphthal-mology113:1508,Ce1-e25,C200618)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEnglJMedC355:1419-1431,C200619)BrownCDM,CMichelsCM,CKaiserCPKCetal:RanibizumabCversusCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:two-yearCresultsCofCtheANCHORstudy.OphthalmologyC116:57-65,Ce5,C200920)TanoCY,COhjiM;GroupCE-IS.EXTEND-I:safetyCandCe.cacyofranibizumabinJapanesepatientswithsubfove-alCchoroidalCneovascularizationCsecondaryCtoCage-relatedCmaculardegeneration.ActaOphthalmologicaC88:309-316,C201021)HikichiCT,CHiguchiCM,CMatsushitaCTCetal:One-yearCresultsCofCthreeCmonthlyCranibizumabCinjectionsCandCas-neededCreinjectionsCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinJapanesepatients.AmJOphthalmolC154:117-124,Ce1,C201222)HeierCJS,CBrownCDM,CChongCVCetal:IntravitrealCa.iber-cept(VEGFtrap-eye)inCwetCage-relatedCmacularCdegen-1438あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(74)-

糖尿病網膜症の診断・治療

2021年12月31日 金曜日

糖尿病網膜症の診断・治療DiagnosisandTreatmentforDiabeticRetinopathy西勝弘*西塚弘一*山下英俊**はじめに糖尿病網膜症は糖尿病を背景に発症する三大合併症(神経障害,網膜症,腎症)の一つであり,わが国の視覚障害の第3位を占めている1).背景疾患である糖尿病の患者数は近年増加傾向にあり,厚生労働省の国民健康・栄養調査の一環として行われた糖尿病実態調査の最新(平成28年)の結果によると,糖尿病患者数は約1,000万人となっている2).国民の視力を守っていくためには,糖尿病網膜症を適切に診断・治療していくことが重要である.眼科診療の現場では,診断は眼底検査所見をもとに各種重症度分類に照らしながら網膜症の重症度判定を行い,その結果をもとにして治療はレーザー治療,薬物治療,硝子体手術治療を選択している.本稿では糖尿病網膜症の診断・治療について概説する.I糖尿病網膜症の病態と眼底所見日常診療で眼科医が糖尿病患者を診察する機会としては,健診異常をきっかけとする場合や,糖尿病で内科治療中の患者が紹介されてくる場合が多いと考えられる.なかには視力低下などの主訴で眼科を受診し,眼底所見から糖尿病網膜症を疑われ,その後内科で未治療の糖尿病の診断につながることも少なくない.したがって,正確に眼底所見をとらえて糖尿病網膜症の診断を行うことが重要である.糖尿病網膜症の基本的な病態は,血管透過性亢進,血管閉塞,血管新生である.これらの病態は眼底所見として,毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,軟性白斑,血管異常(網膜内最小血管異常,数珠状静脈拡張など),新生血管(その破綻で生じる硝子体出血),増殖膜(それによる牽引性網膜.離)などの所見としてみられる.血管透過性亢進を背景に血管漏出に伴う網膜浮腫を生じる病態は,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)とよばれる.眼底所見のみでは無灌流領域を含めた糖尿病網膜症の循環動態の評価は困難であり,正確に判断するためにはフルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)が必要となる(図1).FAは造影剤を用いた侵襲的な検査であり,とくにフル****図1網膜無灌流領域網膜無灌流領域は毛細血管床が閉塞し,FAにて低蛍光(*)を呈する.*KatsuhiroNishi&KoichiNishitsuka:山形大学医学部眼科学講座**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座,山形市保健所〔別刷請求先〕西勝弘:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(57)1421図2OCTAによる新生血管の描出53歳,女性,フルオレセインアレルギーあり,4カ月後に軟性白斑(.)の隣に新生血管(.)が出現した.Bスキャンでも新生血管は血流を伴う構造(.)として描出された.-新福田分類が広く用いられている.国際重症度分類,改変Davis分類はDRS,ETDRSの重症度分類を基盤として構築されたものであり,糖尿病網膜症の眼底所見のなかでも重症な病態へ進展するリスクが高い所見に着目して病期を分類している.さらには眼科医と患者の病態の共通理解,眼科医同士ならびに内科と眼科の病診連携に重要である.ここでは国際的に使用できる診断基準である国際重症度分類について述べる3).国際重症度分類が発表されるまでの変遷としては,米国で1968年にAirliehouse分類が発表され,その後DiabeticRetinopathyStudyResearchGroupにより改変されAmodi.cationoftheAirlieHouseclassi.cationofDiabeticretinopathy(DRS分類)が発表された4).さらにEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup(ETDRS)では,大規模多施設研究によりDRS分類を改変しETDRS分類が作成された5).国際重症度分類はETDRS分類のエビデンスに基づいて2003年に米国眼科学会により提唱され,糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫について病期分類している.糖尿病網膜症については,ハイリスクの増殖糖尿病網膜症(新生血管を発症した重症な網膜症)への進行リスクの大きさにより重症度を分類している.網膜症の所見がないものを網膜症なし,重篤な虚血状態を示し直ちに治療が必要な状態である新生血管を認めるものを増殖網膜症とし,その間の状態を非増殖網膜症とし,非増殖網膜症はさらに軽症,中等症,重症の3段階に分類している.初期の変化である毛細血管瘤のみを認めるものは軽症非増殖網膜症,4象限で20個以上の網膜出血,2象限以上での数珠状静脈拡張,1象限以上での網膜内最小血管異常のいずれかを認める(4-2-1ルール)ものは重症非増殖網膜症とし,中等症非増殖網膜症は軽症と重症の間の状態としている.2.黄斑浮腫糖尿病黄斑浮腫では,後極に網膜肥厚と硬性白斑を認めるものを黄斑浮腫ありとし,黄斑部に網膜浮腫が及ぶと視力に影響を及ぼすことから,黄斑部と病変の関係から軽症(病変が黄斑中央部から離れている),中等症(病変が黄斑中央部に近づきつつある),重症(病変が黄斑中央部に到達している)の3群に分類されている.国際重症度分類は比較的覚えやすく簡潔な分類であるとともに,眼科医が検眼鏡的に把握できる眼底所見からその場で重症度を判定できること,増殖網膜症への進展の臨床的な予測に有用であること,また世界共通な診断基準となっており学術的に有用であることから使用されるようになってきている.III糖尿病網膜症の治療1.網膜光凝固術糖尿病網膜症では血管閉塞から網膜虚血が引き起こされるが,それに対する治療の基本は網膜虚血の軽減,すなわち網膜虚血部位の酸素需要を減らし脈絡膜からの酸素供給を増やすことであり,現在もっとも行われている治療が網膜光凝固術である.網膜光凝固術の研究は,1946年Meyer-Schwicker-athのもとに日蝕性網膜炎患者が来院したことに端を発した.光源として太陽光の利用から始まり,その後1957年にはキセノン光凝固装置が市販され,1960年代には糖尿病網膜症に対する治療法として用いられはじめた.1960年のルビーレーザー発振成功の翌年にはレーザー光線が網膜.離に対する光凝固の光源として使用された.その後1971年にアルゴンレーザーが市販され,網膜光凝固は安全に正確かつ短時間に行えるようになった6).1970年代に行われた米国での大規模研究によって,増殖前網膜症でみられる無灌流領域に対するレーザー光凝固が,網膜新生血管の発芽予防もしくは消退に有効であることが証明された7).汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)が選択されるのは,重症非糖尿病網膜症と早期の増殖糖尿病網膜症である.エビデンスとなっているのは,DRS8)とETDRS9)である.重症非増殖網膜症ではPRPにより新生血管の出現,すなわち増殖糖尿病網膜症への進展を予防することが期待される.増殖糖尿病網膜症では病態の鎮静化,さらには血管新生緑内障への進展予防のために,可及的速やかに密なPRPが必要となる(図3).一方,無灌流領域への局所光凝固についての有効性に(59)あたらしい眼科Vol.38,No.12,20211423図3パターンスキャンレーザーを用いて汎網膜光凝固を施行した重症非糖尿病網膜症31歳,女性.網膜最周辺部まで密に凝固斑を認める.図4硝子体出血を呈した増殖糖尿病網膜症に対し硝子体手術を施行した56歳,男性.増殖糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固施行中に硝子体出血を生じたため,硝子体手術を施行した.術前視力0.3から術後1.0まで回復した.図5増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の術中OCT所見術中COCTを用いることにより,増殖膜と網膜(点線)の判別や増殖膜の複雑な層状構造を客観的にとらえることが可能である.図6糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する抗VEGF薬治療前後のOCT53歳,男性.左眼CDMEに対してアフリベルセプト硝子体内注射を施行.施行後C1カ月でCDMEは軽快した.図7左眼糖尿病黄斑浮腫46歳,男性.眼底写真,FAの早期像(Ca),後期像(Cb),眼底写真(Cc),OCTマップ(Cd)をもとにして,中心窩耳側の領域(c:黄色楕円)にある毛細血管瘤を光凝固した.術前術後図8図7と同一症例の局所光凝固術左眼局所光凝固術後,黄斑耳側のCDMEは軽快した.左眼視力は(0.8)から(0.9)へ改善した.その潮流を受けると思われるが,それまでの間にCAIを用いた診療が適正に行われることをめざした研究が必要である.具体的には眼底写真(FA含む),OCT,OCTAなどのデータベース構築を急ぎ行うことである.AIが参入しても眼科医が不要となることはなく,診断を確定し,光凝固,注射,手術などの治療を担うのは眼科医である.糖尿病内科専門医と連携し,内科受診された糖尿病患者が視力にかかわらず眼科に紹介されるような診療体制を構築し,AIをうまく利用しながら眼科診療,治療を行っていく形が理想的と考えられる.もう一つは,治療薬の開発とテーラーメイド医療の開発である.現時点でのCunmetmedicalneedsは,初期の糖尿病網膜症患者に対する内服治療薬がないことである.候補としてはレニンアンギオテンシン系の制御26),脂質代謝異常治療薬27)(スタチン,フェノフィブラート28))などがあるが,現在も議論が交わされている.問題は,網膜症の病態としてどの状態の患者にどの治療薬が有効かを判断するための方法が確立されていないことである.眼内液の採取はサイトカイン濃度など得られる眼局所的な情報は多いが,侵襲的であり患者・医師双方への負担は大きいと考えられる.たとえば採血検査などの比較的侵襲が低く,繰り返し可能な検査方法で網膜症の病態が判定され,適切な内服薬が選択できるようになれば,テーラーメイド医療は大きく前進すると考えられる.文献1)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals,CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20192)厚生労働省:平成C28年国民健康・栄養調査結果の概要.CAvailablefrom:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/Ceiyou/h28-houkoku.html3)WilkinsonCCP,CFerrisCFLC3rd,CKleinCRECetal:ProposedCinternationalCclinicalCdiabeticCretinopathyCandCdiabeticCmacularCedemaCdiseaseCseverityCscales,COphthalmologyC110:1677-1682,C20034)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Amodi.ca-tionoftheAirlieHouseclassi.cationofDiabeticretinopa-thy.CDRSCreportCnumberC7.CInvestCOphthalmolCVisCSciC21:210-226,C19815)EarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudyCResearchGroup:GradingCdiabeticCretinopathyCfromCstereoscopicCcolorCfundusCphotographsC.CanCextensionCofCtheCmodi.edCAirlieCHouseCclassi.cation.CETDRSCreportCnumberC10.COphthalmologyC98(5suppl):786-806,C19916)大庭紀雄:眼科学の歴史現代眼科学を築いた人々眼科の疾病・研究史網膜.離.眼科診療プラクティス93:106-112,C20037)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:PreliminaryreportConCe.ectsCofCphotocoagulationCtherapy.CAmCJCOph-thalmolC81:383-396,C19768)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:PhotocoaguC-lationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Clini-calCapplicationCofCDiabeticRetinopathyCStudy(DRS)C.ndings,CDRSCreportCnumberC8.COphthalmologyC88:583-600,C19819)FerrisF:EarlyCphotocoagulationCinCpatientsCwithCeitherCtypeICortypeIICdiabetes.TransAmOphthalmolSocC94:C505-537,C199610)清水弘一:分担研究報告書.汎網膜光凝固治療による脈絡膜循環の変化と糖尿病レーザー治療ならびに糖尿病網膜症の光凝固適応および実施基準.平成C6年度糖尿病調査研究報告書.厚生省.p346-349,C199511)SatoY,KojimaharaN,KitanoSetal;JapaneseSocietyofOphthalmicCDiabetology,CSubcommitteeConCtheCStudyCofDiabeticRetinopathyTreatment:Multicenterrandomizedclinicaltrialofretinalphotocoagulationforpreproliferativediabeticretinopathy.JpnJOphthalmol56:52-59,C201212)平野隆雄,村田敏規:糖尿病網膜症の光凝固の進歩.あたらしい眼科31:1083-1088,C201413)西勝弘,後藤早紀子,西塚弘一ほか:手術時期の異なる増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績の検討.臨眼C67:69-75,C201314)NishiCK,CNishitsukaCK,CYamamotoCTCetal:FactorsCcorre-latedCwithCvisualCoutcomesCatCtwoCandCfourCyearsCafterCvitreousCsurgeryCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CPLoSOneC16:e0244281,C202115)NishitsukaCK,CNishiCK,CNambaCHCetal:IntraoperativeCopticalCcoherenceCtomographyCimagingCofCtheCperipheralCvitreousandretina.RetinaC38:e20-e22,C201816)NishitsukaCK,CNishiCK,CNambaCHCetal:Quanti.cationCofCtheperipheralvitreousaftervitreousshavingusingintra-operativeCopticalCcoherenceCtomography.CBMJCOpenCOph-thalmologyC6:e000605,C202017)西塚弘一:糖尿病網膜症に対する硝子体手術における術中OCTの所見や有用性について教えてください.あたらしい眼科(臨増)C37:171-174,C202018)MitchellCP,CSheidowCTG,CFarahCMECetal:LUMINOUSstudyCinvestigators:E.ectivenessCandCsafetyCofCranibi-zumabC0.5CmgCinCtreatment-naiveCpatientsCwithCdiabeticCmacularedema:ResultsCfromCtheCreal-worldCglobalCLUMINOUSstudy.PLoSOne15:e0233595,C202019)NakanoCS,CYamamotoCT,CKiriiCECetal:SteroidCeyeCdropC(65)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1429

緑内障現代史:1970 年代以降の革新的進歩

2021年12月31日 金曜日

緑内障現代史:1970年代以降の革新的進歩ModernHistoryofGlaucoma:EvolutionofInnovativeManagementSincethe1970s山本哲也*はじめに歴史家E.H.Carrは,歴史とは「現在と過去との絶え間ない対話(anunendingdialoguebetweenthepresentandthepast)である」と述べている.その通り,過去を知らずに現代を理解することは困難である.まして,将来は語れない.本稿では本誌編集部の依頼に答える形で,1970年代以降に生じた緑内障関係のでき事の整理を試みる.目的は現代を把握し,近未来の緑内障診療に求められているものを理解していただくことである.緑内障は間違いなく古代から存在していたが,18世紀頃までは水晶体疾患と考えられていたようであり,現在の疾患概念の確立までには時間がかかっている.緑内障のなかでは,自他覚症状の激しさから緑内障急性発作が最初に認識されたのは当然であり,一方で慢性緑内障は19世紀半ばに初めて記録されている.表1に1970年以前の緑内障関連のおもなでき事を掲げた.眼圧上昇が10世紀にすでにアラビアで知られていたこと,1851年の検眼鏡の発明後数年を経ずして緑内障性視神経症の乳頭所見が記録されたことが特記される.20世紀初頭には,瞳孔ブロック,隅角閉塞の概念が確立し,現代の緑内障分類に結びついていく.同じころ,眼圧が正確に測定できるようになり,また近代的緑内障手術のはしりとしての全層濾過手術が生まれた.20世紀半ばに隅角鏡,Goldmann視野計,Goldmann圧平眼圧計が発明された.炭酸脱水酵素阻害薬の内服が開始されたのも20表11970年以前の緑内障関係のおもなでき事紀元前4.5世紀最古の緑内障の記載(Hippocrates)10世紀最古の眼圧上昇の記載(At-Tabari,アラビア)1622年(元和8年)ヨーロッパ初の眼圧上昇の記載(Banister)1818年(文政1年)眼圧上昇と虹輪視の記載(Demours)1854年(安政1年)乳頭陥凹を乳頭の腫脹として発表(Jaeger,vonGrafe)1855年(安政2年)乳頭陥凹の記載(Weber,vonGrafe)1856年(安政3年)虹彩切除術を施行(vonGrafe)1857年(安政4年)緑内障を正常眼圧の眼に認めAmaurosismitSehnervenexkavationと記載(vonGrafe)1858年(安政5年)隅角閉塞を組織学的に発見(Muller)1869年(明治2年)濾過手術(sclerectomy)の始まり(deWecker)1876年(明治9年)ピロカルピンの使用(Weber)1898年(明治31年)隅角を指圧により観察(Trantas)1905年(明治38年)Schiotz眼圧計の登場1909年(明治42年)近代的濾過手術(trephination)の報告(Elliot)1920年(大正9年)瞳孔ブロックの概念(Curran)1923年(大正12年)原発緑内障を前房深度で2型に分類(Raeder)1925年(大正14年)実用的隅角鏡の開発(Troncoso)1938年(昭和13年)緑内障を隅角所見で2型に分類(Barkan)1945年(昭和20年)Goldmann視野計の開発1954年(昭和29年)炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミドの使用(Becker)1957年(昭和32年)Goldmann圧平眼圧計の開発(GoldmannandSchmidt)1960年(昭和35年)トラベクロトミーの報告(Smith,Burian)1968年(昭和43年)トラベクレクトミーの報告(Cairns)*TetsuyaYamamoto:海谷眼科〔別刷請求先〕山本哲也:〒430-0903浜松市中区助信町20-40海谷眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(47)1411表2全国7地区共同疫学調査(1991年公表)での緑内障有病率有病率(%)緑内障計3.56原発開放隅角緑内障0.58低眼圧緑内障2.04原発閉塞隅角緑内障0.34続発緑内障0.48先天緑内障0.02絶対緑内障0.10高眼圧症1.37総計4.93低眼圧緑内障は正常眼圧緑内障と同義.(文献3より引用)-図1乳頭出血乳頭の1時方向に乳頭出血を認める.この出血がきわめて興味深い事実を提供することがわかったのは1969年以降のことである.=表3原発閉塞隅角病の用語法の基となったISGEO分類(2002年)Primaryangleclosure(PAC)の分類(1)Primaryangleclosuresuspect虹彩周辺部と後部線維柱帯の機能的閉塞が起こりえる眼(疫学研究では隅角の270°以上で後部線維柱帯が視認できない状態と定義されることが多い)(2)Primaryangleclosure(PAC)閉塞可能な隅角をもち,かつ,周辺虹彩前癒着,眼圧上昇,(急性発作後のような(筆者追記))虹彩の変形,Glaukom-.ecken,線維柱帯の高度色素沈着など虹彩周辺部による線維柱帯閉塞の特徴を有する眼.加えて,緑内障性視神経症のない眼(3)Primaryangleclosureglaucoma(PACG)緑内障性視神経症を有するPAC眼(文献5より筆者が翻訳)図2UBMで観察した機能的隅角閉塞(1995年頃)水晶体と瞳孔近傍虹彩の接触,虹彩裏面の前方への弯曲,虹彩最周辺部に隅角閉塞のないこと,などが読影できる.表4主要緑内障薬の国内承認年timololcarteololisopropylunoprostonelatanoprostdorzolamidebrinzolamidetravoprostta.uprostbimatoprostXalacomDuotravCosoptbrimonidineAzorgaTapcomripasudilMikelunaomidenepagAibetaAilamide19811984199419991999200220072008200920102010201020122012201420142016201820192020イタリックは配合薬.索が始まることになる.プロスタグランジンCFC2aのカルボキシル基をイソプロピルエステルに変えることで眼圧下降の効率が上がることが判明し,これを基本骨格とする各種製剤が合成され,最良薬物として選択されたものがラタノプロストである.のちに開発されたトラボプロストやビマトプロストも初期開発の候補薬物であったとされているが,当初は候補から落とされたということも知られている.タフルプロストは後日,国内で独自に開発されている.炭酸脱水酵素阻害薬は内服での眼圧下降が知られた直後のC1950年代から,点眼薬としての応用が可能かどうかの研究が始まっている.しかし,1987年まではその努力は実を結ばなかった.ただその間の研究の積み重ねにより,その効果不十分の理由として,薬物の毛様体への移行と炭酸脱水酵素の阻害作用のC2点が不十分なことが原因であることが次第に明らかになっていた.ドルゾラミドはこのC2点を克服して開発された薬物であり,数年を経てブリンゾラミドが続くことになる.ここ半世紀の薬物開発の歴史のなかで特記すべきこととして日本国内での開発品目が,イソプロピルウノプロストン,リパスジル,オミデネパグとC3種あることがあげられる.企業による開発の側面が大きいとはいえ,いずれも新規カテゴリーの眼圧下降薬であることが注目される.なかでもリパスジルはCROCK阻害薬に分類される薬物であり,谷原秀信と本庄恵(京都大学)が基礎的な研究で果たした役割はきわめて大きい.今後の新薬開発にもつながる産学連携のモデルでもある.2010年以降は臨床的には配合薬の占める割合の高まったことが目立っている.この傾向は今後も続くものと思われるが,より大きな変革としてはドラッグデリバリーシステムの開発による薬物投与法の進歩をあげたい.前房内注入,結膜円蓋部固定,涙点プラグ型などさまざまな投与法が考案されており,近い将来日本においても使用可能となるものと推定される.C2.レーザーこのC50年間で各種レーザーが緑内障眼に応用され,実用化されてきた.開放隅角緑内障に対する隅角線維柱帯のレーザー照射はC1973年にCKrasnovがCQスイッチルビーレーザーで線維柱帯に穿孔を起こすことを試みたことに始まる.この試みは創傷治癒機転によりごく一時的な効果しかないことがすぐに明らかになった.その後C1979年,Wiseはアルゴンレーザーを用いて現在レーザー線維柱帯形成術(lasertrabeculoplasty:LTP)とよばれる方法で眼圧下降の得られることを報告した.国内では強膜岬にレーザー照射し眼圧下降の得られることが白土城照(東京大学)によりC1980年に報告されたのが初めである.その後,1995年頃より選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)とよばれる半波長CNd:YAGレーザーを用いる術式が行われるようになった.閉塞隅角緑内障に対するアルゴンレーザー虹彩切開術の人眼での成功はC1973年のCBeckmanであるが,短期間で再閉塞することが課題とされた.1981年CAbrahamはレーザー虹彩切開術用レンズを考案し,アルゴンレーザー虹彩切開術はこのころから実用化されていく.国内での報告はC1982年の白土城照(東京大学)が最初である.1983年にはCFankhauserによりCNd:YAGレーザー虹彩切開術が報告された.C3.手術トラベクレクトミーはC1968年にCCairnsにより報告されて以降,国内に導入されたがC1985年頃までは長期成績は不良であった.1984年CHeuerはC5-フルオロウラシル結膜下注射を術後に繰り返すことで手術成績の大幅な改善の得られることを報告し,世界的にこの術式が普及した.5-フルオロウラシルには頻回の結膜下投与の必要性と難治性の角膜上皮障害の問題点があった.現在主流となっているマイトマイシンCCの緑内障手術の応用はC1981年の陳振武(台湾)が始まりであるが,発表当時はほとんど注目されていなかった.北澤克明(岐阜大学)は,筆者の基礎研究結果(1990年)などを参考とし,マイトマイシンCCを科学的検証を経て使用開始し1991年にその有用性を報告した.マイトマイシンCC併用手術はその後急速に世界に広まることになる.2000年代以降はその長期的な成績(眼圧,視機能)の良好なことが,特有の合併症とともに認められている.1416あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(52)図3AhmedGlaucomaValve手術後(現代)前房内にインプラント本体につながるチューブを認める.VFI(%)100805年6040200667686(歳)RATEOFPROGRESSION:-1.4±0.8%/YEAR(95%CONFIDENCE)SLOPESIGNIFICANTATP<1%図4視野計内蔵ソフトウェアによる視野予測(2012年頃)グローバルインデックス(視野指数)のひとつであるCVisualFieldIndex(VFI)を基にしたC5年後の予測がされている.進行速度は-1.4±0.8%/年で有意の進行あり(p<0.01)と計算結果が表示されている.外の病的所見をとらえにくいという点を補うものとして,隅角全周の写真撮影をする装置も近年実用化されている.C5.その他Posner-Schlossman症候群あるいは類似の急激な眼圧上昇を起こす疾患の一部で,病因にウィルス感染が関与することがいわれている.近年,ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)の手法でサイトメガロウイルス,ヘルペスウィルスなどが前房水から検査可能となり,緑内障の病因検索ならびに治療に役立っている.CIV緑内障管理の進歩1.眼圧下降治療の意義の確立緑内障管理の基本事項に関するこのC50年間でもっとも重要な知見は,各種の眼圧下降治療が眼圧を下降させるだけでなく真に緑内障性視神経症の進行抑制に役立つことが証明されたことだと考える.こう書くと,そんなこともわからないのに“治療”していたのという方がいらっしゃるかと思うが,真実である.現在の緑内障治療の正当性の根拠とされる研究,換言すると眼圧下降治療の有用性を示すエビデンスレベルの高いとされる研究はいくつかの多施設共同試験(CollaborativeNormal-Ten-sionCGlaucomaCStudy,CAdvancedCGlaucomaCInterven-tionCStudy,CCollaborativeCInitialCGlaucomaCTreatmentCStudy,COcularCHypertensionCTreatmentCStudy,CEarlyCManifestCGlaucomaCTrial,CUnitedCKingdomCGlaucomaCTreatmentStdyなど)であるが,そのうちのいくつかがC1990年代に米国で開始されている.そしてそうなったのは,1987年に“JAMA”誌に掲載された「緑内障治療には視機能保持の理論的な根拠がない」趣旨の論考6)に対する反論の根拠作成の意図があったとされている.つまりC20世紀最終盤までは眼圧下降治療は視野に好影響を与える十分な根拠なしに行われていたことになる.ただし,このことに関して先人の名誉のために追記すると,1980年代までの緑内障研究者が眼圧下降と視野保持効果について関心をもっていなかったわけではない.Sha.erLectureを基としたCGrantの論文7)や高眼圧症の視野異常出現を論じた初期の諸研究などは,眼圧下降が視野保持や緑内障発症阻止に有効なことを明確に示している.こうした先人たちの眼圧下降の緑内障性視神経症への好影響のエビデンスを求める努力は実を結び,その成果は緑内障診療の羅針盤として関連学術団体によりまとめられ,種々の名称の診療ガイドラインとして発行されて,現在ではそれに基づく緑内障管理が推奨されている.C2.AI診断2014.2015年頃から人工知能(arti.cialCintelligence:AI)を緑内障診断(視神経,乳頭など)に応用した研究が急増している.現時点では一定の機械学習をさせると眼科医あるいは緑内障専門医と同程度の診断能力を得させることは十分に可能との報告が多い.CV日本緑内障学会の設立と発展学術と診療の両面において,日本緑内障学会(JapanCGlaucomaSociety)の果たす役割は今日非常に大きい.診療面では,緑内障診療ガイドラインを学会主導で作成し,また数年ごとにアップデートしてきた.学術面では,多治見スタディ,濾過胞感染共同研究をはじめとする数々の共同研究を行ってきた.日本緑内障学会は1990年に創設されたが,その前の二つの組織の発展的な解消により生まれた.一つはC1970.1990年にかけておもに地方で開催された日本緑内障研究会である.日本緑内障研究会は須田經宇(熊本大学)の「大学教室間,学閥の垣根を一切取り払い,緑内障という眼病のすべての側面について情報を交換し,かつ徹底的に討論しあう」との哲学に基づき開始されたもので,夏季に,涼しい,しかも安い会場にC2泊C3日ほど泊まり込んで行うという独特のスタイルが国内緑内障研究者の深い交流の原点となった.もう一つが,日本臨床眼科学会に伴って行われていた緑内障グループディスカッションであり,1961.1989年まで行われてきた.日本緑内障学会発足直後のC1990年C9月C1.2日の第C1回学術集会は東郁郎(大阪医科大学)の主催であった(55)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1419-

眼感染症診療50年の軌跡─感染性角膜炎と術後眼内炎を中心に

2021年12月31日 金曜日

眼感染症診療50年の軌跡─感染性角膜炎と術後眼内炎を中心にA50Years’TrackoftheClinicalTreatmentofOcularInfections─WithSpecialFocusonInfectiousKeratitisandPostoperativeEndophthalmitis大橋裕一*はじめに眼感染症の診療の歴史は,古典的病原体が支配した戦前期,病原体の多様化をきたした戦後第一期,そして新興・再興感染症に特徴づけられる戦後第二期の三つの時期に大きく分けることができる.この間に生じた大きな出来事としては,1950年代の抗生物質とステロイド点眼の登場,1980年代半ばの今も健在なアシクロビル,ニューキノロン,ピマリシンの三大抗微生物薬の上市(個人的に「抗微生物薬ルネッサンス」とよんでいる),1990年代以降に訪れたコンタクトレンズ装用者の急増と小切開水晶体再建術の進歩,それに伴う白内障手術件数の増加があげられる.刻々と変化していく医療環境の中,姿,形を変えて挑戦をしかけてくる眼感染症に対峙する上で,過去の闘いを振り返り,先人の叡智に触れることには大きな意義がある.そこでタイムスリップし,角膜炎と術後眼内炎をテーマに,半世紀余りを旅することにしたい.なお,本稿は第52回日本眼感染症学会(2015年)で講演した「眼感染症ヒストリア」をベースに執筆したものである.I感染性角膜炎1.角膜ヘルペス(図1)角膜ヘルペスは,三叉神経節に潜伏感染した単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)により生じる再発性角膜炎で,その病態から,ウイルス増殖が主体の上皮型と,ウイルスへの免疫反応が主体の実質型とに分けられる.筆者が入局した頃,後者の実質型ヘルペスが中途失明患者の多くを占めていた.有効な治療法の開発は当時の眼科医にとって喫緊の課題であり,1973年の日本眼科学会では宿題報告にも採り上げられている1).図1に当時の角膜ヘルペスの病像のいくつかを示すが,最近では見ることのない重篤な臨床所見に驚かれるのではないだろうか.a.「ヘルペスは良性疾患だった」これは筆者が留学していたProctor眼研究所のThy-geson名誉教授の言葉である2).彼によれば,上皮型角膜ヘルペスは抗生物質の眼軟膏で寛解する病気だったそうであるが,1950年代に入ってステロイド点眼が使用されはじめると,樹枝状角膜炎は治癒しにくくなり,実質型角膜ヘルペス患者が急増したという.彼はまた,「RedEye症候群」に対する小児科医やかかりつけ医による安易なステロイド使用がこの傾向に拍車をかけたのではないかとも述べている.b.IDUの時代-実質型ヘルペスの重篤化1962年,Kaufmanにより代謝拮抗薬であるIDU(5-iodo-2’deoxyuridine)の点眼が上皮型角膜ヘルペスの治療に有効であることが示された3).世界初の化学療法剤として大いに期待されたが,抗ヘルペス作用や角膜内移行は決して十分なものではなく,実質型ヘルペスに対してステロイドと併用された結果,再発を繰り返すなかで多くの患者が壊死性角膜炎や角膜ぶどう膜炎に陥っ*YuichiOhashi:南松山病院アイセンター〔別刷請求先〕大橋裕一:〒790-8534愛媛県松山市朝生田町1-3-100910-1810/21/\100/頁/JCOPY(25)1389(25)1389IDU時代図2IDU時代とACV時代の臨床経過の違いこの二つの時代で,円板状角膜炎の臨床経過に大きな違いがみられる.IDU時代では,いったん軽快した炎症が再燃し,壊死性角膜炎へと進行したが,ACV時代では,ステロイドによる安定した消炎が可能となり,壊死性角膜炎に至ることはほとんどない.Ⅰ型周辺部浮腫型(LinearForm)Ⅲ型急性中央部浮腫型(DisciformForm)周辺部から対側へ進展する実質浮腫先進部に角膜後面沈着物を形成角膜中央部の円板状浮腫(拒絶反応線に酷似,衛星病巣を伴う)(実質内に炎症所見なし)進行性の内皮細胞減少浮腫病変内に角膜後面沈着物Ⅱ型傍中心部浮腫型(SectorialForm)Ⅳ型びまん性浮腫型(Di.useForm)角膜全体に及ぶ実質浮腫角膜周辺部の扇形浮腫(Pseudoguttataが特徴的)(1象限程度)浮腫は停止性全身性ウイルス感染に続発時に高度の内皮減少あり図3角膜内皮炎の病型分類周辺部に生じるタイプと中央部に生じるタイプとに分けられ,それぞれに臨床所見,経過,予後が異なる.進行性の角膜内皮障害をきたす点でもっとも重要な病型が周辺部浮腫型(I型),狭義の角膜内皮炎である.図4角膜内皮炎の病態前房内への間欠的なウイルス放出によって前房関連免疫偏位(ACAID)が成立し,細胞性免疫が抑制されるなかでCcelltropismが働いて線維柱帯,ついで角膜内皮に感染が生じるようになると考えられる.サイレントな眼内炎症であるPosner-Schlossman症候群やCFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎も同様のメカニズムで起こっている可能性がある.表1角膜内皮炎の診断基準2010年に厚生労働省科学研究費の補助を受けて発足した「特発性角膜内皮炎研究班」によってレトロスペクティブスタディが行われ,CMV角膜内皮炎の診断基準が作成された.診断は前房水を用いたCPCRによるウイルス検索と特徴的な臨床所見から行われ,典型例と非典型例に分けられている.I.前房水CPCR検査所見①CcytomegalovirusDNAが陽性②CherpessimplexvirusDNAおよびCvaricella-zostervirusDNAが陰性II.臨床所見①小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(コインリージョン)あるいは拒絶反応線様の角膜後面沈着物を認めるもの②角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,かつ下記のうちC2項目に該当するもの・角膜内皮細胞密度の減少・再発性・慢性虹彩毛様体炎・眼圧上昇もしくはその既往〈診断基準〉典型例Iおよび,II一①に該当するもの非典型例Iおよび,II一②に該当するもの〈注釈〉1.角膜移植術後の場合は拒絶反応との鑑別が必要であり,次のような症例ではサイトメガロウイルス角膜内皮炎が疑われる.①副腎皮質ステロイド薬あるいは免疫抑制薬による治療効果が乏しい.②Chost側にも角膜浮腫がある.2.治療に対する反応も参考所見となる.①ガンシクロビルあるいはバルガンシクロビルにより臨床所見の改善が認められる.②アシクロビル・バラシクロビルにより臨床所見の改善が認められない.a.肺炎球菌から緑膿菌へ-アミノグリコシド系にスポットが!1950年代に入って抗生物質が使われるようになると,肺炎球菌による角膜炎はほぼ制圧され,入れ替わるように緑膿菌が台頭した21).緑膿菌は土壌や水場に分布する環境菌で,角膜に輪状膿瘍を形成し,角膜穿孔などの重篤な転帰をとる.当時,角膜鉄片異物の除去後に多くみられたとの記載があるが22),これは主力抗菌薬(テトラサイクリンなど)による予防投与が緑膿菌に無効であったためと考えられる.そこで,緑膿菌に有効で,かつグラム陽性球菌からグラム陰性桿菌までをカバーできる抗菌薬としてアミノグリコシド系が大きな注目を集めた.1970年代にはゲンタマイシンを筆頭に多くの点眼薬が開発されたが,眼表面への細胞毒性が足かせとなり,汎用薬とはならなかった.一方で,スルベニシリンやセフメノキシムなど,広域スペクトルのCbラクタム系点眼薬も上市されたが,緑膿菌には力不足であり,これも主役の座を射止めることはできなかったのである.Cb.ニューキノロン・フィーバーそしてC1980年代の半ば,ニューキノロン系のオフロキサシン(タリビッド)点眼液が登場する.外眼部細菌感染症を対象とする多施設臨床試験できわめて優れた臨床効果が確認されたが,その累積発育阻止率曲線は対照薬であるジベカシンやスルベニシリンを遙かに上回るものであった23).ニューキノロン系抗菌点眼薬は,強い抗菌力と抗菌スペクトルの広さ,高い組織内移行性,優れた選択毒性などから,その後の眼感染症の臨床において不動の地位を得るようになった.さまざまな観点から,史上最高の抗菌点眼薬であるといってよいであろう.加えて,AQCmax24)という指標で示される優れた前房内への薬剤移行により,術後点眼薬(前房内汚染の抑制)としても重用されることとなった.以後,オフロキサシンを純化したレボフロキサシン,グラム陽性菌への抗菌力を強化したガチフロキサシン,モキシフロキサシンなどが登場し,抗菌点眼薬の開発はニューキノロン間での競争へとシフトしていく.c.難敵MRSA.MRSEの出現外眼部の常在菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococ-cusaureus:SA)と表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis:SE)は,どちらも眼感染症の主要な起炎菌である.ブドウ球菌はさまざまな抗菌薬の耐性遺伝子を菌内に取り込むことから「進化する細菌」ともよばれるが,そのなかで,1990年頃からはメチシリン耐性ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococci:MRS)が増加し,難敵として常態化している25).MRSはCMecA遺伝子の働きでCPBP-2’を発現しCb-ラクタム系を無効化するが,加えて,キノロンポケット変異によるキノロン耐性も併せもっている.現在,MRSAの多くがキノロン耐性であり,メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusepidermid-is:MRSE)においても耐性化が進行していることが指摘されている26).とくに,入院患者由来の株には多数の変異点があり,外来患者由来の株に比べて高い耐性を示す27).ニューキノロン系が無効な場合には,バンコマイシンあるいはアルベカシンをいずれもC0.5%の濃度で自家調整し,上皮障害に留意しつつ使用する.また,静菌的だがクロラムフェニコール点眼液も有力な選択肢とされている28,29).Cd.感染性角膜炎全国サーベイランス2003年,日本眼感染症学会はわが国における角膜感染症(ウイルスを除く)の動向を把握する目的で全国C24施設を対象とする症例調査を行った30).起炎菌の分離された症例の大半を細菌感染(グラム陽性球菌が主体)が占め,真菌感染はC1割弱,アカントアメーバ感染はまだわずかだった.もっとも注目されたのは,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者が大部分を占める若年層患者の急激な増加で,年齢分布がC20代とC60代をピークとする二峰性を示すことが明らかになったことである.緑膿菌,真菌,アカントアメーバによる感染の多くがCCL装用者であり,この頃に,後述するC2005年のアウトブレークへの素地が生まれつつあったことがうかがわれる.Ce.感染性角膜炎診療ガイドライン細菌性角膜炎の起炎菌はグラム陽性球菌と陰性桿菌と(31)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1395図6細菌性角膜炎の治療手順現在はニューキノロン系を中核とする治療の流れが完成している.感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版では,臨床的な手がかりをもとにグラム陽性球菌か陰性桿菌かを推測して,2剤併用によるCempirictherapyを行い,その後,de.nitivetherapyのフェーズへと移ることを勧めている.(文献C31より改変引用)図7ニューキノロン系抗菌薬のほころび眼科臨床分離株に対するニューキノロン系C3剤のCMICC90の分布曲線.グラム陽性菌,陰性菌に対する幅広い抗菌力が示される一方で,MRSA,表皮ブドウ球菌の一部,およびコリネバクテリウムに対する効力が低下している(赤色矢印部分).その代替薬剤を右欄外に示す.(宇野敏彦ほか:あたらしい眼科23:1359-1367,2006より改変引用)第1期第2期第3期1952C1970C1985C1989C2020Cステロイドにより誘発!アムホテリシンBピマリシンアゾール系無機農業による土壌変化CAlternaria/Paecilomyces農村型糸状菌(Fusarium)CMoistureLocC図8真菌性角膜炎の変遷第C1期の農村型(糸状菌)感染に始まり,第C2期ではステロイドの影響下に患者数が急増し,都会型(酵母様真菌)が半数を占めるようになる.現在,われわれはCFusariumが優位の第C3期にいると考えられるが,病原体は多様化の傾向を示している.図9主要抗真菌薬の感受性スペクトル真菌性角膜炎研究班が定めた抗真菌薬の感受性基準をもとに,S判定の累積有効率がC100%,50.90%,50%未満のC3段階に分けて表示している.枠内の数字は累積有効率であるが,あくまでも試験管内の評価であることを前提に参照されたい.(文献C41より作成)195719751980~1990~2005~2020CL装用者の増加図10アカントアメーバ角膜炎の変遷CL装用者の急増とともに難治性の角膜感染症として台頭し,CL消毒薬の効力不足,不適切なレンズケアなどを背景に世界的なアウトブレークを繰り返している.現在は小康状態にあるが,オルソケラトロジー,カラーCCLの普及のなかで動向に注意が必要である.図11CL関連角膜感染症の発症図式と対策発症パターンは大きく二つある.パターンC1は,CLケース内で繁殖した環境菌が汚染CCLを介して角膜感染を起こすケースで,MPS使用と頻回交換ソフトCCL(SCL)がキーワードである.パターンC2は,常在菌が角膜感染を起こすケースで連続装用や過剰装用がキーワードである.今後ともレンズケア,装用についての適切な対策とユーザーへの啓発活動が望まれる.根治にはシスト対策が重要上皮下浸潤放射状角膜神経炎偽樹枝状角膜炎TrophozoiteCysticidalactivityamoebicidalactivityDiamine系消毒薬〇〇〇〇〇〇~△〇〇〇~×〇~△クロルヘキシジンPAヨードピマリシンボリコナゾールプロパミジン〇:あり△:株により不定×:なし図12アカントアメーバ角膜炎の治療治療のポイントはシストの除去にあり,病変.爬に加えて強い抗シスト作用をもつ薬剤で治療する必要がある.主力はビグアナイド系消毒薬で,欧米ではこれにCDiamine消毒薬を,わが国では抗真菌薬(ピマリシン眼軟膏あるいはボリコナゾール点眼)を併用するのが基本である.図中のCtrophozoiteamebicidalactivityとCcysticidalactivityはそれぞれ栄養体およびシストへの抗アカントアメーバ活性を表わす.-使用可能図13術後眼内炎の発症メカニズム主として外眼部細菌叢から持ち込まれた病原体が,眼表面を通じて前房内に,さられ後房バリアの破綻を通じて硝子体内に侵入し,眼内炎を生じる.従来の後.破損に加えて,前部硝子体破裂の可能性にも注目すべきである.菌法」である.2007年,日本眼感染症学会はその有用性を検証する多施設臨床試験を実施し,レボフロキサシンC1日あるいはC3日間の点眼により術直前の結膜.からの細菌分離率が有意に低下することを明らかにした59).2021年の日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)の調査によると,現在,9割近いサージャンがC3日間の術前点眼を実施しているが60),これを見直すべきとの議論もある.他方,このスタディでは,術中の眼表面に表皮ブドウ球菌(起炎菌のトップ)とアクネ菌(遅発性眼内炎の起炎菌)が再出現し,一定のレベルで前房内汚染が生じることも明らかにされたが,この課題の解決までにはもう少しの年月が必要となる.C2.EVSの位置づけ術後眼内炎に遭遇したらどうすべきであろうか?1990年代の米国で,術後眼内炎に対する治療方針を検討するための前向き多施設試験が行われたことはよく知られている.有名なCEndophthalmitisCVitrectomyCStudy(EVS)である61).結果,抗菌薬の全身投与に有意な効果がないこと,診断時に光覚弁の症例には硝子体切除術を行うべきであることが示されたが,この結論には医療経済的な側面が強く出ているとの批判もある.現在,術後眼内炎に対しては,硝子体手術を実施して病巣の郭清を図るとともに,全身投与も含めた最大限の薬物投与を行って視機能の維持改善を図ることがコンセンサスとなっている.EVSの提言を現在に当てはめることはできないが,前向きプロトコールで検証しようとした点は高く評価されるべきと考える.C3.日本眼科手術学会術後眼内炎スタディグループの活動今世紀に入り,わが国の眼科サージャンの間で術後眼内炎への取組みが盛んになるが,そのきっかけを作ったのが,日本眼科手術学会に設けられた術後眼内炎スタディグループの活動である.同グループがC2003年に行ったアンケート調査によれば,2003年のC1年間での白内障術後眼内炎の発症率はC0.052%(白内障手術総件数100,539件中C52件),およそC2,000人にC1人という結果であった62)無作為に抽出した会員C652人のC78.7%からの回答が得られた点でかなり信頼できる数字と思われる.また,同時に行った術後眼内炎症例調査ではC1年間に152例が登録され,起炎菌のトップはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌で,MRSAや腸球菌による症例の視力予後が不良であること,後.破損が大きな危険因子(20%に発生)であることなどが示されたほか63),バンコマイシン+セフタジジムの硝子体内注射など,発症時の緊急対策を詳細に記した「初期治療プロトコール」が発表された64).その後のC2012.2013年にかけては,JSCRSおよび日本眼感染症学会の主導により,エンドポイントを眼内炎の発症に置いた,わが国初の大規模疫学調査(白内障術後眼内炎スタディ)が行われた.全国の施設からエントリーされた約C6万例における発症率はC0.025%とほぼ半減しており,予後良好な軽症例が多数を占めるようになっていることも明らかとなった65).C4.術中減菌法―ヨード点眼による眼表面再汚染の抑制先に述べた術中の眼表面再汚染に対抗する手段として,2011年,Shimadaらは術中の頻回ヨード点眼を報告した66).これは宿年の課題を解決する実に素晴らしいアイデアで,連続C400例余りでの前向き試験では,投与群に前房内汚染は認められず,非使用群との間での有意な低下が実証された.現在,術中のオプションとして30%程度のサージャンに採用されているようだが60),手術のどのステージでどの程度使用するかは術者の考え次第である.そのなかで,Matsuuraらの推奨する眼内レンズ挿入前の点眼投与は後に述べる.内汚染を防ぐ点で非常に合目的と考えられる67).振り返れば,ヨード点眼による術野(結膜.)の消毒はC1980年代中頃にCApt68)らにより提唱されたもので,それほど長い歴史があるわけではないが,2002年のCiullaのレビューでは,もっともエビデンスのある感染予防策と評価されている.まさに周術期管理における金字塔の一つといえるであろう.1404あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(40)5.後房バリアの破綻が危険因子―前部硝子体膜破裂(AHT)に注目眼内炎の主座である硝子体は水晶体.とCZinn小帯とで構成される「後房バリア」によって守られているが,このバリアがなんらかの原因で破綻すれば眼内炎のリスクは一気に高まる(図13).代表格である後.破損はあらゆる疫学調査における最大の危険因子だが,わが国での発生率は年々減少し,直近ではC0.48%という数字である60).さて,術後眼内炎の症例報告には,「後.破損など明らかな術中合併症は認めなかった」との記載がよくみられるが,一見ノートラブルと思えても後房バリアの破綻がない限りにおいて眼内炎は発症しない.ひとつの可能性として考えられるのが,Kawasakiらの報告した前部硝子体膜破裂(anteriorChyaloidCmembranetear:AHT)である69).これは前部硝子体膜がCWieger靭帯付近で破裂,離断する現象で,ハイドロダイセクション時の過度の高眼圧によって生じることが示されている.術者には見えない後房バリアの破綻であり,術中のC.uidCmisdirectionsyndromeの要因となっている可能性もある.C6..内洗浄の重要性―可視化実験による検証後.と挿入された眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の裏面との間のスペースが細菌汚染の温床となる可能性については早くから指摘があり,これを裏付けるように,Suzukiらは術後眼内炎で摘出したCIOLの裏面に多数の球菌集簇像を観察している70).そのなかで,.内汚染の病態解明に向けて,スジャータ71)やミルク粒子72)などの微細粒子を用いた可視化実験が盛んとなり,レンズ挿入に伴う眼内(とくに.内)への汚染持ち込みの危険性と洗浄除去の必要性が示された.他方,Oshikaらは,1万眼を対象としたCIOL臨床試験において,術終了時の.内洗浄,とくにレンズ下洗浄の有用性を実証した73).IOLインジェクター(現在はプレロード式)の使用とともに74),レンズ下の.内洗浄は汚染制御にもはや欠かすことのできない手技といえるであろう.7.抗菌薬前房内投与(灌流)のインパクト手術終了時の前房内汚染が術後眼内炎発症の基盤的な要因であることは論を待たない.そこで,汚染を抑制する有力な手段として,術終了時における抗菌薬の眼内投与という発想が浮かぶ.EuropeanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveSuegeons(ESCRS)は,2003年より術直後の抗菌薬前房内投与の有用性を検証する前向きの多国間多施設試験を開始した.世界的な注目を集めたESCRSスタディである75).これは,眼内炎発症をエンドポイントとする大規模な取組みで,結果としてセフロキシム(cefuroxime)の前房内投与が眼内炎の発症頻度を有意に低下させることが示された.対照群の眼内炎発症率がかなり高かった点,使用されているセフェム系は腸球菌に無効である点,キッチンファーマシーによる事故がありうる点などから,懸念を示すサージャンも依然として存在しており,全面的な普及には至っていない.わが国では,米国と同様,おもにモキシフロキサシンを用いた前房内灌流が行われているが76),現在の普及度はC35%前後である60).ただし,後.破損を生じた症例に対する感染予防策としては非常に有力なオプションであると考えられる.C8.中毒性前眼部症候群(TASS)にも注意2006年,Mamalisらは内眼手術後に生じる無菌性の眼内炎症を中毒性前眼部症候群(toxicCanteriorCseg-mentsyndrome:TASS)とよぶ一つのクリニカルエンティティとして定義することを提唱した77).発症までの期間には術後数時間から数カ月までの幅があり,角膜浮腫,フィブリン形成,前房蓄膿,硝子体混濁などの所見を呈する.原因として,手術器具,眼内灌流液,手術材料,手術用薬剤の汚染,誤用や眼軟膏,異物の混入などがあげられ,ときに集団発生する.IOLが関与した最初のクラスター事例はCMemorylensによる遅発性の無菌性眼内炎であったが78),わが国でも最近,大きなアウトブレークが二つも生じ,診療面に大きな影響を及ぼしたのは記憶に新しいところである.ここでは,筆者がその調査にかかわる機会を得たHOYAおよびCAlcon社の事例について紹介する.(41)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1405ハイドロビスコ高度の圧負荷残留前部硝子体膜破裂(AHT)図14現代白内障手術における感染リスクと対応眼表面の再汚染を抑制し,前房内汚染,.内汚染をゼロにできれば眼内炎の発症は阻止できる.ここでは,眼表面の汚染が前房内,硝子体内へと波及するプロセスを,各ステップにおける危険因子とともにリストアップし,対応策を表記した.(*BeigiB,etal.Eye12:390,1998.,**ShimizuK,etal.JCataractRefractSurg.34:1157,2008.,***MasudaYetal.CataractRefractSurg40:1327,2014より作成)眼表面に術創口を作製する白内障手術においては,とくに外眼部(眼瞼,結膜)から術野に持ち込まれる汚染を抑制し,前房内,水晶体.内,さらには硝子体内に波及することをいかにして防止するかがポイントであり,個々のサージャンの戦略立案と危機管理のセンスが大いに問われるところである.日々変化を続ける現代の極小切開創白内障手術には,図14に示すとおり,それぞれのステップに特有な感染リスクがある.エビデンスに裏付けられた予防対策の採用を通じて,術後眼内炎の発症を限りなくゼロに近づける努力が必要である.おわりに今回,眼感染症のうちで重篤な視機能低下をきたすことの多い「感染性角膜炎」と「術後眼内炎」をテーマに過去の歩みを概説した.執筆を通じ,この半世紀で数多くの疑問,課題が解決されてきたことを改めて知ることができた.病原体がますます多様化するなか,有力な治療手段である抗微生物薬の開発のスピードは決して満足すべきものではない.この点を踏まえれば,現在まで生き残っているアシクロビル,ニューキノロン,ピマリシンという三つの抗微生物薬に加えて,安定した抗微生物活性をもつシクロヘキシジンやヨード製剤などの消毒薬の特性を最大限に生かし,より実践的な治療指針を構築していくべきと考えられる.そのなかでは,抗微生物薬の宿命ともいえる「薬剤耐性」への対応,さらに,真菌性角膜炎やCAKの治療効果に深くかかわる「併用時の拮抗現象」についての十分な議論が必要であろう.他方,眼科診療は年間にC100万件を超える水晶体再建術の患者,1,500万人を超えるCCL装用者を背景に抱えている.これまでの歴史が証明してきたように,われわれを取り巻く医療環境のほんの少しの変調が,重大な社会的問題につながる恐れのあることを肝に銘じなければならない.最後に,専門学会が主導される前向き研究や多施設試験のさらなる展開に期待を寄せるとともに,眼感染症の病態解明に貢献されたすべての先人に心よりの敬意を表し,筆を置く.眼感染症との戦いの中,われわれは今,未来への回廊に立っているのである.文献1)内田幸男,北野周作,小林俊策:角膜ヘルペスの病型分類.日眼会誌76:1384-1389,C19732)ThygesonP:HistoricalCobservationConCherpeticCkeratitis.CSurvOphthalmolC21:82-90,C19763)KaufmanHE:Clinicalcureofherpessimplexkeratitisby5-iodo-2’deoxyuridine.CProcCSocCExpCBiolCMedC109:251-261,C19624)ElionCGB,CFurmanCPA,CFyfeCPCetal:SelectivityCofCactionCofCaCantiherpeticCagent,C9-(2-hydroxyethoxymethyl)guaC-nine.ProcNatlAcadSciUSA74:5716C-5720,C19775)北野周作,山西政昭,周藤昌行ほか:アシクロビル(ACV)とCIDU眼軟膏との単純ヘルペス性角膜炎に対する治療効果の二重盲検法による比較検討.眼臨医C77:1273-1280,C19836)大橋裕一:角膜ヘルペス─新しい病型分類の提案─.眼科C37:759-764,C19957)UchioCE,CHatanoCH,COhnoS:AlteringCclinicalCfeaturesCofCrecurrentCHSV-inducedCkeratitis.CAnnCOphthalmolC25:C271-276,C19938)YaoYF,InoueY,KaseTetal:Clinicalcharacteristicsofacyclovir-resistantCherpeticCkeratitisCandCexperimentalCstudiesCofCisolate.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC234(SupplC1):S126-S132,C19969)InoueCT,CKawashimaCR,CSuzukiCTCetal;Real-timeCpoly-meraseCchainCreactionCforCdiagnosingCacyclovir-resistantCherpeticCkeratitisCbasedConCchangesCinCviralCDNACcopyCnumberCbeforeCandCafterCtreatment.CArchCOphthalmolC130:1462-1464,C201210)DuanCR,CdeCVriesCRD,COsterhausCADCetal:Acyclovir-resistantCcornealCHSV-1CisolatesCfromCpatientsCwithCher-petickeratitis.JInfectDisC198:659-663,C200811)SuzukiT,OhashiY:Cornealendotheliitis.SeminOphthal-molC23:235-240,C200812)KhodadoustCAA,CAttarzadehA:PresumedCautoimmuneCcornealCendotheliopathy.CAmCJCOphthalmolC93:718-722,C198213)OhashiCY,CKinoshitaCS,CManoCTCetal:IdiopathicCcornealendotheliopathy:aCreportCofCtwoCcases.CArchCOphthalmolC103:1666-1668,C198514)OhashiCY,CYamamotoCS,CNishidaCKCetal:DemonstrationCofCherpesCsimplexCvirusCDNACinCidiopathicCcornealCendo-theliopathy.AmJOphthalmolC112:419-423,C199115)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmol141:564-565,C200616)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendo-(43)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1407theliitisCfollowingCpenetratingCkeratoplasty.CCorneaC26:C370-372,C200717)ShiraishiA,HaraY,TakahashiMetal:Demonstrationof“owl’sCeye”morphologyCbyCconfocalCmicroscopyCinCaCpatientwithpresumedcytomegaloviruscornealendotheli-itis.AmJOphthalmol143:715-717,C200718)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:CytomegalovirusasanetiologicCfactorCinCcornealCendotheliitis.COphthalmologyC115:292-297,C200819)小泉範子:サイトメガロウイルス角膜内皮炎の診断基準と治療指針.あたらしい眼科33:1581-1585,C201620)ZhengCX,CYamaguchiCM,CGotoCTCetal:ExperimentalCcor-nealendotheliitisinrabbit.InvestOphthalmolVisCSciC41:C377-385,C200021)三井幸彦:角膜感染症(会長指名特別講演).日眼会誌C79:C1615-1664,C197522)田中直彦:緑膿菌性角膜潰瘍.眼科12:828-834,C197023)三井幸彦:O.oxacin点眼薬(DE-055)の外眼部感染症に対する治療効果C-多施設CWellCcontrolledstudyによる検討.眼紀37:1115-1140,C198624)三井幸彦,大石正夫,大橋裕一ほか:点眼液の薬動力学的パラメーターとしてのCAQC_<max>の提案.あたらしい眼科12:783-786,C199525)外園千恵:MRSA角膜感染症.あたらしい眼科C19:991-997,C200226)YamadaCM,CYoshidaCJ,CHatouS:MutationsCinCtheCquino-loneCresistanceCdeterminingCregionCinCStaphylococcusCepi-dermidisrecoveredfromconjunctivaandtheirassociationwithCsusceptibilityCtoCvariousC.uoroquinolones.CBrCJCOph-thalmolC92:848-851,C200827)IiharaCH,CSuzukiCT,CKawamuraCYCetal:EmergingCmulti-plemutationsandhigh-level.uoroquinoloneresistanceinmethicillin-resistantCStaphylococcusCaureusCisolatedCfromCocularinfections.DiagnMicrobiolInfectDisC56:297-303,C200628)星最智:感染性角膜炎における点眼治療戦略:EmpirictherapyからCDe.nitivetherapyへ.あたらしい眼科C34:C1243-1250,C201729)北澤耕司,外園千恵:細菌性角膜炎.あたらしい眼科C35:C1599-1605,C201830)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌C110:961-972,C200631)日本眼感染症学会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌117:469-469,C201332)石橋康久:角膜真菌症のC2病型.臨眼C51:1447-1452,C199733)三井幸彦:フザリウム感染.眼科33:1333-1339,C199134)石橋康久:本邦における最近C5年間の角膜真菌症について─C1976年からC1980年の集計─.日眼会誌C87:651-656,C198235)三井幸彦,北野周作,内田幸男ほか:ピマリシンの角膜真菌症に対する効果の検討.日眼会誌86:2213-2223,C198236)小島啓尚,井上智之,堀裕一ほか:ボリコナゾールが有効であった糸状真菌による角膜真菌症のC2例.眼臨紀C3:C965-968,C201037)朝生浩,稲田紀子,杉本哲理ほか:コンタクトレンズ装用者に発症した真菌性角膜炎のC2例.眼科C54:1207-1212,C201238)PrajnaCNV,CKrishnanCT,CMascarenhasCJCetal;MycoticCUlcerCTreatmentCTrialGroup:TheCMycoticCUlcerCTreat-mentTrial:aCrandomizedCtrialCcomparingCnatamycinCvsCvoriconazole.CJAMAOphthalmolC131:422-429,C201339)戸所大輔:真菌性角膜炎.わかってきたピマリシンとボリコナゾールの使い分け方.臨眼73:1412-1416,C201940)井上幸次,大橋裕一,鈴木崇ほか:真菌性角膜炎に関する多施設共同前向き観察研究─患者背景・臨床所見・治療・予後の現況.日眼会誌120:5-16,C201641)砂田淳子,浅利誠志,井上幸次ほか:真菌性角膜炎に関する多施設共同前向き観察研究─真菌の同定と薬剤感受性検査について.日眼会誌120:17-27,C201642)KimuraCK,CInoueCY,CAsariCSCetal:MulticenterCprospec-tiveCobservationalCstudyCofCFungalCkeratitisCinCJapanC-analysesofinvitrocombinatione.ectofdrugsensitivity.JpnJOphthalmolCinpress43)Stehr-GreenJK,BaileyTM,VisvesvaraGS:Theepidemi-ologyofAcanthamoebakeratitisintheUnitedStates.CAmJOphthalmol107:331-336,C198944)石橋康久:AcanthoamoebakeratitisのC1例.日眼会誌C92:963-972,C198845)RadfordCCF,CLehmannCOJ,CDartCJKCetal:Acanthamoebakeratitis:multicentresurveyinEngland1992-1996.CBrCJOphthalmolC82:1387-1392,C199846)LarkinCDF,CKilvingtonCS,CDartJK:TreatmentCofCAcan-thamoebaCkeratitisCwithCpolyhexamethyleneCbiguanide.COphthalmologyC99:185-191,C199247)VeraniCJR,CLorickCSA,CYoderCJSCetal:NationalCoutbreakCofCAcanthamoebaCkeratitisCassociatedCwithCuseCofCaCcon-tactClensCsolution,CUnitedCStates.CEmergCInfectCDisC15:C1236-1242,C200948)KhorWB,AungT,SawSMetal:AnoutbreakofFusari-umCkeratitisCassociatedCwithCcontactClensCwearCinCSinga-pore.CJAMAC295:2867-2873,C200649)KobayashiT,GibbonL,MitoTetal:E.cacyofcommer-cialCsoftCcontactClensCdisinfectantCsolutionsCagainstCAcan-thamoeba.CJpnJOphthalmolC55:547-557,C201150)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,C201151)大橋裕一:MPSフォーラムとその活動成果(CLケア教室第32回).日コレ誌51:290-292,C200952)Sunada,A,Kimura,K,NishiI:Invitroevaluationsoftopi-calagentstotreatAcanthamoebakeratitis.OphthalmologyC121:2059-2065,C201453)Lovieno,CA,CMillerCD,CLedeeCDRCetal:CysticidalCactivityCofantifungalsagainstdi.erentgenotypesofAcanthamoe-ba.AntimicrobAgentsChemother58:5626-5628,C20141408あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(44)-

角膜疾患の診療50 年の軌跡

2021年12月31日 金曜日

角膜疾患の診療50年の軌跡The50-YearRoadofMedicalAdvancementsintheBasicUnderstandingandClinicalTreatmentofCornealDiseases木下茂*はじめに本稿では,角膜疾患の診断と治療がこのC50年ほどで,どのような変遷を経て現在につながっているのかを要約してみる.映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のようなもので,記憶をたどることも多く,内容は雑駁であり,重要な内容が漏れている場合にはご容赦を願いたい.なお,角膜感染症,ドライアイそしてコンタクトレンズは別項目になっており,そちらもご参照いただきたい.また,1980年代頃に,角膜疾患の診療から角膜屈折矯正手術関連の話題が派生して出てきたため,これらの内容も一部含んでいることをご了解いただきたい.それでは,私が研修医を始めたC1970年代に戻って,そこからおよそC10年を一括りにして話を進めることにする.それぞれの年代を一言で表現するキャッチコピーも付記した.CI1970年代―近代的な角膜疾患の診断と治療の黎明期1970年代の眼科は現在のようなCwhiteCeyeclinicではなく,まだまだCredeyeclinicの様相が強く,多数の角結膜感染症患者が眼科を訪れていた.そして感染性角膜潰瘍,角膜混濁,角膜ジストロフィ,角膜化学腐食,周辺部角膜潰瘍,再発翼状片などが治療に難渋する疾患の主流を占めていた.手術としての角膜移植も技術的にはまだまだ黎明期であり,円錐角膜,血管侵入のない角膜混濁,そして角膜ジストロフィに対しての治療成績がようやく確立しはじめた頃であった.眼科用手術顕微鏡が導入されたのもこの頃であった.眼科全体の研究は白内障の発生機序などに対する眼生理学や生化学が中心であり,角膜の研究についても生理学,生化学が中心で,とくに,三島濟一(東京大学)は,米国での研究を通して,角膜生理学の進歩に大きく貢献した.ただし,生物学や免疫学による疾患病態の解明はほとんどなされていなかった.1960年代,1970年代における進歩として特筆すべきことは,1)涙液動態の理解,2)角膜の透明性にかかわる理論の確立1),3)角膜厚の測定の確立2,3),4)スペキュラーマイクロスコープのプロトタイプの登場,5)ocularsurfaceという概念の提唱4)などであった.このように俯瞰してみると,1970年代は角膜への生理学的アプローチの研究の全盛期であり,角膜の透明性,角膜の膨潤と混濁,角膜厚への理解が深まり,ついには角膜内皮細胞を直接観察するまでに至ったことが重要な発展といえる.ただし,診療については,「手術時に角膜内皮細胞を傷めないように注意する」程度であり,対処療法的な治療しか提供できていなかった.また,角膜ヘルペスに対する抗ウイルス薬であったCidox-uridine(IDU)の点眼薬がC1960年代にCKaufmanらにより開発されたが5),ウイルス非特異的かつ薬剤毒性が強く,角膜ヘルペス感染症の治療に難渋していた時代であった(角膜感染症の項を参照).1978年,京都で国際眼科学会が開催され,世界の多くの新しい医療技術に関する情報に触れ,感嘆したことを覚えている.すなわち,*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学〔別刷請求先〕木下茂:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学感覚器未来医療学C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(11)C1375図11970年代の重症角膜疾患に対する外科的治療は不成功の連続重症の角膜化学腐食の例は角膜上皮幹細胞疲弊症であったが,当時はその理解はなかった.全層角膜移植は術後C3カ月で遷延性上皮欠損を生じて不成功に終わった.Mooren角膜潰瘍の例には口唇粘膜移植術で潰瘍を被覆しようと試みたが,むしろ悪化した.当時,Mooren潰瘍の病態は不明であった.胞にCcentripetalmovementが存在しそうなこと6),角膜創傷治癒における角膜上皮細胞の増殖と伸展・移動メカニズムについてのCXYZ理論の提唱7),そして角膜輪部に角膜上皮幹細胞が存在すること8,9)などの実証へとつながっていった.後年,角膜上皮幹細胞が角膜中央部にも存在することが示された10).化学腐食などの重症Cocularsurface疾患への病態の理解も乏しかったが,少なくとも実験動物レベルでの理解は深まった11).治療現場では,1984年のドナー角膜を用いたCkeratoepithelio-plasty角膜上皮形成術12)が,その臨床現場への応用,ひいては角膜上皮移植という外科的治療概念の確立などに生かされていった.本手術法を用いたCMooren潰瘍に対する根治治療の提唱がなされたのもこの頃である13,14).さらに,特筆すべきは,西田輝夫(大阪大学)による遷延性上皮欠損へのフィブロネクチン点眼の応用などの保存的治療の提唱があげられる15).この研究はペプチド点眼治療の治験へとつながっていった16).臨床的に応用できた知見は「角膜輪部に角膜上皮幹細胞が存在する」「palisadesCofVogtの存在は重要である17)」などである.この延長線上で,現在までに規制当局から承認を得た医薬品,医療機器,再生医療等製品に結びついたものは,培養上皮シート,epikeratophakia角膜,NGF点眼薬18)程度であり,規制当局のハードルの高さを実感する.話題は少しずれるが,アシクロビル眼軟膏の登場により,ヘルペス性角膜炎に起因する栄養障害性潰瘍の患者数が大きく減じたのは福音であった.C2.スペキュラーマイクロスコープの開発と角膜内皮細胞への理解の深化スペキュラーマイクロスコープによるヒト角膜内皮細胞の可視化という概念と理論はC1960年代に遡るが,この機器の開発には日本企業が大きく貢献した.そのプロトタイプが開発されたのはC1979年,そして実際の医療機器として甲南カメラ研究所(コーナン・メディカルの前身)から発表されたのはC1985年のことである.当初のスペキュラーマイクロスコープは接触型であり,角膜上皮にカメラのコーンレンズを接触させて角膜内皮画像を取得した.これは,おそらく医療の現場で生体細胞を直視下で観察した最初の経験であったと思われる.あのときの感動は今も強く覚えている.さらに,世界標準となるヒト角膜内皮細胞のデータの多くは日本人から発せられ,大原国俊(自治医科大学のちに日本医科大学)19),松田司(大阪大学)20)らによって確立された.正常人の角膜内皮は,細胞密度がC2,000個/mmC2以上であること,CV値C0.35以下,六角形細胞比率がC60%以上であることなどが示された.また,白内障手術後に角膜内皮細胞が減少することがスペキュラーマイクロスコープにより経時的に観察され21),角膜内皮細胞と角膜厚,さらには酸素透過性の悪いコンタクトレンズによる角膜内皮細胞減少22)に注目がされはじめたのもこの頃であった.例をあげれば,白内障手術におけるCBSSプラス眼内灌流液の有用性21),コンタクトレンズ装着早期における内皮ブレブ形成などがスペキュラーマイクロスコープ検査により示された23).1993年,非接触型スペキュラーマイクロスコープが臨床現場に登場すると,白内障手術の術前スクリーニング機器として汎用化し,国内ではコモディティ化した.しかし,現在でも米国では異なった状況であることは興味深い.C3.Epikeratophakia―その開発の功罪Epikeratophakiaはドナー角膜を切削して凸レンズを作製し,それを角膜上に載せて,角膜全体の屈折力を増加させるというものであった.今では想像できないかもしれないが,眼内レンズが日常的には使用されていなかった時代に,強い凸レンズのコンタクトレンズの代替として開発されたのである.Epikeratophakiaのためにドナー角膜を凍結させて切削するクライオレースという機器が開発され,精緻に計算して凸レンズの角膜実質片が作製された.サルを用いた実験が繰り返され,最後には医療用製品として日本でも輸入販売された.しかし,1985年,眼内レンズが厚生労働省により承認され,また,いくつかの細胞生物学的な問題が生じ,この製品は医療現場から消失した.およそC10年の歳月をかけて米国で開発されたが24,25),時代のアンメットニーズの変化により消え去った代表的な医療機器(クライオレース)と医療製品(角膜レンズ)である.われわれは,常に,最終ゴールの理念とイメージが正しいかどうかをしっか(13)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1377りと考えておく必要があることを示した事象であった.ただし,epikeratophakiaやCkeratophakiaという一見乱暴にみえる角膜手術手技の開発から,角膜を切削するCphotorefractivekeratectomy(PRK),そしてClaserCinsitukeratomileusis(LASIK)といった角膜屈折矯正手術が発展してきたのも事実である.C4.RK手術からエキシマレーザー角膜屈折矯正手術へ放射状角膜切開(radialkeratotomy:RK)手術は,1940年代に佐藤勉(順天堂大学)により考案された円錐角膜に対する角膜後面一文字切開術,そして近視に対する角膜前後面放射状切開術,いわゆるCSatoC’sCopera-tionに由来する26).当時は角膜内皮細胞のもつ生理的ポンプ機能が理解されておらず,後年,多くの水疱性角膜症を発症した.しかし,佐藤の角膜扁平化による近視治療という発想は欧米で高く評価されている.1970年,旧ソ連邦のCFyodorovによって始められたCRK手術はCanteriorCradialkeratotomyと称され,角膜前面からの放射状切開であり,周辺部に向けてC8.16本の深い切開を施すものであった27).このためCRKは角膜内皮には安全と考えられた.当初はこの手術が近視矯正に有効であるかどうかが疑問視され,米国ではCNationalCEyeInstitute(NEI)の研究費により大規模な前向き試験(PERKStudy)が行われた.これが眼科領域で行われた最初の大規模なCprospectivestudyであったといわれている.この試験で近視矯正効果は実証されたが,その後の長期経過観察により継続的な遠視化が生じえること,日内の屈折変動が生じえることなどが明らかとなった28,29).このためCRKは徐々に衰退し,エキシマレーザー角膜矯正手術の開発に向かっていった.フッ化アルゴンを用いたC193Cnmのエキシマレーザーは,当初は角膜切開用として開発されたが,その後,角膜表面切削用のアルゴリズムが開発され,phototherapeuticCkeratecto-my(PTK),そしてCPRKとして用いられるようになっていった.近視患者にCPRKが世界で初めて行われたのはC1988年頃のことである.1980年代の日本では,mini-RKとエキシマレーザー治験が限定的に行われた程度であった.5.角膜形状解析の始まり角膜屈折矯正手術の本格的な始まりもあり,角膜前面カーブに焦点をあてた角膜形状解析装置の開発が始まった.その最初の頃の機器の作製には日本が大きく関与した.プラチドータイプの角膜形状解析としてフォトケラトスコープ,ビデオケラトスコープが開発され,円錐角膜の自動診断ツール(Klyce&Maeda)も搭載された30).ある意味の人工知能(arti.cialintelligence:AI)診断の走りといえるかもしれない.この開発には前田直之(大阪大学)が大きく貢献した.その後,現在まで続くスリットスキャン,Scheimp.ugによる角膜前後面形状解析への深化31),そして前眼部三次元光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)画像解析装置の開発へとつながっていった.とくに,前眼部COCTは安野嘉晃,大鹿哲郎(筑波大学)らの研究による日本発の成果である32).C6.角膜保存液の開発角膜移植が臨床現場にもたらされたことと相まって,1960年代後半から角膜保存液の開発ブームが起こった.日本ではCEP-I,その後CEP-IIとよばれる液体保存液33)を用いた全眼球保存が行われていたが,米国ではC1974年CMKCmedium34),1978年Cmodi.edCMKCmedium35)という強角膜片保存液が開発された.いずれもC4℃保存であった.この保存液はデキストランで膠質浸透圧を調整することを特徴とし,ドナー強角膜片のおよそC1週間の保存が可能となったため,角膜移植は緊急手術から予定手術として対応できる手術となった.その後,1980年代になってCK-Sol36)そしてCOptisol37)というより優れた角膜保存液が開発された.これら角膜保存液のエッセンスは保存されたドナー角膜の膨潤を膠質浸透圧で調整するというところであり,Optisolはデキストランとコンドロイチン硫酸を含有している.このコンドロイチン硫酸を用いるというアイデアは眞鍋禮三(大阪大学)らが開発した角膜保存液33)から発していると聞き及んでいる.日本でこの保存液を使用した強角膜片保存が一般的に行われるようになったのはC1990年代になってからである.一方,欧州では,37℃の器官培養法による角膜保存が開発され,現在まで続いている.1378あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(14)1960197019801990200020102020大角膜内皮移植この評価は筆者の私見である図2角膜疾患への外科的治療のブームそれぞれの時代における多くの医師・医学者が興味を示した手術方法を模式化した.これは興味の程度であって,手術件数を意味しているわけではない.評価は筆者の私見である.トの作製と,そのシートを用いたC2例の手術成績が報告された44).これをきっかけとして,国内外で培養角膜上皮シートの開発と移植が行われるようになった45,46).日本の角膜再生医療の夜明けでもあった(図2).C2.角膜ジストロフィの遺伝子解析1990年代まで,角膜ジストロフィの研究は表現型に関する考察が主流であり,金井淳(順天堂大学)らの眼病理研究者により数多くの角膜ジストロフィの病理所見が明らかになっていた.しかし,1996年,Munierらにより重要な角膜ジストロフィである顆粒状角膜ジストロフィ,Reis-Bucklers角膜ジストロフィ,格子状角膜ジストロフィのそれぞれのジストロフィがCTGFBI遺伝子の変異で生じていることが報告された47).これは角膜ジストロフィとして表現型が異なるものが同一遺伝子の変異の部位が異なるだけであるということを示したものであり,責任遺伝子の同定もさることながら,遺伝子と表現型の関係に衝撃を受けたことを覚えている.さらに顆粒状角膜ジストロフィでは,I型とCII型(Avellinoジストロフィ)の遺伝子変異部位が異なることが示された.一般にはCI型は欧米に多いが,日本人と韓国人の顆粒状角膜ジストロフィはCII型が大半であることが判明した.この事実は人類遺伝学としても非常に興味深いことであった.さらに,角膜上皮細胞を構成するケラチンがCK3とCK12であり,これらがCMeesmann角膜ジストロフィの原因遺伝子であること48),膠様滴状角膜ジストロフィの原因遺伝子がCTACSTD2であること49)などが次々と発見された.そしてCTACSTD2が角膜上皮細胞のバリア機能維持に大いに関係していることが明らかとなった50).しかし,これらの発見が角膜ジストロフィの新規治療法に必ずしも結びついたわけではなく,治療法としてはエキシマレーザーCPTK51),電気分解法52)そしてソフトコンタクトレンズ連続装用などが推奨されていた.時を経て,2008年,IC3Dとして角膜ジストロフィの包括的な医学情報が示された(2015年に改訂)53).蛇足になるが,分子生物学的診断法が臨床現場の診断に応用されはじめたのもこの頃である.ウイルス性角膜炎疑いの涙液や前房水を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PolymeraseCchainreaction:PCR)によるウイルスDNAの検出診断はその最たるものであるC3.角膜移植免疫についての理解の深化角膜移植における移植免疫の考え方は,動物実験を用いてであるが,1990年代に大きく進展した.とくにStreilein一派54)とCNiedercorn一派55),そしてそこに留学した日本人研究者たちにより,マウスを用いた角膜移植免疫の知識の蓄積がなされた.しかし,臨床へのフィードバックは多くなく,角膜移植の臨床は角膜層状移植の方向へと進展していった.C4.エキシマレーザーを用いた角膜治療世界的には,エキシマレーザーを用いたCPRKの開発と角膜形状解析が急激に進歩し,角膜切削用の多くのアルゴリズムが開発された.また,エキシマレーザー機器の特許紛争,さらにはCpillarpointの設定によるケースごとの使用料発生などが始まった.このことは医学の発展とは直接に関係しないかもしれないが,企業の眼科医療機器使用に対する考え方に大きな影響を与えた.マイクロケラトームで角膜を切開し,角膜実質をエキシマレーザーで切削するというCLASIKが本格的に登場したのもこの時期である.この手術手技が予想に反して角膜には負担が少ないことに驚きを感じたことを覚えている.国内ではC2000年にCPRKが厚生労働省により承認され,LASIKも本格的に始まった.CIV2000年代―角膜内皮移植の始まり2000年代は,一言でいえば,角膜内皮移植という新しい手術方法が登場した時代といえる.この大きな潮流は現在まで継続しており,Fuchs角膜ジストロフィを始めとする角膜内皮機能不全への有効な治療法がみえてきた時代ともいえる.レーザー虹彩切開術による水疱性角膜症の発症が取りざたされた時代でもある.OcularCsurfacereconstructionでは培養上皮シート移植や羊膜移植が注目され,Stevens-Johnson症候群などの重症Cocularsurface疾患にも外科的対応を行うようになってきた.Ocularsurfaceの炎症性疾患,とくにアレルギー疾患やマイボーム腺炎関連疾患にも新たな治療の考え方が提唱されはじめた時代でもあった.以下に各項目につ1380あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(16)いて要約する.C1.Ocularsurfacereconstructionの発展1990年代に始動したCocularCsurfaceCreconstructionはさらに発展を遂げることになる.とくに,重症Cocularsurface疾患に対して,他家培養角膜上皮シート移植の作製とその応用にも目が向けられた46).一方,2000年初頭から自家口腔粘膜上皮細胞を用いた粘膜上皮シート移植が開発され,化学腐食のみならず,眼類天疱瘡,そしてCStevens-Johnson症候群にまで応用されるようになった56,57).従来,Stevens-Johnson症候群への外科的治療は禁忌と考えられていたこともあり,患者にはそれなりの福音をもたらした.また,重症Cocularsurface疾患に対しての疾患グレード分類なども提唱された58).C2.角膜内皮移植,深層角膜移植の始まり深層角膜移植(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)の概念の発展には日本が大きく関与した.まず,1990年代後半に,杉田潤太郎(杉田眼科病院)が円錐角膜に対するCDALKをリバイバルさせたことが大きなきっかけとなった.全層角膜移植(penetratingCkerato-plasty:PKP)とCDALKの手術後の角膜内皮細胞密度を長期に比較してCDALKの利点を示した59).島﨑潤,榛村重人(慶應義塾大学)らにより改良されたこの手術法は60),シンガポールそして欧州へと広がっていった60).そしてC1990年代から広く受け入れはじめられた角膜上皮移植などとともに,層別角膜移植という概念が確立していった.層別角膜移植のもっとも代表的なものは角膜内皮移植である.この技術開発は欧州から発された.とくに,CMelles61,62),Busin63)そしてCKruse64)らによる斬新な手術手技の確立,そしてそれと呼応するように米国のCTerry65),Price66),Gorovoy67)らの技術開発力が生かされて,大きな発展を遂げた.とくに米国と欧州ではFuchs角膜内皮ジストロフィの疾患頻度が非常に高く,このことが角膜内皮移植の発展の大きな推進力になったものと思われる.2006年,日本では小林彰(金沢大学)がCDescemetstrippingautomatedendothelialkera-toplasty(DSAEK)を国内でいち早く始め,国内の多くの角膜移植術者も水疱性角膜症の治療をCPKPから角膜内皮移植に変更していった.C3.レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症わが国では,1990年代後半からレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)後に水疱性角膜症を生じる例が報告されはじめ,2000年に入るとその数は増加の一途をたどった.LI後に水疱性角膜症に陥る例は緑内障発作眼に限らず,予防的レーザー処置でもみられたことから,レーザー照射が直接に,あるいは間接に関与していることが明らかになった68).その発生機序としては,前房内炎症説69)や機械的ジェット流説70)などが提唱された.アジア,とくに日本に多く発症した,ある種の医原性疾患であり,エピデミックな状態が生じたことが想像される71).緑内障診療ガイドラインにCLIの方法が記載されてから発症頻度は激減した.現在では,狭隅角眼にはCLIよりは白内障手術で対応することが多くなってきている.確立されたと考えられていた治療法にも落とし穴があり得ることを喚起した事例であった.C4.Ocularsurface炎症性疾患の新たな考え方アトピー性角膜炎や春季カタルの治療法には難渋してきたが,2006年にC0.1%シクロスポリン点眼が72),そしてC2008年にC0.1%タクロリムス点眼が承認され,新たな治療方法が導入された.実際,シクロスポリン点眼やタクロリムス点眼が使用できるわが国は,重症アレルギー性疾患へのよりよい取り組みができるようになっており73).世界でもっとも進んだ診療ができているはずである.さらに,マイボーム腺炎との関連で角膜フリクテンなどが生じるマイボーム腺炎角結膜上皮症が報告され,難治な小児眼瞼角結膜炎の治療法に夜明けが訪れた74).C5.エキシマレーザー,フェムト秒レーザーの角膜への応用193nmのエキシマレーザーは,1998年にCPTK,2000年にCPRK,そしてC2006年にCLASIKに使用することが国内で承認され,角膜疾患や近視矯正に幅広く応用されるようになってきた.一方,近赤外線レーザーで角膜切開用のフェムト秒レーザーもC2010年,厚生労働省(17)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1381OcularSurfaceへの上皮移植2014201520202021図3角膜層別移植から再生医療への道おもな手術方法が始められた年代を示した.青印は新規手術法,赤印は臨床研究として開始された再生医療,緑印は厚生労働省あるいはCEMAに承認された再生医療等製品.1960197019801990200020102020大この評価は筆者の私見である図4角膜基礎研究のブーム筆者の私見を表現した.角膜研究のブームは,大きくは生理学からはじまり,細胞生物学,分子遺伝学,分子生物学,そして再生医学へと移っているように思われる.角膜領域の免疫学はC2000年代をピークにするが,他領域と比べると必ずしも活発ではない.NEIの研究費配分に影響を受けるところが大きく,これからはCAI研究が大きく伸びる可能性がある.も発表された90,91)(図3).C4.マイボーム腺機能不全,マイボーム腺炎の治療Ocularsurface疾患の理解が深まるにつれて,MGD,そしてマイボーム腺炎のCocularsurface疾患に対する関与が着目されるようになってきた.すなわち,MGD,前部眼瞼炎,そして後部眼瞼炎(マイボーム腺炎)の的確な診断と治療,角結膜所見との対比が注目されるようになってきた92).欧米ではCintensepulsedClight(IPL)やClipi.owCTMに限らず,さまざまな対処療法が提案されており,さらにはアジスロマイシンをはじめとする抗菌薬治療など,新しい治療法が考案されている.2010年,天野史郎(東京大学)らを中心にしてマイボーム機能不全についての診断基準93)が作成された.現在,診療のガイドラインの作成が進行中である.C5.人工角膜最後に人工角膜である.おそらくC1970年代ごろから数多くの人工角膜が提案され,臨床研究もなされてきた.わが国で代表的なものは早野三郎(岐阜大学)らが開発した人工角膜である94).世界でみると,風雪に耐えて現在もある程度の信頼を勝ち得ている人工角膜としては,OOKP95)とCBostonCKeratoprosthesis96,97)がある.前者は,手術手技は複雑でむずかしいが,術後成績は安定しており重症疾患には有用とされている.後者はDohlmannが心血を注いで開発してきたものであり,それなりの有用性が示されている.とくにこのC10年間は安定した成績の報告がなされている.解決すべき問題は感染症と緑内障である.そもそも露出型の人工臓器には上皮との折り合いを解決する必要がある.術後長期にわたって成功する可能性があるとすれば埋め込み型であろうと私は考えている.その他,AlphaCorCTM,KeraKlearCTMなど新規の人工角膜も提唱されてきたが98,99),術後合併症を克服できていない.日本では,現在のところ,視力改善をめざした人工角膜で承認されたものはない.CVIこれからこれからの近未来,最先端の角膜診療として模索されていくものは,ocularsurface疾患と角膜内皮疾患に対する角膜再生医療,円錐角膜への新しい外科的治療,そしてマイボーム腺炎を含む眼瞼炎に対する新規治療法などであろうと予想している.いずれの治療法にも外科的アプローチと内科的アプローチが考えられる.外科的アプローチとしては角膜再生医療が88,100),内科的アプローチとしては新規薬剤開発が中心となりそうであるが,ここに遺伝子治療が絡まってくるかどうかは定かではない.日本の眼科医そして医学者が新規治療の開発に大きな期待をもって向かっていってほしいものである(図4).なお本稿では,100のヒストリックにキーとなりそうな論文,そして『日本眼科学会雑誌』に掲載された角膜関係の特別講演と宿題報告(評議員会指名講演)の論文リストを掲載した.その意図するところは,この項で記載したことを想い起こす糸口として価値のある,しかし,時間の経過とともに検索しにくくなる論文群の覚え書きである.総説も多く引用しているので,何かのときにご参照いただければ幸いである.文献1)MauriceD:TheCstructureCandCtransparencyCofCtheCcor-nea.CJPhysiolC136:263-286,C19572)MishimaCS,CHedbysBO:MeasurementCofCcornealCthick-nessCwithCtheCHaag-StreitCpachometer.CArchCOphthalmolC80:710-713,C19683)MishimaS:Clinicalinvestigationsonthecornealendothe-lium.AmJOphthalmol93:1-29,C19824)ThoftCRA,CFriendJ(eds):TheCocularCsurface.CInterna-tionalophthalmologyclinics,Vol19,Little,BrownandCo.,Boston,19795)KaufmanHE,NesburnAB,MaloneyED:IDUtherapyofherpessimplex.ArchOphthalmolC67:583-591,C19626)KinoshitaS,FriendJ,ThoftRA:SexchromatinofdonorcornealCepitheliumCinCrabbits.CInvestCOphthalmolCVisCSciC21:434-441,C19817)ThoftCRA,CFriendJ:TheCX,CY,CZChypothesisCofCcornealCepithelialCmaintenance.CInvestCOphthalmolCVisCSciC24:C1442-1443,C19838)SchermerCA,CGalvinCS,CSunTT:Di.erentiation-relatedCexpressionCofCaCmajorC64KCcornealCkeratinCinCvivoCandCinCcultureCsuggestsClimbalClocationCofCcornealCepithelialCstemCcells.CJCellBiol103:49-62,C19869)CotsarelisG,ChengSZ,DongGetal:Existenceofslow-cyclingClimbalCepithelialCbasalCcellsCthatCcanCbeCpreferen-tiallyCstimulatedCtoproliferate:implicationsConCepithelialC1384あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(20)stemcells.CellC57:201-209,C198910)MajoF,RochatA,NicolasMetal:Oligopotentstemcellsaredistributedthroughoutthemammalianocularsurface.NatureC456:250-254,C200811)KinoshitaCS,CKiorpesCTC,CFriendCJCetal:LimbalCepitheli-umCinCocularCsurfaceCwoundChealing.CInvestCOphthalmolCVisSciC23:73-80,C198212)ThoftRA:Keratoepithelioplasty.CAmCJCOphthalmolC97:C1-6,C198413)KinoshitaS,OhashiY,OhjiMetal:Long-termresultsofkeratoepithelioplastyCinCMooren’sCulcer.COphthalmologyC98:438-445,C199114)木下茂,大橋裕一:Mooren潰瘍の病態と治療.眼紀C41:2055-2061,C199015)NishidaT,NakagawaS,ManabeR:Clinicalevaluationof.bronectinCeyedropsConCepithelialCdisordersCafterCherpeticCkeratitis.OphthalmologyC92:213-216,C198516)NishidaT,InuiM,NomizuM:Peptidetherapiesforocu-larCsurfaceCdusturbancesCbasedConC.bronectin-integrinCinteractions.CProgRetinEyeResC47:38-63,C201517)木下茂,切通彰,大路正人ほか:PalisadesofVogtの消失する角膜疾患.臨眼40:363-366,C198018)BoniniCS,CLambiaseCA,CRamaCPCetal:TopicalCtreatmentCwithCnerveCgrowthCfactorCforCneurotrophicCkeratitis.COph-thalmology107:1347-1351,C200019)大原国俊:ヒト生体角膜内皮の細部接合変化.日眼C92:C705-713,C198820)MatsudaM,YeeRW,EdelhauserHF:ComparisonofthecornealendotheliuminanAmericanandaJapanesepopu-lation.CArchOphthalmolC103:68-70,C198521)MatsudaCM,CKinoshitaCS,COhashiCYCetal:ComparisonCofCthee.ectsofintraocularirrigatingsolutionsonthecornealCendotheliuminintraocularlensimplantation.BrJOphthal-molC75:476-479,C199122)MacRaeCSM,CMatsudaCM,CShellansCSCetal:TheCe.ectsCofChardCandCsoftCcontactClensesConCtheCcornealCendothelium.CAmJOphthalmol102:50-57,C198623)ZantosCSG,CHoldenBA:TransientCendothelialCchangesCsoonafterwearingsoftcontactlenses.AmJOptomPhysi-olOptC54:856-858,C197724)WerblinCTP,CKaufmanCHE,CFriedlanderCMHCetal:ACpro-spectiveCstudyCofCtheCuseCofChyperopicCepikeratophakiaCgraftsforthecorrectionofaphakiainadults.Ophthalmol-ogyC88:1137-1140,C198125)McDonaldCMB,CKaufmanCHE,CAquavellaCJVCetal:TheCnationwidestudyofepikeratophakiaforaphakiainadults.AmJOphthalmol103:358-365,C198726)SatoT,AkiyamaK,ShibataH:Anewsurgicalapproachtomyopia.AmJOphthalmolC36:823-829,C195327)FyodorovCSN,CDurnevVV:OperationCofCdosagedCdissec-tionofcornealcircularligamentincasesofmyopiaofmildCdegree.AnnOphthalmolC11:1885-1890,C197928)WaringCGO,CLynnCMJ,CGelenderCHCetal:ResultsCofCtheCprospectiveevaluationofradialkeratotomy(PERK)studyoneyearaftersurgery.Ophthalmology92:177-198,C198529)WaringCGO,CLynnCMJ,CMcDonnellPJ:ResultsCofCtheCpro-spectiveevaluationofradialkeratotomy(PERK)study10yearsCafterCsurgery.CArchCOphthalmolC112:1298-1308,C199430)MaedaN,KlyceSD,SmolekMKetal:Automatedkerato-conusCscreeningCwithCcornealCtopographyCanalysis.CIOVSC35:2749-2757,C199431)FengMT,BelinMW,AmbrosioRetal:InternationalvalC-uesCofCcornealCelevationCinCnormalCsubjectsCbyCrotatingCScheimp.ugCcamera.CJCCataractCRefractCSurgC37:1817-1821,C201132)FukudaCS,CKawanaCK,CYasunoCYCetal:AnteriorCocularCbiometryCusingC3-dimensionalCopticalCcoherenceCtomogra-phy.OphthalmologyC116:882-889,C200933)水川孝,眞鍋禮三:角膜移植─とくに液体保存を主張する根拠について.眼紀19:1310-1318,C196834)McCareyCBE,CKaufmanHE:ImprovedCcornealCstorage.CIOVSC13:165-173,C197435)WaltmanCSR,CPalmbergPF:HumanCpenetratingCkerato-plastyusingmodi.edM-Kmedium.OphthalmicSurgC9:C48-50,C197836)KaufmanHE,VarnellED,KaufmanSetal:K-solcornealpreservation.AmJOphthalmol100:299-303,C198537)LindstromRL,KaufmanHE,DebraLetal:Optisolcorne-alstoragemedium.AmJOphthalmol114:345-356,C199238)GipsonIK:GobletCcellsCofCtheconjunctiva:aCreviewCofCrecent.ndings.ProgRetinEyeResC54:49-63,C201639)KenyonCKR,CTsengSC:LimbalCautograftCtransplantationCforCocularCsurfaceCdisorders.COphthalmologyC96:709-722,C198940)KimCJC,CTsengSC:TransplantationCofCpreservedChumanCamnioticmembraneforsurfacereconstructioninseverelydamagedrabbitcorneas.Cornea14:473-484,C199541)TsubotaK,SatakeY,KaidoMetal:Treatmentofsevereocular-surfaceCdisordersCwithCcornealCepithelialCstem-cellCtransplantation.NEnglJMedC340:1697-1703,C199942)ShimazakiCJ,CShimmuraCS,CTsubotaK:DonorCsourceCa.ectsCtheCoutcomeCofCocularCsurfaceCreconstructionCinCchemicalCorCthermalCburnsCofCtheCcornea.COphthalmologyC111:38-44,C200443)MovahedanCA,CCheungCAY,CEslaniCMCetal:Long-termCoutcomesofocularsurfacestemcellallografttransplanta-tion.CAmJOphthalmol184:97-107,C201744)PellegriniCG,CTraversoCCE,CFranziCATCetal:Long-termCrestorationCofCdamagedCcornealCsurfacesCwithCautologousCcultivatedcornealepithelium.LancetC349:990-993,C199745)TsaiRJ,LiLM,ChenJK:Reconstructionofdamagedcor-neasCbyCtransplantationCofCautologousClimbalCepithelialCcells.NEnglJMed343:86-93,C200046)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Cultivatedcornealepithelialstemcelltransplantationinocularsurfacedisor-(21)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1385ders.OphthalmologyC108:1569-1574,C200147)MunierCFL,CKorvatskaCE,CDjemaiCACetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophiesNatGenet15:247-251,C199748)IrvineCAD,CCordenCLD,CSwenssonCOCetal:MutationsCinCcornea-speci.cCkeratinCK3CorCK12CgenesCcauseCMees-mann’sCcornealCdystrophy.CNatureCGenetC16:184-187,C199749)TsujikawaM,KurahashiH,TanakaTetal:Identi.cationofCtheCgeneCresponsibleCforCgelatinousCdrop-likeCcornealCdystrophy.NatGenetC21:420-423,C199950)NakatsukasaCM,CKawasakiCS,CYamasakiCKCetal:Tumor-associatedcalciumsignaltransducer2isrequiredforthepropersubcellularlocalizationofclaudin1and7.Implica-tionCinCtheCpathogenesisCofCgelatinousCdrop-likeCcornealCdystrophy.AmJPathol177:1344-1355,C201051)HiedaCO,CKawasakiCS,CYamamuraCKCetal:ClinicalCout-comesCandCtimeCtoCrecurrenceCofCphototherapeuticCkera-tectomyinJapan.Medicine(Baltimore)C98:e16216,C201952)MashimaCY,CKawaiCM,CYamadaM:CornealCelectrolysisCforCrecurrenceCofCcornealCstromalCdystrophyCafterCkerato-plasty.BrJOphthalmolC86:273-275,C200253)WeissJS,MollerHU,AldaveAJetal:IC3Dclassi.cationofCcornealCdystrophies-editionC2.CCorneaC34:117-159,C201554)StreileinJW:OcularCimmuneprivilege:therapeuticCopportunitiesCfromCandCexperimentCofCnature.CNatureImmunolC3:879-889,C200355)NiederkornJ:CornealCtransplantationCandCimmuneCprivi-lege.CIntRevImmunolC32:57-67,C201356)NakamuraCT,CInatomiCT,CSotozonoCCCetal:Transplanta-tionCofCcultivatedCautologousCoralCmucosalCepithelialCcellsCinpatientswithsevereocularsurfacedisorders.8:1280-1284,C200457)NishidaCK,CYamatoCM,CHayashidaCYCetal:CornealCrecon-structionCwithCtissue-engineeredCcellCsheetsCcomposedCofCautologousCoralCmucosalCepithelium.CNCEnglCJCMedC351:C1187-1196,C200458)SotozonoCC,CAngCLP,CKoizumiCNCetal:NewCgradingCsys-temCforCtheCevaluationCofCchronicCocularCmanifestationsCinCpatientsCwithCStevens-JohnsonCsyndrome.COphthalmologyC114:1294-1302,C200759)SugitaCJ,CKondoJ:DeepClamellarCkeratoplastyCwithCcom-pleteCremovalCofCpathologicalCstromaCforCvisionCimprove-ment.BritJOphthalmolC81:184-188,C199760)ShimazakiCJ,CShimmuraCS,CIshiokaCMCetal:RandomizedCclinicalCtrialCofCdeepClamellarCkeratoplastyCvsCpenetratingCkeratoplasty.AmJOphthalmolC134:159-165,C200261)MellesCGR,CEgginkCFA,CLanderCFCetal:ACsurgicalCtech-niqueforposteriorlamellarkeratoplasty.CorneaC17:618-626,C199862)MellesGR:PosteriorClamellarkeratoplasty:DLEKCtoCDSEKtoDMEK.CorneaC25:879-881,C200663)BusinCM,CBhattCPR,CScorciaV:ACmodi.edCtechniqueCforCdescemetmembranestrippingautomatedendothelialkera-toplastytominimizeendothelialcellloss.ArchOphthalmol126:1133-1137,C200864)KruseCFE,CLaaserCK,CCursiefenCCCetal:ACstepwiseCapproachCtoCdonorCpreparationCandCinsertionCincreasesCsafetyCandCoutcomeCofCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CorneaC30:580-587,C201165)TerryCMA,COusleyPJ:DeepClamellarCendothelialCkerato-plastyCinCtheC.rstCUnitedCStatespatients:earlyCclinicalCresults.CCorneaC20:239-243,C200166)PriceCFWCJr,CPriceMO:Descemet’sCstrippingCwithCendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.JCRefractSurgC21:339-345,C200567)GorovoyMS:Descemet-strippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty.CorneaC25:886-889,C200668)島﨑潤:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症─国内外の状況―.あたらしい眼科24:851-853,C200769)HigashiharaCH,CSotozonoCC,CYokoiCNCetal:TheCblood-aqueousCbarrierCbreakdownCinCeyesCwithCendothelialCdecompensationafterargonlaseriridotomy.BrJOphthal-molC95:1032-1034,C201170)YamamotoCY,CUnoCT,CShisidaCKCetal:DemonstrationCofCaqueousCstreamingCthroughCaClaserCiridotomyCwindowCagainstCtheCcornealCendothelium.CArchCOphthalmolC124:C387-393,C200671)AngCLPK,CHigashiharaCH,CSotozonoCCCetal:ArgonClaserCiridotomy-inducedCbullousCkeratopathy-ACgrowingCprob-leminJapan.BritJOphthalmolC91:1613-1615,C200772)大橋裕一,大野重昭:抗アレルギー点眼薬が効果不十分な春季カタルに対するC0.1%CDE-076(シクロスポリン)点眼薬の臨床評価.あたらしい眼科24:1537-1546,C200973)MiyazakiCD,CFukushimaCA,COhashiCYCetal:Steroid-spar-ingCe.ectCof0.1%CtacrolimusCeyeCdropCforCtreatmentCofCshieldulcerandcornealepitheliopathyinrefractoryaller-gicoculardiseases.OphthalmologyC124:287-294,C201774)SuzukiCT,CMitsuishiCY,CSanoCYCetal:PhlyctenularCkerati-tisCassociatedCwithCmeibomitisCinCyoungCpatients.CAmJOphthalmol140:77-82,C200575)WenCD,CMcAlindenCC,CFlitcroftCICetal:PostoperativeCe.cacy,Cpredictability,Csafety,CandCvisualCqualityCofClaserCcornealrefractivesurgery:anetworkmeta-analysis.AmJOphthalmolC178:65-78,C201776)FautschMP,WiebenED,BaratzKHetal:TCF4-mediat-edCFuchsCendothelialCcornealdystrophy:InsightsCintoCaCcommonCtrinucleotideCrepeat-associatedCdisease.CProgCRetinEyeResC81:100883,C202177)BorkarCDS,CVeldmanCP,CColbyKA:TreatmentCofCFuchsCendothelialCdystrophyCbyCDescemetCstrippingCwithoutCendothelialkeratoplasty.CorneaC35:1267-1273,C201678)SpoerlCE,CMrochenCM,CSlineyCDCetal:SafetyCofCUVA-ribo.avinCcross-linkingCofCtheCcornea.CCorneaC26:385-389,C2007C1386あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(22)79)DijkCVK,CLiarakosCVS,CParkerCJCetal:BowmanClayerCtransplantationCtoCreduceCandCstabilizeCprogressive,CadvancedCkeratoconus.COphthalmologyC122:909-917,C201580)AlioCJL,CBarrioCJLA,CZarifCMEICetal:RegenerativeCsur-geryCofCtheCcornealCstromaCforCadvancedkeratoconus:C1-yearoutcomes.AmJOphthalmolC203:53-68,C201981)KohS,AmbrosioRJr,MaedaNetal:Evidenceofcorne-alCectasiasusceptibility:aCnewCde.nitionCofCformeCfrusteCkeratoconus.JCataractRefractSurgC46:1570-1572,C202082)MeekKM,KnuppC:Cornealstructureandtransparency.ProgRetinEyeResC49:1-16,C201583)RamaCP,CMatuskaCS,CPaganoniCGCetal:LimbalCstem-cellCtherapyCandClong-termCcornealCregeneration.CNCEnglCJCMed363:147-155,C201084)OieCY,CNishidaK:CornealCregenerativeCmedicine.CRegenCTherC5:40-45,C201685)SotozonoCC,CInatomiCT,CNakamuraCTCetal:VisualCimprovementaftercultivatedoralmucosalepithelialtrans-plantation.OphthalmologyC120:193-200,C201386)KomaiCS,CInatomiCT,CNakamuraCTCetal:Long-termCout-comeCofCcultivatedCoralCmucosalCepithelialCtransplantationCforfornixreconstructioninchroniccicatrisingdiseases.BrCJCOphthalmoldoi:10.1136bjophthalmol-2020-318547,C202187)NakamuraT,InatomiT,SotozonoCetal:OcularsurfacereconstructionCusingCstemCcellCandCtissueCengineering.CProgRetinEyeResC51:187-207,C201688)KinoshitaCS,CKoizumiCN,CUenoCMCetal:InjectionCofCcul-turedcellswithaROCKinhibitorforbullouskeratopathy.NEnglCJMedC378:995-1003,C201889)BasuS,SurekaSP,ShanbhagSSetal:Simplelimbalepi-thelialtransplantation:long-termclinicaloutcomesin125casesCofCunilateralCchronicCocularCsurfaceCburns.COphthal-mologyC123:1000-1010,C201690)DengSX,BorderieV,ChanCCetal:Globalconsensusonde.nition,Cclassi.cation,Cdiagnosis,CandCstagingCofClimbalCstemcellde.ciency.CorneaC38:364-375,C201991)DengSX,KruseF,GomesJAPetal:GlobalconsensusontheCmanagementCofClimbalCstemCcellCde.ciency.CCorneaC39:1291-1302,C202092)SuzukiCT,CTeramukaiCS,CKinoshitaS:MeibomianCglandsCandCocularCsurfaceCin.ammation.COcularCSurfC13:133-149,C201593)天野史郎ほか:マイボーム腺機能不全ワーキンググループ.マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科C27:627-631,C201094)早野三郎:人工角膜移植の臨床(長期成績).日眼会誌C75:C1404-1407,C197195)FalcinelliCG,CFalsiniCB,CTaloniCMCetal:Modi.edCosteo-odonto-keratoprosthesisCforCtreatmentCofCcornealCblind-ness:long-termCanatomicalCandCfunctionalCoutcomesCinC181cases.CArchOphthalmolC123:1319-1329,C200596)AhmadCS,CMathewsCPM,CLindsleyCKCetal:BostonCtypeC1Ckeratoprosthesisversusrepeatdonorkeratoplastyforcor-nealgraftfailure:asystematicreviewandmeta-analysis.Ophthalmology123:165-177,C201697)SrikumaranCD,CMunozCB,CAldaveCAJCetal:Long-termCoutcomesofbostontype1keratoprosthesisimplantation:CaCretrospectiveCmulticenterCcohort.COphthalmologyC121:C2159-2164,C201498)HicksCCR,CCrawfordCGJ,CDartCJKGCetal:AlphaCor:clini-caloutcomes.CorneaC25:1034-1042,C200699)AlioCJL,CAbdelghanyCAA,CAbu-MustafaCSKCetal:ACnewepidescemeticCkeratoprosthesis:pilotCinvestigationCandCproofCofCconceptCofCaCnewCalternativeCsolutionCforCcornealCblindness.BrJOphthalmolC99:1483-1487,C2015100)HayashiCR,CIshikawaCY,CSasamotoCYCetal:Co-ordinatedCoculardevelopmentfromhumaniPScellsandrecoveryofcornealfunction.Nature531:376-380,C2016参考文献(付録)『日本眼科学会雑誌』に掲載された角膜関係の特別講演と宿題報告(評議員会指名講演)の論文で本稿の内容に関係する可能性のあるものを列記した.いずれも先達とその関係者の研究の集大成であり,示唆に富む内容を多く含んでいる1)中村康:特別講演.角膜移植術の基礎的研究と其の臨床的応用に就いて.日眼会誌54:251-272,C19502)桑原安治:宿題報告.全層角膜移植のための長時間眼球保存に関する研究.日眼会誌69:1751-1840,C19653)筒井純:宿題報告.角膜移植における病的移植片の諸問題.日眼会誌69:1841-1870,C19654)早野三郎:宿題報告.人工角膜移植.日眼会誌C69:1871-1902,C19655)水川孝:特別講演.涙の生理.日眼会誌C75:1953-1973,C19716)国友昇:特別講演.人結膜の微小じゅんかん.日眼会誌C76:1344-1355,C19727)内田幸男:宿題報告.角膜ヘルペス─主として診断学的立場から.日眼会誌76:1391-1413,C19728)北野周作:宿題報告.角膜ヘルペス─主として形態学的立場から.日眼会誌76:1414-1434,C19729)小林俊策:宿題報告.角膜ヘルペス─主としてウイルス学的立場から.日眼会誌76:1454-1471,C197210)三島濟一:特別講演.角膜内皮細胞層の生理と病理.日眼会誌77:1736-1759,C197311)三井幸彦:特別講演.角膜感染症.日眼会誌C79:1651-1664,C197512)真鍋禮三:宿題報告.角膜上皮障害に対する新しい治療の試み-フィブロネクチンの基礎と臨床.日眼会誌C88:401-413,C198313)糸井素一:宿題報告.角膜疾患の診断と治療─円錐角膜を中心として─.日眼会誌88:414-423,C198314)谷島輝雄:宿題報告.角膜内皮細胞層の変性と再生─機能(23)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1387

日本におけるドライアイの発展の歴史と変遷

2021年12月31日 金曜日

日本におけるドライアイの発展の歴史と変遷HistoryandTransitionoftheDevelopmentofDryEyeinJapan坪田一男*横井則彦**I乾燥角結膜炎からドライアイへ―ドライアイ研究会の設立筆者(坪田)は1985年以来36年にわたってドライアイの臨床と研究を行ってきた.途中から本原稿共同筆者である横井が加わり,ドライアイ研究会の仲間とともに切磋琢磨してきたことは本当にありがたい臨床研究の旅だった.本稿では「ドライアイの発展の歴史と変遷」をまとめる.1987年にハーバード大学眼科での研修を終えて帰国したとき,日本ではドライアイという言葉はなく,“乾性角結膜炎”“亡涙症”“Sjogren症候群”“涙液分泌減少症”などの言葉が混在して使われていた.Sjogren症候群に伴うドライアイがもっとも典型的であったために,基本的には涙液が減少した病態をドライアイととらえるという流れであった.後述するがこの概念はこの半世紀で大きく変わり,涙液そのものはある程度出ていても涙液層の安定性の悪い,いわゆる涙液層破壊時間(tear.lmbreakuptime:BUT)短縮タイプのドライアイの存在が明らかになり,実はこちらが主流であることがわかってきている.しかし,1987年ごろはまだまだドライアイの定義もなく混乱の時代だった.1990年に世界で初めてドライアイ研究会が日本で設立された.最初の会合は慶應義塾大学病院で行い,特別講演に米国メンフィス大学のJerreMinorFreeman先生に来ていただき涙点プラグの講演をしていただいた.彼はイーグルビジョン社から自分のアイデアのプラグを発売したアントレプレナーでもある.ちなみに,一緒にドライアイ研究会を設立した濱野孝先生も同時期に涙点プラグのアイデアをお持ちで臨床開発まで進めていた1).その後製品化までいかなかったのは残念だったが,そののちコラーゲンタイプの涙点プラグを開発されてオリジナルのアイデアを発展させられたのは注目に値する.IIドライアイ診断基準の確立(1995年,2006年,2016年)1995年,MichaelALemp先生が米国国立衛生研究所(NationalInstitutesofHealth:NIH)においてドライアイの定義に関する会合をスタートさせ2),筆者らも同年に第1回のドライアイの定義を出した.このときの一番の論点は「症状をドライアイの定義に加えるか否か」ということであった(表1).Stevens-Johnson症候群の末期に眼が皮膚で覆われてしまう状態になると痛みの症状もなくなることから,結局,第1回目の定義では症状を診断基準からはずすことになった.しかし,このディスカッションも後年「視覚障害そのものが症状である.ドライアイの患者は実用視力が低下している」という視点が認められ,やはり症状は必要ということになった.第2回目2006年のドライアイ研究会の診断基準では症状がしっかり入っている(委員長:島﨑潤・東京歯科大学教授)(表2)3).のちにわかってくるが,眼が*KazuoTsubota:株式会社坪田ラボCEO**NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕坪田一男:〒160-0016東京都新宿区信濃町34トーシン信濃町駅前ビル304株式会社坪田ラボ横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(3)1367表1ドライアイ研究会による1995年のドライアイ診断基準1.涙液(層)の質的および量的異常2.角結膜上皮障害(1以外の明らかな原因のあるものは除く)1および2のあるものドライアイ確定例1または2のあるものドライアイ疑い例1.涙液(層)の質的および量的異常①シルマー試験I法にて5ミリメートル以下②綿糸法にて10ミリメートル以下③涙液層破壊時間(BUT)5秒以下①,②,③のいずれかを満たすものを陽性とする2.角結膜上皮障害(1以外の明らかな原因のあるものは除く)①フルオレセイン染色スコアー1点以上②ローズベンガル染色スコアー3点以上①,②のいずれかを満たすものを陽性とする表3ドライアイ研究会による2016年のドライアイ診断基準ドライアイの定義ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある.ドライアイの診断基準以下の1,2を有するものをドライアイとする.1.眼不快感,視機能異常などの自覚症状2.涙液層破壊時間(BUT)が5秒以下表2ドライアイ研究会による2006年のドライアイ診断基準1.涙液の異常①シルマー試験I法にて5mm以下②涙液層破壊時間(BUT)5秒以下①,②のいずれかを満たすものを陽性とする2.角結膜上皮障害①フルオレセイン染色スコアー3点以上(9点満点)②ローズベンガル染色スコアー3点以上(9点満点)③リサミングリーン染色スコアー3点以上(9点満点)①,②,③のいずれかを満たすものを陽性とするドライアイ診断における確定例と疑い例①自覚症状〇〇×〇②涙液異常〇〇〇×③角結膜上皮障害〇×〇〇ドライアイの診断確定疑い疑い疑い**涙液の異常を認めない角結膜上皮障害の場合は,ドライアイ以外の原因検索を行うことを基本とする.表42016年当時のドライアイ研究会の世話人世話人代表坪田一男慶應義塾大学教授世話人天野史郎大橋裕一木下茂島﨑潤下村嘉一高村悦子西田幸二濱野孝堀裕一村戸ドール山田昌和横井則彦渡辺仁井上眼科病院副院長愛媛大学学長京都府立医科大学教授東京歯科大学市川総合病院教授近畿大学主任教授東京女子医科大学教授大阪大学主任教授ハマノ眼科院長東邦大学医療センター大森病院教授慶應義塾大学特任准教授杏林大学教授京都府立医科大学病院教授関西ろうさい病院眼科部長顧問田川義継北海道大学客員臨床教授(敬称略.所属・役職は当時)催され,TFOSDEWSIIとして新たな定義が発表された8).米国ではドライアイの基本的な治療薬はシクロスポリン(Restasis,Allergan社)であり,炎症をターゲットとしている.またCTearOsmolarity計測装置が発売されており,興味をもつ先生も多かった.卵が先か鶏が先かという議論になるかもしれないが,このような視点からドライアイの定義に炎症と浸透圧がとりあげられたものと思われる.ただ,どちらも使えない国々からするとよく理解できないところがある.一方,日本では2010年にジクアホソルナトリウム(ジクアス,参天製薬)が発売され,涙液層の安定化を図ることができるようになった.この薬のおかげでドライアイの病態が解明され,ドライアイ研究会からのCTFOD,TFOTの概念に発展したと理解している9).すなわち各国のドライアイの理解の仕方は,使用できる薬剤によっても影響を受けており興味深い.CIVさまざまなドライアイ治療ドライアイ治療は,ドライアイのとらえ方(定義)や診断基準にも関係する.1995年にヒアルロン酸ナトリウム(以下,HA)点眼液が利用できるようになる以前は,ドライアイには定義や診断基準はなく,ドライアイ=乾性角結膜炎であり,涙液減少型ドライアイが治療対象となっていた.また,その当時の治療といえば,人工涙液,コンドロイチン硫酸エステルナトリウム点眼液(角膜保護点眼剤),ステロイド点眼液がおもなものであった.ただし,一般に充血などの炎症所見を伴わないドライアイに,ステロイド点眼液が積極的に処方されることはなかったと思われる.その後,高い保水作用と角膜上皮の創傷治癒促進作用を有するCHA点眼液(角結膜上皮治療用点眼薬)10,11)が登場すると(HA点眼液はC2020年C9月にスイッチCOTC薬として要指導医薬品となった),当時の定義・診断基準において必須項目であった「角結膜上皮障害」をターゲットとするドライアイ治療が成立した.ただし,HA点眼液は上皮欠損に効果的ではあっても,ドライアイの点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK)を直接治療するものではなく,SPKに対する効果は,あくまでCHAの保水作用を介した間接的なものといえた.そして,その後C15年の歳月を経て,2010年C12月にジクアホソルナトリウム(以下,DQS)点眼液(ムチン/水分分泌促進点眼薬)が,2012年C1月にレバミピド(以下,Rbm)点眼液(ムチン産生促進薬)が登場するにおよんで,眼表面に不足する成分の補充によって涙液層の安定性を高めてドライアイを治療する,眼表面の層別治療(tearC.lmCorientedtherapy:TFOT)(図1)という新しいドライアイ治療の概念が生まれ9,12,13),不足成分を看破する眼表面の層別診断(tear.lmorienteddiag-nosis:TFOD)のためのCtearC.lmCbreakupCpattern(BUP)6,9,12,13)が提唱された(図2).そして,BUP分類を用いたCTFODとCTFOTの登場により,角結膜上皮障害を必須項目としていたドライアイの定義や診断基準は刷新され,それまでの定義,診断基準に相性の悪かったBUT短縮型ドライアイ5,14)に市民権が与えられて治療対象になるとともに,上皮障害を対象としていたドライアイ治療が涙液異常(涙液層破壊)を対象とする,より本質的なドライアイ治療に置き換わった.現在,日本発世界初のCTFOD/TFOTの考え方は,アジアの考え方として15,16),世界のドライアイのエキスパートにも受け入れられている17).涙点プラグ治療は,TFOD/TFOTの概念にも適応し,重症涙液減少型ドライアイにとっては,今なお不可欠の治療である.1996年にシリコーン製のパンクタルプラグが登場したのを契機にフレックスプラグ,イーグルプラグなどが登場し,ついでC2007年にアテロコラーゲン製の液状涙点プラグが登場した.最適なサイズのシリコーン製涙点プラグが挿入されると,涙液メニスカスの涙液量が増加してCBUTが延長し,上皮障害は軽減する.そのため,DQSやCRbmが登場するまでは,涙液減少型ドライアイの重症例のほうが,むしろ軽症例よりもQOLがよいともいえる時代があった.ドライアイと炎症の関連は欧米で,より重視されているが,使用可能なドライアイ治療薬の違いが,そこには反映されている18).現在は,日本でも,ドライアイに積極的にステロイド点眼(フルオロメトロンのような低力価ステロイド)が効果的に用いられるようになってきているが,今後,ドライアイのベースライン治療に用いる(5)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1369*ジクアホソルナトリウムは,脂質分泌や水分分泌を介した油層伸展促進により涙液油層機能を高める可能性がある**レバミピドは抗炎症作用によりドライアイの眼表面炎症を抑える可能性があるドライアイ研究会作成図1眼表面の層別治療(TFOT)と眼表面の層別診断(TFOD)の関係TFOT(tear.lmorientedtherapy)とは,涙液層と上皮層からなる眼表面の不足成分を層別に補充することで涙液層の破壊を抑制し,ドライアイ症状を改善しようとするドライアイ治療の新しい考え方である.TFOD(tear.lmCorienteddiagnosis)とは,眼表面の不足成分を層別に看破する方法で,涙液層の破壊パターン(breakuppattern)分類により行う.(http://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlから引用改変)図2涙液層破壊パターン(BUP)分類上段左:areabreak(AB),上段中:spotbreak(SB),上段右:lineCbreakCwithrapidCexpansion(LBCwithRE),下段左:linebreak(LB),下段中:dimplebreak(DB),下段右:randombreak(RB).AB,LBは涙液減少型ドライアイのSB,DB,LBwithREは水濡れ性低下型ドライアイのCRBは蒸発亢進型ドライアイのCBUPに相当する.ことのできる,欧米におけるシクロスポリン(免疫抑制剤)のような点眼液の登場が,日本においても待たれるところである.CVドライアイの疾患概念の拡大と発展欧米と日本のドライアイの捉え方の違いとしてまずいえるのは,分類である.欧米でドライアイの分類といえば,涙液減少型と蒸発亢進型の二つであり(あるいはそれらの混合型),蒸発亢進型ドライアイの原因のひとつとしてマイボーム腺機能不全(meibomianCglandCdys-function:MGD)がある.一方,日本ではドライアイは涙液減少型とCBUT短縮型に分けられ,BUT短縮型の下に蒸発亢進型と水濡れ性低下型がある.また,ドライアイの病態として,日本ではフルオレセインで可視化できる涙液層の破壊と上皮障害が重視され,欧米では可視化できない涙液の浸透圧上昇と,眼表面炎症が重視される.そして以上の違いには,先に述べたように,使用できる眼局所治療薬の違いが大きく関係していると考えられる.振り返ると,症状の強いCBUT短縮型ドライアイ5,14)は,水濡れ性低下型ドライアイ6,9,12.17)(図3,4)であった可能性が高く,DQS点眼液やCRbm点眼液がなかった当時においては治療の対象とはならなかったと思われる.ドライアイの疾患概念の拡大,発展のひとつとして,ドライアイと視機能との関係がある.そして視機能異常はC2006年版3),2016年版4)の定義にも盛り込まれている.BUPから考えると,spotbreak(SB)やCdimplebreak(DB)は角膜中央に出現しやすく(図3,4),視機能への影響が大きいと考えられる.また,これらのBUPは,BUT短縮型ドライアイでみられるCBUPであり,BUT短縮型ドライアイは,涙液減少を伴わないために,角膜中央の涙液層の厚みが健常に保たれやすく,そのためにCSBやCDBでは,角膜表面に涙液層の高度の不整が生まれて,視機能への影響が大きくなると考えられる.しかし,その一方で,涙液減少型ドライアイの中等症までの症例において角膜下方にみられるClinebreak(LB)やCSPKは,それら単独では視機能への影響はほとんどないと考えられる.ところが,重症涙液減少型ドライアイでは,角膜中央に高度のCSPKを伴う(図2上段左)とともに,それを被覆する涙液層を欠くため,視機能異常の原因となりうる.それらのメカニズムの詳細や,実用視力計を開発して示した実際の視機能低下については,それぞれ大阪大学,慶應義塾大学の研究グループに多くの業績がみられる19,20).現在,ドライアイにおける自覚症状と他覚所見の解離を説明する新しい病態の考え方として,痛覚過敏,神経因性疼痛の考え方があるが,これにもCBUT短縮型ドライアイが大きく関係している21,22)ことは興味深い.CVIドライアイとMGDの関係ドライアイにおける眼表面の悪循環は,開瞼維持時の涙液層の破壊と瞬目時の摩擦亢進で構成され,これらがドライアイのおもな病態生理を形成する(図5).その一方で,眼瞼縁の異常はドライアイの臨床と研究における重要な克服課題といえ,その病態解明は重要である.そして,マイボーム腺の開口部の閉塞は,MGDやマイボーム腺炎と関係し,後者は角膜表面に特異な病変(SPK類似病変や角膜フリクテン)を表現し,ドライアイや一般的なCMGDとの鑑別を要する.そして近年,マイボーム腺と眼表面を一つのユニットとしてとらえる新しい概念としてCMOS(meibomianglandsandocularsurface)が提唱されている23).マイボーム腺脂質,涙液油層の機能は涙液層の水分の蒸発抑制とされ,その障害はCMGD,ひいては蒸発亢進型ドライアイの原因となるとされる.BUPの視点に立てば,角膜表面の水濡れ性低下に起因するCBUP(SB,DB,breakupのCrapidCexpansion)および涙液減少に起因するCBUP(AB,LB)のうち,AB以外は油層の存在自体がCbreakupに関与しており,その一方で,ABには油層の関与はない.つまり,RBにおいてのみ,油層の機能がその抑制に働くと考えれる.しかし,RBの抑制が油層の水分蒸発抑制作用によるのか,油層の粘弾性特性によるのかは,基礎研究者と臨床家で議論が分かれるところがあり24),臨床家のなかでは,現在,蒸発亢進型ドライアイの大きな原因としてCMGDがあげられている(つまり,マイボーム腺脂質/涙液油層の第一の機能は,水分の蒸発抑制とする考え方).そして,日本において(7)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1371図3水濡れ性低下型ドライアイの一例本症例は,かつてCBUT短縮型ドライアイとよばれていたと思われる.BUPとして主にCspotbreakを認める.ビデオケラトグラファーでCMeyerリングの乱れがみられることから,瞳孔領に生じたCspotbreakが視機能低下の原因になっている可能性が示唆される.図4水漏れ性低下型ドライアイの一例本症例も,かつてCBUT短縮型ドライアイとよばれていたと思われる.BUPとして主にCdimplebreakを認める.ビデオケラトグラファーで,フルオレセイン画像と同一部位のCdimplebreakを示してはいないが,Meyerリングの乱れがみられることから,瞳孔領に生じたCdimplebreakが視機能異常を引き起こす原因になりうる可能性が示唆される.~図5眼表面におけるドライアイの階層構造上流のリスクファクターが眼表面に流れ込んで,二つの悪循環(開瞼維持時の涙液層の破壊,および瞬目摩擦の亢進)を介して,眼不快感,視機能異常をもたらす.この悪循環がドライアイのコアとなるメカニズムであり,他覚所見を形成する.(文献9,26より引用改変)—-

序説:眼科診療における半世紀の歴史と変遷

2021年12月31日 金曜日

眼科診療における半世紀の歴史と変遷The50-YearRoadofMedicalAdvancementsinOphthalmologyPractice木下茂*この特集は,私と同時代に眼科領域で診療し研究をしてきた『あたらしい眼科』の編集委員の方々を中心として,それぞれの専門分野について約50年の歴史と変遷をまとめていただきました.このような内容を記することは,その時代を現役として活躍してきた人でないとできません.われわれの世代から次世代への伝達とメッセージになるかとも思っています.過去を知って未来を予測する,そのような内容をめざしている特集であるとご理解いただければありがたいです.さて,特集のエッセンスを紹介してみます.ドライアイについては坪田一男先生(1980年卒)と横井則彦先生が担当し,大きな変化を遂げているドライアイという疾患の捉え方の変遷を要約しています.角膜疾患については私(1974年卒)が担当し,その時代のもつ雰囲気と変遷を10年区切りで解説し,時代のキーとなる論文も引用しています.眼感染症については大橋裕一先生(1975年卒)が担当し.角膜感染症と術後眼内炎についての歴史的イベントを明快に解説しています.緑内障については山本哲也先生(1979年卒)が担当し,緑内障現代史と題して,この50年の緑内障の理解の深化そして診療の変遷を詳約しています.糖尿病網膜症については西勝弘先生,西塚弘一先生,山下英俊先生(1981年)が,糖尿病網膜症分類や治療法の変遷について要約しています.加齢黄斑変性については大島裕司先生,石橋達朗先生(1975年卒)が担当し,この疾患の診断と治療についての変遷を要約しています.網膜硝子体手術については小椋祐一郎先生(1980年卒)が担当し,硝子体手術の劇的な進歩,黄斑疾患などへの手術適応拡大の流れを要約しています.ぶどう膜炎については望月学先生(1973年卒)が担当し,個々の疾患の発症頻度の変遷,画像診断や分子診断技術の進歩,そして生物製剤の開発などを解説しています.コンタクトレンズについては小玉裕司先生(1979年卒)が担当し,ハードコンタクトレンズ,ソフトコンタクトレンズ,カラーコンタクトレンズ,オルソケラトロジーなどの時代の流れを述べています.白内障手術と屈折矯正手術についてはビッセン宮島弘子先生(1981年卒)が担当し,白内障手術,眼内レンズ,屈折矯正手術について解説しています.いずれの項目も歴史的に重要なイベントを取り上げており,大変に充実した興味深い内容です.執筆者も多くの時間を費やしてまとめてくださったものと拝察します.今までの50年の歴史をよく理解することで,未来が求めるアンメットニーズ,そして新治療法の研究や開発のアイデアが生まれてくるものと確信します.ぜひご活用いただきたいと願っています.*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)1365