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非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブ使用例の後方視的 検討

2021年6月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(6):719.724,2021c非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブ使用例の後方視的検討伊沢英知*1,2田中理恵*2小前恵子*2中原久恵*2高本光子*3藤野雄次郎*4相原一*2蕪城俊克*2,5*1国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科*2東京大学医学部附属病院眼科*3さいたま赤十字病院眼科*4JCHO東京新宿メディカルセンター眼科*5自治医科大学附属さいたま医療センター眼科CRetrospectiveStudyof20CasesAdministeredAdalimumabforUveitisHidetomoIzawa1,2)C,RieTanaka2),KeikoKomae2),HisaeNakahara2),MitsukoTakamoto3),YujiroFujino4),MakotoAihara2)andToshikatsuKaburaki2,5)1)DepartmentofOphthalmicOncology,NationalCancerCenterHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,3)DepartmentofOphthalmology,SaitamaRedCrossHospital,4)DepartmentofOphthalmology,JCHOShinjukuMedicalCenter,5)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenterC目的:非感染性ぶどう膜炎にアダリムマブ(以下,ADA)を用いた症例の臨床像を検討した.対象および方法:既存治療に抵抗性の非感染性ぶどう膜炎にCADAを投与したC20例.診療録より併用薬剤,ぶどう膜炎の再発頻度,有害事象を後ろ向きに検討した.結果:Behcet病C7例では,ADA導入により再発頻度がC5.1回/年からC1.6回/年に減少した.シクロスポリンはC3例中C2例で減量され,コルヒチンもC3例全例で減量が可能であった.Behcet病以外のぶどう膜炎C13例では,再発頻度はC2.7回/年からC0.8回/年に減少した.プレドニゾロンは全例で使用されており全例で減量が可能であった.シクロスポリンはC4例全例で中止可能であった.Cb-Dグルカン上昇の有害事象を起こしたC1例でADAを中止した.結論:ADA導入によりCBehcet病,他のぶどう膜炎ともに再発頻度が減少し,併用薬剤の減量が可能であった.CPurpose:Toexaminetheclinicaloutcomesofadalimumab(ADA)administrationin20casesofnon-infectiousuveitis(NIU)C.SubjectsandMethods:Inthisretrospectivestudy,weexaminedthemedicalrecordsof20patientswhoCwereCadministeredCADACatCtheCUniversityCofCTokyoCHospitalCforCrefractoryCNIUCresistantCtoCexistingCtreat-ments,andinvestigatedthefrequencyofrelapseofuveitis,concomitantmedications,andadverseevents.Results:CIn7casesofBehcet’sdisease(BD)C,ADAadministrationreducedthefrequencyofrelapsefrom5.1times/yearto1.6times/year.In2of3cases,concomitantcyclosporine(CYS)dosagescouldbereduced,andthoseofcolchicinecouldbereducedinall3patients.In13casesofNIUotherthanBD,thefrequencyofrelapsedecreasedfrom2.7times/yearCtoC0.8Ctimes/year.CPrednisoloneCwasCusedCinCallCcases,CandCtheCdosagesCcouldCbeCreducedCinCallCcases.CCYSwasusedin4cases,andcouldbediscontinuedinallcases.Onepatientsu.eredanadverseeventofserumb-D-glucanelevation,andADAwasdiscontinued.Conclusion:UsingADA,thefrequencyofrelapseandthedoseofconcomitantmedicationsweredecreasedinpatientswithBDandtheotherNIU.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(6):719.724,C2021〕Keywords:アダリムマブ,ぶどう膜炎,後ろ向き研究,ステロイド,インフリキシマブ.adalimumab,Cuveitis,Cretrospectivestudy,steroid,in.iximab.Cはじめに節症性乾癬,強直性脊椎炎,若年性特発性関節炎,Crohnアダリムマブ(adalimumab:ADA)は完全ヒト型抗病,腸管型CBehcet病,潰瘍性大腸炎に対して適用されていCTNFa抗体製剤であり以前よりわが国でも尋常性乾癬,関たがC2016年C9月より既存治療で効果不十分な非感染性の中〔別刷請求先〕伊沢英知:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:HidetomoIzawa,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongou,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC表1Behcet病症例まとめADA再発回数(/年)PSL量(mg)CYS量(mg)IFX量COL量(mg)観察投与CNo.年齢性別期間期間CADA最終CADA最終CADA最終CADA最終CADA最終副作用(月)(月)投与前観察時投与前観察時投与前観察時投与前観察時投与前観察時1C53CM6127C15C7C0C0C125C1755mg/kg/5週C0C0C0なしC236F5926200000C0C010.5なしC3C59F3625C7.63C10C7.50C0C0C0C1C0.5なしC4C64F6624C4C1C0C0140100C0C0C0C0なしC5C51CM29121C1C0C0C0C0C05mg/kg/6週C0C0C0なしC6C29M9718C3C0C10C1200C75C0C0C0.5C0なしC745F1211300000C0C000なし平均C48.1C88.9C21.7C5.1C1.6C2.9C1.2C66.4C50.0C0.4C0.1標準偏差C11.5C86.0C5.2C4.5C2.4C4.5C2.6C79.6C64.1C0.4C0.2CM:男性,F:女性,ADA:アダリムマブ,PSL:プレドニゾロン,CYS:シクロスポリン,IFX:インフリキシマブ,COL:コルヒチン.表2Behcet病以外の非感染性ぶどう膜炎症例まとめADA再発回数(/年)PSL量(mg)CYS量(mg)MTX量(mg/週)観察投与CNo.病名年齢性別患眼期間期間CADA最終CADA最終CADA最終CADA最終副作用(月)(月)投与前観察時投与前観察時投与前観察時投与前観察時8サルコイドーシス組織診断群C41CF両139C80C2C3C15C11C0C0C0C0なしC9サルコイドーシス組織診断群C77CM両C63C23C2C0C12.5C7C0C0C0C8なしC10サルコイドーシス組織診断群58CF両7317C1C1C6C5C0C0C0C0なしC11サルコイドーシス疑いC50CM両35C30C2.4C0C25C2C0C0C0C0なし発熱,CRP上昇C12サルコイドーシス疑いC70CM右74C12C2C0C12.5C9C150C0C0C0CbDグルカン上昇C13Vogt-小柳-原田病C44CM両C66C30C2C1C16C7.5C320C0C8C0なしC14Vogt-小柳-原田病C33CM両15C12C6C4C10C9C0C0C0C0なしC15Vogt-小柳-原田病C52CM両97C10C3C0C12.5C3C0C0C0C0なしC16CrelentlessCplacoidCchorioretinitisC35CF両C39C22C4C0C15C0C200C0C0C0なしC17CrelentlessCplacoidCchorioretinitisC23CM両C26C18C1.5C0C14C0C150C0C0C0なしC18多巣性脈絡膜炎C46CF両3425C4.5C0C10C0C0C0C0C0なしC19小児慢性ぶどう膜炎C15CM両43C24C0C0C5C0C0C0C8C14なしC20乾癬によるぶどう膜炎C79CM両18C17C5C1C15C0C0C0C0C0なし平均C47.9C55.5C24.6C2.7C0.8C13.0C4.1標準偏差C18.8C33.7C17.2C1.6C1.2C4.8C4.0M:男性,F:女性,ADA:アダリムマブ,PSL:プレドニゾロン,CYS:シクロスポリン,MTX:メトトレキサート,CRP:C反応性蛋白.間部,後部または汎ぶどう膜炎に対して保険適用となった.ADAの非感染性ぶどう膜炎の有効性については,国際共同臨床試験により,ぶどう膜炎の再燃までの期間がプラセボ群では中央値C13週間であったのに対しCADA投与群では中央値C24週間と有意に延長すること1),平均CPSL量がC13.6Cmg/日からC2.6Cmg/日に減量可能であったこと2),活動性症例ではC60%に活動性の鎮静がみられた2)ことが確かめられている.また,非感染性ぶどう膜炎の個々の疾患におけるCADAの有効性も報告されている.Fabianiらは難治性のCBehcet病ぶどう膜炎C40例にCADAを使用し,眼発作頻度の減少を報告している3).Erckensらはステロイドならびにメトトレキサート(methotrexate:MTX)内服で炎症の残るサルコイドーシスC26症例に対してCADA使用し,脈絡膜炎症所見の消失や改善,黄斑浮腫の消失や改善,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)投与量の減量が多くの症例で得られたことを報告している4).さらにCCoutoらは遷延型のCVogt・小柳・原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)14例に使用し,PSL投与量の減少を報告している5).このように近年非感染性ぶどう膜炎に対するCADAの有効性の報告が蓄積されつつある.一方,わが国でも非感染性ぶどう膜炎に対するCADAの治療成績や臨床報告が散見されるが6.11),いまだ多数例での治療成績の報告は少ないのが現状である.今回,東京大学病院(以下,当院)で非感染性ぶどう膜炎に対しCADAを使用したC20例の使用経験について報告する.CI対象および方法対象は当院にて非感染性ぶどう膜炎にCPSL,シクロスポリン(ciclosporin:CYS),コルヒチン(colchicine:COL),インフリキシマブ(infliximab:IFX)で治療したが再燃した症例で,炎症をコントロールする目的または併用薬剤の減量目的で保険収載後CADA投与を開始した症例C20例(男性C12例,女性C8例,平均年齢C49.2C±16.0歳)である.診療録より性別,年齢,原疾患,経過観察期間,ADA導入時の免疫抑制薬の投与量,最終観察時の免疫抑制薬の投与量,ADA導入前後C1年間のぶどう膜炎の再燃回数(両眼性はC2回と計測),有害事象について後ろ向きに検討した.原因疾患の内訳はCBehcet病C7例(疑いC1例含む),サルコイドーシスC5例(国際治験参加後一度中止したが,再度開始したC1例含む),CVKH3例,relentlessCplacoidchorioretinitis(RPC)2例,多巣性脈絡膜炎(multifocalchoroiditis:MFC)1例,乾癬性ぶどう膜炎C1例,若年性特発性関節炎C1例である.本研究での症例選択基準として,保険収載前に当院で国際治験として開始された症例は除外している.ADAの投与方法は投与前の全身検査,アレルギー膠原病内科での診察によりCADA導入に問題がないと確認したのち,初回投与からC1週間後に40mg投与,その後は2週間ごとにC40mg投与を行った.ただし,Behcet病完全型のC1症例(症例7)は腸管CBehcet病を合併した症例で,発熱,関節痛などの全身症状が安定しないため,ADA導入C4カ月後に内科医の判断でC2週間ごと80Cmg投与に増量となっている.併用した免疫抑制薬は眼所見,全身症状やCC反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)などの血液検査データをみながら,可能な症例については適宜減量を行った.また経過中ぶどう膜炎再燃時には適宜ステロイドの結膜下注射あるいはTenon.下注射を併用した.重篤な再燃を繰り返す場合には併用中の免疫抑制薬の増量を適宜行った.本研究はヘルシンキ宣言および「ヒトを対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守しており,この後ろ向き研究は,東京大学医学部附属病院倫理委員会により承認されている(UMINID:2217).CII結果まずCBehcet病C7症例のまとめを表1に示す.4名が女性,平均年齢はC48.1歳,全観察期間は平均C88.9カ月,ADA導入から最終観察までは平均C21.7カ月であった.ADA使用前1年間の再発回数は平均C5.4C±4.5回であったのに対し,開始後C1年の平均再発回数はC1.6C±2.4回と減少がみられた.また,ADA使用後に再発のあった症例はC3例であり,いずれの症例でも再発部位に変化はみられなかった.PSLは全身症状に対してC2例で内科より使用されていたが,2例とも減量が可能であった.CYSはC3例で使用されており,2例では減量が可能であったがC1例で増量している.IFXからの切り替え例はC2例であった.COLはC3例で使用していたが,全例で減量が可能であった.また,ADAによると考えられる有害事象はなかった.なお症例C7は前述のとおりぶどう膜炎の活動性は安定していたが,全身症状のコントロールのため内科医の判断でCADAがC1回C80Cmg投与へ増量されている.つぎにCBehcet病以外のぶどう膜炎C13症例のまとめを表2に示す.4名が女性,平均年齢はC48歳,全観察期間は平均55.5カ月,ADA導入から最終観察までは平均C24.6カ月であった.ADA導入前C1年間の再発頻度は平均C2.7C±1.6回であったのに対し,導入後には平均C0.8C±1.2回と減少がみられた.使用後再発をきたした症例はC5例あったが発作部位の変化や発作の程度には変化はみられなかった.PSLはCADA導入前には全例で使用されており,平均C13.0C±4.8Cmg内服していたが,導入後最終観察時にはC4.1C±4.0Cmgまで減量できており,5例は中止可能であった.CYSはC4例で使用されていたが,全例中止可能であった.MTXはCADA導入前C2例で使用されていたが,1例で中止可能であった.ADA導入後にCMTXを開始されたC1例(症例9)は,導入C8カ月後に全身倦怠感,多発関節痛を発症し,リウマチ性多発筋痛症の併発と診断された症例で,内科医の判断でCMTX8Cmg/週を開始された.リウマチ性多発筋痛症の発症とCADAとの因果関係は否定的である,と内科医は判定している.また,MTXを増量したC1例(症例C19)は関節症状に対し内科から増量となっている.有害事象としては,症例C5ではCADA導入後C2週間で発熱,CRP,Cb-Dグルカンの上昇を認め,当院内科の判断で中止となっている.以上をまとめると,Behcet病およびその他の非感染性ぶどう膜炎の両群において,ADA導入前C1年間と比較して,入後C1年間にはぶどう膜炎の再発回数の減少がみられた.また,PSL,CYS,COLなどの併用免疫抑制薬の投与量についても,両群とも多くの症例で減量が可能であった.CIII考按本研究では,当院で治療中の非感染性ぶどう膜炎のうち,既存治療で効果不十分あるいは免疫抑制薬の減量が必要なためCADAを導入した症例の治療成績を後ろ向きに検討した.その結果,Behcet病およびCBehcet病以外のぶどう膜炎いずれの群においても,ADA導入後にはぶどう膜炎の再発回数はおおむね減少し,免疫抑制薬の平均投与量も両群とも減少していた.ADA導入前後C1年間の再発頻度については,20例中減少がC17例,増加がC1例,不変が2例であった(表1,2).FabianiらはC40例のCBehcet病患者に対してCADAを使用し,再発頻度がC1人あたりC2.0回/年からC0.085回/年に著明に減少したと報告している3).今回筆者らが検討したCBehcet病症例では,再発頻度は平均C5.4回/患者・年からC1.6回/患者・年に減少していたが,既報と比較すると効果は限定的であった.この理由として,今回の症例はCADA導入前の再発頻度が既報3)よりも高く,より活動性の高い症例が多かったことが原因ではないかと推測する.一方,サルコイドーシスぶどう膜炎に対するCADA使用については,ErckensらがCPSL内服ならびにCMTX内服で眼内炎症が残る,あるいは内服を継続できない症例C26例に対してCADAを使用し,12カ月間でぶどう膜炎の再発はなく,PSL投与量はCADA導入C6カ月目の時点で導入前の中央値20Cmg/日からC4Cmg/日まで減量できた,と報告している4).今回のサルコイドーシス症例は,5例中C2例にぶどう膜炎の再発を認め,PSL投与量の中央値は投与開始前C13Cmg/日から最終観察時にはC7Cmg/日に減量できていた.既報と比べてやや成績は不良であった.一方,CoutoらはCVKH14例に対してCADAを導入し,投与前のCPSL内服量は平均C36.9Cmg/日であったが,導入後C6カ月でC4.8Cmg/日にまで減少可能であったと報告している5).今回の筆者らのCVKH症例では,導入前のCPSL使用量C12.8±2.5Cmgから最終観察時にはC6.5C±2.5Cmgまで減量することができていた.過去の報告と比べてCADA導入後に使用しているCPSL量が多めであり,ADAの効果はやや限定的であった.このように今回の検討でのCADAの有効性が過去の海外からの報告と比べてやや悪い結果となった理由は不明だが,当院では重症なぶどう膜炎患者にのみCADAを使用しているため,PSLや免疫抑制薬の併用を続けなければならなかった症例が多かったのではないかと考える.今回の症例のうち,免疫抑制薬の減量や再発回数の変化からCADAがとくに効きづらかったと考えられた症例はCBehcet病ではC7例中C1例(CYSの増量,表1症例1),Behcet病以外のぶどう膜炎ではサルコイドーシス(疑い含む)でC5例中C1例(再発回数の増加,表2症例8),VKHで3例中1例(PSL減量不良,表2の症例C14)であった.Behcet病の症例はIFXからの切り替えを行った症例であり,ADA導入前C1年間の再発頻度の高い症例であった.また,サルコイドーシスの症例C8は,もともとCADAの国際臨床試験を行った症例で,治験終了後CADAの継続投与の希望がなかったためいったんADAを中止したが,その後ぶどう膜炎の再発を繰り返したため,ADAを再開した症例であった.また,VKHの症例14は,ADA開始前C1年間の再発回数がC6回と他の症例と比べて多い症例であった.ADAなどのCTNFCa阻害薬の効果が不良となる原因として,TNFCa以外の炎症性サイトカインが主体となって炎症を起こしている可能性(一次無効),TNFCa阻害薬に対する薬物抗体(抗CIFX抗体や抗CADA抗体)が産生されて血液中濃度が低下している可能性(二次無効)12)などが考えられる.また,最近の研究では,非感染性ぶどう膜炎に対するCTNFa阻害薬使用が効果良好となりやすい背景因子は,高齢,ADAの使用(IFXと比較して),全身性の活動性病変がないこと,と報告されている13).また,別のぶどう膜炎に対するCADAの有効性のメタアナリシスの研究では,MTX内服の併用がCADAのCtreatmentfailureのリスクを減少させると報告されている14).今回のCADA効果不良例のうちサルコイドーシスの症例(症例8)は,国際臨床試験での初回使用時では半年で再発頻度がC2.0回からC0.15回(/6カ月)と減少していたが,中止後再開時では初めのC5カ月は明らかな再発なく経過していたものの,その後再発頻度がC2回からC3回(/年)と増加していることを考慮すると,二次無効が原因と考えられる.また,Behcet病の症例(症例1)は,ADA導入後しばらくはぶどう膜炎の再発が抑制されていたが,導入半年後ごろからぶどう膜炎の再発頻度が増しており,二次無効が原因ではないかと考える.また,VKHの症例(症例C14)では開始C4カ月は再発はなかったが,PSLを減量すると前房内の炎症が生じてきた.ステロイド内服をほとんど減量できなかったことから,一次無効ではないかと考えるが,二次無効の可能性も否定できないと考える.しかし,それ以外の症例では,ぶどう膜炎の再発頻度や併用薬剤の投与量はかなり減少できており,ADA導入により一定の効果を上げることができていたと考える.本研究ではC1症例(症例C12)のみ有害事象と考え使用を中止した.初回投与の翌日より発熱がみられ,2週間後に当院アレルギー膠原病内科受診時には,血液検査でCCRP0.61,Cb-DグルカンC51.7と上昇認めた.内科医の判断でCADA投与は中止となった.真菌感染症が疑われ,原因検索のため全身CCTが施行されたが,明らかな感染巣は認められなかった.深在性真菌感染症疑いとしてCST合剤内服が開始され,Cb-Dグルカンは陰性化した.ADA投与を中止しても明らかな眼炎症の増悪を認めなかったため,ADAは再開せずに経過観察している.この症例は,ADA導入前の感染症スクリーニング検査ではとくに異常はみられず,PSLとCADAの投与使用以外には免疫力低下の原因は考えにくい症例であった.ぶどう膜炎に対するCADAの国際臨床試験ではC4.0%に結核などの重大な感染症の有害事象があり2),また真菌感染症(ニューモシスチス肺炎など)については関節リウマチに対するCADA使用時の有害事象として報告15)されている.そのため,日本眼炎症学会による非感染性ぶどう膜炎に対するCTNFa阻害薬使用指針および安全対策マニュアルでは,結核,B型肝炎などの感染症のスクリーニング検査を導入前に施行すべきであるとしている16).いずれにせよ,TNFCa阻害薬の使用の際には,感染症の発症に十分な注意が必要である.本研究の研究でCADAを導入してもぶどう膜炎のコントロールが不十分な症例がC20例中C3例(15%)あった.今回の症例では,ステロイドの局所注射や免疫抑制薬の増量で対応したが,このような症例に対してどのように治療すべきかが今後の課題と考えられる.ぶどう膜炎に先駆けてCADAが使用されてきた膠原病領域では,既存の用量で効果が不十分な症例に対しては,抗CADA抗体が産生される前の早期でのADA増量が有効であることが報告されている17).効果不良症例に対するCADA増量投与は現時点ではぶどう膜炎に対して保険適用はないが,関節リウマチ,乾癬,強直性脊椎炎,Crhon病,腸管CBehcet病に対しては通常使用量の倍量まで増量が可能となっている.本研究においてもCBehcet病完全型の症例(症例7)では全身症状,とくに関節症状の悪化があり,内科医からC80Cmgへの増量がなされている.この症例ではCADA40Cmg開始後はぶどう膜炎の再燃はなかったが,80Cmgへ増量後も再燃はなく,また有害事象もなく経過している.ぶどう膜炎に対しても難治例に対するCADAの増量投与が保険適用となることが望まれる.今回,Behcet病およびその他の非感染性ぶどう膜炎に対してCADAを使用した症例の臨床経過を後ろ向きに検討した.ADA導入によりCBehcet病,他のぶどう膜炎ともに再発頻度が減少し,併用薬剤の減量が可能であった.しかし真菌感染症が疑われた1例でCADA投与を中止していた.ADAは難治性内因性ぶどう膜炎に対して有効であるが,感染症の発症に注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Ja.eGJ,DickAD,BrezinAPetal:Adalimumabinpatientswithactivenoninfectiousuveitis.NEnglJMedC375:932-943,C20162)SuhlerEB,AdanA,BrezinAPetal:Safetyande.cacyofadalimumabinpatientswithnoninfectiousuveitisinanongoingCopen-labelCstudy:VISUALCIII.COphthalmologyC125:1075-1087,C20183)FabianiC,VitaleA,EmmiGetal:E.cacyandsafetyofadalimumabCinCBehcet’sCdisease-relateduveitis:aCmulti-centerCretrospectiveCobservationalCstudy.CClinCRheumatolC36:183-189,C20174)ErckensCRJ,CMostardCRL,CWijnenCPACetal:AdalimumabCsuccessfulCinCsarcoidosisCpatientsCwithCrefractoryCchronicCnon-infectiousCuveitis.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:713-720,C20125)CoutoCC,CSchlaenCA,CFrickCMCetal:AdalimumabCtreat-mentCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCDisease.COculImmunolIn.ammC24:1-5,C20166)小野ひかり,吉岡茉依子,春田真実ほか:非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果.臨眼C72:795-801,C20187)HiyamaCT,CHaradaCY,CKiuchiY:E.ectiveCtreatmentCofCrefractoryCsympatheticCophthalmiaCwithCglaucomaCusingCadalimumab.AmJOphthalmolCase-repC14:1-4,C20198)AsanoCS,CTanakaCR,CKawashimaCHCetal:RelentlessCplac-oidchorioretinitis:Acaseseriesofsuccessfultaperingofsystemicimmunosuppressantsachievedwithadalimumab.CaseRepOphthalmolC10:145-152,C20199)HiyamaT,HaradaY,DoiTetal:EarlyadministrationofadalimumabforpaediatricuveitisduetoBehcet’sdisease.PediatRheumatolC17:29,C201910)KarubeH,KamoiK,Ohno-MatsuiK:Anti-TNFtherapyinthemanagementofocularattacksinanelderlypatientwithClong-standingCBehcet’sCdisease.CIntCMedCCaseCRepCJC9:301-304,C201611)GotoCH,CZakoCM,CNambaCKCetal:AdalimumabCinCactiveCandCinactive,Cnon-infectiousuveitis:GlobalCresultsCfromCtheCVISUALCICandCVISUALCIICTrials.COculCImmunolCIn.amC27:40-50,C201912)SugitaS,YamadaY,MochizukiM:Relationshipbetweenserumin.iximablevelsandacuteuveitisattacksinpatientswithBehcetdisease.BrJOphthalmolC95:549-552,C201113)Al-JanabiCA,CElCNokrashyCA,CShariefCLCetal:Long-termCoutcomesoftreatmentwithbiologicalagentsineyeswithrefractory,Cactive,CnoninfectiousCintermediateCuveitis,Cpos-terioruveitis,orpanuveitis.Ophthalmology127:410-416,C202014)MingS,XieK,HeHetal:E.cacyandsafetyofadalim-umabinthetreatmentofnon-infectiousuveitis:ameta-analysisandsystematicreview.DrugDesDevelTherC12:C2005-2016,C201815)TakeuchiCT,CTanakaCY,CKanekoCYCetal:E.ectivenessCandsafetyofadalimumabinJapanesepatientswithrheu-matoidarthritis:retrospectiveCanalysesCofCdataCcollectedCduringCtheC.rstCyearCofCadalimumabCtreatmentCinCroutineclinicalpractice(HARMONYstudy)C.ModRheumatolC22:C327-338,C201216)日本眼炎症学会CTNF阻害薬使用検討委員会:非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル.第C2版,2019年版,http://jois.umin.jp/TNF.pdf17)佐藤伸一:乾癬治療における生物学的製剤の量的評価と質的評価:抗CTNF-a抗体を中心として.診療と新薬C54:C865-872,C2017C***

非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1198.1203,2019c非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性青木崇倫*1,2永田健児*1関山有紀*1中野由起子*1中井浩子*1,3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学附属北部医療センター病院*3京都市立病院CE.cacyandSafetyofAdalimumabfortheTreatmentofRefractoryNoninfectiousUveitisTakanoriAoki1,2),KenjiNagata1),YukiSekiyama1),YukikoNakano1),HirokoNakai1,3)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)KyotoCityHospitalC目的:アダリムマブ(ADA)を導入した非感染性ぶどう膜炎の有効性と安全性の検討.対象および方法:京都府立医科大学附属病院でC2018年C6月までにCADAを導入したぶどう膜炎患者(男性C7例,女性C3例)を対象に,臨床像,ADA導入前後の治療内容,治療効果,副作用を検討した.結果:症例の平均年齢C48.2歳(10.75歳),平均観察期間19.4カ月,臨床診断はCBehcet病(BD)7例,Vogt-小柳-原田病(VKH)3例であった.導入理由はインフリキシマブ(IFX)から変更がC6例,免疫抑制薬の副作用がC1例,ステロイド・免疫抑制薬で難治がC3例であった.BDの眼炎症の発作頻度はCADA導入前の平均発作回数C4.8回/年で,導入後はC1.4回/年に減少した.VKHでは,ADA導入前の平均ステロイド量C9.8Cmgから,最終時C7.2Cmgに漸減できた.ADA導入後にCVKH再燃を認め,ステロイドを増量した例がC1例あった.また,BDのうち,1例が注射時反応,1例が効果不十分でCADA中断となった.結論:BDではCADAはCIFXと同等以上の効果が期待でき,VKHの再燃例では,ADA追加のみでは効果不十分でステロイドの増量が必要な場合があった.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofadalimumab(ADA)ineyeswithrefractorynoninfectiousuve-itis.PatientsandMethods:Thisretrospectivecaseseriesstudyinvolved10refractoryuveitispatients(7males,3females;meanage:48.2years)treatedCwithCADACatCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCuntilCJuneC2018,Cwithameanfollow-upperiodof19.4months.Results:DiagnosesincludedBehcet’sdisease(BD:7patients)andVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH:3patients);reasonsCforCadministrationCwereCswitchingCfromCin.iximab(IFX)toADA(n=6),Cimmunosuppressantside-e.ects(n=1),CandCinsu.cientCe.ectCofCbothCsteroidCandCimmuno-suppressant(n=3).ADAreducedthefrequencyofocularattacksinBDfrom4.8/yearto1.4/year,andoral-ste-roidCamountCinCVHKCfromC9.8CmgCtoC7.2Cmg.CTwoCBDCpatientsCdiscontinuedCADACdueCtoCallergyCandCinsu.cientCe.ect.Conclusions:InBD,ADAwasprobablyofequivalentorgreatere.ectthanIFX.InVKH,ADAalonewasofinsu.ciente.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1198.1203,C2019〕Keywords:アダリムマブ,ベーチェット病,Vogt-小柳-原田病,インフリキシマブ,ぶどう膜炎.adalimumab,CBehcet’sdisease,Vogt-Koyanagi-Haradadisease,in.iximab,uveitis.Cはじめに非感染性ぶどう膜炎に対する治療は,局所・全身ステロイドが中心であり,難治例には免疫抑制薬のシクロスポリン(cyclosporine:CsA)が使用可能である.2007年C1月よりベーチェット病(Behcet’sdisease:BD)に対して,生物学的製剤である腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfactorCa:CTNFa)阻害薬のインフリキシマブ(in.iximab:IFX)が保険適用となり,既存治療に抵抗を示す難治性CBDの有効性が示された1).さらにC2016年C9月には非感染性ぶどう膜炎に対して,完全ヒト型CTNFa阻害薬であるアダリムマブ(adali-〔別刷請求先〕青木崇倫:〒629-2261京都府与謝郡与謝野町男山C481京都府立医科大学附属北部医療センター病院Reprintrequests:TakanoriAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,YosagunYosanochoOtokoyama481,Kyoto629-2261,JAPANC1198(96)mumab:ADA)が保険適用となった.ステロイドや免疫抑制薬で抵抗を示す症例,さまざまな副作用で継続できない症例などの難治性非感染性ぶどう膜炎に対して,ADAの使用が可能になった.また,BDでもCIFXの使用できない症例やIFXの効果が減弱(二次無効)する症例などに対してCADAへの変更が可能となり,治療の選択肢が増えた.ADAは皮下注射のため,自宅での自己注射により病院拘束時間が短いことも有用な点である.これらのCIFXやCADAの眼科分野での生物学的製剤の認可により,難治性ぶどう膜炎に対して治療の選択肢が広がったが,新たな治療薬として実臨床での適応症例や,使用方法,効果,安全性の検討が必要である.そこで,京都府立医科大学附属病院(以下,当院)で経験したCADAの使用症例とその効果や安全性について検討した.CI対象および方法当院で,ADA導入した難治性ぶどう膜炎患者C10例(男性7例,女性C3例,導入時平均年C48.2C±19.6歳)を対象とし,ADAの有効性,安全性について,京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得てレトロスペクティブに検討した.ADA導入後の平均観察期間はC19.4C±18.5カ月(4.53カ月)であった.原疾患の診断はCBDがC7例C14眼,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)がC3例C6眼であった.BDは厚生労働省CBD診断基準2)に基づき,完全型,不全型および特殊型CBDの確定診断を行った.VKHでは国際CVKH病診断基準3)に基づき,確定診断を行った.ADAは添付文書の記載に従って(腸管CBD:初回C160Cmg投与,初回投与からC2週間後C80Cmg,その後はC2週間隔C40mg投与,難治性ぶどう膜炎:初回C80Cmg投与,初回投与からC1週間後C40Cmg,その後はC2週間隔C40Cmg投与,小児:初回C40Cmg投与,初回投与よりC2間間隔C40Cmg投与)投与した.また,ADAの導入にあたり当院膠原病・リウマチアPSL)投与量(ADA導入前の最小CPSL量,最終観察時CPSL量)を調べた.治療の効果判定は有効,無効・中断,経過観察中にC3分類し,有効は眼所見の改善や薬剤の減量ができた症例で,無効・中断は眼所見の改善が認められなかった症例や治療継続困難となった症例,経過観察中はCADA導入開始後C6カ月以内の症例とした.また,統計方法はすべてCStu-dentのCt検定を用い,p<0.05を有意差ありとして比較を行った.CII結果全症例の年齢,性別,ADA導入理由,観察期間を表1に示した.ADA導入理由はCBDではCIFXからの変更がC6例(2例:IFXの投与時反応で中断例,2例:IFXの二次無効例,1例:IFXでコントロール困難例,1例:IFXの中断後再燃例),免疫抑制薬の副作用で継続困難な症例がC1例であった.BDは完全型BDが2例,不全型BDが3例,特殊型BDが2例(腸管CBD併発C2例)であった.小児の不全型CBD1例は,脊椎関節炎を併発しており,両疾患に対してCADAを導入した.特殊型CBD2例のうちC1例は腸管CBDの治療目的にCADA導入し,1例はぶどう膜炎の治療目的にCADAを導入した.VKHのCADA導入理由はすべて,ステロイドおよび免疫抑制薬でコントロール困難な症例であった.最良矯正視力は,ADA導入前平均視力はClogMARC0.27±0.46であったが,ADA導入後の最終平均視力ClogMAR0.26C±0.47となり,導入前後で有意差を認めなかった(p=0.93)(図1).疾患別の効果について,BDの症例は表2に,VKHの症例は表3にそれぞれまとめた.中断・無効を除いた症例でのCBDの発作頻度は,ADA導レルギー科,小児科または消化器内科(腸管CBD症例)との連携の下で行った.全症例において,ADA導入理由と,ADA導入前後の最良矯正視力,併用薬剤,効果判定,全身副作用の有無に関して調査した.また,BDではCADA導入前後の眼炎症発作回数,眼炎症発作の重症度について調べた.重症度に関しては,ADA導入前後の眼炎症発作のなかでもっとも重症であった眼炎症発作について,発作部位を前眼部炎症,硝子体混ADA導入後の最良矯正視力濁,網膜病変に分けて評価し,網膜病変は血管炎,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME),硝子体出血(vitre-oushemorrhage:VH)を調べた.また,蕪城らによって報告されたスコア法(Behcet’sdiseaseocularattackscore24:BOS24)4)でCADA導入前C6カ月から導入まで,ADA導入から導入後C6カ月まで,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアで評価した.VKHではプレドニゾロン(prednisolone:0.010.11ADA導入前の最良矯正視力:Behcet病:Vogt-小柳-原田病図1アダリムマブ(ADA)導入前後の視力変化縦軸にCADA導入後の最良矯正視力,横軸にCADA導入後の最良矯正視力を示す.ADA導入前後では有意差を認めなかった(p=0.93).表1全症例ADA導入時観察期間症例年齢(歳)性別疾患名ADA導入理由(月)1C65男特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX二次無効(腸管BD)C53C2C51女特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX投与時反応C52C3C10男不全型CBD(脊椎関節炎併発)IFXコントロール困難C3C4C31男完全型CBDIFX二次無効C30C5C46女不全型CBDIFX中断後再燃C0.5C6C32男不全型CBDIFX投与時反応C11C7C39男完全型CBD免疫抑制剤の副作用C8C8C61女CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C19C9C72男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C13C10C75男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C4BD:BehcetC’sdisease(ベーチェット病),VKH:Vogt-Koyanagi-Haradadisease(フォークト-小柳-原田病),IFX:in.iximab(インフリキシマブ).表2Behcet病の症例ADA導入前ADA導入後症例発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変C併用薬剤効果11回/年+..0回/年C…なし有効C24回/年++CME2.6回/年++.コルヒチン,MTX有効C32回/年++CME,VH中止++CME,VHCMTX,PSL無効・中断C410回/年++.2.5回/年++.MTX,PSL有効C51回/年++CME中止++CMECMTX無効・中断C65回/年++網膜血管炎1.8回/年++.CsA有効C74回/年++.0回/年C…なし有効CME:.胞様黄斑浮腫,VH:硝子体出血,MTX:メトトレキサート,PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.表3Vogt.小柳.原田病の症例症例ADA導入前PSL投与量(mg)CsA投与量(mg)ADA導入後最終CPSL投与量(mg)C効果判定8C7.5C150C4有効C9C7C150C0有効C10C15C100C17.5経過観察中PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.入前の平均発作回数がC4.8C±2.9回/年から,ADA導入後の平均発作回数はC1.4C±1.2回/年に減少した(p=0.06).眼炎症の重症度では,BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入後7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であり,導入前に比べて,導入後の積算スコアは優位に低値を示した(p=0.02,0.03)(図2).効果判定は,有効C5例,中断・無効C2例であり,中断・無効のうち,症例C3はCIFXとメトトレキサート(methotrexate:MTX)治療に加えて,眼炎症発作時にCPSL頓用を行っていたが,CMEとCVHを伴うような眼炎症の発作を認めたためにCADA導入となった.ADA導入後もCCMEの改善がなく,VHの悪化を認め,関節症状も考慮してインターロイキンC6受容体阻害薬であるトシリズマブ(tocilizum-ab:TCZ)に変更となった.症例C5はCADAの投与時反応にて中断となり,IFXに変更になった.以下にCBDの代表症例を示す.〔BDの代表症例:症例4〕31歳,男性.2010年にCBDを発症しコルヒチンを投与したが,強い硝子体混濁を伴うような眼炎症発作を起こしたためにC2011年よりCIFXを導入した.IFXの導入後も発作回数が頻回なために,IFXの投与量や投与間隔を変更し,併用薬剤にCCsAとCMTXを追加するなどを試みた.薬剤変更により最初は発作回数の軽減はあったが,徐々に効果がなくなり,IFXのC6週間隔投与とコルヒチン,MTXを併用したが,眼炎症発作回数がC10回/年であったためにCADAの導入となった(図3).ADAの導入後は眼炎症発作回数がC1.8回/年に減少した.VKHではCADA導入前にもっとも少なかったときのCPSLの平均投与量がC9.8C±3.7Cmgであり,最終受診時のCPSLの平均投与量C7.2C±7.5Cmgであった(p=0.67).2例でPSL量の減量を認め,1例はCADA導入後にCPSL漸減中に再燃を認めたために現在CPSLを増量している.また,当院ではCADA導入後は全例でCCsA内服を中止している.以下にCVKHの代表症例を示す.〔VKHの代表症例:症例8〕61歳,女性.2016年にCVKHを発症(図4a)し,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1,000Cmg点滴静注,3日間)をC2クール行った.炎症の残存を認めたためにトリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjec-tion:STTA)を併用しながら,初期投与量のCPSL60CmgからCPSL15Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.PSLを増量し,CsAとCSTTAを併用しながら,PSL10Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.そこでCPSL量は維持のまま,ADAを導入したが,光干渉断層計(OCT)で網膜色素上皮ラインの波打ち像を認めたためにCPSL30Cmgまでいったん増量し改善を得た.その後,ステロイドを漸減し,現在CPSL4Cmgまで減量できており,再燃は認めていない(図4b).ADA投与に伴う副作用はC10例中C5例に認めた.2例で注射部位反応,2例で咽頭炎,2例で肝酵素上昇,1例でCCRP・赤沈上昇,1例で乾癬様皮疹,1例で好酸球高値を認めた(重複あり).症例C5では,IFX投与が挙児希望のため中断となったが,中断後にCCMEを認め,通院の関係からCADAでのTNF阻害薬の再開となった.初回・2回目のCADA投与で注射部位反応を認め,2回目の注射後に注射部位の発赤がC7cm程度まで拡大し,注射部位以外の発疹や口唇浮腫も認めたために中止となった.CIII考按今回,既存治療でコントロール困難な難治性非感染性ぶどう膜炎に対し,当院でCADAを導入した各疾患における効果判定と安全性の結果を検討した.海外の報告においては,さまざまな難治性ぶどう膜炎に対するCADA導入の有用性が示されている5,6).また,国内でもCADAの認可に伴い,小野らC18*16*1412BOS241086420ADA導入ADA導入後ADA導入後6カ月前~導入0~6カ月7~12カ月図2BS24(Behcet'sdiseaseocularattackscore244))の経過BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であった(*p<0.05).図3症例4(31歳,男性,Behcet病)アダリムマブ(ADA)導入前には発作を繰り返しており,前眼部に前房蓄膿と虹彩後癒着を伴う強い炎症を認め(a),びまん性の硝子体混濁,網膜血管炎,滲出斑を認めた(Cb).ADA導入後は新規病変を認めず,硝子体混濁は改善した.図4症例8(61歳,女性,Vogt.小柳.原田病)Ca:初診時COCT.両眼眼底に隔壁を伴う漿液性網膜.離と脈絡膜の肥厚,網膜色素上皮ラインの不整を認めた.Cb:ADA導入後のCOCT.ADA導入後,脈絡膜の肥厚は認めるが,漿液性網膜.離や網膜色素上皮不整の改善を認めた.が難治性ぶどう膜炎に対する短期の使用経験と有用性を示している7).疾患別にみると,難治性CBDに対しては,国内では先に認可されたCIFXが主流であるが,海外では生物学的製剤(IFX,ADA)の報告が多数なされている8).ValletらはCBDに対して,IFXまたはCADA投与によりC91%で完全寛解/部分寛解を認め,IFXとCADAで同様の有効性であったと報告している9).また,IFXの継続困難や二次無効の症例のCADAへの変更は有用性を示されている10,11).当院の症例では,IFXからCADAへの変更がC6例あり,1例が新規導入であった.既報と同様にCIFXでの継続困難の症例や二次無効の症例においてもCADA変更後は改善を示していた.また,ADA新規導入例もCADA導入後は眼炎症発作を認めておらず,IFXと同様の効果を期待ができると考えられた.BDに対して生物学的製剤導入の際にCADAは選択肢の一つとして非常に有用であり,また,IFXによる眼炎症コントロール不良例ではCADAへの変更も考慮に入れるべきである.ADAは自己注射で行えるために,病院拘束時間が短くなることも注目すべき点であり,若年男性に重症例の多いCBDにおいては治療選択における根拠の一つとなると考えられる.Deitchらは免疫抑制療法でコントロールできない小児の難治性非感染性ぶどう膜炎におけるCIFXとCADAの有効性を報告している12).当院では症例C3が小児ぶどう膜炎(BD)のCADA導入例であったが,IFX,ADAで効果がなく,TCZに変更になった.今回のようにCIFXやCADAで効果がない場合にCTNFではなくCIL-6をターゲットとする生物学的製剤が有効な症例もある13).VKHに関して,Coutoらはステロイド,免疫抑制薬でコントロール困難なCVKHにCADA追加によりステロイドの減量または離脱が可能であったと報告している14).当院でのVKHの治療方針として,ステロイドパルス療法後にCPSL内服(1Cmg/kg/日,またはC60Cmg/日の低い用量から開始)を漸減し,再燃を認める場合にはCPSLの増量とCCsA併用を行い,症例によっては年齢や全身状態などを考慮してCSTTAの併用を行っている.さらにCPSLとCCsA併用で再燃を認めたCVKHに対してCADAの導入を検討し,ADA導入後はCsAを終了している.今回CADA導入したC3例はすべて,症例C8のようにCCsA併用でCPSL投与量漸減中に再燃を認めた症例である.症例C8はCPSL投与量を維持したままCADAを追加したが,再燃を認めたため,PSLを増量した経緯から,症例C9と症例C10ではCADA導入前にCPSLの増量も行った.この結果から,VKHではCADA投与だけでは炎症のコントロールができない可能性があり,ADA導入とともにPSLの増量を考慮する必要があると考えられた.添付文書より,ADAの副作用は国内臨床試験で全体の82.9%に認められ,当院ではC5例(50%)に注射時反応を認めた.当院では症例C5は,ADAのみに強い投与時反応を認め,IFXに変更になった.一般的にCIFXがマウス蛋白とのキメラ型であるに対して,ADAは完全ヒト型のために,IFXのほうがアレルギー反応多いとされているが,ADAでも強いアレルギー反応を認める症例があり,注意が必要である.ADAの登場により難治性ぶどう膜炎に生物学的製剤を使用することが可能になった.当院でも既存治療で難治例に対して使用し,BDでは中断例以外は非常に有効であり,VKHに関しても有効であると考えられた.ADAは国内で認可されてから日が浅いために,疾患別の有効性,導入時期,併用PSLの漸減方法などが不明確である.また,今後導入した症例に対しては,中止するタイミングの検討も必要となる.当院でのCADAは症例数もまだ少なく,今後症例を増やしてADAの適切な治療の検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakeuchiM,KezukaT,SugitaSetal:Evaluationofthelong-termCe.cacyCandCsafetyCofCin.iximabCtreatmentCforCuveitisCinCBehcet’sdisease:aCmulticenterCstudy.COphthal-mologyC121:1877-1884,C20142)厚生労働省べ一チェット病診断基準:http://www.nanbyou.Cor.jp/upload_.les/Bechet2014_1,20143)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclatu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TNF阻害薬が有効であった強膜ぶどう膜炎の2症例

2018年6月30日 土曜日

《第51回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科35(6):825.828,2018cTNF阻害薬が有効であった強膜ぶどう膜炎の2症例河野慈*1石原麻美*1澁谷悦子*1井田泰嗣*1竹内正樹*1山根敬浩*1蓮見由紀子*1木村育子*1,2石戸みづほ*1水木信久*1*1横浜市立大学大学院医学研究科眼科教室*2南大和病院CTwoCaseofSclerouveitisTreatedbyTNFInhibitorsShigeruKawano1),MamiIshihara1),EtsukoSibuya1),YasutsuguIda1),MasakiTakeuchi1),TakahiroYamane1),YukikoHasumi1),IkukoKimura1,2)C,MizuhoIshido1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)MinamiyamatoHospital目的:TNF阻害薬〔インフリキシマブ(IFX),アダリムマブ(ADA)〕で治療した難治性強膜ぶどう膜炎のC2症例の報告.症例:症例1)50歳,女性.右眼強膜ぶどう膜炎のため,2012年C3月当院受診.プレドニゾロン(PSL)にメトトレキサート(MTX)を併用したが消炎せず,同年C9月にCIFXを導入.その後,右眼裂孔原性網膜.離を生じ硝子体手術を施行.2015年C2月に血小板増多のためCIFXを中止後,炎症が再燃したが,再開により速やかに改善した.症例2)79歳,女性.関節リウマチに伴う強膜ぶどう膜炎のため,2016年C3月当院受診.非ステロイド系抗炎症薬を内服したが,右眼に.胞様黄斑浮腫(CME)出現.間質性肺炎の既往のためCMTXは使用できず,同年C12月にCADAを導入.6週間後にCCMEは消失した.結論:難治性強膜ぶどう膜炎に対し,TNF阻害薬による治療は有効である.CPurpose:Toreporttwopatientswithrefractorysclerouveitistreatedwithtumornecrosisfactor(TNF)inhib-itors,Cin.iximab(IFX)andCadalimumab(ADA)C.CCase:CaseC1:AC50-year-oldCfemaleCwithCright-eyeCsclerouveitiswasCreferredCtoCusCinCMarchC2012.COralCprednisolone(PSL)andCmethotrexate(MTX)treatmentCwasCine.ective.CIFXwasaddedtothetreatmentregimeninSeptember2012.Vitrectomyforrhegmatogenousretinaldetachmentwassubsequentlyperformed.InFebruary2015,thesclerouveitisrelapsedafterIFXdiscontinuationduetothrom-bocytosis.ThepatientsoonwentintoremissionafterrestartingIFXtreatment.Case2:A79-year-oldfemalewithrheumatoidCarthritis-associatedCsclerouveitisCwasCreferredCtoCusCinCMarchC2016.CCystoidCmacularCedema(CME)Cdevelopeddespitetreatmentwithnon-steroidalanti-in.ammatorydrugs.AhistoryofinterstitialpneumoniameantMTXCwasCnotCadministered.CADACtreatmentCwasCcommencedCinCDecemberC2016.CCMECdisappearedCafterCsixCweeks.Conclusions:TNFinhibitorsmaybee.ectiveintreatingrefractorysclerouveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(6):825.828,C2018〕Keywords:強膜ぶどう膜炎,インフリキシマブ,アダリムマブ,プレドニゾロン経口投与,関節リウマチ.scler-ouveitis,in.iximab,adalimumab,oralCprednisolone,rheumatoidarthritis.Cはじめに強膜ぶどう膜炎は進行すれば失明の可能性のある炎症性眼疾患であり,感染性と非感染性に分けられる.非感染性強膜ぶどう炎の原因としては特発性がもっとも多いが,関節リウマチ(rheumatoidCarthritis:RA)をはじめとして多発血管性肉芽腫症,全身性エリテマトーデス,結節性多発動脈炎,再発性多発軟骨炎,炎症性腸疾患,強直性脊椎炎などの全身性疾患が背景として存在することもある1).治療はまず,ステロイド薬点眼・免疫抑制薬点眼,症例によってはステロイド薬結膜下注射などの局所治療を行う.全身治療としては,非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidalCanti-inflammatorydrugs:NSAIDs)内服で消炎しなければ,プレドニゾロン(PSL)経口投与が行われる.さらにステロイド薬内服でも炎症のコントロールがつかなければ,免疫抑制薬の全身投与が行われる.非感染性ぶどう膜炎に保険適用のあるシクロスポリンのほか,RAが原疾患であればメトトレキサート(MTX)〔別刷請求先〕河野慈:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:ShigeruKawano,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama-shi,Kanagawa236-0004,JAPANが使用される2).それでも炎症のコントロールが得られない場合,TNF阻害薬の導入が考慮される.原疾患のCRAに対し,インフリキシマブ(IFX)やアダリムマブ(ADA)をはじめとする種々のCTNF阻害薬が使用できる2).また,ADAに関してはC2016年C9月より既存治療抵抗性の非感染性ぶどう膜炎(中間部,後部,汎ぶどう膜炎)に保険適用となったため3),特発性の強膜ぶどう膜炎(後眼部病変を伴う場合)に対して使用可能となった.今回,筆者らは既存の治療に奏効しなかった非感染性の強膜ぶどう膜炎C2症例に対し,TNF阻害薬(IFX1例,ADA1例)を導入して炎症コントロールが得られたので報告する.CI症例〔症例1〕50歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2010年C5月に右眼の充血と眼痛を主訴に近医眼科受診し,両強膜ぶどう膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼に加え,PSLをC30Cmg/日より漸減内服して軽快したが,2011年C12月に右眼の炎症が再燃した.PSL30mg/日にシクロスポリンC3Cmg/kg/日を併用したが,PSL漸減中に再燃を繰り返したため,2012年C3月に横浜市立大学附属病院眼科(以下,当科)紹介受診となった.初診時眼所見:視力は,VD=(1.2C×sph+1.00D(cyl.0.75DAx10°),VS=(1.2C×sph+0.50D(cyl.1.25DCAx170°).眼圧は,右眼C20CmmHg,左眼C20CmmHg.右眼に全周性に強膜の表在性および深在性血管の充血がみられたが,眼内に炎症所見はなかった.左眼の強膜および眼内には炎症所見はみられなかった.経過:当科受診後よりCPSLをC40Cmg/日に増量し,右眼の強膜ぶどう膜炎はコントロールできていたが,2013年C5月,5mg/日まで漸減した際,両眼の強膜ぶどう膜炎が再燃した.PSLをC40Cmg/日に増量してCMTX6Cmg/週を併用したが,右眼の強膜ぶどう膜炎のコントロールは得られず,9月には漿液性網膜.離(serousCretinalCdetachment:SRD)を合併したため,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC500Cmg×3日間)を施行した.その後,網膜裂孔が見つかり,PSLとCMTX内服に加えC11月よりCIFX導入後,硝子体手術を施行した.術後,網膜は復位し,炎症の再燃もみられなかった.2015年C4月に多血症を認めたため,IFXを中止したが,約C2カ月後に右眼の強膜ぶどう膜炎が再燃した(図1a).IFXの再開後,速やかに強膜ぶどう膜炎は軽快し(図1b),同年C9月にCPSL内服を漸減中止した.現在までCIFXとCMTXを継続しており,強膜ぶどう膜炎の再燃はない.〔症例2〕79歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛.既往歴:開放隅角緑内障,関節リウマチ,間質性肺炎.現病歴:2016年C2月に右眼の眼痛と充血を主訴に近医受診し,右眼強膜ぶどう膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼,タクロリムス点眼に加え,デキサメタゾン結膜下注射を施行したが消炎しないため,2016年C3月当科紹介受診となった.初診時所見:視力は,VD=0.2(1.2C×sph.0.25D(cyl.2.25DAx90°),VS=0.3(1.2C×sph+1.25D(cyl.2.50DCAx85°).眼圧は,右眼C12CmmHg,左眼C11CmmHg.右眼の耳上側の強膜に表在性および深在性血管の充血がみられたが,眼内に炎症所見はなかった.左眼の強膜および眼内には炎症所見はみられなかった.経過:2016年C4月に右.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedama:CME)が出現したため,トリアムシノロン後部Tenon.下注射を施行した.さらにCNSAIDsの内服を開始したが,9月には右眼内炎症の増悪と,わずかにCSRDを伴図1多血症のためIFX中止後の再燃時(a)およびIFX再開後(b)の右眼前眼部写真IFX中止後,強膜の血管充血は増強したが(Ca),再開後は速やかに充血は改善し,上方に強膜の菲薄化がみられた(b).C図2増悪時の右眼前眼部写真(a)およびOCT写真(b)耳上側の強膜の血管充血が増悪し(Ca),OCTにて,わずかに漿液性網膜.離を伴った.胞様黄斑浮腫がみられた(b).C図3ADA導入後の右眼前眼部写真(a)およびOCT写真(b)強膜の血管充血は軽快し(Ca),OCTにて黄斑部は正常化が確認された(Cb).CったCCMEを認めた(図2).PSL内服を勧めたが,間質性肺炎の治療でCPSLを半年間内服した際に副作用歴があるため内服しなかった.また,間質性肺炎の既往によりCMTXも使用できないため,同年C12月にCADAを導入した.4回注射後,炎症所見は軽快するとともに,CMEは消失した(図3).現在もCADAを継続し再燃なく経過している.CII考察今回筆者らは,既存治療に抵抗した難治性強膜ぶどう膜炎2例に対し,IFXまたはCADAを導入し,消炎が得られた症例を報告した.強膜ぶどう膜炎や強膜炎に対するCTNF阻害薬の有効性を示した海外の症例報告はいくつかあり,数種類の免疫抑制薬で炎症コントロールが困難であった強膜ぶどう膜炎C2症例に対し,IFXを導入することで速やかに消炎した報告4)や,MTX単剤でコントロール不良な結節性強膜炎の症例に対し,ADAを併用することにより消炎が得られた報告5)などがある.一方,わが国では,強膜炎に対するTNF阻害薬の保険適用はないが,既存治療抵抗性の中間部,後部,汎ぶどう膜炎にCADAが使用できるようになった.IFXに関しては,強膜炎に保険適用外で使用した報告が散見される6,7)が,強膜炎,強膜ぶどう膜炎に対するCADAの使用報告はまだない.症例C1は特発性強膜ぶどう膜炎であるが,ADAが非感染性ぶどう膜炎に適応となる前であったため,倫理委員会の承認を得てCIFXを導入した.網膜.離に対する硝子体手術の前に導入し,術後炎症が予防できたが,ステロイドパルス療法も術前に施行しているために,IFX単独の効果であったかどうかは不明である.しかし,血小板増多症をきたした際にCIFXを中止したところ,強膜ぶどう膜炎が再燃し,IFX再開後に速やかに消炎したため,本症例の炎症コントロールにCIFXが有効であると考えられた.症例C2では,既往症にRAに伴う間質性肺炎があり,その治療に使用したステロイド薬の副作用歴があったため,MTXおよびCPSLを使用せずにCADAを導入し,速やかな消炎がみられた.Ragamら8)はCADA単剤で炎症コントロール可能であった強膜炎症例を報告している.TNF阻害薬はステロイド薬や免疫抑制薬などで効果不十分な場合に併用する薬剤であるが,本症例のように,既存治療薬剤が副作用などで使用できない場合に限って,ADA単剤使用を考慮してもよい可能性が示唆された.海外では難治性強膜炎に対し,TNF阻害薬を含む生物学的製剤が積極的に使用されている.deCFidelixら9)は,おもに結節性および壊死性前部強膜炎に対してC2015年までに投与された生物学的製剤の統計を報告しており,IFXはC46/81例(57%)ともっとも多く使用されていた.IFX投与群はC96%(45/46例)で有効であり,ADA投与群はC2例だけであるが,2例とも有効であった.海外でもCADAの使用頻度は他の薬剤と比べて非常に少ないが,今後適応の拡大とともに増えると考えられる.また,非感染性・非壊死性強膜炎に対し,IFXとCADAのどちらが有効かを検討した報告8)があるが,両薬剤の効果に有意差はないという結果であった.強膜ぶどう膜炎や強膜炎におけるCTNF阻害薬の中止(バイオフリー)の目安についてのコンセンサスはまだないが,4年間の治療後にCADAを中止することができた結節性強膜炎の症例報告がある10).症例C1では多血症のためCIFXを中止後に炎症が再燃したが,ステロイド薬がオフになってから現在までのC2年間では炎症の再燃はない.慎重に経過をみながら中止時期を検討していく予定である.既存治療に抵抗する,後眼部病変を合併した強膜ぶどう膜炎に対し,TNF阻害薬(IFX,ADA)は有効であると考えられた.しかし,わが国ではCADAを使用した報告がなく,その有効性の評価については,今後の症例の蓄積が待たれる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SmithJR,MackensenF,RosenbaumJT:Therapyinsight:CscleritisCandCitsCrelationshipCtoCsystemicCautoimmuneCdis-ease.NatClinPracticeC3:219-226,C20072)日本リウマチ学会:関節リウマチ(RA)に対するCTNF阻害薬使用ガイドライン(2017年C3月C21日改訂版)httpC://www.Cryumachi-jp.com/info/guideline_TNF.html3)日本眼炎症学会CTNF阻害薬使用検討委員会:非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル(2016年版).日眼会誌121:34-41,2017http://www.Cnichgan.or.jp/menber/guidline/tfn_manual.pdf4)DoctorP,SultanA,SyedSetal:In.iximabforthetreat-mentCofCrefractoryCscleritis.CBrCJCOphthalmolC94:579-583,C20105)RestrepoCJP,CMolinaCMP:SuccessfulCtreatmentCofCsevereCnodularCscleritisCwithCadalimumab.CClinCRheumatolC29:C559-561,C20106)小溝崇史,寺田裕紀子,子島良平ほか:インフリキシマブが有効であった関節リウマチによる壊死性強膜炎のC1例.あたらしい眼科31:595-598,C20147)杉浦好美,増田綾美,松本功ほか:レミケードが奏功した難治性壊死性強膜炎のC1例.眼臨紀5:613,C20128)RagamCA,CKolomeyerCAM,CFangCCCetCal:TreatmentCofCchronic,noninfectious,nonnecrotizingscleritiswithtumornecrosisCfactorCalphaCinhibitors.COculCImmunolCIn.ammC22:469-477,C20149)deCFidelixCTS,CVieiraCLA,CdeCFreitasCD:BiologicCtherapyforCrefractoryCscleritis:aCnewCtreatmentCperspective.CIntCOphthalmol35:903-912,C201510)BawazeerCAM,CRa.aCLH:AdalimumabCinCtheCtreatmentCofCrecurrentCidiopathicCbilateralCnodularCscleritis.COmanCJCOpthalmol4:139-141,C2011***

インフリキシマブ治療が奏効した完全型Behçet病の11歳,女児症例

2017年5月31日 水曜日

《第50回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科34(5):718.721,2017cインフリキシマブ治療が奏効した完全型Behcet病の11歳,女児症例高橋良太*1伊野田悟*1吉田淳*2森本哲*3川島秀俊*1*1自治医科大学眼科学講座*2がん研有明病院眼科*3自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科An11-Year-OldFemalewithCompleteTypeBehcet’sDiseaseSuccessfullyTreatedbyIn.iximabRyotaTakahashi1),SatoruInoda1),AtsushiYoshida2),AkiraMorimoto3)andHidetoshiKawashima1)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DivisionofOphthalmology,TheCancerInstituteHospitalofJFCR,3)DepatmentofPediatrics,JichiChildren’sMedicalCenterTochigi,JichiMedicalUniversity当初不全型Behcet病と診断された11歳の女児にコルヒチン治療を開始したが,有害事象によって治療継続が困難であったため,低用量副腎皮質ステロイド薬に切り替えた.その5カ月後,両眼にぶどう膜炎を発症し完全型Behcet病と診断した.コルヒチン治療に不耐,HLA-A26陽性などを総合的かつ慎重に検討し,インフリキシマブ治療を導入した.導入後,主症状4症状と副症状(股関節痛)は改善し,その後再燃を認めていない.小児Behcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ治療の報告は少ないが,非常に有効な治療と考えられ,さらなる臨床経験の蓄積が期待される.An11-year-oldfemaleoriginallydiagnosedwithincompletetypeBehcet’sdiseasereceivedcolchicinetherapy.Thattherapywasdiscontinuedbecauseofadversee.ects,andlow-dosecorticosteroidtherapywasstarted.Fivemonthslater,shedevelopeduveitisinbotheyes,sowasdiagnosedwithcompletetypeBehcet’sdisease.SinceshecouldnottoleratecolchicinetherapyandpossessesHLA-A26,in.iximabtherapywasdeliberatelyintroduced.Sub-sequently,theintraocularin.ammationsubsidedcompletely.Thereareonlyafewreportsconcerningin.iximabtherapyforuveitisduetoBehcet’sdiseaseinchildren.Webelievethatin.iximabtherapyisobviouslye.ectiveandthatfurthertrialsarewarranted.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):718.721,2017〕Keywords:小児ぶどう膜炎,Behcet病,インフリキシマブ,HLA-A26.uveitisinchildren,Behcet’sdisease,in.iximab,HLA-A26.はじめに小児におけるぶどう膜炎患者は比較的少数で,そのなかでもBehcet病患者は日本では稀とされている1).生物学的製剤であるTNF-a阻害薬の一つであるレミケードR(一般名:インフリキシマブ,IFX)は,Behcet病眼病変をもつ患者での治療効果が認められ,より多くの症例に導入が適応されるようになってきている2).生物学的製剤は特発性関節炎や小児クローン病に対して有用性は報告されているが3),小児におけるBehcet病眼病変をもつ患者への使用経験は,いまだ十分とは言い難い.今回,11歳,女児に完全型Behcet病によるぶどう膜炎発症を契機としてIFX治療を導入し,寛解に至った1例を経験したので報告する.I症例患者:11歳,女児.主訴:なし(小児科からBehcet病の眼症状スクリーニング目的).現病歴:5歳前後から齲歯・口内炎を繰り返し,頻回の歯科通院歴があった.〔別刷請求先〕高橋良太:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:RyotaTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke-shi,Tochigi329-0498,JAPAN718(116)表1小児科入院当初(11歳0カ月)の血液検査所見WBC:7,900/μl(うち好中球3,800/μl)赤血球数:451×104/μlCRP:0.72mg/dl,赤血球沈降速度:58mm/hour抗核抗体,抗ds-DNA抗体,抗SS-A,B/RO抗体,MMP-3など正常範囲内HLAA26(+),B51(-)9歳頃まで39℃を超える発熱を月に1回ほど認めていた.10歳時に歯科治療後に毎週発熱をきたし当院小児科初診となった.小児科で経過観察中,舌辺縁の口内炎,小陰唇と肛門部の潰瘍,毛.炎様皮疹,股関節炎を認めた.血液検査では著明な炎症所見を認めたが,自己抗体は陰性であった(表1).HLAタイピングでは,A26は陽性,B51は陰性であった.眼科初診時の所見は以下のとおりである.眼科初診時(11歳4カ月)視力:右眼1.2(n.c.),左眼1.2(n.c.).眼圧:右眼9mmHg,左眼11mmHg.前眼部および眼底に特記すべき所見なく,ぶどう膜炎を示唆する病変なし.Behcet病の主症状のうち3症状(再発性の口腔内アフタ性潰瘍,外陰部潰瘍,毛.炎様皮疹),副症状のうち1症状(股関節痛)が陽性で,不全型Behcet病と診断された.小児科よりコルヒチン(1mg/日)内服が開始された.開始後より悪心・下痢が出現したためコルヒチンの内服を中止し,プレドニゾロン(5mg/日,0.18mg/kg)の連日内服となった.内服開始後,発熱などの症状は軽快していたが,開始から5カ月後(11歳10カ月),両眼の充血と疼痛,羞明が出現した.近医眼科を受診し,虹彩毛様体炎の診断を受けステロイド点眼が開始された.その後8日目に当院眼科を再受診した.眼科再診時の所見は以下のとおりである.眼科再診時:11歳10カ月.視力:右眼0.2(1.2),左眼0.5(1.2).眼圧:右眼12mmHg,左眼11mmHg.フレアメーター値(photoncounts/msec):右眼35.1,左眼18.9.眼底:右眼下方周辺部に軽度ベール状硝子体混濁,左眼耳側に白斑と出血(図1).小児科初診から11カ月,眼科受診から6カ月後に4主症状の発現をもって完全型Behcet病(stageIII)と確定診断された.Behcet病に対する第一選択薬であるコルヒチンは副作用のため内服が困難で,ステロイド薬内服継続としたが,眼症状が出現した.また,視力予後不良因子と報告されているHLA-A26も陽性であったことから,IFX治療(5mg/kgを0・2・6・14週,以後8週ごと)が小児科にて導入された.IFX治療により眼底の出血や白斑は速やかに改善した(図2).ステロイド薬は漸減後中止したが眼症状の再燃を認め図1眼科再診時(11歳10カ月)の眼底右眼:ベール状硝子体混濁をわずかに認める(→)左眼:耳側に白斑,出血などの病変を認める(→).ず,発熱や外陰部潰瘍,口腔内アフタ性潰瘍も消退し血液検査所見も正常化している.最終診察時点(IFX開始後1年3カ月)で視力低下はなく,眼内における炎症病勢はほぼ消退している.II考按今回,11歳10カ月の完全型Behcet病女児にIFX投与を中心とする診療を行う経験を得た.近年,Behcet病患者は減少しており,そのなかでも完全型はより減少している.また,若年男性に重症例が多いとされる4).本症例は,診断が確実な完全型Behcet病が11歳,女児に発症したまれな症例である.コルヒチンの内服が困難であったこと,全身ステロイド薬治療中にぶどう膜炎発症したこと,視力予後不良因子と報告されているHLA-A26が陽性であったことを説明し,家族はIFX治療を希望した.小児科医師らとの慎重な話し合いを経て,11歳10カ月の時点で,IFX治療を導入するに至った.女児は5歳前後から頻発する齲歯・口内炎を自覚し,歯科図2IFX投与後(12歳0カ月)の左眼眼底白斑,出血などの病変は改善している.受診を繰り返していた.11歳時,外陰部・肛門周囲に潰瘍を認め,毛.炎様皮疹,副症状として股関節炎を認め,不全型Behcet病と診断された.その後ぶどう膜炎を発症し,完全型Behcet病と確定診断された.すべての症状が揃うまでにおよそ6年かかったが,10年以上を要し完全型と診断された報告もある10).さらに,口腔内衛生とBehcet病発症に関してはこれまでもさまざまな推測がされているが,今回女児が歯科受診のたびに発熱している経過もBehcet病発症への関与を疑わせるものであった11).Behcet病患者におけるHLA-B51とHLA-A26は,補助検査として役立つことが知られている12).HLA-B51とHLA-A26は互いに独立したBehcet病の疾患関連因子であり,HLA-A26陽性例では陰性例と比較し視力予後が悪いとされる12).本症例はHLA-A26陽性例のBehcet病であったことが,IFX導入する強い契機となった.IFXを含むTNF-a阻害薬の小児への投与は,難治性腸管Behcet病に対する少数例での有効性の報告はあり,重篤な合併症の報告はない5,6).大規模なコントロールスタディはないものの,他施設での臨床経験の報告は散見される7,8).また,小児におけるBehcet病などのぶどう膜炎への投与も症例報告としての情報が散見される程度で,多数例の臨床経過の報告はない9).小児Behcet病へのIFX投与基準は確立されておらず,長期投与による副作用および合併症に注意し,眼症状だけでなく小児科と連携することが重要とされる.IIIまとめ11歳で診断された完全型Behcet病のぶどう膜炎の女児に対し,IFX治療の導入を行った1例を経験した.導入後,主症状4症状と副症状(股関節痛)は改善し,その後明らかな再燃を認めない.小児に対するIFX治療の導入例は少ないが,有効な治療であり,今後,長期経過を含めさらなる症例の蓄積,基準化への検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FujikawaS,SuemitsuT:Behcet’sdiseaseinchildren-anationwideretrospectivesurveyinJapan.ActaPaedeiatrJpn39:285-289,19972)蕪城俊克:Behcet病の新しい診療ガイドライン─ぶどう膜炎の治療ガイドライン.炎症と免疫22:362-366,20143)BredaL,DelTortoM,DeSanctisSetal:Biologicsinchildren’sautoimmunedisorders:e.cacyandsafety.EurJPediatrics170:157-167,20114)YoshidaA,KawashimaH,MotoyamaYetal:Compari-sonofpatientswithBehcet’sdiseaseinthe1980sand1990s.Ophthalmology111:810-815,20045)金子詩子,岸崇之,菊地雅子ほか:TNF遮断薬が有効であった小児期発症Behcet病の2症例.日本臨床免疫学会誌33:157-161,20106)IwamaI,KagimotoS:Anti-tumornecrosisfactormono-clonalantibodytherapyforintestinalBehcetdiseaseinanadolescent.JPediatrGastroenterolNutr53:686-688,20117)Calvo-RioV,BlancoR,BeltranEetal:Anti-TNF-atherapyinpatientswithrefractoryuveitisduetoBehcet’sdisease:a1-yearfollow-upstudyof124patients.Rheu-matol53:2223-2231,20148)TakeuchiM,KezukaT,SugitaSetal:Evaluationofthelong-terme.cacyandsafetyofin.iximabtreatmentforuveitisinBehcet’sdisease:amulticenterstudy.Ophthal-mology121:1877-1884,20149)GallagherM,QuinonesK,Cervantes-CastanedaRAetal:Biologicalresponsemodi.ertherapyforrefractory11)土田満,峰下哲,小此木博:Behcet病(BD)の発症childhooduveitis.BrJOphthalmol91:1341-1344,2007因子としての口腔内連鎖球菌Streptococcussanguisの検10)原田幸児,山口通雅,赤井靖宏:10年以上の経過で症状が討.口腔衛生学会雑誌44:154-160,1994完成した完全型Behcet病の1例.日本リウマチ学会総会・12)KaburakiT,TakamotoM,NumagaJetal:Geneticasso-学術集会・国際リウマチシンポジウムプログラム.53回・ciationofHLA-A*2601withocularBehcet’sdiseasein18回,P217,2009Japanesepatients.ClinExpRheumatol28:39-44,2010***

インフリキシマブ中断後,神経症状が顕性化したBehçet病の1例

2015年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科32(5):755.758,2015cインフリキシマブ中断後,神経症状が顕性化したBehcet病の1例三橋良輔毛塚剛司臼井嘉彦鈴木潤後藤浩東京医科大学眼科学教室ACaseofBehcet’sDiseaseinwhichNeurologicalSymptomsAppearedafterDiscontinuationofInfliximabTreatmentRyosukeMitsuhashi,TakeshiKezuka,YoshihikoUsui,JyunSuzukiandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity目的:抗ヒト腫瘍壊死因子(TNF)-a抗体であるインフリキシマブ(INF)はBehcet病によるぶどう膜網膜炎に有効な治療薬であるが,INF治療の自己中断後に,重篤な神経病変をきたした1例を経験したので報告する.症例:38歳,男性.近医よりBehcet病が疑われたため当院を紹介され,INF治療を開始した.INF導入後,眼発作はほぼ抑制され,視力も0.6前後に回復した.その後,計33回にわたる治療を行い経過良好であったが,通院が途絶え,治療が中断された.4カ月後に中枢神経症状が出現し,磁気共鳴画像(MRI)で脳幹に腫瘍を思わせる病変がみられたが,臨床経過から神経Behcet病を疑い,ベタメタゾン内服治療を行った.治療2カ月後に撮像したMRIでは病変は縮小しており,INF治療も再開され,その後は中枢神経症状,眼症状ともに落ち着いている.結論:INF治療の中止に際しては眼症状のみならず,眼外症状の再燃や顕性化にも注意を払う必要がある.Purpose:Infliximab(INF),ananti-humantumornecrosisfactor(TNF)-aantibody,isahighlyeffectivetreatmentforuveoretinitisinBehcet’sdisease.WereportacaseofocularBehcet’sdiseaseinwhichanewneurallesiondevelopedafterdiscontinuationofINFtreatment.Case:A38-year-oldmalewasreferredtoTokyoMedicalUniversityHospitalbecauseofsuspectedocularBehcet’sdisease.WeconfirmedthediagnosisandstartedINFtreatment.Aftertreatmentinitiation,ocularattacksduetoBehcet’sdiseasewerealmostcontrolled,andvisualacuitywasrestoredto0.6.Afterthe33thtreatment,however,thepatientdroppedoutoftreatmentbecauseoffatigue.Fourmonthsaftertreatmentdiscontinuation,amasslesioninthebrainstemwasdetectedbymagneticresonanceimaiging(MRI)atanotherhospital;neuro-Behcet’sdiseasewassuspectedfromtheclinicalcourse.Thepatientwasthentreatedwithoralbetamethasone.Twomonthslater,anMRIscanshowedshrinkageoftheneurallesion,andINFtreatmentwasrestarted.Thereafter,withINFandsteroidtherapy,bothcentralnervousandocularsymptomsofBehcet’sdiseaseimproved.Conclusion:AfterdiscontinuingINFtreatment,itisnecessarytopayattentionnotonlytoeyesymptoms,butalsotorecurrenceormanifestationofextraocularsymptoms.arashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):755.758,2015〕Keywords:ベーチェット病,インフリキシマブ,神経ベーチェット病,ぶどう膜炎.Behcet’sdisease,infliximab,neuro-Behcet’sdisease,uveoretinitis.はじめに抗ヒト腫瘍壊死因子(TNF)-a抗体であるインフリキシマブ(INF)の使用が認可されて以来,難治性Behcet病の治療の選択肢が増えた.INFは既存の治療法に比べて,Behcet病による眼炎症発作を強力に抑制することが多数報告されている1.5).しかし,INF治療の中止に伴い症状の再燃や悪化をきたす可能性もある一方,本治療法の中止に関する基準は現在のところ確立されていない.今回筆者らは,INF治療の自己中断後に重篤な神経Behcet病と思われる症状を呈した1例を経験したので報告〔別刷請求先〕三橋良輔:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室Reprintrequests:RyosukeMitsuhashi,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishishinjyuku,Shinjyukuku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(145)755 する.I症例患者:39歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:2005年に左眼の視力低下を自覚し,近医受診.網膜静脈分枝閉塞症と診断され,治療を開始されたが,右眼にも同様の症状,所見がみられた.増悪と寛解を繰り返すため,Behcet病が疑われ,2006年2月に東京医科大学眼科に紹介受診となった.初診時眼所見:視力は右眼0.1(矯正不能),左眼0.1(0.2×sph.1.50D),眼圧は右眼12mmHg,左眼14mmHgであった.前眼部所見は前房に炎症細胞は認めなかったが,角膜後面沈着物があり,隅角にはpigmentpelletがみられた.中間透光体に異常はなく,眼底は両眼に視神経乳頭の発赤,黄斑浮腫が認められた(図1).眼外症状は口腔粘膜の再発性アフタ潰瘍,関節痛,カミソリ負けなどの症状がみられた.ヒト白血球抗原(HLA)検索では,HLA-B51陰性,HLA-A26陽性であった.経過:不全型Behcet病と診断し,コルヒチン1mg/日の内服治療を開始した.その後,黄斑浮腫に対してトリアムシノロンのTenon.下注射を施行した.一時,黄斑浮腫の改善を認めたが,初診から3カ月後に右眼の視力低下(0.03),眼底に網膜静脈分枝閉塞症様出血と滲出性変化を伴った眼炎症発作を繰り返した(図2).さらに左眼にも同様の所見がみられたため,プレドニゾロン30mg/日の内服を開始した.しかし,その後も発作と寛解を繰り返すため,翌年の2007年5月よりINF点滴(5mg/kg)単独療法として治療を開始した.その後,小発作を起こすこともあったが,両眼ともに矯正視力0.6まで改善した.しかし,INFを33回施行したが,34回目(2012年2月)に来院せず,治療中断となった.INF中止4カ月後に右片麻痺,構音障害が出現したため,近医脳外科受診となった.造影磁気共鳴画像(MRI)上,T2強調で脳幹部の左側に15mm径の結節病変があり,病変に図1初診時眼底所見両眼の視神経乳頭の発赤と黄斑浮腫を認める.図2眼炎症発作時の眼底所見両眼に網膜静脈閉塞症様の出血と滲出性変化がみられる.756あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(146) 図3神経症状出現時の造影MRI所見脳幹部の左側に15mm径の結節病変(白矢印)があり,結節病図4神経症状発症から2カ月後の造影MRI所見変に沿ってリング状増強効果がみられる.病変部周辺は不規則脳幹部の腫瘤(白矢印)は縮小している.な高信号を呈している.図5神経症状消失後の眼底所見両眼とも視神経乳頭の発赤や黄斑浮腫はなく,経過は落ち着いている.沿ってリング状増強効果がみられた.また,病変周辺に不規則な高信号を呈していた(図3).脳浮腫改善のため,ベタメタゾン4mg,グリセオール200mlを静脈注射された.近医では脳腫瘍が疑われたため,腫瘤精査の目的で東京医科大学病院脳神経外科受診となった.改めて撮像したMRI上,前医受診時と比較し腫瘤の著明な縮小がみられ(図4),さらに不全型Behcet病の既往,ステロイドにより中枢神経症状改善が認められたことから神経Behcet病が疑われた.髄液検査は患者の拒否により施行できなかった.経過中の眼所見は両眼ともに矯正視力0.6であり,炎症所見はみられなかったが(図5),神経Behcet病発現のことも考え合わせ,INF治療を再開した.その後,中枢神経症状の改善を認め,現在に至るまで眼症状,中枢神経症状ともに落ち着いている.II考按神経Behcet病はBehcet病の約10%に認められ,男性が女性に比べて3.4倍多く,なかでも中枢神経症状は発症後6.7年経過して発症することが多いとされる6,7).遺伝的素因としてBehcet病はHLA-B51の保有率が高いことが知られているが,神経Behcet病ではより高いと報告されている6,7).初期症状としては頭痛,頭重感,中枢神経症状としては四肢麻痺,片麻痺,対麻痺,構音障害や複視などがあげられ,後期症状にはうつ病や統合失調症,記名障害などの精神症状がみられることが多い6,7).検査所見としては髄液検査にて髄液圧の上昇,好中球とリンパ球の増加,インターロイキン(IL)-6の上昇がみられる.MRIではT1強調で低信号から等信号,T2強調で高信号を示し,病変部位は大脳皮質,脳幹,脊髄とさまざまであるが,脳幹が多い6,7).治療としてはステロイドが有効とされているが8),近年ではINFが有効という報告もある9.11).慢性進行型神経Behcet病にはステロイド抵抗性の症例もある6).一方,少量のメトトレキサート(MTX)パルス療法が有効との報告もある12).これらの報告も踏まえ,本症例に対してはリウマチ・膠原病内科などとも相談のうえ,INF治療を再開することにした.今回,本症例の腫瘤が発生した原因として,2つの可能性があると考えられた.1つは悪性腫瘍に代表されるINFの(147)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015757 副作用によるものである.本症例にみられたMRIで脳幹のリング状増強効果を呈する腫瘍には悪性リンパ腫や膠芽腫があげられるが,これらにはステロイドが著効することはなく,原因としては否定的であった.他にもINF治療の副作用として多発性硬化症に代表される脱髄性疾患が報告されているが13,14),そのほとんどはINF治療中に発症しており,本症例ではINF中止から4カ月後に発症したエピソードからも,脱髄性疾患は否定的であった.以上より,INFの副作用による可能性は少ないと考えた.一方で,神経Behcet病にINFが有効との報告から9.11),脳幹に腫瘤性病変が発生した原因として,INFの中断による可能性が考えられた.すなわち,本症例はINF治療中には神経Behcet病が抑制されていたが,自己中断後に顕性化した可能性が考えられた.当症例ではもともと眼外症状として頭痛があり,これが神経Behcet病の初期症状であった可能性も否定はできない.本症例では髄液検査を施行していないが,ステロイドやINF治療に反応がみられたことや,不全型Behcet病の既往より,最終的に本症例にみられた脳幹の病変は神経Behcet病によるものと考えた.現在のところ,眼症状に対するINF治療の中止に関しては明確な基準はないが,本治療法の中止に際しては,眼症状のみならず,眼外症状の再燃や顕性化の可能性にも注意を払う必要があると考えられた.本稿の要旨は第47回日本眼炎症学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NakamuraS,YamakawaT,SugitaMetal:Theroleoftumornecrosisfactor-alphaintheinductionofexperimentalautoimmuneuveoretinitisinmice.InvestOphthalmolVisSci35:3884-3889,19942)河合太郎,多月芳彦:Behcetによる難治性網膜ぶどう膜炎に対する抗ヒトTNFaモノクローナル抗体レミケードRの有効性と安全性.眼薬理23:11-17,20093)SuhlerEB,SmithJR,GilesTRetal:Infliximabtherapyforrefractoryuveitis:2-yearresultsofaprospectivetrial.ArchOphthalmol127:819-822,20094)Al-RayesH,Al-SwilemR,Al-BalawiMetal:SafetyandefficacyofinfliximabthrepyinactiveBehcet’suveitis:anopen-labeltrial.RheumatolInt29:53-57,20085)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Efficasy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofinfliximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheumatol31:1362-1368,20046)菊地弘敏,廣畑俊成:神経ベーチェット.リウマチ科40:519-525,20087)KawaiM,HirohataS:CerebrospinalfluidB2-microglobluininneuro-Behcet’ssyndrome.JNeurolSci179:132139,20008)SchmolckH:Largethalamicmassduetoneuro-Behcetdisease.Neurology65:436,20059)HirohataS,SudaH,HashimotoT:Low-doseweeklymethotrexateforprogressiveneuropsychiatricmanifestationsinBehcet’sdisease.JNeurolSci159:181-185,199810)SawarH,McGrathHJr,EspinozaLR:Successfultreatmentoflong-standingneuro-Behcet’sdiseasewithinfliximab.JRheumatol32:181-183,200511)FujikawaK,IdaH,KawakamiAetal:Successfultreatmentofrefractoryneuro-Behcet’sdiseasewithinfliximab:acasereporttoshowitsefficacybymagneticresonanceprofile.AnnRheumDis66:136-137,200712)RibiC,SztajzelR,DelavelleJetal:EfficacyofTNFablockadeincyclophosphamideresistantneuro-Behcetdisease.JNeurolNeurosurgPsychiatry76:1733-1735,200513)WolfSM,SchotlandDL,PhilipsLL:InvolvementofnervoussysteminBehcet’ssyndrome.ArchNeurol12:315325,196514)HirohataS,IshikiK,OguchiHetal:Cerebrospinalfluidinterleukin-6inprogressiveneuro-Behcet’ssyndrome.ClinImmunolImmunopathol82:12-17,1997***758あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(148)

インフリキシマブが有効であった関節リウマチによる壊死性強膜炎の1例

2014年4月30日 水曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(4):595.598,2014cインフリキシマブが有効であった関節リウマチによる壊死性強膜炎の1例小溝崇史*1寺田裕紀子*1子島良平*1宮田和典*1望月學*1,2*1宮田眼科病院*2東京医科歯科大学大学院歯学総合研究科眼科学分野NecrotizingScleritisSecondarytoRheumatoidArthritisSuccessfullyTreatedwithInfliximabTakashiKomizo1),YukikoTerada1),RyoheiNejima1),KazunoriMiyata1)andManabuMochizuki1,2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,TokyoMedicalandDentalUniversityGraduateSchoolofMedicine関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)に伴う壊死性強膜炎が発症し,一眼は強膜穿孔により眼球摘出に至ったが,後に発症した僚眼の壊死性強膜炎はインフリキシマブで治療できた症例を経験したので報告する.症例は71歳,女性.右眼の霧視と疼痛を自覚した.右眼に強い強膜炎と,硝子体脱出を伴う強膜穿孔があった.左眼に異常所見はなかった.RAに伴う壊死性強膜炎による強膜穿孔と診断し,翌日に強膜穿孔を閉鎖する目的で,保存角膜と羊膜を用いて強膜補.術を行った.しかし,移植片と強膜の融解は進行し眼球摘出に至った.術後7カ月,左眼に壊死性強膜炎を発症した.右眼の経過より,難治性と判断し,副腎皮質ステロイド薬の内服に加えて,インフリキシマブ加療を開始した.現在,左眼の強膜炎発症後3年経過するが,強膜穿孔には至らずに強膜炎は消炎されている.難治性の壊死性強膜炎には,インフリキシマブが有効であると考えられた.A71-year-oldfemalewasreferredtoourclinicduetosevereocularpainandblurringofvisioninherrighteye.Ocularexaminationrevealedseverescleritisandscleralperforation,withvitreousprolapseintherighteye.Thelefteyewasnormal.Systemicexaminationrevealedthatthepatienthadbeensufferingfromrheumatoidarthritisformorethan20years.Thescleralperforationwascoveredwithgraftsoffrozenpreservedcorneaandamnioticmembrane.However,thescleralandcornealgraftsmeltedwithinaweekandtheeyewasenucleated.Sevenmonthsafterenucleation,scleritisoccurredinthelefteye.Inconsiderationoftheclinicalcourseoftherighteye,thescleritisinthelefteyewastreatedwithinfliximab(3mg/kg)togetherwithprednisolone(15mg/day),whichsuccessfullyresolvedtheseverescleritisofthelefteye.Infliximabisthereforerecommendedforrefractorynecrotizingscleritis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):595.598,2014〕Keywords:壊死性強膜炎,関節リウマチ,インフリキシマブ,免疫抑制療法,強膜穿孔.necrotizingscleritis,rheumatoidarthritis,infliximab,immunomodulatorytherapy,scleralperforation.はじめに壊死性強膜炎は強膜炎の5%を占める稀な疾患であるが,予後はきわめて不良である1,2).重症例では,強膜穿孔し眼球摘出に至ることも少なくない.また,強膜炎は関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)などの全身性の自己免疫性疾患を合併することがあるが,壊死性強膜炎では45.80%と高率に合併する1,2).抗ヒトTNF(腫瘍壊死因子)-aモノクローナル抗体であるインフリキシマブは,RAやCrohn病,眼科領域ではBehcet病などの治療に最近承認された免疫抑制薬であるが,海外では,強膜炎に対しても良好な治療効果が報告されている3,4).しかし,わが国でその報告は少ない.今回筆者らは,関節リウマチに伴う壊死性強膜炎を発症し,一眼は強膜穿孔により眼球摘出に至ったが,後に発症した僚眼の壊死性強膜炎はインフリキシマブで治療できた症〔別刷請求先〕小溝崇史:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:TakashiKomizo,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)595 例を経験したので,患者に理解と同意を取得したうえ,報告する.I症例患者:71歳,女性.主訴:右眼の霧視と疼痛.既往歴:1990年にRAを発症,内科においてブシラミンとロキソプルフェンで治療されていた.1998年より増悪したため,追加治療として関節内ステロイド注射を頻回に受けていた.疼痛コントロールは良好であったが,RAに伴う肘・膝・肩関節の拘縮と心不全もあるため,日常生活動作(activitiesofdailyliving:ADL)は不良であった.また,2006年に両眼の白内障手術を受けた.現病歴:2009年11月,右眼の霧視と疼痛を自覚し,同日に近医を受診した.強膜穿孔があり,翌日に宮田眼科病院(以下,当院)を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼0.02(0.04×+3.00D),左眼0.5(1.5×.0.50D(cyl.1.25DAx150°)眼圧は右眼測定不能,左眼9mmHgであった.右眼に強い充血あり,強膜は上方が菲薄化しており,菲薄化した中央部は穿孔し硝子体の脱出があった(図1).前房にはfibrinを伴う強い炎症がみられた.眼底は透見不能であったが,超音波Bモード断層検査にて全周に脈絡膜.離,下方に漿液性網膜.離があった.左眼は前眼部・中間透光体・眼底に異常所見はみられなかっ毛様(,)た.経過:RAに伴う壊死性強膜炎による強膜穿孔と診断し,翌日に強膜穿孔を閉鎖する目的で,保存角膜と羊膜を用いて強膜補.術を行った.術後早期の移植片の生着は良好であったが,移植術後11日目より移植片と強膜の融解が生じた(図2).経過から感染の可能性は低いと考え,0.1%ベタメサゾン点眼6回/日に加え,プレドニゾロン20mgとアザチオプリン50mgの内服を開始した.しかし,内服開始後も移植角膜片の融解は軽快せず,移植片と強膜の融解部位はさらに広く深くなった.移植術後50日目に,眼球温存は困難と判図2強膜補.術後11日目の前眼部写真移植片と強膜に融解がみられる(矢印).図1初診時の右眼前眼部写真(下方視)点線で囲まれた黒い部分は,壊死融解し穿孔した強膜と脱出した硝子体である.図3再診時の左眼前眼部写真(下方視)強膜の菲薄化がみられる(矢印)が,穿孔はなかった.596あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(118) 図4最終受診時の左眼前眼部写真(左:正面視,右:下方視)上方強膜が菲薄化している(矢印)が,充血はなく,強膜炎は消炎されている.断し,眼球摘出術を行った.その間,左眼に異常所見はなかった.右眼球摘出術後の2カ月後より,肺水腫で内科に入院したため,当院への通院が途絶え,プレドニゾロンとアザチオプリンは中断していた.内科入院中,左眼に強膜炎を発症し,入院した病院の眼科で0.1%ベタメサゾン点眼により治療されていた.右眼球摘出7カ月後,肺水腫が軽快し内科を退院したため,当院を再診した.再診時所見(2010年8月):右眼は義眼が挿入され炎症所見はなかった.左眼は視力0.2(1.5×.0.25D(cyl.1.50DAx90°),眼圧は12mmHg,強膜深層血管に拡張あり,上方強膜は菲薄化していたが穿孔はなかった(図3).前房中にcell2+程度の虹彩炎がみられたが,中間透光体,眼底に異常所見はなかった.右眼の経過より,左眼も難治性の壊死性強膜炎と診断した.0.5%レボフロキサシン点眼4回/日,0.1%ベタメサゾン点眼4回/日,0.1%タクロリムス点眼2回/日に加えて,プレドニゾロン15mgの内服と内科に依頼してインフリキシマブ2mg/kgの点滴静注を行った.その後,骨粗鬆症の合併症のリスクを考慮し,プレドニゾロンを2カ月ごとに2.5mgずつ減量し,プレドニゾロン10mg/日に減量した時点でメトトレキセート8mg/週を併用し,1年6カ月かけてプレドニゾロンを中止した.現在までインフリキシマブ(2mg/kg)は継続している.インフリキシマブ導入前は,5.0であったCRP(C反応性蛋白)は導入後には1.0前後と減少し,関節リウマチのコントロールは良好である.2013年8月29日現在,壊死性強膜炎は消炎され,強膜の菲薄化はあるものの穿孔はなく(図4),視力も0.3(0.6×.0.5D(cyl.2.50DAx90°)と良好である.II考按強膜炎は,原因により感染性と非感染性に大別され,解剖学的には前部強膜炎(94%),後部強膜炎(6%)に分けられ,さらに,前部強膜炎はびまん性(75%),結節性(14%),壊死性(5%)に分類される2).このように壊死性強膜炎は稀な疾患であるが,強膜穿孔や眼球摘出に至り,予後が不良な例が少なくない1,2).本症例でも,右眼は壊死性強膜炎により強膜穿孔し,保存角膜と羊膜の移植による強膜補.術を行ったが,術後比較的短期のうちに眼球摘出に至った.壊死性強膜炎による強膜穿孔に対しては,大腿筋膜を用いた補.術で眼球温存が可能であったとの報告5)があるが,本例と異なり強膜穿孔前より免疫抑制薬を使用していた.本例では,強膜穿孔時,抗リウマチ薬と副腎皮質ステロイド薬点眼だけであり,強膜補.術後もしばらくの間,免疫抑制薬治療を行っていなかった.強膜補.術後の経過では,移植片の融解だけでなく,強膜の融解も進行したため,移植片の脱落の原因は,おもに拒絶反応でなく強膜炎の活動性が高かったことであると思われ,移植片の生着には免疫抑制薬治療を用いた強膜炎の十分な消炎が必要であると考えられた.壊死性強膜炎の治療は,局所治療のみでは不十分なことが多く,全身治療が必要である.全身治療の第一選択は副腎皮質ステロイド薬の内服だが,それ単独で治療可能なのは約3割であり,多くは免疫抑制薬の併用が必要であると報告されている1).さらに,すべての壊死性強膜炎で副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬の併用が必要であるとしている6)との報告もある.さらに,免疫抑制薬の併用でも治療に難渋する症例では,インフリキシマブなどの生物学的製剤が有効との報告がある3,4,6).本例では,右眼摘出後,内科入院中に左眼に(119)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014597 も壊死性強膜炎を発症したが,治療は当院再診までの間,ステロイド点眼による局所治療のみであった.当院再診後速やかに,副腎皮質ステロイド薬,メトトレキセート,インフリキシマブの全身治療を行ったところ,右眼の経過とは異なり,左眼は強膜穿孔に至らずに強膜炎は沈静化した.また,RAに関しても,当院初診時,CRPは5.0で関節内ステロイド注射を頻回に受けるほどに関節炎は強く,肘・膝・肩関節の拘縮と心不全のためADLは不良であったが,当院最終受診時にはADLは変わらないもののCRPは1.0と低下し,RAのコントロール状態も改善した.以上のように,本例ではインフリキシマブが壊死性強膜炎の消炎とRAの療法に有効であったと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TuftSJ,WatsonPG:Progressionofscleraldisease.Ophthalmology98:467-471,19912)SainzdelaMazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:Clinicalcharacteristicsofalargecohortofpatientswithscleritisandepiscleritis.Ophthalmology119:43-50,20123)GalorA,PerezVL,HammelJPetal:Differentialeffectivenessofetanerceptandinfliximabinthetreatmentofocularinflammation.Ophthalmology113:2317-2323,20064)DoctorP,SultanA,SyedSetal:Infliximabforthetreatmentofrefractoryscleritis.BrJOphthalmol94:579583,20105)生杉,前川,福喜多ほか:Wegener肉芽腫症による強膜穿孔に対し自己大腿筋膜移植術を行った1例.臨眼54:381384,20006)SainzdelaMazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalesLAetal:Scleritistherapy.Ophthalmology119:51-58,2012***598あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(120)

長期加療中であるBlau症候群の一卵性双生児例

2013年5月31日 金曜日

《第46回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科30(5):675.678,2013c長期加療中であるBlau症候群の一卵性双生児例長松俊次*1石崎英介*2小林崇俊*2丸山耕一*2池田恒彦*2*1八尾徳洲会総合病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室BlauSyndromeinMonozygoticTwinsduringLong-TermFollow-UpShunjiNagamatsu1),EisukeIshizaki2),TakatoshiKobayashi2),KouichiMaruyama2)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokusyukaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege緒言:Blau症候群(Blausyndrome:BS)と診断された一卵性双生児を報告する.症例:36歳,双生児の男性.14歳時に近医眼科より紹介され大阪医科大学眼科初診.初診時ともに汎ぶどう膜炎を生じており,同日小児科にて若年性特発性関節炎(JIA)と診断された.ともに入院にてステロイド薬全身投与および局所投与を行い,以降22年にわたって外来にて小児科と共観で加療している.両者とも虹彩後癒着による続発緑内障に対して両眼にレーザー虹彩切開術を施行し,弟は2003年左眼,2010年右眼に白内障手術を施行されている.両者とも2006年からインフリキシマブの点滴治療を受けて炎症は沈静化傾向にある.小児科にて遺伝子検査を行った結果,NOD2遺伝子変異(R587C)が判明し,BSと診断された.結論:難治性ぶどう膜炎のなかにBSが潜在している可能性がある.JIAと診断されても本疾患を疑った場合は積極的に遺伝子解析を検討する必要がある.Purpose:ToreportacaseofmonozygotictwinsdiagnosedwithBlausyndrome(BS).CaseReport:Thisstudyinvolvedthecaseof36-year-oldmalemonozygotictwinsreferredtoOsakaMedicalCollegebyanearbydoctorwho,22yearspreviously,haddiagnosedthetwinsashavingpan-uveitis.Theywerediagnosedonthesamedayashavingjuvenileidiopathicarthritis(JIA).Uponadmission,corticosteroidpulsetherapywasadministered,followedbyoralprednisolone.Bothpatientshavebeenundermedicalcareeversince.Laseriridotomywasperformedforbilateralirisbombeinbothpatients,andcataractsurgerywasperformedintheyoungerpatient.Since2006,bothhavereceivedinfliximab,andtheirconditionhastendedtoremainstable.Geneticinvestigationofthepatientsrevealedagenemutation,andtheywerediagnosedwithBS.Conclusions:ItisnecessarytoconductgeneanalysisforpatientsdiagnosedwithJIA,whenthepossibilityofBSissuspected.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(5):675.678,2013〕Keywords:Blau症候群,若年発症サルコイドーシス,若年性特発性関節炎,NOD2遺伝子変異,インフリキシマブ.Blausyndrome,early-onset-sarcoidosis,juvenileidiopathicarthritis,NOD2genemutation,infliximab.はじめにBlau症候群(Blausyndrome:BS)は皮膚炎・関節炎・ぶどう膜炎を3主徴とする非常にまれな家族性肉芽腫性疾患である1).近年はNOD2遺伝子変異の証明により,確定診断が可能となっている2).一方,若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis:JIA)として経過観察されている症例も多い.今回筆者らはJIAとして長期間加療されていた一卵性双生児が,遺伝子検査にてBlau症候群と診断された症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕36歳,男性(双生児の兄).主訴:両眼霧視.現病歴:1989年11月(14歳時)より霧視のため近医受診.両虹彩炎と診断され,同年12月16日に大阪医科大学眼科(以下,当科)紹介となった.既往歴:1.4歳時に不明熱,7.12歳時に手指,膝関節の疼痛・変形出現.家族歴:父方祖母が関節リウマチ,父母は健康.現症:両手指の遠位指節間関節(DIP)・近位指節間関節〔別刷請求先〕長松俊次:〒581-0011大阪府八尾市若草町1.17八尾徳洲会総合病院眼科Reprintrequests:ShunjiNagamatsu,M.D.,YaoTokusyukaiHospital,1-17Wakakusacho,Yao,Osaka581-0011,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(97)675 (PIP)に変形あり.右膝関節,左足関節腫脹.皮膚発疹(.).検査所見:血算,生化学に異常なし.CRP(C反応性蛋白)1.34mg/dl,赤沈45mm/h,Ig(免疫グロブリン)G2,116mg/dl,IgA617mg/dlと上昇していたが,各種抗体価は正常範囲内.胸部X線写真では異常を認めなかった.眼科初診時所見:視力は右眼0.3(1.0×sph+4.5D(cyl.0.5DAx180°),左眼0.3p(1.0×sph+5.0D).眼圧は右眼10mmHg,左眼11mmHg.両眼とも角膜清明,両眼前房には炎症細胞とflareを認め,両眼虹彩後癒着を認めた.両眼水晶体は異常なく,硝子体中に炎症細胞を認めなかった.両眼の視神経乳頭に発赤・腫脹を認めた.両眼とも隅角に丈の低い周辺虹彩前癒着(PAS)を全周に認めた.経過:デキサメタゾン点眼,アトロピン硫酸塩点眼処方.初診時同日に小児科にて多関節型JIAと診断され,1989年12月22日より入院となった.アスピリン50mg/kgにて治療開始し,100mg/kgまで増量するも効果がなかったため,翌年4月3日よりステロイドパルス療法(1g×3日間)を3クール施行した.その後関節炎・ぶどう膜炎は改善傾向となり,プレドニゾロン(PSL)内服を40mgより漸減し,20mgで8月27日退院となった.以降病状は安定し,PSL5mgにて経過観察されていた.しかし,14年後の2004年6月頃(28歳時)よりぶどう膜炎,関節症状が再燃したため,デキサメタゾン点滴・PSL内服20mg・メトトレキセート投与を開始.関節炎症状は改善するも虹彩炎が持続し,続発緑内障をきたしたため,2006年2月インフリキシマブ(infliximab:IFX)3mg/kgを導入開始した.2007年に左眼,2009年に右眼の虹彩後癒着をきたしたため,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)を施行した.その後IFXを8mg/kgまで増量し,2012年6月現在,全周性の虹彩後癒着による小瞳孔と炎症産物の水晶体への沈着のため,視力は右眼0.4(0.4×sph+1.5),左眼0.4(0.4×sph+0.75D(cyl.0.5DAx50°)と低下している(図1).ぶどう膜炎,関節炎症状は寛解している.〔症例2〕36歳,男性(双生児の弟).主訴:右眼視力低下.現病歴:1989年12月5日(14歳時)より右眼視力低下を自覚し,近医を受診.両眼虹彩炎を指摘され,同年12月16日に当科紹介となった.既往歴:2.4歳時に不明熱.7.12歳時に手指,膝関節の疼痛・変形出現.現症:両手指のDIP・PIP関節に変形あり,右膝関節腫脹.皮膚発疹なし.検査所見:血算,生化学に異常なし.CRP2.10mg/dl,赤沈75mm/h,IgG2,259mg/dl,IgA547mg/dlと上昇していたが,各種抗体価は正常範囲内.胸部X線写真では異常を認めなかった.眼科初診時所見:視力は右眼0.02(0.08×sph+4.5D),左眼0.1(1.0×sph+4.0D).眼圧は右眼11mmHg,左眼10mmHg.両眼とも角膜清明で前房に炎症細胞,flareを認め,虹彩後癒着を認めた.水晶体,硝子体には異常を認めないが,両眼視神経乳頭の発赤を認めた.両眼とも丈の低いPASを全周に認めた.経過:眼科よりデキサメタゾン点眼,アトロピン硫酸塩の点眼を処方.初診時同日に小児科にてJIAと診断され,1989年12月22日入院.アスピリン50mg/kgにて治療開始した.その後100mg/kgまで増量するも効果なく,1990年3月29日よりステロイドパルス療法(1g×3日間)を3クール施行した.その後関節炎およびぶどう膜炎は改善傾向となり,PSL40mgより漸減しPSL25mgで1990年8月27日退院となった.退院時には右眼視力(0.5×sph+4.5D)と改善していた.1998年7月18日,右眼虹彩後癒着に伴う瞳孔ブロックに対して右眼LIを施行し,同年10月1日左眼に予防的LIを施行した.2002年11月より左眼視力0.1とab図1症例1の現在の前眼部写真(a:右眼,b:左眼)両眼とも虹彩後癒着,炎症産物の水晶体への沈着を認める.676あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(98) abab図2症例2の現在の前眼部写真(a:右眼,b:左眼)右眼は前房炎症なし.眼内レンズを認める.左眼は前房炎症なし.無水晶体眼.ab図3症例2の現在の両眼底写真(a:右眼,b:左眼)両眼とも視神経乳頭萎縮を認める.低下.白内障の進行のためと考え,2003年1月21日左眼水晶体再建術を施行した.炎症の再燃を考慮して眼内レンズは挿入しなかった.関節症状が再燃したため2003年7月よりデキサメタゾン5mg点滴,メトトレキセートを追加して治療.ぶどう膜炎症状も除々に増悪したため,平成18年(2006年)初頭からIFX3mg/kgを開始した.2007年9月より右眼視力光覚弁となったため,2010年2月2日右眼水晶体再建術+眼内レンズ挿入術を施行.その後炎症の増減に伴い量を調節し2009年4月からIFX5mg/kgと増量した.2012年6月現在関節炎およびぶどう膜炎は寛解しているが,視神経乳頭と網脈絡膜の萎縮が認められ,視力は右眼0.06(0.08×sph+0.5D(cyl.1.25DAx150°),左眼0.02(0.8×sph+16.0D)(図2,3).両症例とも関節・眼所見よりBSを疑い,2008年12月遺伝子解析を行った結果,NOD2(nucleotide-bindingoligomerizationdomain2)遺伝子のR587C変異とNF(nuclearfactor)-kB活性の増強が確認され,Blau症候群と診断された.II考按Blau症候群(BS)は1985年にBlauにより常染色体優性遺伝を呈する家族性肉芽腫性疾患として提唱され,世界で約20家系の,わが国では4家系のみのきわめてまれな疾患である3).臨床的特徴としては,苔癬様の皮疹,関節腫脹(晩期は変形・拘縮),肉芽腫性の汎ぶどう膜炎を呈する.一方,4歳以下で発症する若年性サルコイドーシス(early(99)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013677 onsetsarcoidosis:EOS)は肺門リンパ節腫脹を伴わず,関今後感染症および,抗IFX抗体の産生に伴う効果減弱など節炎,ぶどう膜炎,皮膚炎を3主徴とする疾患である4).に注意する必要がある11).BSとEOSは臨床的には酷似しているものの以前は家族Blau症候群の一卵性双生児の報告について述べた報告は性はBS,弧発性はEOSなどと違う疾患として扱われてい筆者らが調べた限り非常にまれである.Milmanらは一卵性たが,近年NOD2遺伝子異常が上記2疾患で認められ,両双生児が経過のなかで2例とも1歳で皮疹と関節炎,7歳で疾患は現在同じ原因遺伝子異常に伴う同一疾患として考えらぶどう膜炎を発症してPSLやシクロスポリンにて加療するれている2).そして,これらの疾患は自己炎症疾患の一つでも病状が悪化したため,15歳よりIFX投与にて合併症もなある.自己炎症疾患とは,TNF(tumornecrosisfactor)く病状も安定していると述べている10).本症例でも1歳からreceptor-associatedperiodicsyndrome(TRAPS)の原因遺4歳で不明熱,7歳で関節炎,14歳でぶどう膜炎,兄は28伝子がTNFRSF1Aであることを報告した論文で1999年に歳で弟は27歳でメトトレキセートを投与開始,両者とも30Kastnerらが初めて使用したautoinflammatorysyndrome歳でIFXを投与されており酷似している.一卵性双生児はという単語に由来する5).臨床的には周期性発熱を主症状とDNA塩基の配列がまったく同じであるが,病状の長期経過して,遺伝子異常が報告されている一連の症候群をいう.自においてもほぼ同様の経過が確認された.己免疫疾患で同定される自己抗体や自己反応性T細胞は通小児期に発症したぶどう膜炎のなかにBSが潜在している常検出されず,自己炎症疾患は自然免疫系の異常による炎症可能性がある.JIAとの鑑別は困難であるが,本症例のよう病態を主体とする疾患群と考えられている.EOS/BSはに難治性のぶどう膜炎がある場合には念頭におく必要ある.NOD2に生じる機能獲得型変異により発症し,リガンド非依存性にNF-kB活性を増強させる機能異常を伴っている.金澤ら6)はわが国においてEOSと診断された10例中9例利益相反:利益相反公表基準に該当なしでNOD2領域の遺伝子変異を明らかとし,BSで認められた変異と同様に,リガンド非依存性にNF-kB活性を増強させ文献る機能異常を伴っていると報告している.1)太田浩一:Blau症候群の病因と病態.眼科51:857-863,本症例ではNOD2の遺伝子変異(R587C)と,NF-kB活2009性の増強も確認されたためBS/EOSと診断された.2)神戸直智,佐藤貴史,中野倫代ほか:若年性サルコイドーまた,BS/EOSはJIA7)と診断されているケースが多い.シス/Blau症候群.日本臨床免疫学会会誌34:378-381,2011JIAの臨床的特徴としては,紅斑性斑点状の皮疹,病初期よ3)BlauEB:Familialgranulomatousarthritis,iritis,andrash.り関節の可動域制限・変形,指趾の腫脹を認め,眼の症状とJPediatr107:689-693,1985しては,前眼部非肉芽腫性のぶどう膜炎を呈する.相馬ら8)4)FinkCW,CimazR:Earlyonsetsarcoidosis:notabenigndisease.JRheumatol24:174-177,1997はJIAとして長期経過していた患者が肉芽腫性の汎ぶどう5)金澤伸雄:自己炎症性疾患.JEnvironDermatolCutan膜炎の状態を呈し,遺伝子解析にてBSと診断した症例を報Allergol4:23-29,2010告している.岡藤ら9)はBSの17例中8例で初期診断がJIA6)金澤伸雄:Blau症候群と若年性サルコイドーシスの臨床像とCARD15/NOD2遺伝子異常.日本臨床免疫学会会誌として治療されていたことを報告している.今回の2症例で30:123-132,2007は初診時より両手関節の変形・拘縮がみられ,関節症状から7)木ノ内玲子,広川博之,五十嵐翔ほか:エタネルセプト鑑別することは困難であった.皮膚所見も経過中に認められの治験中に視神経乳頭新生血管を伴う汎ぶどう膜炎を発症した若年性特発性関節炎の1症例.日眼会誌111:970なかった.ただ,眼科的には初診時より2症例とも前眼部の975,2007炎症,視神経乳頭の発赤・腫脹をきたしており,汎ぶどう膜8)相馬実穂,清武良子,今吉美代子ほか:若年性特発性関節炎の状態であった.結果論ではあるが初診時よりBSを診断炎症状で発症した若年発症サルコイドーシスの1例.あたらしい眼科27:535-538,2010できた可能性はあった.9)岡藤郁夫,西小森隆太:若年性サルコイドーシスの臨床像BSは難治性で長期予後は不良な疾患と考えられている.と遺伝子解析.小児科48:45-51,2007ステロイド薬の全身投与や免疫抑制薬にも抵抗性をきたす場10)MilmanN,AndersonCB,vanOvereemHansenTetal:FavourableeffectofTNF-alphainhibitor(infliximab)on合,IFX投与の有用性が報告されている10).BlausyndromeinmonozygotictwinsadenovoCARD15今回の2症例では初診時から関節拘縮や眼症状が強かったmutations.APMIS114:912-919,2006が,ステロイド薬の全身投与と免疫抑制薬により安定した経11)deOliveiraSK,deAlmeidaRG,FonsecaARetal:Indicationandadverseeventswiththeuseofanti-TNFalpha過をたどっていた.しかし,長期の経過のなかで治療に抵抗agentsinpediatricrheumatology:experienceofasingleをきたしたため,2症例とも30歳よりIFXの投与が開始さcenter.ActaReumatolPort32:139-150,2007れた.現在は2症例とも全身的な合併症は認めていないが,678あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(100)

インフリキシマブ投与時反応による治療中止後も寛解維持 できたBehçet 病の1例

2012年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(12):1701.1704,2012cインフリキシマブ投与時反応による治療中止後も寛解維持できたBehcet病の1例小池直子*1尾辻剛*1木本高志*2三間由美子*1西村哲哉*1髙橋寛二*3*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2済生会野江病院眼科*3関西医科大学附属枚方病院眼科ACaseofBehcet’sDiseaseAccompaniedbyUveoretinitis,InWhichNoOcularAttacksWereObservedafterDiscontinuationofInfliximabBecauseofInfusionReactionNaokoKoike1),TsuyoshiOtsuji1),TakashiKimoto2),YumikoMitsuma1),TetsuyaNishimura1)andKanjiTakahashi3)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalSchoolTakiiHospital,2)3)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalSchoolHirakataHospitalDepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNoeHospital,目的:Behcet病に対する新しい治療としてインフリキシマブの全身投与が行われているが,約9.5%に投与時反応が起こるとされている.反復する投与時反応のためインフリキシマブ治療が中止された後,約1年にわたり寛解維持ができている症例を経験した.症例:35歳,男性.右眼矯正視力0.03.前医にてBehcet病との診断でコルヒチン内服を開始したが再燃し当科を受診した.診断確定後5カ月でインフリキシマブ投与を開始し,導入1カ月後には消炎しその後発作はなかった.導入12カ月後,投与時に全身に蕁麻疹が発現しその後も投与時反応を繰り返すためインフリキシマブ投与を中止した.中止後約1年経過しても発作の再燃は認めていない.考察と結論:本症例はインフリキシマブ導入時期が早く,導入前発作回数も2回と少なかった.導入後には発作がなく本症例のように安定した症例ではインフリキシマブが中止可能であることが示唆された.Purpose:TheeffectivenessofinfliximabforBehcet’sdiseasehasbeenshown.Recentreportshavestatedthatinfusionreactionstoinfliximabwereobservedin9.5%ofpatients.Wereportacaseinwhichthediseasehasbeensuccessfullycontrolledbyinfliximabtreatmentforoneyearafterdiscontinuationbecauseofrefractoryinfusionreaction.Case:Thepatient,a35-year-oldmalewithiridocyclitis,receivedinfusionsofinfliximabbecauseofuncontrollableocularattacks.Athiseighthadministration,infusionreactionappearedandthetreatmentwasdiscontinuedbecausetherefractoryinfusionreactioncouldnotbecontrolledwithglucocorticoids.Therehavebeennoocularattackssincethediscontinuationofinfliximabtherapy.Discussion:Inthiscase,onlytwoocularattackshadoccurredbeforetheinitiationofinfliximabtherapy;therewerenoocularattacksafterthetherapy.Thisindicatesthatinfliximabtherapymaybeterminatedinsomewell-controlledcases,asinthiscase.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1701.1704,2012〕Keywords:ベーチェット病,インフリキシマブ,抗TNF-a(腫瘍壊死因子-a)抗体,投与時反応.Behcet’sdisease,infliximab,antiTNF-a(tumornecrosisfactor-a)antibody,infusionreaction.はじめにBehcet病の治療としては,その発作抑制のため以前よりコルヒチン,シクロスポリンが広く用いられてきた.しかし,これらの薬剤では完全に眼発作を抑制することはむずかしく,また投与により重篤な副作用をきたす可能性もあった.近年,Behcet病に対する新しい治療として,抗TNF-a(tumornecrosisfactor-a)抗体であるインフリキシマブの全身投与が行われている.インフリキシマブは,炎症性サイトカインであるTNF-aに対するキメラ型単クローン抗体製剤で,関節リウマチや大腸Crohn病などの自己免疫疾患に対する治療薬として広く使われている.TNF-aはBehcet病による炎症において重要な役割を果たしているとされており,Behcet病による難治性ぶどう膜炎に対して2007年1月に適応が追加承認された.しかし,寛解患者に対する中止時〔別刷請求先〕小池直子:〒570-8607守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:NaokoKoike,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityTakiiHospital,10-15Fumizonocho,Moriguchi,Osaka570-8607,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(111)1701 期にはいまだ明確な指針がないため,発作予防のために治療を継続せざるをえないのが現状である.インフリキシマブの投与時に約10%にアレルギー反応が起こることがあり,これは投与時反応とよばれ,インフリキシマブ投与中または投与終了後2時間以内に認められる副作用である1).市販後調査の中間報告によると,おもな症状は発疹で,重篤なものには発熱,アナフィラキシー反応がある.Behcet病眼病変診療ガイドラインによると,投与時反応が起きてもインフリキシマブ治療を継続する場合には,抗ヒスタミン薬やステロイド薬を併用すれば良いとされている1).今回,反復する投与時反応のためインフリキシマブ治療が中止された後,約1年にわたって寛解維持できている症例を経験したので報告する.I症例患者:35歳,男性.初診日:平成21年1月26日.主訴:右眼視力低下.現病歴:平成19年10月頃より右眼虹彩毛様体炎を繰り返し前医に通院していた.平成20年9月,前医再診日に右眼前房内炎症細胞浸潤,びまん性硝子体混濁,黄斑部近傍の網膜滲出斑を認めた.矯正視力は0.02であった.前医にてステロイド薬内服,トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を施行し,1カ月で消炎した.結節性紅斑,副睾丸炎,口腔内アフタ,関節炎を認めたため,前医にてBehcet病と診断され,コルヒチン内服を開始し,その後発作はなかった.平成21年1月から右眼視力低下を自覚し,平成21年1月22日前医受診時,右眼前房内炎症の悪化,硝子体混濁の増悪,網膜に出血と滲出斑を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)では右眼視神経乳頭の過蛍光,網膜血管からのシダ状の蛍光漏出を認め(図1),矯正視力は0.01に低下していたため関西医科大学附属滝井病院眼科紹介受診となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.01(0.03×sph.6.5D),左眼0.03(1.2×sph.7.5D(cyl.0.5DAx105°).眼圧は右眼22mmHg,左眼18mmHgであった.右眼に前房内炎症細胞浸潤,硝子体混濁,黄斑浮腫を認めた.全身症状として副睾丸炎,結節性紅斑,口腔内アフタ,関節炎症状を認めた.経過:コルヒチン投与を行ってもBehcet病の発作が抑えられないため,診断確定から5カ月後の平成21年2月24日よりインフリキシマブ投与を開始した.インフリキシマブ投与開始後もコルヒチン内服は継続した.インフリキシマブは0,2,6週目,それ以降は8週ごとに投与した.投与開始1カ月後には右眼矯正視力は0.4に回復し,前房内炎症,硝1702あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012ab図1前医でのFAa:視神経乳頭の過蛍光を認める.b:網膜血管からのシダ状の蛍光漏出を認める.子体混濁,黄斑浮腫は軽減し,その後発作はなくなり寛解状態となった.また,投与前に認めた副睾丸炎,結節性紅斑,口腔内アフタ,関節炎症状は軽快した.インフリキシマブ投与開始から12カ月後の8回目の投与時に,投与開始直後から胸部,背部に皮疹が出現したためインフリキシマブ投与を中断した.9回目の投与時,ステロイド薬と抗ヒスタミン薬の前投与を行った後,点滴速度を遅くしてインフリキシマブを投与したが,再度皮疹が出現した.内科担当医よりインフリキシマブ投与の継続は困難との連絡があり,平成22年4月19日を最後に,インフリキシマブ投与は中止となった.中止後はコルヒチン内服を継続した.投与中止5カ月後に施行したFAでは右眼に網膜血管からの蛍光漏出を認めたものの軽度であり(図2),矯正視力も0.5であった.投与中止12カ月後には,右眼にわずかに硝子体混濁を認めるのみで(図3),矯正視力は0.7と改善していた.投与中止から1年以上経過した現在も矯正視力は0.7を維持しており,炎症の再燃は認めていない.II考按TNF-aは炎症性サイトカインの一つで,Behcet病の病(112) abcabcabc図2投与中止5カ月後の眼底およびFAa:眼底.眼底透見良好で炎症はみられない.b:FA早期.網膜血管からわずかな蛍光漏出がみられる.c:FA後期.視神経乳頭からもわずかな蛍光漏出がみられる.態に深く関与することが示唆されている2.4).抗TNF-a抗体であるインフリキシマブは,2002年にCrohn病に,2003年に関節リウマチに対する治療薬として使用が開始された5.7).そして新たに,Behcet病によるぶどう膜炎に対して行われた臨床治験で,インフリキシマブが眼発作回数を有意(113)図3投与中止12カ月後の眼底およびFAa:眼底.硝子体混濁をわずかに認める.b:FA早期.蛍光漏出はみられない.c:FA後期.蛍光漏出はみられない.に減少させ,視力の改善が得られたと報告され8),Behcet病に対して効能追加されるに至った.インフリキシマブは,既存の治療に抵抗性の難治例に対して用いられるべきとされている.しかし,視力の低下につながるような発作は発症後1.3年目という早期に多く起こっており,インフリキシマブのように眼発作を強力に抑制できるような薬剤を早期から使あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121703 用することによって,Behcet病による不可逆的な視力低下を阻止することができる可能性がある9).既存の治療で十分な効果が得られず難治性と判断したならば,インフリキシマブの導入も考慮することが重要である.インフリキシマブに対する市販後調査の中間報告によると,インフリキシマブ開始前の6カ月当たりの発作回数は1.3回が最も多く,57.2%であった.また,Behcet病の平均罹病期間は7.6年であった.インフリキシマブ投与前後の6カ月当たりの平均発作回数の変化については,インフリキシマブ投与前が3.25回であったのに対し,投与後は0.72回と減少していた.今回の症例では,初診時すでにBehcet病と診断されてから4カ月が経過しており,この時点でコルヒチンによる発作抑制は困難であると判断し,初診から1カ月でインフリキシマブ導入に至っている.このように比較的早く導入することができたことも,致命的な視力低下に至らなかった原因の一つであると考えられた.インフリキシマブによる投与時反応発症時には,点滴を中止したうえで,アセトアミノフェンや抗ヒスタミン薬の投与を行い,次回点滴の際にはアセトアミノフェン,抗ヒスタミン薬,ステロイド薬などを前投与し,点滴速度を遅くするなどの対応が必要であるとされている1).インフリキシマブをいつ中止すべきかという問題に対する明確な解答は現時点ではない.種々の理由でインフリキシマブを中止した後にも,眼炎症発作が長期にわたり抑制されているとの報告もあり10),このことはインフリキシマブを中止できる可能性があることを示唆している.今回の筆者らの症例は,インフリキシマブ導入前発作回数も2回と少なく,また導入後も一度も発作が起きることはなかった.今回は反復する投与時反応のため,投与を中止せざるをえない状態となったが,このような安定した症例ではインフリキシマブの中止は可能なのかもしれない.しかし,投与間隔を延ばすと眼発作を起こす例も報告されており11),投与中止は慎重に行う必要がある.また,インフリキシマブは副腎皮質ステロイド薬のように減量しながら中止することにより,インフリキシマブに対する自己抗体の産生を促すという報告もあり12),中止の仕方に関しても今後さらなる検討が必要と考えられる.投与時反応は2.4年間の間隔をおいて再投与した場合に,より重篤な反応が起こりやすいとされており13),投与の再開は慎重に行うべきであると考えられた.中止後の再燃があった場合にインフリキシマブ投与の再開が可能か否か,また別の薬剤に変更するのかについては今後の課題である.III結語本症例では,インフリキシマブ導入時期がBehcet病と診断されてから5カ月と比較的早く,導入前発作回数も2回と少なく,また導入後も一度も発作が起きることはなかった.1704あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012このような安定した症例ではインフリキシマブが中止可能であることが示唆された.本稿の要旨は第45回日本眼炎症学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野重昭,蕪城俊克,北市伸義ほか:ベーチェット病眼病変診療ガイドライン.日眼会誌116:394-426,20122)NakamuraS,YamakawaT,SugitaMetal:Theroleoftumornecrosisfactor-aintheinductionofexperimentalautoimmuneuveoretinitisinmice.InvestOphthalmolVisSci35:3884-3889,19943)中村聡:ぶどう膜炎の細胞生物学.日眼会誌101:975986,19974)中村聡,杉田美由紀,田中俊一ほか:ベーチェット病患者における末梢血単球のinvitrotumornecrosisfactor-alpha産生能.日眼会誌96:1282-1285,19925)ElliottMJ,MainiRN,FeldmannMetal:Repeatedtherapywithmonoclonalantibodytotumornecrosisfactora(cA2)inpatientswithrheumatoidarthritis.Lancet344:1125-1127,19946)MainiR,StClairEW,BreedveldFetal:Infliximab(chimericanti-tumornecrosisfactoramonoclonalantibody)versusplaceboinrheumatoidarthritispatientsreceivingconcomitantmethotrexate:arandomizedphaseIIItrial.Lancet354:1932-1939,19997)HanauerSB,FeaganBG,LichtensteinGRetal:MaintenanceinfliximabforCrohn’sdisease:theACCENTⅠrandomizedtrial.Lancet359:1541-1549,20028)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Efficacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofinfliximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheumatol31:1362-1368,20049)KaburakiT,ArakiF,TakamotoMetal:Best-correctedvisualacuityandfrequencyofocularattacksdurintheinitial10yearsinpatientswithBehcet’sdisease.GraefesArchClinExpOphthalmol248:709-714,201010)田中宏幸,杉田直,山田由季子ほか:Behcet病に伴う難治性網膜ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ治療の有効性と安全性.日眼会誌114:87-95,200011)TakamotoM,KaburakiT,NumagaJetal:Long-terminfliximabtreatmentforBehcet’sdisease.JpnJOphthalmol51:239-240,200712)MainiRN,BreedveldFC,KaldenJRetal:Therapeuticefficacyofmultipleintravenousinfusionsofanti-tumornecrosisfactoramonoclonalantibodycombinedwithlow-doseweeklymethotrexateinrheumatoidarthritis.ArthritisRheum41:1552-1563,199813)竹内勤,天野宏一:新しい治療法の考え方:生物製剤の現状と展望.日内会誌89:2146-2153,2000(114)

Behçet 病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ療法の中期成績とその安全性の検討

2011年5月31日 火曜日

696(94あ)たらしい眼科Vol.28,No.5,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第44回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科28(5):696.701,2011cはじめにBehcet病は,口腔内再発性アフタ性潰瘍,外陰部潰瘍,結節性紅斑などの皮膚症状,眼症状を4主症状とする全身性炎症性疾患である1).本症は若年発症が多いこと,失明率が高いこと,それに一部のBehcet病にみられる中枢神経系,血管系,胃腸管系(消化器系)などの病変による死亡例もあることから厚生労働省の「特定疾患治療研究事業」の対象疾患とされている.Behcet病の眼症状は,虹彩毛様体炎と網膜ぶどう膜炎であり,眼発作をくり返すことにより眼組織の器質的障害が進行し,最終的には失明に至ることもある.眼症状の治療として,これまでにコルヒチンあるいはシクロスポリンの全身投与が行われてきた2)が眼発作を抑制できない〔別刷請求先〕岡村知世子:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚科学分野Reprintrequests:ChiyokoOkamura,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Seiryou-chou,Aoba-ku,Sendai,Miyagi980-8574,JAPANBehcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ療法の中期成績とその安全性の検討岡村知世子*1大友孝昭*1布施昇男*1阿部俊明*2*1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚科学分野*2同附属創生応用医学研究センター細胞治療開発分野Medium-TermEfficacyandSafetyofInfliximabinBehcet’sDiseasewithRefractoryUveitisChiyokoOkamura1),TakaakiOtomo1),NobuoFuse1),ToshiakiAbe2)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,2)DivisionofClinicalCellTherapy,TranslationalandAdvancedAnimalResearch,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ療法の中期成績とその安全性について検討した.対象および方法:東北大学病院眼科でインフリキシマブ療法を12カ月間以上継続できたBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎患者10例18眼を対象とし,導入前を含め6カ月間ごとの期間における眼発作回数,視力,副作用の有無を検討した.結果:眼発作回数は導入前6カ月間の平均3.1回に対し,導入後6カ月間は平均0.2回,7~12カ月までは平均0.6回,13~18カ月までの平均0.8回と有意に抑制され,19~24カ月までは0.6回であった.導入後の視力は向上・維持され,低下は認めなかった.有害事象として可能性があるものは17件認めたが,投与中断を迫られるような重篤なものはなかった.結論:Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ療法の中期成績は良好であり,重篤な副作用は認められなかった.Purpose:Toevaluate,fromamedium-termstandpoint,theefficacyandsafetyofinfliximabadministrationinrefractoryuveoretinitisinBehcet’sdisease(BD).Methods:In18eyesof10BDpatientswithrefractoryuveoretinitistreatedwithinfliximab,withaminimumfollowupof12months,wedeterminedthenumberofocularattacks,sideeffectsandbest-correctedvisualacuitybeforeandevery6monthsaftertreatment,toevaluatetheefficacyandsafetyofinfliximab.Results:Ocularattacksoccurred3.1timesinthe6monthsbeforeinfliximabtreatment,whereastheincidencewas0.2,0.6and0.8at0-6months,7-12monthsand13-18monthsaftertreatment,respectively.Best-correctedvisualacuitywasimprovedandstableaftertreatment.Althoughvariousadverseeffectswereobservedin17patients,nonewereserious.Conclusions:InfliximabiseffectiveforthetreatmentofrefractoryuveitisinBDpatients,withoutserioussideeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):696.701,2011〕Keywords:Behcet病,網膜ぶどう膜炎,インフリキシマブ,眼炎症発作.Behcet’sdisease,uveoretinitis,infliximab,ocularinflammatoryattack.(95)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011697症例も少なくはない.近年,分子生物学の進歩により眼炎症疾患に対しても種々の生物学的製剤が用いられるようになり3),2007年Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎患者に対して抗TNF(腫瘍壊死因子)a抗体製剤であるインフリキシマブ(レミケードR)の投与が日本で承認された.2007年1月の保険認可以降の使用成績調査(全例調査)の中間報告では,投与患者の約9割に効果を認めたとされ,短期的には有効であることが示された.しかし,これまで中期,長期の治療成績についての報告4~6)は少なく不明な点も多い.今回筆者らは,東北大学病院眼科においてインフリキシマブ療法を行ったBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対する中期成績とその安全性について検討したので報告する.I対象および方法対象は東北大学病院眼科において2007年9月から2009年2月までにインフリキシマブ療法を導入し,1年以上継続できた完全型または不全型Behcet病の症例10例18眼とした.方法は対象者の診療録を2010年6月まで調査する後ろ向き調査で行った.調査項目は眼発作回数,視力経過,副作用の3項目とした.視力は視力表を用いて得られた少数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力に変換して測定した.インフリキシマブ療法の適応,用法・用量は,インフリキシマブ治療プロトコールに従い行った.すなわち,適応はBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎と診断された患者で,従来の免疫抑制薬では効果が不十分,あるいは副作用で治療が困難な症例とした.インフリキシマブ療法導入するにあたり,すべての症例に感染症を含む血液検査(血算,血液像,総ビリルビン,アルカリホスファターゼ,トランスアミナーゼ,乳酸脱水素酵素,尿素窒素,クレアチニン,尿酸,総蛋白,アルブミン,ナトリウム,カリウム,クロール,中性脂肪,総コレステロール,C反応性蛋白定量,HBs(B型肝炎ウイルス)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体価,梅毒定性,b-d-グルカン),ツベルクリン反応検査,胸部X線撮影,胸部単純CT撮影(コンピュータ断層撮影)を施行した.そして呼吸器内科専門医の診察を受け,活動性結核を含む重篤な感染症のリスクがある例,悪性腫瘍,脱髄疾患,うっ血性心不全,妊娠または授乳中の患者は除外した.神経Behcet病治療のために副腎皮質ステロイド薬を使用していた症例2を除き,インフリキシマブ療法導入前の内服治療薬は原則中止とし,副腎皮質ステロイド薬は漸減中止とした.副腎皮質ステロイド薬の点眼薬は継続とし,眼発作を認めた場合は必要に応じて副腎皮質ステロイド薬の結膜下注射を用いた.当院眼科では原則全例に前投薬として,投与の1週間前から抗ヒスタミン薬を内服,ならびに投与当日朝に非ステロイド系抗炎症薬の内服を行った.さらに投与当日に眼科検査,診察を行い最終的な投与の可否を判断した.用法・用量は,初回投与後,2週,6週,以後は原則8週間隔にて,体重1kg当たり5mgを1回の投与量とし2時間以上かけて点滴静注した.2007年9月から2009年4月までは眼科外来処置室にて眼科外来の医師,看護師の観察下で投与し,看護師が投与前,投与後15分,30分,1時間,2時間,投与終了後30分間経過観察を行った後の抜針時に血圧,脈拍,体温,酸素飽和度の測定を行い,投与時反応の有無を本人に確認した.2009年5月からは当院化学療法センターでの投与が可能となり,投与前後の血圧,脈拍,酸素飽和度の測定と投与時反応の有無の確認を行った.患者には帰宅後から次回外来受診時までに何らかの病的変化,些細な体調の変化など有害事象が疑われるものすべてを主治医に確認するように説明した.本研究は,ヘルシンキ宣言に従って行われ,インフォームド・コンセントの得られた患者に対して行われた.II結果1.患者背景対象となった全症例の背景(年齢,性別,罹病期間,導入前の内服治療薬,導入理由,観察期間,転帰)を表1にまとめた.平均年齢は39±5.8歳,男性9例,女性1例,罹病期間は平均98.1±76.6カ月であった.インフリキシマブ療法導入前の内服治療薬はシクロスポリン単独が2例,コルヒチン単独が3例,コルヒチンと副腎皮質ステロイド薬の併用が2例,シクロスポリンと副腎皮質ステロイド薬の併用が1例であった.症例4はシクロスポリン,コルヒチンともに副作用が出現したため導入直前の内服は行わず,発作に対しては副腎皮質ステロイド薬の結膜下注射を行った.症例1はCT検査で陳旧性肺結核を認めたため呼吸器内科受診後,症例7はツベルクリン反応強陽性であり結核感染歴を否定できないため抗結核薬の予防内服を行った.インフリキシマブ療法の導入された理由は,前治療無効と判断されたものが8例(80%)であった.前治療無効と判断されたもののうち1例(症例3)は前治療(シクロスポリン)の副作用も重なっていた.症例3・5・8はそれぞれシクロスポリンの副作用(神経症状,下痢,横紋筋融解症),コルヒチンの副作用(体調不良)が変更理由であった.期間は平均23.2±7.4カ月,期間内に投与中止となる症例はなかった.2.インフリキシマブの眼発作に対する効果インフリキシマブ導入前6カ月間の眼発作回数と導入後6カ月ごとの発作回数を症例ごとに比較すると,全例とも眼発作回数の減少を認めた(表2).全10症例の導入前6カ月間における眼発作回数は平均3.1±2.0回であり,導入後の各期間における症例を合わせた平均眼発作回数との比較(図1)698あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(96)では,導入後6カ月間は0.2±0.4回(対象数10例,投与前3.1±2.0回,p=0.001),7~12カ月の期間は0.6±0.9回(対象数10例,投与前3.1±2.0回,p=0.001),13~18カ月の期間は0.6±0.7回(対象数10例,投与前2.8±1.2回,p=0.0004),19~24カ月の期間は0.6±0.5回(対象数6例,投与前3±1.4回,p=0.0098)と有意に抑制された.25~30カ月の期間は0.3±0.5回(対象数4例,投与前3.6±1.5回),31~33カ月の期間は0回(対象数2例,投与前3.5±2.1回)であった.3.各症例の効果判定各症例の眼発作に対する効果を以下の3段階評価を用いて判定した(表2).評価は,著効:インフリキシマブ導入後に一度も眼発作が認められなかったもの.有効:以下のいずれかに該当するもの.(a)インフリキシマブ導入後にも眼発作は認めたが,その頻度が軽減したもの.(b)インフリキシマブの投与間隔を表1各症例の背景症例投与開始時年齢性別罹病期間投与開始年月日投与直前内服薬INH併用の有無1234567891049413452425145453839男性男性男性男性男性男性女性男性男性男性2年11カ月12年8カ月4年2カ月24年5カ月7年5カ月7年11カ月4年2カ月4年6カ月5年10カ月3年9カ月2007/9/192007/9/262007/12/122008/2/272008/7/302008/7/302008/11/192008/12/242009/1/92009/2/25CsA200mgCsA250mgCsA50mgCsA90mgCol1.0mgCol0.5mgCol1.0mgCol1.0mgCol1.0mgCol1.0mgPSL15mgPSL3mgPSL10mg有無無無無無有無無無平均±標準偏差39±5.8(歳)98.1±76.6(カ月)症例インフリキシマブ投与理由投与期間投与間隔の変更投与後の内服薬転帰12345678910前治療無効前治療無効前治療無効,CsAで神経症状前治療無効CsAで下痢,Colで体調不良前治療無効前治療無効CsAで横紋筋融解前治療無効前治療無効2年9カ月2年9カ月2年6カ月2年4カ月1年11カ月1年11カ月1年7カ月1年6カ月1年5カ月1年4カ月なし8カ月で7週に変更1年8カ月で7週に変更なしなしなしなしなしなしなし中止中止PSL3mgCol0.5mg継続中止中止中止中止中止中止中止継続継続継続継続継続継続継続継続継続継続平均±標準偏差23.2±7.4(カ月)CsA:シクロスポリン,PSL:副腎皮質ステロイド薬,Col:コルヒチン,INH:イソニアジド.表2インフリキシマブ投与前6カ月と投与開始後6カ月ごとの眼発作回数症例投与前6カ月インフリキシマブ開始後(カ月)投与開始後の6カ月当たりの平均発作回数有効性1~67~1213~1819~2425~3031~33121020100.8有効250201000.6有効32021101有効42000000著効5400110.5有効6310000.3有効720000著効810000著効960001有効1070200著効(97)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011699短縮することで眼発作が認められなくなったもの.無効:インフリキシマブ導入後も眼発作が以前と同様に生じたもの,の3段階を用いた.上記の眼発作に対する効果判定基準で著効は10例中4例,有効は6例,無効例はなかった.有効のうち2例(症例2・3)は,インフリキシマブの投与間隔が8週間隔では眼発作を抑制できず,7週間隔へ短縮したところ眼発作の抑制ができた症例である.なお,この2例においては投与間隔の短縮が眼発作の抑制に有効であると担当医師が判断し,かつリスクを十分に説明のうえ,文書と口頭による同意が得られた患者であった.4.インフリキシマブ療法の視力への効果インフリキシマブ療法導入後に白内障手術を施行した6眼を除く12眼を対象とした.導入前,導入6カ月後,期間終了時の各時期における寛解期矯正視力をlogMAR視力にて比較し,0.2以上の改善,0.2未満の不変,0.2以上の悪化として検討した.導入前と導入6カ月後との比較では,視力向上3眼,不変9眼,視力低下はなかった(図2).導入前と期間終了時との比較では,視力向上6眼,不変6眼,視力低下はなかった.視力向上の割合は導入後6カ月のよりも期間終了時のほうが高かった(図3).インフリキシマブ導入後,全12眼において硝子体混濁の軽快もしくは改善を認めた.12眼中,インフリキシマブ導入前に黄斑浮腫を認めたものは2眼,黄斑浮腫を認めなかったものは9眼,インフリキシマブ導入前は眼底透見不能であったが,インフリキシマブ導入6カ月後に硝子体混濁が軽快し,黄斑浮腫が確認されたものが1眼であった.全期間中に黄斑浮腫を認めた3眼中3眼において期間終了時に黄斑浮腫の軽快もしくは改善を認めた.5.インフリキシマブ療法の安全性今回の検討では期間内に認めたすべての病的変化やその疑いを含めて有害事象として報告する.したがって軽度の訴えや自覚症状を伴わない検査異常値なども含めて10例中9例に全17件認められた.いずれもインフリキシマブとの因果関係は不明であったが期間内に生じたものをすべて列挙すると,肝機能検査異常値3件,皮膚症状3件(両眼周囲の発赤・掻痒感・乾燥1件,大腿内側の爛れ1件,挫瘡1件),3.532.521.510.50投与前6カ月(n=10)投与後1~6カ月(n=10)7~12カ月(n=10)13~18カ月(n=10)19~24カ月(n=6)25~30カ月(n=4)31~33カ月(n=2)平均眼発作回数************図1インフリキシマブ投与前後の平均眼発作回数の比較インフリキシマブ治療開始後の期間を6カ月ごとに区切り,6カ月当たりの平均眼発作回数を投与前6カ月間と比較した.インフリキシマブ治療開始後の期間が長くなるとともに症例数(n)は減少するため,投与前の平均眼発作回数は調査期間により異なる.各調査期間における有意差をp値(Student’spairedt-test)で示した(****:p<0.0005,***:p<0.005,**:p<0.01).3210-1123456投与後6カ月後の矯正視力(logMAR)0インフリキシマブ投与前矯正視力(logMAR)図2インフリキシマブ投与前と治療開始6カ月後の寛解期視力の変化インフリキシマブ投与前と治療開始後6カ月の寛解期矯正視力を比較.◆:logMAR視力で0.2未満の変化(12眼中9眼),■:logMARで0.2以上の改善(12眼中3眼).3210-101234インフリキシマブ投与前矯正視力(logMAR)投与開始後最終矯正視力(logMAR)図3インフリキシマブ投与前と期間終了時の寛解期視力の変化インフリキシマブ投与前と期間終了時の寛解期視力の変化(12カ月後2例,18カ月後2例,24カ月後3例,30カ月後3例,33カ月後2例)の寛解期矯正視力を比較.◆:logMAR視力で0.2未満の変化(12眼中6眼),■:logMAR視力で0.2以上の改善(12眼中6眼).700あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(98)発熱2件,上気道症状2件,左手関節痛1件,左耳介部感染1件,その他に軽度の投与時反応が5件(血圧上昇2件,発汗1件,前腕の刺入部の血管炎様発赤1件,頭痛1件)であった.いずれも期間内に一時的に認められたものであり投与中断などを迫られるような重篤なものはなく,経過観察にて軽快した.III考按Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎患者に対してインフリキシマブの使用が国内で認可されて以降,本治療は多くのBehcet病患者に福音をもたらしている.疾患の特性上,長期にわたって有効であり,かつ安全であることが治療を継続するうえで必須条件となるが,その中期・長期成績に関しては報告が少なく不明な点もあった.今回,筆者らはBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対し,インフリキシマブ療法を導入し,1年以上継続できた10例18眼において,その治療成績を総括した.インフリキシマブ療法導入により眼発作が完全になくなった著効は4例,眼発作が著明に軽減,あるいはインフリキシマブ投与間隔を短縮することにより眼発作を抑えた有効も6例,とすべての症例において眼発作抑制効果を認めた.投与間隔を短縮した2例は,導入当初8週間隔で眼発作が抑制されていたが,徐々に7週過ぎに眼発作を認めるようになり,効果減弱つまり二次無効例7)と考えた.インフリキシマブに対する抗体産生の可能性8)もあり,二次無効例に対する対応は今後も議論を深めるべき事項であるが,たとえば免疫抑制薬や副腎皮質ステロイド薬などの併用治療薬の再開・増量,インフリキシマブ投与量の増量や投与間隔の短縮,インフリキシマブ投与直前に水溶性プレドニゾロン20~40mgを静注するなどの方法があり8),何らかの工夫が必要であろう.今回の2例に関しては投与後7週過ぎに規則的に認める眼発作であったため,投与間隔の短縮という方法をとり,結果が良好であった.今後症例数と調査期間を延ばし再度検討を要するが,2例とも良好な成績であり二次無効例に対する選択肢の一つになると思われた.視力の推移では,インフリキシマブ導入後にすべての症例で寛解期矯正視力は向上もしくは維持され,低下する症例はなかった.硝子体混濁や黄斑浮腫の改善9)が視力向上の一因になっていると考えられた.投与後6カ月での視力向上は3眼であったのに対し,期間終了時では6眼と増加しており,視力低下をひき起こす何らかの慢性炎症までをも抑制されたために,より長く導入されている期間終了時で視力向上が増加したと思われた.安全性については,期間内に認めたすべての病的変化やその疑いを含めて有害事象としたため10例中9例に全17件認められた.いずれも期間内に一時的に認められたものであり,経過観察にて速やかに軽快した.投与時反応を含め,同一患者に同様の有害事象をくり返すといった傾向は認められず,インフリキシマブとの因果関係も不明であった.したがって,当科における10例18眼を対象にしたインフリキシマブ療法では重篤な副作用はなく,比較的安全に行うことができた.しかしながら,使用成績調査(全例調査)の中間報告において,重篤な副作用は報告されており(発現率4.3%),その多くが感染症であったことからも,インフリキシマブ導入前に特に感染症のリスクを念頭においたスクリーニング検査ならびに導入後の慎重な経過観察が大切である.さらに,投与時反応への対応を確立することがより高い安全性につながると考え,筆者らはCheifetzら10)の投与時反応発現時の対応を基に救急マニュアルを作成し,クリニカルパスにて運用した.今回の検討結果からインフリキシマブ療法は中期においても眼発作抑制,視力向上・維持,安全性において非常に有効であると思われた.現時点でインフリキシマブ治療の適応は従来の治療法に抵抗性の難治例とされているが,他の疾患では初期から投与することで良好な予後が得られているとの報告もあり11,12),投与前の全身精査を的確に行い,有害事象発現時の体制を整え,用法・用量を工夫することで,インフリキシマブ療法のさらなる安全かつ有効利用を探求していく必要があると思われた.文献1)SakaneT,TakenoM,SuzukiNetal:Behcet’sdisease.NEnglJMed341:1284-1291,19992)MasudaK,NakajimaA,UrayamaAetal:DoublemaskedtrialofcyclosporinversuscolchicineandlongtermopenstudyofcyclosporininBehcet’sdisease.Lancet8647:1093-1095,19893)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Efficacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofinfliximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheumatol31:1362-1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若年性特発性関節炎症状で発症した若年発症サルコイドー シスの1 例

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1(119)5350910-1810/10/\100/頁/JCOPY43回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科27(4):535538,2010cはじめにサルコイドーシスは両側肺門部リンパ節腫脹を特徴とし,組織学的には非乾酪性類上皮肉芽腫からなる全身性炎症性疾患である.小児例のなかに4歳以下の乳幼児期に発症し,胸部病変を伴わず,関節炎・ぶどう膜炎・皮膚炎を3主徴とする特殊なタイプがあることが知られ13),若年発症サルコイドーシス(early-onsetsarcoidosis:EOS)とよばれていた4,5).一方,EOSと臨床的に酷似し,常染色体優性に遺伝する家系が報告され6),Blau症候群(BS)とよばれた.両者は現在,同じ原因遺伝子による同一疾患と考えられている.今回筆者らは7歳時に関節炎で発症し,サルコイドーシス様のぶどう膜炎症状を呈した後,遺伝子診断にてBlau症候群/若年発症サルコイドーシス(BS/EOS)と判明した1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕相馬実穂:〒849-8501佐賀市鍋島5丁目1番1号佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MihoSoma,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPAN若年性特発性関節炎症状で発症した若年発症サルコイドーシスの1例相馬実穂*1清武良子*1今吉美代子*2平田憲*1浜崎雄平*2沖波聡*1*1佐賀大学医学部眼科学講座*2同小児科学講座ACaseofEarly-OnsetSarcoidosisDiagnosedasJuvenileIdiopathicArthritisMihoSoma1),RyokoKiyotake1),MiyokoImayoshi2),AkiraHirata1),YuheiHamasaki2)andSatoshiOkinami1)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofPediatrics,SagaUniversityFacultyofMedicine緒言:Blau症候群/若年発症サルコイドーシス(BS/EOS)の1例を報告する.症例:12歳,女性.7歳より右足関節外顆腫脹があり,関節液の穿刺排液をくり返していた.11歳より全身性関節炎を発症.2002年3月当院小児科で若年性特発性関節炎と診断された.近視以外には眼病変はなかった.関節炎は寛解・再燃をくり返し,ステロイド薬と免疫抑制薬が投与された.2007年(17歳)再診時に両眼に豚脂様角膜後面沈着物と隅角結節を伴う前部ぶどう膜炎を認め,眼底に光凝固斑様の網脈絡膜萎縮巣,網膜静脈周囲炎と雪玉状硝子体混濁がみられた.サルコイドーシスを疑い全身検査を行ったが,診断基準を満たす所見はなかった.遺伝子解析を追加し,CARD15/NOD2の新規遺伝子変異(R587C)が確認され,BS/EOSと診断された.2009年5月より関節変形・眼合併症の予防としてインフリキシマブ投与が開始された.結論:BS/EOS診断において遺伝子解析が有用であった.Purpose:Wereportacaseofearly-onsetsarcoidosis/Blausyndrome(BS/EOS).Patient:A12-year-oldfemaleconsultedusforocularchecking.Shehadbeentreatedforswellingofherrightanklejointsince7yearsofage,andhadbeendiagnosedwithjuvenileidiopathicarthritisinMarch2002.Hereyesshowednoabnormalndingsotherthanmyopia.Shereceivedsystemicsteroidsandimmunosuppressantforrepeatedremissionandexacerbationofarthritis.Fiveyearslater,botheyesshowedanterioruveitiswithmuttonfatkeraticprecipitatesandtrabecularnodules.Chorioretinalatrophymimickinglaserphotocoagulationscars,retinalperiphlebitisandsnowball-likevitreousopacitywerealsonoted.Wesuspectedsarcoidosis,butcouldndnosystemicabnormalndings.Geneticinvestigationrevealedanovelgenemutation(R587CintheCARD15/NOD2gene);nallyshewasdiagnosedwithBS/EOS.SinceMay2009shehasreceivediniximabtopreventarticulardeformityandoph-thalmicinammation.Conclusion:GeneticinvestigationisusefulinthediagnosisofBS/EOS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):535538,2010〕Keywords:Blau症候群/若年発症サルコイドーシス(BS/EOS),CARD15/NOD2遺伝子変異,インフリキシマブ.early-onsetsarcoidosis/Blausyndrome(BS/EOS),CARD15/NOD2genemutation,iniximab.———————————————————————-Page2536あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(120)I症例患者:12歳,女性.主訴:関節痛.現病歴:1997年(7歳時)より右足関節外顆腫脹があり関節液の穿刺排液をくり返していた.2001年(11歳時)より全身性に関節炎が多発,近医整形外科にて両膝・足関節水腫を認め,血液検査にて若年性特発性関節炎(JIA)が疑われ,2002年3月19日に当院小児科へ紹介となった.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.現症(小児科初診時):体温36.1℃.肝脾腫・皮疹なし.関節は腫脹していなかった.検査所見:血算,血液生化学に異常なし.CRP(C反応性蛋白)5.89mg/dl,Ig(免疫グロブリン)G2,569mg/dl,IgA729mg/dl,補体C3169mg/dl,と上昇していたがRA(関節リウマチ)テストは陰性,各種抗体価も上昇していなかった.胸部・膝関節・足関節X線写真では異常を指摘されなかった.経過:JIAが疑われアスピリン30mg/kg/日投与が開始された.3月23日より発熱,炎症所見も悪化したため,3月26日よりステロイド薬パルス療法が開始となった.3月29日ぶどう膜炎の有無についての精査目的で眼科紹介となった.眼科初診時所見(2002年3月29日):視力は右眼0.2(1.0×1.5D(cyl0.25DAx70°),左眼0.1(1.0×2.0D).眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHg.眼位,眼球運動,対光反応は異常なく,前眼部,中間透光体,眼底にも異常所見は認めなかった.経過:その後も関節炎は寛解・再燃をくり返したため,炎症所見にあわせてステロイド薬投与量が増減され,免疫抑制薬も追加された.2003年(13歳時)1月頬部の紅斑,全身性の小丘疹が出現したが抗アレルギー薬内服にて消退し,再燃はしていない.長期にわたる両足関節炎にもかかわらず,MRI(磁気共鳴画像)では少量の液体貯留を認めるほかは滑膜の増殖や骨変形は認めず,リウマチで高値を示すMMP3(マトリックスメタロプロテアーゼ3)は軽度上昇,抗CCP(シトルリン化ペプチド)抗体は正常であった.2007年(17歳時)2月23日,1週間前から続く右眼霧視を主訴に当科を再受診した.このとき小児科ではNSAID(非ステロイド系抗炎症薬),免疫抑制薬,プレドニゾロン13mgにて内服加療中であった.眼科再診時所見(2007年2月23日):視力は右眼0.03(1.0×5.0D),左眼0.05(1.2×5.0D(cyl0.5DAx160°).眼圧は右眼10mmHg,左眼10mmHg.両眼とも白色顆粒状豚脂様の角膜後面沈着物を認めた.前房は右眼cell(+),are(+),左眼cell(±),are(+).両眼とも隅角図12009年1月30日の右眼前眼部写真下方に虹彩後癒着を認める.ab図22009年1月30日の両眼眼底写真a:右眼,b:左眼.周辺部に光凝固斑様の網脈絡膜萎縮巣を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010537(121)結節を認めた.水晶体は両眼とも異常なく,眼底検査では右眼に網膜静脈周囲炎,雪玉状硝子体混濁,光凝固斑様の網脈絡膜萎縮巣,左眼は光凝固斑様の網脈絡膜萎縮巣を認めた.眼所見からサルコイドーシスを疑い,全身検索を行った.血液検査では抗核抗体160倍,IgA459mg/dl,IgE404mg/dlと上昇していたが,ACE(アンジオテンシン変換酵素)9.2U/l,血清Ca(カルシウム)9.5mg/dl,胸部X線写真は異常なく,ツベルクリン反応は陽性でサルコイドーシスの全身的診断基準を満たす所見は認めなかった.関節・眼所見,経過からBS/EOSを疑い,遺伝子解析を行った結果,CARD15/NOD2の新規遺伝子変異(R587C)が確認され,2008年(18歳時)3月にBS/EOSと診断された.家族に対する遺伝子検索も検討したが,これまでに家系内に関節炎・視力障害をきたしたものは患者以外におらず,同意も得られなかったため行っていない.その後もぶどう膜炎の寛解・再燃をくり返したが,ステロイド薬と免疫抑制薬投与中のため,ステロイド薬などの点眼治療で経過観察を行った.2009年1月30日の時点で右眼矯正視力は0.7,左眼矯正視力は1.0であり,右眼には虹彩後癒着,両眼底に光凝固斑様の網脈絡膜萎縮巣が認められた(図1,2).両眼とも白内障は生じておらず,右眼は薄い黄斑上膜を認めることから,これが視力低下の原因と思われた.2009年5月13日,小児科では関節変形・眼合併症の予防としてインフリキシマブ(レミケードR)4mg/kg投与が開始された.現在全身的副作用もなく,関節炎,ぶどう膜炎はともに寛解している.II考按サルコイドーシスは,組織学的に非乾酪性類上皮肉芽腫からなる病変を多臓器に認める原因不明の全身性炎症性疾患で,小児のサルコイドーシスは比較的まれである.多くは9歳以降の年長児にみられるが,4歳以下の幼小児期にも小さいピークがみられ1,2),この2群は大きく異なる.年長児においては成人と同じく胸部X線検査で発見されることが多く,肺門部リンパ節腫脹,肺病変の頻度が高いのに対し,就学前の幼小児においては,約半数は乳幼児期に発症し,肺・リンパ節病変を伴わず,皮膚・関節・眼病変を3主徴とする特異的な臨床像を呈する2,3).後者は特に若年発症サルコイドーシス(early-onsetsarcoidosis)とよばれ4),進行性で失明や関節拘縮,内臓浸潤に至る例がまれではなく,組織学的には良性ながら臨床的には予後不良とされる5).一方,1985年のBlauによる4世代にわたる家系の報告に始まり6),若年発症サルコイドーシスとよく似た臨床,組織像を呈し常染色体優性の遺伝性疾患の存在が知られるようになり,Blau症候群(Blausyndrome)と命名された.家系の遺伝子解析から,Crohn病と同じく16番染色体上のIBD(inammatoryboweldisease)1ローカスの近くに存在するCARD15/NOD2遺伝子がBlau症候群の原因遺伝子であることが判明している7).さらに金澤・岡藤らはわが国の報告例の遺伝子解析の結果,孤発性の若年発症サルコイドーシスもBlau症候群と同じく,CARD15/NOD2遺伝子変異による遺伝性疾患であることを明らかにしており8,9),現在家族性のBlau症候群と孤発性の若年発症サルコイドーシスを合わせた新たな疾患名が模索されている10,11).BS/EOSの報告はわが国の眼科領域からはまれであり12),本症例はBS/EOSの孤発例と思われる.岡藤らは,わが国においてBS/EOSと診断された17例について検討し,そのうち7例が今回の症例と同じく当初はJIAとして経過観察されていたと報告している9).両疾患ともに小児期の発症で,皮膚・関節・眼に病変を生じることから,診断においてはその異同が重要になるが,両疾患の鑑別点として表1の点をあげている.今回の症例は発症が7歳時であり,BS/EOS症例としては発症時期がやや遅い.また,右足関節外顆腫脹で発症し,全身性に関節炎が多発,発熱・炎症所見を認めたことから,当初はJIAと診断されていた.しかし関節腫脹をきたしていたにもかかわらず,病初期のX線検査では異常を認めなかった.また,長期の経過にもかかわらず滑膜の増殖や骨変形は認めず,リウマチで高値を示すMMP3は軽度上昇,抗CCP抗体は正常であった.表1Blau症候群若年発症サルコイドーシス(BS/EOS)と若年性特発性関節炎(JIA)の鑑別点BS/EOSJIA・発熱や血液検査所見がマイルド・初発症状は皮疹であることが多い・発熱や血液検査所見が強い・発熱で初発皮膚・皮疹は苔癬様や魚鱗癬様・皮疹は特徴的な淡色の紅斑性斑点状関節・病初期は腫脹が著しいにもかかわらず,関節痛や可動域制限がない・骨粗鬆症や骨びらんの所見がない・進行によりJIA関節症状と類似・可動域制限・こわばり・指趾腫脹を認める・骨粗鬆症,骨びらんの所見を認める眼・眼症状は前部および後部に生じ,成人型のサルコイドーシスに類似・治療不十分例では緩徐に進行し失明や歩行障害をきたす・眼症状は前部のみがほとんど・結節形成はまれ———————————————————————-Page4538あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(122)13歳時には頬部の紅斑と全身性の小丘疹が出現したが,投薬内容の変更直後であったことから薬剤アレルギーが疑われ,抗アレルギー薬の投与により速やかに消退したため,生検するまでには至らなかった.17歳時にはサルコイドーシス様の肉芽腫性ぶどう膜炎を認め,病変は前眼部だけでなく後眼部にも認めた.これらの経過からJIAの診断が再検討され,BS/EOSを疑い遺伝子解析を行ったことにより,BS/EOSと最終診断された.金澤らはわが国でEOSと診断された10例のNOD2遺伝子検索を行い,9例でNOD領域に変異をもつことを明らかにした.これらの症例の遺伝子変異は全部で7種見つかっており,それらをHEK(ヒト胎児腎)293細胞に導入した結果,6種において正常NOD2と比べNF(核内因子)-kBの基礎活性が上昇していたと報告している8,13).国外からも同様な報告があり14),EOSとNOD2遺伝子変異の関連はわが国に限らないことが示された.また,金澤らの報告と国外での報告をまとめた結果,EOSとBSのいずれにおいても80%前後の症例においてNOD2遺伝子変異をもつことが明らかになるとともに,BS/EOSタイプのNOD2遺伝子変異は患者以外には見つかっておらず,変異のあるものは皆発症していることから,変異の存在は病気の発症に必須かつ十分なものであるといえることがわかった13).Finkらは長期観察ができたBS/EOSの6症例を検討し,4例が失明,3例が成長障害,1例が腎不全に至っており,BS/EOSは臨床的には予後不良な疾患であると述べている5).今回の症例では長期の経過にもかかわらず,成長障害はなく関節・眼症状ともにステロイド薬と免疫抑制薬の治療により比較的良好な経過をたどっていた.しかしながら投薬量を減量するたびに炎症の再燃をきたしており,減量・中止が困難な状況であった.また,免疫抑制薬とステロイド薬を内服中にもかかわらずぶどう膜炎を発症したこと,これまでの報告からBS/EOSは重症のぶどう膜炎発作を起こした場合,視力予後が大変不良であること5)などから,12年後(19歳時)に関節変形・眼合併症の予防としてインフリキシマブ投与が開始された.インフリキシマブについては近年小児のぶどう膜炎についても良好な経過が報告されており15,16),このなかには少数ながらBS/EOSも含まれている.しかし有効性が報告されている一方で,抗TNF(腫瘍壊死因子)a薬(インフリキシマブ,エタネルセプト)を使用した30例中15例(50%)に有害事象を認め,エタネルセプト使用の2例,インフリキシマブ使用の7例(うち1例が菌血症にて死亡)で感染症が発症したとの報告もあり17),全身的な合併症に十分注意して使用していく必要があると思われる.7歳時に関節炎で発症,JIAとして治療を行っていたが,17歳時にサルコイドーシス様のぶどう膜炎症状を呈したため,遺伝子解析を行いBS/EOSと判明した1例を経験した.眼病変の出現がBS/EOSを鑑別するきっかけともなりうるため,今回の症例のように発症初期に眼病変を認めないJIA症例においても注意深い経過観察を行うとともに,本疾患を疑った場合には積極的に遺伝子解析を検討する必要があると思われた.文献1)McGovernJP,MerrittDH:Sarcoidosisinchildren.AdvPediatr8:97-135,19562)HetheringtonSV:Sarcoidosisinchildren.AmJDisChild136:13-15,19823)ClarkSK:Sarcoidosisinchildren.PediatrDermatol4:291-299,19874)金澤伸雄:若年発症サルコイドーシス.玉置邦彦総編集,最新皮膚科学大系2006-2007,p205-209,中山書店,20065)FinkCW,CimazR:Earlyonsetsarcoidosis:notabenigndisease.JRheumatol24:174-177,19976)BlauEB:Familialgranulomatousarthritis,iritisandrash.JPediatr107:689-693,19857)Miceli-RichardC,LesageS,RybojadMetal:CADR15mutationsinBlausyndrome.NatGenet29:19-20,20018)KanazawaN,OkafujiI,KambeNetal:Early-onsetsar-coidosisandCARD15mutationswithconstitutivenuclearfactor-kBactivation:commongeneticetiologywithBlausyndrome.Blood105:1195-1197,20059)岡藤郁夫,西小森隆太:若年性サルコイドーシスの臨床像と遺伝子解析.小児科48:45-51,200710)MillerJJ:Early-onset“sarcoidosis”and“familialgranu-lomatousarthritis(arteritis)”:thesamedisease.JPediatr109:387,198611)金澤伸雄:Blau症候群の分子病態.炎症と免疫16:158-163,200812)KurokawaT,KikuchiT,OhtaKetal:Ocularmanifesta-tionsinBlausyndromeassociatedwithaCARD15/Nod2mutation.Ophthalmology110:2040-2044,200313)金澤伸雄:若年発症サルコイドーシスとNOD2遺伝子変異.日小皮会誌25:47-51,200614)RoseCD,DoyleTM,Mcllvain-SimpsonGetal:Blausyn-dromemutationofCARD15/NOD2insporadicearlyonsetgranulomatousarthritis.JReumatol32:373-375,200515)ArdoinSP,KredichD,RabinovichEetal:Iniximabtotreatchronicnoninfectiousuveitisinchildren:retrospec-tivecaseserieswithlong-termfollow-up.AmJOphthal-mol144:844-849,200716)MilmanN,AndersenCB,HansenAetal:FavourableeectofTNF-ainhibitor(iniximab)onBlausyndromeinmonozygotictwinswithadenovoCARD15mutation.APMIS114:912-919,200617)deOliveiraSK,deAlmeidaRG,FonsecaARetal:Indica-tionsandadverseeventswiththeuseofanti-TNFalphaagentsinpediatricrheumatology:experienceofasinglecenter.ActaReumatolPort32:139-150,2007