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小切開硝子体手術における術中サンプル収集方法の検討

2014年11月30日 日曜日

1706あたらしい眼科Vol.4101,211,No.3(00)1706(140)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1706.1710,2014cはじめに眼科領域においては硝子体手術の適応となる網膜・硝子体疾患は多様であり,わが国では年間に10万件以上もの硝子体手術が行われている1).かつて硝子体手術は20ゲージ(20G)硝子体手術が主流であったが2),2002年以降,小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)である25ゲージ(25G)硝子体手術システムが確立され3),また,2005年には23ゲージ(23G)硝子体手術システムなど〔別刷請求先〕兼子裕規:〒466-8550愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65番地名古屋大学大学院医学系研究科眼科学Reprintrequests:HirokiKaneko,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,65Tsuruma-cho,Showa-ku,Nagoya466-8550,JAPAN小切開硝子体手術における術中サンプル収集方法の検討黒川幸延*1,2兼子裕規*1浅見哲*1岩瀬剛*1寺崎浩子*1*1名古屋大学大学院医学系研究科眼科学講座*2市立四日市病院眼科AssessmentforCollectingVitreoretinalTissuesinMicroincisionVitrectomySurgeryYukinobuKurokawa1,2),HirokiKaneko1),TetsuAsami1),TakeshiIwase1)andHirokoTerasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,YokkaichiMunicipalHospital目的:クロージャーバルブ付きトロカールを使用した小切開硝子体手術時(MIVS)における網膜硝子体組織採取の方法について検討する.対象および方法:23ゲージ(23G)もしくは25ゲージ(25G)クロージャーバルブ付きトロカールを用いてMIVSを行った26眼に対し,以下の3種類の組織採取方法を用いて組織採取の可否を検討した.①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを介さない状態で眼外に摘出する,③収納可能なVitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する.結果:①の方法で25GMIVSを行うと全例で組織採取が困難であった.②の方法では比較的組織採取が可能であったが,手術途中でトロカールを抜去することによる合併症などが懸念された.③の方法では25GMIVSでも組織を採取することが可能であったが,増殖膜など比較的固い組織の採取は困難であった.結論:増殖膜など比較的強固な組織を摘出する場合は,結膜を計画的に切開したうえで23GMIVSを用い,把持したまま組織の摘出を試みるか,仮に摘出できなくてもトロカールごと抜いて摘出する手技が有効である.内境界膜など柔らかい組織の採取には,25GMIVSを通常どおり採用し,トロカールは経結膜的に留置したうえでVitSweeperTMを用いた組織採取が可能である.Purpose:Toassessappropriatemethodsofcollectingvitreoretinaltissuesduring23-gauge(23G)or25-gauge(25G)closurevalve-equippedmicroincisionvitrectomysurgery(MIVS).Methods:Weassessedthreedifferentmethodsofcollectingtissuesduring23Gor25Gclosurevalve-equippedMIVS.Subjectswere26eyeswithvariousvitreoretinaldiseases,fromwhichtissueswereremovedduringsurgery.Results:Inclosurevalve-equipped23GMIVS,withdrawalofthetrocar,followedbyforcepsremovalthroughthescleralincision,enabledcollectionofvitreoretinaltissues.In25GMIVS,vitreoretinaltissueswerenotsuccessfullycollectedwhenpulledthroughatrocarwithaclosurevalve.UseofaVitSweeperTMenabledsuccessfulcollectionoftissuesinclosurevalve-equipped25GMIVSonlywhenthetissueswererelativelysoft.Conclusions:Thenewtechnique,usingaVitSweeperTMtocollecttissuesduring25Gclosurevalve-equippedMIVS,isusefulonlywhenremovingrelativelysoftvitreoretinaltissues.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1706.1710,2014〕Keywords:小切開硝子体手術,クロージャーバルブ付きトロカール,VitSweeperTM,網膜硝子体組織採取.mi-cro-incisionvitrectomysurgery(MIVS),closurevalve-featuredtrocar,VitSweeperTM,collectingvitreoretinaltis-sues.(00)1706(140)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1706.1710,2014cはじめに眼科領域においては硝子体手術の適応となる網膜・硝子体疾患は多様であり,わが国では年間に10万件以上もの硝子体手術が行われている1).かつて硝子体手術は20ゲージ(20G)硝子体手術が主流であったが2),2002年以降,小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)である25ゲージ(25G)硝子体手術システムが確立され3),また,2005年には23ゲージ(23G)硝子体手術システムなど〔別刷請求先〕兼子裕規:〒466-8550愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65番地名古屋大学大学院医学系研究科眼科学Reprintrequests:HirokiKaneko,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,65Tsuruma-cho,Showa-ku,Nagoya466-8550,JAPAN小切開硝子体手術における術中サンプル収集方法の検討黒川幸延*1,2兼子裕規*1浅見哲*1岩瀬剛*1寺崎浩子*1*1名古屋大学大学院医学系研究科眼科学講座*2市立四日市病院眼科AssessmentforCollectingVitreoretinalTissuesinMicroincisionVitrectomySurgeryYukinobuKurokawa1,2),HirokiKaneko1),TetsuAsami1),TakeshiIwase1)andHirokoTerasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,YokkaichiMunicipalHospital目的:クロージャーバルブ付きトロカールを使用した小切開硝子体手術時(MIVS)における網膜硝子体組織採取の方法について検討する.対象および方法:23ゲージ(23G)もしくは25ゲージ(25G)クロージャーバルブ付きトロカールを用いてMIVSを行った26眼に対し,以下の3種類の組織採取方法を用いて組織採取の可否を検討した.①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを介さない状態で眼外に摘出する,③収納可能なVitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する.結果:①の方法で25GMIVSを行うと全例で組織採取が困難であった.②の方法では比較的組織採取が可能であったが,手術途中でトロカールを抜去することによる合併症などが懸念された.③の方法では25GMIVSでも組織を採取することが可能であったが,増殖膜など比較的固い組織の採取は困難であった.結論:増殖膜など比較的強固な組織を摘出する場合は,結膜を計画的に切開したうえで23GMIVSを用い,把持したまま組織の摘出を試みるか,仮に摘出できなくてもトロカールごと抜いて摘出する手技が有効である.内境界膜など柔らかい組織の採取には,25GMIVSを通常どおり採用し,トロカールは経結膜的に留置したうえでVitSweeperTMを用いた組織採取が可能である.Purpose:Toassessappropriatemethodsofcollectingvitreoretinaltissuesduring23-gauge(23G)or25-gauge(25G)closurevalve-equippedmicroincisionvitrectomysurgery(MIVS).Methods:Weassessedthreedifferentmethodsofcollectingtissuesduring23Gor25Gclosurevalve-equippedMIVS.Subjectswere26eyeswithvariousvitreoretinaldiseases,fromwhichtissueswereremovedduringsurgery.Results:Inclosurevalve-equipped23GMIVS,withdrawalofthetrocar,followedbyforcepsremovalthroughthescleralincision,enabledcollectionofvitreoretinaltissues.In25GMIVS,vitreoretinaltissueswerenotsuccessfullycollectedwhenpulledthroughatrocarwithaclosurevalve.UseofaVitSweeperTMenabledsuccessfulcollectionoftissuesinclosurevalve-equipped25GMIVSonlywhenthetissueswererelativelysoft.Conclusions:Thenewtechnique,usingaVitSweeperTMtocollecttissuesduring25Gclosurevalve-equippedMIVS,isusefulonlywhenremovingrelativelysoftvitreoretinaltissues.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1706.1710,2014〕Keywords:小切開硝子体手術,クロージャーバルブ付きトロカール,VitSweeperTM,網膜硝子体組織採取.mi-cro-incisionvitrectomysurgery(MIVS),closurevalve-featuredtrocar,VitSweeperTM,collectingvitreoretinaltis-sues. あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141707(141)の確立もなされた4).その結果,MIVSは広く一般的な術式として受け入れられるに至った.わが国では2012年までにMIVSが全体の50%以上を占めるようになり,器具や技術の進歩に伴いMIVSは従来の20G硝子体手術と比較しても遜色なく使用できると考えられるようになってきている5,6).さらには近年,わが国ではクロージャーバルブ付きトロカールが普及し,手術の安全性,効率性が向上するとともに手術操作の簡略化および手術時間の短縮が可能となった7).しかし,MIVSが普及し器具の口径が縮小することにより手術の安全性・効率性が向上した一方で,硝子体手術中に網膜硝子体組織を採取する操作はむしろ困難となってしまった可能性がある.そこで今回筆者らは,従来のMIVSのままで適切に網膜硝子体組織を採取する方法について検討した.I対象および方法1.対象2012年11月.2013年11月に名古屋大学医学部附属病院にて増殖硝子体網膜症(proliferativevitreoretinopathy:PVR)・黄斑円孔(macularhole:MH)・黄斑上膜(epireti-nalmembrane:ERM)など硝子体手術中に眼内組織の切除・.離を必要とする症例を対象とした.いずれも25Gもしくは23G硝子体手術を施行し,網膜硝子体組織を採取した26眼(男性14眼,女性12眼)である.いずれの症例においても通常の25G・23GMIVSを採用し,手術装置はConstellationVitrectomySystem(Alcon社),手術顕微鏡はOPMILumera(CarlZeiss社)を使用した.また,トロカールはクロージャーバルブ付きトロカール(Alcon社製24例,DORC社製2例)を使用した.手術は5名の術者によって施行された.2.網膜硝子体組織の採取方法まず硝子体カッターで十分にcorevitrectomyを行った後,硝子体鑷子(Alcon社)で切離した増殖膜・内境界膜(inter-nallimitingmembrane:ILM)・ERMなどの網膜硝子体組織の採取方法を検討した.検体の採取方法は①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを介さない状態で眼外に摘出する,③収納可能なVitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する,のいずれかの方法を用いた.今回の検討は名古屋大学医学部附属病院の生命倫理委員会の承認を受け,患者に十分なinformedconsentを行った後に図1VitSweeperTMの先端部位図a:本体にdisposableのブラシ部分を取り付けて使用する.b:プランジャーを進めると先端のブラシも伸展する.c:逆にプランジャーを戻すと先端のブラシも収納される.眼内ではbの状態で組織をブラシ内に埋没させ,cの状態(組織が管腔内に収納された状態)にした後にVitSweeperTMをトロカールから抜去する.abc図2VitSweeperTMによる網膜硝子体組織摘出方法a:硝子体鑷子で網膜硝子体組織を把持したまま(黒矢印),先端を収納した状態のVitSweeperTMを挿入する(白矢印).b:VitSweeperTMの先端ブラシを眼内で伸展させ,ブラシの中に網膜硝子体組織(黒矢印)を埋没させる.c:硝子体鑷子でサポートしながら,網膜硝子体組織ごとVitSweeperTMのブラシを収納する(黒矢印).abcあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141707(141)の確立もなされた4).その結果,MIVSは広く一般的な術式として受け入れられるに至った.わが国では2012年までにMIVSが全体の50%以上を占めるようになり,器具や技術の進歩に伴いMIVSは従来の20G硝子体手術と比較しても遜色なく使用できると考えられるようになってきている5,6).さらには近年,わが国ではクロージャーバルブ付きトロカールが普及し,手術の安全性,効率性が向上するとともに手術操作の簡略化および手術時間の短縮が可能となった7).しかし,MIVSが普及し器具の口径が縮小することにより手術の安全性・効率性が向上した一方で,硝子体手術中に網膜硝子体組織を採取する操作はむしろ困難となってしまった可能性がある.そこで今回筆者らは,従来のMIVSのままで適切に網膜硝子体組織を採取する方法について検討した.I対象および方法1.対象2012年11月.2013年11月に名古屋大学医学部附属病院にて増殖硝子体網膜症(proliferativevitreoretinopathy:PVR)・黄斑円孔(macularhole:MH)・黄斑上膜(epireti-nalmembrane:ERM)など硝子体手術中に眼内組織の切除・.離を必要とする症例を対象とした.いずれも25Gもしくは23G硝子体手術を施行し,網膜硝子体組織を採取した26眼(男性14眼,女性12眼)である.いずれの症例においても通常の25G・23GMIVSを採用し,手術装置はConstellationVitrectomySystem(Alcon社),手術顕微鏡はOPMILumera(CarlZeiss社)を使用した.また,トロカールはクロージャーバルブ付きトロカール(Alcon社製24例,DORC社製2例)を使用した.手術は5名の術者によって施行された.2.網膜硝子体組織の採取方法まず硝子体カッターで十分にcorevitrectomyを行った後,硝子体鑷子(Alcon社)で切離した増殖膜・内境界膜(inter-nallimitingmembrane:ILM)・ERMなどの網膜硝子体組織の採取方法を検討した.検体の採取方法は①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを介さない状態で眼外に摘出する,③収納可能なVitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する,のいずれかの方法を用いた.今回の検討は名古屋大学医学部附属病院の生命倫理委員会の承認を受け,患者に十分なinformedconsentを行った後に図1VitSweeperTMの先端部位図a:本体にdisposableのブラシ部分を取り付けて使用する.b:プランジャーを進めると先端のブラシも伸展する.c:逆にプランジャーを戻すと先端のブラシも収納される.眼内ではbの状態で組織をブラシ内に埋没させ,cの状態(組織が管腔内に収納された状態)にした後にVitSweeperTMをトロカールから抜去する.abc図2VitSweeperTMによる網膜硝子体組織摘出方法a:硝子体鑷子で網膜硝子体組織を把持したまま(黒矢印),先端を収納した状態のVitSweeperTMを挿入する(白矢印).b:VitSweeperTMの先端ブラシを眼内で伸展させ,ブラシの中に網膜硝子体組織(黒矢印)を埋没させる.c:硝子体鑷子でサポートしながら,網膜硝子体組織ごとVitSweeperTMのブラシを収納する(黒矢印).abc 施行された.3.VitSweeperTM使用方法VitSweeperTMは,そもそも残存硝子体を除去することを目的とした器具である.今回筆者らは,この器具の内腔にブラシが収納可能である特徴に着目し(図1),このブラシの中に網膜硝子体組織を収納した状態で眼外に運ぶ方法を検討した.具体的には,右ポートの硝子体鑷子で網膜硝子体組織を把持した後,左ポートからVitSweeperTMを眼内に挿入し(図2a),顕微鏡下でVitSweeperTMのブラシを伸ばす.延長したブラシの中に網膜硝子体組織を埋没した状態(図2b)で,ブラシと組織をまとめて管腔内に収納する(図2c).ブラシと組織が収納された状態でVitSweeperTMを眼外へ抜去した後,眼外で再びブラシを伸展すれば,中に埋没されていた組織を失うことなく採取することができる.この手技を使用することで,クロージャーバルブに組織が挟まる心配がなくなり,確実に組織を眼外に運ぶことが可能と考えられた.II結果今回の検討で行った採取方法と疾患名の内訳を表1に示す.疾患別ではPVRおよび増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)が8眼,MHが4眼,ERMおよび黄斑皺襞が9眼,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)もしくは糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)が6例(うち1例はERMと重複)であった.各採取方法の結果として,①硝子体鑷子に把持したまま摘出する方法では,25GMIVSでは5例中5例(100%)で組織の一部がトロカールに挟まり眼外へ摘出されなかった(図3a).一方で23Gシステムでは,鑷子の先端で包む込みように組織を把持できれば,網膜硝子体組織のような比較的硬い表1症例と組織採取方法の一覧疾患名年齢性別採取組織採取方法摘出可否コメント20GILM鑷子Pucker70FPucker②○25GMIVSに20G創追加23GILM鑷子DME55MILM①×PDR53M増殖膜①○PDR49F増殖膜①×PDR47F増殖膜②×灌流液の結膜下流入PDR42F増殖膜②○Trocarごと抜去PVR48M増殖膜②○25GILM鑷子ERM53MILM①×ERM75FILM①×DORCTrocar使用ERM80FILM①×ERM82MILM①×RD+PVR71MSRM①×ERM64MERM②○灌流液の結膜下流入ERM82MERM②×ERM82MERM②×DORCTrocar使用DME+ERM69FERM②×MH72MILM②○CME80FILM③○CME65MILM③○CME73MILM③○DME70FILM③○MH75MILM③○MH63FILM③×MH66FILM③○PDR47F増殖膜③×組織が固くて入らないPDR69M増殖膜③×組織が固くて入らない採取方法:①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する.②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを経ない状態で硝子体鑷子を眼外に摘出する.③VitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する.ERM:網膜前膜,DME:糖尿病黄斑浮腫,MH:黄斑円孔,RD:網膜.離,PVR:増殖硝子体網膜症,PDR:増殖糖尿病網膜症,Pucker:黄斑パッ力ー,CME:.胞様黄斑浮腫,ILM:内境界膜,SRM:網膜下増殖膜.(142) あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141709(143)膜でも眼外に摘出できる症例があった(3例中1例).また,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製した後に硝子体鑷子を抜去する方法を採用した症例では,非常に大きな網膜硝子体組織を摘出する際に組織摘出専用に20Gの強膜創を新たに作製し,20G硝子体鑷子を用いて組織を採取する(図3b)か,もしくは網膜硝子体組織を把持した状態でトロカールを抜去し(図3c),その後に組織を摘出する(図3d)ことで,確実に硬い組織を摘出できた.しかし,経結膜的に穿刺したトロカールを手術途中で抜去することで灌流液の結膜下流入を招き,手術途中で結膜の異常な膨隆を伴うことによる視認性の低下と手術効率の低下が懸念された(図3e,f).また,手術途中の経結膜トロカールの抜去は,灌流液だけでなく硝子体線維の脱出を誘発する可能性があり,術後網膜.離など合併症の増加が懸念された.20G強膜創作製による摘出方法も,眼球に余分な侵襲を与えることが懸念された.一方でVitSweeperTMを使用した場合,ILMなど柔らかな組織であればそれらを容易に内腔内に格納することが可能であった(7例中6例).しかし,増殖膜など比較的硬い組織や巨大な組織を摘出する状況では,組織を適切にVitSweeperTM内腔内に収納できず,VitSweeperTM使用による利点はないと考えられた(2例中2例).III考按硝子体手術は疾患の治療だけでなく,眼内の組織を採取することによる診断目的に行われる場合があり,採取組織は硝子体・網膜・網膜下液・脈絡膜・増殖膜など多岐にわたる.具体例として,眼内から採取した組織に対しての病理学的染色やpolymerasechainreaction(PCR)法による遺伝子解析が眼内悪性リンパ腫の診断に有効であった報告や8),原因不明であったぶどう膜炎に対し組織生検により確定診断が行われた報告などがあり,眼内組織の採取は疾患の診断に重要な役割を果たしている9).組織採取の目的は科学的な意味から図3クロージャーバルブを使用したMIVSにおける網膜硝子体組織摘出例a:25Gクロージャーバルブ越しに網膜硝子体組織の眼外への摘出を試みると,クロージャーバルブ部位で組織が挟まり(矢印),摘出が困難になる.b:巨大な増殖膜を摘出する際は,トロカール越しに増殖膜を摘出することを断念し,新規の20G用強膜創を作製し(矢印),そこから20G硝子体鑷子を用いて組織摘出を試みる.c,d:もしくは,硝子体鑷子を支柱としてトロカールを抜去し(c,矢印),強膜創から組織を抜去する(d,矢印).e,f:経結膜的にトロカールを留置している場合,組織採取目的でトロカールを抜去してしまうと硝子体灌流液の結膜下流入を招くことがあり(e,矢印),トロカールの再留置は隆起した結膜越しに行う必要が出てくる(f,矢印).abcdefあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141709(143)膜でも眼外に摘出できる症例があった(3例中1例).また,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製した後に硝子体鑷子を抜去する方法を採用した症例では,非常に大きな網膜硝子体組織を摘出する際に組織摘出専用に20Gの強膜創を新たに作製し,20G硝子体鑷子を用いて組織を採取する(図3b)か,もしくは網膜硝子体組織を把持した状態でトロカールを抜去し(図3c),その後に組織を摘出する(図3d)ことで,確実に硬い組織を摘出できた.しかし,経結膜的に穿刺したトロカールを手術途中で抜去することで灌流液の結膜下流入を招き,手術途中で結膜の異常な膨隆を伴うことによる視認性の低下と手術効率の低下が懸念された(図3e,f).また,手術途中の経結膜トロカールの抜去は,灌流液だけでなく硝子体線維の脱出を誘発する可能性があり,術後網膜.離など合併症の増加が懸念された.20G強膜創作製による摘出方法も,眼球に余分な侵襲を与えることが懸念された.一方でVitSweeperTMを使用した場合,ILMなど柔らかな組織であればそれらを容易に内腔内に格納することが可能であった(7例中6例).しかし,増殖膜など比較的硬い組織や巨大な組織を摘出する状況では,組織を適切にVitSweeperTM内腔内に収納できず,VitSweeperTM使用による利点はないと考えられた(2例中2例).III考按硝子体手術は疾患の治療だけでなく,眼内の組織を採取することによる診断目的に行われる場合があり,採取組織は硝子体・網膜・網膜下液・脈絡膜・増殖膜など多岐にわたる.具体例として,眼内から採取した組織に対しての病理学的染色やpolymerasechainreaction(PCR)法による遺伝子解析が眼内悪性リンパ腫の診断に有効であった報告や8),原因不明であったぶどう膜炎に対し組織生検により確定診断が行われた報告などがあり,眼内組織の採取は疾患の診断に重要な役割を果たしている9).組織採取の目的は科学的な意味から図3クロージャーバルブを使用したMIVSにおける網膜硝子体組織摘出例a:25Gクロージャーバルブ越しに網膜硝子体組織の眼外への摘出を試みると,クロージャーバルブ部位で組織が挟まり(矢印),摘出が困難になる.b:巨大な増殖膜を摘出する際は,トロカール越しに増殖膜を摘出することを断念し,新規の20G用強膜創を作製し(矢印),そこから20G硝子体鑷子を用いて組織摘出を試みる.c,d:もしくは,硝子体鑷子を支柱としてトロカールを抜去し(c,矢印),強膜創から組織を抜去する(d,矢印).e,f:経結膜的にトロカールを留置している場合,組織採取目的でトロカールを抜去してしまうと硝子体灌流液の結膜下流入を招くことがあり(e,矢印),トロカールの再留置は隆起した結膜越しに行う必要が出てくる(f,矢印).abcdef 考えると上述したのみではない.たとえば過去には採取したILMを利用してliquidchromatography-tandemmassspectrometry(LC-MS-MS)法を行い,ILM中に含まれる蛋白の組成を調べた報告もある10).他にも,PDRの手術中に増殖組織を採取し,半定量PCR法やenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)法などを用い増殖組織内で重要な蛋白が発現していることを明らかにした報告もある11).このように,診断目的のみならず眼内組織の分析・研究による眼科学の発展のためには今後も組織採取は非常に需要な手技といえる.蛋白やRNAを採取する目的であればかならずしも組織構造を正常に保つ必要はなく,バックフラッシュニードルや硝子体カッターの管内に高圧力で吸引し,眼外で採取することも可能である.しかし,組織学的検討を必要とする際は,組織をいかに傷めずに採取するかが重要となる.しかしながら,組織を採取することにこだわりすぎ,手術合併症のリスクを高めることは望ましくない.筆者らは今回,クロージャーバルブ付きトロカールを用いたMIVSでの組織採取をいくつかの症例で試みた結果,以下のような手技が適切と考えられた.すなわち,増殖膜など比較的強固な組織を摘出する場合は,結膜を計画的に切開したうえで23GMIVSを用い,把持したまま組織の摘出を試みるか,仮に摘出できなくてもトロカールごと抜いて摘出する手技が有効である.つぎに,ERM・ILMなど柔らかい組織であれば,25GMIVSを通常どおり採用し,トロカールは経結膜的に留置して問題ない.組織採取にはVitSweeperTMを用いた採取が安全で確実である.硝子体手術は今や27G手術に向かおうとしている12).手術の安全性・効率性が向上する一方,管口径は確実に小さくなっていく傾向にある.それに伴い,小さな眼内の組織を採取する方法はますます困難になっていくことが予想される.今回の検討では一部の25GMIVS症例で組織採取する際に,イナミ社のVitSweeperTMを用いることの有効性が示唆されたが,この手技によってすべての症例で確実に組織採取できるわけではなかった.組織が強固でトロカールから直接摘出することが物理的に困難な場合にはより太いゲージ(大口径の)のMIVSを用い,安全性・視認性の確保のために計画的な結膜切開を行ったうえでトロカールの抜去や新たな強膜創作製といった手技を行うことが望ましいと考えられる.今後ますます手術器具のスモールゲージ化が進むにつれ,より安全・確実な組織の採取を可能にするためにもさらに工夫された器具の開発や採取方法の検討が必要になると考えられた.文献1)門之園一明:【硝子体手術の現状と展望】わかりやすい臨床講座小切開硝子体手術の現状と展望.日本の眼科83:1192-1195,20122)O’MalleyC,HeintzRMSr:Vitrectomywithanalternativeinstrumentsystem.AnnOphthalmol7:585-588,591-594,19753)FujiiGY,DeJuanE,Jr,HumayunMSetal:Initialexperienceusingthetransconjunctivalsuturelessvitrectomysystemforvitreoretinalsurgery.Ophthalmology109:1814-1820,20024)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrectomy.Retina25:208-211,20055)IbarraMS,HermelM,PrennerJLetal:Longer-termoutcomesoftransconjunctivalsutureless25-gaugevitrectomy.AmJOphthalmol139:831-836,20056)LakhanpalRR,HumayunMS,deJuanEJretal:Outcomesof140consecutivecasesof25-gaugetransconjunctivalsurgeryforposteriorsegmentdisease.Ophthalmology112:817-824,20057)LafetaAP,ClaesC:Twenty-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomytrocarsystem.Retina27:11361141,20078)CouplandSE,BechrakisNE,AnastassiouGetal:EvaluationofvitrectomyspecimensandchorioretinalbiopsiesinthediagnosisofprimaryintraocularlymphomainpatientswithMasqueradesyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol241:860-870,20039)LimLL,SuhlerEB,RosenbaumJTetal:Theroleofchoroidalandretinalbiopsiesinthediagnosisandmanagementofatypicalpresentationsofuveitis.TransAmOphthalmolSoc103:84-91;discussion-2,200510)UemuraA,NakamuraM,KachiSetal:Effectofplasminonlamininandfibronectinduringplasmin-assistedvitrectomy.ArchOphthalmol123:209-213,200511)YoshidaS,IshikawaK,AsatoRetal:Increasedexpressionofperiostininvitreousandfibrovascularmembranesobtainedfrompatientswithproliferativediabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci52:5670-5678,201112)OshimaY,WakabayashiT,SatoTetal:A27-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessmicro-incisionvitrectomysurgery.Ophthalmology117:93-102e2,2010***(144)