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強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の 眼圧下降効果

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1097.1101,2022c強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の眼圧下降効果池上裕華*1新田耕治*2松田卓爾*1坂部敦子*1余頃麻里*1河野文香*1楢崎智也*1露木未夕*1杉山和久*3生野恭司*1*1いくの眼科*2福井県済生会病院眼科*3金沢大学付属病院眼科CE.ectofIOPReductioninHighMyopiaGlaucomabySelectiveLaserTrabeculoplastyYukaIkenoue1),KojiNitta2),TakujiMatsuda1),AtsukoSakabe1),MariYogoro1),AyakaKono1),TomoyaNarazaki1),MiyuTsuyuki1),KazuhisaSugiyama3)andYasushiIkuno1)1)IkunoEyeCenter,2)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospitalOphthalmology,3)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospitalOphthalmologyC目的:選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)が強度近視を伴う緑内障にも有効かを後ろ向きに検討した.対象および方法:2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行した患者のうち,6カ月まで経過観察可能であったC96眼(男性C35眼,女性C61眼平均年齢C67.8C±11.6歳)を非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)に分けて検討した.結果:眼圧はCSLT施行後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な下降を認めた.Out.owpressure改善率C20%未満を死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群C87.7%,強度近視群C80.0%,病的近視群C96.6%でC3群間に有意差を認めなかった.合併症は一過性眼圧上昇をC4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)で認めた.うちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.結論:強度近視眼緑内障においてもCSLTは安全で有用な治療法であると考えられる.CPurpose:Toretrospectivelyinvestigatethee.cacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)fortreatingglau-comaCassociatedCwithChighCmyopia.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC96Cglaucomatouseyes(35CmaleCeyes,61femaleeyes;meanpatientage:67.8C±11.6years)thatweretreatedwithSLTandfollowedforatleast6-monthspostoperative.Theeyesweredividedintothefollowing3groupsaccordingtotherefractivestatusandfundus.ndings:1)nonhighmyopiagroup(n=42eyes,meanage:68.0C±13.5years),highmyopicgroup(n=25eyes,Cmeanage:61.0C±7.5years)C,CandCpathologicalCmyopiagroup(n=29Ceyes,Cmeanage:73.2C±8.2years)C.CResults:Comparedwiththepreoperativevalues,meanintraocularpressure(IOP)wassigni.cantlyreducedat1-,3-,and6-monthspostoperative.At6-monthspostoperative,thelifetableanalysis.ndingsinthenonhighmyopia,highCmyopia,CandCpathologicalCmyopiaCgroupsCwere87.5%,83.8%,Cand86.2%,Crespectively,CthusCillustratingCnoCsigni.cantlydi.erence.PostoperativecomplicationsincludedtransientIOPelevationin4eyes,yetIOPwasfoundtoChaveCreducedCtoCnormalCinC3CofCthoseCeyesCatCtheCsubsequentCfollow-upCexamination.CInCtheCpathologicCmyopiaCgroup,1eyeunderwent.lteringsurgeryduetocontinuoushighIOP.Inalleyes,therewasnooccurrenceofante-riorCchamberChemorrhageCorCuveitis.CConclusion:SLTCisCaCsafeCandCe.ectiveCtreatmentCforCglaucomaCassociatedCwithhighmyopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1097.1101,C2022〕Keywords:緑内障手術,選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT),強度近視眼緑内障,眼圧下降.glaucomaCsur-gery,selectivelasertrabeculoplasty,highmyopicglaucoma,IOPreduction.C〔別刷請求先〕池上裕華:〒532-0023大阪市淀川区十三東C2-9-10十三駅前医療ビルC3階医療法人恭青会いくの眼科Reprintrequests:YukaIkenoue,IkunoEyeCenter,3FJuusoekimaeiryobiru,2-9-10Jusohigashi,Yodogawa-ku,Osaka-shi,Osaka532-0023,JAPANCはじめに緑内障は眼圧下降治療が唯一のエビデンスの存在する治療である.一般的第一選択治療である点眼治療は,患者が容易に受け入れることができるが,デメリットとして毎日点眼する必要があり,副作用のアレルギー反応がでる可能性がある.また,患者のアドヒアランスに左右される.緑内障の初期.中期は視力や視野障害の自覚がないという特徴があるため,脱落していく患者も少なくない1).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は,Qスイッチ半波長CYAGレーザーを用いたレーザー手術である.照射によりサイトカインが放出され,活性化されたフリーラジカルが抗炎症細胞貪食能を増大させ2),Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進されることで,房水流出抵抗が減少するとされている3).近年はパターンレーザー線維柱帯形成術(patternedClaserCtrabecu-loplasty:PLT)やマイクロパルスダイオードレーザー線維柱帯形成術(micropulseCdiodeClasertrabeculoplasty:MDLT)も施行されているが,唯一,SLTは周囲の線維柱帯無色素細胞に熱変性が生じない治療である4).これまでCSLTの位置づけは最大耐用薬剤成分数での点眼治療をしても眼圧が下がらなかった患者に行うことが多かったが,点眼を多く使用していると成績は不良であるとの報告5,6)もあり,また期待したほど眼圧が下がらない,説明に時間がかかる,患者がレーザーに対して抵抗感があるなどの理由により普及していなかった.2013年に新田らは,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に対してSLTを第一選択治療として施行した成績を国内で最初に報告し,NTGに対するC.rst-lineSLTの有効性と安全性を示した7).さらにC2019年にはCLiGHTCstudy8)が報告され,原発開放隅角緑内障や高眼圧症に対する第一選択治療としてのSLTの有用性を示した.また,SLT施行群では追加の観血的緑内障手術の必要がなかったことや,点眼群と比較してコストパフォーマンスが高い点も報告され,最近,SLTが世界的に注目されるようになってきた.強度近視眼は近視性変化により緑内障様視神経症をきたすことがある.この病態に緑内障に準じた眼圧下降療法が行われることがある.これまでCSLTに関して多数の報告があるが,強度近視眼緑内障に対する報告はない.今回筆者らは強度近視眼緑内障にもCSLTが有効か後向きに検討した.CI対象および方法いくの眼科(以下,当院)で広義開放隅角緑内障と診断された患者のうち,眼圧コントロール不良・視野障害進行・第一選択治療としてCSLT治療が必要と判断され,緑内障専門の同一術者によってC2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行され,施行後C6カ月まで経過観察可能であったC96眼を対象とした.対象の病型は狭義開放隅角緑内障C40眼,正常眼圧緑内障CNTG56眼であった.本研究は,当院の倫理委員会の承認(第C5回C001番)を得て行った.SLTはCEllex社製CTangoオフサルミックレーザー(波長532Cnm,パルス幅C3Cns)を使用し,indexingSLTレンズを装着した後,0.3.0.8CmJの間でシャンパンバブルが発生するかしないかの強さのエネルギーを用い,隅角全周C360°に施行した.一過性眼圧上昇(5CmmHg以上上昇)を防ぐため,術前C1時間前および術直後にアプラクロニジン点眼(アイオピジン)を行い,術後はステロイド点眼および非ステロイド抗炎症薬点眼は使用しなかった.術前後で緑内障点眼の内容は変更せずに経過観察を行った.経過観察中に眼圧下降効果が不十分な場合は治療を強化し,眼圧の再上昇をきたした場合にはCSLTの再照射も考慮した.眼圧はすべてCGoldmann圧平眼圧計を用い,術前と術後C1カ月,3カ月,6カ月の時点での眼圧値,眼圧下降率,Cout.owpressure改善率(CΔOP)を解析に使用した.眼圧値は,術前は1.3回の平均値,術後はC1回の測定値を行いた.CΔOPは上強膜静脈圧をC10CmmHgとし,CΔCOp=(SLT前眼圧.SLT後眼圧)/(SLT前眼圧C.10)C×100の式で求め,CΔOP(%)を計算した.SLT効果の判定には,CΔCOP20%以上を有効と定義した.眼軸長は光学的眼軸長(OA2000,トーメーコーポレーション)を使用して測定し,26Cmm未満であったものを非強度近視群,26Cmm以上を強度近視群に分類し9),さらに強度近視群に分類したなかから後極部に変性を有するものを病的近視群に分類し,術前後の眼圧値,眼圧下降率を検討した.なお,病的近視眼の判定は,強度近視専門医とCSLT施行医のC2名による判定をもって分類した.また,配合点眼はC2剤,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤として計算した.統計ソフトはCJMP14を用い,SLT施行前後での眼圧下降の有意性には対応のあるCt検定を,3群間の比較にはCKruskal-Wallisの検定を,3群間での眼圧の推移の分散分析には二元配置分散分析を使用した.生命表解析は,CΔCOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義し,Kaplan-Meier法を用いた.各々の検定における有意水準はC0.05未満とした.CII結果対象の内訳は,非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)であった.非強度近視群/強度近視群/病的近視群(以下,同様)の眼軸長はそれぞれC24.21C±1.18Cmm/27.41±1.13Cmm/C31.26±2.01Cmm(p<0.01)であった.SLT照射エネルギー(照射数)は55.5C±10.1CmJ(85.0C±6.6発)/57.8C±11.1CmJ(88.6C±6.1発)/56.2C±12.2CmJ(86.1C±7.3発)(p=0.63)であった.表13群の臨床的背景非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)p値年齢(歳)20.C86(C68.0C±13.5)50.C77(C61.0C±7.5)54.C82(C73.2C±8.2)<C0.01性別(男/女)C14/28C14/11C7/22<C0.05眼軸長(mm)C24.2±1.2C27.4±1.1C31.3±2.0<C0.01SLT前眼圧(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1C0.06薬剤成分数C1.6±1.4成分C2.3±1.6成分C2.6±1.2成分<C0.01薬剤成分数の内訳無治療9眼1成分16眼2成分6眼3成分以上11眼無治療5眼1成分3眼2成分3眼3成分以上14眼無治療0眼1成分7眼2成分3眼3成分以上19眼<C0.01表23群の眼圧値および眼圧下降率非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)術前眼圧値(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1術後C1カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.4±3.2C18.6±14.1C13.0±3.1C15.3±13.2C15.7±7.3C16.3±15.2術後C3カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.1±2.5C19.1±14.0C12.5±2.8C16.7±14.4C13.9±4.3C21.7±19.5術後C6カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C13.8±2.5C19.1±12.0C13.4±3.2C11.6±16.2C14.2±4.7C21.4±20.10.6非強度近視群強度近視群10.8眼圧(mmHg)2015累積生存率0.4病的近視群0.210001234565SLT前眼圧1カ月後3カ月後6カ月後SLT施行後経過時間(カ月)図1SLT前後の眼圧値の推移図2Out.owpressure改善率20%未満を死亡と定義しSLT施行後眼圧は,術後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前眼圧はC18.1C±5.1mmHg/15.4±3.1mmHg/19.0C±7.1CmmHg(p=0.06)であった.SLT施行直前に使用していた薬剤成分数はC1.6成分/2.3成分/2.6成分であった(p<0.01)(表1).SLT施行後眼圧は,術後C1カ月:14.4C±3.2CmmHg/13.0±3.1CmmHg/15.7±7.3mmHg,3カ月:14.1C±2.5/12.5±2.8/13.9±4.3,6カ月:13.8C±2.5/13.4±3.2/14.2C±4.7で,常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認た生命表解析Out.owpressure改善率C20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(logrank検定:p=0.1722).めた(表2,図1).SLT施行後の眼圧下降率は術後C1カ月:C18.6±14.1%/15.3C±13.2%/16.3C±15.2%,3カ月:19.1C±14.0%/16.7C±14.4%/21.7C±19.5%,6カ月:19.1C±12.0%/C11.6±16.2%/21.4C±20.1%であった(表2).ΔOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(p=0.1722)(図2).SLT後の合併症として,術後C1時間の時点または術後C1カ月の時点で一過性眼圧上昇が認められたものは,96眼中4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)であった.このうちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.CIII考按近視は緑内障発症の危険因子とされ,緑内障進行の危険因子である可能性についての報告もある10,11).また,近視眼は加齢とともに眼球形態が変化することによりさまざまな黄斑疾患や周辺部網膜病変が生じることがある.これを病的近視とよび,病的近視の眼底所見には,後部ぶどう腫,Bruch膜のClacquercrack(ひび割れ),黄斑部出血,近視性牽引黄斑症,網膜分離症,近視性網脈絡膜萎縮などがある.これらの近視性変化により緑内障様視神経症をきたすこともある12).この病態は,緑内障による構造変化と強度近視による構造変化が混在している可能性があるがまだ不明なことが多い.強度近視眼緑内障をC10年以上観察した場合には乳頭出血の出現頻度が低く,視野障害の悪化率が低率である可能性が示唆された13).myopicCglaucomatous(MG)型,generalizedenlargement型,focalglaucomatous型のC3群の乳頭形状を有する開放隅角緑内障でC5年間の乳頭出血の頻度を比較した結果,MG型が乳頭出血の出現頻度が低率で,近視緑内障眼は進行も緩徐である可能性がある14)など,近視眼緑内障の病態は非近視眼緑内障と異なる経過をたどる可能性も考えられ,アジアを中心に徐々に報告が増えてきている.近視眼緑内障に視神経へのストレス軽減を目的に眼圧下降治療を試す施設もあり,その是非が注目されている.本研究におけるCSLT後の眼圧はすべての時点でベースライン眼圧より下降し,強度近視眼や病的近視眼であっても眼圧下降効果は発現している.日本人の緑内障はその約C7割がCNTGであり15),本研究でもCNTGは全体のC58.3%だったので,同様の分布であったと思われる.NTGにCSLTを施行したC6カ月後の眼圧下降率は,15.1%7)やC21.2%16)などの報告があり,SLTにより過去の報告と同様の効果が得られたと思われる.当院は強度近視眼の患者が多く高度の視神経障害も合併している患者が多いという特殊性がある.視力C0.1以下の症例も多く,Humphrey視野での評価が困難な患者も多く,SLTによる視機能保持効果の評価については課題が多い.また,最大薬剤成分数の点眼を使用しており,SLTの作用持続期間が短い5,6)とされる患者であっても,一時的にでも視機能を保持したいためにCSLTを施行しているという背景があった.このような条件下でも経過観察期間内の合併症の頻度は少なく,眼圧は下降していることから,病的近視眼緑内障の治療方法としてもCSLTは有用である可能性が示唆された.合併症については一過性眼圧上昇がC0.8%起こる可能性があると報告されている5).本研究では非強度近視でC2.4%,強度近視群でC8.0%,病的近視群でC3.4%に認めた.一過性眼圧上昇を認めても治療内容を変更せずに経過観察したところ,3例で次の診察時にはベースライン以下に眼圧は下降し,視機能に影響するような合併症もなかった.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術が必要となった.SLTはC1回の治療でしばらく経過観察するので,点眼での治療とは異なり,定期的な通院の必要性に対する認識が希薄になってしまう可能性がある.このためCSLTの照射後は眼圧が上昇する可能性があるので術後も定期的な眼圧の確認が必要である,と伝えておくことは非常に重要である.本研究の限界は,後ろ向き研究であることである.強度近視を伴う緑内障では緑内障性構造変化と近視性構造変化が合併した状態なので,SLT施行前の臨床的背景がC3群間で異なっておりCSLT効果を評価することが困難であった.よって本研究では,それぞれの症例群に対して効果があるということを示したものとなる.今後は病期や眼圧の程度を揃えた多施設前向き研究が必要と考える.また,今後の研究では,強度近視や病的近視群の眼軸伸展に伴う構造変化が眼圧上昇に影響する可能性も考慮していくことが重要と考えられる.病的近視群のなかには,網脈絡膜萎縮が広範に存在するために視神経症による視野障害以外の要素も加味すべきであるが,病的近視眼群では視力C0.1以下の症例も多く,Hum-phrey視野での評価が困難であったので,SLTによる眼圧下降が視機能保持に貢献しているかの検討が困難であった.CIV結論強度近視眼緑内障においてもCSLTは非強度近視眼緑内障と同様に眼圧下降が得られる可能性がある.文献1)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20142)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:AnewinsightintoCtheCcellularCregulationCofCaqueousout.ow:howCtra-becularCmeshworkCendothelialCcellsCdriveCaCmechanismCthatCregulatesCtheCpermeabilityCofCSchlemm’sCcanalCendo-thelialcells.BrJOphthalmolC89:1500-1505,C20053)ChenCC,CGolchinCS,CBlomdahlS:ACcomparisonCbetweenC90degreesand180degreesselectivelasertrabeculoplas-ty.JGlaucomaC13:62-65,C20044)LatinaCMA,CParkC:SelectiveCtargetingCofClaserCmesh-workcells:invitroCstudiesofpulseandCWlaserinterac-tion.ExpEyeRes60:359-371,C19955)KhawajaCAP,CCampbellCJH,CKirbyCNCetal:Real-worldCoutcomesCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCinCtheCUnitedCKingdom.OphthalmologyC127:748-757,C20206)MikiA,KawashimaR,UsuiSetal:TreatmentoutcomesandCprognosticCfactorsCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCopen-angleCglaucomaCreceivingCmaximal-tolerableCmedicaltherapy.JGlaucomaC25:785-789,C20167)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日眼会誌117:335-343,C20138)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticenterrandomizedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20199)HuanhuanCheng,LiWang,JackXKaneetal:AccuracyofCarti.cialCintelligenceCformulasCandCaxialClengthCadjust-mentsCforChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC223:C100-107,C202110)PerdicchiCA,CIesterCM,CScuderiCGCetal:VisualC.eldCdam-ageCandCprogressionCinCglaucomatousCmyopicCeyes.CEurJOphthalmolC17:534-537,C200711)ParkHY,HongKE,ParkCK:ImpactofageandmyopiaonCtheCrateCofCvisualC.eldCprogressionCinCglaucomapatients.Medicine(Baltimore)C95:e3500,C201612)Ohno-MatsuiCK,CShimadaCN,CYasuzumiCKCetal:Long-termCdevelopmentCofCsigni.cantCvisualC.eldCdefectsCinChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC152:256-265,C201113)NittaCK,CSugiyamaCK,CWajimaCRCetal:IsChighCmyopiaCaCriskfactorforvisual.eldprogressionordiskhemorrhageinCprimaryCopen-angleCglaucoma?CClinCOphthalmolC11:C599-604,C201714)YamagamiA,TomidokoroA,MatsumotoSetal:Evalua-tionCofCtheCrelationshipCbetweenCglaucomatousCdiscCsub-typesCandCoccurrenceCofCdiscChemorrhageCandCglaucomaCprogressionCinCopenCangleCglaucoma.CSciCRepC10:21059,C202015)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C200416)LeeJWY,ShumJJW,ChanJCHetal:Two-yearclinicalresultsCafterCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCnormaltensionglaucoma.Medicine(Baltimore)C94:e984,C2015***

基礎研究コラム:ウイルス増殖における宿主由来長鎖ノンコーディングRNAの役割

2022年8月31日 水曜日

ウイルス増殖における宿主由来長鎖ノンコーディング白濱新多朗RNAの役割東京大学医学部眼科学教室ノンコーディングRNAとはらびに増殖が著明に抑制されました.この結果は,U90926がマウス視細胞におけるCHSV-1の増殖に必須の分子であるノンコーディングRNAとは,蛋白質をコードしないことを示唆しています2)(図1).RNAの総称です.ノンコーディングCRNAは,全長に基づさらに筆者のグループは,ヒトゲノムのシンテニー領域にいて,200塩基未満の短鎖ノンコーディングCRNAとC200塩U90926遺伝子と高い相同性をもつホモログ遺伝子(ヒト基以上の長鎖ノンコーディングCRNA(longCnon-codingU90926)を同定しました3).また,ヒトCU90926遺伝子由来RNA:lncRNA)に大別されます.lncRNAはさまざまなの転写産物量は,HSV-1が原因ウイルスの急性網膜壊死患RNA結合蛋白質と結合し,RNA結合蛋白質の機能を制御す者の硝子体液中で著明に増加し,硝子体液中のウイルス量なることで,多様な生理機能を発揮します.らびに最終矯正視力と強い相関をもつことを明らかにしまし宿主細胞はウイルス感染に対する自然免疫応答の一環とした3).これらの結果は,ヒトCU90926遺伝子由来のClncRNAて,自身の翻訳反応を抑制することが知られています.が,HSV-1を起因とする急性網膜壊死の有望な治療標的にlncRNAは翻訳されずに機能する分子で,宿主が自然免疫応なりえる可能性があることを示唆しています.答においてClncRNAを利用することは非常に合理的です.しかし,ウイルスは宿主との攻防において,この宿主由来の今後の展望lncRNAを巧みに利用して,自らの増殖を促進していることウイルスは宿主細胞なくしては増殖できないことが意味すがわかってきています1).ウイルス増殖を促進する機能をもるように,宿主側因子を巧みに利用して自らの増殖に役立てつClncRNAは,その阻害によりウイルス増殖が阻害されるています.宿主由来ClncRNAを標的とすることで,これまため,抗ウイルス薬の有望な新規治療標的になりえます.での抗ウイルス薬とまったく異なる治療標的をもつ新薬が誕急性網膜壊死の病態形成における生することが期待されます.長鎖ノンコーディングRNAの役割文献筆者のグループは,次世代シーケンサーを用いたCRNA1)WangP,XuJ,WangYetal:Aninterferon-independentシーケンシング解析により,単純ヘルペスウイルスC1型ClncRNACpromotesCviralCreplicationCbyCmodulatingCcellular(herpesCsimplexCvirusCtype1:HSV-1)の感染後に,マウCmetabolism.ScienceC358:1051-1055,C2017ス視細胞株で発現上昇するClncRNAを網羅的に同定しまし2)ShirahamaCS,COnoguchi-MizutaniCR,CKawataCKCetal:た2)CLongCnoncodingCRNACU90926CisCcrucialCforCherpesCsim-.さらに同定ClncRNAの中から,急性網膜壊死モデルマCplexCvirusCtypeC1CproliferationCinCmurineCretinalCphotore-ウスの網膜で発現上昇を認めたCU90926に着目しました.Cceptorcells.SciRepC10:19406,C2020U90926ノックダウン細胞にCHSV-1を感染させると,ゲ3)ShirahamaCS,CTaniueCK,CMitsutomiCSCetal:HumanCU90926orthologouslongnon-codingRNAasanovelbio-ノムCDNA複製に必要なウイルス遺伝子(ICP-0,ICP-4)のCmarkerforvisualprognosisinherpessimplexvirustype-発現低下がみられ,結果的にCHSV-1のゲノムCDNA複製なC1inducedacuteretinalnecrosis.SciRepC11:12164,C2021図1宿主由来長鎖ノンコーディングRNAを利用した単純ヘルペスウイ1.宿主細胞へのウイルス2.宿主由来IncRNA-U909263.ゲノムDNA複製に必要な4.ウイルス増殖のルス1型の増殖感染の発現上昇ウイルス遺伝子の発現上昇促進ウイルス感染に対する応答として,はじめに宿主細胞よりlncRNA-U90926が発現誘導される.次に,ウイルスはlncRNA-U90926を利用して自らのゲノムCDNA複製に必要なウイルス遺伝子(ICP-0,ICP-4)を発現誘導することにより,宿主細胞における増殖を促進している.(81)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10910910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:硝子体腔内リンパシステム─その1(研究編)

2022年8月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載231231硝子体腔内リンパシステム-その1(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●Bursapremacularisとリンパ組織Bursapremacularis(BPM)はCWorstらが提唱した黄斑前に存在する袋状の特異な形態を有する硝子体の一部である1).筆者らはCBPMに肥満細胞が存在し,セリンプロテアーゼの産生源となり,黄斑円孔や黄斑上膜の発症に関与する可能性を報告した2).さらに筆者らは,BPMがリンパ様組織である可能性を考えた.その根拠として,BPMは硝子体内の水の移動に関与するとしたWorstらの報告1),硝子体腔内に蛍光標識リポソームを注入すると頸部リンパ節にトレナージされたとする報告3)などがあげられる.C●リンパ組織関連マーカーによるBPMの免疫染色BPMを選択的に採取し(図1a),リンパ管内皮細胞のマーカーであるCpodoplaninやClymphaticvesselendo-thelialChyaluronanCreceptor1(LYVE-1)で染色してみたところ,いずれもコアの硝子体よりも強い染色性を認めた(図1b,c)2,4).通常,終末リンパ組織はCelasticな性状を有し,周囲の組織とオキシタラン線維からなる.留フィラメントによって結合している.BPMはCelasticな性状を有しており,表面に毛羽立った構造を認め,トリアムシノロンアセトニド(TA)が付着しやすい.これは.留フィラメント様の構造物と思われる.その主成分であるC.brillin-1で染色したところ,BPMはコア硝子体よりも強い染色性を認めた(図1d)5).C●Berger腔とリンパ組織BPMのようなリンパ様組織は前部硝子体にも存在する.水晶体後面のCBerger腔は,Wieger靱帯で水晶体と円周状に付着しており,TAを塗布するとCBPMと同様に袋状の組織であることが確認できる(図2a).この(79)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPYabcdBursapremacularisの採取podoplaninLYVE-1.brillin-1図1リンパ組織関連マーカーによるBPMの免疫染色BPMを採取し(Ca),リンパ管内皮細胞のマーカーであるCpodo-planin(Cb),LYVE-1(Cc),および.留フィラメントの主成分であるC.brillin-1(Cd)で免疫染色を行ったところ,コア硝子体(上段)よりもCBPM(下段)のほうが強く染色された.(文献2,4より引用)CabcBerger腔の採取podoplanin.brillin-1図2リンパ組織関連マーカーによるBerger腔の免疫染色Berger腔にCTAを塗布するとCBPMと同様に袋状の組織であることが確認できる(Ca).同部位をCpodoplanin(Cb)および.brillin-1(Cc)で染色したところ,BPMと同様にコア硝子体(上段)よりもCBerger腔(下段)が強く染色された.(文献C4より引用)部位を選択的に採取し免疫染色したところ,BPMと同様にCpodoplaninやC.brillin-1で強く染色された(図2b,c)5).BPMとCBerger腔は円周状のリガメントにより,網膜および水晶体と癒着しミラーイメージのような構造を呈していると思われる.文献1)WorstJG:Cisternalsystemsofthefullydevelopedvitre-ousCbodyCinCtheCyoungCadult.CTransCOphthalmolCSocCUKC97:550-554,C19772)SatoCT,CMorishitaCS,CHorieCTCetal:InvolvementCofCpremacularmastcellsinthepathogenesisofmaculardis-eases.PLoSOneC14:e0211438,C20193)CameloCS,CLajavardiCL,CBochotCACetal:DrainageCofC.uorescentliposomesfromthevitreoustocervicallymphnodesCviaCconjunctivalClymphatics.COphthalmicCResC40:C145-150,C20084)MorishitaCS,CSatoCT,COosukaCSCetal:ExpressionCofClym-phaticmarkersintheBerger’sspaceandbursapremacu-laris.CIntJMolSciC22:2086,C2021あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1089

考える手術:内視鏡併用硝子体手術

2022年8月31日 水曜日

考える手術⑧監修松井良諭・奥村直毅内視鏡併用硝子体手術横山翔JCHO中京病院眼科眼内視鏡の歴史は古く,1934年にThorpeが眼内異物除去用に世界初の眼内視鏡を開発した.眼内視鏡で直接眼内を観察しながら器具の先端で眼内異物を挟み込む形状で,直径は6mm,8mmの強膜切開創が必要であった.時代とともに眼内視鏡は進歩し,今では27ゲージのものや対象物を詳細にみる近接用のものも登場している.眼内視鏡の特長として,①前眼部や中間透光体混濁の影響を受けない,②死角がなく強拡大で観察可能,③モニター越しの手術なので術中に患者の頭位を自由にできる,④空気置換時の視認性が比較的安定していら確実な下液除去が行える.さらに空気置換後の眼内観察時に小さな裂孔を見逃しにくいという利点もある.手術の流れとしては,まず広角観察システム下にて中心部の硝子体切除を行い,それに続く周辺部,裂孔周囲の硝子体切除の際には,眼内視鏡を用いて強膜圧迫せずに硝子体切除を行うことができる.眼内視鏡に慣れていない術者は,広角観察システム下で強膜圧迫しながら硝子体切除を行ってもよい.そして,液空気置換は眼内視鏡観察下で行い,既存の原因裂孔が最下点になるように頭位を変換する.右側に裂孔があれば顔を右側に,上方に裂孔があれば頭を下げて原因裂孔を最下点にする.裂孔を最下点にすることで確実な下液除去が行える.これにより,裂孔閉鎖時の光凝固は弱いパワーでも十分な凝固斑がつく.空気置換後も裂孔の見逃しがないか眼内視鏡で十分確認し,裂孔があれば光凝固を追加することですべての裂孔閉鎖を得ることができる.聞き手:眼内視鏡がなくても裂孔原性網膜.離の手術はける,空気置換時には視認性が落ちるといった弱点が存できると思います.わざわざ眼内視鏡を使用する理由は在します.眼内視鏡を併用することで,これらの広角観なんですか?察システムの弱点を補うことができます.具体的には,横山:近年,広角観察システムの普及によって安全で確術中の角膜浮腫や前房内炎症による眼底視認性の低下時実な手術ができるようになりました.しかし,広角観察や,眼内レンズ挿入眼での結露発生時にも,眼内視鏡なシステムには,前眼部の状態や眼球傾斜による影響を受ら影響を受けません.また,液空気置換時の網膜下液除(77)あたらしい眼科Vol.39,No.8,202210870910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術去の際には,裂孔が網膜周辺部にあると排液用の意図的裂孔作製や液体パーフルオロカーボン(perfluorocarbonliquid:PFCL)の使用が必要になりますが,眼内視鏡は患者の頭位を自由に傾けてモニターを見ながら手術を行うことが可能なため,網膜下液除去の際に既存裂孔の位置が最下点になるように患者の頭位を傾けることで,排液用の意図的裂孔作製やPFCLを使用しなくても確実な網膜下液除去が可能となります.また,空気置換下でも網膜周辺部にある微小裂孔の発見が可能であるため,裂孔の見落としを防ぐこともできます.さらに,眼内視鏡観察下で強膜圧迫をしなくても周辺の硝子体切除が可能なため,術中の痛みの軽減や,眼球圧迫することによる網膜循環不全や脈絡膜出血,術中の高眼圧などの合併症を予防できます.眼内視鏡の発展的な使用方法として,空気下で硝子体切除を行うatmosphericendoscopicvitrectomyを用いることで,.離網膜の可動性を抑えて硝子体切除を行うことができ,重度の網膜.離症例でも空気下で網膜最周辺部まで硝子体郭清を行うことができます.これらのことから,裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術の際に眼内視鏡を併用することはとても有用だと考えています.聞き手:眼内視鏡による網膜下液除去の際のコツを教えてください.横山:頭位を自由に傾けられるように,手術台は床屋椅子のように可倒式で上下,左右への頭位変換が可能なものを用います.網膜下液除去の際には,吸引用のバックフラッシュニードルなどの器具を上側のポートから挿入し,器具が垂直になる位置まで頭位を傾けることで,必然的に裂孔が最下点になります(図1a,b).網膜最周辺部に位置する下方の裂孔でも,思いきってベッドを立てて座位に近い頭位にすることで,しっかりと下液を除去することができます(図1c).液空気置換時には,眼内視鏡プローブの先端が曇って見づらくなることがあります.その場合は,いったん眼内視鏡プローブを眼外に出してプローブ先端を軽く拭いて曇りを取るか,慣れた術ab者だと眼内の硝子体や網膜に軽く眼内視鏡プローブの先端をあてて曇りを取ることで視認性を確保できます.聞き手:眼内視鏡があれば広角観察システムは不要でしょうか?横山:眼内視鏡のみでも硝子体手術は可能ですが,眼内視鏡には①解像度が低い,②立体視がない,③見える範囲が狭い,といった弱点があります.広角観察システムはこれら眼内視鏡の弱点を補ってくれますので,眼内視鏡と広角観察システムを併用することでお互いの弱点を補い合い,それぞれの長所を生かした手術を行うことができます.具体的には広角観察システム下にて中心部の硝子体切除を行い,周辺部ならびに裂孔周囲の硝子体切除の際には広角観察システム下で強膜圧迫しながら,もしくは眼内視鏡を用いて強膜圧迫せずに硝子体切除を行います.液空気置換の際には眼内視鏡を用いて既存の原因裂孔が最下点になるように頭位を変換して網膜下液を除去し,裂孔周囲の網膜光凝固,空気置換下での裂孔の見逃しがないかの確認を眼内視鏡観察下で行うことで,より安全で確実な手術が可能となります.聞き手:眼内視鏡観察下での手術操作で困る点はありませんか?横山:眼内視鏡観察によって周辺部ならびに裂孔周囲の硝子体切除の際にも強膜圧迫せずに硝子体切除を行えるという利点がありますが,強膜圧迫しないため.離網膜の可動性が高くなり,硝子体郭清の際に.離網膜を誤吸引してしまい,医原性裂孔が発生してしまうリスクがあります.眼内視鏡観察下での硝子体切除は網膜下液除去や網膜光凝固といった他の手術手技と比べると難易度が高いので,慣れていない術者は網膜下液除去や光凝固,眼内確認の際に眼内視鏡を使用し,周辺硝子体切除や裂孔周囲の硝子体牽引解除ならびに郭清時には広角システムを用いて強膜圧迫しながら硝子体切除を行うといいと思います.c右側に裂孔がある場合下方に裂孔がある場合下方の網膜最周辺部に裂孔がある場合図1眼内視鏡観察による網膜下液除去の際の頭位変換1088あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022(78)

抗VEGF治療:網膜静脈分枝閉塞症の予後予測因子

2022年8月31日 水曜日

●連載122監修=安川力髙橋寛二102網膜静脈分枝閉塞症の予後予測因子錦織奈緒美村岡勇貴京都大学大学院医学研究科眼科学網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫は,抗CVEGF治療の導入により制御しやすくなってきている.しかし再発がしばしば生じ,そのつど追加治療が必要になることが多い.また,その病勢には患者間で差があり,病態に応じた治療が重要と考えられる.筆者らは,黄斑部形態や視機能の予後に関して鍵となる所見を参考にしつつ,治療方針を患者ごとに計画している.はじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,糖尿病網膜症についで頻度の高い網膜血管疾患であり,しばしば黄斑浮腫を伴う.黄斑浮腫に対しては,現在抗CVEGF治療が第一選択となっている.しかし,抗CVEGF治療は静脈閉塞に対する根本的な治療ではないため,浮腫の再発が約C80%の患者に認められる1).全体を見渡すと,再発を生じない患者から再発を頻繁に繰り返すまで差が大きく,病態に応じた治療が求められる.また,BRVOでは浮腫以外の病態が視力低下に関連していることがあるため,浮腫に対する治療の際にはこれらの併存病態も併せて評価することが必要である.本稿では,光干渉断層計(opticalcoherencetomograC-phy:OCT)や光干渉断層血管撮影(opticalCcoherencetomographyCangiography:OCTA)を用いた筆者らの過去の検討結果をもとに,黄斑部形態と視機能に関する予後因子について簡単に説明する.中心窩の網膜下出血と視細胞障害視力は中心窩の視細胞層の状態に大きく依存している.OCTではCellipsoidzone(EZ)bandラインや外境界膜(externalClimitingmembrane:ELM)ラインの状態が視細胞層の健全性の指標として有用である.EZband・ELMラインがはっきりと確認できない患者では,治療により浮腫が消失しても,あまり良好な視力は期待できない.この視細胞障害は,中心窩における網膜下出血の遷延と関連する.黄斑浮腫に対して抗CVEGF治療を行った群では,無治療群と比べ中心窩の網膜下出血の残存期間が短く,視細胞障害が軽度で,最終視力が良好であった2).抗CVEGF治療は,黄斑浮腫の吸収とともに,新たな網膜下出血の抑制によって視細胞への障害を緩和して(75)いる可能性があり,初診時に黄斑浮腫とともに中心窩に網膜下出血を認める患者では,抗CVEGF治療をただちに開始する.黄斑虚血閉塞機転が重篤な場合,閉塞領域における網膜虚血が高度になる.近年ではCOCTの機能を拡張させたCOCTAによって網膜虚血を簡便,非侵襲的,層別に評価することが可能となった.OCTAを用いた検討において,傍中心窩に無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)を伴う例では,治療後もCNPAにおける網膜感度や視力回復が限定的であった(図1)3).黄斑浮腫や網膜下液は抗VEGF治療によって速やかに改善しやすいが,NPAないしNPAに対する網膜感度低下は治療に反応しにくい.NPA上にある浮腫性変化への治療は,治療意義が低くなる.黄斑浮腫の変動BRVOに対する抗CVEGF治療の追加は,黄斑浮腫が再発した後のCpronenata(PRN)投与が主流となっている.しかし,近年行われた筆者らの施設を含む多施設の検討においては,黄斑浮腫の再発を繰り返し,網膜厚の変動が大きい例では,視細胞障害の進行とともに視力が低下していた4).このような症例は,初診時に高齢で視力低下を認めていた.このように浮腫を経過中に繰り返す患者には,注意深い経過観察のうえ,PRNよりも積極的な加療が望ましいかもしれない.黄斑浮腫の予見OCTAを用いた検討で,浮腫吸収時における傍中心窩の血管拡張所見が再発予測に有用であることがわかった(図2)5).この所見は,静脈のうっ血を表していると考えられる.初期治療後,浮腫が吸収した際にこのような血管形態が傍中心窩に観察される場合には,近い将来あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10850910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1傍中心小窩に無灌流領域(NPA)を伴うBRVOの1例上段:初回治療後のCOCT.黄斑浮腫は改善しているが,視力は初診時からの改善を認めなかった(RV=1.0→0.7).下段左・中央:上段と同日のOCTA.耳下側に大きなNPAを認める.下段右:上段と同日のマイクロペリメトリー.OCTAのCNPA部位に一致して網膜感度が著しく低下していることがわかる.(文献C3より改変引用)初期治療後の浅層初期治療後の深層3カ月後のOCT症例1症例2図2黄斑浮腫を多く認めたBRVOの2症例初期治療後のOCTA浅層(左列)と深層(中央列)で傍中心窩(患側,耳側)の網膜血管拡張がめだつ箇所()と一致する箇所に,3カ月後のOCT(右列)で黄斑浮腫の再発を認めている.(文献C5より改変引用)の浮腫再発に注意する.おわりにBRVOに伴う黄斑浮腫に対しては抗CVEGF治療が多くの場合に第一選択となり,急性期には良好な反応が期待できる.しかし,浮腫の再発もしばしばみられ,その場合には治療回数が多くなり,患者ひいては医療者側の負担も相応となる.しかし,視機能・黄斑形態の予後にかかわる鍵となる所見をなるべく早期段階に評価しておくことで,患者・医療者双方にとってむだの少ない有意義な治療が可能となる.文献1)HasegawaCT,CTakahashiCY,CMarukoCICetal:MacularCves-selreductionaspredictorforrecurrenceofmacularoede-1086あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022maCrequiringCrepeatCintravitrealCranibizumabCinjectionCinCeyesCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CBrCJCOphthalmolC103:1367-1372,C20192)MuraokaCY,CTsujikawaCA,CTakahashiCACetal:FovealCdamageCdueCtoCsubfovealChemorrhageCassociatedCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CPLoSCOneC10:e0144894,C20153)KadomotoS,MuraokaY,OotoSetal:Evaluationofmac-ularCischemiaCinCeyesCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CRetinaC38:272-282,C20184)NagasatoCD,CMuraokaCY,CTanabeCMCetal:FovealCthick-ness.uctuationinanti-vascularendothelialgrowthfactortreatmentforbranchretinalveinocclusioninalong-termmulti-centerCstudy.COphthalamolCRetinaC2022CFebC23.[Epubaheadofprint]5)KogoCT,CMuraokaCY,CUjiCACetal:AngiographicCriskCfac-torsCforCrecurrenceCofCmacularCedemaCassociatedCwithCbranchretinalveinocclusion.RetinaC41:1219-1226,C2021(76)

緑内障:落屑緑内障の遺伝子異常と臨床病型

2022年8月31日 水曜日

●連載266監修=福地健郎中野匡266.落屑緑内障の遺伝子異常と臨床病型尾﨑峯生尾﨑眼科CYP39A1遺伝子に機能欠損型レアバリアント(G204Eなど)をもつ患者では,CYP39A1の機能障害によりコレステロール代謝異常をもたらし,落屑形成につながることが明らかとなった.G204Eを保有する落屑症候群患者は失明リスクおよび落屑緑内障の発現リスクが高く,緑内障の重症度が高い.●落屑緑内障の病態と分子遺伝学的解析落屑症候群は,異常な線維性細胞外マトリクスの過剰産生と蓄積を特徴とする加齢性眼疾患である.落屑物質は主として瞳孔縁・水晶体前面・隅角線維柱帯・Zinn小帯に認められる.落屑が隅角線維柱帯に蓄積することにより房水流出が障害され,落屑緑内障を生じる.落屑緑内障は原発開放隅角緑内障と比較して,眼圧が高く進行が早い.加齢とともに増加し,薬物療法に抵抗する.日本人の落屑緑内障は隅角線維柱帯切除術の成功率が低いことが知られている.患者によっては治療にもかかわらず失明するリスクが高い.落屑症候群のなかで落屑緑内障発症リスクが高い患者,また落屑緑内障となったあとに眼圧コントロールが不良となりやすい患者や視野障害の進行速度が速くなる患者を見きわめることができれば臨床的に有用である.落屑症候群および落屑緑内障に対する分子遺伝学リスク解析は有用なアプローチとなりうる.C●ゲノムワイド関連解析の限界2007年,ゲノムワイド関連解析(genome-wideasso-ciation.study:GWAS)によってCLOXL1における遺伝子多型が落屑症候群と関連することが初めて示された.LOXL1はエラスチンの架橋に関与する.ところが人種間でのリスクアレル逆転が認められた1).さらにCGWASを用いて,CACNA1A(神経細胞の活動に必要なカルシウムチャネルに関連),POMP(ユビキチンC-プロテアソーム複合体に関連),TMEM136(膜貫通型蛋白質),SEMA6A(膜貫通型蛋白質),AGPAT1(炎症に関連)およびCRBMS3(細胞増殖に関連)などいくつかの生物学的経路が関与していることが示されたが,蛋白質異常につながるすべての人種に共通な機能欠損型変異は特定できなかった(LOXL1のCY407Fは機能獲得型バリアント)2,3).●蛋白質をコードする原因遺伝子座の発見次世代シーケンサーを用いてエキソン配列のみを網羅的に解析する全エクソームシーケンスによって,蛋白質をコードする疾患関連レアバリアントを見いだすことが可能となり,とくに機能欠損型レアバリアントはまれなものであっても治療につながる突破口を示している可能性がある.日本落屑症候群遺伝子研究コンソーシアムが参加した国際共同研究の結果,CYP39A1遺伝子に機能欠損型レアバリアントを有する患者は,落屑症候群のリスクがC2倍に上昇することが明らかになった4).機能欠損を予測されたCCYP39A1レアバリアントC42カ所に対する生化学的分析によって,このうちC34カ所は平均94%の酵素活性低下を示した(図1)4).CYP39A1の機能障害は,コレステロール代謝異常をもたらし,最終的に落屑生成につながると考えられる.落屑症候群患者の眼球を免疫組織化学的に検討すると,毛様体上皮の表面にエステル化コレステロールの細胞外異常沈着が観察された(図2,3).毛様体上皮は血液房水柵機能の維持に重要であるため,その破綻は血液中蛋白質を房水中へ漏出させ,落屑形成につながる可能性がある.C●CYP39A1レアバリアントと臨床病型Bellらは,CYP39A1の機能欠損型レアバリアントG204E変異を有する落屑症候群患者の失明リスクおよび関連する臨床表現型を,CYP39A1変異をまったく有しない落屑症候群患者と比較評価した5).CCYP39A1G204E変異を有する落屑症候群患者では,CYP39A1変異のない落屑症候群患者と比べて失明(矯正視力C0.05未満)リスクが著しく高い(オッズ比7.1)ことが示され,落屑緑内障を有する割合がより高かった.また,有意に高いピーク眼圧,より大きな垂直C/D比,および,より低下した視野感度CMD値が認められ(p<0.001),レーザー治療または緑内障手術の介入をより多く必要とした5).(73)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10830910-1810/22/\100/頁/JCOPYaControlExfoliationbControlExfoliation図2毛様体組織におけるコレステロールの沈着a:正常組織と落屑症候群の毛様体組織の両方において①毛様体上皮の細胞膜にエステル化されていない遊離コレステロールが蓄積していた(上段).②毛様体の間質にエステル化コレステロールが蓄積していた(中段・下段).落屑症候群に罹患した眼球切片(中段・下段)では,落屑物質(→)中のエステル化コレステロールの著しい細胞外沈着を認めたが,対照組織では観察されなかった.Cb:落屑症候群の眼球切片(二重染色実験)では,インテグリン-b1(緑色蛍光)陽性の毛様体上皮細胞膜の上に,エステル化コレステロール(青色蛍光,→)陽性の落屑凝集体が認められた(上段).エステル化コレステロール(青色蛍光)とインテグリン-b1(緑色蛍光)が共局在していた(上段).毛様体上皮表面の落屑物質沈着(→)内にアポリポプロテインCE(ApoE,緑色蛍光,中段)とCLOXL1(緑色蛍光,下段)が観察されたが,対照眼の切片には観察されなかった.(文献C4より転載)文献1)OzakiCM,CLeeCKY,CVithanaCENCetal:AssociationCofCLOXL1genepolymorphismswithpseudoexfoliationintheJapanese.InvestOphthalmolVisSciC49:3976-3980,C20082)AungT,OzakiM,MizoguchiTetal:AcommonvariantmappingtoCACNA1Aisassociatedwithsusceptibilitytoexfoliationsyndrome.NatGenetC47:387-392,C20153)AungCT,COzakiCM,CLeeCMCCetal:GeneticCassociationCstudyCofCexfoliationCsyndromeCidenti.esCaCprotectiveCrareCvariantCatCLOXL1CandC.veCnewCsusceptibilityCloci.CNatCGenet49:993-1004,C20174)LiCZ,CWangCZ,CLeeCMCCetal:AssociationCofCrareCCYP39A1CvariantsCwithCexfoliationCsyndromeCinvolvingC●おわりにtheCanteriorCchamberCofCtheCeye.CJAMAC325:753-764,C2021CYP39A1において落屑症候群に関連する機能欠損5)BellCK,COzakiCM,CMoriCKCetal:AssociationCofCtheCCYP39A1CG204ECgeneticCvariantCwithCincreasedCriskCof型レアバリアントが見いだされた.CYP39A1CG204ECglaucomaCandCblindnessCinCpatientsCwithCexfoliationCsyn-をもつ落屑症候群患者は,落屑緑内障発症リスクが高Cdrome.Ophthalmology129:406-413,C2022く,緑内障の予後がより不良である.これらの知見は,落屑緑内障の疾患メカニズム解明,予後予測および治療戦略の改善に寄与するものと考えられる.図1毛様体上皮におけるCYP39A1蛋白質の発現落屑のない対照例(右列)の毛様体上皮にCYP39A1免疫組織化学的陽性所見(赤色)が認められた.しかし落屑症候群例(左列)では染色(赤色)が著しく減弱していた.図3機能欠損型レアバリアントをもつ落屑症候群例の毛様体所見落屑物質内にエステル化コレステロール,LOXL1およびアポリポプロテインCEの共在が認められた.1084あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022(74)

屈折矯正手術:レーシックフラップトラブルの対処法

2022年8月31日 水曜日

●連載267監修=稗田牧神谷和孝267.レーシックフラップトラブルの対処法森井勇介森井眼科医院Laserinsitukeratomileusis(レーシック)フラップトラブルは不適切なドッキングや患者眼(顔面)の動きが原因となることが多い.この手術は医師一人でやれるものではなく,コメディカルスタッフも手術に携わるため,普段からチームでトラブル時の対処法を共有していると落ち着いて対処しやすく,結果として患者の安心感にもつながる.●はじめにフェムトセカンドレーザーによるレーシックフラップ作製時のトラブルの対処法について述べる.使用するフェムトセカンドレーザーによって,トラブルの対処法に多少の違いがあるので,総論的な内容になってしまうことはご容赦願いたい.●Suctionbreak(サクションブレイク)フェムトセカンドレーザー照射中にもっとも多いトラブルである1).原因は,不適切なドッキングや,患者の眼球や顔面の動きによって気泡が混入することにより,角膜に圧着していた圧平レンズ(コーン)が適切に圧平できなくなることである.その結果,レーザー照射の中断,もしくは予定外の方向にレーザーが照射されることとなる.瞼裂幅が非常に狭い目,極度にsteep,もしくは.atな角膜はリスクファクター1)となる.サクションブレイクを避けるために一番重要なのは,患者の緊張を解きほぐすことであるが,手技的には,角膜を中心に水平にドッキングする,強すぎず弱すぎずの適切な角膜の圧平,この2点が重要である.レーザー照射中は,患者が眼球や顔面を動かさないように,筆者は頻繁に「ここからは眼や顔を動かさないでくださいね」などとやさしく声かけをし,患者をリラックスさせるように心がけている.それでも,サクションブレイクが起こってしまった場合(図1)は,そのトラブルが照射中のどのタイミングで起こったかによって対応を考える必要がある(表1).フェムトセカンドレーザーの場合は,いきなり不完全フラップになることはないので,一度心を落ち着け,録画している動画を見直し,表1に従ってリカバリー策を実行すれば,同日中に手術完遂が可能である.この際,使用しているフェムトセカンドレーザーの機(71)種により対応が異なるので注意が必要である.当院はAlcon社のLenSxを用いてレーシックフラップを作製しているが,ベッド面での照射中にサクションブレイクが起こった場合,新たなコーンを接続し,フラップ直径を通常は9.0mm,フラップ厚を110μmに設定しているが,フラップ径を8.5mmに変更し,患者の角膜厚,予定切除量を勘案してフラップ厚を130~150μmに変更し,なるべく不完全な照射と重ならないように再照射することによってリカバリー可能である.サイドカット作製時にサクションブレイクが起こってしまった場合も,同様の考えで,なるべく不完全なサイドカットと重ならないように設定しなおし,サイドカットのみで照射する.不完全な照射となるべく重ならないように再照射することによって,よりきれいなリカバリーフラップが作製できる.AMO社のiFSの場合は,ベッド面作製時であれば,サクションブレイクすると同時に照射を止め,直後であれば,同じサクションで同じ設定(厚みや大きさ)で,フラップがレーザー照射による気泡で白くなったところに合わせて再度照射可能である.気泡部分はレーザーが当たらないので,まだ照射していない部分にだけ照射できる2).どうしても同日中のリカバリーが困難な場合は,無理せず手術を中断,延期し,日を改めて深さやフラップ径を変えて再試行を試みる.レーシック施行が困難と術者が判断した場合は,適応があるならば,有水晶体眼内レンズ手術やphotorefractivekeratectomy(PRK)へのコンバートを考慮する.●Opaquebubblelayerフェムトセカンドレーザー照射時に気泡が発生する.その気泡の逃げ道をフラップ作製時に同時に作製するが,気泡が何らかの理由で角膜実質内に溜まってしまうとopaquebubblelayer(OBL)が生じる(図2).角膜あたらしい眼科Vol.39,No.8,202210810910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1フェムトセカンドレーザーでのフラップ作製時のトラブルと対処法合併症所見対処センタリング不良強膜が非対称に露出センタリングに注意し再ドッキング結膜の吸い込み患者インターフェース間への結膜の吸い込み結膜を吸い込まないよう注意し再ドッキング患者インターフェース間のエア患者インターフェース間にエアの存在エアの入らないように再ドッキングサクションブレイク(ベッド面作製時)ベッド切開面の照射が不完全不完全なベッド面の照射の状況を考慮しフラップの直径と厚さを変更し再照射*不完全なベッド照射面と重ならないようサクションブレイク(サイドカット作製時)サイドカット時の照射が不完全サイドカットのみで再照射*不完全なサイドカット照射と重ならないよう*同日にフェムトレーザー再照射の場合,コーンは新しいコーンに変える必要がある.*トラブルによって作製された不完全フラップの状態により,期間をおいての再治療やPRKなどへの術式変更も含め,最適な対処を選択する.*フェムトセカンドレーザーのメーカー,機種によって対応法に多少の違いがある.図1サクションブレイク時の術中写真ドッキング時に眼球が上転し,画面右下方の結膜も吸引していたため,レーザー照射中にサクションブレイクを起こした.図2OBLの術中写真ドッキング時に術眼が外転し,画面右側の角膜外側が強く圧迫されたため,OBLを生じた.中心に水平に,適切なドッキングができていないときに生じやすい.個人的な経験では,少々のOBLが生じても,ほとんどの場合,問題なくエキシマレーザーを照射できるが,OBLの面積が大きく,アイトラッキングがかからない状態の場合は,気泡が消失するまで数時間待てば,問題なくエキシマレーザー照射が可能となる.●Coldspot水滴,気泡,眼脂などの存在で,フェムトセカンドレーザー照射が十分でないspotが発生することによる.無理にリフトしようとすると,フラップに穴が開くことになり(ボタンホール),その場合は数カ月回復を待ってから再度フラップ作製を試みることとなるため,無理は禁物である.範囲がごく狭い場合は,丁寧にゆっくりと.離を試みると,リフト可能である.明らかに範囲が広い場合はフラップをリフトせず,時間をおいて40μm1082あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022程度深い照射を行う2).●おわりにレーシックは医師一人でやれるものではなく,コメディカルスタッフも手術に携わるため,普段からチームでトラブル時の対処法を共有していると,落ち着いて対処しやすく,結果として患者の安心感にもつながる.レーシック手術件数は,かつてのレーシックバブルの頃に比べて激減しているのは周知のとおりであるが,屈折矯正,ことに近視矯正は国民の最大関心事であり,確実に希望者は存在する.診療時に屈折矯正手術に関する質問を受ける機会もそれぞれのクリニックであると思われるが,個人的な経験として,アンチ屈折矯正手術の先生方に否定され,困惑している患者も少なくない.正しい知識に基づく適応外の判断ならいいが,必要な検査もなしに根拠なく否定された患者も多数いるのではなかろうか.多焦点眼内レンズの際によく論じられるが,医療の進歩により,より正確な屈折矯正がクローズアップされてきている.ニーズは確実に存在するため,少しでも多くの眼科医が,レーシックを始めとする屈折矯正手術に対する偏見をなくし,正しい知識をもっていただけることを切に願ってやまない.地域密着の手術開業医による良質な屈折矯正手術施行施設が全国津々浦々に増えれば,よりわが国の国民とって福音であると確信する.文献1)FarahS,GhanemR,AzarDT:LASIKcomplicationsandtheirmanagement.In:RefractiveSurgery(AzarDT,ed),2nded,p195-221,Elsevier,Philadelphia,20072)稗田牧:屈折矯正トラブルシューティング①角膜屈折矯正手術の合併症と対処法─レーザーフラップの合併症.眼科手術33:388-390,2020(72)

眼内レンズ:角膜混濁眼の白内障手術における自動前囊切開装置ZEPTOの有用性

2022年8月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋429.角膜混濁眼の白内障手術における加藤侑里堀裕一東邦大学大森医療センター大森病院眼科自動前.切開装置ZEPTOの有用性自動前.切開装置CZEPTOシステムは,角膜混濁眼などを含む白内障手術の難症例に対して前.切開を自動かつ正確に行うことができる装置である.ここでは,偽翼状片による角膜混濁を認めた患者に対してCZEPTOシステムを使用した症例を提示する.●はじめに白内障手術は高度な医療技術や手術機器の進歩により,安全に正確に行える手術になってきた.しかし,角膜混濁眼などでは眼内視認性が低いため,手術の難度が高くなり,術中合併症を起こすリスクも高くなる.最近,角膜混濁眼や難症例に対する白内障手術において,術中の視認性を向上させ手術の成功率を高めるためのいくつかの報告がなされており,術中の前.切開時に自動前.切開装置(ZEPTOシステム,マイノーシス社)を用いた白内障手術が注目されている1).当院でも,顆粒状角膜ジストロフィや角膜輪部疲弊症による角膜混濁のある患者の白内障手術にCZEPTOを使用してきた2).本装置は,低エネルギーのパルスを用いて短時間かつ自動で一貫した大きさの連続円形切.(continuouscur-vilinearcapsulorhexis:CCC)を行うことが可能なディスポーザブルの前.切開装置であり,本装置を用いた前.切開はCprecisionCpulseCcapsulotomy(PPC)ともよばれている3).2017年に米国食品医薬品局(FDA)に認可され,わが国においてもC2019年C8月に医療用機器として承認された.今回,偽翼状片による角膜混濁を認めた患者に対してCZEPTOを使用した経験を報告する.C●症例(89歳,男性)近医眼科にて緑内障の診断で点眼加療していた.右眼は鼻側に偽翼状片を認めており,右眼の白内障による視力低下の進行を認めたため,当院にて白内障手術を行うことになった.視力は右眼C0.2(0.8C×sph+3.75D=cly-5.00DAx175°),左眼0.1(0.3C×sph+0.50D=cly-2.00DAx150°),眼圧は右眼10mmHgであった.右眼は鼻側よりCpalisadesofVogtの消失と角膜の全周性の混濁を認めており,Emery-Little分類CII程度の白内障を認めた.前眼部三次元画像解析にて前房深度はC2.8Cmmであった.眼内の視認性を向上させるため毛様体扁平部から眼内シャンデリア照明を挿入し(図2a),前.染色(69)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1ZEPTOの本体(当院より)を行った.前房内を眼科手術用粘弾性物質(ophthalmicviscosurgicaldevice:OVD)オペガンハイC0.85眼粘弾剤1%(参天製薬)で満たし,上方にC2.5Cmm程度の強角膜一面切開を作製した.先端のリングを切開創から前房内に挿入し(図2b,c),先端のリングを開きセンタリングを行い,水晶体に吸引固定させたのち通電し,前.切開を行った(図2d).ゆっくりと先端リングを引き出し,前.切開が完成していることを確認した(図2e,f).続いてハイドロダイセクションを行い,通常の超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行った.術中および術後は合併症なく,水晶体.の亀裂なども生じなかった.C●ZEPTOの有用性当院ではC2021年より本装置を導入し,とくに角膜混濁眼における白内障手術において積極的に使用している.今回は偽翼状片による混濁により前房内の視認性が悪い白内障眼にCZEPTOシステムを使用した手術例を紹介した.ZEPTOは,折りたたみが可能なハンドピース先端の前.切開リングを水晶体前面の中心に設置し,吸引をかけて固定したのち,リングから発生する衝動波にあたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1079図2術中所見a:鼻側C1-5時方向に偽翼状片がある.7時方向にシャンデリアを挿入する.Cb:トリパンブルーで前.染色後,前房内をCOVDで満たし,先端リングをセットする.Cc:折りたたんだリングを前房内に挿入する.Cd:先端リングを目視下に水晶体中央に置き,吸引固定を行なったあと通電し前.切開を行う.Ce:吸引解除後,リングを眼外へ引き抜き,切開した前.を取り出す.Cf:超音波乳化吸引術後のCCCCの状態.よりC0.004秒で直径平均C5.2Cmmの正円の前.切開を作製することができるシステムである.マニュアルによるCCCではC0.79~5.55%程度で水晶体.の亀裂などが生じると報告されている4).しかし,走査型電子顕微鏡を用いた切開縁の検討では,ZEPTOで形成される切開縁の形状は前房側にまくれ上がり,functionaledgeの所見を示しており,不均一な断面でもマニュアルCCCCと比較してC4倍,切開縁の強度が高いと報告されている5).ZEPTOは安定した前.切開を作製できるため,その後の手術を安全に遂行することができるが,前房内にリングを挿入するため,前房深度はC2.5Cmm以上が推奨されており1),切開創はC2.2Cmm以上が推奨されている6).浅前房例では虹彩損傷や角膜内皮障害などのリスクがあるため,一定以上の前房深度があることを事前に前眼部三次元画像解析にて測定する必要がある.またCZEPTOを使用するにあたり,本症例のような一部角膜混濁を有する偽翼状片などの徹照不良や角膜混濁のある眼には,前.染色やシャンデリアを併用することで,前.切開の確実性の向上につながると考える.本装置を使用することで術中合併症のリスクが軽減されるだけでなく,術者のストレス軽減にもつながるため,CCCの作製がむずかしいことが懸念される場合や今回のような角膜混濁眼においては,積極的にCZEPTOを使用することは有用であると考える.文献1)秦誠一郎:前.切開装置CZEPTOシステム.眼科手術C34:61-64,C20212)加藤侑里,須磨崎さやか,柿栖康二らほか:角膜混濁眼の白内障手術における自動前.切開装置CZEPTOCRシステムの使用経験.臨床眼科76:382-388,C20203)ChangCDF,CMamalisCN,CWernerL:PrecisionCpulseCcapsu-lotomy:Preclinicalsafetyandperformanceofanewcap-sulotomytechnology.OphthalmologyC123:255-264,C20164)Cari.G,MillerMH,PitsasCetal:Complicationsandout-comesofphacoemulsi.cationcataractsurgerycomplicatedbyanteriorcapsuletear.AmJOphthalmolC159:463-469,C20155)ChangDF:ZeptoCprecisionCpulsecapsulotomy:ACnewCautomatedanddisposablecapsulotomytechnology.IndianJOphthalmolC65:1411-1414,C20176)OlaliCA,AhmedS,GuptaM:Surgicaloutcomefollowingbreachrhexis.EurJOphthalmol17:565-570,C2007

写真:Vortex patternを呈した角膜上皮障害

2022年8月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦459.Vortexpatternを呈した角膜上皮障害瀬越一毅京都府立医科大学眼科学教室バプテスト眼科クリニック横井則彦京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ①角膜輪部の結膜侵入②耳側結膜の充血③渦状の外観を示す角膜上皮障害図1前眼部所見(ディフューザーによる観察)角膜輪部の結膜侵入と耳側結膜の軽度の充血を認める.図3前眼部所見(フルオレセイン染色による観察)渦状の外観を示す角膜上皮障害を認める.図47週間後の前眼部所見(フルオレセイン染色による観察)上皮障害は改善し,渦状の外観も消失した.(67)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10770910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は45歳,男性.3週間前からの右眼の視力低下[RV=(0.6×sph.4.00D),LV=(1.0×sph.2.50D(cyl.2.50DAx120°)]と充血を主訴に前医を受診し,0.5%レボフロキサシン(右眼4回/日),0.1%デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム点眼液(右眼C4回/日)の点眼で改善しない角膜炎として京都府立医科大学附属病院に紹介となった.初診時に右眼の局所的な輪部機能不全を想定させる角膜周辺の結膜侵入と渦状のパターン(vortexpattern)を示す点状表層角膜症(図1~3)を認め,Cochet-Bonnet角膜知覚計では両眼ともに軽度の角膜知覚低下(55Cmm)を認めた.また,角膜内皮細胞密度は正常範囲であった.防腐剤フリーのステロイド(0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム)点眼液(右眼C4回/日,左眼C1回/日)とC0.5%レボフロキサシン点眼液(右眼C2回/日,左眼C1回/日)を用いて経過観察した.7週間後には視力はRV=(1.0C×sph.4.25D(clyC.1.75DCAx5°),LV=(1.5C×sph.3.00D(cly.2.00DAx135°)まで改善し,角膜上皮障害も改善した(図4).本症例では過去(20年前)にソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の使用歴があり,初診時の輪部機能不全が想定される角膜所見は軽度ではあったが,角膜知覚低下から,酸素透過性の低いCSCL装用の既往があったと考えられた.SCLの合併症として,点状表層角膜症,superiorepi-thelialCarcuatelesions(SEALs:上方の角膜輪部に沿う弓状の角膜上皮障害),角膜上皮幹細胞疲弊症(limbalCstemCcellde.ciency:LSCD),巨大乳頭結膜炎,角膜内皮障害などがある1).なかでもCSCLによるCLSCDは,化学外傷やCStevens-Johnson症候群といった他の眼表面疾患におけるCLSCDほどには重篤ではないが,基本的な病像は類似していると考えられる.角膜上皮の幹細胞は輪部に存在するとされ,そこから分裂した上皮細胞(transientCamplifyingcell:TAcell)は角膜中央に向かって移動(Y)したのちに基底細胞として分裂・増殖(X)し,表層細胞となって脱落(Z)することで,X+Y=Zの関係を保ちながら角膜の恒常性を維持している.そして,健常な上皮のターンオーバーではCYが可視化されることはない2)が,Zの亢進時に,Xが障害を受けている場合には,X+Y=Zの関係を維持するためにCYの亢進が表層上皮障害を反映して,動きのあるパターンの様相を示しながら,渦状などの上皮障害として観察される場合がある.また,この渦状の上皮障害パターンは,角膜移植術後や酸素透過性不良なCSCLの装用者,薬剤毒性などで報告されている3,4).今回,その契機は推測の域を出ないが,角膜輪部機能不全になんらかの角膜表層の上皮障害をきたす要因が加わることで,渦状の外観を示す角膜上皮障害を生じたものと考えられた.本症例のようなCSCL装用に起因する神経麻痺性角膜症,あるいはCLSCDが想定される病態に対する治療としては,SCLの使用の完全中止(本症例は以前から中止していた),防腐剤を含まない人工涙液による点眼治療,進行例では副腎皮質ステロイド点眼の併用などが用いられる5)が,本症例は角膜知覚や輪部機能の障害程度が軽度であったためか,ステロイド点眼のみで改善した.文献1)糸井素純:コンタクトレンズによる眼障害.日本医事新報C4625:69-72,C20122)ThoftCRA,CFriendJ:TheCX,CY,CZChypothesisCofCcornealCepithelialCmaintenance.CInvestCOphthalmolCVisCSciC24:C1442-1443,C19833)DuaCS,CGomesAP:ClinicalCcourseCofChurricaneCkeratopa-thy.BrJOphthalmol84:285-288,C20004)佐々木梢:抗癌薬CTS-1による角膜上皮障害のC1例.臨床眼科73:217-223,C20195)RossenJ,AmramA,MilaniBetal:Contactlens-inducedlimbalstemcellde.ciency.OculSurfC14:419-434,C2017

総説:緑内障手術で視力を守るために

2022年8月31日 水曜日

あたらしい眼科39(8):1063~1076,2022c第32回日本緑内障学会須田記念講演緑内障手術で視力を守るためにToProtectthePatient’sVisioninGlaucomaSurgery庄司信行*はじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:以下,LET)を勧める際には,現在の治療では進行が止められず,いずれ重篤な視機能障害をもたらす可能性が高いため,眼圧を下げる手術が必要であることを説明する.一方で,手術の目的は視機能の現状維持であるものの,ときに視力低下が生じて元に戻らないことがあることも説明しなければならない1~7).視野を保つためと説明しながら,視力低下のリスクについても説明しなければならないというジレンマは,緑内障手術を担当する医師であれば何度も経験することである.しかもわれわれは,視力が術後どのような経過をたどるかについて,あまり具体的なデータをもっていない.また,昨今,LETと白内障手術の相性はあまりよくない,同時手術の成績はよくないので別個に行うべきである,という報告8~10)もあり,はたして同時手術は避けるべきなのかどうかを知りたい.さらに,同時手術を行うにしろ単独にしろ,視機能の限られた緑内障患者に対して,通常の白内障手術と同じ眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を使用してよいのだろうか,という疑問も生じる.緑内障手術は患者の視機能を保つために行われるが,患者の視機能を損なうこともある.筆者の意図するところは,患者の視機能のなかでも重要な視力を手術で損なうことなく守る方法を探ることである.そこで今回の須田記念講演では,1)LET後の視力の経過,術直後に低下した視力の回復を妨げる要因はなにか,2)同時手術の是非と,行う場合のIOL度数決定の問題,そして3)緑内障に適した眼内レンズとは,という三つの項目について講演したのでまとめた.なお,現在論文作成中のデータが発表に含まれていたため,内容の一部は割愛させていただいたことをお断りしておく.ILETと視力変化LET後の視力低下に関する論文は以前よりいくつかみられるが,Francisら7)は,一過性の視力低下は56.5%にみられ,平均して約3カ月で回復したものの,なかには2年近くかかった症例が存在することを報告している.長期的な視力低下でいわゆる中心視野消失を生じた症例は2%で,術前の中心視野障害(いわゆるmaculasplitting)がみられるような進行例と,術後の合併症がみられた症例とのことである.わが国の全国濾過胞感染調査(CollaborativeBleb-RelatedInfectionIncidenceandTreatmentStudy:CBIITS)のデータを用いたKashiwagiらの報告11)では,WHOの定義によるblindnessは12.2%で,やはり術前の視力不良例や,術後の合併症発症例でリスクが高かったと報告されている.一方,logMAR値で0.2以上の悪化は観察期間5年の間には28.3%だったが,長期経過の観察だったので,緑内障そのものの進行例も含まれ,視力は経時的に低下していたことも報告されている.こうした長期観察は,緑内障診療の要になるものであるが,手術そのものの影響とも考えられる比較的早期の視力の経時的な変化に関する報告12,13)は少ない.また,これらの報告では白内障手術との同時手術例が含まれていたので,単独手術や同時手術を分け,より多数での検討*NobuyukiShoji:北里大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕庄司信行:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(53)1063表1線維柱帯切除術(LET)単独症例の背景平均±標準偏差最小-最大性別(男性/女性)年齢(歳)術前視力(logMAR)眼軸長(mm)術前眼圧(mmHg)術前10-2MD(dB)128/8866.0±12.318-880.072±0.19.0.30-0.7025.5±2.321.3-35.219.1±6.08.0-45.0.19.19±7.6.34.3-.1.2n=216(1例1眼)が必要と考えた.1.LET術後の視力変化2015年4月~2020年3月に北里大学病院でLET単独手術を施行した824眼のうち,①初回手術例,②術前矯正視力0.3以上,③白内障以外に視力に影響する可能性のある他の眼疾患を認めないこと,④Humphrey視野計10-2SITAstandardを施行し,中心窩閾値が測定されている,などの条件で選択し,さらに両眼手術例の場合はランダムに選択した片眼のみを採用した216例216眼を対象として検討を行った(表1).まず,これらの症例を,術前矯正視力が小数視力で1.0以上の群(術前視力良好群)と1.0未満の群(術前視力不良群)に分けて検討した.眼圧経過は,術前,術後1,2,3日,1週,2週,1カ月,3カ月の順に示すと,術前視力不良群で21.0±8.4,16.5±9.4,13.7±9.9,10.2±6.3,9.9±5.8,8.6±4.6,9.7±4.7,10.2±3.8mmHg,術前視力良好群で21.1±8.2,15.3±10.0,12.6±9.0,9.9±6.2,9.3±5.6,8.7±4.3,10.0±4.2,10.4±3.4mmHgと,両群とも同様の経過をたどっていた.そうした眼圧経過において,視力の経過は図1,2の通りであった.術前視力不良群では,やはり3カ月経っても回復せず,logMAR値の平均で約0.1低下したままであることがわかった.言いかえれば,小数視力が術前0.6程度まで落ちていた症例は,術後2週間で0.3~0.4程度まで低下し,徐々に改善してくるものの,3カ月で0.5程度までしか回復しないということになる.また,術前視良好群では,術前1.0~1.2が術後2週間で0.7~0.8に低下し,徐々に回復するものの3カ月経っても0.9~1.0と完全には回復しないことがわかった.これらの結果をもとに,LETの説明をする際には,最初の2週間ほどは2~3段階程度の視力低下が生じ,徐々に回復するものの,3カ月経っても元のように見えるようにならない可能性が高いことを患者に説明しなければならないことがわかった.2.LET術後の視力低下の関連因子上記の検討において,術後3カ月の時点でlogMAR値0.2以上の悪化がみられた症例は216眼中34眼であった.では,その34眼と悪化がみられなかった症例182眼の背景にどのような違いがあったのだろうか.性別,術後合併症の頻度をFisher’sexacttestを用いて,年齢,術前視力(logMAR換算値),眼軸長,術前眼圧,術前平均偏差(meandeviation:MD)値(10-2)をMann-WhitneyUtestを用いて比較した結果,悪化した症例は,悪化しなかった症例と比べて男性が多く,術前眼圧が高めであり,脈絡膜.離と浅前房の発症頻度が有意に高いことがわかった(いずれもp<0.01).そのうち,視力低下に影響の大きい因子は,多変量解析の結果,浅前房発症例であり,オッズ比は7.8であった.logMAR値が0.4以上悪化した10例とそうでない206例を比較したところ,悪化した症例では術前視力が低く(p=0.031,Mann-WhitneyUtest),脈絡膜.離,浅前房の頻度が高いことがわかった(いずれもp<0.01,Fisher’sexacttest).多変量解析を行うと脈絡膜.離と浅前房の二つの因子が選択され,オッズ比はそれぞれ14.9,26.6と非常に高い値であった.3.術前中心窩閾値と視力術前中心窩閾値と術後の視力低下の関連について受信者動作特性曲線(receiveroperatingcharacteristiccurve:ROC曲線)でみると,logMAR値0.2以上の悪化を示す症例では,感度は低いが33.5dBを,0.4以上の悪化は29.5dBをカットオフ値とすることがわかった(図3).ここで,そのカットオフ値である33.5dBを上回る値,つまり術前の中心窩閾値が34dB以上であったにもかかわらず,術後3カ月の時点で術前視力に戻らなかった症例36眼と戻った症例53眼にどのような違いがあったかをみたところ,浅前房の発症は視力が戻らなかった群で5眼,戻った群で1眼,低眼圧黄斑症の発症例はそれぞれ4眼と0眼で,有意に前者の頻度が高いことがわかった(p=0.037と0.024).多変量解析の結果,視力低下と有意な関連があったのは,年齢が高いこと,術前視力や術前10-2のMD値が低いことで,とくに浅前房やlogMAR換算値-0.100.10.20.30.40.50.219(0.60)n=1300.3110.436(0.37)0.400(0.40)(0.49)n=130n=1060.446(0.36)n=88n=560102030405060708090days図1術前視力不良群の平均logMAR値の変化術前logMAR値>0,すなわち小数視力が1.0未満の症例の平均視力の変化.logMAR変化量(3M.術前)は0.091±0.253.数値はlogMAR値,カッコ内は小数視力,nは眼数を表す.-0.1logMAR換算値00.10.20.30.40.5-0.059(1.14)n=1870.0150.1000.116(0.80)0.063(0.87)n=154(0.97)n=187(0.77)n=155n=880102030405060708090days図2術前視力良好群の平均logMAR値の変化術前logMAR値≦0(小数視力≧1.0),すなわち小数視力が1.0以上の症例の平均視力の変化.logMAR変化量(3M.術前)は0.074±0.118.数値はlogMAR値,カッコ内は小数視力,nは眼数を表す.低眼圧黄斑症の発症例ではその頻度が高いことがわかった.次に,logMAR値0.4以上の悪化を示した症例の術前中心窩閾値のカットオフ値である29dB以下の症例で,3カ月の時点で視力が戻った症例19眼と戻らなかった症例34眼を比較した.その結果,患者背景には有意な違いはなかった.しかし,多変量解析を行うと,脈絡膜.離の発症例で視力低下を生じる可能性が非常に高いことがわかった.つまり,中心窩閾値が低下している症例で視力を維持しようとしたら,術後の合併症として脈絡膜.離を起こしてはならない,ということになる.しかし,視力が戻った症例は術後3日目の眼圧が有意に低く,5mmHg以下に下がった症例は8眼(40%)で,視力が戻らなかった症例4眼(13%)に比べてその割合が高いものの,脈絡膜.離を生じた症例はなかった.つまり,脈絡膜.離が生じた症例は全例視力が戻らなかったことになる.ROC曲線による解析では,カットオフ値8mmHgのときp値は0.0396であるものの,感度0.61,特異度0.28であり,曲線下面積(areaunderthecurve:AUC)は0.67であった.特異度が低いため明確なことはいえないが,術後3日目の眼圧が8mmHgを超えないように調整することが望ましいと考える.つまり,中心窩閾値が29dB以下の症例では,術後早めに眼圧を下げ,かつ脈絡膜.離が生じないように管理を行えlogMAR0.2以上の悪化logMAR0.4以上の悪化Sensitivity0.00.20.40.60.81.0Sensitivity0.00.20.40.60.81.00.00.20.40.60.81.00.00.20.40.60.81.01-Speci.city1-Speci.cityAUC=0.65[95%CI:0.55-0.75]p<0.01AUC=0.82[95%CI:0.68-0.95]p<0.01Cut-o.=33.5dB(感度0.45,特異度0.79)Cut-o.=29.5dB(感度0.79,特異度0.80)図3視力悪化例の術前中心窩カットオフ値AUCp値Cut-o.値(dB)感度(%)特異度(%)上耳側上鼻側下耳側下鼻側0.780.680.870.79<0.01<0.01<0.01<0.0127.53.525.525.560.870.981.671.584.056.080.078.0ば,術後の視力低下は術前まで戻る可能性が高くなる,という結果になるが,現実的には非常にむずかしい管理ということになる.やはり,中心窩閾値が下がる前に手術を行うことが望ましいのではないかと考える.そこで,中心窩閾値が29dB以下になるときの固視点を囲む中心4点のカットオフ値をみたところ,上鼻側の1点は特異度が低いが,下方のとくに下耳側が25.5dBを下回ると中心窩閾値が29dB以下になる可能性が高いことがわかった(図4).そのため,手術を行うなら,中心4点がこれらの値を下回る前に行ったほうが,術後の一過性の視力低下から回復する可能性は高くなると考えられた.4.中心窩閾値良好例の視力低下術前の中心窩閾値が悪い症例では視力が悪化しやすく,元に戻る割合が低いことはある程度理解できるが,36dB以上と高い症例でも,一定の割合で視力は下がり,1年経過しても戻らない症例が存在する.今回の対象216眼のうち,術前中心窩閾値が36dB以上であった症例は49眼で,そのうち術後3カ月までに視力が回復した症例は81.6%,12カ月経過しても視力が戻らなかった症例は12.2%存在した.こうした症例は,先ほどの結果を合わせて考えると,やはり合併症によるものが大きく,良好な視力もしくは中心窩閾値を保つためには,合併症の発生を極力抑える工夫をしなければならないと考えた.そこで,術後合併症のうち,脈絡膜.離,浅前房,低眼圧黄斑症を発症した症例の背景を,記載が不明であった8眼を除いた208眼で調べることにした.まず脈絡膜.離を生じた症例18眼と生じなかった190眼を比較したところ,術前視力やMD値,中心窩閾値などに差はなかったが,脈絡膜.離が生じなかった症例と比較して術前眼圧が高く(21.4±5.2vs19.0±6.1mmHg),術後3日目と1週目の眼圧下降率が有意に高いことがわかった(それぞれ64.1±19.4vs41.3±37.1,69.0±23.2vs42.5±36.0%).多変量解析の結果では,術後1週目の眼圧下降率が選択された(オッズ比は1.04).感度・特異度がそれほど高くないので,p値が0.05未満であっても言い切ることはむずかしいが,脈絡膜.離は術前眼圧が19mmHg以上の症例で生じやすく,これを避けるためには,術後3日目の眼圧下降率は50%未満に抑え,1週目には,もう少し下げたとしても70%を超える下降とならないように管理すると,脈絡膜.離は生じにくいという結果であった.浅前房に関しては,術前の眼圧やMD値,中心窩閾値に差はなかったものの,発症例16眼の術後1週目の眼圧下降率が非発症例192眼のそれより有意に大きいことがわかった(60.8±39.4vs43.4±35.3%).多変量解析では,術後1週の眼圧下降率が選択され,浅前房は70%の眼圧下降率を境に発生頻度が高くなる可能性が示唆された(オッズ比は1.02).低眼圧黄斑症に関しては,術前の視力や眼圧,中心窩閾値などに差はみられなかったものの,発症例13眼では術後2日目の下降率が大きいことがわかった(56.0±39.4vs23.6±50.7%).多変量解析でも術後2日目の下降率が選択された.術後2日目の早期から眼圧が下がりすぎると黄斑症が生じやすく,57%以上の下降は避けたほうがよいことが示された.つまり,術翌日,2日目などの早期の極度な眼圧下降は避けたほうがよいと考えられる.5.病型と視力低下病型別の視力経過についておもな結果をかいつまんで述べると,視力が戻らなかった症例群は,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)127眼中44眼で,やはり術前の視機能(logMAR値,10-2のMD値,中心窩閾値,中心4点の閾値)が有意に低かった.術翌日の眼圧は,視力の戻った症例に比べて有意に高く(19.9±9.1vs16.2±9.4mmHg),1週目に15mmHg以上の眼圧の症例の割合も高かった(30vs15%)ことから,術直後からある程度の眼圧下降を得なければならないということだと考える.一方,戻らなかった症例では,脈絡膜.離の割合も有意に高い結果だった(18vs3%).正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)48眼の場合も,視力が戻らなかった症例17眼は術前の視機能が低かった.また,視力の戻らなかった症例では,戻った症例に比べて術後3日と1週目の眼圧が有意に高かった(それぞれ11.3±5.0vs8.2±5.2,10.2±4.9vs7.4±5.2mmHg).有意差はないが,3日目には8mmHg以下になった症例の割合は,視力の戻った症例のほうが多い傾向にあった.つまり,視力の戻らなかった症例では術後早期の眼圧があまり下がっていなかった症例が多かったようで,視力回復のためにも,ある程度の眼圧下降が必要ではないかと考えられる.一方,POAGに比べてより低い眼圧をめざしてLETを行い,実際に40%近くの症例が術後3日以内に5mmHg以下になっていても,NTGでは脈絡膜.離はけっして多くなかった(48眼中3眼のみ).もちろん眼圧値の下限はあると思われるが,脈絡膜.離は,先に述べたように術前からの眼圧下降率が高すぎることによって生じることのほうが多いと推測された.落屑緑内障眼の視力が戻った症例13眼と戻らなかった症例19眼を比較したところ,視力,視野感度など術前の視機能や眼軸長,術前眼圧に関しては両群間に差はなかった.術後2週目の眼圧のみ有意差がみられ,戻らなかった症例が12.6±7.0mmHg,戻った症例が7.9±2.9mmHgであった.しかし,それ以外には差がみられなかった.裏を返せば,落屑緑内障では,どのような症例でも視力が低下し,回復しない可能性があるということではないだろうか.ROC曲線による解析では,カットオフ値10mmHgでAUC0.74,p=0.021であった.感度は0.82だったが特異度は0.42であったので,一つの参考でしかないが,落屑緑内障では術後2週目の眼圧を10mmHg以下に下げておくことがよいのではないかと考えている.6.術後低眼圧の視力への影響近年のLETの手術成績の判断基準において,眼圧5mmHg以下は不成功と判断されることが多いが,LET術後5mmHg以下の低眼圧の症例で視力低下や合併症が多かったのかどうかを調べた.6~8mmHgで経過した症例と比較した結果,術後1カ月,3カ月とも5mmHg以下の群で有意に視力が低かった(logMAR値0.14と0.14に対して5mmHg以下の群では0.42と0.41).また,有意差はないが,3カ月の時点での視力悪化例が5mmHg以下の症例で31%(6~8mmHg群では9%)と多い傾向(p=0.051)にあることもわかった.合併症に関しては,症例数が少ないことも関係していると思われるが,発生率は少なく,5mmHg以下の極端な低眼圧は,脈絡膜.離や浅前房などを生じなくても,視力低下が回復しない可能性が高いのではないかと考えられる.一方,6~8mmHgの群と9~12mmHgの群の間には有意差はなかった.合併症の頻度も有意差はなく,真の眼圧値かどうかの議論はあるにしても,6mmHgまでを眼圧下降の下限とする考えは納得できるものであった.以上の結果から,術後いったん下がった視力は,眼圧が適度に下降しないと回復しにくい一方,眼圧下降率が高すぎて合併症が生じると,さらに視力は戻りにくくなると考えられる.つまり,手術侵襲で視力は下がるものの,眼圧下降で視力回復のチャンスが生まれることになるが,眼圧が下がることでなにが起こっているのだろうか?適度な眼圧下降時に起こっていることはなんであろうか?それは血流の改善かもしれないし,脈絡膜.離が視力予後に影響することを考えると,脈絡膜の環境の変化なのかも知れない.当院では,術前と術後1~3カ月の時点での血流を,レーザースペックルフローグラフィを用いて調べたが,有意な変化は認めなかった.やはり術翌日から直後の1,2週間になにが起こっているのかを調べる必要があるだろう.眼圧変化に伴う角膜形状変化も含めて,今後の課題と考える.IILETと白内障手術との同時手術近年,LET単独のほうが同時手術よりも成績が良好であるとの報告は,日本緑内障学会で行われたCBIITSのデータを用いた検討をはじめ,いくつも報告されている8~10).一方で,成績に変わりはなく,同時手術はむしろ合併症が少ないとのレビュー14)も出されている.しかし,LETを先に行った場合,白内障手術による炎症の影響で濾過胞の機能低下が生じる可能性が高く,LET術後の白内障手術は,1年程度などの一定の間隔をあけることが望ましいとの報告15~17)も多い.過去に当院でLETを行った症例のうち,2015~2020年に当院で白内障手術も行ったのは18例21眼で,LETから白内障手術までの期間は0.5~53年(平均16年)であった.術前眼圧は11.5±3.8mmHgで,術後は平均10.4から14.1mmHgの間を変動していたが,統計学的に有意な眼圧変化はみられなかった.しかし,点眼の追加が必要になった症例は2眼,濾過胞の機能不全に陥り,再建術を行った症例が1眼だったことから,白内障手術は濾過機能に多少影響する可能性はあると考える.そこで,同時手術の是非を考えるために,まず水晶体眼とIOL眼におけるLET単独手術での比較を行い,それぞれのLET単独手術とLET水晶体再建術との同時手術の比較を行った.1.LET単独手術―有水晶体眼vsIOL挿入眼有水晶体眼に対するLET単独手術47眼(有水晶体群)とIOL挿入眼でのLET単独手術169眼(IOL群)の経過を比較すると,術前の眼圧に差はないものの(19.2±5.6vs19.1±6.2mmHg),術後1週目は有水晶体群で有意に低く,術後3日以内に8mmHg以下になった症例の割合は68%と,IOL群の50%に比べて有意に高かった.脈絡膜.離の頻度は有水晶体群に若干多い傾向(15%vs7%,p=0.067)であった.術前視力(log-MAR換算値)に差はなかったものの(0.08vs0.07),術後1週で視力が戻った症例の頻度は有水晶体群20%であったのに対し,IOL眼で40%と有意に高かった.3カ月の時点で視力が術前に戻っていた症例の割合はそれぞれ62%と60%で差はなかった.2.LETと白内障の同時手術群とIOL眼に対するLET単独手術群の比較LETと白内障の同時手術(同時手術群)142眼とIOL眼におけるLET単独手術(IOL群)169眼を比べると,術後2週の眼圧が前者で10.0±5.5,後者で8.7±4.6mmHgと有意に低かったが,以降の眼圧に有意差はなく,視力(logMAR換算値)の平均値にも有意差はなかった.しかし,術後3カ月の時点での2段階以上の視力低下例の割合が,同時手術群1%に対してIOL群5%と有意に後者が高かった.浅前房の頻度も,同時手術群が4%だったのに対しIOL群が9%と有意に高く,合併症の発症は同時手術群で少ない可能性が考えられた.3.LETと白内障の同時手術群と有水晶体眼に対するLET単独手術群の比較有水晶体眼のLET単独群(有水晶体群)47眼と同時手術群142眼を比較すると,眼圧の経過は3カ月の時点まで有意に同時手術群(10.4~11.8mmHg)が有水晶体群(8.4~9.4mmHg)と比較して有意に高かったものの,脈絡膜.離の頻度は有意に低く(4vs15%),視力の回復に関しては,これは白内障手術をしているので当然かも知れないが,同時手術群のほうが有意に良好であった.幸い,今回の検討例では中心視野を消失した症例はなかった.4.LETの同時手術先に述べたように,当院でLET後に半年以上あけて白内障手術を行った症例では,平均眼圧の有意な上昇はなかったものの,点眼の強化や追加手術が必要となった症例が数例認められた.同時手術群は単独手術群に比べて1mmHg前後眼圧が高めとなったが,白内障手術の効果のためか視力回復は早く,合併症も有意に少ない結果であった.これらのことから考えると,白内障合併眼に対してLETを行う場合に,あえて半年や1年以上の間隔をあけてLET後に白内障手術を二段階に分けて行う必要性は感じられなかった.こうした短期間での結果を踏まえて,さらに観察期間を延ばした比較が必要と考える.5.同時手術におけるIOL度数決定LETと白内障手術の同時手術を考える際に,IOL度数決定のための計算式にはなにを選べばよいのだろうか.とくに,白内障単独手術の場合と違って,眼圧を大幅に下げる手術を併用すると,眼圧下降に伴う眼軸長の短縮と,強膜弁作製によるケラト値の変化が生じる可能性が考えられる.眼軸長の変化は微量であるが,たとえばもし20mmHgも下げたとすると,これまでの報告18,19)に基づけば0.3~0.4mm程度の短縮となり,これはIOL度数でいえば度数で1~2段階の差が生じる可能性が生じることになる.以前,筆者らはトラベクトーム手術においても,眼軸長が眼圧に応じて変化することを報告した20).図5は,当教室の飯島が2019年に日本眼科学会総会で発表した白内障手術眼でのデータであるが,通常使われることが多い水色のドットで表したSRK/T式は角膜形状や眼軸長の影響を受けやすく,赤色のドットで表したBarrett式は受けにくいことがわかった.そこで,LET同時手術眼でBarrett式とSRK/T式の比較を行ったところ,予測誤差はBarrett式で.0.15D,SRK/T式で平均.0.38と,Barrettのほうが予測,絶対とも誤差が有意に少ないという結果であった(図6).データの詳細は省くが,±0.5D以内に入った症例の割合はBarrettが70%,SRK/Tが57%,±1.0D以内の割合はBarrettが94%,SRK/Tが79%でどちらも有意差はなかったが,Barrett式のほうが予測性は良好である傾向が示されたので,筆者らの施設ではBarrett式を原則として用いるようにしている.6.LETと乱視矯正手術の併用LET術後に乱視が強くなることは知られているが,乱視が増えれば裸眼視力は低下するし,高齢者では若年者に比べて乱視の影響を受けやすい21)ことから,LET後に生じる乱視はなるべく矯正したい.手術で生じる乱視,すなわち惹起乱視の値や方向などが予測できるのであれば,乱視矯正IOLを併用できる可能性がある.惹起乱視の評価には算術平均術後惹起乱視(mean-surgi-callyinducedastigmatism:M-SIA)が用いられることが多い.M-SIAは乱視の大きさのみを考慮し決定する方法で,軸の方向は考慮されていない.一方,セントロイドSIA(centroid-SIA:C-SIA)は乱視の大きさだけでなく軸の方向も考慮し決定する方法である.したがって,C-SIAはM-SIAより全体のSIAの傾向を把握するのに臨床的に有用な可能性がある22,23).詳細は現在論文投稿中なので省くが,乱視は強膜弁作製方向に大きくなるものの,個々の症例で乱視量や軸の方向のばらつきも大きく,術中に乱視矯正IOLや角膜輪部減張切開術(limbalrelaxingincision:LRI)による乱視矯正はあまり高い精度が保てないと考え,適応にはしづらいと考えている.n=4802211SRK/BarretTt予測誤差(D)-2-2-3-3予測誤差(D)00-1-1384042444648505220222426283032平均角膜屈折力(D)眼軸長(mm)PearsonPearson相関係数rp相関係数rpSRK/T-0.485<0.001SRK/T0.223<0.001Barrett0.0300.506Barrett0.0270.56図5予測誤差との相関(SRK.T式vsBarrett式)SRK/T式(青い点)は角膜形状や眼軸長の影響を受けやすいが,Barrett式(赤い点)は受けにくい.(飯島ら,日本眼科学会一般講演,2019)術前術後3カ月p値矯正視力(logMAR)0.08±0.160.02±0.100.002眼圧(mmHg)18.9±4.310.6±2.6<0.001平均角膜屈折力(D)44.21±1.4144.27±1.410.371角膜乱視量(D)0.88±0.441.34±0.70<0.001絶対誤差(D)32p<0.001p=0.029Pairedttest10-1予測誤差(D)21-2-3BarrettSRK/TBarrettSRK/T0-0.15±0.54-0.38±0.610.44±0.340.55±0.46予測誤差絶対誤差図6LET同時手術前後の屈折誤差予測誤差,絶対誤差の比較において,Barrett式とSRK/T式の間には有意差がみられた.(飯島ら,日本緑内障学会一般講演,2019年)下させる可能性が常に指摘されており,緑内障眼に挿入III緑内障に適した眼内レンズは?した場合,コントラスト感度がさらに低下する可能性が1.コントラスト感度と多焦点IOL推測される.今回,緑内障眼でのコントラスト感度を検近年,さまざまな多焦点IOLが開発され,普及する討するために,単焦点IOLを挿入された緑内障以外のことによって,緑内障眼にも挿入されているケースを経疾患のない矯正視力1.0以上の症例78眼のコントラス験する機会が増えた.多焦点IOLはコントラストを低ト感度をVCTS-6500で測定した.その結果,MD値との有意な関連はみられなかったが,中心窩閾値が低下するにつれてコントラスト感度が有意に低下することがわかった.これは明所下でも薄暮下でも同様の結果であった.したがって,中心窩閾値に影響が及びつつある緑内障眼では多焦点CIOLの挿入は慎重に検討しなければならず,実際には避けるべきと考える.当院でも,他院で多焦点CIOL挿入術を受け,見え方に不満を訴えて単焦点CIOLに交換した患者を経験した.この患者はC48歳のPOAGの女性で,遠方矯正視力はC0.6,中心窩閾値がC26dBであり見づらさを強く訴えていた.IOL交換に伴う危険性を納得したうえで単焦点CIOLに交換したところ,眼圧は術前と変わりなく,視野障害の程度も変わりなかった.遠方矯正視力はわずかに向上し,曇っている感じがとれて見え方の違和感がなくなったと,本人の訴えも大きく改善した.コントラスト感度は正常範囲に戻ったわけではないものの,全周波数で明らかな改善がみられた(図7).つまり,多焦点CIOLを挿入したことにより,この患者はこれだけコントラスト感度の落ちた生活を強いられていたことになる.これまでにも,多焦点CIOLでコントラスト感度の低下が生じることはいくつも報告されている24~26).さらに緑内障や網膜疾患の患者は視機能をさらに低下させる可能性があると指摘されている27).したがって,緑内障眼に対して,コントラスト感度をさらに低下させる可能性のある多焦点CIOL挿入は漫然と行うべきではない.もちろん,超高齢社会において,ある程度の遠近視力の向上に対する一定のニーズはあるが,コントラスト感度が低下しないといわれている焦点深度拡張型多焦点CIOLは検討の余地はあるものの,それでも,中心視野への進行速度を評価し,中心視野障害の可能性を否定できるような視野検査の蓄積,眼底所見を含めた緑内障の評価をしっかり行ってから選択の判断を行うべきであることはいうまでもない.C2.着色IOLの影響わが国ではC1990年代に登場した黄色着色レンズが使われることが多い.これは羞明や術後の色合いの変化を少なくするなどが目的といわれている.以前は色感覚変化や羞明感への影響や,睡眠や血圧への影響,加齢黄斑変性の予防などに関して報告28~34)があり,加齢黄斑変性の予防効果についてはあまり期待通りではないようだが35,36),緑内障眼にどのような影響があるかについてはコントラスト感度(log)2.521.510.501.5361218空間周波数(cpd)図7本症例のコントラスト感度(術前後)多焦点眼内レンズから単焦点眼内レンズに交換したのち,コントラスト感度は大きく改善した.あまり検討されていない.たとえば,緑内障の早期に短波長感受性錐体の感度低下が起こることは,ブルーオンイエロー視野計の研究でよく知られている.緑内障のない白内障手術患者の片眼に黄色着色IOL,僚眼には非着色CIOLを入れてブルーオンイエロー視野計で測定し,影響の有無を調べた研究では,やはり着色レンズの影響があることが報告されている32).したがって,緑内障眼で短波長をカットすることは,何の影響もないといいきることはできないのではないだろうか?また,今回の講演では触れなかったが,白内障術後に短波長光が網膜のメラノプシン神経節細胞を刺激することで概日リズムが調整され,睡眠が改善するようになることは知られている.短波長の感受性が落ちている緑内障にさらに短波長をカットする眼内レンズを使うことは本当に問題ないのだろうか?本研究で使用した黄色着色レンズの詳細は図8の通りである.現在販売されている着色CIOLの分光透過率を参考に選択し,HOYA社のカラーフィルターガラスL39,L42,Y44,眼鏡レンズ基材CVGを使用した.それぞれわかりやすいように分光透過率に応じてCG1~G4とした.分光透過率曲線を示す図8は,上が今回使用したレンズ,下が現在販売されているおもな着色CIOLである.まず,正常若年者C20例C20眼において,フィルターなしとCG1~G4までのフィルターをつけた眼鏡装用下でカラーフィルターガラス眼鏡レンズ基材100使用レンズ0着色眼内レンズG1(L39)・G3(L42)・G4(Y44)G2(VG)透過率(%)350370390410430450470490510530550570590波長(nm)図8使用した黄色着色レンズの詳細上段:使用したレンズの透過率,下段:臨床で使用されているおもな黄色着色CIOLの透過率.G1~G4は便宜上の名称で,カッコ内はそれぞれのフィルターガラス(HOYA)の型番を示す.Humphrey視野計におけるCSITA-SWAPを測定し,その中心C4C×4点と中心窩閾値の計C17点を合計した網膜感度について調べたところ,G4の黄色着色レンズは明らかに網膜感度を低下させることがわかった(図9).図10はフィルターなし(N)とCG4装用時の網膜感度を等価球面度数,眼軸長別にみたものである.等価球面度数に関しては,N,G4ともに正の相関がみられたが,近視眼であるほどCG4による網膜感度への影響は大きいことがわかった.眼軸長に関しては,G4装用時に負の相関がみられ,眼軸長が長いほど,網膜感度への影響が大きくなることがわかった37).以上の正常者の実験から,緑内障患者ではどの程度の感度低下が生じるのかを調べるために,同一日に通常のクリアレンズ装用下での視野測定と,先ほどのCG4着色レンズ装用下での視野検査の結果を比較した.水晶体の着色の影響を除外するために,クリアCIOL挿入眼を対象とした.結果は予想に反して,MD値に関しては着色レンズ装用時のほうが有意に良好であった.パターン標準偏差値や中心窩閾値,固視点近傍のC4点やC16点の閾値の合計は有意差がなかった.MD値が良好となった理由としては,もしかすると色収差や散乱光の低減により,結果がよくなった可能性がある.一方,緑内障患者では,障害された神経節細胞が過敏性を獲得するとの報告38)もあり,正常若年者でのシミュレーションでは,緑内障患者の状況を反映していない可能性がある.外来で緑内障眼に行ったCdysphotopsiaに関するアンケートでは,dys-photopsia(まぶしさや光の軸,黒い影などの異常な光視)の自覚がCIOL挿入眼で多く,緑内障のない白内障患者のCIOL挿入眼より非常に高頻度にみられた.このようなCdysphotopsiaが疾患特有のものであるとしたら,そのメカニズムがあまりわかっていないのに,ある特定の分光透過率をもつ着色CIOLを眼内に挿入してしまってよいのか,それともクリアなCIOLにして遮光眼鏡などで工夫をする31)ほうがよいのかは,今後しっかりと検討すべき課題なのではないだろうか.緑内障眼に対する着色CIOL使用の是非はさらなる検討が必要と考えている.C3.視野障害に対するdysphotopsiaの影響ここまでは見えるほうのCdysphotopsiaの話だったが,今度は見えないほうの影響をシミュレーションを通して正常若年者20眼**平均閾値(dB)343230282624NG1G2G3G4反復測定分散分析p<0.0001**Sche.e検定p<0.01図9黄色着色レンズの網膜感度への影響平均閾値(dB)各フィルターガラス(図C8で示したCG1~G4)を装用し,正常若年者C20眼においてHumphrey視野計CSITA-SWAPを測定した.フィルターの装用順は無作為に行い,中心C17点の閾値の平均を算出し,比較した.Nは着色レンズ非装用を示す.G4装用時の感度は他のすべての測定条件における感度と比較して有意に低下していた.等価球面度数眼軸長G4p<0.01r=0.67G4p<0.01r=-0.5934Np=0.04r=0.47Np=0.10r=-0.46343232平均閾値(dB)3030282826262424222220-10-8-6-4-202024682022242628等価球面度数(D)眼軸長(mm)Spearmanrankcorrelationcoe.cient図10眼軸長,等価球面度数と網膜感度フィルターなし(N)とCG4装用時の網膜感度を,等価球面度数,眼軸長別に測定した.等価球面度数別の測定では,N,G4ともに正の相関がみられたが,近視眼であるほどCG4による網膜感度への影響は大きかった.眼軸長別の測定では,G4に負の相関がみられ,眼軸長が長いほど,網膜感度への影響が大きかった.●:N装用,○:G4装用.確認し,緑内障性視野障害に影響の少ないCIOLを考えとよばれる.このCnegativeCdysphotopsiaはCIOLの屈折てみた.率によって異なり,高屈折率の素材では光が大きく曲が見えないほうのCdysphotopsiaは,IOLの光学部を通るため,中心に向かってグレア光が移動し,光の当たらる光,エッジを通る光,そして虹彩-IOL間を通る光にない領域を作り出し,グレアを知覚しやすくなる(図よって生じ,光の合間の暗い部分がCnegativephotopsiaC11).屈折率1.413屈折率1.550アッベ数56.7アッベ数37.0図11IOLの屈折率とnegativedysphotopsiaNegativedysphotopsiaは,IOLの光学部を通る光,エッジを通る光,そして虹彩-IOL間を通る光によって生じる,光の合間の暗い部分である.高屈折率の素材では光が大きく曲がるため,中心に向かってグレア光が移動し,光の当たらない領域が広くなり,グレアを知覚しやすくなる.左図は低屈折率素材のCIOLを用いたとき,右図は高屈折率素材のCIOLを用いたときのシミュレーションである.屈折率C1.550,いわゆるアクリル製CIOLに使われる素材でのシミュレーションではC78~90°の広い範囲でCneg-ativedysphotopsiaが発生していた.低い屈折率,つまりシリコーンCIOLでのシミュレーションではCnegativedysphotopsiaのみられる範囲は若干狭くなることがわかった39).NegativeCdysphotopsiaが生じる部位は,ちょうど耳側残存視野にかかる領域になる.広い範囲にdysphotopsiaが生じてしまうと,視野の狭窄につながってしまうかもしれない.もちろん,患者の残存視野にもよるが,このリスクを考えると,緑内障性視野障害を有する患者には屈折率の低い眼内レンズが望ましく,筆者はシリコーンCIOLもしくは低屈折率のアクリルCIOLを選択するようにしている.CIVまとめ線維柱帯切除術後の視力低下はC3カ月経過しても回復しないことが多いことがわかった.いったん下がった視力の回復の可能性について検討した結果,視力回復の鍵は,術前の視機能の余力ともいうべき中心窩閾値に依存することから,中心窩閾値が低下する前に手術を勧めるべきである.また,病型によって異なるが,術後にはある程度のすみやかな眼圧下降が必要である一方,脈絡膜.離や浅前房・黄斑症といった低眼圧による合併症が生じると視力回復の可能性は著しく低下し,それらの合併症は眼圧下降率が高すぎることで生じることがわかった.これらの現象のメカニズムについては不明な点が多く,より安全な治療のためには引き続き検討を行っていく必要がある.同時手術はCLET単独手術に比べてC1CmmHg程度高く経過するが,合併症の頻度は明らかに少なく,白内障手術を併用したので当然かも知れないが,術後の視力低下が生じにくい術式と考えられる.同時手術におけるCIOL度数の算出には,強膜弁作製による惹起乱視や眼圧下降による眼軸長の変化の影響の少ないCBarrett式が効果的であると考えられる.同時手術を行う場合,単に白内障手術で用いるCIOLを流用せず,緑内障眼に適したCIOLを用いるべきである.緑内障が進行性の疾患であることを考えれば,先々コントラスト感度の不要な低下を増長する可能性のある多焦点CIOLは避けるべきである.LETによって強膜弁方向への惹起乱視が生じるが,その変化や軸の方向は個人差があり,乱視矯正用CIOLや乱視矯正角膜切開術のような術中の乱視矯正はむずかしいと考える.短波長感受性錐体のコントラスト感度低下や網膜感度の低下を生じる可能性のある黄色着色レンズの使用は慎重にすべきであろう.Dysphotopsiaによる視野狭窄の可能性を考えると,用いるCIOLの屈折率は,シリコーンもしくは低屈折率のアクリルが望ましいと考える.本講演では明確な回答が出せなかったが,緑内障患者の白内障術後に訴えの多い羞明に関しても,網膜神経節細胞レベルで対応がむずかしいのか,それともなにか光学的な対応が可能なのかなどは,引き続き今後の課題としたい.謝辞:恩師新家眞先生,白土城照先生,山本哲也先生に深謝申し上げるとともに,筆者の緑内障研究の入口でご指導いただいた中野豊先生,山上淳吉先生,小関信之先生,鈴木康之先生,そして本講演の座長の労をおとりいただいた相原一先生や東京大学医学部眼科学教室の先生方,また今回の講演のために一からデータ収集をして解析してくれた笠原正行君や平澤一法君,佐藤信之君をはじめとした北里大学医学部眼科学の医局員と医療衛生学部視覚機能療法学の教員の方々,そしてこうした素晴らしい財産を引き継がせていただいた清水公也先生に心より感謝申し上げます.文献1)AggarwalCSP,CHendelesS:RiskCofCsuddenCvisualClossCfol-lowingCtrabeculectomyCinCadvancedCprimaryCopen-angleCglaucoma.BrJCOphthalmolC70:97-99,C19862)MartinezJA,BrownRH,LynchMGetal:Riskofpostop-erativeCvisualClossCinCadvancedCglaucoma.CAmCJCOphthal-molC115:332-337,C19933)TopouzisCF,CTranosCP,CKoskosasCACetal:RiskCofCsuddenCvisuallossfollowing.ltrationsurgeryinend-stageglauco-ma.AmJOphthalmolC140:661-666,C20054)LangerhorstCCT,CdeCClercqCB,CvanCdenCBergTJ:VisualC.eldCbehaviorCafterCintra-ocularCsurgeryCinCglaucomaCpatientswithadvanceddefects.DocOphthalmolC75:281-289,C19905)CostaVP,SmithM,SpaethGLetal:Lossofvisualacuityaftertrabeculectomy.OphthalmologyC100:599-612,C19936)LawCSK,CNguyenCAM,CColemanCALCetal:SevereClossCofCcentralCvisionCinCpatientsCwithCadvancedCglaucomaCunder-goingCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC125:1044-1050,C20077)FrancisCBA,CHongCB,CWinarkoCJCetal:VisionClossCandCrecoveryCafterCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC129:C1011-1017,C20118)LochheadCJ,CCassonCRJ,CSalmonJF:LongCtermCe.ectConCintraocularpressureofphacotrabeculectomycomparedtotrabeculectomy.BrJOphthalmolC87:850-852,C20039)Ogata-IwaoCM,CInataniCM,CTakiharaCYCetal:ACprospec-tiveCcomparisonCbetweenCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCandphacotrabeculectomywithmitomycinC.ActaOph-thalmolC91:e500-e501,C201310)ArimuraS,IwasakiK,OriiYetal:Comparisonof5-yearoutcomesCbetweenCtrabeculectomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cationCandCtrabeculectomyCfollowedCbyphacoemulsi.cation:aCretrospectiveCcohortCstudy.CBMCCOphthalmolC21:188,C202111)KashiwagiK,KogureS,MabuchiFetal:Changeinvisu-alCacuityCandCassociatedCriskCfactorsCafterCtrabeculectomyCwithCadjunctiveCmitomycinCC.CActaCOphthalmolC94:Ce561-e570,C201612)Beltran-AgulloCL,CTropeCGE,CJinCYCetal:ComparisonCofCvisualCrecoveryCfollowingCEx-PRESSCversusCtrabeculecto-my:ResultsCofCaCprospectiveCrandomizedCcontrolledCtrial.CJGlaucomaC24:181-186,C201513)KobayashiN,HirookaK,NittaEetal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