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各種抗アレルギー点眼薬の含水性ソフトコンタクトレンズの含水率に及ぼす影響

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1545.1547,2012c各種抗アレルギー点眼薬の含水性ソフトコンタクトレンズの含水率に及ぼす影響佐野研二*1,2工藤寛之*3三林浩二*3望月學*2*1あすみが丘佐野眼科*2東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野*3東京医科歯科大学生体材料工学研究所センサ医工学分野InfluencesofAnti-AllergyEyedropsonWaterContentofHydrophilicSoftContactLensesKenjiSano1,2),HiroyukiKudo3),KohjiMitsubayashi3)andManabuMochizuki2)1)AsumigaokaSanoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TokyoMedicalandDentalUniversity,3)DepartmentofBiomedicalDevicesandInstrumentation,InstituteofBiomaterialsandBioengineering,TokyoMedicalandDentalUniversityソフトコンタクトレンズ(SCL)上からの点眼の影響について調べるため,イオン性SCLと非イオン性SCLを抗アレルギー点眼薬に浸漬した後の含水率の変化を測定した.クロモグリク酸ナトリウム,トラニラスト,アシタザノラスト,塩酸レボカバスチン点眼薬への浸漬後の含水率は,イオン性SCL(含水率58%)の場合,それぞれ,61.6±0.2%,67.1±0.3%,47.8±1.0%,53.3±0.4%で,非イオン性SCL(含水率69%)では,68.3±0.5%,61.9±0.3%,68.8±0.5%,67.5±0.5%であった.含水率の変化には点眼薬のpHや浸透圧が関係していた.SCL,特にイオン性SCLの上からの点眼は,レンズの形状,すなわちフィッティングに影響を与える可能性が示唆された.Toassesstheinfluenceofeyedropapplicationwithahydrophilicsoftcontactlens(SCL)inplace,wemeasuredchangesinwatercontentofionicandnon-ionicSCLsaftertheyweresoakedinanti-allergyeyedrops.Aftersoakinginsodiumcromoglicate,tranilast,levokabastinehydrochlorideoracitazanolasthydrateeyedrops,SCLwatercontentwas61.6±0.2%,67.1±0.3%,47.8±1.0%and53.3±0.4%inthecaseoftheionicSCLs(watercontent:58%),and68.3±0.5%,61.9±0.3%,68.8±0.5%and67.5±0.5%inthecaseofthenon-ionicSCLs(watercontent:69%),respectively.ThevariationsinwatercontentcanbeassociatedwitheyedroppHandosmoticpressure.TheseresultssuggestthateyedropinstillationwithSCLinplacemaychangeSCLshapeandfitting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1545.1547,2012〕Keywords:イオン性ソフトコンタクトレンズ,非イオン性ソフトコンタクトレンズ,含水率,点眼薬,pH.ionichydrophilicsoftcontactlens,non-ionichydrophilicsoftcontactlens,watercontent,eyedrop,pH.はじめに以前,筆者らはイオン性ソフトコンタクトレンズ(SCL)の含水率が,消毒システムのソリューションのpHによって変化することを報告した1).そこで,今回は,点眼薬によって,SCLの含水率がどのように変化するかを調べ,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法点眼薬は,市販されている,クロモグリク酸ナトリウム2%点眼薬,トラニラスト0.5%点眼薬,0.1%アシタザノラスト水和物点眼薬,0.025%塩酸レボカバスチン点眼薬を用いた.つぎに,含水率58%のヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体からなるイオン性SCL,および含水率69%のポリビニルアルコール製非イオン性SCLを生理的食塩水に浸した後,それぞれの点眼薬2.5mlに8時間浸漬し,ATAGO社製SCL用含水率計CL-2HおよびCL-2Lを用いて浸漬前後の含水率を3回ずつ測定した.また,それぞれの点眼薬のpHをHORIBA社製pHメーターtwinpHB-212を使用して3回測定した.〔別刷請求先〕佐野研二:〒267-0066千葉市緑区あすみが丘1-1-8あすみが丘佐野眼科Reprintrequests:KenjiSano,M.D.,Ph.D.,AsumigaokaEyeClinic,1-1-8Asumigaoka,Midori-ku,ChibaCity267-0066,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(95)1545 1020607080前ムト物ン10206070801020607080前ムト物ン1020607080含水率(%)含水率(%)50504040303000図1イオン性SCLと点眼薬浸漬後の含水率II結果点眼薬浸漬前のSCLの含水率は,イオン性SCL(メーカー公表含水率58%)が59.0±0.2%,非イオン性SCL(メーカー公表含水率69%)が69.9±0.2%であった.イオン性SCLの点眼薬浸漬後の含水率は,クロモグリク酸ナトリウムで61.6±0.2%,トラニラストで67.1±0.3%と有意に上昇し,アシタザノラストと塩酸レボカバスチンでは,それぞれ47.8±1.0%,53.3±0.4%と有意に低下した(図1)(MannWhitneyのU検定p<0.05).一方,非イオン性SCLでは,クロモグリク酸ナトリウム,トラニラスト,アシタザノラスト,塩酸レボカバスチン点眼薬の順に68.3±0.5%,61.9±0.3%,68.8±0.5%,67.5±0.5%で,トラニラスト点眼薬で有意に低下した(図2)(Mann-WhitneyのU検定p<0.05).また,クロモグリク酸ナトリウム点眼薬,トラニラスト点眼薬,アシタザノラスト水和物点眼薬,塩酸レボカバスチン点眼薬のpHの実測値は,それぞれ,5.5±0,7.5±0,5.5±0,7.1±0であった.III考按以前,SCL消毒システムにおいて,消毒中のSCL含水率の経時変化を測定した際,今回と同じ材料のイオン性SCLにおいて,溶液が酸性時に含水率が下降し,アルカリ性時には含水率が上昇したため,この含水率の変化はイオン性材料内のメタクリル酸同士の帯電による反発の程度がpHに敏感に反応したためと考察した(図3)1).今回の結果も,イオン性SCLにおけるアルカリ性のトラニラストでの含水率上昇,酸性のアシタザノラストの含水率低下,また,非イオン性SCLでのクロモグリク酸ナトリウム,アシタザノラスト,塩酸レボカバスチンで含水率が,ほとんど変わらなかったこ1546あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012図2非イオン性SCLと点眼薬浸漬後の含水率ポアサイズCH3CH2CCH2CCH3COO-H+反発COO-H+図3メタクリル酸含有材料イオン性SCLによく使用されるメタクリル酸は,カルボキシル基同士が水素イオンを電離し,マイナスに帯電することにより反発しあって含水率を稼いでいる.酸性では電離の割合が低くなって反発が小さくなり,アルカリ性では電離の割合が高くなって反発が大きくなる.とは,メタクリル酸含有の有無と,そのpHによる帯電の程度の変化によるためと説明できた.しかし,その一方で,点眼薬のpHだけでは説明のできない結果もいくつか見受けられた.まず,イオン性SCLにおける酸性のクロモグリク酸ナトリウムにおける含水率上昇とアルカリ性の塩酸レボカバスチンにおける含水率低下についてであるが,クロモグリク酸ナトリウム,トラニラスト,アシタザノラスト水和物点眼薬,塩酸レボカバスチン点眼薬の生理的食塩水に対するメーカー公表浸透圧比が,それぞれ0.25,0.9.1.1,約1,2.8.3.8で,クロモグリク酸ナトリウムが低張方向に,また,塩酸レボカバスチンが高張方向に大きく外れており,浸透圧が含水率に影響を与えた可能性があった.高分子材料は架橋レベルを上げるほど硬くなり2),そのフレキシビリティは同じ材料であってもバラエティに富んでいる.今回,実験に用いたイオン性SCL材料は非常にフレキシビリティが高く,また,日常装用などで含水率が変化した後,マルチパーパスソリューションによる含水率回復が(96) 図4アシタザノラスト水和物点眼薬浸漬後のイオン性SCL直径14.2mm(白矢印)から13.3mm(黒矢印)へ変化した.遅いことが報告されており3),硬く,高分子構造上しっかりとした非イオン性のポリビニルアルコール製SCLに比べて,浸透圧による含水率変化の後も,その影響が残ったためと考えた.つぎに,非イオン性SCLにおいて,浸透圧比が約1.0であるトラニラスト点眼薬で有意に低下したことについては,この点眼薬に添加されているホウ酸とポリビニルアルコールの親和性によるものと考えた.ポリビニルアルコールでは,その機械的性質や耐水性向上を目的として少量のホウ酸添加がしばしば行われ,ここでホウ酸は架橋剤として働き,この分子を介してポリマー同士が連結されることが報告されている4).今回の実験は,SCL消毒システムのソリューションへの浸漬試験1)にならって行ったため,実際のSCL上からの点眼に比べると非常に厳しい条件下のものといえる.しかしながら,SCL材料と点眼薬の相互作用によっては,SCLの含水率変化,すなわち形状変化を起こす可能性が示唆され(図4,5),今後,筆者らは臨床上,SCL上からの点眼がフィッ図5トラニラスト点眼薬浸漬後のイオン性SCL直径14.2mm(白矢印)から15.2mm(黒矢印)へ変化した.ティングに影響を与えるか否かについて,詳細に検討していく必要がある.本論文の内容は第110回日本眼科学会総会で発表した.文献1)佐野研二:イオン性素材─何が問題なのか─.あたらしい眼科17:917-921,20002)佐野研二,所敬,鈴木禎ほか:フッ素系非含水性ソフトコンタクトレンズ用素材の研究.日コレ誌36:196200,19943)CabreraJV,VelascoMJ:Recoveryofthewatercontentofhydrogelcontactlensesafteruse.OphthalmicPhysiolOpt25:452-457,20054)山田和彦,安藤慎治,清水禎:高磁場固体NMR法を用いたポリビニルアルコールにおけるホウ酸架橋構造の解析.PolymerPreprints,JapanVol60,No1:654,2011***(97)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121547