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DSAEK術後接着不良による摘出移植片の組織染色で内皮細胞形態を観察できた1例

2020年12月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(12):1555.1558,2020cDSAEK術後接着不良による摘出移植片の組織染色で内皮細胞形態を観察できた1例奥村峻大*1,2福岡秀記*1向井規子*1,2堀切智子*1脇舛耕一*1松本佳保里*1吉川大和*1,2田尻健介*2池田恒彦*2外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2大阪医科大学眼科学教室CAnalysisofCornealEndothelialCellDensityandOrganizationbyAlizarinRedStaininginaCaseinwhichtheTransplantedCornealGraftsRepeatedlyFailedtoAdherePostDSAEKTakahiroOkumura1,2)C,HidekiFukuoka1),NorikoMukai1,2)C,TomokoHorikiri1),KoichiWakimasu1),KahoriMatsumoto1),YamatoYoshikawa1,2)C,KensukeTajiri2),TsunehikoIkeda2)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC緒言:接着不良を繰り返した角膜内皮移植術(DSAEK)の移植片を,摘出して組織染色し,角膜内皮細胞の密度と形態,分布について検討を行ったので報告する.症例:76歳,女性.複数回の手術により右眼が水疱性角膜症になり,他院でCDSAEKを施行された.移植片の接着不良により前房内空気注入をC2回行われ,移植片の縫合も行われたが接着せず,術C17日後に京都府立医科大学附属病院眼科に紹介受診となった.右眼の移植片は接着しておらず,矯正視力は(0.01)であった.既存移植片を摘出し,DSAEKを施行した.術翌日に移植片の接着不良を認めたが,前房内空気注入を行い,良好な接着を得た.摘出した移植片のアリザリンレッド染色では,角膜内皮細胞は全体的にモザイク状に減少していた.結論:アリザリンレッド染色により,接着不良であった摘出移植片の角膜内皮細胞を可視化し,特異な角膜内皮細胞の分布パターンを観察することができた.CPurpose:ToreportacaseofrepeatgraftfailurepostDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)inwhichthecornealendothelialcell(CEC)densityandorganizationinthedetachedcornealgraftwasanalyzedCviaCalizarinCredCstaining.CCasereport:AC76-year-oldCfemaleCunderwentCDSAEKCforCright-eyeCbullousCkeratopathyduetomultipleoperationsperformedatanotherhospital.Poorgraftadhesionresultedinadditionalairbeingtwiceinjectedintotheanterior-chamberfollowedbygraftsuturingattheearlypostoperativeperiod.How-ever,at17-dayspostoperative,shepresentedatouruniversityhospitalduetopoorgraftattachment,andDSAEKwasConce-againCperformed.CAtC1-dayCpostoperative,CpartialCgraftCdetachmentCwasCobserved,CyetCitCbecameCfullyCadheredCafterCadditionalCairCwasCinjectedCintoCtheCanterior-chamber.CAlizarinCredCstainingCofCtheCremovedCfailedCgraftCshowedCCECCreductionCinCanCoverallCmosaicCpattern.CConclusion:Alizarin-redCstainingCwasCfoundCe.ectiveCforanalyzingCECdensitylossandpatternoforganizationinadetachedgraftpostDSAEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(12):1555.1558,C2020〕Keywords:Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),前房内空気注入,移植片接着不良,アリザリンレッド染色.Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)C,airinjection,detachedgraft,alizarin-redstaining.C〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚再生外科学Reprintrequests:HidedkiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANCはじめに水疱性角膜症に対して,従来は角膜上皮から内皮細胞層まで入れ替える全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)が行われていたが,医療技術の進歩により,近年は角膜パーツ移植術であるDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK)が主流となっている1).DSAEKは,PKPと比較し,術中オープンスカイの場面がなく眼圧が保たれるため,手術中に生じうる駆逐性出血のリスクは低い.また,縫合を要する部分が少ないため,PKPと比較して,術後乱視の減少,縫合糸関連の術後感染症の減少,眼球強度の保持が期待される2).一方,移植片をレシピエントの内皮側に接着させるために前房内に空気を注入するという,これまでの角膜移植にはない手技に伴う独特の合併症が発生する可能性がある3).DSAEKにおける術中,術後合併症は複数あげられるが,そのなかの一つに移植片の接着不良がある.既報によると,移植片とホスト角膜とが接着不良となる症例が約C14.23%存在するとされる4,5).今回筆者らは,接着不良を繰り返し,内皮機能不全となったCDSAEKの移植片を摘出する機会を得た.移植片の組織染色を行い,角膜内皮細胞の所見について検討を行ったので報告する.CI症例患者:76歳,女性.眼科既往歴:2012年C9月初旬,右眼の黄斑円孔,無水晶体眼に対し,経毛様体扁平部硝子体切除術(parsCplanaCvit-rectomy:PPV)+眼内レンズ挿入術(.外固定)を施行されたが,術後に右眼上方の網膜.離をきたしたため,同年C9月下旬,六フッ化硫黄ガス(SFC6)硝子体内注入+網膜光凝固術を施行された.しかし,右眼の網膜は復位せず,同年C10月,PPV+網膜光凝固術追加+シリコーンオイル注入,2013年C4月にシリコーンオイル抜去術を施行された.その後,眼内レンズの硝子体腔への落下をきたしC2016年C9月,CPPV+眼内レンズ抜去+眼内レンズ縫着術を施行された.現病歴および経過:過去に上述した複数回の手術歴があり,右眼の水疱性角膜症をきたしたため,2017年C12月に他院でCDSAEKを施行された.術翌日,移植片の接着不良を認め,前房内液空気置換を施行された.術C4日後,再び移植片の前房内への脱落を認め,前房内液空気置換を再度行われ,移植片の縫合も追加された.しかし,その後も移植片が接着しないため,2018年C1月C5日に京都府立医科大学附属病院眼科(以下,当科)を紹介受診された.初診時,右眼矯正視力(0.01)と不良であり,ホスト角膜と移植片とに間隙を認めた(図1a).また,水疱性角膜症に伴う角膜上皮欠損を生じていた(図1b).前眼部三次元光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の中央水平断において,ホスト角膜と移植片との間に耳側から鼻側までの全体に及ぶ間隙を認めた(図1c).当科初診よりC2カ月後に,既存の移植片を摘出し,DSAEKを施行した.この際に用いられた移植片の術前の角膜内皮細胞密度はC2,611/mmC2であった.術C3時間後の診察で移植片は接着しておらず,移植片の縫合を追加した.術翌日,ホスト角膜と移植片に間隙を認め(図2a,b)経過観察において改善を認めなかったため,術C4日後に前房内空気注入を実施した.術C5日後,ホスト角膜と移植片との間隙は消失し角膜浮腫も改善した(図3a,b).右眼矯正視力(0.07)であった.術C1カ月後に移植片の縫合糸を抜去した.当科最終受診時(術C7カ月後),右眼矯正視力(0.04),角膜内皮細胞密度はC1,213/mm2であり,移植片の脱落を認めず経過良好である.CII組織学的検討当院でCDSAEKを行った際に,前医でのCDSAEK移植片を可能な限り創口に接触しないように摘出し,ただちにアリザリンレッドで染色した.角膜内皮細胞の形態,密度,分布について検討した(図4a).アリザリンレッドは細胞間隙を可視化することが可能な薬剤であり,角膜内皮細胞の損傷を評価することができる.また,スペキュラーマイクロスコープにより観察される角膜内皮細胞形態とアリザリンレッド染色により観察される角膜内皮細胞形態は,概ね一致すると報告されている6).アリザリンレッド染色により,角膜内皮細胞が残存している箇所は染色されず,角膜内皮細胞が脱落してCDescemet膜が露出した箇所は,赤く染色される.摘出した移植片の撮影画像を繋ぎ合わせて,パノラマ写真を作成した.その中から任意にC4カ所を抽出し,そのなかに残存する角膜内皮細胞の割合を計算した(図4b.1,2,3).4カ所の角膜内皮細胞密度の平均を,本症例での摘出した移植片の角膜内皮細胞密度とした.前医から得た情報では,DSAEK移植前のドナー角膜内皮細胞密度はC2,571/mmC2であったが,摘出した移植片の角膜内皮細胞密度はC12/mmC2(±6)と著明に減少していた.また,摘出した移植片の内皮細胞は全体がモザイク状に減少しており,六角形細胞の形態は失われ異常に大きい形を呈していた.CIII考按DSAEK特有の術後早期合併症として,移植片の接着不良やCprimarygraftfailureがあり,移植片とホスト角膜との接着不良がもっとも頻度が高い4,5).移植片の接着不良は無水晶体眼や硝子体手術後,緑内障濾過手術後などで生じやすく,術中の前房内圧が十分に上がらないことが要因とされて図1当科初診時の画像所見a:右眼前眼部.ホスト角膜と移植片とに間隙を認める(C.).b:右眼フルオレセイン染色.角膜内皮機能不全から角膜上皮欠損を引き起こしていた(C.).c:右眼前眼部COCT画像.水平中央断では,耳側から鼻側に及ぶホスト角膜と移植片とに広い間隙を認める(C.).図2DSAEK術翌日の画像所見a:右眼前眼部.ホスト角膜と移植片とにわずかながら間隙を認める(C.).b:右眼前眼部COCT画像.中央部から耳上側にかけてホスト角膜と移植片とに間隙を認める(C.).図3追加処置後の画像所見a:前眼部所見.ホスト角膜と移植片との間隙は消失した.Cb:前眼部COCT画像.ホスト角膜と移植片との接着は良好であった.いる7).このような移植片の脱落を防ぐには,術終了時に十分な量の空気を注入する必要がある3).本症例では,DSAEK術後に移植片の接着不良があり,移植片の縫合が追加されたが,接着不良の状態が継続した.術眼である右眼は,無硝子体眼であり,かつ眼内レンズが.内固定ではなく縫着されていたことから,術中の前房内圧が上がりにくかったことが推測され,DSAEK術後に移植片の接着不良を生じた原因の一つとなった可能性が考えられた.また,DSAEK移植片は,移植片作製や保存期間などにも影響をうけるため8,9),術前にすでに,移植片の角膜内皮細胞密度が減少していることがあり,本症例においてもその可能性は否定できない.Priceらの報告によると,263眼の角膜内皮移植後の角膜内皮細胞密度は,術後C6カ月においてC2,000C±550Ccell/mm2であり,平均減少率はC34C±18%であった.そのなかで,術後に移植片の接着不良を認め,前房内空気注入を行った症例はC17眼(6.5%)あり,これらC17眼の術後C6カ月での角膜内皮細胞密度の減少率はC45C±20%と,接着良好例と比較し,減少率が有意に高かったと報告した10).また,中川らはDSAEK術後の角膜内皮細胞密度減少について,術後移植片接着不良例において前房内空気再注入を行ったところ,再注入を行わなかった例と比較し,角膜内皮細胞密度の減少率が有意に高かったと報告した.ただし,1回のみの再注入に関しては,角膜内皮細胞密度の減少率には有意差はなく,複数回に及ぶ前房内空気再注入が,角膜細胞密度減少の危険因子となると指摘した11).b-1b-2b-3図4摘出した移植片のアリザリンレッド染色像(強拡大の図をつなぎ合わせて作成)Ca:移植片全体の染色像.角膜内皮細胞は全体的にモザイク状に減少している.Cb-1,2,3:染色した移植片の拡大図.白色に抜けている箇所は,角膜内皮細胞が消失していると考えられる(C.).本症例では,摘出した移植片をアリザリンレッドで染色したところ,ドナー角膜の内皮細胞密度がC2,571/mmC2からC12/mm2と著明に減少していた.角膜内皮細胞密度が減少した原因としては,摘出移植片の全体で角膜内皮細胞がモザイク状に減少していたことから,引き出し時の影響は考えにくく,移植片の作製や保存期間の影響,初回手術時の術中操作,移植片脱落,複数回の前房内空気注入による機械的な影響などが考えられた.CIV結論スペキュラーマイクロスコープでは観察が不可能である,DSAEK後に接着不良となった移植片を摘出しアリザリンレッド染色を行うことで,角膜内皮細胞の変形や,モザイク状の減少といった特異な所見を得た.今後さらに症例数を積み重ねることで,移植片接着不良と,角膜内皮細胞密度や形態との関連について知見が得られると考える.文献1)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendo-thelialkeratoplastyin50:eyesarefractiveneutralcorne-altransplant.JRefractSurgC21:339-345,C20052)市橋慶之,島.潤:角膜内皮移植術後の移植片偏位と接着不良.あたらしい眼科C26:637-638,C20093)天野史郎:DSAEKの術中術後合併症.眼科手術C24:404-408,C2011C4)SuhLH,YooSH,DeobhaktaAetal:ComplicationofDes-cemet’sCstrippingwithautomatedendothelialkeratoplasty.OphthalmologyC115:1517-1524,C20085)LeeCWB,CJacobsCDS,CMuschCDCCetal:DescemetC’sCstrip-pingCendothelialkeratoplasty:safetyCandoutcomes:aCreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Oph-thalmologyC116:1818-1830,C20096)GeroskiCDH,CEdelhouserHF:MorphometricCanalysisCofCtheCcornealCendothelium.CInvestCOphthalmolCVisCSciC30:C254-259,C19897)島.潤:角膜内皮移植の合併症.臨眼C66:211-214,C20128)YamazoeCK,CYamazoeCK,CShinozakiCNCetal:In.uenceCofCtheCprecuttingCandCoverseasCtransportationCofCcornealCgraftsforDescemetstrippingautomatedendothelialkera-toplastyConCdonorCendothelialCcellCloss.CCorneaC32:741-744,C20139)LassJH,BenetzBA,VerdierDDetal:Cornealendotheli-alCcellloss3yearsaftersuccessfulDescemetstrippingauto-matedCendothelialkeratoplastyinthecorneapreservationtimestudy:ACrandomizedCclinicalCtrial.CJAMACOphthal-molC135:1394-1400,C201710)PriceCMO,CPriceCFWJr:EndothelialCcellClossCafterCDes-cemet’sstrippingwithendothelialkeratoplastyin.uencingfactorsCandC2-yearCtrend.COphthalmologyC115:857-865,C200811)中川紘子,稲富勉,稗田牧ほか:Descemet’sstrippingautomatedCendothelialkeratoplasty術後における角膜内皮細胞密度の変化と影響因子の検討.あたらしい眼科C28:C715-718,C2011C