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緑内障:チューブシャント手術と角膜内皮細胞

2021年11月30日 火曜日

●連載257監修=山本哲也福地健郎257.チューブシャント手術と角膜内皮細胞岩﨑健太郎福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学チューブシャント手術は眼圧下降に優れる術式であり,難治性緑内障に対する術式として普及している.代表的な合併症の一つに角膜内皮細胞の減少がある.とくに,前房に挿入するチューブシャント手術で角膜内皮細胞の減少の頻度が高く,チューブ毛様溝挿入や毛様体扁平部挿入を選択する術者が増えてきている.●はじめに現在,国内にて行われているチューブシャント手術の術式は,Baerveldt緑内障インプラントとCAhmed緑内障バルブがある.チューブシャント手術では,代表的な合併症の一つに角膜内皮障害があり,チューブ前房挿入により角膜内皮細胞減少率が高いとされている.そのため,現在では角膜内皮保護目的にチューブを毛様溝に挿入する術者が多いと思われる.本稿では,前房,毛様溝,毛様体扁平部とそれぞれのチューブ挿入部位についての角膜内皮への影響について解説する.C●前房挿入チューブ前房挿入については,角膜内皮障害の報告が多数ある.Ahmed緑内障バルブ前房挿入の角膜内皮障害については,術後C1年でC12.3%減少したとの報告1)や,術後C2年でC18.6%減少し,角膜部位別でみるとチューブに近い位置でもっとも減少率が高かったとの報告がある2).Baerveldt緑内障インプラント前房挿入の角膜内皮障害については,術後C3年でC13.6%減少し,角膜部位別ではチューブに近い位置でもっとも減少率が高かったとの報告や3),術後C5年では角膜中心でC36.8%減少し,チューブに近い位置ではなんとC50.1%減少したとの報告がある4).このように,チューブを前房へ挿入した場合,角膜内皮細胞が減少するのは間違いない.さらに,チューブと角膜の距離が近い3),挿入部位がCSchwalbe線に近い4),チューブと角膜のなす角度が小さいこと5)などが角膜内皮細胞減少のリスク因子とされており,チューブ挿入条件が悪いと減少は加速してしまうことがわかる(図1).C●毛様溝挿入チューブ毛様溝挿入では,角膜内皮細胞減少が生じにくいと思われていたが,わが国からの報告では術後C2年でC14.6%減少したとされた6).また,前房挿入と毛様溝挿入の比較検討が複数なされており,毛様溝挿入のほうが角膜内皮細胞の減少率は低いと報告されている.代表的な報告では,前房挿入で-1.37%/月,毛様溝挿入で-0.72%/月と毛様溝のほうが有意に減少率が低いとされた7).このように,毛様溝挿入でも角膜内皮細胞減少は生じてしまうが,前房挿入に比べると減少率は低い.毛様溝挿入では,少なくともチューブの直接的な角膜へ図1前房挿入にて水疱性角膜症に至った例a:有水晶体眼にチューブ前房挿入.b:チューブ角度が悪く角膜内皮細胞減少が加速.c:白内障手術とチューブトリミングを行ったが,水疱性角膜症に至った.(71)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C13090910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2毛様溝挿入例a:チューブが虹彩裏面に挿入されている.b:前眼部COCTでもチューブが虹彩裏面に確認できる.の接触が生じにくいことがその結果につながっていると考えられる(図2).C●毛様体扁平部挿入チューブ毛様体扁平部挿入では,角膜内皮細胞減少はほとんど生じていないという報告が複数ある5,8).一方で,減少するものの前房挿入と比較すると減少率は低いという報告もある9).毛様溝挿入との直接的な比較については報告されていないが,チューブの位置関係やそれぞれの報告から考えれば,毛様体扁平部挿入のほうが減少率は低いと考えてよいであろう.以上の報告から,前房>毛様溝>毛様体扁平部の順で角膜内皮細胞減少が生じると考えられる.そこで,毛様体扁平部挿入の場合は硝子体手術が施行されていることが条件となるため,硝子体手術既往眼であれば毛様体扁平部挿入を選択し,硝子体手術既往眼でなければ毛様溝挿入を選択すべきである.毛様体扁平部挿入をするために硝子体手術を併用すべきか否かは,未だ議論が分かれている.筆者は毛様体扁平部挿入目的の硝子体手術併用はしていない.また,有水晶体眼で白内障があれば白内障手術を併用して毛様溝挿入を施行している.ただし,小児などの有水晶体眼については前房挿入を選択せざるをえない場合もある.C●おわりにチューブシャント手術がわが国で使用されはじめて約9年が経過し,その有効性は確立されてきた.一方で,角膜内皮障害についても多数の報告がなされ,今後,角膜内皮細胞減少により水疱性角膜症に至る患者が増加していくことが懸念されている.角膜内皮障害は未だメカニズムが不明な部分も多いが,チューブ挿入部位によりC1310あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021角膜内皮細胞減少を確実に軽減できるため,まずはその点から対応していくべきである.文献1)KimMS,KimKN,KimC:ChangesincornealendothelialcellafterAhmedglaucomavalveimplantationandtrabec-ulectomy:1-yearCfollow-up.CKoreanCJCOphthalmolC30:C416,C20162)LeeCE-K,CYunCY-J,CLeeCJ-ECetal:ChangesCinCcornealCendothelialCcellsCafterCAhmedCglaucomaCvalveCimplanta-tion:2-yearCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC148:361-367,C20093)TanAN,WebersCAB,BerendschotTTJMetal:CornealendothelialCcellClossCafterCBaerveldtCglaucomaCdrainageCdeviceCimplantationCinCtheCanteriorCchamber.CActaCOph-thalmolC95:91-96,C20174)HauCS,CBunceCC,CBartonK:CornealCendothelialCcellClossCafterCBaerveldtCglaucomaCimplantCsurgery.COphthalmolCGlaucomaC4:20-31,C20215)IwasakiCK,CArimuraCS,CTakiharaCYCetal:ProspectiveCcohortCstudyCofCcornealCendothelialCcellClossCafterCBaer-veldtCglaucomaCimplantation.CPLoSCOneC13:e0201342,C20186)MurakamiCY,CHirookaCK,CYuasaCYCetal:DeterminantsCofCcornealCendothelialCcellClossCafterCsulcusCplacementCofCAhmedandBaerveldtdrainagedevicesurgery.BrJOph-thalmolC105:925-928,C20217)ZhangCQ,CLiuCY,CThanapaisalCSCetal:TheCe.ectCofCtubeClocationConCcornealCendothelialCcellsCinCpatientsCwithCAhmedCglaucomaCvalve.COphthalmologyC128:218-226,C20218)TojoN,HayashiA,HamadaM:E.ectsofBaerveldtglau-comaCimplantCsurgeryConCcornealCendothelialCcellsCofCpatientsCwithCnoChistoryCofCtrabeculectomy.CClinCOphthal-molC13:2333-2340,C20199)SeoJW,LeeJY,NamDHetal:Comparisonofthechang-esincornealendothelialcellsafterparsplanaandanteriorchamberAhmedvalveimplant.JOphthalmolID:486832,C2015(72)

屈折矯正手術:小児へのクロスリンキング

2021年11月30日 火曜日

監修=木下茂●連載258大橋裕一坪田一男258.小児へのクロスリンキング小橋英長慶應義塾大学医学部眼科学教室角膜クロスリンキングは,円錐角膜の進行抑制のための治療法として安全で有効であることが多くの臨床研究で証明されている.近年,診断装置の進歩により円錐角膜を臨床現場で目にする機会が増えている.病期進行が著しいとされるC18歳未満の小児円錐角膜例に対して,予防的観点から角膜クロスリンキングを早い段階で介入する臨床試験が散見されるようになって久しい.今回は,小児円錐角膜に対する角膜クロスリンキングについてメタアナリシスを用いて解説する.C●はじめに角膜クロスリンキング(coronealcrosslinking:CXL)は円錐角膜の進行を停止させる治療である.Wollensak,Seilerら1)によってヒト円錐角膜眼へCCXLが施されてすでにC15年以上経つ.米国ではCGlaukos社製のリボフラビン点眼液(Photrexa)と長波長紫外線(ultravioletA:UVA)照射器(iLink)がCCXLで用いられる承認医薬品と医療機器として臨床で使用されている.進行性の成人円錐角膜に角膜上皮.離を伴うドレスデンCCXL(epi-o.)を行うことで,90%以上の患者で進行抑制効果を発揮することがさまさまな臨床研究で報告されてき筆頭著者Arora2012Caporossi2011Eissa2019Hashemi2013Henriquez2017Iqbal2019Knutsson2018KumarKodavoor2014Magli2013Peyman2015Soeters2014Vinciguerra2012Wise2016Total(95%CI)術前術後1年MeanSDTotalMeanSDTotalWeight59.636.171558.615.15152.6%50.229.29449.538.49416.2%47.191.626846.411.596811.4%49.254.41048.93.9101.7%51.316.442550.375.23254.3%50.783.829150.183.629115.6%59.37.085257.956.92528.9%55.15.33553.84.9356.0%50.1342349.024.6233.9%53.820.726453.310.726410.4%60.59.23158.78.4315.3%51.483.44052.163.5406.9%58.45.54057.66406.9%588588100.0%Heterogeneity:Chi2=14.21,df=12(P=0.29);I2=16%Testforoveralle.ect:Z=3.87(P=0.0001)た.CXLは有効で安全な治療法であることから,進行が必至である小児円錐角膜に対して適応するべきか議論されることが多いが,epi-o.であるため疼痛を伴うことが躊躇される点であった.Epi-o.の疼痛を回避できるCepi-onCXLは,小児に躊躇することなく応用できるが,実際に進行を抑制できるかは不明な点が多い.変法の術式としてCepi-on法のほかに,短時間でCUVA照射を行う高速法およびその組み合わせである高速Cepi-on法も登場し,小児例に試みられている.今回は,筆者が行った小児円錐角膜に対するCCXLを概説したメタアナリシスを紹介する2).標準平均差異標準平均差異Ⅳ,Fixed,95%CIⅣ,Fixed,95%CI0.17[-0.54,0.89]0.08[-0.21,0.36]0.48[0.14,0.82]0.08[-0.80,0.96]0.16[-0.40,0.71]0.16[-0.13,0.45]0.19[-0.19,0.58]0.25[-0.22,0.72]0.25[-0.33,0.83]0.70[0.35,1.06]0.20[-0.30,0.70]-0.20[-0.63,0.24]0.14[-0.30,0.58]0.23[0.11,0.34]-2-1012術前術後1年図1ドレスデン法1年後の角膜最大屈折力(Kmax)の変化術後C1年のCKmaxは有意に平坦化して進行抑制効果を認めている.(文献C2より引用)(69)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C13070910-1810/21/\100/頁/JCOPY術前術後1年筆頭著者MeanSDTotalMeanSDTotalWeightBadawi20170.540.2330.340.223320.6%Eissa20190.181.4680.111.66827.0%Iqbal20190.970.26920.810.259228.6%Ozgurhan20140.520.36440.410.264423.8%Total(95%CI)237237100.0%Heterogeneity:Tau2=0.09;Chi2=10.64,df=3(P=0.01);I2=72%Testforoveralle.ect:Z=2.56(P=0.01)標準平均差異Ⅳ,Random,95%CI0.94[0.43,1.45]0.05[-0.29,0.38]0.62[0.33,0.92]0.35[-0.07,0.77]標準平均差異Ⅳ,Random,95%CI0.47[0.11,0.83]-2-1012術前術後1年図2高速法1年後の裸眼視力の変化術後C1年で裸眼視力は有意に改善した.●ドレスデン法18歳以下の小児円錐角膜に対するCCXLを実施した文献を網羅的に検索し,26本を抽出し,うち術後C1年まで報告したC21本をメタアナリシスに採用した.図1は,ドレスデン法の術前後における角膜最大屈折力(Kmax)を比較したフォレスト分布である2).多くの試験でドレスデン法術後C1年時のCKmaxの平坦化を認め,標準平均差異C0.23Dであり有意であった.そのほか裸眼・矯正視力,最小角膜厚の項目でも有意な改善を認めた.C●高速法高速法は「光化学反応の反応量は光の照射強度と照射時間の積すなわち総エネルギー量が一定であれば同等の効果が得られる」というCBunsen-Roscoeの法則に基づく高出力を用いる短時間照射の方法である.筆者のメタアナリシスでは,高速法をCUVA照射照度C9mW/cmC2以上かつ照射時間C10分以下と定義した.図2に高速法術後C1年の裸眼視力の変化をフォレスト分布で示す2).裸眼視力は有意に改善した.C●Epi.on法および高速epi.on法リボフラビンは分子量が大きいため,そのままの状態では角膜上皮細胞間のバリアを破壊できない.Epi-on法では防腐剤を添加したリボフラビンを使用することで角膜実質の薬剤濃度を増やすことができるが,epi-o.と比較すると少ない.Epi-on法および高速Cepi-on法C1年後のCKmax,裸眼視力および矯正視力は有意な変化を(文献C2より引用)認めなかった.これはCepi-on法が有効性の点で劣るようにみえるが,無治療のコントロール群と比較した試験でないため不明である.成人に対するCCXLにおいて,epi-onとCepi-o.を比較した際,epi-o.CXLのほうが有意に平坦化し,デマルケーションラインが深いepi-o.法のほうが進行抑制効果を発揮するとされている3).C●おわりに過去の文献データに基づき,小児円錐角膜にCCXLをドレスデン法または高速法で実施すると,視力改善と円錐角膜の進行抑制効果が得られることが確認された.従来は病期進行を評価するために通院を一定期間あけていたが,小児の場合は年齢そのものがリスクファクターであるため,診断後速やかにCCXLを計画することが望ましいと考える.また,病期進行を生じやすいその他の因子(眼瞼擦過,アトピー性皮膚炎)を薬物療法でコントロールすることも重要である.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,C20032)KobashiH,HiedaO,ItoiMetal:TheKeratoconusStudyGroupofJapan.Cornealcross-linkingforpaediatrickera-tocus:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CJCClinCMedC10:2626,C20213)KobashiCH,CRongCSS,CCiolinoJB:TransepithelialCversusCepithelium-o.CcornealCcrosslinkingCforCcornealCectasia.CJCataractRefractSurg44:1507-1516,C20181308あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021(70)

眼内レンズ:脱臼CTR-IOLの摘出法

2021年11月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋白木彰彦420.脱臼CTR-IOLの摘出法大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室白内障手術において近年普及してきた水晶体.拡張リング(CTR)であるが,眼内レンズ(IOL)-CTR複合体が偏位および落下した際には抜去操作が煩雑となり,侵襲が大きくなる可能性がある.筆者らが考案した術式は非常に簡便であり,IOLおよびCCTRが抜去の際に不用意に周辺組織を損傷する可能性を軽減し,術者・患者双方にとって安心かつ安全な術式である.●はじめに水晶体.拡張リング(capsularCtensionring:CTR)はCZinn小帯脆弱および断裂例において非常に有用なデバイスとして広く普及している1).日本ではC2014年に国内で認可されC2016年C4月からは保険適用となり,使用件数は年々増加傾向である.CTRの使用例の増加に伴って懸念すべきは,今後見込まれる眼内レンズ(intra-ocularlens:IOL)-CTR複合体落下例の増加である(図1).小切開が求められる昨今,IOL-CTR複合体に対してはさまざまな術式が提案されている2,3).今回筆者らは,CTRインジェクターと池田式前.鑷子を併用して,CTRおよびCIOLを安全かつ容易に抜去する術式を考案した.C●術式(図2)硝子体切除後,広角観察システム下にカッターの吸引のみでCIOL-CTR複合体を持ち上げる.この際にCeyeletが上を向くように持ち上げると,あとの操作が非常に行いやすくなる.次に後硝子体鑷子を使いCeyeletの近くを掴み,カッターから持ち替えて瞳孔領下に複合体を位置させる.その後,直視下に切り替え,硝子体鑷子で複合体を保持したまま池田式前.鑷子でCeyeletに付着している.の郭清を行う.郭清後,池田式前.鑷子のみでCTRを保持する.ここで術者は右手の硝子体鑷子をCTRインジェクターに持ち替え,上方の強角膜創から挿入し,インジェクターのフックにCeyeletをかける.あとはインジェクターのバネの力を利用し,CTRを自動的に巻き取る.ただし,そのまま巻き取るとCIOLが硝子体腔に落下してしまうため,CTRを半分程度回収したところで左手の前.鑷子でCIOLを保持し,再度CTRの回収を進めることでCIOLの落下を防ぐことができる.CTR回収後は通常通りCIOLを切断し抜去する.新しいCIOLを強膜内固定し,術終了となる.(67)C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1硝子体中に落下したIOL.CTR複合体硝子体腔中にCIOL-CTR複合体が落下した症例.この症例では水晶体再建術後C3年が経過していた.●利点と注意点この術式の利点は,まず新たに必要な切開創が少なく小切開であるということである.必要な創口はサイドポートC1カ所とC2.2Cmmの強角膜創のみである.次に,CTRインジェクターの操作が簡易であることであり,バネの力で自動にCCTRを巻き取ることができる.また,IOLを把持しながら操作を行うため,IOLおよびCCTRが不用意に動くことがない.したがって角膜内皮に対しても保護的であると考える.注意点としては,CTRを回収する際のCCTRのCeyeletとインジェクターの角度である(図3).eyeletとフックの向きが垂直になるとCCTRが破損してしまう恐れがあるが,回収する際にCCTRとインジェクターが水平になることを意識すれば,CTRに負荷がかかることなく回収できる.万が一CCTRのCeyeletが破損した場合には,反対側のCeyeletを使用すれば問題なく同様の術式で回収することができる.C●おわりにこの術式は低侵襲かつ簡便に行うことができるため,あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1305図2CTRインジェクターと池田式前.鑷子を使用した術式a:カッターの吸引で複合体を持ち上げていき,硝子体鑷子に持ち替えて前房付近まで持ち上げる.Cb:前.鑷子で複合体を保持して,eyeletにCCTRインジェクターのフックをかける.Cc:CTRインジェクターのバネの力でCCTRを半周近く巻き取る.d:半周近く巻き取ったところで,前.鑷子でCIOLを保持して残りのCCTRを回収する.図3CTRを回収する際の注意点a:CTRとCCTRインジェクターが垂直のまま回収しようとすると,CTRに余計な負荷がかかり破損してしまう場合がある.Cb:CTRとインジェクターを水平にすると,CTRに負荷をかけずに回収することができる.2)AhmedII,ChenSH,KranemannCetal:Surgicalreposi-IOL-CTR複合体落下例に遭遇した際には,ぜひ活用いCtioningofdislocatedcapsulartensionrings.Ophthalmologyただければ幸いである.C112:1725-33.C20053)塙本宰:CTR挿入眼のCCTR+IOL摘出とCIOL2次固定.CIOL&RSC33:448-452,C2019文献4)ShirakiCA,CSakaguchiCH,CNishidaK:ACnew,Csimple,Cand1)MiyoshiCT,CFujieCS,CYoshidaCHCetal:E.ectsCofCcapsularCsafeCsurgicalCtechniqueCforCtheCremovalCofCaCdislocatedCtensionringonsurgicaloutcomesofpremiumintraocularcapsularCtensionCring-intraocularClens-capsularCbagCcom-lensCinCpatientsCwithCsuspectedCzonularCweakness.CPLoSCplex.Retinalcases&briefreportsC2021COneC15:2020

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 6. ソフトコンタクトレンズによる乱視矯正(その1)

2021年11月30日 火曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院6.ソフトコンタクトレンズによる乱視矯正(その1)■はじめに強い角膜乱視眼あるいは不正乱視眼の矯正はハードコンタクトレンズ(HCL)が適応となるが,3D程度までの乱視眼やHCLでは持ち込み乱視や残余乱視が出る患者には乱視用ソフトコンタクトレンズ(torikSCL)でも対応することができる.乱視あるいは老視においては見ている像にボケやダブりが生じるため,精神的なストレスから調節が介入することはよく知られている.今回のセミナーから2回にわたって乱視眼へのSCL処方法について解説する.■調節調節とは毛様体の働きによって水晶体の厚さを変え,水晶体の屈折力を変化させて網膜に鮮明な画像を結ばせる眼の機能である(図1).毛様体が緊張するとZinn小帯が弛緩して,水晶体は自らの弾性で厚くなり屈折力が増加する.調節力が最大に発揮されたときに鮮明に見える点を近点,調節力がまったく働いてないときに見える点を遠点という.近点と遠点間の空間を調節域,この域値をレンズの度数で表わしたものを調節力とよぶ.■無意識に働く調節調節はいろいろな刺激によって無意識に働いてしまう(表1).児童にとって診療所や病院に来ることは不安を伴い,緊張してしまう.白衣を着用した医師や看護師や視能訓練士が近くに来るとなおさらである.近接刺激,緊張刺激,不安刺激が生じてしまうわけである.また,オートレフケラトメータなどを覗かさせる場合は機械近視というものも介入してしまう(図2).そのようなさまざまな刺激によって調節が介入していると思われた場合は,雲霧法を用いて視力検査をするなどの注意を払わねばならない.また,不快刺激には不快感を催すボケ,ダブり,歪みなどの見え方があり,乱視や老視(とくに遠視の人)では,その矯正が調節の介入を防ぐ意味でも必要となる(図3).■乱視用SCLSCLは瞬目によって眼のなかで回転する.乱視用SCLでは乱視度数が配置されており,レンズが回転す表1無意識に調節を生じさせる刺激・近接刺激・緊張刺激・不安刺激・不快刺激図2機械近視機械を覗き込むことによって調節が入ってくる.(クーパービジョン社講演資料より)図1無調節の状態と調節が働いている状態a:毛様体が弛緩して水晶体が薄くなっている.b:毛様体が緊張して水晶体が厚くなっている.(クーパービジョン社講演資料より)(65)あたらしい眼科Vol.38,No.11,202113030910-1810/21/\100/頁/JCOPY図3はっきりとした画像とボケた画像はっきりと見える画像(a)では調節は安定している.ボケた画像(b)では不快刺激によって調節が介入してくる.(クーパービジョン社講演資料より)図4プリズムバラスト・デザインレンズ下方が厚くなるよう中心厚0.13~0.23mm図7ダブルスラブオフレンズ上方と下方にガイドマークが認められる.ガイドマークの位置と形状はレンズの種類によって異なる.に作製されている.ると乱視矯正がうまく機能しないので,レンズの回転を防止するべくデザイン的な工夫がなされている.一つは下方を厚くしてスイカの種理論(指でスイカの種を挟むと厚い方から飛んでいく)で軸を安定させる方法(プリズムバラスト法)(図4,5)で,もう一つは上方と下方を薄くして眼瞼で挟み込むことで軸を安定させる方法(ダブルスラブオフ法)(図6,7)である.また,素材的にも従来のハイドロゲルSCLに加えて,酸素透過性に優れたシリコーンハイドロゲルSCLも登場してきている.■乱視用SCLの適応と不適応筆者は0.75D以上の乱視があれば積極的に乱視用SCLを処方しているが,球面度数が強い場合は,強弱主経線度数の頂点間補正を行ったうえで実際の乱視度数をチェックしなければならない.球面度数が強ければ,視力矯正で必要であった乱視度数よりも実際の乱視度数は軽くなり,乱視用SCLを処方しなくてもすむ場合も出てくるし,加入乱視度数を軽めに設定することができる場合も出てくる.たとえば球面度数が-6.50Dで-2.00Dの乱視度数が眼鏡矯正では必要であった人も,強弱主経線度数の頂点間補正を行えば,弱主経線は-6.50Dであったが実際は-6.03Dとなり,強主経線は-8.50Dであったが実際は-7.71Dとなって,乱視度数は-2.00Dから実際には-1.68Dになる.図5プリズムバラストレンズ下方にガイドマークが認められる.ガイドマークの位置と形状はレンズの種類によって異なる.図6ダブルスラブオフ・デザインレンズの上方と下方が薄くなるように作製されている.

写真:アトピー性皮膚炎に対するデュピルマブ治療に関連する結膜炎

2021年11月30日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦450.アトピー性皮膚炎に対する横井桂子東山三条よこい眼科クリニックデュピルマブ治療に関連する結膜炎図2図1のシェーマ①点状表層角膜症C②Clid-wiperepitheliopathyC図1初診時前眼部フルオレセイン染色所見(左眼)フルオレセインとブルーフィルターを用いて観察すると,角膜下方から鼻側の角結膜に広がる上皮障害と上下眼瞼縁のClid-wiper部の上皮障害(lid-wiperepitheliopathy)が認められる.図3図1の前眼部所見眼球結膜の充血と下眼瞼結膜の充血,浮腫,濾胞形成を認める.図4点眼治療2週間後の前眼部フルオレセイン染色所見(左眼)角結膜の鼻下側の上皮障害は消失した.上眼瞼結膜のClid-wiperepitheliopathyと角膜上方の軽度の上皮障害は残存している.(63)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C13010910-1810/21/\100/頁/JCOPYデュピルマブは,IL-4とIL-13の受容体であるIL-4Raに対する完全ヒト型モノクローナル抗体で,Th2サイトカインであるIL-4とIL-13を特異的に阻害することでその効果を発揮する.ステロイド外用薬などで十分な効果が得られないアトピー性皮膚炎において,その有効性が報告され1),その後,気管支喘息や慢性難治性の好酸球性副鼻腔炎の治療薬としても高い治療効果が認められている.わが国ではC2018年よりアトピー性皮膚炎の治療薬として保険適用となり,それまでの治療でコントロールが困難であった難治性のアトピー性皮膚炎を寛解導入できるようになり,画期的な治療薬として広く使用されるようになっている.その一方で,もっとも頻度の高い副作用として,デュピルマブで治療したアトピー性皮膚炎の患者に結膜炎が発症することが注目されている1,2).この結膜炎には,球結膜の強膜炎様の充血,春季カタルのような輪部の肥厚性増殖,眼瞼結膜充血や濾胞形成,乳頭増殖,マイボーム腺機能不全や眼瞼炎など,臨床像や程度もさまざまな報告があり2,3),まだその発症機序は解明されていない.症例はC25歳の男性で,アトピー性皮膚炎の治療でデュピルマブを開始してC1カ月後,今までコントロール困難であった皮膚炎は徐々に改善してきたが,両眼の充血と異物感が出現したとのことで,皮膚科より紹介され受診した.眼瞼結膜の充血と浮腫,小さい乳頭増殖,眼球結膜の強膜炎に似た充血(図3),さらに,フルオレセイン染色で,下方角結膜に点状表層角膜症および結膜上皮障害を認めた(図1,2).難治性のアトピー性皮膚炎は幼少時よりあったが,過去に結膜炎で眼科を受診したことはなく,慢性的な炎症による結膜の瘢痕形成などは認めなかった.0.1%フルオロメトロン点眼(4回/日)とガチフロキサシン点眼(4回/日)によりC2週間後には球結膜充血は消失し,角結膜の上皮障害も消失した(図4).現在,タクロリムス点眼(2回/日)で眼瞼結膜の充血,浮腫,乳頭増殖は徐々に軽快している.本症例では,角結膜の上皮障害は角膜下方から鼻側に広がっており,眼瞼縁の上皮障害はClidwiperの部位に一致しており,lid-wiperCepitheliopathyを疑わせる所見である4).LidwiperCepitheliopathyは眼瞼縁と角結膜の過度の摩擦により生じ,摩擦の軽減は摩擦部位の膜型ムチンと涙液中の分泌型ムチンによるところが大きい.分泌型ムチンは結膜杯細胞から分泌されるが,結膜杯細胞の分化の促進や分泌型ムチンの産生に関して,IL-13はその維持に働いている.このため,デュピルマブの投与によりCIL-13が抑制されたことで,結膜杯細胞の機能低下を介して分泌型ムチンの分泌が減少し,瞬目摩擦が亢進した可能性が考えられる5).また,上皮障害が結膜炎の治療により改善されたことから,結膜炎も摩擦亢進の要因の一つで,結膜炎による浮腫や増殖が物理的に摩擦を亢進させた可能性や,杯細胞の機能低下にも関与した可能性が考えられる.デュピルマブを投与した喘息や好酸球性副鼻腔炎の患者には,結膜炎の合併症があまり認められないことから,デュピルマブ投与により生じる結膜炎は,もともとその眼表面にアトピー性角結膜炎が存在している,あるいは発症する環境が整っている状況下で,デュピルマブが作用することで眼表面特有の病態が生じるものと考えられる.そして今回の症例は,その機序の一つに瞬目摩擦の亢進が大きくかかわっていることを示唆していると考えられる.文献1)BlaubeltCA,CdeCBruin-WellerCM,CGooderhamCMCetal:CLong-termmanagementofmoderate-to-severatopicder-matitiswithdupilumabandconcomitanttopicalcorticoste-roids(LIBERTYCADCHRONOS):aC1-year,Crandomized,Cdouble-blinded,Cplacebo-controlled,CphaseC3Ctrial.CLancetC389:2287-2303,C20172)UtineCCA,CLiCG,CAsbellCPCetal:OcularCsurfaceCdiseaseCassociatedCwithCdupilumabCtreatCforCatopicCdiseases.COculCSurfC19:151-156,C20213)FukudaCK,CIshidaCW,CKishimotoCTCetal:DevelopmentCofCconjunctivitisCwithCaCconjunctivalCproliferativeClesionCinCaCpatientCtreatedCwithCdupilumabCforCatopicCdermatitis.CAllergolIntC68:383-384,C20194)横井則彦:糸状角膜炎・上輪部角結膜炎.角結膜疾患の治療戦略(島崎潤編),眼科臨床エキスパート,p277-290,医学書院,20165)BarnettCBP,CAfshariNA:Dupilumab-associatedCmucinde.ciency(DAMD)C.CTransVisSciTechC9:29,C2020

眼に副作用を生じやすい抗腫瘍薬

2021年11月30日 火曜日

眼に副作用を生じやすい抗腫瘍薬OcularSideE.ectsCausedbyAnticancerDrugs柏木広哉*はじめに抗腫瘍薬は,20世紀半ばのナイトロジェンマスタードの開発から,約80年間で飛躍的な進歩を遂げてきた.化学療法は一般的な療法のほかに,化学放射線療法,補助化学療法(術前,術後)などがある.抗腫瘍薬による悪心・嘔吐,脱毛,下痢,体重減少などの全身副作用は以前より有名ではあったが,眼の副作用(以下,眼障害)は,その頻度の低さから,注目度は高くはなかった.わが国では2007年頃よりテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬(ティーエスワン:TS-1.以下,S-1)による涙道障害,角膜障害が急増してから認知度が上昇した.分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の開発,その適応疾患の拡大の関係で,眼障害は増えている.本稿では,とくに注意すべき抗腫瘍薬と代表的な眼障害(充血,眼脂などを除く)について述べる.I注意すべきおもな抗腫瘍薬と眼障害抗腫瘍薬は,殺細胞性薬,分子標的薬〔免疫チェックポイント阻害薬(immunocheckpointinhibitor:ICI)を含む〕,抗体薬物複合体などがある.県立静岡がんセンターでは,現在約90種類の治療レジメンがある.分子標的薬は経口薬が圧倒的に多く,処方や内服が簡易にできる利点がある.また,ICIは,悪心・嘔吐などの副作用がほとんどないため,外来(通院加療センターなど)での施行が可能(所要時間30.60分)である.眼障害発生頻度の大規模調査の報告はきわめて少なく,また癌治療は,その癌種によっては三,四次療法と継続されることもあり,過去の治療歴を十分把握することも重要である.1.殺細胞性薬(表1)a.5.FU系5-フルオロウラシ(5-FU)の眼障害は以前から知られてはいたが,その系統の経口薬であるS-1とカぺシタビン(ゼローダ)では,5-FUの血中濃度の維持がより可能になった,そのため,涙道や角膜障害,眼瞼皮膚の色素沈着を高頻度に生じることとなった1,2).胃癌術前術後の補助療法,膵臓癌の術後補助療法,HER2陰性再発進行乳癌,肺癌など多くの癌腫で用いられている.流涙の頻度は,16.25%と報告がある(n>100)3.5).涙道・角膜障害は,涙液への抗癌剤成分の浸出が一つの原因と考えられ,涙液と血漿との濃度の相関は基礎礎研究でも証明されている6,7).当院のデータでは,涙液中の5-FU濃度は血漿中の濃度よりも高い傾向にあった(図1)7).また,5-FUやS-1が含まれているFOLFOX療法,FOLFIRI療法,XELOX療法,SOX療法にも注意が必要である.b.タキサン系ドセタキセル(DTX,タキソテール),パクリタキセル(PTX,タキソール),ナブパクリタキセル(Nab-PTX,アブラキサン)は5-FU系より高度に睫毛の脱落を生じやすい.また,涙道や角膜,網膜障害が生じるが*HiroyaKashiwagi:静岡県立静岡がんセンター眼科〔別刷請求先〕柏木広哉:〒411-8777静岡県駿東郡長泉町下長窪1007静岡県立静岡がんセンター眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(53)1291表1aとくに注意すべき殺細胞抗腫瘍薬一覧系統薬剤名5-FU系5-FU,S-1,カぺシタビンタキサン系ドセタキセル,パクリタキセル,ナブパクリタキセル表1bとくに注意すべき殺細胞抗腫瘍薬併用療法薬剤名適応疾患眼障害頻度その他ゲムシタビン&アブラキサン手術非適応膵臓癌全体3.2%(15/459)3投/1休効果があればエンドレス不応の場合1)nal-IRI-5FU/LVか2)S-1DTX&S-1(DS)胃癌ステージ3涙道障害41%(32/79)ドセタキセルは半年間S-1は1年間EC&weeklyDTXEC&3weeklyPTX乳癌─TC(DTX&シクロホスファミド)乳癌─カペシタビン&パクリタキセル再発乳癌─注)nal-IRI+5FU/LV:アルブミン懸濁型イリノテカン+5-FU+レボホリナートa:血漿と涙液の5-FU濃度の相関b:血漿,涙液の5-FU濃度の経時的変化図1静岡がんセンターにおけるS.1涙液解析bは投与から14日目のデータ.(文献7より転載)d図2タキサン系薬剤による眼障害a:PTXによる睫毛の広範囲の脱落と涙液高の増加.b:PTXによる上眼瞼涙点の線維化.c:PTXによる点状表層角膜炎.d:Nab-PTXによる.胞性黄斑部浮腫(視力0.5)(左図)が,投薬中止2カ月で改善(視力1.0)した(右図).=エンコラフェニブとビニメチニブ併用群ビニメチニブ単独群眼障害全体漿液性網膜.離ぶどう膜炎40.6%7.3%2.6%18.8%0.5%0%眼障害全体:漿液性網膜.離,ぶどう膜炎,角膜炎,眼瞼浮腫,流涙など.表3免疫チェックポイント阻害薬a.当院における新規処方数薬剤2018年度2019年度2020年度合計ニボルマブ(オプジーボ)Cペムブロリズマブ(キイトルーダー)Cイピリムマブ(ヤーボイ)Cアテゾリズマブ(テセントリク)Cデュルバルマブ(イミフィンジ)Cアベルマブ(バベンチオ)C153C106C14C35C31C2C134C148C8C39C47C1C191C115C26C74C46C2C478369481481245合計C341C377C454C1,172b.ぶどう膜炎,視神経症の発生頻度ニボルマブ(オプジーボ)Cn=1,553ペンブロリズマブ(キートルーダー)Cn=1,226イピリムマブ(ヤーボイ)Cn=250ニボルマブイピリムマブ併用Cn=94ぶどう膜炎3.5%(31)2.6%(23)7.6%(13)6.4%(4)視神経障害0.9%(14)0.5%(7)2%(5)2%(2)(文献C15を改変)ab図4ニボルマブによる視神経網脈絡膜炎a:右眼は軽度の前房と硝子体の炎症のみ.左眼は全ぶどう膜炎.視神経の発赤腫脹,網膜の漿液性.離を認めた.b:OCT所見.右眼では異常なく(左),左眼は高度の漿液性.離を呈していた(右).c:投薬中止後半年後の夕焼け状眼底.ab図5ペンブロキズマブによる視神経障害a:両眼の視神経の蒼白化.視力右C0.6,左C0.4.Cb:視神経乳頭OCT.神経線維厚の減少所見.図6肺癌ニボルマブ投与による眼筋型筋無力症が疑われた症例(Hess所見)投与後C1カ月で複視症状が出現し(上),抗腫瘍効果なく投薬中止.1カ月後複視症状改善(下).表4有害事象共通用語基準(CTCAE)日本語訳,第5版の眼障害分類(2021年3月改定)(26項目からC11項目を抽出し改変)CTCAEv5.0Term日本語CGrade1CGrade2CGrade3CGrade4CBlurredvision霧視治療を要さない中等度の視力の低下※身の回り以外の日常生活動作の制限顕著な視力の低下※※身の回りの日常生活動作の制限罹患眼最高矯正視力0.1以下C症状がない,臨床所見Dryeyeドライアイまたは検査所見のみ,中等度の視力の低下顕著な視力の低下C─C潤滑剤で改善する症状Extraocularmuscleparesis外眼筋不全麻痺症状がない,臨床所見または検査所見のみ複視を伴わない片側麻痺両側麻痺,正面注視では生じないが側方注視で生じる複視を伴う片側麻痺中心部C60°を超える物を見る際に頭部の回転を要する両側麻痺,または正面注視で複視を伴うCEyepain眼痛軽度の疼痛中等度の疼痛;身の回り以外の日常生活動作の制限高度の疼痛;身の回りの日常生活動作の制限C─CFlashinglights光のちらつき症状があるが日常生活動作の制限がない身の回り以外の日常生活動作の制限身の回りの日常生活動作の制限C─CKeratitis角膜炎症状がない,臨床所見または検査所見のみ中等度の視力の低下顕著な視力の低下角膜潰瘍COpticnervedisorder視神経障害症状がない,臨床所見または検査所見のみ中等度の視力の低下顕著な視力の低下罹患眼最高矯正視力0.1以下CPhotophobia羞明症状があるが日常生活動作の制限がない身の回り以外の日常生活動作の制限身の回りの日常生活動作の制限CRetinopathy網膜症症状がない,臨床所見または検査所見のみ中等度の視力の低下身の回り以外の日常生活動作の制限顕著な視力の低下身の回りの日常生活動作の制限罹患眼最高矯正視力0.1以下CUveitisぶどう膜炎わずかな(Ctrace)炎症細胞浸潤を伴う前部ぶどう膜炎C1+.2+の炎症細胞浸潤を伴う前部ぶどう膜炎C3+以上の炎症細胞浸潤を伴う前部ぶどう膜炎中等度の後部または全ぶどう膜炎罹患眼最高矯正視力0.1以下CWateringeyes流涙治療を要さない中等度の視力の低下顕著な視力の低下罹患眼最高矯正視力0.1以下(注)※;最高矯正視力C0.5以上または既知のベースラインからC3段階以下の視力低下.C※※;最高矯正視力C0.5未満,0.1を超える,または既知のベースラインからC3段階を超える視力低下.表5免疫チェックポイント阻害薬によるぶどう膜炎の管理指針CTCAEGrade症状,所見投与の可否対処方法CGrade1無症状継続人工涙液CGrade2前部ぶどう膜炎または(0C.5)以上休止副腎皮質ステロイド点眼,散瞳薬全身性副腎皮質ステロイドを考慮Grade1に改善したら投与再開CGrade3後部ぶどう膜炎または(0C.5)以下中止中止プレドニゾロン1.2Cmg/kgまたはメチルプレドニゾロンC0.8.1C.6Cmg/kgの全身投与*副腎皮質ステロイド点眼CGrade4(0C.1)以下中止プレドニゾロン1.2Cmg/kgまたはメチルプレドニゾロンC0.8.1C.6Cmg/kgの全身投与*副腎皮質ステロイド点眼*副腎皮質ステロイドの全身投与にもかかわらず改善が認められない場合は,免疫抑制療法として,インフリキシマブまたはほかの抗CTNF-a抗体などを考慮.CTCAE:CommonCTerminologyCCriteriaCforCAdverseEvents.(文献C13より転載)C’C

抗VEGF薬

2021年11月30日 火曜日

抗VEGF薬Anti-VascularEndothelialGrowthFactor(anti-VEGF)Drugs志村雅彦*はじめに血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)は1989年にLeung1)らによってその存在が同定され,のちに遺伝子クローニングによって,1983年にすでに報告されていた血管透過性因子(vascu-larpermeabilityfactor:VPF)とVEGFが同一分子であることが判明したことから,VEGFは血管増殖である新生血管の発症と,血管透過性亢進の結果としての組織浮腫に関与する因子であることが判明した.その後,抗VEGF薬としてVEGFに対するヒトモノクローナル抗体であるベバシズマブが開発され,転移性結腸癌の治療薬として米食品医薬品局(FDA)に承認され,VEGFが関与する疾患への抗VEGF薬の臨床適応が広がっていったが,その恩恵をもっとも得たといってもよいのが眼科領域である.眼科領域のなかでも,とくに血管病変の多い網膜硝子体疾患では,新生血管と血管透過性亢進は重要な病態である.網膜での新生血管は虚血を病態とする糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)や血管新生緑内障(neo-vascularglaucoma:NVG),未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)でみられ,脈絡膜での新生血管は加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)や病的近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascularization:mCNV)の病態でもある.また,網膜での血管透過性亢進は網膜静脈閉塞(retinalveinocclusion:ROV)の病態であり,脈絡膜での血管透過性亢進は中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouscho-rioretinopathy:CSC)の病態に関係する.抗VEGF薬の登場によって,これらの網膜疾患の治療は劇的に変化していった.2005年に初めてベバシズマブのAMDに対する適用外使用が報告され,それまで有効な治療法がなかったAMDに対し,ベバシズマブの投与が予想をはるかに超えた有効性を示したことは,AMD以外の網膜硝子体疾患への適用が広がっていくきっかけになった.こうして抗VEGF薬は,網膜硝子体疾患の治療方針に多大な影響を与えていった.IVEGFの生物学的作用(図1)VEGFはいくつかのアイソフォームが存在するが,眼内で確認されているものはVEGF-Aと胎盤成長因子(placentagrowthfactor:PlGF)であり,VEGF-AはVEGF121とVEGF165が,PlGFではPlGF-1が報告されている.VEGFは組織の受容体であるVEGFreceptor(VEGFR)に結合することで生理活性をもたらすが,おもな受容体は3種類報告されている.VEGFR-1は炎症細胞に発現し,IL-6などのサイトカインを分泌して炎症細胞を誘導し,組織炎症に関与すると考えられている.VEGFR-2は血管内皮細胞に発現し,血管損傷後の血管再生に関し内皮細胞を集簇させることから,血管新生に関与すると考えられている.VEGFR-1とVEGFR-2はNF-kBなどのさまざまな細胞内シグナルを活性化す*MasahikoShimura:東京医科大学八王子医療センター眼科〔別刷請求先〕志村雅彦:〒193-0998東京都八王子市舘町1163東京医科大学八王子医療センター眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(45)1283PIGF-1VEGF121VEGF165図1VEGFファミリーとVEGF受容体眼内に確認されているVEGFファミリーはVEGF121とVEGF165,そしてPlGF-1である.PlGF-1とVEGF121は炎症細胞に発現している受容体のVEGFR-1に結合し,組織の炎症に関与する.VEGF165とVEGF121は血管内皮細胞に発現している受容体のVEGFR-2に結合し,新生血管の発症や増殖変化に関与する.VEGFR-1とVEGFR-2はさまざまなサイトカインを介して相互に活性化する.表1抗VEGF薬薬剤名(商品名)投与量(濃度)創薬デザイン分子量CIC50*半減期#適用疾患ベバシズマブ(アバスチン)C1.25Cmg/50Cμl(1C67.8nM)ヒト化モノクローナル抗体C149CkDC32CpMCNoData適用疾患なしペガプタニブ(マクジェン)C0.3Cmg/90Cμl(6C6.7nM)特異的結合核酸分子(アプタマー)C50CkDCNoData6.3日CAMDラニビズマブ(ルセンティス)C0.5Cmg/50Cμl(2C08.3nM)ヒト化モノクローナル抗体CFab断片C48CkDC47CpM7.9日AMD,RVO,mCNV,DME,ROPアフリベルセプト(アイリーア)C2.0Cmg/50Cμl(3C47.8nM)遺伝子組換え融合糖蛋白質C115CkDC5.5CpM4.8日AMD,RVO,mCNV,DME,NVGブロルシズマブ(ベオビュ)C6.0Cmg/50Cμl(C4562.7CnM)ヒト化モノクローナル抗体一本鎖CFv断片C26.3CkDC6.8CpM4.4日CAMD*13pMVEGF165のCVEGFR-2結合阻害作用(24時間)C#硝子体内投与での硝子体中半減期a.ラニビズマブb.アフリベルセプトc.ブロルシズマブCDRs:抗体の抗原結合特異性を構成する配列領域2Fabdomainsヒト化一本鎖抗体スカフォールド領域+pM=10-12Mリンカー配列図2保険適用の抗VEGF薬a:ラニビズマブ.ヒト化モノクローナル抗体のCFab断片.Cb:アフリベルセプト.VEGFR-1とCVEGFR-2の各々の結合ドメインを有する合成蛋白質.c:ブロルシズマブ.ヒト化モノクローナル抗体の結合領域であるCL鎖とCH鎖を含む断片をリンカー結合.ブロルシズマブ(26.3kDa)PDR)への有効性が期待されている.C4.mCNV,ROP,NVGに対する抗VEGF薬抗CVEGF薬適用の三大疾患はCAMD,RVO,DMEであるが,そのほかにも保険適用を受けている疾患がある.mCNVはラニビズマブがC2013年C8月,アフリベルセプトがC2014年C9月に保険適用されている.いずれの薬剤もC1回投与後,増悪時に投与するというプロトコールでC1年後に+14.4文字(ラニビズマブ)15),+13.5文字(アフリベルセプト)16)という良好な視力予後が得られている.ROPについてはラニビズマブのみがC2019年C11月に保険適用となり,NVGについてはアフリベルセプトのみがC2020年C3月に保険適用となっている.これらの疾患は継続的な投与を行うことは少ないため,ほとんどは単回投与で行われている.CIII抗VEGF薬の問題点1.投与プロトコール抗CVEGF薬は生物学的製剤であることから活性期間は有限であり,効果を持続させるためには継続的な投与が必要となる一方で,生物学的製剤ならではの高額な薬剤費の問題もあり,「どのようなプロトコールで,いつまで」投与するのかが問題となる.一般的な抗CVEGF薬の投与の考え方として,最初に病態をしっかり抑えるために導入期として毎月連続投与を行い,病態が安定した時点で維持期としての投与方法に変更していくことが多い.AMDやCDMEでは導入期はC3回連続投与を採用することが多く,維持期は当初,再発時に投与するCproCrenata(PRN)法が採用されていたが,増悪してからの投与によって視力が維持できなくなることが報告されて以降,2カ月あるいはC3カ月ごとの定期投与,最近では,増悪していなければ投与期間を延長していくCtreatCandextend法を採用していく傾向にある.後述するが,抗CVEGF薬は疾患や患者によって反応性が異なることが多く,固定的な投与プロトコールを当てはめることはむずかしい.したがって,導入期に薬剤反応性を評価し,対象患者に対応した個別の投与プロトコールを作成していくべきである.C2.全身への影響抗CVEGF薬は硝子体中への投与ではあるものの,全身循環への流出による影響が報告されており,VEGF阻害による末梢循環での内皮型一酸化窒素合成酵素(endothelialnitrogenoxidesynthetase:eNOS)の活性阻害によってCNO依存性の血管拡張を阻害し,全身血圧を上昇させ,心血管イベントの確立を高める可能性があることが報告されている.ただし,適正使用下での抗VEGF薬投与による心血管イベントの発症確率の上昇については,肯定・否定の両方の報告があり,明確な結論は得られていない.C3.抗VEGF薬の限界抗CVEGF薬に対するもう一つの大きな問題は「効果のある人と,ない人がいる」ということである.とくにDMEに対する抗CVEGF薬の有効性については,治療に抵抗する患者が全体のC30%近くに及ぶことが知られており,図3のように,同じようにみえて効果が異なる患者をしばしば診察する.筆者らの研究によれば,1回の投与で浮腫が消退するCDME患者は全体のC35%程度,3回目までにC66%程度に及ぶ一方で,6回連続投与しても浮腫が消退しないCDME患者がC18%程度存在することが判明している17).とくにCDMEのような全身疾患の影響が大きい疾患については,個別化された投与プロトコールのみならず,全身状態を把握しながら治療を行う必要がある.CIV実臨床における抗VEGF薬さて,実臨床において抗CVEGF薬が疾患に対してどのように使われ,どのような視力予後が得られているのかというと,大規模臨床試験の結果とは異なることが報告されている.AMDでは,1年間にC7.7回程度の抗CVEGF薬投与で+5.5文字の改善,2年間でC13回程度の抗CVEGF薬投与で+4.9文字の改善との報告がある18)が,既報の大規模臨床試験の結果に比べ,投与回数も少なく,視力予後も及ばない.(49)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1287図3抗VEGF薬への反応性上段:反応良好例.71歳,男性.DME矯正視力(0.3)中心窩網膜厚C692Cμm.抗CVEGF薬C1回注射後C1カ月で浮腫は消退.矯正視力(0.6)中心窩網膜厚C295Cμmに改善し,その後,再注射をせずにC6カ月後は矯正視力(0.8)中心窩網膜厚C244Cμmを得た.下段:反応不良例.75歳,男性.DME矯正視力(0.3)中心窩網膜厚C559Cμm.抗CVEGF薬C1回注射後C1カ月で浮腫は残存し,矯正視力(0.3)中心窩網膜厚C489Cμmと改善せず.その後,5回連続で抗CVEGF薬を注射したが,6カ月後は矯正視力(0.4)中心窩網膜厚C455Cμmと著明な改善はみられなかった.速にCPDRが進行することも報告22)されており,汎網膜光凝固の前処置としての適用などが模索されている.CSCに対しては現時点では低用量光線力学療法には及ばないという報告23)がある一方で,CNVを合併したCSCでは有効とする報告24)もあり,CSCのサブタイプへの有効性について,今後の研究結果が待たれる.C2.既存の抗VEGF薬の将来既存の抗CVEGF薬の問題点は,極論すると①薬剤価格が高い,②投与頻度が高い,ことである.まず①については,既存の薬剤であるラニビズマブとアフリベルセプトについて,バイオシミラーとよばれる同様の抗CVEGF抗体とCVEGFtrap蛋白が開発されており,現在わが国で臨床治験が行われている.また,アフリベルセプトについてはバイオセイムとよばれる製品(先発品とまったく同じだが,パッケージと価格が異なる)が準備されている.いずれも既存の薬剤のC7割程度の価格での上市が予想されている.②については,ラニビズマブをポートデリバリーシステムとして眼球に埋め込むことで長期作用を期待する方法と徐放型製剤化して硝子体内に留置する方法が開発段階にあり,前者はわが国においても治験段階に入ったところである.一方,既存のアフリベルセプトを高濃度(8Cmg/0.05Cml)にすることで長期の活性が期待されており,これもまた現在臨床治験段階にあって,結果と適用認可が待たれている.C3.開発中の抗VEGF薬抗CVEGF薬に新たな薬理効果を追加するという創薬デザインで,現在臨床治験が行われている薬剤にCFaric-imabがある.VEGFと血管外壁のCpericyteを不安定化するCAngiopoietin-2に対する二つの抗体を合成したBi-speci.c抗体の臨床治験がわが国でも進められている.とくにCpericyteの脱落を病態とするCDMEに対する有効性が期待されており,海外での大規模臨床試験ではC1年時点での視力改善度はアフリベルセプトに対して非劣性が証明され,投与間隔はC3カ月以上をC70%以上の患者で達成されており,より長期に作用することが期待されている.また,興味深い開発中の薬剤としては,抗CVEGF薬遺伝子を搭載させたアデノ随伴ウイルスを網膜下に投与し半永続的に抗CVEGF薬を分泌させる方法なども開発されており,これからもさまざまな抗CVEGF関連薬の開発が行われることになるだろう.おわりにVEGFの存在が初めて証明され,抗CVEGF薬が開発されてC30年近く経過するが,当時はまさかこれほど眼科領域で抗CVEGF薬が普及するとは想像できなかったに違いない.今やラニビズマブは年間C250億円,アフリベルセプトは年間C700億円規模の市場となっており,眼科領域での薬剤費C3,600億円のC1/4以上を占めるまでになった.裏返せば,虚血や血管透過性亢進を病態とする網膜硝子体疾患に,これほどCVEGFが大きな役割を果たしていたことは驚きでもあった.一方,抗CVEGF薬が有効とされる各疾患の根本的な原因は血管の損傷であり,虚血や血管透過性は二次的な現象である以上,眼内でのCVEGFの抑制で原疾患の根本的な治療が行われるわけではなく,抗CVEGF薬はあくまでも各疾患の進行あるいは増悪を抑制する薬でしかないことを認識すべきであろう.文献1)LeungDW,CachianesG,FerraraNetal:Vascularendo-thelialgrowthfactorisasecretedangiogenicmitogen.Sci-enceC246:1306-1309,C19892)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEngJMedC355:1419-1431,C20063)BrownCDM,CKaiserCPK,CMichelsCMCetal:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.NCEngJMedC355:432-1444,C20064)HeierCJS,CBrownCDM,CChongCVCetal:Intravitreala.ibercept(VEGFtrap-eye)inCwetCage-relatedCmacularCdegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,C20125)GrunwaldJE,DanielE,HuangJetal:RiskofgeographicatrophyCinCtheCcomparisonCofCage-relatedCmacularCdegen-erationCtreatmentsCtrial.COphthalmologyC121:150-161,C20146)DugelCPU,CKohCA,COguraCYCetal:HAWKCandCHARRI-ER:phase3,multicenter,randomized,double-maskedtri-alsCofCbrolucizumabCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC127:72-84,C2020(51)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1289—

眼科で用いるステロイド点眼薬と非ステロイド性抗炎症薬

2021年11月30日 火曜日

眼科で用いるステロイド点眼薬と非ステロイド性抗炎症薬SteroidDrugsandNon-SteroidalAnti-In.ammatoryDrugs(NSAIDs)山﨑将志*堀純子*はじめに眼科領域において炎症病態が関与する疾患は多く,日常診療でステロイドまたは非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)を処方する頻度は多い.これらの薬剤は,点眼など眼局所投与のみでなく,内服や点滴による全身投与もあり,前眼部から後眼部まで適応疾患は広い.炎症の部位,重症度,併発症と副作用を考慮して,最適期な薬剤と投与経路を選択することが望まれる.本稿では,おもに点眼薬を中心に,ステロイドとNSAIDsの作用機序,適応疾患,使用方法と注意点についてアップデートする.Iステロイド点眼薬ステロイド点眼薬は1950年初頭に誕生した.ステロイドの抗炎症作用は,ステロイド・グルココルチコイドレセプター複合体がホスホリパーゼA2を阻害することでアラキドン酸カスケードを抑制する,また,AP-1やNF-kBなどの転写因子を抑制することで抗炎症作用を発揮する.ステロイド点眼薬は,抗炎症作用の強さ(力価)や作用時間が異なる多種類がある(表1).病変部位,重症度,併発症により使い分けが重要である.ステロイドは副作用も多く,使い方には注意を要するため,副作用について解説してから,処方する頻度の多い疾患における使い方を述べる.1.副作用ステロイド点眼薬の副作用としてもっとも留意すべきは,眼圧上昇によるステロイド緑内障である.ステロイドレスポンダーの眼圧上昇の頻度は成人より小児で高い1).点眼,結膜下やTenon.下注射,全身投与のいずれの場合も眼圧上昇は起こりうる.眼圧が上昇しても自覚症状は伴わないことが多いため,たとえ低力価のステロイド点眼薬であっても定期的な眼科への通院を促すことが大切である.ステロイドによる眼圧上昇は通常可逆的であり,点眼中止や点眼回数の漸減などにより,1~数週で眼圧は正常化する場合が多いが,眼圧上昇の程度によっては緑内障点眼薬を処方して速やかに下降させる.ステロイド点眼薬の他の副作用として,白内障がある.全身投与のみならず,点眼やTenon.下注射によって後.下白内障を誘発する.長期のステロイド使用による易感染性も留意すべき副作用である.ステロイド点眼薬や軟膏の使用が長期化する場合,ヘルペス属などウイルスや真菌,細菌による角膜炎の発生に留意すべきである.なお,ステロイドの全身投与が数カ月に及ぶ場合には,定期的な採血や胸部X線検査により日和見感染,耐糖能異常,高脂血症や高血圧などをモニターする.米国リウマチ学会は,プレドニゾロン5mg/日以上を3カ月以上継続する場合,骨粗鬆症予防薬を併用することを推奨している2).*MasashiYamazaki&JunkoHori:日本医科大学多摩永山病院眼科〔別刷請求先〕山﨑将志:〒206-8512東京都多摩市永山1-7-1日本医科大学多摩永山病院眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(37)1275表1おもなステロイド点眼薬抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患弱フルオロメトロンフルメトロン0.1%オドメール0.1%<1アレルギー性結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など中ヒドロコルチゾン酢酸エステル液HCゾロン0.5%1.2~1.5結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など強デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムオルガドロン0.1%3.5~5.0結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など強デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウムサンテゾーン0.1%3.5~5.0結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など強ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩液リンデロンA0.1%3.3~5.0外眼部の細菌感染を伴う炎症性疾患強ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムリンデロン0.1%3.3~5.0結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など表2おもなステロイド眼軟膏抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患弱プレドニゾロン酢酸エステルプレドニン眼軟膏2.5~3.3霰粒腫,麦粒腫,眼瞼周囲炎,アレルギー性眼瞼炎,角膜炎,結膜炎など弱フラジオマイシン硫酸塩・メチルプレドニゾロンネオメドロールEE軟膏2.8~3.3霰粒腫,麦粒腫,眼瞼周囲炎,アレルギー性眼瞼炎など強デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウムサンテゾーン眼軟膏3.5~5.0霰粒腫,麦粒腫,眼瞼周囲炎,アレルギー性眼瞼炎など強ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩リンデロンA眼軟膏3.3~5.0霰粒腫,麦粒腫,眼瞼周囲炎,アレルギー性眼瞼炎など図1VZVによる多発性角膜上皮下混濁(MSI)眼部帯状疱疹の治療後に数カ月して出現したCMSI.上皮下混濁は細胞浸潤であり,ステロイド点眼に反応が良好であるが,早期に点眼を終了すると再発する.表3ステロイド眼周囲注射抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患中トリアムシノロンアセトニドマキュエイドC120非感染性ぶどう膜炎や網膜静脈閉塞症または糖尿病網膜症による黄斑浮腫,硝子体手術時の硝子体可視化中デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムデキサート3.5~C5.0非感染性ぶどう膜炎や網膜静脈閉塞症または糖尿病網膜症による黄斑浮腫,術後の炎症抑制右眼a右眼左眼b右眼左眼図2Vogt・小柳・原田病に対するステロイドパルス療法Vogt・小柳・原田病の急性期は後極部に多発性浸出性網膜.離を認める(Ca).OCTで認めた滲出性網膜.離と網膜色素上皮.離(Cb)は,ステロイドパルス療法により消退した(Cc).表4眼科で用いるステロイド全身投与(経口,点滴)抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患弱プレドニゾロンプレドニンC2.7(経口)非感染性角膜炎,非感染性ぶどう膜炎や強膜炎,視神経炎,眼窩炎症など中メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムソル・メドロールC3.0(点滴)生物学的製剤の投与時反応,治療抵抗性のリウマチ性疾患中メチルプレドニゾロンメドロール2.8~C3.3(パルス療法)Vogt・小柳・原田病,後部強膜炎,視神経炎,甲状腺眼症など表5おもなNSAIDs点眼薬抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患弱アズレンスルホン酸ナトリウム水和物AZ点眼液C0.02%C13急性・慢性結膜炎,アレルギー性結膜炎など中ジクロフェナクナトリウムジクロード点眼液C0.1%C2.4眼手術後の炎症,結膜炎など中ブロムフェナクナトリウムブロナック点眼液C0.1%C4眼手術後の炎症,結膜炎など中ネパフェナクネバナック懸濁性点眼液C0.1%C8.7眼手術後の炎症,結膜炎など中プラノプロフェンニフラン点眼液C0.1%C5.4急性・慢性結膜炎,眼瞼炎など表6眼科で用いるNSAIDs全身投与(経口,坐剤)強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患中ジクロフェナク(酢酸系)ボルタレンC1.3術後疼痛,関節リウマチなど中ロキソプロフェン(プロピオン系)ロキソニンC1.3術後疼痛,術後消炎,関節リウマチなど中イブプロフェン(プロピオン系)ブルフェンC2術後疼痛,術後消炎,関節リウマチなど強セレコキシブ(COXC2阻害薬)セレコックスC7術後疼痛,強膜炎などリウマチ性疾患C図3セレコキシブ内服の単独投与で改善したびまん性強膜炎全身性炎症性疾患に随伴しない軽症のびまん性強膜炎(Ca)の患者が初診時に処方した点眼薬をすぐに紛失しセレコキシブ内服のみ行い,初診C5日後に再診した際に所見が消失していた(Cb).-

免疫抑制点眼薬

2021年11月30日 火曜日

免疫抑制点眼薬TopicalImmunosuppressiveDrugs(CalcineurinInhibitorEyeDrops)松田彰*Iシクロスポリンとタクロリムス点眼の登場2006年にシクロスポリン水性点眼薬であるパピロックミニ点眼薬0.1%が,2008年にタクロリムス水性懸濁点眼薬であるタリムス点眼0.1%が,ともに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)を適応疾患として日本国内で使用が開始されて10年以上が経過した.これらの免疫抑制点眼薬は抗アレルギー点眼薬でコントロールできないVKCやアトピー性角結膜炎(atopickera-toconjunctivitis:AKC)に対して用いられて,治療上の効果を上げてきたことはすでに多く報告がなされている1~3).AKCに関しては,厳密には適応疾患としての承認がなされていないが,そもそもVKCとAKCを厳密に鑑別することが困難な場合も多く,実際の臨床の現場ではAKC症例にも使用されていることを考えると適応症の拡大が期待される.IIシクロスポリンとタクロリムスの作用機序,臨床応用の歴史的経緯どちらの薬剤も“通常細胞内でリン酸化されて活動性が抑制されているnuclearfactorofactivatedTcell(NF-AT)を脱リン酸化して活性状態にするカルシニューリン”を抑制する薬剤(カルシニューリン阻害薬)であり,獲得免疫系の主要シグナルであるT細胞の活性化(IL-2産生が代表的指標)を抑制する作用をもつ(図1)4).一方でグルココルチコイド点眼薬(以下,ステロイド点眼薬)はカルシニューリン阻害薬点眼薬と比較して,より広範に遺伝子発現を抑制したり,逆に遺伝子発現を亢進させる作用があり,眼圧上昇をはじめとする種々の副作用のため,長期の連用には注意が必要である(図2).1983年にシクロスポリンが臨床導入されたことによって,心臓移植をはじめとする臓器移植における拒絶反応のコントロールの成績が改善し,その後シクロスポリンの大きな問題点であった腎障害を起こしにくい薬剤としてタクロリムスが臨床導入された5).眼科領域でも当初Behcet病にシクロスポリン内服が導入され,その後点眼薬の形でVKCにシクロスポリンとタクロリムスが使用されるようになった.また,アトピー性皮膚炎の治療にはタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏0.1%成人用,0.03%小児用)が用いられ,ステロイド軟膏の副作用が生じやすい顔面の皮疹への塗布に用いられている6).IIIシクロスポリンとタクロリムスの点眼薬シクロスポリンもタクロリムスも水にほとんど溶けない薬剤のため,日本の製薬会社のもつ技術によって,水性点眼あるいは懸濁液点眼として製品化されている.それゆえ,近年まで免疫抑制点眼薬によるVKC(AKC)の治療が可能であったのはわが国と両社が進出しているアジアの一部の国のみであった.最近になって欧米諸国でシクロスポリン懸濁液点眼(日本のパピロックミニと*AkiraMatsuda:順天堂大学大学院医学研究科眼科・眼アトピー研究室〔別刷請求先〕松田彰:〒113-8421東京都文京区本郷2-1-1順天堂大学大学院医学研究科眼科・眼アトピー研究室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(31)1269カルシニューリン阻害薬はNFAT(nuclearfactorofactivatedTcell)の活性化を阻害図1カルシニューリン阻害薬の作用機序グルココルチコイドとその受容体(GR)はNF-kB,AP-1の活性化を阻害(同時に他の遺伝子の発現にも影響する=種々の副作用)図2グルココルチコイドの作用機序IVVKC(AKC)治療におけるシクロスポリンとタクロリムス抗アレルギー点眼で効果が不十分なCVKC症例に対して,シクロスポリンはC1日C3回,タクロリムスはC1日C2回の点眼で投与する.眼瞼型のCVKC/AKCに対しては,どちらの免疫抑制点眼薬も投与後C1カ月の時点で有意な臨床スコアの低下を示した.一方で眼瞼型や混合型においては,両者とも有意な治療効果を示したが,タクロリムス点眼薬の効果がシクロスポリンより強いことが報告されている9).免疫抑制点眼薬の使用による大きな治療上のメリットは,ステロイド点眼の減量(中止)が可能になることである.Miyazakiらは角膜病変を伴うCVKC/AKC患者791名を対象に,ステロイド点眼+タクロリムス点眼で治療したC337名とタクロリムス点眼のみで治療したC454名を比較したところ,角膜病変の治療効果においてステロイド併用群と非併用群で有意な差がなかったことを報告している9).この結果から,タクロリムス点眼の単剤による治療が角膜病変を伴う慢性重症アレルギー性角結膜炎の治療法として有効であることを示唆しており,アレルギー性結膜炎診療ガイドラインにおいても中等症以上のCVKC/AKCに対する標準的な治療として抗アレルギー点眼薬と免疫抑制点眼薬の併用を推奨している10).急性期の炎症を制御するために短期的にステロイド点眼を併用するケースはありえるが,ステロイド点眼による眼圧上昇のリスクを常に考えておく必要がある.免疫抑制点眼薬の市販後調査の報告によるとシクロスポリン点眼使用の場合C33.6%,タクロリムス点眼使用の場合C51.8%がステロイド点眼からの離脱が可能であった9).これまでの臨床データから考えると,抗アレルギー点眼薬でコントロールができないCVKC/AKCにおいては,1)まずタクロリムス点眼薬を抗アレルギー点眼薬と併用して治療,2)症状のコントロールが不十分な場合は短期間ステロイド点眼薬を加える,3)それでもコントロールできない重症例にはステロイド内服を加える,という治療法が推奨される3,9).V免疫抑制点眼薬の副作用と長期使用の問題シクロスポリン点眼の副作用としては眼刺激感(2.53%)が,タクロリムス点眼の副作用としては眼部熱感(4.05%)と眼刺激感(2.85%)が多く報告されている.個人的には投与前に説明をしておくことで多くの患者で継続使用が可能である印象をもっている.アトピー性皮膚炎の治療に使われるタクロリムス軟膏の使用開始時にも刺激感を感じることが報告されており,これはタクロリムス使用に伴うサブスタンスCPの組織への遊離が関連しているとの報告11)があり,眼表面でも同様の機序での刺激感が生じていると推測される.また,臨床的に問題となる副作用に感染症(なかでもヘルペス角膜炎)の発症があり,適切な管理が求められる.一方,タクロリムス点眼薬の使用による血中への移行はほとんど生じないとされており12),長期使用例も経験している.難治CAKCでは免疫抑制点眼薬をC10年以上にわたって長期使用している患者も経験しており,増悪と寛解を繰り返すことから,増悪期に特徴的な所見(たとえば結膜上の粘性分泌物,落屑角膜炎,角膜上皮欠損など)と自覚症状を指標に粘り強く治療を継続することが重要である(図3).また,患者によっては免疫抑制点眼薬を減量し,症状がない時期にも寛解状態を維持する目的で,たとえば週C1回程度の点眼を継続(プロアクティブ療法)している患者(図4)や,寛解期が続き免疫抑制点眼薬から離脱ができた患者も経験している.このような慢性重症のCAKC/VKC患者では,免疫抑制点眼薬によってステロイド点眼薬の使用量を削減したり,使用を控えることができるメリットは大きい.CVIタクロリムス点眼抵抗性の難治VKC.AKC症例タクロリムス点眼薬はCVKC/AKCに対して,優れた治療効果を示すが,10~15%程度の頻度で治療に抵抗する患者が存在する.そのような場合は慢性炎症を伴う病変部位を除く効果が期待して,治療目的で巨大乳頭組織を切除することがある.筆者らはタクロリムス抵抗性のCVKC/AKC患者から切除した巨大乳頭組織と,対照として結膜弛緩症の切除組織からCRNAを抽出して(33)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1271図3重症アトピー性皮膚炎に伴うアトピー性角結膜炎(45歳,女性)10年前からタクロリムス点眼(両眼),増悪と寛解を繰り返している.増悪時にシールド潰瘍(Ca),角膜上皮欠損落屑角膜炎(b),上眼瞼巨大乳頭(Cc)が出現.タリムス点眼の継続と短期のデキサメサゾン点眼の追加で,シールド潰瘍の瘢痕化(Cd)の時期を経て寛解期に入った(Ce,f).タクロリムスの点眼は継続しており,角膜新生血管は残存している(Ce).図4春季カタル(アトピー性皮膚炎の合併はない)(9歳,男児)分泌物を伴う巨大乳頭結膜炎(Ca),落屑角膜炎(Cb)とシールド潰瘍(Cc)を認める.タクロリムス点眼薬で治療し,症状所見は軽快.その後週C1回タクロリムス点眼でC6年間寛解を維持している(Cd).図5重症アトピー性皮膚炎に伴うアトピー性角結膜炎(37歳,女性)6年前からタクロリムスの点眼を継続中.3年前にアトピー性皮膚炎のコントロールが悪化し,強い痒みと落屑角膜炎(Ca,b),眼瞼の巨大乳頭結膜炎(Cc)を認めた.デュピルマブの投与後C3カ月で眼所見は軽快(Cd~f)し,寛解期に入った.タクロリムス点眼とデュプルマブの投与を継続中.-

ドライアイ点眼液

2021年11月30日 火曜日

ドライアイ点眼液EyeDropsMedicationsforTreatingDryEye横井則彦*はじめにドライアイ(dryeye:DE)の点眼治療は,2010年12月のジクアホソルナトリウム(diquafosolsodium:DQS)点眼液,2012年1月のレバミピド(rebamipide:Rbm)点眼液の登場により,この10年間で大きく様変わりした.また,それらの登場を受けて,眼表面の層別診断(tear.lmorienteddiagnosis:TFOD),眼表面の層別治療(tear.lmorientedtherapy:TFOT)(TFOD/TFOT)の考え方が生まれて1.4),日本のDEの診断・治療はパラダイムシフトを迎えた.涙液層に主眼を置くDEの新しい考え方は,それまでの定義・診断基準では,位置づけが困難であった涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)短縮型DE5,6)にDEとしての市民権を与えるとともに,そのサブタイプとしての水濡れ性低下型DE(decreasedwettabilityDE:DWDE)1.4,6)の重要性を浮かび上がらせた.現在,BUT短縮型DEは,2016年版のDEの定義・診断基準7)において,涙液減少型DE(aqueousde.cientdryeye:ADDE)と合わせて,DEの一つの体系のなかで捉えられるようになり,日本発世界初のTFOD/TFOT1.4)は,アジアの他国でも受け入れられて8,9),欧米の臨床家にも評価されている10).DEにおいて欧米で重視される涙液の浸透圧上昇,眼表面炎症の考え方は可視化できず,かつ,細隙灯顕微鏡以外の検査法を要するものであり11),TFOD/TFOTのコンセプトが普及しつつある日本においては,不可欠なものとはなっていない.しかし,Sjogren症候群,移植片対宿主病,粘膜天疱瘡に伴いうる重症のADDEにおいては,DEと眼表面炎症が関与することは間違いなく,低力価ステロイド点眼液で管理できないような強い眼表面炎症に対しては,欧米で用いられているようなシクロスポリン,li.tegrastといった免疫抑制薬点眼12)が,治療の選択肢として必要になってきている.振り返ってみると,DQSやRbmの登場は,日本のDE診療の発展に大きな門戸を開き,DEが効果的に治療できる疾患になったことは大変に喜ばしいことであり,大きな歴史的意義があると思われる.ここでは,DE診療ガイドライン13)を参照しながらも,実際の臨床での経験を入れながらDE点眼液について考察する.IDEの病態生理の考え方と点眼液の関係DEの病態生理の考え方は,定義・診断基準に関係するとともに,実際に使用できる治療法,中でも点眼治療と関係する.日本におけるこれまでの3回のDEの定義・診断基準の策定7,14,15)において,過去の2回14,15)では角結膜上皮障害が必須であり,DEは角結膜上皮障害をきたす疾患として捉えられていた.したがって,角結膜上皮治療用点眼薬として1995年に登場したヒアルロン酸ナトリウム(hyaluronicacid:HA)点眼液は,DE治療用点眼液としての地位を築くものであった.そのため,上皮障害がみられないか軽度のBUT短縮型DE5,6)は,DE疑いとされた.しかし今考えると,症状の強いBUT短縮型DE5,6)は,DWDE1.4,6)であった可能性があ*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(17)1255日本米国図1ドライアイの考え方の日本と米国との違い日本では,可視化しうる涙液層の破壊と結果としての上皮障害を重視するのに対し,米国では,可視化できない,涙液の浸透圧上昇,炎症を重視する.この違いは,使用できる点眼液の違いを反映している可能性がある.図2塩化ベンザルコニウム(BAK)を含有する緑内障点眼液による薬剤性角膜上皮障害に対してBAK非含有緑内障点眼液への変更と人工涙液点眼によるウオッシュアウトを行った例6カ月以上を要したが,高度の角膜上皮障害(Ca)が消失している(Cb)のがわかる.現在もCBAKフリーの緑内障点眼液を継続している.=図3涙液減少型ドライアイ(ADDE)に対するジクアホソルナトリウム(DQS)点眼液への変更の効果ADDEと点状表層角膜症(SPK)の合併眼(Ca).ADDEに対してCHA(4回/日)とCRbm(4回/日)を点眼していたが,それらをCDQS(6回/日)に変更してC1カ月後(Cb)には,涙液層の安定性が改善し,SPKも大幅に改善した.=図4水濡れ性低下型ドライアイ(DWDE)に対するジクアホソルナトリウム(DQS)点眼液の効果LineCbreakCwithrapidCexpansionを認めるCDWDE(Ca)に対し,点眼開始後約C6カ月で,randombreakへのシフト(b)(IEDEに相当)が観察され,角膜表面の水濡れ性は改善した.涙液層の安定性低下瞬目摩擦亢進眼瞼結膜上皮ドライアイの眼表面の他覚所見を表現開瞼維持時悪循環角膜上皮表面涙液層(おもにLidwiper部)涙液悪循環眼球側の角結膜上皮瞬目時図5眼表面におけるドライアイの階層構造ドライアイでは,さまざまな内的,外的要因が眼表面に作用して,二つの悪循環(開瞼維持時の涙液層の破壊および瞬目時の摩擦の亢進)を介して,眼不快感,視機能異常を生じる.これら二つの悪循環がコアとなるドライアイのメカニズムであり,他覚所見を形成する.(文献2,13より引用改変)図6涙液減少型ドライアイ(ADDE)に対するジクアホソルナトリウム(DQS)点眼液とレバミピド(Rbm)点眼液の併用療法ADDEでは,涙液層の破壊と瞬目摩擦の亢進がともに引き起こされやすい.前者はCDQS点眼液で効果的に治療できるのに対して,後者はCRbm点眼液で効果的に治療できるため,両者を併用することも多い.本症例では,合併する糸状角膜炎と角膜下方のClinebreakを伴う点状表層角膜症がCDQSとCRbmの併用療法で効果的に治療されている.留意が必要とある13).ADDEに伴う眼表面炎症は,炎症性メディエーターがCMUC16をCsheddingさせることで角膜の水濡れ性を低下させる30).そのような続発性の水濡れ性低下に対して,ステロイド点眼液は,炎症性のメディエーターの産生を抑えて,MUC16のCsheddingを抑制し,間接的に角膜の水濡れ性の改善をもたらすと考えられるが,DQSやCRbmはCMUC16の発現を直接促進29,30,37,38)して水濡れ性を改善することを再度確認しておきたい.BUP分類で,spotやCdimplebreak,breakupのCrapidexpansionがみられるCDWDE1.4)は,涙液層の疾患というより上皮の疾患と考えられ,炎症の関与はあるとしても少ないと考えられるが,ドライアイは,涙液層の破壊と摩擦亢進による悪循環が,眼表面炎症を引き起こすため,結果としての炎症が惹起されている可能性は十分に考えられる.筆者は長年,DWDEに対しても,ADDEと同様に,0.1%フルオロメトロンをC1日C2回の点眼で使用してきたが,近年,フルオロメトロンそのものが積極的に膜型ムチンの発現を促していることが報告された39)ことで,これまでの治療法が効果的な方法の一つであった可能性があると考えている.おわりにドライアイには難治例も多く,日本においては多種類の点眼液が利用できるために,頻回点眼,多剤併用となりやすい.臨床試験や臨床研究から得た有効性とは別に,臨床においては医師側の点眼液の用い方,患者の実際の使用法,ライフスタイル,生活習慣,生活環境など,さまざまな制約を受けるため,実際には,診療ガイドライン13)に即したものにはなっていない場合もあるのではないかと思われる.今後,DEの眼表面炎症をゲートキーパーとして安全に抑えることのできる点眼液や,点眼回数が少ない効果的な点眼液の登場が期待されるところである.DEは,自覚症状のある疾患であるがゆえに,アドヒアランスよく点眼される可能性はあるが,慢性疾患であるがゆえに,すぐには改善が得られにくく,いったん改善しても,上流のリスクファクターを治療しているわけではないので,治療をやめると再び眼表面の悪循環が再発しうる.したがって,点眼液を効果的に用いて,症状が許容範囲になるようマネージメントするのが目標であることを常々意識しておく必要がある.本稿がCDEの日常診療に役立てば幸いである.文献1)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCandCtherapyCforCdryCeye.In:DryCeyesyndrome:basicCandclinicalperspectives(YokoiN,ed)C,p96-108,FutureMedi-cineLondon,20132)YokoiCN,CGeorgievCGA,CKatoCHCetal:Classi.cationCof.uoresceinbreakuppatterns:Anovelmethodofdi.eren-tialCdiagnosisCforCdryCeye.CAmCJCOphthalmolC180:72-85,C20173)YokoiCN,CGeorgievGA:TearC.lm-orientedCdiagnosisCandCtear.lm-orientedTherapyfordryeyebasedontear.lmdynamics.CInvestCOphthalmolCVisCSciC9:DES13-DES22,C20184)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCforCdryeye.JpnJOphthalmol63:127-136,C20195)TodaCI,CShimazakiCJ,CTsubotaK:DryCeyeCwithConlyCdecreasedCtearCbreak-upCtimeCisCsometimesCassociatedCwithCallergicCconjunctivitis.COphthalmologyC102:302-309,C19956)山本雄士,横井則彦,東原尚代ほか:TearC.lmCbreakuptime(BUT)短縮型ドライアイの臨床的特徴.日眼会誌C116:1137-1143,C20127)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科C34:C309-313,C20178)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:NewperspectivesonCdryCeyeCde.nitionCanddiagnosis:ACConsensusCreportCbytheAsiaDryEyeSociety.OculSurfC15:65-76,C20179)TsubotaCK,CYokoiCN,CWatanabeCHCetal:ACnewCperspec-tiveConCdryCeyeclassi.cation:proposalCbyCtheCAsiaCdryCeyesociety.EyeContactLensC46:S2-S13,C202010)TsubotaCK,CP.ugfelderCSC,CLiuCZCetal:De.ningCdryCeyeCfromaclinicalperspective.IntJCMolSciC21:9271,C202011)Wol.sohnJS,AritaR,ChalmersRetal:TFOSDEWSIIdiagnosticCmethodologyCreport.COculCSurfC15:539-574,C201712)JonesL,DownieLE,KorbDetal:TFOSDEWSIIman-agementCandCtherapyCreport.COculCSurfC15:575-628,C201713)ドライアイ診療ガイドライン作成委員会:ドライアイ診療ガイドライン.日眼会誌123:489-592,C201714)島﨑潤:ドライアイの定義と診断基準.眼科C37:765-770,C199515)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,C200716)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:FacilitationCofCtearC.uidCsecretionCby3%CdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCnormalC(23)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1261-’C-