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非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブ使用例の後方視的 検討

2021年6月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(6):719.724,2021c非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブ使用例の後方視的検討伊沢英知*1,2田中理恵*2小前恵子*2中原久恵*2高本光子*3藤野雄次郎*4相原一*2蕪城俊克*2,5*1国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科*2東京大学医学部附属病院眼科*3さいたま赤十字病院眼科*4JCHO東京新宿メディカルセンター眼科*5自治医科大学附属さいたま医療センター眼科CRetrospectiveStudyof20CasesAdministeredAdalimumabforUveitisHidetomoIzawa1,2)C,RieTanaka2),KeikoKomae2),HisaeNakahara2),MitsukoTakamoto3),YujiroFujino4),MakotoAihara2)andToshikatsuKaburaki2,5)1)DepartmentofOphthalmicOncology,NationalCancerCenterHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,3)DepartmentofOphthalmology,SaitamaRedCrossHospital,4)DepartmentofOphthalmology,JCHOShinjukuMedicalCenter,5)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenterC目的:非感染性ぶどう膜炎にアダリムマブ(以下,ADA)を用いた症例の臨床像を検討した.対象および方法:既存治療に抵抗性の非感染性ぶどう膜炎にCADAを投与したC20例.診療録より併用薬剤,ぶどう膜炎の再発頻度,有害事象を後ろ向きに検討した.結果:Behcet病C7例では,ADA導入により再発頻度がC5.1回/年からC1.6回/年に減少した.シクロスポリンはC3例中C2例で減量され,コルヒチンもC3例全例で減量が可能であった.Behcet病以外のぶどう膜炎C13例では,再発頻度はC2.7回/年からC0.8回/年に減少した.プレドニゾロンは全例で使用されており全例で減量が可能であった.シクロスポリンはC4例全例で中止可能であった.Cb-Dグルカン上昇の有害事象を起こしたC1例でADAを中止した.結論:ADA導入によりCBehcet病,他のぶどう膜炎ともに再発頻度が減少し,併用薬剤の減量が可能であった.CPurpose:Toexaminetheclinicaloutcomesofadalimumab(ADA)administrationin20casesofnon-infectiousuveitis(NIU)C.SubjectsandMethods:Inthisretrospectivestudy,weexaminedthemedicalrecordsof20patientswhoCwereCadministeredCADACatCtheCUniversityCofCTokyoCHospitalCforCrefractoryCNIUCresistantCtoCexistingCtreat-ments,andinvestigatedthefrequencyofrelapseofuveitis,concomitantmedications,andadverseevents.Results:CIn7casesofBehcet’sdisease(BD)C,ADAadministrationreducedthefrequencyofrelapsefrom5.1times/yearto1.6times/year.In2of3cases,concomitantcyclosporine(CYS)dosagescouldbereduced,andthoseofcolchicinecouldbereducedinall3patients.In13casesofNIUotherthanBD,thefrequencyofrelapsedecreasedfrom2.7times/yearCtoC0.8Ctimes/year.CPrednisoloneCwasCusedCinCallCcases,CandCtheCdosagesCcouldCbeCreducedCinCallCcases.CCYSwasusedin4cases,andcouldbediscontinuedinallcases.Onepatientsu.eredanadverseeventofserumb-D-glucanelevation,andADAwasdiscontinued.Conclusion:UsingADA,thefrequencyofrelapseandthedoseofconcomitantmedicationsweredecreasedinpatientswithBDandtheotherNIU.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(6):719.724,C2021〕Keywords:アダリムマブ,ぶどう膜炎,後ろ向き研究,ステロイド,インフリキシマブ.adalimumab,Cuveitis,Cretrospectivestudy,steroid,in.iximab.Cはじめに節症性乾癬,強直性脊椎炎,若年性特発性関節炎,Crohnアダリムマブ(adalimumab:ADA)は完全ヒト型抗病,腸管型CBehcet病,潰瘍性大腸炎に対して適用されていCTNFa抗体製剤であり以前よりわが国でも尋常性乾癬,関たがC2016年C9月より既存治療で効果不十分な非感染性の中〔別刷請求先〕伊沢英知:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:HidetomoIzawa,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongou,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC表1Behcet病症例まとめADA再発回数(/年)PSL量(mg)CYS量(mg)IFX量COL量(mg)観察投与CNo.年齢性別期間期間CADA最終CADA最終CADA最終CADA最終CADA最終副作用(月)(月)投与前観察時投与前観察時投与前観察時投与前観察時投与前観察時1C53CM6127C15C7C0C0C125C1755mg/kg/5週C0C0C0なしC236F5926200000C0C010.5なしC3C59F3625C7.63C10C7.50C0C0C0C1C0.5なしC4C64F6624C4C1C0C0140100C0C0C0C0なしC5C51CM29121C1C0C0C0C0C05mg/kg/6週C0C0C0なしC6C29M9718C3C0C10C1200C75C0C0C0.5C0なしC745F1211300000C0C000なし平均C48.1C88.9C21.7C5.1C1.6C2.9C1.2C66.4C50.0C0.4C0.1標準偏差C11.5C86.0C5.2C4.5C2.4C4.5C2.6C79.6C64.1C0.4C0.2CM:男性,F:女性,ADA:アダリムマブ,PSL:プレドニゾロン,CYS:シクロスポリン,IFX:インフリキシマブ,COL:コルヒチン.表2Behcet病以外の非感染性ぶどう膜炎症例まとめADA再発回数(/年)PSL量(mg)CYS量(mg)MTX量(mg/週)観察投与CNo.病名年齢性別患眼期間期間CADA最終CADA最終CADA最終CADA最終副作用(月)(月)投与前観察時投与前観察時投与前観察時投与前観察時8サルコイドーシス組織診断群C41CF両139C80C2C3C15C11C0C0C0C0なしC9サルコイドーシス組織診断群C77CM両C63C23C2C0C12.5C7C0C0C0C8なしC10サルコイドーシス組織診断群58CF両7317C1C1C6C5C0C0C0C0なしC11サルコイドーシス疑いC50CM両35C30C2.4C0C25C2C0C0C0C0なし発熱,CRP上昇C12サルコイドーシス疑いC70CM右74C12C2C0C12.5C9C150C0C0C0CbDグルカン上昇C13Vogt-小柳-原田病C44CM両C66C30C2C1C16C7.5C320C0C8C0なしC14Vogt-小柳-原田病C33CM両15C12C6C4C10C9C0C0C0C0なしC15Vogt-小柳-原田病C52CM両97C10C3C0C12.5C3C0C0C0C0なしC16CrelentlessCplacoidCchorioretinitisC35CF両C39C22C4C0C15C0C200C0C0C0なしC17CrelentlessCplacoidCchorioretinitisC23CM両C26C18C1.5C0C14C0C150C0C0C0なしC18多巣性脈絡膜炎C46CF両3425C4.5C0C10C0C0C0C0C0なしC19小児慢性ぶどう膜炎C15CM両43C24C0C0C5C0C0C0C8C14なしC20乾癬によるぶどう膜炎C79CM両18C17C5C1C15C0C0C0C0C0なし平均C47.9C55.5C24.6C2.7C0.8C13.0C4.1標準偏差C18.8C33.7C17.2C1.6C1.2C4.8C4.0M:男性,F:女性,ADA:アダリムマブ,PSL:プレドニゾロン,CYS:シクロスポリン,MTX:メトトレキサート,CRP:C反応性蛋白.間部,後部または汎ぶどう膜炎に対して保険適用となった.ADAの非感染性ぶどう膜炎の有効性については,国際共同臨床試験により,ぶどう膜炎の再燃までの期間がプラセボ群では中央値C13週間であったのに対しCADA投与群では中央値C24週間と有意に延長すること1),平均CPSL量がC13.6Cmg/日からC2.6Cmg/日に減量可能であったこと2),活動性症例ではC60%に活動性の鎮静がみられた2)ことが確かめられている.また,非感染性ぶどう膜炎の個々の疾患におけるCADAの有効性も報告されている.Fabianiらは難治性のCBehcet病ぶどう膜炎C40例にCADAを使用し,眼発作頻度の減少を報告している3).Erckensらはステロイドならびにメトトレキサート(methotrexate:MTX)内服で炎症の残るサルコイドーシスC26症例に対してCADA使用し,脈絡膜炎症所見の消失や改善,黄斑浮腫の消失や改善,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)投与量の減量が多くの症例で得られたことを報告している4).さらにCCoutoらは遷延型のCVogt・小柳・原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)14例に使用し,PSL投与量の減少を報告している5).このように近年非感染性ぶどう膜炎に対するCADAの有効性の報告が蓄積されつつある.一方,わが国でも非感染性ぶどう膜炎に対するCADAの治療成績や臨床報告が散見されるが6.11),いまだ多数例での治療成績の報告は少ないのが現状である.今回,東京大学病院(以下,当院)で非感染性ぶどう膜炎に対しCADAを使用したC20例の使用経験について報告する.CI対象および方法対象は当院にて非感染性ぶどう膜炎にCPSL,シクロスポリン(ciclosporin:CYS),コルヒチン(colchicine:COL),インフリキシマブ(infliximab:IFX)で治療したが再燃した症例で,炎症をコントロールする目的または併用薬剤の減量目的で保険収載後CADA投与を開始した症例C20例(男性C12例,女性C8例,平均年齢C49.2C±16.0歳)である.診療録より性別,年齢,原疾患,経過観察期間,ADA導入時の免疫抑制薬の投与量,最終観察時の免疫抑制薬の投与量,ADA導入前後C1年間のぶどう膜炎の再燃回数(両眼性はC2回と計測),有害事象について後ろ向きに検討した.原因疾患の内訳はCBehcet病C7例(疑いC1例含む),サルコイドーシスC5例(国際治験参加後一度中止したが,再度開始したC1例含む),CVKH3例,relentlessCplacoidchorioretinitis(RPC)2例,多巣性脈絡膜炎(multifocalchoroiditis:MFC)1例,乾癬性ぶどう膜炎C1例,若年性特発性関節炎C1例である.本研究での症例選択基準として,保険収載前に当院で国際治験として開始された症例は除外している.ADAの投与方法は投与前の全身検査,アレルギー膠原病内科での診察によりCADA導入に問題がないと確認したのち,初回投与からC1週間後に40mg投与,その後は2週間ごとにC40mg投与を行った.ただし,Behcet病完全型のC1症例(症例7)は腸管CBehcet病を合併した症例で,発熱,関節痛などの全身症状が安定しないため,ADA導入C4カ月後に内科医の判断でC2週間ごと80Cmg投与に増量となっている.併用した免疫抑制薬は眼所見,全身症状やCC反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)などの血液検査データをみながら,可能な症例については適宜減量を行った.また経過中ぶどう膜炎再燃時には適宜ステロイドの結膜下注射あるいはTenon.下注射を併用した.重篤な再燃を繰り返す場合には併用中の免疫抑制薬の増量を適宜行った.本研究はヘルシンキ宣言および「ヒトを対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守しており,この後ろ向き研究は,東京大学医学部附属病院倫理委員会により承認されている(UMINID:2217).CII結果まずCBehcet病C7症例のまとめを表1に示す.4名が女性,平均年齢はC48.1歳,全観察期間は平均C88.9カ月,ADA導入から最終観察までは平均C21.7カ月であった.ADA使用前1年間の再発回数は平均C5.4C±4.5回であったのに対し,開始後C1年の平均再発回数はC1.6C±2.4回と減少がみられた.また,ADA使用後に再発のあった症例はC3例であり,いずれの症例でも再発部位に変化はみられなかった.PSLは全身症状に対してC2例で内科より使用されていたが,2例とも減量が可能であった.CYSはC3例で使用されており,2例では減量が可能であったがC1例で増量している.IFXからの切り替え例はC2例であった.COLはC3例で使用していたが,全例で減量が可能であった.また,ADAによると考えられる有害事象はなかった.なお症例C7は前述のとおりぶどう膜炎の活動性は安定していたが,全身症状のコントロールのため内科医の判断でCADAがC1回C80Cmg投与へ増量されている.つぎにCBehcet病以外のぶどう膜炎C13症例のまとめを表2に示す.4名が女性,平均年齢はC48歳,全観察期間は平均55.5カ月,ADA導入から最終観察までは平均C24.6カ月であった.ADA導入前C1年間の再発頻度は平均C2.7C±1.6回であったのに対し,導入後には平均C0.8C±1.2回と減少がみられた.使用後再発をきたした症例はC5例あったが発作部位の変化や発作の程度には変化はみられなかった.PSLはCADA導入前には全例で使用されており,平均C13.0C±4.8Cmg内服していたが,導入後最終観察時にはC4.1C±4.0Cmgまで減量できており,5例は中止可能であった.CYSはC4例で使用されていたが,全例中止可能であった.MTXはCADA導入前C2例で使用されていたが,1例で中止可能であった.ADA導入後にCMTXを開始されたC1例(症例9)は,導入C8カ月後に全身倦怠感,多発関節痛を発症し,リウマチ性多発筋痛症の併発と診断された症例で,内科医の判断でCMTX8Cmg/週を開始された.リウマチ性多発筋痛症の発症とCADAとの因果関係は否定的である,と内科医は判定している.また,MTXを増量したC1例(症例C19)は関節症状に対し内科から増量となっている.有害事象としては,症例C5ではCADA導入後C2週間で発熱,CRP,Cb-Dグルカンの上昇を認め,当院内科の判断で中止となっている.以上をまとめると,Behcet病およびその他の非感染性ぶどう膜炎の両群において,ADA導入前C1年間と比較して,入後C1年間にはぶどう膜炎の再発回数の減少がみられた.また,PSL,CYS,COLなどの併用免疫抑制薬の投与量についても,両群とも多くの症例で減量が可能であった.CIII考按本研究では,当院で治療中の非感染性ぶどう膜炎のうち,既存治療で効果不十分あるいは免疫抑制薬の減量が必要なためCADAを導入した症例の治療成績を後ろ向きに検討した.その結果,Behcet病およびCBehcet病以外のぶどう膜炎いずれの群においても,ADA導入後にはぶどう膜炎の再発回数はおおむね減少し,免疫抑制薬の平均投与量も両群とも減少していた.ADA導入前後C1年間の再発頻度については,20例中減少がC17例,増加がC1例,不変が2例であった(表1,2).FabianiらはC40例のCBehcet病患者に対してCADAを使用し,再発頻度がC1人あたりC2.0回/年からC0.085回/年に著明に減少したと報告している3).今回筆者らが検討したCBehcet病症例では,再発頻度は平均C5.4回/患者・年からC1.6回/患者・年に減少していたが,既報と比較すると効果は限定的であった.この理由として,今回の症例はCADA導入前の再発頻度が既報3)よりも高く,より活動性の高い症例が多かったことが原因ではないかと推測する.一方,サルコイドーシスぶどう膜炎に対するCADA使用については,ErckensらがCPSL内服ならびにCMTX内服で眼内炎症が残る,あるいは内服を継続できない症例C26例に対してCADAを使用し,12カ月間でぶどう膜炎の再発はなく,PSL投与量はCADA導入C6カ月目の時点で導入前の中央値20Cmg/日からC4Cmg/日まで減量できた,と報告している4).今回のサルコイドーシス症例は,5例中C2例にぶどう膜炎の再発を認め,PSL投与量の中央値は投与開始前C13Cmg/日から最終観察時にはC7Cmg/日に減量できていた.既報と比べてやや成績は不良であった.一方,CoutoらはCVKH14例に対してCADAを導入し,投与前のCPSL内服量は平均C36.9Cmg/日であったが,導入後C6カ月でC4.8Cmg/日にまで減少可能であったと報告している5).今回の筆者らのCVKH症例では,導入前のCPSL使用量C12.8±2.5Cmgから最終観察時にはC6.5C±2.5Cmgまで減量することができていた.過去の報告と比べてCADA導入後に使用しているCPSL量が多めであり,ADAの効果はやや限定的であった.このように今回の検討でのCADAの有効性が過去の海外からの報告と比べてやや悪い結果となった理由は不明だが,当院では重症なぶどう膜炎患者にのみCADAを使用しているため,PSLや免疫抑制薬の併用を続けなければならなかった症例が多かったのではないかと考える.今回の症例のうち,免疫抑制薬の減量や再発回数の変化からCADAがとくに効きづらかったと考えられた症例はCBehcet病ではC7例中C1例(CYSの増量,表1症例1),Behcet病以外のぶどう膜炎ではサルコイドーシス(疑い含む)でC5例中C1例(再発回数の増加,表2症例8),VKHで3例中1例(PSL減量不良,表2の症例C14)であった.Behcet病の症例はIFXからの切り替えを行った症例であり,ADA導入前C1年間の再発頻度の高い症例であった.また,サルコイドーシスの症例C8は,もともとCADAの国際臨床試験を行った症例で,治験終了後CADAの継続投与の希望がなかったためいったんADAを中止したが,その後ぶどう膜炎の再発を繰り返したため,ADAを再開した症例であった.また,VKHの症例14は,ADA開始前C1年間の再発回数がC6回と他の症例と比べて多い症例であった.ADAなどのCTNFCa阻害薬の効果が不良となる原因として,TNFCa以外の炎症性サイトカインが主体となって炎症を起こしている可能性(一次無効),TNFCa阻害薬に対する薬物抗体(抗CIFX抗体や抗CADA抗体)が産生されて血液中濃度が低下している可能性(二次無効)12)などが考えられる.また,最近の研究では,非感染性ぶどう膜炎に対するCTNFa阻害薬使用が効果良好となりやすい背景因子は,高齢,ADAの使用(IFXと比較して),全身性の活動性病変がないこと,と報告されている13).また,別のぶどう膜炎に対するCADAの有効性のメタアナリシスの研究では,MTX内服の併用がCADAのCtreatmentfailureのリスクを減少させると報告されている14).今回のCADA効果不良例のうちサルコイドーシスの症例(症例8)は,国際臨床試験での初回使用時では半年で再発頻度がC2.0回からC0.15回(/6カ月)と減少していたが,中止後再開時では初めのC5カ月は明らかな再発なく経過していたものの,その後再発頻度がC2回からC3回(/年)と増加していることを考慮すると,二次無効が原因と考えられる.また,Behcet病の症例(症例1)は,ADA導入後しばらくはぶどう膜炎の再発が抑制されていたが,導入半年後ごろからぶどう膜炎の再発頻度が増しており,二次無効が原因ではないかと考える.また,VKHの症例(症例C14)では開始C4カ月は再発はなかったが,PSLを減量すると前房内の炎症が生じてきた.ステロイド内服をほとんど減量できなかったことから,一次無効ではないかと考えるが,二次無効の可能性も否定できないと考える.しかし,それ以外の症例では,ぶどう膜炎の再発頻度や併用薬剤の投与量はかなり減少できており,ADA導入により一定の効果を上げることができていたと考える.本研究ではC1症例(症例C12)のみ有害事象と考え使用を中止した.初回投与の翌日より発熱がみられ,2週間後に当院アレルギー膠原病内科受診時には,血液検査でCCRP0.61,Cb-DグルカンC51.7と上昇認めた.内科医の判断でCADA投与は中止となった.真菌感染症が疑われ,原因検索のため全身CCTが施行されたが,明らかな感染巣は認められなかった.深在性真菌感染症疑いとしてCST合剤内服が開始され,Cb-Dグルカンは陰性化した.ADA投与を中止しても明らかな眼炎症の増悪を認めなかったため,ADAは再開せずに経過観察している.この症例は,ADA導入前の感染症スクリーニング検査ではとくに異常はみられず,PSLとCADAの投与使用以外には免疫力低下の原因は考えにくい症例であった.ぶどう膜炎に対するCADAの国際臨床試験ではC4.0%に結核などの重大な感染症の有害事象があり2),また真菌感染症(ニューモシスチス肺炎など)については関節リウマチに対するCADA使用時の有害事象として報告15)されている.そのため,日本眼炎症学会による非感染性ぶどう膜炎に対するCTNFa阻害薬使用指針および安全対策マニュアルでは,結核,B型肝炎などの感染症のスクリーニング検査を導入前に施行すべきであるとしている16).いずれにせよ,TNFCa阻害薬の使用の際には,感染症の発症に十分な注意が必要である.本研究の研究でCADAを導入してもぶどう膜炎のコントロールが不十分な症例がC20例中C3例(15%)あった.今回の症例では,ステロイドの局所注射や免疫抑制薬の増量で対応したが,このような症例に対してどのように治療すべきかが今後の課題と考えられる.ぶどう膜炎に先駆けてCADAが使用されてきた膠原病領域では,既存の用量で効果が不十分な症例に対しては,抗CADA抗体が産生される前の早期でのADA増量が有効であることが報告されている17).効果不良症例に対するCADA増量投与は現時点ではぶどう膜炎に対して保険適用はないが,関節リウマチ,乾癬,強直性脊椎炎,Crhon病,腸管CBehcet病に対しては通常使用量の倍量まで増量が可能となっている.本研究においてもCBehcet病完全型の症例(症例7)では全身症状,とくに関節症状の悪化があり,内科医からC80Cmgへの増量がなされている.この症例ではCADA40Cmg開始後はぶどう膜炎の再燃はなかったが,80Cmgへ増量後も再燃はなく,また有害事象もなく経過している.ぶどう膜炎に対しても難治例に対するCADAの増量投与が保険適用となることが望まれる.今回,Behcet病およびその他の非感染性ぶどう膜炎に対してCADAを使用した症例の臨床経過を後ろ向きに検討した.ADA導入によりCBehcet病,他のぶどう膜炎ともに再発頻度が減少し,併用薬剤の減量が可能であった.しかし真菌感染症が疑われた1例でCADA投与を中止していた.ADAは難治性内因性ぶどう膜炎に対して有効であるが,感染症の発症に注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Ja.eGJ,DickAD,BrezinAPetal:Adalimumabinpatientswithactivenoninfectiousuveitis.NEnglJMedC375:932-943,C20162)SuhlerEB,AdanA,BrezinAPetal:Safetyande.cacyofadalimumabinpatientswithnoninfectiousuveitisinanongoingCopen-labelCstudy:VISUALCIII.COphthalmologyC125:1075-1087,C20183)FabianiC,VitaleA,EmmiGetal:E.cacyandsafetyofadalimumabCinCBehcet’sCdisease-relateduveitis:aCmulti-centerCretrospectiveCobservationalCstudy.CClinCRheumatolC36:183-189,C20174)ErckensCRJ,CMostardCRL,CWijnenCPACetal:AdalimumabCsuccessfulCinCsarcoidosisCpatientsCwithCrefractoryCchronicCnon-infectiousCuveitis.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:713-720,C20125)CoutoCC,CSchlaenCA,CFrickCMCetal:AdalimumabCtreat-mentCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCDisease.COculImmunolIn.ammC24:1-5,C20166)小野ひかり,吉岡茉依子,春田真実ほか:非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果.臨眼C72:795-801,C20187)HiyamaCT,CHaradaCY,CKiuchiY:E.ectiveCtreatmentCofCrefractoryCsympatheticCophthalmiaCwithCglaucomaCusingCadalimumab.AmJOphthalmolCase-repC14:1-4,C20198)AsanoCS,CTanakaCR,CKawashimaCHCetal:RelentlessCplac-oidchorioretinitis:Acaseseriesofsuccessfultaperingofsystemicimmunosuppressantsachievedwithadalimumab.CaseRepOphthalmolC10:145-152,C20199)HiyamaT,HaradaY,DoiTetal:EarlyadministrationofadalimumabforpaediatricuveitisduetoBehcet’sdisease.PediatRheumatolC17:29,C201910)KarubeH,KamoiK,Ohno-MatsuiK:Anti-TNFtherapyinthemanagementofocularattacksinanelderlypatientwithClong-standingCBehcet’sCdisease.CIntCMedCCaseCRepCJC9:301-304,C201611)GotoCH,CZakoCM,CNambaCKCetal:AdalimumabCinCactiveCandCinactive,Cnon-infectiousuveitis:GlobalCresultsCfromCtheCVISUALCICandCVISUALCIICTrials.COculCImmunolCIn.amC27:40-50,C201912)SugitaS,YamadaY,MochizukiM:Relationshipbetweenserumin.iximablevelsandacuteuveitisattacksinpatientswithBehcetdisease.BrJOphthalmolC95:549-552,C201113)Al-JanabiCA,CElCNokrashyCA,CShariefCLCetal:Long-termCoutcomesoftreatmentwithbiologicalagentsineyeswithrefractory,Cactive,CnoninfectiousCintermediateCuveitis,Cpos-terioruveitis,orpanuveitis.Ophthalmology127:410-416,C202014)MingS,XieK,HeHetal:E.cacyandsafetyofadalim-umabinthetreatmentofnon-infectiousuveitis:ameta-analysisandsystematicreview.DrugDesDevelTherC12:C2005-2016,C201815)TakeuchiCT,CTanakaCY,CKanekoCYCetal:E.ectivenessCandsafetyofadalimumabinJapanesepatientswithrheu-matoidarthritis:retrospectiveCanalysesCofCdataCcollectedCduringCtheC.rstCyearCofCadalimumabCtreatmentCinCroutineclinicalpractice(HARMONYstudy)C.ModRheumatolC22:C327-338,C201216)日本眼炎症学会CTNF阻害薬使用検討委員会:非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル.第C2版,2019年版,http://jois.umin.jp/TNF.pdf17)佐藤伸一:乾癬治療における生物学的製剤の量的評価と質的評価:抗CTNF-a抗体を中心として.診療と新薬C54:C865-872,C2017C***

エタネルセプトからアダリムマブへの変更が奏効した強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎の1例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1600.1603,2019cエタネルセプトからアダリムマブへの変更が奏効した強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎の1例杉澤孝彰石川裕人五味文兵庫医科大学眼科学教室CSuccessfulControlofAnkylosingSpondylitis-relatedUveitisafterSwitchingAnti-tumorNecrosisFactorInhibitorsTakaakiSugisawa,HirotoIshikawaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineC強直性脊椎炎(AS)は,原則片眼性の再発を繰り返すぶどう膜炎を併発する.今回,TNFa阻害薬であるエタネルセプト投与中のCASに合併した難治性ぶどう膜炎に対し,TNF-aモノクローナル抗体であるアダリムマブを変更導入し眼炎症が軽快した症例を経験したので報告する.32歳,男性.ASに伴うコントロール不良の脊椎炎に対しエタネルセプトが投与された.半年後,左眼霧視のため当科受診,矯正視力は右眼C1.5,左眼C0.5.右眼に虹彩後癒着,左眼に豚脂様角膜後面沈着物,前房蓄膿を認めた.左眼は硝子体混濁と網膜血管の蛇行拡張も認め,光干渉断層計で脈絡膜肥厚を認めた.ステロイド点眼にて治療開始するも後眼部炎症の改善が乏しいため,プレドニゾロン全身投与を開始した.軽快し漸減するも再発を繰り返すため初回治療からC11カ月後にエタネルセプトをアダリムマブへ変更した.その結果,1カ月で眼炎症さらには脊椎炎も軽快した.エタネルセプトは血清CTNFと結合し濃度を減らすが,アダリムマブはCTNFを放出する細胞そのものを阻害する.その機序の違いにより,異なる抗炎症効果をもたらすことが示唆された.CPurpose:AnkylosingCspondylitis(AS)isCaCformCofCarthritisCthatCisCchronicCandCmostCoftenCa.ectsCtheCspine.CAbout25%ofASpatientsalsoexperienceuveitis.Wereportacaseinwhichswitchinganti-tumornecrosisfactor(TNF)inhibitorsmayhavebeene.ectiveincontrollingocularin.ammationcausedbyAS-relateduveitis.Subjectandmethods:A35-year-oldmaleundergoingtreatmentwithanti-TNFagentEtanerceptforASatalocalclinicdevelopedCuveitisCinChisCleftCeyeC6CmonthsCafterCtheCinitiationCofCtreatment,CandCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourChospitalduetoocularin.ammationthatcouldnotbecontrolled.Westartedtreatmentwithoralsystemiccortico-steroids,andswitchedfromEtanercepttotheanti-TNFagentadalimumab.Results:SwitchingfrometanercepttoadalimumabCultimatelyCcontrolledCtheCocularCin.ammation,CpossiblyCdueCtoCtheCfactCthatCunlikeCetanercept,CwhichCbindstoserumTNFandreducesconcentrations,adalimumabinducedanapoptosisofTNFproductioncells.Con-clusions:Switchinganti-TNFinhibitorsmaybee.ectiveincontrollingocularin.ammationcausedbyAS-relateduveitis,CthusCillustratingCtheCimportanceCofCkeepingCinCmindCtheCspeci.cCcharacteristicsCofCtheCanti-TNFCinhibitorCbeingusedfortreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1600.1603,C2019〕Keywords:再発性ぶどう膜炎,強直性脊椎炎,TNFa阻害薬,アダリムマブ,エタネルセプト.relapseduveitis,ankylosingspondylitis,anti-tumornecrosisfactorinhibitor,adalimumab,etanercept.Cはじめに過をとるリウマチ性の疾患で,若年男性に多く発症すること強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)は,脊椎や四が知られている.ASでは,急性前部ぶどう膜炎を約C25%に肢関節の疼痛ならびに運動制限を特徴とした慢性進行性の経合併する1)といわれており,ステロイド治療に抵抗性がみら〔別刷請求先〕杉澤孝彰:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakaakiSugisawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC1600(124)れる場合もあったが,近年は抗Ctumornecrosisfactor(TNF)療法が視力予後を改善することが示されてきている2).今回筆者らは,ASに併発した難治性ぶどう膜炎に対し,TNFCa阻害薬をエタネルセプトからアダリムマブへ変更したことにより,炎症寛解に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例35歳,男性.主訴は左眼霧視と充血.近医眼科で抗菌薬点眼・ステロイド点眼・散瞳薬点眼にて加療されていたが軽快しないため当院紹介受診となった.10年来のCASに対するステロイド内服やインフリキシマブ投与の既往があり,直近C5年はエタネルセプトが投与され,全身状態は寛解状態であった.当院初診時の矯正視力は右眼(1.5),左眼(0.5),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C13CmmHg.右眼に虹彩後癒着と前房細胞(+),左眼に急性前部ぶどう膜炎様の前房蓄膿,網膜表層の不整,硝子体混濁を認め,OCTにて中心窩脈絡膜肥厚(右眼C280Cμm,左眼C470Cμm)を認めた(図1).ASの経過観察のため当院整形外科,膠原病内科通院中であり全身状態は良好,齲歯などもなく,採血にて炎症反応検出感度以下であり,B型肝炎・C型肝炎・梅毒・結核・ヒトCT細胞白血病ウイルス(HTLV)などの感染症検査はすべて陰性,また胸部CX線写真にても特記すべき異常を認めなかったため,臨床的に感染性ぶどう膜炎の可能性は低く,前房水採取などは施行しなかった.前房水CPCRなどを施行していないので,完全には感染性ぶどう膜炎を否定できないが,AS併発ぶどう膜炎を第一に考え,前医からの局所点眼加療に加えて左眼にはトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA)を行った.局所治療のみでは消炎不十分と判断し,1週後にはステロイド内服(プレドニゾロン)30Cmgを開始した.プレドニゾロン内服開始後,両眼とも前房細胞や角膜後面沈着物,硝子体混濁などの炎症所見は改善した.経過中に明らかな前眼部,後眼部の炎症所見の再燃はみられずプレドニゾロンを漸減したが,再診日ごとに脈絡膜厚を測定し,脈絡膜厚の増大を認めた際はCsubclinicalな再発と捉え,STTA投与を行った.プレドニゾロン内服開始C10カ月後,1Cmgの内服中であったが,右眼に前房細胞(+++)と色素性角膜後面沈着物を伴う前眼部炎症を認め,左眼には硝子体混濁と脈絡膜厚の再肥厚がみられた(図2左).再発性ぶどう膜炎であり,すでにエタネルセプト投与中でもあったため,TNFCa阻害薬の変更を内科に打診し,アダリムマブへと変更した.変更後C1カ月で両眼とも前房細胞は消失,4カ月で後眼部硝子体細胞や脈絡膜厚などの両眼炎症所見は改善(図2右)し,プレドニゾロン内服中断となった.その後C1年以上再発なく経過している.臨床経過を図3に示した.II考按ASは,脊椎や四肢関節の疼痛ならびに運動制限を特徴として慢性進行性の経過をとるリウマチ性疾患である.治療法として,非ステロイド性抗炎症薬,ステロイドの局所注射,サラゾスルファピリジンなどが用いられてきたが,近年は生物学的製剤であるCTNFCa阻害薬が使われる機会が増えてきている.AS加療に認められている生物学的製剤はエタネルセプト,インフリキシマブ,アダリムマブがある.エタネルセプトはTNFの可溶性受容体抗体であり,インフリキシマブとアダリムマブはモノクローナル抗体である3).エタネルセプトの作用機序はCTNFa/bの中和であり,インフリキシマブやアダリムマブなどのモノクローナル抗体の作用機序はCTNFCaの中和とCTNF産生細胞そのものの障害である.ASの眼科的併発症状として急性前部ぶどう膜炎があげられ,その発症率は約C25%程度であるといわれている1).前部ぶどう膜炎は,ステロイドや散瞳薬で治療されることが多いが,遷延することもある.TNFCa阻害薬の一つであるアダリムマブは,これまで関節リウマチ,強直性脊椎炎,若年性特発性関節炎,関節症性乾癬,尋常性乾癬,潰瘍性大腸炎,Crohn病,Behcet病などの疾患に対し保険適用のある生物学的製剤であったが,2016年C9月に眼科領域として非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎に保険適用となった.すなわちCAS患者においては,ASに対してCTNFCa阻害薬が投与されている場合と,眼科医が難治性のぶどう膜炎に対してCTNFa阻害薬を処方する場合が生じうる.本症例は,ASに対してエタネルセプト治療下で両眼ぶどう膜炎を発症し,最初はステロイドに反応したが,エタネルセプトとステロイドの継続治療下で両眼のぶどう膜炎が再発した.ぶどう膜炎のコントロール不良の原因として,①現行の治療での抗炎症効果不十分,②エタネルセプトそのものによる副作用としてのぶどう膜炎惹起,の二つの可能性が考えられた.とくに②の可能性について,海外ではエタネルセプトによるぶどう膜炎の惹起の報告があり4,5),エタネルセプトはその作用機序から,マクロファージなどのCTNF産生細胞は傷害しないため,TNF以外の炎症性サイトカインの産生が続いた結果,炎症を惹起するという機序が考察されている.また,エタネルセプト使用中のCAS患者において,Crohn病などの炎症性腸疾患が発症しやすいという報告もある6).いずれもアダリムマブへの変更でCASと腸疾患の良好なコントロールが得られたと記されている.このメカニズムについては明らかにされておらず,サイトカインの不均衡が原因の一つではないかと示唆されている7).本症例においては,結果的にエタネルセプトをアダリムマブに変更したことにより,速やかな眼炎症・ぶどう膜炎の寛図1初診時所見(左眼)図2再発時と寛解後の比較左:治療開始後C10カ月,炎症再燃.右:アダリムマブ導入後C3カ月,炎症寛解.C58035プレドニゾロン投与量(mg)560540520500480460440420中心窩脈絡膜厚(μm)3025201510504444442424411カ月時週週週週週週週週週週図3臨床経過週解を得た.今回後部ぶどう膜炎の経過をみるにあたって,EDI-OCTによる中心窩脈絡膜厚の変化を参考にしている.これはCBehcet病やCVogt・小柳・原田病などのぶどう膜炎にて活動期では休止期と比べ中心窩脈絡膜厚が有意に厚いという報告をもとにしているが,AS併発ぶどう膜炎について述べた文献はないため後眼部炎症の程度を即座に把握するための参考程度としている8,9).本症例の経過から,同じCTNFCa阻害薬でもその効果に違いがあることが確認された.TNFCa阻害薬は眼科領域でも今後使用される機会が増えてくると考えられるが,それぞれの薬剤の機序や副作用は異なっており,製剤変更により病状の改善が得られる可能性があることを知っておかねばならない.ぶどう膜炎はリウマチなどの全身性疾患に関連して生じることも多く,すでに他科から生物学的製剤が投与されていることもあると考えられることから,現在患者が使用している薬剤についての把握は重要である.文献1)井上久:我が国の強直性脊椎炎(AS)患者の実態.第C3回患者アンケート調査より..日本脊椎関節学会誌III:29-34,C20112)FabianiCC,CVitaleCA,CLopalcoCGCetal:Di.erentCrolesCofCTNFCinhibitorsCinCacuteCanteriorCuveitisCassociatedCwithCankylosingCspondylitis:stateCofCtheCart.CClinCRheumatolC35:2631-2638,C20163)天野宏一:TNF阻害薬.日内会誌100:2966-2971,C20114)WendlingCD,CJoshiCA,CReillyCPCetal:ComparingCtheCriskCofCdevelopingCuveitisCinCpatientsCinitiatingCanti-tumorCnecrosisCfactorCtherapyCforankylosingCspondylitis:anCanalysisofalargeUSclaimsdatabase.CurMedResOpinC30:2515-2521,C20145)LieE,LindstromU,Zverkova-SandstromTetal:Tumornecrosisfactorinhibitortreatmentandoccurrenceofante-riorCuveitisCinankylosingCspondylitis:resultsCfromCtheCSwedishCbiologicsCregister.CAnnCRheumCDisC76:1515-1521,C20176)ToluS,RezvaniA,HindiogluNetal:Etanercept-inducedCrohn’sCdiseaseCinankylosingCspondylitis:aCcaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CRheumatolCIntC38:2157-2162,C20187)JethwaCH,CMannS:CrohnC’sCdiseaseCunmaskedCfollowingCetanercepttreatmentforankylosingspondylitis.BMJCaseRep,C20138)KimCM,CKimCH,CKwonCHJCetal:ChoroidalCthicknessCinCBehcet’suveitis:anCenhancedCdepthCimaging-opticalCcoher-enceCtomographyCandCitsCassociationCwithCangiographicCchanges.InvestOphthalmolVisSciC54:6033-6039,C20139)MarukoCI,CIidaCT,CSuganoCYCetal:SubfovealCchoroidalCthicknessCafterCtreatmentCofCVogt-Koyanagi-HaradaCdis-ease.RetinaC31:510-517,C2011***

非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1198.1203,2019c非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性青木崇倫*1,2永田健児*1関山有紀*1中野由起子*1中井浩子*1,3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学附属北部医療センター病院*3京都市立病院CE.cacyandSafetyofAdalimumabfortheTreatmentofRefractoryNoninfectiousUveitisTakanoriAoki1,2),KenjiNagata1),YukiSekiyama1),YukikoNakano1),HirokoNakai1,3)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)KyotoCityHospitalC目的:アダリムマブ(ADA)を導入した非感染性ぶどう膜炎の有効性と安全性の検討.対象および方法:京都府立医科大学附属病院でC2018年C6月までにCADAを導入したぶどう膜炎患者(男性C7例,女性C3例)を対象に,臨床像,ADA導入前後の治療内容,治療効果,副作用を検討した.結果:症例の平均年齢C48.2歳(10.75歳),平均観察期間19.4カ月,臨床診断はCBehcet病(BD)7例,Vogt-小柳-原田病(VKH)3例であった.導入理由はインフリキシマブ(IFX)から変更がC6例,免疫抑制薬の副作用がC1例,ステロイド・免疫抑制薬で難治がC3例であった.BDの眼炎症の発作頻度はCADA導入前の平均発作回数C4.8回/年で,導入後はC1.4回/年に減少した.VKHでは,ADA導入前の平均ステロイド量C9.8Cmgから,最終時C7.2Cmgに漸減できた.ADA導入後にCVKH再燃を認め,ステロイドを増量した例がC1例あった.また,BDのうち,1例が注射時反応,1例が効果不十分でCADA中断となった.結論:BDではCADAはCIFXと同等以上の効果が期待でき,VKHの再燃例では,ADA追加のみでは効果不十分でステロイドの増量が必要な場合があった.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofadalimumab(ADA)ineyeswithrefractorynoninfectiousuve-itis.PatientsandMethods:Thisretrospectivecaseseriesstudyinvolved10refractoryuveitispatients(7males,3females;meanage:48.2years)treatedCwithCADACatCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCuntilCJuneC2018,Cwithameanfollow-upperiodof19.4months.Results:DiagnosesincludedBehcet’sdisease(BD:7patients)andVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH:3patients);reasonsCforCadministrationCwereCswitchingCfromCin.iximab(IFX)toADA(n=6),Cimmunosuppressantside-e.ects(n=1),CandCinsu.cientCe.ectCofCbothCsteroidCandCimmuno-suppressant(n=3).ADAreducedthefrequencyofocularattacksinBDfrom4.8/yearto1.4/year,andoral-ste-roidCamountCinCVHKCfromC9.8CmgCtoC7.2Cmg.CTwoCBDCpatientsCdiscontinuedCADACdueCtoCallergyCandCinsu.cientCe.ect.Conclusions:InBD,ADAwasprobablyofequivalentorgreatere.ectthanIFX.InVKH,ADAalonewasofinsu.ciente.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1198.1203,C2019〕Keywords:アダリムマブ,ベーチェット病,Vogt-小柳-原田病,インフリキシマブ,ぶどう膜炎.adalimumab,CBehcet’sdisease,Vogt-Koyanagi-Haradadisease,in.iximab,uveitis.Cはじめに非感染性ぶどう膜炎に対する治療は,局所・全身ステロイドが中心であり,難治例には免疫抑制薬のシクロスポリン(cyclosporine:CsA)が使用可能である.2007年C1月よりベーチェット病(Behcet’sdisease:BD)に対して,生物学的製剤である腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfactorCa:CTNFa)阻害薬のインフリキシマブ(in.iximab:IFX)が保険適用となり,既存治療に抵抗を示す難治性CBDの有効性が示された1).さらにC2016年C9月には非感染性ぶどう膜炎に対して,完全ヒト型CTNFa阻害薬であるアダリムマブ(adali-〔別刷請求先〕青木崇倫:〒629-2261京都府与謝郡与謝野町男山C481京都府立医科大学附属北部医療センター病院Reprintrequests:TakanoriAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,YosagunYosanochoOtokoyama481,Kyoto629-2261,JAPANC1198(96)mumab:ADA)が保険適用となった.ステロイドや免疫抑制薬で抵抗を示す症例,さまざまな副作用で継続できない症例などの難治性非感染性ぶどう膜炎に対して,ADAの使用が可能になった.また,BDでもCIFXの使用できない症例やIFXの効果が減弱(二次無効)する症例などに対してCADAへの変更が可能となり,治療の選択肢が増えた.ADAは皮下注射のため,自宅での自己注射により病院拘束時間が短いことも有用な点である.これらのCIFXやCADAの眼科分野での生物学的製剤の認可により,難治性ぶどう膜炎に対して治療の選択肢が広がったが,新たな治療薬として実臨床での適応症例や,使用方法,効果,安全性の検討が必要である.そこで,京都府立医科大学附属病院(以下,当院)で経験したCADAの使用症例とその効果や安全性について検討した.CI対象および方法当院で,ADA導入した難治性ぶどう膜炎患者C10例(男性7例,女性C3例,導入時平均年C48.2C±19.6歳)を対象とし,ADAの有効性,安全性について,京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得てレトロスペクティブに検討した.ADA導入後の平均観察期間はC19.4C±18.5カ月(4.53カ月)であった.原疾患の診断はCBDがC7例C14眼,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)がC3例C6眼であった.BDは厚生労働省CBD診断基準2)に基づき,完全型,不全型および特殊型CBDの確定診断を行った.VKHでは国際CVKH病診断基準3)に基づき,確定診断を行った.ADAは添付文書の記載に従って(腸管CBD:初回C160Cmg投与,初回投与からC2週間後C80Cmg,その後はC2週間隔C40mg投与,難治性ぶどう膜炎:初回C80Cmg投与,初回投与からC1週間後C40Cmg,その後はC2週間隔C40Cmg投与,小児:初回C40Cmg投与,初回投与よりC2間間隔C40Cmg投与)投与した.また,ADAの導入にあたり当院膠原病・リウマチアPSL)投与量(ADA導入前の最小CPSL量,最終観察時CPSL量)を調べた.治療の効果判定は有効,無効・中断,経過観察中にC3分類し,有効は眼所見の改善や薬剤の減量ができた症例で,無効・中断は眼所見の改善が認められなかった症例や治療継続困難となった症例,経過観察中はCADA導入開始後C6カ月以内の症例とした.また,統計方法はすべてCStu-dentのCt検定を用い,p<0.05を有意差ありとして比較を行った.CII結果全症例の年齢,性別,ADA導入理由,観察期間を表1に示した.ADA導入理由はCBDではCIFXからの変更がC6例(2例:IFXの投与時反応で中断例,2例:IFXの二次無効例,1例:IFXでコントロール困難例,1例:IFXの中断後再燃例),免疫抑制薬の副作用で継続困難な症例がC1例であった.BDは完全型BDが2例,不全型BDが3例,特殊型BDが2例(腸管CBD併発C2例)であった.小児の不全型CBD1例は,脊椎関節炎を併発しており,両疾患に対してCADAを導入した.特殊型CBD2例のうちC1例は腸管CBDの治療目的にCADA導入し,1例はぶどう膜炎の治療目的にCADAを導入した.VKHのCADA導入理由はすべて,ステロイドおよび免疫抑制薬でコントロール困難な症例であった.最良矯正視力は,ADA導入前平均視力はClogMARC0.27±0.46であったが,ADA導入後の最終平均視力ClogMAR0.26C±0.47となり,導入前後で有意差を認めなかった(p=0.93)(図1).疾患別の効果について,BDの症例は表2に,VKHの症例は表3にそれぞれまとめた.中断・無効を除いた症例でのCBDの発作頻度は,ADA導レルギー科,小児科または消化器内科(腸管CBD症例)との連携の下で行った.全症例において,ADA導入理由と,ADA導入前後の最良矯正視力,併用薬剤,効果判定,全身副作用の有無に関して調査した.また,BDではCADA導入前後の眼炎症発作回数,眼炎症発作の重症度について調べた.重症度に関しては,ADA導入前後の眼炎症発作のなかでもっとも重症であった眼炎症発作について,発作部位を前眼部炎症,硝子体混ADA導入後の最良矯正視力濁,網膜病変に分けて評価し,網膜病変は血管炎,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME),硝子体出血(vitre-oushemorrhage:VH)を調べた.また,蕪城らによって報告されたスコア法(Behcet’sdiseaseocularattackscore24:BOS24)4)でCADA導入前C6カ月から導入まで,ADA導入から導入後C6カ月まで,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアで評価した.VKHではプレドニゾロン(prednisolone:0.010.11ADA導入前の最良矯正視力:Behcet病:Vogt-小柳-原田病図1アダリムマブ(ADA)導入前後の視力変化縦軸にCADA導入後の最良矯正視力,横軸にCADA導入後の最良矯正視力を示す.ADA導入前後では有意差を認めなかった(p=0.93).表1全症例ADA導入時観察期間症例年齢(歳)性別疾患名ADA導入理由(月)1C65男特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX二次無効(腸管BD)C53C2C51女特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX投与時反応C52C3C10男不全型CBD(脊椎関節炎併発)IFXコントロール困難C3C4C31男完全型CBDIFX二次無効C30C5C46女不全型CBDIFX中断後再燃C0.5C6C32男不全型CBDIFX投与時反応C11C7C39男完全型CBD免疫抑制剤の副作用C8C8C61女CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C19C9C72男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C13C10C75男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C4BD:BehcetC’sdisease(ベーチェット病),VKH:Vogt-Koyanagi-Haradadisease(フォークト-小柳-原田病),IFX:in.iximab(インフリキシマブ).表2Behcet病の症例ADA導入前ADA導入後症例発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変C併用薬剤効果11回/年+..0回/年C…なし有効C24回/年++CME2.6回/年++.コルヒチン,MTX有効C32回/年++CME,VH中止++CME,VHCMTX,PSL無効・中断C410回/年++.2.5回/年++.MTX,PSL有効C51回/年++CME中止++CMECMTX無効・中断C65回/年++網膜血管炎1.8回/年++.CsA有効C74回/年++.0回/年C…なし有効CME:.胞様黄斑浮腫,VH:硝子体出血,MTX:メトトレキサート,PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.表3Vogt.小柳.原田病の症例症例ADA導入前PSL投与量(mg)CsA投与量(mg)ADA導入後最終CPSL投与量(mg)C効果判定8C7.5C150C4有効C9C7C150C0有効C10C15C100C17.5経過観察中PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.入前の平均発作回数がC4.8C±2.9回/年から,ADA導入後の平均発作回数はC1.4C±1.2回/年に減少した(p=0.06).眼炎症の重症度では,BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入後7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であり,導入前に比べて,導入後の積算スコアは優位に低値を示した(p=0.02,0.03)(図2).効果判定は,有効C5例,中断・無効C2例であり,中断・無効のうち,症例C3はCIFXとメトトレキサート(methotrexate:MTX)治療に加えて,眼炎症発作時にCPSL頓用を行っていたが,CMEとCVHを伴うような眼炎症の発作を認めたためにCADA導入となった.ADA導入後もCCMEの改善がなく,VHの悪化を認め,関節症状も考慮してインターロイキンC6受容体阻害薬であるトシリズマブ(tocilizum-ab:TCZ)に変更となった.症例C5はCADAの投与時反応にて中断となり,IFXに変更になった.以下にCBDの代表症例を示す.〔BDの代表症例:症例4〕31歳,男性.2010年にCBDを発症しコルヒチンを投与したが,強い硝子体混濁を伴うような眼炎症発作を起こしたためにC2011年よりCIFXを導入した.IFXの導入後も発作回数が頻回なために,IFXの投与量や投与間隔を変更し,併用薬剤にCCsAとCMTXを追加するなどを試みた.薬剤変更により最初は発作回数の軽減はあったが,徐々に効果がなくなり,IFXのC6週間隔投与とコルヒチン,MTXを併用したが,眼炎症発作回数がC10回/年であったためにCADAの導入となった(図3).ADAの導入後は眼炎症発作回数がC1.8回/年に減少した.VKHではCADA導入前にもっとも少なかったときのCPSLの平均投与量がC9.8C±3.7Cmgであり,最終受診時のCPSLの平均投与量C7.2C±7.5Cmgであった(p=0.67).2例でPSL量の減量を認め,1例はCADA導入後にCPSL漸減中に再燃を認めたために現在CPSLを増量している.また,当院ではCADA導入後は全例でCCsA内服を中止している.以下にCVKHの代表症例を示す.〔VKHの代表症例:症例8〕61歳,女性.2016年にCVKHを発症(図4a)し,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1,000Cmg点滴静注,3日間)をC2クール行った.炎症の残存を認めたためにトリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjec-tion:STTA)を併用しながら,初期投与量のCPSL60CmgからCPSL15Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.PSLを増量し,CsAとCSTTAを併用しながら,PSL10Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.そこでCPSL量は維持のまま,ADAを導入したが,光干渉断層計(OCT)で網膜色素上皮ラインの波打ち像を認めたためにCPSL30Cmgまでいったん増量し改善を得た.その後,ステロイドを漸減し,現在CPSL4Cmgまで減量できており,再燃は認めていない(図4b).ADA投与に伴う副作用はC10例中C5例に認めた.2例で注射部位反応,2例で咽頭炎,2例で肝酵素上昇,1例でCCRP・赤沈上昇,1例で乾癬様皮疹,1例で好酸球高値を認めた(重複あり).症例C5では,IFX投与が挙児希望のため中断となったが,中断後にCCMEを認め,通院の関係からCADAでのTNF阻害薬の再開となった.初回・2回目のCADA投与で注射部位反応を認め,2回目の注射後に注射部位の発赤がC7cm程度まで拡大し,注射部位以外の発疹や口唇浮腫も認めたために中止となった.CIII考按今回,既存治療でコントロール困難な難治性非感染性ぶどう膜炎に対し,当院でCADAを導入した各疾患における効果判定と安全性の結果を検討した.海外の報告においては,さまざまな難治性ぶどう膜炎に対するCADA導入の有用性が示されている5,6).また,国内でもCADAの認可に伴い,小野らC18*16*1412BOS241086420ADA導入ADA導入後ADA導入後6カ月前~導入0~6カ月7~12カ月図2BS24(Behcet'sdiseaseocularattackscore244))の経過BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であった(*p<0.05).図3症例4(31歳,男性,Behcet病)アダリムマブ(ADA)導入前には発作を繰り返しており,前眼部に前房蓄膿と虹彩後癒着を伴う強い炎症を認め(a),びまん性の硝子体混濁,網膜血管炎,滲出斑を認めた(Cb).ADA導入後は新規病変を認めず,硝子体混濁は改善した.図4症例8(61歳,女性,Vogt.小柳.原田病)Ca:初診時COCT.両眼眼底に隔壁を伴う漿液性網膜.離と脈絡膜の肥厚,網膜色素上皮ラインの不整を認めた.Cb:ADA導入後のCOCT.ADA導入後,脈絡膜の肥厚は認めるが,漿液性網膜.離や網膜色素上皮不整の改善を認めた.が難治性ぶどう膜炎に対する短期の使用経験と有用性を示している7).疾患別にみると,難治性CBDに対しては,国内では先に認可されたCIFXが主流であるが,海外では生物学的製剤(IFX,ADA)の報告が多数なされている8).ValletらはCBDに対して,IFXまたはCADA投与によりC91%で完全寛解/部分寛解を認め,IFXとCADAで同様の有効性であったと報告している9).また,IFXの継続困難や二次無効の症例のCADAへの変更は有用性を示されている10,11).当院の症例では,IFXからCADAへの変更がC6例あり,1例が新規導入であった.既報と同様にCIFXでの継続困難の症例や二次無効の症例においてもCADA変更後は改善を示していた.また,ADA新規導入例もCADA導入後は眼炎症発作を認めておらず,IFXと同様の効果を期待ができると考えられた.BDに対して生物学的製剤導入の際にCADAは選択肢の一つとして非常に有用であり,また,IFXによる眼炎症コントロール不良例ではCADAへの変更も考慮に入れるべきである.ADAは自己注射で行えるために,病院拘束時間が短くなることも注目すべき点であり,若年男性に重症例の多いCBDにおいては治療選択における根拠の一つとなると考えられる.Deitchらは免疫抑制療法でコントロールできない小児の難治性非感染性ぶどう膜炎におけるCIFXとCADAの有効性を報告している12).当院では症例C3が小児ぶどう膜炎(BD)のCADA導入例であったが,IFX,ADAで効果がなく,TCZに変更になった.今回のようにCIFXやCADAで効果がない場合にCTNFではなくCIL-6をターゲットとする生物学的製剤が有効な症例もある13).VKHに関して,Coutoらはステロイド,免疫抑制薬でコントロール困難なCVKHにCADA追加によりステロイドの減量または離脱が可能であったと報告している14).当院でのVKHの治療方針として,ステロイドパルス療法後にCPSL内服(1Cmg/kg/日,またはC60Cmg/日の低い用量から開始)を漸減し,再燃を認める場合にはCPSLの増量とCCsA併用を行い,症例によっては年齢や全身状態などを考慮してCSTTAの併用を行っている.さらにCPSLとCCsA併用で再燃を認めたCVKHに対してCADAの導入を検討し,ADA導入後はCsAを終了している.今回CADA導入したC3例はすべて,症例C8のようにCCsA併用でCPSL投与量漸減中に再燃を認めた症例である.症例C8はCPSL投与量を維持したままCADAを追加したが,再燃を認めたため,PSLを増量した経緯から,症例C9と症例C10ではCADA導入前にCPSLの増量も行った.この結果から,VKHではCADA投与だけでは炎症のコントロールができない可能性があり,ADA導入とともにPSLの増量を考慮する必要があると考えられた.添付文書より,ADAの副作用は国内臨床試験で全体の82.9%に認められ,当院ではC5例(50%)に注射時反応を認めた.当院では症例C5は,ADAのみに強い投与時反応を認め,IFXに変更になった.一般的にCIFXがマウス蛋白とのキメラ型であるに対して,ADAは完全ヒト型のために,IFXのほうがアレルギー反応多いとされているが,ADAでも強いアレルギー反応を認める症例があり,注意が必要である.ADAの登場により難治性ぶどう膜炎に生物学的製剤を使用することが可能になった.当院でも既存治療で難治例に対して使用し,BDでは中断例以外は非常に有効であり,VKHに関しても有効であると考えられた.ADAは国内で認可されてから日が浅いために,疾患別の有効性,導入時期,併用PSLの漸減方法などが不明確である.また,今後導入した症例に対しては,中止するタイミングの検討も必要となる.当院でのCADAは症例数もまだ少なく,今後症例を増やしてADAの適切な治療の検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakeuchiM,KezukaT,SugitaSetal:Evaluationofthelong-termCe.cacyCandCsafetyCofCin.iximabCtreatmentCforCuveitisCinCBehcet’sdisease:aCmulticenterCstudy.COphthal-mologyC121:1877-1884,C20142)厚生労働省べ一チェット病診断基準:http://www.nanbyou.Cor.jp/upload_.les/Bechet2014_1,20143)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclatu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TNF阻害薬が有効であった強膜ぶどう膜炎の2症例

2018年6月30日 土曜日

《第51回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科35(6):825.828,2018cTNF阻害薬が有効であった強膜ぶどう膜炎の2症例河野慈*1石原麻美*1澁谷悦子*1井田泰嗣*1竹内正樹*1山根敬浩*1蓮見由紀子*1木村育子*1,2石戸みづほ*1水木信久*1*1横浜市立大学大学院医学研究科眼科教室*2南大和病院CTwoCaseofSclerouveitisTreatedbyTNFInhibitorsShigeruKawano1),MamiIshihara1),EtsukoSibuya1),YasutsuguIda1),MasakiTakeuchi1),TakahiroYamane1),YukikoHasumi1),IkukoKimura1,2)C,MizuhoIshido1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)MinamiyamatoHospital目的:TNF阻害薬〔インフリキシマブ(IFX),アダリムマブ(ADA)〕で治療した難治性強膜ぶどう膜炎のC2症例の報告.症例:症例1)50歳,女性.右眼強膜ぶどう膜炎のため,2012年C3月当院受診.プレドニゾロン(PSL)にメトトレキサート(MTX)を併用したが消炎せず,同年C9月にCIFXを導入.その後,右眼裂孔原性網膜.離を生じ硝子体手術を施行.2015年C2月に血小板増多のためCIFXを中止後,炎症が再燃したが,再開により速やかに改善した.症例2)79歳,女性.関節リウマチに伴う強膜ぶどう膜炎のため,2016年C3月当院受診.非ステロイド系抗炎症薬を内服したが,右眼に.胞様黄斑浮腫(CME)出現.間質性肺炎の既往のためCMTXは使用できず,同年C12月にCADAを導入.6週間後にCCMEは消失した.結論:難治性強膜ぶどう膜炎に対し,TNF阻害薬による治療は有効である.CPurpose:Toreporttwopatientswithrefractorysclerouveitistreatedwithtumornecrosisfactor(TNF)inhib-itors,Cin.iximab(IFX)andCadalimumab(ADA)C.CCase:CaseC1:AC50-year-oldCfemaleCwithCright-eyeCsclerouveitiswasCreferredCtoCusCinCMarchC2012.COralCprednisolone(PSL)andCmethotrexate(MTX)treatmentCwasCine.ective.CIFXwasaddedtothetreatmentregimeninSeptember2012.Vitrectomyforrhegmatogenousretinaldetachmentwassubsequentlyperformed.InFebruary2015,thesclerouveitisrelapsedafterIFXdiscontinuationduetothrom-bocytosis.ThepatientsoonwentintoremissionafterrestartingIFXtreatment.Case2:A79-year-oldfemalewithrheumatoidCarthritis-associatedCsclerouveitisCwasCreferredCtoCusCinCMarchC2016.CCystoidCmacularCedema(CME)Cdevelopeddespitetreatmentwithnon-steroidalanti-in.ammatorydrugs.AhistoryofinterstitialpneumoniameantMTXCwasCnotCadministered.CADACtreatmentCwasCcommencedCinCDecemberC2016.CCMECdisappearedCafterCsixCweeks.Conclusions:TNFinhibitorsmaybee.ectiveintreatingrefractorysclerouveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(6):825.828,C2018〕Keywords:強膜ぶどう膜炎,インフリキシマブ,アダリムマブ,プレドニゾロン経口投与,関節リウマチ.scler-ouveitis,in.iximab,adalimumab,oralCprednisolone,rheumatoidarthritis.Cはじめに強膜ぶどう膜炎は進行すれば失明の可能性のある炎症性眼疾患であり,感染性と非感染性に分けられる.非感染性強膜ぶどう炎の原因としては特発性がもっとも多いが,関節リウマチ(rheumatoidCarthritis:RA)をはじめとして多発血管性肉芽腫症,全身性エリテマトーデス,結節性多発動脈炎,再発性多発軟骨炎,炎症性腸疾患,強直性脊椎炎などの全身性疾患が背景として存在することもある1).治療はまず,ステロイド薬点眼・免疫抑制薬点眼,症例によってはステロイド薬結膜下注射などの局所治療を行う.全身治療としては,非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidalCanti-inflammatorydrugs:NSAIDs)内服で消炎しなければ,プレドニゾロン(PSL)経口投与が行われる.さらにステロイド薬内服でも炎症のコントロールがつかなければ,免疫抑制薬の全身投与が行われる.非感染性ぶどう膜炎に保険適用のあるシクロスポリンのほか,RAが原疾患であればメトトレキサート(MTX)〔別刷請求先〕河野慈:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:ShigeruKawano,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama-shi,Kanagawa236-0004,JAPANが使用される2).それでも炎症のコントロールが得られない場合,TNF阻害薬の導入が考慮される.原疾患のCRAに対し,インフリキシマブ(IFX)やアダリムマブ(ADA)をはじめとする種々のCTNF阻害薬が使用できる2).また,ADAに関してはC2016年C9月より既存治療抵抗性の非感染性ぶどう膜炎(中間部,後部,汎ぶどう膜炎)に保険適用となったため3),特発性の強膜ぶどう膜炎(後眼部病変を伴う場合)に対して使用可能となった.今回,筆者らは既存の治療に奏効しなかった非感染性の強膜ぶどう膜炎C2症例に対し,TNF阻害薬(IFX1例,ADA1例)を導入して炎症コントロールが得られたので報告する.CI症例〔症例1〕50歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2010年C5月に右眼の充血と眼痛を主訴に近医眼科受診し,両強膜ぶどう膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼に加え,PSLをC30Cmg/日より漸減内服して軽快したが,2011年C12月に右眼の炎症が再燃した.PSL30mg/日にシクロスポリンC3Cmg/kg/日を併用したが,PSL漸減中に再燃を繰り返したため,2012年C3月に横浜市立大学附属病院眼科(以下,当科)紹介受診となった.初診時眼所見:視力は,VD=(1.2C×sph+1.00D(cyl.0.75DAx10°),VS=(1.2C×sph+0.50D(cyl.1.25DCAx170°).眼圧は,右眼C20CmmHg,左眼C20CmmHg.右眼に全周性に強膜の表在性および深在性血管の充血がみられたが,眼内に炎症所見はなかった.左眼の強膜および眼内には炎症所見はみられなかった.経過:当科受診後よりCPSLをC40Cmg/日に増量し,右眼の強膜ぶどう膜炎はコントロールできていたが,2013年C5月,5mg/日まで漸減した際,両眼の強膜ぶどう膜炎が再燃した.PSLをC40Cmg/日に増量してCMTX6Cmg/週を併用したが,右眼の強膜ぶどう膜炎のコントロールは得られず,9月には漿液性網膜.離(serousCretinalCdetachment:SRD)を合併したため,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC500Cmg×3日間)を施行した.その後,網膜裂孔が見つかり,PSLとCMTX内服に加えC11月よりCIFX導入後,硝子体手術を施行した.術後,網膜は復位し,炎症の再燃もみられなかった.2015年C4月に多血症を認めたため,IFXを中止したが,約C2カ月後に右眼の強膜ぶどう膜炎が再燃した(図1a).IFXの再開後,速やかに強膜ぶどう膜炎は軽快し(図1b),同年C9月にCPSL内服を漸減中止した.現在までCIFXとCMTXを継続しており,強膜ぶどう膜炎の再燃はない.〔症例2〕79歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛.既往歴:開放隅角緑内障,関節リウマチ,間質性肺炎.現病歴:2016年C2月に右眼の眼痛と充血を主訴に近医受診し,右眼強膜ぶどう膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼,タクロリムス点眼に加え,デキサメタゾン結膜下注射を施行したが消炎しないため,2016年C3月当科紹介受診となった.初診時所見:視力は,VD=0.2(1.2C×sph.0.25D(cyl.2.25DAx90°),VS=0.3(1.2C×sph+1.25D(cyl.2.50DCAx85°).眼圧は,右眼C12CmmHg,左眼C11CmmHg.右眼の耳上側の強膜に表在性および深在性血管の充血がみられたが,眼内に炎症所見はなかった.左眼の強膜および眼内には炎症所見はみられなかった.経過:2016年C4月に右.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedama:CME)が出現したため,トリアムシノロン後部Tenon.下注射を施行した.さらにCNSAIDsの内服を開始したが,9月には右眼内炎症の増悪と,わずかにCSRDを伴図1多血症のためIFX中止後の再燃時(a)およびIFX再開後(b)の右眼前眼部写真IFX中止後,強膜の血管充血は増強したが(Ca),再開後は速やかに充血は改善し,上方に強膜の菲薄化がみられた(b).C図2増悪時の右眼前眼部写真(a)およびOCT写真(b)耳上側の強膜の血管充血が増悪し(Ca),OCTにて,わずかに漿液性網膜.離を伴った.胞様黄斑浮腫がみられた(b).C図3ADA導入後の右眼前眼部写真(a)およびOCT写真(b)強膜の血管充血は軽快し(Ca),OCTにて黄斑部は正常化が確認された(Cb).CったCCMEを認めた(図2).PSL内服を勧めたが,間質性肺炎の治療でCPSLを半年間内服した際に副作用歴があるため内服しなかった.また,間質性肺炎の既往によりCMTXも使用できないため,同年C12月にCADAを導入した.4回注射後,炎症所見は軽快するとともに,CMEは消失した(図3).現在もCADAを継続し再燃なく経過している.CII考察今回筆者らは,既存治療に抵抗した難治性強膜ぶどう膜炎2例に対し,IFXまたはCADAを導入し,消炎が得られた症例を報告した.強膜ぶどう膜炎や強膜炎に対するCTNF阻害薬の有効性を示した海外の症例報告はいくつかあり,数種類の免疫抑制薬で炎症コントロールが困難であった強膜ぶどう膜炎C2症例に対し,IFXを導入することで速やかに消炎した報告4)や,MTX単剤でコントロール不良な結節性強膜炎の症例に対し,ADAを併用することにより消炎が得られた報告5)などがある.一方,わが国では,強膜炎に対するTNF阻害薬の保険適用はないが,既存治療抵抗性の中間部,後部,汎ぶどう膜炎にCADAが使用できるようになった.IFXに関しては,強膜炎に保険適用外で使用した報告が散見される6,7)が,強膜炎,強膜ぶどう膜炎に対するCADAの使用報告はまだない.症例C1は特発性強膜ぶどう膜炎であるが,ADAが非感染性ぶどう膜炎に適応となる前であったため,倫理委員会の承認を得てCIFXを導入した.網膜.離に対する硝子体手術の前に導入し,術後炎症が予防できたが,ステロイドパルス療法も術前に施行しているために,IFX単独の効果であったかどうかは不明である.しかし,血小板増多症をきたした際にCIFXを中止したところ,強膜ぶどう膜炎が再燃し,IFX再開後に速やかに消炎したため,本症例の炎症コントロールにCIFXが有効であると考えられた.症例C2では,既往症にRAに伴う間質性肺炎があり,その治療に使用したステロイド薬の副作用歴があったため,MTXおよびCPSLを使用せずにCADAを導入し,速やかな消炎がみられた.Ragamら8)はCADA単剤で炎症コントロール可能であった強膜炎症例を報告している.TNF阻害薬はステロイド薬や免疫抑制薬などで効果不十分な場合に併用する薬剤であるが,本症例のように,既存治療薬剤が副作用などで使用できない場合に限って,ADA単剤使用を考慮してもよい可能性が示唆された.海外では難治性強膜炎に対し,TNF阻害薬を含む生物学的製剤が積極的に使用されている.deCFidelixら9)は,おもに結節性および壊死性前部強膜炎に対してC2015年までに投与された生物学的製剤の統計を報告しており,IFXはC46/81例(57%)ともっとも多く使用されていた.IFX投与群はC96%(45/46例)で有効であり,ADA投与群はC2例だけであるが,2例とも有効であった.海外でもCADAの使用頻度は他の薬剤と比べて非常に少ないが,今後適応の拡大とともに増えると考えられる.また,非感染性・非壊死性強膜炎に対し,IFXとCADAのどちらが有効かを検討した報告8)があるが,両薬剤の効果に有意差はないという結果であった.強膜ぶどう膜炎や強膜炎におけるCTNF阻害薬の中止(バイオフリー)の目安についてのコンセンサスはまだないが,4年間の治療後にCADAを中止することができた結節性強膜炎の症例報告がある10).症例C1では多血症のためCIFXを中止後に炎症が再燃したが,ステロイド薬がオフになってから現在までのC2年間では炎症の再燃はない.慎重に経過をみながら中止時期を検討していく予定である.既存治療に抵抗する,後眼部病変を合併した強膜ぶどう膜炎に対し,TNF阻害薬(IFX,ADA)は有効であると考えられた.しかし,わが国ではCADAを使用した報告がなく,その有効性の評価については,今後の症例の蓄積が待たれる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SmithJR,MackensenF,RosenbaumJT:Therapyinsight:CscleritisCandCitsCrelationshipCtoCsystemicCautoimmuneCdis-ease.NatClinPracticeC3:219-226,C20072)日本リウマチ学会:関節リウマチ(RA)に対するCTNF阻害薬使用ガイドライン(2017年C3月C21日改訂版)httpC://www.Cryumachi-jp.com/info/guideline_TNF.html3)日本眼炎症学会CTNF阻害薬使用検討委員会:非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル(2016年版).日眼会誌121:34-41,2017http://www.Cnichgan.or.jp/menber/guidline/tfn_manual.pdf4)DoctorP,SultanA,SyedSetal:In.iximabforthetreat-mentCofCrefractoryCscleritis.CBrCJCOphthalmolC94:579-583,C20105)RestrepoCJP,CMolinaCMP:SuccessfulCtreatmentCofCsevereCnodularCscleritisCwithCadalimumab.CClinCRheumatolC29:C559-561,C20106)小溝崇史,寺田裕紀子,子島良平ほか:インフリキシマブが有効であった関節リウマチによる壊死性強膜炎のC1例.あたらしい眼科31:595-598,C20147)杉浦好美,増田綾美,松本功ほか:レミケードが奏功した難治性壊死性強膜炎のC1例.眼臨紀5:613,C20128)RagamCA,CKolomeyerCAM,CFangCCCetCal:TreatmentCofCchronic,noninfectious,nonnecrotizingscleritiswithtumornecrosisCfactorCalphaCinhibitors.COculCImmunolCIn.ammC22:469-477,C20149)deCFidelixCTS,CVieiraCLA,CdeCFreitasCD:BiologicCtherapyforCrefractoryCscleritis:aCnewCtreatmentCperspective.CIntCOphthalmol35:903-912,C201510)BawazeerCAM,CRa.aCLH:AdalimumabCinCtheCtreatmentCofCrecurrentCidiopathicCbilateralCnodularCscleritis.COmanCJCOpthalmol4:139-141,C2011***

Vogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討

2018年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科35(5):698.702,2018cVogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討白鳥宙国重智之由井智子堀純子日本医科大学眼科学教室CClinicalRecurrenceandTreatmentsinPatientswithVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseNakaShiratori,TomoyukiKunishige,SatokoYuiandJunkoHoriCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolVogt-小柳-原田病(VKH)の再発率,再発部位,再発時の治療内容について観察した.2008年C1月.2016年C8月に日本医科大学付属病院眼科を受診したCVKH患者(n=33)を対象に,診療録より後ろ向きに検討した.初診時の状態は,初発例がC24例,再発例がC1例,遷延例がC4例,他院で加療後の経過観察がC4例であった.治療経過中の再発は初発例のC24例中C6例(25.0%),再発・遷延例のC5例中C4例(80%)に認め,再発・遷延例では再発を繰り返す症例が高頻度であった.再発部位は前眼部型C6例,後眼部型C4例であった.前眼部型に対してはC2例を除いてステロイドの眼局所療法が有効であった.後眼部型に対してはステロイドとシクロシポリンの併用や,アダリムマブが有効であった.CThisretrospectivestudyinvolved33patientswithVogt-Koyanagi-HaradadiseasewhovisitedNipponMedicalSchoolHospitalfromJanuary2008toAugust2016.Subjectsincluded24freshcases,1recurrentcase,4prolongedcasesCandC4Cfollow-upCcasesCafterCtreatmentCatCotherChospitalsCatCtheCtimeCofCinitialCvisit.COfCtheC24CfreshCcases,C6experiencedrecurrentocularin.ammationduringfollow-up;theirrecurrenceratewas25.0%.Ofthe5recurrentorCprolongedCcases,C4CrecurredCagain;theirCrecurrenceCrateCwasC80%.CTheCsiteCofCrecurrenceCwasCclassi.edCintotwogroups:anteriorchambertype(6cases)andfundustype(4cases).Mostoftheanteriorchambertyperecur-rences,excepting2cases,werecuredbytopicalocularcorticosteroidtherapy;thefundustyperecurrenceswerecuredbyacombinationofsystemiccorticosteroidandcyclosporinetherapyoradalimumabtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):698.702,C2018〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,再発率,治療,シクロスポリン,アダリムマブ.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,recurrencerate,treatments,cyclosporine,adalimumab.CはじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease:VKH)は,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患と考えられており1),従来より,初期段階にステロイドパルス療法あるいはステロイド大量漸減療法による治療が行われている.VKHは,前駆期を経て眼病期(急性期)となり,治療を開始すると回復基調となることが一般的である1).しかしながら,治療に抵抗して再発を繰り返し,遷延型に移行するような難治症例では,網脈絡膜変性や続発緑内障などを合併し,視力予後は悪くなると報告されている2).そのため,再発率,遷延率,晩期続発症の合併頻度などを知っておくことが,臨床において患者の視力予後を予測するうえで有用である.今回筆者らは,日本医科大学付属病院眼科(以下,当施設)におけるCVKH患者の治療後の再発率,ならびに遷延率,再発部位,再発前後の治療方法,晩期続発症の発生率に関して検討を行ったので報告する.CI方法1.対象2008年C1月.2016年C8月までに当施設の眼炎症外来を受診し,6カ月以上の経過観察ができたCVKH患者C33例を対象とした.VKHの診断は,2001年の改定国際診断基準1)に準じて,完全型もしくは不完全型を満たすものとした.性別は,男性C16例,女性C17例であった.初診時平均年齢は,〔別刷請求先〕白鳥宙:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:NakaShiratori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPAN698(134)男性C46.9C±18.1歳,女性C47.1C±13.4歳(平均値C±標準偏差)であった.平均観察期間は,44.0C±28.8カ月で,最短C6カ月,最長C109カ月であった.対象は,初診時の状態により,初発例C24例,初診時再発例C1例,初診時遷延例C4例,経過観察例C4例を含んだ.初診時再発例とは,他施設で加療後炎症が再燃したため,当施設初診となった症例とした.初診時遷延例とは,他院でC6カ月以上炎症が持続し,当施設初診となった症例とした.経過観察例とは,他施設で加療後炎症の再燃がなく,当施設初診となった症例とした.本研究は,ヘルシンキ宣言に準じており,日本医科大学付属病院倫理委員会の承認を得た.C2.検.討.事.項再発・遷延例の頻度,再発部位,再発時の治療内容,再発後の治療方法,晩期続発症の種類と頻度についてレトロスペクティブに診療録の解析を行った.なお,再発例とは経過中に一度消炎が得られたにもかかわらず,再度炎症が出現した症例とし,遷延例とはステロイド投与後もC6カ月を超えて内眼炎症が持続した症例とした.寛解とは,検眼鏡的に前房内細胞,硝子体内細胞,漿液性網膜.離が消失した時点とした.再発部位については,前房内細胞などの前眼部炎症のみのものを前眼部型とし,漿液性網膜.離を伴うものを眼底型表1初診時初発例(24例)における治療後の再発・遷延率症例数(%)再発あり遷延なし2例(8C.3%)再発かつ遷延4例(1C6.7%)再発なし18例(C75.0%)とした.続発緑内障については,経過中に複数回にわたり眼圧がC21CmmHgを超えたものと定義した.CII結果初発例については,全例にステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1CgをC3日間連続投与)を施行したのち,翌日よりプレドニゾロンC1Cmg/kg/日程度から内服し,炎症の程度を見きわめながらC2.4週ごとにC5.10Cmg/日を減量する漸減療法が施行されていた.初発例(全C24例)のうち,治療後の再発例はC6例(25.0%)で,再発した結果C6カ月以上消炎できなかった再発かつ遷延例がC4例(16.7%)であった.非再発・非遷延例はC18例(75.0%)であった(表1).一方で,初診時再発・遷延例における再発は,全C5例中C4例(80%)で,初発例と比べて,その後も再発を繰り返す確率が高かった(表2).全再発症例の再発時について,ステロイドパルス療法後の経過週数,ステロイド投与量(体重換算),再発部位,当施設初診時の状態を表3に示した.再発時期は,プレドニゾロン内服漸減中の再発がC7例で,プレドニゾロン内服終了後の再発がC3例であった.再発時のステロイドパルス療法後の経過週数はC3.128週まで幅広かった.再発時のプレドニゾロ表2初診時の状態による再発率再発率初診時初発例25.0%(C6/24例)初診時再発・遷延例80.0%(C4/5例)初発例と比べて,再発・遷延例ではその後も再発を繰り返す確率が高かった.表3全対象33例中の再発症例のまとめ症例CNo.初診時再発部位再発時のパルス後週数(週)再発時のPSL内服量(mg/日)再発時のPSL内服量体重換算(mg/kg/日)C1初発例眼底型C3C40C0.59C2初発例前眼部型C8C25C0.45C3初発例眼底型C13C10C0.13C4初発例眼底型C17C5C0.082C5初発例眼底型C17PSL終了後C1週C6初発例前眼部型C36C5C0.065C7遷延例前眼部型C50C8C0.059C8再発例前眼部型C128PSL終了後C96週C9遷延例前眼部型不詳PSL終了後C10遷延例前眼部型パルスなしC5C0.086PSL:prednisolone(プレドニゾロン).表4前眼部型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C2初発例C25+BSP点眼寛解C6初発例C5+DEX結膜下注射+PSL10mg/日へ増量寛解C7遷延例C8+BSP点眼寛解C8再発例PSL終了後+BSP点眼寛解C9遷延例C5+BSP点眼寛解C10遷延例PSL終了後PSL30mg/日+CyA150mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),BSP:betamethasoneCphosphate(リン酸ベタメタゾン),DEX:dexamethasone(デキサメタゾン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン).表5眼底型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C1初発例C40ステロイドハーフパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C3初発例C10PSL20mg/日+CyA150mg/日C↓CyA25mg/日+ADA40mg/週再発寛解C4初発例C5ステロイドパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C5初発例PSL終了後PSL30mg/日再開+CyA100mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン),ADA:adalimumab(アダリムマブ).ン投与量の平均は,14.0mg/日(0.21mg/kg/日)であったが,その内服量は5.40mg/日と症例によりばらつきがあった.再発例における再発部位は,前眼部型がC6例で,眼底型が4例であった.眼底型の再発は,ステロイドパルス療法後の経過週数が比較的短い時点での再発症例に多く,前眼部型の再発はステロイドパルス療法後の経過週数が比較的長い時点での再発症例に多かった.前眼部型の再発をした症例での再発後の治療を表4に示した.前眼部型の再発に対する治療は,デキサメタゾン結膜下注射やベタメタゾン点眼の追加などの眼局所療法が中心であった.眼局所療法の追加がされたC5例のうち,1例では消炎せずプレドニゾロン内服の増量を必要としたが,その他のC4例では眼局所療法の追加のみで炎症は寛解していた.また,プレドニゾロン全身投与とシクロスポリン全身投与の併用療法がされたC1例では,治療が有効であった.眼底型の再発をした症例について再発後の治療を表5に示した.眼底型の再発に対する治療は,ステロイド全身投与に加えて,シクロスポリン全身投与の併用を行い,全例で炎症は寛解していた.シクロスポリン開始時の投与量はC100.150Cmg/日(約C2Cmg/kg/日)で,血中シクロスポリン濃度(トラフ値:最低血中薬物濃度)がC50.100Cng/mlとなるように維持されていた.一方で,眼底型の再発に対してシクロスポリンを導入した症例のうち,1例でシクロスポリンの副作用と考えられる肝機能障害を認めた.このC1例では,シクロスポリン投与量を6カ月かけてC2Cmg/kg/日からC1Cmg/kg/日に漸減したところで再度の眼底型の再燃があった.この再燃に対しては,生物学的製剤であるアダリムマブの投与を行い,炎症は寛解し,シクロスポリンはC0.5Cmg/kg/日まで減量することができていた(表5,症例CNo.3).晩期続発症についての検討では,夕焼け状眼底がC15例(45.5%)に,網脈絡膜萎縮病巣がC6例(18.2%)に,続発緑内障がC6例(18.2%)に,脈絡膜新生血管がC2例(6.1%)にみられた.このうち,11カ月で夕焼け状眼底を呈した症例表6晩期続発症の発生率夕焼け状眼底網脈絡膜萎縮病巣続発緑内障脈絡膜新生血管最終視力低下(1C.0未満)全症例15例6例6例2例4例(3C3例)(4C5.5%)(1C8.2%)(1C8.2%)(6C.1%)(1C2.1%)再発・遷延例9例4例4例1例2例(1C0例)(9C0.0%)(4C0.0%)(4C0.0%)(1C0.0%)(2C0.0%)再発なし症例6例2例2例1例2例(2C3例)(2C6.1%)(8C.7%)(8C.7%)(4C.3%)(8C.7%)がC1例あったが,他の晩期続発症はC1年以上の経過症例にみられた.視力C1.0未満への最終視力低下がC4例(12.1%)にみられ,視力低下の原因は,2例が脈絡膜新生血管,2例が白内障の進行であった.再発・遷延例では,夕焼け状眼底,続発緑内障,脈絡膜新生血管などの晩期続発症が多い傾向があり,視力低下をきたす症例も多かった(表6).CIII考按VKHの再発率に関する過去の報告には,島ら3)のステロイドパルス療法後の再発率(遷延率)がC23.8%(19.0%)であったとの報告や,井上ら4)のステロイドパルス療法またはステロイド大量漸減療法後の再発率(遷延率)がC28.2%(18.8%)であったなどの報告がある.筆者らの研究では,初発例に対してはステロイドパルス療法にて初期治療を行い,再発率(遷延率)がC25.0%(16.7%)であり,既報とほぼ同様であった.漿液性網膜.離がメインのタイプより視神経乳頭腫脹型のほうが遷延型に移行しやすいという報告5)があるが,本研究の対象C33例では,視神経乳頭腫脹型はC1例のみで,そのC1例は再発も遷延もなかった.晩期続発症についての過去報告には,島ら3)の夕焼け状眼底がC42.9%,続発緑内障がC20.7%,脈絡膜新生血管がC0%との報告や,海外ではCAbuCEl-Asrarら6)の夕焼け状眼底が48.3%,続発緑内障がC20.5%,脈絡膜新生血管がC6.9%との報告や,Readら2)の続発緑内障がC27%,脈絡膜新生血管が11%などの報告がある.本研究では,夕焼け状眼底がC45.5%,続発緑内障がC18.2%に,脈絡膜新生血管がC6.1%にみられ,既報とほぼ同様であった.VKHは,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患であり,細胞障害性CT細胞が病態の中心に関与している7)と考えられている.シクロスポリンはCTリンパ球の活動性を抑制する薬剤であり,2013年より非感染性の難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となったこともあり,VKH治療に対する有効性が期待されている.実際にステロイド治療にて再発性・遷延性のCVKHに対して,シクロスポリンが有効であった報告が過去になされている8,9).ぶどう膜炎に対するシクロスポリンの投与量については,初期投与量C3Cmg/kg/日が適切とされており(ノバルティスファーマ:非感染性ぶどう膜炎におけるネオーラルRの安全使用マニュアル,2013年度版),福富ら8)は,眼底型の再発を繰り返すCVKHのC2症例で,初期投与量C3Cmg/kg/日でのシクロスポリン投与が有効であったと報告している.本研究でのシクロスポリン導入は,ステロイド内服と併用投与であり,全例でC2Cmg/kg/日で開始してトラフ値C50.100Cng/mlとなるように維持していたが,眼底型の再発症例における炎症の寛解に有用であった.本研究と同様に,遷延性CVKHに対して低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与を行った春田らの報告9)では,前眼部型・眼底型炎症ともに効果を認めるものの,眼底型炎症のほうがやや効果が弱い印象であったと報告しているが,筆者らの研究ではシクロスポリン導入時に再度のステロイドパルス療法または全身性ステロイド投与量の増量を併用していたことで有効性が増した可能性が考えられた.このように,難治性のCVKHの治療において,シクロスポリン併用療法は治療の有効な選択肢となるが,シクロスポリン導入時の適切な投与量については,今後さらなる検討が必要と考える.また,それ以外にも,シクロスポリン治療の導入時期,ステロイド併用時の投与量,シクロスポリン導入後の減量方法など,多くの面でいまだ一定のプロトコールがなく,今後多くの症例を積み重ねていくことで,シクロスポリン投与法が確立されることが期待される.アダリムマブは,2016年C10月に難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となった生物学的製剤で,TNF-a阻害作用により抗炎症に働く.VKHに対するアダリムマブ使用の報告は少ないが,Coutoら10)はアダリムマブの導入により他の免疫抑制薬を減量できたと報告している.本研究でも,肝機能障害のためにシクロスポリンを減量せざるをえず,その結果,再度の眼底型の再燃をしてしまったC1例において,アダリムマブの投与が,炎症の寛解とシクロスポリンの減量に有効であった.VKHに対するアダリムマブの有効性や副作用についてはさらなる検討が必要であるが,有効な治療の選択肢の一つであると考えられた.文献1)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetCal:RevisedCdiagnosticcriteriaCforCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C20012)ReadCRW,CRechodouniCA,CButaniCNCetCal:ComplicationsCandCprognosticCfactorsCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CAmJOphthalmolC131:599-606,C20013)島千春,春田亘史,西信良嗣ほか:ステロイドパルス療法を行った原田病患者の治療成績の検討.あたらしい眼科C25:851-854,C20084)井上留美子,田口千香子,河原澄枝ほか:15年間のCVogt-小柳-原田病の検討.臨眼65:1431-1434,C20115)OkunukiCY,CTsubotaCK,CKezukaCTCetCal:Di.erencesCinCtheclinicalfeaturesoftwotypesofVogt-Koyanagi-Hara-daCdisease:serousCretinalCdetachmentCandCopticCdiscCswelling.JpnJOphthalmolC59:103-108,C20156)AbuEl-AsrarAM,TamimiMA,HemachandranSetal:CPrognosticCfactorsCforCclinicalCoutcomeCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCtreatedCwithChigh-doseCcorticosteroids.ActaOphthalmolC91:e486-e493,C20137)SugitaCS,CTakaseCH,CTaguchiCCCetCal:OcularCin.ltratingCCD4+CTCcellsCfromCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaserecognizehumanmelanocyteantigens.InvestOph-thalmolVisSciC47:2547-2554,C20068)福富啓,眞下永,吉岡茉衣子ほか:シクロスポリン併用が有効であった副腎皮質ステロイド抵抗性のCVogt-小柳-原田病のC2症例.日眼会誌121:480-486,C20179)春田真実,吉岡茉衣子,福富啓ほか:遷延性CVogt-小柳-原田病に対する低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与の効果.日眼会誌121:474-479,C201710)CoutoCCA,CFrickCM,CJallazaCECetCal:AdalimumabCtreat-mentCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCSyndrome.CInvestOphthalmolVisSciC55:5798,C2014***