《原著》あたらしい眼科34(11):1629.1633,2017c多局所網膜電図刺激装置(LE-4100)において適切な近見矯正レンズの選択が可能となる入力システムの改良横山健治竹中丈二木内良明広島大学病院眼科ImprovementofMultifocalElectroretinogramStimulationDevice(LE-4100)EntrySystem,EnablingChoiceofAppropriateCorrectiveLensforNearVisionKenjiYokoyama,JojiTakenakaandYoshiakiKiuchiCDepartmentofOphthalmology,HiroshimaUniversityHospital目的:多局所網膜電図(multifocalelectroretinogram:mfERG)の安定した記録のためには適切な近見矯正が重要である.筆者らは,コンタクトレンズ電極(CL電極)が他覚的屈折度数に与える影響とCmfERGの波形に与える影響について検討し,CL電極装用による矯正効果は角膜曲率半径と強い相関があること,適切な近見矯正を行うことでmfERGの振幅は有意に大きくなることを報告した.今回症例数を増やして追加検証するとともに,簡便に適切な矯正レンズを選択できるようにCLE-4100(メイヨー)の解析ソフトウェアの改良を行った.対象および方法:対象は眼疾患を有しない健常成人C9名C15眼と,2014年C5月.2016年C2月に広島大学病院眼科を受診し,mfERGを測定したC47名87眼の計C102眼である.mfERG装置は,視覚誘発装置にはCLE-4000(トーメーコーポレーション)を,刺激装置にはLE-4100を使用した.裸眼の屈折値とCCL電極装用上の屈折値の差をCCL電極による度数変化とし,裸眼の角膜曲率半径との相関関係をCPearsonの相関係数を用いて検定した.結果:角膜曲率半径が大きいほど,CL電極装用時の近視化傾向は弱くなり,角膜曲率半径とCCL電極による度数変化には強い相関があった(r=0.87,Cp<0.01).その結果をもとにCLE-4100の入力画面で,裸眼の他覚的屈折値と角膜曲率半径を入力するだけで,CL電極による屈折度数の変化を考慮した適切な推奨矯正レンズを選択できるように改良した.改良した新システムを使うと,測定の際の近見矯正レンズ度数を簡便に選択でき振幅は増大し,信頼性の高いCmfERGの結果を導き出すことができた.結論:新システムにより簡便に適切な近見矯正レンズを選択できるようになった.CPurpose:AppropriateCcorrectiveClensCforCnearCvisionCisCnecessaryCforCtheCstableCrecordingCofCmultifocalCelec-troretinograms(mfERG).Weinvestigatedcontactlenselectrode(CLelectrode)e.ectsonobjectiverefractionandmultifocalelectroretinogram(mfERG)waveform.Therewassigni.cantcorrelationbetweenmeanofcornealradiusofcurvatureandCLelectrodecorrectione.ect.AmplitudeofmfERGwassigni.cantlyimprovedbysettingappro-priateCcorrectiveClensCforCnearCvision.CInCthisCstudy,CweCinspectedCmoreCcasesCandCimprovedCtheCLE-4100(Mayo)CanalysisCsoftware,CenablingCeasyCselectionCofCtheCappropriateCcorrectiveClensCforCnearCvision.CSubjectsandMeth-ods:Subjectswere15eyesof9normalsubjectswhohadnoophthalmicdiseasesand87eyesof47patientswhovisitedtheHiroshimaUniversityHospitalDepartmentofOphthalmologyandrecordedtheirmfERGbetweenMay2014CandCFebruaryC2016.CWeCusedCLE-4000(Tomey)asCvisionCevokedCdeviceCandCLE-4100CasCstimulator.CWeCde.nedCtheCdi.erencesCbetweenCnakedCeyeCrefractionCandCCLCelectrode-wearingCeyeCasCrefractiveCchangeCbyCCLCelectrode.WealsoexaminedcorrelationbetweencornealradiusofcurvatureandrefractivechangeusingthePear-soncorrelationcoe.cient.Result:LargercornealradiusofcurvatureshowedlessmyopiawhilewearingCLelec-trode.StrongcorrelationwasobservedbetweencornealradiusofcurvatureandrefractivechangebyCLelectrode(r=0.87,p<0.01)C.Onthebasisofthisstudy,weimprovedtheanalysissoftwareoftheLE-4100,enablingchoiceofCappropriateCcorrectiveClens,CconsideredCaCchangeCofCtheCrefractionCbyCCLCelectrodeCjustCtoCinputCtheCobjectiveCrefractionClevelCofCtheCnakedCeyeCandCtheClevelCofCcornealCradiusCofCcurvature.CWeCareCableCtoCeasilyCchooseCtheC〔別刷請求先〕横山健治:〒734-8551広島市南区霞C1-2-3広島大学病院眼科Reprintrequests:KenjiYokoyama,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaUniversityHospital,Kasumi1-2-3,Minami-ku,HiroshimaCity734-8551,JAPANappropriatecorrectivelensfornearvisionandobtainamuchmorereliableresultusingthisnewsystem.Conclu-sion:Weareabletoeasilychoosetheappropriatecorrectivelensfornearvision,usingthisnewsystem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(11):1629.1633,C2017〕Keywords:多局所網膜電図,コンタクトレンズ電極,LE-4000,LE-4100.multifocalelectroretinogram,contactlenselectrode,LE-4000,LE-4100.Cはじめに多局所網膜電図(multifocalCelectroretinogram:mfERG)は,後極部網膜における障害の範囲,程度が定量的に測定可能であり,網膜の他覚的機能検査として有用であることがわかっている1.5).筆者らは過去に,測定に使用するコンタクトレンズ電極(CL電極)が他覚的屈折度数に与える影響とmfERGの波形に与える影響について検討した.そして,CL電極装用による矯正効果は角膜曲率半径と強い相関があること,適切な近見矯正を行うことで,mfERGの振幅は有意に大きくなること,またCmfERGの安定した記録のためには適切な近見矯正が重要であることを報告した6).今回症例数を増やして追加検証するとともに,簡便に適切な矯正レンズを選択できるようにCLE-4100の解析ソフトウェアの改良を行った.CI対象および方法対象は,健常者C9名C15眼(男性C3名,女性C6名,32.8C±7.5歳,平均C±標準偏差)と,2014年C5月.2016年C2月に広島大学病院眼科を受診し,錐体杆体ジストロフィやCoccultmacularCdystrophyなどの遺伝性黄斑疾患疑いのためにmfERGを測定した47名87眼(男性26名,女性21名,C45.9±19.4歳)の計C56名C102眼である.疾患の内訳は,黄斑ジストロフィC42眼,ぶどう膜炎C6眼,視神経炎C5眼,緑内障C4眼,網膜色素変性症C3眼,網膜動脈分枝閉塞症C2眼,屈折値の差=(裸眼-CL電極)矯正効果(D)2.000.00-2.00-4.00-6.00-8.007.207.407.607.808.008.208.408.60角膜曲率半径の平均(mm)図1角膜曲率半径の平均値とCL電極装用による度数変化の相関関係度数変化=裸眼等価球面度数C.CL電極装用上等価球面度数とする.角膜曲率半径の平均値とCCL電極装用による度数変化には,有意な正の相関が認められた(r=0.87,p<0.01).その他C25眼であった.方法は,トロピカミドC0.5%・フェニレフリン塩酸塩C0.5%(サンドールCPCR)で散瞳した後,オートレフケラトメータKR-800(トプコン)で裸眼の屈折値と,CL電極CEC-103装用上の屈折値を測定した.なお,CL電極の角膜部曲率半径はC8.00mmである.mfERGの測定は,測定装置であるLE-4000と刺激装置であるCLE-4100を用い行った.また,CL電極にはCEC-103(メイヨー)を用いた.CL電極による屈折度数の変化は,裸眼の等価球面度数とCL電極装用上の等価球面度数の差を度数変化とし,裸眼の角膜強主経線と弱主経線の曲率半径の平均値との相関関係をPearsonの相関係数を用い検定した.なお,本研究はヘルシンキ宣言の理念に則り,個人情報保護法および関連する指針に準拠し対象者の自由意思による同意を得た.CII結果今回の研究においても,角膜曲率半径とCCL電極装用による度数変化には有意な正の相関があった(r=0.87,Cp<0.01,図1).この相関が有意で強いことと,CL電極上から屈折度数を測定するのが煩雑であるため,裸眼の屈折度数と曲率半径を入力するだけで推奨近見矯正レンズを表示できるように入力システムの改良を行った.新しく改良された新システムの入力画面(図2)では以前の入力画面になかった裸眼の他覚的屈折度数,曲率半径,使用電極サイズを入力する項目があり,値を入力することで推奨矯正レンズ値が表示されるようになった.推奨矯正レンズの算出法について説明する.CL電極による度数変化CDadj(D)は,今回のデータの近似直線を利用して求められる.つまり,Dadj=5.8309×角膜曲率半径の平均値.48.232(D)である.被検者の等価球面度数CDeqv(D)を入力された他覚的屈折度数から計算する.Deqv=球面度数+円柱度数/2(D).検査距離がC164.135Cmmであることから,正視(0D)の場合に使用するレンズをC6.092546Dとする.ここから推奨矯正レンズCDrecm(D)をつぎの式を用いて計算する.Drecm=Deqv+6.092546-Dadj(D).Drecmの度数にもっとも近くて,実在する矯正レンズを選択する.この新システムを使用して強度近視のC28歳,女性,健常者のCmfERGを測定した(症例1).CL電極装用による度数C図2LE-4100の新システムの入力画面裸眼の他覚的屈折度数,ケラト値,使用電極サイズを入力することで自動で推奨矯正レンズ値を表示できるようになった.【従来の方法】【新システム】図3症例1(強度近視,28歳,健常者)の新旧システムで測定したmfERGの結果新システムで中心部の反応が向上している.【従来の方法】【新システム】図4症例2(中程度乱視,51歳,健常者)の新旧システムで測定したmfERGの結果新システムで中心部の反応が向上し,全波形表示においても全体的に向上している.変化は,裸眼の他覚的屈折度数のC.7.25DCcyl.0.75DCAx150°からCCL電極装用後はC.2.75DCcyl.0.50DCAx73°へと大きな度数変化があった.また従来の方法と,新システムで測定した結果をみると(図3),中心の陽性波振幅は従来の方法でC60.49CnV/degC2,新システムでC75.59CnV/degC2となり,新システムで上昇した.つぎに中程度乱視があるC51歳,女性,健常者のCmfERGを測定した(症例2).CL電極装用による度数変化は,裸眼の他覚的屈折度数の.6.50DCcyl.2.50DCAx173°からCCL電極装用後は.3.00DCcyl.0.25DCAx84°へと大きく,乱視度数もCCL電極が角膜乱視を打ち消すことから,大きく減少した.また,従来の方法と,新システムで測定した結果をみると(図4),中心の陽性波振幅は従来の方法でC22.35nV/Cdeg2,新システムでC40.01CnV/degC2となり,新システムで上昇した.また,全体の陽性波振幅も新システムで上昇した.CIII考按今回の研究においても,CL電極の矯正効果と角膜曲率半径の相関が強いことを確認した.裸眼の角膜曲率半径の平均値と,CL電極の角膜部曲率半径であるC8.00Cmmとの差が大きいほど,裸眼の屈折値とCCL電極装用上の屈折値との度数変化が大きかった.その理由として,CL電極と角膜との間の涙液や角膜保護剤が涙液レンズの役割を果たし,CL電極による屈折矯正効果が大きく現れたのではないかと考えた.近藤7)は刺激画面の像が不鮮明な状態で記録を行うと,刺激に対応した網膜からの反応が低下することが予想されると述べている.また,森ら8)はレンズに貼付することができる,不透明な薄い膜である眼鏡箔で健常者の視力を低下させてmfERGを記録した結果,中心部の振幅の低下が認められたと報告している.筆者ら6)は前回の研究でCCL電極による屈折度数の変化は,測定時の適切な矯正レンズ度数の選択に誤差を与え,とくに中心部のCmfERGの波形にも影響を与えると報告した.mfERGのもう一つの代表的な記録装置であるCVERIS(visualevokedresponseimagingsystem,Electro-Diagnos-ticImaging)はオプションにより刺激装置に取り付けるレフラクター・カメラにより屈折矯正を行うことができる9.11).このリフラクター・カメラは屈折矯正用のレンズと被験者の固視監視用のCTVカメラで構成され,本体側面のダイアルを調節することで屈折矯正が可能であり,屈折矯正用の球面レンズを必要としない.小片ら12)はレフラクター・カメラの使用時と非使用時でCmfERGの振幅を比較した結果,レフラクター・カメラ使用時に中心部からの反応が有意に増大したと報告している.これまでCLE-4100には適切な近見矯正装置が装備されておらず,裸眼の屈折値から検者が算出した近用レンズをレンズホルダークリップに装着,矯正して測定13)しなければならなかった.したがって,今まではCLE-4100の測定において,CL電極による度数変化により近見矯正レンズ度数に誤差が生じて指標が不鮮明になり,正しい検査結果が得られない可能性もあったと考えられる.今回の研究結果をもとにCLE-4100の入力画面で,裸眼の他覚的屈折値と角膜曲率半径を入力するだけで,CL電極による屈折度数の変化を考慮した適切な推奨矯正レンズを選択できるように改良した.改良した新システムを使用することにより,測定の際の近見矯正レンズを簡便に選択でき,信頼性の高いCmfERGの結果を導き出すことができると考える.本論文の要旨は第C64回日本臨床視覚電気生理学会にて発表した.文献1)近藤峰生:多局所網膜電図の基礎と臨床応用について教えてください.あたらしい眼科19(臨増):28-33,C20022)大黒浩,高谷匡雄,三浦道子ほか:多局所CERG(網膜電図)の信頼性についての検討.あたらしい眼科C14:277-279,C19973)堀口正之:多局所網膜電図(MultifocalCERG)の臨床応用.臨眼51:1764-1768,C19974)近藤峰生,三宅養三,堀口正之ほか:正常者における多局所網膜電図の応答密度の検討.日眼会誌C100:810-816,C19965)近藤峰生,三宅養三,堀口正之ほか:多局所CERG.眼紀C46:469-477,C19956)横山健治,近間泰一郎,木内良明:多局所網膜電図波形に対するコンタクトレンズ電極が及ぼす影響.日本視能訓練士協会誌45:315-321,C20167)近藤峰生:4多局所CERGを臨床に生かす.どうとる?どう読む?ERG(山本修一ほか編),p58-61,メジカルビュー社,20048)森敏郎,加藤千晶,中島理子ほか:多局所網膜電図の応答と視力の相関.臨眼51:485-488,C19979)堀口正之:多局所網膜電図.眼科プラクティスC2(樋田哲夫編),p179-183,文光堂,200510)川端秀仁,村山耕一郎,安達恵美子:近視眼における多局所網膜電図第C1報.眼紀C47:509-513,C199611)島田佳明:多局所ERG.眼科56:983-988,C201412)小片一葉,林昌宣,山本修一:屈折矯正・固視監視装置が多局所網膜電図に及ぼす影響.あたらしい眼科C20:420-422,C200313)島田佳明:最新の多局所CERG記録装置の有用性について教えてください.あたらしい眼科27(臨増):113-116,C2010***