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点眼用添加物EDTA が種々保存剤の抗菌力および角膜傷害性へ与える影響

2016年6月30日 木曜日

《第35回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科33(6):857.861,2016c点眼用添加物EDTAが種々保存剤の抗菌力および角膜傷害性へ与える影響長井紀章*1田辺航*1辻朗子*1勝井結美*1伊藤吉將*1岡本紀夫*2下村嘉一*2*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2近畿大学医学部眼科学教室EffectofEDTAonAntimicrobialActivityandCornealToxicityofVariousEyedropPreservativesNoriakiNagai1),WataruTanabe1),AkikoTsuji1),YumiKatsui1),YoshimasaIto1),NorioOkamoto2)YoshikazuShimomura2)and1)FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversitySchoolofMedicine今回筆者らは,一般的な点眼用添加剤である安定化剤エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が,各種保存剤の抗菌力および角膜傷害性に与える影響について検討を行った.保存剤はベンザルコニウム塩化物(BAC),パラオキシ安息香酸メチル(MP),パラオキシ安息香酸プロピル(PP),亜塩素酸ナトリウム(SC)およびクロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)の計5種を用いた.また,抗菌力および角膜傷害性の確認には大腸菌(E.coli,ATCC8739),ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた.その結果,EDTA併用下において,BACの抗菌力上昇が認められたが,細胞傷害性に変化はみられなかった.一方,他の4剤の保存剤では,EDTAとの併用により抗菌力および細胞傷害性の低下がみられた.以上,点眼薬処方におけるEDTA使用は,保存剤の抗菌力や細胞傷害性に影響を与えることを明らかとした.本研究成果は,点眼薬処方設計の一つの指標になるものと考える.Inthisstudy,weinvestigatedtheeffectofethylenediaminetetraaceticacid(EDTA)ontheantimicrobialactivityandcornealtoxicityofvariouspreservatives,usingEscherichiacoli(E.coli,ATCC8739)andculturedcornealepitheliumcells(HCE-T).Benzalkoniumchloride(BAC),methylparahydroxybenzoate(MP),propylparahydroxybenzoate(PP),sodiumchlorite(SC)andchlorhexidinegluconate(CHG)wereusedaspreservativesinthisstudy.AlthoughtheantimicrobialactivityofBACwasincreasedbytheadditionofEDTA,thecornealtoxicityofBACwassimilartothatofthecombinationofEDTAandBAC.Ontheotherhand,boththeantimicrobialactivityandcornealtoxicityofMP,PP,SCandCHGweredecreasedbytheadditionofEDTA.TheseresultsshowthattheuseofEDTAasanophthalmicpharmaceuticaladditiveaffectstheantimicrobialactivityandcornealtoxicityofpreservatives.Thesefindingsprovidesignificantinformationforuseinthedesigningofeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):857.861,2016〕Keywords:保存剤,エチレンジアミン四酢酸,抗菌力,角膜毒性,点眼薬.preservatives,ethylenediaminetetraaceticacid,antimicrobialactivity,cornealtoxicity,eyedrops.はじめに医薬品は主成分となる薬剤(主剤)のみでは製剤とはいえず,これに製剤設計上必要な薬剤(添加剤)が加えられ初めて製剤となる.点眼薬においても同様であり,一般的に点眼薬には可溶化剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油,ポリソルベート80,ポビドンなど),安定化剤(ポリソルベート80,ポビドン,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など),等張化剤(塩化ナトリウム,ブドウ糖,マンニトールなど),緩衝剤(酢酸ナトリウム水和物,炭酸水素ナトリウム,ホウ酸など),pH調節剤(希塩酸,水酸化ナトリウムなど),保存剤(ベンザルコニウム塩化物(BAC),パラオキシ安息香酸メチル(MP),パラオキシ安息香酸プロピル(PP),亜塩〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(97)857 素酸ナトリウム(SC),クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)など)が含まれる.なかでもこれら点眼薬中に含まれる保存剤は,二次汚染を防止し安全に使用するために必要不可欠である.現在市販されている点眼薬では,保存剤の約7割にBACが用いられ,約2割にパラベン類(MPやPP),そしてその他の約1割にSCやCHGなどが使用されている.しかし,これら保存剤の長期連続投与は,使用後の“しみる”“かすむ”,眼の充血をはじめ,点眼表層角膜症や眼瞼炎とい(,)った眼局所の副作用発現に繋がるため,臨床において問題視されている1).したがって,抗菌力が高く,角膜傷害性の少ない眼にやさしい新たな製剤処方の開発が望まれている.このような背景から,眼科領域では1回使い切りタイプの容器やPFデラミ容器R(容器を二層構造とし点眼薬に添加される保存剤を不要にしたもの)などが市販されている.また,配合剤や細胞毒性の低い新規保存剤の開発のための研究も進められている1).一方,製剤処方において,主薬と添加物の相互作用についてはいまだ十分に検討はなされておらず,添加物が各種保存剤の抗菌力や角膜毒性に与える影響を明確にすることは,眼にやさしく,高い抗菌力を維持する製剤処方の確立において非常に重要である.そこで今回,基礎研究として代表的点眼製剤用添加物であるEDTAが保存剤各種の抗菌力および角膜傷害性に与える影響について検討を行った.I対象および方法1.使用薬物点眼用添加物である安定化剤EDTAと保存剤として多用されているBAC,MP,PP,SCおよびCHGの計6種を用いた.各種試験溶液は,EDTAと各種保存剤(BAC,MP,PP,SC,CHG)を精製水で溶解し,細孔径0.2μmのメンブランフィルターで濾過滅菌することで調製した.角膜細胞傷害性の評価に用いたEDTAの濃度は,過去の報告に従い2),眼科用最大許容投与量(0.127%)以下である0.1%(1mg/mL)とした2).また,各種保存剤濃度は,臨床で用いられる濃度を参考に,いずれも0.005%(50mg/mL)とした.2.最小発育阻止濃度(MIC)の測定試験菌株には,独立行政法人製品評価技術機構から購入した大腸菌(E.coli,ATCC8739)を用い,MICの測定は微量液体希釈法に従い行った1).また,感受性測定用培地はMuellerHintonBroth(日本ベクトン・ディッキンソン)を用いた.実験操作は以下のようにして行った.まず,E.coliを寒天培地上で18.24時間培養(35±1℃)後,滅菌生理食塩液にて試験菌が1×108個含まれる菌液を調製し,薬液と1×106個/mLの生菌数になるように混合した(試験液).これらの試験液を含む容器を22.5±2.5℃の条件下で遮光保存し,28日後の試験溶液中生菌数の確認を行った.生菌数の858あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016確認にはカンテン平板混釈法を用い,対照に用いた薬剤不含有培地での菌の発育を確認後,菌の発育が肉眼的に認められないwellのうち最小の薬剤濃度をMICとした1).3.角膜上皮細胞傷害性の評価培養細胞は理化学研究所より購入した不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T,RCBNo.1384)を用い,角膜細胞傷害性の評価は,筆者らが確立し報告してきたinvitro角膜上皮細胞傷害性評価法に従った2.4).HCE-T細胞を96wellプレートに100mL(1×104個)ずつ播種し,37℃,5%CO2インキュベーター内で24時間培養したものを実験に用いた.実験操作は以下のようにして行った.HCE-T細胞を10.120秒薬剤にて処理後,PBSにて2回洗浄し,各wellに100mLの培地およびCellCountReagentSF(ナカライラスク社製)20mLを加え,37℃,5%CO2インキュベーター内で1時間処理後,450nmの吸光度(Abs)を測定した.薬剤処理後の細胞死亡率(%)は次式(1)により算出した.細胞死亡率(%)=(Abs未処理.Abs薬剤処理)/Abs未処理×100(1)4.統計解析実験は1群に対し8回(検体)行い,得られたデータは平均値±標準誤差(SE)として表した.各々の実験値はStudentのt-testにより解析した.また,本研究ではp値が0.05以下を有意差ありとした.II結果1.EDTA添加に伴う種々保存剤の抗菌力の変化表1はEDTAおよび種々保存剤のMICを示す.また,図1にはEDTAと種々保存剤併用処理時における抗菌力の変化を示す.EDTAのMICは700mg/mLであり,今回使用した保存剤のMICはBAC>CHG>Mp>SC>PPの順であった.これら保存剤にEDTAを添加したところ,MP,PP,SCおよびCHGにおいて抗菌力の低下がみられた.一方,BACではEDTAの添加により抗菌力の増大が認められ,MICより低い濃度においても十分な抗菌力を示した.表1眼科用添加物のE.coliに対する最小阻害濃度眼科用添加物MIC(μg/mL)BAC(ベンザルコニウム塩化物)16MP(パラオキシ安息香酸メチル)6PP(パラオキシ安息香酸プロピル)1.25SC(亜塩素酸ナトリウム)5CHG(クロルヘキシジングルコン酸塩)8EDTA(エチレンジアミン四酢酸)700(98) A:BACB:MB:MPC:PP1001008080保存効力なし●保存効力ありPP濃度(μg/mL)保存効力なし●保存効力あり保存効力なし●保存効力あり細胞死亡率(%)細胞死亡率(%)SC濃度(μg/mL)BAC濃度(μg/mL)細胞死亡率(%)細胞死亡率(%)CHG濃度(μg/mL)MP濃度(μg/mL)604020604020000010020030040050001002003004005000100200300400500EDTA濃度(μg/mL)EDTA濃度(μg/mL)EDTA濃度(μg/mL)D:SCE:CHG100保存効力なし●保存効力あり保存効力なし●保存効力あり図1EDTAが種々保存剤の抗菌力に与え001002003004005000100200300400500る影響EDTA濃度(μg/mL)EDTA濃度(μg/mL)破線は各保存剤自身(単独)のMICを示す.0A:BACB:MPC:PP8080606040402020MP●MPwithEDTA**00306090120時間(sec)00306090120時間(sec)PP●PPwithEDTAE:CHGD:SC00306090120時間(sec)BAC●BACwithEDTA808080707070細胞死亡率(%)606060505050404040303030202020*101010SC●SCwithEDTA**CHG●CHGwithEDTA図2EDTA(0.1%)が各種保存剤(0.005208080706050403020*70*60504030%)の角膜細胞傷害性に与える影響10細胞死亡率は式(1)を用いて算出した.平0030609012000306090120均値±標準誤差,n=8.*p<0.05vs.コン時間(sec)時間(sec)トロール群(EDTA非添加群).2.EDTA添加に伴う種々保存剤の角膜細胞傷害性のBAC≒CHG>SC≫MPの順であった.一方,パラベン類で変化あるPPにおいては処理120秒まで細胞傷害は認められなか図2はEDTAと種々保存剤処理時におけるHCE-T細胞ったが,処理180秒後では細胞傷害がみられ,その細胞死の死亡率を示す.BAC,MP,SCおよびCHGでは処理時間亡率は13.9±2.1(平均値±SE)であった.これら種々保存の増加とともに細胞死亡率の増加が認められ,その傷害性は剤にEDTAを添加したところ,BAC処理群ではその細胞傷(99)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016859 害性に大きな影響はみられなかった.このBAC処理群の結果とは異なり,MP,SCおよびCHG処理群ではEDTAの併用処理により,細胞毒性が有意に低下した.また,PPおよびEDTA併用処理群では,処理0.180秒間において細胞傷害性はみられなかった.III考按EDTAは点眼薬中に多く含まれる安定化剤であり,BAC,MP,PP,SC,CHGは点眼製剤の製造において多用される保存剤である.本研究ではEDTAと各種保存剤(BAC,MP,PP,SC,CHG)の組み合わせが,保存剤の有する抗菌力および角膜上皮細胞毒性(副作用)へ与える影響について明らかにするために検討した.まず,今回用いたEDTAと各種保存剤(BAC,MP,PP,SC,CHG)の抗菌力および角膜上皮細胞傷害性について検討したところ,EDTAの抗菌力はMIC700mg/mLと低かったが,各種保存剤単独では強い抗菌力が確認できた.一方,0.005%における各種保存剤の角膜上皮細胞傷害性は,BAC≒CHG>SC≫MPの順であり,PPにおいては処理120秒間で細胞傷害性はみられず,毒性は非常に低いものであった.一般に,保存剤の抗菌メカニズムと角膜細胞毒性とは密接にかかわっていることが知られている.今回選択したBACは陽電荷をもつ原子団が菌体表面に吸着することで細胞膜破壊,細胞内の酵素蛋白質の変性,呼吸系の阻害を引き起こす5.7).また,パラベン類(MPやPP)の抗菌作用発現機構は,膜イオン透過性亢進による膜電位の消失もしくはミトコンドリアの呼吸機能障害によることが先行研究により示唆されており,アルキル側鎖の長さが長い程細胞毒性が低下することが知られている8,9).これらパラベン類のアルキル側鎖の長さと細胞毒性の関係は,今回示したMP,PPの結果と同様であった(表1および図1).さらに,SCはアミノ酸のスルフィド(S-H)結合と酵素のジスルフィド(S-S)結合を酸化して細胞の機能を破壊するとともに,細胞膜を直接的に破壊して抗菌活性を示すとされており10),CHGは細胞膜に吸着し,細胞膜傷害と細胞質の漏洩を起こすとともに,酵素蛋白質に吸着して活性阻害を起こすことが知られている11).一方,本研究では抗菌力の評価に,環境中に存在する菌類の主要な種の一つであるグラム陰性の桿菌E.coliを用いた.グラム陰性菌は細胞膜と外膜の2つの脂質膜に包まれている.この外膜はリポ多糖,リン脂質および数種の蛋白質などからなり,2価陽イオンでそれらの一部が結びつけられているため,陽イオンのキレーターであるEDTAを作用させると,外膜を構成する成分の一部が遊離し,外膜に障害が認められる12,13).このような膜の傷害によって,外膜により膜内への透過が抑制されていた薬剤が容易に外膜を通過できるよ860あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016うになり,薬効および毒性が高まることが報告されている.したがって,E.coliにEDTAと各種保存剤を併用した際には,薬剤のE.coliに対する膜透過性亢進により抗菌力が高まるが,外膜を持たない角膜上皮細胞に対する細胞傷害性は大きく変化しないものと考えられた.本研究においても,BACとEDTAの組み合わせでは,抗菌力は上昇したが,角膜傷害性においては有意な差はみられなかった.このBACとEDTAの組み合わせの結果とは異なり,パラベン類(MP,PP),SCおよびCHGでは,EDTA併用により抗菌力および角膜傷害性の低下が認められた.EDTA併用処理では薬剤の膜透過性亢進が考えられるが,E.coliに対する抗菌力の低下と角膜上皮細胞における細胞毒性の軽減がともにみられたことから,パラベン類(MP,PP),SCやCHGの薬効(抗菌力)や副作用発現(細胞傷害性)には2価陽イオンがかかわっており,陽イオンのキレーターであるEDTAとの併用はそれらの効力を低下させる可能性が示唆された.以上,点眼薬の処方設計において,添加物EDTAの組み合わせは保存剤の抗菌力,角膜傷害性に影響を及ぼすことを見出した.今後,E.coli以外の菌類に対してどのような影響を与えるかを検討するとともに,パラベン類(MP,PP),SCおよびCHGの保存効果機構と2価陽イオンの関係についても検討を進めていく予定である.本研究結果は,点眼薬処方設計の一つの指標になるものと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)瀧沢岳,片岡伸介,小高明人ほか:ホウ酸含有点眼剤組成の抗菌メカニズム.あたらしい眼科27:518-522,20102)長井紀章,村尾卓俊,伊藤吉將ほか:点眼薬含有添加剤であるポリソルベート80及びEDTA点眼が角膜上皮傷害治癒へ与える影響.あたらしい眼科27:1299-1302,20103)NagaiN,YoshiokaC,ManoYetal:Ananoparticleformulationofdisulfiramprolongscornealresidencetimeofthedrugandreducesintraocularpressure.ExpEyeRes132:115-123,20154)NagaiN,ItoY,OkamotoNetal:Ananoparticleformulationreducesthecornealtoxicityofindomethacineyedropsandenhancesitscornealpermeability.Toxicology319:53-6220145)DebbaschC,PisellaPJ,DeSaintJeanMetal:Mitochondrialactivityandglutathioneinjuryinapoptosisinducedbyunpreservedandpreservedbeta-blockersonChangconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci42:25252533,20016)DeSaintJeanM,BrignoleF,BringuierAF:EffectsofbenzalkoniumchlorideongrowthandsurvivalofChangconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci40:619-630,(100) 19997)DebbaschC,BrignoleF,PisellaPJetal:Quaternaryammoniumsandotherpreservatives’contributioninoxidativestressandapoptosisonChangconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci42:642-652,20018)BredinJ,Davin-RegliA,PagesJM:PropylparabeninducespotassiumeffluxinEscherichiacoli.JAntimicrobChemother55:1013-1015,20059)NakagawaY,MoldeusP:Mechanismofp-hydroxybenzoateester-inducedmitochondrialdysfunctionandcytotoxicityinisolatedrathepatocytes.BiochemPharmacol55:1907-1914,199810)小林正枝,秋山茂,岩下正人ほか:亜塩素酸ナトリウム製剤の殺菌効力に関する検討.食品衛生学雑誌30:367374,198911)第十六改正日本薬局方解説書廣川書店,C-1563,201112)AsbellMA,EagonRG:Roleofmultivalentcationsintheorganization,structure,andassemblyofthecellwallofPseudomonasaeruginosa.JBacteriol92:380-387,196613)RogersSW,GillelandHEJr,EagonRG:Characterizationofaprotein-lipopolysaccharidecomplexreleasedfromcellwallsofPseudomonasaeruginosabyethylenediaminetetraaceticacid.CanJMicrobiol15:743-748,1969***(101)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016861

点眼薬含有添加剤であるポリソルベート80 およびEDTA点眼が角膜上皮傷害治癒へ与える影響

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(133)1299《原著》あたらしい眼科27(9):1299.1302,2010cはじめに眼科領域における薬物療法の中心は点眼薬である.この点眼薬の多くは,全身投与薬としてすでに開発されている薬剤を点眼薬として製剤化することで開発されてきた.しかし点眼剤の主成分となる薬剤(主剤)のみでは点眼剤は製剤として成り立たず,これに製剤設計上必要な薬剤(添加剤)が加えられ初めて製剤となる1).したがって製剤学的観点から点眼薬について考える際には,その点眼薬に含まれる添加剤の種類,添加目的(効果),傷害性(副作用)についても常に考慮しなければならない.角膜は,眼組織の中で最も外側に位置し,涙液を介して外界と直接接する部位である.そのため角膜は,外傷や感染症をはじめとする種々の外的要因により傷害を受けやすい部位でもある.正常な角膜上皮細胞は細胞伸展能や細胞増殖能を有しており,軽度な上皮傷害は速やかに自己修復される.しかし,重篤な上皮傷害で上皮細胞の機能が低下している場合〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN点眼薬含有添加剤であるポリソルベート80およびEDTA点眼が角膜上皮傷害治癒へ与える影響長井紀章*1村尾卓俊*1伊藤吉將*1,2岡本紀夫*3*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3兵庫医科大学眼科学教室EffectofPolysorbate80andEthylenediaminetetraaceticAcid(EDTA)InstillationonCornealWoundHealinginRatDebridedCornealEpitheliumNoriakiNagai1),TakatoshiMurao1),YoshimasaIto1,2)andNorioOkamoto3)1)FacultyofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KinkiUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine近年臨床現場において,長期にわたる点眼薬使用などによる角膜傷害が問題視されている.そこで今回,角膜上皮.離ラットを用い,点眼薬中に含まれる添加剤ポリソルベート80およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が角膜傷害治癒へ与える影響について検討を行った.角膜上皮傷害は麻酔下にて,ブレード(BDMicro-SharpTM)を用いラット角膜上皮を.離することで作製した.添加剤点眼液の点眼はラット角膜.離後3時間間隔で1日5回(5μl)行った.生理食塩水点眼群では角膜上皮.離12時間後で約51%,24時間後で約83%の角膜傷害治癒が認められた.一方,ポリソルベート80およびEDTA点眼群いずれにおいても角膜上皮の創傷治癒の遅延が認められ,その角膜傷害治癒遅延は,点眼液の濃度に比例した.これら添加剤の角膜傷害性を明らかとしていくことは,角膜上皮傷害を有する患者への点眼薬選択を決定するうえで一つの指標となるものと考えられる.Itisknownthatlong-termuseoftheeyedropscancausecornealepithelialcelldamage.Inthisstudy,weinvestigatedtheeffectofpolysorbate80andethylenediaminetetraaceticacid(EDTA),eyedropadditives,oncornealwoundhealinginrats.Theeyedropswereinstilledintorateyes5timesperdayaftercornealepithelialabrasion.Thecornealwoundsintherateyesreceivingsalineonlyshowedapproximately51%healingat12hrand83%healingat24hrafterabrasion.Thecornealwoundhealingrateintherateyesreceivingpolysorbate80andEDTAwaslowerthanthatintheeyesinstilledwithsaline,thecornealwoundhealingratedecreasingwithincreaseinconcentration.Thesefindingsprovidesignificantinformationforuseindesigningfurtherstudiesaimedatreducingcornealdamagecausedbyeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1299.1302,2010〕Keywords:ポリソルベート80,エチレンジアミン四酢酸,角膜傷害治癒,細胞増殖,細胞移動.polysorbate80,ethylenediaminetetraaceticacid,cornealwoundhealing,cellproliferation,cellmigration.1300あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(134)や涙液に異常のある場合(ドライアイ)などでは,しばしば遷延化して治療が困難となる.一般的に点眼剤には保存剤〔ベンザルコニウム塩化物(BAC)など〕,等張化剤(塩化ナトリウム,ホウ酸,グリセリンなど),緩衝剤(リン酸緩衝液,ホウ酸など),必要であれば,界面活性剤(ポリソルベート80など),安定化剤〔エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など〕,粘稠化剤〔ポリビニルアルコール(PVA),ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロースなど〕などが含まれる1).臨床では,添加剤の一つである保存剤BACの角膜傷害性が問題視されており,BAC非含有の点眼薬(トラバタンズR)なども注目されている.しかし,その他の添加剤についてはほとんど検討されておらず,界面活性剤や安定化剤などの角膜傷害性についても明らかとすることは非常に重要と考えられる.筆者らはこれまで,添加物の角膜傷害性比較を目的とした基礎(invivo)実験系を確立し,BACに強い角膜傷害性が認められることを報告してきた2).今回,このinvivo角膜傷害性比較実験系を用い,代表的な添加剤であるポリソルベート80およびEDTAの角膜傷害性について検討を行った.I対象および方法1.実験動物実験には7週齢のWistarラットを用いた.これらラットは25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,日本クレア)および水は自由に摂取させた.動物実験は,近畿大学実験動物規定に従い行った.2.試薬ポリソルベート80およびEDTAは和光純薬,生検トレパンはカイインダストリーズ,ブレード(BDMicro-SharpTM,Blade3.5mm,30°)はBectonDickinson,塩酸オキシブプロカイン(ベノキシールR)は参天製薬,フルオレセインは日本アルコンから購入したものを用いた.3.ポリソルベート80およびEDTA点眼液の調製と点眼法ポリソルベート80およびEDTA点眼液の濃度は臨床にて用いられる濃度を参照し決定した.すべての点眼液は0.2μmのメンブランフィルター(Sartorius社)を用いて滅菌濾過を行い,調製した点眼液は滅菌済みの点眼用容器に充.し,使用時まで遮光して保存した.実験時にはこの点眼溶液を,角膜.離直後から3時間間隔(9:00,12:00,15:00,18:00,21:00)で1日5回,実験終了まで点眼(1回50μl)した.対照(Control群)には生理食塩液(大塚製薬)を用いた.4.ラット角膜上皮.離モデルを用いた角膜傷害治癒解析ラットをペントバルビタールナトリウム(30mg/kg,ソムノペンチルR,共立製薬)にて全身麻酔後,生検トレパンで直径2.5mmの円形に角膜をマーキングした.その後,ブレードで角膜上皮を円形に.離した.角膜上皮欠損部分は角膜.離後0,12,24,36時間後に,1%フルオレセイン含有0.4%ベノキシール点眼液にて染色し,トプコン社製眼底カメラ装置TRC-50Xにデジタルカメラを装着したものを用いて撮影を行い2),画像解析ソフトImageJにて角膜上皮欠損部分の面積の推移を数値化することで表した.角膜傷害治癒率(%)は,次式(1)にて算出した2).角膜傷害治癒率(%)=(面積.離直後.面積.離0.36時間後)/面積.離直後×100(1)角膜傷害治癒速度は,角膜傷害治癒速度定数(kH,k.1)として表した.角膜上皮.離0.36時間後のkHは,次式(2)で計算した2).Ht=H∞・(1.e.kHt)(2)tは角膜上皮.離後の時間(0.36時間),H∞およびHtは角膜上皮.離∞およびt時間後の角膜傷害治癒率を示す.5.統計解析データは,平均±標準誤差として表した.有意差はStudent’st-testにて解析し,0.05未満のp値を有意な差として示した.II結果図1および2は角膜.離モデルへのポリソルベート80(図1),EDTA(図2)点眼群における角膜傷害治癒率を示す.122436Time(hr)020406080100Cornealwoundhealing(%)*******:0.0%(Saline):0.5%:1.0%:2.0%図2EDTA点眼液点眼が角膜上皮傷害治癒に与える影響平均値±標準誤差,n=4~11,*p<0.05,vs生理食塩水点眼群.122436Time(hr)020406080100Cornealwoundhealing(%):0.0%(Saline):0.5%:1.0%:5.0%図1ポリソルベート80点眼液点眼が角膜上皮傷害治癒に与える影響平均値±標準誤差,n=4~11.(135)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101301また,表1はポリソルベート80およびEDTA点眼群における角膜傷害治癒速度を示す.ポリソルベート80およびEDTA点眼群いずれにおいても角膜上皮治癒の遅延が認められ,その角膜傷害治癒遅延は,点眼薬の濃度に比例した.ポリソルベート80点眼群の治癒率は,12時間後において0.5%および1%ポリソルベート80点眼群ではControl群の約95%,5%ポリソルベート80点眼群ではControl群の73%程度であった.36時間後ではいずれの濃度においてもほぼ完全に治癒した.一方,EDTAを点眼することで角膜傷害治癒速度は有意に低値を示し,0.5%EDTA点眼群の.離12時間後における治癒率はControl(Saline点眼)群の約75%であり,2.0%EDTA点眼群の治癒率は,24時間後ではControl群の37%であり,36時間後でもControl群の58%であった.III考按近年の眼科領域では,点眼薬の使用による点状表層角膜症や眼瞼炎といった眼局所への副作用,患者からのしみる,かすむ,眼が充血するといった訴えが問題視されている.これらの問題解決のためには臨床と基礎研究の両方面からの観察が重要とされ,実験動物および角膜培養細胞を用い,点眼薬中の主薬や保存剤であるBACが角膜傷害へ与える影響についての研究が多数行われている.一方で,点眼薬には主薬や保存剤のほかに,界面活性剤,安定化剤などの添加剤も含まれているが,他の添加剤についてはほとんど検討されておらず,界面活性剤や安定化剤などの角膜傷害性についても明らかにする必要があると考えられる.界面活性剤や安定化剤など添加物の角膜傷害性について評価を行ううえで,試験系の選択は非常に重要である.角膜上皮は5~6層の細胞層から構成され,基底細胞と表層細胞に大きく分けられる.このうち基底細胞は分裂増殖機能と接着機能を,表層細胞はバリア機能および涙液保持機能を担っている.この4つの機能のどれか1つでも破綻した際角膜上皮傷害が認められるが,なかでも薬剤の影響を特に受けやすいとされているのが分裂機能とバリア機能である3).角膜上皮の損傷治癒は,細胞の分裂・増殖,伸展・移動によって行われており,Thoft&Friendはこの角膜上皮の修復機構をXYZ理論(X:細胞分裂,Y:細胞移動,Z:細胞脱落)として,健常な角膜上皮では上記の3つの間にX+Y=Zの公式が成立することを提唱した4).本実験で用いた角膜上皮.離モデルは,角膜上皮を.離することによって人工的にZを増大させた状態(X+Y<Z)である.この角膜上皮.離モデルを用いた点眼薬や添加剤の角膜傷害性試験はX:細胞分裂およびY:細胞移動へ与える影響について評価を行うものであり,オキュラーサーフェスの状態を維持しつつ,添加剤が角膜上皮細胞分裂および移動機能へ与える影響を検討するのに適している.本研究ではこれら角膜上皮.離モデルを用いた点眼薬の傷害性比較試験法を用い,代表的な添加剤であるポリソルベート80およびEDTAの角膜傷害性について検討を行った.ポリソルベート80は,主薬の溶解性向上のために多用される界面活性剤であり,皮膚に対する局所刺激性が報告されている5).今回のラット角膜上皮.離モデルを用いた実験系においても,角膜治癒遅延をひき起こしたが,その影響は臨床で問題視されているBACと比較すると軽度であった(表1).EDTAはおもに安定化剤として点眼液に使用されている.またGrantは角膜へのカルシウム沈着に対してキレート作用を有するEDTAが有用であると報告しており6),日本でも帯状角膜変性を中心にEDTAを使用した治療例が報告されている7).今回用いたEDTAは0.5%,1.0%および2.0%であり,臨床で使用実績がある濃度内であるにもかかわらず,いずれの濃度でも対照(生理食塩液)と比較し,有意な角膜傷害治癒率の低下が認められた.さらに,使用濃度によってはBACと同程度の重度の角膜損傷治癒遅延作用が認められた.これらの結果から,点眼液添加剤として現在まで特に問題視されていなかった界面活性剤および安定化剤の濃度にも注意を有する必要性が明らかとなった.今後,角膜傷害性の少ない点眼薬を調製するためには,さらなる研究が必要であり,現在筆者らは等張化剤,緩衝剤,粘稠化剤など,点眼薬調製に用いられる他の添加物が角膜傷害性へ与える影響についても明確にすべく,角膜上皮.離モデルを用い比較検討を行っているところである.以上,本研究で角膜上皮.離モデルを用いたinvivo実験において,代表的な添加剤であるポリソルベート80およびEDTAの角膜傷害性について明らかとした.これら添加剤の角膜傷害性を把握し,過度の添加剤含有を減らすことは点眼薬が角膜へ与える影響の減少へつながるものと考えられ表1ポリソルベート80およびEDTAの角膜傷害治癒速度定数Concentration(%)Cornealwoundhealingrateconstant(×10.2/hr)Saline5.36±1.29BAC0.0053.33±0.740.0101.54±1.06*0.0200.03±0.01*Polysorbate800.53.93±0.031.03.39±0.255.01.63±0.49*EDTA0.52.46±1.251.00.95±0.43*2.00.07±0.03*BACのデータは点眼薬含有添加剤刺激による角膜上皮傷害程度の指標とするため文献2から引用.平均値±標準誤差,n=4~11.*p<0.05,vs生理食塩水点眼群.1302あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(136)る.また,臨床においての添加剤による角膜傷害性は,多種の添加剤との相乗作用により角膜傷害性をひき起こす可能性を明らかとした.本報告は,今後点眼薬調製および選択の一つの指標になるものと考えられる.文献1)川嶋洋一:点眼薬の設計思想.眼科NewInsight,第2巻,点眼薬─常識と非常識─,メジカルビュー社,19942)NagaiN,MuraoT,OkamotoNetal:Comparisonofcornealwoundhealingratesafterinstillationofcommerciallyavailablelatanoprostandtravoprostinratdebridedcornealepithelium.JOleoSci59:135-141,20103)俊野敦子,岡本茂樹,島村一郎ほか:プロスタグランディンF2aイソプロピルウノプロストン点眼液による角膜上皮障害の発症メカニズム.日眼会誌102:101-105,19984)ThoftRA,FriendJ:TheX,Y,Zhypothesisofcornealepithelialmaintenance.InvestOphthalmolVisSci24:1442-1443,19835)MezeiM,SagerRW,StewartWDetal:Dermatiticeffectofnonionicsurfactants.I.Gross,microscopic,andmetabolicchangesinrabbitskintreatedwithnonionicsurfaceactiveagents.JPharmSci55:584-590,19666)GrantWM:Newtreatmentforcalcificcornealopacity.ArchOphthalmol46:681-685,19897)HoshiaiS,KogaT,NishimuraT:AcaseofcorneoscleralcalcificdepositsfollowingpterygiumsurgeryeffectivelytreatedwithEDTAeyedrops.FoliaOphthalmolJpn51:37-39,2000***