0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)1269《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1269.1272,2010cはじめに原発開放隅角緑内障の治療の目的は,眼圧を下げることにより緑内障性の視野障害を抑制することにある1).眼圧が統計学的に正常域にある正常眼圧緑内障の治療においても眼圧下降の重要性が指摘されている2).点眼薬による眼圧下降は,過去の約10年において,高い眼圧下降作用と安全性でプロスタグランジン製剤が重要な位置を占めるようになった3).プロスタグランジン誘導剤は房〔別刷請求先〕白木幸彦:〒526-8580長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:YukihikoShiraki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHosptal,313Ohinui-cho,Nagahama526-8580,JAPANDynamicContourTonometerを用いた,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降率の比較白木幸彦山口泰孝梅基光良植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUsedtoCompareEffectsofLatanoprost,TravoprostandTafluprostinGlaucomaYukihikoShiraki,YasutakaYamaguchi,MitsuyoshiUmemotoandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital目的:ラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の眼圧下降作用を,Dynamiccontourtonometer(DCT)とGoldmannapplanationtonometer(GAT)を用いて評価する.対象および方法:対象は緑内障の日本人患者32症例58眼(開放隅角緑内障13眼,正常眼圧緑内障45眼).無点眼,もしくはwash-out後の眼圧をベースライン眼圧(BL)とし,その後1眼に対し,LA,TR,TAを1剤ずつ順次使用し,それぞれの点眼後の眼圧を測定した.結果:BLはGAT18.7±3.9mmHg,DCT23.5±4.3mmHg.点眼後眼圧はGATでは,LA,TR,TAの順に16.7±3.9mmHg,15.6±2.9mmHg,16.2±3.3mmHg.DCTでは19.7±4.0mmHg,18.5±3.4mmHg,19.3±3.2mmHgであり,3剤ともBLよりも有意差をもって眼圧が低下したが,3剤間では有意差はなかった.平均眼圧下降率は,GATではLA,TR,TAの順に,11.1±17.4%,16.7±14.6%,13.7±13.1%,DCTでは15.2±16.0%,21.4±12.0%,17.9±11.3%.眼圧下降率ではDCTでのLA,TR間のみ有意差を得た.Method:Participantscomprised32patients(58eyes)withopen-angleglaucoma(13eyes),ornormal-tensionglaucoma(45eyes),allofJapaneseorigin.Patientswereswitchedamonglatanoprost(LA),travoprost(TR),andtafluprost(TA)fora2-4weektreatmentperiodaftera2-4weekmedicine-freeperiod.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredatuntreatedbaselineandattheendofeachtreatmentperiod,usingGoldmannapplanationtonometer(GAT)andDynamiccontourtonometer(DCT).Result:ThemeanIOPatbaselinewas18.7±3.9mmHg(GAT)and23.5±4.3mmHg(DCT).Themeanpost-treatmentIOPresultwithGATwas16.7±3.9mmHg(LA),15.6±2.9mmHg(TR),and16.2±3.3mmHg(TA).TheresultwithDCTwas19.7±4.0mmHg(LA),18.5±3.4mmHg(TR),and19.3±3.2mmHg(TA).AllmedicationssignificantlyreducedmeanIOPfrombaseline.TheefficacyofIOPreductionshowednosignificantdifferenceamongmedicationswitheitherIOPmeasurement.TheIOPreductionpercentageasmeasuredbyGATwas11.1±17.4%(LA),16.7±14.6%(TR),and13.7±13.1%(TA);asmeasuredbyDCTitwas15.2±16.0%(LA),21.4±12.0%(TR),and17.9±11.3%(TA).TheDCT-measuredreductionrateforTRwassignificantlygreaterthatforLA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1269.1272,2010〕Keywords:ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,眼圧,Dynamiccontourtonometer(DCT).latanoprost,travoprost,tafluprost,intraocularpressure,Dynamiccontourtonometer(DCT).1270あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(104)水産生に影響なく房水流出を増大するとされており4),海外ではラタノプロスト,ウノプロストン,トラボプロスト,ビマトプロストなどのプロスタングランジン製剤が臨床使用されている.長年にわたり日本においては,ラタノプロスト,ウノプロストンのみが臨床使用ができる状況であったが,近年,トラボプロスト,タフルプロストの2種が臨床でも使用することができるようになった.ビマトプロストはラタノプロストより有効に緑内障や高眼圧症の眼圧を下降させる5),もしくはラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストが有効に眼圧を下降させるが相互に有意の違いがない6)など,施設により内容が異なることがあり,その視野など視機能についての長期的な影響もよく知られてはいない.さらに,日本における後発薬は日本人に対しての臨床報告はまだ少ない.特にタフルプロストは,海外でも発売されてから日が浅く,報告自体が少ない.適正使用のためには,まずは短期使用での眼圧下降の程度や有効性についての比較検討が必要である.今回筆者らは,通常診療において,緑内障ガイドライン7)で推奨されている治療トライアルを,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストにおいて順次実施した.眼圧下降に最も有効な薬剤を各症例について知る必要があるため,同一症例に対して3剤を順次切り替えて,その眼圧下降作用を評価した.眼圧測定法もGoldmannapplanationtonometer(GAT)に加え,Dynamiccontourtonometer(DCT)を用いた.I対象および方法当院において視神経乳頭陥凹とそれに一致する視野障害から広義の原発開放隅角緑内障と診断された症例のうち,ラタノプロストのみを使用中,もしくは無点眼の症例で点眼が必要と判断された症例で,通常診療にあたって3剤を比較して最も有効なものを使用することに同意が得られた32症例58眼で検討を行った.落屑症候群を有する者,内眼手術歴がある者は除外した.男性は12症例22眼,女性は20症例36眼.年齢は71.9±9.4歳(44.87歳).緑内障の類型の内訳は狭義の原発開放隅角緑内障13眼,正常眼圧緑内障45眼であった.今回の研究開始まで無点眼であった症例は6眼であった.研究期間は2009年7.10月であった.もともと無点眼であった症例は点眼前の眼圧を,点眼中の症例は2.4週間の無点眼期間を設けてその後の眼圧をベースラインとした.その後ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの3剤を1種類ずつ順次切り替えたうえ,2.4週間使用後の眼圧を点眼後の眼圧とした.眼圧測定の時間帯はなるべく同一にした.3種点眼の順番は無作為とし,これについての検討はしていない.眼圧測定方法はGATに加え,DCTを用いた.DCTは圧センサーを用いた眼圧測定方法で,角膜厚の影響を受けにくく,拡張期眼圧とともに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)も測定することができ,拡張期眼圧に眼球脈波の値を加えることによって収縮期眼圧も測定することができるものである.小数点以下一桁まで表示することができるため,より低眼圧領域での正確な解析に有用と考えられる8,9).今回GAT値,DCT値を用いて眼圧下降値と下降率を算出した.測定値は個人情報とまったく分離してデータ解析に用い,すべての手順はヘルシンキ宣言にのっとって行った.データの収集と公開に関しては当院の倫理委員会の了承を得て行った.統計学的検討は,2群間の差はt-testを行った.3剤の比較には分散分析を行い,有意差を認めた場合は多重比較(Tukey)を行った.p<0.05で有意差ありとした.II結果各点眼平均期間はラタノプロスト16.8日,トラボプロスト14.7日,タフルプロスト15.1日であった.ベースライン眼圧はGAT18.7±3.9mmHg,DCT23.5±4.3mmHgであった.GATでの点眼後眼圧はラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの順に16.7±3.9mmHg,15.6±2.9mmHg,16.2±3.3mmHgで,DCTでは19.7±4.0mmHg,18.5±3.4mmHg,19.3±3.2mmHgであった(図18.7±3.916.7±3.915.6±2.916.2±3.3BLLATRTA35302520151050GAT眼圧(mmHg)23.5±4.319.7±4.018.5±3.419.3±3.2BLLATRTA35302520151050DCT眼圧(mmHg)図1各種眼圧測定法によるベースライン(BL)とラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の平均眼圧値(105)あたらしい眼科Vol.27,No.9,201012711).どちらの眼圧測定値においても,3剤すべてで優位にベースラインより眼圧下降作用を認めた(p<0.01).3剤間は,分散分析において有意差は認めなかった.平均眼圧下降率は,GATではラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの順に,11.1±17.4%,16.7±14.6%,13.7±13.1%で,DCTでは15.2±16.0%,21.4±12.0%,17.9±11.3%であった(図2).3剤間で,統計学的に有意差を認めたのはDCT値でのラタノプロストとトラボプロスト間(p=0.027)のみであったが,トラボプロストがどちらの眼圧値においても高い眼圧下降率を有する傾向を認めた.眼圧下降率を眼圧測定法,点眼薬別に10%以下,10%から20%,20%から30%,30%以上に分け,それぞれが占める割合を図3に表示した.GATでは特に3剤の間に大きな違いはみられなかった.DCTでは,ラタノプロストに比べ,トラボプロスト,タフルプロストともに10%以上の眼圧下降率を示した症例が増えていた.タフルプロストでは,20%以上の高い効果を示した割合はラタノプロストと同程度であった.一方,トラボプロストはラタノプロストに比べて20%以上の眼圧下降を示す症例が増加した.各症例に対し最も眼圧下降率が高かった薬剤の内訳は図4のようになった(3剤とも10%以下の眼圧下降率を示したものは無効とした.GATの結果とDCTの結果に差異がなかったためDCTでの結果のみ記載した).ラタノプロストは14%(8眼),トラボプロスト48%(28眼),タフルプロスト31%(18眼),無効は7%(4眼)であった.トラボプロストが半数の症例で最も高い効果を示した.11.1±17.416.7±14.613.7±13.1(%)LATRTA15.2±16.021.4±12.017.9±11.3LATRTA50403020100-10(%)50403020100-10GATDCT図2各種眼圧測定法によるラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の平均眼圧下降率LA39.7TR37.9TA■:10%以上■:10~20%■:20~30%■:30%以上50.0LA37.9TRGATDCT20.7TA24.125.931.017.231.025.98.613.820.719.017.212.112.124.137.917.243.119.013.8100806040200(%)図3各種眼圧測定法によるラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の眼圧下降率の内訳50.040.030.020.010.00.035.9LA(%)a19.3TR20.5TA50.040.030.020.010.00.025.6TR(%)b13.3LA14.9TA50.040.030.020.010.00.021.3TA(%)c7.6LA15.6TR図5同一症例のなかで,最も効果のある薬剤と他の2剤の平均眼圧下降率a:ラタノプロスト(LA)が最有効薬の症例,b:トラボプロスト(TR)が最有効薬の症例,c:タフルプロスト(TA)が最有効薬の症例.TR48%TA31%LA14%無効7%図4DCTにおいて各症例で最も効果の高かった薬剤の内訳LA:ラタノプロスト,TR:トラボプロスト,TA:タフルプロスト.1272あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(106)さらに,最も効果の高い薬剤の眼圧下降率と,他の2剤の薬剤の平均眼圧下降率(DCT値)を算出し,同一症例のなかで,最も効果のある薬剤と他の2剤の効果の差がどれほどあるのかを検討した.ラタノプロストが最有効薬の症例(8眼)での各点眼薬の平均眼圧下降率は,ラタノプロスト35.9%に対し,トラボプロスト19.3%,タフルプロスト20.5%(図5-a).トラボプロストが最有力の症例(28眼)では,トラボプロスト25.6%に対し,ラタノプロスト13.3%,タフルプロスト14.9%(図5-b).タフルプロストが最有効薬の症例(18眼)では,タフルプロスト21.3%に対し,ラタノプロスト7.6%,トラボプロスト15.6%であった(図5-c).ラタノプロストが最有効薬の場合は,他の2剤の効果が高いだけに,それよりも高い効果をラタノプロストは認めた.一方,タフルプロストが最有効薬の場合はラタノプロストの効果が低い傾向にあった.III考按眼圧下降作用においてはトラボプロストが比較的高い効果があることが示されたが,統計学的な有意差は,DCTで測定された下降率についてラタノプロストとトラボプロスト間で認めたのみであった.すべてにおいてトラボプロストが最有効なわけではなく,症例によってはラタノプロスト,もしくはタフルプロストが最も眼圧下降率が高かった.日内変動や季節変動などの影響10)は考えねばならないが,各症例に対して,最も眼圧下降作用のある薬剤は一様ではないとも考えられ,慎重な点眼薬の選択が必要と思われる.眼圧下降作用に関しては,GATに比べ,DCTでより変化が鋭敏に示されている.DCTでは小数点以下一桁まで測定できる.今回の解析には正常眼圧緑内障が多く含まれており,低眼圧の症例での変化がより正確に反映された可能性がある.また眼圧の平均値で集団を2分して,3剤の眼圧下降率を集団間で比較したが,低眼圧側の集団で下降率が低値すなわち無効となる症例が増加することを除き著明な有効性の違いは集団間でみられなかったため,今回は全体の解析を報告するにとどめた.DCTでは,OPA値の測定が可能であり,拡張期眼圧に加え,DCT値にOPA値を加えた収縮期眼圧も測定することができる.OPA値については,脈絡膜循環を反映するとの報告がある11)が,その値が臨床的に緑内障に対してどのような影響を与えるかは明らかな結論はない.筆者らは収縮期眼圧(DCT+OPA)に関しても同様の検討を行ったが,拡張期眼圧(DCT)での結果と特に大きな違いはみられなかったため本報告からは省いた.文献1)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20002)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)AlexanderCL,MillerSJ,AbelSR:Prostaglandinanalogtreatmentofglaucomaandocularhypertension.AnnPharmacother36:504-511,20024)LimKS,NauCB,O’ByrneMM:Mechanismofactionofbimatoprost,latanoprost,andtravoprostinhealthysubjects.Ophthalmology115:790-795,20085)NoeckerRS,DirksMS,Bimatoprost/LatanoprostStudyGroup:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOphthalmol135:55-63,20036)OrzalesiN,RossettiL,BottoliAetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncircadianintraocularpressureinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology113:239-246,20067)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,20038)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,20089)山口泰孝,梅基光良,木村忠貴ほか:DynamicContourTonometerによる眼圧測定と緑内障治療.あたらしい眼科26:695-699,200910)GiuffreG,GiammancoR,DardanoniGetal:Prevalenceofglaucomaanddistributionofintraocularpressureinapopulation.ActaOphthalmolScand73:222-225,199511)TrewDR,SmithSE:Postualstudiesinpulsatileocularbloodflow:II.Chronicopenangleglaucoma.BrJOphthalmol75:71-75,1991***