●連載257監修=山本哲也福地健郎257.チューブシャント手術と角膜内皮細胞岩﨑健太郎福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学チューブシャント手術は眼圧下降に優れる術式であり,難治性緑内障に対する術式として普及している.代表的な合併症の一つに角膜内皮細胞の減少がある.とくに,前房に挿入するチューブシャント手術で角膜内皮細胞の減少の頻度が高く,チューブ毛様溝挿入や毛様体扁平部挿入を選択する術者が増えてきている.●はじめに現在,国内にて行われているチューブシャント手術の術式は,Baerveldt緑内障インプラントとCAhmed緑内障バルブがある.チューブシャント手術では,代表的な合併症の一つに角膜内皮障害があり,チューブ前房挿入により角膜内皮細胞減少率が高いとされている.そのため,現在では角膜内皮保護目的にチューブを毛様溝に挿入する術者が多いと思われる.本稿では,前房,毛様溝,毛様体扁平部とそれぞれのチューブ挿入部位についての角膜内皮への影響について解説する.C●前房挿入チューブ前房挿入については,角膜内皮障害の報告が多数ある.Ahmed緑内障バルブ前房挿入の角膜内皮障害については,術後C1年でC12.3%減少したとの報告1)や,術後C2年でC18.6%減少し,角膜部位別でみるとチューブに近い位置でもっとも減少率が高かったとの報告がある2).Baerveldt緑内障インプラント前房挿入の角膜内皮障害については,術後C3年でC13.6%減少し,角膜部位別ではチューブに近い位置でもっとも減少率が高かったとの報告や3),術後C5年では角膜中心でC36.8%減少し,チューブに近い位置ではなんとC50.1%減少したとの報告がある4).このように,チューブを前房へ挿入した場合,角膜内皮細胞が減少するのは間違いない.さらに,チューブと角膜の距離が近い3),挿入部位がCSchwalbe線に近い4),チューブと角膜のなす角度が小さいこと5)などが角膜内皮細胞減少のリスク因子とされており,チューブ挿入条件が悪いと減少は加速してしまうことがわかる(図1).C●毛様溝挿入チューブ毛様溝挿入では,角膜内皮細胞減少が生じにくいと思われていたが,わが国からの報告では術後C2年でC14.6%減少したとされた6).また,前房挿入と毛様溝挿入の比較検討が複数なされており,毛様溝挿入のほうが角膜内皮細胞の減少率は低いと報告されている.代表的な報告では,前房挿入で-1.37%/月,毛様溝挿入で-0.72%/月と毛様溝のほうが有意に減少率が低いとされた7).このように,毛様溝挿入でも角膜内皮細胞減少は生じてしまうが,前房挿入に比べると減少率は低い.毛様溝挿入では,少なくともチューブの直接的な角膜へ図1前房挿入にて水疱性角膜症に至った例a:有水晶体眼にチューブ前房挿入.b:チューブ角度が悪く角膜内皮細胞減少が加速.c:白内障手術とチューブトリミングを行ったが,水疱性角膜症に至った.(71)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C13090910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2毛様溝挿入例a:チューブが虹彩裏面に挿入されている.b:前眼部COCTでもチューブが虹彩裏面に確認できる.の接触が生じにくいことがその結果につながっていると考えられる(図2).C●毛様体扁平部挿入チューブ毛様体扁平部挿入では,角膜内皮細胞減少はほとんど生じていないという報告が複数ある5,8).一方で,減少するものの前房挿入と比較すると減少率は低いという報告もある9).毛様溝挿入との直接的な比較については報告されていないが,チューブの位置関係やそれぞれの報告から考えれば,毛様体扁平部挿入のほうが減少率は低いと考えてよいであろう.以上の報告から,前房>毛様溝>毛様体扁平部の順で角膜内皮細胞減少が生じると考えられる.そこで,毛様体扁平部挿入の場合は硝子体手術が施行されていることが条件となるため,硝子体手術既往眼であれば毛様体扁平部挿入を選択し,硝子体手術既往眼でなければ毛様溝挿入を選択すべきである.毛様体扁平部挿入をするために硝子体手術を併用すべきか否かは,未だ議論が分かれている.筆者は毛様体扁平部挿入目的の硝子体手術併用はしていない.また,有水晶体眼で白内障があれば白内障手術を併用して毛様溝挿入を施行している.ただし,小児などの有水晶体眼については前房挿入を選択せざるをえない場合もある.C●おわりにチューブシャント手術がわが国で使用されはじめて約9年が経過し,その有効性は確立されてきた.一方で,角膜内皮障害についても多数の報告がなされ,今後,角膜内皮細胞減少により水疱性角膜症に至る患者が増加していくことが懸念されている.角膜内皮障害は未だメカニズムが不明な部分も多いが,チューブ挿入部位によりC1310あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021角膜内皮細胞減少を確実に軽減できるため,まずはその点から対応していくべきである.文献1)KimMS,KimKN,KimC:ChangesincornealendothelialcellafterAhmedglaucomavalveimplantationandtrabec-ulectomy:1-yearCfollow-up.CKoreanCJCOphthalmolC30:C416,C20162)LeeCE-K,CYunCY-J,CLeeCJ-ECetal:ChangesCinCcornealCendothelialCcellsCafterCAhmedCglaucomaCvalveCimplanta-tion:2-yearCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC148:361-367,C20093)TanAN,WebersCAB,BerendschotTTJMetal:CornealendothelialCcellClossCafterCBaerveldtCglaucomaCdrainageCdeviceCimplantationCinCtheCanteriorCchamber.CActaCOph-thalmolC95:91-96,C20174)HauCS,CBunceCC,CBartonK:CornealCendothelialCcellClossCafterCBaerveldtCglaucomaCimplantCsurgery.COphthalmolCGlaucomaC4:20-31,C20215)IwasakiCK,CArimuraCS,CTakiharaCYCetal:ProspectiveCcohortCstudyCofCcornealCendothelialCcellClossCafterCBaer-veldtCglaucomaCimplantation.CPLoSCOneC13:e0201342,C20186)MurakamiCY,CHirookaCK,CYuasaCYCetal:DeterminantsCofCcornealCendothelialCcellClossCafterCsulcusCplacementCofCAhmedandBaerveldtdrainagedevicesurgery.BrJOph-thalmolC105:925-928,C20217)ZhangCQ,CLiuCY,CThanapaisalCSCetal:TheCe.ectCofCtubeClocationConCcornealCendothelialCcellsCinCpatientsCwithCAhmedCglaucomaCvalve.COphthalmologyC128:218-226,C20218)TojoN,HayashiA,HamadaM:E.ectsofBaerveldtglau-comaCimplantCsurgeryConCcornealCendothelialCcellsCofCpatientsCwithCnoChistoryCofCtrabeculectomy.CClinCOphthal-molC13:2333-2340,C20199)SeoJW,LeeJY,NamDHetal:Comparisonofthechang-esincornealendothelialcellsafterparsplanaandanteriorchamberAhmedvalveimplant.JOphthalmolID:486832,C2015(72)