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ニボルマブ投与後に眼表面と口腔粘膜にStevens-Johnson症候群所見を呈した1例

2019年3月31日 日曜日

《第52回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科36(3):399.402,2019cニボルマブ投与後に眼表面と口腔粘膜にStevens-Johnson症候群所見を呈した1例永田篤大高康博名古屋第二赤十字病院眼科CCaseofStevens-JohnsonSyndromeDiagnosedonInitialSymptomsofOcularandOralFindingsafterOneNivolumabInjectionAtsushiNagataandYasuhiroOtakaCDepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossNagoyaDainiHospitalC目的:免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブによるさまざまな免疫関連有害事象は報告されているがCSte-vens.Johnson症候群(SJS)の眼科的な報告は少ない.舌癌治療のためニボルマブを使用し,最初に眼表面と口腔粘膜にCSJS所見を呈し発見に至ったC1例につき報告する.症例:53歳,女性.既往に舌癌切除術施行も頸部リンパ節転移.2018年C1月下旬の朝より両眼の充血を認め,近医にて細菌性結膜炎と診断された.2日後に口腔内のびらんを認めヘルペス性口内炎を疑われ入院し,翌日より両眼眼痛と視力低下を認め当科初診.両眼の角膜びらん,結膜充血と瞼結膜の偽膜形成,口腔内の水疱,びらんを認めた.全身の皮膚所見は認めなかった.SJSと考え誘因薬剤を調査したところ,1月中旬にニボルマブを使用していたことが判明し同薬剤が発症に関与していると考えた.結論:適応拡大に伴いニボルマブ使用が急速に増えることが予想され,われわれ眼科医はCSJSが起こる可能性を念頭において診察する必要がある.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCStevens-Johnsonsyndrome(SJS)thatCinitiallyCpresentedCocularC.ndingsCafterCnivolumabinjection.Case:A53-year-oldfemalehadahistoryoftonguecancersurgicalremoval,recurrenceandcervicalClymphCnodeCmetastasis.CSheCinitiallyCpresentedCeyeredness;anCeyeCpractitionerCsuspectedCbacterialCcon-junctivitis.Oralerosionsappearedintwodays;herpeticoralstomatitiswassuspectedandthepatientwashospi-talizedinourhospital.Thefollowingday,sheexhibitedbilateralconjunctivalinjection,pseudomembranesandcor-nealerosions.Oralmultiplemucouserosionsweresimultaneouslypresented,withnoskineruption.WediagnosedSJS,basedontheclinical.ndings.Possiblerelevanceofnivolumabusage12daysbeforeSJSoccurrencewascon-sidered.Positivereactionstolymphocytestimulationtestwereobservedforloxoprofen.Conclusion:Theoncologi-calCuseCofCimmuneCcheckpointCinhibitorsCsuchCasCnivolumabCisCbecomingCmoreCwidespread.CWeCophthalmologistsCmustbeopentoearlyrecognitionofnivolumab-inducedSJS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):399.402,C2019〕Keywords:Stevens-Johnson症候群,ニボルマブ,免疫関連有害事象,免疫チェックポイント阻害薬,抗CPD-1抗体.Stevens-Johnsonsyndrome,nivolumab,immunerelatedadverseevents,immunecheckpointinhibitor,anti-PD-1antibody.Cはじめに近年,癌治療において免疫チェックポイント阻害薬とよばれる新たな作用機序の治療薬が登場し,殺細胞性抗癌薬や分子標的薬に抵抗性を示す癌においても優れた治療効果を発揮している.抗CcytotoxicT-lymphocyte-associatedprotein4C(CTLA-4)抗体のイピリムマブ(ヤーボイCR),抗CprogrammedcellCdeath1(PD-1)抗体のニボルマブ(オプジーボCR)は現在国内で使用可能で,2014年C7月にニボルマブが悪性黒色腫に対して承認され,その後はさまざまな癌に適応拡大され使用量も急激に増えている.現在ニボルマブによるCStevens-〔別刷請求先〕永田篤:〒466-8650名古屋市昭和区妙見町C2-9名古屋第二赤十字病院眼科Reprintrequests:AtsushiNagata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossNagoyaDainiHospital,2-9Myoken-cho,Showa-ku,Nagoya-shi,Aichi466-8650,JAPANCJohnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)の国内での有害事象報告はC29,000例近くの使用に対してC25例あるが,眼科領域での臨床報告は少ない1).今回眼所見を契機に診断に至ったニボルマブが関与したと考えられたCSJS症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.CI症例患者:53歳,女性.既往歴:2017年C2月舌癌切除術を施行するも術後再発を認め,5月から化学療法,10.12月にかけて化学療法と放射線療法を行った.現病歴:2018年C1月下旬の朝より両眼の充血を認め近医を受診し,結膜炎の診断にてニューキノロン点眼薬を処方された.同時に口腔内の痛み,顔面の腫脹も自覚していた.2日後に口腔粘膜に多発したびらんを認め,舌癌治療の当院口腔外科でヘルペス性口内炎を疑われ入院にて治療を開始した.翌日より両眼眼痛と視力障害を認め口腔外科より眼科診察依頼を受けた.初診時所見:視力は右眼C0.04(矯正不能),左眼C0.06(0.2C×cyl.2.0DAx20°),両眼の球結膜充血が著明で瞼結膜には偽膜の形成,角膜には広範囲にびらんを認めた(図1).また口唇,口腔内粘膜のびらん,水疱,痂皮化所見,舌には白苔所見を認めた(図2).全身検査所見ではCWBC7,300/μl,CRP5.31Cmg/dlとCCRPの軽度上昇,また体温はC38.9℃であ図1初診時前眼部写真両眼の球結膜の著明な充血,瞼結膜の偽膜形成,角膜の広範囲のびらんを認めた.った.全身皮膚には異常所見は認めなかったが,これらの所見からCSJSを疑い皮膚科に紹介した.全身には皮疹は認めなかったが結膜,口唇,口腔粘膜所見と発熱所見よりCSJSと診断された.経過:同日よりメチルプレドニゾロンC500Cmgの点滴静注をC3日間施行した.眼科的にはリン酸ベタメタゾン点眼,モキシフロキサシン点眼をC2時間ごとで開始し,また偽膜除去を毎日行った.同時に眼所見発症前後の治療,服薬歴を調査した.2018年C1月中旬に舌癌の再発に対してニボルマブ150Cmg点滴静注を施行されたが,点滴後の体調不良を訴え1回の使用のみで中断された.下旬に両結膜充血にて近医にてニューキノロン点眼が処方され,翌日喉,耳に疼痛を感じ市販感冒薬ルルRを服薬した.翌々日にヘルペス性口内炎を疑われアシクロビル点滴治療が行われていた.それ以外には癌性疼痛除去のためロキソプロフェンナトリウム錠,レバミピド錠が頓用で使用されていた.ニボルマブ注射以降にはこれらの薬剤の使用歴はなかったがいつまで使用したかは不明であった.リンパ球刺激試験を行い(表1),ロキソプロフェンとアセトアミノフェン錠が陽性を示した.ステロイド治療後は徐々に充血,偽膜は改善し,発症後約C1カ月後には視力右眼C0.6(0.9)左眼C0.5(1.0)にまで改善し,角膜びらん,充血は消退し瞼球癒着は認められなかった(図3).口唇,口腔内も著明に改善した.ステロイド内服はCPSL30Cmgから開始し漸減され発症C1カ月半後に中止となった.CII考按ニボルマブをはじめとする免疫チェックポイント阻害薬ではその作用機序により自己免疫機能が増強されてさまざまな免疫関連有害事象(immune-relatedadverseevents:irAE)が発症することは避けられず,多臓器でCirAEが報告されている2,3).もっとも頻繁に,かつ比較的早期に観察されるirAEは皮膚障害で,多くは軽症であるが重症型としてCSJS図2初診時口唇,口腔内所見口唇,口腔内粘膜のびらん,水疱,痂皮化所見,舌には著明な白苔所見を認めた.表1リンパ球刺激試験薬剤名測定値(c.p.m)SI(%)レバミピドC136C99ロキソプロフェンC1,257C917アセトアミノフェンC1,577C1,151コントロールC137判定基準S.I.%180以下:陰性,181以上:陽性.SI:stimulationindex(刺激指数)図3発症1カ月後前眼部写真角膜びらん,充血は消退し瞼球癒着は認められなかった.や中毒性表皮壊死症(toxicCepidermalnecrosis:TEN)も報告されている2).また,Goldingerらは抗CPD-1抗体治療の皮膚病変の副作用として,22%に軽度の発疹から重度のCSJS発疹が出現したと報告している4).抗CPD-1抗体治療によるSJSやCTENの報告は数例の報告があり,それらは抗CPD1抗体単独使用または放射線治療との併用で起こったと報告されている5.7).今回の症例では眼所見が初発所見で,直後に口腔内所見が出現し全身皮膚所見は認めなかったが,その特徴的な眼所見,口腔粘膜所見と発熱からCSJSと考え,ニボルマブ投与後C12日後の発症であることからニボルマブの関与によるSJSを強く疑った.リンパ球刺激試験ではロキソプロフェンとアセトアミノフェンが陽性を示したが,近医眼科での結膜炎所見とその翌日に喉,耳の自覚症状があったことからこの時点を発症と考えると,総合感冒薬ルルCR(アセトアミノフェン含有)はそれ以降に使用した薬剤であり,発症前に使用している薬剤はロキソプロフェンとニボルマブのみであった.ロキソプロフェンはリンパ球刺激試験で陽性を示し,以前からCSJSの原因薬剤として抗菌薬と下熱鎮痛薬は原因薬の代表であり8),今回の原因薬剤としての関与は否定はできない.ニボルマブの作用機序は,T細胞上に発現したCPD-1と癌細胞上に発現したリガンドであるCPD-L1の相互作用でCT細胞の活動性が抑制されているのをブロックする抗体でCT細胞の活性化につなげるメカニズムであり9),ロキソプロフェンに反応して活性化したCTリンパ球がさらにニボルマブにより反応した可能性も考えられた.今回の症例では全身の皮膚に所見を認めずCSJSの診断基準は認めていないが8),ニボルマブではないが皮膚所見を伴わず粘膜病変のみを呈したCSJSの報告も散見されている10,11).一方,免疫チェックポイント阻害薬の眼科的副作用の報告として,LaurenらはC1990.2017年の文献をCPubMedを使用して眼科的副作用病名をキーワードに検索した.そのキーワードにはCSJSは含まれていなかったが,ぶどう膜炎(1%)とドライアイ(1.24%)がもっとも多かったと報告している12).免疫チェックポイント阻害薬によるCSJSの報告は癌関連や皮膚科のジャーナルでの報告が大多数で5.7),われわれ眼科医が眼科的副作用の観点からは認識しにくい傾向があると思われた.今後ニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の使用が急激に増えることが予想され,使用早期の眼所見としてCSJSも常に念頭に置いて診察し早期発見,治療に努めることが重要であると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)小野薬品工業:オプジーボ副作用発現状況全体集計(集計期間:2014/07/04.2018/01/15)2)MichotCJM,CBigenwaldCC,CChampiatCSCetal:Immune-relatedCadverseCeventsCwithCimmuneCcheckpointCblock-age:acomprehensivereview.EurJCancerC54:139-148,C20163)門野岳史:免疫チェックポイント阻害剤による免疫関連副作用の実際.日本臨床免疫学会会誌40:83-89,C20174)GoldingerSM,StiegerP,MeierBetal:Cytotoxiccutane-ousCadverseCdrugCreactionsCduringCanti-PD-1Ctherapy.CClinCancerResC22:4023-4029,C20165)NayarCN,CBriscoreCK,CFernandezPP:ToxicCepidermalCnecrolysis-likeCreactionCwithCsevereCsatelliteCcellCnecrosisCassociatedCwithCnivolumabCinCaCpatientCwithCipilimumabCrefractoryCmetastaticCmelanoma.CJCImmunotherC39:149e52,C20166)ItoJ,FujimotoD,NakamuraA:AprepitantforrefractorynivolumabCinducedCpruritus.CLungCCancerC109:58-61,C20177)SalatiCM,CPi.eriCM,CBaldessariCCCetal:Stevens-JohnsonCsyndromeCduringCnivolumabCtreatmentCofCNSCLC.CAnnCOncolC29:283-284,C20188)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会:重症多形滲出性紅斑・スティーブンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン.日眼会誌121:42-86,C20169)OkazakiCT,CHonjoT:PD-1CandCPD-1ligands:fromCdis-coveryCtoCclinicalCapplication.CIntCImmunolC19:813-824,C200710)LatschCK,CGirschickCH,CAbele-HornM:Stevens-JohnsonCsyndromewithoutskinlesions.JMedMicrobiolC56:1696-1699,C200711)鈴木智浩,大口剛司,北尾仁奈ほか:眼所見から診断されたCStevens-Johnson症候群のC1例.あたらしい眼科C33:C451-454,C201612)LaurenAD,CarolLS,MarlanaOetal:Checkpointinhibi-torCimmuneCtherapyCsystemicCindicationsCandCophthalmicCsidee.ects.RetinaC38:1063-1078,C2018***