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アレルギー性結膜炎患者を対象としたエピナスチン塩酸塩 点眼液0.1%の8 週間投与による環境試験 ─ DE-114A 点眼液の第III 相長期投与試験の成績─

2022年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科39(7):993.998,2022cアレルギー性結膜炎患者を対象としたエピナスチン塩酸塩点眼液0.1%の8週間投与による環境試験─DE-114A点眼液の第III相長期投与試験の成績─高村悦子*1稲田和哉*2坂本佳代子*2藤島浩*3*1東京女子医科大学医学部眼科学講座*2参天製薬株式会社*3鶴見大学歯学部眼科学講座CSafetyandE.cacyofLong-TermAdministrationofEpinastineHydrochlorideOphthalmicSolution0.1%forAllergicConjunctivitisEtsukoTakamura1),KazuyaInada2),KayokoSakamoto2)andHiroshiFujishima3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,SchoolofMedicine,2)3)DepartmentofOphthalmology,TsurumiUniversity,SchoolofDentalMedicineCSantenPharmaceuticalCO.,LTD.,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の長期投与時の安全性と有効性を検討するため,アレルギー性結膜炎患者C121例を対象としたオープンラベルによる多施設共同試験を実施した.エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%をC1回C1滴,1日C2回,8週間点眼した.安全性について,副作用はC121例中C1例(0.8%)に眼充血を認めた.症状は軽度であり,点眼継続中に無処置で消失した.有効性について,眼そう痒感を含むすべての自覚症状スコアは,点眼開始C1週間後以降すべての評価時点において点眼開始時に比べて有意な減少を認めた.眼瞼結膜充血および眼球結膜充血の他覚的所見スコアは,点眼開始C1週間後以降すべての評価時点において,点眼開始時に比べて有意なスコア減少を認めた.以上より,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%のアレルギー性結膜炎患者に対するC8週間の長期点眼における安全性および有効性が確認された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCsafetyCandCe.cacyCofCtheClong-termCadministrationCofCepinastineChydrochlorideCophthalmicCsolution0.1%CforCallergicCconjunctivitis.CPatientsandMethods:ThisCopen-labelCmulticenterCstudyCinvolved121patientswithallergicconjunctivitisCinwhomC1CdropCofepinastinehydrochlorideCophthalmicCsolution0.1%CwasCadministeredCtwiceCdailyCforC8Cweeks.CResults:OfCtheC121Cpatients,CocularChyperemiaCwithCadverseCreac-tionswasobservedin1patient(0.8%)C,yetthesymptomsweremildandresolvedwithoutanytreatmentduringtheinstillationperiod.Comparedwithatbaseline,after1weekofinstillation,allsubjectivesymptomscores(includ-ingCocularitching)andCtheCobjectiveC.ndingsCscoresCofCpalpebralCconjunctivalChyperemiaCandCbulbarCconjunctivalChyperemiaCwereCsigni.cantlyCdecreasedCatCallCsubsequentCfollow-upCvisits.CConclusion:TheC.ndingsCinCthisC8-weekstudycon.rmthesafetyande.cacyofthelong-termadministrationofepinastinehydrochlorideophthal-micsolution0.1%forthetreatmentofallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):993.998,C2022〕Keywords:アレルギー性結膜炎,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%,長期投与試験.allergicconjunctivitis,epi-nastinehydrochlorideophthalmicsolution0.1%,long-termstudy.はじめに合親和性とインバースアゴニスト作用を有し,ヒスタミンアレルギー性結膜炎の治療には,安全性と有効性の面からCH1受容体拮抗作用を発揮するとともに,メディエーター遊抗アレルギー点眼薬が第一選択薬となっている1).なかでも離抑制作用も併せもつことにより,アレルギー性結膜炎に対エピナスチン塩酸塩は,ヒスタミンCHC1受容体に対し高い結する高い治療効果が期待できる2.7).〔別刷請求先〕高村悦子:〒162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:EtsukoTakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,SchoolofMedicine,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPANC表1主な選択基準および除外基準1)主な選択基準(1)同意取得時にC12歳以上で自覚症状を明確に表現できる被験者とし,性別は不問〔未成年(20歳未満)の場合,その代諾者(家族等で被験者の最善の利益を図りうる人)からも同意を得る.〕(2)同意取得時にアレルギー性結膜疾患に特有な臨床症状がある(3)治療期開始時に来院前C3日間(来院日を含む)に認められた眼そう痒感の平均が両眼ともに中等度(スコア値:++)以上,かつ,治療期開始時に両眼ともに眼そう痒感が中等度(スコア値:++)以上認められる(4)治療期開始時に治療期開始前C2年以内の検査で,I型アレルギー検査陽性であることが確認できる(問診での確認は不可)2)主な除外基準(1)外眼部もしくは前眼部の炎症性眼疾患(春季カタル,アトピー性角結膜炎,眼瞼炎等)又はドライアイを合併している(2)アレルギー性結膜炎以外の治療を必要とする眼疾患を有する(3)少なくとも片眼の矯正視力C0.1未満(4)治療期開始前C90日以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往を有する(5)涙点の閉塞を目的とした治療(涙点プラグ挿入術,外科的涙点閉鎖術等)を治療期開始前C30日以内まで継続していた(6)治療期開始前C7日以内に副腎皮質ステロイド,抗アレルギー薬,HC1受容体拮抗薬,非ステロイド抗炎症薬,免疫抑制薬及び血管収縮薬の眼局所投与製剤(点眼薬,眼軟膏,結膜下注射剤等)を使用したことがある(7)治療期開始前C3年以内にアレルギー性鼻炎等で減感作療法もしくは変調療法を行ったことがある(8)治験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(9)治験期間中に使用する予定の薬剤(エピナスチン塩酸塩)に対し,アレルギーの既往を有するエピナスチン塩酸塩を有効成分とする,1日C4回点眼のエピナスチン塩酸塩点眼液C0.05%(アレジオン点眼液C0.05%,参天製薬)がC2013年C9月に製造販売承認され,日常診療において,その安全性と有効性が確認されている8).エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%(アレジオンCLX点眼液C0.1%,参天製薬)は,0.05%に比べ動物実験で結膜組織中の滞留時間(持続性)が長く,抗ヒスタミン作用が強いことが基礎研究で確認されており,無症状期のアレルギー性結膜炎患者を対象とした結膜抗原誘発試験により,点眼C8時間後においても効果が持続することが検証されている.アレルギー性結膜炎は,その発症時期により季節性と通年性に分類されるが,日本においては,とくにスギ花粉の飛散時期に強い眼のかゆみや充血を訴える季節性アレルギー性結膜炎患者が多く,その症状のために日常生活におけるCQOLが大きく低下することが報告されている9).また,患者数の多いスギ花粉症においては約C3カ月間は症状が続き,通年性アレルギー性結膜炎患者においては,さらに長期の点眼治療が必要とされ,点眼薬の有効性とともに安全性が確保されていることがきわめて重要となる.そこで筆者らは,アレルギー性結膜炎患者を対象としてエピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の長期投与による安全性および有効性を検討した.CI対象および方法1.実施医療機関本試験はエピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の第CIII相長期投与試験として実施した.実施医療機関は医療法人社団信濃会左門町クリニック,医療法人平心会大阪治験病院および医療法人平心会CToCROMクリニックのC3施設であり,各医療機関の臨床試験審査委員会の承認を得たうえで実施された.なお,本試験はヘルシンキ宣言に従い,薬事法第C14条第C3項および第C80条のC2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.C2.対象試験の内容を十分に説明し,文書による同意を取得した季節性または通年性アレルギー性結膜炎患者で,選択基準および除外基準を満たす患者を対象とした(表1).C3.試験デザイン・投与方法本試験はC2017年C6月.2018年C5月に多施設共同オープンラベル試験として実施した.エピナスチン塩酸塩点眼液0.1%(1Cml中にエピナスチン塩酸塩をC1Cmg含有する無色澄明の水性点眼液)をC1回C1滴,1日C2回,8週間点眼した.C4.検査・観察項目点眼開始からC8週間の試験期間中に有効性と安全性を確認するため,点眼開始C7日後,14日後,28日後,42日後,56日後のそれぞれで検査観察を行った.来院ごとに問診にて来院前C3日間(来院日を含む)に認められた自覚症状の平均的な程度を確認し,眼そう痒感は0.4のC5段階,眼脂,流涙,異物感はC0.3のC4段階で評価した.他覚的所見はアレルギー性結膜疾患の臨床評価基準1)に基づき,眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,巨大乳頭,乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(Trantas斑,腫脹)と角膜(角膜上皮障害)に関して細隙灯顕微鏡を用いてそれぞれ0.3のC4段階で評価した.C5.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,投与経路を問わずすべての眼局所投与製剤,他の被験薬およびエピナスチン塩酸塩は禁止した.また,試験期間中の併用療法に関しては,免疫療法,コンタクトレンズの装用,眼洗浄など薬効評価に影響を及ぼすと考え表2被験者背景項目例数(%)病型季節性通年性75人(C62.0%)46人(C38.0%)年齢平均±標準偏差C最小.最大43.5±13.1歳12.7C1年齢分類12.C1516.C6465.8(6C.6%)歳105(C86.8%)8(6C.6%)性別男52(C43.0%)女69(C57.0%)治療期開始日の眼そう痒感スコア平均±標準偏差C3.1±0.4C24(3C.3%)C399(C81.8%)C418(C14.9%)治療期開始日の眼瞼結膜充血スコア平均±標準偏差C1.4±0.7C010(8C.3%)C162(C51.2%)C244(C36.4%)C35(4C.1%)治療期開始日の眼球結膜充血スコア平均±標準偏差C1.0±0.8C030(C24.8%)C163(C52.1%)C223(C19.0%)C35(4C.1%)られる療法を禁止した.C6.評価方法a.安全性の評価有害事象および副作用,臨床検査,眼科的検査をもとに安全性を評価した.Cb.有効性の評価有効性評価眼は,被験薬点眼開始前のアレルギー性結膜炎症状のうち眼そう痒感スコアの高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.自覚症状の評価項目は,眼そう痒感,眼脂,流涙,異物感の変化量の推移,他覚的所見の評価項目は,眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,巨大乳頭,乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(Trantas斑,腫脹),角膜上皮障害の変化量の推移とした.C7.解析方法a.安全性解析対象被験薬を少なくともC1回点眼し,安全性に関するなんらかの情報が得られている被験者を安全性解析対象集団とした.Cb.有効性解析対象最大の解析対象集団を有効性の解析検討に使用し,点眼前後の比較には対応のあるCt検定を用いた.検定の有意水準は両側C5%とした.なお,自覚症状,他覚的所見において,治療期開始日以降がすべて症状なしであった被験者は,当該検査項目の解析から除外した.CII結果1.被験者の構成試験に組入れられた被験者はC121例であり,このうち被験薬が点眼された被験者はC121例であった.被験薬点眼開始後C1例が試験を中止し,120例が試験を完了した.安全性解析対象集団における被験者背景を表2に示した.C2.安全性有害事象および副作用治療期間中には有害事象がC121例中C18例に認められ,そのうち被験薬との因果関係が否定できない副作用は眼充血C1例(0.8%)であった.重症度は軽度であり,点眼継続中に無処置で速やかに消失した.細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,視力検査,眼底検査および臨床検査値において,被験薬点眼前後で医学的に問題となる変動は認められなかった.スコア4.03.5***3.0***2.52.0******1.51.00.5******0.0******-0.5点眼開始時7日後14日後n=121121120104104103111111110113113112眼そう痣感眼脂流涙異物感***平均値±標準偏差***:p<0.001対応のあるt検定(vs点眼開始時)*********************************28日後42日後56日後120120103103110110112112図1自覚症状スコアの経時推移120103110112来院ごとに問診にて来院前C3日間(来院日を含む)に認められた自覚症状の平均的な程度を確認し,眼そう痒感はC0.4のC5段階,眼脂,流涙,異物感はC0.3のC4段階で評価した.眼そう痒感を含むすべての自覚症状スコアは,点眼開始1週間後以降すべての評価時点において点眼開始時に比べて有意な減少を認めた.3.有効性a.自覚症状眼そう痒感を含むすべての自覚症状スコアは,点眼開始C7日後以降,すべての評価時点において点眼開始時に比べて有意な減少を認めた(p<0.001,対応のあるCt検定).なお,自覚症状において,治療期開始日以降がすべて症状なしであった被験者は,眼そう痒感C0例,眼脂C17例,流涙C10例,異物感C8例であり,当該検査項目の解析から除外した(図1).Cb.他覚的所見眼瞼結膜充血,腫脹,乳頭は,点眼開始C7日後以降,眼瞼結膜濾胞は点眼開始C14日後以降すべての評価時点において,点眼開始時に比べて有意なスコア減少を認めた(p<0.001,対応のあるCt検定).眼球結膜充血,浮腫は点眼開始7日後以降すべての評価時点において,点眼開始時に比べて有意なスコア減少を認めた(p<0.001,対応のあるCt検定).角膜上皮障害スコアは,点眼開始C42日では点眼開始時に比べて有意な減少を認めたが(p<0.05,対応のあるCt検定),その他の評価時点で有意な変動は認めなかった(対応のあるt検定)(図2).なお,他覚的所見において,治療期開始日以降がすべて所見なしであった被験者は,眼瞼結膜充血C4例,眼瞼結膜腫脹49例,眼瞼結膜濾胞C74例,眼瞼結膜乳頭C39例,眼球結膜充血C18例,眼球結膜浮腫C92例,角膜上皮障害C104例であり,当該検査項目の解析から除外した.また,輪部CTrantas斑および輪部腫脹については,解析対象例数がC5例以下となったため,有効性の検討は行わなかった.III考察本試験では,用法・用量をC1回C1滴,1日C2回点眼として,日本人のアレルギー性結膜炎患者を対象に,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の長期投与(8週間)による安全性および有効性を検討した.点眼期間の設定根拠については,季節性の場合には臨床で使用される期間はC8週間程度であると想定して設定した.エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の安全性として,治療期間中に認められた副作用は,眼充血C1例のみで,被験薬点眼開始C21日後までに発現しており,長期投与により発現率が上昇することはなかった.また,副作用は軽度であり,点眼継続中に消失したことから,本剤の長期投与における安全性および忍容性に問題はないと考えられた.日本の多くの地域では,毎年C3月,4月にスギ花粉の大量飛散が報告され,約C2カ月間にわたる治療薬の継続使用が想定される.また,スギ花粉のみでなく複数の花粉抗原に感作されている場合や,通年性アレルギー性結膜炎ではさらに長期間の継続使用が必要となり,治療に用いる点眼薬の安全性は重要である.エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%は防腐剤無添加の製剤であり,角結膜上皮障害やソフトコンタクトレンズへの吸着などの問題が起こりくいことが考えられる.他の眼疾患の治療のために点眼薬をすでに使用している場合やソフトコンタクトレンズ装用者に対しても,抗アレルギー点眼薬として選択しやすい.有効性について,眼そう痒感を含むすべての自覚症状ならスコアa:眼瞼所見スコア(眼瞼結膜充血,眼瞼結膜腫脹,眼瞼結膜濾胞,眼瞼結膜乳頭)2.5眼瞼結膜充血眼瞼結膜腫脹2.0******眼瞼結膜濾胞眼瞼結膜乳頭1.5******************平均値±標準偏差***:p<0.0011.0******対応のあるt検定(vs点眼開始時)0.50.0***************************-0.5点眼開始時7日後14日後28日後42日後56日後n=117117116116116116727272727272474746464646828282828282b:眼球所見スコア(眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害)スコア図2他覚的所見スコアの経時推移他覚的所見はアレルギー性結膜疾患の臨床評価基準1)に基づき,眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,巨大乳頭,乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(Trantas斑,腫脹)と角膜(角膜上皮障害)に関して細隙灯顕微鏡を用いてそれぞれC0.3のC4段階で評価した.眼瞼結膜充血および眼球結膜充血の他覚的所見スコアは,点眼開始C1週間後以降すべての評価時点において,点眼開始時に比べて有意なスコア減少を認めた.-0.5点眼開始時7日後14日後28日後n=1031031031032929292917171717びに,眼瞼結膜充血および眼球結膜充血スコアをはじめとする他覚的所見スコアの多くは,点眼開始C1週間後より有意な減少を認め,その後の点眼期間を通じて維持された.このことから,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%は点眼開始後,早期より有効性を示し,8週間にわたり有効性が維持され,効果は減弱しないことが確認された.季節性アレルギー性結膜炎でC1日C4回の抗ヒスタミン点眼薬を処方されたC1,008例の患者を対象に行ったアンケート調42日後56日後10310329291717査10)では,症状が楽なときには,9割の患者が必要な回数を点眼できておらず,多くの患者が「痒い時に点眼する」行動をとること,そして「日中忙しいとき」や「症状がないとき」に点眼を忘れる傾向がみられることを報告している.さらに,日本アレルギー性結膜疾患標準CQOL調査票11)を用いてアレルギー性結膜炎に関連する支障度と点眼の遵守状況との関連を調べると,点眼回数を守り,だいたい決まった時間に点眼していた「用法遵守群」では,回数や点眼時間が抗原曝露の状況などにより日々変動する「用法逸脱群」に比べ,アレルギー性結膜炎による生活への支障度は低い結果となっている.また,スギ・ヒノキ花粉症患者で点眼治療を受けている2,161人を対象として,点眼薬に期待することを調査した結果12)によれば,点眼回数は,「1日C4回(朝,昼,夕,就寝前)」がC10%であったのに対して,「1日C2回(朝,夕)」は43%であった.また,「効果が長続きする」はC64%と高い意向がみられた.アレルギー性結膜炎の治療の実態と患者の意向が示すように,より少ない点眼回数で十分な効果を発揮する抗アレルギー点眼薬は,点眼アドヒアランス(遵守)の向上とともに,学校生活や勤務時間など点眼がむずかしい時間帯での点眼を不要とすることが可能となる.さらに,症状が出ていない,またはわずかに症状が出始める時期から開始する初期療法に用いる場合にも,点眼回数が少なければ,忘れずに継続しやすい.このように効果が持続し,点眼回数がC1日C2回に減少することに伴う患者メリットが期待できる.本試験の結果から,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%は眼そう痒感や結膜充血などのアレルギー性結膜炎の症状を早期に改善し,アレルギー性結膜炎患者に対する長期点眼における安全性についても忍容性を有し,1日C2回点眼で臨床上必要となる抗ヒスタミン作用を示す有用性の高い点眼薬であることが示唆された.利益相反エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の第CIII相長期投与試験は,参天製薬株式会社により企業主導治験として実施された.共同筆者の稲田和哉と坂本佳代子は,参天製薬株式会社の社員である.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌114:829-870,C20102)MatsumotoCY,CFunahashiCJ,CMoriCKCetal:TheCnoncom-petitiveCantagonismCofChistamineCH1CreceptorsCexpressedCinCChineseChamsterCovaryCcellsCbyColopatadineChydrochlo-ride:itsCpotencyCandCmolecularCmechanism.CPharmacolo-gyC81:266-274,C20083)MizuguchiCH,COnoCS,CHattoriCMCetal:UsefulnessCofCHelaCcellsCtoCevaluateCinverseCagonisticCactivityCofCantihista-mines.IntImmunopharmacolC15:539-543,C20134)FugnerCA,CBechtelCWD,CKuhnCFJCetal:InCvitroCandCinvivoCstudiesCofCtheCnon-sedatingCantihistamineCepinastine.CArzneimittel-Forschung/DrugCResearchC38:1446-1453,C19885)TasakaCK,CAkagiCM,CIzushiCKCetal:AntiallergicCe.ectCofepinastine:theCelucidationCofCtheCmechanism.CPharmaco-metricsC39:365-373,C19906)MatsushitaCN,CAritakeCK,CTakadaCACetal:Pharmacologi-calCstudiesConCtheCnovelantiallergicCdrugCHQL-79:II.CElucidationCofCmechanismsCforCantiallergicCandCantiasth-matice.ects.JpnJPharmacolC78:11-22,C19987)KameiCC,CMioCM,CKitazumiCKCetal:AntiallergicCe.ectCofepinastine(WALC801CL)onCimmediateChypersensitivityreactions:(II)Antagonistice.ectofepinastineonchemi-calmediators,mainlyantihistaminicandanti-PAFe.ects.ImmunopharmacolImmunotoxicolC14:207-218,C19928)高村悦子,大嵜浩孝,野村明生ほか:エピナスチン塩酸塩(アレジオンR)点眼液C0.05%の医療実態下における安全性・有効性及び患者満足度─使用成績調査結果報告─.アレルギー・免疫25:1-11,C20189)深川和己:アレルギー性結膜疾患患者に対する治療実態および治療ニーズ調査─人口構成比に基づくインターネット全国調査─.アレルギー・免疫15:1554-1565,C200810)深川和己,庄司純,福島敦樹ほか:季節性アレルギー性結膜炎患者におけるCWebアンケートを用いた抗ヒスタミン点眼薬の点眼遵守状況によるCQOLへの影響.アレルギーの臨床39:29-41,C201911)深川和己,藤島浩,福島敦樹ほか:アレルギー性結膜疾患特異的Cqualityoflife調査票の確立.日眼会誌116:494-502,C201212)中川やよい:スギ・ヒノキによる季節性アレルギー性結膜炎患者アンケート調査.ProgressCinCMedicineC33:2517-27,C2013C***

アレルギー性結膜炎における自覚症状評価を目的としたFacial Imaging Scale(FISA)の検討

2016年2月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(2):301.308,2016cアレルギー性結膜炎における自覚症状評価を目的としたFacialImagingScale(FISA)の検討稲田紀子*1髙橋恭平*2石田成弘*2朝生浩*1庄司純*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2参天製薬株式会社研究開発本部育薬室DevelopmentofNovelFacialImagingScale(FISA)forAssessingSubjectiveSymptomsofPatientswithAllergicConjunctivitisNorikoInada1),KyoheiTakahashi2),NaruhiroIshida2),HiroshiAso1)andJunShoji1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)GlobalResearch&DevelopmentDivision,JapanMedicalAffairs,SantenPharmaceutical,Co.,Ltd.目的:アレルギー性結膜疾患患者の自覚症状を評価するために新たに開発したフェイススケール(FISA)の有用性の評価.対象および方法:対象はアレルギー性結膜炎患者17例.方法は,エピナスチン点眼薬0.05%を投与した群(エピナスチン群)とクロモグリク酸ナトリウム2%点眼薬を投与した群(SCG群)とに分類し,点眼前から点眼開始後7日間の自覚症状の程度と種類について,FISAとverbalratingscale(VRS)とにより検討した.結果:アレルギー性結膜炎全例においてFISAを用いて評価した自覚症状の程度は,VRSを用いて評価した痒みの程度と有意に相関した(r=0.57;p<0.0001).エピナスチン群では,FISAによって評価した自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)が,点眼開始後2日目より有意に低下した(p<0.05).結論:FISAは,アレルギー性結膜炎患者の自覚症状および治療効果判定に有用な検査法であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyofanovelfacialimagingscale(FISA)forassessingsubjectivesymptomsofpatientswithallergicconjunctivaldiseases.Methods:17patientswithallergicconjunctivitis(AC)wererandomlydividedintotwogroups.Eachgroupreceivedeither0.05%epinastinehydrochloride(epinastinegroup)or2%sodiumcromoglicate(SCG)(SCGgroup).Theintensityandvarietyofsymptomswereevaluateddailyfrombaseline(beforetreatment)today7usingFISAandverbalratingscale(VRS).Results:TheintensityofsubjectivesymptomsobtainedusingFISAwassignificantlycorrelatedwithocularitchingscorescalculatedusingtheVRS(r=0.57;p<0.0001)inallACpatients.Intheepinastinegroup,theintensityofFISAsubjectiveACsymptomscoresdecreasedsignificantlyafterdaytwocomparedtobaseline(p<0.05).Conclusion:FISAisausefultoolforevaluatingsubjectivesymptomsandtherapeuticefficacyinACpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):301.308,2016〕Keywords:アレルギー性結膜炎,フェイススケール,ヒスタミンH1受容体拮抗薬,クオリティーオブライフ,自覚症状.allergicconjunctivitis,facialimagescale,histamineH1receptorantagonist,qualityoflife,subjectivesymptoms.はじめにアレルギー性結膜炎は,即時型アレルギー反応を基本病態とする結膜の炎症性疾患である1).アレルギー性結膜炎の自覚症状は,眼掻痒感,異物感,充血,眼脂および流涙が代表的なものとされており2,3),他覚所見としては,結膜充血や結膜浮腫に加え,上眼瞼結膜に乳頭形成がみられることが特徴とされる4).アレルギー性結膜炎患者では,自覚症状の重症化によりqualityoflife(QOL)が低下することが問題視されており,自覚症状の程度を正確に診断して治療に反映させることは,アレルギー性結膜炎の治療目標を設定するうえで重要であると考えられる5,6).さらに,日々の診療においては,簡易な方法により医師や医療スタッフと患者とが自覚症〔別刷請求先〕稲田紀子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:NorikoInada,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-Kamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(141)301 状の程度を共有することができれば,アレルギー性結膜炎治療の質は確実に向上すると考えられる.自覚症状の評価法はこれまでにさまざまな方法が報告されており,代表的な評価法としてはvisualanalogscale(VAS),numericalratingscale(NRS),verbalratingscale(VRS),フェイススケールなどが報告されている7.10).フェイススケールは,症状の程度を言葉で表現する代わりに人間の表情の図で評価する方法である.Backerら8)は,痛みに関する代表的facescaleとしてWong-BackerFACESpainratingscaleを発表している.この方法は笑顔から泣顔までの6段階の表情で痛みの程度を評価する方法で,言葉の意味や検査方法を十分に理解しなくとも簡単に検査できる利点があり,他の痛みの評価スケールともよく相関するとされている8,9,11.13).一方,眼掻痒感はアレルギー性結膜炎の自覚症状の程度を評価するための代表的症状とされ,痒みの程度はVASなどにより定量的評価が試みられている6,14).アレルギー性結膜炎患者の自覚症状をより正確に評価するためには,眼掻痒感,充血,眼脂などを含めた自覚症状の総合的評価が必要であると考えられる.しかし,これまでの自覚症状の評価法に関しては,単独の症状を評価する方法としては優れているものの,複数の症状を評価する場合には,繰り返し同様の検査を行わなくてはならないという欠点もある.今回筆者らは,アレルギー性結膜炎の自覚症状の総合評価を行うためのフェイススケールとしてFacialImageScaleforallergicconjunctivaldiseases(FISA)を開発し,その臨床的有用性について検討した.また,抗アレルギー点眼薬によりアレルギー性結膜炎治療を行う際に,その治療効果判定におけるFISA使用の有用性について検討する目的で,メディエーター遊離抑制点眼薬であるクロモグリク酸ナトリウム(SCG)点眼薬またはヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬であるエピナスチン点眼薬で治療を行ったアレルギー性結膜炎患者の自覚症状についても検討した.I対象および方法本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を受けて実施した.1.対象対象は,2013年1月.2014年6月に日本大学医学部附属板橋病院眼科または庄司眼科医院を受診した患者で,①アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン1)の診断基準に従って準確定診断した症例,②治療開始時に点眼薬治療が行われていない症例の2項目の診断基準を満たし,研究参加への同意が得られた患者とした.また,アレルギー性結膜炎以外の眼疾患を有する症例および治療中にコンタクトレンズ装用を中止できない症例は本研究から除外した.302あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016対象症例は17例で,ランダム化割り付けによりSCG群7例[平均年齢:14.4±22.9(±標準偏差)歳,レンジ:7.30歳,性差1:6(男性:女性)]とエピナスチン群10例(32.1±22.9歳,レンジ:10.68歳,性差2:8)とに分類した.SCG群は,クロモグリク酸ナトリウム点眼薬(インタールR点眼液2%,サノフィ)1回1滴,1日4回点眼を7日間行い,エピナスチン群は,エピナスチン点眼薬(アレジオンR点眼液0.05%,参天製薬)1回1滴,1日4回点眼を7日間行った.2.FacialImageScaleforallergicconjunctivaldiseases(FISA)FISAは,日本大学医学部視覚科学系眼科学分野で開発したアレルギー性結膜疾患の自覚症状評価スケールである.FISAは症状の程度を総合評価するstep1と症状の種類を問うstep2との2段階で評価を行う方法である(図1).Step1は,自覚症状の総合評価を快適から不快までの5段階の表情で評価する方法で,結果は「自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)」として記録した.患者には,現在の自覚症状の程度に一致する表情を1つ選択させた.Step2は,快適または症状軽快(symptomA),眼掻痒感(symptomB),異物感(symptomC),充血(symptomD),流涙(symptomE),眼脂(symptomF)の6項目の自覚症状の有無を評価する方法である.患者には1日のなかで自覚した症状をすべてチェックさせ,複数回答は可とした.また,患者に対して各表情の説明は行わずに検査を施行した.3.Verbalratingscale(VRS)FISAを施行すると同時に,眼掻痒感をVRSで評価した.VRSは,「痒くない」(1点)「少し痒い」(2点),「痒い」(3点),「すごく痒い」(4点)とし(,)て評価し,「VRS眼掻痒感スコア」として記録した.4.他覚所見細隙灯顕微鏡による他覚所見は,5-5-5方式重症度観察スケールを用いて評価した15).5-5-5方式重症度観察スケールは,軽症所見(瞼結膜充血・球結膜充血・上眼瞼結膜乳頭増殖・下眼瞼結膜濾胞・涙液貯留)を各1点,中等症所見(眼瞼炎・ビロード状乳頭増殖・トランタス斑・球結膜浮腫・点状表層角膜炎)を各10点,重症所見(活動性巨大乳頭・輪部堤防状隆起・落屑状点状表層角膜炎・シールド潰瘍・下眼瞼乳頭増殖)を各100点で評価し,観察された他覚所見の合計点数を0.555点までの臨床スコアとして算出した.5-55方式重症度観察スケールの結果は,「他覚所見臨床スコア」として記録した.5.検討項目自覚症状は点眼開始日から点眼開始後7日目までの間,FISAおよびVRSを毎日記録して検討した.また,他覚所見は点眼開始日と点眼開始後7日目に5-5-5方式重症度観(142) Step1:総合評価12質問:今日の症状の程度を顔の表情で表すとどれですか.(1つ選択)345Step2:症状の種類質問:今日1日の間に自覚した症状を顔の表情で表すとどれですか.(複数選択可)ABCDEF図1FacialimagingScaleforallergicconjunctivaldiseases(FISA)FISAはアレルギー性結膜疾患患者が2種類の質問に対して,自身の現在の自覚症状に相当するフェイスを選択して回答する自覚症状検査である.FISAは,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)とstep2:自覚症状の種類とに分かれており,2段階での評価を行う.察スケールを用いて検討した.2による個々の症状の出現頻度は,点眼開始日と点眼開始後検討項目は,①全回答におけるFISAstep2での「快適5日目をFisher直接確率により比較検討した.SCG群およな症状(symptomA)」の出現の有無で分類した2群間の自びエピナスチン群の他覚所見臨床スコアは,Wilcoxon’s覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の比較,②全回答signedranktestで検討した.における自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)とFISAII結果step2の不快な症状(symptomB.symptomF)の合計数またはVRS眼掻痒感スコアとの関係,③SCG群とエピナスチ1.アレルギー性結膜炎におけるFISAによるン群における点眼開始日から点眼開始後7日目までの毎日の自覚症状総合スコアの評価VRS眼掻痒感スコアおよび自覚症状総合スコア(FISAstep対象症例17例におけるアレルギー性結膜炎の症状の程度1スコア)の検討,④SCG群およびエピナスチン群におけるを示す点眼前検査において,自覚症状総合スコア(FISA点眼開始日と点眼開始後7日目の他覚所見臨床スコアの比較step1スコア)は3.6±0.9点(平均±標準偏差)であった.である.また,FISAstep2での各症状の出現頻度は,SymptomA6.統計学的検討が4/17例(23.5%),SymptomBが6/17例(35.3%),快適な症状(symptomA)の有無で分類した自覚症状総合SymptomCが8/17例(47.1%),SymptomDが3/17例スコア(FISAstep1スコア)の比較は,Mann-Whitney(17.6%),SymptomEが3/17例(17.6%),SymptomFがU-testで検定した.また,自覚症状総合スコア(FISAstep2/17例(11.8%)であった.VRSスコアは,1.6±0.9点(平1スコア),VRS眼掻痒感スコアおよび他覚所見臨床スコア均±標準偏差)であった.との間の相関関係のスクリーニングとして,点眼前検査の検自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア),VRS眼掻痒査結果に対して偏相関検定を行った.さらに,すべての検査感スコアおよび他覚所見臨床スコアの間の相関関係のスクリ結果に対する自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)とーニングとして,点眼前検査の検査結果について偏相関検定FISAstep2の不快な症状の合計数との関係,および自覚症を施行した結果は,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコ状総合スコア(FISAstep1スコア)とVRS眼掻痒感スコアア)とVRS眼掻痒感スコアとの間に有意な相関(p=0.026)との関係は,Spearmanrankcorrelationcoefficientで検討がみられたが,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)した.SCG群とエピナスチン群における点眼開始日から点と他覚所見臨床スコアとの間(p=0.225)およびVRS眼掻痒眼開始後7日目までの毎日のVRS眼掻痒感スコアおよび自感スコアと他覚所見臨床スコアとの間(p=0.613)に有意な覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は,Shirley-Wil相関はみられなかった.liamstestで検討した.エピナスチン群におけるFISAstep本研究では,期間中に17症例から116回(無回答3回)(143)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016303 12345***CFP群自覚症状総合スコア[FISAstep1,(点)]a123450123b不快な症状の総数[FISAStep2(face)]自覚症状総合スコア[FISAstep1(点)]123451234眼掻痒感スコア[VRS(点)]c自覚症状総合スコア[FISAStep1(点)]CFN群図2自覚症状総合スコアと自覚症状の種類またはverbalratingscale(VRS)との関係a:FISAstep2での快適(SymptomA)を含む回答群(comfortablefacepositive:CFP群)(n=33)は,快適(SymptomA)を含まない回答群(comfortablefacenegative:CFN群)(n=83)と比較して,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)が有意に低値であった.***p<0.0001,Mann-WhitneyU-test.b:自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は,FISAstep2により陽性であった自覚症状の種類の合計数と有意に相関した(r=0.49,p<0.0001,Spearmanrankcorrelationcoefficient).c:自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は,VRS眼掻痒感スコアと有意に相関した(rcoefficient).のFISAおよびVRSの回答を得た.116の回答は,快適(SymptomA)を含む回答群(comfortablefacepositive:CFP群)(n=33)と快適(SymptomA)を含まない回答群(comfortablefacenegative:CFN群)(n=83)とに分類し,各群のFISAstep1スコアを比較した.CFP群の自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)2.5±0.8点(平均±標準偏差)は,CFN群の自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)3.4±0.9点と比較して有意に低値を示した(p<0.0001,Mann-WhitneyU-test)(図2a).さらに,FISAstep2におけるSymptomBからSymptomFまでの不快な症状の合計数は,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)と有意な相関を示した(r=0.49;p<0.0001,Spearmanrankcorrelationcoefficient)(図2b).自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)とVRS眼掻痒感スコアも有意な相関を示した(r=0.57;p<0.0001,Spearmanrankcorrelationcoefficient)(図2c).2.FISAおよびVRSによる抗アレルギー点眼薬のアレルギー性結膜炎に対する治療評価VRS眼掻痒感スコアにおいて,エピナスチン群は点眼前と比較して点眼開始後5日目以降で痒みスコアが有意に低下した(p<0.05,Shirley-Williamstest)(図3).しかし,SCG304あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016=0.57,p<0.0001,Spearmanrankcorrelation群では有意な痒みスコアの低下はみられなかった.自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)を用いた評価において,エピナスチン群は点眼前と比較して点眼開始後2日目以降でFISAstep1スコアが有意に低下した(p<0.05,Shirley-Williamstest)(図4).しかし,SCG群では有意な自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の低下はみられなかった.7日間でみられたFISAstep2の症状出現パターンは,不快な症状を示すSymptomBからFだけのもの(図5,代表症例1)と不快な症状と快適な症状(SymptomA)とが混在するもの(図5,代表症例2)とに分かれた.そこで,VRS眼掻痒感スコアおよび自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)ともに有意に低下した点眼開始後5日目のエピナスチン群のFISAstep2の結果を,点眼前のFISAstep2の結果と比較検討したところ,快適な症状(SymptomA)の出現頻度は点眼前と比較して点眼開始後5日目で有意に上昇した(p<0.05,Fisher’sexacttest)(図6).5-5-5方式重症度観察スケールを用いた他覚所見臨床スコアにおいて,エピナスチン群では,点眼前と比較して点眼開始後7日目では臨床スコアが有意に低下した(p<0.05,Mann-WhitneyU-test)(図7a).また,SCG群での臨床スコアは,点眼前と比較して点眼開始後7日目では低下傾向を(144) 00.511.522.51日目(点眼前)2日目3日目4日目5日目6日目7日目:エピナスチン群:SCG群眼掻痒感スコアの比率***00.20.40.60.811.21.41.61.81日目(点眼前)2日目3日目4日目5日目6日目7日目******自覚症状総合スコアの比率:エピナスチン群:SCG群00.20.40.60.811.21.41.61.81日目(点眼前)2日目3日目4日目5日目6日目7日目******自覚症状総合スコアの比率:エピナスチン群:SCG群図3エピナスチン群およびSCG群におけるVRS眼掻痒感スコアの検討各観察日におけるVRS眼掻痒感スコアを,点眼前のVRS眼掻痒感スコアとの比で示した.エピナスチン群において,VRS眼掻痒感スコアは点眼開始後5日目以降で有意に低下した.*:p<0.05,Shirley-Williamstest.代表症例113歳・女子図4エピナスチン群およびSCG群における自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の検討各観察日における自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)を,点眼前の自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)との比で示した.エピナスチン群において,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は点眼開始後2日目以降で有意に低下した.*:p<0.05,Shirley-Williamstest.代表症例228歳・女性図5FISAstep2の回答例代表症例1は13歳,女子.エピナスチン点眼治療後4日目のFISAstep2の回答を示した.代表症例2は28歳,女性.エピナスチン点眼治療後5日目のFISAstep2の回答を示した.回答は,快適(SymptomA)と不快な症状である眼掻痒感(SymptomB)と眼脂(SymptomF)がチェックされている.示したが,統計学的有意差はなかった(図7b).III考按今回筆者らは,アレルギー性結膜炎の自覚症状を数値化し半定量的に検討することを目的として,FISAを開発した.アレルギー性結膜炎患者では,眼掻痒感,異物感,充血,眼脂,流涙が代表的自覚症状であるとされているほか,眼乾燥感や眼疲労感の訴えもみられるとされ,これらの自覚症状によりQOLが低下すると考えられている2,3).したがって,アレルギー性結膜炎の自覚症状の変化を正確に診断し治療に反映させることは,アレルギー性結膜炎診療において重要なアプローチ方法であると考えられる.FISAを開発するにあたり,筆者らは以下の条件を満たす(145)臨床検査法であることを目標とした.目標とした条件は,①小児も含め,いずれの年代でも簡便に行える検査法であること,②自覚症状の総合評価が行えること,③出現している自覚症状の種類を把握できること,④アレルギー性結膜炎の自覚症状として比較的特異度の高い症状を検査することである.したがって,FISAは自覚症状の程度を評価するstep1と種類を評価するstep2とからなり,小児でも十分検査が可能になるように選択肢はすべてフェイススケールとした.今回検討した結果では,程度を評価する自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)はVRS眼掻痒感スコアとよく相関した.しかし,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)はFISAstep2の自覚症状の種類の合計ともよく相関していることから,眼掻痒感は自覚症状の程度を評価することのあたらしい眼科Vol.33,No.2,2016305 *NDND*NDND(n=10)■:点眼前■:点眼開始後5日目7060出現率(%)50403020100SymptomASymptomBSymptomCSymptomDSymptomESymptomF図6FISAstep2における自覚症状の種類の出現頻度の変化エピナスチン群における自覚症状の種類の出現頻度を点眼前と点眼後5日目とで比較した.点眼開始後5日目では,快適(SymptomA)出現率が点眼前と比較して有意に上昇した.*:p<0.05,Fisher’sexacttest.,ND:notdetected.ab*NS301614他覚所見臨床スコア(点)他覚所見臨床スコア(点)2520151051210864200点眼前7日目点眼前7日目エピナスチン群SCG群図7他覚所見臨床スコアの検討5-5-5方式重症度観察スケールにより他覚所見を臨床スコア化した.エピナスチン群における他覚所見臨床スコアは,点眼開始前と比較して点眼開始後7日目で有意に低下した.*:p<0.05,NS:notsignificant,Wilcoxon’ssignedranktest.できる代表的な自覚症状ではあるものの,アレルギー性結膜炎の自覚症状は眼掻痒感以外の症状も加わった複合的な症状であると考えられた.また,アレルギー性結膜炎における自覚症状の総合的評価を行うための検査法として自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は有用であると考えられた.日常診療における小児に対する自覚症状の評価として,「痒い」「痒くない」の2値変数が用いられることが多くみられる.しかしながら,2値変数での評価は必ずしも正確に自覚症状の程度を反映しているとはいえないと考えられる.本研究では対象者を成人に限定していないため,対象者のなかに多くの小児を含んでいるが,FISAの記録に関してはすべての症例で回答することができた.したがって,FISAは小児に対しても施行しやすい検査法であると同時に,自覚症状の程度がより詳細に検討できたと考えられた.306あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016さらに,筆者らはFISAによる自覚症状の検討を抗アレルギー点眼薬によるアレルギー性結膜炎の治療効果判定に用い,その有用性について検討した.FISAstep1による自覚症状の検討では,エピナスチン群で点眼後2日目より有意に自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の低下がみられたが,SCG群では有意な変化はみられなかった.これらの結果は,ヒスタミンH1受容体拮抗薬であるエピナスチン点眼薬は,比較的速やかにアレルギー性結膜炎の総合的な自覚症状を改善させる可能性を示していると考えられた.一方,メディエーター遊離抑制薬であるSCG群で7日間以内に自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の改善がみられなかったことは,メディエーター遊離抑制点眼薬は効果発現までに2週間程度を要するとされていることに関連している可能性が考えられた.また,5-5-5方式重症度観察スケールを(146) 用いて検討した他覚所見臨床スコアにおいても,エピナスチン群は点眼前と比較して,点眼後7日目で有意に他覚所見臨床スコアが低下していたのに対して,SCG群では低下傾向を示したが有意な低下ではなかった.これらの他覚所見から得られた結果とFISAによる自覚症状から得られた結果とが類似した結果であったことは,FISAがアレルギー性結膜炎に対する薬物療法の効果を正確に評価していることを示すものであり,メディエーター遊離抑制点眼薬とヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬と効果発現の相違を示すものでもあると考えられた.さらに過去の臨床研究では,アレルギー性結膜炎に対する治療薬にはSCG点眼薬よりもヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬を推奨する結果が報告されている16.18).今回の結果および既報から,アレルギー性結膜炎の点眼薬治療に即効性の治療効果を期待する場合は,ヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬は有用であると考えられた.一方,VRSによる眼掻痒感の検討では,エピナスチン群は点眼5日目以降にVRS眼掻痒感スコアの有意な低下がみられた.点眼誘発試験を用いたアレルギー性結膜炎に対する点眼治療に関する臨床研究では,エピナスチン点眼薬はプラセボと比較して眼掻痒感,結膜浮腫,流涙,充血に対する有効性が確認されている19).したがって,筆者らの結果はエピナスチン点眼薬の眼掻痒感に対する有効性を,FISAとVRSとを用いることによって日常臨床でも確認できることを示すことができたと考えられた.しかし,エピナスチン群において,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の結果とVRS眼掻痒感スコアとの間には,効果発現までの期間に乖離があった.これは,アレルギー性結膜炎において不快と感じる症状が眼掻痒感だけでないことを示しており,眼掻痒感以外の自覚症状に対してもエピナスチン点眼薬が有効であったために自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)がVRS眼掻痒感スコアよりも早期に低値を示すようになったと考えられた.また,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)が1段階変化するレベルとVRS眼掻痒感スコアが1段階変化するレベルに差があったため,スコアが変化する日数に差が生じた可能性も考えられた.すなわち,ヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬は,自覚症状に対する効果が十分に確認できるまで継続投与することが望ましいと考えられたが,その効果発現に関してはFISAを用いることにより正確に経過観察が可能になるものと考えられた.FISAstep2では,点眼前に行った検査により眼掻痒感(SymptomB)と異物感(SymptomC)がアレルギー性結膜炎で出現する頻度の高い自覚症状であることが示された.また,エピナスチン群において,FISAstep2で得られた点眼開始後5日目の自覚症状出現頻度を点眼前と比較したところ,異物感(SymptomC)と流涙(SymptomE)が低下していたが有意差はなかったのに対し,快適(SymptomA)は有(147)意に増加していた.さらに,対象症例全体で検討した結果では,快適(SymptomA)を含む回答群では快適(SymptomA)を含まない回答群と比較して自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)が有意に低値であった.代表症例2からわかるように,治療中のアレルギー性結膜炎症例のFISAstep2では,快適を示すフェイスと不快を示すフェイスが回答のなかに混在する.これらの結果から,自覚症状の種類から重症度や治療効果を判定する方法として,不快な症状の数や種類により判定することができると考えられるが,明確な重症度分類の作成は困難である.一方,自覚症状のなかに快適(SymptomA)が選択される場合には,自覚症状が軽症化したことを示す徴候と考えることができる.したがって,快適(SymptomA)の有無に注目して経過観察する方法は,治療効果を観察する場合に有用であると考えられた.今回の検討では,症例数や評価した点眼薬の種類が非常に限られていたが,今後は対象となるアレルギー性結膜疾患の病型や症例数を増やし,点眼薬の種類に副腎皮質ステロイド点眼薬や免疫抑制薬を加えた大規模研究により,アレルギー性結膜疾患全般における評価を検討する必要があると考えられた.筆者らの開発したFISAは,アレルギー性結膜炎患者の自覚症状の程度および治療効果判定を行う臨床検査法として有用であると考えられた.本研究は,日本大学医学部視覚科学系眼科学分野と参天製薬株式会社との共同研究による.稿を終えるにあたり,ご高閲を賜りました日本大学医学部視覚科学系眼科学分野湯澤美都子主任教授に深謝いたします.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,20102)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総IgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,20123)深川和己,藤島浩,福島敦樹ほか:アレルギー性結膜疾患特異的qualityoflife調査表の確立.日眼会誌116:494502,20124)LeonardiA:Allergyandallergicmediatorsintears.ExpEyeRes117:106-117,20135)VirchowJC,KayS,DemolyPetal:Impactofocularsymptomsonqualityoflife(QOL),workproductivityandresourceutilizationinallergicrhinitispatients―anobservational,crosssectionalstudyinfourcountriesinEurope.JMedEcon14:305-314,20116)BousquetPJ,DemolyP,DevillierPetal:Impactofallergicrhinitissymptomsonqualityoflifeinprimarycare.IntArchAllergyImmunol160:393-400,20137)ScottJ,HuskissonEC:Graphicrepresentationofpain.あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016307 Pain2:175-184,19768)WongDL,BakerCM:Paininchildren:comparisonofassessmentscale.PediatrNurs14:9-17,19889)LuffyR,GroveSK:Examiningthevalidity,reliability,andpreferenceofthreepediatricpainmeasurementtoolsinAfrican-Americanchildren.PediatrNurs29:54-59,200310)OhKJ,KimSH,LeeYHetal:Pain-relatedevokedpotentialinhealthyadults.AnnRehabilMed39:108115,201511)LorishCD,MaisiakR:Thefacescale:abrief,nonverbalmethodforassessingpatientmood.ArthritisRheum29:906-909,198612)KimEJ,BuschmannMT:ReliabilityandvalidityoftheFacePainScalewitholderadults.IntNursStud43:447456,200613)GarraG,SingerAJ,TairaBRetal:ValidationoftheWong-BackerFACESpainratingscaleinpediatricemergencydepartmentpatients.AcadEmergMed17:50-54,201014)CallebautI,SpielbergL,HoxVetal:Conjunctivaleffectsofaselectivenasalpollenprovocation.Allergy65:11731181,201015)ShojiJ,InadaN,SawaM:Evaluationofnovelscoringsystemusing5-5-5exacerbationgradingscaleforallergicconjunctivitisdisease.AllergolInt58:591-597,200916)JamesIG,CampbellLM,HarrisonJMetal:Comparisonoftheefficacyandtolerabilityoftopicallyadministeredazelastine,sodiumcromoglycateandplacebointhetreatmentofseasonalallergicconjunctivitisandrhino-conjunctivitis.CurrMedResOpin19:313-320,200317)GreinerJV,MichaelsonC,McWhirterCIetal:Singledoseofketotifenfumarate.025%vs2weeksofcromolynsodium4%forallergicconjunctivitis.AdvTher19:185193,200218)FigusM,FogagnoloP,LazzeriSetal:Treatmentofallergicconjunctivitis:resultsofa1-month,single-maskedrandomizedstudy.EurJOphthalmol20:811818,201019)AbelsonMB,GomesP,CramptonHJetal:Efficacyandtolerabilityofophthalmicepinastineassessedusingtheconjunctivalantigenchallengemodelinpatientswithahistoryofallergicconjunctivitis.ClinTher26:35-47,2004***308あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(148)

アレルギー性結膜炎患者を対象とした0.05%エピナスチン点眼液のオープンラベル長期投与試験成績

2014年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(1):97.104,2014cアレルギー性結膜炎患者を対象とした0.05%エピナスチン点眼液のオープンラベル長期投与試験成績中川やよい*1大橋裕一*2高村悦子*3藤島浩*4*1医療法人中川医院*2愛媛大学大学院医学系研究科高次機能統御感覚機能医学視機能外科学*3東京女子医科大学医学部医学科眼科*4鶴見大学歯学部附属病院眼科SafetyandEfficacyofLong-TermTreatmentwith0.05%EpinastineOphthalmicSolutionforAllergicConjunctivitisYayoiNakagawa1),YuichiOhashi2),EtsukoTakamura3)andHiroshiFujishima4)1)NakagawaClinic,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,SchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,TsurumiUniversitySchoolofDentalMedicine0.05%エピナスチン塩酸塩点眼液(DE-114点眼液)の長期投与時の安全性と有効性を検討するため,アレルギー性結膜炎患者130例を対象としたオープンラベルによる多施設共同試験を実施した.被験薬は1回1滴,1日4回,8週間点眼とした.安全性について,副作用は,眼刺激(1.5%),眼の異物感(0.8%)および羞明(0.8%)が認められた.これらはすべて軽度であり,無処置で速やかに消失した.有効性について,眼掻痒感を含むすべての自覚症状スコアは,点眼開始1週間後より有意な減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.他覚所見スコアの多くは,点眼開始1週間後より有意な減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.以上より,DE-114点眼液のアレルギー性結膜炎患者に対する長期投与における安全性および有効性が示唆された.Thepurposeofthisstudywastoevaluatethesafetyandefficacyof0.05%epinastinehydrochlorideophthalmicsolution(DE-114)inalong-term,open-label,multicenterstudyincluding130allergicconjunctivitispatients.DE-114wasinstilledonedropatatime,QIDfor8weeks.Thefollowingadversedrugreactionsoccurred:eyeirritation(1.5%),foreignbodysensation(0.8%)andphotophobia(0.8%).Allweremildinseverityandresolvedquicklywithouttreatment.Allsubjectivesymptomscores,includingocularitching,decreasedsignificantlystartingfrom1weekpost-initiationandcontinuedtodecreasethroughoutthestudyperiod.Likewise,mostoftheobjectivesignscoresdecreasedsignificantlystartingfrom1weekpost-initiationandcontinuedtodecreasethroughoutthestudyperiod.TheaboveresultsverifythesafetyandefficacyofDE-114asalong-termtreatmentdrugforallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(1):97.104,2014〕Keywords:アレルギー性結膜炎,点眼液,エピナスチン塩酸塩,長期投与試験,DE-114.allergicconjunctivitis,ophthalmicsolution,epinastinehydrochloride,long-termstudy,DE-114.はじめにアレルギー性結膜炎は,感作された個体の眼結膜に抗原が接触することにより誘発される「I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で,何らかの自他覚症状を伴い,結膜に増殖性変化の見られないアレルギー性結膜疾患」と定義・分類されている1).その発症機序として,肥満細胞に抗原が結合した結果起こる脱顆粒により結膜局所に遊出した炎症性のケミカルメディエーターが三叉神経第一枝のC繊維を刺激することで眼掻痒感を引き起こして,さらに毛細血管の拡張や透過性亢進などを誘発し,結膜充血などの結膜炎症状を引き起こすことが知られている1).エピナスチン塩酸塩は,ヒスタミンH1受容体に対して強く結合し,ヒスタミンH1受容〔別刷請求先〕中川やよい:〒535-0002大阪市旭区大宮2-17-23医療法人中川医院Reprintrequests:YayoiNakagawa,M.D.,NakagawaClinic,2-17-23Omiya,Asahi-ku,Osaka535-0002,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(97)97 体拮抗作用を発揮するとともに,ヒスタミンやロイコトリエンなどのメディエーター遊離抑制作用も併せて示すことにより,従来の抗アレルギー点眼液に比してアレルギー性結膜炎に対する強い治療効果を発揮すると考えられている2.5).アレルギー性結膜炎は通年性アレルギー性結膜炎と季節性アレルギー性結膜炎に分類される.特に,日本ではスギ花粉の飛散時期に季節性アレルギー性結膜炎を発症し,強い眼のかゆみや充血を訴える患者が多く,毎年同じ時期に日常生活が大きく妨げられることが,社会問題化している1).スギ花粉の季節性アレルギー性結膜炎の治療では,花粉の飛散期間中の点眼治療が主体であり,また,通年性アレルギー性結膜炎では点眼治療がさらに長期にわたることから点眼薬の安全性と有効性の確保はきわめて重要である.そこで本試験では,アレルギー性結膜炎患者を対象として0.05%エピナスチン塩酸塩点眼液(DE-114点眼液)の長期投与による安全性および有効性を検討したので,その結果を報告する.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は3医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.なお,本試験はヘルシン表1試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療法人社団信濃会左門町クリニック平岡利彦医療法人平心会大阪治験病院安藤誠医療法人平心会ToCROMクリニック松田英樹キ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.2.対象対象は季節性または通年性アレルギー性結膜炎と診断され,選択基準および除外基準を満たす患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.3.方法a.試験デザイン・投与方法本試験は多施設共同オープンラベル試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,DE-114点眼液を1回1滴,1日4回,8週間点眼した.b.被験薬被験薬であるDE-114点眼液は,1ml中にエピナスチン塩酸塩を0.5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.4.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.5.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,すべての眼局所投与製剤,他の被験薬およびエピナスチン塩酸塩は投与経路を問わず禁止した.また,試験期間中の併用療法に関しては,免疫療法,コンタクトレンズの装用,眼洗浄など薬効評価に影響を及ぼすと考えられる療法を禁止した.6.評価方法a.安全性の評価有害事象および副作用,臨床検査,眼科的検査をもとに安全性を評価した.表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)同意取得時に12歳以上で自覚症状を明確に表現できる被験者とし,性別は不問〔未成年(20歳未満)の場合,その代諾者(家族などで被験者の最善の利益を図り得る人)からも同意を得る〕(2)同意取得時にアレルギー性結膜疾患に特有な臨床症状がある(3)治療期開始時に来院前3日間(来院日を含む)に認められた眼掻痒感の平均が両眼ともに中等度(スコア値:++)以上,かつ,治療期開始時に両眼ともに眼掻痒感が中等度(スコア値:++)以上認められる(4)治療期開始時に治療期開始前2年以内の検査で,I型アレルギー検査陽性であることが確認できる(問診での確認は不可)2)おもな除外基準(1)外眼部もしくは前眼部の炎症性眼疾患(春季カタル,アトピー性角結膜炎,眼瞼炎など)またはドライアイを合併している(2)アレルギー性結膜炎以外の治療を必要とする眼疾患を有する(3)少なくとも片眼の矯正視力0.1未満(4)治療期開始前90日以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往を有する(5)涙点の閉塞を目的とした治療(涙点プラグ挿入術,外科的涙点閉鎖術など)を治療期開始前30日以内まで継続していた(6)治療期開始前7日以内に副腎皮質ステロイド,抗アレルギー薬,ヒスタミンH1受容体拮抗薬,非ステロイド抗炎症薬,免疫抑制薬および血管収縮薬の眼局所投与製剤(点眼薬,眼軟膏,結膜下注射剤など)を使用したことがある(7)アレルギー性鼻炎などで減感作療法もしくは変調療法を行っている(8)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする98あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(98) 表3おもな検査・観察項目観察項目*来院1来院2来院3来院4来院5来院6中止時0日7日(4.10日)14日(11.21日)28日(22.35日)42日(36.49日)56日(50.63日)文書同意の取得●被験者背景●I型アレルギー検査●IgE抗体測定●自覚症状●●●●●●●他覚所見●●●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●●●眼圧測定,眼底検査,視力検査●●●臨床検査●●●症例登録●点眼遵守状況●●●●●●有害事象●●*:日本アレルギー性結膜疾患標準QOL調査票については,試験途中に検査・観察項目に追加した.表4自覚症状判定基準眼掻痒感+++++++++++++.我慢できない程度.日常作業が妨げられるようなかゆみ持続的にかゆみがあり,眼をこすりたい.ただし,日常作業は妨げられていない持続的にかゆみがある時々かゆみがあるなし眼脂++++++.多量に出て朝,瞼がくっついている眼脂が多くて拭う必要あり眼脂が粘つく感じほとんどない流涙++++++.涙があふれてほほに流れる涙が出てときどき拭う必要あり涙っぽい涙は出ない異物感++++++.たえずゴロゴロして眼が開けられないゴロゴロするが努力すれば眼が開けられるときどきゴロゴロするないb.有効性の評価1)有効性評価眼有効性評価眼は,被験薬点眼開始前のアレルギー性結膜炎症状のうち眼掻痒感スコアの高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.2)自覚症状評価項目は,自覚症状(眼掻痒感,眼脂,流涙,異物感)の変化量の推移とした.なお自覚症状は,来院ごとに,問診にて来院前3日間(来院日を含む)に認められた自覚症状の平均を確認し,表4に示す基準で判定した.3)他覚所見評価項目は,眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,巨大乳頭,乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(Trantas斑,腫脹),角膜上皮障害の変化量の推移とした.なお他覚所見は,来院ごとに,他覚所見の程度を表5に示すアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン1)の判定基準に基づき,細隙灯顕微鏡を用いて判定した.4)QOL(追加評価項目)試験開始前と試験終了時の日常生活の支障度および総括的状態について,スギ花粉飛散期の季節性アレルギー性結膜炎(99)あたらしい眼科Vol.31,No.1,201499 表5アレルギー性結膜疾患の臨床評価基準眼瞼結膜充血++++++.個々の血管の識別不能多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし腫脹++++++.びまん性の混濁を伴う腫脹びまん性の薄い腫脹わずかな腫脹所見なし濾胞++++++.20個以上10.19個1.9個所見なし巨大乳頭++++++.上眼瞼結膜の1/2以上の範囲で乳頭が隆起上眼瞼結膜の1/2未満の範囲で乳頭が隆起乳頭は平坦化所見なし乳頭++++++.直径0.6mm以上直径0.3.0.5mm直径0.1.0.2mm所見なし眼球結膜充血++++++.全体の血管拡張多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし浮腫++++++.胞状腫脹びまん性の薄い腫脹部分的腫脹所見なし輪部Trantas斑++++++.9個以上5.8個1.4個所見なし腫脹++++++.範囲が2/3周以上範囲が1/3周以上2/3周未満1/3周未満所見なし角膜上皮障害++++++.シールド潰瘍(楯型潰瘍)または上皮びらん落屑様点状表層角膜炎点状表層角膜炎所見なし患者を対象に,試験開始時に設定した評価項目に追加して検討した.なおQOL(qualityoflife)の項目は,日本眼科アレルギー研究会による「日本アレルギー性結膜疾患標準QOL調査票(Japaneseallergicconjunctivaldiseasequality-oflifequestionnaire:JACQLQ)ver.16)」を用い,被験者が記載した.7.解析方法a.安全性解析対象安全性の解析は,被験薬を少なくとも1回点眼し,安全性100あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014に関する何らかの情報が得られている被験者を安全性解析対象集団とした.b.有効性解析対象有効性の解析は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS)を有効性の検討に使用し,点眼前後の比較には対応のあるt検定を用いた.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.(100) また,自覚症状(眼掻痒感),他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血)について,アレルギー性結膜炎の病型別(季節性,通年性)に示した.なお,自覚症状,他覚所見において,治療期開始日(0日)以降がすべて症状なし「─」の被験者は,当該検査項目の解析から除外した.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図1に示した.文書同意を得て試験に組入れられた被験者および被験薬が点眼された被験者は130例であった.被験薬点眼開始後6例が試験を中止し,124例が試験を完了した.安全性解析対象集団における被験者背景を表6に示した.2.安全性a.有害事象および副作用治療期中には有害事象が130例中22例に認められ,そのうち被験薬との因果関係が否定できない副作用は3例であった.治療期に認められた副作用を表7に示した.副作用は,眼の異物感(0.8%,1/130例),眼刺激(1.5%,2/130例)および羞明(0.8%,1/130例)であった.これらの副作用はすべて眼障害で,重症度は軽度であり,点眼継続中に無処置で速やかに消失した.また,副作用はすべて被験薬点眼開始表6被験者背景21日後までに発現し,長期投与により発現率が上昇することはなく,被験薬投与期間が経過するにつれて発現頻度が上昇する遅発性の副作用も認められなかった.b.臨床検査臨床検査値の異常変動〔ALT(alanineaminotransferase)上昇,g-GTP(g-glutamyl-transpeptidase)上昇,白血球数上昇,リンパ球減少,好酸球上昇〕は,いずれの異常変動も被験薬との因果関係なしと判断された.c.眼科検査細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,視力検査および眼底検査は,被験薬点眼前後で医学的に問題となる変動は認められな図1被験者の内訳組入れられた被験者:130例被験薬が投与された被験者:130例試験を完了した被験者:124例中止した被験者:6例中止理由有害事象不適格例転院,転居,多忙などにより通院不可能:1例:3例:2例例数安全性解析対象集団130病型季節性77(59.2)通年性53(40.8)性別男61(46.9)女69(53.1)年齢(歳)最小.最大平均±標準偏差12.7040.2±13.0年齢区分(未成年者/成年者)未成年者(.19)成年者(20.)11(8.5)119(91.5)年齢区分(非高齢者/高齢者)非高齢者(.64)高齢者(65.)124(95.4)6(4.6)血清抗原特異的IgE抗体スギ陰性陽性12(9.2)118(90.8)血清抗原特異的IgE抗体ハウスダスト2陰性陽性78(60.0)52(40.0)血清抗原特異的IgE抗体ヤケヒョウダニ陰性陽性77(59.2)53(40.8)治療期開始日(0日)の眼掻痒感++++++++++++最小.最大平均±標準偏差28(21.5)96(73.8)6(4.6)2.42.8±0.5例数(%).(101)あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014101 表7治療期に認められた副作用安全性解析対象集団:130例合計累積発現時期(日)0.2122.3536.4950.発現率*眼障害眼の異物感1(0.8)───1(0.8)眼刺激2(1.5)───2(1.6)羞明1(0.8)───1(0.8)合計(件)4───4*:試験薬投与開始日=0日目例数〔Kaplan-Meierの累積発現率(%)〕事象名:MedDRA/Jver14.1かった.3.有効性a.自覚症状自覚症状スコアの推移を図2に示した.眼掻痒感は,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した(p<0.001).また,他の自覚症状の眼脂,流涙および異物感についても,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した(p<0.05).眼掻痒感について,アレルギー性結膜炎の病型別スコアの経時的推移を表8に示した.季節性,通年性のいずれの集団においても,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.b.他覚所見他覚所見スコアの推移を図3,4に示した.眼瞼および眼球結膜充血は,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した(p<0.001).また,他の他覚所見スコアについても,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.眼瞼結膜腫脹,眼瞼結膜乳頭および眼球結膜浮腫は,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認めた(p<0.01).眼瞼結膜濾胞は,点眼開始2週間後の来院3以降,有意なスコアの減少を認めた(p<0.005).輪部腫脹は点眼開始4週間後の来院4以降,有意なスコアの減少を認めた(p<0.01).なお,角膜上皮障害,眼瞼結膜巨大乳頭および輪部Trantas斑については,解析対象例数が10例以下となり,有効性の検討が困難であるため平均および標準誤差を算出しなかった.眼瞼および眼球結膜充血について,アレルギー性結膜炎の病型別スコアの経時的推移を表9に示した.季節性,通年性のいずれの集団においても,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.c.QOL(追加評価項目)点眼前後の日常生活の支障度の合計スコアおよび総括的状102あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014スコア経過日数(日)2842560714****************************************************3.02.52.01.51.00.50:眼掻痒感:眼脂:流涙:異物感平均±標準誤差*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001対応のあるt検定(点眼開始時との比較)n=(130)(130)(126)(125)(125)(124)●(115)(115)(111)(110)(110)(109)○(116)(116)(112)(111)(111)(110)□(116)(116)(112)(111)(111)(110)×図2自覚症状スコアの推移(眼掻痒感,眼脂,流涙,異物感)表8病型別の眼掻痒感スコアの経時推移(FAS)アレルギー性結膜炎平均±標準誤差対応のある病型別(例数)t検定のp値季節性来院1(0日)2.8±0.1(77)─来院2(7日)2.5±0.1(77)<0.001来院3(14日)2.3±0.1(74)<0.001来院4(28日)1.6±0.1(73)<0.001来院5(42日)1.1±0.1(73)<0.001来院6(56日)0.5±0.1(73)<0.001通年性来院1(0日)2.8±0.1(53)─来院2(7日)1.8±0.1(53)<0.001来院3(14日)1.4±0.1(52)<0.001来院4(28日)1.3±0.1(52)<0.001来院5(42日)1.2±0.1(52)<0.001来院6(56日)0.9±0.1(51)<0.001態スコアについて,試験開始前と試験終了時のスコア(平均±標準誤差)を比較した結果,日常生活の支障度の合計スコアは試験開始前18.9±1.7から試験終了時5.7±1.2に,総括的状態スコアは試験開始前2.3±0.1から試験終了時0.8±0.1となり,それぞれ有意なスコアの減少を認めた(p<0.001).III考察アレルギー性結膜炎の治療は,安全性と有効性の面から抗アレルギー点眼薬が第一選択薬となっている1).特に,日本の多くの地域においては,毎年3月,4月にスギ花粉の大量飛散がみられることから,約2カ月間にわたる継続使用時の安全性を確保することは重要である.また,スギ花粉のみでなく複数の花粉抗原に感作されている場合や,通年性アレル(102) :眼瞼結膜充血:眼瞼結膜腫脹2.01.81.61.41.21.00.80.60.40.2******************************:眼瞼結膜濾胞:眼瞼結膜乳頭平均±標準誤差************************スコア28425607141.41.21.00.80.60.40.20:眼球結膜充血:眼球結膜腫脹:輪部膨張平均±標準誤差*************************************スコア00714284256経過日数(日)*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001経過日数(日)対応のあるt検定(点眼開始時との比較)*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001n=(130)(130)(126)(125)(124)(124)●対応のあるt検定(点眼開始時との比較)(114)(114)(110)(109)(108)(108)○n=(127)(127)(123)(122)(121)(121)●(103)(103)(99)(98)(97)(97)□(87)(87)(84)(84)(83)(83)○(100)(100)(97)(96)(95)(95)×(28)(28)(28)(28)(28)(28)□図3他覚所見スコアの推移図4他覚所見スコアの推移(眼瞼結膜充血,眼瞼結膜腫脹,眼瞼結膜濾胞,眼瞼結膜乳頭)(眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,輪部腫脹)表9病型別の眼瞼および眼球結膜充血スコアの経時推移(FAS)眼瞼結膜充血眼球結膜充血アレルギー性結膜炎病型別平均±標準誤差対応のある平均±標準誤差対応のある(例数)t検定のp値(例数)t検定のp値季節性来院1(0日)1.8±0.1(77)─1.2±0.0(74)─来院2(7日)1.6±0.1(77)0.0010.8±0.1(74)<0.001来院3(14日)1.6±0.1(74)0.0110.9±0.1(71)<0.001来院4(28日)1.3±0.1(73)<0.0010.6±0.1(70)<0.001来院5(42日)1.1±0.1(73)<0.0010.4±0.1(70)<0.001来院6(56日)0.8±0.1(73)<0.0010.3±0.1(70)<0.001通年性来院1(0日)1.8±0.1(53)─1.2±0.1(53)─来院2(7日)1.5±0.1(53)<0.0010.8±0.1(53)<0.001来院3(14日)1.4±0.1(52)<0.0010.8±0.1(52)0.001来院4(28日)1.2±0.1(52)<0.0010.6±0.1(52)<0.001来院5(42日)1.0±0.1(51)<0.0010.6±0.1(51)<0.001来院6(56日)0.9±0.1(51)<0.0010.5±0.1(51)<0.001期間を通した症状なし例を除く.ギー性結膜炎ではさらに長期間の継続使用が必要となり,安全性確保の重要性はいうまでもない.有効性の検討においては,アレルギー性結膜炎の最も代表的な症状の眼掻痒感に加え,異物感,充血,眼脂,流涙を伴うことが多く,これらの症状を改善させ,低下したQOLの向上を図ることが重要であることを深川らの調査7)および筆者らの報告8)で明らかにしている.すなわち,低下したQOLの向上を図るには,継続使用時の抗アレルギー点眼薬による副作用が少ないこと,また,アレルギー性結膜炎の症状を改善することが必須となる.DE-114点眼液はエピナスチン塩酸塩を有効成分とする抗アレルギー点眼薬であり,諸外国では1日2回点眼による安全性および有効性が報告されている9.11).日本では,2回もしくは4回点眼を想定した開発が進められていたため,本試験では,想定される最大用法として1日4回点眼を設定し,日本人のアレルギー性結膜炎患者を対象に,DE-114点眼液の長期投与(8週間)による安全性および有効性を検討した.点眼期間については,季節性の場合には臨床で使用される期間は8週間程度であると想定し,8週間とした.まず,DE-114点眼液の安全性であるが,認められた副作(103)あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014103 用は,眼の異物感,眼刺激および羞明であった.また,副作用はすべて被験薬点眼開始21日後までに発現しており,長期投与により発現率が上昇することはなく,被験薬投与期間が経過するにつれて発現頻度が上昇する遅発性の副作用も認められなかった.これらの副作用の重症度はすべて軽度であり,点眼継続中に消失したことから,DE-114点眼液の長期投与における安全性および忍容性に問題はないと考えられた.つぎに,DE-114点眼液の有効性であるが,眼掻痒感,眼脂,流涙および異物感のすべての自覚症状ならびに結膜充血を含む多くの他覚所見は,点眼開始1週間後の来院2より有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.すなわち,アレルギー性結膜炎に対する有効性は,長期投与において持続し減弱しないこと,QOLの改善が期待できる点眼薬であることが示された.また,本試験では,日本眼科アレルギー研究会により開発されたアレルギー性結膜疾患の標準QOL調査票(JACQLQ)による評価も行った.その結果,試験開始前と試験終了時の変化量について,日常生活の支障度の合計スコアおよび総括的状態スコアは,有意なスコアの減少を認めた.すなわち,DE-114点眼液の有するヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用により,眼掻痒感や充血などの症状を改善させ,QOLの向上が示されたと考える.以上より,DE-114点眼液は,アレルギー性結膜炎の症状を改善することで,低下したQOLを向上させる点眼薬であり,長期投与における安全性についても問題なく,有用性が高いことが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,20102)FugnerA,BechtelWD,KuhnFJetal:Invitroandinvivostudiesofthenon-sedatingantihistamineepinastine.Arzneimittel-Forschung/DrugResearch38:1446-1453,19883)TasakaK,AkagiM,IzushiKetal:Antiallergiceffectofepinastine:theelucidationofthemechanism.Pharmacometrics39:365-373,19904)MatsushitaN,AritakeK,TakadaAetal:PharmacologicalstudiesonthenovelantiallergicdrugHQL-79:II.Elucidationofmechanismsforantiallergicandantiasthmaticeffects.JpnJPharmacol78:11-22,19985)KameiC,MioM,KitazumiKetal:Antiallergiceffectofepinastine(WAL801CL)onimmediatehypersensitivityreactions:(II)Antagonisticeffectofepinastineonchemicalmediators,mainlyantihistaminicandanti-PAFeffects.ImmunopharmacolImmunotoxicol14:207-218,19926)深川和己,藤島浩,福島敦樹ほか:アレルギー性結膜疾患特異的qualityoflife調査票の確立.日眼会誌116:494502,20127)深川和己:アレルギー性結膜疾患患者に対する治療実態および治療ニーズ調査─人口構成比に基づくインターネット全国調査─.アレルギー・免疫15:1554-1565,20088)中川やよい,内尾英一,岡本茂樹ほか:アレルギー性結膜炎患者の求める診断・治療ニーズについて─インターネット患者アンケート全国調査2009年度報告─.新薬と臨牀58:2086-2098,20099)WhitcupSM,BradfordR,LueJetal:Efficacyandtolerabilityofophthalmicepinastine:arandomized,double-masked,parallel-group,active-andvehicle-controlledenvironmentaltrialinpatientswithseasonalallergicconjunctivitis.ClinTher26:29-34,200410)FigusM,FogagnoloP,LazzeriSetal:Treatmentofallergicconjunctivitis:resultsofa1-month,single-maskedrandomizedstudy.EurJOphthalmol20:811818,201011)BorazanM,KaralezliA,AkovaYAetal:EfficacyofolopatadineHCI0.1%,ketotifenfumarate0.025%,epinastineHCI0.05%,emedastine0.05%andfluorometholoneacetate0.1%ophthalmicsolutionsforseasonalallergicconjunctivitis:aplacebo-controlledenvironmentaltrial.ActaOphthalmol87:549-554,2009***104あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(104)

マウスのアレルギー性結膜炎モデルに対する脂質メディエーター関連化合物の効果

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(91)6710910-1810/09/\100/頁/JCLS28回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科26(5):671674,2009cはじめにアレルギー性結膜炎は,眼部の掻痒感,充血,結膜浮腫および上眼瞼結膜乳頭を主徴とする眼瞼結膜のⅠ型アレルギー性疾患である1).特に,掻痒感は患者の自覚症状として現れ,qualityoflife(QOL)を低下させる要因となっている.ヒスタミンは掻痒感を誘発させる因子として最も強力な関与があるとされている2,3).しかし,抗ヒスタミン薬だけではアレルギー性結膜炎の症状を完全には抑制しない例も報告46)されており,ヒスタミン以外のメディエーターの関与が示唆されている.そこで,BALB/c系雌性マウスを用いて,卵白アルブミン(OVA)を抗原として全身感作した後,眼部にOVAを直接点眼投与する局所感作を連続的に行うことにより,マウスのアレルギー性結膜炎モデルの作製を試みた.さらに,この実験モデルを用いて,ヒスタミン以外の脂質メディエーターのアレルギー性結膜炎に対する関与を明らかにする目的で,〔別刷請求先〕亀井千晃:〒700-8530岡山市津島中1-1-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬効解析学教室Reprintrequests:ChiakiKamei,Ph.D.,DepartmentofMedicinalPharmacology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,1-1-1Tsushima-Naka,Okayama700-8530,JAPANマウスのアレルギー性結膜炎モデルに対する脂質メディエーター関連化合物の効果西藤俊輔杉本幸雄亀井千晃岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬効解析学教室EectsofLipidMediator-AssociatedCompoundsonAllergicConjunctivitisinMiceShunsukeSaito,YukioSugimotoandChiakiKameiDepartmentofMedicinalPharmacology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences本研究では,アレルギー性結膜炎における脂質メディエーター関連化合物の効果について検討した.まず,マウスにくり返し抗原(卵白アルブミン)を点眼投与することにより眼部引っ掻き行動の増加およびアレルギー症状が認められるアレルギー性結膜炎モデルを作製した.作製したモデルを用いて,H1受容体拮抗薬であるセチリジン,シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害薬であるエトドラクおよび5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861の効果を検討した.その結果,セチリジンおよびエトドラクの投与により,抗原誘発眼部引っ掻き行動が有意に抑制された.また,セチリジンおよびAA-861の投与により,抗原誘発アレルギー症状が有意に抑制された.以上の成績から,アレルギー性結膜炎の痒みにはH1受容体拮抗薬およびCOX-2選択的阻害薬,アレルギー症状にはH1受容体拮抗薬および5-リポキシゲナーゼ阻害薬が有効であることが示唆された.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatetheeectsoflipidmediator-associatedcompoundsonallergicconjunctivitisinmice.Repeatedtopicalapplicationofantigen(ovalbumin)causedincreaseineye-scratchingbehav-iorandallergicsymptoms,suchashyperemiaandedema,insensitizedanimals.Cetirizine(H1receptorantagonist)andetodolac(selectivecyclooxygenase(COX)-2inhibitor)causedinhibitionofeye-scratchingbehaviorinducedbytopicalsensitization,inadose-relatedmanner.Inaddition,cetirizineandAA-861(5-lipoxygenaseinhibitor)causedinhibitionofallergicsymptomsinducedbytopicalsensitization,inadose-relatedmanner.TheseresultsindicatethatH1receptorantagonistandselectiveCOX-2inhibitorareusefulforinhibitingitching,whereasH1receptorantagonistand5-lipoxygenazeinhibitorareusefulforinhibitingallergicsymptomsofallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):671674,2009〕Keywords:アレルギー性結膜炎,痒,H1受容体拮抗薬,COX-2選択的阻害薬,5-リポキシゲナーゼ阻害薬.allergicconjunctivitis,itching,H1receptorantagonist,selectiveCOX-2inhibitor,5-lipoxygenazeinhibitor.———————————————————————-Page2672あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(92)シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害薬であるエトドラクおよび5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861の効果を検討した.I実験方法1.マウスのアレルギー性結膜炎モデルの作製BALB/c系雌性マウスを以下に示す方法により感作した.OVA(Sigma)1μgおよび水酸化アルミニウムゲル(LSL)100μgを生理食塩液0.2mlに懸濁し初回感作から0,5,14および21日目に腹腔内投与することにより全身感作を行った.さらに初回感作から28日目以降,局所感作として1週間に3回OVA(100mg/ml)を両眼にマイクロピペットで2μlずつ点眼した.2.眼部引っ掻き行動の測定マウスを観察用ケージ(幅31cm,奥行18cm,高さ25cm)に入れ,10分間環境に馴化させた後,OVAまたはヒスタミンを両眼にマイクロピペットで2μl/site点眼した際に誘発される後肢による眼部引っ掻き行動の回数を30分間計測することにより行った.3.アレルギー症状のスコア化発赤もしくは浮腫の症状をそれぞれ以下のスコアで判定し,浮腫と発赤のtotalscoreをアレルギー症状の指標とした.両眼で症状が異なる場合はより重症度の高いものを指標として用いた.0=無症状1=軽度の発赤または浮腫2=中等度の発赤または浮腫3=重度の発赤または浮腫4.Passivecutaneousanaphylaxis(PCA)抗体価の測定法感作したマウスの腹部大静脈から採取した血液を遠心分離して得られた血清成分を20℃で凍結保存した.血清は,未感作および初回感作から140日目のものを使用した.PCA反応は血清を2倍希釈系列とし,ラットの背部に0.1mlずつ皮内注射した.48時間後,1%Evansblue溶液とOVA5mg/ml溶液を等量混合した溶液を2ml/kgになるようにラットの尾静脈内に注射した.30分後,エーテルにより致死させ,背部皮膚を剥離し,色素斑の直径が5mm以上の場合を陽性と判定した.5.各種薬物の投与作製したモデルを用いて5%アラビアゴムに懸濁したセチリジン,エトドラクおよびAA-861を経口投与し,1時間後にOVA(100mg/ml)を2μl/site点眼投与した.6.統計処理実験データはすべて平均値±標準誤差で示した.統計学的検討は,眼部引っ掻き行動では2群間の比較にStudentのt検定を,多群間の比較にはDunnett法を用いた.アレルギー症状はMann-WhitneyUtest法およびKruskal-Wallis法を用い,危険率5%未満の場合を有意差ありと判定した.II実験成績1.マウスのOVA誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の経時的変化感作したマウスにOVAを点眼した際に誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の経時的変化を図1に示した.局所感作を行うことにより感作35日目以降対照群と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が誘発された(図1a).感作42日目以降は,対照群と比較して有意なアレルギー症状が誘発された(図1b).2.感作マウスにおけるPCA抗体価の測定未感作および感作したマウスにおける,血中の卵白アルブミンに対する特異的IgE(免疫グロブリンE)抗体価を,PCA反応により測定した結果を図2に示した.感作マウスではPCA抗体価は128512倍まで上昇しており,抗原特異的抗体価が上昇していることが確認された.一方,未感作マウスでは抗体価の上昇はみられなかった.(a)(b)感作後日数感作後日数705642281269811284847056422898112126123045スコア030252015105眼部引っ掻き行動(回数/30分)***********************************************図1抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の変化a:眼部引っ掻き行動,b:アレルギー症状.○:Saline,●:OVA.*:p<0.05,**:p<0.01,n=10.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009673(93)3.ヒスタミンおよびOVAの感受性の変化初回感作から0,28,56および84日目のマウスを用いてヒスタミンおよびOVA誘発眼部引っ掻き行動を測定した結果を表1に示した.初回感作から56日目および84日目においてヒスタミンおよびOVA誘発眼部引っ掻き行動は,用量依存的に増加し,ヒスタミン500nmol/siteおよびOVA200μg/siteの用量で,生理食塩液を点眼した場合と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が認められた.初回感作から84日目においてOVA20μg/site以上の用量で,生理食塩液を点眼した場合と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が認められた.4.抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対する各種薬物の効果感作84日目のマウスを用いて,抗原の点眼により誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対するセチリジン,エトドラクおよびAA-861の効果を表2に示した.セチリジンは,抗原により誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状を用量依存的に抑制し,いずれの症状に対しても10mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.エトドラクも,抗原により誘発される眼部引っ掻き行動を用量依存的に抑制し,100mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.アレルギー症状に対してはいずれの用量においても有意な抑制作用を示さなかった.AA-861は,抗原により誘発されるアレルギー症状を用量依存的に抑制し,100mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.眼部引っ掻き行動に対しては,いずれの用量においても有意な抑制作用を示さなかった.III考察マウスの鼻炎モデル7)を参考にして,抗原の全身感作および局所感作によるアレルギー性結膜炎モデルの作製を試みた.全身感作の後,両眼に抗原投与を行うことにより,有意な眼部引っ掻き行動の増加が観察された.発赤および浮腫のアレルギー症状も同様に観察された.作製したモデルの表1感作によるヒスタミンおよび卵白アルブミン(OVA)の感受性の変化感作後日数薬物0日28日56日84日ヒスタミンコントロール1.5±0.50.8±0.31.4±0.60.6±0.45nmol/site3.2±1.14.8±1.25.2±1.77.1±1.650nmol/site4.7±1.15.8±1.36.9±1.312.6±2.6500nmol/site6.1±1.29.1±2.712.5±2.7**17.2±2.3**OVAコントロール1.5±0.50.8±0.31.4±0.60.3±0.22μg/site3.2±1.12.6±1.34.4±1.27.4±1.620μg/site4.7±1.14.8±1.18.8±2.018.8±3.0*200μg/site6.2±1.212.9±2.916.5±3.0**20.5±3.5***:p<0.05,**:p<0.01,n=10.表2抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対する各種薬物の効果薬物引っ掻き行動スコアセチリジン(p.o.)コントロール24.4±2.54.0±0.51mg/kg20.0±2.83.1±0.53mg/kg19.2±2.32.9±0.610mg/kg15.7±1.9*1.9±0.4*エトドラク(p.o.)コントロール24.4±2.93.6±0.410mg/kg19.9±3.13.2±0.430mg/kg18.1±2.13.4±0.5100mg/kg14.9±2.6*2.8±0.5AA-861(p.o.)コントロール22.7±3.33.6±0.410mg/kg20.3±2.52.6±0.430mg/kg22.6±2.62.6±0.6100mg/kg21.7±2.41.8±0.4**:p<0.05,n=14.図2感作によるPCA抗体価の変化PCA抗体価未感作マウス感作マウス1,0245122561286432168421<1———————————————————————-Page4674あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(94)PCA抗体価を測定した結果,抗原特異的IgE抗体価は著明に上昇していることが確認された.感作後のOVAおよびヒスタミン感受性の変化を検討した結果,感作によりOVAおよびヒスタミンに対する感受性が有意に亢進していることが明らかとなった.ヒトにおいてもアレルギーの発症により,抗原のみならずヒスタミンに対する過敏症が出現することが報告されており8,9),本モデルは臨床症状とも一致する病態を発現していることが明らかとなった.アレルギー性結膜炎における脂質メディエーター関連化合物の効果を検討する目的でCOX-2選択的阻害薬であるエトドラクと5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861を使用し,H1受容体拮抗薬であるセチリジンの効果と比較検討した.その結果,セチリジンの投与により抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状はいずれも有意に抑制された.エトドラクは抗原誘発眼部引っ掻き行動を有意に抑制したが,アレルギー症状を抑制しなかった.AA-861は抗原誘発眼部引っ掻き行動を抑制しなかったが,アレルギー症状を有意に抑制した.プロスタグランジンE2およびD2は,モルモットに点眼することにより痒みを誘発することが報告されており3,10),ロイコトリエンC4,D4およびE4は,アレルギー症状の原因となる血管透過性を亢進することが知られている11).これらの知見は,マウスのアレルギー性結膜炎モデルでの本実験成績を支持するものである.以上の成績から,臨床においてアレルギー性結膜炎の痒みにはH1受容体拮抗薬およびCOX-2選択的阻害薬が,アレルギー症状にはH1受容体拮抗薬および5-リポキシゲナーゼ阻害薬が有効である可能性が示唆された.文献1)山口昌彦,大橋裕一:抗ヒスタミン作用のない抗アレルギー薬─アレルギー性結膜炎─.綜合臨床46:680-684,19972)ProudD,SweetJ,SteinPetal:Inammatorymediatorreleaseonconjunctivalprovocationofallergicsubjectswithallergen.JAllergyClinImmunol85:896-905,19903)WoodwardDF,NievesAL,SpadaCSetal:Characteriza-tionofabehavioralmodelforperipherallyevokeditchsuggestsplatelet-activatingfactorasapotentpruritogen.JPharmacolExpTher272:758-765,19954)HowarthP:Antihistaminesinrhinoconjunctivitis.ClinAllergyImmunol17:179-220,20025)KameiC,IzushiK,NakamuraS:Eectsofcertainantial-lergicdrugsonexperimentalconjunctivitisinguineapigs.BiolPharmBull18:1518-1521,19956)FukushimaY,NabeT,MizutaniNetal:Multiplecedarpollenchallengediminishesinvolvementofhistamineinallergicconjunctivitisofguineapigs.BiolPharmBull26:1696-1700,20037)渡辺雅子,朝倉光司,斎藤博子ほか:鼻アレルギーマウスモデル作成の試み.アレルギー45:1127-1132,19968)浜口富美:鼻アレルギー発症の機構に関する研究.日耳鼻88:492-501,19849)CiprandiG,BuscagliaS,PesceGPetal:Ocularchallengeandhyperresponsivenesstohistamineinpatientswithallergicconjunctivitis.JAllergyClinImmunol91:1227-1230,199310)WoodwardDF,NievesAL,FriedlaenderMH:Character-izationofreceptorsubtypesinvolvedinprostanoid-inducedconjunctivalpruritusandtheirroleinmediatingallergicconjunctivalitching.JPharmacolExpTher279:137-142,199611)GaryRKJr,WoodwardDF,NievesALetal:Character-izationoftheconjunctivalvasopermeabilityresponsetoleukotrienesandtheirinvolvementinimmediatehyper-sensitivity.InvestOphthalmolVisSci29:119-126,1988***

アレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(83)15530910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15531556,2008cはじめにアレルギー性結膜炎は,アレルゲンが結膜に侵入にすることに起因するⅠ型アレルギー反応である.免疫グロブリンE(IgE)抗体を介してマスト細胞からメディエーター(ヒスタミン,セロトニン,ロイコトリエンなど)が遊離することによりひき起こされる一連の炎症性疾患である.日本における〔別刷請求先〕小木曽光洋:〒108-8329東京都港区三田1-4-3国際医療福祉大学三田病院眼科Reprintrequests:TeruhiroOgiso,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital,1-4-3Mita,Minato-ku,Tokyo108-8329,JAPANアレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─小木曽光洋高野洋之川島晋一藤島浩国際医療福祉大学三田病院眼科ClinicalEcacyofOlopatadineHydrochlorideOphthalmicSolutionforAllergicConjunctivitis:ComparisonWithCombinationTherapyUsingAnti-HistamineandMastCellStabilizerOphthalmicSolutionsTeruhiroOgiso,YojiTakano,ShinichiKawashimaandHiroshiFujishimaDepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital2006年に発売された塩酸オロパタジン点眼液(パタノールR)にはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが示されている.今回,筆者らは,塩酸オロパタジン点眼液のアレルギー性結膜炎に対する臨床効果をH1拮抗薬とメディエーター遊離抑制薬の併用療法と比較検討したので報告する.眼痒感が中等度以上のアレルギー性結膜炎の患者27例を対象として,塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群と塩酸レボカバスチン(リボスチンR)点眼液・クロモグリク酸ナトリウム(インタールR)点眼液の併用投与群に無作為に分け,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回,7日間投与し,経時的に両群比較検討した.両群ともに自覚症状,他覚所見の有意な改善を認めた.点眼1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.また,両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.塩酸オロパタジン点眼液は早期に2つの作用で痒を抑制していると考えられた.Olopatadineophthalmicsolutionreportedlyhasbothanti-histamine-andmastcell-stabilizingactions.Wecom-paredtheclinicalecacyofolopatadineophthalmicsolutionforallergicconjunctivitiswithacombinationofH1receptorantagonist-andmastcell-stabilizingeyedrops.Subjectsofthisprospectiverandomizedclinicalstudycom-prised27patientswithallergicconjunctivitiswithmorethanmoderateitching.Thesubjectsweredividedintotwogroups:onegroupwasinstilledwitholopatadineophthalmicsolutionandarticialteardrops;theothergroupwasinstilledwithlevocabastineophthalmicsolutionandcromoglicateophthalmicsolution(fourdosesdaily,1-2drops/dose,for7days).Symptomsandclinicalsignsweresignicantlyimprovedinbothgroupsaftertreatment.At1dayaftercommencementoftreatment,olopatadinewasfoundtobemoreeectivethancombinationtherapyinreduc-ingitching.Nosignicantdierencesbetweenthegroupswereobservedinobjectivendings,comfortorsatisfac-tion.Exacerbationofcornealepitheliallesionswasnotobservedineithergroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15531556,2008〕Keywords:塩酸オロパタジン,アレルギー性結膜炎,ヒスタミンH1受容体拮抗作用,メディエーター遊離抑制作用,併用療法.olopatadinehydrochloride,allergicconjunctivitis,H1-selectivehistamineantagonist,anti-allergicagent,combinationtherapy.———————————————————————-Page21554あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(84)アレルギー性結膜炎の罹患率は疫学調査によると全人口の1520%と報告されている1).治療薬としては抗アレルギー薬とステロイド点眼薬が中心に用いられている.ステロイド点眼薬には即効性や強力な抗アレルギー作用があるが,眼圧上昇などの副作用の発現の危険性があるため,一般的には抗アレルギー点眼薬が第一選択として用いられる2).抗アレルギー点眼薬は,メディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬に大別される.これまで日本で承認されているヒスタミンH1受容体拮抗薬は塩酸レボカバスチン(リボスチンR)とフマル酸ケトフェチン(ザジテンR)のみであったが,2006年10月に塩酸オロパタジン(パタノールR)が追加された.塩酸オロパタジンは選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用3),化学伝達物質遊離抑制作用4,5)の両作用を有するが,その経口薬であるアレロックR錠は日本では2001年より発売され,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,皮膚疾患に伴う痒に対して用いられている.今回,アレルギー性結膜炎患者を対象として,両作用を有するといわれている塩酸オロパタジン点眼液単剤治療とヒスタミンH1受容体拮抗薬/メディエーター遊離抑制薬の併用療法の臨床効果を比較検討したので報告する.I対象および方法本試験は飯田橋眼科クリニック,市川シャポー眼科,品川イーストクリニック,藤島眼科医院,谷津駅前あじさい眼科の5医療施設により実施された.1.対象中等度以上の眼痒感を有するアレルギー性結膜炎と診断される患者のうち,表1の基準を満たすものを対象とした.2.試験方法0.1%塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群(以下,P+A群)と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液・クロモグリク酸ナトリウム点眼液の併用投与群(以下,L+I群)の2群に,封筒法による無作為化を実施し,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回(朝・昼・夕および就寝前),7日間投与した.なお,試験期間中の副腎皮質ステロイド薬,非ステロイド性抗炎症薬,血管収縮薬,抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬の使用は禁止とした.3.観察項目a.患者背景試験薬投与開始前に,患者の性別,年齢,合併症,既往歴,併用禁止薬の使用歴,眼手術歴について調査した.b.臨床症状第1回来院時(0日目)と第2回来院時(7日目)に他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害)および使用感(0=大変満足している10=全く満足してない),患者満足度(0=大変満足している10=全く満足してない)について評価した.c.アレルギー日記患者にアレルギー日記を配布し,毎日,痒感の程度,点眼状況を記録させ,7日後に回収した.d.統計・解析法他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害),使用感および満足度に関してはpairedt-testにて,眼痒感スコアに対してはmulti-variateanalysisにて解析を施行した.II結果1.対象患者の構成本試験では,38例(P+A群:20例,L+I群:18例)が登録され,1週間後に来院しなかった症例が9例(P+A群:3例,L+I群:6例)あった.再来院しなかった症例のうち,P+A群2例,L+I群3例ではアレルギー日記も回収できなかった.アレルギー日記回収症例は33例(P+A群:18例,L+I群:15例)で,プロトコール逸脱は3症例(P+A群:2例,L+I群:1例)であった.逸脱理由は全症例とも併用禁止薬を使用したためであった.2.患者背景表2に本試験の患者背景を示した.患者は年齢1980歳表1選択基準および除外基準[選択基準]1年齢:13歳以上2性別は問わない3全ての指導に従い,規定の来院日に来院できる患者4試験期間中に併用禁止薬の投与を中止できる患者5Ⅰ型アレルギー反応(結膜浸潤好酸球の同定,血清抗原特異的IgE測定,皮膚テスト)のいずれかが陽性の患者[除外基準」1アレルギー性結膜炎以外の疾患により,薬効評価に影響を及ぼす眼掻痒感および充血を有している患者2本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者3眼感染症(細菌,ウイルス又は真菌など),重症ドライアイ,再発性角膜びらんがある患者43カ月以内に持続性副腎皮質ステロイドの結膜下注射による治療を受けた患者53カ月以内にステロイド薬の全身投与を受けた患者6免疫療法(脱感作療法,変調療法など)を受けた患者7試験期間中に手術の予定がある患者8コンタクトレンズの装用を中止できない患者9妊婦,授乳婦10担当医師が試験参加は不適当と判断した患者———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081555(85)で,アレルギー性結膜炎の原因はスギ花粉が23例,スギ花粉以外が7例であった.P+A群,L+I群の両群間において,性別,年齢,スギ花粉症の有無,合併症の有無で有意差は認めなかった.3.有効性他覚所見については点眼開始後7日目において,P+A群,L+I群の両群ともに,眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼瞼結膜浮腫(図1)のスコアを有意に改善したが,両群の間には有意な差は認めなかった.両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.点眼開始後7日目における点眼薬の使用感(図2),満足度(図3)は両群ともおおむね良好であったが,両群間において有意な差は認めなかった.眼痒感については,点眼開始後1日目においてP+A群がL+I群に比べ有意に眼痒感スコアを抑制した(図4).表2患者背景P+AL+ITestp値性別男性女性7959c2検定0.6540年齢(歳)20未満2029303940495059606970以上04701221231421U検定0.5935MinimumMaximum21801971平均±SD(歳)41.3±19.245.2±16.3アレルゲンスギ花粉非スギ花粉115122c2検定0.2731合併症アトピー性皮膚炎ドライアイ鼻側ポリープ100021c2検定0.1353**:p<0.01(vs.Baseline)*:p<0.05(vs.Baseline)Paired?-testMean±SD:眼瞼結膜充血P+A:眼瞼結膜充血L+I:眼球結膜充血P+A:眼球結膜充血L+I:眼球結膜浮腫P+A:眼球結膜浮腫L+I:角膜上皮障害P+A:角膜上皮障害L+I**********3210-1スコア0日目(n=16)(n=11)7日目(n=16)(n=11)P+AL+I図1投与後の各所見のスコアスコア+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図2点眼薬の使用感(0=大変満足している,10=全く満足していない)876543210スコアP+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図3点眼薬の満足度(0=大変満足している,10=全く満足していない)*:p<0.05(vs.L+I)Multi-variateanalysisMean±SD0-1-2-3-4-5-6-7-8-9スコアの変化量P+A(n=14)L+I(n=13)0日目(n=14)(n=13)1日目(n=14)(n=11)2日目(n=14)(n=11)3日目(n=14)(n=12)4日目(n=14)(n=11)5日目(n=14)(n=11)6日目(n=12)(n=10)7日目:P+A:L+I*図4眼痒感スコアの推移———————————————————————-Page41556あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(86)本試験中に両群とも副作用はみられなかった.III考察筆者らはすでにヒスタミンH1受容体拮抗薬単独よりもメディエーター遊離抑制薬との併用療法のほうが有意にアレルギー炎症を軽減することを報告している8).このことから両治療薬を同時に使用するほうがアレルギー性結膜炎に対しより効果的であると考えられる.塩酸オロパタジンにはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが非臨床試験において示されている.そこで,今回筆者らは両作用をもつ塩酸オロパタジン点眼液を投与した場合と,ヒスタミンH1受容体拮抗作用をもつ塩酸レボカバスチン点眼液およびメディエーター遊離抑制作用をもつクロモグリク酸ナトリウム点眼液を併用投与した場合において,臨床的に他覚所見,痒感,使用感,満足度について比較検討してみた.結果としては,他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.唯一,点眼開始後1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感を抑制した.眼痒感は三叉神経終末のヒスタミンH1受容体を介して伝達されるため,点眼開始後1日目においての痒感に対する効果の差は塩酸オロパタジンが塩酸レボカバスチンよりも多くのヒスタミンH1受容体に結合したためだと考えられる.実際,非臨床試験において塩酸オロパタジンはヒスタミン受容体のH1受容体選択性が塩酸レボカバスチンより高いことが示されている3).今回の試験では日本で承認されている濃度で実施したため,塩酸オロパタジンの濃度が0.1%であるのに対し塩酸レボカバスチンは0.025%であるため(米国では塩酸レボカバスチンは0.05%で承認され販売されている),両者の濃度の違いも効果に影響していると思われる.大野らは無症状期の花粉症患者を対象に0.1%塩酸オロパタジン点眼液と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液の有効性を結膜抗原誘発試験にて比較検討しているが,塩酸オロパタジン点眼のほうが塩酸レボカバスチン点眼よりも痒感の抑制に有効であり,点眼後のレスポンダーの割合も高いことを報告している.この塩酸オロパタジン点眼のレスポンダーの割合の高いことも,点眼開始後1日目における痒感に対する効果の差につながったと思われる.点眼開始後27日目において両群間において痒感に有意差が生じなかった.また,7日目における他覚所見でも両群間において有意差が認められなかった.非臨床試験において,塩酸オロパタジンは濃度依存性にヒト結膜マスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制したり4),ヒト結膜上皮細胞からIL(インターロイキン)-6,IL-8の遊離を抑制したり10)することなどが示されており,これらのメディエーター遊離抑制作用ももつことが両群間において差が生じなかったことに関連していると思われた.今回の検討で点眼1日目において塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.痒みに対する即効性が期待される疾患において早期に有意差が出たことは,本剤が臨床的にも有用であることを示していると思われる.文献1)東こずえ,大野重昭:アレルギー性眼疾患.1概説.NEWMOOK眼科6,p1-5,金原出版,20032)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班業績集,日本眼科医会,19953)SharifNA,XuSX,YanniJM:Olopatadine(AL-4943A):ligandbindingandfunctionalstudiesonanovel,longact-ingH1-selectivehistamineantagonistandanti-allergicagentforuseinallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher12:401-407,19964)YanniJM,MillerST,GamacheDAetal:Comparativeeectsoftopicalocularanti-allergydrugsonhumancon-junctivalmastcells.AnnAllergy79:541-545,19975)CookEB,StahlJL,BarneyNPetal:OlopatadineinhibitsTNFareleasefromhumanconjunctivalmastcells.AnnAllergy84:504-508,20006)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20067)UchioE,KimuraR,MigitaHetal:Demographicaspectsofallergicoculardiseasesandevaluationofnewcriteriaforclinicalassessmentofocularallergy.GraefesArchClinExpOphthalmol246:291-296,20088)FujishimaH,FukagawaK,TanakaMetal:TheeectofacombinedtherapywithahistamineH1antagonistandachemicalmediatorreleaseinhibitoronallergicconjunctivi-tis.Ophthalmologica222:232-239,20089)大野重昭,内尾英一,高村悦子ほか:日本人のアレルギー性結膜炎に対する0.1%塩酸オロパタジン点眼液の有効性と使用感の検討─0.025%塩酸レボカバスチン点眼液との比較─.臨眼61:251-255,200710)YanniJM,WeimerLK,SharifNAetal:Inhibitionofhis-tamine-inducedhumanconjunctivalepithelialcellresponsesbyocularallergydrugs.ArchOphthalmol117:643-647,1999***