調節安静位における調節微動の変化を指標とした0.01%イブジラスト点眼液の眼疲労に対する有効性の評価有馬武志仲野裕一郎高橋浩日本医科大学眼科学教室ProofofConceptTrialof0.01%IbudilastOphthalmicSolutionforEyeFatigueinHealthyAdultsTakeshiArima,YuuichirouNakanoandHiroshiTakahashiCDepartmentofOphthalmology,CNipponMedicalSchoolC目的:イブジラスト点眼液の眼疲労に対する有効性を明らかにするために,健康成人に対し携帯用テレビゲームによる調節負荷を加えて,一時的に眼疲労を生じさせたときの調節微動の推移を比較検討した.対象および方法:健康成人C10名を対象として,携帯用テレビゲームによる負荷後にC0.01%イブジラスト点眼液もしくは人工涙液をC1回点眼した.他覚所見は負荷前の調節安静の視標位置を基準にした調節微動出現頻度の数値を,自覚症状はCvisualCanaloguescale(VAS)を用いて,負荷前,負荷後,安静後の推移を比較した.結果:自覚症状は,両薬剤とも負荷後から安静後にかけて有意に改善した.また,0.01%イブジラスト点眼液は,人工涙液と比較して,負荷後から安静後まで調節安静位における調節微動を有意に減少させた.結論:0.01%イブジラスト点眼液は眼疲労に対する治療薬としての可能性が示唆された.CPurpose:Inordertoclarifythee.ectivenessof0.01%ibudilastophthalmicsolutiononeyefatigue,weevalu-atedCtheCchangesCofCtheCaccommodativeCmicro.uctuationCinChealthyCadultsCwhenCplayingCaCportableCvideoCgame.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC10ChealthyCadultsCwhoCwereCadministered0.01%CibudilastCophthalmicCsolutionCorCarti.cialCtearsCatCtheCendCofCplayingCaCportableCvideoCgame.CPrimarily,CtheCchangesCofCtheCaccommodativeCmicro.uctuationintherestingstatewereevaluated,andthenanalyzedincorrelationwiththechangesofthevisu-alanaloguescale(VAS)values.Results:TheVASvaluesweresigni.cantlyimprovedafteradministrationinbothdrugCgroups.CInCaddition,CcomparedCwithCarti.cialCtears,0.01%CibudilastCophthalmicCsolutionCsigni.cantlyCreducedCtheCaccommodativeCmicro.uctuationCinCtheCrestingCstateCfromCtheCendCofCplayingCtheCportableCvideoCgameCtoCtheCendofthetest.Conclusion:Our.ndingssuggestthat0.01%ibudilastophthalmicsolutionmaybeausefultreat-mentoptionforeyefatigue.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(8):1027.1034,C2020〕Keywords:健康成人,イブジラスト,眼精疲労,HFC.healthyadult,ibudilast,asthenopia,HFC.はじめに眼の疲労には,休息によっても容易に回復しない病的な疲労である「眼精疲労」と,休息によって回復し翌日まで残存しない生理的な疲労である「眼疲労」がある1).眼精疲労の発症要因としては,外環境要因,視器要因および内環境要因・心的要因の三つに分類2)されており,このC3要因のバランスが崩れたときに眼精疲労が発症するとされている3).つまり,健康な状態においてCVDT(visualCdisplayterminal)作業によって生じる一時的な眼の疲れは「眼疲労」であり,一方恒常的なCVDT作業による近業作業の繰り返しに加え,たとえば,仕事による心的ストレスが加わるなどで,休息によっても疲れが回復しないような状態が「眼精疲労」であるといえる.このような眼疲労に関する評価については,調節安静位に〔別刷請求先〕有馬武志:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakeshiArima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5,Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANCおける眼疲労度に関する報告が散見される4.7).これは,被験者の調節努力の介入が少なく,再現性が期待でき,わずかな調節機能変化を他覚的に定量評価できる可能性に基づく8).しかしながら,これらの報告で用いられた測定方法では,測定環境の違いで結果が左右されるなど,安定した計測ができないという問題があった9).一方,近年,オートレフケラトメータを用いて毛様体筋の揺らぎ(調節微動)を測定し,その高周波成分の発現頻度(highCfrequencyCcompo-nent:HFC)の解析を可能としたソフトウエアCAA-2(ニデック)が登場したことで,測定環境に左右されることなく,眼疲労度を客観的に評価できる可能性が示唆されている9).このようななか,國重ら10)は,HFC値による眼精疲労の他覚的評価の可能性を示したが,自覚症状との相関には検討の余地を残した.また,梶田ら11)は,病的な眼精疲労を呈しない集団におけるC1日のCVDT作業前後のCHFC値と自覚症状推移の相関について検討しているが,やはり明確な相関は得られておらず,眼疲労の自覚症状と他覚的指標による総合的な評価には課題を残した.一方,同報告においては,眼疲労評価の新しいパラメータとしてCHFCmin値(VDT作業開始前の視標距離C2Cm.50Ccm間における最小CHFC値の視標位置を基準としたCHFC値)の有用性が提唱された.眼精疲労に対する治療アプローチとして,1967年にC0.02%シアノコバラミン(ビタミンCBC12)点眼液が調節性眼精疲労における調節微動の改善薬として承認されている.また,0.02%シアノコバラミン点眼液で改善が認められない強い自覚症状を訴える患者に対しては,調節緊張(毛様体筋の異常緊張)を緩和する目的で,0.4%トロピカミド点眼液やC1%シクロペントラート塩酸塩点眼液などが使用されているが,調節麻痺や散瞳を生じるため,その適用は限定的である.一方,2000年にアレルギー性結膜炎治療薬として発売されたイブジラスト点眼液(ケタス点眼液C0.01%)の有効成分であるイブジラストは,散瞳・縮瞳作用を示すことなく,毛様体筋の異常緊張に対する弛緩作用を示すことが報告12)され,調節性眼精疲労に対する新たな治療選択肢となる可能性が示された.臨床的には,眼精疲労を自覚する患者へのイブジラスト点眼液C1日C4回点眼により,HFC67cmおよびHFC1Cmの有意な低下が認められた10).一方,同報告では,眼精疲労がさまざまな環境因子の影響を受けることなどから,評価の限界に触れている.今回筆者らは,健康成人に対し調節負荷を加え,一時的に眼疲労を生じさせた際の調節安静位における調節微動の推移を測定し,イブジラスト点眼液の調節性眼疲労に対する有効性について検討したので報告する.CI対象および方法本研究は,2017年C11月.2018年C2月末に,文書により研究への参加に同意が得られ,①C20歳以上C30歳未満である,②本研究に影響を与える既往歴や合併症〔ドライアイ(BUT5秒未満),アレルギーを含む眼炎症,感染症,緑内障,糖尿病〕を有しない,③被験薬に対するアレルギーを有しない,④妊娠中,授乳中あるいは妊娠の可能性がない,⑤眼科手術既往歴がない,⑥角膜上皮障害を認めない,⑦視標に対して調節ができる,⑧負荷後のCHFC1がC50以上または負荷後にCHFC1が上昇した,⑨調節性眼精疲労を効能に有する市販薬を含めた点眼薬を使用せず,また機能性食品(アスタキサンチンなど)を摂取していない,⑩遠視でない(負荷前の等価球面度数にて判定),以上のC10項目をすべて満たす者を対象とした.本研究は,無作為化二重遮閉比較試験として実施した.すなわち,被験薬であるイブジラスト点眼液もしくは人工涙液マイティア点眼液(以下,人工涙液)を無作為に割付し,外観からは識別不能である小箱に封入・封緘した.研究方法は図1に示したとおりであり,来院時検査として,性別,矯正視力,屈折値,乱視度数,角膜所見,BUT検査を行った.安静はC20分とし,負荷のためのゲーム時間はC30分とした.負荷作業は,遠方完全矯正屈折値にC.0.75Dを負荷した過矯正レンズが装着された眼鏡を装用し,眼から30Ccmの位置に固定できるようにゲーム機に紐をつけて研究対象者の首にかけ,落ち物ゲームを行った.なお,ゲーム機はニンテンドウC3DS(任天堂)を用いた.負荷前検査,負荷後検査,安静①後検査,安静②後検査では,調節微動,屈折値および調節応答量を測定した.なお,被験薬は負荷後検査の後に,主治医以外の医師が両眼にC1回1滴点眼し,負荷後検査でCHFC1が高値を示した眼を評価対象眼とした.屈折値は,測定された等価球面値に乱視度のC1/2を加算した値を用い,調節応答量はCrangeCofaccommodationの値とした.なお,測定には乱視矯正付きオートレフケラトメータCARK560A(ニデック)を使用し,負荷前検査値と各検査時の被験薬内の数値を比較した.調節微動は,調節機能測定解析ソフトCAA-2(ニデック)がインストールされたパーソナルコンピュータに接続されたARK560Aにて測定した.HFCは,オートレフケラトメータで得られた屈折度を基準に,視標位置+0.5.C.3.0Dを0.5D間隔でC8段階にステップ状に切り換えて,各ステップにおける視標を注視した際に生じる調節応答波形を計測したものである13).計測された値は,AA-2により解析され,各測定位置におけるCHFC,0.C.0.75Dまでの調節状態におけるCHFCの平均値であるCHFC1,C.1.C.3Dまでの調節状態におけるCHFCの平均値であるCHFC2,HFCの総平均,およびCrangeCofaccommodationなどがCFk-mapとともに表示される(図2).また,通常,視標の最遠点からの近方移動によ図1研究スケジュール図2Fk.mapと測定値りCHFCはいったん上昇し,極大値を示した後にわずかに減少し,調節安静位付近で極小値を示す9).この極小値がもたらす屈折度と雲霧状態における屈折値の平均が近似した値を呈することから,HFCの極小値は調節安静位におけるCHFCであることが示唆されている8).以上のことから,本研究においては,調節微動測定にて視標位置C2Cm.50Ccm間における最小CHFC値を示した視標位置を調節安静位とし,負荷前の調節安静位でのCHFC値をCHFCmin(たとえば,負荷前検査において視標距離C2Cmで最小CHFC値を示した場合,視標位置C2CmのCHFC値をCHFCmin値とする)として,評価指標とした.自覚症状は,症状がない状態をC0(左端),症状が一番強い状態をC10(右端)と規定したC100Cmmの長さの線分上に被験者自身が縦線をマークするCVAS(visualCanaloguescale)を用いた.各検査時にはそれまでに記載したマークを被験者自身が確認したうえでマークすることとし,左端からマークまでの距離(mm)を自覚症状のスコア値とした.他覚所見(HFCmin)と自覚症状(VAS)の相関検討には,負荷後と安静①,安静②後の変化量を用いた.有害事象は,被験者の訴えがあった際に主治医が確認することとした.なお,本研究は日本医科大学病院薬物治験審査委員会の承認後,UniversityCHospitalCMedicalCInformationCNetwork(https://center.umin.ac.jp)に登録のうえ,実施した(UMIN000029611).また,本研究の実施にあたり千寿製薬の資金提供を受けた.CII統.計.解.析被験薬間の比較はCWelchのCt検定,被験薬内の比較はCpairedt検定を行い,HFCmin値とCVASの変化量はCPeasonの相関を検討した.なお,有意水準は両側C0.05とし,統計解析にはCSASCstatisticalsoftware(versionC9.4CforCWin-dows,SASInstituteInc.)を使用した.C本研究は,参加者C23名のうち,負荷後にCHFC1値がC50未満または上昇しなかった症例(5例),初診時にCBUTがC5秒未満であった症例(2例),6D以上の強度近視(3例),他覚所見で調節緊張を疑われた症例(3例)を除外したC10症例を対象とした.対象者の背景は表1に示すとおりで,イブジラスト点眼液群C4例(すべて男性),人工涙液群C6例(男性C3例,女性C3例)の計C10例であった.来院時における矯正視表1被験者背景イブジラスト人工涙液負荷前負荷後安静①後安静②後イブジラスト点眼液群人工涙液群症例数C4C6性別男性C4C3女性C0C3矯正視力(logMAR)C.0.08±0.00C.0.08±0.00屈折値C.2.66±2.08C.3.42±1.46乱視度数C0.56±0.80C0.83±0.83角膜所見CA0D0C3C1CA1D1C1C5BUT検査C5.0±0.0C5.2±0.4C0.00-1.00-2.00屈折値(D)-2.76-2.91-2.83-3.00-3.48-3.42-3.49-3.52-4.00-5.00-6.00図3屈折値の推移と比較イブジラスト人工涙液3.00HFCminの変化量の比較においては,負荷後と安静①後C2.50との変化量(イブジラスト点眼液群:C.3.96±3.76,人工涙2.152.012.072.012.07*1.592.10*1.98調節応答量(D)液群:7.10C±5.33)ならびに負荷後と安静②後との変化量(イブジラスト点眼液群:C.5.26±5.93,人工涙液群:4.61C±5.22)において,イブジラスト点眼液群は,人工涙液群と比2.001.501.00較して有意に減少した(p=0.005,0.036)(図6).0.500.00負荷前負荷後安静①後安静②後*:p<0.05図4調節応答量の推移と比較ARK560Aで測定されたCrangeofaccommodationの値.力,屈折値,乱視度数,BUT値に被験群間で有意な差はなく,角膜所見においても角膜上皮障害が重症である症例はなかった.なお,本研究の参加者は,全員が日本医科大学医学部在学中のC5年生であった.屈折値は,来院時から安静②後まで両群ともに有意な変化はみられなかった(図3).一方,調節応答量は,イブジラスト点眼液群では負荷前から安静②後までの間に有意な変化はみられなかったが,人工涙液群では負荷前と比較して負荷後に有意に調節力が低下(負荷前:2.07C±0.40D,負荷後:1.59C±0.52D,p=0.036)し,安静②後にかけて有意に調節力は回復した(安静②後:1.98C±0.57D,p=0.014)(図4).HFCminの推移は図5に示すとおりで,全症例においては,負荷前と比較して安静①後に有意に上昇した(負荷前:C49.23±4.36,安静①後:54.62C±5.93,p=0.016).また,人工涙液群においては,負荷前と比較して安静①後および安静②後(負荷前:49.33C±5.62,安静①後:57.04C±6.61,安静②後:54.55C±8.46,p=0.024,0.039),負荷後と比較して安静①後に有意に上昇した(負荷後:49.94C±5.48,Cp=0.022).VASの全症例における推移は,負荷前:19.1C±18.7,負荷後:45.8C±17.8,安静①後:22.8C±19.1,安静②後:12.0C±11.8であり,負荷前から負荷後に有意に上昇し(p<0.001),その後安静②後にかけて有意にスコア値が減少した(負荷後Cvs安静①後,安静②後ともにp<0.01,安静①後Cvs安静②後:p=0.023)(図7a).また,被験群間のCVASの推移は,イブジラスト点眼液群においては,負荷前:21.8C±20.1,負荷後:54.5C±19.0,安静①後:26.8C±22.3,安静②後:14.0C±13.5(図7b),人工涙液群では,負荷前:17.3C±19.4,負荷後:40.0C±15.8,安静①後:20.2C±18.4,安静②:C10.7±11.7であり(図7c),負荷前から負荷後に有意に数値が上昇(イブジラスト点眼液群:p=0.021,人工涙液群:p=0.013)し,負荷後から安静①後(イブジラスト点眼液群:Cp=0.018,人工涙液群:p<0.001),安静②後(イブジラスト点眼液群:p=0.024,人工涙液群:p<0.001)にかけて有意に減少したが,負荷後から安静②後までのCVASの変化量の比較においては,両群間に有意な差を認めなかった(図8).3D画像視聴により近点が延長される報告がある14)ため,本研究においても負荷による調節安静位の延長や短縮といった調節安静位の移動について検討した.負荷前と比較して負荷後の調節安静位が近方に移動した症例を近視化症例,遠方に移動した症例を遠視化症例,移動しなかった症例を変化なし症例と定義したところ,表2に示したとおり,近視化症例はC3例(イブジラスト点眼液群:2例,人工涙液群:1例),遠視化症例はC2例(すべてイブジラスト点眼液群),変化なa:全症例b:イブジラストc:人工涙液707060605050調節微動(HFCmin)54.9450.9949.094049.68302010調節微動(HFCmin)49.9454.554049.3330**20*100負荷前負荷後安静①後安静②後0負荷前負荷後安静①後安静②後負荷前負荷後安静①後安静②後*:p<0.05図5HFCminの推移イブジラスト■人工涙液151050-5-10-15安静①後-負荷後安静②後-負荷後*:p<0.05図6HFCminの変化量の比較a:全症例b:イブジラストc:人工涙液100**100**100**調節微動(HFCmin)の変化量21.854.5*26.814.09090スコア値(mm)4030208070605040302080706050403020100負荷前負荷後安静①後安静②後負荷前負荷後安静①後安静②後負荷前負荷後安静①後安静②後*:p<0.05図7VASの推移し症例はC5例(すべて人工涙液群)であった.イブジラスト静①後以降に調節安静位が近方もしくは遠方に移動したが,点眼液群で近視化したC2症例は,安静①後以降,調節安静位1症例は負荷前から安静②後を通して調節安静位は移動しなが負荷前と同じ位置に戻った.人工涙液群では,5症例で安かった.イブジラスト■人工涙液0.0-10.0安静①後-負荷後安静②後-負荷後スコア変化量(mm)-20.0-30.0-40.0-50.0-60.0-70.0*:p<0.05図8VASの変化量の推移表2各検査時における調節安静位被験薬症例負荷前負荷後安静①後安静②後イブジラスト点眼液C1C2C3C4C2CmC1CmC1CmC2CmC1CmC2CmC2CmC1CmC2CmC67CcmC1CmC2CmC2CmC2CmC67CcmC2Cm人工涙液C1C2C3C4C5C6C2CmC1CmC2CmC2CmC2CmC2CmC2CmC67CcmC2CmC2CmC2CmC2CmC1CmC1CmC1CmC1CmC2CmC1CmC1CmC2CmC1CmC1CmC2CmC67Ccm調節安静位:各検査時の庁瀬微動測定時において,2Cm.50Ccm間の最小CHFCを記録した指標位置.a:近視化(n=3)b:遠視化(n=2)c:変化なし(n=5)80707047.6156.8251.8255.1049.0148.44*57.43**52.4950.6854.5251.8051.1370605040302010調節微動(HFCmin)調節微動(HFCmin)調節微動(HFCmin)6050403020106050403020100負荷前負荷後安静①後安静②後0負荷前負荷後安静①後安静②後負荷前負荷後安静①後安静②後*:p<0.05図9調節安静位の変化とHFCminの推移a:近視化(調節安静位が負荷前と比較して負荷終了時に近方へ移行した症例)Cb:遠視化(調節安静位が負荷前と比較して負荷終了時に遠方へ移動した症例)Cc:変化なし(調節安静位が負荷前と比較して負荷終了時に変化しなかった症例)図9に示したとおり,調節安静位の移動別のCHFCminは,安静①後:51.82C±2.78,安静②後:55.10C±6.54,変化なし近視化症例では,負荷前:50.68C±1.11,負荷後:54.52C±症例では,負荷前:49.01C±6.22,負荷後:48.44C±4.55,安4.83,安静①後:51.80C±2.87,安静②後:51.13C±12.31,遠静①後:57.43C±7.31,安静②後:52.49C±7.59であり,変化視化症例では,負荷前:47.61C±1.52,負荷後:56.82C±0.77,なし症例において負荷前と安静①後および安静②後,負荷後8080*57.720.727.37.0**19.637.6*17.811.0スコア値(mm)スコア値(mm)706050706050101000負荷前負荷後安静①後安息②後負荷前負荷後安静①後安静②後負荷前負荷後安静①後安静②後*:p<0.05図10調節安静位の変化とVASの推移a:近視化(調節安静位が負荷前と比較して負荷終了時に近方へ移行した症例)Cb:遠視化(調節安静位が負荷前と比較して負荷終了時に遠方へ移動した症例)Cc:変化なし(調節安静位が負荷前と比較して負荷終了時に変化しなかった症例)と安静①後に有意に上昇した(それぞれCp=0.041,0.016,C00.003).-10調節安静位の移動別のCVASの推移は図10に示したとお-20りであり,近視化症例では負荷前:20.7C±25.4,負荷後:ΔVAS(mm)57.7±10.7,安静①後:27.3C±19.4,安静②後:7.0C±1.7(図10a),遠視化症例では,負荷前:15.5C±9.2,負荷後:48.5±27.6,安静①後:28.5C±27.6,安静②後:22.0C±17.0(図-30-4010b),変化なし症例では,負荷前:19.6C±20.7,負荷後:-5037.6±16.4,安静①後:17.8C±19.5,安静②後:11.0C±13.1(図10c)であり,近視化症例および変化なし症例において,負荷前と比較して負荷後には有意に上昇し(p=0.049,0.017),近視化症例における負荷後と安静②後,変化なし症例の負荷後と安静①後および安静②後とで有意に減少した(それぞれCp=0.017,<0.001,<0.001).HFCminとCVASの相関は図11に示すとおり,負荷後と安静②後との変化量において有意な相関を認めた(r=0.653,p=0.041).なお,本研究において有害事象の発現は認められなかった.CIV考按イブジラスト点眼液群において,負荷後から安静①後および安静②後のCHFCminの変化量は,人工涙液群と比較して有意に減少したことから,イブジラスト点眼液による調節微動の軽減効果が示唆された.イブジラスト点眼液群のCHFCminは,負荷後に最高値を示し,以降安静②後にかけて減少した.イブジラストは,ホスホジエステラーゼ(PDE)を阻害15)し,環状アデノシン・1リン酸(cyclicCadenosinmonophosphate:cAMP)の活性を維持することで毛様体筋を弛緩させる12)と考えられている.また,ウサギへのイブジラスト点眼液単回投与試験で-60r=0.653p=0.041-70-15.00-10.00-5.000.005.0010.0015.00ΔHFCmin図11ΔVASとΔHFCminの相関(負荷後と安静②後の変化量)は,10分後に虹彩・毛様体への移行濃度がC881Cng/gと最高濃度を示し,以降は漸減し,30分後でC358Cng/g,60分後で106Cng/gであった16).PDEに対するイブジラストのC50%阻害濃度(ICC50)の値はC110Cng/mlである12)ことから,その効力は約C60分間持続すると考えられる.負荷後から安静②後までの時間が約C40分であったことから,イブジラスト点眼液が虹彩・毛様体筋に直接作用することによりCPDEを阻害し,毛様体筋弛緩作用を発現した結果,調節微動を軽減したものと考えられた.一方,人工涙液群は,負荷前に比べ負荷後にはCHFCminの変化がなかったが,そのときC6例中C5例で調節安静位の変化もなかった.その後,安静①後ではC6例中C4例,安静②後ではC6例中C5例で調節安静に変化が生じており,HFCminも上昇していることから,何らかの理由により調節安静位の変化が遅れたため,眼疲労の出現時期が遅れたものと推察された.しかし,点眼や安静によってもCHFCminを減少させることができなかったことから,人工涙液の点眼による角膜表面の安定化だけでは毛様体筋に対する影響がないことが示唆された.調節安静位の遠視化については,3D画像の視聴により調節と輻湊の不一致が生じ,調節努力により近点が延長したという報告14)や,間欠性外斜位患者では輻湊や調節により多くの負荷が生じるという報告17)があることから,本研究においてもこれらの要因によってCHFCminが上昇したものと推察される.また,近視化した症例では,疲労のために調節安静位が近方へ移動した結果,毛様体筋における神経支配が副交感神経有意になり,毛様体筋が収縮し,HFCminが上昇したと考えられた.しかしながら,調節安静位が移動しなかった症例の説明については今後の課題である.HFCminとCVASとの間では,負荷後と安静②後との変化量において相関が認められたことから,HFCminは自覚症状を反映するのに有用であることが示唆された.なお,屈折値については両被験薬群と負荷前から安静②後まで変化を示さなかった.また,人工涙液群において,調節応答が負荷後に有意に低下したが,6例中C5例で調節安静位の変化がなかったことや負荷前に比べ負荷後のCHFCminの変化がなかったことから,臨床的に影響を及ぼす変化でないと思われた.以上のことから,両被験薬投与による屈折値や調節応答量に影響はなかったと考えられた.以上,イブジラスト点眼液は,調節性眼精疲労に対して有用な薬剤であると考えられるが,本研究での症例数が少なかったこと,調節安静位が移動しない要因を明確にできなかったことなどの課題が認められたことから,さらなる検証が必要である.文献1)不二門尚:眼精疲労に対する新しい対処法.あたらしい眼科27:763-769,C20102)鈴村昭弘:主訴からする眼精疲労の診断.眼精疲労(三島済一編),眼科CMOOK23,p.1-9,金原出版,19853)梶田雅義:眼精疲労に対する眼鏡処方.あたらしい眼科C19:149-154,C20024)三輪隆:調節安静位は眼の安静位か.視覚の科学C16:C114-119,C19955)三輪隆,所敬:調節安静位と屈折度の関係.日眼会誌93:727-732,C19896)MiwaCT,CTokoroT:AsthenopiaCandCtheCdarkCfocusCofCaccommodation.OptomVisSciC71:377-380,C19947)中村葉,中島伸子,小室青ほか:調節安静位の調節変動量測定における負荷調節レフCARK-1sの有用性について.視覚の科学37:93-97,C20168)梶田雅義:調節応答と微動.眼科40:169-177,C19989)梶田雅義,伊藤由美子,佐藤浩之ほか:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌C101:413-416,C199710)國重智之,高橋永幸,吉野健一ほか:0.01%イブジラスト点眼液とC0.02%シアノコバラミン点眼液の調節性眼精疲労に対する有効性と安全性の比較.あたらしい眼科C36:C1462-1470,C201911)梶田雅義,末信敏秀,高橋仁也ほか:調節安静位における調節微動の変化を指標としたCVDT作業による眼の疲労度の評価.あたらしい眼科37:363-369,C202012)井坂光良:イブジラスのウサギ摘出毛様体平滑筋におけるカルバコール誘発収縮に対する作用.医学と薬学C60:733-734,C200813)梶田雅義:調節機能測定ソフトウェアCAA-2の臨床応用.あたらしい眼科33:467-476,C201614)難波哲子,小林泰子,田淵昭雄ほか:3D映像視聴による視機能と眼精疲労の検討.眼臨紀6:10-16,C201315)GibsonCLC,CHastingsCSF,CMcPheeCICetal:TheCinhibitoryCpro.leCofCIbudilastCagainstCtheChumanCphosphodiesteraseCenzymeCfamily.CEurCJCPhamacolC24:538(1-3):39-42,C200616)小室正勝,堀田恵,堀弥ほか:イブジラスト点眼液の体内動態(I).あたらしい眼科12:1445-1448,C199517)藤井千晶,岸本典子,大月洋:間欠性外斜視におけるプリズムアダプテーション前後の調節微動高周波成分出現頻度.日視能訓練士協誌41:77-82,C2012