《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(8):1083.1086,2019cカルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼液の眼圧下降効果の検討良田浩氣安樂礼子石田恭子榎本暢子富田剛司東邦大学医療センター大橋病院眼科CE.ectsofCarteololHydrochloride/LatanoprostCombinationOphthalmicSolutiononIntraocularPressureReductionKokiYoshida,AyakoAnraku,KyokoIshida,NobukoEnomotoandGojiTomitaCDepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼液(CAR/LAT)への変更による眼圧下降効果に関与する因子の検討.対象および方法:他剤からの変更で新規にCCAR/LATが投与され,3カ月間経過観察可能であった緑内障症例38例73眼(男性10例,女性C28例,年齢64.0C±12.9歳).点眼前後の眼圧,眼圧下降に関与する因子を検討した.結果:病型は原発開放隅角緑内障C24眼,正常眼圧緑内障C45眼,続発緑内障C4眼であった.変更前の眼圧はC14.3C±2.2CmmHg,3カ月後はC13.5C±2.3CmmHgで有意に下降を認めた(p<0.001).3カ月後の眼圧下降率において,病型間では有意差を認めなかったが,変更前の点眼の種類では有意差を認めた.重回帰分析の結果,変更前の眼圧が高いと眼圧下降率も高い傾向がみられた.結論:CAR/LATに変更により眼圧は有意に下降し,変更前の眼圧と点眼の種類が眼圧下降に関与していた.CPurpose:ToCevaluateCe.ectsCofCcarteololChydrochloride/latanoprostCcombinationCophthalmicsolution(CAR/LAT)onintraocularpressure(IOP)reductionandfactorsrelatedtothee.ects.Methods:Subjectswere73eyesof38patientswithglaucomawhoreceivedCAR/LATasareplacementfortheirpreviouseyedrops.TheamountandCrateCofCIOPCreductionCatC3CmonthsCafterCswitchingCwereCexamined.CE.cacyCofCIOPCreductionCwasCcomparedCamongCsubtypesCofCglaucomaCandCtypesCofCpreviousCeyeCdrops.CResults:IOPCdecreasedCsigni.cantlyCafterCswitch-ing.Therewassigni.cantdi.erenceinrateofIOPreductionamongtypesofpreviouseyedrops,butnotamongsubtypesofglaucoma.HigherIOPbeforeswitchingwasafactorrelatedtorateofIOPreduction.Conclusion:IOPsigni.cantlyCreducedCafterCswitchingCtoCCAR/LAT.CTheChigherCIOPCbeforeCswitchingCtoCCAR/LATCandCtypesCofCpreviouseyedropswererelatedtothehigherrateofIOPreductionat3months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(8):1083.1086,C2019〕Keywords:カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼液,緑内障,眼圧,変更.carteololhydrochloride/Clatanoprostcombinationophthalmicsolution,glaucoma,interocularpressure,switching.Cはじめに緑内障における点眼治療では,十分な眼圧下降効果を得るため点眼薬剤数が増えることが多い.多剤の併用は副作用の増加やアドヒアランスの低下につながる可能性があり,アドヒアランスの向上のために点眼回数を減らすことのできる配合剤の使用の考慮が緑内障ガイドラインに明記されている1).2017年C1月より世界に先駆けてわが国で販売が開始されたカルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼液(CAR/LAT)は,プロスタグランジン(PG)関連薬と非選択性Cb遮断薬の配合剤による眼圧下降薬である.今まで販売されていたCPG関連薬とCb遮断薬の配合剤にはCb遮断薬としてはすべてチモロールが配合されていたが,カルテオロールはチモロールに比べて循環器や呼吸器などへの副作用が少ないことが報告されている2,3).また,点眼薬の保存薬として一般的〔別刷請求先〕良田浩氣:〒153-8515東京都目黒区大橋C2-22-36東邦大学医療センター大橋病院眼科医局Reprintrequests:KokiYoshida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter,2-22-36Ohashi,Meguro-ku,Tokyo153-8515,JAPANCに使用されるベンザルコニウム塩化物(bezalkoniumCchlo-raide:BAC)は角膜障害を引き起こすことが知られているが4),本剤は保存剤としてアルギン酸を使用しており,角膜障害が他剤より少ないことが予想されている.CAR/LATの眼圧下降効果については,カルテオロールまたはラタノプロスト点眼と比較した論文はあるが5),他剤からCCAR/LATへの変更後の眼圧下降効果や,その眼圧下降効果へ寄与する因子を検討した報告はまだ少ない.今回,筆者らは他剤からCAR/LATへの変更後の眼圧下降効果とそれに関与する因子について検討した.CI対象および方法1.対象および測定方法この研究はカルテレビューによる後ろ向き研究で,東邦大学医療センター大橋病院の倫理委員会の承認を得て行った(承認番号CH18012).対象は2017年4月.2018年1月までに東邦大学医療センター大橋病院で他剤からの切り替えでCAR/LATが新規に処方され,3カ月以上経過観察が可能であった緑内障症例C43例C82眼うち,アレルギー症状が出現C20p<0.00119したC4例C7眼,経過中に他の緑内障点眼薬の変更があったC1例2眼を除いた38例73眼(男性10例17眼,女性28例56眼,年齢C64.0C±12.9歳)である.病型別の内訳は原発開放隅角緑内障C24眼,正常眼圧緑内障C45眼,続発緑内障(落屑緑内障を含む)4眼であった.点眼薬変更の理由の内訳は,他剤での点眼薬アレルギーC6眼,アドヒアランスの向上目的C8眼,角膜障害の改善目的C13眼,治療強化C46眼であった.変更前の薬剤の内訳はCb遮断薬C6眼,PG関連薬C32眼,配合剤を含むCPG関連薬とCb遮断薬併用(PG+b)33眼,その他2眼(Cb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の配合剤)であった.眼圧測定はCGoldmann圧平式眼圧計を用い,変更前後で同一の緑内障外来担当医が測定した.角膜障害の評価は,点眼薬変更前後に細隙灯顕微鏡を用いてフルオレセイン染色下で点状表層角膜症についての記載がある症例のみ用いた.C2.解.析.方.法CAR/LATへの点眼薬変更前眼圧と変更C3カ月後の眼圧変化は対応のあるCt検定を行った.点眼薬変更C3カ月後の眼圧下降率に関して,病型別,変更前点眼の種類別,変更前のCPG+bの種類別の比較には,一元配置分散分析を用いた.点眼薬変更C3カ月後の眼圧下降率に寄与する因子の検討として,目的変数を点眼薬変更C3カ月後の眼圧下降率,説明変数を年齢,性別,変更前眼圧,病型,meandeviation値,変18更前の点眼の種類としてCStepwise法による重回帰分析を行C17った.変更前の点眼に関しては,PG+bとそれ以外の点眼1615薬のC2群に分けて解析した.検定の有意水準はCp<0.05としC14た.C13眼圧(mmHg)121110II結果全症例(n=73)での点眼薬変更前後の眼圧は,変更前の14.3mmHgから3カ月後にC13.5mmHgへと有意に下降した図1変更前と変更後3カ月の眼圧推移(p<0.001)(図1).変更前の点眼薬の種類別では,Cb遮断薬C1919変更前3カ月後有意水準:p<0.051913.8±1.313.7±2.4p=0.79110910109898変更前3カ月後変更前3カ月後変更前3カ月後b遮断薬(n=6)PG(n=32)PG+b(n=33)有意水準:p<0.05814.6±2.413.3±2.117p<0.0011713.7±3.4p=0.04512.2±2.5181818眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)16161515141413131211図2変更前の点眼別での眼圧推移1520病型間にて有意差なし-10-40眼圧下降率(%)眼圧下降率(%)眼圧下降率(%)1050-10-20-5-30-509.6±10.9%7.8±8.2%0.7±13.9%正常眼圧緑内障開放隅角緑内障続発緑内障(n=45)(n=24)(n=4)有意水準:p<0.05図3病型別の眼圧下降率203群間にて有意差なし151050-5-10-15-20-250.7±7.4%-1.7±20.3%3.9±13.0%カルテオロール+チモロール+その他ラタノプロストラタノプロスト(n=8)(n=14)(n=11)有意水準:p<0.05図5PG+bの種類別の眼圧下降率b遮断薬PGPG+b(n=6)(n=32)(n=33)有意水準:p<0.05図4変更前点眼分類別の眼圧下降率III考察本研究において,Cb遮断薬あるいはCPG単剤からCCAR/LATへの変更では有意に眼圧が下降し,PG+bからのCAR/LATへの変更では有意な眼圧下降は認めなかったが,YamamotoらがCCAR/LATの眼圧下降作用は,カルテオロールまたはラタノプロストの単剤より有意に高く,カルテオロールとラタノプロストとの併用療法とは同等の効果だったことを報告しており5),それに準ずる結果であった.変更前点眼薬別のC3カ月後の眼圧下降率は,変更前の点眼薬がCb遮断薬の群(n=6)はC9.6%,PG関連薬の群(n=32)はC7.8%,CPG+bの群(n=33)はC0.7%で,Cb遮断薬からの変更がもっとも下降率が高い傾向にあったが,群間比較において統計学的には他群との有意差を認めなかったのは,Cb遮断薬群の症からの変更がC13.7CmmHgからC12.2CmmHg(p=0.045),PGからの変更がC14.6CmmHgからC13.3CmmHg(p<0.001)と有意に下降したが,PG+bからの変更ではC13.8CmmHgから13.7CmmHg(p=0.791)と有意な変化は認めなかった(図2).病型別の眼圧下降率では,続発緑内障で下降率が低い傾向であったが有意差は認めなかった(図3).変更前の点眼薬の種類別ではその他のC2眼を除き,変更前点眼薬がCb遮断薬,PG関連薬,PG+bのC3群間で比較した結果,PG関連薬から変更した群が,PG+bから変更した群と比べて有意に高い眼圧下降率を認めた(図4).PG+bの種類別での眼圧下降率の比較では有意差を認めなかった(図5).3カ月後の眼圧下降率を目的変数とした重回帰分析では,変更前眼圧が高値であることが眼圧下降率高値(傾きC1.216,Cb=0.227,95%信頼区間C0.021.2.411,p=0.046)と,変更前点眼薬がCPG+b以外であることが眼圧下降率高値(傾きC6.754,Cb=0.286,95%信頼区間C1.494.12.014,Cp=0.013)と関連していた.点眼薬変更前後の角膜上皮障害の変化を検討できたC44眼において,変更前に角膜障害を認めたC19眼のうちC12眼(63.1%)で角膜障害の改善を認めた.例数が少なかったことが原因として考えられた.しかしながら,今回の重回帰分析では,変更前点眼薬がCPG+b以外であることが,眼圧下降率高値と関連した.病型別の眼圧下降率においては,続発緑内障の眼圧下降率が低い傾向であったが統計学的には有意差を認めず,今後,続発緑内障の症例数を増やして再検討する必要があると思われた.重回帰分析にて,変更前点眼薬のほかに変更前の眼圧も有意な説明因子となり,変更前の眼圧が高いほど眼圧下降率が高い傾向であるのは,過去のラタノプロストの報告と同じであった6,7).緑内障の点眼薬治療における多剤併用時に問題になる副作用の一つに,点眼薬の防腐剤曝露の増加があるが,CAR/LATはCBACを含まないため,有用な可能性がある.今回の研究においても,変更前に角膜障害を認めていた症例の19眼のうちC12眼(63.1%)で角膜上皮障害の改善を認め,改善したC12眼のうちC10眼は変更前の薬剤にCBACを含んでいたため,BACを含む点眼を使用し角膜上皮障害のある症例では,CAR/LATに変更することによって角膜上皮障害が軽減する可能性があると考えらえた.最近の報告では,BAC非含有であるトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(デュオトラバCR)からCCAR/LATへの変更で,点状表層角膜症スコアの改善を認め,アルギン酸の創傷治癒作用や水保持作用が改善の一因になった可能性があることを報告しており8),CAR/LATへの変更は,BAC非含有の点眼で生じている角膜上皮障害をも軽減する可能性が示唆されている.本研究において,CAR/LAT変更よりアレルギー症状が出現したC4例C7眼は解析から除外されているが,アレルギー症状の出現率はC82眼中C7眼(8.5%)で,杉原らの報告(9.5%)9)とほぼ同等であった.本研究は変更前と変更後C3カ月後のC1回ずつの眼圧測定のみで眼圧下降評価を行っているが,今後,変更前後複数回の眼圧測定で再評価をする必要がある.なお,本研究で変更C1カ月後とC3カ月後の眼圧が測定できたC22例C43眼では,変更前眼圧はC13.9C±2.0CmmHg,1カ月後はC12.6C±1.3CmmHg,3カ月後はC12.8C±1.5CmmHgであり,いずれも変更前と比べて有意に眼圧下降を認めていた(p<0.001).以上,CAR/LATへの点眼薬変更後の眼圧下降効果とそれに関与する因子について検討した結果,緑内障症例においてCCAR/LATへの変更により眼圧は有意に下降し,変更前の点眼薬の種類と眼圧が眼圧下降効果に関与していた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)谷原秀信,相原一,稲谷大ほか:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculare.ectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmale-ateinpatientswithocularhypertensionandprimaryopen-angleCglaucoma.CNightCStudyCGroup.CAmCJCOphthalmolC123:465-477,C19973)佐野靖之,村上新也,工藤宏一郎:気管支喘息患者に及ぼすCb-遮断点眼薬の影響;CarteololとCTimololとの比較.現代医療16:1259-1263,C19844)NakagawaCS,CUsuiCT,CYokooCSCetal:ToxicityCevaluationCofCantiglaucomaCdrugsCusingCstrati.edChumanCcultivatedCcornealCepithelialCsheets.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:C5154-5160,C20125)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteolol/latanoprostC.xedCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C20166)RuloAH,GreveEL,GeijssenHCetal:Reductionofintra-ocularCpressureCwithCtreatmentCofClatanoprostConceCdailyCinpatientswithnormal-pressureglaucoma.Ophthalmolo-gyC103:1276-1282,C19967)TamadaY,TaniguchiT,MuraseHetal:IntraocularpresC-sure-loweringe.cacyoflatanoprostinpatientswithnor-mal-tensionglaucomaorprimaryopen-angleglaucoma.JOculPharmacolTherC17:19-25,C20018)高田幸尚,宮本武,岩西宏樹ほか:他剤配合点眼薬からカルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼薬へ変更後の角膜上皮障害の変化.臨眼72:1579-1584,C20189)杉原瑶子,井上賢治,石田恭子ほか:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の処方パターンと眼圧下降効果,安全性.眼臨紀11:657-662,C2018***