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Descemet Stripping Automated Endothelial Keratoplasty(DSAEK)におけるDescemet膜剝離用鑷子の有用性についての検討

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):563.567,2017cDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty(DSAEK)におけるDescemet膜.離用鑷子の有用性についての検討脇舛耕一*1,2稗田牧*2山崎俊秀*1稲富勉*2外園千恵*2木下茂*1,3*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学視機能再生外科学*3京都府立医科大学感覚器未来医療学TheE.cacyofDescemetorrhexisForcepsforDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyKoichiWakimasu1,2),OsamuHieda2),ToshihideYamasaki1),TsutomuInatomi2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,3)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine背景:Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)施行時に,Descemet膜.離や角膜内皮面に近い場所での操作を要する場合にアプローチを容易にする形状の鑷子(木下氏デスメ膜.離用鑷子,EyeTechnol-ogy社)を開発し,使用経験を得たので,その結果を報告する.対象および方法:対象は2011年1月.2012年4月に本鑷子を用いずにDSAEKを施行した88眼(未使用群)と,2012年5月.2016年5月に本鑷子を用いてDSAEKを施行した98眼(使用群)である.DSAEK施行時に,前房内灌流下に逆Sinskeyフック(DSAEKPriceHook,モリア社)でDescemet膜に円形の鈍的切開を行い,切開縁からある程度Descemet膜を.離させた後,未使用群ではそのまま逆Sinskeyフックにて,使用群では本鑷子を用いて,それぞれDescemet膜.離の完遂を試みた.Descemet膜.離の完遂率について検討した.結果:未使用群88眼のうち,前房内操作にて.離したDescemet膜片を視認できた症例は83眼であった.そのうち逆Sinskeyフックの使用のみでDescemet膜.離を完遂できた症例は32眼であり,51眼ではレンズ鑷子やマイクロカプセル鑷子の併用により逆Sinskeyフックで.離した部分のDescemet膜片を除去できた.一方,使用群98眼のうち,同様に.離したDescemet膜片が確認できた92眼では,全例でDescemet膜.離を完遂することができた.結論:本鑷子の利用により,Descemet膜を直接把持することで,逆Sinskeyフックでは対応が困難であった症例でのDescemet膜.離も可能であると考えられた.また,角膜内皮面方向での前房内操作が必要な症例においても,本鑷子の有効性が示唆された.Purpose:Toevaluatethee.cacyofusingDescemetorrhexisforcepsforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).MaterialsandMethods:Thisstudyinvolved88consecutiveeyesthatunder-wentDSAEKfromJanuary2011toApril2012withouttheuseofKinoshitaDescemetorrhexisForceps(KDF)(EyeTechnologyInc.),speciallydesignedforcepsinwhichthedirectionandcurveoftheforcepsshaftisangledtowardtheDescemet’smembrane(non-KDFgroup),and98consecutiveeyesthatunderwentDSAEKfromMay2012toMay2016usingtheforceps(KDFgroup).Ineacheye,theDescemet’smembranewasbluntlyincisedinacircularshapeanddissectedfromthecornealstromausingareverseSinskeyhook(DSAEKPriceHook,MoriaInc.).TheDescemetorrhexiswasthencompletedusingthereverseSinskeyhookinthenon-KDFgroupandtheforcepsintheKDFgroup.TheDescemetorrhexiscompletionrateswerethenexamined.Results:Inthenon-KDFgroup,Descemet’s-membranestrippingwascon.rmedin83ofthe88eyes.Ofthose,DescemetorrhexiswascompletedusingthereverseSinskeyhookin32eyes,whereaslensforcepsormicrocapsuleforcepswereneededtoremovethestrippedDescemet’smembranein51eyes.IntheKDFgroup,Descemet’s-membranestrippingwascon.rmedin92ofthe98eyes,andDescemetorrhexiswascompletedusingtheDescemetorrhexisforceps.Conclusions:〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeClinic,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPANIncomparisontousingtheSinskeyhookalone,theKDFDescemetorrhexisforcepswerefoundtobee.ectiveforDescemetorrhexiscompletion,especiallyinthedi.cultcases;theiruseshouldbeconsideredincaseswherethedirectionofsurgeryistowardthecornealendothelium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):563.567,2017〕Keywords:DSAEK,デスメ膜.離,デスメ膜.離用鑷子.DSAEK,Descemetorrhexis,Descemetorrhexisfor-ceps.はじめに2006年にGorovoyが報告したDescemetstrippingauto-matedendothelialkeratoplasty(DSAEK)1)では,ホスト角膜のDescemet膜を.離し,ホスト実質面を露出させてドナーグラフト実質面との接着促進を図る.一般に,Descemet膜.離を行う場合は,DSAEKPriceHooK(Moria社,以下逆Sinskeyフック)を用いることが多い2).しかし,逆Sins-keyフックではDescemet膜の.離が進むと遊離したDes-cemet膜片のコントロールが困難となる.また,.離縁に裂隙が生じ,帯状に残存したDescemet膜片が折り返り重なってホストグラフトの接着不良の原因となることがあり,帯状のDescemet膜片を逆Sinskeyフックのみで除去することがむずかしい症例がある.また,角膜透見不良例では,前房内操作を直接視認できず,Descemet膜.離の状態や.離範囲の把握が困難な場合がある.今回,Descemet膜.離や,角膜内皮面への操作性の改善を図るために,先端の形状を上向きにした鑷子を開発し,使用経験を得たので報告する.I対象および方法今回開発した鑷子は木下氏デスメ膜.離用鑷子(EyeTechnology社,以下,本鑷子)である.シャフト部やハンドル部は前.鑷子と同様であるが,先端形状が前.鑷子ではハンドル部を保持した場合に下向きとなるのに対し,本鑷子では逆方向の上向きとなるように設計されている.このため前房内では角膜内皮面へのアプローチが容易となり,Des-cemet膜や角膜内皮面の沈着物などを把持しやすい構造となっている(図1).対象は2011年1月.2012年4月に本鑷子を使用せずDSAEKを施行した88眼(未使用群)と,2012年5月.2016年5月に本鑷子を使用してDSAEKを施行した98眼(使用群)である.BSSplusを前房内に灌流しながら逆Sins-keyフックを用いてDescemet膜に円形の鈍的切開を行い,切開縁からある程度Descemet膜を.離させた後,未使用群ではそのまま逆Sinskeyフックを用いて,使用群では本鑷子を用いて未.離部分のDescemet膜.離を完遂させた.手術後,手術ビデオにてDescemet膜.離の状態をretrospec-tiveに確認し,両群における,Descemet膜.離の完遂率に図1木下氏デスメ膜.離用鑷子23G(EyeTechnology/M.E.Technica)a:概観.b:先端部のシェーマ.c:先端部の形状.d:池田氏前.鑷子の先端形状.ついて検討した.II結果未使用群のうち,手術中に.離したDescemet膜片が確認できた83眼中,逆Sinskeyフックの使用のみでDescemet膜.離を完遂できた症例は32眼であり,51眼ではレンズ鑷子やマイクロカプセル鑷子の併用により逆Sinskeyフックで.離した部分のDescemet膜片を除去できた.しかし,41眼ではDescemet膜.離縁に裂隙が生じ帯状に残存したDescemet膜を確認できたが,除去できなかった(表1).前房内の透見性が不良であった5眼では,Descemet膜の.離範囲や,逆Sinskeyで.離したDescemet膜片の確認が困難であった.一方使用群では,手術中にDescemet膜の.離片が確認できた92眼では,Descemet膜の.離片や帯状に残存したDescemet膜片を直接把持することにより,全例で除去できた(図2).また,透見不良であった6眼では,部分的に.離したDescemet膜を把持したまま,水晶体前.切開での操作と同様に円周状に動かすことでDescemet膜の.離を完遂し,.離したDescemet膜を一塊として摘出し大きさを確認できた(図3).Descemet膜が帯状に残存した症例数は,使用群に比べ未使用群では有意に多かった(c2検定,p<0.001).また,Descemet膜.離操作時以外に本鑷子の使用が有用であった症例として,グラフトヒンジ部の切離が不完全であったDSAEKドナーグラフトを前房内に挿入した1眼を認めた.本症例ではグラフト挿入後に前房内操作による残存ヒンジ部の切除が必要であったが,本鑷子の使用により残存ヒンジ部を把持することができ,八重式剪刀(イナミ社)による切除が可能であった(図4).III考察DSAEKにおけるDescemet膜.離は,必ずしも全例で同様の結果とはならない.その理由の一つとして,症例ごとにDescemet膜の厚みや強度,角膜実質との接着の強さが異な表1Descemet膜.離の群間比較Descemet膜片視認可能単独使用により完遂他器械併用により完遂帯状に一部残存未使用群(88眼)83321041使用群(98眼)929200Descemet膜片視認困難.離片を摘出確認.離片確認不可505660ることが考えられる.そのため,逆SinskeyフックでDes-cemet膜.離を行う際,周辺側へ.離が広がる症例や,.離したDescemet膜が途中で裂けて帯状に残る症例が認められる.また,もう一つの理由として,症例により角膜の透見性と前房内の視認性が異なることがあげられる.視認性が良好であれば.離されたDescemet膜の挙動や範囲の把握が容易図2裂隙状に残存したDescemet膜片の除去55歳,男性.無水晶体眼水疱性角膜症.最初のDescemet膜.離時にDescemet膜が裂隙状に残存したが,Descemet膜.離用鑷子で裂隙部を把持し除去できた.図3角膜透見困難例でのDescemet膜の除去72歳,男性.緑内障術後水疱性角膜症.高度の角膜浮腫により前房内の透見性が著しく低下した症例で,Descemet膜の視認性も非常に悪い状態であったが,角膜中心部のDescemet膜.離を完遂できた.図4DSAEKグラフトヒンジの切除プレカットドナーグラフトの打ち抜きが偏心していたため,グラフトの実質面にヒンジの一部が残存し,グラフトの接着が得られなかった.Descemet膜.離用鑷子でヒンジ部分を把持し八重式虹彩剪刃で切除後,グラフトの接着を得ることができた.であるが,視認性が低下した症例ではその把握が困難となる.Descemet膜の視認性を向上させる方法として,サージカルスリット照明やライトガイドを使用する方法3.5)や,前房内を空気6)や粘弾性物質7)で置換してDescemet膜.離を行う方法,トリパンブルーでDescemet膜を染色する方法5)がある.しかし,Descemet膜が確認できたとしても,逆SinskeyフックでのDescemet膜の処理には限界がある.逆Sinskeyフックでは,フック先端をDescemet膜下に入れて押し進めるか,.離した部分のDescemet膜を裏返し,角膜実質面に押し付けてフック先端と角膜実質面の間に挟んで引っ張り.離する.しかし,いずれの方法ともDescemet膜の固定が間接的であるため,Descemet膜.離が進んで遊離したDescemet膜片の面積が大きくなった場合や,Descemet膜縁が裂隙を形成し,帯状に細長く残存した場合には,前房内を灌流している状態ではDescemet膜の可動性が高くなり.離完遂が困難となる.前房内を空気または粘弾性物質で満たすことでDescemet膜の挙動は管理しやすくなるが,空気の場合,前房安定性を得るためには一定の眼圧を維持したまま前房内へ持続注入できるシステムが必要となる.また,Zinn小帯脆弱例や眼内レンズ縫着例では,空気が硝子体腔へ回る可能性がある.一方粘弾性物質の場合は,Descemet膜.離後の除去が不十分であるとホストグラフト間の接着不良の原因となりうる.さまざまな症例に対応するためには,BSSplusの前房内灌流下にてDescemet膜.離を確実に施行できることが必要である.また,高度の角膜浮腫により視認性が低下した症例では,手術中のDescemet膜.離の範囲や程度の把握が困難であり,Descemet膜の.離状況に応じたフック先端の位置合わせや動きができず,.離完遂がむずかしくなる.Descemet膜へアプローチするために鑷子を用いる報告もされている6.8)が,通常の前.鑷子や硝子体鉗子では先端形状の向きから角膜内皮面方向への操作が行いにくい.本鑷子では,Descemet膜を把持して直接的に操作することができるため,角膜実質面への圧排が不要であり,小さな残存Descemetの.離も容易である.また,前房内の視認性が低下した症例でも,一部.離したDescemet膜片を把持することができれば,その後はある程度盲目的操作であっても,前.切開と同様に円を描く動きによりDescemet膜の.離を得ることができる.本鑷子のもう一つの利点は,Descemet膜のみならず,角膜内皮面方向の操作が可能であることである.今回のようなドナーグラフトへの操作が必要な状況であっても,組織の把持が容易であり,角膜内皮細胞に対して低侵襲な操作を行うことができる.また,本鑷子と同様に上向きの形状をした鑷子として,小林氏DMEK鑷子R(ASICO社)がある.これには先端がリング型とポイント型があり,また先端方向も垂直と水平がある.リング型では把持できる面積が大きいため,角膜実質面を挟むことなく.離したDescemet膜をより一塊として除去しやすい.一方,本鑷子は先端がより鋭な形状のため,小さなDescemet膜片や,前述のグラフトヒンジ組織をピンポイントで把持できる.このように,特長に多少の差はあるが,いずれの鑷子とも,角膜内皮面方向へのアプローチが容易である点では一致している.今回の検討の限界として,鑷子を使用した群としていない群の間で手術時期が異なっているが,これは,本鑷子の入手後は全症例で使用しており,未使用群の手術時期が本鑷子の入手以前に限られてしまっているためである.本鑷子を使用することで,Descemet膜.離をより確実に行い,角膜内皮面方向の前房内操作を安全に行うことが可能であると考えられた.文献1)GorovoyMS:Descemet-strippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea25:886-889,20062)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.JRefractSurg21:339-345,20053)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:Descemetstrip-pingwithautomatedendothelialkeratoplastyforbullouskeratopathiessecondarytoargonlaseriridotomy─pre-liminaryresultsandusefulnessofdouble-glidedonorinsertiontechnique.Cornea27(Suppl1):S62-S69,20084)InoueT,OshimaY,HoriYetal:ChandelierilluminationforuseduringDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyinpatientswithadvancedbullouskeratoplas-ty.Cornea30(Suppl1):S50-53,20115)SharmaN,SharmaVK,AroraTetal:NoveltechniqueforDescemetmembraneremnantstrippinginhazycor-neaduringDSAEK.Cornea35:140-142,20166)MehtaJS,HanteraMM,TanDT:Modi.edair-assisteddescemetorhexisforDescemet-strippingautomatedendo-thelialkeratoplasty.JCataractRefractSurg34:889-891,20087)ChanCC,YangPT,HollandEJ:Descemetorrhexisinendothelialkeratoplastytoavoidperipheralbullouskera-toplasty.CanJOphthalmol47:243-245,20128)KhokharS,AgarwalT,GuptaSetal:Shiftingbubble-guidedsuturelesstechniqueforperformingdescemeto-rhexisforretainedDescemet’smembraneafterpenetrat-ingkeratoplasty.IntOphthalmol34:125-128,2014***