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ヘッドマウント型自動視野計における2 種のプログラムの検査 結果の比較および検査時間に関する患者報告アウトカムの調査

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1090.1096,2021cヘッドマウント型自動視野計における2種のプログラムの検査結果の比較および検査時間に関する患者報告アウトカムの調査北川厚子*1堀口剛*2清水美智子*1山中麻友美*1*1北川眼科医院*2京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学CComparisonofTwoDistinctScanPatternsinaHead-MountedPerimeterandPatient-ReportedOutcomesAtsukoKitagawa1),GoHoriguchi2),MichikoShimizu1)andMayumiYamanaka1)1)KitagawaEyeClinic,2)DepartmentofBiostatistics,GraduateSchoolofMedicalScience,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC対象と方法:2019年C1月.2020年C2月にヘッドマウント型視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)を用いC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)(ともにCAIZE-Rapidモード)の両検査が正確にできた緑内障症例C65例C86眼の平均偏差(MB),パターン標準偏差(PSD),グレースケール,パターン偏差プロット・検査時間を比較した.また,別集団のC188人に検査の「しんどさ」について聞き取り調査を行い,得られた回答を評価した.結果:MDの中央値は24Cplus(1-2),24Cplus(1)で各.3.5,.3.1,PSDはC4.3,4.4であり大きな差はなく,検査点ごとのグレースケールおよびパターン偏差プロットの重み付きカッパ係数は,0.84(95%信頼区間C0.81.0.86),0.66(0.61.0.70)と高い一致度を示した.片眼検査時間は中央値C3.3分,1.8分とC24Cplus(1)が有意に短かった.聞き取り調査では,24Cplus(1)に「しんどい」と回答した割合が低い傾向が示された.CPurpose:Toreportthecomparisonoftwodistinctscanpatternsinahead-mountedperimeterandpatient-reportedoutcomes.SubjectsandMethods:ThisstudyinvolvedtheIMOdataof86eyesof65glaucomapatientscollectedCbetweenCJanuaryC2019CandCFebruaryC2020CviaCaChead-mountedCperimeterCusingCtwoCdistinctCscanCpat-terns:(a)IMO24Cplus(1-2)and(b)IMO24Cplus(1),bothinAIZE-Rapidmode.Measurementresultswerecom-paredCwithCrespectCtoCGlobalCIndex,CgrayscaleCimage,CasCwellCasCpatternCdeviationCplotCandCscanCtime.CResults:CWithrespecttoGlobalIndex,nosigni.cantdi.erenceswerefoundbetweenthetwoIMOscanpatterns.Measure-mentsCofCtheCgrayscaleCimageCandCpatternCdeviationCplotCforCtheCtwoCIMOCscanCmodesCallCshowedCaCveryChighCdegreeCofCagreement.CMeasurementCtimeCwasCsigni.cantlyCshorterCforCthe24Cplus(1)scan.CConclusions:Nosigni.cantCdi.erencesCwithCrespectCtoCGlobalCIndexCandCgrayscaleCimageCmeasurementsCwereCfoundCbetweenCtheCIMO24Cplus(1-2)andIMO24Cplus(1)scanmodes,yetmeasurementtimewassigni.cantlyshorterfortheIMO24Cplus(1)scan.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(9):1090.1096,C2021〕Keywords:緑内障,視野,アイモC24Cplus(1-2),アイモC24Cplus(1),疲れ.glaucoma,visual.eld,imo24Cplus(1-2),imo24Cplus(1),fatigue.Cはじめに野の異常にも注意を払う必要があると考えられる.眼科診療において緑内障をはじめ神経内科・脳神経外科疾従来,視野検査は高い集中や緊張を強いるものであるゆえ患の診断に視野検査はきわめて重要である.また,高齢者にに,それらが困難な患者には敬遠されがちであった.しかよる自動車運転事故の一因として,視力はもちろんのこと視し,機器の開発が進み検査時間の短縮が図れるようにな〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City607-8041,CJAPANC1090(108)り1.3),患者・検査する側双方に恩恵がもたされるようになってきている.今回,視野検査時間の短縮が可能なヘッドマウント型自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)4,5)について,そのオリジナルプログラムであるC24plus(1-2)と24Cplus(1)の検査結果を比較した(調査1).また,別集団において,検査の「しんどさ」に関する患者報告アウトカム調査を行った(調査2).両調査の結果から緑内障診療におけるアイモの特徴や有用性を検討した.なお,この臨床研究は倫理委員会の承認(ERB-C-1782)を得ている.CI調査1の対象および方法1.対象対象は,2019年C1月.2020年C2月にC24Cplus(1-2)AIZE-RapidとC24Cplus(1)AIZE-Rapidがともに正確にできた緑内障症例で,期間内に臨床的に明らかな変動のないC65例C86眼である.年齢はC15歳以上,未成年については親の同意を得た.また,固視不良はC20%以内とし,偽陽性・偽陰性が10%以上のもの,また網脈絡膜疾患のあるものは除外した.C2.診断機器2015年にわが国において開発されたアイモ(imo)は,ヘッドマウント型で両眼同時ランダム検査ができる.Hum-phrey自動視野計(HumphreyCFieldAnalyzer:HFA)と同じ条件で視野検査を行うが,プログラムはCHFA同様の30-2,24-2,10-2以外にオリジナルプログラムとして24Cplus(1-2),24Cplus(1)を搭載している.またCAIZE(AmbientInteractiveZippyEstimationofSequentialTest-ing:ZEST)のアルゴリズムを搭載し,検査時間の短縮が図られている.さらに,AIZEに加え検査点の結果を隣接点により強く反映させ,収束条件を変更,偽陽性/偽陰性/固視監視に関しては追加の刺激を行わないことで,検査時間の短縮を図ったCAIZE-Rapidも搭載している.なお,検査はスタンド型で行った.アイモのオリジナル検査配列を図1に示す.24Cplus(1-2)では,6°間隔にC54点,2°間隔にC24点,計C78点を配し,24plus(1)では,30°内の重要な36点を配している.C3.評価24Cplus(1-2)AIZE-RapidとC24Cplus(1)AIZE-Rapidの検査結果を比較するために,以下の指標について評価を行った.①視野全体の指標(グローバルインデックス)としての平均偏差(meandeviation:MD)およびパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)6).②C36個の検査点ごとの指標としてのグレースケール,パターン偏差およびトータル偏差.パターン偏差については,偏差量の統計学的な有意性をもとにC5カテゴリ(0:p≧5%,1:p<5%,2:p<2%,3:p<1%,4:p<0.5%)に分類した変数(パターン偏差プロット)に関しても評価した.③片眼の検査時間(分).C4.統計解析24Cplus(1-2)AIZE-Rapid(以下,AIZE-Rapidを省略する)とC24Cplus(1)AIZE-Rapid(以後CAIZE-Rapidを省略する)の検査結果を比較するために,以下の解析を行った.連続変数の要約統計量としては中央値(四分位範囲)を示した.MDおよびCPSDにおけるC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の結果について,差の平均値とそのC95%信頼区間,および級内相関係数とそのC95%信頼区間を推定した.また,MDおよびCPSDにおけるC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の関係につい24plus(1-2)6°間隔54点2°間隔24点>合計78点24plus(1)30°内の重要な36点図1各検査プログラムの配列MD〔24plus(1-2)〕MD〔24plus(1)〕PSD〔24plus(1-2)〕(dB)-(dB)PSD〔24plus(1)〕-MD4Mean+1.96SD20Mean-2Mean-1.96SD-4-25-20-15-10-50Mean(MD〔24plus(1-2)〕,-MD〔24plus(1)〕)(dB)PSD4Mean+1.96SD20Mean-2Mean-1.96SD-42.55.07.510.012.5Mean(PSD〔24plus(1-2)〕,-PSD〔24plus(1)〕)(dB)図2MDおよびPSDのBland.AltmanPlotてCBland-AltmanCplot7)を作成した.グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の結果の重み付きカッパ係数を検査点(共通する全C36点)ごとに算出し,それらの重み付きカッパ係数の平均および95%信頼区間を推定した.なお,重み付きカッパ係数の重みについては,二次の重みとした8).パターン偏差およびトータル偏差について,24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の結果の級内相関係数を検査点(全C36点)ごとに算出し,それらの級内相関係数の平均およびC95%信頼区間を推定した.検査対象が左眼の場合は左右を反転して解析を行った.片眼の検査時間については,検査プログラムごとに中央値と四分位範囲を算出し,箱ひげ図を作成した.また,24Cplus(1-2)と24Cplus(1)の検査時間についてCWilcoxon符号付き順位検定を行った.なお,両眼同時ランダム検査の場合,検査時間は両眼の検査時間の足し合わせとなるため,片眼検査同士として比較するためにC1/2に調整した.検定の有意水準は両側0.05とした.II調査1の結果24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の比較に関する対象の特性は,緑内障症例C65例C86眼(右眼C45眼,左眼C41眼),年齢はC15.88歳(中央値:70.9歳),男女比C27人:38人,屈折+3.50D.C.17.00D,乱視C0.25D.4.0D,矯正視力C0.15.1.5であった.また,視野検査の精度(信頼性指標の範囲)は,24Cplus(1-2),24Cplus(1)の各検査のすべてにおいて,固視不良はC0.20%,偽陽性はC0.8%,偽陰性はC0.6%であった.2種の検査の間隔はC0カ月(同一日に検査施行).12カ月であり,中央値C6.0カ月であった.C1.グローバルインデックス24plus(1-2)とC24plus(1)のグローバルインデックス(MD,PSD)を比較した結果,MDについてC24Cplus(1-2)では中央値.3.5(C.7.1.0.1)dB,24Cplus(1)では中央値C.3.1(C.7.5.0.4)dBであり,PSDについてC24plus(1-2)では中央値C4.3(2.5.14.1)dB,24plus(1)では中央値C4.4(2.6.9.2)dBであった.差の平均については,MDでC0.30(95%信頼区間C0.04.0.56)dB,PSDでC0.03(95%信頼区間C.0.27.0.34)dBであり,どちらも大きな差はなかった.級内相関係数は,MDでC0.98(95%信頼区間C0.97.0.99),PSDでC0.93(95%信頼区間C0.90.0.95)であり,どちらも一致度は高かった.Bland-Altmanplotを作成した結果,MD,PSDともに大きな偏りはなかった(図2).C2.検査点ごとの指標グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の重み付きカッパ係数を算出した結果,それぞれC0.84(95%信頼区間C0.81.0.86),0.66(95%信頼区間C0.61.0.70)であった.パターン偏差およびトータル偏差について,級内相関係数を算出した結果,それぞれ0.69(95%信頼区間C0.63.0.75),0.80(95%信頼区間C0.76.0.84)であり,高い一致度を示した.さらに各検査点の一致度について,グレースケールおよびパターン偏差プロットに対しては重み付きカッパ係数(図3a,b),パターン偏差およびトータル偏差に対しては級内相関係数(図3c,d)をそれぞれヒートマップで表した.パターン偏差およびパターン偏差プロットにおいて,一致度の低い検査点がいくつかあったが,全体としては中等度から高度の一致を示した.C3.検査時間片眼の検査時間について中央値および四分位範囲を算出した結果,24Cplus(1-2)で中央値C3.3(2.9.3.8)分(検査点:78点),24plus(1)で中央値C1.8(1.6.2.1)分(検査点:36点)であり,箱ひげ図を図4に示した.また,検査プログラム間での検査時間の違いをCWilcoxon符号付き順位検定により検討した結果,24Cplus(1)の検査時間が有意に短かった(S=1870.5,p<0.001).a:グレースケール(重み付きカッパ係数)b:パターン偏差プロット(重み付きカッパ係数)c:パターン偏差(級内相関係数)d:トータル偏差(級内相関係数)図3各検査点の一致度重み付きカッパ係数および級内相関係数はC0.C1の範囲で値を取り,1に近いほど一致度が高いことを示す.なお,代表的なC3症例のC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)における各々グレースケール・パターン偏差・Defectcurveを図5に示す.症例C3においてはC24Cplus(1-2)の結果が中心C510°内の情報を詳細に検出している.4III調査2の対象および方法検査時間(分)31.対象患者報告アウトカム調査については,2020年C1月.20202年C6月にC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の視野検査を行い,検査後に口頭で「しんどさ」について聞き取り調査を行った.なお,これは調査C1の対象とは別の集団における調査である.C2.評価患者報告アウトカムは,視野検査をしんどいと感じたか否かのC2値変数および両眼の検査時間(分)を評価した.C3.統計解析患者報告アウトカム調査において,「しんどい」と回答した人の例数とその割合,両眼の検査時間の中央値と四分位範124plus(1-2)24plus(1)n8686図4各検査プログラムの検査時間(片眼)囲を検査プログラムごとに算出した.しんどさと検査時間の関係について検査プログラムごとに帯グラフを作成した.また,しんどさ(2値)と検査プログラムの関連について,年症例1症例2症例3図5症例1,2,3の24plus(1.2)と24plus(1)におけるグレースケール,パターン偏差,およびdefectcurve齢と性別を調整したうえでロジスティック回帰分析を行った.検定の有意水準は両側C0.05とした.すべての統計解析はSASversion9.4を用いて行った.CIV調査2の結果アイモでの検査後,患者報告アウトカム調査をC188人に行った,その対象の特性は,年齢C18.88歳(中央値:71.0歳),男女比C64人:124人であった.内訳は,24Cplus(1-2)で検査を行った人がC54例,24Cplus(1)で検査を行った人が134例であった.そのうち,しんどいと回答した人は24Cplus(1-2)でC14例(25.9%),24Cplus(1)でC11例(8.2%)であった.両眼の検査時間は,24Cplus(1-2)で中央値C6.5(5.4.7.3)分,24Cplus(1)で中央値C3.5(3.0.4.2)分であった.しんどさと検査時間の関係について帯グラフを作成した結果,24Cplus(1-2)よりC24Cplus(1)のほうが検査時間が短い人が多く,それに伴いしんどいと回答した人の割合も24Cplus(1)のほうが低い傾向が示された(図6a,b).また,しんどさを応答変数,検査プログラムを説明変数,年齢および性別を共変量としたロジスティック回帰分析を行った結果,24plus(1-2)に対するC24plus(1)の調整オッズ比は0.26(95%信頼区間:0.10.0.63)であり,有意な関連が認められた(p=0.003,表1).CV考察今回,筆者らは通常の緑内障診療において同一症例にアイモのオリジナルプログラムC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の検査をCAIZE-Rapidで行い,その検査結果を比較検討した.グローバルインデックス(MD,PSD)の比較においては,MDについてC24Cplus(1-2)で中央値C.3.5(C.7.1.0.1)dB,24Cplus(1)でC.3.1(C.7.5.0.4)dBであり,PSDについてはC24plus(1-2)でC4.3(2.5.14.1)dB,24plus(1)でC4.4(2.6.9.2)dBであった.差の平均についても,MDでC0.30(95%信頼区間C0.04.0.56)dB,PSDでC0.03(95%信頼区間C.0.27.0.34)dBであり,どちらも大きな差はなかった.級内相関係数はどちらも一致度が高く,Bland-Altmanplotにおいてもともに大きな偏りはなかった.検査点ごとの指標について,グレースケール・パターン偏差プロットの重み付きカッパ係数,パターン偏差,トータル偏差の級内相関係数はC24Cplus(1-2)とC24Cplus(1)の間に一致度の低い検査点がいくつかあったが,全体としては中等度から高度の一致を示した.次に図5の実際の症例においてグレースケールやCdefectcurve,パターン偏差プロットに類似性がみられるが,症例3のC24plus(1)においては中心C10°内の情報が少なく,24Cplus(1-2)では得られたCqualityCofvision(QOV)に関しての判断が困難である.片眼の検査時間は検査点数の違いから当然ではあるが,24Cplus(1)AIZE-Rapidは短く,片眼中央値C1.8分であり,24Cplus(1-2)AIZE-RapidはC3.3分であった.調査C2におけるしんどさ調査の対象C188例については,一致度などの評価はなされていないため,研究限界と考えるが,24Cplus(1)のほうが検査時間が短く,それに伴いしんどいと回答する人の割合も低かった.a:24plus(1-2)100%80%60%40%20%0%2~33~4n01b:24plus(1)5066.773.373.310084.65033.326.726.715.4100%80%60%40%20%0%2~3n33c:全体100%80%60%40%20%0%2~3n333~4633~4644~55~66~77~86131515しんどいしんどくない4~55~66~77~8281000しんどいしんどくない4~55~66~77~834231515しんどいしんどくない8~10検査時間(分)4計548~10検査時間(分)0計1348~10検査時間(分)4計188図6しんどさと検査時間の関係また,188例全例について検査後の「しんどさ」と検査時間との関係を図6cに示す.検査プログラム(24Cplus(1-2),24Cplus(1))の違いにより,検査時間はC2.3分からC8.10分と多岐にわたっているが,時間が長くなるにつれて「しんどい」と回答する割合が増加している.とくにC8分を超えるとC50%の人が「しんどい」と回答した.また片眼遮閉検査(113)表1しんどさと検査プログラムの関連変数調整オッズ比95%信頼区間p値年齢性別男性女性検査プログラム24Cplus(1-2)(R)24Cplus(1)(R)0.980.95.C1.00C0.07710.470.19.C1.17C0.10410.260.10.C0.63C0.003と両眼開放検査について,HFAも経験している症例に「どちらがよいと思うか」の質問に回答の得られたC70名においてC62名C88.6%が「両眼開放検査がよい」と答えた.緑内障診療において視野検査はきわめて重要であるが,元来姿勢の保持や緊張集中の持続を要求される検査であるため,長時間を要した場合患者の疲労が蓄積され,検査の信頼性に疑いが生じる可能性がある9).また,患者のその辛い経験が視野検査を避ける原因となり,患者・医療者の双方にストレスを生じる結果となっている.現在広く行われているCHFAによる検査は,片眼でC24-2CSITACStandard6.8分,24-2CSITACFast4.6分,24-2CSITACFaster2.3.5分(緑内障眼)を要する2).一方,アイモC24Cplus(1-2)AIZE-RapidはC3.4分,24Cplus(1)AIZE-Rapidは約C2分であり,とくにC24Cplus(1-2)はC24-2の検査点に加えてC10°内も密に検査していることから,短時間に多くの情報を得ることができる.QOVに必要なC10°内の密な検査を必要とする近視眼緑内障や中等度以上の進行例は,10-2とC24-2あるいはC30-2両プログラムを検査する必要がある.アイモC24plus(1-2)AIZE-RapidとCHFA24-2SITA-Fast,HFAC10-2CSITA-Fastの比較においてアイモ24plus(1-2)とCHFA24-2のMD値・PSD値の差の平均に大きな差はなく,級内相関係数は一致度が高く,またパターン偏差・トータル偏差の級内相関係数はC24°内・10°内とも高い一致度を示しており,一度の検査で両プログラムを検査するC24Cplus(1-2)は有用である3).また,今後若年者の近視増多が予想されており,視神経乳頭所見・OCTなどで緑内障が疑わしい場合は,早期から視野検査が必要であるが,とくに強度近視眼では初期から乳頭黄斑線維束欠損を認めることも多く,10°内を密に検査するアイモC24Cplus(1-2)は有用であろう10,11).一方,短時間での検査が望まれる人間ドック(眼ドック)・初めての視野検査,また姿勢保持の困難な例・集中や緊張の持続が困難な例・幼少児などにはC24Cplus(1)が適切である.アイモによる両眼同時検査後の患者報告アウトカム調査において,検査は理想的にはC4分以内に終了することが望ましいが,8分以内であればC70%以上の人が「しんどさ」を感あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C109593.990.589.31006.110.79.573.373.35093.990.685.391.3506.126.726.714.79.48.7じない結果となった.アイモはC24Cplus(1-2)においてもほとんどの例がC8分以内に終了しており,検査によるストレスはかなり軽減されている.またC88%以上の人が両眼開放による視野検査が好ましいと回答した.今回の研究により,アイモC24Cplus(1-2)AIZE-Rapidと24Cplus(1)AIZE-Rapidの検査結果に大きな差ははく,患者により検査時間を配慮しつつ適切なプログラムを選択することが可能となった.また,アイモによる視野検査は検査時間の短縮により患者に受け入れられやすくなった.さらに,24Cplus(1)AIZEとCHFA30-2SITA-Standardの比較においても緑内障病期,早期.中期の中年層においてはCMD値・PSD値・VFIの結果によい相関が得られており1),長年にわたる緑内障経過観察において臨床的な判断を行う際,MD値の変動(MDスロープ)に注目するが,HFA・アイモ各々の30-2・24C.2・24plus(1-2)・24plus(1)などのCMD値には,ある程度の互換性の可能性があり,その点からもアイモによる視野検査は緑内障診療において有用であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)北川厚子,清水美智子,山中麻友美:アイモC24Cplus(1)の使用経験とCHumphrey視野計との比較.あたらしい眼科35:1117-1121,C20182)田中健司,水野恵,後藤美紗ほか:Humphrey視野計におけるCSITAStandardとCSITAFasterの比較検討.あたらしい眼科C36:937-941,C20193)北川厚子,清水美智子,山中麻友美ほか:ヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果および検査時間の比較.あたらしい眼科,印刷中4)後関利明,井上智,大久保真司ほか:最新機器レポート「ヘッドマウント型視野計アイモCR」.神経眼科C34:73-80,C20175)松本長太:新しい視野検査.日本の眼科C88:452-457,C20176)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2ndedtion,p121-190,Mosby,St.Louis,19997)BlandCJM,CAltmanDG:ApplyingCtheCrightstatistics:Canalysesofmeasurementstudies.UltrasoundObstetGyne-colC22:85-93,C20038)FleissCJL,CCohenJ:TheCequivalenceCofCweightedCkappaCandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCasCmeasuresCofCreliability.CEducationalCandCPsychologicalCMeasurementC33:613-619,C19739)奥山幸子:測定結果の信頼性/測定結果に影響を及ぼす諸因子視野検査とその評価.松本長太(編)中山書店専門医のための眼科診療クオリファイC27:57-65,C201510)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2Visu-al.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglau-comaCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C201711)KimuraCY,CHangaiCM,CMorookaCSCetal:RetinalCnerveC.berlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglau-coma.InvestOphthalmolVisSciC53:6472-6478,C2012***

Trabeculotomy Ab Interno,白内障同時手術の術後1 年の 成績,術前術後の点眼数の変化より

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1085.1089,2021cTrabeculotomyAbInterno,白内障同時手術の術後1年の成績,術前術後の点眼数の変化より市岡伊久子市岡博市岡眼科CEvaluationofthe1-YearE.cacyofTrabeculotomyAbInternowithCombinedCataractSurgeryBasedontheNumberofGlaucomaMedicationsAdministeredPreandPostSurgeryIkukoIchiokaandHiroshiIchiokaCIchiokaEyeClinicC目的:線維柱帯切開術眼内法(trabeculotomyabinterno,以下,Lotabinterno),白内障同時手術の成績を術前術後の点眼薬数の変化より検討した.対象および方法:Lotabinterno,白内障同時手術を施行したC208人C276眼の術後C1年間の経過を後ろ向きに調査した.結果:眼圧は術前平均C15.3CmmHgから術後C1年時C12.2CmmHgにC20%下降した.術後目標眼圧をC15CmmHg未満に設定し,これを超えた場合に逐次点眼薬を追加したが,全体で点眼薬は術前平均2.2剤からC0.5剤に減少した.術前点眼薬数が多い例ほど術後眼圧が高い傾向を認めた.術後経過観察時眼圧が点眼薬を投与せずC15CmmHg以未満にコントロールされていたC1年生存率は,術前点眼薬数C2剤以下,3剤,4剤以上の群に対しそれぞれC84,60,41%と各群間に有意差を認めた.結論:LotCabinternoにおいて術前点眼薬数が多い例ほど術後点眼薬数が増加しており,点眼薬が比較的少ない早期に手術を施行するべきと思われた.CPurpose:ToCretrospectivelyCevaluateCtheC1CyearCe.cacyCofCtrabeculotomyCabinterno(LotCabinterno)com-binedwithcataractsurgeryforintraocularpressure(IOP)loweringandthereductionoftheglaucomamedicationsused,CandCcompareCtheCnumberCofCthoseCmedicationsCusedCpreCandCpostCsurgery.CSubjectsandMethods:In276eyesof208patientswhounderwentLotabinternowithcataractsurgery,IOPandthenumberofglaucomamedi-cationsCadministeredCpreCsurgery,CimmediatelyCafterCsurgery,CandCatC1-yearCpostoperativeCwereCinvestigated.CResults:At1-yearpostoperative,meanIOPdecreased20%from15.3CmmHgto12.2CmmHgandtheaveragenum-berofglaucomaeyedropsdecreasedfrom2.2to0.5.Basedonthenumbersofglaucoma-medicationeyedropsusepreCsurgery,CIOPCwasChigherCandCtheCrequiredCnumberCofCglaucomaCmedicationsCwasCincreasedCpostCsurgery.CAtC1-yearpostsurgery,thepercentagerateinwhichIOPwascontrolledbelow15CmmHgwithoutglaucoma-medica-tionCeyeCdropsCsigni.cantlyCdi.eredCbetweenCtheCgroupsCofCtheCnumbersCofCpreoperativeCeye-dropCmedicationsCused,Ci.e.,C2CorCless,C3,CandCmoreCthanC4,CandCwas84%,60%,Cand41%,Crespectively.CConclusion:InCpatientsCthatCunderwentCLotCabCinternoCwithCcombinedCcataractCsurgery,CtheCnumberCofCpostoperativeCeyeCdropsCincreasedCaccordingtothenumberofpreoperativeeyedropsadministered,thusindicatingthattheoperationshouldbeper-formedattheearlystageofthediseaseinwhichlessmedicationisused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(9):1085.1089,C2021〕Keywords:緑内障手術,線維柱帯切開術眼内法,眼圧,緑内障点眼薬,線維柱帯切開術術後成績.glaucomaCsur-gery,trabeculotomyabinterno,IOP,glaucomamedication,successrateoftrabeculotomy.Cはじめに緑内障手術(minimalyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)線維柱帯切開術眼内法(Trabeculotomyabinterno,以下,の一方法として最近広く施行されてきており,白内障との同CLOTabinterno)は結膜,強膜を切開せずに施行する低侵襲時手術において良好な眼圧下降効果が得られると報告されて〔別刷請求先〕市岡伊久子:〒690-0003松江市朝日町C476-7市岡眼科Reprintrequests:IkukoIchioka,M.D.,IchiokaEyeClinic,476-7Asahi-machi,Matsue,Shimane690-0003,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(103)C1085いる1).当院でも緑内障点眼薬投与中の患者の白内障手術とCLOTabinternoを同時に施行する例が増えている.緑内障ガイドライン2)では開放隅角緑内障は目標眼圧を設定し単剤より眼圧下降薬を投与し,多剤投与にて眼圧コントロール不良,または視神経,視野所見の悪化を認めるときに手術を考慮するとされるが,現在まで術前点眼薬数別での手術成績の検討はあまりなされていない.多剤点眼で長期経過をみた後の手術ではCLOTabinternoは効果が悪い印象がある.今回は当院でのCLOTabinternoを施行した症例において術前点眼薬数別に術後の眼圧下降および点眼薬数の変化を検討した.CI対象および方法対象は当院で2016年2月.2018年12月にLOTCabinterno,白内障同時手術を施行したC276眼(右眼C139眼,左眼C137眼)208人(男性C74人,女性C134人)で平均年齢はC75.9±8.2歳であった.手術はすべて同一術者により施行された.眼内レンズ挿入後に上方切開創よりCSinskey氏フック(直)を挿入し,SwanJacobゴニオプリズムを用い下方約90°の線維柱帯を切開した.術前,術後C1.3,6,12カ月後の眼圧と眼圧下降投薬数,術後合併症,再手術の有無をC1年後まで後ろ向きに調査した.また,点眼薬投与前のベースライン眼圧についても調査した.術後の投薬はいったん眼圧下降薬をすべて中止し,眼圧がC15CmmHgを超えた時点で点眼薬を再投与,追加した.術前術後の眼圧をCFriedman検定を用い評価,術前点眼薬数別にベースライン眼圧,術前,術後1,2,3,6,12カ月後の眼圧に差があるかCF検定を施行,CSche.e’sCFtestを用い多重比較検定を施行した.また,手術成功率は緑内障点眼薬を投与せずに眼圧C15CmmHg未満にコントロールされていた場合を成功,眼圧がC15CmmHg以上の例は点眼薬を再投与しており,術後点眼薬を投与した場合を死亡と定義し,術前点眼薬数C2剤以下,3剤,4.5剤以上のC3群に分け,Kaplan-Meierの生命曲線およびCLogranktestを用いC1年生存率を評価し,さらにCCOX比例ハザード回帰よりハザード比を評価した.なお,調査については島根県医師会倫理審査委員会の承認を得ている.CII結果208人(276眼)中14人(18眼)は1年後来院なく,1年目の経過観察が可能であったのはC259眼であった.眼圧は術前平均C15.3C±3.3CmmHgから術後C1年時C12.2C±2.7CmmHgにC20%下降した.術後眼圧はすべての期間で術前眼圧に比し有意に降下した(p<0.01:Friedman検定).術前点眼薬数C0.5剤別のC6群に分けて比較したところ,6群すべてに術後C1カ月目より有意な眼圧低下を認めた(p<0.01:Fried-man検定).点眼投与前ベースライン眼圧はC0.2剤点眼例はC18.19CmmHg,3剤はC21.4CmmHg,4剤,5剤以上は22.6CmmHg以上で,1剤点眼例とC3剤,4剤,5剤以上点眼例のベースライン眼圧に有意差を認めた(p<0.01:Sche.e’sFtest).術前術後の眼圧変化は術前点眼薬数別に有意差を認めなかったが,術後C1年目眼圧は術前点眼薬数が少ないものほど低い傾向がみられ,点眼薬数別にC11.4.13.5CmmHgに低下した(図1).術後下降眼圧は術前点眼薬を投与していない例はC5眼と少ないが,術後C1年目では平均C7.8CmmHg下降し,点眼薬投与C1剤,2剤投与例C2.8.2.9CmmHgと有意差を認めた(p=0.01:Sche.eC’sCFtest)(図2).術前後の点眼数は術前平均C2.2剤からC0.5剤に減少した.術C1年後の点眼薬数の変化は,術前C5剤以上がC1.7剤,4剤がC1.2剤,3剤が0.8剤,2剤が0.3剤,1剤が0.19剤,0剤が再開なしと,術前点眼薬数が多い例ほど術後点眼薬の再開,追加が必要な傾向を認めた(図3).生命表における生存率は術前点眼薬数C2剤以下,3剤,4,5剤以上でそれぞれC84,60,41%となりCLogrank検定で各群間に有意差を認めた.ハザード比はC2剤以下に比しC3剤使用例はC2.8倍,4,5剤以上使用例はC5.4倍有意に点眼薬を再開していた(図4).合併症については,術前点眼薬数C0.5剤別にC20CmmHg以上の一過性眼圧上昇がC0眼,15眼(13.2%),7眼(15.9%),12眼(17.6%),7眼(24.1%),5眼(31.3%)と術前点眼薬数に応じ一過性眼圧上昇をきたした.術後前房出血の洗浄が必要になった例はC1剤点眼例のC2眼であった.追加手術が必要になった例はC4剤点眼例C1眼(24.1%),5剤点眼例C2眼(12.5%)で点眼薬C3剤以下で追加手術が必要になった例はなかった.CIII考按LOTCabinternoはC2016年CTanitoが眼内から施行するMIGSとして報告,白内障との同時手術成績で眼圧が16.4mmHgからC11.8mmHg(28%),点眼薬がC2.4剤から2.1剤になったと報告しているが1),同時手術として施行しやすく,近年一般的になりつつあると思われる.当院では同時手術の際に眼圧降下のみならず緑内障点眼薬を減らすことを目的に施行している.そのため術後緑内障点眼はすべて中止し,眼圧の経過をみながら適宜追加をしている.今回術前眼圧C15.3CmmHgからC12.2CmmHgへと良好な眼圧降下(20%)を認めただけでなく,点眼薬C2.2剤からC0.5剤へとC1年後の点眼薬数を大幅に減少させることに成功している.術前点眼薬数別に効果を調査したところ,点眼薬数が多いほど術後眼圧が高い傾向があった.術前点眼薬を使用していなかったC5眼で平均C7.8CmmHgと著明に眼圧が下降し,点眼薬をC1剤,2剤使用していた例と有意差を認めた.症例数は少ないが初診時に白内障,緑内障を認めた例では,点眼薬を投与してから手術を施行するより,早期手術を施行するほ25.020.015.0mmHg10.0**********5.0*p<0.01(Friedman検定)0.0点眼前術前術後術後術後術後術後眼圧眼圧1カ月2カ月3カ月6カ月1年0剤(5)19.019.211.610.211.012.611.41剤(114)***18.114.911.811.911.612.112.22剤(44)18.315.011.711.311.211.812.03剤(68)21.415.113.012.312.412.612.14剤(29)*22.716.115.313.813.214.413.4*5剤以上(16)22.617.0*14.315.313.913.913.5*p<0.01(Sche.e’sFtest)図1点眼薬数別の点眼薬開始前,術前,術後眼圧すべての点眼薬数例で術前に比し術後有意な眼圧下降を得た(p<0.01:Friedman検定).点眼薬数別では点眼薬開始前眼圧C1剤とC3,4,5剤間に有意差を認めた(p<0.01:Sche.eC’sCFtest)が術前,術後眼圧の有意差は認めなかった.うがよい結果が得られる可能性がある.術後C1年目の点眼薬数は術前点眼薬数が多い例ほど増加しており,術前点眼薬C1剤ではC0.19剤,2剤ではC0.3剤でC2剤以下のC84%の例で術後点眼なしでC15CmmHg未満に眼圧がコントロールされていた.点眼薬が少ないほど術後眼圧が低めで点眼薬の開始も少なかった.術後眼圧コントロールが困難で追加手術が必要になった例は術前点眼薬がC3剤以下の例ではなかった.術後の一過性眼圧上昇については術前点眼薬1剤使用例でもきたす例があったが,術前点眼薬数が多いものほど一過性眼圧上昇頻度も高かった.以上より,術前点眼薬が少ないほど術後成績がよく,術前点眼薬がC3剤以下の症例がよい適応になると思われた.術前点眼薬が多い症例は点眼前ベースライン眼圧が高い症例と思われる.ベースライン眼圧を調査したところ,症例数に差があるが0.2剤投与群の眼圧は平均C18.1.19.0CmmHgで有意差なく,3剤点眼群は点眼前ベースライン眼圧はC21.4mmHg,4剤以上点眼群はC22.6CmmHg以上で,1剤点眼群と3,4,5剤点眼群との間に有意差を認めた.ベースライン眼圧より手術適応を考えるとC22CmmHg以下の症例がよい適応であり,点眼薬を増やし長期経過をみるよりCLOTCabinternoを早期に施行したほうがよい結果が得られると思われる.また,ベースライン眼圧が高い例では,結果が悪ければ早めに他術式を検討したほうがよいと思われる.現在まで緑内障の原因として眼圧上昇による傍CSchlemm管結合組織での細胞外マトリックス蓄積,線維柱帯細胞の虚脱,Schlemm管の狭小化などが多数報告されている3.5).GrieshaberらはCcanaloplasty時に隅角のCbloodre.uxの程度観察とフルオレセインの流出状態を調査し,bloodCre.uxC点眼薬数0剤(5)1剤(108)2剤(41)3剤(61)4剤(27)5剤(15)7.8±4.82.9±3.02.8±2.73.1±2.73.5±3.93.7±4.01カ月2カ月3カ月6カ月1年術前点眼薬数*p<0.01(Sche.e’sFtest)図2術1年後の平均眼圧下降術前に降眼圧薬点眼を投与せず手術した例C5眼では平均C7.8mmHg眼圧が下降し,1剤,2剤投与例に比し有意差があった(p<0.01:Sche.e’sFtest).C1.0.80.6生存率0246810120剤(5)1剤(114)2剤(44)3剤(68)4剤(29)5剤以上(16)図3術前点眼薬数別術後1年間の点眼薬数術前点眼薬数が多いほど術後点眼薬の再開,追加が必要となっていた.の量が多く,上強膜静脈への流出が多いものほど効果がよかったことを報告,線維柱帯以降の流出路の機能が効果に影響していることを指摘している6).Hannらは開放隅角緑内障ではCSchlemm管と集合管に狭小化を認めることを報告しており7),点眼薬を追加しつつ長期に経過観察すると徐々に流出路障害が進行する可能性がある.最近,初回投与薬剤はプロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤が多数となって0.40.20.術後期間(月)おり,今回の調査でも複数投与例では全例CPG製剤が含まれていたが,PG製剤はぶどう膜強膜路の流出が増加する眼圧下降薬である.Johnsonらは濾過手術後にCSchlemm管狭窄がみられることを報告し,房水が線維柱帯,Schlemm管を迂回し濾過胞に流出することで傍CSchlemm管結合組織,集合管への細胞外マトリックスの異常沈着が起きることを報告している8).点眼薬では組織的に明らかな変化をきたした報告はないが,経験上長期にCPG製剤を使用した例ではCbloodre.uxが少なく,濾過手術同様の変化をきたしている可能性は考えられる.現在開放隅角緑内障についてはまず点眼薬を用いてコントロールし,コントロールが不十分であれば手術を考慮するという方法が一般的であるが,主流出路の手術では流出路機能が低下する前に手術したほうがよいと思われる.以上の結果図4術後点眼薬投与なしに15mmHg以下にコントロールできた1年生存率術前点眼薬数がC2剤以下の例はC3剤,4剤以上の例に比し,有意に点眼薬再開が少なかった.CNumberCatriskに生存症例数(点眼薬投与せずコントロールできた症例数)を示す.よりいたずらに点眼薬を追加しフルメディケーションとなってからCLOTを施行するよりは,2.3剤程度に点眼薬が増加した時点で早期に手術を考慮したほうが予後がよいであろうことが示唆された.なお,今回の症例は当院での後ろ向き調査の結果で点眼薬数別の症例数に違いがあり,また緑内障のステージ,発症後期間にも差がある.点眼薬数別の効果の違いを断定するには症例数を増やし,経過観察を継続し今後の眼圧下降効果や投薬数についてさらに検討する必要がある.NumberatriskTime(月)0246810120~2剤1631601511471431431433剤676656484343434,5剤45452422212121利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaE:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20172)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20183)StamerWD,AcottTS:Currentunderstandingofconven-tionalCout.owCdysfunctionCinCglaucoma.CCurrCOpinCOph-thalmolC23:135-143,C20124)VecinoE,GaldosM,BayonAetal:Elevatedintraocularpressureinducesultrastructuralchangesinthetrabecularmeshwork.JCytolHistolCS3:007,C20155)YanX,LiM,ChenZetal:Schlemm’scanalandtrabecu-larCmeshworkCinCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglauco-ma:ACcomparativeCstudyCusingChigh-frequencyCultra-soundbiomicroscopy.PLoSOneC11:e0145824,C20166)GrieshaberMC,Pienaar,OlivierJanetal:Clinicalevalua-tionoftheaqueousout.owsysteminprimaryopen-angleglaucomaforcanaloplasty.InvestOphthalmolVisSciC51:C1498-1504,C20107)HannCCH,CVercnockeCAJ,CBentleyCMDCetal:AnatomicCchangesinSchlemm’scanalandcollectorchannelsinnor-malCandCprimaryCopen-angleCglaucomaCeyesCusingClowCandChighCperfusionCpressures.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:5834-5841,C20148)JohnsonCDH,CMatsumotoY:SchlemmC’sCcanalCbecomesCsmallerCafterCsuccessfulC.ltrationCsurgery.CArchCOphthal-molC118:1251-1256,C2000***

基礎研究コラム:老化と加齢黄斑変性

2021年9月30日 木曜日

老化と加齢黄斑変性老化とは老化とは,細胞が分裂を停止し,増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされることです.老化細胞は分裂を停止し細胞死誘導経路に抵抗性になるだけでなく,炎症性,蛋白質分解性などの生物活性を有する一連の因子・老化関連分泌表現型(senescence-associatedsecretoryCphenotype:SASP)を分泌して組織の機能を障害します.SASPは癌抑制や損傷治癒の促進など生体にとって有益な作用が確認されている一方で,状況によっては慢性炎症を惹起し,逆に癌などのさまざまな加齢性疾患の発症を促進する負の作用もあります.レトロトランスポゾンの起源は太古の感染ウイルスであり,自身のCDNA配列から転写されたCRNA配列を逆転写反応でCcomplementaryDNA(cDNA)にコピーし,このコピーをゲノムの別の場所に挿入することで転移し,遺伝子上を動き回ることができる遺伝子といわれています.これまで,逆転写されたけれども遺伝子上に挿入されなかったCcDNAは,すぐに分解されてしまうと考えられていました.近年,レトロトランスポゾンの一つであるCLINE-1RNAから逆転写されたCLINE-1cDNAが蓄積し,老化・SASPの誘導に関与していること,逆転写酵素阻害薬を用いることでCSASPの誘導を抑制できることが報告され,ホットトピックスとなっています1).これまでも自ら逆転写酵素をもたない非レトロウイルスがホストの逆転写酵素を使い細胞内でCcDNAを作製できること,mRNAも細胞内で同様に逆転写酵素を使いcDNAを作製できることが報告され,逆転写されたCcDNAが細胞内に蓄積し,なんらかの病態にかかわっている可能性が推測されていました.セントラルドグマとは,DNAがmRNAに転写され,翻訳を介して蛋白質が生成されるという遺伝情報の伝達経路を示した概念です.遺伝子上に挿入されなかったレトロトランスポゾンのCcDNAはすぐに分解されるゴミのようなものと考えられていたため,新しい遺伝情報の流れを示す大きな発見となりました.老化と加齢黄斑変性加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は,眼の老化によって起こる病気の代表格です.AMDの病型の一つである萎縮型CAMDは,網膜の中心部で感度の一番高い黄斑に変性が生じ,視力障害が起こる病気です.視界の中心に症状が出るため,生活に不便が生じ,就労福田慎一筑波大学医学医療系眼科が困難になるなど,社会的損失が非常に大きい疾患ですが,現在有効な治療法はありません.上記の老化と非常に似たメカニズムで,別のレトロトランスポゾンの一種であるCAluRNAが萎縮型CAMD患者の網膜色素上皮細胞内に蓄積し,生体内に存在する逆転写酵素を用いて逆転写され,一本鎖のCAlucDNAが生成され,網膜色素上皮細胞死を誘導することが明らかとなりました(図1)2,3).今後の展望興味深いことに,大規模臨床データ解析においても逆転写酵素阻害薬の使用が萎縮型CAMDのリスクを低下させることが明らかとなり3),逆転写を阻害することが老化自体や萎縮型CAMDなどの加齢性疾患の予防や治療につながるかどうかが今後注目されます.文献1)DeCeccoM,ItoT,PetrashenAPetal:L1drivesIFNinsenescentcellsandpromotesage-associatedin.ammation.NatureC566:73-78,C20192)KerurCN,CFukudaCS,CBanerjeeCDCetal:cGASCdrivesCnoncanonical-in.ammasomeCactivationCinCage-relatedCmaculardegeneration.NatMedC24:50-61,C20183)FukudaS,VarshneyA,FowlerBetal:Cytoplasmicsyn-thesisCofCendogenousCAluCcomplementaryCDNACviaCreverseCtranscriptionCandCimplicationsCinCage-relatedCmacularCdegeneration.ProcNatlAcadSciUSAC118:e2022751118,C2021C(97)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10790910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:220.DONFLの成因(研究編)

2021年9月30日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載220220DONFLの成因(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにDissociatedCopticCnerveC.berClayerCappearance(DONFL)は,2001年にCTadayoniら1)によって報告された眼底所見で,検眼鏡的には黄斑部周囲の神経線維に刷毛で掃いたような弓状の色調変化が多発し(図1),OCTで黄斑部周囲に網膜内層のまだら状の陥凹をきたすことを特徴としている(図2).DONFLは硝子体手術時に内境界膜.離を施行しなかった場合には通常みられないため,発症に内境界膜.離が関与していることは確実である.DONFLは硝子体手術のC1~3カ月後に生じてくることが多く,その後変化が持続する症例や,やや不鮮明になる症例がみられ,通常,視機能にはあまり影響はないとされている2).DONFLの成因については過去に種々の推測がなされているが,未だ不明な点が多い.C●DONFLの成因に関する従来の説内境界膜.離による網膜内層への直接外傷が原因とする説3),内境界膜.離に伴い神経線維束を束ねる機能をもつCMuller細胞が損傷され,神経線維束に亀裂が入るとする説1),神経線維層の再構築が生じているとする説4),Muller細胞の傷害とその修復過程に起因するとする説5)などが提唱されている.C●DONFLとアノイキスDONFLは術後一定期間が経過した後に生じてくることから,内境界膜.離による網膜への直接的な傷害の可能性は低く,内境界膜によって惹起された網膜組織のアポトーシスの可能性がある.アノイキスは接着性細胞が引き.がされて足場を失ったときに生じるアポトーシスである6).アノイキス関連蛋白であるCbA3/A1クリスタリンやCEカドヘリンが神経節細胞で発現していることが報告されており7,8),筆者らはCDONFLが,内境界膜.離によって惹起された網膜神経節細胞におけるアノイキスである可能性を報告した9).比較的新しくできた神経節細胞はCEカドヘリンを発現してアノイキスを生じ(95)C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1黄斑円孔に対する硝子体手術後に生じたDONFLの眼底所見(a:術前,b:術後)検眼鏡的には,黄斑部周囲の神経線維に刷毛で掃いたような弓状の色調変化が多発する(図2黄斑円孔に対する硝子体手術後に生じたDONFLのOCT所見(a:術前,b:術後)黄斑部周囲に網膜内層(とくに神経節細胞層)のまだらな陥凹を認める().(文献C9より引用)るのに対して,もともと中心窩周囲に存在していた古い神経節細胞はCEカドヘリンを発現しないので,アノイキスを生じにくく,その結果としてまだらな網膜内層の変化が生じるのではないかと考えられる.文献1)TadayoniCR,CPaquesCM,CMassinCPCetal:DissociatedCopticCnerve.berlayerappearanceofthefundusafteridiopathicepiretinalCmembraneCremoval.COphthalmologyC108:2279-2283,C20012)MitamuraCY,CSuzukiCT,CKinoshitaCTCetal:OpticalCcoher-encetomographic.ndingsofdissociatedopticnerve.berlayerCappearance.CAmCJCOphthalmolC137:1155-1156,C20043)RunkleCAP,CSrivastavaCSK,CYuanCACetal:FactorsCassoci-atedCwithCdevelopmentCofCdissociatedCopticCnerveC.berClayerCappearanceCinCtheCpioneerCintraoperativeCopticalCcoherenceCtomographyCstudy.CRetinaC38(Suppl1):CS103-S109,C20184)KimYJ,LeeKS,JoeSGetal:IncidenceandquantitativeanalysisCofCdissociatedCopticCnerveC.berClayerCappear-ance:reallossofretinalnerve.berlayer?EurJOphthal-molC28:317-323,C20185)HisatomiCT,CTachibanaCT,CNotomiCSCetal:IncompleteCrepairCofCretinalCstructureCafterCvitrectomyCwithCinternalClimitingmembranepeeling.RetinaC37:1523-1528,C20176)GrossmannJ:MolecularCmechanismsCof“detachment-inducedapoptosis-Anoikis”.ApoptosisC7:247-260,C20027)ZiglerCJSCJr,CSinhaD:bA3/A1Crystallin:moreCthanCaClensprotein.ProgRetinEyeCResC44:62-85,C20158)OblanderCSA,CEnsslen-CraigCSE,CLongoCFMCetal:E-cad-herinCpromotesCretinalCganglionCcellCneuriteCoutgrowthCinCaCproteinCtyrosineCphosphatase-mu-dependentCmanner.CMolCellNeurosci34:481-492,C20079)IkedaT,NakamuraK,SatoTetal:Involvementofanoi-kisindissociatedopticnerve.berlayerappearance.IntJMolSci22:1724,C2021あたらしい眼科Vol.38,No.9,20211077).より引用)C9(文献

抗VEGF治療:Pachychoroidと抗VEGF治療

2021年9月30日 木曜日

●連載111監修=安川力髙橋寛二91.Pachychoroidと抗VEGF治療寺尾信宏琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座近年の話題として“pachychoroid”という概念が注目されている.一部の典型加齢黄斑変性やポリープ状脈絡膜血管症はCpachychoroidが原因で発症すると考えられ,従来の滲出型加齢黄斑変性とは病態が異なると考えられている.本稿ではおもにCpachychoroidから発生した脈絡膜新生血管に対する抗CVEGF療法について概説する.PachychoroidとはPachychoroidとは脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張(pachyvessel),脈絡膜血管透過性亢進などの特徴的な所見を含む概念である.Pachychoroidが原因で二次的に脈絡膜毛細血管板や網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)の障害,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の発生をきたす疾患群はCpachychoroidCspectrumdisease(PSD)と総称され,pachychoroidpigmentepitheliopathy,中心性漿液性脈絡網膜症,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroi-dalvasculopathy:PCV),pachychoroidneovasculopa-thy(PNV),peripapillaryCpachychoroidCsyndromeがあげられる.本稿では,抗CVEGF療法が適応となるPNVおよびCPCVについて解説する.CPNVとPCVPNVはC2015年にCPangらによって名付けられた図1PNVに対するアフリベルセプト治療例a:眼底写真では黄斑部に漿液性網膜.離を認める.ドルーゼンは認めない.Cb:OCT(水平断)では肥厚した脈絡膜(.)およびCpachyvessel(*)を認め,中心窩にCRPEの不整隆起と漿液性網膜.離を認める.Cc:OCTangiographyではCRPEの不整隆起に一致したCNVを認める.Cd:治療後C3カ月後のCOCT(水平断)では漿液性網膜.離は消失している.脈絡膜厚は減少しているが(.),pachyvessel(*)は残存している.pachychoroidの特徴を有するtype1CNVである1).PNVはドルーゼンなどの従来の加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)に特徴的な所見は認めず,同じCCNVを有する滲出型CAMDとは区別して考えるべき疾患とされている.日本人におけるCPNVの頻度や滲出型CAMDとの相違について比較した研究では,PNVは滲出型CAMDの約C1/4に認められ,発症年齢や遺伝背景が異なることが報告されている2).PCVはインドシアニングリーン蛍光眼底造影により描出される異常血管網と,その先端に生じるポリープ状病巣を特徴とする.PSDにおけるCPCVは,PNVにおけるCCNVの先端にポリープ状病巣が生じることでCPCVに至ると考えられている.そのためCPCVをCPNVに含めるか,PNVとは別の疾患と考えるべきなのかはまだ明確にされておらず,今後の議論が必要である.PachychoroidからCPNV,さらにはCPCV至る詳細な機序については十分に解明されていない.現在推測されているCNV発症機序は,脈絡膜肥厚,とくに(93)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10750910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2PCVに対するアフリベルセプト治療例a:眼底写真では複数の橙赤色隆起性病変および漿液性網膜.離を認める.ドルーゼンは認めない.Cb:OCT(矢状断)ではポリープ状病巣に一致したCRPEの急峻な隆起および漿液性網膜.離を認める.脈絡膜は肥厚し(.),pachyvessel(*)を認める.Cc:インドシアニングリーン蛍光眼底造影では網目状の異常血管網とその末端に複数のポリープ状病巣を認める.Cd:治療後C3カ月のCOCT(矢状断)では漿液性網膜.離は消失している.脈絡膜厚は減少している(.)が,pachyvessel(*)は残存している.pachyvesselにより脈絡膜内層が菲薄化して虚血が生じ,それに加えCpachyvesselによるCBruch膜やCRPEへの直接的な圧迫に伴う障害が影響していると考えられている.これらCCNV発症機序はおもに画像所見から得られた知見であるが,分子レベルにおいても眼内での前房水CVEGF濃度は滲出型CAMDと比較してCPNVは有意に低いことが報告されており3),滲出型CAMDとは異なる発症機序が想定されている.これらの結果は,PNVにおける抗CVEGF治療に対する反応も滲出型CAMDとは異なる可能性を示唆している.CPNVに対する抗VEGF治療(図1,2)PNVに対する抗CVEGF治療の報告は少なく,コンセンサスが得られている治療方針はない.PNV治療においては,CNVだけでなく,その原因であるCpachycho-roidもマネージメントすることが重要である.光線力学的療法やアフリベルセプト硝子体内注射は,同じ抗VEGF薬であるラニビズマブの硝子体内注射と比較すると有意に脈絡膜厚を減少させると報告されており4),PNVに対する抗CVEGF療法においてはアフリベルセプトがより効果的である可能性がある.PNV症例に対してラニビズマブおよびアフリベルセプト硝子体内注射をC3カ月連続で行い比較検討した報告では,アフリベルセプト群は治療後C3カ月の時点での滲出性変化の消退率は有意に高く,中心窩脈絡膜厚も有意に減少していた5).また,アフリベルセプトによるCtreatandextendで治療されたCPNVと滲出型CAMD(type1C-NV)のC2年間の治療成績を比較した報告では,PNVはC1076あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021治療回数が有意に少なく,さらにCPNVのなかでポリープ状病巣を伴う症例はさらに治療回数が少ないという結果であった6).おわりにPachychoroidが提唱されて以来,PSDの研究が盛んに行われ,新しい知見が次々と報告されている.今後,PNVを滲出型CAMDとは異なる独立疾患として判別する診断基準が作成され,病態実態に即した治療方針の作成が望まれる.文献1)PangCCE,CFreundKB:PachychoroidCneovasculopathy.CRetina35:1-9,C20152)MiyakeM,OotoS,YamashiroKetal:Pachychoroidneo-vasculopathyCandCage-relatedCmacularCdegeneration.CSciCRepC5:16204,C20153)TeraoCN,CKoizumiCH,CKojimaCKCetal:DistinctCaqueousChumourCcytokineCpro.lesCofCpatientsCwithCpachychoroidCneovasculopathyCandCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.SciRepC8:10520,C20184)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Subfovealchoroi-dalCthicknessCduringCa.ibercepttTherapyCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:twelve-monthCresults.COphthalmology123:617-624,C20165)JungCBJ,CKimCJY,CLeeCJHCetal:IntravitrealCa.iberceptCandCranibizumabCforCpachychoroidCneovasculopathy.CSciCRepC9:2055,C20196)MatsumotoCH,CHiroeCT,CMorimotoCMCetal:E.cacyCofCtreat-and-extendCregimenCwithCa.iberceptCforCpachycho-roidCneovasculopathyCandCtypeC1CneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CJpnCJCOphthalmolC62:144-150,C2018(94)

緑内障:OCTによる篩状板観察

2021年9月30日 木曜日

●連載255監修=山本哲也福地健郎255.OCTによる篩状板観察澤田有国立病院機構あきた病院緑内障における網膜神経節細胞の軸索障害は,視神経乳頭の奥にある篩状板で生じる.緑内障眼では篩状板が変形し,その中を通過する軸索が障害され,対応する部分の視野が障害される.OCTを用いて,篩状板の後弯や部分欠損など,緑内障に特徴的な篩状板の変形を観察することができる.●はじめに緑内障眼では網膜神経節細胞の軸索が障害され,対応する部分の視野障害が生じる.緑内障における軸索障害は,視神経乳頭の奥にある篩状板で起こることがわかっている.緑内障眼では篩状板が変形し,その中を通過する軸索が障害される.緑内障眼における篩状板の変形については,これまで献眼や実験的緑内障眼を用いた組織学的な研究が行われていたが,症例数が少なく,データは限られていた.近年,光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)による生体での篩状板の観察が可能になり,多くの症例を用いた新しい知見が報告されるようになった.本稿では,OCTにより観察される緑内障眼の篩状板変形について述べる.C●緑内障眼では篩状板が変形し,その中を通過する軸索が障害される篩状板は眼球後壁の一部であり,視神経が眼球に接すCb図1篩状板の構造a:視神経乳頭の断面.篩状板は視神経乳頭の奥に位置する.Cb:篩状板は多数の孔の開いた「篩(ふるい)」のような構造をしている.網膜神経節細胞の軸索は,この孔の中を束になって通過し,視中枢へと向かう.Cc:篩状板の拡大像.篩状板の孔は幾重にも重なった層状の結合組織からなる.(文献C1より引用)る部分の強膜である.篩状板はほかの部分の強膜とは異なり,多数の孔のあいた「篩(ふるい)」のような構造をしている(図1).網膜神経節細胞の軸索は,視神経乳頭に達すると後方へ向かって方向を変え,篩状板の孔の中を通過して視中枢へと向かう.篩状板はその中を通過する軸索に対して構造的なサポートを提供し,また篩状板内の毛細血管を介して栄養・酸素の供給を行っている.正常眼では篩状板の孔は一定の大きさを保ち,軸索はその中をストレスを受けることなく通過する.緑内障眼では篩状板は変形し,篩状板組織は圧縮されて孔が狭くなる(図2).その中を通過する軸索は圧迫され,また血流障害を伴って機能不全に陥る.C●OCTによる篩状板の観察視神経乳頭のCOCTスキャンを行うと,篩状板の断面像を観察することができる.篩状板は視神経乳頭の奥にあるため,深部組織をより鮮明に描出するCSD-OCTの深部強調画像(enhanced-depthCimaging:EDI)法やSS-OCTを用いた観察が適している.篩状板は周囲組正常眼緑内障眼図2緑内障眼における篩状板の変形上段:視神経乳頭の断層像.緑内障眼では視神経乳頭は変形し,それに伴って篩状板も変形する.下段:電子顕微鏡による篩状板の拡大像.正常眼では篩状板の孔は一定の大きさを保つが,緑内障眼では篩状板は圧縮され,篩状板孔は狭くなる.(文献C2より引用)(91)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10730910-1810/21/\100/頁/JCOPY正常眼緑内障眼図3緑内障眼における篩状板の後弯篩状板前面深度は,両端のCBruch膜開口部(C.)を結んだ線()を基準として,篩状板へ降ろした垂線の長さとして表わされる.緑内障眼では正常眼と比較して篩状板は後弯し,前面深度は深くなる.織よりも輝度の高い板状の組織として観察され,その中の細い筋(すじ)状の構造が篩状板孔である.C●緑内障眼における篩状板の変形1.後弯(図3)緑内障眼では正常眼と比較して篩状板が後弯し,前面深度が深くなる.篩状板前面深度は,視神経乳頭のOCT断層面において,両端のCBruch膜開口部を結んだラインを基準線として,そこから篩状板へ降ろした垂線の長さとして測定される.緑内障眼における篩状板の後弯は,眼圧によって眼内から圧迫されることにより生じると考えられ,治療により眼圧が下降すると後弯は回復する.また,眼圧下降が持続して篩状板の後弯が回復した状態が長く続くと,視野進行速度が遅くなる.緑内障の治療において眼圧下降は視野進行の抑制に有効であることが示されているが,それは,降圧によって篩状板の変形が緩和され,その中を通過する軸索に対するストレスが軽減するためと考えられる.C2.部分欠損(図4)正常眼の篩状板前面は滑らかなCU字型,または中心がやや盛り上がったCW字型を示すが,緑内障眼のなかにはそのラインが途切れ,篩状板組織が部分的に欠損しているものがある.緑内障眼における篩状板部分欠損の頻度はC22~45%と報告され,通常C1眼にC1カ所,おもに視神経乳頭の耳下側にみられる.篩状板欠損を通過する軸索は構造上・血流上のサポートを失って脱落し,隣接する部分の網膜は菲薄化して対応する視野障害を生じる.緑内障眼では視神経乳頭出血と,それに対応する網膜神経線維層欠損がみられることがあるが3),乳頭出血図4篩状板部分欠損aの矢印の位置で視神経乳頭をスキャンすると,乳頭耳下側に篩状板部分欠損が観察される(Cb).篩状板欠損部に隣接して網膜神経線維層欠損がみられ(赤矢印)(b),それに対応して上方の視野欠損がみられる(Cc).が生じた場所には高頻度に篩状板部分欠損がみられることが報告されている.組織欠損した部分の篩状板内の微小血管が破城して乳頭出血となることが考えられ,これらの変化が一連の緑内障性組織障害により生じていることを示唆している.C●おわりに緑内障眼では篩状板が変形・変性することにより,その孔の中を通過する軸索が障害され,対応する部分の視野が障害される.今後,OCTを用いた篩状板の評価が個々の患者について可能となり,緑内障の診断や進行判定に用いられるようになることが期待される.文献1)QuigleyCHA,CAddicksCEM,CGreenCWRCetal:OpticCnerveCdamageinhumanglaucoma.II.Thesiteofinjuryandsus-ceptibilityCtoCdamage.CArchCOphthalmolC99:635-649,C19812)QuigleyHA,HohmanRM,AddicksEMetal:Morpholog-icCchangesCinCtheClaminaCcribrosaCcorrelatedCwithCneuralClossCinCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC95:673-691,C19833)SugiyamaK,TomitaG,KitazawaYetal:TheassociationofCopticCdiscChemorrhageCwithCretinalCnerveC.berClayerCdefectandperipapillaryatrophyinnormal-tensionglauco-ma.COphthalmologyC104:1926-1933,C19971074あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(92)

屈折矯正手術:低濃度アトロピン点眼の近視進行抑制効果

2021年9月30日 木曜日

監修=木下茂●連載256大橋裕一坪田一男256.低濃度アトロピン点眼の近視進行四倉絵里沙慶應義塾大学医学部眼科学教室抑制効果濃度の異なるアトロピン点眼薬をそれぞれ点眼し,屈折値,眼軸長変化量を検討した結果,濃度依存的に近視抑制効果は強くなるものの,副作用の出現頻度も高くなったり,点眼中止後に近視進行が加速したりしたため,現在ではC0.01~0.05%の低濃度アトロピン点眼薬が近視進行抑制に有効かつ安全であると考えられている.Caベース●はじめにライン4812162024(カ月)0.00アトロピン硫酸塩点眼薬(以下,アトロピン点眼薬)は,副交感神経活動を制御しているムスカリン受容体の拮抗薬であり,散瞳,調節麻痺作用などを有する.近視進行抑制のメカニズムについて,調節麻痺作用や脈絡膜の血流増加,強膜組織への眼軸長の伸展抑制作用などの屈折値変化量(D)-0.20-0.40-0.60-0.80-1.00-1.20可能性が報告されているが,詳しい作用機序は不明であ-1.40る.0.05%アトロピン群0.025%アトロピン群0.01%アトロピン群プラセボ→0.05%アトロピン群●ATOMstudy0.70b2006年に,1%アトロピン点眼薬群とプラセボ点眼群をC2年間追跡調査したCatropineCforCtheCtreatmentCofCmyopia(ATOM)study1が報告された1).6~12歳の近視(屈折値:-1.00~-6.00D)児童をC200例ずつ,1%アトロピン群とプラセボ群に無作為に分けた.2年間眼軸長伸長量(mm)0.600.500.400.300.200.10の経過観察中,1%アトロピン群では,不快感やグレア,近見障害などによりC34例(17%)は脱落となったが,1%アトロピン群における屈折値変化量は-0.28Dに対し,プラセボ群は-1.20Dで(p<0.001),1%アトロピン点眼による近視抑制効果が明らかとなった.しかし,点眼中止後のC1年間に,プラセボ群で-0.38D近視が進行したのに対して,1%アトロピン群では-1.40Dと中止後の近視進行がより加速し,受容体のアップレギュレーションによるリバウンドを生じたと考えられている2).2012年に続報として報告されたCATOMStudy23)では,アトロピン点眼の濃度をC0.5%,0.1%,0.01%のC3種に分け,その有効性および安全性を比較検討した.6~12歳の近視(屈折値:≦-2.0D)児童C400名を,0.5%アトロピン群C161例,0.1%アトロピン群C155例,0.01%アトロピン群C84例に無作為に分け,3群におけるC2年間の近視進行程度を比較し,その後C1年間は点眼を中0.00ベース4812162024(カ月)ライン図10.05%,0.025%,0.01%アトロピン点眼群と,プラセボ→0.05%アトロピン点眼薬群の屈折値変化量と眼軸長伸長量(LAMPstudy)0.05%群で屈折値変化量(Ca),眼軸長伸長量(Cb)ともに,もっとも近視進行が抑制された.(文献C5より改変引用)止した.その結果,濃度依存性に調節麻痺作用や散瞳作用を認めたが,自覚症状として発現したのはごくわずかであった.近視進行はアトロピンの濃度依存性に抑制されており,0.5%群,0.1%群,0.01%群ではC2年間の進行はそれぞれ-0.30D,-0.38D,-0.49Dであった.しかし,中止後C1年間における近視進行程度は,0.5%群,0.1%群,0.01%群では,-0.87D,-0.68D,0.28Dで,濃度の高いほうがリバウンドを生じやすかった(p<0.001)4).(89)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10710910-1810/21/\100/頁/JCOPYab0.0-0.20.8眼軸長伸長量(mm)屈折値変化量(D)0.6-0.80.4-1.0-1.20.2-1.4-1.60.0-1.8-2.0ベースライン6121824(カ月)-0.2ベース612ライン1824(カ月)図2日本人近視児童における0.01%アトロピン点眼群とプラセボ群の屈折値変化量と眼軸長伸長量ベースラインと比較し,介入開始からC2年後の屈折値変化量,眼軸長伸長量がC0.01%群で有意に抑制された.●LAMPstudyATOMCStudy2ではプラセボ群を設定していなかったことからその点を克服し,low-concentrationCatro-pineCformyopiaCprogression(LAMP)study(phase2)がC2019年に発表された5).4~12歳の近視(屈折値:≦-1.0D)の子どもC383名を,0.05%,0.025%,0.01%のアトロピン点眼群とプラセボ群のC4群に無作為に割り当て,それぞれ点眼,さらに次のC1年間で初年度プラセボ群だったものにC0.05%アトロピン点眼薬を点眼し,2年間における調節麻痺下屈折値変化量と眼軸長伸長量を検討した.その結果,0.05%群で調節麻痺下屈折値変化量(図1a),眼軸長伸長量(図1b)ともにもっとも近視進行が抑制され,他の濃度とも有意差を認めた.また,いずれの濃度でも日常生活に影響を及ぼすような,かつ重篤な副作用を認めず,0.05%アトロピン点眼薬が安全でもっとも近視進行を抑制することを報告した.C●最近の知見日本でも,6~12歳の近視(屈折値:-1.00~-6.00D)児童C171名を,0.01%アトロピン点眼群とプラセボ群に無作為に割り付け,2年間における調節麻痺下屈折値変化量と眼軸長伸長量を検討した多施設共同研究結果が2021年に報告された6).その結果,0.01%群C85例とプラセボ群C86例の近視進行程度は,プラセボ群-1.48Dと比較して,0.01%群では-1.26Dの進行程度であり,C1072あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(文献C6より改変引用)0.01%群で進行の程度が有意に小さかった(図2a).また,眼軸長ではプラセボ群でC0.77Cmmの伸長を認めたのに対し,0.01%群ではC0.63mmの伸長であり(図2b),日本人近視児童においても屈折値,眼軸長ともに0.01%アトロピン点眼の近視進行抑制効果が明らかとなった.文献1)ChuaCWH,CBalakrishnanCV,CChanCYHCetal:AtropineCforCtheCtreatmentCofCchildhoodCmyopia.COphthalmologyC113:C2285-2291,C20062)TongL,HuangXL,KohALetal:Atropineforthetreat-mentCofCchildhoodmyopia:e.ectConCmyopiaCprogressionCafterCcessationCofCatropine.COphthalmology116:572-579,C20093)ChiaCA,CChuaCWH,CCheungCYBCetal:AtropineCforCtheCtreatmentCofCchildhoodmyopia:safetyCandCe.cacyCofC0.5%,C0.1%,CandC0.01%doses(AtropineCforCtheCtreatmentofmyopia2)C.OphthalmologyC119:347-354,C20124)ChiaCA,CChuaCWH,CWenCLCetal:AtropineCforCtheCtreat-mentCofCchildhoodmyopia:changesCafterCstoppingCatro-pineC0.01%,C0.1%CandC0.5%.CAmCJCOphthalmolC157:451-457,Ce1,C20145)YamJC,LiFF,ZhangXetal:Two-yearclinicaltrialoftheClow-concentrationCatropineCforCmyopiaCprogression(LAMP)study:Phase2report.OphthalmologyC127:910-919,C20206)HiedaO,HiraokaT,FujikadoTetal:E.cacyandsafetyof0.01%atropineforpreventionofchildhoodmyopiaina2-yearCrandomizedCplacebo-controlledCstudy.CJpnCJCOph-thalmolC65:315-325,C2021(90)

眼内レンズ:ディスポーザブル・トーリックゲージ/トーリックマーカー

2021年9月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋418.ディスポーザブル・トーリックゲージ/大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科トーリックマーカートーリック眼内レンズで手術開始時に強主経線(固定軸)をマークするための器具であるトーリックゲージ(角度ゲージ)/トーリックマーカー(軸マーカー)の,ディポーザブル製品を開発した.本品の使用により,トーリック眼内レンズ導入のハードルが低くなり,また同日に複数の患者に対してトーリック眼内レンズを使用する際にも対応が容易になる.金属製のものより目盛りの視認性は劣るが,顕微鏡下での操作に問題はなく,強主経線(固定軸)のマニュアルマーキングに有用である.●はじめに術前から存在する乱視を白内障手術時に補正する手段として,トーリック眼内レンズが広く使用されるようになっている.トーリック眼内レンズの性能を正しく引き出すためには,乱視軸をしっかり合わせることが重要であり,その前提として強主経線(固定軸)のマーキングがきちんと行われる必要がある.強主経線マーキングには,マニュアルで行う方法と,デジタルデバイスを使用する方法とがある.高額な投資が必要となるデジタルデバイスは未だそれほど広く普及していないことから,多くの施設ではマニュアル法にてマーキングを行っていると思われる.●マニュアルマーキングトーリックゲージ(角度ゲージ)とトーリックマーカー(軸マーカー)を用い,角膜輪部に手動でマーキングする方法である.従来,金属製のゲージとマーカーが使用されてきたが,高価であるので,トーリック眼内レンズをどれほどの頻度で使用するかわらない時点での購入に二の足を踏む施設が少なくなかった.また,トー図1KAIトーリックゲージ.KAIトーリックマーカー(型番TOGM)の全体像(87)0910-1810/21/\100/頁/JCOPYリック眼内レンズの使用が増え,複数のゲージ/マーカーセットが必要となった際に,何セット分を用意すればよいか,そしてその予算額は,という問題があった.そこで,ディスポーザブルとして使用できるトーリックゲージ/マーカーを作製することとした.カイ・インダストリーズ(株)の協力を得て,KAIトーリックゲージ/KAIトーリックマーカー(型番TOGM)として製品化することができた(図1,2).●使用方法手術室に入室する前に,座位の状態で,角膜輪部に印をつける(図3).顔が傾かないよう真っ直ぐにしてもらい,6時,あるいは3時-9時を目安に,基準点(参照軸)をマークする.基準点マーク用の器具は多種あり,それぞれ一長一短があるが,筆者らは27ゲージの鋭針を使用し,6時の角膜輪部に傷をつける方法を採用している.次に,手術開始時に強主経線(固定軸)マーキングを行う.手術ベッドの上で開瞼器を掛けたのち,入室前に図2トーリックゲージ(角度ゲージ)とトーリックマーカー(軸マーカー)の先端部両者を組み合わせて使用する.あたらしい眼科Vol.38,No.9,20211069図3基準点(参照軸)のマーク図4トーリックゲージの設置手術室に入る前に,座位の状態手術台の上で開瞼器を掛けたので角膜輪部に印をつける.ち,入室前にマークした基準点に合わせてトーリックゲージを輪部に押し当てる.マークした基準点に合わせて,トーリックゲージを輪部に押し当てる(図4).6時にマークされた基準点を使用するのであれば,トーリックゲージの90°(=270°)方向を基準点マークに合わせるようにする.ディポーザブル・トーリックゲージの目盛りは,金属ゲージの目盛りより見づらいが,顕微鏡下では5°ステップの印や角度の数字が問題なく視認可能である.インクを塗布したトーリックマーカーを,強主経線方向に合わせて輪部に押しつける(図5).これにより,180°離れた位置に2本の印がマークされる(図6).手術を開始する.水晶体を除去したのち,.内を粘弾性物質で満たし,トーリック眼内レンズを挿入.フック図7トーリック眼内レンズの挿入眼内レンズを.内に挿入したのち,フックで方向を調整する.図8粘弾性物質の除去粘弾性物質を除去しながら,トーリック眼内レンズのマーク方向と,角膜輪部の強主経線(固定軸)マーキングの方向を一致させる.図5トーリックマーカーの押図6強主経線(固定軸)のマークし当て180°離れた位置の角膜輪部に,2インクを塗布したトーリック本の印がしっかりマークされた.マーカーを,強主経線方向に合わせて輪部に押しつける.図9手術終了時前房圧を高め,トーリック眼内レンズの挿入方向を最終確認する.でトーリック眼内レンズの方向を調整する(図7).粘弾性物質を除去しながら,トーリック眼内レンズの軸と,角膜輪部のマーキング方向を一致させる(図8).前房圧を高め,トーリック眼内レンズの軸方向を最終確認して,手術終了とする(図9).●おわりにディスポーザブルのトーリックゲージとトーリックマーカーの登場により,トーリック眼内レンズ使用のハードルが低くなった.また同日複数症例への対応も容易になった.トーリック眼内レンズの利用が広がり,術後成績の向上に寄与することを期待したい.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー4  ハードコンタクトレンズの修正-異物感・充血など(その1)

2021年9月30日 木曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院4.ハードコンタクトレンズの修正―異物感・充血など(その1)―■はじめに前回のセミナーではハードコンタクトレンズ(HCL)に生じるくもりへの修正を含めた対処法について解説した.今回はHCLによる異物感や充血などへの対処法について解説するが,原因が前回のセミナーと重複するものも多い.■HCLの汚れによる異物感レンズ表面のとくに周辺部に汚れがこびりついている場合(図1),レンズの表面だけではなく内面の汚れもチェックしておかねばならない(図2).レンズ内面の汚れは異物感のみならず角膜上皮障害も引き起こすので注意が必要である.レンズ内面は研磨することができないので,修正可能なレンズであれば,研磨剤入りの強力なクリーナーで擦り洗いをする.修正不可能なレンズの場合は前回のセミナーを参考にしてほしい.■HCLの破損による異物感HCLの表面のキズは発見しやすいが,ベベル部位のキズや破損はわかりにくい(図3).ベベル部位にキズや破損があっても,ユーザーに自覚がなく,角結膜障害も生じていない場合は様子をみてもよいが,レンズが破損しており割れやすくなっていることを伝え,異物感が出たらすぐにレンズをはずして来院するように指示しておく.ベベル部位の破損により角結膜に上皮障害を認めるようなら(図4),修正可能なレンズであれば,サイズカットをして新しくベベル・エッジを作り直すという方法もあるが,古いレンズであれば新しいレンズに変更するほうが無難である.■HCLのベベル・エッジ形状による異物感と充血(その1)前回のセミナーでも説明したようにベベル幅が広すぎてエッジの浮き上がりが大きすぎると,ベベル部分に涙液が蓄えられてしまい,レンズの表面は乾燥して「ドライなくもり」(図5)を生じてしまう.また,レンズ周辺部位のドライアップによって,3時-9時ステイニングを生じる場合がある(図6).3時-9時ステイニングが強くなると,その周辺部の球結膜に充血を生じて異物感が強くなる.人工涙液などの点眼で対処する方法と,修正可能なレンズではベベル幅を狭くしエッジの浮き上がりを小さくする(図7)という対処法がある.また,レンズの機械的刺激による眼脂などの分泌物でレンズ表面が汚れて「ウェットなくもり」(図8)が生じることがある.レンズ装用当初は異物感による涙液過多でレンズの動きは大きい.しかし,次第に異物感によって瞬目が浅図1レンズ外面への汚れの付着レンズ表面に汚れがこびりついており,通常のクリーナーでは落ちないことがある.図2レンズ内面への汚れの付着CLチェッカーにて観察した写真であるが,スリットランプやルーペにても確認できる.図3ベベル部位の破損3時の位置に小さな破損が認められる.(85)あたらしい眼科Vol.38,No.9,202110670910-1810/21/\100/頁/JCOPY図4ベベル部位の破損による角結膜上皮図5ドライなくもり図6ドライアップによる3時.9時ステイ障害HCL表面が息を吹きかけたようにくもる.ニング3時半の位置に破損が認められ,角膜中央ベベル幅が広すぎてエッジの浮き上がりが大ベベル部位に涙液が貯留してレンズ周辺部部より少し外側に角膜上皮障害,また結膜きすぎるか,ドライアイによって生じる.の角膜がドライアップすることによって生にも軽度の上皮障害が認められる.じる.エッジリフト図8ウェットなくもりレンズの機械的刺激による分泌物で表面が汚れて生じる.図9レンズの機械的刺激によって生じた3時.9時ステイニングベベル幅が狭くてエッジの浮き上がりが小さすぎることで生じる.くなり,レンズ装用後しばらくするとレンズがくもってきて見にくくなる場合は,ベベル幅が狭すぎてエッジの浮き上がりが小さすぎることが多い.このような症例ではレンズの機械的刺激によって3時-9時ステイニング(図9)が認められ,異物感とともに周辺部の球結膜充血が顕著となってくる.修正可能なレンズであれば,研磨によってベベル幅を広くしエッジの浮き上がりを大きく図10ベベル・エッジの修正する(図10).ベベル幅を広くしてエッジの浮き上がりを大きくする.

写真:コンタクトレンズ不適切使用による緑膿菌性角膜炎

2021年9月30日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦448.コンタクトレンズ不適切使用による岡田陽福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科緑膿菌性角膜炎視覚機能再生外科学図1初診時前眼部所見耳下側角膜と周辺部強膜融解,角膜穿孔部への虹彩嵌頓,高度の毛様充血を認めた.図4前眼部光干渉断層撮影耳下側の角膜菲薄化と一部前房形成を認める.図3初診3カ月後の前眼部所見初診時に認めた角膜穿孔部を中心に,強角膜は菲薄化したまま瘢痕化した.(83)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10650910-1810/21/\100/頁/JCOPY症例は56歳,男性.左眼の痛みと眼脂を自覚するも市販抗菌薬・鎮痛薬にて自宅で様子をみていた.症状出現10日目に前医を受診し,左眼角膜穿孔,前房蓄膿を認め,左眼細菌性角膜炎疑いにて当院に紹介受診となった.受診時の左眼には,角膜耳下側とその周辺の強角膜融解,角膜穿孔により虹彩が嵌頓し前房消失していた(図1,2).左眼視力は眼前手動弁(矯正不能),眼圧は左眼3CmmHgと低眼圧を認めた.眼脂塗抹検鏡からは細菌ならびに真菌は検出されず,白血球のみを認めた.1日使い捨てコンタクトレンズ(contactlens:CL)を毎日交換することなく連続装用していた状況と眼所見から,まず緑膿菌などによる角膜感染症を疑い,レボフロキサシンC1.5%(1時間ごと),トブラマイシン(6回/日),オフロキサシン眼軟膏(眠前C1回/日),セフトリアキソン点滴(2g/日)で治療を開始した.初診時に提出した眼脂培養からCPseudomonasCaerugi-nosaが検出されたため,点滴をセフタジジム(1g/日)に変更したところ,下痢などの副作用が出現したため,8日目に終了し,レボフロキサシン錠(500Cmg)内服へ変更した.しだいに角膜穿孔部も閉鎖と上皮化が得られ前房が形成されてきたため,レボフロキサシンC1.5%,トブラマイシン,オフロキサシン眼軟膏を漸減していった.3カ月目には感染所見はないが,高度の角膜混濁と血管侵入,強角膜の感染部の菲薄化を一部認めた(図3,4).今後希望があれば全層,表層角膜移植を組み合わせた手術加療を行う予定である.近年行われた感染性角膜炎全国サーベイランス1)によると,30歳未満の患者の約C9割がCCL装用者であり,CL関連角膜感染症は緑膿菌を中心とした細菌性に加え,アカントアメーバによる感染症も増加している.さらに1日使い捨てCCLの使用期限を規定通り守っていたのは46.2%と半分以下で,CL装用方法を遵守していたのはわずかC18.9%であった.CL購入先は眼科施設に併設する販売店はC49.1%で,過半数が眼科医の診察を受けずに購入していた.近年は若年層を中心としてカラーCCLの購入者も増加しており,度数が入っていない場合は精密医療機器外であるため,一度も眼科に受診することなくCCLを装用し,正しい装用方法を理解していない若年者も増加している.緑膿菌による細菌性角膜炎は,CL障害や外傷,乾性角結膜炎,水疱性角膜症といった先行する角膜上皮障害が誘因となることが多く,とくにCCL連続装用は緑膿菌感染の大きなリスクといわれている2).初期の角膜病変は小円形浸潤病巣で,周囲の角膜実質にはすりガラス状混濁とよばれる強い浮腫性混濁がみられ,また強い結膜浮腫を伴った結膜充血がみられる.これらの所見はグラム陰性桿菌が産生するプロテアーゼなどが原因と考えられており,グラム陰性桿菌感染症の特徴的所見である.緑膿菌角膜炎の病変部辺縁には針状もしくはブラシ状の混濁がみられる場合があり,また感染初期は軽度浸潤巣を示すのみだが,急速に進行し数日以内に角膜病変部の実質融解が進み輪状膿瘍を伴った潰瘍を形成し,融解した角膜実質が眼脂様となり潰瘍周囲に付着する.膿瘍は好中球浸潤であり,それが輪状を呈するのは角膜病巣中央部内への好中球の浸潤を緑膿菌エラスターゼが抑制するためと考えられている.前房炎症が強く前房蓄膿を早期に伴う.治療は,抗菌点眼薬は軽症例に対してはC1剤,中等症以上は抗菌スペクトルの異なるC2剤を併用して開始するとされており,緑膿菌などグラム陰性桿菌に対してはフルオロキノロン系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬との併用療法が推奨される.抗菌薬の全身投与は中等症以上で行われ,内服投与による治療効果は期待できないとされている4).本症例では穿孔部位が前方移動した虹彩嵌頓と角結膜の上皮化により,前房深度が回復したと考えられる.文献1)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,C20112)木下茂(編):角膜疾患─外来でこう診てこう治せ.改訂第C2版,メジカルビュー社,20153)薄井紀夫,後藤浩:眼感染症診療マニュアル.眼科臨床エキスパート,医学書院,20164)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌117:467-509,C2013