《原著》あたらしい眼科29(8):1147.1151,2012cウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果中嶋英雄浦島博樹竹治康広篠原久司大塚製薬株式会社赤穂研究所TherapeuticEffectofRebamipideOphthalmicSuspensiononCornealandConjunctivalDamageinMucin-removedRabbitEyeModelHideoNakashima,HirokiUrashima,YasuhiroTakejiandHisashiShinoharaAkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.ウサギの眼表面ムチン被覆障害モデルにおける眼表面の障害に対するレバミピド点眼液の効果について検討した.本モデルに1%レバミピド点眼液または基剤を1日6回,2週間点眼した後,電子顕微鏡により角結膜表面微細構造を観察するとともに,コムギ胚芽レクチンを用いた酵素免疫法で角結膜のムチン様糖蛋白質を定量した.また,ドライアイ観察装置を用いて涙液安定性についても評価した.レバミピド点眼液は角結膜表面の微絨毛/微ひだを修復し,また,角結膜のムチン様糖蛋白質を有意に回復させた.さらに,涙液層におけるドライスポットの出現を抑制したことから,涙液安定性の改善が示唆された.レバミピド点眼液は角結膜表面の微細構造の修復作用と角結膜ムチンの増加作用により,涙液層を安定化させたと考えられた.Thisstudyinvestigatedtheeffectofrebamipideophthalmicsuspensiononcornealandconjunctivaldamageinthemucin-removedrabbiteyemodel.Rebamipideophthalmicsuspension(1%)orvehicleonlywastopicallyappliedtothesubjecteyes6timesdailyfor2weeks.Thefinestructureofthecornealandconjunctivalsurfacewasexaminedusingtransmissionandscanningelectronmicroscopy.Cornealandconjunctivalmucinsweremeasuredbyenzyme-linkedlectinassaywithwheatgermagglutinin.Tearfilmstabilitywasevaluatedusinganophthalmoscopefordryeye.Rebamipideophthalmicsuspensionstimulatedrecoveryofmicrovilli/microplicaeonthecornealandconjunctivalsurfaceandsignificantlyincreasedcornealandconjunctivalmucinsinmucin-removedrabbiteyes.Inaddition,rebamipideophthalmicsuspensionsuppressedtheappearanceofdryspots,whichsuggestsimprovedtearfilmstability.Theseresultssuggestthatrebamipideophthalmicsuspensionincreasescornealandconjunctivalmucinsandinducesrecoveryofthefinestructureoftheocularsurface,therebyimprovingtearfilmstability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1147.1151,2012〕Keywords:レバミピド,ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデル,N-アセチルシステイン,微絨毛/微ひだ,ムチン様糖蛋白質,涙液安定性.rebamipide,mucin-removedrabbiteyemodel,N-acetylcysteine,microvilli/microplicae,mucinlikeglycoprotein,tearfilmstability.はじめにドライアイはさまざまな要因による涙液および眼表面上皮における慢性疾患である.その病態の成立には涙液と角結膜上皮の悪循環,およびその悪循環をひき起こすリスクファクターが関与し,その結果として生じる涙液安定性の低下はドライアイのコアメカニズムの一つであると捉えられている1).涙液は油層と水/ムチン層からなり,眼表面のムチンは角結膜表面の親水性を高め,角膜表面での安定な涙液層の形成に寄与するとされる.ドライアイでは涙液および眼表面のムチンが減少すると報告されており2,3),ドライアイの治療において眼表面のムチンを増加させることの重要性が指摘されている.角結膜表面に発達している微絨毛/微ひだはその先端〔別刷請求先〕中嶋英雄:〒678-0207兵庫県赤穂市西浜北町1122-73大塚製薬株式会社赤穂研究所Reprintrequests:HideoNakashima,AkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,1122-73Nishihamakita-cho,Ako-shi,Hyogo678-0207,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(121)1147に膜結合型ムチンが局在するとされ4),ドライアイにおいては微絨毛/微ひだが減少・不整化していること5.7)や,微絨毛/微ひだの減少に依存して涙液安定性が低下することが報告されている8).新規ドライアイ治療薬であるレバミピド点眼液は,N-アセチルシステインを点眼することにより眼表面のムチンを除去したウサギ(眼表面ムチン被覆障害モデル)の角結膜においてムチン様物質を増加させ,ローズベンガル染色スコアを改善させることがこれまでに報告されている9).今回,ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの角結膜表面微細構造,角結膜のムチン様糖蛋白質および涙液安定性について検討するとともに,レバミピド点眼液の効果について検討した.I実験方法1.眼表面ムチン被覆障害モデルの作製およびレバミピド点眼液の投与雌性NZW(NewZealandWhite)ウサギ(北山ラベス)に,10%N-アセチルシステイン溶液(和光純薬,溶媒:生理食塩液)を1日6回点眼し,眼表面ムチン被覆障害モデルを作製した.N-アセチルシステイン処置翌日より1%レバミピド点眼液または基剤を1回50μL,1日6回,両眼に2週間点眼した.なお,本研究は「大塚製薬株式会社動物実験指針」を遵守して実施した.2.角結膜表面微細構造の観察はじめに,N-アセチルシステイン処置後,非点眼で3日,1週間および2週間経過後の角膜表面微細構造について検討し,つぎに,N-アセチルシステイン処置翌日から,レバミピド点眼液または基剤を2週間点眼した後の角膜および結膜表面の微細構造について検討した.ペントバルビタールナトリウム注射液(共立製薬)の静脈内投与によりウサギを安楽殺し,中央部角膜および上部球結膜を採取した.2%パラフォルムアルデヒドと2%グルタルアルデヒドの混合液に続いて2%四酸化オスミウムにより固定した後,樹脂包埋し,超薄切片を作製した.酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛による二重染色とカーボン蒸着を行った後,透過型電子顕微鏡(TEM;JEM-1200EX,日本電子)で観察した.また,同様に固定した角膜に,真空乾燥,オスミウムコーティングを施し,走査型電子顕微鏡(SEM;S-800S,日立)で観察した.3.角結膜におけるムチン様糖蛋白質の測定角膜上皮細胞は機械的.離により,上部球結膜組織は直径10mmに打ち抜き採取した.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)/10%Dulbecco’sPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液に30℃で一昼夜インキュベートして可溶化した後,カラム(SepharoseCL-4B,Bio-Lad)を用いてゲル濾過し,ボイドボリュームに溶出した高分子蛋白質を含む溶液をムチン様糖蛋白質サンプルとした.サンプルまたは検量線用のウシ顎下1148あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012腺ムチン(和光純薬)を96穴マイクロプレートに入れ,一晩乾燥させて固相化した.ペルオキシダーゼ標識コムギ胚芽レクチン(ホーネンコーポレーション)と37℃で1時間,続いてo-dianisidine(Sigma)と37℃で1時間反応させた後,マイクロプレートリーダー(MolecularDevices)にて405nmの吸光度を測定した.4.涙液安定性の評価N-アセチルシステイン処置後点眼開始前および2週間後にドライアイ観察装置DR-1R(興和)を用いて涙液層におけるドライスポットの出現を評価した.ウサギに強制瞬目を3回施した後,角膜中央部表面をDR-1Rで観察し,倍率12倍で写真撮影した.5.統計解析角膜および結膜のムチン様糖蛋白質に関してSAS(SASInstituteJapan)を用いて5%を有意水準として解析した.正常眼とN-アセチルシステイン処置眼(基剤),およびNアセチルシステイン処置眼の基剤と1%レバミピド点眼液について対応のないt検定(両側)を実施した.II結果1.角結膜表面の微絨毛.微ひだに対する作用正常眼の角膜表面は多くの微絨毛/微ひだを有していたのに対し,N-アセチルシステイン処置3日後では微絨毛/微ひだが消失し,1週間および2週間後においても微絨毛/微ひだの再形成は認められなかった(図1).N-アセチルシステイン処置後に1%レバミピド点眼液または基剤を2週間投与した角膜表面をTEMで観察したところ,1%レバミピド点眼液群では基剤群と比較して多くの微絨毛/微ひだが認められた(図2a,b).また,SEMによる観察においても,1%レバミピド点眼液群の角膜表面には基剤群と比較して微絨毛/微ひだが密に認められた(図2c,d).結膜に関しても,1%レバミピド点眼液群は基剤群と比較して発達した微絨毛/微ひだが認められた(図3).2.角結膜におけるムチン様糖蛋白質に対する作用レバミピド点眼液の角膜におけるムチン様糖蛋白質に対する作用を検討した結果を図4aに示す.N-アセチルシステイン処置2週間後の角膜ムチン様糖蛋白質は正常眼と比較して有意に低値を示したのに対し(p<0.01),1%レバミピド点眼液は減少した角膜ムチン様糖蛋白質を有意に増加させた(p<0.01).結膜に対する結果を図4bに示す.角膜同様,N-アセチルシステイン処置により結膜ムチン様糖蛋白質は有意に減少し(p<0.01),1%レバミピド点眼液は減少した結膜ムチン様糖蛋白質を有意に増加させた(p<0.01).3.涙液安定性に対する作用正常眼では均一な涙液層が広がっていた(図5a)のに対し,N-アセチルシステイン処置翌日からドライスポットが(122)..μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ..図3N.アセチルシステイン処置による結膜表面微細構造の障害に対する1%レバミピド点眼液の効果a:正常,b:基剤投与2週間後,c:1%レバミピド点眼液投与2週間後.図1N.アセチルシステイン処置による角膜表面微細構造の変化a:正常,b:処置3日後,c:同1週間後,d:同2週間後...μ….μ….μ….μ..図2N.アセチルシステイン処置による角膜表面微細構造の障害に対する1%レバミピド点眼液の効果a,c:基剤投与2週間後(a:TEM像,c:SEM像).b,d:1%レバミピド点眼液投与2週間後(b:TEM像,d:SEM像).(123)あたらしい眼科Vol.29,No.8,201211494,000**##4,0003,0003,000**##ムチン様糖蛋白質量(ng)ムチン様糖蛋白質量(ng)2,0002,0001,0001,00000正常基剤1%レバミピド点眼液N-アセチルシステイン処置図4角膜および結膜のムチン様糖蛋白質量に対する1%レバミピド点眼液の作用a:角膜,b:結膜.各値は10例の平均値±標準誤差を示す.**p<0.01,##p<0.01,対応のないt検定(両側).正常基剤1%レバミピド点眼液N-アセチルシステイン処置図5N.アセチルシステイン処置後の涙液安定性に対する1%レバミピド点眼液の効果a:正常,b:N-アセチルシステイン処置翌日(薬剤投与前)c:基剤投与2週間後,d:1%レバミピド点眼液投与2週間後図中の矢印はドライスポットを示す..(,)出現し,涙液安定性の低下が示唆された(図5b).1%レバミピド点眼液群で観察されたドライスポットは基剤群と比較して軽微であり(図5c,d),レバミピド点眼液による涙液層の安定化が示唆された.III考按ドライアイでは涙液と角結膜上皮の悪循環が生じており,特に,眼表面ムチンの減少や角結膜表面微細構造の障害により生じる涙液安定性の低下はドライアイの発症・増悪におけるコアメカニズムの一つであると考えられている1).実際に,ムチン溶液を点眼することにより角膜上皮障害が改善されることがドライアイ患者10)やモデル動物11)で報告されている.また,結膜上皮の微絨毛/微ひだ構造の不整化がSjogren症候群6)や移植片対宿主病7)によるドライアイ,非Sjogren症候群のドライアイ患者5,8)において報告されている.今回,ウサギの眼表面ムチン被覆障害モデルにおいて,角結膜表面の微絨毛/微ひだの消失,角膜および結膜におけるムチン様糖蛋白質の減少および涙液安定性の低下が認められたことから,本モデルはドライアイの特徴を有するモデルであることが示唆された.さらに,本モデルに対するレバミピド点眼液の作用を検討したところ,レバミピド点眼液は角結膜表面の微絨毛/微ひだを修復させることが明らかとなった.また,ムチンが高分子であることを考慮してゲル濾過により高分子の蛋白質のみを抽出し,ムチン特有の糖鎖と結合することが知られているレクチンを用いてムチン様物質を定量した結果,レバミピド点眼液は角膜および結膜のムチン様糖蛋白質を増加させることが明らかとなり,眼表面のムチンを増加させる作用が示唆された.さらに,レバミピド点眼液は涙液安定性の指標となるドライスポットの出現を抑制したことから,涙液層を安定化させる作用をもつことが示唆された.以上のことから,レバミピド点眼液はドライアイ患者においても角結膜表面の微細構造を修復するとともに,眼表面にムチンを供給することで角結膜上皮表面の親水性を高め,安定な涙液層を形成させることが予想され,臨床の場においてもドライアイ治療薬として有用であると考えられた.1150あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(124)文献1)横井則彦:ドライアイ.あたらしい眼科25:291-296,20082)NakamuraY,YokoiN,TokushigeHetal:Sialicacidinhumantearfluiddecreasesindryeye.JpnJOphthalmol48:519-523,20043)CorralesRM,NarayananS,FernandezI:Ocularmucingeneexpressionlevelsasbiomarkersforthediagnosisofdryeyesyndrome.InvestOphthalmolVisSci52:83638369,20114)GipsonIK:Distributionofmucinsattheocularsurface.ExpEyeRes783:79-88,20045)RivasL,ToledanoA,AlvarezMIetal:Ultrastructuralstudyoftheconjunctivainpatientswithkeratoconjunctivitissiccanotassociatedwithsystemicdisorders.EurJOphthalmol8:131-136,19986)KoufakisDI,KarabatsasCH,SakkasLIetal:ConjunctivalsurfacechangesinpatientswithSjogren’ssyndrome:atransmissionelectronmicroscopystudy.InvestOphthalmolVisSci47:541-544,20067)TatematsuY,OgawaY,ShimmuraSetal:MucosalmicrovilliindryeyepatientswithchronicGVHD.BoneMarrowTransplant47:416-425,20128)CennamoGL,DelPreteA,ForteRetal:Impressioncytologywithscanningelectronmicroscopy:anewmethodinthestudyofconjunctivalmicrovilli.Eye(Lond)22:138-143,20089)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,200410)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,200211)ShigemitsuT,ShimizuY,MajimaY:Effectsofmucinophthalmicsolutiononepithelialwoundhealinginrabbitcornea.OphthalmicRes29:61-66,1996***(125)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121151