視神経炎におけるグリア細胞の役割NMOSDと抗MOG抗体陽性視神経炎近年,視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitisopticaspectrumdisorder:NMOSD)における病態の理解が進み,さらには抗体製剤開発の勃興により,NMOSDの一病型である抗アクアポリンC4抗体陽性CNMOSDに対しての新規の製剤が登場しました.その結果,この病型の再発が強く抑制されるようになりました.一方でミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelinColigodendrocyteCglycoprotein:MOG)抗体関連疾患(anti-MOG-antibodyCassociatedCdisor-ders:MOGAD)における視神経炎に関しては,病態の理解や病勢の制御に向けての研究が進められていますが,ステロイドや免疫抑制薬以外での新規の治療薬はありません.眼科領域におけるMOGAD日常診療においてCMOG抗体陽性の視神経炎に遭遇することはまれです.この疾患は若年齡に多い,両眼性に出現しやすい,発作を繰り返しやすいなどの特徴があり,視力の回復の悪い例もあります.MOG抗体陽性の視神経炎に対しては,そのモデルマウスが考案されています.2012年,東京医科大学のCMatsunagaらのグループはCMOG投与後のマウスで自己免疫性の脳脊髄炎が発生することを示し,同マウスにおいて視機能が障害されること明らかにしました2).このマウスでは,投与後C7日目の視神経において,マイクログリアの浸潤とその活性化が観察され,さらにはCCD3陽性のCT細胞の浸潤が生じていました.筆者らの検討では,MOG投与後17日目で自己免疫性の脳脊髄炎が最大となったマウス視神経において同様の所見を認める一方で,同部位でのアストロサイトの活性化も確認されました(図1).過去に報告されたMOG抗体陽性患者からの脳標本の検討として,脳軟膜における血管周囲へのCCD3陽性CT細胞の浸潤,マイクログリアの浸潤が確認されており,上述したマウスの所見はこうした組織像に一致します.ヒトにおいて,これらの所見以外にも補体CC9neo成分の陽性化やアストロサイトの活性化なども確認されております.これらの結果は,グリア細胞の活性化がCMOG視神経炎の病態形成に深く関与していることを示唆するものです.一方で,筆者らはこれまでにマイクログリアの抑制効果についての研究も行ってきました.マイクログリアの抑制に用いたのは抗CCSF-1R阻害薬ですが,この薬剤は網膜,視神経における定住型のマイクログリアを消滅させることが可能向井亮群馬大学大学院医学系研究科眼科学講座です.Okunukiらは実験的ぶどう膜炎モデルにおいて,マイクログリアの抑制がその疾患の病態を軽減する作用を報告しました3).今後の展望こうした背景のなかで,筆者らはマイクログリアをターゲットとした新規の治療法をめざし,MOGAD,ひいては視神経炎全般に対し,グリアの役割について明らかにするとともに,マイクログリアの抑制効果について検討しています.マイクログリアの脳内での役割は多岐に渡ります.炎症惹起の起点としてのみではなく,シナプスの形成にも深くかかわり,さらには死細胞の除去,アストロサイトとの相互作用,炎症制御にもかかわっていることが知られています.MOGADにおいても,アストロサイトやCT細胞を含めたグリアと免疫細胞の連携についての研究がますます重要になってくると思われます.文献1)HoftbergerR,GuoY,FlanaganEetal:ThepathologyofcentralCnervousCsystemCin.ammatoryCdemyelinatingCdis-easeCaccompanyingCmyelinColigodendrocyteCglycoproteinCautoantibody.ActaNeuropathol139:875-892,C20202)MatsunagaCY,CKezukaCT,CAnCXCetal:VisualCfunctionalCandChistopathologicalCcorrelationCinCexperimentalCautoim-muneopticneuritis.InvestOphthalmolVisSci53:6964-6971,C20123)OkunukiY,MukaiR,NakaoTetal:Retinalmicrogliaini-tiateneuroin.ammationinocularautoimmunity.ProcNatlAcadSciUSA116:9989-9998,C2019図1マウスの視神経のGFAP(赤)およびDAPI(青)による染色像左:コントロール,右:MOG投与後C17日目.17日目の視神経においてアストロサイトが強く活性化している.(87)あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021C870910-1810/22/\100/頁/JCOPY