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Vogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討

2018年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科35(5):698.702,2018cVogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討白鳥宙国重智之由井智子堀純子日本医科大学眼科学教室CClinicalRecurrenceandTreatmentsinPatientswithVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseNakaShiratori,TomoyukiKunishige,SatokoYuiandJunkoHoriCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolVogt-小柳-原田病(VKH)の再発率,再発部位,再発時の治療内容について観察した.2008年C1月.2016年C8月に日本医科大学付属病院眼科を受診したCVKH患者(n=33)を対象に,診療録より後ろ向きに検討した.初診時の状態は,初発例がC24例,再発例がC1例,遷延例がC4例,他院で加療後の経過観察がC4例であった.治療経過中の再発は初発例のC24例中C6例(25.0%),再発・遷延例のC5例中C4例(80%)に認め,再発・遷延例では再発を繰り返す症例が高頻度であった.再発部位は前眼部型C6例,後眼部型C4例であった.前眼部型に対してはC2例を除いてステロイドの眼局所療法が有効であった.後眼部型に対してはステロイドとシクロシポリンの併用や,アダリムマブが有効であった.CThisretrospectivestudyinvolved33patientswithVogt-Koyanagi-HaradadiseasewhovisitedNipponMedicalSchoolHospitalfromJanuary2008toAugust2016.Subjectsincluded24freshcases,1recurrentcase,4prolongedcasesCandC4Cfollow-upCcasesCafterCtreatmentCatCotherChospitalsCatCtheCtimeCofCinitialCvisit.COfCtheC24CfreshCcases,C6experiencedrecurrentocularin.ammationduringfollow-up;theirrecurrenceratewas25.0%.Ofthe5recurrentorCprolongedCcases,C4CrecurredCagain;theirCrecurrenceCrateCwasC80%.CTheCsiteCofCrecurrenceCwasCclassi.edCintotwogroups:anteriorchambertype(6cases)andfundustype(4cases).Mostoftheanteriorchambertyperecur-rences,excepting2cases,werecuredbytopicalocularcorticosteroidtherapy;thefundustyperecurrenceswerecuredbyacombinationofsystemiccorticosteroidandcyclosporinetherapyoradalimumabtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):698.702,C2018〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,再発率,治療,シクロスポリン,アダリムマブ.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,recurrencerate,treatments,cyclosporine,adalimumab.CはじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease:VKH)は,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患と考えられており1),従来より,初期段階にステロイドパルス療法あるいはステロイド大量漸減療法による治療が行われている.VKHは,前駆期を経て眼病期(急性期)となり,治療を開始すると回復基調となることが一般的である1).しかしながら,治療に抵抗して再発を繰り返し,遷延型に移行するような難治症例では,網脈絡膜変性や続発緑内障などを合併し,視力予後は悪くなると報告されている2).そのため,再発率,遷延率,晩期続発症の合併頻度などを知っておくことが,臨床において患者の視力予後を予測するうえで有用である.今回筆者らは,日本医科大学付属病院眼科(以下,当施設)におけるCVKH患者の治療後の再発率,ならびに遷延率,再発部位,再発前後の治療方法,晩期続発症の発生率に関して検討を行ったので報告する.CI方法1.対象2008年C1月.2016年C8月までに当施設の眼炎症外来を受診し,6カ月以上の経過観察ができたCVKH患者C33例を対象とした.VKHの診断は,2001年の改定国際診断基準1)に準じて,完全型もしくは不完全型を満たすものとした.性別は,男性C16例,女性C17例であった.初診時平均年齢は,〔別刷請求先〕白鳥宙:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:NakaShiratori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPAN698(134)男性C46.9C±18.1歳,女性C47.1C±13.4歳(平均値C±標準偏差)であった.平均観察期間は,44.0C±28.8カ月で,最短C6カ月,最長C109カ月であった.対象は,初診時の状態により,初発例C24例,初診時再発例C1例,初診時遷延例C4例,経過観察例C4例を含んだ.初診時再発例とは,他施設で加療後炎症が再燃したため,当施設初診となった症例とした.初診時遷延例とは,他院でC6カ月以上炎症が持続し,当施設初診となった症例とした.経過観察例とは,他施設で加療後炎症の再燃がなく,当施設初診となった症例とした.本研究は,ヘルシンキ宣言に準じており,日本医科大学付属病院倫理委員会の承認を得た.C2.検.討.事.項再発・遷延例の頻度,再発部位,再発時の治療内容,再発後の治療方法,晩期続発症の種類と頻度についてレトロスペクティブに診療録の解析を行った.なお,再発例とは経過中に一度消炎が得られたにもかかわらず,再度炎症が出現した症例とし,遷延例とはステロイド投与後もC6カ月を超えて内眼炎症が持続した症例とした.寛解とは,検眼鏡的に前房内細胞,硝子体内細胞,漿液性網膜.離が消失した時点とした.再発部位については,前房内細胞などの前眼部炎症のみのものを前眼部型とし,漿液性網膜.離を伴うものを眼底型表1初診時初発例(24例)における治療後の再発・遷延率症例数(%)再発あり遷延なし2例(8C.3%)再発かつ遷延4例(1C6.7%)再発なし18例(C75.0%)とした.続発緑内障については,経過中に複数回にわたり眼圧がC21CmmHgを超えたものと定義した.CII結果初発例については,全例にステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1CgをC3日間連続投与)を施行したのち,翌日よりプレドニゾロンC1Cmg/kg/日程度から内服し,炎症の程度を見きわめながらC2.4週ごとにC5.10Cmg/日を減量する漸減療法が施行されていた.初発例(全C24例)のうち,治療後の再発例はC6例(25.0%)で,再発した結果C6カ月以上消炎できなかった再発かつ遷延例がC4例(16.7%)であった.非再発・非遷延例はC18例(75.0%)であった(表1).一方で,初診時再発・遷延例における再発は,全C5例中C4例(80%)で,初発例と比べて,その後も再発を繰り返す確率が高かった(表2).全再発症例の再発時について,ステロイドパルス療法後の経過週数,ステロイド投与量(体重換算),再発部位,当施設初診時の状態を表3に示した.再発時期は,プレドニゾロン内服漸減中の再発がC7例で,プレドニゾロン内服終了後の再発がC3例であった.再発時のステロイドパルス療法後の経過週数はC3.128週まで幅広かった.再発時のプレドニゾロ表2初診時の状態による再発率再発率初診時初発例25.0%(C6/24例)初診時再発・遷延例80.0%(C4/5例)初発例と比べて,再発・遷延例ではその後も再発を繰り返す確率が高かった.表3全対象33例中の再発症例のまとめ症例CNo.初診時再発部位再発時のパルス後週数(週)再発時のPSL内服量(mg/日)再発時のPSL内服量体重換算(mg/kg/日)C1初発例眼底型C3C40C0.59C2初発例前眼部型C8C25C0.45C3初発例眼底型C13C10C0.13C4初発例眼底型C17C5C0.082C5初発例眼底型C17PSL終了後C1週C6初発例前眼部型C36C5C0.065C7遷延例前眼部型C50C8C0.059C8再発例前眼部型C128PSL終了後C96週C9遷延例前眼部型不詳PSL終了後C10遷延例前眼部型パルスなしC5C0.086PSL:prednisolone(プレドニゾロン).表4前眼部型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C2初発例C25+BSP点眼寛解C6初発例C5+DEX結膜下注射+PSL10mg/日へ増量寛解C7遷延例C8+BSP点眼寛解C8再発例PSL終了後+BSP点眼寛解C9遷延例C5+BSP点眼寛解C10遷延例PSL終了後PSL30mg/日+CyA150mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),BSP:betamethasoneCphosphate(リン酸ベタメタゾン),DEX:dexamethasone(デキサメタゾン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン).表5眼底型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C1初発例C40ステロイドハーフパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C3初発例C10PSL20mg/日+CyA150mg/日C↓CyA25mg/日+ADA40mg/週再発寛解C4初発例C5ステロイドパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C5初発例PSL終了後PSL30mg/日再開+CyA100mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン),ADA:adalimumab(アダリムマブ).ン投与量の平均は,14.0mg/日(0.21mg/kg/日)であったが,その内服量は5.40mg/日と症例によりばらつきがあった.再発例における再発部位は,前眼部型がC6例で,眼底型が4例であった.眼底型の再発は,ステロイドパルス療法後の経過週数が比較的短い時点での再発症例に多く,前眼部型の再発はステロイドパルス療法後の経過週数が比較的長い時点での再発症例に多かった.前眼部型の再発をした症例での再発後の治療を表4に示した.前眼部型の再発に対する治療は,デキサメタゾン結膜下注射やベタメタゾン点眼の追加などの眼局所療法が中心であった.眼局所療法の追加がされたC5例のうち,1例では消炎せずプレドニゾロン内服の増量を必要としたが,その他のC4例では眼局所療法の追加のみで炎症は寛解していた.また,プレドニゾロン全身投与とシクロスポリン全身投与の併用療法がされたC1例では,治療が有効であった.眼底型の再発をした症例について再発後の治療を表5に示した.眼底型の再発に対する治療は,ステロイド全身投与に加えて,シクロスポリン全身投与の併用を行い,全例で炎症は寛解していた.シクロスポリン開始時の投与量はC100.150Cmg/日(約C2Cmg/kg/日)で,血中シクロスポリン濃度(トラフ値:最低血中薬物濃度)がC50.100Cng/mlとなるように維持されていた.一方で,眼底型の再発に対してシクロスポリンを導入した症例のうち,1例でシクロスポリンの副作用と考えられる肝機能障害を認めた.このC1例では,シクロスポリン投与量を6カ月かけてC2Cmg/kg/日からC1Cmg/kg/日に漸減したところで再度の眼底型の再燃があった.この再燃に対しては,生物学的製剤であるアダリムマブの投与を行い,炎症は寛解し,シクロスポリンはC0.5Cmg/kg/日まで減量することができていた(表5,症例CNo.3).晩期続発症についての検討では,夕焼け状眼底がC15例(45.5%)に,網脈絡膜萎縮病巣がC6例(18.2%)に,続発緑内障がC6例(18.2%)に,脈絡膜新生血管がC2例(6.1%)にみられた.このうち,11カ月で夕焼け状眼底を呈した症例表6晩期続発症の発生率夕焼け状眼底網脈絡膜萎縮病巣続発緑内障脈絡膜新生血管最終視力低下(1C.0未満)全症例15例6例6例2例4例(3C3例)(4C5.5%)(1C8.2%)(1C8.2%)(6C.1%)(1C2.1%)再発・遷延例9例4例4例1例2例(1C0例)(9C0.0%)(4C0.0%)(4C0.0%)(1C0.0%)(2C0.0%)再発なし症例6例2例2例1例2例(2C3例)(2C6.1%)(8C.7%)(8C.7%)(4C.3%)(8C.7%)がC1例あったが,他の晩期続発症はC1年以上の経過症例にみられた.視力C1.0未満への最終視力低下がC4例(12.1%)にみられ,視力低下の原因は,2例が脈絡膜新生血管,2例が白内障の進行であった.再発・遷延例では,夕焼け状眼底,続発緑内障,脈絡膜新生血管などの晩期続発症が多い傾向があり,視力低下をきたす症例も多かった(表6).CIII考按VKHの再発率に関する過去の報告には,島ら3)のステロイドパルス療法後の再発率(遷延率)がC23.8%(19.0%)であったとの報告や,井上ら4)のステロイドパルス療法またはステロイド大量漸減療法後の再発率(遷延率)がC28.2%(18.8%)であったなどの報告がある.筆者らの研究では,初発例に対してはステロイドパルス療法にて初期治療を行い,再発率(遷延率)がC25.0%(16.7%)であり,既報とほぼ同様であった.漿液性網膜.離がメインのタイプより視神経乳頭腫脹型のほうが遷延型に移行しやすいという報告5)があるが,本研究の対象C33例では,視神経乳頭腫脹型はC1例のみで,そのC1例は再発も遷延もなかった.晩期続発症についての過去報告には,島ら3)の夕焼け状眼底がC42.9%,続発緑内障がC20.7%,脈絡膜新生血管がC0%との報告や,海外ではCAbuCEl-Asrarら6)の夕焼け状眼底が48.3%,続発緑内障がC20.5%,脈絡膜新生血管がC6.9%との報告や,Readら2)の続発緑内障がC27%,脈絡膜新生血管が11%などの報告がある.本研究では,夕焼け状眼底がC45.5%,続発緑内障がC18.2%に,脈絡膜新生血管がC6.1%にみられ,既報とほぼ同様であった.VKHは,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患であり,細胞障害性CT細胞が病態の中心に関与している7)と考えられている.シクロスポリンはCTリンパ球の活動性を抑制する薬剤であり,2013年より非感染性の難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となったこともあり,VKH治療に対する有効性が期待されている.実際にステロイド治療にて再発性・遷延性のCVKHに対して,シクロスポリンが有効であった報告が過去になされている8,9).ぶどう膜炎に対するシクロスポリンの投与量については,初期投与量C3Cmg/kg/日が適切とされており(ノバルティスファーマ:非感染性ぶどう膜炎におけるネオーラルRの安全使用マニュアル,2013年度版),福富ら8)は,眼底型の再発を繰り返すCVKHのC2症例で,初期投与量C3Cmg/kg/日でのシクロスポリン投与が有効であったと報告している.本研究でのシクロスポリン導入は,ステロイド内服と併用投与であり,全例でC2Cmg/kg/日で開始してトラフ値C50.100Cng/mlとなるように維持していたが,眼底型の再発症例における炎症の寛解に有用であった.本研究と同様に,遷延性CVKHに対して低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与を行った春田らの報告9)では,前眼部型・眼底型炎症ともに効果を認めるものの,眼底型炎症のほうがやや効果が弱い印象であったと報告しているが,筆者らの研究ではシクロスポリン導入時に再度のステロイドパルス療法または全身性ステロイド投与量の増量を併用していたことで有効性が増した可能性が考えられた.このように,難治性のCVKHの治療において,シクロスポリン併用療法は治療の有効な選択肢となるが,シクロスポリン導入時の適切な投与量については,今後さらなる検討が必要と考える.また,それ以外にも,シクロスポリン治療の導入時期,ステロイド併用時の投与量,シクロスポリン導入後の減量方法など,多くの面でいまだ一定のプロトコールがなく,今後多くの症例を積み重ねていくことで,シクロスポリン投与法が確立されることが期待される.アダリムマブは,2016年C10月に難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となった生物学的製剤で,TNF-a阻害作用により抗炎症に働く.VKHに対するアダリムマブ使用の報告は少ないが,Coutoら10)はアダリムマブの導入により他の免疫抑制薬を減量できたと報告している.本研究でも,肝機能障害のためにシクロスポリンを減量せざるをえず,その結果,再度の眼底型の再燃をしてしまったC1例において,アダリムマブの投与が,炎症の寛解とシクロスポリンの減量に有効であった.VKHに対するアダリムマブの有効性や副作用についてはさらなる検討が必要であるが,有効な治療の選択肢の一つであると考えられた.文献1)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetCal:RevisedCdiagnosticcriteriaCforCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C20012)ReadCRW,CRechodouniCA,CButaniCNCetCal:ComplicationsCandCprognosticCfactorsCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CAmJOphthalmolC131:599-606,C20013)島千春,春田亘史,西信良嗣ほか:ステロイドパルス療法を行った原田病患者の治療成績の検討.あたらしい眼科C25:851-854,C20084)井上留美子,田口千香子,河原澄枝ほか:15年間のCVogt-小柳-原田病の検討.臨眼65:1431-1434,C20115)OkunukiCY,CTsubotaCK,CKezukaCTCetCal:Di.erencesCinCtheclinicalfeaturesoftwotypesofVogt-Koyanagi-Hara-daCdisease:serousCretinalCdetachmentCandCopticCdiscCswelling.JpnJOphthalmolC59:103-108,C20156)AbuEl-AsrarAM,TamimiMA,HemachandranSetal:CPrognosticCfactorsCforCclinicalCoutcomeCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCtreatedCwithChigh-doseCcorticosteroids.ActaOphthalmolC91:e486-e493,C20137)SugitaCS,CTakaseCH,CTaguchiCCCetCal:OcularCin.ltratingCCD4+CTCcellsCfromCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaserecognizehumanmelanocyteantigens.InvestOph-thalmolVisSciC47:2547-2554,C20068)福富啓,眞下永,吉岡茉衣子ほか:シクロスポリン併用が有効であった副腎皮質ステロイド抵抗性のCVogt-小柳-原田病のC2症例.日眼会誌121:480-486,C20179)春田真実,吉岡茉衣子,福富啓ほか:遷延性CVogt-小柳-原田病に対する低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与の効果.日眼会誌121:474-479,C201710)CoutoCCA,CFrickCM,CJallazaCECetCal:AdalimumabCtreat-mentCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCSyndrome.CInvestOphthalmolVisSciC55:5798,C2014***

春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたProactive療法の治療成績

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):243.246,2018c春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたProactive療法の治療成績森貴之川村朋子佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CTreatmentResultsofProactiveTherapyUsingImmunosuppressiveEyedropsforVernalKeratoconjunctivitisTakayukiMori,TomokoKawamura,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine目的:免疫抑制点眼薬を春季カタル(VKC)症例に,再燃を抑制するために継続投与する治療を行った.これらの症例の治療成績を検討したので報告する.対象および方法:福岡大学病院眼科でC2009.2016年に治療を行い,その慢性期にステロイド局所および全身治療を併用しないで免疫抑制薬点眼の継続使用により経過観察したCVKCC32例を対象とし,臨床経過と再燃の有無について後ろ向きに解析した.結果:平均治療期間はC27.9カ月で,ステロイドを使用せずに再発がみられなかったのはC26例(81.2%)であり,6例(18.8%)では何らかのステロイド治療を必要とした.免疫抑制点眼薬はすべての症例でタクロリムスが使用されたが,6例ではシクロスポリンも使用された.結論:VKCの慢性期において,ステロイドを使用せずに免疫抑制点眼薬による経過観察は可能であり,アトピー性皮膚炎と同様に,抗炎症局所治療薬である免疫抑制点眼薬を継続投与して再燃を抑制する,いわゆるCproactive療法と考えられる投与法でCVKCの長期管理が可能であることが示唆された.CPurpose:ToCavoidCseasonalCrecurrenceCofCvernalCkeratoconjunctivitis(VKC)C,CproactiveCtherapyCcomprisingCcontinuedtreatmentwithprophylacticdoseincreaseofimmunosuppressiveeyedropsisdeemedtobeofvalue.WereporttheoutcomeofproactivetreatmentofVKC.SubjectsandMethods:Surveyedretrospectivelyinthisstudywere32patientswithVKCwhoweretreatedatFukuokaUniversityHospitalwithcontinueduseofimmunosup-pressiveeyedropswithoutsimultaneoususeoflocalorsystemiccorticosteroidsbetween2009and2016.Results:AverageCtreatmentCdurationCwasC27.9Cmonths;26Ccases(81.2%)showedCnoCrecurrenceCwithoutCtheCuseCofCanycorticosteroids,but6cases(18.8%)requiredcorticosteroidtreatment.Tacrolimuswasusedinallcasesforimmu-nosuppressiveCeyedrops;CcyclosporineCwasCalsoCusedCinC6Ccases.CConclusions:InCtheCchronicCphaseCofCVKC,CitCisCsuggestedthatlong-termmanagementwithproactivetherapyusingimmunosuppressiveeyedropsispossiblewith-outtheuseofcorticosteroids.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):243.246,C2018〕Keywords:春季カタル,免疫抑制点眼薬,proactive療法,タクロリムス,シクロスポリン.vernalkeratocon-junctivitis,immunosuppressiveeyedrops,proactivetherapy,tacrolimus,cyclosporine.Cはじめに春季カタル(vernalCkeratoconjunctivitis:VKC)は増殖性病変を特徴とし,罹患期間も長く,季節性などによる再発のために管理が困難なアレルギー疾患である1).現在のアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)では,VKCの治療法を,「抗アレルギー点眼薬だけで効果不十分な中等症以上の症例に対しては,免疫抑制点眼薬を追加投与し,重症例に対しては,さらにステロイド点眼薬を追加投与し,症状に応じてステロイドの内服薬や瞼結膜下注射,外科的治療も試みる」と記載されている2).症状や重症度に応じて,免疫抑〔別刷請求先〕森貴之:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakayukiMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPAN制点眼薬を基礎治療としながら追加するいわゆるCreactive療法というべき方法が推奨されている.これに対して,皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎に対して,急性期の治療によって寛解導入した後に,ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を定期的に塗布し,寛解状態を維持する治療法がCproac-tive療法として行われている3).VKCにおいては,病勢が落ち着いている時期に免疫抑制点眼薬を漸減しながら継続し,再燃を回避する投与法がCVKCにおける免疫抑制点眼薬によるCproactive療法になると考えられる4).VKCのCproactive療法の可能性については述べられているが,proactive療法の実際の症例に対する治療成績に関するまとまった報告はまだない.そこで当科において行った免疫抑制点眼薬の継続投与治療によるCVKCの治療成績を検討したので報告する.CI対象および方法福岡大学病院眼科でC2009.2016年にCVKCの治療を行い,その慢性期にステロイド局所および全身治療を併用しないで免疫抑制薬点眼の継続使用(点眼回数の増減を含む)により経過観察したC32例を対象とし,VKCにおけるCproactive療法の可能性について,後ろ向きに解析した.VKCの診断はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)にもとづいて行った.開始時の平均年齢はC11.3歳(4.17歳),男性28例,女性C4例であった.観察期間中,抗アレルギー点眼薬は併用可とした.両眼例では重症眼を評価対象とした.臨床評価基準のうち,結膜乳頭,結膜巨大乳頭および角膜それぞれの重症度を,なし:0,軽症:1,中等症:2および重症:3とスコア化し,その合計を重症度スコアとした(最大で9).免疫抑制薬点眼薬の終了,中止あるいはステロイド使用時(点眼,内服,もしくは眼瞼注射)を死亡とし,ステロイドを使用せずに,免疫抑制点眼薬を継続して治療中あるいは改善して治療終了までの期間をCproactive療法としての生存期間としてCKaplan-Meier法で求めた.中止例は最終受診時点までの期間を同様に生存期間とした.ステロイド使用の基準はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)の臨床評価基準で結膜巨大乳頭中等症以上あるいは角膜中等症以上のいずれかないし両方が出現する臨床所見の悪化がみられた場合とした.またステロイドの選択はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)の臨床評価基準で結膜巨大乳頭重症あるいは角膜重症のいずれかないし両方が出現する場合には内服か眼瞼注射のいずれかを行い,それ以外の場合は点眼薬とした.平均値の比較にはCMann-Whitney検定を,要因の単変量解析にはCFisher直接確率計算法を用いた.CII結果平均治療期間はC27.9カ月(12.64カ月)であった.全C32症例のうち,生命表解析で死亡とみなすステロイドを使用し(%)1008060402000102030405060(月)図1Proactive療法のKaplan.Meier法による生存曲線免疫抑制点眼薬による治療の持続期間を示す.た症例はC6例(18.8%)であった.この症例はすべて男性であった.ステロイド使用時期はC12カ月後,36カ月後が各C2例,16カ月後,24カ月後が各C1例であった.ステロイドの使用時期を死亡と定義するCKaplan-Meier法の生存曲線解析結果を図1に示した.Proactive療法の生存率はC2年でC85.9%,5年でC68.9%であった.ステロイド使用例を除き,pro-active療法が継続できたC26例の開始時および最終受診時の重症度スコアの平均はそれぞれ,3.73とC2.27であった.一方,再発群のC6例の開始時および再燃時の重症度スコアの平均はそれぞれ,4およびC4.5と継続例よりは高かった.なお,経過観察中に重篤な合併症がみられた症例はなかった.ステロイド使用に至った症例を再発群,proactive療法を継続できステロイド使用しなかった症例を無再発群として,両群間で再発に関係する要因について検討した.治療開始時年齢については,平均値を比較したが,有意差はみられなかった.要因としては,性別(男性/女性),シクロスポリンの使用(あり/なし),治療開始年齢(10歳以上/10歳未満)アトピー性皮膚炎の既往(あり/なし)について,いずれの要,因でも統計学的に有意な差は認められなかった(表1).ステロイドを使用したC6症例の詳細は表2に示した.再発後トリアムシノロンアセトニド注射やプレドニゾロン内服を必要として,その後経過観察を行った(表2).免疫抑制点眼薬は全症例においてタクロリムス(タリムスCR点眼液C0.1%)が使用されたが,6例では経過中にシクロスポリンも使用された.シクロスポリン(パピロックCRミニ点眼液C0.1%)は全例でタクロリムスからの切り替えとして使用された.CIII考按アレルギー性結膜疾患の治療におけるCproactive療法はまだ確立されたものではなく,近年アレルギー性結膜炎の再発C表1再発群と無再発群の比較再発なし(2C6例)再発あり(6例)p値性別(男性/女性)C22/4C6/0C0.566シクロスポリンの使用(あり/なし)C6/20C0/6C0.565アトピー性皮膚炎の既往(あり/なし)C6/20C3/3C0.314Fisher直接確率計算法を用いた.表2ステロイド使用6症例の詳細年齢性別再発時病変再発時矯正視力再発時期再発前の点眼(/day)使用したステロイド全身疾患経過最終矯正視力7歳男CShieldulcerSPK巨大乳頭C2+0.0928カ月タクロリムス3回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射なし再発時,C4カ月後,C14カ月後,C17カ月後の4回注射後症状改善し,pCroactive療法再開.以降再発なし.C1.014歳男CShieldulcer落屑様CSPK巨大乳頭C2+トランタス斑C0.524カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射アトピー性皮膚炎再発時,C9カ月後,C24カ月後に注射.現在落屑様CSPK,上方輪部病変,巨大乳頭あり.加療継続中.C0.515歳男結膜充血増強C0.912カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC15Cmg注射なし再発時,C9カ月後,C12カ月後に注射.輪部型.その後ドロップアウト.最終診察時,輪部増殖とトランタス斑.C0.84歳男落屑様CSPK巨大乳頭C3+1.036カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射なし2カ月後,C7カ月後,C10カ月後,C17カ月後に注射.その後はCproactive療法再開.現在治療継続.C1.214歳男落屑様CSPK巨大乳頭+0.412カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射アトピー性皮膚炎再発時,1C5カ月後に注射.P+,GCP+,CSPK+.加療継続中.C0.35歳男CShieldulcer巨大乳頭+1.016カ月タクロリムス3回プレドニゾロンC17.5Cmgから漸減アトピー性皮膚炎17カ月後にケナコルトC20Cmg注射.現在加療継続中.C1.2Cを防止するために,抗アレルギー点眼薬の継続使用によるproactive療法が提唱されている5)のがもっとも早い報告と考えられるが,VKCに対する免疫抑制点眼薬を用いたCpro-active療法の報告は筆者らの調べた範囲ではまだみられていない.VKCの治療においては,免疫抑制点眼薬が診療ガイドラインでも第一選択薬となっており,とくにタクロリムス点眼薬C0.1%によって,治療中にステロイドからの離脱率が高率であったと報告されており,ステロイド点眼薬に匹敵する効果のあるステロイド代替治療薬としての重要性が相ついで報告されている6,7).またC0.01%の低濃度点眼薬でも同等の有効性があったという報告もある8).しかし,長期間にわたって,投与回数を増減して継続投与を行った報告はなく,その点で今回の解析は意義があったと考えている.VKCにおける通常のいわゆるCreactive療法では,急性期にはステロイド点眼薬と免疫抑制点眼薬を併用し,症状の改善に応じて,ステロイド点眼薬を中止し,抗アレルギー点眼薬のみを継続して,免疫抑制点眼薬も終了とするというのが一般的な投与法と考えられるが,VKCは季節性の再発がしばしば生じ,その際には結果的に上記の急性期治療から治療を繰り返していくということになる.今回の経過観察を行った免疫抑制点眼薬によるステロイドを使用しないCVKCの継続治療はCproactive療法として最初から行われたものではなく,retrospectiveに解析を行った結果からいわゆるCproac-tive療法に相当すると考えられる投与法であったものである.当院で免疫抑制点眼薬を用いて継続治療した全C32症例のうち,長期間にわたってステロイド局所および全身治療を必要としなかった症例がC28症例(81.2%)であったという結果は,reactive療法との比較試験は行っていないが,十分に高い持続率であったと考えられる.皮膚科でアトピー性皮膚炎に対して行われているproactive療法とほぼ同様の方法で,VKCの慢性期においてもステロイドを使用せずに免疫抑制点眼薬による長期管理が可能であることが示唆された.皮膚科領域と同様にステロイド点眼薬も使用するCproactive療法というものがありうることは否定しないが,今回の治療はステロイドの使用により生じる副作用を防ぐうえでも有意義であると考えられた.再発群と無再発群の比較においては,いずれの項目においても統計学的に有意な差は認められなかったが,この理由として症例数が少ないためであると考えられた.ただし典型的なCVKCの小児例においては,アトピー性皮膚炎の合併率は高くないことが知られており,アトピー性皮膚炎の関与が大きくなかったことは考えられる.再発群と無再発群とを分ける要因は今回の結果からは判明しなかったが,重症型のアレルギー性結膜疾患では涙液中サイトカイン濃度が異なっていること9)や,涙液中炎症マーカーと角膜合併症が関与する報告10)などがあり,何らかの免疫学的な要因が関係する可能性がある.今回の対象となった症例の平均年齢はC11歳とVKCの年齢としては高く,一般的にCVKCのもっとも重症な時期を過ぎている症例が多いことが要因の解析に影響した可能性があるが,proactive療法を継続できるのはこのような症例でもあり,今後の解析を進めたい.シクロスポリン点眼薬を使用したC6症例ではいずれもステロイド局所および全身治療を必要としなかった.これは,VKCの経過が良い症例に対し眼刺激症状などの副作用軽減のため,すでにタクロリムス点眼薬からシクロスポリン点眼薬へ移行した症例であることによるものと考えられる.一方で,シクロスポリンのCVKC再発に対するタクロリムスとは異なる作用の関連も示唆された11).皮膚科領域とは異なり,タクロリムスとシクロスポリンというC2製剤を使用できる春季カタルのCproactive療法が今後確立する場合には,タクロリムスの終了後にも,切り替え投与としてさらに再発を抑制し,安全に治療を終了するうえで,シクロスポリン点眼薬の一定の可能性や意義があることが推測された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)UchioCE,CItohCY,CKadonosonoCK:TopicalCbromfenacCsodi-umforlong-termmanagementofvernalkeratoconjuncti-vitis.OphthalmologicaC221:153-158,C20072)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:831-870,C20103)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2016年版.日皮会誌C126:121-155,C20164)海老原伸行:治療の最前線C!点眼剤の使い分けとピットフォールアレルギー性結膜疾患.薬局65:1774-1780,C20145)O’BrienTP:Allergicconjunctivitis:anupdateondiagno-sisCandCmanagement.CCurrCOpinCAllergyCClinCImmunolC13:543-549,C20136)MiyazakiCD,CFukushimaCA,COhashiCYCetCal:Steroid-spar-ingCe.ectCofC0.1%CtacrolimusCeyeCdropCforCtreatmentCofCshieldulcerandcornealepitheliopathyinrefractoryaller-gicoculardiseases.OphthalmologyC124:287-294,C20177)FukushimaCA,COhashiCY,CEbiharaCNCetCal:Therapeutice.ectsCofC0.1%CtacrolimusCeyeCdropsCforCrefractoryCaller-gicCocularCdiseasesCwithCproliferativeClesionCorCcornealCinvolvement.BrJOphthalmolC98:1023-1027,C20148)ShoughySS,JaroudiMO,TabbaraKF:E.cacyandsafeC-tyoflow-dosetopicaltacrolimusinvernalkeratoconjunc-tivitis.ClinOphthalmolC10:643-647,C20169)UchioE,OnoSY,IkezawaZetal:Tearlevelsofinterfer-on-gamma,Cinterleukin(IL)C-2,CIL-4CandCIL-5CinCpatientsCwithCvernalCkeratoconjunctivitis,CatopicCkeratoconjunctivi-tisCandCallergicCconjunctivitis.CClinCExpCAllergyC30:103-109,C200010)TanakaM,DogruM,TakanoYetal:Quantitativeevalu-ationCofCtheCearlyCchangesCinCocularCsurfaceCin.ammationCfollowingMMC-aidedpapillaryresectioninsevereallergicCpatientsCwithCcornealCcomplications.CCorneaC25:281-285,C200611)YucelCOE,CUlusCND:E.cacyCandCsafetyCofCtopicalCcyclo-sporineA0.05%invernalkeratoconjunctivitis.SingaporeMedJC57:507-510,C2016***

ソフトコンタクトレンズ装用眼にみられた巨大乳頭結膜炎に対する0.1%シクロスポリン点眼液の臨床効果

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(109)109《原著》あたらしい眼科29(1):109?112,2012cはじめに巨大乳頭を形成する結膜炎には大きく春季カタル(VKC)と巨大乳頭結膜炎(GPC)があり,GPCは機械的刺激により上眼瞼結膜に増殖性変化を伴う結膜炎と定義されている.一般臨床においてGPCの大部分はコンタクトレンズ(CL)装用者にみられ,アレルギー炎症の症状や所見に加え,瞬目に伴うCLの上方移動が問題となる.結膜巨大乳頭の治療には抗アレルギー薬以外に,ステロイド薬の使用(点眼・内服・徐放性ステロイドの注射など),VKCに対する乳頭切除,GPCに対するCL装用の中止が行われる.ステロイド薬は効果的であるが対症療法であり,副作用出現の観点から若年者には安易に処方されるべきではない.GPC,VKCともに若年者に多いことから,ステロイドに代わる治療薬が望ましい.シクロスポリン(CyA)は強力な免疫抑制薬として臓器移植拒絶反応予防薬として用いられてきた.CyAは細胞内の〔別刷請求先〕山田潤:〒629-0392京都府南丹市日吉町保野田ヒノ谷6番地1明治国際医療大学眼科学教室Reprintrequests:JunYamada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine,6-1HonodaHinotani,Hiyoshi-cho,Nantan-city,Kyoto629-0392,JAPANソフトコンタクトレンズ装用眼にみられた巨大乳頭結膜炎に対する0.1%シクロスポリン点眼液の臨床効果寺井和都山田潤明治国際医療大学眼科学教室Efficacyof0.1%CyclosporineOphthalmicSolutionforTreatingContactLens-InducedGiantPapillaryConjunctivitisKazutoTeraiandJunYamadaDepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine目的:コンタクトレンズ装用による巨大乳頭結膜炎(GPC)に対する0.1%シクロスポリン点眼の効果につき検討した.対象および方法:倫理委員会の承認を得たのち臨床研究を承諾したGPC症例20例を対象とし,二重盲検2群比較試験を行った.被験者はコンタクトレンズ装用を継続したまま2週間,実薬眼側に0.1%シクロスポリン点眼液を,プラセボ薬眼に人工涙液を1日2回点眼した.点眼開始後1週間,2週間の時点で自覚症状,他覚所見につきスコア化した.結果:自覚症状はいずれの項目も両群間に有意差を認めなかったが,他覚所見においては,眼瞼結膜充血・眼瞼結膜腫脹・眼瞼結膜濾胞・眼瞼結膜乳頭に関してプラセボ薬眼と比較して有意な改善を認めた.結論:0.1%シクロスポリン点眼がコンタクトレンズ装用眼におけるGPCに対しても有効な治療法として提供できる可能性が示された.Purpose:Thepurposeofthisstudywastoexaminewhethertopicallyapplied0.1%cyclosporineeyedropswouldalleviatecontactlens-inducedgiantpapillaryconjunctivitis(GPC),andtoevaluateanyallergicsymptoms.Methods:In20GPCpatients,0.1%cyclosporineeyedropswereinstilledtooneeyeandartificialtearstothefelloweyetwicedailyfortwoweeks,withcontinuationofcontactlenswear.Allergicsymptomsandobjectivefindingswereassessedclinicallyandscoredinadouble-blindplacebo-controlledstudy.Results:Thoughanysignificantdifferencewasalleviatedinsubjectivesymptoms,objectivefindings,includingpalpebralconjunctivalhyperemia,palpebralconjunctivalswelling,palpebralconjunctivalfolliclesandpalpebralconjunctivalpapillae,weresignificantlyimprovedinthecyclosporine-treatedeyes,ascomparedwiththecontroleyes.Conclusions:Thefindingsofthisstudysuggestthattheuseofcyclosporineeyedropsmightgreatlycontributetothetreatmentofcontactlens-inducedGPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):109?112,2012〕Keywords:ソフトコンタクトレンズ,巨大乳頭結膜炎,シクロスポリン.softcontactlens,giantpapillaryconjunctivitis,cyclosporin.110あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(110)シクロフィリンと複合体を形成し,nuclearfactorofactivatedT-cells(NFAT)の脱リン酸化阻害により,IL(インターロイキン)-2やIFN(インターフェロン)-gなどのサイトカイン産生を抑制するだけでなく,IL-3,IL-4,IL-5などの産生も抑制することでTh(Thelper)1応答もTh2応答も双方ともに抑制する.同時にTNF(腫瘍壊死因子)-a,IL-1b,IL-6の産生も抑制し,抗炎症の効果も併せ持つ.現在,CyAはBehcet病,全身型重症筋無力症,再生不良性貧血,ネフローゼ症候群,乾癬,アトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患やアレルギー疾患にも幅広く応用されている.近年,VKCの治療薬として防腐剤を含まないCyA点眼薬(パピロックRミニ点眼液0.1%)が上市され,良好な治療効果が得られている.VKCに類似した病態であるGPCにおいてもCyA点眼薬が治療効果を認めるかどうかについて,二重盲検試験を用いて検証した.I対象および方法1.対象本検討は明治国際医療大学の研究倫理委員会の承認を得て開始した.2008年11月から2009年1月の間に明治国際医療大学附属病院眼科で眼の健診を行ったソフトCL(ディスポーザブルソフトCL含む)装用者のうちで乳頭所見がみられ,かつ,無治療で経過している症例をエントリーした.十分な説明を行い,本試験への参加について患者本人より自由意志による同意を書面にて得られた20例(男性15名,女性5名,平均年齢25.4±8.9歳)40眼を対象とした.除外基準として,(1)肝・腎・心・呼吸器疾患,糖尿病,アトピー疾患,その他重篤な疾患を有する症例,(2)妊婦または妊娠している可能性のある症例,および授乳中の症例,(3)現在,抗アレルギー薬,ステロイド薬で治療中の症例,(4)担当医師が試験対象として不適当と判断した症例,を設けた.2.方法二重盲検2群比較試験を行った.実薬にはパピロックRミニ点眼液0.1%を,プラセボ薬にはティアーレRCLを用いた.被験者は右眼,左眼各々に実薬かプラセボ薬かのいずれかを診察後2週間,1日3回,1回1滴,CLを装用したまま点眼した.左右眼の点眼内容はコントローラーにより選定され,被験者,験者ともに知らされなかった.検査項目および観察項目と時期は,(1)患者背景として性別,生年月日,CLの種類,合併症の有無,疾患眼,既往歴を聴取,(2)投与開始前(初回診断時)と投与1週後,2週後に自覚症状の程度と細隙灯顕微鏡所見による他覚所見の程度を評価し(表1),スコア化して集計した.結膜の評価においては,上眼瞼結膜における充血・腫脹・乳頭と下眼瞼結膜における濾胞とを観察した.乳頭径の測定にはフルオレセイン染色を行い,細隙灯顕微鏡を用いて計測した.すべての項目において,集計時に前眼部写真による他覚所見の再確認を行った.(3)投与期間中に悪化した症状・所見を含む,副作用に関する評価を行った.統計学的検討にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた.表1自覚症状・他覚所見の目安自覚症状の目安?++++++?痒感かゆくない少しかゆいががまんできるかゆいかゆくてがまんできない眼脂ない目やには出るが困らない目やにが多くて困る目やにが多くて目が開けられない異物感ないときどきゴロゴロするゴロゴロするが努力すれば目が開くたえずゴロゴロして目が開けられない羞明感まぶしくない少しまぶしいまぶしい大変まぶしくて目が開けられない流涙気にならない少し目が潤む涙が出る涙が溢れてとまらない点眼刺激しみない少ししみるしみるが我慢できる大変しみて我慢できない角結膜所見の目安?++++++眼瞼結膜充血所見なし数本の血管拡張多数の血管拡張個々の血管の識別不能腫脹所見なしわずかな腫脹びまん性の薄い腫脹びまん性混濁を伴う腫脹濾胞所見なし1?9個10?19個20個以上認める乳頭所見なし直径0.1?0.2mm直径0.3?0.5mm直径0.6mm以上眼球結膜充血所見なし数本の血管拡張多数の血管拡張全体の血管拡張浮腫所見なし部分的腫脹びまん性の薄い腫脹胞状腫脹(111)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012111II結果エントリーした20例すべてがディスポーザブルソフトCL装用者であり,点眼状況・ソフトCL使用状況・受診状況に問題なく,副作用も認められず,脱落例なしと判断した.1.自覚症状(図1)各症状の比較では実薬群とプラセボ群と有意差はなかった.各群における,点眼前後での症状改善について記載する.掻痒感ではCyA点眼を2週間点眼した実薬群のみで,投与前と比較して有意なスコア改善がみられた(前0.80±0.70,後0.30±0.57,p<0.037).眼脂に関しては,実薬群とプラセボ群の双方ともに有意な改善がみられた(実薬群:前0.75±0.55,後0.35±0.49,p<0.016)が,実薬群とプラセボ群とに違いは認められなかった.異物感に関しては実薬群とプラセボ群の双方ともに有意なスコア改善がみられた.羞明感,流涙,眼痛に関してはいずれの群も統計学的に有意な変化を認めなかった.2.他覚所見(図2)眼瞼結膜充血に関しては実薬群で投与前と比較して投与後1週の時点でスコアの有意な低下を認め(p<0.020),投与後1週(p<0.009)および2週(p<0.018)の時点で両群間に有意差を認めた.眼瞼結膜腫脹に関しては投与後1週(p<0.008)および2週(p<0.016)の時点で両群間に有意差を認めた.眼瞼結膜濾胞に関しては実薬群で投与前と比較して投与後1週(p<0.004)および2週(p<0.016)の時点でスコアの有意な低下を認め,投与後1週(p<0.010)および2週(p<0.004)の時点で両群間に有意差を認めた.実薬群で投与前と比較して投与後1週(p<0.004)および2週(p<0.0005)の時点でスコアの有意な低下を認め,投与後1週(p<0.012)および2週(p<0.0007)の時点で両群間に有意差を認めた.眼球結膜充血,眼球結膜浮腫に関してはいずれの時点でも,また群間にも有意差を認めなかった.角膜輪部トランタス斑,角膜輪部腫脹,角膜上皮障害に関しては経過中に所見を認めた症例はなかった.III考察VKCに対するCyAの効果に関しては多数の報告があるのに対し1),CL装用によるGPCに対する免疫抑制薬投与の効果に関する報告は乏しい.今回,ヒト二重盲検試験によってGPCに対するCyA点眼の効果が立証された.GPCはCL装用年齢と関連して若年者から成人に多く,ステロイド薬使用による副作用に注意が必要である.この点,CyA点眼は若年者に対する長期投与の安全性が種々報告されており2),また,重症AKC(アトピー角結膜炎)に対してはステロイド点眼より症状・病態が改善したとも報告されている3).すなわち,GPC治療に適した薬剤と考えている.GPCはVKCと同様,免疫グロブリン(Ig)EによるTh2応答だけが原因ではなく,サイトカインやケモカインを介した各種免疫系細胞と常在細胞間の相互作用,つまりエオタキシン,Mcellの関与,T型肥満細胞(MCT)とTC型肥満細胞(MCTC)の双方の増加や脱顆粒,好酸球,eosinophilcationicprotein(ECP)などのケミカルメディエーターなどが深く絡んで病態を形成している4,5).CyAは抗原特異的なT細胞を抑制するだけでなく,肥満細胞の脱顆粒抑制作用を有しており,ベタメタゾンや抗アレルギー薬よりも血管透過性を制御して急性アレルギー応答を制御できるとの報告がある6).結膜の線維化やコラーゲン含有,およびT細胞や好酸球の炎症性細胞浸潤をも抑制し,遅発層にも効果が示されている7,8).ただ,ベタメタゾンと異なり,トランスホーミング成長因子(TGF)-b1は抑制されないこと,上皮-間葉形質?痒感0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼脂0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0異物感0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0羞明感0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0流涙0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼痛0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0*CyAのみCyA点眼プラセボ点眼***図1CyA点眼前後の自覚所見変化(*p<0.05)眼瞼結膜充血0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼瞼結膜腫脹0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼瞼結膜濾胞0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼瞼結膜乳頭0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼球結膜充血0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼球結膜浮腫0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0CyA点眼プラセボ点眼*CyAのみ*CyAのみ**CyAのみ*CyAのみ**CyAのみ*************図2CyA点眼前後の他覚所見変化(*p<0.05,**p<0.01)112あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(112)転換(EMT)から産生されるprofibroticfactorsによる線維化が危惧されること9),サイトカインが誘導するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-9を抑制すること10)なども知られており,GPCに対する長期投与の成績などに関しては今後の検討が必要である.近年,CyAより効果が得られるタクロリムスが検討されているが,CyAより分子量が小さいため,高い組織移行が期待できる反面,薬剤効果が眼表面にとどまらない可能性があることに注意が必要である.GPCは角膜上皮障害が生じにくく,CL装用による角膜知覚の鈍麻もあるため,自覚症状が軽度であり有意な効果を示すことができなかった.実際には,CyA点眼側ではCLずれの軽減や装用感向上を述べる被験者が多く,CLフィッティングの改善の検討など,新たな比較検討を行う意義はある.今回,CL装用下でもCyA点眼の効果が得られるほど著明な効果がみられたが,CL装用下の点眼治療を推奨する報告ではないことを付記したい.文献1)UtineCA,SternM,AkpekEK:Clinicalreview:topicalophthalmicuseofcyclosporinA.OculImmunolInflamm18:352-361,20102)PucciN,CaputoR,MoriFetal:Long-termsafetyandefficacyoftopicalcyclosporinein156childrenwithvernalkeratoconjunctivitis.IntJImmunopatholPharmacol23:865-871,20103)AkpekEK,DartJK,WatsonSetal:Arandomizedtrialoftopicalcyclosporin0.05%intopicalsteroid-resistantatopickeratoconjunctivitis.Ophthalmology111:476-482,20044)MoschosMM,EperonS,Guex-CrosierY:Increasedeotaxinintearsofpatientswearingcontactlenses.Cornea23:771-775,20045)ZhongX,LiuH,PuAetal:Mcellsareinvolvedinpathogenesisofhumancontactlens-associatedgiantpapillaryconjunctivitis.ArchImmunolTherExp55:173-177,20076)ShiiD,OdaT,ShinomiyaKetal:CyclosporineAeyedropsinhibittheearly-phasereactioninatype-Iallergicconjunctivitismodelinmice.OculPharmacolTher25:321-328,20097)ShiiD,NakagawaS,ShinomiyaKetal:CyclosporinAeyedropsinhibitfibrosisandinflammatorycellinfiltrationinmurinetypeIallergicconjunctivitiswithoutaffectingtheearly-phasereaction.CurrEyeRes34:426-437,20098)ShiiD,NakagawaS,YoshimiMetal:Inhibitoryeffectsofcyclosporineaeyedropsonsymptomsinlatephaseanddelayed-typereactionsinallergicconjunctivitismodels.BiolPharmBull33:1314-1318,20109)SlatteryC,CampbellE,McMorrowTetal:CyclosporineA-inducedrenalfibrosis:aroleforepithelial-mesenchymaltransition.AmJPathol167:395-407,200510)DollerA,Akoolel-S,MullerRetal:MolecularmechanismsofcyclosporinAinhibitionofthecytokine-inducedmatrixmetalloproteinase-9inglomerularmesangialcells.JAmSocNephrol18:581-592,2007***