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緑内障患者の配合剤への変更によるアドヒアランスの検討

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1125.1129,2022c緑内障患者の配合剤への変更によるアドヒアランスの検討迫菜央子辻拓也西原由華佐々木研輔春田雅俊吉田茂生久留米大学医学部眼科学講座CExaminationofTreatmentAdherenceAfterChangingtoCombinationEyeDropsinGlaucomaPatientsNaokoSako,TakuyaTsuji,YukaNishihara,KensukeSasaki,MasatoshiHarutaandShigeoYoshidaCDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicineC目的:PG関連薬/Cb遮断薬配合剤(PG/Cb),a2刺激薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤(Ca2/CAI)への変更によるアドヒアランスを検討する.対象および方法:対象はCPG関連薬,Cb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤,Ca2刺激薬を点眼している患者C21例C30眼.病型は原発開放隅角緑内障C13眼,落屑緑内障C7眼,続発緑内障C2眼,正常眼圧緑内障C2眼,血管新生緑内障C2眼,高眼圧症C2眼,原発閉塞隅角緑内障C1眼,小児緑内障C1眼であった.PG/CbおよびCa2/CAIへの変更前後の視力,眼圧などを検討した.変更前後でアンケートを行った.結果:点眼忘れの回数は変更前C0.33C±0.71回から変更C1カ月後C0.10C±0.29回と有意に減少した(p=0.04).副作用は掻痒感C1例,結膜炎C2例,霧視C3例であった.75%の患者は変更後がよいと回答した.変更前,変更後C1,3カ月で視力,眼圧に有意差はなかった.結論:変更後は高い満足度が得られ,アドヒアランス向上が期待できる.CPurpose:ToCinvestigateCtreatmentCadherenceCafterCchangingCtoCtheCcombinationCofCPG/bandCa2/CAICeyeCdropsCinCglaucomaCpatients.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC30CeyesCofC21CglaucomaCpatientsCwhoCwereinstilledwithPGpreparation,b/CAIanda2agonist.Ofthe31eyes,therewere13primaryopen-angleglau-comaeyes,7exfoliationglaucomaeyes,2secondaryglaucomaeyes,2normal-tensionglaucomaeyes,2neovascu-larizationglaucomaeyes,2ocularhypertensioneyes,1primaryangle-closureglaucomaeye,and1childhoodglau-comaCeye.CVisualacuity(VA)andCintraocularpressure(IOP)preCandCpostCswitchingCtoCPG/bandCa2/CAICwereCexamined.CACpatientCquestionnaireCwasCconductedCpreCandCpostCswitch.CResults:TheCmeanCnumberCofCpatientsCwhoCforgotCtoCinstillCwasCreducedCfromC0.33±0.71CatCbeforeCswitchingCtoC0.10±0.29CatC1CmonthCthechange(p=0.04)C.CSideCe.ectsCwereitching(1patient)C,conjunctivitis(2patients)C,CandCblurredvision(3patients)C.COfCtheC21Cpatients,75%saidthattheswitchwasgood,andnodi.erenceinVAandIOPwasobservedpostswitch.Conclu-sion:AfterchangingtoPG/banda2/CAIcombinationeyedrops,highsatisfactionwasobtainedandadherencetotreatmentimproved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1125.1129,C2022〕Keywords:ブリモニジン酒石酸塩/ブリンゾラミド配合点眼液,眼圧,副作用,アドヒアランス.brinzolamide/Cbrimonidine.xedcombination,intraocularpressure,sidee.ects,adherence.Cはじめにエビデンスに基づいた唯一確実な緑内障治療は眼圧下降であり,点眼加療が果たす役割は大きい.しかし,緑内障は多くの場合きわめて慢性的に経過する進行性の疾患で,治療効果を実感しにくいこともあり,長期にわたってアドヒアランスを維持することがむずかしい1).とくに多剤点眼が必要な患者においては,配合点眼液を使用して点眼回数や眼局所の副作用を軽減し,アドヒアランスとCQOLの向上をめざすべきと考える.アイラミド配合懸濁性点眼液(千寿製薬)は交感神経Ca2受容体刺激薬(以下,Ca2刺激薬)であるブリモニジン酒石酸塩と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitor:CAI)であるブリンゾラミドの配合点眼液で,国内では初めてとなる薬剤の組み合わせである.プロスタグランジン関連〔別刷請求先〕辻拓也:〒830-0011福岡県久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakuyaTsujiCM.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume-city,Fukuoka830-0011,JAPANC薬点眼液(以下,PG関連薬),交感神経Cb受容体遮断薬/CAI配合点眼液(以下,Cb遮断薬/CAI配合点眼液),a2刺激薬の多剤点眼を処方されている患者では,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液,Ca2刺激薬/CAI配合点眼液に処方を変更することで,1日の点眼回数をC5回からC3回へ減らすことができる.今回,久留米大学病院眼科でCPG関連薬,Cb遮断薬/CAI配合点眼液,Ca2刺激薬を含む多剤点眼を処方されていた緑内障患者にこの処方変更を試み,視力,眼圧,角結膜,自覚症状,アドヒアランスへの影響を調査したので報告する.CI対象および方法久留米大学病院眼科にてC2020年C8月.2021年C1月に,PG関連薬,Cb遮断薬/CAI配合点眼液,Ca2刺激薬を含む多剤点眼を処方されていた緑内障患者で,十分なインフォームド・コンセントののち,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液,Ca2刺激薬/CAI配合点眼液への処方変更を希望したC21例C30問診表(変更前)問1①最近1か月で点眼を忘れてしまったことはありますか?□はい何回忘れましたか?□1回ぐらい□2回ぐらい□3回ぐらい□4回以上ちなみにどの点眼でしたか?()□いいえ②前の質問で「はい」を選択した方へ。1.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前2.理由は何ですか?□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□さし心地□点眼瓶の操作性(さしにくい)□副作用□忙しい□その他()問2現在の眼の症状は如何ですか?①充血は?(ない012345ある)②刺激は?(ない012345ある)③かゆみは?(ない012345ある)④痛みは?(ない012345ある)⑤かすみは?(ない012345ある)⑥眼のくぼみは?(ない012345ある)⑦まつ毛の伸びは?(ない012345ある)眼を対象とした.なお,PG関連薬からCPG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液への処方変更は,変更前後でCPG関連薬が同一成分となるように処方した.変更前にCROCK阻害薬も処方されていた場合は,変更後も使用を継続した.本研究は久留米大学医に関する倫理委員会の承認を得て行い(研究番号C21023),対象症例の診療録を後ろ向きに調査した.薬剤スコアは緑内障点眼薬C1成分をC1点,アセタゾラミド内服C1錠につきC1点とした.矯正視力は,変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月に測定し,それぞれClogMAR視力に変換して統計処理を行った.眼圧は変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月にCGoldmann圧平眼圧計(GoldmannCapplanationtonometer:GAT)を用いて測定した.診療録を用いて変更後に新たに生じた副作用を調査するとともに,変更前,変更後C1カ月の角膜・結膜スコアをそれぞれC3点満点で評価した.アンケート調査は回答結果を主治医には伝えないことを事前に説明したうえで,変更前,変更後C1カ月に診療に直接関与しない研究補助員が聴取した.アンケートの質問項目を問診表(変更後)問1①点眼を変更して、最近1か月で点眼を忘れてしまったことはありますか?□はい何回忘れましたか?□1回ぐらい□2回ぐらい□3回ぐらい□4回以上□いいえ②前の点眼に比べて点眼忘れは減りましたか?□減った□変わらない□増えた③その理由をお聞かせください。④前の質問で「はい」を選択した方へ。1.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前2.理由は何ですか?□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□さし心地□点眼瓶の操作性(さしにくい)□副作用□忙しい□その他()問2変更する前と比べて、眼の症状に変化はありましたか?①充血は?(ない012345ある)②刺激は?(ない012345ある)③かゆみは?(ない012345ある)④痛みは?(ない012345ある)⑤かすみは?(ない012345ある)⑥眼のくぼみは?(ない012345ある)⑦まつ毛の伸びは?(ない012345ある)問3①変更する前と後ではどちらが良いですか?□変更した後の方が良い□同じ□変更する前の方が良い②その理由をお聞かせ下さい(複数回答可)□1日の点眼回数が少ない□充血しない□しみない□かゆくない□痛くない□かすまない□点眼瓶が使いやすい□薬代が安い□その他図1変更前,変更後1カ月のアンケート図1に示す.変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月の視力,眼圧の比較にはCANOVA,変更前,変更後C1カ月の角膜・結膜スコア,自覚症状の比較には対応のあるCt検定,変更前,変更後C1カ月の点眼忘れの回数の比較にはCWilcoxonCsigned-rankCtestを用いた.統計解析ソフトはCJMP(Ver16.1)を使用し,すべての解析において危険率C5%未満を有意差ありと判断した.CII結果対象はC21例C30眼で,性別は男性C12例C17眼,女性C9例13眼であった.平均年齢はC68.8C±5.0歳であった.平均薬剤スコアはC4.6C±0.2点であった.Humphrey自動視野計中心プログラムC24-2の平均Cmeandeviation値はC.12.7±2.6CdBであった.病型の内訳は,原発開放隅角緑内障C13眼,落屑緑内障C7眼,続発緑内障C2眼,正常眼圧緑内障C2眼,血管新生緑内障C2眼,高眼圧症C2眼,原発閉塞隅角緑内障C1眼,小児緑内障C1眼であった(表1).logMAR視力は変更前C0.16C±0.56,変更後C1カ月C0.17C±0.58,変更後C3カ月C0.19C±0.60,GATによる眼圧は変更前Ca1.91.713.4±2.3CmmHg,変更後C1カ月C13.0C±3.4CmmHg,変更後C3カ月C14.0C±3.3CmmHgであった.視力,眼圧ともに,変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月の間で有意差を認めなかった(図2a,b).PG関連薬とCb遮断薬ごとの内訳では,タフルプロストからタフルプロスト/チモロールへの変更はC12眼表1対象(21例30眼)病型原発開放隅角緑内障落屑緑内障続発緑内障正常眼圧緑内障血管新生緑内障高眼圧症原発閉塞隅角緑内障小児緑内障13眼7眼2眼2眼2眼2眼1眼1眼性別(男/女)12例17眼C/9例13眼年齢C68.8±5.0歳薬剤スコアC4.6±0.2点Humphrey自動視野計中心プログラム24-2CMD値C.12.7±2.6CdBCNS20b1.5NS1510眼圧(mmHg)1.31.10.90.70.50.3logMAR視力50.1-0.1-0.30変更前変更後1カ月変更後3カ月変更前変更後1カ月変更後3カ月NSc20-0.5d20NS15101510眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)5500変更前変更後1カ月変更後3カ月変更前変更後1カ月変更後3カ月図2視力,眼圧の推移a:logMAR視力,Cb:GAT,Cc:タフルプロスト/チモロールへ変更したC12眼のCGAT,Cd:ラタノプロスト/チモロールへ変更したC13眼のCGAT.すべてにおいて変更前,変更後C1カ月,3カ月で有意差はなかった.(117)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1127a充血b刺激c掻痒感5NS5NS5NS4443331.71.721.2±1.7221.01.00.81.20.5±1.70.6±1.0111000-1-1-1変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月d疼痛e霧視fくぼみNS54NS55443331.51.51.3±1.22220.30.70.2±0.7111000-1-1-1変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月g睫毛の伸び5NS4321.01.80.5±1.210-1変更前変更後1カ月Pairedt-test図3自覚症状の変化すべての項目において変更前,変更後C1カ月で有意差はなかった.図4変更前後でどちらがよいかで,GATは変更前C13.0C±2.7CmmHg,変更後C1カ月C12.5C±3.0CmmHg,変更後C3カ月C13.5C±1.5CmmHgといずれも有意差はなかった(図2c).ラタノプロストからラタノプロスト/チモロールへの変更はC13眼で,GATは変更前C13.8C±2.2CmmHg,変更後C1カ月C12.9C±2.3CmmHg,変更後C3カ月C14.3±5.0CmmHgといずれも有意差はなかった(図2d).トラボプロストからトラボプロスト/チモロール,ラタノプロストからラタノプロスト/カルテオロールへの変更はそれぞれC2眼であり,統計解析は行わなかった.点眼変更後に新たに副作用を認めた症例はC6例(28.5%)あった.内訳は掻痒感C1例(4.8%),結膜炎C2例(9.5%),霧視C3例(14.3%)であった.掻痒感を自覚したC1例ではアイラミド配合懸濁性点眼液の中止を余儀なくされた.角膜スコアは,変更前C0.53C±0.92点,変更後C1カ月C0.43C±0.84点で,変更前後で有意差を認めなかった.結膜スコアは,変更前にC1点以上だった症例はC1眼のみで,変更前のC2点から変更後C1カ月でC1点になった.変更前,変更後C1カ月での自覚症状のアンケート結果を図3に示す.充血,刺激,かゆみ,痛み,かすみ,眼のくぼみ,まつげの伸びのすべての項目で,変更前後で有意差を認めなかった.変更後C1カ月のアンケートでは,「変更後が変更前よりもよい」がC75%,「変更前が変更後よりもよい」がC15%,「変更前後で同じ」がC10%であった(図4).患者の自己申告による点眼忘れの回数は,変更前C0.33C±0.71回,変更後C1カ月C0.09C±0.29回で,変更後に有意に点眼忘れの回数が減少した(p=0.043).III考按緑内障診療ガイドライン(第C4版)では,緑内障の多剤点眼は副作用の増加やアドヒアランスの低下につながることがあり,アドヒアランスの向上のために配合点眼液の使用も考慮すべきと提言している1).今回,久留米大学病院眼科で,PG関連薬,Cb遮断薬/CAI配合点眼液,Ca2刺激薬を含む多剤点眼を処方されていた緑内障患者に対し,配合点眼液をCb遮断薬/CAIのC1種類からCPG関連薬/Cb遮断薬とCa2刺激薬/CAIのC2種類に増やすことで,点眼数および点眼回数を減らすことを試みた.本研究では処方変更の前後で,視力,眼圧に有意な変化を認めなかった.ブリモニジン酒石酸塩とブリンゾラミドの薬剤の組み合わせにおいて,配合点眼液と単剤併用の比較で眼圧下降効果は同等であったことが報告されている2).また,PG関連薬とCb遮断薬の薬剤の組み合わせにおいて,トラボプロスト/チモロール,タフルプロスト/チモロールの配合点眼液ではそれぞれの単剤併用と比べて眼圧下降効果は同等であったが3,4),ラタノプロスト/チモロールの配合点眼液では単剤併用と比べて眼圧下降効果が劣っていたと報告されている5).チモロールの単剤がC1日C2回点眼であるのに対し,配合点眼液ではチモロールがC1日C1回点眼となるため眼圧下降効果が減弱する可能性が指摘されている6).今回の処方変更でもCb遮断薬の点眼回数が変更前のC2回から変更後はC1回と減っているが,処方変更後も同等の眼圧下降効果が得られたのは,点眼忘れの回数が有意に減少するなどアドヒアランスが改善したことも一因としてあるのではないかと思われる.配合点眼液による点眼回数の減少は,アドヒアランスの向上だけでなく,点眼液に含まれる防腐剤などによる角結膜上皮障害を軽減する効果も期待される.ただし,本研究での角膜・結膜スコアは変更前後で明らかな有意差を認めなかった.また,アンケート調査でも,充血,刺激,かゆみ,痛み,かすみ,眼のくぼみ,まつげの伸びのすべての項目で,自覚症状は変更前後で明らかな有意差を認めなかった.今回の処方変更に対するアンケート調査で,「変更後のほうがよい」と答えた症例はC75%であり,そのおもな理由は点眼回数の減少であった.一方で,「変更前のほうがよい」と答えた症例もC15%あり,そのおもな理由は霧視であった.緑内障点眼の耐えられない副作用の一つとして霧視をあげている報告もあり7),もともと懸濁液を含まない多剤点眼からアイラミド配合懸濁性点眼液を含む処方に変更する場合は,点眼後に一過性に霧視を自覚する可能性があることについて十分に説明する必要があると思われる.緑内障の点眼加療は,単剤投与から始めて目標眼圧に達しなければ薬剤変更あるいは追加を行うことが基本であるが,実際の臨床では多剤点眼を処方されている緑内障患者も多い.本研究の結果から,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液およびCa2刺激薬/CAI配合点眼液への処方変更による点眼数および点眼回数の減少は,点眼加療の効果とアドヒアランスを維持したうえで,患者の満足度向上にもつながる可能性があると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)Gandol.CSA,CLimCJ,CSanseauCACCetal:RandomizedCtrialCofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbri-monidineforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTherC31:1213-1227,C20143)InoueCK,CSetogawaCA,CHigaCRCetal:OcularChypotensiveCe.ectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%C.xedCcombinationCafterCchangeCofCtreatmentCregimenCfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthal-molC6:607-612,C20124)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科C32:133-143,C20155)QuarantaL,BiagioliE,RivaIetal:ProstaglandinanalogsandCtimolol-.xedCversusCun.xedCcombinationsCorCmono-therapyCforopen-angleCglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CJCOculCPharmacolCTherC29:382-389,C20136)WebersCA,BeckersHJ,ZeegersMPetal:TheintraocuC-larpressure-loweringe.ectofprostaglandinanalogscom-binedCwithCtopicalCbeta-blockertherapy:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.COphthalmologyC117:2067-2074,C20107)ParkCMH,CKangCKD,CMoonCJCetal:NoncomplianceCwithCglaucomaCmedicationCinCKoreanpatients:aCmulticenterCqualitativestudy.JpnJOphthalmolC57:47-56,C2013***

緑内障患者に対する「緑内障薬剤師外来」の評価

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1109.1113,2021c緑内障患者に対する「緑内障薬剤師外来」の評価木下恵*1,2柴谷直樹*1,2宮坂萌菜*1,2大江泰*1,2平野達也*1,2入江慶*3吉水聡*4藤原雅史*4栗本康夫*4室井延之*1,2*1神戸市立神戸アイセンター病院薬剤部*2神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部*3神戸学院大学薬学部*4神戸市立神戸アイセンター病院眼科CEvaluationofanAmbulatoryPharmacyCarePracticeforGlaucomaPatientsMegumiKinoshita1,2)C,NaokiShibatani1,2)C,MoenaMiyasaka1,2)C,YutakaOe1,2)C,TatsuyaHirano1,2)C,KeiIrie3),SatoruYoshimizu4),MasashiFujihara4),YasuoKurimoto4)andNobuyukiMuroi1,2)1)DepartmentofPharmacy,KobeCityEyeHospital,2)DepartmentofPharmacy,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital,3)FacultyofPharmaceuticalSciences,KobeGakuinUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,KobeCityEyeHospitalC2019年C11月.2020年C4月に緑内障薬剤師外来で指導を行った患者C22名を対象に,薬剤師介入前後の点眼手技および緑内障点眼薬処方本数の変化,患者への介入事例を検討した.緑内障薬剤師外来における手技指導により「1回C2滴以上点眼しない」の手技項目で有意な改善を認めた.指導前後において緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数は1.07本C±0.62からC0.75本C±0.24に有意に減少した.原発閉塞隅角症患者C5名のうちC2名に抗コリン作用を有する薬剤の使用歴があり中止および代替薬の提案を行った.かかりつけ保険薬局と連携した薬学的介入により,アドヒアランスが向上した症例があった.CInCthisCstudy,CweCcomparedCtheCeyeCdropCprocedureCandCtheCnumberCofCprescribedCeyeCdropsCinCglaucomaCpatientsCbeforeCandCafterCvisitingCourCambulatoryCcareCpharmacyCfromCNovemberC2019CtoCAprilC2020.CWeCalsoCreviewedCpharmaceuticalCinterventionsCforCglaucomaCpatients.CTheCinstructionsCprovidedCbyCourCambulatoryCcareCpharmacyCsigni.cantlyCimprovedCtheCeyeCdropCprocedureCof“doCnotCinstillCmoreCthanC2CdropsCatCaCtime,”andCdecreasedthenumber(meanC±SD)ofprescribedeyedropsfrom1.07±0.62CtoC0.75±0.24.Wefoundthatanticho-linergicCdrugsChadCbeenCprescribedCtoC2CofC5CpatientsCwithCprimaryCangleCclosure,CsoCweCsuggestedCdiscontinuingCthosedrugs.Insomecases,thecollaborativemanagementbetweenhospitalandinsurancepharmacypharmacistsimprovedmedicationadherenceinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(9):1109.1113,C2021〕Keywords:緑内障,アドヒアランス,薬剤師外来,点眼手技.glaucoma,medicationadherence,ambulatorypharmacycarepractice,eyedroptechnique.Cはじめに緑内障に対するエビデンスに基づいた治療法は眼圧下降であり,薬物治療が果たす役割は大きい1).しかしながら,緑内障点眼薬による治療は効果自覚の乏しさや手技の煩雑さ,副作用などからアドヒアランスの維持が困難であるといわれている2).アドヒアランスは患者が医療者からの推奨に同意し,服薬や食事療法,生活習慣の見直しを実践することと定義されており3),緑内障治療ではアドヒアランス不良は緑内障の進行に関与する.緑内障患者において,動機づけを重視したコーチングプログラムによりアドヒアランスが向上することが報告されており4),緑内障診療ガイドラインでもアドヒアランス維持には多職種による介入が必要とされていることから,手術が必要となる前段階の外来通院時から病院薬剤師が積極的に介入する意義は大きいと考えられた.そこで,神戸市立神戸アイセンター病院(以下,当院)では眼科医師の指導のもと,緑内〔別刷請求先〕室井延之:〒650-0047神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院薬剤部Reprintrequests:NobuyukiMuroi,Ph.D.,DepartmentofPharmacy,KobeCityEyeHospital,2-1-8,Minatojima-minami-machi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANC障薬剤師外来を開設し,外来患者に対して点眼手技指導や点眼薬による副作用対策の指導を始めた.また,原発閉塞隅角症患者の他院処方薬の確認や,かかりつけ保険薬局薬剤師との情報共有も行い,患者個々に応じたサポートが継続して受けられる体制を構築した.緑内障患者に対するこのような取り組みは過去に報告がなく,本研究では当院緑内障薬剤師外来にて指導を行った患者を対象に薬剤師の介入の有用性について評価した.CI対象および方法1.緑内障薬剤師外来の運用緑内障薬剤師外来は,指導依頼理由および目標眼圧を記入した「指導依頼箋」を用い,医師からの依頼に基づき実施した(図1a).医師の診察後に外来部門の診察室を使用し,薬剤師が依頼内容に応じた指導を行った.指導内容は,1)医師による緑内障の病態・治療説明の後の再確認,2)緑内障点眼薬の効果効能・用法用量・副作用の説明,3)生理食塩水点眼を用いた点眼手技の説明・練習(補助具の配布なども含む),4)正しい点眼順番の説明(点眼表の交付),5)「お薬手帳」を用いた他院の処方薬確認などで,指導に要する時間は患者C1名当たりC30分程度であった.さらに,患者同意のもと,かかりつけ保険薬局と施設間薬剤情報提供書を用いて指導内容などの情報を共有した(図1b).なお,緑内障薬剤師外来は,指導依頼理由の問題が解決するまで患者の診察日に合わせて複数回行った.C2.調査期間および対象患者2019年11月1日.2020年4月30日に,当院緑内障薬剤師外来で指導を受けたC22名の患者を対象とした.C3.薬剤師による介入の評価緑内障薬剤師外来への指導依頼理由に応じた以下の項目について,薬剤師による介入を評価した.(1)緑内障点眼薬の手技指導対象患者C22名のうち,緑内障点眼薬を使用しており,かつ対象期間中にC2回以上手技指導を行ったC11名を対象とした.両眼該当例では視力が悪いほうの眼を対象眼とした.点眼手技の評価項目は「十分に後屈する,できない場合は臥位をとる」「点眼瓶の先が睫毛に触れない」「1回の滴下操作で結膜.内へ滴下する」「1回C2滴以上点眼しない」「点眼後はa:指導依頼箋b:施設間薬剤情報提供書図1指導依頼箋および施設間薬剤情報提供書表1患者背景・緑内障薬剤師外来への指導依頼理由対象患者数22名年齢中央値(範囲)74.5(C57.C89)歳性別(男性/女性)9名C/13名緑内障点眼薬使用患者数17名1人当たりの緑内障点眼薬の平均使用本数(C±標準偏差)2.8(C±0.8)本指導依頼理由(複数回答)点眼手技不良のため10件眼瞼炎のため10件原発閉塞隅角症患者の常用薬確認のため5件アドヒアランス不良のため3件眼圧コントロール不良のため2件その他2件C静かに眼を閉じる」「眼の周りにあふれた点眼液はふき取る」のC6項目とした.実際に生理食塩水点眼で点眼手技を実施し「できる」と評価された症例数(眼)11てもらったうえで薬剤師が評価し,初回指導前とC2回目来院1098以降の点眼手技を比較した.また,緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数を,緑内障点眼薬の処方本数/受診間隔日7数×28日(両眼使用の場合はさらにC2で除する)と定義し,手技指導前後で比較した.(2)原発閉塞隅角症患者の常用薬の確認6543対象患者C22名のうち,常用薬確認の依頼があった原発閉21塞隅角症患者C5名を対象に,薬剤師による薬学的介入について評価した.(3)施設間薬剤情報提供書を用いた薬剤師連携対象患者C22名のうち,かかりつけ保険薬局のあったC19名を対象に,施設間薬剤情報提供書を用いた薬剤師連携による介入事例を評価した.施設間薬剤情報提供書は兵庫県薬剤師会が作成した書式を,眼圧や視野,視力などの情報を記載できる当院独自の書式に改変し使用した.C4.統計学的解析0指導前後の点眼手技の変化の比較にはCMcNemar検定を用いた.また,指導前後の緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数の変化の比較には対応のあるCt検定を使用した.p値5%未満を有意差ありと判定した.C5.倫理的配慮本調査研究は,神戸市立医療センター中央市民病院研究倫理審査委員会から承認を得て実施した(承認番号:ezn200801,承認日:2020年C7月C16日).CII結果1.対象患者の背景対象患者の背景を表1に示した.緑内障薬剤師外来への指導依頼理由は,「点眼手技不良のため」「眼瞼炎のため」が各10件,ついで「原発閉塞隅角症患者の常用薬確認のため」がC5件であった.対象患者のC22名の年齢の中央値はC74.5歳点眼手技の評価項目図2薬剤師介入前後の点眼手技の変化McNemar検定:*p<0.05.n=11(眼).(範囲:57.89歳),男性がC9名,女性がC13名,原発閉塞隅角症患者C5名を除くC17名が緑内障点眼薬を使用していた.C2.薬剤師による介入の評価(1)緑内障点眼薬の手技指導緑内障点眼薬の点眼指導前後における点眼手技の変化を図2に示す.初回指導から介入後の評価までの期間の中央値は64(範囲:37.119)日であった.この期間において「1回C2滴以上点眼しない」の手技項目に有意な改善を認めた(p=0.041).また,指導前後において緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数±標準偏差は,1.07C±0.62本からC0.75C±0.24本へと有意に減少した(p=0.048)(図3).表2緑内障薬剤師外来における薬剤師の介入例ゾルピデム(急性閉塞隅角緑内障の患者に禁忌),ヒドロキシジン(緑内障の患者に慎重投与)を頓用使用しており,白内障手症例C1術までC2週間程度使用を控えるよう指導.代替薬としてラメルテオンやスボレキサントを当院主治医に処方提案できることを伝えたが希望せず.白内障手術後,当該薬剤の再開が可能であることを説明した.症例C2抗コリン作用を有する総合感冒薬の使用歴があり,眼圧上昇のリスクを説明するとともに,かかりつけ保険薬局と情報共有を行った.観血的手術あるいはレーザー治療などの予定はなかった.脳梗塞の既往から右手(利き手)に軽度麻痺が残っている患者.薬剤師外来で「点眼薬の容器が硬くてさしにくい」との訴え症例C3があり,実際の手技を確認していると,容器が丸いことが掴みづらい原因になっていることがわかった.かかりつけ保険薬局と情報共有し,同成分で平たい容器の点眼薬に変更した.変更後は「さしやすくなった」と点眼手技も改善した.アドヒアランスは良好だが,点眼手技不良でC1カ月に両眼でC2.3本を使用していた.薬剤師外来で正しい点眼手技の指導を症例C4行ったところ「家でも練習したい」と希望され,かかりつけ保険薬局で準備した人工涙液型点眼薬を購入.手技練習によりC1カ月C1.5本程度まで処方本数も減少した.眼脂を洗い流すために緑内障点眼薬を多量に使用しており,薬剤師外来で正しい使用方法を指導した.患者のこだわりが強症例C5く,複数回の指導を要したが,当院とかかりつけ保険薬局双方で継続してフォローし,1回C1滴を遂行できるようになった.点眼手技改善に伴い眼瞼炎も改善し,本人の治療に対する意欲が上昇した.眼瞼炎があり,以前に主治医から,点眼薬を入浴前に使用するよう指導を受けていた患者.時間が経過し,本人は指導内容症例C6を忘れてしまい,同じ薬剤の処方が長期に継続されていたためかかりつけ保険薬局でも確認が不十分で,眠前使用に戻っていた.薬剤師外来で上記が発覚し,継続した指導が必要であることを情報共有した.(2)原発閉塞隅角症患者の常用薬の確認常用薬確認の依頼があったC5名の原発閉塞隅角症患者に対する薬剤師の指導内容および転帰の例を表2に示す.5名のうちC2名に抗コリン作用を有する薬剤の使用歴があった.(3)施設間薬剤情報提供書を用いた薬剤師連携施設間薬剤情報提供書はかかりつけ保険薬局のあるC19名の患者全員に作成した.多くは緑内障薬剤師外来での指導内C2*1.510.50図3薬剤師介入前後の緑内障点眼薬1剤1カ月当たりの処方本数の変化緑内障点眼薬C1剤C1カ月当たりの処方本数=緑内障点眼薬の処方本数/受診間隔日数C×28日(両眼使用の場合はさらにC2で除する)対応のあるCt検定:*p<0.05.n=11(眼).緑内障点眼薬1剤1カ月当たりの処方本数(本)指導前指導後容やアドヒアランスに関する情報を共有し,かかりつけ保険薬局で再度患者に指導することにより,患者の理解を深めるために使用した.情報共有の内容および転帰の例を表2に示す.かかりつけ保険薬局との連携により,一部の患者においてアドヒアランスが向上した.CIII考察緑内障薬剤師外来では,病院薬剤師が外来緑内障患者に継続して介入し,点眼薬だけでなく内服薬も含めた常用薬全体の管理を行うとともに,かかりつけ保険薬局との連携体制を構築した.この緑内障薬剤師外来による介入は患者個々に対応した内容であり,本研究ではその有用性を評価することを目的とした.指導依頼でもっとも多かった理由は「点眼手技不良」「眼瞼炎」であり,その半数はこれらを組み合わせたものであった.緑内障患者は高齢であることが多く,また緑内障進行による視野狭窄や視野欠損は点眼操作をさらに困難する5).手技の遂行やアドヒアランスに関して患者の自己申告と医療者の評価は一致性が低く6),緑内障薬剤師外来では毎回,対面で生理食塩水点眼を用いて手技確認を行った.点眼手技失敗の理由はさまざまであり,たとえばC1回に何滴も使用する患者には,効果に対する不安感から何滴も使用する場合,滴下した感覚がわからず何滴も使用する場合,眼脂を洗い流すな眼瞼炎に対しステロイド眼軟膏,ヘパリン類似物質クリーム,白色ワセリンの処方があり,処方箋の指示記載だけでは情報症例C7が不十分であったため,使用方法についてかかりつけ保険薬局と詳細な情報共有を行った.指導の結果,患者は混乱なく薬剤を使い分け,眼瞼炎の改善を認めた.ど誤った使用のために何滴も使用する場合などがあり,それぞれに合わせた指導を行う必要があった.多数の滴下により眼周囲にあふれた薬液の不十分なふき取りが眼瞼炎の原因になっていることが多く,手技改善により眼瞼炎改善がみられた患者もいた.このように点眼手技の知識に関する項目は改善しやすい傾向にある一方で,「1回の滴下操作で結膜.内へ滴下する」は視野狭窄や視野欠損がある緑内障患者では困難なことが多く,必要に応じて補助具の使用をすすめた.指導を通じて正しい知識をもってもらうと同時に,患者の状況を考慮し,実行可能な方法を薬剤師が患者とともに考え,相談のうえで決定していくことが大切であった.薬剤師介入の前後で緑内障点眼薬の処方本数が有意に減少したことは,手技指導により必要以上に点眼薬を使用していた患者の処方本数が適正化された結果と考えている.なお,今回は片眼で算出したためC1を下まわる数値となったが,開封後の点眼薬の使用期限はC1カ月であることを指導している.原発閉塞隅角症患者において抗コリン薬を代表とする緑内障禁忌薬は眼圧上昇をきたすリスクがある7,8).このような患者に対する薬剤師の介入は,緑内障薬剤師外来開設時,医師より手技指導と同等に強く要望されたものであった.抗コリン作用を有する薬剤には,胃薬や総合感冒薬など日常的にしばしば使用される一般用医薬品も含まれるため,医師だけでなく薬剤師から十分な説明を受けることは発作の事前回避やセルフメディケーション推進に有用であると考える.外来治療が中心となる緑内障患者では,かかりつけ保険薬局の薬剤師もアドヒアランス維持のために重要な役割を担う一方で,患者の真の服薬状況を把握することがむずかしいという実情がある.本研究において,病院薬剤師と保険薬局薬剤師が連携し指導を行うことで緑内障患者のアドヒアランスが向上した事例を認めた.施設間薬剤情報提供書により病院薬剤師から情報提供を行うことは,保険薬局薬剤師による薬学的介入に役立つと考えられた.以上のことから,当院で開設した緑内障薬剤師外来は緑内障患者の点眼手技の改善,抗コリン作用を有する薬剤の適正使用,薬剤師連携によるアドヒアランスの向上に有用であると考えられる.今後,薬剤師がさらなる職能を発揮し,緑内障患者の薬物治療に貢献することが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン第C4版.日眼会誌C122:5-53,C20182)Newman-CaseyCPA,CRobinCAL,CBlachleyCTCetal:MostCcommonbarrierstoglaucomamedicationadherence.Oph-thalmologyC122:1308-1316,C20153)WorldCHealthOrganization:AdherenceCtoClongCtermtherapies:evidenceforaction.In:YachD(Ed):20034)Newman-CaseyPA,NiziolLM,LeePPetal:TheimpactofCtheCsupport,Ceducate,CempowerCpersonalizedCglaucomaCcoachingCpilotCstudyConCglaucomaCmedicationCadherence.COphthalmolGlaucomaC3:228-237,C20205)NaitoCT,CNamiguchiCK,CYoshikawaCKCetal:FactorsCa.ectingCeyeCdropCinstillationCinCglaucomaCpatientsCwithCvisual.elddefect.PLoSOneC12:e0185874,C20176)OkekeCCO,CQuigleyCHA,CJampelCHDCetal:AdherenceCwithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.TheCTravatanCDosingCAidCstudy.COphthalmologyC116:C191-199,C20097)Nicoar.SD,DamianI:Bilateralsimultaneousacuteangleclosureattacktriggeredbyanover-the-counter.umedi-cation.IntOphthalmolC38:1775-1778,C20188)LaiCJS,CGangwaniRA:Medication-inducedCacuteCangleCclosureattack.HongKongMedJC18:139-145,C2012***

ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):261.264,2013cドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験早川真弘澤田有阿部早苗渡部広史石川誠藤原聡之吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座EfficacyofSwitchingtoFixedCombinationofDorzolamide-TimololMasahiroHayakawa,YuSawada,SanaeAbe,HiroshiWatabe,MakotoIshikawa,ToshiyukiFujiwaraandTakeshiYoshitomiDepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:多剤併用療法中の緑内障点眼をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた経験の報告.対象および方法:原発開放隅角緑内障16例16眼において,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤とチモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の2剤併用を,PG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合と,PG製剤,CAI,チモロールの3剤併用をPG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合の眼圧変化を調べた.結果:2剤併用からの切り替えでは有意な眼圧下降が得られ,3剤併用からの切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧上昇するものがみられた.結論:ドルゾラミド/チモロール合剤は,成分単剤点眼でさらなる眼圧下降が必要な場合,単剤併用にてアドヒアランスの向上が目的の場合のいずれの切り替えにおいても有用であるが,アドヒアランスが良好な症例では切り替えによって眼圧下降効果の減弱が起こる可能性がある.Purpose:Toreportanexperienceofswitchingtothefixedcombinationofdorzolamide-timolol(FCDT)fromconcomitantuseofitscomponentsmedications.SubjectsandMethods:Insubjectscomprising16eyesof16casesofprimaryopenangleglaucoma,theintraocularpressure(IOP)-loweringeffectofFCDTwasevaluatedintwogroups:onewasusing2medications:prostaglandin(PG)andtimololorcarbonicanhydraseinhibitors(CAI),andswitchedtoPGandFCDT;theotherwasusing3medicationsofPG,CAI,andtimolol,andswitchedtoPGandFCDT.Results:Whentheswitchwasfrom2medications,IOPwassignificantlylowered.Whentheswitchwasfrom3medications,IOPdidnotstatisticallychanged,althoughitelevatedinsomecases.Therewasnodifferenceinsafetyaspectbetweenbeforeandafterswitching.Conclusion:SinceIOPmayelevateafterswitching,stayingwiththecurrentregimencouldbeanoptionwhenadherenceisgoodwiththreemedications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):261.264,2013〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,切り替え試験,アドヒアランス,眼圧下降効果,安全性.fixedcombinationofdorzolamide-timolol,switchtest,adherence,intraocularpressureloweringeffect,safety.はじめに緑内障診療では目標眼圧を達成するために多剤併用を必要とすることがあるが,患者負担の増大によるアドヒアランスの低下が懸念され1),配合剤はその解決策の一つとして注目されている2).ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(以下,ドルゾラミド/チモロール合剤)は,欧米では1998年に承認されており,10年以上の使用経験からその有効性と安全性についてすでに多数の報告がある3).わが国でも2010年よりドルゾラミド/チモロール合剤が使用可能となった.今回筆者らは,原発開放隅角緑内障で多剤併用療法を受けている症例において,ドルゾラミド/チモロール合剤へ点眼を切り替えた症例を複数経験し,その眼圧〔別刷請求先〕澤田有:〒010-8543秋田市本道1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:YuSawada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(127)261 下降効果と安全性について若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,秋田大学附属病院で多剤併用療法を受けている原発開放隅角緑内障患者16例16眼で,その内訳は,男性9例9眼,女性7例7眼である.平均年齢は63.6±11.6歳で,狭義原発開放隅角緑内障は7例7眼,正常眼圧緑内障は9例9眼であった.ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えは休薬期間を設けずに行われ,切り替え前の治療によりつぎの2通りに分けられた.一つは,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤と,0.5%チモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)(ドルゾラミドまたはブリンゾラミド)の2剤を併用していて,さらなる眼圧下降が必要な場合である(切り替えA).もう一つは,すでにPG製剤,CAI,チモロールの3剤を併用しているが,アドヒアランス向上の目的でCAIとチモロールをドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合である(切り替えB).対象数は,切り替えAが9例9眼,切り替えBが7例7眼であった.PG製剤の内訳はラタノプロスト5例,トラボプロスト5例,タフルプロスト4例,ビマトプロスト2例であり,切り替え前後でPG製剤の変更はなかった.これらの2つの場合について,切り替え4週後,12週後の眼圧をGoldmann圧平眼圧計で測定し,切り替え前の眼圧と比較した.また,点眼の副作用について,角膜上皮障害と結膜充血の程度を調べ,これらを切り替え前後で比較した.角膜上皮障害の程度はびまん性表層角膜炎の重症度A-D(area-density)分類に基づいて評価した4).角膜上皮障害の判定は,点眼麻酔の前にフルオレセインペーパーを生理食塩水で湿らせ点入し,判定した.結膜充血の程度は,結膜の血管が容易に観察できる(.),結膜に限局した発赤が認められる(1+),結膜に鮮赤色が認められる(2+),結膜に明らかな充血が認められる(3+)を基準として評価した.統計解析は,評価方法が同じ対象に対して4週,12週後に眼圧を調べる反復性測定なため,二元配置分散分析を用い,切り替え後の眼圧変化が有意かどうか調べた.II結果各症例について,切り替え前,切り替え4週後,12週後の眼圧と,角膜上皮障害,結膜充血の程度を表にて提示し表1切り替えA(PG+b.blockerまたはCAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後女性男性女性男性男性男性女性女性女性765071766650714646TaBTaDBTTaBToBTaDLTToBToT22161514141517149201818182018141415181413151516201716000000000000A1D1A1D1A1D1000A1D1A1D1A1D100000001+0001+000000000000000000000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,Ta:タフルプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.表2切り替えB(PG+b.blocker+CAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後男性男性男性男性男性男性男性69487375506961LTDLTDBTBLTDToTDLTDToTD201618211418151817131420181821151521161722000000000A1D1000000000000000000001+1+000001+1+000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.262あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(128) た.表1は切り替えA,表2は切り替えBの結果である.平均眼圧の変化は,切り替えAでは切り替え前17.6±2.1mmHgから切り替え4週後15.8±2.2mmHg,12週後15.0±2.7mmHgで,切り替え後の眼圧下降は有意であった(p=0.0197).切り替え後の時期でみると,4週後に眼圧下降傾向がみられ,12週後には有意な変化となった(p=0.0230).切り替えBでは,切り替え前の眼圧は16.1±2.5mmHg,切り替え4週後15.9±1.9mmHg,12週後18.4±3.0mmHgで,切り替え前後で眼圧に有意な変化はみられなかった(p=0.0961)が,個々の症例をみると,切り替え後に眼圧が上昇したものがみられた(表2).副作用は,切り替え前に軽度の角膜上皮障害がみられたものがあったが,切り替え後もその程度は同等であった.充血は,切り替えAでCAIを点眼していた症例において,切り替え後チモロールが加わることで充血が軽減したものがあった.III考按今回のドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験では,チモロールまたはCAIの単剤をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合は眼圧が有意に下降していた.チモロールとCAIの単剤併用を合剤に切り替えた場合は,切り替え後に有意な眼圧変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧が上昇したものがみられた.角膜上皮障害と結膜充血の程度は切り替え前後でほぼ同等であった.緑内障の治療において,眼圧下降は唯一エビデンスが示されている治療法であり5),目標眼圧を達成するために多剤併用が必要となる場合も多い.薬剤の数が増えて点眼方法が複雑になるとアドヒアランスの低下が問題となる1)が,配合剤はこれを解決する手段となることが期待されている2).配合剤に期待される利点は,点眼方法の単純化(点眼回数の減少や,点眼に要する時間の短縮),あとに点眼した薬剤による先に点眼した薬剤の洗い流しの回避,点眼薬に含まれる防腐剤による角膜上皮障害の軽減,患者の経済的負担の軽減などで,これらが改善することにより患者の利便性が増し,アドヒアランスが向上することが期待される.わが国では2010年にドルゾラミド/チモロール合剤,ラタノプロスト/チモロール合剤,トラボプロスト/チモロール合剤が相ついで発売された.ドルゾラミド/チモロール合剤は欧米では10年以上前から使用されており,その治療成績についてはすでに多数の報告がある3).チモロールまたはドルゾラミドの単剤とドルゾラミド/チモロール合剤の眼圧下降効果を比較した報告では,合剤は成分単剤と比較して有意に眼圧を下降させたという8).また,ドルゾラミド/チモロール合剤1日2回点眼と,チモロール1日2回とドルゾラミド1日3回点眼の単剤併用の効果を比(129)較した無作為化コントロール研究では,合剤と単剤併用の眼圧下降効果および安全性は,3カ月の点眼にてほぼ同等であったという3).単剤併用から合剤に休薬期間なしに切り替えた,より実際の診療に近い設定で施行された研究でも,1年の経過観察期間で,合剤の眼圧下降効果は単剤併用と同等であったという3).一方,切り替え試験のなかには,切り替え後に眼圧は有意に下降したという報告もあり6.8),その原因として点眼方法の単純化による患者のアドヒアランスの向上があげられている.今回の筆者らの経験では,単剤からの切り替えでは有意な眼圧下降がみられた.チモロールとCAIの単剤併用からドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,個々の症例のなかには切り替え後に眼圧が上昇したものがあった.これは,合剤に切り替えたことで単剤併用時よりも点眼回数が減って,3剤を確実に点眼していた場合には眼圧下降効果の減弱が起こる可能性があることを示唆している.このため,アドヒアランスが良く,3剤併用で眼圧下降が良好な場合には,合剤に切り替えずにそのままの治療を継続することも選択肢の一つであると思われる.また,角膜への影響については,ドルゾラミド/チモロール合剤はpHが5.5.5.8と酸性で点眼時に刺激感があり,チモロールによる涙液分泌低下の影響も加わって,角膜上皮障害を起こしやすいことが考えられる.今回の経験では角膜上皮障害を生じた症例は少なかったが,切り替え前から緑内障薬を多剤併用していたことを考え合わせると,実際はもっと高い頻度で障害が生じていた可能性がある.このことから,角膜上皮障害の判定方法について再度検討する必要があると思われた.以上,ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験について報告した.今回の経験では症例数が少なかったため,今後は症例数を増やし,同剤の効果をさらに検証していく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GreenbergRN:Overviewofpatientcompliancewithmedicationdosing:Aliteraturereview.ClinTher6:592-599,19842)KaisermanI,KaisermanN,NakarSetal:Theeffectofcombinationpharmacotherapyontheprescriptiontrendsofglaucomamedications.Glaucoma14:157-160,20053)StrohmaierK,SnyderE,DuBinerHetal:Theefficacyandsafetyofthedorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantadministrationofitscomponents.Ophあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013263 thalmology105:1936-1944,19984)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)SchulzerM,TheNormalTensionGlaucomaStudyGroup:Intraocularpressurereductioninnormal-tensionglaucomapatients.Ophthalmology99:1468-1470,19926)ChoudhriS,WandM,ShieldsMB:Acomparisonofdorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantdrugs.AmJOphthalmol130:832-833,20007)GugletaK,OrgulS,FlammerJ:ExperiencewithCosopt,thefixedcombinationoftimololanddorzolamide,afterswitchfromfreecombinationoftimololanddorzolamide,inSwissophthalmologists’offices.CurrMedResOpin19:330-335,20038)BacharachJ,DelgadoMF,IwachAG:Comparisonoftheefficacyofthefixed-combinationtimolol/dorzolamideversusconcomitantadministrationoftimololanddorzolamide.JOculPharmacolTher19:93-96,2003***264あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(130)

正常眼圧緑内障に対するタフルプロストとラタノプロストの眼圧下降効果と安全性の比較

2013年1月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(1):113.116,2013c正常眼圧緑内障に対するタフルプロストとラタノプロストの眼圧下降効果と安全性の比較中室隆子中野聡子清崎邦洋山田喜三郎久保田敏昭大分大学医学部眼科学講座ComparisonofEfficacyandSafetyofTafluprostandLatanoprostinPatientswithNormalTensionGlaucomaTakakoNakamuro,SatokoNakano,KunihiroKiyosaki,KisaburoYamadaandToshiakiKubotaDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineラタノプロストで治療中の正常眼圧緑内障患者14例28眼を対象に,タフルプロストに切り替え後,4週目,12週目の眼圧,有害事象を観察した.その後再度ラタノプロストに戻して4週目,12週目に同様に観察した.開始時の眼圧は12.9±2.0mmHg,タフルプロスト切り替え後12週目の眼圧は11.8±1.9mmHg,再度ラタノプロストに戻して12週目の眼圧は12.9±2.0mmHgで,タフルプロスト切り替えにより12週目で有意な眼圧下降を認めた(p=0.017).また,ラタノプロストへの戻しにより,タフルプロスト12週目とラタノプロスト12週目の眼圧に有意な眼圧上昇を認めた(p=0.009).両薬剤で治療中の有害事象はいずれも軽度であった.ラタノプロストで治療中の正常眼圧緑内障患者に対して,タフルプロストに切り替えることで,さらなる眼圧下降効果が認められた.Thesubjectsofthisstudycomprised28eyesof14normaltensionglaucomapatientsthatwerefollowedfor12weeksafterswitchingfromlatanoprosttotafluprost.Thefollow-upwascontinuedforanadditional12weeks,afterswitchingbackfromtafluprosttolatanoprost.Weinvestigatedtheeffectonintraocularpressure(IOP)andsideeffectsbeforetheswitchings,andat4and12weeksafter.MeanIOPbeforeswitchingfromlatanoprosttotafluprostwas12.8±2.0mmHg;at12weeksaftertheswitch,ithadreducedto11.8±1.9mmHg.At12weeksaftertheswitchbackfromtafluprosttolatanoprost,meanIOPwas12.9±2.0mmHg.ThereweresignificantdifferencesinIOPbetweenbeforeandat12weeksafterswitchingfromlatanoprosttotafluprost,andbetweenbeforeandat12weeksafterswitchingbackfromtafluprosttolatanoprost.Therewerenoseveresideeffects.TafluprostwassuperiorinreducingIOPforpatientswithnormaltensionglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):113.116,2013〕Keywords:タフルプロスト,ラタノプロスト,正常眼圧緑内障,アドヒアランス.tafluprost,latanoprost,normaltensionglaucoma,adherence.はじめにプロスタグランジン関連薬はプロストン系とプロスト系に大別され,プロスト系プロスタグランジン関連薬は,1日1回点眼で終日持続する強力な眼圧下降・日内変動抑制効果を有するので,緑内障治療の第一選択薬となっている.わが国では4種の薬剤が使用可能で,それぞれの特徴を踏まえ,患者ごとに有効性,安全性,アドヒアランス,経済性を鑑みながら選択する必要がある1).点眼薬の変更により,点眼薬の眼圧下降効果を比較する場合,点眼変更によりアドヒアランスが改善し,変更後の薬剤が有利になる可能性がある.本研究では日本人の正常眼圧緑内障(NTG)患者におけるラタノプロストとタフルプロストの有効性と安全性について比較検討した.そして点眼薬の切り替えによるアドヒアランス改善の影響を除外するため,ラタノプロストをタフルプロストに切り替えた後,さらにタフルプロストからラタノプロストに戻して,それぞれの眼圧の下降率,副作用を検討した.〔別刷請求先〕中室隆子:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ヶ丘1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakakoNakamuro,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu-shi,Oita879-5593,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)113 表1副作用スコア(有害事象をスコア化して比較を行った)調査項目スコア自覚症状/他覚所見刺激感0123しみない少ししみるしみる大変しみて我慢できない掻痒感0123痒くない少し痒いが,掻かずに我慢できる痒い大変痒く我慢できない異物感0123コロコロする感じがない少しコロコロする感じがあるがあまり気にならないコロコロする感じがあって気になるコロコロする感じが大変強く,気になって仕方がないフルオレセイン染色0123フルオレセインで染色されない限局的に点状のフルオレセイン染色が認められる限局的に密なまたはびまん性のフルオレセイン染色が認められるびまん性に密な点状のフルオレセイン染色が認められる充血0123充血は認められない限局的に軽微な充血が認められる眼瞼結膜または眼球結膜に軽度な充血が認められる眼瞼結膜または(および)眼球結膜に著しい充血が認められるI対象および方法本研究は,2010年4月から2011年11月の間に臨床研究参加の同意を患者から取得し,参加登録を行った.参加施設は,大分県内の大分大学医学部附属病院,大分県立病院,大分赤十字病院,杵築市立山香病院,健康保険南海病院,天心堂へつぎ病院の6施設で行った.本研究に先立ち,大分大学医学部倫理委員会で研究実施の承認を得た.対象は,参加6施設に通院中の20歳以上の正常眼圧緑内障患者で,両眼ともラタノプロストで4週間以上治療中の患者14例28眼であった.性別は男性6例,女性8例.年齢は平均65.7±9.3歳(42.76歳)であった.両眼とも4週間以上ラタノプロストを使用している患者に対し,タフルプロストに切リ替え後,4週目,12週目の眼圧,有害事象を観察した.その後,タフルプロストからウォッシュアウト期間なしに再度ラタノプロストに戻して,4週目,12週目に同様に眼圧,有害事象を観察した.有害事象については,自覚症状として刺激感,掻痒感,異物感について問診し,他覚所見として細隙灯顕微鏡で角膜のフルオレセイン染色,結膜充血を観察した.自覚症状,他覚所見は表1のようにスコア化した.開始時と点眼変更後3カ月のスコアを比較し,スコアが1以上低下したものを改善,1以上上昇したものを悪化として比較した.ラタノプロスト単独治療症例は10例20眼で,他剤併用症例は4例8眼であった.他の緑内障点眼薬を併用している患者はラタノプロスト以外の緑内障点眼薬を変114あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013更せずに観察を行った.眼圧の有意差の検定にはt検定を行い,p<0.05を有意差ありと判定した.II結果試験開始時の眼圧は,12.9±2.0mmHg,タフルプロスト切り替え後4週目の眼圧は12.4±1.9mmHg,12週目の眼圧は11.8±1.9mmHg,再度ラタノプロストに戻した後4週目の眼圧は12.6±1.9mmHg,12週目の眼圧は12.9±2.0mmHgであり,タフルプロスト切り替えにより12週目で有意な眼圧下降を認めた(p=0.017).また,ラタノプロストへの戻しにより,タフルプロスト12週目とラタノプロスト12週目の眼圧に有意な眼圧上昇を認めた(p=0.009)(図1).眼圧変動について1mmHg以上低下を改善,1mmHg以上上昇を悪化,眼圧変動がなかった例を不変と定義すると,ラタノプロストからタフルプロストへの変更12週で改善12眼,不変12眼,悪化4眼であった.一方,タフルプロストからラタノプロストへの変更で改善6眼,不変9眼,悪化13眼であった(図2,3).有害事象のうち刺激感については,タフルプロストに変更後改善が2例,悪化が2例,ラタノプロストに変更後改善が1例,悪化が2例であった.掻痒感は,タフルプロストに変更後改善が2例,悪化が0例,ラタノプロストに変更後はすべて不変であった.異物感は,タフルプロストに変更後改善が1例,悪化が0例,ラタノプロストに変更後改善は0例,悪化が1例であった.角膜のフルオレセイン染色は,タフル(114) p=0.017p=0.009刺激感掻痒感異物感フルオレセイン染色充血1111.51212.51313.5眼圧(mmHg)(週)0.000.050.100.150.200.250.300.350.4004812162024副作用スコア(週)0412162412W12W4W~ラタノタフルプロストラタノプロストプロスト図1観察期間中の眼圧変動タフルプロスト切り替えにより12週目で有意な眼圧下降を認めた.また,ラタノプロストへの戻しにより,タフルプロスト12週目とラタノプロスト12週目の眼圧に有意な眼圧上昇を認ラタノ12W12W4W~タフルプロストラタノプロストめた.プロスト図4副作用スコアの経過中の変動改善12不変12悪化4化は図4のようであり,経過中変動は軽微であった.なお,両薬剤で治療中に発現した有害事象はいずれも軽度かつ一過性であり,使用中止例はなかった(図4).III考按点眼薬切り替え試験では,被験者選定でアドヒアランスが向上し,薬効が過大評価されるHawthorne効果が生じるとされる2).本研究では,4週間以上ラタノプロストを使用している患者を選定し,全例をタフルプロストに切り替え後,4週目,12週目の眼圧,有害事象を観察した.その後,タフルプロストからウォッシュアウト期間なしに再度ラタノプロストに戻して,同様な検査を行った.このswitchback法図2ラタノプロストからタフルプロストへの変更後の眼圧変動改善6不変9悪化13によって切り替えによるアドヒアランス改善の影響を除外した.正常眼圧緑内障において,ラタノプロストからタフルプロストへ切り替えた結果,有意に眼圧が下降した.また,ラタノプロストへの戻しにより,タフルプロスト点眼12週目とラタノプロスト点眼12週目の眼圧に有意な眼圧上昇を認めた.プロスト系プロスタグランジン関連薬には,プロスタノイド誘導体とプロスタマイド誘導体がある.プロスタノイド誘図3タフルプロストからラタノプロストへの変更後の眼圧変動プロストに変更後改善が1例,悪化が3例,ラタノプロストに変更後改善は0例,悪化が4例であった.タフルプロスト変更後悪化した3例のうち,ラタノプロスト変更後に改善が1例,悪化が0例,不変は2例であった.充血は,タフルプロストに変更後改善が3例,悪化が3例,ラタノプロストに変更後改善は1例,悪化が1例であった.副作用スコアの変(115)導体にはラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストがある.プロスタマイド誘導体にはビマトプロストがある.海外のメタ解析では,眼圧下降効果はラタノプロスト≒トラボプロスト≦ビマトプロストの傾向にあるとされる3,4).ラタノプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの3剤を比較した自験例では,ビマトプロストが最も眼圧下降が良好であった1).原発開放隅角緑内障にはプロスタノイド誘導体3剤の効果はほぼ同等で,プロスタマイド誘導体であるビマトプロストはやや効果が強い.正常眼圧緑内障に対するプロスあたらしい眼科Vol.30,No.1,2013115 タグランジン関連薬の比較に関しては,まだ報告は少ない5,6).正常眼圧緑内障患者でラタノプロストからタフルプロストに変更して3カ月経過観察した報告では,有意な眼圧下降が報告されている5).本研究ではさらにタフルプロストからラタノプロストに戻して,下降した眼圧が上昇したことを観察した.眼圧下降は有意であったが,平均で1mmHg程度の眼圧の動きであり,また症例数も多くないので,今後多数例の検討が必要であると考える.プロスタグランジン関連薬には,期待された眼圧下降が得られないノンレスポンダーの存在も指摘されている7,8).今回の対象者にノンレスポンダーが含まれていたかどうかの検討はできていない.ラタノプロストとタフルプロストのノンレスポンダー比率の違いが本研究の結果に影響した可能性は否定できない.本研究では症例数が少ないために両眼とも対象にして解析した.1例1眼で解析するほうが望ましい.また,ラタノプロスト単独症例と他剤併用症例が含まれているが,症例数が少ないので,解析は両者を含めて行った.今後は多数例での検討が必要である.有害事象については,フルオレセイン染色による角膜上皮障害スコアは,タフルプロスト,ラタノプロスト変更後ともに,やや悪化傾向にある.長期に薬剤を使用するほど角膜上皮障害が悪化する確率が上がってくるので,このような結果になるのは点眼薬を使用した結果だと考え,タフルプロストとラタノプロストによる差異ではないと判断した.ラタノプロスト,タフルプロストともに3カ月の点眼期間の観察では副作用は軽微なものであり,角膜のフルオレセイン染色以外の副作用スコアで変動はほぼ認めなかったことから,両点眼とも忍容性は高いことが推測される.文献1)中野聡子,久保田敏昭:プロスタグランジン関連薬の比較.あたらしい眼科28:511-512,20112)FrankeRH,KaulJD:TheHawthorneexperiments:Firststatisticalinterpretation.AmSociolRev43:623-643,19783)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20084)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20055)湖﨑淳,鵜木一彦,安達京ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果.あたらしい眼科27:827-830,20106)大谷伸一郎,湖崎淳,鵜木一彦ほか:日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:687-690,20107)RossettiL,GandolfiS,TraversoCetal:Anevaluationoftherateofnonresponderstolatanoprosttherapy.JGlaucoma15:238-243,20068)IkedaY,MoriK,IshibashiTetal:Latanoprostnonresponderswithopen-angleglaucomaintheJapanesepopulation.JpnJOphthalmol50:153-157,2006***116あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(116)

緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):993.997,2012c緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子兵頭涼子林康人鎌尾知行南松山病院眼科FactorsAffectingTherapyAdherenceinPatientsUsingGlaucomaEyedropsRyokoHyodo,YasuhitoHayashiandTomoyukiKamaoDepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital高眼圧は緑内障進行の一つの要因であり,眼圧を下げるためには点眼治療のアドヒアランスが重要である.筆者らは緑内障点眼治療のアドヒアランスを調査する目的で,緑内障点眼治療を受けている患者84名(27.90歳,平均67.6±12.7歳)を対象として,聞き取り調査を実施した.84名中68名が月1回以上「点眼忘れ」があると回答した.アドヒアランスの悪い患者はアドヒアランスの良い患者に比べ,治療月数が有意(対応のないt検定:p<0.0001)に短かった.「点眼忘れ」の状況を主治医に正確に伝えている患者は1名もいなかった.73.8%の患者が理想の点眼剤数を1本と答え,96.4%の患者が理想の点眼回数を1日1回と回答した.これらの結果より,アドヒアランスの向上のためには可能なかぎり点眼剤数を減少させ,緑内障点眼処方直後は「点眼忘れ」がないよう,頻回に確認する必要があると考えられる.Elevatedintraocularpressure(IOP)isaknownriskfactorforglaucomaprogression.ForIOPreduction,adherencetoeyedroptherapyisimportant.Tosurveyadherencetoglaucomaeyedroptherapy,weinterviewed84patients(agerange:27-90years;averageage:67.6±12.7years)whohadbeenprescribedglaucomaeyedrops.Ofthe84,68hadmissedtakingtheprescribedeyedropatleastonceamonth.Poor-adherencepatientsthushadasignificantlyshorterperiodofmedicationthandidexcellent-adherencepatients(unpairedt-test:p<0.0001).Nopatientsinformedtheirphysicianofhaving“missedeyedrops.”Ofallpatients,73.8%answeredthattheidealnumberofeyedropswas1;96.4%answeredthattheidealadministrationratewasonceperday.Theseresultsuggestthatthemedicationrateshouldbereducedasmuchaspossibleforgoodadherence,andthatjustafterprescriptionofglaucomaeyedrops,wemustaskpatientsnottoforgettoinstillthem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):993.997,2012〕Keywords:点眼治療,アンケート調査,アドヒアランス,緑内障.eyedroptherapy,questionnaires,adherence,glaucoma.はじめに緑内障治療における眼圧コントロールのための点眼治療の重要性1.3)は明らかであるが,その成否にはアドヒアランスが関わる4,5).医師は患者が処方された点眼剤を処方通りに点眼していることを前提として,治療方針を立て,効果が不十分であると判断すれば,変更や追加を迫られる.ところで実際患者は処方通りに点眼できているのであろうか.そこで今回,緑内障点眼治療患者に対して点眼実施状況のアンケート調査を実施したところ,今後医療従事者が注意すべき点が明らかになったので報告する.I対象および方法今回の臨床研究を実施するに際し,事前に南松山病院臨床研究審査委員会(IRB)の承認を受けた.書面による同意が得られた,27歳から90歳までの緑内障点眼治療患者84名(男性44名,女性40名,平均67.6±12.7歳)を対象とした(図1a).今回の調査内容は主治医には伝えないことを事前に説明し,表1に示す内容を1名の看護師による面接法により調査した.統計解析は,JMPVer9.0(SASInstitute,NC,USA)を用い,対応のないt検定,Fisherの正確確立検定も〔別刷請求先〕兵頭涼子:〒790-8534松山市朝生田町1-3-10南松山病院眼科Reprintrequests:RyokoHyodo,DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,1-3-10Asoda-cho,Matsuyama,Ehime790-8534,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(117)993 表1アンケート調査の内容年齢:性別:男女お勤め:有無職種:勤務体系:定期(時間帯:.)不定期点眼治療年数:点眼剤数:点眼内容:1.過去1カ月間で緑内障点眼液の点眼を忘れたことはありますか?:□ある□ない(点眼を忘れたことがある場合)2.忘れる頻度は?:□1カ月に1回□1カ月に2.3回□1週間に1.2回□1週間に3回以上3.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前4.点眼を忘れたことを,医師に伝えていますか?:□正確に伝えている□あまり伝えていない□全く伝えていない5.伝えていない理由を教えてください.□注意されるから□聞かれなかったから□眼圧が変化していなかったから□その他()6.理想の点眼回数は何回ですか?:□1日1回□1日2回□1日3回□1日4回以上□2日に1回□3日に1回□1週間に1回7.可能な点眼本数は何本ですか?:□1本□2本□3本□4本以上8.点眼習慣を妨げる要因は何ですか?(複数回答可):□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□点眼液のさし心地□点眼瓶の操作性□点眼液の副作用□その他()abc305050人数人数人数2030405060708090(歳)050100150200250300350(月)1剤2剤3剤4剤図1アンケート調査対象の背景a:年齢分布のヒストグラム.b:点眼治療月数.c:点眼治療剤数.しくはWilcoxon検定を用いて有意差検定を行い,p<0.05を有意差ありと判定した.II結果緑内障点眼治療期間は1カ月から25年までの平均5.3±4.5年であった(図1b).緑内障点眼治療剤数は1剤から4剤までの平均1.6±0.8剤であった(図1c).「点眼忘れ有り」と答えた患者は84名中68名(90.0%)であった.「点眼忘れ」の有無と年齢分布には一定の傾向はなく(図2a),「点眼忘れ」の有無と性別との関係では女性で「点眼忘れ」が多い傾向があったが,統計学的に有意ではなかった(表2,Fisherの正確確立検定:p=0.1728).仕事の有無と「点眼忘れ」の有無は今回の調査では一定の傾向が得られなかった(表3,Fisherの正確確立検定:p=0.3945).治療点眼剤数と「点眼忘れ」の有無についても一定の傾向はなかった(表4,Wilcoxon検定:p=0.1445).一方,「点眼忘れ有り」の患者は有意に治療月数が短く(図2b,対応のないt検定:p<0.0001),忘れる頻度が高い患者ほど有意に治療月数が短い(図2c)という結果が得られた.点眼を忘れる時間帯は眠前が31名と最も多く,朝が18名,夕方が16名で昼は4名と少なかった(図3).「点眼を忘れたことを,医師に伝えているか?」という問いに対しては「正確に伝えている」と回答したものはなく「全く伝えていない」が85.3%,「あまり伝えていない」が14.7%であった(図4a).伝えていない理由については,「聞かれなかったから」が最も多く(75.0%),つぎに「注意されるから」が多かった(図4b).理想の点眼回数はほぼすべての患者が1日1回を選択し,1日3回以上を選択するものはいなかった(図5a).点眼可能な点眼剤数は1剤が73.8%,2剤が21.4%と2剤までで大半を占めた(図5b).患者が考える点眼を妨げる要因(複数回答)では本数(76.2%),時間帯(72.6%),回数(53.6%),操作性(42.9%)が上位を占めた.994あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(118) abc100350p<0.0001200治療月数p=0.0006p=0.000390NS30080250治療月数年齢(歳)15070200601001505010040503050200忘れ無し忘れ有り忘れ無し忘れ有り0月1回以内月2~3回週1~2回図2点眼忘れの関連要因a:点眼忘れの有無と年齢分布(NS:有意差無し).b:点眼忘れの有無と点眼治療月数の分布.c:点眼忘れの頻度と点眼治療月数の分布.表2点眼忘れの有無と性別朝(18名)夕方(16名)眠前(31名)昼(4名)図3点眼を忘れる時間帯点眼忘れ無有計性別女53540男113344計166884Fisherの正確確立検定:p=0.1728.表3点眼忘れの有無と仕事の有無ab眼圧が変化してない(5.9%)あまり伝えていない(14.7%)全く伝えていない(85.3%)その他注意される(14.7%)聞かれなかったから(75.0%)点眼忘れ無有計仕事無124254有42630計166884Fisherの正確確立検定:p=0.3945.表4治療点眼剤数と点眼忘れの有無図4点眼状況の主治医への情報提供a:点眼状況を主治医に伝える頻度.b:点眼状況を主治医に伝えなかった理由.a1日2回2日に1回b3剤(4.8%)(2.4%)(1.2%)1日1回(96.4%)1剤(73.8%)2剤(21.4%)点眼剤数1234計点眼忘れ無817016有40216168計482213184Wilcoxon検定:p=0.1445.III考按当院では緑内障点眼を開始する以前に数回眼圧を測定し,片眼トライアルをスタートする段階で,点眼の重要性,効果や副作用について患者に説明したうえで,十分に時間をかけ図5理想の点眼回数と点眼可能な点眼剤数て点眼指導を行い,患者のライフスタイルに合わせた点眼方a:理想の点眼回数.b:点眼可能な点眼剤数.法を提案するようにしている.にもかかわらず,予想外にア(119)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012995 ドヒアランスが悪く,「点眼忘れ有り」と答えた患者は90.0%おり,今回の結果は驚くべきものであった.その理由として,今回の調査では,看護師が結果を医師に伝えないという条件で聞き取り調査をしているため,主治医に対する気遣いによるバイアスを最小限に抑え,患者の本音が引き出せていた可能性がある.従来の研究でも,診療に携わっている医師が直接調査したと考えられる研究6)では「点眼忘れ」が少なく,薬剤師や看護師が調査した研究7.9)では「点眼忘れ」が多い結果が出ており,診療に携わっている医師が直接調査した研究では点眼の状況を正確に捉えきれていなかった可能性がある.以上より,本来正確に点眼状況を調査するためには電子媒体で記録すべきである10,11)が,残念ながらメーカーの協力は得られなかった.今回の調査では忘れる頻度が高い患者ほど有意に治療月数が短いということが明らかとなった(図2b,c).Nordmannら11)がTRAVALERTRDosingAidを使用して調査した報告でも最初の週は「点眼できている」が平均で50%を切っており,それ以降の60%前後の値と比較すると,極早期でより「点眼忘れ」が多いという結果を得ている.その理由として,点眼をする習慣化をあげているが,筆者らの研究では点眼開始後の平均期間が長く,その間の受診時の教育効果も結果に影響していると考えられる.やはり,点眼を忘れずに行う習慣ができるまでは,毎回点眼状況を確認する必要がある.一方,点眼を忘れる時間帯では夕方と眠前で全体の61.8%を占めた(図3).この理由として,当院ではプロスタグランジンの処方割合が多く,その副作用から,入浴前の点眼を勧めることが多いことが影響したと考えられる.また,夕方と眠前に点眼を忘れる患者は就労世代の男性に多い傾向があり,飲食と「点眼忘れ」が関連している可能性が考えられた.一方,朝の「点眼忘れ」は主婦に多い傾向にあり,個人のライフスタイルに合わせた点眼指導が必要であることがわかる.一方,「点眼を忘れたことを,医師に伝えているか?」という問いに対して,「正確に伝えている」と回答したものがいなかったのは特筆すべきことである.さらに,伝えなかった理由については「聞かれなかったから」が最も多かったが,実際には「注意されるから」という心理がその裏には隠れている可能性がある.医療従事者は患者の心理状態を推し量り,患者自身にとって不利と感じられることは話さないということを考慮する必要がある.理想の点眼回数(図5a)と点眼可能な点眼剤数(図5b)の結果から,多くの患者は1日1回1剤が理想的であると考えているようである.今回の研究では点眼剤数による「点眼忘れ」への影響は明らかとはならなかったが,池田らの研究9)では点眼剤数が増えるとアドヒアランスが低下するという結果を得ている.点眼を妨げる要因(図6)でも点眼本数,点眼回数が上位を占めていることも,近年登場した合剤への移行を後押しするものと996あたらしい眼科Vol.29,No.7,201210076.272.653.642.98.37.10図6点眼を妨げる要因(複数回答,全体に占める%で表示)考えられる.今回のアンケート調査を通じて,点眼指導の問題点や日々の診療時における患者とのコミュニケーションの取り方についての問題点を明らかにすることができた.今後,点眼治療アドヒアランス向上を目指して,診療のさまざまな場面から患者との信頼関係を築き,治療状況を把握して,患者の生活に合った無理のない点眼方法を提案することが重要であると考えた.IV結論多くの緑内障患者は点眼のみで一生視機能で不自由することがないよう治療することができるようになった.その前提として,良好な点眼治療アドヒアランスは不可欠である.そのためには,医療従事者が点眼の重要性について患者に理解できるように説明し,日々の生活のなかで無理なく,忘れることなく継続できる方法を提案し,処方後は点眼の実施状況を確認する必要がある.本数時間帯回数操作性差し心地副作用利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LeskeMC,HymanL,HusseinMetal:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol127:625-626,19992)DaniasJ,PodosSM:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol127:623-625,19993)RossettiL,GoniF,DenisPetal:Focusingonglaucomaprogressionandtheclinicalimportanceofprogressionratemeasurement:areview.Eye(Lond)24(Suppl1):(120) S1-S7,20104)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)SchwartzGF,QuigleyHA:Adherenceandpersistencewithglaucomatherapy.SurvOphthalmol53(Suppl1):S57-S68,20086)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,20117)森田有紀,堀川俊二,安井正和:緑内障患者のコンプライアンス点眼薬の適正使用に向けて.医薬ジャーナル35:1813-1818,20108)山本由香里,嶋津みゆき,鶴田千明ほか:点眼薬のコンプライアンスについての検討─眼科診療補助員の立場から─.眼臨101:794-798,20079)池田博昭,佐藤幹子,塚本秀利ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,200110)RegnaultA,Viala-DantenM,GiletHetal:ScoringandpsychometricpropertiesoftheEye-DropSatisfactionQuestionnaire(EDSQ),aninstrumenttoassesssatisfactionandcompliancewithglaucomatreatment.BMCOphthalmol10:1,201011)NordmannJP,BaudouinC,RenardJPetal:Measurementoftreatmentcomplianceusingamedicaldeviceforglaucomapatientsassociatedwithintraocularpressurecontrol:asurvey.ClinOphthalmol4:731-739,2010***(121)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012997

Patient-Centered Communication(PCC)Tool としての緑内障点眼治療アンケート

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):969.974,2012cPatient-CenteredCommunication(PCC)Toolとしての緑内障点眼治療アンケート末武亜紀福地健郎田中隆之須田生英子中枝智子若井美喜子芳野高子原浩昭田邊朝子栂野哲哉関正明阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野GlaucomaTopicalMedication-relatedInterviewasPatient-CenteredCommunicationToolAkiSuetake,TakeoFukuchi,TakayukiTanaka,KiekoSuda,TomokoNakatsue,MikikoWakai,TakaikoYoshino,HiroakiHara,AsakoTanabe,TetsuyaTogano,MasaakiSekiandHarukiAbeDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity目的:患者ごとの緑内障薬物治療を構築し,患者中心の治療(Patient-CenteredMedicine)を行うために,患者と医療者の情報伝達(Patient-CenteredCommunication:PCC)は重要である.その手段の一つとして緑内障点眼治療に関する聞き取りアンケートを実施した.方法:対象は新潟県内10施設(すべて一般病院)で緑内障点眼治療中の患者182名.平均年齢は67.3±12.7歳,男性92名,女性90名.1剤点眼の患者が60%,2剤36%,1回点眼が49%,2回25%,3回18%と相対的に点眼薬数・回数が少なめの患者が対象となった.結果:年間の処方本数が不適切な患者はプロスタグランジン(PG)製剤39%,b-blocker35%,炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)57%であった.年代別で若い患者は処方が過少,高齢者は過剰であった.点眼薬の名前を記憶している患者は21%,使用点眼薬数の間違いが8%の患者にみられ,点眼治療の理解は不良であった.患者自身による点眼治療の問題点は,しみる・かすむなどの点眼薬の使用感に関するものが最も多く,ついで点眼がうまくできない,点眼薬がよく見えないなどの点眼方法に関するものが多かった.治療が孤独,診療施設が遠く通院困難,点眼薬が高額で負担などの問題もみられた.緑内障点眼治療に関して,さまざまなネガティブ意見を抱えていた.結論:点眼治療に関するアンケートは全体の傾向だけでなく,アドヒアランス不良につながる個々の問題点を抽出することが可能であり,PCCの手段として有用であった.Adherencemeansagreatdealinglaucomatreatment.Toimproveglaucomapatients’adherence,Patient-CenteredCommunication(PCC)isconsideredthekeypoint.Weinterviewedpatientswhowereusingeyedropsforglaucoma,toassesseyedroptherapyforquestionnaires.Weinterviewedatotalof182patients,ranginginagefrom29to89years(average:67years).Weinquiredastotheirknowledgeofglaucoma,andfactorsthatinfluencetheiradherence.Wealsocheckedthewaysinwhichtheyusedeyedrops.Thepercentageofpatientsusingonetypeofeyedropforglaucomacomprised60%;thoseusingtwotypescomprised36%.Thoseusingeye-dropsonceadaycomprised49%,twiceaday25%andthreetimes18%.Wethentotaledtheannualnumberofeyedrops;unnecessarymedicationwasnotable.Rateofimproperuseofeyedroptypeswasasfollows:prostaglandinanalog39%,beta-adrenergicagonist35%andsystemiccarbonicanhydraseinhibitor57%.Olderpatientsusedeyedropstoexcess.Attheotherextreme,youngerpatientsusedeyedropstoolittle.Only21%ofthepatientsansweredcorrectlyanameofeyedrop;8%didnotevenknowwhicheyedropwasforglaucomatreatment.Theproblemswitheyedroptherapyarevarious.Somepatientsdonotknowhowtoproperlyuseeyedrops.Theyalsohavemanynegativeopinionsthatcanleadtonon-adherence.Theinterviewisveryuseful,notonlyasaPCCtool,butalsotoidentifyfactorsthatinfluencenon-adherence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):969.974,2012〕Keywords:緑内障,点眼治療,アンケート調査,アドヒアランス.glaucoma,eyedroptherapy,questionnaires,adherence.〔別刷請求先〕末武亜紀:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野(眼科)Reprintrequests:AkiSuetake,DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachi-dori,Chuou-ku,NiigataCity951-8510,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(93)969 はじめに近年,緑内障点眼治療に関してコンプライアンスからアドヒアランスへと概念が変化し,そしてアドヒアランスの重要性が注目されている.コンプライアンスは医師の服薬指示に患者がどの程度従っているかを評価する服薬遵守を意味する.コンプライアンスの良否の判断は医療者側によってなされ,指示どおり服薬できない場合は患者の問題として判断し,指導・説得によりコンプライアンスを高める.一方,アドヒアランスは患者が積極的に治療方針の決定に参加し,納得した治療を受けることを意味する.服薬率を高めるためには,薬剤・患者・医療者側のそれぞれの因子を総合的に考え,患者が参加し実行することが必要である.医師は患者の疑問・不安などの情報を収集し,治療を修正していく必要がある1,2).つまり,治療は患者が主体的に自身のために行うものであり,治療の中心は患者自身であるというPatient-CenteredMedicine(PCM)がアドヒアランスの基本である.アドヒアランスを向上させ患者ごとの緑内障薬物治療を構築するために,患者を中心とした医療者との情報伝達(Patient-CenteredCommunication:PCC)は非常に重要となる3,4).患者がどのような意見や問題点を抱えているかを抽出し,どの程度治療状況を理解しているか客観的に調べるため,PCCの一つの手段として緑内障点眼治療に関する聞き取り型アンケート調査を行った.I対象および方法対象は新潟県内10病院(小千谷総合病院,木戸病院,新潟南病院,新潟県立六日町病院,新潟県済生会三条病院,中条中央病院,柏崎中央病院,信楽園病院,新潟医療センター,豊栄病院)のいずれかの眼科において1種類以上の緑内障点眼薬を使用して治療および経過観察中の緑内障患者182名である.研究に先立って新潟大学およびすべての病院において倫理委員会の承認を受け,各患者からアンケートの同意をいただいた.患者は男性92名,女性90名,平均年齢は67.3±12.7歳(29.89歳)であった.59歳以下48例(26%),60.69歳43例(24%),70.79歳57例(31%),80歳以上34例(19%)であった.緑内障の病型は,開放隅角緑内障(原発開放隅角緑内障52例・正常眼圧緑内障94例・発達緑内障1例・落屑緑内障9例)156例,原発閉塞隅角緑内障8例,ぶどう膜炎による緑内障6例,血管新生緑内障4例,ステロイド緑内障2例,その他7例であった.外来診察や視野検査後などに,医療者(看護師または視能訓練士)により,以下の内容について個別に質問・記入し,最終的に医師が評価した.アンケートの内容を表1に示した.使用中の緑内障点眼薬の数,名前,点眼の確実さ,点眼手技や方法,その他の治療状況について口頭で質問した.さらに緑内障点眼治療についての各自の感想や意見,困っている点などについて聴取した.アンケートの後に,医師がアンケート時の年齢,病型,表1緑内障点眼治療に関する患者さまへのアンケート1)緑内障点眼薬をどなたが点眼していますか?答患者自身・家族()・その他()2)点眼薬の管理(数や量の確認,保管など)はどなたがされていますか?答患者自身・家族()・その他()3)点眼薬は確実に点眼していますか?どのくらい忘れますか?答忘れない・時々忘れる・よく忘れる・つけていない全体として何パーセントくらい点眼していると思いますか?答()%4)どのような時に忘れますか(複数可)?答忙しい・旅行・仕事中・なんとなく・つけたくない・その他()5)現在,緑内障の治療のために何種類の点眼薬を使っていますか?答()種類6)薬の名前を覚えていますか?答はい:名前を教えてくださいいいえ:どのように区別していますか?キャップの形・キャップの色・袋の色・その他①()②()③()④()7)それらの点眼薬はどこに保管していますか?(番号は6に同じ)①室内・冷所・その他()②室内・冷所・その他()③室内・冷所・その他()④室内・冷所・その他()8)点眼のタイミングは時間で決めていますか,イベントで決めていますか?答時間・イベント時間の方:何時にしていますか?()イベントの方:いつしていますか?()9)(2剤以上点眼している方に)同じ時間に点眼することがありますか?間隔はどのくらいあけていますか?答はい・いいえ()分くらい10)点眼した後に瞼を閉じていますか?どのくらいの時間続けますか?答はい・いいえ()分くらい11)点眼した後に目頭をおさえていますか?どのくらいの時間続けますか?答はい・いいえ()分くらい12)緑内障の点眼薬や点眼治療に関して困っていることを教えてください答しみる・かすむ・ゴロゴロする・充血する・うまく点眼できない・点眼薬がよく見えない・よく忘れる・必要性がわからない・治療が面倒・治療したくない・治療が孤独・家族が非協力的・薬の数が多い・薬の価格が高い・その他:13)以下,自由記入欄970あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(94) 緑内障に関する点眼薬の種類,一日当たりの点眼回数などについて確認した.また,カルテの記録上で1年間の点眼薬処方本数を計算した.最近1年以内に処方薬が変更になっている症例に関してはこの検討から除外した.点眼薬の1滴の容量は30.50μlと銘柄間に差があるが,1滴容量が15.20μlの点眼で通常は十分であること5,6)と添付文書上の使用可能期間から1カ月に1本を点眼薬の適正使用本数とし,最近1年間のそれぞれの点眼薬の適切な処方本数を12.14本として,9本以下を少ない,10.11本をやや少ない,15.17本をやや多い,18本以上を多いと,5群に分け検討した.なお,アンケート対象患者182名のうち片眼のみ緑内障点眼を使用している患者は25名(14%),点眼数では33例であった.実際の点眼使用量は片眼と両眼で差があるが,冨田らは代表的な緑内障点眼薬の1滴容量や使用期間などを調査した結果,開封から1カ月の使用期間を目安とし,長期間点眼が可能な品目を処方する場合,1カ月を目処に新しい製品に切り替える指導が特に必要と述べている7).適正な使用期間で点眼していれば両眼あるいは片眼で顕著な差は生じないこと,使用期間の適切さも緑内障点眼治療のアドヒアランスに関わることを考慮し,今回のアンケートでは上記のように処方本数を決定した.点眼薬処方本数を70歳未満と70歳以上で分け,「多い」,「やや多い・適当・やや少ない」,「少ない」の3つの基準で多層のk×2表検定(Mantel-extension法)を用いて統計学的に検討した.II結果対象のうち,緑内障の点眼薬数は1剤点眼の患者は(実数)60%,同2剤点眼が同36%,点眼回数では1回点眼が同49%,2回同25%,3回同18%であった(図1).内訳は1剤点眼でプロスタグランジン製剤(以下,PG)69例,b遮断薬(以下b)37例,炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)3例であった.2剤点眼では,PG+b38例,PG+CAI18例,b+CAI8例,CAI+a1遮断薬1例であった.年間の点眼薬処方本数に関して点眼薬の系統別(図2),年齢別(図3)に示した(直前1年に処方変更がある例は除外した結果,対象は計237例,点眼薬別ではPG119例,b83例,CAI35例,年齢別では20.50歳代51例,60歳代53例,70歳代84例,80歳代46例という内訳であった).年齢別では処方本数が少ないまたは多い患者を処方不適切とした場合,PGが同39%,bが同35%,CAIが同57%であった.年齢別には処方不適切の症例は20.50歳代同41%,60歳代同23%,70歳代同44%,80歳代以上同52%であった.PG製剤の年間点眼薬処方本数は,70歳以上の高齢群で統計学的に有意に過剰であった(p=0.040).CAIの処方本数(95)■:1剤点眼薬数■:2剤:3剤0%20%40%60%80%100%■:4剤■:1回点眼回数■:2回:3回0%20%40%60%80%100%■:4回■:5回図1緑内障の点眼薬数と一日当たりの総点眼回数■:多いPG■:やや多い:適切b■:やや少ない■:少ないCAI0%20%40%60%80%100%図2年間の処方本数(直前1年以内に点眼薬変更がある例は除外)20~50歳代■:多い60歳代■:やや多い:適切70歳代■:やや少ない■:少ない80歳代0%20%40%60%80%100%図3年齢別の処方本数(直前1年以内に点眼薬変更がある例は除外)も同様に,高齢群で過剰であった(p=0.021).点眼を誰がしているか,点眼薬の名前を知っているかなど点眼治療の理解に関する質問や点眼精度や手技を確認する質問への結果を表2に示した.緑内障点眼薬や点眼治療について困っていることを聴取した結果を表3に示した.III考按緑内障は眼科臨床のなかでも,特にアドヒアランスを意識した対応が必要な疾患であり1),正確に点眼してこそ真の治療効果を期待できるが,その一方でアドヒアランスを維持することはきわめてむずかしい疾患ともいえる.良好なアドヒアランスを継続しさらに向上するためには,患者の不安や疑問を傾聴し,情報収集しながら治療を修正し継続していくことが重要であるが,実際の日常診療では非常に困難といえる.髙橋らのアンケート結果では,大学病院通院中の368名を対象とし,医師の説明について半数近くのあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012971 表2アンケート結果.点眼はだれがしているか?患者自身:175名(96%),家族:5名(3%).点眼の管理(数の確認や保管)はだれがしているか?患者自身:175名(96%),家族:5名(3%).点眼薬は確実に点眼しているか?忘れない:115名(63%),時々忘れる:64名(35%),よく忘れる:1名(0.5%),つけていない:0名.全体として何%くらい点眼しているか?100%点眼:88名(48%),90%以上点眼:160名(88%),80%以上90%未満:14名(8%),70%以上80%未満:2名(1%),70%未満:3名(2%).どのような時に忘れるか?(複数回答可)なんとなく:29名,忙しい:21名,旅行:17名,仕事中:7名,飲み会:6名,外出時:4名,他眠い時,運動中など.点眼薬の名前は?正しく答えた方:38名(21%).緑内障の治療のための点眼は何種類使っているか?正解:168名(92%),不正解:14名(8%).点眼はどのように区別しているか?キャップの色:42名(回答者97名のうち43%),袋の色:41名(同42%),キャップの形:10名(同10%),容器色:2名(同2%),置き場所:2名(同2%).点眼のタイミングは?時間:31名(17%),イベント(食事や就寝など):150名(82%).(2剤以上を)同じ時間に点眼する場合,間隔をあけているか?あける:62名(回答者79名のうち78%)→5分以上あける:49名(同62%)間隔あけない:17名(同22%).点眼したあとに瞼を閉じているか?閉じる:119名(65%)→1分以上閉じる:64名(35%)閉じない:63名(35%).点眼したあと,涙.部圧迫をしているか?圧迫している:57名(31%)→1分以上圧迫:34名(19%)圧迫しない:125名(69%)表3緑内障の点眼薬や点眼治療に関して困っていること使用感.しみる:35人.かすむ:34人.充血する:17人.ゴロゴロする:10人.かゆい:2人.睫毛がのびる:1人方法・手技.うまく点眼できない:27人.点眼薬がよく見えない:21人.よく忘れる:8人治療の目的・意味.必要性わからない:18人.治療が面倒:12人.治療したくない:10人.進行が止まっているか不安:4人.緑内障のほかに白内障といわれ不安:1人点眼薬.薬の価格が高い:26人.薬の数が多い:7人.1カ月で1本使用が面倒.点眼薬の冷蔵保存を忘れる.容器の固さが違い点眼しづらい環境.治療が孤独:6人.家族が非協力的:3人.通院が困難.診察間隔を延ばしてほしい.経済的に負担回答なし:7人患者が説明不足と感じていた8).今回,患者のアドヒアランス不良因子はどういったものか,緑内障点眼治療にどのようなネガティブな意見を抱えているか,PCCツールの一つとしてアンケート調査を行った.今回のアンケート調査はすべて一般病院で行ったことから,点眼薬数は2剤まで95%,点眼回数は3回まで92%と相対的に点眼薬数および点眼回数が少なく,緑内障薬物治療の形態としては比較的プライマリーでシンプルな患者が対象となった.つまり,医師の立場で考えた場合には,患者にとってはまだ負担も軽くわかりやすい治療の状況にある方々が対象になった.逆に緑内障専門施設に通院している患者の場972あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012合には,薬剤数は多く,そのコンビネーションは複雑であるが,緑内障に対する病識は高くアドヒアランスはより良好であることが推測される.このようなアンケート調査の結果というのは,対象の選択方法,治療・管理を行っている施設・医師によって大きく異なる.同施設であっても質問者が医師かあるいは看護師や視能訓練士かによって結果にバイアスは生じると考えられる.したがって,結果を評価する場合には,実数は単に傾向を示すだけで,重要なのは抽出された問題点の項目である.さらに,患者の自己申告の多くは,実際の治療状況と異なるという点においても評価には限界がある.Norellらは,面(96) 接によるコンプライアンス不良は3%であったが,客観的な点眼モニターでの調査では49%を占めたと報告している9).わが国では塚原が,面接ではコンプライアンス不良が18%と自己申告では良好であっても10),同施設で点眼モニターを用いた佐々木はコンプライアンス不良が41%であったと報告している11).患者の自己申告は正しくないことがほとんどで,問診によっても医療者は正確に把握できない.今回のアンケート調査においても,患者の半数近くが点眼の確実さは100%と自己申告は過剰に良好であった.患者の自己申告をもとにした統計学的な解析はあまり意味をなさないと考えられる.自己申告は良好であってもアンケート結果には,確実な自己点眼のむずかしさ,点眼治療における理解の不良さが如実に表れている.たとえばその一つが年間処方本数である.年間の点眼処方本数が不適切な患者は,最も少ないbブロッカーで35%,CAIでは57%であった.CAIは,2剤目,3剤目に追加で処方されるケースが多く,一日2回または3回点眼で回数が他の点眼群より多いことも影響していると考えられた.60歳代が最も的確に緑内障に対する点眼治療を行っていると考えられ,より若い患者では点眼治療が過少,より高齢の患者では過剰な傾向にあった(図3).若い世代では仕事が忙しい,飲み会などで点眼を忘れるという回答が目立っていた.高齢者では加齢による物忘れや自己管理不十分などによってアドヒアランスが悪化するケースが考えられる.60歳代の結果は,退職などを契機に治療に関わる時間的余裕ができ,アドヒアランスが改善,より的確に点眼治療が実施される傾向を表しているものと考えられた.さらに,点眼薬の名前は正答率21%とおよそ5人に1人しか正確に名前を把握しておらず,どの点眼薬が緑内障のためのものかを8%の患者が理解していなかった.点眼薬数・回数が相対的に少ない患者が対象であったにもかかわらず,名前の正答率や緑内障の点眼薬数を理解している患者は小数であった.小林らが大学病院通院中の開放隅角緑内障患者168名を対象とした面接法によるアンケートでも使用中の薬剤名を正解した患者は19%とほぼ同等の結果であった12).患者の治療に対する理解はきわめて心許ないといえる.点眼薬の名前を覚えていない患者は,キャップの色もしくは袋の色で区別するものがほとんどであった.しかし,実際には袋の入れ間違いやキャップを閉める際の取り違いなどにより,間違いが起こる可能性も否定できない.点眼手技においても,同じ時間に点眼する場合間隔をあけることや,涙.圧迫,閉瞼も患者ごとに自己流で長年続けている者が多かった.点眼治療自体はシンプルに感じても,「正しく確実な」点眼はとてもむずかしい.問診だけでは十分に把握することは困難で,ときには実際に医療者の前で人工涙液の点眼をさせ,点眼手技を確認するなどの工夫も必要(97)である.池田らは,59歳以下はアドヒアランスが良好な傾向を示すのに対し,60歳以上は不良傾向であること,60歳以上の高齢者には積極的な点眼指導を行う必要性を指摘している5).緑内障薬物治療に関する各患者の意見や問題点を調査した結果(表3)では,日常の診療中には気付かないさまざまな項目がピックアップされた.患者の多くは使用感など点眼薬そのものに対する不満をもっており,しみる,かすむ,充血する,ゴロゴロするなどと回答した患者が多かった.手技に関して,27名の患者は点眼がうまくできない,21名は点眼薬がよく見えないと回答していた.誰が点眼しているか,誰が点眼薬の管理をしているかという問いに対していずれに対しても96%の患者は自分自身で行っていると答えていた.ほとんどすべての患者が自己点眼・管理をしている.つまり手技的に問題があることを本人が自覚していても,自己修正は困難で,しかも家族などの協力は頼めず,医療者に相談していない,という実態が明らかになった.治療の目的や意味がよくわからない,治療が面倒という意見も当然のことではあるがみられた.一般に薬剤の価格について医師に不満を訴える患者は少ないが,実際には価格や治療の負担などに対する不満を感じている患者も多いことがわかった.緑内障治療はアドヒアランスがより重要な疾患であるにもかかわらず,アドヒアランス不良をひき起こすさまざまな原因があり,このような聞き取り型アンケート調査は個々の問題点を抽出する有効な手段であると考えられた.今後は,このアンケート結果も踏まえたうえでの対策が課題となる.まず,結果からも明らかなように医療者が,患者は処方した点眼薬を正確に使用しているという誤解を解消すること,個々の患者がアドヒアランス不良の因子を抱えていることを認識する必要がある.主治医のみでアドヒアランスを改善させることは不可能であり,非効率的である.池田らは点眼の説明を医師が関与した場合にアドヒアランスがむしろ不良となるという興味深い結果を指摘している.医師が診察中に説明する場合は診断や治療方針の説明が中心となり,点眼薬についての時間が短くなること,点眼指導は薬剤師が行うことを期待し簡単な説明に留まっているためと池田らは考えている5).緑内障診療において,良好なアドヒアランスとさらなるアドヒアランス向上のために医師・薬剤師・看護師・視能訓練士がチームを構築し,チーム内で協力・分担・コミュニケーションを進めながら診療にあたることが重要と考えられる.当院での実践例としては,専任の看護師による外来点眼指導を開始した.その際,アンケート結果から高齢者自身での理解や点眼手技の正確さには限界があると考え,家族も同伴で受講してもらって,その際にサポートを依頼している.今回は一般病院通院中の比較的点眼処方本数・回数が少なあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012973 い患者が対象であり,大学病院通院中の多剤併用している患者や視野障害が高度の患者を対象としアンケートを比較検討することも今後の課題の一つである.前述したように,緑内障診療はチームとして定期的な情報収集と個別の対策,修正を繰り返しながら継続することが重要である.緑内障点眼治療アンケートは,アドヒアランス改善を目指したPCCツールとして有用であり,全体の問題点とともに個々の患者の問題点も把握することができる.そして,このようなアンケートは繰り返すことも有用である.定期的に行うことによって,個々の患者のアドヒアランスの問題点が改善したか,維持されているか,などを確認していくことも必要である.追記:アンケートの実施と収集にご協力いただきました以下の視能訓練士の皆様にこの場を借りて感謝申しあげます.渡邊順子,吉原美和子(小千谷総合病院),石井康子,渡邉彩子(木戸病院),山田志津子,遠藤昌代,斉藤麻由美(新潟南病院),町田恵子(新潟県立六日町病院),寺下早苗,川又智美(新潟県済生会三条病院),池田豊美(中条中央病院),渡邊幸美(柏崎中央病院),羽賀雅世,風間朋子(信楽園病院),宮北結花,貝沼真由美(新潟医療センター).(敬称略)利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)内藤知子,吉川啓司:コンプライアンス(アドヒアランス)の実際とその向上法.臨眼63:262-263,20092)森和彦:治療に対するアドヒアランス向上のためのコミュニケーション学.眼科52:401-406,20103)HahnSR:Patient-centeredcommunicationtoassessandenhancepatientadherencetoglaucomamedication.Ophthalmology116:S37-S42,20094)HahnSR,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Effectofpatient-centeredcommunicationtrainingondiscussionanddetectionofnoadherenceinglaucoma.Ophthalmology117:1339-1347,20105)池田博昭,佐藤幹子,塚本秀利ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.藥學雜誌121:799-806,20016)池田博昭,塚本秀利,三嶋弘ほか:点眼液1滴あたりの容量の違いとその影響.眼科44:1805-1810,20027)冨田隆志,池田博昭,塚本秀利ほか:緑内障点眼薬の1滴容量と1日薬剤費用.臨眼60:817-820,20068)髙橋雅子,中島正之,東郁郎:緑内障の知識に関するアンケート調査.眼紀49:457-460,19989)NorellSE,GranstormPA,WassenR:Amedicationmonitorandfluoresceintechniquedesignedtostudymedicationbehavior.ActaOphthalmol58:459-467,198010)塚原重雄:緑内障薬物治療法とcompliance.臨眼79:9-14,198511)佐々木隆弥:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼40:731-734,198612)小林博,岩切亮,小林かおりほか:緑内障患者の点眼薬への意識.臨眼60:37-41,2006***974あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(98)

ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):831.834,2012cラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討木内貴博*1井上隆史*2高林南緒子*1大鹿哲郎*3*1筑波学園病院眼科・緑内障センター*2井上眼科医院*3筑波大学医学医療系眼科Long-termEfficacyafterSwitchingfromUnfixedCombinationofLatanoprostandTimololMaleatetoFixedCombinationTakahiroKiuchi1),TakafumiInoue2),NaokoTakabayashi1)andTetsuroOshika3)1)DepartmentofOphthalmology/GlaucomaCenter,TsukubaGakuenHospital,2)3)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofTsukubaInoueEyeClinic,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の2剤併用療法中の広義開放隅角緑内障16例16眼を対象とし,配合剤へ切り替えたときの眼圧変化とアドヒアランスについて2年間の観察を行った.平均眼圧は切り替え前が14.4±2.7mmHg,切り替え後が14.8±2.3mmHgで差はなく(p=0.088),経時的にも有意な変化はみられなかった(p=0.944).アドヒアランスに関し,完全点眼達成率は切り替え前が18.8%であったのに対し,切り替え後は62.5%へと有意に改善した(p=0.012).しかしながら,切り替え前は無点眼日があったとする患者が皆無であったのに対し,切り替え後は1日でも点眼忘れがあった例が37.5%にも及んだ.配合剤への切り替えは眼圧に影響を及ぼさず,アドヒアランスの改善が期待できる.ただし,切り替え後の点眼のさし忘れは1日を通してまったく治療が行われないことを意味し,注意が必要である.Weevaluatedintraocularpressure(IOP)andadherenceafterswitchingfromunfixedcombinationoflatanoprostandtimololmaleatetofixedcombinationin16eyesof16patientswithopenangleglaucomafortwoyears.AverageIOPbeforeandafterswitchingwas14.4±2.7mmHgand14.8±2.3mmHg,respectively;nosignificantdifferencewasfound(p=0.088),norwasanystatisticallysignificantdifferenceobservedinthetimecourseofchangesinIOP(p=0.944).Drugadherencerateincreasedsignificantly,from18.8%to62.5%asaresultofswitching(p=0.012).Aftertheswitch,37.5%ofpatientsfailedtocompletethefixedcombinationsolutioninstillationregimenforatleastoneday,whiletherewerenosuchfailuresbeforetheswitch.SwitchingtoafixedcombinationoflatanoprostandtimololmaleatedidnotinfluenceIOPandwashelpfulinimprovingadherence.Attentionmustbepaid,however,tothefactthatfailureofinstillationaftertheswitchmeansthatglaucomatreatmentsarenotbeingadministeredthroughouttheentireday.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):831.834,2012〕Keywords:ラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩,配合剤,眼圧,アドヒアランス.latanoprost,timololmaleate,fixedcombinationophthalmicsolution,intraocularpressure,adherence.はじめに近年,わが国でも眼圧下降薬として配合剤が使用できるようになり,緑内障に対する薬物療法の選択肢が広がりつつある.わが国初の配合剤は,プロスタグランジン関連薬であるラタノプロストとb遮断薬である0.5%チモロールマレイン酸塩を組み合わせた,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(ザラカムR配合点眼液,ファイザー)であり,2010年4月の上市をもって配合剤処方の門戸が開かれることとなったが,海外では2000年にスウェーデンで初めて承認されて以来,現在に至るまで100カ国以上で発売されており,すでに緑内障薬物療法の一翼を担う存在となっている.必然的に,本剤に関する臨床研究は外国人を対象としたものが圧倒〔別刷請求先〕木内貴博:〒305-0854茨城県つくば市上横場2573-1筑波学園病院眼科Reprintrequests:TakahiroKiuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TsukubaGakuenHospital,2573-1Kamiyokoba,Tsukuba,Ibaraki305-0854,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(109)831 的に多く,なかでも多剤併用療法から配合剤へ切り替える方法により,眼圧の推移やアドヒアランスの変化などを検討したものが多勢を占める1.5).ところが,欧米人と日本人とでは,緑内障の疾患構成に違いがあること6,7)や,薬剤に対する反応性が異なる可能性もあることなどから,わが国でも配合剤に関するデータベース作りが急務と思われるが,発売後間もないこともあり,そのような臨床試験はあまり行われていない.さらに,いくつか散見される学術集会レベルの報告をみても,症例の組み入れ条件が一定でなかったり,観察期間が短期限定であったりするものがほとんどである.そこで今回,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩に限定し,これら2剤による併用療法から配合剤1剤へ切り替えたときの眼圧の推移およびアドヒアランスの変化について,比較的長期にわたる観察を行って検討したので報告する.I対象および方法1.対象ラタノプロスト(キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー)と2回点眼のチモロールマレイン酸塩(チモプトールR点眼液0.5%,MerckSharp&Dohme)の2剤併用にて,2年以上にわたり治療が継続されてきた広義開放隅角緑内障の患者を対象とした.著しい眼表面疾患を有する者,眼圧値に影響を及ぼす可能性のある眼疾患および全身疾患を有する者,眼圧下降のための外科治療およびレーザー治療の既往のある者,組み入れ前の1年以内に別の眼圧下降薬(ラタノプロスト以外のプロスタグランジン関連薬やチモロールマレイン酸塩以外のb遮断薬を含む)へ変更または追加,あるいは点眼中止のあった者は除外とし,上記の基準を満たし,かつ,十分な説明のうえで同意の得られた18例が本研究に組み入れられた.最終的に,決められた通院スケジュールを遵守できなかった2例が除外され,16例を検討の対象とした.性別は男性10例,女性6例,平均年齢は62.2±13.1歳(39.80歳)であった.全症例とも点眼治療は両眼になされており,検討には右眼のデータを採用した.なお,本研究は筑波大学附属病院倫理委員会の承認を得て行われた.2.点眼スケジュール切り替え前の2剤併用時は,ラタノプロストの夜1回とチモロールマレイン酸塩の朝夕2回の点眼スケジュールであったが,その後,休薬期間なしに配合剤であるラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩への切り替えを行い,切り替え後は夜のみ1回点眼を指示した.3.検討事項切り替え前後における眼圧の推移およびアドヒアランスの変化について調査を行った.眼圧に関しては2カ月ごとに,切り替え前1年と切り替え後1年,つまり計2年間にわたって追跡を行い,切り替え前後それぞれの期間における全測定832あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012値の平均の比較,および,切り替え前後を通じた経時変化について検討した.なお,各々の患者について,切り替え前にはすべての眼圧測定時刻が3時間以内であったことを確認し,切り替え後も同様の時間帯に測定を行った.アドヒアランスに関しては,切り替え前1カ月と,切り替え1年経過時,すなわち本研究終了直前1カ月間の点眼状況をアンケート方式にて抽出した.切り替え前は2剤で3回点眼がノルマであるため,1日のうち1回でも点眼忘れがあれば,その日は不完全点眼日として,また1日を通じてまったく点眼しなかった日があれば,これを無点眼日と定義して,それぞれ該当日数をカウントした.一方,切り替え後は1剤のみ1回点眼となるため,点眼をさし忘れた日があれば,その日は必然的に無点眼日とみなした.そのうえで,1カ月間の該当日数を,なし(完全な点眼ノルマ達成),1日以上4日以内,5日以上8日以内に区分し,切り替え前後のアドヒアランスの変化を検討した.4.統計学的解析平均眼圧の比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を,眼圧の経時変化については一元配置分散分析を,アドヒアランスの検討にはFisherの直接確率検定またはKruskal-Wallis検定を用い,危険率5%未満を有意とした.II結果1.眼圧の推移平均眼圧は,切り替え前が14.4±2.7mmHg,切り替え後が14.8±2.3mmHgで有意な差はなかった(p=0.088).切り替え前と比較して,切り替え後の平均眼圧変化が1mmHg以内に維持されていた症例とそれより下降した症例の合計は全体の75%を占めており,逆に1mmHg以上上昇したのは25%にみられたが,そのほとんどは1mmHgを若干超えた程度の軽微な上昇の範囲にとどまっていた(図1).切り替え前後の眼圧の変化を図2に示す.経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).なお,今回の検討では,眼圧測定25%75%■:>+1mmHg■:±1mmHg:<-1mmHg020406080100(%)図1切り替え前後の平均眼圧の変化切り替え前と比較して,切り替え後の平均眼圧変化が1mmHg以内に維持されていた例とそれより下降した例の合計は全体の75%を占めており,逆に1mmHg以上上昇したのは25%にみられた.(110) 切り替え眼圧(mmHg)-6MLAT+TIMLTFC+6M-12M+12M2520151050図2眼圧の経時変化経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).すべての測定点において眼数は16眼.切り替え眼圧(mmHg)-6MLAT+TIMLTFC+6M-12M+12M2520151050図2眼圧の経時変化経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).すべての測定点において眼数は16眼.前日および当日の点眼を忘れた例はなかった.2.アドヒアランスの変化1カ月の間,点眼忘れがまったくなかった症例の割合,すなわち完全点眼達成率は,切り替え前がわずか18.8%であったのに対し,切り替え後は62.5%へと大幅に改善した(p=0.012).点眼遵守状況の詳細を図3に示す.無点眼日数のみを抽出すると切り替え前後で有意な差はなかったものの(p=0.070),切り替え前の不完全点眼日数と切り替え後の無点眼日数との間には有意差が認められ(p=0.036),切り替え後は点眼忘れの頻度が減少していた.しかしながら,切り替え前は無点眼日が皆無であった,つまり,毎日なんらかの点眼がなされていたのに対し,切り替え後は,たとえ1日でも点眼忘れがあったとする例が37.5%に及んでいることも判明した.III考按緑内障診療において唯一の治療的エビデンスを有するのは眼圧下降であり,特別な事情がない限り,まずは点眼による治療が優先される.一般に,点眼は1剤から開始されるのが通例であるが,眼圧下降が不十分であると判断されたときは薬剤の変更や追加が考慮される8).当然ながら,目標眼圧達成のノルマが厳格になればなるほど多剤併用療法にシフトされる傾向が強くなり,それに伴いアドヒアランスの低下や副作用発現の増加といったトラブルも増すことになる.一方,2種類の独立した薬効を併せ持つ配合剤には,薬剤数と点眼回数の減少に伴う患者の利便性の向上が期待できる,複数の点眼薬の連続点眼による洗い流し効果がない,防腐剤の曝露量が減少するため眼表面疾患の発症リスクを最小限にできるなどといったさまざまな利点を有することが指摘されている9).したがって,配合剤の適切な使用は,多剤併用療法が抱えるいくつかの欠点を補う可能性があり,現在のところ,(111)不完全LAT点眼日数+TIM無点眼日数LTFC無点眼日数0%80%100%18.8%68.7%12.5%100%62.5%20%40%60%31.3%6.2%:なし/月■:1~4日/月■:5~8日/月図3点眼遵守状況完全点眼達成率は切り替え前の18.8%から切り替え後は62.5%へと有意に改善した(p=0.012)が,切り替え前は無点眼日があるとする患者が皆無であったのに対し,切り替え後は1日でも点眼忘れがあった例が37.5%に認められた.LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).配合剤の成分を含む2種類の点眼からの切り替え,あるいは,単剤に別の薬効をもつ薬剤の追加を考慮する際などにおいて,投与が検討されうる立ち位置にあるものと考えられる.多剤併用と配合剤との比較試験に関する海外からの報告を参照すると,眼圧下降効果は配合剤へ変更後も同等と結論づけるものが多いなか1.3),Hamacherらはさらに下降4),Diestelhorstらはむしろ上昇したとしている5).このうち上昇に転じたとするDiestelhorstらの検討5)では,配合剤の点眼時刻が朝8時であった点が,夜に点眼をさせたとする他の報告とは異なるため,解釈には若干注意が必要である.今回は,切り替え前の治療薬をラタノプロストと2回点眼のチモロールマレイン酸塩のみに限定したことに加え,除外基準を厳格化することで研究精度をできるだけ保つよう努めただけでなく,切り替え前後それぞれ1年という比較的長期にわたる観察期間を設定したため,組み入れ症例数は少数にとどまったが,眼圧に関しては,経時的にも平均値の比較においても切り替え前後で有意差を認めず,この点については海外の多くの報告と同様であった.平均眼圧の変化に関してPoloら3)は,切り替え後,79%の症例が1mmHg以内に維持,または,それより下降したとしており,これも今回の筆者らの結果と類似している.したがって,2剤併用療法から配合剤へ切り替えたときの眼圧下降効果は,多くの症例で同等であると考えて差し支えないと思われる.一方,点眼に対する動機付けを強いられる今回のような臨床試験とは異なり,実際の日常臨床においては,少なくとも多剤併用時の点眼忘れの頻度はもっと高いものであると推察される.そのような状況下において配合剤へ変更した場合,臨床試験のときと比べ,患者は利便性の向上感をより強く自覚することが予想され,そうなると点眼遵守度の大幅な改善が期待されることから,切り替え後の眼圧はさらに下降する可能性が考えられあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012833 る.よって,今回の筆者らの結果も踏まえて考察するに,配合剤は,少なくとも眼圧に関しては比較的安心感をもって使用できるものであると思われる.従来から,点眼薬数や点眼回数の増加によるアドヒアランスの悪化が指摘されている10)が,配合剤はこれを改善させうることが報告されている2).今回の検討でも,点眼忘れがまったくなかったとする症例の割合が,切り替え後は大幅に増加したことに加え,切り替え前の不完全点眼日数との比較においても,切り替え後の点眼忘れの頻度は有意に減少し,アドヒアランスは明らかに改善したことが示された.一方で,切り替え前は無点眼日が皆無であった,つまり,3回点眼という完全なノルマを達成できなかった日であっても,ラタノプロストまたはチモロールマレイン酸塩の両方,あるいは,どちらか一方が,1回ないし2回は点眼されていたのに対し,切り替え後は,たとえ1日であっても無点眼日があったとする例が37.5%に及んでいることも判明した.Okekeらは,1日1回の単剤点眼でさえ,実際に点眼回数が守られていたのは約7割にすぎないことを報告しており11),このことは今回の筆者らの結果を裏づけるものであると思われる.配合剤であるラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩のみで治療を行う場合,点眼忘れのあった日は,1日を通して治療がまったく行き渡らないことを意味しており,したがって,切り替えにより包括的にアドヒアランスが向上したとしても,これを無条件で歓迎するのは危険である.万一,無点眼日の眼圧が大幅に上昇しているとすれば,眼圧の日々変動が大きくなり,結果,緑内障性視神経症の悪化につながらないとも限らない.よって,配合剤に切り替えた後の点眼忘れには特に注意を払い,これまでにも増して点眼指導の徹底を図ることが重要であると思われる.一方,本研究の組み入れ症例数はきわめて少ないものであったため,今回の結果をもってただちに結論を導き出すのは時期尚早といえる.今後,わが国においても大規模かつ多施設での試験が積極的に行われることを期待し,多くの貴重なデータの蓄積を待ちたいところである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DiestelhorstM,LarssonLI:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20062)DunkerS,SchmuckerA,MaierH:Tolerability,qualityoflife,andpersistencyofuseinpatientswithglaucomawhoareswitchedtothefixedcombinationoflatanoprostandtimolol.AdvTher24:376-386,20073)PoloV,LarrosaJM,FerrerasAetal:Effectondiurnalintraocularpressureofthefixedcombinationoflatanoprost0.005%andtimolol0.5%administeredintheeveninginglaucoma.AnnOphthalmol40:157-162,20084)HamacherT,SchinzelM,Scholzel-KlattAetal:Shorttermefficacyandsafetyinglaucomapatientschangedtothelatanoprost0.005%/timololmaleate0.5%fixedcombinationfrommonotherapiesandadjunctivetherapies.BrJOphthalmol88:1295-1298,20045)DiestelhorstM,LarssonLI:A12weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponentsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20046)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1161-1169,20047)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1641-1648,20058)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20129)石川誠,吉冨健志:緑内障治療薬配合剤.あたらしい眼科27:1357-1361,201010)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,200911)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Interventionsimprovepooradherencewithoncedailyglaucomamedicationsinelectronicallymonitoredpatients.Ophthalmology116:2286-2293,2009***834あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(112)

緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):555.561,2012c緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”高橋真紀子*1,2内藤知子*2溝上志朗*3菅野誠*4鈴村弘隆*5吉川啓司*6*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4山形大学医学部眼科学講座*5中野総合病院眼科*6吉川眼科クリニックQuestionnaireSurveyonUseofGlaucomaEyedrops:SecondReportMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),ShiroMizoue3),MakotoKanno4),HirotakaSuzumura5)KeijiYoshikawa6)and1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospital,6)YoshikawaEyeClinic緑内障点眼治療のアドヒアランスに関連する要因を調査するため,広義原発開放隅角緑内障・高眼圧症を対象にアンケートを実施した.同時に年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(MD)などの背景因子も調べた.236例(男性106例,女性130例),平均年齢65.1±13.0歳が対象となった.点眼忘れは男性(p=0.0204),若年(p<0.0001),薬剤変更歴がない症例(p=0.0025)に多くみられた.点眼回数に負担は感じないと回答した症例では,眼圧が高く(p=0.0086),MDが低い(病期進行例)(p=0.0496)ほど点眼忘れは少なかった.しかし,薬剤数が増加すると,点眼回数に負担を感じる症例が有意に増え(p<0.0001),点眼を忘れる頻度は高くなった(p=0.0296).薬剤数ならびに点眼回数の増加は,アドヒアランスに影響を及ぼす可能性がある.Toevaluatethefactorsrelatingtoregimenadherenceinglaucomatreatment,weconductedaquestionnairesurveyofpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.Backgroundfactorssuchasage,sex,medicineused,intraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)wereexaminedatthesametime.Thesubjectscomprised106malesand130females,averageage65.1±13.0years.Eyedropinstillationwasneglectedmoreinmalesthaninfemales(p=0.0204),youngerpatients(p<0.0001)andpatientswithnohistoryofdrugchanges(p=0.0025).Inpatientswhodidn’tfeelburdenedduringtimesofeyedropuse,eyedropinstillationwaslessneglectedinthosewithhigherIOP(p=0.0086),andlowerMD(p=0.0496).Withincreasingnumberofeyedropinstillations,thosewhofeltburdenedduringtimesofeyedropuseincreased(p<0.0001)andmorefrequentlyneglectedeyedropinstillation(p=0.0296).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):555.561,2012〕Keywords:緑内障,高眼圧症,アンケート調査,アドヒアランス.glaucoma,ocularhypertension,questionnaire,adherence.はじめに緑内障治療においてエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降のみである1).最近ではその進歩により有意な眼圧下降が得られるようになったため,緑内障点眼薬が治療の第一選択となっている.一方,緑内障は慢性進行性であるため,点眼薬は長期にわたり使用する必要がある.しかし,自覚症状に乏しい緑内障では点眼の継続は必ずしも容易ではない.ここで,最近,慢性進行性疾患の治療の成否に影響する要因として,患者の積極的な医療への参加,すなわち,アドヒアランスが注目されている.緑内障点眼治療においてもアドヒアランスが良好であれば治療効果に直結しうる2,3).さて,アドヒアランスを確保するための第一段階は患者の病態理解だが,このためには医療側から患者への情報提供が〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(121)555 必要である.ここで,情報提供の具体化にはアドヒアランスに関連する要因の分析が求められる.そこで,筆者らは緑内障点眼薬使用に関するアンケート調査を行い,「指示通りの点眼の実施」をアドヒアランスの目安とした際に,65歳以上の男性で「眼圧を認知」していれば「指示通りの点眼」の実施率が高く,他方,若年の男性では「指示通りの点眼」の実施率が低値に留まることを報告した4).すなわち,アドヒアランスには病状認知や性別,年齢などが影響する可能性が示唆された.一方,使用薬剤数5.8)などの点眼薬に関わる要因や緑内障の重症度8)もアドヒアランスに関連することが報告されている.そこで,今回,アンケート調査時に調べた症例ごとの使用薬剤数別に「指示通りの点眼」との関連を調べ,さらに,アドヒアランスの一面を反映すると考えられる「点眼の負担」や「点眼忘れ」に関するアンケート結果と,眼圧や視野障害の程度など背景因子の影響についても検討したので報告する.I対象および方法緑内障点眼治療開始後少なくとも3カ月以上を経過した,広義原発開放隅角緑内障・高眼圧症患者のうち,年齢満20歳以上で,かつ,アンケート調査に書面での同意を得られた症例を対象に,笠岡第一病院,岡山大学病院,愛媛大学病院,山形大学病院,中野総合病院の5施設においてアンケート調査を施行した.なお,1カ月以内に薬剤変更・追加あるいは緑内障手術・レーザーの予定がある患者,過去1年以内に内眼手術・レーザーの既往がある患者,圧平眼圧測定に支障をきたす患者は対象から除外した.調査方法は既報4)のごとく,診察終了後にアンケート用紙を配布,無記名式とし,質問項目への記入を求めた.性別,年齢,眼圧,使用薬剤などは,アンケート回収後にカルテより調査した.なお,両眼で使用薬剤が異なる場合は,薬剤数が多い側の情報を選択した.また,緑内障点眼薬以外の点眼薬使用の有無についても調べた.さらに,アンケート調査日前6カ月以内にHumphrey自動視野計のSITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)Standardプログラム中心30-2あるいは24-2による視野検査を施行された症例のうち,少なくとも3回以上の視野検査経験があり,信頼性良好な検査データ(信頼度視標の固視不良が20%未満,偽陽性15%未満,偽陰性33%未満9))が入手可能な症例では,その平均偏差(meandeviation:MD)も調査した.なお,罹患眼が両眼の場合は,MDが低いほうの眼の値を解析データとした.一方,罹患眼が両眼の症例で,組み入れ基準を満たした検査データが片眼のみだった場合は,解析の対象から除外した.データ収集施設において,回収したアンケートの記載内容に不備がある症例を除外し,あらかじめ作成したデータ入力用のエクセルシートに結果を入力した.入力結果はデータ収集施設とは別に収集し(Y.K.),さらに,アンケートの質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?),質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)および質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)のそれぞれの回答結果と薬剤数,MDなど背景因子との関連をJMP8.0(SAS東京)を用い,c2検定,t検定,分散分析,Tukey法により検討した.有意水準は5%未満とした.なお,本研究は笠岡第一病院,山形大学医学部の倫理委員会の承認を得たうえで,ヘルシンキ宣言に沿って実施した.II結果1.背景因子と薬剤関連要因アンケートに有効回答が得られた236例(男性106例,女性130例)の平均年齢は65.1±13.0(22.90)歳であった.平均眼圧は13.8±2.9(8.0.23.0)mmHgであったが,男性は14.3±2.9mmHgで女性の13.4±2.9mmHgに比べ有意に高かった(p=0.0267)(表1).信頼性のある視野検査結果が得られたのは236例中226例(95.8%)で,その平均MDは.10.08±8.29(.33.00.0.99)dBであった(図1).なお,平均MDは性別(男性:.11.03±8.39dB,女性:.9.27±8.14dB,p=0.1127)や年齢層(65歳未満:.9.39±7.83dB,65歳以上:.10.61±8.62dB,p=0.2720)間で明らかな差は認めなかった(表1).対象の平均緑内障点眼薬剤数は1.7±0.8剤〔1剤:120例(50.8%),2剤:62例(26.3%),3剤:53例(22.5%),4剤:1例(0.4%)〕であった.また,緑内障以外の点眼薬剤を使用していたのは55例(23.3%)であった.平均緑内障点眼回数は2.3±1.5(1.6)回/日(図2)で,薬剤追加歴のある症例は96例(40.7%)であった.なお,平均緑内障点眼薬剤数と性別・年齢との関連はなかった(男性:1.8±0.8剤,女性:1.7±0.8剤,p=0.1931,65歳未満:1.6±0.8剤,653102029374674807060504030201007症例数(例)-35-30-25-20-15-10-505MD(dB)図1MDの分布556あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(122) 表1性別・年齢層別比較性別年齢層別背景因子男性(n=106)女性(n=130)p値65歳未満(n=102)65歳以上(n=134)p値眼圧14.3±2.9mmHg13.4±2.9mmHg0.0267*13.8±2.8mmHg13.7±3.1mmHg0.7822*MD.11.03±8.39dB※1.9.27±8.14dB※20.1127*.9.39±7.83dB※3.10.61±8.62dB※40.2720*緑内障点眼薬剤数1.8±0.8剤1.7±0.8剤0.1931*1.6±0.8剤1.8±0.8剤0.2074*緑内障点眼回数2.4±1.5回/日2.2±1.4回/日0.3229*2.1±1.4回/日2.4±1.5回/日0.0884*薬剤追加歴有42例(39.6%)無64例(60.4%)有54例(41.5%)無76例(58.5%)0.7657**有31例(30.4%)無71例(69.6%)有65例(48.5%)無69例(51.5%)0.0050**※1:n=104,※2:n=122,※3:n=99,※4:n=127.5回/日6回/日23例(9.7%)3例(1.3%)3回/日24例(10.2%)図2緑内障点眼回数1回/日109例(46.2%)2回/日45例(19.1%)4回/日32例(13.6%)歳以上:1.8±0.8剤,p=0.2074).薬剤追加歴がある症例は65歳以上134例中65例(48.5%)で,65歳未満102例中31例(30.4%)に比べ有意に高率であった(p=0.0050)(表1).2.アンケート質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?)との関連236例中236例(100%)で,アンケート質問5に対し回答が得られた.236例中185例(78.4%)が,指示通りに点眼できないことは「ほとんどない」と回答した.一方,「時々ある」は47例(19.9%),「しばしばある」は4例(1.7%)であった.すなわち,「ほとんど指示通りに点眼できていた」のは236例中185例(78.4%),「指示通りに点眼できないことがあった」のは51例(21.6%)であった(図3).緑内障点眼薬剤数と指示通りの点眼の関連を検討した.「ほとんど指示通りに点眼できていた」185例における薬剤数は1剤:98例(53.0%),2剤:44例(23.8%),3剤以上:43例(23.2%)に対し,「指示通りに点眼できないことがあった」51例では1剤:22例(43.1%),2剤:18例(35.3%),3剤以上:11例(21.6%)で,両群間に有意差はなかった(p=0.2434)(表2).「指示通りに点眼できないことがあった」のは薬剤変更歴がある103例中18例(17.5%),変更歴がなかった133例中33例(24.8%)で,両群間に明らかな差はなかった(p=0.1745).同様に,薬剤追加歴がある96例中25例(26.0%),追加歴がなかった140例中26例(18.6%)が「指示通りに点(123)*:t検定,**:c2検定.時々ある47例(19.9%)ほとんどない185例(78.4%)指示通りに点眼できないことがあった51例(21.6%)ほとんど指示通りに点眼できていた185例(78.4%)しばしばある4例(1.7%)図3質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?)への回答結果表2緑内障点眼薬剤数と「指示通りの点眼」の関連薬剤数ほとんど指示通りに点眼できていた(n=185)指示通りに点眼できないことがあった(n=51)p値1剤98例(53.0%)22例(43.1%)0.24342剤44例(23.8%)18例(35.3%)3剤以上43例(23.2%)11例(21.6%)c2検定.:ほとんど指示通りに点眼できていた■:指示通りに点眼できないことがあった薬剤変更歴なし(n=133)薬剤変更歴あり(n=103)75.224.882.517.5薬剤追加歴なし(n=140)薬剤追加歴あり(n=96)050100(%)81.418.674.026.0図4薬剤変更・追加歴と「指示通りの点眼」の関連あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012557 眼できないことがあった」が,有意差はみられなかった(p=0.1708)(図4).3.アンケート質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)との関連アンケート質問6に対し回答が得られた236例中「負担は感じない」は196例(83.1%),「どちらともいえない」は28例(11.9%),「負担を感じる」は12例(5.1%)であった(図5).「負担は感じない」と回答した196例の使用薬剤数は1剤:112例(57.1%),2剤:49例(25.0%),3剤以上:35例(17.9%)であり,「どちらともいえない」と回答した28例では1剤:8例(28.6%),2剤:11例(39.3%),3剤以上:9例(32.1%)であった.これに対し,「負担を感じる」と回答した12例中には,3剤以上使用者が10例(83.3%)負担を感じる12例(5.1%)どちらともいえない28例(11.9%)負担は感じない196例(83.1%)図5質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)への回答結果:負担は感じない■:どちらともいえないを占め,1剤使用で負担を感じた症例はなかった.薬剤数が増えるほど有意に「負担を感じる」症例は増加した(p<0.0001)(表3).一方,薬剤変更歴と点眼負担に有意な関連はみられなかった(p=0.5286)(図6).薬剤追加歴がある96例中「負担を感じる」と回答したのは11例(11.5%)で,追加歴がなかった症例140例中1例(0.7%)に比べ有意に高率であった(p=0.0002)(図6).4.アンケート質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)との関連アンケート質問8に対し回答が得られたのは236例中233例(回答率98.7%)で,そのうち127例(54.5%)が「忘れたことはない」と回答した.一方,「忘れたことがある」と回答した106例(45.5%)に対する付問(どの程度忘れられましたか?)については,「3日に1度程度」8例(3.4%),「1週間に1度程度」22例(9.4%),「2週間に1度程度」26例(11.2%),「1カ月に1度程度」50例(21.5%)であった(図7).緑内障点眼薬剤数と点眼忘れの有無には有意な関連はなかった(p=0.1587).しかし,「点眼忘れ」の頻度が「週1回以上」の30例の使用薬剤数は1剤:11例(36.7%),2剤:10例(33.3%),3剤以上:9例(30.0%)であったのに対し,「2週間に1回以下」の76例では1剤:47例(61.8%),23日に1度程度1週間に1度程度8例(3.4%)■:負担を感じる2週間に1度程度*p=0.0002:c2検定3.826例(11.2%)1カ月に1度程度50例(21.5%)22例(9.4%)忘れたことはない127例(54.5%)忘れたことがある106例(45.5%)薬剤変更歴なし(n=133)薬剤変更歴あり(n=103)85.011.380.612.66.80.7薬剤追加歴なし(n=140)90.09.372.915.611.5*忘れたことはない薬剤追加歴あり127例(54.5%)(n=96)050100(%)図7質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことが図6薬剤変更・追加歴と「点眼負担」の関連ありませんか?)への回答結果表3緑内障点眼薬剤数と「点眼負担」の関連薬剤数1剤2剤3剤以上負担は感じない(n=196)112例(57.1%)49例(25.0%)35例(17.9%)どちらともいえない(n=28)8例(28.6%)11例(39.3%)9例(32.1%)負担を感じる(n=12)0例(0.0%)2例(16.7%)10例(83.3%)p値<0.0001c2検定.558あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(124) 剤:20例(26.3%),3剤以上:9例(11.8%)であり,薬剤数が増えるほど有意に「点眼忘れ」の頻度は増加した(p=0.0296)(表4).薬剤変更歴がない131例中「忘れたことがある」と回答したのは71例(54.2%)であり,変更歴があった症例102例中35例(34.3%)に比べ有意に高率であった(p=0.0025).一方,薬剤追加歴との有意な関連はなかった(p=0.8377)(図8).5.背景因子との関連(p<0.0001),眼圧低値(p=0.0086),MD高値(p=0.0496)の症例は点眼忘れが多かった(表5).点眼負担の回答別にも背景因子との関連を検討したが,性別(p=0.6240),年齢(p=0.4672)との関連は明らかでなかった.一方,「負担を感じる」と回答した症例のMD(.:忘れたことはない■:忘れたことがある*p=0.0025:c2検定薬剤変更歴なし「点眼忘れ」は,男性(p=0.0204)および若年(p<0.0001)(n=131)45.854.265.734.3*で有意に高率に認めたが,眼圧(p=0.0536)やMD(p=薬剤変更歴あり0.2368)との間に有意な関連は認めなかった(表5).(n=102)点眼回数に「負担は感じない」と回答した196例中,質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)薬剤追加歴なし(n=139)に対する回答が得られた194例(回答率99.0%)のうち,84薬剤追加歴あり例(43.3%)が点眼を「忘れたことがある」と回答した.点(n=94)54.046.055.344.7眼忘れの有無により分けて背景因子を比較したところ,若年050100(%)図8薬剤変更・追加歴と「点眼忘れ」の関連表4緑内障点眼薬剤数と「点眼忘れ」の関連点眼忘れ忘れる頻度薬剤数忘れたことはない忘れたことがある2週間に1回以下週1回以上(n=127)(n=106)p値(n=76)(n=30)p値1剤61例(48.0%)58例(54.7%)0.158747例(61.8%)11例(36.7%)0.02962剤31例(24.4%)30例(28.3%)20例(26.3%)10例(33.3%)3剤以上35例(27.6%)18例(17.0%)9例(11.8%)9例(30.0%)c2検定.表5「点眼忘れ」と背景因子の関連全症例「点眼回数に負担は感じない」と回答した症例背景因子忘れたことはない忘れたことがある忘れたことはない忘れたことがある(n=127)(n=106)p値(n=110)(n=84)p値性別男性49例(38.6%)男性57例(53.8%)0.0204*男性43例(39.1%)男性44例(52.4%)0.0652*女性78例(61.4%)女性49例(46.2%)女性67例(60.9%)女性40例(47.6%)年齢69.4±11.0歳59.8±13.3歳<0.0001**69.9±10.8歳59.6±13.7歳<0.0001**眼圧14.1±3.0mmHg13.4±2.9mmHg0.0536**14.2±3.1mmHg13.0±2.8mmHg0.0086**MD.10.72±8.48dB※1.9.40±8.11dB※20.2368**.10.46±8.63dB※3.8.12±7.18dB※40.0496**※1:n=120,※2:n=103,※3:n=104,※4:n=83.*:c2検定,**:t検定.表6「点眼負担」と背景因子の関連負担は感じないどちらともいえない負担を感じる背景因子(n=196)(n=28)(n=12)p値性別男性87例(44.4%)男性12例(42.9%)男性7例(58.3%)0.6240*女性109例(55.6%)女性16例(57.1%)女性5例(41.7%)年齢65.6±13.1歳62.5±12.0歳63.8±12.9歳0.4672**眼圧13.7±3.0mmHg14.4±2.7mmHg14.1±2.3mmHg0.4789**MD.9.38±8.06dB※1.10.25±6.68dB※2.20.77±7.93dB<0.0001**※1:n=189,※2:n=25.*:c2検定,**:分散分析.分散分析で有意差がみられた項目については,Tukey法により多重比較を行った.(125)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012559 20.77±7.93dB)は「負担は感じない」,「どちらともいえない」と回答した症例のMD(.9.38±8.06dB,.10.25±6.68dB)に比べ有意に低値であった(p<0.0001,p=0.0006)(表6).III考按緑内障点眼治療のアドヒアランスに関わる要因について多施設でアンケート調査を行い,病状認知度を高めることが良好なアドヒアランスを確保するうえで有用であることを前報で報告した4).患者の病状認知度を高めるにはask-tell-ask(聞いて話して聞く)方式により10)患者の理解度を確認しながら医療側から情報提供を行うが,その前提となるのがアドヒアランスに関わる諸要因の客観的な評価と考えられる.さて,アドヒアランスの良否に影響を及ぼす因子は多数報告されている4.8,11.16)が,点眼薬剤数も重要な要因の一つとしてあげられる.そこで,今回,まず点眼薬剤数とアンケート質問中,アドヒアランスの現状を反映すると考えられる「緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?」および「今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?」,「緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?」の各項目との関連を検討した.その結果,薬剤数が増えるほど,点眼回数に負担を感じ,また,点眼を忘れる頻度は有意に高かった.このことから,薬剤数の増加により「患者負担」が増し,「点眼忘れ」の頻度も増加する可能性が示唆された.アンケート調査結果を評価・解釈するにあたっては,バイアスを考慮に入れる必要がある.まず,本研究は同意を得られた症例を対象としたため,調査に協力的な,比較的アドヒアランスの良い症例が抽出された可能性(抽出バイアス)が否めない.また,アンケートによるアドヒアランス評価は自己申告となるため,報告バイアスにより点眼遵守率が高値を示すことが報告17)されている.これは調査を無記名式で行うことにより,その影響を低減するよう企図した.さらに,点眼忘れを申告した症例は確実に「点眼忘れ」があると思われたため,今回はそのなかで解析し,薬剤数と点眼忘れの頻度の相関は確かであると考えた.一方,薬剤数の増加とアドヒアランスの関連は必ずしも直線関係にはないことが報告されており5.8),今回の検討でも,3剤以上の点眼使用例では「点眼忘れ」が少ない傾向にあった.これは,3剤以上処方する症例は眼圧高値,病期進行例が多く,結果的に「病状の認知」が高まり,アドヒアランスに反映されたものと考えた.しかし,「点眼回数に負担を感じる」と回答した症例のMDはそれ以外の症例に比べ有意に低値を示し,病期の進行に伴う薬剤数の増加が「患者負担」となっていることも確かであった.背景因子のうちで,性別,年齢がアドヒアランスに影響す560あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012る可能性についてはすでに報告した4).今回の結果でも「点眼忘れ」は男性,若年に有意に多かったが,眼圧,MDとの関連はみられなかった.しかし,「点眼回数に負担は感じない」と回答した症例に限ると「点眼忘れ」の有無に性別による差はなく,一方で,眼圧が高く,MDが低い症例(視野進行例)ほど有意に「点眼忘れ」は少なかった.すなわち,少なくとも「患者負担」が少なければ「病状の認知」は「点眼忘れ」を減少させ,アドヒアランスに好影響を与える可能性が示された.ここで,興味深かったのは薬剤変更歴がある症例は「点眼忘れ」が有意に少なかったことである.指示通りの点眼に関しても,統計学的な有意差はなかったが,薬剤変更歴がある症例は変更歴がない症例に比べ,「ほとんど指示通りに点眼できていた」症例の割合が高かった.同等の眼圧下降効果を有する点眼薬間の前向き薬剤切り替え試験で,切り替えにより眼圧が下降し18,19),さらに元薬剤に戻しても眼圧下降は維持された19)ことが報告されている.「前向き試験」では対象患者には特別な注意が向けられ,これを反映して患者自身の行動が変化し,薬効が過大評価される傾向がある(ホーソン効果:Hawthorneeffect)20,21)ためと考えられている.今回は後ろ向きに調査した結果であるが「薬剤変更」が治療に対して積極的に取り組む動機付けとなり,アドヒアランスにも好影響を及ぼしたものと考えた.一方,眼圧上昇や視野進行のために薬剤を切り替えた場合も多く,病状の進行が治療への前向きな取り組みを促進した可能性も否定できない.しかし,薬剤の追加群では「患者負担」が有意に増加し,アドヒアランスの改善もなかったことから,薬剤数の増加はアドヒアランスに対する阻害要因であることが推察された.さて,前報4)において高齢者のアドヒアランスは良好であるとの結果を得ているが,今回の検討では薬剤追加歴が65歳以上で65歳未満に比べ有意に多く,薬剤追加歴がある症例のアドヒアランスが過大評価されている可能性も考慮すべきと考えられた.しかし,薬剤追加によるアドヒアランスの改善はみられず,つまり,薬剤数の増加による「患者負担」の増加が影響を及ぼしたことは確実と考えた.点眼モニターを用いた過去の研究においても,プロスタグランジン製剤単剤投与でのアドヒアランス不良が3.3%であったのに対し,追加投与でアドヒアランス不良が10.0%に増加した6)と報告されている.薬剤の追加,薬剤数の増加はアドヒアランスを低下させる可能性があるため,慎重を期するべきと考えた.今回の検討により,薬剤数の増加ならびに点眼回数の増加が,アドヒアランスに影響を及ぼす可能性が示唆された.一方で,良好なアドヒアランスが保たれている症例のなかにも負担を感じながら点眼している症例がみられたことも軽視できない.視機能障害は患者のQOL(qualityoflife)を大きく損なうことになるが,他方,QOLを保つために行う薬物治(126) 療がQOLを低下させる原因ともなりかねない.今回の結果から,薬剤追加の前にはまず薬剤の変更を試みる原則1)を踏まえることの必要性が再確認され,また,追加投与の際にも薬剤数の増加を伴わない配合剤などを選択することが良好なアドヒアランスの確保につながる可能性が示唆されたため報告した.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:14-46,20122)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20033)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20084)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,20115)池田博昭,佐藤幹子,佐藤英治ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,20016)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533540,20077)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20098)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,20039)鈴村弘隆,吉川啓司,木村泰朗:SITA-Standardプログラムの信頼度指標.あたらしい眼科27:95-98,201010)HahnSR,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Effectofpatient-centeredcommunicationtrainingondiscussionanddetectionofnonadherenceinglaucoma.Ophthalmology117:1339-1347,201011)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,200312)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200613)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,200714)FriedmanDS,OkekeCO,JampelHDetal:Riskfactorsforpooradherencetoeyedropsinelectronicallymonitoredpatientswithglaucoma.Ophthalmology116:10971105,200915)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200916)高橋真紀子,内藤知子,大月洋ほか:点眼容器の形状のハンドリングに対する影響.あたらしい眼科27:11071111,201017)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Adherencewithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.Ophthalmology116:191-199,200918)NovackGD,DavidR,LeePFetal:Effectofchangingmedicationregimensinglaucomapatients.Ophthalmologica196:23-28,198819)今井浩二郎,森和彦,池田陽子ほか:2種の炭酸脱水酵素阻害点眼薬の相互切り替えにおける眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:987-990,200520)FrankeRH,KaulJD:TheHawthorneexperiments:Firststatisticalinterpretation.AmSociolRev43:623-643,197821)FletcherRH,FletcherSW,WagnerEH(福井次矢監訳):臨床疫学.p148-149,医学書院,1999***(127)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012561

緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(123)1491《原著》あたらしい眼科28(10):1491?1494,2011cはじめに緑内障治療ではアドヒアランスの向上が重要である1).アドヒアランスに影響を及ぼす要因として医師と患者のコミュニケーション,点眼する目的を理解すること2),点眼薬剤数3),点眼回数41)などが知られている.最近では特に点眼容器の形状改良による扱いやすさが有効であるという報告5)もある.また,治療効果を上げるための有意義なシステムとして,緑内障教育入院の有用性も報告されている6).しかし,これらの要因が眼圧にどのように影響するかに関しての検討は十分にされていない.そこで本研究では,緑内障患者に対して患者教育を行うことにより眼圧にどのような影響があるかを調べた.I対象および方法1.対象広義原発開放隅角緑内障患者を対象とした.選択基準は,〔別刷請求先〕植田俊彦:〒142-0088東京都品川区旗の台1-5-8昭和大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToshihikoUeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShowaUniversity,1-5-8Hatanodai,Shinagawa-ku,Tokyo142-0088,JAPAN緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果植田俊彦*1,2笹元威宏*1平松類*1,2南條美智子*2大石玲児*3*1昭和大学医学部眼科学教室*2三友堂病院眼科*3三友堂病院薬剤部EffectofPatientEducationontheDecreaseinIntraocularPressureandIt’sDurationinGlaucomaPatientsToshihikoUeda1,2),TakehiroSasamoto1),RuiHiramatsu1,2),MichikoNanjyo2)andReijiOhishi3)1)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SanyudoHospital,3)PharmaceuticalDepartment,SanyudoHospital目的:緑内障患者を対象とし患者教育(点眼指導と疾患説明)による眼圧下降効果を調べること.対象および方法:2年以上緑内障点眼治療を受け少なくとも6カ月以上点眼の変更がなく,かつ視野に変化のない緑内障患者を対象とした.眼圧測定者を盲検化した2群間(A群:n=30とB群:n=27)比較,前向き臨床試験を行った.介入開始から3カ月間,1回/月,両群に対して医師による小冊子を用いた緑内障の点眼方法と疾患啓発に関する説明を行う.さらにB群にのみ看護師による点眼実技指導を追加する.眼圧測定は介入前と9カ月間行った.結果:眼圧はベースラインと比べ3カ月後でA群では1.2±1.8mmHg,B群では2.0±1.9mmHg(p<0.05)下降した.教育終了後にも両群では眼圧下降効果は持続したが,B群のほうが3,5カ月後で有意に下降した(p<0.05).結論:患者教育には眼圧下降効果がある.特に点眼実技指導には眼圧下降効果がある.Thisstudysoughttofindtheintraocularpressure(IOP)-loweringeffectofglaucomapatienteducationcomprisingpatientinstructionforeyedropsanddiseaseexplanation,inglaucomapatients.Aprospectiveclinicalinterventionstudywasperformed.Onceamonth,on3occasions,thephysicianlecturedthepatientsinbothAgroup(n=30)andBgroup(n=27)regardinginstructionforeyedropsanddiseaseexplanation,withatextbook.ForBgrouppatients,eyedropsperformancewasinstructedbyanurse.IOPwasmeasuredbeforeintervention(baseline)andfor9monthsafterintervention.After3months,IOPhaddecreased1.2±1.8mmHginAgroupand2.0±1.9mmHg(p<0.05)inBgroup.Aftertheeducationperiod,theIOP-loweringeffectcontinuedinbothgroups,andsignificantIOPdecreasesobservedat3and5monthsinBgroup,ascomparedtoAgroup.IOPwasdecreasedbypatienteducation,andadditionalpracticalinstructionforeyedropsperformancewasmoreeffective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1491?1494,2011〕Keywords:緑内障,アドヒアランス,コンプライアンス,点眼指導,眼圧.glaucoma,adherence,compliance,educationofeyedropprocedure,intraocularpressure.1492あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(124)1)緑内障点眼薬の治療を2年以上継続していること,2)過去6カ月以内で点眼薬に変更がないこと,3)過去6カ月間で視野に変化がないこと,4)過去6カ月の眼圧が2mmHg以内の変動であること,5)緑内障以外に眼圧に影響する疾患のないこと,6)同意能力のあること,7)眼圧が目標眼圧7)に達していないこと,とした.年齢,性別,点眼薬剤数は不問とした.また,1)緑内障点眼薬を変更した場合,2)眼の手術をした場合,3)3カ月間観察できなかった場合には対象から除外した.2.介入方法患者教育(疾患教育,点眼説明,点眼実技指導)を行った.試験参加者全員に医師がGlaucomaOphthalmologistCircus企画による緑内障患者教育用小冊子(図1)を見せながら約10分間,疾患教育と点眼説明指導を行った.次いでB群にのみ看護師が約30分間点眼実技指導を行った.これらの患者教育は介入開始日,1カ月後,2カ月後の合計3回行った.疾患教育では,1)眼圧とは何か,2)視野とは何か,3)緑内障では視野がどう変化するか,4)視野と眼圧の関係,の4項目について行った.点眼の説明では,1)何のために点眼するのか,2)涙?部圧迫の方法,3)点眼後閉瞼の方法,4)涙?部圧迫・点眼後閉瞼を2分間行うこと,の4項目について小冊子の図を示しながら行った.また,2種類以上点眼する場合にはその間隔を5分以上開けること,点眼順序はゲル化剤を最後にすること,保管場所は添付書通り定められた場所に保存することなどを説明した.B群にのみ看護師が点眼実技指導として別室(図2)で,1)忘れずに点眼すること,2)眼に確実に滴下すること,3)点眼効果を高めること,の3項目について実技指導した.1)忘れずに点眼するために点眼薬すべてに目立つシールを貼り,点眼時間割表のそれぞれ点眼すべき時間に同じシールを貼り配布した.2)眼に確実に滴下するためにまず看護師が行う点眼行為を患者に観察させる.つぎに,患者に点眼させ,手順どおり点眼しているかどうかを看護師が観察する.各患者に応じたそれぞれの点眼行為の問題点を解決するため,たとえば片手で下眼瞼を押し下げながら点眼する方法,または仰臥位になって上から滴下する方法など説明し練習させた.3)点眼効果を高めるために点眼直後に眼瞼に流出した涙液を拭き取らず,まず閉瞼しながら涙?部を2分間圧迫するように説明し練習させた.3.評価方法割り付けを盲検化された1名の医師がapplanationtonometoryにより午前中で同一時間帯(初回測定時間±1時間)に眼圧を測定した.眼圧測定は介入前と介入後1,2,3カ月と患者教育終了したその後も5,7,9カ月後に測定した.測定者は測定時には診療録上過去の眼圧値を見ないで測定した.4.試験デザイン試験デザインは前向きランダム化,評価者を盲検化した群間比較試験とした.第三者により割り付けられた表に従いランダムに2群(A群とB群)に分け,看護師が割り付け表に従いB群にのみ点眼実技指導を行った.評価者(眼圧測定医師)には盲検化した.三友堂病院倫理委員会の承認を受けた.臨床試験登録番号UMIN000001180.5.データの解析両群各々の介入前を基準とした経時的な眼圧変化には対応のあるt検定を,両群間眼圧変化量比較には介入前眼圧値を考慮し共分散分析法を用いた.有意水準は5%以下とした.図1緑内障に対する説明用冊子全部で6冊ある.医師が試験参加者全員に冊子を提示しながら,約10分間,疾患指導と点眼指導をした.図2点眼実技指導のための個室医師診察室とは別室で点眼実技指導が行われた.どの症例が実技指導を受けているかは医師には盲検化されている.(125)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111493統計ソフトにはSASver9.1を用いた.II結果1.対象試験登録症例数はA群30例57眼とB群30例58眼であった.しかし,B群で3例6眼が患者自己都合によって受診を中断したため脱落し,研究を完了できた症例数はA群30例57眼,B群27例52眼であった.点眼治療を変更した症例,手術をした症例はなかった.背景因子としてA群では女性が多かった.使用している点眼薬剤数,罹病期間,病期にA・B群間で有意差はなかった.平均年齢はそれぞれA群71.8±9.4歳,B群で72.6±8.9歳,点眼薬の種類は1種類がA群28例,B群22例,2種類がA群17例,B群27例,3種類がA群12例,B群3例であった.平均罹病期間はそれぞれ5.9±4.0年と5.2±3.3年であった(表1).2.眼圧値の変化両群とも介入1カ月後から眼圧が下降し,3回の患者教育後の3カ月後の眼圧はA群ではベースライン17.1±2.5から15.9±2.2mmHg(p=5.02×10?6)へ,B群では16.8±2.3から14.8±2.0mmHg(p=1.56×10?9)へ下降した(図3).その後もA群では5カ月後15.6±2.2,7カ月後15.8±1.9,9カ月16.0±1.9mmHgと下降を続け,B群でも5カ月後14.8±2.5,7カ月後14.8±2.4,9カ月後15.7±2.4mmHgでありベースラインと比べ有意に眼圧下降が持続していた.しかしB群では最も下降した3カ月後の眼圧を基準にすると9カ月後では有意に眼圧が上昇した(p=0.0027).眼圧変化量を両群間で比較すると始めの2カ月間では有意差はなかったが,B群のほうが3カ月後(p=0.0043)と5カ月後(p=0.0334)と有意に眼圧が下降したが,7カ月後と9カ月後では再び両群間に差がなくなった(表2).III考按症状に乏しく,長期間の投薬が必要である緑内障のような慢性疾患の治療では,患者自身のアドヒアランスが重要性であると報告8)されている.GlaucomaAdherencePersistencyStudy(GAPS)では,眼圧下降薬の最も高い継続率は,6カ月と報告されている9).また,薬効を高めるために経口する内服薬の場合と比べて点眼薬の場合では,点眼行為それ自体に高いアドヒアランス遵守が求められる.今回の試験では月に1回,3カ月間の疾患教育・点眼説明により眼圧が下降し,さらに点眼実技指導を加えたB群では約2mmHg眼圧下降が得られた.今回の対象症例はまったく緑内障の知識がない症例ではなく平均5年間,外来診療を通じてインフォームド・コンセントを行ってきた症例である.それでも改めて教育指導,特に点眼実技指導することには眼圧下降効果が得られるという結果となった.しかし両群とも眼圧が下がったことから眼圧測定評価者が試験期間中に意図的に低めに測定したというバイアスも考えられるが,各測定時点で前回の値を知らずに眼圧測定していること,評価者を盲検化し点眼実技指導を追加したB群で有意に眼圧下降が得られたことより,このようなバイアスは表1背景因子A群B群年齢(歳)71.8±9.472.6±8.9性別男性(例)女性(例)8221413点眼種類(眼)1種類2種類3種類28171222273罹病期間(年)5.9±4.05.2±3.3表2眼圧ベースラインと比べた変化量の両群間比較123579(カ月)A群?1.26±1.65?1.58±1.73?1.21±1.81?1.23±1.93?1.59±2.13?1.07±2.03B群?1.19±1.67?1.81±1.92?1.98±1.95?1.92±2.10?1.92±2.36?1.04±2.41〔共分散分析〕*p=0.0043,**p=0.0334.***201816140眼圧(mmHg)前123579観察期間(月数):A群:B群図3眼圧の経時変化患者教育は介入開始時,1と2カ月まで行われている.眼圧の経過ではベースラインがA群では17.1±2.5mmHgで,B群では16.8±2.3mmHgであった.試験開始1カ月後から両群ともに下降した.3カ月以降は患者教育を行わずに経過観察している.ベースラインと比較しA・B群ともに各時点で有意に眼圧が下降した(p<0.05).B群では3カ月後の眼圧を基準にすると9カ月後では有意に眼圧が上昇した.1494あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(126)今回の試験に影響ないと考えられる.しかし,今回の両群の背景因子として男女比に有意差があった.男性のほうがノンコンプライアンスの確率が高いといわれている10).このことが本試験の結果に影響する可能性も否定できない.また,今回の選択基準は,過去6カ月の眼圧変動を2mmHg以内としたために,介入後にもその変動が影響する可能性がある.介入前と介入後平均値の差でみればB群では2mmHgの下降であったが,共分散分析で統計学的に解析すると有意差はあった.またこの2mmHgの下降は,1mmHgの眼圧下降が視野悪化リスクを10%低下させるというEarlyManifestGlaucomaTrialGroup(EMGT)によるEMGTstudy11)の観点から考えても臨床的にも意味のある下降であると考えられる.今回は緑内障治療に関与すると考えられる教育内容で行った.点眼液が鼻涙管を経由して鼻粘膜からも吸収され全身の合併症をきたすといわれているので,涙?部圧迫や閉瞼には副作用軽減効果のみならず眼球への移行を高める効果があるとされている12).また,点眼目的の理解が点眼し忘れを予防する効果があるといわれている13).しかし,このような個々の因子が,どの程度の割合で眼圧下降に寄与したのかは検討していない.月に1回の指導とはいえ,医師と看護師が合わせて約40分の指導時間は日常の外来診療のなかでは必ずしも実行できない.今後さらにどんな指導項目が最も有効なのかを詳しく検討する必要があると考えられる.B群では患者教育終了2カ月(介入開始から5カ月)後,4カ月(介入開始から7カ月)後では眼圧下降が維持されていたが,6カ月(介入開始から9カ月)経過すると最も眼圧が下降した介入3カ月後と比べて有意に眼圧が上昇し,それに対してA群では介入6カ月後でも眼圧に変化なく,むしろ両群の差がなくなった.このことより患者教育効果は半年の持続があるものの特に点眼実技指導効果は4カ月程度しか持続していないと推測される.患者が緑内障に関する知識や点眼手順を獲得できても,持続はある一定期間なので定期的な患者教育または学習できるツールを用意する必要があるのかもしれない.実際,試験対象者から「これらの指導効果を継続するのはむずかしい」,「来院ごとに指導を受けているが指導期間が過ぎれば忘れてしまいそうだ」との訴えもあった.緑内障治療に関する知識は一度獲得されると長続きするが,特に点眼実技法の持続はよりむずかしく,くり返して指導する必要があるかもしれない.今回の研究では点眼種類数の違い,点眼し忘れの回数,涙?部圧迫時間,圧迫方法,閉瞼時間などが眼圧下降にどの程度関与しているかなどの項目の有効性を統計的に検討するには症例数が少なかった.しかし,緑内障患者にとって患者教育(疾患指導・点眼指導・点眼実技指導)を行うことは眼圧下降効果があるかもしれず,将来,多施設でより多数症例での臨床研究を行うための基礎研究として本研究は役立つであろう.文献1)植田俊彦:緑内障患者のアドヒアランスとコンプライアンスレベルの上昇が眼圧下降に及ぼす影響.眼薬理23:38-40,20092)吉川啓司:コンプライアンスを高める患者説明.臨床と薬物治療19:1106-1108,20003)MacKeanJM,ElkingtonAR:Compliancewithtreatmentofpatientswithchronicopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol67:46-49,19834)NordstormBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)兵頭涼子,溝上志朗,川崎史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20076)古沢千昌,安田典子,中元兼二ほか:緑内障教育入院の実際と効果.あたらしい眼科23:651-653,20067)緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌107:777-814,20068)GrayTA,OrtonLC,HensonDetal:Interventionsforimprovingadherencetoocularhypotensivetherapy.CochraneDatabaseSysRev15:CD006132,20099)NordstormBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200510)KonstasAG,MaskalerisG,GratsonidisSetal:ComplianceandviewpointofglaucomapatientsinGreece.Eye14:752-756,200011)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment.ArchOphthalmol121:48-56,200312)ZimmermanTJ,SharirM,NardinGFetal:Therapeuticindexofpilocarpine,carbachol,andtimololwithnasolacrimalocclusion.AmJOphthalmol114:1-7,199213)ChangJSJr,LeeDA,PeturssonGetal:Theeffectofaglaucomamedicationremindercaponpatientcomplicanceandintraocularpressure.JOculPharmacol7:117-124,1991***

緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”

2011年8月31日 水曜日

1166(10あ6)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1166?1171,2011cはじめに慢性疾患である緑内障治療において,点眼の継続性すなわちアドヒアランスの良否が治療効果に及ぼす影響は大きい1,2).一方,自覚症状に乏しく,長期的な点眼使用を余儀なくされる緑内障において良好なアドヒアランスを確保するには,医療側からの積極的対応が求められる.医療側からの対応はしかし,客観性に基づく必要があり,その第一段階としてアドヒアランスに関わる要因のデータ調査と収集が位置づけられる.アドヒアランスに関わるデータは,主としてインタビューやアンケートなどにより調査,収集されている3~9).一般的なデータ調査において,調査者が直接説明し回答を記録するインタビューは,質の高い調査を行うことができる利点があり,調査対象者に質問内容の理解を促すことで,回答の精度〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”高橋真紀子*1,2内藤知子*2溝上志朗*3菅野誠*4鈴村弘隆*5吉川啓司*6*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4山形大学医学部眼科学講座*5中野総合病院眼科*6吉川眼科クリニックQuestionnaireSurveyonUseofGlaucomaEyedrops:FirstReportMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),ShiroMizoue3),MakotoKanno4),HirotakaSuzumura5)andKeijiYoshikawa6)1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospital,6)YoshikawaEyeClinic緑内障点眼治療のアドヒアランスに関連する要因について調査するために,緑内障点眼治療開始後3カ月以上を経過した広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に,2010年3月から5カ月間に5施設でアンケートを実施した.同時に,年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(MD)などの背景因子も調べた.男性106例,女性130例,平均年齢65.1±13.0(22~90)歳が対象となった.202例(85.6%)が最近の眼圧を認知し,185例(78.4%)がほとんど指示通りに点眼できていると回答した.指示通りの点眼に関わる因子について検討したところ,女性より男性(p=0.0101),年齢が若いほど(p=0.0028),指示通りの点眼ができていなかった.また,65歳以上の男性は,眼圧を認知している症例ほど有意に指示通りの点眼を行っていた(p=0.0081).Toevaluatethefactorsrelatingtoregimenadherenceinglaucomatreatment,overaperiodoffivemonthsfromMarch2010weconductedaquestionnairesurveyofpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.Backgroundfactorssuchasage,sex,medicineused,intraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)wereexaminedatthesametime.Thesubjectscomprised106malesand130females,averageage65.1±13.0years.Responsesindicatedthat202(85.6%)patientswereawareoftheirrecentIOP,andthat185(78.4%)patientsinstilledtheireyedropsinaccordancewithmostinstructions.Whenweexaminedfactorsrelatingtoeyedropinstillationinaccordancewithinstructions,malesmorethanfemales(p=0.0101),andpatientsofyoungerage(p=0.0028),couldnotadheretotheirregimen.Moreover,malesoverage65adheredbetterwhentheywereawareoftheirIOP(p=0.0081).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1166?1171,2011〕Keywords:緑内障,高眼圧症,アンケート調査,アドヒアランス,眼圧.glaucoma,ocularhypertension,questionnaire,adherence,intraocularpressure.(107)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111167や回答率,回収率の向上が期待できる10~13).反面,調査者の恣意的な回答の誘導や,その対応の回答への影響もありうる10,12,13).特に,アドヒアランス調査は医師やスタッフとの対面調査となるため,自己防衛反応から実質的な回答の引き出しが叶わない可能性が否定できない3,10).それに対し,アンケートに自己記入で回答を求める方法は,回答漏れや誤記入,回収率の低下が危惧されるものの,回答における自己開示度は高い12,13).インタビューやアンケートは,その信頼性や実行性から単独施設で施行されることが多い.筆者らもすでに,点眼容器の形状とアドヒアランスとの関連についてインタビュー調査を行い,点眼容器の形状がそのハンドリングを通じて使用性に関わり,アドヒアランスに影響する可能性があることを報告した9).しかし,単独施設における症例収集では偏りなく多数例を収集するのは困難である.そこで,今回,筆者らは緑内障点眼薬使用のアドヒアランスに関連する要因について多施設共同でアンケート調査を行いその結果を解析した.本報では,病状認知度とアドヒアランスの関連を中心に述べ,次報以後では薬剤数や視野障害との関連などについて報告する予定である.I対象および方法2010年3月から5カ月間に,笠岡第一病院,岡山大学病院,愛媛大学病院,山形大学病院,中野総合病院の5施設の外来を受診した広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者のうち,年齢満20歳以上で,緑内障点眼治療開始後少なくとも3カ月以上を経過し,かつ,アンケート調査に書面での同意を得られた症例を対象とした.一方,1カ月以内に薬剤変更・追加あるいは緑内障手術・レーザーの予定がある患者,過去1年以内に内眼手術・レーザーの既往がある患者,圧平眼圧測定に支障をきたす患者は除外した.なお,本研究は笠岡第一病院,山形大学医学部の倫理委員会の承認を得たうえで実施した.アンケートはあらかじめ原案を作成したうえで,調査参加表1アンケート内容質問1)ご自分の最近の眼圧をご存じですか?(○は1つ)1.知っている2.聞いたが具体的な値は忘れた3.眼圧値は聞いていないと思う質問2)全部で何種類の目薬(メグスリ)をお使いですか?眼科で処方されたもの以外も含めた数を教えてください.(○は1つ)1.1種類2.2種類3.3種類4.4種類以上質問3)緑内障の目薬(メグスリ)は何種類お使いですか?(○は1つ)1.1種類2.2種類3.3種類4.4種類以上質問4)〔緑内障の目薬(メグスリ)を一度に2剤以上ご使用される方〕(一度に1剤のみご使用の方は質問4はとばしてください)緑内障の目薬(メグスリ)を一度に2種類以上点眼する時の間隔を教えてください.(○は1つ)1.すぐつける2.1分程度あける3.3分程度あける4.5分以上あける質問5)緑内障の目薬(メグスリ)を指示通りに点眼できないことがありますか?(○は1つ)1.ほとんどない2.時々ある3.しばしばある質問6)今の緑内障の目薬(メグスリ)の回数にご負担を感じますか?(○は1つ)1.負担を感じる2.どちらともいえない3.負担は感じない質問7)緑内障の目薬(メグスリ)を使っている印象を教えてください.(○は1つ)1.点眼には慣れた2.治療なので仕方ない3.目を守るために頑張っている質問8)緑内障の目薬(メグスリ)をさすのを忘れたことはありませんか?(○は1つ)1.忘れたことはない2.忘れたことがある忘れたことがある方質問8?付問)どの程度忘れられましたか?(○は1つ)1.3日に1度程度2.1週間に1度程度3.2週間に1度程度4.1か月に1度程度質問9)緑内障の目薬(メグスリ)をさす時刻がずれやすいのはどの時間帯でしょうか?(○はいくつでも)1.時刻がずれることはない2.朝3.昼4.夜5.寝る前6.その他()7.さす時刻は決めていない(だいたい夜とか,だいたい寝る前にさすなど)質問9?付問)目薬(メグスリ)をさす時刻がずれる理由を教えてください.(○はいくつでも)1.仕事2.外出3.家事の都合4.休日5.旅行6.外食・飲酒など7.その他質問10)今後,緑内障の目薬(メグスリ)を続けていくことについてどのように思われますか?(○は1つ)1.頑張ろうと思う2.仕方ないと思う3.特になんとも思わない4.その他質問11)もし,緑内障の目薬(メグスリ)が1剤増えるとすれば,これまでの目薬(メグスリ)と一緒に続けられますか?(○は1つ)1.大丈夫2.多分大丈夫3.ちょっと心配4.多分無理だと思う1168あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(108)全施設の担当者とともに質問・回答項目の設定およびアンケートの体裁について十分に検討し,内容を決定した.なお,回答方法は多肢選択法とし,該当する選択肢の番号を○で囲む方式とした.アンケート用紙(表1)は診察終了後に配布,無記名式で行い,回収は回収箱を使用した.原則的に,患者本人が記入する自記式としたが,視力不良により記入困難な場合は,付き添いの家族にアンケートへの記入を求めた.アンケート用紙にはあらかじめ番号を付けて配布し,年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(meandeviation:MD)などの背景因子は,アンケート回収後にカルテより調査した.なお,MDはアンケート調査日6カ月以内にHumphrey自動視野計のSITAStandardプログラム中心30-2あるいは24-2による視野検査を施行された症例(230例)の結果を調査データとした.回収されたアンケート用紙は各施設において確認し,記載内容に不備がある症例を除外したうえで,あらかじめ作成し各施設に配布されたデータ入力用のエクセルシートに,その結果を各施設において入力した.なお,質問ごとの回答内容が無回答のものは欠損値として扱った.入力結果は独立して収集し,JMP8.0(SAS東京)を用い,t検定,c2検定,Fisherの正確検定により解析した(YK).有意水準は5%未満とした.II結果1.対象および背景因子アンケートを施行し,回収し得たのは237例(回収率100%)だった.アンケート記載は237例中235例(99.2%)が自己記載,家族による記載は2例(0.8%)だった.一方,237例中1例(0.4%)は,後半分の回答欄が空白となっていたためアンケートは無効と判断され,236例の結果が解析対象となった(有効回答率:99.6%).解析対象の性別は男性106例,女性130例で,平均年齢65.1±13.0(22~90)歳だった.緑内障病型は正常眼圧緑内障115例(48.7%),原発開放隅角緑内障109例(46.2%),高眼圧症12例(5.1%)だった.平均眼圧は13.8±2.9(8.0~23.0)mmHg,平均緑内障点眼薬数1.7±0.8(1~4)剤,平均通院頻度8.4±3.5(2~20)回/年で,緑内障点眼治療歴は1年未満7.2%,2年以上3年未満20.3%,4年以上5年未満16.9%,5年以上55.5%だった.2.アンケート回答結果全設問の回答結果を表2に示す.表2アンケート回答結果質問1)回答数236例(回答率100%)1.202例(85.6%)2.25例(10.6%)3.9例(3.8%)質問2)回答数236例(回答率100%)1.72例(30.5%)2.77例(32.6%)3.65例(27.5%)4.22例(9.3%)質問3)回答数236例(回答率100%)1.124例(52.5%)2.56例(23.7%)3.50例(21.2%)4.6例(2.5%)質問4)回答数92例(回答率39.0%)1.4例(4.3%)2.8例(8.7%)3.16例(17.4%)4.64例(69.6%)質問5)回答数236例(回答率100%)1.185例(78.4%)2.47例(19.9%)3.4例(1.7%)質問6)回答数236例(回答率100%)1.12例(5.1%)2.28例(11.9%)3.196例(83.1%)質問7)回答数236例(回答率100%)1.96例(40.7%)2.31例(13.1%)3.109例(46.2%)質問8)回答数233例(回答率98.7%)1.127例(54.5%)2.106例(45.5%)質問8?付問)回答対象者106例中,回答数106例(回答率100%)1.8例(7.5%)2.22例(20.8%)3.26例(24.5%)4.50例(47.2%)質問9)回答数209例(回答率88.6%)1.72例(34.4%)2.16例(7.7%)3.6例(2.9%)4.50例(23.9%)5.35例(16.7%)6.3例(1.4%)7.28例(13.4%)質問9─付問)回答対象者137例中,回答数121例(回答率88.3%)1.14例(11.6%)2.23例(19.0%)3.27例(22.3%)4.6例(5.0%)5.11例(9.1%)6.14例(11.6%)7.29例(24.0%)質問10)回答数236例(回答率100%)1.142例(60.2%)2.58例(24.6%)3.35例(14.8%)4.1例(0.4%)質問11)回答数236例(回答率100%)1.112例(47.5%)2.96例(40.7%)3.27例(11.4%)4.1例(0.4%)(109)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111169質問1)「ご自分の最近の眼圧をご存じですか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,そのうち202例(85.6%)が「知っている」と回答した.一方,「聞いたが具体的な値は忘れた」25例(10.6%),「眼圧値は聞いていないと思う」9例(3.8%)を合わせた34例(14.4%)が眼圧値を認知していなかった(図1).質問3)「緑内障の目薬(メグスリ)は何種類お使いですか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,このうちカルテより調査した緑内障点眼薬数と一致したのは224例(94.9%)だった.質問5)「緑内障の目薬(メグスリ)を指示通りに点眼できないことがありますか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,そのうち185例(78.4%)が「ほとんどない」と回答した.一方,「時々ある」47例(19.9%),「しばしばある」4例(1.7%)を合わせた51例(21.6%)が指示通りに点眼できていなかった(図2).3.指示通りの点眼の有無と背景因子の関連質問5)において,指示通りに点眼できないことが「ほとんどない」と回答した群を「ほとんど指示通りに点眼できている」群,「時々ある」あるいは「しばしばある」と回答した群を「指示通りに点眼できないことがある」群とし,背景因子を比較した(表3).この結果,女性より男性(p=0.0101),年齢が若いほど(p=0.0028)指示通りの点眼ができていなかった.眼圧,MD,緑内障点眼薬数,通院頻度については,両群間に有意差はなかった.4.眼圧の認知と指示通りの点眼の関連質問1)において,自分の最近の眼圧を「知っている」と回答した群を「眼圧値を認知している」群,「聞いたが具体的な値は忘れた」あるいは「眼圧値は聞いていないと思う」と回答した群を「眼圧値を認知していない」群とし,指示通りの点眼との関連について検討したところ,統計学的に明らかな関連はなかったが,眼圧を認知している症例ほど指示通りの点眼を行っている可能性(p=0.0625)が推察された(図3a).さらに,性別・年齢層別に検討を行った結果,65歳以上の男性は眼圧を認知している症例ほど有意に(p=0.0081)指示通りの点眼を行っていた.一方,65歳未満の男性および女性では有意な関連は認めなかった(図3b).III考按緑内障点眼治療のアドヒアランスの良否に関連する要因について,多施設でアンケート調査を行った.アンケート内容が多岐にわたるため,今回は病状認知度のアドヒアランスへの影響について検討した.アドヒアランスの評価方法としては,インタビュー,アン表3指示通りの点眼の有無と背景因子の関連背景因子ほとんど指示通りに点眼できている指示通りに点眼できないことがあるp値性別男性75例(40.5%)女性110例(59.5%)男性31例(60.8%)女性20例(39.2%)0.0101*年齢66.4±12.1歳60.3±15.0歳0.0028**眼圧13.9±3.0mmHg13.3±2.6mmHg0.2158**MD?10.16±8.14dB?9.80±8.86dB0.7902**緑内障点眼薬数1.7±0.8剤1.8±0.8剤0.5593**通院頻度8.6±3.6回/年7.7±3.2回/年0.1193***:c2検定,**:t検定.眼圧値を知らない14.4%眼圧値は聞いていないと思う3.8%聞いたが具体的な値は忘れた10.6%眼圧値を知っている85.6%知っている85.6%図1質問1)回答結果時々ある19.9%ほとんど指示通りに点眼できている78.4%指示通りに点眼できないことがある21.6%ほとんどない78.4%しばしばある1.7%図2質問5)回答結果1170あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011ケートにより患者から直接的に使用状況を調査する方法と,点眼モニター,血中・尿中薬剤濃度測定,薬剤使用量・残量調査,薬剤入手率調査などにより客観的に評価する方法がある.点眼モニターによる評価は信頼性が高い14~17)が,装置の大きさや費用,煩雑さなどの点があり調査対象が限定される.このため,主観的評価に留まるものの,インタビューやアンケート法が頻用されている3~7).同一施設のなかで,インタビューあるいはアンケートと点眼モニターの2種類の方法で点眼遵守率を調査した報告によると,Kassら16)はインタビュー97.1%,点眼モニター76.0%,Okekeら17)はアンケート95%,点眼モニター71%と,調査方法により結果にかなり差があることが示されている.今回,主観的評価による影響を最少化するため,調査方法やアンケート内容について事前に検討した.まず,単独施設での症例収集はデータの普遍化・標準化が達成しにくいと考え,多施設共同研究を選択した.また,調査方法は多施設研究においても調査者によるバイアスが生じない自記式アンケート法を採用した.自記式とすることで医師やスタッフの関与をできるだけ排除し,さらに,無記名式として少しでも薬剤使用状況の実態を引き出せるよう企図した.アンケートを○×の二者択一式で回答するclosedquestionで行った場合,その実態を引き出すことがむずかしく,他方,freequestionは自記式においては回答者の負担が大きく,多数例の解析を行ううえでも実行性に問題が残る.そこで,今回は短時間で少ない負担での回答が可能なように,網羅的に回答選択肢を設けた多肢選択法とし,原則的に該当する番号を○で囲んで回答する方式を採用した.これに加えて,アンケート項目の絞り込みと簡潔化にも努めた.質問内容および質問項目数は,回答率,回収率に大きく影響する10,13)からである.たとえば,病状認知は最近の眼圧を認知しているか否かに代表させ,また,点眼がされているか否かの質問もわかりやすさを重視して,今回は「指示通り」の言葉を使用した.この際,質問の言い回し(wording)にも注意した.回答者は一般に質問に対して,潜在的に「はい(Yes)」と答える傾向(yes-tendency)や,調査者の意向を推測し,無意識のうちにその方向に答えようとする傾向がある10,11).このため,「指示通りに点眼できていますか?」と質問するよりも,「指示通りに点眼できないことがありますか?」としたほうが,点眼ができていない場合でも円滑な回答が得られやすいと考えた.さらに,質問文は理解しやすいように要点に下線を引き,選択肢は分離して枠で囲みわかりやすくした.文字の大きさや用紙サイズ,余白の取り方などレイアウトにも配慮し,調査への協力が得られるよう工夫した.また,質問数も11問に絞り込んだ.アドヒアランスの良否に影響を及ぼす因子は多数あるが3~9,18~21),疾患理解度,病状認知度もその重要な要因の一つと考えられる.今回の調査では,眼圧の認知を病状把握の指標として位置づけ,これと指示通りの点眼の関連について検討した.その結果,指示通りの点眼については236例中236例から回答が得られ(回答率100%),そのうち21.6%が時々あるいはしばしば指示通りに点眼できないことがあると回答した.ここで,指示通りの点眼の有無と背景因子との関連を検討したところ,女性より男性,年齢が若いほど指示通りの点眼の実施率が低く,年齢,性別がアドヒアランスに影響する可能性が示された.このため,病状認知度と指示通りの点眼の関連については,性別,年齢層別に分けて検討を行った.なお,年齢は高齢者の公的定義22)を参考に,65歳を境とした2群に分けた.この結果,女性は眼圧の認知にかかわらず,約85%が指示通りの点眼を行っていたのに対し,男性のうち65歳未満では指示通りの点眼実施率は約60%に留まった.一方,65歳以上の男性においては,眼圧を認知している症例では指示通りの点眼の実施率が有意に高く,病状認知度が指示通りの点眼に影響を及ぼす可能性が示唆さ(110)図3眼圧の認知と指示通りの点眼質問5)「緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?」に対する回答■:ほとんどない■:時々ある■:しばしばあるa:全症例80.2%61.7%60.0%男性65歳未満眼圧値を知っている(n=202)眼圧値を知っている(n=47)眼圧値を知らない(n=5)眼圧値を知らない(n=13)眼圧値を知らない(n=2)眼圧値を知らない(n=14)87.8%*53.8%38.3%40.0%12.2%14.6%2.1%12.1%1.5%*p=0.0081(Fisherの正確検定)15.4%30.8%男性65歳以上眼圧値を知っている(n=41)83.3%100%女性65歳未満眼圧値を知っている(n=48)86.4%78.6%21.4%女性65歳以上眼圧値を知っている(n=66)18.8%眼圧値を知らない67.6%(n=34)26.5%5.9%1.0%b:性別・年齢層別解析あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111171れた.今回,眼圧の認知を病状把握の指標として位置づけたが,年齢が若いほど眼圧値を知っていると回答した症例が多く,眼圧の認知が必ずしも病状認知を反映していない可能性も考えられた.しかし,65歳以上の男性で眼圧の認知と指示通りの点眼に有意な関連が認められたことは,少なくとも高齢者においては病状認知をある程度反映しており,眼圧の認知の有無が病状把握の程度を知るうえで一つの指標となりうると考えた.一方,65歳未満の男性は眼圧を認知していても指示通りの点眼実施率が低く,点眼治療継続の妨げとなる要因についてのさらなる検討が必要と思われた.アンケート調査結果の評価・解釈においては,バイアスの影響を十分考慮しておく必要がある.回収率が低い調査や,無回答者が多い質問では,質問に対する回答者と無回答者の傾向が異なることによって発生する無回答バイアスが生じ,アンケート調査の結果が真実を反映しない可能性がある13).このため,回収率,回答率を高めるべく調査方法やアンケート内容を工夫し,今回は高い回収率,回答率を得た.しかし,同意の得られた症例をアンケート調査対象としたことで,抽出バイアスが生じた可能性があり,結果の評価にも限界があることは否定できない.次報以後に予定している他要因の解析の際にも,バイアスによる影響を留意したうえでの評価を考慮したい.一方,今回の調査の第一段階で病状認知がアドヒアランスに関連することが示唆されたことは興味深い.自覚症状に乏しい慢性疾患である緑内障治療において,アドヒアランスは治療成功の鍵を握る要因である.今回の結果は眼圧の認知をはじめとする病状認知度を高めることが,アドヒアランス向上の第一歩として重要であることを示唆したため報告した.文献1)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20032)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20083)阿部春樹:薬物療法─コンプライアンスを良くするには─.あたらしい眼科16:907-912,19994)平山容子,岩崎直樹,尾上晋吾ほか:アンケートによる緑内障患者の意識調査.あたらしい眼科17:857-859,20005)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,20036)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,20037)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,20068)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20079)高橋真紀子,内藤知子,大月洋ほか:点眼容器の形状のハンドリングに対する影響.あたらしい眼科27:1107-1111,201010)大谷信介,木下栄二,後藤範章ほか:社会調査へのアプローチ?論理と方法.p.89-119,ミネルヴァ書房,200511)盛山和夫:社会調査法入門.p.88-89,有斐閣,200812)鈴木淳子:調査的面接の技法.p.42-44,ナカニシヤ出版,200913)谷川琢海:第5回調査研究方法論~アンケート調査の実施方法~.日放技学誌66:1357-1361,201014)FriedmanDS,OkekeCO,JampelHDetal:Riskfactorsforpooradherencetoeyedropsinelectronicallymonitoredpatientswithglaucoma.Ophthalmology116:1097-1105,200915)佐々木隆弥,山林茂樹,塚原重雄ほか:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼40:731-734,198616)KassMA,MeltzerDW,GordonMetal:Compliancewithtopicalpilocarpinetreatment.AmJOphthalmol101:515-523,198617)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Adherencewithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.Ophthalmology116:191-199,200918)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200519)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200620)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533-540,200721)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200922)伊藤雅治,曽我紘一,河原和夫ほか:国民衛生の動向.厚生の指標57:37-40,2010(111)***