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ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験

2020年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(3):345?352,2020?ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験新家眞*1福地健郎*2中村誠*3関弥卓郎*4*1公立学校共済組合関東中央病院*2新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野*3神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野*4千寿製薬株式会社Long-TermE?cacyandSafetyofNovelBrimonidine/TimololOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-angleGlaucoma(BroadDe?nition)orOcularHypertensionMakotoAraie1),TakeoFukuchi2),MakotoNakamura3)andTakuroSekiya4)1)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,3)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltdはじめに緑内障は多くの場合きわめて慢性に経過する進行性の疾患で,長期の点眼や定期的な経過観察を要し,かつ自覚症状がないことが多いことから,アドヒアランスの維持は治療の成否に大きくかかわる1).緑内障患者を対象としたアンケート調査では,薬剤数の増加により点眼回数に負担を感じる症例が有意に増え,点眼を忘れる頻度が高くなることが報告されている2).薬剤数および点眼回数を減らすことのできる配合点眼剤は,患者のアドヒアランスを向上させ,治療効果を上げることに貢献することが期待される.〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師渡辺眼科医院渡邉広己富士見台眼科浅野由香三橋眼科医院三橋正忠道玄坂加藤眼科加藤卓次成城クリニック松﨑栄医療法人社団はしだ眼科クリニック橋田節子医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功たまがわ眼科クリニック關保医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹医療法人社団ムラマツクリニックむらまつ眼科医院村松知幸医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治医療法人社団橘桜会さくら眼科松久充子北川眼科医院北川厚子医療法人良仁会柴眼科医院柴宏治医療法人社団優美会川口あおぞら眼科清水潔赤羽しまだ眼科島田典明0.1%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロール配合点眼剤(以下,SJP-0135)は,a2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩とb遮断薬であるチモロールマレイン酸塩を有効成分とする配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は,a2受容体を選択的に刺激して,毛様体上皮においてcyclicadenos-inemonophosphate(cyclicAMP)産生を抑制して房水の産生を抑制し,さらに,ぶどう膜強膜流出路を介して房水流出を促進することで眼圧下降効果を示す3).0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液0.1%)は,わが国では2012年に千寿製薬株式会社が承認を得た緑内障治療薬であり,唯一のa2作動薬である.臨床試験においては他の緑内障治療薬と併用することでさらなる眼圧下降効果が得られており4,5),眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている6).チモロールマレイン酸塩はb遮断薬であり,毛様体上皮のb受容体を遮断して,cyclicAMP産生を抑制することにより,房水産生を抑制して眼圧下降効果を示す7,8).0.5%チモロール点眼剤(以下,チモロール)は,わが国では1981年に承認され,プロスタグランジン関連薬とともに第一選択薬として広く使用されている.わが国では,ブリモニジン酒石酸塩点眼剤の使用患者の約6割にb遮断薬が併用されている9).SJP-0135は,作用機序の異なる2成分を配合することにより各単剤よりも強い眼圧下降効果が期待されることに加えて,配合剤に変更することで点眼回数の減少に伴う患者の利便性向上が期待される.さらに,現在,わが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組合せはプロスタグランジン関連薬とb遮断薬,または炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の組合せのみであることから,わが国初のa2作動薬を含有した配合点眼剤であるSJP-0135は治療選択肢の拡大に貢献すると考えられる.今回は,SJP-0135の第III相長期投与試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象として,SJP-0135を長期点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性について検討したので報告する.I方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,2017年1月?2018年6月に表1に示す全国16医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,本治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第14条第3項および第80条の2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験の実施状況の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMIN000026471).2.目的SJP-0135を52週間点眼したときの眼圧下降効果および安全性の検討を目的とした.3.対象対象は,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,チモロールを4週間投与後の眼圧が15.0mmHg以上で,選択基準を満たし,除外基準に抵触しない患者とした.おもな選択基準および除外基準を表2に示した.なお,すべての被験者から治験参加前に,文書による同意を得た.4.方法a.被験薬被験薬は,点眼液1ml中にブリモニジン酒石酸塩を1.0mg,チモロールを5.0mg(チモロールマレイン酸塩として6.8mg)含有する水性点眼剤である.b.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同非対照非遮閉試験として実施した.観察期開始日から既存の緑内障治療薬をチモロールに切り替え,両眼にそれぞれ1回1滴,1日2回(朝および夜),4週間点眼した後,治療期としてSJP-0135を,両眼にそれぞれ1回1滴,1日2回(朝および夜),52週間点眼した.c.症例数「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について(平成7年5月24日薬審第592号)」に基づき,評価症例数を100例とした.さらに中止脱落率表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも眼圧下降治療(点眼)を受けており,今後も継続が必要な者3)両眼とも最高矯正視力が0.3以上4)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値が15.0mmHg以上31.0mmHg以下おもな除外基準1)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者3)コンタクトレンズの装用が必要な者4)高度の視野障害がある者5)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者6)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者7)スクリーニング検査日の過去180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon?下注射または結膜下注射を実施した者8)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患(例:肝障害,腎障害,心血管系疾患,内分泌系疾患)を有する者9)気管支喘息,気管支痙攣もしくは重篤な慢性閉塞性肺疾患を有するまたは既往のある者10)コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度)若しくは心原性ショックを有するまたは既往のある者11)肺高血圧による右心不全,うっ血性心不全,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスまたはコントロール不十分な糖尿病のある者12)ブリモニジン酒石酸塩または他のa2作動薬,チモロールマレイン酸塩または他のb遮断薬,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者13)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬および炭酸脱水酵素阻害薬を使用する予定のある者14)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者を約20%程度と想定し,目標症例数を125例に設定した.5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数および臨床検査の各検査および観察を表3のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8時?10時の間に測定し,点眼後は2時間値を測定した.有害事象は,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合は副作用とした.6.併用薬および併用処置治験期間中は,表2の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止した.7.評価方法および解析方法a.有効性有効性は,最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,各観察日における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とし,要約統計量を算出し,投与後の推移を検討した.副次評価項目は,主要評価項目を除く,各観察日における治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧値および眼圧変化率とし,要約統計量を算出し,各々の推移を検討した.眼圧値については,各測定時点における治療期開始日と投与後の各観察日をpairedt検定(有意水準両側5%)により比較した.b.安全性安全性は,治療期に組み入れられたすべての被験者のうち,SJP-0135の投与を一度も受けなかった被験者,初診時(治療期開始日)以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とし,有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧,脈拍数および臨床検査を評価し,有害事象の発現割合(発現例数/SS)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧,脈拍数および臨床検査は,SJP-0135投与前後の比較を行った.眼底および視野は,スクリーニング検査日からの悪化の有無について比較した.II結果1.被験者の構成同意を取得できた被験者は157例で,スクリーニング脱落例5例を除いた152例が観察期としてチモロールの投与表3検査・観察スケジュール観察期(4週)治療期(52週)スクリーニング検査日治療期開始日投与4,8,12,20,36,44週投与28,52週中止脱落時測定時点(時間)?02020202同意取得○背景因子●●点眼●●●最高矯正視力●●●●●結膜・眼瞼・角膜所見●●●●●●●眼圧●●●●●●●●●眼底●●●視野●●●血圧・脈拍数●●●●●●●●●臨床検査●●●点眼状況注1●●●●有害事象注1○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.注1:投与16,24,32,40,48週でも実施した.を受けた.このうち観察期脱落例16例を除いた136例が治療期に組み入れられ,SJP-0135の投与を受けた.治験完了例は108例で,治験未完了例は28例であった.治療期に組み入れられ,SJP-0135を投与した136例全例をSSとした.SSから4例(除外基準に抵触2例,治療期開始日以降の適切な検査データなし2例)を除いた132例をFASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.2.有効性眼圧値の推移を図1に,眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移を表5に示した.主要評価項目である治療期の眼圧変化値(2時間値)の平均値±標準偏差は,治療期投与4週から52週まで,?3.4±2.3??2.8±1.8mmHgの範囲で推移し,安定した眼圧下降効果が認められた.副次評価項目については,治療期の眼圧値の0時間値,2時間値および0時間値と2時間値の平均値は,いずれも治療期投与4週から52週まで,治療期開始日の眼圧値よりも低下し,すべての観察日で,投与前と比較して統計学的に有意な差を認めた(いずれもp<0.0001).治療期の眼圧変化値および眼圧変化率の0時間値および0時間値と2時間値の平均は,いずれも約?3??2mmHg,約?10??20%の範囲で推移した.眼圧変化値(2時間値)を対象疾患別に原発開放隅角緑内障(広義)[原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,前視野緑内障(高眼圧群,正常眼圧群)]および高眼圧症で層別解析した結果を表6に,治療期開始日(2時間値)の眼圧値別に,低眼圧層(15mmHg以上18mmHg未満,18mmHg以上20mmHg未満),中眼圧層(20mmHg以上22mmHg未満)および高眼圧層(22mmHg以上)に層別解析した結果を図2に示した.いずれの層別解析でも主要評価項目の結果と同様に,治療期投与4週から52週まで,いずれの層においても安定した眼圧下降効果が認められた.3.安全性有害事象は98例(72.1%)271件認めた.このうち,副作用は27例(19.9%)34件であった.副作用一覧を表7に示した.おもな副作用は,アレルギー性結膜炎12例(8.8%),点状角膜炎10例(7.4%),眼瞼炎3例(2.2%),結膜充血2例(1.5%)であった.重度と判定された副作用はなく,中等度と判定された副作用は2例(1.5%)2件(いずれもアレルギー性結膜炎)で,その他の副作用[25例(18.4%)32件]は軽度であった.治験薬投与の中止を必要とした副作用は9例(6.6%)に10件(アレルギー性結膜炎7件,眼瞼炎3件)認めた.死亡例,重篤な副作用はなかった.臨床検査値,バイタルサイン,身体的所見および安全性に関連する他の観察項目でも,臨床上問題となるような変動や所見に関連する副作用はなかった.表4被験者背景(FAS)項目分類SJP-0135(n=132)性別男女平均±値標準偏差最小値?最大値原発開放隅角緑内障(広義)原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障前視野緑内障(高眼圧群)前視野緑内障(正常眼圧群)高眼圧症有無有無有無58(43.9)74(56.1)年齢(歳)65.0±9.730?85対象疾患注1107(81.1)(有効性評価対象眼)30(22.7)45(34.1)15(11.4)17(12.9)25(18.9)緑内障治療薬注2132(100.0)0(0.0)眼局所の合併症注297(73.5)35(26.5)眼局所以外の合併症116(87.9)16(12.1)例数(%)注1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1)(2)を満たす者前視野緑内障(高眼圧群):以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者正常眼圧緑内障:以下の(1)(2)(3)すべてを満たす者前視野緑内障(正常眼圧群):以下の(2)(3)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経乳頭の存在,(3)過去に眼圧値が21.0mmHg以上を示した既往がない.注2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした.0時間値242時間値2420201616121248122028364452観察日(週)48122028364452観察日(週)図1眼圧値の推移*p<0.0001(投与前との比較)pairedt検定,平均値±標準偏差(mmHg).眼圧値は,0時間値および2時間値とも治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移測定時点眼圧値(mmHg)眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)0時間値治療期開始日18.1±2.5(132)??治療期投与4週16.1±2.4*(130)?2.0±1.7(130)?11.1±8.5(130)治療期投与8週15.8±2.4*(129)?2.3±2.0(129)?12.2±10.0(129)治療期投与12週15.7±2.4*(126)?2.4±2.1(126)?13.1±10.9(126)治療期投与20週15.9±2.8*(124)?2.2±2.3(124)?11.9±12.2(124)治療期投与28週16.1±2.6*(119)?2.0±2.3(119)?10.4±12.4(119)治療期投与36週16.0±2.8*(115)?2.0±2.3(115)?10.6±12.5(115)治療期投与44週16.0±2.7*(108)?1.9±2.4(108)?10.4±12.9(108)治療期投与52週15.8±2.7*(108)?2.1±2.0(108)?11.6±11.0(108)2時間値治療期開始日17.5±2.3(132)??治療期投与4週14.7±2.6*(130)?2.8±1.8(130)?16.0±10.2(130)治療期投与8週14.5±2.4*(129)?3.0±1.9(129)?16.7±10.6(129)治療期投与12週14.1±2.3*(126)?3.4±2.3(126)?19.1±11.8(126)治療期投与20週14.3±2.4*(124)?3.2±2.2(124)?17.8±11.4(124)治療期投与28週14.4±2.4*(119)?3.1±2.2(119)?17.3±12.1(119)治療期投与36週14.1±2.5*(115)?3.3±2.2(115)?18.7±11.9(115)治療期投与44週14.5±2.4*(108)?2.8±2.1(108)?16.1±11.8(108)治療期投与52週14.5±2.6*(107)?2.9±2.2(107)?16.3±12.4(107)0時間値と2時間値の平均値治療期開始日17.8±2.3(132)??治療期投与4週15.4±2.3*(130)?2.4±1.4(130)?13.6±7.7(130)治療期投与8週15.2±2.3*(129)?2.6±1.7(129)?14.6±9.1(129)治療期投与12週14.9±2.2*(126)?2.9±1.9(126)?16.1±9.9(126)治療期投与20週15.1±2.5*(124)?2.7±2.0(124)?14.9±10.6(124)治療期投与28週15.2±2.3*(119)?2.5±2.0(119)?13.9±10.6(119)治療期投与36週15.1±2.5*(115)?2.6±2.0(115)?14.7±10.8(115)治療期投与44週15.2±2.4*(108)?2.4±2.0(108)?13.3±11.1(108)治療期投与52週15.1±2.5*(107)?2.5±1.8(107)?14.1±10.2(107)平均値±標準偏差(例数),*p<0.0001〔各VISIT(測定時点)?治療期開始日(測定時点)のpairedt検定有意水準:両側5%〕眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率は,治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.眼圧値は,すべての観察日で,投与前と比較して統計学的に有意な差を認めた.表6対象疾患別眼圧変化値(2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)高眼圧症原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障前視野緑内障(高眼圧群)前視野緑内障(正常眼圧群)治療期投与?2.7±1.9?2.2±2.0?2.8±1.9?3.0±1.8?2.7±1.9?3.4±1.64週(106)(29)(45)(15)(17)(24)治療期投与?3.2±2.1?3.2±1.9?3.3±2.5?2.8±1.8?3.2±1.7?4.3±2.812週(102)(28)(43)(14)(17)(24)治療期投与?2.9±2.2?2.9±2.0?3.1±2.4?2.0±2.2?3.3±1.8?3.8±2.328週(95)(26)(41)(13)(15)(24)治療期投与?2.7±2.1?2.2±2.3?3.1±2.0?1.9±2.3?3.0±1.8?3.5±2.452週(85)(21)(39)(11)(14)(22)平均値±標準偏差(例数)いずれの対象疾患でも眼圧変化値(2時間値)は,治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.低眼圧層(15mmHg以上18mmHg未満表7治療期副作用の発現割合低眼圧層(18mmHg以上20mmHg未満)中眼圧層(20mmHg以上22mmHg未満)0高眼圧層(22mmHg以上)-2-4-6-84122852観察日(週)図2治療期開始日(2時間値)の眼圧値別の眼圧変化値(2時間値)平均値±標準偏差(mmHg).いずれの眼圧層でも眼圧変化値(2時間値)は,治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.注1:副作用名はICH国際医薬用語集MedDRA/JVersion19.1のPT(基本語)を用いて分類した.おもな副作用は,アレルギー性結膜炎12例(8.8%),点状角膜炎10例(7.4%),眼瞼炎3例(2.2%),結膜充血2例(1.5%)であった.III考按わが国では数多くの作用機序の異なる緑内障治療薬が使用可能であるが,緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場合,まず単剤(単薬)療法から開始し,目標眼圧に達していないなど,有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼剤を含む)を行うとされている1).そのため,本治験では,チモロールからSJP-0135へ切り替えた場合の安全性および有効性を確認するため,観察期としてチモロールを4週間投与した後,観察期終了日の眼圧値が15.0mmHg以上であった患者を対象に,治療期としてSJP-0135に切り替えて52週間投与した.有効性に関しては,眼圧値は治療期のすべての測定時点において投与前と比較して統計学的に有意に低下し,治療期52週まで安定した眼圧下降効果を認めた.層別解析の結果,いずれの対象疾患(原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,前視野緑内障,高眼圧症)においても治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果を認めた.また,治療期開始日(2時間値)の眼圧値別の層別解析の結果,いずれの層においても,治療期投与4週から52週まで,眼圧値はベースラインより2.0mmHg以上低下し,かつ安定した眼圧下降効果を認めた.以上より,SJP-0135はチモロール単剤から切り替えた場合はさらなる眼圧下降効果が期待でき,長期投与時でもその効果は減弱しないと考えられる.さらに,SJP-0135は対象疾患および投与開始前の眼圧値にかかわらず,眼圧下降効果を示すと考えられる.安全性に関しては,有害事象は72.1%,副作用は19.9%で認めたが,治療期52週を通じて重篤な副作用は認めなかった.比較的発現頻度の高かった副作用は,アレルギー性結膜炎(8.8%),点状角膜炎(7.4%)および眼瞼炎(2.2%)であり,いずれもアイファガン点眼液0.1%およびチモロール点眼液において既知の副作用であった.アイファガン点眼液0.1%では,長期投与によりアレルギー性結膜炎の発現頻度が高くなる傾向が認められており,投与52週におけるアレルギー性結膜炎の副作用発現頻度は18.4%である10).この値は今回の8.8%に比べて髙かった.海外では0.2%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロール配合点眼剤(COMBIGAN,米国Allergan,Inc.)が市販されている.COMBIGANの臨床試験において,投与12カ月を通してCOMBIGANの眼圧下降効果はチモロール単剤(1日2回)およびブリモニジン(1日3回)と比べて優れ,かつ安定していたことが確認されている11).このことから,SJP-0135も同様に,長期投与時をした場合でも各単剤に比べて髙い眼圧下降効果を示すと考える.また,安全性については投与12カ月におけるアレルギー性結膜炎の発現頻度は0.2%ブリモニジン酒石酸塩群(9.4%)に比べてCOMBIGAN群(5.2%)では約半数であり,有意に低いことが報告されている11).なお,a作動薬による細胞容積の減少および傍細胞流の増加による潜在的な炎症誘発因子の結膜組織内への侵入12)がb遮断薬により抑制される13)ことで,ブリモニジン由来の眼部アレルギーの発現頻度がチモロールにより低下するという報告があり,配合剤でのアレルギー性結膜炎の発現頻度減少の一つの仮説として考えられている14).そのため,SJP-0135においても,アイファガン点眼液0.1%に比べてアレルギー性結膜炎の発現頻度が低下する可能性がある.以上の結果より,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,SJP-0135は52週間点眼したとき,安定した眼圧下降効果を維持し,安全性に問題のない治療薬となりうると考える.SJP-0135はわが国初のa2作動薬を含む配合点眼剤であること,SJP-0135への切り替えにより薬剤数および総点眼回数が減ることで患者の治療効果の向上が期待できることから,SJP-0135は緑内障治療の薬物療法において有用性の高い選択肢になると考える.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第4版.日眼会誌122:5-53,20182)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,20123)BurkeJ,SchwartzM:Preclinicalevaluationofbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(S-1):S9-S18,19964)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,20125)新家眞,坂本祐一郎:ブリモニジン点眼液0.1%の臨床的有用性に関する多施設前向き観察的研究―使用成績調査中間報告.臨眼71:859-867,20176)KrupinT,LiebmannJM,Green?eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentstudy.AmJOphthalmol151:671-681,20117)LarssonLI:Aqueoushumor?owinnormalhumaneyestreatedwithbrimonidineandtimolol,aloneandincombi-nation.ArchOphthalmol119:492-495,20018)CoakesRL,BrubakerRF:Themechanismoftimololinloweringintraocularpressure:Inthenormaleye.ArchOphthalmol96:2045-2048,19789)2014年4月?2018年3月における縮瞳薬及び緑内障治療剤:局所用の使用状況.株式会社JMDC10)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201211)SherwoodMB,CravenER,ChouCTetal:Twice-daily0.2%brimonidine-0.5%timolol?xed-combinationtherapyvsmonotherapywithtimololorbrimonidineinpatientswithglaucomaorocularhypertension:a12-monthran-domizedtrial.ArchOphthalmol124:1230-1238,200612)ButlerP,MannschreckM,LinSetal:Clinicalexperiencewiththelong-termuseof1%apraclonidine:Incidenceofallergicreactions.ArchOphthalmol113:293-296,199513)AlvaradoJA,MurphyCG,Franse-CarmanLetal:E?ectofbeta-adrenergicagonistsonparacellularwidthand?uid?owacrossout?owpathwaycells.InvestOphthalmolVisSci39:1813-1822,199814)AlvaradoJA:Reducedocularallergywith?xed-combination0.2%brimonidine-0.5%timolol.ArchOphthalmol125:717-718,2007◆**

ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした第III相臨床試験―チモロールとの比較試験

2020年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(3):336?344,2020?ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした第II相臨床試験―チモロールとの比較試験新家眞*1福地健郎*2中村誠*3関弥卓郎*4*1公立学校共済組合関東中央病院*2新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野*3神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野*4千寿製薬株式会社PhaseIStudytoEvaluatetheE?cacyandSafetyofNovelBrimonidine/TimololOphthalmicSolutionComparedwithTimololOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-angleGlaucoma(BroadDe?nition)orOcularHypertensionMakotoAraie1),TakeoFukuchi2),MakotoNakamura3)andTakuroSekiya4)1)KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,3)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltdはじめに緑内障は,わが国における視覚障害原因の第1位を占めているが1),根本治療法はなく,エビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降である2).緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場合,まず単剤(単薬)療法から開始し,有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼剤を含む)〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN336(88)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYを行うとされており2),多剤併用患者は年々増えている3?5).その一方で,アドヒアランスの低下や点眼剤に含まれる保存剤による角膜上皮障害,点眼間隔を十分に空けずに点眼することによる治療効果の減弱(洗い流し効果)などの多剤併用治療特有の問題も発生している6?8).それらを軽減または回避するため,多剤併用の際には配合点眼剤の使用による患者のアドヒアランスを考慮する必要がある2).現在,わが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組み合せはプロスタグランジン関連薬とb遮断薬,または炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の組合せのみであることから,上記以外の組み合わせの配合点眼剤の開発は治療の選択肢を拡大するという点において臨床的意義があると考える.0.1%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼剤(以下,SJP-0135)は,a2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩とb遮断薬であるチモロールマレイン酸塩を有効成分とする,わが国初のa2作動薬を含む配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は第二選択薬として使用される薬剤であり,房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出促進することで眼圧下降効果を示す9).臨床試験においては他の緑内障治療薬と併用することでさらなる眼圧下降効果が得られている10).また,眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている11).チモロールマレイン酸塩は第一選択薬として使用される薬剤であり,房水産生抑制により眼圧下降効果を示す12,13).わが国では,ブリモニジン酒石酸塩点眼剤の使用患者の約6割にb遮断薬が併用されている14).SJP-0135は作用機序の異なる両有効成分を配合していることから,相加的な眼圧下降効果が期待される.海外では,0.2%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼剤(COMBIGAN,米国Allergan,Inc.)が60を超える国と地域で承認,販売されている.今回は,SJP-0135の第III相比較試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象に,SJP-0135の有効性(眼圧下降効果)および安全性について,SJP-0135の有効成分の一つである0.5%チモロールマレイン酸塩点眼剤(以下,チモロール)を対照に比較検討したので報告する.I方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,2017年3月?2017年12月に表1に示す全国67医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,本治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第14条第3項および第80条の2に規定する基準,ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験の実施状況の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMIN000026472).2.目的SJP-0135を4週間点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性について,チモロールを対照に比較検討する.さらに,参照群として0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)およびチモロールの併用群を設定し,SJP-0135の有効性および安全性が各単剤の併用と同程度であることを確認する.3.対象対象は,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,チモロールを4週間投与後の眼圧が18.0mmHg以上で,表2の基準に該当する患者とした.すべての被験者から治験参加前に文書による同意を得た.4.方法a.被験薬被験薬は,点眼剤1ml中にブリモニジン酒石酸塩を1.0mg,チモロールを5.0mg(チモロールマレイン酸塩として6.8mg)含有する水性点眼剤である.b.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮閉(評価者遮閉)並行群間比較試験として実施した.観察期にチモロールを両眼に1回1滴,1日2回(朝および夜),4週間点眼した後,治療期に,SJP-0135群はSJP-0135およびSJP-0135基剤(プラセボ)点眼剤,チモロール群はチモロールおよびプラセボ点眼剤,併用群(参照群)はブリモニジンおよびチモロールを,両眼に1回1滴,1日2回(朝および夜),4週間点眼した.治験薬の点眼間隔は5分以上10分以内とした.遮閉性を確保するため,SJP-0135群およびチモロール群ではプラセボ点眼剤を用い,すべての投与群で2剤の治験薬を点眼した.治験デザインを図1に示した.治験薬は点眼容器を小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬の割付は,割付責任者が,識別不能性を確認したのち,無作為割付を行った.被験者への割付は,観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値の2時間値および観察期終了日(治療期開始日)の2時間値のスクリーニング検査日からの変化値を因子とし,施設および各因子の群間のバランスを確保するため,動的割付を行った.SJP-0135群,チモロール群,併用群の割付比は,3:3:1とした.割付表は厳封し,開鍵時まで割付責任者が保管した.c.被験者数SJP-0135群とチモロール群の眼圧下降の差を1.0mmHg,共通の標準偏差を約2.8mmHgと推定し,有意水準両側5%,検出力90%と設定し,必要な評価被験者数を各群166例と表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師実施医療機関治験責任医師富士見台眼科浅野由香医療法人社団緑泉会南波眼科南波久斌三橋眼科医院三橋正忠医療法人かがやきくぼた眼科久保田泰隆道玄坂加藤眼科加藤卓次医療法人菅澤眼科医院菅澤啓二成城クリニック松﨑栄医療法人泰明堂福島アイクリニック狩野廉医療法人社団はしだ眼科クリニック橋田節子医療法人前田眼科前田秀高医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功医療法人創夢会むさしドリーム眼科武蔵国弘たまがわ眼科クリニック關保尾上眼科医院尾上晋吾医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹医療法人稲本眼科医院稲本裕一医療法人社団ムラマツクリニックむらまつ眼科医院村松知幸医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治杉浦眼科杉浦寅男医療法人社団橘桜会さくら眼科松久充子ふじつ眼科藤津揚一朗北川眼科医院北川厚子医療法人社団鈴木眼科鈴木克佳医療法人良仁会柴眼科医院柴宏治新井眼科医院新井三樹東北大学病院津田聡医療法人杏水会右田眼科右田雅義福井大学医学部附属病院稲谷大松村眼科医院松村明東京大学医学部附属病院坂田礼医療法人慶明会宮崎中央眼科病院髙岸麻衣北里大学病院松村一弘姶良みやもと眼科宮本純孝岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀医療法人陽山会井後眼科馬渡祐記熊本大学医学部附属病院井上俊洋医療法人恕心会さめしま眼科鮫島基泰株式会社日立製作所土浦診療健診センタ坪井一穂医療法人耕真会えとう眼科クリニック江藤耕太郎医療法人社団いとう眼科大原睦子新潟大学医歯学総合病院福地健郎医療法人社団悠琳会しぶや眼科クリニック渋谷裕子さいとう眼科齋藤代志明医療法人社団泰成会こんの眼科今野泰宏医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック貞松良成医療法人社団優美会川口あおぞら眼科清水潔医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック岡山良子医療法人社団恵香会やまぐち眼科クリニック山口恵子医療法人健究社スマイル眼科クリニック岡野敬医療法人社団深志清流会清澤眼科医院清澤源弘神戸大学医学部附属病院中村誠いまい眼科今井雅仁みなもと眼科皆本敦医療法人社団善春会若葉眼科病院吉野啓医療法人社団仁香会しすい眼科医院呉輔仁医療法人高橋眼科髙橋研一東海大学医学部付属東京病院山崎芳夫医療法人豊潤会松浦眼科医院松浦雅子東邦大学医療センター大橋病院石田恭子野村眼科野村亮二東海大学医学部付属病院中川喜博医療法人湘山会眼科三宅病院三宅豪一郎祇園すやま眼科クリニック須山貴子長坂眼科クリニック長坂智子みぞて眼科溝手秀秋吉村眼科内科医院吉村弦算出した.併用群は参照群とし,評価被験者数を55例とした.中止脱落を考慮し,SJP-0135群,チモロール群の目標被験者数を各群175例,併用群を58例,合計408例と設定した.5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,眼科的所見(結膜・眼瞼・角膜),眼底,視野および血圧・脈拍数の各検査を表2のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8時?10時の間に測定し,点眼後は2時間値を測定した.有害事象は,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも最高矯正視力が0.3以上3)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値が18.0mmHg以上31.0mmHg以下おもな除外基準1)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者2)コンタクトレンズの装用が必要な者3)高度の視野障害がある者4)スクリーニング検査日の過去180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon?下注射または結膜下注射を実施した者5)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者6)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者7)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患(例:肝障害,腎障害,心血管系疾患,内分泌系疾患)を有する者8)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者9)気管支喘息,気管支痙攣もしくは重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,または既往のある者10)コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度)もしくは心原性ショックを有するまたは既往のある者11)肺高血圧による右心不全,うっ血性心不全,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスまたはコントロール不十分な糖尿病のある者12)ブリモニジン酒石酸塩または他のa2作動薬,チモロールマレイン酸塩または他のb遮断薬,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者13)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬,炭酸脱水酵素阻害薬,抗コリン作用を含む治療薬および眼局所の治療薬を使用する予定のある者14)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者SCR注1前治療観察期治療期4週・現行治療(緑内障点眼薬の種類は問わない)または無治療・チモロールを点眼・観察期終了日の0時間値および2時間値の眼圧値が18mmHg以上31mmHg以下の場合,治療期へ移行する・SJP-0135群:SJP-0135+プラセボチモロール群:チモロール+プラセボ併用群:ブリモニジン+チモロールを点眼注1:スクリーニング検査日図1治験デザインは副作用とした.6.併用薬および併用処置治験期間中は,表3の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止した.7.評価方法および解析方法a.有効性有効性は,最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治療期の投与4週における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とした.欠測値に対しては,lastobservationcarriedfor-ward(LOCF)によりデータを補完した.副次評価項目は,治療期の投与4週における眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧変化率(それぞれの0時間値,2時間値,7時間値,0時間値と2時間値の平均値および0時間値と2時間表3検査・観察スケジュール観察期(4週)治療期(4週)Visit1Visit2Visit3中止脱落時スクリーニング検査日観察期終了日(治療期開始日)4週─測定時点(時間)─027027027同意取得○背景因子●●点眼●●最高矯正視力●●●●結膜・眼瞼・角膜所見●●●●●●眼圧●●●(●)●●(●)●●(●)眼底●●●視野●●●血圧・脈拍数●●●(●)●●(●)●●(●)点眼状況●●●有害事象○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.(●):7時間値を測定することに同意が得られた被験者について実施した.値と7時間値の平均値)とした.7時間値測定は,7時間値測定に同意が得られた被験者のみを対象とした.t検定(有意水準両側5%)によりSJP-0135群およびチモロール群の2群間で比較した.眼圧値については,治療期開始日と治療期の投与4週をpairedt検定(有意水準両側5%)により比較した.b.安全性安全性は,治療期に組み入れられたすべての被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,初診時(治療期開始日)以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧および脈拍数を評価した.有害事象は,発現割合(発現例数/SS)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧および脈拍数は,治療期の治験薬投与前後を比較した.眼底および視野は,スクリーニング検査日からの悪化の有無について比較した.II結果1.被験者の構成同意を取得できた被験者は487例で,観察期としてチモロールの投与を開始したのは470例であった.このうち385例が無作為化され,治療期の投与を開始した.治験完了例は380例,治験未完了例は5例であった.治療期を開始した385例全例(SJP-0135群163例,チモロール群164例,併用群58例)をSSとした.このうち,治療期開始日以降の有効性評価が可能な検査データがなかった5例を除く380例(SJP-0135群159例,チモロール群163例,併用群58例)をFASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.2.有効性眼圧値ならびに治療期開始日からの眼圧変化値および眼圧変化率を表5に,治療期投与4週の眼圧変化値を図2に示した.主要評価項目である,治療期投与4週における眼圧変化値(2時間値)(LOCF)の平均は,SJP-0135群では?3.1±2.4mmHg,チモロール群では?1.8±2.1mmHgであり,統計学的に有意な差を認め(点推定値:?1.3mmHg,95%両側信頼区間:?1.8??0.9mmHg,p<0.0001),SJP-0135群のチモロール群に対する優越性を検証できた.副次評価項目の治療期投与4週における眼圧値,眼圧変化値,変化率は,2時間値および0時間値と2時間値の平均で,SJP-0135群のチモロール群に対する統計学的に有意な差を認めたが,0時間値は両投与群間で統計学的に有意な差を認めなかった(いずれもp<0.01).測定時点に7時間値を含む7時間測定同意症例の結果についても,同様であった(いずれもp<0.001).SJP-0135群およびチモロール群で,治療期投与4週における眼圧値は,すべての測定時点で投与前と比較して,統計表4被験者背景(FAS)項目分類SJP-0135(n=159)TIM(n=163)併用(n=58)合計(n=380)性別男75(47.2)72(44.2)24(41.4)171(45.0)女84(52.8)91(55.8)34(58.6)209(55.0)年齢(歳)平均値±標準偏差62.0±12.462.1±12.861.7±14.7?最小値?最大値32?8722?8520?87?対象疾患注1原発開放隅角緑内障(広義)115(72.3)121(74.2)43(74.1)279(73.4)(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障80(50.3)86(52.8)26(44.8)192(50.5)前視野緑内障35(22.0)35(21.5)17(29.3)87(22.9)高眼圧症44(27.7)42(25.8)15(25.9)101(26.6)緑内障治療薬注2有128(80.5)124(76.1)47(81.0)299(78.7)無31(19.5)39(23.9)11(19.0)81(21.3)眼局所の合併症注2有113(71.1)104(63.8)37(63.8)254(66.8)無46(28.9)59(36.2)21(36.2)126(33.2)眼局所以外の合併症有116(73.0)114(69.9)42(72.4)272(71.6)無43(27.0)49(30.1)16(27.6)108(28.4)例数(%),TIM:チモロール?:該当なし注1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1),(2)を満たす者前視野緑内障:以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経乳頭の存在注2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした.表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率測定時点SJP-0135TIM併用0時間値治療期開始日眼圧値(mmHg)19.9±1.9(159)20.2±1.7(163)20.3±1.8(58)治療期投与4週眼圧値(mmHg)18.1±2.5*(159)18.5±2.6*(163)17.9±2.2(58)変化値(mmHg)?1.8±2.3(159)?1.7±2.0(163)?2.3±1.9(58)2時間値変化率(%)?8.8±11.0(159)?8.6±9.9(163)?11.5±9.0(58)治療期開始日眼圧値(mmHg)19.7±1.8(159)19.7±1.9(163)19.8±1.8(58)治療期投与4週眼圧値(mmHg)16.6±2.4*†(159)17.9±2.7*†(163)16.8±2.2(58)変化値(mmHg)?3.1±2.4†(159)?1.8±2.1†(163)?3.0±2.2(58)変化率(%)?15.7±11.4†(159)?9.2±10.7†(163)?14.9±10.0(58)7時間値治療期開始日眼圧値(mmHg)18.9±2.4(137)19.2±2.1(137)19.5±2.2(47)治療期投与4週眼圧値(mmHg)16.9±2.7*†(136)18.1±2.5*†(137)17.1±2.5(47)変化値(mmHg)?2.0±2.2†(136)?1.1±2.0†(137)?2.3±2.1(47)変化率(%)?10.1±10.9†(136)?5.4±10.1†(137)?11.8±10.1(47)0時間値と2時間値の平均値治療期開始日眼圧値(mmHg)19.8±1.7(159)20.0±1.7(163)20.0±1.7(58)治療期投与4週眼圧値(mmHg)17.4±2.2*†(159)18.2±2.5*†(163)17.4±2.1(58)変化値(mmHg)?2.5±2.0†(159)?1.8±1.8†(163)?2.7±1.9(58)変化率(%)?12.3±9.6†(159)?8.9±9.2†(163)?13.2±8.7(58)0時間値と2時間値と7時間値の平均値治療期開始日眼圧値(mmHg)19.5±1.8(137)19.7±1.7(137)20.0±1.8(47)治療期投与4週眼圧値(mmHg)17.2±2.2*†(136)18.2±2.4*†(137)17.4±2.1(47)変化値(mmHg)?2.4±1.7†(136)?1.5±1.6†(137)?2.5±1.8(47)変化率(%)?12.0±8.4†(136)?7.5±8.2†(137)?12.7±8.3(47)平均値±標準偏差(例数),TIM:チモロール*:p<0.0001(SJP-0135およびチモロールの眼圧値について,治療期開始日と治療期投与4週をpairedt検定で比較した.有意水準:両側5%)†:p<0.01(SJP-0135vsチモロールt検定,有意水準:両側5%)00時間値2時間値-1-2-3-4-5-6■SJP-0135チモロール■併用7時間値(159)(163)(58)(159)(163)(58)(136)(137)(47)平均値±標準偏差,*:p<0.01(SJP-0135vsチモロールt検定,有意水準:両側5%)図2治療期投与4週の眼圧変化値(例数表6治療期副作用の発現割合安全性解析対象集団例数SJP-0135(n=163)TIM(n=164)併用(n=58)副作用名注1件数例数(%)件数例数(%)件数例数(%)全体2218(11.0)77(4.3)55(8.6)眼障害2118(11.0)66(3.7)44(6.9)点状角膜炎44(2.5)33(1.8)11(1.7)眼刺激44(2.5)22(1.2)11(1.7)結膜充血44(2.5)11(0.6)22(3.4)角膜びらん22(1.2)00(0.0)00(0.0)眼部不快感22(1.2)00(0.0)00(0.0)結膜浮腫11(0.6)00(0.0)00(0.0)アレルギー性結膜炎11(0.6)00(0.0)00(0.0)羞明11(0.6)00(0.0)00(0.0)閃輝暗点11(0.6)00(0.0)00(0.0)眼そう痒症11(0.6)00(0.0)00(0.0)眼障害以外11(0.6)11(0.6)11(1.7)徐脈00(0.0)11(0.6)00(0.0)耳そう痒症11(0.6)00(0.0)00(0.0)傾眠00(0.0)00(0.0)11(1.7)TIM:チモロール.注1:副作用名はICH国際医薬用語集MedDRA/JVersion19.1のPT(基本語)を用いて分類した.学的に有意な変化を認めた(いずれもp<0.0001).測定時点に7時間値を含む7時間測定同意症例の結果についても,同様であった(いずれもp<0.0001).併用群の治療期投与4週における眼圧変化値(2時間値)の平均は,?3.0±2.2mmHgであり,SJP-0135群の眼圧下降効果と同程度であった.3.安全性本治験でSJP-0135群,チモロール群および併用群に発現した有害事象はそれぞれ39例(23.9%)54件,29例(17.7%)34件および11例(19.0%)12件で,各投与群の発現割合は同程度であった.このうち副作用は,それぞれ18例(11.0%)22件,7例(4.3%)7件,5例(8.6%)5件で,各投与群の発現割合は同程度であった.副作用の発現割合を表6に示した.おもな副作用は,SJP-0135群では点状角膜炎4例(2.5%),眼刺激4例(2.5%),結膜充血4例(2.5%),角膜びらん2例(1.2%)および眼部不快感2例(1.2%),チモロール群では点状角膜炎3例(1.8%)および眼刺激2例(1.2%),併用群では結膜充血2例(3.4%)であった.重度と判定された有害事象はいずれの投与群にもなく,中等度と判定された有害事象はSJP-0135群に3例(1.8%)3件,チモロール群に1例(0.6%)1件,併用群に2例(3.4%)2件であり,その他は軽度であった.有害事象による中止例,死亡例,重篤な副作用はなかった.バイタルサイン,身体的所見および安全性に関連する他の観察項目でも,臨床上問題となるような変動や所見に関連する副作用はなかった.III考按今回,SJP-0135の有効性を検証するにあたり,SJP-0135の有効成分の一つであり,わが国でプロスタグランジン関連薬とともに第一選択薬として広く使用されているチモロールを対照薬として用い,比較試験を行った.有効性に関しては,治療期投与4週における2時間値の眼圧変化値および眼圧変化率の比較の結果,SJP-0135群のチモロール群に対する統計学的に有意な差を認めた.また,測定時点に7時間値を含む日内眼圧下降効果の検討において,眼圧変化値および眼圧変化率はともに,SJP-0135群で治療期投与4週の2時間値,7時間値,0時間値と2時間値の平均および0時間値と2時間値と7時間値の平均のいずれにおいても統計学的に有意な差を認め,1日を通して良好な眼圧下降効果を確認した.さらに,眼圧変化値および眼圧変化率は全測定時点において,SJP-0135群と参照群とした併用群で同程度であった.これらのことから,SJP-0135はチモロール単剤から切り替えることで,追加の眼圧下降効果が得られること,ブリモニジンとチモロールの併用から切り替えることで薬剤数を減らしかつ同程度の眼圧下降効果が得られると考える.SJP-0135と同様にチモロールと第二選択薬の配合点眼剤として,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼液(コソプト配合点眼液)およびブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液(アゾルガ配合懸濁性点眼液)がわが国では販売されている.いずれの製剤においてもSJP-0135と同様に観察期にチモロール点眼液(1日2回)を点眼した国内第III相二重遮閉比較試験の報告がある.これらの治験開始時および終了時の2時間値の眼圧値(平均値±標準偏差)は,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼液で20.58±2.07mmHg,18.04±2.79mmHg15),ブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液20.7±2.5mmHg,17.5±3.3mmHg16,17)であった.一方,本治験では,SJP-0135群における治験開始時および治療期4週の2時間値の眼圧値(平均値±標準偏差)は19.7±1.8mmHg,16.6±2.4mmHgであった.このことから,SJP-0135は他の配合点眼薬と同様に,チモロール単剤からの切り替えにより良好な眼圧下降効果を示すことが期待される.安全性に関しては,有害事象の発現割合はSJP-0135群で23.9%,チモロール群で17.7%,併用群で19.0%に認め,各投与群の発現割合は同程度であった.副作用発現割合も3群間で同程度であり,いずれの群においても重篤な副作用は認めなかった.SJP-0135群で比較的発現割合の高かった副作用は点状角膜炎(2.5%)および眼刺激(2.5%)であったが,これらは0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液0.1%)およびチモロール点眼液において既知の副作用であり,発現割合はチモロール群および併用群と同程度であった.このことから,4週間の使用ではSJP-0135の安全性はチモロール単剤および併用療法と同様に良好であると考える.以上の結果より,SJP-0135は原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,既承認薬であるチモロール点眼剤に比べ眼圧下降効果は有意に高く,その効果は1日を通じて良好であること,さらに安全性に問題のないことを確認した.このことから,b遮断薬単剤からSJP-0135に変更することで,薬剤数および点眼回数を変えることなく,より高い眼圧下降効果を得ることができると考えられる.また,すでにa2作動薬およびb遮断薬を併用している場合は,SJP-0135に変更することで併用治療と同程度の治療効果が得られることに加え,薬剤数および総点眼回数が減ることで患者のアドヒアランスが向上すると考えられる.SJP-0135はa2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩を有効成分として含有するわが国初の配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は眼圧下降効果に相応しない視野維持効果が報告されていることから11),SJP-0135でも同様の効果が期待される.以上より,SJP-0135は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液であると考える.文献1)MorizaneY,MorimotoN,FujiwaraAetal:IncidenceandcausesofvisualimpairmentinJapan:the?rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti?edvisu-allyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,20192)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第4版.日眼会誌122:5-53,20183)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20064)新井ゆりあ,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の治療実態調査2016年版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼71:1541-1547,20175)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼60:1679-1684,20066)溝上志朗:点眼アドヒアランスに影響する要因とその対処法.薬局65:1835-1839,20147)ChraiSS,MakoidMC,EriksenSPetal:Dropsizeandinitialdosingfrequencyproblemsoftopicallyappliedoph-thalmicdrugs.JPharmSci6:333-338,19748)FukuchiT,WakaiK,SudaKetal:Incidence,severityandfactorsrelatedtodrug-inducedkeratoepitheliopathywithglaucomamedications.ClinOphthalmol4:203-209,20109)BurkeJ,SchwartzM:Preclinicalevaluationofbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,199610)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,201211)KrupinT,LiebmannJM,Green?eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentstudy.AmJOphthalmol151:671-681,201112)LarssonLI:Aqueoushumor?owinnormalhumaneyestreatedwithbrimonidineandtimolol,aloneandincombi-nation.ArchOphthalmol119:492-495,200113)CoakesRL,BrubakerRF:Themechanismoftimololinloweringintraocularpressure:Inthenormaleye.ArchOphthalmol96:2045-2048,197814)2014年4月?2018年3月における縮瞳薬及び緑内障治療剤:局所用の使用状況.株式会社JMDC15)北澤克明,新家眞;MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼液(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,201116)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:E?cacyandsafetyofbrinzolamide/timolol?xedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,201417)アゾルガ配合懸濁性点眼液添付文書.ノバルティスファーマ株式会社,2019◆**

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験

2015年1月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(1):133.143,2015c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックALong-term,Open-labelStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)inPatientswithOpen-angleGlaucomaorOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic目的:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の52週間投与時の有効性と安全性を検討する.対象:2剤以下の治療,または無治療で両眼の眼圧13mmHg以上の開放隅角緑内障および高眼圧症患者136例を対象とした.デザイン:オープンラベルによる多施設共同試験とした.方法:導入期は0.0015%タフルプロスト単剤,0.5%チモロール単剤,または両剤の併用に無作為に割り付け,4週間点眼した.治療期はDE-111点眼液を52週間点眼した.結果:治療期間を通じて治療期0週に比べ.1.3±2.2..1.8±2.3mmHgと安定した眼圧下降作用を示し,治療期終了時の眼圧は.1.7±2.4mmHgと有意に低下した.副作用発現率は44.1%であり,その多くは軽度であった.結論:本剤の長期投与における安定した眼圧下降作用および安全性が確認された.Purpose:Theaimofthisstudywastoevaluatetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionof0.0015%tafluprost/0.5%timolol(DE-111),administeredfor52weeks.Subjects:Involvedwere136patientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension,whoseintraocularpressure(IOP)inbotheyeswasnotlessthan13mmHgundertreatmentwithtwoorfewerdrugs,orwithouttreatment.Design:Open-label,multicenterstudy.Method:Patientswererandomlyassignedtothetafluprost,timololorconcomitantgroup,theinitialdrugbeinginstilledfor4weeks,followedbyDE-111for52weeks,asatreatmentperiod.Result:IOPreductionfrombaselinewasstableintherangeof.1.3±2.2mmHgto.1.8±2.3mmHgthroughoutthetreatmentperiod,andwassignificantlyloweredby.1.7±2.4mmHgattheendoftreatment.Adversedrugreactionswereobservedin44.1%;mostofsuchcasesweremild.Conclusion:DE-111showedastableandexcellentIOP-loweringeffect,andwassafeinlong-termtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):133.143,2015〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,DE-111.はじめに緑内障治療の目的は,患者の視機能を維持することであるが,唯一エビデンスが得られている治療法は眼圧を下降させることである.通常,緑内障治療の第一選択となるのは薬物治療であり,まず単剤から治療が開始される.しかし,単剤治療ですべての患者に対して十分な眼圧が達成できない場合もあり,2剤以上の薬剤が併用されている患者は少なくない1,2).併用治療では,薬剤数と点眼回数が増加するため,負担を感じる患者は多い.実際に,2000年に実施された緑内障患者へのアンケート調査3)でも,理想の点眼薬としては「少ない点眼回数でよいこと」が最上位に挙げられている.また,慢性疾患である緑内障は明確な自覚症状のない患者や〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,5-6-16Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(133)133 高齢者の患者も多く,多剤併用療法が必要な患者において複数の点眼液を規定どおりに点眼し続けることは容易ではない.規定どおりの点眼回数や推奨される点眼間隔が守られていなければ期待した眼圧下降効果が得られず,視野障害の進行を十分抑制できないため,良好なアドヒアランスが得られやすい薬剤を選択することが重要である.配合点眼液は薬剤数および1日の点眼回数を減らし,患者の利便性,アドヒアランスおよびQOL(qualityoflife)を改善しうる.このことから,近年国内では,緑内障の治療薬として配合点眼液が次々と販売され臨床使用されるようになった.『緑内障診療ガイドライン』(第3版)4)では「原則として配合点眼液は多剤併用時のアドヒアランス向上が主目的であり,第一選択薬ではない」と配合点眼液が位置づけされており,「原則的に初回から配合点眼液を使用することなく,単剤併用により副作用の有無や眼圧下降効果を評価することが望ましい」と述べられている.このことから,臨床現場では治療効果が不十分な単剤あるいは多剤併用からの切り替えで配合点眼液が使用されることが原則となっている.また,慢性疾患である緑内障の治療において,視神経障害の進行を阻止しうる眼圧を長期間にわたり維持していくことが重要であることから,長期間の投与で安定した眼圧下降作用および忍容性を有することが配合点眼液にとって必要である.DE-111点眼液は,有効成分としてタフルプロストを0.0015%,チモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,両点眼液の併用治療に比べて患者の利便性,アドヒアランスおよびQOLを改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.今回,開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,0.0015%タフルプロスト点眼液,0.5%チモロール点眼液,または0.0015%タフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の併用からDE-111点眼液へ切り替えた際の52週間投与における安全性および眼圧下降効果を,オープンラベルによる多施設共同試験により検討したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.また,試験登録はClinicalTrials.gov(IdentifiedNo.NCT01343082)に行った.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国11医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験責任医師は,被験者選定および同意の取得,実施計画書に沿った試験の実施,データ収集の役割を担った.試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療法人大宮はまだ眼科濱田直紀医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団平和会葛西眼科医院村瀬洋子医療法人頼母会ごうど眼科神戸孝医療法人栗山会飯田病院眼科浅井裕子医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男たはら眼科田原恭治医療法人永山眼科クリニック永山幹夫医療法人社団越智眼科越智利行,朝比奈恵美表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)両眼の眼圧が2剤(配合剤1剤は2剤に数える)以下の治療,または無治療で13mmHg以上,34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下の①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)導入期開始前90日以内に前眼部または内眼の手術〔緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)を含む〕の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断した134あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(134) 同意取得0週登録/割付登録0週登録/割付登録導入期4週間治療期52週間タフルプロストDE-111併用(タフルプロスト+チモロール)チモロールオープン無作為化,オープン【導入期】導入期タフルプロスト群:0.0015%タフルプロスト点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼導入期チモロール群:0.5%チモロール点眼液1回1滴,1日2回(朝,夜),両眼点眼導入期併用群:0.0015%タフルプロスト点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼0.5%チモロール点眼液1回1滴,1日2回(朝,夜),両眼点眼【治療期】DE-111:DE-111点眼液1回1滴,1日1回(朝),両眼点眼図1試験デザイン2.目的DE-111点眼液の長期投与(52週間)における眼圧下降効果および安全性を検討することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障または正常眼圧緑内障),落屑緑内障,色素緑内障または高眼圧症と診断され,両眼の眼圧が2剤(配合剤1剤は2剤に数える)以下の治療,または無治療で13mmHg以上,34mmHg以下であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験はオープンラベルによる多施設共同試験として実施した.今回の試験では,臨床の使用状況と同じになるよう,治療期の前に導入期を設けた.被験者から文書による同意取得後,選択基準に適合し,除外基準に抵触しない被験者に導入期点眼液を無作為に割り付けた.導入期点眼液は0.0015%タフルプロスト点眼液(導入期タフルプロスト群),0.5%チモロール点眼液(導入期チモロール群),または0.0015%タフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の併用(導入期併用群)のいずれかとし,導入期開始前の治療状況に関係なく各群1:1:1となるよう無作為に割り付けた.このとき,タフルプロストは1日1回朝両眼に,チモロールは(135)1日2回朝夜両眼に点眼した.なお,前治療薬の影響を消失させ,導入期点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.治療期0週当日朝は導入期点眼液を点眼せず来院し眼圧を測定したのちに,治療期開始登録を行って,52週間の治療期に移行した.治療期にはDE-111点眼液を1日1回朝両眼に点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.なお,導入期点眼液の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法・封筒法による無作為化(ブロックサイズ3,割付割合1:1:1)により行い,キーコードは全例の治療期開始が確認されるまで封入し試験薬割付責任者が保管した.c.症例数日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)E1ガイドライン「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間」(1995年)を参考として52週点眼例を100例以上とし,中止率を考慮して目標症例数を126例と設定した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015135 表3検査・観察スケジュール導入期治療期.4週0週4,8,12,16,20,24週28週32,36,40,44,48週52週/中止時文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●●眼圧測定(9.10時)●(午前中)●●●●●隅角検査●視力検査●●●視野検査●●●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿・尿中hCG)●●●前眼部写真撮影●有害事象●a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査確認した.b.試験薬の点眼状況治療期以降の来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,隅角検査,視力検査,視野検査,眼底検査,臨床検査(血液・尿)および前眼部写真撮影を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,および治療期4週ごとに,または中止時にGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入期開始時は午前中,治療期0.52週は朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.なお,細隙灯顕微鏡検査における角膜フルオレセイン染色スコアは,評価基準0:フルオレセインで染色されない,1:限局的に点状のフルオレセイン染色が認められる,2:限局的に密なまたはびまん性の点状のフルオレセイン染色が認められる,3:びまん性に密な点状のフルオレセイン染色が認められる,とした.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,緑内障または高眼圧症に対する治療136あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015薬,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価評価項目は,試験薬投与前後の朝点眼前の眼圧測定時(9.10時)の眼圧変化量とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,被験薬を少なくとも1回点眼し,治療期の朝点眼前の眼圧測定値が1回でも得られた被験者(有効性解析対象集団)を対象とした.有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.b.安全性解析対象安全性は,被験薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い規定来院日の許容範囲内に複数の検査値がある場合,検査当日朝の点眼遵守状況がより良好な検査値を採用した.なお,中止の来院時で得られた検査値は,中止時データとして採用した.(136) 文書同意を得た被験者:162例無作為割付された被験者:148例無作為割付されなかった被験者:14例試験開始後に不適格が判明:11例その他:3例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:49例導入期併用群:48例導入期点眼液が投薬された被験者:147例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:48例導入期併用群:48例導入期点眼液未投与例:1例導入期タフルプロスト群:0例導入期チモロール群:1例導入期併用群:0例治療期に組み入れられた被験者:136例導入期中止例:11例導入期タフルプロスト群:48例導入期チモロール群:45例導入期併用群:43例導入期タフルプロスト群:3例導入期チモロール群:3例導入期併用群:5例DE-111点眼液が投薬された被験者136例DE-111点眼液未投与例:0例試験を完了した被検者:110例治療期中止例:26例文書同意を得た被験者:162例無作為割付された被験者:148例無作為割付されなかった被験者:14例試験開始後に不適格が判明:11例その他:3例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:49例導入期併用群:48例導入期点眼液が投薬された被験者:147例導入期タフルプロスト群:51例導入期チモロール群:48例導入期併用群:48例導入期点眼液未投与例:1例導入期タフルプロスト群:0例導入期チモロール群:1例導入期併用群:0例治療期に組み入れられた被験者:136例導入期中止例:11例導入期タフルプロスト群:48例導入期チモロール群:45例導入期併用群:43例導入期タフルプロスト群:3例導入期チモロール群:3例導入期併用群:5例DE-111点眼液が投薬された被験者136例DE-111点眼液未投与例:0例試験を完了した被検者:110例治療期中止例:26例図2被験者の内訳d.解析方法有効性の評価の解析は,治療期0週からの変化量の平均,標準偏差を示し,対応のあるt検定を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計した.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.なお,解析は参天製薬株式会社が実施した.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得た被験者は162例で,導入期点眼液が無作為化割り付けされた被験者は148例,そのうち,導入期点眼液が投薬された症例は147例,導入期で中止となった症例が11例であった.この後,治療期に組入れられた症例は136例,治療期中に26例が治験を中止し,110例が試験を完了した.治療期に組み入れられた136例を有効性解析対象集団および安全性解析対象集団とした.被験者背景を表4に示した.(137)合併症では高血圧症の合併率が最も高くタフルプロスト群39.6%(19/48例),チモロール群57.8%(26/45例),併用群46.5%(20/43例)であった.眼合併症を有していた症例はタフルプロスト群47.9%(23/48例),チモロール群55.6%(25/45例),併用群51.2%(22/43例)であり,最も多かった合併症は白内障であった.各群の合併症の種類および合併率に特徴的な相違は認められなかった.2.有効性導入期.4週の眼圧平均値は17.8mmHg,治療期0週の眼圧平均値は16.7mmHgで有意に下降していた.治療期では,さらに眼圧下降がみられ,その眼圧下降は治療期0週と比較してすべての測定時点において有意であった.各測定時点の眼圧変化量の平均は,.1.3mmHg(p<0.001)..1.8mmHg(p<0.001)で推移しており,52週間眼圧下降効果の減弱はなかった(表5,図3).病型別でみると,治療期終了時での眼圧変化量の平均は,原発開放隅角緑内障(狭義).1.6mmHg(治療期0週:17.2mmHg),正常眼圧緑内障.1.5mmHg(治療期0週:15.2mmHg),高眼圧症.1.9mmHg(治療期0週:17.6mmHg)といずれの病型においても有意な眼圧下降(p<0.001)を示し,病型による差はなかった(表6).導入期点眼液別に比較すると,導入期タフルプロスト群では,導入期.4週から治療期0週に.1.3mmHg(p=0.002)の有意な眼圧下降を示し,DE-111点眼液に切り替えた治療期4週には治療期0週と比較して.1.7mmHg(p<0.001)と,さらに有意な眼圧下降を示した.治療期52週.2.2あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015137 表4治療期に組み入れられた被験者背景項目分類導入期タフルプロスト群導入期チモロール群導入期併用群全体例数484543136病型原発開放隅角緑内障(狭義)17(35.4)16(35.6)15(34.9)48(35.3)正常眼圧緑内障16(33.3)16(35.6)16(37.2)48(35.3)落屑緑内障0(0.0)2(4.4)0(0.0)2(1.5)色素緑内障0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)高眼圧症15(31.3)11(24.4)12(27.9)38(27.9)性別男22(45.8)15(33.3)18(41.9)55(40.4)女26(54.2)30(66.7)25(58.1)81(59.6)年齢65歳未満24(50.0)22(48.9)16(37.2)62(45.6)65歳以上24(50.0)23(51.1)27(62.8)74(54.4)最小.最大28.8225.8337.8525.85平均値±標準偏差62.5±12.763.7±12.166.0±11.064.0±12.0緑内障前治療薬なし9(18.8)5(11.1)6(14.0)20(14.7)あり39(81.3)40(88.9)37(86.0)116(85.3)合併症なし8(16.7)4(8.9)4(9.3)16(11.8)あり40(83.3)41(91.1)39(90.7)120(88.2)導入期の隅角(Shaffer分類)349(18.8)39(81.3)8(17.8)37(82.2)12(27.9)31(72.1)29(21.3)107(78.7)導入期の緑内障性の視野異常なしあり21(43.8)27(56.3)17(37.8)28(62.2)22(51.2)21(48.8)60(44.1)76(55.9)導入期の緑内障性の眼底異常なしあり15(31.3)33(68.8)11(24.4)34(75.6)13(30.2)30(69.8)39(28.7)97(71.3)導入期開始時の眼圧最小.最大14.0.30.013.0.23.013.0.27.013.0.30.0平均値±標準偏差18.3±3.417.2±2.917.8±3.317.8±3.2導入期終了時の眼圧最小.最大13.0.24.511.0.24.010.0.24.010.0.24.5平均値±標準偏差17.0±2.417.1±2.715.8±3.016.7±2.7例数(%).mmHg(p<0.001)と眼圧下降効果は維持された.導入期チモロール群では,導入期.4週から治療期0週に.0.1mmHgの眼圧下降を示した.DE-111点眼液に切り替えた治療期4週には治療期0週と比較して.2.1mmHg(p<0.001)と,さらに有意な眼圧下降を示し,治療期52週.2.7mmHg(p<0.001)とその効果は維持された.導入期併用群では,導入期.4週から治療期0週に.2.0mmHg(p<0.001)の有意な眼圧下降を示した.DE-111点眼液に切り替えた後の治療期4週には治療期0週と比較して.0.4mmHgと有意な変動はなく,治療期52週も.0.4mmHgとその効果は維持された(図4,5).3.安全性a.有害事象および副作用治療期全体の有害事象の発現率は72.8%(99/136例)で138あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015あり,そのうち,DE-111点眼液との因果関係が否定できない有害事象(副作用)は44.1%(60/136例)であった(表7).DE-111点眼液の副作用により試験中止に至った被験者は,全身性皮疹を発現した1例および頭痛を発現した1例であり,いずれも投与中止後に回復した.また,重篤な副作用の発現はなかった.おもな副作用は,睫毛の成長(24.3%,33/136例),結膜充血(9.6%,13/136例),点状角膜炎(8.1%,11/136例),および眼瞼色素沈着(6.6%,9/136例)であった(表8).副作用の重症度は,中等度と判断された全身性皮疹(0.7%,1/136例)を除き,すべて軽度であった.また,全身性皮疹(0.7%,1/136例),頭痛(0.7%,1/136例)および多毛症(2.2%,3/136例)を除き,すべて眼障害であった.副作用の初回発現時期は,治療期開始後0.29日:17例,30.59(138) 日:11例,60.89日:8例,90.119日:7例,120.149日:4例,その後329日まで30日ごとに1.3例で推移し,330日以降に新たな発現は認められず,投与期間が長くなっても発現頻度が高まることはなかった.また,おもな副作用別に発現時期をみると,睫毛の成長は30.59日:6例,60.89日:4例,90.119日:5例に,眼瞼色素沈着は60.89日:5例に,結膜充血は0.29日:6例に発現頻度が高かった.点状角膜炎は治験期間中30日ごとに0.2例で推移した.年齢別の有害事象発現率は,65歳未満で72.6%(45/62例),65歳以上で73.0%(54/74例)であった.そのうち副作用は,65歳未満で45.2%(28/62例),65歳以上で43.2%(32/74例)であり,65歳未満と65歳以上に差異は認められなかった.個別事象では65歳未満,65歳以上ともに睫毛の成長(65歳未満:27.4%,17/62例,65歳以上:21.6%,16/74例)が最も多く認められ,眼瞼色素沈着(65歳未満:6.5%,4/62例,65歳以上:6.8%,5/74例)も共通して認められた.その他,結膜充血(65歳未満:14.5%,9/62例,65歳以上:5.4%,4/74例)は65歳未満で多く,点状角膜炎(65歳未満:3.2%,2/62例,65歳以上:12.2%,9/74例)は65歳以上で多い傾向であったが,いずれの事象もすべて軽度であった.導入期点眼液群別にみると,導入期とDE-111点眼液に切り替えた際の治療期4週時点までの副作用発現率を比較すると,導入期タフルプロスト群で導入期6.3%(3/48例)治療期4週8.3%(4/48例),導入期チモロール群で導入期(,)2.2%(1/45例),治療期4週20.0%(9/45例),導入期併用群で導入期7.0%(3/43例),治療期4週14.0%(6/43例)2422201816141210-4048121620週週週週週週週眼圧(mmHg)であり(表9),導入期チモロール群で治療期4週時点までの副作用発現率が最も高かった.b.臨床検査臨床検査の各項目平均値では,治療期28週に赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数,Al-P,アルブミン,総コレステロール,K,Clが,治療期52週に尿酸,Al-P,アルブミン,K,Clが投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する副作用は認められなか表5眼圧実測値および眼圧変化値の推移DE-111群時期実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値.4週17.8±3.2(136)0週16.7±2.7(136).1.1±2.8*(136)<0.0014週15.2±3.0(136).1.4±2.3(136)<0.0018週15.2±2.9(131).1.5±2.2(131)<0.00112週15.2±3.0(126).1.4±2.1(126)<0.00116週15.1±2.9(120).1.4±2.3(120)<0.00120週15.0±2.5(118).1.4±2.2(118)<0.00124週14.9±2.7(116).1.5±2.2(116)<0.00128週15.1±2.9(115).1.3±2.2(115)<0.00132週15.1±2.6(114).1.3±2.2(114)<0.00136週15.0±2.8(113).1.5±2.3(113)<0.00140週14.7±2.7(113).1.7±2.2(113)<0.00144週14.8±2.6(112).1.7±2.3(112)<0.00148週14.7±2.8(110).1.8±2.3(110)<0.00152週14.7±2.5(111).1.8±2.2(111)<0.001治療期終了時15.0±2.8(136).1.7±2.4(136)<0.001平均値±標準偏差,()内は例数,p値:対応のあるt検定,*:0週は.4週からの変化値.**************************##:DE-1112428323640444852週週週週週週週週図3眼圧実測値の推移##p<0.001(対応のあるt検定,.4週との比較).**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.(139)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015139 表6眼圧実測値および0週からの変化値の推移(病型別)原発開放隅角緑内障(狭義)正常眼圧緑内障高眼圧症落屑緑内障時期実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg)p値実測値(mmHg)変化値(mmHg).4週17.6±3.1(48)15.8±1.8(48)20.4±3.0(38)20.0±1.4(2)0週17.2±2.7(48)15.2±2.0(48)17.6±2.9(38)19.5±0.7(2)4週16.1±3.1(48).1.1±2.4(48)0.00313.6±2.2(48).1.7±2.2(48)<0.00116.1±3.1(38).1.4±2.3(38)<0.00116.0±0.0(2).3.5(2)8週16.1±2.9(46).1.3±2.3(46)0.00113.7±2.2(46).1.5±2.1(46)<0.00116.0±2.9(37).1.6±2.3(37)<0.00116.5±2.1(2).3.0(2)12週15.9±3.0(44).1.4±2.2(44)<0.00113.8±2.1(46).1.4±2.0(46)<0.00116.2±3.5(34).1.0±2.2(34)0.00915.3±2.5(2).4.3(2)16週15.8±2.9(40).1.4±2.5(40)0.00113.8±2.2(46).1.4±2.2(46)<0.00115.8±3.3(32).1.2±2.1(32)0.00216.5±0.7(2).3.0(2)20週15.8±2.9(40).1.3±2.4(40)0.00114.0±2.1(46).1.2±2.2(46)<0.00115.4±2.0(30).1.5±2.1(30)<0.00116.8±0.4(2).2.8(2)24週15.8±2.8(40).1.4±2.3(40)0.00113.9±2.5(44).1.4±2.2(44)<0.00115.4±2.6(30).1.6±2.0(30)<0.00115.0±1.4(2).4.5(2)28週16.0±3.0(39).1.2±2.5(39)0.00513.7±2.6(44).1.6±2.3(44)<0.00115.8±2.5(30).1.1±2.0(30)0.00417.3±1.8(2).2.3(2)32週15.9±2.8(39).1.2±2.7(39)0.00713.8±2.3(43).1.5±2.2(43)<0.00115.7±2.2(30).1.2±1.6(30)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)36週15.9±2.6(38).1.3±1.9(38)<0.00113.5±2.6(43).1.8±2.5(43)<0.00115.8±2.8(30).1.1±2.4(30)0.01415.5±0.0(2).4.0(2)40週15.7±2.3(38).1.6±2.1(38)<0.00113.5±2.5(43).1.8±2.5(43)<0.00115.1±2.6(30).1.8±2.2(30)<0.00118.0±0.0(2).1.5(2)44週15.8±2.3(37).1.5±2.1(37)<0.00113.4±2.3(43).1.9±2.5(43)<0.00115.1±2.4(30).1.8±2.3(30)<0.00119.8±3.2(2)0.3(2)48週15.6±2.4(36).1.7±2.2(36)<0.00113.3±2.7(42).2.1±2.6(42)<0.00115.5±2.5(30).1.5±2.0(30)<0.00118.8±2.5(2).0.8(2)52週15.5±2.2(37).1.8±2.3(37)<0.00113.5±2.4(42).1.9±2.4(42)<0.00115.1±2.3(30).1.9±2.0(30)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)治療期終了時15.7±2.5(48).1.6±2.3(48)<0.00113.7±2.4(48).1.5±2.6(48)<0.00115.6±3.0(38).1.9±2.2(38)<0.00117.5±0.7(2).2.0(2)平均値±標準偏差,()内は例数,p値:対応のあるt検定.眼圧(mmHg)2422201816141210-40481216202428323640444852****************************************************###:導入期タフルプロスト群:導入期チモロール群:導入期併用群週週週週週週週週週週週週週週週図4導入期薬剤別の眼圧実測値の推移#p<0.01,##p<0.001(対応のあるt検定,.4週との比較).**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.140あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(140) 眼圧(mmHg)76543210-1-2-3-4-5-6-70481216202428323640444852:導入期タフルプロスト群********************************:導入期チモロール群:導入期併用群********************週週週週週週週週週週週週週週図50週からの眼圧変化量の推移**p<0.001(対応のあるt検定,0週との比較).平均値±標準偏差.表7有害事象と副作用の発現例数および発現率安全性解析対象集団例数136導入期有害事象発現例数(%)14(10.3)副作用発現例数(%)7(5.1)治療期有害事象発現例数(%)99(72.8)副作用発現例数(%)60(44.1)表9導入期点眼液別の副作用の発現例数および発現率(導入期と治療期4週までの比較)導入期タフル導入期チモ導入期プロスト群ロール群併用群安全性解析対象集団例数484543導入期(4週間)副作用発現例数(%)3(6.3)1(2.2)3(7.0)治療期4週まで副作用発現例数(%)4(8.3)9(20.0)6(14.0)った.また,薬剤との因果関係が否定できないとされた臨床検査値の異常変動は1.5%(2/136例,項目:白血球数,尿ウロビリノーゲン)に認められたが,点眼を継続しても尿ウロビリノーゲンは試験中に,白血球数は終了後に試験開始時と同程度に回復した.c.血圧・脈拍数血圧の平均値は,収縮期血圧の治療期0週からの有意な上昇が8週(変化量の平均値±標準偏差:2.36±12.27mmHg,p=0.030),20週(2.63±14.17mmHg,p=0.046),28週(3.42±15.05mmHg,p=0.016)に認められた.拡張期血圧の治療期0週からの有意な上昇が8週(変化量の平均値±標表8治療期副作用一覧安全性解析対象集団例数136副作用発現例数(%)60(44.1)眼障害眼瞼色素沈着9(6.6)眼瞼炎1(0.7)結膜沈着物1(0.7)結膜出血2(1.5)アレルギー性結膜炎2(1.5)眼乾燥4(2.9)眼刺激4(2.9)くぼんだ眼1(0.7)涙液分泌低下1(0.7)眼充血1(0.7)点状角膜炎11(8.1)睫毛乱生2(1.5)睫毛の成長33(24.3)眼の異物感2(1.5)結膜充血13(9.6)眼瞼そう痒症1(0.7)眼そう痒症1(0.7)眼障害以外頭痛1(0.7)多毛症3(2.2)全身性皮疹1(0.7)準偏差:2.09±7.78mmHg,p=0.003),12週(1.43±7.61mmHg,p=0.037)に,治療期0週からの有意な下降が48週(.1.80±8.42mmHg,p=0.026),52週(.1.65±8.07mmHg,p=0.035)に認められた.ただし,その変化量は臨床上問題ない程度であった.脈拍数の平均値は,いずれの観察時点においても治療期0週からの有意な上昇を認めたが,その変化量は1.8.4.4拍/(141)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015141 分と臨床上問題ない程度であった.導入期点眼液群別に検討したところ,収縮期血圧および拡張期血圧は,どの群でも治療期0週に比較して治療期4週時点で有意な変動は認めなかった.脈拍数の平均値は,導入期チモロール群または導入期併用群において治療期0週から治療期4週に有意な上昇を認めたが,その変化量は臨床上問題ない程度であった.なお,以上の血圧,脈拍数の変動に関連する副作用はなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査,視野検査)細隙灯顕微鏡検査所見の角膜フルオレセイン染色スコアは,治療期0週と比較した有意なスコアの上昇が治療期16週の左眼,20週の右眼,24週の左眼,28週の左眼,40週の左眼,44週の両眼に認められた.その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.視力検査では,導入期.4週と比較して治療期の28週右眼についてのみ視力低下が25例,変動なしが95例,改善が12例と低下例が有意に多かった.しかし,治療期52週では両眼とも有意な差は認められなかった.また,視力低下を伴う有害事象として,網脈絡膜萎縮が1例(0.7%),後.部混濁が2例(1.5%)に認められたものの,DE-111点眼液との因果関係は否定された.視野検査では,緑内障性視野異常の有無に有意な変動は認められなかった.Humphrey視野計を用いた視野感度の平均偏差値は,導入期.4週と比較した有意な感度低下が治療期28週の両眼に認められたが,治療期52週では認められなかった.Octopus視野計を用いた視野感度の平均欠損値はいずれの測定時点でも有意な変動は認められなかった.また,視野の感度低下を伴う有害事象として,後.部混濁が1例(0.7%)に認められたものの,DE-111点眼液との因果関係は否定された.III考察近年国内では,プロスタグランジン(PG)関連薬とb遮断薬,あるいはb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を配合した配合点眼液が次々に発売され,臨床で使用されている.DE-111点眼液もPG関連薬であるタフルプロストとb遮断薬であるチモロールを含有する配合点眼液である.これらの配合点眼液は第一選択薬としてではなく,治療効果が不十分な単剤あるいは多剤併用からの切り替えで使用されることが原則である.このことから,本試験では,単剤あるいは多剤併用から配合点眼液へ切り替えた場合の有効性および安全性を確認するため,導入期としてタフルプロスト,チモロールまたはそれらの併用を4週間投与した後,治療期としてDE-111点眼液に切り替え52週間投与する試験デザインとした.142あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015DE-111は,治療期のすべての測定時点において,治療期0週と比較して眼圧変化量が有意に下降し,その効果は治療期52週まで減弱を認めなかった.また,日本での有病率が高い正常眼圧緑内障5)を含む緑内障病型別において眼圧下降作用に差異は認めず,安定した眼圧下降作用を示すことが確認された.導入期点眼液別にみると,導入期タフルプロスト群と導入期チモロール群では,治療期0週と比較して有意な眼圧下降が治療期4週に得られ,その後52週まで眼圧下降効果の減弱は認めなかった.導入期併用群では,治療期0週と比較して眼圧値に有意な変動はなく,治療期52週まで安定した眼圧推移を示した.このことから,DE-111点眼液は治療強化のために単剤治療から切り替えた場合はさらなる眼圧下降効果が期待でき,利便性やアドヒアランスの改善のために併用治療から切り替えた場合は併用治療時と同程度の眼圧下降効果が期待できる臨床的に有用な配合点眼液と考えられる.安全性については,試験期間を通じて,重篤な副作用はみられなかった.おもな副作用は睫毛の成長(24.3%,33/136例),結膜充血(9.6%,13/136例),点状角膜炎(8.1%,11/136例)および眼瞼色素沈着(6.6%,9/136例)であった.発現時期は,睫毛の成長は投与1.4カ月後に,眼瞼色素沈着は投与2.3カ月後に,結膜充血は投与1カ月後に多く認められ,点状角膜炎は治験期間中を通じて認められた.副作用の多くは眼障害であり,すべて軽度であった.これらは,PG関連薬の副作用として知られていることから6.8),DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロストに由来していると考えられた.各導入期点眼液群からDE-111点眼液に切り替えた際の副作用発現率を治療期4週時点までと比較すると,導入期チモロール群からの切り替えで最も高かった.導入期チモロール群からDE-111点眼液に切り替えて発現した副作用の内訳は結膜充血が3件のほか,眼瞼色素沈着,点状角膜炎,睫毛の成長,眼の異物感,眼瞼そう痒症,全身性皮疹が各1件であった.これらの多くはPG関連薬に特徴的な副作用であることから,DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロストが要因と考えられた.年齢別の比較では,65歳未満と65歳以上に副作用の発現頻度の差異は認められなかった.個別事象における副作用では結膜充血は65歳未満で,点状角膜炎は65歳以上で多く認められたが,睫毛の成長,眼瞼色素沈着などでは年齢の影響は認めなかった.また,臨床検査値,眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査所見,視力および視野),血圧,脈拍数についても,特に安全性上問題となるものは認められなかった.これまで,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼液としては,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)とトラボ(142) プロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)があり,日本人緑内障患者を対象とした臨床試験について数報の論文報告がある9.12).このうち,12カ月間の長期投与試験として,正常眼圧緑内障を含む原発開放隅角緑内障患者を対象とし0.005%ラタノプロスト点眼液と0.5%チモロール点眼液の併用治療を3カ月以上行った後に,washout期間を設けずにザラカムR配合点眼液に切り替え,12カ月間投与した報告12)では,配合点眼液による治療開始時の眼圧平均値は15.2mmHgであり,12カ月間点眼後の眼圧平均値は15.1mmHgであった.本試験では,併用群の治療期0週の眼圧平均値は15.8mmHg,治療期終了時の眼圧平均値は15.4mmHgであり,同様の結果であった.また,ザラカムR配合点眼液12カ月間投与では,眼圧下降不十分あるいは副作用により19.1%(31/162例)が試験中に中止していた.一方,今回の試験では併用からDE-111点眼液に切り替え後に,眼圧下降不十分あるいは有害事象による中止は11.6%(5/43例)であった.以上,日本での有病率が高い正常眼圧緑内障を含む開放隅角緑内障および高眼圧症患者において,DE-111点眼液は,52週間にわたり良好かつ安定した眼圧下降を示し,長期点眼時の安全性についても,問題ないことが確認された.このことから,DE-111点眼液は,長期にわたる緑内障治療において有用性の高い配合点眼液である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査2009年度版─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,20112)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20063)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,20064)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20125)鈴木康之,山本哲也,新家眞ほか:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)総括報告.日眼会誌112:1039-1058,20086)相原一:プロスタグランジン関連薬.あたらしい眼科29:443-450,20127)InoueK,ShiokawaM,HigaRetal:Adverseperiocularreactionstofivetypesofprostaglandinanalogs.Eye(Lond)26:1465-1472,20128)YoshinoT,FukuchiT,ToganoTetal:Eyelidandeyelashchangesduetoprostaglandinanalogtherapyinunilateraltreatmentcases.JpnJOphthalmol57:172-178,20139)KashiwagiK:Efficacyandsafetyofswitchingtotravoprost/timololfixed-combinationtherapyfromlatanoprostmonotherapy.JpnJOphthalmol56:339-345,201210)InoueK,FujimotoT,HigaRetal:Efficacyandsafetyofaswitchtolatanoprost0.005%+timololmaleate0.5%fixedcombinationeyedropsfromlatanoprost0.005%monotherapy.ClinOphthalmol6:771-775,201211)InoueK,SetogawaA,HigaRetal:Ocularhypotensiveeffectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%fixedcombinationafterchangeoftreatmentregimenfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthalmol6:231-235,201212)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:Assessmentofocularhypotensiveeffectandsafety12monthsafterchangingfromanunfixedcombinationtoalatanoprost0.005%+timololmaleate0.5%fixedcombination.ClinOphthalmol6:607-612,2012***(143)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015143

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした0.5%チモロール点眼液との第III相二重盲検比較試験

2013年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(12):1773.1781,2013c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした0.5%チモロール点眼液との第III相二重盲検比較試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックPhaseIIIDouble-MaskedStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)versusTimolol0.5%OphthalmicSolutioninPrimaryOpen-AngleGlaucomaandOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111)の有効性と安全性を検討するため,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者166例を対象に,チモロールを対照とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した.チモロール4週間点眼後の眼圧が20mmHg以上の被験者をDE-111群またはチモロール群に割り付け,治療期として4週間点眼した.治療期終了時の平均日中眼圧は治療期0週に比べ,DE-111群で3.2±2.1mmHg下降し,チモロール群の1.7±2.1mmHg下降と比較して統計学的に有意に大きかった.副作用発現率はDE-111群19.5%,チモロール群3.6%と,両群間に有意差を認めたが,DE-111群で発現した副作用の多くは軽度で忍容性に問題はなかった.DE-111点眼液は,緑内障治療における多剤併用療法の選択肢として,有用性の高い配合点眼液である.Theaimofthisstudywastocomparetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionoftafluprost0.0015%/timolol0.5%(DE-111)tothatoftimolol0.5%in166patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension,inarandomized,double-masked,parallel-groupandmulticenterstudy.PatientswithIOP≧20mmHgaftertimololinstillationfor4weekswererandomlyassignedtoeithertheDE-111ortimololgroup,withthedruginstilledfor4weeks.Attheendoftreatment,meandiurnalintraocularpressurereductionfrombaselinewas3.2±2.1mmHgintheDE-111groupand1.7±2.1mmHginthetimololgroup,withstatisticallysignificantdifferencebetweenthegroups.Atotalof19.5%ofthepatientswithDE-111and3.6%ofthosewithintimololreportedadversedrugreactions,butDE-111wastolerable,asmostoftheadversedrugreactionswithitweremild.TheseresultsindicatethatDE-111isclinicallyusefulinmultidrugtherapyforglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(12):1773.1781,2013〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,DE-111.はじめにDE-111点眼液は,有効成分としてタフルプロストを0.0015%,チモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有する配合点眼液である.タフルプロストは参天製薬株式会社および旭硝子株式会社で創製されたプロスタグランジン(PG)F2a誘導体で,ぶどう膜強膜流出路からの房水流出促進による眼圧下降効果が報告されている1.3).b遮断薬であるチモロールは,房水産生を抑制することによって眼圧下降効果が得られる薬剤である4,5).DE-111点眼液は,これら作用機序の異なる2成分を配合することにより各単剤より〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16ラグザ大阪サウスオフィス4F福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,4FLaxaOsakaSouthOffice,5-6-16Fukushima,Fukushimaku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(125)1773 も強い眼圧下降効果が期待されるのみならず,点眼回数が減ることにより患者の利便性やアドヒアランスさらにはQOLを改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.現在,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼液としては,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)とトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)がある.しかしながら,これら配合点眼液に関して,その有効性や安全性をチモロール単剤と二重盲検比較試験で検討した論文報告は,海外にはあるものの6.12)国内にはない.今回,DE-111点眼液の第III相試験として,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,DE-111点眼液とDE-111点眼液の有効成分の一つである0.5%チモロール点眼液との多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2並びに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国16医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.治験責任医師は,被験者選定および同意の取得,実施計画書に沿った試験の実施,データ収集の役割を担った.2.目的DE-111点眼液の0.5%チモロール点眼液に対する優越性を検証することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断され,0.5%チモロール点眼液点眼下で少なくとも片眼の眼圧が20mmHg以上であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験はDE-111第III相臨床試験であり,多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,緑内障前治療薬の影響を洗い流し,0.5%チモロール点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.導入期には0.5%チ1774あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療法人社団山田眼科大谷地裕明渡辺眼科医院渡邉広己財団法人湯浅報恩会寿泉堂綜合病院眼科神田尚孝医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック井上賢治医療法人社団瞳好会京王八王子松本眼科松本純医療法人社団済安堂西葛西・井上眼科病院宮永嘉隆医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功むらまつ眼科医院村松知幸医療法人社団シー・オー・アイいしだ眼科石田玲子医療法人豊潤会松浦眼科眼科松浦雅子野村眼科野村亮二医療法人庸倫会スズキ眼科服部博之宇部興産株式会社中央病院眼科湧田真紀子医療法人杏水会右田眼科右田雅義医療法人明和会宮田眼科病院宮田和典医療法人仁志会西眼科病院藤井誠一郎表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)導入期終了日(9時30分±30分)の少なくともいずれか一方の眼圧が20mmHg以上,両眼とも34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断モロール点眼液を1日2回朝夜両眼に治療期0週まで点眼した.治療期0週当日朝は0.5%チモロール点眼液を点眼せず来院し,点眼前の眼圧が20mmHg以上の被験者を対象として症例登録を行い,4週間の治療期に移行した.治療期では被験者はDE-111群またはチモロール群に1対1に無作為に割り付けられた.DE-111群は,DE-111点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼した.チモロール群は,0.5%チモロール点眼液を1日2回朝夜両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日1回朝両眼点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1(126) 回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.DE-111群にはチモロール型容器のプラセボ点眼液(1日2回朝夜両眼点眼),チモロール群には同意取得登録/割付け:1日2回(朝,夜)両眼点眼:1日2回(朝,夜)両眼点眼(チモロール型容器)DE-111点眼液:1日1回(朝)両眼点眼【導入期】・0.5%チモロール点眼液【治療期】・DE-111群プラセボ点眼液導入期4週間治療期4週間チモロール点眼液0.5%DE-111群二重盲検チモロール群・チモロール群0.5%チモロール点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼プラセボ点眼液:1日1回(朝)両眼点眼(DE-111型容器)図1試験デザインDE-111型容器のプラセボ点眼液(1日1回朝両眼点眼)をそれぞれ併用するダブルダミー法を用いて盲検性を確保した.試験薬の識別不能性は試験薬割付責任者が確認した.試験薬の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法による無作為化により行い,キーコードは開鍵時まで封入し試験薬割付責任者が保管した.c.症例数DE-111群とチモロール群の眼圧変化量の差を2.0mmHg,標準偏差を4.0mmHg,有意水準を5%,t検定を用いた検出力を80%としたとき,1群の必要例数は64例である.脱落例を考慮し,目標症例数を1群70例と設定した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査確認した.b.試験薬の点眼状況治療期0週以降は来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,視力検査,眼圧測定,隅角検査,視野検査,眼底検査および臨床検査(血液・尿)を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,2週および4週または中止時の眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入表3検査・観察スケジュール観察項目導入期治療期中止時導入期開始時(-4週)0週2週4週文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●視力検査●●●眼圧測定午前中(12時まで)●●9時30分±30分●●●点眼2時間後±30分●●点眼8時間後±30分●●隅角検査●視野検査●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿)●●●有害事象●(127)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131775 期開始時は午前中,治療期0週および4週は朝点眼前の午前9.10時,朝点眼2時間後±30分および朝点眼8時間後±30分,治療期2週は朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,人工涙液,白内障治療薬およびビタミンB12製剤を除くすべての眼局所投与製剤,経口および静注投与の眼圧下降剤,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.主要評価項目は,治療期終了時(治療期4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量とした.なお平均日中眼圧は,朝点眼前,点眼2時間後および点眼8時間後の眼圧平均値と定義した.また副次評価項目は,各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量および眼圧変化率とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS集団)を対象として検討した.また,試験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS集団)についても解析し,FAS集団との相違について考察した.b.安全性解析対象安全性は,被験薬または対照薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られているすべての被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い検査・観察時期が許容範囲から外れた場合,検査前日の点眼をしていない場合,検査当日の朝の点眼を眼圧測定の前に行った場合,および治療期0週以降の眼圧測定時刻が許容範囲から外れた場合は,当該検査日の眼圧データをPPS集団から除外した.d.解析方法主要評価および副次評価の解析には,投与群別に対応のあるt検定を行った.群間比較には,投与群を要因,0週の眼1776あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013圧値を共変量とした共分散分析を用いた.眼圧下降率20%の症例割合はFisherの直接法により群間比較を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計し,全体の発現率についてFisherの直接法を用いて群間の比較を行った.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.なお,本論文は参天製薬株式会社が行った解析データを基に筆者が執筆した.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得て試験に組入れられた被験者は203例で,導入期が開始された被験者は188例,治療期が開始された被験者は166例であり,無作為にDE-111群82例,チモロール群84例に割り付けられた.治療期中に8例が試験を中止し(DE-111群5例,チモロール群3例),158例が試験を完了した(DE-111群77例,チモロール群81例).無作為化された166例(DE-111群82例,チモロール群84例)を安全性解析対象集団およびFAS集団とした.さらに,併用禁止薬使用などにより眼圧値が不採用となった12例を除く154例(DE-111群74例,チモロール群80例)をPPS集団とした.FAS集団における被験者背景を表4に示した.緑内障前治療薬の有無についてのみ群間に偏りが認められた(Fisherの直接法:p=0.050).2.有効性FAS集団における平均日中眼圧変化量の推移および群間比較を図3と表5に示した.治療期0週の平均日中眼圧は,DE-111群20.8±2.1mmHg,チモロール群20.7±2.1mmHgであり,治療期終了時(治療期4週または中止時)には,DE-111群17.5±2.7mmHg,チモロール群19.0±3.3mmHgであった.主要評価である治療期終了時(治療期4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量(平均値±標準偏差)は,DE-111群.3.2±2.1mmHg,チモロール群.1.7±2.1mmHgであり,両群ともに0週に比較して有意な眼圧下降を示した(p<0.001).また,変化量の群間差(DE-111群.チモロール群,平均値±標準誤差)は.1.5±(128) 文書同意を得た被験者:203例導入期の試験薬が投薬された被験者:188例導入期の試験薬未投与例:15例試験開始後に不適格が判明:13例試験継続の拒否:2例無作為割付された被験者:166例導入期中止例:22例DE-111群:82例チモロール群:84例有害事象発現:4例眼圧>34mmHg:1例試験開始後に不適格が判明:17例治療期の試験薬が投薬された被験者:166例DE-111群:82例チモロール群:84例試験を完了した症例:158例治療期に中止した被験者:8例DE-111群:77例チモロール群:81例有害事象発現:5例(DE-111群)試験開始後に不適格が判明:1例(チモロール群)転院,転居,多忙:2例(チモロール群)文書同意を得た被験者:203例導入期の試験薬が投薬された被験者:188例導入期の試験薬未投与例:15例試験開始後に不適格が判明:13例試験継続の拒否:2例無作為割付された被験者:166例導入期中止例:22例DE-111群:82例チモロール群:84例有害事象発現:4例眼圧>34mmHg:1例試験開始後に不適格が判明:17例治療期の試験薬が投薬された被験者:166例DE-111群:82例チモロール群:84例試験を完了した症例:158例治療期に中止した被験者:8例DE-111群:77例チモロール群:81例有害事象発現:5例(DE-111群)試験開始後に不適格が判明:1例(チモロール群)転院,転居,多忙:2例(チモロール群)図2被験者の内訳表4被験者背景項目分類DE-111群チモロール群合計例数8284166診断名原発開放隅角緑内障高眼圧症36(43.9)46(56.1)37(44.0)47(56.0)73(44.0)93(56.0)性別男38(46.3)38(45.2)76(45.8)女44(53.7)46(54.8)90(54.2)年齢65歳未満46(56.1)35(41.7)81(48.8)65歳以上36(43.9)49(58.3)85(51.2)最小.最大24.8126.7924.81平均値±標準偏差61.6±11.463.1±12.462.4±11.9緑内障前治療薬なし21(25.6)11(13.1)32(19.3)あり61(74.4)73(86.9)134(80.7)合併症なし9(11.0)9(10.7)18(10.8)あり73(89.0)75(89.3)148(89.2)導入期の隅角331(37.8)31(36.9)62(37.3)(Shaffer分類)451(62.2)53(63.1)104(62.7)導入期の緑内障性の異常なし56(68.3)53(63.1)109(65.7)視野異常異常あり26(31.7)31(36.9)57(34.3)導入期の緑内障性の異常なし50(61.0)47(56.0)97(58.4)眼底異常異常あり32(39.0)37(44.0)69(41.6)導入期終了時の最小.最大17.3.28.718.0.30.717.3.30.7平均眼圧(mmHg)平均値±標準偏差20.8±2.120.7±2.120.7±2.1導入期終了時の最小.最大20.0.28.020.0.29.020.0.29.0トラフ眼圧(mmHg)平均値±標準偏差21.7±1.821.6±1.721.6±1.8例数(%).(129)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131777 0.3mmHgであり,DE-111群の眼圧下降はチモロール群と比較して有意に大きかった(p<0.001).副次評価である治療期2週(朝点眼前),4週(朝点眼前,点眼2時間後,点眼8時間後)の各測定時刻における眼圧実1眼圧変化量(mmHg)測値の推移および群間比較を図4と表6に示した.DE-111群とチモロール群の群間比較では,DE-111はすべての測定時刻においてチモロール群と比較して有意な眼圧下降を示した(p<0.01).被験者背景において,緑内障前治療薬の有無について群間に偏りがみられたため,緑内障前治療薬の有無別に各群の平均日中眼圧値を比較したが,全体での結果と差異は認められなかった.PPS集団を対象とした解析でもFAS集団の有効性と相違のない結果が得られた.治療期終了時(治療期4週または中止時)において治療期0週からの平均日中眼圧の眼圧下降率が20%以上であった症例の割合は,DE-111群が32.9%であり,チモロール群の7.1%より有意に多かった(p<0.001)(図5).3.安全性a.有害事象および副作用安全性解析対象集団は,DE-111群82例,チモロール群0-1-2**-3:DE-111群:チモロール群-5-4-60週治療期終了時図3平均日中眼圧変化量(平均値±標準偏差)0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.表5平均日中眼圧DE-111群チモロール群DE-111群.チモロール群平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)群間比較(mmHg)時期Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SE95%信頼区間p値0週20.8±2.1(82)──20.7±2.1(84)─────治療期終了時17.5±2.7(82).3.2±2.1(82)<0.00119.0±3.3(84).1.7±2.1(84)<0.001.1.5±0.3.2.2..0.9<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.眼圧(mmHg)2423222120191817161514:DE-111群:チモロール群********0週0週0週2週4週4週4週点眼前点眼2時間後点眼8時間後点眼前点眼前点眼2時間後点眼8時間後図4眼圧実測値(平均値±標準偏差)0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.**:p<0.01.1778あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(130) 表6眼圧実測値DE-111群チモロール群DE-111群.チモロール群眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)群間比較(mmHg)時期Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SE95%信頼区間p値0週朝点眼前21.7±1.8(82)──21.6±1.7(84)─────0週点眼2時間後20.4±2.5(82)──20.6±2.6(84)─────0週点眼8時間後20.0±2.8(82)──19.8±2.7(84)─────2週18.0±2.3(82).3.7±2.2(82)<0.00119.3±3.5(84).2.2±2.6(84)<0.001.1.4±0.4.2.2..0.7<0.0014週朝点眼前17.6±2.7(79).4.1±2.2(79)<0.00119.3±3.2(83).2.3±2.3(83)<0.001.1.8±0.4.2.6..1.1<0.0014週点眼2時間後17.5±3.2(77).3.0±2.5(77)<0.00118.7±3.6(82).1.9±2.4(82)<0.001.1.0±0.4.1.8..0.30.0094週点眼8時間後17.3±3.1(77).2.7±2.9(77)<0.00118.8±3.5(81).1.0±2.5(81)<0.001.1.7±0.4.2.5..0.8<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.403020100図5治療期終了時に眼圧下降率20%以上であった症例の割合84例の計166例であった.治療期中に発現した有害事象と副作用の発現例数および発現率を表7に,副作用一覧を表8に示した.有害事象は,DE-111群で25.6%(21/82例),チモロール群で14.3%(12/84例)であり,そのうち,試験薬との因果関係が否定できない副作用は,DE-111群で19.5%(16/82例),チモロール群で3.6%(3/84例)であった.有害事象の発現率は群間に差は認められなかったものの,副作用の発現率はDE-111群がチモロール群と比較して有意に高かった(有害事象:p=0.081,副作用:p=0.001).DE-111群のおもな副作用は,結膜充血(6.1%,5/82例)および眼充血(7.3%,6/82例)であった.チモロール群の(131)症例割合(%)32.9%(27/82)7.1%(6/84)DE-111群チモロール群副作用は,結膜出血(1.2%,1/84例),眼充血(1.2%,1/84例)および角膜障害(1.2%,1/84例)であった.両群ともに副作用はすべて眼障害で,重症度はDE-111群において中等度と判断された虹彩炎(1.2%,1/82例)を除きすべて軽度であり,いずれも試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.DE-111群の副作用により試験中止に至った被験者は,虹彩炎を発現した1例,眼充血,眼刺激および眼瞼浮腫を発現した1例,眼充血を発現した1例,結膜充血および眼瞼紅斑を発現した1例の計4/82例(4.9%)であり,いずれも試験薬の投与中止後に回復した.b.臨床検査DE-111群で単球および尿糖(定性)が,チモロール群で好酸球,リンパ球,総蛋白およびアルブミンが,投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する有害事象は認められなかった.また,薬剤との因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動は認められなかった.c.血圧・脈拍数収縮期血圧,拡張期血圧について,DE-111群は0週と比較して有意な変動は認められなかった.チモロール群は,収縮期血圧について,0週と比較して有意な低下が4週(平均値±標準偏差,.2.45±11.10mmHg,p=0.048)に認められた.脈拍数について,DE-111群で0週と比較して有意な上昇が2週(平均値±標準偏差,5.5±7.8拍/分,p<0.001)および4週(4.6±8.1拍/分,p<0.001)に認められた.チモあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131779 表7治療期にみられた有害事象と副作用の発現例数および発現率DE-111群チモロール群検定(Fisherの直接法)安全性解析対象集団例数8284─有害事象発現例数(%)21(25.6)12(14.3)p=0.081副作用発現例数(%)16(19.5)3(3.6)p=0.001表8副作用一覧DE-111群チモロール群安全性解析対象集団例数8284副作用発現例数(%)16(19.5)3(3.6)結膜出血─1(1.2)眼瞼紅斑1(1.2)─眼刺激2(2.4)─眼瞼浮腫1(1.2)─虹彩炎1(1.2)─角膜炎1(1.2)─眼充血6(7.3)1(1.2)点状角膜炎2(2.4)─結膜充血5(6.1)─眼そう痒症1(1.2)─角膜障害1(1.2)1(1.2)例数(%).ロール群では,0週と比較して有意な変動は認められなかった.これらの変動は,臨床的に問題となるものではなく,関連する有害事象は認められなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)細隙灯顕微鏡検査所見の結膜充血スコア(両眼)について,DE-111群で0週と比較して有意なスコアの上昇が2週(右眼:p=0.031,左眼:p=0.008)に認められたが,その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.チモロール群では,有意なスコアの変動は認められなかった.視力検査について,両群ともに有意な変動は認められなかった.III考察緑内障では,眼圧下降治療が唯一確実な治療法であり,通常薬物療法が第一選択となる.薬物療法では,まず単剤治療で効果を確認し,効果不十分な場合に多剤併用療法が行われるが,単剤で治療されていた患者は48.4%との報告13)もあるように,多剤併用療法が必要な患者も少なくない.多剤併用療法の問題点は,点眼回数の多さからくるアドヒアランス低下や,先に点眼した薬剤が後に点眼した薬剤によって眼表面から洗い流されることによる薬剤効果の減弱などが挙げられるが,このような懸念を解消しうる薬剤として配合点眼液がある.近年国内では,PG関連薬とb遮断薬や,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を配合した点眼液が次々と発売され臨1780あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013床で使用されている.このような現状をふまえ,日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン(第3版)14)においては,『多剤併用療法の際には配合点眼液の使用により患者のアドヒアランスやQOLの向上も考慮すべきである』と,配合点眼液の意義について述べている.本試験は,タフルプロスト・チモロールマレイン酸塩を含有するDE-111点眼液を,その配合成分の一つである0.5%チモロール点眼液と比較した国内二重盲検比較試験である.なお,DE-111点眼液をタフルプロスト単剤またはタフルプロストとチモロールの併用と比較した国内二重盲検比較試験については,すでに報告した15).主要評価である平均日中眼圧の治療期0週と比較した治療期終了時(治療期4週または中止時)での変化量は,DE-111群でチモロール群と比較して有意に大きかった.また,各測定時刻の眼圧値をみても,DE-111群の治療期4週の眼圧実測値は,朝点眼前(トラフ眼圧値)で17.6mmHg,点眼2時間後で17.5mmHg,点眼8時間後で17.3mmHgと大きな日内変動はなく,眼圧がトラフを含め1日中コントロール可能であることが確認された.さらに,眼圧下降率が20%以上であった症例の割合は,DE-111群が32.9%であり,チモロール群の7.1%を有意に上回った.これらのことから,0.5%チモロール点眼液の単剤治療で効果不十分な患者がDE-111点眼液に切り替えることで,眼圧を良好にコントロールできる可能性が示された.PG関連薬・b遮断薬の配合点眼液とチモロール点眼液を比較した国内二重盲検比較試験の論文報告はないが,海外では,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)で5報6.10),トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)で2報11,12)の計7報の報告がある.これらのうち,今回のDE-111点眼液の試験と同様に,導入期に0.5%チモロール点眼液(1日2回)を使用した試験は,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に関する2報があった6,7).これらの試験の治療期0週時の平均日中眼圧は21.6±3.8mmHg,もう1報では23.1±3.8mmHgであり,治療期終了時の平均日中眼圧はそれぞれ19.0±3.5mmHg,19.9±3.4mmHgであった.今回のDE-111点眼液の試験では,治療期0週時の平均日中眼圧は20.8±2.1mmHgとこれらの報告と比較してベースライン眼圧が低かったにもかかわらず,(132) 治療期終了時の平均日中眼圧は17.5±2.7mmHgと,大きな眼圧下降を示した.このことから,DE-111点眼液は眼圧が低い患者でも良好な眼圧下降効果を示すことが期待される.安全性については,試験期間を通じて重篤な副作用はみられなかった.DE-111群の副作用発現率はチモロール群と比較して有意に高かったものの,副作用はすべて眼局所性であり,おもなものは結膜充血(6.1%)および眼充血(7.3%)であった.タフルプロスト(タプロスR点眼液0.0015%)の第III相比較試験2)で高頻度に発現した副作用は,結膜充血(16.4%),眼充血(10.9%),眼掻痒症(9.1%)および眼刺激(7.3%)であったことから,本試験で高頻度に認められた副作用はDE-111点眼液の有効成分であるタフルプロスト由来であると考えられたが,これらの副作用はすべて軽度であり,発現率もタフルプロスト単剤の安全性プロファイルを超えるものではなかった.よって,配合による各単剤の副作用増悪の懸念はないと考えられた.以上より,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者において,DE-111点眼液は,0.5%チモロール点眼液と比較して,優れた眼圧下降を示し,安全性についても問題ないことが確認された.さらに,DE-111点眼液は患者の利便性,アドヒアランスおよびQOLの改善が期待できるので,緑内障治療における多剤併用療法の選択肢として有用性の高い配合点眼液である.利益相反:井上賢治:(カテゴリーI:参天製薬)文献1)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20042)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20083)桑山泰明,米虫節夫,タフルプロスト共同試験グループ:正常眼圧緑内障を対象とした0.0015%タフルプロストの眼圧下降効果に関するプラセボを対照とした多施設共同無作為化二重盲検第III相臨床試験.日眼会誌114:436-443,20104)新家真,高瀬正弥:交感神経作動薬及びb受容体遮断剤の人眼房水動態に及ぼす作用.日眼会誌84:1436-1446,19805)三島済一,東郁郎,相沢芙束ほか:Pilocarpineにより眼圧調整されている高眼圧症および原発開放隅角緑内障患者に対するtimololの臨床評価.臨床評価8:789-820,19806)PfeifferN:Acomparisonofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwithitsindividualcomponents.GraefesArchClinExpOphthalmol240:893-899,20027)HigginbothamEJ,FeldmanR,StilesMetal:Latanoprostandtimololcombinationtherapyvsmonotherapy.ArchOphthalmol120:915-922,20028)DiestelhorstM,AlmegardB:Comparisonoftwofixedcombinationsoflatanoprostandtimololinopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol236:577581,19989)PalmbergP,KimEE,KwokKKetal:A12-week,randomized,double-maskedstudyoffixedcombinationlatanoprost/timololversuslatanoprostortimololmonotherapy.EurJOphthalmol20:708-718,201010)HigginbothamEJ,OlanderKW,KimEEetal:Fixedcombinationoflatanoprostandtimololvsindividualcomponentsforprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.ArchOphthalmol128:165-172,201011)BarnebeyHS,Orengo-NaniaS,FlowersBEetal:Thesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%fixedcombinationophthalmicsolution.AmJOphthalmol140:1-7,200512)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyofafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,200513)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査2009年度版─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,201114)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,201215)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験.あたらしい眼科30:1185-1194,2013***(133)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131781

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の製剤処方設計とラット眼内移行性

2013年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(12):1761.1766,2013c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE111点眼液)の製剤処方設計とラット眼内移行性上田健治殿内麻花深野泰史浅田博之河津剛一参天製薬株式会社研究開発本部Tafluprost0.0015%/Timolol0.5%CombinationOphthalmicSolution(DE-111OphthalmicSolution)FormulationDesignandIntraocularPenetrationinRatsKenjiUeda,AsakaTonouchi,YasufumiFukano,HiroyukiAsadaandKouichiKawazuResearch&DevelopmentDivision,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.0.0015%タフルプロストと0.5%チモロールの配合点眼液(DE-111)で,チモロールが1日2回から1回点眼となっても眼圧下降効果を最大限維持するための処方設計を行い,ラットを用いて眼内移行および全身曝露を調べた.チモロールの眼内移行は点眼液のpHの上昇に伴い増加したがタフルプロストは影響されなかったことおよび点眼液の室温保存可能性の観点から,DE-111のpHを7.0に設定した.DE-111点眼時の房水中チモロールは,チモロール単剤よりも高濃度で推移し,1日1回点眼のチモロールのゲル製剤よりCmaxはやや低くAUCはほぼ同じであった.房水中タフルプロストカルボン酸濃度は,単剤と同様であった.一方,DE-111点眼後の全身曝露は,チモロールおよびタフルプロストカルボン酸とも単剤のCmaxやAUCを上回らなかった.以上より,DE-111は,1日1回点眼で高い有用性を示すことが期待される.Thetafluprost0.0015%/timolol0.5%combinationophthalmicsolution(DE-111)formulationwasdesignedtomaintainIOP-loweringeffectwhentimololinstillationischangedfromtwicetooncedaily.ThisstudyexaminedDE-111ocularpenetrationandsystemicexposure.InconsiderationofdataindicatingthatpHaffectsboththeocularpenetrationoftimolol(butnottafluprost)andthestabilityoftafluprostinophthalmicsolution,thepHofDE-111wassetat7.0.Timololconcentrationsinaqueoushumor(AH)afterDE-111instillationwerehigherthanafterinstillationoftimololalone,andCmaxandAUCwerelowandsimilar,respectively,incomparisontotimololgelformulationusedinonce-dailyinstillation.PharmacokineticparametersoftafluprostacidinAHafterDE-111instillationweresimilartothoseseenaftertafluprostinstillation.Forsystemicexposure,theCmaxandAUCoftimololandtafluprostacidinplasmaafterDE-111instillationdidnotexceedthelevelsseenafterinstillationoftafluprostandtimolol.Once-dailyinstillationofDE-111isthereforeexpectedtobeuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(12):1761.1766,2013〕Keywords:緑内障,DE-111配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,眼内移行性.glaucoma,DE-111combinationophthalmicsolution,tafluprost,timolol,ocularpenetration.はじめにDE-111点眼液は,タフルプロストを0.0015%およびチモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,作用機序が異なり,かつ,臨床での使用頻度が最も高いプロスタグランジン(PG)関連薬とb遮断薬の組み合わせである.2剤の点眼剤を同一時間帯に併用する場合には,先に点眼した薬剤が後に点眼した薬剤によって眼表面から洗い流され(洗い流し効果),薬効が減弱することが懸念されるため,5分以上点眼間隔をあけることが推奨されている.しかし,点眼間隔をあけることは患者にとって煩雑であり,間隔をあけずに点眼したり,間隔をあけようとしたものの点眼忘れにつながったりする可能性がある.配合点眼液であるDE-111点眼液は,洗い流し効果による薬効の減弱の懸念がなく,〔別刷請求先〕上田健治:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社奈良研究開発センターReprintrequests:KenjiUeda,NaraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma630-0101,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)1761 PG関連薬とb遮断薬の両剤の併用が必要な患者にとって利便性が改善し,アドヒアランスの向上が期待される.一方で,b遮断薬(チモロール)点眼液の点眼回数は1日2回であることから,PG関連薬との1日1回点眼の配合点眼液では,b遮断薬の点眼回数が減少することによる効果減弱が懸念される.そこで,DE-111点眼液の処方設計においては,タフルプロストの眼内移行が減少もしくは増加して眼圧下降効果が減弱したり副作用が増強したりすることなく,チモロールによる眼圧下降作用を併用点眼並みに維持することを目指して検討を行ったので,その結果を報告する.I実験材料1.点眼液検討には,有効成分としてタフルプロストを0.0015%,チモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有し,緩衝剤を含有せず,pHを6.0,7.0および7.5に調整した配合点眼液(タフルプロスト/チモロール配合点眼液),同様な有効成分含量でpHを7.0とし緩衝能を付加した点眼液(DE-111点眼液),タフルプロスト点眼液(タプロスR点眼液0.0015%,参天製薬,pH5.7.6.3),チモロール点眼液(チモプトールR点眼液0.5%,参天製薬,pH6.5.7.5)およびゲル化剤を加えたチモロール製剤であるチモロールGS点眼液(チモプトールRXE点眼液0.5%,参天製薬,pH6.5.7.5)を用いた.2.実験動物眼内移行性および全身曝露の検討には,6.7週齢の雌性SDラット(日本チャールス・リバー株式会社)を使用した.本研究は,「動物実験倫理規定」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」「動物の苦痛に関する基準」の参天製薬株式会社社内規定を遵(,)守し,実施した.II実験方法1.点眼ラットの両眼に,タフルプロスト/チモロール配合点眼液,DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液を5μLずつ単独で単回点眼もしくはタフルプロスト点眼液とチモロール点眼液をそれぞれ5μLずつ単回併用点眼した.併用点眼は,チモロール点眼液を点眼後5分にタフルプロスト点眼液を点眼した.2.房水の採取眼内移行性に及ぼす点眼液pHの影響の検討では点眼後30分に,各点眼液の眼内移行性の比較検討では点眼後5,15,30分,1,2および4時間(ただし,併用点眼の場合は,チモロール点眼液点眼後7,15,30分,1,2および4時間)に,イソフルラン麻酔下でラットの大動脈より全量採血して致死させ,房水を採取した.血漿中濃度と同じ方法で定量す1762あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013るため,採取した房水1眼分ごとに薬剤未投与のラット血漿200μLを添加・混和し,房水の測定試料とした.3.血漿の採取各点眼液の全身曝露の比較検討では,眼内移行性の比較検討と同様,点眼後5,15,30分,1,2および4時間(ただし,併用点眼の場合は,チモロール点眼液点眼後7,15,30分,1,2および4時間)に,ラット頸静脈よりヘパリンナトリウム処理したシリンジで血液(約0.3mL)を採取した(各群4例).採取した血液は,遠心分離して血漿を採取し,血漿の測定試料とした.4.タフルプロストカルボン酸およびチモロールの定量タフルプロストは点眼後,活性本体であるタフルプロストカルボン酸に速やかに代謝される1)ことから,タフルプロストの眼内移行および全身曝露はタフルプロストカルボン酸を定量して評価した.血漿および房水中タフルプロストカルボン酸およびチモロールの定量は,測定対象化合物をtert-ブチルメチルエーテルを用いた液-液抽出により精製後,LCMS/MSにより分析して行った.装置は,オートサンプラにHTCPAL(CTCAnalytics),HPLCにAgilent1100(Agilent),分析カラムにYMC-PackODS-AQS-3μm,50×3.0mmI.D.(YMC),質量分析計にAPI5000(ABSciex)を用いた.移動相は,流量0.5mL/minで0.1%酢酸/メタノール(80/20)→(25/75)のグラジェントとし,カラム温度を40°C,イオン化法をelectrosprayionization(タフルプロストカルボン酸:negativemode,チモロール:positivemode),モニタリングイオンをm/z409→93(タフルプロストカルボン酸)およびm/z317→74(チモロール)とした.なお,房水中薬物濃度は,測定試料中薬物濃度を房水採取量で補正して算出した.本法の定量下限は,血漿中タフルプロストカルボン酸およびチモロール濃度でいずれも0.1ng/mL,房水中タフルプロストカルボン酸濃度で0.764.10.2ng/mL,房水中チモロール濃度で0.822.2.14ng/mLであった(房水中濃度については,定量下限未満であった房水試料における値).5.薬物動態パラメータ血漿および房水中のタフルプロストカルボン酸およびチモロールについて,血漿は個体ごとの濃度値,房水は各測定時点における平均値を用いて,薬物動態パラメータを算出した.Cmax(最高血中濃度)は観測された値の最大値,Tmax(最高血中濃度到達時間)はCmaxに到達する時間とした.消失半減期(T1/2)は,横軸が点眼後時間,縦軸が濃度の対数のグラフにプロットして観測された消失相の傾き(ke)で,2の自然対数を除することにより算出した.濃度-時間曲線下面積(AUC)は線形台形法により算出し,無限大時間までのAUC(AUCinf)は,濃度が得られた最終時点の濃度値をkeで除した値と,その時点までのAUCの和として算出した.(114) III結果1.眼内移行性に及ぼす点眼液pHの影響3,0002,000房水中チモロール濃度(ng/mL)0チモロールpH6.0pH7.0pH7.5タフルプロスト/チモロール配合点眼液(pHは6.0,7.0および7.5),タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液を,それぞれラットに点眼したときの点眼後30分の房水中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸濃度をそれぞれ図1および図2に示す.配合点眼液点眼後の房水中タフルプ1,000ロストカルボン酸濃度は,点眼液のpH変動により変化せず,タフルプロスト/チモロールまた,タフルプロスト点眼液点眼時とほぼ同様の値であっ配合点眼液た.一方,チモロールに関しては,配合点眼液のpHが高くなるに従って房水中チモロール濃度が高くなる傾向が認めら図1チモロールのラット房水移行性に及ぼす点眼液pHの影響(点眼後30分)れ,pH7.5の配合点眼液では,チモロール点眼液に比べて各値は8眼の平均値+標準偏差.約2倍の値となった.2.各点眼液点眼後の眼内移行性の比較DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液を単独点眼したとき,ならびにチモロール点眼液を点眼後5分にタフルプロスト点眼液を併用点眼したときの眼内移行性を比較するため,房水中薬物濃度推移を調べた.房水中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸濃度推移をそれぞれ図3および図4に,房水中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸の薬物動態パラメータ房水中タフルプロストカルボン酸濃度(ng/mL)1000タフルプロストpH6.0pH7.0pH7.580604020をそれぞれ表1に示す.房水中チモロール濃度は,各点眼液単独および併用点眼のいずれにおいても,点眼後0.25時間までにCmaxに達した後,タフルプロスト/チモロール配合点眼液速やかに消失した.DE-111点眼液点眼時の房水中チモロール濃度は,チモロール点眼液0.5%よりも高い濃度推移を示した.また,チモロールGS点眼液0.5%と比較すると,Cmaxは低く,点眼後2時間以降は高い濃度推移を示し,AUCはほぼ同じであった.さらに,タフルプロスト点眼液0.0015%およびチモロール点眼液0.5%の5分間隔での併用点眼時と同様の濃度推移を示した.房水中タフルプロストカルボン酸濃度は,各点眼液単独および併用点眼のいずれにおいても点眼後約0.5時間にCmaxに達し,その後T1/2約0.3.0.4時間で消失して,点眼後約4時間にはいずれの点眼液,個体においても定量下限未満となった.DE-111点眼液点眼時の房水中タフルプロストカルボン酸濃度は,タフルプロスト点眼液0.0015%に比べて点眼後5分では低く,点眼後2時間では高い濃度を示したが,薬物動態パラメータに差はみられなかった.また,タフルプロスト点眼液0.0015%とチモロール点眼液0.5%の5分間隔での併用点眼と同様の濃度推移を示した.3.各点眼液点眼後の全身曝露の比較DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液を単独点眼したとき,ならびにチモロール点眼液を点眼後5分にタフルプロスト点眼液を併用図2タフルプロストの房水移行性に及ぼす点眼液pHの影響(点眼後30分)各値は8眼の平均値+標準偏差(タフルプロストは7眼).点眼したときの全身曝露を比較するため,血漿中薬物濃度推移を調べた.血漿中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸濃度の推移をそれぞれ図5および図6に,血漿中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸の薬物動態パラメータを表2に示す.血漿中チモロール濃度は,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液およびチモロール点眼液とタフルプロスト点眼液の併用においては点眼後0.25時間までに,DE-111点眼液では,点眼後0.25.0.55時間にCに達し,その後T1/2約max0.7.0.9時間で消失した.CmaxおよびAUCともに個体間でバラツキがあり,点眼群間に明確な差はみられなかった.血漿中タフルプロストカルボン酸濃度は,DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液とタフルプロスト点眼液の併用のいずれにおいても,点眼後0.167時間(10分)までにCmaxに達した後,消失して点眼後1時間にはいずれの点眼液,個体においても定量下限未満となり,各群の濃度推移に明確な差は認められなかった.(115)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131763 10,0001,0001,000100:DE-111:チモロール:チモロールGS:チモロール+タフルプロストa:DE-111:タフルプロスト:チモロール+タフルプロストa1234房水中チモロール濃度(ng/mL)房水中タフルプロストカルボン酸濃度(ng/mL)100101010101234点眼後時間(hr)点眼後時間(hr)図3各種点眼液点眼後の房水中チモロール濃度推移図4各種点眼液点眼後の房水中タフルプロストカルボン酸各値は6眼の平均値+標準偏差.濃度推移a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.各値は6眼の平均値+標準偏差.a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.表1各種点眼液点眼後の房水中タフルプロストカルボン酸およびチモロールの薬物動態パラメータ測定対象点眼液Cmax(ng/mL)Tmax(hr)AUC0-4ha(ng・hr/mL)AUCinfa(ng・hr/mL)T1/2(hr)チモロールDE-111チモロールチモロールGSチモロール+タフルプロストb2,3301,3303,3501,9600.250.08330.250.252,0801,2101,8201,6602,080NCNC1,6600.494NCNC0.438タフルプロストカルボン酸DE-111タフルプロスト90.475.60.50.587.579.084.977.40.3740.311チモロール+タフルプロストb89.70.41787.9c84.90.414各パラメータは6眼(3例)の平均房水中濃度を解析して算出.NC:算出せず.a:定量下限未満の値をゼロとして計算.b:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.c:AUC0-3.92h.IV考按緑内障の治療は眼圧下降剤による治療が主体となっており,単剤で効果が不十分であるときには併用療法が行われる2)が,長期にわたり継続して点眼治療を行う必要がある患者にとって,複数の点眼剤の併用は大きな負担であり,アドヒアランスの低下により十分な眼圧下降効果が維持されない状態が続くと,視野障害の進行につながることが懸念される.タフルプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液であるDE-111点眼液は,PG関連薬とb遮断薬の両剤の併用が必要な患者にとって,利便性の向上によるアドヒアランスの改善が期待されるが,一方で,チモロールの点眼回数がチモロール点眼液の1日2回からDE-111点眼液では1日1回に減少することによる眼圧下降効果の減弱が懸念される.そこで,DE-111点眼液の処方設計においては,タフルプロストの眼内移行が減少もしくは増加して眼圧下降効果が減弱したり副作用が増強したりすることなく,チモロールによる眼圧下降作用を併用点眼並みに維持することを目指して検討1764あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013を行った.点眼液では,点眼後の薬物は速やかに鼻涙管を経て眼外へ排出されるため,点眼液への粘性の付与により眼表面での滞留性を高めることで薬物の眼内移行性を向上させることが可能である3).チモロールGS点眼液はゲル化剤を添加して粘性を増加させることによりチモロールの眼内移行性を向上させ(表1,図3),1日1回点眼の用法で承認されている.しかしながら,タフルプロストとチモロールマレイン酸塩の配合剤をゲル製剤とした場合,タフルプロストの眼局所副作用(充血,睫毛の伸長,虹彩・眼瞼色素沈着)の増大の懸念や,タフルプロストの眼内移行量の増加に伴う効果の過大増強の可能性もあることから,課題が多いと考えられる.そこで,DE-111点眼液の製剤処方としては,ゲル化などの粘性を高める手法は採用しなかった.一般に,脂溶性の薬物はその濃度勾配に従い単純受動拡散により生体膜を透過する.この場合,透過しやすいのは分子型であり,薬物の酸解離定数(pKa)とpHにより影響を受ける(pH分配仮説).チモロールは塩基性化合物でpKaは(116) 1,00010100:DE-111:チモロール:チモロールGS:チモロール+タフルプロストa:DE-111:タフルプロスト:チモロール+タフルプロストa血漿中チモロール濃度(ng/mL)血漿中タフルプロストカルボン酸濃度(ng/mL)11010.100.1012341234点眼後時間(hr)点眼後時間(hr)図5各種点眼液点眼後の血漿中チモロール濃度推移図6各種点眼液点眼後の血漿中タフルプロストカルボン酸各値は4例の平均値+標準偏差.濃度推移a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.各値は4例の平均値+標準偏差.a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.表2各種点眼液点眼後の血漿中タフルプロストカルボン酸およびチモロールの薬物動態パラメータ解析対象点眼液Cmax(ng/mL)Tmaxa(hr)AUC0-4hb(ng・hr/mL)AUCinf(ng・hr/mL)T1/2(hr)チモロールDE-111チモロールチモロールGSチモロール+タフルプロストc45.5±14.6294±235371±23394.2±67.00.5[0.25-0.55]0.0833[0.0833-0.217]0.0833[0.0833-0.25]0.25[0.117-0.25]46.9±10.165.9±36.0d84.7±27.639.7±15.547.7±10.667.9±39.185.6±27.240.1±15.60.675±0.09670.890±0.4480.718±0.08660.705±0.0831タフルプロストカルボン酸DE-111タフルプロストチモロール+タフルプロストc0.378±0.09810.760±0.8410.590±0.2940.0833[0.0833-0.15]0.0833[0.05-0.117]0.167[0.0333-0.167]0.113±0.05040.142±0.1180.172±0.0858NCNCNCNCNCNC各値は4例の平均値±標準偏差.NC:算出せず.a:Tmaxは中央値[最小値-最大値]を表示.b:定量下限未満の値をゼロとして計算.c:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.d:ゼロ時間から約4時間までのAUCの平均値±標準偏差.約8.8であることから,中性領域ではpHは高いほど分子型の割合が増し,膜透過性が上昇することが予想される.実際に,ウサギにおいて,pHが6.2,6.9および7.5のチモロール点眼液を点眼したとき,pHの上昇に伴って眼内移行性が向上するとの報告もある4).そこで,タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液において,点眼液のpHを変動させて房水中チモロール濃度を調べたところ,点眼後30分の房水中チモロール濃度は,点眼液のpHの上昇に伴って増加することが示された(図1).一方で,タフルプロストについては,配合点眼液のpHを変動させても房水中タフルプロストカルボン酸濃度は変化がみられず,タフルプロストの眼内移行は点眼液のpHによる影響を受けないことが示された(図2).タフルプロストは解離基を有さないことから,pHにより膜透過性が変動(117)しなかったものと考えられる.以上の結果より,タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩の配合点眼液の処方設計において,pHを適切に調整することでチモロールのみの眼内移行量をコントロールすることが可能と考えられた.ただし,タフルプロストは,活性本体であるタフルプロストカルボン酸のイソプロピルエステルであり,水溶液中では徐々にではあるが加水分解される.この加水分解速度は溶液pHの影響を受けるため,pHが弱酸性では比較的安定であるもののpHを上げるほど,加水分解を受けやすくなる.以上のことから,チモロールの眼内移行を確保しつつタフルプロストの眼内移行量は変動させず,かつ,タフルプロストの点眼液中安定性を考慮し室温保存が可能と考えられるpHとして,DE-111点眼液のpHを7.0に設定した.また,製品としての品質維持(保存中pH変動抑制)を目的に緩衝剤(リン酸あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131765 二水素ナトリウム)を配合した.DE-111点眼液をラットに点眼したときの房水中チモロールは,Cmaxはチモロール単剤に比べて高くチモロールGS点眼液に比べて若干低い値であり,AUCはチモロールGS点眼液と同程度であった(表1).一方,房水中タフルプロストカルボン酸のCmaxおよびAUCは,タフルプロスト単剤点眼およびチモロールとの併用点眼と同程度であった(表1).これらの結果は,DE-111点眼液が,タフルプロストの薬効や眼局所副作用をタフルプロスト単剤と比べて変動させることなく,チモロールの眼圧下降効果が期待できることを示唆するものと考えられた.なお,チモロール単剤に比べてDE-111点眼液点眼時の房水中チモロール濃度が高い推移を示した理由については,DE-111点眼液のpHを7.0と設定したことに加え,チモロール点眼液には含まれずDE-111点眼剤には含まれている添加剤(ポリソルベート80,濃グリセリン,エデト酸ナトリウム水和物)の影響,あるいは,タフルプロストが影響していることも可能性としては考えられるが,詳細は不明である.DE-111点眼液をラットに点眼したときのタフルプロストおよびチモロールの全身曝露については,いずれも単剤もしくは併用に比べてCmaxおよびAUCとも上回ることはなかった(表2).したがって,併用に比べてDE-111配合剤で全身の副作用が増悪する可能性は低いと予想された.以上の検討により,DE-111点眼液として最適な処方が決定できた.DE-111点眼液は,1日1回点眼で高い有用性が期待されるとともに,2剤の点眼液を5分以上間隔をあけて併用点眼する場合に比べて緑内障の患者の利便性が改善されることで,アドヒアランスの向上に寄与することが期待される.文献1)FukanoY,KawazuK:Dispositionandmetabolismofanovelprostanoidantiglaucomamedication,tafluprost,followingocularadministrationtorats.DrugMetabDispos37:1622-1634,20092)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20123)KaurIP,KanwarM:Ocularpreparations:theformulationapproach.DrugDevIndPharm28:473-493,20024)KyyronenK,UrttiA:EffectsofepinephrinepretreatmentandsolutionpHonocularandsystemicabsorptionofocularlyappliedtimololinrabbits.JPharmSci79:688-691,1990***1766あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(118)

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1185.1194,2013c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックPhaseIIIDouble-MaskedStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)VersusTafluprost0.0015%AloneorGivenConcomitantlywithTimolol0.5%inPrimaryOpenAngleGlaucomaandOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111)の有効性と安全性を検討するため,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者488例を対象に,タフルプロスト単剤またはタフルプロストとチモロールの併用を対照とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した.タフルプロスト4週間点眼後の眼圧が18mmHg以上の被験者を,DE-111群,タフルプロスト群,併用群に割り付け,治療期として4週間点眼した.治療期終了時の平均日中眼圧は治療期0週に比べ,DE-111群で2.6±1.8mmHg,タフルプロスト群で0.9±1.7mmHg,併用群で2.2±1.8mmHg下降し,タフルプロストに対する優越性,併用に対する非劣性が検証された.副作用発現率は,群間に有意差は認められなかった.DE-111点眼液は緑内障治療における多剤併用療法の選択肢として,有用性の高い配合点眼液である.Theaimofthisstudywastocomparetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionoftafluprost0.0015%/timolol0.5%(DE-111)tothatoftafluprost0.0015%ophthalmicsolution(tafluprost)ortafluprost0.0015%andtimolol0.5%ophthalmicsolutiongivenconcomitantly(concomitant)in488patientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)orocularhypertension(OH),inarandomized,double-masked,parallel-groupandmulticenterstudy.Patientswithintraocularpressure(IOP)≧18mmHgaftertafluprostinstillationfor4weekswererandomlyassignedtoeithertheDE-111,tafluprostorconcomitantgroup,withthedruginstilledfor4weeks.Attheendoftreatment,meandiurnalIOPreductionfrombaselinewas2.6±1.8mmHgintheDE-111group,0.9±1.7mmHginthetafluprostgroupand2.2±1.8mmHgintheconcomitantgroup,DE-111beingsuperiortotafluprostandnotinferiortoconcomitant.Nointergroupdifferenceswereseeninadversedrugreactionincidencerates.TheseresultsindicatethatDE-111isclinicallyusefulinmultidrugtherapyforglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1185.1194,2013〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,多剤併用,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,concomitant,DE-111.〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16ラグザ大阪サウスオフィス4F福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,4FLaxaOsakaSouthOffice,5-6-16Fukushima,Fukushimaku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(141)1185 はじめに緑内障に対する現在唯一確実な治療法は眼圧下降であり,通常薬物治療が第一選択となる.薬物治療では良好なアドヒアランスを維持することが治療の成否を左右する.しかし,単剤による眼圧コントロールが不十分なため多剤併用療法が必要な患者が少なからず存在しており,アドヒアランスを良好に維持することが困難な場合も多い.このようななか,近年いくつかの配合点眼液が開発されており,緑内障診療ガイドライン1)では,『多剤併用療法の際には配合点眼薬の使用により,患者のアドヒアランスやQOLの向上も考慮すべきである』と,配合点眼液の意義について述べている.DE-111点眼液は,プロスタグランジン(PG)関連薬のタフルプロストとb遮断薬のチモロールを含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,両点眼液の併用治療に比べて患者の利便性,アドヒアランスおよびqualityoflife(QOL)を改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.一方で,PG関連薬とb遮断薬の配合点眼液は,両薬剤の併用治療と比較するとb遮断薬の点眼回数が1日2回から1日1回に減るため,眼圧下降効果が弱い可能性が危惧される.しかし,これまで国内では,PG関連薬とb遮断薬の配合点眼液についてはPG関連薬単剤治療を対照とした比較試験が第III相臨床試験として行われてきたが,PG関連薬とb遮断薬の併用治療を対照とした二重盲検比較試験は行われていなかった.今回,DE-111点眼液の第III相試験として,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロスト点眼液0.0015%単剤投与との比較のみならず,タフルプロスト点眼液0.0015%とチモロール点眼液0.5%の併用との比較を目的とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国58医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.2.目的DE-111点眼液のタフルプロスト点眼液に対する優越性,タフルプロスト点眼液とチモロール点眼液0.5%の併用に対する非劣性を検証することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断され,タフルプロスト点眼液点眼下で少なくとも片眼の眼圧が18mmHg以上であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験は多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,緑内障前治療薬の影響を消失させタフルプロスト点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.導入期にはタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼に治療期0週まで点眼した.治療期0週当日朝はタフルプロスト点眼液を点眼せず来院し,点眼前の眼圧が18mmHg以上の被験者を対象として症例登録を行い,4週間の治療期に移行した.治療期では被験者はDE-111群,タフルプロスト群,併用群に1対1対1に無作為に割り付けられた.DE-111群はDE-111点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼,タフルプロスト群はタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼,併用群はタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼点眼,およびチモロール点眼液0.5%を1日2回朝夜両眼点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.DE-111点眼液とタフルプロスト点眼液,そしてチモロール点眼液0.5%とプラセボ点眼液はそれぞれ同一の容器を使用し,盲検性を確保した.試験薬の識別不能性は試験薬割付責任者が確認した.試験薬の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法による無作為化により行い,キーコードは開鍵時まで封入し試験薬割付責任者が保管した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査・確認した.b.試験薬の点眼状況治療期以降の来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.1186あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(142) 表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療機関名試験責任医師名医療法人大谷地共立眼科医療法人社団慈眼会環状通り眼科さど眼科医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院眼科君塚医院ののやま眼科医療法人社団いとう眼科医療法人秀緑会高山眼科緑町医院春日部市立病院医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック医療法人社団秀光会かわばた眼科医療法人社団仁香会しすい眼科医院丹羽眼科財団法人厚生年金事業振興団東京厚生年金病院日本赤十字社医療センター吉川眼科クリニック医療法人社団聖愛会中込眼科医療法人社団みすまるのさと会アイ・ローズクリニック医療法人社団善春会若葉眼科病院医療法人社団高友会立川通クリニック道玄坂加藤眼科成城クリニック大橋眼科クリニック医療法人社団高瀬会たかせ眼科平町クリニック医療法人社団慶緑会あまきクリニック医療法人松鵠会みたに眼科クリニック医療法人社団湯田医院きくな湯田眼科医療法人社団律心会辻眼科クリニック戸塚駅前鈴木眼科特定医療法人丸山会丸子中央総合病院曽根聡秋葉純佐渡一成板橋隆三君塚佳宏野々山智仁伊藤睦子高山秀男水木健二貞松良成川端秀仁呉輔仁丹羽康雄藤野雄次郎濱中輝彦吉川啓司中込豊安達京吉野啓髙橋義徳加藤卓次松崎栄島﨑美奈子高瀬正郎小林幸三谷貴一郎湯田兼次辻一夫鈴木高佳野原雅彦国立大学法人岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀医療法人社団秀浩会花崎眼科医院花﨑秀敏医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治医療法人社団緑泉会南波眼科南波久斌吉村眼科内科医院吉村弦医療法人安間眼科安間正子医療法人大雄会大雄会クリニック伊藤康雄医療法人高橋眼科髙橋研一独立行政法人労働者健康福祉機構淺野俊哉中部労災病院医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳医療法人創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男医療法人岩下眼科岩下憲四郎医療法人菅澤眼科医院菅澤啓二地方独立行政法人神戸市民病院機構栗本康夫神戸市立医療センター中央市民病院長田眼科肱黒和子医療法人眼科康誠会井上眼科井上康広島県厚生農業協同組合連合会廣島総合病院二井宏紀山口県厚生農業協同組合連合会小郡第一総合病院榎美穂医療法人広田眼科広田篤林眼科病院林研新井眼科医院新井三樹医療法人蔵田眼科クリニック蔵田善規医療法人しらお眼科医院白尾真日本赤十字社長崎原爆病院脇山はるみ医療法人出田会出田眼科病院川崎勉健康保険組合連合会大阪中央病院井上由美子表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)導入期終了日(9時30分±30分)の少なくとも片眼の眼圧が18mmHg以上,両眼とも34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下の①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断する同意取得導入期登録/割付け治療期4週間4週間二重盲検DE-111群タフルプロスト点眼液タフルプロスト群併用群【導入期】・タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼【治療期】・DE-111群プラセボ点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼DE-111点眼液:1日1回(朝)両眼点眼・タフルプロスト群プラセボ点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼・併用群チモロール点眼液0.5%:1日2回(朝,夜)両眼点眼タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼図1試験デザイン(143)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131187 表3検査・観察スケジュール観察項目導入期治療期中止時導入期開始時(.4週)0週2週4週文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●視力検査●●●眼圧測定午前中(12時まで)●●9時30分±30分●●●点眼2時間後±30分●●点眼8時間後±30分●●隅角検査●視野検査●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿)●●●有害事象●c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,視力検査,眼圧測定,隅角検査,視野検査,眼底検査および臨床検査(血液・尿)を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,2週および4週または中止時の眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入期開始時では午前中,治療期0週および4週では朝点眼前の午前9.10時,朝点眼2時間後±30分および朝点眼8時間後±30分,治療期2週では朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,人工涙液,白内障治療剤およびビタミンB12製剤を除くすべての眼局所投与製剤,経口および静注投与の眼圧下降剤,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.主要評価項目は,治療期終了時(治療期4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量とした.なお,平均日中眼圧は,朝点眼前,点眼2時間後および点眼8時間後の平均値と定義した.また,副次評価項目は,各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量および眼圧変化率とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS集団)を対象として検討した.また,試験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS集団)についても解析し,FAS集団との相違について考察した.b.安全性解析対象安全性は,被験薬または対照薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い検査・観察時期が許容範囲から外れた場合,検査前日の点眼をしていない場合,検査当日の朝の点眼を眼圧測定の前に行った場合,および治療期0週以降の眼圧測定時刻が許容範囲から外れた場合は,当該検査日の眼圧データをPPS集団から除外した.1188あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(144) d.解析方法主要評価および副次評価の解析には,投与群別に対応のあるt検定を行った.群間比較には,投与群を要因,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析を用いた.眼圧下降率20%の症例割合についてはFisherの直接法により群間比較を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計し,全体の発現率についてFisherの直接法を用いて群間の比較を行った.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得て試験に組入れられた被験者は574例で,導入期が開始された被験者は558例,治療期が開始された被験者は489例であり,無作為にDE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群164例に割り付けられた.治療期中に5例が試験を中止し(DE-111群2例,タフルプロスト群2例,併用群1例),484例が試験を完了した(DE-111群159例,タフルプロスト群162例,併用群163例).無作為化された症例のうち,治療期用試験薬が投与されなかった1例を除く488例(DE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群163例)を安全性解析対象集団とした.さらに,ベースライン眼圧(治療期0週)が得られなかった1例を除く487例(DE-111群161例,タフルプロスト群163例,併用群163例)をFAS集団に,併用禁止薬使用などにより眼圧値が不採用となった13例を除く474例(DE111群156例,タフルプロスト群159例,併用群159例)をPPS集団とした.FAS集団における被験者背景を表4に示した.いずれの背景因子についても,群間に偏りはみられなかった.2.有効性FAS集団における平均日中眼圧や,その変化量の推移を図3と表5に,平均日中眼圧変化量の群間比較を表6に示した.治療期0週の平均日中眼圧は,DE-111群で19.6±2.0mmHg,タフルプロスト群で19.2±2.1mmHg,併用群で19.3±2.2mmHgであり,治療期終了時(4週または中止時)には,DE-111群で17.0±2.4mmHg,タフルプロスト群で18.3±2.8mmHg,併用群で17.1±2.5mmHgであった.文書同意を得た被験者:574例導入期の試験薬が投薬された被験者:558例無作為割付された被験者:489例DE-111群:161例タフルプロスト群:164例併用群:164例治療期の試験薬が投薬された被験者:488例DE-111群:161例タフルプロスト群:164例併用群:163例試験を完了した被験者:484例DE-111群:159例タフルプロスト群:162例併用群:163例導入期の試験薬未投与例:16例試験開始後に不適格が判明:10例試験継続の拒否:6例導入期中止例:69例有害事象発現:13例試験開始後に不適格が判明:51例転院,転居,多忙:5例治療期の試験薬未投与例:1例併用群:1例治療期に中止した被験者:4例有害事象発現:1例(DE-111群)通院が不可能:1例(DE-111群)転院,転居,多忙:1例(タフルプロスト群)試験開始後に不適格が判明:1例(タフルプロスト群)図2被験者の内訳(145)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131189 表4被験者背景項目分類DE-111群タフルプロスト群併用群合計例数161163163487診断名原発開放隅角緑内障高眼圧症90(55.9)71(44.1)84(51.5)79(48.5)73(44.8)90(55.2)247(50.7)240(49.3)男85(52.8)68(41.7)82(50.3)235(48.3)性別女76(47.2)95(58.3)81(49.7)252(51.7)年齢平均値±標準偏差最小.最大65歳未満65歳以上61.6±11.626.8592(57.1)69(42.9)63.0±12.623.8581(49.7)82(50.3)60.6±13.623.8487(53.4)76(46.6)61.7±12.723.85260(53.4)227(46.6)緑内障前治療薬なしあり28(17.4)133(82.6)27(16.6)136(83.4)31(19.0)132(81.0)86(17.7)401(82.3)合併症なしあり17(10.6)144(89.4)18(11.0)145(89.0)21(12.9)142(87.1)56(11.5)431(88.5)導入期の隅角(Shaffer分類)3437(23.0)124(77.0)46(28.2)117(71.8)40(24.5)123(75.5)123(25.3)364(74.7)導入期の緑内障性視野異常異常なし異常あり89(55.3)72(44.7)94(57.7)69(42.3)101(62.0)62(38.0)284(58.3)203(41.7)導入期の緑内障性眼底異常異常なし異常あり71(44.1)90(55.9)74(45.4)89(54.6)88(54.0)75(46.0)233(47.8)254(52.2)導入期終了時の平均日中眼圧(mmHg)平均値±標準偏差最小.最大19.6±2.016.0.27.319.2±2.115.0.27.319.3±2.215.3.30.319.4±2.115.0.30.3導入期終了時のトラフ眼圧(mmHg)平均値±標準偏差最小.最大20.1±1.918.0.29.019.8±1.918.0.27.019.9±2.118.0.32.019.9±2.018.0.32.0例数(%).10-1-2-3眼圧変化量(mmHg)**NS**-4-50週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.**:p<0.001,NS:有意差なし(p>0.05).主要評価である治療期終了時(4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量(平均値±標準偏差)は,DE-111群で.2.6±1.8mmHg,タフルプロスト群で.0.9±1.7mmHg,併用群で.2.2±1.8mmHgであり,いずれの群も0週からの有意な眼圧下降を示した(p<0.001).また,DE-111群とタフルプロスト群の平均日中眼圧変化量の群間差(DE-111群.タフルプロスト群)は.1.7±0.21190あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013:DE-111群:タフルプロスト群:併用群0週治療期終了時図3平均日中眼圧変化量(平均値±標準偏差)mmHgであり,DE-111群はタフルプロスト群と比較して有意な眼圧下降を示した(p<0.001).DE-111群と併用群の平均日中眼圧変化量の群間差(DE-111群.併用群)は.0.3±0.2mmHg,95%信頼区間は.0.7.0.1mmHgであり,上限は事前に設定した非劣性マージン1.5mmHgを超えなかったことから,DE-111群の併用群に対する非劣性が証明された.副次評価である治療期2週(朝点眼前),4週(朝点眼前,点眼2時間後,点眼8時間後)の各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量(平均値±標準偏差)は表7と図4に示した.DE-111群とタフルプロスト群の群間比較では,DE111群はすべての測定時点において有意な眼圧下降を示した(p<0.001).DE-111群と併用群の群間比較では,DE-111群は治療期4週朝点眼前を含め,すべての測定時点において劣らない眼圧下降を示した(表8).なお,PPS集団を対象とした解析でもFAS集団の有効性と相違のない結果が得られた.治療期終了時(4週または中止時)の治療期0週に対する平均日中眼圧の眼圧下降率が20%以上であった症例の割合は,DE-111群で19.9%,併用群で13.5%,タフルプロスト群で5.5%(図5)とDE-111群が最も大きく,タフルプロス(146) 表5平均日中眼圧とその変化量時期DE-111群タフルプロスト群併用群平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値0週19.6±2.0(161)..19.2±2.1(163)..19.3±2.2(163)..治療期終了時17.0±2.4(161).2.6±1.8(161)<0.00118.3±2.8(163).0.9±1.7(163)<0.00117.1±2.5(163).2.2±1.8(163)<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.表6平均日中眼圧変化量の群間比較DE-111群.タフルプロスト群(mmHg)DE-111群.併用群(mmHg)Mean±SE95%信頼区間p値Mean±SE95%信頼区間p値.1.7±0.2.2.1..1.3<0.001.0.3±0.2.0.7.0.10.098Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.表7眼圧実測値の推移および変化量時期DE-111群タフルプロスト群併用群眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値0週朝点眼前20.1±1.9(161)..19.8±1.9(163)..19.9±2.1(163)..0週点眼2時間後19.8±2.4(161)..19.3±2.5(163)..19.3±2.4(163)..0週点眼8時間後18.9±2.4(161)..18.5±2.6(163)..18.6±2.7(163)..2週朝点眼前17.4±2.4(160).2.7±2.0(160)<0.00118.3±2.7(163).1.5±1.9(163)<0.00117.3±2.8(163).2.7±2.3(163)<0.0014週朝点眼前17.0±2.4(160).3.1±2.2(160)<0.00118.5±2.9(163).1.3±2.0(163)<0.00117.2±2.6(163).2.7±2.2(163)<0.0014週点眼2時間後17.0±2.5(160).2.8±2.1(160)<0.00118.4±3.1(162).0.9±2.1(162)<0.00117.0±2.6(163).2.4±2.1(163)<0.0014週点眼8時間後17.0±2.9(159).1.9±2.3(159)<0.00118.1±3.1(162).0.4±2.2(162)0.01417.0±3.0(163).1.6±2.2(163)<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.ト群と比較して有意であった(p<0.001).併用群との間には有意差はなかった.3.安全性a.有害事象および副作用安全性解析対象集団は,DE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群163例の計488例であった.治療期中に発現した有害事象と副作用の発現例数および発(147)現率を表9に,副作用一覧を表10に示した.有害事象は,DE-111群で23.0%(37/161例),タフルプロスト群で19.5%(32/164例),併用群で12.3%(20/163例)であった.そのうち,試験薬との因果関係が否定できない副作用は,DE-111群で10.6%(17/161例),タフルプロスト群で7.9%(13/164例),併用群で8.6%(14/163例)であった.有害事象の発現率は群間に有意差が認められたが,副作用の発あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131191 2322212019181716151413時間後0時間後時間後4時間後**************:DE-111群:タフルプロスト群:併用群図4眼圧実測値(平均値±標準偏差)0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.DE-111群とタフルプロスト群との比較:いずれもp<0.001(**).併用群とタフルプロスト群との比較:いずれもp<0.001(**).DE-111群と併用群との比較:いずれも有意差なし(p>0.05).症例割合(%)眼圧(mmHg)**表8眼圧実測値変化量の群間比較時期DE-111群.タフルプロスト群(mmHg)DE-111群.併用群(mmHg)Mean±SE95%信頼区間p値Mean±SE95%信頼区間p値2週朝点眼前.1.2±0.2.1.6..0.7<0.0010.0±0.2.0.4.0.50.9054週朝点眼前.1.7±0.2.2.2..1.3<0.001.0.3±0.2.0.8.0.10.1474週点眼2時間後.1.7±0.2.2.2..1.3<0.001.0.3±0.2.0.7.0.10.1864週点眼8時間後.1.4±0.2.1.8..0.9<0.001.0.2±0.2.0.7.0.30.384Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.3020100DE-111群タフル併用群プロスト群19.9%(32/161)5.5%(9/163)13.5%(22/163)図5治療期終了時に眼圧下降率20%以上であった症例の割合1192あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013現率は群間に有意差は認められなかった(有害事象:p=0.035,副作用:p=0.707).DE-111群のおもな副作用は,点状角膜炎(3.7%,6/161例)および結膜充血(3.1%,5/161例),タフルプロスト群のおもな副作用は,点状角膜炎(2.4%,4/164例)および結膜充血(2.4%,4/164例),併用群のおもな副作用は点状角膜炎(3.1%,5/163例)および結膜充血(1.8%,3/163例)と,共通の副作用が認められ,発現頻度に大きな差はなかった.いずれの群においても,副作用はすべて眼障害で重症度は軽度であり,試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.DE-111群の副作用により試験中止に至った被験者は,点状角膜炎を発現した1例(0.6%)で,軽度であり,試験薬の投与中止後に回復した.b.臨床検査DE-111群で総ビリルビン,総蛋白およびアルブミンが,(148) 表9治療期にみられた有害事象と副作用の発現例数および発現率DE-111群タフルプロスト群併用群検定(Fisherの直接法)例数161164163有害事象発現例数(%)37(23.0)32(19.5)20(12.3)p=0.035副作用発現例数(%)17(10.6)13(7.9)14(8.6)p=0.707表10副作用一覧DE-111群タフルプロスト群併用群例数161164163副作用発現例数(%)17(10.6)13(7.9)14(8.6)眼精疲労1(0.6)──眼瞼色素沈着──1(0.6)眼瞼炎──1(0.6)結膜炎─1(0.6)─眼瞼紅斑1(0.6)──眼刺激2(1.2)1(0.6)1(0.6)眼痛1(0.6)──眼充血2(1.2)─2(1.2)羞明──1(0.6)点状角膜炎6(3.7)4(2.4)5(3.1)霧視─1(0.6)─睫毛の成長──1(0.6)眼の異物感─1(0.6)─結膜充血5(3.1)4(2.4)3(1.8)眼瞼.痒症──1(0.6)眼.痒症1(0.6)1(0.6)2(1.2)例数(%).タフルプロスト群で血小板が,併用群で好酸球,総蛋白およびアルブミンが,投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する有害事象は認められなかった.また,薬剤との因果関係が否定できないとされた臨床検査値の異常変動は,DE-111群で0.6%(1/161例,項目:尿糖)に認められたが,試験終了後に基準値内へ回復した.c.血圧・脈拍数収縮期血圧,拡張期血圧について,0週と比較して有意な変動はいずれの群においても認められなかった.脈拍数について,0週と比較して有意な下降がDE-111群で2週(平均値±標準偏差,.2.0±7.5拍/分,p=0.001)および4週(.1.3±7.9拍/分,p=0.034)に,併用群で2週(.5.3±7.6拍/分,p<0.001)および4週(.5.3±8.6拍/分,p<0.001)に認められた.タフルプロスト群では,0週と比較して有意な変動は認められなかった.これらの脈拍数の変動は,臨床的に問題となるものではなかった.また,関連する有害事象は認められなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)細隙灯顕微鏡検査所見について,0週と比較して有意なス(149)コアの上昇がDE-111群で4週の角膜フルオレセイン染色スコア(左眼:p=0.012)に認められたが,その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.タフルプロスト群と併用群では,有意なスコアの変動は認められなかった.また,本スコアの変動について,関連する有害事象は認められたものの,すべて軽度であった.視力検査について,いずれの群でも有意な変動は認められなかった.III考察現在,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼剤には,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(ザラカムR配合点眼液),およびトラボプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)がある.これらの点眼液についてPG関連薬単剤を対照とした臨床試験は,国内外で実施されており配合点眼剤の優越性が検証されている2.6)が,PG関連薬とb遮断薬の併用治療を対照とした臨床試験(二重盲検群間比較試験)は国内に報告がない.海外では併用治療を対照とした臨床試験の報告があり,非劣性が検証された報告7)もあるが,一部の測定時点で非劣性が検証されなかったり,配合点眼液の眼圧下降効果が併用治療を有意に下回ったとの報告8.10)もある.今回,DE-111点眼液のタフルプロスト点眼液単剤投与に対する優越性と,タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液0.5%(1日2回点眼)の併用治療との非劣性を同一試験で検証した.本試験では,主要評価である治療期終了時(4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧変化量において,DE-111群はタフルプロスト群と比較して有意な眼圧下降を示した.また,併用群と比較して劣らない眼圧下降を示し,PG関連薬とb遮断薬の併用治療に対する配合点眼液の非劣性が,国内で初めて検証された.各眼圧測定時刻について比較しても,朝点眼前(トラフ値),点眼2時間後および点眼8時間後のすべての眼圧測定時刻において,DE-111群は併用群と比較して劣らない眼圧下降を示した.DE-111点眼液は,PG関連薬とb遮断薬の併用治療に比べるとb遮断薬の点眼回数が1日2回から1日1回に減るが,DE-111点眼液によって眼圧が1日中コントロール可能であることが確認された.チモロールはpHなあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131193 どさまざまな条件により眼内移行が変化することが知られており11),配合点眼液の製剤設計の違いが効果の持続性に影響する可能性が考えられる.また,眼圧下降達成率で比較して20%以上の眼圧下降が得られた症例の割合は,DE-111群で19.9%,併用群で13.5%,タフルプロスト群で5.5%と,DE-111群が最も大きく,タフルプロスト群と比較して有意差が認められた.安全性について,有害事象は,DE-111群で23.0%(37/161例),タフルプロスト群で19.5%(32/164例),併用群で12.3%(20/163例)に認められ,群間に有意差が認められたものの,DE-111群では鼻咽頭炎(3.7%,6/161例)などの試験薬との因果関係が否定されたものが多く,副作用発現率では群間に差はなかった.いずれの群においても副作用はすべて眼局所のもので,かつ軽度で,試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.また,いずれの群でも,重篤な副作用はみられなかった.DE-111群のおもな副作用は,点状角膜炎(3.7%,6/161例),結膜充血(3.1%,5/161例)であるが,これらの副作用はタフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の副作用情報において既知のものであり,各単剤の安全性プロファイルを超えるものではなかった.よって,配合による副作用増大の懸念はないと考えられた.以上の結果から,PG関連薬単剤で眼圧下降効果が不十分な場合に,DE-111点眼液に変更することで,薬剤数および点眼回数を増やすことなく治療効果の増大が期待できる.また,すでにPG関連薬とb遮断薬を併用している場合には,DE-111点眼液に変更することで併用治療に劣らない治療効果が維持できるだけでなく,薬剤数および点眼回数が減ることで,アドヒアランス不良の患者ではより優れた治療効果が期待できる.以上,DE-111点眼液は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液である.利益相反:広田篤(カテゴリーI:参天製薬)文献1)緑内障診療ガイドライン(第3版):日眼会誌116:3-46,20122)北澤克明,KP2035共同試験グループ:原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたラタノプロスト・チモロール配合剤(KP2035)の第III相二重盲検比較試験.臨眼63:807-815,20093)清野歩,佐々木英之,山田啓二:緑内障・高眼圧症治療剤トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液「デュオトラバR配合点眼液」.眼薬理25:22-26,20114)PfeifferN:Acomparisonofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwithitsindividualcomponents.GraefesArchClinExpOphthalmol240:893-899,20025)HigginbothamEJ,FeldmanR,StilesMetal:Latanoprostandtimololcombinationtherapyvsmonotherapy.ArchOphthalmol120:915-922,20026)DiestelhorstM,AlmegardB:Comparisonoftwofixedcombinationsoflatanoprostandtimololinopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol236:577581,19987)DiestelhorstM,LarssonL-I,forTheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20068)DiestelhorstM,LarssonL-I,forTheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponentsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20049)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyoffixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,200510)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofthesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,200511)KyyronenK,UrttiA:EffectsofepinephrinepretreatmentandsolutionpHonocularandsystemicabsorptionofocularlyappliedtimololinrabbits.JPharmSci79:688-691,1990***1194あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(150)

抗緑内障配合点眼液の朝点眼と夜点眼による効果の比較

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):975.978,2012c抗緑内障配合点眼液の朝点眼と夜点眼による効果の比較石田理*1,2杉山哲也*1植木麻理*1小嶌祥太*1池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2大阪暁明館病院眼科ComparisonofMorningversusEveningDosingofTravoprostandTimololFixedCombinationOsamuIshida1,2),TetsuyaSugiyama1),MariUeki1),ShotaKojima1)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaGyoumeikanHospitalb遮断点眼液とプロスタグランジン系点眼液の配合剤について,朝,夜いずれに点眼したほうがより効果的かを検討した.対象はb遮断点眼液およびプロスタグランジン系点眼液を3カ月以上併用している12例12眼.併用している2剤をトラボプロスト+チモロールの配合点眼液に変更し4カ月間投与した(2カ月間ごとに朝点眼,夜点眼とし,順序は無作為に割り付けた).配合点眼液に切り替える前の眼圧は13.1±2.3mmHgで,切り替え後,朝点眼での眼圧は14.3±2.9mmHgと有意に高値であった(p=0.045).一方,夜点眼では13.7±3.3mmHgで切り替え前と有意差はなかった.また,朝点眼と夜点眼の眼圧は有意差を認めなかった.血圧や脈拍数は,朝,夜点眼で有意差はなかった.患者へのアンケートでは夜点眼希望が多数であった.以上より,トラボプロスト+チモロール配合点眼液は夜に点眼するほうがやや効果的と考えられた.Weevaluatedmorningversuseveningonce-dailytravoprostandtimololfixedcombinationtherapyinprimaryopenangleglaucomapatients.Subjectscomprising12patientswhohadbeenpersistentlygivenb-blockerandprostaglandinophthalmicsolutionwererandomizedtoeithermorningoreveningdosingoftravoprostandtimololfixedcombinationfor4months,withoutawashout.Morningandeveningdosingswereinterchangedatthetwo-monthpoint,inrandomlyassignedorder.Themainoutcomemeasurementwasmeanintraocularpressure(IOP),whichwasassessedthroughoutthemorning.MeanIOPrangedfrom13.1±2.3mmHgto14.3±2.9mmHginthemorning-treatmentgroup,andto13.7±3.3mmHgintheevening-treatmentgroup.Therewasasignificantincreaseinthemorning-treatmentgroupascomparedtobaseline(p=0.045).Whenthemorning-andevening-treatmentgroupswerecompareddirectly,however,nosignificantIOPdifferenceswereobserved;nordidbloodpressureandpulseratediffersignificantlybetweenthegroups.Asurveyofthepatientsrevealedthatmanypreferredtobedosedintheevening.Thisstudysuggeststhattravoprostandtimololfixedcombinationgivenoncedaily,intheevening,mightbemoreeffective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):975.978,2012〕Keywords:トラボプロスト,チモロール,抗緑内障配合点眼液,朝点眼,夜点眼.travoprost,timolol,fixedcombinationophthalmicsolution,morningdose,eveningdose.はじめに緑内障治療において持続性b遮断点眼液は朝に,プロスタグランジン系点眼液は夜に点眼することが一般的である.しかし,近年わが国において上市されたb遮断点眼液とプロスタグランジン系点眼液との配合剤の場合,いつ点眼するのがより効果的かについてはエビデンスに乏しい.そこで筆者らは,上記2種の緑内障点眼液を投与している症例に対し,それらを配合点眼液1剤に変更し,配合点眼液を朝,夜いずれに点眼したほうがより効果的かについて,無作為割付試験により,眼圧変化,血圧や脈拍数の変化,ならびにアドヒアランスの観点から検討した.〔別刷請求先〕石田理:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:OsamuIshida,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,TakatsukiCity,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)975 I対象および方法1.対象対象は大阪医科大学附属病院眼科および大阪暁明館病院眼科を受診した患者のうち,抗緑内障点眼液のうち,b遮断点眼液(チモロールないしはカルテオロール)およびプロスタグランジン系点眼液(ラタノプロスト,トラボプロストないしはタフルプロスト)を3カ月以上併用している原発開放隅角緑内障(広義)患者12例12眼である.その内訳は,男性6例,女性6例,平均年齢およびその標準偏差は65.5±12.1歳であった.投与しているb遮断点眼液の内訳は,持続性チモロール6例(0.5%チモプトールXER4例,リズモンTGR2例),持続性カルテオロール(2%ミケランLAR)5例,チモロール(0.5%チモプトールR)1例であり,プロスタグランジン系点眼液の内訳は,ラタノプロスト(キサラタンR)10例,トラボプロスト(トラバタンズR)1例,タフルプロスト(タプロスR)1例であった.なお,両眼に点眼している症例については右眼のみを対象とした.2.方法対象症例について,併用しているb遮断点眼液およびプロスタグランジン系点眼液2剤を0.004%トラボプロスト+0.5%チモロール配合点眼液(デュオトラバR)に変更し,4カ月間投与した.投与に際しては2カ月間ごとに朝点眼,夜点眼とし,順序は封筒法により無作為に割り付けた結果,朝点眼6例,夜点眼6例であった(図1).切り替え前および切り替え後1.4カ月の午前中に1カ月間隔で眼圧,血圧,脈拍数を測定し,副作用の有無を調べた.点眼時間,測定時間は個々の症例で一定とした.試験終了時にアンケートによる使用感調査を行った.なお,本研究は大阪医科大学倫理委員会ならびに大阪暁明館病院倫理委員会の承認を得たうえで,対象患者に本調査について口頭および書面にて説明を行い,書面による同意を得て施行した.検定についてはWilcoxon符号付順位和検定を用い,危険率5%未満をもって有意とした.II結果1.トラボプロスト+チモロール配合剤点眼時の眼圧変化b遮断点眼液およびプロスタグランジン系点眼液からトラボプロスト+チモロールの配合点眼液に切り替える前の平均眼圧および標準偏差は13.1±2.3mmHgであった.切り替え後,朝点眼時の1,2カ月後の平均眼圧は14.3±2.9mmHgとWilcoxon検定を用いて切り替え前に比べ有意に高値であった(p=0.045).夜点眼時の切り替え1,2カ月後の平均眼圧は13.7±3.3mmHgと切り替え前よりやや上昇していたが,両者に有意差はなかった(p=0.26)(図2).さらに,朝点眼および夜点眼における1,2カ月後の眼圧平均値を比較976あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012既存PG製剤+b遮断薬デュオトラバR(朝点眼)デュオトラバR(夜点眼)無作為に2群に割り付け2カ月間デュオトラバR(夜点眼)2カ月間デュオトラバR(朝点眼)図1投与方法681012141618切り替え前朝点眼夜点眼眼圧(mmHg)p=0.04513.1±2.314.3±2.913.7±3.3図2切り替え前および切り替え1,2カ月後の平均眼圧(Mean±SD)すると,両者に有意差はなかった(p=0.37).2.平均血圧の変化切り替え前の平均血圧は110.6±16.4mmHgであった.切り替え1,2カ月後の平均では,朝点眼においては108.8±13.5mmHg,夜点眼においては108.1±14.1mmHgであった.切り替え前の平均血圧と切り替え後の平均血圧では,朝点眼群,夜点眼群とも有意差は認めなかった(p=0.37およびp=0.37).また,朝点眼群と夜点眼群の平均血圧を比較しても有意差を認めなかった(p=0.63).3.脈拍数の変化切り替え前の脈拍数は70.9±9.3回/分,切り替え1,2カ月後の脈拍数の平均は,朝点眼においては72.3±9.9回/分,夜点眼においては74.3±12.4回/分であった.切り替え前の脈拍数と切り替え後の脈拍数では,朝点眼群,夜点眼群とも有意差は認めなかった(p=0.50およびp=0.31).また,朝点眼群と夜点眼群においての脈拍数にも有意差を認めなかった(p=0.31).4.有害事象有害事象は軽度の点状表層角膜症を2例に認めた.いずれも,点眼薬の中止など有害事象についての対処を行う程度ではなかった.5.使用感アンケート配合点眼液へ変更前後の負担については,点眼薬が1本に減って負担が減少したとの回答が8名で最も多く,ついで楽になったが効果が不安という回答が3名にみられた.一方,(100) 今までのように2本がよいという意見はみられなかった.ついで,今までの2本と同じ効果が1本で可能になるとしたらどちらを選択しますかという設問については,早く1本に替えてほしいという回答が9名と最多で,ついで医師の指示どおりにするという回答が2名であった.薬代が安くなるなら1本にする,あるいは2本のままでよいとする回答はみられなかった.さらに,朝・夜いずれの時間に点眼しても効果が同じであると仮定した場合,朝・夜どちらの点眼を選びますかという設問では,夜1回との回答が8名と最も多く,その理由はおもに時間に余裕があるからであった.ついで朝・夜どちらでもよい(2名),朝1回(1名)の順で回答数が多かった.III考按b遮断点眼液とプロスタグランジン系点眼液との配合剤について,いつ点眼するのが最も適切かについては,エビデンスに乏しいと思われる.眼圧下降の面からプロスタグランジン系点眼液については夜の点眼が望ましいとされている1,2)が,両者の配合剤についてはまだ不明な点が多い.Konstasらは,トラボプロスト+チモロール配合点眼液における,washout後の朝点眼と夜点眼の比較を行い,夜点眼は朝点眼に比し有意な眼圧下降がみられたと報告している3).一方,Denisらは,朝点眼と夜点眼のいずれにおいても点眼前の眼圧に比べ有意に低下し,朝・夜点眼での眼圧下降には差がなかったと述べている4).しかし,いずれの報告でもwashoutを行った後に配合点眼液を投与している.今回,筆者らはwashoutを行わずに,併用している2剤をトラボプロスト+チモロールの配合点眼液に変更した.そのため,変更前に比し変更後の眼圧がどのように変化したかについて,朝点眼と夜点眼での比較を行うことが可能であった.また,配合点眼液切り替え前の抗緑内障点眼液の種類はb遮断点眼液についてはチモロールまたはカルテオロールであり,持続性点眼薬とそうでないものの双方が含まれた.プロスタグランジン系点眼液ではラタノプロスト,トラボプロストないしはタフルプロストであった.このように点眼液は多種であるため種類により結果に差が生じる可能性があり,b遮断点眼液,プロスタグランジン系点眼液ともに1種類に絞ることがより正確ではあるが,各種b遮断点眼液については眼圧下降効果に差がないことがすでに示されており5.7),プロスタグランジン系点眼液についても同様である8,9).そのため,これら種々の点眼液をトラボプロスト+チモロールの配合点眼液に変更し眼圧を比較することは可能であると考えられた.また,プロスタグランジン系点眼液については,症例をラタノプロスト点眼例のみに絞ると症例数が少ないこともあり結果として朝点眼での切り替え後平均眼圧が切り替え前と比較して有意差がなくなるものの,傾向としては同様であった.(101)本研究の結果として,朝点眼では配合点眼液切り替え後1,2カ月後の平均眼圧が切り替え前より上昇していた.さらに,朝点眼と夜点眼で1,2カ月後の平均眼圧に差はなかった.これら2点より,朝・夜点眼による眼圧下降効果の差は少ないものの,朝点眼はやや劣る可能性が示唆された.これに関して,配合点眼液の朝点眼と夜点眼の眼圧差ついては,測定時間が午前中であることも影響していると考えられた.プロスタグランジン系点眼液では点眼後12.24時間が効果のピークとされており,夜点眼が昼間の眼圧コントロールに効果的とされている1,2).本研究では測定時間を午前中としたため,点眼後2.3時間程度の朝点眼よりも点眼後12.15時間程度である夜点眼がプロスタグランジンの最大効果時間に近く,より眼圧下降効果が大きく測定された可能性がある.しかし,Konstasらがトラボプロスト+チモロール配合点眼液において夜点眼は朝点眼に比し日内変動が少なくピーク時の眼圧はより低い値であったと報告している3)ことより,本研究においても特に夜点眼では日内変動は少ないことが推測され,また一般に眼圧のピーク時と考えられる午前中の眼圧が本研究では夜点眼においてやや低いという結果より,どちらかといえば夜点眼が眼圧下降により効果的であることが推察された.さらに,2剤の点眼液投与時より配合点眼液投与時において眼圧が高値であった点については,b遮断点眼液について変更前は1日2回点眼ないしは持続性b遮断点眼液の1日1回点眼であったのに対し,変更後の配合点眼液に含まれるチモロールは持続性ではなく,1日1回点眼では効果が弱いことが理由として考えられた.一方,Gemmaらは,ラタノプロストとチモロールを併用している309症例について,トラボプロスト+チモロールの配合点眼液に切り替え後に眼圧が有意に低下したと述べており10),本研究の結果と異なる.この論文では眼圧が有意に低下した理由として患者のコンプライアンスが改善したことなどを推察している.本研究の症例においては切り替え前からコンプライアンスやアドヒアランスが良好であったと考えられるため,Gemmaらの報告と異なる結果になったと推察された.血圧,脈拍数については配合剤への変更前後で差はなく,朝点眼,夜点眼においても差がなかった.これにより全身状態への影響について,配合点眼薬は2剤点眼と相違がみられない可能性が示唆された.使用感アンケートでは配合点眼液のほうが患者の負担が少なく,2剤より1剤の点眼液を希望する患者が多かった.さらに,配合点眼液の朝点眼と夜点眼とでは,夜点眼の希望が多かった.これらのアンケート結果より,アドヒアランスについては配合点眼液の夜点眼が良好であると推察された.以上,本研究の結果を総合すると,トラボプロスト+チモロール配合点眼液は眼圧下降効果やアドヒアランスの点かあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012977 ら,夜に点眼するほうがやや効果的と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KonstasAG,MaltezosAC,GandiSetal:Comparisonof24-hourintraocularpressurereductionwithtwodosingregimentsoflatanoprostandtimololmaleateinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol128:15-20,19992)KonstasAG,NakosE,TersisIetal:Acomparisonofonce-dailymorningvseveningdosingofconcomitantLatanoprost/Timolol.AmJOphthalmol133:753-757,20023)KonstasAG,TsironiS,VakalisANetal:Intraocularpressurecontrolover24hoursusingtravoprostandtimololfixedcombinationadministeredinthemorningoreveninginprimaryopen-angleandexfoliativeglaucoma.ActaOphthalmol87:71-76,20094)DenisP,AndrewR,WellsDetal:Acomparisonofmorningandeveninginstillationofacombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolution.EurJOphthalmol16:407-415,20065)KonstasAG,MantzirisSA,MaltezosAetal:Comparisonof24hourcontrolwithTimoptic0.5%andTimoptic-XE0.5%inexfoliationandprimaryopen-angleglaucoma.ActaOphthalmolScand77:541-543,19996)ShibuyaT,KashiwagiK,TsukaharaS:Comparisonofefficacyandtolerabilitybetweentwogel-formingtimololmaleateophthalmicsolutionsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmologica217:31-38,20037)ScovilleB,MuellerB,WhiteBGetal:Adouble-maskedcomparisonofcarteololandtimololinocularhypertension.AmJOphthalmol105:150-154,19888)RichardKP,PaulP,Wang-PuiSetal:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure.AmJOphthalmol135:688-703,20039)HannuU,LutsEP,AuliR:Efficacyandsafetyoftafluprost0.0015%versuslatanoprost0.005%eyedropsinopen-angleglaucomaandocularhypertension:24-monthresultsofarandomized,double-maskedphaseIIIstudy.ActaOphthalmol88:12-19,201010)GemmaR,GianP,MaurizioBetal:Switchingfromconcomitantlatanoprost0.005%andtimolol0.5%toafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:a6-month,multicenter,cohortstudy.ExpertOpinPharmacother10:1705-1711,2009***978あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(102)

チモロール点眼の防腐剤有無による眼表面と涙液機能への影響

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(103)559《原著》あたらしい眼科28(4):559.562,2011cはじめに抗緑内障点眼薬は長期にわたって使用するため,慢性的な副作用が問題となることが多い.bブロッカー点眼による眼表面への悪影響の報告は,角膜知覚の低下1),涙液層の不安定化2~5),涙液の産生低下2,4),結膜の杯細胞数の減少4)などさまざまなものがある.これらの変化は,点眼薬に含まれる防腐剤によってもひき起こされうるが,bブロッカーそのものによる変化との区別ははっきりしない.先に筆者らは,bブロッカーであるチモロール点眼の防腐剤を含むものと含まないものを比較し,防腐剤含有群で角膜上皮障害がみられたことを報告した7)が,今回症例数を増やし,防腐剤の有無によるbブロッカー点眼の眼表面と涙液に対する影響をプロスペクティブに検討したので報告する.I方法対象は,東京歯科大学市川総合病院眼科外来および両国眼科クリニックにて,高眼圧症,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障の診断を受け,抗緑内障点眼薬の初回投与をうける〔別刷請求先〕石岡みさき:〒151-0064東京都渋谷区上原1-22-6みさき眼科クリニックReprintrequests:MisakiIshioka,M.D.,MisakiEyeClinic,1-22-6Uehara,Shibuya-ku,Tokyo151-0064,JAPANチモロール点眼の防腐剤有無による眼表面と涙液機能への影響石岡みさき*1,2,4島.潤*2,3八木幸子*2坪田一男*2,3*1みさき眼科クリニック*2東京歯科大学市川総合病院眼科*3慶應義塾大学医学部眼科学教室*4両国眼科クリニックProspectiveComparisonofTimololEyedropswithandwithoutPreservatives:EffectonOcularSurfaceandTearDynamicsMisakiIshioka1,2,4),JunShimazaki2,3),YukikoYagi2)andKazuoTsubota2,3)1)MisakiEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,4)RyogokuEyeClinic抗緑内障点眼薬の初回投与を受ける39名を,防腐剤(塩化ベンザルコニウム)含有チモロール点眼を使用する群と,防腐剤非含有のチモロール点眼を使用する群に無作為に割り付け,眼表面と涙液機能への影響を前向きに3カ月にわたり観察した.両群とも点眼開始1カ月後より有意に眼圧の低下を認めた.涙液機能,角膜知覚は点眼前後と治療群間に差を認めなかった.角膜のフルオレセイン染色は,防腐剤含有群に増加傾向を認め,涙液層破壊時間は防腐剤含有群にて有意に短縮し,非含有群にて有意に延長していた.今回の結果より,チモロール点眼使用にあたっては,眼表面や涙液への防腐剤の影響を考慮する必要があると考えられた.Weconductedarandomized,prospectivecomparativestudyof39patientswhousedantiglaucomamedicationforthefirsttimeduringaperiodof3months.Patientswererandomlyassignedeither0.5%timololeyedropswithbenzalkoniumchlorideaspreservative(TIM+BAK)or0.5%timololwithoutpreservative(TIM-BAK).Intraocularpressurereducedsignificantlyinbothgroupsateveryexaminationpoint.Nodifferenceswerenotedincornealsensitivityorteardynamicsbetweenpre-andpost-treatmentineithergroup.Eyesusingtimololwithpreservativesshowedslightlyhighercornealfluoresceinscoresthandideyesusingtimololwithoutpreservative.Tearbreak-uptimedecreasedintheeyeswithtimololwithpreservativeandincreasedintheeyeswithtimololwithoutpreservative.Whencornealcytotoxicityisobservedinpatientsundertopicalmedication,theadverseeffectsofpreservativesshouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):559.562,2011〕Keywords:チモロール,点眼,塩化ベンザルコニウム,防腐剤,緑内障.timololmaleate,eyedrops,benzalkoniumchloride,presservatives,glaucoma.560あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(104)患者とし,すでに抗緑内障点眼薬を使用している者,人工涙液以外の点眼を使用している者,コンタクトレンズを使用している者は対象から除外した.試験実施に先立ち,東京歯科大学市川総合病院倫理委員会,および両国眼科クリニック治験審査委員会において,試験の倫理的および科学的妥当性が審査され承認を得た.すべての被験者に対して試験開始前に試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し理解を得たうえで,文書による同意を取得した.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い実施された.防腐剤として塩化ベンザルコニウム(BAC)を含む0.5%チモロール(チモプトールR,参天製薬,万有製薬)〔以下,BAC(+)〕と防腐剤を含まない0.5%チモロール(チマバックR,日本点眼薬研究所,現在製造中止)〔以下,BAC(.)〕のいずれかを封筒法にて無作為に割り付け,検査は表1のスケジュールに従い行った.チマバックRはミリポアフィルターRつきの点眼であり,チモプトールRとは防腐剤の有無の点のみ異なり,他の添加物,pH,浸透圧などは同じである.眼圧測定は非接触型眼圧計を用いた.視野検査はGoldmann視野計,あるいはHumphrey視野計を用い,投与前と3カ月後の検査には同種器械を使用した.視野の評価は,Goldmann視野計においては暗点の出現あるいは拡大により判定し,Humphrey視野計ではMD(平均偏差)値の変化により判定した.生体染色は1%フルオレセイン2μlを結膜.に滴下し,角膜を上部,中央,下部の3カ所をそれぞれ0から3点と評価し,その合計をスコアとした(最低0点,最高9点).涙液層破壊時間(tearbreak-uptime:BUT)は3回測った平均をとり,Schirmerテストは5%フルオレセインを1μl結膜.に滴下した5分後に麻酔なしで施行した.涙液クリアランステストはSchirmer試験後の試験紙のフルオレセイン濃度で判定し8),Schirmer値に涙液クリアランステストのlog値をかけた値tearfunctionindex9)も評価の対象とした.角膜知覚はCochetBonnet角膜知覚計にて角膜中央部を測定し,換算表にてg/mm2に換算し比較した.投与前のSchirmerテスト値が多い片眼を評価対象とし,3カ月の観察期間を終了した39名(男性17名,女性22名,平均年齢59.7±11.5)について解析を行った.内訳を表2に示す.結果は平均値(±標準偏差)で表した.統計学的検定は,眼圧,BUTのグループ間,グループ内の比較にはANOVA(analysisofvariance),フルオレセイン染色スコアについては群間比較にWilcoxon’sranksumtestを,群内比較にはWilcoxon’smatchedpairessingned-rankstestを用いた.Schirmerテスト,クリアランステスト,tearfunctionindex,角膜知覚の群間,群内比較はStudentt-testを用いた.II結果眼圧はBAC(+)群では18.1±4.7mmHg(投与前),15.5±3.4mmHg(1カ月),15.3±2.9mmHg(2カ月),15.4±3.7mmHg(3カ月)と有意に低下し(p<0.001,p<0.01,p<0.001),同様にBAC(.)群でも17.6±3.9mmHg(投与前),13.7±2.6mmHg(1カ月),14.6±2.8mmHg(2カ月),15.0±3.1mmHg(3カ月)と有意に低下した(p<0.001,p<0.001,p<0.01).両群間に差は認められなかった(図1).投与前後で視力,C/D(陥凹乳頭)比,視野の変化はみら表1検査スケジュール開始前1カ月2カ月3カ月視力○○眼圧○○○○眼底検査○○視野検査○○Schirmerテスト○○涙液クリアランステスト○○フルオレセイン染色○○○○Tearbreak-uptime○○○○角膜知覚○○表2症例の内訳BAC(+)(n=19)BAC(.)(n=20)平均年齢(標準偏差)62.9(9.5)56.7(12.7)性別(男性:女性)4:1513:7原疾患高眼圧症30正常眼圧緑内障1217開放隅角緑内障430123投与期間(カ月)眼圧(mmHg)**********4035302520151050:BAC(+):BAC(-)図1治療前後の眼圧の変化両群とも治療開始前より眼圧は有意に低下した(*:p<0.01,**:p<0.001).両群間に差はみられなかった.(105)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011561れなかった.涙液検査(Schirmerテスト,クリアランステスト,tearfunctionindex),角膜知覚検査は投与3カ月後において両治療群間に差を認めず,また各治療群の治療前後での差も認めなかった(表3).フルオレセインスコアはBAC(.)群では0.30±0.73(投与前),0.45±0.94(1カ月),0.21±0.42(2カ月),0.30±0.66(3カ月)と変化を認めなかった.BAC(+)群では0.53±0.96(投与前),0.79±1.13(1カ月),0.95±0.91(2カ月),1.11±1.45(3カ月)と,やや増加傾向がみられたが有意差は認められなかった.また,両群間に有意差は認められなかった(図2).投与3カ月後の時点でスコアが2以上,あるいは3以上の症例数を両群間で比較したが,差は認められなかった.BUTはBAC(.)群では6.4±3.8秒(投与前),7.4±4.1秒(1カ月),7.3±3.3秒(2カ月),8.7±3.0秒(3カ月)と延長がみられ,3カ月の時点で有意差を認めた(p<0.01).BAC(+)群では,5.6±2.7秒(投与前),3.9±2.3秒(1カ月),3.8±2.1秒(2カ月),4.5±2.7秒(3カ月)と短縮傾向にあり,投与開始1,2カ月の時点で有意差を認めた(p<0.01,p<0.01).治療群間においては,1,2,3カ月のそれぞれの時点で有意差を認めた(p<0.01,p<0.001,p<0.001)(図3).III考察前回の筆者らの報告7)では,投与3カ月後にBAC(+)群において角膜のフルオレセインスコアがBAC(.)群より増加し,BUTは投与1カ月後より3カ月後までBAC(.)群がBAC(+)群に比べ有意に延長していた.今回有意差はなかったが,BAC(+)群で角膜上皮障害が出やすい傾向が同様にみられ,BUTはBAC(+)群で短縮,BAC(.)群で延長という前回の報告と同じ結果となった.これまでbブロッカー点眼を使用すると,角膜知覚が低下することにより瞬目回数の減少と涙液分泌減少が生じ,その結果角膜上皮障害が起きると考えられてきた1,2,4)が,今回の報告では防腐剤の有無にかかわらず角膜知覚,涙液分泌量ともに投与前後で変化していなかった.角膜知覚に関してはいろいろな報告があるが,Weissmanらは綿花ではなく角膜知覚計を用いれば年齢が高いグループにおいてbブロッカー点眼使用後に知覚が低下すると報告している1).彼らの報告では平均年齢49歳のグループで知覚低下がみられているが,今回の筆者らの報告は平均年齢が60歳近いが知覚低下はみられていない.Weissmanの報告は点眼10分後の調査であり,bブロッカー点眼による角膜知覚低下は一過性である可能性もある.涙液分泌に関しては,今回は点眼開始前に涙液分泌量がSchirmer値で平均10mm以上という涙液分泌が多いグループのため,点眼による涙液分泌減少がみられなかったとも考えられるが,涙液分泌が十分にあり点眼による減少が起きなくとも,また角膜知覚が低下しなくても,BACによりBUT短縮は起きるという結果になった.表3涙液検査,角膜知覚検査月BAC(+)BAC(.)p値Schirmerテスト(mm/5分)013.7(11.2)14.9(12.2)0.76313.1(12.7)17.1(10.6)0.29涙液クリアランステスト(log2)05.1(1.7)5.0(1.5)0.8435.2(1.6)4.9(1.4)0.67Tearfunctionindex074.9(73.7)78.1(69.8)0.89375.5(81.2)89.0(66.9)0.58角膜知覚(g/mm2)00.48(0.15)0.59(0.57)0.4330.46(0.15)0.49(0.24)0.690123投与期間(カ月)涙液層破壊時間(秒):BAC(+):BAC(-)151050***♯♯♯♯♯図3治療前後のtearbreak.uptime(BUT)の変化BAC(+)群では治療開始1,2カ月においてBUTの短縮がみられ,BAC(.)群では治療開始3カ月においてBUTの延長がみられた(*:p<0.01).治療開始1,2,3カ月の時点で両群間に差を認めた(#:p<0.01,##:p<0.001).01投与期間(カ月)フルオレセインスコア2332.521.510.50-0.5-1:BAC(+):BAC(-)図2治療前後のフルオレセインスコアの変化両群内での治療前後,両群間でのスコアに有意差は認められなかった.562あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(106)BACによる細胞障害は以前より知られ10),BUTの短縮,涙液層の不安定化,角膜上皮バリアの破壊はBACが界面活性剤として作用し,涙液層の脂質を変化させるためと考えられている3,5).これらの変化は1回の点眼によっても起きると報告されている3,5).BACによって生じたBUTの短縮は,BACを含まない点眼に変更しても戻りにくいという報告がある6).今回は,3カ月という比較的短期間の投与であり,しかもチモロール単剤投与であったため,防腐剤の有無による差異が明確に出なかった可能性もある.実際の臨床でしばしばみられる,長期間にわたる点眼薬の使用時,点眼の多剤併用時,そしてもともと角膜上皮障害やドライアイがある症例には,点眼剤に含まれる防腐剤による悪影響に留意すべきと考えられる.今回もBAC(.)群でBUT延長がみられた.角膜上皮障害の有無によりBUTのデータに影響が出る可能性も考えたが関連は認められず,その原因は不明である.今回防腐剤を含まないチモロール点眼を使用しても眼表面への悪影響は認めなかった.投与期間が3カ月と短期間であるため,チモロール点眼剤そのものの角膜上皮や涙液層への悪影響はないと断定はできないが,今回の結果から,防腐剤含有のbブロッカー点眼使用中に角膜上皮障害を認めた場合には,防腐剤の影響も考えたほうがよいことが示唆された.文献1)WeissmanSS,AsbellPA:Effectsoftopicaltimolol(0.5%)andbetaxolol(0.5%)oncornealsensitivity.BrJOphthalmol74:409-412,19902)ShimazakiJ,HanadaK,YagiYetal:Changesinocularsurfacecausedbyantiglaucomatouseyedrops:prospective,randomisedstudyforthecomparisonof0.5%timololv0.12%unoprostone.BrJOphthalmol84:1250-1254,20003)IshibashiT,YokoiN,KinoshitaS:Comparisonoftheshort-termeffectsonthehumancornealsurfaceoftopicaltimololmaleatewithandwithoutbenzalkoniumchloride.JGlaucoma12:486-490,20034)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19925)BaudouinC,deLunardoC:Shorttermcomparativestudyoftopical2%carteololwithandwithoutbenzalkoniumchlorideinhealthyvolunteers.BrJOphthalmol82:39-42,19986)KuppensEVMJ,deJongCA,StolwijkTRetal:Effectoftimololwithandwithoutpreservativeonthebasaltearturnoveringlaucoma.BrJOphthalmol79:339-342,19957)石岡みさき,島崎潤,八木幸子ほか:bブロッカー点眼と防腐剤が涙液・眼表面に及ぼす影響.臨眼58:1437-1440,20048)小野真史,坪田一男,吉野健一ほか:涙液のクリアランステスト.臨眼45:1143-1149,19919)XuKP,YagiY,TodaIetal:Tearfunctionindex:Anewmeasureofdryeye.ArchOphthalmol113:84-88,199510)BursteinNL:Cornealcytotoxiciyoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,1980***

ラタノプロスト点眼単剤治療とチモロール・ドルゾラミド点眼併用治療の比較

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(117)1599《原著》あたらしい眼科27(11):1599.1602,2010cはじめにエビデンスに基づいた唯一の緑内障治療は眼圧下降であることが大規模臨床試験で確認されており1,2),多くの症例では最初に点眼治療が行われる.点眼治療は,まず単剤を使用し,眼圧下降不十分ならば,他剤に変更するか多剤併用となる.多剤併用とする場合には,選択薬剤の副作用の発現やコンプライアンスの低下に十分に注意を払う必要がある.現在,緑内障治療点眼薬の第一選択は眼圧下降作用の強いプロスタグランジン関連点眼薬(以下,PG薬)か交感神経b遮断薬(以下,b遮断薬)であるが,PG薬が選択されることが多いと思われる.PG薬は眼圧下降作用が強くて全身的副作用が少ないため,高齢者や全身合併症を有する場合は使用しやすいものの,局所的副作用である睫毛成長促進や眼瞼色素沈着など3)美容的な問題のため使用しにくい場合もある.〔別刷請求先〕加畑好章:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科Reprintrequests:YoshiakiKabata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,AotoHospital,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANラタノプロスト点眼単剤治療とチモロール・ドルゾラミド点眼併用治療の比較加畑好章*1中島未央*1後藤聡*1久米川浩一*1高橋現一郎*1常岡寛*2*1東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科*2東京慈恵会医科大学眼科学講座AComparisonofLatanoprostMonotherapywithTimolol-DorzolamideCombinedTherapyYoshiakiKabata1),MioNakajima1),SatoshiGoto1),KoichiKumegawa1),GenichiroTakahashi1)andHiroshiTsuneoka2)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,AotoHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine目的:0.5%チモロール点眼薬(T)を使用して効果不十分な緑内障症例に対して,ラタノプロスト点眼(L)単剤療法への切り替え群(A群):(T→L)と1%ドルゾラミド点眼(D)を追加した併用療法群(B群):(T+D)とに分け,両群の眼圧,中心角膜厚,血圧,脈拍を測定し比較した.対象および方法:A群13例13眼,B群13例13眼で,眼圧・中心角膜厚・血圧・脈拍を変更前,変更後3カ月,6カ月で測定し比較した.結果:変更後6カ月の眼圧低下率は,A群:.14.1±9.9%,B群:.14.1±20.4%,A,B群ともに変更後6カ月で有意に低下しており,A,B群間で有意差はなかった.中心角膜厚・血圧・脈拍については,変更前後で有意な変化はなかった.結論:T→LとT+Dでは同等の眼圧下降効果が認められた.中心角膜厚,血圧,脈拍に変化はなかった.Purpose:Tocomparelatanoprostmonotherapywithtimolol-dorzolamidecombinedtherapy.Methods:Patientsreceivinginadequatetreatmentwithtimolol0.5%(T)wererandomlyassignedtoAorBgroup.Agroup(13eyesof13patients)wasswitchedtolatanoprost(L)only;thiswasthemonotherapygroup(T→L).Bgroup(13eyesof13patients)wasswitchedtoacombinationofdorzolamide1%(D)and(T);thiswasthecombinedtherapygroup(T+D).Wemeasuredintraocularpressure(IOP),visualfield,centralcornealthickness,bloodpressureandheartratebeforeandat3and6monthsaftertheswitch,andcomparedtheresults.Results:ThepercentageofIOPreductionat6monthsaftertheswitchwas.14.1±9.9%inAgroupand.14.1±20.4%inBgroup.Inbothgroups,IOPhaddecreasedsignificantlyat6monthsafterswitching.TherewerenosignificantdifferencesbetweenAandBgroupsintermsofcentralcornealthickness,bloodpressure,heartrateorvisualfield.Conclusion:(T→L)and(T+D)exhibitedsimilareffectsintermsofIOPreduction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1599.1602,2010〕Keywords:ラタノプロスト,チモロール,ドルゾラミド,単剤療法,併用療法.latanoprost,timolol,dorzolamide,monotherapy,combinedtherapy.1600あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(118)一方,b遮断薬は第一選択薬としての歴史が長く,眼圧下降効果も比較的強いが,局所的副作用は少ないものの全身的副作用が懸念され,また長期の使用で効果が減弱する傾向がみられる4),という問題点を有している.単剤で効果が不十分な場合は,他剤へ切り替えるか併用療法となるが,炭酸脱水酵素阻害点眼薬(以下,CAI点眼薬)は,他の点眼薬と作用機序が異なり,しかも全身的・局所的な副作用が比較的少ないため,併用薬としてよく使用されている5,6).いままで,PG薬,b遮断薬,CAI点眼薬のさまざまな組み合わせの比較検討が報告7,8)されているが,PG薬単剤療法とb遮断薬・CAI点眼薬併用療法を比較した報告はわが国では少ない9,10).今回筆者らは,b遮断薬である0.5%チモロール点眼薬(0.5%チモプトールR点眼液)を使用して眼圧下降効果不十分な症例に対して,0.5%チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬(キサラタンR点眼液)単剤療法への切り替え群と0.5%チモロール点眼薬にCAI点眼薬である1%ドルゾラミド点眼薬(1%トルソプトR点眼液)を追加した併用療法群とに分け,両群での眼圧,視野,中心角膜厚,血圧,脈拍の経過を測定し比較検討した.I対象および方法2007年9月~2009年3月に東京慈恵会医科大学附属青戸病院を受診した原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,高眼圧症の患者で,1カ月以上0.5%チモロール点眼薬(1日2回)を使用したが,効果不十分(視野の悪化が認められる症例,または原発開放隅角緑内障眼圧・高眼圧症の患者では眼圧18mmHg以上の症例,正常眼圧緑内障の患者では目標眼圧に達成しない症例)と判断された症例を対象とした.休止期間を設けず,封筒法を使用して無作為にA群:0.5%チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬(1日1回)へ切り替えた単剤療法群,B群:0.5%チモロール点眼薬に1%ドルゾラミド点眼薬(1日3回)を追加した併用療法群の2群に分け,両群の眼圧,中心角膜厚,血圧,脈拍について比較検討した.両眼ともに治療している患者は,両眼とも点眼薬を変更し,右眼を解析対象とした.眼圧測定には,非接触型眼圧計(RTK-7700,ニデック社)を使用し,3回測定した平均値を測定値とした.測定時刻は症例ごとに一定とした.変更前,変更後3カ月目,6カ月目に測定し比較した.視野は変更前,変更後6カ月目に測定し,Humphrey静的視野計を使用したA群8例,B群5例のmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値を比較した.Humphrey静的視野計にて信頼度の低いA群5例,B群8例にはGoldmann動的視野計を使用して測定した.点眼薬による角膜厚への影響を検討するため,中心角膜厚を超音波パキメーター(AL-3000,トーメー社)を用いて,変更前,変更後3カ月目,6カ月目に測定し比較した.全身への影響のなかで,最も重要と考えられる循環器系への影響を検討するため,30分以上安静後の血圧(収縮期,拡張期),脈拍を変更前,変更後3カ月目,6カ月目に測定し比較した.統計学的処理は,群内比較にはpairedt検定,群間比較にはunpairedt検定を行い,有意水準をp<0.05として解析した.本研究は,ヘルシンキ宣言を遵守しており,東京慈恵会医科大学での倫理委員会の承認を得た後に,患者から文書でのインフォームド・コンセントを得て,その書面を保存した.II結果6カ月以上経過観察を行えた26例26眼(男性12例,女性14例)で,A群:13例13眼(男性7例,女性6例),B群:13例13眼(男性5例,女性8例)を解析対象とした.平均年齢は67.8±11.7歳(42~84歳)であった.緑内障の病型は,A群:原発開放隅角緑内障6例,正常眼圧緑内障7例,高眼圧症0例,B群:原発開放隅角緑内障4例,正常眼圧緑内障7例,高眼圧症2例であった.平均年齢はA群70.6±10.4歳,B群64.7±13.0歳で,A,B群間に有意差はなかった(p=0.22).屈折は,等価球面度数でA群.1.53±1.93D,B群.0.23±3.26Dで,A,B群間に有意差はなかった(p=0.11).眼圧値の経過は,A群:変更前16.9±3.6mmHg,変更後3カ月目15.5±3.1mmHg(p=0.088),6カ月目14.5±3.3mmHg(p<0.001),B群:変更前18.2±5.5mmHg,変更後3カ月目15.5±4.9mmHg(p<0.05),6カ月目15.5±5.1mmHg(p<0.05)であり,変更前と比較してA群では変更後6カ月目に,B群では変更後3カ月目,6カ月目で有意に下降していた(図1).眼圧下降率は,A群:変更後3カ月目で.7.0±14.1%,6図1点眼変更前後の眼圧値○:A群(n=12),●:B群(n=12).*p<0.05,**p<0.001(pairedt-test).252015105変更前眼圧(mmHg)6カ月後*3カ月後***(119)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101601カ月目で.14.1±9.9%であるのに対して,B群:変更後3カ月目で.13.8±15.2%,6カ月目.14.1±20.4%であり,両群とも,ほぼ同様の眼圧下降を認めた.A群とB群との比較では,変更後3カ月目(p=0.25),6カ月目(p=0.99)で有意差はなかった.静的視野については,A群:MD値は変更前.6.06±9.19dB,変更後6カ月目.5.73±8.30dB(p=0.57),PSD値は変更前5.53±4.78dB,変更後6カ月目6.06±4.71dB(p=0.35)であるのに対して,B群:MD値は変更前.2.72±2.88dB,変更後6カ月目.1.42±2.65dB(p=0.07),PSD値は変更前4.27±2.06dB,変更後6カ月目3.25±2.43dB(p=0.15)であり,両群ともに変更前と比較して変更後6カ月目で有意差はなかった.Goldmann動的視野計を使用したA群5例,B群8例では,変更前,変更後6カ月目で変化は認めなかった.中心角膜厚,血圧,脈拍については,両群ともに変更前と比較して変更後3カ月目,6カ月目でいずれも有意差を認めなかった(表1).中心角膜厚は,A群とB群との比較では変更前(p=0.06),変更後3カ月目(p=0.09),6カ月目(p=0.08)で有意差を認めなかった.III考按欧米ではチモロール点眼薬とドルゾラミド点眼薬の配合剤(CosoptR)がすでに使用可能であり,ラタノプロスト点眼薬単剤投与との比較は多数報告されていて,ほぼ同等の眼圧下降といわれている11,12).本研究において,チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬へ変更したときの眼圧下降率は変更後6カ月で.14.1±9.9%,チモロールにドルゾラミドを追加したときの眼圧下降率は.14.1±20.4%であった.両群ともに,ベースライン時と比較し同程度の有意な眼圧下降を認め,両群間は同程度の眼圧下降であり,過去の報告11,12)と同じであった.眼圧測定には,非接触型眼圧計を使用した.当院では普段の診療において非接触型眼圧計を使用しており,本研究での対象患者も日常診療では非接触型眼圧計での測定値で経過観察していた.本研究では,得られた眼圧値や中心角膜厚の値に,正常値からの大幅な逸脱がなかったため,非接触型眼圧計での測定値を採用した.静的視野検査においても両群間で有意な変化を認めなかったが,今回は症例数が少なく,観察期間も短かった.さらに,静的視野検査の信頼度が低く,動的視野検査を行っている症例もあるため,今回の結果は参考値として検討した.今後長期にわたる検討が必要であると思われた.中心角膜厚によって,眼圧値や薬剤浸透に影響を及ぼすと報告されている13).本研究では,両群ともに点眼変更前と比較して有意差を認めず,A群とB群との比較でも有意差を認めなかった.したがって,本研究の結果に対する中心角膜厚の影響は少ないと考えられた.CAI点眼薬は毛様体に存在する炭酸脱水酵素II型を阻害し房水産生を抑制する14)が,炭酸脱水酵素II型は角膜内皮にも存在するため,角膜にも影響を与える可能性がある.同じCAI点眼薬であるブリンゾラミド点眼薬での報告では,角膜内皮への影響があるとは結論されていない15)が,内皮細胞数の減少した症例にドルゾラミド点眼薬やブリンゾラミド点眼薬を投与し,角膜浮腫をきたした報告16)があるため,使用に際しては注意が必要である.今回は角膜内皮数の検討は行っていないが,CAI点眼薬が原因と思われる角膜浮腫などの合併症はみられなかった.CAI点眼薬は,古くより経口・点滴投与も行われてきた薬剤であり,現在もアセタゾラミドが使用されている.しかし経口・点滴投与はさまざまな全身的副作用があり,長期連用が困難である17).CAI点眼薬は,内服での副作用を軽減するため開発された薬剤であり,PG薬とともに重篤な全身的副作用の報告は少ない.本研究でも循環器系に対する影響は両群とも認めなかった.本研究の結果,チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬への変更,チモロール点眼薬にドルゾラミド点眼薬の追加では同等の眼圧下降を認め,角膜や循環器系への影響も差がなかった.このことから,b遮断薬で効果不十分な症例にお表1点眼変更前後の血圧,脈拍,中心角膜厚(平均値±標準偏差)A群B群点眼変更前変更後3カ月変更後6カ月点眼変更前変更後3カ月変更後6カ月収縮期血圧(mmHg)131.5±16.7132.5±20.0(p=0.85)134.5±19.2(p=0.62)133.3±12.9133.8±16.2(p=0.89)134.8±13.8(p=0.67)拡張期血圧(mmHg)75.5±10.480.0±9.4(p=0.22)80.3±11.9(p=0.18)79.8±12.577.9±13.6(p=0.46)78.8±11.0(p=0.67)脈拍数(回/分)70.1±9.674.1±12.4(p=0.11)71.5±12.1(p=0.45)72.7±11.068.0±8.0(p=0.17)69.2±7.8(p=0.27)中心角膜厚(μm)567.9±42.7567.4±41.8(p=0.85)562.4±40.6(p=0.08)539.2±38.4536.2±34.7(p=0.23)536.6±34.5(p=0.34)1602あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(120)いては,PG薬へ変更するかわりに,CAI点眼薬を追加する手段も選択肢の一つになりうると考えられた.CAI点眼薬の追加は,PG薬への変更より美容的副作用の点で利点があり,有用である.しかし,点眼回数が多くなるため,コンプライアンスの低下には十分に注意を払う必要がある.点眼薬の効果を保ちつつコンプライアンスを低下させないためにも,わが国での配合剤導入が待たれる.文献1)TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20002)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJ:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20023)北澤克明:ラタノプロスト点眼液156週間長期投与による有効性および安全性に関する多施設共同オープン試験.臨眼60:2047-2054,20064)徳岡覚:b遮断薬:新図説臨床眼科講座,第4巻緑内障(新家眞編),p214-216,メジカルビュー社,19985)柴田真帆,湯川英一,新田進人ほか:混合型緑内障患者に対する1%ドルゾラミド点眼追加投与の眼圧下降効果.臨眼59:1999-2001,20056)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20067)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20058)ItoK,GotoR,MatsunagaKetal:Switchtolatanoprostmonotherapyfromcombinedtreatmentwithb-antagonistandotherantiglaucomaagentsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JpnJOphthalmol48:276-280,20049)小嶌祥太,杉山哲也,柴田真帆ほか:ラタノプロスト単独点眼からチモロール・ドルゾラミド併用点眼へ切り替え時の眼圧,視神経乳頭血流の変化.あたらしい眼科26:1122-1125,200910)SakaiH,ShinjyoS,NakamuraYetal:Comparisonoflatanoprostmonotherapyandcombinedtherapyof0.5%timololand1%dorzolamideinchronicprimaryangleglaucoma(CACG)inJapanesepatients.JOculPharmacolTher21:483-489,200511)FechtnerRD,McCarrollKA,LinesCRetal:Efficacyofthedorzolamide/timololfixedcombinationversuslatanoprostinthetreatmentofocularhypertensionorglaucoma:combinedanalysisofpooleddatafromtwolargerandomizedobserverandpatient-maskedstudies.JOculPharmacolTher21:242-249,200512)KonstasAG,KozobolisVP,TsironiSetal:Comparisonofthe24-hourintraocularpressure-loweringeffectsoflatanoprostanddorzolamide/timololfixedcombinationafter2and6monthsoftreatment.Ophthalmology115:99-103,200813)BrandtJD,BeiserJA,GordonMOetal:CentralcornealthicknessandmeasuredIOPresponsetotopicalocularhypotensivemedicationintheOcularHypertensionTreatmentStudy.AmJOphthalmol138:717-722,200414)MarenTH:Carbonicanhydrase:Generalperspectivesandadvancesinglaucomaresearch.DrugDevRes10:255-276,198715)井上賢治,庄司治代,若倉雅登ほか:ブリンゾラミドの角膜内皮への影響.臨眼60:183-187,200616)安藤彰,宮崎秀行,福井智恵子ほか:炭酸脱水酵素阻害薬点眼後に不可逆的な角膜浮腫をきたした1例.臨眼59:1571-1573,200517)KonowalA,MorrisonJC,BrownSVetal:Irreversiblecornealdecompensationinpatientstreatedwithtopicaldorzolamide.AmJOphthalmol127:403-406,199918)安田典子:炭酸脱水酵素阻害剤長期使用上の注意.眼科29:405-412,1981***

Dynamic Contour Tonometerによる眼圧測定と緑内障治療

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(115)6950910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):695699,2009cはじめに現在,精密眼圧測定にはGoldmann圧平眼圧計(GAT)が一般的に使用されている.しかし,圧平式眼圧計は角膜厚や前眼部のさまざまな影響を受けることが知られている1,2).近年,角膜厚・形状の影響をほとんど受けない眼圧計としてdynamiccontourtonometer(DCT)が開発された.緑内障の視神経障害の機序は,いまだに詳細不明であるが,眼圧下降によって視野障害の進行を阻止することができるとされている35).現在の臨床において眼圧測定の標準はGATである.DCTがより真の眼内圧に近い眼圧を測定しても,GATと同様に緑内障治療において安定して眼圧を計測できなければ意味がない.これまでDCTの有用性についてGATと比較した報告はいくつかなされており,DCTはGATより高い眼圧値を示しさらに中心角膜厚の影響が少ないとされている69).また,角膜屈折矯正手術の術前後でDCTとGATの眼圧値を比較した報告もあり,GATでは術前と比べ術後低い眼圧値を示したがDCTでは術前後で差を認めなかったとされている10,11).今回筆者らは,DCTを用いて健常眼および緑内障眼の治療前後で眼圧を測定し,同時に測定したGATの眼圧値と比較し検討した.〔別刷請求先〕山口泰孝:〒526-8580長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:YasutakaYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital,313Ohinui-cho,Nagahama526-8580,JAPANDynamicContourTonometerによる眼圧測定と緑内障治療山口泰孝梅基光良木村忠貴植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUseinGlaucomaTherapyYasutakaYamaguchi,MitsuyoshiUmemoto,TadakiKimuraandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospitalDynamiccontourtonometer(DCT)で測定した眼圧値の緑内障治療における有用性につき,Goldmann圧平眼圧計(GAT)と比較し検討した.対象は,健常眼50例100眼,トラベクロトミーを施行した緑内障16例18眼および緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロール)を使用する緑内障72例125眼である.緑内障治療眼ではDCT眼圧測定値はGATと同様に有意な下降を認めた.健常眼と比較し無治療緑内障眼で眼球脈波(OPA)は有意に高値を示し,トラベクロトミー術後とラタノプロスト点眼後に有意に下降した.チモロール点眼後は有意な変動を示さなかった.DCTは緑内障眼の眼圧測定において,GATと同様に用いることができた.Theaimofthisstudywastoinvestigatethereliabilityofintraocularpressuremeasurementusingthedynamiccontourtonometer(DCT),incomparisontotheGoldmannapplanationtonometer(GAT),specicallyasusedinglaucomatherapy.Thesubjectscomprised50normaleyesof100patients,18glaucomatouseyesof16patientsthathadundergonetrabeculotomyand125glaucomatouseyesof72patientsthathadreceivedmonotherapywithlatanoprostortimolol.Followingtreatmentbyallmethods,bothDCTandGATmeasurementsshowedsignicantlowering.Theocularpulseamplitude(OPA)oftheglaucomatouseyeswasremarkablyhigherthanthatofthenor-maleyes.OPAdecreasedsignicantlyaftertrabeculotomyortreatmentwithlatanoprost,whiletimololelicitednosignicantchange.BothDCTandGATwereusefulinmeasuringintraocularpressureinglaucomatouseyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):695699,2009〕Keywords:ダイナミックカンタートノメーター,Goldmann圧平眼圧計,トラベクロトミー,ラタノプロスト,チモロール.dynamiccontourtonometer,Goldmannapplanationtonometer,trabeculotomy,latanoprost,timolol.———————————————————————-Page2696あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(116)I対象および方法対象は,白内障以外の内眼疾患を有さない健常眼50例100眼(男性22例,女性28例,平均年齢72.4±1.1歳),トラベクロトミーを施行した緑内障16例18眼(男性8例,女性8例,平均年齢69.2±3.8歳)および緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロール)を使用する隅角の開放した緑内障72例125眼(男性36例,女性36例,平均年齢68.5±1.0歳)である.緑内障眼は視神経乳頭所見および視野から診断された.各症例でdynamiccontourtonometer(PascalR,ZeimerOphthalmic社)を用いて眼圧ならびに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)を測定し(信頼度の高いQ=13を用いた),同時にGAT(Haag-Streit社)でも眼圧を測定し比較した.また,各症例の角膜厚は,超音波角膜厚測定装置(AL-1000,TOMEY社)によって測定した.各値の相関は直線回帰分析によって解析し,Pearsonの相関係数を求めた.検定はt検定を用い,有意水準は5%とした.トラベクロトミー症例は術前日と術翌日午前に眼圧を測定した.術前点眼数は平均2.2±0.3剤で,術後は無点眼下で測定した.症例の内訳は,正常眼圧緑内障3眼,原発開放隅角緑内障4眼,落屑緑内障5眼,ステロイド緑内障4眼および続発緑内障2眼であった.緑内障点眼はwashout後,24週間の点眼期間を設け,その前後で眼圧を測定した.症例の内訳は,正常眼圧緑内障89眼,狭義の原発性開放隅角緑内障26眼および落屑緑内障10眼であった.また,視野欠損の進行した症例はすでに緑内障手術を施行されているものが多いため,今回はGold-mann型動的視野計において湖崎分類IIaIIIbを示す内眼手術の既往のない症例103眼と偽水晶体眼22眼とを対象とした.II結果1.健常眼におけるDCT今回筆者らの計測した健常眼100眼の平均値はGAT眼圧測定値13.9±0.3mmHg,DCT眼圧測定値18.9±0.3mmHg,OPA2.4±0.1mmHg,中心角膜厚536.0±3.4μmであった.GATとDCTの眼圧測定値は強い相関(r=0.61,p<0.0001,図1a)があった.中心角膜厚はGAT測定値に影響(r=0.29,p=0.003,図1b)したが,DCT測定値には影響しないようであった(r=0.002,p=0.98,図1c).中心角膜厚値が小さいほど,DCT測定値はGAT測定値より高くなった(図1d).また,OPAは1.53.0mmHgに多く分布し,DCT測3025201510551015GAT測定値(mmHg)202530DCT測定値(mmHg)図1a健常眼のGAT測定値とDCT測定値中心角膜厚測定値図1c健常眼の中心角膜厚とDCT測定値測定値図1e健常眼のDCT測定値とOPA30252015105400450500m550600650GAT測定mm図1b健常眼の中心角膜厚とGAT測定値中心角膜厚測定値図1d健常眼の中心角膜厚とDCT,GAT測定値の差———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009697(117)定値と弱い相関があった(r=0.31,p=0.02,図1e).2.緑内障眼におけるDCT今回緑内障点眼の対象となった125眼の無点眼下での値について検討した.平均値はGAT眼圧測定値17.9±0.4mmHg,DCT眼圧測定値23.6±0.4mmHg,OPA2.9±0.1mmHgであり,いずれの値も健常眼より有意に高かった(p<0.0001,p<0.0001,p<0.0001).中心角膜厚は521.1±3.5μmであり,健常眼より角膜は有意に薄かった(p<0.0001).健常眼と同様に,GATとDCTの測定値は強い相関(r=0.85,p<0.0001,図2a)があった.無治療緑内障眼でもOPAはDCT測定値と弱い相関があった(r=0.26,p=0.003,図2b).DCT測定値の同一範囲内(26.8mmHg以下)で比較しても健常眼に比べ緑内障眼は有意にOPAが高値であり(p=0.0007),これは特に眼圧の低い症例で顕著であった.3.緑内障治療前後の比較DCTによる眼圧測定値は,トラベクロトミー術前31.7±2.4mmHgから術後20.6±1.3mmHg(p<0.0001)に,緑内障点眼は点眼前23.6±0.5mmHgからラタノプロスト点眼後19.5±0.4mmHg(p<0.0001)に,またチモロール点眼後20.7±0.4mmHg(p<0.0001)に,いずれの治療でも治療後で有意な下降を認めた(図3a).GAT測定でも各治療で有意な眼圧下降を認めた(図3b).OPAはトラベクロトミー術前3.6±0.3mmHgから術後2.6±0.3mmHg(p=0.0006)に有意に下降した.緑内障点眼は点眼前2.9±0.1mmHgからラタノプロスト点眼後2.5±0.1mmHgに下降した(p<0.0001).一方,チモロール点眼後は2.8±0.1mmHgと下降する傾向があったが有意差はなかった(p=0.08,図3c).また,各治療前後のDCT測定値とOPAの関係を比較した(図3d,各症例の分布は数が多く煩雑なため,回帰線のみ示した).トラベクロトミー術後およびラタノプロスト点眼後は健常眼の分布に近づく傾向にあった.チモロール点眼後はDCT測定値は下降するもののOPAの明らかな変化はみられなかった.4.緑内障点眼の比較ラタノプロスト点眼とチモロール点眼について,DCTお453525155515GAT測定値(mmHg)253545DCT測定値(mmHg)図2a緑内障眼のGAT測定値とDCT測定値測定値図2b緑内障眼のDCT測定値とOPA403020100治療治療<0.0001p<0.0001p<0.0001チモロールGAT測定値(mmHg)図3b各治療前後のGAT測定値治療前治療後<0.0001p<0.0001NSチモロールOPA(mmHg)図3c各治療前後のOPA403020100治療治療<0.0001p<0.0001p<0.0001チモロールDCT測定値(mmHg)図3a各治療前後のDCT測定値———————————————————————-Page4698あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(118)よびGATによる眼圧測定値の眼圧下降率を図4a,bに示した.ほぼ同様の分布と思われた.DCT測定での30%および20%眼圧下降の達成率は,ラタノプロスト単剤使用でそれぞれ17%と41%,チモロール単剤使用では8%と21%であった(図4c,d).また,2剤とも有効がそれぞれ5%と14%であり,2剤とも無効が80%と52%であった.III考按DCTは角膜カーブに合わせた凹型のセンサーチップを用いることで,圧平時の角膜の歪みや変形を最小限にし,角膜厚・角膜剛性の影響を受けずに眼圧を直接測定するよう理論づけられている.Kniestedtら12)は,摘出眼の検討で直接測定した真の眼内圧は,GAT測定値よりもDCT測定値により近かったと報告している.角膜形状とチップ先端形状の完全な一致は困難と考えられるが,今回の筆者らの検討でもDCTによる眼圧測定値はGATに比べ角膜厚の影響が少ないことが改めて確認され,DCTはより正確に眼内圧を計測していると考えられる.今回の検討で,DCTは緑内障治療前後における眼圧の相対的変動の指標として,GATと同様に用いることができた.緑内障眼の眼圧管理において,視野の欠損に応じた目標眼圧の設定が望ましいといわれており13,14),DCTの眼圧測定値86420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)トラベクロトミー:健常眼:治療前:治療後86420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)ラタノプロスト:健常眼:治療前:治療後6420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)チモロール:健常眼:治療前:治療後図3d各治療前後のDCTOPA分布60-400-20ラタノプロストチモロール2040606040020-20-40-60図4aDCT測定による眼圧下降率(%)ラタノプロストチモロール有効有効1280(%)35n=125無効無効図4c30%眼圧下降達成率(DCT)60-400-20ラタノプロストチモロール2040606040020-20-40-60図4bGAT測定による眼圧下降率(%)ラタノプロストチモロール有効有効2752(%)714n=125無効無効図4d20%眼圧下降達成率(DCT)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009699(119)がより真の眼内圧に近い値であるのならば,DCTを用いて,改めて視神経障害の程度に合わせた目標眼圧を検討せねばならない.今後もDCTのデータを重ねて,長期的に眼圧の変動と視野の変化の関わりを解析することで,さらにDCTを有効に利用できると考えられる.ただし,眼圧は緑内障のリスクファクターとして大きい35)とはいえ,特に日本人において正常眼圧緑内障が多いとの報告15)もあり,今後はより症例の状態を細分化したうえでの検討にならざるをえないと思われる.DCTは眼圧と同時にOPAも測定できる.今回の検討では,緑内障眼のOPAは健常眼より有意に高値を示した.またOPAの変動は治療法により異なることが明らかになった.血液動態や循環系に作用があると考えられるb-blockerでOPAへの作用がより少なかったが,その機序は不明である.各種薬剤の眼圧下降機構は詳細に解析されているわけではなく,OPAへの作用を介して点眼の作用機構や治療効果の解析が可能となるかもしれない.文献1)WolfsRC,KlaverCC,VingerlingJRetal:Distributionofcentralcornealthicknessanditsassociationwithintraocu-larpressure.TheRotterdamStudy.AmJOphthalmol123:767-772,19972)GunvantP,BaskaranM,VijayaLetal:EfectofcornealparametersonmeasurementsusingthepulsatileocularbloodlowtonographandGoldmannapplanationtonome-ter.BrJOphthalmol88:518-522,20043)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Compari-sonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswith-therapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOph-thalmol126:487-497,19984)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19985)GordonMO,KassMA:TheOcularHypertensionTreat-mentStudy:designandbaselinedescriptionofthepar-ticipants.ArchOphthalmol117:573-583,19996)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComparisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,20047)KotechaA,WhiteET,ShewryJMetal:TherelativeefectsofcornealthicknessandageonGoldmannapplana-tiontonometryanddynamiccontourtonometry.BrJOphthalmol89:1572-1575,20058)FrancisBA,HsiehA,LaiMYetal:Efectsofcornealthickness,cornealcarvature,andintraocularpressurelevelonGoldmannapplanationtonometryanddynamiccontourtonometry.Ophthalmology114:20-26,20079)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,200810)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:Intraocularpres-suremeasurementsusingdynamiccontourtonometryafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci44:3790-3794,200311)SiganosDS,PapastegioiuGI,MoedasC:AssessmentofthePascaldynamiccontourtonometerinmonitouringintraocularpressureinunoperatedeyesandeyesafterLASIK.JCataractRefractSurg30:746-751,200412)KniestedtC,MichelleN,StamperRL:Dynamiccontourtonometry:acomparativestudyonhumancadavereyes.ArchOphthalmol122:1287-1293,200413)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199214)TheAdvancedGlaucomaInterventionStudyInvestiga-tors:AdvancedGlaucomaInterventionStudy:2.Visualeldtestscoringandreliability.Ophthalmology101:1445-1455,199415)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004***