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スクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と 緑内障性眼底変化の有無

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):963.967,2023cスクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と緑内障性眼底変化の有無瀧利枝丸山勝彦杉浦奈津美八潮まるやま眼科CCornealHysteresisValuesObtainedbyOcularResponseAnalyzerforScreeningExaminationswithorwithoutGlaucomatousFundusChangeToshieTaki,KatsuhikoMaruyamaandNatsumiSugiuraCYashioMaruyamaEyeClinicC目的:スクリーニング目的で行ったCOcularResponseAnalyzer(ORA)での眼圧検査で測定された角膜ヒステリシス(CH)の値を,眼底の緑内障性変化のある群とない群で比較すること.対象および方法:一定期間内にスクリーニングとしてCORAを用いて眼圧を測定し,かつ,眼底写真撮影と光干渉断層計(OCT)検査が行われている眼を対象とした.眼底写真とCOCTの結果から眼底の緑内障性変化の有無を判定し(あり群,なし群),両群のCCHの値を比較した(t-検定).結果:127例(平均年齢C53.5C±18.0歳),192眼が解析対象となった.あり群はC53眼,なし群はC139眼だった.あり群となし群のCCHはそれぞれC9.6C±1.4(6.8.13.3)mmHg,10.2C±1.2(6.9.13.3)mmHgとなり,あり群のほうが有意に低かった(p=0.003).結論:眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは低値だが,分布は重複する.CPurpose:ToCinvestigateCcornealChysteresisCvaluesCobtainedCbyCOcularResponseCAnalyzer(ORA)(Reichert)Cforscreeningexaminationpurposeswithorwithoutglaucomatousfunduschange.SubjectsandMethods:Weret-rospectivelyanalyzedthemedicalrecordsofeyesinwhichintraocularpressure(IOP)wasmeasuredbyORAforscreeningexaminations,andfundusphotographsandopticalcoherencetomographyimageswereobtained.Cornealhysteresis(CH)wascomparedbyt-testbetweeneyeswith(positivegroup)andwithout(negativegroup)glauco-matousCfundusCchange.CResults:ThisCstudyCinvolvedC192CeyesCofC127patients(meanage:53.5C±18.0years)C.CInCtheCpositivegroup(n=53eyes)andCtheCnegativegroup(n=139eyes)C,CtheCmean±standarddeviation(range)ofCCHwas9.6±1.4CmmHg(6.8to13.3mmHg)and10.2C±1.2CmmHg(6.9to13.3mmHg)C,respectively(p=0.003)C.CCon-clusions:OurC.ndingsCrevealedCthatCtheCmeanCCHCwasClowerCinCtheCpositiveCgroupCeyesCthanCinCtheCnegativeCgroupeyes,however,therewasanoverlapinthemeasureddistributions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(7):963.967,C2023〕Keywords:OcularResponseAnalyzer,角膜ヒステリシス,スクリーニング,緑内障,眼圧.OcularResponseAnalyzer,cornealhysteresis,screeningexamination,glaucoma,intraocularpressure.Cはじめにライカート社のCOcularResponseCAnalyzer(ORA)は,緑内障の発症1.3),あるいは進行4.9)に影響するとされる角膜ヒステリシス(cornealhysteresis:CH)が測定できる眼圧計である.また,ORAは非接触型眼圧計であるため日常診療でスクリーニング用眼圧計として使用されることもあり,スクリーニング目的でCORAを用いた場合でも約C8割の症例で信頼性のある測定結果が得られることがわかっている10).これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている患者を選択して対象としたものが多く,緑内障点眼薬による治療介入後の測定値を解析した報告も少なくない.また,不特定多数に対するスクリーニング検査で測定されたCCHでの検討は行われていない.さらに,ほとんどの〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒340-0822埼玉県八潮市大瀬C5-1-152階八潮まるやま眼科Reprintrequests:KatsuhikoMaruyama,M.D.,Ph.D.,YashioMaruyamaEyeClinic,2F,5-1-15Oze,Yashio-shi,Saitama340-0822,JAPANC報告は視野異常を有する緑内障眼を対象としているが,緑内障性視神経症の病態は視野異常が検出される前から存在し,眼底に特徴的な変化が観察されることがわかっている11).本研究の目的は,スクリーニング目的で行ったCORAによる眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することである.CI対象および方法2021年C3月C1日.5月C15日に,八潮まるやま眼科でスクリーニングとしてCORAG3(ライカート社)を用いて眼圧測定を行ったC747例(男性C287例,女性C460例,平均年齢C53.5±20.4歳,レンジC6.94歳),1,488眼(右眼C745眼,左眼C743眼)の中で,WaveformScore6以上の結果が得られ,眼底写真撮影と光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)検査が行われている眼を対象とした.レーザー治療を含む内眼手術歴のある眼や,緑内障点眼薬を使用中の眼は対象から除外した.ORAは患者に応じて開瞼を補助しながらC3回測定を行い,平均値を解析に使用した.なお,同一眼に別の日にも測定を行っている場合には初日の結果を解析に用いた.眼底写真は無散瞳眼底カメラCAFC-330(ニデック)を用い,散瞳下,あるいは無散瞳下で後極部を画角C45°で撮影した.OCTはCRS-3000Advance(ニデック)を用い,同様に散瞳下,あるいは無散瞳下で黄斑マップを撮影後,緑内障解析を行った.なお,OCT測定時の信号強度指数の値は問わなかった.同一検者(丸山)が診療録データの眼底写真とCOCT結果を読影し,眼底の緑内障性変化の有無を判定した.眼底の緑内障性変化は,眼底写真で視神経乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の菲薄化,それに伴う網膜神経線維層欠損と,OCT網膜内層厚解析で神経線維の走行に沿った菲薄化を認め,かつ,網膜神経線維層欠損を生じうる緑内障以外の眼底疾患(網膜静脈分枝閉塞症,糖尿病網膜症,高血圧性眼底,腎性網膜症など)が除外できることにより判定した.眼底読影の結果,緑内障性変化の有無が明らかな眼のみを抽出し,緑内障性変化を認める眼(あり群)と認めない眼(なし群)で,等価球面度数,最高矯正視力(logMAR)を比較した(t-検定).また,ORAで測定されたCGoldmann圧平眼圧計に相当する眼圧値(IOPg),CHをもとに補正された眼圧値(IOPcc),CHの分布の差を検討し(F-検定),数値を比較した(t-検定).なお,緑内障以外の他の疾患があっても,明らかに緑内障性変化を合併していると思われる眼はあり群と判定した.本研究は日本医師会倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号CR3-8).CII結果スクリーニングとしてCORAを用いて眼圧測定を行った1,488眼の中で,WaveformScoreがC6以上の結果が得られた眼はC1,245眼あり,その中で内眼手術歴のある眼はC663眼あった.残りのC582眼の中で,読影可能な眼底写真撮影とOCT検査が行われている眼はC341眼あったが,緑内障性変化の有無が判定できない眼がC149眼あり,最終的にC127例(平均年齢C53.5C±18.0歳,レンジC9.87歳,男性C46例,女性C81例),192眼が解析対象となった.あり群はC40例C53眼,なし群はC89例C139眼だった.なお,2例は片眼があり群に,片眼はなし群に組み入れられていた.すべての眼にオートレフケラトメータ(ARK-1s,ニデック)を用いた屈折検査と,視力検査が行われていた.あり群となし群の屈折(等価球面度数)はそれぞれC.2.11±4.15D(レンジC.17.13.+4.00D),.2.13±3.07D(レンジC.8.75.+5.00D)であり,差はなかった(p=0.98).また,最高矯正視力(logMAR)もそれぞれC.0.01±0.11(レンジC.0.18.0.30),.0.03±0.14(レンジC.0.30.0.70)と差はなかった(p=0.26).あり群,なし群のIOPg,IOPcc,CHのヒストグラムを図1に示す.いずれのパラメータもあり群となし群の間に分布の差はなかった(IOPg:p=0.17,IOPcc:p=0.16,CH:p=0.09).あり群,なし群のCIOPg,IOPcc,CHの箱ひげ図を図2に示す.あり群となし群のCIOPgはそれぞれC15.7C±3.3CmmHg(レンジC10.2.24.3CmmHg),16.2C±3.9CmmHg(レンジC8.1.29.8CmmHg)で差はなかった(p=0.42).また,IOPccはそれぞれC17.0C±2.7CmmHg(レンジC12.8.24.0CmmHg),16.8C±3.2CmmHg(レンジC10.5.28.3CmmHg)となり,やはり差はなかった(p=0.65).一方,CHはC9.6C±1.4CmmHg(レンジC6.8.13.3CmmHg),10.2C±1.2CmmHg(レンジC6.9.13.3CmmHg)となり,あり群のほうがなし群より有意に低かった(p=0.003).CIII考按本研究は,スクリーニング目的で行ったCORAでの眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障変化の有無で比較した初めての報告である.測定値への影響を除外するため,内眼手術や緑内障点眼薬による治療介入が行われていない眼を対象に検討を行った.その結果,眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは全体としては低値だが,測定値のレンジは重複することがわかった.これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている症例を選択して対象としたものが多い.Abitbolら1)は,点眼治療中の緑内障眼C58眼(開放隅角C88%,閉塞隅角C12%,正常眼圧緑内障なし)と正常眼C75眼のCHを比較した結果,緑内障眼C8.77C±1.4CmmHg(レンジC5.0.11.3CmmHg)に対して正常眼はC10.46C±1.6CmmHg(レンジ4030201006.97.98.99.910.911.912.9(mmHg)図1OcularResponseAnalyzerで測定された各パラメータのヒストグラムa:IOPg,b:IOPcc,c:角膜ヒステリシス(CH).あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.08.09.010.012.013.09.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)c509.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)b50a50あり群なし群4034眼数眼数眼数4030201003020100~38~~~~~~~~~~10.012.014.016.018.020.022.024.026.010.012.014.016.018.020.022.024.026.0~~~~~~~~~~~~~~~~~~~(mmHg)IOPg(mmHg)IOPcc(mmHg)CH353535303030252525202020151515101010555000あり群なし群あり群なし群あり群なし群図2あり群,なし群のIOPg,IOPcc,角膜ヒステリシス(CH)の箱ひげ図あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.1.14.9CmmHg)と,緑内障眼のほうが有意に低かったとしている.また,Hirneisら2)は,点眼治療中の片眼性の原発開放隅角緑内障C18例と僚眼のCCHを比較しており,緑内障眼C7.73C±1.46mmHgに対して僚眼はC9.28C±1.42CmmHg(レンジ未記載)と,緑内障眼のほうが有意に低値だったとしている.さらにCKaushikら3)は,すでに診断がついた緑内障外来を受診中のCGlaucomaClikedisc101眼,高眼圧症C38眼,原発閉塞隅角症C59眼,原発開放隅角緑内障(狭義)36眼,正常眼圧緑内障C18眼の眼圧,ならびにCCHをはじめとする角膜の特徴を正常コントロール71眼と比較している(全症例手術歴や点眼使用なし).その結果,原発開放隅角緑内障(狭義),正常眼圧緑内障のCCHはそれぞれC7.9CmmHg(レンジ未記載,95%信頼区間C6.9.8.8CmmHg),8.0CmmHg(95%信頼区間C7.2.8.8CmmHg)であり,正常眼C9.5CmmHg(95%信頼区間C9.2.9.8CmmHg)に比べ,有意に低かったと報告している.本研究でもあり群のCCHはなし群より低い結果となったが,既報では測定値のレンジやC95%信頼区間をみてみると緑内障眼は対象全体が低めに測定されているのに対し,本研究ではあり群となし群の測定値のレンジは重複した.その理由として,本研究でのあり群の臨床背景が影響していると考えられる.本研究では組み入れの条件に視野異常の有無を問わなかったため,あり群のなかに前視野緑内障が含まれていたと予想され,また,内眼手術歴や点眼治療中の眼を除外しているため,多くの未発見,あるいは未治療の症例が解析対象となった.これらの要因が関与して後期の症例が除外され,早期の症例が多く含まれたため,本研究のあり群のCCHは既報より高く測定された可能性がある.スクリーニングとしてCCHが測定された不特定多数の症例を対象とした本研究の結果には意義がある.緑内障の危険因子の一つとしてCCHが低いことは緑内障診療ガイドラインに明記されているが12),日常臨床での緑内障の発見の機会を考えたとき,スクリーニングとして視力,眼圧,前眼部細隙灯,眼底などの諸検査を行って,緑内障が疑われる場合は適宜検査を追加して診断をすすめていくのが通例である.スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた場合,CHの測定値が低ければ緑内障の存在を疑う根拠になるが,測定値のレンジは正常眼と重複することから,それだけでは不十分であり,他の検査結果も加味して総合的に緑内障を疑う必要があることが確認できた.本報告は単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈には各種バイアスの影響を考慮しなければならない.まず,眼底所見の読影に関して本研究にはいくつかの特徴があるため,結果の解釈に制限がある.たとえば,他院からのデータがあれば当院を受診した際に改めて眼底写真やOCTを撮影していないことも多く,眼底写真とCOCTは緑内障が疑われた全例に行われたわけではない.また,読影は一人の検者が行っているため,所見の見逃しや判定の偏りが生じることは否定できない.さらに,視神経乳頭の立体観察を全例で行っているわけではないため,眼底写真やCOCTでも判定困難なごく早期の陥凹拡大を見逃している可能性がある.OCTの測定結果の精度を問わなかった影響も考えられるが,今回は精度によらず緑内障性変化の有無が明らかに判定できる症例のみを対象としたので影響は少ないと考えられる.本研究でCOCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚解析を用いなかった理由は,黄斑疾患の除外のためCOCTで乳頭部の撮影を行っていなくても黄斑部の撮影を行っている症例が多くあり,それらの症例を解析対象に加えなければとくに正常眼の眼数が著しく減少してしまうからであるが,乳頭周囲網膜神経線維層厚解析の結果を加味していないことにより診断の精度が低下している可能性はある.さらにまた,読影対象となった眼のうちC4割強は判定不能のため除外したことなどが結果に影響した可能性がある.眼底所見の読影以外でも,結果に影響を及ぼす可能性のあるいくつかの要素がある.本研究の結果は,ORAでCWave-formScoreがC6以上の結果が得られ,内眼手術歴のない未治療の眼に限定したものである.さらに,ORAの測定条件が一定ではないことも影響していると思われる.たとえば,閉瞼が強い症例や瞼裂が狭い症例,睫毛が長い症例などに対して開瞼の補助を行う明確な基準はなく,今回の測定値はそのときの検者の判断に任せた結果である.今回は,3名の検者が測定を担当したが,検者ごとの結果は明らかではない.さらに,本研究はデザインの特性から,眼底の緑内障性変化の有無に影響する背景因子の交絡は排除できない.屈折や最高矯正視力には群間の差はなかったものの,緑内障の有病率は年齢とともに高い12)ことを反映し,年齢が結果に影響を与えている可能性はある.本研究の対象には片眼はあり群,片眼はなし群に組み入れられた症例がC2例存在しており,単純な比較は困難と考え検討は行っていないが,あり群はなし群より明らかに年齢の高い眼が多く含まれている.しかし,本研究の目的はスクリーニングとして測定されたCCHの値を眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することであり,交絡因子が影響している前提で,臨床像としての結果と解釈できると考える.このようにいくつかの問題点はあるが,スクリーニングとしてCCHの情報が加われば緑内障検出の精度の向上が期待できる.そして,将来的には緑内障の早期発見や進行の危険因子を有する患者の早期発見に貢献でき,重症化の回避などによる医療経済的効果に繋がる可能性があると考えられる.今後,さらに多数例を対象とした多施設での検証が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AbitbolCO,CBoudenCJ,CDoanCSCetal:CornealChysteresisCmeasuredCwithCtheCOcularCResponseCAnalyzerCinCnormalCandCglaucomatousCeyes.CActaCOphthalmolC88:116-119,C20102)HirneisC,NeubauerAS,YuAetal:Cornealbiomechan-icsCmeasuredCwithCtheCocularCresponseCanalyserCinCpatientsCwithCunilateralCopen-angleCglaucoma.CActaCOph-thalmolC89:e189-e192,C20113)KaushikCS,CPandavCSS,CBangerCACetal:RelationshipCbetweencornealbiomechanicalproperties,centralcornealthickness,CandCintraocularCpressureCacrossCtheCspectrumCofglaucoma.AmJOphthalmolC153:840-849,C20124)DeCMoraesCCG,CHillCV,CTelloCCCetal:LowerCcornealChys-teresisisassociatedwithmorerapidglaucomatousvisual.eldprogression.JGlaucomaC21:209-213,C20125)MedeirosCFA,CMeira-FreitasCD,CLisboaCRCetal:CornealChysteresisCasCaCriskCfactorCforglaucomaCprogression:aCprospectivelongitudinalstudy.OphthalmologyC120:1533-1540,C20136)ZhangCC,CTathamCAJ,CAbeCRYCetal:CornealChysteresisCandprogressiveretinalnerve.berlayerlossinglaucoma.AmJOphthalmolC166:29-36,C20167)SusannaCN,Diniz-FilhoA,DagaFBetal:AprospectivelongitudinalCstudyCtoCinvestigateCcornealChysteresisCasCaCriskfactorforpredictingdevelopmentofglaucoma.AmJOphthalmolC187:148-15,C20188)AokiCS,CMikiCA,COmotoCTCetal:BiomechanicalCglaucomaCfactorCandCcornealChysteresisCinCtreatedCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCtheirCassociationsCwithCvisualC.eldCprogression.InvestOphthalmolVisSciC62:4,C20219)MatsuuraM,HirasawaK,MurataHetal:TheusefulnessofCorvisSTTonometryandtheOcularResponseAnalyz-erCtoCassessCtheCprogressionCofCglaucoma.CSci.CRepC7:40798;doi:10.1038/srep40798,C201710)杉浦奈津美,丸山勝彦,瀧利枝ほか:スクリーニング用眼圧計としてCOcularCResponseCAnalyzerG3を用いた際の測定値の信頼度の検討.あたらしい眼科C39:959-962,C202211)WeinrebCRN,CFriedmanCDS,CFechtnerCRDCetal:RiskCassessmentCinCtheCmanagementCofCpatientsCwithCocularChypertension.AmJOphthalmolC138:458-467,C200412)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C2022***

Amsler チャートによる緑内障性傍中心視野障害検出の検討

2023年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(1):118.121,2023cAmslerチャートによる緑内障性傍中心視野障害検出の検討松岡孝典佐藤大樹西垣誠士部坂優子雲井美帆辻野知栄子松田理大鳥安正独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科CExaminationofParacentralVisualFieldDefectsinGlaucomabyAmslerChartTakanoriMatsuoka,HirokiSatou,SeijiNishigaki,YukoHesaka,MihoKumoi,ChiekoTsujino,SatoshiMatsudaandYasumasaOtoriCDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospitalC目的:緑内障の傍中心視野障害検出に対するCAmslerチャートの有用性を検討すること.対象および方法:大阪医療センター眼科を受診し,HumphreyCFieldCAnalyzerCSITA-FAST10-2(以下,HFA10-2)とCAmslerチャート(Whiteonblack)を施行したC22例C22眼を対象とした.Amslerチャートによる傍中心視野障害の検出率をCHFA10-2と比較し,感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率を検討した.両眼とも緑内障の場合は,MD値が低値である眼を選択した.患者背景は,平均年齢C61.1±12.3歳,平均CMD値(HFA10-2).13.5±7.4CdB,中心窩閾値C31.3±8.1CdB.それぞれの検査における異常ありの定義は,Amslerチャート:暗点あり,HFA10-2:パターン偏差で連続するC3点に危険率C5%以下の感度低下があり,そのうちのC1点が危険率C1%以下であるものとした.結果:Amslerチャートの傍中心視野障害の検出率は,感度C85%(17/20),特異度C100%(2/2),陽性的中率C100%(17/17),陰性的中率C40%(2/5)であった.Amslerチャートで認めた暗点は,すべてCHFA10-2の視野障害の部位と一致した.結論:Amslerチャートは,緑内障における傍中心視野障害のスクリーニング方法として用いることが可能である.CPurpose:ToexaminetheusefulnessoftheAmslerchartfordetectingparacentralvisual.elddefectsinglau-coma.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC22CeyesCofC22CpatientsCwhoCunderwentCHumphreyCFieldCAnalyzerCSITA-FAST10-2(HFA10-2)andAmslerchart(whiteonblack)visual.eldtests.Ifbotheyeshadglaucoma,theeyewiththelowermeandeviation(MD)valuewasincluded.Patientbackgroundwasasfollows:ameanageof61.1C±12.3years,andameanMDof.13.5±7.4CdB.Thede.nitionofabnormalineachexaminationwasasfollows:CAmslerchart:darkspotspresent,andHFA10-2:threeconsecutivepoints(asensitivityreductionof5%orless),withoneofwhichhavingariskof1%orlessinpatterndeviation.Results:TheAmslercharthadasensitivityof85%,speci.cityof100%,positivepredictivevalueof100%,andnegativepredictivevalueof40%.Conclusions:CTheAmslerchartcanbeusedasascreeningtoolforparacentralvisual.elddefectsinglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(1):118.121,C2023〕Keywords:Amslerチャート,ハンフリー視野検査,緑内障,傍中心視野障害,スクリーニング.AmslerCchart,CHumphreyvisual.eldtest,glaucoma,paracentralvisual.elddefects,screening.Cはじめに緑内障における傍中心視野障害は,患者のCqualityCofClifeの低下をきたすため1),緑内障の重症度分類であるCAnder-son分類でも重視されており2),出現時は治療強化のタイミングとなる.しかし,緑内障の静的視野検査として多く用いられているCHumphreyCFieldCAnalyzerCSwedishCinteractiveCthresholdalgorithm(以下,HFASITA)30-2あるいは24-2プログラムは,HFASITA10-2プログラムと比較すると,傍中心視野障害検出は劣ると報告されている3).また,傍中心視野障害のある患者では,HFASITA24-2よりもCHFASITA10-2のほうが視野障害の進行をより鋭敏に捉えることができるとの報告もある4).このように重症度および進行速度の把握に重要となる傍中心視野障害の早期発見のためには,HFACSITA-Faster24-2Cといった新たなプログ〔別刷請求先〕松岡孝典:〒540-0006大阪府大阪市中央区法円坂C2-1-14独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科Reprintrequests:TakanoriMatsuoka,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2-1-14Hoenzaka,Chuoku,Osakashi,Osaka540-0006,JAPANC118(118)ラムの導入や,HFASITA10-2を追加で行うことなどが必要である.しかし,緑内障と診断されたすべての患者にCHFASITA10-2を行うことは現実的ではなく,傍中心暗点検出のために簡便で短時間に行うことのできるスクリーニング検査が求められる.AmslerチャートはCMarkAmslerによって考案され,十分近方矯正したうえで眼前C30Ccmにかざすと,固視点から10°の視野が検査可能となる.白地に黒線のCblackonwhite(以下,BOW)のものと,黒字に白線のCwhiteonblack(以下,WOB)がある5).Amslerチャートは,網膜前膜や中心性漿液性脈絡網膜症といった網膜疾患のスクリーニングとして用いられることが多い6).緑内障に対してのCAmslerチャートの有用性の検討としては,Suらの報告がある7)が,わが国からの報告はない.そこで筆者らは日本人における緑内障性傍中心視野障害検出に対してのCAmslerチャートの有用性を検討した.CI対象および方法大阪医療センター緑内障外来を受診し,HFASITA-Fast10-2(CarlZeiss以下,HFA10-2)とCAmslerチャート(半田屋商店)を施行したC22例C22眼(男性C13例C13眼,女性C9例C9眼)を対象とした.両眼とも緑内障である場合は,検査眼はCHFA10-2のCmeandeviation(以下,MD)値がより低値であるものを選択した.対象の平均年齢は,61.1±12.3(31.77)(平均値±標準偏差(範囲)歳であった.病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)14例,正常眼圧緑内障C6例,続発緑内障C1例,落屑緑内障C1例であった.平均矯正視力は0.8(0.2-1.5),HFA10-2での平均CMD値は.13.5±7.4(.28.27.0.34)dB,中心窩閾値C31.3±8.1(o..39)dBであった.AmslerチャートはCWOB(図1)のものを使用し,視能訓練士が眼前C30Ccmにかざし,明室で暗点の部位を問診し,暗点の自覚部位を記載した.その後にCHFA10-2を行い,検査結果を比較した.異常ありの定義として,Amslerチャート:暗点あり,HFA10-2:パターン偏差で連続するC3点が危険率C5%以下であり,そのうち一点が危険率C1%以下のものとした.Amslerチャートにおける中心視野障害の検出率をCHFA10-2と比較して感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率を比較検討した.また,EZRを用いて,l係数算出およびCMann-WhitneyUtestでの有意差検定を行った8).本研究は後ろ向き研究であり,診療録から年齢,性別,病型,HFA10-2,Amslerチャートを抽出した.また,ヘルシンキ宣言に準じており,当院の臨床研究審査委員会の承認のもとで行った(承認番号C20083).図1本研究で使用したAmslerチャート第C1表whiteonblackを用いた.II結果HFA10-2では,異常ありC20眼,異常なしC2眼であった.Amslerチャートの検査では,異常ありC17眼,異常なしC5眼であった.両検査とも異常ありはC17眼.HFA10-2異常ありだが,Amslerチャートで異常なしと判断されたものはC3眼あった.HFA10-2で異常なしの症例では,全例CAmslerチャートでは異常なしであった.Amslerチャートでの中心視野障害の検出は,感度C85%(17/20),特異度C100%(2/2),陽性的中率C100%(17/17),陰性的中率C40%(2/5)であった.l係数はC0.51であった.HFA10-2で異常ありだが,Amslerチャートで異常なしであったC3例は,全員男性で,矯正視力は,(0.5),(1.5),(1.5)であり,平均CMD値は.9.8±1.4CdB,平均中心窩閾値はC31.7±2.2CdBであった.両検査で異常ありの症例群の平均MD値.15.7±6.6CdB,中心窩閾値C32.7±4.7CdBと比較して有意差はなかった.(p=0.146,p=0.669)図2にCHFA10-2とCAmslerチャートの視野障害の比較を示す.症例C1は,75歳の正常眼圧緑内障の女性.矯正視力は(0.9),MD値は.17.23CdB,中心窩閾値はC33CdB.HFA10-2で上および下鼻側に視野障害があり,Amslerチャートでも同様の位置に視野異常を認めた.症例C2は,40歳の原発開放隅角緑内障の男性.矯正視力は(1.5),MD値は.6.14dB,中心窩閾値はC34CdB.HFA10-2で上鼻側に視野障害があり,Amslerチャートで同様の部位に視野異常があった.症例C3はC64歳の原発開放隅角緑内障の男性.矯正視力は(0.5),MD値は.9.62CdB,中心窩閾値はC33CdB.HFA10-2では上鼻側に視野障害があったが,Amslerチャートでは視野異常を自覚しなかった.症例C1と症例C2のようにCAmslerチャートで検出される暗点は,HFA10-2のパターン偏差と比べて視野障害の位置は一致するが,面積は小さい傾向にあった.図2HumphreyFieldAnalyzer10-2(HFA10-2)とAmslerチャートの視野障害の比較症例1:75歳,女性.正常眼圧緑内障.矯正視力(0.9),MD値.17.23CdB,中心窩閾値C33CdB.HFA10-2のパターン偏差とCAmslerチャートの視野異常が一致している.症例2:40歳,男性.原発開放隅角緑内障.矯正視力(1.5)MD値C.6.14CdB,中心窩閾値C34CdB.HFA10-2のパターン偏,差とCAmslerチャートの視野異常の部位は一致しているが,Amslerチャートの視野異常の面積が小さい.症例3:64歳,男性.原発開放隅角緑内障.矯正視力(0.5)MD値C.9.62CdB,中心窩閾値C33CdB.HFA10-2のパターン偏,差では上鼻側に感度低下があるが,Amslerチャートでは視野異常が検出できなかった.MD:meandeviation.III考按Amslerチャートによる緑内障性傍中心視野障害の検出を検討したところ,感度は低いが特異度が高い結果となった.また,Cl係数はC0.51であり,AmslerチャートとCHFA10-2の検査結果は一致していた.緑内障性傍中心視野障害に対してのCAmslerチャートの感度・特異度の既報としては,Suらは感度C68%,特異度C92%(WOB,平均年齢C60.9歳,平均CMD値C.8.21CdB)7),Gesse-sseらは感度C71.7%,特異度C95.4%(WOB,平均年齢C59.8歳,平均CMD値C.19.94dB),感度C80.4%,特異度C95.4%(BOW,同一症例)9)と報告している.今回の報告は,既報と同様に特異度が高く感度が低い結果であった.SuらはMD値によるCAmslerチャートの感度比較を行っており,MD値が低値であるほど,感度が高くなると報告している7).今回の検討では既報より感度・特異度ともに高値であるが,MD値がC.12CdB以下がC12例と中期以降の症例が多かったため,既報よりも感度が高い結果となった.Amslerチャートは,網膜疾患のスクリーニングで用いられることが多いが,感度は高くなく,感度C20.60%,特異度C88.95%と報告されている10).網膜疾患での検討では,病変の大きさにより感度は変化するとされ,直径C6°以内の暗点は約C80%判別できないと報告されている6).緑内障性視野障害の検出も暗点の面積によって異なると考えられるが,網膜疾患と異なり,中心視野の異常でないため,さらに大きな暗点でなければ検出できない可能性がある.今回の研究では,Amslerチャートの記載を視能訓練士が行った.患者ごとに異なる視能訓練士が検査および記載を行ったため,Amslerチャートの暗点の面積と視野障害の検出率を比較することができていない.暗点の面積とスクリーニングの有用性については,今後の検討課題としたい.今回の検討では,HFA10-2で異常ありだが,Amslerチャートで異常なしとなった偽陰性の症例はC3例あった.3症例とも男性であったが,平均CMD値や平均中心窩閾値は両検査で異常ありの症例と有意差はなかった.矯正視力は(1.5)と良好な症例もあったが,症例C3で示したような不良例もあった.症例C3は唯一眼であり,矯正視力も不良でありながら,自覚症状がないため,緑内障の治療強化に消極的であった症例である.偽陰性となる症例の特徴の検討は既報でもなされておらず7,9),病気への向き合い方や性格もCAmslerチャートにおける暗点の検出率に関与しており,HFA10-2の測定値のみでは推測できない可能性がある.網膜前膜と緑内障が合併している眼は,網膜前膜を合併していないもう片眼と比べて視野障害が進行しているという報告もある10).Amslerチャートを用いて傍中心暗点とともに歪視の有無をみることで黄斑部疾患の有無も同時にスクリーニングできることは意義深い.緑内障のスクリーニングとしては,従来クロックチャートが用いられ,早期緑内障の検出として有用であると報告されている11).しかし,クロックチャートは,中心視野障害検出はやや乏しいことと,大きさが新聞と同じであるためスマートホンを用いたスクリーニングとしては使用できないことが問題点である.近年はスマートホンが普及しており,今回の検討からもスマートホンでCAmslerチャートを表示してのセルフチェックは有用である可能性がある.今回の検討では,視能訓練士によってCAmslerチャート検査が行われたが,当院の実際の日常診療では医師自身が行っている.Amslerチャートを患者に片眼ごとに提示して格子の見え方の異常の有無を問い,異常があるようなら,HFA10-2などの精査を行う.OCTでの神経線維層欠損の位置から中心視野障害の位置を予想し,再度問診すると,視野障害の部位の格子の見え方に異常を自覚することが多い.Crabbらは,緑内障性視野障害の部位の見え方を検討しており,blurredpartsやCmissingpartsの見え方が多いと報告している12).Fujitaniらは,Amslerチャートでの緑内障性視野障害の部位の見え方の検討で,missing/white31%,Cblurry/gray24%,black21%と報告している13).今回の研究では,見え方の検討は行っていないが,日常診療の印象としては,やはりCmissing/whiteかCblurry/grayのように見えているようである.また,同論文では,Amslerチャートを行うことで,緑内障性視野障害を自覚し,点眼アドヒアランスの向上が期待できるとも報告している14).当院でもAmslerチャートで視野障害を自覚した症例のなかには,緑内障手術を含めた治療強化に積極的になる者もあった.本研究の限界として,対象症例が少ないこと,緑内障の病期が進行した例が多いこと,患者自身が大病院に紹介となった時点で通常より検査に積極的になった可能性があることがあげられる.自覚を問う検査であり,検査を行う環境や患者自身の心理面も重要であるため,通常よりも感度,特異度が高く出ている可能性がある.軽症例やクリニックでの感度,特異度も検討することが今後の課題である.また,今回の検討ではCWOBのCAmslerチャートのみを使用して検討したが,視野異常の検出感度はCBOWを用いたほうが高いとの報告もある9)ことから,BOWを用いての検査も今後の検討としたい.以上,Amslerチャートは緑内障による傍中心視野障害のスクリーニングとして有用であることが明らかになった.本研究の内容の一部は第C32回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SumiCI,CShiratoCS,CMatsumotoCSCetal:TheCrelationshipCbetweenCvisualCdisabilityCandCvisualC.eldCinCpatientsCwithCglaucoma.OphthalmologyC110:332-339,C20032)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry,CCVMosby,St.Louis,19993)Sullivan-MeeCM,CKarinCTranCMT,CPensylCDCetal:Preva-lence,Cfeatures,CandCseverityCofCglaucomatousCvisualC.eldClossCmeasuredCwithCtheC10-2CachromaticCthresholdCvisualC.eldTest.AmJOphthalmolC168:40-51,C20164)KungY,SuD,SimonsonJLetal:ParafovealscotomainprogressioninglaucomaHumprey10-2versus24-2visu-al.eldanalysis.OphthalmologyC120:1546-1550,C20135)AmslerM:Methodofusingthetestchartofquantitativevision.アムスラーチャート付属説明書6)SchuchardRA:ValidityCandCinterpretationCofCAmslerCgridreports.ArchOphthalmolC111:776-780,C19937)SuCD,CGreenbergCA,CSimonsonCJLCetal:E.cacyCofCtheCAmslergridtestinevaluatingglaucomatouscentralvisualC.elddefects.OphthalmologyC123:737-743,C20168)KandaY:InvestigationCofCtheCfreelyCavailableCeasy-to-useCsoftware“EZR”(EasyR)forCmedicalCstatistics.CBoneCMarrowTransplantC48:452-458,C20139)GessesseGW,TamratL,DamjiKF:AmslergridtestfordetectionCofCadvancedCglaucomaCinCEthiopia.CPLoSCOneC15:e0230017,C202010)SakimotoCS,COkazakiCT,CUsuiCSCetal:Cross-sectionalCimagingCanalysisCofCepiretinalCmembraneCinvolvementCinCunilateralCopen-angleCglaucomaCseverity.CInvestCOphthal-molVisSciC59:5745-5751,C201811)MatsumotoCC,CEuraCM,COkuyamaCSCetal:CLOCKCHART(CR):aCnovelCmulti-stimulusCself-checkCvisualC.eldscreener.JpnJOphthalmolC59:187-193,C201512)CrabbDP,SmithND,GlenFCetal:Howdoesglaucomalook?patientperceptionofvisual.eldloss.Ophthalmolo-gyC120:1120-1126,C201313)FujitaniCK,CSuCD,CGhassibiCMPCetal:AssessmentCofCpatientperceptionofglaucomatousvisual.eldlossanditsassociationwithdiseaseseverityusingAmslergrid.PLoSOneC12:e0184230,C2017***

立体視を応用した視野検査の試み

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(129)8530910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):853856,2009cはじめに現在までに視野異常検出のためにさまざまな視野検査機器が開発され臨床応用されているが,大半は片眼ずつの測定である.しかし,検査時間が長いうえに検査中常に一点の固視灯を注視していなければならず,視野検査は被検者に大きな負担を強いる検査となっており,その検査時間の長さゆえ検査の信頼度の低下なども問題となる.一方,日常診療において,下方視野に異常のある患者では,階段の特に下りにおいて立体感が得られにくく怖いという訴えや,机の上に置いてある文房具の距離感がおかしいなどの訴えがあることから,立体視を応用することで視野障害を検出することが可能ではないかと考えた.立体視とは,それぞれの眼の網膜に映る像の差(=視差)に基づいて得られる奥行き感のことで1),立体視の成立する条件として,①両眼の視力の差が小さいこと,②各眼の網膜に映る像の大きさの違い(=不等像視)が小さいこと,③斜視がないこと,④各眼の中心窩がそれぞれ共通した位置づけの感覚をもった関係であること(=正常網膜対応),⑤後頭葉視中枢において両眼視細胞が発達していることが必要である2).よって,緑内障によりどちらか一方の視野のある部位に異常がある場合,両眼の網膜像の重なり合いが必要な立体視に関しては得られない可能性がある.そこで今回,二次元(2D)の映像をリアルタイムに三次元(3D)の映像に変換する装置を利用し,さらに偏光フィルターやシャッター眼鏡を装用せずに両眼それぞれに視差のついた映像を投影できるモニターを使用することにより,正常若〔別刷請求先〕望月浩志:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療系研究科臨床医科学群眼科学Reprintrequests:HiroshiMochizuki,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofKitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN立体視を応用した視野検査の試み望月浩志*1庄司信行*1,2太田有紀*2五味梓*2須賀美幸*2*1北里大学医療系研究科臨床医科学群眼科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻ExperimentonaStereoVisualFieldTestHiroshiMochizuki1),NobuyukiShoji1,2),YukiOota2),AzusaGomi2)andMiyukiSuga2)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofKitasatoUniversity,2)OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity筆者らは2D映像をリアルタイムに3D映像に変換する装置と裸眼両眼開放下で立体映像を得られるモニターを用いて,視野異常を立体視の低下あるいは欠如として検出できるかどうかを調べた.対象は正常若年者13名で,上下左右の半盲4パターンと右上・右下・左上・左下の1/4盲4パターンの計8パターンの模擬視野異常を作成し,視野異常と自覚的な見え方の一致率(=正答した人数/全対象の人数)を算出した.その結果,半盲4パターンでは一致率は平均76.9%,1/4盲4パターンでは一致率は平均67.3%で,合計8パターンでは一致率は平均73.7%であった.部位別にみると,他の部位と比べて鼻側および下方視野の一致率が悪かった.今回の検討結果から,立体視を利用することで視野障害を検出できる可能性が示唆された.Wedevelopedanewsimplestereo-perimeterthatmakesuseofstereopsis,andinvestigateditsclinicaluseful-nessasavisualeldtest.Testsubjectscomprised13normalvolunteers.Inthisstudyweinvestigatedthecoinci-denceoftestresultsusingthestereo-perimeterandND(neutraldensity)lter-simulatedscotomacomprising4patternsofhemianopiaand4ofquadrantanopia.Thecorrectanswerpercentagesforhemianopiaandquadrantano-piawere76.9%and67.3%,respectively(averageof8patterns:73.7%).Theratioofcoincidenceinthenasalandlowervisualeldswasinferiortothatinthetemporalandupperelds.Theseresultssuggestthatscotomascanbedetectedwiththisnewmethod,usingstereopsis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):853856,2009〕Keywords:視野,視野検査法,立体視,スクリーニング.visualeld,perimetry,stereopsis,screening.———————————————————————-Page2854あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(130)年者に模擬視野異常を作成した場合,立体視を用いて裸眼両眼開放下で視野異常を検出できるかどうかを検討した.I対象および方法1.対象対象は,屈折異常以外に眼疾患を認めない正常若年者13名(平均年齢22.6±2.8歳)で,平均屈折値は3.14±3.36Dであった.事前に,全員に近見立体視検査であるTitmusstereotestsにて一般的に正常値といわれている100secofarc.よりも良好な立体視機能を有していることを確認した.2.立体視野検査機器の構成今回試作した立体視野検査機器は,パーソナルコンピュータ,ダウンスキャンコンバータ,2Dの映像をリアルタイムに3Dに変換する装置である3DMAVE(株式会社マクニカ)および裸眼3D液晶モニターLL-151D(シャープ株式会社)で構成されている(図1).パーソナルコンピュータから出力された解像度1,280×768ピクセル(WXGA)の映像をダウンスキャンコンバータにてS-VIDEO方式に変換し,3DMAVEにて色の濃淡などの奥行き情報をもとに2Dの映像からリアルタイムに3D映像を構築し,視差バリアを利用して左右眼それぞれに視差のついた別々の映像を投影することができる裸眼3D液晶モニターに入力することで立体映像を得た.このモニターは偏光フィルターやシャッター眼鏡などの特別なフィルターや眼鏡を用いずに立体像が得られるため,より自然な日常両眼視の状態で簡便な検査が可能となる35).3.検査画面(図2)提示する映像については,事前にコンピュータグラフィックス・風景・アニメなどさまざまな映像で検討したが,3D変換装置の特性上色の濃淡などから奥行き情報を得ているため,カラフルな映像や動画では大きな立体感を感じづらかった.そこで,今回の映像は背景が灰色でそこに白と黒の円が交互に並んでいるような幾何学的な静止映像とした.中央に小さな赤い円を置き固視標とした.白と黒の円は視差のついていない立体感のない映像であっても白い円が浮き上がって見えてしまうという錯覚が起こる.この錯覚の影響を避けるため,黒い円が背景よりも飛び出して見え,白い円が沈んで見えるよう3D変換装置を設定した.4.測定の手順全員,遠見完全屈折矯正度数の検眼レンズを装用し,検査内容について十分説明を行い,一般的な視野検査と同様に中央の固視標から視線を動かさず注視したとき,立体感が得られる部分・得られない部分がある場合はその部分を答えてもらうこととした.検査距離は,裸眼3D液晶モニターの最適距離である60cmとした.視差バリア方式の裸眼3Dモニターは視差バリアとよばれる垂直方向の細長いスリットの開口部の裏面に,適当な間隔で左右眼の映像を交互に配置して,特定の位置から見たときに左右映像がそれぞれに分離して見えるという方式であるため,画面からの最適距離が固定されており,さらに視点移動して自由に見ることが不可能であり,指定の距離において真正面から画面を見ることが重要である35).そのため,必ず検査前に指定の位置で立体感のある映像が得られていることを確認した.測定条件を統一するために検査時間は全員一定の1回につき30秒とした.模擬視野異常は,眼科検査および治療時に人為的に視力を落とす目的で使われる半透明のNDフィルター(neutraldensitylter)を検眼レンズに貼り付けることで作成した.模擬視野異常は,鼻側,耳側,上,下半盲の4パターンと鼻ダウンスキャンコンバータ裸眼3D液晶モニターLL-151DPC図1機器の概略本機器は,PC(WindowsXP),ダウンスキャンコンバータ,3DMAVE(2Dの映像をリアルタイムに3Dに変換する装置),裸眼3D液晶モニターの4つの装置からなる.図2今回使用した映像灰色の背景に白(○)と黒(●)の円が交互に配置されており,固視標として中央に小さな赤い円()を配置した.黒い円が背景よりも浮き上がって見え,白い円が背景より沈んで見えるよう設定した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009855(131)上,鼻下,耳上,耳下1/4盲の4パターンの合計8パターンとし,被検者1人につき8パターンをランダムに提示した.検眼レンズにて視野異常を作成する場合,検眼レンズと網膜が共役ではないため正確な半盲および1/4盲を作成することはむずかしいが,今回は臨床応用の前段階として正常若年者においての検討であり,正常者に人為的に正確な視野異常を作成することが困難であるため上記の方法を用いた.また,日常両眼視の状態で,なるべく擬似視野異常を自覚させないためにhole-in-cardtestにて決定した非優位眼すなわち,利き目ではないほうの目に擬似視野異常を作成することとした.なお,擬似視野異常を測定する際には,固視点と一致すべき部位のフィルターに小さな赤い点を描き,その点と画面中心の固視標を重ねてもらうことで,センタリングを行った.5.検討項目最初に遠見完全屈折矯正度数の検眼レンズを装用した状態で,検査画面全体にわたって黒い円が白い円に比して浮き上がって見えることを確認した.その後,模擬的に作成した視野異常の部位と,自覚的に立体感の消失している部位がどの程度一致するかを検討した.被検者の回答が,模擬視野異常を作成した範囲に完全一致もしくは内包されている場合を正答とした.そして,一致率=正答した人数/全対象の人数として計算した.統計学的検定には,t検定を用い,有意水準が5%未満の場合を有意差ありとした.II結果(図3)まず,13名全員において,今回用いた装置でモニター画面全体にわたって立体画像を得ることが可能であった.模擬視野異常作成下における視野異常と自覚的な見え方の平均一致率は,半盲作成時は,鼻側半盲61.5%,耳側半盲92.3%,上半盲84.6%,下半盲69.2%であった.1/4盲作成時は,上鼻側53.8%,下鼻側69.2%,上耳側76.9%,下耳側69.2%であった.半盲4パターンでの平均一致率は76.9%,1/4盲4パターンでの平均一致率は67.3%,すべての模擬視野異常での平均一致率は73.7%であり,1/4盲作成時に比べ半盲で一致率がよい結果となった.鼻側半盲は耳側半盲に比べ有意に一致率が低かった(t検定p=0.04).III考察立体視は網膜神経節細胞のP細胞系を選択的に刺激するといわれている6).P細胞系は一般的に余剰性が高いと考えられているが,立体視機能に関しては,病期が初期であっても有意に低下し,さらには明度識別視野検査において緑内障性視野異常が出現していなくても立体視機能は有意に低下するという報告もみられる79).したがって,立体視を利用することにより,通常の明度識別視野に比べ,より早期から視野異常を検出できる可能性が考えられる.模擬視野異常を作成した正常若年者において,一致率は平均73.7%(53.892.3%)とおおむね良好な一致率が得られたが,なかには立体感が小さくわかりづらいという意見もあり,より小さな視野異常(半盲に比べ1/4盲)で一致率が低下するという結果になった.緑内障性視野異常では,今回の模擬視野異常のようなはっきりとした絶対暗点ばかりではなく,孤立暗点や比較暗点などのように小さな範囲のわずかな感度低下が出現することも多いため,実際に緑内障患者に現在の視標で検査を行うと,一致率が低下する可能性が考えられる.また,スリットの開口部を利用して特定の位置から見たときに左右の画像がそれぞれ左右眼に分離して投影する方式であるため,あまり視聴距離を変えたり視線移動をして見ることができない.真正面から見ることで一番大きな立体視が得られるため,画面の周辺部では中心部に比べ立体感が得づらいという欠点がある35).網膜各部位における立体視は中心から離れるに従って低下し,特に中心から3°離れるだけで急激に感度低下が起こると報告されており10),より周辺の立体視を測定するためには,視標の視差についてさらに検討する必要がある.今回使用した裸眼3D液晶モニターは,画面のサイズが15型(縦21.4cm×横28.5cm)であり,画面の機能的に最適な視聴距離が画面から60cmと固定されているため,今回の装置では,縦10.1°×横13.4°の視野を測定していることになる.臨床応用のためには,緑内障性視野障害の出現しやすいブエルム(Bjerrum)領域や鼻側周辺部も測定できる大きさのモニターが必要となる.本研究を行っている時点では15型を超える3Dモニターは高価であったため,入手しやすい15型を用いたが,今後の研究のために,大型の3Dモニターがより安価で入手できるようになることを期待したい.耳側鼻側一致率:84.6%一致率:69.2%一致率:92.3%*一致率:61.5%一致率:53.8%一致率:69.2%一致率:76.9%一致率:69.2%図3それぞれの模擬視野異常作成時の一致率半盲作成時(一致率:76.9%)に比べ1/4盲作成時(一致率:67.3%)に一致率が低下していた.鼻側半盲は耳側半盲に比べ有意に一致率が低かった.t検定*p<0.05.———————————————————————-Page4856あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(132)視野検査では,信頼性の高い結果を得ることが重要であり,そのためには固視を確認しながら検査を行うことが多い.しかし,今回の装置では他覚的な固視確認の方法がなく,検査前に十分な説明をして,検査中は声掛けをしながら被検者の眼を観察するという方法をとった.信頼性の高い検査を目指すには固視の確認は必要不可欠であるため,今後固視監視の方法について検討してゆきたい.耳側に比べ鼻側の一致率が低いという結果が得られ,鼻側の立体視機能は耳側に比べ低いことが示唆された.鼻側網膜(耳側視野)および耳側網膜(鼻側視野)の視機能について,ヒトでは生後23カ月までの視運動性眼振(optokineticnystagmus:OKN)や視野の発達・広さ,視細胞や神経節細胞の分布,神経結合の相対的な強さ,視力(特に網膜中心窩から20°以上離れた周辺視野)で鼻側網膜(耳側視野)優位と報告されている11).これらの優位性は,網膜から大脳視覚野に至る交叉性経路(耳側網膜から大脳視覚野への経路)と非交叉経路(耳側網膜から大脳視覚野への経路)の発達的な違いや神経結合の違いによって説明されているがいまだ不明な点も多い.立体視に関しても鼻側視野に比べ耳側視野で一致率が高く,OKNや視力などと同様に立体視機能においても耳側視野で優位であることがわかった.緑内障性視野異常において,特に鼻下方視野の障害では立体視機能が著明に低下するため12),立体感が得づらく階段などの段差がわかりにくいので独りでの外出が億劫になるといわれており,緑内障性視野異常はqualityoflife(QOL)を著しく低下させる原因となる13,14).緑内障の有病率が40歳以上の5.0%と非常に高いと報告され一般的に緑内障への関心が高まってきた現在,より検出率が高く手軽な視野のスクリーニング法が開発されることで早期発見・早期治療が可能となり,緑内障によるQOLの低下を防止することが可能になると思われる.今回使用した装置では視差の調整ができないことや測定範囲が狭いことなど,解決すべき問題は多いものの,模擬的に作成した大きな視野異常に関しては,立体視の欠如として検出しうることが示唆された.この結果を足がかりにして,視標や装置を改良することでより良好な一致率を目指し,立体視を用いた視野異常の検出方法が視野障害の早期発見の一助となるよう,今後も検討を重ねたい.文献1)日本視覚学会:視覚情報処理ハンドブック.p283-310,朝倉書店,20002)丸尾敏夫,粟屋忍:視能矯正学改訂第2版.p190-201,金原出版,19983)畑田豊彦:立体視機構と3次元ディスプレイ.日本視能訓練士協会誌16:19-29,19884)金谷経一,星野美保,吉居正一:めがねなし3Dディスプレイと医療応用.視覚の科学16:90-92,19955)奥山文雄:三次元画像と眼:原理と装置.眼科40:153-159,19986)大平明彦:両眼視機能.眼科診療プラクティス17:246-250,19957)BassiCJ,GalanisJC:Binocularvisualimpairmentinglau-coma.Ophthalmology98:1406-1411,19918)EssockEA,FechtnerRD,ZimmermanTJetal:Binocularfunctioninearlyglaucoma.JGlaucoma5:395-405,19969)GuptaN,KrishnadevN,HamstraSJetal:Depthpercep-tiondecitsinglaucomasuspects.BrJOphthalmol90:979-981,200610)中西史憲,二唐東朔:網膜各部位における深径覚感度の相違─心理物理学的計測─.岩手医誌47:441-448,199511)本田仁視:視覚交叉経路と非交叉経路の機能差─皮質下視覚機能の行動学的・心理物理学的研究─.心理学評論46:597-616,200312)重冨いずみ,原道子,倉田美和ほか:緑内障性視野異常と立体視機能.日本視能訓練士協会誌29:197-202,200113)NelsonP,AspinallP,PapasouliotisOetal:Qualityoflifeinglaucomaanditsrelationshipwithvisualfunction.JGlaucoma12:139-150,200314)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,2006***