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非小細胞肺癌に対する化学免疫療法中に生じた Vogt-小柳-原田病様汎ぶどう膜炎の1 例

2024年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(6):728.732,2024c非小細胞肺癌に対する化学免疫療法中に生じたVogt-小柳-原田病様汎ぶどう膜炎の1例黒木洋平山本聡一郎江内田寛佐賀大学医学部眼科学講座CACaseofVogt-Koyanagi-Harada-LikePanuveitisDuringChemoimmunotherapyforPrimaryLungCancerYoheiKuroki,SoichiroYamamotoandHiroshiEnaidaCDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicineC目的:肺癌に対して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)加療中に両眼に生じたCVogt-小柳-原田病(VKH)様ぶどう膜炎のC1例の経過を報告する.症例:75歳,男性.非小細胞肺癌(stageIVA)に対して,ICI加療開始C4カ月後に眼痛が出現し,佐賀大学附属病院眼科に紹介となった.両眼漿液性網膜.離(SRD),脈絡膜肥厚を認め,フルオレセイン蛍光造影検査でCSRDと一致する多発点状蛍光漏出,視神経乳頭の過蛍光,インドシアニングリーン蛍光造影検査で中期から後期にCdarkspotを認めた.ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎と診断し,呼吸器内科と協議してCICIの休薬を行い,トリアムシノロン後部CTenon.下注射(STTA)のみでCSRDは消失した.経過中生じた薬剤性肺障害に対してプレドニゾロン内服をC6.5カ月行い,現在まで再発は認めていない.結論:本症例では一般的なCVKHと異なり,単回CSTTAとCICIの中止のみで眼炎症は軽快した.しかし,ICI中止の判断はむずかしく,対応には他科との連携した介入が重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofVogt-Koyanagi-Harada(VKH)-likeCuveitisCthatCappearedCduringCimmuneCcheckpointinhibitor(ICI)therapyforlungcancer.CaseReport:A75-year-oldmalewasreferredtotheDepart-mentofOphthalmology,SagaUniversity,duetoocularpain4monthsafterthestartofICItherapyforlungcan-cer.CSerousCretinaldetachment(SRD)andCchoroidalCthickeningCwereCobserved.CFluoresceinCangiographyCshowedC.uorescenceCleakageCconsistentCwithCSRD.CIndocyanineCgreenCangiographyCshowedCmidCtoClateCdarkCspots.CTheCpatientCwasCdiagnosedCasCVKH-likeCuveitisCrelatedCtoCICI,CandCICICwasCdiscontinuedCafterCconsultationCwithCtheCdepartmentCofCpulmonology.CMoreover,CsubtenonCtriamcinoloneacetonide(STTA)injectionCwasCperformedCandCSRDresolved.Prednisolonewasadministeredfor6.5monthstoaddressdrug-inducedlungdisease,withnouveitisrecurrenceCobserved.CConclusion:InCthisCcase,CocularCin.ammationCwasCrelievedCviaCdiscontinuationCofCICICandCSTTAinjection.SincedecidingtodiscontinueICIiscomplex,cooperationwithotherdepartmentsisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(6):728.732,C2024〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,ぶどう膜炎,免疫チェックポイント阻害薬,免疫関連有害事象.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,uveitis,immunecheckpointinhibitor,immune-relatedadverseevents.Cはじめに免疫チェックポイント阻害薬(immuneCcheckpointCinhibi-tor:ICI)はCcytotoxicCTClymphocyte-associatedCantigenC4(CTLA-4),programmedCcelldeath-1(PD-1),pro-grammedCcellCdeath-ligand1(PD-L1)といった免疫チェックポイント分子を阻害し,T細胞媒介免疫プロセスを増強することで癌細胞に対する免疫応答を強化し,抗腫瘍効果を発揮する薬剤である1).ICIを用いた癌免疫治療法は,日本ではC2014年に悪性黒色腫で保険適用されて以降,さまざまな癌種の治療に使用され,高い奏効率と全生存期間延長を示している2).しかし,この新しい治療法は,全身の正常な臓器で自己免疫反応を引き起こすため,さまざまな全身性の免疫〔別刷請求先〕黒木洋平:〒849-8501佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YoheiKuroki,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPANC728(124)図1初診時画像所見a:右眼広角眼底写真.Cb:左眼広角眼底写真.両眼ともに脈絡膜皺襞を伴う漿液性網膜.離(SRD),視神経乳頭発赤・浮腫を認めた.Cc:右眼広角CSS-OCT.Cd:左眼広角CSS-OCT.脈絡膜厚は右眼C943Cμm,左眼C964Cμmと肥厚を認めた.関連有害事象(immune-relatedCadverseevents:irAE)が40.60%で発生すると報告されている.眼科関連のCirAEは1.3%で発生し,そのなかにはドライアイ,重症筋無力症,視神経障害,ぶどう膜炎が含まれ,使用開始後数週間.数カ月以内に発生する可能性がある.既報ではもっとも一般的な副作用はドライアイ(57%)で,続いてぶどう膜炎(14%)であると報告されているが,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koy-anagi-Haradadisease:VKH)様汎ぶどう膜炎の報告例はごく少数である3,4).今回,非小細胞肺癌に対してCICI加療中に,VKH様ぶどう膜炎を生じたC1例を経験したので経過を報告する.CI症例患者:75歳,男性.主訴:右眼結膜充血,右眼痛.既往歴:身体疾患の既往なし.現病歴:20XX年C1月C28日,非小細胞肺癌(stageIVA)に対して,佐賀大学附属病院(以下,当院)呼吸器内科にてカルボプラチン+ペメトレキセドに加えて,ICIであるイピリムマブ(抗CCTLA-4抗体)+ニボルマブ(抗CPD-1抗体)での加療を開始された.その後,3月C12日にイピリムマブ+ニボルマブC2クール目,4月C23日にイピリムマブ+ニボルマブC3クール目を施行された.5月C27日に右眼結膜充血,右眼眼痛が出現し,5月C29日に近医眼科を受診した.頭痛,感冒症状,めまいや耳鳴りなどの症状は認めなかった.右眼の前房炎症所見,両眼眼底周辺部の脈絡膜皺襞を伴う漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)を認めたため,当院眼科へ紹介となった.初診時所見:初診時視力は右眼C0.08(0.5C×sph+2.50D),左眼C0.3(0.7C×sph+3.00D(cyl.1.75DAx90°),眼圧は右眼C8CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部所見は両眼に全周の結膜充血,浅前房化,毛様体.離を認め,右眼前房細胞2+,左眼前房細胞+であった.両眼ともに有水晶体眼であった.眼底検査では両眼に脈絡膜皺襞を伴うCSRD,視神経乳頭発赤・浮腫を認めた(図1).また,脈絡膜厚は右眼943μm,左眼C964μmであり著明な脈絡膜肥厚を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査では両眼に顆粒状の過蛍光,SRDに一致した蛍光貯留,視神経乳頭過蛍光を認め,インドシアニングリーン蛍光造影検査では中期から後期にCdarkspotが散見された(図2).血液検査ではぶどう膜炎の原因となるような,ウイルス感染や膠原病などの所見は認めず,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)はCDR4,DR9が陽性であった.腰椎穿刺は施行しなかった.臨床経過:ICIを用いた免疫療法開始C4カ月後から眼症状が出現しており,irAEの可能性が考えられ,呼吸器内科と協議し精査もかねてCICIは初診日より休薬とした.また,ICI休薬に加えて,初診日に両眼のトリアムシノロンアセトニドC20Cmg後部CTenon.下注射(sub-TenonCtriamcinoloneCacetonideinjection:STTA)を施行した.ステロイドパルス療法,ステロイド点眼は施行しなかった.ICI休薬C2週後の矯正視力は右眼C0.4,左眼C0.6であったが,両眼の前眼部炎症所見は消失し,SRDは減少していた.ICI休薬C6週後の図2初診時蛍光眼底検査a:右眼フルオレセイン蛍光検査(FA).b:左眼CFA.顆粒状の過蛍光,SRDに一致した蛍光貯留,視神経乳頭過蛍光を認めた.c:右眼インドシアニングリーン蛍光検査(IA).d:左眼IA.中期から後期にCdarkspotが散見された.図3治療開始後のOCT経過a:右眼初診日(免疫療法開始C16週後).b:左眼初診日.Cc:右眼休薬C2週後.Cd:左眼休薬C2週後.Ce:右眼休薬C6週後.Cf:左眼休薬C6週後.初診日より免疫チェックポイント阻害薬は休薬とし,両眼にトリアムシノロンアセトニド後部CTenon.下注射を施行.経時的にCSRDは減少し,休薬C6週後にはCSRDは消失した.矯正視力は右眼C0.6,左眼C0.6で両眼ともにCSRDの消失を認めた(図3).ICI休薬C14週後にCICIに起因すると考えられる薬剤性肺障害を認め,呼吸器内科でプレドニゾロン(PSL)25Cmg/日内服が開始となった.その後,肺障害の改善に伴いCPSLは漸減され,ICI休薬C41週後にCPSL内服は終了となった.ICI休薬C1年後には夕焼け状眼底,Dalen-Fuchs斑を認めたが,矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.7まで改善した(図4).その後もステロイド点眼やCSTTAの追加は行わず,眼炎症の再燃はなく現在まで経過している.経過中に脱色素斑や毛髪の白毛化は認めなかった.肺癌については,休薬C10カ月後から原発巣の増大を認めたが,irAEとしてのCVKH様ぶどう膜炎,薬剤性肺障害が出現しており,ICIは再開しなかった.休薬C12カ月後よりアルブミン懸濁型パクリタキセル療法を開始したが,肺内転移巣の増大を認めた.その後,全身状態が増悪したが,患者がCbestCsupportivecareを希望したため,休薬C20カ月後より在宅療法となった.図4休薬1年後の眼底写真a:右眼パノラマ眼底写真.Cb:左眼パノラマ眼底写真.Cc:右眼COCT.Cd:左眼COCT.休薬C1年後に夕焼け状眼底,Dalen-Fuchs斑を認めた.CII考按本報告では,非小細胞肺癌に対するCICIを用いた免疫療法中にCVKH様汎ぶどう膜炎を発症した症例を提示し,ICI中止とCSTTAのみで眼炎症が軽快したことと,その管理における複数診療科の連携の重要性について報告した.VKH様ぶどう膜炎の発症メカニズムは,いまだ不明なことが多い.ICIは,免疫反応の制御に関与する特定の分子を標的とする.CTLA-4はCT細胞の活性化を抑制する.PD-1は活性化CT細胞に発現し,そのリガンドCPD-L1は抗原提示細胞や癌細胞に発現してCPD-1と結合することで,PD-1を発現するCT細胞を抑制している.ICIはこれらの免疫抑制分子をブロックすることにより,T細胞媒介免疫プロセスを増強することで癌細胞に対する免疫応答を強化する1).抗CTLA-4抗体にはCTh1様CCD4+T細胞増加作用があり4),抗CPD-1/PD-L1抗体と比較してぶどう膜炎を引き起こすリスクが高く,抗CPD-1抗体単剤療法と比較すると抗CTLA-4抗体併用療法では,ぶどう膜炎発症のオッズ比が4.77からC17.1に増加することが報告されている5).一般的にCVKHの発症機構は,自己抗原であるメラノサイト関連抗原のCtyrosinaseに感作され,活性化したCCD4+Tリンパ球が中心的な働きをしている6).ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の発症は,明確な機序は不明であるが,本症例ではICIの抗CPD-1抗体,抗CCTLA-4抗体の併用により,T細胞媒介免疫プロセスが増強されたことで,炎症惹起につながったと考えられる.また発症要因として,VKH様ぶどう膜炎でもCHLA-DR4(127)が発症に関与している可能性が示唆されている7.12).HLAは,白血球の相互作用を媒介する細胞表面分子のセットである主要組織適合性複合体をコードする遺伝子座である.HLAは免疫機能だけでなく,VKHを含む複数の自己免疫疾患の病因においても重要な役割を果たし,VKHではCHLA-DR4,とくにCHLA-DRB1と密接に関連していると報告されている6,13).本症例ではCHLA-DR4,DR9が陽性であった.また,既報でもCHLA検査を施行されたC8症例のうちC6症例でCHLA-DR4陽性の報告を認めた7.12).しかし,ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の報告は少なく,HLAとの関連は現時点では不明である.VKH様汎ぶどう膜炎の定型化された治療指針は確立されていない.一般的にCVKHではステロイドパルス療法が治療の第一選択となるが,本症例ではステロイドの免疫抑制作用によってCICIの悪性腫瘍に対する免疫応答の増強効果低下が懸念されたため,ICIの中止とともにCSTTAでの眼局所ステロイド治療を選択した.irAEとしてのぶどう膜炎に対する治療方針は米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドラインで,炎症所見の重症度ごとにCGrade分類されており,Gradeに応じて治療方針が異なる3).本症例は汎ぶどう膜炎を認め,CGrade3に当てはまり,ICIの休薬および眼内または眼窩内ステロイド局所投与またはCPSL内服が推奨された.経過中に薬剤性肺障害に対してCPSL内服を要したが,眼炎症の再燃は認めなかった.既報ではCVKH様汎ぶどう膜炎に対して,本症例と同様にCICIの中止およびCSTTA単独で初期治療を行ったものがC2例報告されているが,SRDの再燃またはSRD改善不良のため,ステロイドパルス療法を施行されあたらしい眼科Vol.41,No.6,2024C731た7,8).しかし,VKH様汎ぶどう膜炎に対してCICIの中止およびステロイド内服での治療を行ったC3例の報告ではすべてで内服開始後速やかに炎症鎮静化を認め,炎症の再燃はなく,ステロイドパルス療法施行例との治療経過,視力予後に差は認めなかった9,10,14).VKH様汎ぶどう膜炎に対してCICIを中止しなかった症例報告では,ステロイド全身投与を行い,一時炎症軽快を認めたが,ステロイド中止後に炎症が再燃した15).本症例の経過および既報から,ICIに伴うCVKH様汎ぶどう膜炎は,ICI中止に加えて適切なステロイド治療を行うことで炎症鎮静化,再発抑制が可能となる可能性が示唆された.また,ICI継続により炎症再燃を認めた症例があるため,ICIの中止はとくに重要である.ICIに伴うCVKH様汎ぶどう膜炎は報告例が少なく,定型化された治療指針はないが,一般的なCVKHと比較してCICIを中止することで軽度のステロイド治療で炎症の鎮静化が得られる可能性が考えられる.しかし,irAEとしてのCVKH様ぶどう膜炎と一般的なCVKHの臨床所見に明確な差異が認められなかったとの報告があるため7.12,14,15),irAEと関連がなく一般的なCVKHを偶発的に発症している可能性も考慮しておく必要がある.そのためCICI中止後も眼炎症の改善が得られない場合は,一般的なCVKHと同様にステロイドパルス療法の検討も必要と考えられる.さらに,ASCOガイドラインではCGrade3以上のぶどう膜炎でステロイド全身投与に反応が乏しい場合はメトトレキサート(MTX)の使用を推奨されているが3),VKH様ぶどう膜炎に対してCMTXでの加療を行われた報告は認めておらず,その有効性は明らかではない.CIII結論ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の治療では,ICIの中止が重要である.しかし,眼科医のみでCICIの中止の判断を行うことはむずかしく,対応には他科との連携した介入が重要である.また,通常のCVKHと比較して軽度のステロイド治療で炎症が沈静化する可能性があり,今後の症例の蓄積および治療法の定型化が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HeCX,CXuC:ImmuneCcheckpointCsignalingCandCcancerCimmunotherapy.CellResC30:660-669,C20202)各務博:免疫チェックポイント阻害薬の現状と展望.肺癌C59:217-223,C20193)SchneiderCBJ,CNaidooCJ,CSantomassoCBDCetal:Manage-mentofimmune-relatedadverseeventsinpatientstreat-edCwithCimmuneCcheckpointCinhibitortherapy:ASCOCGuidelineUpdate.JClinOncolC39:4073-4126,C20214)WeiCSC,CLevineCJH,CCogdillCAPCetal:DistinctCcellularCmechanismsunderlieanti-CTLA-4andanti-PD-1check-pointblockade.CellC170:1120-1133,C20175)BomzeCD,CMeirsonCT,CHasanCAliCOCetal:OcularCadverseCeventsCinducedCbyCimmuneCcheckpointinhibitors:aCcom-prehensiveCpharmacovigilanceCanalysis.COculCImmunolCIn.ammC30:191-197,C20226)望月學:眼内炎症と恒常性維持.日眼会誌C113:344-378,C20097)KikuchiCR,CKawagoeCT,CHottaK:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCfollowingCnivolumabCadministrationCtreatedCwithCsteroidCpulsetherapy:aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC20:252,C20208)MinamiK,EgawaM,KajitaKetal:AcaseofVogt-Koy-anagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCinducedCbyCnivolumabCandCipilimumabCcombinationCtherapy.CCaseCRepCOphthal-molC12:952-960,C20219)EnomotoCH,CKatoCK,CSugawaraCACetal:CaseCwithCmeta-staticCcutaneousCmalignantCmelanomaCthatCdevelopedCVogt-Koyanagi-Harada-likeCuveitisCfollowingCpembroli-zumabtreatment.DocOphthalmolC142:353-360,C202110)YoshidaCS,CShiraishiCK,CMitoCTCetal:Vogt-Koyanagi-Harada-likeCsyndromeCinducedCbyCimmuneCcheckpointCinhibitorsinapatientwithmelanoma.ClinExpDermatolC45:908-911,C202011)UshioCR,CYamamotoCM,CMiyasakaCACetal:Nivolumab-inducedCVogt-Koyanagi-Harada-likeCsyndromeCandCadre-nocorticalCinsu.ciencyCwithClong-termCsurvivalCinCaCpatientCwithCnon-small-cellClungCcancer.CInternCMedC60:C3593-3598,C202112)BricoutCM,CPetreCA,CAmini-AdleCMCetal:Vogt-Koy-anagi-Harada-likesyndromecomplicatingpembrolizumabtreatmentCforCmetastaticCmelanoma.CJCImmunotherC40:C77-82,C201713)ShiinaCT,CInokoCH,CKulskiJK:AnCupdateCofCtheCHLACgenomicCregion,ClocusCinformationCandCdiseaseCassocia-tions:2004.TissueAntigensC64:631-649,C200414)GodseCR,CMcgettiganCS,CSchuchterCLMCetal:Vogt-Koy-anagi-Harada-likeCsyndromeCinCtheCsettingCofCcombinedCanti-PD1/anti-CTLA4Ctherapy.CClinCExpCDermatolC46:C1111-1112,C202115)MatsuoCT,CYamasakiO:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCposteriorCuveitisCinCtheCcourseCofnivolumab(anti-PD-1antibody)C,interposedbyvemurafenib(BRAFinhibi-tor)C,CforCmetastaticCcutaneousCmalignantCmelanoma.CClinCCaseRepC5:694-700,C2017***

ぶどう膜炎と辺縁系脳炎が同時発症した アテゾリズマブによる免疫関連有害事象の1 例

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):217.222,2024cぶどう膜炎と辺縁系脳炎が同時発症したアテゾリズマブによる免疫関連有害事象の1例曽谷拓之石川裕人五味文兵庫医科大学眼科学教室CACaseofImmune-RelatedAdverseEventduetoAtezolizumabwithSimultaneousUveitisandLimbicEncephalitisHiroyukiSotani,HirotoIshikawaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineHospitalC目的:免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブ導入C2週間後に,ぶどう膜炎と辺縁系脳炎を同時発症した症例を経験したので報告する.症例:50歳,男性.肺腺癌CStageIVに対しアテゾリズマブが導入された.2週間後,発熱・嘔吐,意識レベル低下を呈し,辺縁系脳炎と診断された.ステロイドパルス療法が施行され,翌日には意識レベルは改善するも,3日後視野異常を自覚し眼科を受診した.矯正視力は右眼C0.2・左眼C0.3,前眼部・中間透光体に異常認めず,両眼底には網膜血管炎と漿液性網膜.離を認めた.アテゾリズマブによるぶどう膜炎と辺縁系脳炎の同時発症と考え,ステロイド治療を継続した.初診からC1年後,血管炎や漿液性網膜.離は改善するも,網膜外層障害は残存しており視力は改善していない.結論:免疫チェックポイント阻害薬はCT細胞の活性化により腫瘍細胞を攻撃し癌を退縮する.活性化CT細胞が他の抗原提示正常細胞を攻撃した場合には,炎症を惹起する.アテゾリズマブはまだ新しい薬剤であり,今後も非典型的なぶどう膜炎には注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofsimultaneousuveitisandlimbicencephalitisthatdeveloped2-weeksafterintro-ductionCofCatezolizumab.CCase:AC50-year-oldCmaleCdevelopedCfever,Cvomiting,CandCdecreasedClevelCofCconscious-nessC2CweeksCafterCreceivingCatezolizumabCforCstageCIVClungCadenocarcinoma,CandCwasCdiagnosedCwithClimbicCencephalitis.CSteroidCpulseCtherapyCwasCadministered,CandCtheChisClevelCofCconsciousnessCimprovedCtheCnextCday.CHowever,C3CdaysClater,CheCsoughtCophthalmologicalCconsultationCdueCtoCabnormalitiesCinChisCvisualC.eld.CSlit-lampCexaminationrevealedbilateralretinalvasculitisandserousretinaldetachment.Thepatientwasconsideredtohavesimultaneousuveitisandlimbalencephalitiscausedbyatezolizumab,andsteroidtherapywascontinued.At1yearaftertheinitialdiagnosis,thevasculitisandserousretinaldetachmenthadimproved,yettheextraretinaldamageremainedandhisvisualacuitydidnotimprove.Conclusion:Sinceatezolizumabisstillanewagent,itshouldbeusedwithstrictcautionincasesofatypicaluveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):217.222,C2024〕Keywords:免疫チェックポイント阻害薬,アテゾリズマブ,ぶどう膜炎,辺縁系脳炎免疫関連有害事象.im-munecheckpointinhibitor,atezolizumab,uveitis,limbicencephalitis,immune-relatedAdverseEvents.Cはじめに免疫チェックポイント阻害薬(immuneCcheckpointCinhibi-tor:ICI)には抗CPD-1抗体,抗CPD-L1(programmeddeath-ligand1)抗体,抗CCTLA-4抗体のC3種類が存在する.アテゾリズマブは免疫チェックポイント阻害薬の一種であり,PD-L1を標的としたヒト化CIgG1モノクローナル抗体である.現在わが国では肺癌・乳癌・肝細胞癌の一部に適応がある比較的新しい薬剤であるが,その一方で使用により従来の殺細胞性抗腫瘍薬や分子標的薬ではみられなかった免疫関連の副作用として,眼障害,内分泌障害,間質性肺疾患,消化器系障害,脳神経系障害,肝胆膵障害など,さまざまな副作用が報告されている1,2).眼障害は全体の約C1%に生じると〔別刷請求先〕曽谷拓之:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiSotani,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC図1a初診時眼底写真アーケード血管周囲の滲出性変化と黄斑部の漿液性網膜.離を認める.図1b初診時広角眼底写真周辺部の血管にも滲出性変化を認める.され,そのなかでもおもな疾患はドライアイ(1.24%),ぶどう膜炎(約C1%)とされる3).今回アテゾリズマブ導入C2週間後に両眼後部ぶどう膜炎と自己免疫性脳炎を同時発症した症例を経験したので報告する.CI症例患者:50歳,男性.主訴:両視野異常.現病歴:肺腺癌CStageIVに対しアテゾリズマブを導入,15日後に発熱・嘔吐を主訴に緊急入院した.その翌日意識レベル低下と強直間代性けいれんが出現したため頭部造影MRIを施行され,辺縁系脳炎が疑われた.アテゾリズマブを中止し,ステロイドパルスC1,000CmgをC3日間施行され意識レベルは改善したが,両中心暗点の自覚症状があり同日眼科受診となった.既往歴:肺腺癌CStageIV(cT4N3M1a)に対し以下の抗癌剤治療を施行していた.C1stline:カルボプラチン(CBDCA)/パクリタキセル(PTX)/ベバシズマブ(Bev)/ニボルマブ(抗CPD-1抗体)4コース.C2ndlineドセタキセル(DOC)+ラムシルマブ(RAM)4コース.3rdlineアテゾリズマブ(抗CPD-L1抗体).初診時所見:初診時の視力は右眼C0.15(0.2C×sph.1.25D(cyl.1.00DAx100°),左眼C0.09(0.3C×sph.1.25D(cylC.2.50DAx90°),眼圧は右眼13mmHg,左眼12mmHg,図1c初診時動的視野検査両眼に中心比較暗点を認める.図1d初診時OCT画像漿液性網膜.離と黄斑から鼻側の一部にCEZ/IZの欠損と外顆粒層の高反射病変を認める.IR画像では特異な所見は認めない.対光反射は両眼迅速かつ十分,相対性求心性瞳孔反応欠損(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)は陰性であった.前眼部・中間透光体には軽度白内障を認める以外異常はなく両眼眼底に滲出性変化を伴う網膜血管炎所見と漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)を認めた(図1a,b).動的視野検査(Goldmannperimetry:GP)では両眼に中心比較暗点を認めた(図1c).また,光干渉断層撮影(opticalCcoherencetomography:OCT)では両眼にCSRDと黄斑から鼻側にかけて視細胞外層障害を認めた(図1d).なお,全身状態を考慮し蛍光眼底造影検査は施行されなかった.経過:内科では頭部造影CMRI(図2a)や髄液検査などを施行された結果,免疫関連有害事象(immune-relatedAdverseEvents:irAE)による自己免疫性脳炎と診断,眼科では視神経疾患,腫瘍関連網膜症や他のぶどう膜炎を疑う所見は認めずCICI使用歴があることからCirAEによる後部ぶどう膜炎と診断された.眼科初診後(発症C10日後),さらにステロイドパルスC1,000Cmg3日間をC1クール施行された.パルスC2クール後にはCSRDは消失(図3),矯正視力は右眼0.3),左眼(0.2)であった.また,頭部造影CMRIでも自己免疫性脳炎は軽快(図2b)し,ステロイドC35Cmgから漸減を開始された.その後アテゾリズマブ中止からC2カ月後C4thlineカルボプラチン(CBDCA)/ペメトレキセド(PEM)を導入時点で矯正視力は両眼(0.4),発症C6カ月後にはステロイド内服を終了,GPでは中心比較暗点の改善を認めた(図図2頭部造影MRIT2WI・FLAIR像a:両側海馬全体が腫脹し高信号を示す.辺縁系脳炎が疑われる.Cb:腫脹は同程度だが信号の減弱を認める.図3ステロイドパルス療法2クール後(発症C10日後)の所見EZ/IZの不整欠損の残存はあるが漿液性網膜.離は改善を認める.4),7カ月後よりC5thlineテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1)が導入された.1年後時点で矯正視力は両眼(0.4),視細胞外層障害が残存した(図5).なお,患者は最終受診C1カ月後に進行性癌により死亡している.CII考按アテゾリズマブはCPD-L1を標的としたヒト化CIgG1モノクローナル抗体である.活性化CT細胞上に発現するCPD-1(programmeddeath-1)が,癌細胞や抗原提示細胞が発現するリガンドであるPD-L1に結合することによりCT細胞活性化を抑制し,癌細胞の免疫逃避が起こる.抗CPD-L1抗体は,PD-L1に結合することによりCT細胞上のCPD-1との相互作用を阻害し,その結果抑制シグナル伝達をブロックしCT細胞の活性化を維持する3).免疫系の主要な調節因子を対象とした治療であり効果がある反面,免疫学的副作用リスクも上昇する.irAEとしてのぶどう膜炎の機序は現在解明されていないが,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)細胞の表面にはCPD-L1受容体が発現しておりCT細胞上のCPD-1受容体との相互作用を遮断すると,RPE細胞に対する細胞毒性とCTh1反応が持続し,ぶどう膜炎を引き起こすとされる4,5).また,PD-L1シグナル伝達の欠如により,PD-1陽性CT細胞が炎症を起こした血管壁に浸潤し,インターフェロン-c,インターロイキン-17,インターロイキン-21などのエフェクターサイトカインを産生することがわかっておLR図4アテゾリズマブ中止から1年後の動的視野検査両眼とも暗点の残存は認めるも改善は認めている.図5発症から1年後のOCT所見両眼に視細胞外層の不整が残存している.り,その結果生じるリンパ球の蓄積が,フルオレセイン血管造影でみられる関連する静脈炎を説明する可能性がある6,7).Dowらのレビューによると報告された免疫チェックポイント阻害薬関連ぶどう膜炎C241眼のうち,37.7%(91)が前部ぶどう膜炎,0.01%(2)が中間部ぶどう膜炎,25.7%(62)が後部ぶどう膜炎,34.0%(82)が汎ぶどう膜炎を発症し,アテゾリズマブは他のCICIと比較して後部ぶどう膜炎の発生率が有意に増加していた(80.0%対C23.7%,p<0.001)8).さらに,アテゾリズマブを服用している患者のC15眼のうちC10眼は,網膜血管炎または静脈炎を伴い,しばしば網膜外層の破壊を伴う急性黄斑神経網膜症(AMN)または傍中枢性急性中部黄斑症(PAMM)に似た所見を示したとされる6,8).また他にもアテゾリズマブによる眼副作用では,前部ぶどう膜炎9)や,Vogt・小柳・原田病様ぶどう膜炎を呈した報告がある10)(表1).抗CCTLA-4抗体や抗CPD-1抗体使用後の両眼後部ぶどう膜炎と網膜.離をきたした症例11)はあるが,アテゾリズマブによる同様の症状を呈した報告は筆者らの知る限りでは本症例が最初の報告である.ただし今回C1stlineに抗CPD-1抗体のニボルマブを使用しており,ニボルマブによる遅発性irAEの可能性も考えられる11.13).本症例では両側の網膜血管炎をきたし,初診時CSD-OCT表1アテゾリズマブによる眼副作用報告と自験例との比較年齢・性別(疾患)眼所見(両眼)C/全身症状発症までの投与期間治療経過本症例50歳,男性(肺腺癌)中心比較暗点網膜血管炎・SRD/発熱・嘔吐・意識障害・強直間代性けいれん15日ステロイドパルスC1,000Cmg/3日間2クール後,経口ステロイド漸減・ステロイドパルス療法C2クール後CSRD消失・発症C6カ月後暗点改善,ステロイドオフ64歳,男性9)(非小細胞肺癌)Descemet膜皺襞角膜後面色素沈着前房細胞C2+(SUNWorkingGroup基準)/全身症状なし3週間ステロイド点眼C3時間ごと/日および散瞳薬C2回/日で開始・C14日後色素沈着減少,前房細胞・Descemet膜皺襞消失・1カ月後前部ぶどう膜炎完全消失局所ステロイド漸減76歳,女性10)(非小細胞肺癌)前房内フィブリン視神経乳頭腫脹多発性CSRD波状CRPE脈絡膜肥厚/全身症状なし17カ月ステロイドパルスC1,000Cmg/3日間後,経口・局所ステロイド漸減・開始C5日後前房内炎症消失・2カ月後CSRD完全消失・3カ月後ステロイドオフ上,黄斑部に漿液性網膜.離・黄斑から鼻側にかけて一部外顆粒層の高反射病変ならびにCellipsoidzone(EZ)とCinter-digitationzone(IZ)の不整欠損を認めた.また,眼底写真や自発蛍光画像,近赤外眼底撮影(IR)画像ではCAMNやPAMMを特徴づける有意な所見は認めなかった14).Ramto-hulらは,抗CPD-L1抗体の最初の投与から約C2週間後に発熱・インフルエンザ様症状とともに両側傍中心暗点をきたすAMN様病変で構造的・機能的障害が残存するものを「抗PD-L1抗体関連網膜症」とよんでおり6),本症例も明らかな確定所見は得られないが類似した経過をたどっており,その一部である可能性も示唆される.CIII結論眼科領域のCirAEは他臓器に対し頻度が少なく,見逃される可能性がある.免疫チェックポイント阻害薬は比較的新規の薬剤であり,今後も適応拡大が予想される.内科医との連携は重要であり,眼科的CirAE発生には注意を要する.文献1)只野裕己,鳥越俊彦:免疫チェックポイント阻害剤の免疫性副作用.JpnJClinImmunolC40:102-108,C20172)ChampiatCS,CLambotteCO,CBarreauCECetal:ManagementCofCimmuneCcheckpointCblockadeCdysimmunetoxicities:aCcollaborativeCpositionCpaper.CAnnCOncolC27:559-574,C20163)DalvinLA,ShieldsCL,Orlo.Metal:Checkpointinhibi-torimmunetherapy:systemicindicationsandophthalmicsidee.ect.RetinaC38:1063-1078,C20184)ZhouR,CaspiRR:Ocularimmuneprivilege.F1000BiolRepC2:1-3,C20105)ParikhCRA,CChaonCBC,CBerkenstockMK:OcularCcompli-222あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024cationsCofCcheckpointCinhibitorsCandCimmunotherapeuticagents:aCcaseCseries.COculCImmunolCIn.ammC29:1-6,C20206)RamtohulP,FreundKB:Clinicalandmorphologicalchar-acteristicsCofCanti-programmedCdeathCligandC1-associatedretinopathy:expandingCtheCspectrumCofCacuteCmacularCneuroretinopathy.OphthalmolRetinaC4:446-450,C20207)ZhangH,WatanabeR,BerryGJetal:Immunoinhibitorycheckpointde.ciencyinmediumandlargevesselvasculi-tis.ProcNatlAcadSciUSAC114:E970-E979,C20178)DowER,YungM,TsuiE:Immunecheckpointinhibitor-associateduveitis:reviewCofCtreatmentsCandCoutcomes.COculImmunolIn.ammC29:203-211,C20219)MitoT,TakedaS,MotonoNetal:Atezolizumab-inducedbilateralanterioruveitis:acasereport.AmJOphthalmolCaseRepC24:101205,C202110)SuwaCS,CTomitaCR,CKataokaCKCetal:DevelopmentCofCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCduringCtreat-mentCbyCanti-programmedCdeathCligand-1CantibodyCforCnon-smallcelllungcancer:acasereport.OculImmunolIn.ammC30:1-5,C202111)PengCL,CMAOCQQ,CJiangCBCetal:BilateralCposteriorCuve-itisCandCretinalCdetachmentduringCimmunotherapy:aCcaseCreportCandCliteratureCreview.CFrontCOncolC10:1-8,C202012)RichardsonCDR,CEllisCB,CMehmiICetal:BilateralCuveitisCassociatedwithnivolumabtherapyformetastaticmelano-ma:acasereport.IntJOphthalmolC10:1183-1186,C201713)MiyamotoCR,CNakashizukaCH,CTanakaCKCetal:BilateralCmultipleCserousCretinalCdetachmentsCafterCtreatmentCwithnivolumab:aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC20:1-7,C202014)HufendiekCK,CGamulescuCMA,CHufendiekCKCetal:CClassi.cationandcharacterizationofacutemacularneuro-retinopathyCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.IntOphthalmolC38:2403-2416,C2018(112)

汎ぶどう膜炎を伴う多巣性脈絡膜炎の1 例

2023年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科40(5):701.707,2023c汎ぶどう膜炎を伴う多巣性脈絡膜炎の1例福井志保*1木許賢一*2清崎邦洋*1加納俊祐*3嵜野祐二*4久保田敏昭*2*1別府医療センター眼科*2大分大学医学部眼科学教室*3加納医院*4豊後大野市民病院眼科MultifocalChoroiditisandPanuveitis:ACaseReportShihoFukui1),KenichiKimoto2),KunihiroKiyosaki1),SyunsukeKano3),CYujiSakino4)andToshiakiKubota2)1)DepartmentofOphthalmology,BeppuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversity,3)KanoClinic,4)DepartmentofOphthalmology,BungoonoCityHospitalC目的:汎ぶどう膜炎を伴う多巣性脈絡膜炎(multifocalCchoroiditisCandpanuveitis:MCP)のC1例を報告する.症例:34歳,女性,視野障害を主訴に受診した.視力は両眼矯正C1.2,左眼鼻側の視野狭窄と右眼下方の軽度視野狭窄がみられた.両眼の汎ぶどう膜炎と眼底には同心円状に並ぶ黄白色円形の網脈絡膜病巣がみられ,汎ぶどう膜炎を伴う多巣性脈絡膜炎と診断した.両眼ともステロイドCTenon.下注射により消炎され鎮静化したが,炎症の再燃時に片眼に脈絡膜新生血管を合併した.抗CVEGF硝子体注射が奏効したが,すぐに再発し再発予防のため副腎皮質ステロイドの内服を行った.結語:ステロイドの内服治療によって,脈絡膜新生血管の再発は抑制された.CPurpose:Toreportacaseofmultifocalchoroiditisandpanuveitis(MCP)C.Casereport:A34-year-oldwom-anpresentedwithvisual.eld(VF)disturbance.Hercorrectedvisualacuitywas1.2forbotheyes,andnasal-sidenarrowingoftheVFinherlefteyeandmildinferiornarrowinginherrightwereobserved.AclinicalexaminationshowedCpanuveitisCandCconcentricCroundishCyellowish-whiteCchorioretinalClesionsCinCtheCfundusCofCbothCeyes,CandCsheCwasCdiagnosedCwithCMCP.CAfterCsheCunderwentCbilateralCposteriorCsub-tenonCinjectionCofCcorticosteroids,CtheCin.ammationreducedandultimatelysubsided,however,itrecurredandchoroidalneovascularization(CNV)devel-opedin1eye.AlthoughtheCNVwasinitiallye.ectivelytreatedwithintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactor,itquicklyrelapsed,sooralcorticosteroidswereaddedtopreventrecurrence.Conclusion:IncasesofMCP,treatmentwithsystemiccorticosteroidtherapymaybenecessarytopreventCNV.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(5):701.707,C2023〕Keywords:多巣性脈絡膜炎,脈絡膜新生血管,ぶどう膜炎,視野障害,急性帯状潜在性網膜外層症.multifocalCchoroiditis,choroidalneovascularization,uveitis,visual.elddisturbance,acutezonaloccultouterretinopathy.Cはじめに汎ぶどう膜炎を伴う多巣性脈絡膜炎(multifocalchoroidi-tisCandpanuveitis:MCP)はC1973年に初めてCNozikとDorschが眼ヒストプラズマ症候群に類似した前部ぶどう膜炎を伴う網脈絡膜炎のC2症例を報告した1).その後,1984年にCDreyerとCGassが網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管板レベルの黄色円形状病巣にぶどう膜炎を伴うC28例を報告して,現在の病名が付けられた2).自己免疫性の網脈絡膜炎と考えられ,平均発症年齢はC45歳で近視眼の女性に好発し,両眼性が多い3).約半数の症例で前房内や硝子体内に炎症を伴い,数個.数百個のC50.1,000Cμm大の黄白色の円形状病巣が乳頭周囲から中間周辺部に多発し,しばしば線状.曲線状に配列する.おもな病変部位は網膜色素上皮から脈絡膜内層で,経過とともに色素沈着を伴う瘢痕病巣を呈する.再発し慢性の経過をたどり,経過中にC30.40%で合併する脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が視力低下の主因となる2.4).今回,炎症の再燃時に片眼にCCNVを合併し,抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射とステロイドの内服により経過良好である症例を経験した.〔別刷請求先〕福井志保:〒874-0011大分県別府市内竈C1473別府医療センター眼科Reprintrequests:ShihoFukui,M.D.,DepartmentofOphthalmology,BeppuMedicalCenter,1473Uchikamado,Beppu,Oita874-0011,JAPANCacb図1初診時,初診月の眼底所見a:初診時両眼眼底写真.視神経乳頭と後極を囲むように,同心円状に黄白色の円形病巣があった.Cb:初診月の黄斑部COCT.黄白色病巣は網膜外層.網膜色素上皮下に存在し,網膜内の浸潤病巣の程度は部位により異なっていた.Cc:初診時フルオレセイン蛍光造影像.黄白色病巣は初期(上)は蛍光ブロックによる低蛍光,後期(下)は組織染を呈し,乳頭過蛍光もみられた.I症例34歳,女性,2016年CX月,数日前からの左眼の視野狭窄を主訴に前医を受診後,別府医療センター眼科に紹介となった.既往歴はなく,出産後C2カ月半で授乳中だった.視力は右眼=0.02(1.2C×sph.10.0D(cyl.6.0DAx180°),左眼=0.04(1.2C×sph.11.0D(cyl.4.5DAx180°),眼圧は右眼14CmmHg,左眼C26CmmHg,両眼前房炎症細胞C1+,硝子体腔の強い炎症があった.眼底は両眼に視神経乳頭周囲と乳頭と後極を囲むようにC50.500Cμm大の黄白色の円形病巣が多発,配列していた(図1a).光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)では病巣は網膜外層.網膜色素上皮下に存在し,浸潤の程度は部位により異なっていた(図1b).フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では黄白色病巣は初期は蛍光ブロックによる低蛍光,後期は組織染を呈し,乳頭過蛍光もみられた(図1c).前医でのCGoldmann視野検査では,左眼の鼻側の視野狭窄と右眼も軽度の下方視野狭窄があった(図2a).左眼鼻側の視野障害に一致してCOCTでCellipsoidCzoneの欠損がみられた.ぶどう膜炎の精査では血液検査,胸部CX線は異常なく,ツベルクリン反応は陽性,HLAはCDR4,DR9,A26,B60,B61だった.サルコイドーシス,HTLV-1感染,梅毒や結核の感染は否定的で,その他ウイルス抗体価の上昇もなかった.以上からCMCPと診断した.ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼両眼C1日C4回と左眼にトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射20Cmgを施行した.1カ月後に右ab図2Goldmann視野検査a:前医.左眼鼻下側の視野狭窄,右眼下方の軽度視野狭窄があった.Cb:両眼トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射後.両眼とも視野の改善がみられた.眼もトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射20Cmgを施行したところ,両眼とも視野の改善がみられた(図2b).初診C3カ月後,OCTでは左眼の網膜外層にあった病巣は消失し,網膜内層の引き込み像を形成していた(図3a).FAでは初診時と同様に黄白色病巣は初期は低蛍光,後期は組織染を呈し,乳頭過蛍光はみられず,初診時より消炎されていた.インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanine-greenangiography:IA)では病巣は初期から後期まで低蛍光を呈した(図3b).初診から半年,眼内の炎症は鎮静化し,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼両C1回としていたが,その後C1カ月間点眼を中止していた.ところが初診C7カ月後に左眼視力低下(0.05)をきたして受診した.左眼硝子体腔の炎症の再燃がみられ,OCTでは中心窩鼻側のC.brinの拡大,ellipsoidzoneは中心窩で断裂があった(図4a).FAでは再び乳頭過蛍光と中心窩鼻側の拡大する過蛍光があり,CNVを疑った(図4b).炎症の再燃に対しトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射C30Cmgを行うも視力改善に乏しく,FAでは病巣を橋渡しするような形態の過蛍光巣(図4c)がみられ,OCTangiography(OCTA)でCCNVが確認された(図4d).抗CVEGF薬硝子体内注射を施行し視力C0.8に改善するも,2カ月後には再び視力C0.1に低下し,抗CVEGF薬硝子体内注射C2回目を施行した.その後,再発予防のためプレドニゾロンC30Cmg/日より内服を開始,漸減した.5カ月後(初診C1年C3カ月後),CNVの再発はなく,左眼視力はC0.9で,ellipsoidzoneも明瞭化した(図5).CII考按多巣性脈絡膜炎(multifocalchoroiditis:MFC)は全身疾患を伴わず,急性に網膜色素上皮から脈絡膜レベルの斑点状病変をきたす急性白点症候群の一つであるが,その疾患概念はいまだ確立されているとはいえず,多巣性脈絡膜炎(MFC)のなかに本症例のCmultifocalCchoroiditisCandCpanu-veitis(MCP),進行性の網膜下線維増殖を伴うCdi.usesub-a図3初診3カ月後の所見a:左眼COCT画像.上は初診月,下はC3カ月後(同部位).網膜外層にみられた高輝度病巣がC3カ月後には消失し,内層の引き込み像を形成していた.b:初診C3カ月後の初期フルオレセイン蛍光造影(FA)像(左上),インドシアニングリーン蛍光造影(IA)像(右上)と,後期(広角)FA(左下),IA(右下).FAでは黄白色病巣は初期は低蛍光,後期は組織染を呈し,乳頭過蛍光はみられず,初診時より消炎されていた.IAでは病巣は初期から後期まで低蛍光を呈した.bretinal.brosissyndrome(DSF),点状脈絡膜内層症(punc-tuateCinnerchoroidopathy:PIC)のC3疾患を含むともいわれている4,5).3疾患の頻度はCMCP>PIC>DSFとされ,MCPは白人女性に多く海外では多数の症例報告3.5)があるが,わが国での報告は少ない.わが国における多巣性脈絡膜炎としての報告はC10例ほどあり,そのうちC7例はCDSF,別名CmultifocalCchoroiditisCassociatedCwithCprogressiveCsub-retinal.brosisとしての報告で,MCPとしての報告はわずかC1例だった6).しかし,2016年にC66施設が参加したレトロスペクティブなぶどう膜炎の全国統計7)では,診断が確定されたC3,408例(63.4%)のうち,20例(0.4%)が多巣性脈絡膜炎だった.DSFは網膜下線維増殖が著明であること,PICは前房内炎症を伴わず,滲出斑の分布が後極中心であることがおもな鑑別点となるが,鑑別困難である症例も多数存在し,これらが同一疾患と考えるほうが妥当である4,8).近年はとくにCMCPはCPICの重症型であるという見方が強く,共通した遺伝背景があるという報告9)や,Spaideら10)はC22例C38眼(MCP23眼,PIC15眼)をレトロスペクティブに再評価し,7例は左右眼で診断が異なり,どちらも活動期における主病巣は網膜色素上皮下と網膜外層で,治療法も同じでab図4初診7カ月後(炎症再燃時)の所見a:左眼COCT像.中心窩鼻側のC.brinは拡大しCellipsoidzoneは中心窩で断裂していた.Cb:左眼CFA初期と後期.乳頭過蛍光と中心窩鼻側の拡大する過蛍光巣があり,CNVを疑った.Cc:トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射後の左眼後期CFA.病巣を橋渡しする形態の過蛍光巣.d:OCTangiography.CNV(.)が確認された.図5抗VEGF硝子体内注射後(初診後1年3カ月)の左眼OCT像ellipsoidzoneは明瞭化した.あり両者を鑑別する臨床的実用性は限られているとしていれる部分や,網膜色素上皮の隆起ははっきりせず外網状層にる.OCTでは急性期の黄白色病巣は網膜外層や網膜色素上高輝度病巣がみられる部分もあった.そして時間とともに網皮下に炎症細胞の集簇による円錐形の高反射隆起性病変がみ膜内の病巣は消失し,網膜色素上皮は修復され内層の引き込られ,一部は色素上皮を貫いて網膜外層に滲出が及ぶ10).本み像を形成した.病巣により病期が異なっており,初診時に症例においても網膜色素上皮隆起の周囲に高輝度病巣がみら病期が異なる病巣が混在しているというのは既報でも散見された4).また,二つの瘢痕病巣を橋渡しするように生じたCNVの形態もCPICでみられる所見と同様で,病巣に隣接した部位では網膜色素上皮の反応性増殖や炎症反応が関与し,続発性CCNVは病巣を取り囲む領域に発症しやすいとされる8).本症例は前眼部と硝子体腔の炎症を伴い,滲出斑の分布からCMCPと診断した.黄白色病巣がおおよそ黄斑を中心に同心円状に配列した所見はCSchlaegelLinesといわれ,眼ヒストプラズマ症候群で赤道部にみられるCLinearstreaksに類似し,病巣が線状や曲線状に配列する11,12).本症例でも病巣が縦に配列する部分や両眼とも一部CDoubleSchlaegelLinesがみられ,非常に興味深い所見であるが,このように配列する理由は不明である.MCPやCPICではCIAにおいて検眼鏡所見よりも多くの低蛍光斑を呈し,脈絡膜の循環不全や炎症が病態の主座と考えられている.急性期の脈絡膜厚は厚く,脈絡膜血流速度は低下しているとされ13),低蛍光斑の原因として脈絡膜の低還流や血管閉塞などが想定されている.IAで曲線状に配列した低蛍光斑の下に脈絡膜中大血管が観察された報告がいくつかあり,本症例もCSchlaegelLinesや右眼乳頭脇の病巣部位では脈絡膜中大血管が描出されていた.病巣が配列する理由として,脈絡膜中大血管部位から同じ深さで広がった可能性などが考えられた.また,多巣性脈絡膜炎はCPICとともに,急性帯状潜在性網膜外層症(acuteCzonalCoccultCouterretinopathy:AZOOR)の類縁疾患(AZOORcomplex)の一つである.比較的若年の近視眼に急性の網膜外層障害を呈するなどの共通点があり,また同時に合併することもあり,同一スペクトラムにあると考えられている14).MFCではCMFCの病巣がみられない部位にもCOCTでCellipsoidzoneやCinterdigitationzoneの障害がみられ,視野障害を伴って発症することがある14).本症例においても左眼鼻側の視野障害を主訴に受診し,同部位に黄白色病巣はみられなかったが,ellipsoidzoneの消失がみられ,AZOORの所見と思われた.ステロイドのCTenon.下注射や内服により,AZOORによる視機能障害は改善されることが多く14),本症例もステロイドCTenon.下注射により比較的速やかにCellipsoidzoneの回復と視野の改善がみられた.また,ステロイド治療はMFCにおいて急性期の視力を改善させ,新たな病巣の出現やCCNVの発症を抑制するとされる.しかし,CNVに対しては効果が乏しいこともあり4,5),抗CVEGF薬硝子体内注射の有効性を示す報告は多く,数回の注射回数でCCNVはコントロールされるとしている15).本症例においても炎症の再燃時にステロイドCTenon.下注射では十分な視力の改善が得られず,OCTAでCCNVが明らかとなり,抗CVEGF薬硝子体内注射が奏効した.活動性の炎症病巣とCCNVはどちらも血液関門の破綻した浸潤病巣であるため鑑別困難なことがあり10),OCTAがその識別に有用とされる.また,MFCでは眼内の炎症がおちついている時期でも,病巣の拡大や新たな病巣の出現,CNVを発症するリスクは高く,これは炎症が網膜外層や網膜色素上皮に限局しているとされ12),Bruch膜の断裂がCCNV形成に関与する.本症例でも炎症の再燃がみられない時期にCCNVが再発し,ステロイドの内服により再発は抑制された.PICでは抗CVEGF薬硝子体内注射単独群と抗CVEGF薬硝子体内注射とステロイド内服の併用群を比較し,併用群ではCCNVの再発がなく,視力も明らかに改善したとする報告16)がある.MCPにおいても抗CVEGF薬とステロイドの併用がCCNV治療に有用と思われた.出産後C2カ月半でCAZOORを合併して発症しCSchlaegelLinesがみられ,CNVを合併した典型的なCMCPの症例を経験した.症例数が少なく,治療法については今後の症例の蓄積が望まれる.文献1)NozikCRA,CDorschW:ACnewCchorioretinopathyCassociat-edCwithCanteriorCuveitis.CAmCJCOphthalmolC76:758-762,C19732)DreyerRF,GassJDM:Multifocalchoroiditisandpanuve-itis.CACsyndromeCthatCmimicsCocularChistoplasmosis.CArchCOphthalmolC102:1776-1784,C19843)KedharCSR,CThorneCJE,CWittenbergCSCetal:MultifocalCchoroiditiswithpanuveitisandpunctuateinnerchoroidop-athy:comparisonCofCclinicalCcharacteristicsCatCpresenta-tion.RetinaC27:1174-1179,C20074)MorganCCM,CSchatzH:RecurrentCmultifocalCchoroiditis.COphthalmologyC93:1138-1147,C19865)BrownJJr,FolkJC,ReddyCVetal:VisualprognosisofmultifocalCchoroiditis,CpunctuateCinnerCchoroidopathy,CandCtheCdi.useCsubretinalC.brosisCsyndrome.COphthalmologyC103:1100-1105,C19966)永田美枝子,池田尚弘,鈴木聡ほか:MultifocalChoroi-ditisandPanuveitisのC1症例.眼紀C51:451-454,C20007)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmolC65:184-190,C20218)BrownCJCJr,CFolkJC:CurrentCcontroversiesCinCtheCwhiteCdotCsyndromes.CMultifocalCchoroiditis,CpunctateCinnerCcho-roidopathy,CandCtheCdi.useCsubretinalC.brosisCsyndrome.COculImmunolIn.ammC6:125-127,C19989)AtanCD,CFraser-BellCS,CPlskovaCJCetal:PunctateCinnerCchoroidopathyCandCmultifocalCchoroiditisCwithCpanuveitisCshareChaplotypicCassociationsCwithCIL10CandCTNFCloci.CInvestOphthalmolVisSciC52:3573-3581,C201110)SpaideRF,GoldbergN,FreundKB:Rede.ningmultifocalchoroiditisCandCpanuveitisCandCpunctateCinnerCchoroidopa-thyCthroughCmultimodalCimaging.CRetinaC33:1315-1324,C201311)SpaideCRF,CYannuzziCLA,CFreundKB:LinearCstreaksCinCmultifocalchoroiditisandpanuveitis.RetinaC11:229-231,C1991C12)TavallaliCA,CYannuzziLA:IdiopathicCmultifocalCchoroidi-tis.JOphthalmicVisResC11:429-432,C201613)HirookaCK,CSaitoCW,CHashimotoCYCetal:IncreasedCmacu-larCchoroidalCbloodC.owCvelocityCandCdecreasedCchoroidalCthicknessCwithCregressionCofCpunctateCinnerCchoroidopa-thy.BMCOphthalmolC14:73,C201414)SpaideCRF,CKoizumiCH,CFreundKB:PhotoreceptorCouterCsegmentCabnormalitiesCasCaCcauseCofCblindCspotCenlarge-mentinacutezonaloccultouterretinopathy-complexdis-eases.AmJOphthalmolC146:111-120,C200815)FineCHF,CZhitomirskyCI,CFreundCKBCetal:Bevacizmab(Avastin)andranibizumab(Lucentis)forCchoroidalCneo-vascularizationCinCmultifocalCchoroiditis.CRetinaC29:8-12,C200916)WuCW,CLiCS,CXuCHCetal:TreatmentCofCpunctateCinnerCchoroidopathyCwithCchoroidalCneovascularizationCusingCcorticosteroidCandCintravitrealCranibizumab.CBiomedCResCIntC2018:ArticleID1585803,7pages,2018C***

ぶどう膜炎で再発した節外性NK/T 細胞リンパ腫, 鼻型の1 例

2023年5月31日 水曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(5):678.684,2023cぶどう膜炎で再発した節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の1例案浦加奈子*1,2渡辺芽里*1川島秀俊*1*1自治医科大学眼科学講座*2古河赤十字病院眼科CACaseofNasal-typeNK/T-CellLymphomathatRecurredwithUveitisKanakoAnnoura1,2),MeriWatanabe1)andHidetoshiKawashima1)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KogaRedCrossHospitalC症例は妊娠C35週のC39歳,女性.全身倦怠感と歩行困難を主訴に前医受診.前医CMRIで右鼻腔から上咽頭の占拠性病変を認め,自治医科大学附属病院産科へ救急搬送された.緊急帝王切開後,鼻腫瘍の生検を行い,節外性CNK/T細胞リンパ腫,鼻型の診断となり,抗癌剤治療,自家末消血幹細胞移植が行われた.自家移植C2カ月後,左眼の霧視を主訴に当院眼科を受診.左眼に微細な角膜後面沈着物を伴う前房炎症を認め,ステロイド点眼で治療された.前房水検査はCEBV-DNA陽性であった.同時期に,全身に紅斑が出現し,皮膚生検でリンパ腫浸潤を認めた.翌週,虹彩浸潤を疑う所見を認め,超音波CBモード検査では脈絡膜浸潤を疑う所見を認めた.前房水細胞診はCclassVで,全脳・全脊椎・左眼の放射線治療,DeVIC療法が開始された.治療開始後,眼所見は改善したが,初診からC11カ月後に永眠された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCnasal-typeCNK/T-cellClymphomaCthatCrecurredCwithCuveitis.CCasereport:A39-year-oldfemalewhowas35-weekspregnantvisitedanoutsidecliniccomplainingofgeneralmalaiseandwalk-ingdi.culty.MRIshowedspace-occupyinglesionsintherightnasalcavityandnasopharynx,andshewassubse-quentlytransferredtoourhospitalfortreatment.Caesareansectionandbiopsyofthetumorwereconducted,lead-ingCtoCtheCdiagnosisCofCnasal-typeCNK/T-cellClymphoma.CAfterC2CmonthsCofCanti-cancerCtherapy,CsheCnoticedCblurredvisioninherlefteye,andwasreferredtooureyeclinic.In.ammationintheanteriorchamber(AC)wasnoted,andtreatedwithcorticosteroideyedrops.PCRrevealedthatthecellsintheACwereEBV-DNApositive,andCaCskinCbiopsyCrevealedClymphomaCinvasion.COneCweekClater,CsheCdevelopedCirisCin.ltration,CandCB-modeCultra-soundCimagingCshowedCchoroidalCinvasion.CCytologyCofCtheCcellsCinCtheCACCwasCclassCV,CandCradiotherapyCofCtheCwholeCbrain,Cspine,CandCleftCeyeCwasCstartedCwithCDeVICCtherapy.CConclusions:AlthoughCtheCocularC.ndingsCinCthiscaseimproved,thepatientsubsequentlypassedaway11monthsaftertheinitialvisit.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(5):678.684,C2023〕Keywords:NK/T細胞リンパ腫,ぶどう膜炎,悪性リンパ腫,脈絡膜浸潤,前房水検査.NK/T-celllymphoma,uveitis,malignantlymphoma,choroidalinvasion,cytologyofthecellsinAC.CはじめにNK/T細胞リンパ腫は,Epstein-Barrウイルス(Epstein-Barrvirus:EBV)との関連が特徴的とされ,東アジアに多いまれなリンパ系腫瘍である.全悪性リンパ腫に占める割合は,欧米諸国でC1%未満,東アジアでC3.10%,わが国では約C3%とされる.鼻咽頭などのほか,皮膚,消化管,精巣,中枢神経系などの節外部位に好発するのも特徴とされる1).眼内悪性のなかでCNK/Tリンパ腫と診断された報告は少なく,今回,筆者らは経過中ぶどう膜炎を発症したCNK/T細胞リンパ腫,鼻型のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:39歳,女性.主訴:左眼霧視.〔別刷請求先〕案浦加奈子:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:KanakoAnnoura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke-City,Tochigi329-0498,JAPANC678(100)図1b眼科初診時に開始された点眼治療21日後の左前眼部結膜毛様充血は消退したが,角膜後面沈着物は増えていた.図1a初診時の左前眼部所見結膜充血と微細な角膜後面沈着物を認めた.図2a眼科初診から45日後の頭部造影MRI左眼の虹彩・毛様体の造影効果が右眼と比較して目立つ(.).図2b眼科初診から49日後の左眼前眼部少量の前房出血を伴っている.図2c眼科初診から49日後の左後眼部前房出血の影響で透見性が悪いものの,明らかな網膜・脈絡膜病変はない.既往歴:15歳時にCBasedow病を発症,29歳でアイソトープ治療後,甲状腺機能低下に対してチラージン内服中,妊娠35週.家族歴:父:皮膚癌.現病歴:20XX年C2月,全身倦怠感と歩行困難を主訴に前医を受診し,MRI検査で右鼻腔から上咽頭の占拠性病変を認め,当院産科へ救急搬送された.緊急帝王切開後,鼻腫瘍の生検を行い,NK/T細胞リンパ腫鼻型の診断となった.免疫染色はCEBER1陽性であった.血液検査でCEBV-DNA値はC4.53CLogIU/mlであった.授乳は断念する方針となり,カベルゴリン内服のうえ断乳となった.当院血液科に転科し,SMILE療法(steroid,methotrexate,ifosfamide,L-asparaginase,etoposide)をC3クール行った.初診C5カ月後,血液中のCEBV-DNAは検出されなかったが,髄液細胞診でCclassVが判明し,自家末消血幹細胞移植が行われた.自家移植後C2カ月(初診C6カ月)で左眼霧視を主訴に当科を受診した.図3a眼科初診から56日後の左前眼部増量した前房出血と虹彩浸潤を疑う所見があり,眼底は透見できなかった.図3c細胞診N/C比の高い核形不整な異型リンパ球様細胞が多数みられる.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2),左眼(0.8).眼圧は右眼C9.0CmmHg,左眼C6.0CmmHgであった.左眼に結膜充血と微細な角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KP),cellC1+,.areC2+の前房炎症を認めた.中間透光体,後眼部には特記所見を認めなかった(図1a).右眼の前眼部および中間透光体には異常所見は認めなかった.眼科初診C3日前の内科の血液検査では,EBV抗CVCAIgG:160,EBV抗CVCAIgM:10倍未満,EB抗CEBNAFA:20,EBV-DNAは検出されなかったが,眼での局所再発を考え,左眼前房水を採取し,リアルタイムCPCR法でCEBV-DNA陽性が判明(2.9C×105cop-ies/ml)した.前房水サイトカイン検査の結果は,IL-10/IL-6はC20Cpg未満/35,800Cpg/mlであった.眼症状に対しては,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼投与を開始した.眼科初診からC17日後,血液科で採取した血液図3b眼科初診から56日後の左眼超音波Bモード網膜.離および脈絡膜浸潤を疑う所見を認めた.検査で移植後陰性だったCEBV-DNA値がC2.25CLogIU/mlとなり再上昇を認めたが,汎血球減少が続き,髄液検査および抗癌剤髄注ができない状態であった.眼所見は初診からC21日後には左眼視力は(1.2)と改善し,左眼結膜充血も消退したが,KPは徐々に拡大した(図1b).眼科初診からC45日後の頭部造影CMRIでは頭部,鼻腔に再燃は認めなかったが,左眼の虹彩・毛様体の造影増強効果が右眼と比較して目立った(図2a).眼科初診からC47日後,血液科で髄液検査を施行したところCclassVであった.同時期に全身に硬結を伴う紅斑が多発したため,皮膚科を受診したところ,皮膚生検でEBER-ISH陽性のリンパ腫浸潤を認めた.眼科初診からC49日後,左眼視力(0.2)となり,前房炎症の急激な悪化と,前房出血が出現した.後眼部に明らかな網膜・脈絡膜病変は認めなかった(図2b,c).眼科初診からC63日後には左眼(m.m.)となり,拡大した前房出血に加えて虹彩浸潤を疑う所見を認め,超音波CBモード検査では網膜.離と脈絡膜浸潤を疑う所見を認めた(図3a,b).前房水細胞診を提出したところCclassVであった(図3c).なお,採取検体が少量だったため,フローサイトメトリーや遺伝子再構成検査は行わなかった.以上より自家移植後の再発と診断され,MTX/AraC/PSL髄液注射(methotrexate,cytosinearabinoside,predniso-lone)を施行後,全脳,全脊椎へ放射線治療(30.6CGy/17Cfr)が開始された.左眼へのCNK/Tリンパ腫浸潤に対し放射線治療を行う方針とした.DeVIC療法(carboplatin,etopo-side,ifosfamide,dexamethasone)も開始された.眼科初診からC74日後には虹彩浸潤は消退し,前房炎症も軽減した.超音波CBモードの網脈絡膜所見も改善傾向であった(図4a,b).皮膚所見はいったん改善していたが数日で再燃・悪化して図4a左前眼部前房所見は改善をみた.図4b左眼超音波Bモード脈絡膜浸潤も消退した.図5a左前眼部前房炎症などの再燃は認めなかった.図5c左前眼部フルオレセイン染色角膜上皮障害が高度であった.図5b左前眼部後.下白内障をきたしていた.おり,再度生検を試みようとしたが,やはり血球減少が強く,一度断念された.眼科初診からC94日後に皮膚生検を行ったところ,classVとなり,皮膚所見の再燃と判断された.皮疹出現後C12日後に鼻閉感も出現し,CT検査で鼻粘膜の肥厚が指摘された.血球減少は継続して化学療法への反応もなく,同種移植などは適応外となった.追加治療困難となり,在宅での緩和治療へ移行となった.最終眼科受診時は,左眼視力(0.02)で,眼所見の再発は認めなかったが,放射線治療による角膜上皮障害が強く,後.下白内障をきたしていた(図5a,b,c).その後,当院初診からおよそC11カ月後(眼科初診からC157日後)に永眠された(経過をまとめて図5dに示す).6EBV-DNA(LogIU/ml)視力(左)0.81.20.2m.m.0.02眼所見角膜後面沈着物,cell1+,.are2+角膜後面沈着物拡大cell4+,.are4+前房出血cell4+,.are4+前房出血増加+虹彩浸潤網膜.離,脈絡膜浸潤前房水細脆診classVcell0,.are0虹彩浸潤消退,脈絡膜浸澗,網膜.離消退角膜上皮障害,後.下白内障図5d内科経過と眼科経過のまとめII考按節外性CNK/T細胞リンパ腫は,EBVとの関連が特徴の,アジアや中南米に多く,欧米に少ない腫瘍である.日本ではリンパ腫のなかで約C3%を占め1),2000年からC2013年に日本のC31施設で行われた多施設研究では,診断時年齢中央値はC40.58歳で,5年生存率は,限局性がC68%,進行性がC24%であった2).鼻腔のほか,皮膚,消化管,肝脾,中枢神経系などに発生しうるが,まれに眼症状原発の報告もある.眼症状としては,眼窩内浸潤に伴う眼球突出,眼瞼腫脹4,5),眼瞼下垂4),眼球運動障害3),ぶどう膜炎(硝子体混濁など)5.8),網膜周辺部の白色腫瘤8),視神経萎縮・腫脹3)などがある.初発症状が虹彩腫瘍だった報告もある10).NK/T細胞リンパ腫の診断は,前房水でCEBV-DNA測定や,前房水もしくは硝子体の細胞診でCEBER-ISH陽性,CD3陽性,CD56陽性で診断する4.9).ただし,前房水へのリンパ腫浸潤は節外性リンパ腫鼻型では非常にまれであるとされる9).今回の症例では,初回の前房水検査にてCEBV-DNA陽性であること,IL-10/IL-6<1であることが判明したが,この時点では,EBV関連ぶどう膜炎との鑑別ができなかった.また,EBVは正常な眼組織からも検出されるとの報告もあり13),NK/T細胞リンパ腫との関連は確定できなかった.しかし,その後の前房水検査で細胞診CclassVが判明しCIL-10上昇がなかったことより,NK/T細胞リンパ腫の眼内浸潤と診断した.今回は検体量の不足によりフローサイトメトリーや遺伝子再構成検査は施行できなかったが,那須らは,少量の検体でも液状化検体細胞診(liquidCbasedcytology:LBC法)を用いることで検査可能となることを示唆した9).また,既報では前房水のサザンブロット法によるCEBV-DNAの検出と細胞診との組み合わせで節外性CNK/Tリンパ腫の眼内浸潤を証明した報告もある14).検査可能な施設であれば前房水のサザンブロット解析も診断を行ううえで有用であったと考えられる.今回の症例には,SMILE療法やCDeVIC療法といった治療方法が選択されているが,節外性CNK/Tリンパ腫は,腫瘍細胞が多剤耐性(multidrugresistance:MDR)に関与するCP糖蛋白が高率に発現しているため,MDR関連薬剤であるドキソルビシンとビンクリスチンを含むCCHOP(cyclo-phosphamide,doxorubicinhydrochloride,oncovin,pred-nisolone)療法の治療効果は乏しいとされている1).近年では,MDR非関連薬剤と,EBV関連血球貪食症候群のCkeydrugであるエトポシドを組み合わせた化学療法,DeVICが標準的な治療とされており,進行期や再発・難治の症例に対してCL-asparaginaseを含むCSMILE療法の効果が期待されている.なお,放射線治療単独では局所制御・全身病変制御において不十分であるとされ,限局期においては単独での治療はなく化学療法と放射線治療も併用したCRT-2/3DeVIC療法を行うことにより,約C70%のC5年全生存割合が期待できる1).眼科領域への発症も,化学療法と放射線治療にMTX硝子体注射を併用した報告もある6,7).ただ,今井らは,硝子体液中でCEBV-DNAが高容量検出されるも,末梢血中のCEBV-DNA量が陰性であることから,節外性CNK/T細胞リンパ腫の診断がつかず,MTX硝子体注射単独治療を施行した症例を報告7)しているが,注射によって眼所見の改善は得られるも,治療後C2年後に僚眼のぶどう膜炎が急速に進行し,眼球内容除去術が余儀なくされた症例が報告されている.MTX硝子体注射単独での治療は一時的に症状の改善は得られるものの,リンパ腫の進行を完全に抑制することは困難であることが示唆される.しかし,HattaらはCNK/T細胞リンパ腫のC7例(87.5%)がC13カ月以内に死亡しており,従来の治療を積極的に行っても転移を起こしやすいと報告している15).治療前の血漿中CEBV-DNA量は,そのものが独立した予後因子となり,血中のCEBV-DNA量が高い患者群では,局所療法だけではコントロールがむずかしい可能性があることも示唆されており11),血中CEBV-DNAは病勢を示すマーカーとして,全身再発の可能性を検索するうえで非常に重要であると考えられる.今回の症例では,眼所見の悪化,皮膚症状の再発をきたす前に,血中CEBV-DNAの再上昇を認めていた.今回,前房水でCEBV-DNA陽性により眼局所再発が疑われたが,移植後の全身状態から追加の検査や治療が進められなかった.その時点で細胞診を行い腫瘍再発と認識された場合,内科の検査を積極的に進める理由になった可能性がある.本症例では放射線+DeVIC療法後すぐ皮膚所見が再発したことから,生命予後は変わらなかったと予想されるが,全身状態によっては早期に治療介入を行うことができる症例もある.よって,NK/T細胞リンパ腫に罹患している患者において,ぶどう膜炎様所見を認めた際には,積極的に前房水を採取してCEBV-DNA検査や組織細胞診などによる確定診断をめざすことが,生命予後改善の可能性を拡大するために重要と思われた.今回の症例のようなCNK/Tリンパ腫と妊娠の同時発生はまれであり,既報でも少数である16,17).妊娠後期に悪性腫瘍と診断された場合は,患者のリスクを考慮して出産後まで治療を延期する18).今回も緊急帝王切開を行い,ただちに妊娠を終了して治療を開始した.なお,抗悪性腫瘍薬は授乳婦への投与は禁忌であるので,今回も断乳を余儀なくされていた19).以上,妊娠の扱い,授乳,治療方針の決定など,全科的な連携を緊密に要する症例であった.今後も,集学的治療をさらに改善する努力が重要と思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山口素子:NK/T細胞リンパ腫に対するCSMILE療法.最新医学C68:118-123,C20132)YamaguchiCM,CSuzukiCR,COguchiCMCetal:TreatmentsCandCoutcomesCofCpatientsCwithCextranodalCnaturalCkiller/CT-cellClymphomaCdiagnosedCbetweenC2000Cand2013:ACCooperativeStudyinJapan.JClinOncolC35:32-39,C20173)HonC,KwokAKH,ShekTWHetal:VisionthreateningcomplicationsofnasalNK/Tlymphoma.AmJOphthalmolC134:406-410,C20024)濱岡祥子,高比良雅之,杉森尚美ほか:眼窩に生じた節外性CNK/T細胞リンパ腫,鼻型のC2症例.あたらしい眼科C31:459-463,C20145)花田有紀子,識名崇,前田陽平ほか:眼症状を契機に発見されたCNK/T細胞性リンパ腫の一症例.耳鼻免疫アレルギーC30:285-291,C20126)MaruyamaCK,CKunikataCH,CSugitaCSCetal:FirstCcaseCofCprimaryCintraocularCnaturalCkillerCt-cellClymphoma.CBMCCOphthalmolC15:169,C20157)ImaiCA,CTakaseCH,CImadomeCKCetal:DevelopmentCofCextranodalCNK/T-cellClymphomaCnasalCtypeCinCcerebrumCfollwingCEpstein-BarrCvirus-positiveCuveitis.CInternCMedC56:1409-1414,C20178)TagawaCY,CNambaCK,COgasawaraCRCetal:ACcaseCofCmatureCnaturalCkiller-cellCneoplasmCmanifestingCmultipleCchoroidallesions:primaryCintraocularCnaturalCkiller-cellClymphoma.CaseRepOphthalmolC6:380-384,C20159)那須篤子,市村浩一,畠榮ほか:前眼房水に浸潤した節外性CNK/T細胞リンパ腫,鼻型のC1例.日本臨床細胞学会雑誌C55:89-93,C201610)相馬実穂,清武良子,平田憲ほか:ぶどう膜炎症状で発症したCNK/T細胞リンパ腫のC1例.臨眼C64:967-972,C201011)磯部泰司:各臓器別の最新治療と新薬の動向.241-252,C201212)RamonL,OsarJ,NursingA:Tumoroftheeyeandocu-larCadnexa.CWashington,CD.C.,CArmedCForcesCInstituteCofPathology:30-31,200613)薄井紀夫,坂井潤一,白井正彦ほか:正常眼内組織におけるCEpstein-Barrvirus(EBV)レセプターの発現.あたらしい眼科C10:435-440,C199314)KaseCS,CNambaCK,CKitaichiCNCetal:Epstein-BarrCvirusCinfectedCcellsCinCtheCaqueousChumourCoriginatedCfromCnasalCNK/TCcellClymphoma.CBrCJCOphthalmolC90:244-245,C200615)HattaCC,COgasawaraCH,COkitaCJCetal:NonCHodgkin’sCmalignantClymphomaCofCtheCsinonasalCtractC─CtreatmentCoutcomeCforC53CpatientsCaccordingCtoCREALCclassi.cation.CAurisNasusLarynxC28:55-60,C200116)MelgarCMoleroCV,CRedondoCRG,CMesoneroCRPCetal:CExtranodalNK/Tcelllymphomanasaltypeinapregnantwoman.JAADCaseReports,June01,201717)HeM,JingJ,ZhangJetal:Pregnancy-associatedhemo-phagocyticClymphohistiocytosisCsecondaryCtoCNK/TCcellslymphoma:Acasereportandliteraturereview.MedicineC(Baltimore)96:e8628,C201718)ZaidiCA,CJohnsonCLM,CChurchCCLCetal:ManagementCofCconcurrentCpregnancyCandCacuteClymphoblasticCmalignan-cyCinteenagedCpatients:TwoCIllustrativeCcasesCandCreviewoftheliterature.JAdolescYoungAdultOncolC3:C160-175,C201419)藤森敬也,経塚標:医薬品副作用学(第C3版)上─薬剤の安全使用アップデート─特に注意すべき患者・病態への対応妊産婦・授乳婦.日本臨床C77医薬品副作用学(上):C385-390,C2019C***

抗HIV 治療中に再燃を繰り返したリファブチンによる ぶどう膜炎の1 例

2023年5月31日 水曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(5):674.677,2023c抗HIV治療中に再燃を繰り返したリファブチンによるぶどう膜炎の1例中島幸彦*1,2榛村真智子*1高野博子*1田中克明*1蕪城俊克*1渡辺芽里*2川島秀俊*2*1自治科医科大学附属さいたま医療センター眼科*2自治医科大学眼科学講座CACaseofRecurrentUveitisCausedbyRifabutininaPatientUndergoingHIVTreatmentYukihikoNakajima1,2),MachikoShimmura1),HirokoTakano1),YoshiakiTanaka1),ToshikatsuKaburaki1),MeriWatanabe2)andHidetoshiKawashima2)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC目的:再燃を繰り返したリファブチンによるぶどう膜炎のC1例を経験したので報告する.症例:73歳,男性.後天性免疫不全症候群に対し抗ヒト免疫不全ウイルス治療薬が,腹腔内非結核性抗酸菌症に対してクラリスロマイシン,エタンブトール,リファブチンが処方されていた.両眼性のぶどう膜炎で左眼に前房蓄膿を認めたため自治医科大学附属さいたま医療センターに紹介となった.ベタメタゾン点眼で改善するが,点眼を漸減すると再燃した.ぶどう膜炎の原因としてリファブチンを考え内服量を減量したが,ぶどう膜炎の再燃は継続した.そこでリファブチンを中止したところ,ぶどう膜炎が鎮静化したため,リファブチンによるぶどう膜炎であったと考えた.結論:原因不明のぶどう膜炎では,薬剤性の可能性を考慮に入れる必要がある.リファブチンによるぶどう膜炎では,リファブチンを減量しても内服を継続するとぶどう膜炎が再燃することがあり,そのような場合リファブチンの中止を検討する必要がある.CPurpose:Toreportacaseofrifabutin-induceduveitisthatrecurredrepeatedly.Casereport:A73-year-oldmaleCwhoCwasCundergoingCanti-humanCimmunode.ciencyCvirusCtherapeuticsCprescribedCforCacquiredCimmuneCde.ciencyCsyndromeCandCclarithromycin,Cethambutol,CandCrifabutinCprescribedCforCintraperitonealCnon-tuberculosisCmycobacteriaCwasCreferredCtoCourChospitalCdueCtoCtheCdevelopmentCofCbilateralCuveitisCandCaChypopyonCinChisCleftCeye.Theuveitisimprovedwithbetamethasoneeyedrops,butrecurredwhenthedropsweretaperedo..Consider-ingCthatCrifabutinCwasCtheCcauseCofCtheCuveitis,CtheCoralCdoseCwasCreduced,CyetCrecurrenceCofCuveitisCcontinued.CWhenCoralCadministrationCofCrifabutinCwasCdiscontinued,CtheCuveitisCsubsided.CWeC.nallyCdiagnosedCtheCpatientCasCrifabutin-induceduveitis.Conclusions:Incasesofuveitisofunknownorigin,drug-induceduveitisshouldbecon-sidered.Rifabutin-induceduveitismayrecuriforalrifabutiniscontinued,evenifthedoseisreduced,andrifabutinshouldbediscontinuedinsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(5):674.677,C2023〕Keywords:ぶどう膜炎,リファブチン.uveitis,rifabutin.はじめにぶどう膜炎にはC50種類近い原因病名があり1),治療法,再燃の頻度や起こりやすい合併症や視力予後がかなり異なる.ぶどう膜炎の治療方針を決定するにあたって,ぶどう膜炎の原因を推測し,可能な限り特定すること(鑑別診断)は非常に重要である2).ぶどう膜炎の原因としては感染や自己免疫的な機序が多いが,それ以外にも薬剤が原因となる薬剤性ぶどう膜炎が知られている3).薬剤性ぶどう膜炎は薬剤が原因ではないかと疑わないと診断に難渋するのみならず,原因薬剤の服用を継続するとぶどう膜炎の再燃を繰り返すことがある.今回,筆者らは再燃を繰り返したリファブチンによるぶど〔別刷請求先〕中島幸彦:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼学講座Reprintrequests:YukihikoNakajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke-City,Tochigi329-0498,JAPANC674(96)図1初診時の左眼前眼部所見毛様充血,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前房内炎症を認めた.図3左眼再燃時の前眼部所見毛様充血,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前房内炎症を認めた.う膜炎を経験したので報告する.CI症例患者:73歳,男性.主訴:両目の視力低下,充血.既往歴:眼科疾患の既往はなし.後天性免疫不全症候群(acquiredCimmunede.ciencyCsyndrome:AIDS)に対し抗ヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunode.ciencyvirus:HIV)治療薬内服中,腹腔内非結核性抗酸菌(non-tuberculo-sismycobacteria:NTM)症に対しCX年C3月よりクラリスロマイシン(clarithromycin:CAM)600Cmg/日,エタンブトール(ethambutol:EB)1,000Cmg/日,リファブチン(rifabutin:RBT)300mg/日を内服中であった.現病歴:X年C6月,右眼の充血,視力低下で近医を受診した.初診時右眼矯正視力(0.4),右眼眼圧はC14CmmHgであった.右眼ぶどう膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼,レ図2右眼再燃時の前眼部所見毛様充血,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前房内炎症を認めた.ボフロキサシン点眼,トロピカミド・フェニレフリン点眼で症状は改善した.2週間後,左眼の視力低下が出現した.近医を再診し,左眼に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を認めた.同日,自治医科大学さいたま医療センター(以下,当院)眼科に紹介となり初診した.初診時(X年C7月)所見:矯正視力は右眼(0.5C×sph.4.00CD(cyl.1.50DCAx95°),左眼30cm指数弁(矯正不能),眼圧は右眼C7CmmHg,左眼C10CmmHgであった.右眼は炎症軽度であり,中間透光体,眼底に明らかな異常を認めなかった.左眼は毛様充血を認め,前房蓄膿,微塵様角膜後面沈着物(.nekeratoprecipitates:.neKP)を伴う強い前眼部炎症を認めた(図1).左眼は濃厚な硝子体混濁のため眼底は透見不良であった.原因検索として採血,胸部CX線撮影を行った.ぶどう膜炎の鑑別に関する採血では,末梢血白血球2,400/μl,末梢血赤血球C3.98C×106/μlと軽度低下,血清クレアチニンC1.34Cmg/dlと軽度上昇を認めたが,C反応性蛋白は正常であった.梅毒血清反応(RPR法),bDグルカンは陰性,ヘルペスウイルス抗体価は単純ヘルペスCIgG(EIA法)2.0未満(基準値:2未満),水痘・帯状ヘルペスCIgG(EIA法)3.7(基準値:2未満),サイトメガロウイルスCIgG(EIA法)157(基準値:2未満)であった.胸部CX線では明らかな異常所見を認めなかった.また,口腔内アフタ,皮膚症状,外陰部潰瘍といったCBehcet病を示唆する身体所見を認めなかった.経過:初診時時点では急性前部ぶどう膜炎がもっとも疑わしいと考え,左眼にもベタメタゾン点眼,レボフロキサシン点眼,トロピカミド・フェニレフリン点眼を開始し,症状は改善した.両眼とも点眼は漸減したところ,X年C9月,右眼ぶどう膜炎の再燃を認めた.右眼再燃時(X年C9月)所見:矯正視力右眼C30Ccm指数弁(矯正不能),左眼(0.6C×sph.5.00D(cyl.4.00DAx85°),眼圧は右眼C7CmmHg,左眼C10CmmHgであった.右眼は毛様充血を認め,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前眼部炎症を認めた(図2).右眼は濃厚な硝子体混濁のため眼底は透見不良であった.左眼は前房内に炎症所見を認めず,中間透光体,眼底にも明らかな異常を認めなかった.本症例はCAIDSの既往があり,抗ウイルス薬内服中であった.末梢血中のCHIVウイルス量のコントロールは良好であったが,末梢血中CCD4陽性リンパ球数はC100/mmC3程度と不良であった.このことから,自己免疫機序によるぶどう膜炎は否定的と考えた.感染性ぶどう膜炎としてはヘルペスウイルスによる虹彩炎や細菌性眼内炎の可能性を考えたが,ぶどう膜炎が両眼性であること,非肉芽腫性で前房蓄膿を伴う急性虹彩毛様体炎であることからウイルス性虹彩炎は否定的であると考えた.また,ステロイド点眼だけでぶどう膜炎が消退したことから,細菌性眼内炎の可能性は考えにくく,感染性ぶどう膜炎よりもCRBTによる薬剤性ぶどう膜炎の可能性を疑った.当院内科にCRBTの中止を依頼したところ,他に適当な薬がないためCRBTの内服はC300mg/日からC150mg/日に減量となった.右眼のぶどう膜炎はベタメタゾン点眼を増量したところ,症状は改善した.ベタメタゾン点眼の回数を漸減し,X年10月点眼を終了した.しかしその後,X年C11月,左眼ぶどう膜炎の再燃を認めた.左眼再燃時(X年C11月)所見:矯正視力右眼(0.8C×sphC.4.00D(cyl.2.00DCAx100°),左眼(0.3C×sph.4.00D(cyl.4.00DAx90°),眼圧は右眼10mmHg,左眼11mmHgであった.右眼は炎症所見を認めず,中間透光体,眼底に明らかな異常を認めなかった.左眼は毛様充血を認め,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前眼部炎症を認めた(図3).左眼は硝子体混濁のため眼底は透見不良であった.再度,当院内科にCRBTの中止を依頼し,内服中止となった.左眼にベタメタゾン点眼を再開したところ,ぶどう膜炎は改善した.ベタメタゾン点眼を漸減し,X+1年1月,両眼とも点眼を中止した.その後ぶどう膜炎の再燃を認めず,CX+1年C2月,当科終診となった.終診時,矯正視力右眼(1.2C×sph.4.25D(cyl.2.00DCAx100°),左眼(1.0C×sphC.3.50D(cyl.3.00DAx70°),眼圧は右眼11mmHg,左眼C12CmmHg,両眼とも前房内,中間透光体,眼底に異常所見を認めなかった.CII考按RBTとはマイコバクテリウム属に対する抗菌薬である.適応症は結核症,mycobacteriumCaviumcomplex(MAC)症を含むCNTM症,HIV感染患者における播種性CMAC症の発生予防である.RBTは同系統薬(リファマイシン系)のリファンピシン(RFP)の使用が困難な場合に使用するよう定められている4).RFPの使用が困難な場合の代表的な例は,本症例のようなCAIDS患者である.リファマイシン系薬剤は肝臓におけるチトクロームCP450(CYP3A4)の誘導作用が強い.CYP3A4はプロテアーゼ阻害薬や非核酸系逆転写酵素阻害薬といった抗CHIV薬の代謝を促進するため,抗CHIV作用が低下する.RFPのほうがCCYP3A4の誘導作用が強く,RFPは多くのCHIV治療薬と併用禁忌となっている.一方,RBTはCRFPよりCCYP3A4の誘導作用が弱く,抗CHIV治療薬の選択肢は多くなる5).そのため,AIDS患者にはCRBTの投与が考慮される.RBTの副作用としてぶどう膜炎が知られている4).一方で,RFPの副作用にぶどう膜炎は認められていない6).RBTによるぶどう膜炎の頻度は,特定使用成績調査ではC2.72%であった7).文献報告ではC39%8),15%9)との報告がある.RBT単体ではC1.8%だが,CAMと併用した場合はC8.5%となるとの報告もある10).これは,CAMによりCCYP3A4が阻害され,RBT濃度が上昇するためと考えられている11).RBTのぶどう膜炎の症状は急性前部ぶどう膜炎に類似しており,眼痛,羞明,霧視,視力低下,毛様充血,.neKP,前房蓄膿などを認める11).両眼発症が多いとの報告があるが8),本症例のように時間差をおいて両眼発症となることもある.RBTやその代謝物による中毒,もしくは死滅した抗酸菌または菌の放出物に対するアレルギー性炎症反応が原因と推測されているが11,12),RBTの容量依存性に発症すること,抗酸菌に未感染のCAIDS患者に対し播種性CMAC症の発症予防にCRBTを投与した場合にも発症例があることから,RBTによる中毒との説が有力である11.13).RBTの内服開始からぶどう膜炎の発症まではC2カ月前後との報告が多い8,11,12).治療はステロイド点眼による消炎と散瞳薬点眼による瞳孔管理を行う11.13).原因となるCRBTの減量もしくは休薬も必要である11.13).本症例はCAIDSを発症し抗CHIV治療中に両眼に交互に非肉芽腫性で前房蓄膿を伴う急性虹彩毛様体炎を繰り返した.末梢血中CCD4陽性リンパ球数の低下もみられたため,感染性ぶどう膜炎の可能性も考えられた.しかし,感染性ぶどう膜炎では一般に肉芽腫性の虹彩炎を呈することが多く14),とくにヘルペスウイルス属による虹彩炎では片眼性がC95%以上を占めることが知られている15).そのため,本症例はヘルペスウイルスによる可能性は低いと考えた.またステロイド点眼だけでぶどう膜炎が消退したことから,細菌性眼内炎も否定的であると考えた.また,抗CHIV治療中であり免疫再構築症候群としてのぶどう膜炎の可能性も考えられた.しかし,抗CHIV治療の開始はぶどう膜炎発症よりおよそC1年半前で期間がずれており,可能性は低いと考えた.本症例では,ぶどう膜炎の再燃が生じた際にCRBTによるぶどう膜炎の可能性を推測することができ,内科医にCRBTの中止を依頼することができた.本症例のような全身疾患を持つ原因不明のぶどう膜炎症例では,薬剤性ぶどう膜炎の可能性を考慮する必要がある.また,本症例ではCRBTを減量したにもかかわらず,ぶどう膜炎が再燃した.ぶどう膜炎の再燃を防ぐという意味では,RBTの減量よりも中止が好ましい.しかし,結核治療においてCRFP,RBTはイソニアジドとともに中核となる薬であり,RBTはCRFPが使用できない場合に選択される薬である16).活動性の結核患者では,RFPが使えない場合,たとえぶどう膜炎が生じたとしてもCRBTを中止することは困難である.したがって本症のようなCRBTによるぶどう膜炎では,ぶどう膜炎の再燃を防ぐために結核治療が終了するまでステロイド点眼を持続するなどの対応が必要となることもありうると考えられる.幸い本症例では,RBTを中止することによりぶどう膜炎は沈静化し,CAM,EBの継続により腹腔内CNTM症の増悪はみられなかった.RBTによるぶどう膜炎では,RBTを減量しても内服を継続するとぶどう膜炎が再燃することがあり,そのような症例ではCRBTの中止を検討する必要があると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmolC65:184-190,C20212)蕪城俊克:中途失明の可能性のある疾患とその検査/治療.ぶどう膜炎の鑑別診断法を教えて下さい.あたらしい眼科C36(臨増):70-74,C20193)AgarwalCM,CDuttaCMajumderCP,CBabuCKCetal:rug-induceduveitis:ACreview.CIndianCJCOphthalmolC68:C1799-1807,C20204)ミコブティンCRカプセルC150mg添付文書https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00055823.pdf5)HIV感染症および血友病におけるチーム医療の構築と医療水準の向上を目指した研究班:抗CHIV治療ガイドライン2022年C3月https://hiv-guidelines.jp/pdf/guideline2022.Cpdf6)リファンピシンカプセルC150mg「サンド」添付文書Chttps://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00058339.pdf7)ミコブティンCRカプセルC150CmgインタビューフォームChttps://www.p.zermedicalinformation.jp/ja-jp/system/C.les/content_.les/mbt01if_0.pdf8)ShafranCSD,CDeschenesCJ,CMillerCMCetal:UveitisCandCpseudojaundiceduringaregimenofclarithromycin,rifab-utin,andethambutol.MACStudyGroupoftheCanadianHIVTrialsNetwork.NEnglJMedC330:438-439,C19949)KelleherP,HelbertM,SweeneyJetal:Uveitisassociat-edwithrifabutinandmacrolidetherapyforMycobacteri-umCaviumCintracellulareCinfectionCinCAIDSCpatients.CGeni-tourinMedC72:419-421,C199610)BensonCCA,CWilliamsCPL,CCohnCDLCetal:ClarithromycinCorCrifabutinCaloneCorCinCcombinationCforCprimaryCprophy-laxisofMycobacteriumaviumcomplexdiseaseinpatientswithAIDS:ACrandomized,Cdouble-blind,Cplacebo-con-trolledCtrial.CTheCAIDSCClinicalCTrialsCGroupC196/TerryCBeirnCCommunityCProgramsCforCClinicalCResearchConCAIDSC009CProtocolCTeam.CJCInfectCDisC181:1289-1297,C200011)齋藤智一,尾花明,土屋陽子ほか:抗酸菌症治療薬リファブチンによりぶどう膜炎を生じたC3例.日眼会誌C115:C595-601,C201112)廣田和之:PhotoQuiz20歳代後半,男性.前日からの左眼の痛み,充血.毛様充血と前房蓄膿を認める.診断は?.HIV感染症とCAIDSの治療C8:42-45,C201713)日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会,日本呼吸器学会感染症・結核学術部会:肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解─C2012年改訂.結核C87:83-86,C201214)佐藤智人:見逃してはいけないぶどう膜炎の診療ガイド.肉芽腫性前部虹彩炎.オクリスタC37:9-18,C201615)TeradaCY,CKaburakiCT,CTakaseCHCetal:DistinguishingCfeaturesCofCanteriorCuveitisCcausedCbyCherpesCsimplexCvirus,Cvaricella-zosterCvirus,CandCcytomegalovirus.CAmJOphthalmolC227:191-200,C202116)日本結核・非結核性抗酸菌症学会教育・用語委員会:結核症の基礎知識改訂第C5版.結核C96:93-123,C2021***

ぶどう膜炎によって発見された梅毒の1 例

2022年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科39(9):1272.1276,2022cぶどう膜炎によって発見された梅毒の1例西崎理恵平野彩和田清花砂川珠輝小菅正太郎岩渕成祐昭和大学江東豊洲病院眼科CACaseofSyphilisDiagnosedviaaUveitisExaminationRieNishizaki,AyaHirano,SayakaWada,TamakiSunakawa,ShotaroKosugeandShigehiroIwabuchiCDepartmentofOphthalmology,ShowaUniversityKotoToyosuHospitalC諸言:近年,梅毒は増加傾向であり,また症状は多彩である.今回,眼科受診を契機に梅毒と診断された症例を経験したので報告する.症例:49歳,男性.両視力低下で近医を受診後,ぶどう膜炎の診断で精査加療目的に昭和大学江東豊洲病院紹介受診となった.初診時矯正視力は右眼C0.4,左眼C1.2,両眼硝子体混濁と左眼網膜静脈分枝閉塞症様出血を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査で両眼網膜血管炎と周辺部網膜の無血管野を認めた.血液検査を行い,梅毒CTP抗体,RPR定量,FTA-ABS定量から梅毒性ぶどう膜炎と診断した.ペニシリン大量点滴療法,ステロイド内服,網膜光凝固術で硝子体混濁は消失し,視力は両眼C1.2に回復した.考察:今回の症例は,網膜炎発症から間もないうちにペニシリン大量点滴療法を施行したことから,眼底に変性を残さずに完治したと考えられる.結論:近年,梅毒感染が増加し,症状が多彩であることから,ぶどう膜炎診察時には梅毒血清反応をルーチンに検査する必要があることを今回再認識できた.CPurpose:Inrecentyears,thenumberofsyphilispatientshasbeenincreasing.Symptomsandeyelesionsarenonspeci.c,andtheirappearancecanvary.Herewereportacaseofsyphilisdiscoveredduringanophthalmologi-calexamination.CaseReport:A49-year-oldmalepresentedafterbecomingawareofalossofvisualacuity(VA)CandCsubsequentlyCbeingCdiagnosedCwithCuveitisCatCaClocalCclinic.CUponCexamination,ChisCcorrectedCVACwasC0.4CODCand1.2OS,andbilateralvitreousopacitywasobserved.Abloodtestwasperformed,thusleadingtoadiagnosisofsyphilis.ThevitreousopacitydisappearedandhiscorrectedVArecoveredto1.2inbotheyesviahigh-dosepeni-cillininfusiontherapy,oralsteroids,andretinalphotocoagulation.Conclusion:The.ndingsinthiscaserevealtheimportanceofroutinelyperformingbloodtestsforsyphiliswhentreatingpatientswithuveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(9):1272.1276,C2022〕Keywords:梅毒,ぶどう膜炎,ペニシリン大量点滴療法.syphilis,uveitis,penicillinhigh-doseinfusiontherapy.はじめに近年,梅毒の報告数は増加傾向にある1).とくに働き盛りの年代で患者が多く発生している.梅毒は多彩な全身症状を示し2),眼病変も非特異的である3,4).今回,感染経路が不明で全身症状がなく,眼科受診によって梅毒が発見された症例を経験したので報告する.CI症例患者:49歳,男性.主訴:両眼視力低下,霧視,飛蚊症.既往歴:1年前に皮疹で皮膚科受診歴あり.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:近医眼科にて両眼硝子体混濁と診断され,精査加療目的で紹介受診となった.初診時眼科所見:矯正視力は右眼(0.4),左眼(1.2),眼圧は右眼C10.3CmmHg,左眼C9.7CmmHgであった.前眼部には炎症所見やその他視力低下をきたす異常は認めなかった.中間透光体は両眼に硝子体混濁を認めた.眼底は両眼に細動脈の狭小化や蛇行を認め,左耳側網膜に網膜静脈分枝閉塞症様の網膜出血を認めた(図1).フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)で網膜動脈と静脈からの蛍光漏出,両眼周辺部網膜に無血管領域を認めた(図2).以上〔別刷請求先〕西崎理恵:〒135-8577東京都江東区豊洲C5-1-38昭和大学江東豊洲病院眼科Reprintrequests:RieNishizaki,DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversityKotoToyosuHospital,5-1-38Toyosu,Koto-ku,Tokyo135-8577,JAPANC1272(114)図1初診時眼底写真a:右眼,b:左眼.両細動脈の蛇行,狭小化,左眼耳側網膜に網膜静脈分枝閉塞症様の網膜出血を認めた.図2初診時フルオレセイン蛍光造影(FA)a:右眼,b:左眼.両眼に網膜血管炎と,両眼の周辺部網膜に無血管領域を認めた.より動脈炎,静脈炎があると判断し,また血管閉塞,無血管領域も生じていることから,感染性ぶどう膜炎の可能性が高い5)と考えられた.血液検査はCCRP1.17,梅毒トレポネーマ(TP)抗体陽性を認めた.このことから追加で血液検査を行ったところ,迅速プラズマレアギン(rapidCplasmareagin:RPR)定量C64倍,FTA-ABS定量C1,280倍と上昇を認めたことから梅毒性ぶどう膜炎と診断した.また,同時にヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.ciencyvirus:HIV)抗原も検査を行ったが陰性であった.梅毒の感染機会を患者に聴取するも感染経路は不明であった.経過:神経梅毒に準じたペニシリン大量点滴療法をすすめたが,本人の都合ですぐに入院することができず,アモキシシリン内服C1,500Cmg/日をC12日間投与した.しかし,硝子体混濁の程度や眼底所見の改善はみられなかった.初診から15日目に入院し,駆梅療法としてペニシリンCG1,800万単位/日点滴をC14日間投与した.炎症の改善に乏しかったことからプレドニンC30Cmg/日の内服も併用した.点滴治療C10日目に神経梅毒スクリーニング目的に神経内科を受診し髄液検査を行った.高次脳機能障害やCArgyllRobertson瞳孔を含む神経学的所見は認めなかったが,髄液細胞数C18/μl,髄液蛋白C42Cmg/dl,髄液中の梅毒血清反応(FTA-ABS定性)が陽性となり,無症候性神経梅毒と診断され神経内科での経図3点滴14日間+内服24日後のフルオレセイン蛍光造影(FA)a:右眼,b:左眼.網膜血管炎は改善傾向だが,両眼周辺部網膜に無血管領域が悪化した.図4治療終了後57日目の眼底写真a:右眼,b:左眼.硝子体混濁はほぼ消失した.過観察を受けることになった.点滴C14日目には両眼硝子体混濁は減少し,矯正視力は右眼C0.9,左眼C1.2に改善した.その後はアモキシシリンC1,500Cmg/日内服とプレドニンC30mg/日内服を行った.点滴加療終了後C24日目の血液検査では,RPR定量C32倍,FTA-ABS定量C1,280倍とCRPRの減少を認めた.FAでは両網膜血管炎は改善傾向であったが,両眼周辺部網膜の無灌流領域は増加したため(図3),その後無血管領域に光凝固を施行した.点滴治療後の内服はC197日間行い,その後は経過観察を行った.治療終了後C57日目の検査で矯正視力は右眼C1.2,左眼C1.2,眼圧は右眼12.7mmHg,左眼はC12.7CmmHg,両眼硝子体混濁はほぼ消失し(図4),血液検査は梅毒CTP抗体陽性,RPR定量C8倍,FTA-ABS定量C640倍と有意に改善を認め,ガイドラインの定める治癒基準(RPRがC2倍系列希釈法でC4分の1)を達成した.治療終了から約C1年後も両眼矯正視力C1.2が維持され,梅毒CTP抗体陽性,PRP定量C8倍,FTA-ABS定量C320倍と経過は良好である.CII考按以前は減少傾向と考えられていた梅毒だが,近年,性生活の多様性などから報告数は増加傾向となっている1).2010年以降は男性と性交をする男性(menCwhoChaveCsexCwithmen:MSM)を中心とした感染が増加していたが,その後,国立感染症研究所がC2018年に行った都内の医療機関で診断された第CI期,II期梅毒患者を対象とした調査では,2014年以降は異性間の感染事例が急増し,2015年にはCMSMを上回ったとされており,2016.2018年にはCMSMおよび男性の異性間性的接触の増加はみられないが女性の異性間の感染事例は引き続き増加していると報告している.さらに,女性の異性間性的接触による感染のうち性風俗産業従事歴は64.7%,利用歴(直近C6カ月以内)は男性の異性間性的接触のC68.8%と報告されており,異性間性的接触増加の背景には性風俗産業従事者・利用者の感染があると考察されている.梅毒への偏見から患者自身が感染を伏せようとする場面に実臨床でしばしば遭遇する.本症例では感染経路に関する情報を問診から得られなかったが,感染経路が推測されればパートナーへ注意喚起を行うなど対策を講じることが可能となるが,このような偏見も感染の一因となっている可能性が考えられる.梅毒の初期症状として皮膚所見が一般的に知られているが,患者自身に梅毒感染の心当たりがあっても診察に対する羞恥心から受診につながらない可能性が考えられる.しかし,眼症状の一般での認知度は低く,また自覚として表れやすいことから,患者は梅毒を疑わずに病院を受診し,偶発的に感染が発覚することが多いと推測される.こういった患者を見逃さず全身治療につなげることが大切である.梅毒性ぶどう膜炎は全ぶどう膜炎の原因疾患のなかでC0.4%にすぎず4,6,7),また海外の報告では梅毒患者がぶどう膜炎を起こす割合はC1.8%程度と報告されており8),頻度は少ないものの特異的な所見がなく,多彩な症状を呈する.このことから梅毒性ぶどう膜炎を疑って診察や問診,血液検査などを行い,総合的に判断することが必要であり,ルーチンで梅毒血清反応を行うことが必要であると考えられた.また,梅毒とCHIVの混合感染も多く報告されており,混合感染例では眼梅毒を発症しやすく発症時期や進行が早いとの報告や,HIV感染者は非感染者より治療反応性が悪く,再発が多い9)との報告もあり,梅毒血清反応陽性を認めた際には,同時にHIVも検査が必要である4,6,8,10).ぶどう膜炎はいずれのステージにおいても生じうるが11),一般的には第二期または第三期にみられるといわれている.本症例では眼以外の所見に乏しく,病期の判定は困難だが,1年前に皮疹で皮膚科受診歴があり,これが梅毒によるものならば少なくとも発症からC1年以上が経過しており第二期または第三期である可能性が高く,眼梅毒が発症する好発ステージと矛盾はない.治療に関しては米国疾病予防管理センター(CenterCforCDiseaseCControlCandPrevention:CDC)が,眼梅毒に対しては神経梅毒に準じてペニシリン投与を行うとガイドラインに定めているが8),わが国においては神経梅毒合併例ではベンジルペニシリンの静脈投与,非合併例ではアモキシシリンの経口投与を行うことが多いと報告がある11).現在のところ梅毒トレポネーマのペニシリン耐性は確認されておらず,ペニシリンはいずれのステージの梅毒に対しても有効とされており,米国ではペニシリンアレルギーを有する患者に対しても脱感作療法を行いながら投与を行うことが推奨されている12).日本では代替薬としてマクロライド系やテトラサイクリン系,エリスロマイシン系薬剤が用いられている6,10).今回当院ではCCDCのガイドラインに準じて治療を行う予定であったが,患者都合によりアモキシシリンの経口投与を行うことになった.しかし,加療が奏効せず,その後静脈投与に切り替えた.駆梅療法開始後に死滅した梅毒トレポネーマに対するアレルギー反応であるCJarisch-Herxheimer反応6,7,9)で発熱や悪心などの症状が生じることがあり,ペニシリンアレルギーと鑑別が必要である.ステロイドの併用は,梅毒性ぶどう膜炎自体が病原体に対するアレルギーが関与していると考えられていること6)やJarisch-Herxheimer反応の予防,また消炎を考慮してしばしば用いられるが,これに関しては統一した見解はなく,眼内の炎症が強い場合にのみ併用が推奨される場合7)や視神経症や.胞様黄斑浮腫をきたした場合に併用するといった報告もある13).海外ではワクチンの研究も行われており実用化の目処はたっていないものの,予防的にドキシサイクリンを投与したところ,梅毒を含む一部の性感染症の発症率が低下したとの報告もあり,今後予防薬が用いられるようになるかもしれない12).本症例では神経症状は認めなかったが,CDCはすべての眼梅毒患者が髄液検査を受けることを推奨しており4,11),本症例でも点滴治療C10日目に実施し無症候性神経梅毒の診断に至った.梅毒性ぶどう膜炎では,炎症が長期化すると神経網膜や網膜色素上皮の萎縮をきたし,ごま塩様眼底を呈するが,今回の症例では網膜炎を起こしてから間もないうちに神経梅毒に準じたペニシリン大量点滴療法と網膜光凝固術を施行したことにより,眼底に変性を残さずに完治したと考えられた.CIII結語今回,眼科受診を契機に梅毒感染が判明し,ペニシリン大量点滴療と網膜光凝固術によって治癒した症例を経験した.近年梅毒感染が増加しており,多彩な症状を呈することから,ぶどう膜炎診察時には梅毒血清反応を必ずルーチンに検査したほうがよいと再認識できた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)国立感染症研究所厚生労働省健康局,結核感染症課:病原微生物検出情報41:6-8:20202)日本性感染症学会梅毒委員会梅毒診療ガイド作成小委員会,日本性感染症学会:梅毒診療ガイド.5,2018C3)原ルミ子,三輪映美子,佐治直樹ほか:網膜炎として発症した梅毒性ぶどう膜炎のC1例.あたらしい眼科C25:855-859,C20084)中西瑠美子,石原麻美,石戸みづほほか:後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併した梅毒性ぶどう膜炎の症例.あたらしい眼科33:309-312,C20165)KaburakiT,FukunagaH,TanakaRetal:Retinalvascu-larCin.ammatoryCandCocclusiveCchangesCinCinfectiousCandCnon.infectiousCuveitis,CJpnCJCOphthalmolC64:150-159,C20206)蕪城俊克:梅毒性ぶどう膜炎.臨眼75:58-62,C20217)岩橋千春,大黒伸行:梅毒性ぶどう膜炎.臨眼C73:290-294,C20198)佐藤茂,橋田徳康,福島葉子ほか:Acutesyphiliticpos-teriorCplacoidchorioretinitis(ASPPC)を呈した梅毒性ぶどう膜炎のC3例.臨眼72:1263-1270,C20189)木村郁子,石原麻美,澁谷悦子ほか:眼梅毒C5症例の臨床像について.臨眼71:1731-1736,C201710)鈴木重成:疾患別:梅毒性ぶどう膜炎.臨眼C70:260-265,C201611)牧野想,蕪城俊克,田中理恵ほか:中心性漿液性脈絡網膜症と鑑別を要した梅毒性ぶどう膜炎のC1例.臨眼C73:C753-760,C201912)GhanemCKG,CRamCS,CRicePA:TheCmodernCepidemicCofCsyphilis.NEnglJMedC382:845-854,C202013)近澤庸平,山田成明,高田祥平ほか:眼の水平様半盲を呈した梅毒性ぶどう膜炎.臨眼70:1047-1052,C2016***

2015 年~2019 年の自治医科大学附属病院における ぶどう膜炎の臨床統計

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1353.1357,2021c2015年~2019年の自治医科大学附属病院におけるぶどう膜炎の臨床統計案浦加奈子渡辺芽里川島秀俊自治医科大学眼科学講座CEpidemiologyofUveitisPatientsSeenattheJichiMedicalUniversityHospital,Shimotsuke,Japan,from2015to2019KanakoAnnoura,MeriWatanabeandHidetoshiKawashimaCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC2015年C4月.2019年C3月に自治医科大学附属病院眼科を初診したぶどう膜炎患者のプロフィール(年齢,性別,確定診断病名,治療歴,とくに手術歴など)を後ろ向きに解析し,既報と比較した.上記期間内の総初診患者はC8,522人で,ぶどう膜炎患者はC379例C599眼(総初診患者のC4.4%)であった.また,初診時の平均年齢はC52.6C±18.9歳(5.90歳),男性C184例(48.5%),女性C195例(51.4%)であった.確定診断ができた症例はC223例(58.8%)で,多い疾患順にサルコイドーシスC50例(13.1%),急性前部ぶどう膜炎C29例(7.6%),Vogt-小柳-原田病C24例(6.3%),ヘルペス性虹彩毛様体炎C20例(5.2%),急性網膜壊死C12例(3.1%),Behcet病C12例(3.1%)などであった.また,白内障手術がC66例(17.4%)に実施され,硝子体手術はC25例(6.5%),緑内障手術はC26例(6.8%)にそれぞれ実施されていた.Weretrospectivelyreviewedthepro.le(age,sex,diagnosis,treatment,surgicalhistory,etc.)ofuveitispatientswhoC.rstCvisitedCtheCJichiCMedicalCUniversityCHospitalCEyeCClinicCfromCAprilC2015CtoCMarchC2019,CandCcompareCthatdatawiththepreviousreports.FromApril2015toMarch2019,thetotalnumberof.rst-visitpatientswas8,522.COfCthose,379(4.4%)(599eyes)wereuveitic[195females(51.4%)andC184males(48.5%);meanage:C52.6±18.9years(range:5-90years)]C.Ofthose379cases,221(58.3%)wereade.nitivediagnosis,i.e.,50sarcoid-osiscases(13.1%)C,29acuteanterioruveitiscases(7.6%)C,24Vogt-Koyanagi-Haradadiseasecases(6.3%)C,20her-peticiritiscases(5.2%)C,12acuteretinalnecrosiscases(3.1%)C,and12Behcet’sdiseasecases(3.1%)C.Inaddition,cataractCsurgeryCwasCperformedCinC66cases(17.4%)C,CvitreousCsurgeryCwasCperformedCinC25cases(6.5%)C,andglaucomasurgerywasperformedin26cases(6.8%).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(11):1353.1357,C2021〕Keywords:ぶどう膜炎,臨床統計,病型分類,続発緑内障.uveitis,epidemiology,classi.cationofdiseasetypes,secondaryglaucoma.Cはじめにぶどう膜炎診療において,視力予後の向上を得るためには,正しい診断をつけて適切で妥当な治療法を選択することが重要である.その一助になる情報源として,ぶどう膜炎症例の疫学調査が現在まで数多く報告されている1.13).従来国内においてはCBehcet病・サルコイドーシス・Vogt-小柳-原田病がぶどう膜炎の三大内因性ぶどう膜炎とされているが,2002年とC2009年の全国疫学調査においても,この三大疾患を含めた各種疾患の頻度が変化している1,2).とくに近年では,診断方法の進歩による確定疾患頻度の変化も想定され,ぶどう膜炎患者の疫学調査はますます重要になっている.筆者らの施設ではこれまで何回か疫学調査を行っている3,4).今回その継続調査として,2015.2019年のC4年間で〔別刷請求先〕案浦加奈子:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:KanakoAnnoura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANC自治医科大学附属病院を受診したぶどう膜炎患者の疫学調査を行った.併せて,手術歴やステロイド全身治療についても調査を行い,既報と比較を行った.CI対象および方法筆者らはC2015年C4月.2019年3月のC4年間で自治医科大学附属病院眼科を初診で訪れた患者のうち,ぶどう膜炎の診断がついた患者の記録を後ろ向きに検討した.年齢,性別,眼科的所見,血清学的検査,胸部CX線検査といった臨床検査所見の結果をもとに診断を行った.疾病分類については,2016年の全国ぶどう膜炎調査で用いられたカテゴリー分類をおおむね採用した.サルコイドーシスについては,日本びまん性肺疾患研究委員会によって策定された診断基準を採用した.眼臨床所見がサルコイドーシスを強く疑う症例も,診断基準を満たさない場合は病型分類不能に分類した.Vogt-小栁-原田病では,既報の基準14)を採用し,無菌性髄膜炎の存在は,おおむね髄液検査に依ったが,臨床症状で判断した症例も含んだ.ヘルペス虹彩毛様体炎は,眼部帯状疱疹を伴う皮膚病変のある患者は前房水採取をせず診断とした例もあった.皮膚病変のない患者は,前房水CPCR検査を施行し,水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV),ヘルペスウイルス(HSV)が検出されなかった場合も,虹彩萎縮の出現や,抗ウイルス治療後に治療経過の良好なものは臨床診断群として診断した.Behcet病の診断は,日本ベーチェット病研究委員会による診断基準に基づいて行った.急性前部ぶどう膜炎については,前部ぶどう膜炎がある場合,強直性脊椎炎や炎症性腸疾患(inflammatoryCboweldisease:IBD),乾癬などの全身症状に注意して診察を行った.強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎は急性前部ぶどう膜炎(acuteCanterioruveitis:AAU)に含め,IBDや乾癬に伴うものはそれらとは異なるものとして分類した.HLA-B27が陰性の場合も,臨床所見で診断した.血液検査所見の結果(血液培養や血清Cb-Dグルカン),眼内液による広域CPCRで細菌・真菌CDNAの検出があったもの,あるいは臨床症状により真菌性,細菌性眼内炎の診断を下した術後眼内炎,外傷性眼内炎は除外した.P-抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicantibody:ANCA)やCC-ANCAの上昇を伴うぶどう膜炎があった場合,内科医師にCANCA関連血管炎などの精査を依頼した.リウマチ関連疾患に伴うぶどう膜炎については,関節リウマチ,皮膚筋炎,強皮症などに伴うぶどう膜炎と,全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythemotosus:SLE)に関連したぶどう膜炎は別枠とした.強膜炎は眼内炎症を伴うものだけを強膜ぶどう膜炎として結果に含め,その中には後部強膜炎も含まれる.眼内に炎症波及のない強膜炎は除外した.今回の疫学調査では,ステロイド全身治療や手術歴の有無,続発緑内障などの合併についても調査を行った.続発緑内障の定義は,経過中に眼圧の上昇を認め,緑内障点眼の使用や緑内障手術を必要としたものとした.結果について,自施設の統計結果3,4)と,他施設の統計結果1,2,5.7)とを比較した.CII結果対象期間中の当科総初診患者はC8,522人で,ぶどう膜炎患者はC379例C599眼(眼科総初診患者のC4.4%)であった.初診時の平均年齢はC52.6C±18.9歳(5.90歳),性別は男性184例(48.5%),女性C195例(51.4%)であった.10歳ごとの年齢分布では,男女ともにC60代でピークを示し,男女比では女性がやや多かった(図1).確定診断のついた症例はC223例(全ぶどう膜炎患者のC58.8%)であった.そのうちサルコイドーシスが最多で,50例(13.1%),ついでCAAU29例(7.6%),Vogt-小柳-原田病24例(6.3%),ヘルペス性虹彩毛様体炎C20例(5.2%),急性網膜壊死C12例(3.1%),Behcet病C12例(3.1%),CMV網膜炎C10例(2.6%)となった(表1a).サルコイドーシスの確定診断例は,組織診断群がC16例(32%),臨床診断群がC34例(68%)であった.また,その他の確定疾患は,炎症性腸疾患に伴うぶどう膜炎(Crohn病・潰瘍性大腸炎),多発性脈絡膜炎,内因性細菌性眼内炎,水晶体起因性ぶどう膜炎,梅毒性ぶどう膜炎,ねこ引っ掻き病,結核性ぶどう膜炎,尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群,多発血管炎性肉芽腫症,急性帯状潜在性網膜外層症,点状脈絡膜内層症,ぶどう膜滲出,relentlessCplacoidchorioretinitisが含まれている.病型分類不能例はC156例(41.2%)であり,そのうちサルコイドーシス疑い症例が最多でC20例(12.8%)であった.初診時年齢により,19歳以下を小児群,20歳以上C39歳以下を若年群,40歳以上C59歳以下を中年群,60歳以上を高齢群としてC4群に分けて検討した.小児群C23例(男性C5例,女性C18例),若年群C74例(男性C45例,女性C29例),中年群C116例(男性C63例,女性C53例),高齢群C166例(男性71例,女性C95例)であった.年齢群別疾患頻度は,小児群では若年性特発性関節炎(juvenileCidiopathicarthritis:JIA)を伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎が最多で,ついでIBDに伴うぶどう膜炎が多く,若年群,中年群ではサルコイドーシスが最多,ついで急性前部ぶどう膜炎が多く,疾患頻度が類似していた.また,高齢群ではサルコイドーシスが最多で,ついでCVogt-小柳-原田病,急性網膜壊死が多かった(表1b).今回の調査結果における上位C7疾患について,他施設や全国調査の報告との比較を行った(表2).サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病,そしてヘルペス性虹彩毛様体炎がいずれの報告でも上位であった.炎症の生じた解剖学的部位別に比較したところ,前眼部148名(39.0%),中間部C8名(2.1%),後部C40名(10.5%),汎ぶどう膜炎C183名(48.2%)となった.前眼部ぶどう膜炎症例では,AAUが最多でC23例(15.5%),後部ぶどう膜炎症例はCVogt-小柳-原田病が最多でC7例(17.5%),汎ぶどう膜炎症例では,サルコイドーシスが最多でC34例(18.5%)であった(図2).ステロイドの全身投与はC63例で,全ぶどう膜炎患者の16.6%で施行した.そのうち,ステロイドパルス療法はC20例(全ぶどう膜炎患者のC5.2%)で施行した.ステロイドパルス療法を行った症例は,疾患別ではCVogt-小柳-原田病が最多で,初診時に慢性期の合併症のため紹介されたC3症例とパルス以外の治療を選択したC2症例以外のCVogt-小柳-原田病C19症例(Vogt-小柳-原田病患者のC79.1%)と急性網膜壊死C1症例(急性網膜壊死患者のC8.3%)に対してステロイドパルス療法を行った.また,ステロイドCTenon.下注射を施行した症例はC58例(全ぶどう膜炎患者のC15.3%)であった.抗CTNFCa製剤の投与割合については,インフリキシマブを投与したものがC2例(0.5%)で,いずれもCBehcet病患者であった.アダリムマブを投与したものは,3例(0.7%)で,2例がCBehcet病,1例がCrelentlessplacoidchorioretini-tisであった.緑内障治療薬の投与はC133例(全ぶどう膜炎患者のC35.0%)に行い,そのうち緑内障手術が必要となった症例はC26例(全ぶどう膜炎患者のC6.8%)であった.また,硝子体手術を施行したものはC25例(全ぶどう膜炎患者のC6.5%)で,手術の理由は,網膜.離C9例,シリコーンオイル留C6050403020100~10図1全ぶどう膜炎患者の初診時の年齢と性別患者数11~2021~3031~4041~5051~6061~7071~8081~90(歳)置C3例,網膜前膜C5例,硝子体混濁C4例,硝子体生検目的C4例,黄斑円孔C4例,網膜細動脈瘤破裂C1例であった.他施設からの結果と比較すると,ややステロイド投与の比率がやや低かったものの,手術加療の比率などに大きな違いは認めなかった(表3).表1a疾患別の症例数と頻度疾患症例数頻度(%)サルコイドーシスC50C13.1急性前部ぶどう膜炎C29C7.6Vogt-小柳-原田病C24C6.3ヘルペス性虹彩毛様体炎C20C5.2急性網膜壊死C12C3.1Behcet病C12C3.1サイトメガロウイルス網膜炎C10C2.6リウマチ関連疾患に伴うぶどう膜炎C7C1.8強膜ぶどう膜炎C7C1.8糖尿病虹彩炎C6C1.5JIAを伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎C4C1.0眼内リンパ腫C4C1.0眼トキソプラズマ症C4C1.0Posner-Schlossman症候群C4C1.0Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎C4C1.0多発消失性白点症候群C3C0.7HTLV-1関連ぶどう膜炎C3C0.7地図状脈絡膜炎C3C0.7乾癬性ぶどう膜炎C3C0.7その他C14C3.6確定診断合計C223C58.8不明(疑い症例を含む)C156C41.2JIA:若年性特発性関節炎,HTLV-1:ヒトCT細胞白血病ウイルスC1型.表1b各年齢群における頻度の高かった疾患年齢(n)もっとも多かった疾患(%)2番目に多かった疾患(%)0.1C9(23)JIAを伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎(13)炎症性腸疾患に伴うぶどう膜炎(8C.6)20.3C9(74)サルコイドーシス(1C6.2)AAU(1C2.1)40.5C9(1C16)サルコイドーシス(1C5.5)AAU(1C1.2)≧60(1C66)サルコイドーシス(1C2.0)Vogt-小柳-原田病(4C.2)急性網膜壊死(4C.2)JIA:若年性特発性関節炎,AAU:急性前部ぶどう膜炎.表2他施設との疾患件数と頻度(%)の比較報告者調査期間全患者数(人)サルコイVogt-小柳AAUドーシスC-原田病ヘルペス性虹彩毛様体炎CARNBehcet病CCMV網膜炎案浦ら(自治医大)2015.C2019年C37750(C13.1)29(C7.6)24(C6.3)20(C5.2)12(C3.1)12(C3.1)10(C2.6)3)高橋ら(自治医大)2011.C2015年C50247(C9.4)6(1C.1)35(C7.0)29(C5.8)4(0C.8)21(C4.2)12(C2.4)4)安孫子ら(自治医大)1997.C1998年C33855(C16.3)9(2C.6)31(C9.2)7(2C.0)5(1C.4)38(C11.2)1(0C.2)6)KunimiK(東京医大)2011.C2017年C1,587107(C6.7)32(C2.0)140(C8.8)85(C5.4)35(C2.2)98(C6.2)19(C1.2)1)GotoH(全国調査)2002年C3,060C407(C13.3)46(C1.5)205(C6.7)110(C3.6)41(C1.3)189(C6.2)24(C0.8)2)OhguroN(全国調査)2009年C3,830C407(C10.6)250(C6.5)267(C7.0)159(C4.2)53(C1.4)149(C3.9)37(C1.0)C5)ShirahamaS(東京大)2013.C2015年C75046(C6.1)14(C1.9)31(C4.1)56(C7.5)13(C1.7)33(C4.4)10(C1.3)7)寒竹(佐賀大)2012.C2017年C32324(C7.4)23(C7.1)27(C8.4)16(C5.0)3(0C.9)1(0C.3)3(0C.9)AAU:急性前部ぶどう膜炎,ARN:急性網膜壊死,CMV:サイトメガロウイルス.表3他施設とのステロイド全身投与および手術適応頻度(%)の比較報告者調査期間患者数ステロイド全身投与ステロイドパルス緑内障手術白内障手術硝子体手術案浦ら(自治医大)2015.C2019年379人C16.6C5.2C6.8C17.4C6.59)小沢ら(福岡大)2005.C2006年84人C53.5C15.4記載なし記載なしC4.110)福島ら(高知大)2004年144人C47.9記載なしC5.5C43C1811)芹澤ら(日本医大)2004.C2012年759人記載なし記載なしC2.3記載なし記載なし8)池脇ら(大分大)2006.C2008年176人C25.5記載なしC5.7C21.9C5.7CIII考按当院における内因性ぶどう膜炎患者の経時的変化を解析するため,前回のC2011.2015年を対象とした調査3)と,今回の結果を比較検討した.ちなみに,眼科外来の総初診患者に占めるぶどう膜炎患者の割合は今回の調査ではC4.4%であった.前回の調査では,平均年齢がC53.5C±18.0歳(5.90歳)で今回とおおむね同様であったが,1999年の当施設結果の平均C49歳と比べると4),近年の日本社会の高齢化に伴い初診時年齢も高齢化してきている可能性がうかがえる.男女比に関しては,今回と前回の当院での調査に大きな差は認めなかった(図1).炎症部位別分類については,汎ぶどう膜炎が一位を占め,これまでの他施設の結果と同様の結果となっていた(図2)12,13).前回の筆者らの疫学調査結果と比較してC1%を超える増減があった疾患は,サルコイドーシス(9.4%→C13.1%),Behcet病(4.2%→C3.1%),急性網膜壊死(0.8%→C3.1%)であった(表1a).年齢別疾患分類について前回の調査と比較すると,小児群C1位がCJIAを伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎,中年・高齢群C1位がサルコイドーシスである点は変わりなかったが,若年群においては前回の調査ではC1位Behcet病から今回サルコイドーシスがC1位となる結果となった(表1b).また,次点がCAAUとなっており,Behcet病は上位疾患に認めなかった.サルコイドーシスが最多であることは全国調査や他施設の結果と比較しても変わりなかった(表2).他施設や全国調査,前回の当施設での結果と同様に,Behcet病の減少を認めたが,これは,近年既報でも報告されているように,なんらかの環境因子(衛生状態,生活スタイル)の変化も関係しているのではないかと推測されている15).さらにはCBehcet病そのものの軽症化あるいは予後の向上が示唆されており,患者の専門病院受診の早期化,患者の治療コンプライアンス向上などに加え,生物学的製剤の導入などが寄与していると考える.急性網膜壊死は,可及的な手術介入の必要性が高い疾患であり,近隣施設からの紹介状況にも少なからず影響を受けての結果であると考える.多発性後極部細胞色素上皮症,急性後部多発性斑状色素上皮症などの網膜色素上皮症類縁疾患は全国疫学調査でもC1%前後である.前回の筆者らの疫学調査では認めた疾患で,今回は確定されなかった疾患もある.眼トキソカラなどの稀有症例などにおいて,その傾向が強い.疾患のなかでも低頻度(たとえばC1%未満)の疾患が当該調査において含まれるかどうかは,統計学的に推論するにしても,ほぼ偶然の結果であろうと考えている.ぶどう膜炎患者へのステロイド全身投与の比率は,他施設8.10)と比べると頻度はやや低かった.抗血管内皮増殖因子抗体や各種免疫抑制薬の選択肢もできた現在,従来消炎治療の中心を占めていたステロイドの役割は今後相対的には縮小してゆく可能性がある.ちなみに高頻度でステロイドが全身投与されていた報告では,とくに重症の症例が多かったのではないかとの考察10)をしているが,対象疾患構成に大きく左右される指標であることは間違いない.手術歴については,白内障,緑内障,硝子体手術の適応の割合はおおむね他施設と変わらなかった(表3)8.11).手術加療は,今やぶどう膜炎診療において不可欠となっており,今後も時期を失うことなく適応することが多くの症例において求められる.今回の調査にあたり統一的な診断基準が確立されていない疾患も多く,他の結果と有意差をもって比較検討することは容易でなかった.しかし,サルコイドーシスが最多であり,Vogt-小柳-原田病やヘルペス性虹彩毛様体炎が重要な疾患であるなど,一定の傾向は確認できた.今後さらなる各疾患の診断基準の確立と診断技術,検査の向上・普及がますます必要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GotoCH,CMochizukiCM,CYamakiCKCetal:EpidemiologicalCSurveyCofCIntraocularCInflammationCinCJapan.CJpnCJCOph-thalmolC51:41-44,C20072)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009pro-spectiveCmulti-centerCepidemiologicCsurveyCofCuveitisCinCJapan.JpnJOphthalmolC56:432-435,C20123)TakahashiR,YoshidaA,InodaSetal:UveitisincidenceinCJichiCMedicalCUniversityCHospital,CJapan,CduringC2011-2015.CClinOphthalmolC11:1151-1156,C20174)安孫子育美,川島秀俊,釜田恵子ほか:自治医科大学眼科におけるぶどう膜炎の統計的検討.眼科41:73-77,C19995)ShirahamaS,KaburakiT,NakaharaHetal:Epidemiolo-gyofuveitis(2013-2015)andchangesinthepatternsofuveitis(2004-2015)inCtheCcentralCTokyoarea:aCretro-spectivestudy.BMCOphthalmologyC18:189,C20186)KunimiCK,CUsuiCY,CTsubotaCKCetal:ChangesCinCetiologyCofCuveitisCinCaCsingleCcenterCinCJapan.COculCImmunolCIn.amm.1-6,2020Feb18;Onlineaheadofprint7)寒竹大地,中尾功,江内田寛:佐賀大学眼科におけるぶどう膜炎の統計.臨眼74:595-600,C20208)池脇淳子,瀧田真裕子,久保田敏昭:大分大学医学部眼科におけるぶどう膜炎の臨床統計.臨眼66:61-66,C20129)小沢昌彦,野田美登利,内尾英一:福岡大学病院眼科におけるぶどう膜炎の統計.臨眼61:2045-2048,C200710)福島敦樹,西野耕司,小浦裕治ほか:2004年の高知大学医学部眼科におけるぶどう膜炎の臨床統計.臨眼60:315-318,C200611)芹澤元子,國重智之,伊藤由起子ほか:日本医科大学付属病院眼科におけるC8年間の内眼炎患者の統計的観察.日眼会誌119:347-353,C201512)澁谷悦子,石原麻美,木村育子ほか:横浜市立大学附属病院における近年のぶどう膜炎の疫学的検討(2009.2011年).臨眼66:713-718,C201213)糸井恭子,高井七重,竹田清子ほか:大阪医科大学におけるぶどう膜炎患者の臨床統計.眼紀C57:90-94,C200614)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C200115)YoshidaCA,CKawashimaCH,CMotoyamaCYCetal:Compari-sonCofCpatientsCwithCBehcetCdiseaseCinCtheC1980sCandC1990s.COphthalmologyC111:810-815,C2004***

感染性心内膜炎に強膜炎とぶどう膜炎を併発した1 例

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1348.1352,2021c感染性心内膜炎に強膜炎とぶどう膜炎を併発した1例小林崇俊*1岡本貴子*1高井七重*1庄田裕美*1丸山耕一*1,2多田玲*1,3池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2川添丸山眼科*3多田眼科CACaseofScleritisandUveitisAccompaniedbyInfectiveEndocarditisTakatoshiKobayashi1),TakakoOkamoto1),NanaeTakai1),YumiShoda1),KouichiMaruyama1,2),ReiTada1,3)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)KawazoeMaruyamaEyeClinic,3)TadaEyeClinicC目的:感染性心内膜炎(IE)にぶどう膜炎と強膜炎を併発したC1例を経験したので報告する.症例:40歳,男性.2カ月前からときどきC37.39℃台の発熱,頭痛,膝関節痛,太腿部痛などがあり,近医内科に通院中であった.1週間前から左眼歪視,充血,眼痛,視力低下を自覚して大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科を受診した.初診時視力は,右眼矯正C1.2,左眼矯正C0.3.左眼は上方の充血と角膜後面沈着物,1+の前房内炎症細胞,黄斑にはCRoth斑と,OCTで中心窩下に隆起性病変を認めた.当院内科に入院して精査を行い,血液培養からCStreptococcusCmitis/oralisが検出され,心エコーからCIEと診断された.その後,抗菌薬の点滴治療により全身状態は改善し,強膜炎,ぶどう膜炎も軽快した.左眼矯正視力はC1.0に回復した.結論:不明熱を伴った強膜炎やぶどう膜炎を診察した場合,IEも鑑別診断の一つとして重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCinfectiveendocarditis(IE)accompaniedCbyCscleritisCandCuveitis.CCase:A40-year-oldmalepresentedwithafeverrangingfrom37℃to40℃,headache,kneejointpain,andthighpainfrom2monthspriortoadmission,andvisitedourdepartmentafterbecomingawareofdistortedvision,hyperemia,eyepain,CandCdecreasedCvisualacuity(VA)inChisCleftCeyeCfromC1CweekCearlier.CUponCexamination,ChisCbest-correctedVA(BCVA)was1.2CODand0.3COS.Hislefteyeexhibitedhyperemia,especiallyintheupperside,keraticprecipi-tates,CcellsCofCgradeC1+inCtheCanteriorCchamber,CRothCspotsConCtheCmacula,CandCopticalCcoherenceCtomographyCexaminationrevealedanelevatedlesionunderthefovea.Streptococcusmitis/oralisCwasdetectedfromexaminationofChisCbloodCculture,CandCheCwasCdiagnosedCasCIECbyCechocardiography.CIntravenousCantibioticsCadministrationCimprovedChisCgeneralCcondition,CandCcuredCtheCscleritisCandCuveitis.CPostCtreatment,ChisCVACrecoveredCtoC1.0COS.CConclusion:Whenpatientsareseenwhoexhibituveitisorscleritiswithafeverofunknownorigin,IEshouldbeconsideredasadi.erentialdiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(11):1348.1352,C2021〕Keywords:感染性心内膜炎,ぶどう膜炎,強膜炎,不明熱,Roth斑.infectiveendocarditis,uveitis,scleritis,fe-verofunkownorigin,Rothspots.Cはじめに感染性心内膜炎(infectiveendocarditis:IE)は,弁膜や心内膜,大血管内膜に細菌集簇を含む疣腫を形成し,菌血症,血管塞栓,心障害などの多彩な臨床症状を呈する全身性の敗血症性疾患である1).その診断は必ずしも容易ではなく2),長期間不明熱として診断がつかないケースもあり,的確な診断をして適切に治療されなければ,心臓だけではなく,さまざまな臓器の合併症を起こし,死に至ることもある3).また,眼病変を併発することも知られており,過去にはCRoth斑4),転移性内因性眼内炎5)などの報告が多いが,なかには眼科受診が契機となり,感染性心内膜炎の診断に至ったとする報告も散見される6).しかし,強膜炎7)やぶどう膜〔別刷請求先〕小林崇俊:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakatoshiKobayashi,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki,Osaka569-8686,JAPANC炎7,8)を併発したとする報告は比較的少ない.今回,2カ月間,不明熱として経過したのちに,眼痛を自覚して眼科を受診.強膜炎,ぶどう膜炎,網膜出血を指摘されたことが契機となり,IEの診断に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:40歳,男性.主訴:左眼歪視,充血,眼痛,視力低下.現病歴:2018年(X-2)月ごろからときどきC37.39℃台の発熱があり,近医内科へ通院していた.同じころ,頭痛,膝関節痛,太腿部痛,足底部痛を自覚.右手の環指,小指には圧痛があり,大腿部には,有痛性の腫瘤があった.同年CX月上旬,左眼歪視を自覚.そのC2日後から左眼充血と,眼痛,視力低下を生じたため,近医眼科を受診し,左眼黄斑部出血を指摘された.それから約C1週間後に精査加療目的にて大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科(以下,当科)を紹介受診した.既往歴:心雑音(若年時から指摘),気管支喘息,化膿性脊椎炎.家族歴:特記すべきことなし.当科初診時所見:視力は,右眼C0.25(1.2C×sph.1.25D(cylC.0.50DAx90°),左眼C0.09(0.3C×sph.2.50D(cyl.0.75DAx165°).眼圧は右眼C12mmHg,左眼C12mmHg.左眼はおもに上方に強膜充血を認め,眼痛の訴えが強かった.左眼前房内は,1+程度の炎症細胞があり,微細な角膜後面沈着物を認めた.隅角検査では,耳側にC1カ所出血を認めた(図1).眼底は,左眼黄斑部に線状の白色病変を認め,その周囲に数カ所CRoth斑様の網膜出血を認めた.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では中心窩下に隆起性病変を認め,網膜外層の構造が崩れていた(図2).なお,右眼は前眼部,眼底とも病変はなかった.初診日にC39℃台の発熱があり,眼科だけではなく当院内科も受診した.長期間発熱が持続していたことや,CRP(C-reactiveCpro-tein)が高値であったことなどから同日に不明熱の精査加療目的にて当院内科に入院となった.同日の採血では,赤血球C4.58×106/μl(4.35-5.55C×106/μl),白血球C11.03C×103/μl(基準値:3.30-8.60C×103/μl),血小板C205C×103/μl(基準値:C158-348×103/μl),CRPはC6.43mg/dl(基準値:0.14mg/dl以下)であった.また,ぶどう膜炎セットの採血も行い,梅毒トレポネーマ抗体陰性,RPR(rapidplasmareagin)検査陰性,トキソプラズマCIgM抗体C0.1CIU/ml(基準値<0.8),トキソプラズマCIgG抗体≦3CIU/ml(基準値<6),結核菌特異的インターフェロンCg遊離試験は陰性であった.眼科としては,持続する発熱があり,CRPが高値であったことから,全身疾患に強膜炎とぶどう膜炎が併発している可能性が高いと考え,レボフロキサシン点眼左C4,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムCPF点眼左C4,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼左C2で経過をみることとした.経過:入院後の内科での精査の結果,血液培養からCStrep-tococcusmitis/oralisが検出され,心エコーと,それに続いて経食道心エコーが行われた.その結果,僧房弁逸脱症が判明し,僧房弁に付着している疣贅が観察された.また,頭部MRI検査が行われ,無症候性の脳梗塞が判明した.その結果,修正CDuke診断基準3)で大基準C1項目,小基準C5項目を満たすことから,IEと確定診断された.Cb-ラクタマーゼ系の抗生物質(スルバシリン)の点滴投与が開始され,投与開始翌日には眼痛は消失し,発熱も数日以内に治まった.その後,右眼の周辺部にも網膜出血が散在性に出現した.治療開始約C4週間後には左眼の充血と網膜出血は消退し,矯正視力はC1.0に改善した.点滴治療は約C4週間続けられ,再度行った頭部CMRI検査にて新たな部位に脳梗塞病変が発見されたが,麻痺症状はなく,膿瘍もないことからそのまま経過観察となった(図3).また,入院中に歯科と整形外科に図1初診時左眼前眼部写真a:左眼上方に強い充血を認める.Cb:左眼耳側の隅角にC1カ所出血(C.)を認めた.図2初診時左眼眼底画像a:眼底写真.黄斑部に複数のCRoth斑と,中心窩に白色病変を認めた.Cb:OCT画像.中心窩下に隆起性病変(.)を認めた.b図3頭部MRI画像後頭葉に脳梗塞病変(C.)を認めた.て精査した結果,歯科では中等度の歯周病があり,抜歯処置が必要な状態であった.整形外科では大腿部のしこりは炎症性結節との診断であり,入院中にしこりは徐々に縮小したため,とくに処置は行われなかった.入院から約C5週間後に,眼科,内科とも経過良好にて当院を退院となった.点眼薬はC3カ月間続け,その後中止とした.現在,発症から約C2年が経過しており,左眼矯正視力は1.0であるが,OCTではCellipsoidzoneに不整な箇所が残存している(図4).CII考按IEは,心臓だけではなく,全身の諸臓器が関係する急性,亜急性の感染症である.わが国におけるC114施設からのC2年間の大規模調査の報告によると,513症例中,男性C320例,女性C193例となっており,発症年齢の中央値はC61歳(最年少1歳.最年長97歳),約80%以上に基礎疾患として循環器疾患を認めた.また,誘因として,う蝕,歯周病が全体の25%と最多を占める結果となっている9).本症例も,起因菌は口腔内に多く存在する緑色レンサ球菌の一種のCStreptococ-cusmitis/oralisであり,入院中の精査によって歯周病が発見され,歯科にて治療を受けた.cIEは内科的に診断が困難な場合2)もあり,また,眼科受診を契機に診断に至るケースも報告されており6),疾患の概要については眼科医としても熟知しておくべきである.仲松らの総論によると,IEの症状は,非特異的症状(倦怠感,食思不振,体重減少など),心臓に由来する症状,塞栓による症状の組み合わせからなり,多彩な症状を呈し,約C90%の患者に発熱を認める10).本症例でもC37.39℃台の発熱と,僧房弁逸脱症によると考えられる心雑音を呈しており,また,脳梗塞などの塞栓症があった.さらに,眼科受診以前から膝関節痛,太腿部痛,足底部痛や,右手の環指,小指に圧痛があり,大腿部には結節も認めたことから,疣贅が血流によって全身に移動し,各部位に塞栓症を起こしていたものと考えられた.今回,発熱が先行し,おそらく前医眼科受診の直前になって強膜炎とぶどう膜炎が発症し,歪視や眼痛などの自覚症状が出現したものと考えられた.発熱を伴う強膜炎やぶどう膜炎の患者を診察した場合,膠原病関連疾患や悪性腫瘍も鑑別疾患として重要であるが,まずは感染症を鑑別することがも図4発病から2年経過時点の各種所見a:前眼部写真.左眼上方強膜の充血は消退している.Cb:左眼眼底写真.Roth斑と白色病変は消退している.c:左眼COCT画像.中心窩下の隆起性病変は消退したが,ellipsoidzoneの不整はわずかに残存している(.).っとも大切であると考えられる.そのまま内科へ速やかに受診できればよいが,それが無理であれば,眼科で少なくとも採血検査だけは行うべきと考える.もしそれで異常値が見つかれば,より積極的な全身検査を行う必要があることは言うまでもないが,それが緊急性を要するかどうかの判断は眼科単独では難しいことが多く,今後の課題である.本症例では当科初診日に内科も受診することができ,迅速な対応が可能であったが,普段から眼科以外の他科との連携をスムーズに行えるように配慮しておくべきである.IEに伴う眼疾患としては,内因性転移性眼内炎や,網膜中心動脈閉塞症11),ぶどう膜炎などの報告があるが,もっとも多いのは網膜出血の報告である.中心部分に白色部分を含む特徴的な網膜出血はCRoth斑とよばれ,今回も当初からRoth斑と考えられる網膜出血が,左眼は黄斑部付近に,右眼も経過中に周辺部に数カ所認められた.筆者の一人(担当医)は,初診時にCRoth斑は視認したものの,すでに他院内科に通院していたことから,感染症の可能性は低いと安易に考え,採血で血球系にも異常値を認めたため,血液疾患を強く疑った.しかし,CRP高値で不明熱が長期間に及んでいたことから,その後の精査によってCIEと診断されるに至った.本症例のように,IEに強膜炎を併発したとする報告は少なく7),ぶどう膜炎を生じたとする報告もまれである7,8).強膜炎は,強膜血管に免疫複合体が沈着し,血管内に沈着した免疫複合体に補体が結合し,補体系活性化により炎症細胞浸潤が誘導され,強膜血管炎が発生する,とされている12).今回も,おそらく疣腫を含めた免疫複合体が原因となり,上方の強膜血管に沈着して炎症が惹起され,強膜炎が生じたものと考えられる.また,中心窩下の白色の隆起性病変の詳細は不明であるが,眼症状としてまず歪視を自覚していることから,同様な疣腫を含めた免疫複合体が先に脈絡膜にたどり着いたものではないかと考えている.前述のように,IEの起因菌はさまざまであるが,緑色レンサ菌など,口腔内由来のものが多くを占めている.最近,口腔内細菌とCIEの関連を調べた研究が数多く行われ,多くの知見が得られている.たとえば,緑色レンサ球菌でう蝕を生じる主要な細菌であるCStreptococcusmutansの研究がある13).その菌体表層に存在するコラーゲン結合蛋白質であるCnmとCCbmは,それぞれC10.20%と,2%にしか存在していない.しかし,Cbmを有するものは,心臓の弁膜に漏出したコラーゲンに付着するだけではなく,血漿中に含まれるフィブリノーゲンにも付着し,それを架橋とした血小板凝集能を惹起することが明らかとなっており13),疣贅形成に直結する.つまり,細菌の種類のみではなく,それに発現している蛋白質の違いによって,IEのなりやすさに差があることがわかってきている.一方,緑色レンサ球菌のヒト培養網膜色素上皮細胞(ARPE-19)に対する細胞毒性をみた研究では,Streptococ-cusmitis/oralisでは強い毒性はなかったものの,Streptococ-cuspseudoporcinusではCARPE-19に強い毒性を示した14).このように,同じ系統の細菌でも,菌種によって生体組織へ与えるダメージや,付着のしやすさに差があることが徐々に明らかになってきている.本症例では発熱の期間が長く,菌血症であった時間が比較的長期であったにもかかわらず,眼病変が軽症で回復した背景には,起因菌がCStreptococcusmitis/oralisであったために,組織へ与えるダメージが少なかった可能性が考えられる.今回は過去の報告と異なり,中心窩下にも病変を認めていた.経過中,病変は徐々に縮小したものの,OCTではC2年が経過したあともCellipsoidzoneの不整がわずかではあるが残存している.しかし,初診時の病変が比較的大きかったにもかかわらず,歪視や視力低下は残存していない.それはCStreptococcusmitis/oralisが起因菌であったために,上記の研究結果のように網膜色素上皮や網膜へのダメージが最小限に抑えられた可能性が考えられる.発現している蛋白質や,眼組織への付着のしやすさまではわらないが,本症例ではむしろ付着しにくかったのかもしれない.したがって,同様の隆起性病変が生じた場合,起因菌の種類や性質によっては組織が大きく障害され,視力低下を生じるケースも起こりうると考えられる.症例の蓄積と研究の進展によって,今後さらに詳細が明らかになってくるものと考えられる.最後に,不明熱を伴った強膜炎やぶどう膜炎の患者を診察した場合,IEも鑑別診断の一つとして重要であると考えられた.今回の論文の要旨は,第C53回日本眼炎症学会にて発表した.文献1)中谷敏:感染性心内膜炎の病態生理.化学療法の領域C34:220-223,C20182)SumitaniS,KagiyamaN,SaitoCetal:Infectiveendocar-ditiswithnegativebloodcultureandnegativeechocardio-graphic.ndings.JEchocardiogrC13:66-68,C20153)CahillTJ,PrendergastBD:Infectiveendocarditis.LancetC387:882-893,C20164)RuddySM,BergstromR,TivakaranVS:Rothspots.Stat-Pearls[Internet]C,CStatPearlsCPublishing,CTreasureCIsland(FL),20205)AoyamaCY,CObaCY,CHoshideCSCetal:TheCearlyCdiagnosisCofendophthalmitisduetoGroupBStreptococcusCinfectiveendocarditisanditsclinicalcourse:acasereportandlit-eraturereview.InternMedC58:1295-1299,C20196)FujiokaS,KarashimaK,InoueAetal:CaseofinfectiousendocarditisCpredictedCbyCorbitalCcolorCDopplerCimaging.CJpnJOphthalmolC49:46-48,C20057)MitakaCH,CGomezCT,CPerlmanDC:ScleritisCandCendo-phthalmitisCdueCtoCStreptococcusCpyogenesCinfectiveCendo-carditis.AmJMedC133:e15-e16,C20208)HaCSW,CShinCJP,CKimCSYCetal:BilateralCnongranuloma-tousuveitiswithinfectiveendocarditis.KoreanJOphthal-molC27:58-60,C20139)NakataniCS,CMitsutakeCK,COharaCTCetal:RecentCpictureCofCinfectiveCendocarditisCinCJapanC─ClessonsCfromCcardiacCdiseaseregistration(CADRE-IE)C.CCircCJC77:1558-1564,C201310)仲松正司,藤田次郎:発熱と感染症全身感染・細菌性心内膜炎.臨牀と研究90:1026-1031,C201311)ZiakasCNG,CKotsidisCS,CZiakasCACetal:CentralCretinalCarteryocclusionduetoinfectiveendocarditis.IntOphthal-molC34:315-319,C201412)堀純子:強膜炎発症機構.眼科52:1149-1154,C201013)野村良太,仲野和彦:口腔バリアと疾患その破綻とう蝕病原性細菌が引き起こす全身疾患.実験医学C35:1182-1188,C201714)MarquartME,BentonAH,GallowayRCetal:Antibioticsusceptibility,Ccytotoxicity,CandCproteaseCactivityCofCviri-dansCgroupCstreptococciCcausingCendophthalmitis.CPLoSCOneC13:e0209849,C2018

非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブ使用例の後方視的 検討

2021年6月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(6):719.724,2021c非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブ使用例の後方視的検討伊沢英知*1,2田中理恵*2小前恵子*2中原久恵*2高本光子*3藤野雄次郎*4相原一*2蕪城俊克*2,5*1国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科*2東京大学医学部附属病院眼科*3さいたま赤十字病院眼科*4JCHO東京新宿メディカルセンター眼科*5自治医科大学附属さいたま医療センター眼科CRetrospectiveStudyof20CasesAdministeredAdalimumabforUveitisHidetomoIzawa1,2)C,RieTanaka2),KeikoKomae2),HisaeNakahara2),MitsukoTakamoto3),YujiroFujino4),MakotoAihara2)andToshikatsuKaburaki2,5)1)DepartmentofOphthalmicOncology,NationalCancerCenterHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,3)DepartmentofOphthalmology,SaitamaRedCrossHospital,4)DepartmentofOphthalmology,JCHOShinjukuMedicalCenter,5)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenterC目的:非感染性ぶどう膜炎にアダリムマブ(以下,ADA)を用いた症例の臨床像を検討した.対象および方法:既存治療に抵抗性の非感染性ぶどう膜炎にCADAを投与したC20例.診療録より併用薬剤,ぶどう膜炎の再発頻度,有害事象を後ろ向きに検討した.結果:Behcet病C7例では,ADA導入により再発頻度がC5.1回/年からC1.6回/年に減少した.シクロスポリンはC3例中C2例で減量され,コルヒチンもC3例全例で減量が可能であった.Behcet病以外のぶどう膜炎C13例では,再発頻度はC2.7回/年からC0.8回/年に減少した.プレドニゾロンは全例で使用されており全例で減量が可能であった.シクロスポリンはC4例全例で中止可能であった.Cb-Dグルカン上昇の有害事象を起こしたC1例でADAを中止した.結論:ADA導入によりCBehcet病,他のぶどう膜炎ともに再発頻度が減少し,併用薬剤の減量が可能であった.CPurpose:Toexaminetheclinicaloutcomesofadalimumab(ADA)administrationin20casesofnon-infectiousuveitis(NIU)C.SubjectsandMethods:Inthisretrospectivestudy,weexaminedthemedicalrecordsof20patientswhoCwereCadministeredCADACatCtheCUniversityCofCTokyoCHospitalCforCrefractoryCNIUCresistantCtoCexistingCtreat-ments,andinvestigatedthefrequencyofrelapseofuveitis,concomitantmedications,andadverseevents.Results:CIn7casesofBehcet’sdisease(BD)C,ADAadministrationreducedthefrequencyofrelapsefrom5.1times/yearto1.6times/year.In2of3cases,concomitantcyclosporine(CYS)dosagescouldbereduced,andthoseofcolchicinecouldbereducedinall3patients.In13casesofNIUotherthanBD,thefrequencyofrelapsedecreasedfrom2.7times/yearCtoC0.8Ctimes/year.CPrednisoloneCwasCusedCinCallCcases,CandCtheCdosagesCcouldCbeCreducedCinCallCcases.CCYSwasusedin4cases,andcouldbediscontinuedinallcases.Onepatientsu.eredanadverseeventofserumb-D-glucanelevation,andADAwasdiscontinued.Conclusion:UsingADA,thefrequencyofrelapseandthedoseofconcomitantmedicationsweredecreasedinpatientswithBDandtheotherNIU.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(6):719.724,C2021〕Keywords:アダリムマブ,ぶどう膜炎,後ろ向き研究,ステロイド,インフリキシマブ.adalimumab,Cuveitis,Cretrospectivestudy,steroid,in.iximab.Cはじめに節症性乾癬,強直性脊椎炎,若年性特発性関節炎,Crohnアダリムマブ(adalimumab:ADA)は完全ヒト型抗病,腸管型CBehcet病,潰瘍性大腸炎に対して適用されていCTNFa抗体製剤であり以前よりわが国でも尋常性乾癬,関たがC2016年C9月より既存治療で効果不十分な非感染性の中〔別刷請求先〕伊沢英知:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:HidetomoIzawa,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongou,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC表1Behcet病症例まとめADA再発回数(/年)PSL量(mg)CYS量(mg)IFX量COL量(mg)観察投与CNo.年齢性別期間期間CADA最終CADA最終CADA最終CADA最終CADA最終副作用(月)(月)投与前観察時投与前観察時投与前観察時投与前観察時投与前観察時1C53CM6127C15C7C0C0C125C1755mg/kg/5週C0C0C0なしC236F5926200000C0C010.5なしC3C59F3625C7.63C10C7.50C0C0C0C1C0.5なしC4C64F6624C4C1C0C0140100C0C0C0C0なしC5C51CM29121C1C0C0C0C0C05mg/kg/6週C0C0C0なしC6C29M9718C3C0C10C1200C75C0C0C0.5C0なしC745F1211300000C0C000なし平均C48.1C88.9C21.7C5.1C1.6C2.9C1.2C66.4C50.0C0.4C0.1標準偏差C11.5C86.0C5.2C4.5C2.4C4.5C2.6C79.6C64.1C0.4C0.2CM:男性,F:女性,ADA:アダリムマブ,PSL:プレドニゾロン,CYS:シクロスポリン,IFX:インフリキシマブ,COL:コルヒチン.表2Behcet病以外の非感染性ぶどう膜炎症例まとめADA再発回数(/年)PSL量(mg)CYS量(mg)MTX量(mg/週)観察投与CNo.病名年齢性別患眼期間期間CADA最終CADA最終CADA最終CADA最終副作用(月)(月)投与前観察時投与前観察時投与前観察時投与前観察時8サルコイドーシス組織診断群C41CF両139C80C2C3C15C11C0C0C0C0なしC9サルコイドーシス組織診断群C77CM両C63C23C2C0C12.5C7C0C0C0C8なしC10サルコイドーシス組織診断群58CF両7317C1C1C6C5C0C0C0C0なしC11サルコイドーシス疑いC50CM両35C30C2.4C0C25C2C0C0C0C0なし発熱,CRP上昇C12サルコイドーシス疑いC70CM右74C12C2C0C12.5C9C150C0C0C0CbDグルカン上昇C13Vogt-小柳-原田病C44CM両C66C30C2C1C16C7.5C320C0C8C0なしC14Vogt-小柳-原田病C33CM両15C12C6C4C10C9C0C0C0C0なしC15Vogt-小柳-原田病C52CM両97C10C3C0C12.5C3C0C0C0C0なしC16CrelentlessCplacoidCchorioretinitisC35CF両C39C22C4C0C15C0C200C0C0C0なしC17CrelentlessCplacoidCchorioretinitisC23CM両C26C18C1.5C0C14C0C150C0C0C0なしC18多巣性脈絡膜炎C46CF両3425C4.5C0C10C0C0C0C0C0なしC19小児慢性ぶどう膜炎C15CM両43C24C0C0C5C0C0C0C8C14なしC20乾癬によるぶどう膜炎C79CM両18C17C5C1C15C0C0C0C0C0なし平均C47.9C55.5C24.6C2.7C0.8C13.0C4.1標準偏差C18.8C33.7C17.2C1.6C1.2C4.8C4.0M:男性,F:女性,ADA:アダリムマブ,PSL:プレドニゾロン,CYS:シクロスポリン,MTX:メトトレキサート,CRP:C反応性蛋白.間部,後部または汎ぶどう膜炎に対して保険適用となった.ADAの非感染性ぶどう膜炎の有効性については,国際共同臨床試験により,ぶどう膜炎の再燃までの期間がプラセボ群では中央値C13週間であったのに対しCADA投与群では中央値C24週間と有意に延長すること1),平均CPSL量がC13.6Cmg/日からC2.6Cmg/日に減量可能であったこと2),活動性症例ではC60%に活動性の鎮静がみられた2)ことが確かめられている.また,非感染性ぶどう膜炎の個々の疾患におけるCADAの有効性も報告されている.Fabianiらは難治性のCBehcet病ぶどう膜炎C40例にCADAを使用し,眼発作頻度の減少を報告している3).Erckensらはステロイドならびにメトトレキサート(methotrexate:MTX)内服で炎症の残るサルコイドーシスC26症例に対してCADA使用し,脈絡膜炎症所見の消失や改善,黄斑浮腫の消失や改善,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)投与量の減量が多くの症例で得られたことを報告している4).さらにCCoutoらは遷延型のCVogt・小柳・原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)14例に使用し,PSL投与量の減少を報告している5).このように近年非感染性ぶどう膜炎に対するCADAの有効性の報告が蓄積されつつある.一方,わが国でも非感染性ぶどう膜炎に対するCADAの治療成績や臨床報告が散見されるが6.11),いまだ多数例での治療成績の報告は少ないのが現状である.今回,東京大学病院(以下,当院)で非感染性ぶどう膜炎に対しCADAを使用したC20例の使用経験について報告する.CI対象および方法対象は当院にて非感染性ぶどう膜炎にCPSL,シクロスポリン(ciclosporin:CYS),コルヒチン(colchicine:COL),インフリキシマブ(infliximab:IFX)で治療したが再燃した症例で,炎症をコントロールする目的または併用薬剤の減量目的で保険収載後CADA投与を開始した症例C20例(男性C12例,女性C8例,平均年齢C49.2C±16.0歳)である.診療録より性別,年齢,原疾患,経過観察期間,ADA導入時の免疫抑制薬の投与量,最終観察時の免疫抑制薬の投与量,ADA導入前後C1年間のぶどう膜炎の再燃回数(両眼性はC2回と計測),有害事象について後ろ向きに検討した.原因疾患の内訳はCBehcet病C7例(疑いC1例含む),サルコイドーシスC5例(国際治験参加後一度中止したが,再度開始したC1例含む),CVKH3例,relentlessCplacoidchorioretinitis(RPC)2例,多巣性脈絡膜炎(multifocalchoroiditis:MFC)1例,乾癬性ぶどう膜炎C1例,若年性特発性関節炎C1例である.本研究での症例選択基準として,保険収載前に当院で国際治験として開始された症例は除外している.ADAの投与方法は投与前の全身検査,アレルギー膠原病内科での診察によりCADA導入に問題がないと確認したのち,初回投与からC1週間後に40mg投与,その後は2週間ごとにC40mg投与を行った.ただし,Behcet病完全型のC1症例(症例7)は腸管CBehcet病を合併した症例で,発熱,関節痛などの全身症状が安定しないため,ADA導入C4カ月後に内科医の判断でC2週間ごと80Cmg投与に増量となっている.併用した免疫抑制薬は眼所見,全身症状やCC反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)などの血液検査データをみながら,可能な症例については適宜減量を行った.また経過中ぶどう膜炎再燃時には適宜ステロイドの結膜下注射あるいはTenon.下注射を併用した.重篤な再燃を繰り返す場合には併用中の免疫抑制薬の増量を適宜行った.本研究はヘルシンキ宣言および「ヒトを対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守しており,この後ろ向き研究は,東京大学医学部附属病院倫理委員会により承認されている(UMINID:2217).CII結果まずCBehcet病C7症例のまとめを表1に示す.4名が女性,平均年齢はC48.1歳,全観察期間は平均C88.9カ月,ADA導入から最終観察までは平均C21.7カ月であった.ADA使用前1年間の再発回数は平均C5.4C±4.5回であったのに対し,開始後C1年の平均再発回数はC1.6C±2.4回と減少がみられた.また,ADA使用後に再発のあった症例はC3例であり,いずれの症例でも再発部位に変化はみられなかった.PSLは全身症状に対してC2例で内科より使用されていたが,2例とも減量が可能であった.CYSはC3例で使用されており,2例では減量が可能であったがC1例で増量している.IFXからの切り替え例はC2例であった.COLはC3例で使用していたが,全例で減量が可能であった.また,ADAによると考えられる有害事象はなかった.なお症例C7は前述のとおりぶどう膜炎の活動性は安定していたが,全身症状のコントロールのため内科医の判断でCADAがC1回C80Cmg投与へ増量されている.つぎにCBehcet病以外のぶどう膜炎C13症例のまとめを表2に示す.4名が女性,平均年齢はC48歳,全観察期間は平均55.5カ月,ADA導入から最終観察までは平均C24.6カ月であった.ADA導入前C1年間の再発頻度は平均C2.7C±1.6回であったのに対し,導入後には平均C0.8C±1.2回と減少がみられた.使用後再発をきたした症例はC5例あったが発作部位の変化や発作の程度には変化はみられなかった.PSLはCADA導入前には全例で使用されており,平均C13.0C±4.8Cmg内服していたが,導入後最終観察時にはC4.1C±4.0Cmgまで減量できており,5例は中止可能であった.CYSはC4例で使用されていたが,全例中止可能であった.MTXはCADA導入前C2例で使用されていたが,1例で中止可能であった.ADA導入後にCMTXを開始されたC1例(症例9)は,導入C8カ月後に全身倦怠感,多発関節痛を発症し,リウマチ性多発筋痛症の併発と診断された症例で,内科医の判断でCMTX8Cmg/週を開始された.リウマチ性多発筋痛症の発症とCADAとの因果関係は否定的である,と内科医は判定している.また,MTXを増量したC1例(症例C19)は関節症状に対し内科から増量となっている.有害事象としては,症例C5ではCADA導入後C2週間で発熱,CRP,Cb-Dグルカンの上昇を認め,当院内科の判断で中止となっている.以上をまとめると,Behcet病およびその他の非感染性ぶどう膜炎の両群において,ADA導入前C1年間と比較して,入後C1年間にはぶどう膜炎の再発回数の減少がみられた.また,PSL,CYS,COLなどの併用免疫抑制薬の投与量についても,両群とも多くの症例で減量が可能であった.CIII考按本研究では,当院で治療中の非感染性ぶどう膜炎のうち,既存治療で効果不十分あるいは免疫抑制薬の減量が必要なためCADAを導入した症例の治療成績を後ろ向きに検討した.その結果,Behcet病およびCBehcet病以外のぶどう膜炎いずれの群においても,ADA導入後にはぶどう膜炎の再発回数はおおむね減少し,免疫抑制薬の平均投与量も両群とも減少していた.ADA導入前後C1年間の再発頻度については,20例中減少がC17例,増加がC1例,不変が2例であった(表1,2).FabianiらはC40例のCBehcet病患者に対してCADAを使用し,再発頻度がC1人あたりC2.0回/年からC0.085回/年に著明に減少したと報告している3).今回筆者らが検討したCBehcet病症例では,再発頻度は平均C5.4回/患者・年からC1.6回/患者・年に減少していたが,既報と比較すると効果は限定的であった.この理由として,今回の症例はCADA導入前の再発頻度が既報3)よりも高く,より活動性の高い症例が多かったことが原因ではないかと推測する.一方,サルコイドーシスぶどう膜炎に対するCADA使用については,ErckensらがCPSL内服ならびにCMTX内服で眼内炎症が残る,あるいは内服を継続できない症例C26例に対してCADAを使用し,12カ月間でぶどう膜炎の再発はなく,PSL投与量はCADA導入C6カ月目の時点で導入前の中央値20Cmg/日からC4Cmg/日まで減量できた,と報告している4).今回のサルコイドーシス症例は,5例中C2例にぶどう膜炎の再発を認め,PSL投与量の中央値は投与開始前C13Cmg/日から最終観察時にはC7Cmg/日に減量できていた.既報と比べてやや成績は不良であった.一方,CoutoらはCVKH14例に対してCADAを導入し,投与前のCPSL内服量は平均C36.9Cmg/日であったが,導入後C6カ月でC4.8Cmg/日にまで減少可能であったと報告している5).今回の筆者らのCVKH症例では,導入前のCPSL使用量C12.8±2.5Cmgから最終観察時にはC6.5C±2.5Cmgまで減量することができていた.過去の報告と比べてCADA導入後に使用しているCPSL量が多めであり,ADAの効果はやや限定的であった.このように今回の検討でのCADAの有効性が過去の海外からの報告と比べてやや悪い結果となった理由は不明だが,当院では重症なぶどう膜炎患者にのみCADAを使用しているため,PSLや免疫抑制薬の併用を続けなければならなかった症例が多かったのではないかと考える.今回の症例のうち,免疫抑制薬の減量や再発回数の変化からCADAがとくに効きづらかったと考えられた症例はCBehcet病ではC7例中C1例(CYSの増量,表1症例1),Behcet病以外のぶどう膜炎ではサルコイドーシス(疑い含む)でC5例中C1例(再発回数の増加,表2症例8),VKHで3例中1例(PSL減量不良,表2の症例C14)であった.Behcet病の症例はIFXからの切り替えを行った症例であり,ADA導入前C1年間の再発頻度の高い症例であった.また,サルコイドーシスの症例C8は,もともとCADAの国際臨床試験を行った症例で,治験終了後CADAの継続投与の希望がなかったためいったんADAを中止したが,その後ぶどう膜炎の再発を繰り返したため,ADAを再開した症例であった.また,VKHの症例14は,ADA開始前C1年間の再発回数がC6回と他の症例と比べて多い症例であった.ADAなどのCTNFCa阻害薬の効果が不良となる原因として,TNFCa以外の炎症性サイトカインが主体となって炎症を起こしている可能性(一次無効),TNFCa阻害薬に対する薬物抗体(抗CIFX抗体や抗CADA抗体)が産生されて血液中濃度が低下している可能性(二次無効)12)などが考えられる.また,最近の研究では,非感染性ぶどう膜炎に対するCTNFa阻害薬使用が効果良好となりやすい背景因子は,高齢,ADAの使用(IFXと比較して),全身性の活動性病変がないこと,と報告されている13).また,別のぶどう膜炎に対するCADAの有効性のメタアナリシスの研究では,MTX内服の併用がCADAのCtreatmentfailureのリスクを減少させると報告されている14).今回のCADA効果不良例のうちサルコイドーシスの症例(症例8)は,国際臨床試験での初回使用時では半年で再発頻度がC2.0回からC0.15回(/6カ月)と減少していたが,中止後再開時では初めのC5カ月は明らかな再発なく経過していたものの,その後再発頻度がC2回からC3回(/年)と増加していることを考慮すると,二次無効が原因と考えられる.また,Behcet病の症例(症例1)は,ADA導入後しばらくはぶどう膜炎の再発が抑制されていたが,導入半年後ごろからぶどう膜炎の再発頻度が増しており,二次無効が原因ではないかと考える.また,VKHの症例(症例C14)では開始C4カ月は再発はなかったが,PSLを減量すると前房内の炎症が生じてきた.ステロイド内服をほとんど減量できなかったことから,一次無効ではないかと考えるが,二次無効の可能性も否定できないと考える.しかし,それ以外の症例では,ぶどう膜炎の再発頻度や併用薬剤の投与量はかなり減少できており,ADA導入により一定の効果を上げることができていたと考える.本研究ではC1症例(症例C12)のみ有害事象と考え使用を中止した.初回投与の翌日より発熱がみられ,2週間後に当院アレルギー膠原病内科受診時には,血液検査でCCRP0.61,Cb-DグルカンC51.7と上昇認めた.内科医の判断でCADA投与は中止となった.真菌感染症が疑われ,原因検索のため全身CCTが施行されたが,明らかな感染巣は認められなかった.深在性真菌感染症疑いとしてCST合剤内服が開始され,Cb-Dグルカンは陰性化した.ADA投与を中止しても明らかな眼炎症の増悪を認めなかったため,ADAは再開せずに経過観察している.この症例は,ADA導入前の感染症スクリーニング検査ではとくに異常はみられず,PSLとCADAの投与使用以外には免疫力低下の原因は考えにくい症例であった.ぶどう膜炎に対するCADAの国際臨床試験ではC4.0%に結核などの重大な感染症の有害事象があり2),また真菌感染症(ニューモシスチス肺炎など)については関節リウマチに対するCADA使用時の有害事象として報告15)されている.そのため,日本眼炎症学会による非感染性ぶどう膜炎に対するCTNFa阻害薬使用指針および安全対策マニュアルでは,結核,B型肝炎などの感染症のスクリーニング検査を導入前に施行すべきであるとしている16).いずれにせよ,TNFCa阻害薬の使用の際には,感染症の発症に十分な注意が必要である.本研究の研究でCADAを導入してもぶどう膜炎のコントロールが不十分な症例がC20例中C3例(15%)あった.今回の症例では,ステロイドの局所注射や免疫抑制薬の増量で対応したが,このような症例に対してどのように治療すべきかが今後の課題と考えられる.ぶどう膜炎に先駆けてCADAが使用されてきた膠原病領域では,既存の用量で効果が不十分な症例に対しては,抗CADA抗体が産生される前の早期でのADA増量が有効であることが報告されている17).効果不良症例に対するCADA増量投与は現時点ではぶどう膜炎に対して保険適用はないが,関節リウマチ,乾癬,強直性脊椎炎,Crhon病,腸管CBehcet病に対しては通常使用量の倍量まで増量が可能となっている.本研究においてもCBehcet病完全型の症例(症例7)では全身症状,とくに関節症状の悪化があり,内科医からC80Cmgへの増量がなされている.この症例ではCADA40Cmg開始後はぶどう膜炎の再燃はなかったが,80Cmgへ増量後も再燃はなく,また有害事象もなく経過している.ぶどう膜炎に対しても難治例に対するCADAの増量投与が保険適用となることが望まれる.今回,Behcet病およびその他の非感染性ぶどう膜炎に対してCADAを使用した症例の臨床経過を後ろ向きに検討した.ADA導入によりCBehcet病,他のぶどう膜炎ともに再発頻度が減少し,併用薬剤の減量が可能であった.しかし真菌感染症が疑われた1例でCADA投与を中止していた.ADAは難治性内因性ぶどう膜炎に対して有効であるが,感染症の発症に注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Ja.eGJ,DickAD,BrezinAPetal:Adalimumabinpatientswithactivenoninfectiousuveitis.NEnglJMedC375:932-943,C20162)SuhlerEB,AdanA,BrezinAPetal:Safetyande.cacyofadalimumabinpatientswithnoninfectiousuveitisinanongoingCopen-labelCstudy:VISUALCIII.COphthalmologyC125:1075-1087,C20183)FabianiC,VitaleA,EmmiGetal:E.cacyandsafetyofadalimumabCinCBehcet’sCdisease-relateduveitis:aCmulti-centerCretrospectiveCobservationalCstudy.CClinCRheumatolC36:183-189,C20174)ErckensCRJ,CMostardCRL,CWijnenCPACetal:AdalimumabCsuccessfulCinCsarcoidosisCpatientsCwithCrefractoryCchronicCnon-infectiousCuveitis.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:713-720,C20125)CoutoCC,CSchlaenCA,CFrickCMCetal:AdalimumabCtreat-mentCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCDisease.COculImmunolIn.ammC24:1-5,C20166)小野ひかり,吉岡茉依子,春田真実ほか:非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果.臨眼C72:795-801,C20187)HiyamaCT,CHaradaCY,CKiuchiY:E.ectiveCtreatmentCofCrefractoryCsympatheticCophthalmiaCwithCglaucomaCusingCadalimumab.AmJOphthalmolCase-repC14:1-4,C20198)AsanoCS,CTanakaCR,CKawashimaCHCetal:RelentlessCplac-oidchorioretinitis:Acaseseriesofsuccessfultaperingofsystemicimmunosuppressantsachievedwithadalimumab.CaseRepOphthalmolC10:145-152,C20199)HiyamaT,HaradaY,DoiTetal:EarlyadministrationofadalimumabforpaediatricuveitisduetoBehcet’sdisease.PediatRheumatolC17:29,C201910)KarubeH,KamoiK,Ohno-MatsuiK:Anti-TNFtherapyinthemanagementofocularattacksinanelderlypatientwithClong-standingCBehcet’sCdisease.CIntCMedCCaseCRepCJC9:301-304,C201611)GotoCH,CZakoCM,CNambaCKCetal:AdalimumabCinCactiveCandCinactive,Cnon-infectiousuveitis:GlobalCresultsCfromCtheCVISUALCICandCVISUALCIICTrials.COculCImmunolCIn.amC27:40-50,C201912)SugitaS,YamadaY,MochizukiM:Relationshipbetweenserumin.iximablevelsandacuteuveitisattacksinpatientswithBehcetdisease.BrJOphthalmolC95:549-552,C201113)Al-JanabiCA,CElCNokrashyCA,CShariefCLCetal:Long-termCoutcomesoftreatmentwithbiologicalagentsineyeswithrefractory,Cactive,CnoninfectiousCintermediateCuveitis,Cpos-terioruveitis,orpanuveitis.Ophthalmology127:410-416,C202014)MingS,XieK,HeHetal:E.cacyandsafetyofadalim-umabinthetreatmentofnon-infectiousuveitis:ameta-analysisandsystematicreview.DrugDesDevelTherC12:C2005-2016,C201815)TakeuchiCT,CTanakaCY,CKanekoCYCetal:E.ectivenessCandsafetyofadalimumabinJapanesepatientswithrheu-matoidarthritis:retrospectiveCanalysesCofCdataCcollectedCduringCtheC.rstCyearCofCadalimumabCtreatmentCinCroutineclinicalpractice(HARMONYstudy)C.ModRheumatolC22:C327-338,C201216)日本眼炎症学会CTNF阻害薬使用検討委員会:非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル.第C2版,2019年版,http://jois.umin.jp/TNF.pdf17)佐藤伸一:乾癬治療における生物学的製剤の量的評価と質的評価:抗CTNF-a抗体を中心として.診療と新薬C54:C865-872,C2017C***

ぶどう膜炎続発緑内障に対するナイロン糸による線維柱帯切開術(眼内法)の成績

2020年8月31日 月曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(8):999.1002,2020cぶどう膜炎続発緑内障に対するナイロン糸による線維柱帯切開術(眼内法)の成績内海卓也丸山勝彦小竹修祢津直也水井理恵子後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CSurgicalOutcomeofSutureTrabeculotomyAbInternoinEyeswithUveiticGlaucomaTakuyaUtsumi,KatsuhikoMaruyama,OsamuKotake,NaoyaNezu,RiekoMizuiandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityCぶどう膜炎続発緑内障に対し,ナイロン糸を用いた眼内法による線維柱帯切開術(単独手術)を施行し,術後C1年以上経過観察したC11例C11眼の眼圧調整成績と合併症の頻度を検討した.術後C1年目におけるC15CmmHg未満への眼圧調整成績は,眼圧下降薬の併用ありではC73%,併用なしではC36%となり,眼圧調整良好例の平均眼圧はそれぞれ11.3CmmHg,12.5CmmHgであった.術後合併症としてぶどう膜炎の再燃をC1眼で,洗浄を要した前房出血をC1眼で,1カ月以上遷延する眼圧上昇をC4眼で認め,2眼で濾過手術の追加を要した.また,眼圧調整良好例での検討では,線維柱帯の切開範囲と眼圧下降との間に有意な相関はなかった.以上より,ぶどう膜炎続発緑内障に対するナイロン糸による線維柱帯切開術(眼内法)は,一定の効果が期待できる術式と考えられる.CInthisstudy,weretrospectivelyanalyzed11eyesof11medicallyuncontrolleduveiticglaucomapatientswhounderwentCsutureCtrabeculotomyCabinterno(notCcombinedCwithCcataractsurgery)C.AtC1-yearCpostoperative,CtheCprobabilityofobtainingasuccessfulintraocularpressure(IOP)controlofunder15CmmHgwas73%withglaucomamedications,Cand36%CwithoutCglaucomaCmedications.CMeanCIOPCofCtheCmedicallyCcontrolledCandCuncontrolledCpatientswas11.3CmmHgand12.5CmmHg,respectively.Recurrenceofuveitispostsurgeryoccurredin1eye.Irriga-tionCofCtheCanteriorCchamberCforCmassiveChyphemaCwasCrequiredCinC1eye.CElevationCofCIOPClastingC1monthCwasCseenin4eyes,and2eyesrequiredre-operation.Simplecorrelationanalysisindicatedthattheextentoftheinci-sionindegreesoftrabecularmeshworkdidnotcorrelatewithIOPreduction.SuturetrabeculotomyabinternoisatreatmentoptionforthecontrolIOPinpatientswithuveiticglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(8):999.1002,C2020〕Keywords:ぶどう膜炎,続発緑内障,線維柱帯切開術,眼内法,糸.uveitis,secondaryglaucoma,trabeculoto-my,abinterno,suture.Cはじめにぶどう膜炎続発緑内障では隅角や線維柱帯に器質的,機能的異常を生じていることが多く1),線維柱帯切開術では眼圧下降が得られにくいとする意見がある.一方,奏効例の報告もみられるが2),この報告は結膜を切開し,強膜弁を作製する眼外法による治療成績を検討したものであり,近年普及している眼内法による線維柱帯切開術の成績は十分検討されていない.そこで本研究では,ぶどう膜炎続発緑内障に対するナイロン糸を用いた線維柱帯切開術(眼内法)の眼圧調整成績と合併症の頻度を後ろ向きに検討した.CI対象および方法対象はC2016年C3月からC2年の間に,東京医科大学病院でナイロン糸を用いた線維柱帯切開術(眼内法)を施行し,術後C1年以上経過観察したぶどう膜炎続発緑内障(uveiticglaucoma:UG)症例C11例C11眼(男性C5例,女性C6例)である.なお,白内障との同時手術を行った症例は今回の調査〔別刷請求先〕内海卓也:〒162-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:TakuyaUtsumi,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishi-shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo162-0023,JAPANC症例数(眼)090180270360切開範囲(°)図1線維柱帯の切開範囲の内訳平均C245C±69°(120.360°).対象から除外した.対象の年齢はC47.0C±14.1歳(レンジC13.69歳),術前眼圧はC29.0C±6.5CmmHg(20.44CmmHg),術前の眼圧下降薬数はC5.1C±0.8本(4.6本)であった.全例で消炎目的に副腎皮質ステロイド点眼薬が使用されていたが,いずれも一度休薬,あるいは低力価のステロイドへの変更が試みられ,それでも眼圧下降を認めない症例であった.ぶどう膜炎の内訳は,Behcet病C2眼,サルコイドーシスC1眼,急性前部ぶどう膜炎C1眼,サイトメガロウイルス虹彩炎1眼,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎C1眼,結核性ぶどう膜炎C1眼で,残りのC4眼は同定不能だったが,いずれも術前は眼内に炎症を認めなかった.また,広範囲に周辺虹彩前癒着を生じていた症例はなく,全例が開放隅角機序によるCUGと考えられた.なお,4眼では白内障手術,1眼では硝子体手術の既往があった(重複あり).術後の経過観察期間はC16.3C±8.4カ月(12.42カ月)であった.手術方法は以下のとおりである.点眼麻酔を行ったのち,耳側の角膜輪部にC2Cmmの切開創を作製し,前房内に粘弾性物質を充.した.続いて隅角鏡で観察しながらシンスキーフックで対側の線維柱帯に小切開を作製してCSchlemm管を開放し,同部位から前.鑷子で把持したC5-0ナイロン糸をSchlemm管内に挿入後,押し進め,進まなくなった時点で5-0ナイロン糸を引くことによって,そこまでの線維柱帯を切開した.12時方向とC6時方向で同様の操作を行い,同一の切開創からのアプローチで可能な限りの線維柱帯を切開した.切開範囲は平均C245C±69°(120.360°)であった(図1).最後に粘弾性物質を吸引して手術を終了した.術後は抗菌点眼薬と副腎皮質ステロイド点眼薬を使用し,所見に応じて適宜漸減,中止した.また,眼圧上昇に対しても適宜眼圧下降薬を追加した.検討項目は以下のとおりである.まず,眼圧調整成績をKaplan-Meier法で解析した.眼圧調整の定義は術後の眼圧値がC18CmmHg未満,15CmmHg未満のC2つとし,3回連続でこれらの条件を満たさなかった場合はC1回目の時点で眼圧調整不良と判定し,さらに眼圧下降薬の併用あり,なしに分けて検討した.また,緑内障の再手術を要した場合も眼圧調整不良とした.つぎに,術中,術後合併症の頻度を調査し眼圧調整成績(%)100806040200期間(月)1612投薬あり99988生存数投薬なし44444図2眼圧調整成績(Kaplan.Meier法)実線:眼圧下降薬の投薬あり,点線:眼圧下降薬の投薬なし.眼圧調整の定義:術後眼圧値がC18CmmHg未満,15CmmHg未満のC2つ定め,3回連続でこれらの条件を満たさなかった場合はC1回目の時点で眼圧調整不良と判定,緑内障の再手術を行った場合も眼圧調整不良と判定した(いずれのカットオフ値でも結果は同様).た.さらに線維柱帯の切開範囲と眼圧下降幅,ならびに眼圧下降率との関係を,眼圧調整良好例に限定して回帰分析で解析した.いずれもCp<0.05の場合に統計学的に有意と判定した.CII結果眼圧調整成績を図2に示す.カットオフ値C18CmmHg,15CmmHgいずれの場合でも結果に変わりはなく,術後C1年目での眼圧調整成績は,眼圧下降薬の併用ありではC73%,併用なしではC36%であった.なお,眼圧調整良好例の平均眼圧は,投薬ありはC11.3C±3.5CmmHg(6.15CmmHg),投薬なしはC12.5C±1.8CmmHg(10.15mmHg)であった.術中,術後合併症の頻度を表1に示す.術後,ぶどう膜炎が再燃したCBehcet病の症例は,術後C2カ月でステロイド点眼薬を中止し経過観察していたが,術後C8カ月で眼圧上昇を伴わない炎症反応の再発を認め,ステロイド点眼薬の再開で消炎が得られた.なお,ステロイドの全身投与は不要であった.また,緑内障手術の再手術を要したC2症例には,経過中どちらも強い炎症反応はみられなかった.なお,術中に線維柱帯が切開できなかった症例や,術後低眼圧となった症例はなかった.さらに,術後C1年目での眼圧調整良好例(投薬あり)8眼を対象に調査したところ,線維柱帯の切開範囲と眼圧下降幅,ならびに眼圧下降率との間にはいずれも有意な相関はなかった(図3).CIII考按本研究は,UGに対してナイロン糸を用いた線維柱帯切開表1術中,術後合併症の頻度項目頻度ぶどう膜炎の内訳術中前房出血術後前房出血の遷延*一過性眼圧上昇†ぶどう膜炎の再燃緑内障手術の再手術100%9%36%9%18%Fuchs1眼,AAUC1眼,同定不能C2眼Behcet病C1眼CMV虹彩炎C1眼,サルコイドーシスC1眼重複あり.*処置を要したもの.C†30CmmHg以上.Fuchs:Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎,AAU:急性前部ぶどう膜炎,CMV虹彩炎:サイトメガロウイルス虹彩炎.術(眼内法)の術後成績を検討した初めての報告である.術線維柱帯の切開範囲(°)後C1年目での眼圧調整成績は,カットオフ値C18CmmHg,15mmHgいずれの場合でも,眼圧下降薬の併用ありではC73%,併用なしではC36%となり,眼圧調整良好例の平均眼圧はそれぞれC11.3CmmHg,12.5CmmHgであった.また,重篤な術中,術後合併症は認めなかった.さらに,眼圧調整良好例を対象とした検討では,線維柱帯の切開範囲と眼圧下降との間に有意な相関はなかった.UGに対する線維柱帯切開術の成績に関しては,眼外法についてはCChinら2)が,18眼(落屑緑内障C3眼,外傷性緑内障C1眼を含む)を対象にナイロン糸による全周の線維柱帯切開術(眼外法)単独手術を行った結果,眼圧C18CmmHg未満,かつ術前眼圧からの眼圧下降率C30%以上への眼圧調整成績は術後C1年でC89%であったと報告している.本報告で用いた眼内法による線維柱帯切開術は,結膜弁や強膜弁を作製せず,線維柱帯の切開範囲が必ずしも全周ではない点でCChinらの術式と異なるため,結果を単純に比較することはできないが,UGに対しても一定の割合で線維柱帯切開術が有効な症例が存在することが確認された.合併症に関しては,UGを対象としていることもあって,原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleglaucoma:POAG)とは頻度や内容が異なる可能性がある.しかし,今回の筆者らの検討では,一過性眼圧上昇(36%)や処置を要する前房出血(9%)の頻度は,POAG13眼,落屑緑内障C6眼を対象とした本報告と同様の術式のCSatoら3)の報告と類似していた(それぞれC24%,6%).一方,緑内障手術が再度必要となった症例は,Satoらの報告では6%であるのに対し本報告ではC18%と高く,ぶどう膜炎の再燃をきたした症例もみられたことから,UGに対する本術式の効果は限定的と考えられた.ナイロン糸を用いた線維柱帯切開術では,眼内法,眼外法いずれの場合でも適切な線維柱帯の切開範囲は今のところ明確にはされていない.眼外法に関してはCPOAGや落屑緑内障を対象とした検討で,Manabeら4)が単独手術でも白内障眼圧下降率(%)眼圧下降幅(mmHg)0901802703600-10-20-30906030090180270360線維柱帯の切開範囲(°)図3線維柱帯の切開範囲と眼圧下降の関係(回帰分析)上:線維柱帯の切開範囲と眼圧下降幅との関係.眼圧下降幅=.0.02×線維柱帯の切開範囲.12.51.相関係数=0.25,Cp=0.55.下:線維柱帯の切開範囲と眼圧下降率との関係.眼圧下降率=0.03×線維柱帯の切開範囲+51.57.相関係数=0.17,Cp=0.69.との同時手術でも線維柱帯の切開範囲と術後C1年目の眼圧値や眼圧下降幅との間に有意な相関はなかったと報告している.UGが対象ではあるが,今回検討した結果によれば眼内法でも同様の結果となり,必ずしも線維柱帯の全周切開にこだわる必要はないことが示唆された.本報告は経過観察期間が短く,少数例を対象とした単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈には各種バイアスの影響を加味しなければならない.とくにステロイドの影響は留意すべきで,今回の対象は臨床経過から全例ステロイド緑内障が否定された症例ではあったが,部分的にはステロイドによる眼圧上昇が病態に関与していた可能性は否定できない.ステロイド緑内障に対する線維柱帯切開術の成績は良好であり5),今回の成績が過大評価されていることもありえるが,臨床的にはCUGとステロイド緑内障を厳密に鑑別できないことも多い.このようにいくつかの問題点はあるが,いわゆる難治緑内障といわれるCUGに対しても,小切開で施行可能で,結膜や強膜に瘢痕を残さない眼内法によるナイロン糸を用いた線維柱帯切開術は適応を考慮してもよい術式と考えられた.今後,多数例を対象とした,長期にわたる観察に基づいた検証が必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KulkarniCA,CBartonK:UveiticCglaucoma.In:Glaucoma.CMedicaldiagnosisC&therapy.EdbyShaarawyTM,Sher-woodMB,HitchingsRAed)C,2nded,al:Elsevier,Amster-dam,Cp410-424,C20152)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucomaC21:401-407,C20123)SatoT,KawajiT,HirataAetal:360-degreesuturetra-beculotomyCabCinternoCtoCtreatCopen-angleglaucoma:C2-yearoutcomes.ClinOphthalmolC12:915-923,C20184)ManabeCS,CSawaguchiCS,CHayashiK:TheCe.ectCofCtheCextentCofCtheCincisionCinCtheCSchlemmCcanalConCtheCsurgi-caloutcomesofsuturetrabeculotomyforopen-angleglau-coma.CJpnJOphthalmolC61:99-104,C20175)IwaoK,InataniM,TaniharaH;JapaneseSteroid-InducedGlaucomaMulticenterStudyGroup:Successratesoftra-beculotomyforsteroid-inducedglaucoma:acomparative,multicenter,retrospectivecohortstudy.AmJOphthalmolC151:1047-1056,C2011***