《原著》あたらしい眼科36(12):1604.1607,2019c小中学生におけるタブレット端末使用授業時の視距離の検討野原尚美*1池谷尚剛*2*1平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻*2岐阜大学大学院教育学研究科心理発達支援専攻特別支援教育コースCTheViewingDistanceDuringLeaningActivitiesinSchoolchildrenUsingTabletComputersNaomiNohara1)andNaotakeIketani2)1)DivisionofOrthoptics,DepartmentofRehabilitation,Heisei-iryouCollegeofMedicalSciences,2)DivisionofSpecialNeedsEducation,GraduateSchoolofEducation,GifuUniversityC小中学校という初等教育の現場で,タブレット端末を使用した授業が急速に進んでいる.タブレット端末を授業で使用すれば,教科書のみの授業より近い距離で見ることが習慣になることが考えられ,視覚発達途上にある児童生徒の眼に何らかの影響を及ぼすことが懸念される.そこで,小学C4年生C25名,6年生C31名,中学C3年生C29名,計C85名を対象に,授業でタブレット端末を使用して調べ学習や画像撮影をしているときの様子を写真撮影し,距離測定ソフト(MapMeasure)によって写真から視距離を求め,通常の教科書を読んでいるときの視距離と比較した.iPadを使用して調べ学習をしているときの視距離は,小学C4年生がC23.5±6.9Ccm,小学C6年生がC24.6±8.1Ccm,中学C3年生がC24.5±5.8Ccmであった.どの学年においても,教科書を読むときの視距離よりも近かった(p<0.01).InformationCandCcom-municationtechnology(ICT)教育でCiPadを導入する際には,教科書のみの時代よりも近い視距離で見る時間が増えるということを念頭に置く必要がある.CTabletCcomputersChaveCnowCbecomeCpopularCtechnologicalCdevicesCforCeducationCinCprimaryCandCsecondaryCschools.Althoughgenerallyconsideredexcellentdevicesfortheimprovementofacademiclearningactivities,thereisaconcernastowhetherornottheya.ectthevisualdevelopmentinschoolchildren.Inthisstudy,weinvestigat-edCtheCviewingCdistanceCinC85schoolchildrenCwhenCviewingCtheCsurfaceCofCtabletCcomputerCdisplaysCandCnormalCtextbooks.CPhotographicCanalysesCshowedCthatCinC4th-gradeelementary(n=25),6th-gradeelementary(n=31),andC3rd-gradeCjunior-highstudents(n=29),theCmeanCdistanceCbetweenCtheCeyeCandCtheCreadingCsurfaceCwhenCviewingCtheiPAD(Apple,Inc.)wasC23.5±6.9Ccm,C24.6±8.1Ccm,CandC24.5±5.8Ccm,Crespectively,CandCthatCirrespec-tiveofage,theviewingdistancefortabletcomputerswassigni.cantlycloserthanthatwhenreadingprintedtext-books(p<0.01).OurC.ndingsCsuggestCthatCinCschoolchildren,CtheCuseCofCaCtabletCdeviceCduringClearningCactivitiesCcanpossiblyleadtoaccommodativestress,thuscausingapotentialriskofmyopicshiftinchildhood.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1604.1607,C2019〕Keywords:iPad,タブレット端末,小中学生,視距離,ICT.iPad,tabletdevice,schoolchildren,viewingdistance,informationandcommunicationtechnology(ICT).Cはじめに近年は,教育の現場でもCinformationtechnology(IT)活用の取組みが本格化している.小中学校という初等教育の授業においてもデジタルテレビ,personalCcomputer(PC),タブレット端末(以下,タブレット)などが導入され,学力向上が期待される一方で,視覚発達期の子供がCIT機器の画面を見る時間が増えることによる眼への健康が心配される.過去においてCPCの普及期には,端末表示装置(visualCdis-playterminal:VDT)症候群が問題視され,使用時間や視距離など適切な使用方法が検討された1,2).しかし,スマートフォンやタブレットの使用状態は,PCを想定したCVDT作業環境とは異なるにもかかわらず,視機能の問題にしぼっ〔別刷請求先〕野原尚美:〒501-1131岐阜市黒野C180平成医療短期大学Reprintrequests:NaomiNohara,Heisei-iryouCollegeofMedicalSciences,180Kurono,Gifu501-1131,JAPANC1604(128)た研究は,きわめて乏しいといえる.そのため筆者らは,まず先行研究でスマートフォンの視距離について書籍と比較し,書籍はC33Ccmの視距離に対し,スマートフォンはどんな作業でも視距離が近く,とくに,小さな文字で見ているときには約C20Ccmであることを明らかにした3).現在は,infor-mationCandcommunicationtechnology(ICT)教育の一環として,タブレットを使用した授業が,小中学校で急速に進んでいる.この場合もスマートフォン同様に,教科書を見ているときよりも,視距離が近くなっている可能性もあり,子供たちがC1日のうちでCIT機器を使用する時間が増えているうえに,もし近い視距離で見ているとなれば,やはり近視の進行や調節の問題など,眼への負担が大変懸念される.そこで,今回,タブレットを使用した授業の眼への影響について,授業中に視機能を検査することは不可能なため,タブレット使用時の視距離に焦点を絞って,タブレットを使用した授業と,従来どおりの教科書を使用した授業の際の児童生徒の写真を撮影し,それぞれの視距離を測定し,比較検討した.CI対象および方法対象は,岐阜市内A小学校のC4年生C25名と,6年生31名,および岐阜市内CB中学校C3年生C29名,合計C85名の児童生徒である.方法は,授業中の自然な状態で,授業を妨げず,児童生徒に負担のかからないように測定するために,授業中の写真を撮影し,その写真を地図上の道のりを測定する距離測定ソフト(MapMeasure)を用いて視距離を解析することとした.予備実験として,MapMeasureの測定値とメジャーで計測した値とがほぼ一致するか否かをC12名の成人被検者(平均年齢C21歳,男性C1名,女性C11名)で検討した.まず,タブレットを使用させ,そのときの視距離を実際にメジャーで計測した.その状態を保持するよう指示し,真横から,高さも合わせて写真撮影した.MapMeasureを用いて視距離を測定するには基準値の入力が必要であるのでタブレットの長辺の長さを基準値とすることとし,カメラ寄りの一辺を基準値とした場合と,奥の一辺を基準値とした場合のMapMeasureの視距離の測定値を,メジャーで計測した値と比較した.その結果,基準値を奥の一辺で取ったときのほうが,メジャーで計測した値に近かった.このことから,図1のように対象者を真横から高さを合わせ,タブレットの奥一辺が写るよう撮影した.その写真をCPC上のCMapMeasureで開き,基準値となるタブレットの奥一辺をクリックし,実際の長さを入力し,続いて角膜頂点と基準値とした奥一辺のほぼ中央をクリックすると,自動で視距離が計算される.授業で使用していたタブレットはCiPadAir(以下,iPad)で,長辺(高さ)はC240mm,短辺(幅)はC169.5mmであった.授業形態は,調べ学習と写真や動画撮影であった.小学C4年生は,図工の授業でCiPadを使用し,飼育しているウサギの写真を撮影し,その後,ウサギについて調べ学習を行っていた.小学C6年生は,国語の授業で終始CiPadを使用して調べ学習を行っていた.中学C3年生は,社会の授業で終始CiPadを使用して調べ学習を行っており,さらに英語の授業では,英会話で発表をしている場面の動画撮影を行っていた.iPad使用時の視距離の撮影は,授業開始から終わるまでの間で,使い始め,中頃,授業最終時で,可能な限りC1人の生徒につきC3枚の写真を撮影した.調べ学習時のCiPadの文字サイズは,確認ができた生徒の多くは,ほぼ拡大することなくC2.3Cmmであった.また,iPadの視距離を撮影した同じクラスで,教科書(高さC255Cmm,幅C180Cmm)を使用する授業に入り,教科書を読んでいるときの写真も授業開始時,中頃,最終時のC3枚の写真を撮影した.教科書の文字サイズは,小学C4年生は漢字C5mm,平仮名C4Cmm,小学C6年生は漢字と平仮名ともにC4Cmm,中学C3年生は漢字と平仮名ともにC3Cmmであった.視距離の検討は,①教科書を見ているときより近いか,②学年によって違うか,③時間の経過とともに近づくかについて行った.統計学的検討は,対応のないCt検定を用い,有意水準5%未満として行った.CII結果1.教科書とiPad使用時の視距離の比較小学C4年生,6年生,中学C3年生における,教科書とCiPad使用時の視距離を図2,3,4に示す.縦軸に視距離,横軸に条件をとり,●は視距離の平均値C±標準偏差である.小学C4年生では,教科書を見ているときの視距離はC31.0C±9.7cmに対して,iPadを使用して調べ学習をしているときはC23.5C±6.9Ccm,写真撮影をしているときの視距離はC22.9C±4.7cmであり,いずれも教科書を見ているときの視距離と比べ有意に近かった(p<0.01).6年生では,教科書を見ているときの視距離はC30.7C±7.4Ccmに対して,iPadを使用して調べ学習をしているときはC24.6C±8.1Ccmで,iPad使用時の視距離は,教科書を見ているときの視距離と比べ有意に近かった(p<0.05).中学C3年生では,教科書を見ているときの視距離C32.9C±7.4Ccmに対して,iPadを使用して調べ学習をしているときはC24.5C±5.8Ccm,動画撮影しているときはC20.7C±6.4Ccmであり,iPad使用時の視距離は,教科書を読んでいるときの視距離と比べ有意に近かった(p<0.01).C2.学年別での視距離の比較iPadを使用して調べ学習をしているときの視距離を,学年ごとに比較した結果,3学年の間に有意な差は認められず,学年による視距離の差は認められなかった.C3.時間の経過に伴う視距離の変化iPadを使い始めた頃と,中頃,終わり頃のC3回の写真か視距離(cm)45403530252015*10*50教科書iPad写真撮影iPad調べ学習図1視距離の測定(調べ学習時:破線は基準値,実線は視距離を示す)対象者を真横に高さを合わせ,タブレットの奥一辺が写るように写真を撮影する.その写真をパソコン上のCMapMeasure(地図上の道のりを測定する距離測定ソフト)で開く.まず,基準値となるタブレットの一辺をクリックし,実際のタブレットの長さを入力し,続いて角膜頂点と基準値とした奥一辺のほぼ中央をクリックすると自動で視距離が計算される.C454035視距離(cm)3025201510105500図2小学4年生における教科書とiPadでの視距離の比較(*p<C0.01)C454035視距離(cm)30252015教科書iPad調べ学習iPad動画撮影教科書iPad調べ学習図3小学6年生における教科書とiPadでの視距図4中学3年生における教科書とiPadでの視距離の比較(**p<C0.05)離の比較(*p<C0.01)表1各学年における時間の経過に伴う視距離の変化(調べ学習時)学年対象者数(名)調べ学習時の視距離(cm)±標準偏差開始中盤最終小学C4年生C12C23.1±7.9C22.9±6.7C21.0±5.1小学C6年生C10C23.3±7.8C26.2±7.3C24.1±9.0中学C3年生C10C20.1±6.3C17.4±4.5C21.2±5.4ら視距離を解析した結果を表1に示す.4年生C25名中,3回解析できたのはC12名であった.6年生,中学C3年生はともにC10名であった.どの学年も,3回の視距離に有意な差は認められず,iPadを使用して調べ学習をしているときは,時間の経過とともに視距離が近づく傾向はなかった.III考按今回用いた方法は,授業中の自然な状態で,しかも授業を妨げず児童生徒に負担をかないで測定することを重要視して採択した.予備実験を重ね,実測値に近い値が測定できるところまで確認できたが,精度の高い方法で正確な視距離を測定できたとはいえない.しかし,今まで,見る距離が近い,姿勢が悪くて眼が近いといわれてきたような漠然とした感覚ではなく,どの程度の視距離であるか数値化できたこと,どのような傾向になっているのかを把握することができた点では有用な方法であったと考えられた.iPadを使用するときは,どんな用途でも,教科書を読んでいるときの視距離に比べると有意に近くなっていた.教科書の文字を読むという行為に対し,iPadは常に画面をさわる手指の運動が入る.多くの児童生徒の書くときの姿勢が非常に前屈みになっていたことから,iPadの画面を指で操作することが,書くことと同じ効果となり,視距離が教科書を読むときより近づいたのではないかと考えられた.また,iPadでは多くの児童生徒が文字を拡大しないで,小さな状態のまま見ていたことも視距離が近くなった要因と考えられた.そして,iPadを使い始めてから終わりまで,ほぼ一定の視距離であったことに関しては,iPadは画面が大きいため,両手で持ち,机の上や大腿部の上で支えながら使用する児童生徒が多いうえ,カバーを書見台のようにして使用している児童生徒もおり,使っているうちに近づいていくような近接化は起こりにくいと考えられた.以前から,近い視距離は,子供の視力低下の要因となる4,5),近視の発症と相関する6,7)など多くの報告がなされている.また近視進行の時期も小学C4.5年生で著しい8)ともいわれている.まさに今回,調査の対象となった学年であり,近い視距離に加え,近視進行の時期が重なることに,より一層注意が必要であると考えられた.文部科学省はC2013年度よりCiPadを用いたデジタル教科書の標準化事業を始めており,2020年度から本格的に全国の小中高校で導入される見通しが示され9),IT機器は今後ますます初等教育に取り入れられていくであろう.ICT教育でCiPadを導入することは,教科書のみの時代より,近い視距離で見る時間が増えるということを念頭に置く必要があり,今後は,今まで以上に近視の低年齢化,眼精疲労などの眼科的問題の発生が懸念されると考えられた.長谷部は,生活習慣について適切な指導を与えることにより,一定範囲で近視の進行速度をコントロールできる10)と示しており,これからCICT教育でCIT機器を使用する場合,近視進行の恐れがあることを念頭に置き,使用前に視距離がC30Ccm程度になるよう正しい姿勢の指導を行い,使用するなかで,近い視距離になる児童生徒には,教員が視距離を離すよう注意を促しながら,正しく活用させていくことも大切であると考えられた.文献1)山田覚,師岡孝次:VDT作業における視距離の評価.東海大学紀要工学部C26:209-216,C19862)厚生労働省:新しい「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の策定について.平成C14年C4月C5日Chttp://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/04/h0405-4.html3)野原尚美,説田雅典,松井康樹ほか:携帯電話・スマートフォン使用時および書籍読書時における視距離の比較検討.あたらしい眼科32:163-166,C20154)椛勇三郎,西田和子:横断的調査による「女子中学生の視力低下」の要因分析.日本公衆衛生雑誌54:98-106,C20075)丸本達也,外山みどり,マリア・ビアトリツ・ビラヌエバほか:学童や生徒の視力と学習時の姿勢についての相関分析.日眼会誌101:393-399,C19976)IpJM,SawSM,RoseKAetal:Roleofnearworkinmyo-pia:.ndingsCinCaCsampleCofCAustralianCschoolCchildren.CInvestOphthalmolVisSciC49:2903-2910,C20087)RoseKA,MorganIG,IpJetal:Outdooractivityreducestheprevalenceofmyopiainchildren.OphthalmologyC115:C1279-1285,C20088)山下牧子,三浦真由美,藤井恵子ほか:近視の進行と眼鏡.眼紀42:1554-1559,C19919)文部科学省:第C5章学習者用デジタル教科書・教材の開発.文部科学省学びのイノベーション事業実証研究報告書:C157-184,C201310)長谷部聡:小児の近視予防.あたらしい眼科C27:757-761,C2010C***