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正常ウサギの涙液量に対するジクアホソルナトリウム点眼とレバミピド点眼の効果

2013年7月31日 水曜日

《第32回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科30(7):1007.1010,2013c正常ウサギの涙液量に対するジクアホソルナトリウム点眼とレバミピド点眼の効果堀裕一前野貴俊東邦大学医療センター佐倉病院眼科EffectsofDiquafosolOphthalmicSolutionsandRebamipideOphthalmicSuspensiononTearFluidVolumeinNormalRabbitsYuichiHoriandTakatoshiMaenoDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenterジクアホソルナトリウム点眼およびレバミピド点眼のウサギ涙液量に対する効果について比較した.ジクアホソルナトリウム点眼およびレバミピド点眼を単回点眼し,Schirmer値および涙液メニスカス面積値を測定した.点眼10.30分後のジクアホソルナトリウム点眼群のSchirmer値および涙液メニスカス面積値は無点眼群に比べ有意に高値を示した(p<0.01,Dunnettの多重比較検定)が,レバミピド点眼群では無点眼群と同程度であった.また,点眼5.30分後のSchirmer値および涙液メニスカス面積値は,ジクアホソルナトリウム点眼群はレバミピド点眼群に比べ有意に高値を示した(p<0.05,Studentのt検定).以上より,ジクアホソルナトリウム点眼はレバミピド点眼に比べ早期から正常ウサギの涙液量を増加させることが明らかとなった.両剤は,ムチン産生/分泌促進作用を有しているが,ジクアホソルナトリウム点眼は涙液分泌促進作用も有しており,薬剤の特性に基づく治療選択が重要と考えられる.Wecomparedtheeffectsofdiquafosolophthalmicsolutionswithrebamipideophthalmicsuspensionstodeterminetearfluidvolumechangesinnormalrabbits.WeperformedSchirmer’stestandmeasuredthetearmeniscustodeterminechangesintearfluidvolumebeforeandat5,10,15,30,and60minutesaftereyedropinstillation.Schirmer’stestandtearmeniscusareaincreasedsignificantlyat5,10,15,and30minutesafterinstillationofdiquafosolophthalmicsolutions,ascomparedwithbeforeeyedropinstillation(p<0.01,Dunnett’smultiplecomparison)andwithinstillationofrebamipideophthalmicsuspensions(p<0.05,Student-t).TherewerenosignificantchangesinSchirmer’stestandtearmeniscusareaafterinstillationofrebamipideophthalmicsuspensions.Theseresultsindicatethatdiquafosolophthalmicsolutionsincreasedtearfluidvolumemorethandidrebamipideophthalmicsuspensionsintheearlyphase.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(7):1007.1010,2013〕Keywords:ジクアホソルナトリウム点眼,レバミピド点眼,涙液貯留量,正常ウサギ.diquafosolophthalmicsolutions,rebamipideophthalmicsuspensions,tearfluidvolume,normalrabbits.はじめにドライアイは,日本では,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮障害の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義され1),涙液層の安定性低下がそのコア・メカニズムと考えられている2).涙液層は,油層と液層(水層+ムチン層)から構成されおり,各層の機能異常がドライアイを誘発するため,それらを改善することがドライアイ治療につながる.近年,ドライアイ治療薬としてジクアホソルナトリウム点眼(ジクアスR点眼液3%,以下,ジクアス)およびレバミピド点眼(ムコスタR点眼液UD2%,以下,ムコスタ)が上市された.P2Y2受容体作動薬であるジクアスは,涙液分泌促進作用3),ムチン分泌促進作用4,5)および膜型ムチン遺伝子(MUC1,MUC4およびMUC16)発現促進作用6)を有することが報告されている.ムコスタは,杯細胞増殖作用7),ムチン様糖蛋白質産生促進作用および膜型ムチン遺伝子〔別刷請求先〕堀裕一:〒285-8741佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科Reprintrequests:YuichiHori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,564-1Shimoshizu,Sakura,Chiba285-8741,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(125)1007 (MUC1およびMUC4)発現促進作用8)を有することが報告されている.両剤はムチンに対する作用を有する点では類似しているが,独自の薬理作用も兼ね備えており,薬剤の特性を理解してドライアイ治療に使用することが重要と考えられる.本研究では,ジクアスとムコスタの薬理学的特性を明らかにするために,涙液分泌に対する作用の違いを正常ウサギにてSchirmer値と涙液メニスカス面積法で比較検討した.I方法1.点眼液ジクアスR点眼液3%(参天製薬),ムコスタR点眼液UD2%(大塚製薬)を用いた.2.実験動物ウサギ(雄性白色日本)は北山ラベスより購入し,1週間馴化飼育した.本研究は,「動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年10月1日,法律第105号)」および「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年4月28日,環境省告示第88号)」を遵守し,実施した.3.Schirmer値測定ウサギにジクアス(30眼)あるいはムコスタ(30眼)を50μl点眼した.シルメル試験紙(昭和薬品化工)挿入の約3分前に,ベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬)を10μl点眼し,眼表面を局所麻酔した.被験点眼液点眼5,10,15,30および60分後(各6眼)に下眼瞼にシルメル試験紙を1分間挿入し,Schirmer値を測定した.4.涙液メニスカス面積測定法ウサギにジクアス(32眼)あるいはムコスタ(32眼)を50μl点眼した.点眼5,10,15および30分後(各8眼)に生理食塩水に溶解した0.1%フルオレセイン溶液3μlを下眼瞼に添加し,直後に眼表面の撮影を行った.眼表面の撮影および涙液メニスカス面積の測定は,阪元らの方法9)に従い,デジタルカメラ(FUJIXDS-560,富士フィルム)で眼の全体像を正面から撮影し,画像解析ソフト(WinROOF,三谷商事)にて涙液メニスカスの面積を算出した.無点眼群(0分,32眼)では,眼表面の撮影直前に0.1%フルオレセイン溶液3μlを添加し,同様に撮影した.5.統計解析生物実験データ統計解析システムEXSUS(シーエーシー)を用いて5%を有意水準として解析した.2群間の解析ではStudentのt検定(等分散),経時変化の解析ではDunnettの多重比較検定を行った.II結果1.Schirmer値による比較図1のとおり,ジクアス群のSchirmer値は,点眼5分後1008あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013■:ジクアスR点眼液3%■:ムコスタR点眼液UD2%20.015.010.05.00.0無点眼図1ジクアスR点眼液3%およびムコスタR点眼液UD2%のSchirmer値に及ぼす影響各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,無点眼群との比較(Dunnettの多重比較検定).##:p<0.01,ムコスタR点眼液UD2%点眼群との比較(Studentのt検定).から増加し,10.15分後に最大値に達し,その後経時的に低下して,60分後にはベースライン(無点眼群)に戻った.無点眼群に比べ,点眼10.30分後のSchirmer値は有意に高値を示した(p<0.01,Dunnettの多重比較検定)が,ムコスタ群ではいずれの時間においても無点眼群と同程度であった.また,両群のSchirmer値を比較したところ,点眼5.30分後においてジクアス群は有意に高値を示した(p<0.01,Studentのt検定).2.涙液メニスカス面積値による比較図2aに点眼後の涙液メニスカス像(5.30分)を,図2bに涙液メニスカス面積値(0.30分)を示す.ジクアス群の涙液メニスカス面積値は,点眼15分後に最大値に達し,5.30分後において0分に比べ有意に高値を示した(p<0.01,Dunnettの多重比較検定)が,ムコスタ群では,いずれの時間においても変化はなかった.両点眼群の涙液メニスカス面積値は,点眼5.30分後においてジクアス群は有意に高値を示した(点眼5.15分後:p<0.01,点眼30分後:p<0.05,Studentのt検定).III考按本研究にてウサギの涙液貯留量に対するジクアスとムコスタの点眼後早期における影響をSchirmer値および涙液メニスカス面積値で比較したところ,ジクアスは,点眼10.30分後において点眼前に比べ有意に涙液貯留量が増加し,点眼5.30分後においてムコスタに比べ有意に涙液貯留量が上回っていた.今回,Schirmer値および涙液メニスカス面積測定法の2種類の方法で涙液量を評価した.Schirmer値は,局所麻酔により反射性分泌の影響を除外した値を採用した.本方法(126)Schirmer値(mm)####**##**##**510153060点眼後の時間(分) ジクアスR点眼液3%ムコスタR点眼液UD2%5101530点眼後の時間(分)涙液メニスカス面積値(mm2)20.015.010.05.0■:ジクアスR点眼液3%:ムコスタR点眼液UD2%**##**##**##**#図2ジクアスR点眼液3%およびムコスタR点眼液UD2%の涙液メニスカス面積値に及ぼす影響a:涙液メニスカス像.b:涙液メニスカス面積値.点眼後0分の値は両群共通で32例,ジクアスR点眼液3%点眼後30分の値は7例,それ以外は8例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,0分値との比較(Dunnettの多重比較検定).#:p<0.05,##:p<0.01,ムコスタR点眼液UD2%群との比較(Studentのt検定).0.00102030点眼後の時間(分)は,簡便に涙液貯留量を評価できるが,粘稠性のある点眼液などの評価には不向きであると考えられる.一方,涙液メニスカス面積測定法は,結果の解析に時間を要するが,無麻酔下で非侵襲的に測定でき,涙液の質に影響されない測定法である.本方法は,眼瞼や結膜の状態に影響を受ける欠点はあるが,涙液貯留量の評価法として確立されており9),今回,涙液メニスカス面積値による結果とSchirmer値による結果は,ほぼ同様であった.ジクアホソルナトリウムの水分分泌促進作用メカニズムは,本薬剤が結膜上皮細胞膜上のP2Y2受容体に作用すると,細胞内カルシウムイオン濃度が増加してカルシウム依存型クロライドチャネルの活性化が生じ,クロライドイオンが涙液側に放出され,それによって生じる浸透圧差により実質側から涙液側への水分分泌が誘導される10,11).また,本薬剤はムチン分泌4,5)および膜ムチン遺伝子の発現6)を促進することから,液層(水層+ムチン層)を全般的に改善することによりドライアイに対して治療効果を示すと考えられる.一方,レバミピドは,杯細胞増殖作用7),ムチン様糖蛋白質産生促進作用8)などが報告されているが,これらの詳細なメカニズムは不明である.本研究から本薬剤に涙液分泌促進作用は認められなかったが,元来本薬剤は,胃粘膜保護剤と(127)してわが国で長年使用されている薬剤であり,上述した作用により主に角結膜上皮の改善に効果を示すと思われる.涙液の安定性を維持することがドライアイ治療において重要であるが,近年,ジクアスとムコスタが登場したことで,ドライアイを涙液層別に治療する概念が生まれた12).したがって,各点眼液の薬理特性を十分に理解して,ドライアイ治療を行うことが重要である.今回の結果から,ジクアスはおもに液層(水層+ムチン層)を改善させてドライアイを治療する特長があると類推され,薬剤の特性を理解して治療を行うことが重要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)横井則彦,坪田一男:ドライアイのコア・メカニズム─涙液安定性仮説の考え方─.あたらしい眼科29:291-29720123)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクあたらしい眼科Vol.30,No.7,20131009 アホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,20114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20115)七條優子,阪元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,20116)七條優子,中村雅胤:培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,20117)UrashimaH,TakejiY,OkamotoTetal:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20128)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreasesthemucin-likeglycoproteinproductionincornealepithelialcells.JOculPharmacolTher28:259-263,20129)阪元明日香,七條優子,山下直子ほか:正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果.あたらしい眼科29:1141-1145,201210)LiY,KuangK,YerxaBRetal:Rabbitconjunctivalepithelialtransportsfluid,andP2Y2receptoragonistsstimulateCl.andfluidsecretion.AmJPhysiol281:C595C602,200111)MurakamiT,FujiharaT,HoribeYetal:DiquafosolelicitsincreasesinnetCl.transportthroughP2Y2receptorstimulationinrabbitconjunctiva.OphthalmicRes36:89-93,200412)山口昌彦,松本幸裕,高静花ほか:TFOT(TearFilmOrientedTherapy)時代における点眼薬の使い方.FrontiersinDryEye7:112-120,2012***1010あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(128)