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ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の角結膜障害性の評価

2010年12月31日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(89)1721《原著》あたらしい眼科27(12):1721.1726,2010cはじめにラタノプロストはプロスタノイドFP受容体と高い親和性をもつプロスタグランジンF2a(以下,PGF2a)誘導体である.PGF2a誘導体を有効成分とするPG関連薬は,緑内障病型を選ばない強い眼圧下降効果があり,全身副作用が少ないことから,近年では世界的に第一選択薬として高く評価されている.しかし,PG関連薬は結膜充血,角膜炎,色素沈着,刺激感などの局所的副作用をひき起こすことが指摘されている.これらの局所的副作用は主剤であるPGF2a誘導体自体の影響のほかに,点眼液中に含まれる防腐剤の細胞毒性およびアレルギー反応が関与しているとされている1).点眼液に使用される防腐剤のなかでも,溶解性が良く,抗菌力および防腐力が強いベンザルコニウム塩化物が頻用されており,0.001~0.02%の濃度で使用されている2).しかし,ベンザルコニウム塩化物は防腐剤としての高い有用性をもつ反面,角結膜の上皮細胞に対する細胞毒性があり2,3),それによる眼表面への障害が問題視されている4).また,ベンザルコニウム塩化物の細胞毒性作用にはアポトーシスが関与していることが示唆されている3,5).ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」(以下,ラタノプ〔別刷請求先〕伊田昌弘:〒532-0003大阪市淀川区宮原5-2-30沢井製薬株式会社学術部Reprintrequests:MasahiroIda,MedicalInformationDepartment,SawaiPharmaceuticalCo.,Ltd.,5-2-30Miyahara,Yodogawa-ku,Osaka532-0003,JAPANラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の角結膜障害性の評価小倉岳治*1片岡博文*1大坪義和*1伊藤吉將*2*1沢井製薬株式会社生物研究部*2近畿大学薬学部製剤学研究室EvaluationofCorneoconjunctivalDamagefromLatanoprostEyedrops0.005%「SAWAI」TakeharuOgura1),HirofumiKataoka1),YoshikazuOhtsubo1)andYoshimasaIto2)1)BiologicalResearchDepartment,SawaiPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)LaboratoryofAdvancedDesignforPharmaceuticals,SchoolofPharmacy,KinkiUniversity眼表面への局所的副作用を考慮して開発されたジェネリック医薬品であるラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」について,invivoおよびinvitroにおける細胞毒性およびアポトーシス誘導能を測定し,角結膜障害性を評価した.本点眼液をヒト結膜由来の培養細胞に曝露したところ,細胞生存率は経時的に低下したが,対照品であるキサラタンR点眼液0.005%と比して高い生存率であった.また,細胞核の凝集は軽度で,断片化DNA量の増加は認められなかった.さらに,ウサギにラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」を頻回点眼したところ,結膜上皮層のTUNEL(TdTmediateddUTP-biotinnick-endlabeling)陽性細胞の増加は認められず,単回点眼後の涙液中へのグルタチオン漏出も認められなかった.以上の結果,ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の細胞毒性およびアポトーシス誘導能は低く,角結膜障害性は低いと考えられた.Corneoconjunctivaldamagecausedbythegenericformulationoflatanoprost,Latanoprosteyedrops0.005%「SAWAI」,wasevaluatedonthebasisofcytotoxicityandpro-apoptoticeffectsinhumanconjunctivalcellsinvitro,andinrabbitsinvivo.Invitro,thetestformulationtriggeredcelldeathofChangconjunctivacells,thoughlessthanwiththebrandedformulation,XalatanReyedrops0.005%.NoDNAfragmentationandlessevidentnuclearcondensationwereobservedincellstreatedwiththetestformulation.Invivo,frequentinstillationofthetestformulationtorabbiteyeshadnoeffectonthenumberofTUNEL-positivecellsintheepitheliallayeroftheconjunctiva.Exudationofglutathioneintotearfluidwasnotincreasedbysingleinstillationofthetestformulation.TheseresultssuggestthatLatanoprosteyedrops0.005%「SAWAI」causeslesscorneoconjunctivaldamage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(12):1721.1726,2010〕Keywords:ラタノプロスト,角結膜障害,細胞毒性,アポトーシス,ベンザルコニウム塩化物.latanoprost,corneoconjunctivaldamage,cytotoxicity,apoptosis,benzalkoniumchloride.1722あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(90)ロスト点眼液「サワイ」)は1mL中にラタノプロスト50μgを含有する点眼液であり,先発医薬品であるキサラタンR点眼液0.005%(以下,キサラタンR点眼液)と同一の有効成分を同量含有するジェネリック医薬品として開発された6).両製剤はともに防腐剤としてベンザルコニウム塩化物を含有するが,ラタノプロスト点眼液「サワイ」は角結膜障害を考慮し,ベンザルコニウム塩化物を減量して処方設計されている.そこで,新たに筆者らが開発したラタノプロスト点眼液「サワイ」について,角結膜に対する障害性を評価することを目的として,ヒト成人結膜由来細胞株およびウサギを用いて,細胞毒性およびアポトーシス誘導能を測定し,角結膜障害性を評価したので報告する.I実験材料および方法1.被験物質ラタノプロスト点眼液「サワイ」(沢井製薬),キサラタンR点眼液(ファイザー)を用いた.陰性対照としてinvitroではEagle’sminimumessentialmedium(以下,EMEM,Sigma),invivoではリン酸緩衝生理食塩水(以下PBS,和光純薬)を,陽性対照として0.02%ベンザルコニウム塩化物(和光純薬)を用いた.2.使用細胞ヒト成人結膜由来細胞であるChangconjunctiva細胞はDSファーマバイオメディカルより入手した.細胞は50IU/mLペニシリン(Invitorogen),50μg/mLストレプトマイシン(Invitorogen)および10%ウシ胎児血清(BioWhittaker)を添加したEMEMにて培養し,各試験には対数増殖期の細胞を用いた.3.使用動物12週齢の雄性NZWウサギを日本エスエルシーより入手し,馴化飼育の後,試験に用いた.なお,動物実験はすべて沢井製薬動物実験倫理委員会により承認され,動物実験承認規定に準拠し実施した.4.Invitro細胞毒性試験96穴マイクロプレートにChangconjunctiva細胞を20,000cells/wellで播種し,コンフルエントになるまで培養した.培養上清を除去し,PBSで1回洗浄し,被験物質を50μL添加した.37℃で5~30分間インキュベート後,薬液を除去し,PBSで2回洗浄し,MTS法(CellTiter96AQueousOneSolution,Promega)にて490nm(対照640nm)の吸光度を測定することにより生存細胞を測定した.生存率は下式より算出した.なお,試験は5回くり返し実施した.生存率(%)=(処理群の吸光度)÷(陰性対照の吸光度)×1005.細胞核の形態学的観察Changconjunctiva細胞をチャンバースライド(8well,BDFalcon)に45,000cells/wellで播種し,コンフルエントになるまで培養した.PBSで1回洗浄後,被験物質を100μL添加し,37℃で20分間インキュベートした.PBSで2回洗浄後,4%ホルマリンで固定し,10μg/mLDAPI(4¢,6-diamidino-2-phenylindole,同仁化学)を添加した後,蛍光顕微鏡下にて核の形態学的観察を行った.6.細胞内断片化DNA量の測定細胞内の断片化DNAは,細胞DNAフラグメンテーションELISA(enzyme-linkedimmunosorbentassay;酵素免疫測定法)キット(Roche)を用いて測定した.Invitro細胞毒性試験と同様に96穴プレートに培養したChangconjunctiva細胞にBrdU(bromodeoxyuridine;ブロモデオキシウリジン)を10μMとなるように添加し,18時間培養した.PBSで洗浄後,被験物質を50μL添加し,37℃で20分間インキュベートした.氷冷したPBSを150μL添加し,3,500rpmで1分間遠心後,上清を除去し,細胞溶解液を200μL添加した.室温で30分間インキュベート後,3,500rpmで10分間遠心し,上清中の断片化DNA量をELISAにて測定した.なお,試験は5回くり返し実施した.7.頻回点眼後のウサギ結膜におけるアポトーシス誘導能の測定ウサギに被験物質50μLを5分ごとに10回点眼し,24時間後にペントバルビタールの過剰投与による致死後,結膜を摘出した.摘出結膜は10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定後,作製した薄切標本について,InsituApoptosisDetectionKit(タカラバイオ)を用いてTUNEL染色後,ヨウ化プロピジウム(同仁化学)で対比染色した.TUNEL陽性細胞を蛍光顕微鏡下でカウントし,結膜上皮層面積当たりの数を算出した.試験にはウサギ20羽の両眼,計40眼を使用し,各群5例で実施した.8.単回点眼後のウサギ涙液中グルタチオン濃度の測定ウサギに被験物質200μLを結膜.内に点眼し,薬液が流出しないように下瞼を引きながら1分間保持した.貯留する涙液をマイクロピペットで採取し,グルタチオン(以下,GSH)濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法にて測定した.涙液70μLに内部標準溶液(1μg/mLシステアミン)20μLおよびジチオストレイトール10μL(終濃度0.1mM)を添加し,室温で30分間インキュベートし還元した.発蛍光試薬として1mMABD-Fを100μL添加し,50℃で5分間インキュベート後,0.1MHClを60μL添加し反応を停止した.この反応液について,逆相HPLC法(使用カラム:ImtaktCadenzaCD-C18100×4.6mm3μm,蛍光検出:EX380nm/EM510nm)にて涙液中総GSH濃度を定量した.試験にはウサギ3羽の両眼,計6眼を使用した.試(91)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101723験は4×4クロスオーバー法で実施し,1週間の休薬期間をおいてPBS,ベンザルコニウム塩化物,続いてラタノプロスト点眼液「サワイ」またはキサラタンR点眼液の順に点眼した.II結果1.Invitro細胞毒性試験図1にヒト結膜細胞に点眼液を曝露した際の生存率の経時的変化を示した.キサラタンR点眼液を曝露すると5分後に生存率は9.8%となり,生存率は急激に低下した.また,0.02%ベンザルコニウム塩化物を曝露した場合も同様の時間的推移を示し,急激に生存率が低下した.それに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」では5,10および20分後の生存率はそれぞれ78.9%,76.8%および41.2%で,30分後には15.7%まで減じるものの,いずれの時点においてもキサラタンR点眼液よりも高い生存率であった.2.細胞核の形態学的変化ヒト結膜細胞にキサラタンR点眼液および0.02%ベンザルコニウム塩化物を曝露すると,顕著な核の凝集が認められた0255075100曝露時間(分)051015202530生存率(%ofControl)図1ヒト結膜由来細胞における細胞毒性試験(5例平均±SD)培養細胞を各被験物質に曝露後,経時的に生細胞をMTS法にて測定した.●:ラタノプロスト点眼液「サワイ」,○:キサラタンR点眼液,×:0.02%ベンザルコニウム塩化物.A.コントロール(EMEM)B.ラタノプロスト点眼液「サワイ」C.キサラタンR点眼液D.0.02%ベンザルコニウム塩化物図2ヒト結膜由来細胞における核の形態学的変化培養細胞を各被験物質に20分間曝露後,DAPI(4¢,6-diamidino-2-phenylindole)染色した.1724あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(92)(図2CおよびD).これに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」を曝露した際は,一部の細胞で核の凝集が認められるものの,凝集度は軽度であった(図2B).3.細胞内断片化DNA量図3に示したように,ヒト結膜細胞にラタノプロスト点眼液「サワイ」を曝露しても,細胞内の断片化DNA量に変化は認められなかった.それに対し,キサラタンR点眼液を曝露すると有意な断片化DNAの増加が認められた.4.頻回点眼後のウサギ結膜におけるアポトーシス誘導能5分ごとに10回連続点眼後のウサギ結膜をTUNEL染色し,アポトーシス細胞を測定した(図4).キサラタンR点眼液および0.02%ベンザルコニウム塩化物点眼群では,コントロールと比して有意なTUNEL陽性細胞の増加が認められた.それに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」点眼群ではTUNEL陽性細胞の増加は認められなかった.5.単回点眼後のウサギ涙液中GSH濃度単回点眼後のウサギ涙液中の総GSH濃度を測定した(図5).キサラタンR点眼液および0.02%ベンザルコニウム塩化物点眼群では,コントロールと比して有意な涙液中GSH濃度の増加が認められた.それに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」点眼群では涙液中GSH濃度の増加は認められなかった.III考按緑内障は特徴的な視神経の変化と視野欠損を呈する進行性の疾患である.その原因はさまざまであるが,緑内障進行の最大のリスクファクターは眼圧であり,眼圧を下降させることが緑内障治療の基本となっている.眼圧下降治療は薬物治療が基本であり,薬剤選択のポイントには最小限の薬剤で設定した目標眼圧を達成できるような薬理学的側面がある一方,副作用,年齢,社会的経済的な側面も考慮して患者のqualityoflife(QOL)を損ねない配慮も必要である7).局所的副作用の側面として,PG関連薬では結膜充血,角膜上皮障害,しみるなどの刺激症状などが高頻度で起こることが知られている.このような局所的副作用は有効成分のほか,点眼液に含まれる添加物,特に防腐剤が原因となっている2,3).緑内障における点眼治療は生涯にわたって継続し,目標眼圧の達成に多剤併用を必要とすることも多く,これらの多面的要因により薬剤の変更や治療の中止を余儀なくされる場合もある.点眼液は主薬の有効性,溶解性および安定性のほか,刺激性,無菌性などさまざまな因子を考慮し,可溶化剤,等張化剤,pH調節剤,防腐剤など添加物を用いて処方設計される.キサラタンR点眼液のジェネリック医薬品であるラタノプロスト点眼液「サワイ」はこれらの添加物を効率よく配合することにより,キサラタンR点眼液と同等の眼圧下降作用を有しながら6),安定性を向上させて室温保存を可能とした.さらに添加物のなかでも局所的副作用のおもな原因であるベンザルコニウム塩化物の濃度を減じ,かつ防腐剤としての効力を十分に発揮させることを可能とした.そこで,本研究ではラタノプロスト点眼液「サワイ」の角結膜における局所的副作用を評価することを目的とし,invivoおよびinvitroにおける細胞毒性およびアポトーシス誘導能を測定した.Invitroでヒト結膜細胞にラタノプロスト点眼液「サワイ」およびキサラタンR点眼液を曝露した際,いずれの群においても細胞死が誘導された.しかし,ラタノプロスト点眼液「サワイ」ではキサラタンR点眼液と比較して細胞生存率は高率であった.また,ラタノプロスト点眼液「サワイ」による長時間の曝露でも顕著な生存率の低下が認められたが,これは高濃度の薬剤を長時間曝露した場合であり,ヒトに点眼した場合は点眼刺激による涙液分泌増加のために薬剤濃度が速やかに希釈され,余剰な薬剤は流出すること,さらには涙液交換率が約17%/分2)であることを考慮すると,臨床上,細胞の生死にはほとんど影響を与えないと考えられる.Invivoにおける細胞毒性の指標として涙液中GSH濃度を測定した.GSHは涙液腺からは分泌されないが,角結膜に多量に含有されており,角結膜組織の物理的,生化学的,生理学的な変化によりその表面や内部から流出するため,流出したGSH量が角結膜の障害性を反映すると考えられている8).ウサギにキサラタンR点眼液を単回点眼した際,涙液中のGSH濃度の有意な増加が認められたが,ラタノプロスト点眼液「サワイ」では認められなかった.これらの結果から,本点眼液はキサラタンR点眼液と比較して細胞毒性は低く,角結膜組織への障害性は軽減されていると考えられた.0.250.200.150.100.050.00吸光度####**コントロール(EMEM)ラタノプロスト点眼液「サワイ」キサラタンR点眼液0.02%BAC図3ヒト結膜由来細胞における細胞内断片化DNA量の比較(5例平均±SD)培養細胞を各被験物質に20分間曝露後,ELISAにて細胞内の断片化DNA量を測定した.BAC:ベンザルコニウム塩化物.##:p<0.01vsControlbyDunnetttest,**:p<0.01byttest.(93)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101725ベンザルコニウム塩化物は角膜上皮細胞や結膜上皮細胞のアポトーシスを誘導することが知られている.ベンザルコニウム塩化物を含有する点眼液でも同様の報告があり,これが点眼液による細胞毒性の機序の一つと考えられている3,5).本研究で用いたinvivoでウサギに頻回点眼するモデルは,点眼液の毒性の有無を鋭敏に評価できるとされており,キサA.コントロール(PBS)B.ラタノプロスト点眼液「サワイ」C.キサラタンR点眼液D.0.02%ベンザルコニウム塩化物E.TUNEL陽性細胞数(5例平均±SD)6005004003002001000TUNEL陽性細胞(個/mm2)###*コントロール(PBS)ラタノプロスト点眼液「サワイ」キサラタンR点眼液0.02%BAC図4頻回点眼後のウサギ結膜のTUNEL染色像5分ごと10回点眼し,24時間後に結膜を採取してTUNEL染色(緑)およびPI(ヨウ化プロビジウム)染色(赤)した.BAC:ベンザルコニウム塩化物.#,##:p<0.05,0.01vsControlbyDunnetttest,*:p<0.05byt-test.6.05.04.03.02.01.00.0涙液中グルタチオン(μg/mL)####**コントロール(PBS)ラタノプロスト点眼液「サワイ」キサラタンR点眼液0.02%BAC図5単回点眼後の涙液中グルタチオン濃度(6例平均±SD)結膜.内に各被験物質を1分間貯留させ,貯留液中の総グルタチオン濃度を測定した.BAC:ベンザルコニウム塩化物.##:p<0.01vsControlbyDunnetttest,**:p<0.01byt-test.1726あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(94)ラタンR点眼液あるいはベンザルコニウム塩化物の点眼により,角結膜における炎症反応の惹起およびアポトーシスの誘導が報告されている5,9).しかし,ラタノプロスト点眼液「サワイ」を頻回点眼してもアポトーシス(TUNEL陽性)細胞数の増加は認められなかった.また,invitroでヒト結膜細胞に曝露しても,アポトーシスの指標となる核の凝集は軽度で,DNAの断片化は認められなかった.これらの結果から,ラタノプロスト点眼液「サワイ」による結膜上皮細胞に対するアポトーシス誘導能は低いものと考えられた.ラタノプロスト点眼液「サワイ」に使用されているベンザルコニウム塩化物以外の添加物(トロメタモール,クエン酸,d-マンニトール,グリセリン,ヒプロメロースおよびポリソルベート80)について,ヒト結膜細胞における細胞毒性試験を実施した結果,いずれの添加物についても本点眼液に含有する濃度では細胞毒性は認められなかった(データ示さず).各添加物の相互作用あるいは保護作用などの影響は未知であるが,本点眼液はキサラタンR点眼液に対し,ベンザルコニウム塩化物濃度を約半分へ減じており,両製剤の細胞毒性およびアポトーシス誘導能の差異は,ベンザルコニウム塩化物含有量の違いがその一因と考えられる.本研究はヒト結膜細胞を用いたinvitro試験およびウサギを用いたinvivo試験の結果であり,まだ臨床的な検証はされていない.しかし,本研究の結果は点眼液の処方を検討することにより,細胞毒性を軽減させることが可能であることを示しており,同一主薬の製剤でも同等の効果を維持しながら,臨床使用における角結膜障害リスクを低減させることが可能であることを示唆している.点眼液の処方設計と局所的副作用に関する臨床的な検証はまだ不十分であり,今後のさらなる検討が必要である.以上,ヒト結膜由来細胞およびウサギを用いてラタノプロスト点眼液「サワイ」の角結膜障害性を評価した結果,その細胞毒性およびアポトーシス誘導能は低く,角結膜障害性は低いと考えられた.また,本検討で行ったいずれの試験においても,本点眼液の毒性は対照に用いたキサラタンR点眼液と比して軽度であった.よって,ラタノプロスト点眼液「サワイ」は角結膜障害発生のリスク低減という意味で有用性が期待できると考えられた.文献1)相良健:オキュラーサーフェスへの影響─防腐剤の功罪.あたらしい眼科25:789-794,20082)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewInsight2点眼薬─常識と非常識(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,19943)GuenounJM,BaudouinC,RatPetal:Invitrostudyofinflammatorypotentialandtoxicityprofileoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostinconjunctiva-derivedepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci46:2444-2450,20054)PisellaPJ,PouliquenP,BaudouinC:Prevalenceofocularsymptomsandsignswithpreservedandpreservativefreeglaucomamedication.BrJOphthalmol86:418-423,20025)LiangH,BaudouinC,PaulyAetal:Conjunctivalandcornealreactionsinrabbitsfollowingshort-andrepeatedexposuretopreservative-freetafluprost,commerciallyavailablelatanoprostand0.02%benzalkoniumchloride.BrJOphthalmol92:1275-1282,20086)竹内譲,沖田祐佳,上野眞義ほか:ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の健康成人における薬力学的試験.診療と新薬47:298-303,20107)相原一:緑内障点眼薬─選択のポイント.あたらしい眼科25:751,20088)開繁義,石田俊郎,狩野真由美:涙液の生化学的分析による眼局所用薬剤の角膜障害性の評価.日眼会誌92:1553-1564,19889)LiangH,Brignole-BaudouinF,Rabinovich-GuilattLetal:Reductionofquaternaryammonium-inducedocularsurfacetoxicitybyemulsions:aninvivostudyinrabbits.MolVis14:204-216,2008***

角膜錆輪を覆う上皮にみられる細胞死の組織学的研究

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(97)3790910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(3):379385,2009cはじめに1972年Kerrら1)が発表したアポトーシスは,生理的に生じる不要細胞や病理的に生成される傷害細胞を積極的に排除する機構で,細胞の形態変化を伴う現象である.しかしこの形態変化は数分間で終了するためヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を施した組織切片にアポトーシスがみつかることはまれである.アポトーシスの検索には,その本質がDNAのヌクレオソーム単位での断片化であることを踏まえて,当初から組織切片に特殊な染色を施して検鏡するのが一般的である2,3).今回角膜鉄粉異物のHE染色切片を検鏡していて,錆を貪食した上皮細胞にアポトーシスが多発する現象を発見する機会に恵まれたので報告する.I方法外傷後72時間以上を経過した角膜鉄粉異物症例(45歳,男性)から摘出した上皮層錆輪と,外傷後約30時間経過の角膜鉄粉異物症例(46歳,男性)で初回の角膜鉄粉異物摘出術で実質層錆輪を取り残し2週後に再摘出した残存錆輪を覆う増殖上皮を試料にした.2症例とも摘出した錆輪を研究材料とすることの了解を得た.切片作製の手順は既報で詳述した4).切片はHE染色と錆を特異的に染色するPerls染色を施した.上皮層錆輪は連続切片のうち錆輪の中央部分の1枚を示した.〔別刷請求先〕松原稔:〒675-1332小野市中町275-1松原眼科医院Reprintrequests:MinoruMatsubara,M.D.,MatsubaraEyeClinic,275-1Naka-cho,Ono-shi,Hyogo-ken675-1332,JAPAN角膜錆輪を覆う上皮にみられる細胞死の組織学的研究松原稔松原眼科医院HistologicalStudyofEpitheliumCellDeathwithCornealRustRingMinoruMatsubaraMatsubaraEyeClinic角膜鉄粉異物が起こす細胞死を研究した.鉄粉異物周囲の上皮と取り残した錆輪を覆う増殖上皮から連続切片を作製,ヘマトキシリン・エオジン染色とPerls染色を施し,錆に接触した細胞に起こる変化を光学顕微鏡で調べた.錆輪を覆う増殖上皮では錆を貪食した細胞はネクローシスを起こさなかったが,核クロマチンの凝縮と断片化が起こり細胞質が縮小して隣接細胞との間に大きな間隙をつくった好酸性円形のアポトーシス細胞と,細胞質がくびれちぎれたアポトーシス小体が全細胞の4.1%にみられた.これらの細胞では核断片化数と細胞質細分化数が3以上の細胞が55%を占めた.アポトーシスを起こした細胞は細胞内にPerls染色に染まる顆粒を含み,細胞分裂の多い場所に一致して発生し,対をなすことから錆を貪食した細胞が分裂を始めるとアポトーシスを起こすと推測した.Weexaminedtheepitheliumsurroundingacornealironforeignbodyandtheepitheliumcoveringthecornealrustringremainingafterextraction.Specimenswereexaminedbylightmicroscopyafterstainingbyhematoxylin-eosinandPerlsstain.Intheepitheliumcoveringtherustring,cellssurroundthelamellawhichrustdeposited,anddidphagocytosis,butdidnotdevelopnecrosis.Nuclearchromatinandcytoplasmcondenseshowingtheacidophil,andcreatedalargegapbetweenthecells.Inthesecellsthenucleifragmented;membrane-boundcellsandapop-toticbodieswereobserved.Nuclearandcytoplasmiccondensationandapoptoticbodiesareobservedin4.1%ofcells;55%ofthesecellshad3ormoreofthenuclearorcytoplasmicfragmentation.Thecellwhichcausedapopto-sisincludedaparticledyedintracellularlywithPerls’stain,andweagreedinmanyplacesofmuchmitosis,andapairisbecome.Presumably,apoptosisresultedwhenthecellsthatphagocytizedrustbegantodivied.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):379385,2009〕Keywords:細胞分裂,アポトーシス,ネクローシス,角膜鉄粉異物,角膜錆輪.celldivision,apoptosis,necrosis,cornealironforeignbody,cornealrustring.———————————————————————-Page2380あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(98)残存錆輪を覆う増殖上皮は連続切片1020枚を載せたプレパラート15枚を作製し,各々から傷や皺のない切片を1枚選び,15枚の顕微鏡写真を印画紙に焼き付けた.写真からアポトーシスを起こした細胞(以下,アポトーシス細胞と略す)と上皮細胞を数え,切片の面積,切片の長さと厚さの最大値,実質層錆輪(錆の沈殿したラメラ)の面積と増殖上皮に接触する長さを計測し,Pearson積率相関係数を計算して表1に示した.アポトーシス細胞の定義は,核クロマチンが凝縮して核が小さくなること,核が3個以上になること,細胞質が縮小して丸くなり隣の細胞との間に間隙ができること,くびれて細分化した細胞数が3個以上になることのうち2つ以上の条件を満たす細胞とした(図1).HE染色の光学表1錆輪を覆う増殖上皮の様相切片番号ア細胞数総細胞数切片面積切片の長さ切片の厚さ錆輪面積錆輪の長さ111291774047936368252703034721133034031137350063412412737141956185069418843281545767967771200734376307041,10083821344422735691929839226744068256749258552652751993365580071021644248102764683673622521197111954869769420041322121751860066717061227132546757561316112540614163714674611245428215622930040311116140平均2150766865317454331Pearson積率相関係数対ア細胞数0.930.880.810.800.190.34対総細胞数0.970.940.930.060.33ア細胞=アポトーシス細胞.面積:100μm2.長さと厚さ:μm.図2アポトーシス細胞と隣接細胞との関係(HE染色,バー:10μm)a:a型.アポトーシス細胞が液胞の中央に配置.b:b型.液胞の壁の一部が隣接細胞と接触.c:c型.アポトーシス細胞が隣接する.abcab図1アポトーシスの条件(HE染色,バー:10μm)a:核クロマチン凝縮,偏在,断裂.b:細胞縮小で隣接細胞間に間隙発生,細胞質がくびれて細分化.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009381(99)顕微鏡切片では細胞分裂像と鑑別がむずかしいため,核と細胞質の数を3個で区切った.総細胞数は核の数で代用した.15枚のプレパラートから傷や皺のない切片86枚を選び,その顕微鏡写真を印画紙に焼き付けてアポトーシス細胞の核の断片化数と細胞質の細分化数を数えた.さらにアポトーシス細胞と隣接細胞との関係を3つに分類して核数と細胞数との関連を調べた.縮小した細胞が単一液胞の中央にあるのをa型(図2a),形態的に異なる隣の細胞と壁の一部で密着しているのをb型(図2b),2個のアポトーシス細胞が密着しているのをc型(図2c)とした.アポトーシス細胞の核の数を縦に細胞質の数を横に取り表2に示し,さらにa型,b型,c型の数を示した.アポトーシス細胞の顕微鏡写真を同じ様式で示した.II結果1.角膜上皮層錆輪の上皮細胞にみられる細胞死(ネクローシス)(図3)長径120μmの大きな水疱を1020μm幅の錆が囲む.水疱内壁に腐蝕して直径が数μmの球になった鉄が虫食状に残り,水疱内部には周辺では密に中央では粗に錆が広がる.水疱内径は細隙灯および実体顕微鏡写真の鉄粉の大きさに一致するので,最初は水疱全体が鉄であったことが推測できる.水疱の下方には錆で縁取られた大小不同の水疱が並び,水疱には細胞の残滓と錆が含まれる.形の残っている細胞では細胞膜に錆が数珠状に並び,形の崩れた細胞は核が崩壊,表2錆輪を覆う増殖上皮にみられるアポトーシス細胞の核断片化数と細胞質のくびれ細分化数細胞質のくびれ細分化数123456以上計核断片化数0a10a6a7a3a3a6a3579b6199b89125b11474b6728b2323b14428b3686.4%c88.1%c410.2%c46.0%c42.3%c21.9%c334.9%c251a45a13a16a10a4a1a89207b15189b73149b13187b7433b298b7573b46516.9%c117.3%c312.2%c27.1%c32.7%c0.7%c46.7%c192a14a17a5a2a2aa4036b2146b2724b1714b128b57b5135b872.9%c13.8%c22.0%c21.1%c0.7%c10.6%c211.0%c83a3a4a1a2aaa109b614b109b87b51b11b141b310.7%c1.1%c0.7%c0.6%c0.1%c0.1%c3.3%c04a3a2a1a1a1aa813b93b14b32b11b2b225b161.1%c10.2%c0.3%c0.2%c0.1%c0.2%c2.0%c15以上a7a3aaaa5a1512b57b4bbb5b24b91.0%c0.5%cccc0.4%c2.0%c0計a82a45a30a18a10a12a197356b253258b204311b273184b15971b5846b291226b97629.0%c2121.0%c925.4%c815.0%c75.8%c33.8%c5100.0%c53枠内の数値とa,b,cの数値はアポトーシス細胞数.%はアポトーシス細胞総数に対する百分率.図3上皮層錆輪周囲の上皮細胞に起こるネクローシス(HE染色,バー:50μm)———————————————————————-Page4382あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(100)細胞質は溶解して残滓を残し,細胞膜に沈殿した錆がわずかに残る.2.残存錆輪を覆う増殖上皮に起こる細胞死(アポトーシス)(図4)図4の写真は残存錆輪を覆う増殖上皮のほぼ中央の切片である.左に向かって上皮が伸び先端は折り返している.左半分には不規則に破断した実質層錆輪が残る.右半分では3重になった増殖上皮の間にわずかに錆輪が残る.錆輪に接した一部の細胞は核クロマチンが凝縮,細胞質が濃縮して好酸性を示す(f).ほとんどの細胞は貪食した錆を細胞質内に含みながら形態的な変化を起こさない(g).これらの細胞は増殖する細胞に押されて錆輪から離れ,78細胞列離れた位置で,核クロマチン凝縮と細胞質縮小で円形になり強い好酸性を示し,隣の細胞との間に間隙をつくる(a).核の断片化と細胞質のくびれを起こし(b),アポトーシス小体に至る(c).これらのアポトーシス細胞は増殖上皮表面から排出される(d).アポトーシス細胞は錆を含むが,その隣で錆を含まない細胞の分裂像がみられる(h,i).錆輪の貪食が終了したあとに進入した上皮細胞は活発に分裂するが,アポトーシスは起こさない(e,j).3.残存錆輪を覆う増殖上皮の様相(表1)アポトーシス細胞数は全細胞数の4.1%を占める.アポトーシス細胞数は総細胞数に強い相関を示し,残存錆輪を覆う増殖上皮にみられるアポトーシスが細胞自体に起因する現象であることを示唆する.総細胞数は面積に強い相関を示す.図4錆輪を覆う上皮細胞に起こるアポトーシス染色法無記載はHE染色.バー:弱拡大(×40)100μm.強拡大(×100)10μm.強拡大写真aeの出所は□で示す.fjの出所は隣接切片のため該当部位を○で示す.a:核クロマチン凝縮・偏在.b:細胞質がくびれて細分化.c:アポトーシス小体.d:アポトーシス細胞の排出.e:錆を含まない細胞の分裂.f:錆輪に接触した細胞のアポトーシス.g:錆を貪食したした細胞.矢印は錆.Perls染色.hi:錆を含む細胞のアポトーシス,隣に錆を含まない細胞の分裂.矢印は錆.h:Perls染色.j:錆の貪食終了跡に進入した細胞の分裂.fgbahidejcafghijbcde———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009383(101)4.残存錆輪を覆う増殖上皮にみられるアポトーシスの形と数(表2,図5)核1個と細胞1個のアポトーシス細胞が最も多く全体の16.9%を占め,核1個と細胞3個が12.2%,核0個と細胞3個が10.2%で,残りは10%以下である.細胞分裂の可能性のある核が1個か2個,好酸性の細胞質が1個か2個の細胞は全アポトーシス細胞の45%で,核と細胞質が3個以上の細胞が全アポトーシス細胞の55%を占める.a型は核2個図5a核断片化数0,細胞質のくびれ細分化数:上段1~5,下段6以上(HE染色,バー:10μm)図5b核断片化数1,細胞質のくびれ細分化数:上段1~5,下段6以上(HE染色,バー:10μm)図5c核断片化数2,細胞質のくびれ細分化数:1~5(HE染色,バー:10μm)———————————————————————-Page6384あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(102)と細胞1個のアポトーシス細胞では39%を占め,核2個と細胞2個のアポトーシス細胞では37%を占めた.全体でみるとa型は16%,b型は80%,c型は4%で,84%のアポトーシス細胞が隣の細胞と対をなしている.III考按錆に触れた細胞にみられる細胞死にはネクローシスとアポトーシスがある.ネクローシスは細胞膜の破壊から始まる細胞死で突然の事故死にたとえられる.ある範囲の細胞が集団で侵され,細胞膜の破綻が起こるため細胞内外の浸透圧の均衡が破れ細胞は膨化し,細胞内容物があふれ出し自己融解が起こり,炎症細胞が集まり周囲を傷害する.上皮層錆輪周囲にみられるネクローシスは,涙に包まれた鉄の表面に発生する通気差電池のカソードにNaOHが生成され,この水酸基が細胞膜の脂肪酸を鹸化して細胞膜を溶かすので,上皮層錆輪周囲の上皮細胞は融解してネクローシスが起こると考える.アポトーシスはプログラムされた細胞死で自殺にたとえられる.周囲から孤立して単独の細胞に起こる現象で,核クロマチンの凝縮,核内偏在,断片化が起こる.細胞質は縮小し強い好酸性を示し,周囲の細胞との間に間隙を作り,最後に核が断片化され細胞質が細分化されて小さな断片(アポトーシス小体)になる.このアポトーシス小体は実質組織では隣接する細胞に貪食されるが,上皮組織では表面から排出される.炎症細胞の出現はない.残存錆輪を覆う増殖上皮ではアポトーシスの全過程が存在する.生化学的検査は行っていないが,形態的特徴からアポトーシスと考える.残存錆輪を覆う増殖上皮細胞に起こるアポトーシスの発生機序を考察する.増殖上皮細胞は分裂をくり返して欠損部を充し,残存錆輪の錆を貪食する.錆を貪食した細胞は表面から排出され,同時に錆を含まない細胞も離脱落する.増殖細胞の4.1%がアポトーシスを起こすが,その細胞質内にはPerls染色に染まる顆粒や残滓がみられる.アポトーシス細胞に隣接して図5d核断片化数3,細胞質のくびれ細分化数:1~5(HE染色,バー:10μm)図5e核断片化数4,細胞質のくびれ細分化数:1~5(HE染色,バー:10μm)図5f核断片化数5以上,細胞質のくびれ細分化数:1~多数(HE染色,バー:10μm)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009385(103)正常な細胞分裂像がみられるので,錆を貪食した細胞も細胞周期に従い同じ場所で分裂を始めたことが推測できる.アポトーシス細胞の84%は隣の細胞と対をなしており分裂の途中で変化をきたしたことを疑わせる.アポトーシス細胞は,細胞内に錆を含み,細胞分裂の多い場所に一致して発生し,細胞が対をなしていることから錆を貪食した細胞が分裂を始めるとアポトーシスを起こすと推測する.今研究ではTUNEL法によるアポトーシスの確定が将来の課題として残る.稿を終えるにあたり三重大学大学院医学系研究科ゲノム再生医学講座修復再生病理学吉田利通教授にご指導いただいたことに深く御礼申し上げます.文献1)KerrJFR,WyllieAH,CurrieAR:Apoptosis:Abasicbiologicalphenomenonwithwiderangingimplicationsintissuekinetics.BrJCancer26:239-257,19722)藤田和子:TUNEL法.アポトーシス実験プロトコール(田沼靖一監修),細胞工学別冊,p86-96,秀潤社,19983)恵口豊,辻本賀英:アポトーシス研究を支えた実験法.細胞死・アポトーシス(辻本賀英編),p28-37,羊土社,20064)松原稔,吉田宗儀,増子昇:角膜錆輪の組織学的研究.臨眼58:1957-1960,2004***