《原著》あたらしい眼科42(9):1191.1195,2025c携帯形微生物観察器を用いて迅速検査を行ったアカントアメーバ角膜炎の2例坂田理恵*1,2外間梨沙*1加藤直子*1,3平山オサマ*1,4平山雅敏*5根岸一乃*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2永寿総合病院眼科*3南青山アイクリニック*4東京歯科大学市川総合病院眼科*5福岡大学医学部眼科学教室CTwoCasesofRapidDetectionofAcanthamoebaKeratitisUsingaMobileLaboratoryMicroscopeRieSakata1,2)C,RisaHokama1),CNaokoKato1,3)C,OsamaIbrahimHirayama1,4)C,MasatoshiHirayama5)andKazunoNegishi1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversityschoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,EijuGeneralHospital,3)MinamiaoyamaEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital,5)DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversityschoolofMedicineC携帯形微生物観察器を使用し,感染性角膜炎の起因微生物の同定を試みたC2例を報告する.症例C1はC66歳,男性.コンタクトレンズ(CL)使用中の眼痛と視力低下で近医を受診し,ヘルペス性角膜炎の診断で加療された.改善がないため慶應義塾大学病院眼科紹介となり,角膜擦過検体のCGram染色検鏡と分離培養検査に加えて,携帯形微生物観察器による観察を行った.携帯形微生物観察器でアメーバシストが観察され,アカントアメーバ角膜炎(AK)治療へ切り替えた.症例C2はC49歳,男性.CL使用中の角膜潰瘍に対して,同様に携帯形微生物観察器でアメーバシストが観察された.携帯形微生物観察器Cmil-kinはスマートフォンのカメラを利用したもち運び可能な簡易顕微鏡で,染色や固定をせずに微生物をC1,000倍の倍率で観察する.しばしば鑑別困難であるCAKにおいてアメーバシストが観察された症例を経験し,感染性角膜炎の診断補助として携帯形微生物観察器が有用であることが示唆された.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCinCwhichCidenti.cationCofCtheCcausativeCmicroorganismsCofCinfectiousCkeratitisCwasobservedusingaportablemicrobialobservationdevice.Cases:Case1involveda66-year-oldmalewhovisit-edanoutsideclinicwithcomplaintsofeyepainwhilewearingcontactlenses.Hewasdiagnosedasherpetickerati-tis,andtreated.However,hisconditiondidnotimprove,sohewasreferredtoourhospital.Atpresentation,asam-plewascollectedviascrapingthecornealulcer.Inadditiontogram-stainingsmearmicroscopyandculturetestinginthehospitallaboratory,wealsousedaPortableMicrobialObservationDevice(mil-ken)thatrevealedAmoebiccysts,CsoCtreatmentCforCAcanthamoebakeratitis(AK)wasCstartedCthatCsameCday.CCaseC2CinvolvedCaC49-year-oldCmalewhowasreferredtoourhospitalforacornealulcerthatdevelopedwhileusingcontactlenses.AsinCase1,thePortableMicrobialObservationDevicerevealedAcanthamoebaCcysts.Conclusion:Themil-kindeviceisapor-tableCsimpleCmicroscopeCthatCusesCaCsmartphoneCcameraCwhichCallowsCmicroorganismsCtoCbeCobservedCwithoutCstainingor.xingsamplesatamagni.cationof1,000times,thusmakingitusefulforassistinginthediagnosisofinfectiouskeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(9):1191.1195,C2025〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,コンタクトレンズ,塗抹鏡検.AcanthamoebaCkeratitis,contactlens,smearexamination.Cはじめには難治性の角膜疾患であり,早期の診断と治療介入が重要でアカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakeratitis:AK)ある.AK患者のうちC85.90%がコンタクトレンズ(contact〔別刷請求先〕外間梨沙:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RisaHokama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC検体ステージ図1携帯形微生物観察器mil-kinlens:CL)装用者であり,近年ではCCL使用者の拡大に伴い,増加傾向にある1,2).健康な若年者にも発症し,片眼性であることが多い3,4).アカントアメーバは土壌や淡水に生息する単細胞の微生物であり,アカントアメーバが角膜に感染するとCAKを引き起こす5).AKが重症化しやすい理由として,特徴的臨床的所見に乏しいことが多く,他疾患に類似の所見を呈することから,鑑別診断が困難である点があげられる.初期のCAKはヘルペス性角膜炎に類似した偽樹枝状病変を呈し,上皮型ヘルペス角膜炎として治療されることがある.また,完成期の円板状角膜混濁は,角膜真菌症や実質型ヘルペス性角膜炎と鑑別が容易でない場合がある.確定診断前の安易な副腎皮質ステロイド点眼の使用はCAKの治療予後の増悪と関連するほか6),AKの発症C1カ月以内の診断と治療開始が重要なことから,早期診断が課題である7,8).現在CAKの検査として,分離培養,ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査,レーザー生体共焦点顕微鏡観察,塗抹鏡検(ディフクイック染色,ファンギフローラCY染色)などが行われる7).これらの検査は結果が出るまで時間を要するうえ,検査用設備や機器をもたないクリニックではCAKの早期診断が困難であることが多い.今回,AKの検体観察のために使用した携帯形微生物観察器Cmil-kin(図1)はC1,000倍の光学倍率をもち,観察と撮影にはスマートフォンのカメラを使用する微生物の簡便な観察器械で,染色や固定といった前処理を必要とせずに検体を直接観察することが可能である.検査方法としては,カバーガラスの上に病巣擦過で得た角膜検体を載せてCmil-kinの試料ステージに置き,拡大された像をスマートフォンのカメラ機能を利用して観察する.今回,筆者らは携帯形微生物観察器Cmil-kinを用いて原因微生物の同定を試みたC2症例を報告する.本研究は慶應義塾大学医学部倫理委員会に承認された(慶應義塾大学医学部倫理委員会承認番号C20221067).CI症例[症例1]患者:66歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:近視に対してハードCCL(hardCL:HCL)を使用していた.2022年C5月CX日,左眼充血を自覚し,かかりつけ眼科を受診.円板状の角膜実質混濁を認めヘルペス性角膜炎を疑われ,バラシクロビル内服とフルオロメトロンC0.1%点眼液を処方された.症状の改善なく,2024年C5月CX+5日当院を紹介され受診した.CAxC1.50.cyl(5DC.3×.初診時所見:右眼視力0.3(1.2150°),左眼視力=0.01(n.c).眼圧は右眼C14.0CmmHg,左眼C14.0CmmHg(NCT)であった.細隙灯顕微鏡検査では左眼の円板状角膜実質浸潤と一致した部位の角膜上皮浮腫を認めた(図2).mil-kinによる観察と,ディフクイック染色を行った双眼顕微鏡の観察では,ともに二重壁構造を伴うアメーバシストを認め(図3),AKと診断した.経過:初診日より角膜病巣掻把を週C2回行い,クロルヘキシジングルコン酸塩液C0.05%点眼をC1時間ごと,ボリコナゾールC1日C6回,ガチフロキサシン水和物C1日C6回,オフロキサシン眼軟膏C1日C2回の点眼,眼軟膏治療を開始した.前医処方のバラシクロビル内服とフルオロメトロンC0.1%点眼液は中止した.2024年C5月CX+10日の再診時には,前房蓄膿と角膜上皮欠損が新たに出現した.1カ月ほど加療を行い,実質浸潤は瘢痕化し前房炎症は消失したが視力改善は見込まれず,角膜移植手術を行う方針としてドナー待機患者登録を行った.[症例2]患者:49歳,男性.主訴:左眼痛.現病歴:円錐角膜に対してCHCLを使用していた.2022年9月CX日左眼充血を自覚し,かかりつけ眼科を受診.レボフロキサシン水和物点眼を処方され,HCL装用を継続していた.2022年9月X+19日再診時に左眼角膜混濁を指摘され,レボフロキサシン水和物,オフロキサシン,タクロリムス水和物,イブジラスト点眼液を処方され,当院当科を紹介され受診した.初診時所見:右眼視力C1.2CpC×HCL(1.2C×HCL×sph+1.5D(cyl.0.50Ax90°),左眼視力は指数弁10cm/n.d(n.c),眼圧は右眼C5.3mmHg左眼C18.0CmmHg(NCT).細隙灯顕微鏡検査では左眼の著明な毛様充血と,瞳孔領に図2症例1の当院受診時左眼前眼部写真a,b:2022年5月X+10日.Cc:加療後1カ月(2022年6月X+13日).円板状角膜実質浸潤は,加療後に瘢痕化した.図3症例1の観察画像a:mil-kin無染色C1,000倍観察.Cb:ディフクイック染色双眼顕微鏡C400倍観察..はアメーバシスト.図4症例2の当院初診時の左眼前眼部写真当院初診時(2022年C9月CX+19日).毛様充血と辺縁不整の円板状角膜浸潤がみられる.辺縁不整の円板状角膜浸潤を認めた(図4).Cmil-kin無染色日C2回の点眼,眼軟膏治療を開始した.C1週間後に左瞳孔領1,000倍観察とディフクイック染色による双眼顕微鏡C400倍の角膜浸潤は改善し,C1カ月後(図6)に右眼視力=1.2Cp×観察とで二重壁構造を伴うアメーバシストを認め(図5),HCL,左眼視力=(C0.5CpC×sph..C50D(cyl.3.00Ax90°)AKと診断した.へ改善した.経過:角膜病巣掻把を週C2回行い,クロルヘキシジングル今回筆者らが臨床所見からCAKを疑い,検査を行った症コン酸塩液C0.05%をC1時間おき,ボリコナゾールC1日C6回,例を表1に示す.ガチフロキサシン水和物C1日C6回,オフロキサシン眼軟膏C1図5症例2の観察画像a:mil-kin無染色C1,000倍観察.Cb:ディフクイック染色双眼顕微鏡C400倍観察..はアメーバシスト図6症例2の加療後1カ月の左眼前眼部写真加療後1カ月(2022年10月X+19日).瞳孔領の角膜浸潤が改善した.表1患者背景と検査結果年齢性別使用レンズコンタクト保存液アカントアメーバ培養検査病巣擦過検体アカントアメーバ分離培養検査ディフクイック観察mil-kin染色症例C1C66男性CHCL陽性陰性陽性陽性症例C2C49男性CHCL陰性陰性陽性陽性II考察今回筆者らは,携帯形微生物観察器を用いてCAKの病巣擦過物よりアカントアメーバのシストを検出し,診断,治療開始につながったC2症例を報告した.AKは,クロルヘキシジングルコン酸塩液C0.05%やボリコナゾール点眼などの適応外使用の製剤を自家調剤して治療に使用する必要がある.一般の診療所などでは治療がむずかしく,倫理委員会をもつ基幹病院以上の医療施設に紹介する必要がある.初期にステロイドの局所投与が行われると,病態に悪影響を及ぼすこともあり,できるだけ早い確定診断が望ましい.CL装用とCAKの関連C10.13)に関しては周知が進んだものの,その診断に関しては,より簡便で汎用性のあるものが求められる.携帯形微生物観察器は眼科以外では歯科の分野で,口腔細菌を患者とともにリアルタイムに供覧することで歯周病予防に活用されている.携帯形微生物観察器を用いることにより,検体採取から観察まで短時間で簡便な検査が可能となり,スマートフォンカメラで写真や動画を記録することが可能となる.また検査室をもたない医療施設や一般外来診療などで診断補助として使用できる点も利点と考えられる.過去にも加藤らが携帯形微生物観察器を使用し,AKや真菌性角膜炎からの原因微生物の同定を行った報告があり14),診断補助用具としての有用性が示唆される.一方で,表1に示したように今回の携帯形微生物観察器による観察結果は,必ずしも病院検査室の分離培養結果と一致するものではなかった.携帯形微生物観察器の感度や特異度は症例数が増えたところで検討する必要がある.また,携帯形微生物観察器の観察像は基本的に無染色であるため,得られる情報は形態評価のみになることが限界点である.ディフクイック染色など組織染色を行ってから携帯形微生物観察器で観察することも可能であるが,アカントアメーバのシストのサイズはC10.25Cμmと幅があり,観察像からの形態評価はさまざまな検査結果と総合的に判断する必要があると考えられる.本報告では,AKが疑われる症例において携帯形微生物観察器を使用し,無染色でアカントアメーバのシストを確認することにより,早期の診断補助における有用性が示唆された.今後は経験症例を増やし,有用性に関するエビデンスを蓄積していくことが望まれる.文献1)重安千花,山田昌和:コンタクトレンズによる重篤な眼障害の全国調査より得たこと.臨床眼科C76:1193-1199,C20222)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス.日眼会誌C110:961-972,C2006C3)島崎潤:角結膜疾患の治療戦略,吉村長久,後藤浩,谷原秀信(編),p220-241,医学書院,20164)井上幸次(編):専門医のための眼科診療クオリファイ角膜混濁のすべて,中山書店,p170-183,20145)小林顕,石橋康久:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科19:1005.1010,C20026)平野耕治:急性期アカントアメーバ角膜炎の重症化に関する自験例の検討.日眼会誌115:899-904,C20117)塩田恒三,稲富勉,外園千恵ほか:アカントアメーバ角膜炎C43例の発症後検査までの日数と認めたアカントアメーバの発育ステージとの関係.ClinicalCParasitologyC19:C26-29,C20088)BaconAS,DartJK,FickerLAetal:Acanthamoebakera-titis.CTheCvalueCofCearlyCdiagnosis.COphthalmologyC100:C1238-1243,C19939)薄井紀夫,後藤浩(編):眼感染症診療マニュアル,p220-236,医学書院,201410)YoderJS,VeraniJ,HeidmanNetal:Acanthamoebaker-atitis:thepersistenceofcasesfollowingamultistateout-break.OphthalmicEpidemiolC19:221-225,C201211)CarntN,SamarawickramaC,WhiteAetal:Thediagno-sisandmanagementofcontactlens-relatedmicrobialker-atitis.ClinExpOptomC100:482-493,C201712)RandagCAC,CvanCRooijCJ,CvanCGoorCATCetal:TheCrisingCincidenceCofCAcanthamoebakeratitis:AC7-yearCnation-wideCsurveyCandCclinicalCassessmentCofCriskCfactorsCandCfunctionaloutcomes.PLoSOneC14:e0222092,C201913)HollhumerCR,CKeayCL,CWatsonSL:AcanthamoebaCkerati-tisinAustralia:demographics,associatedfactors,presen-tationCandoutcomes:aC15-yearCcaseCreview.Eye(Lond)C34:725-732,C202014)KatoCN,CShimizuCT,CShimizuCECetal:RapidCdetectionCofCfungiCandCAcanthamoebaCfromCcornealCulcersCusingCaCnovelCmobileClaboratoryCmicroscopeCandCaCsmartphone.Eye(Lond)C37:785-786,C2023***