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小児緑内障に対する緑内障インプラントチューブが眼内レンズ後方へ亜脱臼した1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):992.996,2024c小児緑内障に対する緑内障インプラントチューブが眼内レンズ後方へ亜脱臼した1例元村恵理*1,2松下賢治*2岡崎智之*2藤野貴啓*2河嶋瑠美*2臼井審一*2西田幸二*2*1大阪鉄道病院眼科*2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)CACaseofChildhoodGlaucomawithSubluxationoftheGlaucomaImplantTubePosteriortotheIntraocularLensEriMotomura1,2),KenjiMatsushita2),TomoyukiOkazaki2),TakahiroFujino2),RumiKawashima2),ShinichiUsui2)CandKohjiNishida2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaGeneralHospitalofWestJapanRailwayCompany,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityHospitalC目的:小児の眼球は年齢とともに成長するため,チューブの位置に関する合併症は成人より多い.今回,小児緑内障眼に挿入したインプラントチューブ先端が眼内レンズ(IOL)後方へ亜脱臼した症例に対して,チューブ整復術を施行したC1例を経験したので報告する.症例:症例はC3歳,男児.両眼の原発先天緑内障に対してCBaerveldt緑内障インプラントを前房に挿入し,眼圧は安定していた.左眼の白内障進行により施行した水晶体再建術の際に,角膜内皮細胞保護目的にチューブ位置を毛様溝に変更した.術後C1カ月で左眼眼圧がC33CmmHgに上昇し,チューブ亜脱臼が疑われチューブ整復の方針となった.全身麻酔下で左眼眼圧はC40CmmHg.広画角デジタル眼撮影装置(RetCam)の観察にてIOL支持部付近にチューブ先端が亜脱臼し接触していた.再発予防にはチューブ挿入長の延長が必要で,迂回挿入していたチューブを同部位に直線挿入した.術後C5カ月現在はC20CmmHg以下で安定.チューブ位置も安定し,術後経過良好である.拷按:本症例は小児緑内障に伴う牛眼発症例であり,インプラントを固定している強角膜が拡張している一方,IOLを固定する水晶体.がほぼ成長しておらず,ギャップが生じたためにチューブ先端の亜脱臼が生じたと考えられる.小児のインプラント手術では,成長を考慮してチューブ長を決定することが重要である.CPurpose:Complicationsarisingfromglaucomaimplanttubemisplacementaremorefrequentinchildrenthaninadultsduetothegrowthoftheeyeballovertime.Wereportacasewhereachildhoodglaucomapatientexperi-enceddisplacementoftheglaucomaimplanttubebehindtheintraocularlens(IOL),whichwassubsequentlyrepo-sitioned.CCase:AC3-year-oldCboyCwithCbilateralCglaucomaChadCstableCintraocularpressure(IOP)inCbothCeyesCfol-lowingtheinsertionofaBaerveldtglaucomaimplantintotheanteriorchamber.WhileperformingcataractsurgeryinCtheCboy’sCleftCeye,CtheCimplantedCtubeCwasCrepositionedCtoCbetterCprotectCcornealCendothelialCcells.CAtC1-monthCpostoperative,CIOPCinCtheCleftCeyeCincreasedCtoC33CmmHg,CthusCindicatingCpossibleCtubeCdislocation.CExaminationCundergeneralanesthesiarevealedanIOPof40CmmHginthelefteye.Usingawide-angledigitalophthalmoscope(RetCamR;NatusMedical),thetipofthetubewasfoundtobedislocatedbehindtheIOL,touchingtheIOLhap-tics.Toavoidfuturedislocations,thesurgeonincreasedthetube’slengthandaligneditstraight,insteadofrerout-ing.For5monthsafterthat,thepatient’sIOPhasremainedstableatbelow20CmmHg,withcorrectpositioningoftheCtubeCaboveCtheCIOLCandCaCfavorableCpostoperativeCcourse.CConclusions:ThisCcaseChighlightsCbuphthalmosCinCchildhoodCglaucoma.CWeChypothesizeCthatCtheCdisparityCinCgrowthCbetweenCtheCimplant-anchoringCscleralCcorneaCandthenon-growingIOL-anchoringlenscapsulecausedthetubedisplacement.It’scrucialtoconsiderfutureocu-largrowthwhendeterminingthelengthoftheimplanttubeinchildhoodglaucomasurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):992.996,C2024〕〔別刷請求先〕松下賢治:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)Reprintrequests:KenjiMatsushita,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-2Yamadaoka,Suita,Osaka565-0871,JAPANC992(120)Keywords:原発先天緑内障,チューブ亜脱臼,チューブ整復,バルベルト緑内障インプラント.primarycongeni-talglaucoma,tubedislocation,tuberepair,Baerveldtglaucomaimplant.Cはじめに原発先天緑内障とは,強度の隅角形成異常による出生時または生後早期からの高眼圧で牛眼など眼球拡大を生じるものをいう1).原発先天緑内障の治療の第一選択は手術治療である.その理由は本症発症の原因が隅角の発育異常であり,多くは手術によって改善可能であること,乳幼児では薬物治療の実施ならびにその効果の確認が困難であることによる2).プレートのあるチューブシャント手術は,代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった患者,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な患者,線維柱帯切除術の成功が見込めない症例,他の濾過手術が技術的に施行困難な患者が適応となる3).原発先天緑内障に対しては,海外では通常の濾過手術が無効な場合に用いられているがわが国では確立した基準がない2).小児の眼球は年齢とともに成長するため,チューブ位置に関する合併症は成人より多いとの報告がある4).表1手術歴X-3年C4月両眼トラベクロトミー施行X-3年C6月両眼トラベクロトミー施行X-3年C9月両眼トラベクロトミー,トラベクレクトミー施行X-2年C2月両眼バルベルトインプラント挿入術施行(前房挿入)X-2年C3月両眼バルベルトインプラント挿入術施行(前房挿入)X年C3月左眼水晶体再建術,チューブ再建術(毛様溝再挿入),強膜移植術施行a合併症としてはチューブの位置異常,移動,後退,露出,眼内炎があげられ,チューブの前方移動によるチューブと角膜の接触は成人よりも小児に多くみられ,両眼性で,しばしば報告されている4).しかし,チューブの亜脱臼の報告はなく,非常に珍しいと考える.今回,小児緑内障患者のCBaerveldt緑内障インプラントチューブ亜脱臼に伴う高眼圧に対してチューブ整復を行い,回復したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:3歳C2カ月,男児.主訴:左眼の眼圧上昇.既往歴:特記事項なし.家族歴:双子の兄が原発先天緑内障.現病歴:生後C10日で発症した原発先天緑内障に対して当院で手術を複数回施行ののち患者のCBaerveldt緑内障インプラントを前房挿入した.約C2年間は眼圧が安定していたものの,左眼の白内障の進行を認めたためCX年C3月に水晶体再建術およびチューブ再建術(前房から毛様溝挿入に変更)を表2角膜径X-3年4月右眼縦10.5mm横11.5mm,左眼縦11.0mm横11.0mmX年5月右眼縦13mm横12.5mm,左眼縦13.5mm横13.5mmbIOLパプティクスチューブ図1全身麻酔下での検査所見(左眼)角膜混濁がありややわかりにくいが,IOLハプティクスの下にチューブが亜脱臼していることが確認できる.aは実際の写真,bは図で位置関係を示す.ab図2手術時の画像a:チューブを露出させた状態.この時点ではチューブが亜脱臼している.Cb:チューブが直線になる位置で輪部からC2Cmmの位置を計測.Cc:対側のサイドポートより池田式鑷子を用いてチューブを毛様溝に挿入.施行した(術式は詳細後述).術後C1週間は2.4CmmHgと低眼圧が続いていたがその後眼圧がC50CmmHgに上昇し,改善しないため眼内レンズ(intraocularlens:IOL)後方へのチューブ亜脱臼を疑い,PEA+IOL術後2週間のX年3月下旬にC1回目のチューブ再建術を施行した.施行後の眼圧は20CmmHg前後で安定していたもののC4月来院時に左眼眼圧33CmmHgと高値で,再度チューブ先端のCIOL後方への亜脱臼が疑われたため,5月にC2回目の左眼チューブ再建術を施行する方針となった.水晶体再建術直後のCIOL.内固定が不十分な期間に,低眼圧による浅前房が生じたことが亜脱臼の原因と考えられた.全身麻酔下検査所見:右眼の平均眼圧はC20CmmHg,左眼の平均眼圧はC38CmmHg,右眼の角膜径は縦C13Cmm,横C12.5mm,左眼の角膜径は縦C13.5mm,横C13.5Cmmであった.左眼は眼圧高値のため角膜混濁を認めた.広画角デジタル眼撮影装置(RetCam)を用いてCIOL支持部(IOLハプティクス)にチューブ先端が接触していることを確認した(図1).手術術式:眼内の観察条件を改善するため,全身麻酔により眼圧が下がり,角膜混濁が軽快するのを待ってから手術を開始した.角膜牽引糸を設置し結膜と強膜パッチを強膜から.離して瘢痕組織を除去しチューブを露出した(図2a).もともと屈曲させて設置していたチューブを直線的に伸ばし(図2b),角膜輪部からC2Cmmの位置に新たに挿入口をC23CG針にて作製し,チューブを前房内に挿入し,180°対側に作製したサイドポートから眼粘弾剤ヒーロンを注入したのち,池田式前.鑷子を挿入し,前房内のC23CG針をガイドとして池田式前.鑷子を毛様溝から眼外へ出し,チューブ先端を把持して毛様溝へ挿入した(図2c).術中,チューブが虹彩とCIOLの間にあることを,つまりチューブの後方偏位がないことを確認し,10-0バイクリル糸で強膜パッチを再移植し,結膜縫合とデキサメタゾン結膜下注射にて終了した.術後経過:眼圧上昇に対して,3歳C1カ月ごろにブリモニジンを追加して,術前はリパスジル,ラタノプロスト,コソプト,ブリモニジンのC4剤を点眼していたが術直後は点眼なしで経過をみた.チューブ再建術直後の眼圧はC10mmHg台後半で安定していたが,その後軽度上昇を認めたためリパスジル,ラタノプロストを順に追加した.その後も眼圧がやや高めの時期が続いたものの可能な限り点眼数を増やさずに経過をみていた.しかし,その後もC20CmmHg台後半の眼圧が続いたためドルゾラミド・チモロールマレイン酸配合液を追加した.最終手術からC5カ月現在の眼圧はC10mmHg台後半.20CmmHg台前半で安定しており経過は良好である(図3).手持ち式細隙灯顕微鏡でもチューブ先端位置を確認できている.CII考按小児緑内障に対するCBaerveldt緑内障インプラント挿入術の合併症として白内障の形成,チューブ閉塞,脱臼,脈絡膜.離があげられる5).また,眼圧上昇のためにチューブ再手術を必要とした小児緑内障の症例の原因としてチューブの後退,チューブの閉塞が報告されている5).本症例は小児緑内障に伴う牛眼発症例であり,インプラントを固定している強角膜が拡張している一方で眼内レンズを固定する水晶体.がほぼ成長しておらず,ギャップが生じたためにチューブ亜脱PEA+IOL後の術後経過60504030201001カ月後3カ月後6カ月後図3左眼の眼圧推移および治療薬PEA+IOL手術日を基準とし,その後C1カ月,3カ月,6カ月の眼圧の推移を示す.同時に,施行した投薬の内容も示す.Aiphagan点眼はC3歳C1カ月から使用.臼を生じたと考えられる.初回のCBaerveldt緑内障インプラCabント挿入時は前房内に挿入していたが,水晶体再建時にチュチューブ虹彩ーブが角膜に接触するリスクを考え角膜内皮保護のために毛様溝にチューブを再挿入した(図4a,b).水晶体.の上にチューブがのっているはずだったが,牛眼の影響で角膜のみ成長し水晶体.は伸びなかったため,そのギャップでチュー虹彩チューブブが亜脱臼したと考えられる(図4c,d).また,初回の前房内挿入時に角膜内皮を傷つけないようにチューブを短めにし水晶体ていたこともチューブ亜脱臼の要因としてあげられる.2歳水晶体.水晶体.IOL児の正常眼球は角膜径が約C10.5Cmm,水晶体径が約C8.0Cmmであるが,成長して大人になると角膜径が約C11.0mm,水晶体径が約C9.0Cmmとなる6.8).しかし,本症例では原発先天緑内障で牛眼となっているため角膜径がC13.5Cmmに伸びているものの水晶体径は元のC8.0Cmmのままであった.隅角構造をC30°C60°90°の直角三角形に見立てて考察する.チューブの長さを輪部から3.5Cmmになるように調整したが,輪部からC1Cmmの位置で前房挿入したので挿入端からのチューブ長はC4.5Cmmあった.今回のチューブ再挿入時にはチューブを毛様溝に挿入し直したので,チューブ挿入端からCIOL=(.3端までの長さは角膜径と水晶体.のギャップの半分と√1.7Cmm)を加えたものになる(図5).つまり,平均的なC2歳児では,(10.5C.8)/2+1.7=2.95Cmm(図5a)で,本症例では,(13.5C.8)/2+1.7=4.45Cmm(図5b),そして成人では,(11C.9)/2+1.7=2.7Cmm(図5c)であるから,チューブ長のあそびがC0.05Cmmしかない本症例では,水晶体再建術後のIOLの.内固定が不十分である時期に浅前房となったことでチューブがCIOL前方から後方に亜脱臼したと考えられる.今回の再挿入では,以前の手術で施したチューブの屈曲分を図4チューブの位置関係のシェーマa:手術前の前房内挿入時,Cb:水晶体再建術施行時の毛様溝挿入,c:浅前房での亜脱臼,d:チューブ先端の後方亜脱臼.直線化してチューブ長をC1Cmm伸ばしたところC5.5Cmmとなり安定した.もともとチューブ位置を変更するあそびを計算して,初回挿入時点でC5.5Cmmとすることもできるが,チューブの眼内距離が長いため,眼内組織への影響を考慮する図5チューブ長の考察隅角構造を30°60°C90°の直角三角形に見立てた図で考察する.Ca:平均的なC2歳時の眼球にチューブを挿入した際のチューブ長の考察.Cb:本症例の眼球にチューブを挿入した際のチューブ長の考察.c:成人の眼球にチューブを挿入した際のチューブ長の考察.と,今回と同様に眼外でチューブの屈曲を残すことであそびを持たせておくことが有用と考えられた.以上から,小児の緑内障インプラント挿入術では,小児眼球の成長を考慮してチューブ長を決定することが重要である.利益相反:元村恵理,利益相反公表基準に該当なし岡崎智之,RII:千寿製薬,興和製薬藤野貴啓,利益相反公表基準に該当なし松下賢治,FI:シード,町田製作所,QDレーザー,FII:アルコン,FIII:AMOJapan,町田製作所,PI:メニコン,CII:マルホ,RII:アルコン,千寿製薬,参天製薬,興和製薬,ヴィアトリス製薬,ノバルティスファーマ,町田製作所,JCR,アルフレッサファーマ河嶋瑠美,FIII:町田製作所,RII:日本アルコン,千寿製薬,大塚製薬,参天製薬,興和製薬,メニコン,ノバルティスファーマ,町田製作所,ジョンソンアンドジョンソン臼井審一,利益相反公表基準に該当なし西田幸二CFIV:HOYA,大塚製薬,参天製薬,メニコン,ロート製薬,レイメイ文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.第C2章緑内障の分類.日眼会誌126:99,C20222)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.第C7章観血的手術.日眼会誌C126:124,C20223)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.第C7章観血的手術.日眼会誌C126:118,C20224)ChenTC,ChenPP,FrancisBAetal:Pediatricglaucomasurgery:ACreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOph-thalmology.OphthalmologyC121:2107-2115,C20145)RolimCdeCMouraCC,CFraser-BellCS,CStoutCACetal:Experi-encewiththeBaerveldtglaucomaimplantinthemanage-mentCofCpediatricCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC139:847-854,C20056)JacobsonCA,CBesirliCCG,CBohnsackCBLCetal:OutcomesCofCBaerveldtCglaucomaCdrainageCdevicesCinCpediatricCeyes.CJGlaucomaC31:468-476,C20227)島袋幹子,前田直之:角膜疾患に対する光学的診断装置.日レ医誌28:20078)馬嶋清如:ヒト水晶体の再生に際して必要な情報─生体眼におけるヒト水晶体の計測値について.日本白内障学会誌C28:36-38,C20169)野村耕治:視器の形態的および機能的発達とその異常あたらしい眼科15:495-1499,C1988***