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シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(121)5530910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):553556,2009cはじめに臨床の場においてはコンタクトレンズ(CL)を装用したまま点眼薬を使用することを希望する症例が少なからず認められ,特にアレルギー性結膜炎やドライアイなどの患者で多く認められる1).しかし,CL装用中に防腐剤を含有する点眼薬を使用した場合,CLに防腐剤が吸着,蓄積されることによって,CLの変性をきたしたり2),吸着された防腐剤が角結膜に障害を与える可能性があるため,CLを装用したまま点眼することは原則として避けるよう指導されている3).点眼薬の防腐剤として最も繁用されているものは塩化ベンザルコニウム(BAC)であるが,一方で角膜上皮障害や接触性皮膚炎などの副作用が問題視されている46).筆者は過去に〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,Joyo610-0121,JAPANシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofAcitazanolastHydrateOphthalmicSolution(ZEPELINROphthalmicSolution)forSiliconeHydrogelContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic抗アレルギー点眼薬のアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)は防腐剤にクロロブタノール,パラベン類が使用されており,角結膜やコンタクトレンズ(CL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,アレルギー性結膜炎患者を対象として2種類のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(アキュビューRオアシスTM,O2オプティクス)装用中にゼペリンR点眼液を点眼した場合の安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行った.その結果,各CL中に主成分またはクロロブタノールが検出されたが,検出量はいずれも微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ゼペリンR点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上においてゼペリンR点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.Theanti-allergicagentacitazanolasthydrateophthalmicsolution(ZEPELINRophthalmicsolution)containschlorobutanolandp-aminobenzoicacidsaspreservatives.Therefore,itsinuenceonthekeratoconjunctivaandcontactlens(CL)maybelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.AllergicconjunctivitispatientswereincludedinthisstudytoinvestigatethesafetyandCLabsorptionofactiveingredientandpreservativesinZEPELINRophthalmicsolution,instilledinwearesof2typesofsiliconehydrogelcontactlenses(ACUVUEROASISTM,O2OPTIX).Resultsshowedthattheactiveingredientorchlorobutanol,wasdetectedineachCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedinthetting.Fur-thermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeectswereobserved.Withsucientperiodicinspec-tionsunderadoctor’ssupervision,theuseofZEPELINRophthalmicsolutioninthepresenceofcontactlensesisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):553556,2009〕Keywords:アシタザノラスト水和物点眼液,防腐剤,クロロブタノール,パラベン類,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,角結膜障害,吸着.acitazanolasthydrateophthalmicsolution,preservatives,siliconehydrogelcontactlens,adverseeectsonthekeratoconjunctiva,absorption.———————————————————————-Page2554あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(122)BAC以外の防腐剤のクロロブタノールとパラベン類(パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル)を使用した抗アレルギー点眼薬であるアシタザノラスト水和物点眼液(以下,ゼペリンR点眼液)の酸素透過性ハードコンタクトレンズ,1日使い捨てソフトコンタクトレンズおよび2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用上点眼における安全性について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した7).しかし,その後日本におけるCLの市場はシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの普及が進み,今後もシェアの拡大傾向が予想される.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型CLと材質や表面処理,含水率などが異なるため,主成分や防腐剤のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる.今回,ゼペリンR点眼液のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象当院を受診したアレルギー性結膜炎患者でCLの継続使用を希望し,かつ使用可能な患者5名(年齢2142歳,平均31.4歳,女性5名)を対象とした.2.使用レンズ2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ:アキュビューRオアシスTM〔FDA(米国食品・医薬品局)分類:グループI,酸素透過係数(Dk値:103[×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)]),含水率:38%,中心厚:0.07mm(3.00D),直径:14.0mm〕.1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ:O2オプティクス〔FDA分類:グループI,酸素透過係数(Dk値:140[×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)]),含水率:24%,中心厚:0.08mm(3.00D),直径:13.8mm〕.3.方法試験開始前に試験の趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た.ゼペリンR点眼液を1回2滴,1日4回(朝,昼,夕および就寝前),両眼に4週間点眼した.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズはアキュビューRオアシスTM,O2オプティクスともに両眼に終日装用で4週間使用させ,アキュビューRオアシスTMは2週間ごとに交換し,点眼開始2週間目に交換したCLを回収した.O2オプティクスは4週間装用し,点眼開始4週間目にCLを回収した.回収したCLの1枚は主成分のアシタザノラスト定量用とし,他方1枚は防腐剤のクロロブタノールおよびパラベン類定量用とした.4.CLに吸着した主成分および防腐剤の定量a.主成分の定量被験者から装脱・回収したCLを1枚ずつpH7.0リン酸緩衝液2mlが入ったバイアルに入れ,20分間2回超音波処理した後,CLを取り出し,得られた抽出液について液体クロマトグラフ法によりCLに吸着していたアシタザノラストを定量した.b.防腐剤の定量被験者から装脱・回収したCLを1枚ずつアセトニトリル2mlが入ったバイアルに入れ,20分間2回超音波処理した後,CLを取り出し,得られた抽出液についてガスクロマトグラフ法によりCLに吸着していたクロロブタノールおよびパラベン類を定量した.5.自覚症状試験開始前,試験開始2週,4週目に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.6.細隙灯顕微鏡検査試験開始前,試験開始2週,4週目にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察と試験開始時,CL装脱直前に角結膜の観察およびCLフィッティング状態の判定を行った.7.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果A.アキュビューRオアシスTM(2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)1.CLから検出された主成分および防腐剤量結果を表1に示す.主成分のアシタザノラストは5検体すべてから検出され,平均検出量は2.44±1.43μg/CLであっNNNHNH2ONHCOCOOH有効成分のアシタザノラスト水和物有効成分の含量:1.08mg/ml添加物:モノエタノールアミン,イプシロン-アミノカプロン酸,パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル,クロロブタノール,プロピレングリコール,ポリソルベート80pH:4.56.0浸透圧比:約1(生理食塩液に対する比)図1ゼペリンR点眼液の概要———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009555(123)た.クロロブタノールは1検体のみから検出され,検出量は10μg/CLであった.パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピルは5検体すべて検出限界以下であった.2.自覚症状試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.3.細隙灯顕微鏡検査試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められず,すべての症例において試験開始時,CL装脱直前の角結膜に異常は認められず,CLフィッティング状態も良好であった.4.副作用すべての症例において副作用は認められなかった.B.O2オプティクス(1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)1.CLから検出された主成分および防腐剤量結果を表2に示す.主成分のアシタザノラストは4検体から検出され,平均検出量は0.40±0.45μg/CLであった.クロロブタノールは3検体から検出され,平均検出量は2.58±2.78μg/CLであった.パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピルは5検体すべて検出限界以下であった.2.自覚症状試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.3.細隙灯顕微鏡検査試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.また,すべての症例において試験開始時,CL装脱直前の角結膜に異常は認められず,CLフィッティング状態も良好であった.4.副作用すべての症例において副作用は認められなかった.III考按現在市販されているほとんどの点眼薬には防腐剤としてBAC,パラベン類,クロロブタノールなどが含有されてお表2O2オプティクス(1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)から検出された主成分および防腐剤量検出量(μg/CL)アシタザノラストクロロブタノールパラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル0.753.4NDND0.075NDNDNDNDNDNDND0.152.8NDND1.06.7NDND平均値±SD0.40±0.452.58±2.78検出限界(μg/CL)0.0110.840.400.56ND:検出限界以下.表1アキュビューRオアシスTM(2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)から検出された主成分および防腐剤量検出量(μg/CL)アシタザノラストクロロブタノールパラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル0.60NDNDND1.9NDNDND2.1NDNDND4.4NDNDND3.210NDND平均値±SD2.44±1.432.00±4.47検出限界(μg/CL)0.0100.880.440.60ND:検出限界以下.———————————————————————-Page4556あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(124)り,これらの防腐剤が角膜上皮に障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている814).また,防腐剤はCLに吸着することが報告されている2,1518).筆者はBACよりも角膜上皮に対する影響が少ないクロロブタノールとパラベン類を防腐剤に使用したゼペリンR点眼液の従来型CL装用上点眼における安全性について検討を行い,問題がないことを報告した7)が,日本におけるCLの市場は2004年にわが国で初めてのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるO2オプティクス(チバビジョン)が発売されて以降,普及が進み,現在ではこのレンズを含め同タイプのレンズは5種類7製品が販売されている.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型素材のハイドロゲルコンタクトレンズの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材,シリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したCLである.これにより,従来型ハイドロゲルコンタクトレンズで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型ハイドロゲルコンタクトレンズと素材や表面処理,含水率などが異なるため,点眼薬の主成分や防腐剤のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる.今回,ゼペリンR点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行った.その結果,CLの種類により,主成分のCLへの吸着量に差が認められたが,防腐剤の吸着量は差が認められなかった.主成分についてはO2オプティクスと比較し,アキュビューRオアシスTMからの検出量が有意に多く(p<0.05:Student’st-test),CLへの主成分の吸着は使用期間よりもCLの素材と主成分の相互作用やCLの表面処理および含水率の違いにより,CL中に取り込まれる点眼液の量が影響している可能性が示唆された.また,検出量は通常の1日投与量に対して約1/4,2671/73と非常に少ない量であった.防腐剤については,クロロブタノールのみが検出され,アキュビューRオアシスTMとO2オプティクスで検出量に差は認められず,検出量は通常の1日投与量に対して約1/2861/80と非常に少ない量であった.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用中の点眼使用による症状の悪化やCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上においてゼペリンR点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,20002)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19933)上田倫子:眼科病棟の服薬指導4.月刊薬事36:1387-1397,19944)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19895)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19946)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19877)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20038)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19779)PsterRR,BursteinN:Theeectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascan-ningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,197610)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplidedrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,198011)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198712)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533-538,199113)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199114)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199315)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199216)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199217)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,199318)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリュージョン,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,2008***

マルチパーパスソリューションとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの組み合わせで発生する角膜ステイニングの評

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(93)930910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):9399,2009cはじめにマルチパーパスソリューション(MPS)は,消毒,洗浄,すすぎ,保存を1本で行うことのできるソフトコンタクトレンズ用のレンズケア用品であり,簡便さを特徴としている.しかし,その一方で,MPS特有の角膜上皮障害(角膜ステイニング)1),アレルギー反応2)などの障害も報告されている.コンタクトレンズ(CL)使用者で発生する薬剤毒性による角膜ステイニングは,重篤な角膜障害のリスクファクターになりうるといわれており,それを生じた患者は,生じていない患者と比べ,角膜炎の発生率が3倍と報告されている3).つ〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院Reprintrequests:MotozumiItoi,M.D.,DougenzakaItoiEyeClinic,1-10-19-1FDougenzaka,Shibuya-ku,Tokyo150-0043,JAPANマルチパーパスソリューションとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの組み合わせで発生する角膜ステイニングの評価糸井素純道玄坂糸井眼科医院CornealStainingwithCombinationsofMultipurposeSolutionsandSiliconeHydrogelContactLensesMotozumiItoiDougenzakaItoiEyeClinic目的:3種のマルチパーパスソリューション(MPS)と4種のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)との組み合わせを,実際の装用サイクルで1週間使用したときに発生する角膜ステイニングの程度を評価した.方法:試験MPSに塩化ポリドロニウムを含むMPS1種(MPS-1)と塩酸ポリヘキサニド(PHMB)を含むMPS2種(MPS-2およびMPS-3)を,試験レンズに4種のSHCLを使用した.対象者は,3種のMPSを1週間ずつランダムに使用した.角膜ステイニングは使用8日目の装用2時間後に観察し,病変の範囲と密度を0(なし)3(重度)にそれぞれスコア化し,2つのスコアを掛け合わせた総スコアを角膜ステイニングのスコアとした.結果:いずれのSHCLとの組み合わせにおいても,角膜ステイニングの程度は,MPS-3が他の2種のMPSより有意に高く,MPS-1とMPS-2で有意な差はなかった.結論:実際の装用サイクルにおいてもMPSとSHCLの組み合わせにより角膜ステイニングが発生した.その程度は,組み合わせにより異なった.Thepurposeofthisstudywastoevaluatecornealstainingwithcombinationsof3multipurposesolutions(MPS)and4siliconehydrogelcontactlenses(SHCL),wornfor1week.Usedwiththe4SHCLwere1polyquad(polyquaternium-1)-basedMPS(MPS-1)and2PHMB(polyhexamethylenebiguanide)-basedMPS(MPS-2,MPS-3).Thesubjectsusedthe3MPSwiththe4SHCLfor1week.Cornealstaining,asgradedbyRangeandDensityfromNone(0)toSevere(3),wasobservedat2hoursafterinstillationatday8afterstartingtolenswear.ThetotalscoreforthecornealstainingwascalculatedbymultiplyingoftheRangeandDensityscores.ThetotalscoreforcornealstainingwithMPS-3wassignicantlyhigherthanthetotalscoresfortheother2MPS.TherewerenosignicantdierencesbetweenMPS-1andMPS-2.ThelevelofcornealstainingdependedonthecombinationofMPSandSHCL.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):9399,2009〕Keywords:多目的用剤,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,角膜ステイニング.multipurposesolution,siliconehydrogelcontactlens,cornealstaining.———————————————————————-Page294あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(94)まり,MPSによる角膜上皮障害は,重篤な角膜障害のリスクファクターとなりうるため,臨床上,注意をはらう必要がある.MPSによる角膜ステイニングは,MPSに含まれる消毒成分が原因と考えられている.現在,MPSに配合されている消毒成分は,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)もしくは塩化ポリドロニウムのいずれかであるが,PHMBを消毒成分として含むMPSのほうが,角膜ステイニングの発生リスクが高いと報告されている4,5).MPSによる角膜ステイニングはCLとの組み合わせによって,その程度が異なるため6),それぞれの組み合わせについて,その発生状況を確認する必要がある.この角膜ステイニングが,CL装用14時間後に最も程度が高くなり,その後は回復する挙動を示す7)ことから,MPSとCLのそれぞれの組み合わせについて装用2時間後の角膜ステイニングを観察し,臨床上のリスクを評価する研究が行われてきた6,8).この研究では,短期間のうちに,多くのMPSとCLの組み合わせにおける臨床上の角膜ステイニングの発生リスクを予測することが可能だが,実際の使用では,CLに付着した蛋白質,脂質,涙液成分(ムチンなど),微生物などの汚れやCLの劣化も角膜に影響を与えると考える.したがって,MPSとCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングの臨床上のリスクを評価する場合,これまでの短時間装用試験の結果に加え,実際の装用サイクルに基づいた試験系での評価が望まれる.そこで本試験では,実際の装用サイクルに基づいて,MPSとシリコーンハイドロゲルCL(SHCL)の組み合わせによる角膜ステイニングを評価するため,3種のMPSと4種のSHCLを使用し,それぞれの組み合わせにおける使用8日目の装用2時間後に角膜ステイニングの程度を評価した.I対象および方法1.試験MPS試験MPSは,オプティフリーRプラス〔MPS-1,日本アルコン(株)社製〕,エピカコールド〔MPS-2,(株)メニコン社製〕およびレニューRマルチプラス〔MPS-2,ボシュロムジャパン(株)社製〕を使用した.消毒成分として,MPS-1は塩化ポリドロニウムを,MPS-2およびMPS-3はPHMBを含む.これらの成分を表1に示す.2.試験レンズ試験レンズは,アキュビューRアドバンスR〔CL-1,ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)社製〕,アキュビューRオアシスTM〔CL-2,ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)社製〕,O2オプティクス〔CL-3,チバビジョン(株)社製〕および2ウィークプレミオ〔CL-4,(株)メニコン社製〕の4種のSHCLを使用した.これらの物性値を表2に示す.表1試験マルチパーパスソリューション(MPS)の成分MPS-1MPS-2MPS-3メーカー日本アルコン(株)(株)メニコンボシュロムジャパン(株)消毒成分塩化ポリドロニウム(0.0011%)PHMB(0.0001%)PHMB(0.00011%)洗浄成分クエン酸テトロニックPOE硬化ヒマシ油*1グリコール酸AMPD*2ポロキサミンハイドラネート*1POE硬化ヒマシ油:植物原料の界面活性剤,*2AMPD:アミノメチルプロパンジオール.表2試験シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)の物性値CL-1CL-2CL-3CL-4メーカージョンソン・エンド・ジョンソン(株)ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)チバビジョン(株)(株)メニコンUSAN*1galylconAsenolconAlotralconAasmolconA酸素透過係数(Dk)*260103140129酸素透過率(Dk/L)*386147175161含水率(%)47382440FDA分類*4I*5III*1USAN:米国一般名(UnitedStatesAdopotedNames).*2酸素透過係数:×1011(cm2/sec)・(mlO2/(ml×mmHg)).*3酸素透過率:×109(cm/sec)・(mlO2/(ml×mmHg)).*4FDA分類:米国食品医薬品局(FDA;FoodandDrugAdministration)によるソフトコンタクトレンズの分類.*5FDA分類グループI:非イオン性,低含水性のソフトコンタクトレンズ.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200995(95)3.対象対象者は,試験前にインフォームド・コンセントにより同意を得たボランティア30名で,いずれも屈折異常以外に眼疾患を有さないハイドロゲルCL装用者であった.対象者は無作為に15名ずつ4群に分けた.第1群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は35.3±7.2歳(平均±標準偏差,範囲:2444歳),第2群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は35.3±7.2歳(平均±標準偏差,範囲:2444歳),第3群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は36.5±7.6歳(平均±標準偏差,範囲:2248歳),第4群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は36.5±7.6歳(平均±標準偏差,範囲:2248歳)であった.4群間の年齢に有意差はなかった(p>0.05,Steel-Dwass検定).4.方法a.試験レンズ装用各対象者に適切な度数の試験レンズを選択し,第1群はCL-1,第2群はCL-2,第3群はCL-3,第4群はCL-4をそれぞれランダムに終日装用した.また,4群とも,3種のMPSをランダムに1週間ずつ使用させた.なお,MPSの種類を切り替える際は,1週間以上のウォッシュアウト期間(MPSを使用しない期間)を設け,その期間は1日使い捨てCLもしくは眼鏡を装用するよう指示した.b.角膜ステイニングのスコア化MPSの薬剤毒性による角膜ステイニングは深度が浅く,点状のステイニングの形態をとる.この角膜ステイニングの程度を独自な方法でスコア化して評価した.まず角膜ステイニングを,病変部位の範囲と密度について,それぞれ4段階にスコア化した.範囲については,角膜ステイニングのないものを“0”,染色のある範囲が角膜の125%のものを“1”,2650%のものを“2”,51%以上のものを“3”とした(図1).密度については,角膜ステイニングのないものを“0”,密度が低いものを“1”,中等度のものを“2”,高いものを“3”とした(図1).最終的に範囲のスコアと密度のスコアを掛け合わせた総スコアを角膜ステイニングの程度のスコアとした.c.角膜ステイニングの評価方法MPSとSHCLのそれぞれの組み合わせについて,使用8日目の角膜ステイニングの程度を前述した方法で同一人物が評価した.角膜の観察は,装用2時間後に行った.角膜を観範囲0(0%)密度0範囲1(125%)範囲2(2650%)密度1密度2範囲3(51%)密度3図1角膜ステイニングのスコア1)範囲(上段) 角膜ステイニングなし:スコア0,障害範囲が角膜の125%:スコア1,障害範囲が角膜の2650%:スコア2,障害範囲が角膜の51%以上:スコア3.2)密度(下段) 角膜ステイニングなし:スコア0,障害密度が低い:スコア1,障害密度が中等度:スコア2,障害密度が高い:スコア3.———————————————————————-Page496あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(96)察する際は,CLをはずし,フルオレセインで染色し,イエローフィルターを挿入した細隙灯顕微鏡を使用した.CLのとりはずしは同一人物が実施した.また,角膜ステイニングを評価する際は,MPSとSHCLの種類を評価者には知らせないobserver-maskの方法で実施した.d.統計処理各MPS間で角膜ステイニングの程度の差が生じるか否かをSteel-Dwass検定を用いて,統計学的に解析した.さらに,各SHCL間で角膜ステイニングの程度に差が生じるか否かについても,同様の統計手法で解析した.II結果MPS-3(PHMB含有MPS)は,4種のSHCLとのすべての組み合わせにおいて,MPS-1(塩化ポリドロニウム含有MPS)およびMPS-2(PHMB含有MPS)より,角膜ステイニングのスコアが有意に高かった(Steel-Dwass検定,MPS-1vs.MPS-3:CL-1:p=0.021,CL-2:p=0.0053,CL-3:p=0.00198,CL-4:p=0.00022;MPS-2vs.MPS-3:CL-1:p=0.035,CL-2:p=0.0041,CL-3:p=0.0042,CL-4:p=0.0066,表3,図2).MPS-1とMPS-2の間で図3MPS1(塩化ポリドロニウムを含むMPS)に浸漬したCL1を装用した2時間後の角膜点状の染色はごくわずかであった.(総スコア1:範囲スコア1,密度スコア1)図4MPS2(PHMBを含むMPS)に浸漬したCL1を装用した2時間後の角膜点状の染色はごくわずかであった.(総スコア1:範囲スコア1,密度スコア1)図5MPS3(PHMBを含むMPS)に浸漬したCL1を装用した2時間後の角膜角膜の全面に点状の染色があった.(総スコア6:範囲スコア3,密度スコア2)CL-1CL-2CL-3CL-4100806040200(%)CL-1CL-2CL-3CL-4CL-1CL-2CL-3CL-4MPS-1MPS-2MPS-3:9点:6点:4点:3点:2点:1点:0点***************p0.05,**p0.01,Steel-Dwass検定(n15)図2角膜ステイニングの総スコアの結果表3角膜ステイニングの総スコアの平均値CL-1CL-2CL-3CL-4MPS-11.1±1.51.2±0.61.2±0.61.1±0.7MPS-21.1±0.81.1±1.01.5±1.51.9±1.3MPS-33.1±2.33.1±2.04.5±2.44.7±2.4———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200997(97)は,4種のSHCLとのいずれの組み合わせにおいても,角膜ステイニングの程度に有意な差はなかった(表3,図2).また,同一のMPSと組み合わせた場合,SHCL種類の違いによる角膜ステイニングの程度に差はなかった.CL-1と3種のMPSとのそれぞれの組み合わせで観察された角膜ステイニングの代表例を示す.これらは,同一対象眼のものだが,MPS-1およびMPS-2では角膜ステイニングはごくわずか[MPS-1:総スコア1(図3),MPS-2:総スコア1(図4)]だが,MPS-3では,角膜の全面に密度の高い点状のステイニングが観察された(総スコア6,図5).III考察本試験の結果,実際に1週間の装用サイクルで使用した場合でも,角膜ステイニングが発生することがわかった.過去の報告と同様に,角膜ステイニングの程度はMPSとSHCLの組み合わせにより差があった.ただし,同じ組み合わせでも,角膜上皮障害の発生程度には個人差があった.たとえば,角膜ステイニングの発生の多かったMPS-3とCL-4を例に取ると,軽度な症例はごくわずかなステイニング(総スコア1)で臨床上問題はなかったが,重度な症例では角膜の全面に密度の高い点状のステイニング(総スコア9)が観察され,その組み合わせを継続して使用することは問題と思われるレベルであった.つまり,MPSとSHCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングは,それらの相性も重要であるが,個人の眼の状態(角膜の健常性,涙液状態など)も関与することが示唆された.MPSで発生する角膜ステイニングは,それに含まれる消毒成分が原因と考えられており,そのリスクは塩化ポリドロニウムよりPHMBのほうが高いと報告されていた4,5)が,今回の結果では,消毒成分としてほぼ同濃度のPHMBを含むMPS間でも角膜ステイニングの程度に有意な差があった.PHMBを消毒成分として含むMPSのうち,MPS-2に関しては,角膜ステイニングの程度が塩化ポリドロニウムを消毒成分として含むMPS-1と差がなかった.つまり,PHMBの存在のみが角膜ステイニングの発生に関係しているのではなく,MPSに含まれるすべての成分(消毒剤,界面活性剤,緩衝剤,キレート剤など)のバランスが関係することが示唆された.消毒効果の高いMPSは細胞毒性が高くなる,つまり角膜などへの影響が強くなる可能性が懸念されていた9)が,角膜ステイニングの程度に有意な差があったMPS-2とMPS-3に関しては,消毒効果には大きな差がないことが報告されている10).つまり,角膜ステイニングの発生するリスクは,必ずしもMPSの消毒効果とは関係がないと考えられた.今回の結果と,過去に筆者らが実施した短時間装用試験の結果を比較すると,CL-2(アキュビューRオアシスTM)とCL-3(O2オプティクス)に関しては,ともにMPS-1とMPS-2の角膜ステイニングの程度に有意な差はなく,MPS-3はこれら2種類のMPSと比べ,その程度が有意に高かった6).つまり,CL-2とCL-3については,短時間装用試験と実際の装用サイクルでの結果の傾向が一致しており,短時間装用試験で得られる結果で,実際の使用における角膜ステイニングのリスクをある程度,評価できることがわかった.ただし,CL-1(アキュビューRアドバンスR)については,PHMBを含むMPSとの組み合わせにおいて,本試験の角膜ステイニングの総スコアの程度が,短時間装用試験の結果11)よりも有意に軽度であった(MPS-2:p<0.0001,MPS-3:p=0.0008,Mann-WhitneyのU検定,図6).つまり,SHCLの種類によって,短時間装用試験の結果と今回の結果が一致するものと差が生じるものがあるということがわかった.これまでに実施した短時間装用試験では新品のCLを使用しており,そこには蛋白質,脂質,涙液成分(ムチンなど),微生物などの汚れは付着していない.しかし,実際の使用においては,適切に洗浄を行っても,ある程度,汚れが残存し,CLに付着した汚れが角膜ステイニングに影響を与える可能性があるといわれている12).SHCLの種類によって蛋白質,脂質,涙液成分(ムチンなど),微生物などの汚れの付着性は異なると考えられ,それが新品のSHCLと1週間使用したSHCLとの間の差を招いたのではないかと推測される.ただし,どの成分が今回の差を招いたかは明らかではな**p0.01,Mann-Whitney検定(n15)(%)MPS-1MPS-2MPS-3新品のSHCLNS****1009080706050403020100:6,9点:2,3,4点:0,1点MPS-1MPS-2MPS-31週使用したSHCL図6CL1とMPSの組み合わせによる角膜ステイニングの1週間使用したSHCLと新品のSHCLの比較PHMBを含むMPS-2およびMPS-3において新品のSHCLの角膜ステイニングの程度が有意に高かった(新品のSHCLのデータは文献11より引用).———————————————————————-Page698あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(98)い.今回の実験系ではMPSとSHCLの組み合わせによる角膜ステイニングの発生の程度を判定した.角膜ステイニングはMPSの薬剤毒性によるものと考えられており,CLの種類によっては,実際の使用により,薬剤毒性が低下することが判明した.薬剤毒性が低下することは,眼組織にとって非常に良いことであるが,MPSの消毒効果が果たして維持されているのか疑問が残る.粘膜中に含まれるムチンが消毒効果を低下させるという報告があり13),涙液中のムチンがMPSの消毒効果に影響を与える可能性もある.多くのMPSの消毒効果試験は,実際の装用サイクルのレンズを使用していない.この点については,今後の検討課題である.MPSで発生する角膜ステイニングに関しては,装用14時間後に最も程度が高く,6時間後には軽減もしくは解消する性質をもつことから,臨床上問題となるか否かは議論の分かれるところであった.しかし,今回の結果から,実際の装用サイクルで1週間使用した場合でも角膜ステイニングが発生することが明らかになり,角膜ステイニングは,日々,発生と消失をくり返している可能性が示唆された.角膜が障害されたとき,角膜上皮バリア機能が低下しているという報告があり14),MPSによる角膜ステイニングであっても,角膜上皮のバリア機能が低下する可能性がある.正常眼であっても,その結膜に常在菌は存在しており15),角膜ステイニングにより,角膜上皮のバリア機能が低下した場合,角膜感染症のリスクは上がると考える.また,最近では,薬剤毒性による角膜ステイニングがある場合,角膜浸潤などの角膜炎の発生頻度が高くなるとの報告3)や,MPSそのものが角膜上皮バリア機能を低下させる可能性を示唆した報告16)もある.したがって,MPSとSHCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングについては,感染症や角膜炎のリスクも考慮し,今後も注意して観察すべきである.MPSで発生する角膜ステイニングは,“深度の浅い,点状のステイニング”という特有の形態をもって現れる.これらは,MPSとSHCLの組み合わせ,あるいは,個人差によって程度が異なるため,その都度,より適切な評価方法で,その程度を評価する必要がある.角膜ステイニングの評価方法で一般的な方法の一つであるCCLRU(CorneaandContactLensResearchUnit)GradingScale17)では,その形態(Type),深度(Depth),面積(Extent)についてそれぞれ分類し,評価している.しかし,MPSで発生する角膜上皮障害の多くは,形態は“点状(1:Micropunctate)”,深度は“1:角膜上皮の表層(1:Supercialepithelial)”に分類され,差が生じるのは面積(Extent)のみである.その点に特化してこれら角膜ステイニングを評価したのが,Andraskoらである.彼らは,10種のケア用品と9種のCL(3種のHyCLと6種のSHCL)の組み合わせで発生する角膜ステイニングを,形態(Type)と面積(Area)でそれぞれ評価したが,形態はすべて“点状(1:Micropunctate)”で差がなかったことから,最終的なリスク判定は角膜ステイニングの面積の結果のみで行っている18).角膜ステイニングの程度を評価するにあたっては,CCLRUGradingScaleにおいても,Andraskoらの研究においても,角膜を5つの領域(中央,上方,下方,耳側,鼻側)に分け,それぞれの領域における角膜の病変面積を算出している.CCLRUGradingScaleでは病変面積の程度をGrade分類し,5領域のGradeを合計して最終的な判定をしている18).また,Andraskoら18)の研究では5領域の病変面積の平均を算出している.研究レベルでは,このような詳細な分類および評価が可能であるが,一般の眼科診療において,個々の患者に対しこれほど詳細な評価を行うのは困難である.宮田らは,びまん性表層角膜炎の重症度を評価する簡便な方法として,障害をAreaとDensityに分け,それぞれを“障害なし(分類:0)”から“重度(分類:3)”の4段階に分けて評価するAD分類を提案している19).この方法は一般診療において,視診のみで角膜上皮障害の重症度を判定できる方法として有用である.しかし,AreaとDensityに分けて評価しているため,全体の重症度を数値で評価できないという問題があると考える.そこで,本試験では,一般の診療現場で簡便にMPSの薬剤毒性による角膜上皮障害を評価でき,かつ,その病変面積を数値で評価する方法として,病変部位の範囲(Range)と密度(Density)を掛け合わせる方法を考案し,MPSによる角膜ステイニングの程度を評価した.この方法を採用するにあたっては,事前にMPSによる角膜ステイニングが発生した300眼を対象に,本評価方法で評価した場合と,CCLRUGradingScaleで評価した場合とで相関が得られるか否かを確認した.その結果,これら2つの評価方法は高い相関(r=0.881)があり(図7),今回採用した病変の範囲(Range)と密度(Density)を掛け合わせ0123456789100510152025(n300)r0.881範囲(R)密度(D)CCLRUGradingScale(5領域の合計)図7角膜上皮障害〔範囲(Range)×密度(Density)〕とCCLRUGradingScaleの相関———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.1,200999(99)る方法は,MPSで発生した角膜ステイニングを評価するのに適切な方法であると判断した.MPSとSHCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングは,その評価方法も含め,臨床上どの程度問題となるかが今後も議論されると思われる.ただし,角膜ステイニングが短時間で消失するものであったとしても,一時的に角膜の健常性は損なわれ,感染症や角膜炎のリスクファクターとなりうると考える.MPSとCLの相性も重要であるが,同じ組み合わせを使用しても,個々で角膜ステイニングの発生程度は異なる.今後,MPSとCLを患者に選択する立場にある者は,それらの相性を十分に把握し,さらには角膜ステイニングの発生程度に個人差があることも理解したうえで,最終的には実際の使用のなかで角膜への影響を観察していくことが重要であると考える.文献1)丸山邦夫,横井則彦:マルチパーパスソリューション(MPS)による前眼部障害.あたらしい眼科18:1283-1284,20012)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUAD)による角結膜障害が疑われた1例.日コレ誌42:164-166,20003)CarntN,JalbertI,StrettonSetal:Solutiontoxicityinsoftcontactlensdailywearisassociatedwithcornealinammation.OptomVisSci84:309-315,20074)LebowKA,SchachetJL:Evaluationofcornealstainingandpatientpreferencewithuseofthreemulti-purposesolutionsandtwobrandsofsoftcontactlenses.EyeCon-tactLens29:213-220,20035)JonesL,MacDougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbalalconsilicone-hydro-gelcontactlensesdisinfectedwithapolyminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.OptomVisSci79:753-761,20026)工藤昌之,糸井素純:O2オプティクスと各種ソフトコンタクトレンズ消毒剤との組み合わせによる安全性.あたらしい眼科24:513-519,20077)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.EyeContactLens31:166-174,20058)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤の相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20059)植田喜一,稲垣恭子,柳井亮二:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49:187-191,200710)柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的用剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌49:S13-S18,200711)糸井素純:シリコーンハイドロゲルレンズとケア製品の適合性.日コレ誌50(補遺):S11-S15,200812)丸山邦夫,横井則彦:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズとマルチパーパスソリューションとの組み合わせで発生しうる角膜上皮障害とその考察.あたらしい眼科24:449-450,200713)AnsorgR,RathPM,FabryW:Inhibitationoftheanti-staphylococcalactivityoftheantisepticpolihexanidebymucin.Arzneimittelforschung53:368-371,200314)横井則彦,清水章代,西田幸二ほか:新しいフルオロフォトメーターによる角膜上皮バリアー機能の定量的評価.あたらしい眼科10:1357-1363,199315)金井淳,井川誠一郎:我が国のコンタクトレンズ装用よる角膜感染症.日コレ誌40:1-6,199816)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Eectsofmulti-purposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,200817)TerryRL,SchniderCM,HoldenBAetal:CCLRUstan-dardsforsuccessofdailyandextendedwearcontactlenses.OptomVisSci70:234-243,199318)AndraskoGJ,RyenKA:EvaluationofMPSandsiliconehydrogellenscombinations.ReviewofCornea&ContactLenses:36-42,200719)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,1994***

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの連続装用が前眼部環境に及ぼす影響と安全性の検討

2008年12月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(93)17010910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(12):17011707,2008c〔別刷請求先〕白石敦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:AtsushiShiraishi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversity,454Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPANシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの連続装用が前眼部環境に及ぼす影響と安全性の検討白石敦原祐子山口昌彦大橋裕一愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野EvaluationofOcularSurfaceInuenceandSafetyinExtendedWearofNewlyApprovedSiliconeHydrogelContactLensAtsushiShiraishi,YukoHara,MasahikoYamaguchiandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversity1週間連続装用のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)がわが国で認可・発売されたが,連続装用については,まだ安全性を懸念する声も多い.そこで,SHCL連続装用の安全性を検証する目的で,1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL),頻回交換型SCL,1カ月交換の終日装用SHCLとの間で多角的な比較評価試験を行った.結果として,実用視力,前眼部所見ならびに涙液安定性に関する1週間連続装用SHCLの評価は,終日装用された他の従来型素材レンズ群と同等であった.一方,角膜厚に関しては,1カ月交換の終日装用SHCLと同様,変化は認められず,従来型素材レンズの終日装用で有意の増加がみられたのとは対照的であった.使用後のレンズの一部からコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)が検出されたが,細菌量はいずれも臨床的に問題のないレベルであり,細菌の検出率(陽性率)は1カ月交換の終日装用SHCLと比較して有意に低かった.他方,付着脂質量は従来素材のSCLよりも有意に多く,逆に,付着蛋白質量は,1日使い捨てSCLよりも有意に少なく,1カ月交換の終日装用SHCLよりも多かった.今回の検討から,新しい1週間連続装用のSHCLの安全性,有用性は,従来素材のSCLあるいは終日装用SHCLと遜色ないものと考えられる.Aone-weekextended-wearsiliconehydrogelcontactlens(1wSHCL)hasbeenmarketedinJapan,thoughnegativeopinionsremainregardingthesafetyofextendedwear.Thisstudywasdesignedtoexaminetheclinicalsafetyandutilityofthe1wSHCLincomparisonwiththreedailywearcontrols:adailydisposablesoftcontactlens(ddSCL),a2-weekreplacementsoftcontactlens(2wSCL)oramonthlysiliconehydrogelcontactlens(mSHCL).Nosignicantdierenceswereobservedbetween1wSHCLandthecontrolgroupsintermsofvision,slitlampndingsandtearstabilityanalysis.SignicantcornealswellingswereobservedinthetwohydrogelCLgroups,butnotinthetwoSHCLgroups.SomecoagulasenegativeStaphylococci(CNS)speciesweredetectedinbacteriologicalexaminationofwornlenses,thoughallwerefarbelowbacterialinfectionlevel.Thebacterialpositiveratiointhe1wSHCLgroupwassignicantlylowerthanthatinthemSHCLgroups.Asforlensdeposits,bothSHCLsabsorbedsignicantlymorelipidsthandidtheddSCLgroup.The1wSHCLabsorbedsignicantlylessproteinthandidtheddSCL,butsignicantlymorethanthemSHCL.Theseresultsindicatethatextendedwearofthis1wSHCLisassafeandusefulasexistingdailywearSHCLsorSCLs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(12):17011707,2008〕Keywords:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,連続装用,角膜肥厚,涙液安定性,細菌,脂質,蛋白質.siliconehydrogelcontactlens,extendedwear,cornealswelling,tearstability,bacteria,lipids,proteins.———————————————————————-Page21702あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(94)はじめに連続装用コンタクトレンズ(CL)は,CLユーザーにとって利便性が高いため,潜在的なニーズはかなりあるが,終日装用レンズに比較して,合併症,特に細菌性角膜炎の発生頻度が高いとの報告が多数みられる点で,眼科医は処方に消極的な傾向がある1,2).近年,高い酸素透過性と光学特性を有し,蛋白質の付着しにくいシリコーンハイドロゲル(siliconehydrogel:SH)CLが登場した.これを受けて欧米では,1カ月連続装用SHCLの安全性が臨床的に検証され35),生活様式の面からオーバーナイト装用を必要とするユーザーを中心に定着しつつある.一方,連続装用期間は欧米より短いものの,1週間連続装用のSHCLがわが国においても承認・発売された.そこで,この新しいSHCLの1週間連続装用による安全性を,従来素材の終日装用ソフトCL(SCL),および終日装用SHCLを対照に,種々の角度から比較検討した.I対象および方法1.対象2007年1月より10月まで愛媛大学病院眼科にて募集したSCL既装用の成人ボランティア60名を対象に以下に述べる比較試験を行った.しかし,表1に示すように被験レンズの1週間の連続装用の適性予備試験においては8名(14.7%)が不適ないし本人理由により試験に不参加となり,1名が検査期間中に麦粒腫を発症,1名が検査不備のため本試験を中止した(表1).結果,検査を完了した計50例100眼(男性30例,女性20例,平均年齢23.2±SD1.8)について統計学的に検討を行った.2.コンタクトレンズ被験レンズとして1週間連続装用SHCL(BalalconA,含水率36%,以下PV),対照レンズとして1日使い捨てSCL(EtalconA,含水率58%,以下OA),2週間終日装用SCL(HEMA,含水率39%,以下MP)および1カ月終日装用SHCL(LotoralconA,含水率24%,以下OX)を用いた.3.方法試験は臨床検査と非臨床検査とに分けて行った.臨床検査では,レンズの使用期間の違いに基づいて試験Aと試験B表1応募者・参加者と中止理由人数理由応募者60予備試験不適8SPK1,本人理由7本試験参加者52本試験中止2麦粒腫1,角膜の古疵1終了者50SPK:点状表層角膜症.表2臨床試験デザイン症例数試料臨床検査名称素材FDAGroup製造元使用方法試験期間(日)使用日数(1枚当り)使用枚数(サイクル)装用時間(1日当り)ケアシステム試験A30PV(ピュアビジョンR)SH3B&L連続装用57571─MP(メダリストプラスR)ハイドロゲル1B&L終日装用57571>6hエーオーセプトOA(ワンデーアキュビューR)ハイドロゲル4J&J終日装用57157>6h─試験B20PV(ピュアビジョンR)SH3B&L連続装用2028574─OX(O2オプティクス)SH1Ciba終日装用263126311>6hエーオーセプト試験APV,OA,MPを3種交使用(不同)PVMPOA試験BPV,OXを交使用(不同)PVPVPVPVOX1W1W1W1W1Month最終週のレンズ回収レンズ回収:72時間以上注)1Week1W1Wレンズ回収レンズ回収最終日のレンズを回収レンズ止レンズ止レンズ止レンズ止図1試験概要のシェーマ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081703(95)の2群に分け,それぞれクロスオーバー法で実施した.試験Aでは,被験レンズ(PV),および対照レンズとして従来素材のSCLの2週間終日装用レンズ(MP)と1日使い捨て(OA)レンズを,それぞれの用法に準じ,1週間ずつ使用した.また,試験Bでは,被験レンズとSHCL終日装用(OX)の対照レンズとをそれぞれの用法に準じ,1カ月ずつ使用した(表2).終日装用は1日6時間以上の装用とし,ケアシステム(MPとOXのみ)には過酸化水素消毒を使用した.予備試験と本試験の間,および本試験での被験レンズと対照レンズの間には,72時間以上の裸眼でのwash-out期間を設けた(図1).非臨床検査では,検査日に装用していたレンズを回収し,右眼のレンズを細菌検査に,左眼のレンズを蛋白質/脂質定量検査に供用した.ただし,蛋白質および脂質の付着は装用中の蓄積によると考えられるため,本来の使用期間より短いMPに関しては蛋白質/脂質定量検査から除外した.4.評価基準a.臨床検査①細隙灯顕微鏡検査:試験レンズ装用前,および試験最終日にレンズを外した直後の前眼部所見を観察した.角膜上皮障害に対してはフルオレセイン染色を用いて拡大率12倍にて観察し,上,下,左,右,中央の5象限の染色スコアを03点(角膜全体では015点)で評価した.②実用視力検査:装用開始直後と試験最終日に試験レンズ装用下での実用視力測定を行った.実用視力測定は,海道らの方法に則り1分間の平均視力を遠方視力(FVA),対数視力(logMAR)として評価し,測定開始時の視力に対する実用視力の比を視力維持率(VMR)として評価した6).③角膜厚検査:連続装用では酸素供給不足から起こる角膜浮腫の発生が懸念される.そこで,装用開始前および試験最終日にレンズを外した直後の角膜中心厚をPentacam(Oculus社)で測定した.④涙液検査:装用開始直後と試験最終日にTearStabilityAnalysisSystem(TSAS,Tomey社)を用いてBreak-UpIndex(BUI)を測定し,レンズ上の涙液の安定性を評価した.裸眼でのBUIは初回検査日に測定した.b.非臨床検査(回収レンズの検査)①微生物検査:試験終了時にレンズ(右眼)を回収し,(財)阪大微生物病研究会(吹田市)にて,細菌の同定・定量を行った.検査法をフローチャートに示す(図2).②蛋白質定量:試験終了時にレンズ(左眼)を回収し,(株)東レリサーチセンター生物科学第2研究室(鎌倉市)にて,付着蛋白質ないし脂質の分析・定量を行った.ただし,全数ではなく,構成比を考慮してレンズごとに1017検体数を抜粋して実施した.蛋白質の測定は検体レンズを加水分解し,ニンヒドリン比色法によるアミノ酸分析法にて行った.具体的には,検体に6mol/lの塩酸400μlを添加し,真空封圧下110℃で22時間加水分解した.ついで,6mol/l塩酸を別の試験管に移し,減圧乾固した後,水100μlに溶解,フィルター濾過後,アミノ酸分析計(日立L-8500形)で測定した.こうして得られたアミノ酸総量を検体レンズ1枚当たりの蛋白質量とし検体(右眼レンズケースレンズ液)菌ビーズり試験管に移すボルテックス1min菌生理塩水で希×10-1,10-2原液の残り全量発育菌の同定35℃,24~48時間培養菌増殖時には5%ヒツジ血液加TrypticaseSoyAgarに再分離35℃,1~7日間培養臨床用チオグリコレート培地原液および各希釈検体50??5%ヒツジ血液加TrypticaseSoyAgar35℃,24~48時間培養集落数をカウントし,サンプル中の菌数(CFU/m?)に換算発育菌を同定★直接分離培養,増菌培養ともに菌発育を認めない場合は“陰性”★?????????,CNS,?????????????,????????spp.を指定菌として同定指定菌以外は詳細な同定は行わない直接分離培養増菌培養図2微生物検査方法(提供:阪大微生物病研究会坂本雅子氏)———————————————————————-Page41704あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(96)た.③脂質定量:検体レンズから溶媒抽出された脂質をメチルエステルに変換するガスクロマトグラフィー(GC)定量分析にて測定した.具体的には,検体にクロロホルム/メタノール(1/1)2mlを添加して振盪し,溶媒抽出操作を行った.溶媒を除去した抽出脂質試料をメタノリシスするため,ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)1mg/mlメタノール溶液を200μl,および5%塩酸・メタノール溶液1mlを加え,70℃で3時間加熱反応させて,試料中の脂肪酸および脂肪酸エステルを脂肪酸メチルエステルに変換した.ついで,ヘキサン1mlを加えてヘキサン層を回収し,ペンタデカン酸メチル0.01%クロロホルム溶液0.2mlを加えて再溶解したものをガスクロマトグラフHP5890型(HewlettPackard社)にてGC分析した.こうして得られた脂肪酸総量を検体レンズ1枚当たりの脂質量とした.II結果1.臨床検査a.前眼部所見試験Aにおいては,角膜上皮障害の発現眼数はOA20眼,MP22眼,PV23眼であり,角膜上皮障害発症眼における平均スコアでもOA1.30点,MP1.27点,PV1.52点と有意差は認めなかった.試験Bにおいては角膜上皮障害の発現眼数がPV22眼,OX8眼とOXにおいて角膜上皮障害発症眼が有意に少なかったが,角膜上皮障害発症眼における平均スコアはPV1.14点,OX1.13点と障害の程度に差は認めなかった.スコア3点以上の上皮障害を認めた症例はなく,1象限でスコア2点を認めた症例は試験AではMP1眼,試験BではPV2眼であった(表3).試験期間中に問題となる角結膜上皮障害,感染症などの前眼部所見は認めなかった.b.実用視力試験A,Bを通じて,レンズ装用下での遠方視力(FVA),対数視力(logMAR),および視力維持率(VMR)ともに,装用開始時と試験最終日との間で,いずれのレンズにおいても有意差はなかった(表4).c.角膜厚試験Aにおいて,従来素材のSCL(MP,OA)で有意な角膜厚の増加を認めた(MP:p<0.05,OA:p<0.01)が,表3角膜上皮障害SPK発現症例数(眼数)発現症例の平均Grade数(/眼)Grade2症例(眼数)試験AOA1W201.300MP1W221.271PV1W231.520試験BPV4W221.142OX1M81.130SPK:点状表層角膜症.表4実用視力PV(n=100)OA(n=60)MP(n=60)OX(n=40)装用開始時装用期間後装用開始時装用期間後装用開始時装用期間後装用開始時装用期間後実用視力(FVA)0.94750.97771.08301.09080.92810.96720.99901.0377p値0.240.800.160.37実用視力(LOG)0.04040.03160.01920.04020.03530.02750.02730.0025p値0.500.100.710.19視力維持率(VMR)0.92940.94820.96870.96230.94380.94830.95280.9483p値0.140.150.480.53500550600650552.38角膜厚(μm)554.25556.18567.67装用前装直後570.57559.90OAMPPV**p<0.01*p<0.05NS図3角膜厚検査(1週間,n=60眼)角膜厚(μm)装用前装直後NSNS500550600650557.43552.18567.48565.80PVOX図4角膜厚検査(4週間,n=40眼)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081705(97)SHCLでは有意な増加は認められなかった(PV:p=0.48).試験Bにおいて,SHCLの1週間連続装用(PV1週間×4サイクル)と終日装用(OX)との間に有意差はなかった(図3,4).d.TSAS(BUI)装用直後(ベースライン)および試験最終日のBUI値は,いずれのレンズにおいてもSCL装用前の裸眼値よりも有意に低下していた(p<0.001).レンズごとにベースラインと試験最終日とのBUI値の比較では,PVで1週間後(試験A)に有意に低下していたが,4週間後(試験B)ではベースラインとの間に差はなかった(図5,6).2.非臨床検査a.微生物検査黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS),緑膿菌,セラチアについて同定・定量を行い,これら以外の菌は指定外菌とした.A,B両試験の全レンズ検体からはCNSが3種類(Staphylococcusepidermidis,Staphylococcuschromogenes,Staphylococcuswarneri)5例同定された.指定外菌が8例検出された.指定外菌も含めた検出頻度(陽性率)はレンズ間に有意な差が認められた(p<0.05).ただし,いずれも100CFU/ml以下であり,一般的にCNSで起炎性をもつとされる105CFU/mlのレベルの菌量7)を大きく下回るものであった(表5).b.蛋白質定量レンズ検体1枚当りの平均蛋白質量を18種類のアミノ酸表5検体レンズから分離培養された微生物試料名検体数Staphylococcus指定外菌(SA,PA,SM,CNS以外)Totalepidemidischromogeneswarnerl陽性検体数陽性率OA30陽性検体数微生物量1<20CFU/ml1100CFU/ml4<20CFU/ml620.0%MP30陽性検体数微生物量1>20CFU/ml13.3%PV50陽性検体数微生物量1<20CFU/ml1<20CFU/ml24.0%OX20陽性検体数微生物量4<20CFU/ml420.0%統計/平均13031181310.0%c20.05=7.815,p=0.0288<0.05.BUI(%)装用開始時装用期間後***p<0.001*p<0.0510002040608073.9053.0553.4456.8851.8350.4350.47裸眼OAMPPV図5BUI検査(1週間,n=60眼)***p<0.001***p<0.001***p<0.001050100150200250300050100150200250300OAPVOX平均蛋白質量(μg/枚)OAPVOX平均脂質量(μg/枚)NS図7レンズ付着蛋白質量・脂質量()用用眼図6BUI検査(4週間,n=40眼)———————————————————————-Page61706あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(98)の総量として計測したところ,OAが260.31μg(n=12,SD=129.06),PVが31.11μg(n=17,SD=14.61),OXが3.36μg(n=10,SD=2.07)となり,OAが他のレンズに比べ有意に高かった(各p<0.001).PVはOAよりも有意に低く,OXよりも有意に高かった(各p<0.001).c.脂質定量レンズ検体1枚当りの平均脂質量を6種類の脂肪酸の総量として計測したところ,OAが3.06μg(n=10,SD=1.33),PVが11.48μg(n=13,SD=1.93),OXが10.25μg(n=10,SD=1.80)となった.連続装用のPVと終日装用のOXとの間に差はなかったが,両SHCLともOAと比較して有意に多かった(p<0.001)(図7).III考察CLの装用に伴って,角膜は種々の非生理学的な環境に晒されるが,このなかで,最も大きな課題は酸素供給の低下である.これを解決するために種々の素材の開発が行われてきたが,現在の処方の主流である従来素材のSCLの場合には閉瞼時の酸素供給量を超える程度のレベルであり,オーバーナイト装用では低酸素状態により角膜浮腫をきたすとの報告もみられる8,9).また,低酸素環境下では角膜上皮に細菌が付着しやすくなるという事実も報告されており10),これを裏付けるように,従来素材のSCLの連続装用では,終日装用に比較して感染性角膜炎の発生頻度が高いとされている1,2).このように,一般にCLの連続装用は感染発症の危険因子と考えられている10,11)が,近年登場したSHCLがその画期的な酸素透過性により12,13),この課題を克服できるか否かは興味あるところである.本試験においては,レンズの酸素透過性を最も鋭敏に反映する指標として角膜厚を取り上げ,CL装用前後の変動を比較した.その結果,従来素材のSCLの終日装用とは異なり,連続装用されたPVにおいては検査期間中(4週間)有意な角膜厚の増加は認められなかった.終日装用のOXにおいても同様の結果であり,SHCLの優れた酸素透過性が改めて実証される結果となった.これらの成績は海外における報告14)ともよく一致しており,SHCLでは,終日装用のみならず連続装用においても,角膜厚の増加をきたさないレベルで酸素供給が維持されているものと考えられ,酸素不足による角膜上皮障害の発生も少ないものと推測される.連続装用でつぎに問題となるのがレンズの汚染である.実際,従来素材のSCLに比較してSHCLには細菌が付着しやすいとの報告も少なからずあるため1517),連続装用に伴う細菌付着の実態を明らかにしておくことは重要である.結論から言えば,汚染率は回収レンズ50枚のわずか2枚(4%)と当初の予想をはるかに下回るものであった.検出されたのはいずれもCNSであり,常在細菌叢由来と想定されるが,細菌量はいずれも100CFU/ml以下であり,一般的にCNSの起炎閾値とされる105CFU/mlのレベル7)には達しておらず,臨床的には問題とならない細菌量であった.一方で,菌の検出された頻度(陽性率)をみると,連続装用されたPV,終日装用MPとともに低く,1日使い捨てのOAと1カ月定期交換SHCLのOXにおいて比較的高かった.1日使い捨てのOAでは付着蛋白質量が多いことから,レンズに付着した蛋白質の量が細菌の接着に影響した可能性が考えられ15,16),OXは1カ月の終日装用であったため,使用期間の長さも関連している可能性もあり,追加研究での検討が必要であろう.細隙灯顕微鏡による所見では,いずれのレンズにおいても,試験期間を通して問題となるような眼表面の障害は観察されず,安全性に問題はないと推測される.しかし,試験Bにおいて上皮障害の程度はOXとPV間で有意差はなく軽度の角膜上皮障害ではあったが,終日装用のOXに比較してPVで角膜上皮障害発症眼数が多く認められたことは,連続装用CLではより注意深い経過観察が必要であることを示唆する結果であろう.装用レンズ上の涙液安定性は良好な視機能の維持において重要な因子であるが,本研究でも明らかなように,レンズ装用により低下することは避けられない現象である.涙液安定性をBUIにて評価したところ,装用4週間装用試験(試験B)においてPVはOXと同等の結果を示した.確かに,PVの場合,1週間装用試験(試験A)の装用後に有意な低下がみられ,同時に,PVの連続装用開始の最初の1週間に乾燥感が強いとの意見も少なからずある.実際,今回行った被験者に対するアンケート調査結果でも,PVに関する満足度(1:「低い」,7:「高い」の7段階評価)は,1週間後よりも4週間後のほうが良好で(meanscore:1週間後4.8/4週間後5.7),4週間後の満足度は終日装用で最も高い1日使い捨てOAと同等(5.8:1週間後)であった.すなわち,PVの連続装用の場合,装用後徐々にレンズに慣れて涙液の安定性が改善し,快適に使用できるようになるものと推察される.ただし,BUI値が40%未満の57眼(21.9%)については,その40.4%が乾燥感を訴えており,BUI値40%以上の203眼の26.6%に比較して頻度が高い.よって,ドライアイ症例に対しては,慎重に処方を行う必要があると思われる.結論として,PVの1週間連続装用は,終日装用レンズと同等の安全性と有用性を有すると考えられる.従来素材のSCLによる連続装用でみられるような角膜厚の増加はなく,レンズ自体への細菌付着量,陽性率はともに低いレベルであり,海外における成績16)とよく一致していた.職業的な背景などからCL装用者のニーズは多岐にわたるため,連続装用を希望する患者は少なくない.1週間連続装用SHCLの登場により,CL処方の選択肢は広がったといえるが,その一———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081707方で,患者のコンプライアンスも含めた長期的な安全性に関してはさらなる検証が必要であろう.PVの連続装用のメリットを最大限に生かすために,適切な患者選択と,コンプライアンス遵守に向けた地道な患者指導が不可欠である.文献1)ChengKH,LeungSL,HoekmanHWetal:Incidenceofcontact-lens-associatedmicrobialkeratitisanditsrelatedmorbidity.Lancet354:773-778,19992)日本眼科医会医療対策部:「日本コンタクトレンズ協議会コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査」について.日本の眼科74:497-507,20033)BrennanNA,ColesML,ComstockTLetal:A1-yearprospectiveclinicaltrialofbalalconA(PureVision)sili-cone-hydrogelcontactlensesusedona30-daycontinu-ouswearschedule.Ophthalmology109:1172-1177,20024)LievensCW,ConnorCG,MurphyH:Comparinggobletcelldensitiesinpatientswearingdisposablehydrogelcon-tactlensesversussiliconehydrogelcontactlensesinanextended-wearmodality.EyeContactLens29:241-244,20035)DonshikP,LongB,DillehaySMetal:Inammatoryandmechanicalcomplicationsassociatedwith3yearsofupto30nightsofcontinuouswearoflotralconAsiliconehydrogellenses.EyeContactLens33:191-195,20076)海道美奈子:新しい視力計:実用視力の原理と測定方法.あたらしい眼科24:401-408,20077)宮永嘉隆:細菌─総論(Q&A).あたらしい眼科17(臨増):3-4,20008)HoldenBA,MertzGW:Criticaloxygenlevelstoavoidcornealedemafordailyandextendedwearcontactlenses.InvestOphthalmolVisSci25:1161-1167,19849)SolomonOD:Cornealstresstestforextendedwear.CLAOJ22:75-78,199610)ImayasuM,PetrollWM,JesterJVetal:TherelationbetweencontactlensoxygentransmissibilityandbindingofPseudomonasaeruginosatothecorneaafterovernightwear.Ophthalmology101:371-388,199411)SolomonOD,LoH,PerlaBetal:Testinghypothesesforriskfactorsforcontactlens-associatedinfectiouskera-titisinananimalmodel.CLAOJ20:109-113,199412)RenDH,PetrollWM,JesterJVetal:TherelationshipbetweencontactlensoxygenpermeabilityandbindingofPseudomonasaeruginosatohumancornealepithelialcellsafterovernightandextendedwear.CLAOJ25:80-100,199913)CavanaghHD,LadageP,YamamotoKetal:Eectsofdailyandovernightwearofhyper-oxygentransmissiblerigidandsiliconehydrogellensesonbacterialbindingtothecornealepithelium:13-monthclinicaltrials.EyeCon-tactLens29(1Suppl):S14-16,200314)EdmundsFR,ComstockTL,ReindelWT:CumulativeclinicalresultsandprojectedincidentratesofmicrobialkeratitiswithPureVisionTMsiliconehydrogellenses.IntContactLensClin27:182-187,200015)KodjikianL,Casoli-BergeronE,MaletFetal:Bacterialadhesiontoconventionalhydrogelandnewsilicone-hydrogelcontactlensmaterials.GraefesArchClinExpOphthalmol246:267-273,200816)SantosL,RodriguesD,LiraMetal:Theinuenceofsurfacetreatmentonhydrophobicity,proteinadsorptionandmicrobialcolonisationofsiliconehydrogelcontactlenses.ContLensAnteriorEye30:183-188,200717)BorazjaniRN,LevyB,AhearnDG:RelativeprimaryadhesionofPseudomonasaeruginosa,SerratiamarcescensandStaphylococcusaureustoHEMA-typecontactlensesandanextendedwearsiliconehydrogelcontactlensofhighoxygenpermeability.ContLensAnteriorEye27:3-8,2004(99)***