‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

2015 年~2019 年の自治医科大学附属病院における ぶどう膜炎の臨床統計

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1353.1357,2021c2015年~2019年の自治医科大学附属病院におけるぶどう膜炎の臨床統計案浦加奈子渡辺芽里川島秀俊自治医科大学眼科学講座CEpidemiologyofUveitisPatientsSeenattheJichiMedicalUniversityHospital,Shimotsuke,Japan,from2015to2019KanakoAnnoura,MeriWatanabeandHidetoshiKawashimaCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC2015年C4月.2019年C3月に自治医科大学附属病院眼科を初診したぶどう膜炎患者のプロフィール(年齢,性別,確定診断病名,治療歴,とくに手術歴など)を後ろ向きに解析し,既報と比較した.上記期間内の総初診患者はC8,522人で,ぶどう膜炎患者はC379例C599眼(総初診患者のC4.4%)であった.また,初診時の平均年齢はC52.6C±18.9歳(5.90歳),男性C184例(48.5%),女性C195例(51.4%)であった.確定診断ができた症例はC223例(58.8%)で,多い疾患順にサルコイドーシスC50例(13.1%),急性前部ぶどう膜炎C29例(7.6%),Vogt-小柳-原田病C24例(6.3%),ヘルペス性虹彩毛様体炎C20例(5.2%),急性網膜壊死C12例(3.1%),Behcet病C12例(3.1%)などであった.また,白内障手術がC66例(17.4%)に実施され,硝子体手術はC25例(6.5%),緑内障手術はC26例(6.8%)にそれぞれ実施されていた.Weretrospectivelyreviewedthepro.le(age,sex,diagnosis,treatment,surgicalhistory,etc.)ofuveitispatientswhoC.rstCvisitedCtheCJichiCMedicalCUniversityCHospitalCEyeCClinicCfromCAprilC2015CtoCMarchC2019,CandCcompareCthatdatawiththepreviousreports.FromApril2015toMarch2019,thetotalnumberof.rst-visitpatientswas8,522.COfCthose,379(4.4%)(599eyes)wereuveitic[195females(51.4%)andC184males(48.5%);meanage:C52.6±18.9years(range:5-90years)]C.Ofthose379cases,221(58.3%)wereade.nitivediagnosis,i.e.,50sarcoid-osiscases(13.1%)C,29acuteanterioruveitiscases(7.6%)C,24Vogt-Koyanagi-Haradadiseasecases(6.3%)C,20her-peticiritiscases(5.2%)C,12acuteretinalnecrosiscases(3.1%)C,and12Behcet’sdiseasecases(3.1%)C.Inaddition,cataractCsurgeryCwasCperformedCinC66cases(17.4%)C,CvitreousCsurgeryCwasCperformedCinC25cases(6.5%)C,andglaucomasurgerywasperformedin26cases(6.8%).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(11):1353.1357,C2021〕Keywords:ぶどう膜炎,臨床統計,病型分類,続発緑内障.uveitis,epidemiology,classi.cationofdiseasetypes,secondaryglaucoma.Cはじめにぶどう膜炎診療において,視力予後の向上を得るためには,正しい診断をつけて適切で妥当な治療法を選択することが重要である.その一助になる情報源として,ぶどう膜炎症例の疫学調査が現在まで数多く報告されている1.13).従来国内においてはCBehcet病・サルコイドーシス・Vogt-小柳-原田病がぶどう膜炎の三大内因性ぶどう膜炎とされているが,2002年とC2009年の全国疫学調査においても,この三大疾患を含めた各種疾患の頻度が変化している1,2).とくに近年では,診断方法の進歩による確定疾患頻度の変化も想定され,ぶどう膜炎患者の疫学調査はますます重要になっている.筆者らの施設ではこれまで何回か疫学調査を行っている3,4).今回その継続調査として,2015.2019年のC4年間で〔別刷請求先〕案浦加奈子:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:KanakoAnnoura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANC自治医科大学附属病院を受診したぶどう膜炎患者の疫学調査を行った.併せて,手術歴やステロイド全身治療についても調査を行い,既報と比較を行った.CI対象および方法筆者らはC2015年C4月.2019年3月のC4年間で自治医科大学附属病院眼科を初診で訪れた患者のうち,ぶどう膜炎の診断がついた患者の記録を後ろ向きに検討した.年齢,性別,眼科的所見,血清学的検査,胸部CX線検査といった臨床検査所見の結果をもとに診断を行った.疾病分類については,2016年の全国ぶどう膜炎調査で用いられたカテゴリー分類をおおむね採用した.サルコイドーシスについては,日本びまん性肺疾患研究委員会によって策定された診断基準を採用した.眼臨床所見がサルコイドーシスを強く疑う症例も,診断基準を満たさない場合は病型分類不能に分類した.Vogt-小栁-原田病では,既報の基準14)を採用し,無菌性髄膜炎の存在は,おおむね髄液検査に依ったが,臨床症状で判断した症例も含んだ.ヘルペス虹彩毛様体炎は,眼部帯状疱疹を伴う皮膚病変のある患者は前房水採取をせず診断とした例もあった.皮膚病変のない患者は,前房水CPCR検査を施行し,水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV),ヘルペスウイルス(HSV)が検出されなかった場合も,虹彩萎縮の出現や,抗ウイルス治療後に治療経過の良好なものは臨床診断群として診断した.Behcet病の診断は,日本ベーチェット病研究委員会による診断基準に基づいて行った.急性前部ぶどう膜炎については,前部ぶどう膜炎がある場合,強直性脊椎炎や炎症性腸疾患(inflammatoryCboweldisease:IBD),乾癬などの全身症状に注意して診察を行った.強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎は急性前部ぶどう膜炎(acuteCanterioruveitis:AAU)に含め,IBDや乾癬に伴うものはそれらとは異なるものとして分類した.HLA-B27が陰性の場合も,臨床所見で診断した.血液検査所見の結果(血液培養や血清Cb-Dグルカン),眼内液による広域CPCRで細菌・真菌CDNAの検出があったもの,あるいは臨床症状により真菌性,細菌性眼内炎の診断を下した術後眼内炎,外傷性眼内炎は除外した.P-抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicantibody:ANCA)やCC-ANCAの上昇を伴うぶどう膜炎があった場合,内科医師にCANCA関連血管炎などの精査を依頼した.リウマチ関連疾患に伴うぶどう膜炎については,関節リウマチ,皮膚筋炎,強皮症などに伴うぶどう膜炎と,全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythemotosus:SLE)に関連したぶどう膜炎は別枠とした.強膜炎は眼内炎症を伴うものだけを強膜ぶどう膜炎として結果に含め,その中には後部強膜炎も含まれる.眼内に炎症波及のない強膜炎は除外した.今回の疫学調査では,ステロイド全身治療や手術歴の有無,続発緑内障などの合併についても調査を行った.続発緑内障の定義は,経過中に眼圧の上昇を認め,緑内障点眼の使用や緑内障手術を必要としたものとした.結果について,自施設の統計結果3,4)と,他施設の統計結果1,2,5.7)とを比較した.CII結果対象期間中の当科総初診患者はC8,522人で,ぶどう膜炎患者はC379例C599眼(眼科総初診患者のC4.4%)であった.初診時の平均年齢はC52.6C±18.9歳(5.90歳),性別は男性184例(48.5%),女性C195例(51.4%)であった.10歳ごとの年齢分布では,男女ともにC60代でピークを示し,男女比では女性がやや多かった(図1).確定診断のついた症例はC223例(全ぶどう膜炎患者のC58.8%)であった.そのうちサルコイドーシスが最多で,50例(13.1%),ついでCAAU29例(7.6%),Vogt-小柳-原田病24例(6.3%),ヘルペス性虹彩毛様体炎C20例(5.2%),急性網膜壊死C12例(3.1%),Behcet病C12例(3.1%),CMV網膜炎C10例(2.6%)となった(表1a).サルコイドーシスの確定診断例は,組織診断群がC16例(32%),臨床診断群がC34例(68%)であった.また,その他の確定疾患は,炎症性腸疾患に伴うぶどう膜炎(Crohn病・潰瘍性大腸炎),多発性脈絡膜炎,内因性細菌性眼内炎,水晶体起因性ぶどう膜炎,梅毒性ぶどう膜炎,ねこ引っ掻き病,結核性ぶどう膜炎,尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群,多発血管炎性肉芽腫症,急性帯状潜在性網膜外層症,点状脈絡膜内層症,ぶどう膜滲出,relentlessCplacoidchorioretinitisが含まれている.病型分類不能例はC156例(41.2%)であり,そのうちサルコイドーシス疑い症例が最多でC20例(12.8%)であった.初診時年齢により,19歳以下を小児群,20歳以上C39歳以下を若年群,40歳以上C59歳以下を中年群,60歳以上を高齢群としてC4群に分けて検討した.小児群C23例(男性C5例,女性C18例),若年群C74例(男性C45例,女性C29例),中年群C116例(男性C63例,女性C53例),高齢群C166例(男性71例,女性C95例)であった.年齢群別疾患頻度は,小児群では若年性特発性関節炎(juvenileCidiopathicarthritis:JIA)を伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎が最多で,ついでIBDに伴うぶどう膜炎が多く,若年群,中年群ではサルコイドーシスが最多,ついで急性前部ぶどう膜炎が多く,疾患頻度が類似していた.また,高齢群ではサルコイドーシスが最多で,ついでCVogt-小柳-原田病,急性網膜壊死が多かった(表1b).今回の調査結果における上位C7疾患について,他施設や全国調査の報告との比較を行った(表2).サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病,そしてヘルペス性虹彩毛様体炎がいずれの報告でも上位であった.炎症の生じた解剖学的部位別に比較したところ,前眼部148名(39.0%),中間部C8名(2.1%),後部C40名(10.5%),汎ぶどう膜炎C183名(48.2%)となった.前眼部ぶどう膜炎症例では,AAUが最多でC23例(15.5%),後部ぶどう膜炎症例はCVogt-小柳-原田病が最多でC7例(17.5%),汎ぶどう膜炎症例では,サルコイドーシスが最多でC34例(18.5%)であった(図2).ステロイドの全身投与はC63例で,全ぶどう膜炎患者の16.6%で施行した.そのうち,ステロイドパルス療法はC20例(全ぶどう膜炎患者のC5.2%)で施行した.ステロイドパルス療法を行った症例は,疾患別ではCVogt-小柳-原田病が最多で,初診時に慢性期の合併症のため紹介されたC3症例とパルス以外の治療を選択したC2症例以外のCVogt-小柳-原田病C19症例(Vogt-小柳-原田病患者のC79.1%)と急性網膜壊死C1症例(急性網膜壊死患者のC8.3%)に対してステロイドパルス療法を行った.また,ステロイドCTenon.下注射を施行した症例はC58例(全ぶどう膜炎患者のC15.3%)であった.抗CTNFCa製剤の投与割合については,インフリキシマブを投与したものがC2例(0.5%)で,いずれもCBehcet病患者であった.アダリムマブを投与したものは,3例(0.7%)で,2例がCBehcet病,1例がCrelentlessplacoidchorioretini-tisであった.緑内障治療薬の投与はC133例(全ぶどう膜炎患者のC35.0%)に行い,そのうち緑内障手術が必要となった症例はC26例(全ぶどう膜炎患者のC6.8%)であった.また,硝子体手術を施行したものはC25例(全ぶどう膜炎患者のC6.5%)で,手術の理由は,網膜.離C9例,シリコーンオイル留C6050403020100~10図1全ぶどう膜炎患者の初診時の年齢と性別患者数11~2021~3031~4041~5051~6061~7071~8081~90(歳)置C3例,網膜前膜C5例,硝子体混濁C4例,硝子体生検目的C4例,黄斑円孔C4例,網膜細動脈瘤破裂C1例であった.他施設からの結果と比較すると,ややステロイド投与の比率がやや低かったものの,手術加療の比率などに大きな違いは認めなかった(表3).表1a疾患別の症例数と頻度疾患症例数頻度(%)サルコイドーシスC50C13.1急性前部ぶどう膜炎C29C7.6Vogt-小柳-原田病C24C6.3ヘルペス性虹彩毛様体炎C20C5.2急性網膜壊死C12C3.1Behcet病C12C3.1サイトメガロウイルス網膜炎C10C2.6リウマチ関連疾患に伴うぶどう膜炎C7C1.8強膜ぶどう膜炎C7C1.8糖尿病虹彩炎C6C1.5JIAを伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎C4C1.0眼内リンパ腫C4C1.0眼トキソプラズマ症C4C1.0Posner-Schlossman症候群C4C1.0Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎C4C1.0多発消失性白点症候群C3C0.7HTLV-1関連ぶどう膜炎C3C0.7地図状脈絡膜炎C3C0.7乾癬性ぶどう膜炎C3C0.7その他C14C3.6確定診断合計C223C58.8不明(疑い症例を含む)C156C41.2JIA:若年性特発性関節炎,HTLV-1:ヒトCT細胞白血病ウイルスC1型.表1b各年齢群における頻度の高かった疾患年齢(n)もっとも多かった疾患(%)2番目に多かった疾患(%)0.1C9(23)JIAを伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎(13)炎症性腸疾患に伴うぶどう膜炎(8C.6)20.3C9(74)サルコイドーシス(1C6.2)AAU(1C2.1)40.5C9(1C16)サルコイドーシス(1C5.5)AAU(1C1.2)≧60(1C66)サルコイドーシス(1C2.0)Vogt-小柳-原田病(4C.2)急性網膜壊死(4C.2)JIA:若年性特発性関節炎,AAU:急性前部ぶどう膜炎.表2他施設との疾患件数と頻度(%)の比較報告者調査期間全患者数(人)サルコイVogt-小柳AAUドーシスC-原田病ヘルペス性虹彩毛様体炎CARNBehcet病CCMV網膜炎案浦ら(自治医大)2015.C2019年C37750(C13.1)29(C7.6)24(C6.3)20(C5.2)12(C3.1)12(C3.1)10(C2.6)3)高橋ら(自治医大)2011.C2015年C50247(C9.4)6(1C.1)35(C7.0)29(C5.8)4(0C.8)21(C4.2)12(C2.4)4)安孫子ら(自治医大)1997.C1998年C33855(C16.3)9(2C.6)31(C9.2)7(2C.0)5(1C.4)38(C11.2)1(0C.2)6)KunimiK(東京医大)2011.C2017年C1,587107(C6.7)32(C2.0)140(C8.8)85(C5.4)35(C2.2)98(C6.2)19(C1.2)1)GotoH(全国調査)2002年C3,060C407(C13.3)46(C1.5)205(C6.7)110(C3.6)41(C1.3)189(C6.2)24(C0.8)2)OhguroN(全国調査)2009年C3,830C407(C10.6)250(C6.5)267(C7.0)159(C4.2)53(C1.4)149(C3.9)37(C1.0)C5)ShirahamaS(東京大)2013.C2015年C75046(C6.1)14(C1.9)31(C4.1)56(C7.5)13(C1.7)33(C4.4)10(C1.3)7)寒竹(佐賀大)2012.C2017年C32324(C7.4)23(C7.1)27(C8.4)16(C5.0)3(0C.9)1(0C.3)3(0C.9)AAU:急性前部ぶどう膜炎,ARN:急性網膜壊死,CMV:サイトメガロウイルス.表3他施設とのステロイド全身投与および手術適応頻度(%)の比較報告者調査期間患者数ステロイド全身投与ステロイドパルス緑内障手術白内障手術硝子体手術案浦ら(自治医大)2015.C2019年379人C16.6C5.2C6.8C17.4C6.59)小沢ら(福岡大)2005.C2006年84人C53.5C15.4記載なし記載なしC4.110)福島ら(高知大)2004年144人C47.9記載なしC5.5C43C1811)芹澤ら(日本医大)2004.C2012年759人記載なし記載なしC2.3記載なし記載なし8)池脇ら(大分大)2006.C2008年176人C25.5記載なしC5.7C21.9C5.7CIII考按当院における内因性ぶどう膜炎患者の経時的変化を解析するため,前回のC2011.2015年を対象とした調査3)と,今回の結果を比較検討した.ちなみに,眼科外来の総初診患者に占めるぶどう膜炎患者の割合は今回の調査ではC4.4%であった.前回の調査では,平均年齢がC53.5C±18.0歳(5.90歳)で今回とおおむね同様であったが,1999年の当施設結果の平均C49歳と比べると4),近年の日本社会の高齢化に伴い初診時年齢も高齢化してきている可能性がうかがえる.男女比に関しては,今回と前回の当院での調査に大きな差は認めなかった(図1).炎症部位別分類については,汎ぶどう膜炎が一位を占め,これまでの他施設の結果と同様の結果となっていた(図2)12,13).前回の筆者らの疫学調査結果と比較してC1%を超える増減があった疾患は,サルコイドーシス(9.4%→C13.1%),Behcet病(4.2%→C3.1%),急性網膜壊死(0.8%→C3.1%)であった(表1a).年齢別疾患分類について前回の調査と比較すると,小児群C1位がCJIAを伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎,中年・高齢群C1位がサルコイドーシスである点は変わりなかったが,若年群においては前回の調査ではC1位Behcet病から今回サルコイドーシスがC1位となる結果となった(表1b).また,次点がCAAUとなっており,Behcet病は上位疾患に認めなかった.サルコイドーシスが最多であることは全国調査や他施設の結果と比較しても変わりなかった(表2).他施設や全国調査,前回の当施設での結果と同様に,Behcet病の減少を認めたが,これは,近年既報でも報告されているように,なんらかの環境因子(衛生状態,生活スタイル)の変化も関係しているのではないかと推測されている15).さらにはCBehcet病そのものの軽症化あるいは予後の向上が示唆されており,患者の専門病院受診の早期化,患者の治療コンプライアンス向上などに加え,生物学的製剤の導入などが寄与していると考える.急性網膜壊死は,可及的な手術介入の必要性が高い疾患であり,近隣施設からの紹介状況にも少なからず影響を受けての結果であると考える.多発性後極部細胞色素上皮症,急性後部多発性斑状色素上皮症などの網膜色素上皮症類縁疾患は全国疫学調査でもC1%前後である.前回の筆者らの疫学調査では認めた疾患で,今回は確定されなかった疾患もある.眼トキソカラなどの稀有症例などにおいて,その傾向が強い.疾患のなかでも低頻度(たとえばC1%未満)の疾患が当該調査において含まれるかどうかは,統計学的に推論するにしても,ほぼ偶然の結果であろうと考えている.ぶどう膜炎患者へのステロイド全身投与の比率は,他施設8.10)と比べると頻度はやや低かった.抗血管内皮増殖因子抗体や各種免疫抑制薬の選択肢もできた現在,従来消炎治療の中心を占めていたステロイドの役割は今後相対的には縮小してゆく可能性がある.ちなみに高頻度でステロイドが全身投与されていた報告では,とくに重症の症例が多かったのではないかとの考察10)をしているが,対象疾患構成に大きく左右される指標であることは間違いない.手術歴については,白内障,緑内障,硝子体手術の適応の割合はおおむね他施設と変わらなかった(表3)8.11).手術加療は,今やぶどう膜炎診療において不可欠となっており,今後も時期を失うことなく適応することが多くの症例において求められる.今回の調査にあたり統一的な診断基準が確立されていない疾患も多く,他の結果と有意差をもって比較検討することは容易でなかった.しかし,サルコイドーシスが最多であり,Vogt-小柳-原田病やヘルペス性虹彩毛様体炎が重要な疾患であるなど,一定の傾向は確認できた.今後さらなる各疾患の診断基準の確立と診断技術,検査の向上・普及がますます必要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GotoCH,CMochizukiCM,CYamakiCKCetal:EpidemiologicalCSurveyCofCIntraocularCInflammationCinCJapan.CJpnCJCOph-thalmolC51:41-44,C20072)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009pro-spectiveCmulti-centerCepidemiologicCsurveyCofCuveitisCinCJapan.JpnJOphthalmolC56:432-435,C20123)TakahashiR,YoshidaA,InodaSetal:UveitisincidenceinCJichiCMedicalCUniversityCHospital,CJapan,CduringC2011-2015.CClinOphthalmolC11:1151-1156,C20174)安孫子育美,川島秀俊,釜田恵子ほか:自治医科大学眼科におけるぶどう膜炎の統計的検討.眼科41:73-77,C19995)ShirahamaS,KaburakiT,NakaharaHetal:Epidemiolo-gyofuveitis(2013-2015)andchangesinthepatternsofuveitis(2004-2015)inCtheCcentralCTokyoarea:aCretro-spectivestudy.BMCOphthalmologyC18:189,C20186)KunimiCK,CUsuiCY,CTsubotaCKCetal:ChangesCinCetiologyCofCuveitisCinCaCsingleCcenterCinCJapan.COculCImmunolCIn.amm.1-6,2020Feb18;Onlineaheadofprint7)寒竹大地,中尾功,江内田寛:佐賀大学眼科におけるぶどう膜炎の統計.臨眼74:595-600,C20208)池脇淳子,瀧田真裕子,久保田敏昭:大分大学医学部眼科におけるぶどう膜炎の臨床統計.臨眼66:61-66,C20129)小沢昌彦,野田美登利,内尾英一:福岡大学病院眼科におけるぶどう膜炎の統計.臨眼61:2045-2048,C200710)福島敦樹,西野耕司,小浦裕治ほか:2004年の高知大学医学部眼科におけるぶどう膜炎の臨床統計.臨眼60:315-318,C200611)芹澤元子,國重智之,伊藤由起子ほか:日本医科大学付属病院眼科におけるC8年間の内眼炎患者の統計的観察.日眼会誌119:347-353,C201512)澁谷悦子,石原麻美,木村育子ほか:横浜市立大学附属病院における近年のぶどう膜炎の疫学的検討(2009.2011年).臨眼66:713-718,C201213)糸井恭子,高井七重,竹田清子ほか:大阪医科大学におけるぶどう膜炎患者の臨床統計.眼紀C57:90-94,C200614)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C200115)YoshidaCA,CKawashimaCH,CMotoyamaCYCetal:Compari-sonCofCpatientsCwithCBehcetCdiseaseCinCtheC1980sCandC1990s.COphthalmologyC111:810-815,C2004***

感染性心内膜炎に強膜炎とぶどう膜炎を併発した1 例

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1348.1352,2021c感染性心内膜炎に強膜炎とぶどう膜炎を併発した1例小林崇俊*1岡本貴子*1高井七重*1庄田裕美*1丸山耕一*1,2多田玲*1,3池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2川添丸山眼科*3多田眼科CACaseofScleritisandUveitisAccompaniedbyInfectiveEndocarditisTakatoshiKobayashi1),TakakoOkamoto1),NanaeTakai1),YumiShoda1),KouichiMaruyama1,2),ReiTada1,3)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)KawazoeMaruyamaEyeClinic,3)TadaEyeClinicC目的:感染性心内膜炎(IE)にぶどう膜炎と強膜炎を併発したC1例を経験したので報告する.症例:40歳,男性.2カ月前からときどきC37.39℃台の発熱,頭痛,膝関節痛,太腿部痛などがあり,近医内科に通院中であった.1週間前から左眼歪視,充血,眼痛,視力低下を自覚して大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科を受診した.初診時視力は,右眼矯正C1.2,左眼矯正C0.3.左眼は上方の充血と角膜後面沈着物,1+の前房内炎症細胞,黄斑にはCRoth斑と,OCTで中心窩下に隆起性病変を認めた.当院内科に入院して精査を行い,血液培養からCStreptococcusCmitis/oralisが検出され,心エコーからCIEと診断された.その後,抗菌薬の点滴治療により全身状態は改善し,強膜炎,ぶどう膜炎も軽快した.左眼矯正視力はC1.0に回復した.結論:不明熱を伴った強膜炎やぶどう膜炎を診察した場合,IEも鑑別診断の一つとして重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCinfectiveendocarditis(IE)accompaniedCbyCscleritisCandCuveitis.CCase:A40-year-oldmalepresentedwithafeverrangingfrom37℃to40℃,headache,kneejointpain,andthighpainfrom2monthspriortoadmission,andvisitedourdepartmentafterbecomingawareofdistortedvision,hyperemia,eyepain,CandCdecreasedCvisualacuity(VA)inChisCleftCeyeCfromC1CweekCearlier.CUponCexamination,ChisCbest-correctedVA(BCVA)was1.2CODand0.3COS.Hislefteyeexhibitedhyperemia,especiallyintheupperside,keraticprecipi-tates,CcellsCofCgradeC1+inCtheCanteriorCchamber,CRothCspotsConCtheCmacula,CandCopticalCcoherenceCtomographyCexaminationrevealedanelevatedlesionunderthefovea.Streptococcusmitis/oralisCwasdetectedfromexaminationofChisCbloodCculture,CandCheCwasCdiagnosedCasCIECbyCechocardiography.CIntravenousCantibioticsCadministrationCimprovedChisCgeneralCcondition,CandCcuredCtheCscleritisCandCuveitis.CPostCtreatment,ChisCVACrecoveredCtoC1.0COS.CConclusion:Whenpatientsareseenwhoexhibituveitisorscleritiswithafeverofunknownorigin,IEshouldbeconsideredasadi.erentialdiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(11):1348.1352,C2021〕Keywords:感染性心内膜炎,ぶどう膜炎,強膜炎,不明熱,Roth斑.infectiveendocarditis,uveitis,scleritis,fe-verofunkownorigin,Rothspots.Cはじめに感染性心内膜炎(infectiveendocarditis:IE)は,弁膜や心内膜,大血管内膜に細菌集簇を含む疣腫を形成し,菌血症,血管塞栓,心障害などの多彩な臨床症状を呈する全身性の敗血症性疾患である1).その診断は必ずしも容易ではなく2),長期間不明熱として診断がつかないケースもあり,的確な診断をして適切に治療されなければ,心臓だけではなく,さまざまな臓器の合併症を起こし,死に至ることもある3).また,眼病変を併発することも知られており,過去にはCRoth斑4),転移性内因性眼内炎5)などの報告が多いが,なかには眼科受診が契機となり,感染性心内膜炎の診断に至ったとする報告も散見される6).しかし,強膜炎7)やぶどう膜〔別刷請求先〕小林崇俊:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakatoshiKobayashi,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki,Osaka569-8686,JAPANC炎7,8)を併発したとする報告は比較的少ない.今回,2カ月間,不明熱として経過したのちに,眼痛を自覚して眼科を受診.強膜炎,ぶどう膜炎,網膜出血を指摘されたことが契機となり,IEの診断に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:40歳,男性.主訴:左眼歪視,充血,眼痛,視力低下.現病歴:2018年(X-2)月ごろからときどきC37.39℃台の発熱があり,近医内科へ通院していた.同じころ,頭痛,膝関節痛,太腿部痛,足底部痛を自覚.右手の環指,小指には圧痛があり,大腿部には,有痛性の腫瘤があった.同年CX月上旬,左眼歪視を自覚.そのC2日後から左眼充血と,眼痛,視力低下を生じたため,近医眼科を受診し,左眼黄斑部出血を指摘された.それから約C1週間後に精査加療目的にて大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科(以下,当科)を紹介受診した.既往歴:心雑音(若年時から指摘),気管支喘息,化膿性脊椎炎.家族歴:特記すべきことなし.当科初診時所見:視力は,右眼C0.25(1.2C×sph.1.25D(cylC.0.50DAx90°),左眼C0.09(0.3C×sph.2.50D(cyl.0.75DAx165°).眼圧は右眼C12mmHg,左眼C12mmHg.左眼はおもに上方に強膜充血を認め,眼痛の訴えが強かった.左眼前房内は,1+程度の炎症細胞があり,微細な角膜後面沈着物を認めた.隅角検査では,耳側にC1カ所出血を認めた(図1).眼底は,左眼黄斑部に線状の白色病変を認め,その周囲に数カ所CRoth斑様の網膜出血を認めた.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では中心窩下に隆起性病変を認め,網膜外層の構造が崩れていた(図2).なお,右眼は前眼部,眼底とも病変はなかった.初診日にC39℃台の発熱があり,眼科だけではなく当院内科も受診した.長期間発熱が持続していたことや,CRP(C-reactiveCpro-tein)が高値であったことなどから同日に不明熱の精査加療目的にて当院内科に入院となった.同日の採血では,赤血球C4.58×106/μl(4.35-5.55C×106/μl),白血球C11.03C×103/μl(基準値:3.30-8.60C×103/μl),血小板C205C×103/μl(基準値:C158-348×103/μl),CRPはC6.43mg/dl(基準値:0.14mg/dl以下)であった.また,ぶどう膜炎セットの採血も行い,梅毒トレポネーマ抗体陰性,RPR(rapidplasmareagin)検査陰性,トキソプラズマCIgM抗体C0.1CIU/ml(基準値<0.8),トキソプラズマCIgG抗体≦3CIU/ml(基準値<6),結核菌特異的インターフェロンCg遊離試験は陰性であった.眼科としては,持続する発熱があり,CRPが高値であったことから,全身疾患に強膜炎とぶどう膜炎が併発している可能性が高いと考え,レボフロキサシン点眼左C4,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムCPF点眼左C4,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼左C2で経過をみることとした.経過:入院後の内科での精査の結果,血液培養からCStrep-tococcusmitis/oralisが検出され,心エコーと,それに続いて経食道心エコーが行われた.その結果,僧房弁逸脱症が判明し,僧房弁に付着している疣贅が観察された.また,頭部MRI検査が行われ,無症候性の脳梗塞が判明した.その結果,修正CDuke診断基準3)で大基準C1項目,小基準C5項目を満たすことから,IEと確定診断された.Cb-ラクタマーゼ系の抗生物質(スルバシリン)の点滴投与が開始され,投与開始翌日には眼痛は消失し,発熱も数日以内に治まった.その後,右眼の周辺部にも網膜出血が散在性に出現した.治療開始約C4週間後には左眼の充血と網膜出血は消退し,矯正視力はC1.0に改善した.点滴治療は約C4週間続けられ,再度行った頭部CMRI検査にて新たな部位に脳梗塞病変が発見されたが,麻痺症状はなく,膿瘍もないことからそのまま経過観察となった(図3).また,入院中に歯科と整形外科に図1初診時左眼前眼部写真a:左眼上方に強い充血を認める.Cb:左眼耳側の隅角にC1カ所出血(C.)を認めた.図2初診時左眼眼底画像a:眼底写真.黄斑部に複数のCRoth斑と,中心窩に白色病変を認めた.Cb:OCT画像.中心窩下に隆起性病変(.)を認めた.b図3頭部MRI画像後頭葉に脳梗塞病変(C.)を認めた.て精査した結果,歯科では中等度の歯周病があり,抜歯処置が必要な状態であった.整形外科では大腿部のしこりは炎症性結節との診断であり,入院中にしこりは徐々に縮小したため,とくに処置は行われなかった.入院から約C5週間後に,眼科,内科とも経過良好にて当院を退院となった.点眼薬はC3カ月間続け,その後中止とした.現在,発症から約C2年が経過しており,左眼矯正視力は1.0であるが,OCTではCellipsoidzoneに不整な箇所が残存している(図4).CII考按IEは,心臓だけではなく,全身の諸臓器が関係する急性,亜急性の感染症である.わが国におけるC114施設からのC2年間の大規模調査の報告によると,513症例中,男性C320例,女性C193例となっており,発症年齢の中央値はC61歳(最年少1歳.最年長97歳),約80%以上に基礎疾患として循環器疾患を認めた.また,誘因として,う蝕,歯周病が全体の25%と最多を占める結果となっている9).本症例も,起因菌は口腔内に多く存在する緑色レンサ球菌の一種のCStreptococ-cusmitis/oralisであり,入院中の精査によって歯周病が発見され,歯科にて治療を受けた.cIEは内科的に診断が困難な場合2)もあり,また,眼科受診を契機に診断に至るケースも報告されており6),疾患の概要については眼科医としても熟知しておくべきである.仲松らの総論によると,IEの症状は,非特異的症状(倦怠感,食思不振,体重減少など),心臓に由来する症状,塞栓による症状の組み合わせからなり,多彩な症状を呈し,約C90%の患者に発熱を認める10).本症例でもC37.39℃台の発熱と,僧房弁逸脱症によると考えられる心雑音を呈しており,また,脳梗塞などの塞栓症があった.さらに,眼科受診以前から膝関節痛,太腿部痛,足底部痛や,右手の環指,小指に圧痛があり,大腿部には結節も認めたことから,疣贅が血流によって全身に移動し,各部位に塞栓症を起こしていたものと考えられた.今回,発熱が先行し,おそらく前医眼科受診の直前になって強膜炎とぶどう膜炎が発症し,歪視や眼痛などの自覚症状が出現したものと考えられた.発熱を伴う強膜炎やぶどう膜炎の患者を診察した場合,膠原病関連疾患や悪性腫瘍も鑑別疾患として重要であるが,まずは感染症を鑑別することがも図4発病から2年経過時点の各種所見a:前眼部写真.左眼上方強膜の充血は消退している.Cb:左眼眼底写真.Roth斑と白色病変は消退している.c:左眼COCT画像.中心窩下の隆起性病変は消退したが,ellipsoidzoneの不整はわずかに残存している(.).っとも大切であると考えられる.そのまま内科へ速やかに受診できればよいが,それが無理であれば,眼科で少なくとも採血検査だけは行うべきと考える.もしそれで異常値が見つかれば,より積極的な全身検査を行う必要があることは言うまでもないが,それが緊急性を要するかどうかの判断は眼科単独では難しいことが多く,今後の課題である.本症例では当科初診日に内科も受診することができ,迅速な対応が可能であったが,普段から眼科以外の他科との連携をスムーズに行えるように配慮しておくべきである.IEに伴う眼疾患としては,内因性転移性眼内炎や,網膜中心動脈閉塞症11),ぶどう膜炎などの報告があるが,もっとも多いのは網膜出血の報告である.中心部分に白色部分を含む特徴的な網膜出血はCRoth斑とよばれ,今回も当初からRoth斑と考えられる網膜出血が,左眼は黄斑部付近に,右眼も経過中に周辺部に数カ所認められた.筆者の一人(担当医)は,初診時にCRoth斑は視認したものの,すでに他院内科に通院していたことから,感染症の可能性は低いと安易に考え,採血で血球系にも異常値を認めたため,血液疾患を強く疑った.しかし,CRP高値で不明熱が長期間に及んでいたことから,その後の精査によってCIEと診断されるに至った.本症例のように,IEに強膜炎を併発したとする報告は少なく7),ぶどう膜炎を生じたとする報告もまれである7,8).強膜炎は,強膜血管に免疫複合体が沈着し,血管内に沈着した免疫複合体に補体が結合し,補体系活性化により炎症細胞浸潤が誘導され,強膜血管炎が発生する,とされている12).今回も,おそらく疣腫を含めた免疫複合体が原因となり,上方の強膜血管に沈着して炎症が惹起され,強膜炎が生じたものと考えられる.また,中心窩下の白色の隆起性病変の詳細は不明であるが,眼症状としてまず歪視を自覚していることから,同様な疣腫を含めた免疫複合体が先に脈絡膜にたどり着いたものではないかと考えている.前述のように,IEの起因菌はさまざまであるが,緑色レンサ菌など,口腔内由来のものが多くを占めている.最近,口腔内細菌とCIEの関連を調べた研究が数多く行われ,多くの知見が得られている.たとえば,緑色レンサ球菌でう蝕を生じる主要な細菌であるCStreptococcusmutansの研究がある13).その菌体表層に存在するコラーゲン結合蛋白質であるCnmとCCbmは,それぞれC10.20%と,2%にしか存在していない.しかし,Cbmを有するものは,心臓の弁膜に漏出したコラーゲンに付着するだけではなく,血漿中に含まれるフィブリノーゲンにも付着し,それを架橋とした血小板凝集能を惹起することが明らかとなっており13),疣贅形成に直結する.つまり,細菌の種類のみではなく,それに発現している蛋白質の違いによって,IEのなりやすさに差があることがわかってきている.一方,緑色レンサ球菌のヒト培養網膜色素上皮細胞(ARPE-19)に対する細胞毒性をみた研究では,Streptococ-cusmitis/oralisでは強い毒性はなかったものの,Streptococ-cuspseudoporcinusではCARPE-19に強い毒性を示した14).このように,同じ系統の細菌でも,菌種によって生体組織へ与えるダメージや,付着のしやすさに差があることが徐々に明らかになってきている.本症例では発熱の期間が長く,菌血症であった時間が比較的長期であったにもかかわらず,眼病変が軽症で回復した背景には,起因菌がCStreptococcusmitis/oralisであったために,組織へ与えるダメージが少なかった可能性が考えられる.今回は過去の報告と異なり,中心窩下にも病変を認めていた.経過中,病変は徐々に縮小したものの,OCTではC2年が経過したあともCellipsoidzoneの不整がわずかではあるが残存している.しかし,初診時の病変が比較的大きかったにもかかわらず,歪視や視力低下は残存していない.それはCStreptococcusmitis/oralisが起因菌であったために,上記の研究結果のように網膜色素上皮や網膜へのダメージが最小限に抑えられた可能性が考えられる.発現している蛋白質や,眼組織への付着のしやすさまではわらないが,本症例ではむしろ付着しにくかったのかもしれない.したがって,同様の隆起性病変が生じた場合,起因菌の種類や性質によっては組織が大きく障害され,視力低下を生じるケースも起こりうると考えられる.症例の蓄積と研究の進展によって,今後さらに詳細が明らかになってくるものと考えられる.最後に,不明熱を伴った強膜炎やぶどう膜炎の患者を診察した場合,IEも鑑別診断の一つとして重要であると考えられた.今回の論文の要旨は,第C53回日本眼炎症学会にて発表した.文献1)中谷敏:感染性心内膜炎の病態生理.化学療法の領域C34:220-223,C20182)SumitaniS,KagiyamaN,SaitoCetal:Infectiveendocar-ditiswithnegativebloodcultureandnegativeechocardio-graphic.ndings.JEchocardiogrC13:66-68,C20153)CahillTJ,PrendergastBD:Infectiveendocarditis.LancetC387:882-893,C20164)RuddySM,BergstromR,TivakaranVS:Rothspots.Stat-Pearls[Internet]C,CStatPearlsCPublishing,CTreasureCIsland(FL),20205)AoyamaCY,CObaCY,CHoshideCSCetal:TheCearlyCdiagnosisCofendophthalmitisduetoGroupBStreptococcusCinfectiveendocarditisanditsclinicalcourse:acasereportandlit-eraturereview.InternMedC58:1295-1299,C20196)FujiokaS,KarashimaK,InoueAetal:CaseofinfectiousendocarditisCpredictedCbyCorbitalCcolorCDopplerCimaging.CJpnJOphthalmolC49:46-48,C20057)MitakaCH,CGomezCT,CPerlmanDC:ScleritisCandCendo-phthalmitisCdueCtoCStreptococcusCpyogenesCinfectiveCendo-carditis.AmJMedC133:e15-e16,C20208)HaCSW,CShinCJP,CKimCSYCetal:BilateralCnongranuloma-tousuveitiswithinfectiveendocarditis.KoreanJOphthal-molC27:58-60,C20139)NakataniCS,CMitsutakeCK,COharaCTCetal:RecentCpictureCofCinfectiveCendocarditisCinCJapanC─ClessonsCfromCcardiacCdiseaseregistration(CADRE-IE)C.CCircCJC77:1558-1564,C201310)仲松正司,藤田次郎:発熱と感染症全身感染・細菌性心内膜炎.臨牀と研究90:1026-1031,C201311)ZiakasCNG,CKotsidisCS,CZiakasCACetal:CentralCretinalCarteryocclusionduetoinfectiveendocarditis.IntOphthal-molC34:315-319,C201412)堀純子:強膜炎発症機構.眼科52:1149-1154,C201013)野村良太,仲野和彦:口腔バリアと疾患その破綻とう蝕病原性細菌が引き起こす全身疾患.実験医学C35:1182-1188,C201714)MarquartME,BentonAH,GallowayRCetal:Antibioticsusceptibility,Ccytotoxicity,CandCproteaseCactivityCofCviri-dansCgroupCstreptococciCcausingCendophthalmitis.CPLoSCOneC13:e0209849,C2018

小児の真性小眼球症の黄斑隆起所見

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1344.1347,2021c小児の真性小眼球症の黄斑隆起所見浅野真美加近藤寛之産業医科大学眼科学教室CMacularFoldsinPediatricPatientswithNanophthalmosMamikaAsanoandHiroyukiKondoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealthC目的:小児期の真性小眼球症C2例にみられた黄斑隆起所見を報告する.症例:症例C1はC4歳,男児.視力は右眼(0.08),左眼(0.08),両眼眼軸長はC17Cmmであった.光干渉断層計(OCT)画像で両眼黄斑隆起を認め,中心窩無血管帯は消失していた.弱視治療を行い,7歳時視力は右眼(0.6),左眼(0.9)へ改善した.OCT画像による中心窩の網膜内層遺残の程度を,中心外(pIRL)と中心窩での網膜内層の厚み(fIRL)の比(fIRL/pIRL)で経時的にみたところ,4歳時とC7歳時で右眼はC1.60からC1.25,左眼はC1.32からC1.20へ両眼とも減少を認めた.症例C2はC3歳,女児.視力は右眼(0.1),左眼(0.1),眼軸長は右眼C16.69Cmm,左眼C16.70Cmmであった.OCT画像で両眼黄斑隆起を認めた.弱視治療を行い,5歳時視力は右眼(0.3),左眼(0.3)へ改善した.OCT画像によるCfIRL/pIRL比はC3歳時とC5歳時で,右眼はC1.16からC1.15,左眼はC1.27からC1.14へ減少した.結論:真性小眼球症では黄斑隆起所見を認めることがある.眼球の解剖学的成長に伴い黄斑隆起は経時的に平坦化していく可能性がある.CPurpose:ToCreportCtheCclinicalCcourseCofCpediatricCpatientsCwithCnanophthalmos.Cases:CaseC1CinvolvedCaC4-year-oldCboyCwithCaCvisualacuity(VA)ofC0.08ODCandC0.08OS.CInCbothCeyes,CtheCaxiallength(AL)wasC17.00CmmCwithCmacularCfolds.CAmblyopiaCtherapyCresultedCinChisCVACimprovingCtoC0.6CODCandC0.9COSCatC7-yearsCold.CFromC4-toC7-yearsCold,CtheCfovealCversusCparafovealCthicknessCratioCofCtheCinnerCretinallayers(fIRL/pIRL)Chadchangedfrom1.60Cto1.25CODandfrom1.32to1.20COS,respectively.Case2involveda3-year-oldgirlwithaVAof0.1inbotheyesandanALof16.69CmmODand16.70CmmOS.OpticalcoherencetomographyexaminationrevealedCmacularCfoldsCinCbothCeyes.CAmblyopiaCtherapyCresultedCinCherCVACimprovingCtoC0.3CODCandC0.3COSCatC5-yearsCold.CFromC3-toC5-yearsCold,CtheCfIRL/pIRLCratioChadCchangedCfromC1.16CtoC1.15CODCandCfromC1.27CtoC1.14COS,Crespectively.Conclusion:InCpediatricCnanophthalmosCeyes,CtheCfIRL/pIRLCratioCcanCbeCdecreasedCwithCanatomicalgrowthoftheeyeballduringchildhood.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(11):1344.1347,C2021〕Keywords:真性小眼球症,黄斑隆起,弱視,経時的変化.nanophthalmos,CmacularCfolds,Camblyopia,CclinicalCcourse.Cはじめに真性小眼球症は,眼杯裂の閉鎖後に眼球の発育が停止し,眼球の容積が正常のC2/3以下であり,他の身体的異常を伴わないものと定義されている1).馬島らは小眼球を年齢別の眼軸長で分類し,1歳でC19Cmm以下,成人ではC20.4Cmm以下とした2).高度遠視,強膜肥厚,uvealeffusion,閉塞隅角緑内障,黄斑低形成などが高頻度で合併するといわれている3).近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の発達に伴い,真性小眼球症の黄斑部の解剖学的構造異常が検討され,黄斑部に隆起性病変を認めるという特徴が報告されている4.8).今回,筆者らは,真性小眼球症のC2症例を経験し,OCTを用いて隆起性病変の経時的変化を観察したので報告する.CI症例[症例1]4歳,男児〔別刷請求先〕浅野真美加:〒807-8555福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘C1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:MamikaAsano,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,1-1,Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyushu-shi,Fukuoka807-8555,JAPANC1344(106)右眼左眼主訴:とくになし.初診:2017年C8月.現病歴:痒みで前医受診時に眼底異常を指摘され,当科初診となった.家族歴なし.初診時所見:視力は,右眼C0.06(0.08C×sph+15.5D(cylC.1.5DAx180°),左眼C0.07(0.08C×sph+15.5D(cyl.1.0DAx175°)であり,高度遠視を認めた.眼軸長は両眼とも17Cmmと短眼軸であった.前眼部に異常は認めなかった.硝子体はベール状の混濁を認めた.両視神経は発赤,中心窩反射は認めなかった.経過:2017年C11月に全身麻酔下での眼底検査を施行した.眼底所見(図1上段)では,視神経乳頭が偽乳頭浮腫様に腫脹し辺縁が不整であったが,血管の拡張・蛇行は認めなかった.黄斑部には明瞭な黄斑色素を認めた.OCT所見(図1下段)は両眼とも網膜内層が皺襞様に隆起していた.網膜前膜を疑う高輝度反射は認めず,En-face画像でも網膜硝子体の境界面には皺襞はみられなかったが,中心窩無血管帯(fovealCavascularzone:FAZ)を認めなかった.網膜電図には異常所見を認めず,蛍光眼底造影検査では上下網膜血管の走行は非対称であった.眼鏡による弱視治療を行い,7歳時の視力は右眼(0.6C×sph+15.5D(cyl-1.0DAx180°),左眼(0.9CpC×sph+15.5D(cyl-1.0DAx180°)まで向上した.OCT画像による中心窩の網膜内層遺残の程度を評価するにあたり,中心窩での網膜内層の厚み(fovealCinnerCretinallayer:fIRL)はCfovealbuldgeがみられるところを中心窩とみなし,その位置で内境界膜内側から内顆粒層外側までの長さを計測した.また,中心外の網膜内層の厚み(parafovealCinnerretinallayer:pIRL)は中心窩からC1,000Cμm鼻側で同様に計測した.網膜内層遺残の程度は中心窩と中心外での網膜内層の厚さの比(fIRL/pIRL比)で評価した9,10).その結果,fIRL/pIRL比はC4歳(2017年C8月)時とC7歳(2020年11月)時では右眼はC1.60からC1.25,左眼はC1.32からC1.20となり,両眼とも中心窩の網膜内層遺残は減少を示した.[症例2]3歳,女児主訴:母からみてよく目を細める.初診:2018年C8月.現病歴:幼稚園で視力不良を疑われ,前医受診.精査目的に当科紹介受診となった.家族歴なし.初診時所見:視力は,ハンドルにて右眼(0.1),左眼(0.1)であった.眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部,中間部透光体に特記すべき異常は認めなかった.初診時は児の協力が得られず,眼底の詳細な検査は困難であった.眼軸長は右眼C16.69mm,左眼C16.70Cmmであった.経過:4歳(2019年C8月)時には眼底検査が可能となった.右眼左眼眼底所見(図2上段)で両眼偽乳頭浮腫様を認め,明瞭な黄斑色素を認め,中心窩反射は認めなかった.OCT所見(図2下段)で網膜内層の皺襞様隆起を認め,網膜に網膜前膜などによる牽引を認めなかった.眼鏡による弱視治療を行い,5歳時での視力は右眼(0.3C×sph+17.0D(cyl.1.5DAx150°),左眼(0.3C×sph+16.0D(cyl.1.5DAx25°)へ改善を認めた.OCT画像によるCfIRL/pIRL比は,3歳(2018年3月)時と5歳(2020年9月)の時点では,右眼1.16から1.15に,左眼はC1.27からC1.14となり,若干の減少を認めた.CII考按本症例では,2症例ともに網膜内層遺残と外層肥厚による隆起性病変を呈していた.真性小眼球症ではCBoyntonらは,発育過程で眼球壁に対して網膜,とくに黄斑部が余剰となり,黄斑隆起を生じると報告した11).1998年CSerranoらは,真性小眼球症では,肥厚した強膜は感覚網膜の発達を妨げないが,脈絡膜と網膜色素上皮の発達を妨げるため,黄斑部の隆起を生じると報告している12).2007年にCWalshらは,FAを用いて真性小眼球症ではCFAZの消失もしくは著しい縮小がみられたとしており,本症例C1に一致した13).2020年のCOkumichiらの報告では,対象C49C±13歳の成人例C5名C8眼において深層CFAZ面積と視力に相関を認めると報告されたが,症例数が少なく,相関を認める理由は不明であった14).また,視力と浅層CFAZ面積や眼軸長,fIRL/pIRL比に相関は認めなかったと報告されている14).真性小眼球症において網膜の隆起性病変に関する報告は複数存在するが,筆者らが調べた限り,小児の真性小眼球症のOCT所見を経時的に示した報告はなかった4.8).今回,筆者らは,全身麻酔下での眼底検査を行うことで小児における真性小眼球症のCOCT所見と視力の経時的変化を追うことができた.症例C1,2ともに年齢が上がるにつれ,fIRL/pIRL比は低下を認めた.また,症例C1,2ともに視力の向上も認めた.筆者らの症例では眼軸長は経時的な測定を行っていないが,眼球の解剖学的成長に伴い,fIRL/pIRL比が低下し,黄斑隆起は経時的に平坦化していく可能性が示された.真性小眼球症における網膜のCOCT所見による経時的変化は今後も検討していく必要があると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Duke-ElderS:NormalCandCabnormalCdevelopment,CPartC2CCongenitalCdeformities.CSystemCofCOphthalmology,CVol-ume3,p488-495,MosbyCompany,StLouis,19642)MajimaA:MicrophthalmosCandCitsCpathogenicCclassi-.cation.日眼会誌C98:1180-1200,C19943)DemircanCA,CYesilkayaCA,CAltanCCCetal:FovealCavascu-larzoneareameaurementswithopticalcoherencetomog-raphyCangiographyCinCpatientsCwithCnanophthalmos.CEyeC33:445-450,C20194)BijlsmaWR,vanSchooneveldMJ,VanderLelijAetal:COpticalcoherencetomography.ndingsfornanophthalmiceyes.RetinaC28:1002-1007,C20085)DemircanA,AltanC,OsmanbasogluOAetal:SubfovealchoroidalCthicknessCmeasurementsCwithCenhancedCdepthCimagingCopticalCcoherenceCtomographyCinCpatientsCwithCnanophthalmos.BrJOphthalmolC98:345-349,C20146)YalcindaC.FN,CAtillaCH,CBatio.luF:OpticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCofCretinalCfoldsCinCnanophthalmos.CaseReportsinOphthalmologicalMedicine:20117)MansourAM,StewartMW,YassineSWetal:Unmea-surableCsmallCsizeCsuper.cialCandCdeepCfovealCavascularCzoneCinnanophthalmos:theCcollaborativeCnanophthalmosCOCTAstudy.BrJOphthalmolC103:1173-1178,C20198)HelvaciogluCF,CKapranCZ,CSencanCSCetal:OpticalCcoher-encetomographyofbilateralnanophthalmoswithmacularfoldsCandChighChyperopia.CCaseCReportsCinCOphthalmologi-calMedicine:20149)MatsushitaI,NagataT,HayashiTetal:Fovealhypopla-siainpatientswithsticklersyndrome.AmAcadOphthal-molC124:896-902,C201710)MaldonadoRS,O’ConnellRV,SarinNetal:DynamicsofhumanCfovealCdevelopmentCafterCprematureCbirth.COph-thalmologyC118:2315-2325,C201111)BoyntonCJR,CPurnellEW:BilateralCmicrophthalmosCwith-outCmicrocorneaCassociatedCwithCunusualCpapillomacularCretinalCfoldsCandChighChyperopia.CAmCJCOphthalmolC79:C820-826,C197512)SerranoJC,HodgkinsPR,TaylorDSIetal:Thenanoph-thamicmacula.BrJOphthalmolC82:276-279,C199813)WalshCMK,CGoldbergMF:AbnormalCfovealCavascularCzoneCinCnanophthalmos.CAmCJCOphthalmolC143:1067-1068,C200714)OkumichiCH,CItakuraCK,CYuasaCYCetal:FovealCstructureCinCnanophthalmosCandCvisualCacuity.CIntCOphthalmolC41:C805-813,C2020C***

Descemet Membrane Endothelial Keratoplasty 連続 76 症例の検討

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1339.1343,2021cDescemetMembraneEndothelialKeratoplasty連続76症例の検討黒木翼*1,2親川格*3松澤亜紀子*4,5清水俊輝*2小橋川裕司*6加藤直子*7井田泰嗣*1,2湯田健太郎*2,8水木信久*2林孝彦*1,2*1横浜南共済病院眼科*2横浜市立大学眼科学教室*3ハートライフ病院眼科*4聖マリアンナ医科大学眼科学教室*5川崎市立多摩病院眼科*6横須賀中央眼科*7南青山アイクリニック*8きくな湯田眼科TheSurgicalLearningCurveforDescemetMembraneEndothelialKeratoplasty:ASeriesof76ConsecutiveCasesTsubasaKuroki1,2)C,ItaruOyakawa3),AkikoMatsuzawa4,5)C,ToshikiShimizu2),YujiKobashigawa6),NaokoKato7),YasutsuguIda1,2)C,KentaroYuda2,8)C,NobuhisaMizuki2)andTakahikoHayashi1,2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,HeartLifeHospital,4)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalTamaHospital,6)CChuohEyeClinic,7)MinamiaoyamaEyeClinic,8)KikunaYudaEyeClinicCYokosuka目的:Descemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:DMEK)は角膜内皮細胞機能不全に対する有効な外科的治療法の一つである.術後早期の視力向上や拒絶反応が少ない反面,ラーニングカーブがきついといわれている.同一術者によるCDMEK導入後の短期評価を行ったので報告する.方法:2014年C8月.2018年C10月に横浜南共済病院にて同一術者によりCDMEKを施行された連続症例における術後矯正視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について後方視的に検討した.結果:76例C76眼中,12カ月以上観察が可能であったC68眼を対象に検討を行った.術後最高矯正視力は有意に回復した(p<0.001).術後C1年の平均角膜内皮細胞密度はC1,244C±503個/Cmm2(減少率C53.2C±18.8%)であった.術中合併症として出血C2眼,移植片挿入トラブルC4眼,裏返し固定C3眼,術後合併症として.胞様黄斑浮腫C9眼,拒絶反応C1眼,原因不明の移植片機能不全C1眼を認めた.結論:導入初期に術中合併症が問題となるが,方法の工夫により,手術成績は改善し,良好な視機能が得られる.CPurpose:AlthoughCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty(DMEK)isCanCe.ectiveCsurgicalCtreatmentCforCcornealCendothelialcell(CEC)dysfunction,CtheClearningCcurveCisCsteep.CMoreover,ClimitedCvisualacuity(VA)Cimprovementandcornealgraftrejectioncansometimesoccurintheearlypostoperativeperiod.Herewereportashort-termCevaluationCofCDMEKCoutcomesCperformedCbyCaCsingleCsurgeonCpostCintroductionCtoCtheCprocedure.CMethods:InCthisCretrospectivelyCstudy,CtheCpostoperativeCbest-correctedVA(BCVA)C,CCECCdensity,CandCintra/Cpostoperativesurgicalcomplicationswereexaminedin76eyesof76consecutivecasesthatunderwentDMEKbythesamesurgeonatourhospitalfromAugust2014toOctober2018.Results:In68ofthe76eyesthatcouldbefollowedfor12-monthsorlongerpostoperative,BCVAwassigni.cantlyrestored(p<0.001)C.At1-yearpostopera-tive,themeanCECdensitywas1,244±503cells/mm2CandmeanrateofCEC-densitydecreasewas53.2±18.8%.IntraoperativeCcomplicationsCincludedbleeding(2eyes)C,Cdi.cultyCinCinsertingCtheCcornealgraft(4eyes)C,CandCinside-out.xation(3eyes)C.Postoperativecomplicationsincludedcyst-likemacularedema(9eyes)C,graftrejection(1eye)C,anddysfunctionofunknowncauseoftheimplantedgraft.Conclusion:Althoughintraoperativecomplica-tionscanoccurattheinitialstageofasurgeon’sintroductiontotheDMEKprocedure,outcomescanimproveandgoodvisualfunctioncanbeobtainedwithincreasedadaptationtothemethod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(11):1339.1343,C2021〕〔別刷請求先〕黒木翼:〒236-0037神奈川県横浜市金沢区六浦東C1-21-1横浜南共済病院眼科Reprintrequests:TsubasaKuroki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,1-21-1MutsuurahigashiKanazawa,Yokohama,Kanagawa236-0037,JAPANCKeywords:デスメ膜角膜内皮移植術,角膜移植,合併症.Descemetmembraneendothelialkeratoplasty(DMEK)C,keratoplasty,complication.Cはじめに角膜移植における原因疾患の半数以上は水疱性角膜症など角膜内皮機能不全によるものである.かつて内皮機能不全に対する外科的治療として全層角膜移植(penetratingkerato-plasty:PKP)が施行されていたが,拒絶反応や縫合糸関連合併症(惹起不正乱視,感染症),外傷性創離開などの視機能へ大きく影響する合併症リスクを術後長期にわたり抱えることから,近年ではリスクが比較的少ない術式であるCDes-cemet膜.離角膜内皮移植術(Descemet’sCstrippingCauto-matedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)やCDescemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialCkerato-plasty:DMEK)といった,角膜内皮移植が第一選択となっている.そのなかでもCDMEKはCDSAEKと比較し,術後早期からきわめて高い視力が得られ,拒絶反応がきわめて起こりにくいといった長所がある1).一方で,移植片の挿入時トラブルや接着不良が起こりうるため,術者の習熟度により移植片の生着率や合併症に差が出やすいとされている2).また,わが国ではCDMEK導入施設がまだ少なく,同一術者によるDMEK多症例の検討はほとんどなされていない.そこで,横浜南共済病院にて同一術者により施行されたCDMEKの連続症例に関して,後ろ向きに解析を行うことにより,わが国におけるCDMEKの有効性を検討した.CI方法1.対象2014年C8月.2018年C10月に角膜内皮疾患に対して横浜南共済病院にてCDMEKを施行した連続症例C76例のうち,観察中断C8例を除き,術後C12カ月以上経過観察が可能であったC68症例を対象とした後ろ向き解析を行った.本研究は横浜南共済病院倫理員会の承認を得て行った(承認番号C1_19_11_11).C2.手術方法手術は点眼,瞬目,球後麻酔下で行われた.まず,ドナー移植片をC0.06%トリパンブルーまたは,0.1%ブリリアントブルーCG(BBG)にて染色し(2016年C1月以降CBBGを使用)3),各症例に応じたサイズ径で移植片を作製した4).次に,3カ所のサイドポートとC2.8mm上方強角膜切開を行い,8Cmm径大でCDescemet膜.離を行ったのち,下方最周辺部に虹彩切除を行った.採取した移植片を眼内レンズ挿入器具(アキュジェクトユニフィット)に装.し,前房内へ移植片を挿入した.その後,空気あるいはC20%六フッ化硫黄(SFC6)ガスで移植片の展開・固定を行い手術終了とした(2017年10月以降CSFC6ガスを使用).C3.検討項目以下の①.③を検討項目とした.①矯正視力角膜内皮細胞密度(ドナー細胞密度,術後C1カ月,3カ月,6カ月,12カ月)②術中合併症③術後合併症C4.統計検定JMP415(SASInstituteInc.,Cary,NC,USA)を使用した.術前後の視力,角膜内皮細胞密度の比較にはCWilcoxonC’s検定を使用した.p<0.05を有意とした.CII結果76例76眼,男性21眼,女性55眼,右眼46眼,左眼30眼にCDMEKを施行した.年齢は,54.85歳(平均C74.7C±7.3歳)であった.角膜内皮障害の原因疾患は,Fuchs角膜ジストロフィC25眼,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)18眼,落屑緑内障C9眼,角膜内皮炎C3眼,無水晶体眼性水疱性角膜症10眼,偽水晶体性水疱性角膜症C11眼であった.平均最高矯正視力(logMAR値)は術前C0.798C±0.483,術後C1カ月でC0.292C±0.296,術後C3カ月でC0.143C±0.164,術後C6カ月でC0.0824C±0.146,術後C1年でC0.0667C±0.142であった.術前と比較しいずれも有意に視力改善を認めた(p<0.001)(図1).平均角膜内皮細胞密度は,術前移植片でC2,660C±224個/Cmm2,術後C1カ月でC1,870C±497個/mmC2(減少率C29.6C±18.7%),術後C3カ月でC1,658C±484個/mmC2(減少率C37.6C±18.2%),術後C6カ月でC1,500C±466個/mmC2(減少率C43.5C±17.5%),術後C1年でC1,240C±503個/mmC2(減少率C53.2C±18.8%)であった.術前と比較しいずれも有意に減少した(p<0.001)(図2).平均角膜厚は,中心角膜は術前C698C±99Cμm,術後C1カ月でC518C±52μm,術後C3カ月でC498C±39μm,術後C6カ月でC504±39Cμm,術後C1年でC512C±41Cμmであり,いずれも優位に改善を認めた(p<0.001)(図3).自覚屈折検査では,術前C.1.36D(球面度数C.0.31D,円柱度数.2.17D)から術後C1年でC.1.22D(球面度数C.0.17D,円柱度数.2.16D)となったが優位差は認められなかった.術中合併症として出血C2眼,移植片の裏返し固定をC3眼,2015年以前に移植片の飛び出しをC3眼,挿入困難をC1眼経験した.術後合併症として.胞様黄斑浮腫(cystoidmacular3,5003,0002,500角膜内皮細胞密度(個/mm2)logMAR視力0.80.60.42,0001,5001,000500-0.2術後経過期間06カ月12カ月術前1カ月3カ月図1視力の経過最高矯正視力(logMAR値)は術前C0.798C±0.483(平均C±標準偏差)と比較し,いずれも優位に改善し,術後C1カ月でC0.292C±0.296(p<0.001),術後C3カ月でC0.143C±0.164(p<0.001),術後C6カ月でC0.0824C±0.146(p<0.001),術後C1年でC0.0667C±0.142(p<0.001)(Wilcoxon’s検定).C900術後経過期間図2角膜内皮細胞密度の経過術前内皮細胞密度はドナーの細胞密度を使用.角膜内皮細胞密度は術前C2,660C±224個/mmC2(平均C±標準偏差)と比較しいずれも有意に減少し,術後1カ月でC1,870C±497個/mmC2(p<0.001),術後C3カ月でC1,658C±484個/mmC2(p<0.001),術後6カ月でC1,500C±466個/mmC2(p<0.001),術後C1年でC1,240C±100あると考えられる.C0術前1カ月3カ月6カ月12カ月移植片挿入時のトラブルは,とくにアジア人眼に多くみら術後経過期間れる狭隅角眼症例に付随した高い硝子体圧が大きく影響して図3中心角膜厚の推移いると考えており,移植片挿入時に工夫を要する6).現在,中心角膜は術前C698C±99Cμm(平均C±標準偏差)と比較し,い挿入器具としてガラス管,眼内レンズインジェクターなどさ800中心角膜厚(μm)503個/mmC2と(p<0.001),術前と比較しいずれも有意に減少700した(Wilcoxon’s検定).600500400300200DMEKラーニングカーブでは憂慮すべき特徴的な合併症でずれも優位に改善し,術後C1カ月でC518C±52(p<0.001),術後3カ月で498C±39(p<0.001),術後C6カ月でC504C±39(p<0.001),術後C1年でC512C±41(p<0.001)となった(Wilcoxon’s検定).edema;CME)9眼,原因不明の移植片機能不全C1眼,拒絶反応C1眼を認めた.裏返しのC3眼中C3眼,移植片飛び出しの3眼中C2眼,出血のC2眼中C2眼,原因不明の移植片機能不全1眼の計C8眼を原発性移植片機能不全(primaryCgraftCfail-ure)と判定し,視力,角膜内皮細胞密度の評価から除外した.CIII考察わが国における単一施設単一術者によるCDMEK連続症例の結果では,術後早期段階から有意な視力,中心角膜厚の改善が欧米の既報同様に得られた5).また,DMEK合併症として術中出血がC2眼(3%),CMEがC9眼(13%)と欧米の既報同様に生じる点も確認された5).ただ,術中合併症である移植片挿入時トラブル(移植片の飛び出しC3眼,挿入困難C1眼)や移植片の視認性に伴うトラブル(長時間操作に伴う機械的内皮ダメージ,裏返し固定C3眼)などの多くはCDMEK導入初期に経験した合併症であり,わが国の症例におけるまざまな挿入器具があるが,適切な前房圧管理が重要と考え7),筆者らは,2017年以降,移植片後方に低用量の眼科手術用粘弾性物質(ophthalmicCviscosurgicaldevice:OVD)を充.する方法を考案した8).変更後,移植片挿入時のトラブルは激減し,安心して手術を行うことが可能となった.次に,初期に多く経験した移植片の裏返し固定もCDMEKに特徴的な合併症である.欧米の原疾患と異なり,わが国では進行した水疱性角膜症例が多いことや,濃い虹彩色素を有することで移植片のコントラストが悪いことなど前房内視認性の悪い症例が多いため,裏返し固定を回避する工夫が重要である.筆者らは術中光干渉断層計の活用のほか,独自の工夫としてマーキング法を採用し(図4),以後裏返し固定を生じることは皆無となった3,9).頻度は少ないが術中出血(図5)を起こしたC2眼では残念ながら手術の続行が不可能となった.これに関して,賛否両論があるが,術前にCLIを行うことや抗凝固薬の休薬などで最小限に抑えられる可能性があり,全身状態の評価を含め今後考慮すべき問題である10,11).術後一定期間を経てからの合併症としては拒絶反応とCMEがあげられる.拒絶反応をC1眼認め,DSAEKやCPKPに比べ低い発生率であり,欧米における既報と一致していた12,13).一方で図4移植片のマーキング直径C8Cmm前後の移植片を内皮が上向きになるように設置し,周辺部に時計回りにC1.5mmと1.0Cmmの小さな切れ込みを入れることで,表裏の判別が可能である.対側にC2カ所設置することでどのような状況下でも眼内での判別が比較的容易に可能である.CMEは欧米人と比較し,同等か若干高頻度にみられ,アジア人眼では前房内炎症が強い可能性が示唆される14).本研究では角膜内皮細胞密度の減少率が術後C1年でC53.2C±18.8%とやや高めであった5).原因としてラーニングカーブ以外に,これまでに日本人眼のデータにおいて虹彩ダメージが角膜移植後の角膜内皮細胞密度の減少率に相関する可能性が指摘されており15),前房内炎症が強く出やすいなどのアジア人眼の特性に影響があるかもしれない.本研究では同一術者の指導者不在の状況下でのCDMEK導入後の治療成績を報告した.原因疾患や虹彩損傷,前房深度を含めた患者背景が欧米人とは異なるため,今後わが国全体での治療成績の検討が必要である.DMEKは,術後初期の角膜内皮細胞密度の減少率が若干高いものの,視機能や拒絶反応の点ではCDSAEKと比較して良好であり,患者により術式を検討しながら,わが国でも導入可能な手技と考えられる.本研究が,今後さらなる治療成績の発展に役立つことに期待したい.文献1)HjortdalJ,PedersenIB,Bak-NielsenSetal:Graftrejec-tionCandCgraftCfailureCafterCpenetratingCkeratoplastyCorCposteriorClamellarCkeratoplastyCforCFuchsCendothelialCdys-trophy.Cornea32:e60-e63,C20132)MonnereauC,QuilendrinoR,DapenaIetal:MulticenterstudyCofCdescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:C.rstCcaseCseriesCofC18Csurgeons.CJAMACOphthalmolC132:C1192-1198,C20143)HayashiT,YudaK,OyakawaIetal:UseofbrilliantblueGCinCDescemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CBiomedResInt.9720389:1155,C20174)MatsuzawaCA,CHayashiCT,COyakawaCICetal:UseCofCfourC図5術中出血ひとたび前房出血を起こすと眼内でフィブリンが析出し,移植片と癒着を起こすため展開が困難となる.asymmetricCmarksCtoCorientCtheCdonorCgraftCduringCDes-cemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CBMJCOpenCOphthalmolC4:e000080,C20175)HamCL,CDapenaCI,CLiarakosCVSCetal:MidtermCresultsCofCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:4CtoC7CyearsCclinicalCoutcome.CAmCJCOphthalmolC171:113-121,C20166)HayashiT,OyakawaI,KatoN:TechniquesforLearningDescemetMembraneEndothelialKeratoplastyforEyesofAsianCPatientsCWithCShallowCAnteriorCChamber.CCorneaC36:390-393,C20177)SiebelmannS,JanetzkoM,KonigPetal:FlushingversuspushingCtechniqueCforCgraftCimplantationCinCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CCorneaC39:605-608,C20208)HayashiCT,COyakawaCI,CMatsuzawaA:DescemetCmem-braneendothelialkeratoplastyusingophthalmicviscoelas-ticCdevicesCforCeyesCwithClaserCiridotomy-inducedCcornealCendothelialdecompensation:AnalysisCofC11Ceyes.CMedi-cine(Baltimore)e11245,C20189)StevenP,BlancC,VeltenK:Optimizingdescemetmem-braneendothelialkeratoplastyusingintraoperativeopticalcoherenceCtomography.CJAMACOphthalmolC131:1135-1142,C201310)CrewsCJW,CPriceCMO,CLautertCJCetal:IntraoperativeChyphemainDescemetmembraneendothelialkeratoplastyaloneCorCcombinedCwithCphacoemulsi.cation.CJCCataractCRefractSurgC44:198-201,C201811)LoreckN,GeniesC,SchrittenlocherSetal:E.ectofanti-coagulanttherapyontheoutcomeofDescemetmembraneCendothelialkeratoplasty.CorneaC40:1147-1151,C202012)PriceCMO,CScanameoCA,CFengCMTCetal:Descemet’sCmembraneCendothelialkeratoplasty:riskCofCimmunologicCrejectionCepisodesCafterCdiscontinuingCtopicalCcorticoste-roids.OphthalmologyC123:1232-1236,C201613)HosCD,CTuacCO,CSchaubCFCetal:IncidenceCandCclinicalCcourseCofCimmuneCreactionsCafterCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:retrospectiveCanalysisCofC1000Cconsecutiveeyes.OphthalmologyC235:512-518,C201714)InodaS,HayashiT,TakahashiH:RiskfactorsforcystoidmacularCedemaCafterCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CorneaC38:268-274,C201915)IbrahimO,YaguchiY,KakisuK:Associationofirisdam-agewithreductionincornealendothelialcelldensityafterpenetratingkeratoplasty.CorneaC38:268-274,C2019***

高次視機能の立場からみた視野

2021年11月30日 火曜日

《第9回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科38(11):1335.1338,2021c高次視機能の立場からみた視野澤村裕正東京大学医学部眼科学教室CTheRelationshipbetweenVisualFieldsandCerebralVisualFunctionsHiromasaSawamuraCDepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicineCはじめに眼科領域のなかでもっとも代表的な視機能評価として視力と視野とがあげられる.視力は「離れたC2点(または線)を離れていると識別する能力」であり,視野は「一点を固視した状態で視力が及ぶ範囲」である.本稿の対象である視野は,視野検査でその測定が行われる.視野検査は多数の段階を経て構成されており,下記の一連の手続きが必要である.①固視を継続した状態で②視覚刺激が被験者の網膜の視細胞を刺激し③網膜からの信号が視路を経由して大脳皮質視覚領域へ到達し④連合野で「指標が光った」という認知・判断を行い⑤連合野から大脳皮質運動野へ動作を行わせる信号が送られ⑥大脳皮質運動野から効果器へ信号が送られてボタンを押す,このなかで,眼球が中心的な関与をするのは②であり,固視を含めその他の①,③.⑤では中枢神経が中心的な役割を果たし,⑥では脊髄および抹消神経,筋肉がその中心的な役割を果たす.これらのいずれかの段階で障害があると視野検査の正確性は乏しくなるため,網膜障害・視神経障害以外の中枢機能が視野検査にも非常に影響し,視野を正確に評価することが困難になることがわかる.実際の臨床でも,非器質性視覚障害では視野検査の結果と眼科的所見が合致しないといった現象はよく経験されることである.本稿では高次中枢機能と視野との関連について,視野および視野検査にかかわる高次中枢の神経解剖,および実際の臨床で遭遇する中枢機能に関連する視野障害について自験例を提示し概説する.I視覚情報処理経路の神経解剖学角膜,水晶体,硝子体を通過し,網膜へ入力した光信号は電気信号に変換され,外側膝状体にその大部分が送られる.一部の信号は外側膝状体を経由せず,上丘・視蓋前域といった領域に投射され,眼球運動における視線を安定化させる機能,および視運動性眼振,対光反射に関与するとされており1),上記①の固視に関与する.外側膝状体へ送られる信号は,網膜の異なる神経節細胞から外側膝状体への異なる層へ情報が伝達されることが知られており2),そこでニューロンを変え,後頭葉に存在する一次視覚野に到達する.大脳皮質は機能的層構造を構成しており,外側膝状体からの異なる層からの入力がそれぞれ一次視覚野の異なる層へ投射される.一次視覚野の皮質内でもニューロン結合があり,一次視覚野から高度な視覚情報統合処理が始まると考えられている.そして一次視覚野からさらに高次視覚野へ情報が伝達されていく.一次視覚野以降の視覚情報処理機構については,一次視覚野.頭頂葉を中心とした背側経路と,一次視覚野.側頭葉を中心とした腹側経路という大きな枠組みが提唱されている.頭頂葉では対象物の動き,空間位置,奥行などの情報処理が行われ,側頭葉では色や形の情報処理が行われており,それぞれCWhere経路,What経路として知られている3).その後,頭頂葉でも形の視覚情報処理がなされていることや,側頭葉で奥行情報処理がなされていることがC2000年前後に相ついで発表された4.7).そして今では背側経路は頭頂葉を中心とした動作・行動への視覚的誘導に関与する情報処理を担っており,腹側経路は側頭葉を中心とした対象の視覚的認知や同定に関与する情報処理を担っているという大きな枠組みが提唱されている8,9)(図1)10).上述の経路は,いずれも低次から高次へとボトムアップ方式で情報伝達が行われること〔別刷請求先〕澤村裕正:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HiromasaSawamura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC図1視覚情報処理経路の模式図(文献C10より一部改変)左眼右眼図2クローバー状視野の例Humphrey視野検査結果,グレースケールを表示.により複雑・詳細な視覚情報処理が行われていると考えられている.一方,高次領域から低次領域へのトップダウン式情報伝達も知られている11,12).注意力が変化することで視覚野のニューロン活動が変化することは知られており,トップダウン式情報伝達は記憶や注意による視覚情報処理の修飾をおもに行うと考えられている13).CII中枢機能が視野に及ぼす影響臨床の現場では,Humphrey視野検査に代表される静的視野検査と,Goldmann視野検査に代表される動的視野検査がある.同じ視野検査ではあるが,その指標が動くか,動かないかの違いが存在し,それぞれの視覚情報処理経路は異なると考えられる.臨床の現場でも静的視野検査と動的視野検査結果が異なることはしばしば経験されることである.以前より非器質性視覚障害あるいは機能的視野障害ではCGoldma-nn視野検査が用いられ,らせん状視野や求心性視野狭窄,筒状視野などが認められることが指摘されてきた14).一方,静的視野検査ではクローバー状視野として測定されることが多いと指摘されているが,それだけで器質性と非器質性を区別することはむずかしいとされており,繰り返しの検査を行い視野測定結果に変化を認めること,他の検査と組み合わせることで診断を進めていくことが必要であるとされてい図3右眼のみの非器質性視覚障害を呈した症例a:右眼のCHumphrey視野検査結果.グレースケールで表示.Cb:右眼のCGoldmann視野検査結果.Cc:アイモを用いた両眼同時視野測定結果.右側の視覚障害が生じていることがわかる.る15,16).クローバー状視野の成因として,最初に測定される4分円の中心での感度は高いものの,疲労効果が生じるため,4分円の中心から遠心性に応答が悪くなる可能性が考えられている16).クローバー状視野を呈した症例を示す.症例はC45歳,女性.両眼の視力低下を主訴に受診.眼球に器質的異常を認めず,頭部CMRIでも器質的病変は指摘されなかった.視力検査ではトリック反応が陽性であり,非器質性視覚障害が疑われた.視野検査では図2のようなクローバー状視野が測定された.この症例では両眼性の非器質性視覚障害であったが,片眼性の非器質性視覚障害を訴える場合にも日々よく遭遇す図4脳梗塞に伴う右同名半盲の例Humphrey視野検査結果のグレースケールおよびCMRI拡散強調画像.る.このような場合,通常の視野検査では,どちらの眼を検査されているかが明確なため,見えないと訴えているほうの眼の検査では測定結果にその影響が及んでしまう.このような場合には被験者にはどちらの眼を検査されているのかわからないようにする工夫が必要である.近年,両眼同時に視野測定が可能であるアイモ(クリュートメディカルシステムズ日本)が販売された.これを用いた別の非器質性視覚障害の例を提示する.症例はC18歳,男性.右眼の視力低下,見づらさを主訴に大学病院を含む複数の医療機関を受診したものの,眼球,頭蓋内に器質的異常は指摘されなかった.視力は右眼手動弁,左眼(1.5).相対的瞳孔求心路障害陰性であった.前医での自動視野計の結果(図3a)および当院でのGoldmann視野検査(図3b)にて右眼に求心性視野狭窄を認めた.左眼の検査結果は正常であった.視力と視野との乖離を認め,視野を説明できる器質的異常を認められなかったものの,本人および家族の理解がなかなか得られず,アイモを用いて両眼同時測定の視野検査を行った(図3c).自覚的には右“眼”が見えていない,との訴えであったが,両眼同時視野測定結果では右“側”が見づらい結果となっており,非器質性視覚障害の要素が強いことを改めて説明した.中枢に器質的異常を伴う場合,垂直罫線を守る特徴的な視野障害を呈する.症例はC55歳,男性,高血圧の既往があった.見づらさを訴え近医受診,右同名半盲が疑われ精査加療目的に当科紹介受診した.静的視野検査結果,当科で施行したCMRI結果を示す(図4).MRI拡散強調画像にて外側膝状態から視床近傍に異常信号を認め,急性期脳梗塞の診断にて入院加療となった.垂直罫線を守る両眼性視野障害を呈した場合,視交叉以降の器質的異常が生じていることが考えられるため,頭部CMRIを緊急で撮影する必要がある.最後に高次機能障害に伴う視野障害を紹介する.症例はC61歳,女性.交通外傷後,頭部CMRI検査にて左頭頂葉,側頭葉に脳挫傷を認めていた.当科には外転神経麻痺による複視の加療目的に紹介受診した.右眼の完全外転神経麻痺を呈しており,右左眼右眼図5高次機能障害に伴う右同名半盲の例眼は内転位であった.前眼部,中間透光体,眼底に大きな異常は認めなかった.西田法および右眼内直筋後転術を施行し,右眼の眼位は改善し,正面視での複視は消失した.視力は両眼ともに(1.0)で,複視以外の視覚障害の訴えはまったくなかった.念のためCHumphrey視野検査を施行したところ,右同名半盲を呈していた(図5).本症例ではCVisualCPerceptionCTestCforAgnosiaといった視覚失認の検出検査までは施行していないものの,経過および失語症を含む臨床経過から高次機能障害に伴う同名半盲と考えられた.おわりに視野は高次中枢機能の影響を受け,中枢の機能評価として用いられることもある.一方,中枢の神経解剖学は眼科医にとって馴染みの薄いものであり,非器質性視覚障害は診断がきわめてむずかしい.視野検査法の特性と,結果の解釈,その背景として想定される器質的異常を解剖学的に推測し,整合性がとれているか考えていくことが大事である.文献1)福田淳,佐藤宏道:脳と視覚C.何をどう見るか.ブレインサイエンスシリーズC14,共立出版,20022)NassiCJJ,CCallawayEM:ParallelCprocessingCstrategiesCofCtheCprimateCvisualCsystem.CNatCRevCNeurosciC10:360-372,C20093)GoodaleCMA,CMilnerAD:SeparateCvisualCpathwaysCforCperceptionandaction.TrendsNeurosciC15:20-25,C19924)MurataA,GalleseV,LuppinoGetal:Selectivityfortheshape,size,andorientationofobjectsforgraspinginneu-ronsCofCmonkeyCparietalCareaCAIP.CJCNeurophysiolC83:C2580-2601,C20005)WatanabeM,TanakaH,UkaTetal:DisparityselectiveneuronsCinCareaCV4CofCmacaqueCmonkeys.CJCNeurophysiolC87:1960-1973,C20026)UkaT,TanabeS,WatanabeMetal:Neuralcorrelatesof.nedepthdiscriminationinmonkeyinferiortemporalcor-tex.JNeurosciC25:10796-10802,C20057)JanssenP,VogelsR,OrbanGA:Selectivityfor3Dshapethatrevealsdistinctareaswithinmacaqueinferiortempo-ralcortex.ScienceC288:2054-2056,C20008)OrbanGA:HigherCorderCvisualCprocessingCinCmacaqueCextrastriatecortex.PhysiolRevC88:59-89,C20089)MilnerCAD,CGoodaleMA:TwoCvisualCsystemsCreviewed.CNeuropsychologiaC46:774-785,C200810)澤村裕正:高次脳機能と眼眼科62:143-148,C202011)NinomiyaCT,CSawamuraCH,CInoueCKCetal:Di.erentialCarchitectureCofCmultisynapticCgeniculo-corticalCpathwaysCtoV4andMT.CerebCortexC21:2797-2808,C201112)NinomiyaCT,CSawamuraCH,CInoueCKCetal:SegregatedCpathwaysCcarryingCfrontallyCderivedCtop-downCsignalsCtoCvisualCareasCMTCandCV4CinCmacaques.CJCNeurosciC32:C6851-6858,C201213)KastnerCS,CUngerleiderLG:MechanismsCofCvisualCatten-tionCinCtheChumanCcortex.CAnnuCRevCNeurosciC23:315-341,C200014)若倉雅登:非器質性視機能障害.神経眼科診断クローズアップ(敷島敬悟編).メジカルビュー社,201415)BruceCBB,CNewmanNJ:FunctionalCvisualCloss,CNeurolCClinC28:789-802,C201016)FrisenL:Identi.cationCofCfunctionalCvisualC.eldClossCbyCautomatedCstaticCperimetry.CActaCOphthalmolC92:805-809,C2014C***

機能は構造の後か? 眼血流の立場から

2021年11月30日 火曜日

《第9回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科38(11):1330.1334,2021c機能は構造の後か?眼血流の立場から柴友明国際医療福祉大学成田病院眼科CIstheFunctionaftertheStructure?“FromtheStandpointofOcularBloodFlow”TomoakiShibaCDepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareNaritaHospitalCはじめに「構造」とは組織を成り立たせる仕組みを示し,「機能」とは全体における特定の役割を示す.眼科領域において構造と機能を考える際に,眼底における構造の指標は光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で得られる視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(circumpapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness:cpRNFLT)や眼底写真で得られる血管径などが一般的である.機能の評価は視力,視野,電気生理的検査などがあげられる.はたして本題である眼血流は機能を反映しているのであろうか?血流とは血管内における血液の流れであるが,血管・血流は以下の役割を担っていると考えられている.人間における血管の役割は,左心室からの脈動血流を波のない定常流として末梢の毛細血管に運搬することにある.加齢や動脈硬化により脈動は吸収されなくなり,毛細血管への血流は定常流から脈動流へ変化する1).すなわち全身循環動態において血流とは血管機能の表れであり,眼血流は末梢臓器である眼球における微小循環機能を示していると考えられる.レーザースペックルフローグラフィー(laserspeckle.owgaphy:LSFG)はわが国発の再現性良好で非侵襲的な眼底血流画像化装置であり,筆者らはCLSFGを用いて種々の臨床研究を行ってきた.本稿ではCLSFGにおける測定法を紹介し,機能と構造の関連にCcpRFNLTと眼血流,さらには眼血流の上位にある血流の源である心臓(心機能・形態)との関連を自験例で検討し迫りたいと考える.CILSFG測定法と評価項目LSFGの原理を簡潔に述べる.レーザーで生体表面を照明すると,スペックル現象とよばれる散乱光が干渉しランダムな斑点模様が生じる.このスペックルパターンは被照射物体に連動して変化する.LSFGでは被照射物体は赤血球をさし,このスペックル現象は,血球の動きに合わせて刻々と変化する.この像面にイメージセンサーを置き,斑点模様の時間変化速度を各点について計算し,マップ状に表示すると視神経乳頭,網脈絡膜の血流画像化が可能になる.実際の解析画面を図1に示す.実測画面に測定領域(ラバーバンド)を設定する(図1a).得られた血流指標はCLSFG特有のパラメータであるブレ率(meanblurrate:MBR)として表示され,血流量,血流速度を反映する2,3).図1bは測定C4秒間(2心拍以上,118フレーム)に測定されたCMBRの経時的変化を示している.実際の解析は,心拍に同調した測定時間内のMBR変動をC1心拍分に正規化した画面で行う(図1c).さらに視神経乳頭領域はC2階調化を行い,血管領域(Vessel),組織領域(Tissue)に分離することが可能である.また筆者らは,MBRの解析をさらに①心拍内においてMBRが維持される血流(定常流)を示すCMBR最低値(Mini-mum:Min-MBR),②脈動にあわせた変動成分のCMBR最高値(Maximum:Max-MBR),③平均CMBR(Average-MBR)に分割する方法を提唱し(図2),女性は男性より変動成分のCMax-MBRが高値で,加齢により定常流成分であるCMin-MBRが低下することを報告した4).CII構造と機能─眼血流の観点から緑内障の観点から考えると,網膜神経節細胞がC40%程度消失して初めて視野欠損として捉えられるという報告や5),近年では緑内障性視神経所見やCcpRNFLTの菲薄化を示すが静的視野検査で視野欠損を認めない状態,前視野緑内障という疾患概念も存在する6).このように視神経の構造からさらに下位に存在する網膜の機能(視野)を考えると,構造の変化が先んじる.一方で筆者らは,睡眠機能異常の代表的疾〔別刷請求先〕柴友明:〒286-8520千葉県成田市畑ヶ田C852国際医療福祉大学成田病院眼科Reprintrequests:TomoakiShiba,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareNaritaHospital,852Hatakeda,Narita,Chiba286-8520,JAPANC1330(92)図1LSFGの測定法a:測定領域(ラバーバンド)の設定.Cb:ラバーバンドにおける測定C4秒間(2心拍以上,118フレーム:横軸)におけるMBR(縦軸)の流れ.Cc:心拍に同調した測定時間内のCMBR変動(縦軸)をC1心拍分に正規化(横軸はフレーム),実際の解析はこの画面上で行う.患である睡眠時無呼吸症候群は鼻測CRNFLT菲薄化の独立した危険因子であることを報告した7).CIII正常視神経乳頭におけるcpRNFLTと眼血流の関連次に筆者らは視神経乳頭血流とCcpRNFLTの関連,さらに上位の構造,機能と眼血流の関連を検討した.対象はC2007.2010年に東邦大学医療センター佐倉病院循環器センターおよび眼科で検査を行い睡眠時無呼吸症候群とcpRNFLTの関連を報告した症例のうち7),同時にCLSFGを用いて眼血流測定を行った正常視神経乳頭C94症例である.内訳は男性C67,女性C27例で,平均年齢はC61.7C±9.6歳である.cpRNFLTはCStratusOCT(CarlZeiss社)を用いて視神経乳頭をCaverage,superior,nasal,temporal,inferiorのC5セクションに分けて測定した.LSFGは視神経乳頭領域において前述のCMax-MBR,Min-MBR,Average-MBRを組織成分(Tissue),血管成分(Vessel),全体(All)で検討した.cpRNFLTの各セクションの値に対する寄与因子の候補として全身因子に眼局所因子を加え,その関連性を単変量,多変量解析で検討した.LSFG全評価項目とCcpRNFLTの単変量解析の結果を表1に示す.AverageはCAverage-MBR-Allと,superiorはMin-MBR-Allと,temporalはCAverage-MBR-Tissueと,inferiorはCMax-MBR-Vessel,そしてCnasalはCAverage-図2変動成分の最高値(Max.MBR),定常流成分の最低値(Min.MBR),その平均値(Average.MBR)に注目した解析法MBR-Allともっとも強い正相関を認めた.次に有意な相関を認めた種々の全身,眼局所因子を交絡因子として加えた多変量解析の結果を表2に示す.cpRNFLTのCAverageに対してはCAverage-MBR-Allが,temporalに対してはCAver-age-MBR-Tissueが,inferiorに対してはCMax-MBR-Ves-selがそれぞれ独立した正の寄与因子として選択された.その他の粥状硬化度を示すCplaquescoreがCaverageに対して負の,bodyCmassindexがCtemporalに対しては正の,nasalに対しては負の独立した寄与因子として選択されたことは興表1MBR,cpRNFLT全セクションの単変量解析の結果目的変数(OCT)CAverageCSuperiorCTemporalCInferiorCNasalCAvgMBR-AllC0.320.0020.200.050.140.19C0.220.030.230.02AvgMBR-VesselC0.19C0.07C0.11C0.27C.0.120.24C0.260.010.18C0.08CMaxMBR-TissueC0.300.0040.14C0.180.36<0.0010.15C0.16C0.11C0.30CMinMBR-AllC0.310.0020.210.040.140.17C0.20C0.06C0.220.03MinMBR-VesselC0.17C0.11C0.12C0.25C.0.100.32C0.210.040.16C0.12CMinMBR-TissueC0.280.0070.18C0.070.39<0.0010.04C0.72C0.08C0.43CAvg:Average,MBR:meanblurrate.表2cpRNFLT各セクションに対する多変量解析の結果目的変数(OCT)CAverageCSuperiorCTemporalCInferiorCNasalC説明変数CbpCbpCbpCbpCbpC年齢C.0.16C0.14C性別(M=1,F=0)BodymassindexC0.300.001-0.240.02高血圧(+=1,.=0)C0.30C.0.10C0.37C.0.05C0.67CPlaquescoreC※-0.250.02C.0.19C0.09屈折値C0.13C0.210.230.03眼圧AvgMBR-All0.34<0.0010.19C0.06CAvgMBR-TissueC0.44<0.001MaxMBR-VesselC0.250.02MinMBR-All0.17C0.09Cr=0.43,p<0.01Cr=0.36,p=0.01Cr=0.50,p<0.01Cr=0.30,p=0.01Cr=0.40,Cp=0.001※Plaquescore:頸動脈粥状硬化度,MBR:meanblurrate.味深い結果であった.以上より,眼血流は正常眼におけるCcpRNFLT(全体,耳側.下方)と関連があることが明確になった.この結果は正常視神経乳頭では構造変化が機能(眼血流)より完全に先行する,すなわち構造→機能が完全には成立しないことを示唆していると考えた.CIV左房・左心室形態,左室機能と眼血流次に筆者らは眼血流に対する上位の影響因子を検討するため,心臓超音波検査で得られる心機能・構造(形態)に着目し検討を行った.心臓の機能・形態評価としては非侵襲的検査として心臓超音波検査が汎用されている.その評価法としては断層法や組織ドップラ法などがある.今回は心臓超音波検査法を機能・形態に分けて眼血流との関連を検討した.1)形態評価としては断層法を用いた中隔壁厚,後壁厚,大動脈径そして左房径を測定した.2)心機能は大きく収縮能と拡張能に分類される.収縮機能として断層法(bi-planeCmodi.edCSimpson法)8)を用いた左室駆出率(%)を測定した.拡張機能は組織ドップラ法を用いて検討した.組織ドップラ法とは血流信号の代わりに心臓の壁や弁からの信号をドップラ法により抽出する方法である9).急速流入期血流波形であるCE波と拡張期僧帽弁輪部速度波形の早期波形であるCe’を計測し,それらの比であるCE/e’ratioは左室拡張末期圧を反映すると考えられており,今回左室拡張機能として評価した9).対象はC2007.2012年に東邦大学医療センター佐倉病院循環器センター血表3心臓超音波検査各評価項目とMBR各セクションの単変量解析目的変数中隔壁厚後壁厚大動脈径左房径CEFCE/e’ratioCAvgMBR-VesselC.0.08C0.28C.0.06C0.41C.0.12C0.11-0.190.01.0.05C0.50C.0.03C0.73CMaxMBR-Tissue-0.160.04.0.15C0.06C.0.11C0.15C.0.02C0.78C.0.01C0.860.180.02MinMBR-All-0.210.007-0.210.006.0.10C0.21-0.250.0008.0.09C0.22C.0.07C0.39CMinMBR-VesselC.0.12C0.11C.0.11C0.14C.0.07C0.37-0.230.003.0.07C0.39C.0.05C0.55CMinMBR-Tissue-0.240.001-0.240.001.0.04C0.58C.0.12C0.11C.0.05C0.55C.0.13C0.08CMBR:meanblurrate.表4MBR各セクションに対する多変量解析の結果年齢0.06C0.43-0.160.048.0.07C0.35C性別(M=1,F=0)C.0.11C0.19C.0.02C0.77C.0.04C0.64C脈圧0.220.007BodymassindexC.0.14C0.08C心拍数0.06C0.440.200.010.160.03高血圧(+=1,-=0)C.0.14C0.08C.0.03C0.73-0.170.03屈折0.14C0.06C.0.11C0.13-0.160.03E/e’ratio0.170.04中隔壁厚-0.170.03-0.220.008-0.150.04左房径-0.170.03-0.160.04r=0.29,p=0.005Cr=0.29,p=0.002MBR:meanblurrate.管ドックおよび眼科で検査を行ったC173例である.内訳は男性C128例,女性C45例でC60.9C±11.0歳である.不整脈や心不全を有する症例は除外している.Average,MaxおよびMin-MBRに対する寄与因子を単変量,多変量解析で検討した.心臓超音波評価項目とCLSFG評価項目の単変量解析の結果を表3に示す.中隔壁厚はCAverage-MBR-All,Aver-age-MBR-Tissue,Max-MBR-Tissue,Min-MBR-AllおよびCMin-MBR-Tissueと有意な相関を認めた.後壁厚はAverage-MBR-All,Average-MBR-Tissue,Min-MBR-AllおよびCMin-MBR-Tissueと有意な相関を認めた.大動脈径はCMax-MBR-Allと左房径はCAverage-MBR-All,Average-MBR-Vessel,Max-MBR-All,Min-MBR-AllとMin-MBR-Vesselが有意な相関を示した.心機能評価におr=0.39,p=0.0001Cr=0.36,p=0.0003Cr=0.41,p<0.0001いては左室拡張障害を示すCE/EC’ratioとCMax-MBR-Tissueが有意な正相関を認めた.次に各形態・機能にもっとも相関が強かったCMBRセクション,およびCLSFGを用いた眼血流研究で汎用されているAverage-MBR-All,Tissueに対する多変量解析を全身・眼局所背景因子を加えて検討した(表4).Average-MBR-Allの独立した寄与因子として左房径が,Average-MBR-Tissueでは中隔壁厚,Max-MBR-Tissueでは脈圧,中隔壁厚およびCE/eC’ratioが,Min-MBR-Allに対しては年齢,心拍数および左房径が寄与因子として選択されCMin-MBR-Tissueに対しては心拍数,高血圧の合併,屈折および中隔壁厚が寄与因子として選択された.一方で,大動脈径はMax-MBR-Allは寄与因子として選択されなかった.今回血流の源となる心形態・機能と視神経乳頭血流の関連を検討した結果,視神経乳頭血流に対する独立した寄与因子として選択された項目は心臓形態を示す中隔壁厚および左房径,および左心室拡張機能の指標となるCE/e’ratioであった.本結果からCLSFGで得られる視神経乳頭血流には心臓の構造(形態)および機能両者から影響を受けている可能性が示唆された.しかしながら本対象は心不全を除外しているため今後より多数例での再検討が必要である.CVまとめ今回,眼血流研究の立場から機能が先か,構造が先かを考察した.視神経乳頭血流とCOCTによる視神経乳頭構造の検討では,正常視神経の段階で視神経乳頭血流とCcpRNFLTは関連があることが示唆された.本結果は同部位(視神経乳頭)を検討した場合,構造の変化が先とは言い切れないことを示していると考える.眼血流には血流の最上位である心臓の左室・左房構造,および左室拡張機能が関与していることが示された.今回の検討のみでは眼血流の最上位に存在するものが機能か構造かの判断には至ることはできなかった.しかしながら眼局所の構造・機能を評価する際は,心構造・機能や睡眠時無呼吸症候群など,さらに上位に介在する因子にも配慮する必要があると考える.本検討は東邦大学医療センター佐倉病院倫理委員会の承認(No2011-009)を取得し,ヘルシンキ宣言に則り患者本人の同意を得て行ったものである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)O’RourkeMF,HashimotoJ:Mechanicalfactorsinarterialaging:ACclinicalCperspective.CJCAmCCollCCardiolC50:C1-13,C20072)TakahashiCH,CSugiyamaCT,CTokushigeCetal:ComparisonCofCCD-equippedlaserspeckle.owgraphywithhydrogengasCclearanceCmethodCinCtheCmeasnrementCofCopticCnerveCheadmicrocirculationinrabbits.ExpEyeResC108:10-15,C20133)AizawaCN,CNittaCF,CKunikataCHCetal:LaserCspeckleCandChydrogengasclearancemeasurementsofopticnervecir-culationCinCalbinoCandCpigmentedCrabbitsCwithCorCwithoutCopticCdiscCatrophy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:7991-7996,C20144)KobayashiCT,CShibaCT,CKinoshitaCACetal:TheCin.uencesCofgenderandagingonopticnerveheadmicrocirculationinhealthyadults.SciRepC9:15636,C20195)QuigleyCHA,CDunkelbergerCGR,CGreenWR:RetinalCgan-glioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmolC107:453-464,C19896)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20187)ShibaCT,CTakahashiCM,CSatoCYCetal:RelationshipCbetweenCseverityCofCobstructiveCsleepCapneaCsyndromeCandretinalnerve.berlayerthickness.AmJOphthalmolC157:1202-1208,C20148)HelakJW,ReichekN:Quantitationofhumanleftventric-ularmassandvolumebytwo-dimensionalechocardiogra-phy:inCvitroCanatomicCvalidation.CCirculationC63:1398-1407,C19819)NaguehSF,AppletonCP,GillebertTCetal:Recommen-dationsfortheevaluationofleftventriculardiastolicfunc-tionCbyCechocardiography.CEurCJCEchocardiogrC10:165-193,C2009C***

運転外来にて認知機能障害が明らかになった2 例

2021年11月30日 火曜日

《第9回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科38(11):1325.1329,2021c運転外来にて認知機能障害が明らかになった2例平賀拓也*1國松志保*1野村志穂*1小原絵美*1黒田有里*1井上順治*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院CTwoCasesofAdvancedGlaucomainwhichDrivingSimulatorTestingRevealedCognitiveImpairmentTakuyaHiraga1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),ShihoNomura1),EmiObara1),YuriKuroda1),JunjiInoue1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospitalC西葛西・井上眼科病院運転外来では視野障害患者に,ドライビングシミュレータ(以下,DS)を施行している.今回筆者らは,DSを行った際に認知機能障害が疑われた緑内障患者C2例を報告する.症例C1:77歳,男性.DSを施行したところ,15場面中C3場面にて事故を起こした.DSリプレイ映像にて自分の視野障害を理解できなかった.認知機能検査CMini-MentalCStateExamination(MMSE)はC23点(30点満点)であった.症例C2:84歳,女性.DSのC15場面中C7場面にて事故を起こした.DSでは信号や止まれの標識を見ながら停止しなかった.MMSEはC22点であった.結論:高齢緑内障患者で,認知機能が低下し,自分の視野障害を理解できない場合は,家族を交えて説明し,必要に応じて,認知症専門病院への受診を勧めることも大事である.CPurpose:ToCreportCtwoCelderlyCcasesCwithCadvancedCglaucomaCinCwhichCcognitiveCimpairmentCwasCdetectedbydrivingsimulator(DS)testingattheNishikasaiInoueEyeHospital.CaseReports:Case1involveda77-year-oldmalewithadvancedglaucomawhofailedin3outof15DStestscenarios.Thepatientscored23outof30ontheMini-MentalStateExamination(MMSE)C,atestforcognitivefunction,andfailedtounderstandthathisvisual.eldChadCnarrowed.CCaseC2CinvolvedCanC84-year-oldCfemaleCwithCadvancedCglaucomaCwhoCfailedCinC7CoutCofC15DSCtestscenarios.Thepatientscored22outof30ontheMMSE.TheDStestresultsshowedthatshefailedtoignoretheredstopsignal4times,andreplaywitheye-trackingrevealedthatalthoughshewatchedtheredstopsignalorsign,shefailedtostop.Conclusion:Inelderlyglaucomapatientswithsuspectedlossofcognitivefunction,thepatientmightbeunabletounderstandtheirownvisual.eldimpairment.Insuchcases,itisimportanttoexplainthesuspectedcognitiveimpairmenttothepatientandtheirfamily,andifnecessary,referthepatienttoademen-tiaspecialistforconsultation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(11):1325.1329,C2021〕Keywords:ドライビングシミュレータ,MMSE,認知症.drivingsimulator,MMSE,dementia.はじめに日本では,高度な視野障害を認めても,中心視力が良好であれば運転免許の取得・更新は十分可能である.しかし,信号や道路標識を認識し,右折・左折時の歩行者や自転車の確認をするためには,視力だけでなく,十分な視野が必要であり,自動車運転を継続している視野障害患者では,視野障害による安全確認の不足が原因の交通事故を引き起こしうる1).そのため,眼科診療の場での的確な助言が必要と考えられる.近年,高齢ドライバーの事故が増加しており,とくに認知機能低下による自動車事故が問題になっている.視野障害をきたす代表的な疾患である緑内障は,加齢に伴い有病率は増加する2).高齢緑内障患者のうち,視野障害に加えて認知機能が低下している場合は,安全に運転できる可能性はさらに〔別刷請求先〕平賀拓也:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequest:TakuyaHiraga,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(87)C1325低くなると思われる.ドライビングシミュレータ(以下,DS)では,同一の運転条件で被検者の運転能力を調べることができる.筆者らは,速度一定の条件下で,視野障害患者が事故を起こしやすいと予想される場面を織り込んだ視野障害患者用CDSを開発し,70歳未満の後期緑内障患者〔両眼ともCHumphrey視野計24-2プログラム(HFA24-2)にて,meandeviation(MD)C.12CdB以下〕では,視野障害度が高いほど,DSでの衝突が多いこと3),右折してくる対向車との衝突事故には,年齢が高く,視力が悪いだけでなく,中心下方C24°内の視野障害度が高いことが関与していること4)を報告した.そして,西葛西・井上眼科病院(以下,当院)では,このCDSを用いて2019年C7月に日本の眼科医療機関では初めてとなる「運転外来」を開設した.「運転外来」では,視野障害患者に対して認知機能検査CMini-MentalCStateExamination(MMSE;CorientationCMMSE10点,recallCMMSE6点,attentionCMMSE5点,languageCMMSE9点の計C30点満点)を実施したあと,DSを行い,その後リプレイ映像を見ることにより,運転場面ごとに視野障害の与える危険性を患者自身に認識させている.今回,筆者らは,高齢緑内障患者に対して,DSの結果とMMSEを照らし合わせることにより,認知機能障害の可能性を明らかにすることができたC2例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕77歳,男性(落屑緑内障).2019年C7月に左眼がぼやけるため近医を受診し,眼圧高値(右眼C28CmmHg,左眼C48CmmHg)を認めたため,手術目的にて同年C7月に当院に紹介となった.運転歴:18歳時からC59年間.自宅から車の修理工場まで片道徒歩C5分の道をC1日に何度も車で往復している.過去C5年間の事故歴はなく,運転時,視野障害の自覚はない.20年前に両眼とも白内障手術を施行され,「よく見えるようになった」ため,術後は,眼科での定期検査は受けていなかった.初診時視力は右眼(1.0),左眼(0.8),眼圧は右眼25CmmHg,左眼C50CmmHg.HFA24-2にて,MDは右眼C.24.73CdB,左眼C.22.86CdB.両眼重ね合わせ視野で中心約10°の求心性視野障害を認めた.身体障害者手帳は視野障害5級に該当した.同年C8月にCDSを施行したところ,15場面中C3場面(左からの飛び出しC1回,右折してくる対向車との衝突C2回)にて事故を起こした.また,ブレーキを踏むタイミングが遅れる場面や,警戒しすぎて走行中に停止指定位置以外で停止してしまう場面もあった.DS後にリプレイ映像を見ながら説明していたところ,停止線オーバーをした赤信号の場面(図1)で,「信号を見ているときは信号しか見えず,車を見ているときは車しか見えない」「君たちは見えるのか」と問われた.自分と他人の見え方は同じだと思っていたようで,何度説明しても,自身に視野障害があることを理解することが困難だった.MMSECtotalCscoreはC30点中C23点(orientationMMSEは10点中10点,recallMMSEは6点中3点,CattentionMMSEはC5点中C1点,languageMMSEはC9点中9点)と認知症が疑われたため,同年C9月に認知症専門病院を紹介し,「混合型認知症」と診断され,運転免許の自主返納を認知症専門医から勧められ,同年C11月に返納した.〔症例2〕84歳,女性(原発開放隅角緑内障).2011年から近医で緑内障治療を行っていたが,点眼アドヒアランス不良のため,2019年C10月に当院へ紹介となった.運転歴:50歳からC34年間.テニススクールに週C1回C40分,買い物のため,週C1回C30分運転をしている.過去C5年間の事故歴は,物損事故がC3回であった.運転時,視野障害の自覚はない.初診時視力は右眼(0.8),左眼(1.0),眼圧は右眼C18CmmHg,左眼C19CmmHg.HFA24-2にて,MD値は右眼.18.08CdB,左眼C.13.14CdB.両眼重ね合わせ視野では,左上方に視野障害が認められた.身体障害者手帳は視野障害C5級に該当した.同年C12月にCDSを施行したところ,15場面中C7場面(信号無視C3回,止まれの見落としC2回,左からの飛び出しC2回)で事故を起こした.リプレイ映像で確認したところ,赤信号や一時停止の標識は視野障害部位には一致せず(図2),赤信号や止まれの標識を確認しているのにもかかわらず,停止せずに走行していることがわかった.MMSECtotalCscoreはC30点中C22点(orientationMMSEはC10点中C7点,recallMMSEはC6点中C5点,attentionMMSEはC5点中C1点,lan-guageMMSEはC9点中C9点)であり,認知症による判断力の低下が疑われたため,認知症専門病院受診を勧めた.その結果,「軽度認知機能障害」と診断され,経過観察となった.眼科担当医より,移動にあたっては,なるべく公共の交通手段を利用するように勧めたところ,家族の説得もあり,2020年C7月に運転を中止した.CII考按今回,筆者らは,高齢緑内障患者に対して,DSの結果とMMSEを照らし合わせることにより,認知機能障害の可能性を明らかにすることができたC2例を報告した.DSを用いた高齢者に対する安全運転のための教育は,自動車教習所での高齢者講習時などに行われているが,非眼科医療機関で行うため,個々の眼疾患を把握して教育することは不可能である.一方,眼科医療機関でCDSを用いた場合は,視野障害の程度を把握したうえで運転アドバイスができると両眼重ね合わせ視野図177歳,男性(緑内障)上:Humphrey視野計中心C24-2プログラムにて,MD値は右眼C.24.73dB,左眼C.22.86CdBであった.下:DSを施行したところ,赤信号の場面で停止線オーバーをしたため,リプレイ映像で説明しようとしたところ,「信号を見ていると,信号しか見えない.黄色い車を見ていると,黄色い車しか見えない.」と述べた,「君たちは見えるのか」と問われた.リプレイ映像の黄色矢印は注視点(赤)の位置を示している.いう利点がある.筆者らは,日本の眼科医療機関としては初めてとなる「運転外来」を開設した.アイトラッカー搭載DSを用いて,走行中の視線を記録して,リプレイ映像を見ながら,対象物を認識できなかったことにより,事故が起こりうることを,患者や家族に説明している.そして,視野検査結果と照らし合わせてどのような運転場面で注意が必要かを助言している.しかし,症例C1では,視野障害により事故が起こりうることを説明しても,自身の視野障害を理解できなかった.また,症例C2では,リプレイ機能を用いて,患者の視線を確認したところ,信号や一時停止を確認しながら,通り過ぎていたことがわかった.両症例とも,MMSEの点数が低かったことから認知症が疑われた.MMSEは,認知症スクリーニングテストとして有用な検査であり,orientationMMSE(時間と場所の見当識),recallMMSE(3単語の即時再生,遅延再生),attentionCMMSE(100からC7を順に引く計算),languageMMSE(復唱,3段階命令,図形模写,書字作文,読字理解,物品呼称)の四つに分類され,11項目の質問形式で構成されている5).O’Connorらは,高齢者ドライバーC419名を対象に,MMSEscore25点未満の認知機能低下(cognitiveCimpairment:CI)群C172名と,25点以上の非認知機能低下(nocognitiveim-両眼重ね合わせ視野図284歳,女性(緑内障)上:Humphrey視野計中心C24-2プログラムにて,MD値は右眼C.18.08dB,左眼C.13.14CdBであった.下:DSを施行したところ,信号や止まれの標識の場面で,停止せずに通り過ぎてしまった.「止まれ」の標識の場面で,注視点(赤点)に両眼視野の結果を重ねると(左図),止まれの標識は視野障害部位には一致せず(右図),止まれの標識を確認しているのにもかかわらず,停止せずに,通り過ぎたことがわかった.リプレイ映像の黄色矢印は注視点(赤)を示している.pairment:NCI)群C247名に分けて,運転能力とCMMSEスコアとの関連を検討した.その結果,CI群はCMMSECtotalscore,attentionMMSE,NCI群はCMMSEtotalscore,ori-entationMMSEと運転能力が関連しており,自動車運転能力の予測に対するCMMSEが有用であったと報告している6).本症例はCMMSEtotalscoreは,症例C1がC30点中C23点,症例2が30点中22点,attentionMMSEが2例とも5点中1点と低下しており,2例とも既報と一致していた.近年は,認知症の高齢ドライバーによる交通死亡事故が報道されることが多く,警察庁では,2017年に道路交通法を改訂し,75歳以上のドライバーで,特定の事故を起こした場合は,3年ごとの高齢者講習での認知機能検査を待たずに,すみやかに認知機能検査を受けることになった.また,高齢者が自動ブレーキ装置のついた車種のみ運転できる限定免許の導入を検討するなど,高齢ドライバーの事故の削減のための対策が検討されている.今後,眼科医療機関でも,高齢視野障害患者に対しては,認知機能や身体能力が低下していることを念頭に置いて,患者指導をする必要があると考えられる.緑内障は,自覚症状に乏しい疾患であるが,本症例のように,認知機能低下が加わった場合,視野障害が原因と思われる事故を起こしていても,そのことを理解できないことが考えられる.また,視野障害と一致しない事故場面がある場合,MMSEの結果をふまえて判断することで,DSでの事故が,認知機能の低下によるものか,身体能力の低下によるものかを区別することができる.いずれの場合でも,家族を交えてよく説明し,公共の交通手段を利用するよう勧めることが大事である.また,MMSEが低値の場合,認知症専門病院への受診を勧めることも必要である.高齢者の緑内障に対するCDSは,視野障害に対する運転適性の評価だけでなく,ときには認知症の検出にも役立つことがあると考えられた.高齢視野障害患者の運転指導のためには,アイトラッカー搭載CDSを用い,認知機能検査結果を考慮して眼科医療機関で指導を行うことが有効であると考えられた.文献1)青木由紀,国松志保,原岳ほか:自治医科大学緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者のC2症例.あたらしい眼科C25:1011-1016,C20082)IwaseA,SuzukiY,AraieM:TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C20043)Kunimatsu-SanukiS,IwaseA,AraieMetal:Anassess-mentofdriving.tnessinpatientswithvisualimpairmenttoCunderstandCtheCelevatedCriskCofCmotorCvehicleCacci-dents.BMJOpenC5:e006379,C20154)Kunimatsu-SanukiS,IwaseA,AraieMetal:Theroleofspeci.cCvisualCsub.eldsCinCcollisionsCwithConcomingCcarsCduringCsimulatedCdrivingCinCpatientsCwithCadvancedCglau-coma.BrJOphthalmol101:896-901,C20175)FolsteinCMF,CFolsteinCSE,CMcHughPR:C“Mini-mentalCstate”.Apracticalmethodforgradingthecognitivestateofpatientsfortheclinician.JPsychiatrResC12:189-198,C19756)OC’ConnorCMG,CDuncansonCH,CHollisAM:UseCofCtheCMMSECinCtheCpredictionCofCdriving.tness:RelevanceCofCspeci.csubtests.JAmGeriatrSoc67:790-793,C2019***

基礎研究コラム:54.近視研究の進歩

2021年11月30日 火曜日

基礎研究コラム近視研究の進歩VisualregulationofaxiallengthVisualregulationofaxiallengthとは,与えられた視覚環境に応じて,網膜上でデフォーカスを最小にするように眼軸長を伸展させるシグナル機構のことです(図1).Smithら1)は,実験近視モデルの周辺部網膜のみに後方へのデフォーカスを与えると,対応する局所に眼軸長の過伸展が生じることを明らかにしました.古くから実験近視モデルの研究により,アマクリン細胞が産生するドパミンが近視化を抑制することが示唆されていました.最近,Tekinら2)が,SLITRK6ノックアウトマウスにみられる視細胞や双極細胞との間のリボンシナプス形成遅延が眼軸長伸長と密接に関連することを報告しました.眼軸長伸長の機序の一つとして,周辺網膜におけるデフォーカスの役割が注目されており,アマクリン細胞,視細胞,双極細胞などによって周辺網膜に形成されるシグナル回路が関係すると考えられています.臨床的にも学童期の近視進行治療目的に,周辺部のデフォーカスを補正するための特殊な眼鏡やコンタクトレンズの研究が進められており,近視の本態である眼軸長伸長を予防できる日が来るかもしれません.グローバルスケールでの大規模スタディ近年の近視者の世界規模の増加により,世界各地で近視の疫学研究が進められています.近視は環境要因と遺伝要因が相互に働き,長期にわたって変化してゆく疾患であり,疫学研究の集積もまた近視診療の進歩に貢献しています.6~7歳を対象とした近視のC1年発症率の人種間の比較を図2にまとめましたが,近視発症には人種差があり,白人に比べてアジア人に多いことがわかります.世界有数の近視国であるわ周辺網膜でのデフォーカス監修北澤耕司・村上祐介・中川卓上田瑛美九州大学大学院医学研究院眼科学分野が国は先駆的に近視研究を発信することが重要です.筆者らの久山町研究3)では,40歳以上の地域住民を対象として過去C10年間の近視および長眼軸長(26.5mm以上)の頻度の変化について検討しました.その結果,近視,長眼軸長の頻度は過去C10年間においていずれも有意に増加していました.さらに,近視の重篤な合併症の一つである近視性黄斑症の発症率と危険因子を調査しました.近視性黄斑症のない久山町住民をC5年間追跡し,わが国の近視性黄斑症の発症率は他のアジア圏と比べ高率であること,また,その危険因子が加齢と眼軸長が長いことであることを明らかにしました.今後の展望近視診療は近年目覚ましく進歩してきました.しかし,今なお,近視の発症や進行および近視合併症の発症を完全に止めることはできていません.近視における基礎研究や疫学研究などの多角的なアプローチにより,眼軸長伸展のシグナル機構の解明,近視発症の実態把握,近視性黄斑症の発症要因の同定につながっています.これらの研究結果の蓄積により,近視発症や進行が抑制され,近年の近視および近視性黄斑症の増加に歯止めがかかることが期待されます.文献1)SmithEL3rd,HungLF,HuangJ:Relativeperipheralhyperopicdefocusalterscentralrefractivedevelopmentininfantmonkeys.VisionRes49:2386-2392,20092)TekinM,ChiozaBA,MatsumotoYetal:SLITRK6mutationscausemyopiaanddeafnessinhumansandmice.JClinInvest123:2094-2102,20133)UedaE,YasudaM,FujiwaraKetal:Five-yearinci-denceofmyopicmaculopathyinageneralJapanesepopu-lation:theHisayamastudy.JAMAOphthalmol138:887-893,2020CNICERstudyヨーロッパ系白人種2.2%Wangetal東アジア系人種19.1%Orindastudy白人種2.8%SCORMstudy東南アジア系人種15.9%SydneyMyopiastudy白人種1.3%東アジア系人種6.9%図2各人種における近視の発症率図1Visualregulationofaxiallengthグローバルスケールでの大規模スタディにより,アジア系人種は白人種に実験近視モデルを用いた研究により,眼軸長比べて近視の発症率が高いことがわかった.研究時期C2005年以降,対象の視覚制御の機能は黄斑部のみではなく,周年齢6~7歳,C1年発症率に統一.近視は等価球面度数-0.5D以上で定義.辺網膜のデフォーカスが関与していることがNICER:CNorthernIrelandchildhooderrorsofrefraction,SCORM:C報告されている.CSingaporecohortstudyoftheriskfactorsformyopia.C(77)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C13150910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス: 222.硝子体手術後長期経過した核白内障に対する手術(中級編)

2021年11月30日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載222222硝子体手術後長期経過した核白内障に対する手術(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに硝子体手術時に水晶体を温存した例では,術後に核白内障が進行しやすくなることはよく知られている1).一般に硝子体術後に進行する核白内障は,見かけよりは柔らかいことが多いとされているが,硝子体手術後長期を経過した患者ではその限りではない.筆者らは硝子体手術後に受診が途絶え,高度の核硬化をきたした2例に対して白内障手術を施行し,その問題点につき報告したことがある2).●症例症例1:76歳,男性.20年前に両眼の裂孔原性網膜.離に対して水晶体温存硝子体手術が施行されていた.術後,両眼とも網膜は復位したが,その後通院が途絶え,20年後に近医で両眼の褐色核白内障を指摘され紹介受診となった.両眼ともほぼ正視眼で矯正視力は右眼(0.06),左眼(0.3)であった.核硬化はEmery-Little分類にて両眼grade5であった(図1).両眼に対して水晶体.外摘出術+眼内レンズ挿入術を施行した.白内障手術は大きめの前.切開後に水晶体核を前房内に脱臼させ,圧出法にて娩出した.無硝子体眼のため核が沈下し,核の娩出がやや困難であった.また,水晶体皮質の吸引時にZinn小帯が脆弱化していることが確認されたが,眼内レンズは.内に固定できた.術後矯正視力は右眼(0.15),左眼(0.6)に改善した.症例2:74歳,男性.右眼の黄斑円孔網膜.離に対して,12年前に水晶体温存硝子体手術が施行されていた.その後通院が途絶えていたが,最近右眼の視力がさらに低下したため近医から紹介受診となった.右眼視力は50cm手動弁(矯正不能).右眼に高度の褐色核白内障を認め,核硬化の程度はEmery-Little分類にてgrade5,手術既往のない左眼の白内障の核硬化は(75)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1症例1の細隙灯顕微鏡所見(a:右眼,b:左眼)Emery-Little分類にてgrade5の褐色白内障を認める.grade2であった.右眼に対して超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行した.術中所見として前房の安定性が不良であり,症例1と同様にZinn小帯が脆弱化していた.しかし,Zinn小帯断裂は生じることなく,眼内レンズも.内に固定できた.右眼視力矯正は(0.08)に改善した.●硝子体手術後長期経過した核白内障に対する白内障手術時の問題点50歳以上の患者は硝子体手術時に白内障手術を併施することが多いので,今回のような患者はきわめてまれなケースと考えられるが,種々の理由で水晶体温存硝子体手術後の核白内障が高度に進行した症例に遭遇することはありえる.一般に硝子体手術後の核白内障は白色調の混濁で始まることが多く,細隙灯顕微鏡所見で予測されるよりも核が柔らかいことが多い.しかし,今回の2症例では,硝子体手術後,非常に長期間が経過していたため,褐色白内障へと進行していた.核もきわめて硬く,症例1では通常の超音波水晶体乳化吸引術は困難と判断して水晶体.外摘出術を選択した.硝子体手術後の白内障手術は,硝子体の支えがなく,核の沈下および眼球虚脱などが生じやすい.水晶体.外摘出術を施行するときには核の娩出が困難で,しかもZinn小帯および後.が脆弱化していることも多いため,Zinn小帯断裂や後.破損などの合併症を生じやすい.硝子体手術後の核白内障は,長期間放置することなく,核が褐色に変化する前に白内障手術を施行すべきと考えられる.文献1)小椋祐一郎,北川桂子,荻野誠周:硝子体手術後の水晶体変化について.日眼会誌97:627-631,19932)村井克行,南政宏,植木麻理ほか:硝子体手術後長期経過した核白内障に対する手術.眼科46:699-702,2004あたらしい眼科Vol.38,No.11,20211313

抗VEGF治療:光干渉断層血管撮影の網膜静脈分枝閉塞症への活用

2021年11月30日 火曜日

●連載113監修=安川力髙橋寛二93光干渉断層血管撮影の網膜静脈坪井孝太郎OregonHealthandScienceUniversity上級研究員分枝閉塞症への活用光干渉断層血管撮影(OCTA)は網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に特徴的な血管異常を蛍光眼底造影と同等に捉えることが可能である.また,OCTAを用いた定量的な評価は,視力予後に大きく関与する遷延する黄斑浮腫を予測する因子となりうる可能性があり,臨床上有用である.OCTAの診断への活用網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,静脈閉塞により閉塞静脈領域の毛細血管が傷害され,網膜出血,網膜浮腫,虚血を生じる疾患である.従来はフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)を用いて虚血範囲の診断や新生血管の有無が判定されてきたが,最近では光干渉断層血管撮影(opticalCcoherencetomographyCangiography:OCTA)を使用して,それらの診断が可能となってきた.図1に示すように,FAにて観察される所見の多くはCOCTAにおいても観察することが可能であり,造影剤の漏出がないことにより,血管の形態的な変化に関してはOCTAのほうが観察に適していると思われる.一方で,FAにおける新生血管からの漏出など,診断の役に立つ所見がCOCTAでは観察することができない.しかし,OCTAの特徴である層別解析における正確なセグメンテーションにより,新生血管と正常血管を分離・検出することが可能である.また,撮影範囲に関しては,従来のCFAに利点がある.第一世代のCOCTAの撮影画角は30°程度,最近のCswept-sourceOCTAでは,高速なCAスキャン速度により,1回の撮影範囲がC75~100°程度の機種もあるが,周辺部はアーティファクトの影響を受けやすく,観察が困難な場合も少なくない1).一方でFAとCOCTAを比較した研究では,黄斑部の虚血状態と広角CFAの虚血範囲は相関するという報告や,広角モンタージュCOCTAを使用すれば,一部周辺部の新生血管の見逃しはあるものの,新生血管を認める患者では少なくとも一つ以上の新生血管がCOCTA撮影範囲内に認められ,一定の拾いあげに有用であるとする報告もある2).遷延する黄斑浮腫とOCTA抗CVEGF薬硝子体内注射はCBRVOに伴う黄斑浮腫への有効な治療法であり,BRAVO試験ではC12カ月目での視機能改善は,治療開始前から平均C18.3文字(ラニビズマブC0.5Cmg,6回+必要時投与群)と報告されている.一方で,黄斑浮腫が遷延する症例では,長期間の治療が必要になるのみならず,再発を繰り返すことによる視力低下が問題とされている.最近の研究で,50眼のBRVO患者を平均C58カ月経過観察した結果,24カ月目まで視機能改善が認められ,ピーク時は平均C24文字の改善,平均C76文字(小数視力約C0.6)の視力が得られた.しかし,その後ピーク時視力は維持できず,最終受診時無灌流領域拡張毛細血管(側副血行路)網膜新生血管虹彩新生血管図1BRVOにおける網膜血管異常に関するFAとOCTAの比較無灌流領域の描出や拡張毛細血管は,造影剤の漏出のないCOCTAで観察しやすい.一方,網膜新生血管や虹彩新生血管は造影剤の漏出がないため,OCTAではセグメンテーションにより判定する必要がある.OCTA造影検査(73)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C13110910-1810/21/\100/頁/JCOPY拡張毛細血管モンタージュOCTA正常毛細血管(側副血行路)深層毛細血管浅層毛細血管放射状乳頭周囲毛細血管図2各層ごとに観察される拡張毛細血管(側副血行路)それぞれオリジナルの毛細血管に似た形状の拡張毛細血管が観察される.では平均C63文字(小数視力C0.4)とピーク時の視力から13文字減少する結果となったことが報告されている.より長期間の視力維持を達成するためには,持続的なVEGF阻害効果をもつ新規治療法と同時に,難治性黄斑浮腫症例,いわゆる遷延する症例を早期に予測し,より短い間隔での経過観察や,治療方法の変更を考慮することが重要であると思われる.遷延する黄斑浮腫を予測する因子として,いくつかの候補が報告されている.FAでは,虚血が強い症例よりも,中途半端な毛細血管脱落のほうが遷延する症例と関連する可能性が報告されていた.近年,OCTAを用いた定量的評価にて,患側の血管脱落の程度が強いほうが,年間の抗CVEGF薬投与回数が少なく,FAによる観察と矛盾しないことがわかった3).このような現象の理由としては,完全な虚血網膜では内層網膜が速やかに菲薄化するため,結果としてCVEGF産生が長期化しないのに対して,毛細血管脱落が中程度である場合,網膜の虚血状態が長期間続き,VEGF産生が長期化し,結果として浮腫が長引く可能性があるのではと考えられている.また,筆者らは深層毛細血管に着目し,深層毛細血管の脱落が多い患者は,遷延する黄斑浮腫を伴う場合が多いことを報告した4).これは深層毛細血管が静脈系につながる毛細血管であり,BRVOでは傷害されやすく,また網膜内の水輸送に関与している深層毛細血管が傷害されると網膜内の浮腫が血管内へ回収されにくくなるという仮説に基づいている.そしてCOCTAによりしばしば観察される拡張毛細血管や側副血行路形成も,遷延する症例を示唆する所見である可能性がある(図2)5,6).以前は側副血行路形成により,閉塞静脈を迂回する血流のルートが構築されることにより,黄斑浮腫は改善へ向かうと考えられていたが,最近の研究では,拡張毛細血管や側副血行路形成そのものが血管内腔圧上昇の結果である可能性があり,そのような血管内腔圧上昇が高度な場合は,黄斑浮腫が遷延する可能性が高いという仮説が提起されている.おわりにこのようなCBRVOにおける遷延する黄斑浮腫を予測するバイオマーカーは,患者予後を推測するのみならず,治療方法の検討にも役立つと思われる.また血管内腔圧上昇と浮腫遷延の関係が強いものであれば,高血圧管理の重要性はこれまで以上に高まる可能性もあると考えられ,今後の研究が待たれるところである.文献1)ShirakiA,SakimotoS,TsuboiKetal:Evaluationofreti-nalCnonperfusionCinCbranchCretinalCveinCocclusionCusingCwide.eldopticalcoherencetomographyangiography.ActaOphthalmolC97:e913.e918,C20192)KadomotoCS,CMuraokaCY,CUjiCACetal:NonperfusionCareaquanti.cationinbranchretinalveinocclusion:awide.eldopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCstudy.CRetinaC2020.Publishaheadofprint3)HasegawaCT,CMurakawaCS,CMarukoCICetal:CorrelationCbetweenreductioninmacularvesseldensityandfrequen-cyofintravitrealranibizumabformacularoedemaineyeswithbranchretinalveinocclusion.BrJOphthalmol103:C72-77,C20184)TsuboiK,IshidaY,YuichiroIetal:Gapincapillaryper-fusiononopticalcoherencetomographyangiographyasso-ciatedCwithCpersistentCmacularCedemaCinCbranchCretinalCveinCocclusion.CInvestCOpthalmolCVisCSciC58:2038-2043,C20175)TsuboiCK,CSasajimaCH,CKameiM:CollateralCvesselsCinCbranchCretinalCveinocclusion:anatomicCandCfunctionalCanalysesCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.COphthalmolRetina3:767-776,C20196)KogoCT,CMuraokaCY,CUjiCACetal:AngiographicCriskCfac-torsCforCrecurrenceCofCmacularCedemaCassociatedCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CRetina2020.CPublishCaheadCofprintC1312あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021(74)