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角膜移植後ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼薬の効果

2014年11月30日 日曜日

1692あたらしい眼科Vol.4101,211,No.3(00)1692(126)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1692.1696,2014cはじめに角膜移植術後は,涙液動態の変化に伴いドライアイを高率に発症する.角膜知覚神経が切断されると反射性涙液分泌が低下し1.3),角結膜上皮のムチン発現の低下,結膜杯細胞の減少,涙液クリアランスの低下,上皮バリア機能の障害,眼表面の炎症が引き起こされると報告されている3).また,宿主角膜とドナー角膜の接合部には浮腫や縫合による凸状の角膜形状変化が生じ,その内側に異所性の涙液メニスカスが形成され,ドナー角膜中央部の涙液層は菲薄化する4,5).そのため,角膜移植術後のドライアイには,涙液量の減少と涙液〔別刷請求先〕堀田芙美香:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野Reprintrequests:FumikaHotta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3-18-15Kuramoto-cho,Tokushimacity770-8503,JAPAN角膜移植後ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼薬の効果堀田芙美香江口洋仁木昌徳EnkhmaaTserennadimid三田村さやか宮本龍郎三田村佳典徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野EffectofDiquafosolTetrasodiumOphthalmicSolutiononTreatmentforDryEyefollowingKeratoplastyFumikaHotta,HiroshiEguchi,MasanoriNiki,EnkhmaaTserennadimid,SayakaMitamura,TatsuroMiyamotoandYoshinoriMitamuraDepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool角膜移植術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソルNa)点眼薬の効果について検討した.角膜移植術後のドライアイ症例10例10眼において,Schirmer試験第I法測定値(以下,Schirmer値),涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害染色スコアリング(以下,スコア),および臨床経過について,ジクアホソルNa点眼薬投与前と投与1カ月後を比較した.角膜内皮細胞密度と角膜厚は,投与前3カ月以内,投与後3カ月以内に測定可能であった症例で,投与前後の値を比較した.Schirmer値には有意差はなかったが,BUTは有意に上昇し,スコアは有意に減少した.角膜内皮細胞密度と角膜厚の平均値に著変はなかった.視力低下・拒絶反応・感染症をきたした症例はなかった.角膜移植術後のドライアイに対してジクアホソルNa点眼薬投与は有効であると考えられた.Weinvestigatedtheefficacyofdiquafosoltetrasodiumophthalmicsolutionforthetreatmentofpatientswithdryeyefollowingkeratoplasty.Tenpatientswithdryeyewhohadundergonekeratoplastywereevaluatedbeforeandat1monthafteradministrationastoSchirmer’stestresults,tearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceincornealandconjunctivalstainingscore(Score),andclinicalcourse.Inmeasurablecases,bothendothelialdensityandcornealthicknessmeasurementsobtainedwithin3monthsbeforeadministrationwerecomparedtotherespectivevaluesobtainedwithin3monthsafteradministration.BUTandScoreimprovementswerestatisticallysignificant;Schirmer’stestresultswerenot.Cornealendothelialdensityandcornealthicknessvaluesobtainedbeforeandafteradministrationwerealmostunchanged.Nosubjectsdevelopeddecreasedvisualacuity,cornealgraftrejectionorinfectionafteradministration.Diquafosoltetrasodiumophthalmicsolutioniseffectivefordryeyefollowingkeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1692.1696,2014〕Keywords:ドライアイ,角膜移植,ジクアホソルナトリウム点眼薬.dryeye,keratoplasty,diquafosoltetrasodiumophthalmicsolution.(00)1692(126)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1692.1696,2014cはじめに角膜移植術後は,涙液動態の変化に伴いドライアイを高率に発症する.角膜知覚神経が切断されると反射性涙液分泌が低下し1.3),角結膜上皮のムチン発現の低下,結膜杯細胞の減少,涙液クリアランスの低下,上皮バリア機能の障害,眼表面の炎症が引き起こされると報告されている3).また,宿主角膜とドナー角膜の接合部には浮腫や縫合による凸状の角膜形状変化が生じ,その内側に異所性の涙液メニスカスが形成され,ドナー角膜中央部の涙液層は菲薄化する4,5).そのため,角膜移植術後のドライアイには,涙液量の減少と涙液〔別刷請求先〕堀田芙美香:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野Reprintrequests:FumikaHotta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3-18-15Kuramoto-cho,Tokushimacity770-8503,JAPAN角膜移植後ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼薬の効果堀田芙美香江口洋仁木昌徳EnkhmaaTserennadimid三田村さやか宮本龍郎三田村佳典徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野EffectofDiquafosolTetrasodiumOphthalmicSolutiononTreatmentforDryEyefollowingKeratoplastyFumikaHotta,HiroshiEguchi,MasanoriNiki,EnkhmaaTserennadimid,SayakaMitamura,TatsuroMiyamotoandYoshinoriMitamuraDepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool角膜移植術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソルNa)点眼薬の効果について検討した.角膜移植術後のドライアイ症例10例10眼において,Schirmer試験第I法測定値(以下,Schirmer値),涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害染色スコアリング(以下,スコア),および臨床経過について,ジクアホソルNa点眼薬投与前と投与1カ月後を比較した.角膜内皮細胞密度と角膜厚は,投与前3カ月以内,投与後3カ月以内に測定可能であった症例で,投与前後の値を比較した.Schirmer値には有意差はなかったが,BUTは有意に上昇し,スコアは有意に減少した.角膜内皮細胞密度と角膜厚の平均値に著変はなかった.視力低下・拒絶反応・感染症をきたした症例はなかった.角膜移植術後のドライアイに対してジクアホソルNa点眼薬投与は有効であると考えられた.Weinvestigatedtheefficacyofdiquafosoltetrasodiumophthalmicsolutionforthetreatmentofpatientswithdryeyefollowingkeratoplasty.Tenpatientswithdryeyewhohadundergonekeratoplastywereevaluatedbeforeandat1monthafteradministrationastoSchirmer’stestresults,tearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceincornealandconjunctivalstainingscore(Score),andclinicalcourse.Inmeasurablecases,bothendothelialdensityandcornealthicknessmeasurementsobtainedwithin3monthsbeforeadministrationwerecomparedtotherespectivevaluesobtainedwithin3monthsafteradministration.BUTandScoreimprovementswerestatisticallysignificant;Schirmer’stestresultswerenot.Cornealendothelialdensityandcornealthicknessvaluesobtainedbeforeandafteradministrationwerealmostunchanged.Nosubjectsdevelopeddecreasedvisualacuity,cornealgraftrejectionorinfectionafteradministration.Diquafosoltetrasodiumophthalmicsolutioniseffectivefordryeyefollowingkeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1692.1696,2014〕Keywords:ドライアイ,角膜移植,ジクアホソルナトリウム点眼薬.dryeye,keratoplasty,diquafosoltetrasodiumophthalmicsolution. 表1症例の背景情報症例年齢・性別眼術式期間*原疾患ドライアイ治療薬†164女左表層移植1年2カ月RA‡関連ドライアイ,角膜潰瘍,角膜穿孔ヒアルロン酸ナトリウム,ピロカルピン塩酸塩,自己血清点眼258男左表層移植1年3カ月GVHD§,ドライアイ,角膜穿孔自己血清点眼3||72女左全層移植1年7カ月水疱性角膜症ヒアルロン酸ナトリウム463男左全層移植9年水疱性角膜症ヒアルロン酸ナトリウム5||,¶46男右全層移植1年11カ月円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム6||,¶42男左全層移植1年10カ月円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム7||,¶,**81男右全層移植3カ月原因不明の角膜実質混濁ヒアルロン酸ナトリウム859男右全層移植10カ月角膜穿孔後移植片機能不全ヒアルロン酸ナトリウム**,¶940男左全層移植10カ月円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム10**27男右全層移植3年円錐角膜ヒアルロン酸ナトリウム*:角膜移植術後からジクアホソルNaを追加するまでの期間,†:ジクアホソルNaを追加する前に使用していた薬剤,‡:rheumatoidarthritis関節リウマチ,§:graft-versus-hostdisease移植片対宿主病,||:角膜内皮細胞密度を測定できた症例,¶:角膜厚を測定できた症例,**:両眼とも角膜移植術を施行している症例.安定性の低下の双方が関与していると考えられる.従来から,角膜移植術後のドライアイに対しては,人工涙液やヒアルロン酸ナトリウムの点眼,自己血清点眼,涙点プラグなど一般的なドライアイと同様の治療が行われてきた.しかし,角膜移植術後はすでに複数の点眼薬を使用されていることが多く,点眼薬のさらなる追加は,薬剤性角膜上皮障害の観点からも慎重に判断すべきである.ジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソルNa)点眼液は,結膜上皮細胞と杯細胞膜上のP2Y2受容体に作用し,細胞内のカルシウム濃度を上昇させることで,水分とムチンの分泌を促進する新しいドライアイ治療薬である6,7).また,角膜上皮細胞における膜型ムチンの発現を促進するという報告もある8).ムチンは眼表面で涙液を保持する役割をもち,結果として涙液の安定性維持に寄与する.近年,種々のドライアイに対するジクアホソルNa点眼薬の効果が報告されており9,10),角膜移植後のドライアイへの効果も期待される.そこで,今回筆者らは角膜移植術後のドライアイ症例に対してジクアホソルNa点眼薬を投与し,その効果について検証した.I対象および方法1.対象徳島大学病院で2011年2月から2013年2月にかけて,角膜移植術後のドライアイに対してなんらかの点眼治療中の症例に,ジクアホソルNa点眼薬を追加投与し1カ月以上経過観察できた10例10眼(男性8例8眼,女性2例2眼)である.年齢は27.81歳(平均55.2±16.3歳),右眼4例,左眼6例,全層角膜移植術後8例8眼,表層角膜移植術後2例2眼であった.患者の背景情報やジクアホソルNa投与前の治療の詳細は,表1に示す.両眼とも角膜移植術を施行さ(127)れている症例(症例No.7,9,10)については,後に移植された片眼を対象とした.2.方法Schirmer試験第I法測定値(以下,Schirmer値),涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),フルオレセイン染色による角結膜上皮障害染色スコアリング(以下,スコア;2006年ドライアイ診断基準11)に準ずる),および臨床経過について,ジクアホソルNa点眼薬投与前と投与1カ月後を比較検討した.角膜内皮細胞密度と角膜厚の推移は,測定可能であった症例において,投与前後3カ月以内の値を採用し比較検討した.なおBUTは,1人の検者がフルオレセイン試験紙(フローレスR眼検査用試験紙0.7mg,昭和薬品化工)に最小量の生理的食塩水をつけて下眼瞼結膜に軽く触れるようにして染色し,十分に瞬目させて染色液を眼表面に行き渡らせた後,開瞼から角膜のどこかにドライスポットが現れるまでを細隙灯顕微鏡に備え付けの動画ソフトウェアで撮影し,診察時にモニターのカウンターで一旦判定・記録した.同日の全診療終了後にモニター上のカウンターで再判定し確定した.スコアは,1人の検者が診療時に判定し一旦記録し,同時に静止画を撮影した.同日の全診療終了後に画像を再度閲覧しスコアの妥当性を判定し,必要に応じて改変した.角膜内皮細胞密度および角膜厚の推移の観察は,ジクアホソルNa投与前3カ月以内,および投与後3カ月以内に非接触型角膜内皮細胞撮影装置(コーナンスペキュラーマイクロスコープ.,コーナン・メディカル,西宮)で撮影および測定し比較した.臨床経過は,視力の推移,ドナー角膜移植片の浮腫・混濁の出現,および感染症発症の有無について観察した.統計処理はWilcoxon符号付き順位和検定(SPSS11.0JforWindows)を用いた.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141693 (mm)2012015105(n=10)0投与前1カ月後図1涙液分泌量の変化(Wilcoxon符号付き順位和検定)各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与前後で有意な変化はない.†4321†p=0.03(n=10)0投与前1カ月後図3角結膜上皮障害染色スコア(Wilcoxon符号付き順位和検定)各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与1カ月後は有意に減少している.(μm)800700600500400300200100(n=4)0投与前投与後3カ月以内図5角膜厚の変化各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与後の平均値はわずかに薄くなっている.II結果1.Schirmer値(図1)ジクアホソルNa投与前9.1±7.5mmであったのが,投与(分)*65432*p=0.031(n=10)0投与前1カ月後図2涙液層破壊時間の変化(Wilcoxon符号付き順位和検定)各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与1カ月後は有意に延長している.(cells/mm2)3,5003,0002,5002,0001,5001,000500(n=4)0投与前投与後3カ月以内図4角膜内皮細胞密度の変化各値は症例の平均値±標準偏差を示す.点眼投与後の平均値はわずかに軽減している.1カ月後には11.5±7.9mmに増加したが,投与前後で有意差はなかった(p=0.18).2.BUT(図2)ジクアホソルNa投与前1.5±0.8秒であったのが,投与1カ月後には3.3±2.3秒に有意に延長した(p=0.03).3.スコア(図3)ジクアホソルNa投与前2.3±1.3であったのが,投与1カ月後には1.8±1.0に有意に減少した(p=0.03).スコアを角膜と結膜で分けて検討すると,角膜のスコアは投与前1.7±0.7であったのが,投与1カ月後には1.1±0.6に有意に減少した(p=0.03).結膜のスコアは投与前0.6±1.1であったのが,投与1カ月後には0.7±0.8に増加したが,投与前後で有意差はなかった(p=0.66).4.角膜内皮細胞密度(図4)撮影可能であった4例(症例No.5,6,7,9)において,ジクアホソルNa投与前の内皮細胞密度の平均は2,436±569cells/mm2であったのが,投与後は平均2,199±471cells/mm2となった.(128) ジクアホソルNa投与前投与1カ月後図6症例7(右眼)ジクアホソルNa投与前の角膜上皮障害は,投与1カ月後に軽減した.5.角膜厚(図5)測定可能であった4例(症例No.3,5,6,7)において,ジクアホソルNa投与前の角膜厚の平均は602±66μmであったのが,投与後は平均523±5μmとなった.6.臨床経過点眼投与を契機に,視力低下・拒絶反応・感染症をきたした症例はなかった.7.代表症例(症例7,図6)81歳,男性.原因不明の角膜実質混濁に対して全層角膜移植術を施行してから3カ月が経過した時点でジクアホソルNaを投与開始した.投与1カ月後には,投与前よりもSchirmer値は増加し(13mmが15mmに),BUTは延長し(2秒が4秒に),スコアは低下した(2点が1点に).III考按本研究において,ジクアホソルNa点眼薬の投与後,Schirmer値とBUTの平均値は上昇し,スコアの平均値は減少した.これは,ジクアホソルNaの作用により涙液安定性が改善し涙液貯留量が増加した結果と考えられる.一方で,Schirmer値が低下した症例が3例(症例2,3,10)あった.このうち2例(症例2,3)ではBUTが延長し,スコアが減少あるいは不変であった.このことは,症例2が表層移植後ゆえに角膜知覚神経は部分的にしか切断されていないこと,症例3は全層移植後1年7カ月経過していたため,すでに角膜知覚神経が回復していたと思われることから,双方の症例ともムチン分泌の増加に伴い涙液安定性が改善し,反射性の涙液分泌が減少したことを表していると思われる.症例10では,BUTが不変であるにもかかわらずスコアは減少しており,上記と同様の傾向にあるものの,ムチン分泌の増加がBUT延長に反映されるまでには至っていなかったのかもしれない.また,症例1ではBUTが短縮している.その原因は不明だが,Schirmer値は増加し,スコアは減少してい(129)ることから,症例1ではムチン分泌増加よりも水分泌増加が角結膜上皮障害改善に寄与していたと思われる.角膜と結膜では,ジクアホソルNa投与後のスコアの変化に差があった.原疾患にドライアイのある症例1,2を除いて,結膜上皮障害はジクアホソルNa投与前からないか,あっても少なく,投与後もほとんど変化しなかった.一方,角膜上皮障害は有意に減少した.角膜移植術後は結膜よりも角膜に上皮障害を起こしやすく,ジクアホソルNaは角膜移植術後の角膜上皮障害の軽減に有効である可能性が示唆された.ただし本研究の限界として,正常対照群がないため,上皮障害がジクアホソルNaの追加投与により減少したのか,点眼回数が増えたことで単に水分の補充回数が増えたため減少したのかが判断できないことが挙げられる.今後は,人工涙液などで水分補充のみを行う正常対照群を設け,症例数を増やして検討する必要がある.角膜移植後の角膜透明性にかかわる重要な因子として角膜内皮細胞の機能がある.今回の研究では,ジクアホソルNa投与後に視力低下をきたした症例や,拒絶反応や感染症の所見は出現しなかったが,本来ならば,ジクアホソルNa投与前後に全例で測定し比較検討すべきである.しかし,角膜移植後は眼表面が不正のため,非接触型スペキュラマイクロスコープでの角膜内皮の観察が困難であり,全例には実施できていない.同じ機器での角膜厚の測定も,同様に困難であった.症例数が少ないため,現時点で角膜内皮細胞への影響について断言はできないが,角膜内皮細胞密度が測定可能であった症例の平均値は,投与前後でわずかに減少しているものの,角膜厚はむしろ減少している.それらを臨床経過と合わせて判断すると,ジクアホソルNaが角膜移植後の角膜内皮細胞の機能を損傷していた可能性は低いと推察される.以上のことから,角膜移植後には,ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬をはじめとする,既存のドライアイ治療薬だけでは十分な角結膜上皮障害が改善しない場合,ジクアホソルNaあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141695 点眼薬の追加を検討して良いと思われる.文献1)木下茂,大園澄江,浜野孝ほか:角膜移植片の知覚回復について.臨眼39:466-467,19852)RaoGN,JohnT,IshidaNetal:Recoveryofcornealsensitivityingraftfollowingpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology92:1408-1411,19853)SongXJ,LiDQ,FarleyWetal:Neurturin-deficientmicedevelopdryeyeandkeratoconjunctivitissicca.InvestOphthalmolVisSci44:4223-4229,20034)山田潤,横井則彦,西田幸二ほか:角膜移植後の角膜形状と角膜上皮障害との関連.臨眼49:1769-1771,19955)山田潤,横井則彦,西田幸二ほか:角膜移植後の角膜上皮障害と涙液BreakupTimeの関連.あたらしい眼科13:127-130,19966)七條優子,阪元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,20117)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20118)七條優子,中村雅胤:培養角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,20119)KohS,IkedaC,TakaiYetal:Long-termresultsoftreatmentwithdiquafosolophthalmicsolutionforaqueous-deficientdryeye.JpnJOphthalmol57:440-446,201310)Shimazaki-DenS,IsedaH,GogruMetal:EffectsofdiquafosolsodiumeyedropsontearfilmstabilityinshortBUTtypeofdryeye.Cornea32:1120-1125,201311)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,2007***(130)

3%ジクアホソルナトリウム点眼液の副作用の発現状況と継続治療効果に関する検討

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1513.1518,2014c3%ジクアホソルナトリウム点眼液の副作用の発現状況と継続治療効果に関する検討田川博田川眼科StudyofAdverseDrugReactionstoDiquafosolSodiumOphthalmicSolutionandEffectsofitsUseinContinuedTreatmentHiroshiTagawaTagawaGanka製剤改良後3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%;以下,現DQS)は2012年4月から多くのドライアイ患者に処方されている.そこで,DQSによる眼刺激を含めた副作用の有無と継続治療効果(自覚症状,他覚所見)について検討した.DQS使用歴がないドライアイ確定例と疑い例100例(男性11例,女性89例,平均年齢65歳;15.90歳)にドライアイ検査直後に製剤改良前のDQS(以下,旧DQS)を点眼投与して眼刺激症状がみられた場合,15分後に現DQSを点眼投与した.旧DQSで1例に軽い違和感がみられたが,現DQSでは違和感は生じなかった.全例に現DQSを処方したところ,点眼処方1カ月時の眼刺激症状発現率は2.4%であり,自覚症状・他覚所見は7.8割で改善がみられた(解析対象:85例).点眼処方3カ月時の眼刺激症状発現率は0%であり自覚症状・他覚所見は9割で改善がみられた(解析対象:58例).現DQSでは眼刺激の原因による点眼中止例は認められず,継続治療の効果が示唆された.Manypatientshavereceivedimproved3%diquafosolsodiumformulation(DIQUASRophthalmicsolution3%)(presentDQS)sinceApril2012.Westudiedtheoccurrenceofadversedrugreactionsandcontinueduse.TheoldDQSformulation(oldDQS)wasadministeredto100confirmedorsuspecteddry-eyepatientswithnohistoryofDQSuse(males:11,females:89;meanage:65years;agerange:15.90years).Ifeyeirritationdeveloped,presentDQSwasadministeredafter15min.OnesubjectexperiencedmilddiscomfortwitholdDQS,butnonedidwithpresentDQS.PresentDQSwasthenprescribedforallsubjects.After1month(analysispopulation:85)and3months(analysispopulation:58),eyeirritationdevelopedin2.4%and0%,respectively;subjectivesymptoms/objectivefindingsimprovedin70%.80%and90%,respectively.PresentDQSformulationcausesalmostnoirritation,andremainseffectivewithcontinueduse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1513.1518,2014〕Keywords:ドライアイ,ジクアホソルナトリウム点眼液,眼刺激,継続治療.dryeye,diquafosolsodiumophthalmicsolution,eyeirritation,continuedtreatment.はじめにドライアイ治療薬の一つである3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%;以下,DQS)は,水分とムチン両方の分泌促進作用を併せ持つ作用メカニズム1)で,ドライアイ患者でみられる涙液層の不安定化を改善する点眼剤として多くのドライアイ患者に処方されている.ドライアイは「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」2)と定義される眼疾患で,長期の治療が必要である.しかし一方で,一般的には重症,また治療が長期にわたるほどドライアイ治療用点眼剤に使用されている防腐剤の角膜への影響が懸念されている.ベンザルコニウム塩化物は,その溶解性および幅広い抗〔別刷請求先〕田川博:〒003-0023札幌市白石区南郷通1丁目北1-1白石メディカル2階田川眼科Reprintrequests:HiroshiTagawa,M.D.,Ph.D.TagawaGanka.ShiroishiMedicalBldg.2F,Nango-dori1kita,Shiroisi-ku,Sapporo001-0023,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(91)1513 菌作用から点眼剤の防腐剤として最も多く用いられている3)が,その抗菌作用の強さゆえ,高濃度では眼刺激性などの眼障害を引き起こす可能性も報告されている4).日本でのDQS発売は2010年12月であり(以下,旧DQS),ドライアイ治療の新しい選択肢となった.旧DQSでの継続治療による自覚症状および他覚所見(涙液の異常と角結膜上皮障害)の改善は,既存薬との比較試験5)ならびに長期試験6)の結果からも明らかであったが,他方,一部の患者において,眼刺激の発現が点眼処方時および点眼の継続時における課題となっていた.その後の製剤改良により,旧DQSの有効性および保存効力は維持したまま防腐剤であるベンザルコニウム塩化物の濃度が低減された.2012年4月出荷分からは細胞毒性が低下したDQS(以下,現DQS)に切り替えられて現在広く流通しており,治療効果などに着目した臨床報告が期待されている.そこで本研究では,ドライアイ患者に旧DQSと現DQSを点眼して眼刺激症状の有無を確認後に現DQSを処方し,眼刺激を含めた副作用発現の有無ならびに慢性疾患であるドライアイに対する継続治療率を含めた治療効果(自覚症状,他覚所見)について検討した.I対象および方法1.対象2012年5月以降に田川眼科を受診し,「ドライアイ診断基準」(ドライアイ研究会,2006年)2)に準じたドライアイの自覚症状があるドライアイ確定例または疑い例で,これまでにドライアイの治療を受けたことのない患者とDQS以外の精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(以下,HA)などで治療中であるが改善傾向の認められない患者を対象とした.なお,試験対象者の選定時に背景因子(性別,年齢など)およびドライアイの自覚症状について調査した.2.方法および評価項目1)ドライアイの自覚症状は患者から訴えのあった症状のうちで,ドライアイQOL質問票「DEQS」7)の項目に一致する訴えをドライアイの自覚症状として,その変化を判定した.なお,新しいドライアイ症状が出現した場合は悪化と判定した.「ドライアイ診断基準」(ドライアイ研究会,2006年)2)に準じ,他覚所見の検査として,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の測定(角膜のフルオレセイン染色3回測定の平均値を採用),角膜の染色試験(フルオレセイン染色によるスコア判定;最小0.最大3点)および結膜の染色試験(フルオレセイン染色によるスコア判定,ブルーフリーフィルター使用;最小0.最大6点)を実施した.角結膜上皮障害判定の染色スコアは1以上の変化を,BUTは1秒以上の変化を有意な変化として判定した.この2項目が改善と悪化で異なった結果の場合は不変とした.1514あたらしい眼科Vol.31,No.10,20142)現DQSを処方することを前提として,点眼による眼刺激症状を確認するためと説明後,フルオレセインを洗い流した15分後に全試験対象者に旧DQSを点眼投与し眼刺激症状などを確認した.眼刺激症状が生じた場合,さらにその15分後に現DQSを点眼投与して再度眼刺激症状の有無を確認した.3)旧DQSまたは現DQSの点眼で眼刺激症状が生じなかった試験対象者に現DQSを1日6回の点眼で処方した.なお,旧DQSおよび新DQSの区別は製造番号に基づいて,直接,製造メーカーに確認した.また,これまでHAなどで治療中であった症例では,これまでの治療を継続してDQSを追加してもらった.処方1カ月および3カ月時での眼刺激症状などの副作用発現の有無,点眼継続の状況,自覚症状と他覚所見の変化をレトロスペクティブに検討した.副作用が発現した場合は,処置の有無と内容,転帰,試験薬剤との因果関係を検討した.有害事象のうち試験薬剤との因果関係を否定できないものを副作用とした.自覚症状と他覚所見はそれぞれ,「改善」,「不変」,「悪化」の3段階で評価した.3.統計解析有意水準は両側5%(p<0.05)とし,記述統計量は平均値±標準偏差で示した.角結膜上皮障害判定の染色スコアおよびBUTの統計解析は対応のあるt検定を用いて検定した.II結果1.対象および背景因子対象は男性11例,女性89例の計100例で,平均年齢は65歳(15.90歳)であった.100例中ドライアイの治療を受けたことのない患者は31例,DQS以外のHAなどでドライアイ治療中であるが改善傾向の認められない患者は69例であった.2.眼刺激を含む副作用,継続治療の効果に対する評価a.点眼直後の眼刺激を含む副作用の評価外来での旧DQS点眼投与直後に明らかな眼刺激症状を訴えた患者はいなかったが,1例が軽度の違和感を訴えた.15分後,この1例に現DQSを点眼投与したところ違和感は生じなかった.その結果,100例全例が現DQSの点眼処方対象となり,1日6回の点眼を全例に処方した.b.現DQS点眼処方1カ月時の副作用の有無,点眼継続の状況,および自覚症状と他覚所見の評価副作用の発現と自覚症状の評価は,点眼処方1カ月時に再診した65例,および1カ月以降の再診時に1カ月時点での症状の聞き取りが可能であった20例の合計85例を解析対象とした.他覚所見の評価は,点眼処方後1カ月時に再診した65例のみを解析対象とした.1)副作用の発現(表1)(92) 表1現DQS点眼処方1カ月,3カ月時の副作用発現と治療継続1カ月(n=85)*13カ月(n=58)*2副作用発現(率)治療継続(率)副作用発現(率)治療継続(率)なし64例(75.3%)54例(93.1%)あり21例(24.7%)80例(94.1%)4例(6.9%)58例(100.0%)(副作用ありの内訳)分泌物14例(16.5%)13例(92.9%)4例(6.9%)4例(100.0%)かゆみ4例(4.7%)0例(0.0%)..眼刺激2例(2.4%)2例(100.0%)..流涙1例(1.2%)1例(100.0%)..*11カ月時再診65例+1カ月以降の再診時聞き取り20例.*23カ月時再診58例.1カ月時の自覚症状3カ月時の自覚症状改善61例(71.8%)悪化悪化4例1例(4.7%)(1.7%)不変不変4例20例(23.5%)(6.9%)改善53例(91.4%)n=85(1カ月時再診65例+1カ月以降の再診時聞き取り20例)中断・中止:6例(7.1%;受診後1例が中止、「改善」「不変」のうち5例が1カ月以降に自己中断)悪化不変11例(16.9%)1カ月時の他覚所見改善53例(81.6%)1例(1.5%)n=65(1カ月時再診65例)中断・中止:0例(0.0%)n=58(3ヵ月時再診58例)中断・中止:1例(1.7%;分泌物の増加により再診後中止)3カ月時の他覚所見悪化0例(0.0%)不変6例(10.3%)改善52例(89.7%)n=58(3カ月時再診58例)中断・中止:1例(1.7%;分泌物の増加により再診後中止)図1現DQS点眼処方1カ月,3カ月時の自覚症状・他覚所見85例中64例(75.3%)では特に副作用の発現がなく,全例で点眼が継続されていた.「眼刺激症状」は2例(2.4%)に,また「流涙」は1例(1.2%)にみられたが,3例とも点眼継続に支障はなかった.「分泌物」は14例(16.5%)にみられたが,そのうち1例(7.1%)は分泌物が生じた数日後に自己判断で点眼を中断していた.「眼のかゆみ」は4例(4.7%)で,点眼処方後数日以内に発症し,全例で発症後すぐに中断していた.2)点眼継続の状況処方1カ月の時点で,85例中80例(94.1%)が点眼を継続していた.処方1カ月以降も点眼を継続したのは72例(84.7%)で,8例が点眼を中断した.中断した原因は,2例(93)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141515 3.84±1.13*3.92±0.91*432.62±0.713フルオレセイン染色スコア(点)2.62±1.231.41±1.35*1.16±1.05*,**00点眼前点眼1カ月時点眼3カ月時点眼前点眼1カ月時点眼3カ月時図3現DQS点眼処方によるBUTの変化BUT(秒)221図2現DQS点眼処方による角結膜上皮障害の変化平均値±標準偏差(n=25)*点眼前と比べて有意に延長(p<0.001,対応のあるt検定)平均値±標準偏差(n=34)*点眼前と比べて有意に低下(p<0.001,対応のあるt検定)**点眼1カ月時と比べて有意に低下(p<0.05,対応のあるt検定)が分泌物の増加,2例が自覚症状に変化のなかったこと,4例が自覚症状の改善したことであった.3)自覚症状および他覚所見(図1)自覚症状は85例中61例(71.8%)が「改善」を示し,「不変」は20例(23.5%)「悪化」は4例(4.7%)であった.他覚所見は65例中53例((,)81.6%)が「改善」を示し,「不変」は11例(16.9%),「悪化」は1例(1.5%)であった.c.現DQS点眼処方3カ月時の副作用の有無,点眼継続の状況,および自覚症状と他覚所見の評価副作用,自覚症状,他覚所見いずれの評価も,点眼処方3カ月時に再診した58例を解析対象とした.1)副作用の発現(表1)58例中54例(93.1%)で副作用の発現はなかった.「分泌物」は4例(6.9%)にみられ,「眼刺激症状」,「流涙」,「眼のかゆみ」はまったくみられなかった.2)点眼継続の状況処方3カ月の時点で再診した58例全例が点眼を継続していた.処方3カ月以降も点眼を継続したのは57例(98.3%)であった.1例は分泌物の継続が不快なため中断を希望した.3)自覚症状および他覚所見(図1)自覚症状は58例中53例(91.4%)が「改善」を示し,「不変」は4例(6.9%)「悪化」は1例(1.7%)であった.他覚所見は58例中52例((,)89.7%)が「改善」を示し,「不変」は6例(10.3%),「悪化」した例はなかった.d.角結膜上皮障害判定の染色スコアおよびBUTフルオレセインによる角結膜上皮障害判定の染色スコアは現DQS点眼処方前2.62±1.23点であったが,点眼処方1カ月時に1.41±1.35点(p<0.001,vs点眼前),点眼処方3カ月時では1.16±1.05(p<0.001,vs点眼前;p<0.05,vs点眼1カ月時)と有意に低下した(図2).BUTは現DQS点眼処方前2.62±0.71秒であったが,点眼処方1カ月時に3.84±1.13秒(p<0.001,vs点眼前),点眼処方3カ月時では平均3.92±0.91秒(p<0.001,vs点眼1516あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014前)と有意に延長した(図3).III考按近年,日本におけるPCならびに携帯電話などのVDT(visualdisplayterminal)ユーザーの急増に伴い,ドライアイ患者数も増加している8).ドライアイは眼不快感や視機能異常を伴う眼疾患と定義2)され,慢性疾患であるために治療の継続性が重要となる.すなわち,ドライアイ治療用点眼剤に使用されている防腐剤の角膜への影響も配慮しつつ,ドライアイ患者の症状の軽減および改善を図るためには,患者に対していかに治療の継続を促していくかがわれわれの課題であろう.防腐剤であるベンザルコニウム塩化物は組成が単一ではなく,アルキル基がC8H17からC18H37である.濃度が低下するほど角膜毒性が低下するが,防腐剤としての効果も低下する.さらに,組成におけるアルキル基の違いによって防腐剤としての効果などに違いがある9).そのため,防腐剤として有効でありながら角膜障害を生じないベンザルコニウム塩化物の組成とその濃度の組み合わせの選択が重要と考えられるが,組成に関しては各製薬メーカーから情報公開されていない.DQSはドライアイのコアメカニズムである涙液層の安定性を改善させる特徴を有し,2010年12月の発売(旧DQS)以降ドライアイ治療に広く用いられている.HAを対照薬として検討した旧DQSの国内第III相比較試験3)では,旧DQSがHAに比べて角結膜上皮障害を有意に改善させた.また,52週間に及ぶ長期投与試験4)においても,旧DQSはドライアイ患者の自覚症状および他覚所見を点眼4週後までに有意に改善し,その効果は点眼52週後まで維持されていた.旧DQSの継続治療効果は明らかであったが,まれに生じる「眼刺激症状」が課題であった.その後,2012年4月出荷分からは防腐剤による眼刺激の低減を図った現DQSに切り替わっており,点眼処方への抵抗感が減弱したのと同時に,患者に継続治療を促しやすくな(94) ったといえる.しかしながら,現DQSの点眼処方による副作用発現の有無や継続治療の効果などについての臨床試験報告などがまだないことから,今回の検討に至った.旧DQSで課題とされていた「眼刺激症状」については,旧DQS治験時の発現率は6.7%(44/655例)1)であった.しかし,今回の研究では試験開始時に全例に旧DQSを外来で点眼したが「眼刺激症状」は1例もみられなかった.ただし,この点眼試験の前にフルオレセインを用いた検査を行い,その後に染色液を洗い流している.15分空けてから点眼試験を実施したが,3時間ごとに点眼する治療時に比べ,「眼刺激症状」が出にくかった可能性はある.しかしながら,現DQS点眼処方後1カ月間での「眼刺激症状」発現率は2.4%(2/85例)であり,旧DQSの治験時とは単純な比較はできないものの比較的低率で,2例とも症状は一時的かつ軽度であったため点眼継続に支障がなかった.本研究はレトロスペクティブに検討したものであり,対象は一般外来の中で通常の診療行為を行った症例である.そのため,これらの症例は,点眼剤の副作用を十分に説明したうえで点眼の継続に主眼をおいて治療を進めており,多施設の治療効果などを検討したプロスペクティブ研究との比較には慎重を要すると考えられる.今回の検討で「分泌物」は16.5%(14/85例)と高率に観察されたが,これについては患者に薬効を説明するなどの工夫により8割近くの患者(11/14例)で1カ月以降も点眼継続が可能であった.「流涙」が認められた1例は症状も軽度であり問題なく点眼を継続した.しかし,「眼のかゆみ」を訴えた4例(4.7%,4/85例)では全例が来院することなく点眼開始数日後に自己中断していたため,当初憂慮していた「眼刺激症状」よりむしろ「眼のかゆみ」の発現が点眼を継続するうえで支障になる可能性が考えられた.治療の継続率に関しては,現DQS処方後1カ月の時点では再診した患者の94%が点眼を継続していた.また,処方した全100例中でも80%以上の患者が点眼を継続していた.処方後3カ月の時点で点眼を継続していた患者の98%がそれ以降も点眼の継続を希望しており,継続率がきわめて高いと考えられた.今回の検討では,処方前に点眼による「眼刺激症状」の有無を確認し,そのときに他の副作用などについても十分に説明したことが継続率に寄与していると思われる.患者の訴えをよく聞いて,1日6回の点眼にこだわらず,点眼回数を調整することも治療の継続率に寄与していた.一方,1カ月以降点眼を継続した72例中,3カ月の時点で14例が再診していなかった.再診しなかった14例と継続した58例で副作用の発現率に差があったかについては不明である.内野らは涙液減少型およびBUT短縮型ドライアイ患者を対象にDQS点眼治療した場合の初診以降再診なし率が約33%であることを報告しており10),この報告と比較しても本研究の治療継続率は非常に高いと考えられた.内野らの研究が旧DQSを用いたものかは定かではないため,本研究の高い治療継続率が現DQSの効果に起因するものか比較することはできないが,現DQSのドライアイ治療における継続率は副作用の発現および効果の両方を合わせた患者満足度に起因することは間違いないと思われる.現DQS点眼処方後の自覚症状および他覚所見は7.8割の患者で「改善」がみられ,角結膜上皮障害を判定するフルオレセイン染色スコアは1カ月または3カ月の継続点眼後に有意に低下し,BUTも有意な延長が認められた.以上の結果は,添加物を変更して眼刺激発現率の低減をめざした現DQSにおいても,旧DQSの自覚症状および他覚所見の改善効果をそのまま維持していることを示している.さらに最近の研究では,DQSの涙液層への安定性改善作用により実用視力や波面収差など視機能の改善が認められた,との結果も報告されている11).視機能の改善はドライアイ特有の見えにくさの解消にもつながり,治療満足度がより高まることが示唆される.今回の検討から,現DQSは旧DQSと同様に自覚症状および他覚所見を有意に改善し,ドライアイ治療に有用な薬剤と考えられた.また,製剤改良により眼刺激症状などの副作用が軽減することで,現DQSの治療継続率がより良好になる可能性が考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NakamuraM,ImanakaT,SakamotoA:Diquafosolophthalmicsolutionfordryeyetreatment.AdvTher29:579-589,20122)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20073)島﨑潤:点眼薬の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,19914)福井成行,池本文彦:点眼の刺激性に関する研究(第1報)各種物質の即時刺激性と連用による眼障害について.現代の臨床4:277-289,19705)TakamuraE,TsubotaK,WatanabeHetal:Arandomised,double-maskedcomparisonstudyofdiquafosolversussodiumhyaluronateophthalmicsolutionsindryeyepatients.BrJOphthalmol96:1310-1315,20126)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,20127)SakaneY,YamaguchiM,YokoiNetal:DevelopmentandvalidationoftheDryEye-RelatedQuality-of-LifeScorequestionnaire.JAMAOphthalmol.131:1331-1338,20138)内野美樹,内野裕一:疫学から知り得たドライアイの本質.(95)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141517 あたらしい眼科29:305-308,2012ジクアホソルナトリウム点眼治療後の患者満足度.臨眼9)UematsuM,KumagamiT,ShimodaKetal:Influenceof68:1403-1411,2013alkylchainlengthofbenzalkoniumchlorideonacutecor-11)KaidoM,UchinoM,KojimaTetal:Effectsofdiquafosolnealepithelialtoxicity.Cornea29:1296-1301,2010tetrasodiumadministrationonvisualfunctioninshort10)内野美樹,内野裕一,深川和己ほか:涙液層破壊時間(BUT)break-uptimedryeye.JOculPharmacolTher29:595短縮型ドライアイ患者に対するヒアルロン酸ナトリウムと603,2013***1518あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(96)

レバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1369.1373,2014cレバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例池川和加子山口昌彦白石敦坂根由梨原祐子鄭暁東鈴木崇井上智之井上康大橋裕一愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野EfficacyofRebamipideOphthalmicSolutionforTreatment-ResistantFilametaryKeratitis:ThreeCaseReportsWakakoIkegawa,MasahikoYamaguchi,AtsushiShiraishi,YuriSakane,YukoHara,XiaodongZheng,TakashiSuzuki,TomoyukiInoue,YasushiInoueandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine背景:糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,角膜上皮障害を起点に角膜糸状物を形成する慢性疾患で,強い異物感を伴い治療に難渋することも多い.今回レバミピド点眼液(RM)が奏効した糸状角膜炎の3例を報告する.症例:症例1:79歳,女性.Sjogren症候群.両総涙小管閉塞にて涙小管チューブ挿入術後にドライアイが顕性化し,角膜全面にFKが多発した.ヒアルロン酸点眼,ベタメタゾン点眼,ソフトコンタクトレンズ(SCL)連続装用にて軽快せず,RMを追加したところSCL非装用でもFKの出現は認められず,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例2:90歳,男性.両角膜実質炎後混濁の角膜移植後で,0.1%フルオロメソロン点眼(FL)が投与されている.ドライアイによる点状表層角膜症(SPK)が出現し,ジクアホソルナトリウム点眼(DQ)を追加したところFKが出現した.DQを中止したが軽快せず,RMを開始したところFKは消失し,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例3:67歳,女性.右顔面神経麻痺の既往.最初右下方,両角膜下方にFKが出現するようになり,DQ,FLを投与したが軽快せず,DQをRMに変更したところFKは消失し,RM単独で15カ月間寛解状態である.結論:従来の治療に抵抗性のFKに対してRMは有効であると考えられた.Threecasesoffilamentarykeratitis(FK)inwhichrebamipideophthalmicsolution(RM)waseffectivearereported.Case1:FKappearedalloverthebilateralcornealsurfaces.SinceFKtherapycomprisinghyaluronicacid,betamethasoneophthalmicsolutionandsoftcontactlens(SCL)continuouswearwasnoteffective,RMwasadministrated.Subsequently,FKhasbeencontrolledwithoutSCLfor18months,withRMonly.Case2and3:DiquafosolNaophthalmicsolution(DQ)and0.1%fluorometholonewereadministratedfordry-eyetherapy;howeverFKdidnotimprove.AfterDQwasreplacedwithRM,FKimprovedimmediatelyandhasbeencontrolledfor18monthsinCase2and15monthsinCase3,withRMonly.RMisefficaciousforconventionaltreatment-resistantFK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1369.1373,2014〕Keywords:糸状角膜炎,レバミピド点眼液,ドライアイ,角膜上皮障害,炎症,ムチン.filamentarykeratitis,rebamipideophthalmicsolution,dryeye,cornealepithelialdisorder,inflammation,mucin.はじめに糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,種々の眼表面疾患や眼瞼疾患が複合的に関与して発症し,眼手術後や眼外傷後などに発症頻度が高まることが知られている1,2).FKの治療は,綿棒などにより角膜糸状物を物理的に除去した後,多くの症例で合併しているドライアイに対して,人工涙液点眼やヒアルロン酸点眼などを用い,ほとんどの例において眼表面炎症が病態に関与しているため,低濃度ステロイド点眼やシクロスポリン点眼を併用する.しかし,これらの保存療法だけでは再発を繰り返す場合も多く,バンデージ効果を図るためにメディカルユースソフトコンタクレンズ(MSCL)の連続装用を行うが,寛解状態を保つためには,〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:MasahikoYamaguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)1369 しばしばMSCLから離脱困難となり,継続中に角膜感染症の発生などが問題となる.このように,FKに対してはさまざまな治療が行われるものの,治癒させるのはきわめて困難な疾患であるといえる.レバミピド点眼液(ムコスタRUD点眼液2%,大塚製薬,以下RM)は,2012年1月にドライアイ治療薬として発売され,実験的には,結膜杯細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)を有することが報告されている.また臨床的にも,ドライアイの自他覚症状を改善させる5,6)ことが明らかになっており,新しい作用機序をもったドライアイ治療薬として注目されている.今回筆者らは,これまでの既存の治療には抵抗性であったFKに対し,RMを投与することによって,長期寛解状態に持ち込めた3症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕69歳,女性.既往例として,Sjogren症候群が存在する.2006年10月,両側の総涙小管狭窄症による流涙症に対して,両側の鼻涙管シリコーンチューブ挿入術を施行した.2008年5月から両眼の乾燥感を自覚し始め,軽度の角結膜上皮障害がみられたため,人工涙液点眼(ソフトサンティア点眼液,参天製薬)と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレインR点眼液0.1%,参天製薬)をそれぞれ両眼に1日6回投与し,途中からヒアルロン酸点眼液を防腐剤無添加の0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,日本点眼薬研究所)に変更して経過観察していた.2012年2月8日に左眼角膜下方にFKが出現し異物感が増強してきたため,オフロキサシン眼軟膏(タリビッドR眼軟膏,参天製薬,以下TV)を開始したが軽快せず,2週間後には左眼角膜中央にも多数のFK(図1b)がみられるようになってきたため,消炎が必要と考えて0.1%ベタメタゾン点眼液(リンベタPF眼耳鼻科用液0.1%,日本点眼薬研究所)を左眼に1日3回で開始した.しかし,左眼はFKによる異物感が軽快しないため,MSCL連続装用を開始したところ,異物感はコントロール可能になり,左眼の0.1%ベタメタゾン点眼は中止した.4月5日には右眼にもFKを認めるようになり異物感が増強してきたため(図1a),両眼ともMSCL連続装用となった.その後,右眼はMSCL装用を中止しても異物感のコントロールは可能であったが,左眼はMSCL装用を止めるとFKが増悪する状態を繰り返したため,左眼はMSCL継続のまま6月21日にRM両眼1日4回を開始した.右眼は8月2日以降FKがほとんど認められなくなり(図1c),左眼は9月6日以降MSCLを中止してもFKの再発はみられず(図1d),異物感も消失した.その後,ときに軽微なFKの再発がみられるものの,強い異物感を訴えるようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を維持している.〔症例2〕60歳,男性.両眼の角膜実質炎後の角膜混濁に対して,右眼は表層角膜移植術,左眼は全層角膜移植術をacbd図1症例1a:右眼FK多発期.角膜中央.下方にFKを認める.b:左眼FK多発期.角膜ほぼ全面にFKを認める.c:右眼RM投与6週目.FKはほぼ消失している.d:左眼RM投与11週目.FKはほぼ消失している.1370あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(122) acbdacbd図2症例2a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与3週目.FKは消失している.d:左眼RM投与3週目.FKはほぼ消失している.受けている.2008年ごろから両眼のSPKが増加し,FKを繰り返すようになった.2011年4月,右眼に再度表層角膜移植を行い,0.1%フルオロメソロン点眼液(フルメトロンR点眼液0.1%,参天製薬,以下FL)とレボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬)を1日3回投与していた.2012年1月,両眼角膜中央の点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)が軽快せず,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)も両眼とも1秒と短縮していたため,ドライアイ改善の目的でジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,参天製薬,以下DQ)を追加したが,同年3月に右眼角膜下方に,4月に左眼角膜下方にFKを認めるようになった(図2a,b).FKが改善しないため,DQとFLを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与後3週目に両眼のFKが消失した(図2c,d).その後,RM投与のみとしたが,自覚症状を伴うようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を保っている.〔症例3〕57歳,女性.右側顔面神経麻痺の既往はあるが,閉瞼状態は回復しており,明らかな兎眼はみられなかった.2011年7月,右眼の充血,流涙感,異物感を訴え,両眼のBUTは1秒,両角膜下方にSPKが存在し,右眼角膜下方にはFKがみられたため,ドライアイ治療の目的でDQとFLを開始した.その後,右眼のFKは出現,消失を繰り返していたが,2012年6月には左眼角膜下方にもFKを認(123)めるようになったため,TVOを追加した(図3a,b).同年8月再診時,両眼のFKが軽快しないため,DQを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与2週間目にFKは消退した(図3c,d).その後,RM単独投与で15カ月間,寛解状態を維持している.3症例のまとめを表1に示す.II考察Taniokaらは,臨床例から得られた角膜糸状物サンプルを免疫組織化学的に解析し,その発生メカニズムについて詳細に考察している7).すなわち,角膜上皮障害を起点として,上皮細胞成分をコアにその周囲にムチンが絡みつき,瞬目に伴う摩擦ストレスの影響下に基底細胞レベルから上皮が.離されることにより形成されるという.その結果,瞬目とともに糸状物が動くことで角膜知覚が刺激され,持続的な異物感を伴うようになる.したがって,治療戦略としては,起点となっている角膜上皮障害を速やかに修復させるとともに,炎症などによる分泌型ムチンの増加を抑制し,ドライアイやその他の要因による涙液クリアランスの悪化を改善させ,炎症起因物質やムチンをできる限り早く眼表面から排除することが必要である.しかし,SCLによる眼表面保護効果を除けば,ヒアルロン酸など,これまでの点眼薬治療では,上記の病態を持続的に改善させるのは困難であった.RMは,動物実験や培養角膜上皮による実験から,結膜杯あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141371 acbdacbd図3症例3a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与2週目.FKは消失している.d:左眼RM投与2週目.FKは消失している.表1糸状角膜炎3症例の所見と治療(まとめ)症例1(79歳,女性)症例2(90歳,男性)症例3(67歳,女性)全身疾患Sjogren症候群――眼疾患の既往総涙小管閉塞にて両)涙小管チューブ挿入術後角膜実質炎にて両)角膜移植後右)顔面神経麻痺(閉瞼不全なし)FK出現部位両)角膜全面,右<左両)下方,右≒左両)下方,右≒左RM投与前治療軟膏――オフロキサシン眼軟膏ステロイド点眼0.1%ベタメタゾン点眼0.1%フルオロメトロン点眼0.1%フルオロメトロン点眼ドライアイ治療0.1%ヒアルロン酸点眼ジクアホソル点眼ジクアホソル点眼SCL装用+――RM投与後FK消失までの期間右)6週,左)11週両)3週両)2週RM投与後FK寛解持続期間18カ月18カ月15カ月FK:filamentarykeratitis,RM:rebamipideophthalmicsolution.細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)が確認されている.また,治験における結果から,臨床的にもドライアイの治療に有効であることが報告されている5,6).さらに,抗炎症作用を介して,角膜上皮の治癒促進に働く可能性が示されている8,9).RMは,分泌型および膜結合型ムチンの増加による涙液安定性の向上と抗炎症作用を含む角膜上皮創傷治癒作用によって,FKの起点となる遷延性の角膜上皮障害を改善させ,FKの再発を抑制している可能性がある.症例2と3においては,ドライアイによる角膜上皮障害の1372あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014悪化と考えられたため,DQを追加したがFKは改善しなかった.DQには,RMと同様に分泌型ムチンおよび膜結合型ムチンを増やす作用があり,そのうえ,結膜上皮細胞からの水分移動作用があるため,RMと同様に涙液安定性を向上させて,ドライアイを改善し,FK抑制の方向へ働くことが予想される.しかし,この2症例ではDQの追加投与では改善がみられず,RMへの変更によって改善が得られた.このことは,RMが眼表面ムチンを増やすうえに,角膜上皮障害の治癒促進という作用も持ち合わせているため,FKの発症をその機序のより上流で抑制している可能性があるのではない(124) かと推察される.また,3症例とも最終的には,ヒアルロン酸点眼やステロイド点眼を使用せずにRMのみでFKがコントロールできている点においても,FKに対するRMの有効性が示されているところであると思われた.他方,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの眼瞼疾患においては,涙液クリアランスの悪化や眼表面摩擦の亢進がFK発症の原因になることが知られている10).これらのケースではFKの発症部位もドライアイによるものとは異なっており,観血的な眼瞼異常の是正により初めて寛解する.今回の3症例には,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの要因はみられなかったが,眼瞼異常が主因となって生じるFKに対するRM投与の有効性については今後の検討課題である.以上,種々の治療に対する反応が不良で,RMへの変更投与が奏効したFKの3症例を提示した.RMは,その薬理作用によって種々のFKの発症要因を抑制し,長期間にわたって自覚症状および他覚所見を寛解させるのではないかと考えられた.文献1)KinoshitaS,YokoiN:Filamentarykeratitis.TheCorneafourthedition(FosterCS,AzarDT,DohlmanCHeds),p687-692,Philadelphia,20052)DavidsonRS,MannisMJ:Filamentarykeratitis.Cornea2ndedition(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJeds),p1179-1182,ElsevierInc,20053)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20044)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreasesthemucin-likeglycoproteinproductionincornealepithelialcells.JOculPharmacolTher28:259-263,20125)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20126)KashimaT,AkiyamaH,MiuraFetal:Resolutionofpersistentcornealerosionafteradministrationoftopicalrebamipide.ClinOphthalmol6:1403-1406,20127)TaniokaH,YokoiN,KomuroAetal:Investigationofcornealfilamentinfilamentarykeratitis.InvestOphthalmolVisSci50:3696-3702,20098)KimuraK,MoritaY,OritaTetal:ProtectionofhumancornealepithelialcellsfromTNF-a-induceddisruptionofbarrierfunctionbyrebamipide.InvestOphthalmolVisSci54:2572-2760,20139)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:RebamipideincreasesbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmol97:912-916,201310)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌115:693-698,2011***(125)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141373

VDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液の効果比較

2014年5月31日 土曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(5):750.754,2014cVDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液の効果比較浅井景子*1岡崎嘉樹*1御子柴雄司*1中村竜大*2石川浩平*3*1静岡済生会総合病院眼科*2中村眼科医院*3石川眼科医院ComparativeEfficacyof3%DiquafosolTetrasodiumandArtificialTearFluidforDryEyeinVDTUsersKeikoAsai1),YoshikiOkazaki1),YujiMikoshiba1),TatsuhiroNakamura2)andKoheiIshikawa3)1)DepartmentofOphthalmology,ShizuokaSaiseikaiGeneralHospital,2)NakamuraEyeClinic,3)IshikawaEyeClinicドライアイを伴うvisualdisplayterminals(VDT)作業者に対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液:以下,DQS)と人工涙液(マイティアR:以下,AT)の効果を比較した.点眼開始日から2・4・8週目のいずれかに問診および検査を行ったVDT作業者のドライアイ確定例および疑い患者40例40眼(DQS群19例,AT群21例)を後ろ向きに抽出した.両群間の涙液層破砕時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害スコアおよび自覚症状12項目について比較検討した.DQS群ではBUTが3.37±1.54秒から5.11±2.47秒(p=0.0002),角結膜上皮障害が1.68±1.29点から0.84±0.83点(p=0.0002),自覚症状累計点が21.00±6.79点から14.78±6.90点(p=0.0002)と有意に減少し,AT群では変化がなかった.最終観察時には群間に有意差がみられた(p=0.0093,p=0.0220,p=0.0229).DQSはVDT作業に伴うドライアイにおける自覚症状・他覚所見の改善に有効と考えられた.Wedidacomparativeexaminationoftheeffectof3%diquafosolsodium(DiqasR:DQAF)andartificialtears(AT)invisualdisplayterminal(VDT)userswhosufferedfromdryeyedisease.Weextractedbackward40VDTusers(40eyes)withdefiniteorprobabledryeyediseaseineitherweek2,4or8afterinitiatingeyedropapplication,andevaluatedtheirtearfilmbreakuptime(BUT),keratoconjunctivalstainingscoreandsubjectivesymptoms.AlthoughDQAFshowedpredominantimprovementinkeratoconjunctivalstainingscore(from1.68±1.29to0.84±0.83;p=0.0002),BUT(from3.37±1.54to5.11±1.54seconds;p=0.0002)andsubjectivesymptoms(from21.00±6.79to14.78±6.90;p=0.0002),ATdidnot.WeconcludethatDQAFiseffectiveinimprovingdryeyediseaseinVDTusers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):750.754,2014〕Keywords:VDT作業,ドライアイ,ジクアホソルナトリウム,人工涙液,効果比較.VDToperation,dryeye,diquafosolsodium,artificialtearfluid,comparativeefficacy.はじめにパーソナル・コンピュータやスマートフォンなどのIT(informationtechnology)機器の使用率の上昇に伴い,VDT(visualdisplayterminals)作業者の割合も増加しており,2008年に行われた厚生労働省の調査結果によると,VDT作業を行っている事業所は全体の97.0%とされている.そのうち,VDT作業に伴う何らかの自覚症状がある作業者は約68.6%であったが,最も多い症状が「目の疲れ・痛み」で,全体の90.8%を占めていた.また,過去5年間と比較して「目の疲れを訴えるものが増えた」とする事業所の割合は,肩こりなどの身体的疲労や精神的ストレス,環境面での苦情などと比較すると,2003年の調査と変わらず1番多い割合を占めている1).このことから,VDT作業は特に目にとって多大な負担をかけるものであることが示唆される.ドライアイはさまざまな要因から発症する疾患であるが,特にVDT作業は瞬目回数の減少による開瞼時間の延長から〔別刷請求先〕浅井景子:〒422-8527静岡市駿河区小鹿1-1-1静岡済生会総合病院眼科Reprintrequests:KeikoAsai,DepartmentofOphthalmology,ShizuokaSaiseikaiGeneralHospital,1-1-1Oshika,Suruga-ku,Shizuoka422-8527,JAPAN750750750あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(124)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY 涙液層破砕時間(tearfilmbreakuptime:BUT)を短縮させること2),また作業年数が8.12年とVDT作業が長期にわたる場合は涙液分泌量の減少もみられることが報告されており3),コンタクトレンズ装用などと同じくドライアイ発症の重要な一因となっている4,5).2006年ドライアイ診断基準により,ドライアイの定義は「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と改訂され6),それまで診断基準となっていた涙液の質的・量的な異常および角結膜上皮障害以外に,新たに自覚症状や視機能異常が追加されたことから,近年,眼精疲労や眼不快感など自覚症状を強く訴えるタイプや,高次収差の乱れによる視機能の低下のため見えにくさの訴えが強いタイプのドライアイなどが注目されてきている7,8).VDT作業に伴うドライアイも視力低下や眼精疲労・眼不快感の一因となっていると考えられ,VDT作業者の増加に伴い,治療方法の模索が必要となってきている4,5,9).そこで筆者らは,近年,ドライアイに対する研究の進歩に伴い新しい涙液層の概念が提唱され,それぞれの涙液層に働きかける新しい薬剤としてジクアホソルナトリウム点眼(ジクアスR:以下,DQS点眼)が開発されたことから,今までの涙液成分を補充するのみの作用を持つ人工涙液(マイティアR:以下,AT点眼)と比較して,この新しい薬剤であるDQS点眼がVDT作業に伴うドライアイに対してどの程度有効性が高いかについて検討した.I対象および方法静岡済生会総合病院,中村眼科医院,石川眼科医院の参加3施設において,1日3時間以上のVDT作業に従事しており,調査開始時までにジクアホソルナトリウム点眼の処方経験がなく,2006年ドライアイ診断基準6)においてドライアイ確定もしくは疑いと判定された患者40例40眼(DQS群19眼,AT群21眼)のなかで,薬剤投与開始日より2週目,4週目,8週目のいずれかにおいて再診があり,かつ問診・検査を実施した患者をカルテより後ろ向きに抽出し,DQS群とAT群の点眼投与前と最終受診時を比較検討した.除外基準は,ソフトコンタクトレンズ装用患者,糖尿病・アレルギー・結膜弛緩症の既往がある患者,経過観察期間中に薬剤の変更または追加があった患者,今回の研究に組み入れる3カ月以内に手術既往のある患者,および担当医が不適切と判断した患者とした.観察項目は,フローレス試験紙による染色検査,BUT測定,自覚症状,VDT作業状況の4項目とし,薬剤投与開始日より2週目,4週目,8週目のいずれかにおいて再診がある患者の点眼投与前と最終観察時の状態について,問診票から自覚症状を,カルテから他覚所見を収集した.他覚所見は,フローレス試験紙を用いて角結膜を染色した後,メトロ(125)ノームを用いてBUTを測定し,その後,ブルーフリーフィルターで角結膜を観察し,スコアリングした.染色スコアは,ドライアイ研究会の診断基準6)に従い,結膜鼻側・耳側,角膜上・中・下,各3点ずつ合計15点として算定した.自覚症状は,観察期間中,診察ごとに問診票を用い,「眼精疲労(目が疲れやすい)」「眼痛(目が痛い)」「眼脂(めやにが出る)」,「異物感(目が(,)ゴロゴロする)」,「(,)流涙(涙が出る)」「霧視(物がかすんで見える)」「掻痒感(目がかゆい)」「(,)鈍重感(重たい感じがする)」「(,)充血(目が赤い)」「眼不快(,)感(目に不快感がある)」「乾燥(,)感(目が乾いた感じ(,)がする)」「羞明(光をまぶしく感(,)じる)」の12項目の自覚症状につい(,)て,0:まったくない,1:まれにある,2:時々ある,3:よくある,4:いつもある,の5段階(0.4点)で自己評価させ,点眼投与前と投与後の状態を比較した.統計解析は,Wilcoxon符号付順位検定を用い,有意水準は両側5%(p<0.05)とした.本文中の記述統計量は,原則として平均値±標準偏差の表記法に従った.II結果対象患者の性別は,男性14眼,女性26眼(内訳は,DQS群男性5眼,女性14眼.AT群男性9眼,女性12眼)であった.平均年齢は,DQS群53.1±15.3歳,AT群51.1±13.1歳であった.平均観察期間は,DQS群で43.4±19.7日,AT群で38.4±18.3日,平均VDT時間は,DQS群で平均4.63時間,AT群で6.02時間であった(p=0.2148).1.他覚所見角結膜上皮障害は,点眼開始前と最終観察時を比較して,DQS群で1.68±1.29点から0.84±0.83点と有意な改善がみられた(p=0.0002)が,AT群では2.24±1.87点から1.67±1.80点と有意差はみられなかった(図1).BUTも同じく,点眼開始前と最終観察時を比較して,DQS群では3.37±1.54秒から5.11±2.47秒と有意な延長がみられた(p=0.0002)が,AT群では3.43秒±1.29秒から3.62±2.97秒と有意差はみられなかった(図2).2.自覚症状DQS群では,点眼開始前と最終観察時を比較して,「眼精疲労」が3.00±0.82点から2.06±1.06点(p=0.0093),「眼痛」が1.89±1.23点から1.22±1.00点(p=0.0088),「眼脂」が0.72±0.75点から1.00±0.84点,「異物感」が1.89±1.08点から1.06±0.80点(p=0.0002),「流涙」が0.83±0.71点から0.94±0.64点,「霧視」が1.89±1.08点から1.39±1.14点(p=0.0332)「掻痒感」が1.11±0.90点から0.72±0.96点,「鈍重感」が1.(,)89±1.28点から1.17±0.92点(p=0.0088),「充血」が1.00±1.08点から0.83±0.79点,「眼不快感」が2.44±1.15点から1.61±1.04点(p=0.0039)「乾燥感」が2.61±1.24点から1.67±1.14点(p=0.0103「羞明」が),(,)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014751 *:p<0.05Wilcoxonの1標本検定10*:p<0.05対応のあるt検定:DQS■:AT3.375.113.433.62p=0.0134981.680.842.241.67:DQS■:ATp=0.00221角膜上皮障害スコア(点)7BUT(秒)654310.50開始時最終観察時0点眼開始時最終観察時図1角膜上皮障害スコアの比較図2BUTの比較3.5*:p<0.05Wilcoxonの1標本検定3.001.890.721.890.801.891.111.891.002.442.611.722.061.221.001.060.91.390.721.170.831.611.671.11眼疲労感眼痛眼脂異物感流涙霧視眼掻痒感鈍重感眼充血眼不快感眼乾燥感羞明感:点眼開始前■:最終観察時自覚症状スコア(点)32.521.510.50図3DQSにおける自覚症状12項目の比較1.72±1.41点から1.11±1.08点(p=0.0176)と,DQS群で1)p<0.01Wilcoxonの1標本検定は8項目で点眼投与前と最終観察時で有意差がみられた(図502)p<0.05Wilcoxonの2標本検定p=0.0021):DQS■:AT21.0014.7815.6713.67点眼開始前最終観察時45自覚症状累計スコア(点)3)が,AT群では「眼精疲労」が2.62±0.74点から2.38±401.07点,「眼痛」が1.00±1.18点から0.86±1.20点,「眼脂」35が0.76±0.94点から0.57±0.87点,「異物感」が1.48±1.40302520点から1.00±1.14点,「流涙」が0.81±1.08点から0.57±1.03点,「霧視」が1.38±0.97点から1.57±1.08点,「掻痒15感」が0.71±1.06点から0.52±0.93点,「鈍重感」が0.95±101.24点から0.81±1.25点,「充血」が1.33±1.49点から1.4350±1.25点,「眼不快感」が1.71±1.35点から1.48±1.29点,「乾燥感」が1.81±1.54点から1.52±1.17点,「羞明」が図4自覚症状累計スコア1.10±1.30点から0.95±1.24点と,すべての項目において,点眼投与前と最終観察時で有意差はみられなかった.752あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(126) また,最終観察時のDQS群とAT群の群間においても,「眼精疲労」では,DQS群が2.06±1.06点に対し,AT群では2.38±1.07点(p=0.0093),「霧視」では,DQS群が1.39±1.14点に対し,AT群では1.57±1.08点(p=0.0220),「鈍重感」ではDQS群が1.17±0.92点に対し,AT群では0.81±1.25点(p=0.0249)と,以上の3項目では有意差がみられた.自覚症状12項目の累計点は,DQS群で21.00点から14.78点と有意な減少がみられたが(p=0.0002),AT群では15.67点から13.67点と有意差はみられなかった.また,最終観察時のDQS群とAT群との群間に有意差がみられた(p=0.0267)(図4).III考按はじめにも述べたが,VDT作業に伴うドライアイにはBUT短縮型ドライアイが多く認められることから,このタイプのドライアイの治療薬として,ムチンの異常を改善し,涙液の安定性の低下を改善する働きをするDQSは,非常に有効性が高いものであると考えられる.従来ドライアイに対して用いられてきた治療薬であるATは,一時的な水分および電解質の補充の効果のみが期待できるものであり,またヒアルロン酸ナトリウム点眼(ヒアレインR,以下HA)は,角膜上皮の接着および伸展作用と保水作用を有し,ドライアイを含めた角結膜上皮障害改善薬としての効果が認められているが,両者ともにムチンの分泌促進能は認められず,ムチンの被覆度が低下している症例に対しての効果が弱いと考えられている10).HAとDQSを比較したラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルにおける角膜上皮障害に対する調査では,点眼6週間後にはDQS群ではHA群に比べて有意に角膜染色スコアが改善したとの報告,また,多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験でもHAに対してDQSは非劣性を示したとの報告がある11).今回の検討では,対象者はAT群,DQS群ともにBUTが短縮しているが,角結膜上皮障害の軽度なドライアイ,つまりBUT短縮型ドライアイが大きな割合を占めていることから,やはりVDT作業に伴うドライアイにはBUT短縮型ドライアイが多いことがわかった.DQS群では,点眼開始前と最終観察時で,BUTの延長および角結膜上皮障害の改善の程度に有意差がみられたが,ATでは有意差がみられなかったことから,DQSはVDT作業に伴うドライアイの治療に対して有効であることがわかった.また,BUTの延長によって「乾燥感」の軽減,角結膜上皮障害の改善効果で「眼痛」や「異物感」の軽減,両者によって「羞明」の軽減が認められたと推察されるが,最終観察時のAT群とDQS群の群間に有意差が出たことから,特にDQSによるムチンや水分の分泌促進能などにより涙液層の安定性の低下が改善されたことによって「眼精疲労」「霧視」「鈍重感」が軽減したと考えられた.涙液層は,マイボーム腺より分泌される脂による油層と,涙腺・結膜から分泌される水層の2層でできており,水層に濃度勾配をもって結膜杯細胞から発現した分泌型ムチンが含まれている12).この分泌型ムチンの一種であるMUC5ACは,涙液水層の表面張力を低下させ,涙液水層を角膜上皮表面に広がりやすくさせる働きをしていることがわかっている13,14).また,角膜および角膜上皮表層には,角膜上皮由来の膜型ムチンが存在しているが15),この膜型ムチンは上皮表面を親水性に変える働きを持っているため,この膜型ムチンに異常が起こると上皮の水濡れ性の低下が引き起こされ,涙液層の安定性が低下する原因となる12,16).平均VDT時間が8時間以上のVDT作業従事者を対象に行われた調査では,非ドライアイ群に対して,ドライアイ群では涙液中のMUC5AC濃度が減少しており,それは5時間未満の群に比べて7時間以上の群で有意に低かったことが報告されていることから涙液中のMUC5ACがドライアイに強い影響を及ぼしていることが示唆されるとともに,VDT作業がドライアイを引き起こす原因の一つとなっていることがわかる16).DQSは結膜細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を介して眼表面へのMUC5ACの分泌促進作用を有することがわかっており17.20),このことからもDQSはVDT作業に伴うドライアイに対して有効であると考えられる.DQSは,ムチンの異常が大きく関係していると考えられるBUT短縮型ドライアイに対する治療効果が高いと推察され,VDT作業に伴うドライアイ治療に対し有効であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:平成20年技術革新と労働に関する実態調査,20082)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayterminals.NEnglJMed328:584,19933)NakamuraS,KinoshitaS,YokoiNetal:Lacrimalhypo-functionasanewmechanismofdryeyeinvisualdisplayterminalusers.PLoSOne5:el1119,20104)横井則彦:蒸発亢進型ドライアイの原因とその対策.日本の眼科74:867-870,20035)内野美樹,内野裕一,横井則彦ほか:VDT作業者におけるドライアイの有病率と危険因子.FrontiersinDryEye7:36,20126)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,2007(127)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014753 7)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.AmJOphthalmol133:181-186,20028)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinousfunctionalvisualacuitymeasurementsystemindryeyesyndromes.AmJOphthalmol139:253258,20059)TodaI,FujishimaH,TsubotaK:Ocularfatigueisthemajarsymptomofdryeye.ActaOphthalmol71:347352,199310)ShimmuraS,OnoM,ShinozakiKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,199511)藤原豊博:ドライアイ研究会:ドライアイの治療に革新をもたらしたジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%)の基礎と臨床.薬理と治療39:563-584,201112)ArguesoP,Gipdon,IK:Epithelialmucinsoftheocularsurface:structure,biosynthesisandfunction.ExpEyeRes73:281-289,200113)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1633-1647,199714)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,199415)ButovichIA:TheMeibomianpuzzle:combiningpiecestogether.ProgRetinEyeRes28:483-498,200916)YokoiN,SawaH,KinoshitaS:Directobservationoftearfilmstabilityonadamagedcornealepithelium.BrJOphthalmol82:1094-1095,199817)坪田一男:日本の最新疫学データ!「OsakaStudy」とは?FrontiersinDryEye7:47-48,201318)七條優子,阪本明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,201119)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,201120)七篠優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,2011***754あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(128)

自発的開瞼維持による涙液浸透圧の変化

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):257.259,2014c自発的開瞼維持による涙液浸透圧の変化一戸唱*1五十嵐勉*1,2藤本千明*1飯島修*2小野眞史*1髙橋浩*1*1日本医科大学眼科学教室*2日本医科大学生化学・分子生物学(分子遺伝学)TearOsmolalityAlterationbySustainedEyeOpeningShoIchinohe1),TsutomuIgarashi1,2),ChiakiFujimoto1),OsamuIijima2),MasafumiOno1)andHiroshiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,2)DepartmentofBiochemistryandMolecularBiology,NipponMedicalSchool目的:開瞼を維持した状態で涙液浸透圧がどのように変化するのかを検討した.対象および方法:Schirmer試験値が正常な健常ボランティア41名(男:女=30:11),平均年齢34.6±9.9歳を対象に,問診,涙液層破壊時間(BUT),フルオレセイン染色スコア,リサミングリーン染色スコア,および涙液浸透圧測定を施行した.ついで限界自発開瞼維持時間(自発的に開瞼が維持できる限界時間)を3回測定しその平均限界時間における涙液浸透圧を測定した.結果:41名中,15名がBUT短縮型ドライアイ疑いであった.涙液浸透圧(mOsm/l)は正常群において平時303.68±15.7,開瞼維持後303.26±14.2,BUT短縮群においてそれぞれ301.2±20.5,308.7±15.3と,両群間および開瞼維持前後の有意差を認めなかった.結論:開瞼維持による涙液浸透圧の変化は,正常者のみならずBUT短縮例でも認めなかったことから,蒸発する涙液量に比べメニスカスにおける涙液量全体が十分に多いため,涙液浸透圧変化は起こりにくいと考えられた.Purpose:Toinvestigatehowthetearosmolalitychangeswithsustainedeyeopening.Methods:Weexaminedtearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceinstainingscore,lissaminegreenstainingscoreandtearosmolality,usingTearLab.systemin41volunteers(30males,11females;averageage34.6±9.9years)withnormaltearvolume(Schirmertestvalue).Subjectsweretheninstructedtokeeptheireyesopenforaslongaspossibleuntiltearosmolalitywasagainmeasured.Results:In15subjects,BUTwasshorterthanthenormalrange.Innormalsubjects,tearosmolality(mOsm/l)was303.68±15.7and303.26±14.2beforeandaftersustainedeyeopening,respectively,whiletheshortBUTgroupvalueswere301.2±20.5and308.7±15.3,respectively.Therewasnosignificantdifferenceintearosmolalitybetweenbeforeandaftersustainedeyeopeninginallsubjects,includingtheshortBUTgroup.Conclusion:Tearosmolalitydoesnotchangewithsustainedeyeopening,eveninshortBUTsubjectssuggestingthattearvolumemaybecriticalinmaintainingtearosmolality.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):257.259,2014〕Keywords:ドライアイ,BUT短縮型,涙液浸透圧,メニスカス,TearLabR.dryeye,shorteningtearfilmbreakup,tearfilmosmolality,tearmeniscus,TearLabR.はじめに米国ではドライアイのコアメカニズムとして涙液浸透圧上昇が提唱されている1).重症ドライアイにおける涙液浸透圧上昇は,涙液水分量そのものの減少および涙液交換率の低下に伴う相対的な蒸発亢進によって生じる現象として理解でき2),実際,Sjogren症候群の患者においてSchirmerI法が低値な者ほど浸透圧が高いことが報告されている3).涙液浸透圧の上昇によって眼表面の炎症が惹起されることにより涙液層の安定性が低下し,ますます浸透圧の上昇を招く悪循環に陥るというコアメカニズムの考え方は,重症例では理にかなっているようにみえる.一方,日本の日常臨床で最もよく遭遇するドライアイ患者は,涙液量はほぼ正常で眼表面の染色スコアもきわめて軽度であるが,異物感などの愁訴が多い涙液層破壊時間(BUT)短縮型ドライアイであると思われる.このタイプのドライアイにおいて上記メカニズムが成立するのか興味深いところであるが,今までのところ,涙液量〔別刷請求先〕一戸唱:〒113-8603東京都文京区千駄木1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShoIchinohe,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo1138603,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(97)257 が正常であるBUT短縮型ドライアイにおける涙液浸透圧を検討した報告はない.通常のドライアイのみならずBUT短縮型ドライアイでも瞬目回数が多いという報告4)もあり,涙液層の安定性低下のために涙液浸透圧の上昇が起こっている可能性は否定できない.そこで今回,涙液層の不安定状態を再現するために,涙液量が正常な健常ボランティアにおいて開瞼を維持した状態で浸透圧がどのように変化するのかを検討した.I対象および方法対象は,試験目的と内容の説明を受け,自らの意志で同意を示し,かつ事前の簡易検査にて両眼のSchirmer試験I法が正常であることが確認できた健常ボランティア41名(男:女=30:11),平均年齢34.6±9.9歳である.検査・観察項目として,問診,フルオレセイン染色スコア,リサミングリーン染色スコア,BUT,涙液浸透圧の測定,開瞼維持時間計測を行った.測定はすべて右眼を対象とした.1.問診眼の乾燥感などについて,自覚症状の有無を調べた.2.検査2006年ドライアイ診断基準5)に基づきつぎのようにタイムコースを設定した(図1).はじめにTearLab社製Tear5分5分平時における涙液浸透圧限界自発開瞼維持時間涙液層破壊時間(BUT)フルオレセイン染色スコアリサミングリーン染色スコアSchirmer試験I法平均限界自発開瞼維持時間における涙液浸透圧図1タイムコースLabsystemを用いて平時の瞬目後2.3秒以内で下眼瞼涙液メニスカス涙液浸透圧を測定した.測定方法は機器のマニュアルに従った.ついで,限界自発開瞼維持時間(自発的に開瞼が維持できる限界時間)を3回測定し平均値を求めた.5分間おいて,BUT測定,フルオレセイン染色,リサミングリーン染色,そして再度Schirmer試験を施行した.さらに5分間おいて先に求めた平均限界自発開瞼維持時間における涙液浸透圧を測定した.この際,人差し指で上眼瞼を軽く持ち上げ,当該時間までの開瞼を維持した.結果の統計学的解析はt検定で行った.II結果各項目の結果を表1に示す.41名中,正常26名,BUT短縮型ドライアイ疑い15名となった.検査項目はBUTを除きすべて正常範囲内であった.正常群とBUT短縮群では,開瞼維持時間,フルオレセイン染色スコア,リサミングリーン染色スコアに有意差を認めなかったが,BUT,Schirmer試験I法で有意差を認めた.平時の涙液浸透圧には両群間に有意差なく(p=0.95),また両群とも,平時と開瞼維持後の涙液浸透圧に有意な変化を認めなかった(正常群:p=0.89,BUT短縮型ドライアイ疑い:p=0.34).III考按米国でのドライアイ診断基準にあたるDryEyeWorkshop(DEWS)Reportによると,涙液浸透圧の正常cutoff値は316mOsm/lと提唱されており1),この値の根拠としてTomlinsonらによる涙液浸透圧に関する既報のメタアナリスが挙げられている6).それによると涙液浸透圧は,ドライアイでは平均326.9±22.1mOsm/l,正常では平均302±9.7mOsm/lとドライアイ群の浸透圧がかなり高くなっており,このcutoff値は重症のドライアイを念頭に置いていることがうかがえる.今回,Schirmer試験値が正常,すなわち涙液量が正常のボランティアにおいては,平時の平均涙液浸透表1各項目の検査結果検査項目全体(n=41)正常眼(n=26)BUT短縮型ドライアイ疑い(n=15)平時涙液浸透圧(mOsm/l)303.4±16.3303.68±15.7301.2±20.5(p=0.42)(p=0.89)(p=0.34)開瞼維持後涙液浸透圧(mOsm/l)303.5±15.6303.26±14.2308.7±15.3開瞼維持時間(秒)17.4±13.019.2±13.614.5±11.8BUT(秒)6.3±2.27.2±2.0(p=0.002)4.7±1.5フルオレセイン染色スコア(/9点)0.8±0.90.8±0.80.8±1.0リサミングリーン染色スコア(/9点)0.4±0.70.4±0.70.5±0.6Schirmer試験I法(mm)20.7±9.322.9±9.6(p=0.039)16.7±7.6自覚症状(人数)21615258あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(98) 圧が300mOsm/l前後と低く,健常者における浸透圧としては既報と矛盾しないものであった.さらに,ボランティアのなかに15名のBUT短縮症例が存在したが,この群に限っても平時涙液浸透圧は正常範囲内であった.ドライアイの最も重要な因子として涙液層の安定性低下が日7),米1)ともに挙げられているが,ドライアイの病態におけるその位置づけは両者でかなり異なっている.米国のコアメカニズムでは水分量減少(浸透圧上昇)による眼表面炎症の結果,二次的に涙液層の安定性が低下するとされているのに対し,横井らが提唱する日本の考え方では,さまざまな原因によって起こる涙液層の安定性低下こそがコアメカニズムの中心であるとみなされている.その意味で,BUT短縮型ドライアイ,特に涙液量が正常であるタイプは米国よりも日本において重視される病態であり,おもに米国で注目される浸透圧に関する検討はあまりなされていなかった.本研究は,BUT短縮型ドライアイの病態に涙液浸透圧上昇がどの程度関与しているかを検討することを目的とした.そこでBUT短縮型ドライアイの中心的病態である涙液層の安定性低下を再現するために,自発的な開瞼を限界まで維持する方法で浸透圧の変化を調べた.その結果,正常群,BUT短縮群ともに,限界開瞼維持という涙液層に対してかなりストレスのかかる状況においても,涙液浸透圧の有意な上昇を認めなかった.このことは,蒸発する涙液量に比べメニスカスにおける涙液量全体が十分に多いため涙液浸透圧変化が起こりにくいこと,そして,涙液量が正常であるBUT短縮型ドライアイの病態には浸透圧上昇の関与が少ないことを示唆していると思われた.ただし,涙液浸透圧測定法の結果の解釈には以下に述べる注意が必要であると考える.今回,涙液浸透圧測定にはTearLabRsystemを用いた.本機器は下眼瞼の涙液メニスカス部にチップを一瞬接触するだけで涙液浸透圧を測定することが可能であり,米国の大規模スタディ2,8)においても使用された信頼性の高い測定法といえる.ここで注意すべき点は,本法はあくまで下眼瞼涙液メニスカスの浸透圧を測定するものであり,それが角膜表面の浸透圧と等しいとは限らないということである.現時点で角膜表面涙液層の浸透圧を直接測定する方法はないが,Liuらは角膜表面の浸透圧を類推した結果を報告している9).この研究では,まず被験者に種々の浸透圧の溶液を点眼しその際の自覚症状を浸透圧とリンクして記憶するトレーニングを行い,ついで本研究と同様に限界まで自発開瞼を維持して涙液層破壊を観察している.その結果,涙液層破壊が観察される時の自覚症状は,800.900mOsm/l程度の浸透圧液を点眼した感覚にほぼ等しいことが示された.この報告が示唆していることは,角膜表面での浸透圧は下眼瞼涙液メニスカスの浸透圧とは乖離してかなり上昇している可能性があることである.もし実際にこの報告のような現象が起こっているとするなら,BUT短縮型ドライアイでは,たとえ涙液量が正常で下眼瞼における涙液浸透圧が正常範囲にあっても,角膜表面は浸透圧の上昇というストレスに曝されやすいと考えられる.すなわちBUTで示される眼表面の涙液安定性にかかわらず,開瞼維持による乾燥の結果,涙液の濃縮が生じ浸透圧が上昇する可能性があることが示唆される.ドライアイにおけるBUTと涙液浸透圧の関係に関してはいまだ不明な点も多く,解釈には注意が必要であり,また,新しい測定法の出現が待たれるところである.文献1)Thedefinitionandclassificationofdryeyedisease:reportoftheDefinitionandClassificationSubcommitteeoftheInternationalDryEyeWorkshop.OcularSurf5:75-92,20072)SullivanBD,WhitmerD,NicbolsKKetal:Anobjectiveapproachtodryeyediseaseseverity.InvestOphthalmolVisSci51:6125-6130,20103)BunyaVY,LangelierN,ChenSetal:TearosmolarityinSjogrensyndrome.Cornea32:922-927,20134)HimebaughNL,BegleyCG,BradleyAetal:Blinkingandtearbreak-upduringfourvisualtasks.OptomVisSci86:E106-114,20095)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20076)TomlinsonA,KhanalS,RamaeshKetal:Tearfilmosmolarity:determinationofareferentfordryeyediagnosis.InvestOphthalmolVisSci47:4309-4315,20067)横井則彦,坪田一男:ドライアイのコア・メカニズム涙液安定性仮説の考え方.あたらしい眼科29:291-297,20128)LempMA,BronAJ,BaudouinCetal:Tearosmolarityinthediagnosisandmanagementofdryeyedisease.AmJOphthalmol151:792-798,20119)LiuH,BegleyC,ChenMetal:Alinkbetweentearinstabilityandhyperosmolarityindryeye.InvestOphthalmolVisSci50:3671-3679,2009***(99)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014259

眼窩外涙腺摘出ラット・ドライアイモデルに対するジクアホソルナトリウム点眼液とレバミピド点眼液の効果

2014年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(1):105.109,2014c眼窩外涙腺摘出ラット・ドライアイモデルに対するジクアホソルナトリウム点眼液とレバミピド点眼液の効果堀裕一柴友明前野貴俊東邦大学医療センター佐倉病院眼科ComparisonofEfficacybetweenDiquafosolOphthalmicSolutionsandRebamipideOphthalmicSuspensionsinTreatmentofRatDryEyeModelYuichiHori,TomoakiShibaandTakatoshiMaenoDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenterラットドライアイモデルに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と2%レバミピド点眼液の効果について比較検討した.涙液減少型ドライアイモデルとして眼窩外涙腺を摘出し8週以上経過したラットを用いた.3%ジクアホソルナトリウム点眼液,2%レバミピド点眼液,防腐剤無添加人工涙液をそれぞれ4週間点眼し,角膜上皮障害をフルオレセイン染色スコアにて評価した.また,各点眼液を単回点眼し,10分後の涙液量を測定した.さらに,4週間点眼後に眼瞼結膜を採取し,過ヨウ素酸シッフ(PAS)陽性細胞率を算出した.その結果,3%ジクアホソルナトリウム点眼液群では人工涙液群と比べ有意に角膜上皮障害の改善,涙液量およびPAS陽性細胞率の増加を認めた(p<0.05,Tukey’stest)が,2%レバミピド点眼液群では有意差は認められなかった(p>0.05,Tukey’stest).また,点眼2週後のフルオレセイン染色スコアにおいて3%ジクアホソルナトリウム点眼群は2%レバミピド群に比して有意に低値を示した(p<0.05,Tukey’stest).以上より,涙液減少型ドライアイモデルにおいて3%ジクアホソルナトリウム点眼液は2%レバミピド点眼液に比べて改善効果を示した.Wecomparedtheeffectsof3%diquafosolophthalmicsolutionsand2%rebamipideophthalmicsuspensionsintreatingaratdryeyemodel.Ratexorbitallacrimalglandswereremovedsurgicallytodevelopthedryeyemodel.Diquafosolophthalmicsolutions(6timesdaily),rebamipideophthalmicsuspensions(4timesdaily)andunpreservedartificialtears(6timesdaily)wereadministeredfor4weeks.Weperformedfluoresceincornealstaining(FCS)andperiodicacid-Schiff(PAS)stainingofthepalpebralconjunctivatodeterminechangesinFCSscoreandPAS-positivecellratiointheratdryeyemodelafter2and4weeksoftreatment,respectively.TheFCSscoredecreasedsignificantly(p<0.05,Tukey’smultiplecomparison)withthediquafosolophthalmicsolutions,ascomparedwiththeunpreservedartificialtearsafter2and4weeksoftreatmentandwiththerebamipideophthalmicsuspensionsafter2weeksoftreatment.ThePAS-positiveratiointhepalpebralconjunctivaincreasedsignificantlyafter4weeksoftreatmentwithdiquafosolophthalmicsolutions(p<0.01,Tukey’smultiplecomparison),ascomparedwiththerebamipideophthalmicsuspensions.Theseresultsindicatethatintear-deficiencytypedryeye,diquafosolophthalmicsolutionsaremoreeffectivethanrebamipideophthalmicsuspensions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(1):105.109,2014〕Keywords:ドライアイ,ジクアホソルナトリウム点眼液,レバミピド点眼液,ラットドライアイモデル.dryeye,diquafosolophthalmicsolutions,rebamipideophthalmicsuspensions,ratdryeyemodel.はじめにり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義しており,ドライわが国では2006年にドライアイ研究会が「ドライアイとアイは,多因子による疾患であることが認識されている1).は,様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であドライアイは大きく涙液減少型ドライアイと蒸発亢進型ドラ〔別刷請求先〕堀裕一:〒285-8741佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科Reprintrequests:YuichiHori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,564-1Shimoshizu,Sakura,Chiba285-8741,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(105)105 イアイに分けられるが,涙液減少型ドライアイはSjogren症候群と非Sjogren症候群に分類され,蒸発亢進型ドライアイは,内因性と外因性に分けられ,内因性はマイボーム腺機能不全,瞬目率の低下などが含まれ,外因性ではビタミンA欠乏症,防腐剤,コンタクトレンズ装用などが含まれる2).このように原因も症状もさまざまなドライアイに対して,従来の点眼治療の大半は精製ヒアルロン酸点眼液が使用されていた.しかし,ドライアイ治療薬として2010年12月に3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,以下ジクアス),2012年1月に2%レバミピド点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,以下ムコスタ)が上市され,これらの新しいドライアイ治療用点眼液の登場により,治療選択幅が広がった.最近ではドライアイ治療の新しい考えとして,眼表面を層別に治療する考え方(tearfilmorientedtherapy:TFOT)も浸透しつつある3).ジクアスはP2Y2受容体作動薬であり,涙液分泌促進作用4),ムチン分泌促進作用5,6)および膜型ムチン遺伝子(MUC1,MUC4およびMUC16)発現促進作用7)を有することが報告されている.一方,ムコスタは,杯細胞増殖作用8),ムチン様糖蛋白質産生促進作用および膜型ムチン遺伝子(MUC1およびMUC4)発現促進作用9)を有することが報告されている.今後この2剤をどのようなドライアイに対して使い分けていくかが今後の検討課題となっている.本研究では,ジクアスとムコスタの薬理学的特性を明らかにするために,眼窩外涙腺摘出ラットのドライアイモデルの角膜上皮障害,杯細胞数および涙液量に対する両剤の効果を比較検討した.I実験方法1.点眼液防腐剤無添加人工涙液(ソフトサンティアR,参天製薬,以下ソフトサンティア),3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,参天製薬,以下ジクアス)および2%レバミピド点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,大塚製薬,以下ムコスタ)を用いた.2.実験動物ラット(雄性SD)は日本エスエルシーより購入し,1週間馴化飼育した.本研究は,「動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年10月1日,法律第105号)」および「実験動物に飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年4月28日,環境省告示第88号)」を遵守し,実施した.3.ドライアイモデル作製および点眼Fujiharaらの方法10)に従って,眼窩外涙腺を各ラットの片眼において摘出した.対照として,眼窩外涙腺摘出を実施しない正常ラット(8眼)を設定した.涙腺摘出から8週間以上経過後,ソフトサンティア,ジクアスおよびムコスタの106あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014点眼を開始した.角膜上皮障害の評価および過ヨウ素酸シッフ(PAS)陽性細胞数の評価では,各点眼液の臨床上の用法用量に従い,ソフトサンティアおよびジクアスは1日6回,ムコスタは1日4回で,いずれも1回5μl,4週間点眼した(各8眼).また,涙液貯留量の評価では,各点眼液を単回点眼した(各12眼).4.角膜上皮障害の評価各点眼液の点眼前,点眼2および4週後に村上らの方法11)に従って,各眼のフルオレセイン染色スコア(0.9点)により評価した.5.涙液貯留量の評価ラットをペントバルビタール(ソムノペンチル,共立製薬)の腹腔内投与で全身麻酔後,各点眼液を各眼に各5μl点眼した.点眼10分後に,Schirmer試験紙(シルメル試験紙,昭和薬品化工)を1×17mmに裁断したSchirmer試験紙の先端をラットの下眼瞼の結膜.に挿入した.挿入1分後に試験紙を抜き取り,ただちに濡れた部分の長さを0.5mm単位で読み取り,涙液量の評価を行った.6.PAS染色によるPAS陽性細胞率の評価各点眼液を4週間点眼後,ペントバルビタールの腹腔内投与をし,全身麻酔を施した.腹部大動脈切断による放血殺にて安楽死させたのち,眼瞼結膜を採取し,4%パラホルムアルデヒド固定液に浸漬した.ヘマトキシリン・エオジン(HE)およびPAS染色を行い,PAS陽性細胞率を算出した.7.統計解析生物実験データ統計解析システムEXSUS(シーエーシー)を用いて5%を有意水準として解析した.試験系成立の解析ではStudentのt検定(等分散),薬剤比較の解析ではTukeyの多重比較検定を行った.II結果1.角膜上皮障害の検討図1に,眼窩外涙腺摘出ラット・ドライアイモデルに対してソフトサンティア,ジクアスあるいはムコスタを点眼した際の点眼前,点眼2週後および点眼4週後の角膜のフルオレセイン染色スコアの結果を示す.点眼前のフルオレセイン染色スコアは,正常ラットに比して有意に高値を示した(p<0.01,Studentのt検定).ソフトサンティア群では,点眼2週後,4週後においてフルオレセイン染色スコアは有意に高値のままであった(p<0.01,Studentのt検定).ジクアスを点眼した群では,点眼2週後および4週後においてソフトサンティア群に比してフルオレセイン染色スコアは有意に低値を示した(2週後:p<0.01,4週後:p<0.05,Tukeyの多重比較検定).一方,ムコスタ群では,点眼2週後および4週後においてソフトサンティア群に比べて有意な変化は認められなかった(2週後:p=0.68,4週後:p=0.20,Tukey(106) 200μm200μmの多重比較検定).また,ジクアス群とムコスタ群を比べたティア,ジクアスあるいはムコスタを単回点眼し,10分後ところ,点眼2週後においてジクアス群はムコスタ群に比しの涙液量を比較したところ,ジクアス群では顕著な涙液量のて有意に低値を示した(p<0.05,Tukeyの多重比較検定).増加が認められ,無点眼群,ソフトサンティア群およびムコ2.涙液貯留量の比較図2に示すとおり,眼窩外涙腺を摘出すると涙液量は半分86点眼10分後##$$**¶¶■:涙腺摘出・無点眼■:涙腺摘出・以下に減少した(p<0.01,Studentのt検定).ソフトサン7:正常・無点眼角膜上皮フルオレセイン染色スコア:正常・無点眼■:涙腺摘出・ソフトサンティア******###†■:涙腺摘出・ジクアス■:涙腺摘出・ムコスタ7涙液量(mm)5ソフトサンティア■:涙腺摘出・ジクアス46■:涙腺摘出・ムコスタ3543212010点眼前点眼2週後点眼4週後図2眼窩外涙腺摘出ラット・ドライアイモデルの涙液量減少に対するジクアスとムコスタの効果200μm200μm正常・無点眼涙腺摘出・無点眼図1眼窩外涙腺摘出ラット・ドライアイモデルの角膜上皮障害に対するジクアスとムコスタの効果各値は,8例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,正常・無点眼群との比較(Studentのt検定).#:p<0.05,##:p<0.01,涙腺摘出・ソフトサンティア群との比較(Tukeyの多重比較検定).†:p<0.05,涙腺摘出・ムコスタ群との比較(Tukeyの多重比較検定).各値は,8あるいは12例の平均値±標準誤差を示す.$$:p<0.01,正常・無点眼群との比較(Studentのt検定).**:p<0.01,涙腺摘出・無点眼群との比較(Studentのt検定).##:p<0.01,涙腺摘出・ソフトサンティア群との比較(Tukeyの多重比較検定).¶¶:p<0.01,涙腺摘出・ムコスタ群との比較(Tukeyの多重比較検定).200μm200μm涙腺摘出・ソフトサンティア涙腺摘出・ジクアス涙腺摘出・ムコスタ図3眼窩外涙腺摘出ラット・ドライアイモデルの各群の代表的な病理組織像(107)あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014107 *#20304050無点眼無点眼ソフトサンティアジクアスムコスタPAS陽性率(%)†*#20304050無点眼無点眼ソフトサンティアジクアスムコスタPAS陽性率(%)†正常涙腺摘出図4眼窩外涙腺摘出ラット・ドライアイモデルのPAS陽性細胞率減少に対するジクアスとムコスタの効果各値は,8例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,正常・無点眼群との比較(Studentのt検定).#:p<0.05,涙腺摘出・無点眼群との比較(Tukeyの多重比較検定).†:p<0.05,涙腺摘出・ムコスタ群との比較(Tukeyの多重比較検定).スタ群に比して統計学的有意差が認められた(いずれもp<0.01,Tukeyの多重比較検定).一方,ムコスタ群は無点眼群およびソフトサンティア群に比べて増加傾向を示したが,統計学的有意差は認められなかった(無点眼群:p=0.43,ソフトサンティア群:p=0.49,Tukeyの多重比較検定).3.PAS陽性細胞率の比較図3に正常ラットおよび眼窩外涙腺摘出ラット(無点眼),さらに眼窩外涙腺摘出ラットに対してソフトサンティア,ジクアスあるいはムコスタを4週間点眼したときの眼瞼結膜のPAS染色像を示す.また,図4に各群の眼瞼結膜におけるPAS陽性細胞率を示す.眼窩外涙腺を摘出し8週以上経過したドライアイラットモデルにおいては,眼瞼結膜のPAS陽性細胞数は減少しており,PAS陽性細胞率は正常と比べ有意差を認めた(p<0.05,Studentのt検定,図4).4週間の点眼後,ジクアス群では無点眼群と比べ,PAS陽性細胞率の有意な増加を認めた(p<0.05,Tukeyの多重比較検定)が,ソフトサンティア群およびムコスタ群では有意な変化を認めず(p>0.05,Tukeyの多重比較検定),さらにジクアス群はムコスタ群に比して有意に高値を示した(p<0.05,Tukeyの多重比較検定).III考按本研究では,ドライアイモデル動物である眼窩外涙腺摘出ラットを用いて,ジクアスおよびムコスタの効果を角膜上皮フルオレセイン染色スコア,涙液量およびPAS陽性細胞率を指標に比較検討した.その結果,ジクアスは角膜上皮フル108あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014オレセイン染色スコア,涙液量およびPAS陽性細胞率のいずれに対しても改善作用を示し,既報10)と同様の結果が認められた.一方,ムコスタは,いずれの指標においても効果が低かった.ドライアイ治療では,最近は眼表面の層別治療であるTFOTが提唱されており,このためには,眼表面のどの部分が障害されているかを見きわめる眼表面の層別診断(TFOD:tearfilmorienteddiagnosis)が必要になってくる12).これらの層別診断や層別治療はわが国において,ジクアス,ムコスタという新しいドライアイ治療薬が登場したことで可能になった.ジクアスは涙液4)およびムチン分泌促進作用5,6),膜型ムチン発現促進作用7)を有しており,ムコスタは杯細胞増殖作用8)や膜型ムチン発現促進作用9)を有することから,TFOTでは両剤とも液層および上皮の治療に適していると考えられる.さらにジクアスはMGD治療にも効果があることが報告され13),今後油層の治療剤としても期待される.ジクアホソルナトリウムは結膜上皮細胞上のP2Y2受容体に結合し,細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることでクロライドイオンが涙液側に放出され,浸透圧差が生じ,実質側から涙液側へ水分が誘導される4).また,結膜杯細胞上のP2Y2受容体にも作用し,同様に細胞内カルシウム濃度を上昇させることで,細胞内に貯蔵されたムチンを分泌させる5).今回用いたドライアイモデルは,眼窩外涙腺を外科的に摘出しており,涙液量が正常ラットの約半分に低下する.したがって涙液減少型のドライアイモデルと考えられる.このような涙液分泌が減少しているドライアイに対しては,涙液を改善させる点からジクアスが有効であると考えられる.本研究には,いくつかの限界があるが,その一つに角膜障害の評価方法が挙げられる.今回ドライアイモデルの眼表面上皮障害の指標にはフルオレセイン染色を使用したが,他の指標としてローズベンガル染色やリサミングリーン染色がある.特に結膜の評価にはローズベンガル染色やリサミングリーン染色が適しており,結膜杯細胞の増殖作用を有するムコスタ8)はローズベンガル染色では違った結果が得られた可能性がある.また,Toshidaらは,結膜障害モデルにおいてビタミンA点眼後にフルオレセインスコアの改善がローズベンガルスコアの改善よりも先行すると報告している14).このことからも涙液量増加作用を伴うジクアスではフルオレセイン染色スコアの改善が先行し,それにPAS陽性細胞数の改善効果が続いていると考えられ,ムコスタよりも有意であった可能性がある.今後は,ジクアスとムコスタの使い分けについて検討する必要があると考えられるが,ジクアスおよびムコスタのドライアイ患者に対する報告では,両剤ともに角結膜上皮障害の改善効果を示すが,涙液量に対してはジクアスによる効果は(108) 認められている15)ものの,ムコスタでは改善しないという報告16)がある.したがって,涙液量の減少が著しい症例では,涙液層の安定化に積極的に働きかけるジクアスがより効果を示す可能性が示唆され,また,ムコスタはもともと胃粘膜保護剤であることから上皮障害が有意な症例に有効な可能性が考えられる.今後,臨床報告が蓄積されるに従って明らかになっていくと思われる.文献1)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)DEWSmembers:Thedefinitionandclassificationofdryeyedisease:ReportoftheDefinitionandClassificationSubcommitteeoftheInternationalDryEyeWorkshop(2007).OculSurf5:75-92,20073)横井則彦,坪田一男:ドライアイのコア・メカニズム─涙液安定性仮説の考え方─.あたらしい眼科29:291-297,20124)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,20115)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20116)七條優子,阪元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,20117)七條優子,中村雅胤:培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,20118)UrashimaH,TakejiY,OkamotoTetal:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20129)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreasesthemucin-likeglycoproteinproductionincornealepithelialcells.JOculPharmacolTher28:259-263,201210)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y2agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,200111)村上忠弘,中村雅胤:眼窩外涙腺摘出ラットドライアイモデルに対するヒアルロン酸点眼液と人工涙液の併用効果.あたらしい眼科21:87-90,200412)山口昌彦,松本幸裕,高静花ほか:TFOT(TearFilmOrientedTherapy)時代における点眼薬の使い方.FrontiersinDryEye7:8-16,201213)AritaR,SuehiroJ,HaraguchiTetal:Topicaldiquafosolforpatientswithobstructivemeibomianglanddysfunction.BrJOphthalmol97:725-729,201314)ToshidaH,OdakaA,KoikeDetal:Effectofretinolpalmitateeyedropsonexperimentalkeratoconjunctivalepithelialdamageinducedbyn-heptanolinrabbit.CurrEyeRes33:13-18,200815)TauberJ,DavittWF,BokoskyJEetal:Double-maskedplacebo-controlledsafetyandefficacytrialofdiquafosoltetrasodium(INS365)ophthalmicsolutionforthetreatmentofdryeye.Cornea23:784-792,200416)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:Arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,2012***(109)あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014109

上顎洞癌陽子線治療後の皮膚炎・ドライアイ;レバミピド点眼が著効した1例

2013年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科30(9):1314.1317,2013c上顎洞癌陽子線治療後の皮膚炎・ドライアイ;レバミピド点眼が著効した1例宇野真眼科好明館CaseofRadiationDermatitisandDryEyeSyndromeafterProtonBeamTherapy;EffectivenessofRebamipideEyedropsMakotoUnoKoumeikanEyeClinic背景:近年,陽子線治療は頭頸部領域を含む各種の悪性新生物に対し有効な治療法となっている.ただし,陽子線治療は先進医療であり,全国でも限られた施設でしか行われていない.今後は,遠隔地で陽子線治療を受け,地方で病状経過を追う症例が増えると予想される.今回,地方の個人開業眼科診療所で,陽子線照射後の皮膚炎および重篤なドライアイ症例を経験したので報告する.症例:57歳,男性.左上顎洞の進行扁平上皮癌(StageIVA,T4aN0M0)に対して,陽子線照射(総吸収線量70.4GyE)と化学療法(シスプラチン総量350mg)を他院で受け,治療終了後に眼科好明館を受診した.放射線皮膚炎と結膜炎を診断され,抗菌薬眼軟膏およびステロイド眼軟膏塗布で皮膚炎は軽快した.その後,重篤なドライアイを発症し,通常の治療に抵抗性であったが,2%レバミピド点眼を追加処方したところ,速やかに軽快した.結論:陽子線治療に伴う有害事象として,ドライアイは治療困難なことがあり,照射後の患者については慎重な経過観察が必要である.Background:Althoughprotonbeamtherapy(PBT)isavailableforthetreatmentofmanytypesofmalignancy,onlyalimitednumberofinstitutesinJapancanperformthisprocedure.Asaresult,patientswhoreceivePBTatadistantinstitutemayreceivefollow-upcarefromalocalfamilyphysician.Case:A57-year-oldmalewhounderwentPBT(totaldose:70.4GyE)withconcurrentchemotherapyforadvancedsquamouscellcarcinomaoftheleftmaxillarysinuspresentedtoKoumeikanEyeClinicandwasdiagnosedashavingradiationdermatitisandconjunctivitis.Hisdermatitiswastreatedwithtopicalsteroidandantibioticointment,withnocomplications,butseveredryeyesyndromeoccurredsuccessively.Althoughordinarytreatmentfordryeyesyndromehadlittleeffect,thecornealerosionimprovedrapidlyafteradministrationoftopicalrebamipide2%eyedrops;thesymptomsamelioratedsuccessfully.Conclusion:AsanadverseeventofPBT,severedryeyesyndromecanbechallengingtotreat;irradiatedpatientsneedcloseophthalmologicmonitoringforpotentialsequelae.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(9):1314.1317,2013〕Keywords:陽子線治療,放射線有害事象,放射線皮膚炎,ドライアイ,レバミピド.protonbeamtherapy(PBT),radiationadverseevents,radiationdermatitis,dryeyesyndrome,rebamipide.はじめに陽子線治療は近年実用化された放射線治療の一種であり,現行のX線治療との比較検討が盛んに行われている.ただし,陽子線治療は先進医療であり,全国でも限られた施設でしか行われていない.この治療を受ける患者はまだ比較的少数にとどまっているが,今後は,遠隔地で陽子線治療を受け,地方で病状経過を追う症例が増えることが予想される.今回,個人開業の眼科診療所で陽子線照射後の皮膚炎・ドライアイ症例を経験したので報告する.I症例患者は57歳,男性.左上顎洞扁平上皮癌(StageIVA,〔別刷請求先〕宇野真:〒502-0071岐阜市長良157-1眼科好明館Reprintrequests:MakotoUno,M.D.,KoumeikanEyeClinic,157-1Nagara,Gifu,Gifu502-0071,JAPAN131413141314あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(114)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY T4aN0M0)に対し,他院で陽子線照射(総吸収線量70.4GyE,33分割照射)と化学療法(浅側頭動脈からの動注療法,シスプラチン総量350mg)を受けた.同院での治療中に放射線皮膚炎を発症し治療を受けていたが,自己判断で治療を中断した.左眼周囲の痛みを訴えて2012年9月(陽子線治療終了後11日)に眼科好明館を受診した.受信時所見:視力は右眼0.2(0.5×.1.0D(cyl.1.0DAx30°),左眼0.2(0.6×.1.75D(cyl.0.5DAx90°),眼圧は右眼14mmHg,左眼24mmHg.左上・下眼瞼から頬部にかけて皮膚の発赤,落屑があり,一部はびらんを伴っていた(図1).他に,左眼結膜充血ならびに眼脂を認めた.両眼とも核白内障があり,眼底に特記する異常はなかった.陽子線照射による有害事象であり,commonterminologycriteriaforadverseevents(CTCAE)version4.0に基づいて放射線皮膚炎Grade2,結膜炎Grade2と診断された.皮膚炎治療として0.3%オフロキサシン眼軟膏ならびに図1照射終了後11日左上・下眼瞼から頬部にかけて,皮膚の発赤,落屑および一部のびらんを認める.0.05%デキサメタゾン眼軟膏を各1日2回患部に塗布し,結膜炎に対しては1.5%レボフロキサシン点眼と0.1%フルオロメトロン点眼を各1日4回,および0.3%オフロキサシン眼軟膏の結膜.内点入1日2回を処方したところ,ほぼ2週間後に皮膚炎・結膜炎は軽快した.やや兎眼気味ではあったが角膜びらんはなく閉瞼も十分可能であったため,照射終了25日に0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼1日4回を処方し,その他の点眼と眼軟膏結膜.内点入を中止したところ,照射終了後42日に軽度の点状角膜びらんが角膜下方に出現した.0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼から防腐剤無添加0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼に変更したが,照射終了後50日に点状びらんが角膜全面に多発し,Descemet膜皺襞と前房図2照射終了後57日(レバミピド点眼後0日)防腐剤無添加0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼,0.1%フルオロメトロン点眼およびオフロキサシン眼軟膏を併用していたが,点状角膜びらんが多発し,大きな角膜上皮欠損も出現している.図3照射終了後64日(レバミピド点眼後7日)角膜びらんはほぼ消失している.角膜前面の水濡れ性は良好である.図4照射終了後165日(レバミピド点眼後108日)軽度の楔状角膜混濁を認める.角膜への血管侵入はない.(115)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131315 微塵を伴う重篤な角膜炎(CTCAEGrade3)を発症した.眼瞼結膜は軽度の充血を示すのみであり,マイボーム腺開口部のpluggingや瞼縁部の充血などのマイボーム腺機能不全を示す所見はなかった.防腐剤無添加0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼に加えて0.1%フルオロメトロン点眼1日4回と0.3%オフロキサシン眼軟膏結膜.内点入1日2回を再開したが,照射終了後57日の時点で多発する角膜点状びらんは改善せず,大きな角膜上皮欠損も出現した(図2).通常の治療に抵抗性であったが,2%レバミピド点眼1日4回を追加処方したところ,その1週間後の照射終了後64日には角膜びらんはほぼ消失し,角膜前面の水濡れ性が良好な状態に回復した(図3).照射終了後165日の時点で,角膜上皮びらんおよび角膜実質への血管侵入はないが,楔状の混濁を軽度に認めた.この混濁は視力には影響なく,フルオレセイン染色パターンから結膜組織の侵入と思われた(図4).この時点で2%レバミピド点眼1日4回,防腐剤無添加0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼1日4回,0.1%フルオロメトロン点眼1日1回および0.3%オフロキサシン眼軟膏結膜.内点入1日1回を継続している.なお,角膜障害治癒後のSchirmerテストは右眼4mm,左眼11mmであり,著しい涙液分泌減少は認めなかった.また,スペキュラーマイクロスコピーでの角膜内皮細胞数計測は右眼2,645cells/mm2,左眼2,652cells/mm2であり,著しい角膜内皮細胞減少は認めなかった.II考按陽子線治療とは,加速器(サイクロトロンまたはシンクロトロン)を用いて水素の原子核である陽子を加速し,病変部位に照射する放射線治療の一種である.加速された陽子は,与えられた運動エネルギーに応じて一定の距離(飛程,range)を飛んだ後に静止する.したがって,陽子への加速を調節することにより,その到達深度の設定が可能となる.さらに,陽子線を含む粒子線は,飛程終端間際の速度が落ちるところで,より密度高くエネルギーを失うという,ブラッグピークとよばれるピークを有している.このため,異なる飛程をもつ陽子ビームを重ね合わせた拡大ブラッグピークを形成することにより,ある一定の広がりをもった病変部への一様な照射が可能であり,なおかつ,病変部よりも奥にある正常組織の吸収線量を大幅に下げることができる.ただし,総線量が多い場合には,体表部での吸収線量がある程度大きなものになることは避けられず,皮膚炎などの発症が問題となることがある.頭頸部領域において,陽子線治療はintensity-modulatedradiationtherapy(IMRT)を含む従来のX線療法と比べて同等以上の成績をあげており,悪性新生物の切除不可能症例への使用や,小児への応用の可能性について注目されてい1316あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013る.陽子線は粒子線ではあるが,炭素イオン線と比べて線エネルギー付与(linearenergytransfer:LET)は比較的小さく,放射線の効果や障害を考えるうえで低LET線であるX線での経験が参考となるとされている.放射線による有害事象については,CTCAEスコアや,radiationtherapyoncologygroup(RTOG)cooperativegroupcommontoxicitycriteriaなどに従って評価される.現在までに,乳癌治療などに伴う放射線皮膚炎の治療法が検討されてきたが,各治療法のエビデンスは十分なものとはいえず1),各々の医療機関において経験的な治療がなされているのが現状である.2から3度の放射線皮膚炎に対しては,火傷治療に準じて保湿と感染予防を行い,必要に応じてステロイド軟膏を併用することが有効であると思われる.頭頸部領域での治療については,0.033%ジメチルイソプロピルアズレン軟膏(アズノール軟膏R)の使用が紹介されている2).放射線治療時の化学療法併用は皮膚炎発症のリスクファクターであり,今回の症例では使用されていないが,分子標的薬についてもEGF(上皮細胞成長因子)受容体抗体であるcetuximabの使用例では,重度の座瘡様皮膚炎が問題となっており3),注意が必要である.放射線照射後のドライアイについて,Barabinoらのレビューでは,涙腺の総吸収線量が50.60Gyに至ると涙腺萎縮が起こるとしており,涙腺の耐容線量は30.40Gy程度であると述べている4).Bhandareらは,涙腺領域への吸収線量が推定34Gyを超えると重篤なドライアイが増加することを報告しており,その報告のなかで,放射線照射後のドライアイが主涙腺単独の障害によるものではなく,副涙腺,結膜杯細胞およびマイボーム腺などの関与も考えられるが,主涙腺以外の組織については吸収線量の推定は不可能であったと述べている5).外照射ではないが小線源治療後の結膜で杯細胞の減少がみられたという報告があり6),また,放射線照射後の口腔乾燥症では分泌型ムチンが減少している7)ことからも,放射線照射後のドライアイ症例においてムチン減少が関与している可能性が考えられる.今回の症例では,治療に抵抗性であった角膜上皮障害に対してレバミピド点眼が奏効した.レバミピドは杯細胞を増加させ,ムチン分泌を亢進させる作用がある他に,角膜上皮での膜結合型ムチンを増加させる.これらの作用が杯細胞の障害とムチン分泌減少を補い,角膜上皮障害が修復されたものと考えられる.当症例の特徴的な所見として,まず,発症初期から炎症所見が強く,前房微塵やDescemet膜皺襞を伴っていたことがあげられる.皮膚や消化管粘膜における放射線障害について,インターロイキン1などの炎症性サイトカインが関与して慢性炎症をひき起こしていることが報告されており8,9),角・結膜内の微小環境においても,被曝後にサイトカインな(116) どの組成変化があり,慢性の前炎症状態となっていることが考えられる.この状態が,角膜上皮障害を契機として角膜実質に及ぶ急性炎症へと転化し,角膜上皮の微絨毛や膜結合型ムチンの障害をひき起こすことにより,さらなる角膜上皮障害増悪の悪循環に陥ったことが想像される.さらに,角膜びらんは比較的短期間で軽快し,角膜への血管侵入がないにもかかわらず,軽度ではあるものの角膜混濁をきたしたことも特徴的である.放射線照射後に角膜上皮幹細胞が障害されたという報告10)があり,角膜上皮幹細胞に対して,放射線による直接の障害および持続する炎症による二次的な障害が起こり,結膜組織が角膜上に侵入したものと考えられる.レバミピドには抗炎症作用があり,局所投与による直腸の放射線粘膜炎治療の報告もある11)ため,今回の症例のように炎症が強いドライアイ症例においては,発症初期から長期にわたる積極的な使用を考慮すべきであると思われる.III結語陽子線治療を含めた放射線治療後の有害事象に対しては注意深い経過観察が必要であり,ドライアイ発症例では治療に難渋することがある.放射線治療のさらなる普及に伴い,一般開業医であっても放射線障害症例を診察する機会が多くなることが予想されるため,放射線による有害事象とその治療について,基本的知識を備えることが必要である.文献1)SalvoN,BarnesE,vanDraanenJetal:Prophylaxisandmanagementofacuteradiation-inducedskinreactions:asystematicreviewoftheliterature.CurrOncol17:94112,20102)福島志衣,古林園子,石井しのぶ:最新レジメンでわかる!がん化学療法実践編頭頸部がんCDDP+RT療法(シスプラチン+放射線療法).ナース専科30:88-91,20103)BernierJ,RussiEG,HomeyBetal:Managementofradiationdermatitisinpatientsreceivingcetuximabandradiotherapyforlocallyadvancedsquamouscellcarcinomaoftheheadandneck:proposalsforarevisedgradingsystemandconsensusmanagementguidelines.AnnOncol22:2191-2200,20114)BarabinoS,RaghavanA,LoefflerJetal:Radiotherapyinducedocularsurfacedisease.Cornea24:909-914,20055)BhandareN,MoiseenkoV,SongWYetal:Severedryeyesyndromeafterradiotherapyforhead-and-necktumors.IntJRadiatOncolBiolPhys82:1501-1508,20126)HeimannH,CouplandSE,GochmanRetal:Alterationsinexpressionofmucin,tenascin-candsyndecan-1intheconjunctivafollowingretinalsurgeryandplaqueradiotherapy.GraefesArchClinExpOphthalmol239:488495,20017)DijkemaT,TerhaardCHJ,RoesinkJMetal:MUC5Blevelsinsubmandibularglandsalivaofpatientstreatedwithradiotherapyforhead-and-neckcancer:Apilotstudy.RadiatOncol7:91,20128)JankoM,OntiverosF,FitzgeraldTJetal:IL-1generatedsubsequenttoradiation-inducedtissueinjurycontributestothepathogenesisofradiodermatitis.RadiatRes178:166-172,20129)OngZY,GibsonRJ,BowenJMetal:Pro-inflammatorycytokinesplayakeyroleinthedevelopmentofradiotherapy-inducedgastrointestinalmucositis.RadiatOncol5:22,201010)FujishimaH,ShimazakiJ,TsubotaK:Temporarycornealstemcelldysfunctionafterradiationtherapy.BrJOphthalmol80:911-914,199611)KimTO,SongGA,LeeSMetal:Rebamipideenematherapyasatreatmentforpatientswithchronicradiationproctitis:initialtreatmentorwhenothermethodsofconservativemanagementhavefailed.IntJColorectalDis23:629-633,2008***(117)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131317

VDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液への切り替え効果

2013年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(6):871.874,2013cVDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液への切り替え効果内野裕一*1,2坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2東京電力病院眼科EffectofSwitcingTreatmentfromExistingTherapyto3%DiquafosolSodiumEyedropsforDryEyeinVDTUsersYuichiUchinoandKazuoTsubota1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoElectricPowerCompanyHospital既治療で効果が不十分なvisualdisplayterminals(VDT)作業者に対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液:以下,DQS)への切り替え効果を検討した.VDT作業者のドライアイ確定例もしくは疑い例に対して,点眼治療しているにもかかわらず涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)が5秒以下で,ドライアイ自覚症状が強く残存している16例16眼において,既治療薬をDQSに切り替えて4週間点眼し,角結膜上皮障害スコア,BUT,自覚症状(12項目)を評価した.角結膜上皮障害スコアは1.1から0.3(p=0.0078)へ,BUTは2.4秒から3.9秒(p=0.0156)へと有意に改善した.自覚症状は12項目中7項目が有意に改善した.VDT作業に伴うドライアイに対して既存治療の効果が不十分である場合,DQSへの切り替えは自覚症状・他覚所見の双方の改善に有用であると考えられた.Invisualdisplayterminal(VDT)users,weinvestigatedtheeffectofswitchingdryeyediseasetreatmentfrominsufficientdrugsto3%diquafosolsodiumeyedrops(DiquasR:DQS).Enrolledinthisstudywere16VDTusers(16eyes)withdefiniteorprobabledryeyedisease,havingbothstrongsymptomsandatearfilmbreakuptime(BUT)oflessthan5seconds.At4weeksafterswitchingtoDQStreatment,thepatients’keratoconjunctivalstainingscore,BUTandsubjectivesymptoms(12items)wereevaluated.Significantimprovementwasseeninkeratoconjunctivalstainingscore(from1.1to0.3;p=0.0078),BUT(from2.4to3.9seconds;p=0.0156)and7ofthesubjectivesymptoms.WeconcludethatinVDTusers,itiseffectivetoswitchfrominsufficienttreatmentfordryeyediseasetoDQS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):871.874,2013〕Keywords:VDT作業,ドライアイ,ジクアホソルナトリウム,切り替え効果.VDToperation,dryeye,diquafosolsodium,effectofswitching.はじめに厚生労働省の調査によると,職場におけるvisualdisplayterminals(VDT)作業者の割合は1988年には15.3%であった1)が,2008年には87.5%と労働者のほとんどがVDT作業に従事し,そのうち4人に1人はパーソナルコンピュータ(PC)機器を1日6時間以上も使用する状況になっている2).VDT作業者の68.6%が身体的な疲労や症状を訴え,眼の痛み・疲れ(90.8%),首・肩のこり・痛み(74.8%)が多く認められている2).また,VDT作業に従事するオフィスワーカーの約3人に1人がドライアイ確定例と診断され,疑い例を含むと75.0%にドライアイの可能性があると報告されている3)ことからも,ドライアイはVDT作業者の眼の痛み・疲れの一因であることが考えられる.特にVDT作業に伴うドライアイの発症要因として,作業中の瞬目回数減少に起因した開瞼時間延長による涙液蒸発亢進に伴う涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の短縮4)が注目されており,〔別刷請求先〕内野裕一:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YuichiUchino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(149)871 このBUT短縮型ドライアイでは角膜上皮細胞表面の膜型ムチンの発現低下による角膜表面の水濡れ性低下が起きていると考えられている5).また,重症型ドライアイの一つであるSjogren症候群では,涙液中のMUC5ACが健常人と比較して,有意に減少していることも報告されている6).3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液:以下,DQS)は結膜組織からのMUC5AC分泌を促進させることが報告されており7),日本で行われた第II相試験では,ドライアイ患者においてプラセボに比較して,フルオレセイン角膜染色ならびにローズベンガル角結膜染色のスコアを有意に改善させることが確認されている8).以上からVDT作業に伴うドライアイに対しても有効性を発揮する可能性がある.そこで,筆者らはVDT作業に伴うドライアイ患者で,既存治療では十分な改善が得られていない患者を対象に,DQSへの切り替え効果を検討した.I対象および方法1.対象日常的にVDT作業を行い,ドライアイ自覚症状を呈し,2006年ドライアイ診断基準9)によりドライアイ確定例または疑い例と診断された患者で,すでにドライアイに対して点眼治療を行っているものの,その効果に満足していない患者を対象とした.ただし,アレルギー性結膜炎,ぶどう膜炎,糖尿病角膜症の罹患者,実施計画書で定めた受診ができない患者,担当医が不適切と判断した患者は除外した.試験開始時には試験対象者に試験内容を十分説明したうえで,試験参加の同意を文書にて取得した.本試験はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則および臨床研究に関する倫理指針(平成20年7月31日全部改正,厚生労働省)に従って実施した.また,本試験は調査実施医療機関の外部に設置された倫理委員会(両国眼科クリニック)における審査・承認を得たうえで実施した.2.有効性評価DQSは1日6回,4週間点眼投与した.点眼開始時に背景因子(性別,年齢,VDT作業時間)を調査し,点眼開始時および点眼4週間後に眼科学的検査(フルオレセイン染色後,コバルトフィルターを用いて角結膜上皮障害スコア(0.9点)を評価,また開瞼時から涙液層が破綻するまでの時間をストップウォッチで測定し,BUTとして評価,また自覚症状スコア12項目(異物感,羞明感,掻痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感,眼不快感,眼脂,流涙,充血:各0.3点;「なし」0点,「少しある」1点,「ある」2点,「非常にある」3点)を実施した.なお,観察対象眼は両眼とし,DQSによる改善効果を判定する評価対象眼は,点眼開始時の角結膜上皮障害スコアおよびBUTで判定したド872あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013ライアイ症状の強い眼とし,同等の場合には右眼とした.3.安全性評価試験期間中に有害事象が出現した場合には,症状,程度,発現日,処置の有無と内容,転帰,DQSとの関連性を記録し,有害事象のうちDQSとの関連性を否定できないものを副作用とした.4.統計解析DQS点眼前後の比較は,角結膜上皮障害スコアおよび自覚症状スコアについてはWilcoxon符号付順位検定,BUTは対応のあるt検定,自覚症状と他覚所見のそれぞれの改善変化量の相関関係はSpearmanの順位相関係数(r)を用い,有意水準は両側5%(p<0.05)とした.本文中の記述統計量は原則として平均値±標準偏差の表記法に従った.II結果1.対象および背景因子VDT作業に伴うドライアイで既治療からDQSに切り替えた患者は16例(男性10例,女性6例),平均年齢は56.1±8.3(34.68)歳であった.1日当たりのVDT作業時間は1.10時間(平均5.7時間)で,5時間以上作業しているVDT作業者は11例(68.7%)であった.DQSへの切り替え前のドライアイ治療は,精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液9例,人工涙液型点眼液7例であった.なお,矯正視力1.0未満およびコンタクトレンズ装用者は含まれていなかった.2.DQS切り替え効果DQSへの切り替えにより,フルオレセイン染色による角結膜上皮障害の平均スコアは1.1点から0.3点と有意に改善し(p=0.0078,Wilcoxonの符号付順位検定,図1),BUTの平均値も2.4秒から3.9秒と有意に改善し(p=0.0156,対応のあるt検定,図2),DQSへの切り替え効果が認められた.自覚症状スコアについては,羞明感(p=0.0469),掻痒感(p=0.0068),乾燥感(p=0.0059),鈍重感(p=0.0107),霧視(p=0.0039),眼疲労感(p=0.0059),充血(p=0.0156)の7項目に,DQS切り替えによる有意な改善が認められた(すべてWilcoxonの符号付順位検定,図3).自覚症状のなかで患者が最も辛い症状としてあげたのは,乾燥感5例(31.3%),眼疲労感3例(18.8%),眼痛2例(12.5%),異物感・羞明感・鈍重感・霧視・流涙・充血各1例(6.3%)であった.また,最も良くなった症状として患者があげたのは,乾燥感5例(31.3%),眼痛3例(18.8%),羞明感・鈍重感・眼疲労感各2例(12.5%),異物感・充血各1例(6.3%)であった.自覚症状の改善度と他覚所見の改善度との相関関係は,鈍重感とBUTの改善度(相関係数r=0.3175,p=0.0404)ならびに霧視とBUTの改善度(相関係数r=0.3678,p=0.0166)で有意な相関関係が認められた.(150) n=16n=16Wilcoxonの符号付順位検n=16Wilcoxonの符号付順位検定対応のあるt検定3.0p=0.00787.0p=0.01562.5切り替え前1.10.36.02.43.9自覚症状スコア角膜上皮障害スコア5.0BUT(秒)2.04.01.53.01.02.00.51.00.00.0切り替え後切り替え前切り替え後図1角結膜上皮障害スコアの推移図2BUTの推移各n=16**:p<0.05Wilcoxonの符号付順位検定3.0*:切り替え前■:切り替え後1.90.9*2.5**1.50.8**図3自覚症状スコアの推移1.10.61.30.71.10.31.40.90.40.3異物感羞明感.痒感眼痛乾燥感鈍重感霧視眼疲労感眼不快感眼脂流涙充血1.40.72.11.10.41.22.01.51.00.50.01.10.90.40.4なお,今回,DQSへの切り替えによる新たな副作用の発現は認められなかった.III考按われている膜型ムチンの発現低下が推察されている5).このような患者群に対して,人工涙液は一時的な水分および電解質の補充効果しか期待できず,精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は角膜上皮伸展促進作用および保水作用による治療効IT機器の急速な普及により職場でのPC使用は不可欠になり,その使用も長時間化している現状にある1,2).VDT作業に伴うドライアイを訴える患者は急増しており3),早急な対策が求められている.VDT作業時には瞬目回数が減少し瞬目間の開瞼時間が延長するため,涙液蒸発量が増加して蒸発亢進型ドライアイを発症すると考えられる4).しかし,最近,ドライアイ症状を強く訴えるものの涙液量は正常で角結膜上皮障害も少ないが,BUT短縮のみが認められるBUT短縮型ドライアイが注目されている.VDT作業時には瞬目間の開瞼時間の長さよりもBUTが短いことが関係している可能性が報告されており10,11),VDT作業者にみられるドライアイはBUT短縮型ドライアイであることが少なくない.このBUT短縮型ドライアイでは涙液層の安定性低下による高次収差の乱れが観察され12),日常生活に即した視力である実用視力も低下しやすいことが示唆されている13).また,BUT短縮型ドライアイの一因として,角結膜上皮細胞の最表面に発現して眼表面の水濡れ性を向上させるとい(151)果が認められ,角結膜上皮障害の治療薬として汎用されているが,ムチン分泌促進作用は認められていない5).したがって,眼表面を被覆する膜型ムチンの発現や,涙液中の分泌型ムチンの低下が示唆されるドライアイに対しては十分な治療効果が得られない可能性がある.一方,新規ドライアイ治療薬のDQSは結膜上皮および結膜杯細胞膜上のP2Y2受容体に作用し,細胞内カルシウム濃度を上昇させ,水分およびムチンの分泌促進作用により涙液の質と量の双方を改善すると考えられている7,14.17).したがって,精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液などの従来の治療薬では効果不十分であった症例に対しても,DQSは有効である可能性がある.そこで,今回,筆者らは既存薬で治療しているVDT作業に伴うドライアイ患者のなかで,その治療効果に満足していないBUT短縮型ドライアイ患者を対象に,治療薬をDQSに切り替えた場合の切り替え効果を検討した.今回検討したVDT作業に伴うドライアイ患者16例は,長時間(5時間以上)にわたってVDT作業に従事しているあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013873 患者が多かった(68.7%).DQSへの切り替え前のドライアチン分泌促進作用を有するDQSに切り替えることで,自覚イ状態をみると,フルオレセイン染色による角結膜上皮障害症状・他覚所見の双方に対して,症例数が少ないながらも有スコアの平均は1.1と障害度は高くないが,BUTの平均は意な改善が得られた.このことから,VDT作業に伴うドラ2.4秒と短く,患者が最も辛いとした症状の乾燥感スコア(3イアイに対して既存の治療で効果不十分な場合には,DQS点満点)の平均も1.9点と高かった.このことから,今回のへの切り替えが有用な選択肢の一つになると考えられた.試験対象者は点眼加療を継続しているにもかかわらずBUTが5秒以上へと改善していなかったBUT短縮型ドライアイ利益相反:利益相反公表基準に該当なしが多く含まれており,そのために従来の治療薬では十分な治療効果が得られなかったことが推測された.今回,DQSに文献切り替えて4週間点眼したことにより,BUTの平均は2.4秒から3.9秒に有意に延長し(p=0.0156,対応のあるt検1)労働省大臣官房政策調査部:技術革新と労働に関する実態調査報告昭和63年,1988定),もともと高くなかった角結膜上皮障害度スコアの平均2)厚生労働省大臣官房統計情報部:平成20年技術革新と労働は1.1から0.3に,さらなる有意な低下が認められた(p=に関する実態調査結果,20080.0078,Wilcoxonの符号付順位検定).角結膜上皮障害の治3)丸山邦夫,横井則彦:環境と眼の乾き.あたらしい眼科22:311-316,2005療薬として使用されることの多い精製ヒアルロン酸ナトリウ4)横井則彦:蒸発亢進型ドライアイの原因とその対策.日本ム点眼液と比較しても,切り替えたDQSが遜色のない治療の眼科74:867-870,2003効果を示すことが確認された.5)加藤弘明,横井則彦:ムチンの産生を増やす治療.あたらしい眼科29:329-332,2012自覚症状スコアは12項目中7項目が有意に改善しており,6)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:切り替え前に最も辛い症状と訴えた患者が5例(31.3%)とDecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACin最も多かった「乾燥感」は平均スコアが1.9点から0.9点にtearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,2002有意に改善した(p=0.0059,Wilcoxonの符号付順位検定).7)七條優子,阪元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウまた,DQS点眼4週後に最も良くなった症状として「乾燥ムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あた感」をあげた患者も5例(31.3%)と最も多かった.すでにらしい眼科28:261-265,20118)MatsumotoY,OhashiY,WatanabeHetal:Efficacyand精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液や人工涙液による点眼治safetyofdiquafosolophthalmicsolutioninpatientswith療からのDQSへの切り替えのみで,7項目にも及ぶ自覚症dryeyesyndrome:aJapanesephase2clinicaltrial.Oph状の有意な改善が確認されたことから,P2Y2受容体を介しthalmology119:1954-1960,20129)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科た結膜上皮細胞からの水分分泌ならびに結膜杯細胞からのム24:181-184,2007チン分泌という新しい薬理機序による治療効果は今後期待で10)佐藤直樹,山田昌和,坪田一男:VDT作業とドライアイのきると思われる.特に改善が顕著に認められた「乾燥感」関係.あたらしい眼科9:2103-2106,199211)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayterは,DQSによる細胞内カルシウムイオンを介した水分分泌minals.NEnglJMed328:584,1993という薬理作用によって改善された可能性がある.また,ド12)KohS,MaedaN,HoriYetal:Effectsofsuppressionofライアイ自覚症状の一つである「眼の疲れ」は,今回の検討blinkingonqualityofvisioninborderlinecasesofevaporativedryeye.Cornea27:275-278,2008では平均スコアが2.1点から1.1点へと有意に改善していた.13)KaidoM,IshidaR,DogruMetal:Therelationoffuncこの「眼の疲れ」に関しては,DQSによる結膜杯細胞からtionalvisualacuitymeasurementmethodologytotearの分泌型ムチンMUC5ACの分泌が促進されたことにより,functionsandocularsurfacestatus.JpnJOphthalmol55:451-459,2011lubricant(潤滑剤)効果が作用した可能性がある.また,14)CowlenMS,ZhangVZ,WarnockLetal:LocalizationofBUTの改善度と「鈍重感」および「霧視」の二つの自覚症ocularP2Y2receptorgeneexpressionbyinsituhybrid状の改善度が有意に相関していたことから,BUT短縮といization.ExpEyeRes77:77-84,200315)PendergastW,YerxaBR,DouglassJG3rdetal:Syntheう涙液不安定性により,二つの自覚症状が悪化しやすい可能sisandP2Yreceptoractivityofaseriesofuridinedinu性が新たに示唆された.cleoside5¢-polyphosphates.BioorgMedChemLett11:今回の検討で,VDT作業に伴うドライアイに対して既存157-160,200116)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリ薬で治療しても効果不十分であった症例は,膜型ムチンの発ウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作現や涙液中の分泌型ムチン濃度が低下している可能性のある用.あたらしい眼科28:543-548,2011BUT短縮型ドライアイの症例であった.17)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科これらの症例に対して,ムチン分泌促進作用が認められな28:1029-1033,2011い精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬などから水分およびム874あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(152)

LASIK 術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼液の長期における有効性

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):249.253,2013cLASIK術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼液の長期における有効性増田綾美森洋斉子島良平丸山葉子南慶一郎宮田和典宮田眼科病院EfficacyofLong-TermTreatmentwithDiquafosolSodiumforDryEyeDuetoLaserInSituKeratomileusisAyamiMasuda,YosaiMori,RyoheiNejima,YoukoMaruyama,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital目的:Laserinsitukeratomileusis(LASIK)後の遷延化したドライアイ患者に対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(以下,DQS)の長期効果を検討すること.対象および方法:対象は,LASIK後1年以上ドライアイが遷延し,DQSを追加した9例18眼.検討項目は涙液分泌量,涙液層破壊時間(BUT),点状表層角膜症(SPK),結膜上皮障害(リサミングリーン染色スコア)とし,点眼開始前,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月で評価した.また,ドライアイの自覚症状14項目を開始前と開始後12カ月で比較した.結果:涙液分泌量は,点眼開始前後で有意な変化を認めなかった.BUTは開始後1カ月から12カ月まで継続して有意に増加し,SPKも開始後1週から12カ月まで継続して有意な改善を認めた.結膜上皮障害は,開始後6カ月から12カ月まで継続して有意に改善した.自覚症状は,11項目のうち3項目が有意に改善していた.結論:DQSは,LASIK術後のドライアイに対して長期にわたり有用であった.Toevaluatetheefficacyoflong-termtreatmentwithdiquafosoltetrasodium3%solutionforchronicdryeyeafterlaserinsitukeratomileusis(LASIK),weconductedaprospectiveclinicalstudycomprising18eyes(9patients)towhichdiquafosoltetrasodium3%solutionwasadditionallyinstilled.Tearsecretin,tearfilmbreakuptime(BUT),superficialpunctatekeratitis(SPK),andconjunctivitissiccawereexaminedbeforeandat1weekand1,3,6,9and12monthsaftertreatment.Aquestionnairesurveyregarding14symptomswasalsoassessedbeforetreatmentandat12monthsafter.Followingdiquafosoltreatment,tearsecretindidnotchange,thoughBUTsignificantlyincreasedafter1,3,6,9and12months.SPKimprovedatallevaluationpoints.Lissaminegreenscoreimprovedafter6,9and12months.Ofthe14itemsonthesymptomsquestionnaire,3improved.Diquafosoltetrasodiumwaslong-termeffectiveinimprovingocularsurfacedisorderanddryeyesymptomsafterLASIK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):249.253,2013〕Keywords:LASIK,ドライアイ,ジクアホソルナトリウム.LASIK,dryeye,diquafosoltetrasodium.はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,世界で初めて報告されてから20年が経過した.術後長期の安全性が確立されている1)が,半数以上にドライアイを生じることが知られている2,3).LASIKは,フラップ作製時に角膜知覚神経を切除・切断するため,術後に三叉神経-中間神経-涙腺神経を通じて涙腺に反射性の涙液分泌を促す自己修復システム(Reflexloop-涙腺システム)が十分に機能できない3,4).通常,LASIK後のドライアイは一過性であり,術後3.6カ月程度で術前レベルまで改善するとされている5.7).一方で,共焦点顕微鏡の観察では,切断された角膜知覚神経の再生に3年もの期間を要するとの報告もあり8),LASIK後のドライアイが改善せず,遷延する症例も少なくない9).2010年,ドライアイの治療薬として,3%ジクアホソルナ〔別刷請求先〕増田綾美:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:AyamiMasuda,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(115)249 トリウム点眼液(以下,DQS)が使用可能となった.従来の人工涙液やヒアルロン酸ナトリウムによる点眼は水分補給や保水を目的とした治療である.一方,DQSは,涙液分泌に加えてムチン分泌も促すことで涙液層を安定化させ,角結膜上皮障害を改善する新しい作用機序の薬剤である.Tauberらの報告によると,ドライアイ患者へのDQS投与群で,涙液分泌量,角結膜染色および自覚症状が,人工涙液投与群に比べ有意に改善したと報告している10).また,わが国では,ドライアイ患者において,角膜染色スコア,結膜染色スコア,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)がDQSの短期および長期投与で有意な改善が認められたとの報告がある11,12).しかし,これまでLASIK後のドライアイ患者における有効性についてはまだ評価されていない.今回,1年以上遷延したLASIK後のドライアイ症例にDQSを使用し,その有効性を検討したのでここに報告する.I対象および方法対象は,1999年10月から2009年7月の間に宮田眼科病院でLASIKを受け,術後ドライアイに対して人工涙液および0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼治療を行い,1年以上経過しても改善が得られなかった9例18眼(全例女性).年齢は43.6±14.2(平均値±標準偏差)(29.54)歳.LASIK後期間,および人工涙液や0.1%ヒアルロン酸ナトリウムによる点眼加療後期間は3.4±2.7(1.8.11.7)年であった.全例,2006年ドライアイ診断基準を満たしていた13).宮田眼科病院の倫理委員会の承認のもと,十分説明を行ったうえで,すべての対象患者から同意を得た.人工涙液およびヒアルロン酸ナトリウム点眼はそのまま継続とし,DQS(ジクアスR,参天製薬)点眼を1日6回追加した.検討項目は,涙液分泌量,BUT,点状表層角膜症(superficialpunctuatekeratopathy:SPK),結膜上皮障害である.涙液分泌量は,Schirmer試験第Ⅰ法変法を用いた.BUTは,ストップウォッチにて3回測定し,その平均値を算出した.SPKは,フルオレセインで染色された角膜の面積(area)と密度(density)(各0.3点)の組み合わせで評価するAD分12カ月で比較検討した.各検査項目の統計解析は,点眼開始前を基準とし,涙液分泌量と自覚症状はWilcoxonの符号付順位和検定を行い,BUT,SPKおよび結膜上皮障害の変化はKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合はSteel-Dwass検定で多重比較検定を行った.いずれも有意水準は両側5%とした.II結果涙液分泌量は,点眼開始前6.7±4.7mmが,開始後1カ月,3カ月,9カ月,12カ月で,それぞれ5.9±1.5,6.1±3.0,6.8±4.2,6.2±3.2であり,有意な変化は認められなかった.BUTは,点眼開始前3.1±0.8秒であったが,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月で,それぞれ4.4±1.5秒,4.9±1.7秒,4.7±1.2秒,4.5±1.3秒,5.9±2.8秒,6.5±3.8秒であり,投与後1カ月から12カ月まで継続して点眼開始前より有意に延長した(開始後1カ月と6カ月はそれぞれp=0.01,p=0.03,それ以外の期間はp<0.01)(図1).SPKはAD分類のスコア(A+D)にて,開始前3.6±0.7であったが,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,1210********BUT(秒)864開始前1W1M3M6M9M12M経過期間20図1涙液層破壊時間(BUT)の変化開始前と比較し,開始後1カ月から12カ月まで継続して有意に延長した.*p<0.05,**p<0.01Steel-Dwasstest.5***********フルオレセイン染色スコア類14)を用い,その合計スコアで評価した(0.6点).結膜上皮障害はリサミングリーン染色を行い,鼻側,耳側球結膜をそれぞれ3象限に分けて15)(各0.3点),その合計で評価した(0.18点).評価時期は点眼開始前,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月および12カ月とした.さらに,自覚症状である眼の疲れ,乾燥感,眼がゴロゴロショボショボす43210る,眼が重い,痛い,痒い,不快感,かすみ,光がまぶし投与前1W1M3M6M9M12Mい,眼脂,流涙,充血,読書や運転時に症状が悪化する,乾経過期間燥した場所で症状が悪化する,の14項目16,17)についてそれ図2SPK(フルオレセイン染色スコア:AD分類)の変化ぞれ5段階評価(1点:まったくない,3点:時々ある,5開始前と比較し,開始後1週から12カ月まで継続して有意に点:常にある)のアンケートを行った.点眼開始前と開始後軽減した.*p<0.05,**p<0.01Steel-Dwasstest.250あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(116) 12カ月でそれぞれ2.6±0.7,2.4±0.8,2.1±0.9,2.1±1.1,1.7±1.0,1.6±1.1であり,投与後1週間から12カ月まで継続して有意な改善を認めた(開始後1週間はp=0.02,それ以外の期間はp<0.01)(図2).その内訳は,開始前A1D2:10眼,A1D2:6眼,A2D3:2眼であったが,開始後12カ月では,A0D0:5眼,A1D1:10眼,A1D2:3眼となった.結膜上皮障害は,開始前4.4±2.5が,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月でそれぞれ2.9±2.5,2.9±2.7,2.5±2.2,1.7±1.6,1.5±1.9,1.3±1.8であり,点眼開始後6カ月から12カ月まで有意な改善を認めた(開始後6カ月と9カ月はそれぞれp=0.01,p=0.02,12カ月はp<0.01)(図3).86自覚症状は,14項目のうち,眼が乾いた感じ,眼がショボショボゴロゴロする,眼の不快感の3項目で有意な改善が認められた(各p<0.05)(図4).なお,観察期間において,点眼の副作用は認められなかった.III考按今回の検討により,DQSは,人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼で改善が得られなかったLASIK後のドライアイ遷延例において,BUTは点眼開始後1カ月から12カ月まで継続して有意な延長を認めた.SPKは開始後1週から12カ月まで継続して,結膜上皮障害は点眼開始後6カ月から12カ月まで継続して有意な改善を認めた.LASIK後のドライアイはBUTの短縮が特徴的であるが,BUTの短縮は眼表面のムチンの発現の低下が要因の一つと考えられる18).ドライアイ治療に汎用されているヒアルロンリサミングリーン染色スコア経過期間****酸では,ムチンが障害されたドライアイ患者への効果は不十4分な可能性が指摘されている19).Yungらは,人工涙液で改2善を認めないLASIK後のドライアイ患者に対し,涙点プラグが有効であるとしている20).しかし,涙点プラグは挿入時に疼痛を伴ううえ,術後感染や脱落,肉芽形成や涙道内の迷入などの合併症がある21,22).今回の検討で,DQS投与後で0開始前1W1M3M6M9M12Mは涙液分泌量の増加はみられなかったが,BUTの有意な延図3結膜上皮障害(リサミングリーン染色スコア)の変化開始前と比較し,開始後6カ月から12カ月まで継続して有意に長が認められた.DQSは結膜上皮の杯細胞のP2Y2受容体改善した.*p<0.05,**p<0.01Steel-Dwasstest.に作用し,分泌型ムチンであるMAC5ACの分泌を促進す54図4DQS投与前後での各自覚症状の比較開始前(■)と比較し,開始後12カ月(■)で「眼が乾いた感じ」「眼がゴロゴロ,ショボショボする」,「眼の不快感」の3項目が有意に改善した.*p<0.05Wilcoxonsigned-ranktest.(,)眼が疲れる***自覚症状のスコア3210乾燥で悪化運転で悪化眼が赤い涙が出る目やにが出る光がまぶしいかすんで見える眼の不快感眼が痒い眼が痛い眼が重いショボショボ眼がゴロゴロ眼が乾いた感じ(117)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013251 るとされる23).今回の検討においても,DQSにより分泌型ムチンが増加することで涙液層が安定化し,BUTが延長したと考えられる.SPKにおいても,DQS投与後で有意な改善を認めた.SPKの投与後12カ月の改善率をみると,A1D2は90%で,A2D2とA2D3では100%であった.内訳は,A1D210眼のうち4眼がA1D1,5眼がA0D0と改善,1眼が不変であった.A2D2では6眼すべてがA1D1となり,A2D3では2眼ともA1D2と改善を認めた.DQSは,SPKの改善は軽度から中等度において特に有効であったが,A2D3のような重度の症例では,A1D2と改善はみられたものの,SPKは中等度残存していた.角膜上皮障害が重度の場合,膜型や分泌型ムチンの発現が著明に低下しているため,DQSでの治療では,涙液層の安定化をはかるには不十分と考えられる.このような重度のSPK症例には点眼治療だけでなく,涙点プラグなどの外科処置を考慮する必要があるかもしれない.今回の検討で,角膜上皮障害は点眼開始後1週,BUTは点眼開始後1カ月,結膜上皮障害は点眼開始後6カ月までに有意に改善し,その効果は12カ月まで持続していた.山口ら12)は,DQS投与後52週にわたり角結膜上皮障害の有意な減少とBUTの有意な延長を認め,その効果は長期投与においても持続することを報告している.本検討においても,投与後1年にわたり角結膜上皮障害とBUTの経時的な改善がみられた.角膜上皮障害とBUTの改善は,点眼治療後早期で認めたが,結膜上皮障害の改善は,点眼開始後6カ月であり,角膜と比較すると改善の遅延がみられた.結膜上皮障害は,従来の点眼や涙点プラグなど,ドライアイ治療において,角膜上皮障害と比較して残存する傾向がある13).しかし,山口らの報告12)では,角膜上皮障害とBUTだけでなく,結膜上皮障害も点眼開始後1カ月までには有意な改善を認めている.本検討では統計学的有意差は認めなかったが,点眼後1週間から改善傾向であった.今回は18眼の検討であるため,さらに症例数を蓄積することで,より早期から有意な改善がみられる可能性が考えられた.自覚症状において,眼が乾いた感じ,眼がショボショボゴロゴロする,眼の不快感の3項目で改善がみられた.これらは涙液層の安定性や角結膜上皮障害と関連すると考えられる.BUTと自覚症状の合計スコアの相関を検討したところ,BUTが延長するほど,また,角結膜上皮染色スコアが減少するほど自覚症状が改善する傾向がみられた(p<0.01,それぞれr=.0.31,0.28,0.25Spearman’scorrelationcoefficient).DQSによる涙液層の安定化により,ドライアイの悪循環が解消され,BUTの延長と角結膜上皮障害の軽減を促すことで,自覚症状の改善につながったと考えられる.DQSはLASIK後の遷延するドライアイに対し,短期的だけでなく,経時的に改善させる点眼薬であると考えられる.LASIK後にドライアイを認める症例や,術前からドライアイを認める症例では,術後早期からDQSを投与することも有用である可能性が示唆される.文献1)宮井尊史,宮田和典,大鹿哲郎ほか:Wavefront-GuidedLaserInSituKeratomileusisの臨床評価.IOL&RS19:189-193,20052)TodaI,Asano-KatoN,Komai-HoriYetal:Dryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol132:1-7,20013)AlbietzJM,LentonLM,McLennanSG:Chronicdryeyeandregressionafterlaserinsitukeratomileusisformyopia.JCataractRefractSurg30:675-684,20044)StevenE,WilsonSE:Laserinsitukeratomileusisinducedneurotrophicepitheliopathy.Ophthalmology108:1082-1087,20015)AmbrosioRJr,TervoT,WilsonSEetal:LASIK-associateddryeyeandneurotrophicepitheliopathy:pathophysiologyandstrategiesforpreventionandtreatment.JRefractSurg24:396-407,20086)NejimaR,MiyataK,TanabeTetal:Cornealbarrierfunction,tearfilmstability,andcornealsensationafterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol139:64-71,20057)LinnaTU,VesaluomaMH,Perez-SantonjaJJetal:EffectofmyopicLASIKoncornealsensitivityandmorphologyofsubbasalnerves.InvestOphthalmolVisSci41:393397,20008)PatelSV,McLarenJW,KittlesonKMetal:Subbasalnervedensityandcornealsensitivityafterlaserinsitukeratomileusis:femtosecondlaservsmechanicalmicrokeratome.ArchOphthalmol128:1413-1419,20109)KonomiK,ChenLL,TarkoRSetal:PreoperativecharacteristicsandapotentialmechanismofchronicdryeyeafterLASIK.InvestOphthalmolVisSci49:168-174,200810)TauberJ,DavittWF,BokoskyJEetal:Double-masked,placebo-controlledsafetyandefficacytrialofdiquafosoltetrasodium(INS365)ophthalmicsolutionforthetreatmentofdryeye.Cornea23:784-792,200411)三原研一,中村泰介:ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼液3%の有効性の検討.臨眼66:1191-1194,201212)山口昌彦,坪田一男,大橋裕一ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,201213)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,200714)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200315)PerryHD,SolomonR,DonnenfeldEDetal:EvaluationofTopicalCyclosporinefortheTreatmentofDryEyeDisease.ArchOphthalmol126:1046-1050,2008252あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(118) 16)SchiffmanRM,ChristiansonMD,JacobsenGetal:ReliabilityandvalidityoftheOcularSurfaceDiseaseIndex.ArchOphthalmol118:615-621,200017)DoughertyBE,NicholsJJ,NicholsKK:RaschanalysisoftheOcularSurfaceDiseaseIndex(OSDI).InvestOphthalmolVisSci52:8630-8635,201118)CorralesRM,NarayananS,FernandezIetal:Ocularmucingeneexpressionlevelsasbiomarkersforthediagnosisofdryeyesyndrome.InvestOphthalmolVisSci52:8363-8369,201119)ShimmuraS,OnoM,TsubotaKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,199520)YungYH,TodaI,TsubotaKetal:Punctalplugsfortreatmentofpost-LASIKdryeye.JpnJOphthalmol56:208-213,201221)小嶋健太郎,横井則彦,木下茂ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,200222)FayetB,AssoulineM,RenardGetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa:Aclinicalandhistopathologicreport.Ophthalmology108:405-409,200123)七條優子,坂元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,2011***(119)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013253

3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):527.535,2012c3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験山口昌彦*1坪田一男*2渡辺仁*3大橋裕一*1*1愛媛大学大学院高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3関西ろうさい病院眼科TheSafetyandEfficacyofLong-termTreatmentwith3%DiquafosolOphthalmicSolutionforDryEyeMasahikoYamaguchi1),KazuoTsubota2),HitoshiWatanabe3)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospital3%ジクアホソルナトリウム点眼液の長期投与時の安全性と有効性を検討するため,ドライアイ患者を対象としたオープンラベルによる多施設共同試験を実施した.被験薬は1回1滴,1日6回,28または52週間点眼とした.Sjogren症候群患者11例,Stevens-Johnson症候群患者2例を含む365例に被験薬が投与された.安全性では,発現率が高かった副作用は,眼脂(6.6%),結膜充血(5.5%),眼刺激(4.4%)および眼痛(3.3%)であった.副作用の程度については,ほとんどが軽度であり,被験薬投与継続中または終了後に,試験開始時と同程度か医学的に問題のない程度まで回復した.有効性では,角膜におけるフルオレセイン染色スコア,角結膜におけるローズベンガル染色スコアおよび涙液層破壊時間(BUT)は,治療期のすべての評価時点においてベースライン値と比較して有意なスコアの低下,もしくはBUTの延長を示し,28週間または52週間の点眼により効果が減弱することはなかった.自覚症状については,治療期のすべての評価時点で異物感,羞明感,.痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感および眼不快感は投与4週目までに改善し,28週間または52週間まで改善した状態を維持した.眼脂と流涙は改善効果が認められなかったが,投与期間中の悪化も認められなかった.以上より,3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイ患者に対する長期投与における安全性および有効性が確認された.Thesafetyandefficacyoflong-termtreatmentwith3%diquafosolophthalmicsolutionwereevaluatedin365patientswithdryeyediseaseinanopen-labelstudy(onedrop,6×-dayinstillationfor28or52weeks).Oftheadversedrugreactionsthatoccurredduringthetreatmentperiod,themostfrequentwere“eyedischarge”(6.6%),“conjunctivalhyperemia”(5.5%),“eyeirritation”(4.4%)and“eyepain”(3.3%).Mostoftheadversedrugreactionsweremild,allresolvingtoalevelequivalenttobaselineortoamedicallynon-problematiclevel,eitherduringcontinuanceofthestudydrugorafteritsdiscontinuance.Meanchangeinfluoresceincornealstainingscoreandrosebengalcorneal/conjunctivalstainingscoreshowedasignificantdecreasecomparedtobaseline(Week0)atallevaluationpointsduringthetreatmentperiod.MeanchangeinBUTwasfoundtoextendsignificantlycomparedtobaseline(Week0)atallevaluationpointsduringthetreatmentperiod.Regardingmeanchangeinsubjectivesymptoms,althoughnoimprovingtendencywasseenineyedischargeorlacrimationscores,scoresforforeignbodysensation,eyepain,dryfeeling,dullsensation,blurredvision,eyefatigue,oculardiscomfortandtotalsubjectivesymptomsshowedsignificantdecreasescomparedtobaseline(Week0)atallevaluationpointsduringthetreatmentperiod.Theaboveresultsconfirmthesafetyandefficacyoflong-termtreatmentwith3%diquafosolophthalmicsolutionindryeyepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):527.535,2012〕〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)Reprintrequests:MasahikoYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Touon-shi,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(93)527 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):000.000,2012〕Keywords:ジクアホソルナトリウム点眼液,安全性,有効性,ドライアイ,長期試験,ムチン.diquafosolophthalmicsolution,safety,efficacy,dryeye,long-termstudy,mucin.はじめにドライアイは,2006年ドライアイ診断基準によれば,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されている1).わが国の疫学調査では,visualdisplayterminals(VDT)作業者におけるドライアイ罹患率は男性で10.1%,女性で21.5%とされている2)が,近年,VDT作業者,エアコン使用機会,コンタクトレンズ装用者や屈折矯正手術の増加などによってドライアイ患者数は増加傾向にあり3.8),日常臨床において最も遭遇する機会が多い疾患の一つになってきている.涙液層は,マイボーム腺より分泌される脂質,涙腺・結膜上皮より分泌される涙液水層,おもに結膜杯細胞より分泌される分泌型ムチンから構成されている9,10).分泌型ムチンは涙液水層中に濃度勾配をもって存在し,涙液水層の表面張力を低下させることによって涙液水層が角結膜上皮表面に広がりやすくしている11).また,角膜および結膜上皮表層には膜結合型ムチンが存在し,陰性に帯電していることによって,陽性に帯電している水分子を角結膜上皮表層にとどめる作用をもっていると考えられており10),分泌型と膜結合型の両方のムチンの働きによって涙液層は角結膜上皮の上に安定して存在することが可能になっている.したがって,涙液水層や分泌型および膜結合型ムチンの減少は,涙液の安定性を低下させ,ドライアイを発症させる要因となる12).ドライアイ治療の点眼薬としては,人工涙液や精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液がこれまで用いられてきたが,近年,新たなドライアイ治療薬として,水分およびムチンの分泌を促進する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%)が開発され,すでに臨床使用されている.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に対してアゴニスト作用を有するジヌクレオチド誘導体で,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,結膜上皮細胞からの水分分泌および結膜杯細胞からのムチン分泌を促進させる作用を示し13,14),涙液水層と涙液中ムチンを改善させることにより,ドライアイに対する治療効果を発揮すると考えられる.慢性疾患であるドライアイの治療では,長期間の点眼治療が必要となる場合が多く,点眼の安全性と有効性の確保はきわめて重要である.本報告では,ドライアイ患者を対象に3%ジクアホソルナトリウム点眼液の長期投与による安全性および有効性を検討した.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および方法1.対象本臨床試験は全国30医療機関において実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.対象はドライアイと診断された患者であり,選択基準は年齢20歳以上の性別を問わない外来患者で,観察期開始時に両眼が1995年のドライアイ研究会による診断基準においてのドライアイ確定例でフルオレセイン染色スコアが1点以上の症例とし,除外基準とともに表2に示した.試験開始前に,すべての被検者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.表1試験実施医療機関一覧医療機関名試験責任医師名医療法人社団深相会青木眼科青木繁医療法人平心会大阪治験病院安藤誠医療法人社団アイクリニック静岡菊川眼科池田宏一郎医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院板橋隆三医療法人社団博陽会おおたけ眼科つきみ野医院大竹博司医療法人健究社スマイル眼科クリニック岡野敬医療法人社団明医会上野眼科医院木村泰朗堀之内駅前眼科黒田章仁医療法人朔夏会さっか眼科医院属佑二さど眼科佐渡一成東京歯科大学市川総合病院眼科島﨑潤清水眼科清水裕子医療法人社団高友会立飛ビルクリニック眼科髙橋義徳医療法人社団もとい会谷津駅前あじさい眼科田中まりたはら眼科田原恭治慶應義塾大学病院眼科坪田一男医療法人社団聖愛会中込眼科中込豊医療法人社団富士青陵会中島眼科クリニック中島徹たなし中村眼科クリニック中村邦彦スカイビル眼科医院秦誠一郎医療法人知世会林眼科林直樹大阪大学医学部附属病院眼科前田直之医療法人社団真愛会真鍋クリニック眼科真鍋勉三橋眼科医院三橋正忠医療法人社団ルチア会みやざき眼科宮崎明子医療法人社団平和会葛西眼科医院村瀬洋子むらまつ眼科医院村松知幸国立大学法人愛媛大学医学部附属病院眼科山口昌彦独立行政法人国立病院機構東京医療センター眼科山田昌和渡辺眼科医院渡邉広己528あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(94) 表2選択基準および除外基準1)選択基準1.20歳以上2.観察期開始時において,両眼ともにドライアイ研究会による診断基準(1995年)に沿ってドライアイ確定例*と診断,かつ,フルオレセイン染色スコアが1点以上3.少なくとも片眼において,観察期終了時にフルオレセイン染色スコアが1点以上*ドライアイ確定例診断基準(1995年)に沿って,次の①および②を満たす患者をドライアイ確定例とする.①無麻酔下Schirmer試験で5分間に5mm以下または涙液層破壊時間(BUT)が5秒以下②フルオレセイン染色スコアが1点以上(3点満点)またはローズベンガル染色スコアが3点以上(9点満点)2)除外基準1.眼類天疱瘡と診断されている2.角結膜化学腐食または熱腐食と診断されている3.ドライアイ以外の治療を必要とする眼疾患を有する4.眼瞼が解剖学的および機能的に異常である(閉瞼不全など)5.同種造血幹細胞移植の既往を有する6.角膜屈折矯正手術の既往を有する7.アレルギー性結膜炎を有し,試験期間中に症状が増悪する恐れがあり,薬効評価上不適当と判断された8.観察期開始前3カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往を有する9.涙点の閉塞を目的とした治療(涙点プラグ挿入術,外科的涙点閉鎖術など)を観察期開始前1カ月以内まで継続していた10.心,肝,腎,血液疾患,その他の中等度以上の合併症をもち,薬効評価上不適当と判断された(中等度以上とは,例えば「1992年薬安第80号医薬品等の副作用の重篤度分類の基準について」のグレード2以上に相当)11.妊娠中,授乳中または妊娠している可能性がある,または予定の試験期間終了後1カ月以内に妊娠を希望する12.試験期間中に使用する予定の薬剤(フルオレセイン,ローズベンガル,塩酸オキシブプロカインなどの点眼麻酔剤)に対し,アレルギーの既往がある13.試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする14.試験期間中に併用禁止薬を使用する予定および/または併用禁止療法を実施する予定がある15.過去にジクアホソルナトリウム点眼液の治験に参加した(ただし,被験薬を点眼しなかった被検者は可とする)16.観察期開始前1カ月以内に他の治験に参加した2.被験薬被験薬である3%ジクアホソルナトリウム点眼液は,1ml中にジクアホソルナトリウム(図1)を30mg含有する無色澄明の水性点眼液である.観察期用プラセボ点眼液は,3%ジクアホソルナトリウム点眼液の基剤点眼液(有効成分を含有しない点眼液)である.3.用法・用量被験薬は1回1滴,1日6回(2.3時間毎),観察期2週間および治療期28週間または52週間,両眼に点眼した.観察期間中は観察期用プラセボ点眼液を,治療期間中は3%ジクアホソルナトリウム点眼液を,それぞれ点眼した.4.検査・観察項目試験期間中は表3のごとく検査・観察を行った.5.併用薬および併用療法試験期間を通じて,すべての眼科疾患に対する治療薬,副腎皮質ステロイド剤(眼瞼以外への皮膚局所投与は可とする),他の治験薬の併用は投与経路を問わず禁止した.併用禁止薬を除く薬剤の併用は可とした.試験期間を通じて涙点プラグ,外科的涙点閉鎖術,ドライアイ保護用眼鏡などの薬効評価に影響を及ぼす併用療法は行わないこととした.(95)OHNOOONNaOPOOOHHNaOPHHOOOHOOHNaOPOOHNNaOPOONOHHHHHOOH図1ジクアホソルナトリウムの構造式6.評価項目a.安全性の評価有害事象および副作用,臨床検査,眼科的検査をもとに安全性を評価した.あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012529 表3検査・観察項目観察項目観察期治療期観察期開始時(.2週)0週2週4週8.28または52週(4週ごとに来院)被検者背景,文書同意●点眼遵守状況●●●●自覚症状●●●●●前眼部所見●●●●●涙液層破壊時間(BUT)●●●●●フルオレセイン染色●●●●●Schirmer試験Ⅰ法(麻酔なし)●ローズベンガル染色●●●●眼科検査(眼底,視力,眼圧)●●●臨床検査●結果判定▲有害事象●●●●▲:治療期12週,28週および52週に実施.0~30~30~30点障害なし1点一部に障害あり2点半分以上に障害あり3点全体に障害あり図2フルオレセイン染色スコアの評価基準角膜の上部,中央部および下部の3箇所をそれぞれ0.3点の4段階でスコア化した(9点満点).0~30~30~30~30~30点障害なし1点一部に障害あり2点半分以上に障害あり3点全体に障害あり図3ローズベンガル染色スコアの評価基準角膜の上部,中央部および下部,結膜の耳側および鼻側の5箇所をそれぞれ0.3点の4段階でスコア化した(15点満点).b.有効性の評価評価対象眼はフルオレセイン染色スコアのベースライン値(0週評価時スコア)が高いほうの眼とした.左右眼のフルオレセイン染色スコアが同じ場合は,右眼を評価対象眼とした.なお,本試験におけるフルオレセイン染色スコアおよびローズベンガル染色スコアの評価基準を図2,3に示した.評価項目は,フルオレセイン染色スコア変化量,ローズベンガル染色スコア変化量,涙液層破壊時間(BUT)の変化量,自覚症状(11項目:異物感,羞明感,.痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感,眼不快感,眼脂,流涙,および11項目の合計スコア)の変化量の推移とした.530あたらしい眼科Vol.29,No.4,20127.解析方法安全性の解析では,被験薬を1回でも点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被検者を安全性解析対象集団とした.有効性の解析では,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet)を有効性の検討に使用し,投与前後の比較には対応のあるt検定を用いた.安全性および有効性に関する検定の有意水準は両側5%とした.解析ソフトはSAS(SASInstitute,Cary,NC)を用いた.II結果1.症例の内訳症例の内訳を図4に示した.文書同意を得た症例は395例で,そのうち30例が観察期中に中止・脱落し,治療期用被験薬が投与された症例は365例であった.治療期用被験薬投与開始後,28週以前の中止・脱落例は24例で,治療期用被験薬が28週間投与された症例は341例であった.そのうち,222例が28週間で投与を終了し,119例が52週までの延長登録を実施した.延長登録後,7例が中止・脱落し,治療期用被験薬が52週間投与された症例は112例であった.2.被検者背景安全性解析対象集団における被検者背景を表4に示した.3.安全性に関する成績a.有害事象および副作用治療期には有害事象が365例中245例に認められ,そのうち被験薬との因果関係が否定できない副作用は92例であった.治療期に認められた副作用(1%以上)を表5に示した.おもな副作用は,眼脂(6.6%),結膜充血(5.5%),眼刺激(4.4%),眼痛(3.3%)であり,これら以外はすべて3%以下であった.4週までに発現した副作用のうち,発現率(96) が高かった事象は眼脂(3.6%),眼刺激(3.3%)であり,その他の事象の発現率は3%未満であった.これら副作用の発現率は4週以降に減少し,長期投与により発現率が上昇することはなかった.他の副作用に関しても,長期投与により発現率が上昇することはなく,投与期間後期に多く発現する遅発性の副作用も認められなかった.b.臨床検査被験薬との因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動は3.8%に認められた.すべての臨床検査値の異常変動は,治療期中止・脱落例24例治療期用被験薬が28週投与された症例341例文書同意を得た症例395例治療期用被験薬が投与された症例365例52週延長の登録症例119例治療期用被験薬が52週投与された症例112例観察期中止・脱落例30例28週で投与を終了した症例222例治療期中止・脱落例(28週以降)7例図4被検者の構成被験薬投与継続中または被験薬投与終了後に,試験開始時と同じ程度か医学的に問題のない程度まで回復した.c.眼科検査前眼部所見,眼圧値,眼底所見,矯正視力については,各群とも被験薬投与前後で医学的に問題となる変動は認められなかった.4.有効性に関する成績フルオレセイン染色スコアの0週からの平均実測値の推移を図5に示した.フルオレセイン染色スコアのベースライン値からの平均変化量(平均値±標準誤差)は,4週で.1.32±0.07,28週で.1.83±0.08,52週で.1.83±0.13と,いずれもスコアの有意な低下が52週間にわたり認められた.ローズベンガル染色スコアの0週からの平均実測値の推移を図6に示した.ベースライン値からの平均変化量(平均値±標準誤差)は,4週で.1.58±0.10,28週で.2.22±0.12,表4被検者背景例数安全性解析対象集団365年齢(歳)平均±標準偏差49.8±17.6性別男性女性79(21.6%)286(78.4%)Sjogren症候群の合併なしあり354(97.0%)11(3.0%)Stevens-Johnsonなし363(99.4%)症候群の合併あり2(0.6%)0週フルオレセイン染色スコア平均±標準偏差2.6±1.60週ローズベンガル染色スコア平均±標準偏差3.3±2.70週BUT平均±標準偏差3.0±1.2観察期Schirmer試験平均±標準偏差7.4±8.0表5治療期に認められた副作用(1%以上)例数(%)安全性解析対象集団:365発現時期0.4週4.8週8.12週12.16週16.20週20.24週24.28週28.36週36.44週44.52週合計眼障害結膜出血1(0.3)────1(0.3)1(0.3)1(0.3)2(0.5)─6(1.6)眼脂13(3.6)3(0.8)──2(0.5)─3(0.8)2(0.5)─1(0.3)24(6.6)眼刺激12(3.3)─2(0.5)1(0.3)1(0.3)─────16(4.4)眼痛4(1.1)2(0.5)2(0.5)1(0.3)─2(0.5)──1(0.3)─12(3.3)霧視2(0.5)─1(0.3)──1(0.3)────4(1.1)眼の異物感4(1.1)2(0.5)───1(0.3)─1(0.3)1(0.3)─9(2.5)結膜充血8(2.2)─3(0.8)1(0.3)2(0.5)─3(0.8)1(0.3)1(0.3)1(0.3)20(5.5)眼.痒感3(0.8)2(0.5)─1(0.3)1(0.3)2(0.5)─1(0.3)──10(2.7)眼部不快感3(0.8)1(0.3)──1(0.3)─────5(1.4)合計(件数)501084777652106(MedDRA/JVer.10.1より)(97)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012531 ScoreScoreScore3210:3%ジクアホソル******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)0481216202428323640444852Weekn=(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)図5フルオレセイン染色スコアの平均実測値の推移43210:3%ジクアホソル******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)0481216202428323640444852Weekn=(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)図6ローズベンガル染色スコアの平均実測値の推移532あたらしい眼科Vol.29,No.4,201252週で.1.54±0.17と,いずれもスコアの有意な低下が52週間にわたり認められた.BUTの0週からの平均変化量の推移を図7に示した.BUTのベースライン値からの平均変化量(平均値±標準誤差)は,4週で0.88±0.07,28週で1.72±0.12,52週で1.95±0.19と,いずれも有意なBUTの延長が52週間にわたり認められた.Stevens-Johnson症候群(以下,S-J症候群)合併例2例の評価眼におけるフルオレセイン染色スコア,ローズベンガル染色スコアおよびBUTは,いずれの症例でも点眼開始前後(0週→28週)で改善が認められた(フルオレセイン染色スコア:4→2〈症例1〉,6→3〈症例2〉,ローズベンガル(98)654321004812162024Week28323640444852(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)n=:3%ジクアホソル******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)図7涙液層破壊時間(BUT)の平均実測値の推移 ScoreScoreScore1.51.00.50.004812162024Week28323640444852(236)(140)(235)(139)(234)(138)(233)(136)(230)(136)(226)(133)(225)(133)(224)(132)(84)(52)(84)(52)(83)(51)(81)(49)(81)(48)(81)(48)n=:異物感:羞明感:.痒感:眼痛平均値(159)(158)(157)(156)(155)(153)(152)(153)(57)(56)(54)(53)(53)(53)(153)(153)(152)(151)(150)(146)(145)(143)(59)(58)(57)(56)(56)(56)図8自覚症状推移(異物感,羞明感,.痒感,眼痛)1.5:乾燥感:鈍重感:霧視:眼疲労感1.00.50.00481216202428323640444852Weekn=(325)(324)(322)(318)(315)(310)(308)(306)(110)(109)(107)(105)(104)(103)(165)(164)(161)(160)(160)(158)(157)(157)(59)(59)(58)(57)(57)(57)平均値(129)(128)(127)(126)(123)(120)(120)(118)(47)(47)(46)(45)(44)(44)(248)(246)(244)(242)(241)(238)(237)(236)(82)(81)(79)(77)(77)(76)図9自覚症状推移(乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感)1.5:眼不快感:眼脂:流涙平均値1.00.50.0n=0481216202428323640444852Week(223)(222)(220)(218)(217)(215)(215)(213)(69)(69)(68)(66)(66)(65)(209)(209)(207)(206)(204)(201)(200)(200)(72)(71)(69)(68)(68)(67)(102)(101)(100)(99)(98)(97)(97)(97)(42)(42)(41)(40)(40)(39)図10自覚症状推移(眼不快感,眼脂,流涙)(99)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012533 Score7654321004812162024Week28323640444852:自覚症状合計スコア******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)n=(360)(358)(355)(351)(347)(342)(340)(338)(118)(117)(115)(113)(112)(111)図11自覚症状合計スコアの平均実測値の推移染色スコア:6→1〈症例1〉,3→0〈症例2〉,BUT:3.3秒→6.0秒〈症例1〉,2.0秒→3.3秒〈症例2〉).自覚症状の推移を図8.10に,自覚症状合計スコアの推移を図11に示した.異物感,羞明感,.痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感,眼不快感および自覚症状合計スコアは,投与4週目までに改善し,52週目まで改善した状態を維持した.眼脂と流涙については,改善効果が認められなかったが,長期投与期間中の悪化も認められなかった.III考察ジクアホソルナトリウム点眼液は水分およびムチンを含む涙液の分泌を促進し,涙液の量的・質的改善を図ることによって,ドライアイの病態に即した治療が期待できる点眼薬である.まず,本剤の安全性であるが,発現率の高かった副作用は,眼脂(6.6%),結膜充血(5.5%),眼刺激(4.4%)および眼痛(3.3%)であり,特に投与開始4週間以内に発現率の高かったのは眼脂(3.6%)と眼刺激(3.3%)で,その他の発現率はいずれも3%未満であった.また,ほとんどの有害事象および副作用は投与初期の4週までに発現し,すべての有害事象および副作用は長期投与により発現率が上昇することはなく,投与期間後期にのみ発現する遅発性の事象も認められなかった.ほとんどの副作用が軽度で点眼の継続が可能な程度であり,点眼継続中に消失するか,点眼終了もしくは中止することにより消失したことから,3%ジクアホソルナトリウム点眼液の長期投与における安全性および忍容性に問題はないと考えられた.つぎに,本剤の有効性であるが,フルオレセイン染色スコアおよびローズベンガル染色スコアのベースライン値からの平均変化量は,52週間にわたり有意なスコアの低下が認められた.すなわち,角結膜上皮障害に対する有効性は,長期投与において持続し減弱しないことが示された.本臨床試験534あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012では,ローズベンガル染色スコアを角膜および結膜上皮のムチン被覆障害の評価方法として用いた.涙液の異常や眼表面環境の悪化に起因して上皮細胞の分化異常が生じ,角膜や結膜上皮が変性あるいは角化してムチンの被覆が不十分となった箇所が,ローズベンガル染色により染色される15.17).眼表面におけるムチンは,涙液の水分以外のおもな構成成分として存在しており,結膜上皮の杯細胞などから供給され,その作用としては,外界からのバリア機能,涙液の表面張力の低下,角結膜表面の潤滑作用,涙液の安定化などがあげられる.ドライアイでは,角結膜表面のムチン被覆障害により,涙液の眼表面への均一な伸展が阻害され,涙液層の厚みが不均一になることにより眼表面環境悪化の悪循環に陥ると考えられるため,ドライアイにおいてムチン被覆障害を改善させることは,治療においてきわめて重要である.本臨床試験での,ローズベンガル染色スコアの結果から,角膜および結膜上皮のムチン被覆障害に対する有効性は,長期投与において持続し減弱しないことが示された.また,海外における臨床試験では2%ジクアホソルナトリウム点眼液の投与6週における涙液分泌効果が示されており18),ジクアホソルナトリウム点眼液のムチンおよび涙液分泌促進作用により角結膜上皮改善効果が得られたと考えられる.さらに,BUTは,ベースラインからの平均変化量は,52週間にわたり有意な延長がみられた.BUTは,涙液層全体,すなわち油層,水層,分泌型ムチン,角膜上皮表層の膜型ムチンなどの状態を含めた涙液層の安定性を総合的に評価する検査である.よって,ジクアホソルナトリウムは涙液水層および分泌型ムチンの状態を改善させることによって,涙液層を長期にわたって安定させる効果があると考えられる.また,ジクアホソルナトリウムは膜型ムチンの遺伝子発現を促進させるという実験的報告もあり19),もし実際に本剤投与後にヒトでも膜型ムチンの改善が起こっているとすれば,BUTの改善に寄与している可能性がある.(100) また,今回,S-J症候群合併例が2例含まれていたが,2例とも角結膜上皮障害スコアおよびBUTともに本剤投与前後で改善傾向を示しており,S-J症候群に合併するドライアイにも有効である可能性が示された.自覚症状についても,多くの項目において投与4週目までに有意に改善し,52週目まで改善効果は持続した.このことは,角結膜上皮障害やBUTの改善する傾向と一致しており,他覚所見と自覚症状の改善において整合性のある結果といえる.結論として,ジクアホソルナトリウム点眼液は,ドライアイの病態に即した作用機序を示すことによって長期的にドライアイを改善させる点眼薬であり,長期投与における安全性についても問題がないことが確認された.文献1)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)UchinoM,SchaumbergDA,DogruMetal:Prevalenceofdryeyediseaseamongjapanesevisualdisplayterminalusers.Ophthalmology115:1982-1988,20083)UchinoM,DogruM,YagiYetal:ThefeaturesofdryeyediseaseinaJapaneseelderlypopulation.OptomVisSci83:797-802,20064)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayterminals.NEnglJMed328:584,19935)HikichiT,YoshidaA,FukuiYetal:PrevalenceofdryeyeinJapaneseeyecenters.GraefesArchClinExpOphthalmol233:555-558,19956)MossSE,KleinR,KleinBEK:Prevalenceofandriskfactorsfordryeyesyndrome.ArchOphthalmol118:12641268,20007)UchinoM,DogruM,UchinoYetal:JapanMinistryofHealthstudyonprevalenceofdryeyediseaseamongJapanesehighschoolstudents.AmJOphthalmol146:925-929e2,20088)TodaI,Asano-KatoN,Komai-HoriYetal:Dryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol132:1-7,20019)WolffE:AnatomyoftheEyeandOrbit.Ed4,p207-209,BlakistonCo,NY,195410)ArguesoP,Gipson,IK:Epithelialmucinsoftheocularsurface:structure,biosynthesisandfunction.Exp.EyeRes73:281-289,200111)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,199412)DanjoY,WatanabeH,TisdaleASetal:Alterationofmucininhumanconjunctivalepitheliaindryeye.InvestOphthalmolVisSci39:2602-2609,199813)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,201114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖タンパク質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,201115)KinoshitaS,KiorpesTC,FriendJetal:Gobletcelldensityinocularsurfacedisease.ArchOphthalmol101:12841287,198316)FeenstaRPG,TsengSCG:Whatisactuallystainedbyrosebengal?ArchOphthalmol110:980-993,199217)TsengSCG,ZhangSH:Interactionbetweenrosebengalanddifferentproteincomponents.Cornea14:427-435,199518)TauberJ,DavittWF,BokoskyJEetal:Double-masked,placebo-controlledsafetyandefficacytrialofDiquafosol(INS365)ophthalmicsolutionforthetreatmentofdry-eye.Cornea23:784-792,200419)七條優子,中村雅胤:培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,2011***(101)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012535