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VDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液の効果比較

2014年5月31日 土曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(5):750.754,2014cVDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液の効果比較浅井景子*1岡崎嘉樹*1御子柴雄司*1中村竜大*2石川浩平*3*1静岡済生会総合病院眼科*2中村眼科医院*3石川眼科医院ComparativeEfficacyof3%DiquafosolTetrasodiumandArtificialTearFluidforDryEyeinVDTUsersKeikoAsai1),YoshikiOkazaki1),YujiMikoshiba1),TatsuhiroNakamura2)andKoheiIshikawa3)1)DepartmentofOphthalmology,ShizuokaSaiseikaiGeneralHospital,2)NakamuraEyeClinic,3)IshikawaEyeClinicドライアイを伴うvisualdisplayterminals(VDT)作業者に対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液:以下,DQS)と人工涙液(マイティアR:以下,AT)の効果を比較した.点眼開始日から2・4・8週目のいずれかに問診および検査を行ったVDT作業者のドライアイ確定例および疑い患者40例40眼(DQS群19例,AT群21例)を後ろ向きに抽出した.両群間の涙液層破砕時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害スコアおよび自覚症状12項目について比較検討した.DQS群ではBUTが3.37±1.54秒から5.11±2.47秒(p=0.0002),角結膜上皮障害が1.68±1.29点から0.84±0.83点(p=0.0002),自覚症状累計点が21.00±6.79点から14.78±6.90点(p=0.0002)と有意に減少し,AT群では変化がなかった.最終観察時には群間に有意差がみられた(p=0.0093,p=0.0220,p=0.0229).DQSはVDT作業に伴うドライアイにおける自覚症状・他覚所見の改善に有効と考えられた.Wedidacomparativeexaminationoftheeffectof3%diquafosolsodium(DiqasR:DQAF)andartificialtears(AT)invisualdisplayterminal(VDT)userswhosufferedfromdryeyedisease.Weextractedbackward40VDTusers(40eyes)withdefiniteorprobabledryeyediseaseineitherweek2,4or8afterinitiatingeyedropapplication,andevaluatedtheirtearfilmbreakuptime(BUT),keratoconjunctivalstainingscoreandsubjectivesymptoms.AlthoughDQAFshowedpredominantimprovementinkeratoconjunctivalstainingscore(from1.68±1.29to0.84±0.83;p=0.0002),BUT(from3.37±1.54to5.11±1.54seconds;p=0.0002)andsubjectivesymptoms(from21.00±6.79to14.78±6.90;p=0.0002),ATdidnot.WeconcludethatDQAFiseffectiveinimprovingdryeyediseaseinVDTusers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):750.754,2014〕Keywords:VDT作業,ドライアイ,ジクアホソルナトリウム,人工涙液,効果比較.VDToperation,dryeye,diquafosolsodium,artificialtearfluid,comparativeefficacy.はじめにパーソナル・コンピュータやスマートフォンなどのIT(informationtechnology)機器の使用率の上昇に伴い,VDT(visualdisplayterminals)作業者の割合も増加しており,2008年に行われた厚生労働省の調査結果によると,VDT作業を行っている事業所は全体の97.0%とされている.そのうち,VDT作業に伴う何らかの自覚症状がある作業者は約68.6%であったが,最も多い症状が「目の疲れ・痛み」で,全体の90.8%を占めていた.また,過去5年間と比較して「目の疲れを訴えるものが増えた」とする事業所の割合は,肩こりなどの身体的疲労や精神的ストレス,環境面での苦情などと比較すると,2003年の調査と変わらず1番多い割合を占めている1).このことから,VDT作業は特に目にとって多大な負担をかけるものであることが示唆される.ドライアイはさまざまな要因から発症する疾患であるが,特にVDT作業は瞬目回数の減少による開瞼時間の延長から〔別刷請求先〕浅井景子:〒422-8527静岡市駿河区小鹿1-1-1静岡済生会総合病院眼科Reprintrequests:KeikoAsai,DepartmentofOphthalmology,ShizuokaSaiseikaiGeneralHospital,1-1-1Oshika,Suruga-ku,Shizuoka422-8527,JAPAN750750750あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(124)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY 涙液層破砕時間(tearfilmbreakuptime:BUT)を短縮させること2),また作業年数が8.12年とVDT作業が長期にわたる場合は涙液分泌量の減少もみられることが報告されており3),コンタクトレンズ装用などと同じくドライアイ発症の重要な一因となっている4,5).2006年ドライアイ診断基準により,ドライアイの定義は「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と改訂され6),それまで診断基準となっていた涙液の質的・量的な異常および角結膜上皮障害以外に,新たに自覚症状や視機能異常が追加されたことから,近年,眼精疲労や眼不快感など自覚症状を強く訴えるタイプや,高次収差の乱れによる視機能の低下のため見えにくさの訴えが強いタイプのドライアイなどが注目されてきている7,8).VDT作業に伴うドライアイも視力低下や眼精疲労・眼不快感の一因となっていると考えられ,VDT作業者の増加に伴い,治療方法の模索が必要となってきている4,5,9).そこで筆者らは,近年,ドライアイに対する研究の進歩に伴い新しい涙液層の概念が提唱され,それぞれの涙液層に働きかける新しい薬剤としてジクアホソルナトリウム点眼(ジクアスR:以下,DQS点眼)が開発されたことから,今までの涙液成分を補充するのみの作用を持つ人工涙液(マイティアR:以下,AT点眼)と比較して,この新しい薬剤であるDQS点眼がVDT作業に伴うドライアイに対してどの程度有効性が高いかについて検討した.I対象および方法静岡済生会総合病院,中村眼科医院,石川眼科医院の参加3施設において,1日3時間以上のVDT作業に従事しており,調査開始時までにジクアホソルナトリウム点眼の処方経験がなく,2006年ドライアイ診断基準6)においてドライアイ確定もしくは疑いと判定された患者40例40眼(DQS群19眼,AT群21眼)のなかで,薬剤投与開始日より2週目,4週目,8週目のいずれかにおいて再診があり,かつ問診・検査を実施した患者をカルテより後ろ向きに抽出し,DQS群とAT群の点眼投与前と最終受診時を比較検討した.除外基準は,ソフトコンタクトレンズ装用患者,糖尿病・アレルギー・結膜弛緩症の既往がある患者,経過観察期間中に薬剤の変更または追加があった患者,今回の研究に組み入れる3カ月以内に手術既往のある患者,および担当医が不適切と判断した患者とした.観察項目は,フローレス試験紙による染色検査,BUT測定,自覚症状,VDT作業状況の4項目とし,薬剤投与開始日より2週目,4週目,8週目のいずれかにおいて再診がある患者の点眼投与前と最終観察時の状態について,問診票から自覚症状を,カルテから他覚所見を収集した.他覚所見は,フローレス試験紙を用いて角結膜を染色した後,メトロ(125)ノームを用いてBUTを測定し,その後,ブルーフリーフィルターで角結膜を観察し,スコアリングした.染色スコアは,ドライアイ研究会の診断基準6)に従い,結膜鼻側・耳側,角膜上・中・下,各3点ずつ合計15点として算定した.自覚症状は,観察期間中,診察ごとに問診票を用い,「眼精疲労(目が疲れやすい)」「眼痛(目が痛い)」「眼脂(めやにが出る)」,「異物感(目が(,)ゴロゴロする)」,「(,)流涙(涙が出る)」「霧視(物がかすんで見える)」「掻痒感(目がかゆい)」「(,)鈍重感(重たい感じがする)」「(,)充血(目が赤い)」「眼不快(,)感(目に不快感がある)」「乾燥(,)感(目が乾いた感じ(,)がする)」「羞明(光をまぶしく感(,)じる)」の12項目の自覚症状につい(,)て,0:まったくない,1:まれにある,2:時々ある,3:よくある,4:いつもある,の5段階(0.4点)で自己評価させ,点眼投与前と投与後の状態を比較した.統計解析は,Wilcoxon符号付順位検定を用い,有意水準は両側5%(p<0.05)とした.本文中の記述統計量は,原則として平均値±標準偏差の表記法に従った.II結果対象患者の性別は,男性14眼,女性26眼(内訳は,DQS群男性5眼,女性14眼.AT群男性9眼,女性12眼)であった.平均年齢は,DQS群53.1±15.3歳,AT群51.1±13.1歳であった.平均観察期間は,DQS群で43.4±19.7日,AT群で38.4±18.3日,平均VDT時間は,DQS群で平均4.63時間,AT群で6.02時間であった(p=0.2148).1.他覚所見角結膜上皮障害は,点眼開始前と最終観察時を比較して,DQS群で1.68±1.29点から0.84±0.83点と有意な改善がみられた(p=0.0002)が,AT群では2.24±1.87点から1.67±1.80点と有意差はみられなかった(図1).BUTも同じく,点眼開始前と最終観察時を比較して,DQS群では3.37±1.54秒から5.11±2.47秒と有意な延長がみられた(p=0.0002)が,AT群では3.43秒±1.29秒から3.62±2.97秒と有意差はみられなかった(図2).2.自覚症状DQS群では,点眼開始前と最終観察時を比較して,「眼精疲労」が3.00±0.82点から2.06±1.06点(p=0.0093),「眼痛」が1.89±1.23点から1.22±1.00点(p=0.0088),「眼脂」が0.72±0.75点から1.00±0.84点,「異物感」が1.89±1.08点から1.06±0.80点(p=0.0002),「流涙」が0.83±0.71点から0.94±0.64点,「霧視」が1.89±1.08点から1.39±1.14点(p=0.0332)「掻痒感」が1.11±0.90点から0.72±0.96点,「鈍重感」が1.(,)89±1.28点から1.17±0.92点(p=0.0088),「充血」が1.00±1.08点から0.83±0.79点,「眼不快感」が2.44±1.15点から1.61±1.04点(p=0.0039)「乾燥感」が2.61±1.24点から1.67±1.14点(p=0.0103「羞明」が),(,)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014751 *:p<0.05Wilcoxonの1標本検定10*:p<0.05対応のあるt検定:DQS■:AT3.375.113.433.62p=0.0134981.680.842.241.67:DQS■:ATp=0.00221角膜上皮障害スコア(点)7BUT(秒)654310.50開始時最終観察時0点眼開始時最終観察時図1角膜上皮障害スコアの比較図2BUTの比較3.5*:p<0.05Wilcoxonの1標本検定3.001.890.721.890.801.891.111.891.002.442.611.722.061.221.001.060.91.390.721.170.831.611.671.11眼疲労感眼痛眼脂異物感流涙霧視眼掻痒感鈍重感眼充血眼不快感眼乾燥感羞明感:点眼開始前■:最終観察時自覚症状スコア(点)32.521.510.50図3DQSにおける自覚症状12項目の比較1.72±1.41点から1.11±1.08点(p=0.0176)と,DQS群で1)p<0.01Wilcoxonの1標本検定は8項目で点眼投与前と最終観察時で有意差がみられた(図502)p<0.05Wilcoxonの2標本検定p=0.0021):DQS■:AT21.0014.7815.6713.67点眼開始前最終観察時45自覚症状累計スコア(点)3)が,AT群では「眼精疲労」が2.62±0.74点から2.38±401.07点,「眼痛」が1.00±1.18点から0.86±1.20点,「眼脂」35が0.76±0.94点から0.57±0.87点,「異物感」が1.48±1.40302520点から1.00±1.14点,「流涙」が0.81±1.08点から0.57±1.03点,「霧視」が1.38±0.97点から1.57±1.08点,「掻痒15感」が0.71±1.06点から0.52±0.93点,「鈍重感」が0.95±101.24点から0.81±1.25点,「充血」が1.33±1.49点から1.4350±1.25点,「眼不快感」が1.71±1.35点から1.48±1.29点,「乾燥感」が1.81±1.54点から1.52±1.17点,「羞明」が図4自覚症状累計スコア1.10±1.30点から0.95±1.24点と,すべての項目において,点眼投与前と最終観察時で有意差はみられなかった.752あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(126) また,最終観察時のDQS群とAT群の群間においても,「眼精疲労」では,DQS群が2.06±1.06点に対し,AT群では2.38±1.07点(p=0.0093),「霧視」では,DQS群が1.39±1.14点に対し,AT群では1.57±1.08点(p=0.0220),「鈍重感」ではDQS群が1.17±0.92点に対し,AT群では0.81±1.25点(p=0.0249)と,以上の3項目では有意差がみられた.自覚症状12項目の累計点は,DQS群で21.00点から14.78点と有意な減少がみられたが(p=0.0002),AT群では15.67点から13.67点と有意差はみられなかった.また,最終観察時のDQS群とAT群との群間に有意差がみられた(p=0.0267)(図4).III考按はじめにも述べたが,VDT作業に伴うドライアイにはBUT短縮型ドライアイが多く認められることから,このタイプのドライアイの治療薬として,ムチンの異常を改善し,涙液の安定性の低下を改善する働きをするDQSは,非常に有効性が高いものであると考えられる.従来ドライアイに対して用いられてきた治療薬であるATは,一時的な水分および電解質の補充の効果のみが期待できるものであり,またヒアルロン酸ナトリウム点眼(ヒアレインR,以下HA)は,角膜上皮の接着および伸展作用と保水作用を有し,ドライアイを含めた角結膜上皮障害改善薬としての効果が認められているが,両者ともにムチンの分泌促進能は認められず,ムチンの被覆度が低下している症例に対しての効果が弱いと考えられている10).HAとDQSを比較したラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルにおける角膜上皮障害に対する調査では,点眼6週間後にはDQS群ではHA群に比べて有意に角膜染色スコアが改善したとの報告,また,多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験でもHAに対してDQSは非劣性を示したとの報告がある11).今回の検討では,対象者はAT群,DQS群ともにBUTが短縮しているが,角結膜上皮障害の軽度なドライアイ,つまりBUT短縮型ドライアイが大きな割合を占めていることから,やはりVDT作業に伴うドライアイにはBUT短縮型ドライアイが多いことがわかった.DQS群では,点眼開始前と最終観察時で,BUTの延長および角結膜上皮障害の改善の程度に有意差がみられたが,ATでは有意差がみられなかったことから,DQSはVDT作業に伴うドライアイの治療に対して有効であることがわかった.また,BUTの延長によって「乾燥感」の軽減,角結膜上皮障害の改善効果で「眼痛」や「異物感」の軽減,両者によって「羞明」の軽減が認められたと推察されるが,最終観察時のAT群とDQS群の群間に有意差が出たことから,特にDQSによるムチンや水分の分泌促進能などにより涙液層の安定性の低下が改善されたことによって「眼精疲労」「霧視」「鈍重感」が軽減したと考えられた.涙液層は,マイボーム腺より分泌される脂による油層と,涙腺・結膜から分泌される水層の2層でできており,水層に濃度勾配をもって結膜杯細胞から発現した分泌型ムチンが含まれている12).この分泌型ムチンの一種であるMUC5ACは,涙液水層の表面張力を低下させ,涙液水層を角膜上皮表面に広がりやすくさせる働きをしていることがわかっている13,14).また,角膜および角膜上皮表層には,角膜上皮由来の膜型ムチンが存在しているが15),この膜型ムチンは上皮表面を親水性に変える働きを持っているため,この膜型ムチンに異常が起こると上皮の水濡れ性の低下が引き起こされ,涙液層の安定性が低下する原因となる12,16).平均VDT時間が8時間以上のVDT作業従事者を対象に行われた調査では,非ドライアイ群に対して,ドライアイ群では涙液中のMUC5AC濃度が減少しており,それは5時間未満の群に比べて7時間以上の群で有意に低かったことが報告されていることから涙液中のMUC5ACがドライアイに強い影響を及ぼしていることが示唆されるとともに,VDT作業がドライアイを引き起こす原因の一つとなっていることがわかる16).DQSは結膜細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を介して眼表面へのMUC5ACの分泌促進作用を有することがわかっており17.20),このことからもDQSはVDT作業に伴うドライアイに対して有効であると考えられる.DQSは,ムチンの異常が大きく関係していると考えられるBUT短縮型ドライアイに対する治療効果が高いと推察され,VDT作業に伴うドライアイ治療に対し有効であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:平成20年技術革新と労働に関する実態調査,20082)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayterminals.NEnglJMed328:584,19933)NakamuraS,KinoshitaS,YokoiNetal:Lacrimalhypo-functionasanewmechanismofdryeyeinvisualdisplayterminalusers.PLoSOne5:el1119,20104)横井則彦:蒸発亢進型ドライアイの原因とその対策.日本の眼科74:867-870,20035)内野美樹,内野裕一,横井則彦ほか:VDT作業者におけるドライアイの有病率と危険因子.FrontiersinDryEye7:36,20126)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,2007(127)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014753 7)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.AmJOphthalmol133:181-186,20028)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinousfunctionalvisualacuitymeasurementsystemindryeyesyndromes.AmJOphthalmol139:253258,20059)TodaI,FujishimaH,TsubotaK:Ocularfatigueisthemajarsymptomofdryeye.ActaOphthalmol71:347352,199310)ShimmuraS,OnoM,ShinozakiKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,199511)藤原豊博:ドライアイ研究会:ドライアイの治療に革新をもたらしたジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%)の基礎と臨床.薬理と治療39:563-584,201112)ArguesoP,Gipdon,IK:Epithelialmucinsoftheocularsurface:structure,biosynthesisandfunction.ExpEyeRes73:281-289,200113)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1633-1647,199714)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,199415)ButovichIA:TheMeibomianpuzzle:combiningpiecestogether.ProgRetinEyeRes28:483-498,200916)YokoiN,SawaH,KinoshitaS:Directobservationoftearfilmstabilityonadamagedcornealepithelium.BrJOphthalmol82:1094-1095,199817)坪田一男:日本の最新疫学データ!「OsakaStudy」とは?FrontiersinDryEye7:47-48,201318)七條優子,阪本明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,201119)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,201120)七篠優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,2011***754あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(128)

VDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液への切り替え効果

2013年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(6):871.874,2013cVDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液への切り替え効果内野裕一*1,2坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2東京電力病院眼科EffectofSwitcingTreatmentfromExistingTherapyto3%DiquafosolSodiumEyedropsforDryEyeinVDTUsersYuichiUchinoandKazuoTsubota1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoElectricPowerCompanyHospital既治療で効果が不十分なvisualdisplayterminals(VDT)作業者に対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液:以下,DQS)への切り替え効果を検討した.VDT作業者のドライアイ確定例もしくは疑い例に対して,点眼治療しているにもかかわらず涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)が5秒以下で,ドライアイ自覚症状が強く残存している16例16眼において,既治療薬をDQSに切り替えて4週間点眼し,角結膜上皮障害スコア,BUT,自覚症状(12項目)を評価した.角結膜上皮障害スコアは1.1から0.3(p=0.0078)へ,BUTは2.4秒から3.9秒(p=0.0156)へと有意に改善した.自覚症状は12項目中7項目が有意に改善した.VDT作業に伴うドライアイに対して既存治療の効果が不十分である場合,DQSへの切り替えは自覚症状・他覚所見の双方の改善に有用であると考えられた.Invisualdisplayterminal(VDT)users,weinvestigatedtheeffectofswitchingdryeyediseasetreatmentfrominsufficientdrugsto3%diquafosolsodiumeyedrops(DiquasR:DQS).Enrolledinthisstudywere16VDTusers(16eyes)withdefiniteorprobabledryeyedisease,havingbothstrongsymptomsandatearfilmbreakuptime(BUT)oflessthan5seconds.At4weeksafterswitchingtoDQStreatment,thepatients’keratoconjunctivalstainingscore,BUTandsubjectivesymptoms(12items)wereevaluated.Significantimprovementwasseeninkeratoconjunctivalstainingscore(from1.1to0.3;p=0.0078),BUT(from2.4to3.9seconds;p=0.0156)and7ofthesubjectivesymptoms.WeconcludethatinVDTusers,itiseffectivetoswitchfrominsufficienttreatmentfordryeyediseasetoDQS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):871.874,2013〕Keywords:VDT作業,ドライアイ,ジクアホソルナトリウム,切り替え効果.VDToperation,dryeye,diquafosolsodium,effectofswitching.はじめに厚生労働省の調査によると,職場におけるvisualdisplayterminals(VDT)作業者の割合は1988年には15.3%であった1)が,2008年には87.5%と労働者のほとんどがVDT作業に従事し,そのうち4人に1人はパーソナルコンピュータ(PC)機器を1日6時間以上も使用する状況になっている2).VDT作業者の68.6%が身体的な疲労や症状を訴え,眼の痛み・疲れ(90.8%),首・肩のこり・痛み(74.8%)が多く認められている2).また,VDT作業に従事するオフィスワーカーの約3人に1人がドライアイ確定例と診断され,疑い例を含むと75.0%にドライアイの可能性があると報告されている3)ことからも,ドライアイはVDT作業者の眼の痛み・疲れの一因であることが考えられる.特にVDT作業に伴うドライアイの発症要因として,作業中の瞬目回数減少に起因した開瞼時間延長による涙液蒸発亢進に伴う涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の短縮4)が注目されており,〔別刷請求先〕内野裕一:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YuichiUchino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(149)871 このBUT短縮型ドライアイでは角膜上皮細胞表面の膜型ムチンの発現低下による角膜表面の水濡れ性低下が起きていると考えられている5).また,重症型ドライアイの一つであるSjogren症候群では,涙液中のMUC5ACが健常人と比較して,有意に減少していることも報告されている6).3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液:以下,DQS)は結膜組織からのMUC5AC分泌を促進させることが報告されており7),日本で行われた第II相試験では,ドライアイ患者においてプラセボに比較して,フルオレセイン角膜染色ならびにローズベンガル角結膜染色のスコアを有意に改善させることが確認されている8).以上からVDT作業に伴うドライアイに対しても有効性を発揮する可能性がある.そこで,筆者らはVDT作業に伴うドライアイ患者で,既存治療では十分な改善が得られていない患者を対象に,DQSへの切り替え効果を検討した.I対象および方法1.対象日常的にVDT作業を行い,ドライアイ自覚症状を呈し,2006年ドライアイ診断基準9)によりドライアイ確定例または疑い例と診断された患者で,すでにドライアイに対して点眼治療を行っているものの,その効果に満足していない患者を対象とした.ただし,アレルギー性結膜炎,ぶどう膜炎,糖尿病角膜症の罹患者,実施計画書で定めた受診ができない患者,担当医が不適切と判断した患者は除外した.試験開始時には試験対象者に試験内容を十分説明したうえで,試験参加の同意を文書にて取得した.本試験はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則および臨床研究に関する倫理指針(平成20年7月31日全部改正,厚生労働省)に従って実施した.また,本試験は調査実施医療機関の外部に設置された倫理委員会(両国眼科クリニック)における審査・承認を得たうえで実施した.2.有効性評価DQSは1日6回,4週間点眼投与した.点眼開始時に背景因子(性別,年齢,VDT作業時間)を調査し,点眼開始時および点眼4週間後に眼科学的検査(フルオレセイン染色後,コバルトフィルターを用いて角結膜上皮障害スコア(0.9点)を評価,また開瞼時から涙液層が破綻するまでの時間をストップウォッチで測定し,BUTとして評価,また自覚症状スコア12項目(異物感,羞明感,掻痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感,眼不快感,眼脂,流涙,充血:各0.3点;「なし」0点,「少しある」1点,「ある」2点,「非常にある」3点)を実施した.なお,観察対象眼は両眼とし,DQSによる改善効果を判定する評価対象眼は,点眼開始時の角結膜上皮障害スコアおよびBUTで判定したド872あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013ライアイ症状の強い眼とし,同等の場合には右眼とした.3.安全性評価試験期間中に有害事象が出現した場合には,症状,程度,発現日,処置の有無と内容,転帰,DQSとの関連性を記録し,有害事象のうちDQSとの関連性を否定できないものを副作用とした.4.統計解析DQS点眼前後の比較は,角結膜上皮障害スコアおよび自覚症状スコアについてはWilcoxon符号付順位検定,BUTは対応のあるt検定,自覚症状と他覚所見のそれぞれの改善変化量の相関関係はSpearmanの順位相関係数(r)を用い,有意水準は両側5%(p<0.05)とした.本文中の記述統計量は原則として平均値±標準偏差の表記法に従った.II結果1.対象および背景因子VDT作業に伴うドライアイで既治療からDQSに切り替えた患者は16例(男性10例,女性6例),平均年齢は56.1±8.3(34.68)歳であった.1日当たりのVDT作業時間は1.10時間(平均5.7時間)で,5時間以上作業しているVDT作業者は11例(68.7%)であった.DQSへの切り替え前のドライアイ治療は,精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液9例,人工涙液型点眼液7例であった.なお,矯正視力1.0未満およびコンタクトレンズ装用者は含まれていなかった.2.DQS切り替え効果DQSへの切り替えにより,フルオレセイン染色による角結膜上皮障害の平均スコアは1.1点から0.3点と有意に改善し(p=0.0078,Wilcoxonの符号付順位検定,図1),BUTの平均値も2.4秒から3.9秒と有意に改善し(p=0.0156,対応のあるt検定,図2),DQSへの切り替え効果が認められた.自覚症状スコアについては,羞明感(p=0.0469),掻痒感(p=0.0068),乾燥感(p=0.0059),鈍重感(p=0.0107),霧視(p=0.0039),眼疲労感(p=0.0059),充血(p=0.0156)の7項目に,DQS切り替えによる有意な改善が認められた(すべてWilcoxonの符号付順位検定,図3).自覚症状のなかで患者が最も辛い症状としてあげたのは,乾燥感5例(31.3%),眼疲労感3例(18.8%),眼痛2例(12.5%),異物感・羞明感・鈍重感・霧視・流涙・充血各1例(6.3%)であった.また,最も良くなった症状として患者があげたのは,乾燥感5例(31.3%),眼痛3例(18.8%),羞明感・鈍重感・眼疲労感各2例(12.5%),異物感・充血各1例(6.3%)であった.自覚症状の改善度と他覚所見の改善度との相関関係は,鈍重感とBUTの改善度(相関係数r=0.3175,p=0.0404)ならびに霧視とBUTの改善度(相関係数r=0.3678,p=0.0166)で有意な相関関係が認められた.(150) n=16n=16Wilcoxonの符号付順位検n=16Wilcoxonの符号付順位検定対応のあるt検定3.0p=0.00787.0p=0.01562.5切り替え前1.10.36.02.43.9自覚症状スコア角膜上皮障害スコア5.0BUT(秒)2.04.01.53.01.02.00.51.00.00.0切り替え後切り替え前切り替え後図1角結膜上皮障害スコアの推移図2BUTの推移各n=16**:p<0.05Wilcoxonの符号付順位検定3.0*:切り替え前■:切り替え後1.90.9*2.5**1.50.8**図3自覚症状スコアの推移1.10.61.30.71.10.31.40.90.40.3異物感羞明感.痒感眼痛乾燥感鈍重感霧視眼疲労感眼不快感眼脂流涙充血1.40.72.11.10.41.22.01.51.00.50.01.10.90.40.4なお,今回,DQSへの切り替えによる新たな副作用の発現は認められなかった.III考按われている膜型ムチンの発現低下が推察されている5).このような患者群に対して,人工涙液は一時的な水分および電解質の補充効果しか期待できず,精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は角膜上皮伸展促進作用および保水作用による治療効IT機器の急速な普及により職場でのPC使用は不可欠になり,その使用も長時間化している現状にある1,2).VDT作業に伴うドライアイを訴える患者は急増しており3),早急な対策が求められている.VDT作業時には瞬目回数が減少し瞬目間の開瞼時間が延長するため,涙液蒸発量が増加して蒸発亢進型ドライアイを発症すると考えられる4).しかし,最近,ドライアイ症状を強く訴えるものの涙液量は正常で角結膜上皮障害も少ないが,BUT短縮のみが認められるBUT短縮型ドライアイが注目されている.VDT作業時には瞬目間の開瞼時間の長さよりもBUTが短いことが関係している可能性が報告されており10,11),VDT作業者にみられるドライアイはBUT短縮型ドライアイであることが少なくない.このBUT短縮型ドライアイでは涙液層の安定性低下による高次収差の乱れが観察され12),日常生活に即した視力である実用視力も低下しやすいことが示唆されている13).また,BUT短縮型ドライアイの一因として,角結膜上皮細胞の最表面に発現して眼表面の水濡れ性を向上させるとい(151)果が認められ,角結膜上皮障害の治療薬として汎用されているが,ムチン分泌促進作用は認められていない5).したがって,眼表面を被覆する膜型ムチンの発現や,涙液中の分泌型ムチンの低下が示唆されるドライアイに対しては十分な治療効果が得られない可能性がある.一方,新規ドライアイ治療薬のDQSは結膜上皮および結膜杯細胞膜上のP2Y2受容体に作用し,細胞内カルシウム濃度を上昇させ,水分およびムチンの分泌促進作用により涙液の質と量の双方を改善すると考えられている7,14.17).したがって,精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液などの従来の治療薬では効果不十分であった症例に対しても,DQSは有効である可能性がある.そこで,今回,筆者らは既存薬で治療しているVDT作業に伴うドライアイ患者のなかで,その治療効果に満足していないBUT短縮型ドライアイ患者を対象に,治療薬をDQSに切り替えた場合の切り替え効果を検討した.今回検討したVDT作業に伴うドライアイ患者16例は,長時間(5時間以上)にわたってVDT作業に従事しているあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013873 患者が多かった(68.7%).DQSへの切り替え前のドライアチン分泌促進作用を有するDQSに切り替えることで,自覚イ状態をみると,フルオレセイン染色による角結膜上皮障害症状・他覚所見の双方に対して,症例数が少ないながらも有スコアの平均は1.1と障害度は高くないが,BUTの平均は意な改善が得られた.このことから,VDT作業に伴うドラ2.4秒と短く,患者が最も辛いとした症状の乾燥感スコア(3イアイに対して既存の治療で効果不十分な場合には,DQS点満点)の平均も1.9点と高かった.このことから,今回のへの切り替えが有用な選択肢の一つになると考えられた.試験対象者は点眼加療を継続しているにもかかわらずBUTが5秒以上へと改善していなかったBUT短縮型ドライアイ利益相反:利益相反公表基準に該当なしが多く含まれており,そのために従来の治療薬では十分な治療効果が得られなかったことが推測された.今回,DQSに文献切り替えて4週間点眼したことにより,BUTの平均は2.4秒から3.9秒に有意に延長し(p=0.0156,対応のあるt検1)労働省大臣官房政策調査部:技術革新と労働に関する実態調査報告昭和63年,1988定),もともと高くなかった角結膜上皮障害度スコアの平均2)厚生労働省大臣官房統計情報部:平成20年技術革新と労働は1.1から0.3に,さらなる有意な低下が認められた(p=に関する実態調査結果,20080.0078,Wilcoxonの符号付順位検定).角結膜上皮障害の治3)丸山邦夫,横井則彦:環境と眼の乾き.あたらしい眼科22:311-316,2005療薬として使用されることの多い精製ヒアルロン酸ナトリウ4)横井則彦:蒸発亢進型ドライアイの原因とその対策.日本ム点眼液と比較しても,切り替えたDQSが遜色のない治療の眼科74:867-870,2003効果を示すことが確認された.5)加藤弘明,横井則彦:ムチンの産生を増やす治療.あたらしい眼科29:329-332,2012自覚症状スコアは12項目中7項目が有意に改善しており,6)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:切り替え前に最も辛い症状と訴えた患者が5例(31.3%)とDecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACin最も多かった「乾燥感」は平均スコアが1.9点から0.9点にtearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,2002有意に改善した(p=0.0059,Wilcoxonの符号付順位検定).7)七條優子,阪元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウまた,DQS点眼4週後に最も良くなった症状として「乾燥ムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あた感」をあげた患者も5例(31.3%)と最も多かった.すでにらしい眼科28:261-265,20118)MatsumotoY,OhashiY,WatanabeHetal:Efficacyand精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液や人工涙液による点眼治safetyofdiquafosolophthalmicsolutioninpatientswith療からのDQSへの切り替えのみで,7項目にも及ぶ自覚症dryeyesyndrome:aJapanesephase2clinicaltrial.Oph状の有意な改善が確認されたことから,P2Y2受容体を介しthalmology119:1954-1960,20129)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科た結膜上皮細胞からの水分分泌ならびに結膜杯細胞からのム24:181-184,2007チン分泌という新しい薬理機序による治療効果は今後期待で10)佐藤直樹,山田昌和,坪田一男:VDT作業とドライアイのきると思われる.特に改善が顕著に認められた「乾燥感」関係.あたらしい眼科9:2103-2106,199211)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayterは,DQSによる細胞内カルシウムイオンを介した水分分泌minals.NEnglJMed328:584,1993という薬理作用によって改善された可能性がある.また,ド12)KohS,MaedaN,HoriYetal:Effectsofsuppressionofライアイ自覚症状の一つである「眼の疲れ」は,今回の検討blinkingonqualityofvisioninborderlinecasesofevaporativedryeye.Cornea27:275-278,2008では平均スコアが2.1点から1.1点へと有意に改善していた.13)KaidoM,IshidaR,DogruMetal:Therelationoffuncこの「眼の疲れ」に関しては,DQSによる結膜杯細胞からtionalvisualacuitymeasurementmethodologytotearの分泌型ムチンMUC5ACの分泌が促進されたことにより,functionsandocularsurfacestatus.JpnJOphthalmol55:451-459,2011lubricant(潤滑剤)効果が作用した可能性がある.また,14)CowlenMS,ZhangVZ,WarnockLetal:LocalizationofBUTの改善度と「鈍重感」および「霧視」の二つの自覚症ocularP2Y2receptorgeneexpressionbyinsituhybrid状の改善度が有意に相関していたことから,BUT短縮といization.ExpEyeRes77:77-84,200315)PendergastW,YerxaBR,DouglassJG3rdetal:Syntheう涙液不安定性により,二つの自覚症状が悪化しやすい可能sisandP2Yreceptoractivityofaseriesofuridinedinu性が新たに示唆された.cleoside5¢-polyphosphates.BioorgMedChemLett11:今回の検討で,VDT作業に伴うドライアイに対して既存157-160,200116)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリ薬で治療しても効果不十分であった症例は,膜型ムチンの発ウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作現や涙液中の分泌型ムチン濃度が低下している可能性のある用.あたらしい眼科28:543-548,2011BUT短縮型ドライアイの症例であった.17)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科これらの症例に対して,ムチン分泌促進作用が認められな28:1029-1033,2011い精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬などから水分およびム874あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(152)

LASIK 術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼液の長期における有効性

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):249.253,2013cLASIK術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼液の長期における有効性増田綾美森洋斉子島良平丸山葉子南慶一郎宮田和典宮田眼科病院EfficacyofLong-TermTreatmentwithDiquafosolSodiumforDryEyeDuetoLaserInSituKeratomileusisAyamiMasuda,YosaiMori,RyoheiNejima,YoukoMaruyama,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital目的:Laserinsitukeratomileusis(LASIK)後の遷延化したドライアイ患者に対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(以下,DQS)の長期効果を検討すること.対象および方法:対象は,LASIK後1年以上ドライアイが遷延し,DQSを追加した9例18眼.検討項目は涙液分泌量,涙液層破壊時間(BUT),点状表層角膜症(SPK),結膜上皮障害(リサミングリーン染色スコア)とし,点眼開始前,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月で評価した.また,ドライアイの自覚症状14項目を開始前と開始後12カ月で比較した.結果:涙液分泌量は,点眼開始前後で有意な変化を認めなかった.BUTは開始後1カ月から12カ月まで継続して有意に増加し,SPKも開始後1週から12カ月まで継続して有意な改善を認めた.結膜上皮障害は,開始後6カ月から12カ月まで継続して有意に改善した.自覚症状は,11項目のうち3項目が有意に改善していた.結論:DQSは,LASIK術後のドライアイに対して長期にわたり有用であった.Toevaluatetheefficacyoflong-termtreatmentwithdiquafosoltetrasodium3%solutionforchronicdryeyeafterlaserinsitukeratomileusis(LASIK),weconductedaprospectiveclinicalstudycomprising18eyes(9patients)towhichdiquafosoltetrasodium3%solutionwasadditionallyinstilled.Tearsecretin,tearfilmbreakuptime(BUT),superficialpunctatekeratitis(SPK),andconjunctivitissiccawereexaminedbeforeandat1weekand1,3,6,9and12monthsaftertreatment.Aquestionnairesurveyregarding14symptomswasalsoassessedbeforetreatmentandat12monthsafter.Followingdiquafosoltreatment,tearsecretindidnotchange,thoughBUTsignificantlyincreasedafter1,3,6,9and12months.SPKimprovedatallevaluationpoints.Lissaminegreenscoreimprovedafter6,9and12months.Ofthe14itemsonthesymptomsquestionnaire,3improved.Diquafosoltetrasodiumwaslong-termeffectiveinimprovingocularsurfacedisorderanddryeyesymptomsafterLASIK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):249.253,2013〕Keywords:LASIK,ドライアイ,ジクアホソルナトリウム.LASIK,dryeye,diquafosoltetrasodium.はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,世界で初めて報告されてから20年が経過した.術後長期の安全性が確立されている1)が,半数以上にドライアイを生じることが知られている2,3).LASIKは,フラップ作製時に角膜知覚神経を切除・切断するため,術後に三叉神経-中間神経-涙腺神経を通じて涙腺に反射性の涙液分泌を促す自己修復システム(Reflexloop-涙腺システム)が十分に機能できない3,4).通常,LASIK後のドライアイは一過性であり,術後3.6カ月程度で術前レベルまで改善するとされている5.7).一方で,共焦点顕微鏡の観察では,切断された角膜知覚神経の再生に3年もの期間を要するとの報告もあり8),LASIK後のドライアイが改善せず,遷延する症例も少なくない9).2010年,ドライアイの治療薬として,3%ジクアホソルナ〔別刷請求先〕増田綾美:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:AyamiMasuda,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(115)249 トリウム点眼液(以下,DQS)が使用可能となった.従来の人工涙液やヒアルロン酸ナトリウムによる点眼は水分補給や保水を目的とした治療である.一方,DQSは,涙液分泌に加えてムチン分泌も促すことで涙液層を安定化させ,角結膜上皮障害を改善する新しい作用機序の薬剤である.Tauberらの報告によると,ドライアイ患者へのDQS投与群で,涙液分泌量,角結膜染色および自覚症状が,人工涙液投与群に比べ有意に改善したと報告している10).また,わが国では,ドライアイ患者において,角膜染色スコア,結膜染色スコア,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)がDQSの短期および長期投与で有意な改善が認められたとの報告がある11,12).しかし,これまでLASIK後のドライアイ患者における有効性についてはまだ評価されていない.今回,1年以上遷延したLASIK後のドライアイ症例にDQSを使用し,その有効性を検討したのでここに報告する.I対象および方法対象は,1999年10月から2009年7月の間に宮田眼科病院でLASIKを受け,術後ドライアイに対して人工涙液および0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼治療を行い,1年以上経過しても改善が得られなかった9例18眼(全例女性).年齢は43.6±14.2(平均値±標準偏差)(29.54)歳.LASIK後期間,および人工涙液や0.1%ヒアルロン酸ナトリウムによる点眼加療後期間は3.4±2.7(1.8.11.7)年であった.全例,2006年ドライアイ診断基準を満たしていた13).宮田眼科病院の倫理委員会の承認のもと,十分説明を行ったうえで,すべての対象患者から同意を得た.人工涙液およびヒアルロン酸ナトリウム点眼はそのまま継続とし,DQS(ジクアスR,参天製薬)点眼を1日6回追加した.検討項目は,涙液分泌量,BUT,点状表層角膜症(superficialpunctuatekeratopathy:SPK),結膜上皮障害である.涙液分泌量は,Schirmer試験第Ⅰ法変法を用いた.BUTは,ストップウォッチにて3回測定し,その平均値を算出した.SPKは,フルオレセインで染色された角膜の面積(area)と密度(density)(各0.3点)の組み合わせで評価するAD分12カ月で比較検討した.各検査項目の統計解析は,点眼開始前を基準とし,涙液分泌量と自覚症状はWilcoxonの符号付順位和検定を行い,BUT,SPKおよび結膜上皮障害の変化はKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合はSteel-Dwass検定で多重比較検定を行った.いずれも有意水準は両側5%とした.II結果涙液分泌量は,点眼開始前6.7±4.7mmが,開始後1カ月,3カ月,9カ月,12カ月で,それぞれ5.9±1.5,6.1±3.0,6.8±4.2,6.2±3.2であり,有意な変化は認められなかった.BUTは,点眼開始前3.1±0.8秒であったが,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月で,それぞれ4.4±1.5秒,4.9±1.7秒,4.7±1.2秒,4.5±1.3秒,5.9±2.8秒,6.5±3.8秒であり,投与後1カ月から12カ月まで継続して点眼開始前より有意に延長した(開始後1カ月と6カ月はそれぞれp=0.01,p=0.03,それ以外の期間はp<0.01)(図1).SPKはAD分類のスコア(A+D)にて,開始前3.6±0.7であったが,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,1210********BUT(秒)864開始前1W1M3M6M9M12M経過期間20図1涙液層破壊時間(BUT)の変化開始前と比較し,開始後1カ月から12カ月まで継続して有意に延長した.*p<0.05,**p<0.01Steel-Dwasstest.5***********フルオレセイン染色スコア類14)を用い,その合計スコアで評価した(0.6点).結膜上皮障害はリサミングリーン染色を行い,鼻側,耳側球結膜をそれぞれ3象限に分けて15)(各0.3点),その合計で評価した(0.18点).評価時期は点眼開始前,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月および12カ月とした.さらに,自覚症状である眼の疲れ,乾燥感,眼がゴロゴロショボショボす43210る,眼が重い,痛い,痒い,不快感,かすみ,光がまぶし投与前1W1M3M6M9M12Mい,眼脂,流涙,充血,読書や運転時に症状が悪化する,乾経過期間燥した場所で症状が悪化する,の14項目16,17)についてそれ図2SPK(フルオレセイン染色スコア:AD分類)の変化ぞれ5段階評価(1点:まったくない,3点:時々ある,5開始前と比較し,開始後1週から12カ月まで継続して有意に点:常にある)のアンケートを行った.点眼開始前と開始後軽減した.*p<0.05,**p<0.01Steel-Dwasstest.250あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(116) 12カ月でそれぞれ2.6±0.7,2.4±0.8,2.1±0.9,2.1±1.1,1.7±1.0,1.6±1.1であり,投与後1週間から12カ月まで継続して有意な改善を認めた(開始後1週間はp=0.02,それ以外の期間はp<0.01)(図2).その内訳は,開始前A1D2:10眼,A1D2:6眼,A2D3:2眼であったが,開始後12カ月では,A0D0:5眼,A1D1:10眼,A1D2:3眼となった.結膜上皮障害は,開始前4.4±2.5が,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月でそれぞれ2.9±2.5,2.9±2.7,2.5±2.2,1.7±1.6,1.5±1.9,1.3±1.8であり,点眼開始後6カ月から12カ月まで有意な改善を認めた(開始後6カ月と9カ月はそれぞれp=0.01,p=0.02,12カ月はp<0.01)(図3).86自覚症状は,14項目のうち,眼が乾いた感じ,眼がショボショボゴロゴロする,眼の不快感の3項目で有意な改善が認められた(各p<0.05)(図4).なお,観察期間において,点眼の副作用は認められなかった.III考按今回の検討により,DQSは,人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼で改善が得られなかったLASIK後のドライアイ遷延例において,BUTは点眼開始後1カ月から12カ月まで継続して有意な延長を認めた.SPKは開始後1週から12カ月まで継続して,結膜上皮障害は点眼開始後6カ月から12カ月まで継続して有意な改善を認めた.LASIK後のドライアイはBUTの短縮が特徴的であるが,BUTの短縮は眼表面のムチンの発現の低下が要因の一つと考えられる18).ドライアイ治療に汎用されているヒアルロンリサミングリーン染色スコア経過期間****酸では,ムチンが障害されたドライアイ患者への効果は不十4分な可能性が指摘されている19).Yungらは,人工涙液で改2善を認めないLASIK後のドライアイ患者に対し,涙点プラグが有効であるとしている20).しかし,涙点プラグは挿入時に疼痛を伴ううえ,術後感染や脱落,肉芽形成や涙道内の迷入などの合併症がある21,22).今回の検討で,DQS投与後で0開始前1W1M3M6M9M12Mは涙液分泌量の増加はみられなかったが,BUTの有意な延図3結膜上皮障害(リサミングリーン染色スコア)の変化開始前と比較し,開始後6カ月から12カ月まで継続して有意に長が認められた.DQSは結膜上皮の杯細胞のP2Y2受容体改善した.*p<0.05,**p<0.01Steel-Dwasstest.に作用し,分泌型ムチンであるMAC5ACの分泌を促進す54図4DQS投与前後での各自覚症状の比較開始前(■)と比較し,開始後12カ月(■)で「眼が乾いた感じ」「眼がゴロゴロ,ショボショボする」,「眼の不快感」の3項目が有意に改善した.*p<0.05Wilcoxonsigned-ranktest.(,)眼が疲れる***自覚症状のスコア3210乾燥で悪化運転で悪化眼が赤い涙が出る目やにが出る光がまぶしいかすんで見える眼の不快感眼が痒い眼が痛い眼が重いショボショボ眼がゴロゴロ眼が乾いた感じ(117)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013251 るとされる23).今回の検討においても,DQSにより分泌型ムチンが増加することで涙液層が安定化し,BUTが延長したと考えられる.SPKにおいても,DQS投与後で有意な改善を認めた.SPKの投与後12カ月の改善率をみると,A1D2は90%で,A2D2とA2D3では100%であった.内訳は,A1D210眼のうち4眼がA1D1,5眼がA0D0と改善,1眼が不変であった.A2D2では6眼すべてがA1D1となり,A2D3では2眼ともA1D2と改善を認めた.DQSは,SPKの改善は軽度から中等度において特に有効であったが,A2D3のような重度の症例では,A1D2と改善はみられたものの,SPKは中等度残存していた.角膜上皮障害が重度の場合,膜型や分泌型ムチンの発現が著明に低下しているため,DQSでの治療では,涙液層の安定化をはかるには不十分と考えられる.このような重度のSPK症例には点眼治療だけでなく,涙点プラグなどの外科処置を考慮する必要があるかもしれない.今回の検討で,角膜上皮障害は点眼開始後1週,BUTは点眼開始後1カ月,結膜上皮障害は点眼開始後6カ月までに有意に改善し,その効果は12カ月まで持続していた.山口ら12)は,DQS投与後52週にわたり角結膜上皮障害の有意な減少とBUTの有意な延長を認め,その効果は長期投与においても持続することを報告している.本検討においても,投与後1年にわたり角結膜上皮障害とBUTの経時的な改善がみられた.角膜上皮障害とBUTの改善は,点眼治療後早期で認めたが,結膜上皮障害の改善は,点眼開始後6カ月であり,角膜と比較すると改善の遅延がみられた.結膜上皮障害は,従来の点眼や涙点プラグなど,ドライアイ治療において,角膜上皮障害と比較して残存する傾向がある13).しかし,山口らの報告12)では,角膜上皮障害とBUTだけでなく,結膜上皮障害も点眼開始後1カ月までには有意な改善を認めている.本検討では統計学的有意差は認めなかったが,点眼後1週間から改善傾向であった.今回は18眼の検討であるため,さらに症例数を蓄積することで,より早期から有意な改善がみられる可能性が考えられた.自覚症状において,眼が乾いた感じ,眼がショボショボゴロゴロする,眼の不快感の3項目で改善がみられた.これらは涙液層の安定性や角結膜上皮障害と関連すると考えられる.BUTと自覚症状の合計スコアの相関を検討したところ,BUTが延長するほど,また,角結膜上皮染色スコアが減少するほど自覚症状が改善する傾向がみられた(p<0.01,それぞれr=.0.31,0.28,0.25Spearman’scorrelationcoefficient).DQSによる涙液層の安定化により,ドライアイの悪循環が解消され,BUTの延長と角結膜上皮障害の軽減を促すことで,自覚症状の改善につながったと考えられる.DQSはLASIK後の遷延するドライアイに対し,短期的だけでなく,経時的に改善させる点眼薬であると考えられる.LASIK後にドライアイを認める症例や,術前からドライアイを認める症例では,術後早期からDQSを投与することも有用である可能性が示唆される.文献1)宮井尊史,宮田和典,大鹿哲郎ほか:Wavefront-GuidedLaserInSituKeratomileusisの臨床評価.IOL&RS19:189-193,20052)TodaI,Asano-KatoN,Komai-HoriYetal:Dryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol132:1-7,20013)AlbietzJM,LentonLM,McLennanSG:Chronicdryeyeandregressionafterlaserinsitukeratomileusisformyopia.JCataractRefractSurg30:675-684,20044)StevenE,WilsonSE:Laserinsitukeratomileusisinducedneurotrophicepitheliopathy.Ophthalmology108:1082-1087,20015)AmbrosioRJr,TervoT,WilsonSEetal:LASIK-associateddryeyeandneurotrophicepitheliopathy:pathophysiologyandstrategiesforpreventionandtreatment.JRefractSurg24:396-407,20086)NejimaR,MiyataK,TanabeTetal:Cornealbarrierfunction,tearfilmstability,andcornealsensationafterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol139:64-71,20057)LinnaTU,VesaluomaMH,Perez-SantonjaJJetal:EffectofmyopicLASIKoncornealsensitivityandmorphologyofsubbasalnerves.InvestOphthalmolVisSci41:393397,20008)PatelSV,McLarenJW,KittlesonKMetal:Subbasalnervedensityandcornealsensitivityafterlaserinsitukeratomileusis:femtosecondlaservsmechanicalmicrokeratome.ArchOphthalmol128:1413-1419,20109)KonomiK,ChenLL,TarkoRSetal:PreoperativecharacteristicsandapotentialmechanismofchronicdryeyeafterLASIK.InvestOphthalmolVisSci49:168-174,200810)TauberJ,DavittWF,BokoskyJEetal:Double-masked,placebo-controlledsafetyandefficacytrialofdiquafosoltetrasodium(INS365)ophthalmicsolutionforthetreatmentofdryeye.Cornea23:784-792,200411)三原研一,中村泰介:ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼液3%の有効性の検討.臨眼66:1191-1194,201212)山口昌彦,坪田一男,大橋裕一ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,201213)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,200714)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200315)PerryHD,SolomonR,DonnenfeldEDetal:EvaluationofTopicalCyclosporinefortheTreatmentofDryEyeDisease.ArchOphthalmol126:1046-1050,2008252あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(118) 16)SchiffmanRM,ChristiansonMD,JacobsenGetal:ReliabilityandvalidityoftheOcularSurfaceDiseaseIndex.ArchOphthalmol118:615-621,200017)DoughertyBE,NicholsJJ,NicholsKK:RaschanalysisoftheOcularSurfaceDiseaseIndex(OSDI).InvestOphthalmolVisSci52:8630-8635,201118)CorralesRM,NarayananS,FernandezIetal:Ocularmucingeneexpressionlevelsasbiomarkersforthediagnosisofdryeyesyndrome.InvestOphthalmolVisSci52:8363-8369,201119)ShimmuraS,OnoM,TsubotaKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,199520)YungYH,TodaI,TsubotaKetal:Punctalplugsfortreatmentofpost-LASIKdryeye.JpnJOphthalmol56:208-213,201221)小嶋健太郎,横井則彦,木下茂ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,200222)FayetB,AssoulineM,RenardGetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa:Aclinicalandhistopathologicreport.Ophthalmology108:405-409,200123)七條優子,坂元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,2011***(119)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013253

正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1141.1145,2012c正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果阪元明日香七條優子山下直子中村雅胤参天製薬株式会社眼科研究開発センターCombinedEffectofDiquafosolTetrasodiumandPurifiedSodiumHyaluronateOphthalmicSolutionsonTearFluidVolumeinNormalRabbitsAsukaSakamoto,YukoTakaoka-Shichijo,NaokoYamashitaandMasatsuguNakamuraOphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響について,涙液メニスカス面積値を指標に評価した.涙液メニスカス面積測定法では,眼表面へのフルオレセイン溶液添加量に比例して,涙液メニスカス面積値は増加した.0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の点眼2および5分後において,シルメル試験紙を用いて涙液貯留量を1分間測定した場合(局所麻酔下測定),Schirmer値の増加が認められなかったが,涙液メニスカス面積測定法では,涙液メニスカス面積値が人工涙液点眼に比して有意に増加した.また,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用群の涙液メニスカス面積値は,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液単独群あるいは3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液との併用群に比して有意に高値を示した.さらに3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液を先に点眼したほうが0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を先に点眼するよりも涙液メニスカス面積値は高値を示したが,2剤目点眼30分後においてはどちらも同程度であった.以上の結果より,涙液メニスカス面積測定法において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用により涙液貯留量の持続的増加作用が認められた.Thisstudyevaluatedthecombinedeffectofdiquafosoltetrasodiumandpurifiedsodiumhyaluronateophthalmicsolutionsontearfluidvolumeinnormalrabbits,usingthetearmeniscusarea.Thevolumeofexternalfluoresceininstilledtotheocularsurfacewascorrelatedwiththetearmeniscusarea.Theefficacyof0.1%sodiumhyaluronatecouldnotbedetectedbytheSchirmermeasuringstripfor1min,butthetearmeniscusareaof0.1%sodiumhyaluronatewasgreaterthanthatofartificialtearsat2and5minafterinstillation.Thecombinedeffectof3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiummonotherapyorcombinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumandartificialtearsat5and30minafterasecondinstillation.Furthermore,thecombinedefficacyof0.1%sodiumhyaluronateafter3%diquafosoltetrasodiuminstillationonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiumafter0.1%sodiumhyaluronateinstillation.However,bothwerealmostequalintearmeniscusareaat30minaftersecondinstillation.Combinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateseemstocauseretentionofmoretearfluidontheocularsurface,andforalongertime,than3%diquafosoltetrasodiummonotherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1141.1145,2012〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,精製ヒアルロン酸ナトリウム,涙液貯留量,涙液メニスカス面積,正常ウサギ.diquafosoltetrasodium,purifiedsodiumhyaluronate,tearfluidvolume,tearmeniscusarea,normalrabbits.〔別刷請求先〕阪元明日香:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社眼科研究開発センターReprintrequests:AsukaSakamoto,OphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma-shi,Nara630-0101,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)1141 はじめにドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層(油層・水層およびムチン層)構造が崩れ,各涙液層の役割が正常に機能せず,異常をきたしている.したがって,その治療には,眼表面における涙液を質的・量的に正常化させることが望まれる1,2).現在,国内でドライアイ治療に使用されている薬剤には,ジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液がある.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に結合し,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,水分およびムチンの分泌促進作用を示す3,4).一方,精製ヒアルロン酸ナトリウムは,数十万からなる高分子多糖類であり,その分子内に水分を保持できる特性をもつことにより保水作用を示す5).両剤はともに,眼表面の涙液貯留量を増大させる作用を示すものの,それらの作用機序が異なるため,ドライアイ治療において,両剤の併用による効果(相加あるいは相乗作用)が期待できる.涙液の貯留量を測定する方法として,臨床では綿糸法が古くから汎用されている.綿糸法は,簡便な方法で被験者の負担が軽度ではあるものの,微量の涙液の変化も測定値に反映される難点がある.またSchirmerテストは,おもに涙液分泌量を測定する方法であり,その侵襲性と涙液の質,特に粘稠性により値が左右される懸念がある.近年では,涙液メニスカス高をフルオレセイン溶液を用いて観察する方法6,7),メニスコメトリーによる涙液メニスカス曲率半径の測定8),あるいは最近では,opticalcoherencetomographyシステムによるメニスカス面積の測定9)などが開発されている.これらはより侵襲性が低く,涙液の質に影響されない測定方法として確立されている.動物実験においても,Murakamiら10)は,正常ネコのメニスカス面積の測定を実施し,ジクアホソルナトリウムの涙液貯留量の増加作用を報告している.本研究では,正常ウサギでの涙液メニスカス面積値を測定する新たな方法を確立し,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響を検討した.I実験方法1.点眼液3%ジクアホソルナトリウム(3%ジクアホソル)点眼液として,ジクアスR点眼液3%(参天製薬),0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(0.1%ヒアルロン酸)点眼液として,ヒアレインR点眼液0.1%(参天製薬),人工涙液として,ソフトサンティア(参天製薬)を用いた.2.実験動物雄性日本白色ウサギは北山ラベスより購入し,1週間馴化飼育した後,65匹を試験に使用した.本研究は,「動物実験1142あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.涙液メニスカス面積測定法ウサギの下眼瞼涙液メニスカス上に生理食塩水に溶解した0.1%フルオレセイン溶液3μLを添加し,マクロレンズ(AFMICRONIKKOR105mm,ニコン)を接続したデジタルカメラ(FUJIXDS-560,富士フィルム)にブルーフィルター(BPB45,富士フィルム)を付けて,涙液メニスカスを含む眼の全体像を正面から撮影した.得られた画像から画像解析ソフト(WinROOF,三谷商事)を用いて涙液メニスカスの面積を算出した.ただし,本測定値の妥当性を評価する目的で実施した眼表面への添加量と涙液メニスカス面積値の相関性を確認する試験では,15匹29眼に0.1%フルオレセイン溶液を3,10,20,30,40および50μL添加した.フルオレセイン溶液の添加量は,正常ウサギの結膜.における涙液貯留量が30.50μLという報告11)を考慮して,最大量を50μLに設定した.また,各種点眼液の涙液メニスカス面積値への影響を検討する際には,点眼液を50μL点眼した前後で涙液メニスカス面積値を算出し,その差(Δ涙液メニスカス面積値)を点眼液の薬効として評価した.Schirmer値との比較検討では15匹30眼,単剤点眼と併用点眼の比較検討では17匹34眼,併用点眼における点眼順序の検討では18匹36眼を使用した.同一個体を複数回使用する場合は,一定期間を空けて使用した.測定時に半眼,閉目など,結果に影響を与えると思われる所見が認められた眼は除外した.なお,併用点眼の点眼間隔は,基本的に臨床での点眼間隔を考慮して5分間とした.また,ウサギはヒトに比べて涙液排出率が低く,瞬目回数も著しく少ないため12),点眼間隔を短くすると1剤目の点眼液量が眼表面に十分残ったまま,2剤目を点眼することになり,両剤とも溢出し,薬効を適切に評価できない可能性も考慮した.測定時間については,3%ジクアホソル単剤の予備的検討として,点眼2,5,10,15,30および60分後のΔ涙液メニスカス面積値を測定したところ,点眼10分後に最大値を示した.したがって,3%ジクアホソル点眼10分後を含む測定時間を設定した.すなわち,3%ジクアホソルを1剤目としてのみ使用した試験では,2剤目点眼5分後,1剤目および2剤目に使用した試験では,2剤目点眼5および10分後を含めて測定した.4.シルメル試験紙による涙液貯留量測定法15匹30眼にベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬)を10μL点眼し,眼表面を局所麻酔した.局所麻酔3分後に各種点眼液を50μL点眼し,点眼2および5分後に,ウサギの下眼瞼にシルメル試験紙(昭和薬品化工)の折り目5mm部分を1分間挿入し,ろ紙が濡れた長さ(Schirmer値)を指標として涙液貯留量を測定した.なお,点眼液の点眼前後の(116) Schirmer値を測定し,その差(ΔSchirmer値)を点眼液の薬効として評価した.5.統計解析生物実験データ統計解析システムEXSUS(シーエーシー)を用いて,5%を有意水準として解析した.各測定時間での2群間の解析はF検定後,Studentのt検定(等分散)あるいはAspin-Welchのt検定(不等分散)を行った.各測定時間における3群以上の解析はTukeyの多群比較検定を行った.II結果1.正常ウサギを用いた涙液メニスカス面積測定法の妥当性涙液メニスカス面積測定法にて得られた値(Δ涙液メニスカス面積値)の妥当性を評価する目的で,ウサギの眼表面に3.50μLの0.1%フルオレセイン溶液を添加した際のΔ涙液メニスカス面積値を算出し,添加量とΔ涙液メニスカス面積値の相関性について検討した.図1に示すように,両者間には正比例の関係式(y=0.9504x+0.5113)が成り立ち,重相関係数(0.9078)も良好であった.また,3μLフルオレセイン溶液の添加は,Δ涙液メニスカス面積値にほとんど影響を及ぼさなかった.したがって,涙液メニスカス面積測定法を用いた涙液貯留量の測定には,3μLフルオレセイン溶液を用いることにした.つぎに,0.1%ヒアルロン酸の涙液貯留量に対する効果をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した.ΔSchirmer値は,対照に用いた人工涙液群では点眼2分後に最大値を示し,その後減少するのに対し,0.1%ヒアルロン酸群では,点眼2分後においてSchirmer値の増加作用は認められず,人工涙液群に比して有意に低値を示した(図2a).一方,Δ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群および0.1%ヒアルロン酸群のいずれも点眼2分後に最大値を示し,その後減少した.また,0.1%ヒアルロン酸群の点眼2および5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群に比して有意に高値を示した(図2b).2.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果について検討した.図3に示す群構成で,1剤目点眼5分後(図3a,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.図3aにΔ涙液メニスカス面積値,図3bに2剤目点眼5分後の代表的な涙液メニスカス像を示す.3%ジクアホソルのΔ涙液メニスカス面積値(mm2)60y=0.9504x+0.511350r2=0.907840302010001020304050フルオレセイン溶液添加量(μL)図1正常ウサギにおけるフルオレセイン溶液添加量とΔ涙液メニスカス面積値との関係点眼5分後に2剤目として人工涙液を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群と同程度であった.一方,2剤目として0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比して有意に高値を示し,持続的な効果が認められた.3.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の点眼順序が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果に2剤の点眼順序が影響するか検討した結果を各値は,4あるいは5例の平均値±標準誤差を示す.3.0025:AT:0.1%HA*涙液メニスカス面積値(mm2)Δa4.03.02.01.00.0-1.0025:AT:0.1%HA**#bΔSchirmer値(mm)2.01.00.0-1.0-2.0点眼後の時間(分)点眼後の時間(分)図2人工涙液(AT)および0.1%ヒアルロン酸(HA)のSchirmer値(a)および涙液メニスカス面積値(b)に及ぼす影響各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01,AT群との比較(Studentのt検定).#:p<0.05,AT群との比較(Aspin-Welchのt検定).(117)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121143 a2015a:各値は,8例の平均値±標準誤差を示す.Δ涙液メニスカス面積値(mm2)Δ涙液メニスカス面積値(mm2)10:3%ジクアホソル:3%ジクアホソル+0.1%HA:3%ジクアホソル+AT500**##**:p<0.01,3%ジクアホソル+AT群との比較(Tukeyの多重比較検定).##:p<0.01,3%ジクアホソル群との比較**(Tukeyの多重比較検定).5##b:2剤目点眼5分後の涙液メニスカスのフルオレセイン染色像を示す.2剤目点眼後の時間(分)b3%ジクアホソル3%ジクアホソル+AT3%ジクアホソル+0.1%HA30201510503010502剤目点眼後の時間(分)**:3%ジクアホソル+0.1%HA:0.1%HA+3%ジクアホソル図33%ジクアホソル,3%ジクアホソルと人工涙液(AT)あるいは0.1%ヒアルロン酸(HA)の併用の涙液メニスカス面積値に及ぼす影響―Δ涙液メニスカス面積値(a),涙液メニスカス像(b)―III考按図43%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸(HA)の点眼順序が涙液メニスカス面積値に及ぼす影響本研究では,ウサギの涙液貯留量に対する各種点眼液の影響を涙液メニスカス面積値で評価した.まず,図1のとおりフルオレセイン溶液の添加量とΔ涙液メニスカス面積値間に正の相関性があることを確認した.つぎに,0.1%ヒアルロン酸および人工涙液が涙液貯留量に及ぼす影響をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した(図2).涙液メニスカス面積法では,0.1%ヒアルロン酸は人工涙液に比して点眼5分後まで有意に高値を示しており,ヒトの涙液メニスカス曲率半径を指標とした結果6)と類各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,0.1%HA+3%ジクアホソル群との比較(Studentのt検定).図4に示す.1剤目点眼5分後(図4,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5,10および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.3%ジクアホソルの点眼5分後に0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,0.1%ヒアルロン酸の点眼5分後に3%ジクアホソルを併用した群に比して有意に高値を示した.1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最高値に達したが,1剤目に3%ジクアホソル,2剤目に0.1%ヒアルロン酸を点眼した群のそれよりは低値であった.2剤目点眼30分後では,どちらの群も同程度のΔ涙液メニスカス面積値を示した.1144あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012似していた.なお,今回シルメル試験紙による涙液貯留量測定法で0.1%ヒアルロン酸の効果が認められなかったのは,ヒアルロン酸の粘稠性がシルメル試験紙の吸収速度を減速させたためと推測している.涙液メニスカス面積測定法は,シルメル試験紙による涙液貯留量測定法に比べて結果の解析に時間を要するものの,無麻酔下で非侵襲的に涙液貯留量を測定できるだけでなく,粘稠性など涙液の質に影響されないこともメリットとしてあげられる.以上より,涙液メニスカス面積値を指標とした涙液貯留量の評価法の妥当性を確認した.続いて,図3aのとおり3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用群では,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比べてΔ涙液メニスカス面積値が有意に増加し,涙液貯留量に対する併用効果が認められた.また,図4において3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼にお(118) ける点眼順序の影響を検討したところ,3%ジクアホソルを先に点眼したほうがΔ涙液メニスカス面積値の最大値は大きいことが明らかになった.しかし,2剤目点眼30分後において,Δ涙液メニスカス面積値に点眼順序の違いは認められず,持続効果に点眼順序は影響しないと考えられた.図3bで認められる併用効果を,そのままヒトに置き換えると,流涙さらに霧視などの副作用が懸念される.しかし,ヒトはウサギに比べて涙液の排出率が高い12)ため,臨床では流涙に至らない可能性もある.したがって,涙液貯留量に対する併用効果と併用使用による副作用については,今後さらに臨床検討も必要と思われる.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果の機序の一つとして,ジクアホソルの涙液分泌促進作用3)とヒアルロン酸の保水作用5)により,ジクアホソルにより分泌された涙液をヒアルロン酸が保持していることが推察される.さらに,ヒアルロン酸にはムチンとの相互作用による粘度上昇作用があることも報告されている13).したがって,ジクアホソルのムチン分泌促進作用4,14)により眼表面に分泌されたムチンにヒアルロン酸が相互作用し,ヒアルロン酸自身がもつ保水作用を持続させている可能性も考えられる.また,図4に示すように0.1%ヒアルロン酸を先に点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最大値を示したが,3%ジクアホソルを先に点眼した場合に比べて低値であった.これは,先に点眼した0.1%ヒアルロン酸が眼表面に滞留している15)ため,3%ジクアホソルが細胞に作用しにくく,涙液分泌促進作用が十分に発揮されていない可能性も考えられる.一方で,3%ジクアホソルの単剤点眼と比べて,1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを併用点眼すると眼表面の涙液貯留量を持続できる可能性も考えられ,ヒアルロン酸がジクアホソルの眼表面との接触時間を延長させているのかもしれない.併用効果の詳細な機序については,さらなる検討が必要と思われる.また,併用点眼の場合,前述した霧視に加えて,点眼液に含まれる塩化ベンザルコニウムの眼表面への曝露量が増加する可能性が懸念される.角膜上皮障害に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の影響をラットのドライアイモデルで検討した結果16)では,上皮障害の改善に対して併用効果が認められ,併用点眼による塩化ベンザルコニウムの明らかな影響は認められていないが,臨床上の併用点眼においては注意が必要と思われる.涙液メニスカス面積測定法は,侵襲性が低く,粘稠性など涙液の質に影響されないため,涙液貯留量をより正確に測定する方法として有用であることが明らかとなった.また,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸を併用することにより,3%ジクアホソルの単剤点眼に比して,涙液貯留量の持続的(119)増加作用を示す可能性が示唆され,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用は,ドライアイ治療において有用な治療法として期待される.文献1)横井則彦:ドライアイのEBM.臨眼55:72-85,20012)本田理恵,ムラトドール:ドライアイ治療Overview.あたらしい眼科22:329-336,20053)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,20114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20115)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,19936)GoldingTR,BruceAS,MainstoneJC:Relationshipbetweentear-meniscusparametersandtear-filmbreakup.Cornea16:649-661,19977)KawaiM,YamadaM,KawashimaMetal:Quantitativeevaluationoftearmeniscusheightfromfluoresceinphotographs.Cornea26:403-406,20078)YokoiN,KomuroA:Non-invasivemethodsofassessingthetearfilm.ExpEyeRes78:399-407,20049)WangJ,AquavellaJ,PalakuruJetal:Relationshipsbetweencentraltearfilmthicknessandtearmeniscioftheupperandlowereyelids.InvestOphthalmolVisSci47:4349-4355,200610)MurakamiT,FujitaH,FujiharaTetal:Novelnoninvasivesensitivedeterminationoftearvolumechangesinnormalcats.OphthalmicRes34:371-374,200211)ChanPK,HayesAW:Principlesandmethodsforacutetoxicityandeyeirritancy.PrinciplesandMethodsofToxicology,secondedition,p169-220,RavenPress,NewYork,198912)LeeVH,RobinsonJR:Review:Topicaloculardrugdelivery:Recentdevelopmentsandfuturechallenges.JOculPharmacol2:67-108,198613)川原めぐみ,平井慎一郎,坂本佳代子ほか:ヒアルロン酸点眼液の角膜球面不正指数を指標としたウサギ涙液層安定化作用.あたらしい眼科21:1561-1564,200414)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,200215)MochizukiH,YamadaM,HatoSetal:Fluorophotometricmeasurementoftheprecornealresidencetimeoftopicallyappliedhyaluronicacid.BrJOphthalmol92:108-111,200816)堂田敦義,中村雅胤:ドライアイモデルラットに対するジクアホソルナトリウム点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果.あたらしい眼科28:1477-1481,2011あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121145

ドライアイモデルラットに対するジクアホソルナトリウム点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(109)1477《原著》あたらしい眼科28(10):1477?1481,2011cはじめに現在,国内でドライアイ治療に使用されている主な点眼液には,人工涙液,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液と,2010年に上市されたジクアホソルナトリウム点眼液がある.人工涙液は,一時的な水分および電解質の補充効果のみを期待するものであり,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は,角膜上皮〔別刷請求先〕堂田敦義:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:AtsuyoshiDota,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma-shi,Nara630-0101,JAPANドライアイモデルラットに対するジクアホソルナトリウム点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果堂田敦義中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターCombinedEffectofDiquafosolTetrasodiumandSodiumHyaluronateOphthalmicSolutionsinRatDryEyeModelAtsuyoshiDotaandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.眼窩外涙腺を摘出したラットに,送風を負荷したドライアイモデルを作製し,本モデルに対するジクアホソルナトリウムとヒアルロン酸ナトリウムの併用効果を検討した.ドライアイモデルラットに,人工涙液単独,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム単独,3%ジクアホソルナトリウム単独,もしくは,0.1%ヒアルロン酸ナトリウムと3%ジクアホソルナトリウムの併用点眼を1日6回実施し,点眼6週後の角膜フルオレセイン染色スコアにより薬効を比較検討した.その結果,本ドライアイモデルに対して,0.1%ヒアルロン酸ナトリウムと3%ジクアホソルナトリウムの単独点眼の染色スコアは,人工涙液単独点眼と比較して,統計学的に有意な差を認めないものの低値を示した.一方,3%ジクアホソルナトリウムと0.1%ヒアルロン酸ナトリウムの併用点眼の染色スコアは,各点眼液の単独点眼よりも低値を示し,人工涙液単独点眼と比較して有意に低値であった(p=0.03).以上より,3%ジクアホソルナトリウムと0.1%ヒアルロン酸ナトリウムの併用点眼は,本ドライアイモデルにおける角膜上皮障害を各点眼液単独以上に改善させる相加的作用を有することが示唆された.Wecreatedtheratdryeyemodelthroughexorbitallacrimalglandremovalandexposuretoconstantairflow,andinvestigatedthecombinedeffectof3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateophthalmicsolutionsoncornealfluoresceinstainingscoreintheratdryeyemodel.Ratswithexorbitallacrimalglandremovedwerekeptunderconstantairflow.Inthisdryeyemodel,artificialtears,0.1%sodiumhyaluronate,3%diquafosoltetrasodiumoracombinationofthelattertwowasapplied6timesdailyfor6weeks,withcornealfluoresceinstainingscoredbeforeandafterapplication.Theapplicationof0.1%sodiumhyaluronateor3%diquafosoltetrasodiumalonetendedtodecreasethecornealfluoresceinstainingscoreincomparisonwithartificialtears.Applicationofthetwosolutionsincombination,however,significantlydecreasedthecornealfluoresceinstainingscoreincomparisonwithartificialtears(p=0.03)andshowedlowerscoresthan0.1%sodiumhyaluronateor3%diquafosoltetrasodiumalone.Theseresultssuggestthatinthisratdryeyemodel,thecombinationof3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronatemightbemoreeffectiveinimprovingcornealepithelialdamagethaneithersolutionalone.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1477?1481,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,ヒアルロン酸ナトリウム,ラット,ドライアイ,フルオレセイン染色,角膜上皮障害.diquafosoltetrasodium,sodiumhyaluronate,rats,dryeye,fluoresceinsataining,cornealepithelialdamage.1478あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(110)伸展促進作用および保水性による涙液安定化作用を有するものの,涙液量が極度に減少しているドライアイ患者に対しては,治療効果は低いと考えられている1).一方,ジクアホソルナトリウム点眼液は,涙液の分泌促進作用,ムチン様糖蛋白質の分泌促進作用などを示すことが報告2,3)され,ドライアイ患者の涙液層の質的および量的な改善作用を示すと考えられている.ドライアイは,『さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う』と定義されている4).また,ドライアイ発症には,さまざまな要因(内因的もしくは外因的)が重なっていることも多いと報告されている5).これら種々の要因が重なって生じているドライアイに対して,各点眼液を単独で点眼しても治療効果が十分でない場合も存在すると考えられる.これまでに報告されている眼窩外涙腺を摘出したラットのドライアイモデル2)は,涙腺摘出による涙液減少型ドライアイを外挿したモデルであり,単一の原因により誘発された動物疾患モデルと考えられる.そこで,今回,送風負荷を加えることにより,複数の要因によるドライアイモデルを作製するとともに,そのモデルを用いてドライアイ治療に用いられている各種点眼液の単独点眼および併用点眼の有用性を,角膜上皮障害の指標であるフルオレセイン染色スコアを用いて検討した.I実験方法1.ラットのドライアイモデル作製Fujiharaらの方法2)に従って,雄性SDラット(日本エスエルシー)の眼窩外涙腺を摘出した.対照として,眼窩外涙腺摘出を実施しない正常ラットを設定した.送風負荷は,Nakamuraらの方法6)を参考に涙腺摘出直後からラットケージの扉側から扇風機を用いて風速約2?4m/secの送風をあて,8週間飼育した.点眼実験では,点眼期間中も送風を継続した.なお,ラットは,1週間馴化飼育した後,試験に使用した.また,群ごとに別々のラットを設定し,モデル作製試験では,涙腺を摘出した群は5匹10眼,涙腺を摘出した群を除いた群は6匹12眼,薬効比較試験では,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼群は3匹6眼,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼群を除いた群は4匹8眼のフルオレセイン染色スコアを用いて評価した.本研究は,「動物実験倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」の参天製薬株式会社社内規程を遵守し,実施した.2.点眼および観察薬効比較試験における群構成を表1に示す.涙腺摘出・送風負荷8週間後より,人工涙液(ソフトサンティアR,参天製薬),0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレインR点眼液0.1%,参天製薬)(以下,0.1%ヒアルロン酸と略す),3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,参天製薬)(以下,3%ジクアホソルと略す)の各単独,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸の併用,あるいは,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用を1回5μL,1日6回(約1.5時間間隔)両眼にマイクロピペットにて6週間点眼した.なお,0.1%ヒアルロン酸と人工涙液併用点眼は,人工涙液点眼5分後に0.1%ヒアルロン酸を,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼は,3%ジクアホソル点眼5分後に0.1%ヒアルロン酸を点眼した.角膜の観察は,点眼前および点眼6週後に,村上らの方法7)に従って,両眼のフルオレセイン染色スコアにより評価した.3.統計解析EXSAS(アーム社)を用いて,5%を有意水準として解析した.モデル作製試験では,正常ラットと涙腺を摘出したラット,送風を負荷した正常ラットと涙腺を摘出し送風を負荷したラット,涙腺を摘出したラットと涙腺を摘出し送風を負荷したラット,正常ラットと涙腺を摘出し送風を負荷したラットの角膜フルオレセイン染色スコアについて,それぞれStudentのt検定を実施した.薬効評価試験では,ドライアイモデルのラットと正常ラットの角膜フルオレセイン染色スコアについてStudentのt検定を,点眼液(人工涙液,0.1%ヒアルロン酸,3%ジクアホソルの単独点眼,0.1%ヒアルロン酸と人工涙液,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼)を点眼したラットの角膜フルオレセイン染色スコアについて,Tukeyの多重比較検定を実施した.表1群構成群番号処置送風の有無点眼液点眼回数1無処置(正常)無なしなし2眼窩外涙腺を摘出有なしなし3眼窩外涙腺を摘出有人工涙液6回/日4眼窩外涙腺を摘出有0.1%ヒアルロン酸6回/日5眼窩外涙腺を摘出有3%ジクアホソル6回/日6眼窩外涙腺を摘出有人工涙液+0.1%ヒアルロン酸6回/日7眼窩外涙腺を摘出有3%ジクアホソル+0.1%ヒアルロン酸6回/日(111)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111479II結果1.正常および眼窩外涙腺を摘出したラットに対する送風負荷の影響正常および涙腺を摘出したラットに,送風負荷を8週間行った後の角膜フルオレセイン染色像を図1に示す.正常ラットでも角膜フルオレセイン染色がわずかに認められた(図1A).送風を負荷した正常ラットの角膜フルオレセイン染色像は,正常ラットと大きな違いは認められなかった(図1C).一方,眼窩外涙腺を摘出すると,角膜フルオレセイン染色は顕著に亢進し(図1B),さらに,送風を負荷することで,角膜フルオレセイン染色の増強が認められた(図1D).角膜フルオレセイン染色像をスコア化した結果を図2に示す.涙腺を摘出したラットの角膜フルオレセイン染色スコアは,正常ラットと比較して有意に高い値を示した(p<0.01).涙腺を摘出し送風を負荷したラットの角膜フルオレセイン染色スコアは,涙腺を摘出したラットと比較して,有意に高い値を示した(p<0.01).正常ラットと比較して涙腺を摘出し送風を負荷したラットの角膜フルオレセイン染色スコアは,有意に高い値を示した(p<0.01).フルオレセイン染色スコアは,涙腺摘出により正常ラットの値(2.2±0.8:平均値±標準偏差)の約2.4倍(5.3±1.2)に,涙腺摘出と送風負荷により約3倍(6.6±0.7)にまで達した.2.眼窩外涙腺を摘出したラットに送風を負荷したドライアイモデルに対する3%ジクアホソルおよび0.1%ヒアルロン酸併用点眼の効果人工涙液,0.1%ヒアルロン酸または3%ジクアホソルの単独点眼,もしくは,0.1%ヒアルロン酸と人工涙液あるいは3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼を,本ドライアイモデルに1日6回,6週間行ったときの角膜フルオレセイン染色スコアの結果を図3に示す.点眼6週間後,人工涙液点眼の染色スコアは,無点眼と比較してほとんど変化が認められなかった(p=0.59).また,0.1%ヒアルロン酸単独点眼,3%ジクアホソル単独点眼,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼の染色スコアは,人工涙液単独点眼の染色スコアと比較して統計学的な有意差は認められないものの低値を示した(それぞれ,p=0.78,p=0.24,p=0.49).一方,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の染色スコア(4.3±1.2)は,人工涙液単独点眼の染色スコア(6.3±0.8)と比較して統計学的に有意に低値を示した(p=ABCD図1正常ラットおよび眼窩外涙腺を摘出したラットに送風負荷を8週間行った後の角膜フルオレセイン染色像A:正常ラット;角膜にわずかにフルオレセイン染色が認められる.B:涙腺を摘出したラット;眼窩外涙腺の摘出により,角膜フルオレセイン染色が亢進した像が認められる.C:送風を負荷した正常ラット;送風負荷により,角膜のフルオレセイン染色像に大きな変化は認められない.D:涙腺を摘出し,送風を負荷したラット;涙腺の摘出により亢進した角膜のフルオレセイン染色に送風負荷することで,さらに染色が増強された像が確認される.9.08.07.06.05.04.03.02.01.00.0角膜フルオレセイン染色スコア処置8週間後:正常ラット:涙腺を摘出したラット:送風を負荷した正常ラット:涙腺を摘出し,送風を負荷したラット††††##**図2正常ラットおよび眼窩外涙腺を摘出したラットの角膜フルオレセイン染色スコアに及ぼす送風の影響送風負荷の有無で正常ラットの角膜フルオレセイン染色スコアに有意な差は認められなかった.涙腺を摘出したラットの染色スコアは,正常ラットと比較して有意に高い値を示した.涙腺を摘出し,送風を負荷したラットの染色スコアは,涙腺を摘出したラットと比較して有意に高い値を示した.各値は10眼(涙腺を摘出した群)または,12眼(涙腺を摘出した群を除いた群)の平均値±標準偏差を示す.##:p<0.01,涙腺を摘出したラットとの比較(Studentのt検定),**:p<0.01,送風を負荷した正常ラットとの比較(Studentのt検定),††:p<0.01,正常ラットとの比較(Studentのt検定).1480あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(112)0.03).III考按ドライアイは,大きく分けて涙液減少型と涙液蒸発亢進型の2つに分類される.これまでに報告されている眼窩外涙腺を摘出したラットのドライアイモデルは,Schirmer値が正常ラットの約半分に低下する2)ことから,涙液量の減少によって角膜上皮障害が発症する涙液減少型ドライアイモデルと考えられる.涙液の蒸発率を亢進させる送風8)は,ドライアイのリスクファクターの一つである5)と報告されており,エアコンを用いた空調設備の充実といったオフィス環境の変化が,涙液層を不安定化させる蒸発亢進型ドライアイ患者を増加させている.さらに,VDT(visualorvideodisplayterminal)作業の増加やコンタクトレンズ装用者の増加も,涙液層が不安定なタイプのドライアイ患者を増加させる原因となっている5).涙腺を摘出したラットへの送風負荷は,涙液減少で生じる角膜障害に加え,送風による涙液の蒸発亢進によって,さらに,障害を悪化させることが示唆された.したがって,本モデルは,涙液減少と涙液蒸発亢進を併発したドライアイモデルになりうると考えられた.今回,このドライアイモデルラットを用いて各点眼液の薬効を検討した結果,0.1%ヒアルロン酸,3%ジクアホソルの各単独点眼,もしくは,0.1%ヒアルロン酸と人工涙液の併用点眼は,角膜上皮障害改善傾向を示し,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼は,角膜上皮障害をさらに改善し,人工涙液と比較して有意な効果を示した.この結果は,複合的な要因で発症した重症の角膜上皮障害に対して,0.1%ヒアルロン酸もしくは3%ジクアホソル単独点眼は,改善傾向を示すものの十分な効果を示さず,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸併用点眼が,相加的な作用により有意な改善効果を示したものと推察される.ヒアルロン酸には,角膜上皮創傷治癒促進作用に加えて,保水作用による蒸発抑制作用や乾燥防止作用が報告されている9).また,ヒアルロン酸は,ムチンとの相互作用により,優れた粘膜付着性を有し10),涙液安定化などの作用を発揮していると考えられている11).一方で,ジクアホソルは,結膜にあるP2Y2レセプターに作用し,結膜からの水分の分泌およびムチンを含む蛋白質の分泌を増加させることにより涙液環境を改善し,ドライアイ症状を緩和すると考えられている2,3,12).本検討により,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の単独点眼では十分な改善効果を認めないが,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼では角膜上皮障害改善効果が最も高く,両点眼液併用による相加的な効果が確認された.この併用効果のメカニズムとして,ジクアホソルにより増加した眼表面のムチンが,ヒアルロン酸との相互作用により涙液滞留性を高めるとともに,ジクアホソルにより増加した水分が,ヒアルロン酸の保水効果により眼表面上で保持される結果と推察された.詳細な作用機序の解析には,さらなる研究が必要と考えられる.また,上記のような推察から,併用時には,3%ジクアホソルに続いて0.1%ヒアルロン酸の順に点眼することが,眼表面の涙液保持に効果的であると考えられる.近年の環境変化により,蒸発亢進型のドライアイ患者が増加している.また,高齢化に伴う涙腺機能の低下は,涙液減少型のドライアイ患者を増加させると予想される.このようにさまざまなリスクファクターが原因となっているドライアイ患者に対して,単独点眼で治療効果が不十分な場合には,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の組み合わせのように相互作用が期待できる点眼液を併用することで,治療効果をあげることができると考えられる.8.07.06.05.04.03.02.01.00.0角膜フルオレセイン染色スコア点眼6週間後正常ラット:無点眼涙腺を摘出し,送風を負荷したラット:無点眼:人口涙液単独点眼:0.1%ヒアルロン酸単独点眼:3%ジクアホソル単独点眼:人口涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼:3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸併用点眼##*図3眼窩外涙腺を摘出し,送風を負荷したラットのドライアイモデルの角膜フルオレセイン染色に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼効果0.1%ヒアルロン酸単独点眼,3%ジクアホソル単独点眼,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼の角膜フルオレセイン染色スコアは,人工涙液単独点眼と比較して低い値を示した.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸併用点眼の角膜フルオレセイン染色スコアは,人工涙液単独点眼と比較して有意に低い値を示した.各値は,6眼(人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼群)または,8眼(人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼群を除いた群)の平均値±標準偏差を示す.##:p<0.01,正常ラットとの比較(Studentのt検定),*:p<0.05,人工涙液単独点眼との比較(Tukeyの多重比較検定).(113)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111481文献1)高村悦子:ドライアイのオーバービュー.FrontiersinDryEye1:65-68,20062)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y2agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,20013)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOcularPharmacolTher18:363-370,20024)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20075)丸山邦夫,横井則彦:環境と眼の乾き.あたらしい眼科22:311-316,20056)NakamuraS,ShibuyaM,NakashimaHetal:D-b-hydroxybutyrateprotectsagainstcornealepithelialdisordersinaratdryeyemodelwithjoggingboard.InvestOphthalmolVisSci46:2379-2387,20057)村上忠弘,中村雅胤:眼窩外涙腺摘出ラットドライアイモデルに対するヒアルロン酸点眼液と人工涙液の併用効果.あたらしい眼科21:87-90,20048)BorchmanD,FoulksGN,YqappertMCetal:Factorsaffectingevaporationratesoftearfilmcomponentsmeasuredinvitro.EyeContactLens35:32-37,20099)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,199310)SaettoneMF,ChetoniP,TorraccaMTetal:Evaluationofmuco-adhesivepropertiesandinvivoactivityofophthalmicvehiclesbasedonhyaluronicacid.IntJPharm51:203-212,198911)川原めぐみ,平井慎一郎,坂本佳代子ほか:ヒアルロン酸点眼液の角膜球面不正指数を指標としたウサギ涙液層安定化作用.あたらしい眼科21:1561-1564,200412)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,2011***

正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(125)1029《原著》あたらしい眼科28(7):1029?1033,2011cはじめに眼表面の涙液層は,表層から油層,水層およびムチン層の3層で構成され,そのうち水層は種々の蛋白質,電解質および水分から成り,眼表面の環境維持において生理学的役割は大きい1).ドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層構造が崩れ,各涙液層の役割が正常に機能せず,異常をきたしている.したがって,その治療には,眼表面における涙液層を質的および量的に正常化させることが望まれる.現在,国内でドライアイの治療に使用されている薬剤は,人工涙液および角結膜上皮障害治療剤であるヒアルロン酸ナトリウム点眼液のみである.人工涙液は,一時的な水分および電解質の補充効果しか期待できず,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は,角膜上皮伸展促進作用および保水性による涙液層の安定化作用を示すものの,極度に涙液量が減少しているドライアイ患者では,保水効果による治療効果は低いと考え〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用七條優子村上忠弘中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターStimulatoryEffectofDiquafosolTetrasodiumonTearFluidSecretioninNormalRabbitsYukoTakaoka-Shichijo,TadahiroMurakamiandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.P2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムの正常ウサギにおける涙液分泌促進機序について検討した.ジクアホソルナトリウムは,点眼15分後を最大とする用量依存的な涙液分泌促進作用を示した.また,ジクアホソルナトリウムは,涙液中蛋白質濃度には影響を及ぼさなかったが,涙液中の蛋白質量を用量依存的に増加させた.一方,ウサギ摘出涙腺組織に1,000μMまでのジクアホソルナトリウムを作用させたが,蛋白質分泌には影響を与えなかった.さらに,ウサギ結膜組織を用いた実験では,ジクアホソルナトリウムは,結膜組織からの水分分泌速度と正の相関性を示す組織膜に発生する電流値,膜電流を濃度依存的に上昇させ,本上昇作用は,カルシウムキレート剤の前処理により抑制された.以上より,ジクアホソルナトリウムは,おもに結膜細胞に作用し,細胞内カルシウムイオンを介して涙液の分泌促進作用を誘導すると考えられた.ThisstudyinvestigatedthemechanismofthestimulatoryeffectoftheP2Y2receptoragonistdiquafosoltetrasodiumontearfluidsecretioninnormalrabbits.Diquafosoltetrasodiumsolutionsinducedmaximaltearfluidsecretionat15minafterinstillation,increasinginadose-dependentmanner.Moreover,diquafosoltetrasodiumsolutionshadnoeffectonproteinconcentrationinthetearfluid,butexhibiteddose-dependentincreaseinproteincontentinit.Diquafosoltetrasodiumdidnotaffectproteinsecretionfromisolatedrabbitlacrimalglands,evenataconcentrationof1,000μM.Inrabbitconjunctivaltissues,diquafosoltetrasodiumenhancedtheshort-circuitcurrentinaconcentration-dependentmanner,positivelycorrelatedwithwatersecretionfromconjunctivaltissue.Thisenhancementwasinhibitedbypretreatmentwithcalcium-chelatingagent.Theseresultssuggestthatdiquafosoltetrasodiummayactmainlyonconjunctivaandstimulatetearfluidsecretionviatheintracellularcalciumpathway.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1029?1033,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,涙液分泌,細胞内カルシウム,ウサギ結膜.diquafosoltetrasoidium,P2Y2receptoragonist,tearfluidsecretion,intracellularcalcium,rabbitconjunctiva.1030あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(126)られる2).このように,ドライアイ治療は,十分に満足されている状況ではなく,ドライアイ患者の涙液層の質と量を改善できる新たな作用機序を有する治療薬の開発が臨床現場では強く求められている.プリン受容体の一つであるP2Y2受容体に対してアゴニスト作用を有するアデノシン3リン酸(ATP)あるいはウリジン3リン酸(UTP)は,涙液の分泌促進,ムチン(高分子糖蛋白質)の分泌促進,あるいはリゾチームの分泌促進作用などを示すことが報告され3),P2Y2受容体作動薬は,涙液層の質的および量的の両面を改善できると期待される.ジクアホソルナトリウムは,UTPと同程度のP2Y2受容体作動活性を有し4),かつATPあるいはUTPに比して水溶液中で安定性に優れている化合物である.Yerxaら5)は,ジクアホソルナトリウムが,正常ウサギにおいて涙液の分泌を誘導することを報告している.今回,筆者らは,ジクアホソルナトリウムの正常ウサギ涙液分泌促進機序について検討した.I実験方法1.ジクアホソルナトリウム点眼液ジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソル)は,ヤマサ醤油にて製造された.ジクアホソル点眼液は,塩化ナトリウム溶液あるいはリン酸緩衝液に溶解し,pH調節剤を用いて7.2?7.4に,等張化剤を用いて浸透圧比を1.0?1.1に調整した.2.涙液量の測定雄性日本白色ウサギ(北山ラベス,長野)の下眼瞼に,シルメル試験紙(昭和薬品化工,東京)の折り目5mm部分を挿入し,濾紙が濡れた長さを指標にして涙液量を測定した.用量依存性の検討では,0.1?8.5%のジクアホソル点眼液をウサギに点眼(50μL)し,涙液量を測定する3分前にベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬,大阪)を10μL点眼し,眼表面を局所麻酔した.局所麻酔3分後にウサギを保定し,シルメル試験紙を挿入し,1分間に濡れたシルメル試験紙の長さ(Schirmer試験値)を測定した.また,8.5%ジクアホソル点眼液点眼5,15,30および60分後のSchirmer試験値を測定し,涙液量の経時的変化を検討した.なお,涙液量の測定には,両眼を用いた.雄性日本白色ウサギは1週間馴化飼育した後,試験に使用した.本研究は,「動物実験倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.涙液中の蛋白質濃度および蛋白質量の測定0.3?3%ジクアホソル点眼液点眼15分後の涙液量を「2.涙液量の測定」と同様の方法にて実施し,Schirmer試験値を得た後のシルメル試験紙を生理食塩液に浸し,試験紙に吸収されている蛋白質を回収した.蛋白質濃度は,Bio-Rad(CA,USA)社のBradford法に従い測定した.試験紙に吸収された蛋白質量は,蛋白質濃度にSchirmer試験値から換算された涙液量を乗じて,試験紙に吸収された蛋白質量を算出した.4.涙腺組織からの蛋白質分泌量の測定Nakamuraらの方法6)に従って,涙腺組織からの蛋白質分泌について検討した.すなわち,雄性日本白色ウサギにネンブタール注射液(大日本住友製薬,大阪)を1mL/kgになるよう静脈注射して全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.涙腺組織を摘出し,周辺結合組織を切除し,涙腺組織切片を作製した(16片/1眼).涙線組織切片は,60分間培養液(143.1mMNaCl,4.5mMKCl,2.5mMCaCl2・2H2O,1.2mMMgCl2・6H2O,20mMHEPES,11.0mMd-glucose,pH7.4)で培養し,組織を安定化させた後に涙腺組織からの蛋白質分泌に用いた.サンプリングは,ジクアホソルあるいはカルバコール溶液添加後60分まで20分間隔で行った.各サンプル中の蛋白質濃度値を,各組織の湿重量で除することにより,組織重量当たりの蛋白質濃度を求めた後,同組織の無添加時(20分間)に分泌された蛋白質濃度値に対する百分率で表した値を蛋白質分泌率とした.また,ジクアホソル(1?1,000μM)およびカルバコール(100μM:Sigma,MO,USA)は,培養液に溶解して使用した.5.結膜組織の膜電流値の測定雄性日本白色ウサギにネンブタール注射液を1mL/kgになるよう静脈注射して全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.Kompellaらの方法7)に従って結膜組織を摘出し,normalbicarbonatedRinger’ssolution(BR:111.5mMNaCl,4.8mMKCl,0.75mMNaH2PO4,29.2mMNaHCO3,1.04mMCaCl2・2H2O,0.74mMMgCl2・6H2O,5.0mMd-glucose)を満たしたUssingチャンバー内に結膜組織(1組織/1眼)を固定し,膜電流を安定させた.チャンバーに固定した組織における膜電流の変動は,短絡電流測定装置(CEZ-9100;日本光電,東京)を用いて実施した.ジクアホソルおよびカルシウムキレート剤である1,2-bis-(o-aminophenoxy)ethane-N,N,N¢,N¢-tetraaceticacidtetra-(acetoxymethyl)ester(BAPTA-AM:Merck,Darmstadt,Germany)は,BRに溶解して使用した.ジクアホソルを,涙液(上皮)側に添加する前後の膜電流を測定し,膜電流の変化値を算出した.なお,BAPTA-AM(最終濃度3,10あるいは30μM)は,ジクアホソル(10μM)の添加前に60分間反応させた.6.統計解析EXSAS(アーム,大阪)を用いて,5%を有意水準として解析した.2群比較の場合は,基剤群に対するStudentのt検定,3群以上の比較には,基剤群に対するDunnettの多重比較検定を実施した.(127)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111031II結果1.正常ウサギにおける涙液分泌促進作用ジクアホソルの正常ウサギにおける涙液分泌促進作用について検討した.経時的検討では,8.5%ジクアホソル点眼液の点眼5分後からSchirmer試験値は増加し,点眼5,15および30分後において,基剤群に比し有意に増加した(5分:p<0.01,15分:p<0.01,30分:p<0.05).Schirmer試験値は点眼15分後に最大値を示し,その後Schirmer試験値は減少した(図1a).点眼15分後における用量依存性の検討では,ジクアホソル点眼液は,用量依存的にSchirmer試験値を増加させ,基剤点眼に比し0.3%点眼で約2倍,1?8.5%では約3倍と用量依存的に増加し,1%の用量で効果はプラトーに達した.その効果は基剤群に比し0.3%以上の用量で有意であった(0.3%:p<0.05,1.0%,3.0%および8.5%:p<0.01)(図1b).また,ジクアホソル点眼液点眼後の涙液中蛋白質濃度は,いずれの用量においても約30mg/mLであり,基剤群と有意な差は認められなかった(図2a).さらに,涙液中蛋白質量は,ジクアホソル点眼液の用量に依存して増加し,その効果は1%および3%において有意であった(1%および3%:p<0.01)(図2b).2.涙腺組織からの蛋白質分泌作用に及ぼす影響ジクアホソルの涙腺への反応性の有無を確認する目的で,ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌に及ぼす影響について検討した.図3に示すように,陽性対照薬である100μMカルバコール溶液は,0?20分間の反応において,ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌率を有意に増加させた(p<0.05).一方,1?1,000μMのジクアホソル溶液を反応させた場合は,60分間のいずれの測定時間においても,ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌率に何ら影響を及ぼさなかった.3.結膜組織における膜電流の上昇作用およびカルシウムキレート剤の影響結膜組織からの水分輸送(分泌)速度は,結膜組織における膜電流の変化値と相関することが報告されている8)ことより,ジクアホソルによるウサギ結膜組織の膜電流の変化値を測定した.表1に示すように,膜電流の変化値は,10μMジクアホソル溶液の添加により上昇し,100μMジクアホソル溶液でさらに上昇した.また,10μMジクアホソル溶液による膜電流の促進作用は,カルシウムキレート剤であるBAPTA-AM3,10あるいは30μMの前処理により,濃度依存的に抑制された.その抑制作用は,10μM以上のBAPTA-AMにより有意であった(10μM:p<0.05,30点眼後の時間(分)Schirmer試験値(mm)無処置5無処置***♯♯♯**153060ジクアホソル(%)20151050基剤0.10.3138.5■:基剤■:8.5%ジクアホソルaSchirmer試験値(mm)20151050b図1正常ウサギにおけるジクアホソル点眼液の涙液分泌促進作用a:経時的変化,b:用量依存性.各値は6眼の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01(Studentのt検定).#:p<0.05,##:p<0.01(Dunnettの多重比較検定).****ジクアホソル(%)ジクアホソル(%)50403020100基剤0.313基剤0.313a蛋白質量(μg)蛋白質濃度(mg/mL)4003002001000b図2正常ウサギにおけるジクアホソル点眼液による涙液中蛋白質分泌促進作用a:蛋白質濃度,b:蛋白質量.基剤および1%点眼群は9眼,0.3および3%点眼群は10眼の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,基剤群との比較(Dunnettの多重比較検定).1032あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(128)μM:p<0.01)(図4).III考按ジクアホソルは,Yerxaら5)によりドライアイ治療において重要な作用の一つである涙液の分泌を誘導させることが報告されている.今回の試験でも,Yerxaら5)の報告と同様に正常ウサギにジクアホソル点眼液を点眼することで,涙液量を示すSchirmer試験値は用量依存的に上昇した.しかし,その作用機序については十分に解明されていない.そこで,ジクアホソルの涙液分泌促進機序を明らかにする目的で,ジクアホソルの作用部位について検討した.ジクアホソルの点眼により,涙液量は増加するにもかかわらず,涙液中蛋白質濃度には影響なく,蛋白質量は増加することから,ジクアホソルは水分だけでなく蛋白質の分泌も促進していると考えられた.水分および蛋白質の分泌が可能な組織としては,涙腺組織が考えられる.そこで,ジクアホソルの作用部位として,涙腺の可能性を検討する目的で,正常ウサギ涙腺組織におけるジクアホソルの蛋白質分泌について検討した.しかし,ジクアホソルを涙腺組織に1,000μMまで作用させても,対照薬として用いたカルバコールのような蛋白質分泌促進作用を示さなかった.また,ジクアホソルは,これまでに報告されている涙腺摘出ラットドライアイモデル,すなわち涙腺が存在しない動物モデルにおいても涙液分泌促進作用を示すことより9),ジクアホソルは,涙腺以外の部位に作用している可能性が高いと考えられた.P2Y2受容体は,アカゲザルの眼瞼および眼球結膜組織において,杯細胞を含む結膜上皮細胞,マイボーム腺脂肪細胞およびマイボーム腺導管上皮細胞での発現が認められている10).また,Candiaら11)は,角結膜上皮層から眼表面への水分輸送機能について報告していることから,つぎに作用部位として,結膜組織の可能性について検討した.Liら8)の報告同様,今回の検討でもジクアホソルによりウサギ結膜組織の膜電流の上昇作用が認められ,水分の分泌促進作用が示唆された.また,ジクアホソルは,ウサギ結膜上皮からの糖蛋白質(過ヨウ素酸Schiff染色陽性蛋白質)の分泌を促進することも報告されている12).したがって,ジクアホソルは,水分および涙液成分の分泌促進作用を示すためのおもな作用部位は,結膜組織,すなわち結膜上皮細胞であると考えられた.P2Y2受容体作動薬は,ヒト線維芽細胞において,G蛋白を介してホスホリパーゼCを活性化し,イノシトール3リン酸を生成した結果,細胞内小胞体からのカルシウムイオンの放出を誘導し,細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる13).また,ヒト角膜上皮細胞において,細胞内カルシウムイオンが上皮側に存在するカルシウム依存性Clイオンチャンネルを開口し,細胞内のClイオンを涙液側に輸送した結果生じる浸透圧差により,上皮側への水分分泌を促進する14).さらに,筆者らは初代培養ウサギ結膜上皮細胞においてジクアホソルが濃度依存的に細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させることを確認している15).したがって,本試験では,結膜組織におけるジクアホソルの水分分泌促進作用に及ぼすカルシウムイオンの関与を明らかにする目的で,ウサギ結膜組織を用いてジクアホソルにより上昇した膜電流値,すなわち水分分泌促進作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響につい培養時間(分)30020010000~2020~4040~60蛋白質分泌率(%)■:基剤■:1μMジクアホソル■:10μMジクアホソル■:100μMジクアホソル■:1,000μMジクアホソル■:100μMカルバコール*図3正常ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌率に及ぼすジクアホソルの影響各値は5例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,基剤群との比較(Studentのt検定).BAPTA-AM(μM)膜電流の変化(μA/cm2)201510500310*30**図4正常ウサギ結膜組織におけるジクアホソルによる膜電流上昇作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響各値は5例の平均値±標準誤差を示す.BAPTA-AMは,10μMジクアホソル添加前に60分間反応させた.*:p<0.05,**:p<0.01,基剤(0μMBAPTA-AM)群との比較(Dunnettの多重比較検定).表1正常ウサギ結膜組織におけるジクアホソルの膜電流上昇作用群用量(μM)例数膜電流の変化(μA/cm2)ジクアホソル10811.91±0.64ジクアホソル100518.60±1.62各値は平均±標準誤差を示す.(129)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111033て検討した.その結果,ジクアホソルによる膜電流値の上昇作用は,BAPTA-AMの前処理により濃度依存的に抑制された.したがって,ジクアホソルの水分分泌促進機序にも,結膜細胞の細胞内カルシウムイオンが関与していることが示唆された.以上より,ジクアホソルは,涙腺に対する作用は完全に否定できないものの,おもに結膜上皮細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,細胞膜上のClイオンチャンネルが開口し,Clイオンの輸送に伴い水分の分泌を誘導すると考えられた.本作用機序は,ドライアイの治療に用いられている人工涙液あるいはヒアルロン酸ナトリウム点眼液には認められないものであり,ジクアホソルを主成分とする点眼液は,新規作用機序を有するドライアイ治療薬として,その効果が期待される.文献1)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,19942)高村悦子:ドライアイのオーバービュー.FrontiersinDryEye1:65-68,20063)CrookeA,Guzman-AranguezA,PeralAetal:Nucleotidesinocularsecretions:theirroleinocularphysiology.PharmacolTher119:55-73,20084)PendergastW,YerxaBR,DouglassJG3rdetal:SynthesisandP2Yreceptoractivityofaseriesofuridinedinucleoside5¢-polyphosphates.BioorgMedChemLett22:157-160,20015)YerxaBR,DouglassJG,ElenaPPetal:PotencyanddurationofactionofsyntheticP2Y2receptoragonistsonSchirmerscoresinrabbits.AdvExpMedBiol506:261-265,20026)NakamuraM,TadaY,AkaishiTetal:M3muscarinicreceptormediatesregulationofproteinsecretioninrabbitlacrimalgland.CurrEyeRes16:614-619,19977)KompellaU,KimK,LeeVL:Activechloridetransportinthepigmentedrabbitconjunctiva.CurrEyeRes12:1041-1048,19938)LiY,KuangK,YerxaBetal:Rabbitconjunctivalepitheliumtransportsfluid,andP2Y2receptoragonistsstimulateCl?andfluidsecretion.AmJPhysiolCellPhysiol281:C595-602,20019)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y2agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,200110)CowlenMS,ZhangVZ,WarnockLetal:LocalizationofocularP2Y2receptorgeneexpressionbyinsituhybridization.ExpEyeRes77:77-84,200311)CandiaOA,ShiXP,AlvarezLJ:Reductioninwaterpermeability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ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(87)543《原著》あたらしい眼科28(4):543.548,2011c〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPANジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用七條優子篠宮克彦勝田修中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターStimulatoryActionofDiquafosolTetrasodiumonMucin-likeGlycoproteinSecretioninRabbitConjunctivalTissuesYukoTakaoka-Shichijo,KatsuhikoShinomiya,OsamuKatsutaandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.ジクアホソルナトリウムの眼表面からのムチン分泌促進機序についてコムギ胚芽由来(WGA)レクチンを用いた酵素免疫法(enzymelinked-lectinassay:ELLA)にて検討した.WGAレクチンは,ウサギ結膜組織上皮層の杯細胞内の粘液に結合し,ウサギ結膜培養上清液中の200kDa以上の分子と高い親和性を示し,ムチン様糖蛋白質に対して高い特異性を有することが示唆された.WGAレクチンを用いたELLAにおいて,ジクアホソルナトリウムは,ウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌を濃度依存的に上昇させた.また,ジクアホソルナトリウムは,ウサギ培養結膜上皮細胞内のカルシウムイオン濃度を濃度依存的に上昇させ,カルシウムイオン濃度の上昇作用を抑制する濃度のカルシウムキレート剤は,ウサギ結膜組織からのジクアホソルナトリウムによるムチン様糖蛋白質の分泌促進作用を抑制した.したがって,ジクアホソルナトリウムは,結膜杯細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を介して,ムチン様糖蛋白質分泌を促進すると考えられた.Thisstudyinvestigatedthestimulatoryactionofdiquafosoltetrasodium(P2Y2receptoragonist)onmucin-likeglycoproteinsecretioninrabbitconjunctivaltissues,usingenzyme-linkedlectinassay(ELLA)withwheatgermagglutinin(WGA)lectin.Inhistochemicalanalysis,mucusinthegobletcellsshowedpositivereactivitytostainingwithWGAlectin.Lectin-blotanalysisshowedthatthemolecularweightsofmostWGA-bindingglycoproteinsinculturedsupernatantsofconjunctivaltissueswerelargerthan200kDa.TheseresultssuggestedthatWGAlectinmightbehighlyspecifictomucin-likeglycoproteinsinconjunctiva.Theadditionofdiquafosoltetrasodiumtoculturedrabbitconjunctivaltissuesresultedinaconcentration-andtime-dependentincreaseinthesecretionofmucin-likeglycoproteins.Diquafosoltetrasodiumincreasedtheintracellularcalciumconcentrationintheconjunctivalepithelialcellsinaconcentration-dependentmanner.Inaddition,thisstimulatoryactionofdiquafosoltetrasodiumonmucin-likeglycoproteinsecretionwasinhibitedbypretreatmentwiththecalciumchelatingagent,atthesamedosethatdecreasedtheintracellularcalciumconcentrationincreasebydiquafosoltetrasodium.Theseresultssuggestthatdiquafosoltetrasodiumstimulatesthesecretionofmucin-likeglycoproteinsfromrabbitconjunctivaltissueviatheintracellularcalciumpathway,afterbindingtoP2Y2receptorsontheconjunctivalgobletcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):543.548,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,ムチン様糖蛋白質分泌,細胞内カルシウム,ウサギ結膜組織.diquafosoltetrasodium,P2Y2receptoragonist,mucin-likeglycoproteinsecretion,intracellularcalcium,rabbitconjunctivaltissues.544あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(88)はじめにムチンとは,多数のO-グリカンと結合した20万以上の分子量を示す高分子糖蛋白質の総称である.眼表面におけるムチンには,角結膜上皮細胞膜に存在している膜結合型ムチンと,結膜杯細胞から分泌される分泌型ムチンの2つに大別される.分泌型ムチンは,涙液3層(油層,水層,ムチン層)のうち,ムチン層の主成分であり,膜結合型ムチンと協働し,眼表面の保湿・保水作用,非接着分子として閉瞼時の眼瞼結膜上皮と角膜上皮の癒着防止作用,感染防御および拡散障壁作用など,重要な役割を果たしている1).渡辺2)は,涙液が眼表面上で広がるためには,分子量が大きく粘性の高い分泌型ムチンの存在が必要であり,分泌型ムチンの減少は,眼表面上皮層のどこかにムチン層でカバーしきれない部分を生じさせ,水層の表面張力の低下による涙液の安定化が損なわれ,涙液層破壊時間の短縮,ひいては角結膜上皮障害を誘導すると報告している.また,角結膜上皮障害を伴うSjogren症候群患者では,健常人に比して結膜上皮における分泌型ムチン(MUC5AC)の発現量が減少していることも報告されている3).さらに,ドライアイ患者に精製ムチン溶液を点眼することで,角結膜上皮障害が改善することも報告されている4).したがって,ドライアイ治療には,分泌型ムチンを涙液のムチン層へ補充することが効果的であると考えられる.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に対してアゴニスト作用を有するジヌクレオチド誘導体である5).アカゲザルにおいて,P2Y2受容体は,結膜上皮細胞(杯細胞を含む)での発現が確認されており6),Fujiharaら7,8)は,invivoにてジクアホソルナトリウムが正常ウサギおよび正常ラットの結膜組織から糖蛋白質(ムチン)の分泌を促進することを報告している.本研究では,ウサギ結膜組織から分泌された糖蛋白質を定量的に評価できる系,enzyme-linkedlectinassay(ELLA)を用いてジクアホソルナトリウムの結膜組織からの糖蛋白質分泌促進作用およびその機序について検討した.I実験方法1.ジクアホソルナトリウム溶液の調製ヤマサ醤油にて製造されたジクアホソルナトリム(ジクアホソル)は,各試験に用いる溶媒,normalbicarbonatedRinger’ssolution(BR;111.5mMNaCl,4.8mMKCl,0.75mMNaH2PO4,29.2mMNaHCO3,1.04mMCaCl・2H2O,0.74mMMgCl2・6H2O,5.0mMd-glucose)およびMaullem’sbuffer(140mMNaCl,5mMKCl,10mMTrisbase,10mMHEPES,1.5mMCaCl2・2H2O,1mMMgCl2・6H2O,5mMd-glucose,5mMpyruvicacid,0.1%ウシ血清アルブミン)にて溶解した.2.ウサギ結膜摘出日本白色ウサギにネンブタール注射液(大日本住友製薬)を静脈注射にて全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.ケイセイ替刃メスを用いて眼窩周囲に切り込みを入れ,眼窩との結合組織を.離させ,ハサミを用いて外眼筋および視神経を切断し,眼球が付いた状態で結膜を分離・摘出した.なお,本研究は,「動物実験倫理規程」,「動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.ウサギ結膜組織片作製眼瞼周囲の皮膚組織をハサミで切除し,結膜組織を広げ,4mm径トレパン(貝印)で打ち抜いて結膜組織片を作製した.BR中に,結膜組織片を入れ,5%CO2,37℃にて30分間安定化させた後,ムチン様糖蛋白質の解析あるいは定量に用いた.4.コムギ胚芽由来(WGA)レクチンの特異性a.組織学的検討WGAレクチンと結合する糖蛋白質の結膜上皮層での局在について組織学的に検討した.周囲の余分な脂肪,筋組織を除去した結膜組織を10%中性緩衝ホルマリン(pH7.2.7.4)にて室温で浸漬固定した.パラフィン包埋を行った後,約3μmの連続切片を薄切した.定法に従って過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色およびビオチン化標識WGAレクチン(Vector)とホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識アビジン(DAKO)を用いたWGAレクチン染色を行った.陰性対照には,WGAの特異的結合糖であるChitin(WAKO)の飽和溶液でWGAを吸収させた溶液を用いた.b.レクチンブロットWGAレクチンと結合する糖蛋白質の分子量を検討する目的で,ウサギ結膜組織培養上清液をSDS(sodiumdodecylsulfate)ゲルにて電気泳動し,レクチンブロットを実施した.すなわち,安定化させた結膜組織片を新たなBR中に入れ,5%CO2,37℃の条件で24時間培養した.セントリコン(Millipore)にて濃縮したサンプルをLaemmliSampleBuffer(BioRad)と混合し,95℃,5分間加熱処理した後,電気泳動し,PVDF(ポリビリニデンジフルオライド)膜にブロッティングした.洗浄液〔TBS(Tris-bufferedsaline)含有0.1%Tween20〕,ブロッキング液(1%ウシ血清アルブミン含有洗浄液)処理後,ビオチン化標識WGAレクチンおよびHRP標識アビジンを反応させた.最後に,ECL(enhancedchemiluminescent)westernblotdetectionreagent(Amersham)に浸して反応させ,Filmに感光して現像した.なお,陽性対照としてウシ顎下腺ムチン(Sigma)を用いた.(89)あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115455.Enzymelinked.lectinassay(ELLA)によるムチン様糖蛋白質濃度測定安定化させた結膜組織片を各濃度の被験薬中に入れ,5%CO2,37℃の条件で所定の時間培養した.96穴マイクロプレートに検量線用のムチン(ウシ顎下腺ムチン)溶液および組織片培養上清液を添加し,固相化した.ビオチン化標識WGAレクチン,HRP標識アビジンに続き,tetramethylbenzidine溶液(Sigma)と反応させた後,マイクロプレートリーダーにて波長450nmの吸光度を測定した.カルシウムキレート剤の影響を検討する際は,1,2-bis-(o-aminophenoxy)ethane-N,N,N¢,N¢-tetraaceticacidtetra-(acetoxymethyl)ester:(BAPTA-AM:Calbiochem)をジクアホソルの添加前に60分間反応させ,培養上清液の回収は,ジクアホソル添加90分後に行った.6.結膜上皮細胞の単離結膜上皮細胞内のカルシウム濃度を測定する目的で,ウサギ結膜組織を摘出し,上皮細胞を単離した.すなわち摘出したウサギ結膜組織を約5mm四方に細切した後,1.2U/mLディスパーゼIIにて処理をした.結膜上皮層をコリブリ鑷子で回収し,トリプシン/EDTA(エチレンジアミン四酢酸)処理をした後,培養培地(15%FBS,5μg/mLinsulin,10ng/mLhumanEGF,40μg/mLgentamicininDMEM/F-12)にて,37℃,5%CO2の条件下で培養した.7.細胞内カルシウムイオン濃度測定単離2.4日後の結膜上皮細胞の培養培地をMaullem’sbufferに置換し,Kageyamaら9)の方法に従い,細胞内のカルシウムイオン濃度を測定した.すなわち,結膜上皮細胞は,5μMFura-2AM(WAKO)溶液にて30分間以上,37℃,5%CO2にて培養した.その後,再びMaullem’sbufferに置換し,被験薬を添加した後のFura-2の蛍光(340nmおよび380nm)強度を測定し,MetaFlourver.6.0.1を用いて,340nm/380nmの比を指標に細胞内のカルシウムイオン濃度を算出した.カルシウムキレート剤の影響を検討する際は,ジクアホソルの添加前にBAPTA-AMを60分間反応させた.8.統計解析EXSAS(アーム)を用いて,5%を有意水準として解析した.2群比較の場合は,薬剤無添加群に対するStudentのt検定,3群以上の比較には,薬剤無添加群に対するDunnettの多重比較検定を実施した.II結果1.WGAレクチンの特異性WGAレクチンと特異的に結合する糖蛋白質の局在を知る目的で,ウサギの結膜組織を用いて,WGAレクチンと反応する部位を組織学的に検討した.図1に示すように,PAS(図1a)およびWGA(図1b)陽性部位が,結膜の杯細胞中の粘液に認められた.また,WGAの反応は,特異的結合糖(N-acetyl-glucosamine)のポリマーであるChitinによって阻害された(図1c).したがって,WGAレクチンは,結膜杯細胞中の糖蛋白質と特異的に反応することが明らかになった.ウサギの結膜組織を培養した上清液に含まれるWGAレクチンと結合する糖蛋白質の分子量を明らかにする目的で,WGAレクチンによるレクチンブロットにて解析した.図2に示すように,陽性対照であるウシ顎下腺ムチンと同様,結膜組織培養上清液においても大部分が200kDa以上であった.したがって,WGAレクチンは高分子糖蛋白質,すなわちムチン様糖蛋白質に特異的に結合することが示唆された.2.摘出結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用ムチン様糖蛋白質濃度を測定できるWGAレクチンを用いたELLAで,ジクアホソルの結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用について検討した.図3に示すように,ジabc図1ウサギ結膜組織のPASおよびWGAレクチン染色像a:PAS染色,b:WGA染色,c:Chitin処理後のWGA染色.546あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(90)クアホソルの添加により,作用時間に依存して,培養上清中のムチン様糖蛋白質濃度は上昇した.また,その上昇作用は,いずれの培養時間においても薬剤無添加群に比し有意であった(図3a).濃度依存性の検討では,培養時間90分間の条件で,ジクアホソルによるムチン様糖蛋白質分泌は,濃度依存的に促進された(図3b).その効果は,ジクアホソル無添加群に比し10μM以上で有意であった.3.結膜上皮細胞内のカルシウムイオン濃度上昇作用ジクアホソルの結膜上皮細胞内のカルシウムイオン濃度に及ぼす影響について検討した.図4aに示すように,1.1,000μMジクアホソル溶液は,結膜上皮細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を濃度依存的に上昇させ,100μMでほぼ最大反応であった.また,その上昇作用は,10μM以上の濃度でジクアホソル無添加群に比して有意であった.一方,図4bに示すように,100μMジクアホソル溶液による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇作用は,3,10あるいは30μMBAPTA-AMの前処理により,濃度依存的に抑制された.また,その抑制作用は,10μM以上のBAPTA-AMの処理(kDa)12250150100755037図2ウサギ結膜組織培養上清中のWGAレクチン結合糖蛋白質の分子量分布レーン1:ウシ顎下腺ムチン.レーン2:ウサギ結膜組織培養上清液.培養時間(分)3001101001,0004.03.02.01.00.03.02.01.00.06090120ムチン様糖蛋白質濃度(μg/mL)ムチン様糖蛋白質濃度(μg/mL)ジクアホソル(μM)ab######□:薬剤無添加■:100μMジクアホソル******図3ウサギ結膜組織におけるジクアホソルのムチン様糖蛋白質分泌促進作用―作用時間(a)および濃度依存性(b)a:各値は3あるいは4例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01,薬剤無添加群との比較(Studentのt検定).b:各値は4例の平均値±標準誤差を示す.ジクアホソルは,90分間反応させた.##:p<0.01,ジクアホソル無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定).ジクアホソル(μM)細胞内カルシウムイオン濃度(nM)細胞内カルシウムイオン濃度(nM)BAPTA-AM(μM)00310301101001,0001,00080060040020001,0008006004002000####******ab図4ウサギ培養結膜上皮細胞におけるジクアホソルによる細胞内カルシウムイオン濃度上昇作用(a)およびカルシウムキレート剤の影響(b)a:各値は4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,ジクアホソル無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定)b:各値は4例の平均値±標準誤差を示す.BAPTA-AMは,100μMジクアホソル添加前に60分間反応させた.##:p<0.01,BAPTA-AM無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定)(91)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011547により,BAPTA-AM無添加群に比して有意であった.4.ムチン様糖蛋白質分泌促進作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響ジクアホソルによる摘出結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用の機序を解明する目的で,カルシウムキレート剤の影響について検討した.表1に示す変化率は,各濃度のBAPTA-AM群において,100μMジクアホソル添加群によるムチン様糖蛋白質濃度をジクアホソル無添加群によるムチン様糖蛋白質濃度で除した値である.ジクアホソルの添加により,上清中のムチン様糖蛋白質濃度は約2.7倍上昇した.また,その上昇作用は,BAPTA-AMの前処理により濃度依存的に抑制され,その抑制作用は,10μMBAPTA-AM以上でBAPTA-AM無処理群に比して有意であった.III考按これまでに,Fujiharaら7,8)は,ウサギあるいはラットにジクアホソルを点眼することで,結膜上皮組織からのPAS陽性糖蛋白質(ムチン)の分泌が促進されることを組織学的な検討により報告している.しかし,その評価系は,invivoの試験であり,かつ手順が煩雑であるため,ジクアホソルのムチン分泌促進作用機序の検討を困難にしていた.Jumblattら10)は,ヒト結膜組織から分泌されたムチン量をレクチンによるドットブロットにて定量的に測定することを可能にした.そこで,Jumblattらの方法を参考に,今回筆者らは,被験サンプルをマイクロプレートに固相化させ,O-グリカン(N-acetyl-glucosamine)と特異的に結合するWGAレクチンを用いたELLA法で被験サンプル中のWGAレクチン結合性糖蛋白質濃度を定量的に測定する系を用いた.また,本ELLAの特異性を検討する目的で,WGAレクチンによるELLAにて検出される糖蛋白質の解析を行った.組織学的検討結果により,WGAレクチンと結合する糖蛋白質の局在は,結膜上皮組織中の杯細胞内であり,PAS陽性部位に一致していることが示された.また,レクチンブロットの結果,WGAレクチンと結合する蛋白質の分子量は,陽性対照の顎下腺ムチンと同様200kDa以上であった.したがって,WGAレクチンは,結膜杯細胞内の200kD以上の糖蛋白質,すなわちムチン様糖蛋白質に特異性が高いことが示された.つぎに,本ELLAを用いてジクアホソルのムチン分泌促進作用について検討した.ウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質は,ジクアホソルの添加により,濃度依存的かつ時間依存的に増加した.Darttら11)は,ラット結膜組織からのムチン分泌は,細胞内のカルシウムイオン濃度に依存することを報告している.また,ヒト鼻腔粘膜上皮細胞において,P2Y2受容体作動薬により上昇した分泌型ムチン量は,カルシウムキレート剤により抑制することが報告されている12).そこで,ジクアホソルの結膜上皮細胞における細胞内カルシウムイオン濃度に及ぼす影響を検討した.その結果,10μM以上のジクアホソルにより,細胞内カルシウムイオン濃度は濃度依存的に上昇した.つぎに,ジクアホソルによるウサギ結膜上皮組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用への細胞内カルシウムイオン濃度の関与について検討した.その結果,ジクアホソルにより上昇した細胞内カルシウムイオン濃度を抑制できる濃度のBAPTA-AM処理により,ジクアホソルによるムチン様糖蛋白質濃度の上昇は抑制された.以上より,ジクアホソルの結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用にも,細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇が関与していることが明らかとなった.これまでに報告されているヒト線維芽細胞におけるP2Y2受容体を介した細胞内カルシウムイオン濃度の上昇説13)を基に結膜組織からのムチン様糖蛋白質の促進機序を考察すると,ジクアホソルが,結膜上皮細胞(杯細胞)上のP2Y2受容体に結合し,G蛋白を介してホスホリパーゼCを活性化し,イノシトール3リン酸を生成した結果,細胞内小胞体からのカルシウムイオンの放出を誘導し,分泌顆粒内に貯蔵されているムチンを分泌すると考えられた.ドライアイに伴う角結膜上皮障害に対する治療には,現在日本では,おもにヒアルロン酸ナトリウム点眼液が使用されている.ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の薬理作用は,角膜上皮伸展促進作用および保水作用である.今回,ジクアホソルは,結膜杯細胞上のP2Y2受容体を介して細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることにより,ムチン様糖蛋白質の分泌を促進することが明らかになった.この作用機序は,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液には認められないものであり,ジクアホソル点眼液は,新規作用機序を有するドライアイ治療薬としてヒアルロン酸ナトリウム点眼液では効果不十分であった病態に対しても治療効果を示すことが期待される.謝辞:本研究に協力いただきました村上忠弘博士,堂田敦義博士に深謝いたします.表1ウサギ摘出結膜組織におけるジクアホソルによるムチンン様糖蛋白質分泌促進作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響BAPTA-AM(μM)変化率(%)031030272.8±12.5242.7±9.9153.3±2.6**123.6±3.0**各値は4例の平均値±標準誤差を示す.BAPTA-AMは,ジクアホソル添加前に60分間反応させた.培養上清液は,ジクアホソル添加90分後に回収した.**p<0.01,BAPTA-AM無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定).548あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011文献1)GovindarajanB,GipsonIK:Membrane-tetheredmucinshavemultiplefunctionsontheocularsurface.ExpEyeRes90:655-663,20102)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1647-1633,19973)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,20024)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,20025)PendergastW,YerxaBR,DouglassJG3rdetal:SynthesisandP2Yreceptoractivityofaseriesofuridinedinucleoside5¢-polyphosphates.BioorgMedChemLett11:157-160,20016)KompellaU,KimK,LeeVL:Activechloridetransportinthepigmentedrabbitconjunctiva.CurrEyeRes12:1041-1048,19937)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20028)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y(2)agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,20019)KageyamaM,FujitaM,ShirasawaE:Endothelin-1mediatedCa2+influxdosenotoccurthroughL-typevoltagedependentCa2+channelsinculturedbovinetrabecularmeshworkcells.JOcularPharmacol12:433-440,199610)JumblattMM,McKenzieRW,JumblattJE:MUC5ACmucinisacomponentofthehumanprecornealtearfilm.InvestOphthalmolVisSci40:43-49,199911)DarttDA,RiosJD,KannoHetal:RegulationofconjunctivalgobletcellsecretionbyCa2+andproteinkinaseC.ExpEyeRes71:619-628,200012)ChoiJY,NamkungW,ShinJHetal:Uridine-5¢-triphosphateandadenosinetriphosphategammaSinducemucinsecretionviaCa2+-dependentpathwaysinhumannasalepithelialcells.ActaOtolaryngol123:1080-1086,200313)FineJ,ColeP,DavidsonJS:Extracellularnucleotidesstimulatereceptor-mediatedcalciummobilizationandinositolphosphateproductioninhumanfibroblasts.BiochemJ263:371-376,1989(92)***

培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)425《原著》あたらしい眼科28(3):425.429,2011cはじめにドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層(水層・ムチン層・油層)構造が崩れ,涙液層の安定性の低下が認められている.涙液層は,水層だけでなく,油層およびムチン層の働きによってその表面張力が下げられることで安定化している.なかでも,ムチン層は,粘性の高い分泌型ムチンと角結膜上皮の表面に発現している膜結合型ムチンが相互に作用し,水層の眼表面への広がりおよび保持に貢献している1).これまでに,眼表面上皮の膜結合型ムチンとして,蛋白質の発現が確認されているのは,MUC1,MUC4およびMUC16であり,ドライアイ治療を考えるうえで,これら3〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用七條優子中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターStimulatoryEffectofDiquafosolTetrasodiumontheExpressionofMembrane-BindingMucinGenesinCulturedHumanCornealEpithelialCellsYukoTakaoka-ShichijoandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)における膜結合型ムチン遺伝子(MUC1,MUC4およびMUC16)の発現に及ぼすP2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムの影響について定量的real-timepolymerasechainreaction(RT-PCR)法を用いて検討した.その結果,HCE-Tに100μMジクアホソルナトリウムを処理することにより,MUC1,MUC4およびMUC16,いずれの遺伝子の発現量も,添加3時間後には一過性に上昇し,その後定常レベルまで減少した.MUC1,MUC4およびMUC16において,添加3時間後の各遺伝子発現促進作用は,無処置群に比べていずれも有意であった.また,ジクアホソルナトリウムは,濃度依存的にMUC1,MUC4およびMUC16の遺伝子発現を促進し,100μMジクアホソルナトリムによるMUC1,MUC4およびMUC16の促進作用は,薬剤無添加群に比べて有意であった.以上から,ジクアホソルナトリウムは,角膜上皮細胞における膜結合型ムチンの遺伝子発現を促進させることが明らかとなった.ThisstudyinvestigatedtheeffectoftheP2Y2receptoragonistdiquafosoltetrasodiumontheexpressionofmembrane-bindingmucingenes(MUC1,MUC4andMUC16)inSV-40-immortalizedhumancornealepithelialcells(HCE-T),usingthequantitativereal-timepolymerasechainreaction(RT-PCR)method.GeneexpressionofMUC1,MUC4andMUC16increasedtransientlywith100μMdiquafosoltetrasodiumfor3h,thendecreasedaswellasconstitutivelevel.ThisenhancementofMUC1,MUC4andMUC16geneexpressionat3hwassignificantlydifferentfromthatseenintheno-treatmentgroup.DiquafosoltetrasodiumincreasedgeneexpressionofMUC1,MUC4andMUC16inaconcentration-dependentmanner,thestimulatoryeffectsofmucingeneexpressionby100μMdiquafosoltetrasodiumdifferingsignificantlyfromthoseseeninthevehicle-onlygroup.Theseresultsrevealedthatdiquafosoltetrasodiumstimulatesgeneexpressionofmembrane-bindingmucininhumancornealepithelialcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):425.429,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,膜結合型ムチン遺伝子,ヒト角膜上皮細胞.diquafosoltetrasodium,P2Y2receptoragonist,membrane-bindingmucingenes,humancornealepithelialcells.426あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(118)種の膜結合型ムチンの眼表面への発現亢進について関心が高まっている2).ドライアイ治療薬の一つで,P2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムは,結膜上皮組織,特に杯細胞からの分泌型ムチンの分泌を促進することが報告されている3,4).一方,ジクアホソルナトリウムの角結膜上皮における膜結合型ムチンの発現に対する作用については明らかにされていない.そこで今回,培養ヒト角膜上皮細胞を用いて,これら膜結合型ムチン(MUC1,MUC4およびMUC16)の発現に及ぼすジクアホソルナトリウムの影響について検討した.I実験方法1.細胞SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T,RCBNo.2280:理化学研究所より供与)は,培養培地〔15%ウシ血清(FBS),5μg/mLinsulin,10ng/mLhumanEGF,40μg/mLgentamicinを含むDMEM/F-12〕にて培養,継代維持した.HCE-Tは,75cm2フラスコ内に播種し,サブコンフルエントまで培養培地にて培養し,0.05%トリプシン.0.53mMEDTAにて.離し,培養培地に回収した.回収した細胞を24穴プレートの各穴に1mL(2.0×104/well)ずつ播種し,37℃,5%CO2インキュベーター内でコンフルエントまで培養した.その後,培養培地を除去し,DMEM/F-12培地に交換し,CO2インキュベーター(37℃,5%CO2)内で24時間培養した.その後,DMEM/F-12培地に溶解した種々濃度のジクアホソルナトリウム(ジクアホソル:ヤマサ醤油)を一定時間処理をした.2.総RNA抽出およびreal.timepolymerasechainreaction(RT.PCR)反応HCE-Tの総RNAの抽出は,RNeasyProtectCellminikit(QIAGEN)を使用し,製造元推奨プロトコールに従い行った.MUC1,MUC16およびGAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素)遺伝子には,50ngの総RNA,MUC4遺伝子には,100ngを用い,QuantiFastSYBRGreenRT-PCRKit(QIAGEN)を使用し,逆転写反応により,初期cDNA合成後,引き続きRT-PCRを行った.PCRには,宝酒造が設計した各種プライマー(表1)1μMを用いて,40サイクル〔50℃:10分,95℃:5分,95℃:10秒.60℃:30秒(40サイクル),95℃:15秒,65℃:1分〕の条件でABIPrism7500FastReal-TimePCRSystemにて増幅させた.3.解析a.相対定量解析検量線用あるいは未知サンプルのPCR増幅産物がある一定量に達したときのサイクル数(thresholdcycle:Ct値)を求め,Ct値と初期cDNA量間の相関式にて,未知サンプル中のcDNA量を算出した.GAPDHの遺伝子発現量により各膜結合型ムチン遺伝子の発現量を補正して相対的に定量化した.最終的に同条件下の薬剤無添加群に対する相対比で表した.b.統計解析EXSAS(アーム)を用いて,時間的変化の検討では,各処理時間におけるジクアホソルの効果を無処理(0時間処理)群に対するDunnettの多重比較検定法,濃度依存性の検討では,薬剤無添加群に対するDunnettの多重比較検定法にて,5%を有意水準として解析した.II結果1.PCR産物の確認HCE-T由来のmRNA(50ng,MUC4に限り100ng)を各種プライマーおよびQuantiFastSYBRGreenRT-PCRKitを用いて増幅させた各種ムチン遺伝子産物の電気泳動像を図1に示す.各種ムチン遺伝子産物(MUC1,MUC4およびMUC16)は,1本のバンドとして増幅され,サイズも予測値と一致しており,良好な増幅条件での反応であると判断できた.表1各種プライマープライマー名配列サイズTakaraPrimersetIDMUC1forwardprimerCCGGGATACCTACCATCCTATGAG124bpHA138064MUC1reverseprimerGCTGCTGCCACCATTACCTGMUC4forwardprimerGAAGACGTGCGCGATGTGA73bpHA057958MUC4reverseprimerCCTTGTAGCCATCGCATCTGAAMUC16forwardprimerCTGCAGAACTTCACCCTGGACA121bpHA125114MUC16reverseprimerCCAAGCCGATGAGGATGACAGAPDHforwardprimerGCACCGTCAAGGCTGAGAAC138bpHA067812GAPDHreverseprimerTGGTGAAGACGCCAGTGGA(119)あたらしい眼科Vol.28,No.3,20114272.MUC1遺伝子発現量最初に,ジクアホソルのHCE-TにおけるMUC1遺伝子発現に対する作用を検討した.図2に示すように,MUC1遺伝子の発現量は,100μMジクアホソルの添加により,添加3時間後に薬剤無添加群に比して約1.5倍に増加し,無処理群に比して有意であった.その後定常レベルまで減少した.また,ジクアホソルの添加3時間後のMUC1遺伝子の発現量は,濃度依存的に増加し,100μMでは,薬剤無添加群に比して有意であった.3.MUC4遺伝子発現量次に,ジクアホソルのHCE-TにおけるMUC4遺伝子発現に対する作用を検討した.基礎検討により増幅効率がMUC1あるいはMUC16に比して低かったので,2倍量の総RNAを用いた.図3に示すように,MUC4遺伝子の発現量は,100μMジクアホソルの添加により,添加3時間後に薬剤無添加群に比して一過性に約2倍まで増加し,無処理群に比して有意であった.その後,定常レベルまで減少した.また,ジクアホソルの添加3時間後のMUC4遺伝子の発現量も,濃度依存的に増加し,100μMでは,薬剤無添加群に比して有意であった.4.MUC16遺伝子発現量図4にジクアホソルのHCE-TにおけるMUC16遺伝子発現に対する作用を示す.MUC16遺伝子の発現量は,100μMジクアホソルの添加により,添加3時間後に薬剤無添加群に比して一過性に約2.5倍まで増加し,無処理群に比して有意であった.その後,定常レベルまで減少した.また,ジクアホソルの添加3時間後のMUC16遺伝子の発現量は,MUC1およびMUC4と同様,濃度依存的に増加し,100μMでは,薬剤無添加群に比して有意であった.III考按眼表面での蛋白質発現が認められている膜結合型ムチン,MUC1,MUC4およびMUC16は,細胞内ドメインと多量の糖鎖をもつ高分子蛋白質の細胞外ドメインより成る.これらムチンの細胞外ドメインは,3種間に若干の構造上の差異はあるものの,その機能は類似しており,親水性の糖鎖による保潤・保水効果,非接着分子機能による閉瞼時の眼瞼結膜上皮と角膜上皮の癒着防止効果,分泌型ムチンとの糖衣バリアーの形成による感染防御効果およびローズベンガル染色液に対しての拡散障壁効果などを担っており,眼表面から膜結合型ムチンが欠乏することは,ドライアイの発症および悪化をもたらすと考えられている2).今回,ジクアホソルが,培養ヒト角膜上皮細胞において,MUC1,MUC4およびMUC16,いずれの膜結合型ムチン遺伝子の発現を亢進する123451,000bp500bp200bp100bp図1各種プライマーを用いたPCR増幅産物の電気泳動パターンレーン1:マーカー,レーン2:MUC1(124bp),レーン3:MUC4(73bp),レーン4:MUC16(121bp),レーン5:GAPDH(138bp).ab01230110100ジクアホソル(μM)MUC1遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)**01230361224培養時間(時間)MUC1遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)**図2ジクアホソルのHCE.TにおけるMUC1mRNA発現促進作用各値は,薬剤無添加群に対する比率として算出した.a:100μMジクアホソル溶液を処理.各値は4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,無処理(0時間処理)群との比較(Dunnettの多重比較検定).b:各濃度のジクアホソル溶液を3時間処理.各値は4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Dunnettの多重比較検定).428あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(120)ことを明らかにした.ジクアホソルは,2つのヌクレオチドから成る分子量約880の化合物である.成長因子などの生理活性物質が眼表面に作用を示すinvitroとinvivoの濃度差は100.1,000倍であるという報告5)を参考に,今回(invitro)の膜結合型ムチン遺伝子の発現亢進を示す濃度(100μM)を,実際の臨床(invivo)で効果を発現すると考えられる濃度に換算すると0.88.8.8%(10.100mM)となる.ラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルでのジクアホソルの角膜上皮障害改善作用は1%(11mM)で最大効果を示すこと4)から,今回の得られたinvitroの濃度は実際のinvivoでの効果にも十分反映しているものと考えられ,臨床的にも1%以上のジクアホソル濃度であれば臨床効果に寄与するものと考えられた.横井6)は,ドライアイの病態の構築は,涙液層および角結膜上皮層異常の慢性化,すなわち①瞬目の摩擦,②涙液の減少,③涙液の安定性の低下,④炎症および⑤涙液動態の障害にあるとしている.これらリスクファクターへの治療の切り口として,②に対しては,涙液の分泌を促進するあるいは眼表面の水分量を増加させること,③に対しては,涙液3層の質あるいは量を正常化すること,④に対しては,原因となるリスクファクター(マイボーム腺機能不全症,Sjogren症候群,アレルギー性結膜炎あるいは感染による炎症など)を看破することあるいは涙液の浸透圧を正常化することをあげている.また,①に対しては,摩擦の原因と考えられる眼表面の凹凸を減少させるための外科的治療に加え,角結膜の癒着を減少させる潤滑作用を示すムチン層の正常化を目的にした治療がなされている7).現在,ドライアイの治療には,人工涙液あるいはヒアルロン酸ナトリウム点眼液が用いられている.人工涙液は,涙液の減少に対して一時的な水分補給あるいは一部涙液のクリアランスを促進するウォッシュアウト(上記②,⑤に対する治療)に,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は,角結膜上皮障害改善作用に加えて,涙液の減少に対する水分補給あるいはその三次構造に基づく保水性による涙液層の安定化作用(上記01230110100ジクアホソル(μM)MUC4遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)*01230361224培養時間(時間)MUC4遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)*ab図3ジクアホソルのHCE.TにおけるMUC4mRNA発現促進作用各値は,薬剤無添加群に対する比率として算出した.a:100μMジクアホソル溶液を処理.各値は,3あるいは4例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,無処理(0時間処理)群との比較(Dunnettの多重比較検定).b:各濃度のジクアホソル溶液を3時間処理.各値は4例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Dunnettの多重比較検定).012340361224培養時間(時間)MUC16遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)**012340110100ジクアホソル(μM)MUC16遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)**ab図4ジクアホソルのHCE.TにおけるMUC16mRNA発現促進作用各値は,薬剤無添加群に対する比率として算出した.a:100μMジクアホソル溶液を処理.各値は,3あるいは4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,無処理(0時間処理)群との比較(Dunnettの多重比較検定).b:各濃度のジクアホソル溶液を3時間処理.各値は4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Dunnettの多重比較検定).(121)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011429②,③に対する治療)に期待されている.しかし,これら治療に対しても十分な効果が得られない症例もある.ジクアホソルは,これまでに報告されている涙液の分泌促進作用4,8,9),分泌型ムチンの分泌促進作用3,4)に加えて,今回新たに膜結合型ムチンの発現促進作用を有する可能性が示唆された.このことは,ジクアホソルを含む点眼液が上記②,③ばかりでなく,非接着分子による摩擦の低下作用あるいは感染源の眼表面への侵入防止作用により①あるいは④のリスクファクターに対しても治療効果をもたらすと考えられる.今後,さらに細胞膜上の蛋白質発現量に及ぼす影響を検討する必要があるものの,今回の結果は,ジクアホソルが,分泌型ムチンの分泌促進作用3,4)だけでなく,膜結合型ムチンの角結膜上皮細胞上の蛋白質発現を促進している可能性を示唆している.したがって,ジクアホソル点眼液は,既存薬では,十分効果を示さない症例に対して有効性を示す可能性が考えられ,ドライアイ患者に対する有用な新しい治療剤として期待される.文献1)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1647-1633,19972)GovindarajanB,GipsonIK:Membrane-tetheredmucinshavemultiplefunctionsontheocularsurface.ExpEyeRes90:655-663,20103)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20024)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y(2)agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,20015)SotozonoC,InatomiT,NakamuraMetal:Keratinocytegrowthfactoracceleratescornealepithelialwoundhealinginvivo.InvestOphthalmolVisSci36:1524-1529,19956)横井則彦:ドライアイ.あたらしい眼科25:291-296,20087)加冶優一,横井則彦,大鹿哲郎:結膜疾患とドライアイ.あたらしい眼科22:317-322,20058)YerxaBR,DouglassJG,ElenaPPetal:PotencyanddurationofactionofsyntheticP2Y2receptoragonistsonSchirmerscoresinrabbits.AdvExpMedBiol506:261-265,20029)MurakamiT,FujitaH,FujiharaTetal:Novelnoninvasivesensitivedeterminationoftearvolumechangesinnormalcats.OphthalmicRes34:371-374,2002***

ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(107)261《原著》あたらしい眼科28(2):261.265,2011cはじめに眼表面における分泌型ムチンの一種であるMUC5ACは,結膜上皮組織内の杯細胞において生合成・貯蔵される高分子糖蛋白質であり,豊富なシステイン残基をもつ4つのドメインと大量の糖鎖と結合しているtandemrepeatドメインから成っている.大量の糖鎖は,ブラシ状にコア蛋白質に結合〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPANジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用七條優子阪元明日香中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターEffectofDiquafosolTetrasodiumonMUC5ACSecretionbyRabbitConjunctivalTissuesYukoTakaoka-Shichijo,AsukaSakamotoandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.結膜組織からの分泌型ムチン(MUC5AC)量に及ぼすP2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムの影響を検討する目的で,MUC5ACに特異的なenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)を確立し,ウサギ結膜組織から分泌されるMUC5AC量に及ぼすジクアホソルナトリウムの影響を検討した.また同時に,ヒアルロン酸ナトリウムのMUC5AC分泌に対する作用についても検討した.今回のELISA法に用いた抗MUC5AC抗体(Clone45M1抗体)は,過ヨウ素酸シッフ反応と同様に結膜杯細胞で陽性反応を示し,結膜組織に存在する250kDa以上の蛋白質と親和性の高いことが示された.また,本ELISA法において,結膜組織培養上清液中のMUC5AC量と反応最終検出値との相関性は高く(相関係数0.99),非特異的反応は認められなかった.さらに,ジクアホソルナトリウムは,ウサギ結膜組織からのMUC5ACの分泌を濃度依存的に促進したが,ヒアルロン酸ナトリウムは影響しなかった.以上の成績から,ウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌量は,抗MUC5AC抗体を用いて定量的に測定できることが明らかとなった.また,ジクアホソルナトリウムは,結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用を有するのに対し,ヒアルロン酸ナトリウムは本作用を示さなかった.ToinvestigatetheeffectoftheP2Y2receptoragonistdiquafosoltetrasodiumonthesecretorymucin(MUC5AC)secretionbyconjunctivaltissues,weestablishedtheenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)forMUC5AC.WethenexaminedtheeffectofdiquafosoltetrasodiumonMUC5ACsecretionbyrabbitconjunctiva.Inaddition,westudiedwhetherhyaluronicacidinducedMUC5ACsecretion.Glycoproteininrabbitconjunctivalgobletcellsshowedpositivereactivityforstainingwithanti-MUC5ACantibody(Clone45M1antibody),aswellasforPeriodicacid-Schiffstaining.ThemolecularweightoftheClone45M1antibody-bindingproteinsintheconjunctivaltissuewasgreaterthan250kDa.OntheELISAsystem,MUC5ACconcentrationwashighlycorrelatedwiththefinalreactionvalue(correlationfactor=0.99),andnon-specificreactionwasnotobserved.Theadditionofdiquafosoltetrasodiumtoculturedrabbitconjunctivaltissuesresultedinaconcentration-dependentincreaseinMUC5ACsecretion;theadditionof0.1%hyaluronicaciddidnot.Fromtheseresults,weestablishedamethodofusingELISAtoquantitativelymeasureMUC5ACsecretionbyrabbitconjunctivaltissues,usingtheClone45M1antibody.Furthermore,diquafosoltetrasodiumhadastimulatoryeffectonMUC5ACsecretionbyrabbitconjunctiva,buthyaluronicaciddidnot.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):261.265,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,MUC5AC分泌,ELISA,ウサギ結膜組織.diquafosoltetrasodium,P2Y2receptoragonist,MUC5ACsecretion,ELISA,rabbitconjunctivaltissues.262あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(108)し,ブラシ状部位の一つ一つがジスルフィド結合で重合しているため,MUC5ACは,非常に粘性の高い糖蛋白質であり,膜結合型ムチンと協働して眼表面の涙液保持などに対して重要な役割を担っている1).ドライアイ症状を示すSjogren症候群2)や炎症が強いアレルギー性結膜炎3)のように炎症が慢性化している症例では,結膜上皮におけるMUC5ACの発現が低下しており,MUC5ACの蛋白質レベルでの減少が眼表面の涙液保持の低下,強いては涙液層破壊時間を短縮していると考えられている4).また,ドライアイ患者に精製ムチン溶液を点眼することで,角結膜上皮障害が改善することも報告されている5).したがって,ドライアイ症状の一つである眼表面の涙液保持の低下を改善するためには,眼表面にMUC5ACを補給する必要があると考えられる.ヒアルロン酸ナトリウムは,その薬理作用(角膜上皮伸展作用および保水作用)により,角結膜上皮障害改善薬として幅広く使用されてきた.しかし,ムチンの被覆度が低下している症状に対しての効果が弱いと考えられている6).P2Y2受容体作動薬であるアデノシン三リン酸(ATP)あるいはウリジン三リン酸(UTP)は,ヒト結膜組織からのムチン分泌を促進することが報告されており7),UTPと同程度のP2Y2受容体作動作用を示すジクアホソルナトリウムも,正常ウサギ8)および正常ラット9)の結膜組織から糖蛋白質の分泌を促進することが報告されている.そこで,今回,ウサギ結膜組織から分泌されるMUC5ACを定量的に評価できる系(enzyme-linkedimmunosorbentassay:ELISA)を構築し,その系を用いてジクアホソルナトリウムの結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用について,ヒアルロン酸ナトリウムと比較検討した.I実験方法1.被験溶液の調製法ジクアホソルナトリム(ジクアホソル,ヤマサ醤油)およびヒアルロン酸ナトリウム(キューピー)は,normalbicarbonatedRinger’ssolution(BR:111.5mMNaCl,4.8mMKCl,0.75mMNaH2PO4,29.2mMNaHCO3,1.04mMCaCl・2H2O,0.74mMMgCl2・6H2O,5.0mMD-glucose)にて溶解した.2.ウサギ結膜摘出雄性日本白色ウサギ(北山ラベス)にネンブタール注射液(大日本住友製薬)を1mL/kgになるよう静脈注射して全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.ケイセイ替刃メスを用いて眼窩周囲に切り込みを入れ,眼窩との結合組織を.離させ,ハサミを用いて外眼筋および視神経を切断し,結膜およびその周辺組織部分を分離・摘出した.なお,本研究は,「動物実験倫理規程」,「動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.抗MUC5AC抗体(Clone45M1)の特異性a.組織学的検討摘出した結膜組織を10%中性ホルマリン(pH7.2.7.4)にて室温で浸漬固定した.パラフィン包埋を行った後,約3μmの連続切片を薄切した.過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色および抗MUC5AC抗体(Clone45M1:マウス抗ヒトMUC5AC抗体,NeoMarkers),ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgG(免疫グロブリンG)抗体(DAKO)およびジアミノベンチジン(DAKO)を用いて高分子ポリマー法による免疫組織化学的染色を行った.免疫染色の特異性は,陰性対照抗体として抗マウスIgG抗体(DAKO)を反応させて確認した.b.ウェスタンブロット摘出した結膜組織に組織溶解液(10mMTris,1mMEDTA,1%蛋白分解酵素阻害剤)を加え,ホモジナイズし,遠心(5,000rpm,2分)操作により,上清(ウサギ結膜組織溶解液)を回収した.ウサギ結膜組織溶解液をlaemmlisamplebuffer(Bio-Rad)と混合し,95℃,5分間加熱処理した後,4.20%ポリアクリルアミドゲル(第一化学)にて電気泳動し,PVDF膜にブロッティングを行った.洗浄液(0.05%Tween20含有TBS),ブロッキング液(イムノブロックR:DSファーマバイオメディカル),抗MUC5AC抗体およびHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(ThermoScientific)によりウェスタンブロットを行った.最終,ECLTMwesternblotdetectionreagent(GEHealthcare)に浸して反応させ,Filmに感光して現像した.4.MUC5ACELISA法96穴マイクロプレートに検量線用サンプルおよび被験薬を作用させたウサギ結膜組織培養上清液を添加し,固相化した.その後,Arguesoらの方法2)を参考に,抗MUC5AC抗体,HRP標識ヒツジ抗マウスIgG抗体(GEHealthcare)に続き,tetramethylbenzidine溶液(Sigma)と反応させた後,マイクロプレートリーダーにて波長450nmの吸光度を測定した.なお,検量線用サンプルとして,ウサギ結膜組織を24時間培養した上清液を1,000AU/mLとした2倍公比の希釈列サンプルを用いた.5.ウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌量の測定ウサギより摘出した眼瞼結膜周囲の皮膚組織をハサミで切除し,結膜組織を広げ,4mm径トレパン(貝印)で打ち抜いて結膜組織片を作製した.BR中に,結膜組織片を入れ,5%CO2,37℃にて30分間安定化させた.被験溶液が入った48穴プレートに安定化させた組織片を入れ,5%CO2,37℃,90分間培養した.培養上清液中のMUC5AC量は,「4.MUC5ACELISA法」にて測定した.(109)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112636.統計解析EXSAS(アーム)を用いて,ジクアホソルの作用は,薬剤無添加群に対するDunnettの多重比較検定法,ヒアルロン酸ナトリウムの作用は,薬剤無添加群とのStudentのt検定法にて,5%を有意水準として解析した.II結果1.抗MUC5AC抗体の特異性抗MUC5AC抗体(Clone45M1)が反応する蛋白質の結膜組織での局在および蛋白質分子量分布を検討する目的で,ウサギ結膜組織をClone45M1抗体を用いた免疫染色,ウサギ結膜組織溶解液をウェスタンブロットにて解析した.図1に示すように,PAS染色(図1a)およびClone45M1抗体を用いた免疫染色(図1b)での陽性部位は,結膜の杯細胞中の粘液に認められた.また,陰性対照標本では,陽性部位が認められなかった(図1c).図2に示すように,ウサギ結膜組織中で,Clone45M1抗体と反応する蛋白質の分子量は,250kDa以上であった.2.MUC5ACのELISA法の特異性本ELISA法における抗MUC5AC抗体(Clone45M1)の特異性について,ウサギ結膜組織培養上清液から調製した検量線用サンプルを用いて検討した(図3).検量線用サンプル中のMUC5AC濃度に依存してELISA法における免疫反応および酵素基質反応により検出される吸光度(反応最終検出値)は上昇し,二者間に良好な相関性が認められた(相関係数=0.99).一方,抗MUC5AC抗体を反応させない場合は,高濃度のMUC5ACを含有しているサンプルにおいても,吸光度の上昇は認められなかった.3.ジクアホソルのウサギ結膜組織におけるMUC5AC分泌促進作用-ヒアルロン酸ナトリウムとの比較-図4に示すように,ジクアホソルの添加により培養時間90分の条件で,MUC5ACの分泌は濃度依存的に促進され,その作用は,10μM以上のジクアホソルで薬剤無添加群に比べて有意であった.一方,0.1%ヒアルロン酸ナトリウムabc図1結膜上皮組織のPAS染色および抗MUC5AC抗体による免疫染色像a:PAS染色.b:抗MUC5AC抗体(Clone45M1)による免疫染色.c:抗マウスIgG抗体による免疫染色(陰性対照).○:抗MUC5AC抗体(+)□:抗MUC5AC抗体(-)MUC5AC(AU/mL)吸光度(450nm)2.521.510.501101001,000図3ウサギ結膜組織由来MUC5ACと吸光度の回帰曲線各値は2例の平均値を示す.12kDa2501501007550図2ウサギ結膜組織中の抗MUC5AC抗体と親和性を示す蛋白質の分子量分布レーン1:マーカー,レーン2:ウサギ結膜組織溶解液.264あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(110)はまったく影響を及ぼさなかった.III考按今回,ウサギ結膜組織から分泌されるMUC5AC量を定量的に測定できるELISA法を確立した.ELISA法に用いた抗MUC5AC抗体(Clone45M1抗体)は,ウサギ結膜組織を用いた免疫染色の検討により,PAS陽性部位と同様にウサギ結膜上皮組織の杯細胞内糖蛋白質と結合し,結膜組織溶解液を用いたウェスタンブロットの検討により,250kDa以上の高分子蛋白質と特異的に結合することが明らかとなった.したがって,Clone45M1抗体は,ウサギ結膜組織内のMUC5ACに特異性が高いと考えられる.つぎに,本ELISA法の反応性を確認したところ,MUC5AC含有サンプルとELISA最終検出値間に良好な相関性が得られ,Clone45M1抗体を除く,他の要因による非特異的反応性も認められなかった.したがって,本ELISA法は,MUC5ACに特異性が高く,かつ定量評価可能であると考えられた.さらに,本ELISA法を用いて,ジクアホソルのMUC5AC分泌に対する作用を検討した結果,ジクアホソルは,ウサギ結膜組織からのMUC5ACの分泌を濃度依存的に促進し,その反応性は,10μM以上で薬剤無添加群に比べて有意であった.ジクアホソルのムチン分泌促進作用の反応は,ヒト結膜組織を用いたATPおよびUTPの反応性にほぼ類似しており7),ヒトとウサギ間の種差はほとんどないと考えられる.また,Fujiharaらは,ジクアホソルの点眼がウサギドライアイモデルにおける角膜上皮障害を改善することおよび本改善作用には,結膜上皮層からのPAS陽性蛋白質の分泌促進が関与している可能性を報告している8).したがって,ジクアホソルは,MUC5ACの分泌促進作用を介してドライアイ患者に認められる涙液安定性の低下,ひいては涙液保持の低下などの眼表面の異常を正常化し,角結膜上皮障害の改善作用を示すと考えられる.ヒアルロン酸ナトリウムは,三次元的な網目構造を形成し,大量の水分を保持できることより眼表面での保水性10)およびフィブロネクチンとの結合を介した角膜上皮細胞の接着,伸展作用11)により,ドライアイ患者に対する治療効果も認められ12),角結膜上皮障害の治療薬として汎用されている.しかし,今回の結果からも明らかにされたが,ヒアルロン酸ナトリウムには,ムチン分泌を促進する作用が認められず,眼表面にムチンが被覆していないドライアイ患者では,満足した治療効果を得ることができない可能性が考えられる.今回,ジクアホソルが,ヒアルロン酸ナトリウムでは認められないウサギ結膜杯細胞からのMUC5ACの分泌を促進することを明らかにした.このことは,ジクアホソル点眼液が新規作用機序により,現在ヒアルロン酸ナトリウム点眼液では,効果不十分とされている症例に対しても有効性を示す可能性があり,新規のドライアイ治療薬としての効果が期待される.謝辞:本研究に協力いただきました堂田敦義博士,勝田修博士,篠宮克彦氏に深謝いたします.文献1)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1647-1633,19972)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,20023)DogruM,Asano-KatoN,TanakaMetal:OcularsurfaceandMUC5ACalterationsinatopicpatientswithcornealshieldulcers.CurEyeRes30:897-908,20054)横井則彦:ドライアイ.あたらしい眼科25:291-296,20085)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,20026)ShimmuraS,OnoM,ShinozakiKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,19957)JumblattJE,JumblattMM:RegulationofocularmucinsecretionbyP2Y2nucleotidereceptorsinrabbitandhumanconjunctiva.ExpEyeRes67:341-346,19988)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20020110MUC5AC(AU/mL)ジクアホソル(μM)1001,0000.1HA(%)*****NS4003002001000図4ウサギ結膜組織からのジクアホソルおよびヒアルロン酸ナトリウム(HA)のMUC5AC分泌に及ぼす影響各値は4例の平均値±標準誤差を示す.ジクアホソルおよびHAは,90分間反応させた.*:p<0.05,**:p<0.01,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Dunnettの多重比較検定).NS:有意差なし,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Studentのt検定)(111)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112659)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y(2)agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,200110)NakamuraM,NishidaT,HikidaMetal:Combinedeffectsofhyaluronanandfibronectinoncornealepithelialwoundclosureofrabbitinvivo.CurrEyeRes13:385-388,199411)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,199312)YokoiN,KomuroA,NishidaKetal:Effectivenessofhyaluronanoncornealepithelialbarrierfunctionindryeye.BrJOphthalmol81:533-536,1997***