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鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡下チューブ挿入術の長期成績

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(125)1291《原著》あたらしい眼科27(9):1291.1294,2010cはじめに鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡併用シリコーンチューブ留置術のチューブ抜去後1カ月の成績は88%であった1).このときの手技は内視鏡直接穿破法(directendoscopicprobing:DEP)2)か,涙道内視鏡を用いた双手法によるブジーであった.仮道形成が見つかった場合は,仮道に挿入されているチューブを挿入しなおして修正した3).その後シースを使ったシース誘導内視鏡下穿破法(sheathguidedendoscopicprobing:SEP)4),シース誘導チューブ挿入法(sheathguidedintubation:SGI)5)が開発され,難易度の高い双手法から解放された.DEP,SEPに代表される涙道内視鏡下チューブ挿入術後3年以上の長期成績を解析できたので報告する.〔別刷請求先〕杉本学:〒719-1134総社市真壁158-5すぎもと眼科医院Reprintrequests:ManabuSugimoto,M.D.,SugimotoEyeClinic,158-5Makabe,Soujya719-1134,JAPAN鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡下チューブ挿入術の長期成績杉本学*1井上康*2*1医療法人すぎもと眼科医院*2医療法人康誠会井上眼科Long-termOutcomeofDacryoendoscope-assistedIntubationforNasolacrimalDuctObstructionManabuSugimoto1)andYasushiInoue2)1)SugimotoEyeClinic,2)InoueEyeClinic2000年12月.2009年10月に行った,初回涙道内視鏡下チューブ挿入術548例639側.男性100側,女性539側.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症156側,鼻涙管閉塞症単独483側.閉塞部の開放は,シース誘導内視鏡下穿破法(SEP)293側,内視鏡直接穿破法(DEP)346側.術後通水試験で通水のないもの,膿・粘稠な液体の逆流のあるものを死亡と定義し,Kaplan-Meier法による生存分析を行った.チューブ抜去後1,000日の生存率は,DEP82%,SEP81%で有意差はなかった.DEP+SEPでの3,000日の生存率は涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症90%,鼻涙管閉塞症単独64%,で有意差(p<0.05)があった.鼻涙管閉塞症単独で,推定罹病期間別の生存率には有意差はなく,男女別では2,500日の生存率は女性66%,男性49%で統計学的な有意差はなかったが,男性が低い傾向にあった.Dec.2000.Oct.2009,thefirstdacryoendoscope-assistedintubationin548cases(639sides;male:100sides,female:539sides)comprisingnasolacrimalductobstructioncomplicatedwithlacrimalcanaliculusatresia(156sides)andnasolacrimalobstructionalone(483sides).Opentechniqueforatresia,sheath-guidedendoscopicprobing(SEP)293sides;directendoscopicprobing(DEP),346sides.Aftercatheterremoval,nopassageorpus/mucoussecretionreflowcasesaredefineddeath,asanalyzedbytheKaplan-Meiermethod.At1,000days,survivalprobabilitieswere82%byDEPand81%bySEP,withnosignificantdifference.WithDEP+SEP,3,000-daysurvivalprobabilitiesofnasolacrimalductobstructioncomplicatedwithlacrimalcanaliculusatresia,andnasolacrimalobstructionalone,comprised90%and64%,respectively,asignificantdifference(p<0.05).Inthecaseswithnasolacrimalobstructionalone,theestimatedmorbidityperiodwasnotsignificantofsurvivalprobability.Inthesamecases,at2,500-daysurvivalprobabilitieswere66%forfemalesand49%formales,notasignificantdifference,butmalecaseshadlowersurvivalprobability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1291.1294,2010〕Keywords:鼻涙管閉塞症,シース誘導内視鏡下穿破法,シース誘導チューブ挿入術法,内視鏡直接穿破法.nasolacrimalductobstruction,sheathguidedendoscopicprobing(SEP),sheathguidedintubation(SGI),directendoscopicprobing(DEP).1292あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(126)I対象および方法2000年12月.2009年10月に3施設(すぎもと眼科・井上眼科・岡山南眼科)にて行った,鼻涙管閉塞症に対する初回涙道内視鏡下チューブ挿入術548例639側(涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症例156側,鼻涙管閉塞症単独例483側).術者は筆者ら2名.男性90例100側,女性458例539側.年齢36.93歳(平均69.3±12.5歳).明らかに涙.の拡大したものを拡大涙.,そうでないものを非拡大涙.,涙.・鼻涙管に結石を伴うものを有結石とし,639側の内訳を表1に示す.鈴木らが行ったように,流涙症発現時期の問診をもとに,手術までの罹病期間を推定し,推定罹病期間が1年以下のものをStage1,1年超3年以下のものをStage2,3年超のものをStage3と分類した6).推定罹病期間がはっきりしない例は分類不能とし,Stage別の解析からは除外した.手術方法は,点眼用4%塩酸リドカインを涙点より逆流するまで注入し5分後,拡張針を用いて涙点を拡張した.涙道内視鏡(ファイバーテック社:涙道ファイバースコープRベントタイプ)を涙点より挿入し閉塞部位を確認した.閉塞部の開放はSEP(293側),DEP(346側)で行った.チューブの挿入方法はSGIあるいは,SGIを行う以前や行えない例では,盲目的にチューブを挿入後チューブが単一管腔内に留置されていることを涙道内視鏡と硬性鼻内視鏡(視野角30°:NISCO社,視野角70°:町田社)で確認して終了した.単一管腔内に留置されていない場合は,単一管腔内に留置されるように修正した3).留置チューブはカネカメディックス社シラスコンRN-Sチューブスタンダードタイプまたは,東レ社・ワック社PFカテーテルRSoft&Short11cmを用いた.留置期間は2カ月を目安に抜去した.術後は抗菌薬点眼(レボフロキサシンまたはガチフロキサシン)と0.1%フルオロメトロン点眼液の1日4回点眼を行い,1.2週に1回の涙道洗浄を行った.術後通水試験で通水のないもの,または,膿・粘稠な液体の逆流のあるものを死亡と定義し,統計解析ソフトJMP(SAS社,Ver,7.0.2,2007年)でKaplan-Meier法による生存分析を行った.分析項目は,SEPとDEPの生存率の比較,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独の生存率の比較,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独それぞれにおける男女の生存率,結石の有無の生存率の比較,鼻涙管閉塞症単独における各Stageの生存率の比較とした.拡大涙.症例が少ないため拡大・非拡大涙.の比較は行わなかった.II結果SEPとDEPの生存率の比較結果を図1に示す.チューブ抜去後1,000日の生存率はDEP82%,SEP81%で,有意差はなかった.SEPは2006年2月から開始したのでDEPより観察期間が短くなっている.SEPとDEPで生存率に差がないことより以下の検討をSEPとDEPをあわせて行った.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独の,生存率の比較を図2に示す.3,000日の生存率は,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症90%,鼻涙管閉塞症単独64%でログランク表1症例の内訳涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症鼻涙管閉塞症単独拡大涙.非拡大涙.拡大涙.非拡大涙.結石あり0結石なし0結石あり12結石なし144結石あり0結石なし8結石あり34結石なし441計639側05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)SEPn=293DEPn=346図1開放方法別の生存率05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)涙小管閉塞合併例n=156鼻涙管閉塞単独例n=483p<0.05図2涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独の生存率(127)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101293検定(p<0.05)にて有意差があった.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症の生存率がよいことより,男女,結石の有無の比較を,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独に分けて解析を行った.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症における男女の生存率の比較,結石の有無の生存率の比較をそれぞれ図3,4に示す.1,500日の生存率は,男性68%,女性93%;有結石75%,無結石91%でログランク検定(p<0.05)にて有意差があった.鼻涙管閉塞症単独における男女の生存率の比較,結石の有無の生存率の比較,Stage別の生存率の比較をそれぞれ図5.7に示す.2,500日の生存率は女性66%,男性49%でログランク検定では有意差はなかったが,男性の生存率が低い傾向にあった.2,200日の生存率は有結石65%,無結石64%;Stage168%,Stage252%,Stage366%で有意差はなかった.III考按チューブ抜去後1,000日ではSEPとDEPの生存率に差がなかったことから,患者・術者ともに負担が少ないSEP&SGIで手術を行うほうが望ましいと考えられる.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症のほうが鼻涙管閉塞症単独より生存率が良かったことは,両者の鼻涙管閉塞の病態が異なることを示唆していると考えられる.鼻涙管閉塞症単独は,Linbergらが病理組織で炎症性反応による閉塞と報告している病態と考えられる7).それに対し,涙小管閉塞合併例では,涙小管閉塞のためそれより下流に涙液が流れなくなることによる鼻涙管内腔の虚脱に伴う閉塞であり,炎症反応の関与が少ないことが予想される.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症でも,炎症の関与が推定される有結石例では,生存率が悪くなり,鼻涙管閉塞症単独では結石の有無による差がなかったことは,この仮説を肯定する結果と考えられる.また,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症では,DEP+SEPによるチューブ抜去後3,000日の生存率が90%なので,第一選択治療法を涙.鼻腔吻合術にしなくても,涙道内視鏡下チューブ挿入術を05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)女性n=403男性n=80図5鼻涙管閉塞症単独における男女別の生存率05001,0001,5002,0002,5001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)女性n=136男性n=20p<0.05図3涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症における男女別の生存率05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)結石なしn=449結石ありn=34図6鼻涙管閉塞症単独における結石の有無別生存率05001,0001,5002,0002,5001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)結石なしn=144結石ありn=12p<0.05図4涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症における結石の有無別生存率05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)Stage3n=203Stage1n=166Stage2n=98図7鼻涙管閉塞症単独における罹病歴別の生存率1294あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(128)施行するほうが低侵襲でよいのではないだろうか.鼻涙管閉塞症単独のチューブ抜去後3,000日の生存率は64%であるが,365日では87%であることより,内眼手術の周術期の減菌には寄与しうると考えられる.Linbergらは病理組織から鼻涙管閉塞症の病期を,炎症細胞の浸潤がみられるearlyphase,線維化の進行したlatephase,両者の混在するintermediatephaseに分類した7).これをもとに鈴木はStage分類を行い,Stageが進むほど再閉塞のリスクが上昇すると報告している6).鼻涙管閉塞を開放後チューブ留置して鼻涙管粘膜が再生する過程を考えてみると,鼻涙管粘膜最表層の重層円柱上皮が再生伸展してくることが理想的である.再閉塞した症例を涙道内視鏡で観察してみると,白いもやもやした物質が鼻涙管管腔内を埋めており,シースの先端で簡単に削りとって再開通させることができる(scraping).白いもやもやした物質はあたかも重層扁平上皮の角化層を思わせる.最表層が重層円柱上皮である結膜は,瞼裂斑などにみられるように,種々の病的状態で容易に扁平上皮化生することが知られている8).鼻涙管再建後再閉塞する例は重層円柱上皮の再生ではなく,扁平上皮化生した鼻涙管粘膜上皮再生になっている可能性が考えられる.病理組織による検討が必要である.今回Stage分類で生存率に有意差が出なかったのは,鼻涙管粘膜の再生は粘膜上皮下の線維化の程度にはあまり関係しない別の要因があることを示唆しているのかもしれない.男女別の比較では,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症でも,鼻涙管閉塞症単独でも男性の生存率が低くなる傾向にあった.鈴木らの解析でも女性で再発リスクが低かったと述べている6).骨性鼻涙管中部の太さは平均で男性5.5mm,女性3.9mmで男性のほうが太いため,生存率も良くなることが予想されたが結果は逆であった.先に述べた鼻涙管粘膜の再生が扁平上皮化生しやすいのは男性のほうなのかもしれない.涙道内視鏡を用いることにより,鼻涙管閉塞症を涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独に区別して解析することができ,長期成績に差があることがわかった.鼻涙管閉塞症単独の長期成績を向上させるためにさらなる術式の改良が必要である.文献1)藤井一弘,井上康,杉本学ほか:鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡併用シリコーンチューブ留置術の成績.臨眼58:731-733,20042)鈴木亨:内視鏡を用いた涙道手術(涙道内視鏡手術).眼科手術16:485-491,20033)藤井一弘,井上康,杉本学ほか:シリコーンチューブ挿入術による仮道形成とその対策.臨眼59:635-637,20054)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20075)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,20086)鈴木亨,野田佳宏:鼻涙管閉塞症のシリコンチューブ留置術の手術時期.眼科手術20:305-309,20077)McCormickSA,LinbergJV:Pathologyofnasolacrimalductobstruction.LacrimalSurgery(LinbergJV),p169-202,ChurchillLivingstone,NewYork,19888)小幡博人:球結膜・強膜の正常組織.眼科プラクティス8,いますぐ役立つ眼病理(石橋達朗編),p102-103,文光堂,2006***