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COVID-19 ワクチン(コミナティ)接種後に角膜移植後 拒絶反応をきたし再移植を要したDSAEK の1 例

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):444.448,2024cCOVID-19ワクチン(コミナティ)接種後に角膜移植後拒絶反応をきたし再移植を要したDSAEKの1例音田佳代子川村朋子北谷諒介原田一宏上野智弘内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CACaseofDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyRequiringRetransplantationDuetoCornealGraftRejectionAfteraCOMIRNATYCOVID-19VaccinationKayokoOnda,TomokoTsukahara-Kawamura,RyosukeKitatani,KazuhiroHarada,TomohiroUenoandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversityC目的:SARS-CoV-2ワクチン(COVID-19ワクチン)コミナティ接種後に角膜移植後拒絶反応をきたし,再移植を要したデスメ膜.離角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)後のC1例を経験したので報告する.症例:80歳,女性.右眼水疱性角膜症に対してC20XX年C6月C22日にCDSAEKを施行し,術後はC0.1%リン酸ベタメタゾン点眼をC4回/日点眼していた.8月C28日にC2回目のCCOVID-19ワクチン接種を受け,その翌日より急激な右眼視力低下を自覚した.9月C9日に当科外来を再診時に,角膜浮腫とCDescemet膜皺襞を認め,角膜移植後拒絶反応と診断した.点眼加療は継続し,同日よりステロイド内服加療をC50Cmg/日から開始したが,ワクチン接種後C43日で移植片不全に至り再移植を必要とした.結論:COVID-19ワクチン接種後には拒絶反応のリスクが低いCDSAEKであっても,拒絶反応を生じることがあり,早期発見に努めることが重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK)requiringCretransplantationduetocornealgraftrejectionafterundergoingaCOVID-19vaccination.Case:An80-year-oldfemalepatientunderwentDSAEKforrightbullouskeratopathyonJune22,20XXand0.1%betamethasonesodi-umCphosphateCeyeCdropsCwereCadministeredC4-timesCdailyCpostCsurgery.CSheCunderwentCaCOMIRNATY(P.zer-BioNTech)COVID-19vaccinationonAugust28,andonthenextdayshebecameawareofblurredvisioninherrighteye.OnSeptember9,duringherroutineophthalmologicalexamination,severecornealedemaandfoldsoftheDescemetmembranewereobservedinherrighteye,andshewasdiagnosedaskeratoplastyrejection.Eyedropswerecontinued,andoralprednisolonewasadministeredat50Cmg/day.However,at43daysaftervaccination,cor-nealCgraftCfailureCoccurredCandCretransplantationCwasCrequired.CConclusions:InCDSAEKCcasesCwithCaClowCriskCofCgraftCrejectionCpostCsurgery,CitCmayCoccurCafterCCOVID-19Cvaccination,CsoCstrictCfollow-upCandCearlyCdetectionCofCrejectionisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(4):444.448,C2024〕Keywords:COVID-19ワクチン,デスメ膜.離角膜内皮移植術,角膜移植後拒絶反応,移植片不全.COVID-19Cvaccination,Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty,cornealgraftrejection,graftfailure.Cはじめに3,350万人を超えている.日本におけるCSARS-CoV-2ワクSARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(coronavi-チン(COVID-19ワクチン)は,2021年C2月C14日にCP.zerCrusdisease-2019:COVID-19)はパンデミックとなり,こ社のメッセンジャーCRNAワクチン(mRNA)が特例承認されまでC2023年C4月時点では国内でのコロナ感染陽性者数がれ,同年C5月C21日にはCModerna社のCmRNAワクチンおよ〔別刷請求先〕音田佳代子:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KayokoOnda,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversity,7-45-1Nanakuma,Johnan-ku,Fukuoka814-0180,JAPANC444(78)びCAstraZeneca社のウイルスベクターワクチンも特例承認された.2種のCmRNAワクチンのみ国内で使用されていたが,その後,2022年C4月C19日にはノババックス社(武田薬品より薬事承認申請)の組み換え蛋白ワクチンが薬事承認され,同年C5月C25日から予防接種法に基づく接種の対象となった.COVID-19ワクチン接種後の眼合併症として,近年角膜移植後の拒絶反応の報告が増加している1).今回筆者らは,COVID-19ワクチン接種直後に角膜移植後拒絶反応をきたし,視力予後不良であったデスメ膜.離角膜内皮移植術(Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSEAK)のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,女性.主訴:右視力低下.現病歴:20XX年C6月C21日右眼水疱性角膜症に対しDSAEKを施行し,術後経過は良好であった.20XX年C8月8日,COVID-19ワクチン接種初回,ファイザー社製コミナティ筋肉注射を施行され,8月C12日定期受診の際には右眼矯正視力C0.3,左眼矯正視力C0.9,眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C18CmmHgであった(図1).リン酸ベタメタゾン点眼を右眼にC4回/日点眼していた.左眼にはフルオロメトロンC0.1%点眼をC1回/日行っていた.8月C28日CCOVID-19ワクチン接種C2回目コミナティ筋肉注射を施行され,その翌日から右眼視力低下を自覚していたが受診せず,9月C9日定期受診した.既往歴:高血圧症,腸捻転術後,卵巣.腫術後,帝王切開術後,胃癌術後,虚血性腸炎.眼既往歴:20XX-13年C6月右急性緑内障発作,両狭隅角に対し両レーザー虹彩切開術,20XX-5年C6月,左眼白内障手術,10月,左眼水疱性角膜症に対し左眼CDSAEK,20XX-1年C11月,右眼白内障手術.検査所見(20XX年C9月C9日ワクチン接種C2回目からC12日後):右眼矯正視力C0.01,左眼矯正視力C0.9,右眼眼圧C13mmHg,左眼眼圧C13CmmHg,右眼球結膜充血,右眼毛様充血と,右眼角膜全体に浮腫とCDescemet膜皺襞を認め,右眼角膜後面沈着物および前房炎症は角膜浮腫が強く詳細不明であった(図2).左眼は結膜充血,毛様充血はなく,角膜は透明で,炎症所見は認めなかった.右眼CDSAEK後角膜移植後拒絶反応と診断した.経過:0.1%リン酸ベタメタゾン点眼右眼C4回/日,フルオロメトロンC0.1%点眼左眼C1回/日を継続し,同日よりプレドニゾロン内服を開始した.9月C9日よりプレドニゾロン内服C50Cmg/日をC3日,40Cmg/日をC4日,30Cmg/日をC5日,20mg/日をC8日,15Cmg/日をC9日,10Cmg/日をC12日,5Cmg/日をC23日と徐々に漸減し内服終了となったが,角膜が透明になることなく移植片不全に至った(図3).20XX+1年2月,右眼CDSAEK施行し,術後経過は良好で右眼裸眼視力0.04(矯正不能)となった.CII考按ワクチン接種後の角膜移植後拒絶反応はまれではあるが,インフルエンザワクチンやCB型肝炎ウイルスワクチン接種に関連した報告などが報告されている2,3).本症例はCDSAEKの術後C2カ月でCmRNAワクチンであるコミナティを接種した直後に角膜移植後拒絶反応を生じた症例であった.COVID-19ワクチン接種後の角膜移植後拒絶反応の報告は2023年C6月時点で複数あり,ワクチンの種類,ワクチンから発症までの期間,手術から拒絶反応までの期間,経過について表1に示す4.11).COVID-19ワクチンはコロナウイルスのエンベロープ上に存在するスパイク蛋白質をコードするメッセンジャーCRNAを含み,これが体内に取り込まれると細胞内でスパイク蛋白質が生成され,宿主の免疫応答を惹起させる12).免疫応答ではCCD4陽性細胞が中心的な役割を示し,これは角膜移植後拒絶反応のおもなメディエーターであることが示されている13).一般的に角膜移植後の拒絶反応は全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)のC15%に比べ,DSAEK,デスメ膜膜角膜内皮移植術(Descemetmembraneendothelialkeratoplasty:DMEK)ではそれぞれ5.8%,1%と低いことが知られている14).しかし既報では,拒絶反応のリスクの低いCDSAEK,DMEKであってもCOVID-19ワクチン後に拒絶反応を生じた報告も散見された1,2,4,7,8,10,11).ワクチン接種から拒絶反応発症までは最短でC4日の症例があったが,ほとんどが数週間以内に発症していた.本症例はワクチン接種翌日から自覚症状があり,きわめて早期に発症していたと考えられる症例であった.なお,臨床所見によって診断されたのは接種後C12日目であった.手術から拒絶反応までの期間はC14日から最長でC22年の症例もあった.本症例は術後C5年経過している左眼には拒絶反応が生じず,術後C80日の右眼のみに拒絶反応が生じており,その原因は不明であるが,Rallisらの報告では,両眼のDSAEKの既往がある症例で,左眼に対してCPKPを施行したC4カ月後にCCOVID-19ワクチン接種し,左眼のみ拒絶反応が出現していた6).両眼の手術歴がある場合は,手術からCOVID-19ワクチン接種までの期間が短い眼に拒絶反応が起きやすい可能性があり,今回右眼にのみ生じたこととは符合する.一般的に角膜移植後拒絶反応は術後C3.6カ月に多くみられるが,COVID-19ワクチン接種後は手術から長期間経過していても拒絶反応を生じる可能性があり,Fujimotoら1)によると,COVID-19ワクチン接種は拒絶反応の発症リスクをC4.47倍増加させると報告している.一方でワクチン後の拒絶反応は局所ステロイド強化で対応できるため,図120XX年8月12日,COVID-19ワクチン16日前の前眼部所見a:右前眼部写真,b:左眼前眼部写真.両眼ともに角膜は透明で移植片の状態は良好であった.図220XX年9月9日,2回目ワクチン接種から12日後の右前眼部所見a:右前眼部写真.球結膜充血,毛様充血を認めた.b:右角膜フルオレセイン染色写真.角膜全体に浮腫を認めた.図32回目ワクチン接種から43日後の前眼部所見a:右前眼部写真.ステロイド局所および全身投与をしたが,角膜全体の浮腫,Descemet膜皺襞の改善はなく,移植片不全の状態となった.b:左眼前眼部写真.角膜は透明で移植片の状態は良好であった.COVID-19ワクチン接種を奨めない理由にはならないとしあると報告されている6).過去に報告された多くの症例で局ている15).また,免疫応答はワクチン接種後C7.28日でピー所ステロイドを強化することにより視力予後は良好であったクに達するため,ワクチン初回およびC2回目のワクチン投与が,既報1,8)や今回筆者らの症例のように,拒絶反応発症か後の少なくともC1カ月間は局所ステロイド投与強化が必要でら治療開始まで時間を要した症例では移植片不全を引き起こ表1COVID-19ワクチン接種後角膜移植後拒絶反応の既報のまとめ最終ワクチンから手術から拒絶反応文献症例数手術年齢ワクチンの種類発症までの期間†を除く経過(ワクチン接種回数)までの期間Phylactouら2)C2CDMEKCDMEKC66C83コミナティコミナティ7日(1回目)21日(2回目)14日3年治癒治癒Crnejら4)C1CDMEKC71コミナティ7日(1回目)5カ月治癒Wasserら5)C2CPKPCPKPC73C56コミナティコミナティ13日(1回目)14日(1回目)2年10カ月治癒治癒Rallisら6)C1CPKPC68Cコミナティ4日(1回目)4カ月治癒PKPCPKP+LSCTCPKPC80C32C50コミナティコミナティコミナティ46日C†(2回目)87日C†(2回目)102日C†(2回目)不明不明不明移植片不全治癒治癒Fujimotoら1)C7CPKPCPKPCPKPCDSAEKC55C92C87C84コミナティコミナティコミナティコミナティ14日C†(1回目)111日C†(2回目)82日C†(2回目)41日C†(2回目)不明不明不明不明治癒治癒治癒治癒Abousyら7)C1CDSAEKC73コミナティ14日(2回目)不明不明Balidisら8)C4CDMEKCPKPCPKPCDSAEKC77C64C69C63モデルナモデルナコビシールドコビシールド7日(1回目)7日(2回目)5日(1回目)10日(1回目)1年8カ月2年2年1年改善移植片不全改善移植片不全Parmarら9)C1CPKPC35コビシールド42日(2回目)3年改善Shahら10)C4CDMEKCPKPCDSAEKCPKPC74C61C69C77モデルナモデルナモデルナモデルナ21日(1回目)28日(2回目)14日(2回目)7日(2回目)6カ月6カ月6年22年改善改善改善治癒Molero-Senosiainら11)C5CDSEAKCDSEAKCPKPCPKPCPKPC72C82C55C61C48コミナティコミナティコビシールドコビシールドコミナティ14日(1回目)14日(1回目)7日(2回目)28日(2回目)28日(1回目)4年4年8年8カ月20年4年改善改善改善改善改善本症例C1CDSAEKC80コミナティ1日(2回目)80日移植片不全DMEK:デスメ膜角膜内皮移植術,DSAEK:デスメ膜.離角膜内皮移植術,LSCT:角膜輪部幹細胞移植術,PKP:全層角膜移植術.†:初回ワクチン接種から発症までの期間.す場合もある.既報から,COVID-19ワクチン接種後の角膜移植後拒絶反応はC1回目ないしC2回目の接種後に限られており,3回以上の接種例ではそのリスクは低いと考えられ,多くの国民がすでにワクチン接種を行っている現状では,このような症例は今後さらに増加する可能性は低いと考えられる.以上から,移植手術時期にかかわらずCCOVID-19ワクチンのC1回目ないしC2回目接種後には,拒絶反応の出現にとくに注意するよう患者に啓発することが重要であり,また眼科医は拒絶反応の出現に注意し,発症予防のためにCOVID-19ワクチン接種前後の局所ステロイドを強化する必要性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FujimotoCH,CKiryuJ:IncidenceCofCcornealCtransplantCrejectionCfollowingCBNT162b2CSARS-CoV-2CmessengerCRNAvaccination.JOphthalmolResC4:279-288,C20212)PhylactouM,LiJO,LarkinDFP:Characteristicsofendo-thelialcornealtransplantrejectionfollowingimmunizationwithSARS-CoV-2messengerRNAvaccine.BrJOphthal-molC105:893-896,C20213)SolomonA,Frucht-PeryJ:BilateralsimultaneouscornealgraftCrejectionCafterCin.uenzaCvaccination.CAmCJCOphthal-molC121:708-709,C19964)CrnejA,KhoueirZ,CherfanGetal:Acutecornealendo-thelialCgraftCrejectionCfollowingCCOVID-19Cvaccination.CJFrOphtalmolC44:e445-e447,C20215)WasserCLM,CRoditiCE,CZadokCDCetal:KeratoplastyCrejec-tionaftertheBNT162b2messengerRNAvaccine.CorneaC40:1070-1072,C20216)RallisKI,TingDSJ,SaidDGetal:CornealgraftrejectionfollowingCOVID-19vaccine.EyeC36:1319-1320,C20217)AbousyM,BohmK,PrescottCetal:BilateralEKrejec-tionafterCOVID-19vaccine.EyeContactLensC47:625-628,C20218)BalidisCM,CMikropoulosCD,CGatzioufasCZCetal:AcuteCcor-nealCgraftCrejectionCafterCanti-severeCacuteCrespiratoryCsyndrome-coronavirus-2vaccination:aCreportCofCfourCcases.EurJOphthalmol:1-5,C20219)ParmarDP,GardePV,ShahSMetal:Acutegraftrejec-tioninahigh-riskcornealtransplantfollowingCOVID-19vaccination:aCcaseCreport.CIndianCJCOphthalmolC69:C3757-3758,C202110)ShahCAP,CDzhaberCD,CKenyonCKRCetal:AcuteCcornealCtransplantCrejectionCafterCCOVID-19Cvaccination.CCorneaC41:121-124,C202211)Molero-SenosiainM,HoubenI,SavantSetal:FivecasesofcornealgraftrejectionafterrecentCOVID-19vaccina-tionsandareviewoftheliterature.CorneaC41:669-672,C202212)守屋章成:COVID-19のワクチン─開発状況から,作用機序,有効性,副反応まで.IntensivistC13:587-593,C202113)SahinCU,CMuikCA,CVoglerCICetal:BNT162b2CinducesCSARS-CoV-2-neutralisingCantibodiesCandCTCcellsCinChumans.NatureC595:572-577,C202114)稲富勉:角膜パーツ移植.臨眼72:101-108,C201815)LockingtonCD,CLeeCB,CJengCBHCetal:SurveyCofCcornealCsurgeons’CattitudesCregardingCkeratoplastyCrejectionCriskCassociatedwithvaccinations.CorneaC40:1541-1547,C2021***

角膜内皮移植後のmRNAワクチン投与後に拒絶反応が出現した1例

2024年1月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科41(1):79.81,2024c角膜内皮移植後のmRNAワクチン投与後に拒絶反応が出現した1例佐藤美妃清水俊輝五十嵐あみ栗田淳貴原雄将林孝彦山上聡日本大学医学部視覚科学系眼科学分野CACaseofAllograftRejectionfollowingmRNAVaccinationafterCornealEndothelialKeratoplastyMikiSato,ToshikiShimizu,AmiIgarashi,JunkiKurita,YusukeHara,TakahikoHayashiandSatoruYamagamiCDepartmentofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicineCわが国における角膜移植の原因疾患の大半が水疱性角膜症など角膜内皮機能不全によるものである.近年では全層角膜移植(PKP)よりも惹起乱視,外傷性創離開,拒絶反応の少ないデスメ膜.離角膜内皮移植術(DSAEK)やCDMEKが標準的治療法となっている.PKPの拒絶反応に比較してCDSAEKでC7%,DMEKではC1%程度と低いことが報告されている.しかし,2020年以降,全世界で流行した新型コロナウイルス感染症に対するメッセンジャーCRNA(mRNA)ワクチンの影響と推測される拒絶反応の例が複数報告されており,状況が変化している.今回筆者らは,DSAEK施行後経過良好であったが,mRNAワクチン接種直後に拒絶反応を発症し,再移植に至った症例を経験したので報告する.CCornealCendothelialCdysfunctionCisConeCofCtheCleadingCcausesCofCcornealCtransplantationCinCJapan.CInCrecentCyears,cornealtransplantationproceduressuchasDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)CandDescemetmembraneendothelialkeratoplastyhavebecomeastandardtreatmentoverpenetratingkeratoplas-tyduetotheadvantagesoflowerratesofinducedastigmatism,traumaticwounddehiscence,andgraftrejection.However,since2020,somestudieshavereportedcasesofocularin.ammationpossiblyduetothecoronavirusdis-ease2019(COVID-19)mRNAvaccinesthatarebeingadministeredworldwide.Inthisstudy,wereportacaseofallograftrejectionimmediatelyaftermRNAvaccination,despitepreviousstableoutcomesfollowingDSAEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(1):79.81,2024〕Keywords:拒絶反応,新型コロナウイルス感染症,デスメ膜.離角膜内皮移植術,メッセンジャーCRNAワクチン.rejection,coronavirusdisease2019(COVID-19)C,Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),mRNAvaccine.Cはじめに1905年にCEdwardZirmによりヒトからヒトへの角膜移植が施行されて以来,全層角膜移植術(penetratingkerato-plasty:PKP)が標準治療であった1).しかし,1990年以降は,病変部位のみを交換する角膜パーツ移植が主流となり,デスメ膜.離角膜内皮移植術(endothelialkeratoplasty:EK)が角膜内皮機能不全に対する治療法として確立された.EKはレシピエントのCDescemet膜と内皮を含む内層を除去し,前房内に挿入した移植片をガスタンポナーデによって実質後面に接着する方法であり,現在ではCDescemetCstrip-pingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK)とCDes-cemetmembraneendothelialkeratoplasty(DMEK)がおもに選択される.EKの利点は閉鎖空間で手術が施行でき駆逐性出血のリスクが少ないこと,角膜実質が温存され術後の不正乱視が惹起されにくいこと,縫合糸による感染リスクが抑えられることなどがあげられる.加えて,PKPに比べて拒絶反応を起こしにくく,PKPでは約C18%の報告に対し,DSAEKでは5.12%,DMEKは1%と非常に少ない2,3).2020年以降,新型コロナウイルス感染症が全世界で流行し,その予防としてメッセンジャーCRNA(mRNA)ワクチ〔別刷請求先〕佐藤美妃:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MikiSato,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-kamicho,Itabashi,Tokyo173-8610,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(79)C79図1DSAEK施行9カ月後の前眼部写真角膜実質の肥厚とCDescemet膜皺襞が出現し,拒絶反応を認める.虹彩の上方偏位はC1回目のCDSAEK後の最終診察時から不変であった.ンの接種が開始された.mRNAワクチンはウイルスのスパイク蛋白のCmRNAを利用し,中和抗体を誘導することで感染の予防と感染後の重症化を防ぐ4),新型コロナウイルスの流行によって新しく臨床導入されたワクチンである.その予防効果の一方で,新型コロナウイルス感染症に対するCmRNAワクチン接種後にぶどう膜炎や視神経炎,角膜移植後の拒絶反応が生じたという報告がある5,6).今回筆者らは,DSAEK後経過良好であったが,ワクチン接種後に拒絶反応が生じ再移植に至った症例を経験したので報告する.CI症例患者:47歳,男性.主訴:右眼の羞明・霧視.現病歴:200X-1年C11月,右眼偽水晶体性水疱性角膜症に対しCDSAEKを施行.200X年C7月の当院最終受診時,視力は右眼C0.7C×IOL(矯正不能),左眼(0.8CpC×IOL×sph+1.25D(cyl-3.50DCAx85°),眼圧は右眼9mmHg,左眼9mmHg,角膜中心厚はC757μm,角膜内皮細胞密度はC759Ccells/mm2であった.眼内レンズは強膜内固定されており,虹彩損傷と瞳孔不整を認めた.移植片の接着は良好で角膜は透明性を保持していた.そのC3週間後,2回目のmRNAワクチンを接種した同日より羞明が出現し,症状の改善がみられないことからC200X年C8月に当院を受診した.受診時所見:受診時視力は右眼C0.2C×IOL(矯正不能),左眼(0.7CpC×IOL×sph+1.25D(cyl-3.50DAx85°),眼圧は右眼C17CmmHg,左眼C12CmmHgであった.右眼の中心角膜厚はC946Cμm,角膜内皮細胞密度は測定不能であった.前眼部にてCDescemet膜皺襞と角膜浮腫を呈し(図1),画像上は図23回目のmRNAワクチン接種4週間後の前眼部三次元画像解析装置の画像パキメトリー所見では中心角膜厚はC935Cμmと肥厚を認める.明らかでないが,角膜後面沈着物を認めた.中心角膜厚は946Cμmと角膜浮腫を認めた.左眼には異常所見は認めなかった.経過:患者はステロイド点眼で眼圧上昇の既往があったため,ステロイド点眼は使用せず,シクロスポリンC100Cmg/日とベタメタゾンC0.5Cmg/日の内服,タクロリムス水和物点眼液C0.1%点眼を開始.内服の併用はC10週間行い,その後点眼のみでC10週間経過観察を行い,角膜浮腫の改善はなかった.2回目のワクチン接種からC28週間後にC3回目の接種を行いC4週間経過時,右眼視力はC0.05pC×IOL(0.06C×sph+2.00D),角膜中心厚935μmであり,角膜浮腫の改善はなく(図2),移植片機能不全と診断し,再移植(DSAEK)を行う方針となった.手術は引き込み法で有害事象なく施行され,移植片の接着は良好で術後C4日目に退院となった.術後点眼として,レボフロキサシン水和物点眼とベタメタゾンリン酸エステルナトリウム水和物点眼をC4回/日,ブロムフェナクナトリウム点眼C2回/日を使用した.術後C9日目,眼圧C31CmmHgを認めたことからリパスジル塩酸塩水和物点眼液C2回/日とアセタゾラミドC500Cmg/日の内服を開始した.ステロイドによる眼圧上昇を懸念し,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液を中止し,フルオロメトロンC0.1%点眼液C3回/日とタクロリムス水和物点眼液C0.1%2回/日に変更した.術後C6週で眼圧C14CmmHgまで下降しアセタゾラミドの内服は中止した.移植片の透明性は維持されており,術後C6カ月時点の右眼視力はC0.6CpC×IOL(0.7CpC×IOL×sph.0.5D),中心角膜厚C667Cμm,角膜内皮細胞密度C1,340Ccells/mmC2と改善した.80あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024(80)II考按本症例はCDSAEK後経過良好であったにもかかわらず,2回目のCmRNAワクチン接種後に拒絶反応が出現し再移植が必要となった.2回目のCmRNAワクチン接種直後に霧視が出現したことや,角膜後面の沈着物,移植片に限局した浮腫などの所見から,mRNAワクチンにより惹起された拒絶反応と診断した.Shahらは,EK後に新型コロナウイルスに対するCmRNAワクチン接種後に,急性発症した拒絶反応症例を報告した5).そのなかで,ワクチン接種後C2週間以内に拒絶反応が出現したが,全例ステロイド点眼により透明性を回復した.急性の拒絶反応は局所ステロイド療法の早期開始が有用であると考えられていたが,本症例では良好な移植後経過とワクチン接種直後の拒絶反応の所見など既報と臨床経過は類似している一方,ステロイド点眼のみでは拒絶反応を抑えることはできず再移植に至った.本症例ではワクチン接種前の角膜移植後の角膜内皮細胞数が少ない傾向にあった.虹彩損傷が強いと角膜内皮細胞数が通常よりも減少する6)と報告されており,複数回の外科手術に伴う虹彩損傷による前房内慢性炎症や血管透過性亢進でさらに角膜内皮密度減少が進んでいたところに,拒絶反応による内皮細胞障害が加わって,移植片機能不全に至ったと考えられる.mRNAワクチンは新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対して新型コロナウイルスのスパイク蛋白をコードするmRNAを使用した新しい機序のワクチンである4).わが国においてもC2023年C3月現在C5回目の接種が開始され,1回以上の接種率はC77.85%である8).眼科領域において新型コロナウイルス感染症に対するCmRNAワクチン接種後に角膜移植後の拒絶反応9,10)や視神経炎11),ぶどう膜炎12)が発症したとの報告が多くある.新型コロナウイルス感染症は今後も変異をしながらしばらく続くことと考えられるため,定期的なワクチン接種が見込まれている.mRNAワクチンによる拒絶反応出現の機序は不明であるが,本症例のように再移植が必要になる可能性もあり,角膜移植既往患者においては術後経過が良好であってもワクチン接種後の拒絶反応に留意する必要がある.本論文は単一症例の報告であることから,EK後にmRNAワクチン接種を行った患者における拒絶反応の発症頻度を示すことはできない.今後,より多くの症例数を集め検討する必要がある.臨床医は角膜移植後あるいは角膜移植予定患者に,ワクチン関連有害事象とその対処を説明する必要がある.文献1)ZirmEK:EineCerfolgreicheCtotalKeratopastik(ACsuc-cessfultotalkeratoplasty)C.1906.RefractCornealSurgC5:C258-261,C19892)HjortdalJ,PedersenIB,Bak-NielsenSetal:Graftrejec-tionCandCgraftCfailureCafterCpenetratingCkeratoplastyCorCposteriorClamellarCkeratoplastyCforCfuchsCendothelialCdystCrophy.CorneaC32:e60-e63,C20133)AnshuCA,CPriceCMO,CPriceCFWJr:RiskCofCcornealCtrans-plantCrejectionCsigni.cantlyCreducedCwithCDescemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty.COphthalmologyC119:C536-540,C20124)MascellinoMT,DiTimoteoF,DeAngelisMetal:Over-viewCofCtheCmainCanti-SARS-CoV-2vaccines:Mecha-nismofaction,e.cacyandsafety.InfectDrugResistC14:C3459-3476,C20215)ShahCAP,CDzhaberCD,CKenyonCKRCetal:AcuteCcornealCtransplantCrejectionCafterCCOVID-19Cvaccination.CCorneaC41:121-124,C20226)IshiiCN,CYamaguchiCT,CYazuCHCetal:FactorsCassociatedCwithgraftsurvivalandendothelialcelldensityafterDes-cemet’sCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty.CSciCRepC6:25276,C20167)PriceCMO,CPriceCFWJr:EndothelialCcellClossCafterCdesceCmetCstrippingCwithCendothelialCkeratoplastyCin.uencingCfactorsCandC2C-yearCtrend.COphthalmologyC115:857-865,C20088)デジタル庁ワクチン接種記録システム(VRS)新型コロナワクチンに接種状況.https://info.vrs.digital.go.jp/dash-board/9)PhylactouM,LiJO,LarkinDFP:Characteristicsofendo-thelialcornealtransplantrejectionfollowingimmunisationwithSARS-CoV-2messengerRNAvaccine.BrJOphthal-molC105:893-896,C202110)RavichandranCS,CNatarajanR:CornealCgraftCrejectionCafterCCOVID-19Cvaccination.CIndianCJCOphthalmolC69:C1953-1954,C202111)ElnahryCAG,CAsalCZB,CShaikhCNCetal:OpticCneuropathyCafterCOVID-19vaccination:areportoftwocases.IntJNeurosciC14:1-7,C202112)BollettaCE,CIannettaCD,CMastro.lippoCVCetal:UveitisCandCotherCocularCcomplicationsCfollowingCCOVID-19Cvaccina-tion.JClinMedC10:5960,C2021***(81)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024C81