《原著》あたらしい眼科32(12):1773.1776,2015c公立八女総合病院における涙道内視鏡併用チューブ挿入術の治療成績石橋弘基*1鶴丸修士*1野田佳宏*2山川良治*3*1公立八女総合病院*2大分大学医学部付属病院眼科*3久留米大学医学部眼科学講座OutcomeofIntubationUsingLacrimalEndoscopeatYameGeneralHospitalKokiIshibashi1),NaoshiTsurumaru1),YoshihiroNoda2)andRyojiYamakawa3)1)Ophthalmology,YameGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine公立八女総合病院で施行した涙道内視鏡併用チューブ挿入術を内視鏡所見に基づいて分類しretrospectiveに治療成績を検討した.対象は2010年4月.2012年7月に当院において涙道内視鏡併用チューブ挿入術を施行し,3カ月以上経過観察可能であった涙道閉塞症の133例161側(男性26例34側,女性107例127側).閉塞部位は涙点閉塞7側,涙小管閉塞24側,総涙小管閉塞28側,涙.部閉塞4側,鼻涙管全長閉塞64側,鼻涙管部分閉塞48側であった.チューブ留置期間は2.3カ月で,術後通水にて通水ないもの,通水ありでも膿・粘稠な液体の逆流があれば死亡と定義し,Kaplan-Meier法にて生存率を検討した.チューブ抜去後の生存率は平均観察期間309日で,涙点・総涙小管・涙.部閉塞は100%,涙小管閉塞は69.2%であった.鼻涙管全長閉塞と鼻涙管部分閉塞の生存率の比較では,前者30.5%に対し後者は89.9%で,鼻涙管全長閉塞の生存率が有意(p<0.001)に低かった.鼻涙管全長閉塞においては,チューブ挿入術は限界があると考えられた.Thisstudyinvolved161eyesof133patientswithlacrimalpassageobstructionwhounderwentintubationusinglacrimalendoscopebetweenApril2010andJuly2012,andwerefollowedupforatleast3months.Obstructionsincludedlacrimalpunctalobstruction(7sites),canalicularobstruction(24sites),commoncanalicularobstruction(28sites),lacrimalsacobstruction(4sites),generalizednasolacrimalductobstruction(NLDO)(64sites),andfocalNLDO(48sites).Somecaseshadmultipleobstructions.Thetubewasplacedfor2#3months.SuccessrateswereevaluatedusingKaplan-Meiersurvivalanalysis.Successwasdefinedaspatencyoflacrimalpassagetoirrigation.Failurewasdefinedasabsenceofpatencyorpresenceofmucopurulentdischargeincaseswithpatency.Successrateat309daysaftertuberemovalwas100%ineyeswithlacrimalpunctalobstruction,commoncanalicularobstructionorlacrimalsacobstruction,and69.2%ineyeswithcanalicularobstruction.TherewassignificantdifferenceinsuccessratebetweeneyeswithgeneralizedNLDO(30.5%)andeyeswithfocalNLDO(89.9%)(p<0.001).GeneralizedNLDOhaslimitationsregardingindicationforintubation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(12):1773.1776,2015〕Keywords:涙道閉塞症,チューブ挿入術,涙道内視鏡,鼻涙管部分閉塞,鼻涙管全長閉塞.lacrimalpassageobstruction,intubation,lacrimalendoscope,focalnasolacrimalductobstruction,generalizednasolacrimalductobstruction.はじめに涙道閉塞症に対する治療は,おもに涙管チューブ挿入術(nasolacrimalductintubation:NLDI)と涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhynostomy:DCR)の2つに大別される.NLDIは,以前は盲目的に施行されていたが,近年,涙道内視鏡を併用することで,仮道形成が減少することが証明され,より安全に施行できるようになった1).また,内視鏡直接穿破法(directendoscopicprobing:DEP)2),シース誘導内視鏡穿破法(sheath-guidedendoscopicprobing:SEP)3),シース誘導チューブ挿入術〔別刷請求先〕石橋弘基:〒830-0011福岡県久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KokiIshibashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume,Fukuoka830-0011,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(141)1773(sheath-guidedintubation:SGI)4)などさまざまな手技が登場し,涙管チューブ挿入術の治療成績は改善されてきている.しかし,手術治療の選択は,医師の裁量に任されているのが現実で,どのような症例に対して涙管チューブ挿入を選択するのか,あるいはDCRを選択するのかの明確な基準はない.今回筆者らは,当院で施行したNLDIを内視鏡所見に基づいて分類し,retrospectiveにその治療成績を検討したので報告する.I対象および方法1.対象2010年4月.2012年7月に公立八女総合病院において,NLDIを施行し,3カ月以上経過観察可能であった涙道閉塞症の133例161側〔男性26例34側,女性107例127側,平均年齢72.3歳(34.91歳)〕を対象とした.抗癌剤(TS-1)による涙道閉塞,通水はあるが流涙のあるいわゆる機能性涙道閉塞は除外した.術者はすべて同一術者である.また,NLDIを試みたが,チューブ留置に至らなかったものは含んでいない.2.方法a.手術方法麻酔として点眼用4%塩酸リドカインを涙点から注入する,もしくは2%塩酸リドカインにて滑車下神経ブロックを施行した.涙道内視鏡を涙点より挿入し,閉塞部位を確認し,閉塞部位を内視鏡で直接穿破(DEP)した.チューブの挿入は原則的に涙道内視鏡を併用し,SGIでチューブを挿入した.施行できない症例では,盲目的にチューブ挿入を行ったのち,チューブが正常開口部より留置されているか硬性鼻内視鏡(KarlStorz社7219BA,視野角30°)にて確認した.術後は抗菌薬点眼(レボフロキサシンまたはガチフロキサシン)とステロイド薬点眼(0.1%フルオロメトロン点眼)を1日4回とし,チューブ留置期間は2.3カ月とした.b.術後評価方法,閉塞の定義術後評価は,通水あり・なしで評価し,通水ありでも膿,粘稠な液体の逆流があれば死亡と定義し,Kaplan-Meier法にて生存率を検討(SAS社JMPver8.0)した.涙小管閉塞の重症度を,矢部はGrade1:ブジーが涙点から10mm以上入る.Grade2:ブジーが5mm以上は余裕で入る.Grade3:ブジーを無理に押込んでも5mm以下しか入らないと分類しているが,今回はブジーが5mm以上入るような矢部分類にてGrade2までの閉塞を対象とした5).涙道閉塞症の分類は,内視鏡所見に基づき以下のように行った.部位別では,涙点閉塞,涙小管閉塞,総涙小管閉塞,涙.部閉塞,鼻涙管閉塞とした.鼻涙管閉塞は2パターンに分類した.涙.直下から鼻涙管開口部まですべて閉塞している1774あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015ものを鼻涙管全長閉塞,鼻涙管の一部分が閉塞しているものを鼻涙管部分閉塞とした.また,涙点から鼻涙管の1カ所のみの閉塞を単独閉塞,複数箇所の閉塞を重複閉塞とした.II結果涙道内視鏡所見からの閉塞部位は,涙点閉塞7側,涙小管閉塞24側,総涙小管閉塞28側,涙.部閉塞4側,鼻涙管全長閉塞64側,鼻涙管部分閉塞48側であった.また,単独閉塞は140側,重複閉塞は21側であった.生存率は,涙点閉塞・総涙小管閉塞・涙.部閉塞は再発を認めず生存率100%であった(図1).涙小管閉塞の生存率は術後982日で69.2%であった(図1).鼻涙管全長閉塞は術後817日で30.5%,部分閉塞は術後982日で89.9%と全長閉塞が有意に生存率が悪かった(図2).単独閉塞の生存率は術後982日で64.4%,重複閉塞は術後696日で68.7%であり有意差は認めなかった(図3).III考按涙道内視鏡を用いることで,涙道閉塞症の治療のバリエーションは近年広がった.しかし,冒頭にも述べたように,現在手術治療は医師の裁量による面が大きい.涙道内視鏡併用チューブ挿入術は,手技に精通すると,外来において非常に短時間で,しかも低侵襲に施行することができる6).しかし,その反面,チューブ抜去以降は再閉塞のリスクがあり,その時点で治療のスタートに戻ってしまう.鶴丸ら7)は,鼻涙管全長閉塞の症例に対しNLDIを施行した場合,375日での生存率が18.0%と著明に悪いことを報告している.早期に治癒を望む患者や,また再閉塞の可能性が高い症例に対して最初から涙道内視鏡併用チューブ挿入術を施行することは,問題があると思われる.また,涙道内視鏡は現在,DEP,SEP,SGIなどに代表されるように,治療の器具として認知されている.しかし,本来,涙道内視鏡は検査のための器具でもあり,内視鏡を用いて閉塞の所見を詳細に分析し,チューブ治療効果を検討することは非常に重要と考え,今回の検討を行った.今回の検討では,その内視鏡所見に基づく分類で,涙点,総涙小管,涙.部の閉塞の症例では,チューブ治療成功率が100%であったことから,このような症例にはNLDIは非常に良い適応となる可能性がある.しかし,鼻涙管閉塞に対して,閉塞を2パターンに分類し生存率を比較すると,鼻涙管部分閉塞は術後982日目で89.9%であり,術後817日で鼻涙管全長閉塞では30.5%と全長閉塞では悪い結果であった.この生存率をどうみるかは,判断が異なる面もあるが,DCRの成績は,従来90%を超える高い成功率の報告が多いことから,第一選択の治療とするには不十分である感は否めない8.12).杉本ら13)の報告で(142)は,涙小管閉塞を認めない鼻涙管閉塞症単独における,DEP+SGIでのチューブ抜去後365日の生存率は87%であり3,000日では64%であった.今回の報告では鼻涙管部分閉塞の生存率89.9%は杉本らの報告と遜色ない結果であるが,全長閉塞の30.5%は低い結果であった.McCormickら14)は,DCRで摘出した組織をもとに,初期の炎症性変化図1涙点・涙小管・総涙小管・涙.部閉塞・鼻涙管閉塞の生存率涙点閉塞・総涙小管閉塞・涙.部閉塞は再発認めず生存率100%で,涙小管閉塞の生存率は術後982日で69.2%,鼻涙管全長閉塞は術後817日で30.5%,部分閉塞は術後982日で89.9チューブ抜去後からの日数20生存率(%)4060801000100200300500070090069.2%100%涙点閉塞(n=7),総涙小管閉塞(n=28),涙.部閉塞(n=4)涙小管閉塞(n=14)400600800鼻涙管部分閉塞(n=48)鼻涙管全長閉塞(n=64)30.5%89.9%図2鼻涙管全長閉塞と部分閉塞の生存率鼻涙管全長閉塞は術後817日で30.5%,部分閉塞は術後982日で89.9%で,有意差がある.チューブ抜去後からの日数Wilcoxon検定p値<0.001生存率(%)全長閉塞(n=64)部分閉塞(n=48)204060801000100200300500070090030.5%89.9%400600800チューブ抜去後からの日数20生存率(%)40608010001002003005000700900単独閉塞(n=140)重複閉塞(n=21)68.7%64.6%400600800チューブ抜去後からの日数20生存率(%)4060801000100200300500070090069.2%100%涙点閉塞(n=7),総涙小管閉塞(n=28),涙.部閉塞(n=4)涙小管閉塞(n=14)400600800鼻涙管部分閉塞(n=48)鼻涙管全長閉塞(n=64)30.5%89.9%図2鼻涙管全長閉塞と部分閉塞の生存率鼻涙管全長閉塞は術後817日で30.5%,部分閉塞は術後982日で89.9%で,有意差がある.チューブ抜去後からの日数Wilcoxon検定p値<0.001生存率(%)全長閉塞(n=64)部分閉塞(n=48)204060801000100200300500070090030.5%89.9%400600800チューブ抜去後からの日数20生存率(%)40608010001002003005000700900単独閉塞(n=140)重複閉塞(n=21)68.7%64.6%400600800%.がみられる時期をearlyphase,晩期の線維化の進行した時期をlatephase,両者の混在するものをintermediatephaseと報告しており,これをもとに鈴木ら15)は,推定罹病期間を1年未満:stage1,2.3年未満:stage2,3年以上:stage3と分類し,各stageでの生存期間を検討している.それによると,stage3ではチューブ抜去後1,200日で20%以下となっており,stage1,2と比較して有意に生存率が低いと報告している.今回の当科の結果は,閉塞の部位による,もしくは閉塞のパターンで生存率を評価しているため,一概に結果を比較することはできない.当院は紹介型の病院であり,病悩期間3年以上の患者が多く,長期間の閉塞のため,病態がより重症になっている可能性がある.また,紹介前の加療として盲目的ブジーなどの侵襲が経過中に加わっている症例もあり,仮道をいったん形成し,瘢痕治癒を起こすことでさらに強固な閉塞となることが,治療効果に影響している可能性も考えられる.今回,複数箇所閉塞している重複閉塞と単独閉塞に関しても検討した.予想では,重複閉塞のほうが単純閉塞より,より重症で悪い結果になると思われたが,結果は単独閉塞の生存率は術後982日で64.4%,重複閉塞は術後696日で68.7%と同等の結果であった.杉本ら13)は涙小管合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独の術後3,000日の生存率を比較し,涙小管合併鼻涙管閉塞90%,鼻涙管閉塞症単独64%と,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症の生存率がよかったと報告してい(143)図3単独閉塞と重複閉塞の生存率単独閉塞の生存率は術後982日で64.4%,重複閉塞は術後696日で68.7%,有意差はなかった.る.その理由として,複数箇所の閉塞は涙小管閉塞など上流の閉塞により下流に涙液が流れなくなることによる鼻涙管内腔の虚脱に伴う閉塞であり,炎症関与の少ない可能性があるとしている.今回の重複閉塞の症例にも同様の機序に伴う症例が含まれていると考えられ,複数箇所の閉塞,つまり重複閉塞の症例が必ずしも重症ではないことが,今回の重複閉塞と単独閉塞の生存率が同等の結果であったことに関与している可能性がある.ただし,今回は,単に2カ所以上の閉塞部位を認めたもので検討しており,どの部位が複数箇所閉塞しているかは検討していない.今後,さらなる詳細な検討が必要である.現在のところ,涙道閉塞症において,NLDIにするのかDCRにするのか明確な術前基準はない.今回の報告は単一術者のデータであり,今回の報告のみで涙道閉塞の治療適応を閉塞所見によって決定するのは検討不足な面もあると思われる.しかし,今回の検討では,鼻涙管閉塞症のなかでも,鼻涙管部分閉塞は89.9%という生存率の高さからもNLDIのよい適応であると考えられるが,時間の経過した鼻涙管全長閉塞においては限界があり,その場合はDCRを第一選択にするという選択肢もあってよいのではないかと考えられた.あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151775文献1)藤井一弘,井上康,杉本学ほか:シリコンチューブ挿入術による仮道形成とその対策.臨眼59:635-637,20052)鈴木亨:内視鏡を用いた新しい涙道手術(涙道内視鏡手術).眼科手術16:485-491,20033)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20074)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,20085)矢部比呂夫:涙小管閉塞の分類と術式選択.臨眼50:1716-1717,19966)藤井一弘,井上康,杉本学ほか:鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡併用シリコーンチューブ留置術の成績.臨眼58:731-733,20047)鶴丸修士,野田理恵,山川良治:鼻涙管完全閉塞に対するチューブ挿入術の検討.臨眼66:1175-1179,20128)TsirbasA,WormaldPJ:Mechanicalendonasaldacryocystorhinostomywithmucosalflaps.BrJOphthalmol87:43-47,20039)CodereF,DentonP,CoronaJ:Endonasaldacryocystorhinostomy:amodifiedtechniquewithpreservationofthenasalandlacrimalmucosa.OphthalPlastReconstrSurg26:161-164,201010)松山浩子,宮崎千歌:涙.鼻腔吻合術鼻内法の手術成績.眼科手術24:495-498,201111)鈴木亨:涙.鼻腔吻合術鼻内法における最近の術式とラーニングカーブ.眼科手術24:167-175,201112)SerinD,AlagozG,Karslo.luSetal:Externaldacryocystorhinostomy:Double-flapanastomosisorexcisionoftheposteriorflaps?OphthalPlastReconstrSurg23:28-31,200713)杉本学,井上康:鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡下チューブ挿入術の長期成績.あたらしい眼科27:12911294,201014)McCormickSA,LinbergJV:Pathologyofnasolacrimalductobstruction.Clinicopathlogiccorrelatesoflacrimalexcretory.LacrimalSurgery(LinbergJVed),p169-202,ChurchillLivingstone,NewYork,198815)鈴木亨,野田佳宏:鼻涙管閉塞症のシリコンチューブ留置術の手術時期.眼科手術20:305-309,2007***1776あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(144)