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全層角膜移植後の眼表面と涙液機能に対するカルテオロールとチモロール点眼の比較

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(113)113《原著》あたらしい眼科29(1):113?116,2012cはじめに角膜移植後の眼圧上昇は術後合併症の一つとしてよくみられる.bブロッカー点眼は20年以上使用されている歴史の長い抗緑内障点眼薬であるが,使用後の角膜知覚の低下,杯細胞の減少,涙液産生の低下,そして点状表層角膜症の報告があり1?4),角膜上皮再生が重要である角膜移植後にはこれらの作用がより重篤な副作用につながる可能性がある.bブロッカー点眼であるカルテオロールはチモロールと比較すると点状表層角膜症を起こしにくいという報告がある5)が,角膜移植後に使用しチモロールと比較検討した報告はいまだない.今回筆者らは角膜移植後にカルテオロール,チモロールを使用し,その眼表面と涙液に与える影響をプロスペクティブに比較検討したので報告する.I対象および方法対象は,東京歯科大学市川総合病院眼科外来および両国眼科クリニックにて,全層角膜移植術の初回手術後1年以内に21mmHg以上の眼圧を呈し,抗緑内障点眼薬の初回投与を受ける患者とし,術後のレボフロキサシン点眼(クラビットR,参天製薬),ベタメタゾン点眼(サンベタゾンR,参天製薬),および人工涙液以外の点眼を使用している者,コンタクトレンズを使用している者,抗緑内障点眼開始前にAD(areadensity)分類6)にてスコアが2以上の者は対象から除外した.〔別刷請求先〕石岡みさき:〒151-0064東京都渋谷区上原1-22-6みさき眼科クリニックReprintrequests:MisakiIshioka,M.D.,MisakiEyeClinic,1-22-6Uehara,Shibuya-ku,Tokyo151-0064,JAPAN全層角膜移植後の眼表面と涙液機能に対するカルテオロールとチモロール点眼の比較石岡みさき*1,2,4島﨑潤*2,3*1みさき眼科クリニック*2東京歯科大学市川総合病院眼科*3慶應義塾大学医学部眼科学教室*4両国眼科クリニックComparisonofBeta-BlockerEyedropswithCarteololorTimololonOcularSurfaceandTearDynamicsafterPenetratingKeratoplastyMisakiIshioka1,2,4)andJunShimazaki2,3)1)MisakiEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,4)RyogokuEyeClinic全層角膜移植後に抗緑内障薬の初回投与を受ける13名を,2%カルテオロール点眼を使用する群(円錐角膜5名)と,0.5%チモロール点眼を使用する群(円錐角膜3名,水疱性角膜症5名)に分け,4週にわたり観察した.涙液機能,角膜知覚は点眼前後と治療群間に差を認めなかった.角膜フルオレセイン染色スコアの投与前後での変化量を比較すると,投与4週後にチモロール群の変化量はカルテオロール群より有意に大きかった.カルテオロール点眼は角膜移植後に点状表層角膜症を起こしにくい可能性がある.Weconductedaprospectivecomparativestudyof13patientswhousedantiglaucomamedicationforthefirsttimeafterkeratoplasty,duringaperiodof4weeks.Patientswereassignedeither2%carteololor0.5%timololeyedrops.Nodifferenceswerenotedincornealsensitivityortearsecretionbetweenpre-andpost-treatment,ineithergroup.At4weeks,thedifferenceincornealfluoresceinscorebetweenpre-andpost-treatmentwasgreaterintheeyesusingtimololthanintheeyesusingcarteolol.Carteololeyedropscouldbelessharmfultothecorneaafterkeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):113?116,2012〕Keywords:カルテオロール点眼,チモロール点眼,角膜移植,角膜上皮,涙液分泌.carteololeyedrops,timololeyedrops,keratoplasty,cornealepithelium,tearsecretion.114あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(114)試験実施に先立ち,東京歯科大学市川総合病院倫理委員会,および両国眼科クリニック治験審査委員会において,試験の倫理的および科学的妥当性が審査され承認を得た.すべての被験者に対して試験開始前に試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し理解を得たうえで,文書による同意を取得した.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い実施された.0.5%チモロール(チモプトールR,参天製薬,万有製薬)と2%カルテオロール(ミケランR,大塚製薬)のいずれかを封筒法にて無作為に割り付け1日2回の点眼を開始し,検査は表1のスケジュールに従い行った.眼圧測定は非接触型眼圧計を用いた.生体染色は1%フルオレセイン2μlを結膜?に滴下し,角膜の染色状態をAD分類6)(表2)にて評価し,AxDの値を評価対象とした.Schirmerテストは麻酔なしで5分間施行した.角膜知覚はCochetBonnet角膜知覚計にて角膜中央部を測定し,換算表にてg/mm2に換算し比較した.4週間の観察期間を終了した13名(男性9名,女性4名,平均年齢45.1±22.8)について解析を行った.内訳を表3に示す.結果は平均値(±標準偏差)で表した.統計学的検定は,眼圧のグループ内の比較にはStudent’spairedt-test,投与前後の変化量のグループ間比較にはStudent’st-test,フルオレセイン染色スコアのグループ内比較にはWilcoxon’ssigned-rankstest,投与前後の変化量のグループ間比較にはWilcoxon’sranksumtestを用いた.Schirmerテスト,角膜知覚のグループ内比較にはStudent’spairedt-test,グループ間比較にはStudent’st-testを用いた.II結果眼圧はカルテオロール群では22.8±3.0mmHg(投与前),19.0±2.4mmHg(1週後),18.4±3.1mmHg(2週後),21.6±2.4mmHg(4週後)と投与1週後と2週後において有意な低下を示した(p=0.0090,p=0.0090).チモロール群では26.0±5.2mmHg(投与前),18.8±3.0mmHg(1週後),18.9±3.6mmHg(2週後),19.3±5.9mmHg(4週後)とどの時点においても有意に低下した(p=0.0004,p=0.0008,p=012投与期間(週)眼圧(mmHg)4*******4035302520151050:カルテオロール:チモロール図1治療前後の眼圧の変化チモロール群では投与前と比較しどの時点においても有意に低下した(*:p<0.01,**:p<0.001).カルテオロール群では投与1週後と2週後に有意な低下を示した(*:p<0.01).両群間に差はみられなかった.表4涙液検査,角膜知覚検査点眼開始前4週後p値Schirmerテスト(mm/5分)カルテオロール7.2(6.4)4.0(4.0)0.26チモロール9.9(8.7)12.1(10.9)0.44角膜知覚(g/mm2)カルテオロール2.6(4.3)1.9(1.3)0.70チモロール4.7(6.9)2.4(3.2)0.46平均値(標準偏差)表1検査スケジュール開始前1週2週4週眼圧○○○○Schirmerテスト○○フルオレセイン染色○○○○角膜知覚○○表2AD分類(点状表層角膜症の重症度分類)Area:病変が及んでいる範囲Density:点状染色の密度A0:点状染色がない(正常)D0:点状染色がない(正常)A1:角膜全体の面積の1/3未満に点状のフルオレセイン染色を認めるD1:疎(点状のフルオレセイン染色が離れている)A2:角膜全体の面積の1/3?2/3に点状のフルオレセイン染色を認めるD2:中間(D1とD3の中間)A3:角膜全体の面積の2/3以上に点状のフルオレセイン染色を認めるD3:密(点状のフルオレセイン染色のほとんどが隣接している)表3症例内訳カルテオロール(n=5)チモロール(n=8)平均年齢(標準偏差)36.2(11.5)50.1(26.9)性別(男性:女性)5:04:4原疾患円錐角膜53水疱性角膜症05(115)あたらしい眼科Vol.29,No.1,20121150.0084).両群間に差は認められなかった(図1).Schirmerテスト,角膜知覚検査はそれぞれの治療群において治療前後で差を認めず,また投与4週後において両治療群間に差を認めなかった(表4).Schirmerテストの4週後における変化量も両治療群間に差を認めなかった.フルオレセインスコアはカルテオロール群では0.60±0.55(投与前),0.80±0.84(1週後),0.60±0.55(2週後),0.40±0.55(4週後)と変化を認めなかった.チモロール群では0.25±0.46(投与前),1.00±0.53(1週後),1.13±0.99(2週後),1.38±1.30(4週後)と増加傾向がみられ,投与4週後に投与前後でのスコアの変化量はチモロール群はカルテオロール群と比較して有意に大きかった(p=0.039)(図2).円錐角膜の症例だけを抜き出し角膜染色スコアを比較すると,カルテオロール群(n=5)で投与前0.60±0.55,投与4週後0.40±0.55,チモロール群(n=3)で投与前0.33±0.58,投与4週後1.67±0.58となり,4週の時点でチモロール群のスコア変化量はカルテオロール群と比較して大きかった(p=0.017).III考察これまでbブロッカー点眼を使用すると,角膜知覚が低下することにより瞬目回数の減少と涙液分泌減少が生じ,その結果角膜上皮障害が起きると考えられてきた1,3).今回の報告では角膜知覚,涙液分泌量は両群とも投与前後で変化していないにもかかわらず,投与前後の角膜染色スコアの変化量を比較するとチモロール群はカルテオロール群より増加していた.筆者らは以前に,bブロッカーそのものではなく添加されている防腐剤が角膜上皮障害に影響している可能性を報告した7)が,その報告でも角膜知覚・涙液分泌量に投与前後,治療群間で差を認めなかった.点眼による角膜上皮障害の成因には角膜知覚および涙液分泌の低下は必須条件ではないといえる.ただし,今回は全例が角膜移植後であり,bブロッカー点眼開始前より角膜知覚が低下している症例もあったため,知覚低下に関しては変化をとらえるのがむずかしかった可能性はある.今回使用したカルテオロール,チモロール点眼は同じ防腐剤,塩化ベンザルコニウムを含有している.防腐剤が角結膜上皮に悪影響を与えるメカニズムは,界面活性作用による細胞膜障害,上皮細胞の増殖阻害,上皮の創傷治癒阻害などがあり,塩化ベンザルコニウムによる培養結膜上皮障害は,スーパーオキサイドによる可能性が報告8)されている.一方,カルテオロールにはラジカルスカベンジャーとして紫外線による角膜上皮障害を抑制する効果があるという報告9)があり,防腐剤による障害をカルテオロールそのものが抑制する可能性も考えられる.今回封筒法にて割り付けを行ったにもかかわらずチモロール群にのみ水疱性角膜症が含まれ,原疾患に偏りが出てしまっている.水疱性角膜症は角膜移植後に遷延性上皮欠損がみられることがあり,これは角膜輪部に結膜が侵入し輪部機能不全が起きるためと考えられている10).水疱性角膜症の角膜移植後は上皮が不安定であり,そこにbブロッカーを点眼すると角膜上皮障害がより出やすくなる可能性がある.移植後の角膜上皮障害は高齢者で出やすいという報告11)もあるが,今回有意差はないもののチモロール群に高齢患者が多く含まれている.そのためにチモロール群の染色スコアが高くなっていることも考えられる.そこで円錐角膜の症例だけを抜き出し角膜染色スコアを比較すると,4週の時点でチモロール群のスコア変化量はカルテオロール群と比較して有意に大きかった.今回の報告では角膜移植後の角膜知覚が低下している状態にカルテオロール点眼を使用しても,角膜上皮障害を起こしにくかった.眼圧下降に関してカルテオロール点眼群には効果が不十分な症例がみられ,今後長期処方による眼圧下降効果,また角膜上皮への影響を調べるには,原疾患を揃え症例を増やしての検討が必要と考えられる.角膜移植の術式は内皮移植など現在多岐にわたる.抗緑内障点眼薬も種類が豊富となり,bブロッカー点眼には徐放型という選択肢も出てきている今,角膜移植術後の眼圧上昇に対する治療に関しては研究デザインも検討の余地があると思われ,今回の結果を踏まえて今後の課題としたい.文献1)WeissmanSS,AsbellPA:Effectoftopicaltimolol(0.5%)andbetaxolol(0.5%)oncornealsensitivity.BrJOphthalmol74:409-412,19902)WilsonFM:Adverseexternaloculareffectsoftopicalophthalmicmedications.SurvOphthalmol24:57-88,1979図2治療前後のフルオレセインスコアの変化投与前後でのスコアの変化量を両群間で比較すると,投与4週後に有意差を認めた(#p=0.039).0124#投与期間(週)フルオレセインスコア(areaxdensity)3210-1:カルテオロール:チモロール116あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(116)3)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19924)ShimazakiJ,HanadaK,YagiYetal:Changesinocularsurfacecausedbyantiglaucomatouseyedrops:prospective,randomizedstudyforthecomparisonof0.5%timololu0.12%unoprostone.BrJOphthalmol84:1250-1254,20005)InoueK,OkugawaK,KatoSetal:Ocularfactorsrelevanttoanti-glaucomatouseyedrop-relatedkeratoepitheliopathy.JGlaucoma12:480-485,20036)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19947)石岡みさき,島﨑潤,八木幸子ほか:チモロール点眼の防腐剤有無による眼表面と涙液機能への影響.あたらしい眼科28:559-562,20118)DebbaschC,BrignoleF,PisellaPJetal:Quaternaryammoniumsandotherpreservatives’contributioninoxidativestressandapoptosisonChangconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci42:642-652,20019)TanitoM,TakanashiT,KaidzuSetal:CytoprotectiveeffectofrebamipideandcarteololhydrochlorideagainstultravioletB-inducedcornealdamageinmice.InvestOphthalmolVisSci44:2980-2985,200310)UchinoY,GotoE,TakanoYetal:Long-standingbullouskeratopathyisassociatedwithperipheralconjunctivalizationandlimbaldeficiency.Ophthalmology113:1098-1101,200611)FeizV,MannisMJ,KandavelGetal:Surfacekeratopathyafterpenetratingkeratoplasty.TramsAmOphthalmolSoc99:159-170,2001***