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正常眼圧緑内障におけるプロスタグランジン関連薬単剤からカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液への切り替えにおける眼圧下降効果と安全性の検討

2020年8月31日 月曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(8):980.984,2020c正常眼圧緑内障におけるプロスタグランジン関連薬単剤からカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液への切り替えにおける眼圧下降効果と安全性の検討多田香織*1池田陽子*2,3上野盛夫*2森和彦*2木下茂*4外園千恵*2*1京都中部総合医療センター眼科*2京都府立医科大学眼科学教室*3御池眼科池田クリニック*4京都府立医科大学感覚器未来医療学CShort-termSafetyandE.cacyofSwitchingfromMonotherapyProstaglandinAnaloguestoMikelunaCombinationOphthalmicSolutioninJapaneseNormal-tensionGlaucomaPatientsKaoriTada1),YokoIkeda2,3),MorioUeno2),KazuhikoMori2),ShigeruKinoshita4)andChieSotozono2)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)Oike-IkedaEyeClinic,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC正常眼圧緑内障患者におけるプロスタグランジン(PG)関連薬からカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液(ミケルナ,大塚製薬)への切り替え効果と安全性を検討した.PG関連薬単剤で加療中の正常眼圧緑内障患者C33例C33眼を対象に,点眼切り替え前,切り替え後C1カ月とC3カ月における眼圧および副作用を検討した.点眼液切り替え後C1カ月とC3カ月の眼圧はそれぞれC11.0±2.6CmmHgおよびC11.3±2.7CmmHgであり,切り替え前のC12.0±2.2CmmHgと比較していずれも有意に下降した(p<0.05).血圧は点眼液切り替え後C1カ月,脈拍はC1カ月後とC3カ月後時点で有意な低下(p<0.05)を認めたが,経過観察期間において眼局所,全身副作用で点眼中止に至る症例はなかった.以上より,カルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液は正常眼圧緑内障患者の治療強化に有効であり,副作用の少ない点眼液であることが確認された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCsafetyCandCe.cacyCofCMikelunaCCombinationCOphthalmicSolution(OtsukaCPhar-maceuticalCo.),CaClong-acting2%CcarteololChydrochlorideCandClatanoprost.xed-combination(CLFC)eye-dropCmedication,CinCJapaneseCnormalCtensionglaucoma(NTG)patientsCinCtheCclinicalCsetting.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC33CeyesCofC33CNTGCpatientsCwhoCswitchedCfromCtopicalCprostaglandinCanaloguesCmonotherapyCtoCCLFCeyedrops.Intraocularpressure(IOP),bloodpressure,andheartratewasmeasuredbeforetheinitiation(baseline)Candat1-and3-monthspostadministration,andassociatedadverseeventswereinvestigated.Results:MeanIOPatCbaselineCandCatC1-andC3-monthsCpost-administrationCwasC12±2.2CmmHg,C11±2.6CmmHg,CandC11.3±2.7CmmHg,respectively[signi.cantIOPreduction(p<0.05)].Bloodpressuredecreasedsigni.cantlyafter1month(p<0.05)CandCheartCrateCafterC1CandC3months(p<0.05)withoutCsubjectiveCsympotoms.CNoneCofCtheCpatientsCdiscontinuedCuseCdueCtoCadverseCdrugCreaction.CConclusion:CLFCCeyeCdropsCwereCfoundCe.ectiveCforCstrengtheningCtheCIOPCloweringe.ectwithasafeandwell-toleratedpro.leinNTGpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(8):980.984,C2020〕Keywords:カルテオロール,ラタノプロスト,配合点眼液,正常眼圧緑内障,眼圧.carteololhydrochloride,latanoprost,.xed-combination,normaltensionglaucoma(NTG),intraocularpressure(IOP).C〔別刷請求先〕多田香織:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野C25京都中部総合医療センター眼科Reprintrequests:KaoriTada,DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,25Yagiueno,Yagi,Nantan,Kyoto629-0197JAPANC980(80)はじめに2017年C1月に世界に先駆けて日本で販売されたカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液(ミケルナ配合点眼液,大塚製薬.以下,CLFC)は,プロスタグランジン(PG)関連薬のラタノプロスト点眼液とC1日C1回のCb遮断薬であるカルテオロール塩酸塩C2%を配合した抗緑内障点眼液である.1日C1回製剤同士の組み合わせは世界初であり,かつCb遮断薬としてカルテオロール塩酸塩を含有していることから,眼圧下降効果に加え,眼底血流改善作用や内因性交感神経刺激作用(intrinsicsympathomimeticCactivity:ISA)も期待される.また,防腐剤としてベンザルコニウム塩酸塩(BAC)を含まず,角膜への障害が軽減される可能性がある.点眼液販売開始からC1年以上が経過したが,CLFCの眼圧下降効果に関する報告は調べる限りまだ少ない1,2).今回は緑内障病型を正常眼圧緑内障に限定し,PG関連薬単剤からCLFCへの切り替えにおける眼圧下降効果と安全性について検討したので報告する.CI対象および方法京都府立医科大学および御池眼科池田クリニックに通院中の正常眼圧緑内障患者のうち,PG関連薬単剤からCCLFCに切り替え,治療強化を行ったC33例C33眼〔男性C7例,女性26例,平均年齢C62.9C±13.8歳(平均値C±標準偏差)(39.90歳)〕を対象とし,レトロスペクティブに評価を行った.本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,京都府立医科大学病院の倫理委員会の承諾を得て実施した.切り替え前,切り替え後C1,3カ月の眼圧をCGoldmann圧平眼圧計で測定し,眼圧下降効果を検討した.なおCCLFCの両眼処方例では右眼を対象とし,眼圧に影響を及ぼす可能性のある他剤と同時に開始した症例は除外した.緑内障病期を,静的視野検査では初期:meandeviation(MD)値≧C.6CdB,中期:C.6CdB>MD値≧C.12CdB,後期:C.12CdB>MD値,Goldmann動的視野検査では初期:I,II,中期:III,後期:IV,Vと定義し,対象の視野障害の程度を評価した.安全性については,切り替え前後の眼表面障害の程度,血圧と脈拍で評価を行った.眼表面障害の程度の評価はC33例中,前眼部写真での記録があるC29例(男性C5例,女性C24例,平均年齢C62.5C±13.2歳)を対象に行った.評価にはCrichtonら3)の用いた分類を使用し,結膜充血スコア:0=none(normal),0.5=trace(trace.ush,reddishpink),1=moderate(brightCredcolor),3=sever(deep,CbrightCdif-fuseredness),点状表層角膜症(super.cialCpunctaCkera-topathy:SPK)スコア:0=none(no.ndings),0.5=trace(1.5puncta),1=mild(6.20puncta),3=sever(tooCmanypunctatocount)とした.また従来,来院患者には院内の自動血圧計(健太郎CHBP-9020,OMRON,もしくはハートステイションCSMPV-5500,日本電工)を用いた安静時の収縮期/拡張期血圧,脈拍の測定を指示しており,点眼切り替え前後での測定値の変動を検討し安全性の評価を行った.統計学的検討は対応のあるCt検定を用いた.CII結果対象の内訳を表1に示す.切り替え前平均眼圧はC12.0C±2.2CmmHgと低値であった.対象の視野障害の程度について,33例中,静的視野検査で経過観察されていたC31例のCMD値の平均は.5.0±3.8CdB(C.0.4.C.12.7CdB)であり,Gold-mann動的視野検査で経過観察されていた残りC2例の湖崎分類はCIIbとCIVであった.対象の緑内障病期は初期:22例(66.7%),中期:8例(24.2%),後期:3例(9.1%)であった.切り替え前の眼表面障害の程度については,33例中,前眼部写真での記録があるC29例において結膜充血スコア:C0.4±0.2(0.0.5),SPKスコア:0.4C±0.6(0.2)であった(表2).血圧は収縮期がC119.2C±16.8CmmHg,拡張期がC70.9C±12.1CmmHg,脈拍はC81.1C±17.1/分であった(表1).切り替え前の使用薬剤の内訳はC33例中C32例がラタノプロスト点眼液(内C5例は防腐剤が添加されていないラタノプロスト表1点眼切り替え前の対象の内訳n年齢眼圧緑内障病期(%)血圧(mmHg)脈拍(/分)(男:女)(歳)(mmHg)初期中期後期収縮期拡張期33(7:26)C62.9±13.8C12±2.2C66.7C24.2C9.1C119.2±16.8C70.9±12.1C81.1±17.1C表2点眼切り替え前後の眼表面障害の変化n(男:女)年齢(歳)結膜充血スコアSPKスコア切り替え前切り替え後1カ月切り替え後3カ月切り替え前切り替え後1カ月切り替え後3カ月29(5:24)C62.5±13.2C0.4±0.2C0.5±0.1C0.5±0.1C0.4±0.6C0.4±0.6C0.3±0.516*******:p<0.05NS:有意差なし***NS12.0mmHg11.0mmHg11.3mmHg***:p<0.05NS:有意差なし:収縮期血圧:拡張期血圧:脈拍NS眼圧(mmHg)140切り替え前切り替え後切り替え後1カ月3カ月40図1眼圧の推移点眼切り替え後C1カ月,3カ月いずれの時点でも有意な眼圧下降が確認された.PF点眼液),1例がビマトプロスト点眼液からの切り替えであった.CLFCへ切り替え後C1,3カ月の眼圧はそれぞれC11.0±2.6CmmHgおよびC11.3C±2.69CmmHgであり,切り替え前のC12.0C±2.2CmmHgと比較し有意に下降した(p<0.05)(図1).検討したC29例の眼表面障害の程度について,切り替え後C1カ月とC3カ月の結膜充血スコアは変動なく両時点ともC0.5C±0.1(0.0.5)であり,切り替え前と有意差はみられなかった.SPKスコアは切り替え後1,3カ月でそれぞれC0.4C±0.6(0.2),0.3C±0.5(0.2)であり,切り替え前と切り替え後C1,3カ月,また切り替え後C1カ月とC3カ月で有意差はみられなかった(表2).33例すべての症例で切り替えC3カ月目以降も点眼継続可能であった.また,切り替え前,切り替え後C1,3カ月における収縮期血圧はそれぞれC119.2C±16.8,114.6C±14.1,116.9C±15.0CmmHg,拡張期血圧はC70.9C±12.1,67.5C±11.3,69.3C±13.7CmmHg,脈拍はC81.1C±17.1,C75.0±12.1,73.1C±10.3/分であった.血圧は収縮期,拡張期ともに切り替え前と切り替え後C1カ月では有意差を認めたが(p<0.05),切り替え前と切り替え後C3カ月では有意差を認めなかった.脈拍は切り替え前に対し,切り替え後C1,3カ月ともに有意差をもって下降した(p<0.05).切り替え後C1カ月とC3カ月の値に有意差はなかった(図2).CIII考察今回の検討の結果,PG製剤単剤からの切り替えC33例中,32例がラタノプロスト点眼液からの切り替えであり,残りのC1例はビマトプロスト点眼液からの切り替え例であった.ラタノプロスト点眼液からの切り替えC32例で検討しても点眼切り替え前後の平均眼圧はほぼ変わりなく,点眼切り替え前,切り替え後1,3カ月の眼圧はそれぞれC12C±2.2CmmHg,C11±2.6CmmHg,11.3C±2.70CmmHgであった.Yamamotoら20201000切り替え前切り替え後切り替え後1カ月3カ月図2収縮期/拡張期血圧と脈拍の推移血圧は収縮期,拡張期ともに切り替え前と切り替え後C1カ月では有意差をもって下降したが,処方時と切り替え後C3カ月では有意差を認めなかった.脈拍は処方時に対し切り替え後C1カ月,3カ月ともに有意差をもって下降した.切り替え後C1カ月とC3カ月の間には有意差を認めなかった.は,CLFCの第CIII相臨床試験において,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症の患者C118例を対象にC4週間のラタノプロスト点眼液単剤投与期間の後CCLFCに切り替えを行ったところ,8週間後の朝点眼前眼圧はC20.1CmmHgから17.2CmmHgまでC2.9CmmHg下降したと報告されている4).このうち正常眼圧緑内障患者はC9例含まれておりC8週間で3.7CmmHgの下降を認めたと報告されているが,エントリー基準がC18CmmHg以上に設定されており,筆者らの検討よりベースライン眼圧が高値であり,それゆえに眼圧下降幅も大きかった可能性がある.また,今回の筆者らの検討においてビマトプロスト点眼液からの切り替え例がC1例含まれていた.ビマトプロスト点眼液はラタノプロスト点眼液など従来のCPG製剤と異なり,プロスタマイド受容体に作用することで強力な眼圧下降効果を持つCPG製剤である5).ビマトプロスト点眼液とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤の眼圧下降効果を比較した過去の報告はいくつかあり,その効果を同等とするもの6)やビマトプロスト点眼液より配合剤のほうが優れているとするものもある7).今回のC1例では,ビマトプロスト点眼液からの切り替え前,切り替え後C1,3カ月の眼圧はC14CmmHg,12CmmHg,11CmmHgであり,CLFCへ切り替えたことによりC20%以上の眼圧下降が得られた.PG製剤単剤からCPG/Cb配合剤への変更におけるメリットは,点眼本数,点眼回数を増やさずに治療強化でき,アドヒ120100血圧(mmHg)脈拍(/分)8060アランスの維持もしくは点眼切り替えによるアドヒアランスの向上が期待できる点である.また,配合剤では,点眼同士の間隔が不十分でC1剤目の点眼液がC2剤目にCwashoutされて効果が薄れてしまうという心配もない.これまで,国内で臨床使用可能となっているCPG/Cb配合剤の眼圧下降効果はいずれも,それぞれの併用群と比較して非劣性が示されている8,9)が,一方で配合剤のほうが劣っていたという報告もある10.12).これまでのCPG/Cb配合剤に配合されているCb遮断薬はすべてC1日C2回点眼のチモロールであり,配合剤として1日C1回点眼となるとC1日当たりの投与量が減ってしまう.そのためもともとコンプライアンスが良好である患者においては,併用療法より配合剤治療のほうが眼圧下降効果が劣ってしまう可能性がある.今回使用したCCLFCではC1日C1回点眼のカルテオロールが配合されており,1日C1回の製剤同士を配合した点眼液は世界で初めてである.単剤からの治療強化においても併用療法からの変更においても安定した眼圧下降効果が期待できるとされている.CLFCは配合剤として,眼圧コントロール不十分な正常眼圧緑内障患者の治療強化に有用である可能性が示された.安全性において,まずCPG関連薬単剤からの切り替えによりラタノプロストにCb遮断薬としてカルテオロール塩酸塩の成分が追加されるため角膜障害性の増悪が懸念された.検討したC29例すべての症例で眼表面に関する副作用の悪化を認めず,全対象において切り替えC3カ月目以降も点眼継続可能であった.CLFCは防腐剤としてCBACを含まない製剤である.そのうえ,併用療法に比べ点眼回数減少に伴う防腐剤曝露機会の減少という配合剤のメリットも生かされ,CLFCはドライアイなどの眼表面疾患のある患者の治療強化にも有用と考える.また,カルテオロールは内因性交感神経刺激作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)をもつ非選択的Cb遮断薬で,チモロールに比べて循環器系や呼吸機能に及ぼす影響が小さいことが報告されている13).今回,点眼切り替え前,切り替え後の収縮期/拡張期血圧,脈拍を測定しその変動を検討した.血圧は収縮期,拡張期ともに切り替え前と切り替え後C1カ月では有意差をもって低下した.切り替え前と切り替え後C3カ月では有意差を認めなかった.脈拍は切り替え前に対し,切り替え後1,3カ月ともに有意差をもって低下した.切り替え後C1カ月とC3カ月の間には有意差はなかった.Yamamotoらの報告4)でもラタノプロスト点眼液からの切り替え後C2カ月で血圧および脈拍の低下(下降幅:収縮期/拡張期血圧はC1.2/1.1CmmHg,脈拍はC1.8/分)を認めており,筆者らのC1カ月での下降幅(それぞれC4.9/3.4CmmHg,脈拍はC6.3/分)はCYamamotoらの報告より大きい値であった.今回検討した対象においては,これらのことが原因で体調不良をきたし点眼中止に至る症例はなく,最高齢の患者はC90歳であったが安全に使用できた.しかし,今回のようにCPG関連薬単剤からCPG/Cb配合剤への切り替えにおいては,常にCb遮断薬の全身性副作用の可能性を念頭におき,切り替え時には十分な問診を行い,切り替え後にも体調の変化がないかなどの確認が必要と考える.今回の検討における限界としては点眼時刻,各種パラメータ測定時刻,観察シーズンを対象間で統一できていないことがあげられ,季節変動や日内変動が影響している可能性がある.また今回はC3カ月という短期の報告であるため,今後はさらに長期にわたり評価を行っていく必要がある.CIV結論CLFCは正常眼圧緑内障患者の治療強化において有意な眼圧下降が得られる副作用の少ない点眼液であることが確認された.利益相反:木下茂:参天製薬【F】【P】,千寿製薬【F】【P】,大塚製薬【F】【P】,興和【F】【P】外園千恵:参天製薬【F】【P】森和彦:【P】池田陽子:【P】上野盛夫:【P】多田香織:【R】-II大塚製薬文献1)中牟田爽史ら:ラタノプロスト点眼液からラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼薬への変更.臨眼C73:729-735,C20192)良田浩氣,安樂礼子,石田恭子ほか:カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼薬の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科36:1083-1086,C20193)CrichtonAC,VoldS,WilliamsJMetal:Oclarsurfacetol-erabilityCofCprostaglandinCanalogsCandCprostamidesCinCpatientswithglaucomaorocularhypertension.AdvTherC30:260-270,C20134)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:RandomizedCcontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteolol/latanoprostC.xedCcombinationinprimaryopen-angleglaucomaorhyperten-sion.AmJOphthalmolC171:35-46,C20165)SharifCNA,CWilliamsCGW,CKellyCR:BimatoprostCandCitsCfreeCacidCareCprostaglandinCFPCreceptorCagonists.CEurJPharmacolC432:211-213,C20016)RossettiL,KarabatsasCH,TopouzisFetal:ComparisonofCtheCe.ectsCofCbimatoprostCandC.xedCcombinationCofClatanoprostCandCtimololConCcircadianCintraocularCpressure.COphthalmologyC114:2244-2251,C20077)FacioAC,ReisAS,VidalKSetal:Acomparisonofbima-toprost0.03%versusthe.xed-combinationoflatanoprost0.005%CandCtimolol0.5%CinCadultCpatientsCwithCelevatedCintraocularpressure:anCeight-week,Crandomaized,Copen-labeltrial.JOculPharmacolTherC25:447-451,C20098)IgarashiR,ToganoT,SakaueYetal:E.ectonintraocu-larpressureofswitchingfromlatanoprostandtravoprostmonotherapytotimolol.xedcombinationsinpatientswithnormal-tensionCglaucoma.CJCOphthalmolC2014:720385,C20149)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科32:133-143,C201510)DiestelhorstM,LarssonL-I,EuropeanLatanoprostFixedCombinationCStudyGroup:AC12-weekCstudyCcomparingCtheC.xedCcombinationCofClatanoprostCandCtimololCwithCtheCconcomitantCuseCofCtheCindividualCcomponantsCinCpatientsCwithCopenCangleCglaucomaCandCocularChypertension.CBrJOphthalmolC88:199-203,C200411)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:E.cacyandsafetyofC.xedCcombinationCofCtravoprost0.004%/timolol0.5%CophthalmicCsolutionConceCdailyCforCopen-angleCglaucomaCandocularhypertension.AmJOphthalmolC140:242-250,C200512)WebersCA,BeckersHJ,ZeegersMPetal:TheintraocuC-larpressure-loweringe.ectofprostaglandinanalogscom-binedwithtopicalb-blockertherapy:asystematicreviewandmeta-analysis.OphthalmologyC117:2067-2074,C201013)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculare.ectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmale-ateinpatientswithocularhypertensionandprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmolC123:465-477,C1997***

カルテオロール塩酸塩2%/ラタノプロスト0.005%配合 点眼液(OPC-1085EL点眼液)の薬物動態と安全性

2016年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科33(9):1369?1375,2016cカルテオロール塩酸塩2%/ラタノプロスト0.005%配合点眼液(OPC-1085EL点眼液)の薬物動態と安全性山本哲也*1小山紀之*2佐藤明香*2二宮美千代*3石川裕二*3菊地覚*4*1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学*2大塚製薬株式会社徳島研究所*3大塚製薬株式会社新薬開発本部*4大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部PharmacokineticsandSafetyofCarteololHydrochloride2%/Latanoprost0.005%CombinationOphthalmicSolution(OPC-1085ELOphthalmicSolution)TetsuyaYamamoto1),NoriyukiKoyama2),AsukaSato2),MichiyoNinomiya3),YujiIshikawa3)andSatoruKikuchi4)1)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)TokushimaResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3)DepartmentofClinicalDevelopment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,4)DepartmentofMedicalAffairs,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.カルテオロール塩酸塩2%とラタノプロスト0.005%を有効成分とするOPC-1085EL点眼液(OPC)の薬物動態および安全性を検討するため,健康成人を対象に,OPC,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液2%,ラタノプロスト点眼液0.005%の1日1回,7日間反復点眼による薬物動態試験を実施した.また,有色ウサギを用い,OPC単回点眼後の眼内薬物動態を検討した.OPC点眼後の各有効成分(カルテオロールおよびラタノプロスト遊離酸)のヒト血漿中薬物動態は単剤投与時と明確な違いはなく,OPC点眼後の各有効成分のウサギ房水および虹彩・毛様体における曝露は単剤投与時を下回ることはなかった.ヒトにおけるOPCの副作用は結膜充血であり,血圧や脈拍への影響は認められなかった.OPCの各有効成分について,配合化による薬物動態への影響はなく,安全性プロファイルは忍容できるものであった.ToexaminethepharmacokineticsandsafetyofOPC-1085ELcombinationophthalmicsolution(OPC)containingcarteololhydrochloride2%andlatanoprost0.005%asactiveingredients,apharmacokineticstudywasconductedinhealthyadultsinwhomOPC,carteololhydrochloridelong-actingophthalmicsolution2%orlatanoprost0.005%eyedropswasinstilledoncedailyfor7days.Additionally,intraocularpharmacokineticswereinvestigatedinpigmentedrabbitsafterasingleinstillationofOPC.HumanplasmapharmacokineticsofactiveingredientsafterOPCinstillationshowednonoticeabledifferencefromeachofthesingle-agentpharmacokinetics.Theexposureofrabbitaqueoushumorandiris-ciliarybodytoactiveingredientsafterOPCinstillationwasnotlowerthaneachsingle-agentexposure.AdversereactionstoOPCinhumansconsistedonlyofconjunctivalhyperemia.Noeffectonbloodpressureorpulseratewasobserved.OPCformulationdidnotaffectthepharmacokineticsoftheindividualingredients;OPCmanifestedatolerablesafetyprofile.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(9):1369?1375,2016〕Keywords:OPC-1085EL,カルテオロール,ラタノプロスト,配合点眼液,薬物動態.OPC-1085EL,carteolol,latanoprost,combinationophthalmicsolution,pharmacokinetics.はじめに緑内障治療の目的は患者の視機能維持であり,適切な眼圧下降治療が必要である1).現状では第一選択薬として,ぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進するプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬や房水産生を抑制するb遮断薬を用い,効果不十分の場合は両者の併用療法を行うことが多い.併用療法は,洗い流し効果を防ぐために十分な間隔をあけて各薬剤を点眼しなければならないなど利便性が悪く,アドヒアランス低下の問題が生じる.また,点眼回数の増加に伴い,点眼液に含有される保存剤への曝露も増加するため,角結膜上皮障害の発症も懸念される2).これらの問題を改善するために,有効成分を組み合わせた配合剤が開発されている.わが国で販売されている配合剤は,いずれも非選択性b遮断薬のチモロールを含有しているため,副作用などでチモロールを使用できない患者は,配合剤による利便性向上の恩恵を受けることはできない.一方,カルテオロールは内因性交感神経刺激様作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)を持つ非選択性b遮断薬3)で,チモロールに比べて循環器系や呼吸機能に及ぼす影響4,5),眼刺激性や血中脂質への影響6,7)が小さいことが報告されている.さらにカルテオロールでは,眼底血流増加作用も認められている8).カルテオロールを有効成分とするミケランRLA点眼液1%・2%(大塚製薬株式会社)は,アルギン酸を添加することでカルテオロールの眼圧下降作用を持続化した1日1回点眼製剤であり,単剤ならびに併用療法の使用実績が十分にある9,10).OPC-1085EL点眼液(以下,OPC)は,大塚製薬株式会社が開発したカルテオロール塩酸塩2%とラタノプロスト0.005%を有効成分とする1日1回点眼の配合剤である.カルテオロールの眼圧下降作用の持続化剤としてアルギン酸を含有し,保存剤としてベンザルコニウム塩化物(BAC)を含有しない配合剤である.配合剤の製剤化において,物性の異なる2つの有効成分を同時に溶解し,長期間安定な製剤にすることは容易でなく,添加剤やpHならびに保存剤を工夫する必要があるが,これらは有効成分の薬物動態に影響を及ぼすことが知られている11,12).このため,配合剤の有効性・安全性プロファイルは,併用療法と同等にならない可能性がある.今回,健康成人およびウサギを対象に,OPCの各有効成分について配合化による薬物動態への影響を検討し,有効性および安全性に及ぼす影響を考察した.I健康成人を対象とした臨床薬物動態試験本治験は,2014年4?5月に,医療法人平心会大阪治験病院にて同治験審査委員会の承認(StudyNo:910PC)を得たうえで,治験実施計画書,医薬品の臨床試験の実施の基準および関連法令を遵守し,三上洋治験責任医師のもとで実施した.眼科検査は,眼科医の治験分担医師が実施した.1.対象および方法a.対象治験参加の文書同意が得られ,20歳以上45歳以下で,bodymassindexが18.5以上25.0未満の健康成人男性30例を対象とした.おもな除外基準は,眼疾患の合併がある者,眼圧が22mmHg以上の者,または眼圧が10mmHg未満の者,矯正視力が1.0未満の者,収縮期血圧が140mmHg以上,拡張期血圧が90mmHg以上,または低血圧の臨床症状がみられる者,脈拍数が100回/分以上または40回/分以下の者,心疾患を合併している者または既往歴のある者,スクリーニング検査で標準12誘導心電図に異常がみられる者,過去に心電図異常を指摘されたことがある者,カルテオロール点眼液の禁忌または慎重投与に該当する者,ラタノプロスト点眼液の禁忌または慎重投与に該当する者とした.b.治験薬被験薬としてOPC,対照薬としてカルテオロール塩酸塩持続性点眼液2%(大塚製薬株式会社,以下MLA)およびラタノプロスト点眼液0.005%(ファイザー株式会社,以下LAT)を用いた.c.治験方法本治験は,単施設,実薬対照,無作為化試験として,入院下で実施した.1日目の点眼前に規定検査を実施し,適格性の確認された被験者30例を割付表に従ってOPC,MLA,LATのいずれかの群に1:1:1の割合で無作為に割り付けた.割付表は,治験依頼者である大塚製薬株式会社がSAS(SASInstituteInc.)を用いて作成した.治験薬は,両眼に1回1滴,1日1回朝に,1日目から7日間反復点眼した.薬物濃度測定のため,投与期間中にヘパリンナトリウム処理したシリンジで採血し,遠心分離して血漿を得た.8日目の検査終了後,被験者を退院させた.治験薬投与開始2週間前から8日目の検査終了時まで,治験薬以外の薬剤の使用は禁止した.眼科検査を実施する治験分担医師に対しては盲検とした.治験実施期間における安全性の評価項目は,有害事象,身体所見,眼科的自覚症状,体温,血圧,脈拍数,標準12誘導心電図,視力検査,眼瞼・細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,臨床検査および眼圧測定とした.d.血漿中薬物濃度の測定血漿中カルテオロールおよびラタノプロストの活性本体であるラタノプロスト遊離酸の濃度測定は,株式会社住化分析センターにてバリデートされた高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いた内部標準法により行った.カルテオロールおよび内標準物質(d5体)は,有機溶媒で血漿より液-液抽出し,10mmol/L酢酸アンモニウム溶液/0.2%ギ酸:メタノール/0.2%ギ酸(85:15,v/v)の移動相およびShim-packXR-ODSカラム(株式会社島津製作所)により分離させた後,MS/MSに導入し,エレクトロスプレーイオン化(ESI)法により生成したカルテオロールおよび内標準物質それぞれのフラグメントイオン(m/z293→m/z202およびm/z298→m/z207)をMRMポジティブイオンモードにて分析した.LC-MS/MS分析機器はAPI4000(ABSciexPte.Ltd.)を使用した.ラタノプロスト遊離酸および内標準物質(d4体)は,OasisMAX(WatersCorp.)で血漿より固相抽出し,0.1%ギ酸/水およびメタノールの2つの移動相によるステップワイズグラジエントおよびXSelectCSHFluoro-Phenyl(WatersCorp.)とShim-packXR-ODSII(株式会社島津製作所)との連結カラムを用い分離させた後,メタノール/40%メチルアミン溶液(100:0.1,v/v)と混合させMS/MSに導入し,ESI法により生成したラタノプロスト遊離酸および内標準物質それぞれのフラグメントイオン(m/z422.3→m/z337.3およびm/z426.4→m/z341.0)をMRMポジティブイオンモードにて分析した.LC-MS/MS分析機器はAPI5000(ABSciexPte.Ltd.)を使用した.カルテオロールおよびラタノプロスト遊離酸の定量下限は,それぞれ0.02ng/mlおよび10pg/mlであった.e.解析方法薬物動態解析対象は,血漿中薬物濃度が測定された被験者とした.カルテオロールおよびラタノプロスト遊離酸の血漿中濃度および薬物動態パラメータとしてCmax(最高血漿中濃度),AUC(血漿中濃度-時間曲線下面積),tmax(最高血漿中濃度到達時間),t1/2,z(最終相の血漿中消失半減期)の記述統計量を算出した.薬物動態パラメータは,薬物動態解析ソフトウェアPhoenixWinNonlinEnterprise6.3(PharsightCorp)を用いたノンコンパートメント解析により,被験者ごとに求めた.安全性解析対象は,治験薬の点眼を1回以上受けたすべての被験者とした.有害事象の発現例数,発現割合および発現件数を求めた.バイタルサインについては,各時点における記述統計量を求めた.その他の安全性評価項目については,治験期間を通しての数値の変動や異常の有無を検討した.安全性の解析には,解析ソフトSAS9.2(SASInstituteInc.)を用いた.2.結果a.被験者の内訳同意取得例54例のうち,30例が無作為割付された.治験薬投与開始後の中止例はなかった.被験者背景(年齢,身長,体重など)は各群同様であった.b.薬物動態7日目のOPC群およびMLA群の血漿中カルテオロール濃度は,点眼後15?30分にピークに達した後,減少した.OPC群の血漿中カルテオロール濃度の平均値は,MLA群に比べてやや低く推移し(図1a),カルテオロールのCmaxおよびAUC24hは,MLA群に比べてOPC群でやや低値を示した(表1a)が,明確な違いはみられなかった.血漿中ラタノプロスト遊離酸濃度は,OPC群,LAT群ともに,ほぼ同様の値で推移し,点眼後10分にピークに達した後,減少した(図1b).両群とも,ラタノプロスト遊離酸は,7日目の最終点眼後24時間時点では,血漿中に検出されなかった.薬物動態パラメータは両群で違いはなかった(表1b).なお,1日目および7日目のすべての採血時期を通じて,血漿中ラタノプロスト遊離酸濃度が定量下限未満の被験者が,両群で各1例認められた.c.安全性副作用の発現例数および件数は,OPC群で6例10件,MLA群で4例4件,LAT群で8例15件であった.3群とも結膜充血がもっとも多かった(発現例数はそれぞれ6例,3例および8例).LAT群では角膜障害が3例に認められた.いずれも軽度であり,無処置で回復した.脈拍数,収縮期血圧,拡張期血圧の推移は,3群とも試験期間を通じて大きな変動は認められず(図2),関連する有害事象の報告もなかった.臨床検査,心電図検査,視力検査および眼底検査に関して,臨床的に問題となる変化または異常所見はいずれの群でも認められなかった.II有色ウサギを用いた非臨床薬物動態試験本試験では,「大塚製薬株式会社動物実験に関する指針」を遵守した.1.材料および方法a.投与および検体の採取・調製・測定15?20週齢の雄性有色ウサギ(Kbl:Dutch,北山ラベス株式会社)を用い,両眼にOPC,MLAまたはLATを25μL/眼単回点眼した.ウサギ(各サンプリングポイントにつき2羽,6時間後のみ3羽)は,点眼0.5,1,2,4および6時間後に過麻酔により安楽死させ,両眼の房水,結膜,虹彩・毛様体および角膜を採取した.採取した房水はメタノール/生理食塩水/ギ酸混合液(50:50:1)で希釈した.結膜,虹彩・毛様体および角膜は,メタノール/生理食塩水/ギ酸混合液(50:50:1)を添加後,ホモジナイズした.各試料はアセトニトリルで除蛋白し,遠心上清をLC-MS/MS法で分析した(詳細はヒトの方法に準じた).カルテオロールの定量下限は,房水10ng/ml,その他の組織40ng/g,ラタノプロスト遊離酸の定量下限は,房水1ng/ml,その他の組織4ng/gであった.b.薬物動態解析薬物動態パラメータは,PhoenixWinNonlinver6.3(ノンコンパートメントモデル,PharsightCorp)を用いて算出した.2.結果OPC群の房水および虹彩・毛様体中のカルテオロール濃度は,点眼後1?2時間後にCmaxに達し,その後減少した(図3).カルテオロールのCmaxおよびAUCtは,MLA群と比較して約2倍高く(表2a),虹彩・毛様体ではtmaxがMLA群よりも早かった(図3).OPC群の房水および虹彩・毛様体中のラタノプロスト遊離酸濃度は,点眼後0.5?1時間後にCmaxに達し,その後減少した(図4).ラタノプロスト遊離酸のCmaxおよびAUCtは,OPC群とLAT群で明確な差は認められなかった(表2b).なお,角膜および結膜内のカルテオロールおよびラタノプロスト遊離酸は,OPC群と各単剤群で同様の濃度推移であった(表2a,b).III考按点眼液に含まれる有効成分の薬物動態は有効性と安全性に密接に関与するため,その評価は重要である.また,点眼液中には添加剤やpHなど,薬物動態に影響を与える因子が種々存在するため,製剤として総合的に薬物動態を評価することが有用である.本研究では健康成人を対象に,OPC点眼後のカルテオロールとラタノプロストの薬物動態を検討し,配合化の影響を考察した.OPC点眼後のカルテオロールとラタノプロスト遊離酸のヒト血漿中薬物動態は,MLAおよびLAT点眼時と比較して明確な差は認められなかった.カルテオロールはb遮断薬であるため,血漿中薬物動態は徐脈などの全身性の副作用の発現に影響を与える因子となりうるが,OPC点眼後のカルテオロールの血漿中濃度はMLA群を上回ることはなかった.実際,OPC点眼後の脈拍および血圧は,MLA群やLAT群と同様で変化はなく,配合化による全身性の安全性に及ぼす影響は少ないと考えられた.PG関連薬のラタノプロストは,結膜充血などの眼局所に特徴的な副作用をもつ.眼内のラタノプロストの薬物動態はOPCの眼局所の副作用プロファイルに影響するが,ウサギにおいてOPC点眼後のラタノプロスト遊離酸の眼内の薬物動態はLAT群と同様であった.OPCにはカルテオロールの眼圧下降作用の持続化剤としてアルギン酸が含まれており,そのおもな機序は負イオンであるアルギン酸と正イオンであるカルテオロールのイオン的相互作用である13).このため,ヒトにおいてもアルギン酸は(正イオンでない)ラタノプロストおよびその遊離酸の薬物動態に影響を与える可能性は低いと考えられる.実際,OPC群でも結膜充血は発現したが,その発現割合はLAT群に比べて増加することはなかった.これらをあわせて考えると,OPCの眼局所の副作用プロファイルはLATと同様であると推察された.一方,OPC点眼後のカルテオロールのウサギ眼内移行はMLA群と比べて高い傾向がみられた.この原因は未解明であるが,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)がカルテオロールの角膜透過性を亢進させる報告14)があり,OPCの添加剤として含まれるEDTAナトリウムがカルテオロールの角膜透過性を高めた可能性も考えられる.しかし,カルテオロールは眼局所に特徴的な副作用はなく,ヒトにおいてOPC点眼後の副作用はMLA群に比べて増加しておらず,安全性への影響は小さいと推察された.有効成分の眼内移行は有効性に影響を与えるが,OPC点眼後,カルテオロールおよびラタノプロストとも,それぞれMLAおよびLAT点眼時と比較して曝露量を下回ることはなかったことから,両有効成分の眼圧下降作用が減弱することなく,OPCの有効性が発揮されると考察された.今回の対象は健康成人であるため,有効性の評価はできなかったが,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたOPCの第III相試験(AmJOphthalmol掲載準備中)で,MLAとLATの併用療法と同程度の眼圧下降作用が確認されており(AmJOphthalmol掲載準備中),これを裏付ける結果と考えられた.また,両単剤に保存剤として含まれるBACは幅広い抗菌スペクトルを有し,強力な抗菌活性を示す一方で,細胞障害性を有する.OPCはBACを含まないことから,単剤あるいは併用療法に比べてさらなる角結膜上皮の安全性の向上が期待される.以上のように,OPCの各有効成分について配合化による薬物動態への影響はみられず,副作用は軽度の充血のみで,安全性は忍容できるものであった.OPCは多剤併用療法を必要とする患者の利便性やアドヒアランスの向上に貢献できる配合剤であり,チモロールを含有した配合剤のみが利用可能な現状を変え,配合剤治療の新たな有用な選択肢となることが期待される.利益相反:本臨床試験は大塚製薬株式会社の資金提供により実施された.非臨床試験は大塚製薬株式会社により実施された.筆者の小山紀之,佐藤明香,二宮美千代,石川裕二,菊地覚は大塚製薬株式会社の社員である.筆者の山本哲也は医学専門家である.謝辞:本稿の作成にあたり,学術的助言をいただいた大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部中島康治氏,大塚製薬株式会社新薬開発本部中道典宏氏,松木一浩氏,藤原智子氏に御礼申し上げます.文献1)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)BaudouinC:Detrimentaleffectofpreservativesineyedrops:implicationsforthetreatmentofglaucoma.ActaOphthalmol86:716-726,20083)ZimmermanTJ:Topicalophthalmicbetablockers:acomparativereview.JOculPharmacol9:373-384,19934)KitazawaY:Multicenterdouble-blindcomparisonofcarteololandtimololinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AdvTher10:95-131,19935)佐野靖之,村上新也,工藤宏一郎ほか:気管支喘息患者に及ぼすb-遮断点眼薬の影響─CarteololとTimololとの比較─.現代医療16:1259-1263,19846)ScovilleB,MuellerB,WhiteBGetal:Adouble-maskedcomparisonofcarteololandtimololinocularhypertension.AmJOphthalmol105:150-154,19887)YamamotoT,KitazawaY,NomaAetal:Theeffectsoftheb-adrenergic-blockingagents,timololandcarteolol,onplasmalipidsandlipoproteinsinJapaneseglaucomapatients.JGlaucoma5:252-257,19968)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,19979)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:持続型カルテオロール点眼薬のラタノプロスト点眼薬への追加効果.眼臨紀3:14-17,201010)内田英哉,鵜木一彦,山林茂樹ほか:カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較.あたらしい眼科32:425-428,201511)NakamuraT,YamadaM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カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):425.428,2015cカルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較内田英哉*1鵜木一彦*2山林茂樹*3岩瀬愛子*4*1内田眼科*2うのき眼科*3山林眼科*4たじみ岩瀬眼科ComparisonofOcularHypotensiveEffectandSafetyBetweentheUnfixedCombinationofLong-ActingCarteolol2%HydrochlorideAddedtoLatanoprost0.005%andtheFixedCombinationOphthalmicSolutionofLatanoprost0.005%/TimololMaleate0.5%HideyaUchida1),KazuhikoUnoki2),ShigekiYamabayashi3)andAikoIwase4)1)UchidaEyeClinic,2)UnokiEyeClinic,3)YamabayashiEyeClinic,4)TajimiIwaseEyeClinicカルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用と,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性を比較検討した.ラタノプロスト点眼が4週以上単剤投与され,効果不十分な原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者44例44眼に対し,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液併用群(22眼)またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液切り替え群(22眼)に振り分け,眼圧下降効果および副作用を検討した.点眼変更後4週および8週後の併用群と配合剤群は,変更前に比べ有意な眼圧下降(p<0.0001)を示し,眼圧下降効果に両群間での差はなかった(p=0.054,p=1.000).点眼時眼刺激感は配合剤群で多かった.カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法は,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液と同等の眼圧下降効果が得られ,忍容性に優れていた.Inthisstudy,wecomparedtheintraocularpressure(IOP)reductionandsafetybetweenlong-actingcarteolol2%hydrochloride(LA)addedtolatanoprost0.005%(Lat)andthefixedcombinationophthalmicsolutionofLat/Timololmaleate0.5%.Forty-foureyesof44patientswithopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhohadaninsufficientresponsetoLatmonotherapywereenrolled.IOPreductionaswellasgeneralandtopicalsideeffectswerecomparedbetweentheunfixedcombinationgroup(22eyes)andthefixedcombinationgroup(22eyes).SignificantIOPreductionwasobservedinalleyesofbothgroupsatthe4-and8-weekfollow-upperiodsafterswitchingtherapy(p<0.0001).NostatisticallysignificantdifferencesinIOPreductionwerefoundbetweenthetwogroups(p=0.054and1.000,respectively).Eyesurfaceirritationwasmorefrequentlyobservedinthefixedcombinationgroup.ThefindingsofthisstudyshowedthatIOPreductionintheunfixedcombinationgroupwassimilartothatinthefixedcombinationgroup,yetwithlesssideeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):425.428,2015〕Keywords:ラタノプロスト,カルテオロール,配合剤,眼圧,刺激感.latanoprost,carteolol,fixedcombinationophthalmicsolution,intraocularpressure,irritation.はじめになり,点眼薬への反応,あるいは個人の背景因子など多様化緑内障疫学調査(多治見スタディ)1)より,わが国の40歳することが想像される.以上の20人に1人は緑内障であり,その9割が未治療であ緑内障診療ガイドライン2)では,薬剤による眼圧下降治療ると報告されている.今後,点眼治療を要する患者数は多くは単剤(単薬)から開始し,眼圧下降が不十分な場合に作用〔別刷請求先〕内田英哉:〒500-8879岐阜市徹明通4-18内田眼科Reprintrequests:HideyaUchida,M.D.,UchidaEyeClinic,4-18Tetsumei-dori,Gifu-shi,Gifu500-8879,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(115)425 機序の異なる薬剤による多剤併用療法を行うことを推奨しており,上記の多彩さのなかでは,追加眼圧下降効果とともに副作用に留意する必要がある.こうした,点眼治療薬の選択には多くの組み合わせが必要である.一方,わが国でも,アドヒアランスの向上を目的とした配合剤が発売され,多剤併用療法時の選択肢として広く臨床使用されている.しかし,配合剤に含まれる有効成分は併用で使用される場合と比べて,1日当たりの点眼回数が少ない場合もあり,眼圧下降作用が併用療法に比べるとやや劣るという報告3.5)もある.さらに,bブロッカー点眼薬を含有する配合薬は,現時点ですべてチモロールが使用されており,その選択は限定されている.カルテオロール塩酸塩持続性点眼液は2007年の発売以来,広く臨床応用されている1日1回点眼のb遮断薬である.単剤使用のみならず,プロスタグランジン製剤で効果不十分な場合にカルテオロール塩酸塩持続製剤により併用治療されるケースは多く,併用投与時の眼圧下降効果を検討した報告6.8)はあるが,配合剤と比較検討した報告はない.今回,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を比較対照として,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液併用時の眼圧下降作用,眼刺激症状,全身的副作用を評価した.I対象および方法本臨床研究は,多施設共同オープンラベル試験として2012年12月.2013年5月に,表1に示す4施設において,北町診療所倫理審査委員会(東京都武蔵野市)にて実施前に審査を行い承認を得た研究実施計画書を用いて実施された.対象は,4週間以上のラタノプロスト点眼液(商品名:キサラタンR点眼液0.005%,1日1回夜点眼)(以下,Lat)単独治療を行ったにもかかわらず,主治医が目標眼圧に達していないと判断した眼圧15mmHg以上29mmHg以下の,広義原発開放隅角緑内障と高眼圧症患者である.研究参加については文書で同意を得た.眼圧下降効果不十分症例に対する点眼治療の変更としては,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液(商品名:ミケランRLA点眼液2%,1日1回朝点眼)(以下,LA)の併用(併用群),またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(商品名:ザラカムR配合点眼液,表1試験参加施設および試験責任医師一覧医療機関名試験責任医師たじみ岩瀬眼科岩瀬愛子山林眼科山林茂樹うのき眼科鵜木一彦内田眼科内田英哉1日1回夜点眼)(以下,Lat/Tim)へ切り替え(配合剤群)のいずれかに無作為に割り付け(中央割付),4週後,8週後に経過観察を行った.なお,6カ月以内に白内障手術を含む内眼手術,レーザー線維柱帯形成術もしくは線維柱帯切開術,角膜屈折矯正手術の既往がある患者,また線維柱帯切除術などの濾過手術の既往がある患者などは対象から除外した.点眼変更時,点眼4週後,点眼8週後には,眼圧,脈拍,血圧の測定および点眼時刺激感についてアンケートを実施した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて午前中(原則として同一時間帯)に測定を行い,3回測定した平均値を評価に用いた.ただし,併用群においては検査日当日の朝はLAを点眼せずに来院させ,眼圧測定後LAを1回1滴点眼し,点眼2時間後に再度眼圧測定を行い,それぞれ眼圧下降効果のトラフ値およびピーク値として評価した.また,併用群の脈拍数および血圧もLAの点眼前後で2回測定を行った.点眼時刺激感については,「なし」「少ししみる」「しみる」「かなりしみる」の4段階で評価し(,)た.解析眼は,眼(,)圧の高い(,)ほうの眼,同一の場合は右眼とした.点眼変更時の各群間での眼圧の比較はKruskal-Wallisの検定により評価した.4週後,8週後各測定点の併用群(トラフ値・ピーク値)と配合剤群の眼圧値の比較には,Bonferroniによる多重性の調整を行った共分散分析を用いた.また,各群での点眼変更前と変更後4週後,8週後の眼圧比較には,多重性を考慮したSteel検定を用いた.眼刺激感は,観察期間中の最大スコアを用いWilcoxon順位和検定で比較し,血圧および脈拍数はStudentt検定を用いた.被験者の背景因子に関しては,Fisherの直接確率検定またはt検定を用いた.II結果本研究にエントリーされた44例44眼(原発開放隅角緑内障27例27眼,正常眼圧緑内障11例11眼,高眼圧症6例6眼,男性22例22眼,女性22例22眼,年齢41.80歳)のうち,併用群は22例22眼,配合剤群は22例22眼で,全例を解析対象とした.性別,年齢,病型,眼合併症,眼手術歴,全身合併症および薬物アレルギーの各項目において,両群間で有意差は認められなかった.眼圧の推移を図1に示す.点眼変更前の眼圧は,併用群が18.2±1.5mmHg(平均±標準誤差偏差),配合剤群が17.7±1.9mmHgであり,両群間に有意差は認められなかった(p=0.412).併用群,配合剤群とも点眼治療変更前と比較して変更後4週後,8週後は,すべての測定時点において眼圧が有意に下降していた(p<0.0001).点眼治療変更後,併用群において4週後の朝点眼前の眼圧は,15.8±1.5mmHg,配合剤群では14.4±2.1mmHgであり,配合剤群と併用群トラフ値の間では差は認められなかった(p=0.054).一方,併用群のおけるLA点眼2時間後の426あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(116) 併用群:トラフ値(LA点眼前)眼圧配合剤群眼圧併用群:ピーク値(LA点眼2時間後)眼圧■併用群トラフ値(LA点眼前)眼圧配合剤群眼圧■併用群ピーク値(LA点眼2時間後)眼圧17.714.414.718.215.814.718.213.413.3051015202530n.s.※n.s.n.s.***眼圧(mmHg)******眼圧(mmHg)201518.215.817.714.414.714.713.413.31050点眼変更時4週目8週目平均(mmHg).解析は、多重性を考慮したSteel検定を用いた.*:p<0.0001.図1点眼変更後の眼圧の推移併用群,配合剤群とも変更後4週後および8週後のすべての測定点において点眼変更前に比べ,有意な眼圧下降がみられた(p<0.001)少しあるなし21例95%併用群かなりあるザラカム群1例3例5%14%あるなし8例36%少しある9例41%2例9%点眼変更時4週目8週目平均±標準偏差(mmHg).ANCOVA多重性の調整はBonferroniの方法を用いた.ただし※はt-test.*:p<0.05,**:p<0.01.図2併用群と配合剤群の各測定点での眼圧4週後,8週後において配合剤群に対して併用群のピーク値が有意に低値(p=0.012,p=0.0024)であった.一方,併用群のトラフ値では4週後で併用群に比べ高値(有意差を認めず)であったが,8週後では同等の値となった.比較して有意な変化はなかった.有害事象は,配合剤群でのみ3例に3件認められ,その内訳は色素上皮異常症1例1件,刺激感2例2件であった.いずれも点眼薬との関連性はありと判断された.III考按Wilcoxon順位和検定図3点眼時の眼刺激感眼刺激の評価には,4週および8週の時点での最大スコアを用いた.併用群に比べ配合剤群で眼刺激感が有意に多かった(p<0.0001).眼圧は13.4±1.1mmHgであり,配合剤群と併用群ピーク値の間で有意差が認められた(p=0.012).8週後の朝点眼前の眼圧においても,併用群トラフ値では14.7±1.5mmHg,配合剤群では14.7±2.0mmHgであり,配合剤群と併用群トラフ値の間に有意差は認められなかった(p=1.000).一方,LA点眼2時間後の眼圧は13.3±1.2mmHgであり,配合剤群と併用群ピーク値の間で有意差が認められた(p=0.024)(図2).眼刺激感の評価には,4週もしくは8週の時点において点眼時の刺激感をもっとも強く感じたスコアを採用した.併用群においては「なし」21例(95%),「少しある」1例(5%),配合剤群では「なし」8例(36%),「少しある」9例(41%),「ある」2例(9%)「かなりある」3例(14%)であり,両群間に有意差が認められ(,)た(p<0.0001)(図3).脈拍数,拡張期血圧,収縮期血圧は,LA点眼前および点眼2時間後のいずれの時点においても,併用群は配合剤群と(117)これまで,プロスタグランジン製剤とb遮断薬の併用治療と配合剤治療の眼圧下降効果を比較した報告では,無作為化二重盲検試験で非劣性が検証された報告9,10)がある一方で,配合剤による眼圧下降効果のほうが有意に劣っていたとの報告3.5)もある.本研究では,緑内障薬物治療のファーストラインとして使用されていることが多い,ラタノプロスト点眼液で眼圧下降効果が不十分な症例を対象に,bブロッカーの1回点眼を加える方法として,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液のいずれかに切り替えた場合の,眼圧下降および安全性について比較検討した.点眼時刻については,臨床現場での一般的な投与方法に則し,併用群はLAを朝1回,Latを夜1回,Lat/Tim配合剤は夜1回点眼を行うこととした.眼圧測定は両群とも午前中に行った.LA併用群の眼圧をより詳細に評価するために,LA点眼前および点眼2時間後の2時点で測定を行った.LAのそれぞれの眼圧は,眼圧下降効果のトラフ時およびピーク時の眼圧であり,配合剤群では点眼後12時間から18時間後の眼圧と比較することになった.眼圧については,両群ともに点眼変更前に比べ,4週後,8週後すべての測定ポあたらしい眼科Vol.32,No.3,2015427 イントで有意な眼圧下降が得られた.4週後,8週後の併用群の朝点眼前の眼圧値(トラフ値)は配合剤群と差は認められなかった(p=0.054,1.000)が,LA併用群の点眼後2時間後の眼圧値(ピーク値)は4週,8週ともに同じ時刻の配合剤群より低かった(p=0.012,0.0024).配合剤群は夜間に点眼するため,併用群に比べbブロッカーの効果が眼圧測定時(午前中)に減弱していたことが示唆された.安全性に関して,併用群のLA点眼2時間後はカルテオロールの血中濃度が上昇する時間帯,配合剤群の評価時点はチモロールの血中濃度が低下した時間帯であり,カルテオロールは内因性交感神経刺激様作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)を有してはいるものの11),血圧および脈拍数において2群間に差がみられることが予想されたが,両群間で有意差は認められなかった.刺激感については,配合剤群で刺激感を報告した患者数は64%と併用群に比べて多かった(p<0.0001).わが国で臨床使用可能なb遮断薬は複数あり,患者の症状に合わせた使い分けが可能であるが,現在市販されているb遮断薬の配合剤は,いずれもチモロールマレイン酸塩が用いられており,選択範囲は狭い.本研究は,ラタノプロストとカルテオロール塩酸塩持続性点眼液の併用群と,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果について検討した初めての報告である.ラタノプロスト点眼液とカルテオロール塩酸塩持続性点眼液の併用はラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液と比較して,トラフでは同等の眼圧下降作用を,またピークでは同時刻の配合薬より有意な眼圧下降を示した.1日2回点眼と同様の眼圧下降効果をもつ,カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬12)をラタノプロスト点眼薬に組み合わせることにより,配合剤と同等の眼圧下降効果が得られた可能性がある.今回の観察期間においては,配合点眼液群,併用群ともに全身的な副作用は有意差がなかった.一方,点眼時の刺激感は,LA併用のほうが少なかった.緑内障配合点眼薬は,薬剤数および点眼回数が減少することでアドヒアランスの向上が期待されるのも事実であり,今後,プロスタグランジン製剤で効果不十分な場合の薬剤選択の一つとして,カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬を含む配合薬の開発が待たれる.文献1)日本緑内障学会:多治見疫学調査報告書(2000-2001年),2012年12月2)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20123)DiestelhorstM,LarssonL-I,TheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponantsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20044)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofsafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,20055)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyoffixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,20056)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:持続型カルテオロール点眼薬のラタノプロスト点眼薬への追加効果.眼臨紀3:14-17,20107)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:ラタノプロスト・b遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化.あたらしい眼科28:1017-1021,20118)新垣淑邦,與那原理子,澤口昭一:2種類の持続型b遮断薬のラタノプロストへの追加効果と副作用の比較.眼臨紀6:91-96,20139)DiestelhorstM,LarssonL-I,TheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,200610)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験.あたらしい眼科30:1185-1194,201311)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculareffectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmale-ateinpatientswithocularhypertensionandprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol123:465-477,199712)山本哲也,カルテオロール持続性点眼薬研究会:塩酸カルテオロール1%持続性点眼液の眼圧下降効果の検討─塩酸カルテオロール1%点眼液を比較対照とした高眼圧患者における無作為化二重盲検第III相臨床試験─.日眼会誌111:463-472,2007***428あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(118)

正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケラン® LA2%)の眼血流への影響

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):405.408,2013c正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)の眼血流への影響梅田和志稲富周一郎大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座EffectofCarteololHydrochloride(2%MikeranRLA)onOpticNerveHeadBloodFlowinNormalEyesKazushiUmeda,SyuichiroInatomi,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)点眼薬の眼血流への影響についてレーザースペックルフローグラフィを用いて調査した.対象および方法:対象は健常人正常眼8例16眼.右眼にミケランRLA2%,左眼にプラセボを単回点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後に眼圧,眼灌流圧,全身血圧,脈拍および視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上・下耳側リム,視神経乳頭近傍上・下耳側網脈絡膜の血流量を測定した.結果:ミケランRLA2%点眼眼とプラセボ点眼眼の両群間で眼圧および眼灌流圧において有意差を認めなかった.全身血圧および脈拍は開始時と比較して下降したが重篤な副作用はみられなかった.眼血流量は,乳頭近傍上耳側網脈絡膜でミケランRLA2%点眼眼が3および6時間後に有意に増加した(p<0.05).結論:ミケランRLA2%は正常眼において,眼血流増加作用のあることが示されたことから,緑内障神経保護治療の選択肢となる可能性が期待される.Purpose:Toexaminetheeffectofcarteololhydrochloride(2%MikeranRLA)onopticnerveheadbloodflowinhealthyvolunteers,usinglaserspeckleflowgraphy.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved8healthysubjects(16eyes)instilledwith2%MikeranRLAintherighteyeanditsplacebointhelefteye.Changesinintraocularpressure(IOP),bloodpressure(BP),pulserate(PR),ocularperfusionpressure(OPP)andmeanblurrate(MBR)weredeterminedfrommeasurementstakenatbaselineandat1.5,3,4.5and6hoursafterinstillation.Results:IOPandOPPdidnotchangebetweentherightandlefteyes.BPandPRdecreaseduponinstillationof2%MikeranRLA,butwithnosideeffects.MBRatthesuperotemporalchorioretinasurroundingtheopticnerveheadincreasedsignificantlyat3and6hoursafterinstillation(p<0.05).Conclusion:Thisresultsuggeststhat2%MikeranRLAincreasesopticnerveheadbloodflowandcouldbeaneuroprotectiveagent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):405.408,2013〕Keywords:カルテオロール,視神経乳頭血流,緑内障,レーザースペックルフローグラフィ.carteolol,opticnerveheadbloodflow,glaucoma,laserspeckleflowgraphy.はじめに緑内障性視神経症の発症および進行の原因としては,眼圧による機械的な障害のみではなく,視神経乳頭や網脈絡膜などの眼循環障害の関与が考えられる1).したがって,種々の抗緑内障薬のもつ眼圧下降効果に加えて眼血流に対する効果,すなわち神経保護の重要性が示唆されている2.8).抗緑内障点眼薬のなかで最も多く使用される薬剤としてプロスタグランジン点眼液とbブロッカー点眼薬がある.bブロッカー点眼薬のなかでもカルテオロール塩酸塩は内因性交感神経刺激様作用(ISA)を有し,また血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進,血管収縮因子(EDCF)の分泌抑制により末梢血管抵抗を減少させる働きを有しているため眼血流改善効果が期待される2,9.11).Tamakiら11)は正常人に対して2%カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)または0.5%チモロールをそれぞれ1日2回3週間点眼させて眼血流量をレーザースペックルフローグラフィで検討したところ,両〔別刷請求先〕梅田和志:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KazushiUmeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(119)405 者において短期的には影響はなかったものの,前者では3週後の時点で眼血流の増加の可能性を示唆した.そこで今回筆者らは,カルテオロール塩酸塩の効果の持続性が期待される製剤(ミケランRLA2%)において短期的な眼血流への影響がどうなるかを検討する目的で,健常眼における点眼前後での眼血流の変化をレーザースペックルフローグラフィを用いて検討したので報告する.I対象および方法対象は軽度の屈折異常以外特に全身および眼疾患を有しない健常ボランティア8例16眼である.その内訳は男性3例女性5例,年齢20.34歳(平均23.9歳).対象の右眼にミ図1レーザースペックルフローグラフィによる血流マップ測定部位は乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域,また乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.(mmHg)2118151296開始時1.5hr3hr4.5hr6hra.眼圧************ケランRLA2%を点眼,左眼にプラセボとして生理食塩水を点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後における眼圧,眼灌流圧,全身血圧および脈拍をそれぞれ3回ずつ測定した.眼血流は視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上耳側および下耳側リム,視神経乳頭近傍上耳側および下耳側網脈絡膜の5カ所とした.具体的には0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.MBR値は相対値であるため,開始時に対する変化率を経時的に算出した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した(図1).乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.統計学的解析は対応のあるまたは対応のないt検定を用い,有意水準p<0.05を有意とした.当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,試験参加者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)(図2a)眼圧は開始時16.1±3.3mmHgから,ミケランRLA2%点眼1.5,3,4.5および6時間後でそれぞれ13.3±2.2mmHg(p<0.05),13.1±2.6mmHg(p<0.01),12.4±2.8mmHg(p<0.01)13.1±2.5mmHg(p<0.01)と有意に下降した.プラセボ点眼眼(,)においても点眼3,4.5および6時間後でそれぞれ14.6±2.2mmHg(p<0.05),14.0±2.7mmHg(p<0.01),14.0±2.2mmHg(p<0.01)と開始時に比べて有意に下降した.両群間で統計的有意差はみられなかったが,プラセボ点眼眼に比べてミケランRLA2%点眼眼でより低い眼圧値を呈した.(mmHg)5520開始時1.5hr3hr4.5hr6hrb.眼灌流圧504540353025*図2眼圧および眼灌流圧の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼圧(a)および眼灌流圧(b)の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(*p<0.05,**p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.406あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(120) 2.全身血圧および脈拍(平均±標準偏差)平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,平均血圧はミケランRLA2%点眼前78.9±6.4mmHgで,点眼4.5および6時間後にそれぞれ72.6±5.3mmHg(p<0.05),72.5±5.5mmHg(p<0.01),と開始時より有意に低下していたが,重篤な副作用はみられなかった.また,脈拍はミケランRLA2%点眼前70.4±5.3拍/分で,点眼1.5および3時間後にそれぞれ64.8±6.0拍/分(p<0.01),65.1±9.3拍/分,と開始時より低下したが,4.5時間後までには元のレベルに回復していた.3.眼灌流圧(平均±標準偏差)(図2b)眼灌流圧は2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ミケランRLA2%点眼眼では眼灌流圧に有意な変化はみられず,プラセボ点眼眼では開始時36.5±4.3mmHgに比べ点眼6時間後に34.3±3.8mmHgと有意に下降した(p<0.05)が,両群間で統計的有意差はみられなかった.4.視神経乳頭および網脈絡膜血流(平均±標準偏差)視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は,ミケランRLA2%点眼眼でいずれの時点でも開始時より高い値を示していたのに対し(図(%)a.視神経乳頭陥凹部20151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hr*(%)151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hrc.視神経乳頭下耳側リム*#図3眼血流の変化率の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼血流(MBR値)の開始時からの変化率の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(#p<0.05,##p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.(121)3a,3b,3d),プラセボ点眼眼では開始時に比べ6時間後に視神経乳頭陥凹部MBR値の変化率が有意に低下していた(p<0.05)(図3a).さらにミケランRLA2%点眼眼の乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率はプラセボ点眼眼に比べて3および6時間後に有意に増加した(p<0.05)(図3d).一方,視神経乳頭下耳側リムのMBR値の変化率はミケランRLA2%点眼眼でプラセボ点眼眼に比べ点眼1.5時間後には有意に低下した(p<0.05)が,その後は両群間での有意差はみられなかった(図3c).乳頭近傍下耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は両群間での有意差はみられなかったが,ミケランRLA2%点眼眼では点眼前と比べてほぼ変化がなかったのに対し,プラセボ点眼眼で点眼6時間後に有意な低下がみられた(図3e).III考按一般的にbブロッカーの眼局所効果は房水産生を抑制することで眼圧の下降が得られることが知られ,全身副作用として血圧低下や末梢組織血流量の減少などがある.一方,カルテオロール塩酸塩では内因性交感神経刺激様作用(ISA)による血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進および血管収縮因(%)b.視神経乳頭上耳側リム40302010-20-100開始時1.5hr3hr4.5hr6hr(%)403020100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hrd.視神経乳頭近傍上耳側網膜**##(%)20100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hre.視神経乳頭近傍下耳側網膜*あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013407 子(EDCF)の分泌抑制作用により末梢血管抵抗を減少させることでこれらの副作用の軽減があるとされている2,9.11).今回筆者らの正常眼を用いた検討では,視神経乳頭近傍上耳側網脈絡膜血流がミケランRLA2%点眼により,点眼3および6時間後に有意に増加するという結果が得られた.この機序として,ミケランRLA2%点眼眼で眼灌流圧が下降せず保たれていたことから,ISAによるEDRFの分泌亢進およびEDCFの分泌抑制作用による末梢血管抵抗の減少に伴って視神経乳頭および網脈絡膜毛細血管が拡張したためと考えられる.現在までに種々の抗緑内障点眼薬を用いた眼血流への効果をみた研究報告が散見される3.6)が,緑内障眼を用いたものが多く,ある程度の血流増加作用の報告はあるものの,筆者らが調べたかぎりにおいて正常眼を用いた研究ではそのような効果の報告は少ない7,8).正常眼圧緑内障眼においては正常人眼に比べ血流量が低下していること,さらに乳頭血流量は乳頭陥凹や視野障害の程度と負の相関があることが報告されている12,13).これらの事実は視神経乳頭の血流動態が緑内障と密接に関係していることを示唆するものである.したがって,正常眼に比べて緑内障眼ではすでに視神経乳頭周囲の血流が低下しているため,抗緑内障点眼薬のもつ血流への影響が正常眼に比べて出やすい可能性がある.今回筆者らの検討においても視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜ではミケランRLA2%点眼による眼血流量の増加がみられたのに対し,下耳側リムおよび乳頭近傍下耳側網脈絡膜ではみられなかった.これは解剖学的にいわゆるI’SNTの法則により視神経乳頭下方の神経線維が最も多く,それに伴って血流の予備能も多いため効果がマスクされた可能性が考えられた.正常人眼では視神経乳頭血流量は加齢とともに減少することが知られている12).緑内障眼では視神経乳頭血液循環のautoregulation機構が破綻するため,加齢変化以上に乳頭血流量が低下するのかもしれない.したがって,低下した血流量を抗緑内障点眼薬などにより生涯にわたり改善することができれば,緑内障の進行をある程度阻止できる可能性が期待できる.2008年,Kosekiら14)は正常眼圧緑内障患者にカルシウム拮抗薬であるニルバジピンを3年間投与し,ニルバジピン群はプラセボ群に比しHumphrey視野のMD(標準偏差)の傾きが有意に低下し,かつ視神経乳頭血流量が有意に増加したと報告した.ごく最近筆者らの研究グループは,2年間の前向き2重盲検試験においてサプリメントとしてのカシスアントシアニンが緑内障患者の視野進行の阻止と眼血流の上昇をもたらすことを報告した15).この事実は乳頭血流を改善することによって視野障害の進行を阻止しうる可能性を示唆している.したがって,今回筆者らが得たミケランR408あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013LA2%点眼による眼血流量の増加作用,しかも点眼6時間後にも血流が増加していた事実は慢性疾患である緑内障の治療を考えると望ましいものであり,緑内障神経保護治療の選択肢として有用な示唆を与えるものであると考えられる.文献1)早水扶公子,田中千鶴,山崎芳夫:正常眼圧緑内障における視野障害と視神経乳頭周囲網膜血流との関係.臨眼52:627-630,19982)新家眞:レーザースペックル法による生体眼循環測定─装置と眼科研究への応用.日眼会誌103:871-909,19993)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸レボブノロール長期点眼の人眼眼底末梢循環に及ぼす影響.臨眼60:1841-1845,20064)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20095)前田祥恵,今野伸介,清水美穂ほか:緑内障眼における1%ブリンゾラミド点眼の視神経乳頭および傍乳頭網膜血流に及ぼす影響.あたらしい眼科22:529-532,20056)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸ブナゾシン点眼の人眼・眼底末梢循環に及ぼす影響.眼紀55:561-565,20047)今野伸介,田川博,大塚賢二:塩酸ブナゾシン点眼の正常人眼視神経乳頭末梢循環に及ぼす影響.あたらしい眼科20:1301-1304,20038)廣辻徳彦,杉山哲也,中島正之ほか:ニプラジロール点眼による健常者の視神経乳頭,脈絡膜-網膜血流変化の検討.あたらしい眼科18:519-522,20019)戸松暁美:b遮断剤点眼薬カルテオロールの眼圧下降作用と網脈絡膜組織血流量に及ぼす影響.聖マリアンナ医科大学雑誌22:621-628,199410)三原正義,松尾信彦,小山鉄郎ほか:ビデオ蛍光血管造影と画像解析によるCarteolol(ミケランR)点眼における網膜平均循環時間の検討.TherapeuticResearch10:161-167,198911)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199712)永谷健,田原昭彦,高橋広ほか:正常眼および正常眼圧緑内障における視神経乳頭と脈絡膜の循環.眼臨95:1109-1113,200113)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭および傍乳頭網脈絡膜血流と視野障害の関連性.眼科48:525-529,200614)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,200815)OhguroH,OhguroI,KataiMetal:Two-yearrandomized,placebo-controlledstudyofblackcurrantsanthocyaninsonvisualfieldinglaucoma.Ophthalmologica228:26-35,2012(122)

ラタノプロスト・β遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)1017《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(7):1017?1021,2011cはじめに緑内障性視神経障害には眼圧以外の因子として眼循環障害の関与が示唆され,緑内障治療として緑内障点眼薬のもつ眼圧下降効果のほかに血流改善効果が期待されている.単剤投与における緑内障点眼薬の視神経乳頭血流への影響はすでに多くの報告があるが,臨床的にしばしば行われる併用療法に〔別刷請求先〕柴田真帆:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-shi,Osaka569-8686,JAPANラタノプロスト・b遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化柴田真帆*1杉山哲也*1小嶌祥太*1岡本兼児*2高橋則善*2植木麻理*1池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2(有)ソフトケアOpticNerveHeadBloodFlowChangesInducedbyLong-ActingBeta-BlockerAdditiontoLatanoprostinPrimaryOpen-AngleGlaucomaMahoShibata1),TetsuyaSugiyama1),ShotaKojima1),KenjiOkamoto2),NoriyoshiTakahashi2),MariUeki1)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)SoftcareLtd.目的:ラタノプロスト点眼とb遮断持続性点眼液の併用が原発開放隅角緑内障における視神経乳頭血流に及ぼす影響を検討した.対象および方法:対象は大阪医科大学附属病院緑内障外来通院中の,ラタノプロスト点眼を単剤で4週間以上継続している広義の原発開放隅角緑内障患者10例10眼.ラタノプロスト点眼にチモロールまたはカルテオロール持続性点眼液を2カ月間併用し,その後もう一方のb遮断薬を2カ月間併用し,併用前後の眼圧,視神経乳頭血流,血圧,脈拍数を測定するクロスオーバー試験を行った.b遮断薬の順序は封筒法による無作為割付で決定した.結果:両b遮断薬とも併用後に有意な眼圧下降効果が得られ,両群間に差はなかった.視神経乳頭を上下,耳鼻側に4分割し,視神経乳頭陥凹部を除いた辺縁部組織血流解析では上下,耳側においてカルテオロール併用時にのみ有意な血流増加を認めた.結論:ラタノプロスト・カルテオロール持続性点眼併用により視神経乳頭血流が増加し,その機序としてカルテオロールの血管拡張作用が考えられた.Purpose:Toevaluatetheinfluencesofadditivetherapy,withlong-actingbeta-blockerinstillationaddedtolatanoprost,ontheopticnervehead(ONH)bloodflowinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG).SubjectsandMethods:Subjectscomprised10eyesof10POAGpatientswhohadbeenontopicallatanoprostformorethan4weeks.Intraocularpressure(IOP),ONHbloodflow(laserspekckleflowgraphy),bloodpressureandpulserateweremeasuredbeforeandat2monthsaftertherapywithlatanoprostplus0.5%timololor2%carteolollong-actinginstillations,inacrossoverstudyusingtheenvelopemethod.Results:TheadditionoftimololorcarteololtolatanoprostsignificantlydecreasedIOP,withnosignificantdifferencenotedbetweenthetwoadditivetherapies.Analysisofbloodflowin4sectionsoftheONHrimshowedthatthecombinedtherapyoflatanoprostandcarteololsignificantlyincreasedbloodflowintheupper,lowerandtemporalsections.Conclusions:Therapywith2%carteolollong-actinginstillationaddedtolatanoprostincreasedONHbloodflow,probablyduetothevasodilatingactionoftheagent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1017?1021,2011〕Keywords:カルテオロール,レーザースペックルフローグラフィー,視神経乳頭血流,視神経乳頭辺縁部,併用療法.carteolol,laserspeckleflowgraphy,opticnerveheadbloodflow,rim,combinedtherapy.1018あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(114)おける視神経乳頭血流への影響についてはまだ報告が少なく,これまでラタノプロスト点眼,持続性ではないb遮断薬点眼液併用による視神経乳頭血流の変化が報告されている1).今回,ラタノプロスト点眼とb遮断持続性点眼液との併用が視神経乳頭血流に及ぼす影響を検討した.I方法および対象対象は大阪医科大学附属病院緑内障外来通院中のラタノプロスト点眼を単剤で4週間以上継続している広義の原発開放隅角緑内障患者のうち本研究参加への同意が得られた10例10眼(男性4例4眼,女性6例6眼,年齢38?76歳)である.内眼手術既往歴のあるもの,b遮断薬禁忌症例,コントロール不良の糖尿病・高血圧合併症例,喫煙者は除外した.ラタノプロスト点眼(キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー製薬,東京)を1日1回夜点眼して4週間以上継続している患者に,チモロール(チモプトールRXE点眼液0.5%,参天製薬,大阪)もしくはカルテオロール(ミケランRLA点眼液2%,大塚製薬,東京)の持続性点眼液を1日1回朝点眼して2カ月併用し,その後もう一方のb遮断薬を2カ月併用して併用前後の眼圧,血圧,脈拍数,レーザースペックル法による視神経乳頭血流を測定するクロスオーバー試験を行った.b遮断薬の順序は封筒法による無作為割付で決定した.眼圧,血圧,脈拍数,血流の測定は朝の点眼2?3時間後とし,同一患者については最初の測定時刻±1時間に測定した.眼圧測定はGoldmann圧平眼圧計を用い,血圧,脈拍は自動血圧計を用いた.血流測定方法としてレーザースペックルフローグラフィー,LSFG-NAVITM(ソフトケア,福岡)を用いた.すべての対象において0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)で散瞳後に同一検者が乳頭血流の測定をした.その測定原理については既報のとおり2)であるが,LSFGNAVITMでは取り込んだスペックル画像からLSFG解析ソフトversion3,プラグインLayerViewer(いずれもソフトケア)を用いて合成血流マップを作製することができ,血流マップ上で解析する部位を四角形や円形で指定すると,その内部の組織血流量を反映したmeanblurrate(MBR)値が得られる.MBR値はSBR(squareblurrate)値に比例する値であり3),また,SBR値はNB(normalblur)値に相関する値である4).NB値は元来,血流速度の指標であるが,表在血管を避けた部位では組織血流量をも反映すると報告されている5).本研究ではまず血流測定部位を視神経乳頭耳側辺縁部の一部領域(以下,Temporalrectangle;図1a)とした.つぎに視神経乳頭を4分割(S:上方,T:耳側,I:下方,N:鼻側)し,以下の方法で乳頭陥凹部を除いた視神経乳頭辺縁部領域(以下,Srim,Trim,Irim,Nrim;図1b)を血流解析部位とした.この乳頭陥凹部を除いた辺縁部のみの血流解析方法は以前に筆者らが報告した6)とおりであるが,合成血流マップ上でマウスカーソルを使って視神経乳頭周囲境界線と除外する乳頭陥凹部を指定し,視神経乳頭内部の4分割線を決定する.つぎに組織血流値を得るため主要血管血流を除外して解析すると7),4分割した辺縁部の組織血流に対応する領域別MBR値が得られる.解析から除外する視神経乳頭陥凹はHidelbergRetinaTomographII(HeidelbergEngineering,Heidelberg,Germany)の結果から同一検者が判定した.各解析結果は3回測定における平均値とした.図1aTemporalrectangleの部位(左眼)大血管を除いた耳側の視神経乳頭辺縁部の組織血流を解析した.図1b視神経乳頭辺縁部4分割表示(左眼)斜線領域の乳頭陥凹部は除外し,4分割した視神経乳頭辺縁部のみの組織血流を解析した.(115)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111019また,今回の研究では4カ月の試験終了後にアンケート調査を実施した.開始2カ月後に現在の点眼で不具合があるかどうか,開始4カ月後に現在の点眼で不具合があるかどうか,終了時に今後どちらの点眼を続けたいか,その理由はなにかを患者聞き取りにて実施した.統計にはunpairedt-test,chi-squaretest,onewayanalysisofvariance(ANOVA)を用い,ANOVAで群間に有意差がみられた場合はTukeyの多重比較,もしくはDunnettの多重比較を行った.なお,p値が0.05未満を統計学的に有意であるとした.II結果症例の内訳を表1に示した.10例10眼のうちカルテオロール先行群は5例,チモロール先行群は5例であり,両群の年齢,性別,b遮断薬併用前の眼圧,本研究参加時のHumphrey自動視野計(CarlZeissMeditec,Dublin,CA)による視野検査でのmeandeviation(MD)値に有意差を認めなかった(それぞれp=0.46,unpairedt-test;p=0.19,chisquaretest;p=0.15,unpairedt-test;p=0.93,unpairedt-test).表2に症例全体をまとめた薬剤別眼圧の変化を示した.両剤ともラタノプロスト単独点眼時に比較して有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,Dunnett’stest)が,両剤の眼圧下降効果に有意差を認めなかった.平均血圧,眼灌流圧,脈拍数においてはb遮断薬併用による変化を認めなかった(それぞれp=0.25,p=0.71,p=0.78,onewayANOVA).Temporalrectangleの血流測定結果を図2に示した.ラタノプロスト単独点眼時を100%とするとカルテオロール点眼併用時の組織血流は112±15.6%(mean±SE)を示し,有意な血流増加を認めた(p<0.05,pairedt-test).図3に視神経乳頭辺縁部を4分割した領域別血流を示した.ラタノプロスト単独点眼時に比してカルテオロール点眼併用時のSrim,Trim,Irimに有意な血流増加を認めた(それぞれp<0.05,p<0.01,p<0.05,pairedt-test)が,チモロール点眼併用時にはすべての領域で有意な変化を認めなかった.また,視神経乳頭辺縁部の領域別血流変化率を薬剤別に比較した結果を図4に示した.ラタノプロスト単独点眼時を100%とするとカルテオロール点眼併用時のTrimは110±10.4%(mean±SE)を示し,他部位と比較した場合にNrimと比して有意な増加を認め(p<0.05,Tukeytest),Trimが最も血流改善効果のみられる領域であることが示された.使用後アンケート調査の結果を表3に示した.カルテオロール点眼で不具合を感じたのは1例で掻痒感が理由であっ表1患者内訳と背景全体カルテオロール先行群チモロール先行群p値(unpairedt-test)例数1055年齢(歳)59.3±13.363.2±10.755.4±15.60.46性別(男/女)4/61/43/20.19投与前眼圧(mmHg)MD値(dB)15.7±1.4?4.1±1.616.4±1.3?4.1±1.815.0±1.4?4.0±1.50.150.93(mean±SD)表2b遮断薬追加前後の眼圧,平均血圧,眼灌流圧,脈拍数の変化LL+CL+T眼圧(mmHg)15.7±1.412.9±2.0*12.8±1.6*平均血圧(mmHg)94.1±15.588.8±12.895.5±22.2眼灌流圧(mmHg)50.2±12.248.3±9.852.9±15.1脈拍数(/min)69.4±11.667.2±12.665.5±13.5(mean±SD)L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼とカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼とチモロール点眼併用.p<0.05,one-wayANOVA;*:p<0.01,Dunnett’stestcomparedtolatanoprostalone.8765432MBR値血流1201151101051009590%Baseline(%)血流変化率■:L■:L+C■:L+T(Mean±SE)**図2点眼後のTemporalrectangleにおける血流と血流変化率ラタノプロスト単独点眼時に比して,カルテオロール点眼併用時に有意な血流増加を認めた.L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼にカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼にチモロール点眼併用.*:p<0.05,pairedt-testcomparedtolatanoprostalone.1020あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(116)た.チモロール点眼で不具合を感じたのは5例で不具合の理由は霧視,べとつき感,刺激感であった.今後の点眼にカルテオロール点眼を希望したのは4例,使用感の良さが理由であった.チモロール点眼を希望したのは2例,使用感の良さと眼圧下降効果が良かったという理由であった.どちらの点眼でもいいというのは4例であった.また,チモロール点眼に霧視やべとつき感を感じて不具合があると回答した患者(チモロール先行群2例,カルテオロール先行群3例)と,チモロール点眼に不具合がないと回答した5例の患者(チモロール先行群3例,カルテオロール先行群2例)に有意差を認めず(p=0.52,chi-squaretest),チモロール点眼の不具合は点眼の先行もしくは後行に関係しないという結果であった.III考按循環異常と緑内障の関連を示唆する報告は多く,特に正常眼圧緑内障で視神経乳頭出血の頻度が高く8),視野進行に関与し9),視神経乳頭周囲網脈絡膜萎縮が視野障害と関連している10)ことなど,視神経乳頭循環障害が緑内障の進展に関与している可能性が考えられている.そのためこれまでにも,緑内障眼における視神経近傍の血流を測定する方法は多数報告されているが,レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)では視神経乳頭,脈絡膜,網膜,虹彩などの末梢循環の測定が可能であり,その正確さと高い再現性が得られること4)から,本研究ではLSFGの最新機種であるLSFGNAVITMを用いて視神経乳頭組織血流を測定した.筆者らは以前に,今回と同様のLSFG-NAVITMを用いた視神経乳頭辺縁部血流解析において,緑内障病期や視神経乳頭測定部位にかかわらず変動係数10%未満という高い再現性が得られる6)ことを報告している.眼循環障害と緑内障性視神経障害との関連から,緑内障治療として眼圧下降効果のほかに血流改善効果をもつ薬剤の検表3使用後アンケート調査Q1:点眼の不具合不具合なし不具合あり(理由)カルテオロール点眼9例1例(掻痒感)チモロール点眼5例5例(霧視4例,べとつき2例,刺激感1例:重複回答あり)Q2:今後の点眼の選択理由カルテオロール点眼4例使用感が良いチモロール点眼2例使用感が良い,眼圧が下降したどちらでも4例Nrim14131211101413121110Irim98765Trim151413121110MBR値MBR値Srim****■:L■:L+C■:L+T(Mean±SE)図3点眼後の乳頭辺縁部領域別血流ラタノプロスト単独点眼時に比して,カルテオロール点眼併用時のSrim,Trim,Irimに有意な血流増加を認めた.L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼にカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼にチモロール点眼併用.*:p<0.05,**:p<0.01,pairedt-testcomparedtolatanoprostalone.12011511010510095LL+CL+T%baseline(%)■:Srim■:Trim■:Irim■:Nrim(Mean±SE)*図4乳頭辺縁部血流変化率の領域別比較(点眼別)ラタノプロスト単独点眼時を100%とする%baseline表示である.カルテオロール点眼併用時のTrimは他部位と比較して有意な増加を認めた.L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼にカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼にチモロール点眼併用.p<0.05,onewayANOVA;*:p<0.05,Tukeytest.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111021討がなされている.単剤投与における緑内障点眼薬の視神経乳頭血流への影響はすでに多くの報告があるが,臨床的にしばしば行われる併用療法の影響についてはまだヒト眼での報告が少なく1),本研究ではラタノプロスト点眼にチモロール点眼,カルテオロール点眼(いずれも持続性点眼液)を追加する併用療法における視神経乳頭血流について検討した.今回検討したb遮断薬の単剤投与における視神経乳頭血流変化について,正常ヒト眼においてチモロール点眼は視神経乳頭血流を変化させず,カルテオロール点眼は増加させるという報告11)がある.本研究では原発開放隅角緑内障眼においてであるが,同様の結果であり,カルテオロール点眼併用時にのみ血流改善効果を認めた.今回の結果は,ラタノプロスト点眼に持続性ではない1日2回点眼の2%カルテオロール点眼を併用して視神経乳頭血流が増加したとする過去の報告1)と同様であり,耳側乳頭辺縁部領域Temporalrectangleにおいて10%の血流改善率を認めた.また,カルテオロール点眼群ではSrim,Trim,Irimにおいて血流改善を認め,他領域と比較してTrimに有意な改善率を認めた.筆者らは以前に原発開放隅角緑内障眼において,病期の進行とともに耳側の視神経乳頭血流が低下することを報告した6).今回の結果と合わせて,耳側視神経乳頭血流は変化を受けやすい部位であると考えられた.チモロール点眼,カルテオロール点眼併用時の眼圧下降効果はそれぞれ17.0%,18.1%であり,併用による有意な眼圧下降を認め,この結果はこれまでの報告12,13)と同様であった.しかし,これらb遮断薬点眼併用前後で全身循環パラメータに有意な変化を認めず,眼灌流圧においても両剤とも点眼併用で有意な変化を認めなかった.しかし,カルテオロール点眼併用時にのみ視神経乳頭血流が増加したことから,血流増加は眼圧下降に伴う眼灌流圧上昇によるものではなく,カルテオロールによる直接的血管拡張作用によるものと考えた.その機序として,カルテオロールによる内因性交感神経刺激作用14)や内皮依存性血管弛緩作用15)の関与が考えられた.今回検討したアンケート結果により,チモロール点眼の不具合は先行か後行かに関係なく霧視やべとつき感を自覚する患者が多く,カルテオロール点眼のほうが差し心地が良いという結果となった.しかし,チモロール点眼に不具合があるが眼圧下降効果が良かったため,今後同点眼を希望した患者が1例あり,不具合の程度にもよるが,患者にとっても眼圧下降効果が第一選択基準となることをうかがわせた.本研究で,ラタノプロスト点眼加療中の原発開放隅角緑内障患者においてチモロールまたはカルテオロール持続性点眼液併用により有意な眼圧下降が得られ,カルテオロール持続性点眼併用により視神経乳頭血流の増加を認めた.今後多数例での長期的な検討が必要であるが,カルテオロール持続性点眼液は眼圧下降効果に加えて血流改善効果が期待できると考えられた.文献1)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20092)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Noncontact,twodementionalmeasurementofretinalmicrocircurationusinglaserspecklephenomenon.InvestOphthalmolVisSci35:3825-3834,19943)KonishiN,TokimotoY,KohraKetal:NewlaserspeckleflowgraphysystemusingCCDcamera.OpticalReview9:163-169,20024)SugiyamaT,AraieM,RivaCEetal:Useoflaserspeckleflowgrapyinocularbloodflowresearch.ActaOphthalmol88:723-729,20105)SugiyamaT,UtsumiT,AzumaIetal:Measurementofopticnerveheadcirculation:comparisonoflaserspeckleandhydrogenclearancemethods.JpnJOphthalmol40:339-343,19966)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVIを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしい眼科27:1279-1285,20107)岡本兼児,レーフントゥイ,高橋則善ほか:LaserSpeckleFlowgraphyによる網膜血管血流解析.あたらしい眼科27:256-259,20108)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemorrhageinlow-tensionglaucoma.Ophthalmology93:853-857,19869)DranceSM,FaircloughM,ButlerDMetal:Theimportanceofdischemorrhageintheprognosisofchronicopenangleglaucoma.ArchOphthalmol95:226-228,199710)RockwoodEJ,AndersonDR:Acquiredperipapillarychangesandprogressioninglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol226:510-515,198811)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199712)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,200213)StewartWC,DayG,SharpeEDetal:Efficacyandsafetyoftimololsolutiononcedailyvs.timololgeladdedtolatanoprost.AmJOphthalmol128:692-696,199914)YabuuchiY,KinoshitaD:Cardiovascularstudiesof5-(3-tert-butylamino-2-hydroxy)propoxy-3,4-dyhydrocarbostyrilhydrochloride(OPC-1085),anewpotentbetaadrenergicblockingagent.JpnJPharmacol24:853-861,197415)JanczewskiP,BoulangerC,IqbalAetal:Endotheliumdependenteffectsofcarteolol.JPharmacolExpTher247:590-595,1988