《原著》あたらしい眼科36(2):273.281,2019cアレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー点眼液のヒスタミン受容体発現に及ぼす影響針谷威寬*1丸山和一*1,2横倉俊二*1中澤徹*3*1東北大学病院眼科*2大阪大学大学院医学系研究科・視覚先端医学寄附講座*3東北大学大学院医学研究科神経・感覚器病態学講座眼科学分野CE.ectsofAnti-allergicEyeDropsonHistamineReceptorsinPatientswithSeasonalAllergicConjunctivitisTakehiroHariya1),KazuichiMaruyama1,2)C,ShunjiYokokura1)andToruNakazawa3)1)DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityHospital,2)DepartmentofInnovativeVisualScience,OsakaUniversityMedicalSchool,3)DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:アレルギー性結膜炎の治療として,近年初期療法が提唱され,インバースアゴニストが重症化を防ぐうえでより適する可能性があると報告されている.インバースアゴニスト作用を有するエピナスチン塩酸塩点眼液の使用前後,ヒト結膜組織におけるヒスタミンCHC1受容体,涙液中サイトカイン濃度の推移を,オロパタジン塩酸塩点眼液と比較検討した.方法:アレルギー性結膜炎患者C29名をC3群(エピナスチン初期療法群,オロパタジン初期療法群,対照群)に無作為に割付けた.スギ花粉の飛散前より点眼を開始し,点眼後C4週時(本格飛散時)とC12週時に自覚症状と他覚所見を確認した.同時に涙液および結膜上皮細胞を採取して涙液中ヒスタミン濃度とヒスタミンCHC1受容体のCmRNA発現量を確認した.結果:エピナスチン群においてC4週時の充血,流涙,眼脂症状で対照群と比較して有意に抑制され,合計スコアの経時推移より自覚症状全般の悪化が抑制される傾向を示した.涙液ヒスタミン濃度はC0週時とC4週時において,対照群に比べてエピナスチン群とオロパタジン群の両群において抑制傾向を示したが有意差はなかった.ヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量のC0週時とC4週時の比較では,いずれの群においても有意な変動を認めなかったが,エピナスチン群はわずかに減少する傾向を示した.結論:アレルギー性結膜炎治療において,インバースアゴニスト作用を有する抗アレルギー点眼薬を用いた初期療法は,結膜のヒスタミンCHC1受容体の発現を抑制し,症状の重症化を防ぐ可能性がある.CTheprimarytreatmentforallergicconjunctivitisisantihistamineeyedrops.However,whenseveresymptomshaveCalreadyCappeared,CantihistamineCtreatmentCisCnotCalwaysCe.ective.CItChasCbeenCreportedCthatCpreventative,Cpre-seasonalCtreatmentsCthatCuseCanCinverseCagonistCmechanismCcanCsuppressCsuchCsevereCallergicCsymptoms.CInCthepresentstudy,wedeterminedwhetherpre-seasonaltreatmentwithepinastinewase.ectiveinreducingclini-calsymptomsinhumansubjects(n=29)C.Wefoundthattheepinastinetreatmentgrouphadasigni.cantlylowerclinicalCscoreCforCallergicCsymptoms,CespeciallyCatCtheCfourthCweekCafterCadministration.CMoreover,CmRNACexpres-sionofthehistamineH1Creceptorshowedatendencytowardslightsuppression.Thus,anti-allergiceyedropsthatuseaninverseagonistmechanismcouldbesuitableforpre-seasonaltreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):273.281,C2019〕Keywords:初期療法,インバースアゴニスト,ヒスタミン,ヒスタミンCHC1受容体.pre-seasonaltreatment,in-versagonist,histamine,histamineH1Creceptor.C〔別刷請求先〕針谷威寬:〒980-8574宮城県仙台市青葉区星陵町C1-1東北大学病院眼科Reprintrequests:TakehiroHariya,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityHospital,1-1Seiryo-cho,Aobaward,Sendai,Miyagi980-8574,JAPANCはじめに花粉症の病態の一つである季節性アレルギー性結膜炎は,目のかゆみをはじめとするアレルギー症状により,花粉飛散期の日常生活における患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる.そのため国はアレルギー疾患が国民生活に多大な影響を及ぼしている現状に鑑み,2014年にアレルギー疾患対策基本法を制定し,アレルギー疾患対策を総合的に推進する取り組みを進めることとなった.しかしながら,現在でも症状を完全に抑えることはむずかしく,より有効な治療法の検討が続けられている.耳鼻咽喉科領域においては季節性アレルギー性鼻炎の治療は,経口の抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイドなどの薬剤をスギ花粉の飛散予測日のC1週間前から投与する初期療法が鼻アレルギー診療ガイドラインで推奨されている1).とくに花粉症に対しては,花粉の飛散がピークとなるC2.3週間前から治療を開始し,花粉の飛散が終わる頃までの長期的な治療を行う.これはアレルゲン曝露によるヒスタミンCHC1受容体の活性化を減弱させる効果が期待される.抗アレルギー薬の作用機序は,症状の原因となるヒスタミンやプロスタグランジンなどのケミカルメディエーターが肥満細胞から分泌されることを抑制する,またはヒスタミンCHC1受容体に拮抗的に結合し,受容体からのシグナルを減弱させ症状を軽減させることである2).近年はヒスタミンCHC1受容体拮抗作用に加え,インバースアゴニスト作用をもつ薬剤が臨床で用いられている.抗アレルギー点眼薬を用いた初期療法が,季節性アレルギー性結膜炎に有効であることを報告した先行研究は複数存在する.深川らは,エピナスチン塩酸塩点眼液を用いて初期療法の有効性について検討した.その結果,初期療法を行った群では,花粉飛散時期の眼のかゆみなどの自覚症状や他覚所見,QOL項目の症状悪化と症状のピークが有意に抑制されることを報告した3).また,海老原らもオロパタジン塩酸塩点眼液の初期療法における有効性を報告している4).しかし,患者における認知度は低く,実際に医療機関を早めに受診して初期療法を行う患者は,全体のC1割に満たない5).エピナスチン塩酸塩の特徴として知られるインバースアゴニスト作用は,ヒスタミンCHC1受容体の活性型と不活性型の平衡を不活性型優位にシフトさせることで構成的活性を抑制し,結果的に受容体の数を減少させる働きがある.しかし,このような作用については,理論的な検討および非臨床での検証が行われている段階であり,実臨床においてインバースアゴニスト作用の効果について,分子生物学的な手法を用いて検討を行った報告はこれまでに存在しない.今回筆者らは,深川らが施行したエピナスチン塩酸塩点眼治療における初期療法の臨床的評価の有効性に加え,涙液や結膜上皮組織などの生体サンプルを採取することにより,分子生物学的な方法を用いて検討を行った.具体的にはヒスタミンCHC1受容体アンタゴニストであるオロパタジン塩酸塩点眼液と,インバースアゴニスト作用をもつエピナスチン塩酸塩点眼液を用いて,涙液中ヒスタミン濃度やヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量の点眼前後の推移について比較した.CI対象および方法1.対象患者および試験デザイン対象患者はC20歳以上の男女で,例年春季のスギ花粉飛散期に症状が出現し,両眼とも季節性アレルギー性結膜炎と診断された患者で,血清中抗原特異的CIgE抗体検査陽性患者(過去C3年以内の検査結果は採用可能)を対象とし,本人の自由意思による文書同意が得られた患者を登録した.季節性アレルギー性結膜炎の診断は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)6)で定められた準確定診断を基準とした.アンケート形式による自覚症状の確認と細隙灯顕微鏡検査を施行して他覚所見を確認後,血清中抗原特異的CIgE抗体検査(イムノキャップラピッド;サーモフィッシャーダイアグノスティックス)によるスギ抗原陽性を確認した.また,汎用検査用免疫グロブリンCE検査(アレルウォッチ涙液IgE;わかもと製薬)による涙液中総CIgE値を確認した.試験デザインは単施設無作為化オープンラベル並行群間比較試験とした.無作為化は置換ブロック法を用いて行い,症例登録された被験者をつぎのC3つの群にそれぞれ1:1:1で割付けた.本研究はインバースアゴニスト作用を有する抗ヒスタミン点眼液の初期療法における有用性について,探索的な位置付けで検討するため,目標症例数は合計C30例(各群10例)とした.①花粉飛散C4週間前よりオロパタジン塩酸塩点眼液の点眼治療を開始する群(オロパタジン初期療法群)②花粉飛散C4週間前よりエピナスチン塩酸塩点眼液の点眼治療を開始する群(エピナスチン初期療法群)③花粉飛散C4週間前より対照薬として人工涙液をC4週間点眼し,本格飛散開始後にエピナスチン塩酸塩点眼液で点眼治療を行う群(対照群)C2.試.験.方.法研究を開始するまでに当該臨床研究の概要を大学病院医療情報ネットワーク:UMINに登録し公開した.症例登録に先立ち,東北大学病院臨床研究倫理委員会で承認の得られた同意説明文書を用いて患者本人に十分に説明し,本研究への参加について自由意思による同意を文書により得た.被験者は株式会社ヘルスクリックの募集パネルから抽出し,平成28年のC2月からC5月にかけて東北大学病院で実施した.被験者の観察は試験期間中にC3回行った.研究開始時の「来院C1(0週)」では同意取得と患者背景,適格性の確認および症例登録を行い,割り付けられた治療群に応じた点眼液図1試験デザイン目標症例数は合計C30例(各群C10例)とした.オロパタジン初期療法群およびエピナスチン初期療法群は,初期療法として花粉本格飛散前から抗アレルギー点眼治療を行った.対照群ではこの時期に人工涙液を点眼し,初期療法を行っていない.を処方した.「来院C2(4週)」は来院C1(点眼開始)からおおむねC4週後とし,スギ花粉の本格飛散時期となるように設定した.「来院C3(12週)」は来院C2のC8週後に設定した(図1).各群の点眼治療は以下のように設定した.①オロパタジン初期療法群オロパタジン塩酸塩点眼液(パタノールCR点眼液C0.1%;アルコンファーマ)をC1回C1滴,1日C4回,両眼,原則C12週間点眼した.②エピナスチン初期療法群エピナスチン塩酸塩点眼液(アレジオンCR点眼液C0.05%;参天製薬)をC1回C1滴,1日C4回,両眼,原則C12週間点眼した.③対照群来院C1(0週)より人工涙液(ソフトサンティアCR点眼液;参天製薬)を1回2.3滴,1日5.6回,両眼,原則4週間点眼後,来院C2(4週)以降はエピナスチン塩酸塩点眼液をC1回C1滴,1日C4回,両眼,8週間点眼した.被験者背景として,年齢・性別・生年月日,合併症,前治療薬,併用薬(療法)を確認し同意取得日を記録した.また,来院ごとに自覚症状および他覚所見の評価を行い,試験期間を通じて有害事象と点眼遵守状況の確認を行った.自覚症状は目のかゆみ(眼掻痒感),目の充血,目の異物感,涙目,眼脂,目が乾く(眼乾燥感),目が痛い(眼痛),目が疲れる(眼疲労感),まぶたが重いのC9項目ついてC5段階スコア(0:症状なし,1:軽い,2:やや重い,3:重い,4:非常に重い)で評価した.他覚所見は眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,乳頭,巨大乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(トランタス斑,腫脹),角膜上皮障害のC10項目についてアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)6)に準じてC4段階スコア(C.:症状なし,+:軽度,++:中等度,+++:高度)で評価した.研究対象者の安全性確保および有効性/安全性評価を困難にする薬剤(一般用医薬品を含む)および治療の併用は,研究期間を通じて禁止した.ただし,副腎皮質ステロイド点眼液・点鼻薬は,研究対象者のCQOLの観点から,アレルギー性結膜炎・鼻炎の症状が強いときのみ頓用に限り使用可能とし,使用した場合には日付,回数などを確認し記録した.研究責任医師などが併用禁止治療の実施を必要と判断する場合は,研究対象者の安全性および倫理面を考慮し,本研究を原則中止した.C3.涙液採取,眼瞼結膜の細胞診,ELISA,real.timePCR解析患者の同意取得後に試験参加の適格性を満たす患者に対して涙液採取と眼瞼結膜上皮細胞採取(PCR用)を施行した.Schirmer試験紙を用いて両眼の涙液を採取し,シリコーンコーティングしたエッペンドルフチューブ(EppendorfCR,Germany)に保存し,急速冷凍した.涙液採取後,インプレッションサイトロジー法にてメンブレン(MilliporeCR,GSWP02500,Merck)を用いて下眼瞼の結膜上皮採取を施行した.採取眼は来院C1(0週)の眼掻痒感スコアの高いほうの眼とし,左右眼が同値の場合は右眼とした.結膜組織の採取量はC1回の来院当たりC7CmmC×10Cmmを限度とした.採取後150CμlのCRNAClaterR(ThermoCFisherSCIENTIFIC)に入れ,急速冷凍しC.70oCで保存した.涙液ヒスタミン濃度解析は,冷凍下で保管していたCSchirmer試験紙の入ったエッペンドルフチューブにC100Cμlのリン酸緩衝液(PBS)を入れて攪拌し,市販のヒスタミンCELISAキット「イムノテック」(BeckmanCoulter)を使用して測定した.また,眼瞼結膜の上皮細胞検体中のヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量解析は,RNA抽出後にプライマー(Hs00911670_s1,AppliedBiosystems)を用いてCcDNAを合成し,real-timePCR法(TaqManCRCGeneExpressionCAssays,CAppliedCBiosystems)を用いて定量した.C4.データ管理および統計解析試験薬が投与されたすべての研究対象者について,規定された検査・観察終了後,速やかに症例報告書(caseCreportform:CRF)を作成した.作成したCCRFを株式会社バイオスタティスティカルリサーチに提出し,研究実施機関から独立した第三者が解析した.解析ソフトウェアはCSASversion9.4を用いた.自覚症状スコア,他覚所見スコアの解析対象眼は,来院C1(0週)の眼掻痒感スコアの高いほうの眼とし,左右眼が同値の場合は右眼とした.有効性の解析において,平均値の推定や比較検定に際して分布が正規分布から逸脱しているものに関しては,変数変換を行い正規分布に近づけた後に統計解析を行い,表示は原尺度に逆変換して表示した.平均値の推移の検討においては混合効果モデルを用いて投与群別,時点別の平均値推定値と95%信頼区間を算出した.また,対比統計量については投与群ごとの投与前からの変化の推定値ならびにC95%信頼区間,p値を算出して投与前からの変化を検討するとともに,4週およびC12週それぞれについて投与群間の平均値の差と95%信頼区間,p値を算出して群間差の検討を行った.p<0.05を有意差ありとした.CII結果1.被験者背景本研究における被験者の内訳を図2に示す.文書による同意が得られ,割り付けられた試験薬を投与したC29例の内訳は,オロパタジン初期療法群がC9例,エピナスチン初期療法群がC10例,対照群がC10例であった(図2a).点眼遵守状況の確認において,「点眼をほとんど行っていない」と申告した被験者C2例(エピナスチン初期療法群,対照群それぞれC1例)と,ヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量比が著しく高く,統計学的解析結果から臨床的妥当性を有さないと判断されたC1例(オロパタジン初期療法群)の計C3例を解析対象から除外した(図2b).解析対象としたC26例(オロパタジン初期療法群がC8例,エピナスチン初期療法群がC9例,対照群がC9例)の性別,年齢,アレルウォッチ涙液CIgE検査の陽性率において群間に有意な偏りは認めなかった.また,血清中抗原特異的CIgE抗体検査では,すべての被験者においてスギ抗原が陽性であった.2.自覚症状スコアと他覚所見スコアの経時推移と群間比較自覚症状スコアおよび他覚所見スコアについて混合効果モデルを用いて算出した最小二乗平均値の推定値(95%信頼区間)のC0週時,4週時,12週時における経時推移を図3に示す.9項目の自覚症状において,日本アレルギー性結膜疾患標準CQOL調査票7)(JACQLQ調査票)ver.1で眼症状として設定されている眼掻痒感,充血,目の異物感,涙目,眼脂およびこれらの自覚症状合計スコアについて結果を記載する.眼掻痒感について各群の経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC1.2(0.8.1.6),1.7(1.0.2.5),0.4(C.0.4.1.1),エピナスチン初期療法群ではC1.2(0.8.1.6),1.5(0.7.2.2),0.5(C.0.3.1.2),対照群ではC1.2(0.8.1.6),2.0(1.3.2.7),0.5(C.0.2.1.2)であった.0週時との比較では,スギ花粉の本格飛散時期のC4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.4週時の各群間に有意な差は認めなかった(図3a).充血についての経時推移は,オロパタジン初期療法群では0.9(0.5.1.3),1.3(0.6.1.9),0.3(C.0.4.0.9),エピナスチン初期療法群ではC0.9(0.5.1.3),0.8(0.2.1.4),0.6(C.0.1.1.2),対照群ではC0.9(0.5.1.3),1.7(1.1.2.3),0.4(C.0.1.1.0)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.また,4週時においてエピナスチン初期療法群では充血の悪化が抑制され,対照群との間で有意差を認めた(図3b).目の異物感についての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC0.7(0.3.1.1),1.2(0.6.1.8),0.5(C.0.1.1.1),エピナスチン初期療法群ではC0.7(0.3.1.1),1.0(0.3.1.6),0.7(0.1.1.3),対照群ではC0.7(0.3.1.1),1.3(0.7.1.9),0.3(C.0.3.0.9)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.4週時の各群間に有意な差は認めなかった(図3c).涙目についての経時推移は,オロパタジン初期療法群では0.7(0.3.1.1),1.2(0.6.1.8),0.4(C.0.2.1.0),エピナスチン初期療法群ではC0.7(0.3.1.1),0.5(C.0.1.1.1),0.3(C.0.3.0.8),対照群ではC0.7(0.3.1.1),1.3(0.8.1.9),0.3(C.0.2.0.9)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.また,4週時においてエピナスチン初期療法群では涙目の悪化が抑制され,対照群との間で有意差を認めた(図3d).眼脂についての経時推移は,オロパタジン初期療法群では0.7(0.3.1.0),1.2(0.7.1.8),0.6(0.1.2),エピナスチン初期療法群ではC0.7(0.3.1.0),0.5(0.1.1),0(C.0.5.0.6),対照群ではC0.7(0.3.1.0),1.3(0.8.1.8),0.4(C.0.1.0.9)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.また,4週時においてエピナスチン初期療a投与前中止例0例オロパタジン群0例エピナスチン群0例人工涙液群0例試験薬投与例29例オロパタジン群9例エピナスチン群10例人工涙液群10例4週後評価例28例オロパタジン群9例エピナスチン群9例人工涙液群10例完了例27例オロパタジン群9例エピナスチン群9例人工涙液群9例投与後中止例1例オロパタジン群0例エピナスチン群1例人工涙液群0例4週後中止例1例オロパタジン群0例エピナスチン群0例人工涙液群1*例b*12週時自覚症状評価シート記入後に中止図2被験者内訳試験薬投与症例の内訳(Ca)と,解析対象症例(Cb).abc2.522*1.5*NS1.5目の異物感眼掻痒感1*充血10.50.500週4週12週00週4週12週-0.5-0.5-0.5def215**1.5自覚症状合計スコア121*9涙目眼脂0.5600週4週12週3-0.5-100週4週12週ghi1.56**4*200週4週12週他覚所見合計スコア10.5眼球結膜充血眼瞼結膜充血*00週4週12週-0.5-2オロパタジン初期療法群エピナスチン初期療法群対照群図3自覚症状および他覚所見の時系列変化と各群の比較掻痒感(Ca),充血(Cb),目の異物感(Cc),涙目(Cd),眼脂(Ce),自覚症状の合計スコア(Cf),眼瞼結膜充血(Cg),眼球結膜充血(Ch),他覚所見の合計スコア(Ci).グラフ中の誤差範囲はC95%信頼区間を示す.*p<0.05.法群では眼脂の悪化が抑制され,対照群との間で有意差を認めた(図3e).9項目の自覚症状合計スコアについての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC7.1(4.7.9.5),10.6(7.0.14.2),4.5(0.8.8.1),エピナスチン初期療法群ではC7.1(4.7.9.5),6.3(2.7.10.0),3.7(0.1.7.3),対照群ではC7.1(4.7.9.5),9.6(6.2.13.1),2.9(C.0.6.6.3)であった.0週時との比較では,4週時にオロパタジン初期療法群でのみ有意な悪化を認めた.4週時の各群間に有意な差は認めなかったが,エピナスチン初期療法群では自覚症状の悪化が全般的に抑制されたことを反映した結果であった(図3f).10項目の他覚所見において,1以上のスコアリングを認めたおもな項目は,眼瞼結膜の充血,腫脹,濾胞,乳頭および眼球結膜充血であった.眼瞼結膜充血についての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC0.3(0.1.0.5),0.8(0.4.1.1),0.7(0.3.1.0),エピナスチン初期療法群ではC0.3(0.1.0.5),1.0(0.6.1.3),0.6(0.2.0.9),対照群ではC0.3(0.1.0.5),0.9(0.6.1.3),0.5(0.1.0.8)であった.0週時との比較では,いずれの群もC4週時に有意な悪化を認めた.4週時の各群間に有意な差は認めなかった(図3g).眼球結膜充血についての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC0(C.0.1.0.2),0.5(0.2.0.8),0.6(0.3.1.0),エピナスチン初期療法群ではC0(C.0.1.0.2),0.5(0.2.0.8),0.7(0.4.1.1),対照群ではC0(C.0.1.0.2),1.0(0.7.1.3),0.5(0.2.0.8)であった.0週時との比較では,いずれの群もC4週時に有意な悪化を認めた.4週時においてオロパタジン初期療法群およびエピナスチン初期療法群と対照群との間ab涙液ヒスタミン濃度(nM)mRNA発現量オロパタジン初期療法群エピナスチン初期療法群対照群図4分子生物学検査における時系列変化と各群の比較涙液中ヒスタミン濃度(Ca),ヒスタミンCHC1囲はC95%信頼区間を示す.*p<0.05.で有意差を認めた(図3h).10項目の他覚所見合計スコアについての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC0.8(0.1.1.4),2.1(1.0.3.2),1.3(0.2.2.4),エピナスチン初期療法群ではC0.8(0.1.1.4),2.8(1.7.3.9),2.1(1.0.3.2),対照群ではC0.8(0.1.1.4),3.7(2.7.4.7),1.0(C.0.1.2.1)であった.0週時との比較では,いずれの群もC4週時に有意な悪化を認めた.4週時においてオロパタジン初期療法群と対照群との間で有意差を認めた(図3i).C3.涙液ヒスタミン濃度とヒスタミンH1受容体mRNA発現量の経時推移と群間比較涙液ヒスタミン濃度(対数の逆変換値)とヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量(2C.ΔΔCt変換値)について混合効果モデルを用いて算出した最小二乗平均値の推定値(95%信頼区間)のC0週時,4週時,12週時における経時推移を図4に示す.涙液中ヒスタミンの蛋白濃度(単位CnM)をCELISAキットで測定して得られた最小二乗平均値の推定値について各群の経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC2.29(1.52.3.47),1.71(0.86.3.40),4.06(2.04.8.07),エピナスチン初期療法群ではC2.29(1.52.3.47),1.84(0.92.3.65),2.99(1.50.5.95),対照群ではC2.29(1.52.3.47),5.63(2.94.10.80),3.31(1.60.6.82)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な上昇を認めた.また,4週時においてオロパタジン初期療法群およびエピナスチン初期療法群では涙液ヒスタミン濃度の上昇が抑制され,対照群との間で有意差を認めた(図4a).ヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量をCreal-timePCR法で定量して得られた最小二乗平均値の推定値について各群の経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC1.00,0.92(0.57.1.50),1.12(0.69.1.82),エピナスチン初期療法群では1.00,0.82(0.51.1.34),0.98(0.60.1.59),対照群では受容体CmRNAの発現量(Cb).グラフ中の誤差範1.00,1.23(0.78.1.95),0.91(0.56.1.48)であった.0週時とC4週時の比較では,いずれの群においても有意な変動を認めなかったが,対照群はわずかに上昇し,オロパタジン初期療法群はほぼ不変,エピナスチン初期療法群はわずかに減少する傾向を示した.また,4週時の各群間に有意な差は認めなかった(図4b).CIII考察今回得られた自覚症状スコアの結果から,スギ花粉の本格飛散時期となるよう設定したC4週時において,眼掻痒感について統計学的に有意な群間差を認めなかった.しかし,0週時との比較では人工涙液点眼を行った対照群のみ有意な悪化を認め,オロパタジン初期療法群,エピナスチン初期療法群では,症状の悪化が抑制される傾向を認めた.同じくC4週時において自覚した充血,涙目および眼脂において,エピナスチン初期療法群では花粉飛散ピーク時の症状増悪が抑制(軽減)され,対照群との間で有意差を認めた.自覚症状合計スコアの推移と合わせると,エピナスチン塩酸塩で初期療法を行うことで,眼アレルギー症状全般に対して,花粉飛散ピーク時の症状増悪が抑制(軽減)されうることが示唆されており,使用患者の高い満足度を報告した既報の結果と整合すると考えられた8).オロパタジン塩酸塩においても,初期療法を行うことでエピナスチン塩酸塩と同様に,花粉飛散ピーク時の症状増悪を抑制(軽減)する効果を報告した先行研究が存在する4).今回,同条件で比較した際に両群で自覚症状スコアの推移に違いがみられた結果の解釈については,オロパタジン塩酸塩が,インバースアゴニストではなくニュートラルアンタゴニストである可能性が考えられる.ニュートラルアンタゴニストとは,ヒスタミンCHC1受容体の活性型と不活性型の平衡状態に作用せず,受容体の数に影響を与えない特徴をもつ.一方,インバースアゴニストであるエピナスチン塩酸塩で初期療法を行う場合,ヒスタミンCHC1受容体拮抗作用とケミカルメディエーター遊離抑制作用に加え,花粉の本格飛散までにヒスタミンCHC1受容体の平衡を不活性型優位にシフトさせることで構成的活性を抑制する.その結果,受容体の数を一定程度減少させておくことの効果を,ヒトCinvivoである実際の臨床においても発揮する可能性が示唆された.この結果は,ニュートラルアンタゴニストであるオロパタジン塩酸塩と比べて,インバースアゴニストであるエピナスチン塩酸塩は飛散ピーク時の症状増悪の抑制の程度をより強いものとし,患者自身が感じる自覚症状を軽減し,初期療法の有用性を高めることを示唆する.他覚所見スコアについてはC4週時において,眼瞼結膜充血および眼球結膜充血の両方で,0週時との比較ではいずれの群も有意な悪化を認めたが,とくに眼球結膜充血においてエピナスチン初期療法群とオロパタジン初期療法群では対照群に比べ有意に抑制されており,エピナスチン塩酸塩とオロパタジン塩酸塩は同様の効果があったと考えられる.一方で他覚所見の合計スコアについてはC4週時において,対照群に比べてオロパタジン初期療法群では有意に抑制されていたが,エピナスチン初期療法群では有意差はなかった.他覚所見にはC10項目あり,そのなかには乳頭所見のような慢性的な変化を示すものも含まれている.短期間の観察では変化しない評価項目を指標とすることの是非については,今後検討が必要であると思われる.本研究において重要な点は,被験者より涙液や結膜上皮組織の生体サンプルを採取して,分子生物学的な検討を行ったことである.Shimuraらが報告したように,被験者より得られた生体サンプルは,抗アレルギー点眼薬の有効性を評価し,そのメカニズムを検討するうえで大変重要な知見を提供する9).スギ花粉の本格飛散時期となるよう設定したC4週時において,オロパタジン初期療法群とエピナスチン初期療法群では,涙液中ヒスタミンの蛋白濃度はC0週時の水準から上昇しておらず,対照群でのみ有意な上昇を認めた.この結果は,オロパタジン塩酸塩とエピナスチン塩酸塩に共通する薬理作用であるケミカルメディエーター遊離抑制作用により,肥満細胞からヒスタミンの放出が抑制された可能性を示唆する.また,初期療法の効用として知られるアレルギー性結膜炎の「症状の発症を遅らせる効果」により,対照群と比較して両群では発症が一定程度遅延し,その結果C4週時点では涙液中へのヒスタミンの漏出が抑制された可能性が考えられる.しかし,4週時以降C12週時までに継続的に花粉曝露されたため,涙液中ヒスタミン濃度が上昇に転じたと解釈している.対照群はC4週時に人工涙液からエピナスチン塩酸塩点眼液に切替えることで,抗ヒスタミン作用のため,12週時点ではエピナスチン初期療法群と同程度にまで症状が抑制され,その結果,涙液中ヒスタミン濃度は低下した可能性がある.小木曽らが報告したように,掻痒感はヒスタミンが三叉神経終末のヒスタミンCHC1受容体に結合することで生じる細胞内シグナル伝達を介した経路により惹起すると考えられている.そのためヒスタミンCHC1受容体への結合を阻害し,さらに受容体の平衡を不活性型優位にシフトさせることで構成的活性レベルを低下させ,その結果として受容体の数を減少させることが可能な薬剤は,花粉飛散予測日よりも以前から初期療法として使用開始することにより,花粉飛散ピーク時の眼掻痒感をはじめとする眼アレルギー症状の増悪を抑制(軽減)させうる可能性がある10).ヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量の経時推移をCreal-timePCR法で定量した結果,0週時とC4週時の比較において,オロパタジン初期療法群はほぼ不変,エピナスチン初期療法群はわずかに減少する傾向を示した.また,4週時以降12週時までに継続的に花粉曝露された結果,涙液中ヒスタミン濃度が上昇に転じたことに一致して,オロパタジン初期療法群やエピナスチン初期療法群のCmRNA発現量が上昇している.対照群はC4週時に人工涙液からエピナスチン塩酸塩点眼液に切り替えることで,12週時点では涙液中ヒスタミン濃度とCmRNA発現量がエピナスチン初期療法群と同程度にまで低下した.これらの結果は,涙液中に存在するヒスタミン量に呼応してヒスタミンCHC1受容体の発現量が影響を受けることを示唆する.さらにエピナスチン塩酸塩がCinCvitro試験と同様に,臨床下におけるヒトCinvivoにおいても結膜上皮組織においてヒスタミンCHC1受容体の発現を抑制する可能性を示唆している11).本研究で得られたヒスタミンCHC1受容体のCmRNA発現量の推移データは,初期療法における抗アレルギー点眼薬の効果の違いを,ヒトCinvivoにおいて分子生物学的に確認した初めての報告である.季節性アレルギー性結膜炎に対する初期療法では,インバースアゴニスト作用を有する薬剤が適しており,その分子生物学的なメカニズムの一端が示された.エビデンスのある治療として,エピナスチン塩酸塩を用いた初期療法が推奨される可能性がある.本研究は参天製薬株式会社との共同研究である.文献1)大久保公裕:診療ガイドラインニュース(Vol.121)鼻アレルギー診療ガイドライン通年性鼻炎と花粉症2016年版(改訂第C8版).メディカル朝日45:57-59,C20162)福井裕行:薬理作用からみた抗ヒスタミン薬治療の意義インバース・アゴニストとしての抗ヒスタミン薬.新薬と臨牀C61:1553-1558,C20123)深川和己,藤島浩,高村悦子ほか:季節性アレルギー性結膜炎に対するエピナスチン塩酸塩点眼薬による初期療法の効果.アレルギー・免疫C22:1270-1280,C20154)海老原伸行:塩酸オロパタジン点眼液による季節性アレルギー性結膜炎の初期療法.あたらしい眼科C24:1523-1525,C20075)参天製薬株式会社:スギ花粉症の患者さんにおける初期療法の認識とニーズ実態調査.マクロミルパネルを使用したインターネット調査(自社調べ),20176)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:829-870,C20107)深川和己:アレルギー性結膜疾患CQOL調査票(JACQLQ)の使い方.アレルギーC63:764-766,C20148)加山智子,大嵜浩孝,甲斐靖彦:エピナスチン塩酸塩(アレジオンR)点眼液C0.05%使用成績調査中間報告(第C2報)副作用・効果・患者満足度等.アレルギー・免疫C22:1786-1798,C20159)ShimuraCM,CYasudaCK,CMiyazawaCACetal:Pre-seasonalCtreatmentCwithCtopicalColopatadineCsuppressesCtheCclinicalCsymptomsCofCseasonalCallergicCconjunctivitis.CAmCJCOph-thalmolC151:697-702.Ce2,C201110)小木曽光洋,高野洋之,川島晋一ほか:アレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果併用療法との比較.あたらしい眼科C25:1553-1556,C200811)BakkerRA,WielandK,TimmermanHetal:ConstitutiveactivityofthehistamineH1receptorrevealsinverseago-nismofhistamineH1receptorantagonists.EurJPharma-colC387:R5-R7,C2000***