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高齢で発症したアカントアメーバ角膜炎の1 例

2024年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(3):349.352,2024c高齢で発症したアカントアメーバ角膜炎の1例池田舜太郎佐々木研輔門田遊阿久根穂高田中満里子林亮吉田茂生久留米大学医学部眼科学講座CACaseofContact-Lens-RelatedAcanthamoebaKeratitisinanElderlyPatientShuntaroIkeda,KensukeSasaki,YuMonden,HodakaAkune,MarikoTanaka,RyoHayashiandShigeoYoshidaCDepartmentofOpthalmology,SchoolofMedicineKurumeUniversityC目的:高齢者に認められたコンタクトレンズ(CL)によるアカントアメーバ角膜炎の症例報告.症例:79歳,女性.外傷歴なく,左眼の疼痛,流涙,視力低下を訴え前医で約C1カ月細菌性角膜炎として加療されたが改善乏しく当院紹介となった.初診時視力は右眼:(0.8C×sph-9.25D),左眼:手動弁.左眼に毛様充血,小円形の角膜浸潤,限局した実質浮腫,Descemet膜皺壁,角膜後面沈着物を認め,内皮型角膜ヘルペスを疑いアシクロビル眼軟膏,ベタメタゾン点眼を開始しいったん改善.2週後に地図状角膜炎類似の所見が出現しベタメタゾン点眼を内服に変更したが増悪し,角膜浸潤がリング状に拡大しアカントアメーバ角膜炎を疑った.再度問診を行いCCL装用歴が判明.角膜擦過物のPCR検査でアカントアメーバCDNAが陽性でありアカントアメーバ角膜炎と診断.病巣掻爬,抗真菌薬全身投与,抗真菌薬,消毒薬の局所投与を行い,初診後C161日に瘢痕治癒した.結論:角膜感染症においては高齢であってもCCL装用歴を聴取し,アカントアメーバ角膜炎を鑑別にあげることが重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCcontact-lens-relatedCAcanthamoebakeratitis(AK)inCanCelderlyCpatient.CCaseReport:A79-year-oldfemalewasreferredtoourhospitalwithaninitialdiagnosisofbacterialkeratitis.Shecom-plainedofpain,lacrimation,anddecreasedvisioninherlefteye,yetshehasnohistoryoftrauma.Hercorrectedvisualacuitywas0.8×.9.25CSODandhandmotionOS.Ciliaryinjection,smallroundcornealin.ltrates,localizedstromaledema,aDescemetmembranefold,andkeraticprecipitateswereobservedinherlefteye.Herpeticendo-thelialkeratitiswassuspected,soantiviraltreatmentandtopicalcorticosteroidswereinitiatedandherconditionsimproved.CHowever,C2CweeksClater,CaClesionCmimickingCgeographicCkeratitisCwasCnoted.CCorticosteroidsCwereCswitchedtooralcorticosteroids,yetaring-shapein.ltratewasnoted.Basedonahistoryofcontactlenswearandtheresultsofapolymerasechainreactiontestofacornealscrapingbeingpositiveforacanthamoeba,adiagnosisofAKCwasCmade.CTreatmentCwithCantiamoebicCdrugsCwasCthenCinitiated,CandCtheCkeratitisCresolved.CConclusion:IntheCdi.erentialCdiagnosisCofCkeratitis,CcontactClensCwearCisCanCimportantCfactorCthatCshouldCbeCconsidered,CevenCinCelderlypatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(3):349.352,C2024〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,高齢者,コンタクトレンズ.AcanthamoebaCkeratitis,elderly,contactlens.Cはじめにアカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakeratitis:AK)はC1974年にCNagingtonらにより初めて報告された難治性角膜疾患である1).これは土壌関連の外傷に伴う角膜感染症であったが,その後,コンタクトレンズ(contactlens:CL)の普及に伴い発症者が増加し,国内ではC1988年に石橋らによりCCL装用者に生じたCAKの症例が初めて報告された2).国内の調査では発症年齢はC28.7C±11.1歳と報告されており3),非CCL性CAKはC1.7.10.7%と報告されていることからも3.5),CLを装用している若年者に好発する疾患であることは広く知られている.今回,筆者らはCCLを装用していた高齢者のCAKのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:79歳,女性.〔別刷請求先〕池田舜太郎:〒830-0011福岡県久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShuntaroIkeda,DepartmentofOpthalmology,SchoolofMedicineKurumeUniversity,67Asahi-machi,Kurume,Fukuoka830-0011,JAPANC図1初診時所見a:毛様充血,小円形の角膜浸潤(.),不正形の角膜浸潤(.),限局性の角膜浮腫,Descemet膜皺襞,角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)を認める.Cb:小円形の角膜浸潤に一致してフルオレセイン染色を認める.図2初診後21日目a:毛様充血,弧状の角膜浸潤を認める.b:広範な地図状角膜炎類似の所見を認める.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:とくに誘因なく左眼の疼痛・流涙・視力低下を主訴に近医眼科を受診した.左眼細菌性角膜炎と診断されC1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.5%セフメノキシム点眼液を2時間ごとに点眼,1%アジスロマイシン点眼液C1日C1回,0.3%オフロキサシン眼軟膏C1日C4回点入で治療を開始されたが,アドヒアランスが不良であり,症状が改善せず,入院下の点眼管理も含め総合病院眼科に紹介された.紹介後も本人が入院加療を拒否したため,1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.5%セフメノキシム点眼液をC1時間ごとに点眼,0.3%オフロキサシン眼軟膏C1日C1回点入でC7日間外来加療されたが改善なく,本人を説得し同院に入院となった.入院後,1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.5%セフメノキシム点眼液をC1時間ごとに点眼,0.3%オフロキサシン眼軟膏C1日C4回点入,セフタジジムC2Cg/日点滴でC16日間加療を行ったが改善乏しく,精査加療目的に久留米大学病院眼科(以下,当科)へ紹介された.初診時眼所見:視力は右眼:0.07(0.8C×sph.9.25D(cylC.2.50DAx80°),左眼:手動弁.眼圧は右眼:10mmHg,左眼:4.7CmmHg(NCT).左眼は毛様充血,小円形の角膜浸潤,不正形の角膜浸潤,限局性の角膜浮腫,Descemet膜皺襞,角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)を認めていた(図1).右眼には明らかな異常所見は認めなかった.治療経過:初診時に前房水のポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査を行いヘルペスウイルスは陰性であったが,眼所見より内皮型角膜ヘルペスを疑い,3%アシクロビル眼軟膏C1日C5回点入,0.1%ベタメタゾン点眼液C1日C4回点眼,バラシクロビル錠C1,000Cmg/日内服を開始した.当科初診後C7日の時点では,角膜浮腫,KPは改善を認めていたが,初診後C21日に広範な地図状角膜炎類似の所見が出現し,上皮型角膜ヘルペスの併発を疑いベタメタゾン点眼を中止して経過観察を行った(図2).初診後26日にはCKPは増加,前房蓄膿が出現し,地図状角膜炎類似の所見も増悪を認めた(図3).上皮型および内皮型角膜ヘ図3初診後26日目a:結膜充血,毛様充血,角膜浮腫,弧状の角膜浸潤,写真には写っていないが前房蓄膿も認めていた.b.:地図状角膜炎類似の所見の増悪を認める.図4初診後33日目a:リング状の角膜浸潤を認める.b:角膜輪部を除き,フルオレセイン染色を認める.ルペスの増悪と判断し,プレドニゾロンC20Cmg/日内服を開始した.初診後C30日にはCKPと前房蓄膿はさらに増加し,潰瘍も増悪を認めたため細菌感染の合併を疑い入院管理とし,プレドニゾロン内服を中止,0.5%セフメノキシム点眼液をC1時間ごとに点眼,セフタジジムC2Cg/日点滴を追加した.初診後C33日で前房蓄膿は改善したが,リング状の角膜浸潤を認め,AKの移行期を疑った(図4).この段階で改めてCCL装用歴について問診を行ったところ,ハードCCL装用歴が判明した.角膜擦過物のCreal-timePCRを行い,アカントアメーバCDNA陽性であり,AKと診断.病巣掻爬,ボリコナゾールC300Cmg/日点滴,自家調整C0.05%クロルヘキシジン点眼液と自家調整C0.1%ボリコナゾール点眼液をC1時間ごとに点眼,1%ピマリシン眼軟膏C1日C6回点入で治療を開始した.治療開始後,円板状の角膜混濁となり,AKの完成期に至ったが,同治療を継続し初診後C161日に瘢痕治癒を得た.左眼の最終視力は手動弁であった.本症例は独居であり当科通院中に受診日を間違えることが多く,問診の回答が二転三転することもあった.その後,転院先で認知症と診断された.CII考察AKの所見は,初期には放射状角膜神経炎が特徴的な所見として知られているが6),非特異的な所見を示すことも多い7).75.90%がCAK以外の診断で初期治療を開始されるといった報告もあるように8),初期に放射状角膜神経炎を見逃すと,初期診断および初期治療がむずかしく,また,初期に適切な治療がなされないとリング状の角膜浸潤が出現し,完成期として円板状の混濁となる6).本症例においても,初期は細菌性角膜炎として治療開始され,当科初診時も放射状角膜神経炎の所見は認めず,角膜浮腫とCKPが主体であり,角膜ヘルペスとしての治療が行われて診断が遅れ,またステロイド点眼による病態の増悪,遷延の結果,AKの完成期まで至った.昨今,CLとCAKの関連について周知が進み,以前よりもAKの初期診断・初期治療ができるようになってきたが,AK患者,CL装用者はともに若年者に多く3),高齢者のCAKは外傷後・術後がほとんどであり10),外傷歴や手術歴,AKに特徴的な所見(放射状角膜神経炎やリング状角膜浸潤など)を示した場合を除いては,高齢者の角膜感染症でまず初めにCAKを疑い治療を開始することは非常に困難といえる.本症例はC79歳と高齢であったため,CL装用歴が見逃され,特徴的なリング状角膜浸潤の所見がみられたことで初めてAKを疑い,それからCCL装用歴の聴取やCreal-timePCRなどの精査を行ったため,診断に遅れが生じた.これらのことから,角膜感染症を診た際は高齢であってもCCL装用歴の聴取を行うことでCAKの早期診断の一助になりうると考える.また,本症例は強度近視眼であり,屈折矯正目的にハードCLを装用していた.近年,世界中で近視が増加傾向にあり,今後も増加することが予想されているという背景もあり9),CLによる屈折矯正を行う人口も増加してくると考えられ,今後,高齢者のCCL装用者が増加してくる可能性も否定はできない.わが国の高齢単身者(65歳以上の単身世帯)も増加傾向となっており11),とくに認知機能の低下した高齢者ではCCLの洗浄や保管などの管理面においてもCAK感染のリスクは高いと考えられ,高齢者のCAKが今後増加する可能性もある.本症例は高齢単身者で,認知症の診断も受けており,CLの管理面においてリスクは高かったと考えられる.また,AKの臨床的特徴の一つに非常に強い眼痛があるが,認知症患者においては自覚症状の把握がむずかしい場合があり,本症例においても疼痛の訴えは強くなかった.非常に強い疼痛の訴えがあれば早期診断の一助になった可能性も考えられる.今回,筆者らは高齢者のCCL性CAKのC1例を経験し,今後の高齢社会,近視社会を見据え,角膜感染症を診た際は,CL問診も含め,AKを常に鑑別にあげることが重要と考えられた.文献1)NagintonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfec-tionoftheeye.LancetC2:1537-1540,C19742)石橋康久,松本雄二郎,渡辺良子ほか:AcanthamoebakeratitisのC1例-臨床像,病原体検査法および治療についての検討.日眼会誌92:963-972,C19883)鳥山浩二,鈴木崇,大橋裕一:アカントアメーバ角膜炎発症者数全国調査.日眼会誌118:28-32,C20144)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近経験したアカントアメーバ角膜炎C28例の臨床的検討.あたらしい眼科C27:680-686,C20105)平野耕治:急性期アカントアメーバ角膜炎の重症化に関する自験例の検討.日眼会誌C115:899-904,C20116)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科C35:C1613-1618,C20187)IllingworthCCD,CCookSD:AcanthamoebaCkeratitis.CSurvCOphthalmolC42:493-508,C19988)SzentmaryN,DaasL,ShiLetal:Acanthamoebakerati-tis-ClinicalCsigns,Cdi.erentialCdiagnosisCandCtreatment.CJCurrOphthalmolC31:16-23,C20199)藤村芙佐子:学校健康診断と小児の近視.日視能訓練士協誌49:1-6,C202010)高津真由美,奈田俊,山本秀子ほか:白内障術後のアカントアメーバ角膜炎のC1例.感染症学雑誌C69:1159-1161,C199511)内閣府:令和C4年版高齢社会白書.p9-10,2022C***

1 日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズ 「クラリティワンデー」の装用調査

2023年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(4):560.564,2023c1日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズ「クラリティワンデー」の装用調査小玉裕司*1植田喜一*2工藤昌之*3塩谷浩*4鈴木崇*5月山純子*6*1小玉眼科医院*2ウエダ眼科*3工藤眼科クリニック*4しおや眼科*5いしづち眼科*6社会医療法人博寿会山本病院CSurveyoftheclariti1day,aSingle-dayDisposableSiliconeHydrogelContactLensYujiKodama1),KiichiUeda2),MasayukiKudo3),HiroshiShioya4),TakashiSuzuki5)andJunkoTsukiyama6)1)KodamaEyeClinic,2)UedaEyeClinic,3)KudoEyeClinic,4)ShioyaEyeClinic,5)IshizuchiEyeClinic,6)DepartmentofOphthalmology,HakujukaiYamamotoHospitalC1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者にCCooperVision社の「クラリティワンデー」を処方し,装用時の取り扱いやすさや自覚症状などについて調査を実施した.2021年C1月C22日.4月C24日に国内C6施設において近視および近視性乱視を有する被検者C60例を登録し,クラリティワンデー装用開始前とC2週間の観察期間終了後にアンケート調査を実施できたC56例を対象にデータを解析した.レンズの取り扱いやすさに関する質問のうち,つけやすさの満足度がもっとも高く,49例(87.5%)が非常に満足または満足と回答しており,参加前レンズのC43例(75.0%)と比べても満足度が高かった.自覚症状については,参加前レンズと比較してクラリティワンデーでは日中の乾燥感が有意に少ないことが示された.本調査の結果からクラリティワンデーは取り扱いやすさの満足度が高く,日中の乾燥感が少ないCSCLであると考えられた.Inthisstudy,theclariti1day(CooperVision),asingle-daydisposablesiliconehydrogelsoftcontactlens(SCL),wasprescribedtodailydisposableSCLusers,andasurveywasthenconductedontheeaseofuseandsubjectivesymptomswhenwearingthelens.Thisstudyinvolved56subjectswithmyopiaandmyopicastigmatismwhowereenrolledCbetweenCJanuaryC22,C2021CandCAprilC24,C2021CatCsixCfacilitiesCinCJapan.CTheCsurveyCwasCadministeredCbeforethestartofclariti1dayuseandattheendoftheobservationperiod.Intermsoflenshandling,theitemwiththehighestlevelofsatisfactionwas“easeofapplication”,with49subjects(87.5%)answering“verysatis.ed”Cor“satis.ed”withCclaritiC1Cday,CindicatingCaChigherCsatisfactionCwithCclaritiC1CdayCthanCwithCtheCpreviouslyCusedSCL(n=43,75.0%).CMoreover,CtheCsubjectsCreportedCthatCthereCwasCsigni.cantlyClessCdrynessCduringCtheCdayCwhenCwearingCtheCclaritiC1CdayCcomparedCtoCtheCpreviouslyCusedCSCL.CTakenCtogether,CtheC.ndingsCinCthisCstudyCshowCthatCtheCclaritiC1CdayCappearsCtoCbeCanCSCLCthatCprovidesCtheCuserCwithCaChighClevelCofCsatisfactionCwithCregardtohandling.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(4):560.564,C2023〕Keywords:コンタクトレンズ,1日使い捨てコンタクトレンズ,シリコーンハイドロゲルレンズ,クラリティワンデー.contactlenses,1-daydisposablecontactlenses,siliconehydrogellenses,clarity1-day.Cはじめに1日使い捨てのソフトコンタクトレンズ(softCcontactlens:SCL)処方は増加の傾向がみられ,2020年のレポート1)によると,46%がC1日使い捨てCSCLであったと報告されている.なかでも,最近では高い酸素透過性などの優れた性能を有するシリコーンハイドロゲルレンズの処方が主流となりつつある.1日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズである「クラリティワンデー」(CooperVision社)がわが国でもC2020年C4月に上市された.わが国にて販売されているCSCLのうち,より安価で手の届きやすいシリコーンハイドロゲルレンズという位置づけのクラリティワンデーであるが,わが国における装〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂C15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,Ph.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,Joyo-city,Kyoto610-0121,JAPANC560(128)表1クラリティワンデーのスペック項目スペック素材名Csomo.lconA含水率56%ベースカーブC8.6Cmm直径C14.0Cmm中心厚0.07Cmm(C.3.00D)酸素透過係数(DK値)C60×10.11(cm2/sec)・(mClOC2/(CmlC×mmHg))酸素透過率(DK/t値)C86×10.9(cm/sec)・(mClOC2/(CmlC×mmHg))(.3.00D)弾性率C0.5CMPaC用実績だけでなく,その装用感などについての情報も十分ではない.そこで,近視および近視性乱視を有するC1日使い捨てハイドロゲルレンズ装用者に対してクラリティワンデーを処方し,クラリティワンデー装用時の取り扱いやすさや自覚症状などについて,装用調査を実施した(jRCTC1032200350).CI方法本調査は,1日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズであるクラリティワンデー(表1)をテストレンズとして国内C6施設において実施した.2021年C1月C22日.4月C24日に近視および近視性乱視を有する被検者を登録した.選択基準は,18歳以上(未成年の場合には保護者からの同意も取得),1日使い捨てハイドロゲルレンズを装用している,装用に問題となる異常所見が前眼部にないなどとした.除外基準は,単眼のみに装用予定,無水晶体眼および人工眼内レンズ挿入眼を有する,眼に影響を及ぼす可能性のある全身疾患を有する,視機能およびレンズの性能に影響を及ぼす可能性のある薬剤を使用している,角膜浸潤あるいは角膜潰瘍を有する,角膜手術の既往歴があるなどとした.事前検査にて装用中のC1日使い捨てハイドロゲルレンズの度数が適正な度数であることを確認した.フィッティングの状態については細隙灯顕微鏡を用いて評価した.観察期間は2週間(装用開始日をC0日,14C±5日に終了検査を実施)とし,クラリティワンデー装用開始前と観察期間終了後にアンケートを実施した.アンケートの主要評価項目は取り扱いやすさとし,副次評価項目は自覚症状の程度,満足度,継続意向および購入意向,調査参加前に装用していたレンズ(参加前レンズ)との比較,SCL全般についての印象とした.自覚症状である乾燥感(日中,夜間),装用感(装用直後,日中,夜間),見え方(装用直後,日中,夜間)はCvisualCanalogscale(VAS)を用いて非常に「良好」.「非常に不良」(0.100)で評価し,くもりおよび充血はC4段階(なし.重度)で評価した.自覚症状の程度以外の項目はC5段階で評価した.自覚症状の程度の変化についてはCWilcoxonの符号付順位検定を用い,自覚症状の程度以外の項目はCPearsonのC|2検定または二項検定を用いて解析した.なお本調査は,開始に先立って調査内容などの十分な説明を行い,インフォームド・コンセントを取得した被検者を対象として組み入れた.また,調査実施医療機関以外の外部倫理審査委員会の承認を得て実施した(特定非営利活動法人CMINS研究倫理審査委員会,整理番号CMINS-REC-200228).CII結果本調査には,60例C120眼を登録した.男性C15例(25.0%),女性C45例(75.0%)であり,平均年齢(標準偏差)は37(C±9.96)歳と幅広い年齢の被験者が本調査に参加した.うちC4例C8眼が観察期間内に終了検査を実施できず,それらを除外したC56例C112眼を本調査の解析対象とした.調査対象のC56例において,参加前レンズは,ワンデーアキュビューモイスト(22例;39.3%)がもっとも多く,ついでメニコンマジックとバイオトゥルーワンデー(それぞれC7例;12.5%)であった.初回検査時に測定した角膜曲率半径(弱主経線)の中央値(範囲)はC7.82(7.36.8.37)mmであった.処方したクラリティワンデーのレンズ度数の平均値(標準偏差)は,C.3.62(C±1.39)Dであった.また,フィッティングについて問題となる事象は認められなかった.C1.主要評価項目レンズの取り扱いやすさついて,満足度がもっとも高かった項目はつけやすさであり,49例(87.5%)が「非常に満足」または「満足」と回答しており,参加前レンズのC42例(75.0%)と比べて満足度が高い傾向がみられた.また,裏表のわかりやすさでもC17例(30.0%)が「非常に満足」と回答しており,参加前レンズのC9例(16.1%)と比べて満足度が高い傾向がみられた(図1).C2.副次評価項目a.自覚症状の程度乾燥感(VAS平均値)は参加前レンズで日中C36.13,夜間43.81,クラリティワンデーではそれぞれC28.06とC36.68であり,いずれも夜間の乾燥感が増加する傾向にあった.参加0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%レンズの裏表のわかりやすさ(参加前レンズ),nレンズの裏表のわかりやすさ(クラリティワンデー),nレンズのつけやすさ(参加前レンズ),nレンズのつけやすさ(クラリティワンデー),nレンズのはずしやすさ(参加前レンズ),nレンズのはずしやすさ(クラリティワンデー),n総合的な取り扱いやすさ(参加前レンズ),n総合的な取り扱いやすさ(クラリティワンデー),n■非常に満足■満足■どちらともいえない■満足していない■まったく満足していない図1レンズの取り扱いやすさあまりそう思わない非常にそう思う図2継続使用の意向前レンズとクラリティワンデーの比較では,日中の乾燥感がクラリティワンデーで有意に少ないことが示された(p<0.05).装用感(VAS平均値)は参加前レンズで装用直後C18.46,日中C26.11,夜間C36.05,クラリティワンデーではそれぞれ17.96,22.54,32.96であり,いずれも夜間の装用感が低下する傾向がみられたが,参加前レンズとクラリティワンデーの比較ではいずれの評価時点においても差は認められなかった.見え方(VAS平均値)は参加前レンズで装用直後C18.13,日中C22.13,夜間C30.57,クラリティワンデーではそれぞれ15.33,18.95,26.07であり,いずれも夜間の見え方が低下する傾向がみられたが,参加前レンズとクラリティワンデーの比較ではいずれの評価時点においても差は認められなかった.くもりを自覚した割合(軽度.重度)は参加前レンズC14あまりそう思わないそう思わない16.1%1.8%例とクラリティワンデーC15例で大きな差はなかった.充血を自覚した割合(軽度.重度)は参加前レンズC14例とクラリティワンデーC9例であり,クラリティワンデーで少ない傾向がみられた.Cb.満足度満足した被検者(「非常に満足」および「満足」と回答した被検者の合計)は,見え方および装用感ではそれぞれC78.6%とC75.0%と大多数を占め,うるおい感ではC58.9%と半数超であった.Cc.継続使用および購入意向クラリティワンデーを継続したい被検者(「非常にそう思う」,「そう思う」の合計)はC46%であった(図2).参加前レンズと同価格であれば購入したい被検者(「非常にそう思う」,「そう思う」の合計)はC48%であった(図3).Cd.参加前レンズとの比較快適さ,乾燥感,見え方,取り扱い,総合評価のいずれに(130)0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■非常にそう思う■そう思う■どちらともいえない■あまりそう思わない図5SCL全般についての印象図4クラリティワンデーと参加前レンズとの比較0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%より多くの酸素を通すレンズは眼にとってよいと感じますか,nより多くの酸素を通すレンズは健康的だと思いますか,nコンタクトレンズを選ぶとき,レンズの素材は重要だと思いますか,n「酸素透過性の高い素材のレンズです」と勧められて,現在ご使用のレンズと同じ価格であった場合,購入したいと思いますか,nおいても,クラリティワンデーを選択(「クラリティワンデー」,「ややクラリティワンデー」と回答)する被検者が多い傾向がみられた(図4).Ce.SCL全般についての印象酸素透過性が高いレンズは眼にとってよいと感じる,健康的だと思う(「非常にそう思う」,「そう思う」の合計)と回答した被検者がC90%以上を占めた.また,レンズの素材の重要性や酸素透過性の高いレンズが同価格であった場合の購入意向についても,大多数の被検者が肯定的に回答した(図5).CIII考察クラリティワンデー装用時の取り扱いやすさや自覚症状などについてアンケート調査を実施した結果,参加前レンズよりも肯定的な回答を示した被検者の割合が多かった.なかでも,クラリティワンデー装用時のつけやすさについては,49例(87.5%)が非常に満足または満足と回答しており,参加前レンズのC42例(75.0%)と比べて満足度が高かった.海外で実施された調査の結果からも装用者の満足度の高さが示されており2),同様の傾向が認められた.クラリティワンデー装用時の取り扱いについて,前述のつけやすさのほか,裏表のわかりやすさで非常に満足と回答した被検者がC30%であり,参加前レンズのC16%よりも高かった.シリコーンハイドロゲルレンズは,指に乗せてもレンズの形が保持されることから,従来のハイドロゲルレンズよりも裏表がわかりやすく,満足した被検者が多かったと考えられる.既報の研究結果からは,シリコーンハイドロゲルレンズはハイドロゲルレンズよりも充血や乾燥が低減し装用感が良好であったことや3),良好な装用感が得られた時間が長く,日中の装用感が良好であったこと4)が示されているが,本調査では装用感は参加前レンズとクラリティワンデーで大きく変わらなかった.装用感にレンズの弾性率が影響したのではないかと推察したが,クラリティワンデーの弾性率はC0.5CMPaと公表されており5),ハイドロゲルレンズで公表されている弾性率6)と大きな差違はない.しかし,本調査参加前レンズのもっとも多かったレンズ素材であるワンデーアキュビューの弾性率がC0.26CMPaと低いことから6),弾性率以外にもレンズフィッティングやレンズのエッジ形状などさまざまな要因が影響している可能性も考えられた.参加前レンズと比較してクラリティワンデーは乾燥感が少なかったことが示された.既報でも,シリコーンハイドロゲルレンズにおける乾燥感の減少については報告されているとおりである3,7).さらに,本調査では充血もクラリティワンデーで少ない傾向が示されており,シリコーンハイドロゲルレンズではハイドロゲルレンズよりも充血が低減したとの報告3)や,シリコーン素材による酸素透過性の高さが充血の軽減に寄与するとの報告8)と矛盾しない傾向がみられた.酸素透過性については,酸素を通すことが目にとってよい,健康的だと思うに対して肯定的な回答が多く得られたことから,SCL装用者は酸素透過性について非常に高い意識をもっていると考えられた.したがって,酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルレンズであるクラリティワンデーは,酸素透過性という面からも装用者の意向に合致したCSCLであると考えられた.また,近年ではCSCLの製造技術の進歩によりさまざまな製品開発が進むなか,低年齢から,より長い期間コンタクトレンズを装用して生活する人が増えてきており9),これまでのシリコーンハイドロゲルレンズに比べてコスト面で手に届きやすいレンズであるクラリティワンデーは,初めてCSCLを装用する場合にもその高い酸素透過性から長期装用期間を考慮しても眼にやさしいCSCLとして,装用者のCqualityoflife向上の一助となる可能性が期待できると考えられた.本調査の結果からクラリティワンデーは取り扱いの満足度が高くかつ良好なフィッティングを得られるCSCLであることが示された.SCLの素材にもさまざまな種類があるため,素材別の満足度について今後さらなる検討が必要であると考えられた.謝辞:本論文は,クーパービジョン・ジャパン株式会社プロフェッショナルサービスに協力いただいた.この場を借りて深く御礼申し上げる.本稿作成にあたっては,クーパービジョン・ジャパン株式会社からの資金提供により,株式会社コルボ,および株式会社MaxwellInternationalの山下弘毅氏に支援いただいた.利益相反:月山純子[F]日本アルコン文献1)MorganCPB,CWoodsCCA,CTranoudisCIGetal:InternationalCContactCLensCPrescribingCinC2020.Chttps://www.clspectrum.Ccom/issues/2021/january-2021/international-contact-lens-prescribing-in-2020.Accessed,2022年C2月C18日2)McParlandCM,CSulleyA:ClaritiC1day:aCcontinuousCimprovementstory.Optician36-43,6December20193)DumbletonK,KeirN,MoezziAetal:ObjectiveandsubC-jectiveresponsesinpatientsre.ttedtodailywearsiliconehydrogelcontactlenses.OptomVisSciC83:758-768,C20064)MichaudL,ForcierP:Comparingtwodi.erentdailydis-posablelensesforimprovingdiscomfortrelatedtocontactlenswear.ContLensAnteriorEyeC39:203-209,C20165)クーパービジョン・ジャパン社:クラリティワンデー製品ガイド.2021年C4月6)丸山邦夫:コンタクトレンズの弾性率.あたらしい眼科C35:1505-1506,C20187)RileyC,YoungG,ChalmersR:Prevalenceofocularsur-facesymptoms,signs,anduncomfortablehoursofwearincontactClenswearers:theCe.ectCofCre.ttingCwithCdaily-wearCsiliconeChydrogellenses(seno.lcona)C.CEyeCContactCLensC32:281-286,C20068)BrennanCN,CMorganP:ClinicalChighsCandClowsCofCDk/t.CPart1-Hasoxygenrunoutofpu.?COpticianC238:16-20,C20099)渡辺英臣,柏井真理子,大薮由布子ほか:平成C30年度学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査.日本の眼科C90:C1194-1216,C2019C***

眼精疲労患者における低加入度数コンタクトレンズの有効性

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1134.1138,2022c眼精疲労患者における低加入度数コンタクトレンズの有効性岩﨑優子*1梶田雅義*1,2宮後宏美*1十河亜梨紗*1冨田誠*3大野京子*1*1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科*2梶田眼科*3横浜市立大学データサイエンス学部CE.ectivenessoftheLow-AdditionContactLensesforAsthenopiaPatientsYukoIwasaki1),MasayoshiKajita1,2),HiromiMiyaushiro1),ArisaSogo1),MakotoTomita3)andKyokoOhno-Matsui1)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,TokyoMedicalandDentalUniversity,2)Kajitaeyeclinic,3)DepartmentofHealthDataScience,GraduateSchoolofDataScience,YokohamaCityUniversityC眼精疲労症状を自覚するC33名の若年者(20.40歳)を対象として,+0.5D加入のソフトコンタクトレンズ(CL)の効果を検討した.単焦点CCLないし+0.5Dの低加入度数CLを使用している際の眼精疲労の3症状:「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」について,VASスコアで評価した.試験を完遂したC30名のうち,低加入度数CCL使用中と単焦点CCL使用中のCVASスコアに有意差はなかった.しかし,試験終了時のアンケートでは低加入度数CCLが眼精疲労症状に有用と感じた被験者がC19名(63%)みられ,低加入CCL度数の有用性が示唆された.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.ectCoflow-addition(+0.5Daddition)softCcontactlenses(CLs)inCyoungCadults(i.e.,C20-40Cyearsold)su.eringCfromCasthenopiaCsymptoms.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC33Csub-jectsC.ttedCwithCmonofocalCCLsCor+0.5D-additionCCLs.CWhileCtheCmonofocalCCLsCor+0.5D-additionCCLsCwereCbeingCworn,CthreeCsymptomsCofCasthenopia,Ci.e.,“tiredCeye,”“discomfortCfeelingCatCtheCsurfaceCofCtheCeye”,CandC“blurryCvision”wereCevaluatedCusingCVisualCAnalogueScale(VAS)scores.CResults:OfCtheC33Csubjects,C30Ccom-pletedthestudyprotocol.Nosigni.cantdi.erenceinVASscoreswasfoundbetweenthoseusingthe+0.5D-addi-tionCCLsCandCthoseCusingCtheCmonofocalCCLs.CHowever,CwhenCtheCsubjectsCwereCaskedCaboutCtheirCimpressionsCofCtheCCLs,19(63%)statedCthat+0.5D-additionCCLsCwereCe.ectiveCforCasthenopiaCsymptoms.CConclusion:Low-additionCLscansometimesbeane.ectivetreatmentforpatientssu.eringfromasthenopiasymptoms.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1134.1138,C2022〕Keywords:眼精疲労,累進屈折力,低加入度数,コンタクトレンズ.asthenopia,progressiveaddition,lowaddi-tion,contactlenses.Cはじめにパソコン,スマートフォン,携帯型ゲーム機などのデジタル機器の利用者に,高率に眼精疲労の症状がみられると報告されている1,2).これらの機器は今後も日常生活で多用され,眼の疲れや近方視が見にくいなどの症状を訴える人が増加していくと予想される.近方視を補助する累進屈折力レンズ眼鏡が眼精疲労に有用であるかについて,多くの論文で検討されているが,いまだ統一した見解はない1,3.7).近年,+0.5Dという軽度の加入を伴うソフトコンタクトレンズ(以下,低加入度数CCL)がシード社より発売された.高らの研究では,20歳からC39歳の若年者を対象として低加入度数CCLを装用した際の調節反応量と視機能を評価したところ,低加入度数CCLは遠見視力を損なうことなく単焦点コンタクトレンズ(contactlens:CL)に比べ近見時の調節反応を軽減した8).この結果からは,近見作業による若年者の眼精疲労に,低加入度数CCLが有用であることが期待できる.今回筆者らは,眼精疲労を自覚しているC20歳からC40歳の若年者を対象として,低加入度数CCLが眼精疲労の軽減に有効であるかを検討した.CI対象および方法Web,ポスターを介した募集に応募した人のうち,図1aに示す選択基準をすべて満たし,除外基準に抵触しない人を対象とした.試験デザインは,オープンラベル,ランダム化〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦C3-6-3協栄ビルC4階梶田眼科Reprintrequests:MasayoshiKajita,M.D.,Ph.D.,Kajitaeyeclinic,Kyoei-biru4F,3-6-3Shibaura,Minato-ku,Tokyo108-0023,CJAPANC1134(124)ab選択基準1.年齢2.性別3.CL装用時間4.常用CCL5.症状6.矯正視力7.その他除外基準1.眼科疾患の併存2.常用CCL3.常用薬4.その他20歳以上C40歳以下男女1日8時間以上,週C5日以上のソフトCL装用が可能単焦点ソフトCCL「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」のうちいずれかに該当する1.0以上本研究への参加にあたり十分な説明を受けたのち,十分な理解のうえ,被験者本人の自由意志による文書同意が得られた者前眼部疾患,角膜屈折矯正手術後,白内障術後単焦点ソフトCCL以外調節機能に影響が想定される内服・点眼・サプリメント全身疾患の併存,妊娠中・授乳中,研究責任者が被験者として不適当と判断した者図1研究の流れを行うC2C×2クロスオーバーの介入試験である(図1b).初回来院時に同意取得および適格性の確認を行い,CLの球面度数を決定した.CLは,球面度数,素材,中心厚が同じ単焦点CCLと低加入度数CCLを用いた(表1).眼精疲労の症状は,「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」のC3症状について視覚的アナログスケール(visualCanalogscale:VAS)スコア(0.100点)とCNEIVFQ25による近見と痛みについての点数で評価した.参加前の矯正状態(過矯正・低矯正)の影響を取り除くため,適正矯正値の単焦点レンズを1週間使用したのちに初回検査を行った.初回検査では,自覚的および他覚的屈折度,遠方および近方の裸眼視力と矯正視力,眼位検査,輻湊検査,チトマス立体試験による両眼視機能検査,調節微動解析(AA-2,ニデック,石原式近点計による自覚的調節力検査,ウェブフロントアナライザー(トプコン)により測定した角膜全高次収差と眼球全高次収差を評価した.調節微動は無限遠視標およびC2Cm先視標を固視しながらC8回測定されたChighCfrequencyCcomponent(HFC)値の中央値とした.高次収差はC3回測定した中央値を評価対象とした.低加入度数CCLと単焦点CCLの装用順は,臨床研究支援システム「HOPEeACReSS」を用いてランダムに割り付けた.被験者にはCCLの種類を説明しないことで先入観の排除に努めた.その後,割り付けられた順でC2週間ずつ単焦点CCLないし低加入度数CCLを使用してもらうことと,眼精疲労C3症状のCVASスコアをC1日C1回自己評価することを被験者に依頼した.中間検査および最終検査では,屈折度などの視機能や眼表面に有害事象が生じていないか確認した.試験終了時に,単焦点CCLないし低加入度数CCLのどちらかを選択してもらいC2カ月分贈呈し,また,その際にCCLの選択理由を聴取した.CLに対する先入観を極力排除するため,「前半C2週間,後半C2週間のCCLのどちらを希望するか」,「希望したCCLと希望しなかったCCLの装用感の違いについて思ったことを教えてください」という表現にて聴取を行った.主要評価項目は単焦点CCLないし低加入度数CCLを使用中の眼精疲労のC3症状(「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」)についてのCVASスコア(0.100点)とした.VASスコアの評価においては,2週間の装用期間のうち後半C1週間におけるスコアの中央値を求め,2種類のCCLの間でCVASスコアに統計的有意差があるかCMann-WhitneyU検定を用いて検討した.副次評価項目は,試験終了時に低加入度数CLを希望した群と単焦点CCLを希望した群の間で,被験者の眼科的な臨床像を比較した.検定はCEZR9)を使用した.EZRはCRおよびCRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトフェアである.量的データはCMann-WhitneyU検定,質的データはCFisherの正確確率検定を用いて比較した.本研究は株式会社シードからの受託研究として行われ,特定臨床研表1レンズのデザイン試験レンズ単焦点レンズ低加入度数レンズレンズ名「ワンデーピュアうるおいプラス」「ワンデーピュアうるおいプラスFlex」2-HEMA,四級アンモニウム基含有メタクリレー2-HEMA,四級アンモニウム基含有メタクリレート系化合物,素材ト系化合物,カルポキシル基含有メタクリレート系カルポキシル基含有メタクリレート系化合物,CMMA,C化合物,MMA,EGDMAEGDMAベースカーブC8.8CmmC8.8Cmm加入度C─+0.50Dデザイン単焦点二重焦点+移行部近用光学部移行部遠用光学部-3.00Dの場合究法に基づき東京医科歯科大学臨床研究審査委員会の審査を受け施行した(jRCTs032190029).世界医師会ヘルシンキ宣言に則り研究は施行され,本人の自由意志による同意を得た.CII結果33名が参加,うちC3名が途中脱落したため,試験を完遂したC30名を解析対象とした.途中脱落の内訳は,従来トーリックレンズを使用しており参加後に見え方に不満を覚えた1名,仕事の調整がつかないC1名,不明がC1名だった.30名の内訳は女性C25名,男性C5名で,平均年齢はC31歳(21歳.40歳)であった.他覚的球面屈折度は平均C.4.95D(.1.75D.C.8D),他覚的円柱度数は平均.0.64D(0D.C.2.25D)だった.単焦点CCL装用中と低加入度数CCL装用中のCVASスコアを図2に示す.「目の疲れ」のCVASスコアは単焦点CCLを使用中は平均C30.6(標準偏差C20.5),低加入度数CCLを使用中は平均C27.3(標準偏差C22.0)だった.「目表面の違和感・不快感」のCVASスコアは単焦点CCLで平均C21.4(標準偏差16.9),低加入度数CCLでC25.9(標準偏差C22.2),「霧視」は単焦点CCLで平均C21.3(標準偏差C18.2),低加入度数CCLで27.3(標準偏差C24.9)であった.標準偏差が大きく,眼精疲労のC3症状いずれにおいても有意な差はみられなかった.試験終了時の贈与においては,20名が低加入度数CCLを希望し,10名が単焦点CCLを希望した.その際に取得したCCLの使用感のアンケート結果の要約を図3に示す.単焦点CCLと比べ低加入度数CCLで改善(主要評価項目の眼精疲労C3症状いずれかの改善,もしくは漠然と眼精疲労症状の改善を訴えたもの)が明確であったものがC14名(47%),軽度の改善を感じたものがC5名(17%)と,低加入度数CCLの眼精疲労改善効果を感じた被験者はC19名(64%)であった.1名(3%)は差を感じなかったので使用を継続したい,という消極的な理由にて低加入度数CCLを希望した.逆に,低加入度数CCL期間中に霧視の増悪を自覚したC6名(20%),目表面の違和感の増悪を自覚したC4名(13%)は単焦点CCLを希望した.低加入度数CCLを選択したC20名と単焦点CCLを選択したC10名の間で,初回検査の検査結果および適格性検査における眼精疲労症状について差があるかを検討した(表2).輻湊が鼻先C4Ccmと不良な例が単焦点CCL選択群にみられた(p値=0.047,Mann-WhitneyU検定)が,その他明らかな臨床像の違いはみられなかった.試験期間中,明らかな有害事象の発生はなく,また中間検査や最終検査において有意な検査所図2単焦点CLおよび低加入度数CL使用中のVASスコア見の変化はみられなかった.改善やや改善同等III考察30名の被験者において調査したCVASスコアからは,低加霧視の増悪入度数CCL使用中の眼精疲労症状の有意な改善は示されなかった.眼精疲労症状は眼所見,眼外所見ともに多彩2)である.評価項目を増やすことは解析の重複により有意差を観察することが困難になりうるという側面もある.このため今回筆者3%らは,既報においてC30分の近見作業で有意に増悪したこと目表面の違和感の増悪が示されている「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」のCVASスコアを評価対象とした10).しかし図2に示すとおり,被験者間のばらつきが大きく,有意差の検出には至らなかった.眼精疲労症状およびその変化に対する感じ方に,個人差が大きい可能性が考えられる.眼精疲労症状の客観的な評価手法の検討が進められており10,11),今後はアンケートによらない評価法を試みることが必要と考えられる.低加入度数CCLで症状の改善(主要評価項目C3症状のいずれかの改善,ないし漠然とした疲れ症状の改善)を自覚した被験者は,30名中C19名と多くみられ,一定の効果が示唆された.CLに対する先入観を最小にするべく,割り当てるCLの種類については試験期間中において説明は行わなかったが,CLの容器に「+0.5D」と記載があることから本研究は盲検試験ではない.一定の先入観が影響した可能性は除外できず,結果の解釈には注意が必要である.単焦点CCLの使用感が良好であったC10名のうち,見づらさを自覚した症例がC6名いたのに対し,低加入度数CCLを選択したC20名では見づらさの訴えはなかった.低加入度数CLの使用感が良好であった症例の特徴を明らかにすべく,単焦点CCLを選択した群と検査所見を比較したが,明らかな有意差はみられなかった(表2).今回評価対象とした検査項目によって,低加入度CCLが有効な症例を選別することは困難と考えられる.眼精疲労症状の評価として行った調節微動,VASスコア,VFQ-25のいずれも低加入度CCLが有効な症例を判別するために有用でなかったことは,今後の同様図3低加入度数CLによる眼精疲労症状の変化の研究において眼精疲労の客観的な評価手法の必要性を支持すると考えられる.なお,低加入度数CCLを選択した群では輻輳が良好であったが(表2),p値からは解析の多重性を考慮すると有意差が示唆される程度と考えられた.輻湊と眼精疲労の関連については,コンピュータ作業やC3D画像の視聴で輻湊が低下するという報告もみられるが,有意差がないとする報告や,1プリズム以下の斜位が疲労に関与するという報告もあり,統一した見解はない2).輻湊と低加入度数CCLの使用感の関係については今度さらに検討が必要と考える.眼精疲労には,瞬目,作業環境,矯正状態など複数の要因が関与する2).今回評価対象外であったこれらの要因が低加入度数CCLの有効性を予測するのに有用であるかについては,今後検討が望ましい.試験中明らかな有害事象はなく,若年者の低加入度数CCL装用に伴う危険性は示唆されなかった.CIV結論低加入度数CCLにより,若年者の眼精疲労患者C30名中C19名で自覚的な改善効果が得られた.有効性を実感した症例の眼検査所見に明らかな特徴はなく,CLを試用する機会の提供が必要と考えられた.VASによる統計的有意な症状の改善は確認できなかった.眼精疲労症状の客観的な評価手法を用いてさらに検討が必要と考えられた.表2単焦点CLを希望した被験者と低加入度数CLを希望した被験者の臨床像の比較中央値[最小値,最大値]評価項目(単位)単焦点CCL選択群低加入CCL選択群p値(n=10)(n=20)性別女性7名女性1C8名C0.3男性3名男性2名年齢(歳)33.5[22.40]30.0[21.40]C0.5371身長(cm)161.5[C150.C180]158.5[C150.C184]C0.29他覚的球面度数(D)C.5.25[C.6.25.C.4.0]C.4.63[C.8.00.C.1.75]C0.2992他覚的円柱度数(D)C.0.5[C.2.25.C.0.25]C.0.5[C.1.75.0]C0.306遠見裸眼視力(logMAR値)1.16[C1.00.C1.40]1.19[C0.22.C1.70]C0.9113遠見矯正視力(logMAR値)C.0.16[C.0.30.C.0.08]C.0.18[C.0.30.C.0.08]C0.4788自覚的球面度数(D)C.4.88[C.5.75.C.3.5]C.4.5[C.8.0.C.1.5]C0.5078自覚的円柱度数(D)C.0.25[C.2.5.0]C.0.5[C.1.75.0]C0.5011近見矯正視力(logMAR値)C.0.08[C.0.08.0]C.0.08[C.0.18.0]C0.891輻湊(cm)0[0.4]0[0.0]C0.04733*両眼視機能(秒)40[40.50]40[40.2C00]C0.3395眼位.遠見,水平(P)0[.16.0]0[.14.2]C0.5709眼位.遠見,上下(P)0[0.0]0[0.0]CNA眼位.近見,水平(P)0[.14.0]0[.25.8]C0.3392眼位.近見,上下(P)0[0.0]0[0.0]CNA眼球全高次収差(Cμm)0.11[C0.07.C0.27]0.12[C0.06.C0.29]C0.8087角膜全高次収差(Cμm)0.12[C0.05.C0.33]0.09[C0.06.C0.24]C0.3115HFC値C.無限遠視標53.0[C46.23.C62.88]52.1[C43.3.C58.7]C0.7132HFC値C.2Cm先の視標49.1[C45.7.C74.6]53.9[C45.6.C59.4]C0.1307調節力(D)9.45[C6.29.C19.23]11.5[C6.41.C20]C0.2435CVFQ-25.痛み137.5[C75.C175]150[75.2C00]C0.3341CVFQ-25.近見75[42.1C00]87.5[8.1C00]C0.4364VASスコアC.目の疲れ(mm)70[10.80]65[30.1C00]C0.9284VASスコアC.目表面の違和感・不快感(mm)55[0.1C00]30[0.70]C0.2673VASスコアC.霧視(mm)60[0.80]37.5[0.92]C0.4231利益相反岩﨑優子はC2018年度からC2020年度に及び,株式会社シード社からの受託研究費で雇用された.また,試験に用いた調節微動解析装置CAA-2はシード社から貸与されたものである.文献1)HeusP,VerbeekJH,ikkaC:Opticalcorrectionofrefrac-tiveCerrorCforCpreventingCandCtreatingCeyeCsymptomsCinCcomputerCusers.CCochraneCDatabaseCSystCRevC4:CCd009877,C20182)Coles-BrennanCC,CSulleyCA,CYoungG:ManagementCofCdigitalCeyeCstrain.CClinCExpCOptomC102:18-29,C12798,C20193)ButzonCSP,CEagelsSR:PrescribingCforCtheCmoderate-to-advancedametropicpresbyopicVDTuser.AcomparisonofCtheCTechnicaCProgressiveCandCDataliteCCRTCtrifocal.CJAmOptomAssocC68:495-502,C19974)ButzonSP,SheedyJE,NilsenE:Thee.cacyofcomput-erCglassesCinCreductionCofCcomputerCworkerCsymptoms.COptometryC73,C221-230,C20025)HorgenCG,CAarasCA,CThoresenM:WillCvisualCdiscomfortCamongCvisualCdisplayunit(VDU)usersCchangeCinCdevel-opmentwhenmovingfromsinglevisionlensestospecial-lyCdesignedCVDUCprogressivelenses?COptomCVisCSciC81:341-349,C20046)塚田貴大:若年者向け累進屈折力レンズの調節微動による眼疲労の評価.日本視能訓練士協会誌45:25-37,C20167)JaschinskiW,KonigM,MekontsoTMetal:Comparisonofprogressiveadditionlensesforgeneralpurposeandforcomputervision:anCo.ceC.eldCstudy.CClinCExpCOptomC98:234-243,C20158)KohCS,CInoueCR,CSatoCSCetal:Quanti.cationCofCaccommo-dativeCresponseCandCvisualCperformanceCinCnon-presby-opesCwearingClow-addCcontactClenses.CContCLensCAnteriorCEyeC43:226-231,C20209)KandaY:InvestigationCofCtheCfreelyCavailableCeasy-to-useCsoftware‘EZR’CforCmedicalCstatistics.CBoneCMarrowCTransplantC48:452-458,C201310)HirotaCM,CMorimotoCT,CKandaCHCetal:ObjectiveCevalua-tionCofCvisualCfatigueCusingCbinocularCfusionCmaintenance.CTranslVisSciTechnolC7:201811)ChenCC,CWangCJ,CLiCKCetal:VisualCfatigueCcausedCbyCwatching3DTV:anCfMRICstudy.CBiomedCEngCOnlineC14Suppl1:S12,2015C***

BUT短縮タイプのドライアイ患者に対するムコスタ点眼液UD2%の有効性と安全性:実臨床下での解析結果

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1529.1535,2018cBUT短縮タイプのドライアイ患者に対するムコスタ点眼液UD2%の有効性と安全性:実臨床下での解析結果安田守良*1増成彰*1曽我綾華*1坪田一男*2大橋裕一*3木下茂*4*1大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3愛媛大学*4京都府立医科大学感覚器未来医療学CE.icacyandSafetyofRebamipideEyeDropsinPatientswithDryEyeSyndromeofShortBUTType.ResultsofRealWorldSettingsMoriyoshiYasuda1),AkiraMasunari1),AyakaSoga1),KazuoTsubota2),YuichiOhashi3)andShigeruKinoshita4)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.Ltd,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)EhimeUniversity,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC2016年に新しいドライアイ診断基準が公表されたことから,角結膜上皮障害のない涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮タイプのドライアイ患者に対するレバミピド点眼液の有効性と安全性を,実臨床下で実施した製造販売後調査を用いて検討した.登録患者からCBUT5秒以下の患者を選択し,さらに生体染色スコアにより分類したところ,角結膜上皮障害なしまたは軽度のドライアイ患者がC291名,明らかな角結膜上皮障害をもつ患者がC411名であった.これらC2群の患者についてレバミピド点眼液の有効性を比較したところ,点眼前の角結膜上皮障害の程度にかかわらず,BUTの改善,自覚症状の改善が認められた.さらにコンタクトレンズ装用患者,ドライアイの原因が眼手術であった患者のサブグループでもCBUT,自覚症状の改善が認められた.以上の結果より,BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度のドライアイ患者に対するレバミピド点眼液の実臨床下の有効性,安全性を確認した.CInresponsetopublicationofthenewDiagnosticCriteriaforDryEye,weinvestigatedthee.icacyandsafetyofrebamipideophthalmicsuspensioninpatientswithshortBUTandnoormildcorneal/conjunctivalepithelialdis-ordersusingtheresultsofpost-marketingsurveillanceconductedinJapan.AmongallenrolledpatientswithBUTof5secondsorless,411(44.9%)hadcorneal/conjunctivaldisorderand291Cdidnot.Thee.ectivenessofrebamip-ideregardingBUTanddryeyesymptomswerecomparablebetweenthetwogroups.Moreover,inasubgroupofpatientswithcontactlenses,dryeyecausedbyophthalmicsurgeryalsohadsigni.cantimprovementinBUTandtheseverityof.vesubjectivesymptoms.Theseresultsdemonstratedthee.icacyandsafetyinclinicalpracticeofrebamipideophthalmicsuspensionindryeyepatientswithnoormildcorneal/conjunctivaldisorders.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1529.1535,2018〕Keywords:ドライアイ,レバミピド,コンタクトレンズ,眼手術.dryeye,rebamipide,contactlens,ophthalmicsurgery.Cはじめにレバミピド点眼液(商品名:ムコスタ点眼液CUD2%,大塚製薬)はムチン産生促進作用をもつ薬剤で,ヒアルロン酸点眼液との比較試験でその有効性と安全性が証明され,2012年にドライアイに対する治療薬として発売された1).また,最近では抗炎症作用をもつことも報告されている2).さらに,筆者らは実臨床における有効性と安全性の結果をC916名の患者が参加した製造販売後調査の結果としてすでに公表してきた3).ドライアイの診断基準は,2006年に公表された「ドライ〔別刷請求先〕安田守良:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通C3-2-27大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:MoriyoshiYasuda,Ph.D.,OtsukaPharmaceuticalCo.Ltd.3-2-27,Otedori,Chuo-kuOsaka540-0021,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(81)C1529アイ診断基準」においては自覚症状,涙液異常,角結膜上皮障害の三つが併存していることとされていた4).レバミピド点眼液の第CIII相臨床試験はその診断基準を加味し,角膜上皮障害の指標として生体染色スコアC4以上(15点満点)を対象患者として実施し,その結果を用いてレバミピド点眼液は承認されている.しかし,2016年の「ドライアイ診断基準」の改訂により角結膜上皮障害は必須ではなくなり,涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮タイプのドライアイ患者も含むと定義された5).そこでレバミピド点眼液で治療を行った製造販売後調査結果を見直したところ,916例全例がなんらかの自覚症状を有しており,BUT5秒超の患者はわずかC36名(3.9%)であった.したがって,ほぼ全例が新しい「ドライアイ診断基準」に該当することが判明した.さらにCBUT5秒以下の患者群を明らかな角結膜上皮障害が認められる患者と,角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者に分類したところ,前者はC44.9%(411/916名),後者はC31.8%(291/916名)であった.角結膜上皮障害がないまたは軽度なドライアイ患者は第CIII相臨床試験では除外されていた患者群であったことから,これら患者に対するレバミピド点眼液の有効性と安全性を解析することにした.また,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用はドライアイのリスクファクターであることが知られている.レバミピド点眼液は防腐剤を含まない製剤であり,CL装用者にも広く使用されている.また,眼手術もドライアイのリスクファクターであるとされている.そこでCCL装用者とドライアイの原因が眼手術と報告されていた患者のサブグループ解析も実施したので報告する.CI対象および方法2016年に報告した製造販売後調査3)と同一のデータを新たに解析した.すなわち,合計C916名の製造販売後データを用いて,BUTがC5秒以下(2016年の診断基準によるドライアイ)とC5秒超または不明のC2群に分け,5秒以下の患者群をさらに生体染色スコアがC0,C1,2の患者群とC3以上の患者群のC2群に分け,患者背景を比較した.このときC3以上とした理由はC2006年の「ドライアイ診断基準」を参考にした.患者背景の比較には連続変数はCt検定,カテゴリー変数ではFisherの直接確率法を用いた.また,BUTの推移について投与開始からC52週までの平均値の推移を集計解析した.ドライアイの自覚症状としては調査したC5項目(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)それぞれについて(0:症状なし,1:弱い症状あり,2:中くらいの症状あり,3:強い症状あり,4:非常に強い症状あり)のC5段階で患者からの聞き取りにより評価した.これらのスコアの推移を生体染色スコア2以下の患者群とC3以上の患者群で投与開始からC52週までその平均値を集計した.なお,各自覚症状の解析では,投与開始時にスコアがC1以上である患者を解析対象とした.また,生体染色スコアC2以下の患者群からCCL装用者,ドライアイの原因が眼手術と報告されていた患者を抽出してサブグループとした.BUT,各自覚症状の投与開始時からの推移については,症例数が少ないことから最終観察時と比較して投与前後のスコアを比較した.上記すべての解析で,開始時と投与後の比較には対応のあるCt検定を行った.CII結果データを収集した全体C916名中CBUT5秒以下(2016年診断基準によるドライアイ)はC708名,5秒超または不明は208名であった.BUT5秒以下の患者群をさらに生体染色スコアで分類したところ,スコアC2以下はC291名(全体の31.8%),スコアC3以上はC411名(全体のC44.9%),であった(図1).C1.患.者.背.景BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者群と,BUT短縮かつ明らかな角結膜上皮障害をもつ患者について患者背景を比較した.その結果,角結膜上皮障害なしまたは軽度の患者群では,医師が判定した重症度において軽度の患者が多く(64%vs.24%,p<0.0001),BUTが長かった(2.9秒vs.2.7秒,p=0.0078).また,合併症としてはアレルギー性結膜炎の割合が高く(15.5%Cvs.8.3%,p=0.0035),Sjogren症候群の割合が低かった(1.7%vs.8.8%,p<0.0001)(表1).レバミピド点眼液投与前の自覚症状をもつ患者割合と自覚症状スコアの平均値では,染色スコアC2以下の患者群では,調査したC5項目の自覚症状すべてで症状のある割合が低かった(表2a).また,染色スコアC2以下の患者群では,異物感,乾燥感のスコアの平均値が低かった(表2b).C2.BUT・自覚症状の推移角結膜上皮障害の程度別にC2群に分類した患者群について,レバミピド点眼液投与後のCBUTの推移を示した(図2).角結膜障害なしまたは軽度な患者群で,開始時のCBUTはC3.0C±1.3秒であった.4週後にはC4.0C±2.1秒と有意な増加を示し(p<0.001),52週までのすべての観察時点で開始時と比べて有意な増加を示した.最終観察時点の平均値はC4.3C±2.2秒であった.角結膜障害が明らかな患者群(スコアC3以上)では,開始時C2.7C±1.3秒,4週後C3.9C±2.0秒と有意な改善を示し(p<0.001),52週までのすべての観察時点で開始時と比べて有意な増加を示した.最終観察時点の平均値はC4.5C±2.2秒であった.どちらの患者群でも開始時に比べてC4週後以降は有意な改善を示し,レバミピド点眼液の有効性が確認できた.患者ごとに投与前と最終評価時を比較すると,角結膜障害なしまたは軽度の患者群でCBUT改善C55%,変化なし34%,悪化C11%,角結膜障害が明らかな患者群でCBUT改善76%,変化なしC21%,悪化C3.7%であった.図3に角結膜上図1症例構成表1患者背景の比較全体Cn=916BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)(n=291)BUT短縮かつ角結膜上皮障害(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)(n=411)p値性別:女性の割合(%)C83.8C83.9C86.6C0.32861)年齢:平均値(年)C63±16C62±17C63±16C0.66412)重症度(医師判定)軽度(%)中等度(%)重症(%)C41C51C8C64C34C2C24C64C11<C0.0001***C1)BUT(秒)C3.0±1.6C2.9±1.3C2.7±1.3C0.0078**2)染色スコアの平均値C3.1±2.3C0.98±0.82C4.67±1.64<C0.0001***C2)ドライアイの原因環境因子(%)合併症(%)眼手術(%)コンタクトレンズ(%)薬剤(%)その他(%)C44.5C12.2C9.2C5.6C3.3C36.7C46.7C11.0C10.7C7.9C3.1C32.7C47.5C13.4C7.5C4.9C2.9C36.5C0.87821)C0.35541)C0.17701)C0.11091)C1.00001)C0.29741)合併症白内障(%)緑内障(%)アレルギー性結膜炎(%)結膜炎(%)Sjogren症候群(%)C17.4C12.0C11.6C5.8C5.8C15.8C8.3C15.5C7.9C1.7C16.3C10.2C8.3C6.8C8.8C0.91711)C0.43171)C0.0035**1)C0.65841)<C0.0001***C1)コンタクトレンズあり(%)C6.9C9.3C6.6C0.19611)前治療薬ヒアルロン酸(%)ジクアホソルCNa点眼(%)ステロイド(%)人工涙液(%)C12.4C13.2C4.7C1.3C11.7C16.2C4.8C1.4C13.9C13.1C3.9C1.2C0.42611)C0.27621)C0.57411)C1.00001)1)Fisherの正確検定,2)t検定.表2a投与前自覚症状の比較BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)p値異物感75.4%(C211/280名)89.4%(C361/404名)<C0.00011)乾燥感77.8%(C217/279名)90.6%(C366/404名)<C0.00011)羞明25.2%(69/274名)54.7%(C217/397名)<C0.00011)眼痛45.0%(C125/278名)60.8%(C245/403名)<C0.00011)霧視25.0%(69/276名)54.0%(C216/400名)<C0.00011)1)Fisherの正確検定.表2b投与前自覚症状のスコアの比較BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)p値異物感C1.78±0.86(C211名)C2.10±0.95(C361名)<C0.00012)乾燥感C1.91±0.91(C217名)C2.22±0.97(C366名)C0.00022)羞明C1.65±0.84(69名)C1.80±0.87(C217名)C0.21122)眼痛C1.70±0.90(C125名)C1.85±0.94(C245名)C0.13392)霧視C1.59±0.79(69名)C1.63±0.91(C216名)C0.74202)2)t検定.BUT5秒以下かつ染色スコア2以下BUT5秒以下かつ染色スコア3以上9.08.07.06.05.04.03.02.01.0BUT(秒)スコアC2以下Cn=291C146C93102C75C58C51C68C44C47C37C32C31C44249スコアC3以上Cn=411C176133138119C72C79C91C80C80C66C71C66C64325図2BUTの推移(染色スコア別)皮障害の程度別にC2群に分類した患者群について,レバミピ時と最終観察時点で比較した.24名でCBUTの投与前後の比ド点眼液投与後の自覚症状の平均値の推移を示した.すべて較が可能であった.BUTは開始時C2.9C±1.1秒からC4.0C±1.8の自覚症状について角結膜上皮障害の程度にかかわらず有意秒へ有意な改善が認められた(p<0.01).また,自覚症状C5な改善が認められた.項目について開始時と最終観察時のスコアを比較したとこC3.CL装用者の結果ろ,すべての自覚症状で開始時と比べて有意な改善が認めらBUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者C291れた(すべてp<0.01)(図4).名のうちCCL装用者C27名を抽出し,BUT,自覚症状を開始異物感乾燥感羞明染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上2.52.52.50.50.50.50.00.00.0スコアスコア2.02.02.0スコア1.51.51.51.01.01.0開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852眼痛霧視染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上2.52.50.50.50.00.02.02.0スコアスコア1.51.51.01.0開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852図3自覚症状の推移(生体染色スコア別)BUT(n=24)自覚症状■投与前■最終観察時■投与前■最終観察時6.03.53.05.02.54.0BUT(秒)2.0スコア3.01.52.01.01.00.50.00.010)=n(霧視16)=n(眼痛11)=n(羞明22)=n(21)乾燥感=(n異物感図4コンタクトレンズ装用者のBUTと自覚症状の投与前と最終観察時の比較4.眼手術既往患者の結果秒からC3.4C±1.6秒へ改善傾向が認められたが,統計学的有BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者C291意差はなかった(Cp=0.0761).自覚症状C5項目についても開名のうち眼手術がドライアイの原因であった患者C31名を抽始時と最終観察時のスコアを比較した結果,異物感,乾燥出し,BCUT,自覚症状を開始時と最終観察時点で比較した.感,眼痛は投与開始時に比べて有意な改善を示した(いずれ24名で投与前後のCBUTが比較可能であり,開始時C2.9C±1.4もp<0C.01).一方で,羞明,霧視ではスコアの改善傾向は4.02.05.02.5BUT(秒)3.01.52.01.01.00.50.00.0図5ドライアイの原因が眼手術であった患者のBUTと自覚症状の投与前と最終観察時の比較表3おもな副作用発現率副作用名BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)味覚異常9.6%(C28/291名)9.5%(C39/411名)霧視3.8%(C11/291名)2.9%(C12/411名)アレルギー性結膜炎0.7%(2/291名)0.7%(3/411名)眼脂0.7%(2/291名)0.0%(0/411名)眼痛0.7%(2/291名)0.7%(3/411名)眼そう痒症0.7%(2/291名)0.2%(1/411名)MedDRA/Jversion20.0で集計.認められたものの有意ではなかった(図5).C5.副作用表3にC0.5%以上報告された副作用を発現率順に示した.もっとも多く報告された副作用は本剤の物性である苦味に起因すると考えられる味覚異常であり,染色スコアC2以下の患者,3以上の患者でそれぞれC9.6%,9.5%であった.次に多く報告された事象は霧視であり,それぞれC3.8%,2.9%であった.なお,副作用の霧視はドライアイの症状としての霧視とは区別して評価した.これらの発現率は製造販売後調査データ全体(916名)の発現率,味覚異常C9.3%(85/916名),霧視C3.2%(29/916名)とほぼ同じであり,差異は認められなかった.CIII考察2016年に新しい「ドライアイ診断基準」が公表されたことから,レバミピド点眼液の製造販売後調査結果を再解析したところ,916例の全例がなんらかの自覚症状を有していた.そしてCBUT5秒超であった患者割合はわずかC3.9%であり,ほとんどの患者がCBUT5秒以下の患者であったと推測された.すなわち,このC916名ほぼ全員が,新しい「ドライアイ診断基準」ではドライアイと確定診断されると考えられる.レバミピド点眼液の承認申請に用いた第CIII相試験では,フルオレセイン染色スコアがC4以上(15点満点)の患者を対象としていた.そのため,角結膜上皮障害がないまたは染色スコアが低い患者に対するレバミピド点眼の有効性・安全性は確認されていなかった.今回,製造販売後調査データから,BUT短縮例のうち,角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者と明らかに角結膜上皮障害がある患者の患者背景,有効性を比較した.患者背景の比較から角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者では医師判定の重症度が低く,アレルギー性結膜炎の割合が高いという特徴が見いだされた.これは戸田らの報告と一致していた6).有効性の指標としてCBUTの改善を比較したところ,角結膜上皮障害の程度にかかわらずレバミピド点眼液の効果を確認することができた.同様にC5項目の自覚症状についても二つの患者群でともに改善を確認することができた.これらの結果から,レバミピド点眼液は角結膜上皮障害の程度にかかわらず有効性を示すと考えられた.サブグループとしてCCL装用患者の解析も実施した.レバミピド点眼液は防腐剤を含まないユニットドーズ点眼薬であり,防腐剤による眼表面上皮への細胞損傷の可能性が無視できる.今回,筆者らはCCL装用患者でCBUT,自覚症状の改善を確認することができた.CL装用者に対するレバミピド点眼液の有効性については人工涙液との比較でコントラスト感度,BUT,結膜上皮障害スコアが有意に改善することを浅野らが報告している7).今回は比較対象薬がない検討ではあるが,さまざまな治療薬が使用されている実臨床下で開始時と比較してレバミピド点眼液の有効性が示されたことには意義があると考えられる.また,サブグループとして眼手術がドライアイの原因である患者の解析を行ったところ,自覚症状のうち乾燥感,異物感,眼痛で投与後に有意な改善を示した.BUTおよび羞明,霧視という自覚症状では有意傾向を示すものの統計学的有意差が認められなかった.今後,手術の種類や時期などについて詳細に解析,検討する必要がある.なお,副作用の発現状況においても染色スコアC2以下の患者群と染色スコアC3以上の患者群で発現率に大きな違いは認められなかった.副作用のうち味覚異常(苦味)は本剤が鼻涙管を経由して鼻咽頭へ流れ込むこと,霧視は本剤が懸濁製剤であることに起因すると考えられるが,いずれも一過性の事象である.以上,実臨床データを用いた解析から,BUT短縮かつ角結膜上皮障害がなしまたは軽度なドライアイ患者に対しても,レバミピド点眼液の有効性と安全性が示されていることを確認した.謝辞:本報告にあたり,調査にご協力いただいた先生方に厚くお礼申し上げます.また,統計解析を実施していただきましたエイツーヘルスケア株式会社竹田眞様に感謝いたします.文献1)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:ArandomizedmulticenterCphaseC3studyCcomparing2%Crebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreat-mentofdryeye.OphthalmologyC120:1158-1165,C20132)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:Rebamipideincreas-esCbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmolC97:912-916,C20133)増成彰,安田守良,曽我綾華ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタ点眼液CUD2%)の有効性と安全性―製造販売後調査結果─,あたらしい眼科33:101-107,C20164)島崎潤;ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準,あたらしい眼科24:181-184,C20075)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか;ドライアイ研究会:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科34:309-313,C20176)TodaCI,CShimazakiCJ,CTsubotaK:DryCeyeCwithConlyCde-creasedCtearCbreak-upCtimeCisCsometimesCassociatedCwithCallergicconjunctivitis.OphthalmologyC102:302-309,C19957)浅野宏規,平岡孝浩,大鹿哲郎:コンタクトレンズ装用眼におけるレバミピド点眼の安全性と有効性.眼臨紀8:155-157,C2015C***

オルソケラトロジーレンズを使用中にアカントアメーバ角膜炎を両眼に生じた1例

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):555.559,2017cオルソケラトロジーレンズを使用中にアカントアメーバ角膜炎を両眼に生じた1例三田村浩人市橋慶之内野裕一川北哲也榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室ACaseofBilateralAcanthamoebaKeratitisRelatedtoOrthokeratologyLensesHirotoMitamura,YoshiyukiIchihashi,YuichiUchino,TetsuyaKawakita,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineオルソケラトロジーレンズを使用中に両眼のアカントアメーバ角膜炎を生じた1例を経験したので報告する.アカントアメーバ角膜炎は治療抵抗性であり失明に至ることもある重篤な感染症である.症例は13歳,女性.近医Aでオルソケラトロジーレンズ(オサート)を使用,日中は追加矯正のため1日交換型ソフトコンタクトレンズを使用していた.両眼の充血・羞明を自覚,近医Bを受診し両眼ヘルペス角膜炎の診断で治療受けるも改善せず,近医Cを受診し両眼アカントアメーバ角膜炎の疑いで当科紹介となった.放射状角膜神経炎を認め,矯正視力右眼(1.0),左眼(0.9p).角膜上皮.爬物とレンズケースから培養にてアカントアメーバ陽性であった.治療開始後一時的に,矯正視力右眼(0.5),左眼(0.01)まで低下したが,10カ月経過した時点で両眼ともに矯正視力(1.2)まで回復した.レンズ処方にはガイドラインの遵守,適切なケアの周知が必要である.両眼発症の可能性を減らすにはポビドンヨードの使用,左右分離型のケースなどが考えられる.Wedescribeapatientwhosu.eredbilateralAcanthamoebakeratitiswhileusingorthokeratologylenses.The13-year-oldfemalehadbeenprescribedwithorthokeratologylenses(OSEIRT)atanearbyclinic(A).Shealsouseddailydisposablesoftcontactlensesduringtheday,foradditionalvisualacuitycorrection.Shedevelopedhyperemiaandphotophobiainbotheyesandvisitedanotherclinic(B).Shewasdiagnosedwithbilateralherpeskeratitisandreceivedtreatment,buttherewasnoimprovement.ShethenvisitedhospitalCandwasreferredtoourdepartmentforsuspectedbilateralAcanthamoebakeratitis.CulturesfromcornealcurettageandhercontactlenscasewerepositiveforAcanthamoeba.Sincethelenscasewasaone-unitcasewithoutleftandrightsepara-tion,Acanthamoebakeratitismayhavedevelopedinbotheyesmediatedbythecaseandthestoragesolution.Theuseofpovidone-iodineandalenscasewithseparateleftandrightcompartmentsmayreducethepossibilityofbilateralinvolvement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):555.559,2017〕Keywords:アカントアメーバ,角膜炎,オルソケラトロジー,コンタクトレンズ.Acanthamoeba,keratitis,or-thokeratology,contactlens.はじめにオルソケラトロジーレンズとは,就寝中のみに装用して角膜形状を変化させることで,日中の裸眼視力の向上を目的にしたリバースジオメトリーとよばれる,特殊なデザインをもつハードコンタクトレンズである1).とくにリバースカーブとよばれる部分は,1mm程度の狭い溝構造となっており,通常のこすり洗いでも汚れが落ちにくいといわれている.睡眠時装用による涙液交換の低下,角膜酸素不足による上皮細胞のバリア機能の障害なども感染症のリスクになりうると考えられている2.4).現在の日本でおもに流通しているのは,医薬品医療機器総合機構(PMDA)の認可を受けたaオルソK,マイエメラルド,ブレスオーコレクトなどがあるが,本症例で使用されていたオサートのようにPDMA未認可のものもある.〔別刷請求先〕三田村浩人:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HirotoMitamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANアカントアメーバ角膜炎は,われわれの周辺環境の至る所に生息する原虫であるアカントアメーバが原因で発症する.アカントアメーバ角膜炎は進行するときわめて難治であり,高度の視力障害をきたす例も少なくない5).アカントアメーバは栄養体とシストの2つの形態があり,生育条件が悪化するとシスト化し,さまざまな薬物治療に抵抗する6).アカントアメーバ角膜炎は1974年に英国で初めて報告され7),日本では1988年に石橋らが初めて報告した8).米国では2004年以降急激な増加が指摘され9),わが国でも同様に今世紀に入ってから増加傾向にあり10),近年ではオルソケラトロジーレンズ装用者で報告され始めている11,12).今回筆者らは,オルソケラトロジーレンズ使用中に両眼アカントアメーバ角膜炎を発症した症例を経験したので報告する.I症例患者:13歳,女性.主訴:両眼)視力低下,充血,眼痛.現病歴:近医Aでオルソケラトロジーレンズ(オサート)を8カ月ほど前から使用開始し,日中は追加矯正のため1日交換型のソフトコンタクトレンズを使用していた.2015年11月,両眼の充血と羞明を自覚し,近医Aが休日であったaため症状出現2日後に近医Bを受診,両眼のヘルペス角膜炎の診断を受けた.アシクロビル眼軟膏,モキシフロキサシン点眼液,プラノプロフェン点眼液,フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム点眼液による治療が開始され通院するも症状が改善せず,近医Aでもヘルペスの治療を継続するよう指示されたため,症状出現8日後に近医Cを受診したところ放射状角膜神経炎を認め,アカントアメーバ角膜炎の疑いで同日当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.2(1.0×sph.3.75D(cyl.2.50DAx25°),左眼0.5(0.9p×sph.1.75D(cyl.3.00DAx20°).細隙灯顕微鏡では両眼ともに充血と輪部結膜の腫脹,特徴的な放射状角膜神経炎,点状表層角膜症,角膜上皮欠損,角膜混濁を認めた(図1,2).前眼部OCT(CASIA)では,両眼ともに角膜全体に軽度の浮腫を認め,上皮下を中心に,軽度の角膜混濁が出現していた.生体共焦点顕微鏡(HRT-II)では,両眼ともに角膜上皮内にアカントアメーバのシストと思われる,白血球(10.15μm)よりも少し大きな直径15.25μmの高輝度な円形構造物を多数認めた(図3,4).塗抹検査ではグラム染色とファンギフローラY染色を施行するもアメーバのシストは陰性であったが,培養では右眼の角膜擦過物から3日後に栄養体が検出され,アメーバ陽bc図1初診時右眼前眼部写真a:充血と輪部結膜の腫脹.b:特徴的な放射状角膜神経炎(強膜散乱法).c:点状表層角膜症,偽樹枝状の角膜上皮欠損(フルオレセイン染色).ab図2初診時左眼前眼部写真a:充血と輪部結膜の腫脹.b:特徴的な放射状角膜神経炎,左眼と比べて瞳孔領にも角膜混濁が強い(強膜散乱法).c:点状表層角膜症,偽樹枝状の角膜上皮欠損(フルオレセイン染色).図3初診時右眼画像検査写真a:角膜上皮内にアカントアメーバのシストと思われる直径15.25μmの高輝度な円形構造物を認める(.,生体共焦点顕微鏡HRT-II).Scalebar:50μm.b:角膜全体に軽度の浮腫を認め,不正乱視を認める(CASIA).c:上皮下を中心とした軽度の角膜混濁を認める(CASIA).図4初診時左眼画像検査写真a:右眼と同様に角膜上皮内にアカントアメーバのシストと思われる直径15.25μmの高輝度な円形構造物を認める(.,生体共焦点顕微鏡HRT-II).Scalebar:50μm.b:右眼よりやや強い角膜全体に軽度の浮腫を認め,不正乱視を認める(CASIA).c:右眼より明確な上皮下を中心とした軽度の角膜混濁を認める(CASIA).図5レンズケースa:別のメーカの一体型レンズケース(完全貫通型とクロスタイプ).b:分離型ケース.図6両眼の前眼部写真と画像検査写真(治療開始後7カ月)a:角膜混濁は4時に軽度認めるのみとなっている(右眼).b:不正乱視が大幅に改善した(右眼CASIA).c:角膜厚は正常にまで改善した(右眼CASIA).d:瞳孔領に角膜混濁がまだ残存している(左眼).e:不正乱視が大幅に改善したものの軽度残存している(左眼CASIA).f:角膜厚は改善してきたが不均一な部分を認める(左眼CASIA).性が確認された.また,左眼の培養は陰性であったものの,レンズケースの保存液からもアメーバが培養で陽性であった.レンズケースからは他にChryseobacteriummeningos-peticum,Stenotrophomonasmaltophilia,Acinetobacterlwo.i,nonfermentativeG-neg.rodsが陽性であったが,いずれもニューキノロン系抗菌薬に感受性を認めた.使用していたケア用品はオフテクス社のバイオクレンエルI(液体酵素洗浄剤)とバイオクレンエルII(陰イオン界面活性剤),週1回のアクティバタブレットMini(蛋白分解酵素,脂肪分解酵素,非イオン界面活性剤,陰イオン界面活性剤)であった.本症例のレンズケースは培養に提出したため破棄されてしまい,また同メーカのものも,その後入手できなかったため図5aのケースは本症例のものではないが,写真のように左右のレンズが一体型でセットされ,保存液が両側にいきわたる構造であった.経過:通院治療にて週2回の病巣.爬と,レボフロキサシン点眼液1日6回,自家調剤した0.02%クロルヘキシジン点眼液1時間毎,ボリコナゾール点眼液1時間毎,ピマリシン眼軟膏1日1回就寝前,イトリコナゾール内服を開始,治療開始4週後,角膜混濁の増悪と上皮不整などにより,矯正視力右眼0.5,左眼0.01まで低下したが,その後は徐々に改善を認めた.初診時から10カ月経過し両眼ともに軽度の角膜混濁を認めるものの,右眼は0.09(1.2×sph.5.75D(cyl.0.75DAx70°),左眼は0.15(1.2×sph.4.50D)まで改善した(図6).II考按本症例では当院初診の時点で患者本人も家族も適切にレンズケアをしていると認識していたが,後日詳細に尋ねると充血などの症状が出現する約1週間前に,保存液がなくレンズケースを水道水で保存したことが判明した.レンズケースの保存液からはアカントアメーバが培養検査にて陽性と判定とされ,ケースは左右一体型であったことから,水道水からアメーバが混入し,ケース・保存液・レンズを介して,両眼に発症した可能性も考えられた.その他の発症の要因としては日中も追加矯正のため1日交換型のソフトコンタクトレンズを使用していたため,涙液交換の低下・酸素不足により上皮バリア機能の低下がより促進された可能性がある.また,オサートRが強度近視への矯正も可能にするステップアップ形式とよばれる装用方法を採用しており,複数のレンズについて時期をずらして使い分ける必要があり,長期間保存液に入れたままのレンズを再度使用していたことなども原因となった可能性がある.Wattらによれば,オルソケラトロジーレンズによる感染性角膜潰瘍を発症した123例のうち緑膿菌が46例(38%),アカントアメーバが41例(33%)と2大原因とされている13).筆者らが文献を渉猟した限りでは,日本でのオルソケラトロジーレンズによるアカントアメーバ角膜炎の報告は片眼発症のみで11,12),両眼発症の報告は本症例が初めてであり,海外でも数例しか報告がない14,15).日本におけるオルソケラトロジーレンズによるアカントアメーバ角膜炎片眼発症の報告は,加藤らが11歳女児の症例を報告しており,初診時矯正視力(0.03)であったが,治療開始後8カ月で(1.0)まで改善している11).また,加治らは2例報告しており,17歳と18歳のいずれも女性であり初診時矯正視力は(0.1)と(0.2)であったが,治療後の矯正視力は2例ともに(1.2)まで改善している12).日本におけるオルソケラトロジーにおける感染発症率の報告としては,日本眼科医会が行った全国規模のアンケート調査があり,具体的な菌種などは不明であるが感染性角膜潰瘍を7.7%の施設が経験している16).一方で平岡らのaオルソKR3年間のオルソケラトロジー使用成績調査69例136眼(8施設)では感染症の発症はないことから,レンズの種類や指導を行う施設によって発症率に差があると思われる17).オルソケラトロジーレンズ使用を起因とする眼感染症を未然に防ぐためには,適応度数を超えた無理な矯正はレンズのベースカーブ部を過度にフラットなフィッティングにさせることとなり角膜中央部へのびらんを生じやすいことからも18),2009年に日本コンタクトレンズ学会が作成したオルソケラトロジー・ガイドライン(以下,ガイドライン)1)に提示されている基準以上の近視にはレンズを処方しないなどのガイドラインの遵守が重要である.一方で,日本のガイドラインでは20歳以上の処方を原則としているが,本症例を含めて日本眼科医会のアンケート調査では20歳未満への処方が66.8%行われているのが実情である15).ガイドラインを逸脱して処方する場合は,より慎重なインフォームド・コンセントが求められる.さらにCopeら19)が報告しているコンタクトレンズ装用時の感染に関するリスクファクターを参考にして,レンズを水道水では保管しない,ケースを完全に乾燥させるなどの適切なレンズケアを患者へ周知させる必要がある.一方で医療者側もオルソケラトロジーレンズによって両眼にアカントアメーバ角膜炎が発症する可能性を認識する必要がある.具体的な感染コントロールの方法としては,眼科医による定期検査,適切なレンズ装用の指導,レンズ上における汚れが付着しやすい部位への綿棒によるこすり洗い,消毒効果がより高いポビドンヨードによるレンズ洗浄の推奨などがあげられる.さらに本症例のような両眼発症という事態を予防するために,同環境・同条件で管理されることから完全な対策ではないものの,左右が分離されたレンズケース(図5b)を使用することで,ケース・保存液・コンタクトレンズを介する両眼感染のリスクを減らすことができると考えられる.本論文の要旨は第59回コンタクトレンズ学会(2016)にて発表した.文献1)日本コンタクトレンズ学会オルソケラトロジーガイドライン委員会:オルソケラトロジー・ガイドライン.日眼会誌113:676-679,20092)SunX,ZhaoH,DengSetal:lnfectiouskeratitisrelatedtoorthokeratology.OphthalmicPhysiolOpt26:133-136,20063)HsiaoCH,LinHC,ChenYFetal:Infectiouskeratitisrelatedtoovernightorthokeratology.Cornea24:783-788,20054)Araki-SasakiK,NishiI,YonemuraNetal:Characteris-ticsofPseudomonascornealinfectionrelatedtoorthokera-tology.Cornea24:861-863,20055)鳥山浩二,鈴木崇,大橋裕一ほか:アカントアメーバ角膜炎発症者数全国調査.日眼会誌118:28-32,20146)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会:感染性角膜診療ガイドライン(第2版).日眼会誌117:484-490,20137)NagintonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfec-tionoftheeye.Lancet2(7896):1537-1540,19748)石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮子ほか:Acanthamoebakeratitisの1例─臨床像病原体検査法および治療についての検討─.日眼会誌92:963-972,19889)ThebpatiphatN,HammersmithKM,RochaFNetal:Acanthamoebakeratitis:aparasiteontherise.Cornea26:701-706,200710)石橋康久:最近増加するアカントアメーバ角膜炎─報告例の推移と自験例の分析─.眼臨紀3:22-29,201011)加藤陽子,中川尚,秦野寛ほか:学童におけるオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例.あたらしい眼科25:1709-1711,200812)加治優一,大鹿哲郎:オルソケラトロジーレンズ装用者に生じたアカントアメーバ角膜炎の2例.眼臨紀7:728,201413)WattKG,SwarbrickHA:Trendsinmicrobialkeratitisassociatedwithorthokeratology.EyeContactLens33:373-373,200714)KimEC,KimMS:Bilateralacanthamoebakeratitisafterorthokeratology.Cornea29:680-682,201015)TsengCH,FongCF,ChenWLetal:Overnightorthoker-atologyassociatedmicrobialkeratitis.Cornea24:778-782,200516)柿田哲彦,高橋和博,山下秀明ほか:オルソケラトロジーに関するアンケート調査集計結果報告.日本の眼科87:527-534,201617)平岡孝浩,伊藤孝雄,掛江裕之ほか:オルソケラトロジー使用成績調査3年間の解析結果.日コレ誌56:276-284,201418)吉野健一:オルソケラトロジーによる合併症(2)角膜感染症.あたらしい眼科24:1191-1192,200719)CopeJR,CollierSA,ScheinODetal:Acanthamoebaker-atitisamongrigidgaspermeablecontactlenswearersintheUnitedStates,2005through2011.Ophthalmology123:1435-1441,2016***

角膜移植後の角膜感染症

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1697.1700,2014c角膜移植後の角膜感染症藤井かんな*1,2佐竹良之*2島﨑潤*2*1杏林大学医学部眼科学教室*2東京歯科大学市川総合病院眼科InfectionafterCornealTransplantationKannaFujii1,2),YoshiyukiSatake2)andJunShimazaki2)1)DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital目的:角膜移植後感染症の発症背景と予後について検討した.対象および方法:角膜移植を施行後,入院治療を必要とする角膜感染症を発症した54例55眼を対象として,原疾患,手術方法,起炎菌,発症時期,概算発症率,発症時の使用薬剤,発症誘因,予後について検討した.結果:平均発症時期は26.4±27.6カ月で,3年以上経ってから発症した症例が23.6%であった.原疾患は,再移植が最も多く20眼(36.4%)であった.培養および臨床所見から細菌感染と診断されたのは14眼,真菌感染は35眼であった.発症時ステロイド点眼使用は53眼であった.発症の誘因としては,縫合糸の緩み,断裂,コンタクトレンズ装用などが多かった.透明治癒したものは17眼(30.9%)であった.結論:角膜移植後は,長期にわたって易感染性であり,感染の危険因子を考慮に入れて長期にわたる経過観察を行う必要があると考えられた.Purpose:Weretrospectivelystudiedthebackgroundandprognosisofpostoperativeinfectionaftercornealtransplantation.Methods:Wereviewedtherecordsof55eyeswithinfectiouskeratitisfollowingcornealtransplantationbetweenJanuary2003andDecember2007.Originaldiseases,surgicalmethods,microbiologicalresult,intervalbetweentransplantationandinfection,approximateincidence,medicationsused,contributingfactorsandprognosiswerestudied.Results:Themostfrequentoriginaldiseasewasregraft(36.4%).Bacterialandfungalinfectionswerefoundin14and35eyes,respectively.Meanintervalbetweensurgeryanddevelopmentofinfectionwas26.4±27.6months;23.6%ofcasesdevelopedinfectionmorethan3yearsfollowingsurgery.Thevastmajorityofcasesusedtopicalsteroidatthetimeofinfectiondevelopment.Presumablecontributingfactorsforinfectionincludedloosenedorbrokensutures,contactlenswearandpersistentepithelialdefects.Cleargraftswereachievedin17eyes(30.9%)bythefinalvisit.Conclusions:Postkeratoplastyeyesweresusceptibletoinfectionevenlongaftersurgery.Long-termfollow-upisnecessary,especiallywithpatientshavingriskfactorsforinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1697.1700,2014〕Keywords:角膜移植,感染性角膜炎,コンタクトレンズ,縫合糸.cornealtransplantation,infectiouskeratitis,contactlens,suture.はじめに角膜移植後は,ステロイド点眼の長期投与,縫合糸の存在,角膜知覚の低下,コンタクトレンズ装用などさまざまな要因により易感染性である.また,いったん感染が生じると重症化しやすく,感染が治癒したとしても不可逆的な影響を及ぼし,視力予後不良の原因となることが多い.今回,筆者らは角膜移植後に細菌あるいは真菌感染症を生じた例について,その発症背景と予後を検討したので報告する.I対象および方法東京歯科大学市川総合病院において角膜移植を施行し,2003年1月から2007年12月までの5年間に,入院治療を必要とする細菌あるいは真菌角膜感染症を発症した54例55眼を対象としてレトロスペクティブに検討した.症例の内訳は男性24例24眼,女性30例31眼,平均年齢59.0±16.0歳(平均値±標準偏差,範囲:16.85歳)であった.〔別刷請求先〕島﨑潤:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科Reprintrequests:JunShimazaki,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital,5-11-13Sugano,Ichikawa-shi,Chiba272-8513,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(131)1697 表1原疾患の内訳原疾患眼数(%)n=552003年施行全移植中の眼数(%)n=248再移植20(36.4)40(16.1)水疱性角膜症13(23.6)72(29.0)角膜ヘルペス後6(10.9)5(2.0)角膜白斑5(9.1)65(26.2)瘢痕性角結膜症4(7.3)2(0.8)円錐角膜3(5.5)40(16.1)02468101214161820:細菌感染:真菌感染眼数20:細菌感染:真菌感染眼数0~1年1~2年2~3年3年以上術後期間〔(以上)~(未満)〕図1角膜移植後感染症の発症時期表2手術の内訳原疾患眼数(%)n=552003年施行全移植中の眼数(%)n=248PKP37(67.3)203(81.9)DALK8(14.5)23(9.3)ALK7(12.7)9(3.6)PKP+アロLT2(3.6)0(0.0)ALK+アロ培養上皮移植1(1.8)0(0.0)角膜内皮移植0(0.0)12(4.8)DALK+オート(自家)LT0(0.0)1(0.4)PKP:全層角膜移植,DALK:深層表層角膜移植,ALK:表層角膜移植,LT:輪部移植.これらの症例について,原疾患,手術方法,起炎菌,発症時期,概算発症率,使用薬剤,発症誘因となる局所因子,予後について検討を行った.原疾患,手術術式の内訳に関しては,2003年に施行された角膜移植での原疾患,手術術式を適合性のc2検定を用いて比較した.概算発症率の算定は,対象とした時期より平均発症時期をさかのぼった時点の角膜移植施行件数と比較して算定した.II結果1.発症時期平均発症時期は26.4±27.6カ月で,1年以内に発症した症例は45.5%,3年以上経ってから発症した症例は23.6%であった(図1).細菌感染例での平均発症時期は22.4±21.5カ月(1.4.77.8カ月),真菌感染症では27.0±28.9カ月(0.4.104.8カ月)であった.2.原疾患原疾患で,最も多かったのは再移植20眼(36.4%,95%信頼区間:24.9.49.6),ついで水疱性角膜症13眼(23.7%,95%信頼区間:14.4.36.3),角膜ヘルペス後6眼(10.9%,95%信頼区間:5.1.21.8),角膜白斑5眼(9.1%,95%信頼1698あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014角膜穿孔3(5.5)6(2.4)角膜ジストロフィ1(1.8)14(5.6)角膜輪部デルモイド0(0.0)4(1.6)区間:3.9.19.6),瘢痕性角結膜症4眼(7.3%,95%信頼区間:2.9.17.3),円錐角膜3眼(5.5%,95%信頼区間:1.9.14.9),角膜穿孔3眼(5.5%,95%信頼区間:1.9.14.9),角膜ジストロフィ1眼(1.8%,95%信頼区間:0.3.9.6)であった(表1).2003年全体の原疾患と比較すると今回の検討では再移植,角膜ヘルペス後,瘢痕性角膜症の比率が高かった(p<0.0001*).3.手術方法角膜移植の術式は,全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)が37眼(67.3%,95%信頼区間:54.1.78.2),表層角膜移植(anteriorlamellarkeratoplasty:ALK)が7眼(12.7%,95%信頼区間:6.3.24.0),深層表層角膜移植(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)が8眼(14.5%,95%信頼区間:7.6.26.2),PKPとアロ(他家)輪部移植(limbaltransplantation:LT)を併用したのが2眼(3.6%,95%信頼区間:1.0.12.3),ALKとアロ(他家)培養上皮移植を併用したのが1眼(1.8%,95%信頼区間:0.3.9.6)であった(表2).今回の検討ではALK,DALKの比率が高かった(p=0.0004*).4.起炎菌病変部もしくは抜糸した糸から菌が検出されたのは,55眼中21眼(38.1%)であった(表3).細菌感染症では,グラム陽性球菌が5眼,グラム陽性桿菌が3眼,グラム陰性桿菌が1眼であった.培養で起炎菌が同定できず,臨床所見および治療経過から細菌感染と診断されたのは5眼であった.真菌感染症では,酵母型真菌が11眼と大部分を占め,糸状菌が検出されたのは1眼であった.培養で起炎菌が同定できず,臨床所見および治療経過から真菌感染と診断されたのは23眼で,そのうち7眼でendothelialplaqueが認められた.培養陰性であり臨床所見および治療経過から混合感染と診断されたのは1眼であった.治療経過,臨床所見からも菌を特定できなかったものは5眼(9.1%)であった.(132) 表3起炎菌の種類起炎菌眼数グラム陽性球菌Staphylococcusaureus3(MSSA2眼,MRSA1眼)Staphylococcusoralis1a-hemolytisstreptococcus1グラム陽性桿菌Corynebacteriumspecies3グラム陰性桿菌Acinetobacterhemolytics1酵母状真菌Candidaparapsilosis6Candidaalbicans2その他の酵母状真菌3糸状菌Penicililumspecies1MSSA:methicillin-sensitiveStaphylococcusaureus(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌),MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.5.概算発症率平均発症時期が約2年であったので,今回の対象期間から2年さかのぼった2001年1月から2005年12月に角膜移植を施行した件数から概算発症率を算出した.2001年1月から2005年12月の5年間に施行した角膜移植件数は1,405眼であり,概算発症率は3.9%(95%信頼区間:3.0.5.1)と算出された.6.発症時の使用薬剤感染症発生時に使用していた薬剤についての検討を行った(表4).ステロイド点眼は,55眼中53眼とほとんどの症例で使用されていた.細菌感染症では発症時にフルオロメトロンを局所使用していた症例は14眼中7眼,ベタメタゾンあるいはデキサメタゾンを局所使用していた症例は14眼中7眼であった.真菌感染症では,フルオロメトロン使用例が33眼中10眼,ベタメタゾン・デキサメタゾン使用例が33眼中23眼であり,ベタメタゾン・デキサメタゾン使用例での発症が多かった.抗菌剤点眼を使用していた症例は,55眼中41眼であった.細菌感染症では14眼中9眼,真菌感染症では,35眼中10眼であった.ステロイドを全身投与されていた症例は55眼中6眼,シクロスポリンを使用していた症例は5眼であった.7.発症の誘因感染症発症に関与したと思われる誘因についての検討を行った(表5).縫合糸が残存していたものは47眼(85.5%)そのうち17眼(30.9%)で糸の緩みあるいは断裂を伴ってい(,)た.治療用または視力矯正用コンタクトレンズを装用してい(133)表4発症時の使用薬剤細菌感染(%)真菌感染(%)薬剤眼数(%)n=14n=35ステロイド点眼53(96.4)14(100.0)33(94.3)ベタメタゾン/デキサメタゾン33(60.0)7(50.0)23(65.7)フルオロメトロン20(36.4)7(50.0)10(28.6)抗生剤点眼41(74.5)9(64.3)29(82.9)全身投与剤6(10.9)2(14.3)4(11.4)ステロイド1(1.8)1(7.1)0(0.0)シクロスポリン5(9.1)1(7.1)4(11.4)表5発症の誘因となる因子細菌感染(%)真菌感染(%)因子眼数(%)n=14n=35縫合糸47(85.5)12(78.6)30(85.7)緩み・断裂17(30.9)5(35.7)12(34.3)コンタクトレンズ13(23.6)6(42.9)6(17.1)HCL1(1.8)0(0.0)1(2.9)SCL12(21.8)6(42.6)5(14.3)遷延性上皮欠損12(21.8)4(28.6)7(20.0)眼瞼の異常6(10.9)4(28.6)2(5.7)外傷2(3.6)1(7.1)1(2.9)糖尿病6(10.9)1(7.1)2(5.7)HCL:ハードコンタクトレンズ,SCL:ソフトコンタクトレンズ.たものが13眼(23.6%)で,そのうち12眼はソフトコンタクトレンズであった.遷延性上皮欠損が存在していたものは12眼(21.8%)であった.8.予後内科的治療によって透明治癒した症例は8眼,瘢痕治癒は43眼,治療的角膜移植を施行した症例は4眼であった.瘢痕治癒後に光学的移植を施行した症例は14眼あり,うち透明治癒が得られたものは9眼であった.透明治癒した17眼(30.9%)のうち,細菌感染症では4眼(28.6%),真菌感染症は13眼(37.1%)であった.III考按角膜移植後の感染症は,視力予後に大きな影響を及ぼすので,その発症時期や危険因子について検討を加え,予防に努めることは非常に重要と考えられる.今回の検討で移植後角膜感染症の発症率を概算したところで算定し3.9%であり,過去の報告の0.2.3.6%とほぼ一致するものであった1.3).今回は,入院治療を必要とした症例を対象としたが,通院で治療した症例や他院で治療した症例も存在すると考えられるため,実際の発症率はさらに高率であると推測された.過去の報告によると1年以内に発症した症例は48%3),あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141699 55.6%4)と約半数を占めている.今回の結果では1年以内に45.5%が発症しており,過去の報告にほぼ一致するものであった.3年以降に発症した症例は13眼(23.6%)あり,角膜移植後では晩期感染症にも注意が必要であると考えられた.原疾患では,移植全体の原疾患比率と比較して,再移植の割合が多かった.再移植例では,術後の免疫抑制のためステロイド点眼を長期投与することが多く,易感染状態になりやすいためと考えられた.また,術式ではALK,DALKの比率が18眼と高かったが,このうち6眼が眼類天疱瘡,偽類天疱瘡,化学傷などの瘢痕性角結膜症であった.瘢痕性角結膜症は遷延性上皮欠損を生じやすく,感染防御が脆弱になるためと考えられた.角膜移植後感染症の起炎菌としては,これまでの報告ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)を含む黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,緑膿菌,真菌(カンジダ)感染などが多いとされる1.6).今回の結果では,細菌はグラム陰性菌が1眼に対しグラム陽性菌が8眼と多く,真菌は糸状菌が1眼に対し酵母状真菌が11眼と多かった.角膜移植後はステロイド長期使用など種々の要因により免疫能が低下し,グラム陽性菌や酵母菌といった常在菌による感染を発症しやすい環境にあると考えられた.移植後角膜感染症の危険因子としては,遷延性上皮欠損2,4),コンタクトレンズ装用2,4,5),局所のステロイド点眼2,4.6)および抗生物質点眼の併用4),縫合糸の緩みや断裂2,5,6)などが挙げられている.今回の結果では,ほとんどの症例でステロイド点眼を使用していた.縫合糸の緩み・断裂を有していた症例は30.9%であり,これまでの報告にもあるように7),縫合糸の状態には特に注意をすべきと考えられた.縫合糸の緩み・断裂は,感染のみならず血管新生や拒絶反応の誘因となることが知られており,こうした例では速やかに抜糸すべきと考えられた.易感染性状態にある角膜移植眼の透明性を保つためには,感染予防が非常に重要である.したがって,術後感染の危険因子を考慮に入れて,患者啓発を行ったうえで長期の経過観察を行う必要があると考えられた.文献1)LveilleAS,McmullenFD,CavanaghHD:Endophthalmitisfollowingpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology90:38-39,19832)脇舛耕一,外園千恵,清水有紀子ほか:角膜移植後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,20033)兒玉益広,水流忠彦:角膜移植後感染症の発症頻度と転帰.臨眼50:999-1002,19964)HarrisDJJr,StultingRD,WaringGOIIIetal:Latebacterialandfungalkeratitisaftercornealtransplantation.Spectrumofpathogens,graftsurvival,andvisualprognosis.Ophthalmology95:1450-1457,19885)中島秀登,山田昌和,真島行彦:角膜移植眼に生じた感染性角膜炎の検討.臨眼55:1001-1006,20016)WrightTM,AfshariNA:Microbialkeratitisfollowingcornealtransplantation.AmJOphthalmol142:10611062,20067)若林俊子,山田昌和,篠田啓ほか:縫合糸膿瘍から重篤な眼感染症をきたした角膜移植眼の2眼.あたらしい眼科16:237-240,1999***1700あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(134)

遠近両用ソフトコンタクトレンズ装用による視野への影響

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):381.384,2013c遠近両用ソフトコンタクトレンズ装用による視野への影響柴田優子*1魚里博*1,2平澤一法*1進藤真紀*2,3庄司信行*1,2*1北里大学大学院医療系研究科感覚・運動統御医科学群視覚情報科学*2北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学*3学校法人滋慶学園東京医薬専門学校視能訓練士科EffectofWearingMultifocalSoftContactLensesonVisualFieldYukoShibata1),HiroshiUozato1,2),KazunoriHirasawa1),MakiShindo2,3)andNobuyukiShoji1,2)1)DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthScience,3)CourseofOrthoptist,TokyoCollegeofMedico-pharmacotechnology目的:2種類の遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MFSCL)の視野への影響を検討した.対象および方法:対象は若年ボランティア15名15眼(平均年齢25.3±5.9歳).視野測定にはHumphrey視野計を使用し,コンタクトレンズは単焦点ソフトコンタクトレンズ(SCL)と,遠用中心近用加入MFSCL-Dタイプと近用中心遠用加入MFSCL-Nタイプを使用した.対照SCLを基準としてMFSCL-Dタイプ,MFSCL-Nタイプ装用下における中心窩閾値,平均網膜感度,および偏心域ごとの網膜感度を比較した.結果:3種のSCL装用下の中心窩閾値,全測定点の合計,また偏心域ごとの網膜感度には統計学的有意差はなかった.結論:MFSCL装用下の視野への影響はなかった.Purpose:Weinvestigatedtheinfluenceonthevisualfieldofonesingledistance-visionsoftcontactlensandtwotypesofmultifocalsoftcontactlenses.Methods:Subjectswere15youngindividuals(age20.41yrs).Wemeasuredvisualfieldusingstandardautomatedperimetry(HumphreyFieldAnalyzer:HFA)withthesingledistance-visionsoftcontactlenses(control)andtwotypesofmultifocalsoftcontactlenses.Theorderofexperimentwiththethreetypesofcontactlenseswasrandomlychangedforeachsubject.Weassessedfovealthreshold,totaltestpoints’sensitivitiesandaverageofthetestpointofeachlocationofvisualfieldeccentricity.Results:NostatisticallysignificantdifferencewasfoundamongthethreegroupsofthethreetypesofSCLsinregardtofovealthreshold,totaltestpoints’sensitivitiesoraverageofthetestpointofeachlocationofvisualfieldeccentricityinsubjectswithsingledistance-visioncontactlensesortwotypesofmultifocalcontactlenses.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):381.384,2013〕Keywords:コンタクトレンズ,自動静的視野検査,遠近両用,同時視,デフォーカス.contactlenses,automatedperimetry,multifocal,simultaneousvision,defocus.はじめに近年屈折矯正術の進歩により,加入度の付いた多焦点コンタクトレンズや多焦点眼内レンズが普及している.多焦点コンタクトレンズは老視治療の他,調節の不均衡による眼精疲労の軽減目的などでの使用が検討されている.近視予防のトライアルとして,わが国では周辺部にプラスの加入の入った眼鏡装用の試みがなされており,海外では同様なデザインの眼鏡やコンタクトレンズ装用による近視予防の研究1.3)が進んでいる.一方,このような多焦点のレンズの装用が視野へどのような影響を与えるかの検討はまだ少ない.今回,遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MFSCL)の装用が視野に及ぼす影響を検討するため,加入度の付いた2種のMFSCLと単焦点SCL装用下における視野の網膜感度を比較した.I対象および測定方法本研究はヘルシンキ宣言(世界医師会)の理念を踏まえ,全対象に文書による説明を行い,本人の自由意思による同意〔別刷請求先〕魚里博:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学大学院医療系研究科感覚・運動統御医科学群視覚情報科学Reprintrequests:HiroshiUozato,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara-shi,Kanagawa252-0373,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(95)381 を得て行った.また,本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を受けた(倫理承認番号:2011-013).対象は矯正視力1.0以上,乱視度.0.75D以下,屈折異常以外の眼科的疾患をもたない正常成人ボランティア15名15眼(男性6名,女性9名)である.対象の年齢は平均25.3±135°meridian60°60°30°30°45°meridian図1カスタムプログラムの測定点の配置全測定点は29点.中心窩の測定と,各象限に斜めの13点の測定点を配置した.■:遠用部■:移行部■:近用部8.0mm8.0mm5.0mm2.3mm5.0mm1.0mm図2使用コンタクトレンズのデザイン略図左はロートi.Q.14RバイフォーカルDタイプ,右はロートi.Q.14RバイフォーカルNタイプのレンズデザインの略図を示す.5.9歳(20.41歳)で,等価球面度は平均.2.58±2.03D(.6.00D.+0.50D)であった.視野測定にはHumphrey視野計を用いた.測定点は中心と,斜め方向(経線45°,135°,225°,315°)に6°ごとに28点をカスタムプログラムで設定し(図1),4.2dBのfullthresholdアルゴリズムで測定した.使用したSCLはロート製薬(株)製の単焦点SCL〔ロートi.Q.14Rアスフェリック,ロート製薬(株),大阪〕と,2種類のMFSCL〔ロートi.Q.14Rバイフォーカル,ロート製薬(株),大阪〕である.ロートi.Q.14Rバイフォーカルは同時視型の累進屈折型レンズデザインであり,近用中心遠用周辺のNタイプと遠用中心近用周辺のDタイプの2種類がある(図2).どちらも遠用部と近用部の間には移行部があり,遠用から中間部,近用への連続的な視点の移行が可能である.Nタイプ,Dタイプともに+1.0,+1.5,+2.0,+2.5Dの4つの加入度が市販されている.本検討では加入度+2.0Dを使用した.実験に先立ち各対象眼の屈折検査と視力検査を行い,完全矯正となる単焦点SCL度数を決定した.さらに,今回検討のMFSCLは,対照SCLの度数と同表記のものを用意し,Dタイプ+2.0D加入とNタイプ+2.0D加入の2種(対照SCLと合わせて計3種)とした.MFSCLの加入度は,実際の臨床では使用者の自覚に合わせて加入度数を適宜選択するが,今回の筆者らの検討では比較的加入度が大きく,したがって視機能への影響が大きい可能性のある+2.0D加入を使用した.なお,今回の検討ではMFSCL装用の視力検査は行っていない.また,3種のSCL装用の順序は各対象でランダムに割り振った.検討項目は3種のSCL装用下における中心窩閾値と,全測定点における平均網膜感度および,偏心域ごとの平均網膜感度である.統計解析には,StatView5.0(HULINKS,Inc.)を使用し,各網膜感度の比較にはKruskal-Wallis検定を行い,p<0.05を棄却域とした.表1各SCL装用下の平均網膜感度と標準偏差(dB)対照SCLMFSCL-DタイプMFSCL-Nタイプp値(Kruskal-Wallis)中心窩閾値全測定点合計測定域4.2°12.7°21.2°29.7°38.2°46.7°55.2°36.7±1.5766.3±46.334.3±1.131.7±1.230.5±0.828.0±1.123.9±2.921.4±3.815.6±3.736.7±1.4762.3±43.134.0±1.231.5±1.530.3±1.128.4±1.223.7±4.021.2±3.715.2±3.436.3±1.7748.7±65.133.6±1.531.2±1.229.5±1.627.2±2.323.3±3.520.6±5.116.1±5.00.88370.65870.40930.72710.23260.17420.81570.98590.70663種SCL装用下の中心窩閾値,全測定点合計,測定域ごとの4象限平均の網膜感度(dB)の全対象の平均と標準偏差を示す.すべての項目にて,3種SCL装用下の網膜感度に統計学的な有意差はなかった.382あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(96) II結果全対象眼で,細隙灯顕微鏡検査上,3種SCL装用時に明らかなfitting異常はなかった.各SCL装用下の網膜感度測定結果を表1に示す.視野中心窩閾値の全対象眼の平均網膜感度は対照SCL装用時36.7±1.5dB,MFSCL-Dタイプは36.7±1.4dB,MFSCL-Nタイプは36.3±1.7dBであった.また,全測定点の合計の平均は,対照SCL装用時766.3±46.3dB,MFSCL-Dタイプは762.3±43.1dB,MFSCL-Nタイプは748.7±65.1dBであった.中心窩閾値,全測定点の合計,偏心域ごとの平均網膜感度では,3種SCL装用下で有意な差はなかった(表1).III考按MFSCLには同時視型と交代視型がある4).どちらもレンズの領域を遠用と近用の屈折度に振り分けるものであるが,現在わが国で普及しているMFSCLは同時視型がほとんどである.同時視型は視軸のレンズ上の移動を伴わないため,遠方と近方の対象物は同時に網膜に投影され,注視物の網膜投影のエネルギーは低下しコントラスト感度の低下が起こり5),周辺網膜のコントラストも低下する6).しかしながら,脳内で選択的に取り上げると考えられるため,日常生活では満足できる視機能の範囲にある6)とされている.さらに,同時視型MFSCLは累進屈折型と二重焦点型(回折型)に分類される7).累進屈折型は同心円の遠用部と近用部の間に屈折度の移行部をもつ.一方,二重焦点型は間の移行部はなく,遠用,近用の層を何層か重ねてレンズ光学領域を構成している.今回の筆者らの検討では,同時視型累進屈折型の中心遠用周辺近用(MFSCL-Dタイプ)と中心近用周辺遠用(MFSCL-Nタイプ)を用いた(図2).MFSCLの視野への影響についての既報として,Alongiらは,単焦点SCLと累進屈折型MFSCL,および二重焦点型MFSCLのHumphrey視野検査を報告している8).それによれば,単焦点SCLと屈折型では網膜感度の有意な変化がなかったが,二重焦点型は中心から周辺30°までの合計網膜感度は低下したが周辺30°から60°では低下しなかったと述べている8).今回の筆者らの検討では,累進屈折型の中心遠用と中心近用の2タイプのMFSCL装用では両者ともAlongiの検討の累進屈折型MFSCLと同様の結果を得た.高田は,中間透光体の混濁が影響を受けにくいフリッカー測定を除き,他の視野測定法はコントラストを変化させて閾値を測定するため,検査結果が低下することを報告している9).本検討に用いたMFSCLの場合は,エネルギーの低下はあるものの,視標を遮ることはなく,視感度測定に影響は与えなかったと考えられる.つぎに,遠近両用のコンタクトレンズの特徴である加入度による視野への影響も考えられる.デフォーカスを付加した場合の視野検査の影響について,Atchisonらは,Goldmann視野検査で,デフォーカス(.3.00D.+5.00D)を付加した場合網膜感度の低下を認めたが,30.40°を超える周辺では影響はほとんどなかったと報告している10).宇山らは,オクトパス視野検査計で+1.0Dから+5.0Dのレンズを負荷して視感度を測定し,その結果負荷度数が大きくなるにつれ感度は低下するが,周辺部は中心部より低下量は少なく,+2.0Dの付加では,領域10°以内では平均で2.1dBの低下,領域21.30°では1.4dBの低下と報告している11).今回の筆者らの検討では,+2.0Dの加入度のMFSCLを用いているが,対照のSCL装用と比べ網膜感度に明らかな差がなかった.その理由として,周辺部の焦点深度は中心部網膜より非常に大きい12)ため,MFSCLの場合は全体としてのエネルギー低下があっても,今回使用のMFSCLの加入度数ではデフォーカスの視野への影響を受けないことが考えられた.一方,中心部の網膜感度の変化もなかったことについては,本検討の対象が20.41歳で調節力優良な被験者群で調節麻痺剤不使用であったため,眼内の調節を働かしている可能性が考えられた.MFSCL装用下の視野への影響はレンズデザインを考慮する必要があると思われるが,今回使用したレンズデザインでは正常者の視野への影響はほとんどないと考えられた.謝辞:本研究は,北里大学大学院院生プロジェクト研究(no.2011-3155)の助成を一部受けた.ここに感謝の意を表する.文献1)ChengD,SchmidKL,WooGCetal:Randomizedtrialofeffectofbifocalandprismaticbifocalspectaclesonmyopicprogression:two-yearresults.ArchOphthalmol128:12-19,20102)TarrantJ,SeversonH,WildsoetCF:Accommodationinemmetropicandmyopicyoungadultswearingbifocalsoftcontactlenses.OphthalmicPhysiolOpt28:62-72,20083)AllenPM,RadhakrishnanH,RaeSetal:Aberrationcontrolandvisiontrainingasaneffectivemeansofimprovingaccommodationinindividualswithmyopia.InvestOphthalmolVisSci50:5120-5129,20094)塩谷浩:遠近両用コンタクトレンズの処方適応の判断から処方に至るまで.日コレ誌52:47-51,20105)ZlotnikA,BenYaishS,YehezkelOetal:Extendeddepthoffocuscontactlensesforpresbyopia.OptLett34:2219-2221,20096)Llorente-GuillemotA,Garcia-LazaroS,Ferrer-BlascoTetal:Visualperformancewithsimultaneousvisionmulti-focalcontactlenses.ClinExpOptom95:54-59,20127)ToshidaH,TakahashiK,SadoKetal:Bifocalcontactlenses:History,types,characteristics,andactualstateandproblems.ClinOphthalmol2:869-877,2008(97)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013383 8)AlongiS,RolandoM,CoralloGetal:Qualityofvisionment.OphthalmicPhysiolOpt7:259-265,1987withpresbyopiccontactlenscorrection:subjectiveand11)宇山孝司,松本長太,奥山幸子ほか:視標のボケと中間透lightsensitivityrating.GraefesArchClinExpOphthalmol光体混濁の中心静的視野閾値に及ぼす影響.日眼会誌97:239:656-663,2001994-1001,19939)高田園子:中間透光体の混濁が視野測定に与える影響.近12)WangB,CiuffredaKJ:Depth-of-focusofthehumaneye畿大学医学雑誌27:165-177,2002inthenearretinalperiphery.VisionRes44:1115-1125,10)AtchisonDA:Effectofdefocusonvisualfieldmeasure-2004***384あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(98)

視力回復の可能性のない水疱性角膜症に対するPhototherapeutic Keratectomyの長期成績

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1395.1400,2012c視力回復の可能性のない水疱性角膜症に対するPhototherapeuticKeratectomyの長期成績武藤貴仁*1佐々木香る*2熊谷直樹*2高塚弘美*1武藤興紀*1出田隆一*2*1熊本眼科医院*2出田眼科病院Long-TermOutcomeofPhototherapeuticKeratectomyforBullousKeratopathywithPoorVisualPotentialTakahitoMuto1),KaoruAraki-Sasaki2),NaokiKumagai2),HiromiTakatsuka1),KokiMuto1)andRyuichiIdeta2)1)KumamotoEyeClinic,2)IdetaEyeHospital目的:視力回復の見込みのない水疱性角膜症に対し,疼痛解除の目的で,phototherapeutickeratectomy(PTK)を施行した長期結果を報告する.対象および方法:視力回復の見込みのない水疱性角膜症8例8眼.男性5例,女性3例,平均年齢77.6歳で,全例緑内障罹患眼であった.疼痛により,使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL)連続装用を余議なくされていた.患者の同意を得てNIDEK社製・EC-5000CXIIIを用いてPTKを施行した(平均切除深度:124μm).術後は2週間DSCLを装用のうえ,ステロイド,抗生物質,ヒアルロン酸,ジクロフェナクの点眼を投与した.結果:PTK施行後約4.5日で上皮欠損は全例修復した.平均観察期間19.6カ月において,角膜厚は増加傾向にはあったが,8例中7例では,上皮欠損や巨大bullaは生じず,疼痛も消失した.前眼部光干渉断層計(OCT)では実質表層のスムージングが観察された.結論:視力回復の見込みのない疼痛を伴う水疱性角膜症におけるDSCL離脱を図る場合,羊膜や角膜を用いた移植手術の前に,PTKはまず試みてよい方法の一つと考えられた.Purpose:Wereportonourexperienceswithphototherapeutickeratectomy(PTK)forpainfulbullouskeratopathywithpoorvisualpotential.MaterialsandMethods:Subjectscomprised8eyesof8bullouskeratopathypatients(5males,3females;averageage:77.6years).PTKwasperformedwiththeEC-5000CXIII(NIDEKCo.,Ltd.)withanaverageabrasiondepthof124μm.Thedisposablesoftcontactlens(DSCL)wasappliedforatleast2weeksandtheeyesweretreatedwithtopicalsteroid,antibiotics,hyaluronicacidanddiclofenac.Results:Theepithelialerosionhealedat4.5daysafterPTKinallcases.Althoughthecornealthicknessgraduallyincreasedduringtheobservationperiod(19.6months),theepithelialsheetwasmaintainedwithnoerosion,giantbullaorpainin7eyes.Anterioropticalcoherencetomograph(OCT)showedsmoothingoftheanteriorstroma.Conclusion:PTKisamethodoffirstchoicefortreatingpainfulbullouskeratopathywithpoorvisualpotency.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1395.1400,2012〕Keywords:水疱性角膜症,角膜上皮欠損,治療的レーザー角膜切除,エキシマレーザー,コンタクトレンズ.bullouskeratopathy,cornealepithelialerosion,phototherapeutickeratectomy,excimalaser,contactlens.はじめに医療技術や医療機器の進歩の反面,それに伴い増加した疾患もある.たとえば,レーザー虹彩切開術や複数回の内眼手術などにより生じる水疱性角膜症もその一つである.通常,水疱性角膜症に対しては,角膜内皮移植や全層移植が選択されるが,提供角膜には限りがあり,視神経萎縮など視力予後不良の症例に対しては,移植の適応とはされない.水疱性角膜症が高度になると,異物感や疼痛が出現するため,治療の中心は疼痛のコントロールとなる.このような視力不良の水疱性角膜症に対する治療として,治療用コンタクトレンズ(disposablesoftcontactlens:DSCL)装用,羊膜移植などが選択される1.4).しかし,DSCLでは感染の危険が常に付きまとうことや頻回に通院が必要なこともあり,高齢者には困難が生じること〔別刷請求先〕武藤貴仁:〒862-0976熊本市九品寺2-2-1熊本眼科医院Reprintrequests:TakahitoMutoh,M.D.,KumamotoEyeClinic,2-2-1Kuhonji,Kumamoto862-0976,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(79)1395 が多い.また,羊膜移植においては,施行可能な施設が限られていることや,入院のうえ,手術が必要であり,視力回復が望めない患者に対するストレスも多い.文献的には水疱性角膜症の疼痛に対しphototherapeutickeratectomy(PTK)が有効である報告が散見される5.7)が,わが国ではまだ一般的でない.加えて,もともと水疱性角膜症では内皮細胞不全が存在し,PTKは根本的な加療ではないため,長期予後も検討する必要がある.今回,視力回復の可能性のない水疱性角膜症8眼に対し,疼痛軽減の目的でPTKを施行したので,その経過を報告する.I対象および方法1.対象対象は出田眼科病院,熊本眼科医院に通院治療している視力回復の可能性のない,あるいは角膜移植を希望しない水疱性角膜症の患者8例8眼で,男性5例5眼,女性3例3眼,平均年齢は77.6±10.1歳(66.90歳)であった.水疱性角膜症の原因としては,角膜移植後1眼,外傷1眼,複数回内眼手術後5眼,続発緑内障1眼であった.また,視力回復の可能性がない原因としては,網脈絡膜萎縮1眼,外傷による視神経萎縮1眼,緑内障による視神経萎縮3眼,糖尿病網膜症1眼,黄斑変性症2眼であった.8例中7眼では,治療用コンタクトレンズを装用しなければ日常生活が困難で連続装用を施行しており,2週間ごとに通院のうえ,DSCLを交換していた.1眼では,交換のための通院が困難であることから眼帯,閉瞼にて対処していた.2.方法PTKの3日前から抗生物質点眼を投与し,術前には16倍希釈ポビドンヨードにて眼瞼皮膚および結膜.を洗眼し,オゾン水で洗浄した.PTKはNIDEK社製EC-5000CXIIIを用いてPTKモードでopticalzone径6mm,transitionzone径7.5mmに設定し施行した.切除量に関してはMainiらの文献8)に従って,術前コンタクトレンズ非装用時の角膜中央部の角膜厚を,前眼部光干渉断層計(OCT)(CirrusTM,HDOCT,CarlZeiss,orRTVue-100,OPTOVUE)を用いて計測し,その約25%を切除量とした.なお,PTKに際して,上皮.離は施行しなかった.その際,最低400μmを残存ベッドとして確保するように設定した.術後は上皮が安定するまでDSCLを装用のうえ,ステロイド,抗生物質,ヒアルロン酸,ジクロフェナクの点眼を投与し,細隙灯顕微鏡および前眼部OCTを用いて経過観察をした.前眼部OCTによる角膜厚測定はスリット所見で確認しながら角膜中央を通る同一部位で測定した.II結果[症例の一覧]全症例の年齢,性別,術前角膜厚,術後最終観察時角膜厚,切除量,術前・後視力を表1に示す.術前角膜厚は平均753.63μm(515.1,180μm)であり,角膜切除量は平均144.4±56.4μm(100.240μm)であった.また,術後視力が悪化する症例はなく,4例ではわずかながら視力向上がみられた.なお,術中合併症は認めなかった.[代表症例1]70歳,女性(症例⑤).術前所見:細隙灯顕微鏡にて強い実質浮腫を認め(図1a),OCTにおいても角膜上皮.実質間に巨大blebを認めた(図1b).角膜厚は770μmであった.PTK切除量:平成22年1月下旬,130μmを切除量としてPTKを施行した.術後経過:順調に上皮は再生され,5日後にDSCLを離脱した.術後2カ月の時点では,再生された上皮表層に微細なフルオレセイン染色にて不整パターンを認めるが,上皮欠損は認められなかった(図2a).前眼部OCTでは実質表層の浮腫の軽減と実質表層の平坦化による上皮の安定化を認めた(図2b).角膜厚は術後4カ月で568μm,術後11カ月で560μmであった.[代表症例2]66歳,男性(症例⑥).術前所見:高度の水疱性角膜症を認め(図3a),OCTでは角膜厚986μmと肥厚していた(図3b).DSCLを装用していたため,上皮欠損は認めなかったが上皮細胞の接着不全を示唆する所見を認めた.表1全症例の年齢・性別,術前・後角膜厚,切除量,術前・後視力症例年齢(歳)・性別術前角膜厚(μm)切除量(μm)術後角膜厚(μm)術前視力①68・女性6101003560.09②70・男性6921001,220m.m.③85・女性6521105320.03④90・男性624110560s.l.(.)⑤70・女性770130560m.m.⑥66・男性98624085610cm/n.d.⑦89・男性515120430m.m.⑧83・男性1,1802401,3360.01m.m.:手動弁,n.d.:指数弁,s.l.:光覚弁.術後視力0.07m.m.0.04s.l.(.)10cm/n.d.10cm/n.d.m.m.0.021396あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(80) baba図1a,b代表症例1:70歳,女性(症例⑤)術前には強い実質浮腫を認め(a),前眼部OCTでも角膜上皮層と実質の間に巨大blebを認めた(b).ab図2a,b図1の症例の術後2カ月目の所見再生された上皮表層に微細なフルオレセイン染色の不整パターンを認めるが,上皮欠損は認められない(a).角膜OCTでは実質表層の浮腫の軽減と平坦化により安定した上皮層が観察される(b).ab図3a,b代表症例2:66歳,男性(症例⑥)術前角膜厚は986μmと非常に強い浮腫を認めた(a).OCTでも膨化した角膜浮腫と実質表層の混濁を認め,上皮層の接着不良を認める(b).(81)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121397 aa01234567891112131516171922242840術後月数(M)cb図4a,b,c図3の症例の術後3カ月目の所見角膜浮腫が軽減し,異物感による充血も鎮静化している(a).フルオレセイン染色では小さな不整は認める(b)が,上皮は安定しており,OCTでも角膜実質厚は減少し,角膜上皮層と実質間のbullaも消失している(c).PTK切除量:平成22年7月下旬,240μmを切除量としてPTKを施行した.術後経過:術後一過性に切除部分の周辺角膜の浮腫を認めたが,約1週間で速やかに上皮修復を得た.術後3週間目にDSCLを外したが,その後も最終観察日までの16カ月間,上皮欠損および疼痛を訴えない.術後3カ月の時点での細隙角膜厚(μm)1,4001,2001,0008006004002000灯顕微鏡所見では浮腫を認めるものの,術前より軽度であり,フルオレセイン染色でも上皮接着不全を示唆するblebは存在せず,上皮が均一である(図4a,b).また,OCTにても角膜厚が減少し,上皮細胞と基底膜にわずかな間隙は認めるものの,安定化している(図4c).その後も上皮は安定し,角膜厚は術後3カ月で800μm,術後17カ月で856μmであった.[臨床経過]PTK施行後約1週間以内(術後4.7日,平均4.5日)で全例上皮欠損は修復し,上皮修復の期間は疼痛を訴えたものはなかった.平均18.9(±15.5)日で1例を除いて,全例DSCLを外すことが可能となり,術後感染症などの合併症は認められなかった.:症例①:症例②:症例③:症例④:症例⑤:症例⑥:症例⑦:症例⑧図5全症例の角膜厚の経時的変化1398あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(82) 術前には,全例で上皮.離予防のためにDSCLのほぼ連続的な装用が必要であったが,PTK施行後平均観察期間19.6(±6.8)カ月において,1症例を除いて全例で上皮の安定化を継続して得ることができ,DSCLの離脱が図れた.OCTにおいても,実質表層の浮腫の軽減と実質表層の平坦化による上皮の安定が観察できた.角膜厚の経時的変化は図5に示したとおり,PTK後,角膜厚が安定している症例と,徐々に増加傾向を示す症例があった.術前角膜厚以上に増加した症例が2例,ほぼ同等となった症例が1例,術前角膜厚以下の保たれた症例が5例であった.DSCL離脱が困難であった症例④では8カ月目にDSCLを中止した後,上皮欠損の再発と治癒を繰り返したが,家族の希望もありPTKの追加および羊膜移植は施行せず,その都度,眼帯にて経過観察している.III考按水疱性角膜症における治療目的は,視力改善とともに疼痛コントロールが重きを占める.特に視力回復の見込みのない場合,コンタクトレンズや羊膜移植以外に,患者に負担の少なく,それでいて快適に日常生活を送れる治療が望まれる.水疱性角膜症の疼痛改善におけるPTKに関して,その効果,安全性,および長期経過が今回の検討課題であった.まず,効果に関して,今回は既報と同じく水疱性角膜症に対してPTKを施行した8眼中7眼において,疼痛解消およびDSCLの離脱という目標を達することができた.術後経過観察期間19.6カ月において,角膜厚は増加傾向にある症例も認めたが,疼痛解除の状態を維持することができ,臨床的に有用な手段であると考える.当初,懸念していた遷延性上皮欠損は認められず,全例で一旦は速やかな上皮修復を得られたこと,さらに感染症などの合併症を認めなかったことから,安全性についても問題ないと考えられた.水疱性角膜症に対しては,PTK以外に,羊膜移植が有効であることが2003年頃より報告されている4).PTK単独と羊膜移植単独はいずれも有効で,両者に有意差を認めなかったという報告9)や,羊膜移植とPTKの併用が有用との報告もある10).羊膜移植とanteriorstromalpunctureとの併用を推奨する報告もある11,12).しかし,羊膜移植は羊膜の入手や手術手技の問題,さらに術後感染の問題もつきまとう.一方,anteriorstromalpunctureについては過度の上皮下fibrosisを生じることが懸念される13).症例にもよるが,第一選択としては,できるだけ簡便な術式で再現性のよいものが推奨される.したがって,単独でまず行う方法としては,PTKが第一選択として試みてよい方法ではないかと思われた.水疱性角膜症に対するPTKの奏効機序としてはいくつかの考察がなされている5.7).1)extracellularmatrix産生上昇による上皮接着能亢進,2)上皮下のfibrosisあるいは高度浮腫組織除去による実質平坦化,3)角膜内mucopolysaccharide絶対量の減少による実質浸透圧低下に起因するhydrationの向上,4)上皮下神経叢の切除による疼痛軽減である.おそらくこれらの機序のすべてが関与して奏効すると思われる.実際,術後の前眼部OCT検査においても,残存実質の組織は術前の浮腫を示唆する疎な所見から術後には密な状態になっており,実質表層の組織が上皮伸展の土台として改善したことが示された.術後視力がわずかながら向上し,自覚的にも見やすくなったと答えた患者が存在したこと,細隙灯顕微鏡所見でも透明性が向上した症例があったことから,全体の角膜厚の低下によるhydrationの向上が示唆された.術後は全例でまったく疼痛を訴えることがなく,さらに上皮欠損が再発した症例でも,上皮欠損再発時には疼痛を訴えなかったことから,神経叢切除による機序も関与していると思われた.角膜切除深度に関しては,既報を参考に設定した.しかし,浮腫を生じて増加した角膜厚であるため,角膜厚に関する術後炎症の影響が推測できず,過多な切除を避けなければならないと考え,最低400μmは残存するように心がけた.術前のOCT画像ではほぼ全例で角膜浅部に比して深部の実質は,より浮腫が少ない傾向にあった.したがって,できるだけ浮腫の少ない実質表面が確保できる切除深度と術後角膜強度保持のための角膜厚保存の両面を考慮して,症例により切除深度を決定する必要があると考えられた.エキシマレーザーの設定も今回使用した機器では200μmが1回の施術で可能な最大切除深度であったが,より深い切除深度のPTKが有用であったと報告されているように8),症例によっては経過をみながら追加照射を施行することも考慮すべきかもしれない.今回,上皮欠損が再発した1例については,本人,家族の希望により,眼帯にて経過観察することとなったが,追加照射や羊膜移植が有効であったかもしれない.術後角膜厚の推移については,図5に示すように,症例によって差があった.角膜厚減少が乏しかった3例はいずれも術前角膜厚が650μm以上と角膜の浮腫が著明であったと考えられる症例であり,切除前の角膜厚が高度な症例ほど,術後増加しやすい傾向にあった.1年以上の長期経過を観察できた症例では,術後1年以内の角膜厚の変動に比べ1年目以降では比較的安定して推移していた.PTK後に上皮欠損が再発した症例の術前角膜厚は624μmであり,今回の対象症例のなかでは,中程度に位置する値であった.したがって,術前角膜厚のみに術後経過が規定されるのではなく,原疾患や水疱性角膜症を発症してからの期間にも影響されると思われた.さらなる症例の蓄積により,角膜厚が一定以上の水疱性角膜症には,PTKに加えてさらに羊膜移植の必要があるという基準が設定できるかもしれない.(83)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121399 長期予後,症例ごとの適切な切除深度が今後の検討課題であるが,視力予後不良の水疱性角膜症に対するPTKは安全,簡便な手技であり,疼痛改善,DSCL離脱の面から非常に有用であり,まず試みてよい方法と考えられた.文献1)AltiparmakUE,OfluY,YildizEHetal:Prospectivecomparisonoftwosuturingtechniquesofamnioticmembranetransplantationforsymptomaticbullouskeratopathy.AmJOphthalmol147:442-446,20092)ChawlaB,TandonR:Suturelessamnioticmembranefixationwithfibringlueinsymptomaticbullouskeratopathywithpoorvisualpotential.EurJOphthalmol18:9981001,20083)SrinivasS,MavrikakisE,JenkinsC:Amnioticmembranetransplantationforpainfulbullouskeratopathy.EurJOphthalmol17:7-10,20074)EspanaEM,GrueterichM,SandovalHetal:Amnioticmembranetransplantationforbullouskeratopathyineyeswithpoorvisualpotential.JCataractRefractSurg29:279-284,20035)ThomannU,Meier-GibbonsF,SchipperI:Phototherapeutickeratectomyforbullouskeratopathy.BrJOphthalmol79:335-338,19956)ThomannU,NissenU,SchipperI:Successfulphototherapeutickeratectomyforrecurrenterosionsinbullouskeratopathy.JRefractSurg12:S290-292,19967)LinPY,WuCC,LeeSM:Combinedphototherapeutickeratectomyandtherapeuticcontactlensforrecurrenterosionsinbullouskeratopathy.BrJOphthalmol85:908911,20018)MainiR,SullivanL,SnibsonGRetal:Acomparisonofdifferentdepthablationsinthetreatmentofpainfulbullouskeratopathywithphototherapeutickeratectomy.BrJOphthalmol85:912-915,20019)ChawlaB,SharmaN,TandonRetal:Comparativeevaluationofphototherapeutickeratectomyandamnioticmembranetransplantationformanagementofsymptomaticchronicbullouskeratopathy.Cornea29:976-979,201010)VyasS,RathiV:Combinedphototherapeutickeratectomyandamnioticmembranegraftsforsymptomaticbullouskeratopathy.Cornea28:1028-1031,200911)GregoryME,Spinteri-CornishK,HegartyBetal:Combinedamnioticmembranetransplantandanteriorstromalpunctureinpainfulbullouskeratopathy:clinicaloutcomeandconfocalmicroscopy.CanJOphthalmol46:169-174,201112)SonmezB,KimBT,AldaveAJ:Amnioticmembranetransplantationwithanteriorstromalmicropuncturefortreatmentofpainfulbullouskeratopathyineyeswithpoorvisualpotential.Cornea26:227-229,200713)FernandesM,MorekerMR,ShahSGetal:Exaggeratedsubepithelialfibrosisafteranteriorstromalpuncturepresentingasamembrane.Cornea30:660-663,2011***1400あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(84)

インターネット通販でコンタクトレンズを購入し末期緑内障に至った1例

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):998.1001,2012cインターネット通販でコンタクトレンズを購入し末期緑内障に至った1例下地貴子*1新垣淑邦*2澤口昭一*2*1ちばなクリニック眼科*2琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座ACaseofTerminalGlaucomainWhichContactLensesWerePurchasedviaInternetShoppingTakakoShimoji1),YoshikuniArakaki2)andShoichiSawaguchi2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibanaClinic,2)DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicineインターネット通販でコンタクトレンズ(CL)を購入し続け,受診時に末期緑内障と診断された若年者の1例を経験したので報告する.症例は24歳,男性.10年前にCL量販店でCLを購入.その処方箋で以降9年間インターネット通販にてCLを購入していた.右眼の視力低下自覚し,近医を受診したところ,緑内障と診断され,緑内障薬点眼開始.3日前から点眼液がなくなったとのことで平成22年5月14日にちばなクリニック眼科初診となった.初診時,視力は右眼(0.5),左眼(1.2).眼圧は右眼20mmHg,左眼19mmHg.Goldmann動的視野検査では右眼湖崎分類IIIb期,左眼IIIa期であった.緑内障はすべての年齢層で発症し,近視が危険因子であり,また末期まで自覚症状に乏しい場合が多い.CL処方には眼圧や眼底検査を含めた定期的な眼科一般検査が必要である.Wereportayoungcaseofadvancedglaucomavisualfielddisturbance.Thepatient,a24-year-oldmale,hadpurchasedcontactlenses(CL)atashoptenyearspreviously.For9yearssubsequently,hecontinuedpurchasingCLofthesameprescriptionviainternetshopping.Admittedtoanophthalmologistbecauseofblurredvisioninhisrighteye,hewasdiagnosedwithopenangleglaucomaandcommencedmedicaltreatmentwithanti-glaucomaeyedrops.VisualfieldtestingshowedstageIIIbrighteyeandstageIIIaleft,viaKosakiclassification.Glaucomaisadiseasenotonlyofadultbutalsoofyoungerindividuals,andmyopiaisknowntobeariskfactor.Moreover,mostglaucomapatientsareasymptomatic,unlessvisualfieldlossbecomessevere.ItisrecommendedCLusersundergoophthalmologicalexaminationincludingintraocularpressuremeasurementandfundusexamination,especiallyoftheopticnervehead.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):998.1001,2012〕Keywords:若年者,開放隅角緑内障,近視,インターネット通販,コンタクトレンズ.younggeneration,openangleglaucoma,myopia,internetshopping,contactlens.はじめにコンタクトレンズ(CL)はおもに近視眼における屈折矯正の手段として近年,広く普及している.CLの入手方法は眼科病院,眼科医院のみならず,CL量販店やインターネット通販でも購入することが可能である.後者では一般的な眼科検査が行われない,不十分にしか行われていない,あるいは眼科医以外の医師によって行われることがまれではなくこれらが相まって,潜在する眼科疾患の見逃し,あるいはCLによる合併症が少なからず報告1,2)されている.緑内障は高齢者に多くみられる疾患である3)が,若年者においても決してまれな疾患ではなく4.9),眼科日常診療上注意が必要である.今回,インターネット通販でCL購入を続け,受診時,末期緑内障と診断された若年者の1例を経験したので報告する.I症例患者:24歳,男性.主訴:右眼視力障害.家族歴,既往歴:特記すべきことなし.〔別刷請求先〕下地貴子:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座Reprintrequests:TakakoShimoji,M.D.,DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicine,207AzaUehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN998998998あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(122)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY ab現病歴:10年前にCL量販店でCLを処方され,その後,その処方箋で以降9年間インターネット通販にてCLを購入していた.ちばなクリニック(以下,当科)受診1カ月前に右眼の視力低下を主訴に近医を受診したところ,両眼の緑内障と診断された.処方は両眼への1%ブリンゾラミド点眼液,0.5%チモロールマレイン酸点眼液,0.005%ラタノプロスト点眼液であった.3日前から点眼液がなくなったとのことで平成22年5月14日に当科初診となった.初診時所見:視力は右眼0.02(0.5×.6.5D(cyl.0.5DAx10°),左眼0.06(1.2×.6.5D(cyl.1.0DAx180°).眼圧は右眼20mmHg,左眼19mmHg.前眼部,中間透光体ab図1眼底所見(a:右眼,b:左眼)両眼ともに進行した緑内障性視神経萎縮を認める.には異常なく,隅角は開放(Shaffer分類4°)であったが,虹彩の高位付着は認めず,軽度虹彩突起が観察された.眼底は緑内障視神経萎縮が著明であり,特に右眼は末期の緑内障性変化と著明な萎縮の所見を認めた(図1).HRT(HeidelbergRetinaTomograph)-II,SD-OCT(spectraldomainopticalcoherencetomography)による眼底画像解析の結果は両眼とも進行した陥凹の拡大と,神経線維の高度な欠損が観察された(図2,3).念のため頭部の画像〔コンピュータ断層撮影(CT),磁気共鳴画像(MRI)〕を調べたが,異常は検出されなかった.Humphrey静的視野検査では両眼とも進行した視野異常を認め,特に右眼は中心視野がわずかに残存した末期の緑内障性視野異常であった.Goldmann動的視野検査では右眼湖崎分類IIIb期,左眼IIIa期であった(図4).II臨床経過当科初診時より1%ブリンゾラミド点眼液,0.5%チモロールマレイン酸点眼液,0.004%ラタノプロスト点眼液の両眼への点眼治療を再開した.また,CL装用継続希望があり,アドヒアランスを考慮し点眼薬数と点眼回数の減少を図り,平成23年8月11日よりトラボプロスト点眼液,ドルゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼液に切り替えた.その後眼圧は13.16mmHgで推移している.図2HRT.II(a:右眼,b:左眼)著明な乳頭陥凹の所見を認める.(123)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012999 III考按インターネット通販で約10年間CLを購入し,末期緑内障で受診した若年者の緑内障患者を経験した.患者は右眼の視力低下を自覚し来院した.初診時右眼の矯正視力は0.5と不良であり,またGoldmann視野検査は湖崎分類で右眼IIIb期,左眼IIIa期の進行した視野障害を認めた.両眼とも等価球面度数でおよそ.7Dの高度近視であった.緑内障薬物治療に反応し,眼圧コントロールは良好である.図3SD.OCT乳頭周囲の視神経線維の高度な菲薄化を認める.緑内障の多くは成人以降に発症し,40歳以降の成人人口の5%が罹患していることがわが国の疫学調査で明らかにされた3).一方,ホスピタルベースのデータではあるが,眼科クリニックを受診した40歳未満の緑内障患者は0.12%と報告され4),若年者の緑内障にも注意が必要とされている.若年者の緑内障の特徴として屈折が近視であることが報告されている5.7).本症例も両眼とも等価球面度数で約.7Dの強い近視眼であった.また,若年者の正常眼圧緑内障患者も青壮年以降発症のそれと比べ,有意に近視眼が多いことが知られており6),近視性の屈折異常はこの点に十分に注意して眼科検査を行う必要がある.このように若年者の緑内障は近視眼に多く,その発見の契機はCLや眼鏡作製時の偶然の眼底検査やときに眼圧上昇であることが知られている7,8).今回の症例は10年前に量販店のコンタクトレンズセンターでCLを処方されており,その際にどのような眼科的検査が行われていたかは明らかではない.一般的には近視,特に強い近視を伴う緑内障では視神経乳頭の形状異常や視神経線維層欠損が見逃しやすいなど,緑内障性変化の検出が困難なことも多く,専門の眼科医での検査が重要である.近年,わが国において,近視の有病率が急速に増加している.13年間で17歳以下の近視有病率は49.5%から65.6%に増加しており,また10歳以上の学童の屈折は有意に近視にシフトしていることが明らかとなっている10).また,アンケート調査ではCLを装用開始する年齢層は小学校高学年13%,中学生59%,高校生では24%となっており11),これらの年齢層での眼疾患,特に緑内障のスクリーニングはきわめて重要といえる.このような近視人口の増加に伴うCL装用者の増加とともに患者側の問題点としてアンケート調査12,13)が行われたが,2008.2009年にインターネットでのCL購入者が12.4%から22.9%と増加していること,処方時に眼科医を含めた医師の診察を受けていない症例が6.7%にab図4Goldmann視野検査(a:右眼,b:左眼)湖崎分類で右眼IIIb期,左眼IIIa期の進行した視野異常を認める.1000あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(124) 上ること,また約半数の45.5%が不定期ないし定期検査を受けていないことが明らかにされた.CL処方時のスクリーニング検査の問題点としては2005年にコンタクトレンズ診療ガイドラインが示され14),問診に始まり,他覚的屈折検査,自覚的屈折検査を始め,13項目の眼科検査項目が列挙されている.そのなかで眼圧検査と眼底検査は緑内障を含めた眼科標準検査項目であるにもかかわらず,ルーチンの検査とはされず,検査は医師の裁量に任されている.緑内障は青壮年以降に好発する疾患であり,真の発症時期に関しては当然ではあるがより若年層である可能性が推察される.また,眼圧は緑内障進行・悪化の重要かつ最大の危険因子であり,その変動も緑内障進行悪化に影響すると考えられている.今回の症例のように若年者でも高眼圧を伴った開放隅角緑内障を認める可能性もあり,自覚症状も乏しいことから眼科専門医による確実,かつ精度の高い検査がきわめて重要と言える.IVまとめ成人以降の緑内障は末期に至るまで自覚症状に乏しく,多くの潜在患者がいることが報告された3).一方で,緑内障はすべての年齢層で発症し,余命が長いほど失明に至る可能性が増加する.若年者の緑内障は近視性の屈折異常が多く,CLあるいは眼鏡作製で眼科を受診するときが発見の好機となる.一方で,近視眼では陥凹の境界が不鮮明かつ乳頭辺縁(リム)が不鮮明である,乳頭が傾斜していることがある,視神経線維層欠損が検出しにくい,など眼科医でも診断に苦慮する場合が少なくない.この観点からも緑内障の診断には最終的には専門の眼科医の診察が重要である.さらに医療側だけでなく患者側に対してもCL処方時の診察と定期検査の必要性,重要性についての教育が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)植田喜一,宇津見義一,佐野研二ほか:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計報告(平成21年度).日本の眼科81:408-412,20102)熊川真樹子,稲田紀子,庄司純ほか:KingellaKingaが検出されたコンタクトレンズ関連角膜感染症の1例.眼科52:319-323,20103)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20044)岡田芳春:若年者における緑内障.臨眼57:997-1000,20035)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者の正常眼圧緑内障.あたらしい眼科14:1235-1241,19976)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者と中高年者の正常眼圧緑内障の比較.あたらしい眼科16:423-426,19997)末廣久美子,溝上志朗,川崎史朗ほか:初診時に中期の視野障害が認められた若年者正常眼圧緑内障の1例.あたらしい眼科23:697-700,20088)小川一郎:若年性正常眼圧緑内障.臨眼89:1631-1639,19959)丸山亜紀,屋宜友子,神前あいほか:若年発症した正常眼圧緑内障の視神経乳頭.臨眼99:297-299,200510)MatsumuraH,HiraiH:Prevalenceofmyopiaandrefractivechangesinstudentsfrom3to17yearsofage.SurvOphthalmol44(Suppl1):S109-S115,199911)鳥居秀成,不二門尚,宇津見義一:学校近視の現況に関する2010年度アンケート調査報告.日本の眼科82:531541,201112)植田喜一,上川眞巳,田倉智之(日本コンタクトレンズ協議会)ほか:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者のコンプライアンスに関するアンケート調査.日本の眼科81:394-407,201013)植田喜一,上川眞巳,田倉智之(日本眼科医会医療対策部)ほか:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者の実態調査.日本の眼科80:947-953,200914)糸井素純,稲葉昌丸,植田喜一ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン.日眼会誌109:637-665,2005***(125)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121001

細菌性眼内炎治療後ソフトコンタクトレンズ装用者に発症した角膜潰瘍の1 例

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(123)123《原著》あたらしい眼科29(1):123?125,2012cはじめに角膜潰瘍に眼内炎が併発したとする報告は散見されるが,大半は角膜潰瘍が先行し,その炎症が眼内に波及したものである.今回,術後眼内炎治療後に一旦改善しソフトコンタクトレンズ(ブレス・オーR;無水晶体眼用,TORAY社)を装用していた同一眼に角膜潰瘍が発症した症例を経験したの〔別刷請求先〕中矢絵里:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:EriNakaya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,TakatsukiCity,Osaka569-8686,JAPAN細菌性眼内炎治療後ソフトコンタクトレンズ装用者に発症した角膜潰瘍の1例中矢絵里清水一弘服部昌子向井規子佐藤孝樹勝村浩三舟橋順子馬渕享子池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CornealUlcerafterRecoveryfromPostoperativeBacterialEndophthalmitisinaSoftContactLensUserEriNakaya,KazuhiroShimizu,MasakoHattori,NorikoMukai,TakakiSato,KozoKatsumura,JunkoFunahashi,TakakoMabuchiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege術後眼内炎治療後,改善していた同一眼に角膜潰瘍が発症した症例を経験した.症例は79歳,女性.2009年3月12日他院にて左眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)を施行.3月14日左眼飛蚊症・視力低下を自覚し,翌日眼内炎の診断で当科紹介となった.ただちに緊急硝子体手術を施行し,10日後退院となった.眼房水からはStaphylococcuscapitis,Corynebacterium,Streptococcusが検出された.退院後は他院にて経過観察され,無水晶体眼にブレス・オーRを装着し,1カ月ごとの交換を行っていた.2009年11月8日左眼眼痛を自覚し,角膜潰瘍の診断で再び当科紹介となった.角膜上皮からはcoagulase-negativestaphylococci,Corynebacteriumが検出された.本症例は,眼内炎と角膜潰瘍の起炎菌が同種であったことより,易感染性が背景にあり,それにコンタクトレンズの連続装用が誘因となり同一眼に2種類の感染が発症したものと考えられた.Wereportthecaseofa79-year-oldfemalewhopresentedwithcornealulcerafterrecoveringfrompostoperativebacterialendophthalmitis.ThepatienthadpreviouslyundergonecataractsurgeryonherlefteyeonMarch12,2009atanotherhospital.Twodaysaftersurgery,sheexperienceddecreasedvisualacuity.ShewasdiagnosedwithpostoperativebacterialendophthalmitisandreferredtoourhospitalonMarch14,2009.Uponpresentation,weimmediatelyperformedavitrectomy;thepatientwasdischargedfromourhospital10daysaftersurgery.Staphylococcuscapitis,Corynebacterium,andStreptococcuswereisolatedfromthepatient’saqueoushumor.Postoperatively,thepatientusedanextendedwearsoftcontactlens(Breath-OR;TorayIndustries,Inc.,Tokyo,Japan),replacingthelenswithanewoneeverymonth.ShesubsequentlypresentedattheotherhospitalwithpaininherlefteyeonNovember8,2009.Shewasdiagnosedwithcornealulcerandwasonceagainreferredtoourhospital.coagulase-negativestaphylococciandCorynebacteriumwereisolatedfromcornealscrapings.Duetothefactthatthecausativebacteriainthiscasewerethesameintwolesions,wetheorizethattheextendedwearsoftcontactlenswasineffectiveandbecameaconduitfortwokindsofinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):123?125,2012〕Keywords:術後眼内炎,角膜潰瘍,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,コリネバクテリウム,コンタクトレンズ.postoperativeendophthalmitis,cornealulcer,coagulase-negativestaphylococci,Corynebacterium,contactlens.124あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(124)で,眼内炎と角膜潰瘍の因果関係につき考察を加えて報告する.また,当院における人工的無水晶体眼に対するコンタクトレンズによる矯正手段の現状と感染症の発生頻度について調べたので併せて報告する.I症例患者:79歳,女性.既往歴:高血圧,高脂血症,陳旧性心筋梗塞.主訴:左眼視力低下.現病歴:2009年3月12日,他院にて左眼白内障手術〔PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)〕を施行.術中合併症はなく,翌日退院となった.3月14日,左眼飛蚊症が出現し視力低下を自覚した.翌日,同病院を受診し眼内炎の診断で同日当科紹介受診となった.初診時の左眼の視力は20cm/手動弁.眼圧は右眼14mmHg,左眼12mmHg.強い結膜充血,毛様充血,角膜上皮浮腫,Descemet膜皺襞,前房蓄膿,前房内を覆うようなフィブリンを認めた.中間透光体,眼底は透見不能であった.Bモードエコーでは硝子体内に混濁を認めた.同日,緊急硝子体手術を施行し,硝子体を切除し硝子体内の白色塊を切除した後,バンコマイシン・セフタジジムの硝子体注射を行った.術中に採取した眼房水よりStaphylococcuscapitis,Corynebacterium,Streptococcusが検出された.術翌日よりレボフロキサシン,セフメノキシム,トロピカミド,フェニレフリン,0.1%フルオロメトロンの点眼,イミペネムの点滴を開始した.徐々に炎症所見は改善し,眼底も透見可能となり,3月25日退院となった.その後は他院にて外来followされており,人工的無水晶体眼に対してブレス・オーRを装着し,1カ月ごとの交換を行っていた.最終交換は10月14日であり,左眼矯正視力は1.0であった.順調に経過していたが11月8日,左眼眼痛を自覚し,翌日他院を受診し,左眼角膜潰瘍を認めたため,同日当科紹介受診となった.結膜充血,毛様充血,強い角膜浮腫と一部角膜浸潤,前房蓄膿を認め(図1),前房細胞は角膜の混濁のため確認できなかった.角膜上皮を掻爬し,ガチフロキサシン,セフメノキシムの頻回点眼,塩酸セフォゾプランの点滴を開始した.角膜擦過培養からはcoagulasenegativestaphylococci(CNS),Corynebacteriumが検出された.その後徐々に改善し,入院8日目には潰瘍は消失し,淡い浮腫とDescemet膜皺襞を残すのみとなり退院となった(図2).一方,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者の角膜感染症のリスクがどの程度であるかを検討するため,当院通院中の人工的無水晶体眼のコンタクトレンズ装用者14例16眼の経過を調べてみたところ,ハードコンタクトレンズ(HCL)5例7眼,ブレス・オーR7例7眼,メニコンSCL1例1眼,ワンデーアキュビューR1例1眼であり,そのうち経過中にトラブルを起こした症例は,結膜炎や点状表層角膜症(SPK)を起こした症例が1例1眼のみであり,重篤な感染を起こした症例は認めなかった.II考按白内障手術後に術後眼内炎を発症する確率は0.04?0.2%と報告されており1?3),術後早期(1?5日目)に発症する急性眼内炎はブドウ球菌,とりわけメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),腸球菌を中心としたグラム陽性菌が起炎菌となりやすく重症化しやすいといわれている.また,グラム陽性菌の感染経路としては睫毛や涙器が考えられている.今回眼房水よりStaphylococcuscapitis,Corynebacterium,Streptococcusが検出された.術後早期眼内炎からのStaphylococcuscapitisを含んだCNSの検出率は秦野らの報告では17%であり4),術後早期眼内炎の最多起炎菌である.図1角膜潰瘍発症時の前眼部写真結膜充血,毛様充血,強い角膜浮腫と一部角膜浸潤,前房蓄膿を認めた.図2角膜潰瘍が軽快した退院時の前眼部写真潰瘍は消失し,淡い浮腫とDescemet膜皺襞を残すのみとなった.(125)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012125Streptococcusもまた術後早期眼内炎の代表的な起炎菌である.Corynebacteriumは結膜?常在細菌であり,一般的には起炎菌と考えられにくいが,眼内炎の起炎菌となった報告もある5).DNA解析を行っていないため同一かどうかは不明だが,今回角膜潰瘍・眼内炎両方からCNSとCorynebacteriumという同種の菌が検出された.角膜潰瘍の起炎菌としては肺炎球菌やブドウ球菌などのグラム陽性球菌と緑膿菌,モラクセラやセラチアなどのグラム陰性桿菌がよく知られているが,Corynebacteriumによる角膜潰瘍も少ないながら報告されている6).角膜炎と眼内炎が同時に発症した報告は散見される7?12)が,大半は角膜潰瘍が先行し,その炎症が眼内に波及したものである.本呈示例は,術後眼内炎を発症し,炎症が鎮静化して後に角膜潰瘍を生じた.眼内炎と角膜潰瘍がたまたま合併したとも考えられるが,起炎菌が同一であったことからなんらかの因果関係がある可能性が考えられる.須田らの報告によると内眼手術予定患者を対象にガチフロキサシンを点眼し,結膜?細菌培養を行ったところ,点眼前にはCNS,Corynebacteriumが多く検出され,Corynebacteriumは点眼後も多く検出される傾向があった13).本症例にもCNS,Corynebacteriumが常在しており,手術やSCLによる免疫低下などが誘因となって感染に至ったと考えられる.今回当院通院中の人工的無水晶体眼のコンタクトレンズ装用者13例15眼でも調査してみた.症例は10?90歳で,コンタクトレンズの使用期間は3?31年である.そのうち,トラブルを起こした症例は結膜炎やSPKを起こした症例が4例4眼のみであり,重篤な感染を起こした症例は認めなかった.4例の装用期間は5年間が1例,6年間が2例,31年間が1例であった.過去の報告でも,連続装用のSCL使用者に軽度の角膜障害などは認めても重篤な合併症は認めなかったとするものがあるものの14?16),やはり連続装用のSCL使用中に重篤な感染を認めたとする報告も多い17?19).今回は本症例に易感染性もあったのではないかと推察される.連続装用による低酸素状態や上皮障害,角膜知覚の低下,涙液の減少などが基盤にあり,感染に対し抵抗力が低下し,また高齢も感染症重症化の一因であったと考えられる.術後細菌性眼内炎の既往のある患者に,SCLを装用する場合には,結膜?常在細菌の存在と易感染性の可能性も考慮に入れ,コンタクトレンズのケアをいっそう注意して行っていく必要があると考えられた.本稿の要旨は第47回日本眼感染症学会にて発表した.文献1)AabergTMJr,FlynnHWJr,SchiffmanJetal:Nosocomialacute-onsetpostoperativeendophahtalmitissurvey.A10-yearreviewofincidenceandoutcomes.Ophthalmology105:1004-1010,19982)佐藤正樹,大鹿哲郎,木下茂:2004年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS19:338-360,20053)WestES,BehrensA,McDonnellPJetal:TheincidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryamongtheU.S.Medicarepopulationincreasedbetween1994and2001.Ophthalmology112:1388-1394,20054)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状─発症動機と起炎菌.日眼会誌95:369-376,19915)FoxGM,JoondephBC,FlynnHWetal:Delayed-onsetpseudophakicendophthalmitis.AmJOphthalmol111:163-173,19916)佐藤克俊,松田彰,岸本里栄子ほか:オフロキサシン耐性Corynebacteriumによる周辺部角膜潰瘍の1例.臨眼58:841-843,20047)稲毛道憲,鈴木久晴,國重智之ほか:白内障手術後のPaecilomyceslilacinus角膜炎・眼内炎の1例.あたらしい眼科26:1108-1112,20098)峰村健司,永原幸,蕪城俊克ほか:ミュンヒハウゼン症候群が疑われた内因性真菌性眼内炎を繰り返した1例.日眼会誌110:188-192,20069)一色佳彦,木村亘,木村徹ほか:放射状角膜切開術後7年で細菌性角膜潰瘍・創離開・眼内炎を発症した1例.あたらしい眼科20:1289-1292,200310)ValentonM:Woundinfectionaftercataractsurgery.JpnJOphthalmol40:447-455,199611)宮嶋聖也,松本光希,宮川真一ほか:熊本大学における過去20年間の細菌性眼内炎の検討.眼臨89:603-606,199512)橋添元胤,森秀夫,山下千恵ほか:眼内感染症に対する硝子体手術の自験例.眼紀45:319-322,199413)須田智栄子,戸田和重,松田英樹ほか:周術期抗菌点眼薬の使用期間が結膜?細菌叢へ及ぼす影響.あたらしい眼科27:982-986,201014)高柳芳記,岡本寧一,井上紀久子ほか:無水晶体眼に対するブレスオー連続装用者の5年間の経過について.日コレ誌30:44-49,198815)伊東正秀,大原孝和:松坂中央病院における長期連続装用SCLの使用成績について.眼臨81:735-738,198716)北川和子,武田秀利,渡辺のり子:コンタクトレンズ装用者にみられた細菌性角膜炎の検討.あたらしい眼科6:139-143,198917)横山利幸,小澤佳良子,佐久間敦之ほか:ソフトコンタクトレンズ装用中にPaecilomyceslilacinusによる重篤な角膜真菌症を生じた1症例.日コレ誌32:231-237,199018)岩崎博之,青木佳子,黄亭然ほか:ソフトコンタクトレンズ連続装用中に生じた難治性角膜潰瘍の1症例.日コレ誌35:107-110,199319)森康子,本倉眞代,坂本信一ほか:ソフトコンタクトレンズ連続装用者に発生した角膜潰瘍の1例.大警病医誌16:199-202,1992***